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政治と選挙Q&A「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例(13)平成26年 5月21日 横浜地裁 平19(ワ)4917号・平20(ワ)1532号 損害賠償等請求事件

政治と選挙Q&A「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例(13)平成26年 5月21日 横浜地裁 平19(ワ)4917号・平20(ワ)1532号 損害賠償等請求事件

裁判年月日  平成26年 5月21日  裁判所名  横浜地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)4917号・平20(ワ)1532号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  文献番号  2014WLJPCA05219005

要旨
◆厚木基地に離着陸する航空機(自衛隊機及び米軍機)の発する騒音により被害を受けているとする周辺住民が国に対し航空機の夜間の運行等の差止めと国家賠償法2条1項に基づく損害賠償(慰謝料及び弁護士費用)を求めた請求が、過去分(口頭弁論終結日まで)の損害賠償請求の一部の限度で認容された事例

裁判経過
上告審 平成28年12月 8日 最高裁第一小法廷 判決 平27(受)2309号 損害賠償等請求事件
控訴審 平成27年 7月30日 東京高裁 判決 平26(ネ)4072号・平26(ネ)5910号・平27(ネ)603号・平27(ネ)1414号 各損害賠償等請求控訴、同各附帯控訴事件

出典
裁判所ウェブサイト

評釈
松井章浩・法セ増(新判例解説Watch) 17号331頁
村上裕章・法政研究(九州大学) 82巻1号65頁
神橋一彦・立教法学 91号1頁
麻生多聞・法セ 716号114頁
山下竜一・法セ 716号115頁
福田護・法セ 719号20頁
本多滝夫・法教 411号50頁

裁判年月日  平成26年 5月21日  裁判所名  横浜地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)4917号・平20(ワ)1532号
事件名  損害賠償等請求事件
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  文献番号  2014WLJPCA05219005

平成19年(ワ)第4917号 (第1事件)
平成20年(ワ)第1532号 (第2事件)

当事者の表示 別紙1(当事者目録)記載のとおり

 

主   文

1  本件各訴えのうち次の部分を却下する。
(1)  別紙2(差止請求原告目録)記載の原告らによる自衛隊の使用する航空機の離着陸及びエンジンの作動の差止め並びに音量規制の請求に係る部分
(2)  平成25年9月3日以降に生ずべき損害の賠償請求に係る部分
(3)  別紙19(第3次訴訟原告目録)記載1の原告らについては平成17年7月26日まで,同別紙記載2の原告については同年1月19日までに生じた損害の賠償請求に係る部分
2  被告は各原告(ただし,原告や1286,同や1658,同や2576及び同や4282を除く。)に対し次の金員を支払え。
(1)  別紙21(損害賠償認容額一覧表)のE欄(総計欄)記載の金員
(2) 第1事件原告らについては,別紙21(損害賠償認容額一覧表)のA欄記載の金員に対する平成18年1月1日から,B欄記載の金員に対する平成19年1月1日から,C欄記載の金員に対する平成20年1月1日からいずれも支払済みまで年5%の割合による金員,第2事件原告らについては,同別紙のA欄記載の金員に対する平成18年5月1日から,B欄記載の金員に対する平成19年5月1日から,C欄記載の金員に対する平成20年5月1日からいずれも支払済みまで年5%の割合による金員
3  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,第2事件を通じ,第2項柱書き括弧内に原告番号を特定して記載した原告らに生じた費用は同原告らの負担とし,別紙2(差止請求原告目録)記載の原告らに生じた費用はこれを4分し,その3を同原告らの,その余を被告の負担とし,その余の原告らに生じた費用はこれを8分し,その5を同原告らの,その余を被告の負担とし,被告に生じた費用はこれを3分し,その2を原告らの,その余を被告の負担とする。
5  この判決は,第2項に限り,被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1部  請求及び事案の概要
第1  請求(第1,第2事件を通じて)
1 被告は自ら又はアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」といい,アメリカ合衆国を「米国」という。)をして,別紙2(差止請求原告目録)記載の原告ら(以下「差止原告ら」という。)のために,
(1) 厚木海軍飛行場において,毎日午後8時から翌日午前8時までの間,一切の航空機を離着陸させてはならず,かつ,一切の航空機のエンジンを作動させてはならない。
(2) 厚木海軍飛行場の使用により,毎日午前8時から午後8時までの間,上記原告らの居住地に70dB(デシベル)を超える一切の航空機騒音を到達させてはならない。
2  被告は各原告に対し次の金員を支払え。
(1)  別紙4(第1事件訴状添付損害賠償額一覧表)及び同5(第2事件訴状添付損害賠償額一覧表)の各D欄記載の金員
(2) 第1事件原告らについては,別紙4(第1事件訴状添付損害賠償額一覧表)のA欄記載の金員に対する平成18年1月1日から,B欄記載の金員に対する平成19年1月1日から,C欄記載の金員に対する平成20年1月1日からいずれも支払済みまで年5%の割合による金員,第2事件原告らについては,同5(第2事件訴状添付損害賠償額一覧表)のA欄記載の金員に対する平成18年5月1日から,B欄記載の金員に対する平成19年5月1日から,C欄記載の金員に対する平成20年5月1日からいずれも支払済みまで年5%の割合による金員
3  被告は各原告に対し,第1事件原告らについては平成20年1月1日から,第2事件原告らについては同年5月1日からいずれも第1項による差止め及び音量規制が実現するまで,1か月2万3000円を月の末日ごとに支払え。
第2  事案の概要
本件は,神奈川県に所在しアメリカ合衆国海軍(以下「米海軍」という。)及び海上自衛隊が使用している厚木基地(通称である。正式名称は厚木海軍飛行場)の周辺である神奈川県大和市,綾瀬市,相模原市,座間市,藤沢市,海老名市及び茅ヶ崎市並びに東京都町田市に居住し又は居住していた住民6993名(第1,第2事件の原告合計数)が,厚木基地に離着陸する航空機の発する騒音により身体的被害及び睡眠妨害,生活妨害等の精神的被害を受けているとして,被告に対し,国家賠償法2条1項に基づき基地の設置・管理者としての責任を問い,居住期間中に生じた損害及び将来生ずべき損害の賠償を求め(損害額は一律に1名につき1か月当たり慰謝料2万円と弁護士費用3000円の合計2万3000円),そのうち75名がこれに加えて人格権に基づき厚木基地における航空機の運航について権限を有する者としての責任を問い,航空機の離着陸等の差止め(毎日午後8時から翌日午前8時までの間,一切の航空機の離着陸及びエンジンの作動の禁止)及び音量規制(原告らの居住地に70dBを超える一切の航空機騒音を到達させることの禁止)を求める事案である。
すなわち原告らは,第1,第2事件を通じて,その全員が過去(口頭弁論終結まで)及び将来(口頭弁論終結後)の損害の賠償(慰謝料及び弁護士費用の支払)を求め(過去の損害の一部については民法所定の年5%の割合による遅延損害金を含む。),そのうちの一部の者が厚木基地における航空機の離着陸等の差止め及び音量規制を求めている(以下,この差止め及び音量規制の請求を併せて「差止請求」という。)。原告らは,本件における慰謝料請求とは,身体的被害に基づく非財産的損害とその他の様々な被害に基づく全ての精神的損害を合わせた包括的な損害についての一部請求であるとしている。
これに対し被告は,将来の損害の賠償請求及び自衛隊の使用する航空機(以下「自衛隊機」という。)の差止請求に係る訴えは不適法であるとして却下を求め,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)の差止請求は主張自体理由がないとして棄却を求め,過去の損害の賠償請求については,原告らが航空機騒音によって受けている影響は受忍限度内にとどまるとして請求の全部の棄却を求めるとともに,仮に国家賠償法2条1項の賠償責任が生ずるとしても,原告らの一部の者は厚木基地における航空機騒音等を認識しあるいは認識することができたのに厚木基地の周辺に転居してきたなどとして危険への接近の理論に基づく免責又は賠償額の減額を主張し,さらに,住宅防音工事への助成を始めとして被告が行ってきた厚木基地の周辺対策等の諸般の事情に照らせば原告らの主張する慰謝料及び弁護士費用の額は過大であるとして争っている。
厚木基地の周辺住民(本件の原告らと必ずしも一致しない。)は,昭和51年9月以降これまで3回にわたり,厚木基地に離着陸する航空機の騒音等による被害を受けているとして被告を提訴し,いずれも被告の国家賠償責任を肯定する判決が確定しており,本件(第1,第2事件)は周辺住民による4回目の提訴である。その提起の時期は,第1事件が平成19年12月17日,第2事件が平成20年4月21日である(記録上明らかな事実)。

第2部  前提となる事実
第1  厚木基地の沿革と騒音問題の経緯
争いのない事実並びに括弧内掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
1  厚木基地の現況(甲A1から3まで,9の1~3,11,17の1・2)神奈川県の中央部東側,大和市,綾瀬市及び海老名市にまたがって,総面積約507万㎡の厚木基地がある(ただし,海老名市にあるのはごく一部である。)。その中心を占めるのが,南北方向に延びる長さ2438m,幅45mの滑走路とその南北両端に各304mにわたって設けられたオーバーランである。
厚木基地は現在,米海軍厚木航空施設及び海上自衛隊厚木航空基地として使用されている。
米海軍は,施設管理を行う厚木航空施設司令部を始め,西太平洋艦隊航空司令部,第5空母航空団,第51対潜ヘリコプター飛行中隊等を厚木基地に駐留させ,航空機の整備・補給・支援業務のほか,空母艦載機の操縦士のための飛行訓練をここで行っている。
海上自衛隊は,航空集団司令部,第4航空群,第51航空隊,第61航空隊,航空管制隊等を厚木基地に駐留させている。第4航空群は我が国の周辺海域における警戒監視任務を活動の中心とし,災害派遣等の民生協力活動やその教育訓練活動等を行い,第51航空隊は航空機の運用についての調査研究等を,第61航空隊は人員及び貨物の輸送業務を,航空管制隊は海上自衛隊の航空機運航に必要な航空情報の通報,飛行計画の申請及び承認に関する連絡事務,運航管制に関する教育指導等を担当している。
厚木基地はかつて旧海軍省の所属財産であったが,同省が廃止されたことから大蔵省に引き継がれてその所管の普通財産となった。後記のとおり昭和46年7月1日にその一部(後記の「米軍一時使用区域」)の管理権が我が国に返還されたが,その部分についても防衛庁の行政財産への所管換えはされず,防衛庁長官が使用承認を受けて海上自衛隊が管理することとなった(普通財産取扱規則(昭和40年4月1日大蔵省訓令第2号)5条,32条)。現在までこの法律関係に変わりはないが,その後大蔵省は財務省に,防衛庁は防衛省になっている。
昭和33年11月及び昭和35年10月,被告は米国に対し,厚木基地の滑走路の南北両端に安全地帯を設定する用地として国有地合計約36万7000㎡を提供した。一方,当初厚木基地とされていた区域の一部約30万㎡は,昭和46年12月から平成6年12月にかけて順次被告に返還されて大蔵省所管の普通財産となり,その一部は海上自衛隊の宿舎等の施設用地として利用され,残部は大和市及び綾瀬市に無償貸付け(国有財産法22条1項)又は減額譲渡(国有財産特別措置法3条1項)されて公園用地等として利用されている。
2  厚木基地の設置及び管理の経緯(甲A1から3まで,9の1~3,11,17の1・2,乙A52,53の1・2,54)
(1) 昭和46年6月30日まで
ア 厚木基地は,昭和16年頃から旧海軍省により航空基地として使用されていたが,昭和20年9月,米国陸軍に接収された。昭和25年12月には米海軍が移駐し,以後,米海軍の航空基地となった。「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(以下「旧日米安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定」(以下「日米行政協定」という。)が昭和27年4月28日に発効した後は,厚木基地は,日米行政協定2条1項に基づき,米軍の使用する施設及び区域として米国に提供された(名称は「海軍飛行場キャンプ厚木」である。昭和27年外務省告示第33号,第34号)。
イ 昭和27年4月以降,旧日米安保条約に基づき米国に対して提供される施設及び区域の決定並びにその返還を求める手続は日米合同委員会の協議により行われることとなった(日米行政協定2条,26条)。これは「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下「日米安保条約」という。)及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下「日米地位協定」という。)が発効した後も同様である(日米地位協定2条,25条)。日米合同委員会とは,日米行政協定ないし日米地位協定の実施に関して我が国政府と米国政府とが協議を行うために設けられた協議機関である。
昭和27年7月15日に航空法が公布,施行され,同日,これと併せて,「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約に基く行政協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(現在の題名は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」である。以下「航空法特例法」という。)が公布,施行された。航空法特例法により,米国に提供される施設及び区域における航空機の運航等と我が国の領空における航空機の運航等との調整が図られることとなり,航空法のうち次の事項については,米軍の使用する飛行場,米軍機及びこれに乗り組んでその運航に従事する者には適用されないこととされた。
① 空港等又は航空保安施設の設置に係る運輸大臣(現在は国土交通大臣。以下同じ。)の許可(航空法38条1項)
② 耐空証明を受けた航空機以外を航空の用に供すること等の禁止(同法11条)
③ 航空機の運航従事者の資格についての技能証明(同法28条1項,2項)
④ 操縦教育証明を受けている者以外による操縦教育の禁止(同法34条2項)
⑤ 外国航空機の航行の許可(同法126条2項)
⑥ 外国航空機の国内使用の禁止(同法127条)
⑦ 外国航空機の軍需品輸送の禁止(同法128条)
⑧ 各種証明書等の承認(同法131条)
⑨ 航空法第6章(航空機の運航)の各規定(ただし,同法96条から98条までを除く。「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律施行令」参照)
この結果,米軍は,航空法との調整を保ちつつも,自らの判断と責任において,厚木基地に離着陸する米軍機を始めとする航空機の運航管理を専権的に行うことになった。
一方,航空法の制定に伴い,我が国の領空における航空機の航空交通管制は運輸大臣の権限事項とされ,米軍機もこれに服することになったが(上記のとおり,航空法96条から98条までは米軍機にも適用される。),日米行政協定6条1項(日米地位協定6条1項も同じ。)に基づく日米合同委員会の合意により,日米行政協定2条(日米地位協定2条も同じ。)により米国に提供された飛行場施設の隣接,近傍空域における航空交通管制業務は,米国,具体的には米軍が行うこととされた。これにより,航空交通管制業務(航空法施行規則199条1項)のうち,航空路管制業務は運輸大臣が所管するが,それ以外の管制業務(飛行場管制業務,進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務及び着陸誘導管制業務)は米軍が行うこととされた。
ウ 昭和35年6月23日に日米安保条約及び日米地位協定が発効し,厚木基地は同日以降,日米地位協定2条1項(a)に基づき米軍の使用する施設及び区域として引き続き米国に提供されることとなった。同項(b)により,米国が日米行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は,日米両政府が同項(a)の規定に従って合意した施設及び区域とみなされるためである。その名称は,昭和36年4月19日,「厚木海軍飛行場」に変更された(昭和36年調達庁告示第4号。これが現在までの正式な名称であるが,一般には厚木基地と呼ばれており,本判決でも,特に正式名称を用いる必要がない限り,厚木基地と呼ぶことにする。)。
(2) 昭和46年7月1日から現在まで
ア 昭和46年6月29日,厚木基地の一部についての共同使用及び使用転換が閣議決定され,これを踏まえ,同月30日,日米合同委員会において基地使用に係る日米政府間協定が締結され,同年7月6日に告示された(昭和46年防衛施設庁告示第7号)。
この閣議決定と告示によれば,別紙6(被告最終準備書面添付別図第1)(以下「別紙6図面」という。)の赤斜線部分(263万9157㎡の土地及びその上の建物等),すなわち滑走路及び管制塔を含む厚木基地の飛行場部分は,使用転換されて海上自衛隊が管轄管理することとなったが,同時に,日米地位協定2条4項(b)に基づいて米軍に一時使用を認めることとされた。同図面の黄色部分(117万8779㎡の土地及びその上の建物等)は,引き続き米軍が使用する部分であるが,同項(a)に基づいて海上自衛隊が共同使用することとされた。同図面のそれ以外の部分すなわち青色部分は,同条1項(a)に基づき引き続き米国に提供され,使用されるものとされた(以下,同図面の黄色部分を「日米共同使用区域」,青色部分を「米軍専用区域」という。)。
このうち米軍に一時使用が認められた部分(赤斜線部分)について,防衛庁長官は,自衛隊法107条5項を受けた「飛行場及び航空保安施設の設置及び管理の基準に関する訓令」(昭和33年12月3日防衛庁訓令第105号)2条に基づき,自衛隊の飛行場施設(名称は「厚木飛行場」)を設置し,昭和46年7月1日に告示した(昭和46年防衛庁告示第131号)。本判決においてもこの赤斜線部分を「厚木飛行場」というが,「日米共同使用区域」,「米軍専用区域」と対比して「米軍一時使用区域」ということもある。「厚木基地」との関係を整理すると,基地の施設及び区域全体が「厚木基地」であり(正式名称は厚木海軍飛行場),その一部であって米軍が一時使用を認められる部分が「厚木飛行場」である。
厚木飛行場の設置に伴い,昭和46年12月から昭和48年12月にかけて,海上自衛隊の航空集団の中枢である航空集団司令部と第4航空群がここに移駐した。以後,第4航空群の長が厚木飛行場の管理に当たっている。
平成23年7月13日,米軍専用区域の一部について共同使用が決定され(平成23年防衛省告示第174号),現在の状況は別紙7(被告最終準備書面添付別図第2)(以下「別紙7図面」という。)のとおりとなっている。
イ 厚木飛行場の管理権を我が国が有することになったことから,昭和46年7月1日以降,その航空交通管制業務のうち飛行場管制業務と着陸誘導管制業務を海上自衛隊厚木航空基地分遣隊(現在は厚木航空基地隊)が行うこととなった(昭和46年運輸省告示第235号)。
現在の状況を整理すると,航空交通管制業務のうち航空路管制業務を国土交通省所管の管制所が行い,飛行場管制業務及び着陸誘導管制業務を海上自衛隊が行い,進入管制業務及びターミナル・レーダー管制業務を米軍(横田進入管制所及び横田ターミナル・レーダー管制所)が行っている。
3  厚木基地の基地機能の変遷と騒音問題の経緯(甲A1から3まで,9の2,11,12,17の1・2,37の8・9,38の8・9,甲C55,56,64,甲D2の230・277・321・339・353・357・374の1~2,乙A34,179,乙C35,乙D1の1~11,2から13まで,14の1~10)
(1) 昭和57年まで
厚木基地は米国陸軍による接収後,その輸送基地として使用されていたが,朝鮮戦争の勃発に伴い滑走路等が復旧され,昭和25年12月から米海軍の航空基地となった。昭和30年代には滑走路の延長,オーバーランの設置,航空機の大型化に伴う滑走路のかさ上げ等の工事が行われて航空基地としての機能強化が図られ,昭和35年頃から米海軍のジェット機が飛来するようになった。
厚木基地の周辺住民は昭和35年,厚木基地爆音防止期成同盟を結成し,その委員長は昭和36年5月,厚木基地の航空機騒音により人権侵害を受けていることを横浜地方法務局に申告した。法務省はこれを受けて調査を行い,昭和39年10月,厚木基地の飛行場周辺及び航空機の進入路下に当たる地域においては騒音が激しい場合があり,その地域の相当多数の住民が精神的及び日常生活上ある程度の被害を受けていると認定し,更に調査検討の上適当な措置を講ぜられたいとしてこの調査結果を防衛施設庁に通知した。
昭和46年12月,前記のとおり海上自衛隊の第4航空群等が厚木基地に移駐し,移駐後における自衛隊機の数は35機となった。
昭和48年10月,米海軍第7艦隊所属の空母ミッドウェーが横須賀基地(米軍の「横須賀海軍施設」)を事実上の母港として初入港した。平成3年には空母ミッドウェーに代わって空母インディペンデンスが,平成10年には同空母に代わって空母キティホークが,平成20年には同空母に代わって空母ジョージ・ワシントンが,それぞれ横須賀基地を母港としている。これらの空母には米海軍第5空母航空団所属の艦載機が搭載されており,その整備,補給,訓練等の活動が厚木基地で展開されるに至った。こうして,昭和48年10月頃以降,空母艦載機が厚木基地に頻繁に飛来している。
厚木基地の周辺自治体は既に昭和35年から航空機騒音への対策に乗り出していたが,空母艦載機が飛来するようになった昭和48年頃からは,厚木基地に離着陸する航空機による騒音等が社会問題として新聞,テレビ等で大きく取り上げられるようになり,後記のとおり,昭和51年9月には第1次厚木基地騒音訴訟が提起された。
海上自衛隊は,昭和54年,厚木基地の滑走路の補修,誘導灯やILS(計器着陸装置)施設の新設等の工事を行い,昭和56年10月に第51航空隊を移駐させた。同年12月には対潜哨戒機P3-Cを配備した。
(2) 昭和57年以降
米海軍は,昭和57年2月から,厚木基地でNLP(Night Landing Practice)を開始した。
NLPとは,空母艦載機が陸上で行う着艦訓練(FCLP=Field CarrierLanding Practice)のうち夜間に行われるものであり,夜間において滑走路を空母甲板に見立ててタッチアンドゴーを行うことをいう。タッチアンドゴーとは,航空機の離着陸訓練の一つであり,滑走路へ進入降下し,着地,地上滑走した後,再びエンジン出力を上げて離陸するという一連の操作を繰り返すことである。空母への着艦,特に夜間におけるそれは滑走路への着陸に比べてはるかに高度な技量を必要とするため,米海軍では,艦載機の操縦士は訓練により常にその精度を保つ必要があるとされ,特に空母の出港前には所定の方法で一定の回数のNLPを行うことが義務付けられている。訓練中,航空機は飛行場の周辺上空を周回し,地上の誘導ライトを頼りに大きな推力を維持しつつ滑走路に進入し,着陸後直ちに急上昇することを繰り返す。米海軍は当初,三沢基地と岩国基地でNLPを実施していたが,遠方であること等から時間・費用面での問題が多いとされ,昭和57年2月以降,厚木基地で実施することとなった。
NLPの実施により厚木基地周辺の航空機騒音は激化し,後記のとおり昭和59年10月,第2次厚木基地騒音訴訟が提起された。さらに,周辺自治体等からの強い抗議や代替訓練施設の設置要請もあり,被告は昭和63年6月,暫定的な措置として硫黄島でのNLPの実施を米国に申し入れ,合意に達した。そして,被告は平成5年3月末,硫黄島にNLP実施のための訓練施設(宿舎や更生施設等の関連施設を含む。)を完成させた。
その後,空母艦載機が実施するNLPの多くは硫黄島で行われるようになったが,硫黄島付近の天候上の問題や厚木基地から遠方であるなどの理由により,硫黄島に全面移転されることはなく,厚木基地でも行われることがある。
厚木基地の周辺住民は,NLPが硫黄島で実施されるようになった後も騒音等による被害が著しいとして,後記のとおり平成9年12月に第3次厚木基地騒音訴訟を提起した。
(3) 最近の動向と今後の見込み
ア 厚木基地に配備されている米軍機
厚木基地に飛来する米海軍の空母艦載機は第5空母航空団所属のものであり,機種としてはF/A18-E及びF/A18-F(戦闘攻撃機。Eは単座,Fは複座である。),EA-18G(電子戦機),E-2C(早期警戒機),C-2A(輸送機),SH60-F(対潜ヘリコプター),HH-60H(救難ヘリコプター)などがある。
F/A-18E及びF/A-18F(スーパーホーネット)は,平成15年11月以降,それまで配備されていたF/A-18C及びF/A-18D(ホーネット)に代わって配備されたジェット機であり,平成16年10月までに合計26機が配備された。スーパーホーネットはホーネットよりも機体が大型化し,エンジン推力も35%増加しており,これに伴ってより大きな騒音を発する。
また,EA-18G(グラウラー)は,それまで配備されていたEA-6B(プラウラー)に代わって平成24年3月に配備されたもので,機数は合計6機である。グラウラーは,スーパーホーネットをベースに開発された電子戦機であり,エンジン推力はプラウラーの2倍近くに達する。
イ 厚木基地に配備されている自衛隊機
海上自衛隊は,前記の対潜哨戒機P-3Cのほか,多用機(LC-90,UP-3C),輸送機(YS-11M,YS-11M-A),哨戒ヘリコプター(SH-60J,SH-60K)等を厚木基地に配備している。ジェット機はこれまで,飛来することはあったが,配備はされていなかった。
プロペラ機であるP-3Cの後継機として平成25年3月に配備されたP-1はジェット機であり,平成25年度末までに合計7機が配備される予定である。
ウ 今後の見込み
日米安全保障協議委員会は,平成18年5月,「再編実施のための日米のロードマップ」を承認した。同委員会は,日米安保条約に基づき,日米政府間の相互理解を促進することに役立つとともに安全保障の分野における両国間の協力関係の強化に貢献するような問題であって安全保障問題の基盤をなすもののうち安全保障問題に関するものを検討するために設置された特別の委員会であり,我が国の外務大臣と防衛大臣,米国の国務長官と国防長官の4閣僚で構成される。上記のロードマップの中には,「厚木飛行場から岩国飛行場への空母艦載機の移駐」という項目が設けられ,①米海軍第5空母航空団の厚木飛行場から岩国飛行場への移駐は,F/A-18,EA-6B,E-2C及びC-2航空機から構成され,必要な施設が完成し,訓練空域及び岩国レーダー進入管制空域の調整が行われた後,平成26年までに完了する,②厚木飛行場から行われる継続的な米軍の運用の所要を考慮しつつ,厚木飛行場において,海上自衛隊EP-3,OP-3,UP-3飛行隊等の岩国飛行場からの移駐を受け入れるための必要な施設が整備される,などとされた。
しかし,防衛省は平成25年1月,厚木基地の周辺自治体に対し,平成26年度中に実施予定とされていた米海軍空母艦載機59機の岩国飛行場への移駐は平成29年頃になる見込みであると説明した。
4  米軍と自衛隊の騒音問題への対応(甲A1から3まで,11,12,乙A60の1・2)
(1) 米軍
日米合同委員会は昭和38年9月19日,厚木基地周辺における米軍の航空機騒音の規制に関し諸種の措置を設けることに合意した。昭和44年11月20日に一部改正された後の合意事項は概要次のとおりである。
① 午後10時から午前6時までの間,厚木基地における全ての活動(飛行及びグランド・ラン・アップ)は,運用上の必要に応じ,及び米軍の態勢を保持する上に緊要と認められる場合を除き,禁止される。
② 訓練飛行は,日曜日には最小限にとどめる。
③ アフターバーナー装備の航空機は,基地空域内においてできるだけ速やかに離陸・上昇することが要求される。アフターバーナーは,安全飛行状態を持続するために継続して使用しなければならない場合又は運用上の必要性による場合を除き,飛行場の境界線に達する前に使用を停止しなければならない。
④ 離陸及び着陸の間を除き,航空機は人口稠密地域の上空を低空で飛行しない。
⑤ 基地周辺の空域においては,曲技飛行及び空中戦闘訓練を実施しない。ただし,年間定期行事として計画された曲技飛行の展示はその限りでない。
⑥ 着艦訓練のための航空機は,場周経路では2機に制限される。
⑦ 離陸及び着陸の間を除き,空母着艦訓練等のための航空機は,特定のタイプの訓練を必要とする場合を除き,平均海面上1600フィート以下で飛行しない。特殊の訓練は,訓練の必要に見合った必要最小限度にとどめるものとし,かつ,そのパターンは,平均海面上800フィート以下は通らない。
⑧ 運用能力又は態勢が損なわれる場合を除き,ジェットエンジンは,午後6時から午前8時までの間,試運転されない。
⑨ ジェットエンジンテスト等の実施に当たっては,厚木基地は,実行可能なできるだけ早い時期に効果的な消音器を装備し,それを騒音減衰のために使用する。
⑩ 操縦士は,騒音問題について機会あるごとに十分教育を受ける。
(2) 自衛隊
厚木基地においては,現在,自衛隊機(第4航空群)の運航について次のような自主規制が行われている。
ア 厚木飛行場規則(平成19年3月15日第4航空群達第2号)による自主規制
① 訓練飛行(タッチアンドゴー,ローアプローチ)及び地上試運転の規制時間は,原則として次の表のとおりとする。

