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政治と選挙Q&A「国政政党 地域政党 政治塾 政経塾 個人(単独)ポスター掲示(貼り)交渉代行」に関する裁判例(28)平成20年 6月26日 那覇地裁沖縄支部 平14(ワ)513号・平15(ワ)171号 普天間米軍基地爆音差止等請求事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・第一審〕

政治と選挙Q&A「国政政党 地域政党 政治塾 政経塾 個人(単独)ポスター掲示(貼り)交渉代行」に関する裁判例(28)平成20年 6月26日 那覇地裁沖縄支部 平14(ワ)513号・平15(ワ)171号 普天間米軍基地爆音差止等請求事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・第一審〕

裁判年月日  平成20年 6月26日  裁判所名  那覇地裁沖縄支部  裁判区分  判決
事件番号  平14(ワ)513号・平15(ワ)171号
事件名  普天間米軍基地爆音差止等請求事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・第一審〕
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2008WLJPCA06269015

要旨
◆普天間飛行場の周辺住民が、同飛行場において離着陸する米軍機の騒音等により健康被害を受けていると主張して、国に対し、夜間の航空機の飛行差止め等を求めた事案において、騒音被害を生じさせているのは国ではなく米軍であって、また、国は、米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約し、その活動を制限し得る立場になく、権利侵害状態を除去する義務を負わないとして、本件差止請求を棄却した事例
◆米軍が管理している普天間飛行場の周辺住民が、離着陸する米軍機の騒音等により健康被害を受けていると主張して、被告国に対し、沖縄復帰の日から現在までの間の損害賠償を求めた事案において、普天間飛行場は、多数の住民居住地に極めて近接しているなど立地条件が劣悪で、多数の米軍機の離着陸等により周辺住民に騒音による影響を与えることは避けられない状況にあること、認定事実によれば、普天間飛行場の供用が、一定区域内の居住者との関係において、違法な権利侵害、法益侵害に当たるといえることからすると、普天間飛行場にはいわゆる民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵があるとして、請求の一部を認容した事例
◆米軍が管理している普天間飛行場の周辺住民が、同飛行場において離着陸する米軍航空機の騒音等により健康被害を受けているとして主張する将来の損害賠償請求権は、将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないとして、周辺住民の訴えが却下された事例
◆普天間飛行場の周辺住民が、同飛行場における米軍機の騒音等により健康被害を受けているとして、被告国に対し、人格権等及び不法行為に基づき、騒音測定等を求めた事案において、本件騒音は、国が生じさせているとはいえない上、国は、米軍の権限の制約及びその活動の制限をし得るものではなく、本件騒音による被害防止措置を採るべき法的立場にはないから、国には本件騒音による妨害排除及び妨害予防義務はなく、また、周辺住民が不法行為の根拠として主張する条文のどの規定をみても、国に損害賠償責任以外の責任を負わせることができる根拠は見いだせないとして、請求を棄却した事例

裁判経過
控訴審 平成22年 7月29日 福岡高裁那覇支部 判決 平20(ネ)125号 普天間米軍基地爆音差止等請求控訴事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・控訴審〕

出典
裁判所ウェブサイト
判時 2018号33頁

評釈
久末弥生・自治研究 86巻3号137頁
長谷川俊明・国際商事法務 37巻1号81頁

参照条文
日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約2条

裁判年月日  平成20年 6月26日  裁判所名  那覇地裁沖縄支部  裁判区分  判決
事件番号  平14(ワ)513号・平15(ワ)171号
事件名  普天間米軍基地爆音差止等請求事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・第一審〕
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2008WLJPCA06269015

(本判決の構成)
本判決は,次の構成からなる。
1  本文(判決)
2  別紙1 原告目録1
平成14年(ワ)第513号事件原告及び平成15年(ワ)第171号事件原告を記載したもの
3  別紙2 原告目録2
原告目録1記載の原告らのうち,普天間飛行場における米軍機による一定の時間帯の離着陸及び騒音の規制の請求,本件航空機騒音を測定・記録し,本件航空機騒音が到達する地域を明確にすべきことの請求並びに口頭弁論終結の日の翌日から生ずべき損害の賠償請求をしている原告らの氏名を記載したもの
4  別紙3 原告訴訟代理人目録
原告らの訴訟代理人及び原告らの訴訟復代理人の氏名,肩書を記載したもの
5  別紙4 被告指定代理人目録
被告の指定代理人の氏名を記載したもの
6  別紙5 賠償額一覧表(訴状送達前)
判決主文第2項において,前記両事件の各訴状送達日までの損害の賠償請求等を認容した部分について,被告が支払いをすべき原告ら及びその金額等を記載したもの
7  別紙6 賠償額一覧表(訴状送達後)
判決主文第3項において,前記両事件の各訴状送達の日の翌日からの損害の賠償請求等を認容した部分について,被告が支払いをすべき原告ら及びその金額等を記載したもの
8  別紙7 請求期間一覧表
9  別紙8 本件コンター図
10 別紙9 原告居住経過等一覧表
(本判決において用いる略称及び用語)
本判決において用いる略称及びその正式名称並びに用語及びその意義は,次表のとおりである。

主文
1  別紙2原告目録2記載の原告らの訴えのうち,平成20年2月1日から生ずべき損害の賠償請求に係る訴えをいずれも却下する。
2  被告は,別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」の「原告氏名」欄に記載した各原告に対し,それぞれ次の(1)及び(2)の各金員を支払え。
(1) 同各原告に対応する別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」の「損害賠償額合計」欄に記載した各金員
(2) (1)の各金員に対する,第1事件原告については平成15年1月7日から,第2事件原告については同年5月7日から,いずれも支払済みまで年5分の割合による各金員
3  被告は,別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の「原告氏名」欄に記載した各原告に対し,それぞれ次の(1)及び(2)の各金員を支払え。
(1) 同各原告に対応する別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の各「損害賠償月額合計」欄に記載した各金員
(2) (1)の各金員に対する別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の同各金員に対応する各「遅延損害金起算日」欄に記載した日からいずれも支払済みまで年5分の割合による各金員
4  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5  訴訟費用は,第1事件及び第2事件を通じてこれを5分し,その5分の4を原告らの負担とし,その余を被告の負担とする。
6  この判決第2項及び第3項は,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときは,仮に執行することができる。

事実及び理由
第1章  請求
1  被告は,別紙2原告目録2記載の原告らのために
(1) アメリカ合衆国をして,普天間飛行場(FAC6051)において,毎日午後7時から翌日午前7時までの間,一切の航空機を離着陸させてはならず,かつ,原告ら居住地において55ホンを超える騒音となるエンジンテスト音,航空機騒音等を発する行為をさせてはならない。
(2) アメリカ合衆国をして,普天間飛行場(FAC6051)の使用により,毎日午前7時から同日午後7時までの間,原告ら居住地内に65ホンを超える一切の航空機騒音を到達させてはならない。
2  被告は,別紙2原告目録2記載の原告らのために,普天間飛行場(FAC6051)から発生する騒音を,環境基本法(平成5年法律第91号)16条1項の規定に基づく「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年12月27日環境庁告示第154号)に規定する測定方法により,同飛行場周辺において毎日測定・記録し,毎日午後7時から翌日午前7時までの間に55ホンを超える騒音が到達する地域,毎日午前7時から同日午後7時までの間に65ホンを超える騒音が到達する地域をそれぞれ明確にせよ。
3  被告は,別紙1原告目録1記載の原告らに対して,それぞれ115万円及びこれに対する第1事件原告については平成15年1月7日から,第2事件原告については同年5月7日から,いずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告は,次の原告らに対し,それぞれ次の期間,各月末限り1か月当たり3万5000円及びこれに対する当該各月の翌月1日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(1) 別紙7「請求期間一覧表」の「原告氏名」欄に記載した各原告 同表の当該各原告に対応する「請求期間」欄の「始期」欄に記載した年月日から「終期」欄に記載した年月日まで
(2) (1)の原告並びに原告X34,同X79,同X80,同X116及び同X189並びに被承継人A90の承継分に係る原告X91を除く第1事件原告平成15年1月7日から平成21年1月31日まで
(3) (1)の原告並びに原告X203及び同X341を除く第2事件原告 平成15年5月7日から平成21年1月31日まで
第2章  事案の概要
本件は,被告が日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づきアメリカ合衆国に対して同国軍隊の使用する施設及び区域として提供している沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場の周辺に居住し,若しくは居住していた者又はその相続人である原告ら合計392名(訴えの提起時は第1事件及び第2事件を併せて404名であったが,そのうち8名が訴えを取り下げ,死亡した4名が他の原告に承継されている。)が,普天間飛行場において離着陸する同国軍隊の航空機の発する騒音等により精神的被害等を含む広義の健康被害を受けていると主張して,被告に対し,①人格権,環境権又は平和的生存権に基づく夜間の航空機の飛行差止め等,②国家賠償法1条1項又は「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」1条若しくは2条に基づく昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から平成20年1月31日(口頭弁論終結の日)までの損害及び同年2月1日(口頭弁論終結の日の翌日)から平成21年1月31日までの将来の損害の賠償並びに遅延損害金の支払並びに③人格権,環境権,平和的生存権又は②の不法行為に基づく騒音測定等を求める事案である。
第1  前提事実
以下の事実(4を除く。)は,括弧内に証拠等を掲げた事実以外は,当事者間に争いがない。
1  普天間飛行場の現況等
(1) 普天間飛行場の現況及び本件航空機騒音
普天間飛行場は,沖縄本島中部にある沖縄県宜野湾市(以下,市町村名は,都道府県名を明記したものを除き,すべて沖縄県の区域内のものである。)の中央部に所在するアメリカ合衆国軍隊(以下「米軍」という。)の基地である。普天間飛行場の周囲には,これを取り巻くようにドーナツ型に商店街,住宅街,学校等が存在する。
普天間飛行場は,平成15年1月1日現在,総面積が約480万5000平方メートルであり,同市の面積の約24.7%を占めている。普天間飛行場には,全長約2700m,幅約45mの滑走路とこれに付帯する誘導路,駐機場,エンジン調整場,格納庫,整備施設等がある。普天間飛行場の滑走路の西側部分及び東側部分には,司令部,兵舎,通信施設等の施設が存在する。
普天間飛行場には,米軍の第1海兵航空団に所属する第18海兵航空管制群,第36海兵航空群(配備機種は,CH-46,CH-53,AH-1,UH-1の各ヘリコプター及び固定翼機KC-130である。)及び第17海兵航空支援群(配備機種は,固定翼機C-12である。)等が配備されている。これらの部隊は,米軍の使用する航空機(以下「米軍機」という。)について,即応能力を維持するために必要な訓練を沖縄周辺及び普天間飛行場において行っている。
普天間飛行場には,これらの部隊に配備されている米軍機のほかに,艦載機や輸送機等の米軍機が不定期に飛来し,訓練や輸送活動を行っている。
普天間飛行場に離着陸等する米軍機は,普天間飛行場周辺において騒音を発生させている(以下,普天間飛行場に離着陸する米軍機が普天間飛行場周辺において発する騒音(普天間飛行場に着陸している米軍機がエンジン調整その他の理由により普天間飛行場において発する騒音を含む。)を「本件航空機騒音」という。)。
(2) 普天間飛行場の設置・管理の経緯及び法律関係
ア 米軍による占領から昭和47年5月14日まで
米軍は,昭和20年4月に沖縄本島に上陸し,宜野湾村(当時)の集落の一部を占領,接収し,その地域に普天間飛行場を建設した。
沖縄県は,終戦後,昭和21年1月29日付け連合国最高司令官総司令部の「若干の外郭地域を政治上行政上日本から分離することに関する覚書」によって,我が国から政治上,行政上分離され,昭和27年4月28日発効の「日本国との平和条約」(昭和27年条約第5号)3条によって,アメリカ合衆国が施政権者とされることとなった。
そのため,普天間飛行場も,昭和20年の米軍の占領から昭和27年4月27日(日本国との平和条約の発効日の前日)までは,米軍の接収下にあり,また,翌28日から昭和47年5月14日までは,アメリカ合衆国が施政権者として管理,運営していた。
イ 昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在まで
沖縄は,昭和47年5月15日,同日発効の「琉球諸島及び大東諸島に関する日本国とアメリカ合衆国との間の協定」(昭和47年条約第2号)によって,我が国の施政権下に復帰した。
被告は,これに先立ち,「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」(昭和46年法律第132号)を制定し,同法等に基づき,普天間飛行場の使用権原を取得した。
被告は,沖縄の復帰に伴い,アメリカ合衆国に対し,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(昭和35年条約第6号。以下「安保条約」という。)6条及び同条の規定に従い締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(昭和35年条約第7号。以下「地位協定」という。)2条1項に基づき,米軍の使用する施設及び区域として,普天間飛行場を提供した。
なお,普天間飛行場は,この際,普天間海兵隊飛行場,普天間陸軍補助施設及び普天間海兵隊飛行場通信所の3施設を統合し,現在のもの(FAC6051)となった。
普天間飛行場は,以後,アメリカ合衆国が地位協定3条1項に基づき管理,運営し,米軍機の運航等に使用している。普天間飛行場は,昭和49年には,嘉手納飛行場へのP-3C対潜哨戒機の配備に伴い,同機の補助飛行場として使用するため,滑走路の拡張整備が行われた。
被告は,アメリカ合衆国に対し,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在までの間,普天間飛行場の敷地のうち,国有地以外の土地について,その土地の所有者である私人ら若しくは地方公共団体との間で,それぞれ賃貸借契約を締結し,又は「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」若しくは「日本国とアメリカ合衆国の間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」(昭和27年法律第140号。以下「土地使用特措法」という。)の規定に基づき使用権原を取得し,国有地と併せて,提供している。
2  航空機騒音の評価方法
騒音とは,好ましくない音,望ましくないを総称する用語である。
物体の振動等が媒質を伝わり,聴覚を刺激すると,人は,これを音として取り扱う。音波によって,空気中に生ずる圧力のことを「音圧」というが,人間の感覚の大きさは,外的刺激量の強さの対数に比例するので,音の評価には対数計算が用いられる。また,音圧が同じレベルの音であっても,人間の耳には周波数(1秒間の振動数をいう。以下同じ。)によって音の大きさが異なって聞こえるので,「音の強さ」を表す物理的音圧レベル(dB)を耳の感度により修正すると,「音の大きさ」のレベル(phon,フォーン)となる。ところで,騒音計には,マイクロホンを用いて音圧レベルを計測する際に,耳の感度の周波数特性を模擬した聴覚補正回路という電気回路を通す構造となっている。そして,2000~4000Hzには敏感であるも低い周波数の音については相対的に感度が鈍いという人間の聴覚に近い,次の図のとおりのA特性の聴覚補正回路を用いて,音を人間の感覚量として表現した単位がdB(A)(単にdBと表記し,又はホン(A)若しくはホンと表記することもある。)である(なお,聴覚補正回路には,A特性の外,B特性,C特性及びG特性があり,これらを使用して測定した騒音レベルの単位は,それぞれ,dB(B),dB(C),dB(G)である。)。

もっとも,「音の大きさ」による表現は,会話や音楽の音など人間がそれを享受する立場で受け入れる場合に正しい値を示すものの,騒音のように不快感をもたらす音を評価するには適当でないことが多い。
特に,航空機による騒音(以下「航空機騒音」という。)には,①騒音レベルが他の発生源による騒音と比較してはるかに高く,広範囲に及ぶこと,②独特の特異音成分を含むこと,③継続時間が数秒から数十秒の間欠音であることなどの特性がある。これらの特性からすると,航空機騒音を適切に評価するためには,瞬間的な騒音レベル(dB(A))で評価するのではなく,「音のうるささ」という心理的な側面を考慮するとともに,ある期間について,時間帯補正をするなどして,その総騒音量で評価する方が,人間の感覚的な騒音評価としては適切であると考えられるようになった。その中で,国際連合の専門機関の一つとして昭和22年(1947年)に発足し,我が国も昭和28年(1953年)に加盟している国際民間航空機構(International Civil Aviation Organization。以下「ICAO」という。)によって昭和46年(1971年)に航空機の1日の総騒音量を評価する単位として提案されたのが,加重等価継続知覚騒音レベル(Weighted Equivalent Continuous Perceived Noise Level。以下「WECPNL」といい,WECPNLによって表される数値を「W値」という。)である。ICAOで提案されたWECPNLは,一機ごとの知覚騒音レベル(Perceived Noise Level。騒音を周波数分析してノイ(Noy)という量に変換して算出する航空機騒音のうるささを表す単位であり,国際標準化機構(International Organization for Standardization。ISO)が昭和42年(1967年)に航空機騒音に用いることを勧告したもの。以下「PNL」という。)に純音補正及び継続時間補正を行い,一機ごとの実効知覚騒音レベル(Effective Perceived NoiseLevel。以下「EPNL」という。)を求め,これを基に,全機の効果を加算して,1日の総暴露量を算出し時間平均を行って,等価継続知覚騒音レベル(Equivalent Continuous Perceived Noise Level。以下「ECPNL」という。)を求め,更に夕方(午後7時から午後10時まで)に5dB,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)に10dBを加算することによる時間帯補正をして加重平均を求めるものである。
(甲C24,D17,22,24,78の1,D86,114,E3,5,乙D9,E4,G42の1,2,証人平松,弁論の全趣旨)
3  昭和48年環境基準
公害対策基本法(昭和42年法律132号)は,昭和42年に制定,施行された。同法9条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と規定し,我が国政府にその基準の設定を義務付けた。これを受けて,環境庁長官(当時)は,昭和48年12月27日,公害対策基本法9条の規定に基づく騒音に係る環境上の条件のうち,航空機騒音に係る基準について,「航空機騒音に係る環境基準について」(昭和48年環境庁告示第154号。以下「昭和48年環境基準」という。)を告示した。昭和48年環境基準は,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい航空機騒音に係る基準として,専ら住居の用に供される地域につき昭和48年環境基準に定める方法によるWECPNLの算出方式(以下「環境基準方式」という。)によって算出されるWECPNL70以下とし,その他の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域につき環境基準方式によって算出されるWECPNL75以下とすることや上記地域は都道府県知事が指定することなどを内容としている。
沖縄県は,これを受けて,昭和63年2月16日,普天間飛行場周辺地域について,公害対策基本法9条に基づき,「航空機騒音に係る環境基準の地域類型指定」を行った。
環境基本法(平成5年法律第91条)は,平成5年11月19日に公布,施行され,これに伴い,公害対策基本法が廃止された。環境基本法は,環境の保全について,基本理念を定め,並びに国,地方公共団体,事業者及び国民の責務を明らかにするとともに,環境の保全に関する施策の基本となる事項を定めることにより,環境の保全に関する施策を総合的かつ計画的に推進し,もって現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献することを目的としている(環境基本法1条)。環境基本法16条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と規定するところ,昭和48年環境基準は,環境基本法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(平成5年法律第92号)2条により,環境基本法16条1項の規定によって定められた基準とみなされている。
(沖縄県の地域類型指定につき,甲C13)
4  防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法令の規定
防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律(昭和49年法律第101号。以下「生活環境整備法」という。)は,自衛隊等(自衛隊法(昭和29年法律第165号)2条1項に規定する自衛隊又は米軍をいう(生活環境整備法2条1項)。以下同じ。)の行為又は防衛施設(自衛隊の施設又は安保条約6条に基づく施設及び区域並びに地位協定2条1項の施設及び区域をいう(生活環境整備法2条2項)。以下同じ。)の設置若しくは運用により生ずる障害の防止等のため防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるとともに,自衛隊の特定の行為により生ずる損失を補償することにより,関係住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目的とする(生活環境整備法1条)。このような目的のため,生活環境整備法は,被告が,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認めて防衛大臣(平成19年法律第80号による改正前は防衛施設庁長官。以下この4及び5において同じ。)が指定する防衛施設の周辺の区域(以下「第1種区域」という。)に当該指定の際現に所在する住宅について,その所有者又は当該住宅に関する所有権以外の権利を有する者がその障害を防止し,又は軽減するため必要な工事を行うときは,その工事に関し助成の措置を採るものと規定する(生活環境整備法4条)。同規定等に基づく政令である防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行令(昭和49年政令第228号。以下「生活環境整備法施行令」という。)8条は,第1種区域の指定等は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の頻繁な実施により生ずる音響の影響度をその音響の強度,その音響の発生の回数及び時刻等を考慮して防衛省令(平成19年政令第3号による改正前は内閣府令,平成12年政令第303号による改正前は総理府令。以下この4において同じ。)で定める算定方法(以下「防衛施設庁方式」という。)で算定した値が,その区域の種類ごとに防衛省令で定める値以上である区域を基準として行うものと規定する。同規定等に基づく防衛省令である防衛施設周辺の生活環境の整備等に関する法律施行規則(昭和49年総理府令第43号。以下「生活環境整備法施行規則」という。)においては,防衛省令で定める算定方法について,
+10logN-27
と規定した(生活環境整備法施行規則1条1項)上, を1日の間の自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のそれぞれの最大値をパワー平均して得た値と定義し(同項1号),また,「N」を1日の間の自衛隊等の航空機の離陸,着陸等の実施により生ずる音響のうち,午前零時直後から午前7時までの間に発生するものの回数をN↑1,午前7時直後から午後7時までの間に発生するものの回数をN↑2,午後7時直後から午後10時までの間に発生するものの回数をN↑3及び午後10時直後から午後12時までの間に発生するものの回数をN↑4として,次に掲げる式によって算出して得た値
N↑2+3N↑3+10(N↑1+N↑4)
と定義した(同項2号)。
そして,防衛大臣は,これらの値の算定に当たっては,自衛隊等の航空機の離陸,着陸等がひん繁に実施されている防衛施設ごとに,当該防衛施設を使用する自衛隊等の航空機の型式,飛行回数,飛行経路,飛行時刻等に関し,年間を通じての標準的な条件を設定し,これに基づいて行うものと規定されている(同条3項)。
さらに,生活環境整備法施行規則2条は,生活環境整備法施行令8条の防衛省令で定める値について,第1種区域にあっては75(生活環境整備法施行規則の制定当初は85であったところ,昭和54年総理府令第41号による改正により80と改められた後,昭和56年総理府令第49号による改正により75と改められている。)と定めている。
5  本件コンターの指定
防衛施設庁長官は,昭和52年12月,本件航空機騒音について調査をした上,普天間飛行場周辺の防衛施設庁方式のW値を求めるに当たり,1日の標準飛行回数のほか,各地点の を算出し,着陸音補正及び継続時間補正を行うなどして,普天間飛行場周辺のW値を求め,これに基づき,W値75及びW値80を線で結んだ騒音コンター図(等音線図)を作成し,道路,河川等現地の状況を勘案し若干の調整をして,次の(1)及び(2)とおり,順次,普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域(以下「本件コンター」という。)を指定し,これを告示した(以下,本件コンターのうち,W値75以上80未満の区域を「W75区域」と,W値80以上85未満の区域を「W80区域」という。)。
(1) 昭和56年告示
防衛施設庁長官は,普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域としてW値80以上85未満の区域について指定し,昭和56年7月18日,防衛施設庁告示第13号(以下「昭和56年告示」という。)をもって告示した。この指定により第1種区域とされたW80区域は,別紙8本件コンター図において青実線で囲む地域である。W80区域の範囲は,宜野湾市字野嵩,字普天間,字新城,字真志喜,字大謝名,字嘉数,字真栄原,字佐真下及び字我如古の各区域(同区域は,同日当時における行政区画によって表示されたものによっている。)の全部又は一部となっている。
(2) 昭和58年告示
防衛施設庁長官は,第1種区域の指定に係るW値が前記4のとおり「80」から「75」に改正されたことに伴い,普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域としてW値75以上80未満に当たる区域について追加指定し,昭和58年9月10日,防衛施設庁告示第21号(以下「昭和58年告示」という。)をもって告示した。この指定により第1種区域として追加指定されたW75区域は,別紙8本件コンター図に示す赤実線で囲まれた部分である。W75区域の範囲は,宜野湾市字野嵩,字普天間,字喜友名,字新城,字大山,字真志喜,字宇地泊,字大謝名,字嘉数,字真栄原,字佐真下,字我如古,字志真志,字宜野湾,字赤道及び字上原,浦添市字牧港及び字当山,中頭郡北谷町字北前並びに同郡北中城村字安谷屋及び字荻道の各区域(同区域は,同日当時における行政区画によって表示されたものによっている。)の全部又は一部となっている。
(乙G4,5,17)
6  本件航空機騒音に関する調査
(1) 騒音測定局点
被告は,昭和60年3月,W80区域にある宜野湾市新城及び大謝名に自動騒音測定点を設置し(以下,同市新城に設置された測定点を「国新城測定点」と,同市大謝名に設置された測定点を「国大謝名測定点」といい,両者を併せて,「国測定点」という。),70dB(A)以上の騒音が5秒以上継続した場合に,本件航空機騒音を測定している。
他方,沖縄県は,平成9年3月,W80区域にある同市野嵩(野嵩一区公民館)及び大謝名(上大謝名公民館)に,同年9月,W75区域にある同市新城(普天間中学校)に,それぞれ自動騒音測定局を設置し,また,同市は,同月,W75区域にある同市真志喜(真志喜公民館)に自動騒音測定局を設置し(以下,同市野嵩に設置された測定局を「県野嵩測定局」と,同市大謝名に設置された測定局を「県上大謝名測定局」と,同市新城に設置された測定局を「県新城測定局」と,同市真志喜に設置された測定局を「市真志喜測定局」といい,これらを併せて,「県等測定局」という。),暗騒音(対象の音がないときのその場所における騒音をいう。以下同じ。)レベルより10dB(A)以上(ただし,平成14年度までは数値が若干異なる。詳細は,後記第3章第2の2(3)ウ(ア)の認定事実のとおり)の騒音が5秒以上継続し,かつ,航空機が発したトランスポンダ応答信号電波を受信した場合に,本件航空機騒音を測定している。
(各騒音測定局点の設置の年月日につき,弁論の全趣旨)
(2) 沖縄県調査
沖縄県は,「嘉手納飛行場及び普天間飛行場の航空機騒音が周辺住民に与える精神的,身体的影響を明らかにし,県民の平穏で快適な生活環境の保全と創造に寄与する」ため,財団法人沖縄県公衆衛生協会に対し,平成7年度から平成10年度まで,嘉手納飛行場及び普天間飛行場の航空機騒音の周辺住民に対する健康影響についての調査を委託した。
財団法人沖縄県公衆衛生協会は,これを受けて,京都大学名誉教授(当時)山本剛夫(以下「山本」という。)を会長とする「航空機騒音健康影響調査研究委員会」(以下「沖縄県調査委員会」という。)を設置した。沖縄県調査委員会は,同期間,航空機騒音暴露実態調査部会,睡眠影響調査部会,THI(東大式自記健康調査票(The Todai Health Index)をいう。以下同じ。)等アンケート部会,被験者等健康特性調査部会,低体重児等調査部会,聴力影響調査部会の合計6の部会を設置し,①騒音暴露の実態,②生活の質・環境の質,③幼児問題行動,④学童の記憶力,⑤自覚的健康感,⑥住民健康診断データの分析,⑦低出生体重児出生率,⑧聴力影響について,航空機騒音による嘉手納飛行場及び普天間飛行場の周辺住民に対する健康影響に関する調査(以下「沖縄県調査」という。)を実施した。
沖縄県は,沖縄県調査の結果について,平成11年3月,「航空機騒音による健康への影響に関する調査報告書」(以下「沖縄県調査報告書」という。)に取りまとめた。
(甲D1,E9の1,2,乙D1から3まで,40)
7  原告らの居住
原告ら(後記8の被承継人を含む。以下同じ。)は,別紙9「原告居住経過等一覧表」(以下「居住経過表」という。)記載のとおり,居住していた(なお,居住経過表の「住所」欄に記載した各住所地のうち,「W値」欄に75又は80と記載されているものは,本件コンター内のW75区域又はW80区域にある。他方,同各住所地の記載が国名又は都道府県市区町村名に限られている各原告は,当該国又は都道府県市区町村内に,空欄の各原告は本件コンター外に,それぞれ居住している。また,原告らの居住経過表の「住所」欄に記載した各住所地における居住は,開始が居住経過表の「入居年月日」欄に記載した各入居年月日の午前零時からであり,終了が,居住経過表の「入居年月日」欄に次の入居年月日の記載がある場合には当該次の入居年月日の前日の終了まで,居住経過表の「死亡日」欄に記載がある場合には当該死亡日までである。)。
別紙2原告目録2記載の各原告は,同各原告に対応する居住経過表の「入居年月日」欄に記載した最終の各入居年月日から平成20年1月31日までの間,これに対応する居住経過表の「住所」欄に記載した本件コンター内にある各住所地に居住している。
(平成19年7月1日からの居住につき,弁論の全趣旨)
8  損害賠償債権の相続
次の各承継人は,次の各被承継人(同承継人又は同被承継人について,原告番号(別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」,別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」,別紙7「請求期間一覧表」及び居住経過表に各記載した原告番号をいう。以下同じ。)を付している。)が死亡したことにより,次の各被承継人の本件訴訟に係る損害賠償債権を相続した。

