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政治と選挙Q&A「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例(21)平成29年 9月15日 東京地裁 平26(行ウ)119号 懲戒処分取消等請求事件

「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例(21)平成29年 9月15日 東京地裁 平26(行ウ)119号 懲戒処分取消等請求事件

裁判年月日  平成29年 9月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(行ウ)119号
事件名  懲戒処分取消等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA09158009

裁判経過
控訴審 平成30年 4月18日 東京高裁 判決 平29(行コ)314号 懲戒処分取消等請求控訴事件

出典
判時 2385号12頁<参考収録>

裁判年月日  平成29年 9月15日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平26(行ウ)119号
事件名  懲戒処分取消等請求事件
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2017WLJPCA09158009

当事者等の表示 別紙1「当事者等目録」記載のとおり

 

 

主文

1  東京都教育委員会が原告X1,同X2,同A1ことX3,同X4,同X5及び同X6に対して別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分年月日」欄記載の各日付けでした「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分(ただし,原告X6に対する同一覧表の番号「9-1」ないし「9-3」の各懲戒処分を除く。)をいずれも取り消す。
2  前項の原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,原告X1,同X2,同A1ことX3,同X4,同X5にそれぞれ生じた費用の4分の1と被告に生じた費用の各42分の1を同原告らの各負担とし,原告X6に生じた費用の3分の2と被告に生じた費用の21分の1を同原告の負担とし,その余の原告らにそれぞれ生じた費用と被告に生じた費用の各14分の1をその余の原告らの各負担とし,その余の全費用を被告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求
1  東京都教育委員会が原告らに対して別紙2「懲戒処分等一覧表」の「処分年月日」欄記載の各日付けでした同一覧表の「処分の種類及び程度」欄記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。
2  被告は,原告らに対し,それぞれ別紙2「懲戒処分等一覧表」の「請求金額」欄記載の各金員及びこれに対する平成26年4月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
1  事案の要旨
(1)  被告の設置する高等学校又は特別支援学校(以下「都立学校」という。)の教職員である原告ら(すでに退職した者も含む。)が,その所属校において行われた卒業式又は入学式(以下,卒業式及び入学式を併せて「卒業式等」という。)において,国歌斉唱時には指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱すること(以下「起立斉唱(行為)」という。)を求める校長の職務命令(以下「起立斉唱命令」という。)に違反して起立しなかったところ,東京都教育委員会(以下「都教委」という。)は,かかる不起立は地方公務員法(以下「地公法」という。)32条及び33条に違反するものであるとしたうえ,同法29条1項1号ないし3号に基づき,原告らに対し,戒告,減給又は停職の懲戒処分を行った。
(2)  本件は,原告らが,起立斉唱命令,その前提となった都教委の通達ないしそれらによる原告らに対する起立斉唱の義務付けは,原告らの思想・良心の自由,信教の自由,教育の自由を保障した憲法及び国際条約の規定に違反し,公権力行使の権限を踰越するものであり,「不当な支配」を禁じた教育基本法の規定にも抵触するから,原告らに対する起立斉唱命令は重大かつ明白な瑕疵を帯びるものとして無効であり,その違反を理由とする懲戒処分も違法であることに帰するし,仮に起立斉唱命令が有効であるとしても,その違反に対して戒告,減給又は停職の処分を科したことについては手続的瑕疵及び裁量権の逸脱・濫用があるから違法であるなどと主張して,被告に対し,各処分の取消しを求めるとともに,国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づく損害賠償(懲戒処分1件につき55万円)及びこれに対する訴状送達日(平成26年4月14日)の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2  関連法令等
(1)  日本国憲法(以下「憲法」又は「日本国憲法」という。)
ア 憲法13条は,すべて国民は,個人として尊重される,生命,自由及び幸福追求に対する国民の権利については,公共の福祉に反しない限り,立法その他の国政の上で,最大の尊重を必要とすると定める。
イ 憲法15条は,2項において,すべて公務員は,全体の奉仕者であって,一部の奉仕者ではないと定める。
ウ 憲法19条は,思想及び良心の自由は,これを侵してはならないと定める。
エ 憲法20条は,1項において,信教の自由は,何人に対してもこれを保障するなどと定め,2項において,何人も,宗教上の行為,祝典,儀式又は行事に参加することを強制されないと定め,3項において,国及びその機関は,宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならないと定める。
オ 憲法23条は,学問の自由は,これを保障すると定める。
カ 憲法26条は,1項において,すべて国民は,法律の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有すると定める。
(2)  国旗及び国歌に関する法律(以下「国旗・国歌法」という。)
ア 国旗・国歌法は,平成11年8月13日に制定され,同日施行された。
イ 同法1条は,1項において,国旗は,日章旗(以下「日の丸」という。)とすると定め,同法2条は,1項において,国歌は,君が代とすると定める。
(3)  地公法(地方公務員法)
ア 地公法6条は,1項において,教育委員会等その他法令又は条例に基づく任命権者は,法律に特別の定めがある場合を除くほか,地公法,これに基づく条例等に従い,それぞれ職員の懲戒等を行う権限を有するものとすると定める。
イ 同法29条は,1項において,職員が次の懲戒事由の一に該当する場合においては,これに対し懲戒処分として戒告,減給,停職又は免職の処分をすることができると定め,懲戒事由として,この法律等に違反した場合(1号),職務上の義務に違反し,又は職務を怠った場合(2号),全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合(3号)を挙げる。
ウ 同法30条は,すべて職員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,かつ,職務の遂行に当たっては,全力を挙げてこれに専念しなければならないと定める。
エ 同法32条は,職員は,その職務を遂行するに当たって,法令等に従い,かつ,上司の職務上の命令に忠実に従わなければならないと定める。
オ 同法33条は,職員は,その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならないと定める。
(4)  教育基本法(以下「教基法」という。)
ア 教基法16条は,1項において,教育は,不当な支配に服することなく,同法及び他の法律の定めるところにより行われるべきものであり,教育行政は,国と地方公共団体との適切な役割分担及び相互協力の下,公正かつ適正に行われなければならないと定める。
イ 平成18年法律第120号による廃止前の教基法(以下「旧教基法」という。)10条は,1項において,教育は,不当な支配に服することなく,国民全体に対し直接に責任を負って行われるべきものであると定めていた。
(5)  地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)
ア 地教行法1条の2は,地方公共団体における教育行政は,教基法の趣旨にのっとり,教育の機会均等,教育水準の維持向上及び地域の実情に応じた教育の振興が図られるよう,国との適切な役割分担及び相互の協力の下,公正かつ適正に行われなければならないと定める。
イ 同法21条(平成26年法律第76号による改正前は23条)は,教育委員会は,当該地方公共団体が処理する教育に関する事務で,次に掲げるものを管理し,及び執行すると定め,その事務として,教育委員会の所管に属する30条に規定する学校その他の教育機関の設置,管理及び廃止に関すること(1号),教育委員会の所管に属する学校の組織編制,教育課程,学習指導,生徒指導及び職業指導に関すること(5号)などを挙げる。
(6)  学校教育法及び同法施行規則
ア 学校教育法5条は,学校の設置者は,その設置する学校を管理するなどと定める。
イ 同法37条4項(高等学校については同法62条により,特別支援学校については同法82条によりそれぞれ準用)は,校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督すると定める。
ウ 同法52条は,高等学校の学科及び教育課程に関する事項は,同法50条等の規定に従い,文部科学大臣が定めると規定する。
エ 同法77条は,特別支援学校の幼稚部の教育課程その他の保育内容,小学部及び中学部の教育課程又は高等部の学科及び教育課程に関する事項は,幼稚園,小学校,中学校又は高等学校に準じて,文部科学大臣が定めると規定する。
オ 同法施行規則84条は,高等学校の教育課程については,同施行規則第6章に定めるもののほか,教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する高等学校学習指導要領によるものとすると定める。
カ 同法施行規則129条は,特別支援学校の幼稚部の教育課程その他の保育内容並びに小学部,中学部及び高等部の教育課程については,同規則8章に定めるもののほか,教育課程その他の保育内容又は教育課程の基準として文部科学大臣が別に公示する特別支援学校幼稚部教育要領,特別支援学校小学部・中学部学習指導要領及び特別支援学校高等部学習指導要領によるものとすると定める。
(7)  学習指導要領
ア 高等学校学習指導要領は,「特別活動」の一環として行われる「学校行事」中の「儀式的行事」の内容について,「学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛で清新な気分を味わい,新しい生活の展開への動機付けとなるような活動を行うこと。」と定め,「指導計画の作成と内容の取扱い」において,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」(以下,この趣旨の定めを「国旗・国歌条項」という。)と定めており,中学校学習指導要領及び小学校学習指導要領にも同趣旨の定めがある。
イ 特別支援学校高等部学習指導要領(従前は盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領)及び特別支援学校小学部・中学部学習指導要領(従前は盲学校,聾学校及び養護学校小学部・中学部学習指導要領)は,高等学校学習指導要領,中学校学習指導要領及び小学校学習指導要領の「特別活動」に関する規定を包括的に準用している。
ウ 国旗・国歌条項は,学習指導要領の平成元年改正により導入され,それ以前は,「国民の祝日などにおいて儀式などを行う場合には,児童・生徒に対してこれらの祝日などの意義を理解させるとともに,国旗を掲揚し,国歌を斉唱させることが望ましいこと。」との趣旨の定めが置かれていた。(甲A177〔7~9頁(資料下部に付された頁数を示す。以下同様。)〕,236の1・2,乙A16,17,20,22,30〔1頁〕,43,44,弁論の全趣旨)
(8)  市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「自由権規約」という。)
ア 自由権規約18条は,1項において,すべての者は,思想,良心及び宗教の自由についての権利を有する,この権利には,自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由並びに,単独で又は他の者と共同して及び公に又は私的に,礼拝,儀式,行事及び教導によってその宗教又は信念を表明する自由を含むと定め,2項において,何人も,自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制を受けないと定め,3項において,宗教又は信念を表明する自由については,法律で定める制限であって公共の安全,公の秩序,公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができると定め,4項において,この規約の締約国は,父母及び場合により法定保護者が,自己の信念に従って児童の宗教的及び道徳的教育を確保する自由を有することを尊重することを約束すると定める。
イ 同規約28条は,1項において,人権委員会(以下「自由権規約委員会」という。)を設置するなどと定める。
ウ 同規約40条は,1項において,この規約の締約国は,(a)当該締約国についてこの規約が効力を生ずる時から一年以内に,(b)その後は人権規約委員会が要請するときに,この規約において認められる権利の実現のためにとつた措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を提出することを約束すると定め,2項において,すべての報告は,国際連合事務総長に提出するものとし,同事務総長は,検討のため,これらの報告を同委員会に送付するなどと定め,4項において,同委員会は,この規約の締約国の提出する報告を検討する,同委員会は,同委員会の報告及び適当と認める一般的な性格を有する意見を締約国に送付しなければならず,また,この規約の締約国から受領した報告の写しとともに当該一般的な性格を有する意見を経済社会理事会に送付することができるなどと定める。
(9)  児童の権利に関する条約(以下「児童権利条約」という。)
ア 児童権利条約1条は,同条約の適用上,児童とは,18歳未満のすべての者をいうなどと定める。
イ 同条約3条は,1項において,児童に関するすべての措置をとるに当たっては,公的若しくは私的な社会福祉施設,裁判所,行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても,児童の最善の利益が主として考慮されるものとすると定める。
ウ 同条約12条は,1項において,締約国は,自己の意見を形成する能力のある児童がその児童に影響を及ぼすすべての事項について自由に自己の意見を表明する権利を確保する,この場合において,児童の意見は,その児童の年齢及び成熟度に従って相応に考慮されるものとすると定める。
エ 同条約14条は,1項において,締約国は,思想,良心及び宗教の自由についての児童の権利を尊重すると定め,2項において,締約国は,児童が1項の権利を行使するに当たり,父母及び場合により法定保護者が児童に対しその発達しつつある能力に適合する方法で指示を与える権利及び義務を尊重すると定め,3項において,宗教又は信念を表明する自由については,法律で定める制限であって公共の安全,公の秩序,公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するために必要なもののみを課することができると定める。
オ 同条約28条は,1項において,締約国は,教育についての児童の権利を認めるものとするなどと定め,2項において,締約国は,学校の規律が児童の人間の尊厳に適合する方法で及びこの条約に従って運用されることを確保するためのすべての適当な措置をとると定める。
カ 同条約29条は,1項において,締約国は,児童の教育が次のことを指向すべきことに同意すると定め,指向すべき事項として,(a)児童の人格,才能並びに精神的及び身体的な能力をその可能な最大限度まで発達させること,(b)人権及び基本的自由並びに国際連合憲章にうたう原則の尊重を育成すること,(c)児童の父母,児童の文化的同一性,言語及び価値観,児童の居住国及び出身国の国民的価値観並びに自己の文明と異なる文明に対する尊重を育成すること,(d)すべての人民の間の,種族的,国民的及び宗教的集団の間の並びに原住民である者の間の理解,平和,寛容,両性の平等及び友好の精神に従い,自由な社会における責任ある生活のために児童に準備させること,などを挙げる。
キ 同条約43条は,1項において,同条約において負う義務の履行の達成に関する締約国による進捗の状況を審査するため,児童の権利に関する委員会(以下「児童権利委員会」という。)を設置するなどと定める。
ク 同条約44条は,1項において,締約国は,(a)当該締約国についてこの条約が効力を生ずる時から2年以内に,(b)その後は5年ごとに,この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長を通じて児童権利委員会に提出することを約束すると定める。
3  前提事実(顕著な事実及び当事者間に争いのない事実のほかは,後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる。)
(1)  公立学校の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況等
文部省初等中等教育局長は,昭和60年8月28日付けで,卒業式等において,国旗の掲揚や国歌の斉唱を行わない公立学校があり,その適切な取扱いについて徹底することなどについて,管下の公立学校に対する指導を要請する各都道府県・指定都市教育委員会教育長宛て通知(文初小第162号)を発出した。また,遅くともそのころから実施している文部(科学)省の調査によれば,公立小・中・高等学校の卒業式における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況(高等学校については平成元年度から平成13年度まで,小・中学校については平成6年度から平成13年度まで)については,別紙3の「公立学校の卒業式における国旗掲揚・国歌斉唱の実施状況一覧表」のとおり推移しており,とりわけ東京都立高等学校の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は,平成11年度の卒業式のころまで,他の都道府県の公立高等学校や東京都内の公立小・中学校の実施率に比べて低い状況が続いていた。
(乙A2の1,乙A4の1,乙A6,8の1,乙A18,30〔38~42,48,49頁〕)
(2)  文部(科学)省の通知等
文部(科学)省は,各都道府県・指定都市教育長に対し,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に関して,次のとおり初等中等教育局長通知を発出するなどして,公立学校における国旗・国歌条項に基づく国旗・国歌に関する指導の徹底を要請していた。
ア 平成10年10月15日付け通知(文初小第145号)
(ア) 上記(1)の調査によれば,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施状況については,前回に比べて全体としては実施率が上昇しているものの,いまだ実施されていない学校があり,一部の都道府県において依然として実施率が低い状況がある。
(イ) これからの国際社会に生きていく国民として,我が国の国旗・国歌はもとより諸外国の国旗・国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度を育てることは重要である。このような考え方に基づき,現行学習指導要領においては,国旗・国歌条項が定められている。
(ウ) 各都道府県・指定都市教育委員会におかれては,管下の小・中・高等学校において,学習指導要領に基づき,国旗及び国歌に関する指導が適切に行われるよう,改めて指導の徹底をお願いする。
イ 平成11年9月17日付け通知(文初小第145号)
(ア) 学校における国旗及び国歌の指導については,児童・生徒に我が国の国旗と国歌の意義を理解させ,これを尊重する態度を育てるとともに,諸外国の国旗と国歌も同様に尊重する態度を育てるために,学習指導要領に基づいて行われているところであり,国旗・国歌法の施行に伴って,このような学校におけるこれまでの国旗及び国歌に関する指導の取扱いを変えるものではない。
(イ) 国旗・国歌法の制定を機に,国旗及び国歌に対する正しい理解が一層促進されるようお願いする。
(ウ) 上記ア(ア),(ウ)と同旨。
ウ 平成13年5月25日付け通知(13文科初第287号)
(ア) 卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の全校実施が達成されていない都道府県及び指定都市教育委員会にあっては,域内のすべての学校において卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が実施されるよう指導の徹底をお願いする。
(イ) 上記ア(ウ)と同旨。
(乙A2の1,乙A4の1,乙A8の1)
(3)  都教委の通達等
ア 都教委は,上記(2)アの通知を受け,平成10年11月20日付けで,都立高等学校長に対し,学習指導要領及び次の(ア),(イ)の内容の「都立高等学校における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」に基づき,卒業式等において国旗掲揚及び国歌斉唱の指導を徹底するよう要請することなどを内容とする教育庁指導部長通知(10教指高第161号)を発出した。
(ア) 国旗の掲揚について
卒業式等における国旗の取扱いは次のとおりとする。なお,都旗を併せて掲揚することが望ましい。
a 国旗の掲揚場所等
(a) 式典会場の正面に掲げる。
(b) 屋外における掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗の掲揚状況が生徒,保護者,その他来校者に十分に認知できる場所に掲揚する。
b 国旗を掲揚する時間
式典当日の生徒の始業時刻から終業時刻までとする。
(イ) 国歌の斉唱について
卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。
a 式次第に「国歌斉唱」を記載する。
b 式典の司会者が「国歌斉唱」と発声する。
(甲A2,乙A3)
イ 都教委は,上記(2)イの通知を受け,平成11年10月19日付けで,都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し,上記アの実施指針(都立盲・ろう・養護学校については,同趣旨の実施指針。以下,これらを併せて「旧実施指針」という。)に基づき卒業式等を実施すること及びその実施に当たっては次の点を踏まえる必要があることなどを内容とする教育長通達(11教指高第203号,11教指心第63号)を発出した。
(ア) 教職員に対しては,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の指導の意義について,学習指導要領に基づき説明し,理解を求めるよう努めるとともに,併せて,国旗・国歌法制定の趣旨を説明すること。
(イ) 児童・生徒に対しては,国際社会に生きる日本人としての自覚及び我が国のみならず他国の国旗及び国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度が重要であることを十分説明すること。
(ウ) 保護者に対しては,学校教育において,児童・生徒に国旗及び国歌に対する正しい認識やそれらを尊重する態度の育成が求められていること,並びに卒業式等において,学校は国旗掲揚及び国歌斉唱の指導を学習指導要領に基づき行う必要があることなどを,時機をとらえて説明すること。
(エ) 校長が,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,職務命令を発した場合において,教職員が式典の準備業務を拒否した場合,又は式典に参加せず式典中の児童・生徒指導を行わない場合は,服務上の責任が問われることがあることを,教職員に周知すること。
(甲A3,乙A5,7)
ウ 都教委は,上記(2)ウの通知を受け,平成13年6月12日付けで,都立高等学校長に対し,国旗及び国歌の指導が一層適切に行われるよう指導の徹底を要請することなどを内容とする教育庁指導部長通知(13教指企第158号)を発出した。
(甲A4,乙A8の2)
エ 都教委は,平成14年度卒業式及び平成15年度入学式の都立学校における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は100%に達したものの,なお次の(ア)ないし(ウ)のような卒業式等の実施上の課題があるものと判断し,平成15年7月9日,都立学校等卒業式・入学式対策本部の第1回会合を開催し,以後,その対策について検討を進めることとした。
(ア) 国旗掲揚
旧実施指針どおり,国旗を舞台壇上正面に掲揚していない。高等学校で舞台壇上正面国旗掲揚は卒業式39%,入学式44%,盲・ろう・養護学校は,卒業式77%,入学式85%である。
(イ) 国歌斉唱
a 卒業式等の開式前などに,司会が内心の自由について説明する学校がある(ここでいう「内心の自由」の説明とは,公立学校の校長又は教職員が,卒業式等に先立ち,生徒や保護者等に対し,国歌斉唱時に起立斉唱するかは内心の自由に関わる問題であり,各自の判断に委ねられていることなどを説明することを指す(甲A85,86参照)。以下同様。)。
b 国歌斉唱時に,司会が「起立」を発声しない学校がある。
c 国歌斉唱時に,起立しない教員がいる。
(ウ) 卒業式等全般
校長の実施方針に従わない教員がいる。
(甲A5ないし7,乙A10,11,12の1)
オ 都教委は,前記対策本部における検討結果を踏まえ,平成15年10月23日付けで,都立高等学校長及び都立盲・ろう・養護学校長に対し,次の(ア)ないし(ウ)のとおり,各学校が卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱を適正に実施すること及び上記イの通達を廃止することなどを内容とする教育長通達(15教指企第569号,以下「本件通達」という。)を発出した。
(ア) 学習指導要領に基づき,卒業式等を適正に実施すること。
(イ) 卒業式等の実施に当たっては,次の内容の「入学式,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱に関する実施指針」(以下「本件実施指針」という。)のとおり行うものとすること。
a 国旗の掲揚について
卒業式等における国旗の取扱いは,次のとおりとする。
(a) 国旗は,式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。
(b) 国旗とともに都旗を併せて掲揚する。この場合,国旗にあっては舞台壇上正面に向かって左,都旗にあっては右に掲揚する。
(c) 屋外における国旗の掲揚については,掲揚塔,校門,玄関等,国旗の掲揚状況が児童・生徒,保護者その他来校者が十分認知できる場所に掲揚する。
(d) 国旗を掲揚する時間は,式典当日の児童・生徒の始業時刻から終業時刻とする。
b 国歌の斉唱について
卒業式等における国歌の取扱いは,次のとおりとする。
(a) 式次第には,「国歌斉唱」と記載する。
(b) 国歌斉唱に当たっては,式典の司会者が,「国歌斉唱」と発声し,起立を促す。
(c) 式典会場において,教職員は,会場の指定された席で国旗に向かって起立し,国歌を斉唱する。
(d) 国歌斉唱は,ピアノ伴奏等により行う。
c 会場設営等について
卒業式等における会場設営等は,次のとおりとする。
(a) 卒業式を体育館で実施する場合には,舞台壇上に演台を置き,卒業証書を授与する。
(b) 卒業式をその他の会場で行う場合には,会場の正面に演台を置き,卒業証書を授与する。
(c) 卒業式等における式典会場は,児童・生徒が正面を向いて着席するように設営する。
(d) 卒業式等における教職員の服装は,厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式典にふさわしいものとする。
(ウ) 国旗掲揚及び国歌斉唱の実施に当たり,教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は,服務上の責任を問われることを,教職員に周知すること。
(甲A1,8ないし11,乙A12の2・3,乙A13,14の3)
カ 都教委は,平成16年3月11日付けで,都立高等学校長に対し,本件通達後に実施された一部の卒業式において,生徒のほとんどが国歌斉唱時に起立しなかったりするなどの事態が生じていることを理由として,次のとおり教職員への指導の徹底を要請する教育庁指導部高等学校教育指導課長通知(15教指高第525号)を発出した。
(ア) ホームルーム活動や卒業式等の予行等において,生徒に不起立を促すなどの不適切な指導を行わないこと。
(イ) 生徒会や卒業式実行委員会等の場で,生徒に不起立を促すなどの不適切な指導を行わないこと。
(ウ) 式典の妨げになるような行動に生徒を巻き込まないこと。
(甲A52,乙A49)
キ 都教委は,平成18年2月10日付けで,都立高等学校長,都立盲・ろう・養護学校長等に対し,次のとおり職務命令書の適切な作成を要請する教育庁指導部長通知(17教指企第1037号)を発出した。
(ア) 各教職員が自らの職務を明確に認識できるように,児童・生徒への指導,司会,ピアノ伴奏等の具体的な職務内容を,実施要項とは別の文書によって個別に示すこと。
(イ) 児童・生徒への指導に当たっては,学習指導要領に基づき適正に指導することを明示すること。
(ウ) 本件通達及び本件実施指針に示された内容に従うこと。
(甲A53)
ク 都教委は,一部の都立高等学校定時制課程卒業式において,国歌斉唱時に学級の生徒の大半が起立しないという事態が発生したことから,平成18年3月13日付けで,都立高等学校長,都立盲・ろう・養護学校長等に対し,本件通達等の趣旨をなお一層徹底するとともに,校長は,自らの権限と責任において,学習指導要領に基づき適正に児童・生徒を指導することを,教職員に徹底することを内容とする教育長通達(17教指企第1193号)を発出した。
(甲A48)
ケ 都教委は,本件通達の発出後,所属校長の職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった教職員に対し,地公法に基づく懲戒処分等の措置を行っているほか,懲戒処分を受けた教職員及びその管理監督責任者に対しては,東京都教職員研修センターにおいて,服務事故再発防止研修(以下「再発防止研修」という。)を実施している。
(甲A12ないし15,38ないし41,43,乙A42)
(4)  原告らの経歴及び懲戒処分に至る経緯等(以下,次のアないしセにおいて摘示する原告らに対する起立斉唱命令(争いのある原告X1に対するものを含む。)を併せて「本件職務命令」といい,原告らに対する懲戒処分(別紙2「懲戒処分等一覧表」参照)を併せて「本件処分」といい,本件通達,本件職務命令ないしこれらによる原告らに対する起立斉唱行為の義務付けを総称して「本件職務命令等」という。)
ア 原告X7(以下「原告X7」という。)
(ア) 原告X7は,昭和48年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成18年4月1日から東京都立a高等学校の教諭として勤務していたところ,平成23年3月9日に行われた同校定時制課程卒業式において,あらかじめA2校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午後6時27分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A3副校長から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X7に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで戒告処分を行った。なお,原告X7は,同月31日付けで定年退職した。
(甲C1の1・2・3〔1頁〕,乙C1の1・3)
イ 原告X1(以下「原告X1」という
(ア) 原告X1は,昭和61年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成14年4月1日から東京都立b高等学校(以下「b高校」という。),平成19年4月1日からは東京都立c高等学校(以下「c高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成22年3月3日に行われた同校卒業式において,同日午前10時3分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A4副校長(以下「A4副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
なお,原告X1が,あらかじめA5校長(以下「A5校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたかについては争いがある。
(イ) 都教委は,原告X1に対し,上記(ア)の不起立について,平成22年3月30日付けで減給処分(10分の1・1月)を行った。
(甲C2の1・2・3〔1頁〕,乙C2の5ないし7)
ウ 原告X8(以下「原告X8」という。)
(ア) 原告X8は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成21年4月1日より,東京都立d高等学校の教諭として勤務していたところ,平成22年4月7日に行われた同校入学式において,あらかじめA6校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時4分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A7副校長から,起立するよう2回指示を受けたが起立しなかった。
(イ) 原告X8は,平成25年3月2日に行われた同校卒業式において,あらかじめA8校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A9副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかった。
(ウ) 都教委は,原告X8に対し,上記(ア)の不起立について,平成22年5月27日付けで戒告処分を行い,上記(イ)の不起立について,平成25年3月29日付けで戒告処分を行った。
(甲C3の1ないし4・5〔1頁〕,乙C3の1・3・4・6)
エ 原告X9(以下「原告X9」という。)
(ア) 原告X9は,昭和49年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成16年4月1日より,b高校の教諭として勤務していたところ,平成23年3月5日に行われた同校定時制課程卒業式において,あらかじめA10校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午後3時1分ころ,国歌斉唱の際,前奏開始後に着席し,A11副校長から3回起立を促されたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X9に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで戒告処分を行った。なお,原告X9は,同月31日付けで定年退職した。
(甲C4の1・2・3〔1頁〕,乙C4の1ないし3)
オ 原告X2(以下「原告X2」という。)
(ア) 原告X2は,昭和51年4月1日付けで東京都日野市公立学校教員に任命され,平成6年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成21年4月1日より,東京都立e特別支援学校(以下「e特別支援学校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成23年3月18日に行われた同校高等部卒業式において,あらかじめA12校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時38分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A13副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X2に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで減給処分(10分の1・1月)を行った。なお,原告X2は,同月31日付けで定年退職した。
(甲C5の1・2・3〔1頁〕,乙C5の5ないし7,弁論の全趣旨)
カ 原告A1ことX3(以下「原告X3」という。)
(ア) 原告X3は,昭和59年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成18年4月1日より,東京都立f高等学校(以下「f高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成23年3月11日に行われた同校卒業式において,あらかじめA14校長(以下「A14校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時2分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A15副校長(以下「A15副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X3に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで減給処分(10分の1・6月)を行った。