② 場周経路内における連続離着陸訓練機及び連続離着陸訓練回数は制限する。
③ 厚木管制圏内での編隊飛行は,原則として実施しないものとする。
④ 飛行場及びその周辺空域における既定の飛行経路の高度よりも低い高度での飛行は,任務及び訓練上必要な場合を除き行わないものとする。
⑤ 離陸時のアフターバーナーの使用は,運行上必要な場合に限る。ただし,この場合,飛行場の境界線又は安全な高度及び速度に達したときには,使用を中止するものとする。
⑥ 着艦訓練(FCLP)は許可しない。
イ 「厚木航空基地における航空機騒音の軽減に関する規制措置について(通知)」(平成10年11月4日4空群運第835号)による自主規制
① 同一時間に離着陸機が集中しないように各隊の離着陸訓練時間を調整する。
② 場周経路内の同時機数は,昼間は,固定翼機のみの場合は3機以内,回転翼機のみの場合は4機以内,固定翼機及び回転翼機が混在する場合はそれぞれ2機以内とし,夜間は,固定翼機又は回転翼機のみの場合はそれぞれ2機以内,固定翼機及び回転翼機が混在する場合はそれぞれ1機とする。
③ 連続離着陸訓練は,固定翼機については,原則として昼間4回,夜間3回以内とし,更に訓練を実施する場合は,一度場周経路を離脱し,10~15分経過後再度進入することとし,回転翼機については,原則として昼間4回,夜間3回以内とし,更に訓練を実施する場合は,B1又はヘリパッドで10~15分間ホバリング等の後再度進入する。
第2  航空機騒音の評価
証拠(括弧内掲記のもの)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
1  騒音とその大きさの評価(甲A1,2,11,甲C65,乙C36)
騒音とその測定方法一般については,国際連合の専門機関の一つであるWHO(World Health Organization 世界保健機関)が平成11年に公表した「環境騒音のガイドライン(実務的抄録)」(Guidelines for Community Noise)(A1=A2=A3訳。甲C65。以下「WHOガイドライン」という。)が次のように述べているとおりである。
「物理的には,音(sound)と騒音(noise)に違いはない。音はまた知覚でもあり,音波の複雑なパターンが,騒音,音楽,話し声などと識別される。かくして,騒音は望ましくない音,と定義される。
ほとんどの環境騒音は,数種類の単純な評価指標によって近似的に記述することができる。騒音の評価指標はすべて,音の周波数構成,オーバーオールの音圧レベルおよびそれらの時間変動を考慮している。音圧は音を作り出す空気の振動を表す基本的な指標である。人間が聞くことのできる音圧の幅は非常に広いので,音圧レベルはdB(デシベル)という単位の対数スケールで評価される。よって,音圧レベルを加算することや音圧レベルの算術平均をとることはできない。ほとんどの場合,騒音の音圧レベルは時間とともに変化し,また音圧レベルを算出するときには,変動する音圧の瞬間値を一定の時間で積分しなければならない。
ほとんどの環境音は,さまざまな周波数成分が複雑に混ざりあっている。周波数とは,音波の媒体である空気の1秒あたりの振動回数であり,単位はHz(ヘルツ)である。人間の可聴域は,聴力正常な若者の場合,20~20,000Hzとされている。しかし,人間の聴覚は,音の周波数によって感度が異なる。これを補正するために,さまざまな聴感補正特性を用いて各種環境音に固有の周波数成分の相対的強度が評価されてきた。聴感補正特性の中でも,低周波領域と比較して中・高周波数領域を重視するA特性がもっとも広く用いられている。A特性は人間の聴感特性を近似せんとするものである。
複合音の影響は,それらの騒音のエネルギー和と関係がある(等エネルギー原理)。ある期間の全エネルギーの和から,その期間の平均音響エネルギーに等価なレベルが得られる。LAeq,TはA特性補正した音のT時間の平均エネルギーに等価な定常音のレベルである。LAeq,Tは道路交通騒音や事実上連続音とみなせるような工場騒音などの連続音の評価に使用すべきものである。しかしながら,航空機騒音や鉄道騒音のように,一つ一つが明確に区別できる音がある場合には,LAeq,TだけではなくA特性音圧レベルの最大値(LAmax)や単発騒音曝露レベル(LAE)のような個々の発生騒音の指標も用いるべきである。騒音レベルが時間的に変動する場合は,レベル変動のパーセンタイル値を用いた評価もなされている。
現在,実務的には,ほとんどの騒音で等エネルギー原理がほぼ成立しLAeq,Tと騒音影響の対応はおおむねよい,という考え方が一般的である。ただし,発生回数の少ない音の場合,睡眠妨害やその他の生活妨害の評価にはA特性音圧レベルの最大値(LAmax)がより適している。しかしながら,ほとんどの場合は,単発騒音エネルギーを積分した値である単発騒音曝露レベル(LAE)がより整合性の高い評価尺度となる。昼間と夜間のLAeqを加算するときに,夜間の時間帯に重み付けをする方法もよく用いられる。夜間の重み付けは夜間に不快感の感受性が増大することを反映するためのものであり,それによって住民の睡眠を保護するものではない。」
一般に騒音の大きさは,上記の記述にあるとおり,A特性に応じた聴感補正をした音圧レベルで,dBを単位として表記される。「騒音レベル」という用語は,このようにして示された騒音の大きさを意味する。A特性であることを示すためにdB(A)とする表記法もあるが,騒音レベルとしてdBとあればdB(A)と同じことである。計量法は,音圧レベルの計量単位をデシベルと定め(同法4条1項,別表第2。なお,計量単位規則2条1項1号,別表第2により,デシベルの記号はdBとされている。),計量単位令3条1項,別表第2がこれを定義しているが,そこにいうデシベルは聴感補正をしたものとしていないものの両者を含む(計量単位規則6条,別表第10参照)。なお,平成4年法律第51号による改正前の計量法5条44号が「騒音レベルの計量単位は,ホン又はデシベルとする。」と規定していたように,かつてはデシベルとホンが相互互換的に用いられていたが,現在はホンは用いない。
あくまでも一応の目安であるが,騒音とdBとの対応として,電車の中が80dB,交通量の多い交差点が90dB,電車通過時の線路脇や地下鉄駅構内が100dB,自動車のクラクションや新幹線通過時の音が110dB,ビル工事現場やジェット機離陸時の音が120dBなどとされ,130dBが最大可聴値(これを超える音は痛みとしてしか感じられない。)とされている(甲A1,2,11)。
一方,上記の記述にあるLAeq,Tとは,等価騒音レベルと呼ばれ,一定の期間における騒音のエネルギーを考慮した騒音の評価指標である。
このように,騒音の大きさを評価する指標としては,音圧レベルを尺度とするものと,一定の期間における音のエネルギーを尺度とするものとがある。
2  航空機騒音とその大きさの評価(甲C66の1・2,乙A10,152,乙C7,36)
航空機騒音は,①騒音のピークレベルが工場騒音や自動車騒音など他の発生源による騒音と比較してはるかに高く,しかも広範囲に及ぶこと,②エンジンの影響により特定の周波数(高周波数)に片寄った特異な音質を有すること,③継続時間が数秒から数十秒の間欠音であることなどの特性がある。これらの特性を考慮した航空機騒音の評価指標として,これまで我が国ではWECPNLという評価指標が用いられてきた。
WECPNLは「Weighted Equivalent Continuous Perceived Noise Level」(加重等価継続感覚騒音レベル)のことであり,国際連合の専門機関の一つであるICAO(International Civil Aviation Organization 国際民間航空機関)が昭和46年に提案した騒音の評価指標であって,「うるささ指数」とも呼ばれる。等価騒音レベルと同じく一定の期間における騒音のエネルギーを考慮した評価指標である。簡単にいうと,航空機1機ごとの騒音のうるささを表す評価指標としてそれ以前に提案されていたPNL(Perceived Noise Level)の値に,継続時間補正及び純音補正を加え,さらに騒音発生時間帯を考慮して夜間及び深夜・早朝における騒音に重み付けを行って値を求めるものである。
WECPNLは後記のとおり昭和48年,航空機騒音に係る環境基準に採用され,それ以来現在まで,我が国における航空機騒音の評価指標の代表的なものとして広く用いられてきた。本件のように航空機騒音による被害の有無が問題とされる訴訟においても,WECPNLの値(以下,略して「W値」という。)が重要な判断基準として一貫して用いられてきている。
もっとも,昭和48年の環境基準が採用したW値の算定方法は,測定の便宜や計算の便宜を考慮して,ICAOが提案した算定方法を著しく簡略化したものであった。そのようなことや,国際環境の変化もあって,後記のとおり,現行の環境基準はWECPNLの使用を止め,代わりに時間帯補正等価騒音レベル(Lden)を採用することとなった。しかし,時間帯補正等価騒音レベルはまだ導入されたばかりであり,厚木基地周辺における騒音の評価指標としては,これまで,個々の騒音の音圧レベル(騒音レベル)を測定する際にはdBが,一定の期間の騒音を測定する際にはW値が用いられているので,本件でも,騒音の評価指標としてはdB及びW値を用いるほかない。
3  航空機騒音に係る環境基準等とW値(甲C1の9,66の1・2,乙A3,9,10,11,80から83まで,乙C41)
(1) 昭和48年に導入された環境基準
ア 昭和42年に公布,施行された公害対策基本法9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と規定し,政府にその基準の設定を義務付けた。これを受けて,環境庁長官は昭和48年12月,同条の規定に基づく騒音に係る環境上の条件のうち航空機騒音に係る基準として,「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年環境庁告示第154号)を告示した。
平成5年に環境基本法が公布,施行されたことに伴い公害対策基本法は廃止されたが,環境基本法16条1項は公害対策基本法9条1項と同様の規定を設けており,これに伴い,上記「航空機騒音に係る環境基準について」も環境基本法16条1項に基づく基準となった。
イ 平成19年環境省告示第114号による改正前の「航空機騒音に係る環境基準について」(以下「昭和48年環境基準」という。)の内容は次のとおりである。
昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい航空機騒音に係る基準及びその達成期間を次のとおり定めた。
環境基準は,専ら住居の用に供される地域(地域の類型Ⅰ)につきW値70以下(以下,W値は「70W」など数字に「W」を添えて表記する。)とし,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域の類型Ⅱ)につき75W以下とする。地域の類型は,公害対策基本法9条2項(環境基本法16条2項)に従い都道府県知事が指定する。
上にいうW値は次の①~⑤の方法により測定・評価した場合における値とする(以下,これに従ってW値を算定する方式を,後述の防衛施設庁長官の定めた算定方式(防衛施設庁方式)と対比させる意味で,「環境基準方式」という。)。
① 測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音のピークレベル(計量単位 dB)及び航空機の機数を記録するものとする。
② 測定は,屋外で行うものとし,その測定点としては,当該地域の航空機騒音を代表すると認められる地点を選定するものとする。
③ 測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定するものとする。
④ 評価は,①のピークレベル及び機数から次の算式により1日ごとの値(単位WECPNL)を算出し,そのすべての値をパワー平均して行うものとする。
dB(A)(_)+10log10N-27
(注)dB(A)(_)とは,1日の全てのピークレベルをパワー平均したものをいい,Nとは,午前0時から午前7時までの間の航空機の機数をN1,午前7時から午後7時までの間の航空機の機数をN2,午後7時から午後10時までの間の航空機の機数をN3,午後10時から午後12時までの間の航空機の機数をN4とした場合における次により算出した値をいう。
N=N2+3N3+10(N1+N4)
⑤ 測定は,計量法71条の条件に合格した騒音計を用いて行うものとする。この場合において,周波数補正回路はA特性を,動特性は遅い動特性(slow)を用いることとする。
環境基準は,公共用飛行場等の周辺地域においては,飛行場の区分ごとに定める達成期間で達成され,又は維持されるものとする。この場合において,達成期間が5年を超える地域においては,中間的に所定の改善目標を達成しつつ,段階的に環境基準が達成されるようにする。自衛隊等(自衛隊又は米軍)が使用する飛行場の周辺地域においては,平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある公共用飛行場等の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努めるものとする。
ウ 昭和48年環境基準は,中央公害対策審議会の答申に基づいて定められたものであるが,その答申に先立って中央公害対策審議会騒音振動部会特殊騒音専門委員会がとりまとめた「航空機騒音に係る環境基準について(報告)」(昭和48年4月12日)においては,「指針設定の基礎」として,「航空機騒音に係る環境基準の指針設定にあたっては,聴力損失など人の健康に係る障害をもたらさないことはもとより,日常生活において睡眠障害,会話妨害,不快感などをきたさないことを基本とすべきである」と述べられており,昭和48年環境基準もこれと同じ考え方に基づくものと解される。
エ 防衛庁長官官房長の「自衛隊飛行場に係る環境基準の達成について」と題する通知(昭和53年3月22日官文第1228号)によれば,厚木飛行場については,昭和48年環境基準の達成期間は「10年をこえる期間内に可及的速やかに」とされ,改善目標は,「1 5年以内に,85WECPNL未満とすること又は85WECPNL以上の地域において屋内で65WECPNL以下とすること。 2 10年以内に,75WECPNL未満とすること又は75WECPNL以上の地域において屋内で60WECPNL以下とすること。」とされている。
(2) 現行の環境基準
昭和48年環境基準は平成19年環境省告示第114号により改正され,改正後の基準(以下「現行環境基準」という。)が平成25年4月1日から適用されている。
この改正は,近年の騒音測定機器の技術的進歩及び国際的動向に即して,WECPNLの代わりに新たな評価指標として時間帯補正等価騒音レベル(Lden)を採用したものである。等価騒音レベル(LAeq)とは,一定の時間間隔について,変動する騒音の騒音レベルをエネルギー的な平均値として表した量であり,単位はdBである。時間帯補正等価騒音レベルとは,夕方の騒音,夜間の騒音に重み付けを行い評価した1日の等価騒音レベルをいう。
もっとも,昭和48年環境基準の基準レベルの早期達成の実現を図ることが肝要であり,騒音対策の継続性も考慮すべきであるため,現行環境基準の基準値は昭和48年環境基準の基準値に相当する値とするものとされている。すなわち,現行環境基準により,環境基準は,時間帯補正等価騒音レベルで,地域の類型Ⅰにつき57dB以下,地域の類型Ⅱにつき62dB以下とされたが,それぞれの数値は70W以下,75W以下に対応する。このことから分かるとおり,この程度のレベルの騒音においては,W値から13をマイナスしたものが時間帯補正等価騒音レベルの数値になる。
(3) 神奈川県及び東京都における地域類型の指定
神奈川県知事は,昭和48年環境基準にいう地域類型(現行環境基準も同じ。)に関し,昭和55年5月,厚木飛行場周辺における地域類型を告示した(昭和55年神奈川県告示第426号)。これによると,地域の類型Ⅰの地域は,相模原市,藤沢市,茅ケ崎市,大和市,海老名市,座間市及び綾瀬市の区域で所定の範囲の地域(都市計画法8条1項1号に掲げる工業専用地域及び厚木飛行場の敷地の地域を除く。)のうち,同号に掲げる第一種低層住居専用地域,第二種低層住居専用地域,第一種中高層住居専用地域,第二種中高層住居専用地域,第一種住居地域,第二種住居地域及び準住居地域並びに同号に掲げる用途地域として定められた地域以外の地域であり,地域の類型Ⅱの地域は,上記の所定の範囲の地域のうち,都市計画法8条1項1号に掲げる近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域である。
東京都知事による告示(昭和51年東京都告示第1068号)における厚木飛行場周辺の地域の類型Ⅰと類型Ⅱの分類も同様である。
(4) 法令に基づくW値の算定
ア 民間航空機の用に供される公共用飛行場の場合
民間航空機が使用する飛行場周辺における騒音に関しては,「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律」(以下「航空機騒音防止法」という。)が制定されており,公共用飛行場の周辺における航空機の騒音により生ずる障害の防止,航空機の離着陸の頻繁な実施により生ずる損失の補償その他必要な措置について定めている。同法8条の2は,特定飛行場(国土交通大臣が設置する公共用飛行場であって当該飛行場における航空機の離陸又は着陸の頻繁な実施により生ずる騒音等による障害が著しいと認めて政令で指定するもの並びに成田国際空港及び大阪国際空港をいう。同法2条)の設置者は,政令で定めるところにより航空機の騒音により生ずる障害が著しいと認めて国土交通大臣が指定する特定飛行場の周辺の区域(第一種区域)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者が航空機の騒音により生ずる障害を防止し,又は軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置をとるものとすると規定している。また,同法9条は同様に第二種区域と指定された区域における移転の補償等を,同法9条の2は同様に第三種区域と指定された区域における緑地帯等の整備を定めている。
これを受け,「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律施行令」(平成24年政令第252号による改正前のもの。以下「旧航空機騒音防止法施行令」といい,同改正後のものすなわち現行のものを「航空機騒音防止法施行令」という。)6条は,上記の区域の指定に関し,航空機の離陸又は着陸に伴う騒音の影響度をその騒音の強度,発生の回数及び時刻等を考慮して国土交通省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに国土交通省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると規定していた。これを受けた「公共用飛行場周辺における航空機騒音による障害の防止等に関する法律施行規則」(平成24年国土交通省令第78号による改正前のもの。以下「旧航空機騒音防止法施行規則」といい,同改正後のものすなわち現行のものを「航空機騒音防止法施行規則」という。)1項は,昭和48年環境基準に定められた算式と同じ算式によって区域指定の基準となる値(すなわちW値)を算出するものとし(同項1号),その値は,当該飛行場を使用する航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて算定するものとしていた(同項2号)。そして,旧航空機騒音防止法施行規則2項は,旧航空機騒音防止法施行令6条の「国土交通省令で定める値」を,第一種区域にあっては75(すなわち75W),第二種区域にあっては90(すなわち90W),第三種区域にあっては95(すなわち95W)とすると定めていた。
このように,公共用飛行場周辺における航空機騒音に関しては,昭和48年環境基準に定められたのと同じ方法(環境基準方式)により算定したW値を基準として工事の助成等の政策措置がとられることになっていた。
これに対し,平成25年4月1日に施行された航空機騒音防止法施行令及び航空機騒音防止法施行規則の各規定は,現行環境基準と同じく,基準値としてW値ではなく時間帯補正等価騒音レベルを採用している。
イ 自衛隊機又は米軍機の用に供される飛行場(防衛施設)の場合
自衛隊機又は米軍機が使用する飛行場(防衛施設)周辺における航空機騒音に関しては,上記アとは異なる方法によりW値を算定するものとされてきた。その内容は後記第3のとおりである。
第3  防衛施設である飛行場の周辺地域の騒音に関する法制度とその運用
1  法令の定め
「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律」(以下「環境整備法」という。)は,自衛隊等(自衛隊又は米軍をいう。同法2条1項)の行為又は防衛施設(自衛隊の施設又は日米地位協定2条1項の施設及び区域をいう。同条2項)の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする(同法1条)。
環境整備法4条によれば,被告は,政令で定めるところにより自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣が指定する防衛施設の周辺の区域(第一種区域)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者(所有者等)がその障害を防止し,又は軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものとするとされている(住宅の防音工事の助成)。
環境整備法5条によれば,被告は,政令で定めるところにより第一種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が特に著しいと認めて防衛大臣が指定する区域(第二種区域)に当該指定の際現に所在する建物,立木竹その他土地に定着する物件の所有者が当該建物等を第二種区域以外の区域に移転し,又は除却するときは,当該建物等の所有者等に対し,政令で定めるところにより,予算の範囲内において,当該移転又は除却により通常生ずべき損失を補償することができるなどとされている(移転の補償等)。
環境整備法6条によれば,被告は,政令で定めるところにより第二種区域のうち航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響に起因する障害が新たに発生することを防止し,併せてその周辺における生活環境の改善に資する必要があると認めて防衛大臣が指定する区域(第三種区域。以下,第一種区域,第二種区域及び第三種区域を合わせて「第一種区域等」という。)に所在する土地で同法5条2項の規定により買い入れたものが緑地帯その他の緩衝地帯として整備されるよう必要な措置を採るものとするなどとされている(緑地帯の整備等)。
環境整備法の委任を受けた「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行令」(以下「環境整備法施行令」という。)8条は,環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると規定している。
これを受けて定められた「防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則」(平成25年防衛省令第5号による改正前のもの。以下「旧環境整備法施行規則」といい,同改正後のものすなわち現行のものを「環境整備法施行規則」という。)1条は,上にいう「防衛省令で定める算定方法」を
dB(A)(_)+10logN-27
とし(同条1項),そこにいう「dB(A)(_)」を,1日の間の自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のそれぞれの最大値をパワー平均して得た値と定義し(同条2項1号),「N」を,1日の間の自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のうち,午前0時直後から午前7時までの間に発生するものの回数をN1,午前7時直後から午後7時までの間に発生するものの回数をN2,午後7時直後から午後10時までの間に発生するものの回数をN3及び午後10時直後から午後12時までの間に発生するものの回数をN4として,次に掲げる式によって算出して得た値と定義した(同項2号)。
N2+3N3+10(N1+N4)そして,防衛大臣は,これらの値の算定に当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとされた(同条3項)。
また,旧環境整備法施行規則2条は,環境整備法施行令8条にいう防衛省令で定める値について,第一種区域にあっては75(すなわち75W)(昭和49年の制定当初は85Wであったが,昭和54年総理府令第41号による改正により80Wと改められ,昭和56年総理府令第49号による改正により75Wと改められた。),第二種区域にあっては90(すなわち90W),第三種区域にあっては95(すなわち95W)と定めていた。
以上の各規定は,旧航空機騒音防止法施行令及び旧航空機騒音防止法施行規則と同じ趣旨のものといえる。
これに対し,環境整備法施行規則1条は,現行環境基準と同じく,W値に代えて時間帯補正等価騒音レベルによる算定方法を定めており,2条の定める値も,第一種区域においては62dB,第二種区域においては73dB,第三種区域においては76dBとされている。これらの規定は平成25年4月1日から施行されているが,同日以後の環境整備法4条の規定による第一種区域の指定,5条1項の規定による第二種区域の指定及び6条1項の規定による第三種区域の指定について適用するとされている。
2  防衛施設庁・防衛省におけるW値の算定方法
証拠(甲A7,22,甲C1の1~7・13,68,73,94,乙A16から18まで,乙C44,証人A4)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
(1) 防衛施設庁方式
旧環境整備法施行規則1条3項は,前記のとおり,同条2項の値(W値)を算定するに当たり,防衛大臣(平成19年9月1日より前は防衛施設庁長官。以下同じ。)は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻緊に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとした。
そこで,防衛施設庁長官は,上記算定方法等の細部基準等について「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準」を定めてこれによることとした(昭和55年10月2日施本第2234号(CFS))。
同基準は,防衛施設周辺におけるW値の算定方式(その内容は後記(2)において説明するとおりである。)を定めており,各防衛施設についてこれを用いてW値を算定した上,75W以上となる地域について5Wごとに同一のW値を示す地点を結んだ線を騒音コンターとするものとしている。すなわち,騒音コンターとは,航空機騒音として同一のW値が測定された地点を結んだ曲線であり,天気図の気圧線(等圧線)や地形図の標高線(等高線)に相当するものである。
同基準は,防衛施設庁長官が「第一種区域等の指定に関する細部要領」(平成16年11月1日施本第1589号(CFS))を定めたことに伴い廃止されたが,その内容は同細部要領に引き継がれている。そして,同細部要領によれば,第一種区域,第二種区域及び第三種区域の各外郭線(各地域とその外側の地域を分かつ線)は,75W,90W又は95Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して当該コンターに沿って引くものとされ,当該コンターに沿って街区,道路,河川等が所在する場合にはこれらに即して最小限の修正を行うことができるとされている(以下,防衛施設庁長官が定めた上記の「基準」ないし「細部要領」に従ったW値の算定方式を「防衛施設庁方式」という。)。
(2) 防衛施設庁方式と環境基準方式の差異
前記のとおり民間航空機が使用する公共用飛行場におけるW値の算定方式は環境基準方式をそのまま適用したものであるが,上記(1)の基準ないし細部要領が定める防衛施設庁方式はいくつかの点でこれと異なっている。その差異は次のとおりである。
防衛施設庁方式においては,第1に,航空機の飛行回数について,飛行しない日も含めた1年間の全ての日を対象に,1日の総飛行回数の少ない方からの累積度数曲線を求め,累積度数90%に相当する値(下から数えて90%,上から数えて10%である。90パーセンタイル値あるいは80%レンジの上端値といわれる。80%レンジとは,上下の10%を切り落とした真ん中の80%を意味する。)をその防衛施設における1日の標準総飛行回数とする(以下,これを「累積度数90%方式」という。)。その際,タッチアンドゴーについても,その回数を飛行回数に加える。環境基準方式ではこのような処理をしておらず,標準総飛行回数として飛行回数の平均値を用いている。
第2に,騒音の継続時間に応じた補正(継続時間補正)に関して,環境基準方式では,最大騒音レベルから10dB低いレベルを超える騒音の継続時間を,実際の時間にかかわらず一律に20秒としているのに対し,防衛施設庁方式では,実際に測定した継続時間に応じ,また,飛行中とエンジン調整中とを区別して,補正を加えている。
第3に,防衛施設庁方式では,ジェット機の着陸時のものと確認できる騒音については,着陸音補正として2dBを加算しているが,環境基準方式ではそのような補正はしない。
このような差異があることから,防衛施設である飛行場の周辺において,同一の条件の下で,環境基準方式によって算定されるW値と防衛施設庁方式によって算定されるW値を比較すると,後者が前者よりも3から5程度高くなるとされている。
3  厚木飛行場周辺における騒音コンターの作成及び区域指定等
争いのない事実,証拠(甲A7,11,乙A1,2,38,39の1~5,69の1・2,78の1~8,101,110,111の1・2,112,113の1~5,114から117まで,126の1~7)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
(1) 防衛施設庁告示による区域指定の経緯
防衛施設庁長官は,厚木飛行場の周辺において環境整備法に基づく第一種区域等を指定するため,その騒音状況を調査し,環境整備法施行令8条及び旧環境整備法施行規則1条に規定されたW値を防衛施設庁方式によって求め,これに基づく騒音コンターを作成している。そしてそのコンターを基に,街区,道路,河川等現地の状況に即して厚木飛行場周辺における第一種区域等を指定している。その経緯は次のとおりである。
防衛施設庁長官は昭和54年9月5日,第一種区域(85W以上)を指定した(昭和54年防衛施設庁告示第18号)。
旧環境整備法施行規則2条が改正され,第一種区域の指定の基準が80W以上とされたことに伴い,防衛施設庁長官は昭和56年10月31日,新たな第一種区域(80W以上)を指定し,併せて第二種区域(90W以上)を指定した(昭和56年防衛施設庁告示第19号)。
旧環境整備法施行規則2条が更に改正され,第一種区域の指定の基準が75W以上とされたことに伴い,防衛施設庁長官は昭和59年5月31日,新たな第一種区域(75W以上)を指定し,併せて新たな第二種区域(90W以上)及び第三種区域(95W以上)を指定した(昭和59年防衛施設庁告示第9号)。
その後騒音の状況に変化がみられたため,防衛施設庁長官は昭和61年9月10日,新たな第一種区域(75W以上)を指定した(昭和61年防衛施設庁告示第9号)。これは厚木飛行場の西側において第一種区域の範囲を拡大したものである。
その後更に騒音の状況に変化がみられたため,防衛施設庁長官は平成15年度及び平成16年度に航空機騒音度調査を実施し,その結果を基に,平成18年1月17日,新たな第一種区域(75W以上),第二種区域(90W以上)及び第三種区域(95W以上)を指定するとともに,それまでの第一種区域及び第二種区域の一部の指定を解除した(平成18年防衛施設庁告示第1号)。これにより,第一種区域等の範囲は厚木飛行場の南北方向に拡大し,西側で縮小した。これは,ジェット機の南北方向の離陸及び着陸の回数が増加したこと,NLPの硫黄島への移転に伴いジェット機が西側へ旋回する回数が減少したことにより,騒音の影響範囲が厚木飛行場の南北に拡大し,西側で縮小したことを反映させたものである。これにより,第一種区域(この中に第二種区域及び第三種区域も含まれる。)は,面積にして約7700haから約1万0500haに拡大し,対象となる世帯数は約14万7000から約24万4000に増加した。
W値に代えて時間帯補正等価騒音レベルが基準値として用いられるようになった環境整備法施行規則1条(平成25年4月1日施行)の下で,第一種区域等の新たな指定はされていない。
(2) 工法区分線等の設定
後に詳しく説明するが,防衛大臣は,環境整備法4条に基づく住宅防音工事の助成を行うため,「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」(平成22年3月29日防衛省訓令第10号)を定めており,その5条に基づき,防衛省地方協力局長は,住宅防音工事標準仕方書(以下「防音工事仕方書」という。)及び住宅防音工事の標準仕方に係る工法区分線の設定等要領(以下「区分線設定等要領」という。)を定めている(平成22年3月29日地防第3608号)。
防音工事仕方書は,住宅防音工事の工法として第Ⅰ工法と第Ⅱ工法を定めている。第Ⅰ工法は,80W以上の区域内の住宅を対象として計画防音量を25dB以上とするものであり,第Ⅱ工法は,75W以上80W未満の区域内の住宅を対象として計画防音量を20dB以上とするものである。そして区分線設定等要領は,それぞれの工法の適用区域を区分する線(以下「工法区分線」という。)の設定方法を定めている。これによると,80Wを基準値とする第一種区域が指定されていない場合(厚木飛行場周辺はこれに当たる。),工法区分線は,80Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,80Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。
上記2工法による住宅防音工事は居室を対象として行うものであるが,防音工事仕方書は,このほかに家屋全体を一つの区画としてその外郭について実施する防音工事すなわち外郭防音工事を定めている。区分線設定等要領によれば,全ての住宅が外郭防音工事の対象となる区域の外郭線(以下,単に「外郭線」という。)について,85Wを基準値とする第一種区域が指定されていない場合(厚木飛行場周辺はこれに当たる。),85Wの騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して,85Wの騒音コンターに沿って引くものとされている。
防音工事仕方書及び区分線設定等要領の以上の定めは,防衛施設庁長官が昭和56年4月に通達によって定めたものが引き継がれ,変更を加えられて現在に至ったものである。
防衛施設庁横浜防衛施設局長は,上記の定めに基づき,厚木飛行場周辺において,昭和63年7月18日に工法区分線を設定し,平成15年1月以降,外郭線を設定した。また,その後の騒音の状況の変化に伴い,平成18年1月31日,新たな工法区分線及び外郭線を設定した。
(3) まとめ
以上をまとめると,厚木飛行場周辺においては,騒音の大きさ(うるささ)に従って地域を区分する線が次の表にあるとおりに引かれていることになる。

この表において,左側の欄の「〇〇Wコンター」とは,それぞれのW値に基づく騒音コンターをいい,右側の欄の用語の意味は次のとおりである。

第一種区域線 平成18年1月の告示により指定された第一種区域とその外側の区域を分かつ線
工法区分線 平成18年1月に設定された工法区分線
外郭線 平成18年1月に設定された外郭線
第二種区域線 平成18年1月の告示により指定された第二種区域とその外側の区域を分かつ線
第三種区域線 平成18年1月の告示により指定された第三種区域とその外側の区域を分かつ線
旧第一種区域線 昭和61年9月の告示により指定された第一種区域とその外側の区域を分かつ線
旧工法区分線 昭和63年7月に設定された工法区分線
旧外郭線 平成15年1月以降に設定された外郭線
旧第二種区域線 昭和59年5月の告示により指定された第二種区域とその外側の区域を分かつ線
旧第三種区域線 昭和59年5月の告示により指定された第三種区域とその外側の区域を分かつ線

前記のとおり,右側の欄の線は街区,道路,河川等現地の状況に即して引かれることとされているから,それぞれの左側の欄の騒音コンターと正確に一致するわけではないが,おおむねこれに沿っている。また,平成18年1月以前の騒音コンターと以後の騒音コンターは異なるから,例えば,第一種区域線と旧第一種区域線がそれぞれ異なる曲線であることはいうまでもない。
本判決においては,上記の区分に従い,次のとおりの呼称を用いることとする。そしてある区分線の内側の全体を指すときは,例えば「75W以上の地域」ということにする。また,「指定区域外」については,その時点における指定区域外という意味で用いるので,平成18年1月の告示又は設定前のものをいうこともあるが,文脈によって容易に判断できるのでいちいち注釈を付けない。

第一種区域線の外側 指定区域外
第一種区域線の内側で工法区分線の外側 75Wの地域
工法区分線の内側で外郭線の外側 80Wの地域
外郭線の内側で第二種区域線の外側 85Wの地域
第二種区域線の内側で第三種区域線の外側 90Wの地域
第三種区域線の内側側 95Wの地域

繰り返しになるが,ここで用いられているW値は全て防衛施設庁方式によって算定されたものである。
なお,弁論の全趣旨によれば,厚木飛行場周辺には,環境整備法附則4項により第二種区域とみなされる地域及び環境整備法施行令附則3項により第三種区域とみなされる地域が存在していることが認められる。これらの附則の規定の趣旨に従い,本判決においては,前者は90Wの地域,後者は95Wの地域として扱う。
第4  厚木基地騒音訴訟の経緯及び第3次訴訟の判決
1  騒音訴訟の経緯
厚木基地の周辺住民は,昭和51年以降3次にわたり,厚木基地に離着陸する航空機による騒音等の被害を受けているとして,被告に対し損害賠償等を求める訴えを提起して救済を求めてきた。証拠(甲A1から3までのほか,括弧内掲記のもの)によれば,その経緯は次のとおりである。
(1) 第1次訴訟(乙D2,3,5,7,8)
厚木基地の周辺住民92名は昭和51年9月,被告に対し,厚木基地における航空機離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを横浜地方裁判所に提起した。同裁判所は昭和57年10月20日,差止め及び将来の損害の賠償請求に係る訴えを不適法として却下し,周辺住民80名について過去の損害の賠償請求を認容する判決を言い渡した(判例時報1056号26頁)。
双方が控訴し,東京高等裁判所は昭和61年4月9日,差止め及び将来の損害の賠償請求に係る訴えは却下すべきものとし,過去の損害の賠償請求をいずれも棄却する判決を言い渡した(判例時報1192号1頁)。
周辺住民が上告し,最高裁判所は平成5年2月25日,過去の損害の賠償請求に係る部分について原判決を破棄し,東京高裁に差し戻した(最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁。以下「厚木基地最判」という。)。
東京高裁は平成7年12月26日,周辺住民69名について過去の損害の賠償請求を認容する判決を言い渡し,この判決は確定した(判例時報1555号9頁)。
(2) 第2次訴訟(乙D4,6,10)
厚木基地の周辺住民161名は昭和59年10月,被告に対し,厚木基地における航空機離着陸等の差止め並びに過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを横浜地裁に提起した。同裁判所は平成4年12月21日,将来の損害の賠償請求及び米軍機の差止めに係る訴えを不適法として却下し,自衛隊機の差止請求を棄却する一方,周辺住民133名について過去の損害の賠償請求を認容する判決を言い渡した(判例時報1448号42頁)。
双方が控訴し,東京高裁は平成11年7月23日,自衛隊機の差止請求については訴えを不適法として却下し,将来の損害の賠償請求及び米軍機の差止めに係る訴えについては原判決と同様に却下すべきものとし,過去の損害の賠償請求については周辺住民134名の請求を認容する判決を言い渡し,この判決は確定した(訟務月報47巻3号381頁)。
(3) 第3次訴訟(甲D2の139~142,乙D9,11,12,顕著な事実)
厚木基地の周辺住民約2820名は平成9年12月,被告に対し,過去及び将来の損害の賠償を求める訴えを横浜地裁に提起した。その後追加提訴があり,原告となった周辺住民の総数は5000名を超えた。この訴訟では差止めは求められておらず,専ら損害賠償請求の可否が争われた。同裁判所は平成14年10月16日,将来の損害の賠償請求に係る訴えを不適法として却下し,周辺住民4935名について過去の損害の賠償請求を認容する判決を言い渡した(判例時報1815号3頁)。
双方が控訴し,東京高裁は平成18年7月13日,将来の損害の賠償請求については訴えを却下すべきものとし,過去の損害の賠償請求については周辺住民大半の請求を認容する判決を言い渡し,この判決(以下「第3次判決」という。)は確定した(判例集未登載)。
なお,別紙19(第3次訴訟原告目録)記載1から3までの原告103名は,第3次訴訟でも当事者となっていた。
2  第3次判決の概要(当裁判所に顕著な事実)
第3次判決の理由は概要次のとおりである。この訴訟の口頭弁論の終結の日は平成17年7月26日であった。
(1) 過去(平成17年7月26日まで)の損害賠償について
ア W値と騒音コンター等
厚木基地周辺に居住する人間が感じるうるささを示す指標としては防衛施設庁方式によるW値を用いることに合理性がある。これに基づいてされた各区域指定及びその区分線となるコンター並びに昭和63年7月に設定された工法区分線は,いずれもその設定された頃の騒音実態を反映している。防衛施設庁方式のW値を厚木基地のうるささを示す指標としてそのまま適用することはできないとする被告の主張を採用することはできない。
イ 厚木基地周辺の航空機騒音の実態
各コンター内における平成6年以降平成13年までの騒音は全体としてはほぼ減少傾向にあり,騒音状況が若干改善していることがうかがわれる。しかし,平成6年以降の騒音測定回数や騒音持続時間は,昭和57年から平成元年頃とほぼ同程度であって,地点によってはそれ以上の数値を出している。年間W値もほとんどの地点において昭和48年環境基準よりはるかに高い数値を示しており,一部の例外を除くとコンターのW値に応じてその数値が高くなる傾向にある。したがって,平成6年以降の騒音状況は,昭和57年にNLPが開始される以前と同程度の水準にまで改善されたとは認められず,騒音状況が悪化していた平成元年から5年頃までと比べて若干改善されたにとどまる。
平成13年以降平成17年までの各コンター内における騒音も全体としてはほぼ減少傾向にある。しかし,平成13年以降のW値も,ほとんどの地点において昭和48年環境基準よりはるかに高い数値を示し,一部の例外を除けばコンターのW値に応じてその数値が高くなる傾向にあり,全体としてみれば航空機騒音が受忍限度の範囲内かどうかの評価に影響を与えるほどの改善がされているとはいえない。
したがって,コンター内(75W以上)においては,平成6年以降も航空機騒音の程度は激甚であると推認され,75Wのコンター内の地点において原告らが相当程度の騒音被害を受けていることが認められる。
ウ 原告らの被害の有無・程度
原告らは,厚木基地を離発着する航空機の騒音により,日常生活の妨害,睡眠妨害,精神的被害という被害を受けており,また,身体的被害は明確ではないがその危険性があり,原告らがこれに対する不安(精神的被害)を抱いていることが認められる。これらの被害は原告らに共通する定型的な被害であって,原告らが生活している地域の騒音のうるささの指標値であるW値の上昇に伴って増加する傾向があることが認められる。
エ 厚木基地の公共性
米軍及び自衛隊による厚木基地の使用は公共性を有するが,受忍限度を超えた違法性の有無を検討するに際しては,公共性の有無と程度は考慮すべき一つの要素となるにとどまる。厚木基地の公共性は,少なくとも平時においては,国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように絶対的というべき優先順位を主張し得ないことはもとより,他の行政諸活動から隔絶した公共性ないし公益性を有するともいい難い。また,周辺住民が厚木基地の存在によって何らかの自己の利益に直結する具体的・直接的な利益を受けているか否かは証拠上明らかでなく,その被害と周辺住民が受け得る利益との間に,前者の増大に必然的に後者の増大が伴うというような彼此相補の関係があるとは認められない。国民全体が等しく享受する種類の公共的利益の実現が厚木基地周辺の住民という限られた一部の者の犠牲の上に成り立っていることからすれば,これを放置することには不公平な面がある。そうすると,厚木基地の使用に公共性はあるものの,その一事をもって損害賠償請求を否定することは許されない。
オ 被告による騒音対策等
被告は厚木基地の周辺において種々の施策(周辺対策)を実施している。これらは①音源対策,騒音軽減措置,②住宅防音工事に対する助成,③住宅以外の施設に対する防音工事助成,④移転助成・緑地整備等であり,被告はそのために膨大な費用を支出しているが,航空機騒音等による被害との関係では,住宅防音工事を除いて,それほど具体的・積極的に評価することのできるものはない。住宅防音工事の効果も限定的なものであって,原告らの被害を一定程度軽減するにすぎず,これを解消させるものとは認められない。①の音源対策及び騒音軽減措置も,一定程度で被害を軽減するにとどまる。そうすると,周辺対策は,厚木基地の供用に係る違法性との関係ではそれほど積極的に評価することはできないというべきである。ただし,住宅防音工事については,一定程度で被害を軽減させる効果があるというべきであるから,損害額の算定の際にこれを考慮すべきである。
カ 違法性(受忍限度を超えるか否か)
厚木基地周辺の航空機騒音等による侵害行為の態様とその程度,原告らが受けている被害の性質や内容に加え,厚木基地の公共性,厚木基地周辺において相当の長期にわたり侵害行為が継続しているという事情,被告が講じている防音対策の内容及びその効果,その他諸般の事情を総合して考慮した場合,厚木基地の航空機騒音は原告らに受忍限度を超える被害をもたらすものであり,その設置管理は違法である。原告らが共通の被害をもって損害賠償を請求していることを踏まえると,被告は,後記のとおりの判定方法によって基準値を超える地域に居住し,受忍限度を超える被害を受ける原告らに対し,原則として責任を負う。
そして,W値が増大するにつれて航空機騒音の量が増大するという傾向があり,原告らに共通する被害の量もW値の増大に応じて大きくなる傾向があるから,受忍限度を超えるかどうかの判定に当たっては,騒音を数量的に示す数値を用いるのが相当である。W値による評価は,騒音のピークレベル,継続時間,発生頻度,昼夜における影響度等を加味して,間欠的に発生する航空機騒音が総体として日常生活の中でどのように感じられているかをとらえようとするものであり,本件における受忍限度の判断に当たっても,W値を用いることが適切かつ現実的である。そこで,昭和48年環境基準における類型Ⅰの地域(専ら住居の用に供される地域)と類型Ⅱの地域(その他の地域であって通常の生活を保全する必要のある地域)とに区分し,前者の地域においては75Wを超える地域に居住する原告らが,後者の地域においては80Wを超える地域に居住する原告らが,受忍限度を超える被害を受けていると認定するのが相当である。したがって,被告は,上記の地域に居住する原告らに対し,それぞれ騒音の程度に応じて後記のとおりの基準額に従い損害賠償責任を負う。
キ 危険への接近の理論の適用
原告らの中には,米軍機が厚木基地周辺に飛来するようになった後にコンター内に転入した者がおり,被告はこれらの者について,危険への接近の理論を適用して被告を免責しあるいは賠償額を減額すべきであると主張する。
本件では,①昭和35年頃から航空機騒音問題について新聞報道がされるようになり,昭和46年頃から空母ミッドウェーの横須賀母港化問題が生じ,昭和48年10月初めに同空母が初入港し,その直前頃から艦載機が厚木基地に飛来するようになって,激甚な騒音発生が問題とされるようになった,②空母ミッドウェーの横須賀母港化等に対しては,その問題が発生して以来,政党,住民団体による反対抗議運動等が行われ,入港の頃には厚木基地周辺の騒音等による被害が社会問題として注目を集めるようになっていた,③昭和57年2月以降NLPが実施されるようになり,それに伴い騒音発生は夜間に及び,反復的,連続的で激甚な航空機騒音がもたらされるなど,騒音発生の時間帯,頻度,音量及び音質等の点において他の航空機騒音とは質的に異なる被害が発生するに至り,多くの報道がされ,また,自治体,住民による抗議,要請,陳情運動が重ねられた,という事情がある。他方で,厚木基地の所在地は周辺自治体の住民にとってさえも周知であるとはいい難く,その名称に「厚木」とあることから厚木市に所在すると誤解する者が多い。厚木基地における航空機の飛行回数,飛行コースは年間を通して一定ではなく,周辺住民ないし自治体に飛行予定や騒音の程度等が開示されることはない。周辺住民にとっては,NLPの通告時を除けば全く分からないに等しく,1週間単位で飛行予定が定まっている民間空港とは著しく異なる。これらの事実を基礎とすると,厚木基地周辺のコンター内に転入予定の者が仮に厚木基地の存在を知っていたとしても,たまたま航空機の飛行が比較的少ない日曜,祭日等に下見に来たため,実際に周辺地域に転居してきて一定期間生活をするまで航空機騒音の実態を知らなかったであろうと推認するに難くない。また,被告がコンター図や飛行コース,騒音の実態等について,コンター内に入居予定の住民らに対して積極的に情報を提供したとは認められない。そうすると,原告らの中にはあらかじめ厚木基地やその航空機騒音の存在をある程度知っていた者がいるが,コンター内への転居前に騒音の実態について正確に把握することは極めて困難であった。そして,コンター内に転入した理由が仕事や家族の事情に基づくものであるとの原告らの供述又は陳述書への記載は信用することができ,少なくとも本件の侵害行為及びこれに基づく被害を積極的に容認するような動機が原告らにあったことを認めるに足りる証拠はない。上記のような原告らが,厚木基地周辺の騒音実態を正確に把握していたと推認することはできず,また,これによる被害を容認していたと認めることもできないから,これらの原告らに免責の法理としての危険への接近の理論を適用する前提が欠けている。
NLPが開始された昭和57年2月以降に初めて基地周辺の騒音地域に入居した原告らは,厚木基地の位置について十分認識することが可能であった上,前記のような報道に照らせば,新たに入居する地域においてある程度の航空機騒音による被害が存在することについても認識することが可能であった。しかし,そのような原告らに,航空機騒音の被害実態を正確に認識しなかったことに過失があるとまではいえず,原告らの転入事情及び地域的な事情を考慮した場合,騒音地域内に転入したこと自体によって非難めいた扱いをされるとすれば正当ではない。減額の法理としての危険への接近の理論を適用して原告らの損害賠償額を減額することが衡平の原理に沿うとはいえない。結局,被告が主張する減額の法理は,裁判所の裁量により定める慰謝料額の調整要素にすぎないところ,上記事実に加え,そもそも転入時期によって実際の騒音暴露量に差異が生ずるものではないこと,原告らは全ての原告に共通する被害について最低限と思われる一定額の損害賠償を求めていることに照らせば,転入時期の差異によって損害賠償額に差異を設けることは相当でない。
ク 損害額
原告らが包括的な賠償を求める趣旨は,様々な被害を一括し,これに伴う非財産的損害を一定の限度で原告らに共通するものとしてとらえて請求するものと解される。その被害は前記のとおり騒音コンター図のW値を参考にして判断することができるから,損害賠償額の算定に当たっても,これらのW値を基準にしつつ,類型的に把握した居住地域に居住する原告らごとに一律に算定することができる。
一切の事情(別途個別に考慮する防音助成は除くが,それ以外の騒音対策も含む。)を総合考慮すれば,1か月当たりの各区域ごとの原告らに共通の損害賠償額は次のとおりとするのが相当である(類型Ⅰとは,昭和48年環境基準にいう地域の類型Ⅰをいう。)。

75W以上80W未満の区域(類型Ⅰのみ) 3000円
80W以上85W未満の区域 6000円
85W以上90W未満の区域 9000円
90W以上 1万2000円

原告らのうち防音工事を受けた者及びこれと同居する者については,防音工事の助成によって被害の減少があると推認できる。ただし,防音工事の効果については,防音室数の増加に比例するとまではいえず,室数増大によって空調設備の電気料金等の維持費が増大することも考慮しなければならない。そうすると,防音工事による損害賠償の減額については,最初の1室につき10%,2室目以降については1室増加するごとに5%ずつ(4室を超える場合は一律に30%)とするのが相当である。平成14年度から新たに実施されている外郭防音工事の助成については,減額は一律に30%とするのが相当である。
弁護士費用は,本件訴訟の難易度,認容額等諸般の事情を考慮すると,賠償額の1割が相当である。
(2) 将来(平成17年7月26日の後)の損害賠償請求の許否
被告による将来の侵害行為が違法性を帯びるかどうか及びこれによって原告らが受けるべき損害の有無・程度は,被告により実施される被害の防止,軽減のための諸方策の内容や実施状況,原告らのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動や厚木基地における米軍機の配備状況等の複雑多様な因子によって左右されるべき性質のものであり,また,これらの損害は,利益衡量上被害者において受忍すべきものとされる限度を超える場合にのみ賠償の対象となるのであるから,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することはできない。そして,本件の場合,将来における事情の変動により賠償請求権が成立しなくなったことを証明して請求を阻止する責任を被告に負担させるのは相当でない。以上のことは,たとえ賠償を求める期間を事実審口頭弁論終結の日の翌日から例えば1年間に限定したとしても変わりがないというべきである。
したがって,将来の損害の賠償請求の訴えは不適法として却下すべきである。

