【選挙から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「公職選挙法」に関する裁判例(23)平成27年 5月15日 鹿児島地裁 平19(ワ)1093号 国家賠償請求事件

「公職選挙法」に関する裁判例(23)平成27年 5月15日 鹿児島地裁 平19(ワ)1093号 国家賠償請求事件

裁判年月日  平成27年 5月15日  裁判所名  鹿児島地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)1093号
事件名  国家賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  確定  文献番号  2015WLJPCA05156005

新判例体系
公法編 > 憲法 > 国家賠償法〔昭和二二… > 第一条 > ○公権力の行使に基く… > (三)違法性 > B 公訴提起等 > (3)違法とした事例
◆平成一五年四月一三日施行の鹿児島県議会議員選挙に際し、公職選挙法違反事件により逐次逮捕起訴されたが無罪となった立候補者ほかに対する鹿児島県警の捜査過程における取調べ等の捜査は、不確実な情報に基づき、立候補者夫婦、立候補者経営会社の従業員、関係する小集落の住民らが同集落内で数回にわたり買収会合を開いたとする被疑事実を下に、県警幹部の誤った筋読みに基づき、具体的根拠を欠いたまま自白を得るなどしてされたものであり、その方法及び態様において社会通念上許される限度を超えた違法捜査であり、また、検察官においても、右買収会合への出席が極めて困難なことが判明し、先行起訴事件の公判で被告人全員が否認に転じたにもかかわらず先行起訴の公訴取消を請求することなく漫然とこれを維持し、後行事件を起訴するなどしたものであって、公訴提起・維持には違法があり、国及び鹿児島県には、国家賠償法第一条による損害賠償義務がある。

 

出典
判時 2262号229頁

評釈
深野友裕・警察公論 71巻4号86頁

参照条文
国家賠償法1条1項
民法1条3項
民法724条
裁判官
吉村真幸 (ヨシムラサネユキ) 第41期 現所属 東京地方裁判所(部総括)
平成28年6月25日 ~ 東京地方裁判所(部総括)
平成27年4月1日 ~ 東京高等裁判所
平成24年4月1日 ~ 鹿児島地方裁判所(部総括)、鹿児島家庭裁判所(部総括)
平成23年4月1日 ~ 平成24年3月31日 横浜地方裁判所
平成20年4月1日 ~ 平成23年3月31日 東京高等裁判所
平成17年1月1日 ~ 平成20年3月31日 事務総局情報政策課参事官
平成16年7月1日 ~ 平成16年12月31日 東京地方裁判所
平成14年9月9日 ~ 東京地方裁判所
平成13年1月9日 ~ 平成14年9月8日 横浜地方裁判所
平成11年10月13日 ~ 平成13年1月8日 事務総局総務局参事官
平成11年2月1日 ~ 平成11年10月12日 事務総局総務局付、人事局付
平成8年4月1日 ~ 平成11年1月31日 事務総局人事局付
平成6年7月11日 ~ 平成8年3月31日 東京地方裁判所
平成4年7月15日 ~ 平成6年7月10日 事務総局民事局付
平成1年4月11日 ~ 平成4年7月14日 横浜地方裁判所
~ 平成16年6月30日 検事、司法制度改革推進本部事務局企画官

玉田雅義 (タマダマサヨシ) 第58期 現所属 熊本地方裁判所人吉支部、熊本家庭裁判所人吉支部
平成30年4月1日 ~ 熊本地方裁判所人吉支部、熊本家庭裁判所人吉支部
平成27年4月1日 ~ 神戸地方裁判所、神戸家庭裁判所
平成23年4月1日 ~ 鹿児島地方裁判所、鹿児島家庭裁判所
平成20年4月1日 ~ 平成23年3月31日 千葉地方裁判所木更津支部、千葉家庭裁判所木更津支部
平成17年10月4日 ~ 平成20年3月31日 大阪地方裁判所

中倉水希

訴訟代理人
原告側訴訟代理人
井上順夫,永仮正弘,末永睦男,野間俊美,川村重春,松下良成,森雅美,笹川竜伴,中園貞宏,山口政幸,保澤享平,熊谷光司,内山和哉,本木順也,小関正信,田中佐和子,高妻価織,玉利尚大,佐々木健,野平康博,西達也,浅井正,若松芳也,伊神喜弘,大毛裕貴,泉武臣,岩井作太

被告側訴訟代理人
和田久,蓑毛長史,宮原和利

引用判例
平成22年 5月27日 大阪高裁 判決 平21(ネ)2791号 慰謝料等請求控訴事件
平成19年11月 1日 最高裁第一小法廷 判決 平17(受)1977号 損害賠償請求事件 〔旧三菱徴用工事件・上告審〕
平成17年 9月27日 福岡高裁 判決 平16(ネ)862号 国家賠償請求控訴事件
平成16年12月24日 最高裁第二小法廷 判決 平14(受)1355号 損害賠償請求事件
平成14年 3月13日 東京高裁 判決 平8(ネ)1650号 損害賠償請求控訴事件 〔新潟ひき逃げ事件無罪国家賠償訴訟判決・控訴審〕
平成13年12月25日 東京高裁 判決 平12(ネ)176号 損害賠償請求控訴事件
平成11年 3月24日 最高裁大法廷 判決 平5(オ)1189号 損害賠償請求事件 〔郡山接見拒否国家賠償請求訴訟・上告審〕
平成11年 2月 4日 大阪地裁 判決 平8(ワ)3864号 損害賠償請求事件
平成 9年 8月29日 最高裁第三小法廷 判決 平6(オ)1119号 損害賠償請求事件 〔家永教科書裁判第三次訴訟・上告審〕
平成 8年 3月 8日 最高裁第二小法廷 判決 平4(オ)77号 損害賠償請求事件
平成 5年10月 4日 東京地裁 判決 平3(ワ)7742号 逮捕後の護送連行による人権侵害損害賠償請求事件
平成 5年 3月16日 最高裁第三小法廷 判決 昭61(オ)1428号 損害賠償請求事件 〔家永教科書裁判第一次訴訟・上告審〕
平成 5年 1月25日 最高裁第二小法廷 判決 平元(オ)548号 損害賠償請求事件
平成 2年 6月12日 東京地裁 判決 昭57(ワ)2156号 損害賠償請求事件
平成元年 6月29日 最高裁第一小法廷 判決 昭59(オ)103号 損害賠償請求事件 〔沖縄ゼネスト警官殺害事件国家賠償請求事件・上告審〕
昭和61年 9月17日 大阪高裁 判決 昭61(う)45号 覚せい剤取締法違反被告事件
昭和60年11月21日 最高裁第一小法廷 判決 昭53(オ)1240号 損害賠償請求事件 〔在宅投票制度訴訟・上告審〕
昭和59年 2月29日 最高裁第二小法廷 決定 昭57(あ)301号 殺人被告事件 〔高輪グリーンマンション・ホステス殺人事件・上告審〕
昭和57年 4月 1日 最高裁第一小法廷 判決 昭51(オ)1249号 損害賠償請求事件
昭和57年 3月 2日 最高裁第二小法廷 決定 昭56(あ)551号 公職選挙法違反
昭和53年10月20日 最高裁第二小法廷 判決 昭49(オ)419号 国家賠償請求・上告審 〔芦別国家賠償請求事件・上告審〕
昭和53年 9月 4日 最高裁第二小法廷 決定 昭50(あ)787号 騒擾、暴力行為等処罰に関する法律違反、放火未遂、外国人登録法違反外国人登録令違反被告事件 〔大須事件・上告審決定〕
昭和53年 7月10日 最高裁第一小法廷 判決 昭49(オ)1088号 国家賠償請求事件 〔杉山事件・上告審〕
昭和51年 3月16日 最高裁第三小法廷 決定 昭50(あ)146号 道路交通法違反・公務執行妨害被告事件
昭和50年12月 2日 大阪高裁 判決 昭45(ネ)498号 損害賠償請求控訴事件
昭和45年11月25日 最高裁大法廷 判決 昭42(あ)1546号 銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反被告事件 〔いわゆる「切り違え尋問」事件・上告審〕
昭和43年12月 9日 大阪高裁 判決 昭42(う)1476号 詐欺・同未遂・暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
昭和39年 7月17日 東京地裁 判決 昭38(ワ)4387号 損害賠償請求事件 〔平沢事件・第一審〕
昭和37年11月28日 最高裁大法廷 判決 昭34(あ)1678号 出入国管理令違反被告事件(いわゆる白山丸事件・上告審)
昭和36年11月21日 最高裁第三小法廷 決定 昭36(あ)1776号 窃盗・同未遂被告事件
昭和35年 4月 5日 東京地裁 判決 昭28(ワ)5953号 損害賠償請求事件
昭和24年 3月17日 最高裁第一小法廷 判決 昭23(れ)1661号 公文書偽造・同行使・公正証書原本不実記載・同行使・詐欺被告事件

関連判例
平成27年 5月15日 鹿児島地裁 判決 平18(ワ)772号 損害賠償請求事件
平成20年 3月24日 鹿児島地裁 判決 平16(ワ)294号 損害賠償請求事件 〔いわゆる志布志事件「接見交通権」侵害国家賠償訴訟〕
平成19年11月 1日 最高裁第一小法廷 判決 平17(受)1977号 損害賠償請求事件 〔旧三菱徴用工事件・上告審〕
平成元年 6月29日 最高裁第一小法廷 判決 昭59(オ)103号 損害賠償請求事件 〔沖縄ゼネスト警官殺害事件国家賠償請求事件・上告審〕
昭和53年10月20日 最高裁第二小法廷 判決 昭49(オ)419号 国家賠償請求・上告審 〔芦別国家賠償請求事件・上告審〕

Westlaw作成目次

主文
1 被告鹿児島県及び被告国は,連…
2 原告らのその余の請求をいずれ…
3 訴訟費用は,これを5分し,そ…
4 この判決は,第1項に限り,仮…
事実及び理由
第1 請求
1 被告らは,原告X1(以下「原…
2 被告らは,原告X2(以下「原…
3 被告らは,原告X3(以下「原…
4 被告らは,原告X4(以下「原…
5 被告らは,原告X5(以下「原…
6 被告らは,原告X6(以下「原…
7 被告らは,原告X7(以下「原…
8 被告らは,原告X8(以下「原…
9 被告らは,原告X9(以下「原…
10 被告らは,原告X10(以下「…
11 被告らは,原告X11(以下「…
12 被告らは,亡X12訴訟承継人…
13 被告らは,原告X14(以下「…
14 被告らは,原告X15(以下「…
15 被告らは,原告X16(以下「…
16 被告らは,原告X17(以下「…
17 被告らは,原告X18(以下「…
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1) 原告X6は,平成15年4月1…
(2) 本件刑事事件は,原告X6が,…
(3) 本件は,本件刑事事件の被告人…
(4) 本件に関連する国家賠償請求事…
2 前提となる事実
(1) 当事者
(2) 旧志布志町の状況等
(3) 本件選挙の概要等
(4) 本件選挙における主な公職選挙…
(5) 県警による曽於郡区での本件選…
(6) 検察庁の本件公職選挙法違反事…
(7) 本件刑事事件の公訴事実の概要
(8) 本件公職選挙法違反事件におけ…
(9) 本件無罪原告らの弁護人の選任…
(10) 本件無罪判決の言渡しとその骨…
(11) 本件刑事事件に関する刑事補償…
(12) 本件訴訟の提起
3 法令の規定等
(1) 犯罪捜査規範
(2) 犯罪捜査規範施行細則
(1) 県警の捜査に関する違法性の有無
(2) 検察官の捜査及び公訴提起・追…
(3) 損害の発生の有無及びその額
(4) 消滅時効の成否
(1) 争点(1)ア(本件公職選挙法…
(2) 争点(1)イ(X1焼酎事件の…
(3) 争点(1)ウ(平成15年4月…
(4) 争点(1)エ(第2次強制捜査…
(5) 争点(1)オ(弁護人との接見…
(6) 争点(1)カ(起訴後の取調べ…
(7) 争点(1)キ(その他の取調べ…
(8) 争点(2)ア(第1次起訴まで…
(9) 争点(2)イ(第2次起訴まで…
(10) 争点(2)ウ(第3次起訴まで…
(11) 争点(2)エ(公訴追行に関す…
(12) 争点(2)オ(公訴提起後の身…
(13) 争点(3)(損害の発生の有無…
(14) 争点(4)(消滅時効の成否)
第3 当裁判所の判断
1 事実関係
(1) 四浦校区の状況
(2) 本件無罪原告らの身上,経歴,…
(3) 曽於郡区での本件選挙の概要等
(4) A5ビール事件等の捜査の経緯…
(5) A5焼酎事件の捜査の経緯及び…
(6) 第1次強制捜査前までの原告ら…
(7) X1焼酎事件に係る第1次強制…
(8) 本件買収会合の端緒とその初動…
(9) 本件刑事事件の捜査の継続(平…
(10) 1回目会合事件に関する強制捜…
(11) 1回目会合事件に関する第2次…
(12) X1焼酎事件の捜査の継続等(…
(13) 未立件の余罪等とされるものに…
(14) 1回目会合事件に関する第1次…
(15) 4回目会合事件に係る第3次強…
(16) 1回目会合事件及び4回目会合…
(17) 4回目会合事件に関する第2次…
(18) 2回目会合等7月23日捜査事…
(19) 4回目会合7月24日捜査事件…
(20) 2回目会合事件及び3回目会合…
(21) 第3次起訴に係る検察官の検討…
(22) 2回目会合事件に関する第4次…
(23) 1回目会合事件に関する第5次…
(24) 第4次起訴及び第5次起訴に係…
(25) 未立件の余罪等についての供述…
(26) 本件刑事事件における公判期日…
(27) 本件刑事事件の公訴提起後の原…
(28) 本件無罪原告らの取調べ時間,…
(29) 本件無罪原告らの弁護人の選任…
(30) 接見内容に関する取調べの状況等
(31) 本件刑事事件での弁護人のアリ…
(32) 本件無罪判決の言渡しとその骨…
(33) 接見交通侵害国賠事件の判決
2 争点(1)ア(本件公職選挙法…
(1) 任意捜査の適法性の判断基準
(2) A5ビール事件の経緯及びその…
(3) A5焼酎事件の捜査
(4) 平成15年4月17日及び同月…
(5) 予断・偏見の主張と捜査比例の…
(6) 争点(1)アに関する結論
3 争点(1)イ(X1焼酎事件の…
(1) 被疑者に対する取調べの方法な…
(2) 平成15年4月17日及び同月…
(3) 平成15年4月19日から同月…
(4) 原告X1を第1次強制捜査によ…
(5) 第1次強制捜査後から平成15…
(6) 争点(1)イに関する結論
4 争点(1)ウ(平成15年4月…
(1) 平成15年4月30日の捜査継…
(2) 自白の虚偽性
(3) 本件箝口令を採ったことの違法…
(4) 原告X8に対する簡易ベッド上…
(5) 争点(1)ウに関する結論
5 争点(1)エ(第2次強制捜査…
(1) 第2次強制捜査
(2) X1焼酎5月18日捜査事件の…
(3) 第3次強制捜査の違法性の有無
(4) 第4次強制捜査の違法性の有無
(5) 第5次強制捜査の違法性の有無
(6) 争点(1)エに関する結論
6 争点(1)オ(弁護人との接見…
(1) 接見内容の組織的な調書化
(2) その他弁護権侵害となる捜査の…
(3) 争点(1)オに関する結論
7 争点(1)カ(起訴後取調べを…
8 争点(1)キ(その他の取調べ…
(1) 原告X11に対する取調べの違…
(2) 原告X5,原告X7及び原告X…
(3) 原告X6の一筆調書の違法性の…
(4) その余の原告らに対する取調べ…
(5) 争点(1)キに関する結論
9 争点(2)ア(第1次起訴まで…
(1) 総論
(2) 第1次起訴までの検察官の取調べ
(3) 勾留請求及び勾留延長請求の違…
(4) 第1次起訴
(5) 争点(2)アに関する結論
10 争点(2)イ(第2次起訴まで…
(1) 4回目会合6月4日捜査事件及…
(2) 4回目会合6月25日捜査事件…
(3) 1回目会合6月29日捜査事件…
(4) 検察官の取調べ
(5) 第2次起訴
(6) 争点(2)イに関する結論
11 争点(2)ウ(第3次起訴まで…
(1) 2回目会合等7月23日捜査事…
(2) 検察官の取調べ
(3) 第3次起訴ないし第5次起訴
(4) 争点(2)ウに関する結論
12 争点(2)エ(公訴追行に関す…
(1) 職務行為基準説
(2) 合理性を肯定することができな…
(3) 争点(2)エに関する結論
13 争点(2)オ(公訴提起後の身…
(1) 判断基準
(2) 本件への適用
(3) 争点(2)オに関する結論
14 争点(3)(損害の発生の有無…
(1) 被告らの各違法行為
(2) 各原告毎の損害の内容
(3) 損害額
(4) 弁護士費用
15 争点(4)(消滅時効の成否)
(1) 民法724条にいう「損害及び…
(2) 違法な公訴提起及び違法な公訴…
(3) 取調べの違法
(4) 時効の起算日
(5) 権利濫用
16 本件刑事事件の開示証拠に係る…
(1) 開示証拠の目的外使用の禁止と…
(2) 捜査・公判の協力者への不当な…
(3) 民事訴訟法上の信義則違反
(4) 証拠の必要性
(5) 結論
第4 結語

裁判年月日  平成27年 5月15日  裁判所名  鹿児島地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)1093号
事件名  国家賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  確定  文献番号  2015WLJPCA05156005