(甲C6の1・3〔1頁〕,乙C6の10ないし12)
キ 原告X4(以下「原告X4」という。)
(ア) 原告X4は,昭和52年4月16日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成18年4月1日より,東京都立g高等学校(以下「g高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成23年3月11日に行われた同校卒業式において,あらかじめA16校長(以下「A16校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時5分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A17副校長(以下「A17副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X4に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで減給処分(10分の1・6月)を行った。なお,原告X4は,平成24年3月31日付けで定年退職した。
(甲C7の1・2・3〔1頁〕,乙C7の10ないし12,弁論の全趣旨)
ク 原告X5(以下「原告X5」という。)
(ア) 原告X5は,昭和54年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成17年4月1日より,東京都立h養護学校(以下「h養護学校」といい,平成20年4月1日以降は,学校名が東京都立h特別支援学校(以下「h特別支援学校」という。)に変更された。)の教諭として勤務していたところ,平成23年3月23日に行われた同校中学部卒業式において,あらかじめA18校長(以下「A18校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時44分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A19副校長(以下「A19副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X5に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年3月30日付けで停職処分(6月)を行った。なお,原告X5は,同月31日付けで定年退職した。
(甲C8の1・2・3〔2頁〕,乙C8の43・45,弁論の全趣旨)
ケ 原告X6(以下「原告X6」という。)
(ア) 原告X6は,平成12年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成18年4月1日より,東京都立i学園(以下「i学園」という。)の教諭として勤務していたところ,平成23年4月7日に行われた同校入学式において,あらかじめA20校長(以下「A20校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時37分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A21副校長(以下「A21副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 原告X6は,平成24年3月22日に行われたi学園卒業式において,あらかじめA20校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時45分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A21副校長から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(ウ) 原告X6は,平成24年4月1日より,東京都立j特別支援学校(以下「j特別支援学校」という。)の教諭として勤務していたところ,同月9日に行われた同校入学式において,あらかじめA22校長(以下「A22校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時6分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長(以下「A23副校長」という。)から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(エ) 原告X6は,平成25年3月19日に行われたj特別支援学校卒業式において,あらかじめA22校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時20分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかった。
(オ) 原告X6は,平成25年4月9日に行われた同校入学式において,あらかじめA22校長及びその後任者であるA24校長(同月1日着任)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかった。
(カ) 都教委は,原告X6に対し,上記(ア)の不起立について,平成23年5月26日付けで戒告処分を行い,上記(イ)の不起立について,平成24年3月29日付けで戒告処分を行い,上記(ウ)の不起立について,同年4月26日付けで戒告処分を行い,上記(エ)の不起立について,平成25年3月29日付けで減給処分(10分の1・1月)を行い,上記(オ)の不起立について,同年4月26日付けで減給処分(10分の1・1月)を行った。
(甲C9の1ないし10・11〔1頁〕,乙C9の1ないし16)
コ 原告X10(以下「原告X10」という。)
(ア) 原告X10は,平成元年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成18年4月1日より,東京都立k高等学校の教諭として勤務し,平成21年4月1日より,同校の主任教諭として勤務していたところ,平成25年3月2日に行われた同校卒業式において,あらかじめA25校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A26副校長から起立するよう言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X10に対し,上記(ア)の不起立について,平成25年3月29日付けで戒告処分を行った。
(甲C10の1・2・3〔1,8頁〕,乙C10の1・3)
サ 原告X11(以下「原告X11」という。)
(ア) 原告X11は,昭和60年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成22年4月1日より,東京都立l高等学校の教諭として勤務していたところ,平成25年3月6日に行われた同校卒業式において,あらかじめA27校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前11時5分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A28副校長から起立するよう5回言われたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X11に対し,上記(ア)の不起立について,平成25年3月29日付けで戒告処分を行った。
(甲C11の1・2・3〔1頁〕,乙C11の1ないし3)
シ 原告X12(以下「原告X12」という。)
(ア) 原告X12は,平成元年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成20年4月1日より,東京都立m高等学校の教諭として勤務していたところ,平成25年3月9日に行われた同校卒業式において,あらかじめA29校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午後5時35分ころ,国歌斉唱時に起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X12に対し,上記(ア)の不起立について,平成25年3月29日付けで戒告処分を行った。
(甲C12の1・2・3〔1頁〕,乙C12の1ないし4)
ス 原告X13(以下「原告X13」という。)
(ア) 原告X13は,昭和63年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成22年4月1日より,東京都立n高等学校(以下「n高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成25年4月9日に行われた同校全日制課程入学式において,あらかじめA30校長(以下「A30校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A31副校長(以下「A31副校長」という。)から起立するよう2回促されたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X13に対し,上記(ア)の不起立について,平成25年4月26日付けで戒告処分を行った。
(甲C13の1・2・3〔1頁〕,乙C13の1・3)
セ 原告X14(以下「原告X14」という。)
(ア) 原告X14は,平成5年4月1日付けで東京都公立学校教員に任命され,平成22年4月1日より,n高校の主任教諭として勤務していたところ,平成25年4月9日に行われた同校全日制課程入学式において,あらかじめA30校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A31副校長から起立するよう2回促されたが,起立しなかった。
(イ) 都教委は,原告X14に対し,上記(ア)の不起立について,平成25年4月26日付けで戒告処分を行った。
(甲C14の1・2・3〔1頁〕,乙C14の1ないし3)
(5)  本訴提起に至る経緯
原告らは,本件処分を不服として,別紙2「懲戒処分等一覧表」の「審査請求年月日」欄記載の各日付けで,東京都人事委員会に対する審査請求を行ったが,いずれの審査請求についても裁決のないまま3か月以上が経過したことから,平成26年3月17日,本訴を提起した。
(当裁判所に顕著な事実,弁論の全趣旨)
4  争点
(1)  原告X1に対する起立斉唱命令(本件職務命令)の有無
(2)  本件職務命令等の憲法19条違反(思想・良心の自由の侵害)の有無
(3)  本件職務命令等の憲法20条違反(信教の自由の侵害)の有無
(4)  本件職務命令等の憲法26条,13条及び23条違反(教師の教育の自由の侵害)の有無
(5)  本件職務命令等の国際条約違反の有無
(6)  本件職務命令等の公権力行使の権限踰越ゆえの違憲・違法の有無
(7)  本件職務命令等の教基法16条1項(不当な支配の禁止)違反の有無
(8)  本件処分の手続的瑕疵の有無
(9)  本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無
(10)  本件職務命令違反を理由として減給又は停職の処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無
(11)  国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否
5  関連する最高裁判決の表記
(1)  公立学校の教職員に対して起立斉唱行為等を義務付ける職務命令や懲戒処分の憲法適合性や適法性等を争点とする,次のアないしウを含む一連の最高裁判所判決を総称して,以下,「関連最高裁判決」という。
ア 最高裁判所平成16年(行ツ)第328号同19年2月27日第三小法廷判決・民集61巻1号291頁(以下「平成19年最高裁判決」という。)
イ 最高裁判所平成22年(行ツ)第54号同23年5月30日第二小法廷判決・民集65巻4号1780頁,最高裁判所平成22年(オ)第951号同23年6月6日第一小法廷判決・民集65巻4号1855頁,最高裁判所平成22年(行ツ)第314号同23年6月14日第三小法廷判決・民集65巻4号2148頁及び最高裁判所平成22年(行ツ)第372号同23年6月21日第三小法廷判決・裁判集民事237号53頁(これら4件を併せて,以下,「平成23年最高裁判決」という。)
ウ 最高裁判所平成23年(行ツ)第242号・同年(行ヒ)第265号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号1頁及び最高裁判所平成23年(行ツ)第263号・同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁(これら2件を併せて,以下,「平成24年最高裁判決」という。)
(2)  その他の最高裁判決
ア 全国一せい学力調査実施のため中学校に赴こうとするテスト立会人らを道路上で阻止した行為に関する最高裁判所昭和44年(あ)第1275号同51年5月21日大法廷判決・民集30巻5号615頁(以下「旭川学テ事件最高裁判決」という。)
イ 信仰上の理由により剣道実技の履修を拒否した市立高等専門学校の学生に対する原級留置処分及び退学処分に関する最高裁判所平成7年(行ツ)第74号同8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号469頁(以下「神戸高専事件最高裁判決」という。)
第3  争点に対する当事者の主張
1  争点1(原告X1に対する起立斉唱命令(本件職務命令)の有無)
(1)  被告の主張
ア A5校長は,原告に対し,平成22年2月12日には,校長室において口頭で同年3月3日の卒業式に係る起立斉唱命令を発令した。また,A5校長は,同月1日午前8時35分ころには,A4副校長同席の下,職員室において,書面をもって起立斉唱命令を発令した。よって,原告X1に対しても,同卒業式に先立って起立斉唱命令(本件職務命令)が発令されていた。
イ 原告X1は,平成22年2月10日の職員会議において,起立斉唱命令が口頭で発令されたことを認識していたこと,同年3月1日には,起立斉唱命令を記載した職務命令書の受取りを拒否し,これが原告X1の机上に差し置かれたこと,原告X1も,卒業式の当日朝には,前記職務命令書を見たことから,原告X1に対して起立斉唱命令が発令されていたことは明らかである。また,原告X1の机上に置かれた職務命令書は,他の教員に交付されたものと同じ内容であるし,A5校長は,原告X1の不起立について,卒業式後に注意や指導を行っているのであるから,A5校長が,原告X1を特別扱いして,起立斉唱命令を発令していなかったことをいう原告X1の主張は認められない。
ウ 原告は,起立斉唱と両立しないビデオ撮影の職務命令が発令されていたと主張するが,卒業式の実施要項には,原告の役割として記録係(VTR保存)との記載はあるものの,ビデオ撮影との記載はない。また,c高校の卒業式におけるビデオ撮影は,三脚を使用してステージ全体が撮影できる位置にビデオカメラを固定し,開式直前にスイッチを入れる方法によって行われるから,指定場所における起立斉唱との両立は可能である。しかも,原告X1によれば,平成22年3月3日の卒業式当日の開式直前に,A5校長が国歌斉唱時のビデオ撮影に係る職務命令を撤回したというのであるから,起立斉唱命令のみが存続したとみるべきである。
(2)  原告X1の主張
ア A5校長は,原告X1に対し,卒業生指導とビデオ撮影(担任クラス卒業生を引率して会場に入場し,会場前方の隅からビデオ撮影を行った後,担任席に戻って呼名をするという内容)を命じる職務命令を発令した。ビデオ撮影は担任席以外の場所で行うこととされていたから,担任席における起立斉唱とビデオ撮影とは両立しないところ,A5校長は,このような職務命令をあえて発令することにより,起立斉唱命令違反の問題を避けることができると考えていた。よって,被告の主張する担任席において起立斉唱することを命じる職務命令が,平成22年2月12日に口頭で発令されていたとは認められない。
イ また,A5校長とA4副校長が,職務命令書と思われる書面を持ってきて原告X1の机上に置いたことはあったが,原告X1は,職務命令によって教育を行うこと自体が教育条理に反しているという考えの下,その書面を受け取っていない。そして,同書面には,実施要項に従うべきことの記載があり,原告X1は,実施要項において卒業生指導とビデオ撮影の役割分担とされていたのであるから,これと両立しない起立斉唱命令が職務命令書に記載されていたとしても,起立斉唱命令が書面により発令されたとは認められない。
ウ A5校長は,平成22年3月3日の卒業式当日の朝になって,ビデオ撮影を命じる職務命令を撤回したが,その際に,改めて起立斉唱命令が発令されることはなかった。ビデオ撮影の役割がなくなったからといって,もともと発令されていなかった起立斉唱命令が存続することはあり得ない。
エ 以上のとおり,原告X1については,平成22年3月3日の卒業式に先だって,起立斉唱命令(本件職務命令)が発令されていなかったものであるから,起立斉唱命令違反を理由とする本件処分は,懲戒事由を欠く違法な処分であって,取り消されるべきである。
2  争点2(本件職務命令等の憲法19条違反(思想・良心の自由の侵害)の有無)
(1)  原告らの主張
ア 本件職務命令等は,次のとおり2種類の原告らの思想・信条を制約するものである。
(ア) 個人の歴史観・世界観
原告らは,自らの歴史観・世界観に基づき,本件職務命令等を拒否したところ,例えば,①日の丸・君が代が日本の近代の侵略の歴史において果たした役割や肉親の戦争経験など歴史認識から,日の丸・君が代に賛成することはできないと考える者,②立憲主義ないし民主主義の観点から,天皇を賛美する歌である君が代に賛成することはできないと考える者,③宗教上の理由から,神道と一体的である日の丸・君が代を承認することはできず,とりわけ神なる天皇の賛歌である君が代を斉唱することはできないと考える者がいる。
(イ) 教職員としての職責意識に基づく信条
a 自らの信条(戦争体験のある生徒,校外の教育により信条形成をした生徒等)や民族的出自(中国や韓国の国籍者等)から,卒業式等で起立斉唱したくないと考える児童・生徒もいる。起立斉唱命令により教職員が起立してしまえば,このような児童・生徒が同調圧力に耐えることが一層困難となるのであり,原告らは,児童・生徒の思想及び良心の自由を脅かし,価値観の多元性を否定する行動に加担することはできないという教職員としての職責意識を有している。
b 本件通達発出前は,例えば養護学校においては,すぐに処置をしなければならない児童・生徒に対応するためにマット席を準備するなど児童・生徒の安全に配慮した会場設営がされてきたが,本件通達発出後には,児童・生徒の安全確保よりも,起立斉唱命令の遵守を重視するような卒業式等の運営がされるようになった。児童・生徒の安全を守るのは教職員の責務であるところ,原告らの中には,これを脅かす本件職務命令等に従うことはできないと考える者がいる。
c 教職員は,日々,教職員の責務を果たすべく,教育実践に励んでいる。原告らの中には,最初又は最後の授業である卒業式等において,教職員が自己の日常的な教育実践に反して起立斉唱行為を行うことは,教育の前提である児童・生徒との信頼関係を損なうことになると考える者がいる。
d 教職員は,児童・生徒との人格的接触を通じ,その個性に応じた指導を行うとともに,児童・生徒が未来の主権者として自ら考える力を付けられるような指導を行う必要があるのであり,教育に強制は馴染まない。原告らは,本件職務命令等により,教育の本質に反する一律強制を教育現場に持ち込むことは是認できないと考えている。
e 戦前,教師は,軍国主義教育のもと,教え子たちを戦場に送り出してしまった。原告らの中には,本件職務命令等による起立斉唱行為の強制は,子どもたちを戦場に送ることに繋がるものであって,従うことはできないと考える者がいる。
イ 上記ア(ア)は個人の歴史観・世界観に立脚する信条であるが,上記ア(イ)の原告らの教職員としての職責意思に基づく信条は,上記ア(ア)の信条とは異なり,日の丸・君が代をめぐり,卒業式等の場で,「公的機関が,参加者にその意思に反してでも一律に行動すべく強制することに対する否定的評価(従って,また,このような行動に自分は参加してはならないという信念ないし信条)」というべきものであり,これも「単なる社会生活上の信条」に止まるものではなく,憲法上保障されるべき思想・良心の自由であり,本件職務命令等は,その自由に対する直接の制約に当たる(平成19年最高裁判決A32裁判官反対意見参照)。したがって,原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約にとどまることを前提として憲法19条の適合性を判断することは許されない。
ウ 東京都及び日本全国の公立学校の卒業式等における国旗掲揚・国歌斉唱の実施率をみても,関連最高裁判決が前提としていた場面である平成16年当時,卒業式等における起立斉唱行為が「慣例」と評価し得る程度に広く実施されていたとはいえないし,仮に卒業式等における起立斉唱行為が広く実施されるようになっていたと評価できるとしても,それは,文部(科学)省や都教委が,卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率を上げることを推し進めた結果であって,自然に成立した「慣例」とは異なる強制によって作られた見せかけの「慣例」である。このような「慣例」上の行為の強制が思想・良心の自由を脅かす危険を有することも明らかである。そして,国際的にも,卒業式等における国歌斉唱時の起立斉唱行為が「慣例」であるとはいえない。スポーツの祭典などにおいて,国旗・国歌を尊重しつつ,起立斉唱するかを個人の自由に委ねることは「慣例」となっているが,これは,参加者全員に画一的な行動を要求することとは全く異なる。したがって,卒業式等における起立斉唱行為が「慣例上の儀礼的所作」であることを理由として,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約にとどまるとはいえない。
エ 卒業式等における起立斉唱行為は,日の丸・君が代やそれにより表象される国家を肯定的に捉える思想を前提として行われる行為である。戦前の日本においては,日の丸・君が代と学校の儀式的行事こそが,子どもたちに天皇・国家への忠誠を刷り込み,皇国思想,軍事体制を支える中心的役割を果たしてきた。このような歴史的経緯に照らせば,卒業式等における起立斉唱行為は,愛国心・全体主義的世界観を児童・生徒や教員に注入することを目的とした儀礼であるから,起立斉唱行為が儀礼的な所作としての側面を有するとしても,これを強制することは許されず,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約にとどまるとはいえない。
オ 本件通達の発出以降,都教委は,卒業式等において,内心の自由の説明などの起立できない児童・生徒に対する教職員の配慮を事実上禁止し,児童・生徒の起立・不起立等を監視するなど,起立できない児童・生徒に対して同調圧力をかけるよう指導してきた。また,本件通達の発出以降,都立学校がどんどん管理的になり,教職員の間には何を言っても無駄という雰囲気が広がり,決められたことに責任感をもって取り組む意欲も失われ,校長さえも,都教委の方針と異なる意見をいうことができなくなり,児童・生徒たちも,学校に対して不満があっても,自分の意見を表明しなくなるといった状況が生じている。このように,本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判を受けるべき罪悪であると教え込むとともに,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現しようとするものである。したがって,本件職務命令等は,不当な目的に基づき原告らの思想・良心の自由を制約するものであるから,その制約に必要性や合理性があるとは認められない。
カ 国旗・国歌条項は,文部(科学)省の告示にすぎず,法律の授権を欠くものであるし,旭川学テ事件最高裁判決のいう「大綱的な基準」にとどまらないから,原告らの思想・信条を制約する法的根拠にはなり得ない。また,国旗・国歌法制定当時の議論によれば,教育現場において,起立斉唱行為の義務付けを行わないというのが同法の立法趣旨である。したがって,本件職務命令等は,原告らの思想・信条の自由を制約して起立斉唱行為を義務付けるほどの必要性や合理性があるとは認められない。
キ 本件職務命令等は,以上のような原告らの個人の歴史観・世界観及び原告らの教職員としての職責意識に基づく信条に反する行為を強制し,原告らの思想・信条に係る沈黙の自由を侵害するものであり,本件処分は,原告らの思想・信条を理由として不利益を課すものである。そして,このような思想・良心の自由に対する制約については,厳格な基準により憲法適合性が判断されるべきであるところ,一部の教職員の不起立不斉唱行為があったとしても,卒業式等はそれにかかわらず支障なく進行するのであるし,少なくとも懲戒処分の威嚇の下に起立斉唱行為を教職員全員に強制するまでの必要性は存しないから,原告らの思想・良心の自由を制約することにやむを得ない理由があるとはいえない。
ク 以上によれば,本件職務命令等が,憲法19条に違反して,原告らの思想・良心の自由を侵害することは明らかである。
(2)  被告の主張
ア 憲法19条が保障する思想・良心とは,世界観・人生観などの個人の内面的な精神的活動を指すものであり,事物の是非・善悪の判断などは含まない。そして,法律が一定の作為・不作為を命じるときに,それに服しないことは内心にとどまらない外部的行為となるのであり,思想・良心の自由固有の問題ではない。外部的行為といっても,人の内心領域の精神活動と密接な関連を有することは否定できないが,外部的行為を制約することによって,個人が世界観・人生観を持つこと自体を禁止するものではないから,思想・良心の自由を直接的に制約するものではない。
イ 卒業式等における起立斉唱行為は,一般的,客観的に見て,式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,かつ,そのような所作として外部からも認識されるものであるから,原告らの有する思想・信条についての間接的な制約になるとしても,これを否定することと不可分に結び付くものとはいえない。そして,本件職務命令等は,学習指導要領に基づき,卒業式等において,児童・生徒に対し,国旗・国歌に対する正しい認識を持たせ,尊重する態度を育てるために,教職員に対し,起立斉唱行為を命じるというものであり,そのこと自体は,一定の外部的行為を命じるにとどまるものであって,原告らの内心における精神活動を否定したり,その思想・良心に反する精神的活動を強制したりするものではないし,原告らの思想・信条の告白を強要するものでもないから,上記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められる。また,本件処分は,本件職務命令違反を理由とするものであって,原告らの思想・信条を理由に不利益処分を科すものではない。
ウ 原告らは日の丸・君が代を巡る歴史的事実を問題とするが,かつての国旗・国歌に対する意義付けや国民の考え方が,現在にも引き継がれるというものではない。国旗・国歌法は,多くの国民の間に,日の丸・君が代が我が国の国旗・国歌としてふさわしいとの認識が定着していることを踏まえて制定されたものであり,そのような多くの国民の意識は,憲法の掲げる平和主義,国民主権の理念に基づき,日の丸・君が代に,その象徴としての役割を期待しているところにある。そして,公教育の場において,このような意義付けのもとで国旗・国歌について指導を行うべきことは当然であり,その方法についても我が国の慣習及び国際儀礼に適う一般的動作・所作の範囲内のものであって,特定の思想を持つことを強制したり,国旗・国歌に対する敬意の念を強制したり,国家への服従を強制するものでは全くない。
エ むしろ,児童・生徒を指導すべき立場にある教員が,学習指導要領に反した行動を取っていては,児童・生徒の健全な成長を図ることはできないし,児童・生徒に対して強い影響力を有する教員が,国旗・国歌に独自の思想上の色付けをして児童・生徒に示し,学習指導要領に基づく国旗・国歌の指導を行わないことこそ極めて不適切というべきである。原告らが主張する昭和20年8月以前に生起した出来事に対する評価等については,純粋な歴史認識や歴史観の問題として考えるべきものであり,国旗・国歌の指導とは明確に区別して議論されるべきものである。
オ 以上によれば,本件職務命令等が憲法19条に違反して,原告らの思想・良心の自由を侵害するものとは認められない。なお,原告らの主張のうち,児童・生徒の権利侵害をいう部分については,自己の法律上の利益に関係のない違法の主張であり失当である。
3  争点3(本件職務命令等の憲法20条違反(信教の自由の侵害)の有無)
(1)  原告らの主張
ア 原告らのうち,少なくとも原告X1及び同X2については,自らのキリスト教信仰のゆえに日の丸・君が代に対する敬意表明に服しがたいことを表明している。そして,基本的人権としての信教の自由の侵害の有無を判断するに当たり,日の丸・君が代の宗教的性格の有無や宗教的意味付けについては,被人権侵害者の認識を基準として判断されるべきであり,公権力においてする意味付けや一般的客観的な基準によるべきではない。
イ 大日本帝国憲法下においては,天皇制を支える国家神道に抵触しない範囲でしか信教の自由は認められず,これに抵触する信仰は,天皇の神聖性を毀損することから苛酷な宗教弾圧の対象となった。そして,日の丸・君が代は,大日本帝国憲法下において,国家の象徴であるだけでなく,国家神道という宗教上のシンボルでもあった。日の丸は,天皇の祖先神(皇祖)であるアマテラスが太陽信仰に由来するところからくるとされ,太陽神を象形した宗教的デザインである。また,君が代の歌詞は,神なる天皇の治世が代々継承して永久に続くようにという宗教的な祝祭歌である。そして,現在もなお,宮中の皇室祭祀が連綿と継承され,これに追随する全国の神社神道が社会に根を下ろしているのであり,日の丸・君が代は,日本国憲法下においても,かつての宗教的性格を払拭できていない。
ウ 宗教は,儀式や儀礼的所作と大いに関係があるのであって,日の丸・君が代への敬意表明を強制することは,信仰を持つ原告らに対しては,自己の信仰を抑圧する他宗の神への礼拝の強制にほかならず,江戸時代における踏み絵と同様,著しい精神的苦痛をもたらすものであり,内面における宗教的信条の侵害に当たる。すなわち,日の丸・君が代に対する敬意を強制することは,宗教上の行為に参加することの強制として憲法20条2項に違反する。
また,信仰を持たない原告らにとっても,特定の信仰の強制や干渉から自由であるという消極的な信教の自由の侵害となり,憲法20条1項前段に違反する。原告らが教育公務員であるとしても,必要不可欠とはいえない制約は信教の自由を侵害するものとして許されない。
エ 神戸高専事件最高裁判決の判示する①少数者の信教の自由を保障することの重要性,②信教の自由の制約の可否を検討する場合の代替的方法(同事件では,剣道実技に代わる他の体育種目の履修など)の検討の必要性,③信教の自由が内心における信仰の自由の保障にとどまらず,外部からの一定の働きかけに対して,その信仰を保護・防衛するために防衛的受動的に取る拒否の外的行為の保障(同事件では,剣道実技履修の拒否という外的行為の保障)については,本件においても考慮されるべきである。
オ 以上のほか,争点2において主張したところによれば,本件職務命令等が,憲法20条2項及び1項前段に違反して,原告らの信教の自由を侵害することは明らかである。
(2)  被告の主張
ア 日本国憲法においては,平和主義,国民主義の理念が掲げられ,天皇は日本国及び日本国民統合の象徴であることが明確に定められている。そして,日の丸・君が代については,議会制民主主義の下,国旗・国歌法によって日本の国旗・国歌と定められ,憲法が掲げる平和主義,国民主義の理念の象徴としての役割が期待されているのであり,過去に皇国思想や軍国主義に利用されたことを理由として,嫌悪の感情を抱く者がいたとしても,それ自体宗教的な意味合いを持つものではなく,国家神道と結び付いた宗教的存在としての天皇崇拝のシンボルなどではない。
イ 原告らは,公務員として全体の奉仕者としての地位にあり,しかも,その職務の内容が公教育を行うという公共性を有していることから,原告らが個人的な宗教上の理由により,教育を行うことを拒否することは,そもそも許されない。そして,本件職務命令等は,国旗・国歌の指導を行うよう命じることであって,原告らの信仰を否定したり,原告らの信仰に反する行為を強制したりするものではない。
ウ 個人の信仰が内心にとどまらず,それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,当該外部的行動が社会一般の規範等と抵触する場面においては,信教の自由も一定の制約を受けるのであり,本件職務命令等が,原告らの信教の自由を制約するとしても,その制約を許容するに足りる必要性及び合理性があり,やむを得ない制約である。
エ 原告は,神戸高専事件最高裁判決を援用するが,教育目的達成のため必要な限度で学校の支配に服するにすぎない児童・生徒と教育課程に関する職務命令に服すべき教師とを同列に論ずることはできず,公立学校の生徒が本来権利である授業の履修を拒否することと公立学校の教員が教育課程に関する職務命令を拒否することとはその意味合いが異なるといわなければならないから,同最高裁判決の法理は,本件においてそのまま適用されるものではない。
オ 以上のほか,争点2において主張したところによれば,本件職務命令等が憲法20条に違反して,原告らの信教の自由を侵害するものとは認められない。
4  争点4(本件職務命令等の憲法26条,13条及び23条違反(教師の教育の自由の侵害)の有無)
(1)  原告らの主張
ア 子どもには,憲法13条が保障する人間としての尊厳及び憲法26条が保障するその個性に応じた学習権があり,子どもが自由かつ独立の人格として成長することを妨げるような公権力による教育内容への介入は,憲法26条及び13条からも許されない。そして,これらの子どもの人格権及び学習権を充足する責務を負う教師は,①公権力によって,特定の意見のみ教授することを強制されないという意味において,また,②子どもの個性に応じ,教育の具体的内容や方法の選択につきある程度自由な裁量が認められるという意味において,憲法23条により,教育の自由が保障されている。
そして,そのような自由の保障のためには,昭和41年のユネスコ勧告のいうように,教員は職責の遂行に当たって学問の自由を享受し,生徒に適した教具及び教授法を判断する資格を特に有しているのであり,教員には教材の選択及び使用(採用),教科書の選択並びに教育方法の適用に当たって,承認された計画の枠内で,かつ,教育当局の援助を得て,主要な役割が与えられるべきことが帰結される。旭川学テ事件最高裁判決も,少なくとも,教師が公権力によって一方的な見解を教授することを強制されない自由の保障を,国(教育行政)の教育内容介入に対する限界と表裏になる形で認めている。
イ そもそも,学習指導要領の国旗・国歌条項は,「国旗を掲揚し,国歌を斉唱するよう指導するものとする」と規定するだけであり,卒業式等における起立斉唱行為を行うこと自体を規定している訳ではなく,国旗・国歌についての児童・生徒の学習権を充足するためには,国旗・国歌の歴史やその現実の扱われ方,多様な社会的な評価を学習させることが必要であると考えられる。しかるに,本件職務命令等は,国民や児童・生徒の間でも価値判断の分かれる卒業式等における起立斉唱行為について,これに対する肯定的な一方の政治的意見のみを教授するよう強制し,他方の意見をも教授することを禁止するものにほかならず,児童・生徒の学習権を侵害している。
ウ また,卒業式等の学校行事も,教育活動の一環として行われるものあるから,児童・生徒の状況等を踏まえ,教師に創意工夫や一定程度の裁量の余地を残すものでなければならない。しかるに,本件通達は,卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱について,都教委が一律かつ詳細に決め,そのとおり実行することを全都立学校に命じた内容となっており,各学校において実施方法を決定する裁量の余地が残されてはいない。例えば,肢体不自由校や知的障害校の多くにおいて,各学校の教職員の議論による創意工夫の下,児童・生徒が主体的に参加するフロア式・対面式の卒業式が行われてきたが,本件通達後はそのような議論の余地はなくなった。また,自らの信条により起立斉唱できないと考える児童・生徒のことを慮って起立斉唱できないとの思いを持つに至った教職員が存したとしても,不起立という選択は許されていないし,「内心の自由」の説明すら禁止されるに至っているのであるから,教師の創意工夫及び裁量の余地は否定されている。
エ 以上のほか,思想・良心の自由(特に,教職員の職責意識に対する制約)について主張したところによれば,本件職務命令等は,憲法26条,13条及び23条に違反して,原告らの教育の自由を侵害するものである。
(2)  被告の主張
ア 普通教育においても,一定の範囲の教授の自由が保障されるべきことを肯定できない訳ではないが,児童・生徒の能力,教師の影響力,教育の機会均等の要請からすれば,完全な教授の自由を認めることはできない。
イ そして,本件通達は,国旗・国歌の指導の適正化を図るため,式典における慣例上の儀礼的な行為や常識的な内容を含めて儀式的行事のあり方を示したものにすぎず,各教師の自由な創意と工夫が問題となるようなものではない。卒業式等における国旗・国歌の指導は,国家のあり方について踏み込んで指導することを目的とするものではなく,国旗・国歌に対して正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることを目的として行われるものであり,原告らは,その教育的意義を軽視しているといわざるを得ない。また,本件通達は,卒業式等の実施に関する基本的な内容について規定するものであり,これに記載されていない内容については,各学校の創意・工夫が否定されるものではない。なお,本件通達以前に,フロア形式・対面式の卒業式が行われていた学校においては,国旗・国歌の取扱いを否定することが優先されていたにすぎない。本件通達以前から,児童・生徒に対する個別の配慮を行いつつ,壇上形式で卒業式を支障なく実施していた特別支援学校も存在した。