第3部  当事者の主張
第1  原告らの主張
1  原告らの請求
原告らは,全員が損害賠償を請求し,そのうちの一部である差止原告らが差止請求をしている。請求の概要は前記第1部第2(事案の概要)のとおりであるが,損害賠償請求について次のとおり補足する。
原告らはいずれも,厚木基地周辺の75W以上の地域に口頭弁論終結時に居住しているか,過去に居住していた者である。第1事件原告らは平成17年1月1日以降将来にわたる継続的被害について,第2事件原告らは同年5月1日以降将来にわたる継続的被害について,損害賠償を請求しているが(正確には別紙4(第1事件訴状添付損害賠償額一覧表)及び同5(第2事件訴状添付損害賠償額一覧表)記載のとおりである。以下,損害賠償を請求している期間を「請求期間」という。),75W以上の地域への居住が請求の根拠であるから,請求期間内であっても次の期間については,訴訟上の請求は維持するものの,実際には賠償を求めない。
① 請求期間中に出生した原告につき,出生前の期間
② 請求期間中に死亡した原告につき,死亡後の期間
③ 請求期間中に指定区域外から75W以上の地域に転居してきた原告につき,転居前の期間
④ 請求期間中に指定区域外に転居した原告につき,転居後の期間
⑤ 請求期間中に指定区域外に転居し,その後再び75W以上の地域に転居してきた原告につき,指定区域外に居住していた期間
原告らは1か月を単位として損害賠償を請求しており,上記に該当する原告らは,①については出生日を含む月,②については死亡日を含む月,③~⑤については転居日を含む月についても,慰謝料及び弁護士費用の月額合計2万3000円の全額を請求する。口頭弁論終結日を含む平成25年9月も同じである。仮にこの考え方が採用されないのであれば,1か月に満たない期間は日割計算で賠償額を認定すべきである。
2  侵害行為
(1) W値の意義
防衛施設である飛行場の周辺においては,防衛施設庁方式によって算定したW値を指標として航空機騒音による被害を認定すべきである。被告は,自ら防衛施設庁方式に基いてW値を算定し,これに基づき第一種区域等を指定しているにもかかわらず,第一種区域線等は受忍限度を画する基準になり得ないので受忍限度判断は環境基準方式で算定されたW値で行うべきであると主張し,また,防衛施設庁方式について,これは周辺対策をとる範囲を緩やかに設定する等のため「架空の飛行を上乗せしている」のだから,騒音被害が受忍限度を超えるか否かを判断するのには不適切だとまでいう。さらに,平日の昼間の騒音は原告ら全員に共通するものではないから,これを除いた「昼間騒音控除後W値」なるものによって判断すべきであると主張する。これらの被告の主張は,自らの施策を否定するという自己矛盾も甚だしいものであるとともに,航空機騒音の評価方法そして環境基準の考え方の根幹を誤った科学的検証に耐えない謬論であり,ためにする議論といわざるを得ない。
(2) 航空機騒音の状況
平成15年(第3次訴訟控訴審係属中)から平成24年までの10年間における厚木基地周辺の75W以上の地域における航空機騒音の実情を,多数の測定地点において自治体が継続的に測定しているdB値とW値によってみると,大和市内の測定地点では,少なくとも第1次訴訟で損害賠償請求が認容された昭和50年~昭和56年における騒音とそれほど変化がない状況にあり,その他の測定地点でも,第3次訴訟で損害賠償請求が認容された期間の騒音状態から格段に改善されている状況にはない。W値でいえば,90Wの地域や80Wの地域で騒音コンターのW値とほぼ同じW値を示している測定地点があるものの,多くの測定地点で,依然として騒音コンターのW値を上回るW値が示されている状況にある。
(3) 低周波音による被害
厚木基地には,プロペラ機である米軍のE-2C,海上自衛隊のP-3Cや,SH-60B等のヘリコプターが多数配備され,毎日のように周辺を飛行している。これらプロペラ機及びヘリコプターの飛行時に生ずる騒音及び厚木基地内から発せられる航空機のエンジン音には高い音圧レベルの低周波音が含まれている。原告らは高レベルの低周波音に日常的にさらされている。
(4) 墜落等航空機事故の危険
軍用機の事故率は民間航空機に比べて極めて高いとされており,現に厚木基地周辺ではこれまでに多数の軍用機の事故が発生している。厚木基地は神奈川県内有数の人口密集地域の真ん中に位置し,離着陸時にトラブルがあった際に市街地への墜落を避けることが困難な内陸部にあり,しかも訓練のための飛行が行われていることから,厚木基地周辺地域において,航空機の墜落や航空機からの部品落下等によって生ずる事故の危険性は極めて高い。
3  航空機騒音による被害
(1) 航空機騒音の特殊性
航空機騒音には他の環境騒音にはない次のような性質があり,これらの性質は航空機騒音による被害を増大させる方向に働く。
① 音量が極めて大きい。
② 高周波成分が多く,金属的な音質を有する。
③ 不安定な断続的,間欠的騒音である。
④ 騒音レベルの変動が不規則,複雑であり,周波数変動も大きい。
⑤ 音源が絶えず移動しており,しかも頭上からの騒音である。
⑥ 鉄道騒音や道路騒音とは異なり,住民にとっては基本的に不必要な交通手段からの騒音である。
⑦ 予告なく突然発生する衝撃的な騒音である。
⑧ 遮音や回避が困難であり,住民が対処することが難しい。
(2) 航空機騒音被害の内容,性質
原告らは航空機騒音によって,健康を害される身体的被害,イライラ感などの不快感(アノイアンス)の惹起,会話やテレビ等の視聴を妨げられるなどの生活妨害,睡眠妨害,交通事故や航空機の墜落の不安感などの精神的被害,身体的被害・生活妨害・睡眠妨害等の被害に伴う精神的被害など,多様な被害を被っている。その内容は次のとおりであるが,被害はこれに限定されるものではなく,また,これらの被害はそれぞれが個別に発生するものではない。原告らは,日々の生活を営む過程で,日常的に航空機騒音に曝露されて被害を受けており,これらの被害はそれぞれが相互に関連しあって原告らの健康や日常生活を破壊し,人格権を侵害しているのである。
ア 身体的被害
原告らは,耳鳴りなどの聴覚に関する被害,高血圧,虚血性心疾患等循環器系の疾患,頭痛や肩こり,胃腸障害その他の身体症状を生じている。また,交感神経系の亢進,内分泌系のバランスの乱れ,免疫系機能の低下を生じ,症状を悪化させられ,治癒を妨げられている。子供は大人に比して航空機騒音の影響をより受けやすく,成長発達に悪影響が生じている。100名を超える原告らが,高血圧症,狭心症,不眠症,胃炎等を発症していることを証明するため,医療機関による診断書を提出しているが,これは疾患を有する原告らのうちの一部であり,全員ではない。
身体的被害について,これまでの裁判例は,上記のような症状が航空機騒音に起因することの立証が不十分であるとするものが多いものの,少なくとも,住民らがこのような身体的被害の発症を訴え,健康に対する危険を感じざるを得ないような状況下で生活しなければならないことが精神的苦痛であると判断してきている。加えて近年では,航空機騒音を含む環境騒音が人体へ及ぼす影響への研究が進み,その影響の機序や曝露量と影響の程度との関係も明らかにされてきている。WHO及びWHO欧州事務局は,多数の調査研究結果に基づき,騒音から健康を守るためのガイドライン値を公表している(「環境騒音のガイドライン」,「夜間騒音ガイドライン」)。また,DALY(障害調整生存年)という指標により,騒音曝露により健康を害されている総量を明らかにすることによって(「環境騒音の疾病負荷」),各国に対し,騒音曝露による健康被害を防止する施策を講ずるための資料を提供している。このように,近年,特に平成21年以後,騒音曝露と身体的被害との関係がより明らかにされるに至っており,騒音による人体への悪影響,騒音被害の重大性が認知されるようになっている。
イ イライラなどの不快感(アノイアンス)を惹起させられること
原告らは,イライラなどの不快感を惹起させられている。これは,騒音レベルが極めて高く高周波成分を含む航空機騒音に,予告なく突然に,間欠的にさらされること自体による不快感である。
ウ 生活妨害
原告らは,日常的に,会話,電話での通話,テレビ,ラジオ,DVDなどの視聴,音楽鑑賞や楽器演奏等の趣味生活,家庭での団らん,職業生活を妨害されている。また,日常的に,学習,読書,思考などの知的作業,精神的活動を妨害されている。
エ 睡眠妨害
原告らは,入眠を妨げられたり,中途覚醒を余儀なくされたり,早朝に覚醒するなど,睡眠を妨害されている。原告らのうちには,三交代勤務者のように昼間に睡眠を取らなければならない者,病気療養中の者,体調不良のため安静を要する者などもおり,睡眠妨害は必ずしも夜間の騒音のみにより惹起されるものではない。
オ 交通事故の危険及び事故発生に対する不安感
航空機騒音により周囲の音がかき消され,また,周囲の歩行者や自動車運転者が航空機騒音に気を取られ,歩行や運転がおろそかになることにより,交通事故が発生することがある。原告らは,航空機騒音により,交通事故が発生するのではないかという不安感を生じさせられている。
カ 部品落下や墜落事故の危険及びこれらに対する不安感
厚木基地の米軍機が墜落する事故はこれまで複数発生している。平成24年2月の部品数十個の落下事故など,厚木基地に離着陸する航空機の部品が落下する事故も現実に多数発生しており,原告らは日常的に,いつまた事故が起こるか,自分や家族が被害に遭うのではないかという不安にさいなまれている。
キ 身体的被害,生活妨害,睡眠妨害などに伴う精神的苦痛
原告らは,航空機騒音によって会話妨害などの生活妨害や睡眠妨害を受けることにより,同時に精神的苦痛を被っている。この精神的苦痛は,生活妨害,睡眠妨害等に伴うものではあるが,妨害を受けることそれ自体とは別の被害である。現在のところまだ身体的被害が生じていない者であっても,発症の危険にさらされており,身体的被害が発生する危険がある状態下で生活しなければならないことによる精神的苦痛を被っている。
(3) 原告ら全員に共通する被害(共通被害)のとらえ方
原告らが被る被害は,年齢,性別,健康状態,生活状況などの事情により様々であり,どれ一つとして全く同じ被害というものは存在しない。しかし,航空機騒音被害は,航空機の運航という同一の侵害行為が頭上から広範な地域に及び,多数の住民の利益を侵害するものであるという点に大きな特色がある。住民各人の事情によって被害の発現の仕方や程度は様々ではあるが,同一の侵害行為により被害を被り,人格権を侵害されるという点で,被害の性質上,曝露される全員が等しく被っていると認められる程度の被害の存在を認め得る。例えば,ある騒音が発生した時,家族と会話をしている者にとってはそれは会話妨害でありかつ家族団らんの妨害であり,就寝しようとしている者にとっては睡眠妨害であり,というように,具体的な事情は異なるけれども,生活が妨害されているという点では同じである。生活の本拠地における生活の平穏が侵害されているという被害の性質は同一であり,一定程度の被害は,被曝露地域に生活の本拠を有する者全員に等しく生じていると考えることができるのである。
原告らは,このように全員に等しく生じている被害について損害の賠償を求めるものである。
4  違法性について
(1) 権利侵害と違法性
厚木基地の航空機騒音により甚大な被害を被っている原告らの権利は,生命身体権を中核とする人格権であり,その内容は憲法13条,25条の趣旨に立脚した絶対的権利である。本件のように公共施設等の周辺で健康上の被害が生ずる公害が発生している事案においては,周辺住民は誰もが現にあるいは将来にわたり健康被害等を被る危険に脅かされている。かかる生命身体への危険が認められる以上,生命身体権の侵害が発生していると把握されなければならない。生命身体権とは,現に生命・身体に侵害を被らないという権利に加え,将来にわたって侵害を受ける危険にさらされない権利をも含むものと解すべきである。
さらに,人が健康被害等の発生に対する不安と危惧をもって生活を強いられている場合にあっては,かかる生活を余儀なくされること自体が平穏で安全な生活を営む権利を侵害されているものといえ,これは生命身体権の侵害に匹敵する重大な権利侵害に当たるというべきである。これらの権利は,人が生命身体の危険について危惧感,不安感を抱くことなく平穏な生活を営む権利,すなわち「平穏生活権」と称されるものであり,それは人格権に含まれる重要な権利であるとともに,さらにまた人格権の中核たる生命身体権に接着した重要な権利として把握すべきである。
このような重要な権利が侵害されている場合,その侵害の事実は直ちに違法と評価されるべきであり,他のいかなる要素も「違法性判断」の要件として不必要である。原告らの権利侵害が違法と認定される結果として,権利侵害に基づく妨害排除請求権としての差止請求,さらに損害賠償請求が認容されるべきである。
本件のような騒音被害や大気汚染,水質汚濁など公害,環境汚染訴訟あるいは各種の相隣紛争事案において,裁判所は,違法性判断としていわゆる受忍限度論を用いることが多い。しかし,受忍限度論についてはその欠陥が諸種指摘され,これを克服すべく様々な見解が出されている。仮に受忍限度論を採用するとしても,真に問題となるべきは,違法性の判断に当たって個別具体的な要素をどの程度考慮しあるいは重視すべきかという点についての裁判所の判断の在り方である。市民と国家の互換性・対等性は皆無である上,侵害される権利の重要性が極めて高いのであるから,利益衡量はおよそ働かず,必然的に原告らを保護する結論となるべきである。
したがって,原告らは人格権の侵害に基づき,妨害排除請求権としての差止請求権を行使することが認められる。さらに,国が設置管理する営造物により住民らにとって重大な権利の侵害が発生しているから,国家賠償法2条1項に基づき当該営造物の設置管理に瑕疵があると判断され,被告は原告らに対する賠償責任を免れない。
(2) 公的基準の意義
公的基準としての昭和48年環境基準が違法性の判断において重要な意味をもつことは明らかであるが,一方で,身体的被害ことに住民の睡眠を保護するという観点からいえば,決して十分な基準ではない。また,昭和48年環境基準では,地域類型別の基準値が設定されている。かかる区別は,他の水質汚濁や有害化学物質の環境基準には設けられていない。昭和48年環境基準が地域類型を設けたのは,各地域類型によって苦情発生率等の住民反応に違いがみられることや,ISOが地域類型別基準値を提案していた経緯などからであるとされるが,どの類型の地域であっても,子供や高齢者,病人など騒音の影響をより受けやすい高感受性群は居住しているのであり,これらの者の健康影響が軽視されてよい理由はない。さらに昭和48年環境基準では,午後10時から午前7時までを夜間と定めているところ,これでは約30%もの住民の睡眠が保護できない。一方,原告らが本件訴訟で差止めを求める時間帯(夜8時から翌朝8時まで)に騒音が発生しなければ,90%の住民を保護でき,ほぼ100%の住民(10歳以上)の入眠を保護することができるのである。
したがって,昭和48年環境基準は,基準としては不足するものの,少なくともこれを超えるような騒音の発生が容認される余地はなく,その侵害行為により人格権侵害の発生は不可避なのであるから,かかる侵害行為は直ちに違法と評価されることは当然である。
(3) 侵害行為の悪質性
原告らの多岐にわたる権利侵害は,被告による無計画な基地機能の拡張やなし崩し的な部隊の配備によりもたらされたものであり,住民の生存と居住の実態は無視され続けている。加えて,長期にわたりほとんど無策といってよいほど放置され,長年にわたる被害の防止の訴えも無視され続けているという事情も存在するのであり,その侵害行為はより悪質なものと評価されるほかなく,違法性の程度は極めて高いものといわなければならないし,責任論としての要素でみれば,過失などというものではなく,明らかな侵害の放置をも含む「故意行為」である。
(4) 厚木基地の非公共性
厚木基地最判も認定するとおり,厚木基地の存在により周辺住民が受ける特別の利益はない。むしろ,我が国有数の人口密集地域に位置し,周辺地域に多年にわたり爆音をまき散らし続けて多数の住民に被害を与えている厚木基地は,反公共性,反公益性を有する存在である。これらの事実や厚木基地周辺の一方的な住民被害の歴史をみれば,被告の主張する自衛隊機や米軍機の飛行の「公共性」,「公益性」などは,多くの市民や社会集団の利益と全く重なり合わない,およそ公共性の概念になじまない,超国家主義的な「公共性」を主張するものとして退けられなければならない。
特に,米軍機や自衛隊機の爆音は,圧倒的に訓練飛行(タッチアンドゴーなどの着艦訓練あるいは編隊飛行訓練)によるものであるが,これらの訓練飛行を人口密集地帯のただ中にある厚木基地で行わなければならない必要性や必然性については,いかに国防や極東の安全を強調する被告においても,これを肯定する理由を展開し得ていない。
5  差止請求について
(1) 原告らの求める差止めの内容
原告らが差止めを求める範囲は,被害の実情に鑑みればごく一部の請求である。しかし,少なくともこの差止請求が認められれば,最低限,夜間においては静謐な環境での生活を取り戻し,また昼間の時間帯においては,各種の公的な騒音規制法規に定められ,保護され得る限度内の生活環境を確保できることとなるため,あえて上記の請求にとどめて差止請求を行う。
原告らは,一般市民の生活にとって特に静謐が確保されなければらない夜間の時間帯において日常的に航空機騒音にさらされ,日常生活を破壊され,看過できない身体被害を受け又はその危険にさらされている。原告らの人格権ないし平穏生活権を保護するためには,原告らの求める夜間の差止め(午後8時から翌日午前8時までの離着陸及びエンジン作動の差止め)が実現されなければならない。
次に,航空機騒音に起因する健康被害の出現あるいは健康を含む様々な日常生活の平穏が害されること自体に伴う被害とその甚大さを考えれば,人格権ないし平穏生活権の侵害は明らかであり,かかる被害を防止しこれ以上増大させないためには,昼間の時間帯の騒音を一定程度で差し止めるべきことは必須であるから,原告らの求める昼間の音量規制(70dBを超える航空機騒音の到達の禁止)が認められなければならない。
(2) 自衛隊機に対する差止請求の適法性
厚木基地最判は,自衛隊機の運航の差止めを民事訴訟によって請求することを不適法としたが,この判決には何の法的根拠も示されていないことが指摘されなければならない。厚木基地最判は,自衛隊の活動に対する法的な分析あるいは正しい解釈を行ったものではなく,単に「民事訴訟を排斥するための結論付けを行った」という非難を免れない。自衛隊機の運航は「公権力の行使」ではないと解すべきであり,民事訴訟による差止請求は適法である。
(3) 米軍機に対する差止請求の適法性
厚木基地最判は,被告に対し米軍機の離着陸等の差止めを請求するのは,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから主張自体失当として棄却を免れないと判示したが,これも誤りである。厚木基地最判の最大の問題点は,日米地位協定2条4項(a)の区域及び同条1項(a)の区域と同条4項(b)の区域とは,管理権に関する法律関係が全く異なり,前者の管理権は米軍にあるのに対して,後者の管理権は我が国政府(海上自衛隊)にあって,その管理権に基づいて米軍に一時使用を認めるという法律関係にあるにもかかわらず,これらを一括して扱い,同条4項(b)の区域の管理権も含めて飛行場全体が「米軍の管理運営の権限」に属するものとみなしてしまったことにある。
日米政府間の合意や閣議決定及びその解釈によれば,厚木基地における米軍機による離着陸等のための滑走路等(厚木飛行場)の使用は,厚木基地内の米軍専用区域に行くための出入りという主たる目的のために限られ,その「出入りのつど」我が国政府がその使用を認める,というものである。すなわち,厚木飛行場は,自衛隊の飛行場施設として我が国が管理権を有し,これを日米地位協定2条4項(b)により米軍に一時使用を許すという関係にあり,米軍は米軍専用区域への出入りのために,その都度管理者たる我が国によって使用を許されるのである。したがって,我が国は,領域主権の原則からも,日米地位協定や関係合意の解釈からも,当然にそれ以外の目的のための使用を拒否することができる。
そして,防衛大臣が,これらに違反する米軍の厚木飛行場の使用を認め,あるいは放置することは,自衛隊法107条5項に基づく公共の安全確保措置義務,障害発生防止義務に違反することになる。米軍機に対する差止請求は理由のあるものである。
6  損害賠償について
(1) 共通被害に基づく賠償請求
原告らは,原告らに生ずる被害のうち全員に同一に存在が認められるものや具体的内容について差異があっても原告らにとって同一と認められる性質・程度の被害を全員に共通する損害としてとらえ,一律に最低限の賠償を求めている。原告らがそれぞれ被る様々な被害について,一つ一つの被害を個別的に主張し,その損害の賠償を求めるものではない。あくまで,身体の安全を害され,平穏な生活を破壊されるという総体としての被害の共通性をもって,その総体に対して,被る損害のごく一部を一律に賠償請求するものである。このことに加え,騒音被害の特徴に照らせば,それぞれの原告について,それぞれの生活実態に基づいた様々な被害の立証がされ,全ての原告らに最低限共通して身体的被害あるいは身体的被害に連なる可能性を有する不快感や生理的,心理的影響ないし被害,あるいは健康への不安感,日常生活の広範な妨害といった被害が立証されることで,被害の立証としては必要にして十分である。原告らの全てについて,被害を受ける時間帯が「共通」かどうかとか,被害を受ける項目が「共通」であるかなどの観点は全くもって不必要である。
(2) 地域類型により違法性を区別することの不当性
被告は,昭和48年環境基準が地域の類型別に環境基準を定めていることを十分考慮して受忍限度の判断をすべきであると主張するが,近時の裁判例が違法性の判断において地域類型を全く考慮していないこと,航空機騒音の特質及びその被害の実情に鑑みれば騒音被害地域内における航空機騒音被害の救済は等しく認められるべきであること,昭和48年環境基準が地域類型により基準値に差を設けていることの根拠自体が不合理であることに鑑みれば,妥当性を欠き到底認められない。
(3) 損害賠償額
非財産的損害という意味では本件と共通する名誉毀損事件等の事件類型では,その被害を適切に評価し,損害を実質的に塡補できるよう見直しが行われており,慰謝料額は年々高額化してきた。その中で,基地訴訟のみが取り残され,慰謝料額は名目的かつ低額なものに押しとどめられてきたが,厚木基地周辺における被害実態を適正に評価すれば,75Wの地域であったとしても1日100円足らずの額では到底塡補されないことは明らかである。被害を正当に評価し,損害の実質的塡補を達成するためには,従来の裁判例で認められてきた慰謝料額よりも大幅に増額すべきであり,原告らが航空機騒音により一律に被っている人格的被害に対する慰謝料額が,請求額である月額2万円を下回ることはあり得ない。
(4) 将来請求の必要性
航空機騒音の被害について将来の損害の賠償請求の訴えを不適法とした大阪国際空港に係る最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁(以下「大阪空港最判」という。)は誤りであるが,同最判の立論に従っても,次のとおり,本件では将来請求を認容すべきである。
民事訴訟法(以下「民訴法」という。)135条によれば,将来の給付の訴えは,①現在既に請求の基礎となった事実関係が存在し,②請求内容が明確である場合において,③あらかじめ請求をする必要がある場合に限って認められる。
本件における①は,厚木基地の設置・管理の瑕疵であり,より具体的な加害行為は航空機の運航状況であるが,この不法行為は約30年間継続する「常態」と化しているのであって,請求の基礎となった事実関係は既に存在している。②も,毎月末の一定額であり,極めて明確である。③に関しても,既に4度の提訴がされ,被告は過去7度の判決(第1審判決3度,控訴審判決3度,上告審判決1度)による違法判断を無視してなおも不法行為の成立を争っているのであるから,あらかじめ請求をする必要があることも明白である。
将来請求が認容されるべき対象期間は,爆音被害の抜本的解決を被告がするまでであって,その有無は客観的に明らかな事情であるから,特に終期を定めるまでもない。また,認容額は,過去の裁判例からすると,居住の事実と防音工事状況に基づいて計算された金額の賠償であって,一義的に明確である。さらに,将来における被告による抜本的解決,原告らの居住の事実及び防音工事状況は客観的に明らかな事情であるから,原告らの将来の強制執行に対し,被告に請求異議の訴えによって争わせることとしても何ら酷ではない。居住の事実を除けば,いずれも加害者の行う損害防止措置の実施であって,これを後に被告に争わせることとすることは,大多数の学説からも支持されている。
仮に裁判所において,上記のような将来請求の終期,居住の事実に関して躊躇を覚えるのであれば,例えば,「平成28年12月末日又は本判決が確定する日のいずれか早い日まで」,「口頭弁論終結時と同じコンター内に居住しており,原告らから住民票の提出がされたとき」との終期又は条件を付して認容することも考えられる。少なくとも全部却下は許されない。
(5) 住宅防音工事その他の周辺対策について
被告は,被告が行ってきた種々の周辺対策等により,原告らを含む厚木基地周辺住民にもたらされる航空機騒音を主とする不利益ないし影響は既に相当程度防止又は軽減されていると主張する。また,第3次判決は,防音工事を受けた者及びこれと同居する者については,防音工事の助成によって被害の減少があると推認できるとの前提に立った上で,慰謝料を減額した。
しかし,被告がこれまでに行ってきた周辺対策及び音源対策等なるものは,原告らの騒音被害を解消するには極めて不完全,不徹底なものであり,航空機騒音による侵害行為の違法性を阻却あるいは軽減するものでは到底あり得ない。すなわち,住宅防音工事は,航空機騒音から逃れようとするならば密閉された防音室に閉じこめておこうという極めて非人間的な発想に基づくものであって,また実際の防音効果にしても,多くの原告らが述べているように不完全・不十分なものであり,生活実態としても防音室のみで生活をしているわけではなく,防音室使用にともなうマイナス面も多々あり,厚木基地周辺の航空機騒音による侵害行為の違法性ないし受忍限度の判断に当たってては何ら考慮の対象にならない。また,賠償額の算定に当たって住宅防音工事の実施をもって減額事由として評価し,一定割合での減額を認めること自体も,これまで述べてきた理由から到底納得できるものではない。仮に減額を認めるとしても,防音工事を実施した居室数に応じて一定の減額率を加算するのではなく,室の数に関係なく一律一定割合にて処理をするのが相当である。
被告は,防音工事をした住宅について所定の財産処分制限期間経過前に承認を受けることなく取壊しや改築が行われた場合,財産処分制限期間が経過するまでの間は住宅防音工事における違法性及び損害の減少が認められるべきであると主張する。しかし,補助金交付の適正化のために規定された行政法規上の手続を履践しなかったことと原告らが実際に被っている騒音被害による慰謝料額の算定とは全く別次元の問題である。処分制限期間内か否かにかかわらず,住宅取壊し等により防音室がなくなったという事実のみに基づいて判断をすべきである。
被告が主張する周辺対策のうち住宅防音工事以外のものは,原告らの騒音被害軽減とは全く関係がないか,被害状況を改善する効果のないものである。
(6) 危険への接近について
被告は,原告らの一部につき,危険への接近の理論の適用による賠償額の減免を主張する。しかし,不法行為法理の根本的な理念である衡平の理念(損害の公平な分担)に即して考えれば,「危険への接近」とは,特定の要件を充足した場合には必ず加害者の損害賠償責任が減免されるべきことを承認した法理などと呼べるようなものではない。その判断は,あくまで事案ごとの個別事情に基づくのであって,具体的な事案に則し,不法行為責任が生じた後に例外的にその責任の一部を減免し得るという理屈にすぎない。
被告は,①侵害行為を積極的に作出し,②侵害行為の激甚さをひたすら放置し自らあるいは米軍が行う基地機能の拡大を推し進め,③侵害行為の存在を隠蔽し,居住地としてのさらなる発展をなすがままにするだけという無責任な態度に終始してきた。また,④7度にも及ぶ判決による違法判断を完全に無視し,被害の解消に対する抜本的対策を何ら取ろうとしない。さらに⑤上記の度重なる違法認定を経ながらもなお,住民らの受ける被害は受忍限度内であるなどと強弁し,あげくには,原告らの被害は「転居すれば免れる被害だ」などと開き直る態度にまで出たのであって,もはや加害者としての自覚も責任もなく,極めて悪質な侵害者としての自らの立場すら認識していない。このような加害者たる被告が衡平の原理という重要な法理念を根拠に損害の減免を主張することは許されない。
一方,被告が減免を主張する原告らは,航空機騒音の実態を正確に把握することができないまま騒音地域内に居住せざるを得ない状況にあり,また,いずれもやむを得ない事情によって転居しているのであり,非難されるべき事情もない。こうした原告らに損害の一部でも分担させることを肯定すべき理由は全くないのであり,危険への接近の理論を適用することが衡平の理念に照らして相当といえる余地が生ずることはない。
(7) 国家賠償法6条の相互保証について
ア 国家賠償法6条の解釈の在り方
原告らの中には外国人がいる。国籍国は,大韓民国(以下「韓国」という。),中華人民共和国(以下「中国」という。),ベトナム社会主義共和国(以下「ベトナム」という。),パキスタン・イスラム共和国(以下「パキスタン」という。),スリランカ民主社会主義共和国(以下「スリランカ」という。),フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)及びカナダである。これらの原告ら(以下,併せて「外国人原告ら」といい,国ごとには「韓国人原告ら」などという。)については,国家賠償法6条により,相互の保証があるときに限り,同法が適用される。
国家賠償法が制定された昭和22年当時,国家無答責の法理は海外でも広く認められており,また,我が国と諸外国との間で人の往来はなかった。国家賠償法6条は,このような時代背景の下で設けられた規定である。多くの国が国家賠償制度を有し,我が国と諸外国との間で多くの人の往来があり,また,人権保障の国際化が浸透している現在において,同条の存在意義は失われている。したがって,同条を根拠として外国人原告らの賠償請求を否定することがあってはならない。
このように国家賠償法6条は存在意義を失った不合理な規定であり,外国の法制度の立証の困難さに照らしても,相互保証がないことを被告が立証しない限り,外国人に対する国家賠償法の適用は否定されないというべきである。また,国家賠償法2条1項が私法的色彩の濃厚な規定であること,各国の国家賠償制度は様々でありその個別の要件を比較することは非現実的かつ無意味であることなどを考慮すれば,なるべく緩やかな要件で相互保証の存在を肯定すべきである。
外国人原告らについては,当該原告の国籍国と我が国との間の二国間条約に基づき相互保証が認められると解するが,そうでないとしても,次に述べるとおり,相互保証が認められる。
イ 韓国
韓国には我が国同様の国家賠償法が存在し,相互保証により日本人にも適用されているので,相互保証が存在する。これまでの裁判例でも相互保証が肯定されている。
ウ 中国
中国では,公務員の行為によって私人に生じた損害の賠償を求める場合,国家賠償法に基づくものとされ,相互保証主義,対等原則が規定されている。また,慰謝料の請求も認められ,公の営造物の設置管理の瑕疵による損害賠償も民事賠償の範疇として保障されている。したがって,相互保証が認められる。
エ ベトナム
ベトナムでは,公務執行者が引き起こした損害について,国内の個人,組織あるいは外国人などの区別をせず賠償を受けることが定められている。また,精神的損害を受けた個人は国家賠償を受けることができ,公の営造物の設置管理において損害を被った場合にはその設置管理を実施する法人が民法に従ってその損害を補償する責任を有するとされている。したがって相互保証が存在する。
オ パキスタン
パキスタンでは,民法の不法行為法が,公務員の職務執行の違法又は国等の設置管理の瑕疵により私人に生じた損害に対する賠償を定めており,日本人にも同様の賠償が認められている。精神的損害に対する賠償も認められる。したがって相互保証が存在する。
カ スリランカ
スリランカでは,国家不法行為責任法が,公務中の公務員等に不法行為や不作為があった場合に国の責任を認めており,スリランカ人と外国人の区別なく損害賠償訴訟を起こすことが可能である。また,慰謝料請求が可能であるし,公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく賠償責任が否定されるとは解されない。したがって相互保証が存在する。
キ フィリピン
フィリピンでは,民法等により一定の場合に国又は地方自治体が損害賠償責任を負うとされ,フィリピン人か外国人かでその取扱いに差異はない。主権免責が適用される場合があるとしても絶対ではなく,地方自治体及びその職員に対する訴訟は許可されるとされている。また,道路,橋,公共建築物その他の公共物の欠陥状態による損害についても,慰謝料を含めて地方自治体に対する損害賠償請求が可能である。したがって相互保証が存在する。
ク カナダ
カナダでは,ケベック州を除く全州と連邦政府が,国家ないし州のための「法律に基づく責任」を形成する法律を制定し,一般人が不法行為を犯したのと同様に国家ないし州は法的責任を負うとされており,相互保証主義も採用されていない。また,慰謝料請求も認められると解され,過失責任とともに土地又は建物の占有者の法的責任も認められるから,公の営造物の設置管理の瑕疵に基づく損害は賠償され得ると解される。したがって相互保証が存在する。
第2  被告の主張
1  自衛隊機に対する差止請求が不適法であること
自衛隊機に対する差止請求については,厚木基地最判において,「このような請求は,必然的に防衛庁長官にゆだねられた……自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから,行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして,右差止請求は不適法というべきである。」と判示されている。この判示は福岡空港訴訟に係る最高裁平成6年1月20日第一小法廷判決・裁判集民171号15頁(判例時報1502号98頁)(以下「福岡空港最判」という。)でも踏襲された。
したがって,自衛隊機に対する差止請求に係る訴えは,不適法として却下されるべきである。
2  米軍機に対する差止請求が主張自体失当であること
(1) 判例から導かれる結論
米軍機に対する差止請求は,被告の支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであるから主張自体失当として棄却を免れない。これは,厚木基地最判に加え,最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決・裁判集民167号359頁(判例時報1456号53頁)(以下「平成5年横田基地最判」という。)が明示的に判示している。
すなわち,日米地位協定2条4項(b)に従って米軍が使用を認められている施設及び区域については,被告(防衛大臣)が,米軍に対し,米軍機の運航等を規制,制限することはそもそも予定されていない。日米安保条約や日米地位協定などの関係条約や国内法令に米軍による厚木基地の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得る特段の定めがないことに照らせばこのことは明らかである。米軍機の保有及び運航権限は全て米軍の専権に属するのであり,被告が米軍機の運航活動の内容に変更を求めるには米国との外交交渉による以外に方法はないのである。
以下,念のため,原告らの主張に対する反論として,厚木基地最判の判断が正当であることを敷衍して述べる。
(2) 原告らの主張に対する反論
厚木基地の一部は日米両政府間の合意によって昭和46年に使用転換がされ,厚木基地はその全体が三つに区分されてその具体的な共同使用関係の内容及び管理権の所在に関する法律関係が創設された。この経緯からすれば,昭和46年使用転換においては,同年7月1日以降も米軍が駐留目的遂行のため従来と変わりなく厚木基地を使用することができることが基本的な前提となっていることは明らかであり,日米両国間における厚木基地に関する基本的な法律関係も,同日以降も米軍が従来と変わりなく厚木基地を使用することができるという内容のものにほかならない。したがって,海上自衛隊が厚木基地の一部を管理する権利を有することとなったとはいえ,以上のような基本的法律関係を度外視して当該権利を行使することはできず,あくまでその枠内において米軍の駐留目的に資するように当該権利を行使しなければならないのである。結局,昭和46年使用転換以降も,被告(防衛大臣)が,米軍に対して一方的に優越的地位に立ちつつ,米軍機の運航等を規制し,これを制限することはおよそ想定されておらず,そのような形で海上自衛隊が管理権を行使するという法律関係が創設されていないことは明らかである。
日米地位協定2条1項(a)が厚木基地に関する基本条項であることは,昭和46年使用転換の前後で変更がないばかりでなく,厚木基地最判も,厚木基地の滑走路部分(厚木飛行場)が同条4項(b)の適用のある施設及び区域として米軍に対し使用が認められることを前提とした上で,「本件飛行場に係る被上告人〔国〕と米軍との法律関係は条約に基づくものであるから,被上告人は,条約ないしこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り,米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得るものではなく,関係条約及び国内法令に右のような特段の定めはない。」と正当に判示している。
3  将来の損害の賠償請求について
(1) 判例
民訴法135条の定める将来の給付を求める訴えの要件について判示した大阪空港最判は,将来の損害の賠償請求について,不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性の要件を厳格に解したものであり,不法行為の成否やその賠償内容が今後の事実関係やこれに対する法的評価いかんによって左右される場合には,将来,請求権が成立したとする時点で原告がこれを立証すべきであり,現時点で将来請求を認めて,将来事情の変動があったときに被告にその権利阻却事由の発生を立証する負担を課すことは相当でないとの考え方によったものと解される。
(2) 本件の将来請求に係る訴えが不適法であること
大阪空港最判が示した要件の該当性の有無を本件の将来請求に係る訴えについて検討すると,口頭弁論終結後において原告らのいう侵害行為又は損害の発生の基礎となる事実関係が変動することが予測されるのであり,将来の不法行為成立の確実性及び賠償内容の確定性の要件をいずれも充足するものではないから,この訴えは不適法といわざるを得ない。
すなわち,厚木基地に係る航空機騒音等の被害に関して原告らに損害賠償請求権が認められるのは,厚木基地における航空機エンジンの作動,航空機の離発着,誘導等によって生ずる騒音等が受忍限度を超え,違法と判断される場合に限られるが,航空機騒音等が受忍限度を超えているか(違法か)否かは,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,公共性,地域性,先(後)住性,危険への接近及び侵害防止措置等の多様な事実関係を総合的に判断した上で決せられるべきである。本件においては,航空機騒音等の状況に恒常性がないために将来の状況を予測することはそもそも困難であって,原告らの生活態様にも変化が生じ得るから,将来の被害の状況や程度も流動的といわざるを得ない。また,原告らの請求が認容されるには,将来においても厚木基地周辺に居住していることが前提となるが,原告らの中に将来転居する者があり得ることは否定し得ず,転居の有無は原告らにとっては明白な事実であっても,数千名にも及ぶ原告らの現実の居住地全てを被告が逐次把握することは非常に困難であって,将来の転居の事実についての立証の負担を被告に課すことは相当でない。さらに,被告が周辺対策として実施している住宅防音工事等については,着実に実績が積み重ねられており,今後ともこれらの周辺対策が講じられ,原告らの航空機騒音による被害が一層軽減されることも予想される。
以上のように,本件における将来の損害の賠償請求権の発生の有無は,極めて不明確,不確実といわざるを得ず,明確な具体的基準により賠償されるべき損害の変動状況をあらかじめ把握することも極めて困難である。したがって,原告らの損害賠償請求権の成否及びその内容を的確に把握するためには,それが成立したとされる時点で,原告らの立証する事実関係に基づいて改めてその成立の有無及びその内容を判断するほかないのである。
4  過去の損害の賠償請求について
(1) 違法性(受忍限度)の判断基準等
厚木基地には国家賠償法2条1項にいう「公の営造物」の設置又は管理の瑕疵があるとは認められない。供用目的に沿って利用されることとの関連において営造物の設置,管理の瑕疵が認められるためには,その営造物を利用に供した結果,利用者以外の第三者の権利ないし法益を侵害し,同侵害が社会生活上受忍すべき限度を超え違法であると判断されることが必要である。そして,この違法性の存否は,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間にとられた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきこととされている。次に述べるとおり,原告らを含む周辺住民が厚木基地の航空機騒音等によって受けている影響は受忍限度の範囲内と認められるというべきである。
ア 本件においては,原告らが侵害されていると主張する被侵害利益の性質と内容が具体的に明らかにされることが必要であり,各原告がそれぞれその被害を被っていることを個別具体的に主張・立証しなければならない。航空機騒音についても,現実に原告らが曝露された航空機騒音の内容や程度が原告ごとに主張・立証されなければならない。ところが,原告らは,上記の個別具体的な主張・立証を行っておらず,原告らが受忍限度を超える被害を被っていることや原告らの損害を認めるに足りるだけの主張・立証が尽くされているとはいい難い。
イ 原告らは,いわゆる共通損害すなわち原告らに最小限共通する損害の賠償を求めているようであるが,そのような共通損害の主張・立証をする場合も上に述べたことと基本的な差違はない。原告らが共通損害を被っていることが認められるためには,①原告らの一部の者に一定の被害が発生していることを主張・立証するのみでは足りず,②その被害が現に他の原告らにも共通に生じていると認められるような性質・程度のものであることを主張・立証することが必要となる。このような共通損害の概念や立証責任の所在に照らせば,原告ら全員が厚木基地の航空機騒音等によって実際に被っている最小限度の被害の内容と程度を原告らにおいて立証すべきであり,この立証された被害の内容と程度に基づいて受忍限度を超えるかどうかを判断するのが相当である。個々の原告らの実騒音曝露量や共通実騒音曝露量を直接立証することが困難であることから,次善の策として共通実騒音曝露量推計値を用いざるを得ないとしても,それは共通実騒音曝露量の実態に近いものである必要がある。
そして,共通実騒音曝露量の実態に最も近いW値は,防衛施設庁方式によるW値ではなく,環境基準方式による「昼間騒音控除後W値」である。これを説明すると次のとおりである。
まず,昼間の時間帯(平日の午前9時から午後5時まで)は出勤や通学により不在とする者も多く,全員が共通して在宅しているものでないから,少なくとも昼間の騒音被害は原告ら全員に最小限共通するものでない。
次に,環境整備法に基づいて告示された第一種区域等は,防衛施設周辺の関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする政策的補償措置として家屋への防音工事等の周辺対策を実施するための区域を画するものにすぎないし,指定された区域線は騒音コンターそのものではなく,したがってまた騒音の実態を正確に示すものではなく,第一種区域内にあるからといって当該区域内全部が防衛施設庁方式による75W以上の騒音曝露があると認定することはできない。さらに,時点の違い等をも考慮すれば,第一種区域内に居住しているからといって,直ちに違法な権利侵害を受けているといえないことは明らかである。しかも,防衛施設庁においては,周辺対策の実施範囲を緩やかに(広く)するように配慮して,実際の飛行回数の算術平均を上回る飛行回数を計上するなどして環境基準方式を調整し,防衛施設庁方式を設けたことから,防衛施設庁方式によって算定されたW値は,対象期間に現実に発生した騒音の内容・程度を反映したものとなっておらず,これを上回る騒音の内容・程度を表すものとされる傾向がある。したがって,現実に発生した騒音の内容・程度により近..いのは,環境基準方式によって算定されたW値である。
これらのことからすると,厚木基地周辺地域における航空機騒音データを基にしつつ,共通実騒音曝露量推計値を認定するという目的に適合するように,騒音発生回数について平日昼間の時間帯(午前9時から午後5時まで)の騒音発生回数を0とした上で,環境基準方式と同一の方法でW値を算定したもの,すなわち昼間騒音控除後W値こそが,原告らの騒音曝露の実態を反映したものといえる。
したがって,原告らの受忍限度や損害額は,被告作成の昼間騒音控除後コンター(注・本判決には添付しない。)により推計したW値に基づいて認定・判断されるべきである。一方,昭和48年環境基準は,政府が騒音等に係る環境上の条件に対する総合的施策を進める上で達成されることが望ましいとされる基準であり,騒音による好ましくない影響を防止するという見地に立って純粋に望ましい環境の保全という観点から定められたものであるから,その数値をそのまま受忍限度の判断基準とすることができないことはもとより,健康被害や環境破壊等の事実を推認させる基準とすることもまた相当でないものの,昭和48年環境基準において地域の類型別に環境基準値が定められた趣旨からすれば,航空機騒音が受忍限度を超えるかどうかの判断はもとより,その損害額の算定に当たっても,地域の用途に合わせたその地域の類型が十分に考慮されるべきである。
ウ 以上によれば,原告らが各々の騒音被害について個別具体的な立証をしていない以上,その請求は棄却されるべきであるが,この点をおくとしても,上記イの見地から後記(2)~(5)の各点を含めて総合的に判断すれば,航空機騒音の原告らへの影響は受忍限度内にとどまるというべきである。
(2) 厚木基地の航空機の運航についての侵害行為の有無・程度
ア 航空機騒音の特殊性
航空機騒音は,その発生持続時間が短く一過性で間欠的であることが特徴であり,周辺住民の生活に何らかの影響があるとしても,その影響は短時間でたちまち消失し,生活上の平穏は直ちに回復する。また,航空機騒音がもたらす周辺住民の心身への影響や生活妨害の程度を的確にとらえるためには,騒音レベルのみならず,平均騒音発生回数,年別,曜日別,日別の騒音量の変化,時間帯別の騒音の変化及び騒音の持続時間その他の発生形態等について,個々の住民,居住地ごとに多面的かつ具体的な検討を加える必要があり,特定地点における測定結果をもって騒音曝露の諸条件を異にする他の地点の騒音曝露の状況と同一視し得るものではない。
イ 航空機騒音の大きさ
被告は,厚木基地周辺に複数の自動騒音測定地点を設けており,各地点における測定結果によれば,環境基準方式によって算定されたW値(ただし,昼間騒音控除後W値ではない。)は減少傾向にあり,各測定地点が属する地域(第一種区域線等によって画される区域)における防衛施設庁方式により算定されたW値を下回っている。屋外で85Wであっても,防音工事施工室内においては,昭和48年環境基準が達成されたのと同様の屋内環境(60W以下)が保持されている。
ウ 墜落等事故の危険について
航空機の墜落事故は極めてまれにしか発生しないから,その危険性は抽象的なものにすぎず,その現実的,具体的危険性が生じていることをもって違法な権利利益の侵害が存するとする原告らの主張は前提を欠く。厚木基地は,公共用飛行場以上に広大な敷地を有しており,滑走路の位置,長さ,幅員も航空法の基準を十分に満たしている。米軍は自ら各種の基準を定めてその安全性の確保に努めており,自衛隊も同様に各種安全性確保のための基準を設けている。航空機事故の危険性はごく抽象的なものにすぎず,このような抽象的な危険性に対する不安等があることをもって,違法な権利利益の侵害が存するとは到底認められない。
エ 低周波音について
原告らは低周波音に特有の被害をも被っている旨主張するが,原告らが依拠する測定結果報告書の内容は測定方法及び測定結果の分析が不十分であり,その測定時点においても,原告らがその主張する程度の低周波音に曝露していたとは認め難い。また,原告らが低周波音によるものであると主張する被害は,原告らを含む周辺住民らに共通するものではない。
低周波音は航空機以外が原因となって生ずる場合もあり,また,低周波音による被害感は個人差が大きく,同じ周波数,音圧の低周波音に曝露されたとしても必ずしも全員が被害を感じるわけではない。そして,短時間のみ曝露する航空機騒音に含まれる低周波音については,低周波音の環境基準やガイドラインが存在しないことはもとより,評価方法や基準値すら定まっていない状況にある。したがって,感覚閾値や建具のがたつき閾値等をもって直ちに低周波音による被害の存在を認定することは相当でなく,これらの閾値等は受忍限度を画する基準となり得ない。
(3) 厚木基地の公共性
厚木基地における自衛隊機及び米軍機の運航活動が第三者との関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっては,当該活動の公共性・公益性が重要な考慮要素となり,違法性を判断する上での諸要素の比較衡量においては,当該活動の公共性・公益性の度合いが高ければそれに応じて受忍限度も高くなると解されることは,大阪空港最判が判示しているとおりである。
厚木飛行場は,防衛大臣が設置・管理し,自衛隊が自衛隊法に定められた我が国の防衛,災害派遣等の任務遂行をする上での各種活動をするための飛行場として利用している。他方で,日米安保条約に基づき,我が国の安全に寄与するとともに,極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという高度に政治的・行政的な目的のため米軍に対して提供され,その目的を遂行する上での諸活動をする飛行場として米軍が利用している。したがって,厚木基地に離着陸する自衛隊機及び米軍機の諸活動は,我が国の基本的な存立と安全を確保するためのものであり,高度の公共性を有する。
一方で,原告らに身体的被害等の重大な利益侵害は認められず,何らかの影響を被っているとしてもそれは日常生活上の不便・支障といった程度を超えるものではない。
受忍限度の判断に当たっては,原告らの受ける影響と厚木基地のもつ機能すなわち上記のような高度の公共性,公益性について,その性質,内容及び位置付けをそれぞれ正当に評価し,総合的,全体的な衡量を行う必要がある。
(4) 被侵害利益の不存在
前記のとおり,原告らは,実際に原告ら全員が最小限度共通して曝露したとする騒音の内容・程度を主張・立証しなければならず,この最小限度共通する騒音による原告ら全員に共通する被害の内容・程度が受忍限度を超えるものであるかどうかが問題とされなければならないが,これに対し原告らは,被告の上記主張は大阪空港最判によって既に排斥されており,共通損害についてはおよそ個別具体的な主張・立証が不要であるなどと主張する。
しかし,原告らの大阪空港最判に対する理解は誤っており,同最判は,共通損害について主張立証責任を緩和する趣旨の判示をしたものではない。航空機騒音については,我が国においてのみならず,国際的にもその影響の有無が問題とされているが,人の身体ないし精神面に影響が及ぶことは一般的に否定されている。原告らが主張する各種被害は,このようにその影響が一般的に否定されているもの,その性質上共通損害となり得ないもの,原告らに共通している損害とは認められないものなど,いずれも共通損害として認められないものである。さらに,原告らが提出する陳述書及び診断書を見ても共通損害は認められず,原告らが引用する各種文献及び調査結果等は,原告らの主張に係る被害を裏付けるものではない。
(5) 周辺対策等
被告は,厚木基地の存続によってもたらされる公益の重大性と厚木基地を維持するために影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るため,種々の周辺対策を実施してきた。これらにより,原告らを含む周辺住民にもたらされる航空機騒音を主とする不利益ないし影響は相当程度防止又は軽減されている。また,被告が種々の周辺対策等を実施して騒音の軽減に努めていることは,違法性の判断においても十分に考慮される必要がある。
被告の実施している周辺対策は主に環境整備法に基づく。これは違法な権利侵害や損害が発生していることを前提とするものではなく,あくまで厚木基地周辺地域の居住環境等をよりよい状態に維持することを目的とするものであることに留意すべきである。
被告の実施してきた周辺対策は,①移転措置及び移転跡地の緑地帯整備(環境整備法5条,6条),②住宅防音工事に対する助成措置(同法4条),③住宅防音工事以外の防音対策,④その他の周辺対策に大別される。
(6) 危険への接近
ア 免責の法理としての危険への接近
危険への接近の法理は,自由な意思決定によって選択した結果は自己が負担するとの自己責任の原則,ひいては,自由な意思決定によって自己の法益を危険にさらしたにもかかわらずこれによる損害を他に転嫁することは衡平に反する結果となるとの不法行為法を支える根本理念の一つである衡平の理念に根ざすものであり,この法理が,違法性(受忍限度)の判断の際の重要な要素として評価されるべきことは,大阪空港最判を始めとする判例上明らかであり,学説においても広く承認されている。
本件において上記法理の適用の当否を判断するに当たっては,厚木基地周辺について,飛行場の維持,運営のために利用されるという地域特性の形成の有無及びその時期並びにこれと原告らの居住開始時期との先後関係,厚木基地の公共性の程度,原告らが受けているとする騒音被害の内容と程度,これと上記地域に居住することによって生ずる利益との比較衡量等の諸事情が詳細に検討されなければならない。
本件では,厚木基地周辺の航空機騒音が社会問題化した後の昭和49年(基準日)以降に厚木基地周辺に転入した原告らについては,航空機騒音による被害発生状況を認識して転入したと推定することができ,「一定程度の航空機騒音の存在を認識しながら相当期間にわたる間の住居としてあえてその住居を選択した」(大阪空港最判)という事情が認められるから,被害の容認があったものと推定される。また,昭和57年2月以降厚木基地においてNLPが開始されその航空機騒音が重要な社会問題として広く国民の注目を集めるようになったのであるから,少なくとも同年5月(新基準日)以降の転入者については,騒音被害を容認して転入したものと推定することができる。
防衛施設庁は,平成18年の第一種区域等の指定の告示をするに当たり,事前に区域の見直しに関する情報をウェブサイトに掲載し,パンフレット等を配布し,告示後には,新たな第一種区域等の対象区域図等をウェブサイトに掲載し,同年2月から4月にかけて,住宅防音工事の対象区域等を図示したパンフレット等を厚木基地周辺住民に配布するなど,厚木基地周辺の騒音問題や騒音対策に関する情報の周知徹底を入念に行った。その前の平成16年には,航空機騒音発生状況をリアルタイムで提供する情報公開システムが構築されており,南関東防衛局の公式ウェブサイトでも結果を確認することができる。周辺自治体も厚木基地の騒音被害の状況を公式ウェブサイトで公開し,その他のサイトでも厚木基地の騒音に関する情報が掲載されていた。このように,平成18年4月当時には何人も容易に厚木基地の航空機騒音に関する情報を入手することができる状況にあったから,遅くとも同年5月以降に厚木基地周辺地域に転居した原告らは,航空機騒音による被害を容認していたことが一層強く推定される。
以上によれば,基準日(昭和49年)以降の転居者には免責の法理としての危険への接近の法理の適用が認められるべきであり,少なくとも新基準日(昭和57年5月)以降の転居者に同法理を適用しない理由はない。
上記の見地から,被告は,次の類型の原告らは免責の法理としての危険への接近の法理の適用を受けるべきであると主張する。
類型A: 新基準日(昭和57年5月1日)以降に75W以上の地域に転居してきた者(75W以上の地域内で転居した者を含む。)
類型B1-1: 新基準日以降に75W以上の地域に居住した事実が認められ,その後指定区域外に転出したにもかかわらず,再び75W以上の地域に転入した者
類型B1-2: 新基準日以降に75W以上の地域に居住した事実が認められ,その後指定区域外に転出したにもかかわらず,再び過去に居住した場所の近傍に転入した者
類型B2: 新基準日以降に75W以上の地域に居住した事実が認められ,その後より(・・)騒音レベルの高い地域に転居した者
類型B3: 新基準日以降に75W以上の地域での移動を複数回繰り返した者
類型C: 平成18年5月1日以降に75W以上の地域に転居してきた者
イ 減額の法理としての危険への接近
危険への接近の法理によって免責が認められない場合にも,具体的な事情のいかんにより,過失相殺の法理に準じ,損害賠償額の算定に当たりこれを減額事由として考慮すべきことは当然である。この場合の減額の要件としては,危険(騒音の存在)の認識を有し,あるいは過失によりこれを認識しなかったことで足り,それによる損害の容認までは必要がない。過失によって危険の存在を認識しなかった場合を含めるのは,条理上,認識していた場合と同様にこれを取り扱うのが相当であるからである。
(7) 損害額
ア 損害額一般
原告らは,個別具体的な被害の内容及び程度等につき的確な主張立証をしているとはいえず,航空機騒音に関する従来の裁判例の基準に比して損害額が増額されるべきであるとの原告らの主張もおよそ根拠の乏しいものである。
被告は周辺対策等を継続・実施しており,平成15年をピークに厚木基地における航空機騒音は減少傾向にあるから,原告らの損害は,第3次判決において認定された損害に比べて,減少することはあっても増大することはあり得ない。
イ 住宅防音工事による減額
周辺対策として実施している住宅防音工事により,昭和48年環境基準を満たす効果(室内で60W以下)が生じていると認められる。防音工事の効果は,昭和48年環境基準を満たしているか否かを基準に判断すべきであり,当該環境基準を満たしている場合には損害を減額すべきである。
防音工事が実施された居室数の和に基づいて損害を減額すること及び2室目以降の損害の減額率を低くすることはいずれも相当でない。防音工事後の住宅については,住宅の総居室数に占める防音工事が実施された居室数の割合に応じて損害を減額すべきである(例えば,4居室に住宅防音工事を実施した場合,総居室数が4居室であれば100%,5居室であれば80%の減額となる。)。
さらに,①防衛施設周辺対策事業補助金等交付規則(平成19年防衛施設庁告示第9号。以下「補助金規則」という。)に定められた財産処分制限期間経過後に防音工事済住宅の取壊しや改築が行われた場合,住宅取壊し等までの期間について住宅防音工事の効果として損害が減額され,②防音工事済住宅が建て替えられた場合(住宅の建て替えに併せて防音工事を行う場合を含む。),防音工事済住宅の取壊し等以降も住宅防音工事の効果として損害が減額され,③財産処分制限期間経過前に承認を受けることなく住宅の取壊し等が行われた場合,財産処分制限期間が経過するまでの間は防音工事の効果が生じているものとして損害が減額されるべきである。
ウ 弁護士費用
厚木基地については過去に3回の司法判断が確定している上,論点の重複や主張立証のための労力の減少などの事情も併せ考慮すると,本件訴訟における弁護士費用については,損害賠償額の15%という原告らの主張額は過大であり,他の裁判例で示されたことのある7%という水準よりも更に低い水準が妥当というべきである。
5  その余について判断するまでもなく請求が排斥されるべき原告ら
(1) 居住の事実等が認められない原告ら
原告らの中には,①第3次判決で認容された損害賠償請求と同一の損害賠償請求を繰り返している者,②提訴時に既に死亡しており,あるいは提訴後に死亡した後の期間をも損害賠償請求に含めている者,③出生前の期間について損害賠償請求を求めている者,④指定区域外に居住していた期間を損害賠償請求に含めている者,⑤損害賠償請求権につき消滅時効が成立している者,⑥住民票記載の住所と訴状記載の住所地が齟齬するもの,⑦提訴時に居住していたとされる住所を管轄する自治体に住民登録が認められず提訴後に転居したことがうかがわれる者などがいる。
これらの原告については,訴えが不適法であるか,請求の一部に明らかに理由がない。
(2) 国家賠償法6条の相互保証
ア 国家賠償法6条の解釈
国家賠償法6条の相互保証の有無に関する主張立証責任については,外国人原告らが,当該原告らの本国法において相互保証があることについて主張立証責任を負うと解すべきである。その内容としては,仮に日本人の被害者が本件と同様の請求原因事実に基づく請求を行った場合に,当該国籍国の法制度によって当該国籍国が我が国の国家賠償法と同一か又はそれより厳重でない要件の下に当該日本人の被害者に対して賠償責任を負うものであることを主張立証しなければならないというべきである。
イ 相互保証が否定される外国人原告ら
中国,ベトナム,パキスタン,スリランカ,フィリピン及びカナダの法制度がそれぞれ相互保証の要件を満たすか否かは不明であり,これらの国において相互保証があることについて主張立証がされているとはいえない。したがって,韓国人原告らを除く外国人原告らの請求は,その余について判断するまでもなく排斥されるべきである。
6  仮執行開始時期猶予宣言の申立て
本件の判決に仮執行の宣言を付することは相当でなく,仮にその宣言を付する場合には被告は仮執行免脱の宣言を求める。さらに,その仮執行宣言の効力が被告に対する判決送達後の相当期間を経過した後に発生する旨の宣言をも求める。