(弁論の全趣旨)
第2  当事者の主張
1  原告らの主張
(1) 差止請求
ア 差止請求を基礎付ける権利
(ア) 人格権
人間の生命,身体,精神及び快適な生活のような,人間の生存に基本的かつ不可欠な利益は,人の人格に本質的に付帯する。その総体が人格権である。
人格権は,何人もみだりに侵害することは許されない。そのため,人格権の侵害に対しては,法律上,侵害行為を排除し,又は禁止することを求めることができる。そして,身体被害,精神的苦痛,著しい生活上の妨害をもたらす行為は,個人に対する人格権の侵害行為として差止めの対象となる。しかも,生命,身体という身体的な人格権に対する侵害行為については,受忍限度を考慮することなく,直ちに差止めを認めるべきである。また,現実の身体に侵害が生じている場合のみならず,一般人の感覚に照らして,その具体的な危険性が存する場合にも,差止めが認められるべきである。
原告らは,本件航空機騒音によって,睡眠妨害その他の生活妨害(以下,睡眠妨害を除く生活妨害を「生活妨害」といい,睡眠妨害を含む生活妨害を「生活妨害全部」という。),精神的被害,子供への影響等の深刻な「広義の健康被害」を被っている。これらの「広義の健康被害」は,個人の生命・身体を侵害する深刻な危険又はその不安感を本体とするものであり,原告らの人格権を侵害しているので,その発生を続けさせないために,差止めが必要である。
したがって,原告らは,被告に対し,人格権に基づき,普天間飛行場における夜間の航空機の離着陸及び1日を通じて一定のレベルの本件航空機騒音の発生の差止めを請求することができるというべきである。
(イ) 環境権
環境権は,環境を支配し,よき生活環境を享受する権利であり,憲法13条及び25条,環境基本法3条並びに民法709条及び710条を実定法上の根拠とする。みだりに環境を汚染し,快適な生活を妨げ,又は妨げようとしている者に対しては,環境権に基づいて妨害の排除又は予防を請求し得ると解される。
環境権は,良好な環境それ自体を享受する権利として,生命・身体・健康な生存を維持する権利としての内実を含む人格権の外延をなす権利として存在する。各人の生命,健康等の被害が発生していなくても,抽象的被害が生じた場合であって,その抽象的危険性が地域的な広がりを持ち,又は生態系に悪影響を及ぼすときには,環境権の侵害があるというべきである。
原告らには,本件航空機騒音により,抽象的危険にとどまらず,「広義の健康被害」という既に具体的な身体的被害が生じ,又は生ずる危険にさらされている。そのため,本件航空機騒音による被害は,地域的な広がりを持った被害であり,将来被害が発生・拡大する危険が存している。
したがって,原告らには,身体的被害が生じ,又は生ずる危険にさらされているから,被告に対し,環境権に基づき,普天間飛行場における夜間の航空機の離着陸及び1日を通じて一定のレベルの本件航空機騒音の発生の差止めを請求することができるというべきである。
(ウ) 平和的生存権
平和的生存権は,人間としての生存と尊厳を維持し,戦争行為によって生命の危険に脅えることなく,平穏な社会生活を営むことを阻害されない権利である。平和的生存権は,日本国憲法前文に「恐怖と欠乏から免れ,平和のうちに生存する権利」として明記され,日本国憲法の基本原理である平和主義(憲法9条)と個人の尊厳,それを基礎とする幸福追求権(憲法13条)から導かれる。平和は,人権保障の不可欠の土台であるから,戦争のない平和な状態で生存すること自体が人権であると考えられる。これに対する侵害に対しては,平和的生存権に基づき,司法的救済を求めることができる。
沖縄では,平和的生存権が過去に具体的に侵害され,また,侵害され続けている。
したがって,原告らには,被告に対し,平和的生存権に基づき,普天間飛行場における夜間の航空機の離着陸及び1日を通じて一定のレベルの本件航空機騒音の発生の差止めを請求することができるというべきである。
イ 差止めの可能性と許容性
(ア) 米軍に対する法的規制の根拠
a 市民法の原理
日本国憲法は,平和主義を基本原理としているから,軍事行政に係わる事項の範囲は可及的に縮小されなければならない一方,国民の基本的人権を基礎とする市民法秩序には,原則として無条件かつ最大限の保障が与えられなければならない。そのため,軍事行政に係わる事柄が直ちに市民法秩序に無条件に優先すると考えることはできない。
また,原告らが民事訴訟という日本国内における法的救済手続を利用して,日本国内における本件航空機騒音による被害から市民法原理に従った救済を求めることが認められても,我が国とアメリカ合衆国との外交上の信頼関係を損なうものではない。
したがって,原告らの人格権,環境権,平和的生存権が米軍機により違法に侵害されている場合には,被告は,条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めがなくても,そのような権利侵害から住民を救済すべき責務を負うべきであるから,被告は,米軍の活動を制限することができ,また,制限すべきである。
b 米軍に対する国内法の適用
(a) 領域主権の原則
国は,国際法上,自国領域内において,条約などによる特別の制限がない限り,排他的な統治権を行使することができる(領域主権)。他方,国内に駐留する外国軍隊を受入国の国内法令の適用から除外する一般国際法の規則は存在しない。そのため,領域主権は,領域内にある外国の軍用機に対しても,当然に及ぶ。
したがって,我が国の国内法は,米軍機に対しても適用されるべきである。
(b) 地位協定3条,16条
地位協定3条1項は,1文で,日本に在る米軍基地内に関しては,米軍の広範な管理権を認めている一方,基地外については,2文で,「日本国政府は,…それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地,領水及び空間において,関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。」と規定し,米軍が基地外の基地周辺で採り得る措置を我が国の関係法令の範囲内に限っている。
また,基地内で米軍が採り得る措置は,その結果が基地内にとどまる限りは我が国の法令の適用を受けないと考えられるものの,本件航空機騒音のように,結果が基地外に及ぶ場合は,米軍は,地位協定3条3項により,公共の安全に妥当な考慮を払わなければならない。すなわち,米軍が我が国の規制に従う義務を負うので,地位協定3条3項は,米軍の基地使用権に対する制約原理となっている。
さらに,地位協定16条は,米軍における我が国の国内法の遵守義務を定めているところ,地位協定は,全体として,我が国の国内法が米軍に対して原則として適用されることを前提とし,我が国の国内法が適用されない場合は,個別具体的に規定するという構造となっている。
したがって,我が国の国内法は,米軍機に対しても適用されるべきである。
(c) 地位協定18条5項
地位協定18条5項は,主権免除が認められる場合でも,不法行為から生ずる周辺住民の請求を処理するために設けられた規定である。そうすると,地位協定18条5項は,金銭請求に限った規定ではなく,条約上の「特段の定め」に当たるといえる。
したがって,国を被告とする差止請求は,可能というべきである。
(d) 航空法97条
日本の上空は,米軍専用空域を含む領空に関しても,その使用又は規制に関する最終決定権が我が国政府に留保されている。航空機の航行など空域利用に関わる事項については,航空法に対する除外規定又は変更規定が置かれているものの,航空法の規定は,除外規定がない限り,米軍にも適用される。「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定及び日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」(昭和27年法律第232号。以下「航空特例法」という。)は,航空法97条(航空管制権)の規定について適用を除外していない。
したがって,被告は,航空管制権に基づいて米軍機の運航を規制することができる。
(イ) 被告の差止責任
a 共同妨害者としての責任
被告は,普天間飛行場の敷地につき,「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」を制定し,又は土地使用特措法を適用して,使用権原を取得し,アメリカ合衆国に提供した上,本件航空機騒音による被害が継続,増大していることを認識しながら,特段の対策を講ずることなく,施設,便益を供与し,いわゆる「思いやり予算」などの莫大な税金を投じて,普天間飛行場の維持管理に協力,関与してきた。このように,被告は,普天間飛行場の維持管理・航空機の離着陸などに直接・間接に関与,協力してきているから,侵害行為への関与,態様は悪質であるというべきである。
したがって,被告は,米軍と一緒になって原告らの権利を違法に侵害する状態を生じさせている共同妨害者であるというべきである。
b 普天間飛行場の提供者としての責任
仮に被告が米軍との共同妨害者であるといえないとしても,普天間飛行場は,違法な権利侵害を生じさせるような施設・区域であるので,欠陥施設・区域というべきであり,被告が当該欠陥施設・区域を提供して,米軍が本件航空機騒音による被害を発生させている以上,被告は,米軍による権利侵害状態の誘引者である。また,被告が,前記aのとおり,本件航空機騒音による被害を認識しながら,特段の対策を講ずることなく,普天間飛行場の維持管理に協力,関与している。
したがって,被告は,普天間飛行場の提供者として,米軍による権利侵害状態を除去すべき義務を負っているので,差止請求の相手方となるというべきである。
(ウ) 差止め内容の合理性,実現可能性
人が,一般に,昼間の活動を終えて休息に入ろうとする時間は,午後7時ころであり,夜間の休息を終えて翌日の新たな活動に入ろうとする時間は,午前7時ころである。そこで,毎日午後7時から翌日午前7時までの普天間飛行場における航空機の離着陸の禁止及び原告ら居住地に55ホンを超える騒音となるエンジンテスト音等を発する行為の制限並びに毎日午前7時から午後7時までの原告ら居住地における65ホンを超える騒音の制限を求めることは,原告らが人であるに相応しい生活をする上で最小限の規制として合理的である。
また,このような制限は,飛行経路や訓練時間・内容を配慮し,エンジン調整を行う場所等を住民のために配慮すれば,実現可能である上,日米合同委員会(地位協定25条に規定する合同委員会をいう。以下同じ。)において平成8年3月28日に合意された「嘉手納飛行場及び普天間飛行場における航空機騒音規制措置」(以下「平成8年規制措置」という。)の性質上,当然に導かれる法律効果というべきである。
(2) 損害賠償請求の根拠条文
原告らは,本件損害賠償請求の根拠して,法的には,①国家賠償法1条1項及び民法719条,②「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定の実施に伴う民事特別法」(昭和27年法律第121号。以下「民事特別法」という)1条又は③民事特別法2条を選択的に主張する。
ア 国家賠償法1条1項及び民法719条
米軍は,普天間飛行場の設置から現在まで,普天間飛行場の使用方法を誤り違法な本件航空機騒音を発生し続けており,不法行為者である。
普天間飛行場の敷地の92%は,もともと,民有地であったところ,被告は,沖縄の復帰に伴って,米軍の接収した普天間飛行場の土地の使用権原が消滅するはずであるのに,これに先立ち,土地所有者との間に使用契約を締結することができない土地について,「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」を制定し,使用権原を取得した上で,アメリカ合衆国に提供した。その後も,被告は,同様の土地について,同法の規定により,又は土地使用特措法に基づく強制使用の認定を受けて,使用権原を取得したとして,アメリカ合衆国に提供している。
また,被告は,米軍の違法行為を抑止せず,年間約3000億円に達するいわゆる「思いやり予算」などの莫大な税金を投ずることによって,アメリカ合衆国の違法行為を助長・促進させ,原告らの損害拡大に積極的に寄与した。
さらに,普天間飛行場の出入りについては,地位協定3条1項2文及び3文により,被告が管理主体であり,米軍といえども,日米合同委員会を通ずる我が国政府及びアメリカ合衆国政府の協議会により,かつ関係国内法令の範囲内で必要な措置を採ることができるにすぎない。また,米軍機といえども,航空法97条1項により我が国の国土交通大臣の承認がなければ,航空交通区又は航空交通管制圏を飛行できない。そのため,被告は,米軍機の普天間飛行場への出入り及び飛行について直接に関わりを有し,米軍機の飛行を積極的に承認してきた。
そうすると,被告は,普天間飛行場の維持管理・航空機の離着陸などに直接・間接に関与,協力し,原告らの被害を維持助長してきているといえるから,本件航空機騒音による侵害行為について,米軍と共同の不法行為者というべきである。
そして,米軍が提供施設を違法に利用し,これによって原告らの人格権,環境権及び平和的生存権を侵害しているから,外務大臣及び那覇防衛施設局長(平成19年9月1日からは,沖縄防衛局長。以下同じ。)は,かかる住民の権利を保護・擁護する憲法上の義務を負う施設提供者として,速やかに地位協定2条2項及び3項,3条3項並びに16条等に基づき米軍に対して違法行為を中止するように要求し,米軍がこの要求に応じない場合には,施設の提供を拒否しその返還を求めるなど,その違法行為を中止させる措置を採る義務を負うというべきである。
そうであるのに,被告は,自ら積極的に米軍による本件航空機騒音の発生に寄与し,また,米軍の違法行為を中止すべき義務を尽くしていない。
したがって,被告は,国家賠償法1条1項及び民法719条の規定に基づき,米軍とともに共同不法行為者として,本件航空機騒音等による原告らの損害を賠償する責任を負うというべきである。
イ 民事特別法1条
本件航空機騒音によって原告らに損害を与える行為は,後記(3)のとおり,原告らに対する違法な侵害行為であるから,米軍の構成員又は被用者が職務を行うについてした不法行為である。
したがって,被告は,民事特別法1条の規定に基づき,本件航空機騒音による原告らの損害を賠償する責任を負うというべきである。
ウ 民事特別法2条
普天間飛行場は,民事特別法2条にいう「合衆国軍隊の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件」に該当する。
同条にいう「設置又は管理の瑕疵」は,国家賠償法2条1項にいう「営造物の設置又は管理の瑕疵」と同様の解釈がされるべきであって,営造物(土地工作物)が通常有すべき安全性を欠いていることをいい,これは物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥による危険性が存する場合のみならず,その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含み,また,その危害は,営造物の利用者に対するもののみならず,利用者以外の第三者に対するものも含まれる。
普天間飛行場は,人口が密集する宜野湾市の中心に位置しており,「世界で最も危険な米軍基地」といわれる基地であり,本件航空機騒音によって不可避的に原告らに甚大な被害を与えている。そうすると,普天間飛行場の設置には,本質的内在的に瑕疵があり,また,米軍が昼夜を問わず米軍機を離着陸させ,又はエンジン調整をし,有効な被害軽減措置を採らずに原告らに被害を与えてきたことは,普天間飛行場の供用は,後記(3)のとおり,原告らに対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるので,普天間飛行場の設置のみならず,その管理にも瑕疵があるといえる。
したがって,原告らの損害は普天間飛行場の設置又は管理の瑕疵によって生じているから,被告は,民事特別法2条の規定に基づき,本件航空機騒音による原告らの損害を賠償する責任を負うというべきである。
(3) 侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性
ア 違法性の判断方法
(ア) 人の健康は,人の生命と同様,人間の最も基本的な権利であり,他のあらゆるものに優越するので,他の要素との比較衡量にはなじまない。また,人の健康を上回る公共性はない。
ここでいう「健康」とは,身体的被害に限られるものではない。現代において,生活の質や環境の質が人間の本質であると理解されているので,生活妨害全部や精神的被害が身体的被害よりも価値の低いものと理解するのは相当でないから,生活妨害全部及び精神的被害は,「広義の健康被害」の一部として,身体的被害と同様に保護されるべき利益と捉えるべきである。原告らの被った生活妨害全部及び精神的被害は,身体的被害に準ずる程度の重大かつ深刻な被害であるといえる。
したがって,生活妨害全部及び精神的被害は,身体的被害と同様,他の要素との比較衡量にはなじまないので,被害の存在を違法性の判定の一要素とし,侵害行為の態様や侵害行為のもつ公共性の内容と程度などと利益衡量する受忍限度論を採用する余地はないというべきである。
(イ) 仮に受忍限度論を採用するとしても,本件航空機騒音による原告らの被害が後記ウのように重大かつ深刻である一方で,後記エ及びオのとおり,普天間飛行場に公共性がなく,被告の騒音対策も不十分であるから,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場の供用は,受忍限度を超える被害を生じさせる違法なものと評価すべきである。
イ 侵害行為
原告らは,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在まで,本件コンター内に居住している間,本件航空機騒音に日夜暴露されてきた。
(ア) 本件航空機騒音の種類と特徴
a 普天間飛行場には,おおむね固定翼機15機,ヘリコプター56機,合計71機の米軍機が配備されている。
また,普天間飛行場に所属していない米軍機も頻繁に普天間飛行場に離着陸しており,その主なものは,ジェット戦闘機FA-18ホーネット,AV-8ハリアー,対潜哨戒機P-3C等である。
b 普天間飛行場周辺では,aの米軍機の離着陸,通過,旋回,タッチアンドゴー(離着陸を繰り返す訓練をいう。以下同じ。),エンジン調整による騒音が発生しており,本件航空機騒音には,これらが含まれている。このタッチアンドゴーは,毎日のように繰り返されている。普天間飛行場周辺は,タッチアンドゴーにより一定時間毎に長時間にわたってこれによる騒音に暴露されている。また,エンジン調整による騒音は,低音で,持続時間が長い。
普天間飛行場が他の飛行場と異なる特徴は,配備されている米軍機の多くがヘリコプターであるため,ヘリコプターによる騒音が比較的多くを占めていることにある。ヘリコプターは,その離着陸の飛行経路が滑走路延長線上にとどまらず,滑走路と交差する東西のいずれの側からも離着陸しており,これによる騒音はあらゆる方向から発生している。ヘリコプターによる騒音は,持続時間の長さや音の低さ等の点で,固定翼機とは異質である。
(イ) 本件航空機騒音の実態
a 本件コンターの指定当時
本件コンターは,防衛施設庁(当時)が昭和52年12月に1週間かけて行った調査に基づいて指定されている。この調査は,嘉手納飛行場と併せて合計127か所という測定点の多さ,実際の飛行状況の確認による防衛施設庁方式のW値を算出するためのデータの収集という点から,現在までのところ,もっとも大規模かつ詳細で,正確なものといえる。
そして,本件コンターは,この調査時に作成された騒音コンターそのものではなく,住宅や道路,河川等の境界に応じて修正されて指定されているもので,これにより原告らの居住地の騒音レベルをそれぞれ表示しているところ,これらは同騒音コンターと近似する。
しかも,防衛施設庁方式のW値は,環境基準方式の算定方式及び測定方法が1日に10機以上の飛行のある民間空港(空港整備法(昭和31年法律第80号)2条1項が規定する空港をいう。以下同じ。)を対象としているのに対し,環境基準方式を軍用飛行場の特性に即して一部修正することにより,軍用飛行場の騒音実態をより適切に表示するように工夫されている。そのため,防衛施設庁方式のW値は,軍用飛行場の実態を表すW値として,科学的意味を有するので,現段階では,低周波音(周波数1~80Hz又は1~100Hzの範囲の音をいう。以下同じ。)の問題を除けば,極めて適切なものである。
したがって,本件コンターのW値は,環境基準方式で算定されたW値と同等の価値を有するので,本件コンターを基本的なよりどころとして,それに補充するものとして他の騒音測定データを用いて本件航空機騒音の暴露状況を把握すべきである。
しかも,本件コンターについては,騒音コンターを作成する際に,7日間の計測によって総飛行回数の90パーセンタイル値(パーセンタイルとは,データの値を小さい方から並べたときに,データ数の当該パーセントの位置に相当するデータの値をいう。以下同じ。)を求めるに当たり,累積度数曲線における計測データのプロット位置を誤って0.5日ずれてプロットした結果,本件コンターのW値が全体的に2.5程度低く算出されているので,本件コンターのW値が全体的に過小評価されていることをしん酌すべきである。
b 本件コンター指定当時から現在まで
本件航空機騒音の暴露状況には,本件コンター指定当時から現在まで,大きな変動がみられない。
(a) 沖縄県調査報告書作成時の調査
沖縄県は,普天間飛行場周辺で,県等測定局の外,いずれもW値70以上75未満の区域にある測定局4局合計8局をオンライン化するモニタリングシステムにより,本件航空機騒音を測定している。
沖縄県調査委員会は,平成9年9月から平成10年8月末までの1年間の同モニタリングシステムの測定結果を集計し,本件コンターの指定当時から20年後の騒音暴露状況を調査した。この調査では,同モニタリングシステムの測定結果から,環境基準方式のW値とLdn(昼夜等価騒音レベル(Day-night sound level)。夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の騒音レベルに10dBを加えてから24時間のLeqを求めたものをいう。以下同じ。また,Leq(等価騒音レベル。Equivalent continuous A-weighted sound pressure level)とは,LAeqとも表記され,ある時間範囲について,変動する騒音の騒音レベルをエネルギー的な平均値として表したものをいう。以下同じ。)について年間最大値,98パーセンタイル値,90パーセンタイル値,エネルギー平均値を算出し,更に継続時間補正,着陸音補正を行い,年間総飛行回数の90パーセンタイル値を用いた防衛施設庁方式に近似するW値(以下「沖縄県調査施設庁方式近似W値」という。)を算出した。
この測定結果から沖縄県調査施設庁方式近似W値をみると,W80区域にある県野嵩測定局及び県上大謝名測定局はそれぞれ81,88であり,W75区域にある県新城測定局及び市真志喜測定局はそれぞれ77,74であった。これらの数値から,本件航空機騒音の暴露状況は,年間を通して,本件コンターの指定当時から20年を経ても全く軽減されず,上大謝名地域においては,本件コンターのW値よりも高い騒音暴露を受けているということができる。
また,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の騒音については,Leq(昼夜別)の1日値が,最大値と年間平均でそれぞれ,県野嵩測定局62dB,47dB,県上大謝名測定局69dB,49dB,県新城測定局61dB,43dB,市真志喜測定局55dB,37dBであるのに対し,夜間の最大騒音レベル(Lmax,night)が,最大値と年間平均でそれぞれ県野嵩測定局100dB,83dB,県上大謝名測定局109dB,88dB,県新城測定局98dB,78dB,市真志喜測定局92dB,73dBとなっている。世界保健機関(World Health Organization。以下「WHO」という。)は,睡眠妨害を防ぐためのガイドライン値として,屋内でLmax45dB,屋外でLmax60dBと定めており,本件コンター内においては,Lmax,nightの平均値のレベルが73~88dBとなっているので,日常的に睡眠妨害を生じさせ得る騒音が発生している。
さらに,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の騒音発生回数は,最大と平均がそれぞれ県野嵩測定局18回,0.5回,県上大謝名測定局6回,0.4回,県新城測定局40回,1.3回,市真志喜測定局16回,0.5回である。これを平均してみると,2,3日に1回以上は,夜間の航空機騒音に暴露されているといえる。
(b) 常時測定局の測定データ
沖縄県による前記(a)のとおりの平成9年度から平成17年度までのモニタリングシステムにおける測定結果により本件航空機騒音の発生状況の推移をみると,県等測定局において,次の①から⑤までのとおりであり,本件航空機騒音による激甚な被害が継続しているといえる。
① 最大騒音レベル
最大騒音レベルは,県野嵩測定局で112.0~119.0dB(A),県上大謝名測定局で114.5~123.0dB(A),県新城測定局で103.7~110.7dB(A),市真志喜測定局で96.5~105.1dB(A)の間で推移しており,非常に激しい騒音が発生している。
② 1日平均騒音発生回数及び日平均継続累積時間
1日平均騒音発生回数は,県野嵩測定局で19.5~31.2回,県上大謝名測定局で39.7~90.5回,県新城測定局で21.6~73.0回,市真志喜測定局で15.1~35.4回の間で推移している。騒音発生回数は,測定局や年度毎に相当のばらつきがみられ,特定の傾向はうかがえないも,普天間飛行場周辺住民は,休日を含めて平均しても常に1日十数回から数十回まで発生する騒音に暴露されているといえる。しかも,1日平均騒音発生回数には相対的に騒音発生回数が少ない土曜日,日曜日も含まれているので,平日は,これらの数値をはるかに上回っているといえる。
また,騒音の継続時間を累積した1日平均継続時間をみても,本件航空機騒音の発生状況の変化について一定の傾向はみられず,本件航空機騒音が軽減されている状況にはない。
③ 土曜日及び日曜日の騒音発生回数
土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数は,地域や年次によってばらつきがあるが,相対的に少ない県野嵩測定局や市真志喜測定局でも,日曜日におおむね2~4回,土曜日には2~15回程度に増えており,騒音発生回数の多い県上大謝名測定局では日曜日で2~20回程度,土曜日では40回近くの年度も存する。県上大謝名測定局や県新城測定局では平成12年度から騒音発生回数が増大している。また,どの測定局でも日曜日より土曜日の方が騒音発生回数が多く,おおむね2倍前後の回数で推移している。これらによれば,休日といえども相当程度の騒音が発生しているといえる。
④ 夜間における騒音の月平均発生回数
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)における騒音の月平均発生回数は,測定局,測定年次により相当なばらつきがみられるものの,いずれの地域においても,恒常的に2,3日に1回から1日に2,3回までの頻度で騒音が発生している。沖縄県調査委員会が平成9年9月から平成10年8月末までの測定結果から算出した夜間の騒音発生回数が,前記(a)のとおり1日あたり0.4~1.3回であったことに比べ,より高い頻度で騒音が発生している。
⑤ 環境基準超過率及び年間W値の推移
県等測定局は,いずれも昭和48年環境基準の類型Ⅰで,環境基準がW値70以下とされている地域内にあるところ,環境基準を超過した日数の割合(以下「環境基準超過率」という。)をみると,県野嵩測定局と市真志喜測定局ではやや環境基準超過率が低下している一方,県上大謝名測定局では高水準のまま推移し,県新城測定局では激増している。環境基準超過率は,県上大謝名測定局では,おおむね70~80%であり,年間の多くの日で環境基準を超過しており,県新城測定局や市真志喜測定局でも,おおむね20~40%強となっており,相当程度の超過日数がある。
また,年間W値は,県野嵩測定局で72.0~79.3,県上大謝名測定局で78.7~86.8,県新城測定局で69.2~73.0,市真志喜測定局で66.2~71.1の間を推移している。沖縄県調査委員会がこれら常時測定局の同じデータを元に騒音暴露状況を解析した平成9年9月から平成10年8月末までの年間W値と,それ以降のW値とは,ほぼ変化がない。すなわち,本件航空機騒音の暴露状況は,本件コンターの指定当時,沖縄県調査委員会による調査時,それ以後現在までの期間にわたって,減少せず,ほとんど変化していないといえる。年間W値も,本件コンターのW値の水準で,県上大謝名測定局にあってはそれを上回る水準で推移している。
しかも,これらのW値は,いずれも環境基準方式によるところ,防衛施設庁方式のW値が環境基準方式のW値よりも相対的に一定程度高くなるので,環境基準方式により計測されたW値には,少なくとも3を加えた数値に基づいて評価をすべきである。また,そのため,環境基準超過率も,防衛施設庁方式で算出し直すと,相当程度増加するとみられるので,上記環境基準超過率は,控えめなものとして理解すべきである。
(c) 検証の結果
平成19年5月17日に実施された検証の結果では,主として遠方を飛行するヘリコプターによる騒音や,固定翼機のうちでも戦闘機や輸送機に比較して騒音が小さめの対潜哨戒機による騒音だけが観測された。それにもかかわらず,LAmax55.8~90.7dB,うち75dBを超えたのが合計15回,LAeq51.7~78.7dBという騒音が発生していた。WHOにおいて居住地域(屋外)で昼間と夕方に「高度に不快」となる値がLAeq55dB,寝室(屋外)で窓を開けた状態での睡眠妨害の値がLAeq45dB,LAmax60dBとされているところ,上記の騒音は,このWHOの環境騒音のガイドラインの数値をほとんど超している。
(d) 本件航空機騒音の実態の評価について
平成14年度から本件航空機騒音の減少がみられるところがあるとしても,本件航空機騒音が減少傾向にあることを示すものではない。すなわち,アメリカ合衆国は,平成13年9月11日に同国で同時多発テロ事件が発生したのを契機に,同年10月7日に,イギリスとともに,アフガニスタンへの武力攻撃を開始し,平成15年3月20日にはイラクへの武力攻撃を開始した。沖縄に在る米軍もこれらの武力攻撃に派遣されており,普天間飛行場の海兵隊も同武力攻撃における戦闘行動に参加したため,ヘリコプターを含む普天間飛行場所属の米軍機も大量に作戦に組み込まれ,前線に派遣されている。平成14年度と平成15年度の数値減少の背景には,このような事情が作用していると推認され,あくまで特殊な政治的・軍事的要因に起因するものであり,一般的傾向を示すものではない。
原告らは,本件航空機騒音の実態を評価する前提として,原告らの共通被害を通常在宅している夜間,休日における本件航空機騒音の暴露を共通のものと捉えているのではなく,本件コンター内に居住する原告らについて1日24時間の生活の中で生ずる広義の健康被害と捉えており,また,W値も1日24時間を通して騒音に暴露されていることを前提に算出されたものではない。そのため,被告主張(3)イ(イ)のように,「原告らの共通被害を前提として本件航空機騒音の実態を評価するに当たり,1日24時間を通して騒音に暴露されていることを前提に算出されたW値を用いることは不当であり,一定の合理的な根拠により,多くの原告らが騒音に暴露されていないと推定される時間帯の騒音を控除して算出されたW値を用いるべきである」とはいえない。
(ウ) 本件低周波音
普天間飛行場は,日本に在る米軍基地でも有数のヘリコプター基地である。原告らは,本件コンター内に居住している間,本件航空機騒音のみならず,普天間飛行場に離着陸等する米軍機,特にヘリコプターの発する低周波音(以下「本件低周波音」という。)にも暴露されてきた。
a 低周波音の意義
「音」とは,空気中を伝わる波,すなわち空気振動であり,その1秒間の振動数(周波数)をHz(ヘルツ)という単位で表す。
人の耳は,一般に20~2万Hzの間の音を聞き取ることができる。これを「可聴域」という。可聴域の範囲外である20Hz以下の聞こえない音を「超低周波音」という。
人の耳の感度は,2000~4000Hz辺りが最も良好で,それより高くなっても低くなっても聞き取りが悪くなる。特に100Hz以下では急速に感度が低下する。100Hz以下の聞こえにくい低音は,超低周波音を含めて一般に「低周波音」といわれる。
b 騒音及び低周波音の測定方法
① A特性とF(フラット)
普通の音(騒音)は,通常,騒音計の「A特性」で測定される。この結果として得られるdB(A)という数値は,20~8000Hzの音を合計した数値である。A特性は,人の耳の感度に合わせて低い周波数を小さく評価するように補正するので,実際に強烈な低周波音が出ていても,その音圧を正確に計ることはできない。
一方,人の聴覚による感覚補正をせず,なるべく平坦に測定するようにしたものがF(フラット)であり,通常,騒音計の「F」の目盛りに合わせると測定することができるようになっている。Fは,平坦特性と呼ばれ,10~2万Hzの音を合計した数値である。
② G特性とSPL
G特性とは,1~20Hzの超低周波音の人体感覚を評価するための周波数補正特性であり,可聴音(人が聴くことができる音をいう。以下同じ。)における聴覚補正特性であるA特性に対応する。この結果として得られるdB(G)は,0.5~200Hzの音を合計した数値である。
一方,SPLは,G特性のような補正をせず,周波数特性が平坦である。SPLは,1~1000Hzの音を合計した数値である。
③ W値と低周波音
W値の算定の基礎となる騒音は,dB(A)のみであるところ,dB(A)は,前記①のとおり,低い周波数を小さく評価するように補正されており,低周波音の音圧がほとんど反映されない。
c 低周波音と騒音との相違
低周波音は,周波数が低くため,波長が長いので,騒音よりも音源から遠くまで響き,かつ防音対策の効果が小さい。
現実には,同じ音源から,騒音と低周波音の両方が発生することが多い。
d 本件低周波音の発生とその程度
沖縄環境ネットワークが,平成11年3月に,普天間飛行場周辺8か所及び嘉手納飛行場周辺1か所において,米軍機が発する低周波音について主にSPLによる測定調査を行った結果,①米軍機の音圧は騒音より低周波音の方が大きいこと,②家屋の防音工事は低周波音の低減対策にならないこと,③低周波音は騒音より遠くまで伝わり,被害範囲は広くなること,④エンジン調整とタッチアンドゴーは,甚大な低周波音被害をもたらすこと,⑤米軍機が発する低周波音は,不定愁訴など身体に影響があるとされる周波数と重なる典型的な低周波音域に属することが判明した。
また,沖縄県が平成13年から平成17年までに普天間飛行場周辺においてG特性を用いて実施した低周波音調査の結果,普天間飛行場に所属するヘリコプターは,CH-53が20及び25Hz,CH-46が12.5及び16Hz,AH-1が10及び20Hzの低周波音が主に発すること,騒音よりも低周波音の方が音圧が高いこと,低周波音は騒音と比べて室内でも軽減されないこと等が明らかになったほか,環境省「低周波音問題対応の手引書」で定められた心身に係る苦情に関する参照値である92dB(G)超える数値が複数年度にわたり測定されている。
ウ 原告らの被害
(ア) 被害認定の在り方
a 「広義の健康被害」
原告らは,本件航空機騒音により,生活妨害全部,精神的被害及び身体的被害が一体と捉えられる「広義の健康被害」を受けている。
原告らのうち相当数の者には,睡眠妨害,生活妨害,精神的被害のほか,難聴,耳鳴り,高血圧,胃腸障害等の身体的被害(狭義の健康被害)が生じているほか,頭痛,肩こり,目まい,心悸亢進,不眠症,疲労感,食欲不振等のような不定愁訴等が生じている。
もともと,生活妨害全部及び精神的被害と身体的被害(狭義の健康被害)とは,せつ然と区別することができるものではない。生体に対して外界から何らかの刺激(ストレッサー)が加えられると,その生体には,健康状態の変化を伴う何らかの徴候(ストレス反応)が現れる。このストレス反応には,主観的認識が伴う場合とそうでない場合とがある。WHOが「健康とは,身体的,精神的ならびに社会的に完全に良好な状態をいうのであって単に病気や虚弱でないことをいうのではない」と健康概念を定義していることからも,生活妨害全部及び精神的被害は,身体的被害と切り離された全く別個の被害ではなく,「広義の健康被害」に包摂されるといえる。本件航空機騒音により身体に生ずる悪影響それ自体が「広義の健康被害」の基盤を構成し,個々の原告らに生ずる生活的・精神的・身体的影響の諸現象は,「広義の健康被害」の発現形態の差異にすぎない。
しかも,生活妨害全部及び精神的被害と身体的被害とは,日常の経験からそれぞれ相互に関連し合っているといえる。すなわち,身体的に不健康があれば精神的にも苦痛であり,生活にも被害を受ける。逆に,精神的ストレスが,胃腸の不調,頭痛,ときには血圧亢進を起こすこともよく知られている。生活上の様々な困難が,精神的のみならず身体的な不健康をもたらす例は少なくない。
したがって,生活妨害全部,精神的被害,身体的被害という3つの側面は,常に密接に関連しており,この3つの側面を一体として捉えて,「広義の健康被害」として統一的に把握すべきである。
b 共通被害
「広義の健康被害」は,原告らが本件コンター内に居住することにより最低限度共通に生じている被害である。
本件航空機騒音による健康被害の発生は,地域住民全体にとって極めて重大な関心事であるので,身体的被害(狭義の健康被害)の発生又はその危険性の存在は,地域住民にとっての共通の精神的被害であるから,原告らの共通被害となる。
「低出生体重児の出生」,「幼児問題行動」及び「学習環境の破壊」の子供の被害は,単なる生活上の被害にとどまらず,「広義の健康被害」である。特に,このような被害が普天間飛行場周辺の子供に発生していることは,原告らを含む地域住民全体としても,重大な関心事である。そのため,普天間飛行場周辺の子供がこのような被害を受けていることは,地域住民にとっての共通の精神的被害であるので,原告らの共通被害となるというべきである。
c 本件コンターによる共通損害の推定
航空機騒音は,音響出力,音量が大きく,騒音の及ぶ範囲が広大であり,建物や建造物等によって遮音,回避が困難であり,また,騒音の発生が間欠的で,1回の飛行による持続時間は長くない。特にジェット機の場合には,高周波成分を含む金属的な音質であり,軍用機における離着陸の騒音は,民間機よりも音の立ち上がりが鋭く,突発的に襲来し,通常のジェット機より一層不快な金属音・衝撃音を伴う。ヘリコプターの場合,360度低空飛行である。本件航空機騒音は,これらの特質を有する。
また,軍用飛行場においては,飛行経路,飛行時間帯及び飛行態様が一定せず,年間又は数年を通じて,騒音レベル,飛行回数,飛行時間帯及び飛行コースが著しく変動するので,原告らは,本件航空機騒音に突然暴露される。そのため,原告らに対する本件航空機騒音による被害は,すさまじい。
そして,本件コンターは,騒音暴露レベル自体が常に変動するものであることを踏まえて,住民各々の性別,年齢,家族構成,職業,身体的条件,騒音暴露時間等が相違していることを当然の前提として作成されている。そのため,原告らは,その居住する住宅の構造,生活形態等の個々の生活状況の相違による騒音暴露時間やその程度を捨象して,本件コンターの区分毎にそれに相応する「広義の健康被害」を被っているといえる。
したがって,原告らの本件航空機騒音による被害は,本件コンター内に居住していることから推定されるべきである。
(イ) 生活妨害
原告らは,本件航空機騒音により,会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害の生活被害を受けている。
本件航空機騒音により,家庭,職場及び学校等での会話や通話が妨害されている。人間は,日常生活を送る中で様々な人と会話をしており,人とのコミュニケーションにおいて会話の占める位置は大きい。普天間飛行場周辺では,本件航空機騒音によって,かかる基本的なコミュニケーション手段である会話が著しく妨害されている。また,原告らは,本件航空機騒音により,現代社会にとって必要不可欠な情報獲得手段であるテレビやラジオの聴取も妨害されている。沖縄県調査の結果においても,W値の区分が高くなるに従って,反応率が上昇しているから,航空機騒音と会話妨害,通話妨害,テレビ聴取妨害との間に量反応関係がみられる。
また,原告らは,本件航空機騒音により,音楽観賞,楽器演奏,無線通信等の趣味生活や,学習や読書等の知的作業も妨害されている。
さらに,原告らには,本件航空機騒音により,積極的永住志向が低下するなど生活環境の悪化の被害も生じている。
本件航空機騒音が,人が日常生活を送る上で極めて重要な活動を日常的に妨げているので,原告らの被害は,深刻である。
また,航空機騒音は,間欠的であるため予測することができないから,各種の生活妨害を防止することが困難である。そのため,本件航空機騒音は,被告主張(3)ウ(イ)のように,間欠的で一過性のものであるから,「会話,通話,テレビ・ラジオの聴取に対する影響は,あったとしても,極めて軽微である」とはいえない。
そして,本件航空機騒音の状況がWHOの環境騒音のガイドラインが示している指針値を大きく上回っていることは,原告らが生活妨害の被害を受けていることを裏付けている。
(ウ) 睡眠妨害
原告らは,本件航空機騒音により,睡眠妨害の被害を受けている。
本件航空機騒音は,平日のほぼ毎日,午後11時ころまで,また,午前6時ころから,断続的かつ多数回発生しており,原告らの睡眠を妨げている。沖縄県調査の結果においても,W値の区分が高くなるに従って,反応率が上昇しているから,航空機騒音と睡眠妨害との間に量反応関係がみられる。騒音による睡眠妨害は,睡眠中に入眠の困難,覚せいや睡眠深度の変化,呼吸数の変化,体動の増加などの一次影響が生じ,騒音の暴露を受けた翌日以降にも翌朝やその後何日間かに現れる不眠感,疲労感,憂うつ,作業能率の低下などの二次影響が生ずる。妨害を受けない睡眠は,身体的・精神的な機能を良好に保つために必要不可欠である。
WHOの環境騒音のガイドラインの指摘や各種調査研究の結果に照らせば,騒音レベル40dB(A)の段階から睡眠妨害が発生することは科学的にも証明されているので,被告主張(3)ウ(ウ)のように,「どの程度の騒音があれば,人の睡眠を妨げるか」などは「明らかでない」などとはいえない。
(エ) 精神的被害
原告らは,本件航空機騒音,特にヘリコプターによる騒音により,イライラ感や集中力の欠如などの著しい不快感を受けている。沖縄県調査の結果においても,W値の区分が高くなるに従って,反応率が上昇しているから,航空機騒音とうるささとの間に量反応関係がみられる。沖縄県調査の結果では,W75区域でも,「たいへんうるさい」と回答する者の割合が20%を超え,「かなりうるさい」及び「少しうるさい」と回答する者を含めると,その反応率は,90%となる。W80区域では,「たいへんうるさい」と回答する者の割合が30%を超えている。
しかも,原告らは,イライラ感や不快感にとどまらず,本件航空機騒音により,普天間飛行場を離着陸する米軍機の墜落への恐怖感や不安感及び戦争への恐怖感を受けている。すなわち,原告らの多くは,普天間飛行場に離着陸する固定翼機や,旋回訓練,タッチアンドゴーをしているヘリコプターが,民家から非常に近い位置を超低空で飛行していることから,墜落への恐怖感や不安感を訴えている。原告らは,特に平成16年に沖縄国際大学にヘリコプターが墜落した事故が発生してからは,墜落への恐怖感を現実的なものとして感じている。また,普天間飛行場を離着陸する戦闘機やヘリコプターは,聴覚的にも,原告らに直接戦争への恐怖を想起させている。
(オ) 身体的被害
原告らは,本件航空機騒音により,難聴や耳鳴り,高血圧の身体的被害(狭義の健康被害)を受けている。沖縄県調査において,嘉手納飛行場周辺に居住する者12症例に航空機騒音に起因すると強く疑われる騒音性聴力損失が生じていると結論付けていることなどから,普天間飛行場周辺に居住する原告らにおいても,騒音性聴力損失の被害が発生し,又は発生する危険性が高いといえる。そして,本件コンターのW値は,前記イ(イ)aのとおり,全体的に過小評価されているので,本件コンターのW値が嘉手納飛行場周辺のW値よりも低いことから,普天間飛行場周辺において聴力障害を生ずる危険性がないとはいえない。
沖縄県調査の結果,最高血圧及び最低血圧とも,W値との間に有意な関連がみられる。
原告らが訴える症状は,難聴や耳鳴り,高血圧だけでなく,頭痛や肩こりに加え,動悸,めまい,不眠,疲労倦怠感など様々である。このように,普天間飛行場周辺では,多数の原告らが様々な身体的被害を具体的に訴え,かつ,これらの身体的被害は原告に限らず同居の家族らにも発生している。音というものは,その場にいる者に等しく聞こえるので,本件航空機騒音は,影響の度合いに個人差こそあれ,原告らを含む普天間飛行場周辺住民に対し,極めて深刻な健康被害を生じさせている。
したがって,身体的被害(狭義の健康被害)の発生又はその危険性の存在は,原告らの共通の精神的被害となっている。
(カ) 子供の被害
原告らは,普天間飛行場周辺住民として,本件航空機騒音により,普天間飛行場周辺に居住する子供に「低出生体重児の出生」,「幼児問題行動」及び「学習環境の破壊」の被害が生じていることに伴い,精神的被害を受けている。
本件航空機騒音は,普天間飛行場周辺に居住する妊婦に影響を与え,低出生時体重児の出生率を高めている。沖縄県調査の結果では,騒音暴露量と,嘉手納飛行場のある嘉手納町における低出生体重児の出生率のみならず,宜野湾市における低出生体重児の出生率との間にも,量反応関係がみられる。低体重で出生した子供は,心身の発達面における負の要因を背負って成長せざるを得ない。
また,本件航空機騒音は,普天間飛行場周辺に居住する幼児に対して,身体面では風邪を引きやすく,行動面ではぐずぐずしがちで,食欲がなく,友達作りに手間取る傾向があるとの問題行動をもたらしている。沖縄県調査の結果でも,騒音暴露量と,感冒症状,食事課題及び消極的傾向との間に,有意な量反応関係がみられる。
さらに,本件航空機騒音は,普天間飛行場周辺に居住する小学生,中学生及び高校生に対しても,健全な学習環境を破壊し,集中力や記憶力の低下などを引き起こしている。沖縄県調査の結果でも,騒音暴露量と小学生の長期記憶力との間に有意な量反応関係がみられる。医学的にも,騒音というストレッサーが免疫力の低下させ,海馬に機能的な変化をもたらした結果,記憶力の低下を招いていると説明することができる。
このように,本件航空機騒音は,妊娠・出産から,乳幼児期,小中高生という時期に至るいわば人間の成長過程全てにおいて,重大な悪影響を及ぼし続けている。そのような不可逆的な被害が普天間飛行場周辺の地域全体にとって重大な関心事となっている。
(キ) その他の本件航空機騒音による被害
原告らは,本件航空機騒音によって,大人の自治会活動も著しく阻害される被害を受けている。
(ク) 本件低周波音による被害
原告らは,本件航空機騒音と相まった本件低周波音により,不定愁訴を中心とする心身被害,建具や家具の振動等の物的被害に起因する精神的被害を受けている。
a 低周波音による被害の中心は,一般に「不定愁訴」と呼ばれる雑多でとらえどころのない症候群である。すなわち,不定愁訴は,頭痛,不眠,イライラの3つを主な症状として,頭重,肩その他のこり,動悸,胸の圧迫感,息切れ,めまい,吐き気,食欲不振,胃痛や腹痛,耳鳴り,耳の圧迫感,目や耳の痛み,腰痛,手や足の痛みやしびれ・だるさ,疲労感,微熱,風邪を引いたような感じ等,あらゆる症状がある。このような不定愁訴は,当然に「広義の健康被害」に含まれ,それと同時に,精神的苦痛・生活被害という側面も有している。
また,低周波音は,建具や家具を振動させる。原告らは,この振動の音によって,驚かされ,又はその音が耳について眠れない等の被害を受ける。不定愁訴が人間への直接被害であるのに対し,建具や家具の振動は,物質への被害であるが,その音によって人間に二次的な被害が生ずる。
原告らの多くが,こうした不定愁訴や建具のがたつき等を訴えている。
b 低周波音がもたらす一般的な被害については,厳密な意味での個別立証は不要であるというべきである。また,騒音の影響と低周波音の影響を分離して調査する手法は確立されていないものの,騒音に低周波音が加わった場合,被害が増大するというのが,音響学専門家の共通見解であり,WHOなど権威ある機関の考え方である。
①本件低周波音が発生し,人の心身に悪影響を及ぼし得る程度の強度で原告らの居住地域に到達していること,②原告らが低周波音の一般的被害と同様の症状を共通に訴えていること,③普天間飛行場周辺住民が嘉手納飛行場周辺住民と比べ高い被害感を訴えているところ,その原因につき,本件航空機騒音に限定すると説明が困難であるが,本件低周波音の影響を加味して検討すれば容易に説明することができることから,本件低周波音は,本件航空機騒音と相まって原告らの「広義の健康被害」を増悪させているといえる。
エ 被告主張の「普天間飛行場の公共性等」に対する反論
(ア) 普天間飛行場の反公共性
アメリカ合衆国は,平成13年9月11日に同国で同時多発テロ事件が発生したのを契機に,アフガニスタンへの武力攻撃を開始し,また,平成15年3月20日にはイラクへの武力攻撃を開始した。そのいずれにも,普天間飛行場に配属された米軍機が出撃している。普天間飛行場に配属された米軍機によるこれらの軍事行動等は,安保条約6条が規定する「日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与する」ことではないので,普天間飛行場の供用は,公共性に反する。
また,普天間飛行場は,住民や土地所有者の意思を暴力と権力によって踏みにじって建設され,維持されてきた上,以下のとおり,戦争のための施設であるので外部から攻撃対象となるという不安感を周辺住民に与え,住民を多くの不幸な事件・事故に巻き込み,更に宜野湾市の健全な発展を阻害しているので,公共性に反する。
すなわち,まず,①我が国は,資源もなく外交力もないから,他国がわざわざ攻撃することは考えられないので,現実的には他国から平和や安全を害されることはない。仮に我が国が他国から武力攻撃を受ける事態が起こり得るとするならば,アメリカ合衆国が世界のどこかで他国と武力衝突状態となった結果,当該他国からみて,米軍基地が置かれ,かつ米軍と共に行動する自衛隊を有する日本がアメリカ合衆国と一体とみられる場合である。また,②普天間飛行場に所属する米軍機による墜落事故等は,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在まで,79回も発生し,そのうち,平成16年8月には,沖縄国際大学に米軍機のヘリコプターが墜落する事故が発生している。これまで,日米政府間において,「沖縄の負担軽減」として検討対象となるのは,普天間飛行場であった。普天間飛行場は,宜野湾市の中心に位置し,その周辺には,住宅,商業施設等が密集しており,極めて危険である。さらに,③普天間飛行場は,沖縄本島の中部地域(沖縄市,うるま市,宜野湾市,浦添市,中頭郡の各行政区域を指している。以下同じ。)に広大な面積を占めており,嘉手納飛行場と並んで,沖縄本島の中部地域の全体の交通,産業の発展,開発を阻害する存在である。しかも,普天間飛行場は,宜野湾市の中央部に所在するから,地域の振興開発に対するマイナスは計り知れない。また,沖縄県は,自主財源比率が,平成16年度で26.33%で全国47都道府県中最下位であり,財政力指数も43位と極めて低い。この自主財源比率及び財政力指数の低さは,基地関連収入の財政に占める割合が非常に高いことを意味している。米軍基地の集中する沖縄本島の中部地域の各自治体における基地関連収入の歳入に占める割合は総じて高く,普天間飛行場のある宜野湾市も,金額ベースで15~20億円という上から2番目のグループに分類されており,財政の基地依存度は極めて高い。このような莫大な基地関連収入の存在は,本来対等であるはずの国と自治体の関係に上下関係を生じさせ,自治体の政策を拘束する結果をもたらしている。
(イ) 被告主張の「普天間飛行場の適地性及び重要性」について
被告主張の地政学的観点からの沖縄の重要性は,昭和31年のプライス勧告以来のアメリカ合衆国の戦略的認識をそのまま踏襲している。プライス勧告当時は,沖縄は,日本国とアメリカ合衆国,アメリカ合衆国とフィリピン共和国,アメリカ合衆国と大韓民国,アメリカ合衆国と台湾,アンザス(アメリカ合衆国,オーストラリア連邦及びニュージーランド)の各安全保障条約を結び付ける位置にあり,中華人民共和国及びソビエト連邦(当時)の封じ込めの戦略的拠点として重視されていた。しかし,冷戦が終結した現在は,沖縄にそのような軍事的価値はない。
また,軍事技術の発達も,軍事的観点からみた沖縄の地理的重要性を著しく低下させている。沖縄は,大量輸送手段の発達やミサイルの飛距離の増大,さらには空中給油機の普及等によって,太平洋全域に展開する米軍にとって既に必要不可欠な施設ではなくなっている。
現在の沖縄に何らかの軍事的価値があるとすれば,それはアメリカ合衆国本土からインド洋,中東,そしてアフリカへの中継地点としてであって,「日本国・極東の安全」とは無関係である。つまり,沖縄は「アメリカの世界戦略」にとって重要であるにすぎず,「日本の安全」のために重要ではない。
(ウ) 普天間飛行場の公共性の程度
仮に普天間飛行場に何らかの公共性があるとしても,公共的事業活動によって,一部の国民がその受ける被害を受忍しなければならないということにはならず,公共性の高い施設によって特別の犠牲を払った者には,それだけの保障の必要性が大きく,その負担は国民全体に転嫁されるべきである。特に,我が国内において沖縄に米軍基地を集中させ,沖縄に米軍専用施設の75%がある以上,沖縄の住民のみが,他の地域の国民のために,米軍基地による被害を甘受しなければならないわけではない。
(エ) 以上によれば,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を判断するに際しては,公共性を考慮すべきではなく,仮に考慮するとしても,過度に重視すべきでない。
オ 被告主張の「周辺対策等」に対する反論
(ア) 住宅防音工事
住宅防音工事(被告が,生活環境整備法4条に基づき,助成の措置を採って実施された住宅の防音工事をいう。以下同じ。)は,以下のaからdまでのとおり,不十分であり,原告らの本件航空機騒音による被害を軽減する施策となっていない。
したがって,住宅防音工事の実施は,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を減ずる根拠とはならないというべきである。
a 室数の制限
住宅防音工事において,防音工事を施工する室数に制限が設けられている。このような室数制限を設ければ,仮にリビングルームと応接室に防音工事を施工すれば,寝室に防音工事を施工することはできず,睡眠を妨げられる結果となり,2つの寝室に防音工事を施工すれば,リビングルームや応接室に防音工事を施工することができず,家庭の団らんや客の応接を妨げられる結果となる。防音工事の室数に制限を設けることは,原告らの本件航空機騒音による被害を軽減することにはならない。
b 防音工事実施率
原告らの普天間飛行場周辺住民が全て住宅防音工事を実施しているわけではない。約半数の住宅について住宅防音工事が実施されていないので,住宅防音工事は,その実施率においても,不十分である。
c 住宅防音工事による現実の防音量
計画防音量(被告が,住宅防音工事における防音工事によって達成しようとする防音効果の程度をいう。以下同じ。)は,理想的な建物において,理想的な工事を施工した場合に初めて得られるにすぎない。現実の防音量は,防音工事を施工した建物の老朽度,施工業者の技術レベル,防音工事施工後の経年劣化及びメンテナンスの有無などによって影響を受ける。そのため,現実の防音工事による防音量を確認するためには,実証的な調査が不可欠である。しかし,住宅防音工事による物理的防音量については,実証的な調査がされていない。
d 実生活上の防音効果及び満足度
(a) 周辺住民の生活実態と住宅内の防音効果
計画防音量は,防音室の中において窓やドアを完全に閉め切り,部屋に施錠することが前提となっている。しかし,沖縄の気候は,その最高気温は32度程度であり,また風が強いという海洋性気候のため,クーラーを使用せずとも過ごしやすいという特質を有している。また,普天間飛行場周辺は,都市部と異なり,ドアや窓を開け放ったままの生活習慣が根ざした地域でもある。他方で,部屋を一日中閉め切ってクーラーを使用すると,電気料金が過大となり,また気密性が高く換気が不十分となりがちな環境のために健康に悪影響を及ぼすこともある。そのため,普天間飛行場周辺住民の生活実態から考えれば,窓を閉め切って終日生活することはできない。
また,窓を閉め切っていたとしても,計画防音量を得ることは,生活実態からして,困難である。すなわち,住宅防音工事を実施しているとしても,防音工事室数の制限があることから,家屋の中には防音工事を施工してない部屋が存在する。台所は,特に,換気扇や勝手口があり計画防音量まで防音工事を施工することが困難であるから,防音工事を施工しないことが多い。台所の隣にあるリビングや応接間の計画防音量を確保するためには,これらの部屋に防音工事を施工するだけでなく,台所など防音工事を施工していない部屋との間を遮音性のドアで遮断した上で,日々の生活の中でこのドアをいちいち閉めて施錠しなければならないが,現実にはこのような生活習慣は行われてはいない。
本件航空機騒音による被害のない地域では,家屋内の移動に伴い部屋のドアを閉め切り施錠をするという生活様式とは無縁のはずであり,普天間飛行場周辺住民だけがこのような生活様式を余儀なくされる理由はない。
(b) 住宅防音工事についての効果,満足度
住宅防音工事を実施した住民においても,必ずしも防音工事の効果を認めているわけでも,満足しているわけでもない。
(c) 住宅防音工事で得られる実生活上の防音効果
人間の生活は,部屋の中だけで営まれるものではない。原告らの日常生活は,通勤,通学のみならず,買物に出かけたり,洗濯物を干したり,庭先を掃除したりするなど屋外での生活も多く占めており,原告らは,本件航空機騒音を遮る屋根や壁がない状況で本件航空機騒音に暴露している。また,防音工事を施工する室数が制限されており,原告らは,屋内においても,必ず防音室の中にいるとは限らない。
(イ) 被告主張の住宅防音工事以外の「周辺対策」について
被告主張の障害防止工事及び学校等公共施設防音工事の助成,民生安定施設の助成措置,特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付,防音事業関連維持費の補助,空気調和機器稼働費の補助,国有提供施設等所在市町村助成交付金(以下「基地助成交付金」という。)及び施設等所在市町村調整交付金(以下「基地調整交付金」という。)の助成は,いずれも原告らの実生活における本件航空機騒音による被害を軽減するものではない。
したがって,これらの周辺対策は,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を減ずる根拠とはならないというべきである。
(ウ) 被告主張の「音源対策」について
被告主張のエンジンテストに伴う騒音軽減のための消音装置の設置については,かかる消音装置は設置されておらず,また,仮に設置されているとしても,消音装置が設置されて本件航空機騒音の発生が実際に抑えられているとはいえない。他方,被告主張のエンジンテストとは,周辺住民らが広くエンジン調整音と呼称する騒音のうちのごく一部にすぎない。普天間飛行場周辺住民が呼称するエンジン調整は,佐真下地域や喜友名地域などの滑走路近辺で行われるものであり,仮に消音装置の設置があるとしても,このエンジン調整に消音装置が用いられることはないから,このエンジン調整音が軽減されることにはならない。
また,被告主張の緑地整備事業は,音源対策とは関係がない。
したがって,被告主張の音源対策は,音源対策とはなっておらず,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を減ずる根拠とはならないというべきである。
(エ) 被告主張の「運航対策」について
平成8年規制措置の内容は,米軍機の飛行時間について,「22時から翌朝6時」の飛行を制限したにすぎず,また,飛行コースについても,「進入及び出発経路を含む飛行場の場周経路は,できる限り学校,病院を含む人口稠密地域上空を避けるよう設定する。」という程度にとどまり,飛行高度についても,「1000フィート(305m)以上」とされ,「500m以上」とされる厚木飛行場や「600m以上」とされる横田飛行場と比較して,極めて緩やかな規制とされている。
しかし,実際には,平成8年規制措置の締結後も,夜間における本件航空機騒音の発生が続き,土曜日や日曜日の飛行も行われ,学校や病院の上空通過,低空飛行や旋回飛行が行われており,平成8年規制措置の定める規制さえ守られていない。また,平成8年規制措置にある「慰霊の日のような周辺地域社会にとって特別に意義のある日については,訓練飛行を最小限にするよう配慮する。」との規制についても,米軍機は,ウークイ(沖縄の旧盆)や学校の入学式日でも飛行しており,配慮しているとはいえない。
このような平成8年規制措置が守られていない状況からすると,被告は何ら運航対策を行っていないことに等しい。
したがって,被告主張の運航対策は,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を減ずる根拠とはならないというべきである。
カ 違法性を画する基準
受忍限度論を採用して本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を判断する場合には,以下の理由により,本件コンターのW値75をもって違法性(受忍限度)を画する基準とすべきである。
(ア) 昭和48年環境基準の「専ら住居の用に供する地域(類型Ⅰ)」におけるW値70という数値は,本来であれば航空機騒音による日常生活の妨害や住民の苦情等がほとんど現れないという意味での「望ましい指針値」としてはW値65が妥当であるものの,航空機騒音低減の当時の技術的困難性や輸送の国際性・安全性の制約等の諸事情を考慮した上で引き上げられた数値である。W値70は,生活病害や睡眠妨害が生じ,また,一般騒音の中央値55デシベルに相当するので,身体への影響も顕著に出現する数値である。しかも,昭和48年環境基準の「その他の通常の生活を保全する必要がある地域(類型Ⅱ)」におけるW値75という数値は,地域の事情を考慮してW値70を更に引き上げた数値であって,より生活被害,睡眠妨害,人体への影響が大きくなる数値である。
昭和48年環境基準は,福岡空港を除く第2種空港B(ターボジェット発動機を有する航空機が定期航空運送事業として離着陸する空港)及び新東京国際空港の周辺地域においては10年以内に基準値を達成すべきものとし,中間改善目標として5年以内にW値を85未満とし,W値85となる地域においては屋内でW値65以下とすることを定めている。また,新東京国際空港を除く第1種空港(東京国際空港及び大阪国際空港)及び福岡空港の周辺地域においては10年を超える期間内に可及的速やかに基準値を達成すべきものとし,5年以内にW値を85未満とすべき中間目標が設定されているほか,10年以内にW値を75未満とし,75以上となる地域においては屋内でW値60以下とすることを定めている。普天間飛行場のような防衛施設についても,「当該飛行場と類似の条件にある……飛行場の区分に準じて環境基準が達成され,又は維持されるように努めるものとする。」としている。
このように,昭和48年環境基準のW値75は,①身体影響,生活被害が生じない最低の数値を定め,また,②エンジン製造上の技術的制約,輸送の安全上の制約等種々の要素を考慮した上で,住民側にとって危険な方向へその数値を引き上げたものであるので,違法性(受忍限度)を画する基準となるというべきである。
(イ) そして,生活環境整備法施行規則2条のW値は,昭和56年の改正により75以上とされたことに伴い,普天間飛行場周辺においても,W値75以上の地域を生活環境整備法4条の規定により「音響に起因する障害が著しい」とされる第1種区域と指定しているので,W値75以上の地域である本件コンター内においては,被害が著しいといえる。
本件コンター内の地域には,実際,本件航空機騒音によって,著しい睡眠妨害,生活妨害及び精神的苦痛の被害が生じている。沖縄県調査では,W値70の騒音暴露量と睡眠妨害,生活妨害などの被害との間に量反応関係をみられるので,W値75は,控えめな数値である。
また,前記イ(イ)aのとおり,本件コンターの指定に際し,累積度数曲線が0.5日ずれてプロットされた結果,W値が2.5程度低く算出されているので,本件コンターのW値に2.5程度加算した数値が正確であるから,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性の評価に当たっては,本件コンターのW値75が全体的に過小評価されていることをしん酌すべきである。
さらに,普天間飛行場においては,本件低周波音が本件航空機騒音と相まって被害を生じさせているところ,低周波音の影響は,W値には反映されていない。しかも,低周波音には,防音工事の効果がほとんどない。
(ウ) また,欧米の主要国においても,ほぼW値70~75の地域において住宅建築を規制し,又は防音措置を義務付けているところ,建物による騒音の遮断効果には,我が国は欧米と比べ約10dBも低いことを考慮すると,W値60~65が望ましい基準といえるので,W値75は,違法性(受忍限度)を画する数値として控えめであり,正当であるといえる。
WHOの環境騒音のガイドラインで示された数値は,昭和48年環境基準の数とほぼ同じであり,又はそれを下回るといえるので,昭和48年環境基準のW値75が違法性(受忍限度)を画する基準として正当であることは,WHOの環境騒音のガイドラインからも裏付けられている。
(エ) 以上を総合すると,W値75をもって,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性(受忍限度)を画する基準とすべきである。そして,W値75以上の騒音に暴露されている地域として第1種区域と指定されている本件コンター内に居住する原告に対しては,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性を認めるべきである。
なお,昭和48年環境基準は,生活・産業と密接不可分な騒音により一定の利便を受けている地域においては,生活・産業に利用する航空機騒音についても一定程度受忍しなければならないとの趣旨から,地域類型を設けているところ,生活・産業に利用する民間航空機とは異なり,米軍機が生活・産業に利用されることはないから,本件航空機騒音による侵害行為又は普天間飛行場供用の違法性(受忍限度)を画する数値については,昭和48年環境基準上の地域類型に従って差異を設けるのは不当である。
(4) 過去の損害の賠償請求に係る損害額
ア 原告らが,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から各訴状送達の日(第1事件にあっては平成15年1月6日,第2事件にあっては同年5月6日)までの間のうち,本件コンター内に居住している間に被った精神的被害に対する慰謝料の額は,原告らのうち,最も被害の少ないものについて,その被害を最も軽く想定したとしても,その被害の甚大さや現在の経済価値の外,普天間飛行場の歴史的,地理的経緯に照らし,100万円を下回らないから,少なくとも原告ら1人につき100万円となる。
また,本件各訴状送達の日の翌日(第1事件にあっては平成15年1月7日,第2事件にあっては同年5月7日)から口頭弁論終結の日(平成20年1月31日)までの間であって,本件コンター内に居住している間における精神的被害に対する慰謝料の額は,原告らの被害の甚大さや現在の経済価値の外,普天間飛行場の歴史的,地理的経緯に照らし,原告ら1人につき少なくとも1日1250円となるべきである(1か月3万5000円の請求については,月の日数が29日,30日又は31日である場合には,当該各月の請求は一部請求となる。)。
イ 住宅防音工事による減額について
住宅防音工事は,前記(3)オ(ア)のとおり,不十分であるので,被害額を減額する根拠とはならないというべきである。
ウ 弁護士費用
弁護士費用相当の損害は,原告ら1人につき15万円が相当である。
(5) 被告主張の「危険への接近の法理による免責又は減額」に対する反論
ア 「危険への接近の法理」の適用の不当性
原告らは,自ら好んで本件航空機騒音による被害を受け続けているわけではない。普天間飛行場は,米軍が占領後に囲い込み,住民の生活の場を奪って作られたので,いわば「危険から」接近し,住民らの故郷に居座っている。被告は,国民の健康と生活を守る義務を負っているにもかかわらず,根本的な音源対策を講ずることなく,本件航空機騒音を長年放置した上,原告らが「危険へ接近」してきたなどと主張することは,「衡平の原則」に反している。
したがって,危険への接近の法理は,免責の法理としても,減額の法理としても適用されるべきではない。
イ 免責法理としての危険への接近の法理
(ア) 被告主張の「基準日後の転入者」について
a 原告らは,沖縄県民として,沖縄の復帰の日である昭和47年5月15日以降は,我が国政府が責任を持って基地問題を解決することを強く期待していた。被告は,その期待を裏切り,沖縄県を除く都道府県の区域にある米軍基地機能を沖縄県の区域に集中させて,国民から,沖縄県を除く都道府県の区域における基地問題を遠ざけ,沖縄の米軍基地機能を強化し続けてきた責任が問われるべきであり,原告らが責任が問われるべきではない。そのため,被告が昭和47年5月15日を基準日としてその後の本件コンター内への転居(以下,本件コンター外から本件コンター内への転居を「転入」ということがある。)を問題として主張することには,合理性がない。
b 仮に被告主張のように被告主張の基準日に本件航空機騒音がある程度社会問題化しており,それを原告らが知っていたとしても,そのことから,原告らにおいて,転居先が本件コンター内にあることや転居先における本件航空機騒音の程度を認識する契機となるとはいえない。
また,普天間飛行場周辺においては,騒音の発生状況に常態性や定期性がない上,下見にくることが多い土曜日,日曜日の飛行が少なく,実際に一定期間以上居住してみない限り,本件航空機騒音の実態を正確に把握することは著しく困難である。
さらに,被告は,本件コンター内転入予定者に対し,本件コンターや飛行コース,騒音の実態などについて積極的に情報を提供したことがない。
以上によれば,「騒音の認識」の判断については,被告の主張する基準日以後の転居の事実のみで「騒音の認識」を推認することはできない。
(イ) 被告主張の「再転入者及び本件コンター内複数転居者」について
a 普天間飛行場は,宜野湾市の面積の約32%を占め,同市の中央部に所在し,市街地が普天間飛行場を取り囲むように形成されている。本件コンターの分布は,広範囲にわたっている。しかも,被告は,普天間飛行場周辺住民に対し,前記(ア)bのとおり,本件コンターや飛行コース,騒音の実態などについて積極的に情報を提供したことがないので,本件コンターの範囲が被告によって普天間飛行場周辺住民に知らされていたわけではないから,同じ本件コンター内で転居したとしても,転居先が遠方であれば転居先における騒音の程度を認識することはできるとはいえない。特に普天間飛行場においては,同じ本件コンター内であっても,場所によって固定翼機による騒音が激しい地域とヘリコプターによる騒音が激しい地域があり,両者の騒音の質は根本的に異なる。
したがって,本件コンター内への再転入や本件コンター内における転居であっても,本件コンター内に新たに転入する場合と同視して,本件航空機騒音による被害の認識を推認することはできないと考えるべきである。
b また,被告は,国民の生活と健康を守るべき立場にあるにもかからず,本件航空機騒音を特段の防止措置を講ずることもなく長年にわたって放置し続けている状況にかんがみれば,危険への接近の法理の適用に当たって,被害について,原告らの消極的容認では足りず,原告らの積極的容認を要すると考えるのが「衡平」の観点から妥当である。この「積極的な容認」は,これが危険への接近の法理の適用要件である以上,被告において主張立証を要する事実である。そして,仮に「騒音の認識」が推認される原告らについても,「積極的容認」まで推認されるものではなく,これらの原告について本件航空機騒音による被害を積極的に容認していた事情についての主張立証を被告において行うことが必要である。
したがって,仮に本件コンター内への再転入者又は本件コンター内における転居者のうち,従前の居住地と比較的近くの所に転居した原告らにつき騒音の認識が推認されるとしても,転居に社会生活上相当な理由がある場合には,本件航空機騒音による被害についての積極的容認がないといえるから,免責の法理としての「危険への接近の法理」の適用をすることはできないというべきである。
(ウ) 減額法理としての危険への接近の法理
被告主張の基準日以降に本件コンター内に転居した者又はこれらの者と同視することができる原告らには,本件航空機騒音による被害の認識を欠いたことについて落ち度はないので,これらの原告らが本件航空機騒音による被害の認識を欠いたとしても,そのことに過失はない。
仮に本件コンター内への再転入者・本件コンター内における転居者のうち,元の居住地と比較的近くの所に転居した原告らにつき本件航空機騒音の認識が推認されるとしても,転居に社会生活上相当な理由がある場合には,原告らが自ら危険へ接近したと評価することができないから,減額の法理としての「危険への接近の法理」の適用をすることはできないというべきである。
ウ 原告らの転居理由
原告らは,以下(ア)から(キ)までのとおり転居しており,いずれもその転居に社会生活上相当な理由があるので,前記イ(イ)及び(ウ)のとおり,本件航空機騒音による被害についての積極的容認がなく,又は自ら危険へ接近したと評価することができないから,原告らに免責の法理又は減額の法理としての「危険への接近の法理」の適用はない。
なお,原告ら(原告番号74,116,201,238,278のものに限る。)は,出稼ぎや子供の進学,家の新築,親族の看護等のため一時的に住民票を移転させたものの,生活の本拠は変わっていないので,「危険への接近の法理」の適用はない。
(ア) 実家への復帰
原告ら(原告番号74,141,164,210,238,249,253,257,358及び364のものに限る。)は,生まれ育った実家又は配偶者の実家に転居した。自らが生まれ育ち,親族が暮らす実家は,生活の基盤であり,実家に復帰した原告らは「危険」に対する後住者ではない。実家に戻ることや,結婚によって配偶者の実家に移ることは,社会通念上,人間としての生活上又は条理上,当然かつ一般的なことであり,社会的に期待されることである。特に,親族のつながりや相互扶助の強い沖縄においては,社会生活上頻繁にみられることであって,何ら非難されるべきではない。
したがって,同原告らの実家への転居には,社会生活上相当な理由がある。
(イ) 実家近隣への転居
原告ら(原告番号122,139,172,175,201,228,249,255,257,290,345,358,359,364及び385のものに限る。)は,実家近隣に転居した。自らが生まれ育った地域には,近くに両親・親族が居住しているのみならず,幼いころからの友人・知人も多く住んでいる。そのため,自分の生まれ育った地域は,自分の生活の基盤となるから,そこに戻ることは人間としての生活上又は条理上当然のことである。例えば,共働きのような場合,子供が小さいときに両親や親族の手助けが必要であり,また,両親が老齢の場合,両親の面倒をみるために近くに住むことも必要となる。このような,子育て,肉親の介護又は扶養のために実家の近くに居住することは,社会的にも条理的にもむしろ強く期待される。また,実家での同居を希望しても実家そのものが狭小で同居することができない場合や,実家の近くに親族の所有地を分けてもらい家を新築する場合もある。近年の核家族化の傾向からは,神経を使う同居ではなく,実家近くに別居する形で,扶養や介護,交流,子育て援助などの同居の実質を実現する場合も多い。いずれの場合も,原告らはもともと住んでいた地域に戻ったにすぎない。
したがって,同原告らの実家近隣への転居には,社会生活上相当な理由がある。
(ウ) 出身地,以前の居住地又は親族居住地の近隣への転居
原告ら(原告番号41,122,149,166,174,175,201,223,238,255,258,290,311,323,338及び358のものに限る。)は,出身地,以前の居住地又は親族居住地の近隣へ転居した。自らが生まれ育った地域,実家があり,又は生活の本拠としてきた地域に回帰する傾向や意識は,特に沖縄においては強い。地元への回帰を希望しても,沖縄本島の中部地域は,もともと狭く,その地域の多くの部分を基地が占め,更に狭小な部分に住民がひしめき合って暮らしているため,土地を求めることが困難であり,また,適当な家が見付からないこともある。また,通勤の利便や配偶者の実家にも近いことなども考慮して居住地を決める必要もある。特に,近時の家族意識の在り方からしても,一方配偶者のみの実家近くに転居することはかえって夫婦間の紛争のもとにもなりかねないから,双方の実家のどちらにも近い場所を選択する場合もある。そのため,住民の個別の生活条件を満たす範囲で,できる限り地元回帰を実現していくほかないところ,他方では,沖縄本島の中部地域において本件航空機騒音による被害を受けない地域はほとんどない。原告らは,自分たちの生活の条件と合致する範囲で出身地の近くに転入しているにすぎない。
したがって,同原告らの出身地,以前の居住地又は親族居住地の近隣への転居には,社会生活上相当な理由がある。
(エ) 子供の就学・通学,家族構成の変化等の生活上の事情
原告ら(原告番号122,139,149,164,172,201,223,228,242,249,253,255,349,358及び359のものに限る。)は,子供の就学・通学,家族構成の変化等の生活上の事情により転居した。子供が多いために一軒家へ転居し,子供や自分たちのためにより良い環境が必要となったために転居し,住宅の売買価格や賃料がそれぞれの資力に合致したことから転居し,又は親戚の家を間借りすることができるために転居するなど,それぞれの固有の生活の事情によって転居している。
したがって,同原告らの子供の就学・通学,家族構成の変化等の生活上の事情による転居には,社会生活上相当な理由がある。
(オ) 婚姻
原告ら(原告番号116,122,141,149,157,164,190,210,238,242,253,255,257,278,290,325,364及び373のものに限る。)は,婚姻によって転居した。結婚に際してそれまで居住していた場所から転居することは当然である。しかも,結婚そのものは,祝福されるべきものでこそあれ,非難されるべきではない。
したがって,同原告らの婚姻による転居には,社会生活上相当な理由がある。
(カ) 相続
原告番号242の原告は,相続した土地・建物に転居した。父祖の土地を相続し,そこに居住していくことは,社会的にも相当であって何ら非難されるべきではない。特に,沖縄の社会は,祖先志向的な社会と指摘され,祖先崇拝又は祖先祭祀を固有信仰の核とし,世代から次世代への承継が重んじられている。先祖の土地を受け継ぎ,そこに居住していくことは,沖縄においては,厳粛な社会的責任であるといってもよい。
したがって,同原告の相続による転居には,社会生活上相当な理由がある。
(キ) 通勤の利便
原告ら(原告番号67,122,130,149,152,164,172,325及び373のものに限る。)は,通勤の利便のために転居した。憲法22条は,職業選択の自由及び居住移転の自由を定めており,就職して賃金を得ることが原告ら及びその家族の生活の基盤となる以上,職場の周辺に居住することは,奨励されるべきことである。特に,沖縄県における高い失業率にかんがみると,事業所の多い宜野湾市で職を得ることが社会通念上責められるとはいえず,また,沖縄県の交通事情にかんがみると,沖縄本島の中部地域で職を得る以上,交通の不便な北部や与勝半島,更には人口密集し交通渋滞する那覇市等を通過して通勤しなければならない南部に居住して通勤することも困難である。
したがって,同原告らの通勤の利便のための転居には,社会生活上相当な理由がある。
(6) 被告による消滅時効の援用についての権利の濫用
違法行為をしてきた者が消滅時効の主張により損害賠償義務を免れることは,信義則に反し許されない。原告らが本件航空機騒音により多大な被害を受けているにもかかわらず,被告は,本件航空機騒音の実態を認識しながら,これを放置し,何らの対応を講ずることなく,本件航空機騒音による被害の防止を怠ってきた。被告は,このように本件航空機騒音を放置・容認した上,本件航空機騒音による被害の発生・拡大に積極的に関与してきた。
したがって,被告による消滅時効の援用は,信義則に反し,権利の濫用である。
(7) 将来の損害の賠償請求
ア 普天間飛行場は,その閉鎖に向けた具体的な措置が採られていないので,今後も当面は存続することが確実に予想される。
普天間飛行場においては,遅くとも昭和52年から30年にわたって本件航空機騒音による激甚な被害が継続してきた。
そうすると,本件航空機騒音による被害は,口頭弁論終結時と同一の内容,程度の状況が,口頭弁論終結後1年の間,継続する蓋然性が極めて高く,口頭弁論終結後1年間であるので,その予測可能性が確実に高いから,一義的に明確になっているといえる。
なお,厳密な一義性,明確性を要求することは,将来の給付による救済の途を開いた法の趣旨に反する。
イ 他方,被告の損害賠償債務の減額事由等となる原告がW80区域からW75区域に転居し,又は本件コンター内から本件コンター外に転居したことや,住宅防音工事が実施されることは,客観的に明確な事実であるので,被告に立証の負担を負わせることは不当でない。しかも,口頭弁論終結後1年に限られるので,被告の負担は高くない。
ウ そうであるにもかかわらず,将来の損害(口頭弁論終結の日の翌日である平成20年2月1日から平成21年1月31日までに生ずべき損害をいう。以下同じ。)の賠償請求を否定することは,原告らが,将来の損害の賠償を求めるために再度の訴えの提起を余儀なくされる。これにより,原告らは,膨大な経済的,精神的負担を負うとともに,多大な時間を要することとなるので,その負担は余りに大きい。他方,被告は,本件航空機騒音による被害を放置・容認してきたのみならず,その発生・拡大に積極的に関与してきている。これらの原告らの再訴の負担と被告の責任とを比較すれば,将来の損害に係る賠償請求を認めた上で,被告に請求異議事由を主張させることが,原告・被告間の衡平に合致するというべきである。
エ したがって,被告は,口頭弁論終結の日の翌日から1年間の将来の損害については,民事訴訟法135条に基づき,年間42万円(原告らの損害は,少なくとも1日1250円であるので,年間44万6250円又は45万7500円の一部請求となる。)の損害の賠償責任を負うというべきである。
(8) 騒音測定等請求
ア 被告は,昭和52年の騒音コンター図作成後30年経過しても,新しい騒音コンター図を作成していない。騒音コンター図上の騒音レベルの境界線は,騒音環境を判断する重要な指標であるため,住宅防音工事の実施や騒音の違法性の判断のための基準となっているところ,飛行場の運用状況に応じて変動することが予想される。そのため,騒音コンター図は,騒音に暴露されている周辺住民の権利・利益に直結するので,合理的な一定期間毎に騒音コンター図を見直すことが不可欠である。
イ 原告らは,以下のとおり,①人格権,②環境権若しくは③平和的生存権又は④不法行為の法的効果から発生する妨害排除請求権・妨害予防請求権を有している。
まず,①人の健康は,人間の尊厳を確保するために本質的で重要なものであり,身体的な健康のみならず,精神的な健康により維持される。そうすると,潜在的な健康侵害又は重大な精神的侵害が存する場合には,妨害予防請求権の発生を認めるべきである。しかも,長期間継続するW値75を超える騒音が人の健康に被害を与えることは科学的に明らかであり,また,本件航空機騒音によって,精神的被害が長期間継続し,今後も長期間継続する蓋然性があるから,健康被害が発生していると認められなくとも,潜在的な健康侵害又は重大な精神的侵害があるので,原告らは,人格権に基づき,妨害排除請求権・妨害予防請求を有しているというべきである。
また,②本件航空機騒音は,地域の静ひつな生活環境を破壊しているので,原告らは,環境権に基づき,妨害排除請求権・妨害予防請求権を有しているというべきある。
さらに,③本件航空機騒音は,平和的生存権を侵害しているので,原告らは,平和的生存権に基づき,妨害排除請求権・妨害予防請求権を有しているというべきである。
④妨害排除請求権・妨害予防請求権が不法行為に基づくものであっても,侵害される法益が人間の存在,人格に関するものである場合には,受忍限度論は排斥されるべきである。本件航空機騒音は,人間の生命及び疾病に至らない潜在的な健康侵害又は重大な精神的侵害を含む「広義の健康被害」を侵害し,かつ,その侵害は,長期間で広範囲に及んでいるので,受忍限度論を排斥すべきである。そうすると,原告らは,不法行為に基づき,妨害排除請求権・妨害予防請求権を有しているというべきである。
ウ 騒音は,その性質上,それ自体としては一過性の侵害であり,音波が伝達する中で時間の経過により減衰消失し,その痕跡を残さない性質のものであり,また,騒音の到達場所によりその侵害性を変化・減少させる性質のものである。さらに,騒音による侵害は,音源を中心にして全方向に伝達される性質を有する。そのため,騒音による侵害の場合には,即時に,かつ,音波の伝達される全地域で,測定されて記録化されなければ侵害の存否及び程度が確認することができず,有効な予防措置を行い得ない。
したがって,騒音という特殊な性質の侵害について,侵害行為者又は不法行為者には,その妨害の排除,予防義務として騒音測定義務が生ずると考えるべきである。
エ 妨害の排除とは,現存する妨害状態を排除することであり,他方,妨害の予防とは,将来の侵害を防止することであるも,これらには,原状を回復することを包含すると解すべきである。そして,妨害排除請求又は妨害予防請求は,権利又は法益の保全を目的としているから,妨害行為を排除し,又は予防することができない場合には,違法な妨害を軽減し,侵害される権利又は法益の損失を最小化することが求めることができるというべきである。
そうすると,原告らは,妨害排除・侵害予防が認められるにもかかわらず,侵害行為を行う者が我が国の裁判権の及ばない米軍であることから,侵害行為の差止めが認められない場合には,妨害排除・侵害予防請求権に基づき,被告が行い得る範囲内で,権利侵害又は法益侵害を軽減する措置を講ずる法的義務があるというべきである。そして,騒音測定を行い,騒音コンター図を作成することは,被告が行い得る行為である。
予防請求権の内容としては,被告主張のように将来の侵害予防に直結する必要があるのは訴訟経済上の要請に基づくものにすぎず,上記のとおり,侵害行為の差止めが認められない場合には,次善の方法として,侵害の予防に寄与する相当なものも求められると解すべきである。騒音測定を行い,騒音コンター図を作成することは,住宅防音工事等の可能な被害の軽減措置を採るために不可欠であるので,侵害の予防に寄与する相当なものということができる。
オ 以上によれば,原告らは,被告に対し,①人格権,②環境権若しくは③平和的生存権又は④不法行為の法的効果から発生する妨害排除請求権・妨害予防請求権に基づき,普天間飛行場における米軍機の離着陸等の差止めに代わる次善の策として,権利侵害又は法益侵害を軽減する措置として,本件航空機騒音の測定を行い,騒音コンター図を作成することを請求することができるというべきである。
2  被告の主張
(1) 差止請求について
ア 原告ら主張の「差止請求を基礎付ける権利」について
(ア) 人格権について
「人格権」は,人の生命,身体,名誉等人間にとって重要であり発生要件の明確ないくつかの権利が個別的人格権としてその権利性を主張し得るものであることは承認されているものの,最高裁判所においてこれまで人格権に基づく航空機の離着陸の差止請求が是認されたことはなく,どのような要件の下に差止請求権が成立するかは明らかにされていない。
また,原告ら主張の「人格権」は,個人の生命,身体,精神及び生活利益といった人間としての生存に基本的かつ不可欠な利益の総体であるとされているのみであって,その内容は極めて不明確で,その権利又は構造が明らかにされていない。
(イ) 環境権について
原告ら主張の「環境権」は,実定法上の根拠を欠く上,その意味内容も曖昧であり,その発生要件も効果も明らかではない。
原告らが実定法上の根拠として主張する憲法13条及び25条のうち,憲法13条は,基本的人権の尊重を一般的に定めた包括的な人権宣言規定であって,直ちに具体的な国民の権利を創設し,又は確認したものでなく,また,憲法25条も,国に対して,すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営み得るような適切な施策を求める理念上の根拠を定めた規定であって,立法や施策のための綱領的規定であるから,これらの規定をもって環境権の実定法上の根拠ということはできない。
(ウ) 平和的生存権について
原告ら主張の「平和的生存権」についても,前記(イ)の環境権と同様,実定法上の根拠を欠き,その意味内容も曖昧であり,その発生要件も効果も明らかではない。
原告らが実定法上の根拠として主張する憲法前文,9条,13条については,憲法13条が前記(イ)のとおり直ちに具体的な国民の権利を創設し,又は確認したものでない上,「平和的生存権」は私法上の権利として具体的内容を有するものとはいえないので,これらの規定が,原告ら主張の実体的権利としての「平和的生存権」を定めているということはできない。
イ 原告ら主張の「差止めの可能性と許容性」について
(ア) 第三者の行為の差止めについて
普天間飛行場は,昭和47年5月15日,地位協定2条1項(a)に基づく施設及び区域としてアメリカ合衆国に提供され,地位協定3条1項により,その管理運営の権限はすべて米軍に委ねられている。そのため,米軍は,提供された普天間飛行場を所定の目的の範囲内で自由に使用することができ,その使用権限の範囲内の行為として,米軍の判断と責任に基づき,普天間飛行場において航空機の離着陸,航空機のエンジン作動,航空機誘導等を行うことができる。これに対し,被告には,そのような権限が認められていない。
このように,普天間飛行場に係る被告と米軍との法律関係は,条約に基づいている。条約とは,国家間で書面の形式により締結された国際的合意であり,国際法により規律され,その効力が発生すれば当事国を拘束し,誠実に遵守されなければならない。そのため,被告は,条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り,普天間飛行場における米軍の活動を制限することができない。普天間飛行場に係る被告と米軍との法律関係について条約及び国内法令に特段の定めはないから,被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することはできない。
したがって,原告らによる普天間飛行場における航空機の離着陸等の差止請求は,被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものであるから,その請求は,主張自体失当である。
(イ) 原告ら主張の「米軍に対する法的規制の根拠」について
原告らが差止請求の根拠として主張する地位協定3条3項,16条及び18条5項,航空法97条の規定は,いずれも被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することができる根拠とはならない。
a 地位協定3条3項について
地位協定3条3項は,「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は,公共の安全に妥当な考慮を払つて行なわなければならない。」と規定する。同項は,同条1項において,アメリカ合衆国が普天間飛行場を含む「施設及び区域」を排他的に使用することができることが定められていることを受けて定めているから,その規定の構造からして,同条3項は,いわゆる訓示規定に当たる。そのため,この規定に違反した場合に,被告が,一方的に米軍の行動を規制することができることを意味するものではない。そうすると,同条3項は,被告のアメリカ合衆国に対する何らかの請求権を定めたものと理解することはできない。
したがって,地位協定3条3項は,被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することができる根拠とはならない。
b 地位協定16条について
地位協定16条は,「日本国において,日本国の法令を尊重し,及びこの協定の精神に反する活動,特に政治的活動を慎むことは,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。」と規定する。同条は,その文言上,「米軍の構成員及び軍属並びにそれらの家族」を名宛人としており,米軍を規制するものでない上,これらの者が我が国の法秩序を尊重すべき一般的義務を定めたものにすぎない。
したがって,地位協定16条は,被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することができる根拠とはならない。
c 地位協定18条5項について
地位協定18条5項本文は,「公務執行中の合衆国軍隊の構成員若しくは被用者の作為若しくは不作為又は合衆国軍隊が法律上責任を有するその他の作為,不作為若しくは事故で,日本国において日本国政府以外の第三者に損害を与えたものから生ずる請求権(契約による請求権及び6又は7の規定の適用を受ける請求権を除く。)は,日本国が次の規定に従つて処理する。」と規定する。同項は,外国国家に対する民事裁判権免除に関する国際慣習法を前提として,外国の国家機関である米軍による不法行為から生ずる請求の処理に関する制度を創設したものである。同項は,同項(b)以下において,「支払」及び「日本円」の文言が用いられていることに照らせば,公務執行中の米軍の構成員又は被用者が第三者に与えた損害について,被害者保護のため,我が国政府が処理すべき方法を主として金銭賠償の観点から規定したものであり,差止請求については何ら規定していないから,同項(a)の「請求」に差止請求が含まれない。
したがって,同項は,被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することができる根拠とはならない。
d 航空法97条について
航空特例法は,地位協定2条1項(a)により,米軍が専権的に普天間飛行場の管理,運営を行えることを前提として,航空法第6章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示(同法96条),飛行計画及びその承認(同法97条),到着の通知(同法98条)を除くその余の事項など,米軍が使用する飛行場及び米軍機等の運航に関する規定を適用除外とすることにより,米軍が普天間飛行場を専権的に管理運営することとし,これに伴う安全保持の調和を図っている。原告ら主張の航空法97条は,日本の領空における航空機航行の安全保持の観点から,我が国に航空管制権を留保したものであり,航空機の航行に係る安全保持以外の観点から,我が国が航空管制権を行使し,米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制限することを想定していない。
したがって,同条は,被告が普天間飛行場における米軍の活動を制限することができる根拠とはならない。
(ウ) 原告ら主張の「被告の差止責任」について
現に妨害状態を引き起こしている者が妨害排除請求の相手方となり得るのは,妨害状態の惹起者がその行為を止めれば侵害状態を除去し得るためである。結局,妨害排除請求の相手方は,侵害状態を除去し得る立場にあることが必要であり,差止請求においても同様に解されるべきである。ところが,被告は,前記(ア)のとおり,そもそも米軍の普天間飛行場における活動を制限し得るものではなく,米軍の行為の停止を請求し得る地位にはないので,妨害状態を除去し得る立場にあるとはいえない。
したがって,被告が,原告ら主張のように,現に原告らの権利を違法に侵害する状態を生じさせている共同妨害者と評価し得るかどうかについて問題とするまでもなく,被告は,原告ら主張の差止請求の相手方とはなり得ない。
(2) 原告ら主張の「損害賠償請求の根拠条文」について
ア 国家賠償法1条1項及び民法719条
被告は,アメリカ合衆国に対し,安保条約6条及び地位協定2条1項(a)に基づき普天間飛行場を提供しており,日米合同委員会を通じ,我が国及びアメリカ合衆国の間で合意された施設及び区域を米軍の用に供すべき条約上の義務を負っている。普天間飛行場の管理運営の権限は,地位協定3条1項に基づきすべて米軍に委ねられている。そのため,米軍は,提供目的を達するため普天間飛行場を使用する限り,その判断と責任に基づいて普天間飛行場において米軍機の離着陸等を行うことができる。これに対し,被告には,そのような権限はない。しかも,被告は,安保条約の目的達成のため施設及び区域の提供を継続する条約上の義務を負っており,施設及び区域の提供目的を達するため,当該施設及び区域を使用する米軍に対し,当該施設及び区域の提供を拒否し,その返還を求める権限を有していない。
そうすると,原告ら主張の地位協定2条2項及び3項,3条3項並びに16条等は,いずれも被告の公務員が原告らに対して職務上の法的義務を負担する法的根拠となり得ない。
したがって,被告には,施設及び区域の提供目的を達するために行われる米軍の活動を制限する権限はないから,外務大臣及び那覇防衛施設局長には,原告らに対して,米軍の施設及び区域の提供目的を達するために行われる諸活動の継続を中止させる措置を採る法的義務を負うことはない。
そして,共同不法行為の成立には,各自の行為が,それぞれ独立して不法行為の要件を備えている必要があるところ,上記のとおり,外務大臣及び那覇防衛施設局長には原告ら主張の義務がないから,共同不法行為が成立する余地もない。
イ 民事特別法1条
(ア) 民事特別法1条による国の損害賠償責任については,民法,国家賠償法の規定が包括的に一体として適用されるところ,民事特別法1条に基づく損害賠償請求をする場合にも,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を請求する場合と同様,加害行為を行った公務員を特定し,その公務員が個別国民に対し負っている職務上の法的義務に違背したことを主張する必要がある。しかし,原告らは,どの米軍の構成員が原告らに対するどのような職務上の法的義務に違反した結果,原告らの損害が発生したかについて具体的な主張をしていないので,主張自体失当である。
(イ) 仮に原告らが違法行為を行った「米軍の構成員」を基地司令官であると主張しているとしても,①平成8年規制措置にある基地司令官に周辺住民に対する配慮義務があるかのような記載は,米軍機の運航に関し,基地司令官が配慮すべき努力目標を設定したものにすぎず,基地司令官に対する法的義務を創設したものではなく,また,②米軍は,安保条約6条に基づき,日本国内の駐留・活動が認められている以上,その職務遂行のために行う航空機の運航に必然的に発生する騒音について,受忍限度を超えることがあっても,直ちに職務上の法的義務違反の問題が生ずるとはいえず,さらに,③基地司令官が仮に本件航空機騒音を認識しているとしても,そのことから直ちに違法な加害行為を防止する職務上の法的義務が発生する具体的理由がないから,基地司令官の行為は,民事特別法1条の違法,すなわち,国家賠償法1条1項の違法となる余地はないというべきである。
ウ 民事特別法2条
民事特別法2条にいう「土地の工作物その他の物件の設置又は管理」の瑕疵とは,本来的には,当該工作物を構成する物的施設について通常有すべき安全性を欠く状態が生じている場合をいうものと解すべきところ,普天間飛行場は,航空機の離着陸の用に供されることを本来の目的とし,その目的達成のために,飛行場が通常備えるべき性質及び設備を有し,本来持つべき安全性を完全に具備しているから,かかる場合に該当しない。
また,普天間飛行場には,「その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性」も,後記(3)のとおり,普天間飛行場の供用に違法性がないので,存しない。
したがって,普天間飛行場には,民事特別法2条にいう「土地の工作物その他の物件の設置又は管理」の瑕疵はないので,被告は,同条の規定に基づき,本件航空機騒音による原告らの損害を賠償する責任を負わないというべきである。
(3) 原告ら主張の「普天間飛行場供用の違法性」について
ア 違法性の判断方法
航空機騒音による障害は,日常生活の妨害及び精神的不快感という個人の主観的条件により異なり,その内容,性質のみでは違法な法益侵害と判断すべき客観的基準を定めることはできない。また,飛行場が存在する以上は,その周辺においてある程度の騒音障害が発生することは不可避である一方,飛行場の存在が政治,経済等の多方面にわたり社会生活上多大な効用をもたらしているから,一定の範囲の騒音障害は,周辺住民としても受忍すべきである。
したがって,普天間飛行場の供用の違法性の判断においても,侵害行為の態様と侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性,空港利用の経緯及び空港管理者の実施した騒音軽減方策の適否等の諸事情を総合的に考慮して,普天間飛行場の供用に起因する騒音障害が空港周辺住民全体にとっても周辺住民各個人にとっても社会的に妥当とされる範囲を超えているか否かを慎重かつ適正に判断すべきことが必要である。
イ 侵害行為
(ア) 航空機騒音の特殊性
a 航空機騒音は,持続時間も短く,一過性で,間欠的である。ある地点で受ける航空機騒音は,航空機の接近に伴って小さな音から徐々に高まり,瞬時にピークを迎え,航空機の通過とともに減衰していく。そのため,ピークレベル値を示すのは,瞬時にすぎず,しかも,騒音の持続時間は,全体としてみても10秒未満又は10数秒,20数秒程度にすぎない。仮にある航空機騒音により飛行場周辺住民に何らかの影響があるとしても,その影響は短時間の後には消失し,生活上の平穏は直ちに回復するのが通常である。そうすると,本件航空機騒音の程度を判断するに際し,ピークレベルが長時間持続する定常騒音と同一視することはできない。
航空機騒音による影響は,飛行場からの距離によって異なるのみならず,離着陸の別,離着陸の方向によっても大きく異なる。すなわち,航空機は,離陸の場合は高出力で一気に高度を上げる一方,着陸の場合はエンジン出力を落として徐々に高度を下げるから,離陸しようとする航空機の発する騒音と着陸しようとする航空機の騒音とは開きがある。そのため,飛行場から同一の距離にある地域であっても,離着陸の方向,飛行経路,風向きによって騒音の程度は異なるから,航空機騒音の程度を判断するに際しては,航空機の離着陸回数,1機当たりの騒音量,飛行場からの距離だけを基準にすることは相当でない。
b 普天間飛行場のような防衛施設としての飛行場については,民間航空機が使用する民間空港とは異なり,航空機の運航形態について一定性がなく,航空機が比較的多く飛行する日がある一方,ほとんど飛行しない日もあり,その周辺の航空機騒音の状況は日々変化する。そのため,一定の値以上の騒音が1年中発生していることはあり得ない。
c さらに,原告ら主張の被害の多くは,テレビの聴取妨害など建物内において騒音に暴露されたことによるものである。しかし,屋内においては,建物による遮音効果により,航空機騒音の影響は相当程度緩和される。また,騒音が屋外での環境基準を超えている地域であっても,防音工事の施工されている屋内では環境基準が達成されたと同様の環境が保持される。
d したがって,本件航空機騒音による侵害行為の程度を評価するに当たっては,aのように航空機騒音が一過性で間欠的であること,bのように日々変化すること,cのように建物による遮音効果があることを考慮すべきである。
(イ) 侵害行為の評価の在り方
原告ら主張の共通被害を前提として侵害行為を評価するに当たり,1日24時間を通して騒音に暴露されていることを前提に算出されたW値を用いることは不当であり,一定の合理的な根拠により,多くの原告らが騒音に暴露されていないと推定される時間帯の騒音を控除して算出されたW値を用いるべきである。
原告らのうち本件コンター外の事業所で就労している有業者の多くは,午前9時から午後5時までは少なくとも本件コンター外に所在し,本件航空機騒音による被害を受けていないものと考えられる。そうすると,本件コンター外の事業所に勤務する有業者も含めた原告らに共通する被害としては,少なくとも平日の午前9時から午後5時までの騒音を除いたものと解すべきであるから,その時間帯に発生した騒音を除外して,共通する被害の評価を行うことが妥当である。
平成12年度から平成15年度までの平日(土曜日,日曜日,祭日及び年末年始を除いた日)の午前9時から午後5時までの8時間(以下この(イ)において「昼間」という。)を除いたW値と昼間の騒音を控除しない全時間帯のW値とを比較すると,被告が国測定点から得られたデータを基に1年間の総飛行回数の累積度数90%による標準総飛行回数を求め継続時間補正などをして算出した防衛施設庁方式に近似するW値(以下「国施設庁方式近似W値」という。)で2~7(算術平均4.25),環境基準方式のW値では2~4(算術平均で2.875),昼間の騒音を控除したW値の方が低くなっている。
したがって,原告らが暴露している本件航空機騒音を把握する場合,少なくとも各測定点における年度ごとの騒音よりも3又は4は低いものと評価すべきである。
(ウ) 本件航空機騒音の実態
a 原告らに対する本件航空機騒音の影響の有無,程度は,各原告ごとに確定されなければならないので,本件コンター内に居住しているからといって,実際に暴露されている航空機騒音のW値が本件コンターの数値であるということにはならない。
なお,本件コンターのために実施した騒音調査において作成された1日ごとの総飛行機数を基にした機数の累積度数曲線は,7日分の測定データについて,各日ごとの飛行機数を対比し,少ない順番に並べたものであるため,各日ごとの結果は,実際の歴の順序とは異なって前後して並べられているので,計測データのプロット位置に誤りはない。そのため,本件コンターには,原告ら主張(3)イ(イ)aのような誤りはない。
b 国測定点における騒音測定結果に基づく本件航空機騒音の実態
本件航空機騒音の実態は,以下のとおり,国測定点における騒音測定結果をみると,強度のものではない。
(a) 国測定点における騒音発生回数
① 国測定点における1日平均騒音発生回数
国新城測定点においては,まず,1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成15年度までは34.4~49.9回であり,平成16年度から平成18年度までは19.4~26.4回である。また,夜間における1日平均騒音発生回数は,平成8年度以降は1回未満となり,平成11年度から平成15年度までは0.2~0.8回であり,平成16年度から平成18年度までは0.2~0.3回で推移している。さらに,早朝における1日平均騒音発生回数は,平成4年度以降は1回未満となり,平成11年度から平成15年度までは0.3~0.7回であり,平成16年度から平成18年度までは0.1回となり,平成16年度以降も少数回で推移している。
国大謝名測定点においては,まず,1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成15年度までは31.5~72.3回であり,平成16年度から平成18年度までは15.6~22.1回で推移し,著しく減少している。また,夜間における1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成15年度までは0.1~1.1回であり,平成16年度から平成18年度までは0.1~0.3回で推移している。さらに,早朝における1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成15年度までは0.2~2.3回であり,平成16年度から平成18年度までは0.1~0.2回となり,平成16年度以降も少数回で推移している。
② 国測定点における日曜日の平均騒音発生回数
日曜日の平均騒音発生回数は,平成12年度から平成15年度までは,国新城測定点では2.2~29.6回,国大謝名測定点では1.3~19.0回であり,平成16年度から平成18年度までは,国新城測定点では0.9~2.5回,国大謝名測定点では1.0~1.7回で推移し,著しく減少している。また,国測定点における平成12年度から平成18年度までの1日平均騒音発生回数と比較すると,日曜日の平均騒音発生回数が各測定点ともに引き続き少数回にとどまっている。
③ まとめ
以上のとおり,国測定点において測定された騒音発生回数のデータによれば,特に,夜間及び早朝や日曜日における1日平均騒音発生回数は,平成16年度以降も引き続き極めて少回数にとどまっているので,原告ら主張のような損害を生じさせるものとは認められない。
(b) 国測定点における年間W値の推移
① 環境基準方式のW値(年間)
国測定点の環境基準方式のW値は,平成11年度から平成15年度までは,W値75~83とW値80前後で推移し,平成16年度から平成18年度までは,W値73~77で推移しており,平成14年度以降はW値80にも至っていない。
② 国施設庁方式近似W値(年間)
国測定点の国施設庁方式近似W値は,国新城測定点の平成13年度を除いて,本件コンターのW値内で推移している。
③ まとめ
以上によれば,W80区域の各測定点においては,おおむねW値85未満で推移しているところ,W値80未満(本件コンターでいえばW値75)となる年度も存するので,平成16年度以降も,本件コンターのW値が実際の騒音状況をそのまま示しているとはいえない。
(c) 国測定点における日々のW値の状況
① 屋外における環境基準の達成状況
国測定点で,屋外において1年のうちW値(環境基準方式)が80を超えた日数は,平成11年度から平成15年度までは,24~145日(年間の約7~40%)であり,平成16年度から平成18年度までは,11~34日(年間の約3~9%)に減少している一方,1年のうちW値(環境基準方式)が70を下回る日数は,平成11年度から平成15年度までは,82~142日(年間の約22~39%)である一方,平成16年度から平成18年度までは,149~204日(年間の約41~56%)に増加している。
② 環境基準が達成されたのと同様の屋内環境の達成状況
国測定点で,屋内において1年のうちW値(環境基準方式)が85以下の日は,平成11年度から平成15年度までは,271~339日(年間の約74~93%)であり,平成16年度から平成18年度までは,325~361日(年間の約89~99%)である。このように,各測定点における最近3か年の防音工事施工室内においては,ほぼ1年間のうちの全日数に近い日数につき,環境基準が達成されたのと同様の屋内環境が保持されている。
③ まとめ
以上によれば,W80区域にあっても,平成16年度から平成18年度までは,屋外においてさえ,年間の約41~56%に上る日数において環境基準が達成され,屋内に至っては,年間の約89~99%の日数で環境基準が達成されたのと同様の屋内環境が保持されているので,原告ら主張の損害が存在するとは認められない。
なお,訴訟上の被害の立証は,個別の原告ごとの日々の暴露量を問題とすべきであるから,実勢騒音を日別W値で用いて主張することが相当である。
c 県等測定局による騒音測定結果からみた本件航空機騒音の実態
本件航空機騒音の実態は,以下のとおり,県等測定局における騒音測定結果をみても,強度のものではない。
(a) 1日平均騒音発生回数
県等測定局における1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成15年度までは,県野嵩測定局で27.3~31.2回,県上大謝名測定局で56.6~90.5回,県新城測定局で21.6~73.0回,市真志喜測定局で24.1~35.4回でそれぞれ推移し,平成16年度及び平成17年度は,県野嵩測定局で19.5及び25.6回,県上大謝名測定局で57.1及び59.6回,県新城測定局で41.4及び55.9回,市真志喜測定局で15.1及び21.1回でそれぞれ推移している。
(b) 日曜日の平均騒音発生回数
県等測定局における平成9年度から平成17年度までの日曜日の平均騒音発生回数は,わずかであり,各測定点における1日平均騒音発生回数や他の曜日における平均騒音発生回数と比べて極めて少数回にとどまっている。
(c) 夜間の1日平均騒音発生回数
県等測定局における平成9年度から平成17年度までの夜間(午後10時から翌日午前6時までをいう。以下この(c)及びeにおいて同じ。)における1日平均騒音発生回数は,各測定点ともに極めて少数回にとどまっている。各測定点における1日平均騒音発生回数や全時間帯の騒音発生回数(月平均)のうち夜間の騒音発生回数(月平均)が占める割合は,極めて小さい。
(d) 環境基準達成日数及び年間W値の推移
平成16年度及び平成17年度でも,以下のとおり,W80区域にある県野嵩測定局においては,年間W値が80未満で推移し,環境基準達成日数も引き続き高い割合を占めており,W75区域にある県新城測定局及び市真志喜測定局においては,いずれも年間W値が75未満で推移し,年間の大半で環境基準を達成しているので,本件コンターのW値は,実際の騒音状況をそのまま示すものではない。
① 県野嵩測定局においては,年間W値は,平成11年度から平成15年度までは,73.7~79.3で推移し,平成16年度及び平成17年度は,72.0及び73.8で推移しており,本件コンターのW値である80を下回る数値となっている。他方,環境基準を達成した日数は,平成11年度から平成15年度までは,1年のうち113~190日(年間の約31~52%)で推移し,平成16年度及び平成17年度は,1年のうち206及び236日(年間の約56~65%)に上り,増加している。
② 県上大謝名測定局においては,年間W値は,平成11年度から平成15年度までは,平成13年度に86.8を示したのを除き,本件コンターのW値の85未満で推移し,平成16年度及び平成17年度は,78.7及び80.9となっており,本件コンターのW値である85未満となっている。他方,環境基準を達成した日数は,平成11年度から平成15年度までは,1年のうち70~120日(年間の約19~33%)で推移し,平成16年度及び平成17年度は,1年のうち106及び129日(年間の約29及び35%)に上り,増加している。
③ 県新城測定局においては,年間W値は,平成11年度から平成15年度までは,70.0~72.6で推移し,本件コンターのW値の75未満で推移し,平成16年度及び平成17年度は,69.2及び69.7で推移しており,本件コンターのW値の75未満となっており,特に,平成12年度,平成16年度及び平成17年度は,70以下となっており,環境基準(Ⅰ類型でW値70以下)を満たしている。他方,環境基準を達成した日数は,平成11年度から平成15年度までは,1年のうち190~341日(年間の約52~93%)であり,平成16年度及び平成17年度は,1年のうち276及び284日(年間の約76及び78%)に上り,かなりの割合を示しており,年間の大半は環境基準を下回っている。
④ 市真志喜測定局においては,年間W値は,平成11年度から平成15年度までは,68.9~71.1で推移し,平成16年度及び平成17年度は,66.2及び67.9で推移しており,いずれも本件コンターのW値の75未満となっており,特に,平成13年度及び平成15年度から平成17年度までは,70以下となっており,環境基準(Ⅰ類型でW値70以下)を満たしている。他方,環境基準を達成した日数は,平成11年度から平成15年度までは,1年のうち206~244日(年間の約56~67%)であり,平成16年度及び平成17年度は,292及び317日(年間の約80及び87%)に上り,引き続き高い割合を示しており,1年のうち年間の大半は環境基準を下回っている。
なお,県等測定局で測定されるW値は,環境基準方式で測定されたものであるが,防衛施設庁方式は,環境基準方式が継続時間を一律20秒とするの対し,継続時間の補正をするので,通常は,継続時間が短い滑走路に近いところでは,環境基準方式よりも低い数値となるから,継続時間が長い他の地点でも,環境基準方式よりもいきなり3程度も高くなるということはない。また,環境基準方式におけるWECPNLを,飛行回数の90パーセンタイル値から求めたWECPNLではなく,WECPNL90パーセンタイル値とを比較することは相当でない。そのため,沖縄県調査報告書が指摘するように,環境基準方式で測定した数値は,防衛施設庁方式のW値としては,3~5程度高い数値として評価すべきであるとはいえない。
d 検証の結果
検証の結果については,各測定点における測定時間が短く,同時に複数の測定点で測定せず各時間帯1か所であったため,本件航空機騒音の全体状況を把握することは困難であって,被告及び沖縄県が毎日24時間測定している測定点での測定記録によるべきである。
e まとめ
本件航空機騒音は,①夜間,日曜日の平均騒音発生回数は極めて少数回に限られていること,②年間W値は,本件コンターのW値を下回る年度が存在する測定局や,そもそも本件コンターのW値に達する年度が存在しない測定局も相当数存在していること,さらに,日別W値では,屋内では一年のうち大多数の日において環境基準が達成されたのと同様の屋内環境が保持されていること,③特に平成16年度から平成18年度までの防音工事を施工した室内においては,ほぼ1年間のうちの全日数に近い日数につき,環境基準が達成されたのと同様の屋内環境が保持されていると評価することができることから,原告ら主張の被害をもたらすものとはいえない。
さらに,W75区域において実施している住宅防音工事は,住宅防音工事希望世帯については,追加工事も含めて100%完了しているので,普天間飛行場周辺の原告らの住宅も含む大半の住宅には,住宅防音工事が実施されている。
したがって,本件航空機騒音の程度は,原告ら主張の被害をもたらすほど強度なものであるとはいえない。また,本件航空機騒音は,多くの地域において,近年減少傾向があるから,原告ら主張の被害も相当程度緩和されているといえる。
(エ) 原告ら主張の「本件低周波音の発生と程度」について
原告らが本件低周波音の発生の根拠として主張する沖縄環境ネットワークによる低周波音公害調査及び沖縄県による低周波音測定における各測定結果については,まず,沖縄環境ネットワークによる低周波音公害調査については,同調査において使用された低周波音レベル計XN-94におけるSPLは,1.6~1000Hzを測定し,すべて足し算したものであるので,1~80Hzの低周波音の領域を超えた80~1000Hzの騒音も含んでおり,そもそも低周波音のみの音圧レベルを示したものとはいえず,測定方法として不適切である。また,SPLは,低周波音域以外の騒音域も含めて測定し,また,平坦特性であるのに対し,A特性は,人間の音の大きさに対する感覚に合わせて周波数ごとに重み付けをするものであるので,同じ周波数の音でも測定結果に差が生ずるから,両特性により示された音圧レベルを単純に比較しても,騒音と低周波音とを比較したことにはならない上,異なる条件で測定された結果の比較を行って結論を導き出すこととなり,不当である。また,沖縄県による低周波音測定が主として使用したG特性は1~20Hzの超低周波音を対象としているから,G特性での測定をもって1~80Hzの低周波音を調査したということはできず,また,G特性音圧レベルとA特性音圧レベルとは基準とする周波数が異なっているから,両音圧レベルの数字を比較しても,それによって騒音と低周波音の音圧を比較したことにはならない。
ウ 原告ら主張の「原告らの被害」の不存在等
(ア) 被害認定の在り方
a 原告ら主張の「広義の健康被害」について
生活妨害全部,精神的被害及び身体的被害は,それぞれ性質の異なる被害であるから,「広義の健康被害」という概念を用いることにより,共通被害として同質の被害と変わることはない。しかも,身体的被害(狭義の健康被害)は,各人の健康を害するという個別性を有するものであるから,ある原告にこの被害が生じているからといって,他の原告についても同じように共通して発生するものとはいえない。
したがって,原告ら主張(3)ウ(ア)aのように「広義の健康被害」という概念を用いたとしても,これによって生活妨害全部,精神的被害及び身体的被害が共通被害として評価し得るものとはならない。
b 原告ら主張の「共通被害」について
原告らは,個々の原告について,その主張に係る被害が具体的に発生していることを個別具体的に主張立証する必要があり,また,各人の性別,年齢,職業,健康状態,気質,体質,騒音等に対する感受性や慣れの程度,騒音等の発生源に対する利害関係,居住地域,住宅防音工事の実施の有無等による建物の遮音性,居住期間,勤務地,通学先,身体的,心理的,社会的な条件や生活の態様が異なるに従って,当該個々の原告が受ける被害の有無,程度は異なるから,個々の原告ごとに被害の内容,程度を個別具体的に明らかにする必要がある。このように,原告らが共通被害を被害として主張する場合でも,被害の立証の程度は,一般的な損害賠償請求の場合と基本的に変わりはなく,原告らは,まず,何を共通被害として捉えるのかを主張した上で,原告ら全員がそのような共通被害を受けていることを立証する必要がある。そのため,原告らの一部にそのような被害が生じているとの主張立証では足りず,被害の性質が他の原告らにも認められるような性質・程度であることの主張立証が必要である。
まず,身体的被害については,現実の身体的な影響が生じた原告に特有の事実であって,その事実を他の原告と共有することはあり得ない。また,身体的被害の発生の可能性又は危険性は慰謝料請求権の発生原因である現実の被害に当たるということはできない上,原告ら主張(3)ウ(ア)bのとおり,本件航空機騒音による健康被害の発生は,地域住民全体にとって極めて重大な関心事であるとしても,重大な関心事であることと精神的損害を受けていることは別であるから,このような重大な関心事であることをもって,精神的損害の原因とはならない。
また,低体重出生児の出生率の増加や幼児問題行動の被害も,その性質上,個別被害であり,共通被害とはなり得ず,原告らの自らがこのような被害を受けていると主張する者がいないので,主張自体失当である。また,学習環境の破壊も,就学中の子供がいる場合に,その子供に生ずる被害にすぎない。しかも,これらの被害の発生の可能性又は危険性は慰謝料請求権の発生原因である現実の被害に当たるということはできない上,原告ら主張(3)ウ(ア)bのとおり,普天間飛行場周辺の子供に,このような被害が発生していることは,原告らを含む地域住民としても,重大な関心事であるからといって,そのことが精神的損害の原因となるということできない。
原告らのうち,陳述書を提出していない者(原告番号171,172,190,198,199,200,395のもの)については,その被害の立証がされていない。また,陳述書を提出しているその外の原告についても,原告ら代理人による聞き取りにより作成されているものが多数あり,そのようなものは信用性が低く,被害の発生が疑わしいものや,本件航空機騒音とは無関係と思われる被害の陳述も含まれている。
c WHOの環境騒音のガイドラインの位置付け
WHOは,その目的を「すべての人民が可能な最高の健康水準に達すること」とし,その健康も「完全な肉体的,精神的及び社会福祉の状態であり,単に疾病又は病弱の存在しないことではない」とされている。WHOの環境騒音のガイドラインも,単に健康に影響を及ぼすであろう閾値を示して各国政府にその遵守を促すものではなく,WHOの健康観に基づき,その増進のための長期的な達成目標を示したものであり,実際にどう具現化するのかは各国政府がそれぞれの実情に応じて定めるべきものとされている。
したがって,WHOの環境騒音のガイドラインは,それによって示された指針値が我が国における不法行為の発生要件である被害認定の基準とするものとはなり得ない。
(イ) 生活妨害
一般に航空機騒音が生活妨害を与える可能性があることは否定することができない。しかし,飛行場に航空機が離着陸する場合には,ある程度の騒音が発生することはやむを得ず,普天間飛行場の供用による社会的な効用が多大であることを考慮すれば,普天間飛行場周辺住民は,ある程度の航空機騒音については不可避のものとして甘受すべきである。そこで,普天間飛行場の供用の違法性の判断に際し最も重要な考慮要素の一つである被害の内容,程度としては,その被害が航空機騒音による障害がある程度存在するという程度では足りず,一般通常人の社会生活上耐えられないような重大かつ深刻な程度でなければならない。原告らが本件航空機騒音によって生じていると主張する「会話妨害」「通話妨害」,「テレビ・ラジオの聴取妨害」,「趣味生活の妨害」,「知的作業の妨害」といった日常生活の妨害については,普天間飛行場供用の違法性の判断においては,単に騒音障害があるか否かではなく,社会生活上耐えられない程度の強い訴えの有無やそれがどの程度の原告らについて生じているかを検討しなければならないところ,この点についての原告らの主張立証は不十分である。
また,人は,一日の大半を屋内で過ごすところ,本件航空機騒音が間欠的で一過性のものであり,屋内に到達する持続時間はほんの数十秒であることからして,普天間飛行場周辺住民の会話,通話,テレビ・ラジオの聴取に対する影響は,あったとしても,極めて軽微である。また,防音工事を施工した屋内においては,本件航空機騒音による会話,通話,テレビ・ラジオの聴取妨害等の生活妨害は解消されている。
(ウ) 睡眠妨害
一般に航空機騒音が睡眠妨害を与える可能性があることは否定することができない。しかし,普天間飛行場の供用の違法性判断に際し最も重要な考慮要素の一つである被害の内容,程度としては,前記(イ)と同様,その被害が航空機騒音による障害がある程度存在するという程度では足りず,一般通常人の社会生活上耐えられないような重大かつ深刻な程度でなければならない。
どの程度の騒音であれば,人の睡眠を妨げるのか,屋外において発生した騒音が人の睡眠にいかなる影響を及ぼすかについては明らかでない。睡眠は,本来個人差が顕著であり,客観的には眠っているにもかかわらず不眠を訴える者もいるから,主観的な訴えのみから睡眠妨害の有無を認めるべきではない。また,慣れによって睡眠への影響が緩和される。老化による脳の血管の動脈硬化は,睡眠障害の一因となり,また,人によっては,時計の音や波の音等も,慣れない間は睡眠妨害の原因となる。現時点の科学的知見からは,航空機騒音と睡眠妨害との間の関連性は,明確でないというべきである。
本件航空機騒音に起因する睡眠妨害の有無又は程度を判断するに当たっては,睡眠が本来人の夜間の生活の営みであることに照らし,普天間飛行場における航空機の夜間の運航状況と周辺住民の生活時間との関係を明らかにする必要があり,騒音一般又は航空機騒音一般について睡眠への影響を検討することは無意味である。一般に,深夜や早朝においては,窓を閉めて睡眠をとるのが通常であり,仮にこれらの時間帯に航空機騒音が発生したとしても,就寝中の居室内に到達する騒音量は相当程度減衰しているはずである。これらの防音又は減音効果を考慮すれば,原告らが本件航空機騒音によって睡眠を妨げられていることは,ほとんど問題とするに足りない程度といってよい。さらに,住宅防音工事による効果に加え,冷暖房機及び換気扇が取り付けられているから,ごく短時間,窓を開放せざるを得ない場合が生じ,その間にたまたま騒音に暴露されて睡眠を妨げられたとしても,それはもはや法的に保護すべき利益侵害とはいえない。
原告らが睡眠妨害があることの根拠とする沖縄県調査は,主観に基づく自己申告によって得られたデータに基づいているところ,一般に覚せいの主観的自己申告は客観的な睡眠妨害の測定結果と相関がないとされており,騒音レベルの影響の検討について自己申告データを用いることは疑わしい調査方法である。また,沖縄県調査では,オッズ比(Odds ratio。疾病の発症リスクなどを比較するための尺度として一般に用いられているものであって,対照群における比率をp0,暴露群における比率をp1とすると,{(1-p0)/p0}・{p1/(1-p0)}となるものをいう。以下同じ。なお,対照群と暴露群に差がない場合にはオッズ比が1となり,暴露群での比率が対照群での比率よりも高い場合には1以上の値となるとされている。)は,対照群の比率及び暴露群の比率の値が小さい場合には,相対危険度と一致する一方,対照群の比率及び暴露群の比率の値が大きい場合には相対危険度とかけ離れたものとなるのに,対照群の比率及び暴露群の比率の値が大きい軽度の睡眠障害についてオッズ比を相対危険度と同定するものとして用いて,量反応関係があるとの結論を導く誤った統計処理による推論をしている点で分析方法上も問題がある。しかも,沖縄県調査でも,最も重度の睡眠障害については,普天間飛行場の調査結果において量反応関係がみられない。
(エ) 精神的被害
音が,騒音として甘受される契機は,個人差が大きく,音の物理量だけで説明できるものではない。すなわち,好ましくない音か否か,その程度はいかなる程度であるかは,極めて主観的かつ心理的なものである。うるささは,騒音妨害として述べられているものに対する人間の主観的な反応であり,特に,騒音源に対する人間の評価,態度が,うるささの反応を増大させる重要な要因として働く可能性がある。このような影響は,それが主観的なものであるだけに,それが認められるとしても,法的に保護すべき利益の侵害に当たるか否かについては慎重な検討を要するというべきである。
本件航空機騒音の発生は,1日の生活時間帯のうち限定された部分にすぎず,その発生は,住民の社会生活への妨害を極力少なくするよう十分に配慮されているから,仮にある程度の不快感はあるとしても,社会生活上受忍限度の範囲内のものというべきである。
原告らが精神的被害があることの根拠とする沖縄県調査には,調査方法,解析方法及び結果解釈の妥当性について,正確性に関する問題点が含まれており,本件航空機騒音による精神的被害を裏付ける証拠とはならない。すなわち,調査方法については,THIによる調査では,平成7年及び平成8年の調査と平成3年及び平成4年の調査とは,4年もの期間を経て行われた別の調査であり,かつ,サンプリング構成も異なっているから,それぞれ別個に分析すべきであるのに,全体として一つの分析をしているので,不正確な結果をもたらす危険がある。THIによる調査における調査実施方法では,ダブルブラインド(回答者のみならず,調査員に調査の意図を知らせないこと)が行われていないため,調査対象者が,調査目的を告げられ,又は推知し,これがバイアスになった可能性がある。また,生活質・環境質調査でも,全居住者に調査票が配布されたW値95以上の区域と,全居住者には調査票を配布していない低騒音区域とを比較しているほか,地元の自治会等の協力が得られた場合には,自治会長又はその協力者が調査票を配布・回収していることや調査内容などから,調査目的を推知される可能性が高い。解析方法についても,平成6年以降の調査結果を,昭和52年当時の騒音データに当てはめて検討し,結論を導いている点で解析方法に問題がある。
さらに,沖縄県調査の結果でも,「少しうるさい」,「あまりうるさくない」及び「まったくうるさくない」と回答する者がW75区域でも41.1%いるから,沖縄県調査から,普天間飛行場周辺住民が本件航空機騒音によるうるささを共通して感じているとはいえない。また,沖縄県調査の結果によっても,普天間飛行場周辺住民が原告ら主張のような本件航空機騒音によるイライラ感,恐怖感,墜落への不安及び戦争への恐怖を共通して感じているということはできない。
(オ) 身体的被害
飛行場周辺で航空機騒音を受けることにより,聴力損失等の健康及び身体的被害が生ずる可能性がないというのが医学的定説であり,本件航空機騒音は,身体に深刻な影響を与えるほどのレベルに至っているとは考えられない。
また,身体的被害については,各原告の主張する被害が本件航空機騒音により引き起こされたことを個別に立証する必要があるので,集団的観察にはなじまない。疫学は,確率計算の手法によって集団に流行する疾病と暴露との関係をみるものであり,集団に属する個々の疾病の原因を特定するものではない。複数の原因が想定することができる非特異性の疾患の場合,当該疾患について考えられる原因が唯一と考えられる特異性疾患と異なり,集団現象としての疾病多発の原因と個別患者の発症との原因とを同列に論じることは適当でない。また,統計学的な意味での有意性は,単に偶然とは考えにくいということであって,統計学的な関連だけでは疫学的な因果関係を意味するものではない。しかも,疫学的な因果関係が肯定されたとしても,法的因果関係とは次元が異なる。そして,沖縄県調査は,本件航空機騒音の暴露を受けた時期と疾病が生じた時期の先後関係と考慮せずに行った横断的研究であり,時間的な関係が明確でないから,原因究明度は低いというべきである。また,沖縄調査は,航空機騒音の影響に関する各種研究報告についての批評・検討を行わないまま,健康影響を肯定する結論を導くなど結果解釈の妥当性に問題がある。THIは調査対象者の主観に基づく訴えであり,あくまで健康影響の存在を示唆する指標にすぎないのに,沖縄県調査では,THIによる調査の結果から,直ちに住民に健康被害が生じているかのように扱う点で,誤った推論であり,結果解釈の妥当性にも問題がある。
a 聴力損失
聴力損失については,沖縄県調査では,普天間飛行場周辺住民の聴力検査をしていないので,沖縄県調査の結果をもって,原告らに聴力損失が生じていると認めることはできない。沖縄県調査の結果は,嘉手納飛行場周辺におけるW値85以上の区域に居住する者を対象としており,普天間飛行場周辺には,W値85以上の区域は存しないので,原告ら主張の聴力損失の根拠となり得ない。また,沖縄県調査において聴力損失と認定された者のように,比較的高齢の者の多い集団の場合には,加齢による聴力の減退を考慮する必要がある上,重要な病歴に関する問診結果も欠け,また,職業や趣味等による騒音暴露量の考慮がされていない。また,耳鳴りは,その本態が分からないことが多いとされているので,航空機騒音との関係も明らかにすることは不可能である。空港周辺住民に騒音性難聴がみられることがないというのが定説である。
騒音性聴力損失は,騒音レベルの大きさとその持続時間によって引き起こされるものであり,連続した長時間の暴露でなければ聴力損失は起こらないという見解が一般的であるので,航空機騒音は,間欠音であるから,聴力損失は起こらないという見解が一般的である。
しかも,原告らは,聴力損失などについて,具体的,個別的に主張しておらず,沖縄県調査による以外の特段の立証もしない。原告らの陳述書は,誤りが多く,特定性にも欠けるなど信用性に疑問がある上,原告らは,聴力損失や難聴などを根拠付ける診断書などの客観的資料を提出しておらず,聴力損失などは立証されていない。
さらに,原告らが共通被害と主張するものが,①聴力損失に至らない程度の身体的影響,②将来聴力損失を生ずるかもしれない不安感,③将来聴力損失を生ずる可能性又は危険性のいずれであるか判然としない。これらのうち,①の身体的影響は,聴力損失と同一の疾病とはいえないから,聴力損失として考慮するのは不相当である。また,③のような可能性又は危険性はもちろん,②のような不安感は,慰謝料請求権の発生原因となるべき現実の被害に当たるとはいえない。
b 聴力損失以外の身体的被害
「頭痛・肩こり・目まい等の症状」,「高血圧・心臓の動悸等」,「胃腸障害等」等の被害は,個別原告ごとに主張立証する必要があるところ,原告らの主張立証は不十分である。
また,これらの症状等は,航空機騒音以外の原因によっても生じ得るから,仮に,これらの症状等が原告らに存するとしても,本件航空機騒音によって生じたとは認められない。原告らが主張の根拠とする沖縄県調査の住民健康診断データは,受診率等が地域によって異なり得るので,地域の住民全体の健康状態やその傾向を把握することができず,また,40歳以上の住民を対象としているのに,40歳未満の者のデータも取り混ぜて分析しており,データの抽出,分析の信頼性に疑問がある。
血圧等は,航空機騒音によって影響を及ぼすとはいえず,仮に航空機騒音が呼吸器・循環器系機能や消化器系機能に一定の影響を及ぼす可能性があるとしても,それは,騒音暴露による急性反応の存在を示唆するにすぎず,騒音暴露が慢性的な高血圧や心疾患,胃腸障害等の疾患を引き起こすことは明らかでない。また,頭痛,肩こり,めまい等は,いずれも高齢,他疾患,普天間飛行場とは異なる生活環境等他原因の存在が疑われる。
(カ) 原告ら主張の「子供の被害」について
低出生体重児の出生について,原告らが主張の根拠とする沖縄県調査には,まず,資料となっている人口動態調査票が,市町村単位での分類となっているため,騒音暴露量との関連を分析する上でのサンプリング方法としては疑問があり,調査方法について正確性に関する問題点が含まれている。また,対照群と暴露群の間に有意差があるとの結論を導くに当たり,交絡因子として重要な母親の妊娠中の就業状況等を考慮していないなど,交絡因子を十分に取り除いていないという解析上の問題があるから,本件航空機騒音による被害を裏付ける証拠とはならない。
幼児問題行動についても,原告らが主張の根拠とする沖縄県調査における調査は,質問紙を配布する際に,各園の施設長や代表者に対して,航空機騒音の影響に関する調査であることを告げているので,各園の施設長や代表者から回答者に対し調査目的が告げられた可能性が高く,バイアスの生ずる可能性がある。また,質問紙に記載された質問の前後関係や内容から,調査対象者は,調査の目的が騒音との関係にあることを推測することができた可能性がある。さらに,親の経済状態等の交絡因子の検討も十分にできていない。この沖縄県調査については,調査方法について正確性に関する問題点が含まれているといえる。
学習環境の破壊の被害のうち,学童の記憶力に関する沖縄県調査は,本件航空機騒音が学童の記憶力に影響を与えることを肯定したものとはいえないので,これを裏付ける証拠とはならない。また,普天間飛行場周辺で子供が学校や家庭で学習する際,本件航空機騒音により,一過的に若干の学習妨害を受けることがあるとしても,その妨害の程度は,本件航空機騒音だけのために学習が困難又は不可能となるものでなく,学校防音工事や住宅防音工事で相当の防音効果があるので,その障害は解消し,又は大幅に低減している。
(キ) 低周波音による被害
a 原告らが本件低周波音による共通被害として主張する「不定愁訴」及び「物的影響」については,個々の原告について,このような被害が具体的に発生していることを主張立証する必要があるところ,そのような主張立証はされていない。しかも,不定愁訴が各人の自覚的な症状の主張であることから,被害者の個別的特性に左右されないとはいえない。また,原告らは,不定愁訴や物的影響を騒音とは異なる低周波による被害と主張する以上,本件航空機騒音による被害とは別に低周波音固有の被害についても主張立証する必要がある。しかし,個々の原告らに低周波音による被害が生じているとの主張立証はない。
なお,騒音に低周波音が加わった場合の影響に関するデータがない以上,本件航空機騒音に本件低周波音が加わったために普天間飛行場周辺でのうるささ感が強いとはいえない。
b 仮に原告らの主張するような被害の発生が認められるとしても,被告の損害賠償責任が肯定されるためには,①普天間飛行場に係る航空機から一定レベル(各周波数ごとの音圧レベル)以上の低周波音(1~80Hz)が発せられていること,②原告らが①の低周波音に暴露していること,③原告らの主張する被害と普天間飛行場に係る航空機から発せられた低周波音との間に因果関係が認められることを,原告らが具体的に主張立証する必要がある。
しかし,まず,①については,原告らが本件低周波音の発生の根拠として主張する沖縄環境ネットワークによる低周波音公害調査及び沖縄県による低周波音測定における各測定結果については,前記イ(エ)のとおり,問題がある。また,検証の結果については,各測定点における測定時間が短く,同時に複数の測定点で測定せず各時間帯1か所であったため,本件低周波音の全体状況を把握することは困難である上,検証の結果からしても,航空機による低周波音がない状態でも相当程度の低周波音に暴露されているから,原告ら主張の本件低周波音は,厳しいものでなく,家屋による遮音効果を考慮すれば,損害賠償を認めるべき被害を与える低周波音の発生はみられない。
次に,②について,W値算定の基となるdB(A)には低周波音の他に騒音も含まれるから,同じW値に居住する原告が同程度の低周波音に暴露しているとまでいうことはできない。
また,③についても,航空機による低周波音と心身・睡眠影響との因果関係は解明されておらず,立証は不十分である。
(ク) 原告ら主張の疫学的因果関係論の問題点
疫学的因果関係は,あくまで個々の患者とは別に人間集団を対象とするから,疫学上因果関係が認められるとしても,それは,訴訟において要求される法的因果関係及びその前提となる事実的因果関係とは次元が異なる。
原告らの主張は,疫学的因果関係が認められれば,個々の原告についての個別立証をしなくても健康被害の存在が推定されるというものであると思われるが,それが「証明」という事柄の性質及び立証責任の所在と相容れないことは明らかであって,本件航空機騒音と原告らの個別損害との法的因果関係を認定することはできない。
エ 普天間飛行場の公共性等
(ア) 普天間飛行場の公共性
普天間飛行場は,我が国の平和と安全を維持し,極東の平和と安全を維持するために欠くことのできない高度の公共性を有する施設である。
我が国は,自由と民主主義を基本理念とする先進自由主義国家の一つとして繁栄と発展の道を歩んでいる。国の存立は,国民の生活と福祉の不可欠の基盤であり,国の平和と安全を確保し続けていくことは,国民の幸福を守り,増進させるために必須の要件である。我が国は,武力紛争がほとんど絶えることのない厳しい国際情勢の中で,戦後幸いにして他国の侵略を受けることはなかったが,将来万が一にも我が国が他国から侵略されるなどの事態が発生すれば,国民の安全が重大な危機に直面するのみならず,これまでのような自由と幸福を追求することが不可能となる。
そして,我が国は,自ら適切な防衛力を保持するとともに,日米安全保障体制の下に国の防衛を全うしようとしているので,日本に在る米軍の使用する防衛施設は,その目的遂行上不可欠である。冷戦終結後においても,宗教や民族などの対立に根ざす紛争やテロなどの新たな脅威が顕在化するなど,国際情勢は依然として不透明・不確実な要素をはらんでいる。また,アジア太平洋地域においても様々な不安定要因が存在している。このような国際社会にあっては,日米安全保障体制の意義はいささかも減じていない状況にあるといえる。そのため,今日においても,米軍に提供される防衛施設の機能が十分に発揮され,かつ,安定的な使用が確保されることは,我が国の平和と独立を守り,国民生活の安全を守るため必要不可欠である。そうすると,日本に在る米軍は,世界各地に展開している米軍と有機的に結合し,広く極東の平和と安全を維持するため極めて重要かつ不可欠の役割を果たしているといえる。
したがって,普天間飛行場は,安保条約に基づく日米安全保障体制の下において,日本における重要な位置を占める施設の一つであって,その使用の必要性は,格段に高いので,その公共性は極めて高度である。
(イ) 普天間飛行場の適地性及び重要性
飛行場の立地条件としては,一般に,地形的に山岳地帯から離れた平坦な地にあり,高層建築物等障害物がないこと,気象的には年間の悪天候の発現日数が少ないこと,風向がほぼ一定であることが必要である。普天間飛行場は,それらの条件を満たしている。また,普天間飛行場の位置は,アジア大陸に近く,日本列島の南端にあるため,我が国の安全及び極東における国際の平和と安全の維持に寄与するという安保条約の目的達成のために必要とされる地理的条件も満たしている。
一方,普天間飛行場については,日米安全保障協議委員会において,日米両政府によって設置された「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)が平成18年5月1日にした返還等の内容を含む最終報告を了承しているため,被告は,現在,普天間飛行場の移設・返還に取り組んでいる。
したがって,普天間飛行場は,その代替施設が完成し,運用可能となるまでの間,我が国の安全の確保等に必要不可欠なものであり,我が国の存立上重要な地位を占めているといえる。
(ウ) 普天間飛行場の供用の違法性の判断における考慮
(ア),(イ)のような普天間飛行場の公共性は,普天間飛行場の供用の違法性の判断において,十分に考慮されるべきである。
オ 周辺対策等
(ア) はじめに
普天間飛行場における米軍機の運航活動は,安保条約6条及び地位協定2条1項(a)に基づき,高い公益性の実現のために行われるので,適法な行為である。本件航空機騒音は,このように適法な米軍機の運航活動に随伴して不可避的に生ずるから,本件航空機騒音の発生のみから,普天間飛行場の供用が違法ということはできない。もっとも,本件航空機騒音の発生によって,普天間飛行場周辺に居住している住民の日常生活に若干でも支障が生じている場合には,行政がかかる騒音を放置してよいものではなく,各時代における国際的及び国内的社会・経済情勢を踏まえ,居住の経緯,騒音影響の内容と程度等あらゆる現実的側面を考慮した上で,事柄に応じた適宜の行政対策を実施するのが望ましい。
被告は,かかる基本的視点に立ち,普天間飛行場の存続によってもたらされる公益の重大性と普天間飛行場を維持するために影響を受ける住民の生活上の利益との調和を図るため,(イ)から(エ)までの周辺対策等を実施している。被告が実施する周辺対策等には,住宅等の防音工事のように騒音の障害を受ける側について,騒音を軽減するための措置を採る対策(周辺対策)と,騒音の発生やその周辺住民への到達自体を規制する方法,具体的には騒音を発生源で抑制する対策(音源対策)及びこれに準じる方法として運航方式に改変を加える対策(運航対策)とに大別することができる。本件航空機騒音により原告らを含む普天間飛行場周辺住民にもたらされる不利益又は影響は,これらの周辺対策等によって,既に相当程度防止し,又は軽減されている。
したがって,これらの周辺対策等の実績とその効果は,普天間飛行場の供用の違法性の判断において,十分に考慮されるべきである。
(イ) 普天間飛行場周辺における周辺対策
a 概要
被告が普天間飛行場周辺において行ってきた周辺対策は,その主なものを大別すると,①障害防止工事及び学校等公共施設防音工事の助成(生活環境整備法による廃止前の「防衛施設周辺の整備等に関する法律」(昭和41年法律第135号。以下「周辺整備法」という。)3条1項,2項,生活環境整備法3条1項,2項),②住宅防音工事の助成(生活環境整備法4条),③民生安定施設の助成(周辺整備法4条,生活環境整備法8条),④特定防衛施設周辺整備調整交付金(生活環境整備法9条)のほか,⑤行政措置に基づくものがある。
b 障害防止工事及び学校等公共施設防音工事の助成
(a) 障害防止工事の助成
被告は,自衛隊等の離着陸の頻繁な実施により生ずる障害を防止し,又は軽減するため,普天間飛行場周辺において,昭和47年5月15日から昭和49年6月26日までは周辺整備法3条1項に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法3条1項に基づき,平成18年度までに,真栄原排水路工事,比屋良川負担金,新城排水路工事,大山排水路工事,大謝名排水路工事,伊佐排水路工事,中原地区排水路工事,大山2号排水路工事,大山3号排水路工事,喜友名排水路工事について,総額約35億7629万5000円の補助金(道路の整備事業に係るものは除く。)を関係自治体に交付している。
(b) 学校等公共施設防音工事の助成
被告は,自衛隊等の離着陸の頻繁な実施により生ずる音響で著しいものを防止し,又は軽減するため,普天間飛行場周辺において,昭和47年5月15日から昭和49年6月26日までは周辺整備法3条2項に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法3条2項に基づき,学校及び病院等の防音工事に係る必要費用相当の補助金(工事費,実施設計費及び地方事務費)を交付し,学校及び病院等の防音工事の実現を図ってきている。
被告が普天間飛行場周辺の学校及び病院等の防音工事に対して行った助成措置は,平成18年度までの間の合計で,143施設に対して318億7583万7000円である。
c 住宅防音工事に対する助成措置
被告の住宅防音工事に対する助成措置は,生活環境整備法によって採用された周辺対策であって,周辺住民の生活の本拠における航空機騒音の防止,軽減を図ろうとするものである。被告は,昭和54年度から,生活環境整備法4条に基づき,本件コンター内において,普天間飛行場周辺の住宅の所有者等に対し,住宅防音工事の助成を行い,できるだけ多く,かつ,速やかに住宅防音工事の実現を図ってきている。この助成措置は,被告が今後とも最も重点を置く周辺対策の一つである。また,防音工事により,室内が気密化されるから,快適な室内環境の保持を図るため,空気調和工事も行っている。
助成の対象となる住宅防音工事の内容の概要は,内外部開口部の遮断工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮断及び吸音工事並びに冷房施設及び換気設備を取り付ける空気調和工事である。その内容は,防衛施設周辺住宅防音事業工事標準仕方書(以下「住宅防音仕方書」という。)に従っている。住宅防音仕方書は,W80区域においては25デシベル以上,W75区域においては20デシベル以上の計画防音量を目標とし,その効果が達成されるように,標準工法等についての基準を定めている。被告は,個々の防音工事が完了すると,それらの工事が住宅防音仕方書のとおりに施工されていることを確認しているから,防音工事施工後の屋内は計画防音量のとおりの防音効果が生じているということができる。
普天間飛行場周辺における住宅防音工事の助成事業の実施状況は,昭和54年度から平成18年度までの間,合計延べ1万9268世帯について,補助額約350億2439万1000円の措置が採られている。また,被告は,空気調和機器機能復旧工事に関しては,平成2年度から平成18年度までに3524世帯に実施し,補助額約11億2637万9000円を助成している。
d 民生安定施設の助成措置
民生安定施設の助成措置とは,防衛施設の設置又は運用によりその周辺の住民の生活又は事業活動が阻害されると認められる場合において,地方公共団体が,その障害の緩和に資するため,生活環境施設又は事業経営の安定に寄与する施設の整備について必要な措置を採るに際して,当該地方公共団体に補助金を交付する措置である(周辺整備法4条,生活環境整備法8条)。この助成の中には,老人福祉センター,一般住民の学習,保育,休養又は集会の用に供するための施設(学習等供用施設,公民館及び図書館等)等に対する防音助成と無線放送施設又は公園等の整備に対する一般助成(道路改修事業を含む。)とがある(生活環境整備法施行令12条)。
被告は,普天間飛行場周辺において,平成18年度までに,防音助成として,公民館,市町村庁舎,消防庁舎,学習等供用施設,保健相談センター,老人福祉センター,特別集会施設,商工業研修等施設,農民研修施設の合計36施設につき,関係地方公共団体に対し約44億376万6000円に上る補助金を交付している。また,被告は,平成18年度までに,一般助成として,無線放送施設,屋外運動場,体育館,特別集会施設,農業用施設等の設置事業につき約29億7000万円,道路改修事業につき約38億822万5000円の総額約67億7822万5000円に上る補助金を関係地方公共団体等に交付している。
これらの助成によって,原告らを含む普天間飛行場周辺住民の日常生活,教育活動,レクリェーション活動等の面において,普天間飛行場の維持,運営から生ずる障害を間接的に緩和し,環境の改善,住民の福祉向上が図られている。
e 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付
被告は,生活環境整備法9条に基づき,生活環境整備法施行令14条所定の公共用施設の整備のために,生活環境整備法施行令15条,生活環境整備法施行規則3条により算出した額に従って,昭和50年度から平成18年度までの間に,宜野湾市に対し,合計約19億7939万9000円に上る特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付している。この交付金による整備の対象となる公共施設は,交通施設,医療施設,環境衛生施設,教育文化施設,社会福祉施設,消防に関する施設等である。
この交付金の交付により,原告らを含む普天間飛行場周辺住民の生活環境の向上に効果を上げている。
f 行政措置による周辺対策
被告は,bからeまでの法律に基づく諸施策のほか,行政(予算)措置による周辺対策として,①防音事業関連維持費の補助,②空気調和機器稼働費の補助等を行っている。
(a) 防音事業関連維持費の補助
防音事業関連維持費の補助は,被告が,自衛隊等の航空機の離着陸等の実施その他の行為により生ずる音響で著しいものを防止し,又は軽減するために防音工事を実施した学校等に設置された換気設備(送風機,排風機等)及び除湿設備(冷凍機,冷却塔等)の使用のために発生した電気料金を支払う者に対し,平成16年度までは財団法人防衛施設周辺整備協会が当該電気料金を交付している場合には同協会を通じ,その余の場合は自ら,当該電気料金の補助を行うものである。
この補助の対象とする経費の範囲は,各年度ごとに,小学校,中学校,高等学校,中等教育学校及び幼稚園の教育時間又は保育所の保育時間において,換気設備(送風機,排風機等)及び除湿設備(冷凍機,冷却塔等)の使用に要した電気料金である。平成18年度までの補助金の額は,沖縄県を除く地域においては各年度ごとに要した電気料金等に3分の2を乗じて得た額の範囲内の額であるが,沖縄県の区域内に所在する対象施設については特例措置が採られ,予算上の制約はあるものの,原則として,各年度ごとに要した電気料金の10分の10を乗じて得た額の範囲内である。
この補助は,普天間飛行場周辺については,昭和53年度から実施されており,昭和53年度から平成18年度までの実績は,総額約64億1813万4000円に上っている。
(b) 空気調和機器稼働費の補助
空気調和機器稼働費の補助は,被告が,被告の助成に基づき住宅防音工事を実施した住宅に居住する者のうち,生活保護法(昭和25年法律第144号)6条1項所定の被保護者であるもので,住宅防音工事により設置した空気調和機器(冷房機,換気設備をいう。)の稼働に伴う電気料金を支払う者に対し,平成16年度までは財団法人防衛施設周辺整備協会が当該電気料金を交付している場合には同協会を通じ,その余の場合は自ら,補助を行うものである。
平成元年度から平成18年度までの間,307世帯に対し,約378万3000円の補助を行っている。
g 基地助成交付金及び基地調整交付金の助成
被告は,国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律(昭和32年法律第104号)に基づき,自衛隊等の用に供している国有固定資産(土地・建物等)の所在する市町村に対して,基地助成交付金を交付している。基地助成交付金は,市町村が国有資産に対して固定資産税を課することができないため,これに代替するものとして,被告が市町村に財政補給をしようとするものである。
また,被告は,施設等所在市町村調整交付金交付要綱(昭和45年11月6日自治省告示第224号)に基づき,米軍の資産(ドル財産)に係る税制上の特例措置等により施設等所在市町村が受ける税財政上の影響を考慮し,市町村に財政補給を行うとの趣旨の下に基地調整交付金を交付している。
基地助成交付金及び基地調整交付金は,共に総務省所管の交付金制度であり,いずれも一般財源の補給金である。
被告が宜野湾市に対し平成18年度までに交付した基地助成交付金及び基地調整交付金は,基地助成交付金が合計約24億9520万7000円,基地調整交付金が合計約113億5792万9000円に上っている。
この交付金の支出は,被告の諸対策に伴う補助金の支出等とあいまって,これら助成を受ける地方公共団体の財政に多大の貢献をしている。
(ウ) 音源対策
騒音をその発生源で抑える音源対策として,まず,地上における航空機のエンジンテストに伴う騒音軽減のため,平成元年2月15日に開催された日米合同委員会において,普天間飛行場にC-130,UH-1等用の消音装置を設置することが合意された。そこで,被告は,平成4年3月26日に鉄筋コンクリート造平屋の防音建屋に吸気消音器,排気消音器等を設置した消音装置3棟等を完成させ,米軍に提供した。この消音装置は,同装置から約250m(直近の施設区域境界)離れた地点で地上高1.2mにおける騒音レベルが騒音計の聴覚補正回路のA特性で70dB(A)以下となる性能を有している。
また,被告は,昭和51年度から,生活環境整備法の趣旨に基づき,普天間飛行場内において被告の直轄事業として緑地整備事業を行ってきた。これは,緑地の整備によって,防風及び地上騒音の緩和等の物理的効果に加え,緑地の存在によって景観を整え,安心感ややすらぎを与える心理的効果も期待するものである。
(エ) 運航対策
被告は,運航時間帯,離着陸の方法,滑走路の使い方,飛行経路の選び方などを規制することによって,飛行場周辺に居住する住民に及ぼす騒音の軽減を図る対策も行っている。
被告は,日米合同委員会の下部機関である航空機騒音対策分科会等において,米軍に対し,普天間飛行場における騒音の軽減を要請している。また,沖縄県民の負担を軽減するため,平成7年11月に日本国政府及びアメリカ合衆国政府によって「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)が設置され,日米合同委員会において,集中的な協議を行った結果,平成8年3月28日に平成8年規制措置が合意された。
平成8年規制措置は,普天間飛行場周辺の航空機騒音レベルへの懸念を軽減するため,日本に在る米軍の任務に支障を来すことなく航空機騒音による望ましくない影響を最小限にすべく設定された。具体的には,①日曜日の訓練飛行は差し控え,任務の所要を満たすために必要と考えられるものに制限される。慰霊の日のような周辺地域社会にとって特別に意義のある日については,訓練飛行を最小限にするよう配慮する。②午後10時から翌日午前6時の間の飛行及び地上での活動は,アメリカ合衆国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限される。③進入及び出発経路を含む飛行場の場周経路は,できる限り学校,病院を含む人口密集地域上空を避けるよう設定する。④有効な消音器が使用されない限り,又は運用上の能力若しくは即応態勢が損なわれる場合を除き,午後6時から翌日午前8時までの間,ジェットエンジンのテストは行わないといったものが含まれている。
沖縄県においては,米軍基地が存在することから派生する諸問題について協議するために,米軍,沖縄県及び被告による三者連絡協議会が設置され,この三者連絡協議会において騒音問題が取り上げられ,その成果として,曲芸飛行の停止や消音装置の設置が実現している。
カ 原告ら主張の「違法性を画する基準」について
昭和48年環境基準は,行政上の政策目標として騒音による好ましくない影響を防止するという見地に立って純粋に望ましい環境の保全という観点から定められた基準であるから,環境基準は,違法性を画する基準とはならない。
また,本件コンターも,普天間飛行場周辺地域の住民の生活の安定及び福祉の向上に寄与することを目標とする政策的保障措置を実施するために設定したものにすぎないから,本件コンターのW値は,違法性を画する基準とはならない。また,本件コンターのW値を違法性を画する基準とすることは,本件航空機騒音の実態からかけ離れた形式的な数値を基準とするものとなり,不当である。
また,各国の基準は,各国の技術的,社会的,経済的,政治的な要素を考慮して決せられる上,その持つ意味も一義的でないから,諸外国における規制に在り方が本件航空機騒音の法的評価に影響を及ぼすものではない。
(4) 危険への接近の法理による免責又は減額
ア 免責法理としての危険への接近の法理の根拠
危険への接近の法理は,ある者がある場所に危険が存することを認識しながら,又は過失により認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのため損害を受けたときは,危険を容認したもの又はそれに準ずるものとして,加害者の責任を否定するものである。私法関係にあっては,自己が自由な意思決定によって選択した結果は自己が負担することが原則(自己責任の原則)であり,自らの自由な意思決定によって,あえて自己の法益を危険にさらしたにもかかわらず,これによる損害を他に転嫁することは公平に反する結果となる。
危険への接近の法理は,このような自己責任の原則,殊に不法行為法を支える根本理念の一つである衡平の理念(損害の公平な分担)に根ざす重要なものである。また,航空機騒音問題における免責の法理としての危険への接近の法理は,航空機騒音問題の特質を踏まえた上で,住民の利益の保護と飛行場の存立という二つの要請を妥当に調和して騒音問題の適正な解決を図ろうとするものといえる。そうすると,免責の法理としての危険への接近の法理は,違法性又は受忍限度の判断の重要な要素として評価されるべきである。
イ 免責法理としての危険への接近の法理の適用要件等
(ア) 免責法理としての危険への接近の法理の適用要件
前記アの免責法理としての危険への接近の法理の根拠に照らすと,①危険に接近した者が侵害行為の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認して居住を開始したこと(以下「要件①」という。),②被害が精神的苦痛又は生活妨害の程度にとどまり,直接生命,身体に係わるものでないこと(以下「要件②」という。),③侵害行為に相当高度の公共性が認められること(以下「要件③」という。)という各要件を充足する場合には,④実際の被害が入居時の侵害行為からの推測を超える程度のものであったとか,入居後に侵害行為の程度が格段に増大したとかいうような特段の事情が認められない(以下「要件④」という。)限り,そのような被害は入居者において受忍しなければならず,この被害を理由として慰謝料の請求をすることは許されないと解すべきである。そして,要件①の容認とは,免責の法理としての危険への接近の法理が,違法性判断における利益衡量の一要素であり,被害者の承諾の理論とは異なるから,原告ら主張(5)イ(イ)bのように積極的な容認に限られると解すべきではなく,不利益状況は単独では受け入れ難いものであっても,他に重視すべき利益状況があるため,これをやむを得ないものとして受け入れる場合も含むと考えるべきである。そうすると,要件①の容認とは,消極的な容認で足りるというべきである。
(イ) 基準日後の転入者
宜野湾市長が米軍に対し昭和44年7月には普天間飛行場の騒音について善処要望を行っていること,教職員会宜野湾支部が昭和45年6月に騒音の即時中止を決議していることからして,少なくとも昭和47年5月15日(以下この(4)において「基準日」という。)までには,本件航空機騒音が社会問題化し,かつ,広く周知されるに至っていたというべきであるから,基準日以降に本件コンター内に転入した原告らについては,本件航空機騒音による被害の発生状況を認識して居住を開始したと推定することができる。しかも,これらの原告らについては,「一定程度の航空機騒音の存在を認識しながら相当期間にわたる間の住居としてあえてその住居を選択した」という事情が認められる以上,本件航空機騒音による被害の容認も推定されるので,基準日以降に本件コンター内に転入してきた原告らについては,被害の容認があったものと推定される(要件①の充足)。これら被害の容認があったものと推定される原告らは,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅰ」欄に「○」の記載がある原告48名である。
また,原告らの「共通損害」の主張立証は不十分で,被侵害利益そのものが認められず,また,航空機騒音に関する現在までの研究では,人の身体又は精神面に影響が及ぶことは一般的に否定されており(要件②の充足),普天間飛行場には,前記(3)エのとおり,相当高度の公共性があり(要件③の充足),普天間飛行場周辺における騒音状況はほぼ一定のレベルで推移しており,特に,平成11年度以降は減少傾向が認められるので,要件④の特段の事情は認められない。
したがって,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅰ」欄に「○」の記載がある原告らに対しては,免責の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
(ウ) 再転入者及び本件コンター内複数転居者
仮に基準日以降に本件コンター内に転入したという事実のみでは,本件航空機騒音による被害の容認を推定するには十分でないとしても,基準日以降において本件コンター内に転居するに際し,普天間飛行場の騒音を認識していたことが明らかな者,すなわち,原告らのうち,①基準日以降に本件コンター内に居住したことがあり,その後,本件コンター外に転居したものの,再び本件コンター内に転入した者35名,②基準日以降に本件コンター内に居住したことがあり,その後,本件コンター内でより騒音レベルの高い区域に転居した者29名,③基準日以降に本件コンター内で3回以上転居した者51名(①,②,③のいずれも,本件コンター内での最初の居住開始時点が基準日より前であるか,後であるかは問わない。)については,本件航空機騒音による被害の容認の有無に関し,上記転居が選択の余地がないものであったか否かなどの転居の具体的事情が明らかにされなければならず,その事情の存在が明らかにされない限りは,本件航空機騒音による被害の容認が推定され,免責の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
なお,普天間飛行場の宜野湾市の面積に占める割合は,約24.4%であり,面積の約82.4%を基地が占める嘉手納町等とは状況が異なっており,普天間飛行場周辺地域でも,本件航空機騒音の影響を受けずに生活することができる地域が相当程度存する。そのため,普天間飛行場周辺において,本件航空機騒音の影響を受けずに生活することができる地域が限られているとはいえない。
そして,上記原告らの中には,上記転居に選択の余地がないものはいない。
したがって,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」のうち「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」,「Ⅱ-③」欄に「○」を記載した原告らは,上記①から③までの分類に該当し,免責の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
ウ 減額法理としての危険への接近の法理
一般に,ある者がある場所に危険が存在することを認識しながら,又は過失によってこれを認識しないで,あえてその場所に入って危険に接近し,そのために被害を被ったときは,損害賠償額の減額事由としてこれを考慮するのが衡平である。そうすると,危険への接近の法理によって免責が認められない場合にも,具体的な事情のいかんにより,過失相殺の法理に準じ,損害賠償額の算定に当たり,これを減額事由として考慮すべきである。
基準日以降に本件コンター内に転居した原告らのうち,①転居の際,本件航空機機騒音の存在を認識していなかったものについても,本件航空機騒音が,基準日までには,社会問題化し,かつ,広く周知されていたことからすれば,被害をもたらす航空機騒音を認識することは容易であったので,本件航空機騒音を認識しなかったことには過失があるといえ,また,②転居の際,本件航空機騒音の存在及びこれによる被害を認識していたものの,本件航空機騒音の程度又はこれによる被害の程度を認識しなかったものについては,本件航空機騒音の存在及びこれによる被害を認識していれば,本件航空機騒音の程度又は本件航空機騒音による被害の程度を把握せず転居したことには過失があるといえる。
そうすると,基準日以降に本件コンター内に転居した原告らについては,減額の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
また,基準日以降に本件コンター内に転居した者については,その転居後の期間にかかる損害賠償請求について,免責が認められないとしても,減額の法理としての危険への接近の法理が適用されるべきである。
したがって,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「減額」の「Ⅰ」欄に「○」を記載した原告ら64名及び同「Ⅱ」欄に「○」を記載した原告ら32名については,上記①又は②の類型に該当し,減額の法理としての危険への接近の法理が適用され,損害賠償額の算定に当たり,相当額の減額がされるべきである。また,同「危険への接近の法理類型」の「免責」の「Ⅰ」欄又は「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」若しくは「Ⅱ-③」欄に「○」を記載した原告らについては,仮に免責法理としての危険への接近の法理が適用されないとしても,減額の法理としての危険への接近の法理が適用され,損害賠償額の算定に当たり,相当額の減額がされるべきである。
(5) 消滅時効
ア 消滅時効の抗弁
仮に原告らに本件航空機騒音により損害が生じているとしても,そのような損害は,日々発生するものであり,かつ,原告らはその時点で損害及び加害者を知ることができる。
したがって,原告らのうち第1事件原告については訴えを提起した平成14年10月29日の前日である同月28日から,第2事件原告については訴えを提起した平成15年4月14日の前日である同月13日からそれぞれ起算して3年より前に発生した損害についての賠償請求権は,弁護士費用分も含めて,時効によって消滅している。
イ 原告ら主張の時効の援用についての権利の濫用に対する反論
被告は,違法な行為を継続的かつ積極的に加担してきたことはないので,原告らの消滅時効の援用についての権利の濫用に関する主張は,根拠がない。
(6) 住宅防音工事の実施による損害額への影響
被告は,原告らに対し,居住経過表の「住宅防音工事実績」欄に記載のとおり,住宅防音工事を実施した。
したがって,住宅防音工事の実施を受けた原告らの損害額の算定に当たっては,住宅防音工事の実施を考慮すべきである。
(7) 将来の損害の賠償請求の不適法性(本案前の答弁)
原告らの将来の損害の賠償請求は,以下のとおり,その性質上,権利の成否及び内容を一義的に明確に認定することのできないものであるから,将来の給付の訴えを提起することができる請求権としての適格性を有しない。
したがって,原告らの将来の損害の賠償請求に係る訴えは不適法である。
ア 普天間飛行場は,平成8年12月2日,日米安全保障協議委員会において,返還等が了承された。そこで,平成12年8月25日には,被告,沖縄県及び地元地方公共団体の間で代替施設建設協議会が結成され,被告において,平成14年7月29日には,「普天間飛行場代替施設の基本計画」を決定した。その後も,平成17年10月29日には,日米安全保障協議委員会において,普天間飛行場の移設について,キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶ区域にL字型に代替施設を設置する政府案を盛り込んだ共同文書が発表され,同年11月11日には,「平成17年10月29日に実施された日米安全保障協議委員会において承認された事項に関する当面の政府の取組について」が閣議決定された。そして,防衛庁長官(当時)は,名護市長及び宜野座村長との間で,平成18年4月7日,それぞれ上記政府案を基本として代替施設を建設する旨の基本合意を締結した。他方,被告は,アメリカ合衆国政府との間でも,同年5月1日,日米安全保障協議委員会において,日本に在る米軍の兵力態勢の再編に係る最終的な取りまとめをし,普天間飛行場代替施設を,名護市の辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置することを了承した。
以上のように,普天間飛行場について具体的な移設計画が存在するので,原告ら主張(7)アのように普天間飛行場の閉鎖に向けた具体的な措置が採られていないとはいえない。
イ 仮に,本件訴訟の口頭弁論終結の日の翌日から1年間の時期において,普天間飛行場の返還が実現しなかったとしても,普天間飛行場のような軍用飛行場については,将来における恒常的な航空交通量ひいては航空機騒音を予測することはおよそ不可能というべきである。そうすると,本件航空機騒音が,口頭弁論終結の日の翌日以後も同程度であると推測することは不可能である。
また,本件航空機騒音に低下傾向が認められることからすれば,仮に本件訴訟において一部の原告につき過去の損害の賠償請求が認容されることがあるとしても,将来の損害においては,受忍限度内の騒音と評価される余地もあり,また,当然に同額の損害賠償となるとも限らない。
ウ 原告らの居住場所は,相当頻繁に変動しており,しかも,その変動状況は複雑である。そうすると,口頭弁論終結の日の翌日から1年間に限ったとしても,その間に本件コンター内で異なるW値の区域に転居したり,本件コンター外に転居するなどする原告が相当数に上る可能性が高い。このような多数の原告について,被告が,転居や死亡の事実を把握するためには,原告ら全員について住民票の調査や原告らの居住地の現地調査を頻繁に実施するよりほかないが,このような生活状況の変動を把握し主張立証して執行を阻止することは,原告らが自身の生活状況の変動について,請求原因事実として主張立証することに比べて著しく困難である。
エ しかも,被告は,音源対策等を含む種々の周辺対策等を検討・実施しているところ,原告らの居住住宅に対する住宅防音工事により,本件航空機騒音による影響は大幅に減少し,又は消失するので,原告らの損害賠償請求権の成否及びその内容は,被告の実施する住宅防音工事によっても,影響を受けるといえる。
(8) 騒音測定等請求の不当性
物権的妨害予防請求権は,将来の侵害を予防するため,予防請求の相手方に一定の作為又は不作為若しくは被侵害者の費用による予防措置を受忍すべきことを許すものである。そのため,予防請求権の内容も,将来の侵害予防に直結する作為又は不作為若しくは予防措置の受忍義務でなければならないと解される。しかし,原告ら主張の侵害行為は,米軍機の航行であるから,被告が騒音測定等を行っても,侵害予防効果に直結することはない。
したがって,被告には,原告ら主張の騒音測定等の請求権が発生することはない。
第3  主な争点
1  本件差止請求の当否。特に,被告が,米軍と共同して妨害状態を引き起こし,又は米軍の普天間飛行場における活動を制限することができる立場にあるかどうか等。
2  普天間飛行場に設置又は管理の「瑕疵」があるかどうか。特に,本件航空機騒音等の侵害行為の態様と侵害の程度,原告らの本件航空機騒音等による被害の性質と内容,侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮して,これらを総合的に考察した結果,普天間飛行場の供用が原告らに対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうか。
3  原告らについて,いわゆる免責法理としての「危険への接近の法理」が適用され,被告が免責されるかどうか。
4  被告による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるかどうか。
5  損害額。いわゆる減額法理としての「危険への接近の法理」の適用の有無及び住宅防音工事の実施による減額の有無等
6  将来の損害の賠償請求に係る訴えの適否
7  本件騒音測定等請求の当否
第3章  当裁判所の判断
第1  本件差止請求の当否(争点1)について
1  共同妨害者としての責任
原告らは,普天間飛行場における米軍機による一定の時間帯の離着陸及び騒音の規制の請求(以下「本件差止請求」という。)をしているところ,被告は,前記前提事実1のとおり,アメリカ合衆国に対し,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在まで,安保条約及び地位協定に基づき,米軍の使用する施設及び区域として普天間飛行場を提供している。そして,原告らは,普天間飛行場を離着陸等する米軍機による本件航空機騒音及び本件低周波音により被害を受けているから,人格権,環境権又は平和的生存権に基づき本件差止請求をすることができると主張しているので,その主張を前提とすると,本件航空機騒音等による被害を直接生じさせている者は,被告ではなく,米軍であるというべきある。
したがって,被告が妨害状態を引き起こしているということはできないので,被告が妨害状態を引き起こしていることを前提とする本件差止請求には,主張自体失当であるというほかない。
これに対し,原告らは,被告がアメリカ合衆国に普天間飛行場を提供していることに加え,被告がいわゆる「思いやり予算」などの莫大な税金を投じて,普天間飛行場の維持管理に協力,関与してきたことなどをもって,被告が米軍と一緒になって原告らの権利を違法に侵害する状態を生じさせているなどと主張する。
しかし,被告がアメリカ合衆国に普天間飛行場を提供していることや米軍に対する予算措置を講ずることは,いずれも本件航空機騒音等の発生にとっては間接的なものにすぎないから,被告がアメリカ合衆国に普天間飛行場を提供していることや米軍に対する予算措置を講じていることをもって,被告が米軍と共同して妨害状態を引き起こしているということはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
2  普天間飛行場の提供者としての責任
(1) また,原告らは,本件差止請求の前提として,被告が,普天間飛行場の提供者として,米軍による権利侵害状態を除去すべき義務を負っていると主張する。
(2) 本件航空機騒音等による被害を直接生じさせている者は,前記1のとおり,被告ではなく,米軍であるから,被告が,原告ら主張の権利侵害状態を除去すべき義務を負うといえるためには,その前提として,被告が米軍の普天間飛行場における活動を制限することができる立場にあることを要するというべきである。
しかし,普天間飛行場に係る被告と米軍との法律関係は,前記1のとおり,安保条約等の条約に基づくから,被告は,条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めのない限り,米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限することができる立場にないというべきである。
そして,安保条約等の関係条約及び国内法令に上記のような特段の定めはないから,被告は,米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限することができる立場にはないということができる。
(3)これに対し,まず,原告らは,原告らの人格権,環境権,平和的生存権が侵害されている場合には,条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めがなくても,被告が米軍の活動を制限することできると主張する。しかし,普天間飛行場に係る被告と米軍との法律関係は,前記(2)のとおり,条約に基づく以上,被告が米軍の普天間飛行場における活動を制限することができる立場にあるというためには,条約又はこれに基づく国内法令に特段の定めのある必要があるというべきであるから,原告らのこの主張を採用することはできない。
(4) また,原告らは,以下のように国内法が米軍に対して適用となる根拠を挙げ,被告が米軍の活動を制限し得るかの主張をするけれども,以下のとおり,いずれも採用することができない。
ア 原告らは,まず,国際法における領域主権の原則を根拠として,国は,条約などによる特別の制限がない限り,排他的な統治権を行使することができる一方,国内に駐留する外国軍隊を受入国の国内法令の適用から除外する一般国際法の規則は存在しないので,領域主権は,領域内にある外国の軍用機に対しても当然に及ぶから,日本の国内法が米軍機に対しても適用される旨主張する。
しかし,被告がアメリカ合衆国に対し普天間飛行場を提供していることは前記(2)のとおり条約に基づいている上,地位協定3条1項において「合衆国は,施設及び区域内において,それらの設定,運営,警護及び管理のため必要なすべての措置を執ることができる。」と定められているから,アメリカ合衆国が普天間飛行場の運営,管理等のため必要なすべての措置を採ることができることも,条約に基づいているので,原告らの上記主張は採用することができない。
イ 原告らは,地位協定3条及び16条を根拠として,日本の国内法が米軍機に対しても適用される旨主張する。
しかし,まず,地位協定3条1項2文は,「日本国政府は,施設及び区域の支持,警備及び管理のため合衆国軍隊の施設及び区域の施設及び区域への出入の便宜を図るため,合衆国軍隊の要請があつたときは,合同委員会を通ずる両政府間の協議の上,それらの施設及び区域に隣接し又はそれらの近傍の土地,領水及び空間において,関係法令の範囲内で必要な措置を執るものとする。」と定めているところ,同条1項2文は,それ自体,米軍の施設及び区域の施設及び区域への出入の便宜を図るため,米軍の要請があった場合における規定にすぎないから,そのような目的がない場合においても,日本の国内法が米軍機に適用されることを前提とするものではない。また,同条3項は,「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は,公共の安全に妥当な考慮を払つて行わなければならない。」と定めているところ,同条3項も,同条1項において,前記アのとおり,アメリカ合衆国が「合衆国軍隊が使用している施設及び区域」である普天間飛行場について,運営,管理等のため必要なすべての措置を採ることができることが定められていることを前提とした上で「公共の安全に妥当な配慮」を払うことを定めているにすぎないから,同条3項に違反した場合に,被告が米軍の活動を制限することができることを意味するものではないと解すべきである。
また,地位協定16条は,「日本国において,日本国の法令を尊重し,及びこの協定の精神に反する活動,特に政治的活動を慎むことは,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びにそれらの家族の義務である。」と定めているところ,その文言上,米軍の構成員等に対し,我が国の法秩序を尊重すべき一般的義務を定めたものにすぎないと解すべきである。
したがって,地位協定3条1項2文,3項及び16条の規定は,いずれも被告に米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約する権限を付与したものと解することはできないので,原告らの上記主張も採用することができない。
ウ 原告らは,地位協定18条5項が,不法行為から生ずる周辺住民の請求を処理するために設けられた規定であるので,金銭請求に限った規定ではなく,条約上の特別の定めに当たる旨主張する。
しかし,同項は,外国国家に対する民事裁判権免除に関する国際慣習法を前提として,外国の国家機関である米軍による不法行為から生ずる請求の処理に関する制度を創設したものと解される(最高裁平成11年(オ)第887号平成14年4月12日第二小法廷判決・民集56巻4号729頁参照)から,そもそも,同項の規定をもって,被告に米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約する権限を付与したものと解することはできないというべきである。しかも,同項は,公務執行中の米軍の構成員等による不法行為から生ずる請求権について,日本国が処理する旨定める一方(同項本文),日本国が,裁判等により決定された額の支払を日本円で行うものとされ(同項(b)),請求を満たすために要した費用についての日本国及びアメリカ合衆国の分担に関する具体的な定めを置いていること(同項(e))にかんがみれば,同項が予定する請求は,金銭賠償に係る請求に限定されていると解すべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
エ 原告らは,航空特例法が航空法97条(航空管制権)の規定を適用除外にしていないことから,被告は,航空管制権に基づいて米軍機の運航を規制することができる旨主張する。
昭和27年の航空法制定とともに,米軍機と我が国の航空機との運航上の法的調整を図るため,航空特例法が制定されている。航空特例法は,米軍機の運航に関し航空法所定の事項について幾つかの規定の適用除外を定める一方,航空機の運航に関する航空法第6章の規定のうち,国土交通大臣の航空交通の指示(同法96条),飛行計画の承認(同法97条)及び到着の通知(同法98条)の規定については,適用除外を定めていない(なお,航空法及び航空特例法が沖縄県に適用されるようになったのは,沖縄の復帰の日である昭和47年5月15日以降である。)。そのため,我が国の領空を航行する米軍機は,すべて国土交通大臣に対し,飛行計画を通報し,更に計器飛行方式による場合にあってはその承認を受けなれればならないことになりそうである。
しかし,地位協定6条1項は,「すべての非軍事用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は,緊密に協調して発展を図るものとし,かつ,集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする。この協調及び整合を図るため必要な手続及びそれに対するその後の変更は,両政府の当局間の取極によつて定める」と定めている。証拠(甲C13)及び弁論の全趣旨によれば,米軍機に対する航空交通管制をすべて国土交通大臣の権限であるとすることは,米軍機の運航に支障を来すおそれがあるから,日米合同委員会における地位協定6条1項に基づく合意により,航空路管制業務(計器飛行方式により飛行する航空機及び特別管制空域等を飛行する航空機に対する管制業務であって,飛行場管制業務,進入管制業務,ターミナル・レーダー管制業務着陸誘導管制業務以外のものをいう(航空法施行規則199条1項1号)。)は国土交通大臣が所管し,その余の普天間飛行場に関する管制業務は米軍が行うものとされたことが認められる。そうすると,米軍が,普天間飛行場内の離着陸,普天間飛行場の管制圏及び進入管制区内の航行については,米軍機のみならず我が国の航空機も含めてすべて管制し,これから離脱し,又はこれに進入する場合には,国土交通省の航空路管制と管制の引継ぎを行うこととなっている。
以上のとおり,航空交通管制業務についても,地位協定6条1項に基づき,基本的に米軍が行うことが日米合同委員会で合意された結果,米軍が,普天間飛行場内の離着陸,普天間飛行場の管制圏又は進入管制区内の航行について,管制することとなっているから,このような合意の存在及び内容にかんがみれば,航空法97条をもって,被告に普天間飛行場を離着陸等する米軍機の運航を制約する権限を付与したものと解することはできない。
したがって,原告らの上記主張も採用することができない。
(5) 以上によれば,被告は,米軍の普天間飛行場の管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得るものではないので,本件差止請求は,被告に対してその支配の及ばない第三者の行為の差止めを請求するものというべきであるから,被告が原告ら主張の権利侵害状態を除去すべき義務を負っていることを前提とする本件差止請求に係る原告らの主張は,主張自体失当であるというべきである(最高裁昭和62年(オ)第58号平成5年2月25日第一小法廷判決・民集47巻2号643頁,最高裁昭和63年(オ)第611号平成5年2月25日第一小法廷判決・裁判集民事167号下359頁参照)。
3  本件差止請求についてのまとめ
以上のとおり,被告は,前記1のとおり,妨害状態を引き起こしているとはいえず,また,前記2のとおり,米軍の普天間飛行場における活動を制限することができる立場にあるとはいえないので,原告ら主張の権利侵害状態を除去する義務を負うともいえないから,本件差止請求には,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
第2  普天間飛行場の設置又は管理の「瑕疵」の有無(争点2)について
1  はじめに
(1) 原告らは,本件損害賠償請求の根拠として,法的には,①国家賠償法1条1項及び民法719条,②民事特別法1条又は③民事特別法2条を選択的に主張するところ,いずれの根拠に基づくものであっても,原告ら主張の損害については差異を生ずることはないから,これらの根拠のうちのいずれかが認められるのであれば,その余の根拠につき判断をする必要がないといえる。
(2) 普天間飛行場は,前記前提事実1によれば,米軍が占有し,又は管理する土地の工作物であると認められるので,民事特別法2条の土地の工作物であるといえる。
(3) ところで,国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは,営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。ここにいう安全性の欠如,すなわち,他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは,当該営造物を構成する物的施設自体に存する物理的,外形的な欠陥ないし不備によって一般的にこのような危害を生ぜしめる危険性がある場合のみならず,その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含み,また,その危害は,営造物の利用者に対してのみならず,利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解すべきである。すなわち,当該営造物の利用の態様及び程度が一定の限度にとどまる限りにおいてはその施設に危害を生ぜしめる危険性がなくても,これを超える利用によって危害を生ぜしめる危険性がある状況にある場合には,そのような利用に供される限りにおいて,当該営造物の設置,管理には瑕疵があるというを妨げず,したがって,当該営造物の設置・管理者において,かかる危険性があるにもかかわらず,これにつき特段の措置を講ずることなく,また,適切な制限を加えないままこれを利用に供し,その結果第三者に対して現実に危害を生ぜしめたときは,それが当該設置・管理者の予測し得ない事由によるものでない限り,国家賠償法2条1項の規定による責任を免れることができないと解される(最高裁昭和51年(オ)第395号同56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号1369頁参照)。そして,民事特別法2条が「国の占有し,所有し,又は管理する土地の工作物その他の物件の設置又は管理に瑕疵があつたために他人に損害を生じた場合の例により,国がその損害を賠償する責に任ずる。」と規定しており,「例により」とは,ある事項について,他の法令の下における制度又は手続を包括的に当てはめて適用することを表現する用語として用いられるものであるから,民事特別法2条に基づく国の賠償責任についても,国家賠償法2条1項の規定が包括的に適用することとなるので,民事特別法2条にいう土地の工作物その他の物件の設置又は管理の瑕疵についても,国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵と同様の解釈となるというべきである(最高裁昭和63年(オ)第612号平成5年2月25日第一小法廷判決・訟務月報40巻3号452頁参照)。
原告ら主張の普天間飛行場の設置又は管理の瑕疵は,普天間飛行場に多数の米軍機が離着陸等をするに際して発生する本件航空機騒音等が原告らに被害を生ぜしめているという点にあるところ,上記のとおり,このような第三者に対する危害も民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵に含まれ,また,物件がその供用目的に沿って利用されている状況のもとにおいてこれから危害が生ずるような場合もこれに含まれるというべきである。そして,普天間飛行場は,前記前提事実1のとおり,宜野湾市の中央部に所在し,多数の住民の居住する地域に極めて近接しているなど立地条件が劣悪であって,多数の米軍機が離着陸等することにより普天間飛行場周辺住民に本件航空機騒音による影響を与えることは避けられない状況にあることからすると,普天間飛行場の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となる限り,普天間飛行場に民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵があるというべきである(なお,上記の要件のうち,当該営造物の設置・管理者において,特段の措置を講じ,また,適切な制限を加えることや,当該設置・管理者の予測し得ない事由によるものであることは,抗弁にすぎないと解すべきである。)。
(4) そして,普天間飛行場の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかについては,①侵害行為の態様と侵害の程度,②被侵害利益の性質と内容,③侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,⑤その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して判断すべきである(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,各最高裁平成5年2月25日第一小法廷判決参照)。
これに対し,原告らは,生活妨害全部及び精神的被害は,身体的被害と同様,他の要素との比較衡量にはなじまないので,被害の存在を違法性の判定の一要素とし,侵害行為の態様や侵害行為のもつ公共性の内容と程度などと利益衡量する受忍限度論を採用する余地はないというべきであると主張するけれども,生活妨害全部及び精神的被害と身体的被害とは被害の程度を異にする上,身体的被害であっても,その被害の内容を他の要素と利益衡量する余地がないとはいい切れないから,原告らのこの主張を採用することはできない。
そこで,以下では,2において①本件航空機騒音等の侵害行為の態様と侵害の程度及び④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況を,3において②被侵害利益(原告らの本件航空機騒音等による被害)の性質と内容を,4において③侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等及び⑤被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸事情を順次検討し,5においてこれらの事情を総合的に考察した結果,普天間飛行場の供用が第三者に対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかについて検討する。
2  本件航空機騒音の態様と侵害の程度及びその継続の経緯等
(1) 航空機騒音の評価方法等
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア WECPNLの算出式
WECPNLは,ICAOにおいて昭和44年に国際基準として採択されたECPNLに1日の時間帯別で騒音暴露による影響に差があるとの考え方から時間帯による重み付けをしたものである。
(ア) WECPNL算出の基礎となるECPNLは,次式のとおり,観測された騒音を1機ごとにEPNLで表示してそれが平均T0秒だけ継続したとし,運航機数がN機であったとすれば,1日当たり全騒音量(Total Noise Exposure)が得られ,それを1日(秒で表示)の期間で平均して求められる(ただし,LはEPNLのパワー平均値,T0は10秒とする。)。