ウ 以上のほか,思想・良心の自由について主張したところによれば,本件職務命令等は,憲法26条,13条及び23条に違反して,原告らの教育の自由を侵害するものとはいえない。なお,原告らの主張のうち,児童・生徒の権利侵害をいう部分については,行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)10条1項にいう自己の法律上の利益に関係のない違法の主張であり失当である。
5  争点5(本件職務命令等の国際条約違反の有無)
(1)  原告らの主張
ア 国際条約の設置する各委員会の一般的意見等の位置付けについて
(ア) 自由権規約及び児童権利条約は,条約という法形式の規範であり,特別にそれを実行するための国内法制定を待つまでもなく,国内法としての効力を有し(憲法98条2項,7条1号・3号,73条3項),具体的な裁判規範ともなる。そして,これらの条約については,いずれも自由権規約委員会及び児童権利委員会での一般的意見が示されるとともに,締約国における定期報告制度を採用している。各委員会の一般的意見は,条約の実施を促進し,締約国による報告義務の履行等を援助するために採択された正式文書であり,当該規定についての条約の実施機関の有権的な解釈指針として位置付けられる。また,締約国の定期報告に対する各委員会の総括所見は,締約国に対する委員会の権威ある声明であるとともに,締約国一般が執るべき行動の指針文書として位置付けられるものであり,定期報告制度の性質上,当該国において正当に尊重され,誠実に履行されなければならない。
(イ) そして,最高裁判所は,国籍取得及び相続における婚外子差別が問題となった最高裁判所平成18年(行ツ)第135号同20年6月4日大法廷判決・民集62巻6号1367頁及び最高裁判所平成24年(ク)第984号,第985号同25年9月4日大法廷決定・民集67巻6号1320頁において,自由権規約及び児童権利条約が我が国においても裁判規範性を有していることを前提として,上記両委員会の一般的意見や総括所見に従った判断を示している。このようなことからすれば,上記両委員会の一般的意見や総括所見について,勧告としての効力しか持たず,直ちに我が国の法令としての法的拘束力を持つとはいえないとする見解は誤りであり,これらは重要な解釈指針として考慮されなければならない。
イ 自由権規約18条違反の有無について
(ア) 自由権規約18条1項の保障する思想・良心及び信教の自由について
自由権規約委員会は,自由権規約18条1項が保障する思想・良心及び宗教の自由について,「広大で深遠な権利」であり,「あらゆる事柄についての思想,個人的確信及び宗教又は信念への関与の自由を包含する」(一般的意見22第1項)とし,「信念及び宗教という語は広く解釈されなければならない。第18条の適用は,伝統的な宗教又は伝統的な宗教のそれと類似する制度的に確立された性格又は慣行を有する宗教及び信念に限定されない。」(同第2項)ともする。したがって,国旗・国歌についての思想,良心及び信仰が,自由権規約18条の保障する思想・良心及び宗教に含まれることは明らかである。
(イ) 自由権規約18条2項違反の有無について
a 自由権規約18条2項は,いかなる制限も許容しない絶対的保障の規定であり(一般的意見22第3項),同条項のいう「強制」には,「暴力の行使又は刑事罰の使用もしくはそれによる脅迫が含まれる」とし,その例示として,「雇用を得る権利を制限する」場合を挙げる(一般的意見22第5項)。
b 本件通達の下では,起立斉唱命令に違反して不起立であった教職員に対し,懲戒処分が繰り返されるとともに,退職後の再雇用・再任用が不起立の一事をもって拒否されるなど,不利益処分と雇用剥奪による脅しが行われている。また,児童・生徒に対する国旗・国歌の指導という目的を達成するためには,教職員全員の起立斉唱行為が必要となる訳ではないにもかかわらず,都教委は,起立斉唱が教職員の当然の義務であるとの前提に立ち,内心の自由の説明さえも禁じて,原告らの思想・良心及び信教の自由の権利性を前提とした配慮を全く欠いているから,自由権規約18条の3項ではなく2項が適用される。
c よって,本件職務命令等は,絶対的に保障された原告らの思想・良心及び宗教を侵害するものであり,自由権規約18条2項に違反する。
(ウ) 自由権規約18条3項違反の有無について
a 自由権規約委員会は,平成26年7月に採択・発表した日本政府の第6回報告に対する総括所見の22において,起立斉唱命令違反に対する懲戒処分の問題を念頭に,日本政府に対し,初めて自由権規約18条の思想・良心及び信教の自由に言及し,同条3項に規定された厳格な要件を満たさない限り,思想・良心及び宗教の自由に対する権利へのいかなる制限を課すことを差し控えるよう促した。したがって,本件職務命令等が自由権規約18条に違反するか否かを判断するに当っても,この総括所見は十分に考慮されるべきである。そして,本件職務命令等は,次のとおり,同条3項に規定された厳格な要件を満たすものではない。
(a) 自由権規約委員会は,自由権規約18条3項のいう「宗教又は信念を表明する自由」は広範な行動を包含している(一般的意見22第4項)としているから,真摯な思想・良心及び信仰に基づく原告らの不起立が,これに包含されることは明らかである。
(b) 自由権規約18条3項にいう「法律で定める制限」とは議会制定法による制限を指すところ,学習指導要領は文部科学省の告示にすぎず,ここでいう「法律」には該当しないし,まして職務命令が「法律」に該当しないことも明らかである。また,国旗・国歌法及び学習指導要領は,いずれも卒業式等における教職員の起立斉唱行為を義務付けるものでもないから,学習指導要領が「法律」に該当するとしても,本件職務命令等による宗教又は信念を表明する自由の制約について,「法律で定める制限」があるとはいえない。
(c) 被告によれば,本件職務命令等の目的は,学習指導要領に基づき,我が国の国旗・国歌はもとより諸外国の国旗・国歌に対する正しい認識とそれらを尊重する態度を育てることにあるところ,これは自由権規約18条3項にいう「公共の安全,公の秩序,公衆の健康若しくは道徳又は他の者の基本的な権利及び自由を保護するため」には該当しない。なお,「道徳」を保護するための制限は,「単一の伝統のみに由来しない原則に基づかなければならない」(一般的意見22第8項)ところ,日の丸・君が代を巡る多様な評価が存するものであるし,「他の者の基本的な権利及び自由」として想定されるのは,児童・生徒の基本的な権利及び自由であるところ,本件職務命令等の上記目的が,「道徳」や児童・生徒の基本的な権利及び自由を保護する目的を含むものとは認められない。また,本件通達の発出される以前の卒業式等において,児童・生徒が他国の国旗・国歌を尊重する態度を身に付けないなどの弊害が具体的に生じていたとも認められず,保護法益とされるものに対する「具体的な危険」も存しないから,「保護するため」との要素についても,これを満たすものとは認められない。
(d) 自由権規約18条3項にいう「必要なもののみを課することができる」とは,「制限は目的達成のために適切なものでなければならず,目的を達成する手段のうち最も非侵害的な手段でなければならず,更に達成される利益と比例するものでなければならない」ことを意味する(同規約12条3項に係る一般的意見27第14項)。そして,教職員の一部が不起立であったとしても,式典の進行が妨害されることはないし,児童・生徒の国旗・国歌を尊重する態度を育てるという目的を達成するため,教職員全員の起立斉唱行為が必要であるとも認められない。また,都教委にとって,真摯な理由に基づく場合には教職員に対して起立斉唱命令の対象から外すなどの対応は容易であったといえる。したがって,原告らに対して起立斉唱行為を強制することが,「必要なもののみを課することができる」場合に当たるとはいえない。
b 以上によれば,本件職務命令等による起立斉唱行為の強制は,自由権規約18条3項に違反する。
ウ 児童権利条約違反の有無について
(ア) 原告らが児童権利条約違反を援用することの可否
児童権利条約で児童に保障された権利は,児童が権利の享有主体であるとともに,児童の権利を確保すべき責務を負う教師もその責務を実施する権利の享有主体である。そして,原告らは,憲法上,教育の自由を保障されているから,行訴法10条1項との関係においても,自己の法律上の利益に関係のある違法として,児童権利条約で児童に保障された権利侵害を援用し得るのは当然である。
(イ) 本件職務命令等は,起立斉唱行為のみが正しい行為であるという特定の価値観を強制するものであり,児童・生徒が多様な思想に触れることを否定しているから,児童権利条約14条(思想・良心及び信教の自由)及び28条(教育への権利)に違反するし,その作成過程からしても,児童の最善の利益が全く考慮されていないから,同条約3条(子どもの最善の利益の確保)に違反する。また,本件通達に基づく卒業式等の実施について,児童やその親の意見を聴くことはされておらず,障害のある児童,外国籍や外国出身の児童,キリスト教の信仰を有する児童等に対する配慮も欠いているから,本件職務命令等は,同条約12条(意見表明権)及び29条(文化的アイデンティティ・価値の尊重)に違反する。児童権利委員会が平成22年6月に採択した日本政府の第3回報告に対する総括所見の43及び44も,本件通達の策定過程及び本件通達に従った実際の卒業式等の実施に関し全く子どもの意見を聴くことがなく,子どもの意見表明権が尊重されていないことから,このような問題の存在を認め,その是正を勧告したものと解される。
(2)  被告の主張
ア 自由権規約18条違反の有無について
(ア) 本件職務命令等が,自由権規約18条に違反する旨の原告の主張はすべて争う。その理由は,思想・良心の自由(憲法19条)及び信教の自由(憲法20条)に関して主張したところと同様である。
(イ) なお,自由権規約委員会の一般的意見は勧告としての効力しか持たないものであり,直ちに我が国の法令としての拘束力を持つものとはいえないのであるから,同委員会の一般的意見等の内容に即した解釈を行うべきであるとの原告の主張は失当である。
イ 児童権利条約違反の有無について
(ア) 原告らが児童権利条約違反を主張することは,行訴法10条1項にいう自己の法律上の利益に関係のない違法の主張であって,そもそも主張自体失当である。また,本件職務命令等が児童権利条約に違反する旨の原告の主張はすべて争う。
(イ) 原告らは,本件通達が児童が多様な思想に触れることを否定していることなどを理由として,同条約14条(思想・良心及び信教の自由)違反を主張するが,児童・生徒に対する関係においては,国旗・国歌の指導は教育上の指導として行うものであるし,その指導に従わなかった場合にも,格別の不利益な措置がされる訳ではないから,本件職務命令等が児童の思想・良心の自由を侵害することは全くない。
(ウ) 原告らは,本件通達が卒業式等のあり方について児童・生徒の意見を反映させる余地をなくしていることなどを理由として,同条約12条(意見表明権)違反を主張するが,本件通達の発出後も,その枠内において各学校の創意・工夫により卒業式等が実施されているのであるから,本件職務命令等が児童の意見表明権を侵害するものとは認められない。
(エ) 原告らは,本件通達が起立斉唱行為のみが正しい行為であるという特定の価値観を強制していることなどを理由として,同条約28条及び29条(教育についての権利等)の違反を主張するが,卒業式等における国旗・国歌の指導は,一方的な理念を児童・生徒に教え込むものではないから,児童の教育についての権利を侵害するものとは認められない。
6  争点6(本件職務命令等の公権力行使の権限踰越ゆえの違憲・違法の有無)
(1)  原告らの主張
ア 一般に,公権力による人権侵害を憲法違反と主張するについては,まず,侵害される人権の性質や侵害態様に着目して,当該人権侵害が憲法上許されない公権力の行使に当たることを明らかにする違憲論の手法(主観的アプローチ)がある。これに対し,制度論上の問題として,当該公権力の行使が権限なく又は権限の限界を超えてされていることをもって違憲と判断する手法(客観的アプローチ)がある(最高裁判所昭和38年(あ)第974号同43年12月4日大法廷判決・刑集22巻13号1425頁,最高裁判所平成4年(オ)第1796号同8年3月19日第三小法廷判決・民集50巻3号615頁参照)。
イ 起立斉唱行為は,国旗・国歌及びそれらが象徴する国家に対して敬意を表明する要素を含むものであり,国家の権威を受容することを意味する。そして,本件職務命令等は,公権力が,その権威の源泉である国民に対して,国家の権威を受容するよう個人に強制するものであって,近代立憲主義における国家と国民の地位を転倒させるものであり,日本国憲法における国民主権(憲法前文,1条),個人の尊厳(憲法13条)及び公務員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)などの憲法秩序や立憲主義にも明らかに反するものである。したがって,公権力行使の権限を踰越するものであって違憲・違法である。
ウ そして,国旗・国歌に対する敬意表明の強制が,立憲主義の原則を逸脱し,公権力行使の限界を超えてされたものである以上,本件職務命令についても,その名宛人が公務員であることを理由として違憲性を免れることはない。また,公務員であっても,国家の権威の源泉である国民であることは否定されないのであるし,憲法が公務員に求めているのは,憲法を尊重し擁護することであって,国家の権威を受容することを求めている訳ではない。そして,公務員たる教職員に対し,国家への敬意表明の指導を強制することが合憲とされれば,それによる効果は,卒業式等における国旗・国歌尊重儀式を通じて,児童・生徒や保護者等の一般国民にまで及ぶから,そのような効果を容認する解釈は許容できない。
エ 以上によれば,本件職務命令等は,立憲主義に違反し,憲法前文,1条,13条及び99条に照らして許されないものであり,公権力行使の権限踰越ゆえに違憲・違法であると認められる。
(2)  被告の主張
ア そもそも学校教育活動における国旗・国歌の指導は,我が国の国旗・国歌だけでなく,他国の国旗・国歌も同様に尊重する態度を育てるために行われるものであり,国際社会で生きる日本人として学んでおくべき基礎的知識であって,平和主義等の憲法の理念にも合致するものである。
イ 関連最高裁判決も,起立斉唱命令を含む国歌斉唱指導のための職務命令について,その目的及び内容に不合理な点はないなどとしているのであり,当該職務命令には違憲・違法とすべき点がないことを明確に判断しているのであって,原告らに対する本件職務命令等についても,公権力行使の権限踰越があるとは認められない。
7  争点7(本件職務命令等の教基法16条1項(不当な支配の禁止)違反の有無)
(1)  原告らの主張
ア 旭川学テ事件最高裁判決は,国の教育行政機関が教育内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教師の創意工夫を尊重し,教育に関する地方自治の原則を考慮したうえ,教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準の設定にとどまる限りにおいて,「不当な支配」(教基法16条1項,旧教基法10条1項)に該当しないことを判示しているから,地方公共団体に設置される教育委員会が教育内容・方法について遵守すべき基準を設定する場合においても,当該地方公共団体における大綱的な基準の範囲を超えて教育内容・方法に介入し,教師(集団)の教育内容・方法に関する決定・実施権限の独立性を損なうような場合には,教育委員会に与えられた権限の範囲を逸脱するものとして,「不当な支配」に該当するものと解される。
そもそも,校長と教師との関係は,一般的な行政組織内部の上司と部下の関係ではなく,学校教育法の教育権限は,学校ごとに決定された教育課程に基づき,個別的教育活動の内容・方法を決定実施する権限を原則的に各教師に付与したのであって,校長には,教師の教育活動が一方的に特定の観念を子どもに教え込むものである場合など例外的な状況を除き,個別的教育活動の内容・方法の実施に関して教師に職務命令を発出する権限が認められないと解される。
そして,本件通達及びこれに基づく都教委の指導は,各都立学校の校長に対し,卒業式等での国旗掲揚・国歌斉唱について詳細に定める本件実施指針に基づく卒業式等の実施及び教職員に対する起立斉唱命令の発令を命じるとともに,卒業式等に先立つ内心の自由の説明を禁止する内容となっている。このような都教委の管理権の行使は,大綱的な基準の範囲にとどまらない教育内容・方法の詳細に介入するものであり,各学校の教師(集団)の教育内容・方法に関する決定・実施権限の独立性を損なうものであるから,「不当な支配」に該当し違法であることは明らかである。本件職務命令についても,本件通達を実現するために発令されたものであり,その違法を承継するから,「不当な支配」に該当する。
イ 本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判されるべき罪悪であると教え込むことや,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現することにあったところ,このような目的自体,個人の尊厳よりも国家への統合を重視する愛国主義的ないし全体主義的な教育目的であって,日本国憲法の理念に反し許容されないものであるから,本件職務命令等は「不当な支配」に該当する。
ウ 国民統合のために国家シンボルを利用することは,それが任意なものである限り許容されるものの,教職員に対する起立斉唱の義務付けを通じて,児童・生徒に対し,理性的な説得と納得という時間のかかる過程を省略して,国家シンボルへの敬意表明が正しいと無批判に教え込むことが,国民統合という許容される目的と合理的関連性を有するとはいえないし,児童・生徒に対する国旗・国歌の指導の必要があるとしても,すべての教職員が起立斉唱することにより行うという必要性は乏しく,ましてすべての都立学校のすべての教職員に対して起立斉唱を義務付けてまで行う必要性があるとは認められない。したがって,本件職務命令等は,許容される目的との合理的関連性を欠くものであって,「不当な支配」に該当する。
エ 起立斉唱行為については,国旗・国歌の象徴する国家に対する敬意の表明の要素を含む行為であり,無批判に一定の態度を取ることを児童・生徒に教え込むべきではない性質の問題であって,卒業式等の全体としての進行を妨げない範囲において,どのような振る舞いをすべきかは個々の教師の独立した判断(教育実践)に委ねられているから,これを許容しない本件職務命令等は教育活動において尊重されるべきこの教師の独立した裁量に介入するものであり,「不当な支配」に該当する。
オ 以上によれば,本件職務命令等は「不当な支配」を禁じた教基法16条1項に違反する。
(2)  被告の主張
ア 公立学校における教育に関する権限は,当該地方公共団体の教育委員会に属するとされ,地方自治に関する原則が採用されており,これは,各地方の実情に適応した教育を行わせるのが教育の目的及び本質に適合するとの観念に基づくものである。そして,教育の内容及び方法に関しても,国が基準を設定する場合においては,大綱的基準にとどめることが要請されているのに対し,地方公共団体の教育委員会は,地方自治の原則の下,国が設定した大綱的基準の範囲で,より具体的かつ詳細な基準を設定し,必要な場合には具体的な命令を発する権能と責務を負っている。
イ 旧教基法10条1項の「不当な支配」の禁止は,政党,官僚,財界,労働組合など一部の勢力による不当な外部的干渉等により,教育の内容がゆがめられたとの反省の下に規定されたものである。そして,教育委員会は,一部の勢力からの不当な外部的干渉等を排し,国民の意思を教育に反映するために設置されたものであるから,教育委員会が教育に関する固有の権限を行使することについては,原則として「不当な支配」に該当することはない。旭川学テ事件最高裁判決は,「教育が専ら教育本来の目的に従って行われるべきこと」という意味での「教育の自主性」がゆがめられることを「不当な支配」に該当するものと判示しているが,教育行政機関が教育の内容及び方法を決定することにより学校の裁量を制約することを否定していない。
ウ 高等学校や特別支援学校において,児童・生徒に教授内容を批判する能力が乏しく,教師が児童・生徒に対し強い影響力,支配力を有し,また教師を選択する余地も大きくないことを考えれば,教師に完全な教授の自由を認めることはできない。そして,教育内容や方法の選択について,教育の専門家たる教師には一定の裁量権が認められるにしても,卒業式等の学校全体で実施する行事については,それぞれの学校において法令に基づいてされた意思決定に従い,総合的統一的に整然と実施されなければ,教育効果の面で深刻な弊害が生ずることになるのであるから,各教師の裁量権は自ずと制約されることになる。
エ 卒業式等における国旗・国歌の指導は重要な教育活動であり,その適正な実施を図るという本件通達の目的は許容された目的である。そして,起立斉唱行為は,国旗・国歌を尊重する態度を示す行動として一般的なものであり,学習指導要領に基づき国旗・国歌を指導する義務を負う教職員において,自らが範としてこれを行うことはごく常識的な指導方法である。したがって,本件通達の目的は正当であり,その手段も相当であることは明らかである。
オ また,都立学校の校長は,校務をつかさどり所属職員を監督する権限を有し,教育課程の編成等すべての校務を決定し,これを各教職員に分掌させ,必要な指導を行い,職務命令を発することができる。この校務には,卒業式等の実施や卒業式等における教育活動も含まれる。そして,卒業式等において,国旗を掲揚し,国歌を斉唱することは,児童・生徒に対する正当な教育活動の一環であるから,校長が起立斉唱命令を発令すれば,教職員はこれに従って職務を遂行する義務を負う。よって,本件通達の適法性如何にかかわりなく,本件職務命令は,校長がその権限を正当に行使したにすぎないものであって,これが「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張には理由がない。
カ 以上によれば,本件職務命令等は,都教委及び校長が正当な権限を行使したにすぎないものであって,これが「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張は理由がない。
8  争点8(本件処分の手続的瑕疵による違法)
(1)  原告らの主張
原告らは,本件処分の前提としての告知聴聞の機会を与えられていなかったり,与えられていたとしても不十分であったりした。すなわち,原告らの中には,事情聴取に当たって適正手続の保障と自己の権利擁護のため弁護士の立会いを求め,内容の正確さを期するためにメモや録音を申し出た者がいたが,いずれも拒否されている。また,呼出しの日時・場所に出頭して事情聴取を申し出ているにもかかわらず,事情聴取を拒否したものと一方的にみなされた者もあった。また,本件処分に至る手続が余りにも杜撰であり,その拙速さは当初から懲戒処分をすることそれ自体を目的として行われたものと判断せざるを得ない。
(2)  被告の主張
懲戒処分の前提となる事情聴取を行うについて,弁護士の同席を認める法規上の規定はなく,原告らに当然に弁護士の同席を求める権利がある訳ではない。一部の原告らが弁護士の立会い等を求めて事情聴取に応じないため,実際に事情聴取ができなかったケースがあるが,都教委は事情聴取に応じるように説得し,事情聴取の場を提供しているのであるから,一方的に事情聴取を拒否したものとみなすと宣告したのではなく,原告らにおいて事情聴取を拒否したものというべきである。
被聴取者による聴取書のコピーやメモの持ち帰り,録音等を認めていないが,これは,正確性が担保されない断片的な個人のメモや編集改編が可能なテープ録音等は聴取記録の正確を期すために適切でないとの判断や,聴取記録の一元化をするものであり,また,第三者の個人情報の保護の必要もあることに基づくものである。このため,都教委は,事情聴取の最後に被聴取者本人に聴取記録の内容を十分に確認させ,被聴取者の指摘箇所は訂正し,被聴取者が最終確認をして署名押印する手続を取っているうえ,被聴取者から聴取日以降に事情聴取書の開示請求があれば,開示し,写しを交付している。
また,原告らは処分に係る決定の拙速をいうが,周年行事の案件において,服務事故から2か月程度の期間,十分に慎重に検討を行い,量定の考え方が整理される中で,非違行為の性質,態様を重視することにしたものであり,これを受けてその後の卒業式に関する処分が短時日で行い得るようになったのであるから,何ら不合理な点はない。
9  争点9(本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無)
(1)  原告らの主張
ア 本件処分の動機・目的からみた濫用について
地公法が任命権者に懲戒処分の権限を付与した法の目的は,公務員関係の秩序を維持することにあるが,懲戒制度の運用により維持されるべき公務員秩序とは,単に上命下服の階層的な命令伝達機能が整備されていることを意味せず,組織ごとにふさわしい秩序が必要とされ,本件のような教育部門の秩序内容は,教育の本質ないし教育条理にふさわしいものであるべきである。そして,教育とは,教師と生徒との全人格的触れ合いを通じて,生徒の人格形成がされる営為であるから,生徒の価値観の多様性や個性の尊重の保障という教育本来の目的に適合した行政が維持されるように公務員秩序が形成されなければならず,それに反する懲戒権の運用は濫用というべきものである。地公法29条に基づく懲戒権の行使についても,児童・生徒の教育を受ける権利を十全に保障する公務員秩序の維持を目的とする限りにおいて,立法趣旨に適うものとして合法性を有する。
しかるに,本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判を受けるべき罪悪であると教え込むとともに,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現しようとするものである。このことに加え,争点2ないし7において主張したところに照らせば,本件処分の動機・目的が不当であることは明らかである。
イ 本件職務命令の違反による非違の程度について
争点2ないし7において主張したとおり,原告らは,自らの歴史観・世界観,教職員としての職責意識,宗教上の理由などの真摯な思いから,葛藤の末に不起立に至ったものであり,違法行為に及んだものでもなければ,破廉恥な行為に及んだものでもない。本件通達が発出されてから13年以上が経過し,その間,原告らを含め多数の教職員が起立斉唱命令違反を繰り返しているところ,起立しなかったというだけで卒業式等の進行に客観的な支障や実害を来したことは全くない。一般社会において,国歌斉唱時に起立斉唱するか否かという問題は,個人の自主的な判断に委ねられるべき問題とされているのであり,たとえそれが慣例上の儀礼的所作であったとしても,不起立により不利益を被ることはあり得ない。このようなことからすれば,本件職務命令の違反については,たとえ非違行為に当たるとしても,その程度は極めて軽微と評価されるべきである。しかるに,都教委は,本件処分における判断において,東京都知事や一部の都議会議員などの意向という本来考慮に容れるべきでない事項を考慮に容れ,かつ,卒業式等の進行が妨害されるという抽象的可能性を殊更に取り上げて,本件処分の内容を決定しており,当然すべき考慮を尽くさず,考慮すべきではないことを考慮して重い懲戒処分を行ったものであるから,本件処分は違法である。
ウ 本件処分に伴う経済的不利益について
(ア) 平成18年度から平成25年度までの間,勤勉手当については,戒告処分が20%,減給処分が35%,停職処分が50%の各割合で減額される。また,昇給幅について,通常の教職員の場合,年1回4月に給与号棒が4号分昇給する規定となっているが,前年度に戒告ないしは減給処分を受けた職員はこれが2号給昇給に減算され,停職処分を受けた職員は1号給昇給に減算される。この昇給幅の圧縮が回復されることはなく,実質減額された給与の支給が退職時まで継続するうえ,退職手当や年金にもその影響は及ぶ。
(イ) 平成24年最高裁判決の事案においては,昇給幅について,戒告と減給は3号給昇給に減算されるのみであり,勤勉手当の減額率について,戒告は10%,減給は15%であったが,その後に上記(ア)のとおり改定された。原告らに科された戒告処分の経済的不利益は,同改定以前の減給処分に匹敵する内容となっており,かつての基準でいえば1回の不起立等でいきなり減給処分を出されたに等しい経済的制裁となっている。
(ウ) このように,戒告処分であっても,原告らには,本件処分の事後的な取消しによっては回復できない経済的損害が生じている。なお,都教委によれば,戒告による経済的不利益の目安は,42歳の場合,生涯賃金で約90万円のマイナスになるとされている。
エ 本件処分に伴うその他の不利益について
(ア) 原告らは,本件職務命令等により,懲戒処分の威嚇の下,自らが確立した職業倫理にもとる行動を取るよう強制され,精神的葛藤を余儀なくされたものであり,身体的症状を生じた者もいる。また,本件処分は,原告らの不起立について,全体の奉仕者たるにふさわしくない行為であり,教育公務員としての職の信用を傷つけ,職全体の不名誉となるような行為であると判断することにより,原告らの職業倫理を破壊するものであり,原告らは,筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を受けた。
(イ) 原告らは,卒業式等の後,事情聴取のため,都教委より呼び出され,弁護士の立会いやメモを取ることも許されなかった。そして,懲戒処分を受けた者は,退職者を除いて再発防止研修の受講を義務付けられ,思想の告白を強要され,その転向を迫られる。また,被処分者の在籍する学校では,都教委の研修を受けた管理職の指導の下,被処分者を含む全職員を対象とする校内研修を実施しなければならないとされている。研修が被処分者のみに対してではなく,在籍校の教職員全員を対象に行われることが,被処分者に一層の精神的苦痛をもたらしている。
(ウ) 被処分者は,業績評価の「学校運営」の項目において,例外なく「C」(4段階中,下から2番目)以下の評価とされ,それにより総合評価もマイナスの影響を受ける。被処分者は,人事構想外とされて,通常の異動より短期間で異動させられ,遠隔地に異動させられる。また,被処分者が起立斉唱できない場合には,学級担任の希望を拒否されるなど校務分掌上の不利益を受ける。さらに,主任教諭への昇格についても拒否され,合格していても取り消されるのであり,原告X1及び同X3も,不起立を理由として,主任教諭選考の合格が取り消された。
(エ) 本件通達以降,職務命令違反により懲戒処分を受けた教職員は,処分から5年以内に退職した場合,例外なく再雇用・再任用を拒否されている。また,非常勤講師への任用も,懲戒処分から2年以内は拒否されている。このように機械的な運用がされている実態がある以上,再雇用・再任用等の拒否は,戒告処分を受けたことによる不利益そのものと評価できる。
(オ) 被処分者は,有形無形の嫌がらせも受けている。例えば,前任校の卒業式に来賓として招待されなくなったり,退職時の感謝状が贈呈されなくなったり,長期勤続休暇の資格が停止されたり,「永年勤続者感謝要綱」に基づく「感謝」の表彰(以下「永年勤続表彰」という。)の対象者から2年間除外されたり,永年勤続表彰に伴う旅行券5万円分の支給対象から除外されたりといった事態が生じている。
オ 他の懲戒事由や他の都道府県との比較
(ア) 都教委の調査によれば,平成24年度の教育活動において,教職員153名による155件の体罰が確認されたところ,そのうち懲戒処分となったのは44件のみである(甲A351)。体罰を行っても懲戒処分まで至らないケースが相当数を占めているのであり,標準的な運用としては,非違行為の中でも,かなり情状の悪い場合にのみ懲戒処分が選択されているものである。
(イ) 全国的にみれば,国旗・国歌に関して懲戒処分を出したことのない地方公共団体が圧倒的多数であって,懲戒処分まで行っている地方公共団体はごく少数の例外であり,それも積極的妨害行為があった場合に限って懲戒処分の対象とするのが一般的である。
(ウ) 以上を踏まえると,単なる不起立に対して懲戒処分を繰り返す都教委の運用は突出している。
カ まとめ
このように,本件処分は,不当な動機・目的に基づくものであり,本件職務命令の違反による非違の程度は軽微であるのに対し,戒告であっても本件処分に伴う原告らの不利益は著しく,他の懲戒事由や他の都道府県と比べても均衡を欠いている。したがって,仮に本件職務命令が有効であるとしても,その違反を理由として懲戒処分を行うこと自体が裁量権の逸脱・濫用に当たり,違法であることは明らかである。
(2)  被告の主張
ア 本件処分の動機・目的について
学習指導要領の国旗・国歌条項に基づき,卒業式等において,国旗・国歌の指導を行うことは当然のことであり,国歌を斉唱するときは起立して斉唱することは当然の社会常識である。したがって,校長が,卒業式等において,国歌斉唱時に起立して斉唱することを実施方針として採用したからといって,そのことが児童・生徒に特定の価値観を教え込むとして非難されるものではないし,教職員全員に対して起立斉唱命令を発令し,その違反者に対して懲戒処分を科したからといって,その処分が不当な動機・目的に基づくとはいえない。
イ 本件職務命令の違反による非違の程度について
(ア) 本件職務命令に対する原告らの違反は,公教育を担う教育公務員である原告らが,公教育の根幹である学習指導要領に基づき教育課程を適正に実施すべく発せられた重要な職務命令に違反し,公務の適正な遂行を妨げるものであり,しかも,これらの違反は各校長において繰り返し指導したにもかかわらず行われたものであって,職場内の秩序維持の観点からも見過ごすことができず,公務員の服務の根幹に係わる重大な非違行為であるから,懲戒処分を科すこと自体が裁量権の逸脱・濫用に当たるとは到底いえない。たとえ,原告らが信念に基づいて本件職務命令に違反したとしても,職務命令違反により適正な公務の遂行が阻害されたという事実は同じであり,そのことにより非難の度合いが軽くなることはない。
(イ) 原告らは,不起立自体により卒業式等の進行に支障を来したことは全くないなどと主張するが,「その職の信用を傷つけ,又は職員の職全体の不名誉となるような行為」(地公法33条)については,その行為自体を社会通念に照らして判断すれば足り,具体的に失墜された結果が生じることは要件ではない。しかも,原告らの不起立は,卒業式の重要な学校行事において,児童・生徒,保護者及び来賓の面前で行われたものであり,不起立の状況を目にした出席者に動揺を与えるものであったから,地公法33条に該当することは明らかであって,原告らは,その重大さを理解しないものである。
ウ 本件処分に伴う経済的不利益について
(ア) 原告らは,懲戒処分に基づく給与上の措置等についてるる主張するが,これらは懲戒処分の反射的効力の問題であり,反射的効力をもとに本件処分の違法を論ずる原告らの主張は失当である。また,不当な不利益を受けていることをいう原告らの主張はすべて争う。
(イ) 学校職員の給与に関する条例(以下「給与条例」という。)24条の2及び同条4項に基づく学校職員の勤勉手当に関する規則は,支給期間において懲戒処分を受けた者の勤勉手当について,所定の割合(戒告20%,減給35%,停職50%)で減額する旨を定めている。もっとも,勤勉手当については,職員の勤務成績に応じて支給される能率給としての性格を有する手当であるから,職員が,非違行為を行い,懲戒処分を受けた場合に,勤務成績が良好でないとして,それぞれ同規則に定める割合について,勤勉手当を減額されることは当然のことである。
(ウ) 給与条例8条2項は,職員の昇給は,所定の期間におけるその者の勤務成績に応じて行い又は行わないものと定めており,同条3項は,職員を昇給させるか否か及び昇給させる場合の昇給の号給数は,所定の期間を良好な成績で勤務した職員の昇給の号給数を4号給とすることを標準として人事委員会の承認を得て教育委員会規則で定める基準に従い決定すると定めている。昇給決定が勤務成績に応じて行われるものである以上,原告らが自ら非違行為を行った結果として,標準より少ない昇給幅が決定されることも当然の帰結である。
(エ) また,給与に関する平成18年度の規則改正は,東京都庁全体における業績評価制度の導入に伴う給与の抜本改正の一環として行われたものであるから,そのような経緯を捨象して,原告らが受ける不利益が過大であることをいう原告らの主張には理由がない。
エ 本件処分に伴うその他の不利益について
(ア) 原告らは,本件処分に裁量権の逸脱・濫用があることの根拠として,本件職務命令により精神的苦痛を被ったことを指摘しているが,精神的苦痛ゆえに職務命令が違法であることを主張しているに等しく,そのような主張が失当であることは明らかである。
(イ) 非違行為を行った職員に対する事情聴取の場面において,弁護士の同席やメモを取ることを権利として認める法的根拠は存在しない。また,再発防止研修は,懲戒処分を受けた教職員に対し,再発防止に向け,教育公務員としての自覚を促し,自己啓発に努め,モラルの向上を図ることを目的に実施している研修であって,不利益性はない。
(ウ) 被処分者の業績評価において,「学校運営」の項目において例外なく「C」以下の評価とされるとの事実は存在しない。教職員の異動については,定期異動実施要綱に基づき適正に行っている。本件職務命令に対する原告らの違反が重大な非違行為であることに鑑みれば,原告が非違行為を行い,懲戒処分を受けた結果として,勤務成績が良好でないものと判断され,再任用や非常勤教員の選考等において不合格となり,又は合格を取り消されることとなったとしても当然のことである。
(エ) 退職者に対する感謝状については,退職者の功績等に照らし,一定程度対象者の制限を設けているが,懲戒処分を受けた場合,勤務成績良好とはいえず,一定期間,感謝の対象とならないことは当然である。長期勤続休暇については,学校職員の勤務時間,休日,休暇等に関する条例17条及び同施行規則27条の2に基づき,勤続15年の場合は2日以内,勤続25年の場合は5日以内で承認することとし,被処分者については,処分から一定期間経過後に承認することとしているが,功績等をその判断材料としていることからして,原告らに対する取扱いに何ら不合理な点はない。財団法人東京都福利厚生事業団(現一般財団法人東京都人材支援事業団)は,長期勤続休暇を付与された職員に対し,福利厚生事業の一つとして長期勤続旅行助成を行っているが,この制度においても功績等をその判断材料としていることからして,原告らに対する取扱いに何ら不合理はない。