第4部  当裁判所の判断
第1  検討すべき問題及び判断の順序
当裁判所の判断を示すに当たり,初めに厚木基地をめぐる用語を整理しておく。本判決では,日米安保条約及び日米地位協定に基づき「厚木海軍飛行場」として米国に提供された施設及び区域全体を厚木基地と呼び,そのうちの一部であって昭和46年に使用転換された後に防衛大臣が「厚木飛行場」として飛行場を設置している部分(別紙6図面及び別紙7図面の各赤斜線部分)を厚木飛行場と呼ぶ。
以上の用語法によると,自衛隊機及び米軍機が離着陸をし,あるいはエンジンを作動させるのは,厚木飛行場であるから,本件の争点との関係では,厚木基地全体を検討の対象とする必要はなく,厚木飛行場のみを取り上げて検討すれば足りることになる(後にみるとおり,厚木基地最判は,この用語法と異なり,厚木基地すなわち厚木海軍飛行場全体を「本件飛行場」と呼んで論じているので注意されたい。)。
本件の争点に関しては大阪空港最判と厚木基地最判という二つの最高裁判決によって既に一定の判断枠組みが示されており,第3次判決で判断が示されたものもある。これを踏まえると,検討すべき主な問題は大きく分けて次の四つである。
(1)  自衛隊機の差止請求に係る訴えの適否及び適法とされる場合の請求の成否
(2)  米軍機の差止請求の成否
(3)  過去の損害の賠償請求の成否
(4)  将来の損害の賠償請求の適否及び適法とされる場合の請求の成否
そこで,後記第2から第5までのとおり,上記の順番でそれぞれの問題について判断を示し,その上で,後記第6において弁護士費用を認定し,第7において結論を示すこととする。
上記の問題のうち後記第4において取り上げる(3)(過去の損害の賠償請求)については検討すべき争点が多い。これらの争点については,前記のとおり第3次判決において判断が示されているものもあるが,第3次判決の原告らと本件の原告らは一部が重なるのみであるし,また,これらの原告らについても請求期間が異なるから,第3次判決の既判力は本件に及ばず,改めて検討する必要があることはいうまでもない。もっとも,第3次判決の基礎となった事実関係と本件の事実関係には重なる部分も多く,かつ,第3次判決の判断はその当事者が十分な主張立証を尽くして真剣に争った結果であるから,少なくともその口頭弁論終結時以前の事実に関しては,特段の事情のない限り,第3次判決における認定,判断が本件において尊重されるべきであることもまたいうまでもない。ただ,本件において新たに提示された争点もあることから,過去の損害の賠償請求についても,第3次判決の判断の順序にとらわれず,また,特に必要がある場合を除き第3次判決をいちいち参照することなく,当裁判所の判断を示すこととする。過去の損害の賠償請求に関し本件において検討すべき争点を順に示すと,おおむね次のとおりである。
① 損害賠償請求の成否の判断枠組み
② 厚木飛行場周辺における航空機騒音の評価の指標として採用すべきW値は,防衛施設庁方式によって算定したものか,環境基準方式によって算定したものか(被告の主張する「昼間騒音控除後W値」の評価を含む。)
③ 厚木飛行場周辺の航空機騒音をめぐる客観的事実の認定(航空機騒音の大きさないしうるささ,低周波音の状況,被告による周辺対策の内容等)
④ 原告らの主張する被害のとらえ方(共通損害論)
⑤ 原告らの受けている被害の実態
⑥ 厚木飛行場の公共性の評価
⑦ ②~⑥を踏まえた①の判断枠組みに従った判断
⑧ 危険への接近の理論を適用すべき原告らがいるか
⑨ 外国人原告らにつき,国家賠償法6条の相互保証の有無
⑩ 慰謝料額の認定
第2  自衛隊機の差止請求
1  厚木基地最判の判示
厚木基地最判は,前記のとおり,厚木基地の周辺住民が被告(国)を相手方として提起した第1次厚木基地騒音訴訟の上告審判決である。この訴訟の原告らの請求のうち差止請求は,本件とほとんど同じであり,下記のとおりであった(民集47巻2号791頁参照)。
記被告は自ら又は米軍をして,原告らのために,
(1) 厚木海軍飛行場において,毎日午後8時から翌日午前8時までの間,一切の航空機を離着陸させてはならず,かつ,一切の航空機のエンジンを作動させてはならない。
(2) 厚木海軍飛行場の使用により,毎日午前8時から午後8時までの間,原告らの居住地に65ホンを超える一切の航空機騒音を到達させてはならない。
この請求のうち自衛隊機に関する部分について,厚木基地最判は,自衛隊法及び防衛庁設置法の関連規定を引用した上で,下記のとおり判示した(自衛隊法及び防衛庁設置法を引用した説示を行う「1」の部分は省略する。)。なお,そこにいう上告人らは厚木基地の周辺住民,被上告人は被告(国)であり,「本件自衛隊機の差止請求」とは上記の差止請求のうちの自衛隊機の差止請求のことであり,「本件飛行場」とは厚木基地(厚木海軍飛行場)のことである。

2  以上のように,防衛庁長官は,自衛隊に課せられた我が国の防衛等の任務の遂行のため自衛隊機の運航を統括し,その航行の安全及び航行に起因する障害の防止を図るため必要な規制を行う権限を有するものとされているのであって,自衛隊機の運航は,このような防衛庁長官の権限の下において行われるものである。そして,自衛隊機の運航にはその性質上必然的に騒音等の発生を伴うものであり,防衛庁長官は,右騒音等による周辺住民への影響にも配慮して自衛隊機の運航を規制し,統括すべきものである。しかし,自衛隊機の運航に伴う騒音等の影響は飛行場周辺に広く及ぶことが不可避であるから,自衛隊機の運航に関する防衛庁長官の権限の行使は,その運航に必然的に伴う騒音等について周辺住民の受忍を義務づけるものといわなければならない。そうすると,右権限の行使は,右騒音等により影響を受ける周辺住民との関係において,公権力の行使に当たる行為というべきである。
3  上告人らの本件自衛隊機の差止請求は,被上告人に対し,本件飛行場における一定の時間帯(毎日午後8時から翌日午前8時まで)における自衛隊機の離着陸等の差止め及びその他の時間帯(毎日午前8時から午後8時まで)における航空機騒音の規制を民事上の請求として求めるものである。しかしながら,右に説示したところに照らせば,このような請求は,必然的に防衛庁長官にゆだねられた前記のような自衛隊機の運航に関する権限の行使の取消変更ないしその発動を求める請求を包含することになるものといわなければならないから,行政訴訟としてどのような要件の下にどのような請求をすることができるかはともかくとして,右差止請求は不適法というべきである。
同じ争点について福岡空港最判も同様の判示をしている。
2  判断
厚木基地最判の上記判示は,そこにいう防衛庁長官を防衛大臣に変更すれば,現行の自衛隊法及び防衛省設置法の下でもそのまま妥当するものである。
そして,本件における原告らの自衛隊機の差止請求は,民事上の請求として被告に対し自衛隊機の離着陸の差止め等を求めるものであって,厚木基地最判のいう「本件自衛隊機の差止請求」と比較すると,「65ホン」が「70デシベル」に変わっているのみであり,その請求権としての実質は同一と解される。
そうすると,原告らの自衛隊機の差止請求については,厚木基地最判の射程が及ぶから,厚木基地最判と同じ理由により不適法というべきである。
よって,本件各訴えのうち自衛隊機の差止請求に係る部分は不適法であり,却下を免れない。
第3  米軍機の差止請求
1  厚木基地最判の判示と原告らの主張
第1次厚木基地騒音訴訟の差止請求(前記第2の1参照)のうち米軍機に関する部分(厚木基地最判はこれを「本件米軍機の差止請求」という。)について,厚木基地最判は下記のとおり判示した。