なお,ICAOが定めるEPNLの算出の手順は,おおむね次のとおりである。
① 定められた地点で離陸又は着陸の騒音を録音する。
② 録音波形を0.5秒ごとにサンプリングして,各々1/3オクターブ分析を行う。
③ 1/3オクターブスペクトルから0.5秒ごとの知覚騒音レベル(PNL)を計算する。
④ 1/3オクターブスペクトルから特異音補正量を求め,③のPNLに加え純音補正知覚騒音レベル(Tone Corrected Perceived Noise Level。以下「PNLT」という。)を求める。
⑤ ④で求めたPNLTの時間に対する曲線から継続時間補正ファクターDを求める。その計算式は,次のとおりである。

⑥ PNLTM(最大のPNLT)にDを加えたものがEPNLである。
⑦ 各測定について温度及び経路の補正を行う。
⑧ 同一地点で最低6回の測定を行い,その90%信頼限界が±1.5dB以内でなければならない。
(イ) WECPNLは,1日を日中(午前7時から午後7時まで),夕方(午後7時から午後10時まで)及び夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の3つの時間帯に分割した上で(日中(午前7時から午後10時まで)と夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の2分割をする方法もある。),日中,夕方及び夜間の運航回数をそれぞれN1,N2,N3としたとき,次式によって求められる(ただし,Lは,1日全機のEPNLの平均である。)。

(甲D86,乙D9)
イ 昭和48年環境基準
(ア) 政府は,厚生省(当時)生活環境審議会における昭和43年からの審議結果を受けて,昭和46年5月25日,「騒音に係る環境基準について」を閣議決定し,公害対策基本法9条の規定に基づき,騒音に係る環境上の条件について生活環境を保全し,人の健康を保護する上で,維持されることが望ましい基準として,環境基準を定めた。その環境基準は,療養施設が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域では昼間45ホン(A),朝夕40ホン(A),夜間35ホン(A),主として住居の用に供される地域では昼間50ホン(A),朝夕45ホン(A),夜間40ホン(A),相当数の住居と併せて商業,工業等の用に供される地域では昼間60ホン(A),朝夕55ホン(A),夜間50ホン(A)とされ,また,道路に面する地域についても独自の基準値が定められた。
なお,生活環境審議会公害部会騒音環境基準専門委員会の審議の中では,地域補正について,「生活環境の保全という見地からすれば,…一般住宅地域の指針値が維持されることが望ましいが,現在の都市騒音の実態,騒音に関する住民の苦情や,住民に対するアンケート調査結果に地域差がみられること,また国際標準化機構(ISO)の提案において地域差が認められていること等の理由から,地域差を設けることは止むを得ないと考えられる。」とされていた。
上記環境基準は,航空機騒音,鉄道騒音及び建設作業騒音については,適用されないものとされている。
そこで,中央公害対策審議会の騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,同年12月18日,東京国際空港及び大阪国際空港空港周辺における航空機騒音の被害が看過し難い状況にあり,緊急にその対策を講ずる必要があることにかんがみて,「環境保全上緊急を要する航空機騒音対策について当面の措置を講ずる場合における指針について(報告)」と題する報告書を作成し,その中で,指針として,①夜間特に深夜における航空機の発着回数を制限し静穏の保持を図るものとすること,②空港周辺において,航空機騒音が1日の飛行回数100機から200機として,ピークレベルのパワー平均で90ホン(A)(これは,WECPNL85,NNI(Noise and Number Index。PNLに飛行回数の補正を加えたものをいう。以下同じ。)で55に当たる。)以上に相当する地域について緊急に騒音障害防止措置を講ずるものとするとした。これを受けて,中央公害対策審議会が,同月27日,上記報告書とほぼ同様の内容の「環境保全上緊急を要する航空機騒音対策について当面の措置を講ずる場合における指針について」との答申をした。
そこで,環境庁長官(当時)は,運輸大臣(当時)に対し,翌28日,「環境保全上緊急を要する航空機騒音対策について」との勧告をし,その中で,東京国際空港及び大阪国際空港周辺における航空機騒音による被害が極めて深刻化し看過し難い状況にあり,このような現状に対処するため,これらの空港周辺における航空機騒音に係る環境上の条件についての当面の指針等を定め,指針として,①航空機騒音による空港周辺地域の住民の生活環境上の被害をできるだけ軽減するようにすることとし,特に夜間・深夜においては睡眠等が妨げられることのないよう,静穏の保持を図ること,②航空機騒音がWECPNL85以上に相当する地域については,これにより住居内における日常生活が著しく損なわれることがないようにすることなどを内容とするとともに,測定方法等や指針達成のための方策を明らかにした。
(甲E1の1から4まで,E4から8まで,9の1,E16)
(イ) 中央公害対策審議会の騒音振動部会特殊騒音専門委員会は,昭和48年4月12日,航空機騒音に係る諸対策を総合的に推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定に際し,その基礎となる指針について検討した結果,「航空機騒音に係る環境基準について(報告)」と題する報告書を作成し,その中で,航空機騒音に係る諸対策を推進するに当たっての目標となるべき環境基準の設定につき,評価単位として「WECPNL= +10log10N-27」の式により求められるWECPNLを用いること,指針値をWECPNL70以下(商工業の用に供される地域においては,WECPNL75以下)とすること,その他騒音測定方法,指針値の達成期間,指針値達成のための施策を採ること等を指摘した。同委員会は,航空機騒音に係る環境基準設定の基礎となる指針の根拠等について,横田,大阪等の空港周辺における住民被害の調査等の資料から判断すると,NNIでおおむね30~40以下であれば航空機騒音による日常生活の妨害,住民の苦情がほとんど表れないことなどから,環境基準の指針値としてはその中間値NNI35以下であることが望ましいけれども,航空機空機騒音については,その影響が広範囲に及ぶこと,技術的に騒音を低減することが困難であることその他輸送の国際性,安全性等の事情があるので,これらの点を総合的に勘案し,航空機騒音の環境基準としてはWECPNL70(WECPNL70は,機数200機の場合ほぼNNI40に,25機の場合NNI35に相当する。)以下とすることが適当であると判断されることや,一般の騒音の環境基準においても,地域類型別に基準値が定められていることから,航空機騒音についても地域差を設けることが適当であると考えられることを明らかにしている。
これを受けて,中央公害対策審議会は,環境庁長官(当時。以下このイにおいて同じ。)に対し,同年12月6日,同報告書を踏まえた答申をした。
(甲E3,9の1,E16)
(ウ) 環境庁長官は,前記(イ)の答申を検討した結果,昭和48年12月27日,昭和48年環境基準を告示し,公害対策基本法9条による騒音に係る環境上の条件につき,生活環境を保全し,人の健康の保護に資する上で維持することが望ましい航空機騒音に係る基準(環境基準)及びその達成期間を定めた。
その要旨は,次のとおりである。
① 環境基準は,専ら住居の用に供される地域を類型Ⅰとし,Ⅰ以外の地域であって通常の生活を保全する必要がある地域を類型Ⅱとし(各類型を当てはめる地域は,都道府県知事が指定する。),地域の類型ごとに,類型Ⅰでは基準値W値70以下と,類型Ⅱでは基準値W値75以下とする(以下,この(ウ)において,これらの基準値を「環境基準値」という。)。
② 環境基準値の測定は,原則として連続7日間行い,暗騒音より10dB以上大きい航空機騒音のピークレベル及び航空機の機数を記録する。測定は,屋外で行い,その測定点は,当該地域の航空機騒音を代表すると認められる地点を選定する。
③ 環境基準値の測定時期としては,航空機の飛行状況及び風向等の気象条件を考慮して,測定点における航空機騒音を代表すると認められる時期を選定する。
④ 環境基準値の航空機騒音の評価は,②のピークレベル及び機種から次の算式により1日ごとのW値を算出し,そのすべての値をパワー平均して行う。

とは,1日のすべてのピークレベルをパワー平均したものをいい,Nとは,午前零時から午前7時までの間の航空機の機数をN1,午前7時から午後7時までの間の航空機の機数をN2,午後7時から午後10時までの間の航空機の機数をN3,午後10時から午後12時までの間の航空機の機数をN4とした場合における次により算出した値をいう。

⑤ 環境基準値の測定機器は,日本工業規格C1502に定める指示騒音計若しくは国際電気標準会議pub/179に定める精密騒音計又はこれらに相当する騒音機器を用いるものとし,この場合において,聴覚補正回路はA特性とし,また,動特性(騒音計の指針の動く速さを表すものをいう。)は緩(Slow)とする。
⑥ 環境基準の達成期間について,公共用飛行場等の周辺地域においては,次の飛行場の区分ごとに次の期間で達成され,又は維持されるものとする。
新設飛行場並びに第3種空港及びこれに準ずる飛行場直ちに
第2種空港A 5年
福岡空港を除く第2種空港B及び新東京国際空港 10年以内(ただし,5年以内にW値を85未満とし,又はW値が85以上の地域においては屋内で65以下とする。)
新東京国際空港を除く第1種空港及び福岡空港 10年を超える期間内に可及的速やかに(ただし,5年以内に,W値を85未満とし,又はW値が85以上の地域においては屋内で65以下とし,また,10年以内に,W値を75未満とし,W値が75以上の地域については屋内で60以下とする。)
⑦ 環境基準の達成期間につき,自衛隊等が使用する飛行場の周辺地域においては,平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案し,当該飛行場と類似の条件にある⑥の飛行場の区分に準じて同環境基準が達成され,又は維持されるように努める。
⑧ 航空機騒音の防止のための施策を総合的に講じても,⑥の達成期間で環境基準を達成することが困難と考えられる地域においては,当該地域に引き続き居住を希望する者に対し家屋の防音工事等を行うことにより環境基準が達成された場合と同等の屋内環境が保持されるようにするとともに,極力環境基準の速やかな達成を期する。
(乙E1)
(エ) 沖縄県調査委員会は,環境基準方式について,ICAOの提唱するWECPNLに対して,次のような仮定を置くことで導かれていると指摘する。
① ICAOのWECPNLでは,1回の飛行ごとに航空機騒音のPNLTを求めることになっている。これに対し,環境基準方式では,これを当該航空機騒音のレベル変動の最大値dB(A)Mから換算するために,次式を仮定している。
PNLT=dB(A)M+13
② ICAOのWECPNLの計算に必要なEPNLを算出するための継続時間の補正に関して,環境基準方式では,規準化時間を10秒と仮定している。
③ ICAOのWECPNLの方法では,昼間,夕方,夜間の各時間帯ごとのECPNLに時間帯補正を行ってWECPNLを計算する。これに対し,環境基準方式では,各時間帯の飛行回数に重み付けを行うことで求める。
④ ICAOのWECPNLの方法では,窓の開閉の効果を考慮するために,気温に基づいて,1か月のうち20度以上の時間が100時間未満のとき-5,25.6度以上が100時間以上のとき+5を補正する。しかし,環境基準方式ではこの補正を行わない。
⑤ 環境基準方式では,最終的に得られた式の定数項の値(-26.365)を危険側(-27)に丸めている。
(甲D1)
(オ) 航空機騒音の測定
環境庁大気保全局(当時)は,昭和63年6月,種々の飛行場について航空機騒音の監視測定を実施するための測定方法やデータ整理の方法などについて「航空機騒音監視測定マニュアル」を作成した。
その中には,次のような記述がある。
a 飛行場の種類と飛行形態について,航空機騒音の状況は,飛行場の種類や機種,運用形態などによって大きく異なる。民間空港では,長期間にわたりほぼ決まったスケジュールで大型ジェット旅客機などが離着陸を繰り返し,1日当たりの離着陸回数や運航の手順,飛行経路もおおむね決まっているのに対し,自衛隊や米軍が運用する飛行場では,戦闘機などが飛行訓練を行うなどのため,運航回数や飛行経路の変化が極端に大きいことがあり,また,夜間の飛行もある。このような飛行場の種類や機種,運用形態の違いを考慮して飛行場を3つのタイプに分類して測定点の選び方や測定方法などを記述する。
タイプ1の飛行場は,大型のジェット機やプロペラ機が定期航空運送事業を目的として長期間にわたって定期的に離着陸する公共用飛行場であり,着陸のための進入方式も,小さな空港において有視界飛行方式で着陸することがあることを除くと,計器着陸方式又はそれに準じた着陸方式でされることが多く,飛行経路のばらつきは小さい。
タイプ2の飛行場は,自衛隊や米軍の戦闘機,ジェット輸送機,プロペラ機などが飛行する飛行場であり,着陸のための進入方式も,誘導着陸方式又は有視界飛行方式で行われる。普天間飛行場も,タイプ2の飛行場に該当すると位置付けられる。
タイプ3の飛行場は,セスナなどの小型プロペラ機やヘリコプターが主に離着陸する飛行場である。ヘリコプターによる騒音は,固定翼の飛行機と比べると,飛行形態や騒音に関する特徴に異なる点がある。すなわち,①ヘリコプターによる騒音の場合は,回転翼から発生する騒音の寄与が大きいが,その指向性はジェット機なとと異なる。②ヘリコプターによる騒音は,ジェット機と比べ騒音の大きさが小さいが,騒音の継続時間が長いことが多い。③ヘリコプターの種類によって異なるが,衝撃性の極めて強いブレードスラップ音が聞こえることが多い。④ヘリコプターは,飛行の自由度が極めて大きい。飛行場から離れると水平飛行をするが,その巡航高度は固定翼機と比べてかなり低く,また,空中で静止することもある。
b 測定点と測定期間については,航空機騒音を測定するに当たっては,飛行場の種類によらず,原則として,通年測定点と短期測定点の2種類の測定点を設け,年間を通じての総合的な騒音暴露を評価し,監視する。飛行回数や飛行形態の変化が大きい上記タイプ2の飛行場では,通年測定点を設けることは不可欠である。通年測定点の配置については,飛行場の運用状況を把握するためには,少なくとも滑走路の延長上の飛行経路直下に近いところに設けることが望ましい。もっとも,上記タイプ2の飛行場では,航空機の飛行状況が複雑であり,滑走路上空で周回飛行を繰り返すなどの特殊な飛行形態が多いため,滑走路端でも全ての飛行機の飛行状況を観測できるとは限らない。短期測定については,上記タイプ2の飛行場は,飛行回数や飛行形態の変化が大きいので,「特殊飛行場周辺における航空機騒音の判定手法について」に基づいて,年間平均のWECPNLを推定することを基本とする。
なお,同判定手法は,特殊飛行場のうち,主としてジェット機が就航する飛行場に適用するものであり,WECPNLの平均値は1週間を周期として変動する場合が多いなどの特性を踏まえ,航空機騒音の測定・評価方法については,「飛行場ごとに基準地点を設定し,基準地点においては年間連続測定を実施する。任意測定地点におる測定は原則として2週間としWECPNLの2週間平均値(パワー平均)を求め,同じ期間の基準地点におけるWECPNL(2週間平均値)との差を算出する。基準地点における年間平均WECPNLに上で計算した差を加えて…任意測定地点における平均WECPNLの推定値とする。」などとする。
(乙E4)
ウ 防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準
(ア) 民間空港においては,民間航空機が,毎日定期的に運航しており,飛行コースも一定であり,また,飛行回数にさほど極端な増減がなく,1週間の飛行スケジュールは通常さほど変化がないのが常態である。
これに対し,防衛施設等の飛行場においては,自衛隊等の航空機が訓練の必要性等のため運航しており,飛行コースが一定しておらず,また,飛行回数も集中して多く飛行する日がある反面,ほとんど飛行しない日があるなど,その運航状況は極めて不定期で,1日の飛行機数に変動が大きい。
(弁論の全趣旨)
(イ) 防衛施設庁(当時。以下このウにおいて同じ。)は,昭和52年ころ,社団法人日本音響材料協会に対し,「演習場周辺砲撃音等を含む防衛施設周辺騒音調査方法の検討」を委託し,昭和52年5月,防衛施設周辺騒音調査研究委員会が発足した。同委員会は,「防衛施設周辺騒音コンター作成基準」の適用方法等を検討項目として検討した結果,昭和53年3月,「防衛施設周辺騒音調査研究報告書」をまとめた。
同委員会は,「防衛施設周辺騒音コンター作成基準」の適用方法について,昭和51年度に提案された方法が,民間空港に関して環境庁(当時)及び運輸省(当時)の通達によって実施されている方法と異なる体裁を持つことから,適用方法の細部に疑義の生じないよう検討を加えた。そして,同委員会は,同報告書において,同委員会副委員長であり日本大学理工学部教授である木村翔が,防衛施設周辺に関する住民反応を直接面接方式により有効標本数1245の規模で整理検討している結果として,「防衛施設のように1日の飛行機数に変動がある場合には,1年間などの一定期間内の平均機数よりも,1日単位で数多く飛行した日を基準にしたWECPNLが住民反応に比例する。」,また,「住民反応は離着陸方向別に大きい方のWECPNLで反応している。」などとあることを踏まえて,昭和51年に作成した防衛施設周辺における航空機騒音コンター作成基準に修正を加え,「防衛施設周辺における航空機騒音コンター作成基準(昭和52年)」を明らかにした。この昭和52年度版においては,①「特に防衛施設の近傍において離着陸方向別の大きい方の評価値を用いる。」,②「1年間の飛行実績を用い,年間平均でなく,1日の飛行回数の累積度数90%の飛行回数を用い住民反応に合わせる。」,③「機種別,飛行態様別,飛行経路別に航空機騒音のピークレベルを求めるほかに継続時間を測定して補正し,また着陸音補正をも含めるなどICAOの提案の趣旨を積極的に採り入れ,民間空港の場合に単純化されている合成方法においても妥当な方式をICAOの提案に基づき導入する。」などの基本的立場としつつ,合理的な修正をしたとする。その修正点としては,騒音評価値の算出のうち飛行回数の決定において,離着陸方向別に分けて騒音コンターを作成する場合と,離着陸方向別に分けないで騒音コンターを作成する場合の二者に分け,住民保護の立場から主として防衛施設の近接した地域では前者の場合を適用し,遠方の地域では離着陸方向の影響が小さくなり,また民間空港の場合を比較も可能なように後者を用いることができるように配慮されるなどが含まれていた。
なお,この昭和52年度版においては,飛行回数の決定において,離着陸方向別に分けて騒音コンターを作成する場合には,原則として最新の1年間のデータをもとにして,離着陸方向別に,飛行した日を対象とし,1日の総飛行回数を少ない方から累積度数曲線を求め,累積度数90%に相当する飛行回数を,その防衛施設における離着陸方向別の1日の総飛行とした後,これに離着陸方向別年間総飛行回数の機種別,飛行態様別,飛行経路別の割合を適用して,離着陸方向別の機種別,飛行態様別,飛行経路別の1日の標準飛行回数を決定するとする一方,離着陸方向別に分けないで騒音コンターを作成する場合には,原則として最新の1年間のデータをもとにして,飛行しない日も含め,1日の総飛行回数を少ない方から累積度数曲線を求め,累積度数90%に相当する飛行回数を,その防衛施設における1日の総飛行回数とした後,これに年間総飛行回数の機種別,飛行態様別,飛行経路別の割合を適用して,機種別,飛行態様別,飛行経路別の1日の標準飛行回数を決定するとする。
同委員会は,同報告書において,このように,飛行回数の決定において,前者の場合では「飛行した日を対象と」し,後者の場合では,「飛行しない日も含め」ているのは,後者の場合において民間空港の場合との相互比較の可能性を配慮したことによっていると説明している。
また,同委員会は,同報告書において,防衛施設周辺における航空機騒音コンター作成のための標準的な調査方法,騒音評価値の算出方法,騒音コンターの作成方法などについて示した「防衛施設周辺における航空機騒音コンター作成実施要領」も明らかにした。
(甲C10)
(ウ) 防衛施設庁は,前記(イ)の「防衛施設周辺騒音調査研究報告書」を受けて,昭和55年10月2日,「防衛施設周辺における航空機騒音コンターに関する基準」を定めた。
その要旨は,次のとおりである。
航空機騒音評価値の算出は,次の①から③までに基づき・により算出する。
① 飛行回数の決定代表的な航空機の飛行について,機種別,飛行態様別,飛行経路別に調査した原則として最近1年間の日別,時間別飛行回数の飛行回数調査結果を基にして,次により飛行回数を決定する。
1日の総飛行回数を「N=N2+3N3+10(N1+N4)」の式により算出する。飛行しない日も含め,1日の総飛行回数の少ない方から累積度数曲線を求め,累積度数90%に相当する飛行回数を,その防衛施設における1日の標準総飛行回数とする。標準的飛行回数に1年間の総飛行回数の機種別,飛行態様別,飛行経路別の割合を適用して,その防衛施設における機種別,飛行態様別,飛行経路別の1日の標準飛行回数を決定する。
② 継続時間の補正 各騒音測定点の航空機騒音の継続時間補正値は,次の式により算出する。
ⅰ 飛行中の場合(滑走中を含む)

Tjは,各騒音測定点における機種別,飛行態様別,飛行経路別の継続時間の平均値(秒)である。
ⅱ 地上でエンジン調整中の場合(飛行中でピークレベルがほぼ平坦に連続する場合を含む。)

③ 着陸音の補正 各騒音測定点における機種別,飛行態様別,飛行経路別のピーク騒音レベルのパワー平均値のうち,ジェット機の着陸時のものと確認できるものについては,着陸音補正として2dB(A)を加える。
④ 航空機騒音評価値の算出各騒音測定点の航空機騒音の評価値は,まず,各騒音測定点における機種別,飛行態様別,飛行経路別の1日当たりの騒音暴露量(TNELj)を次の式により算出する。

ここで, は機種別,飛行態様別,飛行経路別のピークレベルのパワー平均値であり,Njは機種別,飛行態様別,飛行経路別の1日の標準飛行回数,Djは③で求めた継続時間の補正値である。
次に,各騒音測定点における航空機騒音の評価は,次の式で算出した値(W値)により行う。

騒音コンターは,各騒音測定地点において,上記④により算出したW値を用い,W値70以上の地域について,5WECPNLごとに同一のW値を結んだ線とする。
(甲C10,11の1,2)
(エ) 沖縄県調査委員会は,防衛施設庁方式と環境基準方式との違いについて,次のとおり指摘する。
① 標準飛行回数につき,環境基準方式では,1日ごとのWECPNLを年間を通じてパワー平均してWECPNLの年間代表値を求める。これは,標準総飛行回数として,ピーク騒音レベル に応じた重み付けをした上で,飛行回数の平均値を求めたことに相当する。
他方,防衛施設庁方式では,標準総飛行回数として90パーセンタイル値を採用する。これは,飛行回数の日変動が大きい特殊空港については,飛行回数の平均値を用いてWECPNLの年間代表値を求めるよりも,飛行回数の年間変動(飛行のない日を除く。)の80%レンジの上端値(90パーセンタイル値)を用いてWECPNLの年間代表値を求めることにより,特殊空港と民間空港周辺における住民反応の整合性が高くなるとの前記(イ)木村翔らの報告に沿っている(ただし,標準総飛行回数の算出において,木村翔らは飛行のない日を除いているのに対して,防衛施設庁方式では飛行のない日を含めている点で異なる。)。
② 騒音の継続時間の補正につき,環境基準方式では,実際の継続時間にかかわらず一定値を補正するが,防衛施設庁方式では,継続時間に応じた補正値を加算しており,その補正値も飛行中とエンジン調整中によって異なっている。このため,防衛施設庁の算出方法は環境庁の方法よりもICAOが提唱したWECPNLの定義に近い。
③ 着陸音につき,環境基準方式では補正を行わないが,防衛施設庁方式では,ジェット機の着陸音に対して2dBの補正を行っている。
さらに,沖縄県調査委員会は,防衛施設庁方式と環境基準方式との違いから,次のような指摘をする。
④ 防衛施設庁方式は,環境基準方式と異なり,上記①のとおり,標準総飛行回数の算出につき飛行回数の90パーセンタイル値を用いる。そこで,特殊空港周辺の無人測定局の実測値から,騒音の継続時間の補正とジェット機の着陸音補正を行わずに,飛行回数の90パーセンタイル値からWECPNLを求めると,3程度の差となり,また,WECPNLの年間変動の90パーセンタイル値からWECPNLを求めると,空港や測定点によって若干の違いはあるものの,ほぼ3~5の範囲内にある。そこで,環境基準方式によるW値は,防衛施設庁方式によるW値よりも,3~5程度過小評価することとなると考えられる。
⑤ エンジン調整音が主となる測定点で試算すると,補正によってWECPNLが環境基準方式より5程度高くなる場合がある。環境基準方式では,航空機騒音をレベル変動のピーク値のみで評価するので,エンジン調整音のような継続時間の長い騒音は相対的に過小評価されることとなるので,防衛施設庁方式のように,継続時間の補正を行うのが望ましい。
(甲D1,2)
(2) 普天間飛行場周辺における生活環境整備法に基づく区域指定等
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 防衛施設庁(当時。以下このアにおいて同じ。)は,昭和52年12月,株式会社アコーテックに委託して,普天間飛行場及び嘉手納飛行場の周辺127か所において航空機騒音調査を実施した。
普天間飛行場周辺の調査にあっては,同月7日から同月11日までの5日間,事前調査を行った後,翌12日から23日までの12日間,本調査を行った。その際,普天間飛行場の滑走路両端等に基準測定点を設置し,常時測定員を配置し,24時間連続して,騒音発生時刻,機種,飛行方法,騒音レベル,継続時間,気象状況等を観測した。また,一般測定点においても,午前7時から午後7時までの間連続して,飛来する航空機の機種,機数,飛行経路,時刻等の観測・記録と当該航空機に係る騒音レベルと継続時間を観測した。さらに,約半数の一般測定地点については,基準測定点の調査データと対比するため,夜間等(午後7時から翌日午前7時まで)の測定を行い,また,昼間測定も重複実施した。これらの測定方法,使用騒音計等は,すべて定められた基準に適合しているものであった。
そして,普天間飛行場周辺における飛行実態を代表するとみられる標準期間として同月13日(火曜日)から同月19日(月曜日)までの1週間を選定し,当該期間の1日当たりの機種別・使用滑走路別・時間帯別の標準飛行機数を算出した。その結果,上記期間中の各日の総飛行機数は,同月13日が158機,同月14日が349機,同月15日が142機,同月16日が97機,同月17日が37機,同月18日が62機,同月19日が128機であった。被告は,上記各日の総飛行機数を基に累積度数曲線を作成し,その少ない方から数えて累積度数90%に相当する1日の標準飛行回数を175機と算出した。
そして,防衛施設庁は,上記1日の標準飛行回数のほか,各地点の を算出し,着陸音補正(ジェット機の着陸時の騒音について2dB(A)を加算する。)及び継続時間補正(継続時間の補正は10logT/20による。)を行うなどして,普天間飛行場周辺地域のW値を求め,これに基づき騒音コンター図を作成し,昭和56年7月18日及び昭和58年9月10日,普天間飛行場周辺について,順次,昭和56年告示又は昭和58年告示として普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域である本件コンターを指定した。
(甲D1,弁論の全趣旨)
イ 沖縄県知事は,昭和63年2月16日,普天間飛行場周辺における昭和48年環境基準所定の地域類型を告示した。
次の図の地域類型指定を当てはめる境界として示した点線で囲まれた地域から普天間飛行場の敷地,都市計画法(昭和43年法律第100号)8条1項1号に掲げる工業専用地域,緩衝緑地帯,山林,原野及び海上等を除いた地域のうち,類型Ⅰとして,同号に掲げる第1種低層住居専用地域,第2種低層住居専用地域,第1種中高層住居専用地域及び第2種中高層住居専用地域並びに同号に掲げる用途地域として定められていない地域が,類型Ⅱとして,同号に掲げる第1種住居地域,第2種住居地域,準住居地域,近隣商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域が指定された。

(甲C17から20まで,59,60)
(3)普天間飛行場周辺地域における航空機騒音の実態
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 普天間飛行場に離着陸する米軍機の種類及び飛行経路
(ア) 航空機の種類
a 常駐機
普天間飛行場には,平成15年3月時点で,次の米軍機の合計71機が常駐している(以下,普天間飛行場に常駐している米軍機を「常駐機」という。)。
(a) ヘリコプター(合計56機)
① CH-46  中型強襲ヘリ(24機)
② CH-53  大型輸送ヘリ(15機)
③ AH-1   軽攻撃ヘリ(10機)
④ UH-1   指揮連絡ヘリ(7機)
(b) 固定翼機(合計15機)
① KC-130 空中給油機(12機)
② C-12   後方支援機(2機)
③ T-39   訓練機(1機)
b 外来機
常駐機以外であって,普天間飛行場に飛来する航空機(以下「外来機」
という。)には,次のようなものがみられる。
(a) ヘリコプター
① HH-3   捜索・救難ヘリ
② HH-60  捜索・救難ヘリ
(b) ヘリコプター以外
① C-5    戦略重量輸送機
② C-141  空輸機
③ KC-135 空中給油機
④ P-3    対潜哨戒機
⑤ FA-18  戦闘・攻撃機
⑥ F-15   戦闘機
⑦ AV-8   垂直・短距離離着陸攻撃機
⑧ A-4    攻撃機
(甲C12,13,42,46)
(イ) 飛行経路
a 宜野湾市基地政策部基地渉外課は,職員が宜野湾市役所庁舎3階から普天間飛行場を離着陸等する航空機の飛行経路を適宜目視にて確認した結果に,b以下の基地ボランティアからの報告結果と併せて検討し,次の図のとおり,飛行ルートを図面にまとめた。その結果,同課では,ヘリコプターの普天間飛行場への進入出方向は8つあると分析している。

(甲B7,C53,証人S1)
b 宜野湾市が募集した基地監視ボランティアは,平成16年3月から平成17年4月まで,普天間飛行場を離着陸等する航空機の飛行経路を監視した結果を随時報告している。
その概要は,次のとおりである。
① 平成16年2月27日から同年3月31日まで
平成16年2月27日から同年3月31日まで常駐機につき308機,外来機につき58機の飛行が確認された。報告された145件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,滑走路北東端の野嵩方面や,普天間飛行場東シナ海側の喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くが飛行しているほか,普天間飛行場周辺を周回するように飛行しているものもある。
② 平成16年4月1日から同月30日まで
平成16年4月1日から同月30日まで常駐機につき462機,外来機につき60機の飛行が確認された。報告された101件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,滑走路北東端の野嵩方面,普天間飛行場の東シナ海側の喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くの飛行がみられる。
③ 平成16年5月1日から同月31日まで
平成16年5月1日から同月31日まで常駐機につき120機,外来機につき48機の飛行が確認された。報告された34件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の新城,喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くの飛行がみられる。
④ 平成16年6月1日から同月30日まで
平成16年6月1日から同月30日まで常駐機につき499機,外来機につき23機の飛行が確認された。報告された70件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の新城,喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くの飛行がみられる。
⑤ 平成16年7月1日から同月31日まで
平成16年7月1日から同月31日まで常駐機につき350機,外来機につき29機の飛行が確認された。報告された59件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の新城,喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くの飛行がみられる。
⑥ 平成16年8月1日から同月31日まで
平成16年8月1日から同月31日まで常駐機につき131機,外来機につき33機の飛行が確認された。報告された34件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

これによれば,普天間飛行場の東シナ海側の喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に多くの飛行がみられる。
⑦ 平成16年9月1日から同月30日まで
平成16年9月1日から同月30日まで常駐機につき24機,外来機につき17機の飛行が確認された。報告された22件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑧ 平成16年10月1日から同月31日まで
平成16年10月1日から同月31日まで常駐機につき46機,外来機につき9機の飛行が確認された。報告された23件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の新城,喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑨ 平成16年11月1日から同月30日まで
平成16年11月1日から同月30日まで常駐機につき126機,外来機につき34機の飛行が確認された。報告された34件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑩ 平成16年12月1日から同月31日まで
平成16年12月1日から同月31日まで常駐機につき42機,外来機につき106機の飛行が確認された。報告された33件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑪ 平成17年1月1日から同月31日まで
平成17年1月1日から同月31日まで常駐機につき14機,外来機につき144機の飛行が確認された。報告された28件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑫ 平成17年2月1日から同月28日まで
平成17年2月1日から同月28日まで常駐機につき78機,外来機につき21機の飛行が確認された。報告された19件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
⑬ 平成17年3月1日から同月31日まで
平成17年3月1日から同月31日まで常駐機につき45機,外来機につき41機の飛行が確認された。報告された29件の飛行経路を集約した結果は,次の図のとおりである。