オ 他の懲戒事由や他の都道府県との比較
懲戒処分の量定は,諸般の事情を考慮して決定されるものであり,処分の対象となる行為の規模や態様,社会に与える影響等広範囲な事情に加え,社会情勢,各公共団体の事情を考慮すべきであるところ,公共団体が異なればこれらの事情が異なってくるのは当然であり,これらの事情をどのように評価するかは裁量権者の裁量に任されているのであるから,安易に標準的な量定を定めたり,他の地方公共団体と比較したりすることはできない。そして,本件職務命令に対する原告らの違反行為は,確信的な行為であって重大な非違性を有することは前記のとおりであって,懲戒処分を行うこと自体が,他の懲戒事案に比べ重きに失するとはいえない。
カ まとめ
このように,本件処分の目的は正当であり,本件職務命令の違反による非違の程度は重大であるから,懲戒処分を科すこと自体が懲戒権の濫用・逸脱に当たるとは認められない。
10  争点10(本件職務命令違反を理由として減給又は停職の処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無)
(1)  原告らの主張
ア 平成24年最高裁判決によれば,卒業式における国歌斉唱時の不起立等に対する懲戒において,減給以上の処分が選択された場合には,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点からみて,かかる処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められない限り,裁量権の逸脱・濫用に当たる。そして,①不起立等の回数に応じて機械的・形式的に処分量定を加重することは許されず,②過去の処分歴等を処分量定加重の理由として考慮することが許されるのは,過去の処分歴等に係る非違行為が,その内容や頻度等において規律や秩序を害する程度が相当に大きいものであるときに限られ,③減給以上の懲戒処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお,減給以上の処分による規律や秩序の保持等の必要性が認められなければ,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるものとは認められず,減給以上の処分を科すことは許されない。
イ また,卒業式等における国歌斉唱時の不起立等がその後の教育活動,学校の秩序維持に大きく影響しているという事実が認められている訳ではなく,卒業式等の国歌斉唱時の不起立に対する不利益処分には,慎重な衡量的配慮が求められるべきであって,①当該教諭の国旗・国歌に関する思想についての従前からの表明の有無,②不服従の態度,程度,③不服従による式典や児童・生徒への影響の内容,程度,④当該職務命令の必要性と代替措置配慮の有無,⑤不利益処分が当該教諭や児童・生徒に与える影響度,⑥当該職務命令や不利益処分がされるに至った経緯などについても,「相当性を基礎付ける具体的な事情」を検討するに際し,これを否定する方向の事情として考慮されるべきである。
ウ 原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6に対する減給又は停職の各処分については,過去の処分歴のみを理由に累積加重処分がされたものであって,「相当性を基礎付ける具体的な事情」は存しないから,裁量権の逸脱・濫用があることは明らかであって,違法な処分として取り消されなければならない。なお,原告X3,同X4及び同X5に対する従前の減給以上の各処分については,すべて確定判決により取り消されている。
(2)  被告の主張
本件処分のうち,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6に対する減給又は停職の各処分については,次のとおり,その処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる。
ア 原告X1について
原告X1は,過去に平成18年3月31日付け文書訓告及び平成19年3月30日付け戒告処分を受け,再発防止研修を受講していたにもかかわらず,再び職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった。そして,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X1の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
イ 原告X2について
原告X2は,過去に平成19年3月30日付け戒告処分を受けており,再発防止研修を受講していたにもかかわらず,再び職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった。そして,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X2の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
ウ 原告X3について
原告X3は,過去に平成16年3月31日付け戒告処分を受け,再発防止研修を受講していたにもかかわらず,再び職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった。また,原告X3の座席は,児童・生徒や保護者などからよく見える場所に位置していたため,原告X3の不起立については,参列者の目にとまり,厳粛なる式典の雰囲気に悪影響を与えた。そして,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X3の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,減給処分(10分の1・6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
エ 原告X4について
原告X4は,過去に平成16年3月31日付け戒告処分を受け,再発防止研修を受講していたにもかかわらず,再び職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかった。そして,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X4の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,減給処分(10分の1・6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
オ 原告X5について
原告X5は,過去に平成14年11月6日付け戒告処分,平成16年4月6日付け減給処分(10分の1・1月),平成17年3月31日付け減給処分(10分の1・6月),平成19年3月30日付け停職処分(1月)及び平成21年3月31日付け停職処分(3月)を受け,再発防止研修を受講していたにもかかわらず,再び職務命令に違反して国歌斉唱時に起立しなかったのみならず,事情聴取を拒否する等の行為を行っている。そして,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X5の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,停職処分(6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
カ 原告X6(別紙2「懲戒処分等一覧表」の番号「9-4」及び「9-5」の処分)について
原告X6は,過去に平成23年5月26日付け,平成24年3月29日付け,同年4月26日付けと3回の戒告処分を受け,再発防止研修を受講していたものであり,起立斉唱命令の違反が4回目ないし5回目であることからしても,都教委において,それぞれ減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められる。
11  争点11(国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否)
(1)  原告らの主張
ア 上記2ないし7において主張したとおり,本件職務命令等は違憲・違法であるから,その違反を理由として行われた本件処分は国賠法上も違法であり,本件職務命令の基礎となった本件通達を発した都教委には,少なくとも過失が認められる。また,仮に本件職務命令が有効に存在するとしても,本件処分には上記8において主張したとおりの手続的な違法があるうえ,上記9及び10において主張したとおり裁量権の逸脱・濫用もあるから,国賠法上も違法である。このことを認識し得たにもかかわらず,本件処分を強行した都教委には,少なくとも過失が認められる。よって,被告は,国賠法1条1項に基づき,本件処分により原告らが被った損害を賠償する責任を負う。
イ 原告らは,本件処分に伴い,上記9(1)ウ,エのとおりの不利益を受け,著しい精神的苦痛を被ったところ,そのことによる損害額は,仮に本件訴訟により本件処分が取り消されたとしても慰謝されることのない精神的苦痛にさらされ,あるいは回復されない経済的不利益を受けていることに照らし,懲戒処分1件につき50万円を下らない。また,原告らは,かかる損害賠償を請求するため,弁護士に依頼して本訴を提起せざるを得なかったから,弁護士費用として,前記損害額の1割相当額(懲戒処分1件につき5万円)を請求する。
(2)  被告の主張
ア 本件処分の国賠法上の違法性等について
(ア) 本件処分について,原告らに職務命令違反があり,これが懲戒事由に該当することは,上記1ないし7及び9において主張したところに照らして明らかであり,都教委が原告らに懲戒処分を科したこと自体には,職務上通常尽くすべき注意義務の違反はなく,過失もない。
(イ) 仮に,本件処分のうち減給又は停職の処分量定について,平成24年最高裁判決と同様の判断枠組みに基づき,裁量権の逸脱・濫用があるとして取り消されるとしても,同最高裁判決が出される以前は,懲戒処分の処分量定において懲戒権者は過去の処分歴等を考慮することができ,懲戒処分は社会通念上著しく不合理でない限り,裁量権の範囲内の措置として適法であるという以上の判断基準は存在しなかった。したがって,本件処分のうち減給又は停職の処分について,都教委が裁量権の範囲内の措置として適法であると判断したことはやむを得ないことであって,職務上通常尽くすべき注意義務違反はなく,過失もない。
イ 原告らの損害について
(ア) 原告らの主張はすべて否認ないし争う。
(イ) 仮に,本件処分のうち減給又は停職の処分の処分量定について,裁量権の逸脱・濫用があることを理由に取り消されるとしても,取消判決の効力により懲戒処分により生じた経済的不利益は遡って回復される。具体的には,停職期間中に支給されなかった給与についてはすべて回復措置が図られるとともに,本件処分により昇給,退職手当又は退職共済年金に影響がある場合には,それらも是正される。また,公務員には就労請求権はないから,停職に伴う精神的苦痛についても,本件処分の事後的な取消しによっては回復できない損害には該当しない。したがって,本件処分の事後的な取消しによっては回復できない精神的苦痛又は経済的不利益が生じているとは認められない。
第4  当裁判所の判断
1  争点1(原告X1に対する起立斉唱命令(本件職務命令)の有無)
(1)  前記前提事実(4)イに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実を認定することができる。
ア 原告X1は,平成19年4月よりc高校において勤務し,同年度は1年生,平成20年度は2年生,平成21年度は3年生の担任を受け持っていた。A5校長は,原告X1の日頃の仕事ぶりを評価しており,同原告が主任教諭に昇格できるよう推薦状を書くなどしていた。A5校長は,原告X1から,同原告がキリスト教の信仰や教師としての信条等により国歌斉唱時に起立できないことや,被告に対して起立斉唱義務の不存在確認や起立斉唱命令違反を理由とする懲戒処分の取消しなどを求める訴訟の原告団に加わっていることを聞いていた。
(甲C2の3〔1~10,20~24頁〕,甲C2の5〔17~19頁〕,甲C2の6ないし10の各1(録音媒体の引用は省略する。以下同様。))
イ A5校長は,平成22年2月9日,同年3月3日に実施される卒業式について,原告X1の分担を卒業生指導と記録係とすることなどを内容とする実施要項(以下「本件実施要項」という。)を決定した。A5校長は,原告X1に対しては,放送室付きでビデオ撮影を行うという役割を与え,呼名のときだけ担任席に戻るという方法を取ることにより,原告X1が卒業式の会場内で卒業生担任としての役割を果たしつつ,起立斉唱命令違反に問われることを避けられるだろうと考えていた。そして,A5校長は,同年2月10日午後3時10分ころ,c高校多目的室で行われた職員会議において,同会議に出席していた教職員らに対し,起立斉唱命令を口頭で発令した。原告X1は,あらかじめ起立斉唱命令が発令されるであろうことを想定し,同会議に出席しなかった。
(甲C2の3〔10,11頁〕,甲C2の4,甲C2の11の1,乙C2の5ないし7・28,原告X1〔2,7~8,20,21頁(本人尋問の速記録の頁数を指す。以下同様。)〕)
ウ A5校長は,平成22年3月1日午前8時35分ころ,A4副校長同席の下,原告X1に対し,同年2月22日付け職務命令書(以下「本件職務命令書」という。)を交付しようとしたが,原告X1は,これを受け取らなかった。そこで,A4副校長は,原告X1の机上に本件職務命令書を差し置いた。本件職務命令書には,1項として,当日は勤務し,本件実施要項に従い,学習指導要領に基づき適正に生徒を指導すること,2項として,式の実施に際して,妨害行為・発言をしないこと,3項として,式においては,会場の指定された席に着席し,国歌斉唱時は,国旗に向かって起立して国歌を斉唱すること,着席の指示があるまで起立していること,4項として,開式5分前には所定の配置において待機し,式中は,その場所に留まり,生徒を指導すること,5項として,服装は,厳粛かつ清新な雰囲気の中で行われる式にふさわしいものであることと記載されていた。
(甲12の1〔3頁〕,乙C2の5・7・26ないし28,原告X1〔3,21,22頁〕)
エ 平成22年3月2日,東部学校経営支援センターから,A5校長に対し,卒業学年の担任の役割は,生徒を卒業式会場に入場させてから呼名をするところまでは担任席において果たすべきものであるから,その役割をしっかりと果たさせるよう促す電話連絡があった。これを受け,A5校長は,同月3日の卒業式当日朝,原告X1に対し,前記電話連絡があったこと,卒業学年の担任として呼名をするためには,入場から呼名までの間は,担任席に在席していなければならないことになったので,起立してもらいたいこと,起立できないということであれば,担任として呼名はできなくなるが,最初から最後までビデオ撮影を担当するという方法もあることなどを伝えるとともに,本件職務命令書を改めて提示した。このような話を受け,原告X1は,A5校長に対し,呼名はしたいので担任席で良いが,国歌斉唱時の起立はできないこと,その際に後ろに来て起立を促すことはやめてもらいたいことなどを伝えた。
(甲C2の12の1,原告X1〔5頁〕)
(2)  検討
ア 以上の事実関係を前提とすれば,少なくとも,A5校長が,平成22年3月1日,原告X1に対し,本件職務命令書を交付しようとし,同命令書が机上に差し置かれたことにより,原告X1は,同命令書3項記載の起立斉唱命令を告知されたものと認められ,発令の有無について明確性を欠くものとは認められない。
イ この点,原告X1は,本件職務命令の存在ないし内容について争うので検討する。
(ア) 本件職務命令書の受領を拒否したから,起立斉唱命令を受けていないなどと主張するが,上記アにおいて説示したところによれば,平成22年3月1日の時点において,本件職務命令書の内容は原告X1に認識可能な状態となっているのであるし,同月3日の卒業式当日朝にも本件職務命令書を改めて提示されているから,本件職務命令書が卒業式の開始に先立って原告X1に到達していたことは明らかである。
(イ) また,原告X1は,もともとビデオ撮影の役割分担とされていたから,これと両立しない起立斉唱命令が発令されていたとは認められないなどと主張し,これに沿う原告X1の供述(甲C2の3〔10~14頁〕),原告X1〔1~7,23~28頁〕がある。しかしながら,原告X1に対し,ビデオ撮影を指示する職務命令が発令されていたと仮定しても,本件職務命令書の3項には起立斉唱命令が明記されているのであって,これがそもそも発令されていないという解釈は困難である。
(ウ) さらに,原告X1は,A5校長からは,卒業式当日の朝に職務命令書を提示された際,起立斉唱するようお願いされたが,起立斉唱命令を受けたことはなく,1項に記載された本件実施要項に基づく国歌斉唱時のビデオ撮影が,国歌斉唱時の起立よりも優先するとの説明を受けたなどと述べる(甲C2の3〔13,14頁〕,原告X1〔6,28頁〕)。しかしながら,A5校長は,その際,原告X1に対し,国歌斉唱時に担任席に在席していては起立斉唱命令違反の問題が避けられないことから,起立できないということであれば,担任として呼名はできなくなるが,最初から最後までビデオ撮影を担当するという方法もあることなどを話したうえで,本件職務命令書を提示しているのであって,原告X1に対して,すでに起立斉唱命令が発令されていることを前提としている。
ウ 以上によれば,A5校長は,都教委の方針に従い,会場に入る教職員全員に対して,起立斉唱命令は発令するが,原告X1に対しては,放送室付きでビデオ撮影を行うという役割を与え,呼名のときだけ担任席に戻るという方法を取ることにより,原告X1が起立斉唱命令違反に問われることを避けられると考えていたものの,原告X1に対して,そもそも起立斉唱命令を発令していなかったとは認められない。
エ したがって,起立斉唱命令(本件職務命令)が発令されていないことを理由として,その違反を理由とする本件処分が懲戒事由を欠く違法な処分であることをいう原告X1の主張は理由がない。
2  争点2(本件職務命令等の憲法19条違反(思想・良心の自由の侵害)の有無)
(1)  検討
ア(ア) 全国の公立学校の卒業式等における国旗掲揚・国家斉唱の実施状況(前提事実(1),別紙3),証拠(甲A177〔10~12頁〕,乙A31〔305頁〕)及び弁論の全趣旨を併せると,本件職務命令の発令されたころ,公立学校における卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的にみて,これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものというべきであり,そのような性質を有する所作として外部からも認識され,社会通念上も,これを超える意味付けが与えられるべきものともされていなかったというべきである。したがって,上記起立斉唱行為は,その性質の点から見て,特定の歴史観ないし世界観を前提とするものではなく,それゆえ原告らの有する歴史観ないし世界観を否定するものということと不可分に結び付くものともいえないのであり,原告らに対して起立斉唱行為を求める本件職務命令は,原告らの有する歴史観ないし世界観それ自体を否定するものということはできない。また,起立斉唱行為は,その外部からの認識という点から見ても,特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には,上記のように評価することは一層困難であるといえるのであって,本件職務命令は,特定の思想を持つことを禁止したり,これに反する思想を持つことを禁止したりするものではなく,特定の思想の有無について告白することを強要するものということもできない。そうすると,本件職務命令は,これらの観点において,個人の思想及び良心の自由を直ちに制約するものと認めることはできないというべきである。
(イ) もっとも,上記の起立斉唱行為は,教員が日常担当する教科等や日常従事する事務の内容それ自体には含まれないものであって,一般的,客観的に見ても,国旗・国歌に対する敬意の表明の要素を含む行為であるということができる。そうすると,自らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となる日の丸や君が代に対して敬意を表明することには応じ難いと考える者が,これらに対する敬意の表明の要素を含む行為を求められることは,その行為が個人の歴史観ないし世界観に反する特定の思想の表明に係る行為そのものではないとはいえ,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)とは異なる外部的行為(敬意の表明の要素を含む行為)を求められることとなり,その限りにおいて,その者の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難い。
(ウ) そこで,このような間接的な制約の許否について検討するに,個人の歴史観ないし世界観には多種多様なものがあり得るのであり,それが内心にとどまらず,それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,当該外部的行動が社会一般の規範等と抵触する場合において制限を受けることがあるところ,その制限が必要かつ合理的なものである場合には,その制限を介して生ずる上記の間接的な制約も許容され得るものというべきである。そして,職務命令においてある行為を求められることが,個人の歴史観ないし世界観に由来する行動と異なる外部的行為を求められることとなり,その限りにおいて,当該職務命令が個人の思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があると判断される場合にも,職務命令の目的及び内容には種々のものが想定され,また,上記の制限を介して生ずる制約の態様等も,職務命令の対象となる行為の内容及び性質並びにこれが個人の内心に及ぼす影響その他の諸事情に応じて様々であるといえる。したがって,このような間接的な制約が許容されるか否かは,職務命令の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に較量して,当該職務命令に上記制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるか否かという観点から判断するのが相当である(平成23年最高裁判決参照)。
イ これを本件についてみるに,本件職務命令に係る起立斉唱行為は,前記のとおり,原告らの歴史観ないし世界観との関係で否定的な評価の対象となるものに対する敬意の表明の要素を含むものであることから,そのような敬意の表明には応じ難いと考える原告らにとって,その歴史観ないし世界観に由来する行動(敬意の表明の拒否)とは異なる外部的行為となるものである。この点に照らすと,本件職務命令は,一般的,客観的な見地からは式典における慣例上の儀礼的な所作とされる行為を求めるものであり,それが結果として上記の要素との関係においてその歴史観ないし世界観に由来する行動との相違を生じさせることとなるという点で,その限りで原告らの思想及び良心の自由についての間接的な制約となる面があるものということができる。
ウ(ア) ところで,学校教育法及び同法施行規則に基づき各種学校における教育内容及び方法に関する全国的な大綱的基準として定められた学習指導要領には,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする」旨の国旗・国歌条項があるところ,これは平成元年の学習指導要領の改正に伴い導入されたものである(関連法令等(6),(7))。そして,この改正は,国際化の進展に伴い,日本人としての自覚を養い,国を愛する心を育てるとともに,児童・生徒が将来,国際社会において尊敬され,信頼される日本人として成長していくためには,国旗・国歌に対して一層正しい認識をもたせ,それらを尊重する態度を育てることは重要なことであって,学校行事の中でもとりわけ卒業式等は,学校生活に有意義な変化や折り目を付け,厳粛かつ清新な雰囲気の中で,新しい生活の展開への動機付けを行い,学校,社会,国家など集団への所属感を深めるうえでよい機会となるものであるとの考えに基づき,全国的な大綱的基準として定められたものである(乙A50〔112頁〕参照)。また,国旗・国歌法は,従来の慣習を法文化して,国旗は日の丸とし,国歌は君が代とする旨を定めている。
(イ) そして,校長は,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限(学校教育法37条4項,62条,82条)を有しており,校務の1つである卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の方法についても,当該権限の一環として,具体的な内容を伴う職務命令を発令する権限を有していると解される。本件通達も,都教委が都立学校に対して有する管理権(学校教育法5条,地教行法21条)に基づき,そのような権限を有する校長に宛てて発出されたものである。他方,公立学校の教職員である原告らは,住民全体の奉仕者として法令等及び上司の職務上の命令に従って職務を遂行すべきこととされる地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性(憲法15条2項,地公法30条,32条)に鑑み,学習指導要領の国旗・国歌条項を含む法令及び校長の職務命令に従うべき立場にある。
(ウ) 卒業式等は,各教師が個別に担当する一般の教科とは異なり,全校的な規模で執り行われる儀式的行事であるところ,本件職務命令等は,卒業式等において,会場に入場する教職員全員に対して慣例上の儀礼的な所作としての起立斉唱行為を求めるものであって,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図ろうとするものであって,前記のような国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿うものである。そして,前提事実(2),(3)に証拠(甲A7ないし11,乙A1,13,58)及び弁論の全趣旨を併せると,本件通達発出前においては,卒業式等において,会場に入場する教職員全員の起立斉唱行為を確保することができていなかったことが認められ,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図るために通達や職務命令という手段を用いることも,必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であったといわざるを得ない。
そうすると,本件職務命令の目的及び内容並びに原告らの思想及び良心の自由についての間接的な制約の態様等を総合的に較量した上で,本件職務命令には,制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるといえることから,本件職務命令等が,憲法19条に違反するものとは認められない(平成23年最高裁判決参照)。
(2)  原告らの主張について
ア(ア) 原告らは,本件職務命令等に従うことができない理由となる信条について,「個人の歴史観・世界観」(①日の丸・君が代が日本の近代の侵略の歴史において果たした役割や肉親の戦争経験など歴史認識から,日の丸・君が代に賛成することはできない,②立憲主義ないし民主主義の観点から,天皇を賛美する歌である君が代に賛成することはできない,③宗教上の理由から,神道と一体的である日の丸・君が代を承認することはできず,とりわけ神なる天皇の賛歌である君が代を斉唱することはできないなど)と,「教職員としての職責意識に基づく信条」(〈ア〉日の丸・君が代に否定的な児童・生徒の思想及び良心の自由を脅かす行動に加担することはできない,〈イ〉児童・生徒の安全確保よりも起立斉唱命令の遵守を重視するような本件職務命令等に従うことはできない,〈ウ〉教職員が自己の日常的な教育実践に反して起立斉唱行為を行うことは,教育の前提である児童・生徒との信頼関係を損なうことになる,〈エ〉教育現場に教育の本質に反する一律強制を持ち込む本件職務命令等には賛同できない,〈オ〉日の丸掲揚,君が代斉唱時の起立・斉唱の強制は,子どもたちを戦場に送ることに繋がるものであるなど)とを区別したうえ,「教職員としての職責意識に基づく信条」についても,日の丸・君が代をめぐり,卒業式等の場で,「公的機関が,参加者にその意思に反してでも一律に行動すべく強制することに対する否定的評価」というべきものであり,「単なる社会生活上の信条」にとどまるものではなく,憲法上保障されるべき思想・良心の自由であり,本件職務命令等は,その自由に対する直接の制約であるなどと主張し,平成19年最高裁判決におけるA32裁判官の反対意見を援用する。
(イ) しかしながら,「教職員としての職責意識に基づく信条」として,原告らが主張する内容(上記(ア)〈ア〉~〈オ〉)は,結局のところ,そのような信条に基づく教育の自由が侵害されることを問題にしていると解されるところ,後記の争点4において説示するように,普通教育において教師に完全な教授の自由を認めることはできないのであって,本件職務命令等が,原告らの教育の自由を侵害するとも認められないものである。
そして,そのような信条との関係における制約の有無が憲法19条との関係で問題となり得るとしても,それは,上記(1)イのような外部的行為が求められる場面においては,個人の歴史観ないし世界観との関係における間接的な制約の有無に包摂される事柄であって,これとは別途の検討を要するものとは解されない(平成23年最高裁判決参照)。
したがって,本件職務命令等が,原告らの「教職員としての職責意思に基づく信条」に対する直接の制約であるとは認めがたく,この点に係る原告らの主張を採用することはできない。
イ(ア) 原告らは,公立学校の卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率が上昇したのはごく最近のことであり,文部(科学)省や都教委が実施率の上昇を推し進めた結果にすぎず,起立斉唱行為は「慣例」と評価し得る程度に広く実施されてはいなかったし,起立斉唱行為が国際的にみても「慣例」とはいえないから,これが「慣例上の儀礼的所作」であることを理由として,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約にとどまるとはいえないなどと主張する。
(イ) しかしながら,証拠(乙A56〔63頁〕)によれば,平成2年度の公立学校の入学式の時点においても,国旗掲揚及び国歌斉唱の実施率は,全国の高等学校では国旗掲揚が90.1%,国歌斉唱が64.8%であり,東京都内の公立小・中学校でも同程度の実施率であったことが認められ,さらに,経年的な推移を見ても,前提事実(1)(別紙3)のとおりの数字が認められるのであって,これらの公立学校において行われる起立斉唱行為が,慣例上の儀礼的な所作としてのものであると評価すべきものであることは明らかであるし,本件職務命令等が,これと異なる性質の起立斉唱行為を求めていたとも認めがたい。また,ここでは起立斉唱の行為としての性質が問題とされているのであって,諸外国の学校や我が国の中央省庁等における国旗・国歌の取扱いについて原告らが提出する証拠(甲A177〔10~12頁〕,甲A333,334等)を検討しても,以上の判断は左右されない。
したがって,起立斉唱行為が「慣例上の儀礼的所作」に該当しないことを前提として,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する直接の制約であることをいう原告らの主張を採用することはできない。
ウ(ア) 原告らは,卒業式等における起立斉唱行為が,儀礼的な所作としての側面を有するとしても,日の丸・君が代を巡る歴史的経緯に照らせば,本来的に思想的意義を有する行為であるから,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約にとどまるとはいえないなどと主張する。
(イ) しかしながら,日の丸・君が代は,日本国憲法下での国旗・国歌として制定されたものであって,卒業式等における起立斉唱行為が,一般的,客観的にみて,日の丸・君が代が軍国主義教育のために果たした役割を肯定するなどの思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難である。公立学校において行われる起立斉唱行為が,慣例上の儀礼的な所作としてのものであることは明らかであって,起立斉唱行為の性質について原告らの提出する証拠(甲B36等)を検討しても,以上の判断は左右されない。
したがって,卒業式等における起立斉唱行為が,本来的に思想的意義を有する行為であることを前提として,本件職務命令等が原告らの思想・良心の自由に対する直接の制約であることをいう原告らの主張を採用することはできない。
エ(ア) 原告らは,本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判を受けるべき罪悪であると教え込むことや,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現することにあったなどと指摘して,本件職務命令等の目的が正当なものとはいえないと主張する。
(イ) しかしながら,本件職務命令等の目的が,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てるなどの国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿う正当なものであることは,すでに説示したとおりである。この点について,原告らの援用する証拠(甲A5〔24頁〕,47,51〔14頁〕,87〔24,25,30~37,40,41,45,61~63頁〕,106ないし108,110,124,186〔178頁〕,206〔2頁〕,216,261ないし263,原告X1〔5~6頁〕,原告X10〔10頁〕,原告X11〔14~17頁〕,原告X12〔3~6頁〕,原告X13〔1~15頁〕,原告X14〔6~8頁〕等)を検討しても,原告らの上記(ア)の主張に係る目的を認めるに足りず,また,憲法19条の観点からみても,本件職務命令等が必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であったとの前記判断は左右されない。
したがって,本件職務命令等について,その目的が正当なものとはいえないことを理由として憲法19条違反をいう原告らの主張を採用することはできない。
オ(ア) 原告は,学習指導要領の国旗・国歌条項は,法律の授権を欠くし,旭川学テ事件最高裁判決のいう「大綱的な基準」にとどまらないから,原告らの思想・信条の自由を制約する法的根拠にはなり得ないうえ,教育現場において,起立斉唱行為の義務付けを行わないというのが国旗・国歌法の立法趣旨であるから,本件職務命令等は,原告らの思想・信条の自由を制約して起立斉唱行為を義務付けるほどの必要性や合理性があるとは認められないなどと主張する。
(イ) しかしながら,国旗・国歌条項は,「入学式や卒業式などにおいては,その意義を踏まえ,国旗を掲揚するとともに,国歌を斉唱するよう指導するものとする。」と定めるのみであって,「教育における機会均等の確保と全国的な一定の水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な基準」(旭川学テ事件最高裁判決参照)の範囲にとどまるものであって,学校教育法及び同法施行規則に基づき法規範としての効力があるものというべきである(平成19年最高裁判決参照)。
また,国旗・国歌法は,従来の慣習を法文化して,国旗は日の丸とし,国歌は君が代とすることのみを定めたものであって,同法施行の前後において,国旗・国歌条項の定め自体は従前と何ら変わりがない(甲A332の10〔問4-3ないし5〕,乙A27参照)。そうすると,国旗・国歌法が,他の法令に基づく都教委や校長の職務命令の行使を制約する趣旨を含むと解することは困難である。この判断は,国旗・国歌法の制定経緯等について原告らが提出する書証(甲A5〔24頁〕,87〔62,63頁〕,甲A181〔10頁〕,甲A337〔19頁〕等)を検討しても左右されない。
したがって,国旗・国歌条項や国旗・国家法の趣旨等を理由として,本件職務命令等の目的が正当なものであることを否定する原告らの主張を採用することはできない
カ(ア) 原告らは,本件職務命令等は,原告らの思想・信条に反する行為を強制し,沈黙の自由を侵害するものであり,本件処分は,原告らの思想・信条を理由として不利益を課すものであるところ,このような思想・良心の自由に対する制約については,いわゆる厳格な基準により憲法適合性が判断されるべきところ,その基準を充足しないなどと主張する。
(イ) しかしながら,思想及び良心の自由は,それが内心にとどまる限り,絶対的に保障されるべき自由であるが,思想及び良心の自由が外部的行為として現れ,他の社会規範等と抵触する場合は,思想及び良心の制約が問題とならざるを得ない。そして,本件職務命令等による原告らの思想・良心の自由に対する制約が間接的なものにとどまることを踏まえると,その制約にやむを得ない理由があるか否かといった厳格な基準を適用すべきとはいえない。また,本件職務命令等が,国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿う正当な目的に基づくものであり,原告らの思想・良心の自由に対する間接的制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められることはすでに説示したとおりである。
したがって,本件職務命令等について,いわゆる厳格な基準により憲法適合性が判断されるべきことを前提として憲法19条違反をいう原告らの主張を採用することはできない。
キ 以上によれば,本件職務命令等が憲法19条に違反して原告らの思想・良心の自由を侵害することをいう原告らの主張には理由がない。
3  争点3(本件職務命令等の憲法20条違反(信教の自由の侵害)の有無)
(1)  検討
ア 証拠(甲C2の3,甲C5の3,乙C2の6,乙C5の2,原告X2〔1,2,5,10~17頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,①原告X1は,o会(イギリス国教会系)の信徒であるところ,o会は,天皇賛歌である君が代を斉唱し,斉唱時に起立することや,日の丸に拝礼することは,キリスト教の唯一神の考え方に反し,偶像崇拝に繋がると考えていること,②同X2は,p教会の信徒であるところ,p教会は,侵略戦争のシンボルである日の丸を国旗とし,天皇を統治者として賛美する君が代を国歌とすることに反対であることが認められる。