しかしながら,上告人らは,米軍機の運航等に伴う騒音等による被害を主張して人格権,環境権に基づき米軍機の離着陸等の差止めを請求するものであるところ,上告人らの主張する被害を直接に生じさせている者が被上告人ではなく米軍であることはその主張自体から明らかであるから,被上告人に対して右のような差止めを請求することができるためには,被上告人が米軍機の運航等を規制し,制限することのできる立場にあることを要するものというべきである。
これを本件についてみると,原審の確定したところによれば,本件飛行場は,原判決の引用する一審判決別冊第1図青枠部分の区域からなり,被上告人が米軍の使用する施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供しているものであって(日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約(昭和35年条約第6号)6条参照),昭和46年6月30日に我が国とアメリカ合衆国との間で締結された政府間協定により,同年7月1日以降,(1)前記第1図の緑斜線部分は,日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定(昭和35年条約第7号)2条4項(a)に基づき,米軍と我が国の海上自衛隊の共同使用部分とされ,(2)同図赤斜線部分は,海上自衛隊の管轄管理する施設となったが,同項(b)の規定の適用のある施設及び区域として米軍に対し引き続き使用が認められ,(3)同図黄色部分は,引き続き米軍が航空機を保管し整備等を行うため専用している。このように,本件飛行場に係る被上告人と米軍との法律関係は条約に基づくものであるから,被上告人は,条約ないしこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り,米軍の本件飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得るものではなく,関係条約及び国内法令に右のような特段の定めはない。そうすると,上告人らが米軍機の離着陸等の差止めを請求するのは,被上告人に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから,本件米軍機の差止請求は,その余の点について判断するまでもなく,主張自体失当として棄却を免れない。論旨は採用することができない。
同じ争点について平成5年横田基地最判及び福岡空港最判も同様の判示をしている。
原告らの米軍機の差止請求と厚木基地最判にいう「本件米軍機の差止請求」とは,人格権に基づき被告に対し米軍機の離着陸等の差止めを求めるものであり,自衛隊機の場合と同様,請求権としての実質は同一と解される。そうすると,この点についても厚木基地最判の射程が及ぶから,原告らの米軍機の差止請求は厚木基地最判と同じ理由により主張自体失当として棄却を免れないといわなければならない。
ところが原告らは,厚木基地最判は日米地位協定の解釈を誤っているなどと主張するので,念のためこの主張について検討を行う。
2  関係条約の定めと厚木飛行場設置までの経緯等
(1) 関係条約の定め
本件に関係する条約の定めは次のとおりである。
ア 日米安保条約
6条 日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため,アメリカ合衆国は,その陸軍,空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。
前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は,1952年2月28日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定(改正を含む。)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。
イ 日米地位協定
2条1(a) 合衆国は,相互協力及び安全保障条約第6条の規定に基づき,日本国内の施設及び区域の使用を許される。個個の施設及び区域に関する協定は,第25条に定める合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない。「施設及び区域」には,当該施設及び区域の運営に必要な現存の設備,備品及び定着物を含む。
(b) 合衆国が日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第3条に基く行政協定の終了の時に使用している施設及び区域は,両政府が(a) の規定に従って合意した施設及び区域とみなす。
2  日本国政府及び合衆国政府は,いずれか一方の要請があるときは,前記の取極を再検討しなければならず,また,前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる。
3  合衆国軍隊が使用する施設及び区域は,この協定の目的のため必要でなくなったときは,いつでも,日本国に返還しなければならない。
合衆国は,施設及び区域の必要性を前記の返還を目的としてたえず検討することに同意する。
4(a)  合衆国軍隊が施設及び区域を一時的に使用していないときは,日本国政府は,臨時にそのような施設及び区域をみずから使用し,又は日本国民に使用させることができる。ただし,この使用が,合衆国軍隊による当該施設及び区域の正規の使用の目的にとって有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る。
(b)  合衆国軍隊が一定の期間を限って使用すべき施設及び区域に関しては,合同委員会は,当該施設及び区域に関する協定中に,適用があるこの協定の規定の範囲を明記しなければならない。
3条1 合衆国は,施設及び区域内において,それらの設定,運営,警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。日本国政府は,施設及び区域の支持,警護及び管理のための合衆国軍隊の施設及び区域への出入の便を図るため,合衆国軍隊の要請があったときは,合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で,それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地,領水及び空間において,関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。合衆国も,また,合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で前記の目的のため必要な措置を執ることができる。
(2以下省略)
(2) 厚木飛行場設置までの経緯
証拠(甲A9の3,乙A52,53の1・2,54)によれば,厚木基地のうち別紙6図面の赤斜線部分が昭和46年に使用転換され,厚木飛行場が設置された経緯は,次のとおりであると認められる。
ア 日米安全保障協議委員会は,昭和45年12月21日,日米安保条約及び日米地位協定の枠内における施設及び区域の共同使用を含む整理,統合計画を了承した。その中で,厚木基地については次のとおりとされた。「米軍機及び米側要員の大部分は,昭和46年6月末までに移駐するが,艦隊航空部隊西太平洋修理部を含む若干の米軍施設は,小規模な専用区域として存続する。日本政府は,昭和46年6月30日までに本飛行場の運営及び維持上の責任を負い,また,前記の米軍区域への出入を可能とし,かつ,その他の米軍の運航上の必要を充たすため,然るべき共同使用の取決めが行われる」。
イ 日米合同委員会の補助機関である施設特別委員会(現在の名称は施設分科委員会)は,昭和46年6月24日,日米合同委員会宛ての厚木基地に関する覚書を作成した。この覚書は,米軍一時使用区域(後に厚木飛行場となる部分)と日米共同使用区域の範囲をそれぞれ明示し,前者は日米地位協定2条4項(b)による共同使用取決めにより我が国政府の施設に使用転換されるとし,後者は同項(a)による共同使用区域とするとしている。そして,米軍一時使用区域(厚木飛行場)の共同使用の取決めについて,我が国政府は次の3点を了解するとしている。すなわち,①米軍一時使用区域(厚木飛行場)は,米側航空機の米軍専用区域への出入りのため及びその他の運航上の必要のために使用される,②日米地位協定の関連規定は米側航空機が米軍一時使用区域(厚木飛行場)を使用する期間適用される,③米軍一時使用区域(厚木飛行場)の運営及び維持は我が国政府の負担とする,というのである。
この覚書は,同月25日,日米合同委員会によって承認された。
ウ 同月29日,厚木基地の一部における上記覚書に従った共同使用及び使用転換が閣議決定された。その中で,使用転換される厚木基地の米軍一時使用区域(厚木飛行場)については次のような言及がある。すなわち,「使用目的」として,「滑走路分ママ等を海上自衛隊の管轄管理する施設とし,合衆国軍隊に対しては地位協定第2条4項(b)の規定の適用のある施設及び区域として一時使用を認める。」とあり,「備考」として,「1 本件飛行場は米側航空機による米側専用区域への出入のため及びそれに関連したその他の運航上の必要をみたすために使用される。 2 合衆国軍隊がこの施設を使用している期間は,地位協定の必要な条項が適用される。」とある。
エ この閣議決定を踏まえ,同月30日,日米合同委員会において日米政府間協定が締結されて厚木基地について共同使用及び使用転換が決定され,同年7月6日に告示された(昭和46年防衛施設庁告示第7号)。
同告示の内容は前記第2部第1の2(2)ア記載のとおりであり,使用転換されるのは厚木基地のうち別紙6図面の赤斜線部分(米軍一時使用区域すなわち現在の厚木飛行場)であり,共同使用とされるのは同図面の黄色部分(日米共同使用区域)であるとされている。同告示の摘要欄には,使用転換の部分につき,「1 滑走路部分等を海上自衛隊の管轄管理する施設とし,合衆国軍隊に対しては昭和46年7月1日から地位協定2条4項(b)の規定の適用のある施設及び区域として一時使用を認める。 2 合衆国軍隊がこの施設を使用している期間は,地位協定の必要な条項が適用される。」とあり,日米共同使用区域につき,「海上自衛隊第4航空群第14航空隊等が航空施設として共同使用する。」とある。
一方,防衛庁長官は米軍一時使用区域に厚木飛行場を設置してこれを同月1日に告示した(昭和46年防衛庁告示第131号)。
(3) 日米地位協定2条4項(b)についての政府見解
証拠(甲A9の1・2)によれば,日米地位協定2条4項(b)について国会において次のとおり我が国の政府見解が示されたことが認められる。
ア 防衛庁長官(A6)は,昭和46年2月27日開催の衆議院予算委員会において,日米地位協定2条4項(b)の解釈について次のとおり答弁した。
「第2条4項(b)に該当しますのは,要するにわがほうが管理権を持ちまして,わがほうの責任において管理する,しかし一定期間を限って臨時に米軍に使用を認める,わがほうが主であって,臨時に認められる米軍のほうは従でありあるいは客である,こういう関係で使用を認めるという態様であります。そこで,いままで行ないましたケース等を全部検討いたしまして,大体第2条4項(b)の解釈は次のようなものであろう,こういうことでございます。
地位協定第2条第4項(b)でいう「一定の期間を限って使用すべき施設・区域」とは,米軍の恒常的な使用が認められる通常の施設・区域(2条1項(a))及び日本側が臨時に使用できる施設・区域(2条4項(a))とは異なり,日本側のものではあるが,米軍の使用が認められ,その使用する期間が何らかの形で限定されるものをいうが,かかる施設・区域としては,実情に即して考えるに,一応次のごときものがあげられる。
(一) 年間何日以内というように日数を限定して使用を認めるもの。
(二) 日本側と調整の上,そのつど期間を区切って使用を認めるもの。
(三) 米軍の専用する施設・区域への出入のつど使用を認めるもの。
(四) その他,右に準じて何らかの形で使用期間が限定されるもの。
右のごとく,使用期間を限定する方法については,当該施設・区域の態様,使用のあり方,日本側の事情等々により必ずしも一定せず,個々の施設・区域ごとに,具体的に定めるしかないが,いずれにせよわがほうの施設を米軍に臨時に使用させるという二4(b)施設・区域の本質のワク内で合理的に定めていく考え方であります。」
その上で,上記のうち(三)に関し,質問者(A5議員)との間で次のとおりのやり取りをした。
「A5委員 まず専用しておる地区に出入をするために使うという場合には,おのずからその出入の態様だけに限られる。それを利用して,その出入権を利用してそのほかの使用をするということは厳に禁ぜられるわけですね。」
「A6国務大臣 その場合にはそうです。たとえばある滑走路,飛行場の中の施設を先方が使用している場合に,飛行機で連絡に来るという場合に滑走路を使用させる。これはその施設を利用するために滑走路に着陸して,施設に行くために滑走路を使用する,そういう意味でその主たる目的に従ってその限定された使用が認められなければならぬ,こういう考えであります。」
「A5委員 いまの考えでいきますと,飛行場の場合は,それじゃ滑走路は事実上自由に使えるじゃありませんか。どうですか。」
「A6国務大臣 それはその施設を使用するという目的に従って,その期間を限って使用させるので,常に,常時開放的にいつでも認めるというものではないわけであります。」
「A5委員 そうするとその際も期間を限るということはつくわけですね,いまのお答えによりますと。」
「A6国務大臣 もちろんそうであります。そこが(a)その他と違うところであります。」
イ 外務省アメリカ局長(A7)は,昭和48年10月9日開催の衆議院内閣委員会において,厚木基地への日米地位協定の適用について次のように説明した。
「厚木には,米軍に対しまして2条1項(a)に基づく施設,区域を提供してございまして,米軍はこれを補給,修理,管理のために使用いたしております。その隣接区域にございます滑走路の使用につきましては,米軍の専用する施設,区域への出入のつど使用を認めるものという形態に属する2条4項(b)の共同使用の形をとっているわけでございます。」
3  判断
原告らは,厚木基地のうち厚木飛行場の部分は使用転換によって被告が管理権を有することとなったから,領域主権の原則,日米地位協定又は昭和46年の使用転換の際の日米政府間協定に基づき,被告は米軍の厚木基地の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得る立場にあると主張する。
昭和46年6月30日の日米合同委員会において締結された日米政府間協定の内容によれば,米国は,厚木飛行場について,日米地位協定2条4項(b)にいう「合衆国軍隊が一定の期間を限って使用すべき施設及び区域」として被告から一時使用を認められている。我が国の政府見解によると,この一時使用に関しては四つの形態があるが,厚木飛行場については,そのうち「米軍の専用する施設・区域への出入のつど使用を認めるもの」に当たるというのであり,被告もこのことを争っていない。
原告らは,日米地位協定2条4項(b)についての我が国の政府見解を援用した上,「出入のつど」という文言を極めて厳格に解し,米軍機が,厚木基地内の米軍専用区域から出て直ちに厚木飛行場を使用して離陸する場合,逆に,厚木飛行場に着陸して直ちに厚木基地内の米軍専用区域に行く場合のみがこれに当たると主張する。しかし,厚木飛行場の一時使用に関しては上記のとおり日米政府間協定が成立しているのであるから,日米地位協定2条4項(b)に関する我が国の政府見解を検討するよりもまず,この協定によって成立した合意の内容を検討しなければならない。
そこでこの協定締結までの経緯をみると,昭和46年6月25日の日米合同委員会において次の3点が承認されている。すなわち,①厚木飛行場は,米側航空機の米軍専用区域への出入りのため及びその他の運航上の必要のために使用される,②日米地位協定の関連規定は米側航空機が厚木飛行場を使用する期間適用される,③厚木飛行場の運営及び維持は我が国政府の負担とする,というのである。そして,同月29日の閣議決定を踏まえ,同月30日の日米合同委員会において日米政府間協定が締結された。このように,厚木飛行場は,米軍機の米軍専用区域への「出入りのため及びその他の運航上の必要のため」に使用されることが日米間で合意されている。しかもこれは,使用転換の発端となった昭和45年12月21日の日米安全保障協議委員会において,「米軍区域への出入を可能とし,かつ,その他の米軍の運航上の必要を充たすため,然るべき共同使用の取決めが行われる」とされたことを踏まえているのである。この経緯によれば,米軍は米軍機の運航上の必要がある限り厚木飛行場を使用することができるというのが上記合意の内容であると解され,米軍が米軍機の運航上の必要があるとして厚木飛行場を使用しようとする場合に,海上自衛隊がその是非を検討して場合によってはこれを拒否し得るなどということは,日米両政府において全く想定されていないと解される。
原告らは,昭和46年6月29日の閣議決定では,上記の①につき,「出入のため及びそれに関連したその他の運航上の必要をみたすため」という文言になっており,「それに関連した」という限定が付いているからこれに従った厳格な解釈をすべきであると主張するが,上記の①と閣議決定とでその趣旨に差異があるとは解されず,その主張を採用することはできない。
以上のとおり,昭和46年6月30日の日米政府間協定は原告らの主張の根拠となるものではなく,ほかに,日米地位協定にも,その他の関係条約や国内法令にも,米軍が米軍機の運航上の必要があるとして厚木飛行場を使用しようとする場合に,被告がその活動を制限し得る根拠となる規定は存在しない。
したがって,厚木基地最判の判示するとおり,原告らの米軍機の差止請求は,被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから,その余の点について判断するまでもなく主張自体失当として棄却を免れない。
第4  過去の損害の賠償請求
1  判断枠組み
厚木飛行場は防衛大臣が設置・管理している飛行場であり,国家賠償法2条1項にいう「公の営造物」に当たる。原告らは,厚木飛行場に離着陸する航空機の騒音等により被害を受けていることをもって,厚木飛行場の設置又は管理には瑕疵があるとし,被告は賠償責任を免れないと主張する。
国家賠償法2条1項にいう営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態すなわち他人に危害を及ぼす危険性のある状態をいうが,これは営造物が使用目的又は供用目的に沿って利用されることとの関連においてその利用者以外の第三者に対して危害を生じさせる危険性がある場合をも含むものであり,営造物の設置・管理者においてこのような危険性のある営造物を使用及び利用に供し,その結果第三者に社会生活上受忍すべき限度を超える被害が生じた場合,すなわちその使用及び供用の違法性が肯定される場合には,原則として同項の規定に基づく責任を免れることができないものと解すべきである。
そして,営造物の使用及び供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり,営造物の設置・管理者において賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきものである(以上につき,大阪空港最判,厚木基地最判及び平成5年横田基地最判参照)。
本件では,この見地から,被告による厚木飛行場の使用及び供用が周辺住民である原告らに対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるか否かを判断すべきである。
2  W値の算定方式について
(1) W値の算定は防衛施設庁方式によるべきか環境基準方式によるべきか
ア 前記のとおり,航空機騒音を評価する代表的な指標としてdBとW値があり,厚木飛行場周辺の航空機騒音についてもこれらの指標に基づいて検討を加えるべきである。ところが,W値については防衛施設庁方式と環境基準方式という異なった算定方式があり,そのいずれを採用すべきかについて当事者間に争いがあるので,まずこの点について判断する。
イ 環境整備法に基づく第一種区域等の指定をする基準となるW値の算定について防衛施設庁長官が防衛施設庁方式を採用した理由は,証拠(甲A7,22,23,24の1・2,甲C1の1~7・13,68,73,94,乙C44,証人A4)及び弁論の全趣旨によれば次のとおりであると認められる。
民間航空機が使用する公共用飛行場では,1年を通して飛行回数に大きな増減がなく,飛行経路も一定である。また,離着陸する航空機の機種が限られている上,耐空証明など航空法所定の各種証明制度が存在することもあり,騒音の特徴や継続時間にも機種による大きな違いがない。
これに対し,防衛施設すなわち自衛隊等(自衛隊又は米軍)の航空機が使用する飛行場では,航空機の飛行回数も飛行経路も日によって異なる。また,離着陸する航空機の機種が多種多様であることや離着陸の態様に違いがあることから,機種の違い(特にジェット機,プロペラ機等による違い)や高度の違いによって騒音の態様ないし程度に差異が生ずる。
公共用飛行場と防衛施設である飛行場との間のこのような違いは,周辺住民の騒音に対する反応にも差異をもたらす。そのため,防衛施設である飛行場の周辺において環境基準方式によってW値を算定した場合,公共用飛行場の周辺において算定したW値と同じ数値であったとしても,騒音に対する住民の反応が同じであるとは直ちにはいえないことになる。そこで,公共用飛行場と防衛施設である飛行場との間でW値に整合性が保たれるようにするため,すなわち公共用飛行場であっても防衛施設である飛行場であってもW値が同じであれば同じ住民反応が示されるといえるようにするため,音響の専門家による調査研究を踏まえて,防衛施設庁方式によるW値の算定方法が考案されたのである。
具体的にいうと,日によって騒音を受ける回数にばらつきがある場合,「うるささ」についての人間の感覚が,比喩的にいえば「大きい方に引き寄せられて感じる」という特性をもつことから,騒音回数が多く騒音程度の著しい日の騒音に強い印象を受けることが知られている。防衛施設である飛行場周辺において住民反応を調査した研究結果からも,1日の航空機数に変動がある場合には,一定期間内の平均機数を基準にしたW値よりも数多く飛行した日を基準にしたW値が,周辺住民の反応に比例することが示された。防衛施設庁方式において累積度90%方式が採用されたのはこのためである。また,継続時間補正及び着陸音補正も,防衛施設である飛行場の実態を考慮した補正方法である。
ウ 上記イの採用理由は,音響の専門家として防衛施設庁方式の策定に携わったA4横浜国立大学名誉教授の説明するところであるとともに(甲C1の1~7,22,23,24の1・2,証人A4),第3次訴訟において,当時防衛施設庁横浜防衛施設局に勤務していた職員が証言したところでもある(甲A7)。
これに対し被告は,防衛施設庁方式は,環境整備法に基づく周辺対策を手厚く実施するため,その実施範囲を広くするように配慮して,実際の飛行回数の算術平均を上回る飛行回数を計上するなどして環境基準方式を調整したものであり,防衛施設庁方式によって算定されたW値は,対象期間に現実に発生した騒音の内容・程度を反映していないから,航空機騒音の評価指標としては環境基準方式によって算定されたW値を採用すべきであると主張する。
被告の主張に鑑み,航空機騒音に関する法令の仕組みを検討する。前記のとおり,民間航空機が使用する公共用飛行場については航空機騒音防止法があり,防衛施設である飛行場については環境整備法がある。このほか,特定空港の周辺について航空機の騒音により生ずる障害を防止することなどを目的として制定された特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法(以下「航空機騒音特措法」という。)がある。現在,同法が適用される特定空港として指定されている空港は成田国際空港のみである(同法2条1項,特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法施行令1条)。これらの法律及びその下位の政省令の内容を,W値の算定方法が規定されていた時点,すなわち現行環境基準が適用される前の時点において比較すると,次のとおりである。
前記のとおり,航空機騒音防止法及び環境整備法はいずれも,飛行場周辺における住宅防音工事の助成等及びその対象となる区域の指定について定めている。旧航空機騒音防止法施行令は,上記の区域の指定に関し,航空機の離陸又は着陸に伴う騒音の影響度をその騒音の強度,発生の回数及び時刻等を考慮して国土交通省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに国土交通省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると規定し(6条),これを受けた旧航空機騒音防止法施行規則は,昭和48年環境基準に定められた算式と同じ算式によって区域指定の基準となる値(すなわちW値)を算出するものとし(1項1号),その値は,当該飛行場を使用する航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて算定するものとしていた(同項2号)。一方,環境整備法施行令は,上記の区域の指定に関し,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令で定める算定方法で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものとすると規定し(8条),これを受けた旧環境整備法施行規則は,昭和48年環境基準に定められた算式と同じ算式によって区域指定の基準となる値(すなわちW値)を算出するものとし(1条1項,2項),防衛大臣は,これらの値の算定に当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等が頻繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものとしていた(同条3項)。
以上のとおり,旧航空機騒音防止法施行規則も,旧環境整備法施行規則も,W値の算定方法としては同一の定めを置いており,ただ,「年間を通じての標準的な条件」の設定については,飛行場ごとの実態に即して行うべきものとしていたのである。
航空機騒音特措法は,特定空港(前記のとおり,成田国際空港のことである。)の周辺において航空機騒音障害防止地区及び航空機騒音障害防止特別地区を定めることができるとし(4条),それぞれの地区に応じた土地利用の規制等を定めている(5条以下)。特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法施行令(平成24年政令第253号による改正前のもの。以下「旧航空機騒音特措法施行令」といい,同改正後すなわち現行のものを「航空機騒音特措法施行令」という。)は,これらの地区の定めに関し,航空機の離陸又は着陸に伴う騒音の影響度をその騒音の強度,発生の回数及び時刻等を考慮して国土交通省令で定める算定方法で算定した値が一定の値以上である地域を基準とすると規定し(2条,3条1項1号),これを受けた特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法施行規則(平成24年国土交通省令第79号による改正前のもの。以下「旧航空機騒音特措法施行規則」といい,同改正後すなわち現行のものを「航空機騒音特措法施行規則」という。)は,昭和48年環境基準に定められた算式と同じ算式によってその基準となる値(すなわちW値)を算出するものとし(2条1号),その値は,おおむね10年後において当該特定空港を使用すると予想される航空機の騒音の強度,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を想定し,これに基づいて算定するものとしていた(同条2号)。これも,W値の算定方法としては旧航空機騒音防止法施行規則及び旧環境整備法施行規則と同一の定めであり,ただ,「年間を通じての標準的な条件」の想定は,当該特定空港の実態に即して行うべきものとしていたのである。
W値の算定方法に着目したため,以上の比較は昭和48年環境基準に対応していた当時の旧規定に基づいて行ったが,現行環境基準に対応して改正された後の現行法令の各規定においても,W値の算定方法に代えて時間帯補正等価騒音レベルの算定方法が定められることとなった点で差異があるのみであり,その算定を同一の方法で行うべきであるとする各法令の仕組み自体に変更はない(航空機騒音防止法施行令6条,航空機騒音防止法施行規則1項,環境整備法施行令8条,環境整備法施行規則1条,航空機騒音特措法施行令2条,3条,航空機騒音特措法施行規則2条)。
航空機騒音に関する法令は,以上にみたとおり,飛行場周辺の航空機騒音についてはいずれも同一の方法によって算定されたW値を指標とすべきことを定めており,ただ,W値を具体的に算定する際の「年間を通じての標準的な条件」の設定ないし想定については,対象となる飛行場の実態に即して行うべきものとしている。そして,ここにいう「条件」は,「航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻」等の航空機騒音に関する客観的事情に関するものでなければならない。したがって,どの法令も,対象となる飛行場の航空機騒音の客観的事情から離れた事情を考慮して上記「条件」を設定することは許容していないと解される。
防衛施設庁方式によるW値の算定方法は,この見地から,防衛施設である飛行場に特有の航空機騒音の客観的事情に基づいて考案されたものであると認められ,環境整備法及びその下位の政省令の趣旨に適合するものである。平成18年1月の告示によって行われた第一種区域等の変更も,平成15年度及び平成16年度に行われた騒音度調査の結果に基づいて,実態に合わせて行われたものであり,これも環境整備法及びその下位の政省令の趣旨に適合するものと解される。
これに対し,被告の主張するような,防衛施設である飛行場の周辺における周辺対策を手厚く実施するためその適用範囲を広くするといった事情は,当該飛行場の客観的事情に即した「条件」の設定,具体的にいえば「当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等」に関する「年間を通じての標準的な条件」の設定をするに当たり考慮すべき事情には含まれないから,そのような事情を考慮することは,環境整備法及びその下位の政省令が許容するものではないというべきである。
以上のとおり,航空機騒音に関する法令の仕組みを検討しても,防衛施設庁方式が採用されたのは上記イの理由からであると認められる。これを否定し,防衛施設庁方式が採用されたのは周辺対策を手厚く実施するという政策的考慮からであるとする被告の主張は,法令の趣旨に反するといわざるを得ないし,防衛施設庁長官がこれまで実施してきた環境整備法に基づく施策の在り方とも矛盾する不合理な主張といわざるを得ない。
エ したがって,厚木飛行場周辺における航空機騒音を評価する指標としては,防衛施設庁方式によって算定されたW値を採用すべきである。環境基準方式によって算定されたW値も,測定データに基づくものである以上,意味のあるものではあるが,防衛施設庁方式によって算定されたW値を参照することができない場合に参考として用いることができる指標にすぎないというべきである。そして,前記のとおり,防衛施設である飛行場周辺において防衛施設庁方式によって算定されたW値と環境基準方式によって算定されたW値を比較すると,前者が後者より3~5程度大きくなるのであるから,厚木飛行場周辺の測定地点における測定結果が,防衛施設庁方式によって算定されたW値ではなく,環境基準方式によって算定されたW値である場合は,その値に3~5を加えたものが,実際にその地点において住民が感じる騒音であると判断すべきである。
(2) 被告の主張する「昼間騒音控除後W値」の評価
被告は,環境基準方式によって算定したW値を採用すべきであるとの主張から更に進んで,被告の考案した「昼間騒音控除後W値」を厚木飛行場の周辺における航空機騒音の指標として採用すべきであると主張する。
昼間騒音控除後W値とは,環境基準方式を採用し,次の算式によってW値を算定するが,その際,平日昼間の時間帯(午前9時から午後5時)の騒音発生回数すなわち航空機の飛行回数を0として計算するというものである。したがって,N2の数値が実際の航空機の機数よりも相当減少することになり,これに従って算定されるW値も相当減少することとなる。
dB(A)(_)+10log10N-27
N=N2+3N3+10(N1+N4)
N1: 午前0時から午前7時までの間の航空機の機数
N2: 午前7時から午後7時までの間の航空機の機数
N3: 午後7時から午後10時までの間の航空機の機数
N4: 午後10時から午後12時までの間の航空機の機数
被告は,このようにして算定された昼間騒音控除後W値こそが,厚木飛行場の周辺住民の「共通実騒音曝露量推計値」であり,本件で問題とすべき「共通実騒音曝露量」に代わり得るものとして採用すべきものであると主張する。
この昼間騒音控除後W値なるものは,W値とは実騒音の曝露量(人がさらされる実際の航空機騒音の量)を示す指標であるととらえた上で,平日の午前9時から午後5時までの間,厚木飛行場から離れた場所にいてその影響を受けずにいる者(居住地から遠く離れた場所で勤務する就業者等がこれに当たる。)を想定し,その者が厚木飛行場の発する騒音にさらされる量を数値化しようとするものと解され,騒音対策の前提として一定の地域の受ける騒音を把握するための指標として旧航空機騒音防止法施行規則,旧環境整備法施行規則及び旧航空機騒音特措法施行規則が定めていたW値とは全く異なる概念である。被告の主張するとおりW値が実騒音の曝露量を示す指標であり,かつ,平日昼間の騒音を除いた騒音の曝露量を算出するために被告の採用する方法が正しいといえるのであば,昼間騒音控除後W値は,平日昼間に厚木飛行場周辺から離れる就業者等がさらされる厚木飛行場の発する騒音の量を示す指標として用いることができ,その限度で意義を見いだし得ないものではない。しかし,旧航空機騒音防止法施行規則,旧環境整備法施行規則及び旧航空機騒音特措法施行規則の定めるW値の算式(被告が昼間騒音控除後W値を導出するために採用する算式自体はこれと同じである。)からも分かるとおり,W値は,早朝,夜間及び深夜における航空機の機数に重み付けを行って算定するものであり,これが実騒音の曝露量といえるのかについては疑問があり,また,被告の主張する算出方法が科学的な裏付けを有することについても的確な証拠はない。
さらに,上記の限度で昼間騒音控除後W値に意義を見いだすことができたとしても,本件において原告らは,一定の騒音にさらされている地域に居住する原告らにつき,その騒音を原因とする共通被害をもって損害と主張するものであって,個々の原告が受ける実騒音曝露量を根拠とする個別の騒音被害を主張しているわけではない。このような共通損害について,昼間騒音控除後W値のような指標を用いる余地がないことは,後記4(4)において説示するとおりである。
したがって,本件において昼間騒音控除後W値なる概念を用いることは必要ではないし,また,相当でもないというべきである。
3  厚木飛行場周辺の航空機騒音をめぐる客観的事実
(1) 検討の対象とすべき地域
原告らは75W以上の地域に居住していることを損害賠償請求の根拠としており,これを前記1で示した判断枠組みに引き直せば,厚木飛行場の使用及び供用は,75W以上の地域に居住している(あるいは居住していた)原告らに対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害になる,というのが原告らの主張である。ここにいう「75W以上の地域」とは,第一種区域線によってその外側の地域から画された地域全体を意味するものであることは前記のとおりである。
したがって,本件においては,75W以上の地域における航空機騒音の実状及びこれによって原告らが受けているとする被害の実態を検討すれば足りる。
いうまでもないことであるが,飛行場の周辺地域における騒音の評価指標としてW値(前記のとおり,本件では防衛施設庁方式によって算定したもの)を採用するという場合,その数値は,航空機騒音防止法,環境整備法,航空機騒音特措法及びこれらの下位の政省令の定めからしても,また,環境整備法に基づき防衛施設庁長官が実際に第一種区域等を指定してきたその指定の在り方からしても,屋外におけるW値を意味する。実際にも,屋内における騒音の程度は,その住居がどのような材質や構造であるか,住宅防音工事を実施しているか,窓や扉を開けているか否かなど,個々の住民の事情によって大きく異なり得るから,屋内におけるW値は判断基準にし難い。屋外におけるW値こそが,本件において問題とすべき周辺住民全員に共通する騒音の影響について判断するための有効な指標となるのである。
以下,この見地から検討する。
(2) 原告らの居住地,居住期間(転居,死亡を含む。)その他の事情
ア 原告らは,過去の損害の賠償請求につき,請求期間において厚木飛行場周辺の75W以上の地域に居住していたことをその根拠としている。
そこで,原告らそれぞれについて,請求期間における居住地及び居住期間を示すと,別紙21(損害賠償認容額一覧表)(以下「別紙21一覧表」という。)の「居住期間」欄及び「居住地」欄中の「住所」欄のとおりである。また,その居住地が75Wの地域か,80Wの地域か,85Wの地域か,90Wの地域か,95Wの地域か,あるいは指定区域外かについては,別紙21一覧表の「居住地」欄中の「W値」欄のとおりである。この「W値」欄には,その居住期間において現に妥当している防衛施設庁の告示等によって定まるW値を記載した。したがって,同じ居住地であっても,平成18年1月の第一種区域等の指定の告示等の前後でW値が異なることがある。以上の事実は,当事者間に争いがないか,証拠(甲地域別1,甲地域別3,甲地域別4,甲地域別12,甲地域別13のほか,原告らの陳述書等及び本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨により認められる。
以上の各点の事実認定については,別紙20(原告ら個別の事情についての補足説明)の1において説明を補足する。
イ 弁論の全趣旨によれば,別紙3(死亡原告目録)記載の原告ら(以下「死亡原告ら」という。)が本件口頭弁論終結時よりも前に死亡したこと,このうち同別紙に※を付記した原告10名(いずれも第1事件原告)は,第1事件の訴えが提起された平成19年12月17日の時点で既に死亡していたことが認められる。
提訴前に死亡した上記10名の原告らについて,被告は,当事者能力を欠くからその訴えは不適法であると主張するので,検討する。記録によれば,これらの原告らはいずれも,その死亡前,原告ら訴訟代理人弁護士らに第1事件について適法に訴訟委任をしたこと,原告ら訴訟代理人弁護士らは死亡の事実を知らずに第1事件の訴状を当裁判所に提出し,これが被告に送達され,審理が進められてきたことが認められる。このような場合,民訴法58条1項1号,124条1項1号,2項を類推適用して,訴えの提起を適法と認め,これらの原告らの相続人が訴訟承継をしたものと解すべきである(最高裁昭和51年3月15日第二小法廷判決・裁判集民117号181頁(判例時報814号114頁)参照)。したがって,これらの原告らの訴えは適法である。
ウ  別紙19(第3次訴訟原告目録)記載1の原告らが,第3次訴訟において本件訴訟の請求期間と重なる期間について本件と同様の損害賠償を請求し,第3次判決においてその口頭弁論終結時である平成17年7月26日までの期間に対応する請求を認容されていることは当裁判所に顕著である。また,同別紙記載2の原告が,同様に第3次訴訟において本件訴訟の請求期間と重なる同年1月19日までの期間に対応する請求を認容されていることは当裁判所に顕著である。
これらの原告らの請求のうち,前者については同年7月26日まで,後者については同年1月19日までの期間に対応する部分については,これを認容する確定した給付判決である第3次判決が既に存在し,重ねて判決を得なければならない事情も認められないから,訴えの利益が認められない。したがって,これらの原告らの上記各日までの期間に対応する請求に係る訴えは不適法として却下すべきである。
(3) 航空機の飛行計画,飛行経路等
証拠(甲A1,甲C64,甲D2の362・363,乙A69の1・2)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
厚木飛行場における航空機の離着陸の予定があらかじめ公表されることはない。米海軍は,NLPが周辺住民に与える影響の大きさに鑑み,NLPを実施する場合に限って,これを実施することを事前に防衛省に通告することとしており,これについては公表されるが,通告が直前になることもある。
厚木飛行場に離着陸する航空機の飛行経路は様々であり,一定していないが,防衛施設庁長官が平成15年度及び平成16年度に行った航空機騒音度調査の結果によれば,南から北へ向かって着陸及び離陸を行う場合(北風の場合)はおおむね別紙8(乙A69の2添付図6-1)のとおりであり,北から南へ向かって着陸及び離陸を行う場合(南風の場合)はおおむね同9(同添付図6-2)のとおりである。
厚木飛行場を使用するのは米軍機と自衛隊機であるが,離着陸回数は米軍機によるものが多く,正確な比率は不明であるものの,厚木飛行場周辺の航空機騒音の多くを米軍機の発する騒音が占める。特に,著しく大きな騒音を発する大型ジェット機は全て米軍機である。
(4) 航空機騒音の特徴
証拠(甲C1の1~3・7・10,4,9,68,乙C24,36)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
防衛施設である飛行場の周辺における航空機騒音については,次のような特徴がある。
航空機騒音は間欠的な騒音であり,騒音の持続時間も,1機のみであれば,飛行場に近い地点でも数十秒程度にとどまる。一方で,飛行中の航空機が発する騒音は,空中から周辺地域全体に広がり,周辺に居住する住民がこれを遮断することは困難である。
防衛施設である飛行場に離着陸する航空機には,航空機の騒音に関する基準などを定めた耐空証明の制度が適用されない(自衛隊法107条1項,航空法特例法2項,航空法11条)。そのため,これらの航空機,特にジェット機は,騒音のピークレベルが極めて高く,滑走路から1㎞ほど離れた地点でも110dBを超えることが珍しくない。また,騒音に高周波成分が多く含まれ,耳慣れない金属的な音質を有する。プロペラ機やヘリコプターは,騒音のピークレベルはジェット機よりも低いが,低周波音が強く感じられることがある。
防衛施設である飛行場においては,離着陸する航空機の飛行経路や飛行の予定が公表されないため,いつ,どの場所に航空機が出現するのか,したがって,いつ,どの場所から騒音が発せられるのかを予測できず,周辺住民があらかじめ騒音に対処することは困難である。また,交通機関が発する騒音に関しては,その音源に対する周辺住民の意識がうるささの感じ方に影響することが知られており,防衛施設の航空機騒音は,自らも利用する鉄道や道路からの騒音と比較して,住民にとっては受け入れにくく,うるさく感じる程度が大きいとされている。
(5) 75W以上の地域における航空機騒音の大きさの推移
第3次判決の口頭弁論の終結の日が平成17年7月26日であり,厚木飛行場周辺におけるそれ以前の騒音については同判決によって既に認定されていること,原告らが早くとも同年1月1日以降の航空機騒音による被害を主張して損害賠償を請求していることを踏まえれば,本件においては平成17年以後の騒音について認定すれば足りる。その状況は,証拠(括弧内掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば次のとおりである。
ア 被告騒音測定データの推移(乙A8,13から15まで,35,99,100,178)
被告は,別紙10(被告最終準備書面添付第1表)のとおり,厚木飛行場周辺に航空機騒音自動測定装置を設置し,継続的に航空機騒音を測定している。
この測定データを集計し,測定地点ごとに,平成15年から平成24年まで各年のW値の推移を示したものが別紙11(被告最終準備書面添付第2表)であり,各年の騒音発生回数の推移を示したものが同12(被告最終準備書面添付第3表)である。そして,上記W値の推移を折れ線グラフで示したものが同13(被告最終準備書面添付第4表)であり,上記騒音発生回数の推移を折れ線グラフで示したものが同14(被告最終準備書面添付第5表)である。
これらの別紙の測定データについて注意すべきは,そこで示されているW値が環境基準方式(上記各別紙には「環境庁方式」と記載されている。)によって算定されていることである。前記のとおり,厚木飛行場周辺の騒音の指標としては防衛施設庁方式によって算定されたW値を用いるべきであり,その値は環境基準方式によって算定されたW値に3~5を加えたものである。また,上記の各測定地点が第一種区域線等によって画されるいずれの地域であるのかが記載されていないのでこれをここに記すと,次のとおりである(「外」とあるのは指定区域外を指す。)。

No.1  95W No.9-1  外 No.16  85W
No.2  95W No.9-2  外 No.17  外
No.3  85W No.10  80W No.18  外
No.4  75W No.11  75W No.19  75W
No.5  80W No.12  80W No.20  外
No.6  85W No.13  75W No.21  外
No.7  80W No.14  75W No.22  外
No.8  85W No.15  80W No.23  外

以上を踏まえて,まずW値に着目する。上記の各測定地点において防衛施設庁方式によって算定されたW値の正確な数値は不明であるが,上記の別紙11(第2表)の数値に4を加えたものがおおむねこれに相当する。そうすると,75W以上の地域にある測定地点においては,そのほとんどの地点で,平成15年から平成24年までのほとんどの期間,平成18年1月の告示又は設定によって定められたW値を上回るかこれとほとんど変わらない数値が測定されていることが分かる。同13(第4表)の折れ線グラフによってもこのことは明らかであり,平成15年以降,W値の数値はいずれの測定地点においてもほぼ横ばいであり,近年においてははやや増加傾向が見られる。
次に騒音発生回数に着目すると,NO.1~No.16の測定地点においてはほぼ同様の傾向が見られ,平成15年から平成22年にかけて騒音発生回数は緩やかに減少し,その後増加に転じている。それでも,平成24年の騒音発生回数は,平成15年に比べるとかなり少なくなっている。これだけを見ると騒音の影響は緩和されているように考えられる。しかし,騒音発生回数が少なくなっているにもかかわらず上記のとおりW値にほとんど変化がないのは,全体の騒音発生回数の減少を埋め合わせる形で,相対的に,ピークレベルの高い騒音の発生回数が増加しているからであると考えられる。75W以上の地域では,平成24年における全体の騒音発生回数自体極めて多数回に上っている上,以上の点を考慮すると,騒音発生回数のみを考慮したとしても,平成15年以降,騒音の影響が緩和されていると断ずることはできない。
イ 自治体騒音測定データの推移(甲B1から24まで(全ての枝番号を含む。))
(ア) 厚木飛行場の周辺自治体は,別紙15(原告最終準備書面添付別表1)及び同16(原告最終準備書面添付図1)のとおり,厚木飛行場周辺に自動記録騒音計を設置し,継続的に航空機騒音を測定している(ただし,別紙15のNo.2の「旧コンター」の欄に「80」とあるのは「85」に訂正する。)。
この自治体騒音測定データを集計し,測定地点No.1,No.2,No.5及びNo.12の四つの測定地点における古くは昭和45年から平成24年までの各年のデータの推移を示したものが別紙17(原告最終準備書面添付別表2から5まで)である。ただし,別表4の左上欄外に「大和市東800メートル地点(S46~H17.6)/大和市南500メートル地点(H17.7~)」とあるのは,「大和市南南東800メートル地点(S46~H17.6)/大和市南500メートル地点(H17.7~)」に訂正する(別表4の測定地点は,平成17年6月まではA8宅,同年7月以降は大和市営渋谷西庭球場である。)。
これらの別表の用語を説明すると,「最高音」は,5秒以上の継続騒音におけるピークレベルのうちで最もホン値が高かった音のホン値をいい(ホン値はdB値と同じなので,以下dBで示す。),「騒音測定回数」は,1日に測定された一定のdB値以上でかつ5秒以上の継続騒音の測定回数をいい,「音量別回数」欄の「80ホン以上」は,80dB以上の騒音測定回数が70dB以上の騒音測定回数全体に占める割合(%)を,同じく「90ホン以上」は,90dB以上の騒音測定回数が70dB以上の騒音測定回数全体に占める割合(%)をいい,「騒音持続時間」は,1日に測定された一定のdB値以上でかつ5秒以上の継続騒音の合計時間をいう。
これを簡略にまとめると,次のとおりである。
a No.1の測定地点(別紙17のうち別表2)(A9宅/滑走路の北約1㎞/95Wの地域)
平成16年以降の騒音測定回数及び騒音持続時間は,平成22年までは緩やかに減少したが,その後増加の傾向にある。平成16年と平成24年を比較すると,減少はしているがその度合いが顕著であるとはいえない。平成24年における70dB以上の騒音測定回数は,最高で365回/日,平均で52.7回/日であり,70dB以上の騒音持続時間は,最高で1時間50分40秒/日,平均で10分29秒/日である。同じく平成24年における日曜日の70dB以上の騒音測定回数は456回/年,深夜(午後10時から翌日午前6時まで。以下同じ。)の70dB以上の騒音測定回数は81回/年である。
b NO.2の測定地点(別紙17のうち別表3)(神奈川県企業庁大和水道営業所/滑走路の北約2㎞/90Wの地域(平成18年1月までは85Wの地域))
平成16年以降の騒音測定回数及び騒音持続時間の傾向はNo.1の測定地点と同じである。平成24年における70dB以上の騒音測定回数は,最高で259回/日,平均で42.2回/日であり,70dB以上の騒音持続時間は,最高で1時間27分03秒/日,平均で9分21秒/日である。同じく平成24年における日曜日の70dB以上の騒音測定回数は386回/年,深夜の70dB以上の騒音測定回数は68回/年である。
c No.5の測定地点(別紙17のうち別表4)(平成17年6月まではA8宅/滑走路の南南東約800m//同年7月以降は大和市営渋谷西庭球場/滑走路の南約500m/90Wの地域)
平成16年以降の騒音測定回数及び騒音持続時間は,平成18年にかけてやや増加した後,平成21年まで緩やかに減少したが,その後増加の傾向にある。平成16年と平成24年を比較すると,減少はしているがその傾向が顕著であるとはいえない。平成24年における70dB以上の騒音測定回数は,最高で433回/日,平均で61.3回/日であり,70dB以上の騒音持続時間は,最高で44分50秒/日,平均で10分54秒/日である。同じく平成24年における日曜日の70dB以上の騒音測定回数は410回/年,深夜の70dB以上の騒音測定回数は128回/年である。
d No.12の測定地点(別紙17のうち別表5)(A10宅/滑走路の南西約2㎞/85Wの地域(平成18年1月までは80Wの地域))
平成16年以降の騒音測定回数及び騒音持続時間は,平成22年まで緩やかに減少したが,その後増加の傾向にある。平成16年と平成24年を比較すると,減少はしているがその傾向が顕著であるとはいえない。平成24年における70dB以上の騒音測定回数は,最高で439回/日,平均で49.5回/日であり,70dB以上の騒音持続時間は,最高で2時間36分48秒/日,平均で10分15秒/日である。同じく平成24年における日曜日の70dB以上の騒音測定回数は271回/年,深夜の70dB以上の騒音測定回数は88回/年である。
(イ) W値による騒音状況の分析
自治体騒音測定データが示す年間W値について,第3次判決の基礎とされた期間である平成9年から平成16年までの推移と,平成17年から平成24年までの推移を整理したものが,次の表1・2である。自治体騒音測定データのW値は環境基準方式によって算定されたものであり,これを防衛施設庁方式によって算定されたW値に換算する必要があるため,両者の差である3~5の平均である4を加算した。
表1と表2を基に,防衛施設庁方式近似W値(上記のとおり自治体騒音測定データの年間W値に4を加えたもの)について平成9年から平成16年までの平均と平成17年から平成24年までの平均を比較してみると,平成18年1月の新たな第一種区域線等の告示又は工法区分線等の設定の前に80W以上であった地域(ただし,旧工法区分線によって画された80Wの地域を除く。)すなわちNo.1~5,11,12の各測定地点のある地域においては,No.4,5の各測定地点では後者の値が前者の値を上回り,その他の測定地点では後者の値が前者の値を若干下回るもののほぼ同じである。それ以外の地域においては,No.7,8の各測定地点において後者の値が前者の値を若干上回るほかは,いずれの測定地点においても後者の値が前者の値を下回るが,これもわずかな差にとどまる。したがって,W値を見る限り,平成9年から平成16年までの平均と平成17年から平成24年までの平均との間にほぼ差はないといえる。
次に,表2を基に,平成18年1月の告示又は設定によって定められた各地域のW値と平成17年から平成24年までの防衛施設庁方式近似W値を比較してみると,No.1,2,5,6の各測定地点において告示又は設定により定められたW値よりも防衛施設庁方式近似W値の方が若干低くなっているが,それ以外の測定地点ではいずれも告示又は設定により定められたW値を防衛施設庁方式近似W値が上回っている。したがって,平成18年1月の告示又は設定によって定められたW値は,各地域のW値の実態をかなりの程度正確に反映しているといえるし,いくつかの地域(No.4,7,9,10,15,16,17の各測定地点のある地域)では,実際に測定されたW値が告示又は設定によって定められたW値を相当に上回っている。

表1(平成9年から平成16年まで)

* 80とあるのはかつて告示に基づき80Wの地域とされた地域を,80(工)とあるのは旧工法区分線によって画された80Wの地域を示す。
** No.23のこの数値は,データがない平成9年を含まない。
表2(平成17年から平成24年まで)

* 表1の*と同じ。
ウ まとめ
以上の検討によれば,厚木飛行場周辺の75W以上の地域においては,第3次判決の基礎となった期間におけるのと同じ程度の航空機騒音がその後現在に至るまで継続して測定されており,直近の平成24年においても,その騒音測定回数,騒音持続時間とも,極めて多数ないし長時間に上っていると認められる。また,前記のとおり,米軍においても,自衛隊においても,午後10時から翌日午前6時までの深夜の時間帯における航空機の飛行を自主規制しているものの,それが厳守されているわけではなく,今なおこの深夜の時間帯においても相当程度の航空機騒音が測定されている。
(6) 低周波音
ア 認定事実
証拠(甲A35の1,甲C65,89,90の1~11,乙A150から155まで,157から159まで)により認められる事実は次のとおりである。
(ア) 人が聴くことができる音の周波数の範囲は20Hz~2万Hzとされており,これを可聴域という。人の耳は,2000Hz~5000Hzで最も感度がよく,周波数が低くなるほど(音が低くなるほど)感度が鈍くなり,特に100Hz以下では急激に低下し,音圧レベルがかなり大きくないと感じ取れなくなる。周波数が低いため人が聞き取れないか聞き取りにくい100Hz以下の音を低周波音といい,可聴域の範囲外である20Hz以下の音を特に超低周波音という。
低周波音は環境騒音に常に含まれているものであるが,音圧レベルの高い低周波音は,不快感や圧迫感を感じさせ(心理的・生理的影響),また,家屋の窓や戸の揺れ,がたつきなどを生じさせる(物理的影響)ことが知られている。ジェット機のジェットエンジンやヘリコプターの回転翼は低周波音の発生源である。
低周波音については,一般環境で観測されるような低周波音の領域(周波数範囲と音圧レベル)では人間に対する生理的な影響は明確には認められないとの結論が得られているのみで,その影響や評価指標に関する科学的な知見が確立しているとはいい難い状況にある(甲C90の9)。後記4(1)においてその内容を紹介するWHOガイドライン(甲C65)においても,騒音に低周波音が含まれる場合はより強い住民反応が報告される,低周波騒音の場合には低い音圧レベルでも休息や睡眠を妨害する可能性があるなどの記述があるものの,付加的ないし注意的な指摘にとどまり,低周波音のみを取り出してガイドライン値を設定するなどの定量的な観点からの記述はない。
(イ) 環境省は平成16年6月,低周波音についての苦情に地方公共団体が対応する際に役立てるべきものとして「低周波問題対応の手引書」(甲C90の9)を公表した。この手引書は,建具のがたつき等の物的苦情と室内において感じられる不快感等の心身に係る苦情とを分けて,その評価方法を次のように説明している。
物的苦情については,第1に,発生源と疑われる施設・設備機器等と苦情内容との間に対応関係があることを確認する。第2に,低周波音の測定結果と,環境省が評価指針として示す参照値(以下,単に「参照値」という。)とを照らし合わせる。測定値がいずれかの周波数で参照値以上であれば,その周波数が苦情の原因である可能性が高い。参照値は次のとおりである。

心身に係る苦情についても同様に,第1に,発生源と疑われる施設・設備機器等と苦情内容との間に対応関係があることを確認し,第2に,低周波音の測定結果と参照値とを照らし合わせる。①G特性音圧レベルが92dB以上の場合,超低周波音の周波数領域で問題がある可能性が高く,②1/3オクターブバンドで測定された音圧レベルと参照値を比較し,測定値がいずれかの周波数で参照値以上であればその周波数が低周波音苦情の原因である可能性が高い。①,②のいずれかに当てはまれば低周波音の問題がある。もっとも,暗騒音の影響を含め慎重な検討が必要である。参照値は次のとおりである。