当事者の表示 別紙 当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1  被告鹿児島県及び被告国は,連帯して,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,原告X8,原告X9,原告X10,原告X11及び原告X13に対し,各460万円,原告X14に対し,230万円,原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18に対し,各57万5000円並びにそれぞれこれらに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による各金員を支払え。
2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3  訴訟費用は,これを5分し,その4を原告らの,その余を被告らの各負担とする。
4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
1  被告らは,原告X1(以下「原告X1」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告X2(以下「原告X2」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3  被告らは,原告X3(以下「原告X3」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4  被告らは,原告X4(以下「原告X4」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5  被告らは,原告X5(以下「原告X5」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
6  被告らは,原告X6(以下「原告X6」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
7  被告らは,原告X7(以下「原告X7」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
8  被告らは,原告X8(以下「原告X8」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
9  被告らは,原告X9(以下「原告X9」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
10  被告らは,原告X10(以下「原告X10」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
11  被告らは,原告X11(以下「原告X11」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
12  被告らは,亡X12訴訟承継人原告X13(以下「原告X13」という。)に対し,連帯して,2200万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
13  被告らは,原告X14(以下「原告X14」という。)に対し,連帯して,1100万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
14  被告らは,原告X15(以下「原告X15」という。)に対し,連帯して,275万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
15  被告らは,原告X16(以下「原告X16」という。)に対し,連帯して,275万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
16  被告らは,原告X17(以下「原告X17」という。)に対し,連帯して,275万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
17  被告らは,原告X18(以下「原告X18」という。)に対し,連帯して,275万円及びこれに対する平成19年3月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要等
1  事案の概要
(1)  原告X6は,平成15年4月13日に施行された統一地方選挙鹿児島県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)において,鹿児島県議会議員選挙曽於郡区(以下「曽於郡区」という。)から立候補して当選した者であるところ,鹿児島県警察(以下「県警」という。)及び鹿児島地方検察庁(以下「検察庁」という。)は,原告X6及びその選挙運動者並びに曽於郡区の選挙人らについて,複数の公職選挙法違反の被疑事実を対象に捜査を行い,検察庁が,同捜査の対象者中13名(以下「本件無罪原告ら」という。)につき,鹿児島地方裁判所(以下「裁判所」という。)に,複数の公職選挙法違反被告事件として公訴提起(以下,これらの公職選挙法違反被告事件を総称して「本件刑事事件」といい,本件刑事事件のみならず公訴提起がなされていないものの県警が捜査を行った本件選挙における原告X6の陣営に関する公職選挙法違反に係る事件を総称して,「本件公職選挙法違反事件」という。)を行った。
(2)  本件刑事事件は,原告X6が,原告X6の妻である原告X7ないし原告X6の経営する会社の従業員原告X1と共謀の上,本件選挙での原告X6への投票等を依頼する趣旨で,旧志布志町の有権者を原告X1の自宅に招いて,買収をする会合を開催して現金の受供与をしたという公訴事実に係るものであり,同会合は,平成15年2月から同年3月にかけて少なくとも4回開催されたと主張された。
裁判所は,本件刑事事件の審理の結果,本件刑事事件の公判中に死亡した被告人亡A1(以下「亡A1」という。)については公訴棄却の決定をし,亡A1以外の被告人12名全員については無罪の判決(以下,公訴棄却決定と併せて「本件無罪判決」という。)をして,それぞれ確定した。
(3)  本件は,本件刑事事件の被告人であった者又はその相続人(亡X12につき原告X13,亡A1につき原告X14,同原告X15,同原告X16,同原告X17及び同原告X18)である原告らが,県警及び鹿児島地方検察庁検察官(以下「検察官」という。)の捜査並びに公訴提起及び公訴追行等がいずれも無実の罪に対して違法に行われたものであると主張して,被告鹿児島県(以下「被告県」という。)及び被告国に対し,国家賠償法1条1項に基づき,連帯して,同各捜査並びに同公訴提起及び同公訴追行等によって受けた精神的苦痛に対する各慰謝料及び各弁護士費用相当額として,原告ら1人当たりにつきそれぞれ2200万円(亡A1の相続人配偶者妻である原告X14につき1100万円,いずれも亡A1の相続人子である原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18につきそれぞれ275万円並びにこれらに対する本件無罪判決が確定した日である平成19年3月10日から民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の各支払を求める事案である。
(4)  本件に関連する国家賠償請求事件には,本件公職選挙法違反事件の捜査対象者で不起訴となった者などが原告らとなって,被告県に対して,県警の捜査の違法性を主張して,国家賠償法1条1項に基づき,国家賠償を請求する当庁平成18年(ワ)第772号事件(以下「別件不起訴等国賠訴訟」という。)が存在する。
2  前提となる事実
争いのない事実及び掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実は,次のとおりである。
(1)  当事者
(顕著な事実,争いのない事実,弁論の全趣旨)
ア 曽於郡区の選挙人
原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X8,原告X9,原告X10,原告X11,亡X12及び亡A1(以下,原告X6及び原告X7とを併せて「本件無罪原告ら」という。)は,平成15年4月当時,いずれも鹿児島県大隅半島北部に位置する鹿児島県曽於郡志布志町(町名は本件選挙当時のもの。後に市町村合併により,鹿児島県志布志市志布志町になった。以下,市町村合併の前後を問わず,現在の市町村名によることとし,特に当時の市町村名を示すときは,「旧志布志町」という。)の住民であり,いずれも曽於郡区の選挙人であった(以下,原告X1と原告X9を合わせて「原告X1夫妻」と,原告X2と原告X10を合わせて「原告X2夫妻」と,原告X4と原告X8を合わせて「原告X4夫妻」と,それぞれいう。)
イ 立候補者
原告X6は,平成13年1月の志布志町議会議員補欠選挙(以下「前回選挙」という。)において当選し,町議会議員の職にあった者であるが,同職を辞職して,本件選挙において,当時の曽於郡区から保守系無所属の新人候補者として立候補して当選した候補者であり,原告X7はその妻である(原告X6と原告X7を合わせて「原告X6夫妻」という。)。
原告X6は,有限会社f(以下「f社」という。)を設立し,主として農業機材の販売,甘藷を中心とした農産物の販売等を行うとともに,その後,不動産管理会社である有限会社b及び甘藷の加工業等を営む有限会社cを設立し,また,「○○」という銘柄の焼酎の製造及び販売等を業とするd株式会社(以下「d社」という。)を買収により取得して,それらの会社の経営を行っている。
f社は,四浦校区内の休耕田の有効活用として,休耕田を借り上げて,四浦校区の減農薬の有機米の耕作を行う農家を募り,同農家との間で,加工品用の有機米の栽培を行わせていた(以下,f社と契約を締結して有機米の契約栽培を行っていた者を「本件有機米契約農家」という。)。
ウ 当事者の死亡と承継
亡X12は,本件訴訟係属中である平成20年6月23日,死亡した。原告X13は,亡X12の妻であり,亡X12の訴訟を承継した(以下,亡X12と原告X13を「X12夫妻」ということがある。)。
亡A1は,本件刑事事件係属中である平成17年5月24日,死亡した。原告X14は,亡A1の妻であり,原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18は,いずれも亡A1の子である。
(2)  旧志布志町の状況等
ア 旧志布志町
旧志布志町は,本件選挙当時,大字毎に,志布志町安楽,志布志町内之倉,志布志町志布志,志布志町田之浦,志布志町帖,志布志町夏井の各地域に分かれていたほか,小学校の校区毎に,田之浦校区,安楽校区,香月校区,志布志校区,森山校区,潤ヶ野校区,八野校区及び四浦校区の各校区に分かれていた。
上記の志布志町内之倉の地域には,森山校区,潤ヶ野校区,八野校区及び四浦校区が存在し,四浦校区には,a1集落,a2集落,a3集落,a4集落の4集落(なお,四浦校区は,行政区割りとしては,a1集落,a2集落の2集落に分かれ,これらが小字により,更に上記4集落に分かれる。以下,上記4集落を併せて「四浦集落」ということがある。)が存在した。(顕著な事実,争いのない事実,弁論の全趣旨)
なお,旧志布志町は,鹿児島地方・家庭裁判所鹿屋支部の管轄内にあり,同支部の管内区域は,本件選挙当時,管内人口が約26万人であったのに対し,弁護士事務所を開設していた弁護士の数が鹿児島県鹿屋市内の1名のみの,いわゆる弁護士過疎地域であった。(甲総ア第3号証,顕著な事実,争いのない事実,弁論の全趣旨)
イ 四浦校区
四浦校区は,志布志市北東部の山間部に位置しており,その東側で宮崎県串間市と境界を接している。
志布志市中心部と四浦校区との間は,志布志市中心部から志布志市を南北に縦断する県道65号線(南之郷・志布志線)及び同県道と志布志市志布志町田之浦で東西に交差する県道110号線(塗木・大隅線。以下,同県道のうち,県道65号線との交差点から四浦校区までの区間を「本件県道」という。)とで結ばれており,志布志市中心部から県道65号線を北進し,志布志市志布志町田之浦から県道110号線を東進するルートが生活道路として使用されている。なお,本件県道は,同ルート全体の3分の1程度を占めている。
志布志市中心部から志布志市志布志町田之浦までの県道65号線が片側1車線の舗装道路であるのに対して,本件県道は,中央車線のない道路であり,道沿いに人家はほとんど見当たらず,街灯も数箇所しかなく,道路幅も狭く,区間によっては対向車との離合が困難でその区間の前後の幅の広い箇所で待機しなければならない箇所及び曲がりくねって見通しの利かない箇所が相当数存在する。(甲総ア第3号証,顕著な事実,争いのない事実,弁論の全趣旨)
ウ a3集落と原告X1夫妻の居宅
a3集落は,四浦校区の集落の中でも,より宮崎県串間市との県境に近い山間部の行き止まりに位置する集落であり,四浦校区内で本件県道と接するより狭隘な道路により結ばれており,同道路は,道幅が狭く,曲がりくねって見通しが悪い箇所が相当箇所あり,対向車との離合が困難な箇所も多く,道路端が崖下になっている部分もあり,路面の状態も必ずしも良くないことから,一定速度を維持しての走行は困難であって,志布志市中心部にあるmホテル(現在のm1ホテル)からa3集落までの自動車での所要時間は,交通状況にもよるが,約37分を要する。
a3集落は,総世帯数6世帯で総人口21名の規模の集落であり,原告X1夫妻,原告X2夫妻,X12夫妻,原告X4夫妻,原告X5,亡A1は,いずれもa3集落に居住していた。
本件選挙において複数回の会合があったとされた原告X1夫妻の居宅は,a3集落にある。同居宅の間取りは,玄関を入ったところに4畳半の部屋(以下「中江の間」という。)があり,玄関から見て,中江の間の奥にはこたつの設置された4畳半の部屋(以下「こたつの間」という。)が,中江の間の左側には子供部屋が,中江の間の右側には仏壇のある8畳の部屋(以下「8畳の間」という。)がそれぞれあり,玄関の右側には8畳の間から続く縁側があり,玄関から見てこたつの間の左側には,土間と台所があるというものである。(甲総ア第3号証,甲総ア第25号証の2740,甲総ア第536号証の1及び2,甲総ア第537号証の1及び2,乙国第251号証,弁論の全趣旨)
(3)  本件選挙の概要等
(甲総ア第2号証,甲総ア第3号証,甲総ア第16号証,甲総ア第25号証の386,同2933,乙国第132号証,乙国第138ないし140号証,乙国第143号証,争いのない事実,弁論の全趣旨)
ア 本件選挙の日程
本件選挙の告示日は,平成15年4月4日であり,投票日は,同月13日であった。
イ 曽於郡区と本件選挙における立候補者数
(ア) 曽於郡区の構成
曽於郡区は,本件選挙当時,旧志布志町のほか,鹿児島県曽於郡大隅町,同郡輝北町,同郡財部町,同郡末吉町,同郡松山町及び同郡有明町(町名はいずれも当時のもの。同郡大隅町,同郡輝北町,同郡末吉町は,後の市町村合併により,いずれも鹿児島県曽於市に,同郡松山町及び同郡有明町は,後の市町村合併により,いずれも鹿児島県志布志市になった。以下,市町村合併の前後を問わず,現在の市町村名によることとし,特に当時の市町村名を示すときは,それぞれ,「旧大隅町」,「旧輝北町」,「旧財部町」,「旧末吉町」,「旧松山町」,「旧有明町」という。)並びに同郡大崎町(以下「大崎町」という。)によって構成されていた。
(イ) 曽於郡区の定数
曽於郡区では,平成11年に行われた前回の統一地方選挙鹿児島県議会議員選挙では,曽於郡区は無投票選挙区であり,3名の定数に対し,3人が立候補し,当選6回のA2議員(以下「A2県議」という。),当選3回のA3議員(以下「A3県議」という。)及び当選1回のA4議員(以下「A4県議」という。)が,それぞれ当選して議員を務めていた。
(ウ) 本件選挙における原告X6の立候補
本件選挙においては,これらの現職のA2県議,A3県議及びA4県議が,いずれもh党公認で立候補したのに加えて,原告X6が,一期2年間だけ務めていた志布志町議会議員を辞職して,保守系無所属の新人として立候補し,4名による選挙戦が行われた。
ウ 本件選挙の曽於郡区における開票結果
本件選挙は,平成15年4月13日に投票が行われ,開票の結果,各候補者の得票数は,A3県議が1万7196票,A2県議が1万6472票,原告X6が1万3312票,A4県議が1万1205票であり,A3県議,A2県議及び原告X6が当選し,A4県議が落選した。
(4)  本件選挙における主な公職選挙法違反に係る事件の被疑事実の概要及びその捜査の着手時期
(争いのない事実)
ア 缶ビール1ケースの供与に係る被疑事実
県警は,本件選挙に関する公職選挙法違反に係る行為に関し,平成15年4月12日,原告X6の選挙運動員であったA5が,本件選挙での原告X6への投票等を依頼する趣旨で旧志布志町内の建設業者に対して缶ビール1ケースを供与したという被疑事実に係る事件(以下「A5ビール事件」という。)の捜査に着手した。
A5ビール事件の端緒は,同年3月26日,鹿児島県警察志布志警察署(以下「志布志署」という。)所属の警察官が情報収集中に,同警察官の協力者から,同年2月上旬頃,建設会社である株式会社e(以下,「e社」といい,同社の専務取締役であるA6を「A6」という。)を訪れた際,缶ビール1ケース(24本入り,価格5400円)が置いてあるのを目撃し,同人が誰が持ってきたか確認したところ,A5が持ってきたとの回答を得た旨の情報を入手したことであるとされている。
イ 焼酎の供与に係る被疑事実
県警は,平成15年4月15日から,A5及び原告X6が,本件選挙での原告X6への投票等を依頼する趣旨で旧志布志町の有権者に対して焼酎を供与したという被疑事実に係る事件(以下「A5焼酎事件」という。)の捜査に着手した。
ウ 焼酎又は現金の供与に係る被疑事実
県警は,平成15年4月19日から,原告X6の選挙運動員であった原告X1が,旧志布志町内の有権者に対し,その一部につき原告X1の夫である原告X9とともに,本件選挙での原告X6への投票等を依頼する趣旨で焼酎又は現金を供与したという被疑事実に係る事件(以下「X1焼酎事件」という。)の捜査に着手した。
エ 買収会合における現金の供与に係る被疑事実
県警は,平成15年4月30日から,原告X6が,原告X6の妻である原告X7ないし原告X1と共謀の上,本件選挙での原告X6への投票等を依頼する趣旨で,旧志布志町の有権者を原告X1の自宅(以下「X1宅」という。)に招いて会合を開催して現金を供与したという被疑事実に係る事件の捜査(同会合は,捜査の結果,平成15年2月から同年3月にかけて少なくとも4回開催されたとされるところ,以下,開催された会合のうち,特に,その開催日とされる日が早いものから4回目までをそれぞれ順に「1回目会合」ないし「4回目会合」といい,同会合が何回開かれたかは別にして,これらの会合の全てを総称して「本件買収会合」といい,特に,1回目会合から4回目会合に係る事件をそれぞれ順に「1回目会合事件」ないし「4回目会合事件」といい,本件買収会合に係る事件全体を本件買収会合事件という。なお,本件刑事事件は,本件買収会合事件のうち,1回目会合事件ないし4回目会合事件について本件無罪原告らについて公訴提起したものである。)に,それぞれ着手した。
オ その他の捜査
県警は,平成15年4月12日以降,上記各事件の捜査に前後して,本件選挙に関する複数の公職選挙法違反の被疑事実に係る事件も捜査を行った。
(5)  県警による曽於郡区での本件選挙の取締体制及びその担当者等
(甲総ア第3号証,甲総ア第25号証の1059,甲総ア第427号証の1及び2,弁論の全趣旨)
ア 捜査本部の設置等
(ア) 県警における取締本部の体制と責任者
県警は,平成15年2月26日,本件選挙に関し,県警本部のほか,各警察署に,第15回統一地方選挙事前運動取締本部を設置し,同年3月26日頃,第15回統一地方選挙運動取締本部を設置して,公職選挙法違反の情報収集活動に当たった。
第15回統一地方選挙運動取締本部の総括責任者は,同年2月当時の刑事部参事官兼捜査第二課長事務取扱の地位にあったA7(以下「A7参事官」という。)であり,捜査第二課理事官のA8(以下「A8理事官」という。)及び捜査第二課課長補佐兼知能犯情報官のA9(以下「A9情報官」という。)が補佐を務めていた。
(イ) 志布志署における取締本部の体制
志布志署においては,曽於郡区での本件選挙における公職選挙法違反事件の取締りのため,平成15年2月26日,当時の志布志署長であったA10(以下「A10署長」という。)以下59名体制で,第15回統一地方選挙事前運動取締本部が設置され,同年3月26日頃,同体制による第15回統一地方選挙運動取締本部が設置された。
イ 志布志署における捜査本部の体制
県警本部長は,平成15年4月11日,県警本部において,本件選挙の選挙違反情報に係る事件着手検討会を実施し,志布志署において収集された公職選挙法違反情報のうち,A5ビール事件の捜査に着手することを決定した。
A5ビール事件は,被疑事実が公職選挙法違反であるため,犯罪捜査規範19条2項及び犯罪捜査規範施行細則7条1項に基づき,警察本部長が指揮する事件(以下「本部長指揮事件」という。)とされ,犯罪捜査規範22条及び犯罪捜査規範施行細則23条に基づき,大型の知能犯事件に属するものとして,所轄署である志布志署に捜査本部(以下「本件現地本部」といい,志布志署に設置された前記第15回統一地方選挙事前運動取締本部及び第15回統一地方選挙運動取締本部と区別しないで呼称することがある。)が設置された。
A10署長は,本件現地本部の実質的に責任者として捜査の統括に当たることとなり,志布志署生活安全刑事課長であったA11警部(以下「A11警部」という。)が捜査主任官に指名され,本件現地本部の捜査体制の確立のため,同月12日,捜査第二課長補佐であったA12警部(以下「A12警部」という。)が,本件現地本部の総括班長として派遣され,その後,県警本部の刑事部捜査第二課の捜査員が順次,本件現地本部に派遣された。
本件現地本部では,庶務班,捜査班,精査班等の班が順次編制され,捜査班の班長には,A12警部が充てられ,A12警部が原告X6の担当取調官であった期間は,刑事部捜査第二課長補佐のA13警部(以下「A13警部」という。)が充てられていた。
ウ 本件公職選挙法違反事件の捜査活動に従事した警察官
平成15年当時,いずれも県警の警察官で,本件公職選挙法違反事件の取調べ活動に従事した警察官は,警部補では,司法警察員警部補A14(以下「A14警部補」という。官職は当時のもの。以下同じ。),司法警察員警部補A15(以下「A15警部補」という。),司法警察員警部補A16(以下「A16警部補」という。),司法警察員警部補A17(以下「A17警部補」という。),司法警察員警部補A18(以下「A18警部補」という。),司法警察員警部補A19(以下「A19警部補」という。),司法警察員警部補A20(以下「A20警部補」という。),司法警察員警部補A21(以下「A21警部補」という。),司法警察員警部補A22(以下「A22警部補」という。),司法警察員警部補A23(以下「A23警部補」という。),警部補A24(以下「A24警部補」という。),司法警察員警部補A25(以下「A25警部補」という。),司法警察員警部補A26(以下「A26警部補」という。),司法警察員警部補A27(以下「A27警部補」という。),司法警察員警部補A28(以下「A28警部補」という。),司法警察員警部補A29(以下「A29警部補」という。),司法警察員警部補A30(以下「A30警部補」という。),司法警察員警部補A31(以下「A31警部補」という。),司法警察員警部補A32(以下「A32警部補」という。),司法警察員警部補A33,司法警察員警部補A34(以下「A34警部補」という。)であり,巡査部長では,司法警察員巡査部長A35(以下「A35巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A36(以下「A36巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A37(以下「A37巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A38(以下「A38巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A39(以下「A39巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A40(以下「A40巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A41(以下「A41巡査部長」という。),巡査部長A42(以下「A42巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A43(以下「A43巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A44(以下「A44巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A45(以下「A45巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A46(以下「A46巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A47(以下「A47巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A48(以下「A48巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A49(以下「A49巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A50(以下「A50巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A51(以下「A51巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A52(以下「A52巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A53(以下「A53巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A54(以下「A54巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A55(以下「A55巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A56(以下「A56巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A57(以下「A57巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A58(以下「A58巡査部長」という。),司法警察員巡査部長A59(以下「A59巡査部長」という。)であり,巡査長又は巡査では,司法巡査A60(以下「A60巡査」という。ただし,官職について,巡査であるか巡査長であるかを区別せず巡査とする。以下同じ。),司法警察員巡査A61(以下「A61巡査」という。),司法警察員巡査A62(以下「A62巡査」という。),司法巡査A63(以下「A63巡査」という。),司法警察員巡査A64(以下「A64巡査」という。),司法警察員巡査A65(以下「A65巡査」という。),司法巡査A66(以下「A66巡査」という。),司法警察員巡査A67(以下「A67巡査」という。),司法警察員巡査A68(以下「A68巡査」という。),司法警察員巡査A69(以下「A69巡査」という。),司法警察員巡査A70(以下「A70巡査」という。),司法警察員巡査A71(以下「A71巡査」という。),司法警察員巡査A72(以下「A72巡査」という。)である。本件公職選挙法違反事件の捜査活動には,その他にも,県警本部から本件現地本部の応援として複数名の警察官が派遣されていたほか,供述調書の作成以外に係る事務を担当していた者がいた。
(6)  検察庁の本件公職選挙法違反事件の捜査及び公判の担当者等
(甲総ア第25号証の1065,甲総ア第344ないし350号証,乙国第237ないし239号証,乙国第241及び242号証,乙国第252号証,弁論の全趣旨)
ア 平成15年6月までの捜査担当検察官
平成15年当時は,検察官検事A73(以下「A73検事」という。),検察官検事A74(以下「A74検事」という。),検察官検事A75(以下「A75検事」という。),検察官副検事A76(以下「A76副検事」という。),検察官副検事A77(以下「A77副検事」という。)及び検察官副検事A78(以下「A78副検事」という。)が,本件公職選挙法違反事件の捜査活動に従事した。
このうち主任検察官として関与したのは,平成15年4月22日から同年6月3日までがA75検事,同月4日以降がA73検事である。A73検事は,同年当時,検察庁の三席検事であった。
検察官検事A79(以下「A79検事正」という。)は,平成15年当時,鹿児島地方検察庁検事正であった。
イ 平成15年6月以降の担当検察官
検察庁は,平成15年6月以降,本件公職選挙法違反事件の捜査体制を拡充し,検察官検事A80(以下「A80検事」という。),検察官検事A81(以下「A81検事」という。),検察官副検事A82(以下「A82副検事」という。),A83検察官等が,新たにその捜査活動に加わった。
ウ 本件刑事事件の公判活動
本件刑事事件の公判活動は,平成16年3月まで,A73検事,A74検事,A75検事,A76副検事,A77副検事,A78副検事,A80検事,A81検事,A82副検事が,同年4月から平成18年3月まで,検察官検事A84(以下「A84検事」という。)及びA74検事が,同年4月から平成19年2月までA84検事が担当した。
(7)  本件刑事事件の公訴事実の概要
(争いのない事実)
ア 本件刑事事件に係る公訴の提起
検察官は,平成15年6月3日から同年10月10日の間,裁判所に対し,1回目会合事件ないし4回目会合事件につき,順次,公訴を提起した。
1回目会合事件ないし4回目会合事件における公訴事実の概要は,以下のとおりである。
イ 1回目会合事件(以下「6万円口事件」ともいう。)
原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X1は,原告X6の選挙運動者であるが,原告X6及び原告X1は,共謀の上,平成15年2月上旬頃,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,いずれも曽於郡区の選挙人であった亡A1,原告X4,原告X2,原告X3,原告X5及び亡X12に対し,原告X6への投票及び投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれ現金6万円の合計36万円を供与するとともに原告X6の立候補届出前の選挙運動をし,同選挙人であった亡A1,原告X4,原告X2,原告X3,原告X5及び亡X12の6名は,いずれも現金6万円の各供与を受けたというものである。
ウ 2回目会合事件
原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻かつ原告X6の選挙運動者,原告X1は,原告X6の選挙運動者であるが,原告X6,原告X7及び原告X1は,共謀の上,平成15年2月下旬頃,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,いずれも曽於郡区の選挙人であった亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X3及び原告X5に対し,原告X6への投票及び投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれ現金5万円ずつの合計30万円を供与するとともに原告X6の立候補届出前の選挙運動をし,同選挙人であった亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X3及び原告X5の6名は,いずれも現金5万円の各供与を受けたというものである。
エ 3回目会合事件
原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻で原告X6の選挙運動者,原告X1は,原告X6の選挙運動者であるが,原告X6,原告X7及び原告X1は,共謀の上,平成15年3月中旬頃,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,いずれも曽於郡区の選挙人であった亡A1,原告X4,原告X8,原告X2及び原告X3に対し,原告X6への投票及び投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれ現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともに原告X6の立候補届出前の選挙運動をし,同選挙人であった亡A1,原告X4,原告X8,原告X2及び原告X3の5名は,いずれも現金5万円の各供与を受けたというものである。
オ 4回目会合事件(以下「10万円口事件」ともいう。)
原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻で原告X6の選挙運動者であるが,原告X6及び原告X7は,共謀の上,平成15年3月下旬頃,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,いずれも曽於郡区の選挙人であった原告X1,原告X9,亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X10,原告X3,原告X5及び原告X11に対し,原告X6への投票及び投票とりまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれ現金10万円ずつの合計100万円を供与するとともに原告X6の立候補届出前の選挙運動をし,同選挙人であった原告X1,原告X9,亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X10,原告X3,原告X5及び原告X11の10名は,いずれも現金10万円の各供与を受けたというものである。
(8)  本件公職選挙法違反事件における強制捜査及び本件刑事事件の公訴提起の概要等
ア X1焼酎事件に関する平成15年4月22日着手の強制捜査(原告X1)
(甲総ア第25号証の748,乙国第252,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X1の逮捕及び検察官送致
県警は,平成15年4月22日,X1焼酎事件に関して,原告X1を,同人が,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月上旬頃,亡A1に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,現金1万円及び焼酎2本を供与し,前同月中旬頃,原告X4方において,原告X8に対し,前同様の報酬等として,現金1万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕し,同月24日,同被疑事実に係る事件(以下「X1焼酎4月22日捜査事件」といい,同事件に係る強制捜査を「第1次強制捜査」という。)を,検察官に身柄付きで送致した。
(イ) 原告X1の勾留及び勾留延長
A75検事は,平成15年4月24日,裁判官に対し,X1焼酎4月22日捜査事件に関し,原告X1につき勾留及び接見等の禁止を請求し,裁判官は,同日,勾留状の発付及び接見等禁止決定をし,その後,原告X1は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年5月13日まで身柄を拘束された。
(ウ) 原告X1の身柄の釈放
原告X1は,平成15年5月13日,処分保留のまま,釈放された。
イ 1回目会合事件に関する平成15年5月13日着手の強制捜査(原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1)
(甲総ア第25号証の618,同746,同814,同873,同1094ないし同1097,同1132ないし同1135,同1218ないし同1221,同1256ないし同1259,同1315ないし同1318,同1420ないし同1423,甲総ア第52及び53号証,甲総ア第429号証の199,乙国第252号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X1の逮捕
県警は,平成15年5月13日,1回目会合事件に関し,原告X1を,同人が,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年2月上旬頃,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金6万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。
(イ) 原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1の逮捕
県警は,平成15年5月13日,1回目会合事件に関し,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1を,同人らが,いずれも,同年2月上旬頃,原告X1から,原告X6に当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金6万円の供与を受けたとの被疑事実で,それぞれ通常逮捕した。(以下,1回目会合事件に関する上記被疑事実に係る各事件を総称して,「1回目会合5月13日捜査事件」という。)
(ウ) 原告X1外5名の検察官送致
県警は,1回目会合5月13日捜査事件につき,平成15年5月14日に原告X1,原告X2及び原告X3を,同月15日に原告X4,原告X5及び亡A1を,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
(エ) 原告X1外5名の勾留及び勾留延長
A75検事は,平成15年5月15日,裁判官に対し,上記6名について勾留及び接見等の禁止を請求し,裁判官は,同日,1回目会合5月13日捜査事件に関する上記各請求に係る各勾留状の発付及び各接見等禁止決定をし,上記6名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年6月3日まで身柄をそれぞれ拘束された(以下,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1ら6名に対する強制捜査を「第2次強制捜査」という。)。
ウ X1焼酎事件に関する平成15年5月18日着手の強制捜査(原告X9)
(甲総ア第205号証及び第206号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X9の逮捕,検察官送致
県警は,平成15年5月18日,X1焼酎事件に関して,原告X9を,原告X9が,原告X1と共謀の上,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月上旬頃,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,A85,A86及びA87に対し,現金1万円及び焼酎2本を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実(以下,同事実に係る事件を「X1焼酎5月18日捜査事件」という。)で,通常逮捕して,同月19日頃,同被疑事実に係る事件を検察官に身柄付きで送致した。
(イ) 原告X9の勾留及び勾留延長
A77副検事は,平成15年5月20日頃,裁判官に対し,原告X9について勾留を請求し,裁判官は,同日,上記請求について,勾留状を発付し,原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年6月8日まで身柄を拘束された。
(ウ) 原告X9の身柄の釈放
X9は,平成15年6月8日,処分保留のまま,釈放された。
エ 1回目会合事件に関する平成15年6月3日の公訴提起(第1次起訴)
(甲総ア第25号証の19,同1426及び同1427)
(ア) 1回目会合事件に関する第1次の公訴提起(原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1)(同年6月3日)
A75検事は,平成15年6月3日,裁判所に対し,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1を被告人として,1回目会合事件について,公職選挙法違反の罪でいずれも身柄付きで公訴提起した(当庁平成15年(わ)第217号公職選挙法違反被告事件。同事件は,1回目会合事件ないし本件刑事事件についての最初の公訴提起事件である。以下,同事件を「第1次刑事事件」といい,同事件に係る公訴提起を「第1次起訴」という。また,裁判所が,その後,第1次刑事事件に本件刑事事件のうちその他の事件を順次併合するなどしており,以下,本件刑事事件に係るその余の各事件の弁論の併合が順次されたときは,その被併合事件とを併せて,その弁論の併合の前後で特に区別せずに,単に「第1次刑事事件等」ということもある。)。
(イ) 第1次刑事事件に関する公訴事実の要旨
第1次刑事事件の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補した原告X6の選挙運動者であり,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,自宅において,いずれも曽於郡区の選挙人である原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,上記5名に対し,それぞれに現金6万円ずつの合計30万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をした,②原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5は,いずれも,同年2月上旬頃,X1宅において,原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,各自現金6万円の供与を受けたというものである。
オ 4回目会合事件に関する平成15年6月4日及び同月8日着手の強制捜査(原告X6,原告X7,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9及び亡A1)
(甲総ア第25号証の579,同749,同815,同872,同1113,同1114,同1168,同1169,同1234,同1235,同1290,同1291,同1362,同1363,同1475,同1476,同2742,同2743,同2816,同2817,同2942,同2943,甲総ア第58及び59号証,甲総ア第68及び69号証,甲総ア第139及び140号証,甲総ア第215及び216号証,甲総ア第429号証の7,同201,同456)
(ア) 原告X6及び原告X7の逮捕(同年6月4日)
県警は,平成15年6月4日,4回目会合事件に関し,原告X6及び原告X7を,同人らが,共謀の上,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月下旬頃,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。
(イ) 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1の逮捕
県警は,平成15年6月4日,4回目会合事件に関し,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1を,同人らが,いずれも,同年3月下旬頃,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金10万円の供与を受けたとの被疑事実で,それぞれ通常逮捕した。
(ウ) 原告X6外7名の検察官送致
県警は,平成15年6月5日,原告X6及び原告X7についての上記被疑事実に係る各事件を,同月6日,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5についての上記被疑事実に係る各事件(以下,原告X6及び原告X7についての上記各事件と併せ,総称して,「4回目会合6月4日捜査事件」という。)を,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
(エ) 原告X6外7名の勾留及び勾留延長
A73検事は,平成15年6月6日,裁判官に対し,上記8名について勾留請求をし,裁判官は,同日,上記各請求に係る各勾留状を発付し,その後,上記8名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同月25日まで身柄をそれぞれ拘束された。
(オ) 原告X9の逮捕及び検察官送致
県警は,平成15年6月8日,4回目会合事件に関し,原告X9を,同人が,同年3月下旬頃,自宅において,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,現金10万円の供与を受けたとの被疑事実で,通常逮捕した。
県警は,同月10日,同被疑事実に係る事件(以下「4回目会合6月8日捜査事件」という。)を検察官に身柄付きで送致した。
(カ) 原告X9の勾留及び勾留延長
A77副検事は,平成15年6月10日,裁判官に対し,原告X9について勾留を請求し,裁判官は,同日,上記請求に係る勾留状を発付し,その後,原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同月29日まで身柄を拘束された。(以下,4回目会合事件に関する原告X6,原告X7,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,亡A1及び原告X9の9名に対する上記各逮捕及び勾留に係る強制捜査を「第3次強制捜査」という。)。
カ 1回目会合事件及び4回目会合事件に関する平成15年6月25日及び同月29日着手の各強制捜査(原告X6,原告X7,原告X9,原告X11,A88,原告X10及び原告X8)
(甲総ア第25号証の991,同2740,同2744ないし2747,同2818ないし同2821,同2968ないし同2971,同2991ないし同2994,同3026ないし同3029,甲総ア第94及び95号証,甲総ア第158号証,甲総第234及び235号証,甲総ア第268及び269号証,甲総ア第286及び287号証,甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X6の逮捕
県警は,平成15年6月25日,1回目会合事件及び4回目会合事件に関し,原告X6を,同人が,自己に当選を得る目的をもって,同年2月上旬頃,原告X1と共謀の上,X1宅において,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4及び亡A1に対し,自己に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金6万円を供与し,同年3月下旬頃,原告X7と共謀の上,X1宅において,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,原告X11,A88,原告X10及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。
(イ) 原告X7の逮捕
県警は,平成15年6月25日,4回目会合事件に関し,原告X7を,同人が,原告X6と共謀の上,X1宅において,原告X6に当選を得る目的をもって,同年3月下旬頃,原告X11,A88,原告X10及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。
(ウ) 原告X11,A88,原告X10及び原告X8の逮捕
県警は,平成15年6月25日,4回目会合事件に関し,原告X11,A88,原告X10及び原告X8を,同人が,いずれも,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金10万円の供与を受けたとの被疑事実で,通常逮捕した。
(エ) 原告X9の逮捕
県警は,平成15年6月29日,1回目会合事件に関し,原告X9を,同人が,同年2月上旬頃,X1宅において,原告X6及び原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって,同人への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,現金3万円の供与を受けたとの被疑事実で通常逮捕した。
(オ) 原告X6外6名の検察官送致
県警は,平成15年6月27日又は同日頃,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての上記各被疑事実に係る各事件(以下,総称して,「4回目会合6月25日捜査事件」という。)を,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
県警は,同年7月1日頃,原告X9についての1回目会合に関する被疑事実に係る事件(以下「1回目会合6月29日捜査事件」という。)を検察官に身柄付きで送致した。
(カ) 原告X6外6名の勾留及び勾留延長
A73検事は,平成15年6月28日,裁判官に対し,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての4回目会合6月25日捜査事件において,勾留及び接見等の禁止を請求し,裁判官は,同日,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての4回目会合6月25日捜査事件の上記各請求に係る各勾留状の発付及び接見禁止等決定をした。その後,上記6名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年7月17日まで身柄をそれぞれ拘束された。
A73検事は,同月1日頃,裁判官に対し,原告X9についての1回目会合6月29日捜査事件において,勾留及び接見等の禁止を請求し,裁判官は,同年7月1日,原告X9についての1回目会合6月29日捜査事件の上記請求に係る勾留状の発付及び接見等禁止決定をした。その後,原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年7月17日まで身柄を拘束された(以下,1回目会合事件及び4回目会合事件に関する原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10,原告X8及び原告X9の7名に対する上記各逮捕及び勾留に係る捜査を「第4次強制捜査」という。)。
(キ) 原告X9及びA88の身柄の釈放
原告X9は,同日,1回目会合事件について,A88は,同日,4回目会合事件について,それぞれ処分保留のまま,釈放された。
キ 4回目会合事件に関する平成15年7月17日の公訴提起(第2次起訴)と訴因変更
(甲総ア第25号証の26,同68,同1115ないし同1118,同1170ないし同1172,同1174,同1236ないし同1239,同1292ないし同1295,同1365ないし同1368,同1477ないし同1480,同2705,同2749,同2750,同2823,同2824,同2948ないし同2951,同2973,同2974,同3008,同3009,同3031及び同3032)
(ア) 4回目会合事件に関する公訴提起(原告X6及び原告X7以外)
a 公訴提起
A73検事は,平成15年7月17日,裁判所に対し,原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8を被告人として,このうち,原告X11,原告X10及び原告X8については身柄付きで,4回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第266号公職選挙法違反被告事件。以下「第2次刑事事件1」といい,第2次刑事事件1に係る公訴提起を「第2次起訴1」という。)をした。第2次起訴1は,本件刑事事件のうち,第1次刑事事件に次いでされたものである。
b 第2次起訴1の公訴事実の要旨
第2次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8は,いずれも本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X6及び原告X7から,本件選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年3月下旬頃,X1宅において,各自現金10万円の供与を受けたというものである。
(イ) 1回目会合事件及び4回目会合事件に関する公訴提起(原告X6及び原告X7)
a 公訴提起
A73検事は,第2次刑事事件1の公訴提起と同日である平成15年7月17日,原告X6及び原告X7を被告人として,1回目会合事件及び4回目会合事件について公職選挙法違反の公訴事実で身柄付きで公訴提起(当庁平成15年(わ)第269号公職選挙法違反被告事件。以下「第2次刑事事件2」といい,第2次刑事事件1と併せて,「第2次刑事事件」という。また,第2次刑事事件2に係る公訴提起を「第2次起訴2」といい,第2次起訴1と併せて「第2次起訴」という。)した。
b 第2次起訴2の公訴事実の要旨
第2次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,①原告X6は,原告X1と共謀の上,自己を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれに現金6万円ずつの合計30万円を供与するとともに,いずれも立候補届出前の選挙運動をし,②原告X6及び原告X7は,共謀の上,前同様の目的をもって,いまだ立候補届出のない同年3月下旬頃,X1宅において,同選挙区の選挙人である原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金10万円ずつの合計100万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をしたというものである。
(ウ) 第1次起訴の公訴事実のうち共謀に関する訴因変更(原告X1及び原告X6)
A73検事は,平成15年7月17日,裁判所に対し,第1次起訴の公訴事実のうち,原告X1が行ったとされる公職選挙法違反の行為の訴因について,原告X1が原告X6と共謀の上で行ったものとし,罰条に刑法60条を追加する訴因変更及び罰条の追加の請求(以下「本件訴因変更請求」という。)をした。
ク 2回目会合事件ないし4回目会合事件に関する平成15年7月23日及び同月24日着手の各強制捜査(原告X6,原告X7,A5及びA89)
(甲総ア第25号証の2772ないし同2775,同2839ないし同2842,甲総ア118及び119号証,甲総ア187及び188号証,甲総ア490号証,甲総ア491号証,乙県2号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X6及び原告X7の逮捕
県警は,平成15年7月23日,2回目会合事件及び3回目会合事件に関し,原告X6及び原告X7につき,本件選挙に際し,原告X6が曽於郡区に立候補する決意を有していたことから,原告X6,原告X7及び原告X1において共謀の上,原告X6に当選を得る目的をもって,原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金5万円を供与し,同年3月中旬頃,原告X6を当選させる目的をもって,X1宅において,同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,前同様の趣旨で,それぞれに現金5万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実でそれぞれ通常逮捕した。
(イ) 原告X6及び原告X7の検察官送致
県警は,平成15年7月24日,上記各被疑事実に係る各事件(以下,総称して,「2回目会合等7月23日捜査事件」という。)をそれぞれ検察官に身柄付き送致をした。
(ウ) 原告X6及び原告X7の勾留及び勾留延長
A73検事は,平成15年7月24日,裁判官に対し,上記両名について勾留及び接見等の禁止を請求し,裁判官は,各勾留状の発付及び接見禁止等決定を行い,A73検事は,同各勾留状を執行し,その後,上記両名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年8月12日まで身柄をそれぞれ拘束された。
(エ) A5及びA89の逮捕及び検察官送致
県警は,平成15年7月24日,A5及びA89を4回目会合事件の供与被疑者としてそれぞれ通常逮捕した。
県警は,同日25日頃,同人らを4回目会合事件の供与被疑者とする上記各事件(以下,総称して,「4回目会合7月24日捜査事件」という。)について,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
(オ) A5及びA89の勾留及び勾留延長
A73検事は,平成15年7月25日頃,裁判所に対し,上記両名について勾留を請求し,裁判官は,同日,勾留状の発付をし,上記両名は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年8月13日まで身柄をそれぞれ拘束された。(以下,上記原告X6,原告X7,A5及びA89に対する逮捕及び勾留に係る捜査を「第5次強制捜査」という。)
ケ 3回目会合事件及び4回目会合事件に関する在宅事件の平成15年8月8日の検察官送致(原告X1,原告X5,原告X8,亡A1,原告X4,原告X2及び原告X3)
県警は,平成15年8月8日,3回目会合事件及び4回目会合事件に関し,原告X1を供与被疑者とし,原告X8,亡A1,原告X4,原告X2及び原告X3をいずれも受供与被疑者とする各事件及び3回目会合事件に関し,原告X1を供与被疑者とし,原告X5を受供与被疑者とする各事件を,それぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
コ 2回目会合事件及び3回目会合事件に関する平成15年8月12日の公訴提起(第3次起訴)
(ア) 2回目会合事件及び3回目会合事件に関する公訴提起(原告X6及び原告X7)
a 公訴提起
A73検事は,平成15年8月12日,裁判所に対し,原告X6及び原告X7を被告人として,2回目会合事件及び3回目会合事件について公職選挙法違反の罪で身柄付きで公訴提起(当庁平成15年(わ)第292号公職選挙法違反被告事件。以下「第3次刑事事件1」といい,第3次刑事事件1に係る公訴提起を「第3次起訴1」という。)した。
b 第3次起訴1の公訴事実の要旨
第3次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,両名は,原告X1と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,①いまだ立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともに,いずれも立候補届出前の選挙運動をし,②いまだ立候補届出のない同年3月中旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をしたというものである。
c 身柄関係
検察官は,同年8月12日,第3次刑事事件1において,被告人である原告X6及び原告X7について,裁判所に対し,各自の起訴後勾留について,接見等の禁止を請求し,裁判官は,同日,第3次刑事事件1において,原告X6及び原告X7につき,いずれも,第1回公判期日の日の午後10時までの間の接見等禁止決定をした。
(イ) 2回目会合事件及び3回目会合事件に関する公訴提起(原告X1,亡A1,原告X2,原告X4,原告X3及び原告X8)
(甲総ア第25号証の33,同38,同2708,同2791,同2792,同2851,同2852,同2903)
a 公訴提起
A73検事は,第3次刑事事件1が公訴提起されたのと同日の平成15年8月12日,裁判所に対し,原告X1,亡A1,原告X2,原告X4,原告X3及び原告X8を被告人として,このうち,原告X3及び原告X8をそれぞれ別事件として,2回目会合事件及び3回目会合事件について公職選挙法違反の罪でそれぞれ公訴提起(原告X1,亡A1,原告X2及び原告X4につき,当庁平成15年(わ)第293号公職選挙法違反被告事件,以下「第3次刑事事件2」といい,第3次刑事事件2に係る公訴提起を「第3次起訴2」という。原告X3につき,同第294号公職選挙法違反被告事件,以下「第3次刑事事件3」といい,第3次刑事事件3に係る公訴提起を「第3次起訴3」という。原告X8につき,同第295号公職選挙法違反被告事件,以下「第3次刑事事件4」といい,第3次刑事事件4に係る公訴提起を「第3次起訴4」といい,第3次刑事事件1ないし第3次刑事事件4を併せて「第3次刑事事件」といい,第3次起訴1ないし第3次起訴4を総称して「第3次起訴」という。)した。
b 第3次起訴2の公訴事実の要旨
第3次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者であり,亡A1,原告X2,原告X4は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6及び原告X7と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,いずれも曽於郡区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,亡A1外4名に対し,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をし,いまだ原告X6の立候補届出のない同年3月中旬頃,X1宅において,前同様の亡A1外4名に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をした,②亡A1,原告X2及び原告X4は,いずれも,前記原告X1らから,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において各自現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において各自現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。
c 第3次起訴3の公訴事実の要旨
第3次起訴3の公訴事実の要旨は,原告X3は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X1から,同選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。
d 第3次起訴4の公訴事実の要旨
第3次起訴4の公訴事実の要旨は,原告X8は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X1から,同選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。
サ 2回目会合事件に関する平成15年8月27日の公訴提起(第4次起訴)
(ア) 2回目会合事件に関する公訴提起(原告X1及び原告X5)
a 公訴提起
A73検事は,平成15年8月27日,裁判所に対し,原告X1及び原告X5を被告人として,2回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第320号公職選挙法違反被告事件。以下「第4次刑事事件1」といい,第4次刑事事件1に係る公訴提起を「第4次起訴1」という。)した。
b 第4次起訴1の公訴事実の要旨
第4次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者であり,原告X5は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6及び原告X7と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である原告X5に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金5万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をした,②原告X5は,原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の供与を受けたというものである。(甲総ア第25号証の40,同2711)
(イ) 2回目会合事件に関する公訴提起(原告X6及び原告X7)
a 公訴提起(同年8月27日)
A73検事は,第4次刑事事件1が公訴提起された同日の平成15年8月27日,原告X6及び原告X7を被告人として,2回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第321号公職選挙法違反被告事件。以下,「第4次刑事事件2」といい,第4次刑事事件1と併せて「第4次刑事事件」といい,第4次刑事事件2に係る公訴提起を「第4次起訴2」といい,第4次起訴1及び第4次起訴2を総称して「第4次起訴」という。)した。
b 第4次起訴2の公訴事実の要旨
第4次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,両名は,原告X1と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である原告X5に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金5万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものである。(甲総ア第25号証の40,同2711)
シ X1焼酎事件に関する在宅事件の平成15年9月9日の検察官送致(原告X8,亡A1,原告X1,A85,A86及びA87)
県警は,平成15年9月9日,X1焼酎事件に関し,原告X8,亡A1を受供与被疑者とする事件及び原告X1を供与被疑者とし,A85,A86,A87をいずれも受供与被疑者とする事件(以下,総称して「X1焼酎9月9日事件」という。)をそれぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
ス 1回目会合事件に関する在宅事件の平成15年9月29日の検察官送致(原告X1及,原告X6及び亡X12)
県警は,平成15年9月29日,1回目会合事件に関し,原告X1及び原告X6をいずれも供与被疑者とし,亡X12を受供与被疑者とする各事件を,亡X12について在宅事件としたまま,それぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
セ 1回目会合事件に関する平成15年10月10日の公訴提起(第5次起訴)
(甲総ア第25号証の43,同45,同47)
(ア) 1回目会合事件に関する公訴提起(原告X6及び原告X1)
A73検事は,平成15年10月10日,裁判所に対し,原告X6及び原告X1を被告人として,1回目会合事件について,それぞれ公職選挙法違反の罪で公訴提起(原告X6につき当庁平成15年(わ)第394号公職選挙法違反被告事件,原告X1につき,同第395号公職選挙法違反被告事件。上記両事件は,いずれも本件刑事事件のうち,第4次刑事事件に次いで公訴提起されたものである。以下,前記第394号事件を「第5次刑事事件1」,前記第395号事件を「第5次刑事事件2」という。)した。
(イ) 1回目会合事件に関する公訴提起(亡X12)
A73検事は,平成15年10月10日,亡X12を被告人として,1回目会合事件について,公職選挙法違反の公訴事実で在宅により公訴提起(当庁平成15年(わ)第396号公職選挙法違反被告事件。同事件は,本件刑事事件のうち,第5次刑事事件1及び第5次刑事事件2と同日に公訴提起されたものである。以下「第5次刑事事件3」といい,第5次刑事事件1ないし第5次刑事事件3を併せて「第5次刑事事件」という。また,第5次刑事事件1ないし第5次刑事事件3に係る各公訴提起を順に,「第5次起訴1」,「第5次起訴2」,「第5次起訴3」といい,それら全てを併せて「第5次起訴」という。)した。
(ウ) 第5次起訴の公訴事実
第5次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者であるが,原告X1と共謀の上,自己を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である亡X12に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金6万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものであり,第5次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者であるが,原告X6と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である亡X12に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金6万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものであり,第5次起訴3の公訴事実の要旨は,亡X12は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,本件選挙に立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者である原告X1から原告X6を当選させる目的をもって,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月上旬頃,X1宅において,現金6万円の供与を受けたというものである。
ソ 関連する事件の不起訴処分
検察官は,平成15年12月26日,本件公職選挙法違反事件のうち,X1焼酎4月22日捜査事件,X1焼酎5月18日捜査事件,4回目会合6月25日捜査事件のうち,A88を被疑者とするもの,1回目会合6月29日捜査事件,4回目会合7月24日捜査事件及びX1焼酎9月9日事件について,いずれも不起訴処分とした。(甲総ア425号証,弁論の全趣旨)
(9)  本件無罪原告らの弁護人の選任状況等
(甲総ア第25号証の2102ないし2128,同2130ないし2138,同2140及び2141,同2143ないし2162,同2169,同2170,弁論の全趣旨)
ア 原告X1の弁護人
原告X1の弁護人には,宮崎県弁護士会所属の弁護士C1(以下「C1弁護士」という。),鹿児島県弁護士会所属の弁護士A90(以下「A90弁護士」という。)が私選弁護人として選任されたが,いずれも解任され,鹿児島県弁護士会所属の弁護士C2(以下「C2弁護士」という。)が国選弁護人に選任されたが,解任され(以下「C2弁護士解任命令」という。),その後,鹿児島県弁護士会所属の弁護士A91(以下「A91弁護士」という。)及び弁護士A92(以下「A92弁護士」という。)が国選弁護人に選任された。
イ 原告X2の弁護人
原告X2の弁護人には,鹿児島県弁護士会所属の弁護士A93(以下「A93弁護士」という。)が私選弁護人として選任されたが,解任され,鹿児島県弁護士会所属の弁護士C3(以下「C3弁護士」という。)及び鹿児島県弁護士会所属の弁護士C4(以下「C4弁護士」という。)が弁護人に選任された。
ウ 原告X3の弁護人
原告X3の弁護人には,鹿児島弁護士会所属の弁護士C5(以下「C5弁護士」という。),弁護士C6(以下「C6弁護士」という。)及び弁護士C7(以下「C7弁護士」という。)が選任されたが,いずれも辞任し,鹿児島県弁護士会所属の弁護士A94(以下「A94弁護士」という。)が国選弁護人に選任されたが,鹿児島弁護士会所属の弁護士A95(以下「A95弁護士」という。)が私選弁護人に選任されたのを受け,A94弁護士は国選弁護人を解任され,その後,C4弁護士も私選弁護人として選任された。
エ 原告X4の弁護人
原告X4の弁護人には,A93弁護士が選任されたが,解任され,鹿児島県弁護士会所属の弁護士C8(以下「C8弁護士」という。)が国選弁護人に選任されたが,解任され(以下「C8弁護士解任命令」といい,C2弁護士解任命令と併せて「本件国選弁護人解任命令」という。),鹿児島県弁護士会所属の弁護士C9(以下「C9弁護士」という。)及び弁護士A96(以下「A96弁護士」という。)が国選弁護人に選任された。
オ 亡A1の弁護人
亡A1の弁護人には,鹿児島県弁護士会所属の弁護士C10(以下「C10弁護士」という。)及びC2弁護士が選任された。
カ 原告X5の弁護人
原告X5の弁護人には,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士が選任され,さらに,鹿児島弁護士会所属の弁護士C11(以下「C11弁護士」という。)が選任され,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,いずれも,弁護人を辞任した。原告X5は,鹿児島弁護士会所属の弁護士C12(以下「C12弁護士」という。)及びC4弁護士を弁護人に選任した。
キ 原告X6の弁護人
原告X6の弁護人には,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士並びに鹿児島県弁護士会所属の弁護士C13(以下「C13弁護士」という。)が選任された。
ク 原告X7の弁護人
原告X7の弁護人には,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士が選任され,さらに,C13弁護士が選任された。
ケ 原告X9の弁護人
原告X9の弁護人には,C1弁護士及びC10弁護士が選任された。
コ 原告X11の弁護人
原告X11の弁護人には,鹿児島弁護士会所属の弁護士C14(以下「C14弁護士」という。)が選任された。
サ 原告X10の弁護人
原告X10の弁護人には,C3弁護士及びC4弁護士が選任された。
シ 原告X8の弁護人
原告X8の弁護人には,C10弁護士及び鹿児島弁護士会所属の弁護士C15(以下「C15弁護士」という。)並びにC11弁護士が選任された。
ス 亡X12の弁護人
亡X12の弁護人には,C12弁護士,C4弁護士及びC11弁護士が選任された。
(10)  本件無罪判決の言渡しとその骨子等
(甲総ア第1号証,甲総ア第25号証の210,同2386)
ア 公訴棄却の決定と本件無罪判決
裁判所は,平成17年6月7日,亡A1に対する本件刑事事件につき,公訴棄却の決定をし,同決定の謄本は,同日,C10弁護人に送達された。
裁判所は,平成19年2月23日,本件刑事事件につき,第54回公判期日を開廷し,亡A1を除く本件無罪原告らに対し,いずれも無罪とする本件無罪判決を言い渡した。
イ 本件無罪判決の理由
裁判所は,本件刑事事件の判決において,本件無罪原告らをいずれも無罪とした理由として,以下のように判示した。
すなわち,本件無罪原告らのうちの原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X3の捜査段階での自白及び原告X1,原告X4及び原告X3の本件刑事事件の公判廷における自白の内容は不自然・不合理であり,その理由は,①自白では本件買収会合の全てに出席していたとされる原告X6には,1回目会合があったとされる日時に,s中学校の同窓新年会(以下「本件新年会」という。)に出席していたという事実が認められること,②原告X6には1回目会合事件についてアリバイが成立すること,③4回目会合があったとされる日時に,旧志布志町内のホテルで開催された同町内の上小西自治会懇親会(以下「本件懇親会」という。)に出席して挨拶し,その後,旧有明町鍋集落に挨拶回りをしていたという事実が認められること,④原告X6には4回目会合事件についてアリバイが成立すること,⑤本件買収会合が開かれたとされるのは,わずか7世帯しかない集落であるが,このような小規模の集落において,ほぼ同じ顔ぶれの買収会合を開き多額の現金を供与することに選挙運動として果たしてどれほどの実効性があるのか,実際にそのような多額の現金を供与したのか疑問があること,⑥これらの自白において供与されたとされる現金については,その原資が全く解明されておらず,供与後における使途も不明であるなどの客観的証拠の裏付けを欠き,自白した原告らの供述は,合理的理由のない変遷をしている上,その変遷の過程で,それぞれの供述が相互に影響を及ぼしあっていたことが強く疑われること,⑦原告らが連日のように極めて長時間の取調べを受け,取調官から執拗に追及されたため,苦し紛れに供述したり,捜査官の誘導する事実をそのまま受け入れたりした結果,このような供述経過になったと見る余地が多分にあることなどに照らしてであるとし,上記自白はいずれも信用することができず,他に公訴事実を認めるに足りる証拠はないと判示した。
(11)  本件刑事事件に関する刑事補償法に基づく補償金の受給
裁判所は,平成19年10月2日,いずれも刑事補償法に基づく補償金として,原告X1に対し,143万7500円,原告X2及び原告X14に対して,それぞれ232万5000円,原告X3に対して127万5000円,原告X4に対して110万円,原告X5に対して231万2500円,原告X6に対して493万7500円,原告X7に対して341万2500円,原告X8,原告X10及び原告X11に対してそれぞれ178万7500円及び原告X9に対して226万2500円を,それぞれ交付することを決定し,上記12名の原告らは,その後,いずれも上記各補償金の交付を受けた。(争いのない事実)
(12)  本件訴訟の提起
原告らは,平成19年10月19日,裁判所に対し,本件訴訟を提起した。
(顕著な事実)
3  法令の規定等
(1)  犯罪捜査規範
ア 犯罪捜査規範の制定
犯罪捜査規範(昭和32年7月11日国家公安委員会規則第2号)は,国家公安委員会が,その所掌事務について,法律,政令又は内閣府令の特別の委任に基づいて,国家公安委員会規則を制定することができる旨規定した警察法(昭和29年6月8日法律第162号)12条に基づき制定された国家公安委員会規則である。
これは,警察職員の勤務及び活動の基準としての性質を有するものであり,その内容は,都道府県警察内において適用される性質の犯罪捜査に関する規定をまとめたものであって,国家公安委員会の警察行政に関する調整として,都道府県警察が主体的に行う事項に対して,警察の特殊的性格に基づき,国家的,全国的見地から基準を設定するために設けられたものであり,直ちに都道府県警察を拘束するものと解されている。
イ 本件と関連性を有する犯罪捜査規範の規定の内容
(ア) 目的
第1条 この規則は,警察官が犯罪の捜査を行うに当つて守るべき心構え,捜査の方法,手続その他捜査に関し必要な事項を定めることを目的とする。
(イ) 警察本部長
第16条 警察本部長(警視総監または道府県警察本部長をいう。以下同じ。)は,捜査の合理的な運営と公正な実施を期するため,犯罪の捜査について,全般の指揮監督に当るとともに,職員の合理的配置,その指導教養の徹底,資材施設の整備等捜査態勢の確立を図り,もつてその責に任ずるものとする。
(ウ) 捜査担当部課長
第17条 刑事部長,警備部長その他犯罪の捜査を担当する部課長は,警察本部長を補佐し,その命を受け犯罪の捜査の指揮監督に当るものとする。
(エ) 警察署長
第18条 警察署長は,その警察署に関し,犯罪の捜査の指揮監督に当るとともに,捜査の合理的な運営と公正な実施について,警察本部長に対しその責に任ずるものとする。
(オ) 捜査指揮
第19条 前三条に規定する犯罪の捜査の指揮については,常にその責任を明らかにしておかなければならない。
2 警察本部長または警察署長が直接指揮すべき事件および事項ならびに指揮の方法その他事件指揮簿の様式等は,警察本部長の定めるところによる。
(カ) 捜査主任官
第20条 警察本部長又は警察署長は,当該事件の捜査につき,捜査主任官を指名するものとする。
2 捜査主任官は,第16条から前条まで(警察本部長,捜査担当部課長,警察署長,捜査指揮)の規定により指揮を受け,当該事件の捜査につき,次に掲げる職務を行うものとする。
一 捜査すべき事項及び捜査員の任務分担を定めること。
二 押収物及びその換価代金の出納を承認し,これらの保管の状況を常に把握すること。
三 第3章第5節(捜査方針)の規定により捜査方針を立てること。
四 捜査員に対し,捜査の状況に関し報告を求めること。
五 留置施設に留置されている被疑者(第136条の2(引き当たり捜査の際の注意)第一項において「留置被疑者」という。)に関し同項の計画を作成する場合において,留置主任官(被留置者の留置に関する規則(平成19年国家公安委員会規則第11号)第4条第1項に規定する留置主任官をいう。第136条の2第1項において同じ。)と協議すること。
六 被疑者の取調べその他の捜査の適正な遂行並びに被疑者の逃亡及び自殺その他の事故の防止について捜査員に対する指導教養を行うこと。
七 前各号に掲げるもののほか,法令の規定によりその権限に属させられ,又は警察本部長若しくは警察署長から特に命ぜられた事項
3 警察本部長又は警察署長は,第1項の規定により捜査主任官を指名する場合には,当該事件の内容並びに所属の職員の捜査能力,知識経験及び職務遂行の状況を勘案し,前項に規定する職務を的確に行うことができると認められる者を指名しなければならない。
4 捜査主任官が交代する場合には,関係書類,証拠物等の引継ぎを確実に行うとともに,捜査の状況その他必要な事項を明らかにし,事後の捜査に支障を来すことのないようにしなければならない。
(キ) 捜査本部
第22条 重要犯罪その他事件の発生に際し,特に,捜査を統一的かつ強力に推進する必要があると認められるときは,捜査本部を設置するものとする。
2 捜査本部の設置及び解散並びに捜査本部の長及び編成は,警察本部長が命ずる。
3 捜査本部長は,命を受け,捜査本部に所属する職員を指揮監督する。
4 捜査本部を設置した事件の捜査については,すべて捜査本部長の統制に従うものとし,他の警察署において当該事件に関する捜査資料を得たときは,速やかに捜査本部に連絡しなければならない。
(ク) 任意出頭
第102条 任意出頭を求めるには,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を明らかにし,なるべく呼出状(別記様式第7号(省略))によらなければならない。この場合において,被疑者又は重要な参考人の任意出頭については,警察本部長又は警察署長に報告して,その指揮を受けなければならない。
2 被疑者その他の関係者に対して任意出頭を求める場合には,呼出簿(別記様式第八号(省略))に所要事項を記載して,その処理の経過を明らかにしておかなければならない。
(ケ) 取調べの心構え
第166条 取調べに当たつては,予断を排し,被疑者その他関係者の供述,弁解等の内容のみにとらわれることなく,あくまで真実の発見を目標として行わなければならない。
(コ) 取調べにおける留意事項
第167条 取調べを行うに当たつては,被疑者の動静に注意を払い,被疑者の逃亡及び自殺その他事故を防止するように注意しなければならない。
2 取調べを行うに当たつては,事前に相手方の年令,性別,境遇,性格等を把握するように努めなければならない。
3 取調べに当たつては,冷静を保ち,感情にはしることなく,被疑者の利益となるべき事情をも明らかにするように努めなければならない。
4 取調べに当たつては,言動に注意し,相手方の年令,性別,境遇,性格等に応じ,その者にふさわしい取扱いをする等その心情を理解して行わなければならない。
5 警察官は,常に相手方の特性に応じた取調べ方法の習得に努め,取調べに当たつては,その者の特性に応じた方法を用いるようにしなければならない。
(サ) 任意性の確保
第168条 取調べを行うに当たつては,強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑念をいだかれるような方法を用いてはならない。
2 取調べを行うに当たつては,自己が期待し,又は希望する供述を相手方に示唆する等の方法により,みだりに供述を誘導し,供述の代償として利益を供与すべきことを約束し,その他供述の真実性を失わせるおそれのある方法を用いてはならない。
3 取調べは,やむを得ない理由がある場合のほか,深夜に又は長時間にわたり行うことを避けなければならない。
(シ) 精神又は身体に障害のある者の取調べにおける留意事項
第168条の2 精神又は身体に障害のある者の取調べを行うに当たつては,その者の特性を十分に理解し,取調べを行う時間や場所等について配慮するとともに,供述の任意性に疑念が生じることのないように,その障害の程度等を踏まえ,適切な方法を用いなければならない
(ス) 自己の意思に反して供述をする必要がない旨の告知
第169条 被疑者の取調べを行うに当たつては,あらかじめ,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。
2 前項の告知は,取調べが相当期間中断した後再びこれを開始する場合又は取調べ警察官が交代した場合には,改めて行わなければならない。
(セ) 臨床の取調べ
第172条 相手方の現在する場所で臨床の取調べを行うに当たつては,相手方の健康状態に十分の考慮を払うことはもちろん,捜査に重大な支障のない限り,家族,医師その他適当な者を立ち会わせるようにしなければならない。
(ソ) 裏付け捜査及び供述の吟味の必要
第173条 取調べにより被疑者の供述があつたときは,その供述が被疑者に不利な供述であると有利な供述であるとを問わず,直ちにその供述の真実性を明らかにするための捜査を行い,物的証拠,情況証拠その他必要な証拠資料を収集するようにしなければならない。
2 被疑者の供述については,事前に収集した証拠及び前項の規定により収集した証拠を踏まえ,客観的事実と符合するかどうか,合理的であるかどうか等について十分に検討し,その真実性について判断しなければならない。
(タ) 供述調書
第177条 取調べを行つたときは,特に必要がないと認められる場合を除き,被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
2 被疑者その他の関係者が,手記,上申書,始末書等の書面を提出した場合においても,必要があると認めるときは,被疑者供述調書又は参考人供述調書を作成しなければならない。
(2)  犯罪捜査規範施行細則
ア 犯罪捜査規範施行細則の制定
県警においては,犯罪捜査規範19条2項の規定に基づき,犯罪捜査規範施行細則(昭和46年6月10日県警本部訓令第14号。なお,平成14年11月訓令25による改正当時のものを,以下「細則」という。)が制定された。
イ 警察本部長が指揮する事件
細則7条1項は,本部長指揮事件とすべき事件の類型とともに,①捜査の着手または他の捜査機関との間の事件の移送及び引継ぎ,②捜査本部の開設および解散,③捜査方針の樹立および変更,④被疑者及び重要参考人の任意出頭,⑤被疑者の逮捕の要否,⑥逮捕した被疑者の身柄処置,⑦捜索差押,身体検査,検証ならびに鑑定処分の要否および鑑定嘱託事項,⑧捜査の中止または継続捜査の要否,⑨事件の送致または送付等をその指揮すべき事項として規定している。また,本部長指揮事件とすべき事件は,「犯罪の主体」,「犯罪の種類及び程度」,「犯罪対象」によって区分・類型化されておけ,公職選挙法違反事件は,「犯罪の種類及び程度」の項において本部長指揮事件として掲げられている。
ウ 指揮伺いの方法等
細則8条1項は,指揮伺いの方法等については,緊急を要し,または警察本部長が不在その他の理由により,前条に規定する指揮を受けることができないときは,当該事件の警察本部主管部長が代わって指揮し,事後すみやかに警察本部長の承認を受けるものとする旨,同条2項は,本部長指揮事件のうち,すでに警察本部長の指揮を受けた事件であって,比較的軽微な事件の定型的な指揮事項については,警察本部主管部長において専決することができる旨,細則9条は,警察署長が,本部長指揮事件について警察本部長の指揮を受ける場合には,主管課長を経て,指揮を受けようとする事項を明らかにして,伺いをしなければならない旨,細則10条は,主管課長が,前条の指揮伺いがあったときは,所定の様式の本部長事件指揮簿に登載の上,順を経て,警察本部長の指揮を受けなければならない旨を規定している。
エ 捜査本部の設置
細則23条1項は,捜査本部の設置について,警察本部長が,重要犯罪その他事件の発生に際し,特に捜査を統一的かつ強力に推進する必要があると認めたときは,犯罪捜査規範第22条に規定する捜査本部を開設するものとする旨,同条2項は,警察本部長が,①殺人,強盗,強かん,放火等の凶悪事件及び略取誘拐事件のうち重要なもの,②大規模な業務上過失致死事件のうち重要なもの,③大型の知能犯事件,大規模な暴力団事件及び警備事件のうち重要なもの等の重要犯罪その他事件のうち社会的反響の大きい重要事件又はこれに発展するおそれのある事件で,特に捜査を統一的かつ強力に推進する必要があると認めたときは,捜査本部を開設しなければならない旨,同条3項は,捜査本部を原則として所轄署に設置するものとする旨を規定し,細則24条は,警察本部長が,捜査本部を開設するときは,自ら捜査本部長となる場合を除き,原則として,当該上記事件の捜査を主管する警察本部の部長を捜査本部長に充てるものとする旨,細則25条1項は,捜査本部に,捜査副本部長,事件主任官,広報担当官,捜査班運営主任官等を置く旨,同条2項は,捜査本部長が,捜査本部の運営上必要があると認めるときは,当該捜査本部に捜査本部長付,特命主任官,事件主任官付又は捜査班運営主任官付を置くことができる旨,同条3項は,捜査本部には,必要に応じ,①総務班,②捜査班,③鑑識班,④庶務班,⑤その他捜査本部長が必要と認める班を編制し,班長及び班員は,捜査本部長が警察本部長の承認を得て指名するものとする旨を規定している。
4 争点
(1)  県警の捜査に関する違法性の有無
ア 本件公職選挙法違反事件の捜査における平成15年4月16日までの初期段階における強い予断と偏見に基づく捜査の開始に関する県警の違法性の有無
イ X1焼酎事件の端緒の把握に至る四浦校区の住民らに対する任意同行の継続から本件買収会合事件の捜査に着手する前の平成15年4月29日までの捜査に関する県警の違法性の有無
ウ 平成15年4月30日の本件買収会合事件の端緒の把握から平成15年5月13日の第2次強制捜査までの捜査に関する県警の違法性の有無
エ 第2次強制捜査及びそれ以降の捜査に関する県警の違法性の有無
オ 弁護人との接見内容を調書化することによる違法性の有無
カ 起訴後の取調べに関する県警の違法性の有無
キ その他の取調べに関する県警の違法性の有無
(2)  検察官の捜査及び公訴提起・追行等に関する違法性の有無
ア 第1次起訴までの捜査及び第1次起訴に関する検察官の違法性の有無
イ 第2次起訴までの捜査及び第2次起訴に関する検察官の違法性の有無
ウ 第3次起訴までの捜査並びに第3次起訴,第4次起訴及び第5次起訴に関する検察官の違法性の有無
エ 本件刑事事件の公訴追行に関する検察官の違法性の有無
オ 公訴提起後の身柄拘束に関する検察官の違法性の有無
(3)  損害の発生の有無及びその額
(4)  消滅時効の成否
5 争点に対する当事者の主張
(1)  争点(1)ア(本件公職選挙法違反事件の捜査における平成15年4月16日までの初期段階における強い予断と偏見に基づく捜査の開始に関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 総論
原告らの事実経過についての主張は,別紙1「無罪国賠訴訟・事実経過」のとおりであって,県警には,①本件現地本部の捜査責任者らが,投票日前の事前取締りの時点から,原告X6において組織的な選挙違反を行ったという強い予断と偏見を抱き,確度の低い端緒から,原告らに対して合理的でない嫌疑をかけて,原告らによる買収工作の構図を作出し,②平成15年4月16日から順次行われた,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,原告X9,原告X11及び亡A1に対する取調べを担当した県警の捜査官らが,同人らに対する,ⅰ)任意同行及び取調べに応諾しないこと並びに取調室からの退去の自由の不告知,ⅱ)実質的な強制を伴う令状主義を潜脱した任意同行の実施,ⅲ)取調べ時における黙秘権の不告知,ⅳ)脅迫・偽計・有形力・怒声の行使による強圧的な押し付けや誘導的な取調べ,ⅴ)長時間取調べ,ⅵ)被疑者の体調不良を利用して自白を強要した取調べにより,同人らを肉体的・心理的に追い込み,③平成15年4月30日から同年5月7日までの間に,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対する取調べを担当した県警の捜査官らが,同人らに対し,同様に上記②ⅰ)ないしⅵ)の態様の取調べを行って内容虚偽の自白を得て本件刑事事件の公訴事実に係る虚偽の嫌疑を作出し,④県警の捜査官らが,これらの自白を元に,本件無罪原告らに対し,各取調べにおいて,同様に上記②ⅰ)ないしⅵ)の態様の取調べをしたほか,さらに,ⅶ)起訴後の違法な取調べ,ⅷ)本件刑事事件の各公訴提起前の時点においての,虚偽の自白を維持させる目的での本件無罪原告らの接見交通権を妨害した取調べ等の違法な取調を行ったことが,それぞれ違法な公権力の行使をしたという違法があり,この事実経過に照らして明らかなように,県警の捜査には違法があり,被告県は,原告らに対して,国家賠償法1条に基づいて損害賠償をする義務がある。
以下,順次,争点に関して主張する。
まず,捜査の開始に関してみると,本件現地本部のA10署長及びA12警部らの捜査責任者らは,本件公職選挙法違反事件の捜査の初期段階から,本件選挙において原告X6の陣営による組織的な選挙違反があったものと,強い予断と偏見を抱いていたが,この予断は何ら合理的なものではなく,本件捜査全体を決定的に誤らせ,合理的でない嫌疑をかけて原告らに対する事情聴取を始めた違法がある。
(イ) 任意捜査の適法性の判断基準
a 逮捕・勾留に関する最高裁判例
最高裁判例では,公務員の職務行為の違法性の判断基準は,その職務行為時を基準として,当該公務員がその法的職務義務に違反していると認められる場合に限って,国家賠償法上違法と評価されるとの立場から,無罪判決が確定したというだけで直ちに刑事司法手続が国家賠償法上違法と評価されるものではないとして(最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決・判例時報906号3頁),いわゆる職務行為基準説によるとされ,捜査機関による逮捕勾留の違法性の判断基準は,留置に関して,留置の必要性を判断する上において,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,あえて留置したと認め得るような事情がある場合に限り,同留置について国家賠償法1条1項の適用上違法の評価を受けるものと解するのが相当であるとして(最高裁判所平成8年3月8日第二小法廷判決・判例時報1565号92頁),いわゆる合理的理由欠如説に立っている。
b 任意捜査における捜査比例の原則の適用
捜査は,刑罰権の行使という目的により行われ,捜査機関は,「犯罪があると思料するときは」(捜査官の主観的嫌疑),犯人及び証拠を捜査する(刑事訴訟法189条2項)ことができるものの,捜査官は,適正手続にのっとって,捜査を遂行する義務を負っているのであり,捜査には,強制捜査にわたらない任意捜査であっても,少なからず人権侵害を伴うものであるから,人権保障との関連で,①目的を審査する「目的適合性の原則」,すなわち,手段が目的達成のために適合的か,②手段原則である「必要性の原則」,すなわち,目的達成のための最小限の手段か,③目的と手段が不釣り合いであってはならないことを要請する「狭義の比例原則」,すなわち,侵害される利益が達成される利益と均衡しているかの三つの部分原則から成り立つところの捜査比例の原則が妥当しており,捜査比例の原則は,後2者の「必要性の原則」と「狭義の比例原則」とを区別せずに「過剰の禁止原則」とも表現され,捜査は常に「必要な限度を超えてはならない」と解されているのである。
したがって,捜査にどのような行為も許されるわけではなく,この捜査比例の原則に著しく違反すれば,当該捜査は違法となる。
そこで,まず,①「目的適合性の原則」から,刑罰権行使という目的達成のために,捜査(手段)が適合的かが問題となるが,これは犯罪事実の存在が前提である。したがって,犯罪事実が存在しない場合(通常の捜査官を基準として,その時点で現に収集した証拠資料及びそのときの捜査状況から収集し得た証拠資料に照らして,その合理的な判断過程から犯罪事実が存在しないという結論が導かれる判断である。)には,刑罰権の発動はあり得ないのであり,目的適合性の原則から,その後の捜査は,それだけで違法である。
また,②「必要性の原則」から,刑罰権の行使という目的のために,その手段である捜査は常に必要最少限度のものでなければならない。犯罪事実の存否が明らかでない場合には,その手段が必要かが常に吟味されるべきである。この点についても,通常の捜査官の合理的な判断過程に照らし,著しく不合理であると判断される場合には,その任意同行は違法となると解すべきである。
また,捜査は発展的な性格を有していることから,次のような準則も妥当する。すなわち,捜査比例の原則を遵守した捜査により,一定程度有罪が見込めるほど証拠が収集された場合には,その後の捜査による人権侵害の程度も大きくなること(強制捜査に移行すること)が許されるが,他方,捜査比例の原則を遵守した捜査をしても,捜査官の主観的嫌疑に止まっている場合には,その後の捜査方法は,より必要最少限度の人権侵害しか許されないことになる。
そして,この捜査比例の原則を包含する適正手続にのっとって一定期間捜査を遂行しても,この主観的嫌疑が客観的嫌疑にまで高まらなかった場合には,さらに捜査官が何かないかと探索的・渉猟的な捜査を継続することは許されないものというべきである。
c 職務行為基準説での判断
国家賠償法上の違法の判断基準である職務行為基準説では,適正手続にのっとって捜査を遂行しても犯罪事実そのものの存在が不明となっている状況で,それ以上の捜査を継続するか否かについて,通常の捜査官の立場で,その時点で現に収集した証拠資料及び収集し得た証拠資料に基づき,合理的に判断すべきである。
この捜査官の合理的な判断過程においては,現に収集した証拠資料の証拠価値の吟味が重要である。また,捜査機関に収集保管しているあらゆる証拠資料の見落としがあってはならないことも言うまでもない。
公職選挙法違反被疑事件では,特に人の動静を明らかにできる証拠資料や証拠物(本件では受供与された焼酎瓶から採取された指紋や買収等の事件があったとおぼしき時期につけていた関係者の日記やタイムカードなど)を丹念に検証・吟味する必要がある。
そして,捜査機関が収集していた証拠が,とりわけ,供述証拠である場合には,①それが客観的証拠資料により裏付けられているか,②逆に,客観的証拠資料と矛盾していないか,また,③供述証拠が犯罪構成要件該当事実など重要な部分で変遷がないか否か,とりわけ,初期供述からかけ離れた供述内容となっていないか,否認と自白の交錯の程度が著しくないかどうか,④そのような変遷の原因としては,取調べ過程での取調官による誘導・強制がなかったかどうか,⑤捜査過程で収集した捜査資料に不備がないか否かなどという観点から,捜査員による捜査会議を経て,総合的・多角的に検討されるべきである。
その結果,捜査対象とされた者に対し,もはや事件性がかく犯人視することができないと判断される場合には,その後の捜査,警察署への同行はもとより,取調室での取調べも,それ自体,違法というべきである。
(ウ) A5ビール事件の経緯及びその後の捜査の違法性等
a 思い込みの端緒
この事件の端緒となる情報は,受供与者とされるe社の事務室の机に,iホテルと書いた年賀の熨斗がついたビールケースが置いてあったことであるが,本件現地本部が,これを買収のために,A5からe社に贈られたものとの嫌疑を持ったことは,単なる思い込みにすぎない。
b 公正中立を欠く偏頗な捜査
しかも,A12警部とA14警部補は,投票日である平成15年4月13日,曽於郡区の立候補者の1人であったA2県議宅を訪問した。
これは,被告県の主張では,情報収集のためと称しているが,対立候補者宅に情報収集に行く行為は,公正・中立を旨とする警察官の行動としては,極めて軽率である。しかも,A2県議とA12警部は,旧知の間柄であることを考えると,その来訪の目的は,受供与者に対し,自供するよう働きかけを求めたものと考えられるのであって,上記A2県議宅へのA12警部らの訪問は,偏頗な捜査というべきである。
c A6外1名の否認
もっとも,A5が物品を贈った相手方であるA6外1名は,同月15日,本件現地本部の取調べに対し,いずれも買収目的であったことを否認し,A6は,A5の経営するiホテルに客を紹介したお礼や年始の挨拶にもらったとして,A5と同じ供述を警察にしていたのであり,これらの否認に不合理な点は認められなかった。
d 本件選挙への時間的近接性の欠如と捜査への協力的態度の外形的事実
そもそもA5がe社にビールを贈ったのは,同年1月上旬のことであり,本件選挙の告示日である同年4月4日及び投票日である同月13日から離れたこの時期に,ビールを供与しても意味がないし,A6外1名は,もともとA2県議派だったので,A5が選挙買収としてビール等を贈るのは,警察に情報提供される危険が高いことが明白な行為であるのであり得ない。
さらに,A5は,同年3月18日,本件現地本部のA37巡査部長に対し,X6陣営の選挙体制表(四浦の責任者を「A97」と記載したもの。)を任意に提供するなど,捜査に協力的な態度を取っていたのであって,このことからもA5に選挙違反がないことは明らかであった。
このような外形的な事実からも,上記A5ビール事件の嫌疑は,主観的嫌疑の域を出ないものであったのである。
e 捜査の継続の違法
そうであるとすると,本件現地本部が,上記A5ビール事件の捜査に着手したこと自体は,「犯罪があると思料するとき」(捜査官の主観的嫌疑)に該当するものと思われるので,違法とは言えないかもしれないが,同年4月15日の時点で,A5ビール事件は,立件することができないことは明白であったから,直ちに捜査を終結させるべきであって,これ以降のA5に対する捜査継続は違法である。
(エ) A5焼酎事件の経緯及びその後の捜査の違法性等
a 特別協力者からの情報の確度の低さと平成15年4月15日以降の捜査の違法性
しかし,本件現地本部は,既に嫌疑が消滅した若しくは特段の嫌疑はないのにA5,ひいては原告X6に対する捜査を継続した。
被告県の主張では,A5ビール事件の捜査中に,A5の選挙違反事実について,平成15年4月15日の深夜,県警本部刑事部捜査第二課員が運用している特別協力者から,県議選にからみ,志布志町四浦集落で,金が配られているのは間違いなく,金を受け取った人物は,四浦集落に居住するA98,亡A1,A99とのことである旨の通報が寄せられたことによるとされている。
この特別協力者からの情報は,確度の高いものとは到底言えないものであった。なぜなら,A98やA99は,四浦校区ではなく森山校区又は潤ヶ野校区の住民である。また,本件現地本部の基礎捜査の結果,A98,A99及び亡A1がいずれも本件有機米契約農家であることが判明したなどとしているが,A98とA99はいずれも本件有機米契約農家ではない。さらに,その情報は,金が配られているとしているが,後に供述があったのは,焼酎の供与の事実にすぎない。
にもかかわらず,本件現地本部は,同月16日,亡A1,A99,A98の同行・取調べを敢行し,これは任意捜査の限界を超えた違法なものであったというべきである。また,亡A1に対しては,任意同行を求めるに当たり,亡A1が自宅で取調べを受けるとの意向を示したのにこれを聞き入れていない。
なお,この端緒については,X1焼酎4月22日捜査事件での平成15年4月22日付け捜査報告書(以下「4月22日付け捜査報告書」という。)では,上記通報の日時につき,当初は同月10日と記載されていたところ,「10日」の部分が二本線で消し込まれて,「15日」と修正されていること,A5が,同月15日の取調べ終了間際の午後8時頃,A14警部補から,原告X6らに四浦校区に焼酎を配っていないか聞くようにと指示され,実際にその日,焼酎の供与の有無の確認のため原告X6らに架電し,電話履歴からもその事実が裏付けられることに照らせば,真実は,同月10日の時点で情報提供があったものとみるべきである。
b 不相当な誘導
さらに,亡A1らに対する取調べ自体,不相当な誘導があった可能性がある。
すなわち,A16警部補は,同月16日付けで供述調書を作成し,亡A1はこれに署名しているが,その記載内容では,亡A1が自宅で原告X6とA5の立候補の挨拶回りのための訪問を受けた際に告げられたことは,「X6ちゃんが県議選に出っで,頼んじなあー。」,「出っで,頑張っでなあー」との文言であるが,亡A1は,その言葉の意味を「次期行われる県議会議員選挙に曽於郡区から立候補を表明している新人のX6さんに,投票してください,親戚など知り合いの人達に働きかけて,X6さんへの投票をお願いしてくださいといったような,県議選に立候補予定のX6さんへの投票と票の取りまとめの依頼であった。」などと理解したと記載されている。
上記「頼んじなー。」からは,直接的な投票依頼までは分かるとしても,親戚など知り合いに働き掛けることまでは推測できるものではない。ここにも,A16警部補の不相当な誘導の形跡が認められるところである。
そして,上記A5らの訪問を受けた際には自宅の甘藷の選別作業所に居た亡A1が,昼食時に,自宅に戻った際に自宅の玄関右横にある縁側に焼酎2本くくりが置かれているのに気が付いたときのことについて,上記供述調書の記載では,亡A1が,同焼酎について直ぐに原告X6とA5が置いたものと理解できたことになっているが,亡A1宅の甘藷の選別作業所は,自宅前の細い林道から入り込んだ自宅玄関の奥にあり,そこから,自宅玄関付近は見通せない状況にあり,しかも上記A5らの訪問から1時間が経過した時点で初めて同焼酎に気付いたのであるから,少なくともその1時間のうちに,他に誰も来ていないことが前提となるはずだが,そのような事情が何も語られないまま,断定的にA5らが置いたと理解できた旨が記載されており,これもA16警部補の不相当な誘導の形跡がある。
さらに,上記供述調書では,同焼酎の意味が,本件選挙で原告X6に,投票依頼及び投票の取りまとめに対するお礼であると,直ぐに理解できたことになっているが,わずか焼酎2本(3000円程度)が置いてあることで,投票依頼のみならず票の取りまとめに対する報酬まで含むのか,相当の飛躍がある推測になっていて,これもA16警部補の不相当な誘導の痕跡である。
c 任意性の欠如
上記供述調書の記載では,亡A1の娘の苗字が,A100であるはずなのに「A101」となっていること,記載内容だけでなく,亡A1の署名・指印がある最終頁のフォントがそれまで頁のフォントと異なっていることからすると,亡A1に対する不相当な誘導を行ったA16警部補が同日,同供述調書の読み聞け及び閲覧の手続をしなかった結果であることを強く疑わせるものである。
このことからも,亡A1の同日の取調べが任意になされたものであるか疑問があり,少なくとも同日付けの亡A1の供述調書は,A5や原告X6の選挙違反の事実の証拠たり得ないものであった。
他方,A98及びA99は,原告X6による選挙買収の事実を徹底的に否認した。そして,その否認には特段不合理な点はなく,2人に対する取調べは,実際,との日1日で終わっている。
d A14警部補のA5に対する踏み字による常軌を逸した取調べ
以上のことからすると,A5焼酎事件は,捜査を継続することはできず,その捜査継続は,本来違法であったというべきである。
にもかかわらず,本件現地本部は,A5に対し,苛烈な取調べを強要した。特にA14警部補のA5に対する取調べは,踏み字を強要し,A5が取調室から退去する自由及び弁護人選任権を侵害し,令状なしに所持品検査をしたなど,権力を笠に着た常軌を逸したものであった。
A14警部補が,このような常軌を逸した取調べをせざるを得なかったのは,本件選挙において,原告X6の陣営による選挙買収が行われたものとの予断・偏見に支配されて,無理に自白を取ろうとしたからに他ならない。
(オ) 平成15年4月17日及び同月18日の四浦校区の住民らに対する取調べ
a 予断・偏見の下での捜査の継続
上記のとおり,原告X6の陣営による四浦校区での選挙買収の合理的な嫌疑はなく,A5も,同月16日の午前中の取調べにおいて,体調不良の中で,四浦校区への買収の嫌疑を強く否認したにもかかわらず,本件現地本部は,なおも原告X6の陣営による選挙買収が四浦校区で行われたものとの予断・偏見の下で,四浦校区の住民らに対して任意同行を求めて捜査を継続した。
b 公民館長及び副公民館長からの聴取とA12警部による取引の持ちかけ
A12警部は,同日の午後から,四浦校区内に設置された公民館(以下「四浦校区公民館」という。)の公民館長であるA102(以下「A102公民館長」という。)及びA103(以下「A103副公民館長」という。)のもとを訪問し,四浦校区の選挙運動の情勢等について事情を聞いた。
A12警部は,本件刑事事件の公判廷において,上記事情聴取の中で,四浦校区においては,X6派の人物として原告X9,原告X3,原告X2,原告X4,それに本件有機米契約農家としてA97,A88,亡A1などの名前が挙げられ,これらの者らが原告X6の陣営から物品や現金をもらっているという情報を得たなどと供述したが,真実とは異なる。
すなわち,A102公民館長は,A12警部に対し,四浦校区は90パーセントがA2県議を支持していたはずである旨を説明したが,A12警部は,「四浦の人が関係している選挙違反について信用のおける確実な情報を得たので調べに来た。」,「四浦の人で選挙違反に関係している人がいるようだから,自首をするように説得してくれ。自首してくれたら,今回に限っては,お構いなしとするから。」,「大きな騒ぎを引き起こしたくないから,選挙違反事件について捜査に入るので,協力してくれ。」,「A102さん,あなたは,だいたい見当がつくでしょう。私が言わなくても目星がつくでしょう。」,「自分から進んで名前を挙げたら,その人を選挙違反で摘発はしないから。」等,原告X6の陣営による選挙違反があったことを告げ,その心当たりについて情報提供するように取引を持ちかけ,それでもA102公民館長から何も聞き出せないでいた。そこで,A12警部は,「X6さんの関係で知っていることはあるか。」と聞き,A102公民館長は,①原告X1及び原告X3が原告X6の関係する農場で働いていること,②原告X6が四浦校区の休耕田を借りて上げて,A97,亡A1,A88に有機米を作らせていること等を話したにすぎない。
さらに,A103副公民館長もA12警部の事情聴取において,A12警部に対し,四浦校区は,道路の拡幅問題があり,そのためA2県議を支持する者が大半であったことを説明したが,A12警部は,これを否定し,「四浦には,X6さんのところで働いている人がいるはずだが。」と追及してきたので,A103副公民館長は,原告X3,原告X1の名前を挙げるとともに,甥のA97のほか,亡A1,A88が四浦校区における本件有機米契約農家であったことなどを話したにすぎない。
c 戸別訪問,物品の供与の可能性の低さ
そして,同月16日の亡A1の供述調書,A102公民館長及びA103副公民館長の情報提供の各内容のどれに照らしても,戸別訪問の事実,物品の供与が行われている可能性が高いとは言えない。原告X6やA5が亡A1宅を訪問した事実はあるとしても,それからそれが戸別訪問を基礎づけるものではないし,その可能性が高いとの判断の根拠資料は示されていない。戸別訪問でいえば,「連続して」の要件を示す証拠はなく,また,後援会活動の一環としてなされているのであれば,それは戸別訪問の要件を満たさない。さらに,物品買収であれば,その証拠物が収集保全されている必要がある。
d 焼酎を配っているとの予断偏見の下での取調べの強行による捜査比例原則からの逸脱
したがって,原告X6及びA5による四浦校区における選挙違反の嫌疑は何ら認められないにもかかわらず,本件現地本部は,原告X6及びA5が,さらに他の四浦校区の者にも焼酎を配っているとの予断偏見の下で,同月17日から,四浦校区の住民である原告X9,A97,A88,原告X3,原告X4,原告X2,原告X11の7名を取調室に連行し,取調べを強行したものであり,この取調べは,捜査比例原則から逸脱した違法なものであることは明らかである。
イ 被告県の主張
(ア) 総論
原告らの事実経過についての主張は否認ないし争う。本件公職選挙法違反事件の一連の流れは,別紙2「公職選挙法違反(いわゆる志布志事件)捜査概要一覧表」記載のとおりであり,同捜査は,適正に行われており,合理的なものではない強い予断と偏見による捜査が行われた事実はない。
(イ) 任意捜査の適法性の判断基準
任意捜査に関しては,警察官は,「犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。」こととされている(刑事訴訟法198条1項)ところ,ここでいう必要な取調べとは,単に被疑者,参考人の取調べに限らず,広く捜査のために必要とされる一切の手段,方法を意味すると解されており,任意捜査ならば特別な規定がなくともできるが,逮捕等の強制捜査は,刑事訴訟法に特別の定めのある場合でなければできないものと解される。
具体的にどのような捜査の手段,方法を採るのかという点については,当然のことながら,任意捜査であっても公権力の発動であることに変わりはなく,必要な限度を超えてはならないが,任意捜査の方法や態様は多種多様であり,それによってもたらされる個人の権利・利益の侵害やその危険性の程度も様々であることから,結局は,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される法益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断されるべきものである(伊藤栄樹・註釈刑事訴訟法第2巻500頁,河村博・大コンメンタール刑事訴訟法第3巻142頁ないし144頁)。
(ウ) A5ビール事件の経緯及びその後の捜査の適法性等
a A5ビール事件の嫌疑の存在
A5ビール事件の捜査の経緯は以下のとおりであり,協力者からの確度の高い情報提供,関係者の供述,供与物品の存在等から,捜査を開始するに十分な嫌疑が認められたところであり,また,捜査を遂行させた際の捜査手段についても,任意捜査にとどまるものであり,嫌疑の程度等に照らし,必要な限度を超えるものとは認められないことから,国家賠償法上の違法性は認められない。
b 缶ビール一箱の供与の情報
A5ビール事件は,本件現地本部が,平成15年3月26日,志布志署の警察官において,協力者から,本件選挙に関し,同年2月初めに原告X6の選挙運動を行っていたA5が建設会社の役員であるA6らに対して缶ビール1箱を贈ったとの情報を入手したことから捜査を開始することとなった。
c 端緒情報の確度の高さ
そして,その端緒情報については,「ある候補が金をバラまいているらしい。」などといった抽象的なものではなく,時期,供与者,受供与者及び供与物品について特定されているなど,その情報の確度は極めて高いと認められたところであり,同年4月10日には,「X6派が2000万円を打った。」,同月12日には,「森山地区と大崎地区に金を打った。」などといった,原告X6に関する漠然とした選挙違反情報も寄せられ,また,A12警部らがA2県議を訪れ情報収集をしたところ,A2県議からもA5ビール事件に関する情報を入手したことから,当該端緒情報の確度は益々高まったところである。
d A6の自認と否認,供述調書の作成
A6は,同年4月上旬,本件現地本部からの事前の事情聴取に対し,同人はA5から原告X6への投票依頼を受けたこと及び同趣旨の下で缶ビールの供与を受けたことについて認めていた。
本件現地本部は,投票日後の同月14日に改めてA6を取り調べたところ,「A5のiホテルに客を紹介したお礼だった。」などと缶ビールの供与の趣旨について否認に転じているが,A5がe社にビールを持ち込んだ事実と,その際に親戚である原告X6が本件選挙に立候補する話をしたことは認めたため,その旨の供述調書を作成し閲覧させたところ,A6本人も内容に納得して署名指印した。
e 投票依頼の趣旨で供与された疑いの存在
公職選挙法違反事件において,歳暮や中元等,形式上は別の名目で買収が行われることは少なくないところであり,本件についても,宿泊客の紹介を受けたのは平成14年の秋であり,缶ビールの供与時期(平成15年1月初旬)までに相当の時間が経過していること,A5がそれ以前にもA6から何回も宿泊客を紹介してもらったとしつつ,お礼をしたのは今回だけであると説明したこと,供与時期が原告X6において本件選挙への立候補を決めた時期と合致すること等にかんがみれば,A6の否認にかかわらず,物品買収の選挙違反行為が敢行された疑いが完全に払拭されたわけではなく,むしろ,投票依頼の趣旨で供与された疑いがあると認められたところであり,実際に,A5が持ち込んだとされる缶ビール1箱(24本入り)は,A6から任意提出を受け,証拠品として領置した。
f A5の自認と入院のための捜査の中断
A5についても,同年4月14日の取調べにおいて,原告X6への投票依頼の趣旨で缶ビール1箱を供与した事実を認め,供述調書に署名指印するとともに,さらには,同月15日の取調べでは,原告X6の陣営の選挙運動員により大掛かりな戸別訪問をしたことや,女性二人を雇い電話作戦をさせていたことを自供したため,供述調書2通を作成したものであるが,A5が同月17日に突然入院したため,以後の取調べを継続することが困難となり,事実上,A5ビール事件の捜査は中断したものである。
g 対立候補者からの情報入手の相当性
原告らは,投票日当日にA12警部が原告X6の対立候補の一人であったA2県議に会いに行ったことをもって,原告X6を狙い打ちにした違法な捜査の証左であるかのように主張する。
しかし,第1次捜査機関である警察としては,特定の犯罪の嫌疑があると認められる場合に必要な捜査を行うことができるのはもちろんのこと,特定の犯罪についての嫌疑にまで至らない場合であっても,捜査着手のための準備活動を行うことは可能であり,いずれも任意で行われる限り,その方法に制限はない。
一般的に,選挙の立候補者等は,他の候補者の動向に関心を持ち,違反事実の有無や選挙情勢等をよく把握していることが多く,実際にこれらの者からの情報に基づき選挙違反の捜査を行うことも少なくない。
本件については,既に原告X6派による選挙違反の具体的な情報を入手していたのであり,対立候補者であるA2県議においても何らかの情報を入手している可能性があると判断して,以前より面識のあるA12警部がA2県議を訪ねて情報収集を行うことは,必要な捜査活動として許容されるものであり,このことをもって,本件捜査が原告X6を狙い打ちにしたものであるなどとするのは失当である。
(エ) A5焼酎事件の経緯及びその後の捜査の適法性等
a A5焼酎事件の捜査の経緯
A5焼酎事件の捜査の経緯は以下のとおりであり,協力者の情報提供や亡A1の供述等から,捜査を開始するに十分な嫌疑が認められた。また,その捜査手段についても,任意捜査にとどまるもので,嫌疑の程度等に照らし,必要な限度を超えるものとは認められないことから,国家賠償法上の違法性は認められない。
b 協力者からの情報提供
A5焼酎事件は,当時の情勢として原告X6の陣営による違反情報が飛び交う中,平成15年4月15日夜,現地に応援派遣されていた捜査第二課員が協力者から,亡A1ら3人が原告X6派の選挙運動員から現金及び焼酎の供与を受けている旨の具体的な情報を得たことから,捜査を開始したものであり,端緒情報は虚偽に作り上げられたものではない。
c 亡A1の任意供述
端緒情報で名前の挙がった3人のうち,A98とA99は取調べにおいて焼酎等の授受について否認したが,亡A1は,同月16日の取調べ開始直後に,「1月下旬頃,自宅敷地内の甘藷の選別作業場で作業中,X6とA5が選挙の挨拶に来た。2人が帰った後に昼食のため自宅に帰ったところ,縁側にそれまでなかった焼酎2本が置いてあったので,2人が持ってきたと思った。」と任意供述し,亡A1は,本件刑事事件の刑事公判においても,原告X6が来た後に焼酎が置いてあった旨証言しているところであり,同年4月16日の警察の取調べにおいて事実関係を否認する亡A1に対し,強制的に自白させた事実もない。
なお,亡A1の上記供述に係る同月16日付け供述調書の最終頁のフォントが異なるのは,供述調書をプリンターで印刷するに当たり,紙詰まりを起こしたため,最終頁について,設定の異なる別のプリンターを使用したことによるものであり,最終頁にも亡A1が焼酎2本くくりをもらったことは,事実そのとおりであり間違いありませんなどと記載されているのであり,供述内容を読み聞け及び閲読をさせた上で署名・指印させたものであることは明らかである。
d A5の自供
A5も,同日にA5ビール事件の事実で取調べを受けていたものであるが,亡A1が焼酎の授受を自供したため,取調官及び補助官において,原告X6と一緒に亡A1方を訪ねて焼酎を渡したことについて聴取したところ,「志布志町内の全集落を回ったので,仕方なかった。それ以上は話したくない。弁護士に話す。」と,亡A1方の訪問事実を認めたが,上記(ウ)fのとおり,A5が同月17日に突然入院したため,以後の取調べを継続することが困難となり,事実上,A5焼酎事件の捜査は中断したものである。
(オ) 平成15年4月17日及び同月18日の四浦校区の住民らに対する取調べ
本件現地本部は,平成15年4月16日に亡A1やA5の供述を得て,同日,四浦校区において戸別訪問及び物品の供与が行われている可能性が高いと判断し,四浦校区の情勢に関する内偵捜査を実施した。
すると,志布志町内の有志者から,「四浦校区の住民のうち,X6派の人物として,X9,X3,X2,X4らが挙げられる。X9の妻X1は,f社で働いており,X6のために選挙運動をして非常に動いているようだ。また,実際に見たわけではないが,過去にも現金のやり取りがあったと聞いており,これらの者達が物品や現金を貰っているのは間違いないと思う。」などの情報を得た。
そこで,本件現地本部は,翌日の同月17日から名前の挙がったこれらの者を任意同行し取り調べるなど,必要な捜査を開始したものであり,国家賠償法上の違法性は認められない。
(2)  争点(1)イ(X1焼酎事件の端緒の把握に至る四浦校区の住民らに対する任意同行の継続から本件買収会合事件の捜査に着手する前の平成15年4月29日までの捜査に関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 総論
本件現地本部は,X1焼酎事件ほかの具体的な嫌疑もなく,四浦校区の住民らに対する事情聴取を開始し,原告らに対し,次々と違法な手段により志布志署への出頭を求め,たたき割りと呼ばれる手法を用いた違法な取調べを継続して,X1焼酎事件についての虚偽の供述を引き出した。
そして,X1焼酎事件における自白には不合理な点が多く,信用性がないことが明らかであったのに,本件現地本部は,X1焼酎事件について違法に第1次強制捜査に踏み切り,さらに違法な捜査を継続させた。
(イ) 任意同行による取調べに関する適法性の判断基準
a 任意捜査における有形力行使の許容限度(必要性,緊急性,相当性の判断基準)
任意捜査における有形力行使の許容限度について,最高裁判所昭和51年3月16日決定・刑集30巻2号187頁は,強制手段に当たらない有形力の行使は,任意捜査においても許容され得るが,それは何らかの法益を侵害し又は侵害するおそれがあるから,「必要性,緊急性なども考慮した上,具体的状況の下で相当と認められる限度において許容される。」としているとおり,その判断基準となるのが「必要性,緊急性,相当性」である。
b 任意同行の適法性ないし任意同行による取調べに関する適法性の判断基準
そして,捜査機関が,形式的には任意同行を求めて取調べを行った場合であっても,実質的には逮捕と同様の身柄拘束であると評価されるときは,令状主義に違反する違法な行為となる。
その判断基準は,①同行を求めた際の時間的及び場所的関係,②同行の方法,③任意同行の必要性の有無,④逮捕の条件を具備していたか否か,⑤同行後の状況,特に取り調べる前後の状況,取調べの時刻,時間及び場所,取調べの方法,食事,用便,休憩の状況などによるべきであり,以下のような事情が認められる場合には,その取調べは,任意捜査における有形力行使の許容限度を超えた違法なものというべきである。
(a) 不当な方法による同行
犯罪捜査規範第102条1項は,「任意出頭を求めるには,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を明らかにし,なるべく呼出状(別記様式第7号)によらなければならない。この場合において,被疑者(中略)の任意出頭については,警察本部長または警察署長に報告して,その指揮を受けなければならない。」と規定している。また,同行要求に当たって十分な目的の告知が必要である。
捜査官らが,これらの手続を踏まずに,捜査官らには逆らえないと錯誤に陥っていることを奇貨として,これに乗じて取調室に連行したときは,任意同行の適法性の限界を超えた違法なものである。
(b) 長時間・長期間の取調べ
捜査官が,被疑者に対し,長時間・長期間にわたる取調べを継続し,任意同行の間,被疑者を終始警察の監視下におくこと,昼食・夕食・休憩などを与えないこと,被疑者が,何時でも,任意に取調室から退去し得るところ,帰宅や弁護士との連絡を求めた後に取調べを継続することは,任意同行の適法性の限界を超えた違法なものである。
(c) 病気を利用した取調べ