イ そして,このような信仰を有する原告X1及び同X2は,本件職務命令等により,その信仰に由来する行動(敬意の表明の拒否)と異なる外部的行動を求められることとなり,その限りにおいて,その信教の自由についての間接的な制約となる面があることは否定し難く,キリスト教の信徒としての精神的な葛藤・苦悩を生じせしめられていることも了解可能なことである。もっとも,このような信教の自由に関する間接的制約の許容性についても争点2において説示したところが妥当するものというべきであり,本件職務命令等の目的及び内容並びに上記の制限を介して生ずる制約の態様等を総合的に衡量すれば,上記の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるから,原告X1及び同X2に対する本件職務命令等が憲法20条に違反するとは認めがたい。
ウ 他方,原告X1及び同X2以外の原告らについては,自らの信仰を理由として,起立斉唱命令を拒否していることを認めるに足りる証拠はなく,同原告らに対する本件職務命令等が憲法20条に違反するとは認めがたい。
(2)  原告らの主張について
ア(ア) これに対し,原告らは,①日の丸・君が代の宗教的性格の有無や宗教的意味付けについては,人権を侵害された者の認識を基準として判断されるべきであること,②日の丸・君が代は,日本国憲法下においても,かつての宗教的性格を払拭することができていないこと,③宗教は,儀式や儀礼的所作と大いに関係があるのであって,日の丸・君が代への敬意表明を強制することは,信仰を持つ原告らに対しては,自己の信仰を抑圧する他宗の神への礼拝の強制にほかならず,江戸時代における踏み絵と同様,著しい精神的苦痛をもたらすものであること,④原告らが教育公務員であるとしても,必要不可欠とはいえない制約は信教の自由を不当に侵害するものであって許されないことなどを主張する。
(イ) しかしながら,個人の信仰であっても,それが内心にとどまらず,それに由来する行動の実行又は拒否という外部的行動として現れ,社会一般の規範等と抵触する場面においては,そのような信仰に基づく外部的行動が制約されることもあり得ることは前記のとおりである。また,外部的行動が社会一般の規範等と抵触するゆえの制約である以上,当該行動の性質については,一般的,客観的な観点から評価すべきものであって,原告らの認識を基準に判断すべきとはいえない。そして,そのような観点からみると,卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為の性質については,これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであって,それを超えて宗教的意味合いを持つものではなく,他宗教の信仰の強制などと評価することはできない。また,原告X1及び同X2が都立学校の教職員であって,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性等に鑑み,学習指導要領の国旗・国歌条項を含む法令及び校長の職務命令に従うべき立場にあることを踏まえると,同原告らの信仰の自由の制約を許容し得る程度の必要性及び合理性が認められるものである。
したがって,卒業式等における起立斉唱行為が,原告らの信仰との関係で著しい精神的苦痛をもたらすものであることなどを理由として,本件職務命令等が憲法20条に違反することをいう原告らの主張を採用することはできない。
イ(ア) また,原告らは,神戸高専事件最高裁判決を援用し,①少数者の信教の自由を保障することの重要性,②信教の自由の制約の可否を検討する場合の代替的方法の検討の必要性,③信教の自由が,外部からの一定の働きかけに対して,その信仰を保護・防衛するために防衛的・受動的に取る拒否の外的行為の保障を考慮すべきであるなどと主張する。
(イ) しかしながら,本件においても,原告X1及び同X2の信教の自由に対する間接的な制約になることを認めたうえで,その制約が必要かつ合理的であると判断しているものであって,少数者の信教の自由の保障を軽視しているとの評価は当たらない。また,学習指導要領の国旗・国歌条項を含む法令及び校長の職務命令に従うべき立場にある原告らが,高等専門学校の生徒(神戸高専事件の原告)と立場が異なることは明らかであるから,上記(ア)②及び③の基準を原告らに適用すべきであるとはいえない。
したがって,神戸高専事件最高裁判決を援用して,本件職務命令等が憲法20条に違反することをいう原告らの主張を採用することはできない。
ウ(ア) 原告らは,信仰を持たない原告らにとっても,本件職務命令等は,特定の信仰の強制や干渉から自由であるという消極的な信教の自由を侵害し,憲法20条に違反するなどと主張する。
(イ) しかしながら,起立斉唱行為は,一般的,客観的にみて,慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであって,それを超えて宗教的意味合いを持つものではないことは前記のとおりであるから,本件職務命令等が,信仰をもたない原告らの信教の自由を制約するとは認めがたい。
したがって,原告X1及び同X2以外の原告らについて,憲法20条違反をいう同原告らの主張を採用することはできない。
エ 以上によれば,本件職務命令等が憲法20条に違反して原告らの信教の自由を侵害することをいう原告らの主張には理由がない。
4  争点4(本件職務命令等の憲法26条,13条及び23条違反(教師の教育の自由の侵害)の有無)
(1)  検討
ア 旭川学テ事件最高裁判決が説示するように教師に教授の自由が認められるとしても,普通教育においては,児童・生徒に教授内容を批判する能力がなく,教師が児童・生徒に対して強い影響力,支配力を有しており,子どもの側に学校や教師を選択する余地が乏しく,全国的に一定の教育水準を確保すべき強い要請があることなどに鑑みれば,普通教育における教師に完全な教授の自由を認めることはできない(旭川学テ事件最高裁判決参照)。
イ そして,憲法26条1項は,すべて国民は,「法律」の定めるところにより,その能力に応じて,ひとしく教育を受ける権利を有すると定めているところ,校長は,学校教育法37条4項,62条及び82条により,校務をつかさどり,所属職員を監督する権限を有し,都教委は,地教行法21条等により,都立学校に対する管理権を有する。かかる規定自体,合理的なものであって,その権限が必要かつ相当な範囲内で行使される限り,結果として教師の裁量が制約されるとしても,そのことが直ちに普通教育における教師の教育の自由を侵害するものとは認めがたい。
ウ 本件職務命令等は,卒業式等において,会場に入場する教職員全体の起立斉唱行為を確保し,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図ろうとするものであって,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることを目的とした,国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿うものであって,必要かつ相当な範囲内の都教委及び校長の権限行使といえるものである。なお,これが「不当な支配」(教基法16条1項,旧教基法10条)に該当しないことは,後記の争点7において説示するとおりである。
エ そうすると,本件職務命令等が,原告らの教育の自由を侵害するものとは認められない。
(2)  原告らの主張について
ア(ア) 原告らは,本件職務命令等は,国民や児童・生徒の間でも価値判断の分かれる卒業式等における起立斉唱行為について,これに対する肯定的な一方の政治的意見のみを教授するよう強制し,他方の意見をも教授することを禁止するものにほかならないから,憲法が保障した原告らの教育の自由を侵害すると主張する。
(イ) しかしながら,争点2において説示したとおり,卒業式等における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的にみて,これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであって,特定の意見の肯定ないし否定という性格を有するものとはいえないから,本件職務命令等が,原告らに対し,卒業式等における起立斉唱行為について肯定的な一方の政治的意見のみを教授するよう強制し,他方の意見をも教授することを禁止するものであると評価することはできない。
したがって,本件職務命令等は,特定の意見のみ教授することを強制するものではなく,原告らの教育の自由を侵害するとはいえない。
イ(ア) 原告らは,本件通達は,卒業式等における国旗掲揚,国歌斉唱について,都教委が一律かつ詳細に決め,そのとおり実行することを全都立学校に命じた内容となっており,各学校において実施方法を決定する裁量の余地が残されてはいないから,憲法が保障した原告らの教育の自由を侵害すると主張し,各学校の裁量が制約されていることの具体例として,肢体不自由校等においてフロア式・対面式の卒業式を行うことができなくなったこと,児童・生徒のことを慮って起立斉唱できないとの思いを持つに至った教職員が存したとしても,不起立という選択肢は許されていないこと,「内心の自由」の説明が禁止されるに至ったことなどを指摘する。
(イ) しかしながら,原告らの指摘する事項は,上記(1)ウにおいて説示したとおり,いずれも校長の所掌する校務に属する事項であって,この点について原告らの援用する証拠等(甲A282の1・2,甲A283,289,290~292,甲C1の3〔13頁〕,甲C11の3〔13頁〕,甲C14の3〔2~4頁〕,原告X3〔6頁〕,原告X5〔5~14頁〕,原告X10〔4~6頁〕,原告X14〔2~9頁〕原告X9〔10頁〕,原告X6〔16,17頁〕,原告X12〔3~5,10,11頁〕等)を検討しても,本件職務命令等が,憲法26条,13条及び23条の観点からみて必要かつ相当な範囲内の都教委及び校長の権限行使であるとの前記判断は左右されない。
したがって,原告らの教育裁量を不当に制約することを理由として教育の自由の侵害をいう原告らの主張は採用しがたい。
ウ 以上によれば,本件職務命令等が,憲法26条,13条及び23条に違反して,原告らの教育の自由を侵害することをいう原告らの主張には理由がない。
5  争点5(本件職務命令等の国際条約違反の有無)
(1)  自由権規約18条違反の有無
ア 争点2及び3において説示したとおり,卒業式等の式典における国歌斉唱の際の起立斉唱行為は,一般的,客観的にみて,これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであって,これを特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,原告らの思想・信条を否定することと不可分に結びつくものではなく,また,慣例上の儀礼的な所作としての性質を超えて宗教的意味合いを持つものではないし,特定の宗教を信仰することや,これに反する信仰を持つことを禁止したりするものではないし,特定の信仰の有無について告白することを強要するものでもない。このような理解を前提とすれば,本件職務命令等が,思想・良心及び宗教の自由を保障した自由権規約18条1項に違反するとはいえず,また,「自ら選択する宗教又は信念を受け入れ又は有する自由を侵害するおそれのある強制」に該当するものではなく,自由権規約18条2項に違反するともいえない。
イ ところで,原告らは,自由権規約委員会が,平成26年7月に採択した日本政府の第6回報告に対する総括所見の22(甲A353〔10頁〕)において,「委員会は,前回の最終見解(CCPR/C/JPN?C0/5,para.10)を想起し,締約国に対し,第18条及び第19条の各第3項に規定された厳格な要件を満たさない限り,思想,良心及び宗教の自由あるいは表現の自由に対する権利への如何なる制限を課すことを差し控えることを促す。」と述べることにより,日本政府に対し,自由権規約18条3項に規定された厳格な要件を満たさない限り,思想・良心及び宗教の自由に対する権利へのいかなる制限を課すことも差し控えるよう促したことを指摘する。しかしながら,同条項は,「宗教又は信念を表明する自由」の制限に関する規定であるから,上記所見についても「宗教又は信念を表明する自由」の制限に関する所見として理解すべきものと解される。そして,卒業式等が,原告らの宗教又は信念を自由に表明する場ではなく,原告らの起立斉唱をしないという宗教又は信念の表明の自由ないし表現の自由が無制約に認められる場面でないことは明らかであるところ,本件職務命令等が,必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であり,原告らがこれに従うべき立場にあることは争点2において説示したとおりであり,しかも,本件職務命令等が,前記のとおり「宗教又は信念を表明する自由」に対する制限という意味合いを有するものではないといえる。そうすると,本件職務命令等が,原告らが「公に又は私的に自らの宗教又は信念を表明する自由」をそもそもにおいて制約するものでないか,少なくとも不当ないし不合理に制約するものとはいえないのであって,原告らの指摘する総括所見が本件に直ちに妥当するとはいえない。
ウ 以上のとおりであって,本件職務命令等が自由権規約18条に違反することをいう原告らの主張には理由がない。
(2)  児童権利条約違反の有無
ア 児童権利条約は,基本的に児童の享有する権利について定めたものであり,原告らの指摘する各条項の定める権利享有主体も児童又はその「父母及び場合により法定保護者」であると解されるから,児童権利条約違反をいう原告らの主張は,自己の法律上の利益に関係のない違法(行訴法10条1項)を理由とするものといわざるを得ない。
イ また,原告らは,憲法上,教育の自由が保障されているから,自己の法律上の利益に関係のある違法として,児童権利条約で児童に保障された権利侵害を援用し得るのは当然であるなどと主張するが,児童権利条約の趣旨を踏まえても,本件職務命令等が原告らの教育の自由を侵害するものではないとの争点4における判断が左右されるとはいえない。
ウ 以上のとおりであって,本件職務命令等が児童権利条約に違反することをいう原告らの主張には理由がない。
6  争点6(本件職務命令等の公権力行使の権限踰越ゆえの違憲・違法の有無)
(1)  原告らは,起立斉唱行為について,国旗・国歌及びそれらが象徴する国家に対して敬意を表明する要素を含むものであり,国家の権威を受容することを意味すると指摘したうえ,本件職務命令等は,公権力が,その権威の源泉である国民に対して,国家の権威を受容するよう個人に強制するものであって,国民主権(憲法前文,1条),個人の尊厳(憲法13条)及び公務員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)などの憲法秩序や立憲主義に明らかに反するものであり,その名宛人が公務員であることを理由として,違憲性を免れることはないから,公権力行使の権限を踰越するものであって違憲・違法であるなどと主張する。
(2)  しかしながら,卒業式等の式典における起立斉唱行為が,一般的,客観的にみて,これらの式典における慣例上の儀礼的な所作としての性質を有するものであり,その外部からの認識という点からみても,特定の思想又はこれに反する思想の表明として外部から認識されるものと評価することは困難であり,職務上の命令に従ってこのような行為が行われる場合には,上記のように評価することは一層困難であることは争点2において説示したとおりである。原告らが指摘する米国裁判例及びその評釈等の証拠(甲A268〔2~10頁〕,甲B22等)を検討しても,本件職務命令等が,国家の権威を受容することの強制を意味するとの評価は当たらない。
そして,国又は地方公共団体の教育行政機関が,必要かつ相当と認められる範囲において,教育内容についても決定する権限を有することは,憲法上も予定されている(旭川学テ事件最高裁判決参照)ところであるし,本件職務命令等が,必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であり,都立学校の教職員である原告らが,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性(憲法15条2項,地公法30条,32条)に鑑み,学習指導要領の国旗・国歌条項を含む法令及び校長の職務命令に従うべき立場にあることは,争点2において説示したとおりであって,これが国民主権個人の尊厳及び公務員の憲法尊重養護義務などの憲法秩序や立憲主義に抵触する公権力の行使に当たるとはいえない。
(3)  したがって,本件職務命令等が公権力行使の権限を踰越することを理由として違憲・違法であることをいう原告らの主張には理由がない。
7  争点7(本件職務命令等の教基法16条1項(不当な支配の禁止)違反の有無)
(1)ア  原告らは,地方公共団体に設置される教育委員会が教育内容・方法について遵守すべき基準を設定する場合において,当該地方公共団体における大綱的な基準の範囲を超えて教育内容・方法に介入し,教師(集団)の教育内容・方法に関する決定・実施権限の独立性を損なうような場合には,教育委員会に与えられた権限の範囲を逸脱するものとして,「不当な支配」(教基法16条1項,旧教基法10条1項)に該当するものと解されると指摘したうえ,本件通達及びこれに基づく都教委の指導は,大綱的な基準の範囲にとどまらない教育内容・方法の詳細に介入するものであり,各学校の教師(集団)の教育内容・方法に関する決定・実施権限の独立性を損なうものであるから,「不当な支配」に該当し違法であると主張し,これに沿うA33埼玉大学准教授の意見(甲A357,証人A33)を援用する。
イ  しかしながら,一般に,学校の設置者は,その設置する学校に対して管理権を有するところ(学校教育法5条),旭川学テ事件最高裁判決は,国又は地方公共団体が法令に基づき学校の設置者としての権限を行使するに際し,教育の機会均等の確保と全国的な一定水準の維持という目的のために必要かつ合理的と認められる大綱的な教育課程の基準の設定の範囲に制限されると判示したものではない。都教委は,地教行法21条(平成26年法律76号による改正前の23条)等により,都立学校の組織編成,教育過程,学習指導等に関して管理,執行する権限を与えられ,学校の教育課程の編成や学習指導等に関して基準を設定し,一般的な指示を与え,指導,助言を行うとともに,適正かつ許容される目的のために必要かつ合理的と認められる範囲内において,具体的な命令を発することもできると解されるのであって,その権限が,当該地方公共団体における大綱的基準の設定の範囲に制約されると解すべき理由はない。しかも,国の教育行政機関が法律の授権に基づいて普通教育の内容及び方法について遵守すべき基準を設定する場合には,教育に関する地方自治の原則からくる制約が問題となるのに対し,地方公共団体が設置する教育委員会が教育内容や方法に関して行う介入については,教育に関する地方自治の原則からくる制約が問題となることはないのであるから,国の教育行政機関による前記基準の設定する場合と同様の基準が妥当することをいう原告らの主張には論理の飛躍があるというほかない。
ウ  しかして,教育は,専ら教育本来の目的に従い,国民からの信託にこたえて国民全体に対して直接責任を負うように行われるべきところ,教基法16条は,そのような教育をゆがめるような支配を排斥したものである(乙B6参照)。憲法上,国は,適切な教育政策を樹立,実施する権能を有するところ,教基法16条1項も,このような国の教育統制権能を前提としつつ,教育行政の目標を教育の目的の遂行に必要な諸条件の整備確立に置き,その整備確立のための措置を講ずるに当たっては,教育の自主性の尊重の見地から,これに対する「不当な支配」となることのないようにすべき旨の限定を付したことにその意味があり,したがって,教育に対する行政権力の不当,不要の介入は排除されるべきであるとしても,許容される目的のために必要かつ合理的と認められる介入は,たとえ教育の内容及び方法に関するものであっても「不当な支配」には該当しないと解するのが相当である(旭川学テ事件最高裁判決参照)。
エ  そして,争点2において説示したとおり,本件通達は,都立学校の卒業式等において,会場に入場する教職員全体の起立斉唱行為を確保し,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図ろうとするものであり,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることを目的とした,国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿うものであって,適正かつ許容される目的のために必要かつ合理的と認められる範囲内の都教委による管理権の行使であると認められる。
オ  したがって,本件通達が,東京都における大綱的な基準の範囲を超えて教育内容・方法に介入し,教師(集団)の教育内容・方法に関する決定・実施権限の独立性を損なうことを理由として「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張は採用しがたい。
(2)ア  原告らは,本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判されるべき罪悪であると教え込むことや,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現することにあったなどと指摘して,このような目的は許容されないから,本件職務命令等は「不当な支配」に該当するなどと主張する。
イ  しかしながら,本件職務命令等が,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てるなどの国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿う正当なものであって,必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であったことは争点2において説示したとおりである。
したがって,目的が許容されないものであることを理由として,本件職務命令等が「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張は採用しがたい。
(3)ア  原告らは,教職員に対する起立斉唱の義務付けを通じて,児童・生徒に対し,国家シンボルへの敬意表明が正しいと無批判に教え込むことが,国民統合という許容される目的と合理的関連性を有するとはいえないし,児童・生徒に対する国旗・国歌の指導の必要があるとしても,すべての都立学校のすべての教職員に対して起立斉唱行為を義務付けてまで行う必要性があるとは認められないから,本件職務命令等は「不当な支配」に該当するなどと主張する。
イ  しかしながら,争点4(2)アにおいて説示したとおり,卒業式等の式典における起立斉唱行為が,児童・生徒に対し,一方的な価値観を無批判に教え込む行為であるとみることはできないし,本件職務命令等は,卒業式等において,会場に入る教職員全体の起立斉唱行為を確保し,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに当該式典の円滑な進行を図ろうとするものであり,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てるという目的と合理的関連性があるというべきである。
したがって,許容される目的との合理的関連性を欠くことを理由として本件職務命令等が「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張は採用しがたい。
(4)ア  原告らは,起立斉唱行為については,国旗・国歌の象徴する国家に対する敬意の表明の要素を含む行為であり,無批判に一定の態度を取ることを児童・生徒に教え込むべきではない性質の問題であって,卒業式等の全体としての進行を妨げない範囲において,どのような振る舞いをすべきかについては個々の教師の独立した判断(教育実践)に委ねられているから,本件職務命令等は「不当な支配」に該当すると主張する。
イ  しかしながら,卒業式等の式典における起立斉唱行為が,児童・生徒に対し,一方的な価値観を無批判に教え込む行為であるとみることができないことは前記のとおりである。そして,本件職務命令等は,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てることを目的とした,国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿うものであって,必要かつ相当な範囲内の都教委及び校長の権限行使である。
したがって,これに抵触する原告らの教育実践を許容しないことを理由として本件職務命令等が「不当な支配」に該当することをいう原告らの主張は採用しがたい。
(5)  以上によれば,本件職務命令等が「不当な支配」を禁じた教基法16条1項に違反することをいう原告らの主張は理由がない。
8  争点8(本件処分の手続的瑕疵による違法)
原告らは,本件処分の前提として告知及び聴聞の機会が与えられなかったり,不十分であったりしたことをもって,本件処分の手続的違法を主張するが,地方公務員の懲戒処分に際して聴聞又は弁明の機会の付与は法律上要求されていないのであって(行政手続法3条1項9号),地方公務員である原告らについて,本件処分を受けるについて事前の聴聞又は弁明の機会がなかったとしても,そのこと自体から直ちに本件処分の手続の重大な違法があるとはできない。
そして,証拠(乙A59〔19~22頁〕,74の2〔3~6頁〕,乙C1の2,乙C3の2・5,乙C8の44,乙C10の2,乙C13の2)及び弁論の全趣旨によれば,都立学校の教職員の服務事故が起きた場合の手続は,校長からの事故報告書の提出を受けた都教委において,本人及び関係者から事情聴取を行い,当該行為が地公法に違反するものであり,懲戒処分の対象となると判断される場合には,教職員懲戒分限審査委員会の答申を経て,任命権者として処分を決定するという手続が条例により整備されていること,事情聴取については,服務事故を起こした教員本人から,勤務の一環として,直接事実確認をするためのものであるとの位置付けをしており,弁護士その他の第三者の立会いを認めていないこと,また,事情聴取の場では,正確性が担保されない断片的な個人のメモや編集改編が可能な録音は適切でなく,事案によっては第三者の個人情報が含まれることがあるとの判断により,当該本人による聴取書やコピー,メモの持ち帰り,録音等を認めていないが,事情聴取の最後に当該本人に聴取記録の内容を確認させ,本人による指摘箇所を訂正したうえで署名押印させることにより正確性を担保し,聴取書については,事情聴取を行った日以後に公文書開示請求があれば,請求者に開示し,写しを交付するものであること,原告X7,原告X8,原告X5,原告X10及び原告X13について事前の事情聴取が実施されていないが,それは,原告X7においては事情聴取の要請を断り,原告X8,原告X10及び原告X13においては弁護士の立会を要求して,その要求が容れられない事情聴取を拒否し,原告X5においては弁護士及び組合関係者の立会を要求して,その要求が容れられない事情聴取を拒否したことに起因するものであることが認められる。してみると,原告ら指摘の点において,本件処分の手続的違法性があるとはいえない。
また,原告らは,本件処分をした手続が拙速で杜撰なものであるとの主張をするが,本件処分は,いずれも上記認定に係る手続を経て行われたものであると認められるところ,本件不起立を外形的に現れるところにおいてみればそれ自体が単純かつ類型的な行為であるといえるから,この点においても,本件処分の手続的違法性を窺わせる事情があるとはいえない。
9  争点9(本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無)
(1)  検討
ア 公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に違法となるものと解される(最高裁判所昭和47年(行ツ)第52号同52年12月20日第三小法廷判決・民集31巻7号1101頁,最高裁判所昭和59年(行ツ)第46号平成2年1月18日第一小法廷判決・民集44巻1号1頁参照)。
イ そこで,本件職務命令違反を懲戒事由として,少なくとも戒告処分を科することに裁量権の逸脱・濫用があるかを検討するに,本件職務命令の違反の動機,原因は,当該教職員の単なる社会生活上の信条を超えた自らの歴史観ないし世界観に関わる信条や信教に由来する「君が代」や「日の丸」に対する否定的評価等のゆえに,本件職務命令により求められる行為と自らの信条等に由来する外部的行動とが相違することであり,個人の信条等に起因するものである。また,不起立行為等の性質,態様として,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,不起立行為の結果,具体的に卒業式等が混乱したなどの事実は窺われない。
ウ 他方,原告らは,都立学校の教職員として,校長の職務命令に従う義務を負うとともに,学習指導要領の定めている国旗・国歌条項に沿った教育指導を行うべき立場にあったにもかかわらず,全校の児童・生徒や保護者等の出席する重要な学校行事である卒業式等の式典において,適法な本件職務命令に違反したものであり,その結果,学校の儀式的行事としての式典の秩序や雰囲気を一定程度損ない,児童・生徒に対し,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てるという本件職務命令の目的をも妨げたものであり,地公法32条及び33条に違反し,同法29条1号ないし3号の懲戒事由を認めることができる。
エ そうすると,本件職務命令の違反に対し,教職員の規律違反の責任を確認してその将来を戒める処分である戒告処分をすることは,学校の規律や秩序の保持等の見地からその相当性が基礎付けられるものであって,基本的に懲戒権者の裁量権の範囲内に属する事柄ということができ,本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認めがたい(平成24年最高裁判決参照)。
(2)  原告らの主張について
ア(ア) これに対し,原告らは,本件職務命令等の真の目的は,児童・生徒に対して,国歌斉唱時の不起立不斉唱が周囲から批判を受けるべき罪悪であると教え込むことや,起立斉唱命令に従わない教職員をあぶり出し,上意下達の都教委支配を実現することにあったことを指摘し,本件処分は,児童・生徒の教育を受ける権利を十全に保障する公務員秩序の維持を目的とするものではなく,不当な動機・目的に基づくものであると主張する。
(イ) しかしながら,本件職務命令等が,国旗・国歌について一層正しい認識を持たせ,それらを尊重する態度を育てるなどの国旗・国歌条項の趣旨を実現することに沿う正当なものであって,必要かつ合理的な範囲内の都教委及び校長の権限行使であったことは争点2において説示したとおりである。
したがって,本件処分が不当な動機・目的に基づくことを理由として,本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することに裁量権の逸脱・濫用があることをいう原告らの主張は採用しがたい。
イ(ア) 原告らは,本件職務命令の違反については,たとえ非違行為に当たるとしても,その非違の程度は極めて軽微であるのに対し,戒告処分であっても,本件処分の事後的な取消しによっては回復できない経済的不利益(勤勉手当の減額,昇給幅の減算等)及びその他の不利益(職業倫理の破壊による精神的苦痛,不当な事情聴取や研修,業績評価や人事異動や校務分掌や昇格における不利益,再雇用等の拒否,表彰対象からの除外等)が生じており,他の懲戒事由や他の都道府県と比べても均衡を欠いているとも主張する。
(イ) しかしながら,戒告処分については,法律上,処分それ自体によって教職員の法的地位に直接の職務上ないし給与上の不利益を及ぼすものではない。また,争点2ないし7において説示したとおり,本件職務命令が適法であって,原告らはこれに従う義務がある以上,これと抵触する原告らの教育観(職業倫理)に生じる制約はやむを得ないものであるし,非違行為に伴う事情聴取や研修が不当であるともいえない。また,原告らの主張する勤勉手当の減額,昇給幅の減算,業績評価や人事異動,昇格取消,再雇用等の拒否,表彰対象からの除外等については,本件処分自体による不利益とはいえないのであって,給与,人事又は表彰等に係る制度(甲A365〔昇給に関する基準第1,第4の3〕,乙A40〔東京都公立学校再雇用職員設置要綱第5(1)〕,41〔再任用職員等の任用について(通知)2(1)〕等参照)及びその適用ないし運用(甲A347)の帰結にすぎない。そして,これらの制度ないしその運用において,懲戒処分の有無や勤務成績を考慮しているからといって,そのことをもって本件職務命令違反に対して戒告処分を科することが重きに失するとは認めがたい。
(ウ) 以上に加え,上記(1)において検討したところを併せると,その不利益の程度や他の懲戒事由及び各事由における処分量定(甲A350,351参照)等との均衡に鑑みても,本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することに裁量権の逸脱・濫用があることをいう原告らの主張は採用しがたい。
ウ(ア) 原告らは,平成24年最高裁判決の事案においては,昇給幅について,戒告と減給は3号給昇給に減算されるのみであり,勤勉手当の減額率について,戒告は10%,減給は15%であったが,その後の改定により,戒告の場合であっても,昇給幅は2号給昇給に減算され,勤勉手当の減額率は20%とされたから,原告らに科された戒告処分の経済的不利益は,同改定以前の減給処分に匹敵する内容となっているなどと指摘して,戒告処分であっても裁量権の逸脱・濫用があると主張する。
(イ) しかしながら,昇給や勤勉手当に係る給与制度において,懲戒処分を受けたことを被処分者の不利益な事情として考慮する制度設計又は運用を行うことには一定の合理性があるというべきであるし,それが本件処分自体による不利益であるとはいえないことは前記のとおりである。また,平成24年最高裁判決の事案においては,昇給幅について,減給の場合であっても3号給昇給に減算されるにとどまり,勤勉手当の減額率について,減給の場合であっても15%減額されるにとどまっていたのに対し,本件においては,昇給幅及び勤勉手当について,戒告の場合であっても,変更前の減給以上の不利益を受けるようになったとしても,それは本件処分自体による不利益ではなく,給与制度ないしその運用の変更の結果にすぎない。これらを踏まえると,戒告処分を受けた場合において,昇給幅が2号給とされ,勤勉手当が標準的な金額から20%減額されるという制度ないし運用が存在するからといって,本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは認めがたいとの前記判断は左右されない。
したがって,昇給幅及び勤勉手当について平成24年最高裁判決の減給の事案よりも不利益な取扱いを受けることを理由として,本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することに裁量権の逸脱・濫用があることをいう原告らの主張は採用しがたい。
エ 以上によれば,本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することに裁量権の逸脱・濫用があることをいう原告らの主張には理由がない。
10  争点10(本件職務命令違反を理由として減給又は停職の処分を科することの裁量権の逸脱・濫用の有無)
(1)  原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6については,減給又は停職の処分を受けているところ,減給処分は,処分それ自体の効果として教職員の法的地位に一定の期間における本給の一部の不支給という直接の給与上の不利益が及び,停職処分も,処分それ自体によって教職員の法的地位に一定の期間における職務の停止及び給与の全額の不支給という直接の職務上及び給与上の不利益が及ぶうえ,本件通達を踏まえて卒業式等の式典のたびに懲戒処分が累積していくおそれがあることなどを勘案すると,起立斉唱命令違反に対する懲戒において減給又は停職の処分を選択することが許容されるのは,過去の非違行為による懲戒処分等の処分歴や不起立行為等の前後における態度等(以下,併せて「過去の処分歴等」という。)に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる場合であることを要すると解すべきである。そして,例えば,過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴があることのみをもって直ちに減給処分を選択することの相当性を基礎付けるには足りず,また,過去の1,2年度に数回の卒業式等における不起立行為による懲戒処分の処分歴があることのみをもって直ちに減給処分を選択することの相当性を基礎付けるには足りないというべきであって,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるというためには,過去の処分歴に係る非違行為がその内容や頻度等において規律や秩序を害する程度の相応に大きいものであるなど,過去の処分歴等が減給又は停職処分による不利益の内容との権衡を勘案してもなお規律や秩序の保持等の必要性の高さを十分に基礎付けるものであることを要するというべきである(平成24年最高裁判決参照)。
(2)  原告X1に対する減給処分(10分の1・1月)について
ア 前提事実(4)イ及び争点1における認定事実等(上記1)に後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X1は,平成14年4月1日より,b高校の教諭として勤務していたところ,平成18年3月5日に行われた同校卒業式において,『司会として,参会者に開式前の注意を行った際,卒業式の場にふさわしくない個人的な見解に関わる発言を行ったため,A34校長(以下「A34校長」という。)及びA9副校長(以下「A9副校長」という。)から,同発言をやめるようにと合計5回命じられたにもかかわらず,同発言をやめなかったこと』を理由として,都教委より,同年3月31日付けで文書訓告を受けた。
(乙C2の12,弁論の全趣旨)