環境省は,上記の各参照値につき,①固定発生源(ある時間連続的に低周波音を発生する固定された音源)から発生する低周波音について苦情の申立てが発生した際にそれが低周波音によるものかを判断するための目安として示したものである,②低周波音についての対策目標値,環境アセスメントの環境保全目標値,作業環境ガイドラインなどとして策定したものではない,③心身に係る苦情に関する参照値は,低周波音に関する感覚について個人差が大きいことを考慮し,大部分の被験者が許容できる音圧レベルを設定したものであるなどとしている。
(ウ) 原告らから委託を受けた日東紡音響エンジニアリング株式会社は,平成24年8月2日と同月21日のいずれも午後3時から6時まで,厚木飛行場の滑走路北端から北に約1.4㎞,90Wの地域にある広場で,厚木飛行場に離着陸する航空機の発する低周波音を測定し,また,平成25年5月9日の午前8時50分から午後4時10分まで,上記の広場に加えて,滑走路北端から北に約1.3㎞,90Wの地域にある木造1階建ての住宅内,滑走路南端から南に約3.2㎞,85Wの地域にある木造2階建ての住宅内外で,それぞれ低周波音を含む航空機騒音を測定した(ただし,測定場所によって測定した時間帯は異なる。)。その結果と前記の心身に係る苦情に関する参照値等との関係は次のとおりである。
平成24年8月2日及び同月21日の上記広場における測定結果によると,飛来した10機の航空機のうちヘリコプターは3機とも,G特性音圧レベルが92dBを超えており,1/3オクターブバンド中心周波数ごとの音圧レベルについても,16Hz~80Hzのほとんどにおいて参照値を超えていた。プロペラ機5機については,G特性音圧レベルが92dBを超えるものは1機のみであったが,1/3オクターブバンド中心周波数ごとの音圧レベルでは,25Hz~80Hzのほとんどにおいて参照値を超えていた。
平成25年5月9日の上記広場における測定結果でもほぼ同様の傾向がみられたほか,ジェット機(F/A-18)からも参照値を大きく超える低周波音が測定された(平成24年8月2日及び同月21日と異なり,この日はF/A-18が多数飛来した。)。滑走路南方の住宅外における測定結果も同様である。一方,同住宅内及び滑走路北方の住宅内の測定結果では,測定値が参照値を下回ることが多かったが,ヘリコプターや一部のジェット機(F/A-18)からは参照値を超える低周波音が測定された。
イ 評価
原告らが行った低周波音の測定結果によると,厚木飛行場に離着陸する航空機が,苦情発生の原因になり得る高いレベルの低周波音の発生源となっていることは明らかである。しかし,測定地点が限定されている上,測定を行ったのも限られた回数にすぎないから,この測定結果から,厚木飛行場周辺の75W以上の地域全体がこの測定結果と同様の低周波音に曝露されていると認めることはできない。
原告らの陳述書等及び本人尋問の結果によれば,低周波音に起因するとみられる苦情を述べる者が多数いるが,これらの苦情について,環境省の前記の手引書が説明しているような方法でその評価が行われたわけではなく,これらの苦情と航空機の発する低周波音との因果関係も明らかとはいえない。
さらに,低周波音の人間に対する心理的・生理的影響にしても,建具のがたつき等の物理的影響にしても,それを評価する指標について科学的知見が確立しているわけではない。
これらの事情を考慮すると,まず,少なくとも原告らが低周波音の測定を行った地点と同様の事情にある地域,すなわち厚木飛行場から比較的距離が近く離着陸による航空機騒音の影響が大きい滑走路の南北方向の地域は,高いレベルの低周波音に曝露されていることが明らかであるから,低周波音に起因するとみられる原告らの苦情には相応の根拠があるというべきである。しかし他方で,科学的知見が確立していないという現状の下で,かつ,十分な測定結果が存在しない本件において,特に低周波音を取り出してその原告らに対する影響を論ずることは適当とはいえない。前記のとおり原告らが相当に程度の高い航空機騒音に曝露されているのは事実であり,後にみる原告らの被害がこれを原因とすることは明らかである。そして,その航空機騒音の中には低周波音も含まれているのであるから,低周波音による被害は,そのような航空機騒音による被害の一環として考慮すれば足りるし,また,その限度で考慮するほかないというべきである。
(7) 過去における事故の発生
証拠(甲A2,11,14の1~10,甲D2の169・170・187・244・311・336・340・341・381)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
神奈川県内において昭和27年4月から平成19年12月までに発生した米軍機又は自衛隊機の事故は合計で232件に上り,そのうち墜落が63件,不時着が57件,部品等の落下が79件,その他(オーバーラン,燃料放出等)が33件である(甲A2の55頁)。その後も,厚木飛行場周辺において,米軍機による部品等の落下事故が少なくとも5件発生している(甲D2の381)。
(8) 被告による周辺対策等
ア 周辺対策の概要
証拠(乙A180から182まで)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
厚木飛行場周辺において環境整備法等に基づきこれまで被告が実施してきた周辺対策は,①移転措置及び移転跡地の緑地帯整備(環境整備法5条,6条),②住宅防音工事に対する助成措置(同法4条),③住宅防音工事以外の防音対策,④その他の周辺対策に大別される。
このうち③としては,学校等の防音助成(同法3条2項1号,3号),病院等に対する防音助成(同項2号,3号)及び民生安定に係る公共施設の防音助成(同法8条)がある。
④としては,騒音用電話機の設置に対する補助(行政措置として実施),テレビ受信料の助成措置(放送受信事業として実施),自衛隊等が行う特定の行為(例えば,射爆撃訓練,戦車等の機甲車両の使用による訓練,航空機の頻繁な離着陸等)によって生ずる障害を防止し又は軽減するための河川,道路等の改修工事に対する補助金の交付(同法3条1項),民生安定施設のための地方公共団体に対する補助金の交付(同法8条,環境整備法施行令12条),特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付(同法9条),農耕阻害補償(同法13条。米軍の行動によるものは「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等の行為による特別損失の補償に関する法律」1条),厚木基地周辺地域の民有地の借上げ措置と緩衝地帯の設定,市町村に対する基地交付金及び調整交付金の助成(「国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律」及び施設等所在市町村調整交付金要綱(昭和45年自治省告示第224号))がある。さらに,航空機騒音対策として,騒音をその発生源で抑える方法や,これに準ずる方法として運航方法に改変を加えたり発生源を遮蔽したりするといった対策があり,これら音源対策としては,厚木基地内の2か所における自衛隊及び米軍の消音装置の設置が挙げられる。
以上の周辺対策の実施状況は別紙18(被告最終準備書面添付第10表)のとおりである。なお,そこにいう「生活環境整備法」は本判決にいう環境整備法のことであり,「周辺整備法」は「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(昭和49年法律第101号(環境整備法)により廃止)を,「特別損失補償法」は「日本国に駐留するアメリカ合衆国軍隊等の行為による特別損失の補償に関する法律」を,それぞれ意味する。
イ 住宅防音工事への助成一般
被告の実施している周辺対策のうち原告らの騒音被害の軽減に直接つながり得るものは住宅防音工事に対する助成措置である。これについては,証拠(乙A1,2,110,111の1・2,113の1~5,117,126の1~7,127の1・2,128の1・2,129から133まで)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(ア) 環境整備法4条に規定する住宅の防音工事への助成は,現在,防衛省地方防衛局長が前記の「防衛施設周辺における住宅防音事業及び空気調和機器稼働事業に関する補助金交付要綱」に基づく補助金の交付として行っている。この補助金交付の対象となる住宅防音工事の内容は前記の防音工事仕方書に定められており,その概要は次のとおりである。

(イ) 住宅防音工事には,①一挙防音工事,②追加防音工事,③防音区画改善工事,④外郭防音工事の区分がある。①は,初めて行う工事であり,世帯人員に1を加えた居室を対象とするが,合計5室を限度とする。②は,初めて行う工事で2居室以内について工事を実施した住宅を対象とする追加の工事であり,やはり合計5室を限度とする。③は,バリアフリー対応住宅や身体障害者等の居住する住宅等を対象とする工事であり,世帯人員が4人以下の場合は5居室まで,5人以上の場合は世帯人員に1を加えた居室を対象とする。④は,住宅全体を一つの区画として行う工事であり,原則として85W以上の地域にある住宅を対象とする。
(ウ) 平成11年度からは,防音工事の助成を受けてから10年以上が経過し,その後建て替えられた住宅(建替前住宅との間に代替性,継続性が認められる場合に限る。)に対する防音工事の助成(いわゆる再補助)を実施している。
(エ) 防音工事を実施する住宅の所有者等に対して交付される補助金の額は,所定の限度額以内で,所定の経費の全額である。
(オ) 補助金規則(防衛施設周辺対策事業補助金等交付規則)によれば,地方防衛局長は,補助金交付決定をする場合に,「補助事業者等は,補助事業等を中止し,又は廃止する場合には,地方防衛局長の承認を受けること」との条件を付するものとされている(4条1項2号)。
補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下「補助金法」という。)22条は,「補助事業者等は,補助事業等により取得し,又は効用の増加した政令で定める財産を,各省各庁の長の承認を受けないで,補助金等の交付の目的に反して使用し,譲渡し,交換し,貸し付け,又は担保に供してはならない。ただし,政令で定める場合は,この限りでない。」と規定しており,補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律施行令(以下「補助金法施行令」という。)14条1項2号は,このただし書に当たる場合として,「補助金等の交付の目的及び当該財産の耐用年数を勘案して各省各庁の長が定める期間を経過した場合」と規定している。これを受け,補助金規則は,補助金法施行令14条1項2号により定める期間(財産処分制限期間)として,例えば木造の住宅用建物については22年と規定している(9条,別表)。したがって,補助金の交付を受けて木造の住宅について防音工事を実施したその所有者等は,財産処分制限期間である22年が経過する前にその住宅を取り壊そうとするときには,地方防衛局長の承認を受ける必要がある。
もっとも,補助金規則は平成19年9月1日に施行されたものであり,それより前に施行されていた防衛施設庁補助金等交付規則(昭和38年防衛施設庁告示第3号。以下「旧補助金規則」という。)には,補助金規則4条1項2号に相当する規定は設けられていたが(2条1項2号),9条及び別表に相当する規定(財産処分制限期間)は設けられていなかった。
(カ) 被告は厚木飛行場周辺地域の住宅の所有者等に対して昭和50年度から住宅防音工事の助成を実施し,平成24年度までに延べ29万5936世帯に対して合計6897億9810万8255円を支出した。
このうち平成11年度から実施している建て替えられた住宅に対する防音工事の助成(いわゆる再補助)は,平成24年度までで延べ2628世帯に対する合計139億4707万5390円であり,平成14年度から実施している外郭防音工事の助成は,平成24年度までで延べ1万7659世帯に対する合計591億2019万3359円である。
ウ 被告の助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する原告ら
(ア) 原告らの中にも被告から助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する者がいる。また,その原告らの中には,被告から助成を受けて防音工事を実施した住居をその後になって取り壊し,あるいは改築した住居に居住する者もいる。これらの原告らについて,防音工事を実施した時期と室数,外郭防音工事又は防音区画改善工事を実施した場合の実施時期,さらに,その取壊し又は改築により防音の効果を有する室が消滅したか室数が減少した場合のその時期について,当事者間に争いがない場合はそれにより,争いのある場合は,証拠(甲地域別9のほか,原告らの陳述書等及本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨により事実を認定した上,これに基づき,別紙21一覧表の「防音工事」欄に,居住期間ごとに,防音工事済みの室数を記載した。すなわちこの欄の数字はその居住期間における防音工事済みの室数を表す。ただし,外郭防音工事又は防音区画改善工事を実施した場合で,工事済みの室の合計が5室に満たない場合は,工事済みの室数にかかわりなく5としてある。
以上の各点の事実認定については,別紙20(原告ら個別の事情についての補足説明)の2において説明を補足する。
(イ) 防音工事を実施した住宅に関しては,証拠(甲C2,乙A1,2,5から7まで,111の1・2,112,113の1~5,114から117までのほか,原告らの陳述書等及本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
a 住宅は,防音工事を実施しなくても,屋根,天井や壁による遮音の効果がある。住宅防音工事によって遮音効果が高まるのは事実であるが,その差異は相対的なものである。
b 被告の定める防音工事仕方書に従って防音工事を実施した場合,第Ⅰ工法では25dB以上,第Ⅱ工法では20dB以上という計画防音量の達成が見込まれるが,実際の工事の効果は工事の状況や個々の住宅の状況によって様々であり,必ず達成できるとまでは認められない。また,計画防音量が達成されても,室内における航空機騒音が常に気にならない程度まで軽減するわけではない。そのため,生活環境音が遮断される一方で航空機騒音は依然として聞こえるという不自然な状況が生ずることにもなる。
c 住宅防音工事は部屋をいわば密閉することによって遮音効果を高めようとするものであるが,日常生活において密閉された部屋の中で人が一日中すごすことはあり得ない。一方,たとえ防音工事を実施しても,扉や窓を開けてしまえば遮音効果は著しく失われる。
d 部屋を密閉する場合,夏季においては冷房機の使用が不可欠となるが,冷房機の使用については人によって好悪が分かれるし,使用する場合は電気料金の負担が増えるという問題もある。
e 住宅防音工事を実施したとしても,工事を実施した区画を出れば,また,屋外に出れば,依然として航空機騒音にさらされるのであり,日常生活において航空機騒音から逃れられないという事態に変わりはない。
4  共通損害論
原告らは,厚木飛行場の航空機騒音によって原告ら全員が等しく被害を受けており,これについての最低限の賠償として,非財産的損害及び精神的損害を包括して一律に慰謝料を請求すると主張する。これに対し被告は,共通被害とは原告ら全員に共通して生じているものであると理解し,原告らはそのような「共通被害」を立証すべきであるとか,原告らが共通して曝露されているのは平日昼間の時間帯を除いた時間帯における騒音である(昼間騒音控除後W値の主張は,このような考え方に基づく。)などと主張するので,この点について判断する。
(1) 航空機騒音を始めとする環境騒音についての科学的知見
前記のWHOガイドライン(甲C65)は,健康への騒音の影響として,聴力障害,会話・聴取妨害,睡眠妨害,生理的影響,作業・学習への影響及び住民の行動や不快感への影響を挙げており,これは現在一般に受け入れられている科学的知見に基づくものであると解される。それぞれの事項について本件に関係する限度でWHOガイドラインの記述を抜粋すると,次のとおりである(一部表現を変えたところがある。)。
ア 聴力障害
聴力障害は,一般に聴力の閾値の上昇と定義される。聴力の低下は耳鳴りを伴うことが多い。LAeq,8h(8時間の等価騒音レベル)が75dB(A)以下であれば,職業曝露が長期にわたっても聴力障害は生じないと期待される。環境騒音や娯楽に関わる騒音のLAeq,24h(24時間の等価騒音レベル)が70dB(A)以下であれば,たとえ生涯にわたって曝露されても大多数の人には聴力障害は生じないと期待される。衝撃音が発生する職場の労働者の場合,許容レベルはピーク音圧レベル(瞬時音圧のレベルであり,騒音レベルの最大値とは異なる。特に衝撃音の場合は最大騒音レベルよりもかなり大きな値となる。)で140dBである。この許容レベルは余暇時間における環境騒音曝露の場合にも適切であると考えられる。小児の場合は,騒音の発生する玩具で遊ぶ時の状況を考慮すると,絶対的にピーク音圧レベルを120dB以下にとどめるべきである。また,LAeq,24hが80dB(A)以上の射撃音の場合,騒音性聴力障害が生ずるリスクが高まると考えられる。
イ 会話・聴取妨害
会話了解度は騒音によって低下する。会話と同時に妨害音が発生することによって会話の理解が困難になる。環境音は,ドアのベル,電話の呼出音,アラーム時計,火災報知器その他の警告音や音楽といった日常生活を送る上で重要な役割を果たしている会話以外の音をマスクすることもある。日常生活における会話了解度は,会話レベル,発音,話者間距離,妨害音の騒音レベルなどの特性,聴力,注意の程度に影響される。屋内の場合には,会話は部屋の残響特性にも影響される。残響時間が1秒を超えると会話の識別が難しくなり,言葉の知覚が困難になる。正常な聴力を有する人が文章を正確に理解するためには,信号-雑音比(例えば,会話音と妨害音のレベル差)が少なくとも15dB(A)は必要である。通常の会話は50dB(A)程度なので,35dB(A)以上の騒音は小さな部屋では会話を妨害することになる。
会話の内容が理解できないと数多くのハンディキャップが生じ,日常生活における行動に支障を来すことになる。特に影響を受けるのは聴力障害者,高齢者,言語習得中の小児,話されている言語に習熟していない人である。
ウ 睡眠妨害
睡眠妨害は,環境騒音の主要な影響の一つである。騒音によって睡眠中に一次影響が生じ,二次影響として騒音曝露を受けた次の日にも影響が生ずる。妨害を受けない睡眠は身体的・精神的な機能を良好に保つために不可欠である。睡眠妨害の一次影響としては,入眠困難,覚醒や睡眠深度の変化,血圧・心拍数・指先脈波振幅の上昇,血管収縮,呼吸の変化,不整脈,体動の増加などがある。問題となっている騒音の騒音レベルよりも,暗騒音とのレベル差が反応確率に関与する。騒音によって覚醒する確率は,一晩当たりの騒音発生回数の増加とともに高くなる。翌朝やその後何日間かに現れる睡眠妨害の二次影響としては,不眠感,疲労感,憂鬱,作業能率の低下といったものがある。
快適な睡眠のためには,夜間の連続的な暗騒音のLAeqは30dB(A)以下にとどめるべきであり,個々の発生音についても45dB(A)を超えるような騒音は避けるべきである。
エ 生理的機能
空港等の近傍の住民に対して,騒音が生理的機能に急性的・慢性的な影響を及ぼしている可能性がある。長期曝露によって,住民の中の高感受性群が高血圧や虚血性心疾患などの永続的な影響を発現することになると考えられる。影響の大きさやそれが持続する時間は,一部,個人の特性,生活習慣,環境条件などの影響を受ける。
強大な工場騒音に5年~30年曝露された労働者は血圧が上昇し,高血圧になるリスクが高まると考えられる。心循環器系への影響は,LAeq,24hが65dB(A)~70dB(A)の航空機騒音・道路交通騒音の長期曝露地域においても明らかにされている。騒音と高血圧や心疾患の発症率との関連は必ずしも強いものではないが,高血圧よりも虚血性心疾患の方が騒音との関連がいくぶん強いとされている。騒音に曝露されている人員の多さに鑑みると,わずかなリスク上昇であっても重大である。
オ 作業・学習への影響
主に労働者や小児に対して,騒音が認知作業の成績に悪影響を及ぼし得ることが明らかにされている。騒音によって集中力が賦活され単純作業の能率を短期間上昇させることもあるが,複雑な作業の場合,認知作業の成績は大幅に低下する。読解力,集中力,問題を解く力,記憶力などが,騒音によって特に影響を受ける認知能力である。騒音は集中を妨げる刺激にもなり,衝撃音は驚愕反応によって破壊的な影響を及ぼす可能性がある。
騒音への曝露は,曝露終了後の成績にも悪影響が生ずると考えられる。慢性的に航空機騒音に曝露されている空港周辺の学校の生徒は,詳細な読解力,難問に取り組む際の持続力,読解試験の成績,学習意欲が,標準よりも低い。航空機騒音に順応しようと試みたり,作業成績を維持するのに必要な努力をしたり,相当の代償を払っていることを認識しなければならない。騒音は作業中の障害やミスを増加させると考えられ,ある種の事故は作業能率の低下を示す指標になり得る。
カ 住民の行動への影響,不快感(アノイアンス)
騒音は不快感を抱かせるだけでなく,社会的影響を及ぼすとともに行動へも影響を及ぼす。これらの影響は,複合的,潜在的かつ間接的であるため,多くの非聴覚的要因の交互作用の結果として生ずると考えられる。同じ曝露量であっても,別の交通騒音や工場騒音では不快感の程度が異なることを認識しておかなければならない。なぜならば,不快感は,騒音の特性(騒音源の情報も含む。)だけでなく,音以外の社会的,心理的,経済的な要因の影響も受けるからである。騒音曝露量と不快感との関連については,個人レベルよりも集団レベルにおいてより高い相関関係が得られる(個人差が大きい。)。80dB(A)を超える騒音は援助的な行動を減少させ,攻撃的な行動を増加させると考えられる。高レベルの騒音に曝露されることにより,学童が無力感を抱きやすくなってしまうことが懸念される。
騒音に振動が伴う場合や,低周波音が含まれる場合,衝撃音(例えば射撃音)が含まれる場合には,より強い住民反応が報告される。
キ 高感受性群
騒音対策や騒音規制を行う場合には,住民の中の高感受性群に注目すべきである。高感受性群の例としては,特定の疾患や健康問題を有する人(高血圧など),入院患者や自宅療養中の人,複雑な認知作業を行う人,盲人,聴力障害を有する人,胎児,乳児,小児,高齢者などが挙げられる。高周波数領域の聴力がわずかに低下しているだけでも騒音環境下では会話が困難になると考えられるので,住民の大多数が会話妨害に関しては高感受性群に属する。
(2) WHOの示すガイドライン値
ア WHOガイドラインは,これらの知見に基づき,特定の環境と重要な健康影響ごとにガイドライン値(甲C65の12頁)を設定している。このうち居住地域一般に関わるものは次のとおりである。

この表のガイドライン値は,そこに掲げられた「重要な健康影響」が生ずる最低のレベルであるとされる。LAeqの値は,その時間区分,すなわち昼間と夕方であればその時間帯の合計16時間における等価騒音レベルを,夜間であればその時間帯8時間における等価騒音レベルを示す。また,LAFmaxの値は,夜間における最大の騒音レベル(fastの動特性)を示す。単位はいずれもdBである。(甲A27の1・2,証人A2)
イ WHOの欧州地域事務局は,WHOガイドラインが公表された後の研究成果を取り入れて,平成21年に「欧州夜間騒音ガイドライン(実務的概要)」(Night Noise Guidelines for Europe)(A1=A2=A11訳。甲C75)を公表し,公衆の健康を夜間騒音から保護するための夜間騒音ガイドラインとして次の提案をした。