被疑者が,捜査官に対して,取調べ時から,様々な身体的症状を訴え,病院などで診察を受けた結果,安静が必要であるとの診断を受け,被疑者の病状がひどいため帰宅を希望しているのに,取調官がそのことを認識しつつ取調べを継続した場合には,被疑者が,自白しない限り苦痛から解放されて手当てを受けたり,安静にすることはできないと感じることは,容易に推察することができるから,取調べの継続自体が,被疑者に対して自白を強要するための違法な外部的圧力であり,違法な取調べである。
このような場合,取調官の行為は,被疑者の病気を積極的に利用した取調べ方法ということもでき,その違法性は顕著である。
(d) 深夜の取調べ
犯罪捜査規範168条3項は,「取調べは,やむを得ない理由がある場合のほか,深夜に行うことを避けなければならない。」と定める。これは,深夜ないし徹夜の取調べは,被疑者の健康や心理の状態に影響を及ぼすことが避けられず,任意性を確保することができないからである。
ただ,事件の発生した時間や被疑者の発見時間,逮捕の時間,被疑者の意向等具体的な事情によっては,捜査の利益と被疑者の利益とを比較衡量して,深夜ないし徹夜の取調べも許容されることがある。
その際の判断要素としては,捜査機関側の事由としては,①取調べの必要性・合理性(具体的には,事案の重大性,嫌疑の合理性・相当性,証拠保全の緊急性等),②取調べの方法・態様の相当性(白白の任意性とも関連する事項としては,食事,休憩,睡眠,健康状態等に配慮したかも含まれる)等が,被疑者側の事由としては,①承諾の有無,②被疑者の意向(まとめて供述を終えてしまいたい,住居が遠隔地にある,勤務や家庭事情等に基づくもの等)その他緊急に取調べを受けるのを相当とする事情等が考えられる。
(ウ) 取調べにおける捜査官の注意義務
a 憲法等の適正手続条項の要請
憲法等の適正手続条項から,捜査官には,①被疑者の供述の自由,黙秘権ないし供述拒否権(以下「黙秘権」という。)を侵害してはならない義務,②真相解明義務・虚偽自白防止義務,③人格への配慮義務を負っていると解すべきであり,このことから,捜査官には,取調べを行うに当たり,又は,取調べ中の尋問において,以下のような取調べは,違法な取調べというべきである。
b 違法な取調べの類型
(a) 黙秘権の不告知
取調官らは,原告らに対し,取調べの前に憲法・刑事訴訟法で保障する黙秘権の告知を行わなければならない。取調官らが,明確な被疑事実も明らかにしないまま,それぞれ長期間・長時間,早朝から深夜まで取調べを行ったことは,原告らの身体,身体の自由,人格権等を侵害するものである。
(b) 重複尋問・意見を求める尋問及び経験しなかったことについての尋問
捜査官は,被疑者・被告人に対して,繰り返し同じ質問をしてはならないという義務が課せられいる。問題は繰り返しの程度であるが,同一の取調べの機会に,押し問答ができるとしても,その押し問答は,法廷で重複尋問だとの指摘を受ける程度の回数があれば,違法であるというべきであるし,被疑者に対し,共犯者が当該被疑者の関与を自白している等と申し向けて,その事実を認めるよう,同一の機会に10回以上求めることは違法である。そして,このような取調べの結果なされた自白について,その無実が明らかとなった場合には,事実でない事項を認めさせようとしたもので,捜査官の行為につき「強要罪」の構成要件該当性は明らかであり,違法性を阻却する事情は取調官に主張・立証責任がある。
また,捜査官は,重複する尋問のほか,意見を求める尋問,経験しなかったことについての尋問を行うはできない。
一般に,被疑者の嫌疑を基礎づける十分な証拠が収集されている否認事件では,捜査官は,被疑者の弁解について,幾つもの矛盾点をつき,その説明を求めることができるし,実際に真相解明義務に基づき,これを問い質す必要はあるが,その矛盾点の解明は,嫌疑に関連する限りで可能であり,渉猟的・探索的な尋問が無限定に許されるわけではなく,被疑者の体験と無関係な事項についての尋問,意見を求める尋問を行うことは,人権配慮義務に違反するもので,違法である。
そして,体験していない事実,被疑事実に関連しない事実を執拗に問い質し,被疑者の精神的動揺に乗じて自白を引き出すことは,まさに「強要」である。否認している被疑者の心を和ませるために,世間話や身の回りのことについて質問することは,許されるとしてもそれは,一定時間に限られるのであり,これを超えた世間話などは許されないというべきである。
(c) 威嚇的な尋問
捜査官は,威嚇的な尋問をしてはならない。
この威嚇的か否かの判断は,取調室が狭い密室で,机と壁との空間に被疑者がほとんど身動きがとれない状態で固いパイプ椅子に座らされ,取調べの間中,姿勢を正すよう求められていた事実など,取調べ状況(取調室の広さ,明るさなど物的な状況だけでなく,人的要素も加味したもの)を前提として判断されるべきである。取調官を先生などと補助官が呼んで調べたということも前提とされるべきである。
また,捜査官は,侮辱的尋問を行うことも職権濫用行為として許されないというべきである。
(d) 被疑事実を特定しない尋問
任意で同行したはずの被疑者が否認しているのに,何かやっただろうという前提で,その何かを特定せずに,取調べをすることも許容することはできない。
このような探索的・渉猟的な取調べは,被疑者をして,どういう嫌疑で取調べを受けているか分からず,困惑させるだけのものであり,人権に対する配慮を欠いた取調べであって許されない。
(e) 不相当な誘導を行った尋問
捜査官の裁量権を逸脱した不相当な誘導も許されない。
その判断基準については,「もとより,被疑者が証拠上客観的に認められる事実と相反する供述をしている場合に被疑者の記憶を喚起するため,あるいは,被疑者と被害者ないし目撃者の供述が異なる場合にそのいずれが信用できるかを検討するため,捜査官において,誘導尋問や理詰めの尋問をすること自体は取調方法として決して不当なものとはいえず,かえって,そのような方法をとることにより,被疑者の虚偽供述や思い違いの供述を正し,真実発見に資する場合があることは言うまでもなく,その意味で,捜査官による取調方法の選択・実施は捜査官の裁量の範囲内に属するものといえる。しかし,捜査官が誘導により虚偽の自白を取得することはその意図の如何にかかわらず,刑事訴訟法の理念からしても厳に戒められるべきである。捜査官としてはそのような虚偽の自白の誘発を防ぐため,取調方法として誘導尋問の方法を選択・実施した場合には,被疑者の知的能力などの属性に応じて,被疑者の尋問に対する答えが単に捜査官の意図する方向に偏っていないか,被疑者の受け答えの態度が迎合的でないか等を常に検証し,その方法・態様が誘導として許容される範囲を逸脱しないよう十分な注意を払わなければならないというべきであり,これを著しく欠いたときには,その取調べは裁量の範囲を著しく逸脱したものとして,違法とされる場合がある。」(宇都宮地方裁判所平成20年2月28日判決参照)と解すべきである。つまり,被疑者の知的な能力,取調時間,その取調べ内容などを考慮して,もはや誘導として許容される範囲を逸脱している場合には,その取調べは違法である。
(f) 真実性に疑いのある他者の自白供述に基づく尋問
捜査官は,客観的証拠と矛盾する自白供述がある場合,これを無視して,他の被疑者を調べて,その者に自白を迫ることは許されない。
自白と客観的証拠とが矛盾している場合,捜査官には,無実だから供述が矛盾するのか,犯人であり別の合理的な理由があるから矛盾しているのか,これを解明する義務があり,これが明らかでないまま,被疑者が犯人であるとの前提で捜査を継続することは許されない。
(g) 切り違い尋問・偽計・利益誘導を利用した尋問
これらは,虚偽の自白を誘発させる危険性の極めて高い取調べであり,このような手法による取調べは違法である。
(エ) 第1次強制捜査に至るまでの任意同行及び取調べの違法性
a 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,原告X9,原告X11及び亡A1その他に対するいわゆるたたき割りの違法取調べ
本件現地本部は,平成15年4月17日早朝から,X1焼酎事件に関し,原告X2,原告X3,原告X4,原告X9,原告X11,A97及びA88を強引に取調室に同行して,取調べを強行し,同月18日には,上記の者に原告X1も加えて,同月19日には,原告X8及び亡A1を加えて強制連行し,取調室において,嫌疑のない中で,威迫・恫喝や不相当な誘導・重複尋問により探索的・渉猟的な取調べを行う,原告らがたたき割りと呼ぶ違法な取調べを行った。
b 平成15年4月17日から同月19日までの各原告に対する違法な取調べの具体的な態様
(a) A14警部補による原告X1に対する違法な取調べ(平成15年4月18日)
原告X1は,任意同行に応じなくとも良いことを知らずにいたところ,A14警部補は,平成15年4月18日,原告X1の無知に乗じて原告X1を志布志署に強制連行し,12時間以上にわたり取調べをした。同日当時の原告X1には,何らの嫌疑がなかったことは,A12警部やA10署長が証言するとおりである。
なお,A14警部補は,本件刑事事件における証人尋問において,嫌疑が戸別訪問であったと証言しているが,この日の取調事項について,戸別訪問を含めた選挙違反事実の全般的な取調べであるなどと述べて,探索的・渉猟的取調べであることを認めている。A14警部補は,A5ビール事件等の取調べにおいて,A5に対し,取調室で踏み字をさせた捜査官である。
原告X1に対する同日の取調べで,A14警部補は,原告X1にa3集落の人が本件選挙で誰に投票したか質問しているが,これに対し,原告X1は知らないと答えている。これは知らないのが当たり前であり,知らなかったことが不自然・不合理なはずはない。しかし,A14警部補は,憲法上の権利でもある投票の秘密を侵害する尋問を繰り返し,原告X1が,A14警部補のいう言葉の意味も分からないため,わけが分からず黙り込むと,さらに不相当な誘導をして,選挙買収をしたのではないかとの予断の下で,取調べを継続した。同日の午後の取調べ前には,原告X1は,「殺してくれ。私を殺してくれ。いいから私を殺してくれ」と精神錯乱の状態になっていた。原告X1には,知的障害もあり,A14警部補の意味不明の追及に精神錯乱の状態に陥っていたのである。
A14警部補は,自己の取調べのために,原告X1がこのように精神錯乱状態となっていることは容易に分かり得たことであり,何か隠し事をしているから錯乱状態となっているのではないことも,十分に分かり得たことであった。
原告X1は,同月19日は,早朝から取り調べられていた。同人の同日午後からの取調べ前に,A14警部補は,A12警部から,原告X8が原告X1から金をもらったと自供した旨を伝えられ,原告X1から同自供内容の確認をとるよう指示された。
この指示を受けて,A14警部補は,原告X8の自白がどのようにして取られたのかも確認せずに,原告X1に対し「あなたがこれまで私に説明してきたことが明らかにうそだと分かりました。正直に話をしなさい。」と,原告X1の説明が全部嘘だと決めつけた不相当な誘導を用いたたたき割りの手法による違法な取調べを行った。
その結果,原告X1は,「X13,X8,X2,A1,X5,A87,A104,A105,A106,A107,A86,A108,A109の合計13名に1万円ずつを,X6の選挙のためにやった。」と自供した。
このようにして得られた自白について,A14警部補は,A12警部に対し「X1が,a3集落や姉,知人,13名に対して1万円をやったと,買収金をやった。」という報告をした。A12警部は,A14警部補に対して,「A1の供述から,焼酎と1万円という供述が出た。確認しろ。」と指示し,A14警部補は,このA12警部の指示に従い,再び,その日の夕方頃,原告X1を取り調べたが,その際,「あなたはお金だけじゃない。」と明らかに不相当な誘導をして,原告X1に「○○という焼酎もです。」と答えさせている。これも原告X1の説明が嘘だと決めつけた取調べであり,この取調べが,虚偽自白防止義務・真相解明義務に違反することは明らかである。
しかも,この日の取調べ終了時点では,原告X1は,A63巡査の肩に手を掛けて,一緒に寄り添って歩いて行ったというのである。これは,相当程度心身共に疲労困憊していたことをうかがわせるものであり,その取調べの酷さを示すものである。
(b) A20警部補による原告X2に対する違法な取調べ(同年4月17日及び同月18日)
A20警部補は,同年4月17日及び同月18日,出勤途中の原告X2を待ち伏せするなどし,原告X2が取調べに応じたくない旨を述べても,任意同行に応じなければ逮捕するなどと告げて無理に志布志署に連行し,いずれも早朝から深夜にわたって,延べ22時間30分もの長時間の取調べをし,その間,不相当な誘導・脅迫を伴う探索的な取調べをした。
(c) A35巡査部長による原告X3に対する違法な取調べ(同年4月17日から同月19日まで)
原告X3は,同月17日から同月19日まで,A35巡査部長の取調べを受けた。A35巡査部長は,原告X3に対して黙秘権の告知をしないまま取調べを行った。この間,A35巡査部長は,原告X1から金をもらっているだろうが,とか,原告X8に5万円をやっただろうが,などと特段の根拠のないままに繰り返し自供を迫るという手法で取調べを行った。具体的な事実を指摘することなく,抽象的に,原告X1から金をもらっただろうが,などと執拗に追及することは,被疑者に合理的な反論さえさせないという態度であって,被疑者の人格的尊厳を全く省みない違法な手法であることは明らかである。
(d) A26警部補及びA62巡査による原告X4に対する違法な取調べ(同年4月17日から同月19日まで)
原告X4は,同月17日から同月19日まで,出勤途中を制止されて強引な方法により志布志署への任意同行を求められ,志布志署においてA26警部補及びA62巡査から取調べを受けた。
A26警部補らによる取調べは,同月17日が午前8時55分から午後9時10分まで,同月18日が午前7時35分から午後9時まで,同月19日が午前7時40分から午後9時40分までと極めて長時間行われた。
そして,同月17日の時点では,原告らに具体的な嫌疑はなかったのであるから,このような長時間の取調べを行うことは違法である。
原告X4は,同月18日,A26警部補の不相当な誘導及び恫喝を伴う自白を強制する取調べを受け,平成14年12月にA2県議が経営する飲食店であるj店で行われたA2県議の集まりで,A2県議についての選挙買収(饗応)がなされたとする平成15年4月18日付け供述調書に署名させられた。なお,j店でのA2県議派の会合は実際に行われたが,その日付は同年1月21日である。
原告X4は,同年4月19日の取調べの午前中,A26警部補から,「お前は,表ではA2県議派,裏ではX6派だったろう。」と追及されていたが,この日は,A26警部補から,「奥さんも警察に呼ぶぞ」と脅され,原告X4が「呼べばいい。」と言うと,実際,本件現地本部は,妻の原告X8を警察署に呼び出した。
そして,原告X8が,同日の午前の取調べで虚偽の自白をさせられると,A26警部補は,同日の午後,原告X8の自白内容を知った上で,原告X4に「うっかた(奥さん)を呼んで正解だった。」と述べ,さらに,午後3時頃には,A26警部補は,「裁判所に逮捕状の請求をしているから,いつでも逮捕できる。逮捕されれば名前が出るから子どもの将来もないし,財産もなくなる。」と脅され,原告X4は,A26警部補から「X8からX1の焼酎供与事実を聞いた。」旨の虚偽の自白をさせられ,その旨の供述調書の作成を強要された。
(e) A36巡査部長による原告X8に対する違法な取調べ(同年4月19日)
原告X8は,同月19日,任意出頭を拒否しても認められず,執拗に出頭を求められて志布志署に無理に同行させられ,A36巡査部長の取調べを受けた。その端緒は,夫である原告X4が,同月18日に,たたき割りによる探索的・渉猟的取調べにより,原告X1が選挙で忙しくて帰りも遅いという話を妻である原告X8から聞いたと虚偽の自白をさせられたためであった。
そうであれば,原告X8の同行・取調べは,嫌疑なき取調べであり,それ自体,違法であった。原告X8の基礎捜査を実施せず,原告X8の生活状況等も分からないまま,A36巡査部長に対して取調べを敢行させた本件現地本部の判断は,明らかな誤りであった。
しかも,A36巡査部長は,原告X8の心理学的特徴(知的脆弱さ)に配慮することなく,「X1が焼酎を配ったと言っている,みんなもらったと言っている。」と怒鳴りつけ,否定する原告X8に対し,「この馬鹿が」と人格を傷つけたものであり,明らかに不相当な誘導・陵虐の長時間の取調べであった。
さらに,A36巡査部長は,否認する原告X8に対し,「罰金で済む。」,「X1が認めている。みんな認めている。」,「夫の両親,子供たちも警察に呼ぶ。」と,利益誘導及び脅迫を繰り返しながら自白を強制した。その結果,A36巡査部長は,同日午前11時頃,原告X8に虚偽の自白をさせた。
A36巡査部長は,この点につき,原告X8を取り調べるとき,情報らしい情報はないのに,原告X8は何ももらっていないと言って沈黙したとし,そのような原告X8に対して「あなたが正直な話ができないのであれば家族のほうから話を聞くことにもなりますよ。」と告げ,それでも沈黙していた原告X8に対し,「私のほうが調べ補助者のほうに,それじゃあ家族のほうから話を聞く準備をしなさい。」というようなことで言い,補助者が,「分かりました。」と部屋を出たところ,原告X8が,ちょっと待ってと言って「X1ちゃんから焼酎をもらった。」と供述したというのであるから,A36巡査部長の前記取調べには不相当な誘導・威嚇により供述の自由を侵害した違法がある。
原告X4夫妻は,恐怖と不安で眠れず,同月20日朝,「昨日のような取調べが始まるか」と考え,「本当のことを言っても全く信用してもらえず,生き地獄のような取調べがずっと続くのなら死んだ方がましだと考え」て自殺を考え,近くの畑にある柿の木で首を吊ろうとしたが,長男のA110に止められた。
原告X4は,長男のA110に制止されてもなお,四浦校区を流れる福島川に飛び込んで入水自殺を図ったが,現場に居合わせたA111に救助され,自殺を遂げるに至らなかった。
原告X4は,救出直後,上記A111に対し「このままだと,逮捕されてマスコミに報道されてしまう。子どもたちも就職できない。死んだほうがましだ。」などと話した。これらは,取調べの過酷さを示すものであった。
(f) A16警部補による原告X9に対する違法な取調べ(同年4月17日から同月19日まで)
A16警部補は,同月17日,原告X9が勤務する会社事務所まで来訪し,その場にいた原告X9に対し「聞きたいことがあるので署まで来て欲しい。時間は取らせないから。」と任意同行を持ちかけた。
原告X9は,A16警部補の言葉から,取調べに要する時間がせいぜい1,2時間程度だと思い,任意同行に応じたが,実際には,原告X9に対する取調べは,当日午前9時頃から午後11時頃までの間にもわたったのであり,A16警部補は当初から長時間かけて原告X9の取調べを行う予定であったと考えざるを得ず,この点を秘して原告X9に「時間を取らせない。」等と偽計を用いて瑕疵ある任意同行に応じさせた。
A16警部補は,同月18日午前7時10分頃,原告X9の自宅にいきなり出向き,「まだ聞きたいことがあるので,今から署に一緒に来てくれ。」と任意同行を求め,原告X9が「仕事があるから勘弁して。」と同行を断ったが,それでも執拗に「時間は取らせないから,署まで来てください。」と言って同行を求めたため,原告X9はこれに逆らえず不本意ながら今度こそせいぜい昼間で終わるものと考えて同行に渋々応じた。
さらに,A16警部補は,原告X9が「自分の車で行く。」と申し向けたのに対し,「署の車で行きましょう。」と言って警察車両の後部座席に乗り込ませ,任意同行に応じさせた。警察車両で任意同行させることは,原告X9が取調室を退室しても帰る足がなく,取調べを長時間受けざるを得ない状態を作出するものであって,現に原告X9は,同日,午前8時頃から午後10時30分頃までの長時間にわたる取調べを受けざるを得なかったのであり,これは,任意同行に当たって偽計を用いて瑕疵ある意思決定をさせたというべきであって,違法性は明らかである。
また,A16警部補は,同月17日から同月19日までの3日間,原告X9に対して,黙秘権の告知もせず,長時間にわたって,トイレ休憩以外の休憩もなく,食事も取らせず,嫌疑なく取調べを受忍させ,何か選挙違反はしていないかと,探索的取調べを継続し,自白を強制した。
A16警部補は,日時は不明であるが,原告X9に対し,拳を原告X9の顔の前10cmくらいのところに突き出して,拳で殴るふりをして威嚇し,「X6さんを選挙で応援するという内容の名簿の署名活動をしたこと,焼酎を配った」ことを認めるよう,強制した。
(g) A36巡査部長による原告X11の違法な取調べ(同年4月17日及び同月18日)
原告X11は,同月17日午前7時から午後10時までの身体拘束を受けてA36巡査部長から取調べを受けた。A36巡査部長は,同日午前7時に原告X11の自宅に押しかけ,「話は志布志警察署に行ってから聞きますから,志布志警察署に行って下さい。」と用件も告げず,警察車両で志布志署に強制連行した。
A36巡査部長は,志布志署において,何も身に覚えのない原告X11に対し,「あんたは金をもらったどが。(もらっただろう。)」と見込みの取調べを行い,原告X11が,「いやもらっちょらん。」と答えると,驚くような大声で「もろちょっどが。」と怒鳴り,自白を強制した。
A36巡査部長は,何らの嫌疑がないため,原告X11に対し,誰から金品をもらったのかを明らかにせず,何度も怒鳴りつけた。それでも,原告X11が,「いや,もらってない。」と答えると,その後の取調べの中で,「X6さんから」と名前を出して,金品もらったことを認めるよう強制した。
A36巡査部長は,さらに,原告X11に対し,「A2県議だったけど,お金をもらってからX6に寝返ったどが。」と決めつけて,原告X6から金をもらったことを認めるよう強制した。原告X11は,取調室から出してもらえず,昼食休憩後も取調べが続き,A36巡査部長は,「X4の家にあったコップに,お前の指紋がついていた。」と偽計を用いて,自白を強制した。原告X11は,原告X4宅に行ったことはなく,「指紋がある筈がない。」と否認しても,同じことを繰り返し,不相当な重複・誘導,威迫・恫喝を用いた取調べが午後5時を過ぎても続き,夕食の休憩もなく,午後9時まで取調べが続いた。A36巡査部長は,このように何らの嫌疑なく,長時間取調室に滞留させ,違法な取調べを継続した。
また,原告X11は,同月18日も,午前7時から午後10時までの身体拘束を受けた。A36巡査部長は,この日も嫌疑の全くないX11に対し,何か罪がないかと探索的な違法な取調べをし,不相当な重複・威迫・恫喝尋問をして「お前は(a2集落)小組会長をしちょったとが。」と述べて,原告X11がa2集落に金をばらまいたと不相当な誘導をし,さらに,「X6さんのビラをX3がもってきたどが。」と言って,何かあるのではないかと言って,「何か」を自白するよう強制した。
原告X11は,確かに,彼岸の中日に部落会があったときに,原告X3がビラを何十枚か目の前に置いていたのを見ていたが,問い詰めるA36巡査部長に対し,原告X11は,何のチラシか見てもいないしもらってもいないので,「見てもいない。もらってもいない。」と繰り返し,何らの罪を犯していないことを主張した。
すると,A36巡査部長は,自分のカバンを2メートルほど後ろに投げて床に落とし,「これも見えんか。」と言って,原告X11が「ビラの中まで見ていない。」と正直に話しているのに「ビラを見た」と決めつけ,A36巡査部長は大声で「知っちょらん筈がない(知らん筈がない)」と怒鳴り,原告X11がやっていないと大声で反論すると,A36巡査部長は「そげん強ければ,お前が県議に出ればよかったとよ。」と馬鹿にした。昼食休憩時も取調室から退出させず,昼からも夜9時ごろまで取調室に入れたまま,取調べを強制された。トイレに行くにも,いつも刑事がついて来て,夕食もなしで取調べが継続した。
このような取調べをしても何ら選挙違反に関する事実は原告X11からでなかった。これはまさにたたき割りの取調べ手法である。
(h) A20刑事による亡A1に対する違法な取調べ(同年4月19日)
亡A1は,同月19日,原告X1から焼酎を受けとった容疑で,何について取り調べたいのかは一切告げられずに任意同行を求められ,朝から志布志署で取調べを受けた。
亡A1は,夕方になって,A20刑事に「仮に,X1が3月中に来るとしたら上,中,下のいつがよいか。」というような形で質問を受け,亡A1がこれに答えていくうちに,A20刑事に「ほれみろ,3月初旬にX1が来て,X6さんを頼むと言って焼酎2本と現金1万円を受け取ったのは間違いないな」と言われて,虚偽の自白を作られた。
c 本件現地本部の判断の誤りと捜査比例原則を包含する適正手続の違反
本件現地本部は,上記のとおり,同月17日から四浦集落の住民らに対するいわゆるたたき割りによる違法な取調べを行ったが,2日間にわたって原告らは,原告X6の陣営による選挙違反の事実を否認し,その内容に不合理な点もなかったのであるから,同月17日か遅くとも同月18日には,その捜査を終結すべきであって,原告らを取調室に連行して取調べを継続することは,捜査比例原則を包含する適正手続に違反することは明らかであった。
しかるに,県警は,同月18日,通常の捜査官であれば,同日までに収集した証拠資料に基づき合理的に判断すれば,同人らには客観的嫌疑はないことは明らかであったのに,故意又は重大な過失により,その判断を誤って,同月19日のX1焼酎事件に係る虚偽の自白を引き出すことにつながった。
d X1焼酎事件に係る原告X1,原告X8及び亡A1の各自白の虚偽性
そして,同日のX1焼酎事件に係る原告X1,原告X8及び亡A1の各自白がいずれも虚偽のものであることは,次の理由により客観的に明らかであった。
① まず,これらは,原告X8及び亡A1の自白は,いずれも取調官が任意捜査を超えた不相当な誘導や強制により行われたものであった。
② 原告X1の自白は,原告X8と亡A1の供述を前提に,A12警部の具体的な指示の下,A14警部補のたたき割りによる違法な取調べの結果であった。
③ 取調官がそのような不相当な誘導や強制をしてもなお,原告X8,亡A1,原告X1の自白のうち,原告X8は,もらった焼酎は1本であったというのに対し,原告X1はこの点の供述をせず,原告X8は,後援会入会申込書と一緒に焼酎1本をもらい,それから数日後に1万円をもらったというのに対し,原告X1は,後援会入会申込書と一緒に焼酎と現金1万円を渡したと供述し,原告X8は,現金が入った封筒は茶封筒というのに対し,原告X1は,祝儀袋,亡A1は,白色封筒とそれぞれ供述し,亡A1は,後援会入会申込書と一緒に現金1万円と焼酎2本をもらったというもののその時期は,3月上旬であるというのに対し,原告X1は,3月中旬頃と供述しており,焼酎の本数や機会,時期等に不一致な点が多かった。
④ 原告X8の自白では,原告X1から現金1万円をもらったとする日時を同年3月20日の5時となっているが,原告X1のタイムカードによれば,原告X1は,同日の午後5時32分まで,a3集落から車で30分はかかるcにいたことは動かし難く,アリバイが成立することが明らかであって,客観的事実と矛盾していた。
⑤ 原告X8の自白によれば,原告X1からもらった焼酎は自宅の神棚にあるはずであるのに,A36巡査部長は,同月19日の取調べを終了して原告X8が帰宅した午後11時過ぎ,原告X8に続いて原告X4方に上がり込んで焼酎瓶を捜索し,このような令状に基づかない深夜の家宅捜索を行っても,なお,焼酎瓶は見つからなかったことなどからすると,およそ自白に信用性はないことは容易に判断できた。
e 平成15年4月19日から同月22日までの各原告に対する違法な取調べ
しかるに,県警は,これらの検討をしておらずその判断を明らかに過ったまま,以後も捜査を継続した。同年4月19日から第1次強制捜査を行う同月22日までの間の各原告に対する違法な取調べのその具体的な態様は以下のとおりである。
(a) A36巡査部長による原告X8に対する違法な取調べ(同年4月19日)
原告X8は,同月19日,A36巡査部長から,さらなる不相当な誘導・恫喝により,同月10日の午後6時頃に旧志布志町内のスーパーマーケットで原告X3に会い,同月12日午前7時半頃に四浦校区内の交差点で原告X3から5万円をもらったという供述調書に署名・指印させられた。同日の取調べは,午前9時53分から午後10時20分までの間の長時間にわたるものであった。
(b) A36巡査部長による原告X8に対する違法な取調べ(同年4月21日)
原告X4夫妻は,同月20日には自殺を図るほど精神的に不安定な状況にあったのに,同月21日,取調室に連行されて,取調べを強要された。
原告X8は,同日のA36巡査部長からの取調べにおいて,同月19日の自白は,事実ではなく,原告X1から焼酎と現金をもらったことはないと否認したが,A36巡査部長から,繰り返し,知的障害に配慮しない不相当な誘導・威嚇を伴う取調べを受け,焼酎1本と現金1万円をそれぞれ別の機会にもらったと再度,自白させられた。
A36巡査部長は,同月21日の取調べにおいて,実際には,同日の時点で原告X1は否認と自白を繰り返している状況であるのに,原告X1があたかも自白しているように切り違い尋問と評価すべき偽計を用いて誘導している。このことは,原告X8の同日付け供述調書に,「本当の事を話さないといけないけど,言えば四浦集落には住めなくなると思い本当の事が言えませんでした。しかし,刑事さんから話を聞いているうちに,X1ちゃんも本当の事を話しているのかな。自分一人だけでなく,みんなが本当の事を話してくれれば四浦集落に住めると思うようになりました。」と記載されていることからも明らかである。
また,A36巡査部長は,同月19日の深夜の原告X4宅で,同日の取調べを終えた原告X8の帰宅に同行した機会に,原告X8が,親族から,同日の取調べで嘘の自白をしたことについて原告X3から抗議の電話を受けたことを告げられた上,「本当のことを言え。」と罵倒されていたことを目撃していたのであって,原告X8が虚偽の自白をしていたことを知りながら,知的障害があり,迎合しやすい原告X8に嘘の自白を迫っていた。
(c) A27警部補による原告X4に対する違法な取調べ(同年4月21日)
原告X4は,同月21日,原告X4を自殺未遂に追い込んだA26警部補に代わり,A27警部補の取調べを受けたが,A27警部補は,原告X4が,前日,自殺を図った者で,精神的に追い詰められていたことを知りながら,また,その知的能力にも配慮せず,不相当な誘導・恫喝を伴う強制により既に抵抗する気力を喪失していた原告X4に対して違法な取調べを継続し,「原告X8が3月中旬頃に原告X1から焼酎1本をもらい,その後,3月20日以降の時期で,原告X8の所持金が少なくなっているはずの時期に1万円を所持していたことがあり,不思議に思った。」旨の供述調書を作成させた。
さらに,A36巡査部長は,原告X8に対し,A25警部補は,原告X4に対し,同月22日,原告X8が原告X1から受け取ったとする1万円の使途につき,原告X8から原告X4に5000円が交付されたよう,2名の供述を合わせるために不相当な誘導・恫喝を伴う尋問を行ったが,同人らの供述は,交付した日時と金額は一致したものの,交付した状況が異なるなど,信用することができないものであることは明らかであった。
(d) A35巡査部長による原告X3に対する違法な取調べ(同年4月19日)
原告X3は,同月19日,A35巡査部長から取調べを受けた。A35巡査部長は,原告X3に対し,原告X8が原告X3から受供与金の供与を受けたことに関する上記自白内容を告げて,同供述が信用できることを前提に,「あんたを信用していたが,あんたは嘘を言ったね。」とすごい剣幕で怒鳴って威嚇した。
原告X3は,同月20日及び同月21日に不相当な誘導及び威嚇を伴うたたき割りによる取調べを受けたが,否認を継続した。
(e) A20警部補による亡A1に対する違法な取調べ(同年4月20日)
亡A1は,同月20日,午後1時26分から午後7時56分までの長時間の取調べを受けた。
亡A1は,取調べ開始時に「昨日言ったことは全て嘘である。」,「私の作り話である。」,「嘘をなんぼう,ま,言っても,まこと,嘘が合うはずがない。」と事実を否認した。しかし,A20警部補は,「何が嘘か,X1が言っていることと全く同じだ。」と,本当は,原告X1の供述とは時期の点も,後援会入会申込書の記載の点や,現金が入っていた入れ物の点などが違っていたのに,あたかも原告X1の供述と全ての点で一致しているかのように虚偽の事実を申し向け,偽計を用いて,長時間にわたり,亡A1を取調室に滞留させて,不相当な誘導を下に,再度自白させた上で,否認した理由を記載した供述調書を作成した。
亡A1は,同月22日,午前9時30分から午後10時5分まで取調べを受け,不相当な誘導により,1万円を供与された趣旨が,私や私の妻,親戚等知り合いの人達に働きかけて,原告X6への投票をお願いすることにあったこと,1万円札の入った封筒の色については,前回の供述が間違っていたかも知れず,何色か思い出せないこと,原告X1が本件選挙に関し亡A1宅を訪れた回数は,焼酎と現金の交付のためと原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載の依頼のための2回あったことなどが追加された供述調書が作成された。
(f) A16警部補による原告X2に対する違法な取調べ(同年4月20日)
原告X2は,同月20日,午後1時25分から午後10時まで,A16警部補の取調べを受けた。
A16警部補は,同日,原告X2を取調室に入室させ,取調べを始めると同時に,「お前を死刑にしてやる。」,「これまでは俺が甘かった。」,「X1がお前に焼酎をやったと言っているぞ。」と繰り返し,その旨の自白を迫った。原告X1は,同日,否認に転じたこともあったし,また,客観的証拠である原告X1のタイムカードとも矛盾し,さらに共犯者とされる原告X8,亡A1の供述とも一致せず,原告X1の自白が信用することができないのに,信用できるものと盲信し,A12警部の指示にしたがって,不相当な誘導をして自白を強要した。
原告X2が否認を続けても,A16警部補は,「言えないのであれば,書け」と強要し,机を拳で何回も叩き認めろと怒鳴り,壁を手で叩いたりして,恫喝した。原告X2は夕食時間になっても帰宅を許されなかった。
原告X2は,同月21日,ポリグラフ検査を強要された。このポリグラフ検査について,原告X2は,A16警部補から「嘘発見器」との説明を受けているが,正しい説明ではなく,むしろ,虚偽の自白を生むおそれのある説明内容である。
ポリグラフ検査は,捜査官によって被検査者に伝えられた犯罪事実を質問項目とすることができず,被検査者に対して多くの犯罪事実が伝えられてしまった後では,検査の実施はきわめて困難となるため,ポリグラフ検査は,できるだけ取り調べの初期段階で行うことが望ましいにもかかわらず,原告X2は,その前日までの取調べで,原告X1から焼酎2本と現金1万円をもらったはずだとの不相当な誘導尋問が繰り返されていることも考え合わせると,虚偽の自白を誘発する可能性が非常に高い捜査であった。
その上で,A16警部補は,同日,ポリグラフ検査後,「機械は嘘をつかない。機械は嘘を言っていないのだから,お前が嘘を言っているのだ。」などと繰り返し,偽計を用いて取調べを継続した。この点,A16警部補も,原告X2の前で,「補助官にはポリグラフ検査の結果表を見せまして,反応があるよということで,補助官にもその結果の内容を確認させたこと」を認めている。
このような行為は,ポリグラフ検査結果一般の信用性が問題となっている現状では,偽計を用いた尋問であり,違法であることは明らかである。
原告X2は,A16警部補からポリグラフ検査結果に反応があると言われても,真実はもらっていないと言って否認を続けていたが,その後も,昼食休憩もとることなく(A16警部補も,この事実を認めている。),長時間の取調べを行い,原告X2から,原告X1から物品をもらったが,それがお金だったのか焼酎だったのかビールだったのか等,今はよく思い出しませんなどと虚偽の自白を強いられた。
原告X2は,同月22日,午前9時12分から午後8時18分までA16警部補の取調べを受け,A16警部補は,原告X2に対し,午前中から,机の上に両手を乗せた格好で,絶対下ろすなと姿勢を強制した。A16警部補は「下を向くな,机の上に手を置け。」とその姿勢を長時間にわたり強制した。原告X2が同じ姿勢でいるのが辛くて,手を下ろそうとすると「なぜ下ろすか。」とさらに同じ姿勢を強要され,義務なきことを強制された。A16警部補は「いつまで嘘を言ってるんだ。」,「みんな認めているんだ。」,「X1がお前にやったって言うのはもうわかってるんだ。」,「認めないと地獄に行くぞ。」とたたみかけるように言って虚偽の自白を強制した。また,A16警部補は,「認めたら罰金だけで済むが認めないと逮捕されるぞ。」と利益誘導及び脅迫による取調べを行った。
このようなことが午前中から繰り返されたことから,原告X2が帰宅を申し出ると,A16警部補は,取調室からの退出を認めたが,原告X2が警察署を走って出て駐車場に止めていた自分の車に乗ろうとしたところ,A16警部補と補助官の2人が付いてきていて「何で帰るのか。」と取調室に戻ることを強制した。そして,原告X2の両サイドにそれぞれ立ち,体で原告X2を押して取調室に戻そうとした。
原告X2は抗議したが,補助官は,「暴力は振るっていない。」などと言って,2人で挟み込むことを止めなかったため取調室に戻って,取調べを継続させられた。
A16警部補は,その後の取調べにおいて,原告X2に対し,もらった焼酎は,「2本だろうが。」,「焼酎だけじゃない,現金もだ。」などと次々に言って不相当な誘導をして,原告X2の訴えを全く聞かず,「金をもらおうと,焼酎をもらおうと罪は一緒なんだ。」と偽計を用い現金をもらったことを認めるよう強制し,諦めた原告X2が,もらった金額について「5000円ですか。」と聞くと,A16警部補は「そんな半端なお金じゃない。」と不相当な誘導をして,原告X2が「じゃあ1万円ですか。」と聞くと,A16警部補は「そうだ1万円だ。」と不相当な誘導してA16警部補の描くとおりの供述を押しつけた。
(g) A26警部補による原告X5に対する違法な取調べ(同年4月20日)
原告X5は,同月20日,昼頃から午後10時過ぎまで,身体拘束を受けて取調べを継続され,原告X4を自殺未遂に追い込んだA26警部補の取調べを受けた。
原告X5は,原告X1との関係について,自分が志布志の町に買い物に行っているときに,原告X1が訪ねてきて後援会入会申込書の記載を依頼してきたこと,そのとき,夫が夫の名前を記載しただけだったのでそのことを説明したこと,金品の受領など一切なかったと説明した。しかし,A26警部補は,嘘と決めつけ,聞き取り内容を記載したメモを破り捨てた。原告X5が嘘は言っていない旨説明しても,A26警部補は聞き入れず,原告X5がどうしてよいかわからず机に頭を突っ伏してしまう状態になると,A26警部補は,「頭を上げろ,芝居が上手だ。」と恫喝した。
A26警部補は,「警察で取調べを受けていること自体,何かあるから取り調べているのであって既に罪人だ。」,「金品の受領があったことを話さないと帰宅できない,また逮捕等ということになると子ども・親戚に多大な迷惑がかかる。」などと脅迫して虚偽の自白を強要して,帰宅させなかった。
A26警部補は,同月21日,四浦簡易郵便局に来て,出頭を求めたので,原告X5が嫌疑を明らかにするよう求めたのに,これを明らかにせず,出頭を強要した。なお,原告X5は,出頭を拒否した。
(h) A14警部補による原告X1に対する違法な取調べ(同年4月20日)
原告X1は,同月20日,一旦,否認に転じるが,A14警部補から大声で恫喝されて,再度,虚偽の自白をした。
原告X1は,認めろとのA14警部補の強制で,そのように答えていいのか分からず,「ウーウー」とうめいてた。A14警部補は,同月19日付けの供述調書の内容を否定すると,「あなたを逮捕する。ウソばかりつくので逮捕するぞ」と言って脅迫した。
A14警部補は,「お前のせいで皆が迷惑する。」などと怒鳴り続けて(この言葉は,その後もA14警部補は何回も使った。),やってもいない事実を認めることを強制した。
さらに,A14警部補は,「あなたが言い出っしぺではない。X8やA1が認めている。」と言って認めるよう強制した。これは不相当な誘導である。
原告X1は,同日,捜査官らの意向によって,取調べを中断し,取調室から受供与者とされる姉らに電話をさせられ,その会話内容を秘密録音された。本件現地本部が,このような違法な捜査を繰り返したのは,原告X1らに嫌疑がないことから,探索的・渉猟的捜査をせざるを得なかったことを意味する。
原告X1は,同月21日,午前7時から午後11時まで取調べを受け,A14警部補の不在時に,補助官のA63巡査から,A4の紙を渡され,本当のことを書くよう指示されたため,「焼酎とかお金とか,やっていません。」と書いたところ,その後,取調室に戻ってきたA14警部補は,その紙を見て,A63巡査に対して,「お前は補助官のぶんざいで,こんなことをしていいのか。余計なことをするな」と怒鳴り散らして,紙を破り,原告X1に対し,A63巡査がクビになるかもしれないなどと告げ,A63巡査に謝罪するよう命令し,原告X1は,A63巡査が,怒鳴り散らされたのを目の前で見ていたので,A14警部補から命令されるままに,A63巡査に謝罪した。これら一連の態様も原告X1に対する恫喝に他ならない。
原告X1は,同月22日,朝から頭痛が酷かったが何の配慮もされず,取調べを継続され,その間に,現金や焼酎を供与した事実を否定する度,A14警部補から怒鳴られ,取調べを受忍させられ,昼食も夕食もなく,トイレも監視が付いた状態であった。
原告X1は,同日付け供述調書の作成を強要されたが,その内容は,全てA14警部補の不相当な誘導により,現金が入っていた封筒は白色祝儀袋か茶色い小封筒,焼酎は2本くくりのものを供与した者のほかに1本だけ供与した者もいるかもしれないとされ,原告X1は亡A1宅を2度訪問し,一度目は同年3月の上旬で原告X6の後援会入会申込書への記載の依頼,2度目は,同月の中旬で,現金と焼酎の供与のためとされるなど,原告X8及び亡A1の供述に意図的に合わせられたものであった。
原告X1は,同年4月22日,頭痛を訴えたものの,市販の頭痛薬を飲ませるだけで,何ら配慮することなく,取調べを強制され,息苦しいので帰宅した旨を懇願しても,取調べは継続され,夜になって,原告X1が息苦しさを訴えたことから,ようやく医師が来て,折りたたみの簡易のべッドにおいて点滴を受けた。
(オ) 第1次強制捜査を行ったことの違法性
a 職務行為基準説及び合理的理由欠如説
逮捕勾留の違法性については,職務行為基準説及び合理的理由欠如説によるべきであること,職務行為基準説では,通常の捜査官の立場で,その時点で現に収集した証拠資料及び収集し得た証拠資料に基づき,合理的に判断すべきことは既に述べたとおりである。
b 本件現地本部における同月22日までの異常な捜査の過程
本件現地本部における平成15年4月22日までの捜査の過程は,既に述べたとおり異常なものであり,そのため,本件現地本部が,同月19日,原告X8,亡A1及び原告X1から得たX1焼酎事件に係る自白には,以下の問題点があった。
すなわち,①これらの自白が供与の時期,焼酎の数,現金及び焼酎が原告X6の後援会入会申込書への記載の依頼と同一の機会に行われたものか,現金が入っていた封筒の色等について,不一致があって信用できないこと,②原告X8の供述は,受供与日とされる同年3月20日には,原告X1にアリバイがあること(原告X8の平成15年5月17日付け供述調書添付の「肉用牛実態調査実施について」,原告X8の3月分出勤表の記載,原告X1のタイムカードの記載から明らかである。),③自宅の神棚にあるという焼酎が,供述したその日に警察官が自宅内を捜索しても発見できなかったこと,④X1焼酎事件の受供与を直接証明する物証は見つからず,あったのは,亡A1の畑から発見された焼酎瓶1本であり,同焼酎瓶から原告X1の指掌紋は見つかっていないこと,⑤供与金の出所もその使途も曖昧なままであったこと,⑥同日以降の取調べを行い,不相当な誘導や威嚇的な尋問を行っても,原告X1,亡A1及び原告X8の供述は,不一致点が残ったままであること,⑦原告X1から供与された1万円の使途についての原告X8と原告X4の各供述はいずれも変遷していて,同人らの供述の信用性がないことが明らかであったこと,⑧原告X2の自白は,ポリグラフ検査を用いた偽計的又は威嚇的な尋問によるものであって,当初の供述は,供与されたものが,現金かビールか焼酎かよく思い出せないなどという曖昧なものであったのが,同月22日の供述調書では,後援会入会申込書をもってきたときとは別の機会に,焼酎2本と現金1万円をもらったと明確になっており,原告X1と供述が食い違っていること,⑨本件現地本部が,原告X1をしてA104に対し取調室から電話をかけさせ,秘密録音をするという違法な捜査をしており,A104の供述の信用性を確保しえないこと,⑩A86の自白も,原告X1と受供与品に食い違いがあったこと等の問題点である。
これらにかんがみると,本件現地本部が収集していた原告X1らの供述証拠は,いずれも①それが客観的証拠資料により裏付けられておらず,②逆に,客観的証拠と矛盾しており,また,③犯罪構成要件該当事実など重要な部分で変遷しており,初期供述からかけ離れた供述内容となっており,さらに否認と自白の交錯が著しく,④変遷の原因としても,原告X1や原告X8の知的障害に配慮せず,取調べ過程での取調官による誘導・強制がなされており,いずれも信用することができないものであって,以上からすれば,本件現地本部は,合理的に判断すれば,X1焼酎事件について,もはや事件性がないと容易に結論付けられたはずである。
したがって,本件現地本部が行った第1次強制捜査は違法なものというべきである。
c 令状担当裁判官に対する欺罔行為
本件現地本部は,第1次強制捜査に合理的理由がないことを知りながら,逮捕状請求時に裁判所に提出した4月22日付け捜査報告書に虚偽の事実を記載して,令状担当裁判官を欺罔した。
すなわち,4月22日付け捜査報告書には,X1焼酎事件の端緒として,平成15年4月15日,特別協力者から,本件選挙の時に四浦校区において金が配られており,受け取ったのは,四浦校区に住むA98,亡A1及びA99の3名である旨の情報提供がされ,基礎捜査の結果,上記3名がいずれも四浦校区に居住する本件有機米契約農家であったことが判明し,3名に事情を聞いたところ,2名からは買収事犯等の供述は得られなかったが,亡A1が,同年3月中旬頃の午後6時頃,四浦校区に居住し,f社に勤める原告X1から選挙運動のお礼として焼酎2本と現金1万円を受領したことを認め,この供述から原告X1の基礎捜査を行ったところ,四浦校区に居住すること,f社に稼働することが判明し,亡A1が供述した供与容疑に信憑性が出てきたため,同年4月19日,原告X1に対して事情聴取を行ったところ,13名に対し,現金1万円と焼酎2本を供与したことを認め,さらに数名から事情聴取をしたところ,原告X8も同様の供述をした旨の記載がされている。
しかし,実際には,特別協力者から情報提供のあった四浦校区に居住するという3名のうち,亡A1以外の2名は森山校区の住人であり,かつ本件有機米契約農家でもなく,上記3名に対する事情聴取を行った際に,亡A1が供述したのは,同年1月下旬頃,原告X6とA5から本件選挙での立候補の挨拶を受け,同人らが立ち去った後,玄関に焼酎2本が置いてあったというものであって,亡A1が同年3月中旬頃の午後6時頃,四浦校区に居住し,f社に勤める原告X1から選挙運動のお礼として焼酎2本と現金1万円を受領したことを認めた際には,原告X1も原告X8も既に嫌疑もなく任意同行をされて現に取調べを受けていたのであって,当初の情報提供からX1焼酎事件の自白獲得に至るまでの経緯がおよそ異なっている。
このように,4月22日付け捜査報告書には,X1焼酎事件の発覚の経緯に虚偽の記載をするなどして,令状担当裁判官をして,その自白の信用性の判断を誤らせたものであって,本件現地本部のこのような行為は,逮捕状の騙取というべきである。
(カ) 第1次強制捜査後の同年4月23日から本件刑事事件の端緒となる供述がされる日の前日である同月29日までの取調べの違法性
a 原告X1関係
(a) 同年4月24日の弁解録取手続及び勾留質問における否認
原告X1は,平成15年4月24日,検察官の弁解録取手続及び裁判官からの勾留質問において,いずれも事実を否認する旨述べた。
(b) 否認後の同年4月25日のA14警部補の強要
原告X1は,同月25日,A14警部補から強要され,X1焼酎事件について,再び自白に戻り,検察官の弁解録取手続及び裁判官からの勾留質問において事実を否認した理由等について,「逮捕されたことで頭が真っ白になり,警察に逮捕されたら,どれくらいで家に戻れるのだろう,1~2年もの長い間,刑務所に入っていたら,A112じいちゃんの世話をすることができないと思うようになりました。それで,(中略)X6さんやX4さんにお金や焼酎をやったことはないと言って嘘をついてしまいました。」,「本日,刑事さんから,貴方が嘘をつき通すことで,どれだけの人に迷惑がかかるのか分かりますかと言われたことで,このままではいけないと思いました。」との調書を作成させられた。「A112じいちゃん」とは原告X9の父であるA112(以下「A112」ともいう。)のことである。
原告X1は,A14警部補から,「否認すれば1から2年,刑務所に入らなければならない。」と脅迫された。上記のような調書ができていること自体,脅迫があったことを示すものである。
また,供述調書の記載からも,A14警部補は,他の者との供述内容が齟齬していることを知っていたのに,「あなたが嘘をつきとおすことでどれだけの人に迷惑がかかるのか分かりますか。」などと偽計を用いた取調べを行っていたことも明白であった。
さらに,A14警部補は,原告X1に対し,「おまえ1人でやったことではないだろう。正直に話している人もいるんだ。おまえも認めろ。」,「おまえのせいで,そこでも怒られているがね(他にも調べられている人がいて,その人も刑事に私と同じように怒られていると言っていました)。」などと威嚇と不相当な誘導,そして,偽計を用いて,うその自白を強制した。
(c) 否認後の同月年426日のA14警部補の強要
A14警部補は,同月26日,原告X1に対し,強制により,「私は,今年の3月上旬頃,X6社長を県議選で当選させるための選挙買収金として会社の人から25万円~30万円位の金を渡されました。私と同じ農作物の収穫作業をする A113,A114,A115 この3人も,私と同じような金額を会社の人から渡されておりました。」と,突然,全く身に覚えがない,不自然・不合理な事実を記載した供述調書を作成させられた。
(d) 否認後の同年4月27日のA14警部補の強要
A14警部補は,同年4月27日,原告X1に対し,脅迫して,あるいは,不相当な誘導をして,「これまでの取調べの中で,13名の人に対して現金1万円と焼酎を渡したと説明してきました。しかし真実は2万円ずつの現金を渡していました。詳しいことは,頭を整理してから説明します。」旨の調書を作成させた。
原告X1の留置記録によれば,原告X1は,同日,午前と午後2回にわたり,頭痛薬を看守に求め,また,原告X1が取調べを拒否する意思表示をしたが,看守は,取調べを受忍するよう強く勧めた。A10署長が留置管理の責任者であることから,本件現地本部は,当然,原告X1のこの日の動静について,当然に知り得たことであった。
そのような中で,A14警部補は,長時間にわたり,金額が違うと執拗な重複尋問を繰り返し,不相当な誘導により,原告X1に上記の供述を強制したものである。
(e) 同年4月28日,恫喝・不相当な誘導による長期間・長時間の重複尋問
A14警部補は,同月28日,恫喝・不相当な誘導による長期間・長時間の重複尋問を繰り返し,原告X1は,「それでも曖昧な説明を繰り返してきたのですが,もう駄目だと考え始めたのです。刑事さんから,貴方が金や物を他人にやったことがはっきりと分かったと追及された瞬間,私は,あー,X8さんが私から金や焼酎を貰ったと警察に言ったんだと直感したのです。しかし,この時,以前,X8さんには,私からは1万円だけだからねと口止めしていたことを思い出したことから,刑事さんには,13名には,現金1万円と焼酎を渡したと言って嘘をついたのでした。」という旨の供述を強制された。
もともと質問者の意を酌むことが苦手でそれに抵抗しがちな原告X1が,取調官にとって必要な供述変更の説明の求めに合わせて,前提となるストーリーを作りだして,一応は筋の立った架空の説明を話すということは極めて考えにくいのであって,上記原告X1と原告X8の口裏合わせのストーリーは,A14警部補による押しつけであることは明らかである。原告X1は,上記の取調べにより,午後9時前には,留置場の婦少房の壁に自らの頭を何回も繰り返しぶつけ,留置監督者の制止も聞かず,「もう死んだ方がましだ。」等の言動を発するなどの特異行動が見られた。
原告X1が房内で,このような特異行動をしている中で,罪体について原告X1の供述の変遷があるあるから,A14警部補には,原告X1の供述が重要な部分で変遷する理由について,真相を解明する義務及び虚偽自白防止義務が生じていたが,原告X1がやったに違いないとの予断偏見から,何らの措置を講じなかった。
b 原告X8関係
(a) A36巡査部長の同年4月24日の不当な誘導
A36巡査部長は,同月24日,原告X8に対し,同月22日の原告X4夫妻の供述が異なること及び原告X4の同月24日の取調べ状況を知った上で,原告X8を不相当に誘導し,「今日,夫も警察の取調べを受けて,私の話と違うことを追求されたようです。私も夫が話すことと違っていると言われ作り話がばれてしまったのです。」と原告X1から供与を受けた1万円の使途につき,A116に渡した旨の曖昧な供述に変更させた。原告X8は,この頃から,食事も取れない健康状態になっていた。
(b) A36巡査部長の同年4月25日の取調べ
原告X8は,同月25日,午前9時14分から午後0時5分まで,午後1時から午後7時50分の長時間の取調べを受けた。
(c) A36巡査部長の同年4月29日の取調べ
原告X8は,同月28日,体調不良のため陽春堂診療所で診察を受け,医師から,取調べのための精神的なものと言われ,安定剤等を処方され,また,栄養のための点滴を受ける状態であり,同月29日朝も同診療所で点滴を受けたが,A36巡査部長は,同日,原告X8が同診療所で治療を受けるのを待ち,診療が終わると志布志署への同行を求め,抗拒不能の状態にあった原告X8は,これを断ることはできず,午前8時40分から午後0時30分まで,午後1時から午後7時8分まで,取調べを受けた。
この取調べでは,A36巡査部長は,原告X1の供述を前提として,現金は2万円だったろう,焼酎は2本だったろうと決めつけ,不相当な誘導を繰り返して,同月19日付け供述調書の内容変更を求めたが,知的障害があり,精神的に不安定になっていた原告X8は,A36巡査部長の言っている意味が理解できず,変更をすることはなかった。
c 原告X2関係
(a) A16警部補によるC1弁護士への相談の妨害
原告X2は,取調べが酷いため,同月24日,人権擁護委員,鹿屋の悩み事相談所に電話を入れ,選挙のことで警察に嘘を言ったがどうしたらいいか相談した上で,同日,都城のC1弁護士に,架電して,同月25日の午前9時に事務所を来訪することが決まった。
しかし,A16警部補は,同日朝,原告X2宅の牛舎前で,同行を求め,原告X2がC1弁護士に相談に行くと断っても,A16警部補は,「何で,弁護士に会う必要があるのか。」などと言って,とにかく警察署に来いと命じ,弁護士と相談する権利を奪って,志布志署に連行した。これは任意捜査の限界を超えた取調べであり,違法である。
原告X2は,同日,一旦,A16警部補にX1焼酎事件はなかったと否認に転じた。
しかし,A16警部補は,「お前は本当のことを言ってるのに,何故,嘘だというのだ。」,「お前はX1が逮捕されたことで気が動転しているんだろうが。」,「お前が供述したからX1が逮捕されたんじゃないんだ,おまえのせいじゃないんだ。」,「嘘を言ったら本当に逮捕になるぞ。」などと脅迫し,相当性のない誘導をして,このようなたたき割りの手法によって,原告X2は,虚偽の自白を強制された。
原告X2は,否認した理由について,A16警部補のたたき割りにより,「X1が逮捕され,自分が否認すればX1が助かると思った。」旨の虚偽の供述調書を作成させられた。
原告X2は,同日,自白に戻ったはずであったが,詳細な供述はなく,観念した者の行動とは異なる行動を取っていた。すなわち,原告X2は,上記供述調書において,自白に戻った理由について,「しかし,刑事さんから,これまでと同じように,いろいろな説明,説得をしてもらい,やはり,嘘をついても真実は一つであるから,世間では通用しない。この前,正直に話したように,ありのままを刑事さんに説明して,今回のことは一日でも早く終わらそう。」と述べたことになっているのに,「今後は,この時の状況を良く思い出し話していきます。」と,同月22日の取調べと同じ内容のみを述べた内容であること,原告X2は,同日,午前8時21分から午後8時まで取調べがあったのに,その供述調書が,わずか3頁のものにすぎなかったことは,原告X2が必死に否認を続けたが,結局,自白が強制されたものであることの証左である。
(b) A16警部補による同月29日の取調べ
A16警部補は,同月29日,午前8時41分から午後0時15分まで,午後1時15分から午後7時30分まで原告X2を取り調べ,接見禁止中の原告X1が,同月27日の時点で,X1焼酎事件で原告X2に渡した現金を1万円から2万円に変遷させたことを知っていて,「関係者とX2さんの言い分が違うところがありますよと」と質問し,不相当な誘導により,原告X1からの受供与金額を1万円から2万円に変更するよう供述を強制した。
このやり取りは,「で,その後,今度は,現金があっただろうと言われたんですか。ええ,現金があっただろうと言われて,いいえ,ないですと。その調べのやり取りをしている間に,はい,ありましたと。」,「で,それは,現金は幾らというふうに。5000円ですと言ったんですよ。そしたら,そんな半端なお金じゃないと言われました。」,「それで,幾らと言ったんですか。じゃあ1万円ですかと言ったら,いいや,違うと。幾らですかと言ったら,おれが教えてやるから言ってみろと言われたから,5000円ずつ上げていったんですよ。2万円のところで,ああ,そうだよ,2万円だよと言われましたよ。」と原告X2の本件刑事事件の公判において供述するとおりである。
さらに,A16警部補は,「草刈りに行ったときに,A1と畑で会っただろう。」などと示唆し,この不相当な誘導により,原告X2は,亡A1と会ったときに金額を1万円とすることについて口裏合わせをしたように言わせたいのだと思って,そのように話をしたところ,A16警部補は,その旨の調書を作成することになった。
この事実は,原告X2の同月29日付け調書に,「今日,刑事さんから,原告X1さんの話と合わないところがあると追及され,もうこれ以上,嘘は通せないなどと思い,観念して,実は,焼酎2本くくりを貰ったのは,本当のことでしたが,貰った現金については,1万円ではなく,1万円札2枚の現金2万円であったことを正直に話しました。」と記載されていることから明らかである。
A16警部補の本件刑事事件での公判証言では,原告X2が供述を2万円に変更したのは,午前10時頃のことと証言しているが,このわずか5丁の供述調書の作成で,午後7時30分まで取調べがあること自体不自然・不合理である。この日,夕方まで不相当な誘導や強要があったことを示している。
d 亡A1関係
亡A1は,4月29日午後6時50分から午後11時まで取調べを受けた。
亡A1は,同日の取調べで,A17警部補から「会合があった。」と聞かされた。「座元が言っているから間違いない。」と買収会合が3,4回あったと追及されていた。
また,A17警部補は,原告X1が同月27日にA14警部補の不相当な誘導により,X1焼酎事件について,供与金額1万円から2万円に変遷させたことから,亡A1に対し,不相当な誘導・恫喝を伴う取調べを継続した。さらに,A17警部補は,高齢で午後11時までの取調べで疲労困憊していた亡A1に対し,原告X1から20万円の供与を受けたという別の被疑事実を自白するよう強要した。
そして,亡A1は,ほとんど寝ていない中で,同月30日午前7時35分,そのことばかり考えていて,取調べを受けるため,志布志署に向かう途中,車の運転を誤り自損事故を起こして,頚椎捻挫の傷害を負って,びろうの樹整形外科病院に入院した。
e 原告X4関係
原告X4は,同年4月20日に自殺未遂騒ぎを起こした後も連日取調べを受け,同月24日にも9時間35分もの取調べを受けた。このことは,同月21日,22日の取調べと併せて任意捜査の限界を超えた違法な取調べというべきである。
イ 被告県の主張
(ア) 総論
原告らの主張は否認ないし争う。本件公職選挙法違反事件の捜査は,適正に行われており,原告ら主張に係る違法な手段による捜査が行われた事実はない。
(イ) 任意同行による取調べの適法性の判断基準
a 説得による任意同行の適法性
前記のとおり,警察官は,「犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者の出頭を求め,これを取り調べることができる。」こととされているところ,具体的にどのような捜査の手段,方法を採るのかという点については,任意捜査の方法や態様は多種多様であり,それによってもたらされる個人の権利・利益の侵害やその危険性の程度も様々であることから,結局は,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される法益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断されるべきものであるところ,任意同行の「任意」に関しては,裁判例で「任意同行というためには,同行するについて本人の任意の承諾,すなわち自由な意思に基づく承諾のあることが前提になるが,任意とは本人が自発的に進んでしたような場合に限られるものではなく,渋々承諾した場合でも,社会通念からみて身体の束縛や強い心理的圧迫による自由の拘束があったといい得るような客観的情況がない限り,任意の承諾があると認めることができると解すべきである。」(大阪高等裁判所昭和61年9月17日判決・判例時報1222号144頁)と判示されていることからも明らかなとおり,強制に対する概念であり,必ずしも自発的というものではないと解されている。
「任意同行」は,文字どおり任意捜査であることから,同行を求めるに当たって,威圧的な言動を取ることによって被疑者が積極的に拒否することを不可能若しくは著しく困難にすることは,任意同行として許されないというべきである一方で,必要性に基づき任意同行を要請する以上,一定程度の説得は当然許されると解すべきであり,被疑者が多少でも圧迫感を抱けば任意同行として許されないというものではない。
b 口頭による呼出しの適法性
警察官が犯罪の捜査を行うに当たって守るべき捜査の方法・手続等を定めた犯罪捜査規範102条は,被呼出人に出頭を求める方法等について,「捜査のため,被疑者その他の関係者に対して任意出頭を求めるには,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を明らかにし,なるべく呼出状によらなければならない。」と規定するが,直接口頭で行う任意同行とは,相手に出頭を求める手段方法の一種である。
捜査機関としては,捜査上の必要性と被呼出人の利益とを比較衡量して呼出方法を選択することとなるが,この点について,「なるべく呼出状によらなければならない。」と規定されているのは,事案の性質上,呼出状による方法のほかに,電話や直接本人の住居を訪れて出頭を求める等の方法によっても差し支えない場合がある一方で,正当な理由なく出頭要求に応じない場合の疎明資料とすることも予定されているため,捜査機関に呼出方法の選択についての裁量権を認めていることは明らかである。
任意出頭に関する犯罪捜査規範の趣旨は,被呼出人に対し,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を明示することで,自発的意思の形成過程を担保するところにあり,直接口頭で任意同行を行う際,同行要求先に出向いて,被呼出人に対し,同行先までの交通手段の選択はもちろんのこと,同行用件,同行先等の告知や必要な説明・説得を行うことによって,自発的意思に基づく同意を得る出頭要求を行うことは,犯罪捜査規範の趣旨に反するものではない。
そして,選挙違反事件は,一般的に客観的証拠に乏しく,特に買収事件は,供与・受供与によって対向犯関係が生じることから,他の事件と比較しても,逃走,通謀,証拠毀棄等によって罪証隠滅のおそれが高まるのであり,呼出状で出頭を求めた場合,円滑な捜査の推進に弊害が生じるおそれも排除できないものであるので,関係者の呼出方法について,より慎重な選択が迫られたことはむしろ当然である。
したがって,本件公職選挙法違反事件について,関係者宅に赴き,直接口頭で任意同行を求めたことは,国家賠償法上違法と評価されるものではない。
c 原告らのその他の主張は争う。
原告らのその他の主張は争う。
(ウ) 取調べにおける捜査官の注意義務
a 禁止事項
警察官が,犯罪を捜査するについて必要があるときに被疑者の取調べを行うに当たっては,強制,拷問,脅迫その他供述の任意性について疑いを抱かれるような方法を用いてはならないほか,みだりに供述を誘導したり,利益供与を約束したりするなどしてはならないことは当然である。
b 許容範囲等
(a) 総論
他方,被疑者その他関係者の供述,弁解等の内容のみにとらわれることなく,飽くまで真実の発見を目標として行わなければならないのであるから,捜査の目的を達成するために必要な範囲内で,かつ,任意性を損なうことのない限りにおいてであれば,追及的な取調べや理詰めの尋問を行うことや,一定期間取調べを継続したり,比較的長時間にわたる取調べを行ったりすることも常に否定されるものではないというべきであり,いかなる任意同行及び取調べが許容されるかについては,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的を達成する上での必要性又は緊急性の程度及び相当性の有無,侵害される法益と確保される法益との権衡等を総合考慮して判断すべきものと考えられ,裁判例においても,任意取調べに関し,「強制手段によることができないというだけでなく,さらに,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるものと解すべきである。」とされている(最高裁判所昭和59年2月29日第二小法廷決定・刑集38巻3号479頁(いわゆる高輪グリーンマンション・ホステス殺人事件最高裁決定))。
(b) 追及的取調べや理詰めの尋問の適法性
一般的に,取調べにおいて,被疑者は必ずしも常に真実を供述するものではなく,罪を逃れたり誰かをかばうなどの理由から虚偽の供述をすることもあれば,記憶が曖昧で結果的に事実と異なる供述をすることも少なくないところであり,そのような状況の中で,取調官は,供述の内容を吟味しながら,客観的事実や他の関係者の供述との矛盾点等を取り調べるなどして,被疑者に真実を供述させることが求められる。
したがって,関係者の供述が客観的事実と矛盾し,他の関係者の供述と食い違いがあれば,これを追及して問いただす必要性があることは明白であり,何ら違法性は認められないばかりか,むしろ必要な捜査といえる。
追及的取調べに関し述べている文献には,「被疑者には供述拒否権があるが,捜査官にも事件の真相を明らかにし刑事司法の目的実現に寄与すべき義務がある。したがって,被疑者から真実の供述を得るため,捜査官が,理づめの質問・頑張り合い・誘導的質問をしたり,「真相を話せば,そのことが酌量されて刑が軽くなるであろう。」という程度の示唆をしたり,証拠がそろっていないのに「証拠は全部そろっている。」という程度の発言をすることも,程度を超さない限り許される(同旨青柳文雄 「刑事訴訟法通論」238)。
追及的取調べについては,①強制にわたらない限り,よく理非曲直を説き,是非善悪を諭して自白をすすめても差し支えない,②説得,違法にわたらない誘導,その他自由意思を失わせるに至らない程度の威圧を加えることがあっても,適法,無過失の場合がある,③犯罪の嫌疑がある者に対して,その供述の矛盾を追及し,証拠を突き付け,又はその良心に訴える等の方法で自白の説得勧誘を行うことは,それが強制にわたらない限り,非難すべきではない,④供述の任意性とは自発的ということではなく,犯行を否認する被疑者に対し,不審と思われる点をあれこれ問いただすことは,それが法の規定を逸脱しないかぎり,捜査官としては,むしろ当然なすべきことである,⑤捜査官としては,供述をそのままうのみにすれば足りるというものではなく,経験則に照らして納得し難い供述については,質問を重ねてその供述内容に多角的な検証を加えることは,捜査官にまさに期待されるところであるとした裁判例がある。」(幕田英雄著「実例中心捜査法解説」352頁ないし353頁)と記載されているとおり,追及的取調べを行ったからといって直ちに任意性が否定されるものではない。
c 本件公職選挙法違反事件における取調官の留意事項(任意性の確保についての特段の配慮)
(a) 捜査幹部の指示
取調官は,様々な違法行為を繰り返して供述を引き出したとしても,違法収集証拠や「毒樹の果実」として証拠能力を否定された場合,せっかく収集した証拠が犯罪立証に利用できなくなることは明らかである。
本件公職選挙法違反事件においても,A10署長やA12警部ら捜査幹部は,任意性の確保について特段の配慮をするようにとの指示を行っていたものであり,取調官らも,捜査幹部から任意性を確保するよう指示を受けた旨証言している。
なお,本件刑事事件において,捜査段階で録取された関係者の供述調書については,基本的に任意性が認められ,証拠として採用されている。
本件公職選挙法違反事件の取調べにおいて,取調官が任意性の担保のため留意していた事項は,以下のとおりである。
(b) 黙秘権の告知
黙秘権の告知については,刑事訴訟法198条2項の規定のほか,犯罪捜査規範169条1項にも「被疑者の取調べを行うに当たっては,あらかじめ,自己の意思に反して供述する必要がない旨を告げなければならない。」と規定されていることから,これを怠れば,供述の任意性・信用性が重要視される公職選挙法違反事件の刑事裁判で争点になることは火を見るより明らかであり,取調官もかかる重要性を十分認識しているのであって,黙秘権の告知は,極めて常識的な捜査手続であって,これを告知しないことはあり得ない。
(c) 体調等への配慮
供述の任意性を確保するため,被疑者やそれに近い立場の重要参考人の体調や健康面に配意する必要があるのは当然というべきであり,取調官がそれらを無視した強制によって供述を得ようとした事実はない。
また,取調官は,相手からの申出があったり,気分が悪そうな様子が見られたりすれば,取調べの途中であっても病院での診察を勧めるか,取調べを中止するなど任意性に配意した措置を講じており,病院で診察後に取調べを再開する際は,本人はもちろんのこと,主治医や看護師等の病院関係者から取調べを継続しても支障がないか確認するなど,各取調官は,常に相手の体調を考慮しながら取調べを行っていたものである。
(d) 誘導的質問
取調べにおいて,誘導的尋問をしたからといって,直ちに供述の証拠能力や任意性が否定されるものではない。
この点,原告らが主張するように,捜査員が具体的な供述を引き出すために被疑者らに対して水を差し向けることが違法な誘導であるとされるならば,取調べ自体が成り立たないのであって,被疑者らの供述が客観的証拠や他の供述などと矛盾が生じるときに,その点を問いただすことは,捜査員として当然行うべきことであり,もとより国家賠償法上の違法行為とはいえない。
無論,偽計によって被疑者を錯誤に陥れ,自白を獲得するいわゆる「切り違え尋問」については,獲得した自白の任意性に疑いがあるものとして証拠能力が否定されることはいうまでもないところ,原告らは,原告X6と原告X7の取調べにおいて,取調官が切り違え尋問により虚偽の自白を迫ったなどと主張するが,県警がそのような違法な尋問方法を用いて取調べを行った事実はない。
(e) 供述調書の作成
供述調書とは,司法警察職員等がそれぞれの捜査の過程において,被疑者及び参考人の取調べを行った際,任意に供述した事項を録取した書面であり,法律の条件を具備するものは,証拠書類となるものである。
取調官らは,供述人の供述により,警察が知り得ない新たな事実が判明したとしても,まずは,他の関係者の供述や客観的証拠との整合性を吟味するなどしてその供述の真意を見極める必要がある。この点,裁判例においても,供述調書の作成に関しては,「供述調書は,公判において証拠として使用されることを主たる目的として作成されるものであるから,供述者の述べることがすべてそのまま録取されなければならないものではなく,捜査官が犯罪の成否ないしは情状といった,公判において重要な意味をもつ点を中心に供述者の話を整理し,重要な点については詳細に深く掘り下げた質問をし詳しい供述を得てこれを録取し,関連性の乏しい事項に関する話は採り上げないなど,録取すべき事項の取捨選択,各事項の取扱い方につき捜査官の調整判断を加えて作成すべきものであることは改めていうまでもないところである。そして犯罪の成否に関する事実につき供述を録取する際,右のような事項の選択等に当っては,犯罪構成要件が何であるかの法律的判断(解釈)が要求される場合があるが,捜査官が自ら研究のうえ妥当と考えられる解釈を施し,その観点から必要と考える事項につき供述者に質問を行い,その述べるところを調書に録取することは当然に必要なことであって,何ら非難されるべき筋合のものではない。」と判示されている(東京地方裁判所昭和58年10月12日判決・判例時報1103号3頁)。このことからも,捜査官が供述者の供述を整理して録取事項を取捨選択し,各事項の取扱いに調整判断を加えて供述調書を作成することは当然といえる。
(f) 長時間・長期間の取調べ
取調べ時間が長時間であると認定された時点で直ちに供述の証拠能力や任意性が否定されるわけでなく,「任意取調べの一環としての被疑者に対する取調べは,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるものと解すべきである。」とする裁判例(最高裁判所昭和59年2月29日第二小法廷決定・刑集38巻3号479頁)にかんがみると,個々の取調べ時間や取調べ期間が妥当であったか否かについても,事件の重大性,取調べの必要性や取調べ状況に加え,被疑者らの健康状態等に照らして判断するものというべきである。
この点において,取調べ時間が長時間であると認定された上で供述の証拠能力や任意性が争点となった裁判例を見ると,「(前略)に対する取調べは,長期間にわたり,かつ長時間に及ぶなど必ずしも適切なものではなかったことが認められる。しかし,右認定の取調状況,接見状況,健康状態等に照らすと,本件全証拠によっても,原告らに対する各公訴提起等の段階で,原告に対する右取調べがその供述の証拠能力が否定されるほどに違法な取調べであったとは認められないし,また,その供述の任意性が否定されるとまでは認められない。」と判示(東京地方裁判所平成11年11月26日判決・訟月46巻1号1頁)されているところであり,裁判官がその違法性を判断するに当たり,取調状況,接見状況,健康状態等の事情を総合勘案していることがうかがわれる。
(g) 退去の自由
退去の自由について検討するに,取調官は常に相手の体調を考慮して取調べを行っており,申出があれば取調べの途中であっても病院での診察を勧めるか,取調べを中止するなどしている。
トイレへの同行については,犯罪捜査規範167条1項には,「取調べを行うに当たっては,被疑者の動静に注意を払い,被疑者の逃亡及び自殺その他事故を防止するように注意しなければならない。」と規定されており,実際のところ,原告X1が取調べ初日の平成15年4月18日にトイレに閉じこもり,「私を殺して」などと叫んだ事案が発生したことや,原告X4が福島川に入った事案の発生を受けて,県警としても,各被疑者が庁舎内で自傷行為を行うおそれもあると判断し,より慎重に対処せざるを得なかったところである。
また,取調べの拠点となった志布志署では,同時に複数の関係者を取り調べていたことから,関係者同士がトイレで鉢合わせとなった際に,その時点の取調べ内容について口裏を合わせるなど,通謀のおそれも排除できない状況であった。
さらには,志布志署は,1階部分は免許更新や拾得物関係,2階部分は事件相談や銃砲・風俗営業の許可申請等のための来客が常に往来していき状況であったため,取調室からトイレ付近までの間に原告らが一般来訪者等に会わないようにするなどプライバシーの保護の観点から,これらの必要性を総合勘案し,補助官がトイレまで案内すると同時に,その周辺に待機して不測の事態に備えたほか,必要に応じて廊下に設置されたパーティションや各部屋の出入口扉を閉めて一般客の視界を遮るなど,社会通念を超えない範囲で行ったものである。
このように,体調不良等による本人からの退去の申出等には応じており,トイレへの同行についても退去の自由を侵害したものではない。
(エ) 第1次強制捜査に至るまでの任意同行及び取調べの適法性
a 違法な取調べの不存在
本件現地本部において,原告ら主張にかかる,嫌疑のない中で,威迫・恫喝や不相当な誘導・重複尋問により探索的・渉猟的な取調べを行う,原告らがたたき割りと呼ぶ違法な取調べを行った事実はない。
b 原告X1の事前運動の発覚
原告X1に対する嫌疑についてみると,本件現地本部は,A12警部らが有志者から得た情報を基に,平成15年4月17日に原告X9,原告X2,原告X3,原告X4,原告X11ら関係者数名を任意同行して取り調べたところ,原告X9が,「妻のX1がf社で働いている関係で,選挙運動をして回っている。」などと供述したこと,原告X4が,「妻のX8から,X1がX6さんの選挙運動をしないといけないので帰りが遅くなると話していたことを聞いた。」などと供述したこと,原告X2が,「3月初旬の夕方頃,X1が自宅を訪ねてきて,X6さんの支援をお願いされた。」などと供述したことから,原告X1が選挙の告示前から原告X6の選挙運動を行っている事実が明確に判明した。
c 原告X1及び原告X1以外の関係者の供述の存在
したがって,原告X1が四浦校区における何らかの選挙違反事実について知っている可能性があると判断し,同年4月18日に原告X1を任意同行して取り調べるに至ったものである。
その結果,原告X1の取調べを担当したA14警部補の刑事公判における証言によると,原告X1は,「a3集落でX6選挙のパンフレットを持って回った。X12とX4はX6に投票してくれたと思う。」と供述したほか,原告X1本人も本件での原告本人尋問において,A108とA85の家で,原告X6の後援会の名簿に署名をしてもらった際に地卵を渡した旨供述したことを供述しているとおり,原告X1が,原告X6の選挙運動を積極的に行っている状況が容易に推認されるところであった。
その一方で,原告X1以外の関係者については,明確な選挙違反事実についての供述は得られなかったものの,原告X4は,「自分は表ではA2さん,裏ではX6さんの形だったが,このことがバレてしまえば村八分になってしまう。今のところ,X6さんの選挙運動に関しては100パーセントのうち1パーセント程度しか話していない。」などと,原告X6の選挙運動に関与していると疑わせる供述をした。
原告X9は,同日の取調べで,「昨日の夜,f社の副社長であるA89専務から電話があり,「警察から何を聞かれたか,A5は警察に何も言っていないから大丈夫」といったことを聞かされた。」などと供述した。これらのように,原告X6の関係者が不穏な動きを見せている事実も発覚した。
これをもって,同月17日の関係者の供述内容も踏まえ,四浦校区において原告X6に関する選挙運動が行われている蓋然性が高いものと判断されたところであり,引き続き関係者の取調べを継続したものである。
そして,原告X8にあっては,原告X4が,「妻のX8から,X1がX6さんの選挙運動をしないといけないので帰りが遅くなると話していたことを聞いた。」と供述していたことなどから,原告X8も何らかの事情を知っている可能性があると判断し,同月19日,原告X8を任意で取り調べたところ,原告X1から現金1万円と焼酎の供与を受けたことなどを供述したほか,同日,亡A1も原告X1から現金1万円と焼酎の供与を受けたなどと供述し,さらに,供与者とされた原告X1自身も,a3集落の住民や姉妹・友人など計13人に対して現金や焼酎を供与した事実を自供したものであり,原告X8の供述が裏付けられる形となった。
d その他の原告ら主張に係る違法事由
その他の原告ら主張に係る違法事由は存在しない。
(オ) 第1次強制捜査を行ったことの適法性
a 判断基準(職務行為基準説・合理的理由欠如説)
原告らの主張のとおり,最高裁判所昭和53年10月20日第二小法廷判決(民集32巻7号1367頁,いわゆる芦別国賠訴訟最高裁判決)は,無罪判決が確定した場合の捜査活動の違法性の判断基準として,「無罪の判決が確定したというだけで直ちに起訴前の逮捕・勾留・公訴の提起・追行,起訴後の勾留が違法となるということはない。けだし,逮捕,勾留は,その時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であ」ると判示し,いわゆる職務行為基準説を採ることを明らかにしている。
そして,職務行為基準説を採る場合の捜査活動の違法性の具体的判断手法として,同判決は,「起訴時あるいは公訴追行時における検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,起訴時あるいは公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当である。」と判示し(前掲最高裁判例),いわゆる合理的理由欠如説に立つことを明らかにしており,これらはそのまま警察官による捜査活動にも当てはまる。
b 国家賠償法上の違法
したがって,警察官による捜査活動について国家賠償法上違法というためには,「警察官または検察官の判断が,証拠の評価について通常考えられる右の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要である(札幌高等裁判所昭和48年8月10日判決・判例時報714号17頁,いわゆる芦別国賠訴訟札幌高裁判決)。
c 「罪を犯したと疑う相当な理由」(客観的・合理的な嫌疑)
「罪を犯したと疑う相当な理由」については,裁判例において,「逮捕の理由とは罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由をいうが,ここに相当な理由とは捜査機関の単なる主観的嫌疑では足りず,証拠資料に裏づけられた客観的・合理的な嫌疑でなければならない。
もとより捜査段階のことであるから,有罪判決の事実認定に要求される合理的嫌疑を超える程度の高度の証明は必要でなく,また,公訴を提起するに足りる程度の嫌疑までも要求されていないことは勿論であり,更には勾留理由として要求されている相当の嫌疑よりも低い程度の嫌疑で足りると解せられる。
逮捕に伴う拘束期間は勾留期間に比較して短期であり,しかも常に逮捕が勾留に先行するため,勾留に際しては証拠資料の収集の機会と可能性が逮捕状請求時より多い筈であるから勾留理由としての嫌疑のほうが,逮捕理由としてのそれよりもやや高度のものを要求されていると解するのが相当である。」と判示されているところである(大阪高等裁判所昭和50年12月2日・判例タイムズ335号232頁)。
d 「逮捕の必要性」
「逮捕の必要性」が要件となる根拠については,刑事訴訟法199条2項のただし書に,裁判官が逮捕状を発付するに際し,「明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,この限りではない。」と規定されていることによるものである。そして,刑事訴訟規則143条の3が被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし,被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは,逮捕状の請求を却下しなければならないと規定している。このことからすると,逃亡または罪証隠滅のおそれがある場合は逮捕の必要性があるということになる。」と判示されている(大阪高等裁判所昭和50年12月2日・判例タイムズ335号232頁)。
また,「被疑者が逃亡する虞がなく,かつ,罪証を隠滅する虞がない等」の「等」については,あくまでも逃亡及び罪証隠滅の虞がないことと並んで,逮捕の必要がない場合を表示しているものであって,逃亡又は罪証隠滅の虞がないとは言えないけれども,犯罪が軽微である等諸般の状況を総合的に考察して,身柄を拘束することが健全な社会の常識に照らし明らかに不穏当と認められる場合をさすと解するもので,通説であるとされている。
e 司法警察職員による逮捕状請求が違法となる場合
以上のとおり,司法警察職員による逮捕状請求については,司法警察職員が,逮捕状請求時において,捜査により収集した資料(疎明資料)を総合勘案して,刑事訴訟法199条1項,2項所定の嫌疑の存在及び逮捕の必要性を判断する上において,合理的根拠が客観的に欠如していることが明らかであるにもかかわらず,敢えて逮捕状を請求したと認め得るような事情がある場合や,犯罪の嫌疑があるとはいえない場合であるのに,犯罪の嫌疑があるとされる方向の資料を捏造し,あるいは,犯罪の嫌疑がないとする方向に作用する重要な資料を隠匿するなどして裁判官の判断を誤らせた場合に限り,司法警察職員による逮捕状請求が違法となるものと解するのが相当であり(東京地方裁判所平成11年11月26日判決・訟月46巻1号1頁,福岡高等裁判所平成17年9月27日判決・判例タイムズ1208号111頁),逮捕の必要性の判断を含めて,逮捕の要件を充たすかどうかは,令状発付当時の資料のみに基づいて判断するほかないことも当然である(東京地方裁判所昭和35年4月5日判決・訟月6巻5号914頁)。
f 原告X1が事実関係を認め他の証拠と一致していたこと及び本件現地本部における同月22日までの異常な捜査の過程の不存在
これを第1次強制捜査についてみると,県警が,逮捕状請求までに収集した証拠資料によれば,原告X1は,取調べにおいて,「県議選の告示前の3月中旬頃から下旬頃にかけて,私の住む集落の人間や友人知人など13名に対して,X6社長への投票依頼と票の取りまとめという意味で,焼酎と現金1万円ずつを渡したことは事実間違いありません。」などと事実関係を認めていた上,これを支える証拠として,受供与の事実を認めた原告X1の供述を裏付ける亡A1の供述調書や原告X8の供述調書が存在し,その供述内容は,授受の場所や状況を具体的に説明したり,現金が封筒に入れられていたなど,いずれも具体的なもので,原告X1の供述内容ともおおむね合致していた。
さらに,これらの供述を裏付ける客観的証拠として,亡A1の供述に基づき,焼酎瓶1本が発見され押収されたことを明らかにする領置関係の証拠や,原告X1が名前を挙げた13人のうち,亡A1及び原告X8以外にも,焼酎等の受供与を認める原告X2やA104の供述調書も存在していたことに加え,妻の原告X8が,原告X1から焼酎を受け取ったことを認める原告X4の供述調書も存在していた。
したがって,原告らが主張するような異常な捜査の過程を経た事実はない。
g 合理的根拠が客観的に欠如しているとはいえないこと
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠関係に照らせば,県警が,原告X1に罪を犯したことを疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的根拠が客観的に欠如しているとはいえない。
h まとめ
したがって,第1次強制捜査に違法性はない。
(カ) 第1次強制捜査後の同年4月23日から本件刑事事件の端緒となる供述がされる日の前日である同月29日までの取調べの適法性
a 任意同行
(a) 関係者の納得
本件公職選挙法違反事件において,関係者に対して任意同行を求めるに当たっては,関係者にその趣旨を十分に説明して納得を得るよう努めていた。このことは,本件刑事事件の第20回刑事公判でのA14警部補の証言,第21回刑事公判でのA14警部補の証言,第22回刑事公判でのA16警部補の証言,第10回原告X3本人尋問,第26回A26警部補の証人尋問などによっても,明らかである。
(b) 関係者の自由意思による捜査車両への乗り込み
捜査車両で関係者を送迎する際は,無理やり車両内に押し込むなどという強制力を用いた事実は一切なく,関係者自らの意思で捜査車両に乗り込んでいるし,原告X9は,本件刑事事件での公判ないし陳述書において,出頭要請に対し,取調べの趣旨説明を受けて任意同行に応じたこと,翌日の取調べの予定をその前日の取調べ時に伝えられるなどしていたことなどを認めている。
(c) 病院診察を配慮した取調べ時間の変更
そのほか,一例を挙げると,原告X2が午後から病院での診察を申し出たため,取調べ時間を変更するなど,関係者らが自分の用件を済ますことができるよう,取調べの開始時刻や終了時刻を調整したり,取調べを中断するなどして配意するとともに,同人らが体調不良等を訴えた場合には,取調べを終了して帰宅させている。
(d) 関係者の拒否の存在
また,関係者が,あらかじめ取調べを受けることができない旨を申し出た場合や,任意同行の際に出頭を拒否する旨を申し出た場合には,相手の事情に配意して任意同行を行っていない。
(e) 問題のない任意同行
このように,当時,関係者に対して任意同行を求めるに当たり,強制的な手段を用いた事実はなく,相手の事情にも十分配意しながら,同意を得た上で行っており,買収という選挙違反の悪質性,犯罪の嫌疑の程度,捜査目的を達成する上での任意同行・取調べの必要性等にかんがみても,関係者に任意同行を求め,取り調べたことに問題は認められない。
b 黙秘権告知等
本件公職選挙法違反事件の取調べに当たっては,本件訴訟の証人尋問において,A26警部補やA34警部補が関係者に黙秘権を告げた状況を具体的に証言しているほか,別件不起訴等国賠訴訟に証人として出廷した取調官らも同旨の証言をしていることから,原告らが自己の意思に反して供述する必要がないことは十分知っていたものと認められるところであり,黙秘権を告げられなかったとする原告らの主張はにわかには信じ難い。
また,訴状等で黙秘権の告知がなかったなどと主張している原告X1は,本人尋問において,原告代理人の「調べに当たって,A14刑事は,あなたには言いたくないことは言わなくていいという権利があるんですよというようなことは言いましたか。」という質問に,「言ったと思います。」と供述するなど,当初の主張に相反する供述をしているものであり,原告X1の供述もさることながら,原告X4や亡A1は刑事公判において,黙秘権を告げられた旨証言しており,さらには,別件不起訴等国賠訴訟において,当時県警の取調べを受けたA89も同旨の供述していることから,黙秘権の告知がなかったなどとする原告らの主張には理由がなく失当である。
c 任意捜査段階の取調べにおける休憩等
本件公職選挙法違反事件の任意捜査段階の取調べに当たっては,昼食や夕食休憩のほかに,適宜トイレ休憩等の休憩をとっていたことは明らかであるし,原告らの体調や都合などを考慮して適宜取調べを中断・終了するなど,長時間,連続して取り調べた事実はない。
また,関係者の中には,任意の取調べが一定期間に及んだ者も認められるが,本件については,関係者の数も多い上に,自白した関係者がそれぞれ事実を小出しにして供述するとともに,否認と自認を繰り返すなど,事案の全体像を把握して真相を解明するために相当の期間が必要であったところであり,当時,適宜取調べを実施しない日を設けるなどして,可能な限り連日の取調べとならないよう配意していたことや,関係者自身が取調べに対して任意に応じていたこと等に照らせば,捜査の目的を達成するために必要な範囲内で,かつ,任意性を損なうことのない限りにおいて行っていたことは明らかである。
d 虚偽の自白の強要
捜査官らが,具体的な嫌疑がない中,憶測に基づき恫喝や不相当な誘導をして虚偽の自白を強要したなどとする点について,平成15年4月17日以降,原告らに対する取調べは,いずれも必要性を認めて実施したものであり,取調べにおいては,本件選挙における選挙運動の状況その他必要な事情を聴取したのであって,原告X6に係る公職選挙法違反の事実に固執した取調べは行っておらず,探索的な取調べを行ったり,嫌疑もない中,原告X6から金品をもらっただろうなどと責め立てたりした事実はない。
e 各原告に対する取調べの適法性
(a) 原告X1の「私を殺して」発言
原告X1は,同月18日,A14警部補とA38巡査部長の取調べを受け,戸別訪問等の選挙運動の実態について取り調べたところ,原告X1は,自らが行った告示前の戸別訪問,会社同僚等と行ったローラー作戦と称する大規模な戸別訪問,会社の同僚等と行った告示後の戸別訪問等の事実について供述している。
同日の昼食時間に,原告X1が「私を殺して」と叫ぶなどしたことから,原告X1のプライバシーの保護に加え,事故防止等の目的で,トイレに行く際には,A38巡査部長が入口付近まで付き添っている。
原告X1は,同日の午前中の取調べで,原告X2以外はA2県議の支持であるなどとした上で,「a3集落の5世帯中,X4方,X12方の2軒については,A2県議支持者であったが,X6に投票してくれたと思っている。」などと供述した。A14警部補が,原告X1に対して,A2県議支持者である2軒が対立候補者である原告X6に投票したと思う理由について質問したところ,原告X1は黙り込み,午前の取調べ終了後,取調室において「私を殺してくれ,いいから私を殺してくれ。」などと叫ぶなどし,さらには,午後の取調べにおいて用便に立った際,女子トイレに閉じこもって,「私を殺して,包丁を持ってきて私を殺して。」などと叫んだ。
このように,原告X1は,A2県議支持者である2軒が対立候補者である原告X6に投票したと思う根拠について質問されて返答に窮したことから,用便に立った際,女子トイレに閉じこもって「私を殺して,包丁を持ってきて私を殺して。」などと叫んだものであり,A14警部補が強圧的な取調べによって原告X1を精神的に追い詰めたなどという事実はない。
(b) 原告X1の「死にたい。」発言
原告X1は,同月19日の取調べ中に「死にたい。」と口にしたことはあるが,A14警部補が諭したところ,原告X1は冷静さを取り戻し,その後も取調べに応じたことはあるが,A14警部補において,「じゃあ俺の見ている前で死ね。」と言ったなどとする事実はない。
(c) 原告X1の「迷惑がかかると思った。」発言
原告X1は,同月20日,取調べを開始すると,「ウーウー」と呻き,「逮捕してください。頭が痛い。」などと言っていたが,その後,全面否認に転じたことから,A14警部補において,「貴方が昨日言ったことは何だったんですか。私が無理矢理調書を作ったんですか。正直に話をしなさい。」などと言って粘り強く説得したところ,同月19日に供述していた13人に対して,現金や焼酎を供与した事実を再度認め,一時否認した理由について,「自分が名前を出した13人に迷惑がかかると思った。」などと申し立てたものであり,A14警部補が,「お前のせいで皆が迷惑する。」などと怒鳴り続けた事実はない。
(d) 原告X1の取調室からの架電
同日,原告X1が取調室から架電したことについては,原告X1が,A14警部補に,「姉さん達からも話を聞くんでしょう。迷惑を掛けたくない。電話をかけてもいいですか。」などと申し出たことから,原告X1の意思を尊重して電話をかけることを認めたもので,県警が,原告X1に電話をかけるように強制したものではない。
原告X1が,実姉のA104に電話をかける際,A63巡査が同席したが,原告X1は,自らが話す内容について,A63巡査に聞かれることを承知した上で通話を行っている。
この時,A63巡査は,ICレコーダーを上着の右ポケットに入れていたものであるが,架電相手の通話内容については,A63巡査は聞いておらず,録音もされていない。
この時,原告X1は,A104に対して,「正直に言ってよ,1万円だからね,1万円と焼酎だよ。違う,あの1万円だよ,ちゃんと言ってよ,ごたごたするから。」などと話したもので,原告X1が,A104に対して,「もらったようにしてください。」などと話した事実はない。
(e) A63巡査のノート
原告X1が,同月21日,A63巡査に対して13名に現金や焼酎を供与した事実を否認したため,A63巡査がその旨をA4の紙に記載したところ,A14警部補がA63巡査に対して怒鳴り散らし,紙を破った上,原告X1にA63巡査に対する謝罪を強要したなどとする点について,A14警部補が退席した際,補助官のA63巡査が,原告X1の否認状況をノートに記録していたことから,A14警部補が,「余計なことをするな」と言ってA63巡査を叱責したが,供述が揺れ動いている状態の原告X1に対し,同性であるA63巡査が優しく声をかければ,原告X1の供述が変わってしまうことが考えられたことから,このようなことをしたA63巡査を叱責したものであり,A63巡査を怒鳴りつけたりはしておらず,A14警部補が,A63巡査のノートを破った事実もない。
A14警部補が,A63巡査を叱責したところ,原告X1は自ら謝罪したものであり,A14警部補が,原告X1に対して,A63巡査に謝罪するように強要した事実はない。
(g) 原告X2の主張する「お前を死刑にしてやる。」発言
原告X2が,A16警部補から,取調べにおいて,「お前を死刑にしてやる。」,「認めなければ逮捕する。」,「認めなければ地獄行き。」などと恫喝された事実はない。
原告X2の供述は,客観的事実に矛盾していたり,誇張がみられる。すなわち,原告X2は,本件刑事事件の公判において,X1焼酎事件の取調べにつき,「現金はいくらかとの質問に対し,5,000円と言ったら,そんな半端なお金じゃないとA16刑事から言われた。そこで,私が1万円ですかと言ったら,違うと言われたので,私は5,000円ずつ上げていった。2万円のところで,そうだろ,2万円だよとA16刑事に言われた。」という趣旨の供述をしているが,当該供述を概観する限り,原告X2は,X1焼酎事件について,初めて受供与金額について具体的に供述した日の取調べ状況について供述しているところ,原告X2は,同年4月22日,X1焼酎事件について受供与金額を1万円と供述しているのであって,客観的事実に矛盾する。
原告X2は,単に取調官がよそ見する原告X2の注意を引くために,消しゴム付きの鉛筆を逆さに持って,消しゴム部分で机をコツンコツンと軽く叩いたことを誇張して,あたかも違法な捜査が行われたかのように主張しているにすぎない。
A16警部補が,原告X2に対し,「ポリグラフ検査の機械は嘘は言わない,きれいに出ている。X2は嘘を言っている。」などと言ったとする点について,ポリグラフ検査の結果について実際に反応があったため,「反応がありましたよ。」とありのままを告げただけであり,原告X2が主張するような事実はない。
原告X2にポリグラフ検査をするに当たっては,原告X2の同意を得て行っていることから,国家賠償法上違法となるものではない。
(h) 原告X2の連れ戻し
A16警部補が,原告X2が同月22日,体調が悪いので帰りたいというのを無視して取調べを行い,憤慨して取調室を出て行った原告X2を強引に連れ戻したなどとする点については,次のとおりである。
A16警部補が,任意出頭した原告X2に対し,取調べを開始すると,原告X2は,前日に自供した原告X1からの受供与事実を否定したことから,A16警部補において,その理由等を尋ねるなどして取り調べたところ,原告X2は声を荒らげて,「貰ってない。X1に会わせてくれ。帰ります。」などと申し立てたので,A16警部補が,「落ち着いてください。」と言ったが,原告X2は,無言で取調室から出て駐車場へと向かった。
このため,A16警部補らは,このような興奮状態で車を運転させて帰宅させることは危険と判断し,原告X2の後を追って駐車場付近で同人に対して,「そんな興奮した状態で車を運転したら事故を起こします。冷静になって下さい。体調が悪いときはいつでも中断します。」旨申し向けたところ,同人は次第に落ち着きを取り戻し,「分かりました。」と言って自ら取調室に戻ったものであり,A16警部補らが強引に連れ戻した事実はない。
(i) 亡A1が作成したノート(以下「A1ノート」という。)の信用性
亡A1が,A20警部補から,同月19日に仮の話でよいなどとして,同月20日に,亡A1の供述内容が原告X1の供述内容と違うにもかかわらず同じであるなどとして,それぞれ偽計による虚偽の自白をさせられたと主張する点について,原告らは,A1ノートの記載を根拠としており,原告らは,A1ノートの成立過程を「任意取調べを受けることとなった後,取調べを受ける都度,あるいは,取調べを受けた後,間を置かずに,取調べの状況について,メモしたものである。」とし,立証趣旨を「自白採取過程において強制や誘導等の違法な取調べがなされた事実を立証する」としている。
しかしながら,A1ノートには,取調べ実施日として,同年4月19日,同月20日,同月22日,同月23日,同月25日,同月26日,同月30日,同年5月2日ないし同月10日が記載されているものの,実際に取調べが行われた同年4月16日,同月24日についての記載がないほか,同月30日については,取調べを行っていないにもかかわらず,取調べがあったと記載されており,事実と異なっている。
この点につき,亡A1は,本件刑事事件の公判において,ノートを書き始めたのは同月19日からであり,取調べを受けた日の夜,ノートに書いた旨供述しているが,検察官から取調べを受けていない日の記載について指摘されると,後日まとめて記載した旨供述している。
このように,A1ノートの記載内容については,後日まとめ書きしたことによる思い込みや,記憶違いが記載されているのであって信用することができない。
(j) 原告X8の同年4月19日,同月24日,同月28日の取調べ
原告X8は,同年4月19日の取調べにおいて,A36巡査部長から,「X1が配ったと言っている。」などと言ってX1焼酎事件の自白を強要したと原告らは主張するが,そのような事実はない。
原告X8は,同月24日から食事も取れない健康状態が続いたと主張するが,A36巡査部長は,昼食時に適宜,休憩と食事を取らせており,原告X8が主張するような事実はない。
原告X8は,同月28日,体調不良のため陽春堂診療所で診察を受けた,医師からは,取調べのための精神的なものと言われ,安定剤等を処方され,また,栄養のための点滴を受ける状態であり,同月29日朝も同診療所で点滴を受けたが,A36巡査部長は,同日,原告X8が同診療所で治療を受けるのを待ち,診療が終わると志布志署への同行を求め,抗拒不能の状態にあった原告X8を取り調べたなどと主張するが,A36巡査部長は,同月28日は,体調不良との本人の申し出により,取調べを中止し,同月29日は,取調べが可能である旨の申し出があったため,任意同行を求めたものであって違法性はない。
(k) まとめ
原告らは,原告X1の同月25日ないし同月28日の取調べ,原告X8の同月24日の取調べ,原告X2の同月25日の取調べについて,取調官の恫喝,不相当な誘導,偽計により,供述調書の内容の供述を強制した旨を主張するが,いずれもそのような事実はなく,取調官は,必要な事項について詳細に事情聴取を行い,その結果,原告らが上記各供述を自発的に行ったものである。
(3)  争点(1)ウ(平成15年4月30日の本件買収会合事件の端緒の把握から平成15年5月13日の第2次強制捜査までの捜査に関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 同月30日以降捜査を継続させたことの違法性
a X1焼酎事件の嫌疑の消滅
本件現地本部は,原告X1を逮捕後,平成15年4月29日までに捜査を継続したが,その間の供述の不一致,積極証拠の欠如,消極証拠の収集に照らせば,X1焼酎事件の嫌疑としては完全に消滅していたことは明らかである。
b 有罪を基礎付ける客観的証拠の不存在
本件現地本部が,同日までの捜査で,収集した客観的証拠は,①原告X1及びその家族,原告X4及びその家族,亡A1及びその家族の各預貯金口座,②原告X1のf社のタイムカード2月分・3月分・4月分等であるが,①から関係者の口座の動きに何ら不自然な点がなく,②からは,逆に原告X8の自白が虚偽であることが明らかになるなど,有罪を基礎付ける客観的証拠は全くと言ってよいほど収集できなかった。
c 供述内容の不一致等
本件現地本部が同日までの捜査で,収集した供述証拠は,取調官が自白を強制したり,不相当な誘導を繰り返しても,なお,供述内容の不一致があり,全面否認の者も数多く,自白者は不自然に供述を変遷させるなど,およそ信用することができないものであることは明らかであった。
X1焼酎事件の被疑者の供述内容とその時期は,以下のとおりである。
(a) 原告X1
同月19日 13名に1万円と焼酎2本を後援会入会申込書と一緒に持っていった。現金と焼酎は同じ時期。
同月27日 供与金額が1万円から2万円に変遷。
(b) 原告X8
同月19日 後援会入会申込書と一緒に焼酎1本,3月20日に現金1万円。
同月29日 変遷せず。
(c) 亡A1
同月19日 3月上旬頃,焼酎2本と現金1万円を原告X1からもらった。
同月26日 原告X1は2回来た。一度目は,2月中旬か下旬,後援会入会申込書をもってきた。二度目は,3月上旬か中旬頃,現金1万円と焼酎2本。
(d) 原告X2
同月22日 後援会入会申込書をもってきた数日後,焼酎2本と現金1万円。
同月25日 一旦否認。
同月29日 2万円と焼酎2本。
(e) A108
同月24日 現金1万円と焼酎2本。
同月29日 現金2万円と焼酎2本。
(f) A105
同月27日 原告X1が後援会入会申込書をもらいに来た日に,焼酎2本と1万円をもらった。
(g) A85
同月27日 現金1万円と焼酎2本
(h) A86
同月22日 現金1万円と焼酎2本
(i) その他5名
事実関係を一貫して否認。
d A10署長の妄想
しかし,同日以降,何かあるに違いないと妄想したA10署長が,上命下服の関係を悪用して,更なる捜査を指揮したものであるが,その指揮には合理性は全く無いものであり,捜査継続自体が違法であった。
e 信用性のない原告らの自白
その結果,身柄不拘束のまま,同月21日から連日のように取調べを受けていた原告X8は,同月30日,X1宅で現金1万円を受け取ったと述べ,買収会合について初めて自白するに至った。
その経緯は,A36巡査部長が,同日,取調べのため,原告X8を自宅まで迎えに行ったところ,体調がすぐれないので病院に行かせてほしいとの申し出があり,病院で点滴を受けさせてから,警察署に同行し,午前11時頃から取調べを開始し,X1焼酎事件について尋問したところ,原告X8が,下を向いたり,追及すれば黙り込んだりという様子で,何か隠しているのではないかと感じたことから,「他には何かもらってないのか。」などと追及すると,しばらくして,原告X8が「実は,X1ちゃんの家で集まりがありました。」と自白を始めた。
一通り話を聞いたところで,原告X8が「横にならしてください。」と言ったので,簡易ベッドに横にならせて取調べを続け,調書作成をした。
その際,原告X8は,横になったままで,問いかけたら目を開いて答えるような状態であった。同日の取調べは午後6時頃まで行われたというのである。そうすると,この自白にもはや信用性がないことは明らかであった。
これは,A36巡査部長が,焼酎と現金をもらった機会が別だという原告X8の供述をヒントに,また,A14警部補が,原告X1を強制して,原告X8らに2万円の現金を供与した旨に供述調書を作成していたことから,同年3月20日の1万円とは別の機会に,別の1万円をもらったのだろうと,不相当な誘導・強制をして,X1宅で集まりがあったのだとの虚偽の自白を強制したものであり,原告X8の知的能力や体調,それまでの取調べ時間等を考慮すれば,この自白が取調官によるねつ造であることは容易に推認できたはずであるのに,本件現地本部は,この自白内容について十分な吟味をしなかった重大な過失があったというべきである。
(イ) 同月30日から同年5月7日までの間の捜査会議の簡略化等の違法性
a A10署長の予断・偏見に基づく指示と箝口令
A12警部は,平成15年4月30日,A36巡査部長の報告を受けた後,A10署長に対し,その内容を報告した。
A10署長は,このとき,A12警部に対し,「新しく出た事実であるから,真実を見極めよ。饗応事件を調べるつもりでやれ。全てを出させるつもりでやれ。取調官に先入観を与えるな。取調官同士を語らせるな。」などの指示をし,「関係者の結束が固かったということだ。」などとの感想を述べている。
しかし,同日の原告X8供述を「新しく出た事実」と決めつけ,「全てを出させるつもり。」などと未だ隠していることがあると思い込み,X1焼酎事件が無実であるのに,集落ぐるみで口裏合わせしていると思い込んで,真摯に証拠資料に向かい合っていなかったことが明らかになっている。
このような,予断・偏見に基づく指示の下で,本件現地本部は,県警本部に指揮伺いをすることなく,同月30日の捜査会議で,捜査会議を簡略化して,取調官同士の情報交換を禁止し,情報を取調班長であるA12警部に一元化して,取調べを行うという「箝口令」というべき捜査方針(以下「本件箝口令」という。)をとることとし,A12警部は,この会議の席で,「X8が現金買収の事実を自供した。生の供述を引き出す取調をせよ。関係被疑者の調書は見るな。」などと,取調官に対して指示をした。
b 同年4月30日から同年5月7日までの取調べ
本件現地本部は,同日から,同年5月7日まで,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対し,長時間の取調べを行った。
原告X1ら上記5名は,捜査官による誘導,心理的抑圧の違法な取調べによって,本件選挙前に,原告X6による買収会合が4回あり,その供与金額は,1回目会合が6万円,2回目会合及び3回目会合がいずれも5万円,4回目会合が10万円であるとの虚偽の自白をした。
同期間の上記5名の以下の供述の変遷の経緯からも,各供述が相互に影響を及ぼし合いながら,次第に合致しており,そこに捜査官による強制・誘導があったことは明らかである。
c 同年5月1日の取調べ
(a) 原告X4
① 取調時間 午前8時55分から午後0時20分まで,
午後1時04分から午後7時40分まで
② 会合回数 1回
③ 金額 午前の取調べ 本人3万円,妻2万円。
午後の取調べ 本人5万円,妻5万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前11時15分から午後0時20分まで,
午後1時10分から午後7時42分まで
② 会合回数 1回
③ 金額 本人3万円,夫8万円
(c) 原告X1
① 取調時間 午前8時36分から午前10時30分まで(刑事調べ),午前11時から午後7時25分まで(検事調べ)
② 会合回数 1回
③ 金額 4万円から5万円
(X1焼酎事件 原告X8と亡A1に各2万円宛)
(d) 原告X2
① 取調時間 午前7時48分から午後0時30分まで,
午後3時10分から午後8時00分まで
② 会合回数 否認
③ 金額 否認
(e) 亡A1
取調べなし(自損事故で入院中)
d 同年5月2日の取調べ
(a) 原告X4について。
① 取調時間 午前8時55分から午後0時20分まで,
午後1時04分から午後7時40分まで
② 会合回数 2回
③ 金額 3万円,5万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前11時13分から午後0時10分まで,
午後1時10分から午後7時55分まで
② 会合回数 1回
③ 金額 5万円
(c) 原告X1について。
① 取調時間 午前9時6分から午前11時53分まで,
午後1時20分から午後4時50分まで,
午後5時25分から午後7時40分まで
② 会合回数 1回
③ 金額 5万円
(d) 原告X2
① 取調時間 午前7時15分から午後0時45分まで,
午後3時5分から午後8時まで
② 会合回数 1回
③ 金額 3万円
(e) 亡A1
① 取調時間 午前9時5分から午後0時5分まで,
午後1時から午後7時10分まで
② 会合回数 1回
③ 金額 5万円
e 同年5月3日の取調べ
(a) 原告X4
① 取調時間 午前8時55分から午後0時35分まで,
午後1時30分から午後7時25分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 5万円,5万円,10万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前8時55分から午後0時20分まで,
午後1時04分から午後7時40分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 3万円,2万円,5万円
(c) 原告X1
① 取調時間 午前9時3分から午前0時8分まで,
午後1時30分から午後4時50分まで,
午後6時5分から午後7時49分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 5万円,5万円,10万円
(d) 原告X2
取調べなし
(e) 亡A1
① 取調時間 午前9時15分から午後0時25分まで,
午後1時20分から午後6時40分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 2万円,5万円,20万円
f 同年5月4日の取調べ
(a) 原告X4
① 取調時間 午前9時00分から午後0時05分まで,
午後1時から午後8時30分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 10万円,5万円,10万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前9時00分から午後0時5分まで,
午後1時10分から午後8時30分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 5万円,5万円,10万円
(c) 原告X1
① 取調時間 午前9時10分から午前11時57分まで,
午後1時17分から午後4時52分まで,
午後6時12分から午後7時50分まで
② 会合回数 4,5回
③ 金額 2か3万円,5万円,5万円,10万円
(d) 原告X2
① 取調時間 午前7時25分から午後1時20分まで,
午後2時20分から午後8時05分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 5万円,5万円,10万円
(e) 亡A1
① 取調時間 午前9時10分から午後0時10分まで,
午後1時5分から午後7時10分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 2万円,5万円,10万円
g 同年5月5日の取調べ
(a) 原告X4
① 取調時間 午前9時20分から午後1時40分まで,
午後1時10分から午後8時10分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 10万円,5万円,10万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前9時20分から午後0時まで,
午後1時から午後8時15分まで
② 会合回数 3回
③ 金額 3万円,5万円,10万円
(c) 原告X1
① 取調時間 午前9時5分から午後10時55分まで(刑事調べ),
午前11時40分から午後7時55分まで(検事調べ)
② 会合回数 4回
③ 金額 3万円,5万円,5万円,10万円
(d) 原告X2
① 取調時間 午前9時18分から午後0時5分まで,
午後1時10分から午後8時まで
② 会合回数 3回
③ 金額 5万円,5万円,10万円
(e) 亡A1
① 取調時間 午前9時15分から午後1時10分まで,
午後1時55分から午後8時10分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 2万円,5万円,5万円,10万円
h 同年5月6日の取調べ
(a) 原告X4
① 取調時間 午前9時20分から午後0時40分まで,
午後1時10分から午後8時10分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 6万円,5万円,5万円,10万円
(b) 原告X8
① 取調時間 午前11時35分から午後0時50分まで,
午後1時30分から午後8時まで
② 会合回数 4回
③ 金額 6万円,5万円,5万円,10万円
(c) 原告X1
① 取調時間 午前9時5分から午前11時40分まで,
午後1時10分から午後4時50分まで,
午後6時15分から午後7時50分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 3万円,5万円,5万円,10万円
(d) 原告X2
① 取調時間 午前8時25分から午後0時10分まで,
午後1時15分から午後1時50分まで,
午後3時10分から午後8時40分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 3万円,5万円,5万円,10万円
(e) 亡A1
① 取調時間 午後0時15分から午後0時55分まで,
午後1時から午後5時30分まで,
午後5時40分から午後7時30分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 3万円,5万円,5万円,10万円
i 同年5月7日の取調べ
(a) 原告X4
取調べなし
(b) 原告X8
取調べなし
(c) 原告X1
① 取調時間 午前9時3分から午前11時50分まで,
午後1時8分から午後4時52分まで,
午後6時9分から午後7時56分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 6万円,5万円,5万円,10万円
(d) 原告X2
① 取調時間 午前10時40分から午後0時30分まで,
午後1時35分から午後10時20分まで
② 会合回数 4回
③ 金額 6万円,5万円,5万円,10万円
(e) 亡A1
① 取調時間 午前8時55分から午後0時20分まで,
午後1時04分から午後7時40分まで
② 会合回数 2回
③ 金額 3万円,5万円
j この間の上記5名に対する違法な取調べ
(a) 原告X1に対する違法な取調べ
原告X1は,同月1日から同月7日までA14警部補の取調べを受けたが,同月2日,A14警部補から,「貴方が嘘を言っているので,a3集落の5人も逮捕するよ。そのことで毎日みんな刑事さんに呼ばれて,点滴しながら,つらい思いしながら話をしている。」などと,a3集落の5人が取調べを受けていることが,原告X1の責任かのように思わされて,取調べを受忍させられていた。
原告X1は,A14警部補から,恫喝・不相当な誘導を受け,原資は原告X7から受け取った旨供述を強制され,さらに買収に関与した場面として8つの場面があったとする明らかに不合理な内容の供述をさせられた。
原告X1は,同月4日,「会合に来た人とあなたの話しが食い違っている。」,「あなたのせいで,その人たちが刑事に責められている。」と不相当な誘導や恫喝をして,虚偽の自白を強要された。
原告X1は,同月5日,A14警部補から4回会合の事実を告げられて,「他の者がみな認めている。」などと違法な切り違い尋問をするなどして虚偽の自白を強制された。
原告X1は,同月6日,「私が逮捕される数日前の夜にX6社長とiホテルのA5さんが私宅に来て現金20万円入り封筒を渡したことがありました。」,「口止め料であり,X6から渡された。」などとする供述を不相当に誘導され,さらに,「逮捕前にX6らから貰った現金は,20万円ではなく,30万円でした。金額のことを聞かれて咄嗟に20万円と少なく言った。茶封筒に入っていた。金額を少なくして言ったのは,刑事さんからいろいろなことを言って貰って反省しているにもかかわらず20万円と嘘をついたのは,私の中の汚さの部分だと思います。」などと不相当に誘導された。
原告X1は,同月7日,A14警部補から,「もしあなたが認めなければ,今から四浦に行ってじさまも調べる。」,「じさまも逮捕する。」と脅し,さらに,原告X1と会話が十分には成り立たないことから,原告X1に対し「ウソつき呼ばわり」して供述を強制し,供述を変更させた。
(b) 原告X4に対する違法な取調べ
原告X4は,同月1日から同月7日までの間,高血圧の持病から取調中に頭痛を訴えたが,帰宅させてもらえず,虚偽の自白を強制された。
原告X4は,同月1日から同月6日までA15警部補の取調べを受け,A15警部補から,同月1日,「お前が一番最初に自白するわけではないから,認めた方が自分のためだぞ。四浦を一軒一軒お前のことを聞いて回るぞ,そうしたらお前は,集落にいられなくなるぞ」と脅された。そして,A15警部補は,原告X4が一通り自白した後,原告X4から,自分がしゃべったことは絶対に他の人に言わないで欲しい,もしこのことをばらしたら,あなたを包丁で刺す旨を告げられたのに対し,「ピストルでうつ。」などと脅しており,この点でも違法というほかない。
A15警部補は,その取調べにおいて,他の者が供述した事実を否認している原告X4に対し,何か隠し事があると決めつけ,複数回にわたって,「隠してることがあればタオル,なければ帽子をつかんでください。」などと,不相当な誘導をして黙秘権を侵害して,供述を強制した。
これは,原告X4に軽度の知的障害があることを知って,ある意味,原告X4を小馬鹿にした取調べ方法であり,許されないものである。
A15警部補は,原告X4に対し,「選挙違反というのは交通違反と一緒だから,殺人をしたわけじゃないんだから,罰金さえ払えばすぐ出られるんだよ。」などと偽計・利益誘導を行った。
(c) 原告X8に対する違法な取調べ
原告X8は,同月1日から同月7日まで,A36巡査部長の取調べを受けたが,A36巡査部長は,A12警部の具体的な指示に基づく確認事項を,長期間・長時間の威迫的取調べにより精神状態に異変を生じていたこと等に乗じて,「罰金で済む。」などと偽計・利益誘導を繰り返し,また,不相当な誘導を行って,さらには,威迫して,供述を変更させた。
A36巡査部長は,同月4日,原告X8が,勇気を出して「今までのことは嘘だった。」と訴えると,「お前はバカだから死ね。」と自殺を強要された。
(d) 原告X2に対する違法な取調べ
原告X2は,同月1日,同月2日,同月4日から同月7日まで,A16警部補の取調べを受けた。
A16警部補は,長時間・長期間の強制連行により,精神的に屈服し,足の調子も悪く,迎合する状況にある原告X2に対し,X1宅で会合があり,現金をもらっただろうと不相当な誘導を繰り返して,上記供述を強制した。
具体的には,A16警部補は,会合はなかったと否認する原告X2に対し,「多数の人が会合事実を認めておりますよ。」と偽計を用い,「何故,嘘を言うのだ,みんなが会合があったと言っている,ちゃんとX1も認めている,お前が一人いくら頑張っても他の人が認めている。」,「選挙運動は交通違反と一緒だから罰金で済むんだから正直に言って,早く仕事に行けるようにしたほうがいいんじゃないのか。」,「認めたら天国,認めんかったら地獄に行くぞ。」,「今の,現在のことじゃなくて,これからのことを考えて言ったほうがいいんじゃないですか。」と会合があったと決めつけた不相当な誘導を伴う取調べを行って,供述を強制した。
A16警部補は,同月2日,原告X2が会合を認めさせられたとき,「X1からもらった金額は1万円かなあ」と答えているのを聞き,他の者との供述が違っていたことから,迎合する傾向が顕著に見られる原告X2にさらなる供述の変更を強制するなどした。
A16警部補は,原告X2から買収会合が4回あったとの供述をさせた際,原告X2が買収会合の回数について,「1回じゃない,2回ですか。」と聞くと,「いや,違う。」と言われ,「3回ですか。」と聞いたら,また,「いや,違う。」と言われた,「4回ですか。」と聞いたら,「4回あったんだと,お前,分かってるじゃないか。」と不相当な誘導を繰り返し,供述を強制した。
(e) 亡A1に対する違法な取調べ
亡A1は,同月2日から同月7日まで,A17警部補の取調べを受けたが,A17警部補は,その間,亡A1に対し,がんがんとやかましく「会合が3,4回あった。」等と言って,自白を強制した。
A17警部補は,亡A1が事実関係を否認しても,「警察は,1か月や6か月じゃなく,1年か2年はこうして毎日呼び出す。」,「ほかの人はみんなやってると言うんだから。」,「今で言ってしまえば,選挙違反というのは交通違反と一緒やと,もう,言うて罰金せか納めれば何にもないんだ。」などと告げて自白を迫った。
A17警部補は,買収会合で受け取ったとされる金額を,A4判の白紙に1から30までの数字を書き,それが万単位であるとして,これを示すよう強制し,「ほかの人は幾らと話をしてるんですか。」と明らかに迎合し,金額を尋ねている亡A1に対し,数字を指し示させ,「その数字は端が悪い。」などと相当性を欠く誘導をして供述を強制した。
A17警部補は,同月4日,亡A1に対し,会合において原告X6から直接金員を手渡されたと自白するよう脅迫した。
A17警部補は,同月5日,亡A1に対し,3月の会合が1回足りないなどと告げ,午前中,威嚇的な尋問をし,結局,亡A1に対し,その旨の自白を強制した。
A17警部補は,同月6日,亡A1を退院させて取調室に同行して,取調べを継続し,買収金額が違うだろうと不相当な誘導をして,2万円から3万円に変更するよう供述を強制し,さらに同月7日には2人分6万円に変更するよう供述を強制した。
A17警部補は,否認する亡A1に対し,「無実の証拠をもってこい。」と不可能を強いて,自白を強制した。悪魔の証明を求める取調べであり,これ自体,違法な取調べ方法である。
(ウ) 変遷のあった虚偽の供述内容が一致した原因
原告X1らの供述は,捜査官らが,追及的・強圧的な取調べ,誘導による取調べ,利益誘導による取調べ,切り違い尋問ないし誤導尋問がなされた結果,供述内容が一致したにすぎないことは,以下の事情から明らかである。
a 買収会合の回数に関する供述の変遷
原告X1ら5名は,いずれも自白した当初は,1回の買収会合についてのみ供述していたが,平成15年5月2日に原告X4が買収会合が2回開催されたと供述するや,同月3日には,原告X8,原告X1及び亡A1がそろって,3回の買収会合の事実を供述するとともに,原告X4も買収会合の回数を3回と訂正し,同日に取調べのなかった原告X2も,同月4日に3回の買収会合の事実を供述するに至っている。ところが,同日に原告X1が買収会合の回数を4,5回ぐらいと供述するや,これに影響されるかのように,同月5日から6日にかけて,他の4名が買収会合の回数を4回と訂正するに至っている。このように,買収会合の回数に関する供述は5名とも変遷を重ねている。
b 買収会合で供与された金額の変遷
また,買収会合で供与された金額についても,当初は供述内容に相当のばらつきがあったが,最終的には原告X1ら5名の供述が一致しているところ,この供述経過も不自然である。