(イ) 原告X1は,平成19年3月4日に行われたb高校卒業式において,『あらかじめA34校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午後2時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A9副校長から起立するよう3回言われたが,その都度,起立した後すぐに着席することを繰り返したこと』を理由として,都教委より,同年3月30日付けで戒告処分を受けた。なお,A34校長が,同年2月22日に行われた職員会議において,同会議に出席していた教職員に対し,前記卒業式に係る起立斉唱命令を口頭で発令しようとしたところ,原告X1は,同会議の行われていた会議室を退室した。また,A34校長が,同月28日,職員室において,原告X1に対し,同旨の職務命令書を渡そうとしたところ,原告X1は,これを受け取らず,職員室を退室したが,同職務命令書が原告X1の机上に差し置かれたことなどにより,前記起立斉唱命令は原告X1に告知された。原告X1は,同処分に先立つ事情聴取において,前記卒業式において,体調が悪かったので座っており,A9副校長が背後から起立を促したため,その時は無性に起立したが,立ち続けられないので座り,そのようなことが2,3回あったと弁解したほか,前記起立斉唱命令自体が不当であることなどを述べた。また,原告X1は,同処分後の再発防止研修において,同処分に全く納得がいかないことなどを記載した報告書を提出した。
(乙C2の1ないし4)
(ウ) A5校長は,平成22年2月10日午後3時10分ころ,c高校多目的室で行われた職員会議において,同会議に出席していた教職員らに対し,起立斉唱命令を口頭で発令した。原告X1は,あらかじめ起立斉唱命令が発令されるであろうことを想定し,同会議に出席しなかった。また,A5校長は,同年3月1日午前8時35分ころ,A4副校長同席の下,原告X1に対し,本件職務命令書を交付しようとしたが,原告X1が,これを受け取らなかったため,A4副校長が,原告X1の机上に本件職務命令書を差し置いたことにより,本件職務命令が原告X1に告知された(前記1(2)ア及びイ)。そして,原告X1は,同月3日に行われた同校卒業式において,あらかじめ本件職務命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時3分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A4副校長から起立するよう指示を受けたが,起立しなかったため,都教委から,本件処分(減給10分の1・1月)を受けた。原告X1は,同処分に先立つ事情聴取において,本件職務命令違反について,責任は一切感じていないなどと述べ,同処分後の再発防止研修において,都教委こそが反省すべきであり,自らは何ら反省するところはないなどと記載した報告書等を提出した。
(甲C2の1・2,乙C2の5ないし11)
イ 被告は,原告X1について,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X1の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないことなどをもって,減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があると主張する。
この点,原告X1については,文書訓告及び戒告処分の処分歴があるほか,本件職務命令の告知を受けることを殊更に回避しようとしたものであり,平成19年3月4日に行われたb高校卒業式に先立つ起立斉唱命令についても,同様の行為に及んでいたものである。
もっとも,懲戒歴は1回であること,原告X1が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条,信教等に基づくものであること,本件処分の前後における事情聴取や再発防止研修における原告X1の言動も,そのような信条等を表明し,本件職務命令等の違法性を指摘するという範囲を超えるものではないこと,本件職務命令違反のあった卒業式において,原告X1の不起立により,特段の混乱等は生じていないと窺われることをも考慮すると,原告X1の本件職務命令違反について,減給処分(10分の1・1月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X1に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
(3)  原告X2に対する減給処分(10分の1・1月)について
ア 前提事実(4)オに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X2は,平成18年4月1日より,東京都立q養護学校の教諭として勤務していたところ,平成19年3月22日に行われた同校小学部・中学部卒業式において,あらかじめ起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時40分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A18副校長より起立するよう指導されたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで戒告処分を受けた。原告X2は,同処分に先立つ事情聴取においては,自らのカトリック信仰ゆえに起立できないことなどを述べ,同処分後の再発防止研修においては,思想・信条の自由を守るため,本件通達を廃止すべきことなどを記載した報告書を提出した。
(乙C5の1ないし4)
(イ) 原告X2は,平成23年3月18日に行われたe特別支援学校高等部卒業式において,あらかじめA12校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時38分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A13副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで本件処分(減給10分の1・1月)を受けた。原告X2は,同処分に先立つ事情聴取においては,本件職務命令違反について,特に責任は感じていないことなどを述べ,同月31日付けで定年退職した。
(甲C5の1・2,乙C5の5ないし7)
イ 被告は,原告X2について,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X2の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないことなどをもって,減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があると主張する。
この点,処分歴は戒告処分が1回であり,原告X2が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条,信教等に基づくものであること,本件処分の前後における事情聴取や再発防止研修における原告X2の言動も,そのような信条等を表明し,本件職務命令等の違法性を指摘するという範囲にとどまること,本件職務命令違反のあった卒業式において,原告X2の不起立により,特段の混乱等は生じていないことをも考慮すると,原告X2の本件職務命令違反について,減給処分(10分の1・1月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X2に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
(4)  原告X3に対する減給処分(10分の1・6月)について
ア 前提事実(4)カに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X3は,平成14年4月1日より,東京都立r高等学校(以下「r高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成16年3月16日に行われた同校卒業式において,あらかじめA35校長(以下「A35校長」という。)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時10分ころ,国歌斉唱時に起立しなかったため,都教委より,同月31日付けで戒告処分を受けた。原告X3は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令に係る質問には答えられないなどと述べ,同処分後の再発防止研修においては,教育公務員として,新たに本質的なことを学ぶ場とは全くならなかったなどと記載した報告書を提出した。
(甲C6の3,乙C6の1ないし4,弁論の全趣旨)
(イ) 原告X3は,平成18年3月15日に行われたr高校卒業式において,あらかじめA35校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時5分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A36副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,同月31日付けで減給処分(10分の1・1月)を受けた。原告X3は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令違反には一点のやましいところも責任もないなどと述べ,同処分後の再発防止研修おいては,起立斉唱命令には,それ自体に重大な瑕疵があり,これに服従する義務はないことなどを記載した課題を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(甲C6の3,乙C6の5ないし9,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告X3は,平成23年3月11日に行われたf高校卒業式において,あらかじめA14校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時2分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A15副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで本件処分(減給10分の1・6月)を受けた。原告X3は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令違反に何も責任は感じていないなどと述べ,同処分後の再発防止研修においては,服務事故を起こして都民の信用を損なう行動をしているとは一切考えていないなどと記載した報告書等を提出した。
(甲C6の1,乙C6の10ないし16)
イ 被告は,原告X3について,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X3の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないことなどをもって,減給処分(10分の1・6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があると主張する。
この点,起立斉唱命令違反を理由とする懲戒処分歴が2回あること(戒告及び減給各1回であり,このうち減給についてはその取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。),原告X3が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条等に基づくものであり,本件処分の前後における事情聴取や再発防止研修における原告X3の言動も,そのような信条等を表明し,本件職務命令等の違法性を指摘するという範囲にとどまること,本件職務命令違反のあった卒業式において,原告X3の座席が,生徒や保護者などからよく見える場所に位置していたとしても,その不起立により,特段の混乱等は生じていないと窺われることをも考慮すると,原告X3の本件職務命令違反について,減給処分(10分の1・6月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X3に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
(5)  原告X4に対する減給処分(10分の1・6月)について
ア 前提事実(4)キに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X4は,平成12年4月1日より,東京都立s高等学校(以下「s高校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成16年3月12日に行われた同校卒業式において,あらかじめA37校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時1分ころ,国歌斉唱時に起立しなかったため,都教委より,同月31日付けで戒告処分を受けた。原告X4は,同処分に先立つ事情聴取においては,理由が理解できるものであれば,都教委の処分・措置に従うことなどを述べ,同処分後の再発防止研修においては,地方公務員法の服務規程等について一般論・理念として伺ったことなどを記載した報告書を提出した。
(乙C7の1ないし4,弁論の全趣旨)
(イ) 原告X4は,平成18年3月11日に行われたs高校卒業式において,あらかじめA38校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A39副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月31日付けで減給処分(10分の1・1月)を行った。原告X4は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令に従う必要はないと考えていることなどを述べ,同処分後の再発防止研修においては,このような研修を受講する必要性はないと考えることなどを記載した課題を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(乙C7の5ないし9,原告X4〔12,13頁〕,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告X4は,平成23年3月11日に行われたg高校卒業式において,あらかじめA16校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時5分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A17副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで本件処分(減給10分の1・6月)を受けた。原告X4は,同処分に先立つ事情聴取においては,自らの信じるところに従って行動したが,むしろ教員としての責任を果たしたと考えていることなどを述べ,同処分後の再発防止研修においては,本件通達から本件職務命令への過程が明らかに行政の教育への介入であるなどと記載した報告書等を提出し,平成24年3月31日付けで定年退職した。
(甲C7の1・2,乙C7の10ないし16)
イ 被告は,原告X4について,過去の処分歴や本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X4の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないことをもって,減給処分(10分の1・6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」があると主張する。
この点,起立斉唱命令違反を理由とする懲戒処分歴が2回あること(戒告及び減給各1回であり,このうち減給についてはその取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定した。),原告X4が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条等に基づくものであり,本件処分の前後における事情聴取や再発防止研修における原告X4の言動も,そのような信条等を表明し,本件職務命令等の違法性を指摘するという範囲にとどまること,本件職務命令違反のあった卒業式において,原告X4の不起立により,特段の混乱等は生じていないと窺われることをも考慮すると,原告X4の本件職務命令違反について,減給処分(10分の1・6月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X4に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
(6)  原告X5に対する停職処分(6月)について
ア 前提事実(4)クに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X5は,平成12年4月1日より,東京都立t養護学校(以下「t養護学校」という。)の教諭として勤務していたところ,平成13年度の入学式では,「日の丸君が代やめてください」などと記載したブラウスを着用して臨席し,同年度の卒業式においても,国旗掲揚や国歌斉唱に反対する趣旨の図柄を描いたブラウスを着用して臨席した。
(乙C8の1・2・6)
(イ) 原告X5は,平成14年4月9日に行われたt養護学校入学式に先立ち,国旗掲揚や国歌斉唱に反対する趣旨の図柄を描いたブラウスを着用していたことから,A20校長より,同入学式において上着の着用を求める職務命令を受けたにもかかわらず,これに応じなかった。また,この職務命令違反に係る事情聴取のため,原告X5は,同年8月7日,A20校長より,校長室に来るよう命じる職務命令を受けたが,不利益を受けるおそれがあるなどの理由により,これに応じなかった。そこで,都教委は,これら2件の職務命令違反につき,同年11月6日付けで戒告処分を行った。なお,同処分の取消しを求める訴訟の判決の理由において,後者の職務命令違反を懲戒事由に加えることは,裁量権の逸脱・濫用に当たると判示されたが,前者の職務命令違反の存在を理由として,戒告処分自体は維持された。
(乙C8の3ないし9,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告X5は,平成16年3月24日に行われたt養護学校小・中学部卒業式において,あらかじめA20校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時53分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A40教頭から起立するよう2回言われたが,起立しなかったため,都教委より,同年4月6日付けで減給処分(10分の1・1月)を受けた。原告X5は,前記起立斉唱命令の職務命令書の受領を1度拒否したほか,弁護士の同席が認められないことを理由として,同処分前の事情聴取には応じず,同処分後の再発防止研修においては,違法な服務研修に抗議することなどと記載した報告書等を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(甲C8の3,乙C8の10ないし17,弁論の全趣旨)
(エ) 原告X5は,平成17年3月24日に行われたt養護学校小学部卒業式において,あらかじめA20校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時55分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A41副校長から起立しないのかと1回言われたが,しゃがんだまま起立しなかったため,都教委より,同月31日付けで減給処分(10分の1・6月)を受けた。原告X5は,前記起立斉唱命令の職務命令書の受領を拒否したほか,弁護士の同席が認められないことを理由として,同処分前の事情聴取には応じず,同処分後の再発防止研修においては,反省する内容がないなどと記載した報告書等を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(甲C8の3,乙C8の18ないし23,弁論の全趣旨)
(オ) 原告X5は,平成17年4月より,h養護学校の教諭として勤務していたところ,平成19年3月22日に行われた同校小・中学部卒業式において,あらかじめA42校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時35分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A43副校長から起立するよう2回言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで停職処分(1月)を受けた。原告X5は,前記起立斉唱命令の職務命令書の受領を拒否し,弁護士の同席が認められないことを理由として,同処分前の事情聴取には応じず,停職期間中,同校の校門前で,同校の教職員や保護者にチラシを配布するなどの抗議活動を行い,同処分後の再発防止研修においては,本件通達に基づく起立斉唱命令は違法・違憲ですなどと記載した報告書等を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(甲C8の3,乙C8の24ないし31,弁論の全趣旨)
(カ) 原告X5は,平成21年3月23日に行われたh特別支援学校中学部卒業式において,あらかじめA18校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時33分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A44副校長から起立するよう2回言われたが,起立しなかったため,都教委より,平成21年3月31日付けで停職処分(3月)を受けた。原告X5は,前記起立斉唱命令の職務命令書の受領を拒否し,A18校長が同旨の職務命令を口頭で告知しようとすると,離席してこれを回避しようとし,弁護士の同席が認められないことを理由として,同処分前の事情聴取には応じず,停職期間中,同校の校門前で,同校の教職員や保護者にチラシを配布するなどの抗議活動を行い,同処分後の再発防止研修においては,都教委こそ憲法,旧教育基本法を遵守されたいなどと記載した報告書等を提出した。なお,同処分については,その取消しを求める訴訟の判決により取り消され,同判決は確定している。
(甲C8の3,乙C8の32ないし42,弁論の全趣旨)
(キ) 原告X5は,平成23年3月23日に行われたh特別支援学校中学部卒業式において,あらかじめA18校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時44分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A19副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月30日付けで本件処分(停職6月)を受けた。原告X5は,前記起立斉唱命令の職務命令書の受領を拒否し,弁護士等の同席が認められないことを理由として,同処分前の事情聴取には応じず,同月31日付けで定年退職した。
(甲C8の1・2,乙C8の43ないし45)
イ 被告は,原告X5について,過去の処分歴及び本件の非違行為の内容,事情聴取や再発防止研修における態度等からしても,原告X5の態度は,上司の職務命令を拒否するとの点において確信的といわざるを得ないから,都教委において,停職処分(6月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められるなどと主張する。
この点,原告X5については,卒業式等における職務命令違反を理由とする懲戒処分歴が5回あること(戒告1回,減給及び停職各2回であり,このうち戒告以外については,それらの取消しを求める訴訟の判決により取り消され,各判決は確定している。),本件職務命令に係る職務命令書の受領を拒否したものであり,過去にも4回にわたり同様の行為に及んでいたものである。
もっとも,原告X5が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条等に基づくものであること,本件処分の前後における事情聴取や再発防止研修における原告の言動も,そのような信条等を表明し,本件職務命令等の違法性を指摘するという範囲を超えるものではないこと,本件職務命令違反のあった卒業式において,原告X5の不起立により,特段の混乱等は生じていないと窺われることをも考慮すると,原告X5の本件職務命令違反について,停職処分(6月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X5に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
(7)  原告X6に対する減給処分(10分の1・1月:別紙2「懲戒処分等一覧表」の番号「9-4」及び「9-5」の処分)
ア 前提事実(4)ケに後掲各証拠及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。
(ア) 原告X6は,平成23年4月7日に行われたi学園入学式において,あらかじめA20校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時37分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A21副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同年5月26日付けで戒告処分を受けた。原告X6は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令違反の責任について,具体的な説明を今はできないなどと述べた。
(甲C9の1・2,乙C9の1ないし3)
(イ) 原告X6は,平成24年3月22日に行われたi学園卒業式において,あらかじめA20校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時45分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A21副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月29日付けで戒告処分を受けた。原告X6は,同処分に先立つ事情聴取においては,教育公務員として不起立による責任は十分に感じていますが,自分の責任で行ったものですなどと述べた。
(甲C9の3・4,乙C9の4ないし6)
(ウ) 原告X6は,平成24年4月9日に行われたj特別支援学校入学式において,あらかじめA22校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時6分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長から起立するよう言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月26日付けで戒告処分を受けた。原告X6は,同処分に先立つ事情聴取においては,起立斉唱命令違反の責任について,平成24年最高裁判決の少数意見に与し,憲法を遵守する立場からこのような結果になりましたなどと述べた。
(甲C9の5・6,乙C9の7ないし10)
(エ) 原告X6は,平成25年3月19日に行われたj特別支援学校卒業式において,あらかじめA22校長から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前9時20分ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかったため,都教委より,同月29日付けで減給処分(10分の1・1月)を受けた。原告X6は,同処分に先立つ事情聴取においては,思想及び良心の自由に基づき,自分の責任で職務命令に従いませんでしたなどと述べた。
(甲C9の7・8,乙C9の11ないし13)
(オ) 原告X6は,平成25年4月9日に行われた同校入学式において,あらかじめA22校長及びその後任者であるA24校長(同月1日着任)から起立斉唱命令を受けていたにもかかわらず,同日午前10時ころ,国歌斉唱時に起立せず,A23副校長から起立するよう3回言われたが,起立しなかったため,同月26日付けで減給処分(10分の1・1月)を受けた。原告X6は,同処分に先立つ事情聴取においては,自らの思想及び良心の自由に反するものですので,どうしても本件職務命令に従えませんでしたなどと述べた。
(甲C9の9・10,乙C9の14ないし16)
イ 被告は,原告X6について,過去に3回の戒告処分を受け,再発防止研修を受講していたものであり,起立斉唱命令の違反が4回目ないし5回目であることからしても,都教委において,それぞれ減給処分(10分の1・1月)を選択したことにつき,「相当性を基礎付ける具体的な事情」が十分に認められるなどと主張する。
しかしながら,原告X6が起立斉唱命令を拒否したのは,自らの信条等に基づくものであること,各減給処分の懲戒事由となった本件職務命令違反のあった卒業式等において,原告X6の不起立により,特段の混乱等は生じていないと窺われることをも考慮すると,原告X6の前記職務命令違反について,減給処分(10分の1・1月)を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」があるとまでは認めがたい。
したがって,原告X6に対する本件処分については,裁量権の逸脱・濫用があり,取消しを免れない。
11  争点11(国賠法1条1項に基づく損害賠償請求の当否)
(1)  本件処分のうち戒告処分の違法を理由とする損害賠償請求について
原告らに対する本件処分のうち戒告処分が適法であることは,争点9においてすでに説示したとおりであるから,これらが違法であることを理由とする損害賠償請求は理由がない。
(2)  本件処分のうち減給又は停職の処分の違法を理由とする損害賠償請求について
ア 国賠法上の違法性及び故意・過失の有無について
(ア) 本件処分のうち,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6に対する減給又は停職の処分が違法であって,取り消されるべきことは争点10において説示したとおりである。もっとも,行政処分が違法であるからといって,直ちに国賠法1条1項所定の違法が肯定されるわけではなく,その違法が肯定されるのは,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなかったと認め得るような事情がある場合に限られる(最高裁判所平成元年(オ)第930号,1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
また,ある事項に関する法律解釈につき異なる見解が対立し,実務上の取扱いも分かれていて,そのいずれについても相当の根拠が認められる場合に,公務員がその一方の見解を正当と解しこれに立脚して公務を遂行したときは,後にその執行が違法とされたからといって,直ちに上記公務員に過失があったものとすることは相当でない(最高裁判所昭和42年(オ)第692号同46年6月24日第一小法廷判決・民集25巻4号574頁,最高裁判所平成14年(受)第687号同16年1月15日第一小法廷判決・民集58巻1号226頁参照)。
(イ) ところで,証拠(甲A38ないし40,乙A59〔5~19頁〕,74の2〔9~11頁〕)及び弁論の全趣旨によれば,都教委が原告らの一部について,減給又は停職の処分を選択するに当たっては,同原告らが,過去に同様の非違行為を行い,懲戒処分を受けた処分歴があることを重要な考慮要素としていたことが認められるところ,過去に非違行為を行い,懲戒処分を受けたにもかかわらず,再び同様の非違行為を行った場合には,その非違性の程度は,後者の方が重いことは明らかであるから,その場合に定型的に処分を加重するという基本方針自体は不合理とはいえない。そして,平成24年最高裁判決が処分量定に係る判断を示すまでは,卒業式等における起立斉唱命令違反及びそれによる処分歴が累積した場合において,減給又は停職の処分を選択することが裁量権の逸脱・濫用に当たるのはいかなる場合かに関し,高等裁判所レベルにおける下級審裁判例も判断も実質的に分かれていたものである(福岡高等裁判所平成20年12月15日判決〔平成17年(行コ)第13号。最高裁判所平成21年(行ツ)第111号平成23年7月14日第一小法廷判決(上告棄却・上告却下)により確定している。〕・判例秘書登載参照)。
以上を前提とすれば,平成24年最高裁判決が出されるまでにされた原告X1,同X2,同X3,同X4及び同X5に対する本件処分については,都教委が減給又は停職の処分を選択したことが,それぞれの処分当時において,職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできず,また,その判断に過失があったということもできない。
(ウ) また,平成24年最高裁判決は,起立斉唱命令違反に対する懲戒において減給又は停職の処分を選択することが許容されるのは,過去の処分歴等に鑑み,学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの「相当性を基礎付ける具体的な事情」が認められる場合であることを要することを判示したものである(上記10(1))。そして,同最高裁判決においては,例えば,過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴があることのみをもって直ちに減給処分を選択することの相当性を基礎付けるには足りず,また,過去の1,2年度に数回の卒業式等における不起立行為による懲戒処分の処分歴があることのみをもって直ちに減給処分を選択することの相当性を基礎付けるには足りないとの判示はあるものの,どのような場合であれば起立斉唱命令違反等に対する懲戒において減給又は停職への処分の加重が裁量権の範囲内と評価され得るかについては,同最高裁判決の提示した枠組みを踏まえた個々の事例における判断に委ねられ,その具体的基準が明らかにされてはいなかったものである。
このようなことからすれば,原告X6について,都教委が,過去2年間程度のうちに起立斉唱命令違反及びそれを理由とする戒告の処分歴が3回(別紙2参照)を考慮して,4回目及び5回目の起立斉唱命令違反(本件職務命令違反)に対し,減給処分(10分の1・1月)を選択したことが,それぞれの処分当時において,職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものと評価することはできず,また,その判断に過失があったということもできないから,同原告に係る本件処分が違法であることを理由とする損害賠償請求には理由がない。
イ 損害の有無について
(ア) 原告X1,同X2,同X3,同X4及び同X6に対する減給処分については,その処分が取消されれば,元の給与額の支払を受けることができるようになるから,処分の取消しによっても填補し得ない経済的な損害があるとは認められない。そして,同原告らに対する処分の前提となった本件職務命令が適法であり,その違反が認められること,各原告につき,上記10において摘示した過去の処分歴等があることを踏まえると,減給処分が違法であったことにより同原告らが受けた精神的苦痛については,処分の取消しによって慰謝されるものである。同原告らの供述(甲C2の3〔14,15頁〕,甲C5の3〔12,13頁〕,甲C6の3〔4~6頁〕,原告X2〔17,18頁〕,原告X6〔11,12頁〕等)を検討しても,同原告らに処分の取消しによっては填補されない損害が生じていると認めることはできない。
(イ) 原告X5に対する停職処分については,その処分が取り消されれば,停職期間中の給与の支払を受けることができるようになるから,処分の取消しによっても填補し得ない経済的な損害があるとは認められない。そして,原告X5に対する処分の前提となった本件職務命令が適法であり,その違反が認められること,原告X5につき,上記10において摘示した過去の処分歴等があり,本件処分の翌日には定年により退職したことを踏まえると,停職処分が違法であったことにより原告X5が受けた精神的苦痛については,処分の取消しによって慰謝されるものである。原告X5の供述(甲C8の3〔19,20頁〕,原告X5〔17,18頁〕等)を検討しても,原告X5に処分の取消しによっては填補されない損害が生じていると認めることはできない。
ウ まとめ
以上によれば,本件処分のうち減給又は停職の処分の違法を理由とする原告らの損害賠償請求についても,国賠法上の違法性及び故意・過失があるとはいえず,しかも,処分の取消しによっても填補されない損害が生じているともいえないから,理由がない。
12  結論
(1)  原告らには本件職務命令に対する違反が認められる(原告X1につき,争点1)ところ,本件職務命令等が違憲・違法であるとはいえず(争点2ないし7),他にも,本件職務命令等の違法性を認めるに足りる証拠は見当たらない。そして,本件職務命令違反を理由として少なくとも戒告処分を科することについては,手続的な違法の問題はなく(争点8),裁量権の逸脱・濫用があるとも認められない(争点9)から,本件処分のうち戒告処分の取消しを求める請求には理由がない。他方,本件処分のうち原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6に対する減給又は停職の処分については,裁量権の逸脱・濫用があると認められる(争点10)から,これらの処分の取消しを求める請求は理由があるが,原告らの国賠法1条1項に基づく損害賠償請求はいずれも理由がない(争点11)。
(2)  よって,原告らの請求のうち,原告X1,同X2,同X3,同X4,同X5及び同X6に対してされた減給又は停職の処分の取消しを求める請求については理由があるから,これを認容し,同原告らのその余の請求及びその余の原告らの請求については理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第11部
(裁判長裁判官 佐々木宗啓 裁判官 髙田美紗子 裁判官 井出正弘)