このように,普天間飛行場の東シナ海側の喜友名,大山,真志喜,大謝名方面に飛行がみられる。
(乙D63)
イ 沖縄県調査委員会による調査結果
沖縄県調査委員会は,平成9年9月から平成10年8月末までの1年間(ただし,下記大山測定局については,平成10年9月から同年11月末までの期間),県等測定局並びにいずれもW値70以上75未満の区域にある愛知測定局,我如古測定局,宜野湾測定局及び大山測定局における航空機騒音測定結果を集計し,環境基準方式のW値とLdnについて,年間最大値,98パーセンタイル値,90パーセンタイル値,エネルギー平均値を算出し,また,継続時間補正や着陸音補正を行い,飛行回数の年間90パーセンタイル値を用いて沖縄県調査委員会においてできる限り防衛施設庁方式に沿って計算したとする沖縄県調査施設庁方式近似W値を算出した。
その結果は,次の表のとおりである(表中の「騒音コンター」欄の数値は本件コンターのW値を示す。また,「WECPNL」欄の「最大」,「98%」,「90%」,「平均」,「施設庁」は,順次,年間最大値,98パーセンタイル値,90パーセンタイル値,エネルギー平均値,沖縄県調査施設庁方式近似W値を示し,単位はW値である。「Ldn」欄の「最大」,「98%」,「90%」,「平均」は,順次,年間最大値,98パーセンタイル値,90パーセンタイル値,エネルギー平均値を示し,単位はdBである。)。

さらに,沖縄県調査委員会は,沖縄県調査施設庁方式近似W値と本件コンターのW値との対応関係を検討した(なお,沖縄県調査委員会は,この対応関係を検討するに当たり,平成10年4月以降に測定を開始した大山測定局を除外している。)。その結果は,次の図のとおりである(縦軸は沖縄県調査施設庁方式近似W値,横軸は本件コンターのW値をそれぞれ示す。)。

この図のうち,●が普天間飛行場周辺に設置された測定局における沖縄県調査施設庁方式近似W値である(なお,○は嘉手納飛行場周辺における測定結果を指す。)。そして,網のかかった部分にプロットされている沖縄県調査施設庁方式近似W値は,本件コンターのW値と整合していることになるところ,沖縄県調査委員会は,沖縄県調査施設庁方式近似W値が,県上大謝名測定局(この図のF4)では沖縄県調査施設庁方式近似W値が本件コンターのW値よりも高い数値となっていることを除き,本件コンターのW値と比較的よく一致しているとの結論を導いている。
(甲D1)
ウ 固定測定局点における測定結果
(ア) 固定測定局点の所在地等
沖縄県は,平成9年から平成10年にかけて,次の表の①県野嵩測定局,②愛知測定局,③我如古測定局,④県上大謝名測定局,⑤県新城測定局,⑥宜野湾測定局,⑦市真志喜測定局及び⑧大山測定局の各航空機騒音測定局について,自動監視測定システムを導入し,かつ,嘉手納飛行場周辺地域等の測定局も含め電話回線により同県文化環境部環境保全課内の測定本部とオンライン化する常時測定局として整備した。これらの常時測定局は,いずれも,航空機識別センサーを内蔵しており,航空機が発する騒音値と電波(トランスポンダ信号)を同時に観測することにより航空機騒音の判別をすることが可能となっている。
これらの常時測定局のうち,県野嵩測定局,愛知測定局,我如古測定局及び県上大謝名測定局にあっては平成9年4月1日から,県新城測定局,宜野湾測定局及び市真志喜測定局にあっては平成9年9月1日から,大山測定局にあっては平成10年9月8日から,オンライン化された常時測定局として,次の測定条件を満たす本件航空機騒音について測定している。
① 騒音値が暗騒音レベルより10dB(A)以上大きいもの(ただし,平成10年度については「およそ+10dB(A)」,平成11年度から平成14年度までは「騒音値が暗騒音レベルをおよそ+5~10dB(A)超えるもの」)
② 騒音が5秒以上継続するもの
③ 航空機騒音識別センサーにより航空機が発したトランスポンダ応答信号電波を受信したもの

他方,防衛施設庁(当時)も,昭和60年に国新城測定点(№1),国大謝名測定点(№2)に,平成12年に宜野湾測定点(№3)に,平成13年に大山測定点(№4)に,それぞれ測定点を設置し,常時,70dB(A)以上の本件航空機騒音を測定している。
上記各測定局及び測定点の所在地と普天間飛行場との位置関係は,次の図のとおりである。

(甲C14から20まで,37,38,59,60,乙C2から4まで,9から11まで)
(イ) 県等測定局における騒音測定結果
a 県野嵩測定局(W80区域)
(a) 最高音圧レベル
県野嵩測定局における平成11年度から平成17年度までの最高音圧レベルの推移は,次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,この7年間では,112.0dB(A)(平成12年度)から119.0dB(A)(平成13年度)までの間を推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約114.8dB(A)である。
最高音圧レベルは,平成13年度から平成15年度にかけて緩やかに低下した後,平成16年度に上昇している。
(b) 1日平均騒音発生回数及び騒音継続累積時間
県野嵩測定局における平成9年度から平成17年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,1日平均の騒音発生回数は,19.5回(平成16年度)から34.1回(平成12年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約28.3(回)である。また,1日平均の騒音継続累積時間は,5分58秒(平成9年度)から18分39秒(平成12年度)までの間で推移しており,同9年間の平均時間は約14分32秒である。
1日平均の騒音発生回数は,平成16年度に20回を下回ったのを除いては,いずれも20回以上であり,平成17年度に再び増加している。
(c) 土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数
県野嵩測定局における平成8年度から平成17年度までの土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

この10年間では,土曜日については,5.9回(平成10年度)から16.2回(平成14年度)までの間で推移しており,同10年間の数値を単純平均すると,約9.7(回)である。また,日曜日については,1.1回(平成9年度)から7.1回(平成8年度)までの間で推移しており,同10年間の数値を単純平均すると,約3.3(回)である。
土曜日の平均騒音発生回数は,平成14年度に前年度から4.7回増加して16.2回となったが,平成15年度には8.1回にまで低減し,その後はグラフが平坦化している。
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
県野嵩測定局における平成10年度から平成17年度までの時間帯別月平均騒音発生回数は,次の表のとおりである。

そして,上記表中の各数値を12倍した上で,365日(平成12年及び平成16年にあっては366日)で割って夜間等の1日平均騒音発生回数を算出する(小数点第2位以下切捨て)とともに,平成8年度及び平成9年度の夜間等の1日平均騒音発生回数と併せて,平成8年度から平成17年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移をグラフで表すと,次のとおりとなる。

この10年間では,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,0.2回(平成13年度から平成16年度まで)から0.7回(平成8年度)までの間で推移しており,同10年間の数値を単純平均すると,約0.33(回)である。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,1.8回(平成16年度)から5.1回(平成8年度及び平成12年度)までの間で推移しており,同10年間の数値を単純平均すると,約3.65(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成8年度の0.7回を除けば,0.2回から0.4回までの間に収まっている。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数については,平成9年度から平成12年度にかけて増加し,その後平成16年度にかけて低減しているが,平成17年度に再び増加している。
(e) 環境基準超過率
県野嵩測定局は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,県野嵩測定局における平成10年度から平成17年度までの環境基準超過日数,環境基準達成日数及び環境基準超過率の推移は,次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,この8年間では,34.3%(平成16年度)から68.8%(平成11年度)までの間で推移しており,同8年間の数値を単純平均すると,約53.9(%)である。
環境基準超過率は,平成11年度から平成13年度にかけて低下し,平成14年度に一旦増加した後,平成16年度にかけて再び低下しているものの,平成17年度には再び増加している。
(f) 年間W値
県野嵩測定局における平成9年度から平成17年度までの年間W値の推移は,次のグラフのとおりである。

年間W値は,この9年間では,72.0(平成16年度)から79.3(平成13年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約75.7である。
年間W値は,この間,平成13年度から平成16年度にかけて低下しているが,平成17年度に再び増加している。
なお,県野嵩測定局においては,平成9年3月1日にオンライン化される以前から,年間W値を算出している。県野嵩測定局における昭和56年度から平成8年度までの年間W値の推移は,次のグラフのとおりである。

年間W値は,この16年間では,75.6(平成5年度)から80.5(平成3年度)までの間で推移しており,同16年間の数値を単純平均すると,約78である。
年間W値は,この間,昭和56年度から昭和58年度にかけて4程度増加し,平成3年度から平成4年度にかけて4程度減少したものの,その後,平成7年度には78.0にまで増加している。
b 県上大謝名測定局(W80区域)
(a) 最高音圧レベル
県上大謝名測定局における平成11年度から平成17年度までの最高音圧レベルの推移は,次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,この7年間では,114.5dB(A)(平成16年度)から123.0dB(A)(平成13年度)までの間を推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約119.2(dB(A))である。
最高音圧レベルは,平成15年度から平成16年度にかけて数値が低下しているが,平成17年度に再び上昇している。
(b) 1日平均騒音発生回数等
県上大謝名測定局における平成9年度から平成17年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,1日平均の騒音発生回数は,32.8回(平成10年度)から99.0回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約69.1(回)である。また,同1日平均の騒音継続累積時間は,10分10秒(平成9年度)から53分20秒(平成12年度)までの間で推移しており,同9年間の平均時間は約34分40秒である。
1日平均の騒音発生回数は,平成10年度から平成12年度にかけて増加し,平成14年度から平成17年度にかけて低減している。
(c) 土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数
県上大謝名測定局における平成9年度から平成17年度までの土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,土曜日については,6.2回(平成10年度)から45.2回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約24.5(回)である。また,日曜日については,1.8回(平成10年度)から19.7回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約12.3(回)である。
土曜日,日曜日の平均騒音発生回数は,いずれも,平成10年度から平成14年度にかけて増加し,その後平成17年度にかけて減少している。
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
県上大謝名測定局における平成10年度から平成17年度までの時間帯別月平均騒音発生回数は,次の表のとおりである。

そして,上記表中の各数値を12倍した上で,365日(平成12年及び平成16年にあっては366日)で割って夜間等の1日平均騒音発生回数を算出する(小数点第2位以下切捨て)とともに,平成9年度の夜間等の1日平均騒音発生回数と併せて,平成9年度から平成17年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移をグラフで表すと,次のとおりとなる。

この9年間では,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,0.2回(平成10年度)から3.2回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約1.5(回)である。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,4.6回(平成10年度)から15.7回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約9.4(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成10年度から平成14年度にかけて増加し,その後平成17年度にかけて減少している。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成11年度から平成12年度にかけて急増し,平成14年度から平成16年度にかけて大きく減少している。
(e) 環境基準超過率
県上大謝名測定局は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,県上大謝名測定局における平成10年度から平成17年度までの環境基準超過日数,環境基準達成日数及び環境基準超過率の推移は,次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,この8年間では,63.8%(平成16年度)から79.1%(平成13年度)までの間で推移しており,同8年間の数値を単純平均すると,約73.1(%)である。
環境基準超過率は,同8年間,増加と減少を交互に繰り返している。
(f) 年間W値
県上大謝名測定局における平成9年度から平成17年度までの年間W値の推移は,次のグラフのとおりである。

年間W値は,この9年間では,78.7(平成16年度)から86.8(平成13年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約82.7である。
年間W値は,この間,平成13年度から平成16年度にかけて低下しているが,平成17年度に再び増加している。
c 県新城測定局(W75区域)
(a) 最高音圧レベル
県新城測定局における平成11年度から平成17年度までの最高音圧レベルの推移は,次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,この7年間では,103.7dB(A)(平成17年度)から110.7dB(A)(平成11年度)までの間を推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約108.0(dB(A))である。
最高音圧レベルは,平成14年度まで緩やかに減少し,平成15年度に増加した後,平成16年度以降再び緩やかに減少している。
(b) 1日平均騒音発生回数等
県新城測定局における平成9年度から平成17年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,1日平均の騒音発生回数は,23.9回(平成12年度)から77.6回(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約50.5(回)である。また,1日平均の騒音継続累積時間は,9分23秒(平成9年度)から39分37秒(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の平均時間は約25分33秒である。
1日平均の騒音発生回数は,数年間隔で増加と減少を繰り返している。
(c) 土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数
県新城測定局における平成9年度から平成17年度までの土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,土曜日については5.4回(平成12年度)から33.7回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約13.7(回)である。また,日曜日については1.0回(平成11年度)から14.0回(平成15年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約6.7(回)である。
土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数は,いずれも,平成13年度から平成14年度にかけて増加し,その後平成16年度にかけて減少した後,平成17年度には再び増加している。
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
県新城測定局における平成10年度から平成17年度までの時間帯別月平均騒音発生回数は,次の表のとおりである。

そして,上記表中の各数値を12倍した上で,365日(平成12年及び平成16年にあっては366日)で割って夜間等の1日平均騒音発生回数を算出する(小数点第2位以下切捨て)とともに,平成9年度の夜間等の1日平均騒音発生回数と併せて,平成9年度から平成17年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移をグラフで表すと,次のとおりとなる。

この9年間では,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,0.1回(平成13年度)から3.1回(平成15年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約1.4(回)である。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,3.5回(平成12年度)から15.2回(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約8.0(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成10年度から平成13年度にかけて減少し,その後平成15年度にかけて増加した後,平成16年度に減少,平成17年度に増加するなど一定していない。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成10年度から平成12年度にかけて大きく減少し,平成13年度から平成14年度にかけて急増した後,平成16年度にかけて減少,平成17年度に増加するなど,やはり一定していない。
(e) 環境基準超過率
県新城測定局は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,県新城測定局における平成10年度から平成17年度までの環境基準超過日数,環境基準達成日数及び環境基準超過率の推移は,次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,この8年間では,5.5%(平成12年度)から46.0%(平成14年度)までの間で推移しており,同8年間の数値を単純平均すると,約24.1(%)である。
環境基準超過率は,この8年間,増加と減少を交互に繰り返している。
(f) 年間W値
県新城測定局における平成9年度から平成17年度までの年間W値の推移は,次のグラフのとおりである。

年間W値は,この9年間では,69.2(平成17年度)から72.6(平成14年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約71.4である。
年間W値は,この間,平成12年度まで緩やかに減少し,一旦緩やかに増加した後,平成16年度以降再び緩やかに減少している。
d 市真志喜測定局(W75区域)
(a) 最高音圧レベル
市真志喜測定局における平成11年度から平成17年度までの最高音圧レベルの推移は,次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,この7年間では,96.5dB(A)(平成16年度)から105.1dB(A)(平成14年度)までの間を推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約100.7(dB(A))である。
最高音圧レベルは,平成14年度まで緩やかに増加し,平成16年度にかけて緩やかに増加した後,平成17年度に再び増加している。
(b) 1日平均騒音発生回数等
市真志喜測定局における平成9年度から平成17年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,1日平均の騒音発生回数は,15.1回(平成16年度)から65.4回(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約34.5(回)である。また,1日平均の騒音継続累積時間は,6分17秒(平成9年度)から26分13秒(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の平均時間は約14分00秒である。
1日平均の騒音発生回数は,平成10年度から平成16年度にかけて緩やかに減少し,平成17年度にはわずかながらも再び増加に転じている。1日平均の騒音継続累積時間についても,同様に,平成16年度にかけて減少がみられるけれども,平成17年度にわずかながらも増加している。
(c) 土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数
市真志喜測定局における平成9年度から平成17年度までの土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

この9年間では,土曜日については2.6回(平成16年度)から14.3回(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約7.7(回)である。また,日曜日については,1.4回(平成9年度)から4.9回(平成10年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約2.8(回)である。
土曜日及び日曜日の平均騒音発生回数は,いずれも,平成14年度から平成16年度にかけて減少した後,平成17年度には再び増加するなど,一定していない。
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
市真志喜測定局における平成10年度から平成17年度までの時間帯別月平均騒音発生回数は,次の表のとおりである。

そして,上記表中の各数値を12倍した上で,365日(平成12年及び平成16年にあっては366日)で割って夜間等の1日平均騒音発生回数を算出する(小数点第2位以下切捨て)とともに,平成9年度の夜間等の1日平均騒音発生回数と併せて,平成9年度から平成17年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移をグラフで表すと,次のとおりとなる。

この9年間では,夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,0.2回(平成9年度)から2.2回(平成11年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約0.9(回)である。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,1.5回(平成16年度)から6.4回(平成12年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約3.8(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成9年度から平成12年度にかけて増加し,その後平成13年度にかけて減少した後は,平成17年度にかけてほぼ横ばいである。また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成9年度から平成11年度にかけて増加し,平成16年度にかけて減少した後,平成17年度には再び増加に転じている。
(e) 環境基準超過率
市真志喜測定局は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,市真志喜測定局における平成10年度から平成17年度までの環境基準超過日数,環境基準達成日数及び環境基準超過率の推移は,次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,この8年間では,11.7%(平成16年度)から43.1%(平成11年度)までの間で推移しており,同8年間の数値を単純平均すると,約30.6(%)である。
環境基準超過率は,平成11年度から平成16年度まで超過率の減少がみられるが,平成17年度には再び増加している。
(f) 年間W値
市真志喜測定局における平成9年度から平成17年度までの年間W値の推移は,次のグラフのとおりである。

年間W値は,この9年間では,66.2(平成16年度)から71.1(平成11年度及び平成12年度)までの間で推移しており,同9年間の数値を単純平均すると,約69.5である。
年間W値は,この間,平成14年度までほぼ横ばいに推移した後,平成16年度にかけて減少したものの,平成17年度には再び増加に転じている。
(以上(イ)について,甲C14から20まで,59,60)
(ウ) 国測定点における騒音測定結果
a 国新城測定点(W80区域)
(a) 最高音圧レベル
国新城測定点における昭和60年度から平成8年度までの最高音圧レベルの推移及び平成9年度から平成18年度までの最高音圧レベルの推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,115.8dB(A)(平成8年度)から121.5dB(A)(平成3年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約118.7(dB(A))である。平成9年度から平成18年度までの10年間では,112.6dB(A)(平成12年度)から119.4dB(A)(平成13年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約114.9(dB(A))である。また,昭和60年度から平成18年度までの22年間の数値を単純平均すると,約116.9dB(A)である。
最高音圧レベルは,この22年間の推移を全体としてみると,おおむね横ばいに推移している。
(乙C2,9)
(b) 1日平均騒音発生回数等
国新城測定点における昭和60年度から平成8年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移並びに平成9年度から平成18年度までの1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである(なお,平成5年度から平成12年度までの騒音継続累積時間は明らかになっていない。)。

1日平均の騒音発生回数は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,39.2回(平成8年度)から70.4回(昭和62年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約50.8(回)である。また,平成9年度から平成18年度までの10年間では,19.4回(平成16年度)から49.9回(平成14年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約35.5(回)である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の数値を単純平均すると,約43.8(回)である。
1日平均の騒音継続累積時間は,昭和60年度から平成4年度までの8年間では,8分38秒(平成4年度)から15分13秒(昭和62年度)までの間で推移しており,この8年間の平均時間は約11分42秒である。また,平成13年度から平成18年度までの6年間では,4分22秒(平成6年度)から14分46秒(平成14年度)までの間で推移しており,この6年間の平均時間は約9分8秒である。
1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間は,昭和60年度から平成18年度までの22年間の推移を全体としてみると,いずれも減少しているということができるけれども,平成16年度から平成17年度にかけて増加している。
(乙C2,9)
(c) 日曜日の平均騒音発生回数
国新城測定点における平成12年度から平成18年度までの日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

日曜日の騒音発生回数は,この7年間では,0.9回(平成18年度)から29.6回(平成14年度)までの間で推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約6.7(回)である。
日曜日の騒音発生回数は,平成14年度に急増しているけれども,同年度を除けば,平成12年度から平成18年度にかけて緩やかに減少している。
(乙C4,11)
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
国新城測定点における昭和60年度から平成8年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数及び平成9年度から平成18年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,昭和60年度から平成8年度までの12年間については0.7回(平成8年度)から8.0回(平成2年度)までの間で,平成9年度から平成18年度までの10年間については0.3回(平成16年度及び平成18年度)から1.5回(平成11年度)までの間で,それぞれ推移しており,昭和60年度から平成8年度までの12年間の平均は約2.5(回),平成9年度から平成18年度までの10年間の平均は約0.8(回),昭和60年度から平成18年度までの22年間の平均は1.8(回)である。
また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,昭和60年度から平成8年度までの12年間については5.3回(平成8年度)から15.4回(昭和62年度)までの間で,平成9年度から平成18年度までの10年間については2.0回(平成16年度)から7.0回(平成12年度)までの間で,それぞれ推移しており,昭和60年度から平成8年度までの12年間の平均は約8.4(回),平成9年度から平成18年度までの10年間の平均は約4.9(回),昭和60年度から平成18年度までの22年間の平均は6.8(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数及び夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,昭和62年度及び平成2年度に高い数値を示しているけれども,これらを除けば,平成14年度まではおおむね横ばいであり,平成15年度に減少した後,おおむね横ばい,又は漸減している。
(乙C2,9)
(e) 環境基準超過率
国新城測定点は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,国新城測定点における昭和60年度から平成8年度までの環境基準超過率の推移及び平成9年度から平成18年度までの環境基準超過率の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,73.2%(平成4年度)から89.2%(昭和61年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約80.1(%)である。また,平成9年度から平成18年度までの10年間では,47.3%(平成16年度)から76.8%(平成11年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約66.0(%)である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の数値を単純平均すると,約73.7(%)である。
環境基準超過率は,この22年間の推移をみると,昭和61年度には90%近い超過率であったものが,平成16年度には50%以下に減少するなど,減少方向に推移している。もっとも,平成17年度には10%ほど増加している。
(乙C1,8)
(f) 年間W値
国新城測定点における昭和60年度から平成8年度までの年間W値の推移及び平成9年度から平成18年度までの年間W値の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

年間W値は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,79.1(平成5年度)から85.7(昭和62年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約82.1である。平成9年度から平成18年度までの10年間では,74.2(平成16年度)から82.7(平成13年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約78.7である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の単純平均値は80.6である。また,国施設庁方式近似W値は,平成12年度から平成18年度までの7年間では,74(平成16年度)から86(平成13年度)までの間で推移しており,その単純平均値は79.1である。
年間W値は,昭和60年からの22年間の推移を全体としてみると,平成13年度まではおおむね80から85までの間でほぼ横ばいに推移していたものが,平成14年度以降は75から80までの間で推移しており,この22年間では減少したということができる。
(乙C2,9,弁論の全趣旨)
b 国大謝名測定点(W80区域)
(a) 最高音圧レベル
国大謝名測定点における昭和60年度から平成8年度までの最高音圧レベルの推移及び平成9年度から平成18年度までの最高音圧レベルの推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

最高音圧レベルは,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,96.8dB(A)(平成元年度)から123.5dB(A)(昭和61年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約117.6(dB(A))である。また,平成9年度から平成18年度までの10年間では,110.3dB(A)(平成15年度)から120.6dB(A)(平成11年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約114.5(dB(A))である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の単純平均値は約116.2(dB(A))である。
最高音圧レベルは,この22年間の推移を全体としてみると,平成元年度に大幅に減少していることを除けば,平成15年度まで漸減し,その後はほぼ横ばいである。
(乙C2,9)
(b) 1日平均騒音発生回数等
国大謝名測定点における昭和60年度から平成8年度までの1日平均の70dB以上の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移並びに平成9年度から平成18年度までの1日平均の70dB以上の騒音発生回数及び騒音継続累積時間の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである(なお,平成5年度から平成12年度までの騒音継続累積時間は明らかになっていない。)。

1日平均の騒音発生回数は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,39.3回(平成3年度)から80.4回(平成8年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約56.2(回)である。また,平成9年度から平成18年度までの10年間では,15.6回(平成16年度)から72.3回(平成12年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約44.1(回)である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の数値を単純平均すると,約50.7(回)である。
1日平均の騒音継続累積時間は,昭和60年度から平成4年度までの8年間では,8分23秒(平成3年度)から16分20秒(昭和61年度)までの間で推移しており,この8年間の平均時間は約11分37秒である。また,平成13年度から平成18年度までの6年間では,3分34秒(平成6年度)から14分37秒(平成13年度)までの間で推移しており,この6年間の平均時間は約8分0秒である。
1日平均の騒音発生回数及び騒音継続累積時間は,昭和60年度から平成18年度までの22年間の推移を全体としてみると,いずれも減少しているけれども,平成16年度から平成17年度にかけては増加している。
(乙C2,9)
(c) 日曜日の平均騒音発生回数
国大謝名測定点における平成12年度から平成18年度までの日曜日の平均騒音発生回数の推移は,次のグラフのとおりである。

日曜日の平均騒音発生回数は,この7年間では,1.0回(平成16年度)から19.0回(平成13年度)までの間で推移しており,同7年間の数値を単純平均すると,約7.5(回)である。
日曜日の騒音発生回数は,平成13年度から平成15年度にかけて減少し,それ以降はほぼ横ばいに推移している。
(乙C4,11)
(d) 夜間の1日平均騒音発生回数
国大謝名測定点における昭和60年度から平成8年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移並びに平成9年度から平成18年度までの夜間等の1日平均騒音発生回数の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,昭和60年度から平成8年度までの12年間については0.5回(昭和60年度)から5.5回(平成8年度)までの間で,平成9年度から平成18年度までの10年間については0.2回(平成16年度)から3.4回(平成13年度)までの間で,それぞれ推移しており,昭和60年度から平成8年度までの12年間の平均は約1.5(回),平成9年度から平成18年度までの10年間の平均は約1.6(回),昭和60年度から平成18年度までの22年間の平均は1.6(回)である。
また,夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数では,昭和60年度から平成8年度までの12年間については5.7回(平成2年度)から14.8回(平成8年度)までの間で,平成9年度から平成18年度までの10年間については1.8回(平成16年度)から11.9回(平成13年度)までの間で,それぞれ推移しており,昭和60年度から平成8年度までの12年間の平均は約8.4(回),平成9年度から平成18年度までの10年間の平均は約6.6(回),昭和60年度から平成18年度までの22年間の平均は7.6(回)である。
夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数及び夕方及び夜間(午後7時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数は,平成6年度から平成8年度まで及び平成11年度から平成13年度まで,いずれも増加しているけれども,これらの期間を除けば,全体的には減少している。
(乙C2,9)
(e) 環境基準超過率
国大謝名測定点は,昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域にあり,その地域の環境基準がW値70以下とされているところ,国大謝名測定点における昭和60年度から平成8年度までの環境基準超過率の推移及び平成9年度から平成18年度までの環境基準超過率の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

環境基準超過率は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,73.6%(平成2年度)から90.4%(昭和61年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約80.3(%)である。また,平成9年度から平成18年度までの10年間では,37.4%(平成16年度)から77.9%(平成10年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約65.0(%)である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の数値を単純平均すると,約73.4(%)である。
環境基準超過率は,この22年間の推移をみると,昭和61年度には90%を超える超過率であったものが,平成16年度には40%以下に減少するなど,減少方向に推移している。もっとも,平成17年度には20%ほど増加している。
(乙C1,8)
(f) 年間W値
国大謝名測定点における昭和60年度から平成8年度までの年間W値の推移及び平成9年度から平成18年度までの年間W値の推移は,それぞれ次のグラフのとおりである。

年間W値は,昭和60年度から平成8年度までの12年間では,80.0(平成5年度)から84.7(昭和61年度)までの間で推移しており,この12年間の数値を単純平均すると,約82.7である。平成9年度から平成18年度までの10年間では,73.0(平成16年度)から82.1(平成10年度)までの間で推移しており,この10年間の数値を単純平均すると,約78.5である。昭和60年度から平成18年度までの22年間の単純平均値は80.8である。また,国施設庁方式近似W値は,平成12年度から平成18年度までの7年間では,74(平成16年度)から84(平成12年度及び平成13年度)までの間で推移しており,その単純平均値は78.6である。
年間W値は,昭和60年からの22年間の推移を全体としてみると,平成13年度まではおおむね80から85までの間でほぼ横ばいに推移していたものの,平成14年度以降は75から80までの間で推移している。
(乙C2,9,弁論の全趣旨)
エ 本件航空機騒音についての検証の結果
(ア) 概要
当裁判所は,平成19年5月17日((イ)から(オ)までにおいて,時刻のみを示すときは,いずれも同日である。),普天間飛行場周辺で原告らの住居等について検証を実施した。
その検証場所は,①宜野湾市大謝名二丁目○○番○○号X276宅屋上(以下「X276宅」という。),②同市字佐真下○○番地X61宅屋上(以下「X61宅」という。),③同市野嵩一丁目43番きさらぎ公園(以下「きさらぎ公園」という。),④同市喜友名二丁目○○番○○号B宅屋上(以下「B宅」という。)の4か所である。
X276宅及びX61宅はW80区域に,きさらぎ公園及びB宅はW75区域にそれぞれあり,普天間飛行場との位置関係は,次の図のとおりである(次の図において,「№1」はX276宅を,「№2」はX61宅を,「№3」はきさらぎ公園を,「№4」はB宅をそれぞれ示す。)。

検証においては,騒音レベルと低周波音レベルを測定したところ,騒音レベルについては,単発騒音レベル(LAE)と最大値(LAMAX)を測定した。
騒音レベルの測定は,平坦な地面上又は屋上の1.2~1.5mの高さでマイクロホンを設置し,これにリオン株式会社製積分型普通騒音計NL-06及び同社製レベルレコーダLR-06を接続して記録する方法によった。
(イ) X276宅における検証結果
X276宅における暗騒音及び航空機騒音の測定結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午前9時33分から午前10時12分までの39分間の測定時間内に航空機が合計5機飛行し,その騒音レベル最大値はいずれも暗騒音より10dB(A)以上の値であった。また,最大値が70dB(A)を超える騒音が4機につき計測され,うち3機は80dB(A)を超える騒音であった。
(ウ) X61宅における検証結果
X61宅における暗騒音及び航空機騒音の測定結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午前10時42分から午前11時31分までの49分間の測定時間内に航空機が合計9機飛行し,その騒音レベル最大値は暗騒音より1.7dB(A)から14.9dB(A)以上の値であった。また,全機につき最大値が70dB(A)を超える騒音が計測されたけれども,80dB(A)を超える騒音は計測されなかった(なお,上記航空機騒音の測定番号2の最大値はレベルレコーダ記録紙読み取り値である。)。
(エ) きさらぎ公園における検証結果
きさらぎ公園における暗騒音及び航空機騒音の測定結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午後1時46分から午後2時29分までの43分間の測定時間内に航空機が合計16機飛行し,その騒音レベル最大値は暗騒音より1.6dB(A)から29.2dB(A)以上の値であった。また,最大値が70dB(A)を超える騒音が3機につき計測され,うち1機(機種は不詳である。)は80dB(A)を超える騒音であった。
(オ) B宅における検証結果
B宅における暗騒音及び航空機騒音の測定結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午後2時57分から午後3時45分までの48分間の測定時間内に航空機が合計17機飛行し,その騒音レベル最大値は,暗騒音より低いものも含まれているが,12機につき暗騒音の最大値68.3dB(A)を超える騒音が測定された。また,最大値が70dB(A)を超える騒音が10機につき計測され,うち2機は80dB(A)を超える騒音であった。
(エについて,検証の結果)
(4) 本件低周波音の実態
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 低周波音の意義,評価方法等
(ア) 低周波音の意義
可聴音は,一般に,周波数が20Hzから2万Hzまでの範囲のものとされている。人が聞こえない周波数1~20Hzの音波は,「超低周波音」といわれる。
人の耳の感度は,2000Hzから4000Hzまでの辺りが最も良好であり,それよりも高くなっても低くなっても,聴取りが悪くなる。特に100Hz以下では急速に感度が低下するので,一般には,超低周波音を含めて100Hz以下の聞こえにくい音を低周波音と呼ばれている。
なお,環境庁大気保全局(当時。以下この(ア)において同じ。)は,昭和59年12月,「低周波空気振動調査報告書」において,低域可聴音である100Hz前後までの低い周波数範囲の可聴音を含めて「低周波空気振動」と定義した。沖縄環境ネットワークが平成11年6月に取りまとめた「沖縄の米軍航空機による低周波音公害調査」と題する報告書では,「100ヘルツ以下では急速に感度が低下するので,超低周波音を含めてこの100ヘルツ以下の音を一般に『低周波音』と呼んでいる。つまり,音の周波数が低すぎて人間には聞こえないか聞き取りにくい音を『低周波音』と呼ぶ」と記載されている。他方,環境庁大気保全局は,平成12年10月,地方公共団体の環境部担当部局の者で騒音に関する知識・経験を有する者を対象とする「低周波音の測定方法に関するマニュアル」において,「我が国における低周波音苦情の実態を考慮して,およそ100Hz以下の低周波数の可聴音と超低周波音を含む音波を低周波音という。従前,環境庁で低周波空気振動と呼んでいたものである」としつつ,「ここで取り扱う範囲は,1/3オクターブバンド中心周波数で1~80Hz…の音波である」とした。また,環境省環境管理局大気生活室は,平成14年3月に公表した「低周波騒音防止対策事例集」でも,「我が国における低周波音苦情の実態を考慮して,およそ100Hz以下の低周波数の可聴音と超低周波音を含む音波を低周波音という。」としつつ,「ここで取り扱う範囲は1/3オクターブバンド中心周波数で1~80Hz…の音波である」とする。もっとも,同「低周波騒音防止対策事例集」の参考資料には,「日本騒音制御工学会低周波音分科会では我が国の低周波音苦情の実情を考慮して,『低周波音測定方法の提案について』の中で低周波音の周波数範囲を1/3オクターブバンド中心周波数で1~80Hz…提案している。環境庁(現環境省)が平成12年10月に明らかにした『低周波音の測定方法に関するマニュアル』でもこの範囲を測定対象としている。」との説明がある。そして,環境省環境管理局大気生活室では,平成15年3月,「低周波音対策調査調査(中間とりまとめ)」において,上記「低周波音の測定方法に関するマニュアル」では,「主な低周波音発生源の周波数特性や,我が国における低周波音苦情の現状等を考慮して,1/3オクターブバンド中心周波数で1~80Hzの範囲を低周波音,このうち特に1~20Hzの範囲を超低周波音と定義している」と位置付けている(以下,低周波音の用語は,周波数1Hz~100Hzの範囲の音を意味するものとして用いる。)。
(甲C24,D22,106,114,乙D5から8まで)
(イ) 騒音及び低周波音の評価方法
a A特性とF
騒音は,通常,騒音計の「A特性」で測定される。
A特性は,人の耳の感度に合わせて低い周波数を小さく評価するように補正する回路のことである。A特性は,20~8000Hzの音を合計した数値である。
これに対し,Fは,普通騒音計において,A特性のような感覚補正をせず,周波数特性が平坦であるまま,物理的な音圧を測定したものである。Fは,10~2万Hzの音を合計した数値である。
b G特性とSPL
G特性は,次の図のとおり,超低周波音に対する感覚特性によって近似的に低周波音を感知しようとする周波数を補正する回路のことである。G特性は,おおむね0.5~200Hzの音を合計した数値である。G特性は,可聴音における聴感補正特性であるA特性に相当する。G特性は,平成6年,国際標準化機構(ISO)において,低周波音の感覚的大きさを表す尺度といて国際的に用いられることが決定されている。

これに対し,SPLは,低周波音レベル計において,G特性のような感覚補正をせず,周波数特性が平坦であるまま,物理的な音圧を測定したものである。SPLは,騒音測定機器により異なるも,おおむね1~1000Hzの音を合計した数値である。
c WECPNLと低周波音
WECPNLは,航空機の騒音量を評価する国際基準であり,環境基準方式及び防衛施設庁方式では,W値は,次の計算式で算出される。
WECPNL= +10logN-27
このように,W値の基礎となる騒音はA特性による数値のみであり,G特性やSPLは考慮されていない。
(甲C24,D114,乙D5から8まで,G29,証人平松,弁論の全趣旨)
(ウ) 低周波音の発生源
低周波音の発生源として考えられるものには,送風機,往復式圧縮機,ディーゼル機関,真空ポンプ,振動ふるい,燃焼装置,ジェットエンジン,ヘリコプター,機械プレス,橋梁,鉄道トンネル,治水施設,発破,ガスエンジン,変圧器がある。
(乙D5,6,8)
イ 低周波音の特徴等
低周波音は,周波数が低く,波長が長いため,聴音と比べて,地表面での吸収や空気の吸収がされにくく,障害物をおいても防ぐのが難しい等の物理的な特徴を有している。
また,低周波音には,距離減衰しにくい,遠方まで伝播する特徴がある。
(甲C24,E30,乙D5,6,証人平松)
ウ 沖縄環境ネットワークによる調査の結果
沖縄環境ネットワークは,平成11年,次の表の「測定場所」欄記載の各地点8か所(いずれも普天間飛行場周辺)において,各地点に対応する「測定日」及び「測定時間」各記載の日時に,米軍機が発する騒音及び低周波音について測定調査を行った。

騒音測定については,周波数補正回路はA特性を,物理的な音圧レベルを測定する場合は平坦特性のFを用いた。また,低周波音測定については,感覚的な音圧レベルを測定する場合はG特性を,物理的な音圧レベルを測定する場合は平坦特性のSPLを用いた。
同調査においては,次のような結論を導いている。
① 普天間飛行場周辺で航空機の音圧を測定した結果,すべての測定において低周波音が騒音を上回った。また,低周波音の最大値は普天間飛行場周辺のすべての測定場所において100dB(G)前後を記録し,その時の騒音は78~88dB(A)であった。低周波音は騒音よりも10dB以上上回っており,屋外では単純平均で16dB大きくなっており,航空機の音圧は,騒音問題以上に低周波音問題である可能性を否定できない。
② 防音工事を施工した屋内では,約500m離れた屋外と比べ,騒音は42dB(A)又は32dB(A)と減少するのに対し,低周波音は変化がなく,又はわずかな4dB(G)の減少にとどまっている。比較したデータは,同一機種を同時刻に測定したものではないために厳密な比較にはならないけれども,騒音は屋内では楽になる一方,低周波音は屋外でも屋内でも余り変わらない性質であることが明らかであり,防音工事は低周波音の低減対策にならないことが分かる。
③ 普天間飛行場から約2km離れた地点において,CH-46が頭上を通過して普天間飛行場へ飛行するまでの低周波音と騒音の変化を測定し,この測定記録から低周波音と騒音の距離減衰を比較した結果,頭上音圧と音圧とでは,低周波音は19dB(G)しか減衰しなかったのに対して,騒音は32dB(A)も減衰した。
④ 米軍機が発する低周波音の周波数を分析すると,不定愁訴など身体に影響があるとされる周波数と重なっているので,普天間飛行場周辺住民の中には,低周波音によって身体に悪影響を受けている被害者が存在している可能性は否定できない。
(甲C24)
エ 沖縄県による低周波音調査の結果
沖縄県は,平成13年度,平成14年度及び平成17年度に,普天間飛行場周辺の住宅地域において,低周波音調査を実施した。
その調査結果の概要は,次のとおりである。
(ア) 平成13年度調査
沖縄県は,平成13年8月14日,宜野湾市喜友名2丁目所在のアパート(昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域内にある。)屋上において,低周波音調査を実施した。
低周波音レベルの測定は,風の影響を避けるため,リオン株式会社製低周波音レベル計NA-18Aを二重の防風ネット内に設置し,これに同社製レベルレコーダLR-06を接続して記録する方法によった。
同調査においては,同日午後2時40分から午後4時までの80分間,航空機の騒音及び低周波音レベルを観測した。その結果,37回の観測のうち,航空機低周波音について計測できたのは35回であり,その低周波音レベルは,最も低い値が78.7dB(G),最も高い値が106.5dB(G)であり,80dB(G)以上90dB(G)未満が7回,90dB(G)以上100dB(G)未満が10回,100dB(G)以上が17回であった。
(イ) 平成14年度調査
a 沖縄県は,平成15年2月5日から同月12日まで,宜野湾市喜友名2丁目所在の防音工事の施工されていない住宅(昭和48年環境基準の類型Ⅰに指定された地域内にある。)において,屋外,屋内の騒音及び低周波音レベルについて測定調査を実施した。
b 騒音レベルの測定は,屋外ではリオン株式会社製積分型普通騒音計NL-06に同社製レベルレコーダLR-06を接続して記録する方法により,屋内では同社製積分型普通騒音計NL-14に同社製レベルレコーダLR-20を接続して記録する方法によった。
また,低周波音レベルの測定は,環境庁大気保全局(当時)が平成12年10月に明らかにした「低周波音の測定方法に関するマニュアル」に従い,屋外ではリオン株式会社製低周波音レベル計NA-18Aを二重の防風ネット内に設置し,これに同社製レベルレコーダLR-06を接続して記録する方法により,屋内では同社製低周波音レベル計NA-18Aに同社製レベルレコーダLR-20を接続して記録する方法によった。
c 同調査においては,平成15年2月5日から7日間連続して航空機騒音及び低周波音を測定し,90dB(G)以上の低周波音が発生した回数を曜日別及び時刻別にまとめた。その結果は,それぞれ次のグラフのとおりである。なお,同月10日の屋外低周波音レベルにつき,記録紙の絡まりによってデータが得られなかった時間帯があるため,騒音又は屋内低周波音レベルから屋外の低周波音レベルが90dB(G)以上であると推測される回数が加えられている。

d また,屋内の低周波音レベルは平均で10dB(G)ほど屋外より低く,騒音レベルは平均で20dB(A)ほど屋外より低いとの結果が得られた。
e さらに,飛来したヘリコプター機種による低周波音スペクトルを分析した結果は,次のとおりであった。

このように,CH-53からは,20Hz及び25Hzで80dB(G)程度の低周波音,50Hz,63Hz及び80Hzで60dB(G)を超える低周波音が発生し,また,CH-46からは,12.5Hzから80Hzまでの各周波数でいずれも60dB(G)を超える低周波音が発生しており,そのうち12.5Hz及び16Hzで80dB(G)を超える低周波音が生じ,さらに,AH-1からは,10Hzから80Hzまでの各周波数でいずれも60dB(G)を超える低周波音が発生しており,そのうち10Hz及び20Hzでは80dB(G)程度の低周波音が生じている。
(ウ) 平成17年度調査
a 沖縄県は,平成18年3月3日午後2時から午後4時30までの間,宜野湾市佐真下4番地所在の住居において低周波音調査を実施した。
b 騒音及び低周波音の測定は,前記(イ)の平成14年度調査と同様,騒音計はリオン株式会社製積分型普通騒音計NL-06を,低周波音計は同社製低周波音レベル計NA-18,NA-18Aを用いて,同社製記録計LR-06,LR-20に接続して記録する方法によった。
c 同調査では,米軍機に起因する75dB(G)以上の低周波音が観測された。
そのほとんどが滑走路南側から着陸し北側に向け離陸するKC-130のタッチアンドゴーの着陸時の影響であった。KC-130の影響では,離陸準備のための陸上移動時に屋外で86dB(G)の低周波音が観測された。
一方,調査地点から数百m離れた上空をCH-46が2回飛来し,86dB(G),88dB(G)という低周波音を屋外で記録した。屋内では屋外と比較して低周波音レベルはおおむね10dB(G)程度低かったが,屋内の騒音と低周波音の比較では,ヘリコプター飛来時に騒音と比較し低周波音レベルが高めであった。
d また,KC-130の陸上移動時の周波数分布は,着陸時と比較して20Hz付近の低周波側の音圧レベルが比較的高い傾向を示し,CH-46では,20Hz付近の音圧レベルが高く,低周波音の発生比率が高いことがうかがえる結果であった。
(甲C21,22,50)
オ 本件低周波音についての検証の結果
(ア) 概要
当裁判所は,前記(3)エのとおり,平成19年5月17日((イ)から(オ)までにおいて,時刻のみを示すときは,いずれも同日である。),普天間飛行場周辺の原告らの住居等について検証を実施し,前記(3)エの本件航空機騒音についての検証における測定場所と同一であるX276宅,X61宅,きさらぎ公園及びB宅の4か所において,G特性音圧レベル(LGMAX)と1/3オクターブバンド音圧レベルについて,単発的に発生する低周波音を測定するため,発生時の最大値を読みとった。
低周波音レベルの測定は,暗騒音レベルが高くて対象となる低周波音が精度良く測定できない場所並びに建物や地形による音の反射,遮蔽及び回折によりごく局所的に音圧レベルが変化する場所を避け,風雑音減少効果の高い全天候型防風スクリーンで保護したマイクロホンを地面上又は屋上の1.2~1.5mの高さに設置し,これにリオン株式会社製低周波音レベル計NA-18A及び同社製レベルレコーダLR-06を接続して記録する方法によった。
(イ) X276宅における検証結果
X276宅においては,午前9時13分から午前10時15分までの62分間,暗騒音及び航空機低周波音を測定した(測定時間は各1分間。以下同じ。)。その結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午前9時33分から午前10時11分の38分間の測定時間内に航空機が合計6機飛行し,全機につき,暗騒音の最大値74.3dB(G)を5.2~28.1dB(G)上回るG特性音圧レベル最大値79.5~102.4dB(G)が計測された。
(ウ) X61宅における検証結果
X61宅においては,午前10時40分から午前11時32分までの52分間,暗騒音及び航空機低周波音を測定した。その結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午前10時42分から午前11時30分の48分間の測定時間内に航空機が合計8機飛行し,うち3機につき,暗騒音の最大値77.4dB(G)を2.9~10.5dB(G)上回るG特性音圧レベル最大値80.3~87.9dB(G)が計測された。
(エ) きさらぎ公園における検証結果
きさらぎ公園においては,午後1時40分から午後2時30分までの50分間,暗騒音及び航空機低周波音を測定した。その結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午後1時45分から午後2時23分の38分間の測定時間内に航空機が合計15機飛行し,うち14機につき,暗騒音の最大値79.2dB(G)を0.9~15.6dB(G)上回るG特性音圧レベル最大値80.1~94.8dB(G)が計測された。
(オ) B宅における検証結果
B宅においては,午後2時55分から午後3時45分までの50分間,暗騒音及び航空機低周波音を測定した。その結果は,それぞれ次の表のとおりである。

上記のとおり,午後2時57分から午後3時45分の48分間の測定時間内に航空機が合計18機(この18機以外に計測された1機(Data No.55)は,嘉手納飛行場所属のものであり,検証の対象外である。)が飛行し,全機につき,暗騒音の最大値78.6dB(G)を2.6~18.9dB(G)上回るG特性音圧レベル最大値81.2~97.5dB(G)が計測された。
(以上オにつき検証の結果)
(5) 本件航空機騒音の態様と侵害の程度及びその継続の経緯等についての検討
ア 本件航空機騒音の発生状況の評価方法
(ア) 本件航空機騒音の原告らに対する影響は,本件航空機騒音の音量,音質,発生回数,原告らの居住地と普天間飛行場との距離,飛行経路,離着陸方向等に大きく左右され,更に風向,気温,地形等の自然的条件によっても変化し得ることは,経験則上明らかである。しかし,普天間飛行場が米軍の管理運営する飛行場であることから,普天間飛行場における米軍機の飛行実態についても,前記(3)ア(イ)の認定事実のとおり飛行経路が複数でかつ規則性がないという限度で認めることができるものの,それを超えて,米軍機の日常の飛行回数,飛行経路等を具体的に認めるに足りる証拠がない。そのため,本件航空機騒音の発生の実態を具体的かつ正確に把握することも困難であるといえる。また,個々の原告の居住地に到達する本件航空機騒音の程度についても,普天間飛行場と各原告の居住地との距離だけから直ちに推認することができるものではなく,上記のとおり,飛行経路との位置関係や地形等様々な要素によって異なるところ,こうした要素についても証拠上明確とはなっていない。
しかし,WECPNLは,前記前提事実2のとおり,航空機騒音を適切に評価されるためにICAOにおいて提案されたものであり,前記(1)イの認定事実のとおり,我が国でも,昭和48年環境基準に採用されている上,防衛施設庁(当時)は,前記(1)ウの認定事実のとおり,普天間飛行場のような防衛施設としての飛行場については,民間航空機が使用する民間空港と異なり,1日の飛行機数に変動があることから,その住民反応を考慮して,防衛施設庁方式によるW値の算定方法を定めた上,前記(2)アの認定事実のとおり,昭和52年12月に,株式会社アコーテックに委託して,普天間飛行場周辺において,事前調査を含め17日間にわたる大規模かつ詳細な騒音測定等の調査を行い,これに基づき,防衛施設庁方式に沿ってW値を算出し,騒音コンター図を作成して,昭和56年及び昭和58年,順次,昭和56年告示又は昭和58年告示として普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域である本件コンターを指定している。
以上のように,本件コンターは,大規模かつ詳細な騒音測定等の調査に基づき,防衛施設としての飛行場について適切に評価する方法により本件航空機騒音を評価した結果によっていることからすると,昭和52年当時の本件航空機騒音の実態に照応したものであると推認することができる。
しかも,航空機騒音は,前記前提事実2のとおり,騒音レベルが他の発生源による騒音と比較してはるかに高く,広範囲に及ぶという特質があることにかんがみれば,本件コンターを基礎として,一定程度の広がりを持った地域ごとに,その地域に居住する住民がほぼ同程度の騒音に暴露されていると推認するのが相当である。
したがって,本件航空機騒音の態様とその程度は,少なくとも本件コンターのための騒音測定等の調査がされた昭和52年当時については,本件コンターを基礎として推認するのが相当というべきである。
(イ) 一方,原告らは,本件コンターについては,騒音コンターを作成する際に,累積度数曲線における計測データのプロット位置を誤ったため,本件コンターのW値が全体的に2.5程度過小に評価されていると主張する。そして,沖縄県調査報告書には,「累積度数曲線は0.5日ずれてプロットされており,得られた値は総飛行機数の90パーセンタイル値ではなく,約83パーセンタイル値に相当していた。このため,飛行機数を訂正した上で各測定点のWECPNLを再計算した」ところ,「普天間飛行場の標準飛行機数は,折れ線による累積度数曲線の近似で…311(機/日),階段状の関数を用いた場合は…349(機/日)であった」ので,「防衛施設庁の地域区分は騒音曝露量を測定データによって推定される値よりも若干低く見積もっている可能性がある」とこれに沿う記載があり(甲D1),証人平松も「国が騒音コンターを作成した際の累積度数曲線について,縦軸は連続している日数のデータであるから,7日間を測定した場合には,例えば1日目は0.5のところに,7日目については6.5のところにプロットしなければならないのに,1日目を1のところに,7日目は7のところにプロットしているので,誤っている。その結果,普天間飛行場では,約2.5程度のW値の差であった。」などとこれに沿う証言をする。
しかし,被告が本件コンターを作成するための資料として作成した累積度数曲線は,次の図のとおりであり,1日当たりの総飛行機数の出現日数を度数(ある数値の出現回数)と捉えた上,累積度数を縦軸,総飛行機数を横軸として,1日当たりの総飛行機数を,その少ない方からその対応する度数を累積加算して得られた度数軸上にそれぞれプロットしたものを曲線で結んだものであると理解することができる。すなわち,7日の間に,37,62,97,128,142,158,349という1日当たりの総飛行機数の出現回数はそれぞれ1回であるから,累積度数1が総飛行機数37,累積度数2が総飛行機数62,累積度数3が総飛行機数97,累積度数4が総飛行機数128,累積度数5が総飛行機数142,累積度数6が総飛行機数158,累積度数7が総飛行機数349と,それぞれ縦軸の1から7までの各整数軸上にプロットして,その少ない方から数えて累積度数90%に相当する1日の標準飛行回数を175機と算出したことが誤っているということはできない。これに対し,沖縄県調査報告書は,上記のとおり,累積度数90%に相当する1日の標準飛行回数が311機又は349機となると指摘するけれども,そのうち,349機は,最も多く飛行した日の飛行機数と同一の数字であって,これを累積度数90%に相当する1日の標準飛行回数とみることに合理性はなく,また,311機も,最も多く飛行した349機の89%に相当する数字であって,2番目に多く飛行した158機と比べても,これを累積度数90%に相当する1日の標準飛行回数とみることに合理性があるということはできない。

したがって,累積度数曲線の作成に誤りがあるとは認められないから,原告らの本件コンターのW値が全体的に過小評価されているとの主張は,前提を欠くので,採用することはできない。
以上のとおり,本件航空機騒音の態様とその程度については,昭和52年当時については,本件コンターを基礎として推認することが相当であるというべきである。
(ウ) 次に,本件コンターは,現在から30年以上前の昭和52年に実施された調査に基づいて作成されたものであるものの,前記(ア)のとおり,大規模かつ詳細な騒音測定等の調査に基づくものであり,このような調査に基づいて本件航空機騒音の実態を把握する資料は本件コンターを除いて外にないから,本件コンターに基づいて昭和52年当時から現在までの本件航空機騒音の発生状況を推認することにも,これに反する客観的な証拠がない限り,合理性・相当性があるというべきである。
ところで,近年においては,前記(3)ウの認定事実のとおり,沖縄県や被告により設置等された固定測定局点における測定結果という約10年又は約20年という比較的長期間にわたり継続的に行われた信用性の高い調査結果がある。もっとも,本件コンター内の騒音測定局点は,前記前提事実6(1)及び前記(3)ウの認定事実のとおり,W80区域が沖縄県設置に係る2測定局(県野嵩測定局,県上大謝名測定局)と被告設置に係る2測定点(国新城測定点,国大謝測定点)の合計4地点,W75区域が沖縄県設置又は管理に係る2測定局(県新城測定局,市真志喜測定局)にとどまるから,これらのごく限られた測定局点における騒音測定結果をもって,本件コンター内全域における本件航空機騒音の発生状況を推認することには限界があるともいえる。
以上に照らすと,上記各測定局点を本件コンター内のW80区域又はW75区域に分け,それぞれの騒音の大きさ,騒音発生回数及び年間W値等の数値やその推移を把握した上で,同じW値区域に属する測定局点間における相互の測定結果及びその各測定局点の測定結果と当該測定局点の属する区域の本件コンターのW値との間に著しい乖離,矛盾がみられない限り,本件コンターに基づいて,昭和52年当時から現在までの間の本件航空機騒音の地域的な広がり及び発生の程度を把握することは,合理性・相当性があるというべきである。
そこで,以下では,これらの測定結果のほか,前記(3)エの認定事実のとおりの本件航空機騒音についての検証の結果も踏まえ,W80区域又はW75区域に応じて,各区域ごとの本件航空機騒音による発生状況を類型的に検討する。
イ W80区域における近年の本件航空機騒音の発生状況
W80区域に設置されてる測定局点は,前記ア(ウ)のとおり,県野嵩測定局及び県上大謝名測定局並びに国新城測定点及び国大謝名測定点の4地点である。
(ア) 前記(3)ウ(イ)及び(ウ)の認定事実のとおりの上記4測定局点における平成9年度以降の最高音圧レベル,1日平均の騒音発生回数及び環境基準超過率の各推移をまとめると,それぞれ次の各グラフのとおりとなる。

上記の各グラフのとおり,最高音圧レベルは,各測定局点において毎年110dB(A)以上という相当高い数値を示している。また,1日平均の騒音発生回数についてみると,県野嵩測定局にあっては20数回程度でおおむね横ばい,又は漸減し,県上大謝測定局,国大謝測定点及び国新城測定点の3地点にあっては平成12年度又は平成14年度以降減少し,国大謝名測定点及び国新城測定点の数値は県野嵩測定局と同程度になっている。また,環境基準超過率については,県上大謝名測定局は63.8~79.1%と高い数値を示しているけれども,他の3地点においては,平成9年度又は平成10年度と比べると相当程度減少している。このように,県上大謝名測定局と他の3地点とでは,その数値及び推移につき若干の相違があるけれども,著しい乖離,矛盾があるとは認められない。
これら4地点における騒音の大きさや発生回数は,平成9年度以降,県上大謝名測定局を除き,騒音の発生回数及び環境基準超過率がいずれもおおむね減少している一方,なお環境基準超過率は30%を超え,かつ,最高音圧レベルは高い数値を維持しており,近年においても,これらの4地点においては,かなり大きな騒音が高い頻度で発生しているということができる。このことは,W80区域にあるX276宅及びX61宅において実施した当裁判所の検証により,70dB(A)以上の本件航空機騒音が,X276宅では39分間の測定時間内に4回,X61宅では49分間の測定時間内に9回,それぞれ測定されたこととも矛盾していない。
(イ) また,前記(3)ウ(イ)及び(ウ)の認定事実のとおりの上記4測定局点の平成9年度以降の年間W値の推移をまとめると,次のグラフのようになる。

上記4測定局点は,上記グラフのとおり,いずれも,数値に違いはあるけれども,平成13年度に最高値を記録した後,平成16年度にかけて低くなり,平成17年度に再び高くなっている。そうすると,各測定局点における年間W値は,いずれも同じように推移していると評価することができる。
(ウ) そして,前記(3)イの認定事実のとおり,沖縄県調査において,県等測定局における平成9年度の騒音測定結果を基に算出した沖縄県調査施設庁方式近似W値は,県上大謝名測定局で本件コンターのW値よりも高い数値を示していることを除き,本件コンターのW値と比較的よく一致しているとの結論が示されているところ,この結論は,前記(3)ウ(イ)a(f)の認定事実のとおり,県野嵩測定局における昭和56年度から平成9年度までの年間W値が,おおむね75から80までの間で推移し,特段の増減傾向が認められないことによっても裏付けられる。
しかも,上記の年間W値は,環境基準方式によるものであるところ,防衛施設庁方式のW値は,前記(1)イ及びウの認定事実のとおり,継続時間について環境基準方式が一定値で補正するのに対し,継続時間を測定して補正するため,被告指摘のように継続時間が短い滑走路に近い地点では,環境基準方式よりも低い数値となることがあり得る(もっとも,前記(1)イ(オ)のような,騒音の継続時間が,ヘリコプターの方がジェット機よりも長いことが多いとの指摘があることを考慮すると,防衛施設庁方式のW値の数値が,前記(3)ア(ア)のとおり常駐機にヘリコプターが多い普天間飛行場において,滑走路に近い地点では,環境基準方式のW値の数値よりも当然に低い数値となるということはできない。)としても,そもそも,前記ア(ア)のとおり,防衛施設としての飛行場の周辺における住民反応を考慮して,年間平均でなく,1日の飛行回数の累積度数90%の飛行回数を用いることを基本としているから,理論上,環境基準方式のW値よりも高い数値となることを前提としているといえる上,環境基準方式では,航空機騒音をレベル変動のピーク値のみで評価するので,エンジン調整音のような継続時間の長い騒音は防衛施設庁方式と比べ相対的に過小評価されるから,上記年間W値は,防衛施設庁方式で定められた本件コンターのW値と比べると,相対的に低い数値となっていることを考慮する必要がある。しかも,県等測定局の測定では,トランスポンダ信号を発する飛行中又は離着陸時の騒音のみが集計され,エンジン調整音を考慮していない(甲B7)ので,県等測定局における年間W値は,本件コンターのW値と比べ,相対的に一層低い数値となって表れることを考慮する必要がある。そして,平成9年度の年間W値について,県野嵩測定局で76.2であり,県上大謝名測定局で83.1であるのに,沖縄県調査委員会による調査結果では,前記(3)イの認定事実のとおり,沖縄県調査施設庁方式近似W値をそれぞれ81,88と算出していることなどに照らすと,W80区域のW値(防衛施設庁方式のW値80~85)と比べ,環境基準方式の年間W値5程度低いからといって,直ちに,W80区域のW値との間に乖離,矛盾があるとみるのは相当とはいえない。
そこで,各測定局点における年間W値をみると,平成9年度から平成17年度までの間,県上大謝名測定局では,平成16年度の78.7を除き,いずれも80を超えており,他の測定局点でも,県野嵩測定局の平成15年度(73.7),平成16年度(72.0)及び平成17年度(73.8)の数値,大謝測定点及び国新城測定点の平成16年度の数値(大謝測定点につき73,国新城測定点につき74)を除き,いずれも75を超えている。もっとも,これらの75を下回る5つの測定結果は,W80区域のW値との間に乖離,矛盾を示すものという余地があるものの,その程度は,1から3までの間にとどまっている上,これらの3地点では,いずれも平成17年には,高い数値となり,県野嵩測定局を除き75以上の数値となっていること及び県野嵩測定局の測定では上記のとおりエンジン調整音が考慮されていないことなどを併せ考慮すると,その乖離,矛盾の程度が著しいということまではできない。
したがって,上記各測定局点における年間W値は,W80区域の本件コンターのW値と,おおむね整合しているといえる上,乖離,矛盾があるという余地がある部分についても,その程度が著しいとまではいうことができない。
(エ) 以上によれば,W80区域については,W80区域に設置されている測定局点間における相互の測定結果及び同測定局点の測定結果とW80区域の本件コンターのW値との間に著しい乖離,矛盾がみられないので,本件コンターに基づいて本件航空機騒音の発生の地域的な広がり及び発生の程度を把握することに合理性・相当性があるから,原告らは,昭和52年当時から現在まで,W80区域に居住している期間,かなり大きな騒音に高い頻度で暴露されていると推認することができる。
ウ W75区域における近年の本件航空機騒音の発生状況
W75区域に設置されている測定局点は,前記ア(ウ)のとおり,県新城測定局及び市真志喜測定局の2地点である。
(ア) 前記(3)ウ(イ)の認定事実のとおりの上記2地点における平成11年度以降の最高音圧レベル,平成9年度以降の1日平均の騒音発生回数及び平成10年度以降の環境基準超過率の各推移をまとめると,それぞれ次の各グラフのとおりとなる。

上記の各グラフのとおり,最高音圧レベルは,毎年,県新城測定局においては105dB(A)以上,市真志喜測定局においては95dB(A)以上といずれも高い数値を示している。また,1日平均の騒音発生回数についてみると,両測定局においても,平成10年度から平成13年度にかけておおむね減少し,平成14年度に増加した後,平成16年度にかけて減少し,平成17年度に増加に転じるという推移となっている。さらに,環境基準超過率については,両測定局の間で,平成13年度までの数値及び推移に相違がみられるけれども,平成14年度以降は,平成16年度にかけて減少し,平成17年度に増加に転じており,同じ推移となっている。このように,両測定局における測定結果の数値及び推移には,最高音圧レベル及び環境基準超過率の点で相違があるけれども,1日平均の騒音発生回数の推移は同じであるなど,両者の間に著しい乖離,矛盾があるとまではいえない。
そこで,両地点における本件航空機騒音の発生状況について,W80区域にある測定局点と比べてみると,両地点の本件航空機騒音の発生は,前記(3)ウ(イ)及び(ウ)の認定事実のとおり,①最高音圧レベルの大きさ及び環境基準超過率についてはW80区域にある測定局点と比べて低いものの,②1日平均の騒音発生回数については,15.1~77.6回の間にあり,平成9年度から平成17年度までの平均が県新城測定局で約50.5回,市真志喜測定局で約34.5回であるのに対し,W80区域にある測定局点も15.6~99回の間にあって,同期間における県野嵩測定局の平均の約28.3回や平成10年度から平成17年度までにおける県上大謝名測定局の平均の約69.1回などと比べても,さほど変わらず,③1日平均騒音累積時間や夜間並びに夕方及び夜間の1日平均騒音発生回数についても,どちらが上回っているといえるものでもないので,近年においても,上記両地点においては,大きい騒音が高い頻度で発生しているということができる(なお,WECPNLは,環境基準方式,防衛施設庁方式のいずれであっても,前記前提事実4並びに前記(1)イ及びウの認定事実のとおり,航空機騒音のピークレベル(音の強度),機数(飛行回数)及び飛行時刻が主な算定要素となっているところ,W80区域設置の4地点とW75区域設置の2地点の各測定局点において,このように飛行回数や飛行時刻に関する測定データに差がないことに照らすと,環境基準超過率や後記(イ)年間W値の差は,最高音圧レベルの大きさにみられるように,主に航空機騒音のピークレベルの違いから生ずるものと推認することができる。)。このことは,W75区域にあるきさらぎ公園及びB宅において実施した当裁判所の検証により,70dB(A)以上の本件航空機騒音が,きさらぎ公園では43分間の測定時間内に3回,B宅では48分間の測定時間内に10回,それぞれ測定されたこととも整合している。
(イ) また,前記(3)ウ(イ)の認定事実のとおりの上記2地点の平成9年度以降の年間W値の推移をまとめると,次のグラフのようになる。

年間W値は,県新城測定局及び市真志喜測定局において,上記グラフのとおり,いずれも,平成15年度まではおおむね70前後で推移し,平成16年度に市真志喜測定局で66.2に低下がみられるものの,平成17年度には再び上昇し,県新城測定局と同程度の数値になっている。年間W値は,両測定局において,数値及び推移いずれについても,多少のばらつきや不一致があるけれども,相互に著しく乖離,矛盾するものとはいえない。
(ウ) そして,前記(3)イの認定事実のとおり,沖縄県調査委員会による調査結果において,県等測定局における平成9年度の騒音測定結果を基に算出した沖縄県調査施設庁方式近似W値は,W75区域にある測定局では,いずれも本件コンターのW値と比較的よく一致しているとの結論が示されている。しかも,前記イのとおり,環境基準方式による年間W値は,防衛施設庁方式で定められた本件コンターのW値と比べるには,相対的に低い数値となっていることを考慮する必要がある上,県等測定局における年間W値については,本件コンターのW値と比べ,相対的に一層低い数値となることを考慮する必要があるところ,平成9年度における両測定局の年間W値について,県新城測定局で72.7,市真志喜測定局で69.9であるのに,沖縄県調査では,沖縄県調査施設庁方式近似W値をそれぞれ77,74としていることなどに照らすと,W75区域のW値(防衛施設庁方式のW値75~80)と比べ,環境基準方式の年間W値が4程度低いからといって,直ちに,W75区域のW値との間に乖離,矛盾があるとみるのは相当とはいえない。
そこで,上記両測定局における年間W値をみると,県新城測定局における平成12年度(70.0),平成16年度(69.7)及び平成17年度(69.2)の測定結果並びに市真志喜測定局における平成9年度(69.9),平成10年度(70.6),平成13年度(70.0),平成14年度(70.1),平成15年度(68.9),平成16年度(66.2)及び平成17年度(67.9)の測定結果を除くと,いずれも71以上の数値であるから,これらの測定結果を除く測定結果については,W75区域のW値との間に乖離,矛盾があるとみることはできない。また,県新城測定局のこれらの測定結果についても,71という数値からの乖離の程度は最大で2程度にとどまるから,乖離の程度が著しいとはいえない。一方,市真志喜測定局のこれらの測定結果については,平成16年度の数値は71という数値から5程度乖離しており,乖離の程度は相当なものであるといえるけれども,平成17年度には67.9にまで上昇していることにかんがみると,平成16年度の低い数値は一時的なものであるとみる余地もあるから,なおその乖離,矛盾の程度が著しいと断ずることまではできない。
したがって,上記両測定局における年間W値は,W75区域の本件コンターのW値と乖離,矛盾があるという余地があるといえても,その程度が著しいとまではいうことができない。
(エ) 以上によれば,W75区域についても,W75区域に設置されている測定局間における相互の測定結果及び同測定局の測定結果とW75区域の本件コンターのW値との間に著しい乖離,矛盾がみられないので,本件コンターに基づいて本件航空機騒音の発生の地域的な広がり及び発生の程度を把握することに合理性・相当性があるといえるから,原告らは,昭和52年当時から現在まで,W75区域に居住している期間,大きな騒音に高い頻度で暴露されていると推認することができる。
エ 本件航空機騒音の影響等に関する被告主張についての検討
(ア) これに対して,被告は,まず,原告らに対する本件航空機騒音の影響の有無,程度は,各原告ごとに確定されなければならないので,本件コンター内に居住しているからといって,実際に暴露されている航空機騒音のW値が本件コンターの数値であるということにはならないと主張する。
確かに,原告らに対する本件航空機騒音の影響の有無,程度は,前記ア(ア)のとおり,本件航空機騒音の音量,音質,発生回数のほか,原告らの居住地と普天間飛行場との距離,飛行経路,離着陸方向,更に風向,地形等の自然条件によっても異なるから,各原告らの居住地ごとに本件航空機騒音の影響の有無,程度も異ってくるといえる。しかし,騒音は,大気汚染や水質汚染とは異なり,物質的な痕跡を残さない性質を有しているといえるところ,殊に航空機騒音は,前記ア(ア)のとおり,騒音レベルが高く,広範囲に及ぶ特質を有していることにかんがみれば,一定の程度の広がりを持った地域ごとに,その地域に居住する住民がほぼ同程度の騒音に暴露されていると推認することが合理的というべきである。しかも,原告らは,原告らが本件コンター内に居住することにより最低限度共通に生じている被害をもって,本件航空機騒音による被害と主張しているから,厳密にいえば暴露される騒音量に多少の差異はあっても,慰謝料の額に差を設ける程度の違いがない地域に居住する原告らを一つのグループとし,本件航空機騒音による侵害の程度を把握することが合理的であるといえるから,本件コンターのW75区域とW80区域の区分によって本件航空機騒音の発生状況を推認することも合理性・相当性があるというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(イ) また,被告は,原告らが主張する共通被害を前提とする場合,1日24時間を通して騒音に暴露されていることを前提に算出されたW値を用いることが不当であり,一定の合理的な根拠により特定した,多くの原告らが騒音に暴露されていないと推定される時間帯の騒音を控除して算出されたW値を用いるべきであって,本件コンター外の事業所に勤務する有業者をも含めた原告らに共通する被害としては,少なくとも平日の午前9時から午後5時までの騒音を除いたものと解すべきであるから,その時間帯に発生した騒音を除外して,共通する被害の評価を行うことが妥当であると主張する。
被告のこの主張は,原告らが本件航空機騒音により被害を受ける時間帯及び量が最低限共通するかどうかという観点から,本件航空機騒音による暴露量の最も少ない者の被害をもって原告らに共通する被害とすべきであるとの趣旨のものであると解されるところ,確かに,本件コンター外に通勤している原告らは,勤務時間帯は,本件航空機騒音に直接暴露されることはないといえる。しかし,原告らは,第1事件及び第2事件のそれぞれ訴え提起時,20未満の者が第1事件で24名,第2事件で31名であり,20歳以上65歳未満の者が第1事件で120名,第2事件で122名であり,65歳以上の者も第1事件で51名,第2事件で48名であるなど様々であり,また,有職者であっても夜間に就業する者があることもうかがわれる(甲B1の73,124,126,B39の1)ので,それぞれ生活条件(有職者であるか無職者であるか,有職者であっても就業場所や就業条件がどうか,無職者であっても就学しているかどうか,就学している者であっても就学場所がどうかなど)に応じて,原告ら各自が実際に暴露される時間帯及び態様が異なることは容易に想定することができ,殊更,本件コンターへの通勤者のみを捉えて,共通被害やその前提となる侵害行為の程度を捉えることに合理性があるとはいえない。結局,原告らの生活条件には,様々なものがあり,その相違による暴露時間及びその程度も異なるけれども,本件コンター内に居住しているという観点から,最小限度等しく暴露している本件航空機騒音による侵害行為の程度及びこれによる被害の程度を考慮して,普天間飛行場の供用の違法性の判断をすれば足りるというべきである。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) さらに,被告は,本件航空機騒音による侵害行為の程度を評価するに当たっては,航空機騒音が一過性で間欠的であること,日々変化すること,建物による遮音効果があることを考慮すべきであると主張する。
しかし,WECPNLは,前記前提事実2及び前記(1)のとおり,航空機騒音が間欠的であることを考慮された数値であり,本件コンターのW値も,これを踏まえた上で,前記ア(ア)のとおり,更に防衛施設としての飛行場の周辺のように1日の飛行機数に変動がある場合における住民反応を考慮した数値である。また,航空機騒音が間欠的で日々変化することは,原告らのように本件航空機騒音に暴露する者にとっては,本件航空機騒音に暴露する機会を予測して行動することを困難であるにもかかわらず,これが繰り返されることを意味しているから,本件航空機騒音に被告主張のように間欠的で日々変化するなどの特徴があることから,本件航空機騒音による侵害行為の程度を低くみるべきとはいえない。さらに,建物による遮音効果については,我が国では平均10~15dB(A)程度あるとされる(弁論の全趣旨)ものの,一律のものではなく,窓の開閉によってその効果が大きく異なると想定されるのに加え,高温多湿である沖縄においては,後記5(2)オ(ア)のとおり,住宅防音工事を実施した原告らであっても,冷房装置の電気料金の負担等の理由から,結局のところ,窓を閉め切って生活する場面は生活全体からすれば一定の限度にとどまるといえる上,普天間飛行場周辺住民に窓を閉めて生活することを強いる理由もないことなどを考慮すると,本件航空機騒音による侵害行為の程度をそれだけで相当程度低くみるべきとはならないというべきである。
したがって,被告の上記主張も採用することはできない。
オ 昭和47年5月15日から昭和52年までの本件航空機騒音の暴露状況
沖縄県が昭和50年10月23日午後零時から翌24日午後零時まで深夜を除き実施した調査において,60dB(A)以上の音が5秒以上継続した航空機騒音が,普天間第二小学校において198回,宜野湾市字赤道396番地において181回,同市字佐真下260番地において187回記録され,うち80dB(A)以上の騒音発生回数は普天間第二小学校において41回,宜野湾市字赤道396番地において31回,同市字佐真下260番地において111回記録されて,環境基準方式によるW値についても,普天間第二小学校において73.9,宜野湾市字赤道396番地において70.7,同市字佐真下260番地において79.9と算出されていること(甲C7),普天間飛行場周辺では,宜野湾市長が,当時の普天間飛行場の司令官に対し,昭和44年ころ,本件航空機騒音による被害を問題として善処を求める要望を行い,また,教職者らが,昭和45年ころ,本件航空機騒音等の即時中止を要求する決議をしたこと(乙C5,6),沖縄国際大学においては,昭和47年4月に開校したころから,本件航空機騒音により,授業が何遍も中断する状況が生じていたこと(証人S2)からすれば,普天間飛行場周辺地域は,昭和47年ころから昭和52年までの間についても,同年当時とあまり変わらない程度の騒音に暴露されていたと推認することができるというべきである。
したがって,普天間飛行場周辺地域においては,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から昭和52年当時までの間も,普天間飛行場を離着陸等する米軍機により,かなり大きな又は大きな騒音が高い頻度で発生していると推認することができる。
カ 本件低周波音の発生状況
(ア) 前記(4)ウからオまでのとおり,本件コンター内の大謝名,佐真下,野嵩及び喜友名の各地点等における調査及び検証の結果において,米軍機が普天間飛行場において離着陸等することにより生じたと認められる低周波音が記録されている(なお,G特性音圧レベルとA特性音圧レベルとは,聴覚補正回路としての特性等が異なるから,それぞれ測定された数値を比較して,どちらの数値が大きいと評価することができるものではないのは,被告主張のとおりである。)。そして,普天間飛行場に常駐する米軍機は前記(3)アの認定事実のとおりヘリコプターがその多くを占めているところ,ヘリコプターが前記(4)ア(ウ)の認定事実のとおり低周波音の発生源であり,低周波音が同イのとおり距離減衰しにくい性質を有していることに照らすと,ヘリコプターを中心とする普天間飛行場を離着陸等する米軍機は,本件航空機騒音のみならず本件低周波音も発しており,本件航空機騒音が到達するところには,等しく本件低周波音も到達していると推認することができる。
(イ) もっとも,本件コンターのW値は,前記前提事実4及び5並びに前記(1)ウの認定事実のとおり,A特性音圧レベルを基礎として算出されている。そして,A特性は,前記前提事実2及び前記(4)アの認定事実のとおり,20~8000Hzの間の音を合計した数値であるものの,人の耳の感度に合わせて低い周波数を小さく評価するように補正する回路のことであるから,本件コンターのW値は,低周波数領域の音圧については,相当減退されて考慮されているにとどまっている。また,前記(ア)の認定事実のとおり,低周波音には距離減衰しにくいという性質があるから,本件コンターのW80区域及びW75区域における低周波音暴露の具体的な状況を明らかにすることは困難であるというほかない。
しかしながら,本件コンターは,前記(2)アの認定事実のとおり,普天間飛行場を離着陸する米軍機の機種,機数,飛行経路,時刻等を観測・記録した結果に基づいて定められたものである上,前記(3)ア(イ)の認定事実のとおりの普天間飛行場に離着陸する米軍機の飛行経路等に照らすと,普天間飛行場の周辺において旋回訓練をするヘリコプターが多いとうかがわれるところ,前記前提事実5のとおりの別紙8本件コンター図によれば,W80区域は,W75区域よりも普天間飛行場に近接した位置にあると認められ,かつ,低周波音についても距離減衰がしにくいといっても,前記(4)ウの認定事実に照らせば,減退そのものがあるとはうかがわれるから,本件低周波音の暴露の程度についても,本件コンターのW80区域とW75区域とでは,その程度はともかく,W80区域がW75区域を相応に上回っていると推認することが相当であるというべきである。
したがって,普天間飛行場を離着陸等する米軍機から生ずる本件低周波音が本件コンター内の全域に到達して,原告らは,W75区域とW80区域との区分に応じて,相応に本件低周波音に暴露されていると認めることができる。
(6) 本件航空機騒音の態様と侵害の程度及びその継続の経緯等についてのまとめ
以上によれば,原告らは,昭和47年5月15日から現在まで,それぞれW80区域又はW75区域に居住している期間,本件航空機騒音及び本件低周波音のため,W80区域にあってはかなり大きな騒音等に,W75区域にあっては大きな騒音等に,いずれも高い頻度で暴露されているということができる。
3  原告らの本件航空機騒音等による被害の性質と内容
(1) 共通被害の主張
ア 共通被害の主張の許容性
原告らの本件損害賠償請求は,原告ら各自の受けている被害につき,それぞれ固有の権利として損害賠償の請求をしているから,各原告についてそれぞれの被害の発生とその内容が確定されなければならない。
もっとも,原告らの主張は,原告らはそれぞれ様々な被害を受けているけれども,本件では各自が受けた具体的被害の全部について賠償を求めるのではなく,それらの被害の中には本件航空機騒音によって原告ら全員が最小限度この程度までは等しく受けていると認められるものがあり,このような被害を原告らに共通する損害として,各自につきその限度で慰謝料という形でその賠償を求めるというのである。それは,結局,原告らの生活妨害,睡眠妨害及びこれらに伴う精神的苦痛等を一定の限度で原告らに共通するものとして捉え,その賠償を請求するものと解することができ,例えば,生活妨害についていえば,その具体的内容において若干の差異はあっても,静穏な日常生活の享受が妨げられるという点では同様であって,これに伴う精神的苦痛の性質及び程度において差異がないと認められるものが存在し得るので,このような観点から同一と認められる性質・程度の被害を原告ら全員に共通する損害として捉えて,各自につき一律にその賠償を求めることも許されるというべきである(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)。このような場合,各原告らは,それぞれが受けている被害を個別具体的に主張立証するまでもなく,上記の意味における共通被害の内容,程度を主張立証をすることをもって足りると解される。
この点,原告らは,生活妨害全部及び精神的被害と身体的被害(狭義の健康被害)とはせつ然と区別することはできないなどとして,これらを一体と捉える「広義の健康被害」をもって原告らの共通被害であると主張する。
WHOが,昭和21年(1946年)に署名され昭和26年に我が国にも効力を生じた世界保健機関憲章において「健康とは,身体的,精神的及び社会的に完全に良好な状態をいうのであって,単に病気や虚弱でないことをいうのではない」と健康概念を定義していることは,当事者間に争いがなく,また,生活上に生じた被害が身体的被害にまで及び得ることや,身体的被害が生活上の被害や精神的被害を伴うことがあることも想定することができる(甲D12)。しかし,原告らのこの主張は,民法が生命,身体,自由,名誉,財産権を別個のものと捉えている(民法710条,711条参照)ことと整合していない上,原告ら主張の生活妨害全部の被害,精神的被害及び身体的被害は,それぞれ性質を異にする被害であり,健康概念をどう捉えるかということや,原告ら主張の生活妨害全部の被害,精神的被害及び身体的被害が相互に影響を及ぼす可能性があることと,損害賠償請求における被侵害利益をどのように捉えるかということは,異なる問題であるから,これらの性質を考慮することなく,これを一体と捉えることは相当でない。
したがって,原告らのこの主張を採用することはできず,原告ら主張の「広義の健康被害」に含まれるとする生活妨害,睡眠妨害の被害,精神的被害及び身体的被害を個別に検討すべきである。
イ 身体的被害の主張と共通被害
原告らが主張する共通被害のうち,聴力損失,高血圧及び頭痛などの身体的被害は,個別性の高い被害であって,個々の生活条件等にかかわらず各原告に共通して生じていると想定することができるものとはいえない。もっとも,このような身体的被害についても,ある一定のレベルの騒音に暴露されることによって,普天間飛行場周辺に居住するある一定範囲の住民に対し一定の身体的被害が生ずる危険性があると認められる場合には,身体的被害の発生する危険性がある状況で生活しなければならないことから生ずる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛は,普天間飛行場周辺に居住する原告らに共通して存在し得るものと考えることができる。そうすると,このような精神的苦痛をもって原告らに共通する精神的被害として認める余地はあるというべきである。
身体的被害に関する原告らの主張は,本件航空機騒音による健康被害の発生は,地域住民全体にとって極めて重大な関心事であるので,狭義の健康被害の発生又はその危険性の存在は,地域住民にとっての共通の精神的被害であるので,原告らの共通被害となるとするものであり,例えば,難聴についていえば,原告らの中には難聴を訴えている者がいるけれども,そのような難聴になったこと自体を原告らの共通被害と捉え,これに対する慰謝料を請求しているのではなく,嘉手納飛行場周辺に居住する者12症例に航空機騒音に起因すると強く疑われる騒音性聴力損失が生じていることなどから,普天間飛行場周辺に居住する原告らにおいても,騒音性聴力損失の被害が発生し,又は発生する危険性があることが,地域住民全体にとって極めて重大な関心事であるので,原告らの共通被害となるとするものといえる。このように,原告らの主張の中には,身体的被害発生そのものが地域住民全体にとって極めて重大な関心事であることから原告らの共通被害となるとの部分も含まれているが,このような身体的被害は,上記のとおり,個別性の高い被害であって,個々の生活条件等にかかわらず各原告に共通して生じていると想定することができるものとはいえないので,共通被害としてみる余地がないというべきである。一方,原告らの主張のうち,身体的被害の発生の危険性があるということが地域住民全体にとって極めて重大な関心事であるとの部分は,原告らが身体的被害が発生する危険性がある状況で生活することを等しく余儀なくされており,そのことから生ずる身体的被害に対する不安感等の精神的苦痛が原告らに共通する被害であるとの趣旨の主張であると解することができる。
したがって,原告らの身体的被害に関する主張は,この趣旨で理解することにができる部分に限り,共通被害に関する主張として,欠けるところはないというべきである。
これに対し,被告は,身体的被害については,現実の身体的な影響が生じた原告に特有の事実であって,その事実を他の原告と共有することはあり得ず,また,身体的被害の発生の危険性は慰謝料請求権の発生原因である現実の被害に当たるということはできないなどと主張する。確かに,身体的被害そのものは現実の身体的な影響が生じた原告に特有の事実であって,身体的被害の発生の危険性も慰謝料請求権の発生原因である現実の被害に当たるということはできないといえる。しかし,原告らは,上記のとおり,身体的被害やその危険性そのものを慰謝料請求権の発生原因であると主張しているわけではなく,身体的被害が発生する危険性がある状況で生活しなければならないことから生ずる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛といった身体的被害の発生の危険性を帯有する心理的現象をもって慰謝料の発生原因である被害と主張していると解することができる。そして,身体的被害やその危険性そのものとは異なり,身体的被害の発生の危険性を帯有する心理的現象をもって慰謝料の発生原因であると主張することは許されると解される(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)。したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ 子供の被害の主張と共通被害
他方,原告らの主張の子供の被害には,身体的被害としての性質又はこれに類似する性質を有するものを含み,個別性の高い被害であって,各原告の年齢や生活条件にかかわらず原告ら全員が等しく受けていると想定することができるものではない。そのため,原告らが子供の被害として主張する「低出生体重児の出生」及び「幼児問題行動」の被害については,このような被害によって精神的苦痛を受けるのは,その性質に照らし,これらの乳幼児自身に限られ,また,原告らが子供の被害として主張する「学習環境の破壊」の被害についても,このような被害によって精神的苦痛を受けるのは,その性質に照らし,その被害を受ける就学中の子供自身に限られると考えられる。そして,民法は,他人の権利に対する侵害については,生命を侵害した場合に限り,被害者の父母,配偶者及び子に損害の賠償を認めている(民法711条)にすぎず,生命の侵害又はこれに比肩し,若しくはこれに比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けるような身体に対する侵害であり,かつ,同条所定の身分関係又はこれと実質的に同視することができる身分関係がある場合でない限り,他人の権利に対する侵害についての損害賠償は否定されているものとみるべきである(最高裁昭和43年9月19日第一小法廷判決・民集22巻9号1923頁,最高裁昭和49年12月17日第三小法廷判決・民集28巻10号2040頁等参照)。そのほか,仮に他人の権利に対する侵害により間接被害者が精神的苦痛を受けることがあるとしても,直接被害者からの請求が認められることによって間接被害者の精神的損害も同時に償われるのが通常であるから,当該侵害行為と間接被害者の損害との間の相当因果関係が認められることがないのが通常であると考えられる。そのため,直接被害者と間接被害者とが経済的に一体であるなどのために当該侵害行為と間接被害者の損害との相当因果関係がある場合(最高裁昭和43年11月15日第二小法廷判決・民集22巻12号2614頁参照)でない限り,当該侵害行為と間接被害者の精神的損害との相当因果関係を認める余地はないというべきである。そうすると,原告ら主張の子供の被害については,原告らの主張のように地域住民全体にとって極めて重大な関心事となっているとしても,その性質上,身体的被害の危険性を帯有する心理的現象が原告ら全員に生ずる可能性があり得るのと異なり,上記子供の被害が当該乳幼児又は就学中の子供にしか生ぜず,原告ら全員に生ずる可能性があるとはいえないから,他人の権利に対する侵害によって原告らにも間接的な損害が生じているとの主張であるとみるほかなく,かつ,そのような関心事となっているということだけでは,普天間飛行場の供用と原告ら主張の子供の被害を原因とする精神的損害との間に相当因果関係があるという余地はないというべきである。
したがって,原告らの子供の被害に関する主張は,これを原告らの共通被害と主張している以上,主張自体失当であるというほかない。
もっとも,原告ら主張の子供の被害のうち,幼児問題行動や学習環境の破壊の中には,生活妨害,睡眠妨害及び本件航空機騒音を直接の原因とする精神的苦痛の一つの現れとしてみる余地があるものも含まれており,そのようなものについては,別途,生活妨害,睡眠妨害及び同精神的苦痛の一態様として検討することとする。
(2) 航空機騒音影響の発現経路と諸要因
括弧内の証拠によれば,以下の事実を認めることができる。
ア 騒音影響の発現経路
国立公衆衛生院生理衛生学部の長田泰公(以下「長田」という。)は,昭和46年から昭和53年までの間ころ,各種論文において,騒音の人体への生理学的な影響の発現経路について,次のように説明する。
①騒音は,まず耳から入り,内耳感音器に影響を与え,強さや期間により,一時的又は永久的な難聴(聴力低下)を起こす。②耳の感音器からの信号(インパルス)は,聴神経を通って大脳皮質の聴覚域に達して,騒音のやかましさ(ノイジネス)や大きさ(ラウドネス)の感覚を発生させる。③騒音が,会話,テレビ・ラジオ,電話等の聞きたいと思う音と同時に到達すれば,聞きたいと思う音を聴取することを妨害する(隠蔽又はマスキング。以下,聞こうとしている音が他の騒音によって妨害されることをマスキングということがある。)。①から③までの影響は,耳から大脳皮質の聴覚域までに至るルートで起こり,騒音に特有な特異的作用であり,直接作用である。①から③までの影響は,直接作用であるから,騒音の大きさ等の物理的特性と影響の程度の関係が深い。
また,耳の感音器からの信号が脳幹網様体を介して大脳皮質全体に非特異的な刺激を送り,騒音が一定レベル以上となると,④精神的妨害を引き起こし,仕事,勉強,休養,睡眠等の日常生活の妨害を起こす。⑤また,その信号が脳幹網様体を経て,視床下部から大脳旧古皮質系に影響を与えると,不快感,怒りなどの情緒妨害を起こす。これらの生活妨害や情緒妨害は,音以外の感覚や精神的負荷でも起こるので,騒音に特有のものでないという意味で非特異的影響であり,間接作用である。
さらに,そうしたものが亢じ,中枢神経系への影響がある程度になると,視床下部から自律神経を経て交感神経系緊張反応をもたらし,また,視床下部,下垂体から,甲状腺,副腎・生殖腺の経路を経て内分泌系へ影響を起こして,⑥脈拍・血圧・呼吸等の変調,ホルモンのアンバランス等の身体的影響を生じ得る。これらの身体的影響は,一層間接的な作用である。
上記④から⑥までの影響は,間接作用であるから,騒音以外の条件,すなわち個人,集団の感受性,生活内容,発生源に対する態度などが効いてきて,騒音の物理的特性と被害の程度との関係が単純でなくなる。
沖縄県調査報告書では,上記のような長田の研究を踏まえて,健康影響の発現ルートとメカニズムについて,次のような説明をする。
騒音は,外耳道から鼓膜,耳小骨連鎖を経て内耳に入り,有毛細胞に傷害を与えることによって,聴力の低下を引き起こす。内耳の有毛細胞において神経インパルスに変換された騒音は,聴神経を経て大脳皮質の聴覚域に達して音感覚を成立させるとともに聴取妨害をもたらす。一方,網様体を経て大脳の新皮質に到達した神経インパルスは,覚せい,睡眠妨害又は思考,精神作業の妨害を起こす。また,視床下部を介して大脳旧皮質全体を刺激し,イライラ感や不快感等の情緒妨害を起こし,さらに食欲・性欲等の本能欲を妨害するに至る。これらの影響が一定限度を超えると,ストレス反応として,視床下部と下垂体を介して甲状腺,副腎,生殖腺等の内分泌系に影響が現れる。さらに,視床下部からのインパルスは,自律神経系を介して循環器系や消化器系に影響を及ぼすと考えられる。
(甲D1,13の3,D14,17,18,20,21,30,35,39,79の1,2)
イ 騒音の影響に関係する諸要因
騒音のうるささ,不快感又は影響の大きさに関係する要素は,騒音側の条件,騒音を聞く人間側の条件,音と人間との間の条件に分けて示すことができる。
騒音側の条件としては,①大きさ,②高さ,音色,③持続時間と繰り返し,④突発性,衝撃性,⑤①から④までの因子の変動性がある。人間側の条件としては,①健康度(健康人,病人),②性別,年齢,③性格,知能,好み,④心身状態(労働,休養,睡眠)がある。音と人間との間の条件としては,①慣れと経験,慢性影響,②利害等の社会的関係がある。
そのうち,騒音側の条件については,騒音レベルが高いほどうるさく感じ影響が大きい。一般的にいえば,低い音よりも高い音の方が耳障りで影響も大きいと考えられ,純音(単一の周波数を持つ音をいう。以下同じ。)成分を含んだ騒音の方が広音域の騒音より不快感が強いという報告がある。また,音の持続時間が長いほど影響が大きいが,他方で断続音・間欠音となると連続音よりうるさく感ずることがある。大きさ・高さ(周波数)が変動する音の方が定常の場合に比べて不快感が強いといわれている。さらに,騒音源が定位置にあり,その位置を速やかに認識し得る場合は,逆の場合と比べて不快感は軽度であるといわれる。
また,人間側の条件として,健康人よりも病人の方が影響を受け易く,また,覚せい時より睡眠時の方が,低レベルの騒音でも影響を受けるなどとされる。
さらに,音と人間との間の条件として,騒音には慣れがつきものであるが,慣れるためには,時間がかかり,また,その間の心理的負担も無視することができない。慣れの能力には,性別,年齢,気質,体質によって差があるとされる。
(甲D13の3,D14,15,18,24,30,78の1,3)
(3)生活妨害
ア 原告らの生活妨害の陳述
証拠(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))によれば,以下の事実が認められる。
原告らの多くは,原告らのアンケート式陳述書(以下「定型陳述書」という。)において,本件航空機騒音による会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオ等の聴取妨害の被害を中心に,そのような生活妨害について記載する(ただし,テレビ・ラジオ等の聴取妨害については,画像の乱れやラジオの雑音や電波状態の悪さのみを指摘する者(原告番号2,24,43,45,48,73,83,89,112,136,153,163,175,185,201,211,236,265,279,287,289,296,298,316,338,344,349,352,360,367,387,390の各原告)も少なくない。)。
なお,定型陳述書における会話妨害,電話聴取妨害及びテレビ・ラジオの聴取妨害の有無についての記載を集計した結果は,次の表のとおりである(定型陳述書における記載の集計は,定型陳述書の通数ごとに1名とし,定型陳述書を提出した者186名に対する割合を「全体」の「%」として示している。また,同集計におけるW75区域とW80区域との分類は,定型陳述書を提出した原告らが定型陳述書を提出した時点において居住している区域を前提にし,それぞれのその「%」もW75区域の97名とW80区域の89名に対する各割合を示している。定型陳述書における記載の集計において以下同じ。)。