すなわち,原告X8の供述経過についてみると,同年4月30日には受供与金額を1万円と供述していたのを,同年5月1日に3万円,同月2日に5万円と,次々と供述を変え,同月3日に受供与金額を3万円,2万円,5万円と供述しているが,最終的な自白内容が真実であるとすれば,どこから2万円という供述が出てきたのか,合理的な説明が困難である。同じ同月3日には,亡A1も2万円を受け取ったとの供述をしているところ,原告X8の供述と亡A1の供述のどちらが先になされたのかは明らかでないが,一方の供述が他方に影響を及ぼしたと考えられる。その余の変遷についても,合理的な説明はつかない。
次に,原告X1の受供与金額についてみると,同年4月30日から同年5月7日までほとんど毎日のように金額に関する供述が変転しており,同年4月30日に金額を1万円と供述していたのを,同年5月2日に5万円と供述を変えている。この点に関し,取調官であるA14警部補は,本件刑事事件の公判期日において,同月2日に供与金額の変遷について「いやあ,2万だったかなあ。3万だったかなあ。でも,やっぱり5万でした。」と曖昧な供述であったとしているが,そのような変遷に合理性は見いだし難い。
原告X1は,同月4日には,買収会合の回数を4,5回ぐらいと供述するに至っているが,原告X1は,会合を自宅で開催する立場だったのであるから,その開催された回数について,記憶が明確でないということは考えにくく,かつ,最終的な自白内容が真実であるとすれば,5回との供述が出てくることはあり得ないのであって,この点でも不合理である。その余の変遷もいずれも合理的な説明はつかない。
原告X4の供述経過もまた,同月1日から同月6日までほとんど取調べの日ごとに供述が変転しており,極めて不安定な供述経過となっており,同月4日及び同月5日に受供与金額を10万円,5万円,10万円と供述しているが,最終的な自白内容を真実であるとすると,なぜ10万円を2度受け取ったという供述が出てきたのか,合理的な説明がつかない。
この点に関し,取調官であるA15警部補は,本件刑事事件の公判期日において,同月6日の取調べの際,原告X4が,罰金額のことを慮って買収会合の回数や受供与金額を過少に供述していたことを打ち明けて,会合の回数と金額を訂正したとしているが,同月5日の供述と同月6日の供述とで,原告X4が買収会合で受け取った金銭の総額は,25万円から26万円に増えただけであることに照らせば,原告X4が刑責軽減のためにあえて受供与金額を過少に供述していたとの説明も納得し難い。
原告X2の供述経過についてみても,会合が複数回行われたことを認めた同月4日以降にも,受供与金額に関する供述が変転を繰り返している。
この点に関し,取調官であるA16警部補は,本件刑事事件の公判期日において,原告X2が,変遷の理由について,取調官がどれぐらい事実を把握しているのかを,刑事の手の内を探りながら,小出しに話をしたと述べたとしている。しかしながら,A16警部補の供述によると,A16警部補は,同月7日まで,他の被疑者の供述内容についてほとんど情報を持たずに取調べに臨んだというのであり,手の内の探り合いにはなるはずがなく,不可解である。
さらに,亡A1についても,買収会合の事実について自白を始めた同月2日から同月7日まで,日々供述を変転させるという極めて不安定な供述経過をたどっている。取調官であるA17警部補は,亡A1が刑責軽減のために受供与金額を過少に供述したことを告白し,特に,同月3日に3回目の会合の受供与金額を20万円と供述していた点については,後に20万円については別の機会に原告X3からもらった余罪の金額であったと供述の変遷の理由を述べたとしているが,仮に,別の機会に原告X3から20万円をもらったという事実があったとしても,意図的にそのときの金額を3回目の会合における受供与金額であると供述する理由はないし,記憶違いであるというのも,20万円という金額が極めて過大であることからすると考えがたいのであって,そうすると,亡A1がその余の変遷について,刑責軽減のために受供与金額を過少に供述したとしていることとも矛盾するのであって,亡A1の供述の変遷に何ら合理性は認められない。
c 本件買収会合のアリバイの存在
そして,本件買収会合は,1回目会合及び4回目会合につきアリバイがあるのであり,この点は本件刑事事件の判決においても明確に認められているとおりであって,4回の会合があったことは客観的にあり得ないのであるから,原告X1らの自白は虚偽のものであったことは明らかである。
このことは本件現地本部の捜査幹部らが立てた本件の事件全体の構図(見立て)が完全に誤りであったのに,原告X1らに,その構図に合わせた虚偽の自白をさせたことの証左である。
d 結論
したがって,被告県は,原告X1らに対し,虚偽の上記(ア)(イ)の違法な捜査によって虚偽の自白を強いられたのであって,被告県はこの点について責任を負う。
イ 被告県の主張
(ア) 同月30日以降捜査を継続させたことの適法性
a 原告X8による買収会合の供述
本件刑事事件については,X1焼酎事件の捜査を進めていた同年4月30日,同事件の受供与被疑者である原告X8が,X1宅で買収会合が開かれたと供述したことから,名前の挙がった関係者を取り調べるなど,必要な捜査を開始したものである。
b 原告X8の供述態度
A36巡査部長は,同日,X1焼酎事件の詳細な状況を聴取する過程で,原告X8が取調官を注視しなかったり,下を向いたり,追及すれば黙り込むといった様子から,同人が全てを供述していない可能性があると判断し,「あなたは何かまだ隠していることがあるんじゃないですか。」などと告げながら取調べを行っていたところ,原告X8は程なくして,「私が言ったことは他の人には分からないですよね。」と前置きした上で,県警において未把握の買収会合の事実について自ら供述したものである。
c 同意を得た任意同行
原告X8は,同日,任意同行を求めると,「午前中に病院に行かしてください。」と申し出たことから,A36巡査部長は,診察を受けさせ,診察が終わるのを待って,医師から診察結果を聴取して,原告X8が取調べを受けられる状態であるか否かを確認するとともに,原告X8本人に対して体調等を確認した上で任意同行を要請したものであり,「大丈夫です,受けます。」との同意を得て任意同行し,取り調べたものである。
d 簡易ベッドにおける聴取
原告らは,取調べが始まる前から原告X8を簡易ベッドに横たわらせ,虚偽の自白調書を作成していったかのように主張するが,A36巡査部長が本件刑事事件の公判で証言したとおり,原告X8が自供したときは,椅子に座って正対する形で対話し,図面も記載するなど,変わった状況はなかったが,供述が終わった後に話したことで力が抜けました,横にならしてくださいと申し出たので簡易ベッドに横にならせたのであって,原告X8の会合事実についての供述の任意性は何ら否定されるものではなく,むしろ,A36巡査部長が原告X8の体調に配慮していたことの証左である。
(イ) 平成15年4月30日から同年5月7日までの間の捜査会議の簡略化等の適法性
a 慎重な検証の必要性
本件刑事事件については,県警がそれまで未把握で,新たに出た買収会合事実が真実であるか見極める必要があったことはもちろんのこと,これまで捜査を行ってきたA5ビール事件やX1焼酎事件などの物品買収事件とは異なり,複数の関係者が一堂に会した場で行われるといった複雑な性格を有していることから,本件刑事事件に関する関係者の供述は,より慎重に検証する必要性が認められたところである。
したがって,関係者の供述の任意性を確保する観点から,関係者からありのままの供述を引き出すために,取調官が予断を持って取調べを行うことのないようにする必要がある一方で,関係者が,事実を隠して虚偽の供述をしたり,記憶が曖昧で結果的に事実と異なる供述をしたりすることも十分考えられるところであり,真実を追究するためには,関係者間の供述の矛盾点や不審点等を追及することや,記憶を整理させた上で供述させることも必要であったことから,平成15年4月30日以降,毎日行っていた捜査会議を簡略化し,関係者の供述などを取調官同士で情報交換・共有することを禁止した上で,取調べ状況をA12警部が一元的に管理することとした。
そして,A12警部において,必要に応じてA10署長やA11警部と協議を踏まえながら,各取調官に先入観を与えることのないように十分に留意しつつ,個別に取調べの要点を指示するなどして関係者間の供述の矛盾点等を解消していったものである。
このように,本件現地本部において捜査会議の簡略化を行った目的は,あくまで真実を見極めるためであり,「A12警部をインフォメーションセンターとする取調べによって虚偽の供述を強要した。」などとする原告らの主張は,具体的根拠のない憶測にすぎない。
b 捜査会議簡略の時期
捜査会議を簡略したのは同年4月30日の夜から同年5月7日頃までであり,その間,関係者の供述が変遷したことや,買収会合の金額,参加者,回数等がおおむね一致したことについては,被告県としては争いはない。
この点につき,原告らは,「各人の自白それ自体に不合理な変遷があり,かつ相互に不自然に一致しながら変遷をしており,到底,信用することができないものであった。」と主張し,さらに,「A12警部及びA10署長は,各取調官から得られた明らかに虚偽の自白であると分かる供述をもとに,他の取調官に指示を出して,これに沿うように,さらなる虚偽の自白を獲得させ,さらに,その獲得した虚偽の自白に基づいて,A12警部は更なる指示を出していった(中略)取調官らは,それぞれ担当する原告ら及び亡A1から内容虚偽の自白を獲得し,最終的に4回目買収会合を捏造した。」などと主張する。
しかし,一般的に,買収会合などの複数の関係者からなる選挙違反事件において,全員の供述内容が当初から容易に合致するといった事例は極めてまれであり,本件買収会合のように複数回に分けて行われた事案であれば,全て合致することはなおさら困難であるといえる。
原告らが主張するように,A10署長やA12警部が本件刑事事件をでっち上げ,自分たちの意に沿うような虚偽の供述を作り上げるよう取調官に指示したのであれば,無用に供述を変遷させることなく,作り上げたもっともらしい事実や証拠に適合するよう最初から誘導したはずであり,むしろ,供述が変遷したことは,県警が真実究明に向けて関係者からありのままの供述を引き出そうとした結果であるといえる。
取調官は,捜査会議が簡略化されている間,他の関係者の具体的な供述内容を知らされないまま取調べを行ったものであるが,何の材料も与えられないまま,ただ闇雲に取調べを行ったわけでなく,必要に応じてA12警部から指示を受けつつ,取調官自身の経験則,論理則に照らしながら,ありのままの供述を引き出すよう慎重に取調べを行ったものである。
原告らは,あたかも取調官が関係者の供述内容の確認をとったことが違法であったかのように主張するが,複数の関係者がいる事件においては,関係者間の供述の食い違いがあればこれを問いただす必要性があることは明白であって,関係者から異なる供述が出れば,その供述の真偽について別の関係者から確認をとるのは当然であり,何ら違法性は認められないばかりか,関係者間の供述の矛盾点・不審点を追及することや記憶を整理させた上で供述させることは必要な捜査ということかできる。
その結果,原告らの任意の供述により,供述内容が収斂していったものであり,県警が供述を捏造した事実はない。
c 供述の任意性の存在
捜査会議の簡略化中の原告らの取調べにおいて,供述の任意性の担保に欠ける点はない。
亡A1は,同年4月30日,交通事故により入院していた事実があるが,A17警部補らが担当医に対して亡A1の取調べの可否について確認していた。亡A1も渋々ではあったものの取調べに応じたことを亡A1自身が認めている。
A17警部補は,本件刑事事件の公判において,同年5月2日の亡A1に対する取調べ状況について,「首が痛かったり,体の調子が悪いときは,いつでも遠慮なく申し出てください。そのときは取調べを中止しますから。」と伝えるなど,亡A1の体調に十分配意した上で,原告X1から受け取った金額を確認するとともに,買収会合の事実についての取調べを行ったこと,亡A1の取調べにおいて,「交通違反と一緒。」,「罰金を納めれば済む。」などの文言を告げたことはないことを証言している。
このように,A17警部補は,適法・適正に取調べを実施しており,原告らが主張する「「ほかの人は認めているのだからあなたも言いなさい。」と自白を強要された。」,「大声で怒鳴りつけられて,『言わないと1年か2年はこうして毎日呼び出す』と強迫された。」,「『選挙違反は交通違反と一緒,罰金とか納めれば何でもない。』などと言われ続けて虚偽の自白を作り出した。」などの事実はない。
また,原告X8は,同年4月19日から同年6月25日までの間に,17日間受診しているが,そのうち10日間については,診療後に原告X8から意思確認を行った結果,任意同行を拒否したことから,取調べを実施していないのであって,取調べはあくまで本人の意思確認の下で行っている。
d 恫喝,偽計等の違法な取調べの不存在
捜査会議の簡略化中,原告らに対し,恫喝,偽計等の違法な取調べを行ったことはない。
(a) A16警部補の発言
原告X2は,A16警部補から,「選挙運動は交通違反と一緒だから,罰金だけで済むから早く認めて,早く仕事に行った方が良いのではと言われた。」,「交通違反と一緒だから,罰金だけで済む。」,「認めれば天国,認めなければ地獄行き。」と何回も言われた旨を供述しているが,A16警部補は,原告X2に対して,選挙違反がどのような犯罪かを説明する中で,身近な犯罪の一つとして交通違反を例に挙げたものであり,「選挙違反は交通違反と同じだ。」などと申し向けた事実はなく,原告X2の主張は,A16警部補の交通違反に関する発言の一部を捉え,その内容を自己に都合のいいように誇張しているものである。
また,A16警部補は,「認めれば天国,認めなければ地獄行き。」などと申し向けた事実もなく,天国,地獄という表現については,本件選挙違反事件の取調べで落ち込む原告X2に対して,人生には地獄のようなつらい時期と天国のような幸せな時期があるから,将来のことを前向きに考えていくべきであると説得する際に用いたものである。
(b) A15警部補の適切な措置
原告X4が,高血圧の持病から取調中に頭痛を訴えたが,帰宅させてもらえず,虚偽の自白をするに至ったなどとする点について,原告X4が,同年5月1日から同月6日までの任意取調べに際し,持病の高血圧による偏頭痛を訴えたことはあるが,A15警部補は,取調べの冒頭において,毎回,原告X4から体調を確認し,同意を得て取調べを行っており,原告X4が,取調べ中に帰宅を申し出たことはない。
ちなみに,同月4日の取調べ中に原告X4が頭痛を訴えたことから,診察を受ける意思を確認して藤後病院で受診させているが,診察の結果,特に異常は認められず,原告X4も引き続き取調べを受ける旨申し立てたものであり,その後,原告X4から体調不良の訴えもなされていない。
原告X4は,同月1日の取調べにおいて,買収会合の事実について供述し,その際,A15警部補に対し,「私が自白したことを,あなたが集落の人にばらしたら,私はあなたを包丁で刺す。」などと真剣な表情で申し立てているのであり,こういった状況からしても,原告X4が,A15警部補に脅迫されるなどして,任意性を失った状態で虚偽の自白をしたものとは認められない。なお,原告X4は,本件刑事事件の公判において,前記発言を認めた上で,そのように発言した理由について,「それだけ真剣だった。」と供述している。
原告X4は,取調中に,自分の心境を表した「俳句」を自ら詠むなどしており,A15警部補との間の人間関係に基づき,取調べが任意に行われていた状況は明らかである。
以上のように,A15警部補らは,原告X4の頭痛の訴えに対し,医師の診察を受けさせるなどの適切な措置をとっており,帰宅させなかったり,虚偽の自白をさせた事実はない。
(c) 亡A1の供述の信用性の欠如
亡A1は,同月2日から同月7日まで,A17警部補の取調べを受けたが,A17警部補は,その間,亡A1に対し,がんがんとやかましく「会合が3,4回あった。」等と言って,自白を強制したと主張する。
しかし,亡A1の本件刑事事件での公判供述は以下のとおり信用性がない。
すなわち,亡A1は,本件刑事事件の公判において,本件刑事事件について,「買収会合で現金をもらった事実はない。」,「4回ともなかった。」,「調書では認めていたが,実際はなかった。」などと供述し,被告人質問全体を通じて,何ら具体的根拠を示すことなく,簡単かつ抽象的な供述を繰り返している。一方,A17警部補の取調べ状況については,「頭からがんがんですがね。」,「やってない,やってないと言っても,やってると,ほかの人はみんなやってると言うんだからと言うから,私が,それは刑事さんが鎌を掛けたんじゃがと,こう言った。」と供述し,自白の任意性を否定する部分については具体的かつ詳細に供述するなど,自己に有利となる事実については過大に供述し,自己に不利となる事実については曖昧,又は,回避している状況が見受けられる。
さらに,買収会合の出席者として,原告X6ほか一人の名前を出した経緯について,「前にX6さんほか一人が来たから,名前を出した。」などと供述しているが,亡A1が供述する買収会合がなかったのであれば,A17警部補からの誘導がないにもかかわらず,買収金の供与・受供与事実に関して,自ら遺恨等もない原告X6及び他の関係者の名前を挙げていることは,不自然かつ不合理である。
A1ノートにも信用性がないのは,既に述べたとおりである。
(ウ) 供述内容が一致した原因
a 罪を逃れようとする被疑者の供述が変遷することは十分にあり得ること
原告らは,関係者の供述が合理的な理由もないまま変遷し,最終的に一つに収斂したこと等をもって,自白には信用性がなく,本件会合事件が存在しないことは明らかであったなどと主張する。
しかしながら,一般的に,取調べにおいて,被疑者は必ずしも常に真実を供述するものではなく,罪を逃れようとしたり誰かをかばったりして虚偽の供述をすることもあれば,記憶が曖昧で結果的に事実と異なる供述をすることも少なくないところであり,そのような状況の中で,取調官は,供述の内容を吟味しながら,客観的事実と異なる部分や共犯被疑者の供述との矛盾点等を取り調べるなどして,被疑者に真実を供述させることが求められるのである。
したがって,被疑者の供述が取調べの過程で変遷することや,被疑者が当初供述した内容が結果的に公訴事実と異なることは十分にあり得るところであり,捜査に当たる警察官としては,単に供述の変遷があったことのみをもって事実の有無を判断すれば足りるのではなく,事件全体の経緯や客観的な事実関係等を経験則,論理則に照らして総合勘案しながら,真実を追究することが必要とされるのである。
b その場に出席した者でなければ供述できないような具体的なエピソード
原告らの本件買収会合に係る供述の中には,その場に出席した者でなければ供述できないような具体的エピソードが認められたところである。原告らはそれぞれの任意捜査時における取調べにおいて,①1回目会合事件で,原告X1が息子のA117(以下「A117」という。)に原告X6に対して挨拶をさせたこと,②原告X8が,大根の漬物を持っていき,X1宅の台所で切って,出したこと,③原告X9と亡X12が口論となったこと,④会合参加者で現金の入った封筒を破って中身を確認したこと,⑤会合参加者から,原告X7が来ていないとの声が上がったこと等を任意に供述しており,その供述は,関係者間で相互に支え合い,具体的で信用性が高いものと認められ,当時,県警としては,これらのエピソードについて買収会合の存在を強くうかがわせる要素として判断したものである。
なお,公職選挙法違反事件や贈収賄事件等のいわゆる対向犯罪については,一般に,それぞれの関係者が自身の記憶に基づいて供述するものであるから,場面が多数であったり,関係者が複数にのぼるなどして事件が複雑になるほど,全ての供述が完全に一致することはむしろまれである。
供述間の齟齬などといった消極要素については,事件の筋読みをする段階で常に考慮しなければならないことであるから,エピソードを踏まえた関係者による迫真の供述は,事件を判断する上での積極要素として重要なものとなるのである。
c 特異ではない事件構図
原告らは,a3集落のような小規模な集落において,ほぼ同じ顔ぶれを参加者とする4回もの買収会合が繰り返し開かれ,合計191万円もの現金が供与されるという選挙買収は,不自然・不合理であり,特異な事件構図であるなどと主張する。
しかしながら,過去の選挙違反事件においては,対立する候補者同士が激しく票を取り合い,同一の有権者に対して複数回にわたって現金が供与される例も認められ,必ずしもあり得ないというものではなかったところであり,県警察としては,運動買収を含む趣旨であったと判断していたものである。
この点,A10署長は証人尋問において,過去の選挙違反の事例を挙げて,運動買収と判断した理由等について詳細に証言している。
なお,捜査段階では,原告ら自身が,これらの点について自ら具体的かつ合理的に説明しており,例えば,原告X1は,会合において原告X6が,A2県議を推す者を自分の方に引き入れるよう運動買収の趣旨を含んだ要望をしたり,A2県議派だった者を原告X6派に引き入れることが目的で,原告X1自身も数回にわたって供与金を渡されることを億劫に感じていた様子を供述しており,原告X4も,「X6さんやX1さんは,もっと多くの会合参加者を期待していたが,毎回同じような顔ぶれだったので,おそらくがっかりしたのではないか。」,「X6への投票や票のとりまとめのほかに,選挙の集まりや買収金がばらまかれたことを密告させないようにするためだと考えた。」などと,買収会合が複数回にわたって行われた理由について,自身の考えを供述し,亡A1も,「私は4回目の集まりの席でX6さんから票集めのお願いをされたが,これは私が民生委員をしている関係で,顔が広く,X6さんは私が多くの票を集めてくれることを期待したからかもしれない。」などと,運動買収であったことを認識していた供述をしており,原告X3も,「私は前公民館長で四浦校区への影響力もある。合計60~70票は確実に票を取る自信がある。」などと,自身の集票力について具体的に説明した。
d 四浦校区の旧来選挙において金が動くという「草刈り場」のうわさ
加えて,四浦校区は旧来選挙において金が動くとうわさされる地域であった。四浦校区は,a4集落,a1集落,a2集落,a3集落の4集落から形成された校区で,旧志布志町北東の山間に位置し,宮崎県との県境とも近く串間市や都城市も生活圏に入る地域である。
四浦校区は,旧来「選挙のたびに金が動く」とのうわさが絶えず,選挙の候補者からは「草刈り場」と呼ばれ,様々な選挙違反が行われてきた地域であり,別件不起訴等国賠訴訟において別件不起訴等国賠訴訟の原告らが書証として提出した「警察の犯罪」と題する書籍では,四浦校区に居住するA118なる者も「この地区は昔は,選挙で酒や金が飛び交うことがあったことは事実さ。何しろ,俺がそんなのを取り仕切っていたんだから。」と話しており,従前から四浦で選挙違反が横行していた事実を認めている。
この点につき,取調べ時に逮捕事実を認めていた本件無罪原告らの供述によると,亡A1は,「これまでの選挙で私が選挙運動に従事したのは3回くらいあります。」,原告X4は,「私は,平成7年頃の志布志町長選挙でA119さんを当選させるために選挙運動をした際,A119さんから,投票と票の取りまとめを依頼され,これに対するお礼の意味の現金5万円を頂きました。」,「四浦校区は,金をくれる人や飲食をさせる人を支持していたと思うのです。」,原告X2は,「恥ずかしいことで面と向かって言えることではありませんが,四浦校区,特にその集落の中でもa3集落の人達は,これまでの選挙において,買収金を貰って来ておりました。言い方を変えれば,選挙のたびごとに買収金を貰っていた訳ですから,買収金を貰うことには何ら抵抗なく,私を含めa3集落の人達全員が選挙でお金を貰うことは当たり前のことと考えていたと思います。」,原告X3は,「四浦校区については,選挙についても金や物でどうにでもなると言われているところですが,これは生活の苦しさが原因になっていると思います。はっきり言いまして,四浦校区で村八分になれば四浦校区から出ていかなければなりませんし,実際,最近でも四浦校区から出ていった人がいるように,四浦校区の人達は団結心が強い反面,村八分になることを恐れているのも事実です。」,「四浦の人は,選挙にお金は付き物という考えの人がほとんどであり,現金を沢山くれた候補者に投票するというのが実情でした。つまり,票でお金を買える所でした。」と供述しており,さらには,ほぼ一貫して逮捕事実を否認していた原告X9でさえも,同年7月14日付けの供述調書で,「四浦出身の役場職員もいません。このようなことからか分かりませんが,町長選や町議選等の選挙の度に,いろいろな候補者が四浦に入り込んで選挙運動をします。(中略)四浦出身の議員がおらず,また田舎であることから,これまでの選挙の度にターゲットとされてお金がバラ撒かれるという悪い習慣が根付いたと思います。(中略)市街地から離れた田舎の純朴な人達ですので,お金を渡されたら素直に受け取ってくれて,当然票を入れてくれることから選挙の関係者からターゲットにされるのだと思います。」と供述し,四浦に旧来から選挙で金が動く風習がある事実を認めている。
このような四浦自体が選挙のたびに現金が配られる地域であるという状況からも,当時,県警察として,本件刑事事件が,「通常ありえない不自然,不合理な選挙買収」であるなどと認識すべきものではなく,運動買収を含む趣旨であったと解することが可能であったことは明らかである。
(4)  争点(1)エ(第2次強制捜査及びそれ以降の捜査に関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 第2次強制捜査の違法
a 原告X1らの供述内容の不自然性,不合理性
原告X1らの自白は,以下のとおり,供述内容それ自体が極めて不自然,不合理であって,その供述に信用性を認めることは全くできない。そして,このことは,捜査あるいは法律の専門家であると一般的には理解される県警において,当然に認識していた事情である。
(a) 供与したとされる現金の高額性
原告X1ら5名の自白によると,合計4回の買収会合が開かれたとされ,原告X6は合計で191万円もの高額の現金を供与したことになる。
一方,受供与者側とされる原告らがそれぞれ受け取ったとされる合計額をみてみると,原告X2,原告X3,原告X4及び亡A1がいずれも各26万円,原告X5が21万円,原告X8が20万円,原告X9,原告X1,原告X11及び原告X10がいずれも各10万円,亡X12が6万円となる。
次に,各原告らの買収会合への出席回数をみてみると,原告X6,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4及び亡A1がいずれも各4回,原告X7,原告X5及び原告X8がいずれも各3回,原告X9,原告X11,原告X10及び亡X12がいずれも各1回となる。
(b) a3集落の過疎地域性
ところで,本件買収会合があったとされるa3集落はわずか7世帯しかいない山間部の過疎地域である。
このような集落において,4回もの買収会合が繰り返し開かれ,合計191万円もの現金が,額の多い者で26万円,額の少ない者ですら6万円が供与されたというのである。しかも,会合出席者は各会合で,ほぼ同じ顔ぶれである。
このような選挙買収は,不自然,不合理であり,ありえないことと言わねばならない。まさに,荒唐無稽なでっち上げ以外の何物でもない。
(c) 対立候補の地盤
また,a3集落は,もともと,原告X6の対立候補者であったA2県議の地盤であって,そのような地域において候補者本人である原告X6が自らが供与者となって,わざわざ4回もの買収会合を開くという危険を冒さねばならない合理的理由は全くない。うち3回の買収会合には原告X6の妻である原告X7も供与者として同席したとされており,その不自然,不合理さは,常軌を逸するものである。
(d) 本件一連の買収会合の異常性
原告X1ら5名の自白によると,本件一連の買収会合は,上記の点において,過去摘発された選挙買収事犯と比較してみても,外に類を見ない異常極まりないものである。
b 違法な取調べによる不合理な供述の発生
そして,これらの内容自体不合理な供述は,違法な取調べによってもたらされたものであり,信用性に重大な疑義のあるものであることは,当該捜査を敢行した捜査官自らが身をもって最も良く知るところであった。
c 証明の困難性
本件現地本部が,原告X1らの供述について,捜査機関が有する通常の能力をもって検討すれば,4回の買収会合が開かれたという事実を証明しえないことは容易に理解しえたところである。
d 買収会合不存在の明白性
そして,この時期に通常の捜査能力を有する捜査機関をしてすれば極めて容易に収集しえた証拠を加えて判断すれば,それが存在しないことが明らかであった。
特に,上記のとおり,開催された可能性のある日はたかだか2ヶ月の間という短期間に集中しているのであって,これをつぶしていく労力は大きくはない。また,出席者も限られているのであるから,捜査の内容はその特定された人物の動静を確認することにすぎず,かかる捜査は極めて明確かつ基本的なものである。
しかも,客観的あるいは第三者的な資料に基づいて確認する作業であること,対象人数が多いことは,そのような資料が多数集まる可能性が高いことを意味する。しかれば,捜査機関としては,基本的捜査であるかかる捜査を行うべきであったことは明らかである。
e 供与者とされる原告X6の動静の捜査の欠如
その中でも,原告X6は供与者なのであるから,その動静の捜査は重要な捜査事項であるところ,投票日(平成15年4月13日)の数か月前から立候補予定者があいさつ回り等のために多くの人が集まる各種の会合に出席するということは通常良くあることであるから,立候補予定者の行動を捜査し,これを時系列に従って明らかにすることは比較的容易なはずである。
したがって,原告X6のアリバイについての証拠資料は,通常要求される捜査を遂行すれば収集しえる証拠資料である。
特に,本件においては,捜査機関が行った消去法による開催可能日の特定の結果,同年2月8日と同年3月24日しか,供述により得られた関係者がそろって出席し得る日は存在しなかったのであり,他方,本件現地本部は,同年4月17日,原告X6夫妻と親しい間柄にあるA5及びその妻であるA120夫妻が経営するiホテルの予約帳(以下「本件予約帳」という。)のコピーを入手していた。
本件予約帳は,A120が記載していたもので,その同年2月8日の欄には「A121ちゃん,X7ちゃん同窓会,X6ちゃんも」との記載がおり,X7ちゃんとは原告X7のこと,X6ちゃんとは原告X6を指し,原告X6及び原告X7がいずれも同日に本件新年会の予定があることは通常行うべき捜査を行っていれば容易に判明できたはずである。
なお,上記の「X6ちゃんも」との文字は,クセ字であって,捜査官も直ちに判読できなかったものであるが,そうであれば,捜査期間は,「X6ちゃんも」という文字がクセ字のため判読できなかったのであれば,記載者であるA120に確認すれば足りたはずであるが,それをしなかったのであって,低レベルの捜査といわざるを得ず,捜査官が上記記載を判読できなかったことは,通常行うべき捜査をしなかったという評価を何ら覆すものではない。
f 収集し収集し得た原告X6の動静
そして,上記アリバイの捜査をしていたならば,同年5月12日の時点で捜査機関が収集していた証拠,あるいは収集し得た証拠は,以下のとおりである。
(a) 平成15年2月上旬
平成15年2月上旬に関し,①同年1月28日が選挙人用名刺の出来上がり日であったこと,②同年2月1日には,原告X2は,夜に,志布志市街地で会社の飲み会に参加し,原告X6は,A5宅で「k会」に出席したこと,③同月2日には,原告X6とA5は,田之浦山宮神社のだごまつりに参加した後,A122宅の通夜に出席し,原告X6の携帯発信履歴(19:45,19:50など)があること,④同月3日は,A5宅で,原告X6のk会を開催したこと,⑤同月4日は,原告X6の携帯発信履歴(17:02,19:28)があること,⑥同月5日は,原告X6の選挙事務所開きがあり,後援会パンフレットの完成日であること,原告X6の携帯発信履歴(19:19,19:58,20:01,21:16)があること,⑦同月6日は,原告X6の携帯発信履歴(18:55,19:17,19:18,19:20)があること,⑧同月7日には,原告X6の携帯発信履歴(18:57)があり,A5,A120及び原告X7は,岩川の居酒屋「訪来」で飲み,その後二次会で「のんき」に行ったこと,原告X7,A120はこの日北陸旅行から帰宅したこと,⑨同月8日,原告X6の携帯発信履歴が夜はないが,原告X6は中学校の本件新年会でmホテルに行き,A5は,A123といこいの里温泉で過ごし,その後,A5宅で,ビールを飲んだりして午後7時過ぎまで過ごし,A123は,A5が呼んだ運転代行で帰宅し,その後,A120の友人達が北陸旅行の土産を分けるためにA5宅に訪問し,A5を見たこと,原告X5は,志布志で買い物をして午後7時頃帰宅したこと,⑩同月9日は,亡A1は,夜に田之浦の「鹿島」という仕出し屋で民生委員会の地区定例会に出席したこと,⑪同月10日は原告X6の選挙事務所の定例役員会があったことが裏付け捜査により判明したはずである。
(b) 同月下旬
同月下旬について,①同月19日,同月20日,同月28日は,会合開催が不可能であること,②同月18日は,原告X6は,午後6時からホテルボルベリアで農業経営者の集まりに参加したこと,③同月21日,原告X6は,午後6時から,志布志町にあるキラクという寿司屋での集まりに参加したこと,④同月22日は,亡A1が牛の競り市で子牛が売れたことのお祝い(以下「べぶんこ祝い」という。)に参加したこと,⑤同月25日は,原告X7が西弓場ヶ尾の会合に参加したこと,⑥2月下旬では,他に会合可能日はなかったことが裏付け捜査により判明したはずである。
(c) 同年3月中旬
同年3月中旬について,①同月11日は,A5に19時24分の架電歴があること,②同月17日は,原告X6がmホテルにおける「語ろう会」に参加し,会合開催が不可能であったこと,③同月14日は,mホテルで「営農従事者の会合」があったこと,④3月18日は,亡A1が自宅に娘等(原告X16,原告X18,原告X17ら)を呼んで,原告X16の息子に高校合格祝を渡したりしたこと,⑤同月中旬では,他に会合可能日はなかったことが裏付け捜査により判明したはずである。
(d) 同月下旬
同月下旬について,①同月20日は,原告X7が午後7時から午後8時30分まで,西弓場ヶ尾集落の婦人分会に原告X7が参加したこと,②同月21日は,原告X6の携帯発信履歴(19:09,20:32)があり,有明町の坂の下芝園の社長宅で集まりがあり参加し,原告X3,原告X11,A124,A88らがa2集落小組合の会合に参加していたこと,③同月22日は,亡A1宅で,べぶんこ祝いがあり,原告X4が参加しまた,原告X6は,午後7時から30分程度,平和集落の総会に出席し,その後,原告X6とA89は,旧松山町中村集落の総会に午後9時過ぎまで出席していたこと,④同月28日は,原告X7が,午後7時から午後9時まで,A125と田之浦地区を訪問し,A5は,潤ヶ野地区の長岡牧場で,カライモ交流焼き肉大会に午後7時から午後10時まで参加していたこと,⑤同月24日は,原告X6が,志布志町内の紀州造林跡地にあった後援会事務所で役員会の後,午後7時30分からA126と一緒にmホテルで開催された上小西自治会の本件懇親会に参加し,その後,A126と一緒に旧有明町鍋集落の挨拶回りをしていた。A5は,役員会出席後,自宅で鹿児島相互信用金庫のA127氏と面談し,原告X9は,親戚のA128氏が亡くなったことから,自宅の固定電話で午後8時10分36秒から電話をかけたこと,⑥同月25日は,亡A1,A88が,亡A1宅で飲み会に参加し,原告X6の携帯発信履歴(19:34,19:41)があり,原告X6及び原告X9は,午後8時からA128家通夜に出席し,原告X4は,A110と串間のファミリーマート串間店に電話代の支払に行ったこと,⑦同月26日は,小学校校長・教頭の送別会があり,原告X4は中学校教員の送別会に夜遅くまで参加し,原告X6と長男A129(以下「A129」という。)は,志布志町長宅を訪問したこと,⑧同月27日は,原告X6と原告X7は,午後7時30分から午後8時30までの間,大崎改善普及センターをまわり,原告X6の携帯発信履歴(18:24,19:41,20:56)があること,⑨同月28日は,原告X6の携帯発信履歴(18:08,19:47)があり,亡A1はダグリ荘で志布志地区民生委員運営委員会があり参加し,原告X6は,A130家の通夜に参加した(宮原葬祭場)こと,⑩同月29日は,原告X4が,勤務先であるl組の花見に夜遅くまで参加し,原告X6と原告X7は,弓場ヶ尾集落婦人会に出席し,原告X2夫妻は,午後10時頃まで,PTA総会の打ち合わせ及び飲み会に参加したこと,⑪同月30日は,亡X12宅で,定例の観音講が開催され,原告X13,亡X12,原告X2,原告X10,原告X4,原告X8,原告X1,原告X5及び原告X4の母であるA131(以下「A131」という。)が参加し,原告X6は,松山のA132の案内で,尾野見地区の宮下集落の会合に参加したこと,⑫同月31日は,提ノ口集落の総会が,午後7時30分から午後9時まで四浦小学校であり,原告X5らが参加し,原告X6の携帯発信履歴(19:07,19:09,19:42,19:43,20:09)があることが裏付け捜査により判明したはずである。
g 1回目会合及び4回目会合のアリバイ
これらアリバイに関する捜査を行っていれば,原告X6は,1回目会合が開かれたとされる同年2月8日に,mホテルにて開かれていた本件新年会に出席していたこと及び4回目会合が開かれたとされる同年3月24日に,mホテルにて開かれた上小西自治会の本件懇親会に出席し,その後,有明町伊崎田の鍋集落の民家にあいさつ回りに行っていたことは容易に認識できたはずである。
h 供与金の原資の捜査の欠如
さらに,本件刑事事件においては,捜査段階,公判段階を通じて,原告X6がどのようにして,あるいは,どこから191万円もの高額の現金を工面したのか(すなわち,供与金の原資)及び受供与者とされた原告らが受供与金をどのように使ったのか(すなわち,受供与金の使途)は全く解明されていない。公職選挙法違反事案において,供与金の原資の解明及び受供与金の使途の解明は,捜査事項の基本中の基本である。そして,これらは,通常要求される捜査を遂行すれば収集しえる証拠資料であるのに,本件刑事事件において,捜査機関は,これらの捜査をしなかった。
i 原告X1らに対する不相当な誘導と,脅迫・偽計・欺罔行為・利益誘導
これらの捜査及び検討を怠り,本件現地本部は,同月7日までに獲得した原告X1らの自白に,さらに迫真性を持たせるため,既に原告X1らが取調官に屈服して迎合する供述をしていると知りながら,以下のとおり,不相当な誘導と,脅迫・偽計・欺罔行為・利益誘導などを用い,自白内容をより詳細なものに仕上げた。
(a) 同月8日のA14警部補の取調べ
A14警部補は,同月8日,原告X1に対し,受供与金の使途について,これまで何度も目前で大声で怒鳴りながら重複尋問をしていたのと同様に,「何か高い品物を買っただろう,何に使ったか言え。」などとないことを強制し,困惑し黙って下を向いている原告X1が苦し紛れに「鹿屋のダイワにスーツを買いに行った。」と虚偽の供述をし,A14警部補は,原告X1がそのような追い詰められた状況を知りながら,結局,その供述の裏付けが得られなかったことを理由に,「おまえはウソばかりついている。」と怒鳴り立てた。
原告X1は,このような状況から,ノイローゼ状態となっていたが,A14警部補は,その後の取調べでも,「本当に買ったのか,どうして買っていないのにウソをいうのか。」と言って,怒鳴りつけ,机を叩いたり,暴言を吐いたりした。
(b) 同月8日のA16警部補の取調べ
原告X2は,同日,A16警部補から,X1宅の間取り,会合参加者が着座した位置関係などの図面の作成を指示された際,A16警部補から,「X3,それからX9のとこのじいちゃんのA112さんも来たはずじゃ,来てるとX1が言っている。」,「X3とA112の位置が違うから書き直してくれ,A112についてはこたつの間,X3についてはお前の隣。」などと不相当に誘導された。
(c) 同月8日のA17警部補の取調べ
亡A1は,同日,A17警部補から,従前,4回の会合全てに原告X7が出席していたと供述していたのに,不相当に誘導されて,1回目会合には原告X7が来ていないと供述を変更された。亡A1の同日付けの供述調書には,変遷の理由もなく「X6さんの奥さんについては,1番最初のX1さん方の集まりには来ておらず,2回目か3回目に初めて来られ,4回目の集まりの時に来られていたことは間違いありません。」と記載されている。
(d) 同月9日のA14警部補の取調べ
原告X1は,同月9日,A14警部補から,1回目会合の状況について取り調べられ,金銭の入った封筒を受領した経緯について,「その場で開けてみましたか,みんなは3万円入っていたと言ってびっくりしましたか。」などと具体的な状況について不相当な誘導をした。
(e) 同月9日のA17警部補の取調べ
亡A1は,同月9日,A17警部補から,1回目会合の受供与金6万円の使途について取調べを受け,A17警部補は,亡A1に対し,誰に6万円をさらに供与したかを尋ね,亡A1がそのような者はいない旨を答えても,聞き入れず,亡A1から,A88に牛の運搬賃名目で受供与金として供与した旨の虚偽の供述をさせた。
A88は,同日,午後から自宅で取調べを受け,亡A1から金員の交付を受けたか聞かれ,それを否認しても聞き入れてもらえず,根負けして,亡A1から牛の輸送代として5万円をもらった旨の供述調書の作成を強要された。
(f) 同月10日のA14警部補の取調べ
A14警部補は,同月10日,自白したはずの原告X1がオードブルの入手先等の質問に全く答えられないことから,他の供述をもとに,不相当な誘導を繰り返していた。
原告X1は,A14警部補に対し,「違う。」と否定し,原告X1がこれに逆らうと,A14警部補は,「お前がウソを言うから,二男A145も長女A146も長男A117も夫X9も調べてもらう。」とすぐに脅してきた。長女A146は原告X1夫婦の長女であるA146のことであり,長男A117は原告X1夫婦の長男であるA117のことである。
原告X1は,これまでの取調べで,死んだ方がましだけど,死ぬこともできない心理状態となっていたが,A14警部補は,そのことを知りながら,上記の発言をして,親族らまでが身柄拘束されることを恐れた原告X1に対し,自白を強要した。また,A14警部補は,原告X9がサラ金に手を出しているなどと,接見禁止中のため確認できない事実を教えて,原告X1に対し,原告X9への信頼を損なわせる言動を繰り返した。
A14警部補は,会合があったことを認めている筈の原告X1の供述が事実に反することから,威迫・恫喝を伴い,不相当な誘導を繰り返して,供述を強制した。
(g) 同月11日のA14警部補の取調べ
原告X1は,同月11日,A14警部補からの不相当な誘導により,それまでの供述を,①「A2後援会の総会が行われたのは12月頃と説明したが,今年の1月頃に行われた。記憶違いであるが,X9から聞いた内容は間違いない。」,②「X9とX12が口げんかになった理由について,5月9日には,X12もA2後援会の総会に出席していたので,X9がそのことを取り上げてX12さんに言ったことが原因と説明していたが,その当時のことをよく考えたところ,その総会にはX12もX13も出席していないことを思い出した。X12がA2の総会に出席していたという話は訂正してください。口げんかの原因は,X9がX12さん,A2を推しているのに,なんでここに来ているのかと言ったことが原因で,お前こそ,A2の総会に出ていたのではないかとX9が言い返したことが原因だった。X12は直ぐに席を立ち家に帰った。」などと訂正させられた。
原告X1の知的能力からは,このようなエピソード内容を自ら供述することはおよそ不可能である。
原告X1は,同日,A14警部補から,「A117もおやじも呼ばれている。おまえのせいで,みんなに迷惑がかかっているのに,お前は少しも反省していない。」などと恫喝され,「X6の人が四人(A113,A89専務,A114,A133)が来たが何しにきたか。」,「そのことで朝電話を三回しているんですね。」,「帰るときにA89が明日来ると言ったのか。」等,A14警部補から不相当に誘導された。
(h) 同月12日のA14警部補の取調べ
原告X1は,同月12日,A14警部補から,「おまえはウソを10回はついている。」,「本当のことを言わない。」,「おれのいうことを分からないのか。」などと大声で恫喝された。
(i) 同月13日のA14警部補の取調べ
原告X1は,同月13日,早朝からA14警部補の取調べを受け,「嘘を言った垂水市長は3回逮捕した。」などと恫喝した。
j 原告X1の不自然な自白調書
また,原告X1の同月9日付け自白調書は,参加者は,ビール,焼酎,お茶を飲み始め,つまみは,落花生やさきいか,小魚のみりん干しなどの乾き物だったり,せんべい,お菓子等だったという記載となっている。
原告X1がC1弁護士の指示により原告X1に対する取調べの状況を記載した作成したノート(以下「X1ノート」という。)には,同月4日の欄には,A14警部補から「オードブルは何個取ったか,盛りは何個頼んだのか,刺身はいくら頼んだのかなどと聞かれた。」と記載されており,当然上記調書にも,オードブルが会合に出されたことが記載されていなければならないが,その記載はなく,乾き物が出されたという内容に変質している。自白していた原告X1がA14警部補からの誘導で,いったんは会合にオードブルが出されたことを述べたため,そのオードブルが会合に出されたという前提で,上記自白調書作成までの間の4日間で,その裏付け捜査がなされているが,志布志町内の仕出し屋などを捜査した結果,その裏付けが得られなかったからである。このことは,原告X1の自白の信用性を大きく減殺する事情であることは明らかである。
k 捜査報告書への虚偽の事実の記載と令状担当裁判官への欺罔
上記のとおり,本件現地本部は,第2次強制捜査に合理的理由がないことを知りながら,逮捕状請求時に裁判所に提出した平成15年5月12日付け捜査報告書(以下「5月12日付け報告書」という。)に虚偽の事実を記載して,令状担当裁判官を欺罔した。
すなわち,5月12日付け報告書には,本件刑事事件に係る原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の供述の経緯が記載されており,①原告X1が,同月1日の取調べで,集票目的の会合が開かれたとする供述をしたが,供与した金員の額面は詳細を語らない旨記載されているが,実際には,1万円ずつ供与した旨を自白しており,②同月1日の取調べで会合参加者が原告X4夫妻,亡A1,原告X13,原告X2及び原告X5の6人であったこと,同月2日の取調べで,会合参加者は,原告X4夫妻,X12夫妻,X5夫妻,亡A1,原告X2の8名に増え,金額も5万円ずつとなり,現金はいずれも無地の茶封筒に入っていたことなどが記載されているが,実際には,原告X1の同日付申述書では,「私の家で5名にお金を渡した。」ことにとどまっており,③原告X1が同月4日以降の取調べで,会合回数は4回と特定明示されたことになっているが,実際には,同月4日及び同月5日には会合回数について4回か5回という曖昧な回答をしていたのであり,④原告X4が同月1日以降の取調べで会合が4回あったことを認めたと記載されているが,実際には,それまでに会合の回数も含めて激しく変遷していることが一切触れられておらず,⑤原告X4は,同月7日以降,病院に逃げ込んだ経緯があるが,病院における診察では,何ら異常は認められないと記載されているが,実際には,原告X4は微熱があり,同月8日から同月10日夕方まで入院したのであり,A15警部補が入院先から意識レベルが弱いため,経過を見るために入院をさせたことを確認しており,異常は認められること,⑥亡A1は,同月3日から,集票目的の会合が4回あったことを認めたなどと記載されているが,実際には,同月3日の時点では会合は3回と述べており,さらに供与金額についてはそれぞれ2万円,5万円,20万円とおよそ最終的な供与金額と異なる供述がされていたことや亡A1が同月16日から継続的に取調べを受け,同月30日には,取調べのことばかり考えていて,車の運転を誤り自損事故を起こし,頚椎捻挫の傷害を負って入院していたにも拘わらず,入院先の病院で任意同行を求められて,長時間の取調べを受けたことなどが何ら記載されず,⑦原告X2は,同月1日の取調べで否認したが,同月2日から会合への出席事実及び現金の授受の事実を認め,同月4日以降,会合回数が4回であることを認めた旨が記載されているが,原告X2は,同月18日から連日のように任意同行を強いられていること等が何ら記載されていないなど,原告X1らの供述の信用性の判断を誤らせる虚偽の事実が記載され,あるいは,あるべき記載がないなど,意図的に事実が歪められている。
l 第1次強制捜査の違法
これらの事実に照らせば,本件現地本部が行った第1次強制捜査が違法であることは明らかである。
(イ) X1焼酎5月18日捜査事件に係る強制捜査を行った違法
本件現地本部は,平成15年5月18日,原告X9をX1焼酎5月18日捜査事件で逮捕した。しかし,X1焼酎事件は,既に,関係者の供述の不一致が著しいことは,既に述べたとおりであり,遅くとも同年4月27日の時点で嫌疑は完全に消滅しており,同月18日に逮捕することはあり得ないことであった。
原告X9は,現に,勾留延長までされて取調べを継続されたが,事実がないため,同年6月8日には,検察官は処分保留で原告X9を釈放するほかなく,さらには,同年12月26日には,不起訴処分としたのである。この不起訴については,原告X9は刑事補償を受けており,X1焼酎事件が無実であることが判明しているのである。
(ウ) 第3次強制捜査を行った違法
a 原告X1らの自白を裏付ける証拠の不存在
本件現地本部は,平成15年6月4日及び同月8日,4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件に係る第3次強制捜査を行ったが,第2次強制捜査を行って以降,原告X1らの自白を裏付ける証拠は一切発見することができていない。
かえって第2次強制捜査以降の自白者の供述内容及び変遷の過程は,以下のとおり不自然・不合理であることが明白であり,自白の信用性は一層低くなったというべきである。
(a) 原告X1の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
原告X1は,同月13日に逮捕後,1回目会合の事実を否認に転じたるも,「5人も逮捕者を出したことで責任を感じて否認した。」と述べて再度自白し,1回目会合でA117が挨拶をした旨の供述を追加し,同月15日には,原告X7から口止め料として5万円入り封筒20数通位を渡され,原告X3とともに口止め料配布した旨の供述を始め,同月16日には1回目会合にA113及びA114が来た旨に供述を変遷させ,同月18日には,弁護士との接見後,否認に転じたが,「弁護人から他の人も認めていないから否認するよう言われたから否認した。」と述べて再度自白し,同月24日には弁護士と接見後,否認に転じ,以後,第1次起訴まで否認し,同月25日には,検事調べにおいて「刑事さんが何日も認めろというようなことを言ったので刑事さんが怖くて認めました。」と供述している。
(b) 原告X4の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
原告X4は,同年5月13日,1回目会合で,原告X1から白っぽい封筒2通をもらったことを供述し,同月14日,5回目の会合が同年4月10日頃開催され,原告X1から30万円の供与を受けた旨を供述し,同月15日,検事調べにおいて,1回目会合は平成15年2月上旬頃行われ,午後10時頃終了したこと,原告X1から口止め料5万円を受領したとの供述を追加し,5回目の会合での受供与金が1家族につき20万円であったと供述を変遷させ,同月16日には,5回目の会合の参加者が,原告X6,原告X7,A5,A89,原告X1夫妻,原告X4夫妻,亡X12,原告X2,亡A1,原告X5及び原告X3であったことの供述を追加し,1回目会合事件でもらった封筒は,茶色であったと供述を変遷させ,原告X5の受供与場面につき具体的に供述を始め,同月18日には,5回目会合の開始時間が午後7時であり,f社の専務という50歳くらいの男性から封が糊付けしてある白が茶色の封筒入りの20万円をもらったことを供述し,同月23日には,4回目会合について,参加者を訂正(A124,原告X14及び原告X10)する供述をし,同月27日には,4回目会合は3月下旬から4月上旬の午後7時半に開始され午後9時に終了し,A88,A5,亡X12,A112,A124,A134,原告X14,A89,f社の中年女性従業員が参加し,原告X6から,茶封筒入りの10万円をもらったとの内容の供述調書を作成している。
(c) 原告X2の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
原告X2は,同年5月13日,逮捕後,1回目会合の事実を否認し,その後,否認したのは逮捕されて気が動転したためなどとして再度自白し,1回目会合の概要について,同年2月上旬に行われ,原告X1から6万円の供与を受けた旨を供述し,同年5月14日の検事調べで,1回目会合について,日時の明示はなく,参加者は,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1,原告X5,亡X12,原告X9,A112,原告X6,A5であり,原告X10が不参加であった旨を供述した。
原告X2は,同月15日,今回の県議選で買収金を何回ももらっており,刑事に事実を追及されると,小出しに話をしていたが,真実は一つであるから,嘘をついても通用しない等と考えたなどと供述し,同月19日,買収会合が4回くらいあったこと,同月13日の数日後頃,原告X1から口止め料として5万円をもらったため,当初,買収会合の事実を否認したことを供述し,同月19日,申立書を作成して,自分の罪に気付き,心から正直に話をしようと思ったとして,1回目会合が2月上旬か中旬頃開催され,このほかに,選挙の会合で,原告X1から5万円,原告X7から5万円,原告X6から10万円の供与を受け,これとは別に,原告X3と原告X1から30万円,焼酎2本及び2万円の,原告X1から1万円の供与を受け,本件選挙の投票後に原告X1から口止め料として5万円の交付を受けたことを供述し,同月20日,買収会合は全部で4回あり,1回目会合は,同年2月上旬頃の午後7時30分頃に開始して,30分くらいで終わって,午後8時頃から宴会が始まったこと,以前,原告X6とA5は会合が終わるとすぐ帰ったと供述したが,宴会が始まっても,10分くらい残っていたこと,亡A1,原告X3,原告X5,原告X4,亡X12,原告X9,A112,原告X1,原告X6,A5及び原告X2の11名が参加したことを供述し,同月22日の検事調べでは,買収会合が4回あり,1回目会合は,午後7時頃から集まり始め,11名が集まったところで会合が始まり,午後7時半過ぎ頃から飲み会が始まったことなどを供述し,同月24日,原告X1と原告X3が同年3月上旬か中旬の午後6時すぎ頃に原告X2の自宅を訪れ,2万円と焼酎2本を供与し,2月上旬から下旬にかけて,原告X1の家で原告X6本人も出席して会合が2回行われ,原告X1と原告X3から5万円をもらったことを供述し,同月27日,4回目会合は,3月下旬頃か,もしかすると,選挙告示前の4月上旬頃の午後7時30分過ぎ頃始まり,挨拶は10分くらいで終わり,宴会が午後7時40分過ぎ頃から始まり,午後8時頃買収金の供与を受け,午後9時30分くらいに終了し,参加者は,原告X1夫妻,A112,原告X2,亡A1,亡X12,原告X4夫妻,原告X5,原告X3,A88,A124,原告X11,原告X6,原告X7,A5,A89,f社の女性従業員2人(ただし,女性従業員は別の会合の時に出席していたのかもしれない)と供述し,同月28日の検事調べでは,1回目会合について,午後7時過ぎ頃開始したと供述を変遷させ,同月30日の検事調べでは,4回目会合について,3月下旬頃か4月初めの午後7時過ぎごろ始まったと供述を変遷させ,f社の女性従業員2名は4回目会合に参加したことを断定し,上記両名は,原告X6を社長と呼んでいたから従業員だと思ったと供述し,同月2日,1回目会合の宴会は午後8時くらいから始まり,原告X6たちは30分くらいして帰ったと供述している。
(d) 原告X8の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
原告X8は,同年5月14日,5回目の会合において,原告X4において,原告X6か原告X7から20万円の受供与があったことを供述し,同月18日,会合は全部で5回あり,4回目会合が同年3月下旬から4月上旬頃の午後7時頃開催されたが,仕事か何かで行くのが遅くなり,原告X4とX1宅に行ったときは会合が始まっており,X1宅の一番奥にある8畳の間に参加者が座り,長テーブルと炬燵テーブルが並べられ,その上には,唐揚げ,エビ,ウインナー,卵焼き,天ぷら,酢の物などが盛られた大皿2個と魚の刺身,イカの刺身などの準備がしてあり,会合の参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X3,A112,原告X9,原告X4夫妻,亡A1,原告X14,原告X2夫妻,亡X12,原告X5,原告X11,A88,A124だったと思うが,他にも来ていた人がいるかも知れず,原告X7から封筒入り現金10万円をもらったことなどを供述した。
(e) 亡A1の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
亡A1は,同月5日,会合の参加者について,f社の従業員の名前は一切供述しておらず,同月13日には,黙秘し,その後,再度自白し,同月22日,1回目会合の開催時期は,同年2月9日の日曜日に開かれた民生委員の役員会の1,2日前の頃と記憶していると供述し,同年5月24日,1回目会合について,午後8時頃に亡A1がX1宅に行った時には,参加者が皆集まっていたことなどを供述し,4回目会合の参加者について,原告X6,原告X7,A5,A89,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X5,原告X13,原告X2,原告X3,原告X11,A88及びA134と供述し,f社の女性従業員の名前はなく,同月25日にも,4回目会合の参加者として,f社の女性従業員の名前は供述せず,同月27日,4回目会合の参加者につき,A112,亡X12及びf社の女性従業員2名がいたかもしれないと供述するに至った。
(f) 原告X3の不自然・不合理な供述内容及び変遷の過程
原告X3は,同月13日の逮捕後,事実関係を否認していたが,同月19日,1回目会合について事実を認め,同月20日,一旦,否認に転じるが,認めると受供与金全部の使途先を全部は話さなければならないと思ったとして,再度自白し,X1焼酎事件と会合への出席事実があったことを供述し,同月21日,口止め料の受領事実を供述し,同月27日の検事調べで,X1焼酎事件で供与した焼酎の空き瓶を回収して投棄した旨供述し,同月28日,焼酎の空き瓶の回収事実について改めて供述し,同日,4回目会合の参加者は,原告X6,原告X7,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2夫妻,亡A1,原告X11,原告X5,亡X12,原告X3,A112,A124,A5,A89,f社の女性従業員2人と供述し,同月29日,焼酎瓶の投棄場所の引当捜査を実施した後,焼酎瓶の投棄事実は嘘である旨供述した。
(エ) 第4次強制捜査を行った違法
a 第3次強制捜査
本件現地本部は,平成15年6月25日及び同月29日,4回目会合6月25日捜査事件及び1回目会合6月29日捜査事件に係る第3次強制捜査を行った。
この時点で,原告X1らの自白を裏付ける証拠は一切発見することができていない。
b 供述の理由のない変遷
原告X1は,同年6月13日,A90弁護士との接見で,オードブルの注文先について,これまで「mホテル」と答えていたが裏付けが取れず,原告X7が持ってきたことになったなどと話している。ということは,同日頃,本件現地本部が,mホテルでオードブルの裏付けに関する捜査を実施していることは間違いなく,mホテルの経営者であるA135(以下「A135」という。)が,その際にmホテルの宴会台帳(以下「本件宴会台帳」という。)の写しを元に取調べを受け,同日,本件宴会台帳をA35巡査部長に提出した。
この頃,4回目会合の開始時刻について,①原告X1のそれまでの調書では午後7時30分頃から始まったと記載されていたが,同月16日付け供述調書には,「A89課長達が来た後に会合が始まりました。会合が始まったのは午後8時頃になると思います。」と何らの理由なく変遷し,②原告X4の同年5月27日付け供述調書では,「当日の午後7時過ぎ頃妻X8とX1方に行きました。」と記載されていたが,同年6月15日付け供述調書では,「私と妻が家を出たのは,時計で確認した訳ではありませんが,帰宅後の夕食や入浴,着替えなどにかかった時間から計算すると,午後8時頃ではなかったかと思います。」と理由なく変遷し,③原告X2は,同年5月27日付け供述調書では,会合は午後7時30分から始まったこと,原告X2は午後7時には,1人でX1宅に行ったこと,原告X2が原告X6から買収金10万円をもらったのは,午後8時頃であったことなどが記載されていたが,同年6月16日付け供述調書では,「時計で確認したわけではありませんので,正確ではありませんが,選挙会合は時間の経過からして,主催者であるX6さん達が来られた後の午後8時過ぎ頃から始まりました。」と理由なく変遷し,④原告X8は,同年5月18日付け供述調書では,午後7時から始まったとされていたのに,同年6月16日付け供述調書には,「私は,この日の会合には夫のX4と遅れて,午後8時頃行っており,私達がX1ちゃんの家に着いた時には,既に会合は始まっていて,X6さんが話をしていました。」と理由なく変遷し,⑤原告X3は,同年5月22日付け供述調書には,4回目会合は,同年3月下旬から4月上旬の午後7時半頃から始まったことを供述しているのに,同年6月22日付け供述調書において,突如として会合が午後8時に開催されたと供述していることに照らせば,本件現地本部が,4回目会合の開催日について,平成15年3月下旬において同月24日以外には会合可能日がなかったため,同日を開催日と考えていたが,上記のオードブル捜査の際,原告X6とA135がmホテルで,午後7時30分から開催された上小西自治会宴会であいさつしたことを知り,会合開始時刻をずらす必要に迫られた(mホテルからX1宅まで車で37分はかかるので,7時30分開催のmホテルでの上小西自治会宴会で挨拶したものが,X1宅に7時30分に到着することはできないからである。なお,午後7時30分に原告X6がmホテルで挨拶したのであれば,午後8時に到着することも困難であるため,本件現地本部は,後に上小西自治会の総会参加者に,宴会開始時刻を早める旨の供述を強制していた。)ため,不相当な誘導により供述内容を不自然に変更させたのであり,本件現地本部は,3月下旬に4回目会合があったとの原告X1らの供述の信用性を大きく減殺させる事実を把握していたというべきである。
c アリバイ事実の把握
また,同年6月13日頃は,iホテルの予約帳作成者であるA120も,その予約帳により取調べを受けていたのであり,この頃には,捜査機関は,1回目会合と4回目会合のアリバイ事実を把握していた。
d 原告X4の写真面割
原告X4は,同月21日まで,4回目会合について,参加者服装を,詳細に述べた供述調書に署名・指印しているなど,参加者の着衣や参加状況などを長時間・長期間にわたり執拗に聴取され,参加者の人物像は固定されていたはずである。
ところが,A15警部補は,同日,原告X4に対し,写真面割を実施し,同月23日,その調書を作成したが,原告X4は,A5もA89も判別することはできなかったし,また,原告X7はもとより,A113,A114も識別できなかった。このことからしても,通常の捜査官であれば,その供述が信用することができないものであることは容易に分かるはずである。
e 原告X3の写真面割
原告X3の同月22日付け供述調書では,写真面割りを実施するも,A5については1回では分からず,原告X7,A113及びA114は特定できていなかったのに,同年7月10日付け検察官面前調書(以下「検面調書」という。)では,「3人とも知っています。①番が先程話したA113さんで,②番の女性がA115さんです。③番がA114さんです。A115さんもc社で一緒に働いたことがあり,よく知っています。」との記載に変わっており,いかに原告X3の供述が不自然・不合理なものであったか,誰の目に明らかであった。
f 会合参加者
本件現地本部は,会合参加者についても,例えば,亡A1の同年5月25日付け供述調書では,女性従業員2名の記載はなく,A134の名前が挙げられているのに,同年6月21日付け供述調書では,「f社の従業員と思われる2人くらいの女性」が登場し,しかも,顔の特徴をほとんど覚えていないので,写真を見てもわからないかもしれません。」と写真面割りはされておらず,さらに,A134の名前は忽然と消え,その理由も明らかにされておらず,A134の名前は,この時期,ほとんどの自白者の供述調書から一斉に消えており,このことは,自白者らの供述の信用性がいずれもないこと及び本件現地本部がそのことを知った上で,供述内容を不相当に誘導した証左である。
g 同年6月25日までの捜査での供述虚偽が判明
以上のとおり,同月25日までの捜査で,原告X1らの供述が虚偽であることが一層明確になったものである。現に,以上の捜査状況の下で同月23日志布志署で開かれた捜査会議の席では,本件刑事事件の嫌疑について反対の意見が出されたが,A10署長は,当法廷で述べたような裏付けのない持論を述べ,反対意見を封じ込めたのである。したがって,第4次強制捜査を行ったことの違法性は顕著である。
h 4回目会合6月25日捜査事件と逮捕権の濫用
加えて,4回目会合6月25日捜査事件は,4回目会合6月4日捜査事件までにした捜査及び収集した証拠によっては,4回目会合の立証ができないことから,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,亡A1,原告X5,原告X6及び原告X7を処分保留で釈放しつつ,原告X6及び原告X7の4回目会合について,受供与者を変えて逮捕し,さらに,受供与者被疑者として,原告X10,原告X11,A88及び原告X8を各逮捕しているが,原告X6及び原告X7については,4回目会合という実質的に同一の事実での逮捕であり,逮捕権の濫用とであるというべきである。
i 1回目会合6月29日捜査事件の違法
1回目会合6月29日捜査事件は,原告X9が最終的に不処分とされていることから明らかなとおり,嫌疑なき逮捕である。
(オ) 第5次強制捜査を行った違法
本件現地本部は,平成15年7月23日,2回目会合等7月23日捜査事件に係る第5次強制捜査を行ったが,第2次強制捜査を行って以降,原告X1らの自白を裏付ける証拠は一切発見することができず,かえって,原告X7が,同年6月29日,A29警部補に対し,原告X7の使用する車両であるオペルの修理状況などの説明をしたのであるから,その裏付け捜査さえ行えば,原告X7がオペルに乗って3月下旬の4回目会合に来たとの自白が信用できるかは容易に判断できたはずであるし,原告X7が同年3月24日のA128の床屋の仮通夜に行っていたことなどを把握し,会合事実の自白に反する証拠を収集していたのであるから,第5次強制捜査を行ったこと,その身柄拘束を利用して取調べを行ったことはいずれも違法である。
イ 被告県の主張
(ア) 第2次強制捜査の適法性
a 逮捕状請求時において現に収集していた証拠の評価により,合理的な嫌疑が認められたこと
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について,県警が1回目会合事件の逮捕状請求時までに収集した証拠資料によれば,原告X1ら6人のうち,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1が事実を認める供述をしており,これらの供述内容は大筋で符合して相互に支え合っていた上,事実関係を否認していた関係者の関与も詳細に供述しており,そのほか,原告X9と亡X12が会合の席で口論となったこと,現金の入った封筒を破って中身を確認したこと,参加者から原告X7が来ていないとの声が上がったことなど,相当具体的な内容が含まれていたものである。
さらに,これらの供述を裏付けるものとして,原告X8の供述調書も存在したほか,亡A1の使途に関する供述の裏付けとして,A88の供述調書,原告X17の供述調書なども存在していた。
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠関係に照らせば,県警が,原告X1ら6人に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的根拠が客観的に欠如しているとはいえない。
b 消極証拠は,嫌疑を否定するものではないこと
買収会合で使用された封筒が発見されていないとしても,一般的に,現金買収事件において,被疑者らは違法な金銭を受領していることを十分認識していることから,その違法な金銭を入れていた封筒を早期に処分していることは十分考えられるところであり,これを嫌疑を否定する要素と評価することはできない。
c 通常要求される捜査をしたこと
(a) 通常要求される捜査の程度
通常要求される捜査については,捜査の段階に応じて,その内容や程度も異なり,また,結果的に一部捜査を実施しなかったとしても,その当時,当該捜査を行うことが不可能と認められる場合はもちろんのこと,それが事案の真相解明のために必ずしも重要ではないと判断された場合や,既に実施した捜査の結果により,事案の真相解明が十分図られると判断された場合等であれば,「通常要求される捜査」には当たらないと解すべきである。
(b) 犯行日時の特定
県警は,1回目会合の犯行日時について,平成15年2月上旬頃,2回目会合の犯行日時について,同月下旬頃,3回目会合の犯行日時について,同年3月中旬頃,4回目会合の犯行日時について,同月下旬頃とそれぞれ特定し,原告らを逮捕などしているが,一般的に,逮捕当時における嫌疑犯罪の特定の程度については,捜査の初期段階であり,逮捕後の被疑者の供述その他の捜査の進展によって初めて犯罪日時が特定し得ることも少なくないことから,犯罪事実が詳細に特定される必要はなく,その後の捜査の進展の中で特定していく犯罪事実との同一性が疑われない程度に特定されていれば足りると解される。
また,公訴事実については,刑事訴訟法256条3項において,公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない,訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならないと規定する所以のものは,裁判所に対し審判の対象を限定するとともに,被告人に対し防御の範囲を示すことを目的とするものと解されるところ,犯罪の日時,場所及び方法は,これら事項が,犯罪を構成する要素になっている場合を除き,本来は,罪となるべき事実そのものではなく,ただ訴因を特定する一手段として,できる限り具体的に表示すべきことを要請されているのであるから,犯罪の種類,性質等の如何により,これを詳らかにすることができない特殊事情がある場合には,前記法の目的を害さないかぎりの幅のある表示をしても,その一事のみをもって,罪となるべき事実を特定しない違法があるということはできないと判示されているところであり(最高裁判所昭和37年11月28日大法廷判決・刑集16巻11号1633頁),県警としては,1回目会合事件については,自供した関係者がいずれも2月上旬頃を犯行時期として供述したことから,同時期における関係者の動静を可能な限り確認するなどしたところ,日時の特定に関して,①原告X4が,1回目会合の受供与金で長男の携帯電話通話料金を支払ったこと,②原告X3の妻A136(以下「A136」という。)が,踊りの稽古のため1回目会合に出席できなかったこと,③1回目会合の時期に原告X8が,風邪を引いて仕事を休んでいたこと等の供述を得るとともに,当該供述を裏付けるため,携帯電話通話料金の払込受領証の日付や,A136の踊りの稽古日,原告X8のタイムカード等を確認するなどして,「できる限り」日時の特定に努めたところであるが,関係者の記憶に曖昧な部分があったほか,記憶を直接喚起するような日記や手帳などが存在しなかったこともあり,逮捕時点では具体的に犯行日を特定するに至らなかったものである。
また,4回目会合については,自供した関係者がいずれも3月下旬頃を犯行時期として供述したことから,同時期における関係者の動静を可能な限り確認するなどした上で,原告X8の当日のテレビ番組に関する記憶,原告X1のタイムカードの記載,関係者の携帯電話発着信履歴等に基づき,可能な限り日時の特定に努めたものの,同様に具体的に犯行日を特定するには至らなかったものである。
そのほか,2回目会合事件及び3回目会合事件についても,関係者の供述等により,可能な限り日時の特定に努めたものの,同様に具体的に犯行日を特定するには至らなかったものである。
このように,当時,関係者において記憶が曖昧な部分があり,また,記憶を喚起するような資料や会合の開催時期を示す直接証拠も残されていない中で,可能な限り日時を特定したものであるが,逮捕時点で求められる犯罪事実の特定の程度として不十分な点は認められない。
加えて,犯行日時について確たる証拠もないまま当初から安易に特定してしまうと,後に関係者の記憶違いや新たな証拠等で別の犯行日が判明した場合などに,事件の立証自体が非常に困難になるほか,関係者がアリバイを捏造するといった懸念も払拭できないのであり,犯行日時の特定については,より慎重にならざるを得ないのである。
したがって,犯行日時が特定できなかったことについては,国家賠償法上違法と評価されるものではない。
(c) 第2次強制捜査や第1次起訴までに本件予約帳の記載から本件新年会を把握できないことは不合理とはいえないこと
同年4月17日に入手した本件予約帳の写しは,A5ビール事件捜査でA5の行動を明らかにするため入手したもので,本件予約帳を本件刑事事件の証拠品として押収したのは,同年6月4日の捜索差押え時のことであった。
A5ビール事件及びA5焼酎事件の捜査については,A5が同年4月17日に突然入院したため捜査の継続が困難となり,A5を供与者とする上記2つの事件は事実上中断したこととなり,その後,原告X6の行動と直接関係のないX1焼酎事件の捜査が進展する中で,A5の行動を確認する目的で入手した本件予約帳の写しの証拠価値について,本件刑事事件が発覚した同年4月30日から本件刑事事件の証拠品として予約帳を押収した前日の同年6月3日までの間,本件刑事事件の真相解明のため特に有意性のあるものとして認識していなかったとしても不合理ではない。
また本件予約帳の同年2月8日の欄の余白部分を見ると,「A121ちゃん同窓会すた(判読不能)も帰った。」などと記載してあるように判読することはできるが,判読不能である「X6ちゃんも」の部分については,通常の人であれば判読できない乱雑な文字であることは明らかである上,既に述べたとおり,県警は,1回目会合事件の犯行日時を平成15年2月上旬頃と特定していたものであるから,本件予約帳を精査した際に判読不能文字がある以上,この時点で当該捜査をそれ以上進展させることは困難であり,本件予約帳やその精査結果から,同月8日の本件新年会を把握できないことは不合理ではない。
結局のところ,買収会合事実が発覚した同年4月30日から同年6月3日までの間に,本件予約帳の存在を原告X6の行動を裏付けるために特に有意性のある資料と判断するか否かは,人的・時間的制約の中で捜査に従事する捜査官個々の巧拙に左右される範囲のものであり,必ずしも,通常要求される捜査に当たらないと解するのが合理的である。
(d) 同年6月3日までに原告X6及びその関係者の取調べをしなかったことは不合理とはいえないこと
原告らは,同年6月3日までに原告X6,A5及び原告X6の後援会関係者に対する事情聴取をすれば1回目会合があったとする同年2月8日に原告X6が本件新年会に出席していた事実を把握し得たはずなのに,これら捜査をしなかった旨を主張するが,これについては,原告X6が,当時,新聞報道等において,原告X1による本件買収に心当たりはなく,自分から現金を渡すことは絶対にない旨コメントをしていたため,原告X6及びA5については任意捜査に応じないものと考え,また,仮に出頭要請に応じたとしても,取調べを受けるとなれば,取調官の発問等から捜査機関の捜査方針等を推し量って罪証隠滅に及ぶことが危惧されたため,原告X6と原告X7,A5と妻のA120のほか,後援会関係者の取調べを同年6月3日までは行わなかったものである。
したがって,このような場合には警察官はそれ以上に捜査を尽くすべき義務を負うものではないと解されるから,これらの捜査は,通常要求される捜査に当たらない。
(e) A120の取調べにおいて原告X6の本件新年会出席を把握できなかったことは不合理とはいえないこと
原告らは,予約帳の記載内容に判読不明な点があれば,その記載者本人を取調べて確認することが当然求められる捜査であった旨を主張するが,記載者本人であるA120は,原告X6の従妹という親族関係に当たることから,A120を取り調べれば,取調べの内容が直ちに原告X6らに伝わり,もって,罪証隠滅に及ぶことが危惧されたため,原告X6を逮捕する同年6月4日までは事情聴取ができなかったものであり,この点に照らしても,「通常要求される捜査」からは控除されるものである。
そもそも,判読不明文字が解明できなければ,そのままにせず解明するまで捜査を尽くすべきとする主張は,本件刑事事件の刑事公判で,1回目会合が同年2月8日と特定されたことと判読不能文字がX6ちゃんの意であったことという当時判明していなかった事実を論拠としていることから,失当であるといわざるを得ない。
(f) 供与金の原資や受供与金の使途の全てが解明されていないことは不合理ではないこと
原告らは,通常要求される捜査を遂行すれば,強制捜査着手前に供与金の原資の解明及び受供与金の使途についての証拠は皆無であるとの結論に達することができたか,あるいは,上記の捜査は皆無であることを知っていたなどと主張するが,一般的に,現金買収事件の捜査において,供与金の原資や受供与金の使途先については主要な捜査項目ではあるものの,必ずしも,常に原資や使途先について全て裏付けがとれるというものではない。
特に,被疑者が否認して具体的な供述が得られないような場合には,所要の捜査を尽くした場合であっても,原資や使途先の特定に至らないこともあり得るし,違法な現金のやり取りについては,証拠が残らないように隠蔽,隠匿するのが犯罪を企図する者にとっては当然であるから,原資や使途先が特定できなかったことのみをもって,現金買収の事実がないという判断には至らないところである。
警察としては,そのような場合であっても,被疑者の供述やその他の証拠資料を総合的に勘案して,犯罪の嫌疑が認められる以上,事案の真相解明に向けて捜査を行うことが求められるというべきである。
本件公職選挙法違反事件においては,これまで被告県が主張してきたとおり,当時,県警としては,供与金の原資について,原告X6の経営する会社等の帳簿類を精査するなどして,所要の捜査を尽くしたものの,当該帳簿自体が杜撰であったりして,最終的にその特定には至らなかったものであるが,特定には至らないまでも,原資となり得る現金の存在を解明していたところであり,親族等からの寄付金の存在や,車の購入資金名目で500万円の選挙資金の融資を受けていた事実が確認されるとともに,原告X7は,本件刑事事件の公判において,当時f社で保管していた70本から80本ぐらいの他人の印鑑を使用し,嘘の仕切り書を作ってできたお金を自分のものにしたことがあるかとの質問に対し,「はい,ありました。」と証言し,さらに,いくらぐらいを自分のものにしたのかとの質問に,「金額ははっきり分かりませんけど,(中略)160ぐらいじゃなかったかと思いますけれども」と証言して,不正に現金を捻出していた事実を認めている。
また,供与金の使途先については,現金買収の場合,交付された現金が日常生活費に混和してしまい,被供与者が個別の使途を特段記憶していないということも想定されたところであるが,関係者の供述に基づき,所要の裏付け捜査を行った結果,原告X2は,給油,孫の節句における武者絵織の購入代金など,亡A1は,A88への牛の運搬代,機器のリース代金など,原告X1は,貯金箱への貯金,長男のA117への供与金,腕時計の購入代金,タイヤやオイル交換代金など,原告X4は,携帯電話料金支払などにそれぞれ使途した事実が確認されている。
このように,当時,県警としては,供与金の原資や使途先についても所要の捜査を尽くしたところであり,その結果,原資の捻出が可能な状況が明らかになるとともに,関係者が供述する供与金の使途先について,一定の裏付けがとれたものである。
(g) 通話記録の精査が物理的に不可能であったこと
原告らは,1回目会合事件について,会合の案内の電話に係る通話記録の精査がされていないことを指摘するが,原告X1の通信記録については,当時,県警において,携帯電話会社に通信記録の差押えを実施したが,1回目会合前の通信記録については,既に保管期間が経過していたため差し押さえることができず,固定電話の通信記録については,電話会社で差し押さえたものの,局番以下が「****」(アスタリスク)となっており,通話先の電話番号が特定されなかった。
加えて,原告らは,原告X6やA5が保有する携帯電話の通話記録から通話困難地域内にあるX1宅への訪問の有無が確認できた旨を主張するが,これらについても同年5月の段階で差押えを実施したものの,既に2月中の通信記録の保管期間が過ぎていたことから,差し押さえることができなかったものであり,県警が,同年2月上旬頃の携帯電話の通信記録を精査すること自体,物理的に不可能であった。
この点につき,原告らから,甲総ア第434号証及び甲総ア第435号証(料金明細内訳書(以下「明細書」という。))が提出されており,これを見れば,確かに原告X6名義の携帯電話にかかる2月中の発信履歴を知り得ることができる。
しかしながら,この明細書は,電話会社から請求される電話料金の詳細な内訳等を把握するため,契約者本人が電話会社に要請するものであり,つまりは,契約者である原告X6が,通信記録の保管期間が経過する前に,電話会社から明細書の発行を受けていたということになるが,当時,県警が,原告X6から明細書の任意提出を受けた事実もなければ,原告X6宅やf社などの捜索により明細書を発見した事実もない。
(イ) X1焼酎5月18日捜査事件に係る捜査の適法性
県警がX1焼酎5月18日捜査事件の逮捕状請求までに収集した証拠資料によれば,原告X9は,取調べにおいて事件への関与を否認していたが,原告X1は,X1焼酎事件について,「X7から現金入りの封筒と焼酎を渡されたが,封筒に入ったお金を抜き取って,私,X3,X9の3人で山分けし,a3集落以外の集落は,夫のX9と一緒に現金と焼酎を配って回った。」などと,それまで県警が知り得なかった事実を詳細に供述した上,買収金の山分け状況など相当具体的な内容も含まれており,原告X9自身も,妻と一緒にa3集落以外の集落で後援会名簿の署名集めをしたことを認めたため,原告X9の関与について蓋然性が高いと判断された。
さらに,これらの供述を裏付ける客観的証拠として,原告X1と原告X9が配ったとされる焼酎が,供与先とされるA108やA85から押収されたことや,原告X1と原告X9が現金と焼酎を配って回ったとされるa3集落以外のA86,A108,A85,A87,A104などについては,原告X1と原告X9が原告X6の投票依頼のために訪ねてきたことや,そのお礼として現金と焼酎を受け取ったことを認める供述調書が存在していた。
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠関係に照らせば,県警が,原告X9に罪を犯したことを疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について,通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的根拠が客観的に欠如しているとはいえない。
(ウ) 第3次強制捜査の適法性
a 逮捕状請求の適法性
県警が第3次強制捜査に係る逮捕状請求までに収集した証拠資料によれば,4回目会合事件で逮捕した原告X6ら8人のうち,受供与者である原告X2,原告X4,原告X3及び亡A1の4人が事実関係を認め,これらの供述内容は大筋で符合して相互に支え合っていた上,事実関係を否認していた関係者の関与も詳細に供述しており,そのほか,会合の際,原告X7が現金入りの封筒をバッグから取り出したこと,原告X6から封筒に入った現金を受領したこと,会合の場に盛り皿(オードブル)が提供されたこと,原告X6や原告X7らとの詳しい会話内容などといった,相当具体的な内容を含む供述調書が存在し,加えて,買収会合があった旨の供述を裏付ける証拠として,4回目会合に参加したとされる原告X8の供述調書も存在していた。
一方で,受供与者である原告X1及び原告X5は事実関係を否認していたが,その供述には,犯罪の嫌疑が認められなくなる程の特段の事情は認められず,特に,原告X1にあっては,それまでの自供内容を突如覆して否認に転じていたものである。
また,原告X9も事実関係を否認していたが,原告X1及び原告X5と同様,その供述には,犯罪の嫌疑が認められなくなる程の特段の事情は認められなかった。
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠資料に照らせば,捜査機関が,原告X6ら8人及び原告X9に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的理由が欠如しているとはいえない。
b アリバイ捜査
(a) 県警は,同月6月4日以降,4回目会合に焦点を置いた捜査を推進していたこと
県警は,原告X6を逮捕した平成15年6月4日に,当時,A5が経営していたiホテルの捜索差押えを行い,本件予約帳等を押収したこと。A34警部補が,押収した本件予約帳を精査したリライト資料(以下「本件リライト資料」という。)をA120に示したのが,同月10日からであり,その際,A120は同月2月8日の「??」について明確な説明をしていない。
A34警部補が,本件訴訟の証人尋問において,「日にちの特定がされていなかったので,そのときに特化して聞いているわけではない。」と証言しているとおり,県警としては,1回目会合の開催日を同年2月上旬頃,4回目会合の開催日を同年3月下旬頃と特定していたため,A34警部補は,A120本人の選挙への関わりを聴取しながら,本件リライト資料に記載された判読不能文字について,総じて日ごとに聴取していったものである。
そもそも,同年6月4日に原告X6らを逮捕した事実は,開催日を「3月下旬頃」と特定した4回目会合の事実であるから,その捜査においては,主に4回目会合事実の真相解明に向けて捜査していた状況であり,1回目会合の事実については,同年6月3日の時点で検察官により公訴提起された事実であるところ,A34警部補は,4回目会合に関する同年3月下旬のみに固執せず,同年2月の欄も含めて,A120に本件リライト資料を提示しながら説明を求めているものである。
論点となっている本件予約帳の同年2月8日の欄に関しては,当然のことながら,1回目会合事実についてのことであるから,当時の捜査状況にかんがみても,A34警部補や他の捜査員は,本件リライト資料の同日の欄に記載された判読不能文字の解読に執着すべきだったと考えるのは,むしろ不自然といえる。
(b) mホテルの本件宴会台帳の確認
県警がmホテルの本件宴会台帳を初めて確認したのは,原告X6が同年2月8日の本件新年会に出席していた事実を知り得た後の同年7月25日である。県警は,同年6月4日の原告X6らの逮捕を受けて,逮捕事実である4回目会合について捜査していたものであるが,原告らの取調べにおいて,5月下旬の段階で,「4回目会合の場でオードブルが出た。」との供述が得られたことから,その裏付けとして,主に6月中,オードブル取扱業者等のところに赴き,原告X6やその関係者にオードブルの販売事実がないか確認の捜査を行っていたところである。
オードブルに関する裏付け捜査の一環として,本件現地本部の捜査員が旧志布志町内のmホテルに赴き,オードブルの仕出し状況等について裏付け捜査を行ったものであるが,この時点において,県警は,mホテルにおける原告X6の本件新年会の出席等について全く把握していなかったため,あくまでオードブルに関する供述の裏付け捜査の一環として,mホテルの経営者であったA135や従業員から事情聴取を行ったものである。
この点につき,A135は,本件訴訟の証人尋問において,「1回目(6月)に事情聴取に来た警察官が,mホテルの予約台帳の原本を持って行った。」,「オードブルについて事情聴取に来た警察官に対し,自ら,同年2月8日と同年3月24日にmホテルでの会合に原告X6が出席したことを話した。」などと,あたかも同年6月の時点で,県警が,原告X6のアリバイについて知り得たかのような証言をしているが,A135の証言は,①オードブル捜査に来た捜査員に対し,A135が自発的に同年2月8日と同年3月24日の原告X6のアリバイを申告する理由が不自然であること,②A135は,同年2月8日と同年3月24日に原告X6がmホテルにおける会合に出席したことは申告したとしながら,同年3月17日にmホテルで開催された「かたろう会」については,捜査員に申告していないというが,A135は,この「かたろう会」は「ちょっとした事件が起きた会合」として印象に残っている会合であったにもかかわらず,原告X6が出席していたかどうか忘れるなど,信憑性に欠けた証言をしていること,③A135は,オードブル捜査の際,捜査員がmホテルの本件宴会台帳を預かったと証言するものの,「原本は返してもらっています。」と証言する一方で,「原本は戻ってきていないと思いますので。」などと曖昧な証言をするなど,一貫性のない証言をしているなど,到底信用できるものではない。
そもそも,県警がmホテルの本件宴会台帳の原本などを押収したのは,同年7月25日のことであるから,同年6月に事情聴取に来た捜査員がmホテルの本件宴会台帳の原本を持ち帰ったとするA135の証言は,同年7月25日付けのA135作成にかかる任意提出書などの内容と全く食い違っているものであり,A135が原告X6の支持者であった事実などからかんがみても,A135の証言は,信用するに値しない。
なお,原告X1らが同年6月13日頃を境に,4回目会合の始まった時間を急遽午後8時頃としたのは,mホテルでの本件懇親会で原告X6が挨拶をしている事実が判明したため,意図的に会合の開始時刻をずらしたものであるなどとする点については,4回目会合の開催時刻について,亡A1が,5月末の時点で,午後8時頃と供述しており,この相違点を確認すべく取り調べたところ,自ら「午後8時頃だった。」と供述したものである。
c 原告らの主張が具体的事実に基づかない憶測であること
原告らは,原告X1について,「自白と否認の度重なる交錯がみられる。これは,自白が信用することができない重大な特徴である。」,原告X4が4回目の買収会合に誘われたときの状況について,「一旦断定しておきながらその後供述を変遷させ,その上さらに供述を変遷させどちらともとれるような曖昧な供述に至るというのはいかにも不自然である。」,原告X2の買収会合の時刻にかかる供述について,「警察官による誘導の結果供述を揃えさせられたと見るのが自然であるし,また変遷に合理的な理由がないことからしても,信用性に極めて乏しい。」,亡A1の買収会合出席者,時期,受供与金の額にかかる供述について,「変遷状況は,捜査側の押し付けによって得られたものではないかとの疑問を持ってしかるべきである。」などと主張し,関係者の供述の変遷は,県警による供述の押し付けや捏造の結果であり,供述の信用性はないものと主張している。
しかしながら,原告らの主張は,具体的事実に基づかない憶測にすぎず,県警が供述を押し付けたり,供述を捏造した事実はなく,関係者の供述の変遷については,自供した各被疑者が申し立てる内容を供述調書に録取した結果である。
当時,県警としては,関係者の供述の一部に変遷が認められたものの,同人らの供述が変遷する背景には,関係者間で連絡を取り合い,否認の口裏合わせが行われているかのような状況のほか,本件刑事事件の他の出席者や候補者をかばっている状況,重刑を恐れて供述を小出しにしている状況,複数の会合等の記憶が錯綜している可能性に加えて,関係者が同一の集落や近隣に住む住民がほとんどで,相互に強固な人間関係が認められる中で,家族や集落の住民から圧力を受けている状況が強くうかがわれ,さらには,同年5月19日,取調官が原告X3に対して,同年2月と同年3月に生活費の出費がないこと等を追及したところ,「X6さんをかばっていても自分のためにならない。」と否認から自白に供述を変遷させたことから,取調官が,否認していた理由や自白に転じた理由等を質問したところ,原告X3が,弁護人から事実関係を否定するように言われたことを自発的に供述したこと,同年6月8日,原告X1が否認から自白に供述を変遷させたことから,取調官が,否認していた理由や自白に転じた理由等を質問したところ,原告X1が,弁護人から事実関係を否定するように言われたことを供述したことなどから,弁護士から否認の慫慂等があったと疑われる状況まで見られたところであり,供述の変遷があったことで,買収会合があったとする供述内容自体が信用することができないという判断には至らなかったものである。
したがって,県警が供述を押し付けたり捏造したために原告らの供述が変遷したものではなく,このような状況の中でも複数の関係者が買収会合の事実を認めて具体的に供述していたのであるから,県警としては,これらの供述に十分信用性が認められると判断して捜査を進めたものであり,その後,関係者が否認に転じたり,供述が変遷したことをもって犯罪の嫌疑が解消したわけではない。
(エ) 第4次強制捜査の適法性
a 4回目会合
原告X6ら6人のうち,原告X8を除く5人は,いずれも事実関係を否認していたが,これらの者が4回目会合に参加するなどしていたことは,原告X8の事実関係を認めた供述が存在していたほか,先に逮捕・勾留されて4回目会合事件に関する取調べを受け,事実関係を認めていた原告X1らの供述調書が存在し,これらの供述内容は,大筋で符合して相互に支え合っていた上,相当具体的な内容が含まれていた。
また,原告X1の供述に基づいて,同人方裏の杉山を捜索したところ,4回目会合事件の際に出席者に提供された料理(オードブル)の残り等と思料されるビニール製中華たれの袋,プラスチック製しょう油さし,料理用装飾品,ばらん,わさびなどが発見・押収されたほか,4回目会合事件の事実関係を否認していた原告X6,原告X7,原告X10,原告X11及びA88の弁解や供述中には,犯罪の嫌疑を客観的に否定する程の特段の事情は認められなかった。
b 1回目会合
原告X6及び原告X9は,1回目会合事件についても事実関係を否認していたが,本件刑事事件の事実関係を認めた原告X1らの供述のほか,これらの供述を裏付ける原告X8及びA88の各供述等の証拠が既に収集済みであった。
1回目会合事件についても,事実関係を否認する原告X6及び原告X9の弁解や供述は,事実関係を否認する原告X5の供述等の証拠資料を併せ考慮しても,犯罪の嫌疑を客観的に否定するものではなかった上,原告X6に関するアリバイを裏付ける証拠等は一切存在しなかった。
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠資料に照らせば,捜査機関が,原告X6ら6人に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的理由が欠如しているとはいえない。
(オ) 第5次強制捜査の適法性
原告X6及び原告X7の両名とも事実関係を否認していたが,受供与被疑者である原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び亡A1が事実関係を認めており,その自白の内容は,いずれも会合場所がX1宅で,受供与金額が5万円であったことなどの根幹部分が符合し,相互に支え合っていた上,事実関係を否認していた関係者の関与も詳細に供述していたものであり,1回目会合事件及び4回目会合事件に関する供述と同様,相当具体的な内容が含まれていた。
加えて,4回目会合については,事実関係を認めていた原告X1らの供述調書が存在し,A89やA5の関与についても詳細に供述していた上,その供述には相当具体的な内容も含まれており,そのほか,会合で出されたオードブルの残骸と思われる証拠品が押収されるなど,原告X1らの供述には高い信用性が認められたところであるが,4回目会合事件の事実関係を否認していたA89やA5の弁解や供述には,犯罪の嫌疑を客観的に否定するほどの特段の事情は認められなかった。
このように,逮捕状請求時に現に収集された以上のような証拠資料に照らせば,捜査機関が,原告X6,原告X7及びA89,A5に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,証拠の評価について,通常考えられる個人差を考慮に入れても,合理的理由が欠如しているとはいえない。
(カ) 原告らに対する取調べの適法性
県警は,会合事実の供述が概ね出そろい,捜査会議の簡略化を終了させた後も,原告らに対し,任意性に留意して取調べを行っており,恫喝等の事実もなく,例えば原告X4については,他の関係者の供述内容を示して取り調べた結果,「はっきり覚えていません。」と供述した旨を録取した平成15年5月22日付け供述調書が作成されているほか,原告X2も,取調べにおいて積極的に事実を認める供述をする一方で,取調官の問い掛けに対して,自らの認識と異なる部分は明確に否定し,自らの記憶にない部分は「分からない。」と答えるなど,取調官に迎合しているものとは認められなかったことなどからも,供述の押し付けや捏造などがなかったことは明らかである。
そのほか,原告X8は,原告X10が受供与金で購入したバッグについて,大きさや形状などを詳細に供述したことから,取調官が押収品の手提げバッグを示したところ,「X10さんから見せてもらったバッグとは明らかに形が違う。」などと,自分の意思に基づいて供述をしている。
また,逮捕事実を否認している者については,同人らが供述するとおり,事実を否認する内容の供述調書が作成されている。
(5)  争点(1)オ(弁護人との接見内容を調書化することによる違法性の有無)
ア 原告らの主張
本件刑事事件において,県警は,検察官と共同して,組織的に,本件無罪原告らが弁護人と接見した後,その接見内容を取り調べて調書化した。
これは,刑事事件の被告人に最大限保障されるべき,弁護人との接見交通権の中核をなす弁護人との秘密交通権を侵害するものである。
加えて,本件現地本部の捜査官は,上記組織的な接見交通権の妨害とは別に,取調べの際に,秘密交通権を侵害したり,弁護人に対する批判を繰り返し述べるなどしていた。
これらの行為は,本件無罪原告らと弁護人との信頼関係の構築を困難にし,本件無罪原告らが本件刑事事件において適切な弁護を受ける弁護権を侵害した違法な捜査である。その具体的な態様は以下のとおりである。
(ア) 原告X1
原告X1は,平成15年4月30日の欄に,A14警部補から,「嘘を言っているから弁護士さんに言っても弁護士さんの方も逮捕する。」と恫喝され,原告X1が捜査機関に対し,自己を弁護する弁護士も逮捕できるものと恐れたことも容易に理解できるところであって,被疑者ないし被告人である原告X1と弁護人の強い信頼関係の構築を困難にするものである。
A14警部補は,同年5月13日,原告X1に対して取調べを行い,C1弁護士との接見内容について,「もう私は来れませんから鹿児島市の弁護士さんが来ます。」とのC1弁護士の発言を調書化し,その上で,弁護人に対して,被疑事実に間違いない旨を述べるよう,大声で怒鳴った。弁護人とどのような打ち合わせをするかは,まさに原告X1が選択するものであり,これに介入することは,取調権の範囲を逸脱した違法がある取調べである。
原告X1は,同月18日,A14警部補の取調べにおいて,X1焼酎事件及び本件刑事事件について,否認に転じた。しかし,A14警部補は,精神的に不安定になっている原告X1に対し,秘密交通権を侵害し取調権を逸脱して,「今日の午前11時30分,(A90)弁護士さんが来て面会しましたが,弁護士はA1さん,X4さん,X2さんはお金を貰ったと言って認めていますが,X3さん,X5さんは貰ったことはありませんと言っていますということを聞かされ,さらに弁護士は『お金や焼酎はやったことはないといいなさい』と言いました。それで,私は昼からの取調べで否認しました。これまで説明したことが全部嘘だと説明しました。」などとする供述調書の作成を強要した。
(イ) 原告X3
a A18警部補の「弁護士と警察は反対だからね。」,「警察と反対の悪い人だ。」発言
A18警部補は,平成15年5月14日,被疑事実を否認していた原告X3に対し,「弁護士と警察は反対だからね。」,「警察と反対の悪い人だ。」と言って弁護人の悪口を述べ,さらに,弁護人には本当のことを言いなさいと,あたかも原告X3が被疑事実を否認することが嘘であるかのようなことを言って,原告X3を困惑させ,弁護人との信頼関係の構築を困難にした。
b A18警部補の事件関係者の罪証隠滅のために利用され最終的には見捨てられる危険はないか発言
A18警部補は,同月15日,被疑事実を否認している原告X3に対し,弁護人は誰を選任したか,誰がその弁護人に依頼し,費用を負担しているか,などの質問をし,弁護人を誰が依頼したか分からないとの回答を得るや,事件関係者が依頼したものであれば,事件関係者の罪証隠滅のために利用され,最終的には見捨てられる危険はないかなどと告げて,弁護人との信頼関係の構築を困難にした。
c A18警部補の「弁護士の先生は本当にX3さんのことを一番に思ってやっているかどうか。」発言
A18警部補は,同月16日,弁護人との接見を終え,弁護人を信頼していると述べている原告X3に対し,「弁護士の先生は本当にX3さんのことを一番に思ってやっているかどうか。」等について疑問を投げかけるなど,弁護人との信頼関係を積極的に不当に介入した。
d A18警部補のC7弁護士の説明が虚偽であるかのような発言
A18警部補は,同月17日,繰り返し否認している原告X3に対し,取調べを行い,同月16日のC7弁護士との接見内容を聞き出し,「X3さんが無実を証明する必要がない。」と説明したC7弁護士の説明が虚偽であるかのように述べて,偽計を用いて,弁護人との信頼関係に不当に介入した。
e A18警部補の弁護人の解任慫慂行為
A18警部補は,同月19日,原告X3からC5弁護士及びC7弁護士との接見内容を聴取し,調書化した上,原告X3に対し,弁護人の解任を慫慂し,原告X3は,弁護人を解任すると言わされた。そして,A18刑事は,解任届けを作成させ,これをC5弁護士らに送付した。このため,原告X3は,起訴前に弁護人の弁護を受ける権利を奪われた。なお,原告X3から弁護人解任の通知を受けたC5弁護士らは,辞任届けを同年6月4日付けで,裁判所に提出した。
(ウ) 接見内容の聴取指示
県警本部のA7参事官とA9情報官は,A14警部補から上記供述調書に係るA90弁護士の原告X1との接見での助言について報告を受け,A14警部補に対し,否認の理由が弁護士による否認の働きかけ等と判断されるとして,接見内容を聴取することを指示した。
A7参事官とA9情報官は,平成15年5月19日,検察庁と協議し,弁護士が被疑者との接見で否認を勧める助言をしていることについて協議した。A75検事は,同日,原告X1の同月18日付け供述調書の上記記載及び原告X3の同月19日付け供述調書に「弁護人から何を聞かれても,行っていない,貰っていないといいなさい。」旨の記載があることを知って,A79検事正に指示を仰ぎ,その指示に基づき,同月20日頃,A12警部に対し,警察の取調べにおいで,自白していた被疑者が弁護人との接見後に否認に転じて,その後再び自白に戻った場合,否認に転じた理由について詳細に聴取して,それを調書化するよう指示した。
(エ) 接見内容の取調べと解任の慫慂
本件現地本部は,上記各指示に基づき,あるいはそれらの指示の範囲を超えて,原告X1ほかの接見内容を繰り返し取り調べ,このうち,以下のとおり供述調書を作成して署名指印させたほか,弁護人を解任するよう慫慂した。
a A17警部補
A17警部補は,亡A1に対し,平成15年5月21日,同月28日,同月31日,同年6月8日,同月19日,弁護人との接見状況を事情聴取し,買収会合があったことが真実であるという前提で,亡A1と弁護人が同事実を否認する言動を全て虚偽の口裏合わせと位置づける供述調書を作成してこれに署名指印させた。
b A15警部補
A15警部補は,原告X4に対し,同年5月22日,同月27日,同月30日と断続的に弁護人との接見状況を事情聴取した上で弁護人の批判を繰り返し告げて,捜査機関に迎合していた原告X4から弁護人を批判する内容の供述をさせてこれを調書化して署名指印させるなどし,同年6月9日付けで,A93弁護士を解任させた。
A15警部補は,その後も,同月12日,同月15日,同月16日,同年7月23日,同月25日,同月29日,同年8月1日,同月8日にも弁護人との接見状況を事情聴取した上で,弁護人の批判を繰り返し告げるなどして,捜査機関に迎合していた原告X4から弁護人を批判する内容の供述をさせてこれを調書化して署名指印させた。
c A16警部補
A16警部補は,原告X2に対し,同年5月22日,同年6月17日,同年7月1日,同月3日,同月24日,弁護人選任の経緯や費用等について詳細に供述させたり,公判での認否の予定等に関する弁護人との接見内容を事情聴取した上でこれを調書化して署名指印させた。
d A18警部補
A18警部補は,原告X3に対し,同月22日,同年6月20日,同年7月9日,弁護人との打合せ内容を事情聴取した上,弁護人の批判を繰り返し告げるなどして,捜査機関に迎合していた原告X3から弁護人を批判する内容の供述をさせてこれを調書化して署名指印させた。
e A30警部補又はA36巡査部長
A30警部補又はA36巡査部長は,原告X8に対し,同年7月2日,同月24日,同月29日,弁護人との接見内容を事情聴取し,弁護人が原告X8の無実を前提に接見していることを聞き出すや,捜査機関に迎合している原告X8から,事実を認めると弁護人に都合が悪い事情があると思ったなどと,弁護人に原告X8以外の者の利益のために活動しているかのような内容の供述をさせてこれを調書化して署名指印させた。
本件現地本部は,A30警部補外1名を,同年5月21日から同月28日まで,断続的に,原告X5の夫であるA137の入院先の病院に派遣し,その都度,A137から1時間程度事情聴取をした。その際,刑事らは,「奥さんが集会に出て現金を受け取ったことをあなたが認めれば,早く帰ってこれるんですよ。弁護士はあなた達の味方ではなく,敵なんですよ。暴利を貪るばかりで信用ない。信用したらだめだ。代議士などの大物には一生懸命だが,この辺りのあなた達には適当にやっているよ。」などと言って,弁護人を誹謗中傷し,取調べを行った。
これは,否認を続ける原告X5を精神的に混乱させるためのものであり,およそ取調べとは言えない違法な行為である。
また,A59巡査部長が,同年6月29日,原告X5の娘の夫であるA138から事情聴取した際にも,弁護人との関係を聞きだそうとしていた。これも,本件現地本部による原告らの弁護権に対する組織的な侵害の一部である。
A36巡査部長は,原告X8が任意捜査を受けていた同年6月18日,夫である原告X4と弁護人との関係を事情聴取して,これを調書化しており,弁護人との関係を積極的に事情聴取しており,これも被疑者と弁護人との信頼関係を破壊する行為である。
f A14警部補又はA37巡査部長
A14警部補又はA37巡査部長は,原告X1に対し,同年5月26日,同年6月8日,同月9日,同月10日,同月14日,同月18日,同月19日,弁護人との接見内容を繰り返し事情聴取し,捜査機関の意に反して否認すれば身柄拘束が長くなることなどを告げた上で,弁護人から事実関係を否認するよう指示された旨や弁護人が原告X1にした身柄拘束の見通しの説明を繰り返し供述させてこれを調書化して署名指印させ,原告X1に対し,弁護人の助言に従えば,身柄拘束が長くなると誤認させるなどして,弁護人との信頼関係を破壊し,同日,弁護人を解任させた。
A14警部補又はA37巡査部長は,その後も同月24日,同月30日,同年7月3日,同月14日,同月15日,同月18,同月27日,同月30日,同年8月1日,同月8日,弁護人との接見内容を事情聴取して,弁護人の身柄拘束に関する助言等を繰り返し供述させてこれを調書化して署名指印させた。A14警部補の上記同年6月30日の取調べでは,原告X1がA90弁護士及びC1弁護士を解任した後の国選弁護人であるC2弁護士との接見後,その接見内容を取り調べた。そして,A14警部補が従前,原告X1に対し,弁護人を変えて公訴事実を認めれば身柄拘束や裁判の期間が短くなるなどの利益誘導を行っていたが,C2弁護士からの助言がそれと異なることを聞き出すや,「事実を認めた人と認めない人が同じ結論になるなんて,法律のプロがそのような説明をするとは信じられない。」などと弁護人との信頼関係を破壊するような介入を行った。
g A19警部補
A19警部補は,原告X9に対し,同年5月30日及び同年6月12日,弁護人との接見内容を事情聴取し,弁護人が,これまでの接見で事実を否認していた原告X9に対してした,被疑事実がないなら否認するようにとの助言を曲解した内容の供述をさせ,さらに,同年6月8日に4回目会合6月8日捜査事件で身柄拘束されたばかりの原告X9に対し,弁護人の接見回数が少ない段階であるにも拘わらず,身柄拘束の見通しについてどのような助言を受けたか等を聞き出して,弁護人に対する不安を増長させる内容の供述をさせ,これらを調書化して署名指印させた。
h A24警部補
A24警部補は,同年6月17日,原告X5に対し,「弁護士を頼むと300万円位金がかかる。誰かは1000万円位かかった。」,「皆別な人は,認めて先のバスでどんどんいっている。いつまでも否認するとどんどん罪が重くなる。早く自分の過ちを認めた方が早く済んで早く帰れる。」などと,偽計を用いて,弁護士を解任するよう慫慂し,虚偽の自白をさせようとした。
i A12警部
A12警部は,同日,原告X6に対し,弁護人との関係について,誰の紹介であるか等,明らかに捜査に無関係な事項を含めて発問し,その答えを導いている。これは,秘密交通権を侵害であり,違法である。A12警部とA39巡査部長は,弁護人との接見が終わった都度,原告X6に対し,その接見内容を尋ね,さらに,否認を続ければ裁判が長引き「弁護費用は億掛かる。」,「逮捕までが弁護士の力で,逮捕されたら力がない,解任しろ,辞任させろ。」等と言って,弁護人との信頼関係を破壊せしめようとした。
l A21警部補
A21警部補は,同月29日,午前中,原告X11と弁護人との接見内容を聴取して取調小票に詳細に記載し,組織的な秘密交通権の侵害を行って弁護人の弁護方針の樹立,被疑者との信頼関係の構築を妨害して,原告X11の弁護権を侵害した。
m A31警部補
A31警部補は,同月28日,原告X10に対し,弁護人とどんな話をしたのかを尋ね,弁護人による充分な弁護を受けることを妨げようとした。
A31警部補は,同年7月4日,原告X10に対し,「弁護士が違法な弁護活動をしているから,昨日の裁判ができなかった。」などと,弁護人を批判し,さらに,真実は,原告X5の弁護人の一部が辞任し,代わりに別の弁護士を選任して原告X5弁護団が形成されていたにも拘わらず,原告X5の弁護士が解任されたなどと虚偽の事実を述べて,原告X10の弁護士に対する信頼を破壊するよう働きかけて,弁護権の侵害行為を行った。
n A29警部補
A29警部補は,原告X7に対し,同年7月14日に私選弁護人と国選弁護人の説明,弁護人解任の説明を行い,「今あなたが弁護士を解任したら上層部も認めてくれるだろう。」と,同月18日に「何もしない弁護士を高い金を払って何になるのか解任して国選を頼んだ方が良いと」と,同月25日に「弁護士はなぜ手続を取らないのか。これ以上事件が広がらない様に検察庁へ行って交渉しないのか。C5先生は刑事事件には弱いと言っていた。」等と言って弁護人との信頼関係を破壊せしめようとした。
(オ) X1ノートの差押え
本件現地本部は,平成15年6月2日には,X1ノートについて,A14警部補が作成した虚偽の報告書を元に裁判所を欺罔して令状を騙取し,違法に差し押えているが,X1ノートは,原告X1が弁護人の指示で書いていたものであり,弁護人依頼権の侵害に当たる。
イ 被告県の主張
(ア) 接見交通権(秘密交通権)の保障
刑事訴訟法39条1項は,被告人又は被疑者が,弁護人又は弁護人になろうとする者と立会人なくして接見できるという接見交通権(秘密交通権)を保障しているものであるが,裁判例によれば,「弁護人(中略)と被疑者との接見交通権は憲法上の保障に由来するものである。」(最高裁判所平成3年5月10日第三小法廷判決・民集45巻5号919頁)とし,また,「弁護人との接見交通権は,身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人からいえばその固有権の最も重要なものの一つであることはいうまでもない。」とし(最高裁判所昭和53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁),接見交通権が憲法の保障に由来する上,弁護人の固有権の代表的なものであることを認めている。
さらには,その後の最高裁判例においても,「身体の拘束を受けている被疑者が弁護人と相談し,その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり,その意味で,刑事訴訟法の右規定は,憲法の保障に由来するものであるということができる。」とする一方で,「憲法は,刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから,被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって,これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして,捜査権を行使するためには,身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生じていることもあるが,憲法はこのような取調べを否定するものではないから,接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。」と判示されており(最高裁判所平成11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号514頁),文献にも,「刑事訴訟法39条が憲法34条の当然の帰結であると考えれば,刑事訴訟法39条3項は当然憲法違反となり,同項による指定は,許されないこととなる。
しかし,弁護人を依頼する権利が,弁護人との自由な接見交通によって十全なものとなることは否定できないものの,他方国家刑罰権の行使もまた国家社会を維持するための基本的要請であることは否定できず,憲法もまた両者の調和を念頭においていることは,憲法12条,13条からも明らかと言える。その意味で,本条3項が,両者の調和をかかる形で定めたことは,憲法の要請するところに反するものでないことは明らかである。」と記載されていることから,接見交通権については,被疑者の取調べ等捜査の必要性と調整を図る趣旨で置かれたものと解することができる。
そして,捜査機関には広範な裁量権が認められていることから,接見交通権の行使と捜査権の行使との間の合理的な調整としては,捜査機関が,その捜査権限を逸脱し,あるいは濫用したと認められる場合には,接見交通権の保障の趣旨を没却するものとして,そのような捜査権の行使を保護すべき価値は低いということができるが,その反面,そのような事情が存在しない場合には,捜査権の行使を保護すべき必要性は十分認められるというべきである。
(イ) 自発的の接見内容の供述
ところで,捜査機関の取調べを受ける被疑者は,黙秘権が認められ,自己の意思に反して供述する必要はないことから,被疑者が接見状況以外の質問を受ける過程で,自発的に接見内容を供述し,それを捜査機関が聴取する場合においては,被疑者個人の接見交通権に対する侵害行為自体が存在しないと解されるので,その必要性が肯定される相当な範囲内で行うに限り,捜査機関が接見内容を聴取しても,国家賠償法上直ちに違法と評価されるわけではないと解するべきであり,当該供述内容の趣旨が不明な点等を確認するため,捜査官から一定の質問をすることも,捜査権行使の目的の正当性が認められる限り,当然許容されるというべきである。
本件公職選挙法違反事件に関し,「弁護人の接見交通権」が侵害されたとして争われた損害賠償請求訴訟(鹿児島地方裁判所平成16年(ワ)294号損害賠償請求事件。以下「接見国賠訴訟」という。)の判決文によると,「被疑者が接見内容を自発的に供述したからといって,これによって固有の権利である弁護人の接見交通権(秘密交通権)が放棄されたとはいえず,これは被告人(被疑者)ら側からの接見交通権について考察されたものにすぎず,弁護人固有の接見交通権が問題となる本件とは事案が異なるというべき」と判示され,被疑者が任意に接見内容を供述した場合,弁護人の接見交通権が放棄されたとはいえないが,被疑者本人の接見交通権については,別に考察する余地があることを認めている。
この点につき,被疑者自身が弁護人との接見の過程において,弁護人から,「刑事は弁護人との接見の内容を質問することは許されないこと」や,「聞かれても刑事に接見の内容を話す必要がないこと」などを教示されていた場合,そのことを認識している上で,任意に弁護人との接見内容を供述した際は,被疑者自ら接見交通権を放棄したものと解するべきである。
なお,弁護人が,原告らに接見内容を話す必要がないことを教示した例を挙げると,接見国賠訴訟の判決においては,「5月19日,原告A90は,X1からA14警部補に接見の内容を話していることを聞き,X1に対して,刑事は弁護人との接見の内容を質問することは許されないこと,聞かれても刑事に接見の内容を話す必要がないことを説明した。」などと,接見内容を取調官に教える必要はない旨を教示した事実について,争いのない事実として認められている。
(ウ) 任意の弁護人との接見内容の供述と接見交通権の放棄
本件公職選挙法違反事件においては,取調べにおいて供述の変遷理由等について質問したりする過程で,原告X2においては,「弁護士さんは,それは嘘の話だろう,何故サインするのか等と話し,あたかも事実を否認しなさいと言ったような口ぶりであり」などの,原告X9においては,弁護人から「白状したら駄目だ。」などと告げられるなど,捜査妨害に該当するような弁護活動があったことを示す内容が含まれており,原告X4及び亡A1の供述についても同様であったため,捜査幹部に報告の上,供述調書を録取したものであるし,原告らは,弁護人から接見内容を供述する必要はないと教示され,自らの接見交通権を認識した上で,任意に弁護人との接見内容を供述したものであるから,捜査機関がその捜査権限を逸脱し,あるいは濫用したとはいえず,また,原告らが,自ら接見交通権を放棄したものと解される。
したがって,原告ら本人の接見交通権を侵害したとはいえず,国家賠償法上違法と評価されるべきではない。
(エ) X1ノートの差押えの適法性
原告らは接見内容の録取以外にも,本件現地本部が,平成15年6月2日,X1ノートに勾留事実に関する告白が記載されているとの虚偽の事実を告げて裁判官を騙して,X1ノートを差し押えて,原告X1の防御権を侵害した,原告X3が,A18警部補から,当時の弁護人であったC5弁護士及びC7弁護士に関し,彼らは原告X6の弁護人だから,原告X6が捕まったらどうせ見捨てられるなどと告げられて,弁護人との信頼関係の構築を困難にされたなどと主張する。
しかし,原告X1が同年5月中旬過ぎに否認に転じた際,原告X1が取調官に対し,「これまでの取調べのことをノートに一杯書いてある。」などと供述し,取調室に持参すると申し立てたものの,実際には持参することはなかった。県警としては,原告X1が否認している中で,X1ノートには,他人に話していない未把握の事実等が記載されている可能性が高いものと判断し,これを押収すべく差押許可状の請求をしたところ,裁判所もこれを認めて許可状を発付したものであり,これに基づき,適正に押収したものであって,原告らの主張には理由がない。
また,A18警部補は,原告X3が,誰が自己の弁護士を頼んだのか知らなかったことから,本人のためにも依頼者を確認した方がよいのではないかという趣旨で,「費用と依頼者については自分でしっかりと確認してください。」などと話したものであり,故意に弁護士を解任させるために話したものではなく,国家賠償法上の違法は認められない。
その他,原告らが弁護権侵害に当たると主張する事実は,いずれも否認ないし争う。
(6)  争点(1)カ(起訴後の取調べに関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 第1次起訴の起訴後勾留における取調べ
県警は,平成15年6月25日以降,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1,原告X3について,第1次起訴の起訴後勾留を利用して,1回目会合事件について,さらなる取調べを継続したが,この捜査は,純然たる起訴後の捜査であり,違法である。県警は,同日以降,あわせて,X1焼酎事件,4回目会合事件についても取調べを継続したが,これら起訴後勾留中の余罪取調べは,弁護人の同意もなく,また,立会いもないままに取り調べることが許されるはずもないのであって,違法である。
(イ) A14警部補
原告X1は,平成15年7月4日,A14警部補から取調べを受けた。A14警部補は,その後に取調べを行ったA75検事とともに,当事者主義の訴訟構造を無視して,「警察も検察も味方だから。」などと告げ,原告X1に,裁判に臨む心境等,捜査を行う上で何ら必要のない取調べを行った。
(ウ) A32警部補
A32警部補は,平成15年7月18日及び同月19日,原告X10を取り調べた。起訴がなされた以上真実は公判にて明らかにされるべきであり(特に原告X10は否認しているのである),起訴後に捜査を行い,自白を獲得しようとする行為が許されるべきでないことは当然である。
(エ) A16警部補
A16警部補は,平成15年7月26日,原告X2を取り調べ,第1次刑事事件について公判廷で否認した理由を追及され,原告X2が任意に取調べを受けている旨を記載した上,「X1さんの自宅であったX6さんの選挙会合の席で,X6さんなどから現金6万円,現金5万円,現金5万円,現金10万円を貰ったことは間違いありません。6万円口事件の公判で否認したが,公判では10万円口事件の公判でも否認するつもりだ。」などと記載した供述調書に署名指印させ,捜査上の必要のない取調べを行った。
イ 被告県の主張
(ア) 被告人の取調べの適法性
被告人の取調べについて,明確に禁止された規定はないが,被告人の訴訟当事者としての防御権を侵害しないためにも,できるだけ避けるべきである一方で,捜査官はその公訴を維持するために必要に応じて取調べができるものと解すべきである。
この点,判例では,「刑事訴訟法197条は,捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており,同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから,同法198条の「被疑者」という文字にかかわりなく,起訴後においても,捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ,捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが,これによって直ちにその取調を違法とし,その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく,また,勾留中の取調べであるゆえをもって,直ちにその供述が強制されたものであるということもできない」と判示されており(最高裁判所昭和36年11月21日第三小法廷決定・刑集15巻10号1764頁),公訴提起後に被告人を取り調べたことによって直ちに違法とすべきではないとするのが裁判例の立場である。
他方,公判手続上,被告人は当事者としての地位を有し,検察官と同等の立場で攻撃防御を行うものであり,裁判例でも,「検察官(ないし捜査官)が,公訴を提起した後,なおも,このような性格を帯びた相手方当事者たる被告人を証拠資料獲得の手段とし,被告人に対して当該公訴事実に関する取調に応ずることを要求し,被告人自身に不利益な供述を引き出そうとするがごときことは,本来必要性に乏しいうえ,訴訟法の当事者主義的,弾劾主義的訴訟構造に反するだけではなく,被告人の訴訟当事者としての防御権を侵害するものであって,裁判の公正を害するおそれがあるといわねばならない」と判示されているが(大阪高等裁判所昭和43年12月9日判決・判例時報574号83頁),同判決文においては,「当事者主義,弾劾主義といえども,被告人が自らその防御権を放棄することまでも禁止するものではないと解するので,被告人が全く任意(自発的に近い程度に)に検察官(ないし捜査官)のもとに出頭してその取調に応ずる場合にかぎって,これを取り調べることが許されるものと解するのが相当である。従って,検察官(ないし捜査官)が起訴後において被告人を当該公訴事実に関して取り調べうるのは,被告人が自ら供述する旨を申し出て取調を求めたか,あるいは,取調のための呼出に対し,被告人が取調室への出頭を拒み,または出頭後いつでも取調室から退去することができることを十分に知ったうえで,出頭し,取調に応じた場合にかぎられるのであって,このことは,被告人がたとえ勾留されている場合においても異なるところはない。そうだとすれば,検察官(ないし捜査官)が起訴後に被告人を当該公訴事実に関して取調べようとするときは,被告人が,取調室への出頭を拒み,または出頭後いつでも取調室から退去することができる旨を十分に知っていたことを認めうる特段の事情がないかぎり,あらかじめ,被告人に対してその旨を告知することを要するものと解すべきである(もっとも,刑事訴訟法にはこのような告知義務を定めた規定はないが,捜査官が起訴後に被告人を取り調べることができる旨を定めた規定もないのであるから,現行刑事訴訟法の全体系ないし訴訟構造をとおして考究するほかはなく,その結果,このように解すべき必然性があると考える)」と付記し,公訴事実を取り調べることができる具体的要件を挙げている(前掲大阪高等裁判所判決)。