 

当事者等目録
東京都八王子市〈以下省略〉
原告 X7
茨城県稲敷郡〈以下省略〉
原告 X1
さいたま市〈以下省略〉
原告 X8
埼玉県八潮市〈以下省略〉
原告 X9
東京都多摩市〈以下省略〉
原告 X2
東京都三鷹市〈以下省略〉
原告 A1ことX3
東京都練馬区〈以下省略〉
原告 X4
東京都西東京市〈以下省略〉
原告 X5
東京都国分寺市〈以下省略〉
原告 X6
東京都江戸川区〈以下省略〉
原告 X10
東京都渋谷区〈以下省略〉
原告 X11
東京都文京区〈以下省略〉
原告 X12
横浜市〈以下省略〉
原告 X13
横浜市〈以下省略〉
原告 X14
原告ら訴訟代理人弁護士 尾山宏
同 菊池紘
同 平松真二郎
同 澤藤統一郎
同 加藤文也
同 白井劍
同 水口洋介
同 坂田洋介
同 金井知明
同 雪竹奈緒
同 新村響子
同 並木陽介
同 金哲敏
同 谷田和一郎
同 西山寛
同 山本紘太郎
同 田中重仁
同 関島保雄
同 吉田榮士
同 彦坂敏之
同 山中眞人
同 奥田圭一
同 秋山直人
同 松尾文彦
同 川口彩子
同 穂積匡史
同 柿沼真利
同 青木護
同 植竹和弘
同 立松彰
同 渡辺寛之
同 山田安太郎
同 山田由紀子
同 市川怜美
同 中間陽子
同 松田和哲
同 家頭恵
同 富吉久
東京都新宿区西新宿二丁目8番1号
被告 東京都
(処分取消請求関係)
被告代表者兼処分行政庁 東京都教育委員会
同代表者教育長 B1
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
(損害賠償請求関係)
被告代表者知事 B2
(処分取消請求関係及び損害賠償請求関係)
被告訴訟代理人弁護士 細田良一
同 津村政男
同 中町誠
同 溝口敬人