イ 沖縄県調査の結果
証拠(甲D1)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 沖縄県調査委員会は,普天間飛行場周辺住民等の生活の質及び環境の質に対して航空機騒音の存在が与えている影響を知る目的で調査を実施した(以下「生活環境調査」という。)。生活環境調査では,生活の質及び環境の質に対する影響のほか,回答者の基地及び航空機騒音に対する態度も併せて調査対象としている。
生活環境調査は,航空機騒音暴露群として普天間飛行場周辺の宜野湾市,浦添市及び北中城村の住民2005名並びに嘉手納飛行場周辺の北谷町,嘉手納町,石川市(当時),具志川市(当時),沖縄市及び読谷村の住民4973名,非暴露群すなわち対照群として沖縄本島南部の2町1村(佐敷町(当時),大里村(当時)及び南風原町)の住民916名の合計7894名の住民に対し,平成8年11月から平成9年1月までの間,「生活満足度」,「地域・生活環境」,「基地および航空機騒音について」,「睡眠について」,「あなた自身について(フェースシート)」の5つの部分から構成される合計98問の調査票を配布し,平成8年11月から平成9年3月までの間,これを回収する方法により実施された。
被調査者の抽出は,まず字(あざ)を抽出し,次に住民基本台帳から無作為に15歳以上の居住者を抽出するという層化2段無作為抽出で行った。もっとも,嘉手納飛行場周辺のWECPNL95以上の区域では居住者が比較的少ないとの理由から,全居住者を対象とした。
有効回答数(回数された調査票において,年齢,性別が記載され,かつ住所から居所のWECPNLのランクが確定することができる回答の数)は,全体で5693名であり,そのうち,普天間飛行場周辺で1448名,対照群で685名であった。
なお,生活環境調査では,解析に当たり,WECPNLで層化した各暴露群の年齢・性別の構成比率が一定となるように,対照群又は暴露群全体を基準として調整した回答率を用いている。
(イ) そして,沖縄県調査委員会は,航空機騒音による種々の生活妨害を知るために,次の表に示す12の項目について,「飛行機の音などによって,次のような迷惑を日ごろあなたはどの程度感じていますか」との質問をし,その回答を「いつもある」,「ときどきある」,「たまにある」,「あまりない」及び「まったくない」の5段階の評定尺度で求めた。

a 上記の項目のうち,まず,沖縄県調査委員会が「コミュニケーション妨害」と称する「会話妨害」,「電話聴取妨害」及び「TV聴取妨害」に関する回答結果は,次のとおりである。

b 次に,「作業妨害」,「思考妨害」及び「休息妨害」の3項目に関する回答結果は,次のとおりである。

c 沖縄県調査委員会は,以上の結果を踏まえ,「いつもある」のカテゴリに反応した人員の割合の合計を航空機騒音暴露量に対して示すと,いずれにおいても,WECPNLの増大とともに正反応率が上昇し,著明な量反応関係が認められること,同じWECPNLに対する生活妨害の正反応率は,普天間飛行場周辺が嘉手納飛行場周辺に比べて高くなっており,普天間飛行場周辺の反応率の曲線を右にWECPNLを5~10だけ移動させると,両飛行場周辺の反応率の曲線がほぼ一致すること,生活妨害に関する質問項目に対する反応率の中では,「会話妨害」,「電話聴取妨害」及び「TV聴取妨害」について正反応率が最も高かったこと,これらの正反応率は,いずれもWECPNLに対しほぼ直線的に増加し,極めて明瞭な量反応関係が認められることなどと分析する。
ウ 他の飛行場周辺での住民調査,騒音の影響についての学術研究等
括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 他の飛行場周辺での住民調査等
a 長田は,昭和45年,横田基地周辺における主婦を対象とする面接アンケート調査を行った。
長田は,その結果,会話,電話,テレビ・ラジオの聴取妨害は互いによく似た被害率で,他の被害よりも高率であることを指摘する上,昭和40年に行われた伊丹空港(大阪国際空港)周辺における主に主婦を対象とした騒音影響調査の結果と比較して,テレビ・ラジオの聴取妨害の訴え率について,両地域とも,NNIが増加すれば,訴え率も増加する似た傾向を示しているとの結論を得た。
(甲D17,79の1)
b 財団法人航空公害防止協会は,航空機騒音の聴覚以外の生体影響に関する実態を明らかにするため,財団法人大阪国際空港メディカルセンター(計画と実施は,財団法人医療情報システム開発センター理事長大島正光を委員長とする人体影響専門委員会が担当した。)に委託して,昭和55年から昭和57年度まで,大阪,東京両国際空港及び福岡空港周辺に居住し,かつ,同協会が実施した巡回健康診断を受診した成人女性を対象として,①個人別騒音暴露量調査,②質問紙による健康調査及び③騒音ストレスの生物学的評価調査を実施し,昭和58年,その結果を,「航空機騒音が一般住民に及ぼす影響に関する疫学的調査報告書」として取りまとめた。
それらの調査のうち,質問紙による健康調査は,空港周辺の成人女性が感じているうるささや自己の健康状態についての自覚症状を明らかにするため,質問紙(昭和55年度にあっては214問の質問からなるコーネル医学指数(CMI)等,昭和56年度及び昭和57年度にあってはTHI等)を送付して,成人女性合計2961名から回答を受けて行われた。
その昭和56年度及び昭和57年度の調査をまとめた結果,会話妨害,電話聴取妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害,勉強,読書,仕事等の妨害の有無についての質問に対して,「しょっちゅうある」と答えた者の割合は,それぞれ次の表のとおりであり,騒音による生活妨害の訴えは,WECPNL値の上昇に対応して増加し,特にWECPNLが90を超えると著しく増していた。
(a) 会話妨害

(b) 電話聴取妨害

(c) テレビ・ラジオの聴取妨害

(d) 勉強,読書,仕事等の妨害

(乙D36)
(イ) 騒音が音声伝達に与える影響についての研究結果
a 厚生省(当時)国立公衆衛生院建築衛生学部小林陽太郎(以下「小林」という。)らは,昭和40年ころ,日本語無意味百音節からなる明瞭度テープを使用し,実験室において,聴覚の健全な学生5名を対象として,白色騒音(ホワイトノイズ。可聴範囲の周波数の成分を均等に含んでいる音をいう。以下同じ。)によるマスキングの結果,その音声伝達に与える影響を調べた。その結果,S/N比(信号音量と騒音量の相対的な比をいう。以下このaにおいて同じ。)が30dBで明瞭度は94%であるが,S/N比が20dB(このdBは,聴覚補正回路としては,フラットの平坦なものを指している。以下このaにおいて同じ。),10dB,0dB,マイナス10dBと下がるにつれて,明瞭度はそれぞれ85%,68%,45%,15%と低下するとする。
小林らは,上記実験の結果に,東京都品川区及び港区内の12小学校の教室内において,同様の明瞭度テープを用い,航空機騒音等実際の騒音による影響について調査した結果を併せ考慮して,学校教室内の明瞭度を80~85%に保持するためには,教師の会話レベルを70dBとすると,騒音分布中央値は50~55dBであることが必要であり,調査した学校の75%はその条件を満足させていなかったと結論付けている。
(甲D27の1,2,D78の1,D93)
b アメリカのカール・E・ウィリアムズらは,昭和46年ころ,時間的に変動する航空機騒音下における会話了解度を調べるため,被験者に対し録音した航空機騒音と試験語を同時に再生する実験を行った。
その結果,次の結論を得られたとする。
① 時間的に変動する騒音下における会話了解度と明瞭度指数(AI)間の関係については,定常騒音で得られるその関係と異なる。
② 明瞭度指数は,時間変動騒音のマスキングは,定常騒音よりも少ない。
③ 航空機のピーク・レベルがdB(A)が76を超えると,多少の文脈上の会話破壊がある。
(乙D39)
(ウ) 騒音が学習等の知的作業に与える影響についての研究結果
a 静岡県衛生研究所の鈴木登は,昭和29年から昭和40年までの間,騒音が学習効果に及ぼす影響を調査するため,小学校,中学校及び高校を対象とし,人工騒音を負荷した実験を行った。
その結果,①小学生を対象として騒音を負荷した条件でテストを行った場合に,多くの児童に量的能率が上がるも質的能率が低下すること,②中学生を対象した擬音レコードを負荷した場合に,単に暗記すればよい問題では騒音の影響はみられないも,考えながら記憶を要するような問題で間違いが増加すること,③高校生を対象した交通騒音を負荷した場合に,数列,記号の暗記では騒音の影響はみられないが,思考を要する問題で間違いが増加すること等を明らかにした。
(甲D61)
b 日本女子大学名誉教授児玉省(以下「児玉」という。)は,昭和39年から昭和45年までの期間,横田飛行場周辺において航空機騒音の住民に及ぼす影響について調査を実施した。その中で,昭和41年ころ,横田飛行場周辺の小学校3年生及び6年生に,ジェット機騒音,その他の日常の騒音等を組み合わせた録音テープを聞かせて,各種の知能検査,適性検査等を行った。
その結果,ジェット機騒音下の作業平均成績の方が他の騒音,音楽,空白下における作業成績を上回った。
児玉は,作業後のアンケートをみても,ジェット機騒音が気にならなかったとする児童が多いのは航空機騒音に慣れを生じていると考えた上で,上記の結果には,覚せい効果により,又はジェット音がなくては仕事が軌道に乗らない,多少いわゆる中毒症状的状態になっているものではないかと推測する。
(甲D16,62,63,乙D38,59)
c 長田らは,昭和46年ころ,男子5名,女子4名の合計9名の被験者を用い,1回の持続時間の約20秒の航空機騒音,新幹線騒音及びピンクノイズ(機械から生ずる単純な音であって,パワーが周波数に反比例するものをいう。以下同じ。)の3種類の間欠音を50~90dB(A)で暴露させて,精神作業に及ぼす影響を調べた。
その結果,①標示灯に対する反応時間テストの場合,50~80dB(A)の騒音の範囲では無音のときよりも促進的,覚せい的に作用し,②10秒間の時間を再生させるテストの場合,新幹線騒音を除き騒音に影響がみられず,③図形数え作業テストの場合,騒音を聞かせることによって数え残しが増えたものの,60~90dB(A)の騒音レベルの差や頻度の差による影響の違いは検出できなかったが,航空機騒音の方が新幹線騒音よりも妨害的であった。
長田らは,この結果や関連ある文献とを比較して,騒音はある程度まで精神作業を促進するが,作業が複雑になったり長引いたりすれば妨害的に働くこと,現実音の方が白色騒音やピンクノイズのような非現実音よりも妨害的であること及び間欠音の頻度が増せば妨害度が高まることなどが示唆されるとしている。
(甲D59,78の1,3,D79の1,2,弁論の全趣旨)
d 国立特殊教育総合研究所教育工学研究室長詫間晋平は,昭和49年,文部省(当時。以下このdにおいて同じ。)の研究会が実施したアンケート調査及び自らが行った実地調査・実験の結果並びにこれを踏まえた騒音と学習の関係について,次のように述べている。
文部省が昭和42年度に行った交通騒音が学校における学習にどのような影響を与えているかについての実態調査では,小・中学校とも,外からの音(主として交通騒音)で「大変いらいらする」と答えた児童・生徒は約20%おり,また,勉強の「大変じゃまになる」とする者は約30%で,その訴え率はいずれも対照校と比較して格段に高い。騒音刺激の変動の幅について,騒音の中央値を80dB(A)程度に保ち,交通騒音を比較的定常的に与えた場合と,24dB程度の変動の幅を持たせた場合とでは,学習の能率の上で,騒音の変動幅の大きい方により阻害的な影響が多いという報告もされている。学校環境では,60dB(A)程度の騒音水準から,注意集中を要する文章理解等の精神作業に阻害的な影響を与え始め,80dB(A)を超えると,精密作業や工夫を要する創造的作業等に悪い影響が目立ち始めるという報告もされている。しかし,一方で,思考類型の別によっては騒音の影響を受けにくい場合もあるという報告もある。
騒音と学習の関係については,騒音源の水準,変動の幅,日常生活における慣れの度合い等と作業内容としての教科の別,授業の形態,思考の類型,課題の難易等の相互作用が考えられ,個人差に属する性格上の特徴も考慮する必要がある。したがって,学校環境において,学習への影響を指標にして一定の騒音水準を決定することは現段階では困難である。ただし,書き取り等による聴取明瞭度(正答率)を80%に維持するためには,概して,教室で約55dB(A)以下であることを要し,日常生活における読書,勉強等が妨害されるとする訴え率は,室内の騒音水準が50~55dB(A)を超えると50%を上回ることなどが一つの目安として参考になろうと結論付ける。
(甲D60,74)
エ 生活妨害についての検討
(ア) 会話,通話及びテレビ・ラジオ聴取の妨害
原告らの中には,本件航空機騒音により,その居住地において,会話妨害(甲B2の3,5,7から10まで,原告X61,原告X39,原告X112,原告X142,原告X1,原告X56,原告X3,原告X48),通話妨害(甲B2の1,3,5,7から10まで,B3の2,3,原告X61,原告X142,原告X1,原告X56,原告X3,原告X48),テレビ・ラジオの聴取妨害(甲B2の1,3,5,7,10,Bの4,原告X61,原告X112,原告X142,原告X1,原告X56,原告X3)を受けていると供述し,又は陳述書に記載する者がいる。また,沖縄県調査の生活環境調査の結果をみても,前記イ(イ)の認定事実のとおり,「いつもある」と回答した者の割合は,「会話妨害」については,W75区域が13.5%,W80区域が17.8%,「電話聴取妨害」については,W75区域が13.5%,W80区域が19.0%,「TV聴取妨害」については,W75区域が19.0%,W80区域が21.0%であって,無視し得ない程度の高い数値となっている。更に評定尺度を「いつもある」から「ときどきある」にまで広げると,「会話妨害」については,W75区域が49.0%,W80区域が54.9%,「電話聴取妨害」については,W75区域が48.2%,W80区域が56.1%,「TV聴取妨害」については,W75区域が54.6%,W80区域が62.3%となり,いずれも半数近く,又は半数を超える高い割合を示している。
航空機騒音は,一定の音量となると,音声伝達の妨げになることは,経験則上明らかであり,このことは,前記ウ(イ)の認定事実のとおりの小林らの研究結果等によっても裏付けられている。また,沖縄県調査委員会が,前記イ(イ)の認定事実のとおり,上記のとおりの沖縄県調査の生活環境調査の結果を踏まえ,「会話妨害」,「電話聴取妨害」及び「TV聴取妨害」についての正反応率がいずれもWECPNLに対し極めて明瞭な量反応関係が認められると分析している。さらに,普天間飛行場と類似した他の飛行場での住民調査の結果でも,前記ウ(ア)の認定事実のとおり,地域のW値又はNNI値の上昇によって聴取妨害の訴え率が増加する傾向が認められるなど航空機騒音により会話妨害,通話妨害及びテレビ・ラジオの聴取妨害が生じているとうかがわれる。これらの事情に前記2のとおりの本件航空機騒音の実態を併せ考慮すると,原告らが上記のとおり本件航空機騒音による会話妨害,通話妨害及びテレビ・ラジオの聴取妨害について供述等し,また,定型陳述書を提出したほとんどすべての原告らが,前記アの認定事実のとおり,このような生活妨害を陳述する(なお,定型陳述書は,アンケート式の陳述書という性格などのために,被告主張のような不正確なものが含まれている可能性があるとはいえるものの,航空機騒音による影響は,生理的,心理的,精神的なそればかりでなく,日常生活における諸般の生活妨害等にも及び得るものであり,その内容,性質も複雑,多岐,微妙で,外形的には容易に補足し難いものがあり,被暴露者の主観的条件によっても差異が生じ得る反面,その主観的な受けとめ方を抜きにしてはこれを正確に認識,把握することができないようなものであるので,主観的な証拠であるからといって,それだけで証拠価値が低いとはいえない(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)から,少なくとも本件コンター内に居住する原告らの大まかな主観的状況を把握するものとして,相応の証拠価値があると考える(定型陳述書の一般的な証拠価値につき,以下同じ。)。)ように,原告らが本件航空機騒音により会話妨害,通話妨害及びテレビ・ラジオの聴取妨害の生活妨害を受けていると認めることができる。そして,このような生活妨害を受ければ,これに伴って精神的苦痛が生ずることも推認することができる。
したがって,原告らは,本件航空機騒音により,会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害の生活妨害及びこれらに伴う精神的苦痛を受けているということができる。
また,これらの被害の程度は,原告らの各居住地における本件コンターのW値の区分が高いと大きくなることは,上記沖縄県調査の結果等から認めることができる。
(イ) 趣味生活と知的作業の妨害
a 原告らの中には,本件航空機騒音により,音楽の聴取を妨害されている(甲B2の6,原告X112,原告X142),原告X144がピアノの演奏を中断させられている(原告X142)と供述し,又は陳述書に記載するところ,本件航空機騒音が,音楽鑑賞や演奏等の趣味生活において,音の聴取に係る活動に妨害をもたらし,これに伴う精神的苦痛が生ずることは,前記(ア)の会話等の妨害の場合と同様である。
b 一方,学習,読書等の知的作業の妨害については,原告らの中には,本件航空機騒音により,思考が停止する(甲B2の1,原告X48),読書が中断する(甲B2の7),また,原告X144の学習が中断させられている(原告X142)と供述し,又は陳述書に記載する者があり,また,証人S3は,普天間第二小学校の授業は窓が開いているときは本件航空機騒音により中断することがあり,一度中断すると元に戻って話をしなくてはならないなどと証言する。
学習,読書等の知的作業に関する騒音の影響については,前記ウ(ウ)の認定事実のとおり,各種研究結果等によっても必ずしも明瞭な結果は得られておらず,このような影響を体系的かつ具体的に明らかにするような的確な証拠は見当たらない。このような知的作業に対する騒音の影響は,作業の性質,人間の心理状態等の要因のみならず,前記ウ(ウ)bの認定事実のとおりの研究結果においても指摘されているように,いわゆる「慣れ」の影響によっても左右され得るため,単純に被害の有無,程度を論ずることはできない面を有するとも考えられる。前記イ(イ)の認定事実のとおりの沖縄県調査の結果や前記ウ(ア)bの認定事実のとおりの他の飛行場周辺における住民調査における住民の訴えをみても,知的作業の妨害について,会話等の妨害に比べれば,それほど高い訴え率を示していないことは,上記のような理由によるとみることができる。
しかし,前記ウ(ウ)の認定事実のとおりの各種研究結果等によっても,複雑な作業や思考を要する問題等には,騒音による影響があることを指摘するものが多く,航空機騒音があらかじめ予期し得ない間欠騒音であることにも照らすと,これが学習,読書等の知的作業に妨害的に作用することがあることは経験則上も肯定されるところである上,前記(2)アの認定事実のとおり,一般的な騒音影響の発現経路としても説明がされている。しかも,たとえ作業結果や能率には明確な影響が現れない場合でも,前記2のとおりの本件航空機騒音の実態にみられる騒音レベルや騒音持続時間等に照らすと,本件航空機騒音の下での作業により,いらだちや不快感が生ずると推認することができる。
そして,前記イ(イ)のとおりの沖縄県調査の結果からは,W値と作業妨害,思考妨害の訴え率とが量反応関係があるとは直ちにいうことはできないけれども,上記のとおり,作業結果や能率には明確な影響が現れなくても,本件航空機騒音の実態に照らすと,本件航空機騒音の下での作業により,いらだちや不快感が生ずることを推認することができることにかんがみると,このような被害の程度が原告らの各居住地における本件コンターのW値の区分が高いと大きくなるといって差し支えないと考えられる。
(ウ) そして,前記(ア)の会話,通話及びテレビ・ラジオ聴取の妨害並びに前記(イ)の趣味生活と知的作業の妨害による被害は,原告らの年齢,性別,同居する家族の構成等によって,いろいろな形態をとって現れるものの,本件航空機騒音の実態や被害の性質に照らせば,定型陳述書にこれらの被害があると記載していない原告らや,被告主張のような定型陳述書その他の陳述書を提出していない原告ら(原告番号171,172,190,198,199,200,395の各原告をいう。(4)エ(イ)及び(5)エ(エ)において同じ。)も含めて,原告ら全員が最小限度等しく受けていると認めることができる。
(エ) これに対し,被告は,人が一日の大半を屋内で過ごすところ,本件航空機騒音が間欠的で一過性のものであり,屋内に到達する持続時間はほんの数十秒であるから,普天間飛行場周辺住民の会話,通話,テレビ・ラジオの聴取に対する影響は,あったとしても,極めて軽微であり,また,防音工事を施工した屋内においては,本件航空機騒音による会話,通話,テレビ・ラジオの聴取妨害等の生活妨害は解消されている旨主張する。
しかし,まず,本件航空機騒音が間欠的で一過性のものであることは,前記2(5)エ(ウ)のとおり,原告らのように本件航空機騒音を暴露する者にとっては,本件航空機騒音に暴露する機会を予測して行動することが困難であるにもかかわらず,これが繰り返されることを意味している。そして,原告らの中には,本件航空機騒音による会話,通話等の生活妨害の影響について,会話を前に戻ってやり直すこともあると供述し(原告X1),また,定型陳述書に,中断した会話を再開するときに初めから話したり,会話自体が続かなかったりする(甲B1の1),会話がとぎれ会話が進展しないことがよくある(甲B1の36),中断前の会話を忘れることもある(甲B1の39,60,125,193),どこまで話したか分からなくなる(甲B1の51),話す意欲がなる(甲B1の58,126,127),話が前に進まず繰り返しになる(甲B1の107),会話が続かなくなったりする(甲B1の108),中断後の会話はスムーズに話すことができない(甲B1の124),会話をあきらめてしまう(甲B1の144)などと記載している者があることに照らしても,一旦妨害された生活を回復するためには,相当の困難を伴うことは想定することができる。そうすると,本件航空機騒音による生活妨害の影響は,本件航空機騒音が発生している時間に限られることはないから,被告主張のような,会話,通話,テレビ・ラジオの聴取に対する影響は,あったとしても,極めて軽微であるということはできない。
また,高温多湿である沖縄においては,後記5(2)オ(ア)のとおり,住宅防音工事を実施した原告らであっても,冷房装置の電気料金の負担等の理由から,結局のところ,窓を閉め切って生活する場面は生活全体からすれば一定の限度にとどまるといえるから,建物による遮音効果が前記2(5)エ(ウ)のとおり10~15dB(A)程度あることや,後記5(2)オ(ア)のとおりの住宅防音工事による防音効果を考慮に入れてもなお,原告らは,本件航空機騒音により,室内においても,相当程度の生活妨害の被害を受けているというべきである。
したがって,被告の上記主張はいずれも採用することはできない。
(オ) 原告ら主張の生活環境の悪化の被害について
原告らは,本件航空機騒音により,積極的永住志向が低下するなど生活環境の悪化の被害を受けていると主張する。
しかし,原告らのこの主張は,抽象的なものにとどまる上,前記(ア)から(ウ)までのとおり,個人の具体的,基本的生活利益の侵害として把握することができる生活妨害の被害として法的保護を図ることによって,必要にして十分であるというべきであるから,採用することはできない。
オ 生活妨害についてのまとめ
以上によれば,原告らは,本件コンター内に居住する間,本件航空機騒音により,会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害,趣味生活や知的作業の生活妨害及びこれらに伴う精神的苦痛を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて,等しく受けていると認めることができる。
(4) 睡眠妨害
ア 原告らの睡眠妨害の陳述
証拠(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))によれば,以下の事実が認められる。
原告らの多くは,次の表のとおり,定型陳述書に,本件航空機騒音により「睡眠が妨げられたことがありますか」との質問項目に対して「ある」と記載している。

また,原告らは,本件航空機騒音により「睡眠を妨げられたときはどのような支障がありますか。」との質問項目に対しては,定型陳述書に次の表のとおり,「目が覚めるとなかなか眠れない」,「イライラする」などと記載している。

この記載の集計結果をグラフで示すと次のとおりとなる。

イ 沖縄県調査の結果
証拠(甲D1,乙D37,41)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 沖縄県調査委員会は,前記(3)イ(ア)の生活環境調査において,生活妨害に関する質問項目に,航空機騒音による「睡眠妨害」に関する質問(なお,この「睡眠妨害」に関する質問は,航空機騒音に起因するものに限定しているので,(イ)の航空機騒音に起因するものに限定しない一般的な意味の「睡眠障害」の質問とは,異なるものとして扱われている。)を含めて,回答を求めた。
その結果は,次の表のとおりであった(次の表において,評定尺度欄に「いつもある」というのは,「週に何日も妨害される」という選択肢を選択した者の割合を,「ときどきある」というのは,「週1,2回妨害される」という選択肢を選択した者の割合を,「たまにある」というのは,「月1,2回妨害される」という選択肢を選択した者の割合をそれぞれ示している。)。

(イ) また,沖縄県調査委員会は,日常における睡眠障害一般について,①「床についたとき,寝つけなくて困ることがありますか」,②「夜中に目がさめて,その後寝つけなくて困ることがありますか」,③「朝早く目がさめてしまって困ることがありますか」及び④「一晩じゅう十分に眠れなかった感じのすることはありますか」という4つの質問をし,その回答を「週に3回以上ある」,「週に1,2回ある」,「月に1,2回ある」,「ほとんどない」,「まったくない」の5段階の選択肢で求めた。
そして,沖縄県調査委員会は,睡眠障害の程度に関する尺度値について,「週に3回以上ある」又は「週に1,2回ある」に回答した項目数を「睡眠障害:週1,2回」とし,「週に3回以上ある」,「週に1,2回ある」又は「月に1,2回ある」のいずれかに回答した項目数を「睡眠障害:月1,2回」とし,その回答率を求めたところ,その結果は,次のとおりとなった。

また,この回答率をW値との関連で示すと,次の図のとおりとなった。図(a)は,最も重度の睡眠障害を訴える者の成績,すなわち上記4つの質問の全てに「週に1,2回ある」以上の頻度の選択肢を選んだ回答者を合計した人員の割合を示し,図(b)は,最も軽度の睡眠障害を訴える者の成績,すなわち,上記4つの質問の1つ以上に「睡眠障害:月1,2回」の選択肢を選んだ回答者の割合を示す。

次に,沖縄県調査委員会は,対照群においても少なからぬ割合で軽度の睡眠障害が認められることから,暴露群の回答率が対照群のそれに比較してどの程度増加しているかを検討するため,多重ロジスティック回帰分析(複数の因子を説明変数として,ある事象が生ずる確率を推測する統計解析の方法をいう。以下同じ。)により,対照群に対する各WECPNL群の睡眠障害のオッズ比を求めた。沖縄県調査委員会が説明変数として用いたのは,WECPNL,年齢(10歳ごとの6カテゴリ),性別,年齢と性別の交互作用及び職業の5つである。多重ロジスティック回帰分析により求められたオッズ比とW値の関連は,次のとおりとなった。

沖縄県調査委員会は,この結果を踏まえ,次のように分析する。
① 比較的軽度の睡眠障害を示す上記4つの質問の1つ以上に「睡眠障害:月1,2回」の選択肢を選んだ場合には,トレンド検定(量反応関係の検出を目的とした統計的な検定手法であり,暴露量が増加するに従って,ある反応が増加し,又は減少する傾向があるか否かを検討するものをいう。以下同じ。)による有意確率(統計的仮説検定において,差がないという仮説(帰無仮説)が真であったときに,それに対応する標本の値が生起する確率をいう。以下同じ。なお,この有意確率が十分に小さい場合,標本の仮説からのずれが統計的に無視することができない(有意)ものであり,帰無仮説が真でないと判断するに十分な証拠と考えるとされる。)が0.05を下回り,量反応関係が有意に認められた。
② 比較的重度な睡眠障害を示す上記4つの質問の全てに「週に1,2回ある」以上の頻度の選択肢を選んだ場合のオッズ比は,高くないのは,普天間飛行場では,嘉手納飛行場と同じWECPNLでも,夜間の飛行が少なく,昼間又は夕方の飛行が多いために,生活妨害の被害は相対的に大きく,睡眠妨害が少ないと解することができる。
③ 比較的軽度の睡眠障害は,WECPNL75以上の全暴露群において,対照群との間にオッズ比の有意差が認められたことから,低暴露地区においても生じているとみられる。
ウ 他の飛行場周辺での住民調査,騒音の影響についての学術研究等
括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 他の飛行場周辺での住民調査等
a 騒音影響調査研究会は,昭和46年ころ,大阪国際空港周辺の伊丹地区(伊丹群)及び航空機騒音に暴露されることがほとんどない比較的静穏な地区(対照群)に居住する2歳6か月以上4歳以下の幼児40名を対象にして,薬物を投与して幼児を眠らせ,幼児が覚せいするまで,ピーク値65,75,85,95dB(A),持続時間17秒の飛行機騒音を暴露させ,脳波等を測定する実験をした。
その結果,65dB(A)の騒音暴露では,比較的浅い睡眠段階にあった幼児でも,ほとんどの者が変化を示さなかったものの,75dB(A)ではその割合が減少し,85dB(A)になると比較的浅い睡眠段階では半数が,深い睡眠段階でも31.2%の者がそれぞれ変化を示し,95dB(A)に至ると,ほとんどの者が騒音暴露前の睡眠段階より浅い睡眠段階に移行した。刺激後1分以内に覚せいした事例は,対照群では18例中13例であるのに対し,伊丹群では20例中8例と著明な差を示した。また,脳波,容積脈波,心電図,筋電図は,各刺激強度が強くなるに従って反応も高率になることが認められ,各刺激強度間に有意な差があった。日常騒音に曝されることの多い伊丹群にわずかながら騒音に対する慣れの傾向(騒音刺激により睡眠を障害されにくくなっている傾向)がうかがえた。
(甲D73)
b 松井利仁らは,平成18年ころ,成田国際空港周辺地域に居住する20歳以上80歳未満の住民を対象として,質問紙調査を行った。質問紙を暴露地域2538世帯,対照地域307世帯,9882通を配布し,これにより得た回答6545通から一世帯一通を無作為抽出した1899通の回答について,許容することができる睡眠妨害の頻度等について解析した。
その結果,週1,2回の睡眠妨害を耐えられると回答する住民は9%であるも,月1,2回の睡眠妨害を耐えられるとする住民は44%,年1,2回の睡眠妨害を耐えられるとする住民は74%であり,また,睡眠妨害に慣れないとの回答がWECPNLが高い地域ほど増える傾向をあるとの結果を得た。
(甲D111,証人松井)
(イ) 騒音の影響についての学術研究等
a 労働科学研究所の大島正光らは,昭和30年ころ,20歳から39歳までの被験者4名に対し,500サイクル/秒,30~75フォーン,持続時間3秒の純音を30秒~5分間隔で不規則に暴露させ,騒音の就寝及び朝の覚せいに及ぼす影響について実験をした。
その結果,音響刺激の強い程,眠りに入る時刻が遅く,反応回数が多くなり,また,覚せい時間が早い方にずれていくことなどが明らかにされた。これらを踏まえ,同大島らは,就寝を妨害し,朝の覚せいを促進する騒音の限界は,40~45フォーンであり,また,音響刺激の影響は覚せい時よりも就寝時に大きいとみることができると結論付ける。
(甲D68)
b 長田らは,昭和43年ころ,19歳及び20歳の男子学生5名を対象として,睡眠中に午前零時から6時までの6時間連続して,40及び55dB(A)で再現した道路交通騒音又は工場騒音並びに40dB(A)で再現した白色騒音の暴露に暴露させて,無音を対照として,脳波,精神電流反射,脈拍数,血球数,尿中副腎ホルモンを測定して,その影響を調べる実験をした。
その結果,脳波の波形から判定した睡眠深度は,騒音によって変化が頻繁になり,深度の平均を計算してみると,音なしの対照実験と比較して40dB(A)でもかなり浅くなった。40dB(A)より55dB(A)の方が,工場騒音より交通騒音に影響が大きかった。睡眠中に現れた覚せい型脳波の出現回数やその延べ時間にも同じ傾向がみられた。脈拍数の変動も騒音によって大きくなり,その影響は40dB(A)より55dB(A)の方が強かった。総白血球の睡眠中の減少度には騒音の影響がみられなかったが,好酸球(白血球の一つで,酸性色素を含み,睡眠中は通常増加するものの,外界のストレスが強いと減少するとされるもの。以下同じ。),好塩基球(好酸球と同様,白血球の一つで,睡眠中は通常増加するものの,外界のストレスが強いと減少するとされるもの。以下同じ。)の睡眠による増加は40dB(A)の騒音によって抑制され,55dB(A)では逆に減少した。白色騒音の40dB(A)では対照実験と差がなかった。尿中のウロペプシン(尿中のホルモンの一種であり,副腎の刺激が強くなると増えるもの。以下同じ。)の量は睡眠前に比べて睡眠中には減少するが,55dB(A)では減少が抑制される傾向がみられた。精神電流反射,尿中のカテコールアミン(分子構造の一部にカテコール核を持つアミン(アドレナリンとノルアドレナリンなど)の総称であって,精神的緊張,交感神経緊張などにより分泌が亢進されるものをいう。以下同じ。),17-OHコルチコステロイド(副腎皮質からの糖質ホルモンが尿中に現れたものをいう。以下同じ。)には,騒音の影響を見いだすことができなかった。被検者はいずれもよく眠れたと述べ,主観的には騒音の影響を感じていない。また,被検者の居住地域の騒音の有無は,結果に影響を及ぼさなかった。
長田らは,以上の結果から,40dB(A)の騒音でも睡眠が妨害されること,40dB(A)よりも55dB(A)の方がはるかに影響が大きいこと,血球数でみる限り,白色騒音よりも現実の騒音の方が影響が大きいことが分かったとするとともに,睡眠時の騒音レベルが40dB(A)を超えることは好ましくない旨結論付ける。
(甲D67,78の1,D79の1,乙D37)
c また,長田らは,昭和44年ころ,前記b実験が連続した騒音による実験であったことから,間欠騒音の睡眠への影響を連続騒音と比べて評価するため,19歳及び20歳の健康な男子学生5名を対象として,午前0時から6時までの間,30分に1回の割合で2.5分の連続騒音又は10秒ON10秒OFFの断続騒音をONタイム合計で2.5分を聞かせ脳波等を測定する実験を行った。使用した騒音は,白色騒音,125Hz又は3150Hzの1/3帯域騒音の3種で,暴露レベルは40dB(A)又は60dB(A)である。
その結果,睡眠深度を脳波について調べると,前記b実験より,覚せい期脳波の出現回数が多く,平均睡眠深度も浅くなった。3分ごとの脈拍の変動も同実験の交通騒音に匹敵した。睡眠前の値を元にした起床直後の血中好酸球,好塩基球の変化をみると,同実験における交通騒音,工場騒音の40dB(A)と50dB(A)の中間に当たる影響を示した。精神電流反射,総白血球数,尿中17-OHコルチコステロイド,ウロペプシン,カテコールアミン量の変化には,同実験と同様,一定の変化を見いだすことができなかった。30分に1回ごとの12種の騒音の影響をみると,脳波からみた睡眠深度変化,脈拍数の変動のいずれも,40dB(A)よりも60dB(A)の方が大きく,3種の騒音では白色騒音,3150Hz,125Hzの順に大きい傾向がみられた。連続音と断続音とでは,睡眠深度変化は連続音の方が,脈拍数では断続音の方が影響が大きかった。
長田らは,30分に1回ごと,暴露時間の合計が30分にすぎない騒音でも,6時間連続暴露と同程度の睡眠妨害を起こすことから,睡眠には連続した静けさが必要であると結論付けている。
そして,長田らは,昭和47年ころ,現実の間欠音の睡眠による影響を調べるため,20歳代の男子学生5名を対象として,鉄道及び航空機騒音をピークレベル50dB(A)又は60dB(A)で睡眠中に各42回暴露させて,その影響を観察する実験をしたところ,脳波からみた睡眠深度や好酸球,好塩基球につき「音なし」又は白色騒音と有意差があり,上記実験及び前記b実験と同程度又はそれ以上の睡眠妨害がもたらされた旨報告している。
(甲D69,70,D79の1)
d アメリカ合衆国連邦環境保護庁(Environmental Protection Agency。EPA)は,昭和47年(1972年)の騒音規制法の規定に基づき,昭和48年(1973年)7月27日に「騒音に関する公衆衛生と福祉に関する基準」(以下,後記eの資料に示された基準も含めて,「EPAクライテリア」という。)を公表した。その中には,次のような内容が含まれている。
騒々しい環境下での眠りは,騒音が大きい場合,目覚めという形で,それ以外は眠りの段階の移行という形で,眠りにある程度作用する。しかし,普通は,我々のデータの大半は少数の人間しか扱っていない実験室の研究から採ったものであり,「反応」はEEG(脳波)といった生理的尺度で評価される。したがって,一般集団の眠りに及ぼす騒音の作用については結論を導くに当たって注意を要する。長期的作用についての実験データーがほとんど存在しないので,睡眠妨害の長期的作用について述べるに当たり注意を払う必要がある。しかしながら,眠りは騒音により妨害され,あるグループ(老人,中年,病人等)はこの作用に特に感じやすいことを我々は知っている。睡眠は,体力を回復させる過程であり,その間に体の器官がエネルギーの供給や栄養物を更新していくものと考えられているので,騒音は,健康に有害といえる。さらに,調査データによると,睡眠妨害がしばしば騒音による迷惑の第一の理由に挙げられることも我々は知っている。騒音は,生活の質を低下させるものであるから,騒音による眠りの妨害は,WHOの健康の定義の枠内でも健康にとって危険ということができる。
(甲D19,乙D11)
e アメリカ合衆国連邦環境保護庁(EPA)は,騒音規制法の規定に基づき,昭和49年(1974年)3月に「公衆衛生と福祉を,適切な安全限界によって保護するため必要な環境騒音レベルに関する資料」を公表した。その中の付録「公衆衛生と福祉の保護に必要な騒音レベルを決定するために直接使われない騒音の一般的影響」には,次のような記述がある。
騒音は,確かに睡眠を妨害するが,騒音暴露レベルと睡眠の深浅を関係付けることは難しい。普通の騒音レベルでも睡眠のパターンを変えることができるが,この変化の意義は今でも疑問である。一部の人は騒音暴露を受けると疲労,興奮又は不眠症を起こすが,その程度を数量的に示す確証ははっきりしていない。現在のところ,騒音とこれらのファクターとの明確な関係を確立することはできない。
(乙D18)
f WHOは,平成11年(1999年)4月,専門委員会において,特定の環境と重要な健康影響ごとにまとめた環境騒音のガイドラインを策定した。
WHOは,その中で,①寝室(屋内)の環境条件で,睡眠妨害(夜間)のガイドライン値をLAeq30dB(A),LAmax45dB,②寝室(屋外)の環境条件で,窓を開けた状態での睡眠妨害のガイドライン値をLAeq45dB(A),LAmax60dBと定めた。
(甲D108)
エ 睡眠妨害についての検討
(ア) 原告らの中には,本件航空機騒音により,睡眠中に目が覚める(甲B2の2,8,原告X61,原告X120),早朝のエンジン調整音により月2回ほどの睡眠妨害を受けている(甲B2の9,原告X112),多いときで週2,3回の睡眠妨害を受けている(原告X142),寝ようと思ったときにうるさかったら寝付きが悪くなる(甲B2の10,原告X1),月数回,多いときに月5回くらい起こされる(甲B2の7,原告X56),週2回程度睡眠が妨害される(甲B2の1,原告X48)などと睡眠が妨害される旨供述し,又は陳述書に記載する者がある(甲B3の3)。また,証人S4は,昼寝中の保育園児のうち,1,2歳の園児は入園から半年ほど,3~6歳の園児は2,3か月ほど,本件航空機騒音により起こされ,泣いているなどと証言する。
前記ウ(イ)の認定事実のとおり,騒音によって覚せいや睡眠深度の変化が起こることを指摘する研究結果は存在し,40dB(A)の騒音でも睡眠が妨害されることを示唆するものもあるものの,これらの研究結果によっても,いかなる程度の騒音によって,どのような睡眠妨害(覚せい又は睡眠深度の変化)が生ずるかという量的な対応関係が明確に示されているとまではいい切れない。しかも,覚せいまでには至らないが,騒音により睡眠の深度が浅くなることによって,いかなる身体的,精神的影響が生じ得るか,このような睡眠妨害が長期にわたった場合における影響の有無及びその程度はどのようなものであるかといった点については,明らかになっているということはできない。また,前記ウ(イ)bのとおり,道路交通騒音など航空機騒音以外の音源によっても睡眠妨害が生ずるとの実験結果や,前記ウ(イ)eの認定事実のとおり,騒音暴露レベルと睡眠の深浅を関係付けることは難しいとする知見もある。その影響の程度や影響が現れる騒音の下限値等について,様々な提唱がされているのが現状であり,また,航空機騒音に対する慣れについても,前記ウ(ア)の認定事実のとおり,積極,消極の両意見がある。さらに,前記イの認定事実のとおり,沖縄県調査においても,普天間飛行場周辺地域では,比較的重度な睡眠障害のオッズ比は,高くないと指摘されている。
(イ) しかしながら,騒音と睡眠妨害の量的な対応関係が自然科学的に解明されていないからといって,直ちに睡眠妨害がないとするのは,民事訴訟上の因果関係の立証が自然科学的証明とは異なることに照らし,相当ではない。
まず,睡眠が騒音によって妨害されることがあることは,経験則上明らかであり,前記(2)アの認定事実のとおり,一般的な騒音影響の発現経路としても説明がされている。また,夜間の本件航空機騒音の実態については,前記2(3)ウ(イ)及び(ウ)のとおり,県野嵩測定局(W80区域),県上大謝名測定局(W80区域),県新城測定局(W75区域)及び市真志喜測定局(W75区域)並びに国新城測定点(W80区域)及び国大謝名測定点(W80区域)の各測定地点における夜間(午後10時から翌日午前7時まで)の1日平均騒音発生回数が,平成8年度から平成17年度までの間,県野嵩測定局で0.2~0.7回,平成9年度から平成17年度までの間,県上大謝名測定局で0.2~3.2回,県新城測定局で0.1~3.1回,市真志喜測定局で0.2~2.2回,昭和60年度から平成18年度までの間,国新城測定点で0.3~8.0回,国大謝名測定点で0.2~5.5回である。これらの測定結果は,年度によりばらつきはあるものの,本件航空機騒音(県等測定局にあっては暗騒音レベルより10dB(A)以上の(平成10年度についてはおよそ+10dB(A),平成11年度から平成14年度までは騒音値が暗騒音レベルをおよそ+5~10dB(A)超える)騒音が5秒以上継続したもの,国測定点にあっては70dB(A)以上の騒音が5秒以上継続したもの)が,睡眠を妨げる時間帯に,最も多い時には1日に数回,最も少ない時でも10日に1回発生していることを意味しており,このような1日に数回との頻度は相当多数といえる一方,10日に1回との頻度も少ないとはいえない。夜間の本件航空機騒音の発生状況等のこれらの事情に,前記(ア)のとおりの原告らの供述等の内容や,前記アの定型陳述書の集計結果において,W75区域で77.3%,W80区域で85.4%の原告が,その程度に差こそあれ,睡眠妨害を指摘していることを併せ考慮すると,原告らは,本件航空機騒音によって,少なくない頻度で覚せいし,又は眠りが浅くなるなどの睡眠妨害の被害を受けていると認めることができるというべきである。
そして,このような睡眠妨害を受ければ,これに伴って精神的苦痛が生ずることも推認することができる。しかも,夜間に本件航空機騒音のために睡眠が妨げられるといった体験を重ねていくことによって,睡眠妨害による不快感が徐々に高まっていくことも想定することができる。
また,原告らの定型陳述書による睡眠妨害の訴え率がW値の上昇に伴って上昇していることに加え,前記イの認定事実のとおり,沖縄県調査の結果でも比較的軽度の睡眠障害について量反応関係が有意に認められると指摘していることなどに照らすと,本件航空機騒音による睡眠妨害の被害の程度は,原告らの各居住地における本件コンターのW値の区分が高いと大きくなるといって差し支えないと考えられる。
そして,睡眠妨害の被害は,その被害の性質に照らせば,前記ウ(イ)bの実験結果等にみられるように,被暴露者が主観的には意識しないこともあり得るといえることなどからすると,定型陳述書にこれらの被害があると記載していない原告らや,定型陳述書その他の陳述書を提出していない原告らも含めて,原告ら全員が最小限度等しく受けているということができる。
そうすると,原告らは,本件航空機騒音により,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて,少なくない頻度で睡眠妨害の被害及びこれに伴う精神的苦痛を等しく受けているということができる。
(ウ) これに対して,被告は,深夜や早朝においては,窓を閉めて睡眠することが通常であり,仮にこれらの時間帯に航空機騒音が発生したとしても,就寝中の居室内に到達する騒音量は相当程度減衰しているはずであるから,原告らが本件航空機騒音によって睡眠を妨げられることは,ほとんど問題とするに足りない程度であり,また,住宅防音工事による効果に加え,冷暖房機及び換気扇が取り付けられているから,ごく短時間,窓を開放せざるを得ない場合が生じ,その間にたまたま騒音に暴露されて睡眠を妨げられたとしても,それはもはや法的に保護すべき利益侵害とはいえないと主張する。
しかしながら,高温多湿である沖縄においては,後記5(2)オ(ア)のとおり,住宅防音工事を実施した原告らも,冷房装置の電気料金の負担等の理由から,結局のところ,窓を閉め切って生活する場面は生活全体からすれば一定の限度にとどまるといえる上,海洋性気候であるため,窓を開けて生活することが比較的多いといえるところ,一般的に気温が下がる夜間においては,その傾向が一層高まると推認することができるから,建物自体の遮音効果が前記2(5)エ(ウ)のとおり10~15dB(A)程度あることや,後記5(2)オ(ア)のような住宅防音工事による防音効果を考慮に入れても,なお就寝中の居室内に到達する騒音量は原告らの睡眠を妨害しない程度までに減衰しているとまではいうことはできない。
したがって,被告のこの主張は採用することができない。
また,被告は,睡眠妨害に関する沖縄県調査について,騒音レベルの影響の検討について自己申告データを用いることは疑わしい調査方法であり,また,対照群の比率及び暴露群の比率の値が大きい軽度の睡眠障害についてオッズ比を相対危険度と同定するものとして用いて,量反応関係があるとの結論を導く誤った統計処理による推論をしている点で分析方法上も問題があると主張する。
しかしながら,自己申告データであっても,対照群やW値の異なる区域との比較に用いる限り,統計的に意味のない数値とみることはできず,また,対照群における比率をp0,暴露群における比率をp1とすると,オッズ比が{(1-p0)/p0}・{p1/(1-p1)}であるのに対し,相対危険度(対照群と暴露群の比率の比)がp1/p0であるので,対照群での比率及び暴露群での比率のいずれのもの値が十分に小さい場合には,オッズ比と相対危険度が一致するといえる(甲D1)一方,対照群での比率及び暴露群での比率のいずれもの値が十分に小さいといえない場合には,オッズ比と相対危険度が一致するといえないものの,オッズ比と相対危険度とは上記のとおり異なる概念であるから,沖縄県調査においてオッズ比を相対危険度と同定するものとして用いているとはいえない。
したがって,被告のこの主張も採用することができない。
オ 睡眠妨害についてのまとめ
以上によれば,原告らは,本件コンター内に居住する間,本件航空機騒音により,睡眠妨害及びこれに伴う精神的苦痛を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて,等しく受けていると認めることができる。
(5) 精神的被害
ア 原告らの精神的被害の陳述
証拠(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))によれば,以下の事実が認められる。
原告らの多くは,次の表のとおり,定型陳述書に,本件航空機騒音は「あなたにどのような精神的苦痛を与えていますか」との質問項目に対して「イライラする」,「集中力がなくなる」などと精神的苦痛について記載している。

この記載の集計結果をグラフで示すと次のとおりとなる。

イ 沖縄県調査の結果
証拠(甲D1,6,乙D41)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) THI調査の結果
a 沖縄県調査委員会は,平成7年10月から平成8年9月までの間,生活環境調査に先立ち,THIを用いて,住民の自覚的健康度の調査を行った(以下「THI調査」という。)。
THIは,東京大学に在籍していた研究者3名によって自覚的健康度の調査のために開発された質問紙健康調査票である。沖縄県調査委員会は,THIを,従来心身の自覚症状調査に用いられてきたコーネル医学指数(CMI)に比べ,質問項目を少なくして,かつ定量的評価を行いやすいように工夫されており,また,性格テストや精神疾患の検出のために用いられてきた矢田部ギルフォード性格テストやミネソタ多面的人格目録と比べ,性格テストや精神疾患の検出に関しては専門化の程度が低いものの,測定対象領域は広く,心身自覚症状を把握するとともに,様々な心理・性格傾向や神経症傾向を定量的に示すことができると位置付けている。THIは,130の質問からなり,「はい」,「いいえ」,「どちらでもない」などの3択式の回答となっている。THIの質問は,①「多愁訴」,②「呼吸器」,③「眼と皮膚」,④「口腔と肛門」,⑤「消化器」,⑥「直情径行性」,⑦「虚構性」,⑧「情緒不安定」,⑨「抑うつ性」,⑩「攻撃性」,⑪「神経質」及び⑫「生活不規則性」の合計12の尺度に分類される(ただし,一つの質問が二つの尺度に属することもあり,また,いずれの尺度にも属さない質問が12ある。)。回答の集計は,その尺度に含まれる質問項目への回答が「はい」の場合に3点,「どちらでもない」の場合に2点,「いいえ」の場合に1点として,各尺度に対する回答から合計得点を求める。判別得点が大きいほど,その尺度に関連する疾患に罹患している確率は高くなり,判別得点が正のときは陽性,負のときは陰性と判別するとし,また,これらの尺度得点・判別得点を集団について求め,適当な標準集団の値と比較することで,当該集団の特徴を明らかにし,評価することもできるとする。
沖縄県調査委員会は,12個の尺度のうち,「直情径行性」,「虚構性」,「情緒不安定」,「抑うつ性」,「攻撃性」,「神経質」及び「生活不規則性」の7尺度は「精神的自覚症状」とみなすことができる(なお,「多愁訴」,「呼吸器」,「眼と皮膚」,「口腔と肛門」及び「消化器」の5尺度は「身体的自覚症状」とみなすことができる。)とする。沖縄県調査委員会は,各尺度の内容や意味について,次のとおりとする。

b THI調査は,平成7年10月から平成8年9月までの間,航空機騒音暴露群として普天間飛行場周辺の宜野湾市,浦添市及び北中城村の住民2213名並びに嘉手納飛行場周辺の北谷町,嘉手納町,石川市(当時),具志川市(当時),沖縄市及び読谷村の住民4840名,非暴露群すなわち対照群として沖縄本島南部の2町1村(佐敷町(当時),大里村(当時)及び南風原町)の住民1031名の合計8084名の住民に対して,THIに耳の聞こえの悪さといった質問5項目を加えた調査票を配付し,これを回収することにより,実施した。
調査表の配布は,まず行政区画を無作為に抽出し,次に住民基本台帳から無作為に抽出して配布対象を選定した。もっとも,嘉手納飛行場周辺のWECPNL95以上の区域では,居住者が少ないので,全数を対象とした。
有効回答数(回数された調査票において,年齢,性別が記載され,かつ住所から居所の本件コンターのWECPNLのランクが確定することができるケースのうち,年齢が15歳以上75歳未満の者の回答数)は,全体で6480通あり,そのうち,普天間飛行場周辺では1745通,対照群では848通であった。沖縄県調査委員会は,THI調査の結果に,後記ウ(ア)の住民健康調査研究会による北谷町住民に対する自覚的健康度調査において行ったTHIの結果を加え,有効回答者数を7095名として,年齢,性別構成が等しくなるように調整を行った上,分析を行った。
c 沖縄県調査委員会は,前記aのとおり,「精神的自覚症状」に関する尺度として,「直情径行性」,「虚構性」,「情緒不安定」,「抑うつ性」,「攻撃性」(沖縄県調査委員会は,この得点が低いことは,積極性に欠けることを意味すると位置付ける。),「神経質」及び「生活不規則性」の7尺度を挙げているところ,このような精神的自覚症状に関する調査結果は,次のとおりである。
まず,WECPNL以外に,年齢(6分類),性別,職業(4分類),年齢と性別の交互作用をTHIの尺度に影響を及ぼす可能性のある因子(交絡因子)として取り上げ,しきい値(対照群における90パーセンタイル値を用い,虚構性,攻撃性,神経質については10パーセンタイル値も用いられている。)を上回り,又は下回る比率に対して多重ロジスティック回帰分析により各因子の影響を解析した。その結果,普天間飛行場周辺では,「神経質」の尺度においてのみ,WECPNLとの間に1%以下の有意確率で関連が認められると分析し,また,「情緒不安定」,「攻撃性」及び「神経質」の各尺度について,対照群との差をオッズ比で求め,95%信頼区間を用いてW値との関連を検討したところ,次の図に示すとおりとなった(なお,同図中,●印が普天間飛行場の結果を示す。以下についても同様である。)。

沖縄県調査委員会は,この結果について,「神経質」の高得点側に関しては,高度に有意なオッズ比の上昇が認められ,また,信頼区間の範囲内の若干の凹凸はあるけれども,WECPNLが75未満の群においても対照群との間に高度に有意な差があり,ほとんど全ての群でオッズ比の有意確率が有意となっている一方,「情緒不安定」及び「攻撃性」の低得点側に関しては,いずれもオッズ比とW値に有意な関連は認められないなどと分析する。
d また,沖縄県調査委員会は,「心身症傾向」(ここでいう心身症とは,精神的なストレスが原因で身体的な疾患が起こっている状態を指している。以下同じ。)と「神経症傾向」について判別得点を算出し,W値との関連を解析した(なお,沖縄県調査委員会は,この判別について,判別得点が正であれば,心身症傾向又は神経症傾向と判断されるものの,これらの判別得点が高いということは,質問に対する回答パターンが,心療内科医・精神科医により心身症・神経症と診断された患者のパターンと似ているということであり,実際に心身症・神経症と診断される確率は高いものの,必ずしも医師の診断とは必ずしも一致するものではないと位置付けている。)。
そして,沖縄県調査委員会は,多重ロジスティック回帰分析により,これら2種類の判別得点について解析を行い,「心身症傾向」及び「神経症傾向」の各尺度について,対照群との差をオッズ比で求め,95%信頼区間を用いてW値との関連を検討したところ,次の図に示すとおりとなった。

沖縄県調査委員会は,この結果について,「心身症傾向」に関しては,普天間飛行場周辺では,トレンド検定にて有意な量反応関係は認められないが,W75以上の群では対照群に比べ有意なオッズ比の上昇がみられる一方,「神経症傾向」に関しては,量反応関係は認められないと分析している。
e 沖縄県調査委員会は,THI調査の結果の解析から,①種々の精神的自覚症状を訴える者の比率は,暴露レベル(WECPNL等)に応じて高くなること,②「精神的自覚症状」に関する尺度に関しては,「神経質」などでは,WECPNLが75未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響がみられること,③航空機騒音は,様々な自覚症状の訴え率を高めるにとどまらず,心身症傾向や神経症傾向と判断される者の比率を,特に高レベル暴露群において顕著に高めていることなどと結論付けている。
(イ) 生活環境調査の結果
沖縄県調査委員会は,前記(3)イのとおり,平成8年11月から平成9年3月までの間,生活環境調査を実施した。そのうち,沖縄県調査委員会が,生活環境調査において,航空機騒音の心理的影響,すなわち,航空機騒音の「うるささ」及び「被害感」について調査した結果は,次のとおりであった。
a まず,自宅における航空機騒音の「うるささ」の程度に関する調査結果及び「たいへんうるさい」のカテゴリに反応した人員の割合の合計と航空機騒音暴露量に対して示した結果は,次のとおりとなった。

沖縄県調査委員会は,この結果について,特に「たいへんうるさい」のカテゴリに反応した人員の割合と航空機騒音暴露量との間には著明な量反応関係を認め,また,嘉手納飛行場周辺と普天間飛行場周辺とを比較すると,同じWECPNLに対して普天間飛行場周辺において,嘉手納飛行場周辺より高い反応率が認められると分析している。
b 次に,生活環境調査において,①航空機騒音による「被害感」,「イライラ感」,「恐怖感」及び「戦争の恐怖」の各質問に対する回答率,②「被害感」について「耐えがたい被害をうけている」及び「非常に被害をうけている」のカテゴリに反応した人員の割合の合計を航空機騒音暴露量に対して示した結果並びに③「イライラ感」,「恐怖感」及び「戦争への恐怖」に関する質問に対して「いつもある」及び「ときどきある」のカテゴリに反応した人員の割合の合計を航空機騒音暴露量に対して示した結果は,それぞれ次のとおりとなっている。

沖縄県調査委員会は,上記の結果を踏まえ,①航空機騒音による「被害感」については,WECPNLの増大とともに被害感が上昇する傾向が著明であること,普天間飛行場周辺住民の大多数が航空機騒音による被害感を抱いていると考えられること,普天間飛行場周辺の反応率が嘉手納飛行場周辺のそれよりも高いこと,②自宅において感じる航空機騒音の「イライラ感」についても,普天間飛行場周辺の反応率が嘉手納飛行場周辺のそれより高い傾向が認められること,③自宅において感じる航空機騒音の「恐怖感」について,航空機騒音の恐怖感は,墜落の不安と関連があると考えられること,④「戦争への恐怖」については,航空機騒音の恐怖感と異なり低い反応率であることなどと分析している。
c また,沖縄県調査委員会は,日常生活の中で感じる不安感について,「飛行機の墜落の不安」,「飛行機からの落下物の不安」,「燃料タンク等,基地内の危険物の爆発事故の不安」,「戦争にまきこまれる不安」の4項目に関して質問し,それぞれ5段階の選択肢によって回答を求めている。その回答率並びにこれらの不安感に関する質問に対して「非常に感じる」及び「かなり感じる」のカテゴリに反応した人員の割合の合計を航空機騒音暴露量に対して示した結果は,それぞれ次のとおりとなった。