したがって,被告人自ら供述する旨を申し出て取調べを求めた場合又は,取調べの呼出しに対し,被告人が取調室への出頭を拒み,若しくは出頭後いつでも取調室から退去することができることを知悉した上で出頭し,取調べに応じた場合,捜査官は,公訴を維持するために必要な取調べをすることができると解すべきであって,実務上も同旨の文言が記載された供述調書や上申書等をもって取調べを行っている。
(イ) 取調室への出頭を拒み又は出頭後いつでも退去することができる旨の教示
本件刑事事件では,捜査幹部による適確な指示の下,公訴事実にかかる取調べをする際は,必ず取調室への出頭を拒み,又は出頭後いつでも退去することができる旨を教示した上で取調べを行っていたものであり,いやしくも公判手続上,当事者の地位を有する原告らの防御権を侵害した事実はない。
(7)  争点(1)キ(その他の取調べに関する県警の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 原告X1関係
a 同年5月13日
A14警部補及び立会補助官のA37巡査部長は,逮捕後,鹿児島南警察署に移送となった原告X1を早朝から取り調べ,A14警部補は,否認に転じた原告X1に対し,何時間もがみがみ怒鳴りつけ,再度自白させた。
同日の供述調書では,「5人も逮捕者を出したことで責任を感じて否認した。」と述べたことになっているが,上記のような否認理由をA14警部補に話しておらず,そもそも5人の逮捕者を出した事実は,A14警部補が話す以外,知り得ない事実であって,A14警部補の全くの作文である。
A14警部補は,原告X1に対し,繰り返し,一部否認している者がいるにも拘わらず,皆があなたからお金をもらったと供述していると虚偽の事実を告げて,自白を求めた。
b 同年5月16日
原告X1は,頭痛が酷いとして,取調べを拒否したが,看守は,これを無視し,取調べを受忍するよう強要され,取調中に頭痛が酷くなり,取調べできる状態ではなかったが,常備薬である頭痛薬を服用して取調べを受忍されられた。
c 同年5月17日
A12警部やA14警部補は,X1焼酎事件について,原告X9を逮捕する方針を立て,夫である原告X9と共謀した旨の供述調書を作成し,原告X1を精神的に追い詰め,本件刑事事件での原告X1の自白を維持しようとした。
d 同年5月18日
A14警部補は,原告X1に対し,「認めなければ裁判は長くなる。認めなければ,福岡に行って,東京に行って,何年もかかって,お金もいっぱいかかる。」などと告げて不安を煽った。
e 同年5月19日
A14警部補は,弁護人との接見が終わった原告X1に対し,開口一番,弁護士と何を話したか聞いてきた。A14警部補は,接見内容を聞くことが許されないことを知りながら,弁護人との信頼関係に容喙するべく,執拗に聞いたのであり,許されない違法な聴取である。
f 同年5月22日
A14警部補は,原告X1が黙秘すると,黙秘するなと,喉も潰れるか思われるほど,大声で,何時間も怒鳴り続けたため,根負けした原告X1が,6万円口本件刑事事件の会合状況について,供述調書の作成を強要された。
g 同年5月24日
A14警部補は,原告X1に対し,1回目会合について取調べを受けたが,「お前は,すべて人が言ってから認める。自分から進んで話しをしたことがない。」と怒られ,20回も30回も椅子の上に座らされ,「すみませんでした。」と謝らされ,さらに,「俺は耳が遠いから大きい声で言え。」と言われ,何度も言わされた。
h 同年5月26日
A14警部補は,原告X1に対し,受供与者に対する気持ちを,執拗に尋ね,原告X1が回答すると,他人の悪口を言うなと怒鳴り,やってもいないのにやったことを前提に反省しろと強要した。
i 同年5月30日
原告X1は,午後に頓服薬を服用し,頭痛のため取調べを拒否したが,半ば強引に2階の留置場から3階の取調室に連行され,取調べを受忍させられた。
j 同年6月7日
A14警部補は,原告X1に対し,4回目会合事件について,「ほかの人たちが認めている。否認を続けると逮捕者がどんどん増える。」,「おまえが認めなければ,A112やA117も逮捕する。」,「否認を続ければ,何時までも家には帰れん。おまえの秘密もばらすぞ。」などと大声で恫喝した取調べを行った。
この取調べで,原告X1は,A14警部補から,申立書を書くように求められ,「はやくじけんをすませていえにかえりたいとおもいます。」という内容の書面の作成を強要された。
k 同年6月8日
A14警部補は,この日も原告X1を早朝から取り調べ,逮捕事実を認めるよう恫喝して,事実を認める調書の作成を強要した。
l 同年6月10日
A14警部補は,4回目会合事件について,取り調べ,前日に原告X1がしたmホテルでオードブルを取ったとの供述の裏が取れなかったことから,原告X1を怒鳴りつけた。
m 同年6月16日
A37巡査部長は,原告X1を4回目会合事件の会合前半の状況について取り調べて供述調書を作成したが,それは,完全にA37巡査部長の作文であり,その内容は,不自然・不合理なものばかりである。4回目会合の参加者や出された飲み物についても変更され,使ったとされるテーブルについても,最初の「2つ」から「3つ」に変更させられたのである。そして,会合の始まった時間について「午後8時頃になると思います。とにかく料理がくるのが遅かったという記憶があり,7時半からということでしたが,会合の始まりは遅れたと思います。X6社長たちがくるのも遅れたかもしれません。」と,当初は,7時半頃からと供述していたのが,突然,開始時間が遅れている。時間の変更についての理由も,料理が来るのが遅れたのであれば,最初から覚えているはずである。
n 同年6月17日
A37巡査部長は,原告X1を4回目会合事件の会合後半の状況についての詳細な供述調書を作成したが,これも完全にA37巡査部長の作文であった。
o 同年6月19日
A14警部補は,午前中の取調べで,原告X1に対し,4回目会合で供与を受けた10万円の使途先を聴取され,原告X1が,現金をもらったことはないので答えに窮したが,怒鳴りながら不相当な供述を誘導した。
p 同年6月20日
A14警部補は,原告X1に対し,「しんじゅつしょ」と題する書面の作成を強要した。同書面には,「私がけいさつにはいってからもう二ヶ月たちました。はじめてけいじさんがわたしのいえにきたときわなにしにきたんだろうとおもいました。」などと記載され,原告X1が真に買収行為を行っていれば,罪の意識があるので,このように「何しに刑事が来たのか。」などと悠長なことを思うはずもない。さらに同書面には,原告X1がA14警部補と喧嘩したり,怒鳴られたりしたことがつづられ,「頭の中がわからなくなってしまう。」と,真に自白した犯人であれば,到底述べるはずもないことが記載されている。そのようなことを認識しつつ,留置・取調べを強行した捜査機関の行為の悪質性は明らかである。
q 同年6月26日
A14警部補は,原告X1に知的障害があり,弁護人も解任させられ,連日の重複する質問で原告X1が取調官に迎合していることを知りながら,不相当な誘導をして,供述調書の作成を強要した。
r 同年7月1日
県警は,この日,あえて,自宅での現場検証を実施して,原告X1の里心を増幅させ,鹿児島南警察署に戻ると一転して,過酷な取調べを行って,身柄拘束を早く終了させたいという,公判で自白させる動機付けを行った。
s 同年7月3日
原告X1が,公判終了後,留置場に戻ったのち,A14警部補は,午後から夜8時頃まで取調べを行い,早く帰りたくないのか,などと利益誘導をして自白を維持させようとした。
t 同年7月4日
原告X1は前夜からの頭痛が続き,朝食後にも頭痛薬を服用していたが,このような状態であるのに,A14警部補は,起訴後の取調べを強行した。
u 同年7月8日ないし同月11日
A14警部補は,同月8日,裁判を受けないなどと言って会話に応じようとしない原告X1を説得しようとするが,原告X1が取り乱して無実を訴えると,説得することもできず取調べを終了し,同月10日も「やってたら志布志でちゃんと言いますよ。オードブルも説明できますよ。誰が来たか,いつ仕事を上がったか説明出来ますよ。」などの原告X1の言葉を聞いて,原告X1が無実であることを知ったが,その後も留置を続け,同月11日には,同房者を使った嫌がらせまで行って,身柄拘束を終わらせるために自白するよう,利益誘導して原告X1に自白を強要した。
(イ) 原告X2関係
a A16警部補による同年5月31日の手紙作成の指示
A16警部補は,平成15年5月31日,原告X2に対し,妻である原告X10に宛てた手紙を書かせたが,これは,県警本部のA7参事官自らが関与して指示したものである。
当時,原告X2は事実を認め,原告X10は否認していたので,接見交通権の一部解除により,原告X10に「真実を話してほしいことを伝える目的で手紙を書かせた。」(A7参事官の説明)というのであり,このような捜査手法は,虚偽の自白を生む危険なものであり,違法であることは明らかである。
b A16警部補による同年6月25日の不相当な誘導・誤導の繰り返し
A16警部補は,同年6月25日,原告X2に対し,それまで,多数回・多額買収の理由について全く供述がなされていなかったが,原告X2が屈服していることを利用し,不相当な誘導・誤導を繰り返して,「X6やX7は,X1の家で何回も選挙の会合を開き,その都度,多額に及ぶ買収金を渡した。」かについて,供述を強要した。
(ウ) 原告X3関係
a A18警部補の「警察を馬鹿にするなよ。」,「これX3,何をするのか。」,「私が裸になして,財産も何もなくなるまでやると。」発言
A18警部補は,平成15年5月13日から,被疑事実を否認する原告X3に対し,①「警察を馬鹿にするなよ。」などと大声で怒鳴り,②A18警部補から口やかましく追及されるのに辟易して原告X3がずっと黙っている「これX3,何をするのか。私の目を見なさい,目を見なさい。」と強要し,それに応じないでいると「どこを見とるんか。」となおも視線を合わせることを強要し,③「あなたたちがやってるのは全部私たちは調べておるんだぞ。」と,虚偽の事実を申し向けた偽計による取調べを行い,④「あなたは嘘ばっかし言うから,私が裸になして,財産も何もなくなるまでやると。」と恫喝し,⑤事実関係を否認する原告X3に対し,もらってないなら証拠を出せ,といわゆる悪魔の証明をするよう強要し,同時に,やってないという証拠がなければ負けるという,法的な理解において誤った情報を与えて,自白を促した。
b 同年5月19日
A18警部補は,同年5月19日,原告X3に対し,不相当な誘導で1回目会合の開催日を同年2月上旬と供述させた。
c 同年5月29日
A18警部補は,同月29日,4回目会合の開催時期について,従前は同年4月上旬頃していた供述を,同年3月21日から同月28日の間と,2回目会合の開催時期について,従前は同年2月8日から同月14日の間としていた供述を,同年2月下旬と,いずれも不相当な誘導で供述を変更させた。
d 同年6月25日
A18警部補は,同年6月25日,原告X3に対し,不相当な誘導で,1回目会合の開催日を妻のA136の踊りの練習と関連づけて同年2月8日ごろと供述を変更させた。
e 同年6月28日
A18警部補は,同月28日,原告X3に対し,3回目会合の参加者の名前を捜査機関が把握しているとおりに誘導して供述させ,さらに3回目会合の開催時期について,従前は,同年2月下旬としていたものを不相当な誘導により3月中と供述させて義務なきことを強要した。
f 同年7月9日
A18警部補は,同年7月9日,原告X3に対し,4回目会合の開催日について,不相当な誘導をして,同年3月24日と特定するよう供述を強制した。
(エ) 原告X4関係
A15警部補は,同年7月4日,原告X4に対し,同年4月23日の時点で既に押収していた同年3月25日支払のファミリーマート串間店のレシートを基に,不相当に誘導して,4回目会合の開催日が同年3月24日か同月28日であるなどと特定する供述をさせた。
(オ) 原告X5関係
a A26警部補による昼食をとっていない原告X5に一切休憩をとらせず,水さえも飲ませず,トイレに行かせることもないままの取調べを継続
A26警部補とA62巡査は,平成15年4月20日,原告X5に警察手帳を提示することもなく,「ちょっと警察でお話を聞きたいんですが。」と単に警察で話を聞きたいことがあるとのみ申し向け,原告X5に対し任意同行を求めた。
その際,警察官らは原告X5に対し,「ご飯を食べてからでいいですよ。」とは言ったが,同行後の取調べが長時間にわたることは一切告げず,原告X5が昼食を摂っていないことを承知で警察署に同行した。
任意同行は,飽くまで対象者が任意に応じるか否かを自由に判断すべきものであり,そのために犯罪捜査規範第102条1項前段において「捜査のため,被疑者その他の関係者に対して任意出頭を求めるには,出頭すべき日時,場所,用件その他必要な事項を明らかにし,なるべく呼出状によらなければならない。」と定められている。
しかし,A26警部補とA62巡査の原告X5への任意出頭要請は同規定にまったくのっとっておらず,この点において既に違法である。なおかつ,原告X5が昼食を摂ることなく同行に応じたことから,原告X5がせいぜい数時間程度の取調べであると考えていたことは容易に判断できるにもかかわらず,警察官らは原告X5のその誤解に乗じて警察署まで同行させており,その違法性は明らかである。
A26警部補及びA62巡査は,同日の任意同行に引き続き,志布志署で,昼頃から午後10時頃に帰宅するまで原告X5の取調べを続けた。
その間,原告X5が昼食を摂らずに出頭したことを知りながら,原告X5に一切休憩をとらせず,水さえも飲ませず,トイレに行かせることもないまま取調べを継続した。
また,原告X5に対する事情聴取は公職選挙法違反の容疑に基づくものであったにもかかわらず,容疑事実を明らかにせず黙秘権の告知もなされていない。この点においても警察官らの取調べの違法性は明らかである。
原告X5は,取調べを受けるうちにようやく自分が何らか選挙に関して取り調べられているのではないかと気づき,その時点から金品の授受を明確に否定する供述を何度も繰り返した。しかし,A26警部補らは原告X5の主張に全く耳をかさず,「お前の言っていることはみんなうそだ。」と言いながら原告X5の発言をわざわざメモ用紙に記載し,その上でそのメモ用紙を原告X5の目前で破り捨て,「ここ(警察署)に連れてきていること自体何かあるから連れてきているんだ,既に罪人だ。」,「何か話をしないと今日は帰さない。」などと,原告X5に対し怒鳴り続けるという威嚇的・強圧的な取調べを続けた。
b A24警部補の「悪いことをした人は,罪を謝罪して,認めて謝罪をすべきだ。」の読み上げ強要
A24警部補は,同年5月13日に原告X5が逮捕されてから連日,「部落のみんなが,お前が会合に来ていたところを見ている。お前は行っていたんだ。6万円貰ったんだ。」と頭ごなしに嘘の事実を述べて自白を迫り,さらに,机の上に,紙に「悪いことをした人は,罪を謝罪して,認めて謝罪をすべきだ。」という文章を書き,毎日取調室の机にそれを置いて,原告X5に毎日それを読ませ,虚偽の自白を強要し,連日の取調べで,精神的・肉体的に苦しんでいた原告X5を長時間取調室から退出させず,同じ質問を何時間も繰り返して,同月27日原告X5に対し,ありもしない逮捕事実について,「逮捕事実は間違いありません。」と内容の虚偽の申述書の作成を強要した。
A24警部補は,原告X5が逮捕されてからの取調べで,原告X5に対し,「おまえは暴力団より悪い。」と屈辱的な言辞を浴びせて精神的なショックを与え,原告X5が座っている机の前にやってきて殴りかからんばかりの動作で,大きな声で怒鳴って,認めるよう強要し,「部落のみんなが,お前が会合に来ていたところを見ている。お前は行っていたんだ。6万円貰ったんだ。」,「とにかく,みんな認めた人は書類を済ませて,もうバスでみんな行った。」などと嘘をいい,「認めないといつまでも出られない。お前は否認すれば否認するだけ,ますます泥沼の中に入っていく。かわいそうだ。」,「まな板の鯉だ,どうでもさばいてやる。顔に面をかぶった奴だ。泥をぬるきか。」などと恫喝して自白を強要し,他方で,四浦の郵便局の付近の自然の光景を写真に撮ってきたりして,その写真を見せながら,「こんな良いところに,認めたら早く帰れるんだよっ。」と述べたり,口で画を描く人の本を見せて,「正直に言えば,a3集落は人も知らないし,気にすることはない。」と述べたり,「大崎町の選挙法違反は,捕まって直ぐに済んだ。」と述べたりして,原告X5を精神的に追い詰めた。
(カ) 原告X6関係
a A12警部の「息子,娘も逮捕する,社員まで逮捕する,お客さんにまで迷惑を掛ける,会社もつぶれる。」発言
A12警部は,原告X6が逮捕された後,連日,狭く窓のない取調室で,朝から晩まで,大きい声で,あるいは机をたたきながら,「責任をとれ,責任をとれ」と虚偽の自白を求め,認めないと「息子,娘も逮捕する,社員まで逮捕する,お客さんにまで迷惑を掛ける,会社もつぶれる。」と言って追及的かつ威嚇的に執拗に虚偽の自白を迫った。
b A12警部による同年6月17日の不相当な重複・誘導尋問と偽計
A12警部は,平成15年6月17日,A12警部は,繰り返し否認する原告X6に対し,繰り返し,不相当な重複・誘導尋問をして,さらには,真実は,原告X5が否認していたほか,原告X1も否認と自白を繰り返していたことを隠して,逮捕されている7名の人たちが「あなたから選挙買収金をもらったことが真実です。」と虚偽の事実を述べて,偽計を用いて自白を迫った。
c A12警部の同年7月1日の利益誘導とA39巡査部長の「A12丸に乗れ。言うとおりにすればX7さんはすぐ保釈できる。」発言
A12警部は,同年7月1日,否認する原告X6に対し,「X7が罪を認めた。X7はうそをつく人とは離婚すると言っている。」と,真実は,原告X7は自白していないのに,自白しているかのように虚偽の事実を述べて切り違い尋問をし,さらに,「おまえも罪を認めれば,X7をすぐ保釈してやる。」と利益誘導を行い,原告X6をして,原告X7が窮地に陥っていると誤信させ,その結果,逮捕事実については間違いない旨の同年7月2日付け一筆調書に署名指印させた。
A39巡査部長もまた「A12丸に乗れ。言うとおりにすればX7さんはすぐ保釈できる。」とA12警部と同様に利益誘導・切り違い尋問をした。
d A12警部の「殺すぞ。」との恫喝
A12警部は,原告X6が上記一筆調書をとられた後否認すると,怒り狂って「殺すぞ。」と恫喝した。
(キ) 原告X7関係
a A29警部補の「ひきょう者だ。」発言
A29警部補は,原告X7に対し,平成15年6月25日に「何人逮捕者を出せば良いのかひきょう者だ。」と,同年6月28日に,「状況は悪化するばかり,選挙違反どころじゃなくなる。大変なことになる。逮捕者も続出するだろう。弁護士も調べの流れはわかっていない。裁判では大恥をかくだろう,『へ』のつっぱりにもならない。」と言い,原告X7を威迫・恫喝して,自白を強制した。
b A29警部補の「子供まで巻きこんでも良いのか?」発言
A29警部補は,原告X7に対し,同年7月2日に「A129君も逮捕する要素はあるんだ。子供まで巻きこんでも良いのか?」,同月6日に「A129まで逮捕する。」と告げて恫喝した。
c A29警部補の写真特定とポリグラフ検査陽性発言
A29警部補は,同月18日,原告X7の面割り台帳を見せたところ,受供与者全員が原告X7の写真を特定できた旨及びポリグラフ検査にも反応が出ている旨の虚偽の事実を告げて自白を強制した。
d A29警部補のたばこの空の箱投げつけ
A29警部補は,原告X7に対し,「お前は卑怯者だ。みんなが見ていると言うんだけど,お前は双子か,女優か。」と言って,たばこの空の箱を原告X7に向かって投げつけた。
e 原告X7が作成したノート(以下「X7ノート」という。)の記載
その他,X7ノートには,「途中でおこって30分位~40分位A29刑事机をたたいて出て行った。」(7月6日欄),「もらってない人は誰れかと言われてA88さんだけですと言ったら煙草箱を投げておまえはうそつきこれで終りと」(7月7日欄)との記載もあり,これも捜査機関による違法な取調べを示すものである。
(ク) 原告X8関係
a A36巡査部長
A36巡査部長は,原告X8に対し,以下のとおり,4回目会合の開始時刻について不相当に誘導していずれも虚偽の供述をさせた。
(a) A36巡査部長による同年5月18日の虚偽供述の強制
A36巡査部長は,平成15年5月18日,原告X8に対し,「会合は午後7時頃から始まったと思いますが,この日は仕事か何かで行くのが遅くなり,X4と歩いてX1ちゃんの家に行った時は,会合が始まっていました。」と虚偽供述を強制した。
(b) A36巡査部長による同年6月15日の虚偽供述の強制
A36巡査部長は,同年6月15日,原告X8に対し,「会合の時聞については,私は以前午後7時頃から始まったと思うと言っていましたが,よく考えたところ,午後7時半頃から始めると聞いており,30分位遅れて行ったことを思い出したので訂正しておきます。中略・・夫の仕事が遅くなり,会合が始まる午後7時30分を過ぎていましたが,私は漬物屋で大根などを加工する仕事をしていることから,お風呂に入り着替えて行かないと漬物臭いのでお風呂に入っています。私は,会合に遅れていることも気になっていたので,夫と家を出る前にテレビの近くにある時計を見て,午後8時頃だったのを確認しています。」と虚偽供述を強制した。
(c) A36巡査部長による同年7月4日と同月5日の虚偽供述の強制
A36巡査部長は,同年7月4日からの取調べで,4回目会合の日時を確認させ,同月5日,原告X8に対し,「私はこれまでの取調べでは,10万円口の会合には夫のX4が残業で遅くなったので遅れて行ったこと,X1ちゃんの家では,その日刺身や盛り皿のご馳走が出たが,お腹一杯だったのでご馳走を食べれなかったこと等を話しています。しかし,もう一度よく考えてみますと,その日は夫の給料日であり,志布志のタイヨーかアピア,もしくはエプロンストアで買い物をした日だったような気がします。夫の給料日は,毎週月曜日であり,その日はいつも買い物をする習慣になっており,奮発して夕食を作り,家でテレビを見ながら夕飯を摂り,おもしろいテレビ番組の途中から会合に行きましたので,遅れたように思います。」と供述を変更させ,そのテレビ番組が同年3月24日の午後7時から放送された「史上最強のメガトンヒットカラオケBEST100」と題する番組であるとの虚偽供述を強制した。
b A36巡査部長による恫喝
原告X8は,同年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件について逮捕され,被疑事実を否認したが,A36巡査部長は,同月26日,原告X8を恫喝して,4回目会合事件について虚偽の自白を強制し,さらに,原告X10が4回目会合で供与を受けた10万円の使途先として手提げバッグを買っていたなどの虚偽の事実について自白をさせられた。
(ケ) 原告X9関係
a A25警部補からの柔道場での取調べ
原告X9は,平成15年5月1日から同月7日の間,A25警部補から志布志署の柔道場内で取調べを受けたが,身の危険を感じるほどの取調べで,A25警部補は,「あなたの家で,会合があり,お金をもらった。」と追及されたが,原告X9は,会合はないと否認した。
b A25警部補のC1弁護士との通話拒否と強制連行
原告X9は,同月2日の朝,頭痛がひどく,玄関横の居間で布団にくるまって寝ていたが,A25警部補は,無断でX1宅内に立ち入り,原告X9が寝ていた居間の仕切りの障子戸をいきなり開け,原告X9に「警察まできてくれ」と言って同行を求め,原告X9が拒否しても立ち去らないため,C1弁護士に架電して助言を求め,同助言に基づき,A25警部補に対し,再度任意同行を拒否したものの聞き入れてもらえず,さらにC1弁護士から警察官と電話を代わるように言われて,その旨A25警部補に伝えたが,A25警部補はC1弁護士の電話口に出ることを拒否して引き続き原告X9の同行を強く求めた。
原告X9は,この事態に対し,C1弁護士から,C1弁護士の事務所まで来るように言われて,自分の車で宮崎県都城市内のn法律事務所まで出向き,C1弁護士から「今後,健康不良の場合であっても,そうでなくても,警察署に行きたくなければ行かなくていい。また何かあれば連絡するように」と励まされ,帰宅した。
しかし,A25警部補は,原告X9が自宅から上記法律事務所に行く間,警察車両で原告X9の車を追尾しており,原告X9が法律事務所を出て自宅に向かうと再び追尾してきた。そしてX1宅に到着して間もなく,原告X9に対して任意同行を求め,原告X9の拒否を聞き入れることなく,警察車両に同乗させ,署まで同行させた。この一連の行為は,明らかな強制連行と認めざるを得ず,その違法性は誰の目にも明らかである。
c A25警部補からの有形力の行使
A25警部補は,同年5月1日から同月5日までの間のいずれかの日に,原告X9に対し,志布志署の離れにある広い畳敷きの部屋の中で事務机に向かい合って取調べを行っているとき,事務机から身を乗り出すようにして,原告X9の肩に手をかけて「違法な選挙運動をしただろうが。」,「金を貰っただろうが。」等と言いながら,原告X9の体を揺すり,自白を強制した。
d A25警部補からの誓約書の強要
また,A25警部補は,取調室で,原告X9に,取調べ前に,A4サイズくらいの白紙を渡し,「刑事さんへ」,「今日の取り調べで嘘は言いません。」と署名するよう強制した。原告X9は,命令にしたがって,その内容のとおり記載し,日付と名前を書いたが,A25警部補からその後の取調べで,「金をもらっただろうが。」,「嘘を言わないと約束しただろうが。」等と責め立てられた。
e A25警部補からの強制による虚偽の自白
原告X9は,同年5月5日,A25警部補からの強制により,同年1月12日に30万円をもらい,同月19日(日),同年2月1日(土),同月15日(土),同月22日(土),同年3月8日(土),同月15日(土),同月16日(日),自宅で会合を開いた旨の虚偽の自白をさせられた。
f 不相当な誘導
原告X9は,同年5月30日,不相当な誘導により,自白調書を強要された。
g A19警部補の強圧的かつ威嚇的,侮辱的な取調べ
A19警部補は,同年5月17日から同年7月9日頃まで,原告X9に対し,逮捕事実があることは間違いないという強い予断と偏見の下,強圧的かつ威嚇的,侮辱的な取調べを繰り返した。
h A19警部補の「バカ」発言
A19警部補は,上記期間における取調べの最中,取調室の机の上に胡座をかいて座り,原告X9を上から見下ろして,何度も「バカ!」と怒鳴りつけた。
i A19警部補の「逮捕事実を認めなければ親を逮捕する。子ども達も逮捕する。」,「四浦の人間を1人1人逮捕する。」,「嘘を言っているからオウム真理教のようにずっと引っ張る。」等と恫喝
A19警部補は,上記期間における取調べの最中,原告X9に対し,「X1は全て認めている。」,「a3集落の人たちも認めている。」,「認めていないのはお前だけだ。」,「認めたら,X1と一緒に早く出られる。」,「逮捕事実を認めなければ親を逮捕する。子ども達も逮捕する。」,「四浦の人間を1人1人逮捕する。」,「嘘を言っているからオウム真理教のようにずっと引っ張る。」等と恫喝し,または利益誘導して,自白するよう強く迫った。
j A19警部補の「具体的な金や焼酎のやりとりまで言わなければ調書にしても自白にならない。」発言
A19警部補は,同年5月30日の取調べにおいて,原告X9に対し,「具体的な金や焼酎のやりとりまで言わなければ調書にしても自白にならない。」等と虚偽の事実を述べて,原告X9をして「現金やしょうちゅうをくばった事はまちがいありません。」等とする手書きメモを作成させ,現金と焼酎を配ったことを概括的に認める内容の供述調書への署名指印をさせしめた。
(コ) 原告X10関係
a 任意捜査の不告知
本件現地本部は,平成15年4月22日,原告X10の自宅を訪れ,原告X10に対し,「ご主人が焼酎をもらったといっています。」と述べ,任意捜査であると明らかにすることもなく警察にくるよう告げ,原告X10が,自宅での取調べを希望するも,「警察の方で聞きますから。」と言って,警察の車で志布志署に連行した。
b A22警部補の「X10はうそつきだ。」の大声
本件現地本部は,同年5月7日,任意捜査であることを告げないまま,原告X10を同行させ,A22警部補において,買収会合についての取調べを行い,「X10はうそつきだ。」等大声をあげ,机を叩いたり,10センチメートルほど机が動いてきて原告X10に机が当たったりし,原告X10に恐怖感を与えた。
c A31警部補による恫喝を伴う重複的な尋問
本件現地本部は,その後も原告X10は一貫して被疑事実を否認しているにもかかわらず,同年5月10日,同月14日,同月16日,同月19日,同月26日,同月27日,同年6月6日,同月7日,同月8日,同月12日の10回,1ヶ月以上の長期にわたり,原告X10の自宅から車で約40分ないし50分を要する志布志署,約1時間半を要する高山警察署,志布志署関屋口交番(以下「関屋口交番」という。),森山駐在所において任意捜査の名の下に事実上の強制捜査が行われた。この間特にA31警部補からは恫喝を伴う重複的な尋問により,とにかく自白をするように強要されている。
d C3弁護士の警告
C3弁護士は,上記の各取調べについて,同年6月12日付内容証明郵便にて本件現地本部宛てに,原告X10が出頭を拒んでいるのに強制連行していること,「会合の有無,夫が焼酎をもらったか否か,現金授受の有無」という同じ内容の取調べだけが継続していることなどを指摘し,原告X10に対する捜査は違法であること,同行には応じない旨の通知をした。
しかるに本件現地本部は,これを無視し,同月23日,C3弁護士の同意を得ることなく原告X10を呼び出し,8時50分から20時15分までの長時間にわたり同人を拘束し,従前と同様の事項について繰り返し尋問,自白を強要した。
e A31警部補の利益誘導
A31警部補は,同年6月28日,夜の取調べで,原告X10に対し,裁判所で否認したかどうか尋ねた上,20日間しかないからその間に認めて話を進めるか争って長くなるか等言い,利益誘導的な言辞により自白を取得しようとした。
f A31警部補の「あなたは母親のくずだ。」発言
A31警部補は,同年6月29日,午前中の取調べで,原告X10に対し,「今の状態では,家族・娘に大きな心配をかけることになる。証拠があるから勾留されたのだ。あなたは裁判官・検事・弁護士にも嘘をついたことになる。」などと言って,自白を強制した。
A31警部補は,同日の昼間の取調べで,原告X10に対し,「このままだったら,娘やじいちゃんばあちゃんに迷惑が及びますよ。娘のためにも早く話をすすめたほうがあなたの為ですよ。娘の幸せを壊す権利があなたにはないでしょう。」と述べ,ついには「あなたは母親のくずだ。・・目をみれないのはうそを付いているからだ。」などと罵倒し,嘘をついていると決めつけて自白を強制した。
A31警部補は,同日の夕方の取調べで,原告X10に対し,「自分がもらっていないのだったら,その説明をしなさい。」と,執拗に言われる。「最悪の方向に向かっている。あなたの周りの人たちに多大な迷惑が行くだろう。」と脅され,認めるよう強制され続けた。
g A31警部補の「無実の人がどうして自分の名前をあげた人を訴えないのか。」発言
A31警部補は,同月30日,昼間の取調べで,原告X10に対し,「無実の人がどうして自分の名前をあげた人を訴えないのか。自分だったらそうする。やっぱり嘘をついている。」などと決めつけ,自白を強制した。
h A31警部補の「自白すれば,楽ができる。」の利益誘導発言
A31警部補は,同年7月1日,昼間の取調べで,自白すれば,楽ができるなどと利益誘導を繰り返した。
A31警部補は,同日の夜の取調べで,原告X10が自白しないので,自白した原告X2の足を引っ張っているなどと,原告X2がどのような事情で虚偽の自白をしているかを考慮しない真相解明義務・虚偽自白防止義務に違反した取調べを繰り返した。
i A31警部補の「3月下旬の1つだけ認めてくれれば早く調書もとれる。」発言
A31警部補は,同月3日,夜の取調べで,「とにかく原告X10の立場が悪くなっている。3月下旬の1つだけ認めてくれれば早く調書もとれるし勾留期間内に終えて裁判では楽をしていれる。」と利益誘導的な言辞により自白を取得しようとした。
j A31警部補の「認めたときは,姉やA147のところに調べに行くという心配もなくなる。」発言
A31警部補は,同月4日,午後の取調べで,否認を継続し,接見禁止のため,家族のことを心配している原告X10の心情を知りながら,「認めないおかげで何回もじいちゃんばあちゃんの所やA148の所に刑事さんがいっているはずだ。」と威迫をして,虚偽の自白を強制した。さらに「あなたには,他にもあるんだから。」と言い出して,X10が20日間で自白しない場合には,他の事件を作り立てて再逮捕するようなことも仄めかして自白を強要した。
A31警部補は,夜の取調べで「認めたときは,姉やA147のところに調べに行くという心配もなくなる。」などと利益誘導・威迫をして,虚偽の自白を強制した。
k A31警部補の「皆が認めているのに,ひとりだけないと言ってみても,・・誰もあなたのこと信じる人なんている訳ない。」発言
A31警部補は,同月5日,原告X10に対し,夜の取調べで「会合はあったのに,皆が認めているのに,ひとりだけないと言ってみても,・・誰もあなたのこと信じる人なんている訳ない。早く調書を書いて早く終わらせて,楽になろうよ。」などと,虚偽の事実を告げて,自白を強制した。
l A31警部補の「否認を続けるとあなたは絶対損をするよ。」発言
A31警部補は,同月6日,午前中の取調べで,原告X10に対し,原告X10が弁護人を信頼していることを知って,「やはり,夫婦は同じ方向に行かないと弁護士さんだってやりにくいと思う。弁護士さんに頼んでみたらどうですか。(中略)否認を続けるとあなたは絶対損をするよ。」などと言って,「X10・X10」と原告X10が何百回も呼ばれたと感じるほど,必死にX10に虚偽の自白を迫った。このような手法は,虚偽の自白を生む危険のある行為であり,既に違法である。
m A19警部補の「機械は正直だ。」発言
A19警部補は,同月12日,原告X10に対し,十分な説明もないままに,「うそ発見器をしますから。」と告げて,ポリグラフ検査を強要し,原告X10に対し,「機械は正直だ。」「黒と出ている。」と,偽計を用いて自白を取得しようとした。
A19警部補は,夕方の取調べで「何人もの人たちがあなたの名前を上げている。あなたの立場は,誰が見ても相当に不利。自分が有罪になると分かっていて嘘をいう人はいない。どんなに頭のいい弁護士かしらないけど,どうやって裁判をやるつもりなんだろう。」と脅して虚偽の自白を迫り,さらに,「あなたが認めれば,今より早く帰れる。」などと利益誘導をして,虚偽の自白を強制した。
n A19警部補の「無罪の証明」を求めた行為
A19警部補は,同月13日,午前中の取調べで,大声で「誰がみてもあなたが嘘を言っているとしか見えない。」などと他の自白者の供述が真実であると予断偏見・思い込みの下で,虚偽の自白を強制した。原告X10は,証明責任がないにもかかわらず「無罪の証明」を求められ,虚偽の自白を強制されたものである。
X10の言葉を嘘と決めつけ自白を強要しようとしていたことは,同日作成された供述調書の内容からも伺える。同調書中の問答は,原告X8がなぜ嘘をついているか,原告X8が公判廷で自白しないという自信はどこから来るのか等,X10を困惑させるだけであり,極めて不相当な関連性のない尋問であり,違法である。
o A19警部補の「あなたには良心というものがないのか,子や孫に嘘をついて申し訳ないという気持ちはないのか。」発言
A19警部補は,同月13日の夕方の取調べでも,無実の原告X10を「あなたは一人で刑事に負けたくはないと思っているだろうけどあなたはもうどうしようもないんだよ。あなたの言っていることが嘘なんだから。」,「あなたには良心というものがないのか,子や孫に嘘をついて申し訳ないという気持ちはないのか。」など罵り,原告X10の人格は非常に傷つけられた。
p A19警部補の投票の秘密を侵害する違法な取調べ
A19警部補は,同月15日,午前中の取調べで「選挙に誰をいれたか,誰の名簿を書いたか。」などを繰り返し質問しているが,これは投票の秘密を侵害する違法な取調べである。また,否認を続けるともっとも最悪だと脅し,自白を強要した。
(サ) 原告X11関係
a 体調が極めて悪い状態での長時間拘束状態
本件現地本部は,平成15年6月4日から同月10日までの7日間,原告X11を午前7時頃自宅から車に乗せて志布志署まで連行し,A22警部補が午前8時頃から午後8時か午後9時頃まで取調べを行ったが,このような被疑事実の告知のないままでの身柄の確保の仕方,長時間の拘束,長時間の自白の強要という取調べ方法は,到底任意捜査と言えるものではなく,強制捜査と変わるところがない。
原告X11は,上記期間中,3畳程度の取調室の奥にパイプ椅子に座らせ,昼食もまともな摂らせ方をせず,夕食も一度も摂らせずに長時間連続して拘束状態に置いた取調べの違法性は明らかである。
原告X11の当時の体調は極めて悪い状態であった。風邪の影響か,持病のバセドー氏病の影響か,37度4分程度の熱が連続していた状態にあったが,A22警部補は,そのような原告X11の体調を知りながら,長時間拘束状態に置いて,原告X6からの金の授受を認めさせることに終始し,自白を強要し続けた。
b A22警部補の病院からの連行
A22警部補は,同年6月8日,同月9日,同月10日とも,体調不良でかかりつけの病院で点滴を受けた原告X11を,病院の外で点滴が終わるまで待ち続け,志布志署まで連行し拘束状態に置いて自白の強要を続けた。
c A22警部補の大声で叫ばせることの強要
A22警部補は,上記期間の取調べにおいて,原告X11が自白しないと見ると,取調室の外の廊下に連れ出し,志布志署内に聞こえるよう大声で「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」などと叫ばせた。これは否認することに対する制裁と見せしめであり,原告X11に自白を強制する常軌を逸した取調べであった。
d A22警部補の大声で叫びながら椅子,机,壁などを足蹴りして,原告X11を威圧する取調べ
A22警部補は,原告X11が否認する態度に対し,腕組みするなと命じ,自分では腕を組みながら,机の上に革靴を履いたまま足を投げ出し,踏ん反り返り,また,大声で叫びながら椅子,机,壁などを足蹴りして,原告X11を威圧する取調べを行った。
e A21警部補の切り違い尋問
A21警部補は,原告X11が同月25日に逮捕された後,原告X11に対し,「皆が認めている。あんた1人認めていない。」と嘘の事実を告げた切り違い尋問により自白を迫った。
(シ) 亡X12関係
a A23警部補の同年5月1日の取調べ
亡X12は,平成15年5月1日から同月4日まで,A23警部補の取調べを受けた。
A23警部補は,同月1日,亡X12に対し,亡X12が勤める会社の畑まで来て,「他の人たちのように夜の8時,9時までかかるなら行きません。」と明確に同行を断る亡X12に対し,「警察署で1時間ぐらい話を聞かせてください。」と,取調べ時間を偽って取調べを受けさせた。そして,A23警部補は,黙秘権を告知することもなく取調べを開始し,1時間を過ぎても一向に取調べを終了しなかったため,亡X12がA23警部補に対し,「なぜ,こんなにいつまでも取調べをするのか。」と明確に抗議したが,A23警部補は,「他のみんなもこういう時間までやっている。」と述べて,午後9時まで取調べを継続し,夕食・休憩も与えず,「お前はX1から1万円と焼酎1本をもらっただろう。」とか「お前は5時で仕事が終わった後,X1と選挙運動をしていただろう。」などと,虚偽の自白を強要する取調べを行った。
b 同年5月2日の取調べ
A23警部補は,同月2日,午前6時頃,出勤途中の亡X12を路上で待ち伏せし,亡X12の車を止めると,警察署への同行を求めるとともに,突如,「あんたは,午後5時まで働いて,原告X1と選挙運動をしてたね。」などと取調べを始めたため,亡X12は,これに対し,身の潔白を示そうと,A23警部補に勤務先まで同行してもらい,日報を示すなどしたが,A23警部補は,志布志署への任意同行を執拗に迫り,亡X12を屈服させて,午前7時から午後9時まで,志布志署での取調べを強要した。
A23警部補は,同取調べにおいて,X1宅で会合があったことを認めろの一点張りで,虚偽の自白をするよう強要した。
A23警部補は,同日,亡X12に対し,X1焼酎事件について,「逮捕」という言葉を用いて自白を迫り,原告X1から,同年3月22日朝8時頃,自宅台所で焼酎2本と現金1万円をもらった旨の虚偽の自白が記載された供述調書に署名させられた。
A23警部補は,同日の取調べが終了した午後9時頃,亡X12が自宅へ帰る際,A23警部補外1名は,亡X12が運転する車を尾行し,翌日の取調べを受けさせるべく,亡X12に対して精神的圧力を加えた。
c 同年5月3日の取調べ
A23警部補外1名は,同月3日,早朝7時過ぎに亡X12宅を訪れ,志布志署に同行させた。A23警部補外1名による取調べ終了後に翌日も取調べを受けさせるべく,帰宅する亡X12を尾行した同月2日の行為は,同月3日の任意同行についての亡X12の意思決定に対する不当な圧力行使に他ならず,違法である。
d 長時間にわたり黙秘権を告知せず夕食も摂らせずに取調べを続行
A23警部補は,同月3日,午前9時50分頃から午後8時ないしは9時頃まで,約10時間ないし11時間という長時間にわたって,一度も黙秘権を告知せず,夕食も摂らせずに取調べを続行しており,これらが違法であることは,上記と同様である。
e 取調中に「怒鳴って机を叩く」行為と偽計を用いた違法な切り違い尋問
A23警部補は,同月2日又は同月3日の取調べ中,亡X12に対し,「なんぼ言っても認めない。」と怒鳴って机を平手で叩き,「もうみんな認めているから。あんたばっかりだ。」と発言した。
取調官が,取調中に「怒鳴って机を叩く」という行為は,明らかに違法な有形力の行使であり,「もうみんな認めているから。あんたばっかりだ。」との取調官の発言は,あたかも被疑者全員が自白しているかのような虚言であり,偽計を用いた違法な切り違い尋問である。
f A23警部補の正座と自白の懇願
亡X12は,同月2日から同月4日のいずれかの取調べにおいて,その取調べの終了間際,亡X12が立ち上がって,A23警部補と真正面から接近して,向き合うような格好で,「もう,そいやれば(聞いてもらえないのであれば),おいを叩き殺してくれ,もう,どげんでんしてくれ(どうにでもしてくれ)」と言ったところ,A23警部補が,床に正座して,手を合わせながら拝む姿勢で頭を床にこすり付けて,涙目で,「もうずっと家に帰っていない,どうか,嘘でも何でもいいから話してくいやん。」と拝み倒したので,亡X12も,最後は,根負けして,嘘をついて事実を認めた。また,亡X12は,同月4日,A23警部補から「叩くから立ちなさい。」などと言われた。
g A23警部補による病院の追跡,亡X12のマイクと太鼓の連打の異常行動
亡X12は,同月4日の取調べにおいて,体調不良により翌日の取り調べは受けられないと断っていたにもかかわらず,A23警部補は,同月5日から同月7日にかけて,早朝7時から,亡X12宅に押しかけ,同行を執拗に要請し,取調べを拒絶して病院に向かう亡X12の自動車を追尾するなどした。
亡X12は,同月7日の早朝,A23警部補が亡X12宅に来て志布志署への同行を求めた際,「毎日同じ事ばかりだ。何もしていないのに」と抗議し,マイクを持ち出し,太鼓を連打しながら,「a3集落に来ている刑事達を皆ここに呼べー!」と,頭に血が上り,精神的に錯乱した状態で大声で叫び続けた。
この異常行動は,警察による連日のストーカー行為とも言えるつきまとい行為と,自白の強要を繰り返す警察の取調べに対し,X12が精神的不調を来していたことを表す事実である。
イ 被告県の主張
(ア) 原告X1関係
a 原告X1の供述の低い信用性。
(a) けんか腰の原告X1
原告X1の本件刑事事件での公判供述は,A14警部補の取調べについて,「余りに自分の言うことを聞かないので負けじと言った。けんか腰で言った。」などと供述しながら,他方で「自供をした一番の理由はA14警部補が怖かったから。」と供述しており,不自然である。
(b) 聴き取り書の内容と本件刑事事件の公判や本件訴訟の本人訴訟での本人尋問における記憶の矛盾
また,原告X1は,本件刑事事件の公判や本人訴訟での本人尋問において「覚えていない。」と供述したことを,聴き取り書に詳細に記載しているほか,本件刑事事件の公判において,検察官から,原告X9と亡X12の二人がもともと仲が悪い理由などについて質問され,「二人は仲が悪い。それは本当のこと。」と供述し,さらに,検察官から,「あなたのほうで,あなたのだんなさんのお姉さんのだんなとX13さんが姉と弟で,X13のお母さんの関係で仲が悪くなったんですよということを教えてくれませんでしたか。」と質問され,「はい,それは,だと思いますよ。それは昔からですね,仲が悪いから。」と供述しているのに対し,聴き取り書では,「私は,X12は,親戚で行きやすかったので,A14に「X12さんとはなかが良かった。」ことも話しています。当時から,けんかなんか考えられない関係でした。」,「夫X9とX12は仲が良かったので,けんかはしません。」などと記載しており,刑事公判での供述と明らかに矛盾している。
(c) 本件訴訟の本人尋問での矛盾供述
加えて,原告X1は,本件訴訟での本人尋問において,4月27日の取調べで「13人に1万円と焼酎2本を渡したと言ってきたが,本当は現金は2万円ずつ渡した。」と訂正した理由について,被告県代理人からの質問には「ほかの人が2万円と言っている,だから2万円だろうなどと言われたので認めた。」などと供述しているが,裁判官からの別の機会の質問では,「1万円だと言っても,A14刑事は聞かなくて,結局わたしが数字を言っていくと,2万円と言った時に,そうだということになって,2万円になってしまった。」などと明らかに矛盾する供述をしているなど,一貫性がない供述をしている。
b 原告X1に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X1に対する違法な取調べがあったことはいずれも否認する。被告の具体的な反論は,以下のとおりである。
(a) 同年5月26日
原告X1がA14警部補から,他人の悪口を言うなと怒鳴られる一方,やったことを前提に反省しろと強要されたとする点について,原告X1が,逮捕事実を認めている4人について,「4人の男は嘘ばっかり言っている。馬鹿ですよ。」などと興奮して話したことから,A14警部補が,「貴方は,私の質問に対して明確に答えず,やってない,やってないと言うばかりじゃないか。そればかりか,事実を認めている人を馬鹿呼ばわりするとは,どういうことか。」などと申し向けたところ,原告X1は,「私はずるがしこいですよ。男達はみんな馬鹿ですよ。」などと供述し,その旨が調書化されたにすぎず,A14警部補は,原告X1が関係者の悪口を言ったことを注意しただけであり,違法性はない。
(b) 同年5月30日
原告X1が,頭痛のため取調べを拒否するのを半ば強引に取調室に連行して,取調べを行ったなどとする点について,原告X1が同日午後1時20分頃,頭痛を理由に取調べを拒否する旨を申し立てたが,頭痛薬を飲んだ後の午後2時5分頃,看守に対し,「頭の痛みはやわらいだので,調べを受けます。」と申し立てたことから,看守において,原告X1の体調を確認した上で,A14警部補にその旨を伝え,取調べを実施したものであり,原告X1を半ば強引に連行して取調べを行った事実はない。
(c) 同年7月4日
A14警部補が,起訴後であるにもかかわらず,頭痛を訴える原告X1に対して取調べを行ったなどとする点について,A14警部補が,原告X1を取り調べる前に体調を確認するとともに,取調べに応じる意思を確認したところ,原告X1は,「大丈夫です。」と申し立て,取調べに任意に応じたものであるが,その後,原告X1が取調べ中に体調不良を訴えたことから,取調べを中止したものである。
したがって,その取調べに違法性はない。
(d) 同年7月11日
警察は,代用監獄であることをいいことに,同房者を使った嫌がらせも執拗に行って,早くここを出たいという心境に追い込んでいったなどとする点について,原告X1の留置場内における動静については,同年7月8日の動静簿には,「同室者とは,笑いながら話をしている。」,同月9日の動静簿には,「部屋で同室者と話しをしていた。」,同月12日の動静簿には,「明るい様子で,同室者とも良く話をしている。」などと記録されており,原告X1が,同室者とも良好な関係にあったことがうかがわれることからも明らかなとおり,県警が,原告X1に対して,留置場の同房者を使って嫌がらせを行った事実はない。
(イ) 原告X2関係
a 原告X2の供述の信用性の低さ
これまで述べたとおり,原告X2の供述は信用性が低い。
b 原告X2に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X2に対する違法な取調べがあったことはいずれも否認ないし争う。
(ウ) 原告X3関係
a 原告X3の供述の低い信用性
(a) 矛盾する供述
原告X3は,平成15年4月17日付け供述調書において,原告X6との面識について,「私はX6さんとは,私が以前X6さんの焼酎工場で働いたことが縁で知り合いになりました。芋代金をもらいに行った日にX6さん本人からも「よろしくお願いします。」と頭を下げられた。」旨供述し,本件刑事事件の公判においても,逮捕される前,c社で働いていたから知っていた旨供述しているが,陳述書では,「私は,f社の仕事に行ったことはありますが,X6さんとの面識はありません。」と陳述し,本件訴訟の本人尋問では,顔は見知っているが,知り合いになっているという意味ではない旨陳述している。
また,原告X3は,本件刑事事件の公判において,弁護人から,「認めれば早く家に帰れるとA18刑事は話したのか。」などとの質問について,「A18刑事は言わなかったです。」と供述しているが,本件訴訟の本人尋問では,「あなたは,先ほど認めれば早く出られるということを言われたですかね,そういうことを言われたと」との質問に対し,「ええ,そうです。これはもう前後になりますけど,その時点でほかの人はみんな認めとる,X3さん,あんたが1人だ,認めなさい,認めなさいの一点張りです。」と供述している。
このように,本件刑事事件の公判と陳述書と本件訴訟での本人尋問で矛盾する供述をしている。
(b) 自己に不利となる事実についての曖昧な供述又は供述の回避
原告X3は,本件刑事事件の公判で,自白調書が作成された経緯に関し,自白に任意性がないとの自己の主張に沿う点については,「警察から,『そうじゃったやろうが,そうじゃったやろうが。』と言われた。」,「供述を押し付けられた。」などと繰り返し同様の弁解を行うとともに,警察での取調べ時におけるA18警部補の言動や検察庁での取調べにおけるA77副検事の言動については,事細かに供述し,他方,自己に不利となる事実については曖昧な供述をし,又は,供述を回避するという態度が顕著に認められ,買収会合に出席したことを認めた自白調書がなぜ作成されたのか,会合の会場でなされた原告X6の挨拶がなぜ検察官調書に記載されているのかと追及されるや,「もうあんたたちの自由にしなさいと言った。」などと不自然な供述をしている。
原告X3は,本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人からの質問に対して,同年4月17日の取調べ内容について,陳述書では,「X1から金をもらっているだろうが。」などと言われ,原告X1からの現金受供与について取調べを受けた旨陳述しているが,原告X1からの現金受供与は,同日の時点では捜査線上に上がってきていない事実と矛盾している点を追及され,「ちょっと記憶にございませんです。分かりませんですね,もう。」などと曖昧な供述に終始している。
b 原告X3に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X3に対する違法な取調べがあったことはいずれも否認ないし争う。
(エ) 原告X4関係
a 原告X4の供述の低い信用性
原告X4は,本件訴訟の本人尋問において,A15警部補の取調べの文言について,「A15刑事が私をピストルで撃つと言いました。」と供述している。
しかしながら,A15警部補は,刑事公判において,弁護人の質問に対し,「はい。保釈前に,X4さんと,結局,保釈になるんじゃないかなあという話を,X4さんが弁護士さんにお願いをしているという頃,あのとき刺すっち言うたがなあ(刺すと言ったよねの意)と。そしたらそのとき冗談で,おはんがそげんして刺すったれば(あなたがそうして刺すんであればの意)それは正当防衛になるから,僕がそのとき拳銃を持っとけば撃つのよ,ほら,と冗談で話したことはありますよ。」などと,二人で思い出話として談笑した旨を証言しており,A15警部補は確かに,「拳銃を持っとけば撃つのよ。」等と話してはいるが,それは,原告X4の保釈前に冗談で言ったことであり,それを,原告X4は,自分が自供しないことを理由にA15警部補が,「ピストルで撃つ。」などと言い,「殺されるかと思った。」などと供述しており,事実を歪曲,誇張した供述が認められる。
b 原告X4に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X4に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。
(オ) 原告X5関係
a 原告X5の承諾による出頭
原告X5の平成15年4月20日の任意同行についての原告らの主張を否認する。
A26警部補は,午後零時頃,原告X5方に赴き,同人に警察手帳を示し,自己紹介をした上で,今回の県議選の選挙違反事件の中で原告X5の名前が出ていることから,事実を確認したいので,志布志署の方まで一緒にお願いできないかと話をしており,これに対して,原告X5は,「私は選挙運動などしていない。身の潔白を明らかにしますからいいですよ。」と承諾している。
その際,昼食については,原告X5が,丁度昼食中だったというようなことだったので,A26警部補らは食事を済ませるまで待っていた。
出頭要請については,既に述べたとおり,任意同行は,全て呼出状によって行っているものではなく,必要に応じて,電話や直接本人の住居を訪れて出頭を求める等の方法によって差し支えない場合があるところであり,当時も,上記のとおり,A26警部補は,相手方の事情と捜査上の必要性とを比較衡量した上で,本呼出方法を選択している。
b 原告X5の意思による食事の辞退等
同日の原告X5に対する取調べについての原告らの主張を否認する。
A26警部補は,原告X5に対して,昼食を摂ったのかを確認の上,任意同行をしており,また,任意同行途中の車中でも,原告X5は,「パンを食べてきた。」旨申し立てたことから,A26警部補らは,取調べを実施したものであり,昼食を摂らせなかったものではない。
夕食については,これを勧めたところ,原告X5自身が,「こんなところでは食べたくもない。夫と一緒に食べますからほっておいてください。」と自らの意思で断っているものであり,休憩についても適宜とっている。
また,トイレを勧めたことについて,原告X5は,「そのようなことは分かっています。子供じゃないんですから。」と返答し,これに対し,A26警部補が,「食事もさせてもらえなかった,トイレにも行けなかったなどと後から言わないでくださいね。」と申し向けたところ,原告X5は,「誰がそんなこと言うもんですか。だれかそのようなことを言ったのがいるんですか。そんな恥知らずと一緒にしないでください。」と返答している。
そもそも,常識的に考えて,取調官がトイレに行かせないというようなことをするはずがなく,仮に,昼頃から午後10時頃までの取調べの間において,原告X5に対し,トイレ休憩を付与しなかった場合,不測の事態を招来しかねず,取調べの継続自体が困難となる。
また,相手方から,「子供じゃないんだから。」との発言があった場合,殊更トイレ休憩を確認することは,相手方の意向を無視し,名誉や体裁をも傷つけることにもつながるため,取調官において,食事時間や自己の休憩等に併せてトイレ休憩を確認したことは,自然かつ合理的である。
なお,原告X5は,本件刑事事件の公判において,A26警部補の取調べについて,「水も飲まないし,トイレにも行かないで,ぶっ続けで取調べを受けました。」と水を飲まなかったことやトイレに行かなかったことは,自分の意思であったと供述しているものである。
さらに,A26警部補は,取調べに際しても,県議会議員選挙に関する公職選挙法違反の被疑者として取調べを行うことを告げているなど,容疑事実を明らかにするとともに,黙秘権についても告げており,威嚇的・強圧的取調べを行った事実もない。
c 弁護人に対する訴えの不存在
原告らは,原告X5が第2次強制捜査で身柄拘束後,追及的,強圧的,威嚇的取調べ,偽計による尋問,利益誘導による取調べ等を受け,虚偽の申述書を記載させたなどと主張しているが,これらの事実をいずれも否認する。
仮に,A24警部補の取調べが過酷であったのであれば,申述書の作成直後の弁護人との接見や検察官の取調べにおいて,A24警部補の違法な取調べによって,申述書を作成させられた旨訴えるはずであり,また,弁護人からは,当然その旨の抗議がなされるはずであるが,かかる抗議がなされたことは一切ない。
また,原告X5は,本件刑事事件の公判において,申述書を書いたこと自体を忘れていたなどと供述していることからも明らかなとおり,原告X5にとっては,申述書の作成に関わるA24警部補の取調べの態様は,本人の記憶にもとどめない程度であったのに,A24警部補の取調べが,過酷なものであったなどと強調する主張は,極めて不自然な主張といわざるを得ない。
(カ) 原告X6関係
a 原告X6の供述の低い信用性
(a) 原告X6の事前申告に照らすと判明する誇張主張
原告X6は,本件刑事事件の公判において「体調を壊して,ストレスもたまり,眠れなかった。」,「糖尿病の持病はなかったが,血糖値が高くなって病院にいった。」,「逮捕勾留中は食欲も余りなく,夜は眠れない日が多かった。」と供述し,本人尋問でも「もともと糖尿病は持っていなかったが,勾留中に高血糖になった。」,「逮捕前は髪の毛も黒々していたが,保釈されたときには真っ白になった。」などと供述している。
しかしながら,原告X6が同年6月4日に鹿児島西警察署に留置された際に作成された原告X6にかかる被留置者名簿の「Ⅱ留置後の経過等。」の欄には,疾病負傷関係として「疾病有,糖尿病,投薬なし」,「Ⅲ身体検査等」の欄には,身体特徴として「髪色白」,疾病として「血糖値が170位」と記録されており,このことから,原告X6の刑事公判及び本人尋問での「もともと糖尿病は持っていなかったが,勾留中に高血糖になった。」,「逮捕前は髪の毛も黒々していたが,保釈されたときには真っ白になった。」などとの供述は,事実を歪曲し,誇張したものといわざるを得ない。
(b) 事実の歪曲主張
また,「体調を壊してストレスがたまった。食欲も余りなく,夜は眠れない日が多かった。」などとする点については,原告X6にかかる同年6月4日から同年7月31日までの間の被留置者名簿の「Ⅴ-Ⅰ特異動静」の欄に,留置場内で,新聞を読んだり,読書をして過ごしていたこと(合計18日(同年6月9日,同月20日,同月22日,同月27日,同年7月2日,同月5日,同月9日,同月10日,同月13日,同月16日,同月18日ないし同月20日,同月21日ないし同月23日,同月26日,同月30日)),食事を残したのは2日(同年6月24日と同月30日)だけでほとんど完食していたこと,睡眠はほとんど熟睡していたことなどがそれぞれ記録されており,「逮捕勾留中は食欲も余りなく,夜は眠れない日が多かった。」との供述は,事実と明らかに異なっている。
このことから,原告X6は,刑事公判や本人尋問において,事実を歪曲し,誇張して供述していたといわざるを得ない。
(c) 詳細な録取内容
原告X6は,本件刑事事件の公判において「A12警部が「認めなさい,認めなさいと」とそればっかり言っていた。」と供述し,本人尋問でも「A12警部は取調べに当たって,全然聞いてくれなかった。」と供述し,陳述書でも,A12警部の取調べについて「最初から容疑事実については何一つ聞くことはなく,とにかく「議員辞職しろ,一回だけでいいから認めろ。」の一点張りで,そのことからもおかしな捜査であったということがわかります。」と陳述している。
しかしながら,A12警部による原告X6の取調べは,逮捕事実に関する取調べのほか,選挙運動の実態や否認の理由,前回選挙に関することや四浦校区の実態,投票前日までの行動などについてであった。
現に,A12警部の取調べで録取された供述調書は,27通が書証として提出されており,原告X6からの供述内容についての加除訂正の申出についても,A12警部がその都度,原告X6が申し出た加除訂正等の内容をそのまま供述調書に録取している。
(d) 本人尋問における反対尋問と主尋問と反対尋問との矛盾供述
原告X6は,本人尋問において,被告県代理人から同年7月1日の接見内容を質問された際,「もう一遍ゆっくり言ってください。」などと,また,同日の取調べで逮捕事実を認めた時の状況を質問されても,「7月・・・7月,もう一遍言ってください。」などと問い返す行為を4回行い,質問に答えなかったことも4回あった。
そのため,原告X6は,裁判長から「主尋問ではすらすらって答えていて,反対尋問では何か全然答えていないという状態になると,主尋問で言っていたのは何だったのかということで,証言の価値は減ってくる。」との厳しい指摘を受けている。
このようなことから,原告X6の本人尋問における供述は,主尋問と反対尋問が明らかに矛盾しており,原告X6の供述に信用性はない。
b 原告X6に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X6に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は以下のとおりである。
(a) 「殺すぞ。」発言に関する弁護人への相談の不存在
原告X6がA12警部から「殺すぞ。」,「責任を取れ。」など,追及的,威嚇的な取調べを行ったなどとする点について,原告X6は,当時,頻繁に弁護人と接見していて,弁護人に取調べの実情を相談する機会は幾度となくあったにも関わらず,弁護士から県警察や検察庁に「殺すぞ。」などと言われて取調べを受けているなどとの訴えはなく,また,裁判所での勾留質問においても,そのような申出もなかったものであり,また,当時の鹿児島西警察署の留置場の記録においても,原告X6の体調を含めた様子について,特段,異常がない旨の記録がある。
なお,A12警部の原告X6に対する取調べは,逮捕事実に対する認否を確認するとともに,同人の供述と自供している関係者の供述が整合しない理由,逮捕されている関係者に対する思い等について取り調べるなどしたものであり,原告X6が主張するように虚偽の自白を迫ったり,怒り狂って「殺すぞ。」などと言った事実はない。
(b) 県議会議員の辞職願
原告X6は,県議会議員の辞職願を書いた理由について,同年6月16日付け及び同月18日付けの供述調書で「私の選挙のために7名の有権者が現実に逮捕されたことに対し,関係者の方々に多大な迷惑をおかけしたことに対するお詫びということです。辞職願を出したのは,事実無根とは言え,逮捕者を出したことに対する私の責任です。また辞職しないことで,私が議員を辞めたくないから否認していると思われたくないことも辞職の理由の一つです。」と供述し,また,検察官の取調べにおいても「警察官から議員を辞めろとは言われていません。」などと供述し,さらには,本件訴訟の本人尋問でも原告ら代理人からの「どういう理由で,あなたは県議の職を辞したのですか。」との質問に「弁護士に聞いたら,裁判が長引くということでしたので,責任を取って辞めることにしました。また,オレンジ共済事件により長期間勾留されていた国会議員が,議員の職にしがみついて歳費を受け取り続けていたので,その人とは違うぞということでした。」と供述しているとおり,取調官に言われたことではないことを一貫して供述している。
これは,原告X6はA12警部が「責任をとれ,責任をとれ。」などと言って自白を迫った事実がないことの証左である。
(c) 切り違え尋問,利益誘導の不存在
A12警部が切り違え尋問,利益誘導等により,原告X6を誤信させ,同年7月2日に「逮捕事実については間違いありません。」との一筆調書に署名指印させたなどとする点について,当時,原告X6が「選挙のために金品を配ろうとしたことは一切ない。」などと供述する中で,同年6月29日に原告X7が本件逮捕事実については否認するものの,「X6を支持応援している志布志町の知人から,選挙のため,飲食の会合を開くことを勧められたことがあったので,友人にお金の都合をお願いした。」,「主人にこのことを言い出せなかった。」,「200万円位をお願いしようと漠然と算段した。」などと,有権者に飲食をさせて投票を依頼することを計画して,そのための金策をしたことを供述し,供述調書に署名指印した。
そこで,A12警部が,同日の夜の取調べで,原告X6に対して,原告X7の供述内容を告げて取り調べたところ,逮捕事実を認める供述をしたものであるが,原告X6は,このやり取りを捉えて切り違え尋問であるなどと主張しているものと考えられる。
そもそも,切り違え尋問というのは,一般的に裁判例に照らすと「捜査官が被疑者を取り調べるにあたり偽計を用いて被疑者を錯誤に陥れ自白を獲得する方法」を言うのであり(最高裁判所昭和45年11月25日大法廷判決・刑集24巻12号1670頁),本件の場合,上記のとおり,原告X6に,原告X7が選挙のための飲食に200万円を借りようとしていた旨の供述をしている事実を告げたのであって,偽計を用いて錯誤に陥れたのではないことから,切り違え尋問に該当しない。
そして,同年7月8日の取調べで原告X6は,否認に転じる理由として「貰った,貰っていないという2つの供述があることから,私の判断で,どちらか一方に決めてしまえば反対の方から必ずクレームがついて,いろんな問題に発展することと,お互い違う供述をしている逮捕者同士の間でも,問題が生じ,自殺者まで出るような事件事故の起こり得ることが十分予想されることから,私の判断で決めるより,裁判所の判断で決めた方がいいと思うからです。」などと供述し,また,同年7月2日に逮捕事実を認めた後のC5弁護士などとの接見状況については「C5弁護士に責任を取りますと告げたところ,「分かりました。」,「正直に話してください。」と言われました。(中略)C6弁護士に対しても「私が責任を取ります。」と告げたところ,「分かりましたそうしてください。」と言われ…。」などと供述しているにもかかわらず,原告X6は,逮捕事実を認める供述調書作成後に,C5弁護士と接見した際の状況を,さも接見で原告X7が完全否認のままであることを知り,A12警部に騙されたことに気付いたかのように説明した上で,本件刑事事件の公判では「怒り狂いまして…。」などと供述し,本件訴訟の本人尋問では「もう怒り狂いました。」などと供述しているが,上記同年7月8日付け供述調書等の記載と矛盾しており,原告X6が本件刑事事件の公判や本件訴訟の本人尋問における「怒り狂った。」などとの供述は,事実を歪曲しているというべきである。
(d) 利益誘導発言の不存在
原告X6は,「A39巡査部長もまた「A12丸に乗れ,言うとおりにすればX7さんはすぐ保釈できる。」とA12警部同様に利益誘導・切り違え尋問をした。」と主張しているが,この点について,原告X6は,本件刑事事件の公判において,弁護人から同年7月2日の供述調書が録取された時の状況について質問されたところ,「供述調書に署名指印したのは午前9時前後である。署名指印した後,A12警部は取調室を出ていき,A39巡査部長と二人きりになった。A39巡査部長は私に「A12丸に乗れ」と一点張りに言った。」などと供述し,さらに,弁護人から「A12丸に乗れ」と言われたことの意味について「あなたはどういう意味に理解しましたか。」と質問されたところ,「A12警部の言うとおりにすればうちのX7もすぐ保釈できるということを言われましたので。」などと供述し,本件訴訟の本人尋問においても,同年7月2日の供述調書作成後のことととして「A12丸に乗ればいいとこに着くと言いました。」と供述し,さらに,その意味を質問されると,「A12の言うとおりにすれば,X7も保釈するということです。」などと供述している。
このようにA39巡査部長は,既に本件買収会合の事実を自白している原告X6に対し,A12警部を信じることを薦めた意味で,「A12丸に乗れ」と言っただけであり,また,原告X7が保釈されるなどということは言ってはいない。
この状況から判断すれば,A39巡査部長は原告X7を保釈することは言っておらず,原告X6が勝手に「X7が保釈してもらえる。」などと思い込んだだけであり,また,逮捕事実を録取し終えた後に「A12丸に乗れ。」などと言われたのであり,このことから,利益誘導には当たらない。
そもそも,勾留中の被疑者の釈放の権限は検察官の権限に属するものであって,取調官を含む県警察が被疑者の釈放の判断をするはずはなく,また,原告X6も弁護士に相談すれば,不可能であるということくらい確かめることができたはずである。
(キ) 原告X7関係
a 原告X7の供述の低い信用性
(a) X7ノートの記載と本人尋問の矛盾
原告X7は,勾留中に記載していたX7ノートにおいて,平成15年7月25日の欄に「X6の同窓会が,いつ,どこであったか聞かれたけど知りませんと答えたが日,時は良くおぼえてないけどmホテルであったと思う。」などと記載しており,捜査員による関係者への事情聴取で,同年2月8日にmホテルで原告X6の本件新年会があったことが判明した後の同年7月25日の時点において,原告X7は,警察官の取調べで,原告X6の本件新年会が,いつ,どこで開催されたかとの質問に答えなかった旨記録している。また,原告X7は,同年8月2日付け供述調書において,同記載が原告X7の同窓会についての記載であることを認めている。
しかしながら,原告X7は,本件訴訟の本人尋問において,原告ら代理人からカレンダーの同年2月8日の欄に記載されている「同窓会19:00~」との書き込みを示されて,「これはだれの同窓会」との質問に対して,「それはX6の同窓会を書いたと思います。」と供述して,勾留中ノートの記載内容及び同年8月2日の供述調書の内容を否定したが,被告県代理人から反対尋問で「供述調書は示しませんが,8月2日付けの甲総ア第189号証という供述調書を見ると,御自分の同窓会だというふうにお話ししているようなんですが,そうだとすれば,そのようにA74検事へ話したことになりますか。」と質問されたところ,原告X7は「書いてあれば,そうだと思います。」と供述して,原告ら代理人からの質問に対する供述を訂正している。
このように,原告X7の本人尋問における供述は一貫性がない
(b) 公職選挙法で禁じられた戸別訪問の自認,飲食物の提供の計画
原告X6,A5及びA126は,本件刑事事件の公判において組織的に戸別訪問を行っていた事実を認めており,また,原告X7も,本件刑事事件の公判において,弁護人からの質問に対し,「戸別訪問とか,ローラー作戦にも参加しました。」などと供述して,原告X7本人も公職選挙法で禁じられた戸別訪問などを行っていた事実を認めている。
しかしながら,原告X7は,陳述書において「本当にクリーンな戦いで,(中略)勝利をつかむことができました。(中略)4月13日投票日翌日には,A5さんが警察に呼ばれ選挙違反容疑をかけられていることがわかりました。絶対に違反をするなと気を付けていたし,選挙資金については私が管理していましたので,絶対にあり得ないと確信していました。」などと陳述して,原告X7が選挙運動資金を管理して,クリーンな選挙であったことを強調しているが,本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人から,X7ノートの同年6月15日の欄に「A141さんから50万円借りるようにしてキャンセルしたこと。」と記載されていることについて質問され,「お金に余裕があった方がいいかなと思って借りるようにしたんですけれども,やっぱりそういうのをしたら疑われると思ってキャンセルしました。」と供述し,さらに被告県代理人から「要するに,公職選挙法で禁じられている飲食物の提供,(中略)飲み食わせをした方がいいかなということを考えて,そのお金を準備しようと考えたと,こういうことですか。」との質問に対して,「まあ一時そう思ったこともありました。」と供述している。
(c) 収支報告の把握
加えて,原告X7は,同年6月8日の取調べで,原告X6の選挙運動資金の管理状況について「今回の選挙に関する会計は(会計責任者に)一切任せていたので,一切分からないし,選挙が終わった後現在まで,収支報告は受けていません。」,「今回の選挙では,長男A129と長女A139から,選挙に関するお金は,お母さんは扱うなと言われていて,選挙資金の収支関係については分かりません。」などと供述して,選挙運動資金の管理は会計責任者に任せていた旨供述しているところ,本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人からの「陳述書に,あなたは選挙資金の管理についてすべて把握していたので,買収に使われたお金はないんだというふうにおっしゃる。」との質問に対して,「把握していたというのは,時々こんなふうになっているよっていう台帳をA140さんに見せてもらいましたので,どのように使われているかというのは,自分なりに把握していたということです。」などと供述して,陳述書記載の「選挙資金については私が管理していた。」という部分を「会計責任者のA140さんに任せていた。」と訂正している。
このように,原告X7は,陳述書において,クリーンな選挙であったこと,原告X7が選挙運動資金を管理していたことを強調しているが,原告X7の陳述書は事実を歪曲,誇張しており,不自然である。
(d) X7ノートと本人尋問との矛盾
mホテルの宴会台帳の同年3月26日の欄には,原告X6の選対本部長であったA142名で50人の宴会申込みがあり,その後,キャンセルしている事実が記録されていて,さらに,iホテルの予約帳の同年3月26日の欄にも「・朝早 X7ちゃんよりTEL・A141さんのことで(中略)飲み会急に中止。」などと記録されている。
このことについて,原告X7は,X7ノートの同年6月15日の欄に「A141さんから50万円借りるようにしてキャンセルしたこと」と記載し,同年6月20日の欄にも「mホテルでの集りを中止したことは警察にばれるといけないからと していません そんなこわい事とメモされた。」と記載していることから,原告X7が,A141さんから50万円借りるようにして,同年3月26日にmホテルで計画していた宴会を急遽中止したことを知っていたことは明らかである。
また,A120は,陳述書において「・後援会長とA143は飲み会の話し合いだったみたい。夫,今朝聞き,A144ちゃんにmホテルにTELして,すぐ断れと言い,断った。」と陳述し,さらに,A120は,証人尋問において,「X7からA5に飲み会中止の電話があり,その飲み会は選挙に関連しての飲み会を予定していた。」などと証言していることから,原告X7が,A5にmホテルでの宴会が中止となったことを電話連絡していたことも明らかである。
しかしながら,原告X7は,本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人からの「後援会の誰かに指示して,mホテルで飲み食わせをさせようとしたことはないか。」などとの質問に対して,「わたしはそういう指示をしたことはありません。」,「ある人たちから,そういうのもたまにはした方がいいんじゃないかなって言われて」,「そういうのも必要かなとは思いました。」,「わたしは,そういうのは立ち会っていませんので,分かりません。」などと供述している。
このように,原告X7は,A120が証人尋問において,原告X7がmホテルでの宴会に関与していた事実について証言しているにも関わらず,原告X7の本人尋問において,mホテルで原告X6にかかる宴会が計画されていた事実については,関与していないので分からない旨供述しており,原告X7の本人尋問における供述は客観的事実と異なっていて,信用することができない。
b X7ノートの信用性
(a) X7ノートにおける書き分け
原告らが主張するような原告X7に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は,以下のとおりである。
また,X7ノートには,原告X7が取調べにおいて,自己に不利益,不都合な事実については黙秘し,あるいは,供述を控えたり,嘘をついたりしていた状況などが如実に記載されている。
例えば,X7ノートの6月19日の欄には「X3さんの写真を見せられてあーと思った。」などと記載しながら,X7ノートの7月31日の欄には「X3はどんな人かと聞かれたけど知らないと答えた。」,X7ノートの8月2日の欄には「X3は大きな存在のある人かと聞かれた知りませんと。」などと記載しているなど,このように,原告X7は,自己に都合のいい事柄と自己に不利益,不都合な事柄とをそれぞれ取捨選択しながら,取調べに応じていたことも明らかである。
(b) X7ノートにおける虚偽の自白を迫った供述の不存在
原告X7は,ポリグラフ検査の結果に反応が出ている等と言って,虚偽の自白を迫られたなどと主張している。
この点について,原告X7は,X7ノートの7月12日の欄に「午前中,ウソ発見器にかける。」,「お金を配った会合は何回あったか。」,「封筒はどんな封筒か。」,「料理はなべもの焼き肉中華会席盛り皿」などと記録しており,刑事公判においても「承諾書を書いてポリグラフ検査を受けた。」と供述しているが,「ポリグラフ検査の結果が出ている。」等と言って虚偽の自白を迫った旨の記録及び供述はない。
(ク) 原告X8関係
a 原告X8の供述の低い信用性
(a) 原告X8の「覚えていない」旨の供述と対照的な詳細かつ具体的な陳述書の内容
原告X8は,本件刑事事件の公判において,4月のX1焼酎事件や本件刑事事件を自供した経緯については,「覚えていない」と繰り返し供述している。
しかし,陳述書では,A36巡査部長の言動を,「この馬鹿が!」,「認めたら罰金で済む。」,「「ウソばっかりつくな!」(中略)と怒鳴り続けてきました。」,「みんなもらったと言っている。」などと具体的に記載してあるばかりか,取調べの状況が詳細かつ具体的に記載されている。
この陳述書が作成されたのは,平成22年2月とされるが,平成15年当時,原告X8が日記をつけたりメモを残していたりなどといった記憶喚起に資する証拠物の存在はなく,本件訴訟でもそのような書証も出されていない。
しかし,平成24年12月13日の本件訴訟の本人尋問では,原告ら代理人の「私の質問は,あなたが焼ちゅうとかお金をもらった,あるいはX1さんからすれば上げたというふうなことになると思うんだけど,そのことについて,ほかの人はこういうふうな話をしてるぞと,そういったことを言われたことはなかったですか。」との質問に対して,再び「覚えていません。」と供述している。
(b) 刑事公判での供述と矛盾した陳述書及び本人尋問の供述
原告X8は,本件刑事事件の公判において,弁護人からの「あなたのお父さんというか,夫。夫が2日前から取調べを受けてて,今こういうことで警察から聞かれたというような話はしたんでしょう。」との質問に対して,「はい。」と供述し,さらに,「ひょっとしたら自分も警察から取調べを受けるかもしれないなということは思っていましたか。」との質問に対して,「はい,思っていました。」と供述している。
しかし,原告X8は,陳述書で,「平成15年4月19日の午前中に,突然,私の勤務先(o店)に2人の警察官が突然来ました。警察官は,選挙違反があったので事情を聞きたいと言ってきました。これに対して,私は何のことだろうと思いました。そのとき私には思い当たる節はありませんでした。ただ,警察がきてほしいと言ってきたので,特に何も考えることもなく行くことに応じました。」などと,刑事公判での供述と矛盾した陳述をしている。
また,本人尋問でも,原告ら代理人の「あなたのほうですぐにぴんとくるような話は記憶はありましたか。」との質問に「いいえ,ありません。」と供述し,刑事公判での供述と矛盾する供述をしている。
このように,原告X8は,本件刑事事件の公判,陳述書,本件訴訟の本人尋問で供述が一貫せず,信用することができない。
b 違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X8に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。
(ケ) 原告X9関係
a 原告X9の供述の低い信用性
(a) 具体性のない供述
原告X9は,本件訴訟の本人尋問において,平成15年5月30日付けのメモ及び供述調書の作成経緯について,原告ら代理人の質問に対し,「メモや供述調書はA19刑事の脅しによって作成したもので,作成後,C1弁護士に相談した。」旨を供述している。
一方,被告県代理人から,同メモ等の作成後における弁護士への相談状況について質問を受けると,「何と言われたんでしょう,C1先生は・・・ちょっと思い出せないです。」と供述しているほか,供述調書に「私とX1が現金や焼酎を配ったのは事実だと(中略)しかし,弁護士さんに相談してからでないと全てを話すことはできません。」との内容が録取されている経緯について質問を受けると,「A19さんとはそういう話をしたような気がします。」と供述し,弁護士への相談状況は記憶にない反面,同供述調書の録取内容は,原告X9本人の供述によることを認めている。
なお,裁判官から具体的な取調べ状況について質問を受けると,「ちょっと覚えてないです。」と供述している。
(b) 有形力行使に係る一致しない供述
原告X9は,A25警部補の取調べ状況について,本件刑事事件の公判では,「A25警部補と取調べ補助者2人から体を揺すられた。」旨を供述する一方で,陳述書では,「机を挟んで向かい合ったA25警部補から,肩に手を掛けて体を揺すられた。」旨を陳述し,さらに,本件訴訟の本人尋問では,「後ろに立ったA25警部補から肩を揺すられた。」旨を供述している。
このように,原告X9の刑事公判供述,陳述,本人尋問供述の内容は一貫性がなく,明らかにニュアンスが異なるものとなっている。
b 違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X9に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は以下のとおりである。
(a) 任意同行の承諾
原告X9が,同年5月2日,弁護士事務所まで往復する間,警察官から原告X9の車を追尾され,自宅に到着して間もなく,任意同行を求められ,体調不良を理由に同行を拒否したにもかかわらず,警察車両に同乗させられたなどと主張するが,原告X9は,陳述書及び本件刑事事件の公判において,C1弁護士から「頭が痛かったらずっと寝ときなさい。」などと助言されたことを明らかにしているが,同一日における再出頭要請時において体調不良があれば,C1弁護士に再度相談しなかったことは不自然である。
また,原告X9は,本件刑事事件の公判において,弁護人からの質問を受けて,C1弁護士事務所からの帰宅後,A25警部補からの要請を受けて,同行を承諾した状況を認めている。
以上のとおり,原告X9が体調不良を理由に同行を拒否しているにもかかわらず,任意同行した事実はない
(b) 威嚇的尋問を受けたとする取調べ状況の供述の変遷
原告X9は,警察官が取調室の机の上に乗って立ち上がってばか呼ばわりするなど,取調べで威嚇的な尋問を受けたなどと主張するが,原告X9は,本件刑事事件の公判では,「机の上からばかと言われた。」,「ばかと言って机の上に乗った。」などと供述している一方で,陳述書及び本人尋問では,「机の上に座ってあぐらをかいて,ばかと言った。」としている。
原告X9が主張する威嚇的尋問を受けたとする取調べ状況は,本件刑事事件の公判供述と陳述及び本人尋問供述とではニュアンスの異なる状況に変遷しており,その内容には一貫性がなく信用することができない。
(c) 威嚇的又は利益誘導による尋問の不存在
原告X9は,A19警部補から威嚇的又は利益誘導による尋問を受けたなどと主張するが,上記のとおり,原告X9は,本件訴訟の本人尋問において,平成15年6月30日付け供述調書の録取内容が同人の供述によるものであることを認めているほか,本件刑事事件の公判においても,検察官からの反対尋問に対して,「刑事さんとは話したと・・・思うんだけど,はっきりと分かりません。もう,はっきりと思い付かないです。」,「A19さんと話した・・・話したとは思うんだけど,もうはっきりと覚えていません。分かりません。」と供述しているのである。
一方,A19警部補は,接見国賠訴訟において,「あなたは,ほかのみんなは自白してますよと,こういう言い方をしたことはないですか。」との質問に対し,「それはもうX9さんが分かっておられたと思います。少なくとも,だれが自白している,だれが自白していないというような話は一切しておりません。」,「もう冒頭で話しますけど,逮捕するとかいう権限は私にはありません。ですから,そのような作り話,推測の話は説得の材料としません。しかし地元のほうで,志布志のほうでA112おじいちゃんとか子供2人が調べられているのも知ってました。子供2人の供述の中には,自宅で会合があったことを裏付ける話が出ておりましたので,それが具体的なことではなくて,説得の,まあ,引用したことはあります。」と証言し,取調べにおいて事実を認めなければ親も子供も逮捕するなどとして追及した事実はないことを明らかにしているほか,四浦の人間を全部逮捕するなどの発言について,「一緒です,ありません。」,オウム真理教を引き合いにしたことについても「ないです。」と明確に証言している。
したがって,原告X9が主張するような事実はない。
(コ) 原告X10関係
a 原告X10の供述の低い信用性
(a) 机の押しつけの誘導供述
原告X10は,平成15年5月7日の取調べの時,A22警部補から机を押し付けられたなどと供述するが,この点について,原告X10は,刑事公判において,「あとは何かこんな感じで,これ(机)が動いてくるんですよね,私の所に。で,怖くなって。」と供述したところ,弁護人が,「今あなたがおっしゃったのは,取調べ官とあなたは対峙している,で,あなたは壁を背にいるわけですね。で,その目の前に置かれた机を取調べ官があなたのほうに押してくる,で,押してくることによってあなたは壁のほうに押し付けられる,こういう感じということですね。」などと誘導したところ,原告X10は「はい。」と供述している。
また,原告X10は,本件訴訟の本人尋問において,「机は,普通に座ってて動いてきたから,やっぱり10センチぐらいは動いたと思います。」と供述したところ,原告ら代理人が,「じゃあ,壁のほうに押し付けられるようになったと,そういうことですね。」と誘導したところ,原告X10は「そうです。」と供述している。
このように原告X10の供述は,原告ら代理人からの過度の誘導によるものである。
(b) 陳述書の内容と客観的事実との相違
原告X10は,陳述書において,夫の原告X2が,同年4月17日から警察で取調べを受けている理由を知った経緯について,「主人が帰ってきてから,主人が警察にいっているのが県議会議員選挙でのX6さんの選挙違反の件であることをこのとき(4月20日)ききました。」と陳述しているが,C3弁護士宛ての手紙には,「あれは忘れもしません4月17日のことでした。(中略)その日主人が帰って来たのは夜11時頃でした。その日は仕事も出来ず,1日中警察だったそうです。びっくりでした。選挙違反の話だったようです。」と記載されており,原告X10は,原告X2が,同年4月17日から警察で取調べを受けている理由を知っていたことは明らかであり,陳述書の内容は客観的事実と異なる。
なお,原告X10は,本件訴訟の本人尋問において,原告ら代理人の「御主人のほうから,なんで警察に呼ばれてるのかという話を聞いたりしたことはありますか。」との質問に対して,「聞いたことは聞いたんですけど,何か,本人も分からないような感じでした。」と曖昧に供述している。
(c) 原告X10の虚偽の供述の自認
原告X10は,同年6月26日の取調べで,「今回の県議選に立候補したX6さんの関係については,私が仕事に行って留守の時に,X6さんのパンフレットが牛小屋の台の上に置いてあったことはありましたが,X6さん本人やX6さんの奥さん,又は,運動員の人からa3集落内で投票依頼等の選挙運動を受けたことはありません。」などと供述し,同年7月16日の取調べでは,「私が初めてX6さんに会ったのは,今回X6さんが県議会議員に立候補することになり,私の家に挨拶に来たときでした。私がいたので多分日曜日だったと思います。今年の3月下旬か4月の初め頃だったと思います。X6さんは,もう1人の男の人と2人で来ました。」などと供述し,警察の取調べで嘘をついていた理由について,「X6さんがうちに来たことがあると言えば話がややこしくなると思ったからです。怖くなって嘘を言いました。」などと供述している。
この点について,原告X10は,本人尋問において,被告県代理人の「X6さんがa3集落を戸別訪問したかどうかというのは本件についてもかなり重要な問題になるんですけれども,その点について,あなたは警察ではうそを言ってたと,こういうことになるんですね。」との質問に対し「はい。」と供述して,同年6月26日の取調べで,虚偽の供述をしたことを認めており,原告X10の供述には信用性が認められない。
b 違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X10に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は以下のとおりである。
(a) 原告X10の申出に配慮した事実
平成15年5月10日から同年6月23日までの間,原告X10が否認しているにもかかわらず取調べを継続し,任意捜査の名の下に事実上の強制捜査を行ったとする点について,当時,複数の関係者が買収会合の状況について具体的かつ詳細に供述するとともに,関係者間で供述が一致するなど,本件会合事実の存在が強く疑われる状況であり,原告X10を取り調べるに当たっては,任意同行の趣旨を説明して,原告X10の同意の下で行っており,実際に用事があるとして任意同行を拒否した日は取調べを行っていない。同年5月10日から同年6月23日までの間,原告X10を取り調べたのは11日間であるが,同年5月15日は原告X10の都合が悪いため,同年6月9日は警察署に夫の差入れに行くため,同月10日,同月11日は弁護士に相談,依頼に行くためとの,原告X10本人の申出に配慮して取調べを行っていない。
また,原告X10も,本人尋問において,「都合が悪い。」,「中央署に夫の差し入れに行かないといけない。」,「弁護士の所に相談,依頼しに行かないといけない。」などの理由で,取調べを受けなかった旨供述し,自己都合で取調べを受けなかったことがあることを認めている
(b) 過度の誘導
A22警部補が,同年5月7日の取調べにおいて,机を叩いたり,押し付けたりした事実がないことは,上記のとおり,同事実に係る原告X10の供述が過度の誘導によるものであることから明らかである。
(c) 否認調書の存在
各取調官は,原告X10に対して,関係者の供述との相違や矛盾点について尋ねるなどして取り調べたものであるが,「あなたは母親のクズだ。」,「早く事件を済ませるのがみんなのためだ。」,「3月下旬の1つだけでも認めてくれれば,早く調書もとれる。」,「交通事故とおなじようなもので,認めればたいしたことはない。」などと原告X10が主張するようなことを言った事実はない。
原告X10が,受供与事実や本件会合事実を否認しても,原告X10の供述をそのまま録取し,署名指印した供述調書が存在することが,取調官が虚偽,利益誘導,脅迫的な取調べを行った事実がないことの証左である。
(サ) 原告X11関係
a 原告X11の供述の低い信用性
(a) 客観的事実との相違
原告X11は,本件刑事事件の公判において,平成15年6月25日の逮捕時の状況について,弁護人からの質問に対して,「逮捕状を見たのか覚えていない。」,「車の中で手錠を掛けられた。」,「南署の留置場で看守の人が逮捕状を見せた。」などと供述している。
また,本件訴訟の本人尋問においても,被告代理人からの質問に対して,「逮捕状は留置場で見せました。係の人が。」と供述し,さらに弁解録取書を示され,記載されていた時刻について質問されると「間違いだと思う。」と供述し,被留置者名簿に記載されている午後6時21分に留置された時刻についても,「こんなに遅くではなかった。」と供述し,さらに昼食についても「昼食は留置場で食べた。」などと供述している。
しかしながら,原告X11は,同月25日の午後2時50分に志布志署において通常逮捕され,同所で弁解録取書が録取され,同日午後6時21分に鹿児島南警察署へ留置されていることが,原告X11にかかる被留置者名簿で明らかになっており,同名簿のⅣ食料,運動,入浴等食料支給表の同年6月25日の欄には,原告X11への食料支給が同日の夕食からであることが記録されている。
このように,原告X11の本件刑事事件の公判及び本件訴訟の本人尋問における供述は,客観的事実と異なっている。
(b) 本件刑事事件の公判供述と陳述書の陳述記載部分との齟齬
原告X11は,本件刑事事件の公判において,弁護人からの「警察官がトイレに付いて来たことがあったのか。」との質問に対して,「いいや,トイレまでは来なかったです。」と供述しているが,陳述書では,「1人が入り口まで付いて来て終わるまで待っていました。」,「トイレに行くにも,いつもついて来て」などと,警察官がトイレまで付いてきたと陳述しており,この点,本件刑事事件の公判供述と陳述書の陳述記載部分に齟齬がある。
(c) 具体的な会合関係の被疑事実がない中での会合の話題の不存在
原告X11は,陳述書において,「4月17日に捜査官からX4の家にあったコップに,お前の指紋がついていたと言われた。」と陳述しているが,同年4月17日のA36巡査部長の原告X11に対する取調べは,原告X11の県議選や町議選への関わりなどについて取り調べたもので,会合事実が発覚する同月30日よりも前の同月17日の段階において,具体的な被疑事実がない中で,会合事実について取り調べるはずがない。
(d) 原告X11の日記帳の低い信用性
原告X11の日記帳については,原告X11の同年3月24日から同年6月24日までの間の行動や取調べに関する内容などが記載されているが,日記帳の同年5月6日から同月9日までについては,「不明」と記載されており,同年6月2日から同月10日までについては,曜日を後日,訂正していることが認められる。
さらに,同月8日は,点滴を受けた旨の記載があるが,診療録によると同月8日には,通院事実はないことから,客観的事実と矛盾している。
そして,原告X11は,本件刑事事件の公判では,弁護人から日記を記載した時期について,「ほとんど毎日のように付けていたんですか。」との質問に,「毎日と思っていたけど,途中抜けている部分もある。」と供述して,その都度記録したものでないことを認めており,さらに,本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人からの質問に「最初から間違ってたから全部消して書き直したんだと思います。」,「不明は,ちょっと・・・ここも二日,三日・・・書かなかったかな。」などと曖昧な供述に終始していることからも,原告X11の日記帳の内容は信用することができない。
b 原告X11に対する違法な取調べの不存在
原告らが主張するような原告X11に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は以下のとおりである。
(a) 原告X11の取調べの必要性
原告X11が,同年6月4日から同月10日まで,被疑事実の告知もない中で,身柄確保の仕方など強制捜査と変わるところがなく,昼食や夕食もまともに摂らせずに自白を強要したなどとする点について,本件刑事事件の取調べにおいて,原告X4や原告X3,亡A1といった関係者が,原告X11が,4回目会合に出席していたと供述したことから,同年6月5日から,原告X6に投票すること及び家族や知人等に投票依頼してもらうことのお礼として現金を受け取った容疑で,原告X11を取り調べたものである。取調べは,同月5日から同月10日までの6日間実施しているが,同月4日は実施していない。
任意同行については,全て原告X11の同意を得た上で実施しており,出頭の方法は,原告X11が自家用車で自ら出頭,又は,警察の車で同行し,原告X11の都合が悪いときには取調べを実施しないなどの配慮をしており,原告X11本人もその旨供述している。
昼食については,原告X11は,刑事公判において,弁護人からの「取調べが一日中あるときは昼飯は食べましたか。」との質問に対し,「まあ,弁当を注文してもらって食べたけど,半分も食べられんかったですね。」と供述していることからも,捜査官が昼食の時間を設けていたことは明らかである。
なお,夕食については,原告X11に対して勧めたものの,同人がこれを断り摂らなかったものである。
(b) 体調に配慮した取調べ
A22警部補は,原告X11の体調が悪いにもかかわらず,長時間拘束状態に置いて事実を認めさせることに終始し,自白を強要し続けたなどとする点について,原告X11の日記帳は,上記のとおり,正確に記載されたものではないという点はおくとしても,原告X11が,取調べ途中あるいは,取調べの前に点滴を受けていることや体調が悪いときは取調べが中止されていることなどの記載があり,それらの記載内容からは,原告X11の体調を無視して長時間拘束して事実を認めさせることに終始したなどという事実は認められない。
事実,原告X11も本件訴訟の本人尋問において,被告県代理人からの反対尋問で,「体の調子が悪いというふうに申出をしたら帰してくれたとこういうことですよね。」との質問に「はい,そうです。」と供述し,さらに,「A22刑事はあなたに対して体調の配慮を十分してたんじゃないですか。」と質問されると,「まあ,これを(日記帳を)見ると,してたんだと思いますね。」と体調への配慮があったことを認めている。
このように,平成15年6月5日から同月10日までの間,A22警部補は,原告X11の体調に十分配意し,取調べを実施したものであり,原告X11が主張するような事実は認められない。
(c) 叫ばされたという供述の曖昧さ
A22警部補が,否認する原告X11に対して,取調室の外の廊下に連れ出して大声で叫ばせたり,机の上に革靴を履いたまま足を投げ出すなどして,威圧する取調べを行ったなどとする点について,A22警部補が別件不起訴等国賠訴訟において,「原告X11が金をもらったと言うやつを教えてくれといったことで押し問答となり,原告X11が興奮して突然立ち上がって,叫んだものである。」と証言している。
この点について,原告X11は,陳述書において,「誰がもろうたと言うたか。」と叫ばされたと陳述しているが,本人尋問において裁判長から,「「誰がもろうたと言うたか。」というのは,尋ねているような言葉に聞こえるんですが,それは尋ねている言葉なのか,それとも。」などと言葉の意味を尋ねられると,「叫べと言われただけのことを叫んだだけで,意味は分からないですね。」と曖昧に供述している。
叫ばされたと供述しながらその言葉の意味さえも分からないという原告X11の供述は不自然である。
また,原告X11は,本人尋問において,A22警部補が大声で叫びながら椅子や机,壁等を足蹴りするなどして威圧的な取調べを行ったと供述しているが,これらの点について,陳述書では,取調べの日時,場所まで陳述していながら,被告県代理人から反対尋問で具体的に説明を求められると,「いちいち小さいことまでは覚えてません。」と暖昧に供述している。
このように,A22警部補が,原告X11を外の廊下に連れ出したり,叫ばせたりした事実はなく,また,机の上に革靴を履いたまま足を投げ出したり,大声で叫びながら椅子や机,壁等を足蹴りするなどして威圧的な取調べを行った事実はない。
(d) 自白取り付けのみの取調べの不存在
原告X11が主張する切り違え尋問は,A21警部補の取調べのどの部分が切り違え尋問に当たるのか判然としないところであり,A21警部補が,原告X11に対し,「皆が認めている。」,「認めれば皆帰れる。」などと告げるなどして自白のみを取り付けることを目的とした取調べを行った事実はない
(シ) 亡X12関係
a 供述の信用性の欠如
(a) 亡X12の承諾
亡X12の陳述書では,「5月2日は取調べを受けるつもりはなく,会社に行くつもりで家を出たら刑事に待ち伏せされた。5月3日は,会社に行こうと準備をしていたら刑事が自宅に来た。」などと陳述しているが,亡X12は,本件刑事事件の公判において,任意同行に関して,検察官の反対尋問で「5月1日から4日までの取調べの終わりの時点で警察官から明日もお願いしますねと言われましたよね。」,「あなたはこのすべてについていいですよと答えたわけですか。」,「いいですよというのは,警察に行ってちゃんと話をしますよと,こういうことですよね。」との質問にいずれも「はい。」と明確に供述し,取調べの承諾をしていたことを供述している。
このように,亡X12は,A23警部補から取調べ予定を告げられ,それを承諾して取調べに応じていたのに,この点につき,X12陳述書の内容と刑事公判における供述が明らかに異なっており,齟齬がある。
(b) 黙秘権の告知
A23警部補は,平成15年5月2日,亡X12の取調べに際し,黙秘権を告知した上で供述調書を録取しており,この供述調書を亡X12に読み聞かせて亡X12がこれに署名指印している。
しかしながら,亡X12は,本件刑事事件の公判において,同日の取調べについて弁護人から「調書をとったことを覚えているか。」旨の質問に対して,「いやありません。」と供述し,「心当たりはありませんか。」との質問に「はい。」と供述し,「サインをしたという記憶は」との質問に「いや,ありません。」と,さらに「それもない。」との質問に「はい。」と供述して,供述調書を録取されていないと明確に否定している。
このように,亡X12の刑事公判における供述は,供述調書を録取されている,客観的事実と異っている。
(c) 弁護人の誘導
亡X12は,本件刑事事件の公判において,弁護人から「まず7時半までの間に,刑事から怒鳴られるであるとか,机をたたかれるであるとかいうようなことはありませんでしたか。」との質問に対しては「・・・」と全く供述しなかったところ,弁護人が「2日目です。」と質問をすると「いや,2日だったか3日だったかはっきり覚えていないけれども怒鳴ることは怒鳴りました。」と供述し,これに対して,弁護人が「怒鳴ることは怒鳴ったことがある。」と質問したのに対して,「はい。」と供述するに至っている。
このように,亡X12の「怒鳴る,机を叩く」という供述は,弁護人の言葉巧みな誘導によるものである。
(d) 原告X13の供述との矛盾
亡X12は,本件刑事事件の公判において,同年5月7日に太鼓を叩いたり,拡声器を使い怒鳴ったりしたことについて「一晩中寝らずにやった。」と供述しているが,原告X13は,本件訴訟の本人尋問において「夜は叩かなかった。一晩中ではなかった。」と供述しており,さらに,原告X13の陳述書においても,「私の家に刑事が来たとき,主人は,マイクを持ち出し太鼓を叩きながら(中略)大声で怒鳴っていました。(中略)マイクの声を聞いてX5さんの長男夫婦が走ってきてなだめてくれ,主人はマイクで怒鳴るを止め,その後,部屋で横になった。」と陳述記載部分がある。
このように,亡X12の刑事公判における「一晩中寝らずに太鼓を叩いたりした。」との供述は,原告X13の供述等と明らかに矛盾している。
また,亡X12は,本件刑事事件の公判において,検察官からの「警察で取調べを受けている他の原告が警察にどのような話をしているか電話で聞いているのではないか。」との質問に対して,「いや,私はそういう汚いことは絶対にしていない」と供述しているが,このことについて,原告X13は,本人尋問において「(亡X12が)X2に(警察官が)どういう取調べをするかと電話をしていた。」旨供述している。
このように,亡X12の,他の原告から警察での取調べ内容を聞くようなことは絶対にしていないとの本件刑事事件での公判供述は,原告X13の供述と齟齬がある。
b 違法な取調べの不存在
原告らが主張するような亡X12に対する違法な取調べがあったことは否認ないし争う。被告県の具体的な反論は以下のとおりである。
(a) 聴取に必要な時間
A23警部補が,亡X12に対し「1時間位話を聞かせてください。」などと偽計を用いて,瑕疵ある意思決定をさせ同行したなどとする点について,亡X12は,原告X8の供述に基づいて,買収会合の参加者として取り調べる必要があったものであり,その取調べは,1時間程度で済むような内容でないことは明らかであり,原告X13も本人尋問において「(亡X12が)夜の7時とか8時まで取調べがかかるとの認識を有していた。」旨供述している。
そうすると,任意同行の要請時にA23警部補らが,「1時間位話を聞かせてください。」などと言うことは到底あり得ないことであり,原告らの主張は,極めて不自然であるといわざるを得ない。
また,A23警部補は,別件不起訴等国賠訴訟において,他の関係者に任意同行を求める際の声掛けについて,被告代理人からの質問に対して「警察手帳を見せて,今回の選挙のことでうかがいたいことがあるということで申し述べた。」などと警察手帳を提示し,取調べの用件を告げていることを明確に証言しており,この際も「1時間位話を聞かせてください。」とは一言も言っておらず,偽計を用いて任意同行を求めたりしていないことは明らかである。
(b) 取調べ予定の告知と承諾
同年5月2日の任意同行についても,亡X12は,本件刑事事件の公判において,任意同行に関する検察官からの「5月1日から4日までの取調べの終わりの時点で警察官から明日もお願いしますねと言われましたよね。」,「あなたはこのすべてについていいですよと答えたわけですか。」,「いいですよというのは,警察に行ってちゃんと話をしますよと,こういうことですよね。」との質問に,いずれも「はい。」と明確に供述し,取調べの予定については,承諾していたということを認め,原告X13も「前の晩に,明日も調べがあるから協力してくれというような話があった。」と供述している。
(c) 精神的動揺を踏まえた確認
同年5月3日の任意同行について,同月2日の取調べ後に尾行をしたことは翌日の任意同行についての亡X12の意思決定に対する圧力行為に他ならず,違法であるなどとする点について,同月2日の取調べで,亡X12がX1焼酎事件を概括的に自供したことによる精神的動揺がうかがわれたことから,A23警部補らが,取調べ終了後に勤務先まで無事にたどり着いたかを確認しただけのことであり,これは,同月3日の取調べに対する精神的圧力を加えたのではないし,圧力を加える必要もない。
そもそも,亡X12の同日の任意同行については,A23警部補らが,午前7時頃に亡X12の家を訪れたところ,亡X12から「早すぎる。また後で来い。」との申出があったことから,これを受け入れ,午前9時頃に再度訪れたもので,この点について,亡X12も刑事公判で同様の供述をしている。
また,原告X13の陳述書にも「朝7時頃,自宅に刑事が来た。(中略)夫は「風呂にまだ入っちょらん,9時に来てくれ」と言ったところ,刑事は再び9時頃来た。」と陳述しており,亡X12の供述とも一致する。
このように,同月3日の任意同行については,亡X12の申出に配意して行っているのであり,原告らの主張は失当である。
(d) 尾行行為の不存在
同月5日ないし同月7日の連日にわたる尾行行為が過酷で,原告X12の精神に過剰なストレスを与えたなどとする点について,同月5日と同月6日は,亡X12が病院に行くため出頭要請を拒否したことから,A23警部補らは,その診察結果を医師に確認するために亡X12らの車に遅れて病院に赴いただけであり,亡X12宅から病院までが一本道だったことから結果的に追従する形になっただけである。
そして,同月7日は,A23警部補らが,早朝自宅に赴いたところ,亡X12が太鼓を叩くなどの行為を行ったので,この日も取調べは行っていない。
このように,亡X12を連日にわたって尾行した事実はないことから,原告らの主張は失当である。
(e) 黙秘権告知
亡X12は,取調べにおいて,黙秘権告知がなかった旨を主張するが,A23警部補は,別件不起訴等国賠訴訟において,他の関係者の取調べで黙秘権の告知についての被告代理人からの質問に対して「別に話したくないことは話さなくていいですよ。任意ですから。」と告げた旨証言し,さらに,被告代理人から,「あなたはいつもそういう形で供述拒否権については説明をするんですか。」との質問に対して,「はい。」と明確に証言しており,このことから,A23警部補が,平素から黙秘権を告げて取調べを実施していることは明らかである。
したがって,亡X12の「黙秘権を告げていない」との主張は,不自然であるといわざるを得ない。
(f) 弁護人の誘導による偽計又は威嚇による尋問の供述
A23警部補が,亡X12に対し,「もうみんな認めているから,あんたばっかりだ。」,「怒鳴る,机を叩く」と告げて偽計又は威嚇による尋問をしたという点は,いずれも,弁護人が本件刑事事件の公判において,言葉巧みに誘導して,その文言を導き出したものであり,A23警部補が,亡X12が主張する虚言を用いた取調べや強圧的な取調べを実施した事実はない。
(g) 「たたっから立ちなさい。」は「叩くから立ちなさい。」ではないこと
亡X12が,同年5月4日,午後8時頃,原告X12に対し,「X12さん立て。たたっから立ちなさい。(叩くから立ちなさい。の意味)。」などと大声で怒鳴り原告X12を強制的に立たせ,その正面に詰め寄ったなどとする点について,亡X12は,本件刑事事件の公判において,「腹が立ったんでしょうね。で,X12さん,立て,と言ったから,たたっから立ちなさいと言われたから立ったんですね。(中略)たたくよりも,私は親もきょうだいもいませんから殺してくださいと言いました。」と供述しているが,この「たたっから立ちなさい。」との文言について検討すると,亡X12は,「たたっから。」を「叩くから。」と理解したようであるが,通常,取調べ中に警察官が被疑者に暴行を予告するとは考え難く,また,「たたっから。」の後に「立ちなさい。」という丁寧語を使うことも文脈的に不自然であるといわざるを得ない。
むしろ,興奮していた亡X12が,A23警部補の発した別の言葉を聞き間違えたか,あるいは,思い違いをしたと考えるのが合理的であって,A23警部補は,「叩く」とは言っていない。
また,亡X12は,このようなやり取り後の取調べについては,「それからは話はしなかった。」と供述しながら,帰りの車の中では「ざっくばらんといろんな話をした。」と供述しているが,仮に,原告らの主張するA23警部補が大声で怒鳴り,暴行の予告をするような,緊迫した場面があったのであれば,その帰りの車の中で「ざっくばらんといろんな話をした。」と供述しているのであるから,亡X12のかかる主張は不自然である。
(8)  争点(2)ア(第1次起訴までの捜査及び第1次起訴に関する検察官の違法性の有無)
ア 原告らの主張
検察官の捜査の違法に関する主張は,検察官らが,遅くとも県警からの事件送致後である平成15年5月10日頃までには,①本件無罪原告らのうちの一部の者の自白内容が不自然かつ不合理なものであることから,本件現地本部が作出した本件刑事事件の公訴事実に係る買収工作の構図が不自然であると認識すべきであったのにこれを怠り,補充捜査を十分に行わず,本件無罪原告らの供述を吟味,精査せず,原告X6のアリバイの成立を示す証拠が既に収集されていたにもかかわらず,これらを精査しなかったという公正義務及び客観義務違反に係る捜査をしたこと,②起訴後の取調べ及び別件での勾留を利用した余罪取調べをしたこと,③本件刑事事件の公訴提起前の時点において,本件無罪原告らの接見交通権を妨害し,虚偽の自白を維持しようとした取調べをしたことが,違法な公権力の行使に当たるというものである。以下,分けて主張する。
検察官の公訴提起及び公訴追行等の違法に関する主張は,①本件刑事事件の公訴事実に係る自白が不自然かつ不合理であり,客観的事実と相違した供述内容があり,その重要な点について著しく不自然な変遷があり,共犯者間の供述の一致が得られなかったと判断するのが一般的な検察官の経験則に照らして当然であって,合理的な嫌疑がないと判断すべきであったにもかかわらず,本件無罪原告らにつき,平成15年6月3日から同年10月10日に掛けて5回にわたり,順次,公訴提起をしたこと,②本件無罪原告らに対する公訴提起を順次した後,本件無罪原告らにつき,繰り返し,起訴後の接見禁止請求をし,保釈求意見における不相当意見を提出し,保釈決定に対する抗告を行ったこと,③ⅰ)買収の供与金の原資が解明されないまま,4回の買収会合全てに参加して直接現金を配布したとされる原告X6にアリバイが成立し,本件刑事事件の公訴事実全体が存在しないことを認識し得たにもかかわらず,補充捜査を指示しないまま公訴を維持したこと,ⅱ)本件無罪原告らの弁護人らからの訴因の日時の特定に係る再三の求釈明に応じず,本件刑事事件の第42回公判期日に至るまで,買収会合の日時の特定をしないまま公訴を維持したこと,ⅲ)本件無罪原告らの接見交通権を妨害する取調べを行って公判中に否認に転じることを防止しようとしたこと,ⅳ)本件無罪原告らについて,繰り返し,起訴後の接見禁止請求をし,保釈求意見における不相当意見を提出し,保釈決定に対する抗告を行ったことなどの諸事情の下で,本件各無罪原告らの公訴を維持をしたことが,それぞれ違法な公権力の行使に当たるというものである。以下,分けて主張する。
(ア) 検察官が捜査について負う公正義務・客観義務及び司法警察職員に対する指揮・監督義務の内容
a 検察官の公益の代表者性
検察官は,刑事訴訟において当事者の一方たる原告(訴追者)の役割をつとめるが,民事訴訟の原告のように,利害対立を前提として一方の利益を追求するといった地位にあるわけではなく,「公益の代表者」(検察庁法4条)として,裁判所に「法の正当な適用」(検察庁法4条)を請求するという精神を堅持する必要がある。そこで,検察官は,ときに「準司法官」と呼ばれ,職務の遂行にあたって司法官的な行動規範による修正,すなわち,「公正義務」・「客観義務」が課され,具体的には,検察官は,警察捜査を指揮・監督する立場,すなわち,司法警察職員の捜査の行き過ぎや偏向を抑制する役割を課されている(一般的指示権,一般的・具体的指揮権(刑事訴訟法193条))。
b 警察における取調べの問題の兆候がみられる場合の対応
したがって,被疑者から警察での取調べに問題があることを伺わせる事情の申告があった場合はもちろん,供述調書と検面調書において自白と否認が繰り返されたり,供述内容の変遷が顕著な場合,その他,被疑者の言動等から被疑者の供述の任意性や信用性に影響を及ぼすような警察での取調べの問題があることを示唆する兆候がみられる場合,直ちに警察の取調べ状況に疑問を抱き,自ら調査を開始する必要があった。
c 公正さを保つ取調べの必要性
また,検察官が,公正義務・客観義務を負う帰結として,警察捜査の違法を引き継ぐことは許されず,とくに取調べの違法を遮断して自白の任意性・特信性を担保することが,検察官の職務であるというべきである。そうすると,検察官の取調べは,警察での取調べにおける恫喝や不当な誘導の影響を遮断した上で,公正さを保ってなされるべきであるし,送致された供述調書の記載内容を基にした不相当な誘導を行って,そのまま引き写したような検面調書を作成するようなことがあってはならないことは言うまでもない。
(イ) X1焼酎4月22日捜査事件の客観義務に違反する捜査の違法
a 自白の信用性に関する慎重な捜査を指揮する義務
原告X1は,平成15年4月24日,A75検事にX1焼酎事件について,弁解録取で自己の無実を訴えた。A75検事は,関係共犯者の供述調書等の証拠資料,捜査報告書及び送致書などに目を通しており,原告X1の自白と原告X8の自白が符合していないこと,原告X1の自白と亡A1の自白が符合していないこと,焼酎及び現金の授受を裏付け証拠が存在していなかったことを知悉していた。したがって,A75検事は,自白の信用性について,本件現地本部に対し,慎重な捜査を指揮する義務があったが,これを怠った。
b A75検事の取調べ
(a) 同年5月1日までの原告X1の供述の変遷
原告X1の供述は,この日のA75検事の取調べまで,①否認(同年4月18日,同月19日夕方まで),②焼酎2本と現金1万円,同一機会との自白(同月19日),③否認(同月24日),④現金1万円と焼酎2本との自白(同月25日),⑤現金2万円と焼酎2本との自白(同月27日)と変遷していた。
(b) A75検事による同年5月1日の原告X1に対する取調べ
しかし,A75検事は,同年5月1日,原告X1に対する取調べをし,検面調書を作成したが,同調書には,否認の理由について,「今回,初めて警察の取調べを受け,逮捕されてしまったことで動揺したことや,もしこのまま本当の話をした場合に刑務所に行かなくてはいけないと思ったのですが,刑務所に行ってしまうとA112爺ちゃんの世話ができないと思ったことからでした。」などと,自白した理由について,「しかし,その後,警察のA14さんに説得され,このまま本当のことを言わないでいると本当のことを話している人と話が合わなくなり,その人が迷惑することになると思うようになりました。」などと記載されているが,これらはいずれもA14警部補が同年4月28日付けで作成した供述調書をなぞっただけのものでしかない。
本来,A75検事は,みずからの取調べで,原告X1が逮捕事実と異なる内容の自白に変遷しており,しかも,犯罪事実そのものである受供与金額の変遷であるから,この金額が1万円から2万円に増加したのはどうしてか,26万円にもなるその原資はどうしたのかなど,詳しい聴取が必要であるが,調書の内容からは,この聴取を行った形跡はない。
また,A75検事は,同年5月1日の時点で,共犯者である原告X8の自白との間の不一致が拡大していることから,その解明について,聴取するべきである。
さらに,原告X8が日時を特定して,1万円の受供与事実の供述をしているが,原告X1のアリバイがないかの確認すらしておらず,検察官としての聴取義務に違反したものといえる。
これらの聴取を行っていれば,原告X1の供述の過程からA14警部補の取調べ状況を十分に知り得たはずである。
(ウ) X1焼酎4月22日捜査事件の勾留請求の違法
A75検事は,同日,原告X1について,X1焼酎4月22日捜査事件で勾留延長請求をした。A75検事は,同日の時点で,受供与された焼酎の本数,現金の額が決定的に違っていたことを知っていたのであるから,この時点で,X1焼酎4月22日捜査事件で原告X1を起訴することは合理的理由が欠如することになることを知っていたというべきであるから,この延長請求は違法である。
(エ) 1回目会合5月13日捜査事件の勾留請求の違法
a A75検事の本件刑事事件についての尋問
A75検事は,平成15年5月5日,午前11時40分から午後7時55分までの間で,検察庁において,原告X1の取調べを行った。A75検事は,被疑事実であるX1焼酎4月22日捜査事件については尋問せず,本件刑事事件についての尋問ばかりを行った。ここで,原告X1は,本件刑事事件については否認した。
このとき,通常の検察官であれば,原告X1の態度から,本件刑事事件の存否について疑問を抱くことが当然できたはずである。A75検事は,会話として成立していない原告X1の知的障害を疑った形跡は皆無であって,少なくとも,通常の捜査官として疑問を抱かなかった過失がある。
なお,A14警部補は,同年5月12日に,原告X1から,不相当な誘導を繰り返して,X1焼酎4月22日捜査事件に関し,原告X7から30万円と封筒15通を預かり,交付した13名のうち,a3集落以外の8名分は,1万円ずつを抜き取って,原告X9,原告X3,原告X1で分配したことなどを供述させ,A75検事も当然その報告を受けているはずであるが,軽度の知的障害がある原告X1が,共犯者間の供述の不一致とこれまでの自分の供述とを矛盾なく説明することができる架空の事実を考え出すことは不可能であって,このような供述があったこと自体,A14警部補によって原告X1の供述内容が操作されていることの現れであって,供述の任意性に疑義がある状況である。
A75検事が,原告X1の供述内容から任意性を判断し,問題ないものと結論付けていたとすれば,職務行為基準説に立って合理的な判断だったとは到底いえず,任意性についての調査義務を怠ったというべきであり,検察官としての職責違反は明らかである。
b 供述の変遷に関する認識
A75検事は,同年5月2日,A12警部から電話で被疑者が新たな会合事実の供述を始めていることを聞き,同日の夜,県警本部捜査第二課のA8理事官からも会合事実についての説明を受けた。
A75検事は,同月の連休中も検察庁に出勤して,供述状況を口頭できいたり,供述対照表を受け取るなどして確認し,当初は,会合回数や買収金が変遷しており,なかなか詰まっていない状況も認識していた。
そうすると,A75検事は,本件刑事事件に関する原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の供述の初期段階であった同年5月の連休中の重大な変遷過程について,十分に認識していたことになる。
この供述の変遷は,その後の処分までの捜査過程における供述の任意性・特信性判断の上では,重要な判断要素である。供述内容及び外部的付随事情から任意性判断を行うべきであるから,この変遷が,自発的なものか,取調官の強制によるものか,慎重に判断する必要があったというべきである。
特に,X1焼酎事件の被疑者3名が本件刑事事件の被疑者でもあり,しかも,四浦校区という極めて小さな集落で,ほぼ同じ顔ぶれのメンバーで,繰り返し会合が開かれ,多額買収がなされているというのであるから,その構図の異常性もあわせ考慮すれば,自発性には相当な疑問があったはずである。少なくとも通常の検察官であれば,そのような疑問を持つのが普通であろう。しかるに,A75検事は,この解明を全くせずに放置していたのである。
c 不自然・不合理なものであることが容易に判断可能であったこと
A75検事は,同年5月6日頃に,A12警部からの電話連絡で,会合事件の供述が概ね出そろったので立件したいし,関係者の供述がおおむね4回の会合であったという内容で収束したとの報告を受けたという。
しかし,このような報告を受けた場合,通常の検察官であれば,それまで供述証拠の内容が,その得られた証拠資料に照らし,不自然・不合理なものであることは,前記第2・2(3)ア(ウ)及び同(4)ア(ア)のとおりであって容易に判断できるものであった。
1回目会合5月13日強制捜査は,検察官の指示によるものであり,この点で,原告X1ら6名の逮捕は,検察・警察合同の逮捕・勾留であって,警察捜査の違法で論じたところが,被告国にもそのまま妥当するものである。
(オ) 1回目会合5月13日捜査事件の勾留請求後の捜査の違法
a 原告X1に対する取調べの違法
(a) 同年5月14日
A75検事は,平成15年5月14日,原告X1の否認や供述の変遷の経緯を一切聴取し調書化しなかった。
(b) 同年5月21日
原告X1は,同月18日には,弁護人接見後に,否認に転じ,その後,自白に戻った経緯について,A14警部補がA90弁護人との接見状況を聴取して供述調書にして,A75検事に送致している。
この時点で,A14警部補が少なくとも弁護人の固有権としての秘密交通権を侵害して聴取したものであり,公益の代表者である検察官としては,A14警部補が接見内容を聴取した状況等を明らかにする義務が当然に発生するところである。
しかし,A75検事は,原告X1が弁護人と何を話したかについてのA14警部補とのやりとりを聴取することはなかった。
そして,同日の原告X1の様子が,とても口が重く,質問に対してなかなか答えを返さず,積極的に回答しようとしなかったのであるから,このような供述態度について,A75検事が,秘密交通権侵害の事実や原告X1の能力などに配慮していれば,口が重いのではなく,事実がないので答えることができなかったことが理解できたはずである。
(c) 同年5月25日
原告X1は,同月25日,警察で再び否認し,検察庁でA75検事が取調べを行つたときも,会合はなかったと否認を続けた。
A75検事は,原告X1から否認の弁解内容を丁寧に聞いたと主張する。そして,「その内容やその他の証拠関係等から,虚偽の弁解であると感じ,否認した理由や自白した理由を確認して不合理な点を追及したり,自白している共犯者の供述を当てるなどして真実を話すよう説得した。」という。他方,A75検事は,原告X1がA14警部補への不満を述べて事実を否認していたとの認識であった。そうすると,この日の取調べで,A75検事は,原告X1がA14警部補に対して不満を述べていたこと,また,A14警部補が「怖かった。」ことを知っていたことになる。
しかも,A75検事は,否認に転じた理由が,弁護士と接見したことを契機としているとの認識も持っていた。
以上から,A75検事は,原告X1の自白の任意性について,調査する義務が発生していたというべきである。
(d) 同年5月27日
A75検事は,同月25日,原告X1が虚偽の弁解をしていると判断を誤り,同月27日も検察庁で自白を強要した。これに反発した原告X1は,A75検事の前にあったパンコンのマウスコードを引き抜き,それを首に巻き付けるそぶりをして抗議した。押送の警察官がこれを止めると,原告X1は,急に「殺して。」などと言い出した。
警察官作成の留置記録には,同日午前11時45分に,戒護中の志布志署員から,「調べ中,精神錯乱となり,室内のパソコンコードを首に巻こうとする等,調べ不能。帰署する。」旨の連絡が入る旨の記載がある。
この日の取調べでは,原告X1は,午前8時50分には鹿児島南警察署留置場を出ているので,検察庁での取調べは,午前10時には開始していたと思われる。そうすると,取調べ開始から1時間30分以上経過したなかでマウスコードの話が出てきたと思われる。
したがって,自白強要が相当時間経過したなかで発生した出来事であったということになる。否認する原告X1に対する自白強要が続いたなかで,A14警部補の取調べの違法を訴えていた原告X1の言い分を全く聞かなかったことから,自暴自棄になった原告X1が精神錯乱状態となり,マウスコードを首に巻き付けたのである。A75検事の証言は全く信用することができないものである。そのように考えるのがごく自然なことである。何らの契機なく突如として精神錯乱状態などになることなど考えられないことだからである。
そこで,A75検事は,取調べを終了しようとしたところ,原告X1は,A75検事に対し,鹿児島南警察署には「帰らない。」などと訴えた。これに対しても,A75検事は「甘えるのもいい加減にしろ。」と怒鳴って叱ったことを認めている。
しかし,A75検事は,どうして原告X1が「帰らない」と言っているのか,その理由を聞くこともしていない。
原告X1は,上記取調べ中に,A75検事から「A14の悪口をいうな」と怒られたり,「聞かない」と言われたりした。この点について,A75検事は,「取調べの中で,私が『否認することは構わないが,自分が取調べの際にA14さんにやられていないことまでやられたと言って陥れるのは許されることではない』と言った。」ことは認めている。その上,A75検事は,A14警部補の取調べについて,原告X1が「『やった。やった』と言われたから認めた。」などと言ってきたことは認めている。