夜間騒音ガイドライン  Lnight,outside=40dB
暫定目標  Lnight,outside=55dB

この表のLnight,outsideとは,屋外における夜間の等価騒音レベルである。「夜間騒音ガイドライン」がLnight,outside40dBであるとは,大多数の人々が床に就いている時間帯(夜間)に屋外の騒音レベルが40dBを超えてはならないことを提言するということであり,この値は健康に対する悪影響が生ずる下限値であるとされている。また,「暫定目標」とは,種々の理由によってガイドラインを早期に達成できない場合の提案であって,それ自体は健康影響に基づいた値ではない(高感受性群はこの騒音レベルでは保護されない)とされている。(甲A27の1・2,証人A2)
京都大学大学院工学研究科都市環境工学専攻のA2准教授は,欧州夜間騒音ガイドラインの値について次のように証言する(甲A27の1・2,証人A2)。これらの値は家屋による遮音量として21dBを見込んでいるが,一般にヨーロッパの家屋の遮音量は我が国の木造家屋に比べると高く,我が国の木造家屋では15dB程度の遮音量しか得られないので(甲C79),我が国ではより低い屋外騒音レベルでも健康影響が生ずると考えるべきであるというのである。
(3) 大阪空港最判の判示
大阪空港最判は,この点について下記のとおり判示した。
記確かに,被上告人らの本件損害賠償請求は,……,被上告人各自の被っている被害につき,それぞれの固有の権利として損害賠償の請求をしているのであるから,各被上告人についてそれぞれ被害の発生とその内容が確定されなければならないことは当然である。しかしながら,被上告人らが請求し,主張するところは,被上告人らはそれぞれさまざまな被害を受けているけれども,本件においては各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく,それらの被害の中には本件航空機の騒音等によって被上告人ら全員が最小限度この程度まではひとしく被っていると認められるものがあり,このような被害を被上告人らに共通する損害として,各自につきその限度で慰藉料という形でその賠償を求める,というのであり,それは,結局,被上告人らの身体に対する侵害,睡眠妨害,静穏な日常生活の営みに対する妨害等の被害及びこれに伴う精神的苦痛を一定の限度で被上告人らに共通するものとしてとらえ,その賠償を請求するものと理解することができる。もとより右のような被害といえども,被上告人ら各自の生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容及び程度を異にしうるものではあるが,他方,そこには,全員について同一に存在が認められるものや,また,例えば生活妨害の場合についていえば,その具体的内容において若干の差異はあっても,静穏な日常生活の享受が妨げられるという点においては同様であって,これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差異がないと認められるものも存在しうるのであり,このような観点から同一と認められる性質・程度の被害を被上告人全員に共通する損害としてとらえて,各自につき一律にその賠償を求めることも許されないではないというべきである。……
なお,本件における被害の問題は,単に被上告人らにつきその主張するような共通被害が生じたかどうかの点のみに限られるものではなく,……,本件空港供用の違法性の判断については,右供用に伴う航空機の離着陸の際に生ずる騒音等が被上告人らを含む周辺住民らの全体に対しどのような種類,性質,内容の被害をどの程度に生ぜしめているかが一つの重要な考慮要素をなすものと解されるところ,この場合における被害の総体的な認定判断においては,必ずしも全員に共通する被害のみに限らず,住民の一部にのみ生じている特別の被害も考慮の対象となしうるのであり,原判決が,右のような,必ずしも被上告人ら全員に共通する被害とまではいえないものについても詳細な認定を施し,かつ,住民のうち特殊な生活条件,身体的条件を有する者について生ずる特別の被害をも加えて総体的な評価判断を示しているのも,右の見地からされたものと解されるのである。
(4) 原告らの共通損害について
WHOガイドラインが示す科学的知見によれば,環境騒音の影響としては,聴力障害,会話・聴取妨害,睡眠妨害,生理的影響,作業・学習への影響,住民の行動や不快感への影響など種々様々なものがあり,高齢者であるか小児であるかといった人の属性によっても影響が異なるとされている。そうであるにもかかわらず,WHOガイドラインは,人の居住する地域の屋外・屋内において守られるべき騒音の程度を示すものとして環境騒音のガイドライン値を設定し,また,WHO欧州地域事務局は人の居住地域の屋外において守られるべき騒音の程度を示すものとして夜間騒音ガイドラインを設定している。
そして,前記のとおり,我が国においても,「生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい」基準として,昭和48年環境基準も現行環境基準も一定の騒音の水準を設定しており,また,航空機騒音防止法,環境整備法,航空機騒音特措法及びその下位の政省令は,一定の騒音の水準(75W)を定めて,これらの法令に基づく政策措置を実施すべき最低基準としている。
これらはいずれも,航空機騒音ないしこれを含む環境騒音については,その被害の現れ方が人によって一様なものではないにしても,一定の地域における一定の騒音の水準をもって騒音被害の程度を画することができるという考え方に基づくものである。このような考え方によれば,一定の水準以上の航空機騒音にさらされている地域においては,そこに居住する住民全員に共通する損害が生じていると解することができる。共通被害を主張する原告らの立場は,この考え方と同じ基盤に立つものであり,科学的知見による裏付けを有するものであるとともに上記各法令の趣旨にもかなったものである。
大阪空港最判の上記判示は,これとはまた異なる観点からではあるが原告らの主張を支えている。大阪空港最判からは次の二つのことをいうことができる。第1に,飛行場周辺に居住する住民が受ける航空機騒音による被害は,その現象を見れば,不快感,いらだち等の精神的苦痛,睡眠妨害,会話妨害,作業妨害など,個々の住民によりまた騒音が発生する時点での活動の在り方により様々な現れ方をするものであり,各自の年齢,生活条件,身体的条件等の相違に応じてその内容及び程度を異にし得るものである。これは前記(1)においてみた科学的知見からもいえることである。しかし,これらの被害は,例えば生活妨害については,静穏な日常生活の享受が妨げられるという点においては同様であって,いずれについても航空機騒音を原因とする慰謝料請求権の発生原因である被害として共通する性格を有することはいうまでもない。この共通面に着目すれば,住民全員が最小限度この程度までは等しく被っていると認められる損害が存在すると認められるので,住民らは,これを共通損害として,一律に慰謝料請求をすることができるのである。最小限度という言葉の語感からは量的なものを思い浮かべがちであるが,ここにいう共通損害とは,現象としての被害の現れ方は様々であっても,日常の生活全体が航空機騒音によって貫かれ種々の制約を受けているという点において共通することに根拠を有するのであり,量的な側面に加えて生活の質の類似性に重きを置いて理解すべきである。したがって,原告らが共通する損害を受けているか否かを判断する際には,その損害が航空機騒音を原因としているという点で共通性を有するか否かに着目すべきであり,量的に同じ程度の航空機騒音にさらされているか否かに拘泥すべきではない。被告も指摘し,原告らも自認するとおり,原告らはそれぞれ年齢,身体的条件や生活形態を異にするのであり,居住地付近で一日中過ごす者もいれば,通勤や通学のために日中は厚木飛行場から離れた場所で過ごす者もいる。厚木飛行場に離着陸する航空機が発する騒音の量に着目すれば,各人がさらされる騒音の量は一様ではなく,ある程度の幅が存在することは確かである。しかし,居住地付近で一日中過ごすことのない者であっても,厚木飛行場周辺を生活の本拠とする以上,その日常の生活全体が厚木飛行場に離着陸する航空機の発する騒音によって強く影響されているといい得るのであり,そのような意味で全ての周辺住民が共通の損害を被っているといえるのである。
大阪空港最判からいえることの第2は,航空機騒音による被害の問題は,飛行場の使用ないし供用が周辺住民との関係において違法性を有するか否かの判断にも関わるものであり,この判断との関係では,最小限度の共通の損害といえるかどうかすら考慮する必要はなく,住民の一部にのみ生じている特別の被害も含めて,航空機騒音によって生じている被害の全てを広く考慮の対象とすることができるということである。
以上の検討によれば,原告らの主張する個々の被害については,それが存在すると認定される限り,被告による厚木飛行場の使用及び供用が違法なものか否かを判断する際には(大阪空港最判からいえる第2の点),その被害の全てを考慮の対象とすべきである。次に,違法と判断された場合に,さらに進んで一律の慰謝料の額を認定するに際しては(大阪空港最判からいえる第1の点),最小限度この程度までは原告らが等しく被っているといえる損害を,量的及び質的両面を踏まえた共通性に着目して考慮の対象にすべきである。これと逆に,現象としての個々の被害について全ての者に共通するといえるかどうかを一つ一つ検討し,全員に共通するとはいえないもの(例えば,病人にのみ生ずる被害,高齢者のみに生ずる被害,子供のみに生ずる被害など)を切り捨てようとする被告の主張は誤りである。被告はまた,共通損害を主に量的にとらえ,各原告が現実にさらされた航空機騒音のうち全員に共通するもののみが共通損害になるとした上で,平日昼間の時間帯における騒音に基づく被害は全員に共通するものではないから共通損害になり得ないとして「昼間騒音控除後W値」を主張するのであるが,この主張は以上の議論からしても採用することができない。
5  原告らの被害
(1) 被害のとらえ方(分類)
原告らが航空機騒音によるものであると主張する被害は多岐にわたるが,前記4(1)で紹介したWHOガイドラインを参考にして次のように分類し,それぞれにつき後記(2)以下において検討を加えることとする。①聴力障害や生理的機能への影響等の身体的被害,②睡眠妨害,③会話・聴取妨害等の生活妨害,④その他の精神的苦痛。
後記(2)以下における判断の前提となる事実は,騒音に関する文献等(甲A22,23,27の1・2,甲C1の1~27,3から19まで,21から63まで,65,67から75まで,76の1・2,77の1・2,78から89まで,90の1~11,91から94まで,乙A147から155まで,157から159まで,乙C7から12まで,13の1・2,14から27まで,38から44まで,証人A2),厚木基地周辺自治体等から被告又は米国に対する要望ないし要請等(甲D1の1~56,3の1~80)及び厚木基地に関する新聞報道(甲D2の1~395)のほか,原告らの陳述書等及び本人尋問の結果を総合して認定する。
(2) 身体的被害
原告らは,そのうちの少なくない者が,航空機騒音により,高血圧症,狭心症,心筋梗塞等の循環器系疾患,胃炎等消化器系疾患,耳鳴り,難聴,頭痛,喘息,アトピー性皮膚炎,自律神経失調症,不眠症等を発症し,又はこれを増悪させていると主張する。111名の原告は,これを立証するためとして診断書を提出する(甲地域別10)。
航空機騒音によって疾病が発症し,又はこれを増悪させたといえるためには,医学的知見に基づき,その間に因果関係の存在することが認められなければならない。原告らの陳述書等及び本人尋問の結果のみでは医学的根拠を欠くから,これを認めることはできない。また,提出された診断書にも,上記の因果関係の存在について確定的な記述が存在するわけでもない。したがって,航空機騒音によって身体的被害が発生しているとする原告らの主張を採用することはできない。
もっとも,強大な騒音にさらされ続けると生理的機能に悪影響が生じ,高血圧や虚血性心疾患のリスクが高まると考えられていることは,WHOガイドラインが示すとおりであり,医学的に根拠のないこととはいえない。したがって,陳述書等や本人尋問において身体的被害について言及する原告らは,航空機騒音にさらされ続けることによりいずれ健康を害することになるという強い不安を覚えているのであって,それには相応の根拠があるから,これを航空機騒音に起因する精神的苦痛の一環としてとらえることはできる。
(3) 睡眠妨害
前記(1)の証拠によれば,原告らの多くの者が航空機騒音による睡眠妨害の被害を受けていることが認められる。
前記のとおり,WHOガイドラインは,睡眠妨害を防止するためには,屋外における夜間の等価騒音レベルが45dBを,また,屋外における最大の騒音レベルが60dBを超えてはならないとしている。WHO欧州地域事務局の定めた「欧州夜間騒音ガイドライン」は,公衆の健康を夜間騒音から保護するためのガイドライン値を,屋外における夜間の等価騒音レベルで40dBと定めている。これらの騒音評価指標は,W値や音圧レベルとしてのdBとは異なるから,前記認定の厚木飛行場周辺における騒音の大きさと単純に比較することはできない。しかし,前記のA2京都大学准教授が,平成21年の1年間に厚木飛行場の周辺自治体が測定した11か所の測定地点(測定地点が属する地域は,95Wの地域が1か所,90Wの地域が2か所,85Wの地域が2か所,80Wの地域が2か所,75Wの地域が3か所,70Wの地域が1か所)におけるデータを分析したところ,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の等価騒音レベルの年間平均値は,75Wの測定地点3か所のうち1か所及び80W以上の測定地点7か所全部において40dBを超えており,85W以上の測定地点5か所のうち3か所においては45dBを超えていた。さらに,上記の1年間で夜間(上記と同じ。)において最大の騒音レベルが70dBを超える騒音が発生した回数をみると,85W以上の測定地点5か所の全部で150回を超えており,80Wの測定地点2か所のうちの1か所では400回を超えていた。75Wの測定地点3か所における発生回数も,42回,72回,93回という結果であった。(以上,甲A27の1・2,証人A2)
A2准教授の上記の分析結果は,前記認定の航空機騒音の実態に照らし,信用するに値する。そうすると,厚木飛行場周辺の少なくとも80W以上の地域の多くにおいては,夜間の等価騒音レベルを指標とした場合,「欧州夜間騒音ガイドライン」のガイドライン値を超えた航空機騒音にさらされているといえるし,75Wの地域においても同様の場所があるといえる。また,最大の騒音レベルを指標にすると,WHOガイドラインのガイドライン値を超える騒音にさらされる回数は,80W以上の地域では極めて多く,75Wの地域においてすら決して軽視できるほど少ないとはいえない。
以上によれば,厚木飛行場周辺における75W以上の地域のかなりの部分において,夜間,健康に対する悪影響が心配される程度に強度な航空機騒音にさらされているといえるのであり,これに応じて,原告らの多くが受けている睡眠妨害の被害の程度は相当深刻なものというべきである。
なお,昼間における航空機騒音は,大きさも頻度も夜間におけるそれをはるかに上回るから,夜間以外の時間帯に就寝しようとする場合,航空機騒音による睡眠妨害が著しいことは明らかである。
(4) 生活妨害
ア 聴取妨害(会話,電話,テレビ視聴等)
前記(1)の証拠によれば,原告らはいずれも,航空機騒音により,他人との会話,電話による通話,テレビやラジオの視聴などを妨害されるという聴取妨害の被害を受けていることが認められる。
航空機騒音が単発であれば,聴取妨害そのものは一過性であるが,聴取しようとする内容によっては,それが聞き取れないことは重大な支障になり得る。また,予期しない時に突然妨害を受けるわけであるから,それによって受ける精神的負担も大きい。さらに,航空機騒音が連続する場合や,時をおいて何度も発生する場合は,妨害の程度もそれに伴う精神的負担も著しいものになる。
イ 精神作業(読書,勉強等)の妨害
前記(1)の証拠によれば,原告らはいずれも,学習,読書,思考などの知的作業ないし精神的活動を航空機騒音によって妨害される被害を受けていることが認められる。
その被害の程度については,上記アの聴取妨害と同じことがいえるほか,航空機騒音により集中力をを欠いたまま作業を継続することにより,ミスが増加したり,いたずらに疲労感を覚えることにつながったりする。さらに,妨害が重なることにより,その作業を行う意欲を失ってしまうこともある。例えば,原告らの中には,趣味等の活動を航空機騒音のために断念してしまった者もいる。
(5) その他の精神的苦痛
ア アノイアンス(いらだち,悩み,腹立ちといった被害感)
前記(1)の証拠によれば,原告らはいずれも,航空機騒音により不快感を覚え,いらいらしたり,腹立ちを感じたりしている。このような不快感をアノイアンスといい,航空機騒音に起因する精神的苦痛としてまず挙げられるものである。
イ 健康被害(子供の発育を含む)の不安
原告らのうち少なくない者が航空機騒音による健康への不安を抱いていることは,既に前記(2)においてみたとおりである。
また,前記(1)の証拠によれば,原告らの中には,自らの健康に対するばかりでなく,子供の発育に対する不安を抱いている者も少なくないことが認められる。子供が高感受性群に含まれることはWHOガイドラインが指摘しているところであり,航空機騒音に対する不快感は大人よりも子供の方が大きい。また,子供は継続して学習活動を行うが,これは知的作業であるから,前記のとおり,航空機騒音による妨害を受けやすい活動である。このようなことから,周囲の大人が,航空機騒音によって子供が精神的に不安定となり,あるいは学習妨害を受けて,健全に発育できないのではないかと不安に感ずるのは当然のことである。WHOガイドラインも,前記のとおり,高レベルの騒音に曝露されることにより学童が無力感を抱きやすくなってしまうことが懸念されるとしており,このような不安感には十分な根拠がある。
以上のとおり,健康に対する不安は,周囲の子供の発育に対する不安を含めて,航空機騒音に起因する精神的苦痛である。
ウ 交通事故の危険への不安
前記(1)の証拠によれば,原告らのうち少なくない者が,自動車や電車の走行音あるいは踏切や緊急車両などの警報音が,航空機騒音によってかき消され,交通事故の危険が高まるのではないかという不安を抱いていることが認められる。厚木飛行場周辺における航空機騒音が時に110dBをも超える大きなものであることからすると,このような不安にも十分な根拠があり,これも精神的苦痛の一つといえる。
エ 航空機事故の不安等
前記(1)の証拠によれば,原告らのうち少なくない者が,厚木飛行場周辺を飛行する航空機の墜落やその部品の落下等の事故に対する不安を抱いていることが認められる。前記のとおり,厚木飛行場周辺ではこれまでも数多くの部品落下事故が発生しているほか,墜落事故も発生しており,周辺住民はこれをよく承知している。特に厚木飛行場付近では,航空機がかなりの低空を飛行する姿を日々間近に見ることになるから,事故の不安を感ずるのはもっともである。このような不安感は,航空機騒音に起因するというよりも航空機が頻繁に飛来すること自体に起因するものといえるが,航空機騒音に関連する精神的苦痛の一つに数えることができる。
また,原告らのうち戦争体験を有する者等の中には,航空機騒音によって戦争体験その他過酷な体験を想起させられて苦痛を感ずるとする者がいる。厚木飛行場に離着陸する航空機が戦闘機等の軍用機であることや航空機騒音の大きさを考慮すると,これらの訴えも根拠のあることといえ,航空機騒音に関連する精神的苦痛の一つに数えることができる。
(6) 被害のまとめ
以上,原告らは,①睡眠妨害,②聴取妨害及び精神的作業の妨害から成る生活妨害,③アノイアンスや健康被害への不安を始めとする精神的苦痛を中核として,厚木飛行場に離着陸する航空機の発する騒音により,それぞれの身体条件や生活条件によって現れ方の異なる様々な被害を受けていることが認められる。健康被害に結び付き得るものとしては睡眠妨害が深刻であるが,生活妨害や種々の精神的苦痛も決して軽視することができない。そして,航空機騒音にさらされる場所が原告らの日常生活の場であることから,これらの個々の被害は,相互に関連して有機的に結び付いて,生活の質を全体として損なわせているというべきである。
これらの被害は,航空機騒音に対する感受性の違いによって異なり得るものであり,個人差があると認められるが,W値が高くなればなるほど被害の程度が大きくなるという関係にあることは明らかである。
6  厚木飛行場の公共性
前記前提となる事実のほか,証拠(乙A19から33まで,85から89まで,90の1~7,91,92の1・2,93の1・2,94の1・2,95の1・2,96,97の1~3,98の1・2,102から109まで,164から177まで)及び弁論の全趣旨により認められる事実は次のとおりである。
(1) 自衛隊の飛行場としての公共性
厚木飛行場は,防衛大臣が設置・管理し,海上自衛隊が自衛隊法に定められた我が国の防衛,災害派遣等の任務遂行をする上での各種活動をするための飛行場として利用している。海上に容易に進出し得る位置にあることから,海上自衛隊はこれを関東地方における最も重要な飛行場と位置付けている。
厚木飛行場に置かれた航空集団司令部は,自衛艦隊の主力である航空集団の中枢として,全国各地に所在する航空部隊を一元的に指揮している。厚木飛行場に離着陸する自衛隊機の大部分はこの指揮下にある第4航空群のものである。
第4航空群の活動は,①対潜航空活動,②災害派遣等民生協力活動,③防災活動における地方自治体との連携,④国際貢献,⑤教育訓練等であり,我が国周辺海域における哨戒任務である①がその活動の中心である。そして,自衛隊機の運航活動は,決められたルートを飛行する民間定期便航空機とは異なり,極めて危険かつ高度の技量を必要とするから,常日頃からの飛行訓練が必要不可欠である。
(2) 米軍の飛行場としての公共性
厚木基地は,日米安保条約に基づき,我が国の安全に寄与するとともに極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという目的のため,米海軍が使用するものとして米国に提供されている。厚木基地の一部である厚木飛行場は,海上自衛隊が管轄管理しているが,日米地位協定2条4項(b)に基づいて米海軍が一時使用を認められている。
厚木基地に駐留する米海軍の主要部隊は,西太平洋艦隊航空司令部,厚木航空施設司令部及び第5空母航空団等である。西太平洋艦隊航空司令部は西太平洋艦隊航空部隊の中枢を占める司令部であり,太平洋海軍航空司令部の指揮下にあって,極東に施設及び部隊を有し,西太平洋等に所在する米海軍及び米国海兵隊の各部隊に対し,航空機による作戦支援及び航空機の整備,修理,訓練等の後方支援を行っている。横須賀基地には第7艦隊が展開しており,厚木基地は横須賀から近距離にあることから,第7艦隊に所属する空母の艦載機に対する整備,修理,補給等の後方支援業務及び訓練を遂行するための陸上の航空基地として,米海軍により極めて重要な位置付けがされている。また,厚木海軍航空施設司令部は,横須賀基地に所在する在日米海軍司令部から,人事,医療等一部管理部門につき調整を受けつつ,厚木基地における米軍施設を管理,運営,維持することによって,第7艦隊その他の部隊から飛来する航空機の後方業務,すなわち航空機の整備,修理,補給等及び空母艦載機搭乗員の着陸訓練の支援を行う役割を担っている。
このように,厚木基地は我が国にある米海軍の航空基地の中でも主要な役割を担っている。
(3) まとめ
以上のとおり,厚木飛行場に離着陸する自衛隊機及び米軍機の諸活動は我が国の安全に寄与するものであり,公共性を有する。
7  違法性の有無(受忍限度)の判断
前記のとおり,厚木飛行場の使用及び供用が周辺住民に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となり,設置・管理者である被告において賠償義務を負うかどうかを判断するに当たっては,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察してこれを決すべきものである。
以下,ここまでの全ての事実に基づき判断する。
(1) 侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等の比較検討
本件における侵害行為は,厚木飛行場周辺の75W以上の地域に居住する原告らを含む住民が主に航空機の離着陸に伴う騒音にさらされることである。本件で問題となっている平成17年1月1日以降における航空機騒音の程度をみると,75W以上の地域すなわち75Wの地域,80Wの地域,85Wの地域,90Wの地域及び95Wの地域においていずれも,そのそれぞれのW値とほぼ同じかこれを上回るW値が実際に測定されている。平成17年より前の時点においてはこれを更に上回るW値が測定されていたことがあり,同年以降緩やかに減少したものの,顕著な減少とまではいえず,平成22年以降は逆に増加の傾向にある。一方,前記のとおり,WHOガイドラインの設定しているガイドライン値は,LAeq(昼間と夕方16時間の等価騒音レベル)を指標として,居住地域(屋外)において高度に不快という影響を与えるものが55dB,少し不快という影響を与えるものが50dBである。W値と上記のLAeqとは異なる評価指標であるからこれを単純に比較することはできないが,W値から13をマイナスしたものが時間帯補正等価騒音レベルであることを参考にすると,75Wという水準はWHOのガイドライン値と比較してもかなり高いものであるといえる。また,昭和48年環境基準は,前記のとおり,航空機騒音に係る環境基準を,地域の類型Ⅰにおいては70W,地域の類型Ⅱにおいては75Wと定めている。これに照らしても,厚木飛行場の周辺住民がさらされている航空機騒音の程度はかなり高いというべきである。
被害の性質と内容は,①睡眠妨害,②会話,電話,テレビ視聴等の聴取妨害及び読書,学習等の精神作業の妨害から成る生活妨害,③不快感,健康被害への不安を始めとする精神的苦痛が中核であり,75W以上の地域に居住する原告らは共通してこれらの被害を被っている。原告ら以外の住民の受けている被害もこれとそれほど変わりのないものであると解される。このうち睡眠妨害は健康被害に直接結び付き得るものであり,相当深刻な被害といえるし,また,これらの被害は相互に有機的に関連し,影響し合って,生活の質を損なわせている。したがって,原告らを含めた周辺住民が受けている被害は,健康又は生活環境に関わる重要な利益の侵害であり,生命,身体に直接危険をもたらすとまではいえないものの,当然に受忍しなければならないような軽度の被害であるとは到底いえない。そして,厚木飛行場周辺の75W以上の地域は,面積にして約1万0500haであり,そこに存在する世帯数は約24万4000というのであるから,被害を受けている住民の数は極めて多数に上る。
一方,厚木飛行場における米軍機及び自衛隊機の運航の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等をみると,厚木飛行場は,海上自衛隊の飛行場としても,米海軍が我が国において使用する飛行場としても,極めて重要な位置付けを与えられており,ここに離着陸する米軍機及び自衛隊機の運航活動は,我が国の安全にも,極東における国際の平和と安全の維持にも資するものであって,国民全体の利益につながる公共性を有する。しかし,厚木飛行場が存在することによって原告らを含むその周辺住民が受ける利益は,国民全体が等しく享受する性格を有する上記の公共的利益の範囲にとどまるというべきであり,米軍機及び自衛隊機の発する騒音によって被る被害の増大に必然的にその利益が伴うというような彼此相補の関係が成り立っているとはいえない。上記の公共的利益の実現は,原告らを含む周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能となっているのであり,そこに看過することのできない不公平が存在するのである(以上につき,大阪空港最判及び厚木基地最判参照)。
したがって,厚木飛行場における米軍機及び自衛隊機の運航活動は公共性を有するけれども,それによって厚木飛行場の使用及び供用の違法性が否定されることにはならない。
(2) 侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情
厚木基地の航空機騒音は,厚木飛行場が設置された昭和46年7月を遡ること10年以上も前の昭和30年代半ばから既に周辺住民を苦しませており,厚木飛行場が設置されてから現在に至るまで,ここに離着陸する航空機の発する騒音は,継続して周辺住民に被害を与えてきた。この間,昭和51年9月に第1次厚木基地騒音訴訟が,昭和59年10月に第2次訴訟が,平成9年12月に第3次訴訟が提起され,いずれも周辺住民の損害賠償請求を認容する判決が確定した。確定した判決の言渡時期は,第1次訴訟が平成7年12月,第2次訴訟が平成11年7月,第3次訴訟が平成18年7月である。それ以降も航空機騒音による被害が継続していることは上記(1)においてみたとおりである。
被告は,当初は行政措置として,昭和41年以降は「防衛施設周辺の整備等に関する法律」に基づき,昭和49年以降は環境整備法に基づき,各種の周辺対策を実施してきている。このうち住宅防音工事に対する助成は,住宅防音工事が一定の遮音効果を有することから,室内における航空機騒音の軽減に資するものであり,防音工事を実際に実施した周辺住民に対しては被害対策として有効なものといえるが,他方で,防音工事によっても日常生活における航空機騒音を防止するには不十分な面があり,また,防音工事には部屋を密閉することに伴う負の効果もあるため,被害の防止対策としては限界がある。移転措置は,75W以上の地域全体において実施され,かつ,移転先が容易に見つかり,十分な補償が得られるのであれば,有効な被害対策といえるが,現実には,対象となる地域は90W以上の地域(第二種区域及び第三種区域)に限られ,補償が行われるのも建物等の所有者が当該建物等を移転し又は除却するときに限られている(環境整備法5条,環境整備法施行令8条,旧環境整備法施行規則2条)。そして,住民の希望にかなった移転先の確保は容易ではなく,補償額も十分とはいえないと認められる。したがって,移転措置は有効な被害対策になっているとはいえない。さらに,米海軍は日米合同委員会で合意された規制措置により,海上自衛隊は自主規制により,毎日午後10時から翌日午前6時までの間の夜間や日曜日には原則として航空機の運航をしないなどの措置をとっているが,それでもなお,夜間や日曜日に少なくない航空機騒音が測定されている。この自主規制はそもそも平日昼間の航空機騒音による被害の軽減にはそれほど資するものではない。それ以外の周辺対策及び音源対策をみても,航空機騒音による被害の軽減に結び付いているとはいえない。
したがって,被告が行っている周辺対策及び音源対策は,住宅防音工事に対する助成については一定の被害軽減の効果は認められるものの十分とはいえず,他の対策は被害を軽減する効果を有するものとして評価することは困難である。
(3) 総合的考察
以上の諸般の事情に加えて,航空機騒音に関する法律である環境整備法,航空機騒音防止法及び航空機騒音特措法並びにその下位の政省令がいずれも75Wという水準をもって政策措置を行う最低の基準と定めており,かつ,この水準は過去約30年にわたって変更のない安定したものであること,昭和48年環境基準は,航空機騒音に係る環境基準を,地域の類型Ⅰにおいて70Wと,地域の類型Ⅱにおいて75Wと定めていることなどの事情をも考慮し,これらを総合的に考察すると,平成17年1月1日以降現在までの被告による厚木飛行場の使用及び供用は,少なくともその周辺の75W以上の地域に居住する住民に社会生活上受忍すべき限度を超える被害を生じさせるものとして違法な権利侵害ないし法益侵害であると判断することができる。これは公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときに当たるから,厚木飛行場の設置・管理者である被告は,75W以上の地域への居住を根拠として賠償請求をする原告らに対する賠償責任を免れないというべきである。
8  危険への接近
(1) 被告の主張する「危険への接近の法理」について
被告は,いわゆる危険への接近の理論を根拠として,被告が主張する一定の時期以降に厚木飛行場周辺の75W以上の地域に居住するに至った原告らの請求につき被告の賠償責任の減免を主張する。なお,被告は「危険への接近の法理」というが,後記のとおり判例は「危険への接近の理論」としているので,本判決はこの判例の用語に従う。
まず危険への接近の理論について検討する。
ア 危険への接近の理論による免責
大阪空港最判は,免責の法理としての危険への接近の理論を判示した。すなわち,大阪空港最判は,大阪国際空港においてジェット機の大型化と大量就航をもたらした昭和45年2月のB滑走路供用開始後に同空港周辺に転居して来た住民について,住民の側が特に公害問題を利用しようとするごとき意図をもって接近したと認められる場合でない限り危険への接近の理論は適用がないとの見解の下にこれらの者の請求を認容した原審の判断は是認し得ないとした。その上で,「〔当該被上告人〕が航空機騒音の存在についての認識を有しながらそれによる被害を容認して居住したものであり,かつ,その被害が騒音による精神的苦痛ないし生活妨害のごときもので直接生命,身体にかかわるものでない場合においては,原判決の摘示する本件空港の公共性をも参酌して考察すると,同被上告人の入居後に実際に被った被害の程度が入居の際同被上告人がその存在を認識した騒音から推測される被害の程度を超えるものであったとか,入居後に騒音の程度が格段に増大したとかいうような特段の事情が認められない限り,その被害は同被上告人において受忍すべきものというべく,右被害を理由として慰藉料の請求をすることは許されないものと解するのが相当である。」と判示した。
その際,そこにいう「認識」と「容認」について,原判決の認定した事実等によれば,「〔当該被上告人が〕航空機騒音が問題とされている事情ないしは航空機騒音の存在の事実をよく知らずに入居したということは,経験則上信じ難いところである」とし,「同被上告人が一定程度の航空機騒音の存在を認識しながら相当期間にわたる間の住居としてあえてその住居を選択したというのであれば,当時の住宅事情を考慮に入れても,同被上告人は,夫の勤務先に近いという居住上の便宜さ等をむしろ重視し,自己が見聞した程度ないしこれと格段の相違のない程度の騒音の悪影響ないし被害はこれをやむをえないものと容認して入居したものと推認することができる」としている。
大阪空港最判は,以上のとおり,当該事案の事実関係に即して危険への接近の理論の適用の可否を検討し,適用の余地があるとして事件を原審に差し戻したのであり,危険への接近の理論を適用し結論として加害者を免責したわけではない。しかし,最高裁のこの考え方は判例ないし判例理論というべきであるから,本件においてもこの見地からの検討を行う必要がある。
イ 過失相殺による減額
判例の採用する危険への接近の理論は,上記のとおり加害者の免責という効果をもたらすものである。被告はこれを「免責の法理としての危険への接近の法理」と呼び,これに対し,「減額の法理としての危険への接近の法理」も存在すると主張する。ある者がある場所に危険が存在することを認識しながら又は過失によってこれを認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのために被害を被ったときは,損害賠償額の減額事由としてこれを考慮するのが衡平であるから,判例の採用する危険への接近の理論によって免責が認められない場合にも,具体的な事情のいかんにより,過失相殺の法理に準じ,損害賠償額の算定に当たりこれを減額事由として考慮すべきであるというのである。
不法行為の被害者に過失があったときは,裁判所はこれを考慮して損害賠償の額を定めることができる(民法722条2項)。この過失相殺の法理は,発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものであり,裁判所は,具体的な事案につき公平の観念に基づき諸般の事情を考慮し,自由な裁量によって被害者の過失を斟酌して損害額を定めることができる(最高裁昭和39年9月25日第二小法廷判決・民集18巻7号1528頁参照)。そしてここにいう過失は不法行為の成立要件としての過失と同じではないから(最高裁昭和39年6月24日大法廷判決・民集18巻5号854頁参照),航空機騒音による被害を理由に周辺住民が飛行場の設置・管理者に対して損害賠償を請求する事案において,当該住民がその居住地に居住するに至った事情を「過失」ないしこれに準ずるものとみて民法722条2項の適用ないし類推適用により過失相殺をし得る場合があることはいうまでもない。しかし,これは過失相殺による損害額の減額とすれば足りるものであり,あえて「減額の法理としての危険への接近の理論」などと名付ける必要はない。被告の主張は,原告らの一部につき,居住地に居住するに至った事情に基づき過失相殺をすべきであるとの主張であると理解する。
(2) 原告らの一部につき,危険への接近の理論の適用により被告は免責されるか
そこでまず,危険への接近による免責が認められるか否かを判断する。
被告は,昭和57年5月以降に75W以上の地域に転居してきた原告ら(75W以上の地域内で転居した者を含む。)について免責の法理としての危険への接近の理論が適用されると主張する。しかし,前記のとおり,第3次判決は危険への接近の理論を適用して被告を免責することをしなかったから,この主張は既に第3次判決によって排斥されており,当裁判所もこの点について第3次判決と異なる判断をすべき事情は見いだし難いと判断する。第3次判決の口頭弁論終結後に指定区域外から75W以上の地域に転居してきた原告らについても同様である。その理由は次のとおりである。
ア 類型A及び類型Cについて
被告は,危険への接近の法理が適用されるべきであるとする原告らについて,次のとおりの分類をする。
類型A: 昭和57年5月1日以降に75W以上の地域に転居してきた者(75W以上の地域内で転居した者を含む。)
類型B: 同日以降に75W以上の地域に居住し,①その後指定区域外に転出したにもかかわらず再び75W以上の地域に転入した者,②その後より騒音レベルの高い地域に転居した者,③その後75W以上の地域での移動を複数回繰り返した者
類型C: 平成18年5月1日以降に75W以上の地域に転居してきた者
大阪空港最判は,大阪国際空港に離着陸する航空機の騒音にさらされる地域にそうでない地域から転居してきた者について,前記のとおり危険への接近の理論の適用を問題としたものである。したがって,被告のいう類型Aに該当する者のうち75W以上の地域内で転居した者及び類型Bに該当する者については,そもそも大阪空港最判の射程は及ばないと解される。大阪空港最判の射程が及ぶのは,類型A及び類型Cのうち75W以上の地域に指定区域外から初めて転居してきた者に限られるというべきである。本判決においては,以下,この者に限って類型A及び類型Cと呼ぶこととし,それ以外の者はまとめて類型Bと呼ぶこととする。
以上を前提に,ここでは類型A及び類型Cについて検討する。
原告らの被害は前記のとおりであり,大阪空港最判の挙げる要素のうち「被害が騒音による精神的苦痛ないし生活妨害のごときもので直接生命,身体にかかわるものでない」という点は満たされているで,それ以外の要素,特に「航空機騒音の存在についての認識を有しながらそれによる被害を容認して居住した」という要素が検討の対象となる。以下において判断の基礎とする事実はここまでの全ての事実である。
厚木飛行場ないし厚木基地は,専ら米軍と自衛隊が使用しており,他の者が利用することはないから,その所在地は一般に知られていない。「厚木」という名称から,厚木市に所在すると誤解する者も多い。厚木飛行場に離着陸する航空機の飛行計画及び飛行経路が事前に公表されることはなく,飛行回数や飛行する航空機の機種は日によって大きく異なり,飛行経路も一定ではない。特に日曜日の飛行回数は,平日に比べると少ない。NLPが実施される場合に限って,その予定が事前に明らかにされるが,NLPの多くは硫黄島で行われており,厚木飛行場において頻繁に行われることはない。このように,厚木飛行場周辺の航空機の飛行状況は,航空機の飛行計画及び飛行経路が定まっており毎日ほぼ同じ時刻に同じ飛行経路で同じような種類の航空機が飛行する公共用飛行場(大阪国際空港はこれに当たる。)の場合とは著しく異なる。米軍機及び自衛隊機の発する航空機騒音の実態についてみても,その大きさも,音質も,耐空証明等の制度が存在する民間航空機の発するものとは大きく異なり,一般の人にとっては日頃耳にすることのない異質なものである。
宅地建物取引業法により,航空機騒音特措法にいう特定空港(すなわち成田国際空港)周辺の航空機騒音障害防止地区及び航空機騒音障害防止特別地区における土地利用の制限に関しては,宅地の売買,貸借等につき宅地建物取引業者が重要事項説明書により説明をしなければならないとされているが(宅地建物取引業法35条1項2号,宅地建物取引業法施行令3条1項5号の2,2項),環境整備法の定める第一種区域等は,航空機騒音防止法の定める第一種区域等と同様,宅地建物取引業法上,宅地建物取引業者による重要事項説明の対象となっていない。したがって,第一種区域等に関して宅地建物取引業者から適切な説明がされると期待することもできない。
これらの事情によると,厚木飛行場周辺の75W以上の地域に転入しようとする者の中には,厚木飛行場の存在自体を知らない者が少なくないと考えられるし,その存在を知っていたとしても,米軍機や自衛隊機の発する騒音の実態は,経験しなければ感得できないものである。事前に下見に来たとしても,それが航空機の飛行回数の少ない日に当たれば騒音の実態は全く把握できない(逆に,飛行回数の多い日に当たれば,その場所に転居しようなどとは思わないであろう。原告らの中にそのような事情がある者がいるとは認められない。)。一般の人は,下見に来る曜日は日曜日であることが少なくないと思われるが,日曜日の飛行回数は平日より少ないのである。したがって,一般的にいって,実際に75W以上の地域に転居し,ある程度継続して生活をするまでは,航空機騒音の実態はつかめないと認められ,大阪空港最判にいう「認識」及び「容認」を容易に認めることはできないというべきである。
被告は,環境整備法の定める第一種区域等における住宅防音工事について厚木飛行場周辺自治体に情報提供をしており,平成18年1月の告示の際には,インターネットにおいても比較的詳しい情報提供をしたと認められる(乙A40の1~18,41,42の1~4,43の1・2,44の1・2,45,46,47の1~8)。しかし,このような情報は,それを積極的に知ろうとする者が知ることができたとはいえても,そもそも厚木基地の存在自体を知らない者や,知っていても米軍機や自衛隊機の発する航空機騒音の実態を知らない者にとっては,意味があるとはいい難い。指定区域外から75W以上の地域に転居しようとする者の全てに対し,その知識や意向のいかんにかかわらず被告や周辺自治体から積極的な情報提供が行われていたというのであればまた別であるが,そのような情報提供が行われていたことを認めるに足りる証拠はない。さらに,仮にこれらの情報に接したとしても,上記のとおり,米軍機や自衛隊機の航空機騒音の実態は経験しなければ感得できないものである。したがって,被告による上記のような情報の提供という事実を考慮したとしても,やはり,75W以上の地域に実際に転居してある程度の期間継続して生活をするまでは航空機騒音の実態をつかめないという事情に変わりはないというべきである。
イ 類型Bについて
次に,類型Bについて検討する。
被告は,かつて75W以上の地域に居住した者が指定区域外に転出した後,改めて75W以上の地域に転入した場合(被告のいう類型B1),あるいは,75W以上の地域内で転居をした場合(類型B2,B3。なお,被告のいう類型Aの一部もこれに当たる。),75W以上の地域内の航空機騒音の実態を知っていたのであるから危険への接近の理論が適用されるべきであると主張する。
しかし,まず,75W以上の地域内で転居をした者のうち,例えば75Wの地域内で転居したなど騒音のレベルが同じ地域で転居した者,また,例えば80Wの地域から75Wの地域へ転居したなど騒音のレベルが高い地域から低い地域に転居した者については,そもそも危険への「接近」をしたとはいえないから,大阪空港最判の射程が及ばないことは明らかである。実質的に考えても,75W以上の地域にある居住地に居住し続けていれば損害賠償を受けられるのに,上記のような転居をしただけで損害賠償を受けられなくなるというのでは,居住し続けた者との関係で合理的な理由なく不公平な結果をもたらすというべきであり,これを容認することはできない。したがって,上記のような転居をした原告らについて,免責の法理としての危険への接近の理論を適用することはできない。
次に,75W以上の地域内で,例えば75Wの地域から80Wの地域へ転居したなど騒音のレベルが低い地域から高い地域に転居した者,また,75W以上の地域から指定区域外に転居した後,再び75W以上の地域に転居した者(以下,併せて「再転入者」という。)については,確かに「危険への接近」には当てはまるものの,騒音の発生源に初めて接近したというわけではないから,大阪空港最判が判断の基礎とした事案とは事実関係が大きく異なり,大阪空港最判の射程は及ばないと解される。仮に及ぶとしても,再転入者であるからといって,75W以上の地域に転居するに当たり,厚木飛行場に離着陸する航空機による騒音の被害を認識しこれを容認したものと推定することはできないというべきである。その理由は次のとおりである。人がある地域に居住するのは,もともと親がそこに住んでいたからといった親族関係の存在を理由とすることが多く,既に親が死亡しているとしても,それ以外の親族が近くに住んでいることも多い。また,親族関係の存在が理由になっていると否とを問わず,人は,ある地域に居住を続けることにより,その地域に居住する人々との間に必然的に深い人間関係を結ぶことになり,日常生活の様々な局面で地域との関係を深めていく。たとえ何らかの事情でいったんその地元を離れたとしても,再びその地元に戻って生活をすることが望ましい,あるいは戻らなければならないという事態が生ずることは決してまれなことではない。地元の周辺で転居をすることも同様である。例えば,親やきょうだいと同居し,又はその自宅の近くに住んで,小さな子供の面倒をみてもらう,あるいは逆にその介護をするといったことはよくある事情である。子供の教育の事情や通勤の事情により従前の居住場所を離れられないということもある。友人・知人関係を維持するためにその近くに住むことを重視する者もあろう。このような事情を持つ再転入者にとっては,地元に戻ること,あるいは地元の周辺で転居をすることは,主観的には必然的ととらえられているというべきであり,その地域が75W以上の地域であり,そこにおける過去の航空機騒音の実情を認識していたとしても,その被害にさらされることを大阪空港最判のいう意味で「容認」しているとは認めることができないのである。
ウ まとめ
以上の見地を踏まえ,免責の法理としての危険への接近の理論が適用されるべきであると被告が主張する原告らについて個別の事情を検討したが,いずれについても大阪空港最判にいう「認識」及び「容認」があると認めることはできず,これを適用することはできないと判断した。
念のため,第3次判決で判断の対象とならなかった類型Cに属する原告ら(ただし,繰り返しになるが,平成18年5月以降に初めて指定区域外から75W以上の地域に転入した者に限る。)について個別の事情を検討した結果を,別紙20(原告ら個別の事情についての補足説明)の3に示しておく。
(3) 原告らの一部につき,その転居に関する事情を理由として過失相殺により損害額を減額すべきか
前記のとおり,過失相殺の法理は,発生した損害を加害者と被害者との間において公平に分担させるという公平の理念に基づくものである。本件においては,上記(2)において検討した事情のほか,次の事情を考慮すべきである。
ア 被害の重大性
原告らが受けている航空機騒音による被害は,前記のとおり,健康又は生活環境に関わる重要な利益の侵害であり,特に睡眠妨害は,健康被害に直接結び付き得るものとして深刻な被害といわなければならない。
イ 違法な侵害状態の継続
厚木飛行場に離着陸する航空機の発する騒音については,前記のとおり,昭和51年以来既に3回にわたり周辺住民が損害賠償等を求めて被告を提訴し,3回とも,住民の損害賠償請求を認容する判決が確定している。航空機騒音による被害自体は昭和30年代半ばから発生しており,現在まで継続している。第1次訴訟の提起から数えて約38年,被害の発生まで遡れば50年以上もの期間がこれまでに経過しているのである。また,原告らの中には,過去の損害の賠償請求が第3次判決で認容されこれが確定しているのに,請求期間は異なるものの再び同じ理由で提訴することを余儀なくされている者もいる(別紙19(第3次訴訟原告目録)記載1から3までの原告らの一部)。
ウ 被告の一般的な責務について
被告は,憲法25条及び環境基本法6条に基づき,国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するため,環境の保全に関する基本的かつ総合的な施策を策定し,これを実施する責務を負う。上記イでみたような被害の継続状況をみると,被告がこの責務を果たしているとはいい難い。
これらの事情を踏まえて,被告の指摘する原告らが75W以上の地域に居住するに至った個別の事情を検討したが,いずれについてもその事情を考慮して過失相殺により損害額の減額をすることはできないと判断した。
9  国家賠償法6条の相互保証について
(1) 外国人原告らと国家賠償法6条
証拠(次の各原告に関する甲地域別1)及び弁論の全趣旨によれば,原告らのうち次の者は,その右側に掲げた国の国籍を有する外国人であることが認められる。

あ163~166,168~171 ベトナム
あ575 カナダ
え60,62,109,205,や3509 中国
さ93 パキスタン
ざ344,ま6,や602~606,2788,3946 韓国
や1286,1658,2576,4282 フィリピン
や2084 スリランカ