沖縄県調査委員会は,上記の結果を踏まえ,①「墜落の不安」については,普天間飛行場を基地とする航空機が墜落する事故は一般の民間航空機が墜落する事故よりはるかに頻度が高い状況であるから,航空機騒音を聞くと周辺の居住者が墜落事故を連想するであろうことは,容易に想像することができること,②「落下物の不安」,「爆発事故の不安」及び「戦争への不安」については,W値85までの騒音暴露量の地区では,騒音暴露量にかかわらずほぼ反応率が一定で,20%程度であることなどと分析している。
ウ 他の飛行場周辺における住民調査等
括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 山本を会長とする住民健康調査研究会は,平成3年,北谷町から委託を受けて,THIを用い自覚的健康度を調査した。同研究会は,平成3年10月から11月までの間,嘉手納飛行場周辺地域である北谷町住民1000名(WECPNL75,80,85,90,95となる5つの地区に居住する住民からそれぞれ男女各100名)及び対照地区である北中城村の住民200名に対して,THIを配布し,1053通の回答を受け,回答のうち質問項目に欠損のない830通について分析をした。
その結果によると,上記WECPNLによって層化した5群(WECPNL75群,80群,85群,90群及び95以上群)に対照群を加えた6群間で有意差があるか否かを検討した結果では,有意差が認められた尺度得点・判別値の平均値とWECPNLとの間には,WECPNLが大きくなるほど尺度得点・判別値の平均値が大きくなるというような傾向は必ずしも著明には認めらなかった。同研究会は,この結果のみからは,航空機騒音暴露と住民の自覚的健康観との間には明確な因果関係は存在しないと推定されるが,航空機騒音暴露群と被暴露群との間には,自覚的健康感に有意差が認められるので,WECPNL各層に属する人員の数が少ないためであったとも考えられると分析する。
そして,同研究会は,この調査の結果の要約として,航空機騒音に暴露されている北谷町と暴露されていない北中城村との間に,主として高年齢層で精神的自覚症状に有意差が認められ,また,区域指定におけるWECPNL75~90群,WECPNL95以上群と対照群(北中城村住民)とを比較すると,3群間で有意差の認められた尺度得点・判別値は,精神的訴えを示すものに多かった。これらのことから,航空機騒音の影響は主として精神的訴えに現れると考えられ,その尺度得点・判別値の平均値の大きさの順,すなわち訴えの多さと航空機騒音暴露量との間には因果関係があると考えられ,この検討結果は因子分析,重回帰分析を行った結果とも符合していると分析する。
(甲D1,3から5まで,乙D40)
(イ) 財団法人航空公害防止協会が前記(3)ウ(ア)bのとおり財団法人大阪国際空港メディカルセンターに委託して昭和55年度から昭和57年度まで,大阪,東京両国際空港及び福岡空港周辺において実施した質問紙による健康調査のうち,昭和56年度及び昭和57年度のTHIによる結果は,精神的自覚症状に関しては,大阪空港周辺では,「直情径行性」,「情緒不安定」,「抑うつ性」「神経質」の4尺度と,「心身症傾向」及び「神経症傾向」の2判別値についてWECPNLの異なる3群間で尺度得点及び判別値に有意差があり,そのうち,「情緒不安定性」,「抑うつ性」,「神経質」の3尺度と,「心身症傾向」及び「神経症傾向」の2判別値について,W値の上昇とともに平均値が高くなった。これに対し,東京国際空港及び福岡空港の各周辺では,WECPNLの異なる各群で有意差がある尺度得点や判別値はなかった。もっとも,いずれの地域でも,WECPNLが高い地域ほど,「情緒不安定」,「抑うつ性」に関する訴えが多く,神経症傾向や心身症傾向も強くなっていた。
(乙D36)
(ウ) 寺井病院医師谷口堯男(以下「谷口」という。)らは,昭和59年から昭和62年まで,騒音地域(W値80以上)255名及び非騒音地域197名の住民を対象としてTHIによる健康度調査を行った。その結果,健康障害が高率と考えられる60歳以上の高齢者を除外して,騒音地域及び非騒音地域において,性,年齢を一致させた男子100ペア,女子80ペアを構成し,騒音地域及び非騒音地域に差が認められるか否かを検討すると,男女とも,多愁訴性,心身症傾向の項目で,騒音地域において非騒音地域よりも訴えが多く,有意差があり,女子では情緒不安定,神経症傾向の項目でも,訴えが有意に多かったとしている。
また,谷口らは,昭和61年及び昭和62年に,小松基地騒音差止等訴訟の原告及びその家族125名(生活環境整備法上の区域指定におけるW値75,80,85,90の各区域に居住)を対象として,一般健診,聴力健診等と併せて,THIによる健康度調査等を行った。その結果,一般健診では,いらいら等の神経症状の訴えが多く,THIによる健康度調査では,精神的被害に関し,男女とも多愁訴性,心身症で尺度点数が高かった。
(甲D104,105)
(エ) 財団法人空港環境整備協会航空環境研究センター環境保健部の後藤恭一らは,航空機騒音のレベルでは空港周辺住民への聴覚影響はないとの見方が一般的であるのに対し,音の間接的影響である非聴覚的生理影響に関する調査はまだ解明されているとはいい難いとして,平成10年4月から7月まで,ある空港周辺で実施された健康診断の受診者567名を対象として,自記式質問票による環境意識及び自覚症状に関する調査を行った。後藤らは,一般に男性よりも女性の方が居住地での生活時間が長いことを考慮して,解析の対象を成人女性390名に限定した。
対象者を第1種区域隣接区域(WECPNL70),第1種区域(WECPNL75)及び第2種区域(WECPNL90)に分類して回答結果を解析した。その結果,3区域間の差を比較検討すると,音環境評価得点は,高騒音指定区域ほど高く,不満傾向にあることを示し,統計学的な有意差がみられ,音環境評価は,WECPNLとの間で有意な正相関係を示していた。これに対して,心理的精神的指標の検討では,抑うつ得点については,第2種区域群が他の2群に比べて高い傾向を示した外は,有意差が認められず,不安得点及びストレス得点の平均値では,3群間でほぼ等しく,不安,抑うつ傾向は,WECPNL間では相関性がみられなかった。もっとも,ストレス得点の増減には,音環境評価と社会的支援が寄与することが示された。
後藤らは,上記の結果を踏まえ,不安・抑うつといった精神症状と航空機騒音暴露量との間には明確な関係はみられなかったけれども,音環境評価の不満と精神状態に関連性が認められることが確認できたことから,航空機騒音暴露が直接的にストレスに影響せず,「音源-伝播-知覚・認識」の過程を経て騒音であると判断している者が不安・抑うつ傾向を生じていることが推測され,そのような騒音の間接的な影響は示唆されるとともに,高不安,抑うつ状態のために騒音感受性が高まっているとも示唆されると結論付ける。
(乙D35)
エ 精神的被害についての検討
(ア) 原告らの中には,本件航空機騒音により,はらわたがえぐられるような気持ちとなり,いらいらする(原告X120),イライラする(原告X112),うるさい(甲B2の5,原告X142),非常にいらいらする,憎たらしくなるような気持ちになる(甲B2の7,原告X56),不愉快である(原告X39)などと供述し,又は陳述書に記載する者がいる。また,原告X143は,原告X144が乳幼児のころ本件航空機騒音にびっくりして泣いたと陳述書に記載し(甲B2の6),証人S4は,保育園児が本件航空機騒音を聴取すると泣き叫ぶことがあると証言する。
イライラ感,不快感,不安感,恐怖感等の精神的苦痛は,前記(3)エ(ア)のとおり,生活妨害と同様,騒音を暴露する者の主観的条件によっても差異が生じ得る一方,その主観的な受けとめ方を抜きにしてはこれを正確に認識,把握することができない性質のものといえる。そして,前記アの認定事実のとおり,原告らのうち定型陳述書を提出した者の9割以上の者が「イライラする」と陳述している。前記イ(イ)の認定事実のとおり,沖縄県調査の生活環境調査の結果では,「うるささ」について「たいへんうるさい」と回答した者の割合は,W75区域で21.9%,W80区域で30.4%であり,これに「かなりうるさい」と回答した者を加えると,W75区域で58.8%,W80区域で64.9%に達する(なお,嘉手納飛行場周辺区域における同様の調査では,「たいへんうるさい」と回答した者の割合は,W値75以上80未満の区域で2.7%,W値80以上85未満の区域で8.4%であり,これに「かなりうるさい」と回答した者を加えても,W値75以上80未満の区域で11.8%,W値80以上85未満の区域で27%となっており,普天間飛行場周辺地域の同一のW値の区域よりも低い数値となっている。)。「イライラ感」が「いつもある」と回答した者の割合は,W75区域で17.2%,W80区域で14.7%であり,これに「ときどきある」と回答した者を加えると,W75区域で41.5%,W80区域で45.2%に達する。原告らが,上記のとおり供述等し,又はそのほとんどが定型陳述書に記載するように,本件航空機騒音を「イライラする」と感じていることは,このような沖縄県調査の結果によっても,裏付けられているといえる(なお,本件航空機騒音によるイライラ感や不快感を日常感じることにより,これがうっ積して種々の心理的,情緒的反応に結び付いていく可能性があることも,前記イ(ア)の認定事実のとおりの沖縄県調査のTHI調査の結果や前記ウの認定事実のとおりの他の飛行場周辺における住民調査の結果等から理解することができる。)。
そうすると,原告らが,本件航空機騒音により,本件航空機騒音を直接の原因とするイライラ感や不快感の精神的苦痛(以下「本件精神的被害」という。)を受けていると認めることができる。
(イ) しかも,原告らの中には,本件航空機騒音により,墜落の不安・危険を感じる(原告X61),落ちるかとの恐怖心がある(原告X39),飛行機が墜落するのではないかという不安がつきまとって苦しんでいる(原告X120),本当に落ちるのではないかと体が震える(原告X112),いつ落ちないかという恐怖感がある(原告X142),墜落しないかとの不安もある(甲B2の10,原告X1),ヘリコプターが燃えていないか確認する,怖い(原告X56),ヘリコプターが落ちた後の恐怖感は大変なものである(原告X3)などと本件航空機騒音による普天間飛行場を離着陸する米軍機の墜落への不安感や恐怖感について供述し,又は陳述書に記載する者がいる。そして,証拠(甲C12,13,36,44,45,51,53,58,枝番号を含むF1から20まで,証人S1)によれば,普天間飛行場を離着陸するヘリコプター等の米軍機が,タッチアンドゴー等の訓練により,普天間飛行場周辺を低空で飛行しながら,本件航空機騒音を発生させていること,普天間飛行場に所属する米軍機による墜落,不時着,緊急着陸等の事故等は,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から平成14年12月末までの間に77件発生していた上,普天間飛行場を離陸した米軍機のヘリコプターCH-53D型が平成16年8月13日に沖縄国際大学敷地内に墜落する事故が発生し,これが広く報道されていることが認められる。
これらの事実に加え,前記アの認定事実のとおり,原告らのうち定型陳述書を提出した者の9割以上の者が本件航空機騒音による精神的苦痛として「墜落するのではないかと恐ろしくなる」と記載していることや,前記イ(イ)の認定事実のとおり,沖縄県調査の生活環境調査の結果でも,「墜落の不安」については,「非常に感じる」及び「かなり感じる」と回答した者の割合は,W75区域で53.4%,W80区域で56.6%に達していることを総合考慮すれば,原告らが本件航空機騒音により普天間飛行場を離着陸する米軍機の墜落への不安感や恐怖感を感じているといえ,これが原告らの本件精神的被害を等しく増大させていると推認することができるので,この点も,本件精神的被害の内容,程度を理解する上で考慮すべきであると考える。
(ウ) 他方,後記第3の1のとおり,沖縄戦の過程で,宜野湾村(当時)の住民も,米軍に土地を接収され,収容所で生活することを余儀なくされたことに加え,普天間飛行場が住民から接収した土地等に建設されたという歴史的経緯や,原告らが居住する宜野湾市のある沖縄本島中部地域の約4分の1の面積が普天間飛行場等の米軍基地で占められているという現状にかんがみると,原告らの中には,本件航空機騒音により,その戦争体験を思い出すと供述し,又は陳述書に記載する者がいる(甲B2の4,8,原告X39,原告X120)ことも当然のこととみることができる。しかも,普天間飛行場周辺の小学校でも,平和に関する授業を行っている(証人S3)から,このような事情は普天間飛行場周辺に居住する住民にとっての関心事となっているとみる余地はある。しかしながら,前記アの認定事実のとおり,定型陳述書を提出した原告らの者のうち,「墜落するのではないかと恐ろしくなる」と記載したものが91.4%であるのに比べ,「戦争体験を思い出し恐怖感や不安を覚える」と記載したものが31.7%,「戦争に巻き込まれるのではないかという恐怖感を覚える」と記載したものも55.9%にとどまっている。また,前記イ(イ)の認定事実のとおり,沖縄県調査の生活環境調査の結果では,「戦争の恐怖」が「いつもある」及び「ときどきある」と回答した者の割合は,W75区域で18.2%,W80区域で20.5%であり,「戦争への不安」についても,「非常に感じる」及び「かなり感じる」と回答した者の割合は,W75区域で34.2%,W80区域で36.7%にとどまっており,沖縄県調査委員会は,「戦争への恐怖」については,航空機騒音の恐怖感と異なり低い反応率であると分析し,また,「戦争への不安」についても,W値85までの騒音暴露量の地区では,騒音暴露量にかかわらずほぼ反応率が一定であると分析していることから,戦争への恐怖や不安については,本件コンターのW値との間に量反応関係を認めていない。
そうすると,原告らの定型陳述書に戦争への恐怖感の被害を記載する者の割合は,それ自体少ないとはいえないものの,本件航空機騒音と戦争への恐怖感との関連性が統計的にもあるとはいえない上,原告らの全員の共通被害として戦争への恐怖感への被害を捉えることもできないというべきであるから,原告らが,本件航空機騒音により,戦争への恐怖感の被害を等しく感じ,これに伴い,本件精神的被害を等しく増大させていると認めることまではできない。
(エ) そして,原告らが本件航空機騒音によって受ける本件精神的被害の程度は,原告らの各居住地における本件コンターのW値の区分が高いと大きくなることは,前記(ア)及び(イ)の沖縄県調査の結果等から認めることができる。
また,本件精神的被害は,本件航空機騒音の実態や被害の性質に照らせば,原告らの年齢,性別,同居する家族の構成等によって,いろいろな形態をとって現れるものの,定型陳述書にこれらの被害があると記載していない原告らや,定型陳述書その他の陳述書を提出していない原告らも含めて,原告ら全員が最小限度等しく受けているということができる。
(オ) これに対して,被告は,精神的被害に関する上記沖縄県調査には,調査方法,解析方法及び結果解釈の妥当性について,正確性に関する問題点が含まれており,本件航空機騒音による精神的被害を裏付ける証拠とはならないと主張する。
しかしながら,調査方法については,THI調査では,被告指摘のように,平成7年及び平成8年の調査と平成3年及び平成4年の調査とは,4年もの期間を経て行われた別の調査であり,かつ,サンプリング構成も異なっているといえるものの,平成3年及び平成4年の調査は嘉手納飛行場周辺についてのものであり,普天間飛行場周辺についての調査に問題があったとの指摘ではない。また,生活環境調査でも,全居住者に調査票が配布されたW値95以上の区域と,全居住者には調査票を配布していない低騒音区域とを比較しているとする被告の指摘についても,嘉手納飛行場周辺における調査の問題を指摘するにすぎない。
また,THI調査における調査実施方法では,ダブルブラインドが行われていないとの被告の指摘については,確かに,沖縄県調査報告書には,調査員が「調査の趣旨」を述べて調査票を配布したとの記載があり,また,地元の区長が口添えをし,又は配布・回収をすることがあったと認められる(甲D1,乙D40)けれども,沖縄県調査研究委員会副委員長の平松幸三が,回答者にはもちろん,配布する調査員にも,調査の意図を知らせない方法を採った旨の説明していること(乙D1,40)に不自然なところはなく,沖縄県調査報告書に記載されている「調査の趣旨」が航空機騒音の影響を調査するということを含むものと認めるに足りる証拠もないことに照らすと,被調査者の中には航空機騒音による影響を調査することが目的であることを認識していた者が含まれている可能性があるとしても,それだけで,THI調査の結果全体の信用性に影響を与えるものとまではいえない。また,生活環境調査におけるバイアスについての被告の指摘についても,配布・回収について,地元の自治会の協力を得られた場合には,自治会長又はその協力者が行ったことを認められる(甲D1)ものの,これだけで,バイアスのため沖縄県調査の信用性が低いということはできない。また,生活環境調査における調査内容から調査目的を推知される可能性が高いとの被告の指摘についても,生活環境調査は,前記(3)イの認定事実のとおり,普天間飛行場周辺住民等の生活の質及び環境の質に対し,航空機騒音の存在が与えている影響を知る目的で,回答者の基地及び航空機騒音に対する態度も併せて調査対象として実施されたものであり,その設問もそのような観点から作成されているから,調査内容に回答者の主観が介在する可能性があることは,調査の目的等に照らし当然のことというべきである上,質問に用いた用語や質問の配列には相応の工夫がされていることがうかがわれる(乙D40)ので,このことのみをもって生活環境調査の信用性が低いということはできない。
さらに,解析方法についても,平成6年以降の調査結果を,昭和52年当時の騒音データに当てはめて検討し,結論を導いている点で解析方法に問題があるとの被告の指摘については,前記2のとおりの本件航空機騒音の実態に照らせば,本件航空機騒音は,昭和52年当時と平成6年以降当時とでそれほど異なっているとはいえないから,その解析方法に問題があるともいえない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
オ 精神的被害についてのまとめ
以上によれば,原告らは,本件コンター内に居住する間,本件航空機騒音により,本件精神的被害を,普天間飛行場を離着陸する米軍機の墜落への不安感や恐怖感によって増大させられつつ,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて等しく受けていると認めることができる。
(6) 身体的被害
ア 原告らの身体的被害の陳述
証拠(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))によれば,以下の事実が認められる。
原告らの多くは,次の表のとおり,定型陳述書に,本件航空機騒音により「健康に影響がでていると思いますか」との質問項目に対して「思う」と記載している。

また,原告らは,健康影響の内容について,定型陳述書に次の表のとおり耳鳴り,難聴,頭痛などの健康影響を受けていると記載している。

この記載の集計結果をグラフで示すと次のとおりとなる。

イ 聴覚に関する被害についての認定事実
括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 聴器の仕組みと難聴
音を聞くことは,外界の音波を耳で受けて,受けた音の情報が大脳皮質の聴覚領に送られて感覚されることによって成立する。
外界からの音波を効率よく内耳にある「毛細胞」(受け入れた音の情報を聴覚中枢路に送る神経インパルスに変換する役割をするものであり,前記(2)アなどのとおり,「有毛細胞」ともいわれるものをいう。以下同じ。)に伝達する働きをするのが,外耳と中耳である。外耳と中耳を伝音機構といい,伝音機構の障害で起こる難聴は,「伝音性難聴」又は「伝音難聴」といわれる。伝音性難聴の場合には,気導聴力(外耳道を通じて音を聞かせた場合の聴力をいう。以下同じ。)が低下するが,骨導聴力(骨導を通じて内耳に振動を伝えて音を聞かせた場合の聴力をいう。以下同じ。)が低下することはない。
一方,内耳の毛細胞で電気的エネルギーに変換された情報は,蝸牛(かぎゅう)神経を経て聴覚中枢路に送られる。この内耳の毛細胞から,蝸牛神経,聴覚中枢路,大脳聴覚領に至る部分を感音機構といい,感音機構の障害で起こる難聴は,「感音性難聴」又は「感音難聴」といわれる。感音性難聴の場合には,気導聴力及び骨導聴力のいずれもが低下する。感音性難聴には,内耳の毛細胞の障害によって起こる「内耳性難聴」と,蝸牛神経より中枢側の障害によって起こる「後迷路性難聴」がある。
内耳性難聴には,ストレプトマイシンによる難聴,老人性難聴等の外,騒音性難聴がある。内耳性難聴の場合には,リクルートメント現象(補充現象。音の強さを増していくと,音の大きさの感覚が通常人に比べて異常に増加する現象をいう。以下同じ。)が生ずることが多いとされる。
ストレプトマイシンによる難聴は,ストマイ難聴と略称され,結核などの治療に用いられるストレプトマイシン等の抗生物質の投与後に生ずる難聴であり,初期のオージオグラム(オージオメータを用いて聴力検査を行った結果を図の形で記載したものをいう。以下同じ。)では,高音急墜型の聴力像が生ずる。また,老人性難聴は,聴覚系の組織の老化が原因となるもので,内耳から大脳までの広範囲の部位の老化により生じ,オージオグラムでは,高音漸傾型の聴力像が生ずる。
他方,騒音性難聴は,騒音暴露をよる難聴をいい,内耳の毛細胞の変成又は損傷によるものとされる。騒音性難聴では,初期に,オージオグラムでc5-dip(オージオグラムにおいて,音階のc5(物理調で4096Hz)にほぼ相当する4000Hz周波数のところで深い谷(dipはくぼみを意味する。)を形成するところから名付けられている聴力像をいう。以下同じ。)の聴力像が生ずる。もっとも,c5-dipの聴力像については,頭部外傷の既往歴のある者や一酸化炭素中毒者でも生ずるとの報告もあり,また,原因不明のものもあるとされている。また,騒音性難聴における初期の障害周波数は,4000Hzのみだけでなく,5000Hz又は6000Hzにdipがある場合があるとの指摘もある。さらに,騒音性難聴では,騒音の暴露が左右両耳ともほぼ同時に受けるため,聴力低下の程度も左右両耳で差がないのが通常である。
(甲D1,46,乙D19,20,23の2,D25,44から46まで,51,58,60)
(イ) 騒音性難聴の特徴及びTTSとPTSの関係について
山本は,騒音性難聴の特徴及びTTS(Temporary Threshold shift。聴覚の一時的閾値移動又は一時的聴力損失をいう。以下同じ。)とPTS(Permanent Threshold shift。永久的閾値移動又は永久的聴力損失をいう。以下同じ。)の関係について,以下のように説明する。
強大な騒音に長期間暴露されると,回復不能な難聴になると古くから知られている。騒音職場で長年勤務した作業者の聴力をオージオメーターで測定すると,3000~6000Hzの高周波音域の聴力,特に4000Hz付近の聴力が最も障害されているとされる。c5-dipは,騒音性難聴の重要な特徴の一つである。騒音性難聴の初期の段階では,8000Hz以上の高周波音域の聴力損失は,正常であり,又は軽度の損失を示すにすぎない。もっとも,c5-dipは,強力な騒音の暴露が持続すれば,その深さと溝を増し,両側の周波数も影響を受けるようになると伴に,加齢に起因する高周波側の聴力損失の影響も加わって,だんだんと著明でなくなる。また,騒音性難聴は,内耳の毛細胞の部分の損傷によって起こるとされ,感覚神経性難聴の一つとして分類される。感覚神経性難聴とは,感覚細胞の変成に起因する聴力損失のことである。感覚性聴力損失の場合には,著明なリクルートメント現象を示す。傷害が進展し,聴力損失が50dB以上にもなると,内毛細胞も関連するに至り,指示細胞,聴神経繊維も傷害を受け,リクルートメント現象は明らかでなくなる。
TTSは,通常,閾値が上がることを意味するので,一時的聴力損失を指しているといえる。一方,PTSは,永久性聴力損失又は難聴と同意義である。一般には,TTSを繰り返していると,PTSとなる一方,TTSがないとPTSも生じないのが定説といわれている。また,アメリカ合衆国の科学アカデミーの聴力・生物音響学・生物力学委員会(CHABA)が,ある騒音に1日8時間,常習的(週5日以上),10~20年以上暴露した者のPTSの値が,その騒音に8時間暴露して,TTS2(騒音暴露終了した後,2分経過した後のTTSをいう。以下同じ。)とほぼ等しいとしている仮説が,確定的とはいえないまでも,日本産業衛生協会等により認められている。
(甲D22,24,33,46,48,53,78の1,3,5,E9の1,2,E12,乙D47)
(ウ) 沖縄県調査の結果
沖縄県調査委員会は,前記(5)イ(ア)のとおり,平成7年10月から平成8年9月までの間,自覚的健康観に関するTHI調査を実施したところ,沖縄県調査委員会は,THIの原版にある130の質問に加え,「耳のきこえ」等に関する合計5つの質問を加えている。このうち,「日ごろ耳の聞こえがわるいほうですか」との質問に対する回答は,次のとおりである。

(エ) 沖縄県調査における嘉手納飛行場周辺住民に対する調査結果
a 沖縄県調査委員会は,嘉手納飛行場周辺に居住する住民を対象として聴力検診を実施し,航空機騒音の暴露による聴力への影響について調査を行った。沖縄県調査委員会では,①感音性難聴であること,②そのうち内耳性難聴であること,③c5-dipがあること及び④航空機騒音による暴露歴がある一方,航空機騒音以外の騒音の暴露歴,頭部外傷及び内耳毒性のある薬物の使用歴がないことを確認する方法で調査を行うこととした。
b 沖縄県調査委員会は,まず,一次検診を3回に分けて行った。初回は,W値90以上100未満の北谷町砂辺区(A)に居住する年齢40~69歳の男女207名を対象とした。2回目は,同様の年齢で対象を周辺地域に広げて,W値90以上95未満の嘉手納町屋良区(B)(対象人口475名)と北谷町砂辺のW値85以上90未満の地域(C)(対象人口474名)で行った。3回目は,25~40歳の若年層に対してW値85以上100未満の北谷町砂辺区(A+C)(対象人口587名)とW値90以上95未満の嘉手納町屋良(B)(対象人口292名)で実施した。
一次検診の方法は,問診と聴力検査の2つである。まず,問診としては,問診票を用いて,耳の聞こえ,耳鳴り,既往歴,職業性の騒音暴露歴,頭部外傷,耳毒性薬物(ストレプトマイシン等の抗生物質)の使用歴,居住年数等についての聞き取りを行った。上記問診票には,既往歴として,耳の病気(中耳炎),爆発外傷・頭部外傷,メニエール病,結核,その他(中毒症),遺伝性・家族性難聴がある場合にチェックする欄が設けられているほか,騒音暴露歴についても,大きな音のする職場で働いていた事実,兵役,パチンコ等の趣味を具体的に記載するように作成されている。次に,聴力検査としては,オージオメーターを使用して,純音聴力検査を実施した。この純音聴力検査は,防音工事の施工された公民館の一室に聴力検査ボックスを設置し,ボックス内の騒音レベルを30dB以下とし,暗騒音によるマスキングの影響を受けない静穏な環境下で実施した。
40~69歳を対象とした北谷町砂辺区(A)では,平成8年5月18日から20日まで受診者が115名(受診率55.6%)で,嘉手納町屋良区(B)では,平成9年7月26日及び27日に受診者が104名(受診率21.9%)で,北谷町砂辺(C)は,同年8月30日及び31日に受診者が59名(受診率は12.4%)で実施された。また,25~40歳の若年者を対象とした北谷町砂辺(A+C)では,平成10年7月4日及び5日に受診者が48名(受診率8.2%)で,嘉手納町屋良(B)では同年9月13日に受診者が17名(受診率5.8%)で実施された。
これらの一次検診を受診した343名中,聴力損失が高音域に認められ,かつ,慢性中耳炎の既往歴や職業性の騒音暴露歴がない者が,砂辺で28名,屋良で12名の合計40名あった。
c 沖縄県調査委員会は,一次検診の結果,騒音性聴力喪失が疑われた前記bの40名を二次検診の対象とした。
二次検診では,まず顕微鏡下の鼓膜視診にて鼓膜の異常所見の有無をチェックした後,次の(a)から(d)までの検査を実施した。これらの検査は,沖縄県立中部病院耳鼻咽喉科外来の防音室において,防音室内の騒音レベルを30dB以下として,行った。
(a) 純音聴力検査
オージオメーターを用いて気導聴力及び骨導聴力のレベルを測定した。テスト周波数は,0.125,0.25,0.5,1,2,3,4,6,8kHzの9周波数とし,1dBステップの上昇法にて聴力閾値を測定した。
(b) SISI検査
リクルートメント現象の有無を確認するため,1kHzと4kHzにおいてSISI(Short Increment Sensitivity Index)検査を,それぞれの周波数における閾値上20dBで行った。
(c) ティンパノメトリ
鼓膜及び中耳伝音系の障害の有無を調べるために,インピーダンスオージオメーターを使用して,ティンパノメトリ(外耳道圧を+200mm水柱から減圧していく際の中耳の可動性の変化を調べる検査。描出された波形をティンパノグラムといい,A型,B型及びC型がある。波形が山形でピークが外耳道圧0mm水柱付近にあるものをA型といい,中耳が正常の場合でA型を示すとされる。)を行った。
(d) オージオスキャンによる聴力検査
純音聴力検査では見過ごされることのあるdipの有無と,dipが存在する場合,その深さを確認することを目的とし,聴力測定装置・オージオスキャンを使用して,聴力測定を実施した。測定周波数の範囲を1~8kHzに設定した。
なお,通常の純音聴力検査が,テスト周波数を固定して検査音のレベルを変化させ,その周波数における閾値を求めるものであるのに対し,オージオスキャンによる聴力検査は,まず検査音のレベルを固定して周波数を変化させ,あるレベルにおける可聴周波数帯域を求め,次に,被検者の応答のなかった帯域について,検査音のレベルを上げて(通常5dB),再度,周波数を変化させ,そのレベルにおける可聴周波数帯域を求めるという方法を繰り返し,最終的には非常に正確で,小さなdipも見逃すことなく一定の周波数帯域におけるオージオグラムが得られるとされる。
d 沖縄県調査委員会は,以下の4条件を満たすことを基本に,二次検診の成績を総合的に評価した。
① 鼓膜視診による異常所見がなく,ティンパノグラムがA型で,かつ,純音聴力検査で気導・骨導差が認められないこと。
② SISI検査によるリクルートメント現象が陽性であること。
③ 純音聴力検査及びオージオスキャン・オージオメトリの結果,高周波域にdip又はdipから更に進行したと考えられる聴力損失が認められること。
④ 聴力損失の原因となるような既往歴や職業性の騒音暴露歴がないことが問診により確認されること。
そして,沖縄県調査委員会は,以上の条件にかんがみて検診成績を検討した結果,感音性聴力損失の症例として北谷町砂辺区で10例,嘉手納町屋良区で2例の合計12例を確認した。
沖縄県調査委員会は,これらの聴力損失の要因としては,航空機騒音暴露が最も有力であると結論付けている。
沖縄県調査委員会が,12例の被験者の聴力損失の主因が航空機騒音であると疑う理由は,次の7点である。
① 地域集積性
北谷町砂辺の40~69歳を対象とした検診において,聴力損失ありと確認された9名(なお,残りの1名は33歳の男性である。)を防衛施設庁のWECPNLの区分ごとに分類すると,WECPNL85~90が1名,WECPNL90~95が2名,WECPNL95~100が6名であり,統計的な分析を行うと,WECPNLの区分と聴力損失の間には有意な量反応関係が判断することができる。また,上記検診について地理的分布を求めると,聴力損失を有すると判断された者は,飛行経路又は嘉手納飛行場のフェンスに近い位置に偏る傾向がみられる。
② 聴力に関するアンケート調査の結果
沖縄県調査委員会は,前記(5)イ(ア)のTHI調査において,前記(ウ)のとおり,「日ごろ耳の聞こえがわるいほうですか」という質問を追加しているところ,「はい」と答えた者の比率とWECPNLとの関係を多重ロジスティック回帰分析により検討した結果,下図のとおり,WECPNL95以上の地区(北谷町砂辺)でオッズ比が2程度の値となっており,耳の聞こえが悪いと回答した者の比率が有意に高くなっている。
他の暴露地区においては,対照群との間に有意な差が検出されていないが,W値85以上の群からW値95以上の群にかけて,オッズ比の上昇傾向が認められるため,W値90以上の群から耳の聞こえへの影響が生じている可能性がある。

③ 騒音暴露の実態
ベトナム戦争時における日最大騒音レベルは,砂辺で124dB,屋良で127dBの高レベルの騒音が記録されており,聴力損失を来さないためのEPAクライテリアであるLeq(24)70dBを大きく上回り,日本産業衛生学会の聴力保護のための騒音許容基準(24時間暴露で80dB)も上回っている。
④ NIPTSの予測結果
沖縄県調査委員会は,過去の騒音暴露の記録により推定された4kHzにおけるNIPTS(騒音暴露に起因するPTSをいう。以下同じ。)が20dBという予測値を求めているところ,W値95以上の地区において,受診者66人中に騒音性の聴力損失を有する者が6人確認されたことは,上記予測結果と符合している。
⑤ 聴力検査結果
騒音性聴力損失は,内耳性聴力損失であり,その初期においてはc5-dip型という独特な聴力像を示す。感音性聴力損失であり,その中でも内耳性聴力損失であることをSISI検査で確認しているところ,c5-dip型の聴力損失が直ちに騒音性聴力損失を意味するものではないが,c5-dip型と騒音性聴力損失との関係は,他の疾患とは比較にならないほど特異性が高い。
⑥ 聴力損失の原因となり得る他の要因の排除
聴力損失を来す可能性のある疾患の有無,騒音作業歴を排除するため,一次検診,二次検診のそれぞれにおいて問診を実施した。また,騒音性聴力損失を疑われ地域集積性を認めた9例については,自宅を訪問して既往歴を再確認した。基地のガードマンとして2,3年働いていた者1名を除くと,職業的騒音暴露歴のある者はいないことが確認された。
⑦ 居住年数
永久性騒音性聴力損失が発現するには,多くの場合,8~10年以上の暴露年数が必要であるとされる。沖縄県調査委員会が騒音性聴力損失と認定した12名の居住年数は19~43年であり,十分長い騒音暴露年数である。
e 沖縄県調査委員会は,関連の整合性など疫学的因果関係に関する5つの判断条件を検討し,上記調査結果はこれらの判断条件を全てを完全に満たすものではないが,総合的に評価すれば,航空機騒音への暴露と嘉手納飛行場周辺住民に認められた聴力障害の発生との間に強い関連があることを示すものであると考え,また,因果関係の判断は,公衆衛生学の観点からは政策的判断としての性格を持つものであり,その判断が疾病や障害の予防に生かされることに意義があるとする。
(甲D1,E9の1,乙D19,25,44,45,51,56,57)
(オ) 騒音の聴覚に与える影響についての学術研究等
a 梶原三郎を会長とする騒音影響調査研究会は,昭和46年ころ,男子学生に防音室内で航空機騒音を暴露させる実験によって,航空機騒音によるTTSの発生に関する研究をした。
暴露音は,大阪国際空港周辺で録音したDC-8機の離陸時の騒音で,ピークを含む約70秒間の騒音を使用した。ピークレベルは,100,95,92,89dB(A)の4種で,これらを2分に1回の割合で発生する騒音につき,ピークレベル100dB(A)については96回まで,同95dB(A),92dB(A)及び89dB(A)については256回まで暴露を行った。また,ピークレベル95dB(A)で4分に1回の割合で発生する騒音につき,128回まで暴露を行った。被検者は22~24歳の聴力正常な男子学生5名で,同一条件の実験を5名について行って得た値の平均値を採用した。
その結果,TTSは,オフタイムも含めた総暴露時間の対数に関してほぼ一次式の関係で増加すること,92dB(A)を2分間に1回の割合で暴露した場合と,95dB(A)を4分間に1回の割合で暴露した場合とでは,暴露したエネルギーが等しいと考えられるのに,TTSは,前者の場合の方が後者の場合よりも大きな値を示しており,回帰係数も有意な差がみられたとする。
(甲D73)
b 山本らは,昭和50年ころ,大阪国際空港周辺で録音したDC-8機の離陸時の騒音で,ピークを含む約70秒間の騒音を使用し,ピークレベルを100,95,92,89,86,83,80及び75dB(A)の8種類とし,2分間に1回暴露を行い(95dB(A)については,4分間に1回の暴露も行った。),ピークレベル100dB(A)では総暴露回数を96回オフタイムも含む総暴露時間を3時間12分(192分)と,それ以外のピークレベルでは総暴露回数を256回(95dB(A)の4分間に1回の暴露においては,128回)オフタイムも含む総暴露時間を8時間32分(512分)とし,被験者を19~24歳の聴力正常な男子学生5名として4kHzのTTSが生ずるかどうかについて実験を行った。
その結果,①TTSは,オフタイムも含めた総暴露時間の対数に関して,ほぼ一次式の関係で増加すること,②ピークレベルが比較的低い80dB(A)の騒音であっても,長時間暴露を行えばTTSが生ずること,③TTSを生ずるかどうかの限界のピークレベルは75~80dB(A)の範囲にあると考えられること,④5dB,10dBのTTSを与える場合のNNIは,それぞれ48~60,56~63,また,ECPNLは,それぞれ82~93,88~95となり,ばらついていること等の結論を得たとしている。
(甲D51,78の3,4)
c 東邦大学耳鼻咽喉科学教室岡田諄(以下「岡田」という。)らは,昭和52年ころ,ジェット旅客機騒音を含む環境騒音及び職場騒音を負荷騒音とし,どの程度の負荷レベルと負荷時間でNITTS(騒音暴露に起因するTTSをいう。)と呼ぶことのできる閾値変動の発生の有無を明らかにするための実験を行った。すなわち,20~40歳の5名を被験者とし,この被験者に対し,羽田国際空港付近で録音したボーイング747型機の上昇通過時のフライオーバー騒音を,99dB(A)(なお,そのLeqは86.8dBである。)を2分間隔で8時間240回負荷し,1時間ごとに騒音暴露の終了時にTTS2等を測定した。
その結果,岡田らは,被験者5名のうち1名について航空機騒音の負荷により4000HzにおいてTTS25dBを認めたところ,この負荷実験は屋外で連続的に騒音に曝されている状況を想定したものであり,多少なりとも,特に高音域で遮音性のある家屋内での生活を考えると,純音聴力に関しては心理的影響ほど悪影響を考えなくてもよいのではないかとしつつ,この99dB(A)の実験で認められたTTS2が102dB(A),105dB(A)の負荷実験により明瞭に認められ,また他例でも同様な傾向が認められるのであれば,このレベル付近にTTS2を出現させる危険の限界がある可能性も高いので,負荷実験を重ねる予定であるとしている。
(乙D31)
d 財団法人航空公害防止協会は,岡田及び昭和大学教授岡本途也らに委託して,昭和52年から3か年にわたって,航空機騒音によるTTSの発生及びその回復過程を実験的に明らかにする目的で調査を行った。すなわち,東邦大学,東京大学,大阪大学,日本医科大学,昭和大学及び名古屋逓信病院の各実験室において,負荷騒音以外の騒音が入らない状態で,羽田空港付近で録音したボーイング747型機の上昇時の騒音等を再生し,正常者である被験者(4000HzのTTSを測定した者は754名である。)に対し,2分30秒間に1回の割合で8時間連続暴露(ただし,聴力検査のため1時間ごとに3~5分程度暴露が中断される。)させ,聴力検査を行った。
その結果は,ピークレベル93,96,99,102,105dB(A)の各騒音の暴露で4000HzのTTS2が4dB以上であった者の割合は,順に9.3%,24.0%,19.1%,25.6%,22.5%であり,同TTS2の平均値は,順に0.89dB,1.66dB,2.19dB,2.04dB,1.98dBであった。また,105dB(A)の騒音を8時間暴露した後でも,30分経てば,TTSはほとんど回復していた。
以上の結果から,岡本らは,騒音暴露によるTTSの上昇が平均2.2dB以下と小さくてその存在を証明しにくいから,航空機騒音の連続8時間暴露によるTTSの上昇を認めることは困難であり,また,99dB(A)以上であれば何らかの作用を聴覚器に与えることは否定できないけれども,105dB(A)の騒音を8時間暴露した場合でも30分経てばTTSはほとんど回復しているから,航空機騒音に暴露されても短時間で聴力は回復し得ると推定されると結論付けている。
(乙D23の1,2,D32)
(カ) 騒音に関する聴力保護基準
アメリカ合衆国連邦環境保護庁(EPA)が昭和49年(1974年)3月に公表した「公衆衛生と福祉を,適切な安全限界によって保護するため必要な環境騒音レベルに関する資料」には,次のような記述がある。
すなわち,人間の聴力が騒音によって損傷される場合,最初に4000Hzの周波数における聴力が影響を受ける。また,聴力レベルにおける5dB以下の変化は,一般的に無視することができ,又は重大ではないと考えられる。そこで,最も騒音による影響を受けやすい4000Hz付近において,5dB以上のNIPTSから全住民を実質的に保護する騒音暴露レベルは,40年間にわたり1日8時間年間250日の騒音暴露という条件設定の下において,Leq(8)73dBである。そして,間欠騒音は同じLeqの持続騒音よりも加害度が小さいことから5dBを加算する一方,年間250日を年間365日に補正するため1.6dBを,1日の騒音暴露時間を24時に補正するため等エネルギー法則を適用して換算した結果5dBをそれぞれ差し引くと,Leq(24)71.4dBとなる。これを安全限界に引き下げて,全住民が,聴覚が最も敏感な周波数である4000Hzにおいて,5dBNIPTSを超えないように保護するための間欠騒音のレベルは,Leq(24)70dBである。
なお,山本は,Leq(24)に13を加算すると近似的にECPNLとなり,ECPNLに2を加算すると近似的にWECPNLとなるので,このLeq(24)70dBをWECPNLに換算するとおよそWECPNL85となると説明する。
(甲D77,78の4,5,E9の1,2,乙D18)
(キ) 他の飛行場周辺における騒音の影響に関する住民調査等
a 前記(5)ウ(ア)の住民健康調査研究会による北谷町住民に対する平成3年の自覚的健康度調査では,通常のTHI法の質問項目に加えて,「日ごろ耳の聞こえがわるいほうですか」という質問に対する回答状況も集計している。
その結果は,同研究会は,「はい」と回答した者について,W値95群で最高で,続いてW値75~90群で高く,対照群で最低であると分析した(ただし,対照群が10.6%であるのに対し,W値75群で10%,W値80群で10.9%,W値85群で10%,W値90群で12.3%,W値95以上群が21.9%である。)。
同研究会は,W値95以上群で最高であったことなどから,航空機騒音によって聴力に影響が現れている可能性を示唆するものとしている。
(甲D4)
b 児玉は,昭和39年から昭和45年までの期間,横田飛行場周辺において航空機騒音の住民に及ぼす影響について調査を実施した。その中で,第2,第3年度に行った児童に対する聴覚検査の結果は,次のとおりである。
横田飛行場の近辺で騒音の激しい地域にある小学校の児童56名と,比較的騒音の低い地域にある小学校の児童41名の聴力損失の度合について,耳疾患のため聴力障害のあるものを除いて比較すると,前者の児童の方が後者の児童に比べ聴力損失度が大きかった。これなどから,児玉は,この聴力障害をもって,直ちに航空機騒音の結果と断定するわけにはいかないが,その可能性を大きいと考えた。
(乙D59)
c 財団法人航空公害防止協会は,航空機騒音の聴力に及ぼす影響を調査するため,岡田及び財団法人大阪国際空港メディカルセンターに委託して,昭和46年度から9年間にわたり聴力調査を行った。すなわち,東京,大阪両国際空港及び福岡空港周辺など環境騒音が激しいことが常識的に明らかに認められる兵庫県伊丹市地区(W値85以上)ほか5地区(有騒音地区)と,騒音がほとんど認められない岩手県宮古市郊外花輪地区の農村地帯ほか4地区(無騒音地区)について,同じ居住地に7年以上住んでいること,昼間も同じ地域にいる人で他の地区に勤務に出ないこと,満17歳から40歳までであること等の条件を満たす者を対象とし,伝音性難聴のある者及び騒音職歴や慢性中耳炎等による感音性難聴のある者を除き,250~8000Hzの純音域値検査を行った。
その結果,その成績を有騒音地区と無騒音地区とで比較すると,まず,①聞こえのレベルと年齢との間の相関係数からは,有騒音地区と無騒音地区の間に差が認められなかった。また,②4000Hzの低下度からみても,有騒音地区の合計では1432耳中32耳(2.1%),無騒音地区の合計では1303耳中36耳(2.7%)に低下がみられ,有騒音地区に低下例が多いという傾向はみられなかった。さらに,③聞こえの平均値の低下傾向も,有騒音地区にみられやすいということもなかった。
以上の結果を踏まえ,空港周辺などの騒音が純音聴力の年齢変化に影響を及ぼしてその衰退を促進するとは考えられないと結論付けられている。
(乙D27)
d 谷口を代表とする騒音被害医学調査班は,昭和61年及び昭和62年に,前記(5)ウ(ウ)と同様の小松基地騒音差止等訴訟の原告及びその家族の合計125名を対象にして聴力検査を行い,また,昭和62年に小松基地周辺の騒音地域(W値80~85の区域)から117名,非騒音地域から62名をそれぞれ選んで聴力検査を行った。
その結果は,同原告らのうち,いずれか1耳の難聴度が20dBを超える者は56名(44.8%)であり,また,30dB以上のc5-dipを示す者が27名(21.6%)であり,対象者を60歳以下の騒音職歴,耳疾患のない者55名に限定すると,1耳の難聴度が20dBを超える者は17名(30.9%),30dB以上のc5-dipを示す者は7名(12.7%)であり,また,上記騒音地域住民117名についても,1耳の難聴度が20dBを超える者が63名(53.8%),耳に30dB以上のc5-dipを示す者の人数が46名(39.3%)であり,対象者を60歳以下の騒音職歴,耳疾患のない者に限定すると,それぞれ10名(31.2%),7名(21.9%)となり,同原告ら及び騒音地域の住民が,非騒音地域の住民に比べ,統計上有意に高率であった。
また,上記一連の聴力検査を受けた304名から,全周波数について測定した262名を選び出し,そこから騒音職歴のある者,耳疾患のあった者,左右の平均聴力損失値(MAA)の差が10dB以上の者などを除いた上,年齢による聴力喪失の影響を考慮して50歳以下の者(騒音地域38名,非騒音地域26名)につき検討したところ,各周波数についての平均値及び平均聴力損失値について,いずれも騒音地域の集団の方が非騒音地域の集団に比べて大きく,統計上有意な差を示した。谷口らは,これについて多変量解析の数量化Ⅰ類法を用いて解析したところ,平均聴力損失値において騒音地域に係る係数が6.084であり,騒音地域は,非騒音地域に比べ約6dBの聴力損失があると考えられるとする。
(甲D104,105)
e 台湾高雄医学大学のツァンーチュウ・チェン(Tsan-Ju Chen)らは,平成4年(1992年)ころ,航空機騒音が学童の聴覚系機能に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,同じ小学校で教育を受けた6年生(明確な耳疾患の病歴を持つ児童を除く。)について,空港の飛行路の下にある小学校の児童228名と,空港から遠い小学校の児童151名を対象として,聴力検査を実施した。
聴力検査の結果は,飛行路の下にある学校の児童の聴力が有意に低いことを示した。また,それぞれの耳について0.5kHz,1kHz及び2kHzにおける平均聴力閾値を計算して純音平均(PTA)とし,4kHz,6kHz及び8kHzにおける平均聴力閾値を高純音平均(HPTA)とした上で,純音平均値,高純音平均値及び4kHzの閾値を比較したところ,飛行路の下にある学校の児童において有意に高いレベルを示すとする。
(甲D1,乙D48の1,2)
ウ 高血圧,頭痛,肩こりその他の身体的影響についての認定事実
括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 沖縄県調査の結果
a 沖縄県調査委員会は,前記(5)イ(ア)のとおり,平成7年10月から平成8年9月までの間,自覚的健康観に関するTHI調査を実施した。なお,沖縄県調査委員会は,THIの原版にある130の質問に加え,「耳のきこえ」等に関する合計5つの質問を加えている。
b 沖縄県調査委員会は,THI調査に,前記(5)ウ(ア)の住民健康調査研究会による北谷町住民に対する平成3年の自覚的健康度調査において行ったTHIの結果を加えた有効回答数合計7095通(うち普天間飛行場周辺地域の住民は1745通)について,年齢,性別構成が等しくなるように調整を行った上,WECPNL等を騒音暴露指標とし,騒音(WECPNL)以外に年齢(6分類),性別,職業(4分類),年齢と性別の交互作用をTHIの尺度に影響を及ぼす可能性のある因子(交絡因子)として取り上げ,しきい値(対照群における90パーセンタイル値を用いる。)を上回る比率に対して,多重ロジスティック回帰解析により各因子の影響を解析した。その結果は,次の表に示すとおりであった。

沖縄県調査委員会は,前記(5)イ(ア)aのとおり,「身体的自覚症状」に属する尺度として,「多愁訴」,「呼吸器」,「目と皮膚」,「口腔と肛門」及び「消化器」の5尺度を挙げているところ,このうち,沖縄県調査委員会による普天間飛行場周辺における身体的自覚症状に関する分析結果は,次のとおりである。
まず,①「多愁訴」の有意確率が0.7576で,「多愁訴」に関するオッズ比とW値に量反応関係は認められない。次に,②「呼吸器」に関しては,WECPNL80~85の群においてオッズ比の上昇傾向がみられるけれども,有意確率は5%をやや上回っている。また,③「目と皮膚」に関しては,尺度得点19(90パーセンタイル値)をしきい値とするとき,トレンド検定の有意確率が5%未満となり,暴露群のオッズ比は,WECPNL70~75,WECPNL75~80,WECPNL80~85のいずれの群においても1.5程度である。④「消化器」に関しては,オッズ比とW値に有意な関連は認められない。
c また,沖縄県調査委員会は,12尺度の尺度得点を因子分析することにより,尺度得点に関与する潜在因子を抽出し,その因子得点と航空機騒音暴露との関連を解析したところ,「身体的因子」に関しては,比較的低い騒音暴露レベルからオッズ比の上昇傾向があり,嘉手納飛行場周辺であるW値が95以上の群で,オッズ比が2以上となった。
d 沖縄県調査委員会は,THI調査結果の解析から,①種々の身体的自覚症状を訴える者の比率は,暴露レベル(WECPNL)に応じて高くなること,②12尺度に分類される自覚症状の中で,「身体的自覚症状」に属する尺度に関しては,「呼吸器」などでは,WECPNLが75未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響がみられるが,「多愁訴」,「消化器」などでは,WECPNLが90以上の暴露レベルの高い群においてのみ影響が認められること,③航空機騒音は,様々な自覚症状の訴え率を高めていることなどを結論付けている。
e また,沖縄県調査では,平成6年度及び平成7年度に,嘉手納飛行場及び普天間飛行場周辺の市町村で行われた老人保健法(当時の題名。以下このeにおいて同じ。)に基づく基本健康診査データを利用し,最高血圧(収縮期血圧),最低血圧(拡張期血圧),赤血球数,白血球数及び尿酸濃度の5項目について,航空機騒音の影響を解析している。
老人保健法による基本健康診査は40歳以上の住民を対象に市町村が実施する(市町村によっては,40歳未満の住民まで対象として実施するところもある。)ところ,沖縄県調査委員会は,各事業所の従業員については,労働安全衛生法に基づいた定期健康診断が行われるため,同基本健康診査を受診する者は,自営業,主婦などに限られる傾向があるため,得られた調査結果が住民全体を代表しているとはいえないが,暴露群及び対照群とも同一条件の呼びかけにより受診しているから,航空機騒音の影響を解析する場合には問題がないと考えている。解析は,多重ロジスティック回帰分析を用い,WECPNL(ただし,普天間飛行場及び嘉手納飛行場の同じWECPNLに居住する住民を合わせた区分である。),年齢,性別,年齢と性別の交互作用及びBMIを説明変数として,各年齢世代別(10歳ごとの区分)にしきい値を設け(なお,赤血球数,白血球数及び尿酸濃度については,男女別にしきい値を設けている。),各しきい値を超える比率に対する騒音の影響を解析した。
その結果,最高血圧及び最低血圧については,WECPNLの上昇に伴って,オッズ比の値が高くなっており,多少の凹凸はあるものの,顕著な量反応関係が認められる一方,赤血球数,白血球数には,オッズ比とWECPNLとの間に顕著な関連は認められず,また,尿酸濃度については,WECPNLが上昇するに伴い,尿酸濃度が低下する傾向を認めるとする。
なお,松井らは,平成14年,上記同様のデータを用いて,WHOの高血圧に関する旧診断基準(160/95mmHg(収縮期/拡張期)以上)に基づいて高血圧者の比率について分析を行った結果,WECPNLと高血圧のオッズ比の間には高度に有意な量反応関係があり,WECPNLが75~80の低暴露群においても有意な上昇が認められると結論付けている。
(甲D1,113,乙D43,証人松井)
(イ) 騒音の身体に及ぼす影響についての国際的見解について
a ICAOは,昭和44年(1969年)11月25日,カナダ国モントリオールの本部において,空港周辺における航空機騒音特別会議を招集し,29か国及び関係9団体の代表が参加して,同年12月17日まで航空機騒音の表現と測定法,航空機騒音に対する人体の受忍限度等について議論がされた。
同会議に出席した運輸省航空局飛行場部管理課(当時)の石野康太郎による報告の内容は,以下のとおりである。
飛行場周辺における航空機騒音と健康との関係については,現在までに各国で研究調査された結果によれば,飛行場周辺で航空機騒音を最大に受けることにより,一般的意味での肉体的,精神的に深刻な影響を受けるということを示す明確な証拠は現在のところないという結論に達した。これは,過去の研究努力の範囲及びその期間に限度があったため,一般生活上の緊張の影響や悪い健康状態に対する航空機騒音の微妙な影響を見いだせなかったためであるが,この欠点を補う意味での長期にわたる調査研究及び病気又は他の原因によって既に肉体的,精神的に悪い状態にある人々が航空機騒音によって受ける緊張度による影響等について,一層の研究努力を続けなければならないことが合意された。また,現在のところ,聴力に対しては,航空機騒音は障害を与えることにはならないとの結論になっているが,聴力障害の基準そのものが工場騒音や医学的聴力データに基づいて判断されたものであるから,たとえ航空機騒音のように断続する騒音は,一時的又は永久的聴力障害の危険性が非常に少ないという研究結果があっても,今後聴力保護基準を改善する方向で研究を進める必要があるとの結論を得た。そこで,ICAOは,飛行場周辺における航空機騒音が,健康及び聴力に有害であるということはまだ証明されていないが,その確認は,会議の知る限りでは,現在までに実施されたことがない長い期間の研究によってしかできないことが認められた。そのため,いくつかの締結国及びWHOを含む国際機関は,飛行場周辺で長期騒音に曝されている音源に関する影響についての医学的,心理学的研究を積極的に進め,かつ,協力することを要請するとの勧告をした。
(乙D9)
b アメリカ合衆国連邦環境保護庁(EPA)が昭和48年(1973年)7月27日に公表したEPAクライテリアの中には,自律神経システム等に及ぼす騒音の作用について,次のような記述がある。
騒音は,多くの異なる生理的反応を引き起こす。しかしながら,この反応を連続的に作用すると,回復不能の変化を起こしたり,永久的健康への影響をもたらすとする確証は存在しない。騒音暴露は,単独又はその他のストレス要因とあいまって一般的なストレス反応を発生させる。騒音暴露とストレス反応との関係もストレス反応の発生が想定される閾値の騒音レベル又はその期間についても解明がされていない。環境の中にみられるような適度の強さの騒音暴露が種々の形で心臓血管システムに作用するも,循環システムに及ぼすはっきりした永久的作用については立証されていない。騒音が循環障害,心臓病に寄与する要因と予想は科学的データの裏付けがされていない。
(乙D11,証人平松)
c カール・D・クライターは,昭和51年ころ,騒音が聴覚以外に及ぼす影響という論文の中で,それまでの各研究結果等を検討した結果,当面の結論として,自律神経によって媒介される騒音に対する無条件ストレス反応は,人に対し傷害を及ぼす危険はなさそうであることや,聴覚意志疎通及び睡眠を妨げ,又はそれによってストレス反応の直接原因となっているやかましさや怒りの感情を引き出すような生活環境における騒音の結果として,一部の人々には,自律神経系ストレス反応が不健康に寄与する一つの要因となり得るであろうことなどを指摘するとともに,この結論に十分な確信を持つためには一層の研究が必要であるとする。
(乙D12)
d カナダ国航空局が平成6年(1994年)ころに明らかにした「航空機騒音とその影響に関するレビュー」には,次のような記述がある。
騒音は心臓血管系を含む身体的機能に多くの一時的影響を持っている。例えば,高レベルの騒音バーストによって驚かされるならば,末梢血管の血管狭窄と血圧の関連する過渡的変化が生ずる。このような影響は,必ずしも有害ではなく,身体の様々な日常状況への単なる反応にすぎない。しかしながら,騒音が更に永久的な影響に導くストレス要因として,心臓血管に作用することがあり得るという示唆は頻繁にされてきた。
ニップシルト(Knipschild)の極めて顕著な研究は,航空機騒音の心臓血管系への重大な長期的影響を強く示唆する。しかし,彼の結果を支持する他の信頼することができる研究は非常に少ない。Thomson他による研究は,ニップシルトの研究方法論のいくつかの詳細を批判し,実験手順のいくつかの詳細を発表されなかったことを示唆した。これにより,これらの結果の完全な正当性に関してある程度不確実性がもたらされるが,完全にそれらを否定することができるわけではない。それらは全体として未来の研究で更に調査される必要がある問題となるパターンを形成する。他のグループについて,また,他の空港において,これらの結果を確証するために,更に研究を試みる必要がある。
(乙D15の1,2)
(ウ) 騒音の身体に対する影響についての学術研究等
a 呼吸器,循環器系機能に及ぼす影響
(a) 国立公衆衛生院生理衛生学部の田多井吉之介(以下「田多井」という。)らは,昭和39年12月,健康な24~29歳の男子大学生5名を被験者として,精神作業を行わせながら,平均レベル55,70,85ホンのあらかじめ録音した航空機騒音,工場騒音及び交通騒音と,対照としての30~40ホンのあらかじめ録音した市街地騒音とを,1日2時間,10日間暴露させ,血球及び副腎機能に及ぼす影響を中心に観察する実験をした。その結果,脈拍数及び血圧の変化には著明な差異を見いだせなかった。
また,田多井らは,昭和40年12月,健康な男子大学生5名を被験者として,対照,交通騒音,工事騒音について,上記と同様の三段階のレベルの騒音(対照群は35~45ホン)を30分の休止を挟んで前後30分ずつ暴露させる第2回目の実験を行った。その結果では,騒音暴露によって呼吸数の増加,脈拍数の減少がみられ,騒音レベルの上昇とともにこの反応が強まる傾向を示した。
(甲D36,37)
(b) 京都大学工学部衛生工学教室の陳秋蓉らは,平成3年ころ,18~28歳の青年男女25名に,刺激音としての白色騒音について,音圧レベルを60,70,80,90,100dBと順次上げ,又は下げて,各レベルごとに,30秒間の休止を挟みながら1回30秒間,合計15回ずつ暴露させ,最高血圧を測定する実験をした。
その結果,血圧上昇と白色騒音の音圧レベルの間には直線的関係が認められ,両者の相関係数は高く,また,血圧は,刺激音の音圧レベルに関わりなく,刺激音暴露開始後,上昇を始め,約10秒間でピークに達した後徐々に降下すると結論付けている。
(甲D45の1,2)
(c) そのほか,立川中央病院長木村正長らによって昭和31年ころに行われたウサギに航空機騒音を暴露させる実験の結果において,航空機騒音によって呼吸運動は一時的ながら影響を受け呼吸数が増加し,呼吸振幅が増大するとともに,心拍及び血圧に対しても航空機騒音の影響は存在し,一般に,心拍数が増加し心拍間隔が短縮し,かつ,血圧が一過性に上昇とするとの報告がある一方,同人らによって昭和32年ころ行われた同様の実験の結果において,呼吸運動の変化率は,刺激回数が多くなるに従い小さくなり,同一実験を連日行うと順応がみられるとの報告がある。
また,騒音の激しい職場で長年働いた人についても,話が全く聞こえない位の騒音を長期に暴露したサイロの労働者には,勤続が長くなると高血圧となる者が増加しているとする昭和48年の外国の報告がある一方,騒音の急性暴露による生理的反応として,末梢血管(収縮),脈拍,血圧を挙げられるとしつつ,その長期的影響の有無を確かめるために昭和50年に外国で行われた高度の騒音暴露歴のあるパイロットの調査をした結果により,対照群との間に,脈拍数は,変動の差があったものの,レベルの差がなく,血圧についても差がみられないとの報告や,90~95dBで600Hz以下の低音を長期に暴露した大型タンク車の運転手は,高血圧にならないとする昭和43年の外国の報告もある。
(甲D26,75,96)
b 血液に及ぼす影響
(a) 田多井らによる前記a(a)の実験のうち,昭和39年に最初にされたものでは,対照実験に比較して,騒音によって,総白血球数の増加が抑えられ,好酸球数は,減少が強められ,その後増加が抑えられ,また,好塩基球数の増加が強まった。騒音による影響は,55ホンで現し,85ホンで最も強かった。また,個人差が大きかった。
昭和40年にされた第2回目の実験では,騒音暴露直前と比べると,暴露直後の白血球数,好塩基球数は増加し,好酸球数は減少して,暴露後3時間には回復に向かった。しかし,対照群と有意差のあったのは,白血球数の増加のみであり,しかも,騒音の種類やレベルによる差は見いだし得なかった。
(甲D36,37)
(b) 長田らは,昭和47ころ,6人男子学生にピークレベル70~90dB(A)のジェット機騒音を2分又は4分に1回の割合で90分間暴露させる実験をした。
その結果,好酸球数と好塩基球数は,騒音により減少し,実験前の数を基とした後の減少度は騒音レベルが高いときほど大きく,4分に1回の時よりも2分に1回の時の方が大きかった。
また,長田らは,昭和48年ころ,19~24歳の健康な男子大学生6名に対し,中央値40dB(A),50dB(A),60dB(A)の自動車交通騒音を2時間又は6時間,携帯用テープレコーダのイヤホンから暴露させて採尿するなどの実験をした。
その結果,白血球は60dB(A)で有意に増加し,好酸球数は60dB(A)6時間暴露で減少後回復が有意に遅れた。
(甲D35,41,75)
c 内分泌系機能に及ぼす影響
(a) 三重県立大学医学部衛生学教室坂本弘は,昭和31年ころ,騒音の著しい紡績作業に従事する女子作業員が同作業により尿中17ケトステロイド(副腎皮質ホルモンのうち副腎性性腺ホルモンであって,尿中で測定されるものをいう。以下同じ。)の減少が生ずることを確認した後,健康な5名の男子を被験者とする騒音等の暴露による実験によって,騒音が尿中17ケトステロイドを減少させているなどと報告する。坂本は,これらの実験の結果等に,騒音暴露を暴露した場合に副腎皮質刺激ホルモンの分泌が減少することを併せ考え,騒音暴露による障害は,間脳-下垂体系に引き起こされると考えた。
また,同教室若原正男らによる昭和34年ころの19~22歳や21~25歳の健康男子に対する騒音の暴露による実験によっても,騒音の暴露による尿中17ケトステロイドの減少が認められ,その主な原因は性腺系のステロイド等の減少にあるなどの報告がされている。
(甲D43の1から3まで,D44の1,2,乙D36)
(b) 田多井らによる前記a(a)の実験のうち,昭和39年に最初にされたものでは,尿中17-OHコルチコステロイドについては,その増加により副腎皮質機能の亢進が推定されるところ,その増加は,55ホンでは対照と差がなかったものの,70ホンで最も大となり,85ホンのときはかえって減少した。そこで,田多井らは,副腎皮質からの分泌は騒音があるレベルまでは増加するが,それ以上の強い騒音では低下すると考えられるとする。
一方,昭和40年にされた第2回目の実験では,尿中17-OHコルチコステロイドの量に,対照と騒音,騒音の種類,レベルの間に有意差がなかった。
(甲D36,37)
(c) 長田らは,昭和48年ころ,19~24歳の健康な男子大学生6名のに対し,中央値40,50,60dB(A)の自動車交通騒音を2時間又は6時間,携帯用テープレコーダのイヤホンから暴露させて採尿するなどの実験をした。
その結果,尿中17-OHコルチコステロイドの量は,40dB(A)2時間及び6時間暴露,50dB(A)の2時間暴露で増加し,特に40dB(A)6時間暴露での増加が大きく,60dB(A)6時間暴露になると,かえって増加が抑制された。そこで,長田らは,副腎皮質が騒音によって刺激されるが,負荷レベルを超えるとかえって抑制されると結論付けている。
(甲D41,79の1)
d その他の身体的影響
消化器系機能に及ぼす影響として,人又は動物に航空機騒音を暴露させる実験により,騒音暴露による胃液分泌の変化,胃運動の抑制等の影響が現れたことが報告されている。
(甲D21,75)
(エ) 他の飛行場での住民調査等
a 前記(5)ウ(ア)の住民健康調査研究会による北谷町住民に対する平成3年の自覚的健康度調査において,同研究会が対照群,W値75~90群及びW値95群の3群間で尺度得点・判別値の平均値を分析したところ,3群間で有意差の認められた尺度得点・判別値は,前記(5)ウ(ア)のとおり,精神的訴えを示すものに多かった。また,同研究会は,通常のTHI法の質問項目に加えて,「ふだん自分で健康だと思いますか」という質問に対する回答状況も集計し,この質問に「いいえ」と回答する人員の割合につき,W値95群で最高で,続いてW値75~90群で高く,対照群で最低であると分析した(対照群が9.9%であるのに対し,W値75群で15.3%,W値80群で12%,W85群で11.2%,W90群で18.3%,W値95以上群が20.1%である。)。
同研究会は,以上の結果から,航空機騒音暴露によって健康にまで影響が生じている可能性を示唆されるとし,北谷町住民が,嘉手納飛行場の航空機騒音暴露によって精神的自覚症状を中心として心身の健康に影響を受けており,その影響は航空機騒音の暴露量が大きいほど強く現れるなどを結論付けている。
(甲D4,5)
b 財団法人航空公害防止協会が前記(3)ウ(ア)bのとおり財団法人大阪国際空港メディカルセンターに委託して昭和55年から昭和57年まで大阪,東京両国際空港及び福岡空港周辺において実施した調査のうち,昭和56年度及び昭和57年度の質問紙(THI等)による健康調査の結果は,身体的自覚症状に関しては,大阪空港周辺では,「多愁訴」,「消化器」の2尺度の尺度得点について,WECPNLの異なる3群間で尺度得点に有意差があり,特に20~30歳代の年齢層において,「下痢をすることがある」,「胃腸の具合が悪いことがある」などの消化器系に関する自覚症状についての訴えがW値の上昇に対応して増加していた。これに対し,東京国際空港及び福岡空港の各周辺では,WECPNLの異なる各群で有意差がある尺度得点はなかった。もっとも,いずれの地域でも,WECPNLが高い地域ほど,「多愁訴」,「消化器」に関する訴えが多かった。なお,同健康調査の対象者は,同協会が実施している巡回健康診断の受診者であり,同健康調査と対比するため,巡回健康診断による胸部X線,血圧,心電図,血球,血液化学,尿の各判定の結果をみると,東京国際空港周辺における心電図判定と尿判定の結果を除いては,W値による有意差が認められず,巡回健診で扱われる検査項目となっている循環器系と肝機能に関する限り,航空機騒音がストレス要因と考えられる影響はなかったと結論付けられている。
また,財団法人航空公害防止協会が実施した同調査のうち,個人別騒音暴露量調査は,空港周辺で生活する一般住民を取り巻く騒音環境を明らかにするため,大阪,東京国際空港及び福岡空港周辺に住む成人主婦(大部分が職業を持たない主婦)合計123名を対象として行われ,昭和55年度及び昭和56年度においては7日間,小型携帯用の等価騒音レベル計を身近に置き,又は外出の際には携帯する方法で,昭和57年度においては3日間,小型携帯用の等価騒音レベル計を身近に置く(ただし,人が屋内にいない場合の騒音レベルを明らかにするため,外出の際には等価騒音レベル計を室内に置いたままにした。)方法で,各人が実際に暴露されている音の10分ごとのエネルギー平均値が測定された。その結果,まず,各対象者の屋外における騒音レベルのLeqは,航空機騒音以外に大きな騒音源がない場合,地域のW値に対応した値を示していた。しかし,対象者が暴露された全ての音のエネルギーを24時間にわたって平均した値であるLeq(24)は,3空港間においても,また,各空港ごとのWECPNLの異なるグループ間においても,有意差はなく,大部分が60~65dB(A)の範囲内にあった。この結果を踏まえ,対象者の屋内での暴露量が,家屋により減退された屋外騒音と,屋内での人の話し声や家庭電気機器の作業音など対象者自らが関与している音のエネルギー和を時間平均した値であり,その24時間暴露量の大部分が60~65dB(A)の範囲内にあり,地域のW値の差が反映されていなかったことから,屋内における曝露量の大部分が対象者自ら関与している音によることを示しているとし,結局,地域住民がうるさく感じ,又は不快に感ずる屋外騒音は,屋内でのエネルギー量として表すときは極めて小さいものであることが明らかであると指摘する。
さらに,財団法人航空公害防止協会が実施した同調査のうち,生物学的評価調査は,上記巡回健康診断において高血圧と診断された女性399名(3空港周辺の騒音地域に居住)と一般女性24名(非騒音地域に居住)とを対象として,3年間にわたり,月経等に関するアンケート調査,血中ホルモン,尿中ホルモンの測定,寒冷による交換神経系の興奮度をみるための寒冷昇圧試験及び眼底検査として行われた。その結果,①空港周辺住民における月経不順,妊娠,出産の異常が多いとは認められず,②自律神経系の異常も,寒冷昇圧試験をみる限り,全体的にみて陽性率が高いとは考えられず,③上記寒冷昇圧試験の結果と,高血圧,眼底,尿中カテコールアミン値との間に何らの関係を見いだすことはできず,交感神経系の興奮と高血圧症との関係も見いだすことはできず,また,④航空機騒音地域の住民と対照地域の住民との間に,血中コルチゾール値や尿中17-OHコルチコステロイド値に差がないことから,騒音暴露による下垂体-副腎皮質系統の機能亢進状態があるとも考えられなかったとする。
これらの質問紙による健康調査,個人別騒音曝露量調査及び生物学的評価調査の各結果を総合して,騒音によるうるささや生活妨害などの訴えといったいわゆる心理的影響は,航空機騒音の高暴露レベル地域において明らかに強く認められ,それに対応した形で健康に関する自覚症状の訴えも増加していたが,臨床的検査結果に基づく客観的健康評価によると航空機騒音の影響は認められなかったと結論付けられている。
(乙D36)
c 前記(5)ウ(ウ)の谷口らの小松基地騒音差止等訴訟の原告及びその家族を対象する昭和61年及び昭和62年の一般健診の結果によると,頭痛など騒音との関連が深いと思われる症状を訴える者が多く,血圧の検査所見をみると,高血圧が12名(9.6%),境界域高血圧が23名(18.4%)であって,以上を合計した高血圧罹患率は,非騒音地域の調査における高血圧罹患率と比較して高く,また,血圧平均値についても,全年齢及び60歳以下のいずれにおいても,最高血圧,最低血圧ともに,非騒音地域に比べて高かった。これら原告及びその家族の集団に対するTHI調査による健康度調査の結果で,身体に関する影響に関し,男女とも「口腔と肛門」の項目の尺度得点が高く,男子では「消化器」,女子では「呼吸器」の各項目の尺度得点もやや高かった。
次に,谷口らの前記イ(キ)dと同様の騒音地域(W値80~85の区域)の住民117名及び非騒音地域の住民62名を対象とした昭和62年の健康診断の結果によると,高血圧及び境界域高血圧を合計した高血圧罹患率や血圧平均値は,最高血圧,最低血圧ともに,全年齢及び60歳以下のいずれにおいても,非騒音地域に比べて高く,原告家族集団と同様の傾向を示した。
(甲D104,105)
エ 身体的被害についての検討
(ア) 原告らの供述
原告らの中には,本件航空機騒音により,原告X61には耳鳴り,不整脈,動悸等の症状があるパニック障害が,原告X65には片側の耳が聞こえにくい難聴が(甲B2の2,原告X61),原告X120には左耳の耳鳴りが(甲B2の8,原告X120),原告X112には肩こりが(原告X112),原告X142には動悸,不整脈,左耳の難聴又は耳鳴りが(甲B2の5,原告X142),原告X56には頭痛,耳鳴りが(甲B2の7,原告X56),原告X3には肩こり,胃腸障害,耳鳴りが,原告X4には難聴が(甲B4,原告X3),原告X48には難聴,耳鳴り,高血圧が(甲B2の1,原告X48),それぞれ生じているなどと供述し,又は陳述書に記載する者がいる。
(イ) 聴覚障害について
難聴,耳鳴り,その他の聴覚に関する障害(以下「聴覚障害」という。)については,普天間飛行場周辺地域ではないものの,沖縄県調査は,前記イ(エ)の認定事実のとおり,12例の被験者の聴力損失の主因が航空機騒音であると疑われるとの結論を導いている上,前記イ(オ)及び(キ)の認定事実のとおりの各種調査結果など,一定の騒音の継続的暴露によって,聴覚障害の発生する可能性を示唆するものもみられる。また,前記(2)アのとおり,騒音は,まず耳から入り,内耳感音器に影響を与え,強ければ,一時的又は永久的な難聴(聴力低下)を起こすと説明されているから,聴覚障害が騒音に特有な特異的作用であり,直接作用であるといえるため,聴覚障害の発生の危険性に対する不安感等は,一般的に生じやすいものであると想定することもできる。そして,原告らの中には,前記アの認定事実のとおり,現に聴覚障害を訴える者があり,その割合は,定型陳述書を提出した者のうち,難聴については28.5%,耳鳴りについては41.4%に上っている。そのため,原告らの一部には,普天間飛行場周辺における米軍機の飛行の状況,原告らの居住位置によっては,本件航空機騒音により聴覚障害の発生する危険性がある状況で生活しなければならないことから生ずる聴覚障害の発生に対する不安感等の精神的苦痛が生じているとみる余地はある。
しかし,聴覚障害を訴える原告らの中には,原告X3は耳鳴りの症状がなくなり,また,原告X4の難聴は病院では異常がないと言われ(原告X3),原告X56も耳鳴りにつき病院に行っていない(原告X56)と供述する者があるなど症状が消失した者,医師から病気との診断を受けていない者,医師の診断を受けていない者もあり,診断書等の客観的資料がないため,その症状の存在及び程度は必ずしも明らかではなく,一定の聴力閾値の上昇の程度を明らかにする資料もないから,原告ら中に聴覚障害がある者がいることを客観的に裏付ける証拠があるとはいえない。
また,難聴の原因としては,中耳炎や他の病気でも起こり,40歳以上になると耳が遠くなるとの指摘があるなど,騒音のほかにも加齢による影響その他様々な原因がある(甲30,乙D20から22まで)上,原告X120も,医師から耳鳴りの理由は分からない旨の話を受け(原告X120),原告X48も医師に本件航空機騒音が原因でないかというと医師からそればかりではないのではないかと話を受けた(原告X48)と供述している。また,前記イ(ア)及び(イ)の認定事実のとおり,騒音性難聴は,騒音の暴露歴に加え,c5-dipと呼ばれる4kHz付近の聴力喪失が初期の重要な特徴とされて,それが左右両耳に現れるところ,原告らの中にこの左右対称のc5-dipが確認される者がいることを裏付ける証拠もない。そのため,原告らの中に聴覚障害がある者がいるとしても,その原因が本件航空機騒音によることを裏付ける証拠はない。
さらに,航空機騒音の場合,前記イ(オ)dの認定事実のとおり,短時間で聴力が回復するとの指摘もあるところ,前記2(3)ウ(イ)及び(ウ)本件航空機騒音の実態のとおり,その発生回数や騒音の大きさは必ずしも一定していないことに照らすと,本件航空機騒音による一時的聴力損失があるとしても,その聴力回復の有無,程度等も容易に把握することができない。しかも,山本は,自らの実験の結果やその他の文献から,WECPNL85が聴力障害が発生する危険性がある数値であると指摘していること(甲D78の4,E9の1,2,E11),沖縄県調査において,北谷町砂辺で聴力損失ありと確認された9名は,前記イ(エ)dのとおり,いずれもWECPNL85~100に居住しており,かつ,そのうち,WECPNL85~90に居住しているものは1名にすぎないこと,さらに,沖縄県調査のTHI調査の結果においても,前記イ(ウ)及び(エ)dの認定事実のとおり,普天間飛行場周辺住民に関しては,耳の聞こえに関する質問につき対照群との間に有意な差が検出されていないことなどの事情に照らすと,原告らが居住し,又は居住していたWECPNL75~85の本件コンターの区域において,聴覚障害を生ずる危険性があるということはできない。
これに対し,原告らは,本件コンターのW値が全体的に過小評価されているので,コンターのW値が嘉手納飛行場周辺よりも低いことから,普天間飛行場周辺において聴力障害を生ずる危険性がないとはいえないなどと主張するけれども,原告が主張する過小評価の程度はそもそも2.5程度にすぎないから,原告らに共通する被害に関する主張としては,それ自体で採用することができない(なお,前記2(5)ア(イ)のとおり,本件コンターのW値が原告ら主張のような全体的に過小評価されているとは認められない。)。
また,耳鳴りについては,その本態が医学的に解明されておらず(乙D26),耳鳴りの被害の程度や性質を個別に判断するだけの資料はなく,これを客観的に把握することは困難である。
以上のとおり,①原告らの中に聴覚障害がある者がいることを客観的に裏付ける証拠があるとはいえないこと,②原告らの中に聴覚障害がある者がいるとしても,その原因が本件航空機騒音によることを裏付ける証拠もなく,航空機騒音による聴力障害が発生する危険があるとの指摘もWECPNL85以上の区域にとどまっており,原告らが居住し,又は居住していたWECPNL75~85の本件コンターの区域において,聴覚障害を生ずる危険性があるとはいえないこと,③耳鳴りを客観的に把握することは困難であることなどを考慮すると,原告らの中に難聴,耳鳴りを訴えている者が少なくないことを考慮しても,原告ら主張のように本件航空機騒音により聴覚障害の発生する危険性があるということまではできない。
したがって,聴覚障害の発生に対する不安感等の精神的苦痛については,本件航空機騒音により聴覚障害の発生する危険性があるといえないから,本件航空機騒音による原告らの共通する被害として認めることはできないというべきである。
(ウ) 聴覚障害以外の身体的被害について
聴覚障害以外の高血圧又は頭痛,肩こり等の身体的被害については,原告らの中には,前記アの認定事実のとおり,高血圧,頭痛,肩こりなどの症状を訴える者が少なくなく,その割合は,定型陳述書を提出した者のうち,高血圧については19.4%,頭痛については38.2%,肩こりについては24.2%に上っている。
そして,航空機騒音によってこれらの身体的症状が発現する生理的メカニズムについては,前記(2)アのとおり,騒音が起こした情緒妨害等が亢ずると,ストレス反応として,視床下部や自律神経系を介して交感神経系緊張反応をもたらし,視床下部,下垂体から内分泌系へ影響を起こして,また,視床下部から自律神経系を介して循環器等に影響を及ぼすなどと説明がされている。
このように,これらの身体的症状は,ストレス反応として生ずるものであるから,航空機騒音による要因だけでなく,個人が抱える身体的又は精神的な要因や,その個人を取り巻く社会的,経済的な要因によっても生ずることがあるといえる。しかも,前記ウ(イ)の認定事実のとおり,昭和40年から昭和51年ころまでは,航空機騒音による健康状態に対する悪影響は見いだせていないとするのが国際的に一般的な見解であった上,前記ウ(ウ)の各種調査研究においては,騒音と高血圧の関係を肯定する研究がある一方,これを否定する研究もあるなど結果はまちまちであるから,騒音暴露量と身体的症状との間の関係が解明されているともいい難い。原告らの中には身体的症状について医師の診察を受けた者がいるものの,医師からは,原告X61がパニック障害の原因は決められない旨の話を受け(原告X61)原告X112も肩こりの原因について何も言われていない(原告X112),原告X142もストレス性不整脈の原因について聞いていない(原告X142)と述べているなど原告らの身体的症状の原因を本件航空機騒音にあることを裏付ける直接的な証拠はない。また,前記ウ(ア)の認定事実のとおり,沖縄県調査によっても,身体的影響と本件コンターのW値との関係について,「呼吸器」などでは,WECPNL75未満の比較的低い騒音暴露レベルから影響をみられるが,「多愁訴」,「消化器」などではWECPNLが90以上の暴露レベルの高い群においてのみ影響がみられると結論付ける上,その「呼吸器」についても,普天間飛行場周辺地域においては,WECPNL80~85の群においてオッズ比の上昇傾向がみられるけれども,有意確率は5%をやや上回っていると指摘されているにとどまるから,必ずしも明瞭な量反応関係があるというものではない。そうすると,原告らの中に本件航空機騒音のみが原因となって高血圧や頭痛,肩こり等の身体的被害が生じている者がいると認めることまではできない。
しかしながら,ストレスによる交感神経活性の増加は,高血圧症の発症において重要であると考えられていると指摘があり(乙D64),また,松井が,ストレスによって自律神経系の交感神経の機能が亢進し血管が収斂することにより血圧が上昇するほか,内分泌系においても,副腎髄質が刺激されることによってアドレナリンの分泌が進み,同時に血管を収縮させ,血圧が上昇するなどと説明する(甲D113,乙D41)など,ストレスが高血圧,頭痛,肩こり等の原因又はこれを悪化させる原因となることは広く知られているから,航空機騒音によるストレスが原因となり,又はその原因の一つとなって,高血圧や頭痛,肩こり等の身体的被害を生ずる危険性があることはうかがわれる。しかも,前記ウ(イ)の認定事実のとおり,昭和40年から昭和51年ころまでの国際的に一般的な見解は,その後に明らかにされた見解を含めて,過去の研究努力の範囲及びその期間に限度があったため,当時では,騒音の健康に対する影響を見いだせなかったとしているものにすぎず,これを否定したものではなく,騒音が様々な生理的反応を引き起こすことやストレス反応が健康に影響を与えることを示唆している上,前記ウ(ウ)の認定事実のとおり,騒音と血圧の変化との関係を否定する実験もあるものの,騒音と,血圧,呼吸数及び脈拍数,白血球数,好酸球数及び好塩基球数並びに副腎皮質からの分泌との関係を示唆する実験も少なくない。また,前記ウ(ア)の認定事実のとおり,沖縄県調査の結果では,血圧が,WECPNLとの顕著な量反応関係があるとされ(なお,被告は,沖縄県調査の住民健康診断データについて,受診率等が地域によって異なり得るので,地域の住民全体の健康状態やその傾向を把握することができず,また,40歳以上の住民を対象としているのに,40歳未満の者のデータも取り混ぜて分析しており,データの抽出,分析の信頼性に疑問があると主張するけれども,受診率等が地域によって異なることを裏付ける証拠がない上,沖縄県調査委員会において,前記ウ(ア)eの認定事実のとおり,得られた調査結果が住民全体を代表しているとはいえないが,暴露群及び対照群とも同一条件の呼びかけにより受診しているから,航空機騒音の影響を解析する場合には問題がないと考えていることが直ちに誤りともいえず,また,高齢者の医療の確保に関する法律(昭和57年法律第80号。沖縄県調査当時の題名は,老人保健法)20条も40歳未満の者を対象とすることを否定する趣旨とは考えられず,さらに,40歳未満の者のデータを取り混ぜて分析したとしても,分析においては,前記ウ(ア)eの認定事実のとおり,各年齢世代別(10歳ごとの区分)にしきい値を設け,各しきい値を超える比率に対する騒音の影響を解析しているので,沖縄県調査報告書における血圧とWECPNLとの顕著な量反応関係があるとした部分について信用性がないともいうことができないので,被告のこの主張を採用することはできない。),また,身体的自覚症状を訴える者の比率は,WECPNLに応じて高くなるとされている。これらの事情に上記のような原告ら及び前記ウ(エ)の認定事実のとおりのその他の飛行場周辺住民の自覚症状の訴え,前記2のとおりの本件航空機騒音の実態におけるその程度や頻度等並びに前記(3)及び(4)のとおりの生活妨害や睡眠妨害に伴う精神的苦痛の程度及び前記(5)のとおりの本件精神的被害の程度を併せ考慮すれば,原告らには,本件航空機騒音が原因となり,又はその原因の一つとなって,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害が生ずる危険性が相当程度あるということができる。
そして,このような本件航空機騒音が身体に対し及ぼす影響は,ストレス反応としての間接的なものであるため,生活妨害,睡眠妨害に伴う精神的苦痛及び本件精神的被害による二次的な影響といえる以上,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等といったその危険性を帯有する心理的現象の被害も,原告らの各居住地における本件コンターのW値の区分が高いと大きくなるということができる。
また,人の生理反応は,複雑であり,また個人差もあるから,原告らのすべてにとって,本件航空機騒音がストレス因子となるとは限らず,上記の原告らの訴え率をみても,身体的症状が生じないこともあると考えられるけれども,ストレス因子とはならず,又は具体的な症状として現れない場合であっても,これらの者が高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生する危険性がある状況で生活しなければならないことから生ずるこの身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を受けているという点では,原告ら全員に共通しており,このような身体的被害の危険性を帯有する心理的現象も原告ら全員が最小限度等しく受けているということができる。
もっとも,本件航空機騒音がストレス反応として身体に対し及ぼす影響は,上記のように,生活妨害,睡眠妨害に伴う精神的苦痛及び本件精神的被害による二次的な影響とみるべきものであり,また,このようなストレス反応の原因の可能性がすべて本件航空機騒音にあるとはいえないから,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を原告らに共通する被害として捉えるものの,その被害の程度は,生活妨害,睡眠妨害に伴う精神的苦痛や本件精神的被害に若干加味する程度のものにとどまるとみるべきである。
したがって,原告らは,本件航空機騒音により,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生する危険性がある状況で生活しなければならないことから生ずるこの身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて等しく受けているということはできる。
オ 身体的被害についてのまとめ
以上によれば,原告らは,本件コンター内に居住する間,本件航空機騒音により,聴覚障害の発生の危険性があるとはいえないので,聴覚障害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を受けているということはできないけれども,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて等しく受けているということができる。
(7) 低周波音による被害
ア 低周波音の心身に係る影響についての認定事実
(ア) 環境庁大気保全局(当時。以下この(ア)及びイにおいて同じ。)は,長田,山本らを委員とする「低周波空気振動調査検討会」において,昭和51年度から昭和58年度までに,低周波空気振動に係る苦情の実態等にかんがみ,低周波空気振動の実態とその人体に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,低周波空気振動の主要な発生源周辺等における実態調査及び低周波空気振動の及ぼす諸影響に関する調査を行った。
環境庁大気保全局は,昭和59年12月,この調査の結果を取りまとめ,「低周波空気振動調査報告書」として明らかにした。
同報告書は,低周波空気振動を用いた被爆者暴露実験などの結果のまとめとして,以下のとおり,一般環境中に存在するレベルの低周波空気振動では,人体に及ぼす影響を証明し得るデータは得られなかったとした上で,一般環境中においては,低周波空気振動と可聴音は複合して存在しており,今後は低周波空気振動と可聴音を複合した条件下での生理的影響,心理的反応等に着目した調査研究を進め,低周波空気振動の及ぼす諸影響について更に解明することが必要であるとしている。
a 生理的影響
① 心拍数,呼吸数,まばたき数については,かなり高いレベル(例えば10Hz・110dB)の低周波空気振動の暴露によっても,その変化は一定の傾向を示さず,有意な変化は見られなかった。
② 血圧については,10Hz・110dB,20Hz・100dB,40Hz・90dBの低周波空気振動の被験者暴露実験を行ったところ,10Hz・110dBの暴露条件の収縮期血圧に有意な変化を得たのみで,それ以外の暴露条件下では有意な変化は得られなかった。この実験に用いた暴露条件下では,低周波空気振動の血圧に及ぼす明確な影響を把握するには至らなかった。
③ 脳波誘発電位については,100Hz以上の高い周波数領域の方が反応ありの割合が高いという結果が得られ,音圧レベルと反応の有無に関しては明確な関係は得られなかった。
④ ストレス反応(尿中ホルモン量)については,定常純音の低周波空気振動では,かなり高いレベル(例えば10Hz・110dB)の暴露によっても,有意な変化は見られなかった。全般的にみて,この実験に用いた暴露条件下では低周波空気振動が副腎機能に対して大きな影響を与えるという結果は得られなかった。
b 睡眠影響
一般環境中に存在するレベルの低周波空気振動の暴露では,睡眠に対する影響は現れなかったが,これより高いレベル(例えば10Hz・100dB)の低周波空気振動によって浅い睡眠に影響が現れ始めるという結果が得られた。
(乙D7)
(イ) 環境省環境管理局大気生活環境室は,平成14年3月,「低周波音防止対策事例集」をまとめた。
「低周波音防止対策事例集」は,低周波音の対策を考える場合に参考になるような具体的な例を示すことにより,行政の一助とすることを目的するものであり,その中には,低周波音による心理的苦情,生活的苦情について,次のような記載がある。
心理的苦情は,低周波音が知覚されてよく眠れない,気分がイライラするといった苦情である。生理的苦情は,頭痛・耳鳴りがする,吐き気がする,胸や腹を圧迫されるような感じがするといった苦情である。心理的苦情・生理的苦情が低周波音を原因とする場合には,20Hz以下の超低周波音による可能性と,20Hz以上の可聴域の低周波音による可能性が考えられる。このうち,超低周波音によって心理的苦情,生理的苦情が発生している場合には,物的苦情も併発していることが多く,建具等の振動によって二次的に発生する騒音に悩まされる場合もある。可聴域の低周波音の場合は,非常に低い音が聞こえ,又は感じられることによって,上記のような苦情が発生することが多い。
また,その中には,低周波音の卓越周波数と苦情の内容について,次のような記載がある。
苦情発生時の低周波音の卓越周波数は,おおよそ3~50Hzの範囲に分布している。心理的又は生理的苦情については,苦情発生時の低周波音がいずれも可聴域の低周波音成分が卓越している。
(乙D8)
(ウ) 環境省環境管理局大気生活環境室は,平成16年6月,地方公共団体における低周波音問題対策に役立てるために,「低周波音問題対応の手引書」を公表した。
「低周波音問題対応の手引書」は,固定発生源から発生する低周波音について苦情が発生した場合に,苦情内容の把握・測定を行い,低周波音問題対策のために評価指針に基づき評価することにより,低周波音問題の解決に至る道筋を示すものであり,その中には,心身に係る苦情の場合の評価につき,次のような記載がある。
発生源の稼働状況と苦情内容に対応関係がある場合で,①G特性音圧レベルが,評価指針で示される92dB以上の場合は,超低周波音の周波数領域で問題がある可能性が高い,②1/3オクターブバンドで測定された音圧レベルと,次の図の心身に係る苦情に関する参照値を比較し,測定値がいずれかの周波数で同参照値以上であれば,その周波数が低周波音苦情の原因である可能性が高い。この2項目の評価方法によって,どちらかでも同参照値以上であれば,低周波音(超低周波音を含む。)の問題があると考えられる。
なお,この参照値については,ほとんどの苦情が屋内で起こることを考え,参照値は,屋内の測定値を適用することとし,また,低周波音に関する感覚については,個人差が大きいことを考慮して,大部分の被験者が許容できる音圧レベルを参照値としたと解説されている。
同参照値と低周波音の1/3オクターブバンド音圧レベルとの関係を図で表すと,次の図のとおりとなる。