原告X1の同年5月25日付け検面調書から,原告X1が,同日,何日も認めるよう言われ怖くなって認めたと訴えていたことは間違いなく,これに,同月27日の各事情をあわせ考えると,A75検事が,A14警部補の取調べの違法を全く問題視することなく,むしろ弁護人の違法な活動があるなどと根拠なく盲信し,自白をしないのが悪いと,1時間30分以上連続して,強圧的に自白を迫り続けたことから,原告X1を錯乱状態に陥れたのである。
このような取調べが違法であることは明らかである。この違法は,第1次起訴の違法を検討する際の重要な要素となるというべきである。
有罪が見込めるものであるかどうかは,当然に,その捜査過程が適正であることも要件である。この要件について,証拠資料を基に違法と判断できるものがあれば,その過程で得られた証拠も,証拠から排除される可能性も視野に入れた対応は当然に要請されている。
したがって,起訴の判断を行う公訴官が,自ら違法行為を犯していれば,その判断は,訴追の意思で歪められている可能性が高く,その結果得られた供述証拠は証拠から除いて判断されるべきである。このことも含めて合理的に判断すれば,有罪は見込めないことになるので,起訴は違法と評価するべきである。本件では,違法行為により収集した自白が唯一の証拠であるから,これを除くと,当然に有罪が見込めないので,第1次起訴が違法であることは明らかであった。
(e) 同年6月2日及び同月3日
原告X1は,いずれの日も,強く否認したが,A75検事は,この日,同年5月21日に録取した内容の調書を作成し,むりやり読み聞かせて,署名・指印を求めたが,原告X1は,これを拒否した。
A75検事は,同月27日から同年6月2日までの間,取調べ状況や留置場での動静について,原告X1から聴取していない。留置場で何があったのかも,明確な記憶がないと述べているが,もし調査したのなら,原告X1が同年5月27日の検事調べの後の留置場で精神錯乱状態となった状況もよく覚えているはずであるし,その後の取調べでもこの点を確認するのが通常である。しかし,A75検事は,それらをせずに同月21日に聴取した内容の調書作成を強要したというのである。これは,検察官としての客観義務に違反する違法なものであったというべきである。
(f) まとめ
以上の取調べを前提とすると,原告X1の自白には,任意性・信用性に重大な疑問がある状況にあったというべきである。そうであるのに,A75検事は,A14警部補の取調べ状況について十分な調査義務を尽くさず,漫然と任意性には問題ないと判断した違法があるというべきである。
b 原告X5に対する取調べの違法
(a) A75検事
A75検事は,同年5月15日,原告X5の弁解録取手続を行ったが,原告X5が同月13日に警察での弁解録取手続で否認しつつ,同月14日には,被疑事実と異なる内容の自白をする供述調書が作成されていたのであるから,同月15日の弁解録取の際に,自白の理由及び否認の理由を聴取するべきであった。とくに原告X5が73歳と高齢であり,その心身の状況に対する配慮義務があることを考慮すれば,A24警部補による自白強要の実際を明らかにできたのである。
(b) A78副検事
A78副検事は,同月24日,同月26日,同月29日及び同月30日にいずれも志布志署で,同年6月3日に検察庁で,原告X5を取り調べた。
A78副検事は,原告X5が,A24警部補の取調べで,X1宅で現金1万円をもらった旨の被疑事実とは異なる犯罪事実を自白する同年5月14日付け供述調書が作成されていること,さらには,同年5月26日及び同月27日に申述書がそれぞれ作成されていること,同年6月3日の取調べ前日には,A24警部補の取調べで同月2日付け供述調書が作成されており,それらの申述書を作成した理由について「他の人達は,本当のことを話している。否認を続けたらあなたにとって不利なことがありますよ。選挙違反は悪質な場合は実刑もあると言われて,また罰を認めている人と一緒に話したらどうか等と刑事さんに言われて,皆と一緒に手続を済ませて裁判を済ませようと思ったからです。後で本当のことは分かると思ったからです。」と記載されていることを認識していた。
また,A78副検事は,それまでの取調べは,志布志署に赴いてA24警部補の直後に取調べを行い,A24警部補と同様に,「みんな認めている。どんどん事態が悪くなっている。」などと言って,予断の下,原告X5に「もらっただろう。」と自白を迫り,否認する同人に対し,「罪を認めろ。」の一点張りで,取調べは沈黙が続くという状況だった。
そうすると,A78副検事は,自らの取調べ状況も併せ考えて,取調官の言動が虚偽の自白を誘発する可能性があるのではないかと疑問を持つべきであったのに,これを持たなかったのは,検察官としての客観義務に違反する取調べであったと言うべきである。
c 原告X3に対する取調べの違法
(a) A75検事
A75検事は,同年5月14日,原告X3の弁解録取手続を行ったが,原告X3がそれまでの捜査でX1焼酎事件の否認をしていたことなどを知りながら,その理由を全く録取しておらず,客観義務に反し違法である。
(b) A77副検事の同月20日の取調べ
A77副検事は,同月20日午後,鹿児島中央警察署で,原告X3を取り調べた。
原告X3は,同月19日のA18警部補からの取調べで,被疑事実があったこと及びそれまで弁護人の助言にしたがって否認していたことなどの虚偽の自白をしていたが,A77副検事に対し,同日の取調べで,やっとの思いで被疑事実を否認した。
A77副検事は,その際,A18警部補に自白した理由を確認し,とくに弁護人との接見内容が聴取されているのであるから,取調べの違法がないか調査する義務があったが,これをしなかった。そもそも,自白したからと言って,その直後に,検察官が警察署で取り調べることは,自白の任意性を担保する上で,その影響が遮断されないことになるから,それ自体違法である。
A77副検事は,原告X3が警察で話したのは嘘でしたと述べるのみで,視線をそらし,私の顔を見ようとしない原告X3の態度等からして,否認の供述より自白の供述の方が信用性が高いと判断したなどと,合理的な理由なく,警察の取調べが適法になされたものと思い込んで,否認している74歳の原告X3に対し,「あなたが昨日刑事さんに本当のことを話そうと思った理由を述べて事実を認めたその供述は嘘の話ではなく,それが真実だと思うなど」と,不相当な誘導をして,自白を導き出しており,検察官としての客観義務に反する。
A77副検事は,原告X3から,それまでA18警部補において作成した供述調書とほとんど変わらない同人とC7弁護士及びC5弁護士との接見内容を聴取し,原告X3が弁護人にそれまで事実関係をどう説明していたかも明らかにせず,弁護人から「あなたはもらっていないんだから,無罪ですから。」などと助言されたこと及び原告X3がその意味について,暗に,「私がX1さんから現金をもらっていないという話を通しなさい。」という意味に受け取ったことなどを調書化した。
このような行為が,原告X3と弁護人との信頼関係を破壊し,原告X3の弁護権を侵害する取調べであることは明らかである。
(c) A77副検事の同月26日及び同月27日の取調べ
A77副検事は,同月26日及び同月27日,検察庁でいずれも原告X3を取り調べた。
この取調べは,原告X3が既に弁護人を解任した後に完全に警察官や検察官に迎合している下での取調べであり,この時期にされた原告X3のX1焼酎事件に関する焼酎の空き瓶の回収に関する供述が完全な虚偽であったことなどから,検察官は,原告X3が捜査機関に迎合して虚偽の供述を容易に行う状態にあることを認識し得る状況にあった。
A77副検事は,このような状況下で,1回目会合の開催日時について,詳細な理由とともに,同年2月8日(土曜日)午後7時半前後とすることを調書化しているが,それが裏付けを欠いた日時の特定だったのであり,このような取調べは客観義務に違反する。
(d) A77副検事による接見内容の聴取
A77副検事は,同年5月末頃,否認の慫慂をしている弁護人の弁護活動を明らかにする必要と,接見内容についての供述の任意性,信用性を担保する観点から,もう少し詳細かつ具体的な調書を作成するように指示され,同年6月3日,検察庁で原告X3を取調べ,C5弁護士及びC7弁護士との接見内容を聴取し,調書化した。
A77副検事は,原告X3から,接見時,C5弁護士に対して「X1方には行ってないし,お金ももらっていない。」と述べ,これに対して,C5弁護士が,「それならあなたは無実ですから頑張りなさい。」と言われたことを確認し,何ら証拠隠滅を伺わせる行為がないことを認識していた。また,A77副検事は,原告X3が弁護士費用を原告X6が出した旨を述べるが,これは原告X3が積極的に述べたものではなく,A77副検事が原告X6とC5弁護人との関係などを執拗に聞き出した結果,原告X3の推測に基づき供述されたものであることを知っていた。これらの事情からすると,A77副検事の取調べは,原告X3の弁護権を侵害した違法なものである。
d 原告X2に対する取調べの違法
(a) A75検事(同年5月14日)
A75検事は,同年5月14日,原告X2に対し,弁解録取手続を行い,原告X2は,被疑事実を認めたが,A16警部補による弁解録取手続では被疑事実を否認していたにも拘わらず,A16警部補による弁解録取手続において否認した理由,その後,否認から自白に変わった理由について,聴取すべきであったがこれをせず,かえって,同年5月8日付け供述調書とほぼ同一内容の検面調書を作成させている。これは検察官としての職務違反である。
(b) A77副検事(同年5月22日)
A77副検事は,同年5月22日,検察庁で原告X2を取り調べた。
原告X2は,A93弁護士から「検事には本当のことを言いなさい。否認して頑張らないといけない。」との助言を受け,この日の取調べで,必死の想いで否認した。そして,原告X2は,もともと被疑事実を否認していた者であり,しかも,同年5月の連休中も犯罪事実そのものについて変遷しており,被疑事実について,A16警部補が作成した供述調書以上の内容を自ら主体的に語ることができず,検面調書もほとんど供述調書をなぞるだけのものであったのである。犯行日時についても,曖昧な供述を繰り返しており,真に会合があったと言えるのか,合理的な疑いがある状況にあったA77副検事は,「お前は男じゃない。」,「あんたに付いている弁護士は,否認をさせるようじゃ弁護士じゃない。」,「認めて,早く社会復帰するようにした方がいいんじゃないか。」,「X1は認めてちゃんと話しているんだ。」,「ご飯を食べて頭を冷やしてこい。」などと原告X2の訴えを全く聞き入れず,自白を強制した。このような対応は,検察官としての客観義務に違反するものである。
A77副検事は,同日の午後からの取調べで,原告X2から弁護人との接見内容を執拗に聴取し,自白を強制した上,否認した理由について,「弁護人から否認するように言われたから,否認すればどうにかなると思ったから。」などと供述を強制した。これは原告X2の弁護権を侵害する取調べである。
(c) A77副検事(同年5月27日)
A77副検事は,同年5月27日頃,A75検事から,同月22日に原告X2が一時否認した理由を更に詳しく聴取し,供述調書に録取するよう指示を受け,同月28日,午後,検察庁で,原告X2の取調べを行い,弁護人との接見内容を詳細に聴取して,同日付け検面調書に署名指印させた。これは,原告X2の弁護権を侵害する取調べである。
(d) A77副検事(同年5月30日)
A77副検事は,同年5月30日,検察庁で,原告X2を取り調べ,4回目会合の開催日について,同年3月下旬頃とする虚偽の自白をさせた。原告X2は,その際,同年3月25日から同月28日までの4日間,旧大隅町にあるJAの家畜市場で牛の競市が行われ,その初日に亡A1,A88及びa1集落に居住するA149がそれぞれ子牛を競りに出す予定になっていたから,原告X2が仕事を休んでそれらの積み卸しや競りの手伝いをし,同日,亡A1宅で「べぶんこ祝」と呼ばれる子牛の競り落としを祝う宴会があったことなどを供述しており,同供述は,他の関係者の供述とも完全に一致し,裏付けも取れるものであったのに,4回目会合の日を思い出せないというのは不自然極まりないことである。A77副検事は,この点について,これを意図的に聴取しておらず,客観義務に違反した取調べであった。
f 原告X4に対する取調べの違法
(a) A75検事(同年5月15日)
A75検事は,同年5月15日,原告X4に対し,弁解録取手続を行ったが,原告X4の買収会合の被疑事実についての自白は,初期供述から大きく変遷しているのに,その変遷理由を聴取しなかった。これは客観義務に違反する取調べである。
(b) A76副検事(同年5月20日)
A76副検事は,同年5月20日,志布志署で原告X4を取り調べ,原告X4が,買収会合の事実について,同月5日からは捜査機関に対し本当のことを話していると供述しているが,真実は,同日当時,供述がまだ変遷していたのであり,A75検事が本件現地本部から入手していた供述経過一覧表の記載と照らし合わせれば,原告X4の供述の信用性は容易に判断できたはずであるし,原告X4は,同日の取調べで,原告X1から現金3万円入りの封筒2通の供与を受けたほか,原告X1から2万円入りの封筒と焼酎2本,5万円入りの封筒の供与を受け,原告X6から5万円入りの封筒の供与を受け,A89から10万円入り封筒2通の供与を受け,4月中旬頃,原告X1から5万円入り封筒の,亡A1から5万円入り封筒の供与をそれぞれ受けたが,4月中旬頃の5万円について原告X1からだったという点は,もしかしたら,他の人かもしれないなどという,極めて不自然・不合理な供述をしているのであって,その真実性に疑問を持たなかったということは,客観義務に違反する取調べである。
(c) A76副検事(同年5月22日及び同月27日)
A76副検事は,同年5月22日及び同月27日,いずれも志布志署で原告X4の取調べを行った。
原告X4は,A93弁護士との接見で,検察官に本当のことを言うように助言を受け,同月22日の取調べで「選挙の金を貰っていないと言っていいですか。」と,意を決して真実は買収会合がなかったことを訴えた。しかし,A76副検事は,原告X4に対し,A15警部補の取調べの間に,同じ志布志署の同じ取調室で,引き続き取調べを行って,A15警部補の影響を排除せず,原告X4の無実の訴えを全く聞かず,自白を維持させ,同月27日には,「実は,前回あなたの取調べを受けた後も,今日の調べを受ける前も,A93弁護士と面会しました。その面会の状況をあなたに聞いてもらいたいので話します。(中略)前回のA93先生との面会の後,再度あなたの調べを受けましたが,その調べでは,私はあなたから目つきが変わったと言われました。そのとき,私は,ハッとしました。私は,あなたに対して選挙の金を貰っていないと言っていいのですかと言いましたが,あなたは,私にあなたが何を言おうと勝手です。でも,真実は1つしかありません。あなたが今回嘘をついたら,一生後悔します。あなたの妻やあなたの子供は,あなたが本当のことを話すと思っているのではないですかと言われたことから,私は,本当のことを話そうかどうか迷っていたのですが,私は,そのときの調べでも本当のことを話しました。」などと誘導して,さらに,A93弁護士との間の接見内容を聴取し,接見交通権を侵害する調書も作成した。まして,A76副検事は,原告X4の自白に変遷があり,その内容も裏付けられておらず,供述の信用性に疑問があることを認識していたはずである。
(d) A76副検事(同年5月28日)
A76副検事は,同年5月28日,志布志署で原告X4の取調べを行い,同月22日の取調べでは,原告X4が1回目会合の日時について,「本年2月中旬頃,私が自宅に隣接する牛小屋で牛の世話をしているときです。」と述べていたところ,原告X4が供与金の中から,長男であるA110の滞納した携帯電話代3万円を支払ったとの供述に合わせて,その支払日である同年2月8日と整合させるため,1回目会合の日を2月上旬頃と訂正させ,従前の供述について,原告X4が2月上旬と話したはずだが,検察官が書き間違えたか,原告X4が間違って2月中旬と話してしまったかが理由であるとの供述を調書化している。この一連の供述の流れは,原告X4の供述の信用性を疑わしめるものであって,この点を詳細に聞かなかったことは,検察官としての客観義務に違反した取調べであったというべきである。
(e) A78副検事
A78副検事は,同年5月30日,A15警部補の取調べに引き続き,志布志署で原告X4を取り調べ,A15警部補が不相当に誘導して,原告X4にさせた,弁護人であるA93弁護士の解任を求めたい意向や原告X5の弁護人が接見室から留置場内の被疑者に聞こえるように大声で否認を慫慂した事実の供述をそのまま録取して調書化した。
しかし,志布志署は,接見室の会話が留置場内に響く構造になっておらず,この点は,A78副検事が,志布志署の接見室で確認すれば,これが事実に反する供述であることは容易に判明することであった。
A78副検事は,A93弁護士と原告X4との接見内容を殊更に聴取しており,しかも,A15警部補の取調べと連続的に秘密交通権を侵害しており,そのことからも原告X4が自発的にこれをなしたとは認められず,その侵害の程度は著しいものがある。
g 亡A1に対する取調べの違法
(a) A75検事(同年5月15日)
A75検事は,同年5月15日,亡A1に対し,弁解録取手続を行ったが,亡A1の買収会合の被疑事実についての自白は,初期供述から大きく変遷しているのに,その変遷理由を聴取しなかった。これは客観義務に違反する取調べである。
(b) A78副検事(同年5月23日)
A78副検事は,同年5月23日,亡A1を取り調べ,亡A1がそれまでの供述で,同年3月上旬頃,原告X1に頼まれ,原告X6の後援会入会申込書を書き,同じ機会に現金2万円(最初は1万円)と焼酎2本をもらったこととしていたのに,原告X6が同年2月上旬に訪ねてきた後の,2月初め頃の夕方6時頃,原告X1が原告X6の後援会入会申込書をもってきたとする従前と供述が異なる内容の検面調書を作成した。なお,同検面調書では,焼酎と現金を上記後援会入会申込書と同一の機会に受け取ったかは記載されていない。
A78副検事は,この点に供述の相違について,何ら聴取しておらず,客観義務に違反した取調べを行った。これは,そもそも会合の後に,焼酎と現金を配るなどという構図は荒唐無稽であって,亡A1に説明させても,体験していないことを説明できなかったからに他ならない。
(c) A78副検事(同年5月25日)
A78副検事は,同年5月25日,志布志署で,亡A1を取り調べ,①原告X1と原告X3の2人から同年3月上旬か中旬頃,私方自宅庭先で原告X6への投票と票の取りまとめの報酬として,焼酎2本と茶封筒入り現金2万円の供与を受けたこと,②同年2月上旬の1回目会合の儒教預金6万円の使途。③原告X1から原告X6への投票と票のとりまとめの報酬として現金1万円の供与を受けたこと,④原告X6の本件選挙に関して,同年1月下旬頃から同年3月下旬頃までの間の現金や焼酎の供与を受けた時期及び本件選挙の投票後に,口止め料を受領したことという各事項について,事情聴取して4通の検面調書を作成している。
しかし,①の点については,同年5月17日付け供述調書と,②の点については,同年5月9日付け供述調書と,④の点については,同年5月19日付け供述調書と同じ内容であり,③の点については,同年4月19日付け供述調書と類似している。しかし,これら多数回にわたる金品のそれぞれの意味合いや目的,その都度の使途等の関連性について,全く聴取されていない。これらの関連性を聴取すれば,必ず亡A1の供述の虚偽性は明らかになるはずであるが,それをしていないことは,客観義務に違反する。
(d) A78副検事(同年5月30日)
A78副検事は,A75検事から,同年5月21日付け供述調書及び同月28日付け供述調書に,亡A1と弁護人との接見状況に関し,亡A1が弁護人に事実関係を否認していること等が記載されていることに関し,A75検事から,亡A1の検察官と弁護人に対する供述が食い違っている理由を確認するよう指示され,同月30日,弁護人との接見状況を事情聴取し,亡A1に,弁護人から事実を認めないよう一方的に言われ,原告X5が事実を否認していることなどを聞き,他の人から自分だけが集落の仲間のことを自白しているように思われたくなくて虚偽の説明をしたなどと供述させた。このように亡A1が弁護人に対し事実関係を否認している以上,捜査機関に対し否認するよう助言しても捜査妨害に当たることはあり得ないのであり,弁護人の有効な弁護を受ける権利との関係で,弁護人との関係に介入する上記のような捜査は違法である。
h 原告X8に対する取調べの違法
A75検事は,同年5月24日,志布志署で原告X8に対する取調べをしているが,原告X8の買収会合の被疑事実についての自白は,初期供述から大きく変遷しているのに,その変遷理由を聴取しなかった。これは客観義務に違反する取調べである。
i その他
検察官が,同年5月14日以降,作成したその他の検面調書も,いずれも供述調書の内容をそのまま引き写しただけのものであって,客観義務に違反する取調べであった。
(カ) X1焼酎5月18日捜査事件に係る捜査の違法
原告X9は,平成15年5月18日,X1焼酎事件に関して逮捕され,その後勾留されたが,検察官送致後は,勾留満期直前までX1焼酎事件に係る取調べを受けていない。
これは,本件刑事事件の取調べをするための,明らかに別件逮捕勾留であって違法である。
(キ) 第1次起訴の違法
a 判断基準
最高裁判所は,公訴提起の判断基準として,「公訴の提起時点において,検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集しえた証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば,右公訴の提起は違法性を欠くものと解するのが相当である。したがって,公訴の提起後その追行時に公判廷に初めて現れた証拠資料であって,通常の捜査を遂行しても公訴の提起前に収集されることができなかったと認められる証拠資料をもって公訴提起の違法性を判断する資料とすることは許されないというべきである。」と判示する(最高裁判所平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁・判例時報1318-36)。
原告らは,上記の判断基準に基づいて検討し,第1次起訴は違法であると主張するものである。以下,詳論する。
b 4回の買収会合は密接不可分の関係にあったこと
捜査機関の見立てによる全体的な構図は,本件刑事事件は,いずれもX1宅という同一の場所において,わずか2か月2週間ほどの間に連続して,本件選挙で原告X6を応援するという同一の目的で開かれたというのであるから,相互に密接不可分のものであったということになる。
原告X1らの捜査段階における自白によると,1回目会合の受供与者とされた者らの一部が,更に買収金をもらう目的で,「今度は,X6さんの奥さんの顔を見たい。」と言ったことが契機だったとされているのであるから,1回目会合がなければ,2回目会合はありえないこととなり,その他の会合についての自白も他の会合の存在を当然の前提として行われているのであって,その点でも4回の買収会合は相互に密接不可分のものであったというべきである。
c 構図の不自然性
(a) a3集落
X1宅はa3集落に存在し,原告X11はa2集落(a3集落の近隣)に,原告X3はa4集落(a3集落の近隣)に,その余の受供与者とされた原告らはいずれもa3集落に居住していた。
a3集落は,志布志市の市街地から車で約37分を要する山間部に位置し,わずか6世帯が存在するにすぎない極めて小規模な集落である。
捜査官らが本件刑事事件について見立てた全体的な構図は,短期間のうちに4回もの買収会合が開かれ,しかも,参加したとされる者はa3集落及びその近隣の集落に居住するほぼ同じ顔ぶれであり,これらの者に対して総合計191万円もの高額の買収金が供与されたというものであり,極めて不自然,かつ異常なものであった。
そして,このような不自然な構図,見立ての事件を立件するためには,4回にわたる多額の現金買収といった本件の特殊性即ち運動買収であった等とすることの裏付け,原資の解明,使途先の裏付け等は必要不可欠のことであり,これらの裏付け,解明がなされていないことは,供述の信用性について消極方向に作用するというべきである。
検察官としては,上記に述べた原告X1の供述の信用性を減殺する様々な事情を踏まえ,改めて,本件事件の構図それ自体を見直すことが必要であった。
(b) 農作業を行う一介の作業員
原告X1は,原告X6の会社の従業員であったが,農作業を行う一介の作業員の立場にすぎない。a3集落の中で指導的な立場にある者でもない。そのような従業員に,自宅で会合を4回も開かせ,多額の金銭を配らせたという構図自体がまずもって不自然である。同様の買収会合が他の集落や原告X6の会社の他の従業員の家で行われたことをうかがわせる合理的な証拠も全くない。
d 供与金の原資が解明されていないこと
選挙買収事案においては,供与金の原資の解明は極めて重要な点であるが,本件においては供与金の原資の解明は全くなされていない。
第1次起訴のみにかかる供与金の合計額は30万円であるが,原告X8らの自白によると亡X12も受供与者であるとされていたのであるから,捜査機関は平成15年6月3日までに1回目会合にかかる供与金の合計額は36万円であるとの認識を有していた。従って,同日までに,少なくとも36万円の原資が解明されていなければならなかったが,全く解明されていなかった。
更に,本件においては,原告X8らの自白によると4回の買収会合が開かれたとされており,4回の買収会合があったことを前提とした上で,先行して1回目会合につき公訴提起されたのであり,かつ,4回の買収会合は前述のとおり密接不可分の関係にあったと言えるのであるから,平成15年6月3日までに4回にわたる供与金の原資が解明されていなければならなかった。同日までに供与金の額は1人あたり,順次,6万円,5万円,5万円,10万円であったとの自白が得られていたところ,2回目会合,3回目会合,4回目会合における各受供与者が必ずしも確定していなかったとしても,200万円近い多額の供与金が4回にわたる買収会合で供与されていたことは捜査機関においても当然に認識していた。従って,本件においては,同年6月3日までに191万円あるいはほぼこれと同額の供与金の原資が解明されていなければならなかったが,全く解明されていなかった。
e 供与金の使途が解明されていないこと
選挙買収事案においては,供与金の使途の解明は,供与金の原資の解明と並んで極めて重要な点であるが,本件において原資の解明も全くなされていない。
捜査機関は,供与金の使途等として,原告X4が支払った携帯電話代の領収書等,複数の証拠があることを指摘するが,それらは,いずれも供与金から支払われたかどうかは不明と言わざるを得ない程度の金額及び項目にすぎない。
1回目会合の供与金6万円だけを前提とする限り,6万円の使途の解明は必ずしも容易ではないかもしれないが,4回の買収会合は密接不可分なのであり,26万円,21万円という比較的多額の金員を受領した受供与者が複数いることに照らせば,それらの者について,何らかの使途が明らかになってしかるべきであるが,それらが全く解明されていないのであって,このことは自白の虚偽性を端的に示す事情である。
また,被告らは高額の現金が供与された点について,受供与者個人の投票買収という趣旨だけではなく,受供与者を通じて他の有権者らに対して原告X6への投票を働きかけてもらうという運動買収の趣旨も含まれていると主張するもののようであるが,自白した者の自白調書にも運動買収についての供述もなく,また,受供与者とされた者らが原告X6のために選挙運動をしたという証拠もない。受供与者らとされた者は,いずれも,山合いの集落においてひっそりと暮らす者であって社会的な影響力を有する者ではないことも付言する。
すなわち,高額の現金が供与された理由を運動買収の趣旨が含まれていたとして説明することはできない。
f 供述内容の不自然・不合理さ
(a) 4畳半の部屋に11人が入れるか。
原告X3,原告X2,原告X1,原告X4,亡A1は,1回目会合について,いずれも4畳半の中江の間に集まって開始されたことを供述しているが,中江の間にテーブルが設置されていたか,全員が中江の間に座っていたか,その隣のこたつの間にまで拡がっていたか等の具体的な状況については,一致しない。その上,上記自白した5人中,3人は,11人の参加者全員が4畳半の中江の間に座っていたと供述していることは非常に不自然である。なぜなら,11名が4畳半の部屋で座ることは,相互に密着した状態で座ればあるいは不可能ではないが,極めて不自然であることは明らかであり,このような供述が複数存在すること自体,それらが体験に基づくものでないというのは容易に判断できる。
100歩譲って,この不自然さにすぐには気づかなくとも,会合の様子を再現してみれば,この供述の不自然さには,すぐに気づくはずであり,実際に実況見分において,再現は行われているが,全員が中江の間に座っているとの上記の供述に沿った再現は行われていない。遅くともこの時点で,4畳半に全員が座っていたという供述が不自然なものであることに気づいていたはずであり,一般的な検察官であれば,このような供述は信用することができないと判断すべきであるのはあまりにも当然なことである。
(b) 封筒を入れ替える行為
亡A1と原告X4は,1回目会合で供与を受けた現金入りの封筒について,中身を確認するため,茶色の封筒を破ってしまったから,原告X1から新しく白い封筒をもらってそれにお金を入れ直したと供述するが,同人らの供述からすれば,受け取った現金を渡すのは,あくまでその妻のはずであり,わざわざ新しい封筒に入れ替えるのはあまりに不自然である。
このような供述は,亡A1と原告X4は,当初,現金の入った封筒の色を白色と供述しており,原告X1の供述と異なっていたため,辻褄を合わせるためにこのような場面を入れ込んだとしか考えられない。
このような,不自然さは,一般的な検察官であれば当然気づくべきであるし,このような証言がある供述は信用することができないと考えるのが合理的である。
g 供述の不一致
被告国は,第1次起訴について,原告X1ほかの供述が,①参加者が原告X6,A5,原告X9,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5,亡X12,亡A1及びA112の11名であったこと,②原告X6及びA5が帰った後,原告X1が他の出席者に現金入りの封筒を配ったこと,③原告X3が受け取った封筒の封を破り中身を確認したことを皮切りに,他の受供与者も封を切って中身を確認したこと,④受供与金額が封筒各1通に3万円ずつ入った合計6万円であったこと。⑤出席者の一部が口論になったことなど重要な点について一致し,かつ,これらの各供述は自白の経緯について不自然な点もなかったことを理由に,自白の信用性があるものと判断したことは,一般的な検察官として不合理とはいえないと主張している。
しかし,被告国が供述が一致したと主張する点は,以下のとおり,いずれも変遷がなされた末に一致したものであり,各供述が信用できるものと判断することは不合理である。
(a) 第1回会合参加者
1回目会合の参加者として,亡A1は,平成15年5月2日には,原告X8や原告X13を挙げ,A112及び1回目会合で口論をしたという亡X12を挙げておらず,同月5日の供述では,原告X7を挙げるという,原告X1は,同月3日には,A89を参加者として挙げるという,原告X4は,同月5日には,A88,原告X11を挙げ,A112を挙げておらず,同月13日にも,A112を挙げていないという変遷があったのであるし,原告X3は,同月19日に参加者の供述をしているが,それまで否認していたのであって,後に,参加者の服装やつまみの種類に至るまで具体的な供述が出来るほど鮮明にその場面を覚えている人間が,当初は,参加者すら特定できていないというのは明らかに不自然であるし,それが,最終的には,原告X2の供述に収束した形をみれば,捜査官が原告らに圧力をかけ,一致するように供述を作り替えたのではないかと考えるのは一般的な検察官の経験則に照らせば当然のことなのであり,個人差を含めたとしても,上記の経緯で一致した供述が信頼できるものとして扱うのはきわめて不合理である。
(b) 現金を配ったタイミング
原告X1が,1回目会合において,原告X6及びA5が帰った後に他の出席者に現金入りの封筒を配ったことについて,供述が一致したという点も以下のとおり変遷を重ねている。
すなわち,亡A1は,同年5月2日の時点では,原告X6とA5はX1宅で30分くらい居たが,そのあいさつの途中で原告X5と原告X13が帰り,亡A1も2人の後に席を立ったが,玄関の外に出たところで,原告X1が歩み寄ってきて白色の祝儀袋を差し出したことなどを供述しており,原告X1は,同年5月9日,原告X6の挨拶が終わり飲み会が始まってから,原告X6に声をかけられ,人目につかないよう10数通の茶封筒を受け取ったが,原告X1が恥じらいもなく茶色筒を宴会を行っていたこたつの間の板の上に置いたため,原告X6がびっくりして,「人目につかないように渡したのだから,どこかに一旦隠せば良いのに」という表情を見せたことなどと供述しており,その他の供述についても,現金を受け取った状況については,授与の場所,タイミング,封筒の色,原告X1がいったん封筒を置いた場所等につき,大幅に変遷を重ね,また,相互に供述のあわない部分がでているのである。
このように,授受の状況については,大幅に変遷があるのであり,そうであるとすると,むしろ授受の状況については供述の一致をみなかったと判断するのが,一般的な検察官の経験則に照らせば当然のことなのであり,個人差を含めたとしても,信用性を高める方向で判断するというのは不合理であることは明白である。
(c) 中身の確認の供述
原告X3が受け取った封筒の封を破り中身を確認したことを皮切りに,他の受供与者も封を切って中身を確認したことについても以下のとおり,大幅に変遷を経た末のものであり,信用することができると判断するのは一般的な検察官の判断からすれば極めて不合理である。
すなわち,亡A1は,同年5月2日の時点では,原告X1から帰り際に祝儀袋を受け取ると,自分の軽トラックに乗り込み,その車内で中の現金を確かめたことなどと供述しており,原告X4も同月5日の時点では,自宅に帰ってから中の現金を確認したことを,同月13日の時点でも,自宅で確認したか,X1宅で確認したかよく覚えていないなどの曖昧な供述をしており,原告X1は,同月9日,会合の参加者が封筒を受け取った後,原告X3からいくら入っているのか聞かれたため,原告X1が最初に封を破ったことなどを供述しているなど,大幅に変遷しているのであって,このような供述経過に照らせば,原告X3が封筒を破ったという点について,供述の一致をみなかったと判断するのが,一般的な検察官の経験則に照らせば当然のことなのであり,個人差を含めたとしても,信用性を高める方向で判断するというのは不合理であることは明白である。
1回目会合での受供与金額が封筒各1通に3万円ずつ入った合計6万円であったことについて,供述が一致するまでに大きな変遷があったことは既に述べたとおりであるが,供述調書の記載においても,その変遷状況が不合理であることが明らかである。
(d) 変遷状況の不合理性
すなわち,原告X1は,同年4月30日の時点では,「時期的なことは後日詳しく説明しますが,私が13名に渡した回数は3回あり,最初が,13名に1万円ずつ2回目が,13名に2万円ずつと焼酎2本くくり3回目が13名に1万円ずつを渡していました。3回目に1万円ずつを渡した時は,a3集落の人には私宅に集まってもらって,1万円ずつを渡しました。」と供述し,その供述が同年5月3日には,「4つ目の場面 a3集落の人間を私宅に3回集めて1回目 今年の2月頃,X6社長とA89副社長が来て,X6社長から現金5万円入りの封筒を受け取り,集まった人に渡した。」という供述に変遷し,原告X4も同年5月5日には,「帰り際にX1さんが,X6候補からということで,全員に白っぽい封筒をくれました。また私は,この時,妻のX8の分の現金入り封筒も貰ったように記憶しています。自宅に帰ってから二つの封筒の中身を確認したところ,1万円札5枚の5万円ずつが入っていました。」と供述し,亡A1も,同年5月2日には,「X1さんから祝儀袋を受取ると,自分の軽トラックに乗り込みましたが,その車内で,祝儀袋を開けて,中の現金を確かめました。すると,袋の中には5万円が入っており,全て1万円札ということがわかりました。」と,自白者のうちの3人は,当初は異なる供述をしていたのである。
ここで重要なのは,当初,原告X4が5万円ずつ合計10万円を受け取ったと供述していることである。罪が少しでも軽くなるようにと,最初は受けとった金額を少なくいうことがあるということは理解し得るが,受け取った金額を合理的な理由で高くいうことはあり得ないのであって,このような変遷の仕方は非常に不自然であって,一般的な検察官であれば供述の信用性を疑うのが当然であり,捜査官が作為的に供述を変遷させ,一致するに至ったのではないかと考えるのが合理的思考である。
(e) 出席者の口論に関する供述の一致が見られないこと
1回目会合の出席者の一部が口論をしたという具体的な話について,供述が一致していたという点については,以下のとおり,供述は全く一致していないというべきである。
すなわち,亡A1は,平成15年5月8日以降,原告X9が,亡X12についてA2県議を推していることを指摘し,口論になったことを供述しているが,原告X1は,同月9日,原告X9が亡X12に対し,A2県議の会合に出席していたことを指摘して口論になったことを供述していたが,同月11日は,亡X12がA2県議の会合には出席していなかったことを思い出したとして,亡X12と原告X9が口論になった理由は,原告X12が,亡X12をA2県議を推していることを指摘して口論になったと供述を訂正し,原告X4は,同月22日,原告X4が1回目会合中,トイレに行っている時が多く,口論があったか思い出せないと供述し,原告X2は,同月8日,原告X2が「A2県議派の人が会合に来ている。」との発言に対し,亡X12か亡A1がどちらでも構わないと言ったことに原告X9が気分を害し,亡X12が原告X9のその態度に気分を害したなどと供述し,原告X3は,同月22日,原告X2が「A2県議派の人が会合に来ている。」と発言したことに対し,原告X9と亡X12が気分を害し,亡X12が怒って帰ったなどと供述し,体験供述としておよそ一致していると言い難い。このような証言をもって,証言全体が信用できると判断するなど一般の検察官では考えられず,合理的な判断とは到底いえない。
h その他供述の信用性を減殺させる事情
(a) 否認と自白の繰り返しと弁護人による組織的な否認の慫慂との見立て
原告X1は,否認と自白を繰り返しており,その他,原告X2,原告X3も否認の時期があり,原告X4も検察官の取調べにおいて,否認する意向を示したことがあるなど,自白の信用性を大きく減殺させる事情があったというべきである。
ところが,検察官は,弁護人による否認の慫慂が組織的になされたと見て,否認と自白を繰り返していることが自白の信用性を減殺させる事情ではないと判断しているが,通常の捜査官であれば,弁護人により,否認の慫慂が組織的になされているという見立てがそもそも非現実的であり,かつ,そのようなことを証明する証拠はおろか,それをうかがわせる事情もなく,かかる見立てが間違っていることが容易にわかったはずである。
そうだとすると,弁護士の接見の後にそれまで自供であったのが否認に転じる者がいたという現象を認知した場合の通常の検察官が指向すべきなのは,弁護士による否認の慫慂を疑うのではなく,それまでの自供に何らかの問題があるのではないかと言うことを疑うことである。通常要求される捜査は,供述の経過や客観的証拠との整合性,取調状況等を洗い直すことであり,警察の取調室における取調状況の捜査であって,弁護人の接見状況をのぞき見することではない。
当時,検察庁の検察官は,県警から,弁護人が圧力をかけているなどと報告を受けていたようであるが,弁護人の活動に対して敵対視する見方自体が偏頗と言わざるを得ず,憲法の保障する弁護人の援助を受ける権利についての理解の乏しさを露呈している。
(b) 廃品回収の裏付けが取れなかったこと
亡A1は,同月27日,X1焼酎事件で供与を受けた焼酎について,同年3月25日に子牛が売れたことからその晩,べぶんこ祝いをした際に飲んで,空の2本の瓶は廃品回収に出して自宅にはないとのこれまでの供述は嘘であり,実際には原告X3が回収に来たなどと供述を変遷させている。これは,廃品回収の裏付けが取れなかったためである。
この点に関し,原告X3は,同年5月28日には,X1焼酎事件で供与された焼酎を回収し,自宅近くの崖下に投げて捨てたと供述したが,現場検証の結果発見されなかったのを受けて,同月30日には,串間市内の酒販店であるキンコーに売却した,と供述内容を変遷させた。しかし,この点についても焼酎瓶を売却したことの裏付けは取れていない。
このように,何ら虚偽の供述をする必要のない部分で裏付けの取れない供述が頻出することは,自白の信用性を減殺させる。
i アリバイの捜査不十分
本件現地本部は,平成15年4月17日,本件予約帳を作成者であるA120から任意提出を受け,かつその写しを入手している。
そして,本件現地本部の精査班又は庶務班でその解読・分析を進め,同年5月13日の「1回目会合事件」での原告X1の逮捕前である同月8日の時点では,本件予約帳の精査をしており,本件予約帳についての本件リライト資料も作成されている。
ところが,本件リライト資料の同年2月8日に,原告X6の本件新年会の記載が解読不明とされている。しかし,その前後の記載の文脈,A120が書いたくせ字の分析を丁寧に行い,あるいはA120に質問すれば,同年2月8日欄の「X6ちゃんも」は解読できたはずであり,これらの捜査をしなかったことは,基本的な捜査ミスであり,通常求められる捜査を怠ったものといわざるを得ない。
そして,A75検事も遅くとも第1次起訴の前までに,本件予約帳について,同年2月8日の欄に原告X7の同窓会の記載があるが,原告X6の記載がないという趣旨の報告を聞いていたのであるから,A75検事は,本件事件の構図の非現実性,不自然性,その構図を裏付ける各客観的資料が無かったのであるから,慎重に消極証拠を吟味する必要があったのであり,本件リライト資料のみならず,本件予約帳の原本を吟味検討し,解読不能部分の補充捜査を指示すべきであった。それが通常要求される捜査である。
j 第1次起訴までの検察捜査が違法であったこと
前記のとおり,検察官が1回目会合5月13日捜査事件について行った取調べは,違法なものであったのであり,被疑者が自白と否認を繰り返す理由を根拠もなく,弁護人の証拠隠滅活動によるものとして供述を誘導するなどして,その信用性の判断を誤り,かつ,客観義務に違反して,漫然と自白調書を作成していたものであり,この点も第1次起訴の違法性の基礎となるべき事実である。
イ 被告国の主張
(ア) 検察官の取調べの違法性の判断基準
a 職務行為基準説
検察官の公訴提起等の職務行為に係る国家賠償法上の違法性の判断基準については,当該行為が行われた時点における資料を総合勘案して,それが法の許容するところであるか否か,換言すれば,当該行為が検察官の個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背するか否かによって決せられるべきである(職務行為基準説。芦別国賠最高裁判決,沖縄ゼネスト国賠最高裁判決等参照)。
ところで,検察官は,「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」は,その職務行為として,被疑者の出頭を求めて取り調べることが認められているから,被疑者に捜査の対象となっている犯罪の嫌疑があり,当該犯罪の捜査をするについて必要性が認められる限り,検察官の当該被疑者に対する取調べ行為は,法律上認められた職務行為として適法なものというべきである。
また,被疑者の取調べの方法については,刑事訴訟法198条2項が黙秘権の告知について規定する以外に,特に制限を設けていないことに照らすと,その具体的な取調べ方法は検察官の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであり,これが違法と評価し得るか否かについては,その方法が,検察官に認められている裁量の範囲を逸脱し,取調べの目的に照らして社会通念上およそ不相当といえる程度に達しているか否かによって判断するのが相当である(最高裁判所平成5年3月16日第三小法廷判決・民集47巻5号3483頁,最高裁判所平成9年8月29日第三小法廷判決・民集51巻7号2921頁参照)。
そして,上記判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なお検察官に認められている裁量の範囲を逸脱し,取調べの目的に照らして社会通念上およそ不相当といえる程度に達しているか否かという観点から検討されるべきである。
b 原告らの主張の分析
(a) 3つの違法性
原告らが第1次起訴までの取調べにおいて,主張する本件での検察官の取調べの違法は,①被疑者の主張や弁解を聞こうとせず,自白を強要するなど客観義務に反した取調べ,②警察官による取調べの際に生じた恫喝等違法の影響を排除することなく取調べを行ったこと,③接見内容を聴取したことである。
(b) 客観義務に反した取調べ
①について,検察官は,被疑者に対する取調べを実施するに当たっては,取調べを実施するに足りる嫌疑がある以上,あらゆる角度から取調べを行い,事案の真相究明に努めるべき職責を負っている。そして,その際,検察官が,被疑者に対し,他の被疑者の供述の真否を確かめ,あるいは本人の記憶を喚起するために,他の被疑者の供述内容を示して取調べを行う場合もあれば,それまでの捜査により判明した事実と相反する供述について,その真否をただす場合も当然予定されている(東京高裁平成13年12月25日判決・訟務月報50巻1号1頁参照)。したがって,検察官が,被疑者に対し,熱心に真相を供述するように説得したからといって,直ちに自白を強要したことにはならないし,他の被疑者の供述を示したり,それまでの捜査により判明した事実を示して取り調べても,それが直ちに誘導又は押し付けによる取調べとして自白の任意性を欠くことにはならないのであって,ましてやそのような取調べが国家賠償法上違法ということもできない。
結局のところ,検察官の被疑者に対する取調べが自白を強要するものとして国家賠償法上違法とされるのは,取調べの対象となった事案の内容・性質,被疑者に対する嫌疑の程度,被疑者の供述内容を始めとする取調べ時点における証拠関係の下での取調べの必要性・目的等の諸般の事情を勘案して,当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えていないかどうかを個別的,具体的に検討し,その範囲を超えていると認められる場合に限られるものというべきである(大阪地方裁判所平成11年2月4日判決・判例時報1704号106頁に加え,大阪高等裁判所平成22年5月27日判決・判例時報2088号86頁(なお,最高裁判所平成22年11月2日第三小法廷決定で維持されている。))。
そして,上記判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なお当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えていないと認められるかどうかという観点から検討されるべきである。
(c) 違法の影響を排除する取調べ
②について,検察官の取調べ行為についての国家賠償法1条1項の違法の有無は,飽くまでも当該検察官の取調べの態様が社会通念上不相当といえる程度に達しているか否かによって判断されるべきであるから,警察官による取調べの際に生じた事情は,検察官の取調べが国家賠償法上違法か否かという問題に直接影響を与えるものではない(前掲東京高裁平成13年12月25日判決)。
(d) 自発的な供述による接見内容の聴取
③について,刑事訴訟法39条1項が保障する接見交通権(秘密交通権)は,被疑者や被告人が弁護人との間で自由に意思疎通を行い,充実した弁護を受ける権利を保障したものであり,憲法上の保障に由来するものではあるが,刑罰権や捜査権に絶対的に優先するようなものではなく,個別具体的事情の下で捜査の必要性との合理的な調整を図りつつ保障されるべきものである(最高裁判所平成11年3月24日大法廷判決・民集53巻3号14頁参照)。
そして,接見交通権の保障の趣旨が上記のとおりである以上,刑事訴訟法所定の手続を履践するという正当な目的がある場合や,被疑者が供述を変遷させた場合に,その理由を把握して供述の信用性を吟味・検討するといった捜査上の必要性が認められる場合には,相当な範囲で,弁護人等との接見状況を聴取することは,刑事訴訟法39条1項の趣旨に反するものとはいえず,国家賠償法上の違法はないというべきである。
ところで,刑事訴訟法39条1項の接見交通権は,究極的には被疑者の利益を擁護するためのものであるところ,被疑者には黙秘権が保障され,取調官の質問に応じる義務はなく,接見内容を供述するか否かは,本人自身の判断に委ねられているのであって,被疑者は,いかなる事実について,いかなる限度で,どのような表現を用いて供述するかについて自由に決定することができる立場にある。
そして,そのような立場にある被疑者が,黙秘権の保障の下,接見内容について自発的に供述したのであれば,被疑者自身が秘密交通権を放棄して接見内容を捜査機関に告げたものである以上,被疑者自身の「法律上保護された利益」の侵害は認められず,また,これによって被疑者自身に,弁護人等に対する相談を躊躇するなどの萎縮的効果が生じることはおよそ想定し難い。
したがって,このような場合もまた,被疑者や被告人が弁護人との間で自由に意思疎通を行い,充実した弁護を受ける権利を保障した刑事訴訟法39条1項の趣旨に反するものとはいえず,検察官が接見内容を聴取することが,国家賠償法上違法となることはないというべきである。
(イ) 検察官の勾留請求,勾留延長請求の違法性の判断基準
検察官の勾留請求等については,職務行為基準説に立った上で,勾留請求等の時点において,検察官が現に収集した証拠資料のほか,時間的な制約(刑事訴訟法205条1項等)の範囲内で通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を基礎として,通常の検察官であれば勾留請求等をしなかったであろうと考えられる場合,すなわち,勾留請求等において要求される犯罪の嫌疑及び勾留の必要性等を認めた検察官の判断が,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定できない場合に初めて違法となるものと解するのが相当である。
そして,捜査が高い流動性を持つ中で,勾留請求等において要求される嫌疑の程度や時間的制約も考慮すると,結局,勾留請求等が違法と判断されるのは,勾留請求等の時点において,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がなく,又は被疑者について勾留の必要性がなかったにもかかわらず,検察官として事案の性質上当然すべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断・評価を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過誤により,これを看過して勾留請求等がされた場合であることを要すると解すべきである(東京地方裁判所平成2年6月12日判決・判例時報1362号80頁)。
そして,上記重大な過誤の有無は,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なお重大な過誤であるか否かという観点から検討されるべきである。
(ウ) 検察官の公訴提起の違法性の判断基準
検察官の公訴提起については,職務行為基準説に立った上で,公訴提起時において検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,有罪と認められる嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び法的判断が,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達している場合に,初めて違法と判断されると解すべきであり(合理的理由欠如説),かかる判断基準及び判断手法は,芦別国賠最高裁判決,沖縄ゼネスト国賠最高裁判決を始めとする多数の判例,裁判例において示されているところである。
(エ) 検察官の取調べの違法
本件において,原告らは,X1焼酎4月22日捜査事件に関する原告X1に対する取調べの違法,1回目会合5月13日捜査事件に関する原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1,原告X5に対する各取調べの違法をそれぞれ主張するが,いずれも取調べの違法に関する上記(ア)b①については,原告らが主張するような自白の強制の事実はなく,その他,検察官の取調べに違法とすべき事情は認められないし,②の点については,警察官による取調べの際に生じた事情が検察官の取調べの国家賠償法上の違法性の判断に直接影響しないのは上記(ア)bにおいて述べたとおりであり,③の点については,いずれも被疑者が任意に接見内容を供述し,それを供述の信用性・任意性の確保のため,あるいは被疑者の弁護人の解任の意思が真意に基づくものであることの確認のためといった正当な理由の下,必要な限度で接見内容を聴取したにすぎず,国家賠償法上の違法と見るべき余地はない。
(オ) 第1次強制捜査の勾留請求及び勾留延長の違法
a X1焼酎4月22日捜査事件の勾留請求
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について,X1焼酎事件の送致記録等,勾留請求までに収集した証拠資料によれば,原告X1は,A75検事自身による弁解録取手続においては事実関係を否認したものの,警察官に対しては,「県議選の告示前の3月中旬頃から下旬頃にかけて,私の住む集落の人間や友人知人など13名に対して,X6社長への投票依頼と票の取りまとめという意味で,焼酎と現金1万円ずつを渡したことは事実間違いありません。」などと事実関係を認めていた上,これを支える証拠として,受供与の事実を認めて原告X1の供述を裏付ける原告X8や亡A1の各供述調書が存在し,その供述内容は,授受の場所を具体的に示したり,現金が封筒に入れられていたなど,いずれも具体的なもので,原告X1の供述内容ともおおむね合致していた。
加えて,これらの供述を裏付け得る客観的証拠として,亡A1の供述に基づき,焼酎瓶1本が発見され押収されたことを明らかにする領置関係の証拠や,亡A1及び原告X8以外にも,焼酎等の受供与を認めるA104ほかの供述調書も存在していた。
勾留請求時に現に収集された以上のような証拠関係に照らせば,A75検事が,原告X1において罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
刑事訴訟法60条1項各号該当事由についても,本件が選挙違反という民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪であり,原告X1が原告X6が経営するf社の従業員であること,X1焼酎事件の供与者及び受供与者が同じa3集落に居住していること,原告X1がA75検事自らの行った弁解録取手続において事実関係を否認したこと,原告X6の支援者の一人と目された原告X3から,その頃までにX1焼酎事件の事実関係を認める供述をしていたa3集落に居住する原告X4に対し,「お前の妻はそんな人間だったのか。警察でお前の妻と俺が4月10日午後5時半にエプロンロードで,それから4月12日に細又の三叉路で会って,5万円渡したと言っているが,それは嘘だ,名誉毀損で訴えるぞ。お前の妻が返(ママ)ってきたら,起きて待っておるから電話をさせろ。」などと口裏合せの指示や罪証隠滅工作とも取れる電話が掛けられたりしていることに照らせば,A75検事が,同じくa3集落に居住する,X1焼酎事件の事実関係を認める供述をしていた原告X1にも同様の電話が掛けられていた可能性を疑い,その結果,原告X1が自らの供述を翻すとともに,これと符合させるべく関係者との口裏合せ等に及ぶおそれがあると考えるのも相当と考えられるから,原告X1に刑事訴訟法60条1項2号及び3号該当事由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
したがって,A75検事が,X1焼酎事件について犯罪の嫌疑及び勾留の必要性が認められるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえず,原告X1に対する勾留請求が国家賠償法上違法とされるものではない。このことは,A75検事が,勾留状の発付を受けてその執行を指揮し,原告X1の身柄を拘束した点についても同様である。
b X1焼酎4月22日捜査事件の勾留延長
A75検事は,平成15年5月2日,原告X1につき,要旨「授受金額の特定未了,裏付け捜査未了であり,適切な終局処分を決するにはなお相当の日数を要する。」ことを理由に,同月4日から同月13日までの10日間の勾留期間の延長を請求した。
同時点では,原告X1の供述自体,供与した現金の額が1万円から2万円に変遷するなどしており,引き続き同人の取調べを継続するとともに,受供与者の取調べその他裏付け捜査を実施して供与金額や供与した焼酎の本数を特定する必要性が認められ,これらを解明しなければ,起訴・不起訴を決することができないことは明らかであった。したがって,刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」があったことは明らかであり,A75検事の行った原告X1の勾留期間延長請求が国家賠償法上違法と評価されるものではない。
c 1回目会合5月13日捜査事件の勾留請求
「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について,1回目会合事件の送致記録等,勾留請求時までに収集した証拠資料によれば,原告X1ら6名のうち,原告X1,原告X2,原告X4及び亡A1が事実を認める供述をしており,その内容も大筋で符合し,しかも,出席者の一部が口論となった点や,現金の入った封筒を破った点など,相当具体的な内容が含まれていた。
加えて,これらの供述を裏付ける原告X8,A88の各供述調書も存在していた。
勾留請求時に現に収集された以上のような証拠資料に照らせば,A75検事が,原告X1ら6名において罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
次に,刑事訴訟法60条1項各号該当事由についても,X1焼酎事件同様,本件が選挙違反という民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪であることに加え,原告X1が,原告X6が経営するf社の従業員であること,1回目会合事件の供与者及び受供与者がa3集落に居住する者らであり,原告X3及び原告X5が検察官による弁解録取の際に事実関係を否認していたことをも考慮すれば,A75検事が,原告X1ら6名に刑事訴訟法60条1項2号及び3号該当事由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
d 1回目会合5月13日捜査事件の勾留延長
A75検事は,平成15年5月23日,原告X1ら6名につき,要旨「関係者多数であり,授受状況等の事実関係解明未了,裏付け捜査未了であり,適切な終局処分を決するにはなお相当の日数を要する。」として,同月25日から同年6月3日までの10日間の勾留期間の延長を請求した。
同時点では,勾留請求時に否認していた原告X3が自白するに至っていたものの,原告X1が否認に転じたほか,原告X5も否認したままであり,事実関係を認める原告X4,原告X2,原告X3及び亡A1の供述によっても,いまだ供述間に齟齬があり,授受状況の事実関係が解明されておらず,引き続き関係者の取調べを行うとともに,所要の裏付け捜査を尽くさなければ,起訴・不起訴を決することができないことは明らかであった。したがって,刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」があったことは明らかであり,A75検事の行った原告X1ら6名の勾留期間延長請求が国家賠償法上違法と評価されるものではない。
(カ) 第1次起訴
a 公訴提起時に公訴事実を認めていた供述とこれを裏付ける証拠資料
公訴提起時にA75検事が現に収集した証拠資料は,原告X1ら6名の選挙権の有無,選挙結果に関する証拠等はもとより,勾留期間の当初は上記公訴事実を認めていた原告X1の供述,事実関係を認めている原告X2の供述,原告X4の供述,原告X3の供述及び亡A1の供述のほか,これら供述を裏付ける原告X8,A88の前記各供述,会合があったとするA117の供述,会合に誘われて断ったとするA136の供述,X1宅での会合が可能なことを確認する実況見分調書など上記自白と整合する証拠がある。
さらに,これらの供述によって,供与金の出所が原告X6であることが確認できたほか,原告X4が受供与金の一部3万円を携帯電話通話料金の支払に充てた支払記録等の受供与金の使途先等についての証拠資料を公訴提起までに収集した。
他方,原告X5の上記公訴事実を否認する供述,原告X1が否認に転じた後の供述などの証拠資料も収集されたが,上記公訴事実を客観的に否定する証拠資料はなく,これら積極・消極の証拠資料を総合勘案すれば,有罪と認められる嫌疑があるとしたA75検事の判断は不合理とはいえない。
b 判断が不合理とはいえないこと
上記のとおり,1回目会合事件については,現金の供与・受供与事実を認める複数の供述(自白)があり,A75検事は,これら自白に信用性が認められると判断したが,A75検事のかかる判断が不合理とはいえないことは,各自白の内容から明らかである。
c 各供述の重要な部分における一致及び具体的かつ臨場感に富む内容
1回目会合事件を公訴提起した平成15年6月3日時点で,原告X1ら6名のうち,事実関係を認めていた原告X4,原告X2,原告X3及び亡A1の各供述並びに事実関係を認めていたことがあった原告X1の各供述を検討すると,1回目会合には,原告X6,A5,原告X9,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5,亡X12,亡A1及びA112の11名が参加していたこと,原告X6及びA5が帰った後,原告X1が他の出席者に現金入りの封筒を配ったこと,原告X3が受け取った封筒の封を破り中身を確認したのを皮切りに,他の受供与者も封を切って中身を確認したこと,受供与金額が封筒各1通に3万円ずつ入った合計6万円であったこと,出席者の一部が口論となったことなど,重要な部分において供述が一致しており,その内容も具体的かつ臨場感に富むものが含まれていた。
さらに,これらの自白は,相互の供述を支え合い補完する関係にあると認められただけでなく,会合の再現見分の内容ともおおむね一致し,前記のとおり裏付けとなる原告X8,A88,A117,A136の供述があるほか,原告X4の使途先に関する自白の裏付けが得られるなど,客観的な証拠とも整合すると認められた。
また,これら各供述は,自白の経緯について何らの不自然な点もなかったのであり,A75検事は,これら証拠資料を総合考慮し,前記各自白が信用できると判断したものである。
d 本件箝口令
A75検事は,本件公訴提起に先立つ平成15年5月2日頃,A12警部から,原告X1のほか,在宅で取調べ中の被疑者らから買収会合の事実についての供述が出ている旨の説明を電話で受けるとともに,A12警部の指示で,県警の本件刑事事件の原告X1らの取調官同士が,それぞれ担当する各被疑者の供述内容を相互に情報交換しないようにして,各被疑者の供述を引き出すようにしている旨を聞いていた。
他方,A75検事は,1回目会合事件の被疑事実で逮捕された原告X1ら6名に対し,その勾留中,自ら又は他の応援検察官をして取調べに当たったが,原告X1らから,県警における取調べ状況に関して,違法又は不当な取調べが行われている旨の訴えを何ら受けなかったし,自らを含む検察官による取調べにおいても,違法又は不当な取調べを行った事実もなかった。
e 不合理性の欠如
このように,前記各自白が信用できるとしたA75検事の判断は,その知識や取調べ時の経験等をも頼りに証拠を総合的に評価したものであるところ,複数の者が本件のごときいわゆる買収会合に出席したことを認め,しかも,その内容が相当具体的であったという証拠関係の下では,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,かかる判断が行き過ぎであって経験則,論理則に照らしても不合理とはいえない。
f 通常要求される捜査の実施
さらに,以下のとおり,A75検事は,通常要求される捜査は実施し,通常の捜査により入手し得る証拠資料を入手した上で,原告X1ら6名について,証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があると判断したのであり,その判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえないから,公訴提起は違法となるものでもない。
(a) 本件予約帳
A75検事は,原告X1ら6名の1回目会合事件の公訴提起の時点までに,原告X6が平成15年2月8日にmホテルにて開催された本件新年会に出席していた事実を把握していなかったが,通常要求される捜査を怠ったものではなく,これをもって公訴提起が違法となるものではない。
まず,検察官が,原告X6が本件新年会に出席したとの情報を得たのは,同年7月24日であった。本件原告らは,同年4月17日には本件予約帳を入手しており,本件予約帳の平成15年2月8日の下欄に「A121ちゃん,X7ちゃん同窓会 X6ちゃんも」との記載があり,この記載から,原告X6が,同日,本件新年会に出席したことが判明し得た旨を主張しているが,A75検事が,同年4月17日にこれを入手した事実はなく,仮にこれを入手して検討したとしても,その字体が極めて特殊で判読不明である上,本件予約帳の作成者A120はA5の妻であることから,A120を聴取すれば,捜査の関心が直ちに原告X6らに伝わり,罪証隠滅に及ぶことが危惧されたため,直ちには聴取できなかった。したがって,この段階でその書き込みを判読し,それが原告X6に関する記載であると理解することはおよそ困難であったというべきである。
(b) 供与金の原資
供与金の工面先(原資)に関して,A75検事が,通常要求される捜査を怠った事実はなく,平成15年6月3日の公訴提起時までに,原告X6の選挙事務所並びにf社の事務所及び倉庫の捜索等,必要な捜査は実施されたものの,原告X6らが経営する会社の帳簿類が整っていなかったなど,客観的な証拠資料が乏しかった上,公訴提起時までに同人ら供与者側から十分な供述を得ることができない状況にあったため,その解明に至らなかったことはやむを得なかったものである。
(c) 受供与金の使途先
次に受供与金の使途先に関しては,原告X1ら6名の1回目会合事件での逮捕前の時点で,自白した受供与者らの供述に基づき使途先に関する裏付け捜査が実施され,その一部については裏付け結果が得られていたものである。
すなわち,原告X2に関しては,パチンコ代やガソリン代に費消した旨供述し,パチンコ店での遊興状況及びガソリンスタンド利用状況が裏付けられた。原告X4に関しては,牛の飼料代に充てたほか,原告X8に3万円を渡しこれを同人が義父への小遣いとし,さらに携帯電話通話料金の支払に充てた旨供述し,これらが裏付けられた。亡A1に関しては,A88に5万円を交付したことについて,一応の裏付けを得られた。以上のように,相当程度使途先を解明するなど,捜査を尽くしていたものである。
(d) 通話履歴
A75検事は,原告X1の通話履歴に関しても,X1宅の固定電話の通話明細を差し押さえるなど,所要の捜査は実施されたものの,同明細には通話先の電話番号が完全に表示されるわけではないために通話履歴が具体的に特定できなかったものである。
(e) 原告X6の事情聴取
本件原告らは,第1次起訴までの間に原告X6の事情聴取を行っていなかったことがずさんであり,仮にこれを行っていれば,原告X6の行動を時系列に従って明らかにし,アリバイを早期に把握できたはずである旨を主張する。
しかし,A75検事は,原告X6が,当時,新聞報道等において,原告X1による本件買収に心当たりはなく,自分から現金を渡すことは絶対にない旨のコメントをしていたため,原告X6及びA5については出頭要請に応じないものと考え,また,仮に出頭要請に応じるにせよ,取調べを受けるとなれば,取調官の発問等から捜査機関の捜査方針等を推し量って罪証隠滅に及ぶことが危惧されたため,原告X6の取調べを行わなかったものである。
なお,亡X12の取調べも行っていないが,それは,その当時,県警から,亡X12が入院中又は体調を崩しており,逮捕・勾留に耐えられない可能性がある旨報告を受けていたためであった。
公職選挙法違反事件の捜査にあっては,様々な事情を考慮し,運動員についての起訴・不起訴の判断が決する以前に,候補者に対する事情聴取が行われないことも十分あり得る。したがって,原告X1ら6名の1回目会合事件の公訴提起までの間に原告X6の事情聴取を行わないとしたA75検事の判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,不合理とはいえない。
(f) 運動買収の可能性
本件買収会合が複数回あった点については,運動買収を含む趣旨であったと解することが可能であって,平成15年6月3日時点までに,原告X1らから,買収会合が4回開催された趣旨の供述を得ていなかったからといって,必ずしもその供述の信用性が否定されるわけではないし,同趣旨の買収会合が複数回にわたって開催されていたという背景事情もあって,関係者において,必ずしも特定の日時に買収会合が開かれた旨の記憶が明確ではなかったため,その特定に至らなかったものであり,そのことをもって,自白の信用性が否定されるともいえない。
買収会合の回数や受供与金額に変遷が見られることについても,各供述者が,他の被疑者にも容疑が向けられるなど迷惑を掛けると考えるなどして,供述を小出しにしているとも考えられるのであって,原告X1らの自白は,相互に供述を支え合い補完する関係にあった上,会合の再現見分の内容ともおおむね一致し,使途先の一部も裏付けられるなど,客観的証拠とも整合すると認められたことから,A75検事が,自白供述が信用することができないとは判断しなかったとしても,不合理ということはできない。
(g) 否認の供述
原告らは,原告X5及び亡X12が一貫して否認の供述をしていたことが重要な消極証拠であると主張するようであるが,犯罪の嫌疑をかけられた被疑者及び被告人が,真実罪を犯していたとしても,取調べにおいて一貫して否認を続けることは珍しいことではないから,公訴提起の時点において,そのことが犯罪の嫌疑を否定する有力な消極証拠になるとの評価は誤りである。
(h) 供述の経緯
原告らは,A75検事が,平成15年6月3日時点で,原告X1らの供述の経緯を調査・確認していれば,任意性に重大な疑問があることが判明したはずなのに,その検討を怠り,任意性の判断を誤った旨を主張するが,A75検事が収集した証拠資料には,県警の捜査に違法事由があることを示すものはなく,かつ,自己及び他の検察官の原告X1らの取調べにおいて,供述の任意性に疑問を差し挟むような事情も見出し得なかったものであり,原告らの主張は失当である。
g 1回目会合事件に係る公訴提起の違法性の不存在
したがって,原告X6が平成15年2月8日に本件新年会に出席していた事実等同人の行動の詳細に関する証拠資料は,公訴提起時までに通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料ということはできず,A75検事が,平成15年6月3日に原告X1ら6名を1回目会合事件について公訴提起したことは,国家賠償法上何ら違法ではない。
(キ) X1焼酎5月18日捜査事件
X1焼酎5月18日捜査事件が別件逮捕勾留であるという原告らの主張は争う。
(9)  争点(2)イ(第2次起訴までの捜査及び第2次起訴に関する検察官の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件の捜査の違法
a 勾留請求の違法
本件刑事事件は,1回目会合から4回目会合が相互に密接不可分な関係にあるところ,上記(8)において述べたとおり,1回目会合については,平成15月6月3日までに合理的な嫌疑がないことは明らかであったというべきであり,その後に行われた4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件における勾留請求は,職務行為基準説及び合理的理由欠如説に立ったとしても,いずれも不合理な判断である。
b 原告X1に対する取調べの違法
(a) 引き写しによる客観義務違反
A75検事は,同年6月4日以降も,原告X1を取り調べて,検面調書を作成しているのは,いずれも,供述調書の引き写しであって,そのような捜査は,客観義務に違反する。
(b) 恫喝の影響下の客観義務違反
A75検事は,同月8日,原告X1を取り調べたが,それまで被疑事実を否認していた原告X1が同日の早朝から,A14警部補が取り調べて被疑事実を認めるよう恫喝し,弁護人との接見内容を執拗に聞いて,自白に転じさせ,否認していた理由として弁護人の助言によるものとする供述を得た後,その影響を排除しないまま,同様の供述内容の検面調書を作成した。これは客観義務に違反する上に弁護権侵害となる違法な取調べである。
(c) 弁護人の信頼関係を破壊させる違法な取調べ
A75検事は,同月13日,原告X1を取り調べた。原告X1は,同月12日に検察官に対して会合の事実を否認する供述をしたものの,再び自白させられ,その際,「検事さんから良く覚えていない会合の時の話を聞かれたことや,お金を貰ったと言うなと弁護士さんから言われていることを考えると頭が痛くなり,会合でX6社長からお金を貰ったことはないと言ってしまいました。検事さんや刑事さんから会合の時の話を聞かれていますし,弁護士さんからもいろいろ言われますので,誰のことを信用すればいいのか分からないというのが今の気持ちです。」,「このまま私が会合があったということを正直に話していると,ほかに会合に参加してお金をもらった人が逮捕されてしまうということを弁護士さんから言われました。」などの接見内容を聞き出してこれらを調書化した。その上で,A75検事は,態度を決めかねる原告X1に対し,自白すれば身柄拘束が早く解ける旨の利益誘導をした。このことは,同日の検面調書に,「そのほかにも色々と説得されました。そのような話を聞いていて,自分の気持ちの中で色々と考えているうちに,早くa3集落に戻って元通りの生活を送りたいという気持ちがどんどんと出てきました。」などと記載されていることから明らかである。これも原告X1と弁護人の信頼関係を破壊させる違法な取調べである。
A75検事は,同年6月18日にも,弁護人との接見内容を調書化した。
c その他の原告らに対する取調べの違法
(a) 引き写しによる客観義務違反
A75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A80検事は,同年6月4日以降,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1をそれぞれ取り調べて,検面調書を作成しているものの,いずれも,供述調書の引き写しであって,そのような捜査は,客観義務に違反する。
(b) 接見内容聴取
A77副検事は,同年6月18日,原告X2とA93弁護士との接見内容,原告X2とC3弁護士との接見内容を原告X2から事情聴取し,それを調書化し,同月19日,原告X2からA93弁護士の解任の経緯について事情聴取し,それを調書化した。
A77副検事は,同月19日,原告X3から弁護人との接見内容を録取し,調書化した。
A76副検事は,同月13日,原告X4から弁護人との接見内容を録取し,調書化し,同月18日,原告X4から弁護人との接見内容を録取し,調書化した。
(イ) 4回目会合6月4日捜査事件での身柄釈放後の起訴後の取調べの違法
原告X1,亡A1,原告X4,原告X2及び原告X3の4回目会合6月4日捜査事件の勾留満期は平成15年6月25日であり,4回目会合に係る第2次起訴は同年7月17日である。
上記原告らは,この同年6月25日以降も身体拘束を受けているが,その根拠は第1次起訴に基づく起訴後勾留である。
検察官は,同月25日以降に上記原告らに対して取調べを行っているが,同期間に1回目会合事件の取調べを行うことは,起訴後の取調べとして許されず,その他の本件公職選挙法違反事件の取調べを行うことは,勾留満期後に別件の起訴勾留を利用した余罪取調べであり,ともに違法な取調べである。
(ウ) 4回目会合6月25日捜査事件の捜査の違法
a 勾留請求の違法
本件刑事事件は,平成15年6月25日の時点においても,何ら合理的な嫌疑がないことはそれまでと変わらないのであり,4回目会合等6月24日捜査事件に係る勾留請求は,職務行為基準説及び合理的理由欠如説に立ったとしても,いずれも不合理な判断である。
加えて,4回目会合6月25日捜査事件は,検察官が,4回目会合6月4日捜査事件までにした捜査及び収集した証拠によって4回目会合の立証ができないことから,4回目会合という実質的に同一の事実について,受供与者を変えて身柄拘束した一罪一逮捕勾留の原則に反するの濫用的な勾留請求である。
b 客観義務等に違反する捜査の違法
A75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A80検事は,同年6月25日以降,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X8及び亡A1をそれぞれ取り調べて,検面調書を作成しているものの,いずれも,供述調書の引き写しであって,そのような捜査は,客観義務に違反する。
c 弁護権を侵害する取調べの違法
(a) A75検事
A75検事は,同年7月2日,捜査機関に迎合している原告X1から,「刑事さんから保釈できるので,事実を認めるように言われたことは一度もありません。弁護士は,A1は,裁判で戦うといった。X2も裁判で貰っていないといって戦うと聞いた。もう私は疲れてしまいました。」旨聞き出し,長期間の取調べで抵抗する気力を失っていた原告X1に対し,公判の対応を聞き出しているが,これは,被告人の裁判を受ける権利を侵害するものであり,とくに弁護人との関係を聞きながら,公判でどう対応するかを聞くことは,違法な取調べである。
その結果,原告X1は「裁判でどう言っていいのか分からなくなりました。明日の裁判でも,1人に6万円ずつ30万円渡したという本当のことをお話しできる自信がありません。」などと公判で自己の無実を争うことを萎縮させている。
さらに,A75検事は,そのような心理状態に陥っていた原告X1から,「今日接見にきた弁護士が,『認めても,認めなくても一緒だから,裁判は長くかかるから。』と言い,認めている人と認めていない人が一緒なのはおかしいと思ったが,弁護士がいうのなら,そうなのかもしれないという気持ちもあった。弁護士は,姉と会ったことを伝え,『やってないと言わないと家に帰ってこられない。大変なことになるよとお姉さんが言っていました。』などと私に言ってきた。事実を認めると,町に働きに出てもいじめられるし,部落でも,相手にされなくなるという意味で言ってきたのだと思った。また,弁護士は,A1とX2が争うつもりであることを私に告げた。また弁護士はA146の手紙を私に見せたが,A146は私がやっていないと思っていると思った。このA146の手紙を見せられて,裁判でお金を配ったという本当のことを話していいのかと思うようになった。明日の裁判でも,1人に6万円ずつ30万円渡したという本当のことをお話しできるか自信がありません。」などと供述させ,これを根拠に国選弁護人の解任予告を行うなど原告X1の弁護権を侵害した。
(b) A76副検事
A76副検事は,同日,原告X4を取り調べ,原告X4から弁護人に手紙を見せられたことについて何ら説明がないまま,取調べを終了したところ,A79検事正から,「警察からの報告によると,X4が弁護人との接見で手紙を見せられてショックを受けたと供述しているらしいので,その理由を確認して調書化するように」との指示を受けて,原告X4の取調べを再開し,「6月30日にC8弁護士と接見した際,弁護士から家族の手紙を見せられた。娘の手紙には,『お父さん,本当のことを言って頑張って下さい。おばちゃんが職場で白い目で見られているそうです。おばちゃんが職場を辞めたら,高校を辞めなければいけないと思います。国分の姉ちゃんは,病院で白い目を気にしながら働いているそうです。』などと書いてあり,息子の手紙には,『お父さん,自分だけ楽な道をとらないでください。他の人が迷惑します。じいちゃんは,びっこを引きながら1人で仕事を頑張っています。1日も早く父ちゃんが帰ってくるのを待っています。』などと書いてあり,妹の手紙には,『兄さん,自分だけ楽な道をとらないで下さい。』と書いてあった。その手紙を見た後,C8弁護士は,『起訴がないとは限りませんよ。裁判は1回では終わらないかもしれませんよ。裁判は長くなるかもしれません。あなたは,トカゲのシッポ切りだ。』などと言い,弁護士が否認するのか,情状酌量でいくのかと聞いてきたので,情状酌量でお願いすると答えた。その後,弁護士は私に,『あなたの息子は,あなたが帰ってきても,家に入れかいと言ってきている。』と言ってきた。家族や弁護士が,私に否認するようしょうようしていると思った。今日もC8弁護士は接見に来て,『否認してもいいですよ。どうしますか。』と聞いてきた。C8弁護士は,私に対し,嘘をついて否認するよう説得しているが,私は1日も早く正しい判決を受けたい。」との調書を作成させられた。
(c) A78副検事
A78副検事は,同年7月16日,原告X1を取り調べて,弁護人との接見内容等を調書化した。
(d) A77副検事
A77副検事は,同月11日,原告X3を取り調べて,弁護人との接見内容等を調書化した。
(e) A76副検事
A76副検事は,同月4日及び同月16日,原告X8を取り調べて,弁護人との接見内容等をそれぞれ調書化した。
d 起訴後の取調べ
原告X1,亡A1,原告X4,原告X2,原告X3らの4回目買収会合による勾留は同年6月25日が満期であり,4回目買収会合の起訴は同年7月17日である。
上記原告らは,この同年6月25日から同年7月17日までの間も身体拘束を受けているが,その根拠は1回目買収会合の起訴(同年6月3日)に基づく勾留である。
検察官は,同年6月25日から同年7月17日までの間に,複数回にわたり,各事実の取調べをしたが,同期間に1回目買収会合の取調べを行うことは,起訴後の取調べであり,その他の買収会合,特に4回目買収会合の取調べを行うことは,勾留満期後に別件の起訴勾留を利用した余罪取調べであり,ともに違法な取調べである。
公判中心主義,当事者主義(起訴後は当事者主義が特に強く要請される。)を掲げる我が国の刑事訴訟法の下では,検察官が被告人の身体拘束を利用して取調べを行うことは,公判の一方当事者となった訴追機関が捜査機関に回帰するものであり,当事者主義,公判中心主義を潜脱する違法捜査であることを免れない。
(エ) 1回目会合6月29日捜査事件の捜査の違法
1回目会合6月29日捜査事件は,原告X9が最終的に不処分とされていることから明らかなとおり,嫌疑なき勾留である。
(オ) 第2次起訴の違法
a 第1次起訴と同様の違法性
公図の不自然性,供与金の原資・使途が解明されていないこと,自白内容が不自然であること,自白者間の供述に不一致があること,その他自白を減殺させる事情があることについては,第1次起訴と同様である。
b 原告X1の供述の信用性を減殺させる事情
(a) 否認と自白の交錯という第1次起訴後の原告X1の供述内容,供述態度
原告X1の供述は,第1次起訴後においても否認と自白が交錯していた。
すなわち,原告X1は,同年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件の逮捕に続く弁解録取手続,勾留質問においていずれも否認している。
原告X1は,同月7日,申立書を作成し,その中には,4回目会合を認める記載がある。しかし,同申立書には,「認めなかった理由は今は言えません。」,「早く事件をすませて家に帰りたいと思います。」などの記載を併せてみれば,疑いをかけられた嫌疑はすべて事実ではないため,認めた理由は書きようがないが,早く家に帰りたい一心で認める供述書を作成したことは容易に読み取れる。
そして,原告X1の同年6月8日付け供述調書には,「このままたくさんの人に迷惑をかけてはいけないと思いました。」との記載が,同月10日付け供述調書には,「刑事から今度の事件のことで苦しむ人間を増やして良いのかといわれたことで,これ以上犠牲者を出してはいけない,X6社長とX7さんも逮捕された,弁護士さんからはでられると言われていたのに出られるどころか,また逮捕されてしまった,本当のことを言って早く家に帰りたい。」と記載されている。
原告X1は,県警の捜査官から,否認供述を続ければ,取調べの対象を拡大する,逮捕者を増やすなどと明示又は黙示に示唆され,そのため,原告X1は,自分と同じ苦痛を味わう人を増やすことはできない,また,早く家に帰りたい,との思いが募り,その一心で,事実に反して認める供述をせざるを得なかったことが明らかである。
それでも,原告X1は,事実に反して嘘の供述をすることについて良心の呵責にさいなまれ,たびたび否認に転じ,同年6月12日の検察官の取調べやその後の警察の取調べで,事実を否認した。
原告X1は,同年7月6日にも,検察官に対して事実関係を否認している。すなわち,同月13日付け供述調書には,「先週の日曜日,検事から取調べをしてもらいましたが,いろいろ質問されて頭が痛くなって,質問にも答えられなくなりました。そして,検事にも刑事にもみんなめちゃくちゃだ,何もかもめちゃくちゃだ,といって今まで話していた事実をひっくり返しました。」との記載がある。その後,原告X1は自白に戻ってしまうが,その理由については,わずかに「早く四浦に帰れるようにお願いします。」との供述が録取されているのみである。身体拘束が長期間に及び現在のこの状況から早く脱却して四浦に戻りたいとの願望のみが当時のX1の行動原理であり,捜査官から陰に陽に,認めれば早く帰れる旨示唆を受けたことを原因として,罪を認める供述に戻らざるを得なかったものであり,かかる推測は通常の検察官であれば気がつくはずである。
このように,第1次起訴後の原告X1の供述内容,供述態度は,作成された供述調書の字面だけを追ってみても自白供述の信用性を大いに減殺するのであり,まして,直接,原告X1を取り調べていた検察官にとっては,同女がやむを得ず,虚偽の自白を強いられていることはわかったはずである。少なくとも,通常の検察官であれば,容易に判明したはずである。
(b) 原告X1の4回目会合参加者に関する供述の変遷の見落とし
原告X1の4回目会合参加者に関する供述は,同年6月8日の時点では,A88,A97,A103,原告X11が含まれていたが,同月16日には,上記4名が含まれていたかは思い出せない旨に後退し,同月18日の検事調べでは,再び上記4名が含まれていた旨供述し,同年7月17日には,A88と原告X11は含まれるが,A97及びA103については触れられておらず,この変遷の理由も何ら触れられていない。
こうした供述の変遷状況を見るだけでも,検察官は,当時,自供していた者の間において供述を合わせることだけに必死であり,通常の検察官であれば当然に気づくはずの,そもそも,自供している者たちの自白供述は信用することができないのではないか,との発想が全く欠落していたといわざるを得ない。
(c) 基本的な裏付け捜査の不足
原告X1は,同年7月14日,4回目会合について,原告X6及び原告X7は,原告X7が普段から運転している灰色の乗用車に乗ってきた旨を供述しているが,同乗用車は,同日当時,修理に出されており,客観的事実と相違した供述をしている。これも基本的な裏付け捜査をすれば知り得たはずである。
(d) 貯金ないしオードブルの不存在
原告X1は,同年6月26日及び同年7月14日の検事調べにおいて,原告X6から受け取った金員を,原告X5に頼まれ,10万円と20万円の2回貯金してもらったとの供述が録取されているが,そのような貯金がなされた事実は認められなかった。
また,原告X1は,4回目会合でオードブルを出した旨を供述しているが,志布志という限られた地域であるのに,結局,捜査を尽くしてもその購入先は全く明らかにならなかった。つまり,オードブルが出たとの供述は信用することができないのであり,ひいては買収会合があったとの自白自体の信用性を失わせる事情である。
c 亡A1の供述の信用性を減殺させる事情
(a) 亡A1の否認と自白の交錯
亡A1は,同年6月5日の取調べでは,一旦事実関係を否認し,その後,自白に戻っているが,否認した理由も自白に戻った理由も何ら明らかにされてない。
(b) 通常の合理的判断の欠如
亡A1は,同年6月18日,4回目会合での受供与金10万円の使途に関し,うち2万円をA134に渡したと供述したが,同月25日の取調べでは,その供述が虚偽であり,どうしても使途を思い出せないので,説明のつかない金額を減らしたく,A134であれば,よく飲み歩いて自宅に帰らないことが多いので,裏取りされにくいと思ったなどと虚偽供述をした理由を述べ,併せて,同年3月25日に,原告X14名義の預金口座から現金10万円が下ろされていることに関し,その使途を説明した。
亡A1が,同年3月24日に10万円をもらったのであれば,翌日に,10万円を下ろす必要はないのではないか,と考えるのが通常の検察官の合理的判断というものである。
(c) 不合理な変遷
亡A1は,同年7月10日,検事調べで,それまで,4回目会合では,同年3月25日の牛の競り市でヨモギ饅頭を土産として原告X4にあげたことの礼を言われたこと,A88や原告X2と牛が売れた値段の話をしたなどと供述していたが,4回目会合は同年3月24日なので,そのような会話をしたことはあり得ず,同月25日の夜のべぶんこ祝いのことや同月25日以降に原告X4と会ったときのことと混同していたなどの供述をしているが,このような変遷は不合理である。
亡A1が,4回目会合における具体的な出来事を,何も説明できていないことの証左である。
d 4回目会合の開始時刻の変遷
原告X2は,同年5月27日付け供述調書では,4回目会合の誘いを受けた状況について,4回目会合の開催日の前日の午後6時過ぎ頃,原告X1から電話があり「社長が明日の夜,家に来るから,上がって来て下さい。いつもの時間ですから。」と言われた旨を,同年5月30日付け検面調書でも同様の供述を維持していたが,同年6月16日付け供述調書では,もしかすると,電話ではなく,会合の前日か数日前頃,直接呼びかけがあったかもしれない。原告X1とは夕方牛の世話をしているときよく会うことがあり,そのとき直接,「何日に社長が来るから,いつもの時間に来て下さい。」と呼び掛けられたかもしれないなどと若干供述を曖昧にさせ,開始時刻について,同年5月27日付け供述調書では,「午後7時頃自宅を出発,会合は午後7時30分過ぎ頃から始まった。10分くらいですべての挨拶が終わり,引き続き飲み方が始まった。X6達は9時過ぎ頃挨拶をして帰って行き,午後9時30分頃飲み方がお開きになった。」と,同年5月30日付け検面調書では,「午後7時頃X1方に行き,メンバーがそろった7時過ぎ頃から会合が始まり,引き続いて宴会が行われた。午後9時頃まで,X6達はX1方にいて,挨拶をして引き上げていき,午後9時30分頃,X2も帰った。」と,同年6月4日付け供述調書では,「午後7時すぐ頃X1の家に行き,その後8畳床の間で選挙会合が始まり,引き続きその場で飲み方が始まった。」としていたが,同年6月16日付け供述調書では,「午後7時過ぎ頃X1の家に行った。この時の選挙会合はかねての会合より遅れて始まったような気がする。X6達が来た後の午後8時過ぎ頃から始まった。」と供述が変わり,同年6月17日付け供述調書では,「会合は,X6達が来た午後8時過ぎ頃から,8畳床の間で始まった。挨拶は10分くらいで終わり,引き続き午後8時20分頃から床の間で飲み方が始まった。午後9時頃X6達は挨拶をして帰って行き,午後9時20分頃に飲み方がお開きになって,X2は午後9時30分頃帰った。」と変遷している。
そして,原告X2以外の本件買収会合の事実を認めていた他の原告らも,原告X4は,同年5月18日付け供述調書,同年5月22日付け供述調書,同年5月27日付け検面調書,同年6月6日付け弁解録取書で,会合開始時刻は午後7時から7時30分頃と,原告X3も5月29日付け供述調書,6月3日付け検面調書で同様に,原告X1も6月8日付け検面調書で7時30分頃と供述していたが,同年6月15日頃を境に,原告X2,原告X3及び原告X1の3名が,会合開始時刻を,「午後8時頃」に一斉に供述を変遷させている。原告X4については会合開始時刻について触れなくなった。
会合開始時刻が午後7時30分頃から午後8時に後ろに変更されたことについて合理的理由は録取されておらず,よく思い出した,などという理由しか付されていない。
このことは,捜査機関が原告X6の同年3月24日の本件懇親会への出席の事実を把握してあえて誘導したことを意味し,捜査機関が原告X6のアリバイを把握したことを意味しており,端的に同日の会合の存在がないことを示すものである。
イ 被告国の主張
(ア) 検察官の取調べの適法性
a 違法性の欠如
原告らは,第3次強制捜査及び第4次強制捜査中の検察官の取調べについて,①被疑者の主張や弁解を聞こうとせず,自白を強要するなど客観義務に反した取調べ,②接見内容を聴取したことの違法を主張するが,①については,原告らが主張するような自白の強制の事実はなく,その他,検察官の取調べに違法とすべき事情は認められないし,②の点については,いずれも被疑者が任意に接見内容を供述し,それを供述の信用性・任意性の確保のため,あるいは被疑者の弁護人の解任の意思が真意に基づくものであることの確認のためといった正当な理由の下,必要な限度で接見内容を聴取したにすぎず,国家賠償法上の違法と見るべき余地はないことは前同様である。
b 起訴後の取調べの適法性
また,原告らは,第4次強制捜査中の検察官の取調べについて,③起訴後の取調べの違法を主張するが,起訴後であっても,起訴された犯罪事実以外の余罪について,被告人を取り調べることができるのは当然であるところ,当該起訴に係る犯罪事実についても,最高裁判所昭和36年11月21日第三小法廷決定・刑集15巻10号1764頁は,「刑訴197条は,捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており,同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから,同法198条の「被疑者」という文字にかかわりなく,起訴後においても,捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ,捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが,これによつて直ちにその取調を違法とし,その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく,また,勾留中の取調べであるのゆえをもつて,直ちにその供述が強制されたものであるということもできない。」と判示し,起訴後,当該起訴に係る事実について被告人を取り調べることも許容されることを明らかにしており,このことは判例上確立している(最高裁判所昭和53年9月4日第二小法廷決定・刑集32巻6号1077頁,最高裁判所昭和57年3月2日第二小法廷決定・集刑225号689頁等)。
原告らは,検察官による原告X1らに対する起訴後の取調べに関して,起訴後の取調べ自体が違法であると主張するほか,起訴後は弁護人への「配慮」,「弁護人の了解」が必要であり,これを欠いた取調べは違法であるとも主張する。
しかし,刑事訴訟法上,起訴後の取調べに弁護人の了解が必要であることを導く理念や規定は見当たらず,前記各最高裁決定も,起訴後に被告人を取り調べることはなるべく避けなければならない旨判示するものの,弁護人等の了解が必要であるとまでは判示していない。むしろ,上記最高裁判所昭和57年決定は,上記最高裁判所昭和36年決定について,「起訴後においても,捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができることを認めたものであり(記録によれば,所論起訴後における被告人の取調が本件公訴を維持するために必要なものであったことが明らかである。),起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ,捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないことを判示してはいるが,それ以上に,起訴後作成された被告人の捜査官に対する供述調書の証拠能力を肯定するために必要とされる具体的な要件を判示しているとは解せられない。」と判示している。
以上によると,検察官等が,起訴後に当該公訴事実について被告人の取調べをすることは,被告人の当事者たる地位に照らし,なるべく避けなければならないとはいえ,その必要性がある限りはこれを行うことが許容されているのであって,その際,弁護人等の了解を要するとまでは解されないから,本件原告らの主張はその前提において既に失当である。
(イ) 4回目会合6月4日強制捜査の勾留請求の違法性
まず,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」については,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕され,送致された原告X6ら8名のうち,受供与者である原告X2,原告X4,原告X3及び亡A1の4名が事実関係を認め,これらの自白の供述内容は大筋で符合していた上,1回目会合事件に関する供述と同様,会合の際,原告X6から封筒に入った現金を受領したなどという具体的な内容が含まれていた(平成15年6月6日付け原告X2の弁解録取書,同日付け原告X4の弁解録取書,同日付け原告X3の弁解録取書,同日付け亡A1の弁解録取書)。加えて,買収会合があった旨の供述を裏付ける証拠として,同年5月18日付け原告X8の供述調書も存在していた。
他方,供与者である原告X6及び原告X7,受供与者である原告X1及び原告X5は事実関係を否認していたが,その弁解・供述中には,犯罪の嫌疑が認められなくなるような特段の事情はなかった。
勾留請求時に現に収集された以上のような証拠資料に照らせば,A73検事が,原告X6ら8名に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
次に,刑事訴訟法60条1項各号該当事由についても,関連事件である原告X1焼酎4月22日捜査事件や1回目会合5月13日捜査事件について述べた該当事由が収集済みの証拠から既に認められたほか,4回目会合事件についても同様の該当事由が認められた。すなわち,本件が選挙違反という民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪であることに加え,原告X6が複数回にわたって現金を供与していることが強く疑われたところ,同人及びその妻原告X7が事実関係を全面否認していたほか,受供与者として逮捕された者のうち,原告X1(なお,同人が1回目会合事件の捜査中,供与事実を認める供述をしたことがあることは既に述べたとおりである。)及び原告X5もまた事実関係を全面否認しており,原告X6に至ってはX1宅に上がったことさえない旨弁解していたことから,原告X6からの受供与を認めている者に働き掛けて供述の変更を依頼するなどして罪証隠滅工作に及ぶことが強く疑われた。加えて,受供与者がいずれもa3集落又はその周辺の小集落に居住する者らであったことをも考慮すれば,通謀の上,それぞれの関与を否認したり,原告X6及び原告X7の関与を否認することも強く疑われたというべきであるから,A73検事が,原告X6及び原告X7並びに否認していた前記受供与者2名のみならず,自白していた前記受供与者4名のいずれにも刑事訴訟法60条1項2号,3号該当事由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
したがって,A73検事が,原告X6ら8名の4回目会合事件について犯罪の嫌疑及び勾留の必要性が認められるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえず,原告X6ら8名に対する勾留請求が国家賠償法上違法とされるものではない。このことは,A73検事が,勾留状の発付を受けてその執行を指揮し,原告X6ら8名の身柄を拘束した点についても同様である。
(ウ) 4回目会合6月4日捜査事件の勾留延長請求の違法性
A73検事は,平成15年6月13日,原告X6ら8名につき,要旨「犯行日時の特定未了,受供与金の原資の特定未了,被疑者及び関連被疑者の取調べ未了であり,適切な終局処分を決するにはなお相当の日数を要する。」として,同月16日から同月25日までの10日間の勾留期間の延長を請求した。
当初の勾留期間満了までに必要な捜査を尽くしたものの,勾留延長請求時点では,勾留請求時に否認していた原告X1が自白していた一方で,原告X5は否認したままであり,事実関係を認める原告X4,原告X2,原告X3及び亡A1の供述によっても,いまだ会合開催日時の特定に至らず,供与・受供与の状況が明確に解明されていなかった上,4回の会合が開かれた趣旨も解明されておらず,これらの解明のほか,供与金の原資や受供与者の供与金の使途先等を解明するなどの所要の裏付け捜査を尽くさなければ,起訴・不起訴の終局処分を決することができないことは明らかであった。したがって,刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」があったことは明らかであり,A73検事の行った原告X6ら8名の勾留期間延長請求が国家賠償法上違法となるものではない。
(エ) 4回目会合6月25日捜査事件の勾留請求の違法性
まず,4回目会合6月25日捜査事件につき,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法207条1項,60条1項柱書き)については,原告X6ら5名のうち原告X8を除く4名は,いずれも事実関係を否認していたが,これらの者が4回目会合に参加するなどしていたことは,原告X8の供述のほか,先に逮捕・勾留されて4回目会合事件に関する取調べを受け,事実関係を認めていた原告X1らの供述調書(上記(イ)のほか,原告X1につき平成15年6月8日付け供述調書,同月18日付け供述調書,原告X2につき同月19日付け供述調書,原告X4につき同年5月27日付け供述調書,同年6月13日付け供述調書,同月14日付け供述調書,同月18日付け供述調書,同月19日付け供述調書,原告X8につき同月27日付け弁解録取書等)により認められ,これらの各自白の内容は大筋で符合していて具体的な内容が含まれていた。
また,原告X1の供述に基づいて同人方裏の杉山を捜索したところ,4回目会合事件の際に出席者に提供された料理(オードブル)の残り等と思料されるビニール製中華たれの袋,プラスチック製しょう油さし,料理用装飾品,ばらん,わさびなどが発見・押収された。
他方,4回目会合事件の事実関係を否認していた原告X6,原告X7,原告X10及び原告X11の弁解・供述中には,犯罪の嫌疑が認められなくなるような特段の事情はなかった(A88の弁解・供述についても同様であった。)。
1回目会合事件についても,原告X6及び原告X7は事実関係を否認していたが,同事件の事実関係を認めた原告X1の供述,原告X2の供述,原告X4の供述,原告X3の供述及び亡A1の供述のほか,これらの供述を裏付ける原告X8,A88の各供述等の証拠が既に収集済みであった。
他方,1回目会合事件についても事実関係を否認する原告X6及び原告X7の弁解・供述は,同事件の事実関係を否認する原告X5の供述等の証拠資料を併せ考慮しても,犯罪の嫌疑を客観的に否定するものではなかった上,本件原告らが指摘する原告X6のアリバイに関する証拠資料は,通常の捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料とはいえないから,犯罪の嫌疑が認められなくなるような特段の事情もなかった。
勾留請求時に現に収集し,通常の捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に照らせば,A73検事が,原告X6ら5名に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
次に,刑事訴訟法60条1項各号該当事由についても,これまで繰り返し述べたとおり,本件が選挙違反という民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪であることに加え,原告X6が,複数回にわたって現金を供与していることが強く疑われたところ,同人及びその妻原告X7が4回目会合事件,1回目会合事件のいずれについても事実関係を全面否認していたほか,4回目会合事件の受供与者として新たに逮捕された原告X10,原告X11及びA88も,現金の授受はもちろん,会合事実そのものを否認しており,これらの者が受供与を認めている者に働き掛けて供述の変更を依頼するなどして罪証隠滅工作に及ぶことが強く疑われた。加えて,受供与者がいずれもa3集落又はその周辺の小集落に居住する者らであったことをも考慮すれば,通謀の上,それぞれの関与を否認したり,原告X6及び同X7の関与を否認することも強く疑われたというべきであるから,A73検事が,否認していた原告X6,原告X7,原告X10及び原告X11のみならず,自白していた原告X8に刑事訴訟法60条1項2号,3号該当事由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
したがって,A73検事が,原告X6ら5名の4回目会合事件及び1回目会合事件について犯罪の嫌疑及び勾留の必要性が認められるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえず,原告X6ら5名に対する勾留請求が国家賠償法上違法とされるものではない。このことは,A73検事及びA75検事が,勾留状の発付を受けてその執行を指揮し,原告X6ら5名の身柄を拘束した点についても同様である。
(オ) 4回目会合6月25日捜査事件の勾留延長請求の違法性
A73検事は,平成15年7月7日,原告X6ら5名につき,要旨「犯行日時の特定未了,受供与金の原資の特定未了,被疑者及び関連被疑者の取調べ未了であり,適切な終局処分を決するにはなお相当の日数を要する。」として,同月8日から同月17日までの10日間の勾留期間の延長を請求した。
当初の勾留期間満了までに必要な捜査を尽くしたものの,勾留延長請求時点でも,4回目会合事件については,原告X6,原告X7,原告X10,原告X11及びA88が否認したままであり,4回目会合事件の事実関係を認める原告X4,原告X2,原告X3及び亡A1の供述によっても,供与・受供与の状況や4回の会合が開かれた趣旨の全容解明には至っておらず,1回目会合事件についても,原告X6,原告X7が否認したままであって(なお,4回目会合事件について同年6月25日に釈放され,1回目会合事件で起訴勾留中であった原告X5も否認のままであった),原告X1との共犯関係などの全容解明に至らず,これらの解明が必要であった。そのほか,引き続き供与金の原資や受供与者の供与金の使途先等を解明するなどの所要の裏付け捜査を尽くさなければ,起訴・不起訴の終局処分を決することができないことは明らかであった。したがって,刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」があったことは明らかであり,A73検事の行った原告X6ら5名の勾留期間延長請求が国家賠償法上違法となるものではない。
(カ) 第2次起訴のうち,4回目会合事件の公訴提起の適法性
4回目会合事件についても,現金の供与・受供与事実を認める複数の供述(自白)があり,A73検事は,平成15年7月17日に原告X6ら12名につき公訴提起(公判請求)するに当たり,これらの自白に信用性が認められると判断したが,A73検事のかかる判断が不合理とはいえないことは,次のとおり,明らかである。
a 供述証拠関係
(a) 慎重な取調べ
A73検事は,平成15年7月17日,原告X6ら12名につき公訴提起(公判請求)するに当たり,原告X1ら6名が,前述のとおり事実関係を認めて詳細に自白している一方で,その余の原告X6らが,事実関係を全面的に否認し,特に原告X6にあっては,具体的なアリバイ主張はしないものの,X1宅に行ったこともなく,本件容疑はでっち上げであるなどと弁解していたことから,なお慎重を期するために,否認している者の弁解内容について慎重に検討したほか,自白している前記6名に対して,原告X6ら事実関係を否認している者がいることなどを告げた上で供述を求めるなど慎重に取調べを行った。
これに対して,原告X1ら6名は,一様に原告X6の前記弁解を否定して,自分たちこそ真実を述べている旨を供述し,これらの供述には特段不自然な点も認められなかった。
(b) 重要部分における供述内容の一致
4回目会合事件を公訴提起(公判請求)した平成15年7月17日時点で,事実関係を認めていた原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び亡A1の各供述を検討すると,4回目会合には,少なくとも原告X6,原告X7,A5,A89,女性従業員2名(A113,A114),原告X9,原告X1,原告X2,原告X10,原告X4,原告X8,原告X3,原告X5,原告X11,亡A1及びA88の17名が参加していたこと(なお,原告X10については,夫である原告X2が出席を否定しているが,他の5人が一致して出席を肯定していることから,同人は妻をかばった供述をしていると判断するのが合理的である。),その時期は3月下旬であったこと,場所はX1宅8畳間であったこと,受供与金が封筒に入った10万円であったこと,原告X6が酌をしながら各人の席を回り,その際に現金入り茶封筒を供与したこと,宴席に盛り皿(オードブル),焼酎等が出ていたことなど,重要部分において供述内容が一致しており,かつ,各自白供述は,相互の供述を支え合い補完する関係にあった。また,A73検事としては,供述の経緯にも特段不自然な点も認めることができなかった。
(c) 原告X4の母A131による否認慫慂の判明
また,上記取調べの過程で,強制捜査開始前,原告X4の母A131が原告X4及び原告X8に対して,「2人が選挙の金を貰ったと真実を話したら,a3集落の選挙の金を貰った人にも警察の調べが入り,その人達にも迷惑をかける。X6候補にも警察の調べが入って迷惑をかける。だから,金を貰ったことは言うな」と指示していた旨の供述が得られるなど,a3集落内で関係者に否認を慫慂する者が存在することが明らかになった。
(d) 供述証拠の総体
その結果,原告X6ら12名の4回目会合事件の公訴提起(公判請求)時にA73検事が現に収集した証拠資料は,同年7月17日時点で,原告X6の被選挙権,原告X1らの選挙権の有無,選挙結果に関する証拠等があることはもちろんのこと,事実関係を認めていた原告X1の供述,原告X2の供述,原告X4の供述,原告X8の供述,原告X3の供述及び亡A1の供述も収集していた。
b 供述を裏付ける証拠
(a) 料理(オードブル)の残り等,貯金箱等証拠の存在
これらの供述を裏付ける証拠として,前記第2・5(9)イ(エ)で指摘したとおり,X1宅裏の杉山から出席者に供された料理(オードブル)の残り等と思料されるビニール製中華たれの袋,プラスチック製しょう油さし,料理用装飾品,ばらん,わさびなどが発見・押収されたことに加えて,原告X1又は亡A1を立会人として犯行状況を再現した検証調書,犯行再現の実況見分調書又は検証調書,同年3月24日にオードブルが販売されたことに関する証拠など,上記自白に整合する証拠資料を現に収集した。
(b) 面割り
さらに,原告X8は,同席した女性から「弓場ヶ尾から来た。」などと言われた旨供述しているところ,当該女性の人定特定のために実施した写真面割りにより,同女はA113であることが判明したが,裏付け捜査の結果,A113が弓場ヶ尾地区に居住しており,原告X6の自宅が近いことが裏付けられるなど同供述には実際に会合に参加した者でなければ知り得ない内容が含まれており,具体的かつ迫真性に富むものがあると認められた。
(c) X1宅の広さと長テーブル
X1宅は,約20名の人数が参集することが物理的に可能であること,長テーブル2脚を載せることが可能であり,8畳間で使用した長テーブル2脚を軽トラックで運んだという原告X1の供述に沿うことが判明した。
(d) 受供与金の一部使途先の判明と原告X4の自殺未遂の判明
受供与金の使途先に関しては,原告X2,原告X3の使途先に関する供述の一部裏付けが取れたほか,亡A1の受供与金の一部使途先も判明し,原告X1の貯金箱に1万円札1枚を含む約11万円の現金が在中していたことを示す証拠に加え,原告X5が,同年5月13日の逮捕時に,現金43万1441円を所持していたこと,原告X5が,以前,原告X1に無断で同人名義の郵便貯金通帳を作成していたことなども判明し,原告X1の受供与金の一部を原告X5に預けた旨の供述と併せて,受供与金の一部使途先を解明することができた。
また,原告X4が自殺未遂を起こしたことなどが裏付けられた。
c アリバイ捜査
A73検事は,4回目会合事件を捜査するに当たり,4回目会合が平成15年3月24日に開催された可能性自体を否定していたわけではなく,前記自白により認定される出席者のうち否認をしている被疑者のアリバイ捜査についても,可能な範囲で行い,アリバイが成立しないと判断した。
すなわち,まず,4回目会合の受供与者のうち,原告X11について,同日,老人ホームに入院中の実父を見舞っていた事実が認められたが,同ホームの面会簿には面会等の時刻が記入されないものであったため,A73検事は,これによって原告X11にアリバイが成立するものとは判断しなかった。
また,同日に行われた原告X9の親類に当たるA128の仮通夜への参列者に四浦校区居住者がいなかったかについても確認するなどした。
加えて,A5が同年3月24日の虚偽のアリバイ工作をした事実も確認された。すなわち,同人が経営する本件予約帳の同月24日の欄に「夜,相信の人,泊まる。」旨記載されていたことに関し,A5は,同日,A129の元同僚で元鹿児島相互信用金庫職員である知人らと一緒に飲酒した旨を主張したことから,同知人から聴取したところ,同人はその事実を否定した。
d A73検事による証拠資料の吟味
(a) 未解明な部分が生じ得ること
4回目会合事件を含む本件刑事事件では,供与者側の原告X6,原告X7が事実関係を全面的に否認していたことなどから,平成15年7月17日の公訴提起(公判請求)時点で,供与金の原資や受供与金の使途先について,なお未解明な部分はあったが,この種の事犯における原資や使途先は,被疑者その他関係人の供述や,裏付け証拠となり得る会計帳簿や伝票類等によって解明するが,その供述内容や供述状況,会計帳簿や伝票類等の保管状況等によっては十分に解明できない場合もあり得るのであって,これらの事実が解明できなかったからといって,通常必要な捜査を怠ったと評価されるものではない。
(b) 参加者をほぼ同じくする買収会合が4回にわたって開催された趣旨,比較的高額の金員の供与・受供与がなされた理由に関する検討
A73検事は,X1宅において,参加者をほぼ同じくする買収会合が4回にわたって開催された趣旨や,比較的高額の金員の供与・受供与がなされた理由についても検討し,同時点までに現に収集した証拠資料(後記(2)に掲げるほかに平成15年7月17日付け原告X1の供述調書,同月10日付け原告X2の供述調書,同月8日付け原告X4の供述調書,同月9日付け亡A1の供述調書,同日付け原告X8の供述調書,同月8日付け原告X3の供述調書等)から,合理的な説明ができると判断したが,その内容は以下のとおりであった。
(c) 選挙運動の拠点の必要性
すなわち,原告X6は,平成13年1月施行の志布志町議会議員補欠選挙の際,a3集落を含む四浦校区ではA97方,X1宅等を拠点として選挙運動を行い,8616票で当選を果たした(なお,同選挙には2名が立候補し,落選者の得票は3053票であった。)。
しかし,県議会議員として初めての立候補となる本件選挙では,曽於郡区(定数3)から原告X6を含め4名の立候補が確実視される中,四浦校区においては,既に,県道拡幅工事の決定等に尽力した現職のA2県議を支持する方針が決まり,A97も同方針に同調したことから,A97方や地区の公民館を拠点に選挙運動を行うことができなかった。
また,鹿児島県農業政治連盟(以下「農政連」という。)からの推薦も受けられなかった。
したがって,本件選挙に向けた選挙運動では,原告X6は,四浦校区では,自己が経営する有限会社fの従業員原告X1の自宅,つまりX1宅を選挙運動の拠点とせざるを得ず,それ故に同一場所で会合が重ねられたと考えることが合理的である。
(d) 巻き返しの必要性
そして,X1宅においては,同年2月上旬頃に1回目会合事件(6万円の供与・受供与)が行われた後の同月中旬頃,2回目会合事件(5万円の供与・受供与)が行われたが,前記(1)及び前記3(2)ア記載の各供述によれば,1回目会合事件の際,参加者から「今度は奥さんの顔が見たい。」旨,再度の会合の開催を求める趣旨の発言があったことから,これに応えるべく,早々に2回目の会合が行われたと考えることが合理的である。また,2回目会合事件の後,上記現職のA2県議の運動員が四浦校区に入り,後援会への入会を募るなど票の囲い込みを開始したことを示す証拠資料が収集されており,これらの選挙情勢に関する証拠資料に照らして考えれば,原告X6らが巻き返しを図るべく,同年3月上旬頃,3回目会合事件に至ったと考えることにも合理性がある。
(e) 危機感
さらに,A73検事が4回目会合事件の公訴提起(公判請求)時までに収集した証拠資料によれば,同年3月中旬頃,原告X6の後援会関係者から「志布志では7,000票は少なくとも確保しなくてはならない。」などという声が上がっていたこと,平成3年及び平成7年施行の県議会議員選挙の曽於郡区投票状況に照らしても,志布志町を地盤とする候補者(本件選挙には立候補していない。)は同町で約7000票を集めて当選していること,前記のとおりA2県議の運動員が四浦校区に入っていることなどが認められ,平成15年3月中旬以降,原告X6陣営が危機感を持っていたことから,更に買収会合開催の必要性が生じて,公示日が迫った同月下旬頃,4回目会合事件に至り,同会合では,これまでよりも多い人数を集めて現金10万円の供与・受供与がなされたと考えれば,参加者をほぼ同じくする買収会合が4回にわたって開催された趣旨も合理的に説明することが可能である。
(f) 運動買収の趣旨をも含む現金供与
各会合で比較的多額の現金が供与されていることについては,A73検事も,運動買収の趣旨をも含む現金供与であったと判断していたものである。
その根拠は,原告X3,原告X8から,同人らが有権者らに現金を供与した旨の供述を得たこと,原告X3が,集落の会合の際に原告X6の顔写真入りのチラシを配付するなどしていたことなどを示す証拠資料が収集されていることが挙げられる。
これらの根拠からすれば,A73検事のかかる判断は不合理とはいえない。
(g) 「草刈場」との風評
加えて,四浦校区の選挙風土に関して,以下の証拠資料が収集された。すなわち,原告X2からは「四浦校区は,昔から選挙においては「草刈場」と呼ばれているところであり,選挙の度にお金が飛び交い,選挙民は,色んな候補者から買収金を貰って沢山現金を貰った方に投票する,つまり,お金で票を買える所だと言われていました。」という供述が,原告X4からは「これまでの選挙のことを話しますが,四浦校区は,金をくれるかくれないかで候補者を選んでいたのが実情です。」という供述が,また,原告X3からは「a4集落がある志布志町四浦校区は,選挙の度に現金が飛び交い,選挙にお金は付き物,つまり,当然のように現金買収が行われるところ。」という供述が,それぞれ得られた。
(h) 原告らの集票力
さらに,原告X3からは「私は,前公民館長で四浦校区への影響力もあり,先の町議補欠選挙でもX6さんから買収金を預かり,現金買収をして回った実績があり,X6さんからも信頼を得ている。私は,四浦校区内で40票くらい,街の方で20~30票くらいの合計60~70票は確実に票を取る自信がある。A1さんは,選挙の際は,A1さんを通さなければ四浦地区では選挙運動はできないと言われる人物であり,また,面倒見が良くて年寄りにも人気がある。A1さんは,長年民生委員をするなどしており,A1さんが本気になって票を集めたら四浦校区で70~80票は取れると思うし,街の方にも顔が広い人なので,100票を超える票を集めることができると思う。X5さんは,車の運転ができない年寄りなどから頼まれて,貯金の出し入れをしてあげたりしており,信頼を受けている人である。X5さんは,そのような人たちを中心に四浦校区だけでも確実に50~60票は取れると思う。X5さんは,志布志の街の出身で,その実家は裕福なところだと聞いており,付き合いも広いことから,その街の方の票も入れると100票は十分取れると思う。X2さんは,みんなから将来の公民館長候補と言われており,人望もあり,四浦地区だけで40~50票は取れると思う。」などの供述も得られた。
e A73検事の判断
このように,A73検事は,四浦校区が「草刈り場」,すなわち買収金を配付すれば票が取れるような金権風土の強い地域であると判断した上,原告X6が,四浦校区の有権者数114名の票のみを目当てに4回にわたる買収会合を開催したのではなく,X1宅での買収会合を開催していく過程で,更に買収会合を開催する必要が生じ,結果的に4回の買収会合を開くこととなったものと判断し,供与・受供与金額が比較的高額な点についても,運動買収を含む趣旨であったと判断したものであるが,このような各判断は,前記の証拠関係に照らせば,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえない。
A73検事は,以上のように,A73検事は捜査を尽くしていたものであり,なお未解明な部分があったとしても,これらの証拠資料を総合考慮し,原告X1ら6名の各自白を信用することができると判断したものであるところ,このように,前記各自白が信用できるとしたA73検事の判断は,1回目会合事件に関する自白と同様,複数の者が買収会合に出席したことを認め,しかも,その内容に具体的なものが含まれ,一定の裏付けも得られていたという証拠関係の下では,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえず,これらの証拠資料を検討したA73検事は,むしろ原告X6の弁解内容には信用性がないと判断したが,このことは,法の予定する一般的検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,かかる判断が行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえない。
なお,A73検事は,4回目会合事件を公訴提起(公判請求)するに当たり,自白している供述者が,他の3回の会合と混同していないか,供述内容を慎重に検討したが,4回目会合事件の状況について説明する各供述によれば,受供与金額が他の会合と異なり10万円とこれまでの会合の中では最も高額であったこと,候補者本人である原告X6が直接供与しているという特徴があったこと,本格的な料理の盛り皿が出されたという特徴があったこと,さらに,原告X11,A88が出席するなど参加者の人数が多数であったことが,他の会合と区別し得る特徴的出来事であると認められたことから,他の会合との混同はないものと判断したが,かかる判断が不合理であるとはいえない。
(キ) 第2次起訴のうち,1回目会合事件に関する公訴提起の適法性
a 原告X6の1回目会合事件の公訴提起時にA73検事が現に収集した証拠資料
A73検事においては,既に平成15年6月3日の時点で,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3及び亡A1の1回目会合について現金供与・受供与事実を認める供述や,これと整合する関係者の供述等,原告X6についても有罪の嫌疑を合理的に認定するに足る証拠資料を収集していたほか,同月4日以降強制捜査に着手した4回目会合事件の捜査の過程においても,原告X1の供述,原告X8の供述等,1回目会合事件における現金の供与・受供与事実を肯定する証拠資料が収集されていた。
b 複数の供述
これに加えて,「本件選挙の投票日の直後頃に,原告X6の意を受けた原告X1から,本件買収会合出席者に対して口止め料としての現金が配付され」た旨の複数の供述が得られており,これらの証拠資料も,原告X6の本件への関与を肯定する証拠資料となった。
他方,原告X6,原告X7及び原告X5らの上記公訴事実を否認する供述などの証拠資料も収集されたが,いずれも上記公訴事実を客観的に否定する証拠資料とまではいえなかった。
c 各供述の内容とも重要な部分において一致したこと
さらに,1回目会合事件について,同月4日以降に更に収集された要旨以下のとおりの供述(自白)があり,同月3日までに収集済みの前記各供述の内容とも重要な部分において一致している上,自白の経緯について何ら不自然な点もなかった。A73検事は,これらについても信用性が認められると判断したところ,同検察官のかかる判断が不合理とはいえないことは,その供述の内容に照らしても明らかである。
(a) 原告X1の供述要旨(乙国第61ないし67号証)
「2回目の逮捕事実の「私の家における選挙会合の際,出席したX6社長から現金3万円入りの封筒を渡され,会合に集まったa3集落の人などに渡したこと」も事実そのとおり間違いない。社長やX7さんをかばっていたが,私が嘘をついてX6社長をはめたと言っていると聞き腹が立つ。2年半くらい前の町議補選の際にも私の家にX6社長が来て,集まった人に投票のお願いをするお礼として現金入りの封筒を私が渡したことがあった。2月上旬頃の会合で,私は参加していた人たちに現金入りの茶封筒を2通ずつ渡した。封筒を開けて中身を確かめようということになり封を開けたり,夫のX9とX12さんが喧嘩になったことがあった。今回の4回の選挙の会合でもらったお金を2回X5さんに預けた。貯金するように頼まれたからである。なお,既に裁判にかけられているが,ちゃんと話した方がいいと思うので,進んで自分から話した。」