 

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政治と選挙の裁判例「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧
(1)平成30年 1月30日 東京高裁 平29(行ケ)30号
(2)平成30年 1月30日 仙台高裁秋田支部 平29(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(3)平成30年 1月22日 東京地裁 平27(特わ)2148号 政治資金規正法違反被告事件
(4)平成29年12月20日 名古屋地裁 平25(行ウ)78号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
(5)平成29年12月 8日 札幌地裁 平24(行ウ)3号 政務調査費返還履行請求事件
(6)平成29年12月 7日 大阪地裁 平24(行ウ)5号・平24(行ウ)10号 違法支出金返還請求事件、共同訴訟参加事件
(7)平成29年11月29日 東京地裁 平27(ワ)29705号 著作権侵害差止等請求事件
(8)平成29年11月29日 徳島地裁 平26(行ウ)14号 政務調査費返還請求事件
(9)平成29年11月 2日 仙台地裁 平26(行ウ)2号 政務調査費返還履行等請求事件
(10)平成29年10月19日 東京地裁 平28(行ウ)218号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(11)平成29年10月13日 さいたま地裁 平27(ワ)1378号 九条俳句不掲載損害賠償等請求事件
(12)平成29年10月10日 東京地裁 平29(行ウ)76号 帰化許可申請不許可処分取り消し請求事件
(13)平成29年10月 3日 東京地裁 平27(行ウ)582号・平28(行ウ)490号 難民不認定処分取消請求事件、処分撤回義務付け等請求事件
(14)平成29年 9月28日 東京高裁 平28(う)2243号 業務上横領被告事件
(15)平成29年 9月27日 最高裁大法廷 平29(行ツ)9号・平29(行ツ)19号・平29(行ツ)21号・平29(行ツ)22号・平29(行ツ)33号・平29(行ツ)34号・平29(行ツ)41号・平29(行ツ)55号 選挙無効請求事件
(16)平成29年 9月27日 最高裁大法廷 平29(行ツ)4号・平29(行ツ)10号・平29(行ツ)11号・平29(行ツ)32号・平29(行ツ)45号・平29(行ツ)54号 選挙無効請求事件
(17)平成29年 9月27日 最高裁大法廷 平29(行ツ)47号 選挙無効請求事件
(18)平成29年 9月27日 最高裁大法廷 平29(行ツ)46号 選挙無効請求事件
(19)平成29年 9月27日 東京地裁 平25(ワ)20444号 司法修習生の給費制廃止違憲国家賠償等請求事件
(20)平成29年 9月26日 東京地裁 平28(ワ)18742号 損害賠償請求事件
(21)平成29年 9月15日 東京地裁 平26(行ウ)119号 懲戒処分取消等請求事件
(22)平成29年 9月 8日 東京地裁 平28(行ウ)117号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(23)平成29年 8月30日 さいたま地裁 平27(行ウ)12号 埼玉県議会政務調査費返還事件
(24)平成29年 8月29日 知財高裁 平28(行ケ)10271号 審決取消請求事件
(25)平成29年 8月25日 東京地裁 平27(行ウ)732号 難民不認定処分等取消請求事件
(26)平成29年 7月27日 東京地裁 平27(行ウ)734号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(27)平成29年 7月20日 東京地裁 平28(ワ)24569号 慰謝料請求事件
(28)平成29年 7月 6日 東京地裁 平28(行ウ)136号 難民不認定処分取消請求事件
(29)平成29年 6月29日 宇都宮地裁 平23(行ウ)8号 政務調査費返還履行請求事件
(30)平成29年 5月18日 東京高裁 平28(う)1194号 公職選挙法違反被告事件
(31)平成29年 4月27日 東京地裁 平25(行ウ)811号 住民訴訟事件
(32)平成29年 4月13日 東京地裁 平27(行ウ)480号 退去強制令書発付処分等取消請求事件
(33)平成29年 4月12日 名古屋高裁金沢支部 平28(行コ)13号 政務調査費返還請求控訴事件
(34)平成29年 4月11日 東京地裁 平27(行ウ)576号 難民不認定処分取消請求事件
(35)平成29年 4月11日 東京地裁 平26(ワ)10342号 損害賠償請求事件
(36)平成29年 3月30日 広島高裁岡山支部 平28(行コ)2号 不当利得返還請求控訴事件
(37)平成29年 3月29日 広島高裁 平28(行コ)22号 不当利得返還請求住民訴訟控訴事件
(38)平成29年 3月28日 東京地裁 平25(ワ)28292号 謝罪広告等請求事件
(39)平成29年 3月28日 仙台地裁 平28(ワ)254号 損害賠償請求事件
(40)平成29年 3月16日 札幌地裁 平24(行ウ)6号 政務調査費返還履行請求事件
(41)平成29年 3月15日 東京地裁 平27(行ウ)403号 地位確認等請求事件
(42)平成29年 3月 8日 東京地裁 平26(行ウ)300号 地位確認等請求事件
(43)平成29年 3月 1日 名古屋高裁金沢支部 平28(行コ)11号 政務調査費返還請求控訴事件
(44)平成29年 2月27日 東京地裁 平27(ワ)18254号・平28(ワ)12921号 安保法案反対等の政治的意見表明の撤回削除等請求事件、閣議決定の撤回を求める会長声明等の削除等請求事件
(45)平成29年 2月21日 東京地裁 平27(行ウ)130号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(46)平成29年 2月17日 大阪高裁 平28(行コ)230号 損害賠償請求控訴事件
(47)平成29年 1月31日 大阪高裁 平28(ネ)1109号 損害賠償等請求控訴事件
(48)平成29年 1月31日 東京地裁 平27(行ウ)657号 退去強制令書発付処分無効確認等請求事件
(49)平成29年 1月31日 東京地裁 平27(行ウ)360号 難民の認定をしない処分等取消請求事件
(50)平成29年 1月31日 仙台地裁 平25(行ウ)11号 政務調査費返還履行等請求事件
(51)平成29年 1月26日 大阪地裁 平24(行ウ)197号・平26(行ウ)163号 補助金不交付処分取消等請求事件
(52)平成29年 1月18日 東京地裁 平28(ワ)6026号 貸金返還等請求事件
(53)平成29年 1月13日 大阪高裁 平28(ネ)1589号 損害賠償等請求控訴事件
(54)平成28年12月27日 奈良地裁 平27(行ウ)15号 奈良県議会会派並びに同議会議員に係る不当利得返還請求事件
(55)平成28年12月15日 東京高裁 平28(ネ)1068号 損害賠償等請求控訴事件
(56)平成28年12月12日 大阪地裁 平26(ワ)8127号 損害賠償請求事件
(57)平成28年11月29日 甲府地裁 平26(行ウ)4号 政務調査費返還請求事件
(58)平成28年11月18日 東京地裁 平28(特わ)1764号 公職選挙法違反被告事件
(59)平成28年11月16日 大阪高裁 平27(ネ)3176号 損害賠償請求控訴事件
(60)平成28年11月15日 東京高裁 平28(行ケ)16号 選挙無効請求事件
(61)平成28年11月15日 東京地裁 平27(行ウ)518号 難民不認定処分取消請求事件
(62)平成28年11月10日 東京高裁 平28(行ケ)17号 選挙無効請求事件
(63)平成28年11月 8日 名古屋高裁 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(64)平成28年11月 7日 仙台高裁 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(65)平成28年11月 2日 東京高裁 平28(行ケ)11号 選挙無効請求事件
(66)平成28年11月 2日 東京高裁 平28(行ケ)10号 選挙無効請求事件
(67)平成28年11月 2日 札幌高裁 平28(行ケ)2号 選挙無効請求事件
(68)平成28年10月31日 福岡高裁 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(69)平成28年10月31日 東京地裁 平28(特わ)1764号 公職選挙法違反被告事件
(70)平成28年10月31日 東京地裁 平26(ワ)17116号 損害賠償等請求事件
(71)平成28年10月28日 広島高裁 平28(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(72)平成28年10月27日 大阪高裁 平28(ネ)1494号 損害賠償請求控訴事件
(73)平成28年10月27日 金沢地裁 平27(行ウ)6号 政務調査費返還請求事件
(74)平成28年10月26日 広島高裁松江支部 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(75)平成28年10月20日 大阪高裁 平28(行ケ)5号 選挙無効請求事件
(76)平成28年10月20日 福岡高裁那覇支部 平28(行ケ)2号 選挙無効請求事件
(77)平成28年10月19日 広島高裁 平28(行ケ)2号 選挙無効請求事件
(78)平成28年10月19日 福岡高裁宮崎支部 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(79)平成28年10月19日 仙台高裁秋田支部 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(80)平成28年10月18日 東京高裁 平28(行ケ)7号 選挙無効請求事件
(81)平成28年10月18日 高松高裁 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(82)平成28年10月14日 広島高裁岡山支部 平28(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(83)平成28年10月13日 東京地裁 平27(行ウ)55号 難民不認定処分取消請求事件
(84)平成28年10月12日 大阪高裁 平28(ネ)1060号 損害賠償等請求控訴事件
(85)平成28年10月12日 東京地裁 平25(刑わ)2945号 業務上横領被告事件
(86)平成28年 9月29日 東京高裁 平28(ネ)25号 メールマガジン記事削除等請求控訴事件
(87)平成28年 9月29日 大阪地裁 平26(行ウ)81号・平26(行ウ)116号 平成24年度茨木市議会政務調査費返還請求事件、平成24年度(2月~3月分)茨木市議会政務調査費返還請求事件
(88)平成28年 9月29日 金沢地裁 平27(行ウ)2号 政務調査費返還請求事件
(89)平成28年 9月23日 奈良地裁 平28(ワ)3号 放送受信料請求事件
(90)平成28年 9月 7日 名古屋高裁 平28(行コ)2号 難民不認定処分取消請求控訴事件
(91)平成28年 8月23日 東京地裁 平27(行ウ)384号 難民不認定処分取消等請求事件
(92)平成28年 8月12日 大阪地裁 平21(ワ)16484号・平21(ワ)17256号 地位確認等請求事件、損害賠償請求事件
(93)平成28年 8月 9日 東京地裁 平27(ワ)648号・平27(ワ)6184号 地位確認等請求事件
(94)平成28年 7月28日 名古屋高裁 平28(行コ)19号 難民不認定処分等取消請求控訴事件
(95)平成28年 7月26日 東京地裁 平27(ワ)22544号 損害賠償請求事件
(96)平成28年 7月19日 東京高裁 平27(ネ)3610号 株主代表訴訟控訴事件
(97)平成28年 7月13日 名古屋高裁 平27(行コ)71号 難民不認定処分取消等請求控訴事件
(98)平成28年 7月 8日 大阪地裁 平26(行ウ)3号 損害賠償請求事件(住民訴訟)
(99)平成28年 7月 4日 東京地裁 平27(レ)413号 損害賠償請求控訴事件
(100)平成28年 6月30日 東京地裁 平27(行ウ)542号 渋谷区議会本会議質問制限差止等請求事件


政治と選挙の裁判例(裁判例リスト)

■「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧【1-101】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-consultant/

■「選挙 立候補」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-rikkouho/

■「政治活動 選挙運動」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seijikatsudou-senkyoundou/

■「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou-poster/

■「選挙 ビラ チラシ」に関する裁判例一覧【1~49】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bira-chirashi/

■「政務活動費 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seimu-katsudouhi-poster/

■「演説会 告知 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-seiji-enzetsukai-kokuchi-poster/

■「公職選挙法 ポスター 掲示交渉」に関する裁判例一覧【101~210】
https://www.senkyo.win/kousyokusenkyohou-negotiate-put-up-poster/

■「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧【211~327】
https://www.senkyo.win/political-poster-kousyokusenkyohou-explanation/

■「公職選挙法」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou/

■「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-kouhou-poster-bira/

■「選挙妨害」に関する裁判例一覧【1~90】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bougai-poster/

■「二連(三連)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-2ren-3ren-poster-political-party-official-candidate/

■「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kojin-tandoku-poster-political-party-official-candidate/

■「政党 公認 候補者 公募 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-party-official-candidate-koubo-poster/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-politician/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 公報 広報」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-campaign-bulletin-gazette-public-relations/

■「国政政党 地域政党 二連(三連)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-2ren-3ren-poster/

■「国政政党 地域政党 個人(単独)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-kojin-tandoku-poster/

■「公認 候補者 公募 ポスター 国政政党 地域政党」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-official-candidate-koubo-poster-kokusei-seitou-chiiki-seitou/

■「政治団体 公認 候補者 告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-official-candidate-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster/

■「政治団体 後援会 選挙事務所 候補者 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-kouenkai-senkyo-jimusho-official-candidate-poster/

■「政党 衆議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-shuugiin-giin-poster/

■「政党 参議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-sangiin-giin-poster/

■「政党 地方議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-chihou-giin-poster/

■「政党 代議士 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-daigishi-giin-poster/

■「政党 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-poster-hari-volunteer/

■「政党 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-touin-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「政治団体 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seiji-dantai-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「後援会 入会 募集 獲得 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kouenkai-nyuukai-boshuu-kakutoku-daikou/


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


【資料】政治活動用事前街頭ポスター新規掲示交渉実績一覧【PRドットウィン!】選挙,ポスター,貼り,代行,ポスター貼り,業者,選挙,ポスター,貼り,業者,ポスター,貼り,依頼,タウン,ポスター,ポスター,貼る,許可,ポスター,貼ってもらう,頼み方,ポスター,貼れる場所,ポスター,貼付,街,貼り,ポスター,政治活動ポスター,演説会,告知,選挙ポスター,イラスト,選挙ポスター,画像,明るい選挙ポスター,書き方,明るい選挙ポスター,東京,中学生,選挙ポスター,デザイン


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(7)地域密着型ポスターPR広告貼り 地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)
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(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
政治活動/選挙運動ポスター貼り 勝つ!選挙広報支援事前ポスター 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
選挙事務所/後援会連絡所届出代行 公職選挙法の上限/立て札看板設置 1台から可能な選挙立札看板設置
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