(乙D6)
(エ) WHOが平成11年(1999年)に特定の環境と重要な健康影響ごとにまとめた環境騒音のガイドラインには,「低周波成分を含む騒音の場合,より低いガイドライン値が適用されるべきである」との記述がある。
(甲D108)
イ 低周波音の物的影響についての認定事実
(ア) 環境庁(当時)は,昭和52年ころ,実験室において,建具に低周波音を照射して次第に音圧レベルを上昇させて,建具のがたつき始める音圧レベルを調べる実験をした。その結果,建具は,周波数が低いほど小さな音圧でがたつきやすく,揺れやすいものでは,5Hzで70dB,10Hzで73dB,20Hzで80dB辺りからがたつき始めるという結果を得た。
(乙D5,6,8)
(イ) 西脇仁一は,昭和53年10月に行われた文部省(当時)科学研究費「環境科学」特別研究シンポジウム「音環境はいかにあるべき-騒音環境を中心にして-」の中の「機械工学と音環境」と題する論文において,「一般に,約35Hz程度以下の周波数の音圧波が,民家で70dB以上の強さでくると,日本の家屋のあるガラス戸がどうかすると共鳴して,ガタガタと二次騒音を発生する場合が多い。これは日本の家のガラス戸はその大きさや取り付け寸法で変わるが,一般に数Hz~35Hzぐらいの共鳴振動数を持っているからであろう」と指摘する。
(甲D16)
(ウ) 前記ア(ア)のとおり環境庁大気保全局が昭和59年に調査研究を取りまとめた「低周波空気振動調査報告書」には,まとめとして,低周波空気振動によって,建具のがたつきが発生する場合があることが確認されたものの,建具の構造,材質,取付け状態等によってがたつきが発生しやすい周波数,音圧レベルは異なり,低周波空気振動の音圧レベルだけで建具ががたつくか否かを一概には判断できないことが分かったと記載されている。
(乙D7)
(エ) 環境庁大気保全局が平成12年10月に明らかにした「低周波音の測定方法に関するマニュアル」には,物的苦情について,「物的苦情は,音を感じないのに戸や窓がガタガタする,置物が移動するといった苦情である。物的苦情が発生する場合は,低周波音では,20Hz以下の卓越周波数成分をもつ超低周波音による可能性が高い。なお,物的苦情は低周波音だけでなく地面振動によっても発生する場合があるので,低周波音と地面振動の両方の可能性を考えておく必要がある。」や「これまでの研究結果によれば,揺れやすい建具の場合,20Hz以下では人が感ずるよりも低い音圧レベルでがたつくことがわかっている。」との記載がある。
(乙D5)
(オ) 前記ア(イ)のとおり環境省環境管理局大気生活環境室が平成14年にまとめた「低周波音防止対策事例集」の中には,次のような記載がある。
まず,低周波音の物的苦情として,物的苦情は,音を感じないのに戸や窓がガタガタする,置物が移動するといった苦情である。物的苦情が発生する場合は,低周波音では,20Hz以下の卓越周波数成分をもつ超低周波音による可能性が高い。なお,物的苦情は低周波音だけでなく地面振動によっても発生する場合があるので,低周波音と地面振動の両方の可能性を考えておく必要がある。これまでの研究結果によれば,揺れやすい建具の場合,20Hz以下では人が感ずるよりも低い音圧レベルでがたつくことが分かっている。
また,苦情の内容について,文献に取り上げられた低周波音の苦情は物的苦情が多数を占めている。苦情内容別にみると,物的苦情のほとんどは,建具のがたつきによるものである。物的苦情は,ほとんどが可聴域以下の周波数域で発生している。
さらに,地方公共団体の対策指導事例の中には,「航行中のヘリコプターが低空操縦しているようで,騒音,窓硝子振動があり,生活しても,いつ墜落してくるか不安である」との苦情が寄せられたが,発生源が上空のため,個々の感覚があり調査結果は見いだせなかったとするものがある。
(乙D8)
(カ) 前記ア(ウ)のとおり環境省環境管理局大気生活環境室が平成16年に公表した「低周波音問題対応の手引書」の中には,物的苦情の場合の評価につき,1/3オクターブバンドで測定された音圧レベルと,次の図で示す物的苦情に関する参照値と比較し,測定値がいずれかの周波数で同参照値以上であれば,その周波数が苦情の原因である可能性が高いとの記載がある。
同参照値と低周波音の1/3オクターブバンド音圧レベルとの関係を図で表すと,次の図のとおりとなる。

(乙D6)
ウ 低周波音による被害についての検討
(ア) 低周波音の心身に係る影響について
原告らの中には,本件低周波音により,動悸,不整脈が生ずると供述し,又は陳述書に記載する者がいる(甲B2の2,原告X61)ところ,原告らは,頭痛,不眠,イライラ等のいわゆる不定愁訴は,本件低周波音による被害の典型的な症状であると主張する。
しかし,前記ア(ア)の認定事実のとおり,低周波音が人体に及ぼす生理的な影響については,明確な関連性を示す実験データがないのみならず,沖縄県調査のTHI調査の結果をみても,前記(6)ウ(ア)のとおり,普天間飛行場周辺においては,多愁訴(足がだるい,横になりたい,頭が重い,ぼんやりする,痛い,肩がこる,体がだるい,熱っぽいなどの不定愁訴)に関するオッズ比と本件コンターのW値に量反応関係がみられないとされ,沖縄県調査委員会も,多愁訴については,WECPNLが90以上の暴露レベルの高い群においてのみ影響が認められると結論付けている。
一方,原告らは,普天間飛行場周辺住民が嘉手納飛行場周辺住民と比べ高い被害感を訴えている原因につき,本件航空機騒音に限定すると説明が困難であるが,本件低周波音の影響を加味して検討すれば容易に説明することができることから,本件低周波音は,本件航空機騒音と相まって原告らに「広義の健康被害」をもたらしているといえると主張する。
確かに,原告ら主張のように,沖縄県調査における会話妨害等の生活妨害やうるささ,被害感,イライラ感の反応率は,前記(3)イ並びに(5)イ(イ)及びエのとおり,W値が同一の区域において,普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも,高いといえる。その原因としては,証人平松及び証人松井は,①本件低周波音による影響があること及び②本件コンターを作成する際に計算ミスのため本件コンターのW値が全体的に過小評価されていることを指摘する外,証人平松において,③ヘリコプター音の独特の音質によることを,また,証人松井において,④本件コンターの指定時と沖縄県調査の時の騒音の違いや⑤嘉手納飛行場は,普天間飛行場よりも,夜間の騒音で迷惑を受けている比率が高いことを指摘する。そして,ヘリコプター,プロペラ機,ジェット機の順で低周波音dB(G)と騒音dB(A)のレベルの差が相対的に大きいとの指摘(甲C21,49,50)を考慮すると,前記2(3)の認定事実のとおり,常駐機にヘリコプターが多い普天間飛行場周辺において,嘉手納飛行場周辺よりも低周波音による影響が相対的に大きいという余地がある。
しかしながら,証人平松及び証人松井は,上記の原因らのうち,証人平松が「決定的なことを申すだけのデータ」はなく,証人松井も「どれが大きいかと言われる」と「断言はできない」と証言するところ,まず,証人平松及び証人松井が上記原因の一つとして指摘する本件コンターのW値が全体的に過小評価されているということは,前記2(5)ア(イ)のとおり認められない。これに対し,原告らの中には,ヘリコプターの音はジェット機の音よりもイライラ感や不快感が強いと供述し,又は陳述書に記載しており(甲B2の7,原告X3,原告X48),沖縄県調査報告書が指摘するように「普天間飛行場周辺においては,ヘリコプター騒音の発生頻度が高く,住民反応の面で,固定翼機からの騒音と違いがある可能性もある」ともいえる。また,沖縄県調査委員会は,前記(4)イ(イ)の認定事実のとおり,普天間飛行場では,嘉手納飛行場と同じWECPNLでも,夜間の飛行が少なく,昼間又は夕方の飛行が多いために,生活妨害の被害は相対的に大きく,睡眠妨害が少ないと解することができると指摘しているところ,WECPNLでは前記前提事実2及び4並びに前記2(1)の認定事実のとおり夜間の時間帯補正が加算されることから,夜間の飛行が少ない飛行場周辺では,W値がその分低い数値となること,夜間の飛行が少ない飛行場周辺が夜間の飛行が多い飛行場周辺とW値が同一の区域であることは航空機騒音のピークレベル(音の強度)や飛行回数に格別の差がない限りその分昼間の飛行が多いといえること,普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも夜間の飛行が相対的に少ないことがうかがわれる(甲D1,乙D41,証人松井)こと,そのため,昼間の航空機騒音の暴露状況はW値が同一の区域であれば普天間飛行場の方が嘉手納飛行場よりも相対的に高いという余地があることから,普天間飛行場周辺住民の方が嘉手納飛行場周辺住民よりも被害感等につき高い反応率を示しているとみる余地もある。これらの事情に加え,原告らが低周波音による被害と指摘する不定愁訴の訴えについては,イライラ感を除き,同じW値の区域においても,普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも,高いことをうかがわせる証拠はないことにかんがみると,被害感等の反応率が,普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも高い原因は,証人平松が可能性の一つとして指摘するように,普天間飛行場に多いヘリコプターの発する騒音の特質による影響にあるとみるか,証人松井が可能性の一つとして指摘するように,昼間における航空機騒音の暴露状況が,W値が同一の区域であれば,普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも相対的に高いことによる影響にあるとみるのが自然であって(もっとも,沖縄県調査が平成8年9月から平成9年8月末までの県測定局の測定結果に基づき検討したLdnに対してうるささに関する質問に対する回答との関係を検討した結果では,本件コンターの定めたWECPNLを指標としたときにみられた普天間飛行場と嘉手納飛行場での反応率の差が縮小されていると指摘している(甲D1)ことから,上記の違いには,騒音暴露量の変化が影響している可能性もある。),原告ら主張のように,本件航空機騒音に限定すると説明が困難であるが,本件低周波音の影響を加味して検討すれば説明することができるということはできない。
また,前記2(4)エ及びオの認定事実によれば,本件低周波音の中には,環境省環境管理局大気生活環境室が平成16年6月に示した「低周波音問題対応の手引書」で低周波音の問題があると考えられるとされる92dB(G)や同「低周波音問題対応の手引書」による心身に係る苦情に関する参照値を超えて発生しているものもあると認められるけれども,同「低周波音問題対応の手引書」は,前記ア(ウ)の認定事実のとおり,固定音源から発生する低周波音に対象を限定しており,本件低周波音のような固定音源でない低周波音の及ぼす心身に係る影響については,一定の時間継続することが想定されている固定音源とは事情を異にすると想定することもできるので,このような事情のみでは,これを認める足りる的確な証拠があるとはいえない。
以上のとおり,①沖縄県調査の結果によっても,普天間飛行場周辺住民の訴える多愁訴と本件コンターのW値との間には量反応関係がみられないこと,また,②普天間飛行場周辺住民が嘉手納飛行場周辺住民と比べ訴える被害感等が高い原因についても,普天間飛行場周辺に多いヘリコプターの発する騒音の特質による影響又は昼間における航空機騒音の暴露状況がW値の同一の区域においては普天間飛行場周辺の方が嘉手納飛行場周辺よりも相対的に高いことによる影響にあるとみることができるので,原告らの主張のように,本件航空機騒音に限定すると説明が困難であるが,本件低周波音の影響を加味して検討すれば説明することができるともいえないこと,③本件低周波音のような固定音源でない低周波音の及ぼす心身に係る影響を認める足りる的確な証拠がないことからすると,原告らの中に不定愁訴を訴える者がいるとしても,それが本件低周波音の影響によるものであると認めることはできない。
したがって,原告らには,本件低周波音により,不定愁訴の被害を受けていると認めることができないのみならず,本件低周波音が本件航空機騒音と相まって原告らの不定愁訴の身体的被害を悪化させていると認めることもできない。
(イ) 低周波音の物的影響に伴う精神的苦痛について
一方,原告らの中には,ヘリコプターが飛ぶと,家具,建て付けがガタガタする(原告X61),窓がガタガタと鳴る(原告X39),ヘリコプターが飛ぶと,障子がガタガタする(原告X120),ヘリコプターが低空で飛ぶと,ふすま,ドア,窓がガタガタするする(原告X142),ヘリコプターが近づくと窓ガラスがガタガタ揺れる音がする(原告X1),ヘリコプターが近づいてくるとアルミドアが振動する(原告X56),窓ガラス,食器棚等の家具が振動し,窓を閉めているときに大きい(原告X3),ヘリコプターやジェット機が飛んできたときに窓ガラスや本立てが振動する(原告X48)と供述している者がいる上,定型陳述書を提出した者のうち,家屋や家財道具の振動があると記載している者は,75.8%にも上っており(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。)),また,窓ガラス,ガラス戸及び棚の振動があることを個別に記載する者も少なくない(甲B1の19,21,31,34,40,44,56,66,70,75,80,81,95,120,129,130,132,138,140,144,146,149,156,168,176,184,187,193)。
また,前記イ(ア)の認定事実のとおり,環境庁(当時)が昭和52年に行った実験において,建具は,周波数が低いほど小さな音圧でがたつきやすく,揺れやすいもので,5Hzで70dB,10Hzで73dB,20Hzで80dB辺りからがたつき始めるという結果を得ているから,低周波音によって建具ががたつくことは一般的な知見となっているといえるところ,前記2(4)エ及びオの認定事実によれば,本件低周波音には,これらの数値や環境省環境管理局大気生活環境室が平成16年6月に示した「低周波音問題対応の手引書」で低周波音の問題があると考えられる物的苦情に関する参照値を超えているものがあるとうかがわれる。しかも,低周波音に対する建物による遮音効果は,騒音と比べ,相当小さいものとうかがわれる(甲C24,証人平松)。そして,同「低周波音問題対応の手引書」は,前記(ア)のとおり,固定音源から発生する低周波音を対象としているものの,建具等のがたつきについては,心身に関する影響と異なり,上記の環境庁による実験の結果等をみても,一定の時間継続することの影響を考慮すべきことをうかがわせるものはない。
他方,航空機騒音による家屋の振動については,大阪府立大学教授中川憲治が,昭和43年11月1日から昭和44年2月15日まで大阪国際空港周辺において航空機騒音による振動を調査した結果を踏まえ,航空機の通過によって,地面と家屋が共に振動し,かつ,振動の周波数が非常に高く,かつ,広範囲にわたって分布し(30~3000Hz),ほとんどの音圧レベルの周波数分布に対応していることなどから,航空機騒音が地上に達したときの音圧が直接励振力として働き,地面と家屋全体がほとんど一体となって垂直に振動していると思われると指摘している(甲D99)ことや,運輸省航空局(当時)の委託により財団法人小林理化学研究所が昭和50年10月15日に福岡空港周辺の木造家屋において行った航空機飛来時の騒音及び建物振動を調査した結果を踏まえ,財団法人航空公害防止協会が屋根瓦及び建物柱の振動は,低周波帯域(2~1000Hzを指している。)よりも一般騒音の帯域の方が影響を大きいと指摘している(甲D100)ことに照らすと,航空機騒音による家屋の振動は,原告らの多くが指摘するような単なる建具等のがたつきとは,その状況を異にしているといえる。
以上のとおり,①原告らの多くが普天間飛行場を離着陸するヘリコプターによる建具等のがたつきを指摘していること,②低周波音による建具のがたつきを裏付ける実験等の結果があり,本件低周波音には,これらの実験等により建具のがたつきが生ずるとされる数値を超えているものが含まれていること,③航空機騒音による家屋等の振動は,原告らの多くが指摘するような建具等のがたつきとは,その状況を異にしていることを総合考慮すると,原告らが訴える建具等のがたつきは,本件低周波音が原因であると推認することが相当である。
そして,原告らが,こうした建具等のがたつきに伴い,イライラ感及び不快感の精神的苦痛を受けることも想定することができる上,前記2(5)カのとおり,本件低周波音をW75区域とW80区域との区分に応じて相応に暴露されているということができる。
もっとも,前記イ(ウ)の認定事実のとおり,建具の構造,材質,取付け状態等によってがたつきが発生しやすい周波数,音圧レベルは異なり,低周波の音圧レベルだけで建具ががたつくか否かを一概には判断できないとされ,また,前記イ(ア),(イ),(エ)及び(オ)の認定事実のとおりの実験や各種見解等も,建具のがたつきには,「揺れやすい」ものという留保や,「その大きさや取り付け寸法で変わる」という留保が付されているから,すべての建具等について,特定の低周波音によりがたつきが生ずるとはいえるものではない。そのため,本件低周波音による建具等のがたつきは,生活妨害や本件精神的被害のように被害の性質から,原告ら全員が等しく受けているものと推認することができる性質のものではない。定型陳述書には,上記のとおり,約75%の原告らが家屋や家財道具の振動があると記載しているものの,約25%の者は,このような記載をしておらず,その約75%の者の中にも,家財道具の振動以外に家屋の振動のみを指摘する者も含まれている可能性もある。
したがって,原告らの中には,本件低周波音により,建具等のがたつきに伴うイライラ感及び不快感の精神的苦痛を受けているものが相当多数いると推認することができるけれども,それを超えて,原告らが全員が最低限等しくこのような精神的苦痛を受けていると認めることまではできない。
エ 低周波音による被害についてのまとめ
以上によれば,原告らには,本件低周波音により,不定愁訴の被害を受けていると認めることができないのみならず,本件低周波音が本件航空機騒音と相まって原告らの不定愁訴の身体的被害を悪化させていると認めることもできず,また,原告らの中には,本件低周波音により,建具等のがたつきに伴うイライラ感及び不快感の精神的苦痛を受けているものが相当多数いるといえるけれども,それを超えて,原告らが全員が最低限等しくこのような精神的苦痛を受けていると認めることはできない。
(8) その他の本件航空機騒音による被害
原告らは,本件航空機騒音によって,大人の自治会活動も著しく阻害される被害を受けていると主張し,原告X3もこれに沿う供述し,また陳述書(甲B4)に記載する。しかし,この被害については,原告らの主張の原告らの居住地における本件航空機騒音による被害とは異なる上,原告らの居住における本件航空機騒音による被害と関連するところがあるとしても,生活妨害のうちの会話妨害や趣味生活の妨害等の一態様として把握することができるものにすぎないから,独立の被害として考慮する必要はない。
したがって,原告ら主張のその他の本件航空機騒音による被害については,独立の被害としては考慮することができない。
(9) 被害の性質と内容についてのまとめ
以上によれば,原告らは,本件航空機騒音により,①会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害,趣味生活,知的作業の妨害という生活妨害及び睡眠妨害という基本的な生活利益の侵害による被害並びにこれらに伴う精神的苦痛を受けるとともに,②本件航空機騒音を直接の原因とするイライラ感や不快感という本件精神的被害を,普天間飛行場を離着陸する米軍機の墜落への不安感や恐怖感によって増大させられつつ,受けており,また,③高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を受けていると認められる。
そして,原告らは,本件航空機騒音によるこれらの被害を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて等しく受けていると認められる。
4  普天間飛行場供用の公共性ないし公益上の必要性の有無と程度
(1) 公共性ないし公益上の必要性の有無
ア 公共性ないし公益上の必要性についての認定事実
前記前提事実及び括弧内の証拠によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 我が国政府は,自由と人権の尊重,民主主義といった基本的な価値観や,極東の平和と安全の維持への関心を共有し,経済面においても関係が深く,強大な軍事力を有するアメリカ合衆国との二国間の同盟関係を継続し,その抑止力を我が国の安全保障のために有効に機能させることで,自らの適切な防衛力の保持と合わせて隙のない態勢を構築し,我が国の安全を確保するなどとする立場を採り,日米安保体制を基調とする日米協力関係を外交の機軸としている。
そして,被告は,アメリカ合衆国に対し,安保条約6条に基づき,我が国の安全及び極東における国際の平和と安全の維持のため,施設・区域を提供し,アメリカ合衆国が米軍を我が国に駐留させることとしている。
普天間飛行場も,被告がアメリカ合衆国に対し安保条約6条に基づき同国が使用を許される施設・区域として提供した施設である。
(乙E2,3)
(イ) 我が国政府は,普天間飛行場等の米軍が沖縄に展開している要因として,沖縄が,アメリカ合衆国のハワイ島,グアム島よりも極東の各地域に近いため,迅速な戦力投入が可能であると同時に,我が国の周辺諸国から一定の距離があるため,沖縄県を除く都道府県の区域にはない縦深性があるためであると位置付けている。
(乙E3)
イ 公共性ないし公益上の必要性の有無についての検討
安保条約6条は,「日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため,アメリカ合衆国は,その陸軍,空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することが許される」と規定しているところ,前記アの認定事実によれば,普天間飛行場は,我が国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するという目的を有する安保条約6条に基づき,米軍の我が国における航空基地として重要な役割を占めていると認められるから,普天間飛行場の供用には,国民全体の利益につながるものとして,公共性ないし公益上の必要性があるということができる。
(2) 公共性ないし公益上の必要性の程度についての検討
前記(1)イの普天間飛行場の供用の公共性ないし公益上の必要性は,一般的に国や地方公共団体の他の公共的役務や行政諸活動と単純に比較することはできない性質を有するけれども,国民の日常生活の維持存続に不可欠な役務の提供のように絶対的というべき優先順位を認めることができず,普天間飛行場の供用が国や地方公共団体の他の公共的役務や行政諸活動とは隔絶した公共性ないし公益上の必要性を有するとはいい難い。しかも,原告らが普天間飛行場の存在によって自己の利益に直結する具体的・直接的な利益を等しく受けているとは認められないから,普天間飛行場の存在によって原告らを含む普天間飛行場周辺住民にもたらされる利益は,前記(1)イのような国民全体が等しく享受する性質の公共的利益であって,その程度も他の国民と同等のものにとどまるというべきである。他方,普天間飛行場の供用によって,前記3のとおり,原告らが本件航空機騒音により生活妨害等の被害を受けているところ,原告ら普天間飛行場周辺住民が普天間飛行場の存在によって受ける利益と本件航空機騒音によって受ける被害との間に,後者の増大に必然的に前者の増大が伴うというような彼此相補の関係が成り立つということはできない。そうすると,そのような公共的利益の実現は,原告らを含む普天間飛行場周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能であること考慮すれば,そこには,看過することのできない不公平が存するということができる。
したがって,普天間飛行場の供用については,公共性ないし公益上の必要性があると認めることができるものの,被告主張のような極めて高度の公共性ないし公益上の必要性があると評価することはできない。
5  被害防止措置の有無,内容,効果
(1) 被告の主張
被告は,本件航空機騒音により原告らを含む普天間飛行場周辺住民にもたらされる不利益又は影響は,被告が実施する周辺対策等によって,既に相当程度防止し,又は軽減されているので,被告が実施する周辺対策等の実績とその効果は,普天間飛行場の供用の違法性の判断において,十分に考慮されるべきである旨主張し,被告が実施する周辺対策等として,住宅等の防音工事のように騒音の障害を受ける側について,騒音を軽減するための措置を採る対策(周辺対策)と,騒音の発生やその周辺住民への到達自体を規制する方法,具体的には騒音を発生源で抑制する対策(音源対策)及びこれに準じる方法として運航方式に改変を加える対策(運航対策)とに大別することができると指摘する。
(2) 周辺対策
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
ア 生活環境整備法に基づく区域指定の告示等
(ア) 沖縄県の区域においては,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から,周辺整備法によって,学校,病院等に対する防音工事等の周辺対策が行われるようになるため,同日までには,他の都道府県の区域に比べてその進ちょくが遅れていた。そこで,被告は,沖縄県における周辺対策事業を促進するため,昭和47年5月13日,「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律」(昭和47年法律第33号)を制定し,周辺整備法に基づく周辺対策の実施について特例を設け,同法4条において,当分の間,①周辺整備法4条の事業主体について,当時,「市町村」とされていたのを,周辺整備法4条の規定の沖縄県の区域における適用については,「沖縄県又は沖縄県の区域内の市町村」とし,沖縄県も事業主体とし,また,②費用の補助の範囲についても,当時「一部」とされていたものを,周辺整備法4条の規定の沖縄県の区域における適用については,「全部又は一部」とし,具体的には,「沖縄の復帰に伴う防衛庁関係法律の適用の特別措置等に関する法律」の委任に基づく「沖縄県の復帰に伴う防衛施設庁関係法令の適用の特別措置等に関する政令を一部を改正する政令」(昭和47年政令第410条)により,沖縄県を除く都道府県の区域においては補助割合が10分の5から10分の8までとされていたのを,沖縄県の区域においては3分の2から10分の10までと増やすこととした。
(法令の規定を除き,弁論の全趣旨)
(イ) ところで,被告は,周辺整備法が昭和41年7月26日に施行された以後,昭和47年5月14日までは沖縄県を除く都道府県の区域において,翌15日からは全都道府県の区域において,周辺整備法に基づき,学校,病院等への防音工事の補助や建物等の移転の補償等の措置を講じてきたところ,防衛施設周辺の都市化の進展,住民の生活環境保全に対する意識の高揚等に伴って,周辺整備法に基づく措置では諸般の要請に応えられなくなっていた。そこで,生活環境整備法が,昭和49年6月27日に公布,施行され,以後,沖縄県の区域においても,生活環境整備法に基づく措置が講じられるようになった。
そして,防衛施設庁(当時)は,昭和56年及び昭和58年に,普天間飛行場に係る生活環境整備法所定の第1種区域である本件コンターを指定した。
(乙G1)
イ 障害防止工事及び学校等公共施設防音工事の助成
(ア) 障害防止工事の助成
被告は,普天間飛行場周辺において,昭和47年5月15日から昭和49年6月26日までは周辺整備法3条1項に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法3条1項に基づき,平成18年度までに,真栄原排水路工事,比屋良川負担金,新城排水路工事,大山排水路工事,大謝名排水路工事,伊佐排水路工事,中原地区排水路工事,大山2号排水路工事,大山3号排水路工事,喜友名排水路工事について,宜野湾市に対し,総額約35億7629万5000円の補助金(道路の整備事業に係るものは除く。)を交付している。
(乙G17,45)
(イ) 学校等公共施設防音工事の助成
被告は,普天間飛行場周辺において,昭和47年5月15日から昭和49年6月26日までは周辺整備法3条2項に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法3条2項に基づき,平成18年度までに,学校及び病院等の防音工事に係る必要費用相当の補助金(工事費,実施設計費及び地方事務費)として,合計143施設に対して318億7583万7000円を交付している。
(枝番号を含む乙G7から12まで,17,45から47まで)
ウ 住宅防音工事の助成
(ア) 住宅防音工事の助成は,防衛施設周辺住民の生活の本拠における航空機騒音の防止,軽減を図るために,生活環境整備法で新たに採用された周辺対策である。
住宅防音工事の助成の対象は,生活環境整備法4条に基づく第1種区域指定の際に,同区域内に現に所在する住宅である。
被告は,同区域指定に先立ち,昭和54年度から,普天間飛行場周辺の本件航空機騒音の影響が著しいと思料される蓋然性の高い地域に所在する住宅を対象として住宅防音工事の助成を実施してきた。その後,普天間飛行場周辺地域においても,昭和56年告示により最初の第1種区域が指定され,昭和58年告示によって,W値75区域に第1種区域の指定が拡大するのに応じて,助成の対象となる住宅の範囲が広げられてきた。
(乙G1,17,弁論の全趣旨)
(イ) 助成の対象となる住宅防音工事は,まず,新規工事として2居室以内の居室(平成10年度までは,家族数が4人以下の場合は1室,5人以上の場合は2室)の範囲で実施し,続いて,追加工事として,5室を限度として,世帯人員に応じて定められた居室数から新規工事済みの居室数を差し引いた室数の防音工事を施工している(もっとも,実際は,5室を超える室数について,防音工事が施工されていることもある。)。
(乙F2,弁論の全趣旨)
(ウ) 助成の対象となる住宅防音工事の内容は,住宅に遮音,吸音及び空気調和の機能を付加する防音工事と,防音工事により設置した空気調和機器又は防音建具の機能を復旧する機能復旧工事がある。
そのうち,防音工事は,外部及び内部開口部の遮音工事,外壁又は内壁及び室内天井面の遮音及び吸音工事並びに冷房装置及び換気装置を取り付ける空気調和工事を含み,住宅防音仕方書に従って行われる。その標準的な工法は,木造系と鉄筋コンクリート造系それぞれについて,WECPNL80以上の区域に所在する住宅について25dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅰ工法と,WECPNL75以上80未満の区域に所在する住宅について20dB以上の計画防音量を目標とする第Ⅱ工法に区分される。
他方,機能復旧工事は,平成元年度から,新たな助成措置として,防音工事により設置された空気調和機器で,設置後10年以上経過し,老朽化等により現にその機能の全部又は一部を保持していないものについて実施されている。
(乙G13,15,49)
(エ) 住宅防音工事の助成は,被告が,住宅防音工事を行う所有者等に対する補助金の交付をすることにより行われる。
補助の額は,防音工事にあっては,工事費等の合計額に10分の10を乗じて得た額であり,機能復旧工事にあっては,工事費等の合計額に,空気調和機器の機能復旧工事においては10分の9(空気調和機器の機能復旧工事を行う所有者等が生活保護法6条1項所定の被保護者である場合には10分の10)を,防音建具の機能復旧工事においては10分の10を乗じて得た額である。
(乙G13,49)
(オ) 昭和58年告示により第1種区域を拡大したことにより,住宅の建設時期が昭和58年告示と同一又はそれ以前のものであっても区域によっては助成対象とならない住宅が生じた(いわゆる「ドーナツ現象」)。そこで,防衛施設庁長官(当時)は,平成6年6月28日防衛施設庁訓令第18号「防衛施設周辺特定住宅防音事業補助金交付要綱」を定め,いわゆるドーナツ現象により助成を受けられなかった住宅に対して,特定住宅防音工事として,住宅防音工事の助成措置を講じることとし,これを実施している。
(乙G14,50,弁論の全趣旨)
(カ) 普天間飛行場周辺における住宅防音工事(防音工事,前記(オ)の特定住宅防音工事,建替え及び区画改善を含む。)の助成事業の実施状況については,被告が,昭和54年度から平成18年度までの間,合計延べ1万9268世帯について,総額約350億2439万1000円の補助金を交付している。そのうち,まず,防音工事については,新規工事として1万1144世帯の住宅に対し,追加工事として7769世帯の住宅に対して,それぞれ施工し,合計約340億5944万6000円の補助金を交付している。また,上記特定住宅防音工事については,新規工事として121世帯に対して,追加工事として97世帯に対してそれぞれ施工し,合計約4億6403万円の補助金を交付している。さらに,建替防音工事及び防音区画改善工事として,新規工事として129世帯に対し,また,追加工事として8世帯に対しそれぞれ施工し,合計約5億0091万5000円の補助金を交付している。
また,被告は,このほか,空気調和機器機能復旧工事について,平成2年度から平成18年度までに3524世帯に対し約11億2637万9000円を補助している。
被告が各原告に対して実施した住宅防音工事の具体的内容,すなわち,住宅防音工事を実施した住宅,工事の種別,工事の完了年月日,室数は,居住経過表のうち「居住地における住宅防音工事実績」欄に記載したとおりである。
(乙G17,45,乙F1,2,弁論の全趣旨)
エ その他の周辺対策
(ア) 民生安定施設の助成措置
被告は,関係地方公共団体に対し,普天間飛行場周辺において,昭和49年度から平成18年度までに,昭和49年6月26日までは周辺整備法4条に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法8条に基づき,防音助成として,公民館,市町村庁舎など合計36施設について,合計約44億0376万6000円の補助金を交付している。
また,被告は,関係自治体等に対し,普天間飛行場周辺において昭和49年度から平成18年度までに,昭和49年6月26日までは周辺整備法4条に基づき,また,翌27日からは生活環境整備法8条に基づき,一般助成として,野外運動場,学習等供用施設,農業用施設,無線放送施設,消防施設等の設置事業について約29億7000万円,道路改修事業について約38億0822万5000円の総額約67億7822万5000円の補助金を交付している。
(乙G17,45)
(イ) 特定防衛施設周辺整備調整交付金の交付
被告は,生活環境整備法9条に基づき,生活環境整備法施行令14条所定の公共用施設(交通施設,環境衛生施設,教育文化施設,社会福祉施設,消防に関する施設,医療施設等)の整備のために,生活環境整備法施行令15条,生活環境整備法施行規則3条により算出した額に従って,昭和50年度から平成18年度までの間に,宜野湾市に対し,合計約19億7939万9000円の特定防衛施設周辺整備調整交付金を交付している。
(乙G17,45)
(ウ) 防音事業関連維持費の補助
被告は,昭和53年度から平成18年度までに,行政措置として,防音工事を施工した学校等に対し,空調設備を稼働させ,又は稼働し得るよう維持するための電気料金等の助成として,平成16年度までは財団法人防衛施設周辺整備協会が当該電気料金を交付している場合には同協会を通じ,その余の場合は自ら,総額約64億1813万4000円の補助金を交付している。
(乙G16,17,45,47)
(エ) 空気調和機器稼働費の補助
被告は,平成元年度から平成18年度までに,前記ウのとおり,被告の助成に基づき住宅防音工事を実施した住宅に居住する者のうち,生活保護法6条1項所定の被保護者であって,住宅防音工事により設置した空気調和機器の稼働に伴う電気料金を支払う者307世帯に対し,平成16年度までは財団法人防衛施設周辺整備協会が当該電気料金を交付している場合には同協会を通じ,その余の場合は自ら,行政措置による当該電気料金に対する補助として,約378万3000円の補助を行っている。
(乙G16,45)
(オ) 基地助成交付金及び基地調整交付金
被告は,国有提供施設等所在市町村助成交付金に関する法律に基づく固定資産税の代替として,又は米軍の資産に係る税制上の特例措置等により施設等が所在する市町村が受ける税財政上の影響を考慮し,基地助成交付金及び基地調整交付金を交付している。被告は,昭和47年度から平成18年度までに,宜野湾市に対し,基地助成交付金として合計約24億9520万7000円,基地調整交付金として合計約113億5792万9000円をそれぞれ支出している。
(甲C12,13,乙G45)
オ 周辺対策の内容,効果についての検討
(ア) 住宅防音工事の助成について
被告が定める住宅防音仕方書は,前記ウ(ウ)の認定事実のとおり,W80区域においては25dB(A)以上,W75区域においては20dB(A)以上の計画防音量を目標とし,この効果が達成されるように工事で使用する建具,標準工法等について基準を定めているところ,実際に実施された住宅防音工事において,この仕方書に反した建具,工法が採られていることをうかがわせる証拠はなく,嘉手納飛行場周辺における調査の結果(甲D1,乙G20)や原告X56及び原告X3の供述に照らすと,住宅防音工事の助成は,防音工事を施工した居室のある住宅に居住する原告らに一定の防音効果をもたらしていると認めることができる。
しかしながら,そもそも,住宅防音工事の対象となる住宅には,第1種区域の指定の際現に所在するものという生活環境整備法上の制限やその運用上の制限がある上,その内容も,前記ウ(イ)の認定事実のとおり,まず新規工事として2居室以内の居室の範囲で実施し,次に,追加工事として,世帯人員に1を加えた室数から新規工事済みの室数を差し引いた室数の防音工事を施工するというものであり,室数も最大で5室に制限されているから,世帯人員数,新規工事及び追加工事の進ちょく状況等の事情により,普天間飛行場周辺住民の居宅の全てについて,必ずしも住宅防音工事が実施されるものではないという限界がある。そして,人の通常の生活としては,原告X255が1日生活する上で,防音工事がされている寝室にずっといるわけではないなどと供述するように,防音工事を施工している居室以外における生活時間も必要不可欠である。
また,被告が助成の対象とする住宅防音工事は,部屋を密閉化するという前提でその工事内容等が定められている。
しかしながら,まず,沖縄においては,高温多湿という気候の特質から,仮に部屋を密閉するとすれば,夏期を中心とした年間の相当日数において,しかも1日のうちかなりの時間において冷房装置を使用することを余儀なくされるところ,長時間多数の部屋の冷房装置を継続して使用することは,電気料金がかなりの負担となるといえる。定型陳述書にみても,住宅防音工事の助成を受けて防音工事を実施していると記載する原告ら108名のうち,防音工事の利用につき,ほとんど使用していないと記載する者が約6.8%,ときどき使用していると記載する者が約25.2%おり,1日中使用していると陳述する者が約40.8%であることに比べても,少なくなく(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。)。もっとも,定型陳述書の当該質問は,「防音工事の利用度」であり,他の質問項目の回答内容をみると,その回答を記載するにあっては,防音工事を施工した居室を密閉して防音効果を受けながら使用しているどうかを基準として回答している者だけでなく,その効果の享受の有無にかかわらず当該居室自体を使用しているかどうかを基準として回答している者が含まれているとうかがわれる。),沖縄県調査における生活環境調査でも,住宅防音工事を実施した世帯においても,約30%前後の者がほとんど窓を開けた状態で防音工事を施工した部屋を使用しており,常に窓を閉め切って使用する者は10~20%程度にすぎないとの結果がある(甲D1)ところ,こうした原告らの陳述や調査結果は,原告らや被調査者の主観に基づく訴えによるものであることを考慮しても,普天間飛行場周辺において実施された住宅防音工事の現実的な効果の一側面を表すものと評価するのが相当である。そして,上記原告ら108名のうち,住宅防音工事に対する不満として,クーラー代がかかることを定型陳述書に記載する者が約76.7%と多い(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))ことからすると,沖縄県調査委員会が,電気料金の補助がないことが,クーラーを利用せず,窓を開けて生活する者が多い一つの理由となっていると推測する(甲D1)のも,合理的であると考えられる。そして,被告が,普天間飛行場周辺住民の経済的負担の軽減を考慮して,生活保護法に基づく被保護者に対する空気調和機器稼働費の補助を行っていることは前記エ(エ)の認定事実のとおりであるけれども,これは,かなり限定された者にとどまっている。
また,原告らの中には,沖縄で窓を閉め切って生活することは無理である(原告X61),音がないときは開けっ放しである(原告X112),涼しい風を入れるため,開けた状態にしておくことがある(原告X56),音がなければ窓を開けっ放しにしておく(原告X255)など窓を開けて生活することが比較的多い旨供述し,又は陳述書に記載する(甲B2の7,B3の4,5,9)。一般的に,人が一日中密閉された部屋で過ごすことは困難であり,特定の時期を除けば,換気などのために窓を開けて生活するのがむしろ自然であるといえるところ,沖縄は,高温多湿で,夏が長いにもかかわらず,最高気温が32度程度にしかならず,風が強いという海洋性気候であるため,窓を開ければ夏期にも十分クーラーを使用せずに生活することができるという気候上の特徴がある(甲D1)上,定型陳述書に住宅防音工事の助成を受けて防音工事を実施していると記載する原告ら108名のうち,住宅防音工事の不満として,密室にすることでかえって住環境が悪くなると定型陳述書に記載する者が約51.5%いる(甲B1の1から194まで(枝番号6,90,103,105,106,142,171及び189を除く。))ことを考慮すると,防音工事が施工された屋内に密閉した状況で生活することは,それによって一定の防音効果があるにせよ,普天間飛行場周辺住民の現実的な生活形態に必ずしもそぐわないといわざるを得ない。
以上によれば,住宅防音工事の助成は,被告がこれを周辺対策における最も重要な施策と位置付け実施し,それによって防音工事を施工した居室のある住宅に居住する原告らに一定の防音効果をもたらしているといえるものの,対象となる住居や防音工事の施工される室数に制限がある上,同居室内で窓を閉め切って生活する場面は生活全体からみれば一定の限度にとどまるといえるから,普天間飛行場の供用の違法性の判断において,被告が実施した住宅防音工事の助成それ自体をもって,一般的に違法性そのものを減ずる要素として考慮すべきものと評価することまではできず,これによる便益を受けた各原告について,本件航空機騒音による被害の一部を軽減する事情として考慮するにとどまるものと評価すべきである。
(イ) その他の周辺対策について
①障害防止工事の助成は,自衛隊等の航空機の離陸,着陸,急降下又は低空における飛行のひん繁な実施により生ずる障害を防止し,又は軽減するためのものとも位置付けられる(周辺整備法3条1項,生活環境整備法3条1項,生活環境整備法施行令1条1号等)ものの,特定の施設について必要な工事をするために助成するものであるから,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものということはできないから,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とは認められない。
また,②学校等公共施設防音工事の助成については,学校等における防音工事によって,原告らの居住地における本件航空機騒音による被害を直接軽減するものではないので,この助成をもって本件訴訟における普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とはならない。③防音事業関連維持費の補助についても,防音工事を施工した学校等を対象とするものであるから,学校等公共施設防音工事の助成と同様に,この補助をもって本件訴訟における普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とはならない。
④民生安定施設の助成措置について,被告は,この措置によって,原告らを含む普天間飛行場周辺住民の日常生活,教育活動等の面において,普天間飛行場の維持,運営から生ずる障害を間接的に緩和し,環境の改善,住民の福祉向上が図られている旨主張するけれども,同助成措置の対象が公民館や野外運動場等の施設であって,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものとは認められないから,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とは認められない。また,⑤特定防衛施設周辺整備調整交付金についても,被告は,同交付金の交付によって,原告らを含む普天間飛行場周辺住民の生活環境の向上に効果を上げている旨主張するけれども,同交付金の整備の対象が公共用施設であって,民生安定施設の助成措置と同様,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものとは認めることはできないから,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とは認められない。
さらに,⑥基地助成交付金及び基地調整交付金の交付についても,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものとは認める余地はないから,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とは認められない。
以上によれば,住宅防音工事の助成及び空気調和機器稼働費の補助を除く被告主張の周辺対策については,いずれも原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものではないので,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とは認められない。
(3)音源対策及び運航対策
ア 音源対策及び運航対策について
括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 音源対策
a 消音装置の設置
被告は,地上における航空機のエンジンテストに伴う騒音軽減のため,平成元年2月15日に開催された日米合同委員会において,普天間飛行場にC-130,UH-1等用の消音装置を設置することが合意された。これに基づき,被告は,平成4年3月26日,鉄筋コンクリート造平屋の防音建屋に吸気消音器,排気消音器等を設置した消音装置3棟等を完成させ,米軍に提供した。
(弁論の全趣旨)
b 緑地整備事業
被告は,昭和51年度から平成18年度までの間に,生活環境整備法の趣旨を踏まえ,緑地の整備によって,防風及び地上騒音の緩和等の物理的効果をもたらすとともに緑地の整備によって景観を整え,安心感ややすらぎを与える心理的効果も期待するものと位置付け,普天間飛行場内において,緑地整備事業を行い,植栽面積12万0700平方メートルを実施し,撫育管理工事を含め総額2億7981万9334円を支出した。
(乙G18,45,弁論の全趣旨)
(イ) 運航対策
我が国とアメリカ合衆国は,日米合同委員会において協議を行った結果,平成8年3月28日,日米合同委員会の下部機関である航空機騒音対策分科委員会において,平成8年規制措置を合意した。
平成8年規制措置は,普天間飛行場周辺地域社会の航空機騒音レベルへの懸念を軽減するため,下記の措置が「在日米軍の任務に支障をきたすことなく航空機騒音による望ましくない影響を最小限にすべく設定された」ものであり,そのため,飛行の安全,任務の遂行及び騒音規制が最も考慮すべき点であることを認識しつつ,これらの措置が採られることとなる。
具体的には,以下のような内容である。
① 進入及び出発経路を含む飛行場の場周経路は,できる限り学校,病院を含む人口稠密地域上空を避けるよう設定する。
② 普天間飛行場近傍(飛行場管制区域として定義される区域,すなわち,飛行場の中心部より半径5陸マイル(約8km)内の区域)において,航空機は,海抜1000フィート(約305m)の最低高度を維持する。ただし,次の場合を除く。
承認された有視界飛行方式による進入及び出発経路の飛行,離着陸,有視界飛行方式の場周経路,航空管制官による指示がある場合又は計器進入
③ 任務により必要とされる場合を除き,現地場周経路高度以下の飛行を避ける。
④ 普天間飛行場の場周経路内で着陸訓練を行う航空機の数は,訓練の所要に見合った最小限に抑える。
⑤ アフター・バーナーの使用は,飛行の安全及び運用上の所要のために必要とされるものに制限される。離陸のために使用されるアフター・バーナーは,できる限り早く停止する。
⑥ 普天間飛行場近傍及び沖縄本島の陸地上空において,訓練中に超音速飛行を行うことは,禁止する。
⑦ 午後10時から翌日午前6時までの間の飛行及び地上での活動は,アメリカ合衆国の運用上の所要のために必要と考えられるものに制限される。夜間訓練飛行は,在日米軍に与えられた任務を達成し,又は飛行要員の練度を維持するために必要な最小限に制限される。部隊司令官は,できる限り早く夜間の飛行を終了させるよう最大限の努力を払う。
⑧ 日曜日の訓練飛行は差し控え,任務の所要を満たすために必要と考えられるものに制限される。慰霊の日のような周辺地域社会にとって特別に意義のある日については,訓練飛行を最小限にするよう配慮する。
⑨ 有効な消音器が使用されない限り,又は運用上の能力若しくは即応態勢が損なわれる場合を除き,午後6時から翌日午前8時までの間,ジェット・エンジンのテストは行わない。
⑩ エンジン調整は,できる限りエンジン・テスト・セル(サイレンサー)を使用する。
⑪ 普天間飛行場近傍においては空戦訓練に関連した曲技飛行は行わない。しかしながら,あらかじめ計画された曲技飛行の展示は除外される。
⑫ 普天間飛行場に配属され,又は普天間飛行場を一時的に使用するすべての航空関係従事者は,周辺地域社会に与える航空機騒音の影響を減少させるために本措置に述べられている必要事項について十分に教育を受け,これを遵守する。
(甲C13,乙G19,弁論の全趣旨)
イ 音源対策及び運航対策の効果についての検討
音源対策のうち,前記ア(ア)bの緑地整備事業は,その内容からして,原告らの本件航空機騒音による被害を軽減するという面では直接的な効果は認められない。また,前記ア(ア)aの消音装置の設置についても,被告が米軍に提供した消音装置は,具体的な内容が明らかでなく,その効果を示す的確な証拠もない上,普天間飛行場の常駐機のうち,一定のものを対象としていることがうかがわれるから,前記2のとおりの本件航空機騒音の発生に対して,現実的な効果が十分なものであると認めるに足りる証拠はない。
一方,前記ア(イ)の運航対策は,これが功を奏しているのであれば,本件航空機騒音の暴露が全体として減少するのみならず,原告らの本件航空機騒音による睡眠妨害の原因となる夜間における本件航空機騒音の発生の減少が相当程度見込まれるはずである。しかしながら,まず,本件航空機騒音の暴露に関する各種騒音指標の経年変化については,前記2のとおり,W80区域及びW75区域のいずれにおいても,平成8年規制措置が講じられた後も,夜間の騒音発生回数や年間W値等について,一般的な減少傾向があるとまではいえず,また,前記3(5)エ(イ)の認定事実のとおり,普天間飛行場を離着陸するヘリコプター等の米軍機が,タッチアンドゴー等の訓練により,普天間飛行場周辺を低空で飛行しながら,本件航空機騒音を発生させているといえるから,被告が主張する運航対策によっても,本件コンターに居住する原告らが相当大きな騒音に暴露されている状況に依然として大きな変化がないというべきである。また,平成8年規制措置については,前記ア(イ)の認定事実のとおり,その趣旨自体が「在日米軍の任務に支障をきたすこと」がないという一種の限定付きのものであり,具体的な規制措置の内容も,飛行経路,飛行高度,夜間訓練飛行等のいずれの措置についても例外や制限が存する。そうすると,平成8年規制措置は,本件航空機騒音の程度を減少させる現実的な効果が十分なものということはできない。
以上によれば,被告主張の音源対策のうち,緑地整備事業は,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものとは認められないので,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とはいえない。また,被告主張の音源対策のうちの消音装置の設置及び運航対策は,その現実的な効果が十分なものとは認められないので,普天間飛行場の供用の違法性の判断において十分に考慮することができる事情とまではいうことができない。
6  普天間飛行場供用の違法性
(1) 違法性の判断基準
前記1(4)のとおり,普天間飛行場の供用が第三者である原告らに対する関係において違法な権利侵害ないし法益侵害となるかどうかを判断するに当たっては,①侵害行為の態様と侵害の程度,②被侵害利益の性質と内容,③侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,④侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,⑤その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の事情をも考慮し,これらを総合的に考察して決すべきである。
(2) 違法性を画する基準
ア 前記(1)の違法性の判断において考慮すべき諸事情について,既に前記2から5までにおいて個別に検討したことなどをまとめると,次のとおりとなる。
(ア) 本件航空機騒音等の態様とその程度については,前記2のとおり,原告らは,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)から現在までの間,それぞれW80区域又はW75区域に居住している期間,本件航空機騒音及び本件低周波音のため,W80区域にあってはかなり大きな騒音等に,W75区域にあっては大きな騒音等に,いずれも高い頻度で暴露されているといえる。
(イ) 原告らの本件航空機騒音による被害の性質と内容については,前記3のとおり,原告らは,本件航空機騒音により,①会話妨害,通話妨害,テレビ・ラジオの聴取妨害,趣味生活,知的作業の妨害という生活妨害及び睡眠妨害という基本的な生活利益の侵害による被害並びにこれらに伴う精神的苦痛,②本件航空機騒音を直接の原因とするイライラ感や不快感という本件精神的被害及び③高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛を等しく受けていると認められる。
そして,これらの被害は,直接生命,身体に係わるような重大なものと評価するまではできないけれども,原告らが人間であるに相応しい生活を営む上で重要な利益等の侵害であり,また,相互に密接に関連し,相互に影響し合って,総体としての被害を増大させている側面を有しているといえる(なお,高血圧や頭痛,肩こり等のストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛についての被害の程度は,前記3(6)エのとおり,生活妨害,睡眠妨害に伴う精神的苦痛や本件精神的被害に若干加味する程度のものにとどまるとみるべきである。)。しかも,これらの被害のうち,特に生活妨害と本件精神的被害については,同一のW値の区域にある嘉手納飛行場周辺住民と比べても,相当深刻な程度のものということができる。
したがって,原告らの本件航空機騒音による被害は,原告らにおいて当然に甘受しなければならないような軽度の被害であるということはできない。
そして,原告らは,前記3のとおり,本件航空機騒音による上記被害を,W80区域の方がW75区域よりは著しいという意味でそれぞれその居住する区域のW値に応じて,等しく受けていると認められる。
なお,普天間飛行場供用の違法性の判断においては,普天間飛行場供用に伴う本件航空機騒音等が原告らを含む普天間飛行場周辺住民らの全体に対しどのような種類,性質,内容の被害をどの程度に生ぜしめているかが一つの重要な考慮要素となるので,この場合における被害の総体的な判断においては,必ずしも原告ら全員に共通する被害のみに限らず,原告らの一部にのみ生じている特別の被害も考慮の対象とすることができると解される(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)ところ,前記3(7)のとおり,原告らの中には,本件低周波音により,建具等のがたつきに伴うイライラ感及び不快感の精神的苦痛を受けているものが相当多数いるので,この事情も,普天間飛行場供用の違法性の判断における被害の総体的な判断においては,考慮すべきであるといえる。
(ウ) 他方,普天間飛行場の供用のもつ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度については,普天間飛行場は,前記4のとおり,我が国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するという目的を有する安保条約6条に基づき,米軍の我が国における航空基地として重要な役割を占めており,普天間飛行場の供用には,国民全体の利益につながるものとして,公共性ないし公益上の必要性があるけれども,普天間飛行場の存在によって原告らを含む普天間飛行場周辺住民にもたらされる利益は,国民全体が等しく享受する性質の公共的利益であって,そのような公共的利益の実現は,原告らを含む普天間飛行場周辺住民という限られた一部少数者の特別の犠牲の上でのみ可能であること考慮すれば,そこには,看過することのできない不公平が存するというべきである。
したがって,普天間飛行場の供用の違法性の判断において,普天間飛行場の供用に公共性ないし公益上の必要性があるものの,被告主張のような極めて高度の公共性ないし公益上の必要性があるということはできない。
(エ) 本件航空機騒音等による侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況については,前記前提事実1のとおり,米軍が昭和20年4月に沖縄本島に上陸し,占領,接収した地域に普天間飛行場を建設した上,被告が,アメリカ合衆国に対し,昭和47年5月15日から,安保条約6条及び地位協定2条1項に基づき,米軍の使用する施設及び区域として,普天間飛行場を提供していることから,本件航空機騒音の発生が始まり,前記(ア)のとおり,現在まで本件航空機騒音等が継続している。
(オ) 被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等については,前記5のとおり,住宅防音工事の助成は,防音工事を施工した居室のある住宅に居住する原告らに一定の防音効果をもたらしているとはいえるものの,対象となる住居や防音工事の施工される室数に制限がある上,同居室内で窓を閉め切って生活する場面は生活全体からみれば一定の限度にとどまるといえるから,一般的に違法性そのものを減ずる要素として考慮すべきものと評価することまではできず,これによる便益を受けた各原告について,本件航空機騒音による被害の一部を軽減するものとして考慮するにとどまるというべきである。また,被告主張のその他の周辺対策及び音源対策のうちの緑地整備事業は,原告らの本件航空機騒音による被害を直接軽減するものではないので,普天間飛行場の供用の違法性の判断において考慮すべき事情とはいえず,また,被告主張の音源対策のうちの消音装置の設置及び運航対策も,現実的な効果が十分なものであるとはいえず,普天間飛行場の供用の違法性の判断において十分に考慮することができる事情とまではいうことができない。
イ ところで,上記のような違法性の判断において考慮すべき要素の多くは,生活環境整備法の指定区域と関連している上,生活環境整備法に基づく区域指定において採用されているWECPNLによる航空機騒音の評価は,前記前提事実及び前記2(1)のとおり,騒音レベル,発生回数,時間帯による影響の差異等を総合考慮して,航空機騒音の人間に対する影響を把握しようとするもので,ICAOによって提案され,我が国でも,昭和48年環境基準においても採用されているものであり,現時点において最も信頼性の高い評価方式の一つということができる。しかも,本件コンターは,前記2のとおり,本件航空機騒音の発生の地域的な広がり及び発生の程度を把握する指標とすることに合理性・相当性がある。そうすると,普天間飛行場の供用の違法性の判断においては,生活環境整備法の指定区域である本件コンターにおけるW値をもって画するのが,最も現実的かつ合理的である。
そして,昭和48年環境基準は,前記前提事実3及び前記2(1)イのとおり,類型Ⅰの地域においてはW値70以下,類型Ⅱの地域においてはW値75以下を基準値として定めているところ,前記前提事実3のとおり,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準(公害対策基本法9条1項,環境基本法16条1項)であるため,被告主張のように,我が国政府が航空機騒音に関する総合的な施策を進める上で達成することが望ましい値を設定した行政上の目標となる基準であって,規制基準でもない(乙E35,36)から,当然に私法上の違法性を画する基準となる性格を有するものではない。
しかしながら,昭和48年環境基準の基準値は,前記2(1)イのとおり,被告自らが住民被害の調査等の資料に基づき,輸送の国際性,安全性等飛行場の有する公共性に類する事情等違法性の判断において考慮されるべき要素と似かよった要素も総合的に考慮して基準を設定しているものであり,自衛隊等が使用する飛行場の周辺地域においても,平均的な離着陸回数及び機種並びに人家の密集度を勘案するなどした上で,達成され,又は維持されることが求められているものであるから,普天間飛行場の供用の違法性の判断においても,しん酌すべき意味を持つものというべきである。
しかも,防衛施設周辺地域の生活環境等の整備について必要な措置を講ずるなどのために制定された生活環境整備法は,前記前提事実4のとおり,その4条において,国は,「航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しいと認め」る区域を第1種区域と指定し,住宅防音工事の助成措置を採ることとしているところ,第1種区域指定の基準となる値は,前記前提事実4のとおり,数次の改正を経て,W値75となっている。このことは,被告がW値75以上の区域について「航空機の離陸,着陸等のひん繁な実施により生ずる音響に起因する障害が著しい」と評価していることを示しているともいえるので,普天間飛行場の供用の違法性の判断においても,しん酌すべきであるというべきである。
これに対し,被告は,本件コンターを違法性判断における基準とすることは,本件航空機騒音の実態からかけ離れた形式的な数値を基準とするものとなり,不当であると主張するけれども,本件コンターがなお本件航空機騒音の発生の地域的な広がり及び発生の程度を把握する指標とすることに合理性・相当性があるのは,上記のとおりであるから,被告のこの主張は採用することができない。
なお,昭和48年環境基準では地域類型別に基準値が定められているところ,前記2(1)イの認定事実のとおり,昭和48年環境基準に地域類型が設けられているのは昭和46年の「騒音に係る環境基準について」において地域類型別に基準値が定められているためであり,また,同環境基準において地域類型別に基準値が定められているのは当時の都市騒音の実態,騒音に対する住民の苦情等を考慮したためとうかがえるから,航空機騒音の特色を必ずしも反映していないとみる余地があること,商業的・工業的騒音と航空機騒音とはその大きさやうるささの点で大きな差異があること,沖縄県知事による用途地域指定においては,前記2(2)イの認定事実のとおり,類型Ⅱの地域には,近接商業地域,商業地域,準工業地域及び工業地域のほか,第1種住居地域,第2種住居地域及び準住居地域といった住居地域も含まれていること及び生活環境整備法に基づく区域指定にはこのような地域類型による区分がないことにかんがみれば,商業的・工業的騒音が生じやすい地域に居住する者が,そうでない地域に居住する者に比べ,当然に本件航空機騒音による被害を一定程度甘受すべきとはいえず,普天間飛行場の供用の違法性の判断において昭和48年環境基準のように地域類型の区分によって差を設けることが相当であるとはいえない。
ウ 以上のような,前記イのとおりのWECPNLによる航空機騒音の評価の意義並びに昭和48年環境基準の基準値及び第1種区域指定の基準となるW値の意義等に加え,前記アのとおり,①本件航空機騒音のため,W80区域にあってはかなり大きな騒音等に,W75区域にあっては大きな騒音等に,いずれも高い頻度で暴露されて,その結果,②原告らが,本件航空機騒音により,W75以上の区域である本件コンター内において,当然に甘受しなければならないような軽度の被害とはいえない被害を等しく受けているのに対し,③普天間飛行場の供用に公共性ないし公益上の必要性があるものの,被告主張のような極めて高度の公共性ないし公益上の必要性を有するものでなく,また,④本件航空機騒音による侵害行為の開始における歴史的経緯や本件航空機騒音の継続の経緯等に加え,⑤被告実施の被害防止措置は違法性の判断において考慮すべき事情とはいえないもの又は効果が十分なものとはいえないことなどを総合的に考察すると,普天間飛行場の供用においては,W値75をもって違法性を画する基準とするのが相当である。
(3)違法性の有無
以上によれば,普天間飛行場の供用は,本件コンターに居住し,又は居住していた原告らとの関係において,違法な権利侵害ないし法益侵害に当たるというべきである。
7  まとめ
よって,普天間飛行場の供用は,原告らが本件コンター内に居住している間,当該原告らに対する関係において,違法な権利侵害ないし法益侵害となっているといえるので,その限りにおいて,普天間飛行場に民事特別法2条の設置又は管理の瑕疵があるということができる。
第3  免責法理としての「危険への接近の法理」の適用の有無(争点3)について
1  認定事実
前記前提事実及び括弧内の証拠等によれば,以下の事実が認められる。
(1) 普天間飛行場の形成過程
ア 米軍は,昭和20年4月に沖縄本島に上陸し,宜野湾村(当時。以下同じ。)の集落の一部を占領,接収し,その地域に普天間飛行場を建設した。沖縄県は,終戦後,アメリカ合衆国が施政権者とされることとなったため,普天間飛行場も,米軍の接収下にあり,また,アメリカ合衆国が施政権者として管理,運営していた。被告は,沖縄の復帰に先立ち,「沖縄における公用地等の暫定使用に関する法律」を制定し,同法等に基づき,普天間飛行場の使用権原を取得した上,沖縄の復帰に伴い,アメリカ合衆国に対し,安保条約6条及び地位協定2条1項に基づき,普天間飛行場を,米軍の使用する施設及び区域として,提供した。普天間飛行場は,以後,アメリカ合衆国が地位協定3条1項に基づき管理,運営し,米軍機の運航等に使用している。
イ 宜野湾村は,昭和20年3月ころ,22の集落からなり,人口が約1万4000人であった。普天間飛行場が建設される地域は,当時,宜野湾村の野嵩,新城,喜友名,伊佐,大山,真志喜,大謝名,佐真下,宜野湾,神山,赤道,中原,上原の13の各集落の一部であり,中央を南北に横断する形で,約3000本の松が街道沿いに植えられていたため宜野湾並松街道と呼ばれる県道が通っていた。それぞれの集落の昭和19年10月当時の人口は,野嵩が848人,新城が320人,喜友名が767人,伊佐が348人,大山が1248人,真志喜が426人,大謝名582人,佐真下が395人,宜野湾が1171人,神山が374人,赤道が418人,中原が431人,上原が330人であった。
宜野湾村は,昭和20年当時,普天間に沖縄県庁中頭郡地方事務所が設置される沖縄本島中部の中心地域であり,首里と越来村(当時。現在の沖縄市の一部)を結ぶ上記県道沿いでは商業が営まれていた外は,サトウキビを中心とした農業で生計を営む者が多い農村地帯であった。
米軍は,昭和20年4月1日に沖縄本島中部西海岸に上陸した後,建物及び土地を接収しながら,主力部隊を南進させていった。宜野湾村の住民は,同月10日ころから野嵩集落にあった収容所で生活することを余儀なくされるなどした後,より北部の収容所に移転させられた。
米軍は,間もなく,宜野湾村の村役場などが置かれて,宜野湾村の中心地であった宜野湾集落を中心にして,軍事飛行場の建設に取りかかり,真志喜及び普天間の各集落に駐屯部隊を置くとともに,宜野湾,佐真下,神山,中原,新城及び喜友名の各集落を接収していった。これなどにより,宜野湾村は,終戦直後,約4割近くが米軍基地として占拠されることとなった。
一方,収容所に収容されていた住民は,米軍から,同年11月から順次,米軍が軍用地として使用しない地域について,元居住地への移動を許可された。しかし,昭和21年3,4月までに住民の移動が一応完了したものの,元の居住地に戻れない住民も多く,普天間,野嵩方面にひとまず移動する者もいた。その後,例えば,宜野湾集落にあっては,昭和22年10月23日,元居住地への移動を許可されたものの,自分の土地が軍用地として使用されていないのは3分の1程度で,残りの土地は軍用地として使用されていたため,宜野湾集落の住民は,元の土地所有権に関わりなく,解放された土地を一律平等に割り当てることとし,平等意識のもとに集落の再興を図った。
(甲E55,60から66まで,71,72,証人S1,証人S2)
ウ 普天間飛行場の周辺部には,戦後,随時米軍から返還されるに応じ,返還された土地に住民が移り住むなどし,普天間飛行場を取り囲むように,幹線道路が整備され,学校,病院,マンション等の建物が建ち並ぶようになるなど都市化が進行し,昭和37年に宜野湾市となった。
(甲C12,13,E60,67,証人S2,弁論の全趣旨)
(2) 普天間飛行場周辺地域
ア 普天間飛行場は,宜野湾市の中央部に位置する。
宜野湾市は,沖縄本島の中部西海岸にあり,平成17年当時の人口が8万9769万人である。宜野湾市は,東シナ海に面し,北には北谷町,東には中城村,北東には北中城村,南東に西原町,南に浦添市に接しており,那覇市から北に12km,沖縄市から南に6kmの地点にある。宜野湾市の面積は,19.58平方キロメートルで,陸地は東西6.1km,南北5.3kmのやや長方形をしており,概して平坦である。
(甲C12,58,E68)
イ 沖縄本島は,南部地域(那覇市の外,豊見城市,南城市,八重町,与那原町,南風原町,糸満市の各行政区域を指している。以下同じ。),中部地域及び北部地域(名護市,国頭郡,伊平屋村,伊是名村の各行政区域を指している。以下同じ。)に区分され,普天間飛行場は,中部地域に位置する。
沖縄県の53市町村のうち25市町村(いずれも平成14年当時)には,平成14年3月31日現在,合計38施設,2万3728.8haの米軍基地が所在しており,沖縄県の面積22万7194ha(同年1月1日現在)の10.4%を占めている。しかも,そのうち,一時使用施設を除く米軍の専用施設は,2万3360haあり,同年3月31日現在,日本にある米軍専用施設の74.7%が沖縄県にある。
また,沖縄本島には,2万2665.3haの米軍基地が所在しており,沖縄本島の約18.8%を占めている。そして,沖縄本島の中部地域には,平成14年3月末現在,普天間飛行場のほか,嘉手納飛行場等の米軍基地が集中しており,次の表のとおり,地区面積の約25.3%が米軍基地で占められている。

宜野湾市においては,平成14年当時,米軍基地の占める割合が,上記のとおり,沖縄県平均では10.4%であるのに対し,普天間飛行場が同市の陸地面積の約24.7%を占めており,普天間飛行場にキャンプ瑞慶覧等を加えた米軍基地が同市の陸地面積の約32.7%を占めている。また,同陸地面積から基地面積を差し引いた面積に係る人口密度についても,次の表のとおり,全県平均は652.5人/平方キロメートルであるのに対し,宜野湾市は,6680.4人/平方キロメートルであって,那覇市の7881.8人/平方キロメートルに次いで高くなっている。