(b) 原告X8の供述要旨(乙国第68号証等)
「私は3月下旬頃にX9さん方でX6さんから10万円をもらったほかにも,2月下旬頃に現金5万円,3月中旬頃に現金5万円をX1さんからもらっており,このほかにも,2月上旬頃,X9さん方であった会合に出席した私の夫X4から,私の分だと言って現金3万円をもらったことがある。私は最初の1回目の会合は風邪をひいて寝込んで出席できなかった。」
d 供述の信用性が認められると判断した判断が不合理とはいえないこと
以上より,A73検事がこれらの供述の信用性が認められると判断した判断が不合理とはいえないことは,明らかである。
(10)  争点(2)ウ(第3次起訴までの捜査並びに第3次起訴,第4次起訴及び第5次起訴に関する検察官の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求の違法
2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求自体が違法であることは,これまでの勾留請求が違法であることと同様である。
(イ) 客観義務に違反する捜査の違法
A75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A80検事は,同年7月18日以降,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1をそれぞれ取り調べて,検面調書を作成しているものの,いずれも,供述調書の引き写しであって,そのような捜査は,客観義務に違反する。
(ウ) 弁護権侵害となる捜査の違法
a A78副検事
A78副検事は,平成15年7月18日,同月30日及び同年8月8日,原告X1を取り調べて,弁護人との接見内容等をそれぞれ聞き出して調書化した。
b A76副検事
A76副検事は,同年8月4日,原告X8を取り調べて,弁護人との接見内容等を聞き出して調書化し,同月9日,原告X4を取り調べて,弁護人との接見内容等を聞き出して調書化した。
(エ) 起訴後取調べの違法
a 公訴事実を認める旨の公判認否を維持させようとする取調べ
A77副検事は,第1次起訴強制事件の第2回公判期日において公訴事実を否認した被告人が多い中,それを認めた原告X3に対し,同期日の翌日である平成15年7月24日,取調べを行って,同月31日に行われる予定の公判期日において,第2次刑事事件の公訴事実の認否を認めて早く家に帰りたいと思う旨の供述調書に署名指印させているが,これは,およそ捜査に必要のない取調べであって,単に反対当事者たる被告人に公訴事実を認めるよう,心理的圧力を与えてものであり,取調べ権限の濫用・逸脱に他ならず,違法であることは明らかである。
b 公判の罪状認否で公訴事実を否認した者に対する取調べ
A80検事は,同年8月7日,原告X2を取り調べ,A77副検事は,同年8月10日,亡A1を取り調べ,それぞれ公判で公訴事実を否認した理由を聴取して調書化した。
当然ながら,原告X2及び亡A1が,自身が公判で否認したことについて,公判廷外で検察官にその理由を述べることを自ら申し出たなどという経緯は一切ない。
公判審理を離れて,被告人の公判認否の理由について取調べを行うことは,捜査に必要のない取調べであって,公判の反対当事者となった訴追機関が,恣意的に捜査機関に回帰して糾問的に被告人に接するものであり,取調べ権限の濫用・逸脱に他ならず,当事者主義,公判中心主義を潜脱する極めて違法性の高い捜査である。
(オ) 第3次起訴,第4次起訴及び第5次起訴の違法
a mホテルの本件宴会台帳による原告X6のアリバイの判明
本件刑事事件において,前記のA12警部及びA73検事は,いずれも,本件刑事事件の公判において,mホテルの本件宴会台帳により,本件新年会及び本件懇親会が開かれ,原告X6がそれらに出席していたことが平成15年7月24日に判明したと証言しており,そうであるとすれば,遅くとも,同日か同月25日頃に至り,原告X6のアリバイが判明したのであるから,当初立てた本件についての構図(見立て)は誤りであったことが捜査官にも明確かつ確定的に判明したということになる。
従って,当然ながら,捜査官としては,2回目買収会合,3回目買収会合も含めて,4回とも会合はなかったという冷静かつ合理的な判断をすべきであった。しかし,捜査官は,面子を重んじたのか,もはや予断と偏見に支配され真実を見極める目を失ったのか,同年8月12日,第3次起訴を,同月27日,第4次起訴を,同年10月10日,第5次起訴をそれぞれ行った。
もはや,捜査官らの違法行為は,確定的な故意に基づくものと言うべきである。
b 原告X3の自白の撤回
原告X3は,第1次刑事事件等における第2回(平成15年7月23日),第4回(同月31日)の両公判期日において,それぞれ事実を認めたが,第6回公判(同年9月3日)にいたって,平成15年8月12日付け追起訴の公訴事実を否認し,かつそれまで認めていた公訴事実についても,認める陳述を撤回し,否認するに至った。
この時点で,本件無罪原告らのうち,本件買収会合の事実を認める者は一人もいなくなったのであり,A73検事による第5起訴の違法性は顕著である。
イ 被告国の主張
(ア) 検察官の取調べの違法性の不存在
原告らの主張を争う。
(イ) 2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求の適法性
a 「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」の存在
まず,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」について,原告X6及び原告X7の両名とも事実関係を否認していたが,受供与被疑者であった原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び亡A1が事実関係を認めており,その自白の内容は,会合の場所がX1宅であり,受供与金額が5万円であったこと等の骨幹部分では符合していた上,1回目会合事件及び4回目会合事件に関する供述と同様,具体的な内容が含まれていた。
b 法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由の存在
勾留請求時までに現に収集した以上の証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に照らせば,A73検事が,原告X6及び原告X7に罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
刑事訴訟法60条1項各号該当事由についても,本件が選挙違反という民主主義の根幹を揺るがす重大犯罪であることに加え,同時点までの捜査において,原告X6が,複数回にわたって現金を供与していることが認められたところ,同人及び原告X7の両名は事実関係を全面的に否認していたことから,受供与事実を認めている者に働き掛けて供述の変更を依頼するなどして罪証隠滅工作に及ぶことが強く疑われた上,受供与者がいずれもa3集落又はその周辺の小集落に居住する者らであったことをも考慮すれば,通謀の上,それぞれの関与を否認したり,原告X6及び原告X7の関与を否認することも強く疑われたというべきであった。
また,平成15年6月20日付け原告X8の供述調書もあった。
そこで,A73検事が,原告X6及び原告X7に2・3回目会合事件について犯罪の嫌疑が存在し,刑事訴訟法60条1項2号,3号該当事由があり勾留の必要性が認められるとした判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているとはいえない。
したがって,原告X6及び原告X7に対する勾留請求が国家賠償法上違法となるものではない。このことは,A73検事が,勾留状の発付を受けてその執行を指揮し,原告X6及び原告X7の身柄を拘束した点についても同様である。
(ウ) 2回目会合等7月23日捜査事件の勾留延長請求の適法性
A73検事は,平成15年8月1日,原告X6及び原告X7につき,要旨「犯行日時の特定未了,受供与金の原資の特定未了,使途先の解明未了,被疑者及び関連被疑者の取調べ未了」として,同月3日から同月12日までの10日間の勾留期間の延長を請求した。
当初の勾留期間満了までに必要な捜査を尽くしたものの,勾留延長請求時点でも,原告X6及び原告X7はいずれも事実関係を否認したままであり,事実関係を認める原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び亡A1の供述によっても,いまだ各会合の開催日時の特定に至らず,供与・受供与の状況が明確に解明されていなかった上,引き続き供与金の原資や受供与者の受供与金の使途先等を解明するなどの所要の裏付け捜査を遂げる必要があり,これらを遂げなければ,原告X6及び原告X7につき,起訴・不起訴の終局処分を決することができないことは明らかであった。
したがって,刑事訴訟法208条2項の「やむを得ない事由」があったことは明らかであり,A73検事の行った原告X6及び原告X7の勾留期間延長請求が国家賠償法上違法と評価されるものではない。
(エ) 平成15年7月24日以後の捜査状況
a mホテルの本件懇親会の情報
A73検事は,平成15年7月24日,県警所属の警察官から,1回目会合事件に関連して,原告X6が同年2月8日にmホテルで開催された本件新年会に出席したとの情報を得て,さらに,同年7月25日,同警察官から,4回目会合事件に関連して,原告X6が同年3月24日にmホテルで開催された上小西地区自治会の本件懇親会に出席していたとの情報を得た。
1回目会合事件及び4回目会合事件の公訴事実における犯罪日時は,それぞれ「平成15年2月上旬頃」,「平成15年3月下旬頃」と特定されていたが,1回目会合事件の開催時期については同年2月8日を示す証拠資料があり,4回目会合事件の開催時期については同年3月24日を示す証拠資料があることから,両日が各会合事件の犯行日である場合,上記各情報の真偽,さらには,仮に真実として本件新年会及び本件懇親会の会場に原告X6が滞在していた時間次第では,原告X6にアリバイが成立する可能性があり,以後,その点に関する捜査が行われた。
b 平成15年2月8日の状況の捜査とアリバイ不成立の判断
まず,平成15年2月8日の状況について,原告X6の来場・退場時間を正確に示す客観的証拠はないものの,本件新年会の出席者,mホテル従業員,代行運転手に対する事情聴取が行われた結果,同日午後7時50分前後頃から午後9時30分頃までの間,本件新年会の会場に原告X6の姿が見えなかった旨の供述が得られた。
さらに,原告X6は,同日,同ホテルまで同窓生1名を乗車させて軽自動車を運転して赴き,同車を同ホテル裏側にある駐車場に駐車したのに,本件新年会の終了後,同人とともに同車に乗り,代行業者に運転させて同ホテルを出発した際には,同車が同ホテル裏側の駐車場ではなく同ホテル正面にある駐車場に駐車されていたことなどが確認された。
A73検事は,これらの証拠資料を総合勘案した結果,原告X6が,平成15年2月8日,mホテルで開催された本件新年会に出席したとする情報は真実と認められるが,同人は,当初,同ホテル裏側の駐車場に前記軽自動車を駐車して本件新年会に出席したものの,途中,同会場を抜け出し,同車を運転してX1宅に赴き,1回目会合に出席した後,同車を運転して同ホテルに戻り,同ホテル正面の駐車場に同車を駐車し,本件新年会に再度出席したと合理的に説明することが可能であったことから,1回目会合事件に関して,原告X6にアリバイは成立しないと判断した。
c 平成15年3月24日の状況の捜査とアリバイ不成立の判断
次に,平成15年3月24日の状況についても,原告X6の来場・退場時間を正確に示す客観的証拠はないものの,本件懇親会の出席者に対する事情聴取が行われた結果,原告X6が,mホテルで開催された本件懇親会に出席したとする情報は真実と認められるが,原告X6が本件懇親会の会場にいたのは,同月24日午後7時20分頃から約10分間程度にすぎないことが判明した。
そこで,A73検事は,原告X6が,同会場を立ち去ってX1宅に赴き,4回目会合に出席したものと合理的に説明することが可能であったことから,4回目会合事件に関しても,原告X6にアリバイは成立しないと判断した。
なお,本件刑事事件の第41回公判期日(平成17年6月29日)における弁護人冒頭陳述では,「原告X6が,同年3月24日午後7時から同日午後9時までの間に,mホテルで行われた本件懇親会に出席した後,有明町伊崎田地区の挨拶回りに出かけていた。」旨の主張がされ,その旨の立証活動が行われているところ,上記A73検事の判断には,この点が考慮されていないが,原告X6は,捜査段階の検察官の取調べに対して具体的な主張はしておらず,A73検事は,原告X6が本件懇親会の出席後に有権者方を訪問したかについては把握し得なかったのであるから,A73検事が通常要求される捜査を怠ったと評価することはできない。
d 出席の時間帯
また,原告X6が前記本件新年会及び本件懇親会に出席していたとされる時間帯は,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び亡A1らが供述する各会合の時間帯と若干抵触するものの,A73検事は,自白をしていた原告X1ら6名も,各会合の開始時刻を具体的に告げられていたものでもなく,また,実際に会合が開催された時点で時計で正確な開始時刻を確認していたわけでもないなど,各会合の時間帯に関する供述は,もともとおおよそのものでしかなかったことから,前記自白の信用性自体を否定するものではないと判断したが,かかる判断も,法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえない。
e 法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえないこと
A73検事は,以上の捜査結果を踏まえて,原告X6に1回目会合事件及び4回目会合事件のアリバイは成立しないものと判断したところ,かかる判断は,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案した上での判断であり,その判断は,法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえない。
(オ) 第3次起訴の適法性
a 公訴提起時にA73検事が現に収集した証拠資料
公訴提起時にA73検事が現に収集した証拠資料は,平成15年8月12日時点で,原告X6の被選挙権,原告X1らの選挙権の有無,選挙結果に関する証拠等はもちろんのこと,これまで指摘した1回目会合事件及び4回目会合事件について一貫して原告X6の関与を認めた原告X1らの各供述が既にあったほか,2回目会合事件及び3回目会合事件について事実関係を認めていた原告X1の供述(平成15年8月9日付け供述調書,同月10日付け供述調書(2葉のもの),同日付け供述調書(8葉のもの),同月10日付け供述調書(2葉のもの),同月11日付け供述調書,同月12日付け供述調書,同日付け供述調書),原告X2の供述(同月8日付け供述調書,同月9日付け供述調書,同月10日付け供述調書,同月11日付け供述調書等),原告X4の供述(同月6日付け供述調書,同月7日付け供述調書,同月9日付け供述調書,同月10日付け供述調書(4葉のもの),同日付け供述調書(12葉のもの),同日付け供述調書(4葉のもの),同日付け供述調書(5葉のもの)),原告X8の供述(同年7月25日付け供述調書),同年8月10日付け供述調書(4葉のもの),同日付け供述調書(2葉のもの),同日付け供述調書,原告X3の供述(同年7月25日付け供述調書,同年8月8日付け供述調書(12葉のもの),同日付け供述調書(4葉のもの),同月9日付け供述調書(9葉のもの),同日付け供述調書(4葉のもの),同月11日付け供述調書(3葉のもの),同日付け供述調書(3葉のもの))及び亡A1の供述(同月9日付け供述調書,同月10日付け供述調書(9葉のもの),同日付け供述調書(2葉のもの),同日付け供述調書(2葉のもの))を収集したほか,これらの供述を裏付ける証拠として,犯行再現の実況見分調書などの証拠資料を現に収集した。
b 公判期日における否認についての合理的説明
前記6名の各供述を検討すると,2回目会合事件については,平成15年2月下旬頃に,X1宅4畳半間において,原告X6,原告X7,A5及び原告X1が供与者側として,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3及び原告X5が受供与者側としてそれぞれ参加し,原告X6が会合の帰り際に原告X1に現金入り封筒を渡し,原告X6らが帰宅した後,原告X1が,自分の分を受け取るとともに原告X3と手分けして各人に配ったという事実につき,また,3回目会合事件については,同年3月中旬頃に,X1宅4畳半間ないし玄関外において,原告X6,原告X7,A5及び原告X1が供与者側として,原告X2,原告X4,原告X8,原告X3が受供与者側としてそれぞれ参加し,原告X6が会合の帰り際に原告X1に現金入り封筒を渡し,原告X6らが帰宅した後,原告X1が,自分の分を受け取るとともに原告X3と手分けして各人に配り,会合の途中で帰ろうとした原告X2は,玄関外で原告X7から受け取ったものという事実につき,いずれも供述内容がおおむね一致しており,かつ,各自白供述は,相互の供述を支え合い補完する関係にあった。
なお,同年7月23日の第2回公判期日において,原告X2及び亡A1が,1回目会合事件に関する罪状認否で否認する陳述をし,同年7月31日の第3回公判期日において,4回目会合事件に関する罪状認否で否認する陳述をし,さらに,原告X8も,同月29日の公判期日において,4回目会合事件に関する罪状認否で否認する陳述をしたことから,これらの者の自白の信用性が問題となったが,3名とも,公判期日においては四浦校区関係者が多数傍聴している中で起訴事実を認めれば四浦に帰ることができないと思い,事実関係を否認せざるを得なかった旨供述し,2回目会合事件及び3回目会合事件の各公訴事実に関して,捜査段階で認める供述をする経緯について何ら不自然な点もなかった。
c 複数の者による買収会合内容の具体的自白
このように,1回目会合事件,4回目会合事件に関する自白と同様,複数の者が買収会合に出席したことを認め,しかも,その内容に具体的なものが含まれていたという証拠関係の下では,上記各自白が信用できるとしたA73検事の判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえない。
d 供与金の原資
A73検事は,供与金の原資に関して,原告X6が経営する有限会社cにおいて,原告X6個人が所有する土地を利用して自主耕作して取得した甘藷を有限会社fが契約農家から仕入れた甘藷とともに焼酎製造会社に販売していたことに関連して,原告X7から,自社で耕作した甘藷であるにもかかわらず,仕入先の農家の名義を使用して農家から仕入れたかのように架空仕入を計上し,その支払名目で,平成14年10月から同年12月末までの間に,合計約150万円程度の現金を不正に捻出していた旨の供述を得たなどの捜査を遂行したが,自社耕作分の甘藷に係る帳簿類,伝票類の発見に至らず,十分な裏付けを得ることはできなかった。
e アリバイ不成立との判断
また,A73検事は,平成15年7月25日までに,原告X6が同年2月8日にmホテルで開催された本件新年会に出席したとする情報及び同年3月24日に同ホテルで開催された本件懇親会に出席したとする情報を得て,所要の捜査を行った結果,原告X6が本件新年会及び本件懇親会に出席したとしても,1回目会合事件及び4回目会合事件への出席は可能であり,原告X6のアリバイは成立しないと判断したが,かかる判断は不合理とはいえないことは,前記第2・4で述べたとおりである。
f A73検事による証拠資料の総合考慮の適法性
A73検事は,これらの証拠資料を総合考慮し,前記各自白が信用できると判断し,平成15年8月12日時点で,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,原告X6ら8名について,各被疑事件につき,有罪と認められる嫌疑があると判断したが,その判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度にまで達しているとはいえず,国家賠償法上違法となるものではない。
(カ) 第4次起訴及び第5次起訴の適法性
A73検事のこれらの判断についても,これまで述べてきたと同様,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとはいえず,国家賠償法上違法となるものではない。
なお,原告X5関連の2回目会合事件についての同人ら関係者の公訴提起(公判請求)が同年8月27日となったのは,原告X5が事実関係を否認していたため,証拠関係について,更に慎重に検討するのに時間を要したためであり,亡X12関連の1回目会合事件についての関係者の公訴提起(公判請求)が同年10月10日となったのは,亡X12が体調を崩すなどしていたため,その健康状態に配慮し,同人の取調べを再開したのが同年9月になってからであるためであった。
(11)  争点(2)エ(公訴追行に関する検察官の違法性の有無)
ア 原告らの主張
(ア) 公訴提起の違法に基づくもの
本件刑事事件の第1次起訴ないし第5次起訴は,いずれも違法であるから,その後の公訴追行も当然に違法である。
(イ) 公訴追行が違法となる特段の事情
加えて,以下の事情に照らせば,本件刑事事件の公訴追行が違法となる特段の事情があるというべきである。
a 弁護権侵害
検察官は,組織的に原告らと弁護人との信頼関係を破壊するような違法な取調べを行って,原告らを孤立無援にさせて虚偽の自白を維持させ続けてきた。
そして,それらの取調べは起訴後においてもなされており,これらは公訴での自白の維持を目的にされた違法なものである。
加えて,A73検事は,公判廷の自白を維持させるため,平成15年7月3日午前10時からの第1回公判期日直前の午前9時頃には,裁判所に対し,秘密交通権を侵害して国選弁護人と被告人であった原告X1や原告X4との接見状況を聞き出し,その接見において接見室の窓越しに家族からの手紙を接見禁止に違反して弁護人が被告人に読ませたとして,国選弁護人2名の解任を請求すると,予告してきた。これは,検察官は,当該国選弁護人が,罪状認否において弁護人が認否を留保するとする事前照会書の回答内容を知ったが,そのため,当該弁護人を排除する意図の下で,解任請求の予告を行った違法な行為である。
b 起訴後の取調べ
A77副検事は,同年7月24日,原告X3に対し,本件刑事事件で公訴事実を認める旨の公判認否を維持させるため,違法な起訴後の取調べを行っていた。
c 公訴事実の日時の不特定
本件で収集された証拠関係を前提としたとき,1回目会合と4回目会合が開催された日は,それぞれ平成15年2月8日及び同年3月24日とされるしかなく,そのほかの日に開催された可能性は,少なくとも証拠上あり得なかった。
すなわち,いずれの日に関しても,出席者のアリバイを洗い,出席できる可能性のある日を列挙して候補日を絞り,さらにその中から会合のあった日において記憶しているというイベント内容(テレビ番組や電話料金の振込み,家人の踊りのスケジュール)を無理矢理供述させるという捜査手法で,会合があった日を特定しているのである。
この結果,その日にイベント等がなかった関係者からはピンポイントで日付を特定する供述が得られなかったものの,明確な「記憶」と「体験」をしたとされる関係者に対しては,その日であるという供述をさせているのである。
このように,証拠上,日付を特定することは十分に可能であり,むしろ逆にその日以外に特定させることなどできようもない証拠構造であった。
かかる証拠構造を前提に,弁護人は公判の当初から特定を求め続けたにもかかわらず,検察官は特定は十分であるとしてこれを拒み続け,裁判所もこれに同調して特定を強く求めはしなかった。
結局,検察官が公訴事実(但し,1回目買収会合と4回目買収会合のみ)の日付を特定したのは第42回公判期日においてであった。
ところで,原告X6には,その両日に明確なアリバイがあり,会合に出席することなど不可能であった。
このことは,もとより優秀な刑事が集まる県警と同じく優秀な検察官が集まる検察庁の捜査能力をもってすれば,6月中には,アリバイの存在を把握していたはずであるが,少なくともA73検事及びA12警部の各証言を前提としたとしても,遅くとも平成15年7月24日及び同月25日に把握していたのである。
すなわち,実質的な第2回公判期日である同月7月31日の時点では,既にアリバイの存在を把握していたというのである。
検察官が,日時の特定をかたくなに拒み続けたのは,これを特定することによって事件そのものが崩れ去ることをおそれたからに他ならない。
検察官は,公益の代表者として,刑事手続においては真実を曲げていたずらに有罪を追求してはならず,誠実に捜査活動,訴訟活動を行うべき注意義務が認められると言うべきである。
これは,弁護士においてさえ,「弁護士は,真実を尊重し,信義に従い,誠実かつ公正に職務を行うものとする。」とされている(弁護士職務基本規定第5条)のであるから,法律家であり,かつ公益の代表者である検察官においては,その職務行為の結果が国民の人権侵害に直結する可能性が認められるところ,誠実に捜査活動,訴訟活動を行うべき注意義務は職務上の法的な注意義務であると言うべきである。
具体的には,本件においては,日時を特定することが可能であり,かつその日以外には会合の可能性が存在しなかったのであるから,公益の代表者である検察官としては,国民である被告人の利益を考慮し,かつ事案の早期解決のため,早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務があったと言うべきである。
しかるに,検察官は,原告X6に,同年2月8日及び同年3月24日にアリバイがあることを認識したにもかかわらず,訴訟を維持することだけを目的として,公判において公訴事実の日時を特定しなかったのであって,これは上記注意義務に違反する違法な不作為である。
d 身柄拘束
検察官は,平成15年6月3日の第1次起訴の後,必要性もないのに,不当な勾留請求,接見禁止等請求及び弁護人らの接見禁止解除請求,保釈請求・勾留停止請求に対しても,検察官は,執拗に反対意見を述べ続け,裁判所の保釈許可決定に対して抗告申立てを繰り返すなどして,身柄の解放を妨げた。
(ウ) 公訴の取り消しを求めなかったこと
上記のとおり本件では,平成15年2月8日及び同年3月24日という会合日時が証拠上認められ,そして証拠上その日以外には認められないにもかかわらず,原告X6のアリバイが存在したために,公訴を維持するために日時を特定しなかったものであるが,会合出席者の主要メンバーである原告X6にアリバイが成立する以上,公訴事実は存在しないことが明らかであった。
前述のとおり,検察官は公益の代表者であり,真実を前提として訴訟活動を行うべき注意義務があると言うべきであるが,一旦公訴提起した後に,公訴事実が存在しないことが判明した場合には,公訴提起されていること自体が被告人にとって不利益なのであるから,検察官としてはそれ以上公訴を維持することなく,速やかに公訴取り消しを請求し,あるいは結審させて無罪を求めるべき作為義務が認められると言うべきである。
しかるに本件においては,A73検事の証言を前提としたとしても,アリバイが判明した同年7月24日及び同月25日から,補充捜査を行うに最大限認められる20日間を過ぎた同年年8月15日以降,公訴事実が存在しないことが明らかとなったと言うべきであるから,その日以降,上記作為義務を果たさなかったのは,検察官としての注意義務に違反する違法な不作為である。
(エ) 有罪の論告及び求刑を行ったこと
これまで述べてきたとおり,本件においては,公訴事実はいずれも存在せず,でっち上げによる事件であった。
これは,証拠構造からしても検察官として十分に認識することができるものであった。検察官の論告においても,証拠の具体的詳細な検討は一切なされず,アリバイに関する証言を人間関係から虚偽であると主張するにすぎず,極めて説得力に乏しい主張しかし得なかったことからも,検察官が現にそれを認識していたことは明らかであった。
かかる状況においては,検察官としては公益を代表するものとして,真実を主張し,原告らに対して無罪の論告を行うべき注意義務が認められると言うべきである。
しかるに検察官は,何ら説得力のない有罪の論告を行ったものであり,これは検察官として注意義務に違反する違法な行為である。
イ 被告国の主張
(ア) 公訴追行に関する違法性の有無の判断基準
a 職務行為基準説・合理的理由欠如説
公訴追行の違法性の判断基準についても,職務行為基準説が妥当し,刑事事件において無罪判決が確定したというだけでは直ちに公訴追行が違法になるということはなく,その時点における証拠資料を総合勘案して,当該訴訟追行行為が,検察官が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反するか否かによって決せられるべきである。
そして,公訴追行時の検察官の心証は,公訴を提起した検察官と同じく,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解すべきであるが,公訴を提起した検察官が引き続いて公判を担当する場合はもとより,別の検察官が公判を担当する場合であっても,公訴追行時の検察官は,公訴を提起した検察官の収集した証拠及び心証を引き継いで公訴を追行することになることから,公訴提起が違法でないならば,公訴追行も原則として違法とはならず,公訴提起後,公判において前記嫌疑を否定する証拠が提出され,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至らない限り,公訴追行が違法とされることはないと解するのが相当である。
b 裁判例
この点について判例を見ると,いわゆる沖縄ゼネスト国賠最高裁判決(最高裁判所平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁)は,「公訴追行時の検察官の心証は,その性質上,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが当裁判所の判例であり,公訴の提起が違法でないならば,原則としてその追行も違法でないと解すべき」であると判示し,この理を明らかにしている。
その後,東京高等裁判所平成14年3月13日判決(判例時報1805号62頁)も,芦別国賠最高裁判決を引用して,検察官の公訴提起の違法性判断基準として職務行為基準説・合理的理由欠如説が妥当することを明らかにした上で,公訴追行の違法性判断基準として,「公訴追行時の検察官の心証は,公訴を提起した検察官と同じく,判決時における裁判官の心証と異なり,公訴追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解するのが相当であるところ,本件において,被控訴人甲野副検事の公訴提起が違法なものと認められないことは,前記(1)において判示したとおりであり,公訴を追行する検察官は,当然に公訴を提起した検察官の収集した証拠及び心証を引き継ぐことになるから,公訴の提起が違法でない以上,原則として公訴の追行は違法にならず,したがって,公訴提起後,公判において有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出され,それにより公訴提起時における証拠関係が崩され,全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待することができなくなったというような特段の事情が認められる場合でなければ,検察官の公訴追行が国家賠償法上違法とされることはないと解するのが相当である。」と判示している。
c 証拠資料の範囲
そして,検察官の公訴追行に関する違法性の有無を判断する場合の資料については,職務行為基準説・合理的理由欠如説に立つことの当然の帰結として,当該公訴追行行為の当時において検察官が現に収集した証拠資料,被告人側から現に公判廷に提出された証拠資料及び検察官が通常要求される捜査(補充捜査)を遂行すれば収集し得た証拠資料に限られると解すべきである。
その場合でも,公訴提起前と異なり,公判段階では当事者主義的構造が強化されることから,検察官が通常要求される捜査(補充捜査)の範囲には限度があるとともに,被告人側から公判廷に提出された証拠資料(弁護人請求証人の証言等)については,その信用性を吟味する上でおのずと一定の制約を伴うことから,証拠物等の客観的かつ明白な証拠資料でないものについては,上記判断資料に含めるとしても,合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑の有無を検討するに当たっては,その証拠価値の判断に留意の必要がある。
また,検察官の公訴追行に関する違法性の有無については,国家賠償請求をする者に当該公訴追行行為が違法であることを主張立証すべき責任があると解すべきである。そして,公訴提起が違法でないならば公訴の追行も原則として違法とはならず,公訴提起後,公判において前記嫌疑を否定する証拠が提出され,もはや全証拠関係を総合勘案しても,到底有罪判決を期待し得ない状況に至らない限り,違法とはならないのであるから,かかる状況に至り有罪と認められる嫌疑が消失したことが,国家賠償請求をする者により主張立証される必要がある。
(イ) 本件における嫌疑の程度と公訴追行に関する違法性の有無
a 各公訴提起に違法な点はないこと及び有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出される等の特段の事情もないこと
以上に述べた違法性の判断基準等を前提に,本件における公訴追行に関する違法性の有無について検討する。
本件においては,各公訴提起に違法な点はないのであるから,原則として,それらの各公訴提起に係る事件の公訴追行が違法となるものではない。
また,本件においては,公訴提起後,結審に至るまでの公判において,有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出されることにより公訴提起時における証拠関係が崩され,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至ったというような特段の事情も認められない。
前記のとおり,本件原告らは,「遅くとも平成15年8月半ばでも,訴訟を打ち切り,無罪の論告をすべきであった。」と,同時期以降の公訴追行が違法である旨を主張するが,同時期までに有罪の嫌疑を否定する証拠が提出された事実はなく,かかる主張は失当である。
b 原告らのアリバイ立証における客観的証拠の不存在
本件刑事事件の公判においては,第41回公判期日(平成17年6月29日)以降,本件原告らの弁護人らは,公判段階に至ってそれぞれ特定された1回目会合事件の犯行日である平成15年2月8日及び4回目会合事件の犯行日である同年3月24日における原告X6のアリバイを主張していた。そして,そのアリバイを立証するため,同年2月8日にmホテルで開催された本件新年会及び同年3月24日にmホテルで開催された本件懇親会への各出席者,原告X6の同行者及び同日の本件懇親会出席後に原告X6の戸別訪問を受けたとする有明町の支持者らの各証人尋問を行うとともに,詳細な被告人質問が実施された。
しかし,本件新年会及び本件懇親会への原告X6の来場時刻や退場時間を正確に示す客観的証拠は何ら提出されなかった。その上,証人として出廷した者の大半が,原告X6らの支援者又はその関係者であると認められるといった事情もあり,それらの各証人が原告X6らに殊更有利な証言をしている可能性があることなど,それらの証拠調べが終わった時点においても,有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出されたとはいえない状況にあった。
c 裁判例
ところで,前掲東京高等裁判所平成14年3月13日判決は,前記のとおり公訴追行の違法性判断基準を示した上で,「本件の場合,前記(1)のとおり,本件公訴提起時の証拠関係からすると公訴提起自体は違法とは認められないのであるが,その後の公判において,後記のとおり,A150鑑定,A151鑑定,さらに,すれ違い車両は冷凍車であった旨のA152の証言など,新たな重要な証拠が取り調べられたが,本件事故を起こした真の加害車両が発見されるなど,控訴人の有罪の嫌疑を根本的に否定する事実が明らかになったとまではいえない。」と判示して,有罪判決を期待することができなくなったというような「特段の事情」を限定してとらえている。
また,前掲東京高等裁判所平成18年6月14日判決は,国家賠償法上,検察官の控訴申立て及び追行の違法性判断基準についても,公訴提起及び追行と同様に解すべきであるとした上で,「第一審の無罪判決を覆して有罪判決を得る可能性があるとした検察官の判断過程に合理性がある場合には,控訴申立て及び追行は,検察官に控訴権を付与した刑事訴訟法351条1項の趣旨に何ら反するものではなく,被告人に明白なアリバイ証明があったとか,真犯人が検挙されてそれが間違いがないことが確認された等特別な事情が認められる場合を除いて,その権限を逸脱するものでもないから適法というべきである。」と判示するとともに,被告人側からアリバイ主張がされた事案で,有罪の嫌疑を否定する「特別な事情」が認められる場合といえるためには,「明白なアリバイ証明があった」ことが必要であると判示している。同判決が,そのアリバイ証明の明白性に関して,「真犯人が検挙されてそれが間違いないことが確認された」場合を挙げていることからすると,「アリバイ証明があった」場合とは,検察官においても争う余地がない程度に客観的かつ明白な証明があった場合をいうと解すべきである。
d 本件刑事事件の審理の過程
本件刑事事件において,原告X6が主張したアリバイについては,裁判所は,結果としてその成立を認めて原告X6らを無罪としたものであるが,その審理の過程においては,上記の各証人らの立場に照らして各証言の信用性を慎重に判断し,mホテルとX1宅との往復に要する時間等を把握するため,mホテルとX1宅との間を実際に自動車で往復して所要時間と距離を測定する検証を実施するなどするとともに,原告X1らの供述から原告X6がX1宅に到着した時間等を詳細に認定した上で,アリバイの成立を認めたものである。これらの審理の経過も踏まえると,上記弁護人らの証人尋問等によって「明白なアリバイ立証があった」とまでは到底いえないというべきである。
e 違法性の欠如
したがって,本件においては,公判において,有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出されたことにより公訴提起時における証拠関係が崩され,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至ったというような特段の事情は認められず,検察官の公訴追行が国家賠償法上違法となるものではない。
(ウ) 本件刑事事件の公訴追行におけるその他の事情
本件原告らは,本件刑事事件の公判における検察官の公訴追行について,職務上の注意義務に違反する行為があったと主張して種々論難するが,いずれも根拠がなく,国家賠償法上何ら違法となるものではない。
a 早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務の不存在
検察官に「早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務」などなく,原告らの防御権を侵害していないこと
原告らは,本件刑事事件で収集された証拠関係を前提とすれば,1回目会合事件と4回目会合事件の各犯行日は,それぞれ平成15年2月8日及び同年3月24日とされるしかなかったとした上で,検察官には,公益の代表者として,誠実に捜査活動,訴訟活動を行うべき注意義務が認められるというべきであり,本件においては,被告人の利益を考慮し,かつ事案の早期解決のため,「早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務」があったのに,各犯行日のアリバイを把握していたことから,これを特定することによって事件そのものが崩れ去ることをおそれ,1回目会合事件及び4回目会合事件の各犯行日時を故意に特定しないという違法な不作為により,本件原告らの防御権を侵害したなどと主張する。
しかし,1回目会合事件を公判請求した起訴状及び4回目会合事件を公判請求した起訴状の各公訴事実の記載は,各犯行日について訴因の特定に欠けるところはなく,刑事訴訟法の規定に照らしても何らの違法はない。本件原告らにおいて,これら公訴事実の記載が特定されていないことを前提に「早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務」があるとするのであれば,その主張は,その前提において既に誤っている。
すなわち,犯罪の日時等の特定に関しては,刑事訴訟法256条3項が,「公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには,できる限り日時,場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」と規定しているところ,これは,訴因は審判対象の範囲を画定するとともに被告人の防御の範囲を明らかにする機能を有し,そのためには,それを十分に特定するだけの記載が必要であるものの,他方,事案によっては,公訴提起時において詳細な具体的事実の記載を要求するのは必ずしも容易ではない事案があることを考慮したものである。したがって,訴因については,できる限り日時,場所及び方法をもって特定すべきこととし,犯罪の種類,性質等により,詳細な記載ができない場合には,幅のある表示をすることが許されており,他の訴因と紛れない程度に日時が特定されていれば足りると解されている(最高裁判所昭和37年11月28日大法廷判決・刑集16巻11号1633頁)。
本件において,検察官が,1回目会合事件及び4回目会合事件の各犯行日を,それぞれ「平成15年2月上旬頃」,「平成15年3月下旬頃」としたのは,本件が,関係者多数にわたる本件刑事事件という,会合の開催時期を示す直接証拠がなく,関係者の供述によってこれを特定せざるを得ないのが通例の事案である上,原告X6らが事実関係を否認し,具体的弁解内容も不明な状況の下で,原告X1らの供述等を総合しても,犯行日を特定する決め手に欠けていたという事情を考慮したためである。そのような状況下において,検察官は,供与金額等とあいまって,他の訴因と紛れない程度に訴因を「できる限り」特定して公訴を提起したものである。
したがって,これらの適法な記載について,検察官に「早期に公訴事実の日時を特定すべき注意義務」があったとする本件原告らの主張は,前提を欠いており,失当である。
b 弁護人からの釈明要求に対する応答義務の不存在
また,本件原告らは,検察官が公益の代表者であることを根拠に「公訴事実の日時を特定すべき注意義務」があると主張するところ,検察官が「公益の代表者」(検察庁法4条)としてその職務を行うべきことは論を俟たないが,このような一般的規定から,公訴追行の各場面における具体的な職務上の注意義務が直ちに導かれるものではない。他方,刑事訴訟法256条3項は,前記のとおり,検察官に「できる限り」日時,場所及び方法をもって訴因を特定しなければならないと規定するものの,幅のある記載を許容し,それ以上の特定を求めるものではないから,本件原告らが主張する上記注意義務が,「平成15年2月上旬頃」及び「平成15年3月下旬頃」という記載では足りず,さらなる犯行日の特定を求めるものであるとすれば,結局,本件原告らの弁護人からされた釈明要求に対する応答義務の有無という問題に帰着するといわざるを得ない。
公訴事実の記載について,裁判長又は陪席裁判官から釈明を求められた場合(刑事訴訟規則208条1項,2項),検察官はこれに応じなければならないと解されているのに対して,弁護人からの釈明の求めに応じなければならない根拠はないところ,1回目会合事件(別表番号1,2及び3)及び4回目会合事件(別表番号7)の各公訴事実の記載については,裁判長又は陪席裁判官から釈明は求められていないのであるから,検察官において,弁護人からの釈明の求めに応じなければならないものではなく,これに応じなかったからといって,検察官の職務上の注意義務に違反するものではない。実務上,訴訟の進行のため,弁護人からの釈明の求めに対して検察官が任意に応じる例もあるが,これは飽くまで任意の措置であり,応答が義務付けられるものではない。
c 本件刑事事件の公判期日における犯行時期の特定に関する検察官の対応等
(a) 第2回公判期日における対応(平成15年7月23日)
原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1に係る第2回公判期日(平成15年7月23日)に,亡A1の主任弁護人から,1回目会合事件の犯行時期が特定不足であり,具体的日時を特定すべきである旨の求釈明の申立てがされたのに対し,A73検事は,「訴因としては十分に特定されており釈明の義務はない。」旨回答した。裁判所も,検察官に釈明を求めていない。
(b) 第3回公判期日における対応(平成15年7月31日)
原告X1,原告X2,原告X4,原告X5及び亡A1に係る第3回公判期日(同月31日)に,原告X5の主任弁護人等から,同年6月3日付け起訴状記載の公訴事実(別表番号1)中の「平成15年2月上旬頃」とあるのは同年2月1日から同月10日までの間の特定の日時という趣旨であるかについての求釈明の申立てがされたのに対し,A73検事は,「「平成15年2月上旬頃」とは記載どおりの意味である。」旨回答した。裁判所も,検察官に釈明を求めていない。
また,同期日の検察官の冒頭陳述後,原告X2の主任弁護人から,1回目会合事件及び4回目会合事件の開催日の特定を求める旨の求釈明,原告X5の主任弁護人から,4回目会合事件の犯行時期が特定されなければ被告人の防御は困難である旨の発言があったのに対し,A73検事は,「犯行時期について,現時点で特定する必要はない。」旨回答した。裁判所も,検察官に釈明を求めていない。
(c) 第5回公判期日における対応(同年9月3日)
原告X1,原告X2,原告X4,原告X5及び亡A1に係る第5回公判期日(同年9月3日)に,A73検事は,「平成15年6月3日付け起訴状の記載の公訴事実(別表番号1及び2)及び同年7月17日付け起訴状記載の公訴事実(別表番号7)の犯行日時については,「2月上旬頃」及び「3月下旬頃」という以上の特定はできない。」旨回答するとともに,2回目会合事件及び3回目会合事件に関する弁護人による求釈明の申立てに対し,「平成15年2月下旬頃」とは同年2月21日から同月28日までの間の趣旨で差し支えなく,「平成15年3月中旬頃」とは同年3月11日から同月20日までの間の趣旨で差し支えない旨回答した。裁判所(裁判長)も,現時点で,それ以上の釈明は求めない旨表明した。
(d) 第6回公判期日における対応(同年9月3日)
原告X3に係る第6回公判期日(平成15年9月3日)に,原告X3の弁護人から,原告X3に対する平成15年6月3日付け起訴状記載の公訴事実(別表番号1)の犯行日時の特定を求める求釈明の申立てがされたのに対し,A73検事は「関係人の供述の中で具体的な日が述べられている箇所があるが,犯行日としてその日が絶対に間違いないとはいえない。現時点では犯行日時の特定の必要はない。」旨回答した。
裁判所(裁判長)も,「平成15年6月3日付け起訴状記載の公訴事実(別表番号1)は訴因としては特定されていると考える。」旨表明した。
(e) 第27回公判期日における釈明対応(平成16年9月24日)
A84検事は,元被告人であった原告ら全員の弁論併合後(以下同じ)の第27回公判期日(平成16年9月24日)に,A84検事及びA74検事の連名で作成した「公訴事実及び冒頭陳述要旨に対する釈明について」と題する書面において,1回目会合事件の日時に関しては,「各公訴事実及び冒頭陳述要旨における「平成15年2月上旬頃」とは,「平成15年2月8日頃」のことである。」と,4回目会合事件の日時に関しては,「(中略)「平成15年3月下旬頃」とは,「平成15年3月24日頃」のことである。」と釈明し,2回目会合事件及び3回目会合事件の各日時に関しては,それぞれ「平成15年2月下旬頃」,「平成15年3月中旬頃」であると釈明するとともに,口頭で「(中略)「平成15年2月8日頃」とあるのは平成15年2月8日に,(中略)「平成15年3月24日頃」とあるのは平成15年3月24日に限定するものではない。」旨釈明した。
(f) 第42回公判期日(平成17年7月15日)における釈明対応
第41回公判期日(平成17年6月29日)に,元被告人であった原告らの弁護人連名による「意見書及び求釈明書」が出され,1回目会合事件及び4回目会合事件の日時につき,それぞれ平成15年2月8日,同年3月24日と特定明示すべきである旨の求釈明の申立てがされた。
A84検事及びA74検事は,第42回公判期日(平成17年7月15日)に,1回目会合事件の時期につき平成15年2月8日,4回目会合事件の時期につき同年3月24日である旨それぞれ釈明した。
(g) 適時,適切な釈明
以上のとおり,検察官は,弁護人からの釈明の求めに応じる義務はないものの,必要に応じて適時,適切に釈明をしており,1回目会合事件及び4回目会合事件の各日時を故意に特定せずに被告人の防御権を侵害したなどという事実はない。この点,裁判所も,前記のとおり,訴因の特定は足りているとして釈明を求めることはなく,あるいは任意の釈明を促すことさえしていなかったことに照らしても,本件原告らの主張は失当である。
c 公訴追行の適法性
検察官には,公訴の取消しを申し立て,又は結審させて無罪を求めるべき注意義務などなく,公訴を追行したことは何ら違法ではないこと
原告らは,本件刑事事件においては,平成15年2月8日(1回目会合事件)及び同年3月24日(4回目会合事件)の各会合の開催日時に原告X6のアリバイが成立する以上,各公訴事実はいずれも存在しないことが明らかであったとした上で,検察官には,公益の代表者として,真実を前提とした訴訟活動を行うべき注意義務があり,公訴提起後に公訴事実が存在しないことが判明した場合には,公訴を維持することなく,速やかに公訴の取消しを申し立て,あるいは結審させて無罪を求めるべき注意義務があるとした上,本件においては,「アリバイが判明した7月24日及び25日から,補充捜査を行うに最大限認められる20日間を過ぎた平成15年8月15日以降,公訴事実が存在しないことが明らかとなった。」のであるから,同日以後,公訴の取消しを請求し,あるいは結審させて無罪を求めるべき作為義務があったにもかかわらず,これを果たさなかったのは違法な不作為であるなどと主張する。
しかし,公訴を追行する検察官に対して,公訴の取消しを申し立て,あるいは被告人の無罪を求めるよう義務付けることを求める法令の規定はなく,本件原告らの主張する「公訴取り消しを請求し,あるいは結審させて無罪を求めるべき作為義務」なるものは存在しない。
まず,公訴の取消しに関しては,刑事訴訟法257条が「公訴は,第一審の判決があるまでこれを取り消すことができる。」と規定しているのみであり,公訴の取消理由には,法律上何ら制限はなく,検察官が相当と認めるところにゆだねられており(伊藤栄樹・註釈刑事訴訟法第2巻500頁,河村博・大コンメンタール刑事訴訟法第4巻257頁),検察官には広範な裁量が与えられていると解されている。
そもそも,公訴の取消しは,起訴便宜主義(刑事訴訟法248条)を採ることの当然の帰結であって,上記のとおり検察官の広範な裁量にゆだねられ,「公訴取消しを請求すべき義務」を認める余地はない。また,実務上も,最高裁判所の判例変更により有罪判決を得られる可能性が乏しくなったことを理由に公訴を取り消し,あるいは公判の著しい長期化が懸念された無差別大量殺人事件において審理促進のために一部事件の公訴が取り消された例外的事案のほかは,専ら長期間にわたり所在不明となった被告人について行われているにすぎない。
他方,公判中に証拠不十分であること又は罪とならないことが明らかになった場合は,実務上,被告人の利益を考え,無罪の論告を行い,無罪の判決を求めるのが例である(伊藤栄樹・註釈刑事訴訟法第2巻501頁参照)。
したがって,被告人のアリバイの成否に関連する捜査結果が得られたというだけで,いまだ犯罪の合理的嫌疑が存在しているにもかかわらず,検察官に「公訴の取消しを請求すべき義務」があるとする本件原告らの主張は失当である。
また,原告らは「結審させて無罪を求める義務」なるものを主張するところ,公訴の取消し以外に,「結審させて」とは検察官のいかなる訴訟行為を求めるものか,必ずしも明らかではない(審理の終結は裁判長の訴訟指揮権に属すると解される。)が,公訴を追行(維持)したことについての違法をいう趣旨であれば,既に述べたとおり,検察官の公訴追行に違法性はなく,本件原告らの主張は失当である。
なお,本件原告らは,「アリバイが判明した7月24日及び25日から,補充捜査を行うに最大限認められる20日間を過ぎた平成15年8月15日以降,公訴事実が存在しないことが明らかになったと言うべきである。」と主張するが,補充捜査の期間を最大限20日間と限定する根拠は何もなく,既に述べたところから,平成15年8月15日の時点で本件原告らの嫌疑がなくなったとは到底いえない。
したがって,公訴提起後,平成15年8月15日の時点ではもちろんのこと,その後,原告X6のアリバイが主張され,弁護側の立証活動を経て結審に至るまでのいずれの時点であっても,検察官は,公訴の取消しを申し立て,あるいは結審させて無罪を求めるべき注意義務など負っていなかったのであって,検察官が公訴を追行したことに何ら違法はなく,本件原告らの主張は失当である。
e 検察官に「無罪の論告を行うべき注意義務」などなく,有罪の論告及び求刑を行ったことに違法性はないこと
(a) 公訴提起時の証拠関係が崩されたことがないこと
原告らは,さらに,証拠構造上,公訴事実がいずれも存在しないことは検察官にも十分に認識できたとした上で,かかる状況において,検察官には,公益を代表する者として,真実を主張し,「無罪の論告を行うべき注意義務」があるにもかかわらず,有罪の論告及び求刑を行い,論告中で本件原告らの行為を「民主主義の根幹を揺るがす犯罪」と主張するなどの違法な訴訟行為を行ったと主張する。
しかし,本件刑事事件の公判においては,「証拠調が終つた後」(刑事訴訟法293条1項)の時点にあっても,有罪と認められる嫌疑を否定する証拠の提出により,公訴提起時の証拠関係が崩され,全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待することができなくなったというような特段の事情は認められない。
本件刑事事件の第43回公判期日(平成17年7月29日)以降,主として証人尋問により,1回目会合事件及び4回目会合事件について,原告X6のアリバイ成立を企図した弁護側の立証活動が行われたほか,mホテルとX1宅との往復に要する所要時間と距離を測定する検証を実施し(平成18年2月15日),第50回公判期日(同年5月17日)に検証調書の取調べを実施するなどしたものの,なお,有罪と認められる嫌疑を否定する証拠が提出されたとはいえない状況にあった。
加えて,A84検事は,平成17年8月31日付け「証拠調請求書」により,原告X1ら6名の各自白調書並びにA111,A136及びA117の各供述調書について,刑事訴訟法322条1項又は同法321条1項2号の各該当書面として取調べ請求していたところであるが,裁判所は,第51回公判期日(平成18年7月27日)において,前記原告X1ら6名の各自白調書(約600通)について,任意性又は特信性を認め,同法322条ないし321条1項2号により証拠として採用するとともに,上記A111ら3名の各供述調書についても同様に同法321条1項2号により証拠として採用した。さらに第52回公判期日(同年9月29日)においても,原告X4が支払った携帯電話料金の領収証等の検察官請求証拠が裁判所によって採用されており,これらの証拠資料を総合勘案すれば,公判の最終局面に至っても,合理的判断過程により有罪と認められる嫌疑が消失したとまではいえず,到底有罪判決を得ることが期待できなくなったとまではいえない。
したがって,証拠調べが終わり,検察官が論告をすべき時点においても,各種の関係証拠を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があり,なお公訴を追行したことが違法となるものではない。
(b) 論告
論告は,証拠調べが終わった後,検察官が行う事実及び法律の適用についての意見(刑事訴訟法293条1項)の陳述である。すなわち,論告は,証拠の証拠能力及び証明力,並びに証拠によって認定されるべき事実とこれに対する刑事実体法規に関する意見を検察官が明らかにするものであって(佐々木史朗・註釈刑事訴訟第3巻142頁参照),証拠調べの結果について包括的な意見を述べて裁判所の注意を喚起し,その正しい判断形成に寄与することを目的とするものである。そして,論告は,刑事訴訟法が検察官に与えた重要な権限であり,その義務でもあるから,その目的を逸脱しない限り,それを行うことは正当な行為であって,違法の問題を生じないというべきであるが,本件原告らに対して検察官が行った有罪の論告に,法の目的を逸脱したと認めるような内容はない。
(c) 求刑
求刑は,刑の種類及びその分量に関する意見の陳述であって,有罪の主張をする場合には,認定し得る犯罪事実に対応する具体的な刑罰の種類及び分量に関する意見をも陳述するのが当然であって(最高裁判所昭和24年3月17日第一小法廷判決・刑集3巻3号318頁参照),やはり,何ら違法の問題を生じさせないというべきである。
したがって,検察官が本件原告らに対して有罪の論告及び求刑を行ったからといって,国家賠償法上違法となる理由はない。
(d) 無罪等の論告を行う義務の不存在
原告らは,ここでも検察官が公益の代表者であることを根拠に,「無罪の論告を行うべき注意義務」を主張する。確かに,証拠上無罪であることが明らかになった事案については,検察官が積極的にその旨の論告をすることこそ,公益の代表者としてその職責を全うするものであり(臼井滋夫「論告・求刑」公判法大系Ⅲ・79頁),公判中に証拠不十分であることや,罪とならないことが明らかになった場合は,実務上,被告人の利益を考え,無罪の論告を行うのが例である。また,有罪立証に不可欠な証拠が裁判所に採用されず,検察官が「しかるべき判決」を求めるという例もある。
しかし,そのような判断をするか否かは検察官にゆだねられ,無罪等の論告をしなければならない義務があるものではない。しかも,本件刑事事件においては,本件刑事事件という公訴事実の特質から,検察官において有罪立証の中心と位置づけた前記原告X1ら6名の自白調書が採用されている以上,証拠上無罪あるいは証拠不十分であることが明らかになったとはいえず,検察官が無罪の論告をすべき理由はどこにもない。
(e) 結論
以上を前提とすれば,結局,A73検事及びA84検事らに無罪の論告をすべき注意義務は認められないことは明らかである。
また,本件原告らは,論告中で「民主主義の根幹を揺るがす犯罪」と陳述したことについても違法である旨を主張する。この点,A84検事は,論告において「民主主義の根幹を支える選挙制度を根底から揺るがす悪質犯罪」であると陳述した。
しかし,上記陳述は,既に述べたように訴訟上の権利行使として行われ,その濫用に当たるものではないから,国家賠償法上違法となるものではない。
以上のとおり,検察官の公訴追行行為についても,国家賠償法上違法と評価されるものではない。
(12)  争点(2)オ(公訴提起後の身柄拘束に関する検察官の違法性の有無)
ア 原告らの主張
検察官は,平成15年6月3日の第1次起訴の後,不当な勾留請求,接見禁止等請求及び弁護人らの接見禁止解除請求,保釈請求・勾留停止請求に対しても,検察官は,執拗に反対意見を述べ続け,裁判所の保釈許可決定に対して抗告申立てを繰り返すなどして身柄の解放を妨げたが,これらはいずれも何らの嫌疑もなくされたものであって,上記各行為自体が,職務行為基準説,合理的理由欠如説に従えば,国家賠償法上,違法と評価されるべきものである。
イ 被告国の主張
(ア) 検察官の接見等禁止請求の違法性判断基準
接見等禁止(刑事訴訟法81条)は,逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるときに,裁判所が,検察官の請求により又は職権で,勾留されている被告人と刑事訴訟法39条1項に規定する者(弁護人又は弁護人となろうとする者)以外の者との接見を禁じ,又はこれと授受すべき書類その他の物を検閲し,その授受を禁じ,もしくはこれを差し押さえる内容の決定であり,刑事訴訟法207条1項により被疑者の勾留に準用されている。
この接見等禁止は,被告人又は被疑者が勾留されていることを前提とし,勾留だけでは賄いきれない逃亡又は罪証隠滅を防止するためのものであるから(小田健司・増補令状基本問題下142頁),勾留に付随するものとして,検察官の接見等禁止請求の違法性判断基準についても,勾留請求についてと同様,職務行為基準説が妥当するというべきである。すなわち,接見等禁止請求が国家賠償法上違法となるのは,その請求時において,被告人又は被疑者について逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由がなかったにもかかわらず,検察官として事案の性質上当然すべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断・評価を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過誤により,これを看過して接見等禁止請求がされた場合であることを要すると解するのが相当である。
検察官の接見等禁止請求に関する違法性の有無を判断する資料については,接見等禁止請求時において,検察官が現に収集した証拠資料のほか通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に限られること,また,接見等禁止請求の違法を主張する者は,検察官として事案の性質上当然すべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過誤により,これを看過して接見等禁止請求がされたことについて,主張立証責任を負担するものと解されることも勾留請求について述べたのと同様である。
(イ) 原告らの公判段階での接見等禁止請求の適法性
検察官が,公判段階において,検察官が接見等禁止請求を行ったのは,各請求時点で,被告人において起訴事実を否認していた上,受供与事実を認めていた受供与者に対する尋問が未了であり,弁護人以外の者との接見を許せば,接見者を通じて受供与事実を認めている者の家族等に有形無形の圧力をかけて虚偽の供述に翻させるおそれが極めて高く,逃亡又は罪証隠滅をすると疑う相当な理由があると判断したためである。本件刑事事件では,検察官請求に係る書証の多くが不同意(刑事訴訟法326条1項)とされ,人証により,検察官立証が行われることとなっていた公判予定等に照らすと,検察官の各判断に重大な過誤はなく,法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえない。
(ウ) 保釈許可決定に対する検察官の抗告の違法性判断基準
保釈(刑事訴訟法88条以下)は,一定の保証(保証金・有価証券・保証書)等の納付を条件として,勾留の執行を停止し,被告人を勾留による拘禁状態から解放する裁判とその執行をいい,保釈許可又は保釈請求却下の決定に対しては,抗告(同法420条2項)をすることができる(同法280条1項)。そして,保釈許可決定に対して検察官が行う抗告の理由は,権利保釈除外事由(同法89条各号)の有無又は裁量保釈(同法90条)を認めるのを相当とする特別の事情の有無についての原決定の誤りということに帰着するから,抗告を行うとした検察官の判断過程は,勾留請求における嫌疑及び必要性(特に罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由)の有無についての判断過程と類似する。
したがって,保釈許可決定に対する検察官の抗告の違法性判断基準についても,勾留請求についてと同様,職務行為基準説が妥当し,抗告の時点において,被告人について権利保釈除外事由が存在しないにもかかわらず,又は裁量保釈を認めるのを相当とする特別の事情が存在するにもかかわらず,検察官として事案の性質上当然すべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断・評価を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過誤により,これを看過して抗告がされた場合であることを要すると解するのが相当である。
検察官の抗告に関する違法性の有無の判断資料についても,抗告時において,検察官が現に収集した証拠資料のほか通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料に限られること,また,抗告の違法性を主張する者は,検察官として事案の性質上当然すべき捜査を著しく怠り又は収集された証拠についての判断を著しく誤るなどの合理性を欠く重大な過誤により,これを看過して抗告がされたことについて,主張立証責任を負担するものと解されることも同様である。
(エ) 原告らに対する保釈許可決定に対する抗告の適法性
各検察官がしたこれらの抗告は,それぞれの上記各「抗告及び裁判の執行停止申立書」に記載されたとおり,各時点において,刑事訴訟法89条3号,4号の権利保釈除外事由があり,かつ,裁量保釈を認めるのを相当とする特別の事情がないのにこれを許した各保釈許可決定に誤りがあるとしてされたものであり,これらの各判断は,いずれも,法の予定する一般的な検察官の判断として不合理とはいえない。
このことは,福岡高等裁判所宮崎支部が,1つの場合を除き,各保釈許可決定を取り消していることからも裏付けられる(なお,福岡高等裁判所宮崎支部がA84検事のした抗告を棄却したものについても,その理由は裁量保釈を相当と認めるというものであって,権利保釈除外事由については「被告人には,刑事訴訟法89条3号,4号に該当する事由があることを否定できない。」旨判示している(平成16年7月2日付け福岡高等裁判所宮崎支部決定)。
したがって,各検察官がそれぞれ保釈許可決定に対して抗告したことは,国家賠償法上違法となるものではない。
(13)  争点(3)(損害の発生の有無及びその額)
ア 原告らの主張
県警の捜査官及び検察官らの上記各違法行為により,本件無罪原告らは,以下のとおり,ある原告は病気になり,ある原告については入院を余儀なくされたり,さらにまた,ある原告は仕事が全くできなくなったりして生活の糧を失い,亡A1は被告人の地位に長く置かれたため肺ガンにかかり死亡し,いずれの原告も,極めて筆舌に尽くしがたい甚大な肉体的精神的苦痛を被っている。原告らの被った肉体的精神的苦痛とその損害額は別紙3-1ないし3-13のとおりである。
被告らの違法な公権力の行使と原告らの損害との因果関係は,被告らの違法な公権力の行使がいずれも本件無罪原告らを無辜の罪で有罪とするためにされたものであること,その違法な公権力の行使の結果,本件無罪原告らの一部により虚偽の自白がなされたこと,同自白によって本件無罪原告らは,長期にわたって,被疑者ないし被告人という不安定な立場に置かれたことから,本件無罪原告らに対する各違法な公権力の行使が,いずれもその行使の時点から亡A1を除く本件無罪原告らの無罪が確定する平成19年3月10日までの間まで精神的苦痛を生じさせたものというべきであって,両者の間に相当因果関係があることは明らかである。
また,県警の違法な公権力の行使と検察庁の違法な公権力の行使は,全て本件無罪原告らの有罪の獲得に向けられた一連一体のものであって共同不法行為の関係に立つというべきであるから,県警が本件無罪原告らに対して最初に違法な公権力の行使を行った日以降の全ての精神的苦痛に係る損害について,被告らは,連帯して損害賠償義務を負うというべきである。
亡X12を除く原告らは刑事補償金を受給しているが,これを控除しても,原告らの肉体的精神的苦痛を慰謝する金額は,2000万円を下らない。亡X12を除く原告らは刑事補償金を受給しており,被告県の損益相殺の主張のとおり,刑事補償金を原告らが主張する損害からの損益相殺の対象とすることは争わないが,これを控除しても,原告らの肉体的精神的苦痛を慰謝する金額は,2000万円を下らない。
また,原告らは,弁護士である原告訴訟代理人らに本件訴訟の追行を委任したが,その報酬はそれぞれの原告について200万円が相当であり,これは捜査官らの上記不法行為と相当因果関係のある損害である。
なお,刑事補償金は,上記損害金の遅延損害金に最初に充当されるべきである。
したがって,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,原告X8,原告X9,原告X10,原告X11及び原告X13は,それぞれ,被告両名に対し,国家賠償請求権に基づく損害賠償として,各自金2200万円及びこれに対する本件無罪判決が確定した平成19年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,同様に,被告両名に対し,原告X14は,各自金1100万0000円,原告X15は各自金275万0000円,原告X16は各自金275万0000円,原告X17は各自金275万0000円,原告X18は各自金275万0000円及び上記各金員に対する前同日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 被告らの主張
原告らの主張を争う。
仮に原告らに何らかの損害が発生していたとしても,前記第2・2(16)のとおり,亡A1及び亡X12を除く本件無罪原告ら及び原告X14は,いずれも刑事補償法に基づく補償金を受け取っており,これらは,各原告らの損害について損益相殺されるべきである。
(14)  争点(4)(消滅時効の成否)
ア 被告県の主張
(ア) 国家賠償法4条
国家賠償法4条は,国又は公共団体の損害賠償の責任については,前3条の規定によるの外,民法の規定による旨を規定し,民法724条は不法行為による損害賠償の請求権は,被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないときは,時効によって消滅し,不法行為の時から20年を経過したときも,同様とする旨を規定する。
(イ) 個別の行為ごとの消滅時効の進行
捜査活動によって損害を受けたとして損害賠償を請求する場合についても,当然これらの規定が適用されるわけであるが,個別の捜査活動の態様や捜査の過程での捜査員の言動が違法であると主張する場合,裁判例は,「護送,取調べに関してなされたとする原告主張の各違法行為が現実に行われたものならば,その各個の加害行為ごとに原告は直ちにこれを知り,その加害行為の加害者,損害及び右行為が違法であることをも当然に知ったはずであることはその行為自体で明らかである。」(東京地方裁判所昭和39年7月17日判決・判例時報381号9頁),「本件は,原告が本件逮捕,連行行為の際にさらし者にされたという屈辱感等を感じたことについて賠償を求めるものであるが,原告らは,本件行為時点において自らが受けたとする損害を認識していたというべきであり,かつ,本件行為の加害者が警視庁所属の警察官らであったこと及び各人の容貌や一部の者の名前を認識しており,その姓名を具体的に知らなくても賠償請求の相手方を具体的に特定して認識することができたものというべきであるから,原告が民事訴訟を提起し,相手方の違法な行為によって損害を受けたと主張し,右主張について司法判断を求めることが可能であったことは明らかである。」と判示している(東京地方裁判所平成5年10月4日判決・判例時報1491号121頁)。
したがって,捜査過程における個別の違法行為に関しては,被害者において,必ずしも刑事事件の判決の確定を待たなくては当該行為の違法性とこれによる損害を判断し得ないものではないため,個別の行為ごとに被害者が損害及び加害者を知った時点から消滅時効が進行する。
(ウ) 消滅時効の起算点
消滅時効の起算点について,裁判例では,「民法724条にいう「損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し,同条にいう被害者が加害者を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である。」と判示されている(最高裁判所平成16年12月24日第二小法廷判決・判例時報1887号52頁)。
また,国家賠償請求訴訟における加害者については,公務員の氏名等を個別的に特定することまでは必要ではないとされている(最高裁判所昭和57年4月1日第一小法廷判決・民集36巻4号519頁)。
原告らの訴状等からも明らかなとおり,原告らは,個々の取調べ日や加害者とする公務員を特定し,個々の任意同行や取調べの態様等の違法性を主張しており,原告らが,捜査段階においてこれらの事実を認識していたことは明らかである。
加えて,警察官らは,いずれも県警察の警察官であることを明示し,自らの名前を名乗った上で任意同行や取調べなどに当たっており,原告らが,当時から少なくとも賠償請求の相手方を十分に特定し得る程度に「加害者」を認識していたことも明らかである。
したがって,原告らは,任意同行や取調べ等が行われた時点で権利の行使をなし得べき事実について認識しており,損害賠償請求が事実上可能な状況にあったと認められることから,この時点から消滅時効は進行しているとみるべきである。
なお,原告らは,「実際上,刑事裁判が係属した者は,公判手続において当事者として全力で応訴しなければならないのであり,これと並行して別途,捜査の違法につき民事裁判を提起することは事実上不可能であって,刑事司法手続が終了した時点から,賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に至ったと言うべきである。」などと主張するが,このような主張は,およそ刑事裁判が争われている間は,不法行為の消滅時効が進行しないという,不合理かつ根拠不明の独自の解釈であり,到底容認することはできない。
(エ) 違法行為の認識
原告らは,「取調べ行為自体は,捜査官の職務行為として行われているのであるから,通常,取調べを受けた者は,取調べ中に上記のような極端な加害行為がなされない限り,その取調べ行為は適法なものと信じているのであって,その行為の違法性の認識は困難である。ことに本件の場合,取調べを受けた原告らは,これまで刑事手続に無縁の生活を送ってきた善良な一般市民だったのであり,法的知識にも乏しかった。」などと主張するが,刑事裁判において,原告X1は,「押し付けられて,全部言わされました。」と自白を強要された旨の証言をしたり,亡A1が作成した甲総ア第405号証の1「A1ノート」3頁には,「これがいうどうじんもんかと思いがっかりしました。」と「誘導尋問」についての記載があるなど,原告らの意識の中には,警察官の取調べについて,刑事裁判の段階で加害行為との認識を有していたことが認められ,違法行為の認識は困難であったなどとする原告らの主張は不自然・不合理である。
また,原告らの中には,任意取調べの段階から弁護士に相談する者もおり,法的知識について十分助言をもらえる環境にあったことから,原告らが法的知識に乏しかったなどというのも失当である。
さらに,原告らは,「刑事裁判において,捜査官の取調べ行為の違法性について争っていたのであり,かかる場合においては,まず刑事裁判において,取調べの違法性に関する司法の判断を仰ぎ,その結果を待って,はじめて捜査官の取調べ行為の違法性を確定的に認識することができるというべきである。」などとも主張するが,原告らが主張する「取調べ等の違法」については,刑事事件の判決如何でその評価が変わり得る性格のものではないことから,原告らは「取調べ等の違法」として主張する各事実行為が行われた時点で,「違法な行為」によって損害が発生したことを認識していたというべきである。
原告らは,「逮捕状請求の違法を理由として国家賠償請求がなされた事案において,刑事司法手続が完結していない段階での国家賠償請求訴訟の提起を制限した裁判例が存する(最判平成5年1月25日,民集47巻1号310頁)。また,警察官の不当逮捕の事案において,嫌疑なしの不起訴処分の通知があった時から消滅時効が進行する旨判示した裁判例も存する(福井地方裁判所昭和33年6月25日判決)」などと主張する。
しかし,上記平成5年の裁判例は,被疑者が逃亡中のため,逮捕状の執行ができず,その更新が繰り返されているにすぎない時点で,逮捕状の請求,発付における捜査機関又は令状発付裁判官の判断の違法を主張して,国家賠償を請求することは,密行性が要求される捜査の遂行に重大な支障を来す結果となるため,許されないとされたものであり,また,上記昭和33年の裁判例は,原告が損害を知った日は,不起訴処分の通知を受けた日であると認定されたものであって,個別の捜査活動の態様や捜査の過程での捜査員の言動が問題となっている本件とは事実を全く異にするものであるから,本件における時効を判断するに当たって全く参考にならない。
本件においては,逮捕された原告らは,平成15年9月3日の公判期日までに全員が買収会合について否認しており,また,亡X12にあっても,同月16日の取調べにおいて否認していることから,当時から,それぞれ「取調べ等の違法」について認識していたことは明らかである。
そして,本件に関しては,同年3月26日にA5ビール事件の端緒情報を入手した後,同年9月16日までの間に原告らの取調べ等を全て終えているところであり,そうすると,原告らが訴状本文や訴状別紙で主張する「取調べ等の違法」など,捜査過程における個別の違法な行為に関しては,その時期が特定されていないものもあるものの,最も遅くても同月16日までに行われたものであることは疑う余地もなく,本件訴訟が提訴された平成19年10月19日の時点で既に消滅時効期間3年以上が経過し,時効を中断する特段の状況も認められないことから,損害賠償請求権が消滅していることは明らかである。
イ 被告国の主張
(ア) 国家賠償法4条,民法724条前段所定の消滅時効の完成
原告らが違法事由として主張する検察官の職務行為のうち,少なくとも検察官が被告人であった原告らの取調べの際に弁護人との接見状況を聴取した点を理由とする部分については,仮に損害賠償請求権の発生が認められるとしても,本訴提起時点で既に国家賠償法4条,民法724条前段所定の消滅時効が完成している。
(イ) 平成15年に行われた行為であること
すなわち,原告らの主張を前提としても,上記取調べにおける接見状況の聴取という行為は,いずれも平成15年中に行われたものであるところ,被告人であった原告らはその各聴取時点においてその損害及び加害者を知ったということができる。
また,被告人であった原告らの弁護人らは,平成16年4月16日に正に上記取調べにおける接見状況の聴取を違法事由として被告国に対し損害賠償請求訴訟(接見国賠訴訟)を提起したのであるから,どれほど遅くともその時点では,被告人であった原告らも上記取調べにおける接見状況の聴取を違法事由として被告国に対し損害賠償請求をすることが可能な程度に「損害及び加害者を知った」(民法724条前段)といえることは明らかである。
(ウ) 本訴提起時(平成19年10月19日)までの3年以上の経過
そして,少なくとも上記の日(平成16年4月16日)から本訴提起時(平成19年10月19日)までに3年以上が経過しているから,接見内容を聴取した行為に係る損害賠償請求権については既に消滅時効が完成している。
したがって,少なくとも検察官の取調べにおける接見状況の聴取という行為を違法事由とする本件原告らの請求は,この点のみからしても理由がない。
ウ 原告らの主張
(ア) 時効の起算点が本件無罪判決の確定日であること
a 民法724条の「損害及び加害者を知った時」
民法724条の「損害及び加害者を知った時」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況の下に,その可能な程度において損害及び加害者を知った時を意味する(最高裁判所平成14年1月29日第三小法廷判決,最高裁判所昭和48年11月16日第二小法廷判決等)。すなわち,賠償請求が事実上可能な状況の下に至らなければ,消滅時効は進行しない。
本件の場合,捜査官による違法な取調べ行為は,本件公職選挙法違反事件について,有罪立証のための虚偽の自白を獲得する手段として行われたものである。その後,原告らは,公職選挙法違反被疑者として起訴されたが,刑事裁判において,原告らのうち,虚偽の自白に追い込まれた者達は,自己の虚偽の自白の任意性・信用性を激しく争い,また,虚偽の自白に至らなかった者達も捜査官の違法な取り調べ行為を指弾し,共犯者供述の信用性を激しく争って,無罪判決を求めて争った。
実際上,刑事裁判が係属した者は,公判手続において当事者として全力で応訴しなければならないのであり,これと並行して別途,捜査の違法につき民事裁判を提起することは事実上不可能であって,刑事司法手続が終了した時点から,賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に至ったと言うべきである。
b 「損害」
また,「損害」とは,単に損害が生じたことを知っただけでは足りず,それが違法行為によって生じたことをもあわせ知る必要がある(東京高判昭和39年2月15日)。すなわち,被害者は加害行為の違法性を認識していなければならない。
この点,捜査官による違法行為について考えてみると,捜査官が被疑者被告人に対して,直接的に殴る蹴る等の暴行を加えたような違法行為の態様であれば,捜査官の加害行為の違法性は明白である。
しかしながら,そもそも,取調べ行為自体は,捜査官の職務行為として行われているのであるから,通常,取調べを受けた者は,取調べ中に上記のような極端な加害行為がなされない限り,その取調べ行為は適法なものと信じているのであって,その行為の違法性の認識は困難である。
ことに本件の場合,取調べを受けた原告らは,これまで刑事手続に無縁の生活を送ってきた善良な一般市民だったのであり,法的知識にも乏しかった。かかる原告らに対してされた捜査官の違法な取調べ行為の内容は,利益誘導や病中の取調べ,長時間・長期間の取調べ,切り違い尋問等の自白強要の取調べ等であり,いずれも違法と評価されるべきものではあるが,その内容及び経過に照らすと,原告らは容易に違法性の認識を持ち得るものではなかった。
そして,上記のように,原告らは,引き続いて行われた刑事裁判において,捜査官の違法な取調べ行為を指弾し,違法な取り調べ行為を行った結果,獲得した虚偽の自白について,その任意性・信用性を激しく争い,無罪判決を求めて闘っていた。すなわち,原告らは,刑事裁判において,捜査官の取調べ行為の違法性について争っていたのであり,かかる場合においては,まず刑事裁判において,取調べの違法性に関する司法の判断を仰ぎ,その結果を待って,はじめて捜査官の取調べ行為の違法性を確定的に認識することができるというべきである。
結局,本件のような場合には,刑事裁判が終了した段階で加害行為の違法性を知ったと言うべきである。
なお,逮捕状請求の違法を理由として国家賠償請求がなされた事案において,刑事司法手続が完結していない段階での国家賠償請求訴訟の提起を制限した裁判例が存する(最高裁判所平成5年1月25日第二小法廷・民集47巻1号310頁)。また,警察官の不当逮捕の事案において,嫌疑なしの不起訴処分の通知があった時から消滅時効が進行する旨判示した裁判例も存する(福井地方裁判所昭和33年6月25日判決)。
(イ) 権利濫用
仮に,被告らの主張に沿って考えてみると,原告らは,刑事裁判において,自白を強要する違法な取調べを大きな争点として,司法の判断としての無罪判決を求めて争っているまさにその最中に,同じ争点につき民事訴訟の提起を強いられるという非現実的で不都合極まりない事態に陥ることを改めて強調したい。これでは,本件のように捜査段階から無罪判決が確定するまでの間に3年以上が経過するという我が国の一般的事案において,原告らのように被疑者・被告人とされた者は,そのほとんどが,捜査機関から違法な捜査を受けたことにつき,民事訴訟で救済を求める機会すら与えられないという結果に陥る。このような事態は法の予定するところではないし,消滅時効制度の趣旨にも反する。原告らは,刑事裁判において,捜査官によって違法な取調べがされたことを訴え,無罪判決を求めて激しく争い,無罪判決確定後,約半年経過後には,本件訴訟を提起するに至っているのであり,原告らは決して権利の上に眠る者たちではない。また,時効の完成を云々する以前に,強大な権力を有する被告らが,その強大な権力を利用して組織的に人権侵害を行った本件において,時効援用の主張を行うこと自体が権利の濫用であって許されるものではない。
第3  当裁判所の判断
1  事実関係
前記第2・2の前提となる事実,掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
(1)  四浦校区の状況
ア 人口及び世帯数
旧志布志町の人口は,本件選挙当時,1万8500人ほどであり,このうち,四浦校区の総世帯数は,64世帯129名,a3集落の総世帯数は,6世帯21名であった。
四浦校区内では,四浦校区唯一の小学校である四浦小学校の本件選挙当時の児童数が8名である。四浦小学校の付近では,人車の通りも少なく,高齢者の多い地域である。(甲総ア第3号証,弁論の全趣旨)
イ 公民館の活動
四浦校区では,四浦校区公民館を通じて,地域行事などの多くの活動が行われており,四浦校区公民館の運営は,四浦校区内の集落の住民の中から選出された公民館長,副公民館長,会計,主事及び各集落の代表者で構成される審議委員会(以下「四浦校区審議委員会」という。)を中心に行われていた。
四浦校区公民館の公民館長は,本件選挙当時,A102公民館長であり,副公民館長は,A103副公民館長であった。(甲総ア第16号証,甲総ア第25号証の437,甲総ア第424号証)
ウ 通話困難地域
四浦校区は,平成15年当時,携帯電話のサービスエリア外の,いわゆる通話困難地域であった。(甲総ア第25号証の470及び同471,同1054(乙国第42号証),弁論の全趣旨)
(2)  本件無罪原告らの身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
ア 原告X6及び原告X7の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(ア) 原告X6の身上,経歴
原告X6(昭和20年○月○日生まれ)は,本件選挙において,当時の曽於郡区から保守系無所属の新人候補者として立候補して当選した候補者であり,旧志布志町で出生し,中学校を卒業後は,実家の農業を手伝うなどし,昭和40年頃から農業,精米業,雑穀商等を営んでいた。
原告X6は,その後,農業,精米業,雑穀商等の事業を法人組織化してf社を設立して,その後,不動産管理会社である有限会社b及び有限会社cを設立し,また,d社を買収により取得して,それらの会社の経営を行っている。
(イ) 原告X7の身上,経歴
原告X7(昭和23年○月○日生まれ)は,原告X6の妻であり,旧志布志町で出生し,中学校を卒業後,農協に勤務するなどしていたが,昭和45年に原告X6と婚姻した。原告X6と原告X7との間には,長女A139,長男A129及び二女A153が生まれた。
(ウ) 本件選挙当時の原告X6及び原告X7の生活状況等
原告X6は,本件選挙当時,d社の代表取締役,f社外2社の取締役に就任していた。
原告X7は,原告X6との婚姻後,原告X6の上記各事業に関与するようになり,本件選挙当時,f社外1社の代表取締役,d社の取締役に就任していた。
原告X6が経営に関与していた上記各会社の平成15年当時の総売上は,f社が5億円弱,d社が約1億円,有限会社bが約1000万円,有限会社cが1億5000万円ないし1億6000万円の合計約7億7000万円ないし7億8000万円である。
原告X6は,平成9年から平成11年にかけて,当時の志布志町商工会の会長を行い,平成13年1月に行われた当時の志布志町議会議員補欠選挙(前回選挙)に立候補して当選したが,平成15年1月頃,本件選挙への立候補を決意し,同町議会議員を辞職し,本件選挙における選挙運動を妻である原告X7とともに行っていた。(甲総ア第144号証,甲陳第5号証,甲陳第6号証,弁論の全趣旨)
(エ) 原告X6及び原告X7の関係者
a A5
A5は,原告X6の従姉妹の婿に当たり,本件選挙における原告X6の選挙運動員であって,旧志布志町の大原地区責任者として活動していた。A5は,志布志市内でビジネスホテルであるiホテルを経営している。(争いのない事実)
b A89
A89は,昭和62年頃から,f社に勤務し,本件選挙当時,f社の副社長の地位にあった。(甲総ア第514号証の1,甲総ア第535号証)
c A113
A113は,平成11年頃からf社の従業員であり,同従業員として主に農作業に従事していた。(甲総ア第516号証の1,甲総ア第523号証)
d A114
A114は,平成6年頃からf社の従業員であった。(甲総ア第518号証の1,甲総ア第524号証)
(オ) X7ノート
原告X7は,本件公職選挙法違反事件に係る身柄拘束中,原告X7が受けた取調べ内容等を記載したX7ノートを作成していた。(甲総ア第317号証ないし819号証)
イ 原告X1及び原告X9の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第25号証の455,同992,同2740,同2932,同2934,甲総ア第325号証,甲総ア第375号証,甲総ア第429号証の1,甲総ア第492,甲総ア第493,甲総ア第537号証の1及び2,甲総ア第544号証,甲総ア第551号証,甲総ア第562号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X1の身上,経歴
原告X1(昭和28年○月○日生まれ)は,大崎町で出生し,中学校を卒業後,パチンコ店や紡績工場の従業員として2年ほど稼働した後,昭和47年,原告X9と婚姻した。
(イ) 原告X9の身上,経歴
原告X9(昭和19年○月○日生まれ)は,旧志布志町で出生し,中学校卒業後,実家の農業に従事し,その後,機械修理工として稼働した後,昭和47年,原告X1と婚姻した。
(ウ) 原告X1夫妻の生活状況
原告X1夫妻は,婚姻後,大阪府及び神戸市に移り住み,原告X9がトラック運転手として,原告X1が弁当屋でそれぞれ稼働して生計を立てていたが,昭和52年頃,原告X9の実家のある現住所において居住するようになって,原告X9は,その後,機械修理工や農業に従事し,平成14年2月から本件選挙当時,農協のパート勤務に従事するなどし,原告X1は,農業に従事するなどし,平成5年頃から,f社の従業員として勤務し,本件選挙当時,f社又はその関連会社が運営する農場での農作業等に従事していた。
原告X1夫妻は,本件選挙当時,a3集落にある居宅において,原告X1夫妻及びその長男であるA117及び二男であるA145と同居してきた。原告X9の父であるA112は,同一敷地内の別棟に居住している。原告X1夫妻の長女であるA146は,本件選挙当時,婚姻して鹿児島県鹿屋市内に居住していた。
原告X1夫妻の平成15年当時の収入は,原告X9の給料収入が手取りで毎月約15万円,原告X1の給料収入が手取りで毎月約10万円,A112の年金収入が2か月に1回の割合で3万8000円であり,負債は,農協からの借入れ及び公租公課の滞納分の残額がそれぞれ20万円ないし30万円あって,毎月合計で3万円ないし4万円ずつ返済していたほか,宮崎県串間市内の青果業者に対する借入れが100万円ないし200万円あり,その返済が年間で20万円,A145の奨学金の返済が年間で8万円であった。原告X1名義の郵便貯金口座の貯金残高は,平成14年から平成15年3月にかけて,概ね40万円から70万円の間で推移しており,原告X9の郵便貯金口座の貯金残高は,平成14年から平成15年4月にかけて,概ね60万円から90万円の間で推移している。
原告X1夫妻に前科前歴はなく,原告X9に交通違反歴が1回あるのみである。
(エ) 原告X1の関係者
A104(旧志布志町帖在住)及びA87(旧有明町在住)は,いずれも原告X1の姉であり,A105は,原告X1の姪である。
(オ) X1ノート
原告X1は,本件公職選挙法違反事件に係る身柄拘束中,C1弁護士の指示で,原告X1が受けた取調べ内容等を記載したX1ノートを作成していた。
ウ 原告X2及び原告X10の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第387ないし390号証,甲総ア第25号証の993,同2938,同2939,甲総ア第429号証の342,甲総ア第538の1及び2)
(ア) 原告X2の身上,経歴
原告X2(昭和23年○月○日生まれ)は,旧志布志町で出生し,中学校卒業後,鹿児島県内において家畜人工受精師の資格を得て稼働したが,その後,大阪府内に出稼ぎに出るなどして,昭和49年,原告X10と婚姻した。
(イ) 原告X10の身上,経歴
原告X10(昭和24年○月○日生まれ)は,沖縄県で出生し,中学校を卒業後,愛知県の紡績会社に集団就職し,その後,大阪府内の縫製会社等で稼働して,昭和49年,原告X2と婚姻した。
(ウ) 原告X2夫妻の生活状況
原告X2と原告X10は,昭和51年頃から,原告X2の実家のある現住所において居住するようになり,以後,原告X2は,実家の家業である甘藷の栽培,牛の飼育等に従事し,平成2年頃から本件選挙当時まで,牛の飼育に従事しながら,旧志布志町内の会社で重機オペレーター等として勤務し,原告X10は,本件選挙当時,原告X2の実家の家業である上記牛の飼育等に従事しながら,農協等でパート勤務するなどしていた。
原告X2夫妻は,長女であるA148及び二女であるA147をもうけたが,同女らは,いずれも独立して鹿児島県外に居住しており,原告X2夫妻は,本件選挙当時,a3集落にある居宅において2人暮らしであった。原告X2の父であるA154及び母であるA155は,原告X2夫妻の居宅と同一の敷地内の別棟に居住している。
原告X2夫妻の平成15年当時の収入は,原告X2の給料収入が毎月約25万円,原告X10の給料収入が毎月約10万円,牛の売却に係る年収が約110万円であり,負債は,農協からの借入れの残額が500万円あり,毎月の返済が10万円であった。
原告X2夫妻に,前科・前歴はない。
(エ) 原告X10の書簡
原告X10は,本件公職選挙法違反事件に係る身柄拘束中,C3弁護士宛に,数日ないし1週間程度の間の原告X10が受けた取調べ内容等を記載した手紙(以下「X10書簡」という。)を送付していた。
エ 原告X3の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第25号証の382,同383)
(ア) 原告X3の身上,経歴
原告X3(昭和5年○月○日生まれ)は,宮崎県内で出生し,尋常高等小学校を卒業後,家業の農業に従事していたが,昭和28年,親戚夫妻の養子になるとともに,同夫妻の養女であったA136と婚姻して,現在の住所に居住して農業に従事しながら,平成5年頃から,シルバー人材センターの会員になり,本件選挙当時,主に農作業等の業務の紹介を受けて稼働していた。
(イ) 原告X3の生活状況
原告X3は,A136との間に4人の子をもうけたが,いずれも婚姻等により独立し,本件選挙当時,a4集落にある居宅において,A136と2人暮らしであった。
原告X3及びA136の平成15年当時の収入は,原告X3の給料収入が毎月約5万円,A136の給料収入が毎月約5万円あるほか,年金収入があり,貯金は2人で合計約200万円であり,負債はなかった。
原告X3は,シルバー人材センターの紹介を通じて,平成14年9月から同年12月まで,f社又はその関連会社が運営する農場での農作業に従事した。
オ 原告X4と原告X8の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第25号証の994,同996,同2940,同2941,甲総ア第47号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X4の身上,経歴
原告X4(昭和24年○月○日生まれ)は,旧志布志町で出生し,中学校卒業後,名古屋市に集団就職したが,その後,てんかんの症状が現れるようになり,同症状が悪化すると帰郷して農作業に従事しながら治療を行い,同症状が改善すると神奈川県内や大阪府内で作業員等として稼働する生活を繰り返していたが,昭和53年頃に受けた治療後は同症状が現れることはなくなり,昭和55年,原告X8と婚姻した。
(イ) 原告X8の身上,経歴
原告X8(昭和28年○月○日生まれ)は,当時の鹿児島県曽於郡有明町で出生し,中学校を卒業後,愛知県の紡績工場に就職したが,昭和54年頃,両親の面倒をみるため帰郷し,昭和55年,原告X4と婚姻した。
(ウ) 原告X4夫妻の生活状況
原告X4と原告X8は,婚姻後,原告X4の実家のある現在の住所に居住するようになって,原告X4は,日雇人夫や農業等に従事し,平成6年頃から本件選挙当時,志布志市内の会社の臨時作業員として稼働し,原告X8は,平成元年頃から本件選挙当時,志布志市内の漬け物工場でパート勤務をしていた。
原告X4夫妻は,長女であるA156,長男であるA110(本件選挙当時19歳),二女であるA157(本件選挙当時17歳)をもうけており,本件選挙当時,a3集落にある住居において,鹿児島県内の病院に勤務し独立した長女を除く2名の子並びに原告X4の父であるA116(以下「A116」という。)及び原告X4の母であるA131と6名で同居していた。
原告X4夫妻の平成15年当時の収入は,原告X4の給料収入が毎月約20万円,原告X8の給料収入が毎月約8万円,A116の年金が2か月に1回の割合で5万円であり,その他,年に2回程度,牛の競り市に子牛を出品して収入を得ており,本件選挙の直近では,平成14年12月19日に88万2748円を,平成15年2月25日に37万8104円を得ており,負債は,A156の自動車,原告X4の軽トラック,原告X8の軽自動車及びA110の普通自動車のローンの代金の合計で約180万円であった。
原告X4には,平成14年6月11日,大隅簡易裁判所において業務上過失傷害により罰金10万円に処せられた前科があるほかには,前科はなく,原告X8に前科・前歴はない。
カ 原告X5の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第25号証の995,甲総ア第49号証,甲総ア第25号証の1438,甲総ア第588号証)
(ア) 原告X5の身上,経歴
原告X5(昭和4年○月○日生まれ)は,旧志布志町で出生し,高等女学校を卒業後,東京都内の洋裁学校に進学したが,その後,帰郷して当時の志布志町役場で稼働するなどした後,昭和31年,A137と婚姻して(以下,両者を総称するときは「X5夫妻」という。),同人の実家のある現住所で居住するようになり,以後,四浦小学校の事務員として稼働したほか,昭和47年頃から本件選挙当時,四浦簡易郵便局の局長として勤務していた。
(イ) 原告X5の生活状況
X5夫妻は,長男であるA159及び長女であるA158をもうけたがいずれも独立し,本件選挙当時,a3集落にある居宅において,2人暮らしであった。
原告X5に前科・前歴はない。
(ウ) X5ノート
原告X5は,本件公職選挙法違反事件に係る身柄拘束中,原告X5が受けた取調べ内容等を記載したノート(以下「X5ノート」という。)を作成していた。
キ 原告X11の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(甲総ア第25号証の2936,同2937,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X11の身上,経歴
原告X11(昭和13年○月○日生まれ)は,旧志布志町において出生し,中学校を卒業後,炭焼きの仕事等に従事したり,宮崎県に山仕事の出稼ぎに出るなどしていたが,昭和36年頃,バセドー病を発症したことで,現在の住所にある実家に帰り,以後,入退院を繰り返していたが,次第に回復し,畑仕事,椎茸栽培のアルバイト等の仕事を経て,平成5年頃から本件選挙当時,庭師として稼働していた。
(イ) 原告X11の生活状況
原告X11には,婚姻歴はなく,原告X11の父が平成13年12月頃から入院していたため,原告X11は,本件選挙当時,a2集落にある住居に1人暮らしであった。
原告X11には,20年ほど前に酒気帯び運転により2万円の罰金刑に処せられたこと及び一時停止違反等の交通違反により,複数回,反則金を支払ったことがあるが,道路交通法違反以外の前科・前歴はない。
ク 亡X12の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(ア) 亡X12の身上,経歴
亡X12(昭和8年○月○日生まれ)は,宮崎県内で出生し,小学校を卒業後,旧志布志町内に転居し,農業及び造園業等に従事していた。亡X12は,昭和34年頃,原告X13と婚姻し,4人の子をもうけた。
(イ) 亡X12の生活状況
X12夫妻の4人の子らは,いずれも婚姻して独立し,X12夫妻は,本件選挙当時,a3集落にある居宅において,2人で居住していた。
(ウ) 亡X12の死亡
亡X12は,平成20年6月23日,死亡し,原告X13が本件訴訟に係る亡X12の被告県及び被告国に対する損害賠償請求権を相続した。
ケ 亡A1の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(争いのない事実,甲総ア第25号証の376,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の387)
(ア) 亡A1の身上,経歴
亡A1(昭和3年○月○日生まれ)は,旧志布志町で出生し,尋常高等小学校高等科を卒業徒,同校の用務員を1年間務めた後,特攻基地での建設作業員として稼働し,平成19年には志願兵として兵役に就き,太平洋戦争の終戦後,現在の住所に居住するようになって,本件選挙当時,農業と畜産業を営んでいた。
亡A1は,昭和28年12月21日,原告X14と婚姻し(以下,亡A1と原告X14を「A1夫妻」ということがある。),同人との間に,長女である原告X15,二女である原告X16,三女である原告X17及び四女である原告X18を設けた。
(イ) 亡A1の生活状況
原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18は,本件選挙当時,いずれも婚姻して独立しており,亡A1は,a3集落にある住居において,原告X14と2人暮らしであった。
A1夫妻の平成15年当時の収入は,亡A1と原告X14の年金収入が2か月に1回の割合で2人合わせて22万円ないし23万円,畑で栽培している甘藷等の収入が年に約120万円,飼育している子牛を年間2頭ほどを競り市に出品し,その収入が約90万円の合計約350万円であり,本件選挙の直近では,平成15年2月と同年3月に子牛を競り市に出してその収入を得ており,貯金は,約28万円であり,負債は,トラクターのローン残代金等が合計で約64万円であった。
亡A1は,平成13年から平成14年にかけて,本件有機米契約農家であった。
亡A1に,前科・前歴はない。
(ウ) 亡A1の死亡
亡A1は,平成17年5月24日,死亡した。
(エ) A1ノート
亡A1は,本件公職選挙法違反事件について任意同行に応じて取調べを受けていた期間中,亡A1が受けた取調べ内容等を記載したA1ノート(ただし,同期間中のどの時点からノートの作成を始めたかについては争いがある。)を作成していた。
コ A88,A97,A124及びA86の身上,経歴,平成15年当時の生活状況等
(ア) A88
A88は,昭和10年生まれでa4集落の出身であり,昭和60年頃から平成8年頃まで関西地方に転居していたが,同年頃から,a4集落に居住して農業や畜産業を営んでおり,平成13年及び平成14年には,本件有機米契約農家として,稲作業に従事していた。(甲総ア第425号証,甲総ア第429号証の417,甲総ア第541号証)
(イ) A97
A97は,昭和23年生まれであり,a1集落に居住し,g工務店の名称で建設業を営んでいるほか,稲作業にも従事しており,平成13年及び平成14年には,本件有機米契約農家として,稲作業に従事していた。(甲総ア第542号証,乙国第136号証,原告X7本人)
(ウ) A124
A124は,a4集落に居住し,甘藷の栽培に従事している。a4集落は,平成15年当時,原告X3,A88及びA124の3世帯のみが居住していた。(甲総ア第418号証,乙国第29号証)
(エ) A86
A86は,従前,a3集落に居住していて,原告X1夫妻と交流があり,平成15年当時は,a3集落から旧松山町内に転居していた。(甲総ア第429号証の20,甲総ア第547号証)
(3)  曽於郡区での本件選挙の概要等
(争いのない事実,甲総ア第2号証,甲総ア第3号証,甲総ア第16号証,甲総ア第25号証の386,同1059,同2933,甲総ア第331ないし343号証,甲総ア第427号証の1ないし3,甲総ア第499及び500号証,甲総ア第502及び503号証,甲総ア第505及び506号証,甲総ア第508号証,甲総ア第527ないし534号証,乙県第13号証,乙国第42号証,乙国第132号証,乙国第138ないし140号証,乙国第143号証,弁論の全趣旨)
ア 本件選挙における原告X6の立候補
本件選挙においては,これらの現職のA2県議,A3県議及びA4県議が,いずれもh党公認で立候補したのに加えて,原告X6が,1期だけ務めた志布志町議を辞めて,保守系無所属の新人として立候補し,上記4名による選挙戦が行われた。農政連は,本件選挙において,A3県議,A2県議,A4県議の3名を推薦候補者とし,農政連志布志支部は,A2県議及びA4県議を推薦候補者とした。原告X6は,農政連志布志支部に対し,推薦の申し入れをしたが,農政連志布志支部役員会は,原告X6を推薦しないことを決定した。
イ 本件選挙の曽於郡区における得票率
平成15年4月13日に投票が行われた本件選挙の各候補者の得票数は,A3県議が1万7196票,A2県議が1万6472票,原告X6が1万3312票,A4県議が1万1205票であり,A3県議,A2県議及び原告X6が当選した。
本件選挙における曽於郡区の投票率は,72.7パーセントであり,原告X6は,旧志布志町において,曽於郡区の総得票のほぼ半数である6943票を獲得した。原告X6の旧志布志町における得票率は,65.8パーセントである。
本件選挙における曽於郡区の有権者数は,8万0934名である。このうち,旧志布志町の有権者数は1万4728名,四浦校区の有権者数は114名,a3集落の有権者数は20名であって,a3集落の有権者数の曽於郡区の有権者総数に対する割合は,約0.02パーセントである。
なお,A2県議は,平成19年6月23日未明,交通事故により死亡した。
ウ 四浦校区における選挙情勢
(ア) 道路事情の改善の必要性
四浦校区は,高齢者の住民が多い反面,病院や商業施設等が十分になく,これらを利用するためには旧志布志町の中心部まで自動車で移動する必要があって,同校区内の住民には,同校区内から旧志布志町の中心部までの道路事情の改善を望む者が多かった。
このことから,四浦校区審議委員会は,従前から,鹿児島県大隅土木事務所に対して本件県道の拡幅の陳情を行っていたものの,同拡幅工事は行われずにいた。
(イ) A2県議の働きかけによる本件県道の一部拡幅工事の実施
四浦校区審議委員会が,平成14年4月,A2県議に同陳情を行ったところ,A2県議の働きかけにより,本件県道の一部拡幅工事が実施される見通しとなった。
これを受けて,四浦校区審議委員会は,平成15年1月21日にA2県議が経営する飲食店において四浦校区審議委員会主宰の新年会を実施し,A2県議及び四浦校区の住民らを招いて,A2県議の決意表明を聞くなどした。
また,四浦校区審議委員会は,同年3月15日に行われたA2県議の旧志布志町の事務所開きや同年4月3日のA2県議の決起大会に参加するなどして,本件選挙において四浦校区を挙げてA2県議を支持することの共通認識を持ち,また,各集落の代表者らを通じて,いずれも各集落の住民らのうち,特に他の候補者と付き合いがある者以外の四浦校区の多くの住民がA2県議を支持する意向であると認識していた。
エ 本件現地本部における捜査指揮の体制等
(ア) 捜査本部長及び捜査副本部長
本件現地本部では,本件公職選挙法違反事件の捜査を主管するのが県警本部の刑事部捜査第二課であったため,細則24条に基づき,本件現地本部の捜査本部長として,本件公職選挙法違反事件の捜査を主管する警察本部の部長である刑事部長が充てられたが,同人が同事件捜査に専従することが事実上困難であったため,細則25条に基づき,捜査副本部長としてA10署長が充てられ,A10署長が本件現地本部の実質的な責任者として捜査の統括に当たることとなった。
(イ) 捜査主任官
本件現地本部における本件公職選挙法違反事件の捜査においては,犯罪捜査規範20条1項及び同条3項に基づき,当時の志布志署生活安全刑事課長であったA11警部が捜査主任官に指名された。
(ウ) 本件現地本部と県警本部刑事部捜査第二課との指揮関係
本件現地本部と県警本部刑事部捜査第二課との指揮関係は,本件現地本部の責任者であるA10署長又はA12警部やA11警部のほか,庶務班の捜査員が伺い事項を同捜査第二課の担当者に連絡をし,捜査第二課長を経て,刑事部長,警察本部長の指揮を受けていた。
(エ) 本件現地本部における班の編制と班長
本件現地本部では,細則25条3項に基づき,庶務班,捜査班,精査班等の班が編制された。
捜査班の班長には,A12警部が充てられた。なお,A12警部は,本件現地本部において,平成15年4月12日から同年6月3日まで及び同年7月24日から同年8月12日までの間,捜査班の班長及び総括班長として,同年6月4日から同年7月22日までの間,原告X6の担当取調官として,本件公職選挙法違反事件の捜査活動にそれぞれ従事した。
本件現地本部は,A12警部が原告X6の担当取調官として捜査活動に従事していた上記期間の捜査班の班長として,県警本部の刑事部捜査第二課長補佐のA13警部を充てた。
(4)  A5ビール事件等の捜査の経緯及び関係者の供述内容等(平成15年3月18日から同年4月15日まで)
(甲総ア第427号証の1及び2,乙県第1号証,乙県第5号証,弁論の全趣旨)
ア A5の選挙体制表の任意提供による県警への協力(平成15年3月18日)
A5は,同年3月18日,本件現地本部のA37巡査部長に対し,A5が原告X6の運動員ないし旧志布志町の責任者であるとする原告X6の陣営の選挙体制表を任意に提供するなど,県警に協力的な態度をとっていた。
イ 端緒(協力者からの情報の入手)(平成15年3月26日)
本件現地本部は,平成15年3月26日,志布志署所属の警察官が情報収集中に,同警察官の協力者が,同年2月上旬頃,e社を訪れた際,缶ビール1ケース(24本入,価格5400円)が置いてあるのを目撃し,同協力者において誰が持ってきたか確認したところ,iホテルのA5が持ってきたとの回答を得た旨の情報を入手したとして,その情報を検討した。
その結果,本件現地本部は,A5が,原告X6の選挙運動として,原告X6への投票依頼目的で,A6及びr石油の名称でガソリンスタンドを経営するA160に対し,それぞれ缶ビール1ケースを供与したとの嫌疑(A5ビール事件)を持つに至り,その捜査に着手した。
A7参事官は,同年4月11日,A12警部に対し,同捜査を命じた。A12警部は,同月12日から同年8月12日まで,本件現地本部に派遣された。A12警部は,派遣されたときから,情報提供者からの情報に接し,原告X6の選挙運動について,有権者を集めて飲食をさせたという供応接待の違法な選挙運動が行われている可能性があると考えていた。
ウ A12警部のA2県議宅訪問(平成15年4月13日)
A12警部は,本件選挙の投票日である平成15年4月13日,A14捜査官と共に,選挙情報を得る目的で,A12警部と旧知の仲であり,原告X6の対立候補であったA2県議をその自宅に訪問した。同訪問の目的は,受供与者が複数存在するのであれば,県警本部長の指揮が下りて公職選挙法違反被疑事件として立件することから,まず,A2県議派と言われていたA6が原告X6によるA5ビール事件のビールを受領したことの情報の確認を得て,それ以上の受供与者を更に特定しようとした。
エ A5に対する事情聴取(平成15年4月14日)
本件現地本部は,平成15年4月14日,A5に対し,志布志署への任意同行を求め,A14警部補とA38巡査部長において,午前8時頃から取調べを行って,A5ビール事件についての事情聴取をし,原告X6の選挙違反に関して更なる受供与者の手がかりを得ようとし,A5が原告X6のいとこと同行したローラー作戦と呼ばれる戸別訪問の状況について取調べをし,A5は戸別訪問をした先を書面に書いてA14警部補に交付するなどしていた。
A5に対する同日の取調べは,午後10時25分頃終了し,A5は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。途中の休憩はわずか2時間であった。
同供述調書には,①本件選挙の告示前の時期に,旧志布志町,大崎町,旧有明町,旧輝北町等で戸別訪問を行った旨,②平成15年1月上旬頃,e社の事務所を訪れて,iホテルと書いた年賀の熨斗がついた缶ビール1ケースを渡したこと及びその訪問の目的は,平成14年の秋頃から宿泊客を紹介してもらい,iホテルの売上げに貢献してくれたことへのお礼という名目だが,実際には,原告X6の選挙運動のためであった旨の記載がある。
オ A6に対する事情聴取(平成15年4月14日)
本件現地本部は,平成15年4月14日,A6を取り調べ,A5ビール事件に係る事実の有無について事情聴取したが,A6は,担当取調官のA20警部補に対し,同日の取調べにおいて,A5から缶ビール1ケースをもらったことは認めたものの,その趣旨は,iホテルに客を紹介したお礼であった旨を供述した。
カ A160に対する事情聴取(平成15年4月14日)
本件現地本部は,平成15年4月14日,A160を取り調べ,A5ビール事件に係る事実の有無について事情聴取したが,A160は,担当取調官のA16警部補に対し,缶ビールの供与の事実はない旨を供述した。
キ A5に対する事情聴取(平成15年4月15日)
本件現地本部は,平成15年4日15日,A5に対し,志布志署への任意同行を求め,A14警部補とA38巡査部長において,午前8時25分頃から,原告X6とA5が参加したローラー作戦と呼ばれる戸別訪問の状況について取調べを行った。
本件現地本部は,同日,A5が午前中の取調べにおいて体調不良を訴えたため,取調べを中断し,A5においてかかりつけの医療機関を受診させた上で,血圧が高いということで注射,投薬等の治療を受けさせ,その後,再び志布志署に戻って,午後2時前頃には取調べを再開して,午後9時頃までに終了した。途中の休憩は約50分間であった。
A5は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書2通に署名・指印した。
A5の同日付け供述調書のうち1通は,主に戸別訪問に関するもので,①原告X6の後援会事務所が開設された2,3日後である平成15年2月初旬頃,原告X6の支持者による決起大会が開催され,その参加者約300名による旧志布志町の全有権者を対象とした戸別訪問がされ,A5は,原告X6の実兄の息子と一緒に戸別訪問をした旨,②同年3月30日頃にも原告X6の支持者200名による旧志布志町の全有権者を対象とした戸別訪問がされた旨の記載があり,もう1通は,主に原告X6の選挙運動員による有権者に対する電話での投票依頼又は選挙への協力依頼(いわゆる電話作戦)の報酬に関するもので,①原告X6の後援会事務所は,旧志布志町,大崎町,旧有明町及び旧松山町の4か所にそれぞれ開設され,各事務所において事務員を雇い,各種事務を行わせたが,それらとは別に,原告X6が旧志布志町内に当時所有していたマンションの1室に電話機5台を設置し,電話作戦専用の事務員2名を雇って電話作戦を行わせていたこと,②同事務員2名は,平成15年2月下旬頃から本件選挙の告示日前後まで雇われており,同人らには,原告X6の後援会の事務局長のA140又は会計責任者のA126から相当程度の報酬が支払われていたはずである旨の記載がそれぞれある。
A5は,遅くとも同月15日までに,A5ビール事件について,缶ビール1ケースを渡したのは,宿泊客を紹介してもらったお礼であるとして,交付の趣旨が供与であることを否認した。
(5)  A5焼酎事件の捜査の経緯及び関係者の供述内容等(平成15年4月15日から同月16日まで)
ア 端緒(協力者からの情報の入手)(平成15年4月15日頃)
本件現地本部に応援派遣されていたA16警部補は,同年4月15日夜,特別協力者なる情報提供者から,A98,A99及び亡A1が原告X6の選挙運動員から本件選挙に関し金品をもらっている旨,その情報は上記3名のうち1名から直接聞いた旨の通報を受けたとして,本件現地本部に報告した。A98は森山校区内に,A99は潤ヶ野校区内に,それぞれ居住する実在の人物であるが,当時の情報の確度としては,実在の人物が特定されているということ以上には特に高いものではなかった。
A11警部及びA28警部補が連名で作成したA10署長宛ての同月22日付け公職選挙法違反被疑事件捜査報告書(4月22日付け捜査報告書)には,同日に県警本部刑事部捜査第二課員が特別協力者から通報が寄せられたことが捜査の端緒であり,その内容につき,「県議選に絡み,志布志町四浦集落で,金が配られているのは間違いない。金を受け取った人物は,四浦集落のA98,A1,A99とのことである。」と記載されている。
なお,4月22日付け捜査報告書における上記通報があった日の記載は,「平成15年4月10日」と印字されていたものが手書きで同月15日に訂正されており,その箇所には特に訂正印は押捺されていない。
A12警部は,受供与者が複数存在するのであれば,県警本部長の指揮が下りて,公職選挙法違反被疑事件として立件することができるため,上記特別協力者なる者の通報を重視することとし,それ以上の受供与者を更に特定しようとした。(甲総ア第2号証,甲総ア第427号証の1ないし3,証人A10,弁論の全趣旨)
イ 亡A1に対する取調べの開始(平成15年4月16日)
(ア) 原告X6とA5の戸別訪問における焼酎の受供与の供述
本件現地本部は,同年4月16日午前,亡A1に対し,志布志署への任意同行を求め,同日の午前中,A16警部補及びA40巡査部長において取調べを行った。亡A1は,同日午前中の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
上記供述調書には,①亡A1は,原告X6とは,消防分団員の活動を通じて以前から顔見知りで,平成13年から原告X6の経営する会社の焼酎のための有機米の栽培を行っており,A5とは,A5が以前経営していたケーキ屋の客として通っていた頃からの顔見知りであったこと,②亡A1は,平成15年1月上旬頃,原告X6の本件選挙への立候補を,a3集落の他の住人からその旨の新聞報道があったことを聞いて知ったこと,③原告X6とA5は,平成15年1月下旬頃の午前11時過ぎ頃,亡A1が自宅の横にある作業所で原告X14と製菓用甘藷の選別及び箱詰め作業を行っていたところを訪れ,本件選挙への立候補の挨拶に来たこと,④その際,A5において,「X6ちゃんが選挙に出っで,頼んじなあ」と原告X6が次の県議選に立候補するのでよろしくお願いする旨の,原告X6において「出っで,頑張っでなあ」と県議選に立候補して頑張る旨の発言をし,原告X6の出馬表明が他の候補に比べて遅れていたことを心配した亡A1において,大丈夫かと尋ねたところ,原告X6において「頑張っじなあ,頼んじなあ」と頑張るからよろしくお願いする旨の応答があったこと,⑤亡A1は,原告X6とA5の発言を聞いて,原告X6への投票及び票の取りまとめの依頼であると理解したこと,⑥亡A1は,原告X6及びA5が帰ったあと,昼食のため自宅に入ると,自宅玄関の右横の縁側に,「○○」という銘柄の焼酎の2本くくりが置かれており,同日の朝にはその焼酎はなかったこと,⑦亡A1は,「○○」という銘柄の焼酎が,原告X6の経営するd社が製造販売しているものであることから,本件選挙での原告X6への投票と票の取りまとめの依頼の対価であると直ぐに理解できたこと,⑧亡A1は,上記焼酎を受け取ることが公職選挙法違反に当たる行為であることからこれを躊躇したが,結局受け取ることにして,後日,亡A1の次女である原告X16に与えたこと等が記載されている。
なお,上記供述調書では,亡A1の署名・指印がある頁のフォントがそれまでの頁のフォントと異なっているが,亡A1の署名・指印がある頁には,亡A1の供述内容につき,その前頁からの続きとして「をお願いされ焼酎2本くくりを貰ったことは,事実そのとおりであり間違いありません。それに,貰った焼酎の意味が次期行われる県議会議員選挙に曽於郡区から立候補を表明していた新人のX6さんに,投票してくれることと,親戚など知り合いの人達に働きかけて,X6さんへの投票をお願いしてくれることに対するお礼であったことも事実そのとおりであり間違いありません。」などと記載されているが,これらの記載の後に続いて,亡A1の署名・指印があり,前頁との契印の痕跡もある。(甲総ア第17号証,甲総ア第429号証の372)
(イ) 亡A1の被告人質問における焼酎に関する同様の供述
亡A1は,平成15年12月12日の第1次刑事事件の第12回公判で行われた被告人質問においても,原告X6が亡A1宅を訪れた後に,亡A1宅に焼酎が置いてあった旨を供述している。(甲総ア第25号証の1021)
ウ A102公民館長,A103副公民館長に対する聞き込み捜査(平成15年4月16日)
(ア) 聞き込み捜査(A102公民館長)
本件現地本部は,同年4月16日,亡A1がA5及び原告X6から本件選挙における原告X6の選挙運動に関して焼酎の供与を受けたことを自認したことを基に,四浦校区内で戸別訪問及び物品の供与並びに選挙人への供応接待が行われている可能性があると判断し,原告X6の選挙違反による受供与者が,A6及び亡A1と複数になり,更なる受供与者を特定するため,四浦校区内において聞き込み捜査を行うこととした。
A12警部は,同日午後2時から午後3時にかけて,志布志署森山駐在所の駐在所員であったA67巡査を伴って,四浦校区内での選挙運動の状況等につき,A102公民館長方へ赴いて,同人に対し,聞き込み捜査を行った。
A102公民館長は,本件選挙当時,四浦校区のa1集落に居住し,自宅に隣接した店舗で,p商店の屋号で食料品及び雑貨等の販売業並びにガソリンスタンドの経営等を行っており,A2県議の道路拡幅工事に対する寄与を踏まえて,A2県議を支持していた。p商店の店舗は,志布志市中心部から本件県道を東進した際の,四浦校区の入口付近に位置しており,p商店の前を通過しなければ,a3集落に赴くことはできず,a3集落への自動車や人の出入りがあれば,容易に認識することができる場所であり,本件買収会合があったとされるX1宅までは自動車で6分程度の距離にある。
A102公民館長は,同日,A12警部の聞き込みに対し,①四浦校区では,本件選挙において,四浦校区公民館の審議委員を中心に,A2県議を支持することとしており,それが多数派であること,②原告X6を支持する者がいるとすれば,亡A1が本件有機米契約農家であり,A97及びA88も原告X6の事業のための有機米の栽培契約に係る事業に関与していたこと,原告X1及び原告X3がいずれもf社又はその関連会社の運営する農場で農作業に従事していたことなどから,それらの人物が考えられるほか,さらに,原告X6を支持していた可能性のあるその他の人物として,原告X2,原告X4,原告X9の名前を挙げ,③四浦校区内の住民の中に10年ほど前にはかつて選挙ブローカーとして噂のあった人物がおり,亡A1がそのうちの1名であることなどを告げるなどした。
A102公民館長は,このほか,原告X11についても,原告X6の後援会名簿に氏名が記載されていたことから,本件選挙において原告X6を支持した可能性があると認識し,その名前も挙げた。
A12警部は,A102公民館長から事情聴取する際,四浦校区で原告X6の支持者による選挙違反があること,選挙違反をした原告X6の支持者に対する自首を働きかけるようA102公民館長に申し向けるなどした。(甲総ア第16号証,甲総ア第25号証の437,甲総ア第426号証の1及び2,甲総ア第427号証の1ないし3,甲総ア第428号証,甲総ア第537号証の1及び2,弁論の全趣旨)
(イ) A102公民館長のA161警部補に対する供述
A102公民館長は,後日の平成15年7月4日,A161警部補に対しても,同様に,四浦校区の多くはA2県議を支持していたこと,その理由がA2県議による道路整備拡張にあること,原告X6の会社で働く原告X1は原告X6を支持していたことを供述した。(甲総ア第16号証)
(ウ) 聞き込み捜査(A103副公民館長)
A12警部は,A102公民館長からの聞き込み捜査が終了した後の平成15年4月16日午後3時半頃,A103副公民館長が木材の切り出しをしている作業場に赴き,A103副公民館長に対し,四浦校区において原告X6による選挙違反があったとことを挙げて,A103副公民館長からも聞き込み捜査を行った。
A103副公民館長は,本件選挙当時,四浦校区のa1集落に自宅を持ち,林業を営んでおり,A2県議の道路拡幅工事に対する寄与を踏まえて,A2県議を支持していたこともあり,四浦校区においては,原告X3及び原告X1を除いては,多くがA2県議を支持していたことを伝えたところ,A12警部は,原告X6の選挙違反により,四浦校区の選挙人のほとんどが原告X6の支持に回っていたと考えており,その旨をA103副公民館長に伝えた。(甲総ア第424号証,証人A103)
(エ) A12警部の捜査方針
A12警部は,A102公民館長及びA103副公民館長の説明にもかかわらず,A2県議派が多数であるはずの四浦校区内で原告X6の支持に回った者が出たのは,原告X6の正当な選挙運動のためではなく,A5ビール事件の発覚及びA5焼酎事件の発覚並びに情報提供者による情報のとおり,原告X6の選挙陣営による戸別訪問及び物品の供与並びに選挙人への供応接待が行われていたことによる見込みが高いものであり,この見込みは,A12警部の長年の経験に基づけば正しいものであったと考え,それを確かめるため,A102公民館長からの聞き込み捜査において原告X6の支持者として新たに名前の出た原告X9,原告X3,原告X2,原告X4,原告X11,A97及びA88について,翌日から,任意同行を求めて,捜査を開始する方針とした。(甲総ア第426号証の1,甲総ア第424号証,甲総ア第427号証の2,弁論の全趣旨)