国家賠償法6条によれば,同法は外国人が被害者である場合には相互の保証があるときに限り適用される。これは,我が国の国民に保護を与えない国の国民に我が国が積極的に保護を与える必要はないという考え方に基づく。
したがって,外国人が被害者である場合,国家賠償法に基づく賠償責任の成立要件が満たされるだけでは足りず,同条にいう「相互の保証がある」といえなければならない。そして,「相互の保証がある」とは,当該外国人の本国で,日本人が被害者として当該事案と同種の損害賠償請求をした場合に,国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることをいうものと解される。
(2) 条約を根拠とする外国人原告らの主張について
国家賠償法6条の相互保証が認められる根拠として,中国人原告らは「投資の奨励及び相互保護に関する日本国と中華人民共和国との間の協定」4条を,ベトナム人原告らは「投資の自由化,促進及び保護に関する日本国とベトナム社会主義共和国との間の協定」3条を,パキスタン人原告は「日本国とパキスタンとの間の友好通商航海条約」5条1項を,スリランカ人原告は「投資の促進及び保護に関する日本国とスリ・ランカ民主社会主義共和国との間の協定」4条を,フィリピン人原告らは「日本国とフィリピン共和国との間の友好通商航海条約」3条1項を挙げる(韓国人原告ら及びカナダ人原告は条約を根拠とする主張をしない。)。しかし,これらはいずれも,二国間のいわゆる投資協定又は通商条約において裁判を受ける権利についての内国民待遇を保障する規定にすぎず,国家賠償法6条にいう相互保証の根拠となるものではないと解される。なお,我が国とフィリピン及びカナダとの間には投資協定が存在しないが,韓国との間には「投資の自由化,促進及び保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定」が,パキスタンとの間には「投資の促進及び保護に関する日本国とパキスタン・イスラム共和国との間の協定」が存在し,前者の3条,後者の4条は裁判を受ける権利についての内国民待遇の保障を規定している。韓国とパキスタンについてこれらの条約の規定を根拠として挙げない外国人原告らの主張は,主張としての一貫性も欠くといわざるを得ない。
以上のとおり,条約を根拠とする外国人原告らの主張には理由がないから,以下,それぞれの本国法について個別に検討する。
(3) 韓国
証拠(乙A119)によれば,韓国には我が国と同様の国家賠償法が存在し,相互保証により日本人にも適用されることが認められる。したがって,韓国人原告らは国家賠償法6条の要件を満たす。
(4) 中国
ア 認定事実
証拠(乙A120,124)により認められる事実は次のとおりである。
中国には平成6年に制定された国家賠償法が存在するが,最高人民法院への照会に対する回答によれば,公務員の行為によって私人に生じた損害の賠償を求める場合は国家賠償法に基づくが,公の営造物の設置・管理の瑕疵によって私人に生じた損害の賠償は民事賠償とされており,その賠償を求める場合は民法通則,権利侵害責任法等に基づくことになるという。
国家賠償法の規定を見ると,「行政賠償」として国に対して賠償請求することができる事由は,「人身権」の侵害と財産権の侵害とに分けて3条と4条に列記されており,3条掲記の事由は,①違法な逮捕等,②不法な拘禁等,③殴打,虐待等による死傷,④武器等の違法使用による死傷,⑤その他の違法行為による死傷である。また,5条には免責事由が規定されている。賠償の範囲には慰謝料も含まれる(35条)。国家賠償法は,相互保証の下に,外国人にも適用される(40条)。
イ 判断
中国の国家賠償法は,国に対して賠償請求をすることができる事由を列記しており,本件におけるような公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく睡眠妨害,生活妨害及び精神的苦痛等の被害についての賠償請求はこれに該当しない。したがって,中国において日本人が本件と同種の損害賠償請求を国家賠償法に基づいてすることはできない。
もっとも,公の営造物の設置・管理の瑕疵によって私人に生じた損害の賠償は,民法通則,権利侵害責任法等を根拠として認められるというのであるから,この観点から更に検討を要する。そこで,権利侵害責任法の規定を見ると(法務省HPの法務総合研究所国際協力部のページに仮訳が掲載されている。),第8章が「環境汚染責任」とされており,環境を汚染したことにより損害を生じさせた場合には,汚染者は権利侵害責任を負わなければならないとされている(65条)。損害賠償の範囲については,人身権益を侵害し,重大な精神的損害を生じさせた場合には,その賠償を請求することができるとされている(22条)。
以上によれば,中国で日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,国家賠償法に基づく請求としては認められないものの,権利侵害責任法に基づく請求としては,規定上,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることになると解される。したがって,中国人原告らは国家賠償法6条の要件を満たす。
(5) ベトナム
ア 認定事実
証拠(乙A121)により認められる事実は次のとおりである。
ベトナムには,平成21年に制定された国家賠償法(国家の賠償責任に関する法律)が存在するが,司法省への照会に対する回答によれば,公務執行者が引き起こした損害について私人がその賠償を求める場合は国家賠償法に基づくが,公の営造物の設置・管理の瑕疵によって私人に生じた損害の賠償は民事賠償とされており,その賠償を求める場合は設置・管理をする法人が民法に基づき賠償責任を負うという。
国家賠償法の規定を見ると,国に対して賠償請求することができる事由は,1条により,国家行政管理活動,訴訟活動及び判決執行に限定され,行政管理活動における賠償範囲は13条に列記されている。この中に,公の営造物の設置・管理の瑕疵は含まれていない。賠償の範囲には物的損害のほか精神的損害も含まれ,相互保証を条件とすることなく,外国人も賠償を受けられる(2条,45条から49条まで)。なお,国家賠償責任は,民法における契約外責任の特別類型と位置付けられている。
イ 判断
ベトナムの国家賠償法は,国に対して賠償請求をすることができる場合を列記しており,本件におけるような公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく睡眠妨害,生活妨害及び精神的苦痛等の被害についての賠償請求はこれに該当しない。したがって,ベトナムにおいて日本人が本件と同種の損害賠償請求を国家賠償法に基づいてすることはできない。
もっとも,公の営造物の設置・管理の瑕疵によって私人に生じた損害の賠償は民法を根拠として認められるというのであるから,この観点から更に検討を要する。そこで,民法の規定を見ると(法務省HPの法務総合研究所国際協力部のページに仮訳が掲載されている。),高度危険源(機械化された交通輸送手段,送電システム,稼働している製造工場等)の所有者は,高度危険源によって生じた損害を賠償しなければならないとされ(623条),また,環境を汚染し,損害を起こしたときは,賠償をしなければならないとされている(624条)。損害賠償の範囲には精神的損害が含まれる(609条2項,611条2項)。
以上によれば,ベトナムで日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,国家賠償法に基づく請求としては認められないものの,民法に基づく請求としては,規定上,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められることになると解される。したがって,ベトナム人原告らは国家賠償法6条の要件を満たす。
(6) パキスタン
ア 認定事実
証拠(乙A123,124)により認められる事実は次のとおりである。
パキスタンでは,国家賠償に関する法制度は不法行為法に含まれ,これにより,公務員の職務執行の違法又は公の営造物の設置・管理の瑕疵により私人に生じた損害に対し,国は賠償責任を負う。精神的損害も賠償の対象となる。相互保証を条件とすることなく,外国人も賠償を受けられる。
イ 判断
パキスタンでは公の営造物の設置・管理の瑕疵により私人に生じた損害を国が賠償する制度が存在するというのであり,精神的損害も賠償の対象となり,かつ,外国人が被害者の場合に相互保証が条件となっていないというのである。そうすると,パキスタンで日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められると考えられるので,パキスタン人原告は国家賠償法6条の要件を満たす。
(7) スリランカ
ア 認定事実
証拠(乙A122)により認められる事実は次のとおりである。
スリランカには,昭和44年に制定された国家不法行為責任法が存在し,公務中の公務員等に不法行為や不作為があった場合の国の責任を定めている。その規定を見ると,賠償される損害には一般的損害と特別損害とがあり,前者には痛みや苦痛そのものへの賠償,後者には一定期間働くことができずに生じた損失や医療費等に対する賠償が含まれる。相互保証を条件とすることなく,外国人も賠償を受けられる。
イ 判断
スリランカには国家不法行為責任法が存在し,公務員の不法行為や不作為があった場合の国の責任を定めているというのであり,精神的損害も賠償の対象となり,かつ,外国人が被害者の場合に相互保証が条件となっていないというのである。そうすると,スリランカで日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められると考えられるので,スリランカ人原告は国家賠償法6条の要件を満たす。
(8) フィリピン
ア 認定事実
証拠(乙A135,136の1・2,137の1・2,138の1・2,139の1・2,140の1・2,141の1・2,142の1・2,143の1・2,144の1・2,145)により認められる事実は次のとおりである。
フィリピンでは,国はその同意がなければ訴えられることはないと憲法に規定されており(16条3項),国家無答責の法理が妥当している。公務員がその職務を執行するに当たり私人に損害を与えた場合についてもこの法理が妥当し,悪意又は故意により損害を与えたというような場合にのみ,その公務員に対して賠償請求をすることができるとされている。これに対し,地方公共団体は,人の死傷又は財産権の侵害に対する損害賠償について免責されず(地方政府法24条),その管理下にある道路,橋,公共建造物その他の公共事業の欠陥状態によって生じた人の死傷に対して賠償義務を負うとされている(民法2189条)。法人格を有する政府機関については,その職務の性質により,国家無答責の法理が妥当するか否かが決まる。
国も,明示的に又は黙示的に訴訟への同意をすることができる。その場合,国は民法等に基づき私人に対する賠償義務を負う。
賠償の対象となる損害には慰謝料が含まれる。相互保証を条件とすることなく,外国人も賠償を受けられる。
イ 判断
フィリピンでは国家無答責の法理が妥当しているというのであるから,我が国と同様の国家賠償制度は存在しない。また,中国やベトナムの場合と異なり,権限ある官庁から,公の営造物の設置・管理の瑕疵に基づく損害の賠償は民事賠償であるとの説明もされていない。道路,橋,公共建造物その他の公共事業の欠陥状態に関して損害賠償が許されるのも,人の死傷という結果が生じた場合に限られる。そうすると,フィリピンで日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められるとはいえない。したがって,相互保証の要件を欠くから,フィリピン人原告らの損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく棄却を免れない
(9) カナダ
ア 認定事実
証拠(甲民1,乙A134の1・2)により認められる事実は次のとおりである。
カナダの連邦には,国家賠償責任を定めた法律が存在する。国は,一般の不法行為法(コモンロー又は制定法)に従い,公務員の不法行為又は所有物の支配に付随する義務違反等に基づき私人に対する賠償義務を負う。
イ 判断
カナダには国家賠償責任を定めた法律が存在し,コモンロー又は制定法上の不法行為法に従い,公務員の不法行為又は所有物の支配に付随する義務違反等に基づき国は私人に対する賠償義務を負うというのである。そうすると,カナダで日本人が被害者として本件と同種の損害賠償請求をした場合,我が国の国家賠償法所定の要件と重要な点で異ならない要件の下にその請求が認められると考えられるので,カナダ人原告は国家賠償法6条の要件を満たす。
10  慰謝料額
(1) 基準額の設定
原告らは,厚木飛行場に離着陸する航空機騒音により共通損害を被っていると主張し,包括的な損害賠償請求として一律に1か月当たり2万円の慰謝料を請求している。慰謝料は,裁判所がその事件に関する一切の事情を斟酌して自由な心証をもって決定しなければならないものである。そこで,当裁判所は,ここまでの全ての事実を前提として,本件における侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性の内容と程度,侵害行為の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置等の一切の事情を考慮し,次のとおり,原告らそれぞれの居住する地域における騒音の大きさに応じて,共通する最小限度の被害の程度に対応するものとして,基準となるべき1か月当たりの慰謝料額を定めることとする。
75Wの地域  4000円
80Wの地域  8000円
85Wの地域  1万2000円
90Wの地域  1万6000円
95Wの地域  2万円
以上の各地域は,現在,第一種区域線,工法区分線,外郭線,第二種区域線及び第三種区域線によって画されている。これらの線は平成18年1月の告示又は設定に基づくものであり,これは,平成15年度及び平成16年度に行われた厚木飛行場周辺における航空機騒音度調査を基にしている。このことからすると,現在の第一種区域線等は,少なくとも平成17年1月1日以降の航空機騒音の実態をかなりの程度正確に反映しているといえるから,平成18年1月の告示又は設定の前後で分けることなく,平成17年1月1日以降の全ての期間について現在の第一種区域線等を基準として地域を区分すべきであるという考え方もあり得よう。しかし,慰謝料の額は,その時点の騒音の大きさに応じて決めるべきものではあるが,騒音の大きさが全てではなく,一切の事情を総合的に考慮して決めるべきものであり,行政によって第一種区域などの一定の区域として定められていること自体も重要な考慮要素となり得る。そこで,本判決においては,行政によって一定の区域として定められた事実を尊重し,その時点における第一種区域線等によって画された地域に応じて慰謝料の額を定めることとする。したがって,請求期間のうち平成18年1月の告示又は設定よりも前の期間については,旧第一種区域線等のその当時の区分線によって画された地域がそれぞれ75W,80W,85W,90W,95Wの各地域に対応するものとして上記の慰謝料額を適用する。原告らの中に,住所が変更していないのに別紙21一覧表の「居住地」欄中の「W値」欄の数値が平成18年1月の告示又は設定の前後で変化している者がいるのはそのためである。
被告はこの点につき,第一種区域線等は騒音コンターと一致しないからこれを区分線として採用すべきではなく,区分線としては騒音コンターそのものを採用すべきであると主張する。確かに第一種区域線等と騒音コンターは正確には一致しないが,前記のとおり,第一種区域線等は,騒音コンターと重なる住宅の所在状況を勘案して当該コンターに沿って引くものとされ,当該コンターに沿って街区,道路,河川等が所在する場合にはこれらに即して最小限の修正を行ったものであるから,騒音コンターとほぼ一致する。また,住宅の所在状況,街区,道路,河川等の現状を踏まえて引かれているのであるから,住民の居住,生活状況を考慮すればむしろ第一種区域線等の方が騒音コンターよりも実態に即しており,地域を区分する線として適切というべきである。したがって,被告の上記主張は採用しない。
慰謝料額の算定期間について1か月を単位としたのは,厚木飛行場に離着陸する航空機の発する騒音の回数や大きさが日によって異なるため1日を単位とするのは適当でないこと,一方で,1か月単位でみると年間を通じて極端な差異があるとはいえないことを考慮したからであり,原告らが1か月単位で請求していることをも踏まえたものである。もっとも,転居や死亡などにより居住期間が1か月に満たない場合には,その間の損害を全て切り捨てることも,逆にこれを1か月分の損害とみなすことも,損害の公平な分担という見地からして妥当でないから,日割りで計算することとする。
遅延損害金に関しては,第1事件原告らは,平成17年12月31日までの損害について平成18年1月1日から,同日から同年12月31日までの損害について平成19年1月1日から,同日から同年12月31日までの損害について平成20年1月1日からいずれも支払済みまでの支払を請求し,第2事件原告らは,平成18年4月30日までの損害について同年5月1日から,同日から平成19年4月30日までの損害について同年5月1日から,同日から平成20年4月30日までの損害について同年5月1日からいずれも支払済みまでの支払を請求しているから,当裁判所も,これに応じた期間によって損害額を区分し,遅延損害金を計算することとする。
(2) 地域類型による区分の要否について
被告は,原告ら個々の損害額につき,昭和48年環境基準の定める地域の類型Ⅰと地域の類型Ⅱの区分等,その居住地域の性格を考慮した差異を設けるべきであると主張する。
確かに昭和48年環境基準は,前記のとおり,専ら住居の用に供される地域(地域の類型Ⅰ)と,それ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域(地域の類型Ⅱ)とを分け,それぞれの地域について異なった環境基準値を設定している。また,第3次判決も,前記のとおり,75Wの地域に居住する者に関しては,上記の地域の類型Ⅰに居住する者に限って損害賠償請求を認容している。したがって,このような地域類型に従って慰謝料額に差異を設ける考え方もあり得ることは,被告の主張するとおりである。
しかし,当裁判所は,次の理由により,地域類型による区分は設けないこととする。
理由の第1は,航空機騒音に関する法律である環境整備法,航空機騒音防止法及び航空機騒音特措法並びにこれらの下位の政省令が,前記のとおり,これらの法令を適用するための最低の基準として75Wを採用する一方で,75W以上の地域についてさらにこれをその地域の性格に応じた類型によって区分してはいないことである。これらの法令は,航空機騒音に関する政策措置を実施すべき基準として75Wという水準を採用する一方で,75W以上の地域内部においてこれを地域の性格に応じてさらに区分する取扱いをせず,その地域全体を一律に取り扱っている。このような法令の定めは,航空機騒音によって生ずる被害に基づく慰謝料額を算定するに当たっても,重要な事情として考慮すべきである。
第2は,防衛施設周辺における航空機騒音の特徴である。前記のとおり,米軍機や自衛隊機による航空機騒音は,その大きさの点でも,音質の点でも,日常生活の中で一般に経験するいわゆる都市騒音とは異質の性格を有する騒音である。商業地域や工業地域といった,昭和48年環境基準に基づき神奈川県及び東京都が地域の類型Ⅱに区分している地域においても,決して耳慣れた騒音とはいえない。そうすると,これらの航空機騒音によって生ずる被害は,その航空機騒音の大きさに応じ,地域の性格にかかわらず同じように生ずると考えられるから,慰謝料額を算定するに当たり地域の性格に基づいて地域を区分してその金額に差異を設けることは,必ずしも被害の実情に相応するものとはいえない。
第3は,環境基準の性格である。昭和48年環境基準に限らず,環境基準は,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準とされており,被告が航空機騒音に関する総合的な施策を進める上で達成することが望ましい行政上の目標となる基準であって,規制基準ではない。したがって,慰謝料額の水準を定める際に直ちにこれに従わなければならない理由はない。
もっとも,環境基準の性格については上記のようにいえるとしても,昭和48年環境基準の定める基準が本件において参考にすべき重要な基準といえることはいうまでもない。しかし,昭和48年環境基準は,そこにいう地域の類型Ⅰにおいては70W,地域の類型Ⅱにおいては75Wという基準を定めているのであるから,地域の類型Ⅰにおいては70W以下が望ましいものの,結局,全ての地域において航空機騒音は少なくとも75W以下が望ましいという考え方が示されているのである。この考え方は,75W以上の地域においてその騒音の大きさに応じて地域の類型にかかわらず一律に慰謝料額を定めるべきであるという当裁判所の考え方と矛盾するものではない。
(3) 防音工事による減額
前記のとおり,原告らの中には環境整備法に基づく被告からの助成を受けて住宅防音工事を実施した住居に居住する者がいる。住宅防音工事には航空機騒音による被害を一定程度軽減する効果があり,これらの原告らは被告の負担によって一定の利益を得ているといえるから,慰謝料の算定に当たりこれを一つの事情として考慮すべきである。したがって,前記(1)の基準慰謝料額をそのまま適用するのではなく,ここから一定の減額をすることになる。
そこで,住宅防音工事に関して認定した前記の事実を総合的に勘案し,防音工事を実施した室数に応じた減額をすることとする。その減額の仕方は,防音工事が実施される室数の増加とこれによる航空機騒音の被害減少の効果と間にはいわゆる限界効用の逓減と類似の関係が妥当すると考えられることから,最初の1室につき10%を減額し,2室目以降につき1室増加するごとに5%を減額する。ただし,防音工事が5室を限度とすることなども勘案し,合計で5室以上となる場合は一律に30%を減額する。また,外郭防音工事又は防音区画改善工事を実施した場合も,一律に30%を減額する。
減額する期間は,防音工事による効果が現実に生じている期間である。防音工事を実施した住宅が後に取り壊された場合は,取り壊されるまでということになる。
被告はこの点につき,①防音工事済住宅が建て替えられた場合,防音工事済住宅の取壊し以降も住宅防音工事の効果として損害が減額され,②補助金規則の定める財産処分制限期間経過前に南関東防衛局長の承認を受けることなく住宅の取壊しが行われた場合,財産処分制限期間が経過するまでの間は防音工事の効果が生じているものとして損害額が減額されるべきであると主張する。しかし,①については,建て替えのために防音工事済住宅が取り壊され,建て替え後の住宅には防音工事が実施されていない場合,防音工事の効果は建て替えによって消滅したといわざるを得ないから,被告の主張を採用することはできない。ただし,建て替えの時期が補助金規則の定める財産処分制限期間の経過前で,かつ,建て替えすなわち防音工事済住宅の取り壊しについて承認を受けていない場合,②と同じ問題になる。
②については次のように判断する。補助金規則が,補助金交付決定において「補助事業者等は,補助事業等を中止し,又は廃止する場合には,地方防衛局長の承認を受けること」との条件を付するものとし,また,補助金法,補助金法施行令及び補助金規則が,補助事業者等は補助金規則の定める財産処分制限期間の経過する前に承認を受けることなく補助金交付の目的に反した財産の使用等をしてはならないとしているのは,補助金がその交付の目的に従って有効適切に使用されることを期するためである。その違反があった場合,地方防衛局長は,補助金交付決定を取り消し,補助金の返還に加えて加算金の納付をも求めることができる(補助金法17条から19条まで)。このことからすれば,補助金により住宅防音工事を実施した者がその住宅を地方防衛局長の承認を受けることなく取り壊した場合,そのペナルティーとして補助金法が予定しているのは補助金交付決定の取消し,補助金の返還及び加算金納付であって,本件のような損害賠償請求訴訟において,取壊しにより防音工事の効果が現に消滅しているにもかかわらずなおもそれが消滅していないものとみなす扱いをすることは,同法の想定する範囲を超えてペナルティーを科すことに帰する。このことに加えて,旧補助金規則においては財産処分制限期間が定められておらず,防音工事の効果が持続する期間をどのようにとらえるかについてよるべき基準が存在しなかったことをも考慮すると,本件において,取壊しによって防音工事の効果が消滅しているにもかかわらず,南関東防衛局長の承認を受けることなく取壊しをしたという一事をもってそれが消滅していないとの扱いをすることは適切とはいい難い。したがって,取壊しが行われている以上,それが財産処分制限期間前でありかつ承認を受けていないものであっても,防音工事を理由とした損害額の減額をすべきではない。結局,被告の上記主張①,②はいずれも採用することができない。
第5  将来の損害の賠償請求
1  将来の損害の賠償請求を検討すべき原告ら
原告らの将来の損害の賠償請求は,本件口頭弁論終結日の翌日である平成25年9月3日以降厚木飛行場周辺の75W以上の地域に居住することを根拠とする(ここで「将来」とは,同日以降の期間全体をいう。)。死亡原告らと,同月2日前に75W以上の地域から指定区域外に転居し,そのまままとなっている原告らは,将来において厚木飛行場に離着陸する航空機の発する騒音によって権利侵害ないし法益侵害を受けることはないから,これらの原告らの将来の損害の賠償請求について民訴法135条にいう「あらかじめその請求をする必要」を肯定する余地はない。したがって,その請求に係る訴えは不適法として却下を免れない。また,フィリピン人原告らの将来の損害の賠償請求についても,前記のとおり,国家賠償法6条の相互保証の要件を欠くのでこれが認容されることはなく,民訴法135条にいう「あらかじめその請求をする必要」を肯定する余地がないから,その請求に係る訴えは不適法として却下を免れない。
以下,死亡原告ら,上記の転居した原告ら及びフィリピン人原告らを除いた原告ら(この「第5」においては,以下,単に「原告ら」という。)の将来の損害の賠償請求について,民訴法135条にいう「あらかじめその請求をする必要」の存否を検討する。
2  判例
大阪空港最判は,継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権について,将来の給付を求める訴えとしての訴えの提起が許されるか否かを論じており,この問題は,最高裁平成19年5月29日第三小法廷判決・裁判集民224号391頁(判例時報1978号7頁)(以下「平成19年横田基地最判」という。)においても重ねて論じられている。これによると判例は次のとおりである。
継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権の,将来の給付の訴えにおける請求権としての適格は,①当該請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されること(以下「要件A」という。),②当該請求権の成否及びその内容につき債務者(被告)に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動があらかじめ明確に予測し得る事由に限られること(以下「要件B」という。),③この事情の変動については請求異議の訴えによりその発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を債務者(被告)に課しても格別不当とはいえないこと(以下「要件C」という。),という要件が満たされたときに肯定される。たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生としてとらえてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。そして,飛行場等において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を被っていることを理由とする損害賠償請求権のうち事実審の口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権は将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。
大阪空港最判は当該事案にこれを当てはめ,「本件についてこれをみるのに,将来の侵害行為が違法性を帯びるか否か及びこれによって被上告人らの受けるべき損害の有無,程度は,被上告人ら空港周辺住民につき発生する被害を防止,軽減するため今後上告人により実施される諸方策の内容,実施状況,被上告人らのそれぞれにつき生ずべき種々の生活事情の変動等の複雑多様な因子によって左右されるべき性質のものであり,しかも,これらの損害は,利益衡量上被害者において受忍すべきものとされる限度を超える場合にのみ賠償の対象となるものと解されるのであるから,明確な具体的基準によって賠償されるべき損害の変動状況を把握することは困難といわなければならないのであって,このような損害賠償請求権は,それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつまた,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものといわざるをえないのである。」と判示した。
3  検討
(1) 判例のいう要件Aについて
厚木飛行場の使用及び供用は,前記のとおり,口頭弁論終結時である平成25年9月2日の時点において,周辺の75W以上の地域に居住する原告らを含む住民に社会生活上受忍すべき限度を超える被害を生じさせるものとして違法な権利侵害ないし法益侵害となっている。この違法な権利侵害ないし法益侵害が将来においても継続し,被告の原告らに対する賠償責任が成立することになるか否かを検討する。
検討すべき事項の第1は,航空機騒音の今後の推移である。厚木飛行場の周辺の75W以上の地域に居住する原告らは,前記のとおり,平成17年1月1日以降,それぞれの地域に相当する騒音コンター(第一種区域線等)によって示されるW値と同じかこれを上回る航空機騒音にさらされている。それより前の時点においてはこれを更に上回る大きさの航空機騒音が測定されていたことがあり,同年以降,緩やかに減少する傾向がみられたものの,顕著な減少はみられず,平成22年以降は逆に増加の傾向にある。厚木飛行場周辺における航空機騒音の被害は昭和30年代半ばから継続しており,昭和51年9月に提起された第1次厚木基地騒音訴訟以降,これまで3度の確定判決により周辺住民の損害賠償請求が認容されてきているから,厚木飛行場の使用及び供用の違法性は約40年にわたって継続している。
もっとも,日米安全保障協議委員会において平成18年5月に承認された「再編実施のための日米のロードマップ」に基づき,厚木飛行場から岩国飛行場へ米海軍の空母艦載機が移駐することが予定されており,これを踏まえて厚木飛行場に離着陸する米軍機の状況に変化が生ずることが考えられる。移駐の時期は平成29年頃になるというのが防衛省の説明であるが,移駐を見込んでそれより前の時点から厚木飛行場の使用状況に変化が生ずる可能性も否定できない。
次に,被告による周辺対策等の見込みについてみると,従来どおりの周辺対策等が今後も実施されることが期待できるものの,前記のとおり,住宅防音工事に対する助成以外の措置は,周辺住民に対する権利侵害ないし法益侵害の違法性を否定するものとはなり得ないし,住宅防音工事に対する助成も,被害を一定程度軽減させるにとどまり,上記の違法性を否定するまでのものとはいえない。また,近い将来において従来の周辺対策等とは異なる騒音防止のための新しい施策が実施される見込みはない。
そうすると,「再編実施のための日米のロードマップ」に基づく移駐が実現するまでの期間に限ってみれば,厚木飛行場周辺の75W以上の地域に居住する原告らに対し,口頭弁論終結時におけるのと同様の航空機騒音による被害が継続し,これによる権利侵害ないし法益侵害が生ずることにはある程度の蓋然性があると考えられるものの,米海軍による今後の厚木飛行場の使用状況についてはなお不確実な部分が残るといわざるを得ない。したがって,原告らの請求権の基礎となるべき事実関係及び法律関係が既に存在し,その継続が予測されるといえるかについては疑問が残り,要件Aが満たされると断定するには至らない。
(2) 判例のいう要件B,Cについて
本件における損害の賠償請求権の成否及び内容について被告に有利な影響を生ずるような将来における事情の変動として考えられるものの第1は,厚木飛行場の設置又は管理の瑕疵を否定し,あるいは原告らに生ずる慰謝料の額を減額させ得るような航空機騒音の軽減である。上記のとおり,これが生ずる見込みがあるとは認めにくいものの,米海軍による厚木飛行場の使用状況にはなお不確実な部分が残るため,見込みがないと断定するには至らない。
事情の変動として考えられるものの第2は,被告による周辺対策等の実施であるが,このうち実際に効果があるといえるものは,上記のとおり,住宅防音工事に対する助成に限られる。この助成により住宅防音工事が行われれば,その工事に係る原告らに生ずる慰謝料の額を減額する効果をもたらし得るが,この助成は補助金規則に従い南関東防衛局長が補助金交付決定をすることにより行われるから,被告において容易にその状況を把握し,証明することができる。したがって,請求異議の訴えによりその事実の発生を証明してのみ執行を阻止し得るという負担を被告に課しても格別不当とはいえない。
第3に考えられるものは,将来における原告らの転居又は死亡である。75W以上の地域から指定区域外へ転居し,又は死亡した場合,当該原告に対してそれ以降被告が賠償責任を負ういわれはなく,75W以上の地域内でW値の低い地域へ転居した場合,賠償額は減額となる。死者を債権者とする執行はあるべきものではないから検討の対象から除き,転居についてみると,これは請求権を消滅させ,又はその債権額を減額させる事実であるから,仮に将来の損害の賠償請求が判決によって認容されたとすれば,被告は請求異議の訴えを提起してその事実を証明してのみ,判決記載の債権額による執行を阻止することができる。ところが,転居は専ら原告側の事情であり,被告がこれを直ちに把握することは困難である。住民票等を調査して把握することは可能であるものの,常時その調査をしなければならないとすれば被告の負担は重く,原告らの数が数千人にも及ぶ本件については特にその負担は著しい。したがって,たとえ口頭弁論終結後の短期間に限って将来の損害の賠償請求を認容することを考えたとしても,被告の負担に鑑みれば,要件Cは満たされないというほかない。
この点について原告らは,口頭弁論終結時と同じ地域に原告らが居住していることを示す住民票の提出を条件とする請求認容判決が可能であるなどと主張する。転居の事実の反対事実である居住継続の事実の証明責任を原告の側に負わせることで上記のような被告の負担をなくし,これによって要件Cを充足させようとする試みであると解されるので,そのような判決が可能であるかについて検討を加える。
民事執行法に規定する強制執行の要件のうち広い意味で条件といえるもので本件にとって参考になり得るものは,①担保を立てることを強制執行の実施の条件とする給付判決における立担保(同法30条2項),②債務者(被告)の給付を債権者(原告)の反対給付と引換えにすべきものとする給付判決における反対給付又はその提供(同法31条1項),③請求が債権者(原告)の証明すべき事実の到来に係る給付判決におけるその事実の到来(同法27条1項)である。①及び②は執行開始の要件であり,債権者が,①については担保を立てたことを証する文書を執行機関に提出したときに限り,②については反対給付又はその提供のあったことを執行機関に証明したときに限り,強制執行が開始される。③は執行文付与の要件であり,その事実が到来したことを証する文書を債権者が裁判所書記官に提出したときに限り,執行文が付与される。
これを踏まえると,原告らの想定する判決主文は,例えば,「被告は原告に対し,平成25年9月3日以降,原告が75W(80W,85W等々)の地域での居住を継続していることを条件として,1か月2万3000円の割合による金員を支払え」というものであろう(住民票の提出ないし提示を執行開始の要件とすることを想定しているとも考えられなくはないが,「条件」という文言を使用していることからして,このように解する。)。将来の損害の賠償請求における原告らの請求の根拠は75W以上の地域での居住の継続であるから,これは「債権者の証明すべき事実」といい得るが,この事実を実体法上の請求権を発生させる停止条件とみることはできない上,将来「到来」する事実ともいい難い。したがって,民事執行法27条1項の適用ではなく類推適用というべきである。
仮にこのような条件付給付判決ができるとすると,次に,住民票をもって民事執行法27条1項所定の「その事実の到来したことを証する文書」といえるかが問題になるが,否定せざるを得ない。住民票に表示された住所が75Wの地域,80Wの地域等に含まれるか否かは住民票からは明らかにならないからである。第一種区域線等が表示された地図,さらに,その地図が正確であることの裏付けとなる報告書等,他の文書も併せて提出する必要がある。これを避けるため,条件を絞り,「原告が判決記載の住所と同一の住所での居住を継続していること」を条件にすることも考えられるが,一般に住民票に表示された住所と実際の居住地は一致することが多いといえるものの常に一致するとは限らないから,住民票のみで居住継続の事実を証明することができるかには疑問が残る。そうすると,このように条件を絞っても,住民票の提出のみで執行文の付与を受けられるとは限らない。執行文付与の手続についてみると,住民票(及びこれを補充する文書)が同項所定の文書と認められるならば,その提出により原告らは執行文の付与を受けることができ,これに対し被告は執行文付与に対する異議の訴え(同法34条)を提起して争うことができる。同法27条1項所定の文書と認められないならば,原告らは,執行文付与の訴え(同法33条)を提起し,その訴訟の中で居住継続の事実を証明しなければならない。
このように,民事執行法27条1項の類推適用による条件付きの給付判決という考え方には,そのような類推適用がそもそも許されるかという根本的な問題があることに加えて,執行手続が円滑に進捗するかについても疑問が多い。したがって,条件付給付判決によって要件Cが充足されるとする原告らの主張を採用することはできない。
4  まとめ
以上の検討によれば,本件において,判例のいう要件A及びBが満たされると断定するには至らず,要件Cは満たされないというほかないから,その余の点について判断するまでもなく,原告らの将来の損害の賠償請求権は,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しない。よって,これに係る訴えは不適法であり,却下を免れない。
第6  弁護士費用
フィリピン人原告らを除く原告らは,公の営造物の設置・管理に瑕疵があったために損害を被り,自己の権利擁護のために訴えを提起することを余儀なくされ,訴訟追行を弁護士に委任し,前記のとおり過去の損害の賠償請求を認容されたのであるから,弁護士費用を被告に請求することができる。その額は,本件の事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を斟酌して,請求認容額元本の10%をもって相当と認める。
別紙21一覧表の損害賠償額欄の金額は,前記第4の10において認定した慰謝料にその10%である弁護士費用を加えたものである。
第7  結論
差止原告らの自衛隊機の差止請求に係る訴えを却下し,米軍機の差止請求を棄却する。
過去の損害の賠償請求は,(1)原告らのうち第3次訴訟において本件訴訟の請求期間と重なる期間に対応する請求を認容された者(別紙19(第3次訴訟原告目録)記載1及び2の原告ら)によるその認容された請求に対応する請求に係る訴えは却下し,(2)フィリピン人原告らの請求は棄却し,(3)その余の原告らの請求は,慰謝料及び弁護士費用について,別紙21一覧表のE欄(総計欄)記載の金額及びそのうちの一部である別紙21一覧表のA欄~C欄記載の各金額に対する遅延損害金の限度で認容する。
将来の損害の賠償請求に係る訴えは却下する。
原告らは過去の損害の賠償請求について仮執行の宣言を申し立てているので,過去の損害賠償請求を認容する部分(主文第2項)に限り,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは仮執行をすることができることを宣言する。仮執行免脱の宣言はしない。
よって主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 佐村浩之 裁判官 倉地康弘 裁判官 石井奈沙)

略語, 用語一覧表

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政治と選挙の裁判例「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例一覧
(1)平成26年 9月25日 東京地裁 平21(ワ)46404号・平22(ワ)16316号 損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第2事件)、損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第3事件)
(2)平成26年 9月17日 知財高裁 平26(行ケ)10090号 審決取消請求事件
(3)平成26年 9月11日 大阪高裁 平26(行コ)79号・平26(行コ)123号 政務調査費返還請求控訴事件、同附帯控訴事件
(4)平成26年 9月11日 知財高裁 平26(行ケ)10092号 審決取消請求事件
(5)平成26年 9月10日 大阪地裁 平24(行ウ)78号・平25(行ウ)80号・平26(行ウ)65号 行政財産使用不許可処分取消等請求事件・組合事務所使用不許可処分取消等請求事件
(6)平成26年 9月10日 大阪地裁 平24(行ウ)49号・平24(ワ)4909号・平25(行ウ)75号・平26(行ウ)59号 建物使用不許可処分取消等請求事件、建物明渡請求事件、使用不許可処分取消等請求事件 〔大阪市役所組合事務所使用不許可処分取〕
(7)平成26年 9月 3日 東京地裁 平25(行ウ)184号 政務調査費返還請求事件
(8)平成26年 8月 8日 東京地裁 平25(行ウ)590号 難民不認定処分取消請求事件
(9)平成26年 7月25日 東京地裁 平25(行ウ)277号 難民の認定をしない処分等取消請求事件
(10)平成26年 7月16日 東京地裁 平25(行ウ)259号 難民不認定処分取消等請求事件
(11)平成26年 7月11日 札幌地裁 平22(行ウ)42号 政務調査費返還履行請求事件
(12)平成26年 6月12日 東京地裁 平25(ワ)9239号・平25(ワ)21308号・平25(ワ)21318号 損害賠償請求本訴事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)
(13)平成26年 5月21日 横浜地裁 平19(ワ)4917号・平20(ワ)1532号 損害賠償等請求事件
(14)平成26年 5月14日 名古屋地裁 平22(ワ)5995号 損害賠償請求事件 〔S社(思想信条)事件〕
(15)平成26年 4月 9日 東京地裁 平24(ワ)33978号 損害賠償請求事件
(16)平成26年 3月26日 大阪地裁 平22(行ウ)27号・平23(行ウ)77号 政務調査費返還請求事件(住民訴訟)
(17)平成26年 3月25日 東京地裁 平25(ワ)18483号 損害賠償請求事件
(18)平成26年 3月18日 大阪高裁 平25(行コ)149号 政務調査費違法支出不当利得返還命令請求控訴事件
(19)平成26年 3月11日 東京地裁 平25(ワ)11889号 損害賠償等請求事件
(20)平成26年 2月26日 東京地裁 平24(ワ)10342号 謝罪広告掲載等請求事件
(21)平成26年 2月21日 東京地裁 平25(行ウ)52号 難民の認定をしない処分等取消請求事件
(22)平成26年 2月21日 宮崎地裁 平25(ワ)276号 謝罪放送等請求事件
(23)平成26年 1月31日 東京地裁 平24(行ウ)146号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(24)平成26年 1月30日 大阪高裁 平25(行コ)40号 政務調査費違法支出金返還請求控訴事件
(25)平成26年 1月16日 名古屋地裁 平23(行ウ)68号 愛知県議会議員政務調査費住民訴訟事件
(26)平成25年12月25日 東京高裁 平25(行ケ)83号 選挙無効事件
(27)平成25年12月25日 広島高裁松江支部 平25(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(28)平成25年12月24日 東京地裁 平24(行ウ)747号 難民不認定処分取消請求事件
(29)平成25年12月20日 東京高裁 平25(行ケ)70号・平25(行ケ)71号・平25(行ケ)72号・平25(行ケ)73号・平25(行ケ)74号・平25(行ケ)75号・平25(行ケ)76号・平25(行ケ)77号・平25(行ケ)78号・平25(行ケ)79号・平25(行ケ)80号 各選挙無効請求事件
(30)平成25年12月20日 仙台高裁 平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号・平25(行ケ)4号・平25(行ケ)5号・平25(行ケ)6号
(31)平成25年12月19日 東京地裁 平24(行ウ)59号 懲戒処分取消等請求事件
(32)平成25年12月18日 名古屋高裁 平25(行ケ)1号・平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(33)平成25年12月16日 名古屋高裁金沢支部 平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号・平25(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(34)平成25年12月12日 東京地裁 平24(行ウ)719号 裁決取消等請求事件
(35)平成25年12月 6日 札幌高裁 平25(行ケ)1号 参議院議員選挙無効請求事件
(36)平成25年12月 5日 広島高裁 平25(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(37)平成25年12月 3日 東京地裁 平24(行ウ)423号 難民不認定処分取消請求事件
(38)平成25年11月28日 広島高裁岡山支部 平25(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(39)平成25年11月20日 最高裁大法廷 平25(行ツ)226号 選挙無効請求事件
(40)平成25年11月20日 最高裁大法廷 平25(行ツ)209号・平25(行ツ)210号・平25(行ツ)211号 選挙無効請求事件 〔平成24年衆議院議員総選挙定数訴訟大法廷判決〕
(41)平成25年11月19日 東京地裁 平24(行ウ)274号 難民の認定をしない処分無効確認等請求事件
(42)平成25年11月18日 福岡地裁 平19(行ウ)70号 政務調査費返還請求事件
(43)平成25年11月15日 東京地裁 平24(行ウ)753号 難民不認定処分無効確認等請求事件
(44)平成25年11月 8日 盛岡地裁 平24(ワ)319号 損害賠償請求事件
(45)平成25年10月21日 東京地裁 平24(ワ)2752号 損害賠償請求事件
(46)平成25年10月16日 東京地裁 平23(行ウ)292号 報酬返還請求事件
(47)平成25年10月 4日 東京地裁 平24(行ウ)76号・平24(行ウ)77号・平24(行ウ)78号・平24(行ウ)79号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(48)平成25年10月 2日 東京地裁 平23(行ウ)657号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(49)平成25年 9月26日 大阪高裁 平25(行コ)82号・平25(行コ)114号 不当利得返還等請求行為請求控訴、同附帯控訴事件
(50)平成25年 8月27日 東京地裁 平24(行ウ)647号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(51)平成25年 8月23日 東京地裁 平24(行ウ)90号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(52)平成25年 8月 5日 東京地裁 平25(ワ)8154号 発信者情報開示請求事件
(53)平成25年 7月30日 東京地裁 平24(行ウ)427号・平25(行ウ)224号 難民不認定処分取消請求事件、追加的併合請求事件
(54)平成25年 7月26日 静岡地裁 平21(行ウ)19号 不当利得返還請求権行使請求事件
(55)平成25年 7月23日 東京地裁 平24(行ウ)393号 難民の認定をしない処分等取消請求事件
(56)平成25年 7月 4日 名古屋高裁 平25(行コ)18号 議員除名処分取消等請求控訴事件
(57)平成25年 7月 3日 名古屋高裁金沢支部 平24(行コ)16号 政務調査費返還請求控訴事件
(58)平成25年 6月19日 横浜地裁 平20(行ウ)19号 政務調査費返還履行等代位請求事件
(59)平成25年 6月 4日 東京高裁 平24(行コ)350号 政務調査費返還履行請求控訴事件
(60)平成25年 5月29日 広島地裁 平23(ワ)1500号 損害賠償等請求事件
(61)平成25年 5月15日 東京地裁 平23(行ウ)697号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(62)平成25年 4月11日 東京地裁 平24(行ウ)115号・平24(行ウ)127号・平24(行ウ)128号・平24(行ウ)129号・平24(行ウ)130号・平24(行ウ)614号・平24(行ウ)620号・平24(行ウ)621号・平24(行ウ)622号・平24(行ウ)623号 在留特別許可をしない処分取消等請求事件、在留特別許可をしない処分無効確認請求事件
(63)平成25年 4月11日 東京地裁 平23(行ウ)757号・平24(行ウ)1号・平24(行ウ)2号・平24(行ウ)3号・平24(行ウ)4号・平24(行ウ)5号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(64)平成25年 3月28日 京都地裁 平20(行ウ)10号 不当利得返還等請求行為請求事件
(65)平成25年 3月26日 東京高裁 平24(行ケ)26号・平24(行ケ)27号・平24(行ケ)28号・平24(行ケ)29号・平24(行ケ)30号・平24(行ケ)31号・平24(行ケ)32号 各選挙無効請求事件
(66)平成25年 3月25日 広島高裁 平24(行ケ)4号・平24(行ケ)5号 選挙無効請求事件
(67)平成25年 3月19日 東京地裁 平24(ワ)11787号 損害賠償請求事件
(68)平成25年 3月14日 名古屋高裁 平24(行ケ)1号・平24(行ケ)2号・平24(行ケ)3号・平24(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(69)平成25年 3月14日 東京地裁 平23(行ウ)63号 選挙権確認請求事件 〔成年被後見人選挙件確認訴訟・第一審〕
(70)平成25年 3月 6日 東京高裁 平24(行ケ)21号 選挙無効請求事件
(71)平成25年 2月28日 東京地裁 平22(ワ)47235号 業務委託料請求事件
(72)平成25年 2月20日 宇都宮地裁 平23(行ウ)13号 政務調査費返還請求事件
(73)平成25年 2月15日 福岡地裁 平23(行ウ)25号 教育振興費補助金支出取消等請求事件
(74)平成25年 1月29日 岡山地裁 平22(行ウ)15号 不当利得返還請求事件
(75)平成25年 1月21日 東京地裁 平24(ワ)2152号 謝罪広告掲載要求等請求事件
(76)平成25年 1月18日 東京地裁 平23(行ウ)442号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(77)平成25年 1月16日 東京地裁 平23(行ウ)52号 難民不認定処分取消請求事件
(78)平成25年 1月16日 大阪地裁 平19(行ウ)135号 不当利得返還等請求事件
(79)平成24年12月 7日 最高裁第二小法廷 平22(あ)957号 国家公務員法違反被告事件
(80)平成24年12月 7日 最高裁第二小法廷 平22(あ)762号 国家公務員法違反被告事件
(81)平成24年11月20日 東京地裁 平22(行ウ)563号 難民不認定処分取消請求事件
(82)平成24年11月 2日 東京地裁 平23(行ウ)492号 難民不認定処分取消等請求事件
(83)平成24年10月18日 大阪地裁 平22(行ウ)160号 政務調査費返還(住民訴訟)請求事件
(84)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)95号 選挙無効請求事件
(85)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)72号 選挙無効請求事件
(86)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)65号 選挙無効請求事件
(87)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)64号 選挙無効請求事件
(88)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)59号 選挙無効請求事件
(89)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)52号 選挙無効請求事件
(90)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)51号 選挙無効請求事件 〔参議院議員定数訴訟・大法廷判決〕
(91)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)179号
(92)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)174号 参議院議員選挙無効請求事件
(93)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)171号 選挙無効請求事件
(94)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)155号 選挙無効請求事件
(95)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)154号 選挙無効請求事件
(96)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)153号 選挙無効請求事件
(97)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)135号 選挙無効請求事件
(98)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)133号 選挙無効請求事件
(99)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)132号 選挙無効請求事件
(100)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)131号 選挙無効請求事件


政治と選挙の裁判例(裁判例リスト)

■「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧【1-101】
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■「選挙 立候補」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政治活動 選挙運動」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「選挙 ビラ チラシ」に関する裁判例一覧【1~49】
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■「政務活動費 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「演説会 告知 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「公職選挙法 ポスター 掲示交渉」に関する裁判例一覧【101~210】
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■「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧【211~327】
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■「公職選挙法」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「選挙妨害」に関する裁判例一覧【1~90】
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■「二連(三連)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政党 公認 候補者 公募 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 公報 広報」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「国政政党 地域政党 二連(三連)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「国政政党 地域政党 個人(単独)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「公認 候補者 公募 ポスター 国政政党 地域政党」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-official-candidate-koubo-poster-kokusei-seitou-chiiki-seitou/

■「政治団体 公認 候補者 告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政治団体 後援会 選挙事務所 候補者 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政党 衆議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政党 参議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政党 地方議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政党 代議士 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-daigishi-giin-poster/

■「政党 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-poster-hari-volunteer/

■「政党 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-touin-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「政治団体 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seiji-dantai-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「後援会 入会 募集 獲得 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kouenkai-nyuukai-boshuu-kakutoku-daikou/


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


【資料】政治活動用事前街頭ポスター新規掲示交渉実績一覧【PRドットウィン!】選挙,ポスター,貼り,代行,ポスター貼り,業者,選挙,ポスター,貼り,業者,ポスター,貼り,依頼,タウン,ポスター,ポスター,貼る,許可,ポスター,貼ってもらう,頼み方,ポスター,貼れる場所,ポスター,貼付,街,貼り,ポスター,政治活動ポスター,演説会,告知,選挙ポスター,イラスト,選挙ポスター,画像,明るい選挙ポスター,書き方,明るい選挙ポスター,東京,中学生,選挙ポスター,デザイン


(1)政治活動/選挙運動ポスター貼り ☆祝!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
勝つ!選挙広報支援事前ポスター 政治選挙新規掲示ポスター貼付! 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

(2)圧倒的に政界No.1を誇る実績! 政治ポスター(演説会告知|政党|個人|二連三連)掲示交渉実績!
地獄のポスター貼りやります! ドブ板選挙ポスタリストが貼る! ポスター掲示交渉実績を大公開!
政治ポスター貼りドットウィン!「ドブ板選挙を戦い抜く覚悟のあなたをぜひ応援したい!」事前街頭PRおよび選挙広報支援コンサルティング実績!

(3)今すぐ無料でお見積りのご相談 ☆大至急スピード無料見積もり!選挙広報支援プランご提案
ポスター掲示難易度ランク調査 ご希望のエリア/貼付箇所/貼付枚数 ☏03-3981-2990✉info@senkyo.win
「政治活動用のポスター貼り代行」や「選挙広報支援プラン」の概算お見積りがほしいというお客様に、選挙ドットウィンの公職選挙法に抵触しない広報支援プランのご提案が可能です。

(4)政界初!世界発!「ワッポン」 選挙管理委員会の認証確認済みPR型「ウィン!ワッポン」
完全無料使い放題でご提供可能! 外壁街頭ポスター掲示貼付ツール 1枚から対応/大至急/一斉貼付け!
「ガンガン注目される訴求型PRポスターを貼りたい!」というお客様に、選挙ドットウィンの「ウィン!ワッポン」を完全無料使い放題でご提供する、究極の広報支援ポスター新規掲示プランです。

(5)選べるドブ板選挙広報支援一覧 選挙.WIN!豊富な選挙立候補(予定)者広報支援プラン一覧!
政治家/選挙立候補予定者広報支援 祝!当選!選挙広報支援プロ集団 世のため人のため「SENKYO.WIN」
アポイントメント獲得代行/後援会イベントセミナー集客代行/組織構築支援/党員募集獲得代行(所属党本部要請案件)/演説コンサルティング/候補者ブランディング/敵対陣営/ネガティブキャンペーン(対策/対応)

(6)握手代行/戸別訪問/ご挨拶回り 御用聞きによる戸別訪問型ご挨拶回り代行をいたします!
ポスター掲示交渉×戸別訪問ご挨拶 100%のリーチ率で攻める御用聞き 1軒でも行くご挨拶訪問交渉支援
ご指定の地域(ターゲットエリア)の個人宅(有権者)を1軒1軒ご訪問し、ビラ・チラシの配布およびアンケート解答用紙の配布収集等の戸別訪問型ポスター新規掲示依頼プランです。

(7)地域密着型ポスターPR広告貼り 地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)
街頭外壁掲示許可交渉代行/全業種 期間限定!貴社(貴店)ポスター貼り サイズ/枚数/全国エリア対応可能!
【対応可能な業種リスト|名称一覧】地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)貼り「ガンガン注目される訴求型PRポスターを貼りたい!」街頭外壁掲示ポスター新規掲示プランです。

(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
政治活動/選挙運動ポスター貼り 勝つ!選挙広報支援事前ポスター 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
選挙事務所/後援会連絡所届出代行 公職選挙法の上限/立て札看板設置 1台から可能な選挙立札看板設置
最強の立札看板設置代行/広報(公報)支援/選挙立候補者後援会立札看板/選挙立候補者連絡所立札看板/政治活動用事務所に掲示する立て札・看板/証票申請代行/ガンガン独占設置!


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