(甲C13,乙F4)
ウ 本件コンターは,別紙8本件コンター図のとおりである。
本件コンターの区域は,普天間飛行場を中心として,宜野湾市のみならず,浦添市,北谷町及び北中城村の一部にまで広範囲に及んでいる。
エ また,普天間飛行場の北側には,宜野湾市に隣接する北谷町の外,沖縄市及び北中城村にまたがるキャンプ瑞慶覧が存在し,また,北谷町の外,嘉手納町及び沖縄市には,嘉手納飛行場が存在する。平成15年当時の面積は,キャンプ瑞慶覧が642万6000平方キロメートルで,嘉手納飛行場が1995万平方キロメートルである。
米軍基地の面積が占める割合は,前記イの表のとおり,平成14年当時,嘉手納町が82.8%,北谷町が56.4%,読谷村が44.6%,沖縄市が35.9%である。また,基地面積を除いた部分の人口密度は,嘉手納町が5317.4人/平方キロメートル,北谷町が4356.4人/平方キロメートル,沖縄市が3884.7人/平方キロメートルであり,人口が集中している。
しかも,嘉手納飛行場周辺地域においても,生活環境整備法に基づく区域指定がされており,その区域は,嘉手納町,北谷町,沖縄市及び読谷村のみならず,うるま市の一部にまで相当広範囲に及んでいる。
(甲C13,D1,乙G4)
オ 昭和56年告示及び昭和58年告示による生活環境整備法に基づく区域指定においては,「那覇防衛施設局に備え置いて縦覧に供する図面に普天間飛行場に係る第1種区域として示す部分」という形式で指定がされている。
(乙G4,5)
(3)沖縄の人々の特徴
沖縄の人々は,集落ごとにある拝所を中心に行事があるなど地縁が強い上,清明(シーミー)という親族,家族が先祖の墓に集まり,重箱を供えて,食事をしながら談笑して,親族の絆を確認し合うという風習があるなど先祖崇拝が強く,また,門中の制度にみられるように血縁が強い。
(甲C12,E56,59,70)
(4) 普天間飛行場の返還合意
普天間飛行場は,日本国政府及びアメリカ合衆国政府によって,平成7年11月に設置された沖縄に関する特別行動委員会(SACO)が,平成8年12月2日,今後5年ないし7年以内に,十分代替施設が完成し運用可能になった後,普天間飛行場を返還するなどの内容の最終報告をして,日米安全保障協議会において,この最終報告を了承された。
我が国政府は,その後,現在まで,関係地方公共団体を加えて,普天間飛行場の移設に向けた所要の努力を続けている。
(甲C13,枝番号を含む乙G30から33まで)
(5) 関係自治体等による善処要望等
普天間飛行場周辺地域では,宜野湾市長が,当時の普天間飛行場の司令官に対し,昭和44年ころ,本件航空機騒音による被害を問題として善処を求める要望を行い,また,教職者らが,昭和45年ころ,本件航空機騒音等の即時中止を要求する決議をした。
2  免責の法理としての危険への接近の法理の適用要件
前記第2の3及び4のとおり,原告らの本件航空機騒音による被害が生活妨害,睡眠妨害及びこれらに伴う精神的苦痛,イライラ感や不快感という本件精神的被害又はストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛のようなものであって,直接生命,身体に係わるような重大なものであるとはいえず,また,普天間飛行場の供用には公共性ないし公益上の必要性があることに照らすと,原告らのうち,被告主張の居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅰ」に「○」印が記載された者48名,同「Ⅱ-①」に「○」印が記載された者35名,「Ⅱ-②」に「○」印が記載された者29名,「Ⅱ-③」欄に「○」印が記載された者51名(原告らのうち,これらのいずれかに「○」印が記載された者108名)についても,本件航空機騒音の存在を認識しながらあえてそれによる被害を容認して居住したと認められる場合には,入居後に実際に受けた被害の程度が入居の際その存在を認識した騒音から推測される被害の程度を超えるものであったとか,入居後に騒音の程度が格段に増大したとかいうような特段の事情が認められない限り,その被害は当該原告において受忍すべきであり,その被害を理由として慰謝料の請求をすることは認められないと解するのが相当である(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決参照)。
3  本件航空機騒音の存在の認識についての検討
(1) 前記1(5)の認定事実によれば,本件航空機騒音について,昭和47年5月15日(沖縄の復帰の日)よりも前に,宜野湾市長による善処要望や教職者らによる即時中止を要求する決議がされていたことは認められるけれども,これらが日刊紙等により日常的に報道されるなどしていたとはうかがわれないから,同日において,本件航空機騒音の存在が,一般に周知されていたとまでは認めることはできない。しかも,原告らのうち,本件コンター内の転居の際にした下見のときには,本件航空機騒音が聞こえなかったなどと供述し,又は陳述書に記載する(甲B2の2の2,B4,B12の2,B25の2,B26の2,B28の2,B29の2,B30の2,B31の2,B33の2,B41の2,B43の2,原告X48)ところ,普天間飛行場における航空機の飛行には,前記第2の2の本件航空機騒音の実態のとおり,年間を通じても,また,1日のうちでも,定常性がない上,土地建物の購入又は賃借に当たってその下見をするのは,週末が主として利用されていた(甲B2の2の2,B25の2,B29の2,B41の2,B43の2,原告X48)ところ,本件航空機騒音の発生が週末には前記第2の2のとおり比較的少ないことに照らすと,上記原告らが述べる内容が必ずしも不自然であるとはいえない。
そうすると,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅰ」欄に「○」印が付された原告らが,昭和47年5月15日以降に本件コンター内の住所に転居したことから,転居当時,本件航空機騒音の存在を認識していたと推認することはできない。
(2) また,前記1(2)オの認定事実によれば,昭和56年告示及び昭和58年告示による生活環境整備法に基づく区域指定においては,那覇防衛施設局等に備え置いて縦覧に供する図面を確認しない限り,どの区域が第1種区域として指定されているのかを必ずしも確定することができないと認められる上,被告において,普天間飛行場周辺地域のどの区域が第1種区域内すなわち本件コンター内にあるかを一般に周知したことをうかがわせる証拠はない。そうすると,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」及び「Ⅱ-③」欄に「○」印が付された原告らにつき,単に本件コンターに居住した経験があるというだけでは,本件航空機騒音の存在を認識していたと推認することも困難である。
したがって,被告が免責法理としての危険への接近の法理の適用があると主張する原告108名から後記5で検討する原告(その原告の家族である原告も含む。)58名を除いた50名の原告のうち,原告番号121,131,187,220,230,231,247,268,275,283,324,333から335まで,367及び393の各原告16名は,そのいずれも本件コンター内の住所への転居の際,本件航空機騒音の存在を認識していたと認めるに足りる証拠はない。
(3) もっとも,前記(2)の50名から同16名を除いた原告ら34名のうち,原告番号74,110,186及び223の各原告は,そのいずれかの本件コンター内の住所への転居の際に,本件航空機騒音があることを知っていた旨質問書に記載している(甲B27の1,B36の1,B50の8,28)ので,その際,本件航空機騒音の存在を認識していたと認めることができる。また,原告番号75及び222の各原告は,それぞれその家族が上記原告番号74又は223の各原告である(甲B1の42,甲B1の117)から,本件航空機騒音の存在を認識していたと推認することができる。
また,原告番号78,85,114,156,173,177,184,205,213,218,219,233,234,236,237,246,256,271,272,274,284から286まで,294,318,323,363,382及び395の各原告は,本件コンター内における従前の居住地と同一の,又はこれと近隣した住所に転居しているから,その転居の際,本件航空機騒音の存在を認識していたと推認することができる。
4  本件航空機騒音による被害の容認についての検討
(1) 前記3のような本件コンター内の住所への転居する際,本件航空機騒音の存在を認識している者であっても,その居住をやむを得ず開始することもあるから,本件航空機騒音の存在を認識して,相当長期間にわたる間の住居としてその住所を選択したことから,被告主張のように,直ちにあえて本件航空機騒音による被害を容認して居住したと推認することができるというものではない。
そして,普天間飛行場周辺においては,次のような事情がある。
すなわち,まず,①沖縄県は,他県と陸で接していない上,前記1(2)の認定事実のとおり,沖縄本島の中部地域には,普天間飛行場のほか,嘉手納飛行場,キャンプ瑞慶覧等の米軍基地が集中し,米軍基地の占める割合は,中部地域の陸地面積の約25.3%,宜野湾市の陸地面積の約32.7%に上っているため,沖縄本島の中部地域には,そもそも住民の居住することができる地域が限られている。しかも,普天間飛行場周辺において,前記前提事実5及び前記1(2)の認定事実のとおり,本件コンターは,広範囲に及んでおり,また,嘉手納飛行場周辺においても生活環境整備法に基づく区域指定がされた区域が相当広範囲にあるから,沖縄本島の中部地域において,航空機騒音の影響を受けずに生活することができる区域に居住地を定めることは実際上困難である。他方,航空機騒音の影響を受けずに生活することができる沖縄本島の南部地域,北部地域に居住することは,後記②のような沖縄の人々の特徴に沿わない面がある上,当裁判所に顕著な事実及び前記1(2)イの認定事実によれば,沖縄県には,那覇市にモノレールがあるのを除くと鉄道がなく,公共交通機関としては外にバスしかないため,自動車の利用が多く,那覇市近郊等では,交通渋滞が日常的に生ずる等交通事情が悪く,通勤,通学の便が良いとはいえず,雇用機会が多い那覇市等は,特に人口密度が高く,地価も高い一方,北部地域は,その多くを森林,原野が占めており,もともと居住に適した土地に乏しく,就業先も限られていると認められるから,沖縄本島の南部地域,北部地域に居住することにも一定の困難を伴うといえる。そうすると,沖縄本島においては,実際問題として,居住地を選択する幅が限られているといえる。
また,②前記1(3)の認定事実のとおり,沖縄の人々は,もともと,地縁が強い上,先祖崇拝が強く,また,血縁が強いという背景があるため,強い郷土意識を有しているといえるから,証人S2が証言するように,沖縄の人々は,自分たちの育ったところで住みたいという気持ちがある,故郷に戻りたいという気持ちが非常に強いという共通する特徴を有しているということができる。しかも,普天間飛行場周辺住民は,前記1(1)の認定事実のとおり,米軍が昭和20年4月に沖縄本島に上陸した後,米軍から土地を接収されて,やむを得ず他の地域で生活を始めたものの,元の居住地への移動を許可される際も,解放されたわずかな土地を平等意識のもとに割り当て集落の復興を図ったなどという歴史的事情があることなどからすると,このような地元回帰意識を一層強く有していると推察することもできる。そして,普天間飛行場周辺住民が自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強く,また,一旦自らが生まれ育った地域を離れた者であっても,しばらくした後は同一の地域又は近隣の地域に戻って生活する者が多いことは,居住経過表記載の居住経過からも,うかがわれる。
さらに,③普天間飛行場は,前記1(4)の認定事実のとおり,我が国政府及びアメリカ合衆国政府によって返還期限を平成8年12月2日から5年ないし7年以内と合意されているところ,その期限は既に経過している。
以上のとおり,①沖縄本島の中部地域においては,そもそも住民が居住し得る地域が狭い上,航空機騒音の影響を受けずに生活することができる地域が狭い一方,沖縄本島の南部地域,北部地域に居住することにも一定の困難が伴うから,沖縄本島において居住地を選択する幅が限られているという事情があり,また,②普天間飛行場周辺に居住している者のうち,少なくとも沖縄の人には,そもそも地元回帰意識が強い特徴を有している上,普天間飛行場周辺の歴史的事情がその意識を一層強いものとしているから,普天間飛行場周辺住民について,あえて本件航空機騒音による被害を容認するという心情が生じにくいという事情もあり,さらに,③普天間飛行場については,我が国政府とアメリカ合衆国との返還合意期限が既に過ぎていることからすると,恒久的に存続が予定されている飛行場の周辺で居住を開始することとは異なるので,少なくとも両国間で返還合意がされた平成8年以降に普天間飛行場周辺地域に居住することは,将来を見据えたやむを得ないものとみる面もある。
以上の諸事情を総合考慮すると,本件コンター内の住所に転居する際,本件航空機騒音の存在を認識している者について,その転居理由が,通勤の利便性等の固有の生活利益に基づいているものであっても,実家に近い場所での生活等の固有の生活利益に基づいているといえないものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものと認められる場合でない限り,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認して居住したとみることができないというべきである。
(2) そして,原告ら(後記5で検討する原告58名を除く。)の中には,前記3(3)のとおり,本件航空機騒音の存在を認識しているといえる者がいるものの,その転居の理由は,原告番号74,110,186,223の各原告にあってはその転居先が実家や勤務先の近くであるとか,以前の住居が老朽化のため解体されることになって近隣に転居したとかというものであって(甲B27の1,2,B36の1,B50の8,28),普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められず,また,その他の原告の転居理由についても普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものであることをうかがわせる証拠はないから,あえて本件航空機騒音による被害を容認しているとみることはできない。
(3)したがって,本件航空機騒音の存在を認識している原告らについても,あえて本件航空機騒音による被害を容認して本件コンター内の住所に転居したと認めることはできない。
5  被告が特に指摘する原告らについての検討
被告は,以下の原告(その原告の家族である原告も含む。)58名については,その移転経過に照らし,いずれも本件航空機騒音による被害を認識し,これを容認して本件コンター内に転居しているから,免責法理としての「危険への接近」の法理を適用すべきである旨主張する((1)から(29)までにおいては,丸数字を付して記載した住所を当該各項においてそれぞれ「①住所」,「②住所」などと表記する。)。
(1) 原告X1(原告番号1番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B2の10,原告X1)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X1は,平成4年6月1日,宜野湾市字我如古(本件コンター外)から①宜野湾市真志喜2丁目(W75区域)に転居し,平成10年6月27日,①住所から②同市上原1丁目(W75区域)に転居し,平成12年6月25日,②住所から③同市上原1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X1は,居住していた前記(ア)の我如古にある借家が古くなったことから,勤務先である宜野湾市役所への通勤の利便性を考えて,前記(ア)①住所への転居をした。同原告は,その後,結婚を機会に,同様の通勤の利便性を考えて,同②住所への転居をした。また,同原告は,同様の通勤の利便性を考えて,犬を飼うために知人が家主であるアパートで生活することとし,同③住所への転居をした。
(ウ) 原告X1は,前記(ア)我如古(本件コンター外)の借家で居住していた当時から,本件航空機騒音がうるさいと感じていた。
イ 原告X1の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,勤務先への通勤の利便性にあり,これに加え,借家の老朽化,結婚又は犬の飼育のためにあるところ,このような転居理由は,いずれも,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,①住所から③住所までの転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在を認識しながら,職場に近いことや犬の飼育をすることができる場所といった利便性を優先させて①住所から③住所までに転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X1があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までへの転居をしたとは認められない。
(2) 原告X26(原告番号26番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B14の1,2)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X26は,昭和49年3月6日,東京都杉並区松ノ木2丁目から①宜野湾市大謝名(W80区域)に転居し,昭和50年11月6日,①住所から②同市大謝名3丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X26は,結婚を機会に,勤務先に近い①住所にマンションを借りて生活するため,前記(ア)①住所への転居をした。同原告は,その後,勤務先にも近く,相場よりもかなり安い値段で①住所から約400~500mほど離れた場所に住宅を購入できたことから,前記(ア)②住所への転居をした。
(ウ) 原告X26は,前記(ア)の①住所及び②住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X26の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は結婚を機会として勤務先に近いという通勤の利便性に,②住所への転居は勤務先に近い場所で,かつ,安い値段で住宅を購入することができる経済的な理由にある。まず,通勤の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,住宅を安く購入するという経済的な理由についても,当該住宅の価格が相場よりもかなり安くなっていた原因が普天間飛行場が周辺に存在することにあると認めるに足りる証拠はないから,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,①住所及び②住所への転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとまでは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,経済性や利便性を優先させて②住所への転居をしているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X26があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻であるX25(原告番号25番)についても,原告X26と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所に転居したと推認することはできない。
(3) 原告X41(原告番号41番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の3)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X41は,平成5年7月1日,浦添市字西原(本件コンター外)から,①宜野湾市嘉数3丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X41は,①住所が実家から歩いて5分程度の場所にある上,所有者である実弟から安く賃借することができるため,前記(ア)の転居をした。
イ 原告X41の転居理由は,実家に近く,かつ,安く賃借することができるところにある。まず,実家に近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,賃料が安いのは家屋の所有者が実弟であることによるものであって,普天間飛行場の存在に関係のあるものとは認められないから,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ア)の①住所への転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びこれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとまでは認められない。
被告は,同原告が実家のすぐ近隣に転居しているので,その転居の際,本件航空機騒音の存在を認識していたはずであるにもかかわらず,経済的理由を優先させて①住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X41があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所への転居をしたとは認められない。
(4) 原告X122(原告番号122番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B46の1,2,原告X122)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X122は,昭和46年5月10日から,①宜野湾市普天間1丁目(W75区域)に居住していたところ,昭和62年5月30日,①住所から②同市野嵩4丁目(W75区域)に転居し,平成3年2月23日,②住所から③同市普天間2丁目(W75区域)に転居し,平成7年3月10日,③住所から④同市野嵩2丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X122は,①住所の実家で居住していたが,結婚を機会に,実父の介護も考えて,①住所にある実家に近い場所で生活するため,前記(ア)②住所への転居をした。同原告の実父は,昭和62年当時,糖尿病であったため,毎朝午前6時に,同原告から,インスリン注射を受ける必要があった。
同原告は,子供が生まれたため,住居が手狭になったので,より広い住居を求めて,実家から車で1,2分の距離にある③住所に居住することとし,前記(ア)③住所への転居をした。
同原告は,長男として仏壇を管理する必要があり,また,実家の近くには実母の墓もあったものの,実家の近くには適度な空き地がなかったため,実家に比較的近く,安く売りに出されていた④住所に土地を購入して,家を新築しため,前記(ア)④住所への転居をした。
(ウ) 原告X122は,①住所に居住していた当時から,本件航空機騒音をうるさく感じ,イライラすることがあった。同原告は,前記(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X122の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,長男として,実父の世話や仏壇の管理などをする必要があり,結婚や子供の誕生などの機会に,実家に近い場所で生活をするところにある。まず,実父の世話や仏壇の管理などの理由は,いずれも固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,実家に近い場所で生活するという理由も,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ア)の①住所から④住所までへの各転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,①住所に居住していた当時から,本件航空機騒音の状況を認識しており,同②住所から④住所までへの各転居の際には,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,いずれも近接している前記ア(ア)の各住所において,転居を繰り返している上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X122があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の各住所への転居をしたとは認められない。
(5) 原告X123(原告番号123番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B32の1,2)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X123は,平成4年8月15日,浦添市宮城5丁目(本件コンター外)から①宜野湾市真栄原1丁目(W75区域)に転居し,平成6年2月1日に前記神島マンションに転居した後,平成14年2月12日,中頭郡中城村字南上原(本件コンター外)から②宜野湾市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,第1事件の訴えの提起後の平成16年12月1日,②住所から③同市野嵩1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X123は,平成4年,就職のため,出身地の沖縄に戻ったが,新居が見付かるまで,叔母が賃借していたマンションである前記(ア)の神島マンションに居候した。同原告は,勤務先であるラグナガーデンホテルへの通勤の便が良く,また,小学・中学時代を過ごし,友人の多い地域である真栄原地区に新居を見付けたので,前記(ア)①住所への転居をした。
同原告は,平成6年に同ホテルを退職し,平成10年,平成11年ころから,政党で働くようになっていたところ,平成14年ころ,当時宜野湾市野嵩を地盤に活動していた市議会議員の後を継ぐため,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,平成16年ころ,②住所が手狭になり,自宅で会合を開くことができるような広い場所に住みたいと考え,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X123は,前記(ア)の①住所から③住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,同原告は,同②住所及び③住所への転居の際は,本件航空機騒音により生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X123の転居理由は,①住所への転居は通勤の利便性や友人が多いことに,②住所及び③住所への各転居の理由は市議会議員としての政治活動にある。まず,通勤の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,市議会議員としての政治活動をするためという転居理由も,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。そうすると,同原告は,前記(ア)の①住所から③住所までへの各転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在を認識しながら,通勤の便が良いことや友人が多いことなどの事情を優先させて①住所に転居し,また,住居が手狭という理由で③住所に転居しているから,同各転居の際は本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X123があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び③住所への転居をしたとは認められない。
(6) 原告X130(原告番号130番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B18の1,2,原告X130)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X130は,昭和56年3月1日,浦添市字西原(本件コンター外)から①宜野湾市野嵩1丁目(W75区域)に転居し,昭和62年5月26日,①住所から②同市野嵩3丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X130は,昭和49年から,宜野湾市役所に同市職員として勤務しているところ,昭和56年当時,当時の宜野湾市長と同原告が組合員となっている同市職員組合との意見が食い違っていたことなどから,同年8月に行われる同市長選挙で,当時の同市長を落選させたいと考えた。そして,同原告は,宜野湾市内に住所を定めれば,宜野湾市長選挙の選挙権を取得することができ,また,通勤にも便利であると考えて,前記(ア)①住所への転居をした。
その後,同原告は,住宅を新築するため,沖縄市や西原町を含めて土地を探したものの見付からず,通勤距離が長くならないように,多少土地の値段が高くても宜野湾市内の通勤が便利なところを探していたところ,たまたま,②住所の土地が,相続財産処分という売主側の事情により,周囲の土地よりも安く売りに出されていたため,同土地を購入し,前記(ア)②住所への転居をした。
(ウ) 原告X130は,前記(ア)の①住所及び②住所への各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X130の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は通勤の利便性や選挙権の取得に,②住所への転居は通勤の利便性や経済的な理由にある。まず,通勤の利便性の理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,選挙権の取得や経済的な理由についても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の①住所及び②住所への各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,通勤の利便性や選挙権の取得,経済的事情等を優先させているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X130があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び②住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X129(原告番号129番)についても,原告X130と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び②住所に転居したと推認することはできない。
(7) 原告X139(原告番号139番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の15)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X139は,昭和42年6月11日から,①宜野湾市普天間2丁目(W75区域)に居住していたところ,平成元年12月2日,①住所から②同市新城2丁目(W80区域)に転居し,平成7年12月22日,②住所から③同市野嵩1丁目(W75区域)に転居し,平成10年3月24日,③住所から④①住所に再び転居した。
(イ) 原告X139は,実家である①住所に居住していたものの,家族の都合のため,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,その後,結婚を機会に,家族が増え広い部屋に引っ越す必要があったため,同③住所への転居をした。
同原告は,その後,実家で生活するため,同④住所への転居をした。
(ウ) 原告X139は,前記(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X139の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,家族の都合や結婚,実家での生活のためにある。まず,家族の都合や結婚との理由は,いずれも固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,実家で生活するという理由も,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告が,同(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとまでは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,本件コンター内での転居を繰り返している上,各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X139があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所から④住所までへの転居をしたとは認められない。
(8) 原告X141(原告番号141番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の16)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X141は,昭和48年4月22日,本件コンター外から,①宜野湾市新城1丁目(W80区域)に転居し,平成6年10月24日,①住所から②同市普天間2丁目(W75区域)に転居し,平成8年5月23日,②住所から③①住所に再び転居し,平成8年10月28日,同市赤道2丁目(本件コンター外)に転居し,平成10年7月1日,同所から④同市普天間2丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X141は,結婚を機会に,実家である①住所に近い場所で家賃の安い物件を見付けたため,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,肉親の看護世話,実家の手伝いをし,又は肉親・実家の支援を受けるために,①住所と同じ実家で再び生活することとし,前記(ア)③住所への転居をした。同原告は,その後,本件コンター外に転居したものの,小学3年生まで住んでいた普天間2丁目付近に戻りたいという気持ちが生じ,実家に比較的近いことから,同④住所への転居をした。
(ウ) 原告X141は,前記(ア)の①住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X141の④住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,小学3年生まで住んでいた普天間2丁目付近に戻りたいという気持ちが生じたことや,実家に比較的近いことにあるところ,これらの転居理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の①住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内で3回以上転居を繰り返しているところ,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら④住所に転居している上,同転居に選択の余地がないとの事情もないから,同原告には本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X141があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X140(原告番号140番)についても,原告X141と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所に転居したと推認することはできない。
(9) 原告X142(原告番号142番)
ア 前記前提事実及び証拠(甲B2の5,原告X142)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X142は,昭和58年4月3日から,①宜野湾市字我如古(W75区域)に居住していたところ,昭和61年4月29日,①住所から②同市新城2丁目(W80区域)に転居し,昭和63年10月2日,②住所から同市喜友名1丁目(本件コンター外)に転居した後,平成元年3月30日,同所から③同市普天間1丁目(W75区域)に転居した。同原告は,平成2年5月22日,③住所から上記喜友名1丁目に再び転居した後,平成9年5月24日,同所から④同市普天間2丁目(W75区域)に転居し,第1事件の訴えの提起後の平成16年1月18日,④住所から⑤同市普天間2丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X142は,宜野湾市議会議員選挙に立候補するに当たり,喜友名地区から立候補しても当選できないと考え,また,同原告はもともと普天間出身であったことから,普天間地区から立候補する方が当選の確率が高いと考えて,前記(ア)④住所への転居をした。また,同原告は,④住所に白蟻が発生し,家主から退去を求められたため,④住所と50mほど離れた場所である前記(ア)⑤住所への転居をした。
イ 原告X142の④住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,市議会議員選挙での当選確率を高めるところにある。同原告がもともと普天間地区の出身であり,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,上記の転居理由が普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,⑤住所への転居理由についても,家主の都合によるものであり,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ア)の住所④及び⑤への転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,①住所,②住所及び③住所における居住経験からして,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していたはずであるにもかかわらず,市議会議員選挙に当選する確率が高いという理由で④住所に転居し,また,④住所に近い⑤住所に転居している上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X142があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所及び⑤住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻子である原告X143(原告番号143番)及び同X144(原告番号144番)についても,同X142と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所及び⑤住所に転居したと推認することはできない。
(10) 原告X146(原告番号164番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の19)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X146は,昭和54年7月23日,本件コンター外から①宜野湾市字真志喜(W80区域)に転居し,昭和59年10月1日,①住所から②同市字大謝名(W80区域)に転居し,平成7年7月4日,②住所から③同市真志喜1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X146は,結婚し,子供が生まれたところ,共稼ぎであったため,実家の親に子供の面倒をみてもらうために,実家である①住所に近い場所で生活するため,前記(ア)②住所への転居をした。また,同原告は,自家用車を所有していなかったため,勤務先に近いことや,子供たちの通学にも便利で,また,発展している地域であることを考慮して,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X146は,前記(ア)の③住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X146の③住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,通勤・通学の利便性等にあるところ,これらの利便性は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の③住所への転居の際,本件航空機騒音が本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していたにもかかわらず,通勤・通学の利便性を優先させて③住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X146があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の子である原告X165(原告番号165番)についても,原告X146と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所に転居したと推認することはできない。
(11) 原告X174(原告番号174番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の23)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X174は,昭和58年4月3日,①宜野湾市字我如古(W75区域)に転居し,昭和61年5月7日,①住所から②同市普天間1丁目(W75区域)に転居し,平成4年3月22日,②住所から③同市真栄原3丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X174は,家族の都合により,前記(ア)の①住所から③住所までへの転居をした。
(ウ) 原告X174は,前記(ア)の①住所から③住所までへの転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X174は,前記ア(イ)のとおり,家族の都合を理由に同(ア)の各住所に転居しているところ,その家族の都合の具体的内容までは明らかではないものの,その転居理由が,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものと認めるに足りる証拠はない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の各住所への転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとまでは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,①住所から③住所までへ転居を繰り返している上,同各転居に選択の余地がないとの事情がないから,本件航空機騒音による被害を容認していたといえるなどとして,同原告につき免責法理としての危険への接近の法理を適用すべきであると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X174があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までへの転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻であるX175(原告番号175番)についても,原告X174と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までに転居したと推認することはできない。
(12) 原告X201(原告番号201番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B44の1から3まで,原告X201)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X201は,昭和59年7月8日,①宜野湾市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,平成10年7月5日,①住所から②同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,同年12月15日,②住所から③①住所に再び転居した。
(イ) 原告X201は,実家に近い場所で生活するため,不動産業者を介して,予算を考慮し,新築の住居を購入して,前記(ア)①住所への転居をした。同原告は,①住所に居住している際,妻と別居することとなったものの,できれば関係を修復したいと考えていたことから,①住所に近く,かつ,入居可能であったことから,前記(ア)②住所への転居をした。その後,同原告は,妻との関係が修復したことから,①住所と同じ場所で妻と同居するため,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X201は,前記(ア)の①住所への転居の際,実家に近い場所であったものの,実家は普天間飛行場のフェンスのすぐそばにあり,①住所は同フェンスから離れていると感じていたため,①住所にも本件航空機騒音があるものの,実家ほどは,ひどくないと考えていた。同原告は,前記(ア)の②住所及び③住所への各転居の際には,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X201の各転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は実家に近い場所で生活すること,②住所及び③住所への転居は妻との不仲及びその解消にある。まず,実家に近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,②住所及び③住所への転居理由は,いずれも同原告の個人的な事情に基づくものであり,特に③住所への転居については,もともと夫婦で暮らしていた生活の本拠である住居に戻るにすぎないから,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ア)の①住所から③住所までへの転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,①住所への転居の際は,実家から800mと近いので,本件航空機騒音の存在を認識したとみるべきである上,経済的事情や利便性を優先させて①住所に転居したから,本件航空機騒音による被害を容認しており,また,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,②住所及び③住所への転居を繰り返した上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,同被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X201があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までへの転居をしたとは認められない。
なお,同原告の妻子である原告X202(原告番号202番),同X203(原告番号203番)及び同X204(原告番号204番)については,前記ア(ア)の①住所への転居においては,原告X201と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所に転居したと推認することはできず,また,前記前提事実7のとおり,原告X70と異なる時期に前記ア(ア)の①住所と同一の住所に転居した際も,その転居理由が普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものであることをうかがわせる証拠はないから,あえて本件航空機騒音による被害を容認して同住所に転居したと認めることはできない。
(13) 原告X228(原告番号228番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の29)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X228は,昭和50年12月21日,①宜野湾市普天間2丁目(W75区域)に転居し,平成6年11月10日,①住所から同市上原2丁目(本件コンター外)に転居し,平成11年7月26日,同所から②同市新城2丁目(W80区域)に転居し,第2事件の訴えの提起後の平成17年7月3日,②住所から③同市普天間2丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X228は,①住所にある実家に近いことや,普天間第二小学校に通っていた子供の通学の利便性を図るため,前記(ア)②住所への転居をした。
(ウ) 原告X228は,前記(ア)の②住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X228の②住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,実家に近いことや,子供の通学に便利であることにある。まず,実家に近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,通学の利便性という理由も,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告が,前記ア(ウ)のとおり,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,子供の通学の利便性を優先させて②住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X228があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X229(原告番号229番)についても,原告X228と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所に転居したと推認することはできない。
(14) 原告X238(原告番号238番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B1の123,B37の1から6まで,B50の32の1,2,原告X240)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X238は,昭和50年2月28日生まれであり,原告X240の子である。
同原告は,昭和51年11月21日,中頭郡中城村字奥間(本件コンター外)から①宜野湾市普天間1丁目(W80区域)に転居し,平成4年9月5日,①住所から②同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,同年11月15日,②住所から③同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,平成7年4月5日,③住所から東京都足立区南花畑3丁目(本件コンター外)に転居した。同原告は,平成8年5月8日,同所から④③住所に再び転居し,平成9年7月7日,④住所から⑤宜野湾市嘉数4丁目(W75区域)に転居し,平成12年12月8日,⑤住所から⑥③住所に再び転居した。
(イ) 原告X238は,祖父(原告X240の父である。)が所有する家がある①住所に居住していた当時,①住所の家が道路拡張のため取り壊されることになったため,隣接する②住所に仮住まいすることとし,前記(ア)②住所への転居をした。また,原告X238は,祖父が③住所にマンションを新築したことから,当時17歳であったため,そのマンションで暮らした方が安心で便利であるとの原告X240らの判断により,同③住所への転居をした。その以降,③住所が同原告の実家となった。
同原告は,東京に出稼ぎに行った後,③住所と同じ実家で生活するため,前記(ア)④住所への転居をした。同原告は,結婚を機会に,自己の実家のある③住所と妻の実家である浦添市との間にある⑤住所に新居を設けるため,前記(ア)⑤住所への転居をした。
同原告は,妻と離婚し,働きながら子供を育てていくためには実家の支援が必要であったことから,③住所と同じ実家で生活するため,前記(ア)⑥住所への転居をした。
(ウ) 原告X238は,前記(ア)の②住所から⑥住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X238の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,③住所への転居は祖父の新築したマンションで暮らした方が安心で便利であるとの親の判断によったこと,⑤住所への転居は結婚を機会に夫婦双方の実家との距離関係を考慮したこと,⑥住所への転居は働きながら子供を育てていくためには実家の支援が必要であったことにある。これらの理由は,いずれも,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から⑥住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在又はそれによる被害を認識しながら,生活の利便性などを優先させて③住所から⑥住所までに転居している上,同転居に選択の余地がなかったとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X238があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所から⑥住所までへの転居をしたとは認められない。
また,原告X239(原告番号239番)についても,原告X238と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の⑥住所に転居したと推認することはできない。
エ また,原告X240(原告番号240番)については,証拠(甲B37の1から6まで,原告X240)によれば,原告X240は,父所有の家がある①住所等への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていたものの,実家に近い場所で居住し,又は子供と暮らすため,本件コンター内で転居を繰り返してきたことが認められるので,その転居の理由は,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められないから,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認して転居したと認めることはできない。
(15) 原告X242(原告番号242番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の33)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X242は,①宜野湾市普天間(W80区域)に居住していたところ,昭和58年5月25日,①住所から中頭郡北谷町字吉原(本件コンター外)に転居した後,昭和59年5月21日,同所から②宜野湾市野嵩3丁目(W75区域)に転居し,平成4年2月11日,②住所から③同市野嵩4丁目(W75区域)に転居し,同年11月15日,③住所から④同市普天間1丁目(W80区域)に転居した。また,同原告は,第2事件の訴えの提起後の平成17年4月8日,④住所から⑤同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,同年10月13日,⑤住所から中頭郡北中城村字島袋(本件コンター外)に転居した。
(イ) 原告X242は,結婚を機会に,宜野湾市普天間2丁目にある勤務先への通勤に便利であることや,同市普天間1丁目にあった実家に近い場所であることから,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,その後,②住所にある住居が老朽化のため取り壊すこととなったことから,普天間小学校に通学する子供の通学に便利であることや,実家に近い場所であることから,前記(ア)③住所への転居をし,また,子供の通学に便利であることや実家が④住所や⑤住所にあったことから,前記(ア)④住所及び⑤住所への転居をした。
(ウ) 原告X242は,前記(ア)の②住所から⑤住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X242の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,②住所への転居は通勤の利便性や実家に近い場所での生活,③住所への転居は通勤の利便性及び子供の通学の利便性,④住所及び⑤住所への転居は子供の通学の利便性及び実家での生活にある。まず,通勤・通学の利便性については,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,実家又はこれに近い場所で生活するという理由についても,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から⑤住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,通勤の利便性を優先させて②住所に転居した上,同転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X242があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所から⑤住所までへの転居をしたとは認められない。
また,原告X241(原告番号241番)及び同X243(原告番号243番)について,同X242と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所から④住所までに転居したと推認することはできない。(なお,被告は,原告X244(原告番号244番)についても,同X242と同一の転居に関し,同人と同様に本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,原告X244は,同X242と同一住所への同一時期の転居をしていない上,④住所における出生による居住(甲A1の146,B1の124)についても,同X242と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して居住したと推認することはできないので,被告のこの主張を採用することができない。)。
(16) 原告X249(原告番号249番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の35)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X249は,昭和47年7月8日生まれである。
同原告は,昭和54年5月5日,本件コンター外から①宜野湾市新城1丁目(W80区域)に転居し,昭和61年12月15日,①住所から②同市新城2丁目(W75区域)に転居し,平成元年8月31日,②住所から③同市新城2丁目(W75区域)に転居し,平成2年12月4日,③住所から沖縄市字泡瀬(本件コンター外)に転居した後,平成3年3月20日,同所から④③住所に再び転居した。また,同原告は,平成5年6月1日,④住所から⑤同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,同年12月10日,⑤住所から⑥同市真志喜3丁目(W75区域)に転居し,平成6年3月25日,⑥住所から⑦同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,平成11年12月1日,⑦住所から⑧同市普天間2丁目(W75区域)に転居した。さらに,同原告は,平成14年5月28日,⑧住所から⑨同市野嵩1丁目(W75区域)に転居し,平成15年3月24日,⑨住所から⑩同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,第2事件の訴えの提起後の同年7月28日,⑩住所から⑪同市普天間1丁目(W80区域)に転居し,平成16年7月20日,⑪住所から⑫同市普天間2丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X249は,両親の転居に伴って,前記(ア)②住所及び③住所への転居をした後,両親が離婚したため実父とともに暮らしていたところ,実母と一緒に生活するため,③住所と同じ前記(ア)④住所への転居をした。同原告は,成人に達した後,今度は実父と一緒に生活するため,同⑤住所への転居をし,再び実母と一緒に生活するため,同⑥住所への転居をした。同原告は,結婚を機会に,妻の実親が所有しているマンションに居住するため,前記(ア)⑦住所への転居をした。同原告は,実父が自宅を購入したことを機会に,実父と同居するため同⑧住所への転居をした。同原告は,その後,子供が生まれて手狭になり,また,実父との折り合いが一時的に悪化したために,浦添市にある勤務先に通勤する利便性も考え,同⑨住所への転居をした。同原告は,仕事を辞めて収入が減ったため,家賃が安く,また,宜野湾市普天間1丁目にある妻の実家に近いため,同⑩住所への転居をした後,知人の紹介で,広くて家賃の安い部屋を借りることができたことから,同⑪住所への転居をした。
(ウ) 原告X249は,前記(ア)の②住所から⑪住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X249の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,④住所から⑥住所までの転居は親から扶養を受けるため,⑦住所及び⑧住所への転居は自己又は妻の実家の援助を受けるため,⑨住所への転居は子供が生まれて手狭になったため,⑩住所及び⑪住所への転居は収入が減り,また妻の実家に近い場所にあるためにそれぞれある。これらの理由のうち,まず,④住所から⑨住所までへの転居については,いずれも固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,経済的に折り合いを付けながら,妻の実家に近い場所で生活するなどという⑩住所及び⑪住所への転居理由も,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。さらに,⑫住所への転居についても,上記④住所から⑪住所の転居の理由に照らすと,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものと推認することはできない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から⑪住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音及びそれによる被害を認識していながら,経済的理由を優先させて,②住所から⑫住所までにそれぞれ転居した上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X249があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所から⑫住所までへの転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻子である原告X250(原告番号250番),同X251(原告番号251番)及び同X252(原告番号252番)についても,原告X249と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の⑦住所から⑪住所までに転居した(同X252による前記ア(ア)の⑦住所にあっては,出生により居住した(甲A1の150,B1の127))と推認することはできない。
(17) 原告X253(原告番号253番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の36)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X253は,昭和52年10月20日から,①中頭郡中城村字安谷屋(W75区域)に居住していたところ,昭和55年3月20日,①住所から②宜野湾市新城2丁目(W75区域)に転居し,平成9年3月27日,②住所から③同市野嵩2丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X253は,結婚を機会に①住所に居住していたところ,夫の祖父を介護するため,前記(ア)②住所への転居をした。
同原告は,その後,離婚を機会に,長らく空き家になっていた知人所有の建物に管理をする代わり無償で居住させてもらえることとなったため,同③住所への転居をした。
(ウ) 原告X253は,前記(ア)の①住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知らなかったけれども,前記(ア)の同②住所及び③住所への転居の際は,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X253の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は,結婚に,②住所への転居は,夫の祖父の介護に,③住所への転居は,離婚にそれぞれあるところ,これらの理由は,いずれも固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の②住所及び③住所への転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内での転居を繰り返しているところ,本件航空機騒音及びこれによる被害を認識していながら,経済的理由を優先させて,③住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X253があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所への転居をしたとは認められない。
(18) 原告X254(原告番号254番)について
ア 前記前提事実及び証拠(枝番号を含む甲B20)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X254は,平成7年1月8日,宜野湾市喜友名2丁目(本件コンター外)から①同市新城1丁目(W80区域)に転居し,同年3月12日,①住所から②同市喜友名1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X254は,結婚を機会に,既に夫が居住していた①住所に転居し,その後,出産をするため,実家である宜野湾市喜友名2丁目に近く,より広いアパートである②住所に転居した。
(ウ) 原告X254は,前記(ア)の①住所及び②住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X254の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は,結婚を機会に夫が居住していた住居で生活するためにあり,また,②住所への転居は,実家の援助を期待し,かつ,出産後の生活に支障が出ない広さのアパートに住むためにある。これらの理由は,いずれも固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の①住所及び②住所への転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,経済面を重視した事情により,①住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X254があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び②住所への転居をしたとは認められない。
(19) 原告X255(原告番号255番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B38の1から3まで,原告X255)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X255は,昭和63年4月22日,①中頭郡北中城村字安谷屋(W75区域)から②宜野湾市字喜友名(W75区域)に転居し,同年7月18日,②住所から③同市喜友名2丁目(W75区域)に転居し,平成2年5月20日,③住所から④同市喜友名1丁目(W75区域)に転居した。また,同原告は,平成4年2月16日,④住所から同市喜友名2丁目(本件コンター外)に転居した後,平成7年2月1日,④住所から⑤同市喜友名1丁目(W75区域)に転居し,平成8年5月19日,⑤住所から⑥同市喜友名1丁目(W75区域)に転居し,平成9年12月8日,⑥住所から⑦同市喜友名1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X255は,家族の都合により前記(ア)②住所への転居をし,また,同市喜友名2丁目にある実家又はこれに近い場所で生活するために同③住所への転居をした後,夫の事業がうまくいかなかったため,平成2年5月,少しでも家賃の安いところを求めて,同④住所への転居をした。同原告は,その後も,できるだけ家賃の安いところを探し,同⑤住所及び⑥住所への転居をした。同原告は,平成9年,夫と離婚することとなり,二人の小学生の娘を抱えて,新たな住居を探す必要が生じたところ,喜友名地区で少しでも安い物件を探し,知人が家主であることもあり,同住所⑦への転居をした。
同原告は,両親が早く亡くなり,幼い妹の近くにいたいという気持ちがある上,転校したくないという子供たちの気持ちを優先して,同市喜友名地区内で転居を繰り返した。
(ウ) 原告X255は,前記(ア)の②住所から⑦住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X255の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,経済的事情に加えて,幼い妹の近くに住みたいという希望や,二人の小学生の娘の転校したくないという気持ちへの配慮にあるということができる。まず,経済的事情については,同じ喜友名地区の中で特に安い物件を探していたということからすれば,普天間飛行場が存在すること以外の理由によって家賃が安くなっていると認める余地があるから,家賃の安い物件に転居したことが,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。また,妹の近くに住みたいという希望や二人の小学生の娘の転校したくないという気持ちへの配慮は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から⑦住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内を3回以上にわたり転居しているところ,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,経済的理由を優先させて④住所及び⑦住所に転居している上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X255があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所から⑦住所までへの転居をしたとは認められない。
(20) 原告X257(原告番号257番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の52)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X257は,昭和61年3月31日,東京都世田谷区世田谷4丁目(本件コンター外)から①宜野湾市新城2丁目(W75区域)に転居し,同年6月2日,①住所から②同市新城1丁目(W75区域)に転居し,同年9月8日,②住所から③①住所(W75区域)に再び転居し,平成8年10月10日,③住所から④同市喜友名1丁目(W75区域)に転居し,第2事件の訴えの提起後の平成15年5月5日,④住所から⑤同市新城2丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X257は,①住所にある実家で生活するため,前記(ア)①住所への転居をした。同原告は,実家に近い場所にあり,かつ,知人が所有するアパートの部屋を無償で借りて,一人暮らしをするため,同②住所への転居をした。その後,同原告は,実家で生活するため,同③住所への転居をし,結婚を機会に,実家に近い場所にあるため,同④住所への転居をした。さらに,同原告は,妊娠を機会に,夫の実家から支援を受けるため,夫の実家で生活することとし,同⑤住所への転居をした。
(ウ) 原告X257は,前記(ア)の①住所から⑤住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X257の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所,③住所から⑤住所までへの転居は自己又は夫の実家で生活することに,②住所への転居は実家に近い場所で生活することに,⑤住所への転居は妊娠を機会に夫の実家からの子育ての援助を受けることにそれぞれある。まず,実家又はこれに近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,いずれも普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,実家から子育てのために援助を受けるという理由も,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の①住所から⑤住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内を3回以上に転居しているところ,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,実家に近い場所であるとの理由により④住所に転居した上,当該転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X257があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所への転居をしたとは認められない。
(21) 原告X290(原告番号290番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の41)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X290は,昭和45年1月10日から,①宜野湾市野嵩2丁目(W80区域)に居住していたところ,平成6年2月14日,①住所から②同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,平成7年8月12日,②住所から③同市真志喜3丁目(W75区域)に転居し,平成12年5月17日,③住所から④同市野嵩2丁目(W80区域)に転居した。
(イ) 原告X290は,結婚を機会に,実家である①住所にも近いことから,前記(ア)②住所への転居をし,義兄夫婦の好意で2階を貸してもらえたことから,同③住所への転居をした。そして,同原告は,実家に近い場所に,自宅を新築して,同④住所への転居をした。
(ウ) 原告X290は,前記(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X290の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,②住所への転居は,結婚を機会に実家から独立することや実家に近い場所にあることに,③住所への転居は,義兄夫婦から家屋2階の貸与を受けたことに,④住所への転居は,実家に近い場所で自宅を新築したことにそれぞれある。まず,実家に近い場所で生活するという②住所及び④住所への各転居理由は,いずれも,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,義兄夫婦から家屋2階の貸与を受けたという③住所への転居理由についても,血縁の強さが影響しているとうかがわれるので,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとまでは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,経済的理由を優先させて,③住所及び④住所に転居した上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X290があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所及び④住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X291(原告番号291番)についても,同X290と同様の理由から,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所及び④住所に転居したと推認することはできず,また,同原告の子である原告X292(原告番号292番)及び同X293(原告番号293番)についても,同X290と同様の理由から,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の④住所に転居したと推認することはできない。
(22) 原告X325(原告番号325番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B48の1から3まで)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X325は,昭和58年12月19日,千葉県市川市八幡1丁目(本件コンター外)から①宜野湾市新城1丁目(W75区域)に転居し,昭和62年1月25日,①住所から②同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,平成元年8月1日,②住所から③同市上原2丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X325は,結婚を機会に,夫の父親の所有するアパートである①住所で生活するため,前記(ア)①住所への転居をし,自己の経営する薬局の入っている建物と同一の建物の上の階にあるアパートが見付かったことから,通勤の利便性のために,同②住所への転居をし,また,同薬局を宜野湾市野嵩1丁目に移転したのに伴い,そこから歩いて数分の距離にあるとの通勤の利便性のために,同③住所への転居をした。
(ウ) 原告X325は,前記(ア)の①住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知らなかった。また,同原告は,前記(ア)の②住所及び③住所への転居の際は,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害が全くないとまでは考えていなかった。
イ 原告X325の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所への転居は,夫の実家で生活すること,②住所及び③住所への転居は,通勤の利便性にそれぞれある。まず,実家で生活するとの理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,通勤の利便性という理由も,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所及び③住所への各転居の際,たとえ本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内を3回以上にわたり転居しているところ,本件航空機騒音の存在及びそれによる影響があることを認識していながら,通勤の利便性を優先させて,②住所及び③住所に転居しているから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X325があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び③住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の子である原告X326(原告番号326番)についても,原告X325と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び③住所に転居したと推認することはできない。
(23) 原告X336(原告番号336番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の54)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X336は,昭和50年2月5日,宜野湾市内の本件コンター外から①宜野湾市野嵩2丁目に転居した。
(イ) 原告X336は,①住所に転居する以前は,①住所から約100mの距離にあるところに居住していたところ,市道建設のため立ち退きを余儀なくされ,①住所の借地上に家屋を新築し,前記(ア)の転居をした。
(ウ) 原告X336は,前記(ア)の転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X336の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,市道建設のために転居を余儀なくされたことにあり,市道敷設による立ち退きというやむを得ない理由で転居を余儀なくされた同原告が自己の生活基盤となっている地域において生活を続けることは,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の①住所に転居する際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,①住所に転居しているところ,①住所を転居場所にしなければならないというやむを得ない事情がないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X336があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X337(原告番号337番)についても,原告X336と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所に転居したと推認することはできない。
(24) 原告X338(原告番号338番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B39の1,2)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X338は,昭和57年10月8日,①宜野湾市赤道(赤道1丁目)(W75区域)に転居し,昭和59年5月15日,①住所から東京都新宿区大久保2丁目(本件コンター外)に転居した後,昭和60年8月22日,同所から②①住所に再び転居し,平成11年3月23日,②住所から③宜野湾市野嵩3丁目(W80区域)に転居し,第2事件の訴えの提起後の平成16年2月10日,③住所から④同市野嵩1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X338は,②住所と同じ①住所が実家であるところ,宜野湾市普天間2丁目にある勤務先である夜間営業の飲食店への通勤に便利であるため,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X338は,前記(ア)の③住所への転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X338の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,通勤の利便性にあるところ,通勤の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,同(ウ)のとおり,同(ア)の③住所に転居する際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件コンター内を3回以上にわたり転居しているところ,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しながら,通勤の利便性を優先させて,本件コンター内のより高いW値の区域にある③住所に転居した上,同転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X338があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の③住所への転居をしたとは認められない。
(25) 原告X345(原告番号345番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B40の1から3まで)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X345は,平成9年4月30日,島尻郡座間味村字座間味(本件コンター外)から①宜野湾市野嵩1丁目(W75区域)に転居し,平成15年3月10日,①住所から②同市野嵩1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X345は,宜野湾市我如古にある妻の実家にも近い場所であるということを主な理由とし,沖縄市美里にある勤務先への通勤や普天間小学校に通う子供の通学の利便性も考慮して,前記(ア)①住所への転居をした。また,同原告は,妻の実家に近い②住所に家や土地を購入したことから,前記(ア)②住所への転居をした。
(ウ) 原告X345は,前記(ア)の①住所及び②住所への各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X345の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,妻の実家に近い場所で生活したいという希望や通勤・通学の利便性にある。まず,妻の実家に近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,通勤・通学の利便性という理由についても,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の①住所及び②住所への転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,通勤・通学の利便性等を優先させて,①住所に転居している上,実家の近くに居住すべき特別の理由はないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X345があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び②住所への転居をしたとは認められない。
また,原告X346(原告番号346番)についても,原告X345と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所及び②住所に転居したと推認することはできない。
(26) 原告X349(原告番号349番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の47)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X349は,昭和58年1月6日,中頭郡与那城村(当時)字屋慶名(本件コンター外)から①宜野湾市字我如古(W75区域)に転居し,昭和59年1月6日,①住所から本件コンター外に転居した後,平成12年5月1日,中頭郡北谷町字吉原(本件コンター外)から②宜野湾市野嵩1丁目(W75区域)に転居し,第2事件の訴えの提起後の平成15年5月16日,②住所から③同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,同年9月8日,③住所からうるま市与那城屋慶名(本件コンター外)に転居した。
(イ) 原告X349は,①住所に1年間居住した後に本件コンター外に転居したところ,その約16年後に,宜野湾市野嵩にある勤務先への通勤や子供が通う普天間小学校,普天間中学校への通学に便利であるため,前記(ア)②住所への転居をした。その後,同原告は,同様に子供の通学に便利であるため,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X349は,前記(ア)の②住所及び③住所への各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X349の②住所及び③住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,いずれも,通勤又は通学の利便性にあるところ,通勤又は通学の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所及び③住所への各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,通学の利便性等を優先させて,②住所及びより騒音レベルの高い区域にある③住所に転居した上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X349があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び③への転居をしたとは認められない。
また,同原告の子である原告X350(原告番号350番)について及び同X351(原告番号351番)についても,原告X349と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び③に転居したと推認することはできない。
(27) 原告X355(原告番号355番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の55)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X355は,①宜野湾市野嵩(野嵩2丁目)(W80区域)に居住していたところ,昭和55年10月20日,①住所から②宜野湾市字普天間(W75区域)に転居し,昭和58年10月17日,②住所から③①住所に再び転居し,平成11年4月11日,③住所から④同市野嵩1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X355は,結婚を機会に,①住所にある実家に近い場所で生活するため,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,実家で生活するため,同③住所への転居をしたものの,実家が狭くなったことや,実家に近い場所で生活するために,同④住所への転居をした。
(ウ) 原告X355は,前記(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X355の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,実家又はこれに近い場所で生活するためにある。実家又はこれに近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所から④住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,実家の近くにあることだけの理由で,②住所及び④住所に転居している上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X355があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び④住所への転居をしたとは認められない。
(28) 原告X359(原告番号359番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の53)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X359は,昭和41年6月20日から,①宜野湾市字普天間2丁目(W75区域)に居住していたところ,平成5年4月18日,①住所から同市赤道2丁目(本件コンター外)に転居した後,平成8年12月10日,同所から②同市新城1丁目(W80区域)に転居し,平成11年1月31日,②住所から③同市新城2丁目(W75区域)に転居し,平成17年3月6日,③住所から同市伊佐1丁目(本件コンター外)に転居した。
(イ) 原告X359は,実家である①住所から転居した後,本件コンター外で居住していたところ,子供の通学に便利であり,かつ,①住所にある実家まで歩いていける場所として,②住所を選び,前記(ア)②住所への転居をした。同原告は,その後,子供が成長して家が狭くなったことから,子供の通学する普天間第二小学校の学区を変えずに広い家に引っ越す必要があったことや,実家に近いことから,前記(ア)③住所への転居をした。
(ウ) 原告X359は,前記(ア)の②住所及び③住所への各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X359の②住所及び③住所への転居理由は,前記ア(イ)のとおり,いずれも,子供の通学に便利で,かつ,実家に近い場所で生活するためにある。まず,通学の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,実家に近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の②住所及び③住所への各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していながら,通学の利便性等を優先させて,②住所及び③住所に転居している上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X359があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の②住所及び③住所への転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X360(原告番号360番)についても,原告X359と同様の理由により,本件航空機騒音による被害を認識して前記ア(ア)の②住所及び③住所に転居したと推認することはできない。
(29) 原告X364(原告番号364番)について
ア 前記前提事実及び証拠(甲B50の49)によれば,以下の事実が認められる。
(ア) 原告X364は,平成元年12月12日,宜野湾市字長田(本件コンター外)から①同市上原(W75区域)に転居し,平成3年8月12日,①住所から②同市野嵩2丁目(W80区域)に転居し,平成6年1月12日,②住所から③同市野嵩1丁目(W75区域)に転居した。
(イ) 原告X364は,結婚を機会に,②住所にある妻の実家に近く,同市宜野湾1丁目にある自己の勤務先及び同市野嵩1丁目にある妻の勤務先への通勤に便利であるため,前記(ア)①住所への転居をした。
その後,同原告は,妻の実家で生活するため,同②住所への転居をした。
同原告は,妻の実家に近く,自己及び妻の通勤にも便利であり,かつ,子供にも自分たちが通った小学校に通わせたいという希望がかなえられる③住所に新居を購入し,同・住所への転居をした。
(ウ) 原告X364は,前記(ア)の①住所から③住所までへの各転居の際,本件航空機騒音があることを知っており,また,それにより生活に支障が生ずるなどの被害があると考えていた。
イ 原告X364の転居理由は,前記ア(イ)のとおり,①住所及び③住所への転居は自己及び妻にとって通勤に便利で,かつ,妻の実家に近い場所で生活するなどのために,また,②住所への転居は妻の実家で生活するためにある。まず,通勤の利便性という理由は,固有の生活利益の実現に向けられたものであっても,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。また,妻の実家又はこれに近い場所で生活するという理由は,前記4(1)のとおり,沖縄では地縁・血縁が強く,人々は自らが生まれ育った土地や,親族が生活する土地で生活する傾向が強いことに照らせば,普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものとは認められない。そうすると,同原告は,前記ア(ウ)のとおり,同(ア)の①住所から③住所までへの各転居の際,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識しているとしても,前記4(1)の説示に照らせば,その居住はやむを得ず開始したものとみるべきであって,あえて本件航空機騒音による被害を容認していたとは認められない。
被告は,同原告が,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害を認識していたにもかかわらず,通勤の利便性等を優先させて①住所及び②住所に転居した上,同各転居に選択の余地がないとの事情もないから,本件航空機騒音による被害を容認していると主張するけれども,上記説示に照らし,被告のこの主張を採用することはできない。
ウ したがって,原告X364があえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までへの転居をしたとは認められない。
また,同原告の妻である原告X365(原告番号365番)についても,原告X364と同様の理由により,あえて本件航空機騒音による被害を容認して前記ア(ア)の①住所から③住所までに転居したと推認することはできない。
6  まとめ
以上によれば,被告が免責法理としての「危険への接近の法理」の適用があると主張する原告らについては,前記3のとおり,本件航空機騒音の存在に認識していたと認められず,又は前記4及び5のとおり,あえて本件航空機騒音による被害を容認して本件コンター内の住所に転居したとは認められないから,原告らについて免責法理としての「危険への接近の法理」を適用して被告を免責することはないというべきである。
第4  被告による消滅時効の援用が権利の濫用に当たるかどうか(争点4)などについて
1  消滅時効の成否
(1) 消滅時効の起算日
民事特別法2条に基づく損害賠償の請求権についても,民法724条の適用がある(国家賠償法4条参照)ところ,第1事件原告は平成14年10月29日に,第2事件原告は平成15年4月14日に,本件各訴えの提起をしたこと,被告は,原告らに対し,同年9月25日の本件口頭弁論期日において,第1事件及び第2事件の各訴えの提起の日からさかのぼって3年より以前の各日に発生した損害賠償債権について,時効を援用するとの意思表示をしたことは,当裁判所に顕著である。
また,原告らの損害は日々発生することは当事者間に争いがないので,本件の損害賠償の請求権は,それぞれ発生した日から別個に消滅時効が進行すると解するのが相当である。
(2) 「損害及び加害者を知った」(民法724条前段)時期
普天間飛行場は,前記前提事実1のとおり,昭和47年5月15日の沖縄の復帰に伴い,アメリカ合衆国に対し,安保条約及び地位協定に基づき,米軍の使用する施設及び区域として提供されたところ,前記第2の2のとおり,普天間飛行場周辺地域は,その当時も,現在とあまり変わらない程度の本件航空機騒音に暴露されていたと推認することができる。
しかし,それを超えて,前記第3の3(1)のとおり,同日において,本件航空機騒音の存在及びそれによる被害が一般に周知されていたとは認めるに足りる証拠はない。
もっとも,我が国とアメリカ合衆国が平成8年3月28日に平成8年規制措置を合意したときには,遅くとも本件航空機騒音による被害が一般に周知されていたと認めることができる。
そうすると,原告らは,遅くとも平成8年3月28日においては損害及び加害者を知ったと推認することができる。
したがって,昭和47年5月15日から平成8年3月28日までに生じた損害に係る損害賠償の請求権については,翌29日から3年間行使をしないことにより消滅し,また,同日以降に生じた損害に係る損害賠償の請求権については,本件コンター内に居住している日のそれぞれのその翌日から3年間行使をしないことにより,本件各訴えの提起により中断されたものを除き,消滅するというべきである。
2  被告による消滅時効の援用についての権利の濫用の該当性
原告らは,被告が時効を援用することは権利の濫用として許されない旨主張する。
しかし,原告らの本件各訴えの提起が遅れたことについて被告に特段責められるべき点があるとはうかがわれず,そのほか,被告による消滅時効の援用が権利の濫用に当たることを基礎付ける事情があることを認めるに足りる証拠もない。
したがって,原告らのこの主張は採用することはできない。
3  まとめ
以上によれば,第1事件原告らについては平成14年10月29日(第1事件の訴えの提起の日)の前日から起算して3年前の日である平成11年10月28日までに生じた損害に関する損害賠償の請求権が,第2事件原告らについては平成15年4月14日(第2事件の訴えの提起の日)の前日から起算して3年前の日である平成12年4月13日までに生じた損害に関する損害賠償の請求権が,いずれも時効により消滅しているといえる。
第5  原告らの損害額(争点5)について
1  基本となる慰謝料額
(1) 慰謝料額の算定基準
前記第2の2のとおり,普天間飛行場周辺に居住する原告らが暴露している本件航空機騒音の程度は,本件コンターのW値に基づき認定することが相当であり,また,原告らが本件航空機騒音によって受ける生活妨害,睡眠妨害及びこれらに伴う精神的苦痛,イライラ感や不快感という本件精神的被害並びにストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛の被害も,本件コンターのW値が高くなるに従いその程度も大きくなると認めることができるから,慰謝料額の算定に当たっては,本件コンターのW値を基準として算定することが相当である。
したがって,原告らの慰謝料は,原告らにおいて,本件コンター内のW75区域又はW80区域のうち,居住し,又は居住していた区域及びそれぞれその期間を考慮して算定することとする。
(2) 基本となる慰謝料の額
原告らは,1日単位で慰謝料を請求しているところ,原告らの損害が日々発生していることは当事者間に争いがないから,慰謝料の額は,1日を単位として算定するのが相当である。
基本となる慰謝料の額については,原告らがW75区域又はW80区域に居住することにより最低限等しく暴露する本件航空機騒音の程度,原告らが最低限等しく受けている本件航空機騒音による被害の内容及び程度,被告が被害軽減のために行っている諸施策(住宅防音工事の助成については,後記2のとおり別途考慮する。)の内容及びその現実的効果その他本件に表れた一切の事情を総合考慮し,本件コンターのW値ごとに分けて,W75区域については1日当たり100円,W80区域については1日当たり200円とするのが相当である。
そして,原告らが過去の損害として賠償を求めることができる期間は,前記第4のとおり,第1事件原告については平成11年10月29日から,第2事件原告については平成12年4月14日から,いずれも口頭弁論終結の日である平成20年1月31日までである。ただし,上記期間内に新たに本件コンター内の住所に転居した原告らについては転居の日から,上記期間内に本件コンター外に転居した原告らについてはその転居の前日まで,上記期間内に死亡した被承継人についてはその死亡日の前日までが,それぞれ損害賠償を求めることができる期間となり,本件コンター内でW値の異なる区域に転居した原告については,転居の前日までが従前に居住していたW値の区域に対応する上記慰謝料の額で,転居の日から新たに居住したW値の区域に対応する上記慰謝料の額で算定することとする(その算定の結果は,第1事件原告については平成11年10月29日から平成15年1月6日(第1事件の訴状送達の日)まで及び第2事件原告については平成12年4月14日から平成15年5月6日(第2事件の訴状送達の日)までに係る損害にあっては,別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」のとおりであり,また,第1事件原告については平成15年1月7日(第1事件の訴状送達の日の翌日)から,第2事件原告については同年5月7日(第2事件の訴状送達の日の翌日)から,ぞれぞれ平成20年1月31日(口頭弁論終結の日)までに係る損害にあっては,別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」のとおりである。)。
2  減額事由
(1) 減額法理としての「危険への接近の法理」の適用の有無
被告は,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」及び「Ⅱ-③」欄に「○」印が付された原告ら108名のみならず,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「減額」「Ⅰ」及び「Ⅱ」欄に「○」印が付された原告ら合計95名について,本件航空機騒音による被害を認識し,又は過失によって認識しないまま居住を開始したから,慰謝料額は減額されるべきであると主張する。
前記第2の3及び4のとおり,本件航空機騒音による被害が生活妨害,睡眠妨害及びこれらに伴う精神的苦痛,イライラ感や不快感という本件精神的被害又はストレスによる身体的被害の発生に対する不安感等の精神的苦痛の被害であって,直接生命,身体に係わるような重大なものではなく,普天間飛行場の供用には公共性ないし公益上の必要性があることからすると,原告らのうち,ある者が航空機騒音等による被害を容認までしなくとも,その被害が存在することを認識し,又は過失により認識していなかった場合には,事情のいかんによっては,損害の公平な分担という損害賠償法の理念から,損害賠償額を減額するのが相当とする場合があると解する余地もある。
しかし,前記第3の4のとおり,普天間飛行場がある沖縄本島の中部地域においては,航空機騒音の影響を受けずに生活することができる地域が狭い一方,沖縄本島で居住地を選択する幅が限られている事情があるので,一般的に損害回避の可能性が低いといえる。また,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」及び「Ⅱ-③」欄に「○」印が付された原告ら108名の中には,前記第3の3のとおり,本件航空機騒音による被害を認識している者がおり,また,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「減額」「Ⅰ」及び「Ⅱ」欄に「○」印が付された原告ら合計95名も含め,過失によりその被害を認識しないで居住地を定めた者がいるとしても,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「免責」「Ⅱ-①」,「Ⅱ-②」及び「Ⅱ-③」欄に「○」印が付された原告ら108名の中には,前記第3の4及び5のとおり,その転居理由が普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものである者がいるとは認められない上,居住経過表の「危険への接近の法理類型」の「減額」「Ⅰ」及び「Ⅱ」欄に「○」印が付された原告ら合計95名についても,その転居理由が普天間飛行場が周辺に存在することによって得られる利益を期待するものと認めるに足りる証拠がないのみならず,被告が減額法理としての「危険への接近の法理」の適用があると主張する原告らについて,損害回避のために適切な行動を採ることを期待することが相当な事情があるとうかがわせる証拠もない。一方,前記第2の5のとおり,被告の実施している周辺対策等は,住宅防音工事において本件航空機騒音による被害の一部を軽減するものにとどまり,その他においても本件航空機騒音による被害を直接軽減するもの又は効果が十分なものとはいえないものである上,前記第3の3のとおり,被告において,普天間飛行場周辺地域のどの地域が本件コンター内にあるかを一般に周知したことをうかがわせる証拠もない。以上の諸事情にかんがみると,被告が減額法理としての「危険への接近の法理」の適用があると主張する原告らが,たとえ航空機騒音による被害の存在を認識し,又は過失により認識しないまま本件コンター内に居住地を定めたとしても,これらの原告について損害賠償額を減額することは,損害の公平な分担という損害賠償法の理念からして公平であるとはいえない。
したがって,減額法理としての「危険への接近の法理」を適用する前提を欠くから,被告が減額法理としての「危険への接近の法理」の適用があると主張する原告らについて同法理を適用して慰謝料額を減額することはできないというべきである。
(2) 住宅防音工事の実施による減額
被告が各原告に対して実施した住宅防音工事の具体的内容,すなわち,住宅防音工事を実施した住宅,工事の種別,工事の完了年月日,室数は,居住経過表のうち「居住地における住宅防音工事実績」欄に記載したとおりであることは前記第2の5(2)ウ(カ)の認定事実のとおりであり,また,住宅防音工事の効果が同「居住地における住宅防音工事実績」欄の「完了年月日」の午前零時から生ずることは当事者間に争いがない。
そして,前記第2の5(2)オ(ア)のとおり,原告らのうち,被告の助成により住宅防音工事の実施を受けた者は,これにより一定の防音効果の便益を受けているといえるから,その便益を受けた各原告について,本件航空機騒音による被害の一部を軽減すると認めることができるので,その便益を受けた期間に生じた慰謝料額を減額することが相当である。
もっとも,前記第2の5(2)オのとおり,防音工事の施工されている室内で窓を閉め切って生活する場面は生活全体からみれば一定の限度にとどまるので,住宅防音工事の効果は本件航空機騒音による被害を根本的に解消するものということはできない。また,防音工事を施工している室数が増加すれば,本件航空機騒音による損害の軽減の程度が増加する面があるといえる一方,防音効果を得るために伴い,窓を閉め切って生活することによる不快感や冷房装置の稼働による電気料金の負担といった不利益も増加するという面があるので,住宅防音工事による便益が防音工事を施工している室数の増加に単純に比例するとはいえない。
以上を総合考慮すると,原告らのうち,住宅防音工事を実施した者及びその同居者については,同「完了年月日」に記載された日から,防音工事を施工した室数が1室のみである場合には10%,同室数が2室以上ある場合には10%に加え2室目以降の1室ごとに更に5%ずつ(ただし,5室以上の場合は一律合計30%)を前記1(2)の基本となる慰謝料の額から減額して慰謝料額とするのが相当である(その算定の結果は,別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」及び別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の各「防音工事」欄記載のとおりである。)。
3  弁護士費用
弁論の全趣旨によれば,原告らは,各自,本件訴訟の提起及び追行を原告ら訴訟代理人弁護士に委任したと認められるところ,事案の難易,請求額,認容された額その他諸般の事情を考慮すれば,原告ら各人に対する慰謝料額の10%をもって,本件における普天間飛行場の設置,管理の瑕疵と相当因果関係にある弁護士費用と認められる(その算定の結果は,別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」及び別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の各「弁護士費用額」欄記載のとおりである。)。
第6  将来の損害の賠償請求に係る訴えの適否(争点6)について
1  継続的不法行為に基づき将来発生すべき損害賠償請求権については,たとえ同一態様の行為が将来も継続されることが予測される場合であっても,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるようなものは,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものと解するのが相当である。そして,飛行場等において離着陸する航空機の発する騒音等により周辺住民らが精神的又は身体的被害等を受けていることを理由とする損害賠償請求権のうち口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,将来それが具体的に成立したとされる時点の事実関係に基づきその成立の有無及び内容を判断すべく,かつ,その成立要件の具備については請求者においてその立証の責任を負うべき性質のものであって,このような請求権が将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないと解すべきである(前掲最高裁昭和56年12月16日大法廷判決,前掲最高裁昭和62年(オ)第58号平成5年2月25日第一小法廷判決,前掲最高裁昭和63年(オ)第611号平成5年2月25日第一小法廷判決,最高裁平成18年(受)第882号同19年5月29日第三小法廷判決・裁判所時報1436号1頁参照)。
そうすると,本件航空機騒音により精神的又は身体的被害等を受けていることを理由とする原告らの被告に対する損害賠償請求権のうち口頭弁論終結の日の翌日以降の分については,その性質上,将来の給付の訴えを提起することのできる請求権としての適格を有しないものというべきである。
2  これに対し,原告は,本件航空機騒音による被害については,口頭弁論終結時と同一の内容,程度の状況が,口頭弁論終結後1年の間,継続する蓋然性が極めて高く,口頭弁論終結後1年間であるので,その予測可能性が確実に高いから,一義的に明確になっているなどと主張する。
確かに,普天間飛行場については,前記第3の1(4)の認定事実のとおり,沖縄に関する特別行動委員会(SACO)が,平成8年12月2日,今後5年ないし7年以内に,十分代替施設が完成し運用可能になった後,返還するなどの内容の最終報告をして,日米安全保障協議会において,この最終報告を了承された後,現在まで,日米政府が関係地方公共団体を加え普天間飛行場の移設に向けた所要の努力を続けているといえるものの,口頭弁論終結の日である平成20年1月31日の翌日から平成21年1月31日までの間に,普天間飛行場の返還がされる見込みがあるとはうかがわれない上,前記第2の2のとおりの本件航空機騒音の実態・推移に加え,被告が新しく騒音コンターを作成することは予定されていない(弁論の全趣旨)ことなどに照らすと,平成20年2月1日から平成21年1月31日までの間に,原告らが,本件コンター内の同一の居住地で居住している限り,口頭弁論終結の日に受けている本件航空機騒音による被害の程度と格別異ならない被害を受けることとなると推認することができるとする余地もある。
しかし,そもそも,本件コンター外や本件コンター内のW値の異なる区域に転居するかどうかということは,専ら原告らの個人的な事情にかかわるから,客観的に予想することが困難である。しかも,原告らの中には,居住経過表のとおり,本件各訴えの提起後において,本件コンター内から本件コンター外に転出した者が63名,本件コンター内での転居をした者が29名(そのうち,本件コンターのW値の異なる区域へ転居した者は14名)おり,また,平成18年7月1日から平成19年7月1日までの1年間に限ってみても,転居の事実が認められる原告が19名いる。そのため,口頭弁論終結の日である平成20年1月31日において本件コンター内に居住している各原告は,翌2月1日から1年間までであっても,本件コンター外や本件コンター内のW値の異なる区域に転居することがあると想定することができるから,同期間において,本件コンター内の同一の居住地で居住し続けると推認することはできない。
そして,原告らのW75区域又はW80区域における居住の事実は,請求原因の一部として原告らが立証すべき事実であるところ,当該原告において立証することが容易である一方,被告において原告らが口頭弁論終結の日に居住していたW75区域又はW80区域から転居したとの事実を立証すべきとすることは,口頭弁論終結の日の翌日から1年間にわたって,被告が同各原告全員についてその転居の有無を常に把握しなければならないことになるものの,このようなことは,本件各訴訟における原告の合計が400名近くに上ることに照らせば,困難を伴うといえるのみならず,個人情報の保護という観点からも不当であるといえる。そうすると,原告らの本件コンター内における居住の事実という点だけからしても,本件各訴えのうち,将来の損害の請求に係る部分については,損害賠償請求権の成否及びその額をあらかじめ一義的に明確に認定することができず,具体的に請求権が成立したとされる時点において初めてこれを認定することができ,かつ,その場合における権利の成立要件の具備については債権者においてこれを立証すべく,事情の変動を専ら債務者の立証すべき新たな権利成立阻却事由の発生として捉えてその負担を債務者に課するのは不当であると考えられるものというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
3  以上によれば,原告らの本件各訴えのうち将来の損害の賠償請求に係る部分は,権利保護の要件を欠くものであり,不適法である。
第7  本件騒音測定等請求の当否(争点7)について
1  原告らは,被告に対して,①人格権,②環境権若しくは③平和的生存権又は④不法行為の法的効果から発生する妨害排除請求権・妨害予防請求権に基づき,普天間飛行場における米軍機の離着陸等の差止めに代わる次善の策として,本件航空機騒音を測定・記録し,本件航空機騒音が到達する地域を明確にすべきことの請求(以下「本件騒音測定等請求」という。)をすることができると主張する。
2  しかし,まず,前記第1のとおり,本件航空機騒音による被害を直接生じさせているのは,被告ではなく,米軍であるから,被告が妨害状態を引き起こしているとはいえない上,被告は,米軍の普天間飛行場における管理運営の権限を制約し,その活動を制限し得るものではないので,本件航空機騒音による被害防止の措置を採るべき法的立場にはないということができる。そうすると,被告が騒音測定等を行い得るかどうかを問わず,被告には,本件航空機騒音による妨害を排除し,その妨害を予防する義務はないというべきである。
したがって,①人格権,②環境権又は③平和的生存権から発生する妨害排除請求権・妨害予防請求権に基づく本件騒音測定等請求は,これらの権利があるかどうかを検討するまでもなく,主張自体失当であって,理由がない。
3  また,④不法行為については,実定法上の根拠がある場合を除き,損害を賠償する責任以外の責任を負うことはないと解されるところ,原告らが不法行為の根拠として主張する国家賠償法1条1項及び民法719条,民事特別法1条,2条のいずれの規定をみても,被告に損害を賠償する責任以外の責任を負わせることができる根拠は見いだせない。
したがって,④不法行為の法的効果から発生する妨害排除請求権・妨害予防請求権に基づく本件騒音測定等請求も,主張自体失当であって,理由がないというべきである
4  以上によれば,本件騒音測定等請求には,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。
第4章  結論
1  原告らの損害賠償請求のうち,将来の損害の賠償請求に係る訴えは,不適法である。
2  原告らの損害賠償請求のうち,平成20年1月31日(口頭弁論終結の日)までに発生した過去の損害の賠償請求については,被告に対し,民事特別法2条に基づき,別紙5「賠償額一覧表(訴状送達前)」の「原告氏名」欄に記載した各原告において,同各原告に対応する同「賠償額一覧表(訴状送達前)」の「損害賠償額合計」欄に記載の各金員の損害及び同各金員に対する,第1事件原告については不法行為の日の後である平成15年1月7日から,第2事件原告については不法行為の日の後である同年5月7日から,いずれも支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金並びに別紙6「賠償額一覧表(訴状送達後)」の「原告氏名」欄に記載した各原告において,同各原告に対応する同「賠償額一覧表(訴状送達後)」の各「損害賠償月額合計」欄記載の各金員の損害及び同金員に対する同「賠償額一覧表(訴状送達後)」の同金員に対応する各「遅延損害金起算日」欄に記載した日(不法行為の日の後)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるけれども,その余の請求は,いずれも理由がない。
なお,原告らの請求のうち,過去の損害の賠償請求を認容した部分については,仮執行の宣言を付することが相当である一方,仮執行免脱の宣言は相当でない。もっとも,仮執行の宣言の執行開始時期については,本判決が被告に送達された日から14日を経過したときと定めるのが相当である。
3  原告らの損害賠償請求以外の請求である本件差止請求及び本件騒音測定等請求は,いずれも理由がない。
(裁判長裁判官 河合芳光 裁判官 森健二)
裁判官佐々木公は,転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 河合芳光

別紙1~4〈省略〉

別紙5 賠償額一覧表(訴状送達前)
別紙6 賠償額一覧表(訴状送達後)
別紙7 請求期間一覧表
別紙8 本件コンター図
別紙9 原告居住経過等一覧表

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政治と選挙の裁判例「国政政党 地域政党 政治塾 政経塾 個人(単独)ポスター」に関する裁判例一覧
(1)平成21年 1月20日 東京地裁 平19(行ウ)649号・平19(行ウ)650号 難民の認定をしない処分取消等請求事件 〔ミャンマー人強制退去訴訟〕
(2)平成20年12月26日 静岡地裁 平17(行ウ)28号 政務調査費返還請求事件
(3)平成20年12月 1日 仙台地裁 平19(行ウ)17号 政務調査費返還履行等請求事件
(4)平成20年11月28日 東京地裁 平19(行ウ)435号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(5)平成20年11月27日 東京地裁 平19(行ウ)70号・平20(行ウ)17号・平20(行ウ)18号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(6)平成20年11月26日 東京地裁 平19(行ウ)512号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(7)平成20年11月19日 東京地裁 平19(ワ)15568号 損害賠償等請求事件
(8)平成20年11月13日 東京地裁 平19(行ウ)76号・平19(行ウ)436号 在留特別許可をしない処分無効確認請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(9)平成20年11月12日 大阪高裁 平20(ネ)1189号・平20(ネ)1764号 債務不存在確認等請求控訴、会費請求反訴事件
(10)平成20年11月10日 松江地裁 平18(行ウ)8号 政務調査費返還請求事件
(11)平成20年10月31日 東京地裁 平18(行ウ)531号・平18(行ウ)549号・平19(行ウ)556号・平19(行ウ)578号 在留を特別に許可しない処分取消請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(12)平成20年10月31日 東京地裁 平19(ワ)17519号 損害賠償請求事件
(13)平成20年10月28日 東京地裁 平20(ワ)16346号 損害賠償等請求事件
(14)平成20年10月 8日 東京地裁 平13(ワ)12188号・平14(ワ)21402号 各損害賠償請求事件
(15)平成20年 9月29日 東京高裁 平20(う)1187号 脅迫被告事件
(16)平成20年 9月26日 東京地裁 平19(行ウ)530号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(17)平成20年 9月26日 東京地裁 平19(行ウ)358号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(18)平成20年 9月19日 東京地裁 平19(行ウ)520号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(19)平成20年 9月19日 東京地裁 平17(特わ)5633号 国家公務員法被告事件
(20)平成20年 9月 9日 東京地裁 平18(ワ)18306号 損害賠償等請求事件
(21)平成20年 9月 5日 東京地裁 平19(行ウ)485号・平19(行ウ)508号 難民の認定をしない処分取消等請求事件、在留特別許可をしない処分無効確認請求事件
(22)平成20年 9月 5日 東京地裁 平19(行ウ)462号 不当利得返還(住民訴訟)請求事件
(23)平成20年 8月22日 東京地裁 平18(行ウ)528号・平19(行ウ)359号 在留を特別に許可しない処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(24)平成20年 7月17日 東京高裁 平20(行コ)15号 公文書非開示処分取消等請求控訴事件
(25)平成20年 7月16日 東京地裁 平18(行ウ)693号・平19(行ウ)587号 難民の認定をしない処分取消等請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(26)平成20年 7月 7日 札幌地裁 平18(行ウ)13号 懲戒処分取消請求事件
(27)平成20年 6月27日 東京地裁 平18(行ウ)595号・平19(行ウ)328号 在留を特別に許可しない処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(28)平成20年 6月26日 那覇地裁沖縄支部 平14(ワ)513号・平15(ワ)171号 普天間米軍基地爆音差止等請求事件 〔普天間基地騒音公害訴訟・第一審〕
(29)平成20年 5月30日 東京地裁 平19(行ウ)142号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(30)平成20年 5月22日 東京地裁 平18(行ウ)477号・平19(行ウ)50号・平19(行ウ)51号・平19(行ウ)52号・平19(行ウ)53号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(31)平成20年 5月16日 大阪地裁 平19(行ウ)159号 町議会議員辞職許可無効確認等請求事件
(32)平成20年 5月 8日 松江地裁 平20(む)40号 証拠開示を命ずる旨の裁定の請求事件
(33)平成20年 4月24日 名古屋地裁 平18(行ウ)46号 退去強制令書発付処分取消請求事件
(34)平成20年 4月22日 東京地裁 平18(ワ)21980号 地位確認等請求事件 〔財団法人市川房江記念会事件〕
(35)平成20年 4月16日 東京地裁 平18(行ウ)752号・平18(行ウ)754号・平19(行ウ)548号・平19(行ウ)565号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(36)平成20年 4月16日 東京地裁 平17(ワ)7357号 出版物の発行差止等請求事件
(37)平成20年 4月11日 最高裁第二小法廷 平17(あ)2652号 住居侵入被告事件 〔立川反戦ビラ事件・上告審〕
(38)平成20年 4月11日 東京地裁 平18(行ウ)410号・平18(行ウ)542号 難民の認定をしない処分取消等請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(39)平成20年 3月28日 東京地裁 平18(行ウ)596号・平18(行ウ)609号・平19(行ウ)115号・平19(行ウ)116号 在留を特別に許可しない処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(40)平成20年 3月27日 最高裁第三小法廷 平18(あ)348号 受託収賄被告事件 〔KSD事件〕
(41)平成20年 3月27日 東京地裁 平18(ワ)18305号 損害賠償等請求事件
(42)平成20年 3月26日 東京地裁 平19(行ウ)71号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(43)平成20年 3月25日 東京地裁 平19(行ウ)14号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(44)平成20年 3月24日 仙台地裁 平18(行ウ)4号 政務調査費返還代位請求事件
(45)平成20年 3月21日 東京地裁 平19(行ウ)196号 損害賠償(住民訴訟)請求事件 〔目黒区長新年会費公金支出損害賠償請求住民訴訟事件〕
(46)平成20年 3月17日 東京地裁 平17(行ウ)524号・平18(行ウ)224号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(47)平成20年 3月14日 和歌山地裁田辺支部 平18(ワ)167号 債務不存在確認等請求事件
(48)平成20年 3月12日 名古屋地裁 平18(行ウ)38号 帰化申請不許可処分取消等請求事件
(49)平成20年 3月11日 仙台地裁 平13(行ウ)12号 行政文書非開示処分取消請求事件
(50)平成20年 2月29日 東京地裁 平18(行ウ)552号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(51)平成20年 2月28日 神戸地裁尼崎支部 平17(ワ)213号・平17(ワ)327号 解雇無効確認等請求事件、損害賠償等請求事件
(52)平成20年 2月27日 東京地裁 平14(行ウ)418号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(53)平成20年 2月21日 東京地裁 平19(行ウ)43号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(54)平成20年 2月21日 東京地裁 平17(行ウ)493号・平18(行ウ)451号・平18(行ウ)452号・平18(行ウ)453号・平18(行ウ)706号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件、訴えの追加的併合申立て事件
(55)平成20年 2月18日 東京地裁 平18(行ウ)433号・平18(行ウ)434号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(56)平成20年 2月 8日 東京地裁 平18(行ウ)491号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(57)平成20年 2月 7日 東京地裁 平18(行ウ)547号・平18(行ウ)548号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(58)平成20年 1月25日 東京地裁 平17(ワ)23269号 損害賠償請求事件 〔規制緩和政策タクシー訴訟〕
(59)平成20年 1月22日 東京地裁 平19(ワ)12276号 職務執行禁止請求事件
(60)平成20年 1月21日 東京地裁 平17(行ウ)405号・平18(行ウ)315号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(61)平成20年 1月17日 東京地裁 平17(行ウ)492号・平18(行ウ)233号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(62)平成20年 1月16日 東京地裁 平18(行ウ)409号・平18(行ウ)415号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(63)平成20年 1月10日 東京地裁 平19(ワ)20886号 損害賠償等請求事件
(64)平成19年12月21日 東京地裁 平17(行ウ)494号・平18(行ウ)330号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(65)平成19年12月20日 仙台高裁 平19(行コ)15号 政務調査費返還代位請求控訴事件
(66)平成19年12月20日 東京地裁 平19(行ウ)286号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(67)平成19年12月19日 仙台高裁 平19(行コ)14号 政務調査費返還等代位請求控訴事件
(68)平成19年12月18日 東京地裁 平18(ワ)22942号 謝罪広告等請求事件
(69)平成19年12月11日 東京高裁 平18(う)2754号 住居侵入被告事件 〔葛飾政党ビラ配布事件・控訴審〕
(70)平成19年12月10日 東京地裁 平18(ワ)28336号 慰謝料等請求事件
(71)平成19年11月26日 東京地裁 平18(行ウ)160号 不当労働行為救済命令一部取消請求事件
(72)平成19年11月26日 東京地裁 平17(行ウ)393号・平17(行ウ)394 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(73)平成19年11月22日 仙台高裁 平19(行ケ)2号 裁決取消等請求事件
(74)平成19年11月22日 大阪地裁 平17(わ)6219号 公職選挙法違反被告事件
(75)平成19年11月21日 大阪地裁 平17(行ウ)54号 難民不認定処分取消等請求事件
(76)平成19年11月14日 東京地裁 平14(行ウ)251号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(77)平成19年11月13日 仙台地裁 平15(行ウ)30号 政務調査費返還代位請求事件
(78)平成19年11月 6日 東京地裁 平18(行ウ)331号 難民の認定をしない処分取消等請求事件
(79)平成19年11月 2日 東京地裁 平17(行ウ)431号・平17(行ウ)511号 難民の認定をしない処分取消請求事件、不法残留認定処分取消請求事件
(80)平成19年10月31日 東京地裁 平17(行ウ)450号・平18(行ウ)192号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(81)平成19年10月25日 東京地裁 平17(行ウ)490号・平18(行ウ)310号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(82)平成19年10月12日 長野地裁 平17(行ウ)16号 政務調査費返還請求権行使請求事件
(83)平成19年 9月27日 名古屋地裁 平18(ワ)3715号 弁護士報酬等請求事件
(84)平成19年 9月26日 東京地裁 平17(行ウ)408号・平18(行ウ)274号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(85)平成19年 9月21日 東京地裁 平16(行ウ)404号・平17(行ウ)141号 退去強制令書発付処分無効確認請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(86)平成19年 9月14日 東京地裁 平18(行ウ)289号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(87)平成19年 9月12日 東京地裁 平17(行ウ)34号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(88)平成19年 9月 7日 福岡高裁 平18(う)116号 公職選挙法違反被告事件
(89)平成19年 9月 6日 東京地裁 平17(行ウ)138号 損害賠償請求事件
(90)平成19年 8月31日 東京地裁 平15(行ウ)645号・平18(行ウ)189号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(91)平成19年 8月30日 東京地裁 平16(行ウ)144号・平18(行ウ)170号・平18(行ウ)171号 退去強制令書発付処分等取消請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件
(92)平成19年 8月30日 東京地裁 平17(ワ)21062号 地位確認等請求事件
(93)平成19年 8月30日 大阪地裁 平19(行ウ)83号 行政文書不開示決定処分取消等請求事件
(94)平成19年 8月29日 東京地裁 平14(行ウ)248号・平14(行ウ)306号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(95)平成19年 8月22日 東京地裁 平14(行ウ)245号・平14(行ウ)307号 退去強制令書発付処分取消等消請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(96)平成19年 8月10日 東京地裁 平18(ワ)19755号 謝罪広告等請求事件
(97)平成19年 7月27日 東京地裁 平17(行ウ)102号・平17(行ウ)438号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(98)平成19年 7月20日 東京地裁 平17(行ウ)365号・平18(行ウ)217号・平18(行ウ)327号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消等請求事件、在留特別許可をしない処分取消等請求事件
(99)平成19年 7月19日 東京地裁 平16(行ウ)536号・平17(行ウ)539号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分無効確認請求事件
(100)平成19年 7月17日 神戸地裁尼崎支部 平17(ワ)1227号 総会決議一部無効確認等請求事件


政治と選挙の裁判例(裁判例リスト)

■「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧【1-101】
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■「選挙 立候補」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「政治活動 選挙運動」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「選挙 ビラ チラシ」に関する裁判例一覧【1~49】
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■「政務活動費 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「演説会 告知 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
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■「公職選挙法 ポスター 掲示交渉」に関する裁判例一覧【101~210】
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■「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧【211~327】
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