エ 焼酎の供与の嫌疑によるA5に対するA14警部補によるいわゆる踏み字による取調べ(平成15年4月16日)
A5は,同年4月16日午前9時過ぎ頃から,A5ビール事件等の嫌疑に係る前日までの事情聴取の続きを行うため,志布志署に任意出頭し,取調室でA14警部補及びA38巡査部長の事情聴取を受けていた。
ところが,亡A1がA5及び原告X6から本件選挙における原告X6の選挙運動に関し,焼酎の供与を受けたことを自白したことを基に,本件現地本部は,A5が亡A1及びその近隣住民等の旧志布志町内の有権者に対して投票依頼目的で焼酎等の物品等を供与したという嫌疑を持ち,A5が原告X6と二人で戸別訪問をして回り,「○○」という銘柄の焼酎を配って回ったのではないかと,A5焼酎事件に関して,A5への取調べを行った。
A5は,同日の午前の取調べの途中から,A5焼酎事件について,事情聴取を受けたが,嫌疑を否認して黙秘を始めた。
A14警部補は,供与者が候補者の原告X6本人であることも踏まえて,どうしてもA5の自白を得ようとして,A5が前日に病院に行って注射を受けるなどしたにもかかわらず,またA5には供与者として被疑者の黙秘権が存在するにもかかわらず,A5の黙秘を止めさせようと,午後1時頃から始まった午後の取調べにおいてもA5の取調べを続けていたが,同日のA5の取調べの際の午後1時30分頃,志布志署2階生活安全刑事課第1取調室において,黙秘を続けるA5に対し,A5の自白を得る目的で,A4版の用紙3枚に,A14警部補自らが蛍光ペンを用いて,縦書きで,「A5,お前をこんな人間に育てた覚えはない A162」,「じいちゃん,早く正直なじいちゃんになってください A163」,「娘をこんな男に嫁にやったつもりはない。」とA5の実父,当時2歳になるA5の孫及び義父がA5に対して犯罪事実を隠していることを非難し,黙秘を止めて取調べに応じるように説得する内容であると理解することができる文章及び名前を記載するとともに,それらの紙面3枚をA5に見せた上で,椅子に座っていたA5の足下に並べて置いて,同紙面を踏むように指示し,さらに,同指示に従わないA5の両足首を両手でつかんで同紙面を踏ませて,違法に自白を得ようとし,家族や親族の心情として記載された文章,名前を踏ませることによって精神的苦痛を与え,もって,警察の職務を行う者が,その職務を行うに当たり,被疑者に対して陵辱・加虐の行為(以下「本件踏み字行為」という。)をするなどの取調べをしていた。A14警部補は,被疑者の説得の方法として,紙に字を書いたり絵を描いたりすることは通常のように行っていた。A38巡査部長は,A14警部補に対して,本件踏み字行為を制することはなく,そのまま本件踏み字行為に立ち会い,その後の取調べを続けていた。
A5に対する同日の取調べは,午後9時40分頃まで行われたが,供述調書は作成されず,A14警部補の違法行為の後も,A5からA5焼酎事件についての嫌疑を認める供述は得られなかった。
また,A12警部は,A14警部補による本件踏み字行為を知っていたが,これを特に問題としないで特段の対応を取らず,A10署長にも特に報告をしなかった。
ただ,A5は,A14警部補から原告X6とローラー作戦と呼ばれる個別訪問をした日付がわかる日記帳のようなものはないかとの問いかけに対し,「その日あったことなどを,妻がホテルの予約帳の余白欄に書いていましたので,それを見れば,はっきりするかもしれません。」と答え,本件現地本部は,A5及び原告X6の動静が本件予約帳に記載されていることを把握した。
A14警部補は,その後,特別公務員暴行陵虐被告事件(福岡地方裁判所平成19年(わ)第1232号事件)で起訴され,無罪を主張し,A5に対して反省を迫ったにすぎないと供述したが,平成20年3月18日に,懲役10か月,執行猶予3年の有罪判決を受け,福岡高等裁判所に控訴したものの(平成20年(う)第268号事件),同年9月9日控訴が棄却され,A14警部補の有罪判決は,平成20年9月20日に確定した。(甲総ア第428号証,乙県第1号証,乙県第5号証,乙県第6号証,弁論の全趣旨)
オ A98及びA99に対する事情聴取(平成15年4月16日)
本件現地本部は,同年4月16日,亡A1のほかA98及びA99について,同月15日夜のA16警部補への通報に基づき,原告X6からの本件選挙に関する金品の授受の有無について事情聴取を行ったが,A98及びA99は,いずれも金品の授受の事実を否認した。(争いのない事実)
(6)  第1次強制捜査前までの原告ら等に対する取調べ(平成15年4月17日から同月22日まで)
ア 任意同行による取調べの開始(平成15年4月17日及び同月18日)
(ア) 県警及び本件現地本部の方針(平成15年4月17日)
県警及び本件現地本部は,A12警部によるA102公民館長及びA103副公民館長からの上記聞き込み捜査を基に,同月17日から,A5,原告X9,原告X3,原告X2,原告X4,原告X11,A97及びA88に対し,本件選挙に係る四浦校区内での選挙情勢,選挙運動の内容及び選挙違反に係る情報等全般につき任意による取調べを始めることとした。本件現地本部が,同日,任意同行を求めた者の中には,出頭を拒否したため,事情聴取を行わなかった者も3名いた。(甲総ア第427号証の2,甲総ア第428号証,弁論の全趣旨)
(イ) A5の入院(平成15年4月17日)
A5は,同年4月17日,体調不良を訴えて,志布志署への任意出頭を拒否して曽於医師会立病院に入院したため,本件現地本部は,A5焼酎事件についての捜査を中断し,A12警部は,A5ビール事件及びA5焼酎事件の捜査の継続を断念した。
なお,A5は,同日から同月30日まで同病院に入院した。(乙県第2号証,争いのない事実,弁論の全趣旨)
(ウ) 本件予約帳の任意提出(平成15年4月17日)
A5の妻であるA120は,A5が経営するiホテルで用いている本件予約帳により,同ホテルの予約状況を管理するとともに,欄外等に,その日の出来事などを書き込んで日記代わりに利用していた。
本件現地本部は,A5が,平成15年4月16日に,A5の戸別訪問の予定が本件予約帳を見ると判明すると供述したことを踏まえて,同月17日,A5が原告X6とともに焼酎を持参して戸別訪問したとのA5焼酎事件に関し,A5及び原告X6の動静を明らかにするため,A120から本件予約帳の写しの任意提出を受けた。
本件現地本部は,同月17日に本件予約帳の写しの任意提出を受けた後,精査班ないし裏付班において,A5及び原告X6の動静を探るべく,本件予約帳の手書きの記載を解読してワープロで書き直した精査結果(本件リライト資料)を作成した。
A120は,本件予約帳の同年2月8日の欄外に,「A121ちゃん同窓会 また X6ちゃんも」として,同日にA120の知人女性のほか,原告X7及び原告X6の同窓会が開催されたことを意味する記載をしたが,同記載の「X6ちゃんも」の部分がくずし字で判読するのが困難となっており,本件リライト資料の同日欄の本件予約帳の欄外の同記載に対応する部分には,「A121ちゃん同窓会すた??」と記載されている。
しかし,本件予約帳の他の日付である同年1月29日,同年2月26日,同年3月2日,同月3日,同月12日,同月26日,同月27日の欄外に「X6ちゃん」と記載のある同様のくずし字の文字は,「X6ちゃん」と正しく判読されており,原告X6が原告X7の夫であって夫婦が行動を共にすることもあることを考え合わせると,本件現地本部が同年2月8日の欄における「X6ちゃんも」のくずし字を正しく判読することが十分に可能であった。
しかも,本件現地本部は,同年2月8日の欄の判読しにくい字の部分について,A120に対して,確認をとることは行っていない。(甲総ア第6及び7号証,甲総ア第427号証の3,甲陳第5号証,甲陳第6号証,乙県第1号証,証人A34,証人A120,証人A10,弁論の全趣旨)
(エ) 原告X2に対する任意の取調べの開始(平成15年4月17日及び同月18日)
本件現地本部は,平成15年4月17日,原告X2が重機オペレーターとして勤務していた会社に出勤後に原告X2の自宅に赴き,原告X10に対し,志布志署に出頭するよう伝えた。
原告X10からの連絡を受けた原告X2は,職場から志布志署に赴き,同日から同月18日の2日間,任意で,A20警部補から,原告X6が四浦校区で有機米を耕作しているか,原告X6と会ったのはいつか,焼酎が自宅においていなかったか等の取調べを受けた。この2日間の取調べは平穏に行われた。(甲総ア第25号証の1023,甲陳第1号証,原告X2本人)
(オ) 原告X3に対する任意の取調べの開始(平成15年4月17日及び同月18日)
本件現地本部は,A35巡査部長において,平成15年4月17日,原告X3に対し,任意同行を求め,関屋口交番において取調べを行い,原告X3は,同日の取調べにおいて,原告X3が原告X6の選挙運動をしたのではないか,どのような選挙運動をしたのかについて尋問され,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
上記供述調書には,①原告X3は,同年2月初旬頃,原告X6の長男のA129から申し込まれた芋の取引に関して,旧志布志町帖にあるf社の事務所を訪れた際,同人及び原告X6から,原告X6が本件選挙に立候補することにしたことの挨拶を受け,原告X6のビラの束を手渡されて原告X3の知り合いに配布することを依頼されたこと,②原告X3は,同年3月21日,a2集落公民館でa2集落小組合の総会が開かれた際,同ビラの束を同公民館内の机の上に置き,同総会に集まっていた十数名の住民らに対し,本件選挙で立候補予定の者のビラである旨及び各自で閲読して欲しい旨を告知したこと,③原告X3が,同総会の終了後に,同ビラの束の枚数が減っていたこと,④原告X3が,同総会で同ビラを配布するなどの行為が,公職選挙法違反に該当することは十分に理解していたこと等が記載されている。
A35巡査部長は,同年4月18日,原告X3に対し,再び任意同行を求め,原告X3は,志布志署において取調べを受けた。(甲総ア第25号証の817,甲総ア第429号証の130,甲陳第2号証)
(カ) 原告X4に対する任意の取調べの開始(平成15年4月17日及び同月18日)
本件現地本部は,同年4月17日,原告X4の出勤後に原告X4の自宅を訪れ,原告X8に対し,原告X4の志布志署への出頭要請を伝え,原告X8から連絡を受けた原告X4は,自ら志布志署に赴いた。A26警部補は,原告X4のA2県議を支持する選挙運動について聴取した。
本件現地本部は,同年4月18日,出勤途中の原告X4に対し,再び志布志署への任意同行を求め,A26警部補及びA62巡査において取調べを行い,原告X4は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書2通に署名・指印した。
上記各供述調書のうち1通には,①四浦校区審議委員会が,平成14年12月,四浦校区審議委員会が支持するA2県議のため,A2県議が経営する飲食店において,四浦校区審議委員会の忘年会の名目で,A2県議のほか,四浦校区の住民約30名を参加させて,四浦校区の住民らに対する本件選挙でのA2県議への投票依頼のための酒宴を開催したこと,②その際,A2県議から,公職選挙法に抵触しないよう,四浦校区の住民からも会費を徴収するよう指示されたが,四浦校区の住民らに対する会費を飲食代と上記飲食店までの送迎費用に比して著しく低額である1000円に設定したため,四浦校区の住民らは,同酒宴での飲食が,A2県議への投票依頼に対する謝礼であることは容易に理解できたはずであること,③原告X4は,平成15年3月の第1週か第2週の日曜日に,妻の原告X8に依頼して,a3集落内の住民らの自宅4戸を戸別訪問させ,A2県議の後援会入会申込書への氏名の記載と,本件選挙でのA2県議への投票の各依頼を行わせたが,原告X1夫妻及びA112は,原告X1がf社に勤務していることから,本件選挙において原告X6を支持していると認識していたため,自宅を訪問させなかったこと,④原告X4は,原告X8にa3集落の住民らへの戸別訪問をさせたのと同日に,原告X4のおばに電話をかけ,同人に対し,また,その翌日には勤務先である株式会社l組志布志支店において,原告X4の同僚に対し,A2県議の後援会入会申込書への氏名の記載と,本件選挙でのA2県議への投票の各依頼をそれぞれ行い,同後援会入会申込書への氏名の記載を得たこと,⑤原告X4は,本件選挙において,A2県議を支持していたのは,原告X4の子の就職先をA2県議が斡旋してくれることを期待したためであること等が記載されている。
上記各供述調書のうちの残りの1通には,原告X4は,A2県議を支援していた一方で,原告X6も密かに応援しており,原告X4の居住している四浦校区は,小さな集落であるから,原告X4に表だってA2県議を支援していながら,秘密裏に原告X6を応援しているとの噂が立てば,原告X4の一家が,四浦校区に居住することができなくなる事態も考えられるため,本件選挙における原告X6を支持する選挙運動については,ほとんど供述することができず,現時点では,原告X6を支持する選挙運動のうち,1パーセント程度しか供述していないこと等が記載されている。(甲総ア第25号証の874,甲総ア第25号証の875,甲陳第3号証)
(キ) 原告X9に対する任意の取調べの開始(平成15年4月17日及び同月18日)
本件現地本部は,同年4月17日午前8時頃,志布志市内のJA志布志の選果場で仕事中の原告X9を呼び出し,志布志署までの同行を求めた。原告X9は,求めに応じて,志布志署に原告X9の自動車を運転して出頭した。
志布志署では,A16警部補が取調べを担当して,同日午前9時頃から午後11時頃までの間,原告X9に対する取調べを行った。
本件現地本部は,A16警部補において,同月18日も午前7時頃,原告X9の自宅に出向き,「まだ聞きたいことがあるので,今から署に一緒に来てくれ」と任意同行を求め,仕事を理由に同行を断わる原告X9を説得し,警察の自動車で,原告X9を志布志署まで同行させ,同日午後10時30分頃までの取調べを受けさせた。
原告X9は,同日のA16警部補及びA40巡査部長による取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
上記供述調書には,①原告X9は,本件選挙の告示前,妻の原告X1と,原告X6を本件選挙で当選させる目的で,有権者の自宅を戸別訪問して,原告X6への投票依頼などを行い,詳しいことは,今後よく思い出して供述するつもりであること,②原告X9は,同日の前日である同月17日の午後11時過ぎ頃に,f社の副社長であったA89からの電話を受け,同人から,警察から同日の取調べで何を聞かれ,どのように回答したかを聞かれるとともに,A5は警察に対して何も話をしないまま,入院しており,心配することはない旨を告げられたこと,③原告X9は,A5について,本件選挙で,原告X6の選挙運動員をしていたらしいという程度の認識しかないことが記載されている。(甲総ア200号証,甲陳第8号証,乙県第4号証,弁論の全趣旨)
(ク) 原告X1に対する任意の取調べの開始(平成15年4月18日)
県警及び本件現地本部は,平成15年4月17日の取調べにおいて,原告X9から,原告X1が原告X6の選挙運動に従事していた旨の供述を得て,その供述内容から原告X1に告示前の選挙運動及び戸別訪問に係る公職選挙法違反の可能性があると考え,原告X1についても事情聴取の対象とした。
本件現地本部は,A14警部補において,同月18日,原告X1に対し,志布志署への任意同行を求めた。原告X1は,原告X9から原告X9の同月17日の取調べが焼酎の供与のことだったと聞いていたことから,A14警部補から任意同行を求められたことに対して興奮し,A14警部補に対し,X1宅に上がって仏壇のところに焼酎がないことを見てくるように強い口調で求め,また,取調べはX1宅で行うようにと求めたが,A14警部補の説得に応じて,志布志署に出頭した。志布志署では,A14警部補及びA38巡査部長において取調べを行った。
原告X1に対する取調べは,世間話から始まり,原告X1は,A14警部補に対して,原告X6の後援会名簿の署名を集めるために回り,13人の署名を得たことを供述し,その際にパンフレットを持参したことを話した。
A14警部補は,何かパンフレットのほかに持参して供与したものがないかと,A5焼酎事件での嫌疑を踏まえて,焼酎を持参したのではないかと追及し,原告X1はこれを否認し,その繰り返しが続いた。
A14警部補は,原告X1に対して,原告X1に対する取調べが任意捜査であって,いつでも取調室から退去することができる旨を告げたことはなかった。
原告X1は,同日の午後の取調べ中に,A38巡査部長に対し,トイレに行きたい旨を申し出て,A38巡査部長においてトイレの前まで同行して志布志署の女子トイレに入ったが,女子トイレの中に閉じこもって「私を殺して」と騒ぎ,女性であったA63巡査が女子トイレに入って原告X1を落ち着かせ,取調室まで戻ったことがあった。
原告X1は,同日の夕方に,パンフレットを持参した先のうち,A108宅とA85宅には地卵も持参したことがあることを話した。(甲総ア第25号証の1036,甲陳第16号証,原告X1本人,争いのない事実,弁論の全趣旨)
イ X1焼酎事件に係る原告X8の自白及びそれ以降の取調べ(平成15年4月19日から同月22日まで)
(ア) 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年4月19日)
県警及び本件現地本部は,これまでの取調べにおいて,原告X4において,妻である原告X8が,原告X1から原告X6の選挙運動で帰りが遅くなると話しているのを聞いたとの旨の供述があったことなどから,原告X8についても,原告X6の選挙運動に関する事情聴取の対象とした。
本件現地本部は,同年4月19日,原告X8に対し,志布志署への任意同行を求め,A36巡査部長及びA64巡査において取調べを行い,原告X8は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書2通に署名・指印した。
上記各供述調書のうち,1通には,①原告X1が本件選挙の告示前の平成15年3月中旬頃,原告X4夫妻の自宅を訪れ,同自宅内に原告X4夫妻及び原告X4の父母,原告X4夫妻の長男及び次女がいる中で,原告X4に対し,原告X1の勤務先の社長である原告X6が本件選挙へ立候補することになったので,応援して下さいという趣旨のことを話し,原告X6の後援会入会申込書への署名を依頼したこと,②原告X4がこれに応じ,原告X4夫妻の長男において,同名簿に原告X4夫妻及び原告X4の父母の名前を記入したこと,③原告X1は,これに対し,持参してきていた赤いラベルの焼酎1本を差し出し,原告X8が何の焼酎であるかと尋ねたところ,原告X1は,「選挙の焼酎やっど,X6をいれてくいやいな。」などと同焼酎が選挙のためのものであることを明示して,原告X6への投票を依頼してきたこと,④同焼酎は,原告X4夫妻の自宅の神棚に置いてあり,警察に証拠として提出する予定であること,原告X8は,上記焼酎を渡した日から5日くらい経過した同年3月20日の午後5時頃,農協において事務手続をした後に自宅の向かいにある牛小屋で牛の世話をしていたところ,原告X1の訪問を受け,原告X1は,原告X6の後援会入会申込書への名前の記入の礼を述べて,原告X6の支持及び投票を依頼しながら,持っていた手提げ袋から茶封筒1通を取り出して原告X8に差し出してきたこと,⑤原告X8は,その茶封筒の中には現金が入っており,受け取ることが選挙違反になることは知っていたが,原告X1が熱心に原告X6の選挙運動を行っている姿を見て,原告X6を応援する気持ちもあったことからこれを受け取ったこと,⑥同封筒には,裏側の左下にボールペンでX6と記載され,中に1万円が入っていたこと,⑦原告X8は,原告X1から受け取った上記1万円は,本件選挙の投票結果が出るまで費消せずにおくこととして,普段使っている財布とは別の青色のがま口に入れて保管していたが,本件選挙において原告X6が当選したことが判明した後,封筒は焼いて処分し,同1万円のうち5000円は,ガソリン代や食費として費消し,残りの5000円は,本件選挙で実際に原告X6に投票してくれたお礼の気持ちで,原告X4の父であるA116に渡したこと等のX1焼酎事件に係る自白が記載されている。原告X8は,同供述調書に係る供述を,同年4月19日の午前中に行った。
上記供述調書のうちの残りの1通には,①原告X8が,同年4月10日の午後6時頃,旧志布志町内のスーパーマーケットで買い物を終えて駐車場に行ったところ,原告X3に声を掛けられて,「今度の選挙はX6に加勢してくれればよかとよ,X4さんのところは4票あっどが,X6に入れてくいやい。」と,本件選挙において原告X8及びその家族の4票を原告X6に投票して欲しい旨を依頼し,承諾しない原告X8に対し,さらに,「お金をくるっで入れっくいやい。」と投票すればお金を交付する旨を告げて原告X8を説得し,原告X8が承諾したこと,②原告X8と原告X3は,同月12日の午前7時頃,四浦校区内のa2集落の細又と呼ばれる場所の三叉路の交差点近くで待ち合わせて面会し,原告X3において,「4票入れられそうか。」などと言いながら,5万円の入った白色封筒を渡してきたこと,原告X8は,同封筒の中身があまりの大金であることに対して,もらいすぎであると思い,原告X3に対して,「2票しか入れられない。」と答えたが,原告X3から,重ねて原告X6への4票の投票を依頼されたため,上記5万円を受け取り,夫である原告X4に相談したこと等が記載されている。
なお,原告X3は,同年4月19日の取調べで,上記原告X8の自白内容を聞かされ,同月10日は,串間の父親の7回忌で弔問に行っていたこと,同月12日は,午前7時に歯科医に通院していたことを説明した。本件現地本部は,遅くとも同年6月28日までには,裏付け捜査を行って上記弔問の事実を確認した。(甲総ア第25号証の450,同942,同943,同1024,甲総ア第429号証の275,同276,甲陳第2号証,乙国第3号証,原告X3本人,弁論の全趣旨)
(イ) 原告X3に対する任意の取調べ(平成15年4月19日か同月21日まで)
本件現地本部は,A35巡査部長において,平成15年4月19日,原告X3に対し,任意同行を求め,交通安全協会の2階において取調べを行い,原告X6の選挙運動について,ビラ以外の配布ないし供与がないか事情聴取を続けた。
原告X3に対する取調べは,同月20日及び同月21日も行われた。(甲陳第2号証)
(ウ) 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年4月19日)
本件現地本部は,平成15年4月19日,亡A1に対し,志布志署への任意同行を求め,A20警部補及びA42巡査部長において取調べを行い,亡A1は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
上記供述調書には,原告X1が,3月上旬の午後6時頃,亡A1の自宅を訪れてきたこと,亡A1が原告X1に訪問の用件を尋ねると,原告X1が,「社長が県議選に出るのでよろしくお願いします,焼酎は縁側に置いてあるから。」と発言し,亡A1は,原告X1がf社で雇用されていることを知っていたため,直ぐに,原告X1の上記発言が,原告X6への投票依頼の趣旨であると理解して,そんなものは要らないという趣旨の返答をしたが,原告X1は,焼酎を持ち帰らず,さらに手に持っていた白い封筒を差し出してきたこと,亡A1は,原告X1が差し出した封筒の中身が現金であることを察して,持って帰れと受け取りを拒否し,何度も封筒を払いのけたが,最後には受け取ったこと,亡A1が,後で確認すると,封筒には1万円が入っており,自宅の縁側に焼酎の2本くくりがあって,その焼酎の銘柄は,d社で製造・販売する「○○」であったと記憶していること等が記載されているが,原告X1が亡A1に対し,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼してきたかどうかに関しては何らの記載がない。
亡A1は,同年4月19日の夕方頃,同供述調書に係る供述をした。
亡A1は,遅くとも同年5月上旬までに,県警の取調べ状況についてA1ノートに記載を開始した。亡A1は,第2次強制捜査において逮捕された後の同年5月14日頃,当番弁護士であったA164弁護士に対し,A1ノートの存在を告げて,A1ノートは,亡A1の自宅から,発見された。
A1ノートの同年4月19日の欄には「4月19日 呼出し 買収のうたがいで追及されたが,それはないとつっぱねて居たが,午後6時頃,刑事さんが,『もしかりに,3月中にX1がきたら,A1さんの考へではいつ頃がよいか,上中下の中からさがしてくれと)いわれ,『私が来ませんと云ったら』,刑事さんが,『かりでよい』と云われ,『私が上だろうと言ったら,3月上旬なと云われ X1さんが来たら何しに来たと思われましたかと云われ』,『せんきょの事だと思います。と云うと,『そうですな だれのせんきょの事ですか。と云われたので,『X1はf社につとめて居たので,X6さんのせんきょでしょう。と云いま志た けいじさん『人にものをたのみにきててぶらできますか』といわれ『私が今はそうでしょうといふと『たとえばお果子など下げて来ないか』といわれ,私分かりませんといいましたら,『まだ外にもあるじゃないかと云わはれ 私が焼酎ですかと云ふと『そうそう焼酎な,外にはといわれ もうないでしょうと云ふと『ノートをやぶつふうとうのように『たとへばこんな物といわれたので私が『ふうとうですかと云ふと『そうそうふうとうなこれにはなにが入っているでしょうといはれたので 私が『お金ですかと云ふと『そうそうお金ねいくら入って居たおもう5000円位)と云われ もう少し多いかなと云われ 私が『つい1万円ですか』云ったとたん けいじさん『3月初旬にX1がきて,X6さんをたのむと云って 焼酎2本とお金1万円受取ったまちがないですねといわれ 私がそんなことない今の話はかりの話と云ふとだれがかりのはなし云ったと2人で云われ 私しまったこれがゆうどうじんもんかと思いがっかりしました これから先はけいじさんのはなしをヒントにつり話に一生県命でした午後10時30分すみましてかへって11時30分すぎにねましたが今までうそがきになり私自身良心。悪心とふたつが心の中でかくとしました 朝の4時頃けつろんが出て20日うそであったことを話そうと思ったら心もおちつきねむれました 私は3月からX1とは一度もあっていないし。焼酎もお金も一切もらっていません」との記載があり,A20警部補が「仮に」という前提で尋問を開始し,仮に原告X1が3月中に訪問したらいつ頃がいいか,上旬,中旬,下旬といくつかの選択肢を示して,それに応じたA1が誘導尋問をされ,1万円かと質問したことが1万円と言ったとされ,「仮に」という話だったと抗議すると「誰が仮にと言った。」とA20警部補がその前言を否定した旨の記載がある。(甲総ア第18号証,甲総ア第18号証,甲総ア第25号証の1091,甲総ア第405号証の1,乙国第2号証)
(エ) 原告X1に対する任意の取調べ(平成15年4月19日)
本件現地本部は,同年4月19日,原告X1に対し,志布志署への任意同行を求め,A14警部補及びA63巡査において取調べを行った。
A12警部は,原告X8及び亡A1の同日におけるX1焼酎事件に係る各自白があった後,A14警部補に対して,かかる自白があったことを伝え,A14警部補は,上記現金及び焼酎の供与に関する供述をしない原告X1に対し,正直に供述しないのであれば,原告X1の義父であるA112を志布志署に同行させて事情聴取する予定である旨を告げた。
原告X1は,同日の午後,原告X1が13名に対して現金及び焼酎を供与した事実を供述し,同日付け供述調書1通に署名・指印した。同供述調書には,①原告X1は,10年くらい前からf社で農作物の収穫の仕事についており,本件選挙に関し,f社の社長である原告X6のため,告示前の時期から戸別訪問などの選挙運動をしていて,昨日から志布志署で取調べを受けていたが,これまでa3集落の住民らに迷惑が掛かると思い,供述していなかった事実があること,②その事実とは,3月中旬から下旬にかけてa3集落の住民及びその他の知人に票の取りまとめのため,焼酎と現金1万円を渡したことであり,原告X1は,同日の取調べにおいて,これ以上,同事実を隠すことができないと思い,供述する決心をしたこと,③原告X1は,本件選挙について,本格的に原告X6のための選挙運動をしたのは平成15年3月以降であり,この頃から,a3集落の5世帯並びに旧松山町及び旧志布志町に住む知人宅等への戸別訪問や,同月の日曜日に,f社の同僚であるA113,A114,A115及びA165等と共に行った旧志布志町,大崎町,旧松山町及び旧有明町におけるいわゆるローラー作戦にそれぞれ関与したほか,旧志布志町にあった原告X6の後援会事務所での飯炊きを手伝うなどしたこと,④原告X1は,同月中旬頃,a3集落に居住していた原告X13,原告X2,原告X8,原告X5及び亡A1,旧志布志町に居住していたA104,A108,A107及びA85(なお,同供述調書において,同人は「A109」と記載されている。),旧松山町に居住していたA106,A86及びA105並びに大崎町に居住していたA87(以下,上記13名を「X1焼酎事件受供与被疑者ら」という。)の自宅をそれぞれ訪問して,X1焼酎事件受供与被疑者らに対し,原告X6の後援会入会申込書への記載を依頼する際に,本件選挙での原告X6への投票依頼及び票の取りまとめを依頼する趣旨で,祝儀袋入りの1万円の現金を渡したこと,⑤原告X1は,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,一部の者には上記現金を交付すると同時に焼酎も交付したが,一部の者には,上記現金を交付するよりも以前の別の日に,先に焼酎を交付した者もいるほか,A108及びA85については,原告X9も同行した上で上記現金を交付しており,その詳しい状況並びに上記現金及び焼酎の出所について,よく思い出して供述するつもりであること等が記載されている。A108及びA85は,いずれも同人らがシルバー人材センターの紹介を通じて,平成14年の9月から12月頃,f社又はその関連会社が運営する農場での農作業に従事した際に,原告X1と知り合ってきたものである。
原告X1は,A14警部補の同日頃の取調べに対して「死にたい。」と言ったところ,A14警部補は「じゃ,俺の前で死ね。」と応じた。
(甲総ア第25号証の664,甲総ア第25号証の1036,甲総ア第429号証の9,甲総ア第517号証の1,甲総ア第519号証,甲陳第16号証,乙国第1号証,原告X1本人)
(オ) X1焼酎事件に関する自白と捜査方針(平成15年4月19日)
以上のように,原告X8及び亡A1は,同年4月19日の取調べにおいて,X1焼酎事件に関して,いずれも,同年3月頃,原告X1から焼酎と現金1万円の供与を受けた旨を供述し,原告X1も,同日,本件現地本部がした取調べにおいて,同年3月頃,原告X6の後援会入会申込書への記載を依頼したa3集落の住民等13名に対し,焼酎2本と現金1万円を供与した旨を供述した。
A12警部は,X1焼酎事件において,原告X8及び亡A1という複数の受供与者が得られたため,X1焼酎事件の立件に向けて,捜査を更に進めていくこととした。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
(カ) 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年4月19日及び同月21日)
本件現地本部は,同年4月19日及び同月21日,原告X4に対し,志布志署への任意同行を求め,同月19日はA26警部補及びA62巡査において,同月21日はA27警部補及びA61巡査において,それぞれ取調べを行い,原告X4は,両日の取調べにおいて,それぞれ,同月19日付け供述調書及び同月21日付け供述調書各1通に署名・指印した。
上記同月19日付け供述調書には,①原告X4は,同年3月中旬頃,仕事から自宅に帰宅した際に,仏壇の横に,これまではなかった焼酎が供えられていたことに気付き,妻である原告X8に確認したところ,原告X9が同焼酎を持ってきた旨の説明を受けたこと,②原告X4は,妻からの同説明を受け,原告X9が本件選挙において原告X6を公然と支持していたため,原告X4がそのような人物から物品をもらったということが集落の他の住民に分かってしまうと,本件選挙において,A2県議を支持する派閥と原告X6を支持する派閥の双方に通じていると思われて信用を失うことになると考えて怖くなり,これまで誰にも話したことがなかったこと等が記載されている。
同供述調書においては,焼酎を持ってきた人物について,「X1さん」と表記されているが,同供述調書に,「X1さんは,奥さんが原告X6さんが経営するf社に勤めている関係で,原告X6さんを公然と推していました。」とも記載されており,「X1さん」との記載が原告X9を指していることは明らかである。
原告X4は,同月20日,自宅近くを流れる福島川という川にある落差1メートルほどの滝の滝壺に飛び込んだが,すぐ近くで釣りをしていた原告X4の又従兄弟に当たるA111に救助された。
上記同月21日付け供述調書には,①原告X1が,同年3月中旬頃,原告X4の自宅を訪れて,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載及び本件選挙での原告X6への投票を依頼し,さらに,原告X4の自宅の土間から通じた上がり口のこたつがある居間に焼酎1本を置いて,原告X4の妻である原告X8に対し,同焼酎は,原告X6からの贈り物である旨を告げたこと,②同焼酎は,d社が製造している○○という銘柄のもので,焼酎瓶には赤色ラベルが張られてあったが,既に空き瓶となったため,家族の誰かが処分して捨ててしまったこと,③原告X4は,同月20日頃かそれ以降の日に原告X8と買い物をした際,原告X8が財布に1万円を所持していたことにつき,原告X8のパート収入の額や時期に照らして不自然であって,パート以外の副収入があったことを疑ったが,詳しいことは原告X8に尋ねなかったこと,④原告X4は,同年4月12日の午前9時頃,原告X8から,原告X3が原告X8に対し,本件選挙における,家族4人全員の原告X6への投票を依頼して,その対価として5万円を交付したため,原告X8がこれを受け取ったことを打ち明けられて,その後の対応について相談されたが,原告X4は,原告X4と母のA131がA2県議に投票する意向は変わらない旨及び5万円はもらっておけばよい旨を回答したこと,⑤原告X8は,原告X4の同回答を受けて,原告X4に対し,小遣いとして2万円を交付し,原告X4はこれを受け取って費消したこと,⑥原告X3は,同月19日の午後10時過ぎ頃,原告X4の自宅に,原告X8が,警察からの取調べにおいて,原告X3が原告X8に5万円を交付したと供述しているがそれは虚偽であるなどと抗議し,原告X8を名誉毀損で訴えることを示唆する内容の電話をかけてきたこと等が記載されている。同供述調書には,原告X4又は原告X8が,同年3月中旬頃に,誰から焼酎の交付を受けたかについて,原告X9であると認識している旨の同月19日付け供述調書に係る供述から,原告X1であると認識している旨へと変遷したことについて,何らの理由等も記載されていない。(甲総ア第25号証の878,同879,同1047,甲総ア第429号証の205,同206,乙国第118号証,乙国第119号証)
(キ) 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年4月20日及び同月22日)
本件現地本部は,同年4月20日及び同月22日,亡A1に対し,志布志署への任意同行を求め,同月20日はA20警部補及びA43巡査部長において,同月22日はA20警部補及びA45巡査部長において,それぞれ取調べを行い,亡A1は,両日の取調べにおいて,それぞれ,同月20日付け供述調書及び同月22日付け供述調書各1通に署名・指印した。
上記同月20日付け供述調書には,①亡A1は,同月19日の取調べにおいて,原告X1から,本件選挙における原告X6への投票依頼及び票の取りまとめの依頼を引き受ける対価として,焼酎2本くくり及び白い封筒に入った現金1万円の交付を受けた旨を供述したが,同月20日の取調べにおいて,それらはいずれも虚偽であると供述したこと,②亡A1が,同日の取調べにおいて,前日の取調べでの供述内容を虚偽であるとして供述を変えた理由は,いつも親しくしている原告X1の立場が不利になること,亡A1の妻である原告X14が病気がちであること,亡A1の民生委員としての地位が危うくなること,原告X1が他の者にも本件選挙に関し物品を供与していたとすると,それらの者の立場も不利になることなどを恐れたためであること,③亡A1は,同月20日の取調べを受けるに当たり,前日の取調べでの供述内容が虚偽であることを捜査官が納得するまで,志布志署に宿泊してでも取調べを継続させる覚悟で,任意同行に応じたが,取調官に説得されて,やはり正直に話した方がよいと思い直し,その前日の取調べでの供述内容が真実であると再度供述を変えたこと等が記載されている。
上記同月22日付け供述調書には,亡A1が,原告X1から同年3月上旬頃,焼酎2本くくり及び現金1万円の交付を受けた際の状況について,概ね亡A1の前記同年4月19日付け供述調書の記載事項と同内容であるが,ただし,現金1万円が入っていた封筒が白色であったかどうかは記憶がはっきりしないことが記載されているほか,①亡A1が原告X1から供与を受けた焼酎2本くくりの銘柄は○○であり,これらは,同年3月26日に,亡A1の自宅に,亡A1と同じ農業の仲間である原告X2,A166及びA88を招いて行われた飲食の集まり等で既に費消し,空き瓶のうち,1本はリサイクルに出したが,もう1本は,亡A1の畑に置いてあること,②亡A1は,現金1万円についてもガソリン代等に費消してしまったが,本件選挙において原告X6への投票依頼及び票の取りまとめの依頼には応じなかったこと,③原告X1は,焼酎2本くくり及び現金1万円を交付した日以前にも,一度,本件選挙に関して亡A1の自宅を訪問しており,その際には,亡A1に対して,何らかの書面を差し出して,同書面への氏名の記載を依頼してきており,亡A1は,それが本件選挙に関するものであるが,原告X6の後援会入会申込書であると認識せずに氏名の記載に応じたこと等が記載されている。
本件現地本部は,同月22日,亡A1から焼酎の空き瓶1本の任意提出を受けて,これを領置した。
他方で,A1ノートには,同月20日の欄には,「呼出しがあり,私は一番先にけいじさんに,きのふいったことは全部うそです。私の考へたつくり話です。うそをなんぼうまく行っても,まこととうそがあうはずがないと云いましたところ,けいじさん『何がうそか。X1が云って居ることと全く同じだ。』と云われました。このことは調書のはじめにかかれて居ると思います それから3時間位,けいじさんはひとり言って居られ,私は目をとじまま じっとしてきいて居りました 午後3時頃になって,うそでとおそうと思い,『これからうそであると思って下さい。』と言って話を始めましたが,そのむずかしい事。けいじさんの話をヒントにしてはなしました。私の方から先にいったことなく,けいじさんの話の例とかヒントをもとに話しました。22日,23日,25日,26日は毎日がこのくりかえしでした。」と,取調官の話をヒントにして供述をした旨の記載がある。(甲総ア第25号証の215,同1059,甲総ア第405の1,甲総ア第429号証の374及び375,弁論の全趣旨)
(ク) 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年4月21日及び同月22日)
本件現地本部は,平成15年4月21日及び同月22日,原告X8に対し,志布志署への任意同行を求め,A36巡査部長及びA64巡査において取調べを行い,原告X8は,両日の取調べにおいて,それぞれ,同月21日付け供述調書3通及び同月22日付け供述調書2通に署名・指印した。
同月21日付け供述調書のうちの1通には,①原告X8は,同月19日の取調べにおいて,原告X1から本件選挙における原告X6への投票及び票の取りまとめの依頼の対価として,焼酎1本と現金1万円の交付を受けた旨を供述したが,同取調べから帰宅した後,義理の父であるA116及びその他の親族から,親の顔に泥をぬったと非難され,本当に金品を受け取ったのか追及されて,受け取っていないものは受け取っていないと取調べの時に説明するよう指示されたことから,同月21日の取調べでは朝から,上記焼酎及び現金の交付を受けたことを否認したこと,②原告X8は,同日の取調べにおいて,取調官から,正直に話をする人が馬鹿をみるような世の中ではいけないと示唆されたこと,③原告X8は,取調官からの上記示唆を聞いて,自分一人が本当のことを供述すれば,四浦集落には住めなくなるが,原告X1や他の人が原告X8と共に本当のことを供述しているのであれば,四浦集落に住むことができると思うに至ったことから,上記否認を撤回し,原告X1から本件選挙における原告X6への投票及び票の取りまとめの依頼の対価として,焼酎1本と現金1万円の交付を受けた事実は間違いないと認めること等が記載されている。
同月21日付け供述調書の残りの2通には,それぞれ,原告X8が,同月19日の取調べにおいて供述した,原告X3から,同月12日に,本件選挙での原告X6への投票及び票の取りまとめの依頼の対価として現金5万円の交付を受けたとの事実に関し,原告X8は,金員の交付を受けた同月12日のうちに夫の原告X4に相談したところ,原告X4が金員はもらっておけばいい旨を助言し,その助言を受けて安心した原告X8は,原告X4に上記5万円のうち2万円を小遣いとして交付したこと及び原告X8が,同月19日の取調べにおいて原告X3についての事実を供述したことに関し,同日及び同月21日,いずれも原告X3から脅迫めいた電話を受けたこと等が記載されている。
同月22日付け供述調書のうちの1通には,原告X8が,原告X1から供与された1万円の使途について,これまで5000円をA116に交付した旨を供述していたが,それは作り話であり,本当は,原告X4に5000円を交付したこと等が記載され,もう1通には,原告X8が,原告X1から1万円を受け取った日時及びその際の状況について,概ね原告X8の同月19日付け供述調書と同趣旨の内容のことが記載されているほか,①原告X8は,原告X1からもらった1万円を,本件選挙の開票結果が明らかになるまで費消せずに所持していたのは,原告X6が本件選挙で落選していた場合,その1万円を返還しなければならないと考えていたからであること,②原告X8は,同月13日,本件選挙の投票所までA116を自動車に乗せて送迎し,その車中で原告X6に投票するよう依頼したが,何らかの金銭を交付したことはなく,原告X1から受け取った1万円のうちの5000円をA116に交付したという供述は作り話であること,③原告X8がそのような作り話をしたのは,原告X8が上記1万円のうちの5000円を交付した相手方は原告X4であるところ,原告X4は,既に志布志署での取調べを受けていたことから,本当のことを供述すると,原告X4が取調べで厳しく追及されるのではないかと考えたからであるが,上記1万円のうちの5000円をA116に交付したと作り話をしたところで,警察がA116に確認を取れば,すぐに作り話であることは判明してしまうので,真実は,上記1万円のうちの5000円を原告X4に交付したということを供述するつもりになったこと,④原告X8が原告X4に上記1万円のうちの5000円を交付したのは,同月14日のことであり,原告X8が,原告X4とともに旧志布志町内のスーパーマーケットで買い物をした際に,4500円ほどの代金の支払に上記1万円を充てたことから,原告X4に上記1万円の入手先を聞かれて,原告X1から受け取った経緯を説明したところ,原告X4から,原告X8が一人で1万円全部を受け取るのはずるい,などと言われたことから,その釣り銭の中から5000円を交付したものであること,⑤原告X8が,これまでの取調べの中で,上記1万円のうちの残りの5000円についてガソリン代等に費消したと供述していたのは,別の機会に別の人物から本件選挙に関して交付された金員の使途と混同した結果の勘違いであることなどが記載されている。(甲総ア第25号証の944ないし948,甲総ア第429号証の281)
(ケ) A104に対する任意の取調べ(平成15年4月21日)
本件現地本部は,平成15年4月21日,A104に対し,志布志署関屋口交番への任意同行を求め,A65巡査及びA67巡査において取調べを行い,A104は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①A104は,これまで選挙運動はしたことがなかったが,本件選挙において初めて,妹である原告X1に依頼されて,近隣住民に対し,原告X6の後援会への加入を求める署名活動を行ったこと,②原告X1は,同年2月中旬から同年3月中旬までにおけるある日の午後2時から午後3時頃までの間,A104の自宅を訪れ,同人に対し,原告X1の勤務先の社長である原告X6が本件選挙に立候補することになり,ついては後援会入会申込書を作成することになったので,その記載に協力して欲しい旨を告げて,原告X6の後援会入会申込書2枚を交付するとともに,焼酎2本くくりと封筒入りの現金1万円を併せて交付してきたこと,③A104は,上記焼酎及び現金が,本件選挙における原告X6への投票及び票の取りまとめを依頼することについての対価であると理解した上でこれらを受領したこと等が記載されている。(甲総ア第544号証,乙国第6号証)
(コ) 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年4月22日)
本件現地本部は,平成15年4月22日,原告X4に対し,原告X4の自宅で,A25警部補において取調べを行い,原告X4は,同日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,原告X4は,同月15日の朝,原告X8からガソリン代として5000円を交付されたが,その金員は,原告X8が原告X1から,本件選挙における原告X6への投票依頼の対価として交付された1万円の一部であることが記載されている。(甲総ア第25号証の879)
(サ) 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年4月22日)
本件現地本部は,平成15年4月22日,原告X2に対し,志布志署への任意同行を求め,A16警部補及びA40巡査部長において取調べを行った。A16警部補は,原告X2が取調べ中に両手を机の下に置いた状態で手遊びをすることを見とがめて,原告X2の両手を机の上に置くようと命じた。
原告X2は,同日の取調べの途中,志布志署から退去したいと申し出て,取調べを拒否し,志布志署の建物の2階から1階に降り,志布志署の建物を出て,警察署の駐車場に駐めてある原告X2の自家用車に戻ったにもかかわらず,A16警部補及びA40巡査部長が,原告X2を追いかけて,原告X2の自家用車のところで,原告X2の両脇に立ち,取調室に戻るよう告げて,原告X2は,A16警部補及びA40巡査部長と一緒に駐車場から取調室に戻った。
A16警部補は,選挙違反は選挙があればその都度起こる犯罪であり,根っからの悪人だけが犯すような事件ではなく,末代から白い目で見られたりする犯罪でもなく身近な犯罪であって,交通違反と同じような態様の事件であると説得した。
原告X2は,その後,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X1が,同年3月中旬頃の午後6時過ぎに原告X2の自宅を訪問し,原告X2に対し,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼したことから,原告X2は,同申込書に,原告X2の妻である原告X10の氏名を記載したこと,②原告X1は,同申込書の記載を依頼した日の数日後に,再度,原告X2の自宅を訪問し,原告X2に対し,選挙は好きではないが,原告X1の勤務先の社長である原告X6が立候補するので応援を頼む旨を述べながら,焼酎2本くくりと白い封筒を交付しようとし,原告X2が同封筒の中身が現金であると察して,その受け取りを拒否したものの,原告X1は,焼酎2本くくりと同封筒を原告X2の自宅の板間に置いて立ち去ってしまったこと,③原告X2が,同封筒の中身を確認したところ,現金1万円が入っており,焼酎2本くくりの銘柄は,○○であったこと,④原告X2は,同封筒に入っていた現金をパチンコ代等に費消し,焼酎2本くくりもいずれも費消して,空き瓶も処分したこと,⑤原告X2は,本件選挙において,四浦校区全体で支持することが決まっていたA2県議を支持していたこと等が記載されている。(甲総ア第25号証の1041,甲総ア第429号証の346,甲陳第1号証,原告X2本人)
(シ) A86に対する任意の取調べ(平成15年4月22日頃)
A86は,平成15年4月22日までの時点において,本件現地本部が行った任意の取調べにおいて,原告X1から1万円と焼酎2本の供与を受けた旨を供述した。(争いのない事実)
(ス) A108に対するの任意の取調べ(平成15年4月22日)
A108は,平成15年4月22日,A15警部補の任意の取調べにおいて,A108が,同年3月初旬から中旬頃の午後8時半頃から午後9時頃,自宅で原告X1及び原告X9の訪問を受け,原告X6の後援会入会への入会を求められて,地卵10個をもらったことを供述したほか,それから約1週間後に原告X1が1人でA108方を訪れ,その際,A108が原告X1から現金1万円の供与を受けたことを認め,A15警部補は,同日,A108が原告X1から現金1万円の受供与があったことを認める内容の供述調書を作成した。(甲総ア第505号証及び530号証,弁論の全趣旨)
(セ) 原告X1に対する任意の取調べ(平成15年4月20日から同月22日まで)
本件現地本部は,平成15年4月20日から同月22日までの間,原告X1の任意同行を求め,3日ともA14警部補及びA63巡査において取調べを行い,原告X1は,同月20日の取調べにおいて,同日付け供述調書3通に,同月21日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に,同月22日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に,それぞれ署名・指印した。
上記同月20日付け供述調書には,①原告X1が,同月19日の取調べ時に供述した内容,すなわち,原告X1がX1焼酎事件受供与被疑者らに対して,焼酎及び現金を交付したという事実が虚偽である旨供述した内容について,その内容は,X1焼酎事件受供与被疑者らが,仮に,原告X1から焼酎及び現金の交付を受けた事実を,正直に供述しなかった場合に取調べが長期化するなどしてその家庭内の人間関係まで破壊しかねないと考えたからであること,②原告X1がX1焼酎事件受供与被疑者らに対して焼酎及び現金を交付したという事実に間違いはないこと,③原告X9は,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,A108とA85に対する焼酎及び現金の交付について,原告X1に同行するなどしていたこと,④原告X1が,同年3月下旬頃,夫の原告X9に対し,自宅で,勤務先の者から交付された本件選挙での選挙買収金の中から4万円を選挙運動のための資金として交付したこと,⑤その際も,原告X9は,これを拒否することなく受け取ったこと,⑥原告X1は,同月頃,勤務先のf社の事務所で,原告X6の妻である原告X7から,現金30万円入りの茶封筒を交付されるとともに戸別訪問の際に1人1万円ずつ交付するよう指示されたこと,さらにd社が製造販売する「○○」という銘柄の焼酎2本くくりを15組くらいも一緒に渡されたと記憶していること,他方で,現金1万円入りの封筒と焼酎が別の機会に渡された記憶もあること,そのため,記憶を整理してから改めて供述するつもりであることが記載されている。
同月21日付け供述調書には,原告X1が同日の取調べにおいて,A14警部補が不在の際にA63巡査から,原告X1の本当の気持ちを教えるよう言われて,これまで供述してきたことは虚偽であり,本当は,X1焼酎事件受供与被疑者らに対して後援会入会申込書を渡しただけで焼酎や現金は交付していない旨を回答したが,その回答は現実逃避であることなどが記載されている。
同月22日付け供述調書には,原告X1が,本件選挙に立候補した原告X6のため,戸別訪問やいわゆるローラー作戦等の選挙運動に従事したことについて,同月19日付け供述調書の記載内容と概ね同趣旨の内容のことが記載されているほか,①X1焼酎事件受供与被疑者らに対して焼酎及び現金を交付したことに関し,現金は,交付の都度,原告X1が自宅に保管している白色の祝儀袋か茶封筒に入れていたこと,②焼酎は,2本くくりを交付した者がほとんどのはずであるが,1本しか交付しなかった者もいるかもしれないこと,③原告X1が,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち亡A1に対して現金及び焼酎を交付した経緯については次のとおりであること,すなわち,同年3月上旬頃に亡A1の自宅を訪れて原告X6の後援会入会申込書への氏名の記入を依頼し,それからしばらく経過した同月中旬の午後6時頃,自家用車で亡A1の自宅を訪れて,亡A1に対して来訪を告げ,亡A1が現れる前に焼酎2本くくりを玄関横の縁側に置き,その後,玄関先で亡A1と面会して,原告X6が本件選挙に立候補するので支援して欲しい旨を告げて予めA10い手提げバッグに入れておいた現金1万円の入った白い祝儀袋か茶封筒を差し出したところ,亡A1に受け取りを拒否され,亡A1に対し,何度も同現金を受け取るよう依頼して受け取ってもらったという経緯であること,④原告X1が,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち原告X8に対し,現金及び焼酎を交付した経緯は次のとおりであること,すなわち,同年3月上旬頃,原告X8の自宅を訪れて原告X6の後援会入会申込書への氏名の記入を依頼し,それから数日経過した同月中旬の夕方頃,原告X8の自宅を訪れて,自宅に隣接する牛小屋に居た原告X8と面会し,原告X6が本件選挙に立候補するので支援して欲しい旨を告げて予めA10い手提げバッグに入れておいた現金1万円の入った白い祝儀袋か茶封筒を差し出したら,原告X8が,これを拒否することなく受け取ったという経緯であること,⑤原告X1が原告X8の自宅で焼酎を交付した状況は,よく思い出してから供述するつもりであること等が,それぞれ記載されている。(甲総ア第25号証の665ないし669,甲総ア第429号証の11及び15)
ウ 否認する受供与被疑者7名と捜査方針(平成15年4月22日まで)
13名のX1焼酎事件受供与被疑者らである原告X13,原告X2,原告X8,原告X5,亡A1,A104,A108,A107,A85,A106,A86,A105及びA87のうち,原告X13,原告X5,A107,A85,A106,A105,A87の7人は,平成15年4月22日までの本件現地本部の捜査において,X1焼酎事件に係る物品の受供与の被疑事実を否認した。
A12警部は,同月20日までに,X1が自殺をほのめかしていたこと,X1焼酎事件において複数の受供与者の供述は得たものの,受供与者が供述する金額及び焼酎の本数が一致しないことや否認する被疑者がいることから,早期に被疑者らを逮捕して受供与に係る供述を一致させることを検討していたが,A7参事官は,公職選挙法違反で公訴提起をすることができるのは10万円以上であって,10万円以上の受供与の供述が得られる見込みがあるのか,さらに詰めの作業をするように指示した。(争いのない事実,弁論の全趣旨)
エ 県警と検察庁との打合せ(平成15年4月21日及び同月22日)
A7参事官及びA9情報官は,平成15年4月21日及び同月22日,A73検事に対し,X1焼酎事件について事案の報告と今後の捜査方針についての協議を申し出て,県警と検察庁との間でX1焼酎事件の捜査方針について協議が行われた。
その結果,検察庁では,同日,①原告X8が,同年3月中旬頃,原告X1から焼酎と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,②亡A1が,同年3月上旬頃,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白し,うち焼酎の空き瓶1本を任意提出したこと,③原告X1が,同年3月中旬頃,X1焼酎事件受供与被疑者らに対し,現金1万円と焼酎2本を供与したことを自白したこと,④原告X2が,同年3月中旬頃,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑤原告X4が,原告X8の所持金の多寡について,原告X8が原告X1から現金1万円の供与があったことを裏付けるかのような供述をしたこと,⑥A104が,同年2月中旬から同年3月中旬頃までの間に,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑦A86が,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑧A108が,3月上旬から中旬頃の1日から1週間くらい後の日に,原告X1から現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑨上記各自白は,原告X2を除いて,本件現地本部による事情聴取を受け始めてから1日目ないし2日目までになされたものであり,原告X2についても,X1焼酎事件についての取調べを始めてから2日目になされたものであることなどの証拠関係を基に,X1焼酎事件について強制捜査を行うこと及び検察庁への事件送致後の主任検察官をA75検事とすることを決定した。
A8理事官は,検察庁の同決定を踏まえて,本件現地本部を訪れ,A12警部に対して,X1焼酎事件について原告X1の逮捕を指示した。
(甲総ア第25号証の1061,同1065,弁論の全趣旨)
オ 4月22日付け捜査報告書の作成(平成15年4月22日)
本件現地本部は,第1次強制捜査に着手するに当たり,平成15年4月22日,A11警部及びA28警部補作成に係る4月22日付け捜査報告書を作成して,逮捕状請求時の一件記録の一部とした。
4月22日付け捜査報告書には,X1焼酎事件の端緒として,平成15年4月15日,特別協力者から,本件選挙で四浦校区で金が配られており,受け取ったのは,四浦校区に住むA98,亡A1及びA99の3名である旨の情報提供がされ,基礎捜査の結果,上記3名がいずれも四浦校区に居住する本件有機米契約農家であったことが判明し,上記3名に事情を聞いたところ,うち2名からは買収事犯等の供述は得られなかったものの,亡A1からは,亡A1が,3月中旬頃の午後6時頃,四浦校区に居住し,f社に勤める原告X1から選挙運動のお礼として焼酎2本と現金1万円を受領したことを認める供述が得られ,この供述から原告X1の基礎捜査を行ったところ,四浦校区に居住すること,f社において稼働することが判明し,亡A1が供述した供与容疑に信憑性が出てきたため,同月19日,原告X1に対して事情聴取を行ったところ,13名に対し,現金1万円と焼酎2本を供与したことを認め,さらに数名から事情聴取をしたところ,原告X8も同様の供述をした旨が記載されており,強制捜査の必要性として,原告X1の供述が現金の出所に関して曖昧であり,本件が組織的,計画的にされたことがうかがわれ,今後,通謀又は口封じ工作などにより証拠隠滅及び逃亡の虞,原告X1の自殺の虞があるとしている。(甲総ア第2号証,弁論の全趣旨)
(7)  X1焼酎事件に係る第1次強制捜査(平成15年4月22日から同月29日まで)
ア X1焼酎4月22日捜査事件に関する原告X1の逮捕,送致,勾留請求(平成15年4月22日)
県警は,平成15年4月22日午後11時13分,X1焼酎事件に関して,原告X1が,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月上旬頃,亡A1方において,亡A1に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,現金1万円及び焼酎2本を供与し,前同月中旬頃,原告X4方において,原告X8に対し,前同様の報酬等として,現金1万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,原告X1を通常逮捕した(X1焼酎4月22日捜査事件,第1次強制捜査)。
本件現地本部は,同日午後11時13分頃,A14警部補及びA63巡査において,被疑事実についての弁解録取手続を行った。原告X1の同日付け弁解録取書には,逮捕状記載の被疑事実について,事実のとおり間違いがないこと等が記載されている。
本件現地本部は,同月23日,志布志署で,A14警部補及びA63巡査において,原告X1の取調べを行い,原告X1は,同日の取調べにおいて,被疑事実について積極的に供述せず,いわゆる身上調書及び原告X1が本件選挙に関し原告X6のため,ローラー作戦と呼ばれる戸別訪問等の選挙運動に従事したこと等について自供した同日付け供述調書各1通に署名・指印した。
県警は,同月24日,X1焼酎4月22日捜査事件を,検察官に身柄付きで送致をした。A75検事は,同月24日,原告X1に対し,弁解録取手続を行ったところ,原告X1は,事実関係を否認した。A75検事は,同日,裁判官に対し,原告X1について勾留及び接見等の禁止を請求をした。(甲総ア第3号証,甲総ア第25号証の670,同1037,甲総ア第429号証の1及び同16,弁論の全趣旨)
イ X1焼酎事件に関する原告X1の勾留等(平成15年4月24日)
原告X1は,平成15年4月24日,上記勾留請求に係る勾留質問において,被疑事実をいずれも否認する旨を述べた。
裁判官は,同日,勾留状の発付及び接見等禁止決定をし,A75検事は,同日,同勾留状を執行した。
(甲総ア第25号証の577,甲総ア第429号証の5及び6)
ウ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年4月25日及び同月26日)
A14警部補及びA63巡査は,平成15年4月25日及び同月26日,いずれも原告X1を取り調べ,原告X1は,両日の取調べにおいて,それぞれ同月25日付け供述調書及び同月26日付け供述調書各1通に署名・指印した。
上記同月25日付け供述調書には,①検察官の弁解録取手続及び裁判官の勾留質問手続において,被疑事実を否認したが,それは逮捕されて頭が真っ白になり,1年や2年も刑務所に入ることになったら,A112の世話ができなくなると心配になったためであって,真実は,原告X1が同年3月頃に,X1焼酎事件受供与被疑者らに現金1万円ずつと焼酎を供与したことに間違いないこと,②同日の取調べで,取調官から,嘘をつくことで多くの人に迷惑を掛けることになると諭されて,真実を供述する気になったことがそれぞれ記載されているが,現金1万円と焼酎を同一の機会に供与したのか否か,原告X6の後援会入会申込書の記載をいつ依頼したのかについては,何ら記載されていない。
上記同月26日付け供述調書には,①原告X1は,同年3月上旬頃,f社の関係者から,本件選挙における原告X6への投票を依頼するための選挙買収金として25万円から30万円くらいの金員を渡されたこと,②原告X1の同僚であるA113,A114及びA115もf社の関係者から同じくらいの金員を渡されていたことがそれぞれ記載されている。(甲総ア第25号証の672,甲総ア第429号証の17,同18及び同28)
エ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年4月27日から同月29日まで)
A14警部補及びA63巡査は,平成15年4月27日から同月29日までの毎日,原告X1を取り調べ,原告X1は,上記3日間の取調べにおいて,それぞれ同月27日付け供述調書,同月28日付け供述調書,同月29日付け供述調書各1通に署名・指印した。
原告X1は,同年4月27日,午前と午後2回にわたり,頭痛薬を看守に求め,取調べを拒否する意思表示をしたが,看守は,取調べを受忍するよう強く勧めた。
上記同月27日付け供述調書には,これまでX1焼酎事件受供与被疑者らに現金1万円と焼酎を供与したと供述してきたが,真実は,2万円ずつの現金を渡しており,詳しいことは頭を整理してから供述するつもりであることが記載されている。
上記同月28日付け供述調書には,原告X1がX1焼酎事件の受供与被疑者らに対し,本当は現金2万円ずつを供与したのに,これまで1万円を供与したと嘘をついていた理由について,①原告X1が同年2月下旬から3月上旬頃にかけて原告X6の後援会入会申込書を配布していたところ,四浦校区で原告X1が原告X6の選挙運動をしているなどの噂がたったことことから,a3集落でも一番口が軽い原告X4夫妻が噂の出所であると直感したこと,②原告X1が原告X8に現金2万円と焼酎を供与する際,口の軽い原告X8に口止めをしなければ,このことが四浦校区全体に噂として拡がってしまうと思ったことから,原告X8に対し,「現金と焼酎は原告X6の後援会入会申込書に名前を記載した人にだけあげているもので,他の集落の人には言わないでね。私からは1万円だけだからね。」と口止めをしたこと,③原告X1が同月19日の取調べで,取調官から,原告X1が金品を供与していることがはっきりと分かったなどと追及されて,原告X8が警察に話したと直感し,原告X8には,上記のとおり供与した現金は1万円だけであると口止めしたことを思い出したため,原告X1も供与した現金は1万円であると虚偽の説明をしたことが記載されている。
同月29日付け供述調書には,①原告X1が同年1月下旬頃,f社を退社しようとしたところ,原告X7から原告X6の後援会入会申込書,原告X6の名刺及び原告X6のプロフィールなど40枚ないし50枚ずつを手渡され,友人や知人に渡し,確実に投票してくれる人に後援会入会申込書への氏名の記載を依頼するよう指示されたこと,②原告X1は,同年2月中にもローラー作戦と呼ばれる戸別訪問等をしたが,本格的に選挙運動を始めたのは同年3月に入ってからで,まず,a3集落の亡A1,原告X8,原告X2,原告X13,A137の5世帯を回って原告X6が本件選挙に立候補することを告げて原告X6の後援会入会申込書にその場で署名をもらい,ただし,原告X13及び夫の亡X12は2人とも字が書けなかったため署名はもらわず,その後,旧志布志町や旧松山町内に居住している友人や知人に後援会入会申込書を渡して,後日,受け取りにいったこと,③原告X1が原告X6の後援会入会申込書に署名を求める際は,「今度,原告X6が選挙に出るからよろしくね。」と告げ,それは,本件選挙での投票依頼及び票の取りまとめを依頼する趣旨であったことがそれぞれ記載されている。
原告X1は,同月29日の午後9時前には,留置場の婦少房の壁に自らの頭を何回も繰り返しぶつけ,留置監督者の制止も聞かず,「もう死んだ方がましだ。」等の言動を発するなどの特異行動が見られた。(甲総ア第25号証の674及び同1037,甲総ア第429号証の20及び同21,甲Aウ第1号証)
オ X1ノートへの記載の開始(平成15年4月29日以降)
勾留中の原告X1は,平成15年4月29日頃,C1弁護士と接見し,C1弁護士から毎日の取調べ状況をノートに記載するよう指示され,同日から,X1ノートへの記載を始めた。(甲総ア第325号証,甲総ア第375号証,弁論の全趣旨)
カ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年4月25日から同月29日まで)
本件現地本部は,平成15年4月25日,A16警部補において,原告X2に対し,原告X2宅の牛舎前で,任意同行を求め,原告X2がC1弁護士を来訪する予約があるという理由で,任意同行を断ったが,A16警部補は,志布志署への出頭を求めて,志布志署に同行させた。
A16警部補及びA40巡査部長は,志布志署において取調べを行い,原告X2は,同日の取調べで,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X2は,同月22日の取調べで,原告X1から本件選挙における原告X6への投票依頼及び票の取りまとめの依頼を引き受ける対価として現金1万円と焼酎2本の供与を受けたことを認めたが,同月25日の取調べで,同月22日の供述は苦し紛れに付いた嘘であるとして,原告X1から上記供与を受けた事実を否認したこと,②原告X2が,同月25日の取調べで同事実を否認した理由は,自分の供述が原因で原告X1が同月22日に逮捕されたと思い,その供述が嘘だったと説明すれば,原告X1の身柄拘束が解かれるのではないかと考えたためであること,③原告X2は,同日の取調べで,取調官から嘘をついても真実は1つであるから世間では通用しないと説明され,ありのままを取調官に供述して今回の件は早く終わらせようと思い,取調官と握手して上記事実を認め,今後よく思い出して同事実についての詳細を説明するつもりであることなどが記載されている。
本件現地本部は,同月29日,原告X2に対し,志布志署まで任意同行を求めて,A16警部補及びA40巡査部長において取調べを行い,原告X2は,同日の取調べで,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X2は,これまでの取調べで,原告X1から本件選挙における原告X6への投票依頼及び票の取りまとめの依頼を引き受ける対価として現金1万円と焼酎2本の供与を受けたと供述してきたが,その供述は虚偽のもので,真実は,供与されたのが現金2万円と焼酎2本であったこと,②原告X2が,このような虚偽の供述をしたのは,同月20日か同月21日の午前9時過ぎ頃,畑で草刈りをしている際に亡A1と会って,お互いが受けている取調べの話題になり,亡A1からは,亡A1が,警察から聞かれたので,原告X1から焼酎2本と現金1万円をもらったと供述したと聞かされ,その時からもしも警察での取調べで,原告X1から金品の供与があったことを供述せざるを得なくなったときは,亡A1の供述に合わせて焼酎2本と現金1万円の供与を受けたと供述しようと心に決めていたためであること,③原告X2は,同月29日の取調べで,取調官から原告X1の供述と合わないと追及され,観念して真実を話そうと思ったことなどが記載されている。(甲総ア第25号証の751及び同752)
キ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年4月24日から同月29日まで)
本件現地本部は,平成15年4月24日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めて,A36巡査部長において取調べを行い,原告X8は,同日の取調べで,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X8は,これまでの取調べで,原告X1から供与を受けた1万円の使途について,5000円を原告X4に渡したと供述していたが,それは作り話であること,②真実は,原告X8が,同月19日に供述したとおり,原告X1から供与を受けた1万円のうち,5000円は,義父のA116に渡したものであること,③原告X8は,同月19日の取調べ後に帰宅すると,A116から,原告X8の帰宅前,自宅に原告X3からの電話があり,原告X8が警察の取調べで原告X3から本件選挙の買収金の供与を受けたと供述したことについて抗議されたことを告げられ,親の顔に泥を塗ったなどと非難され,A116が,原告X4宅で実権を握っており,元軍人でもあるため,原告X8が原告X1から1万円の供与を受け,そのうち5000円をA116に渡したと警察に供述していることがA116に分かってしまったら,原告X8は,原告X4宅に住めなくなると思い,原告X4と話を合わせてA116ではなく原告X4に5000円を渡したと嘘をつくと決めたこと,④原告X8と原告X4は,同月24日,いずれも警察の取調べを受けているが,原告X4の供述と原告X8の供述とが一致しないことから,これまでの供述が作り話であると見破られてしまい,正直に話さなければいつか嘘がばれることが分かったので,真実を供述する気になったことなどが記載されている。
本件現地本部は,同月25日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めて取調べを行ったが,同日の原告X8に対する取調べで供述調書は作成しなかった。
本件現地本部は,同月28日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めたが,原告X8が体調不良を訴えて,旧志布志町内の医療機関で点滴を受けるなどしたため,本件現地本部は,原告X8に対する同日の取調べを行わなかった。
本件現地本部は,同月29日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めて取調べを行ったが,同日の原告X8に対する取調べで供述調書は作成しなかった。(甲総ア第25号証の949及び同1026,甲陳7号証,弁論の全趣旨)
ク 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年4月24日から同月29日まで)
本件現地本部は,平成15年4月24日,原告X4に対し,志布志署まで任意同行を求めて取調べを行ったが,同日の原告X4に対する取調べで供述調書は作成しなかった。(弁論の全趣旨)
ケ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年4月24日から同月29日まで)
本件現地本部は,平成15年4月24日,亡A1に対し,志布志署まで任意同行を求めて,A20警部補及びA67巡査において取調べを行い,亡A1は,同日の取調べで,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①亡A1が同日の朝,原告X1の逮捕を知ったこと,②亡A1は,亡A1の供述が原告X1の逮捕の原因になったと考えていること,③原告X1には一刻も早くa3集落に帰ってきて欲しいこと,④亡A1も自分のしたことは事実として受け止め,よく思い出しながら正直に供述するつもりであることが記載され,それ以外の具体的な事実の供述の記載はなく,亡A1の供述部分の記載は,同供述調書の2頁目の2行目で終了している。
本件現地本部は,同月26日,亡A1に対し,志布志署まで任意同行を求めて,A20警部補及びA67巡査において取調べを行い,亡A1は,同日の取調べで,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X1は,同年2月の中旬か下旬頃の午後5時頃,原告X1が亡A1宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書への署名を依頼され,亡A1はその場で亡A1の氏名を記載したこと,②亡A1は,同年3月上旬か中旬頃の午後6時頃,自宅の近くにある牛小屋で作業をしていた際,原告X1が亡A1宅を訪れ,亡A1が原告X1に気付いて用件を尋ねると,原告X1が「社長が県議選に出るのでよろしくお願いします。焼酎はそこにあるから。」と告げてきたこと,③亡A1は,焼酎が原告X6への投票と票の取りまとめの依頼を受けることへの対価という趣旨だと理解したので,原告X1に対し,そんな物はいらないと言って断ったが,さらに,原告X1は,「これもだから。」と言って長方形の封筒のようなものを差し出し,亡A1が同封筒様のものに現金が入っていると直感したので,「持って帰れ」と言って受け取りを拒否したこと,④原告X1は,亡A1に対し,何度も封筒を受け取るよう差し出してきたので,安易に考えて受け取り,後で確認すると使い古した1万円札1枚が入っていたこと,⑤亡A1は,原告X1から受け取った封筒は2,3日後に家庭ゴミと一緒に焼却したこと,⑥亡A1がその後自宅の玄関を入った縁側に「○○」という銘柄の焼酎2本が置いてあったことなどが記載されている。
本件現地本部は,同月29日,亡A1に対し,志布志署まで任意同行を求めて,A17警部補において取調べを行ったが,同日,供述調書は作成されなかった。(甲総ア第25号証の1033,甲総ア第429号証の376及び同377)
コ A108,A85及びA105に対する任意の取調べ(平成15年4月24日から同月29日まで)
(ア) A108(平成15年4月25日,同月29日)
A108は,平成15年4月25日,A15警部補の任意の取調べを受け,同月25日の取調べにおいて,原告X1から現金1万円と地卵と一緒に焼酎の供与があった事実を認めたが,同日,供述調書は作成されなかった。
A108は,同月29日,A15警部補及びA66巡査の任意の取調べを受け,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X1は,同年3月上旬頃,A108方を訪れ,同人に対し,「この前はありがとうね。」と言いながら,焼酎2本くくりと白っぽい封筒を交付し,A108は,2週間位前に原告X1と原告X9がA108方を訪れて原告X6の後援会入会申込書にA108とその夫の氏名を書いたこと及びその際に原告X6への投票依頼を了承したことのお礼であると理解し,さらにその焼酎や現金の意味が本件選挙での原告X6への投票のほか,知人や友人からの票の取りまとめをすることへの報酬の意味であると直感したので,原告X1を呼び止めようとしたが,原告X1が帰ってしまったこと,②白っぽい封筒には現金2万円が入っており,焼酎の銘柄は「○○」であったことなどが記載されている。(甲総ア第505号証,甲総ア第517号証の1,甲総ア第521号証,甲総ア第530号証,甲総ア第545号証)
(イ) A85(平成15年4月26日から同月28日まで)
A85は,平成15年4月26日から同月28日まで,A17警部補の任意の取調べを受け,同月26日の任意の取調べにおいて,A85が平成14年12月28日頃,A89から,f社又はその関連会社が運営する農場で働いたことに対するお礼として,焼酎2本をもらったこと及び同年2月21日頃,自宅で原告X1夫妻の訪問を受け,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を求められて,氏名を記載し,その際に地卵10個をもらったことなどを供述し,同月27日の取調べにおいて,同年2月21日頃自宅で原告X1夫妻の訪問を受けてから1週間くらい経った頃,原告X1が一人でA85宅を訪れた際,原告X1から,原告X6をお願いするという趣旨のことを言われ,茶封筒に入った現金1万円の供与を受けたことを認め,A17警部補は,その旨の記載のある供述調書を作成し,A85は,同月28日の取調べにおいて,原告X1から供与された金員は,1万円ではなく2万円であり,同時に焼酎2本の供与も受けたことを認め,A17警部補は,その旨の記載のある同日付け供述調書を作成した。
A85は,同日,焼酎2本くくりを任意提出し,本件現地本部はこれを領置した。(甲総ア第508号証,甲総ア第532号証,甲総ア第559号証)
(ウ) A105(平成15年4月27日)
A105は,平成15年4月27日,A24警部補及びA46巡査部長の任意の取調べを受け,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,A105は,同年2月中旬頃,自宅で原告X1の訪問を受け,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,A105及びその家族らが氏名を記載したところ,それから1週間くらいした同年2月末頃,原告X1の訪問を受け,その際,白い封筒に入った新札の現金1万円及び焼酎2本の供与を受けたことなどが記載されている。(甲総ア第562号証)
(8)  本件買収会合の端緒とその初動捜査の捜査方針の決定(平成15年4月30日から同年5月2日まで)
ア 亡A1の交通事故(平成15年4月30日)
亡A1は,平成15年4月30日,志布志署で取調べを受ける予定であったが,その早朝に自動車を運転中,自損事故を起こして,頸部打撲等の傷害を負い,旧志布志町内の病院に入院した。(甲総ア第25号証の1033,弁論の全趣旨)
イ 原告X8に対する簡易ベッド上での任意の取調べと本件買収会合の端緒(平成15年4月30日)
本件現地本部は,平成15年4月30日,A36巡査部長において,原告X8に対し,任意同行を求めた。
原告X8から体調不良を理由に病院に行かせて欲しい旨の申し出をしたが,A36巡査部長は,原告X8を旧志布志町内の医療機関で点滴を受けさせてから,志布志署に同行させ,同日の午前11時頃から志布志署内の簡易ベッドの設置された小会議室で取調べを開始した。
A36巡査部長は,原告X8が,下を向いたり黙り込んだりする供述態度をとっているとして,原告X8は何かを隠しているのではないかと追及した。
原告X8は,これに対して,X1宅で会合があったと供述し,横になりたい旨を申し出た。
これに対して,A36巡査部長は,原告X8を簡易ベッドに横にならせて取調べを続け,同日付け調書作成1通を作成した。
その際,原告X8は,横になったままであり,A36巡査部長が問いかけたら目を開いて答えるというような衰弱した状態であった。
同供述調書には,原告X8による供述として,①原告X8が,これまで原告X1から焼酎1本と現金1万円の供与を受けたことを供述してきたが,他にも現金をもらったことがあり,それは,最初に現金をもらった同年3月20日から1週間くらいが過ぎた日であったこと,②原告X1は,その日の前日,原告X8宅を訪れて,原告X8に対し,原告X6の選挙の話があるので明日の午後7時頃にX1宅に来るよう告げ,原告X8と原告X4は,原告X1が指定した日時にX1宅を訪れて本件買収会合に参加したこと,③同日の会合には,原告X4夫妻のほか,原告X1,原告X9,A112,原告X2,亡X12,原告X5及び亡A1の合計9名であったこと,④会合は,午後7時頃から午後9時頃まであり,8畳の間に9名が座って行われ,料理や飲み物は提供されず,原告X1が原告X6が本件選挙に立候補するが当選が危ない状態なので助けて欲しい,a3集落を挙げて応援して欲しいと皆に告げるなどしたこと,⑤会合の参加者において原告X6を応援する話が終わると,原告X8は,X1宅の台所の土間から外に出ようとしたところ,土間のところで原告X1から原告X6を頼むという趣旨のことを言われながら白っぽい封筒を手渡されたこと,⑥原告X8は,一番最初に土間に出たため,他の会合の参加者が原告X1から封筒を手渡されるところは見ていないが,原告X1の手には封筒が何枚もあったことから他の会合参加者全員に封筒を配るつもりであると思ったこと,⑦原告X1から手渡された封筒には,現金1万円が入っていたこと,⑧原告X8が原告X4に確認したところ,原告X4も1万円もらったと答えたこと,⑨会合の事実はa3集落の全員が関わっており,その事実を供述すれば,裏切者としてa3集落に住めなくなると思ったため,これまで供述できなかったことなどが記載されている。(甲総ア第25号証の950及び同1026)
ウ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年4月30日)
A36巡査部長は,平成15年4月30日の午前中にA12警部に対し,原告X8が買収会合の事実に係る供述をした旨を報告した。A12警部は,同報告を受け,A10署長にその旨を報告した。
A12警部は,同日の昼頃,A14警部補に対し,原告X1の家で買収会合があったとの情報を伝え,原告X1に対する取調べをするよう指示した。
A14警部補は,同日,X1焼酎事件で勾留中の原告X1を取り調べ,原告X1は,本件選挙に関し,X1焼酎事件受供与被疑者らに対して金品を供与したことは3回あって,1回目が1万円ずつ,2回目が2万円及び焼酎2本ずつ,3回目が1万円を各供与し,3回目の1万円について,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,a3集落の人については,X1宅に来てもらって供与し,a3集落以外の8名に対しては,原告X1が各自の自宅に持参して供与した旨を供述した。
原告X1は,X1ノートに,同年4月30日の昼の話として,「あなたわけいじさんに何んかいもうそおゆうから何んかいもたいほする」,「あなたわ,うそおいっている。ほんとうのことおいわない」,「うそおいっているから,べんごしさんにいっても,べんごしさんのほうもたいほする」,「1月から2月3月4月13日までにあったことを,はなしをしなさいといわれました。なんですかときくと,ゆうことがちがうといって,なんどもしつもんされます」,「けいじさんの目をみなさいといわれてめをじっとみられないとうそをいったしょうこだといってしまいます」,「いろいろと1月から4月13日までのことをきかれてはなしをしたら人とのわるぐちをゆって自分んのわるぐちわひとこともいわないといってわたしに人とのわるぐちをゆうよりも自分んでしたことをはんせいしなさいといってとてもおこりました」と,原告X1が取調官に対してうそをいうことを理由に何回も逮捕する旨,弁護士も逮捕する旨が告げられていたこと,取調官から怒られたことを記載した。同年4月30日は,取調官に先入観を与えないために取調官同士を語らせないという本件箝口令が出された初日ではあるが,「ゆうことちがうといって,なんどもしつもんされます」と他の被疑者の供述内容との違いについて追及がされていたことが記載されている。(甲総ア第25号証の1037,同1055,甲総ア第375号証,弁論の全趣旨)
エ 本件箝口令(平成15年4月30日)
A10署長は,平成15年4月30日,A12警部に対し,本件買収会合の事実の捜査方針について,捜査官に先入観を持たせないため及び供述をありのままに引き出すためという名目により,本件買収会合の事実についての捜査官同士の情報交換を禁じ,捜査会議における本件買収会合の事実に関する状況についての報告を簡略化して,A12警部において,本件買収会合の事実に関する情報を一括管理して捜査を進めるよう指示した。
A10署長及びA12警部は,同日から一定期間,取調官同士の情報交換を禁じた上,原告らの供述内容等の情報はA12警部において一括管理し,取調官に対しては,具体的な情報を与えず,取調官からの被疑者の供述内容の報告に応じて,会合の回数を再度確認せよ,供与金額を再度確認せよといった最低限の指示を与えることを原則とする捜査方針(本件箝口令)に基づき捜査を進めることとした。
A12警部は,同日の夜の捜査会議において,捜査員に対し,被疑者の供述の中から新たに本件買収会合の事実が出たこと,本件買収会合の事実に関しては,今後,当面の間,取調官同士の会話及び供述調書や取調小票の閲覧を禁止し,更に,捜査会議について,捜査状況の報告を簡略化することを指示し,同年5月1日以降の取調べは,A12警部において情報を一括管理し,必要に応じてA10署長等と協議を踏まえながら各取調官と個別に金額や回数の食い違い等に関し,再度取り調べるよう指示する方法によって進めることとした。
その結果,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対するその後の取調べは,会合の回数,供与金額を繰り返し問いただす取調べが中心となり,供述調書も,供述のあった回数,供与金額をそのまま記載することとなったため,同人らの供述するままに供述内容が様々な回数や金額でもって録取されるようになり,供述内容の中で,いわゆる口止め料の話や受供与金の抜き取りの話が出てきたので,複数回の会合の事実や多額買収の事実が現実味を帯びてきたと受け止められるようになった。
A12警部は,県議会議員選挙における末端の受供与金の相場は5000円から1万円ないし2万円であったが,原告X6が危機感から多額の現金を受供与する必要があったと考えていた。
A10署長及びA12警部は,本件買収会合の事実が出たことを県警本部に対して,同年5月2日までは伝えず,本件箝口令による捜査方針についても伝えなかった。これらのことは本件現地本部に任されていると考えていた。
(甲総ア第25号証の1054,甲総ア第427号証の3,甲総ア第428号証,乙国第42号証,弁論の全趣旨)
オ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月1日)
A14警部補は,平成15年5月1日,原告X1を取り調べて,同年4月30日の取調べにおいて供述したX1焼酎事件受供与被疑者ら対する3回目の金員の供与に関し,a3集落以外の人への1万円の供与等について追及したところ,原告X1は,新たに,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,a3集落に在住する亡A1,原告X2及びa3集落以外に在住するA108外1名の合計4人に対してそれぞれ封筒に入った金員を供与し,封筒の厚みは4,5万円よりも厚かったとの事実を供述した。
A14警部補は,同事実の供述があったことをA12警部に報告し,同事実も並行して捜査することになった。(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第517号証の1,甲総ア第521号証,弁論の全趣旨)。
カ 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月1日)
本件現地本部は,平成15年5月1日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補において,原告X4の取調べを行い,原告X4は,同年3月20日頃,原告X1からの誘いで,本件買収会合に原告X8と一緒に参加し,他の参加者は,原告X1夫妻,原告X5,原告X2,亡A1,亡X12であり,原告X1から帰り際に,夫婦別々に白っぽい封筒をもらって,自宅で中身を確認したところ,自分の封筒には3万,X8の封筒には2万円入っていたことを供述し,A15警部補が,封筒に宛名が書いていないのに,封筒の中身に違いがあるのは不自然である旨を指摘すると,原告X4も原告X8もそれぞれ5万円ずつ供与されたと供述した。(甲総ア第25号証の1031)。
キ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月1日)
本件現地本部は,平成15年5月1日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長において,原告X8の取調べを行い,原告X8は,本件買収会合で供与を受けた金額につき,原告X8が3万円,原告X4が8万円である旨を供述した。(甲総ア第25号証の1026)。
ク 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月2日)
A14警部補は,平成15年5月2日,原告X1を取り調べ,原告X1は,本件買収会合が開催された時期は3月頃であり,出席者は,X12夫妻,原告X4夫妻,亡A1,原告X2,原告X5,原告X9及びA112であり,供与された金額は5万円であり,夫婦で来た人にも,それぞれに封筒1枚ずつの合計10万円を渡した旨を供述した。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同年5月2日の朝の話として,「けいじさんにほんとうのことをいってくださいといわれました」,「a3集落の人とが五人んがわたしから十万円もらったといったそうですそのおかねをどうしておくさんからうけとってもらってきたのかとききました」,「あなたがうそおいっていますのでa3集落の五人んもたいほするよといわれましたそのことでまいにちみんなけいじさんによばれててんてきおしながらつらいおもいおしながらけいじさんのところにいってはなしおしていますといわれました」などと,a3集落の住民5人が原告X1から10万円を受供与されたと言っていること,原告X1がうそを言うので同住民5人も逮捕する,点滴を打ちながら取調べを受けていると告げられたことを記載し,同日の昼の話として,「A1 X13 X5 X8 X2にわたしたときはでんわできなさいといったのかあるいていったのかときかれました」,「それからうちにわだれがいたかときかれましたそのときわじいちゃんがいたかもしれないといったらおやじもいたんだといってきかれなかった」,「それからA108サント A106 A1 X2ノトころにわいくらもっていったかときかれて十万円だったといってもうそおついているといってとてもきかれなかった」と,原告X1の供述に対してはA14警部補から嘘を言っていると扱われて話を聞いてもらえなかった旨,また,A14警部補から他の被疑者の供述内容との差異を追及された旨を記載した。(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第375号証)
ケ 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月2日)
本件現地本部は,平成15年5月2日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補において,原告X4を取り調べ,原告X4は,本件買収会合は2回あり,1回目の会合は,同年2月中旬頃に開催され,原告X8は参加しておらず,帰り際に参加者に対し,3万円入りの封筒を供与され,2回目の会合は,同年3月下旬頃に開催され,参加者は,1回目の参加者に原告X8を加えたもので,参加者に対し,5万円を供与された旨を供述した。(甲総ア第25号証の1031)
コ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月2日)
本件現地本部は,平成15年5月2日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長において,原告X8を取り調べ,原告X8は,本件買収会合で供与された額につき5万円と供述し,参加者につき,原告X8は,これまで供述した者のほかに,原告X6,A5,原告X3及び原告X13と供述した。(甲総ア第25号証の1026,甲総ア第429号証の284,弁論の全趣旨)。
サ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月2日)
本件現地本部は,平成15年5月2日,亡A1に対して,同年4月30日の上記自損事故によって入院中の病院から志布志署への任意同行を求め,A17警部補において取調べを行い,亡A1は,本件買収会合は,2月か3月頃開催され,その日の午後8時前後から15分か20分した頃,原告X6とA5が到着し,四浦校区側の参加者は,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X3,原告X2,原告X13,原告X5であり,帰り際に勝手口で原告X1から5万円入りの祝儀袋を供与されたことを供述し,その旨の記載のある同年5月2日付け供述調書1通に署名・指印した。
しかし,A1ノートには,同年5月2日及び同月3日の欄には,「病院からつれていかれ,再びじんもん 又,あらたな事がもちあがって居ました。それはa3部落がX1の家で集りをしたと云う事。これも全くうそです。2月から3月に3回もX6さんがきて集まりは出来ない事。それからいつの間にかX3君の名が出て居ると云う事」との記載があり,本件買収会合に関する取調べが同年5月2日に開始された旨の記載がある。(甲総ア第25号証の1033,同1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の378)
シ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月2日)
本件現地本部は,平成15年5月2日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補において,原告X2を取り調べ,原告X2は,本件買収会合の開催時期について,同年3月中旬か下旬頃,参加者について,原告X2のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,亡X12,亡A1,原告X5がX1宅に集まり,原告X1から3万円を供与された旨を供述した。(甲総ア第25号証の1039)。
ス 亡X12に対する取調べ(平成15年5月1日ないし同月3日)
A23警部補は,平成15年5月1日から,亡X12に対し,任意同行を求め,取調べを行った。A23警部補は,同月2日又は同月3日の取調べ中,亡X12に対し,「なんぼ言っても認めない。」と亡X12が自白しないことを理由に,「たたっから立ちなさい。」と発言した。「たたっから」とは「叩くから」という鹿児島の方言であり,相手に暴行を加える際に予告する時に用いられる。(甲陳第11号証,甲陳第12号証,原告X13本人尋問,弁論の全趣旨,当裁判所に顕著な事実)
セ 県警と検察庁との協議(平成15年5月2日)
A10署長は,平成15年5月2日に,県警本部の刑事部長に対し,本件買収会合の報告を上げ,原告X6の逮捕が射程に入ってきたことを伝え,原告X6の逮捕をどのようにして行うかを協議し,本件買収会合が広がれば,原告X6の逮捕が可能となるとの認識で一致し,本件買収会合の供述を出せるだけ出す方針が決定された。
A12警部及びA8理事官は,同日,いずれもA75検事に対し,X1焼酎事件の被疑者らが本件買収会合の供述を始めていることを報告し,A75検事は,同日以降,本件買収会合に係る被疑者らの供述状況について逐次報告を受けていた。
A73検事は,本件現地本部に対し,今後の捜査は,本件買収会合に関する捜査を優先的に行い,X1焼酎事件の捜査は本件買収会合に関する捜査を進める間に詰めて送致するという指示をした。
検察庁においては,複数回会合及び多額の買収がされた旨の供述に関して,なぜそのような複数回会合及び多額の買収が行われたのかということに関しては,何ら疑問をもっていなかった。
(甲総ア第25号証の1061,乙国第252号証,証人A75,弁論の全趣旨)
(9)  本件刑事事件の捜査の継続(平成15年5月3日から同年5月6日まで)
ア 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月3日)
A14警部補は,平成15年5月3日,A12警部から,原告X1の取調べについてa3集落以外の人が参加したか及び本件買収会合の回数を確認するよう再度指示を受けて,原告X1を取り調べ,A14警部補が原告X3の話をしたところ,原告X1は,原告X3が本件買収会合に参加していたことを認め,自宅で本件買収会合が3回あったこと,1回目の会合は同年2月頃開催され,原告X6とA89が自宅に来て,原告X6から1人当たり5万円の買収金を渡され,原告X1において四浦校区側の参加者に供与したこと,2回目の会合は同年3月頃開催され,原告X6及び原告X7並びにA89及びA5が自宅に来て,原告X7から1人当たり5万円の買収金を渡され,原告X1において四浦校区側の参加者に供与したこと,3回目の会合は,本件選挙の投票日の4,5日前頃,原告X6及び原告X7並びにA89が来て,原告X7から1人当たり10万円の買収金を渡され,原告X1において四浦校区側の参加者に供与したこと等を供述した。
また,原告X1は,同年5月3日の取調べにおいて,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X1は,本件選挙に関し,金品の供与や受供与をした場面が以下の7つあり,その時期の特定はまだ整理できていないこと,②1つ目の場面は,原告X7から15万円を受け取り,a3集落に居住する者など13名に現金1万円ずつを供与したこと,③2つ目の場面は,原告X7から30万円を受け取り,a3集落に居住する者など13名に現金2万円及び焼酎2本を供与したこと,④3つ目の場面は,原告X7から,原告X1へのお礼として現金10万円の供与を受けたこと,⑤4つ目の場面は,a3集落の人間を自宅に3回集めて本件買収会合を開き,1回目の会合は,同年2月頃,原告X6から現金5万円入りの封筒を受け取って集まった人に供与し,2回目の会合は,同年3月頃,原告X7から現金5万円入り封筒を受け取って集まった人に供与し,3回目の会合は,本件選挙の投票日前の4,5日くらい前頃,原告X7から予め受け取っていた現金10万円入りの封筒を集まった人に供与したこと,⑥5つ目の場面は,原告X7から,原告X1に対する2回目のお礼として現金10万円の供与を受けたこと,⑦6つ目の場面は,原告X7から指示され,亡A1,原告X2,A106,A108,A104に現金20万円入りの封筒を供与したこと,⑧7つ目の場面は,投票日の4,5日前頃,原告X7から現金10万円入りの封筒を受け取り,a3集落以外に居住する8人に供与したことが記載されている。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同年5月3日の昼の話として,「だれとだれにまだおかねをやったかとしらべました」,「a4集落が3人四浦 A97 A103と五人の名をいったらまだたくさんいるはずだといわれました」と,A14警部補から他の受供与者の名前を挙げるよう追及されていた旨を記載した。
(甲総ア第25号証の678,同1037,甲総ア第375号証,甲総ア第429号証の23,弁論の全趣旨)。
イ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月3日)
本件現地本部は,平成15年5月3日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長において,A12警部からの買収会合の回数を確認するようにとの指示の下,原告X8を取り調べ,原告X8は,本件買収会合が3回あったこと及び供与された金額は,1回目の会合が3万円,2回目の会合が2万円,3回目の会合が5万円であったことなどを供述した。(甲総ア第25号証の1026)。
ウ 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月3日)
本件現地本部は,平成15年5月3日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補において,A12警部からの本件買収会合の出席者について原告X6の関係者側からの出席者はなかったのか及び四浦校区側の出席者が他にいないか確認するようにとの指示の下,原告X4を取り調べ,原告X4は,本件買収会合には,原告X6,原告X7及びA5が来ていたほか,四浦校区側からは原告X3,原告X11,A88が参加したことがあること,買収会合は全部で3回あり,供与された金額は,1回目の会合が5万円,2回目の会合が5万円,3回目の会合が10万円であること,3回目の会合では,原告X6から直接金員の供与を受けたことを供述した。(甲総ア第25号証の1031,弁論の全趣旨)。
エ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月3日)
本件現地本部は,平成15年5月3日,亡A1に対して,同月30日の上記自損事故によって入院中の病院から志布志署への任意同行を求め,A17警部補において,A12警部からの本件買収会合の回数を中心に確認するようにとの指示の下,取調べを行い,亡A1は,X1宅で会合が3回あったこと,同月2日の取調べで供述した5万円の供与を受けたのは,2回目の会合でのことであり,その他の会合での供与された金額は,1回目の会合において2万円,3回目の会合においては,亡A1に対して20万円であり,原告X2と原告X4に対して確認したところ各10万円であり,いずれも原告X3から供与を受けたこと,参加者は,3回目の会合で多少の入れ替わりはあるものの,亡A1のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X5,X12夫妻,原告X3並びに原告X6,原告X7及び原告X6の関係者1名であること,買収会合の中で,原告X9と亡X12が口論をしたことがあったことなどを供述した。(甲総ア第25号証の1033)。
オ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月4日)
A14警部補は,平成15年5月4日,原告X1を取り調べ,原告X1は,1回目の会合について,開催した時期は同年2月頃であり,参加者は原告X1のほか,X12夫妻,原告X4夫妻,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X9,A112,原告X6及び原告X6の関係者1名であること,3回目の会合について,四浦校区側の参加者に現金を供与した人物は原告X7であること,その後,A14警部補の再度の追及により原告X6であること,買収会合の回数について,A14警部補の追及により,4,5回くらいであること,供与された金額は,1回目会合が2,3万円,2回目会合が5万円,3回目会合が5万円,4回目会合が10万円であることをそれぞれ供述をした。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同年5月4日の朝の話として,「うちではなしをしたときわなんにんきたかなんじごろにきたかだれとだれがきたかといわれましたどうゆうはなしをしたか私たしときた人とのはなしがちがうとそのひとがけいじさんにせめられるといいました」などと,供述が一致していないことにより,他の被疑者が責められると告知される旨を記載し,同月4日の昼の話として,「うちにだれとだれをよんでおかねを何んかいわたしたかそれにオードオブルオナンコトッタカビールオいくらとったかしょうちゅうをいくらもっていったかビールわどこでかったかしょうちゅうわいくらかいしゃからもっていったかとたずねました」,「うちのなかでだれからおかねをわたされてどうゆうふうにやったか」,「自分んの家に6回きているといわれてきたことわないといってもけいじさんがたくさんの人とがいったといっていますといいました」,「私たしがだれもきたことわないといってもけいじさんがうそをいってといってオードーブルもとっているとほかのひとからいわれてほかのひととはなしがちがうとまいにちそのひとがけいじさんによばれてたいへんです」,「おまえがうそをゆうからあいての人とのはなしわあわないといわれます」などと記載し,否認をする原告X1に対して,他の被疑者の供述と異なっており原告X1が嘘を言っているとしてA14警部補が追及をしていた旨を記載した。(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第375号証)
カ 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月4日)
本件現地本部は,平成15年5月4日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補において,原告X4を取り調べ,原告X4は,1回目の会合は,自分1人で出席して原告X8の分まで封筒2通の供与を受けたこと,本件買収会合での供与金額は,1回目の会合において5万円が2通,2回目の会合において5万円,3回目の会合において10万円であったことを供述した。(甲総ア第25号証の1031)
キ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月4日)
本件現地本部は,平成15年5月4日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長において,原告X8を取り調べ,原告X8は,1回目の会合には風邪で参加できなかったこと,供与された金額は,1回目の会合において5万円,2回目の会合において5万円,3回目の会合において10万円であると供述した。(甲総ア第25号証の1026,同1030)
ク 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月4日)
本件現地本部は,平成15年5月4日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補において,A12警部からの3回目の会合の供与者と金額を中心に確認するようにとの指示の下,亡A1を取り調べ,亡A1は,3回目の会合で供与を受けたという20万円は,本件買収会合の際に供与されたものではなく,別の機会に原告X3から受け取ったものであり,3回目の会合で供与された金額は10万円であること及び同10万円は原告X6から供与を受けたことを供述した。
しかし,A1ノートの同月4日の欄には,「3回目の集まりでX6さんがみづからお金を渡したとするよう。けうはくされる これが午前中 午後,集りにまだ1人か2人足りないと云う この集まりは全部うそ X6さんたうせんむかうをねらってけいさつがかんがへたことだとおもう。」と,原告X6自ら現金を渡したと供述するように脅迫され,うその集まりの話を警察が考えた旨の記載がある。(甲総ア第405号証の1,甲総ア第25号証の1033,同1091)
ケ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月4日)
本件現地本部は,平成15年5月4日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補において原告X2の取調べを行い,原告X2は,本件買収会合は,3回あり,1回目の会合が2月下旬頃開催され,原告X1から5万円の供与を受け,2回目の会合が3月中旬頃か下旬頃に開催され,原告X1から5万円の供与を受け,3回目の会合が4月上旬頃に開催され,原告X6から10万円の供与を受けたこと,参加者は,3回の会合で多少の入れ替わりがあるが,原告X2のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,亡X12,亡A1,原告X5,原告X6,原告X7,A89及び原告X6の関係者1名であることなどを供述した。(甲総ア第25号証の1041)
コ 原告X9に対する任意の取調べ(平成15年5月4日)
本件現地本部は,平成15年5月4日,原告X9に対して任意同行を求めて,取調べを行い,原告X9は,X1宅で会合が6回ほど開かれ,オードブルなどが提供されたが,現金のやりとりはなかった旨を供述した。
なお,本件現地本部は,原告X9につき,同月1日から同月5日まで及び同月7日,それぞれ任意同行を求めて取調べを行ったが,同月8日以降,原告X9が出頭を拒否したため,同人に対する任意同行による取調べを中断した。(甲総ア第3号証)
サ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月5日)
A14警部補は,平成15年5月5日,原告X1を取り調べ,原告X1は,1回目の会合での供与された金額について,3万円という記憶が強いこと,買収会合の回数について,はっきり覚えている会合は4回くらいであることを供述した。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同日の朝の話として,「けいじさんにきのうのことおいわれてなんかいわたしのいえではなしをしていますかときかれて4回ぐらいといったらだれとだれがきましたかときかれました」,「それからなんかいおかねをわたしたかあなたのわたしたときわなんかいでしたか」,「それとX3もおうちでくばっているといわれてなんでX3がくばるのかといってりゆうをいいなさいといわれました」,「①3 ②5 ③5 ④10」などの記載をした。(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第375号証)
シ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月5日)
本件現地本部は,平成15年5月5日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長及びA64巡査において,原告X8を取り調べ,原告X8は,同日付け供述調書2通に署名・指印した。
上記各供述調書の1通には,①原告X8が,本件選挙に関し,最初に金品をもらったのは,同年2月上旬に開催された1回目の会合の際において参加者に現金3万円が供与され,原告X8は参加しなかったが,原告X4が原告X8の分も受け取ってきたこと,②原告X8が次に金品をもらったのは,同年2月中旬か2月下旬頃,役場の配布物を持ってX1宅を訪れた際に原告X1に呼び止められ,原告X6の集まりの時にもらっておいた分だと説明されて白い封筒入りの5万円の供与を受けたこと,③原告X8が次に金品をもらったのは,同年2月下旬か3月上旬頃,2回目の会合に原告X4と共に会合に参加した際で,他の参加者は,原告X6,A5,亡A1,原告X5,原告X13及び原告X2であり,いずれも白色封筒に入った5万円の供与を受けたこと,④原告X8が次に金品をもらったのは,同年3月中旬頃で,原告X1が自宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,焼酎2本と白色封筒に入った現金2万円の供与を受けたこと,⑤原告X8が,次に金品をもらったのは,同年3月中旬頃で,原告X1が自宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書に氏名を記載してくれたお礼として茶色封筒に入った現金1万円の供与を受けたこと,⑥原告X8が,次に金品をもらったのは,同年3月下旬頃,3回目の会合に原告X4と共に参加した際で,他の参加者は,原告X6,A5,原告X3,原告X1の家族,亡A1,原告X5,原告X13,原告X2,原告X11及びA88であり,原告X6から白色封筒に入った10万円の供与を受けたこと,⑦原告X8が,次に金品をもらったのは,同年4月12日のことで,原告X3から,同月10日,旧志布志町の中心部にあるスーパーマーケットの駐車場で声をかけられ,原告X6への原告X8の家族の票の取りまとめを依頼されて,四浦校区内のとある交差点で待ち合わせをして現金5万円の供与を受けたことが記載されている。
上記供述調書のもう1通には,①原告X8が初めて本件選挙に係る買収会合に参加した2回目会合は,同年2月下旬から同年3月上旬の平日にあり,原告X8が午後7時頃X1宅を訪れると既に亡A1及び原告X2を除く他の参加者はX1宅に集まっており,亡A1と原告X2が到着した後,会合が始まったこと,②会合は,X1宅の中江の間に参加者11人が円座して行われ,A5,原告X6が挨拶したこと,③原告X1は,原告X6の挨拶が終わった頃,参加者に順次現金の入った封筒を配布し,原告X8も原告X1から受け取った後,原告X6に向かって頭を下げたこと,④原告X6は,午後8時頃,A5と原告X3を連れて帰宅したこと,⑤その後,宴会が始まり,缶ビールや乾き物が出されたこと,⑥その会合で供与を受けた5万円のうち,3万円は,生活費や預金通帳を管理している義母のA131に渡し,2万円は,長男のA110の自動車のローンの支払に使用したことなどが記載されている。(甲総ア第25号証の1026,甲総ア第429号証の284及び同285)
ス 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月5日)
本件現地本部は,平成15年5月5日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補及びA65巡査において,原告X4を取り調べ,原告X4は,これまでの供述は全て嘘であるとして一旦否認に転じたが,再度自白して,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①1回目の会合は,同年2月上旬頃の午後7時頃から午後8時頃にかけて開催され,参加者は,原告X4のほか,原告X1夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,亡A1,亡X12,原告X6及びA5であり,もしかしたら,四浦校区の役員をしている原告X11及びA88も参加していたかもしれず,この会合の帰り際に原告X1から参加者全員に白っぽい封筒が渡され,原告X4は,妻の原告X8の分と合わせて2通を受け取り,封筒には1通につき5万円が入っていて,原告X4は10万円の供与を受けたこと,②2回目の会合は,同年3月上旬から中旬の午後7時頃から午後8時30分にかけて開催され,参加者は,原告X4夫妻のほか,原告X1夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,亡A1,亡X12,原告X6及びA5であり,原告X11とA88も参加していたような気がすること,同日の会合でも原告X1が参加者全員に白っぽい封筒に入った現金5万円を渡し,原告X4も5万円の供与を受けたこと,③3回目の会合は同年4月上旬頃の午後7時から午後8時30分頃にかけて開催され,参加者は原告X4夫妻のほか,原告X1夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,亡A1,原告X11,亡X12,A88,原告X6,原告X7及びA5であり,原告X6から参加者全員に白っぽい封筒に入った現金10万円が渡され,原告X4も現金10万円の供与を受けたこと,④原告X4は,同年3月上旬頃の早朝か夕方,四浦小学校付近で原告X3と立ち話をしていたら,原告X3から「原告X6に1票でもいいから加勢してくれ」と依頼されて,茶封筒入りの現金5万円を供与されたこと,⑤原告X4は,同年2月下旬か同年3月上旬頃の午後7時から午後8時頃,亡A1が自宅を訪れ,原告X4の家族に対し,A2県議の支援を呼び掛けてきたが,帰り際に分かっているだろうという意味のことを言いながら,原告X4にこっそりと折り曲げた裸のままの5万円を交付してきたこと,⑥亡A1は,裏でf社と米の取引をするなどの関係があること,⑦原告X4がこれまで上記各事実を供述することができなかったのは,a3集落の多くの人が現金の供与に関与していて,原告X4が供述したことがばれると村八分にされることが心配だったからであるが,今日の取調べで供述するに当たり,原告X4の息子や娘に対して,警察で本当のことを話すがこんな父を見捨てないで欲しいと告げると,息子や娘から,何があっても私達のお父さんであるなどと励まされ,これまで嘘をついていたことが恥ずかしくなり,真実を話そうと決心したことなどが記載されている。(甲総ア第25号証の880,同1031,甲総ア第429号証の208)
セ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月5日)
本件現地本部は,平成15年5月5日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補において,亡A1を取り調べ,亡A1は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①本件買収会合は,全部で4回あったこと,②1回目会合は,同年2月上旬か中旬の夜に開催され,参加者は,亡A1のほか,原告X1夫妻,原告X4,原告X5,原告X2,原告X3,亡X12,原告X6及び原告X7であり,原告X1から祝儀袋入りの現金2万円の供与を受けたこと,③2回目会合は,同年2月下旬か同年3月上旬の夜に開催され,参加者は,亡A1のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,原告X13,原告X6及びA5であり,原告X6の運動員である原告X3から,帰り際に祝儀袋か白い封筒に入った現金5万円の供与を受けたこと,④3回目会合は,同年3月中旬の夜に開催され,参加者は,亡A1のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,原告X13,A88,原告X6及びA5であり,原告X1から祝儀袋入りの現金5万円の供与を受けたこと,⑤4回目会合は,同年3月下旬の夜に開催され,参加者は,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X3,原告X5,原告X13,A88,原告X6,原告X7及びA5であり,原告X6から祝儀袋入りの現金10万円の供与を受けたこと,⑥4回目会合で原告X6から祝儀袋を受け取った後,原告X6から,このことは口が裂けても絶対口外するなと口止めされたことが記載されている。
しかし,A1ノートの同年5月5日の欄には,「集りが3月中にもう1回足りないと云うことで午前中あらそうが,けっきょく,けさつのいう通りに全部で4回になり,もらった金は20万余りとなる。これも全部うそです。本当のことはひとつもいって居ない。全部うそです。私は1円ももらっていないのですから。」と供述調書の記載が虚偽である旨の記載がある。
(甲総ア第25号証の1033,同1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の379)
ソ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月5日)
本件現地本部は,平成15年5月5日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補において原告X2の取調べを行い,原告X2は,本件買収会合の参加者の記憶がはっきりせず,原告X6が参加していたかどうかはっきりしないなどと,その後,確かに原告X6は参加していたなどとそれぞれ供述し,それ以外,本件買収会合について新たな供述はなかった。(甲総ア第25号証の1041,弁論の全趣旨)
タ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月6日)
原告X1は,平成15年5月6日の取調べで,本件買収会合について,新たな供述は行わなかったものの,同日付け供述調書3通に署名・指印した。
上記各供述調書には,原告X1が同年4月18日から取調べを受け始めた後,同年4月22日に逮捕される数日前,警察の取調べから帰宅した後,原告X6とA5がX1宅を訪れ,原告X6から,選挙で原告X6が金をやっていたことを警察には絶対言うなと口止めされて,茶封筒に入った30万円を口止め料として受け取ったことが記載されている。なお,A5は,同年4月17日から同月30日まで曽於郡立医師会病院に入院していた。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同年5月6日の朝の話として,「うちではなしおしたときにわだれからおかねをうけとってもらいましたか」,「おやじがきていてけいじさんにしらべてもらって私たしと二人りいるときにおかねをせんきょがおわってから20000万円もらったといったそうですおやじもいえでのみかいをなんかいかしたといっています」,「20000万円もってきたときわだれとだれがきましたかときかれました」,「そのときわしゃちょうとiホテルの人とがきたといいました」,「そのときのことばわどうゆうふうにいわれましたかといったらくちどめりょうといってわたされましたといいました」などの記載をした。また,原告X1は,X1ノートには,同月6日の昼の話として,「うちではなしをしたときのこと だれがだれにおかねをわたしたかときかれました」,「しゃちょうがきたときにだれとだれがきましたかといわれてしゃちょうとかわばたさんがきたといったら私たしが20000まんえんもらったといったらちがう30000万円だったといいました」,「a3集落の人とわむかしからこうゆうことがあったといわれましたそしてなんでそんなにあつまるのかときいて何んかいもあつまっておかねをもらうつもりですねといわれました」などと,20万円の数字を挙げる原告X1に対して30万円とA14警部補が誘導して調書を作成していた旨の記載がある。なお,上記記載のうち,「おやじ」は原告X9を,「iホテルの人」はA5をそれぞれ意味し,「20000万円」は20万円の誤記と,「30000万円」は「30万円」の誤記と認められる。(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第375号証,甲総ア第429号証の24ないし26,甲陳第16号証,乙県第2号証,弁論の全趣旨)
チ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月6日)
本件現地本部は,平成15年5月6日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長において,原告X8を取り調べ,原告X8は,本件買収会合のうち,3月下旬頃に開催された会合で,原告X8は現金10万円の供与を受けたが,供与した人物は,原告X6ではなく原告X7であったことなどを供述した。(甲総ア第25号証の1026)
ツ 原告X4に対する任意の取調べ(平成15年5月6日)
本件現地本部は,平成15年5月6日,原告X4に対して任意同行を求め,A15警部補において,A12警部からの本件買収会合の回数及び受供与金額について間違いないか確認するようにとの指示の下,原告X4を取り調べ,原告X4は,本件買収会合は4回あり,供与された金額は,1回目会合が3万円を2人分の合計6万円,2回目会合が5万円,3回目会合が5万円,4回目会合が10万円であったことなどを供述した。(甲総ア第25号証の1031)
テ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月6日)
本件現地本部は,平成15年5月6日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補は,A12警部からの本件買収会合の回数及び参加者について確認するようにとの指示の下で,原告X2の取調べを行い,原告X2は,当初,どうしても嘘の話はできないとして本件買収会合の事実を否認したが,その後,自白に転じ,原告X2は,これまで話した3回の会合のほかに,2月上旬にも1回目会合があり,供与された金額は3万円であって,4回の本件買収会合で供与された金額は,1回目会合が3万円,2回目会合及び3回目会合がいずれも5万円,4回目会合が10万円であること,参加者として,新たに原告X3,原告X11及びA88を挙げるが,その一部の者については,はっきりしないなどと供述した。(甲総ア第25号証の254,同1041,弁論の全趣旨)。
ト 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月6日)
本件現地本部は,平成15年5月6日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補において,A12警部からの1回目会合の受供与金額を確認するようにとの指示の下,亡A1を取り調べ,亡A1は,1回目会合の受供与金額について,3万円であることを供述した。(甲総ア第25号証の1033)
ナ 県警と検察庁との協議(平成15年5月6日)
A12警部は,平成15年5月6日,A75検事に対し,本件買収会合についての供述が概ね出そろったとして,同日の時点での原告らの4回の本件買収会合に係る供述内容を報告して,強制捜査に踏み切ることを打診し,A75検事とA12警部は,1回目会合について強制捜査を行う方針を取ることを確認し,A75検事は,同月10日,検察庁内部での協議を経て,1回目会合についても強制捜査を行う方針を決定した。(甲総ア第25号証の1061,乙国第252号証,証人A75)
ニ 通常の捜査会議の再開(平成15年5月6日,同月7日)
A10署長及びA12警部は,平成15年5月6日頃,原告X1外の本件刑事事件の供述状況等から,同月1日から行っていた捜査会議の簡略化,取調官同士の情報交換の禁止等の捜査方針を継続しないことを決め,同月7日から通常の捜査会議を再開し,同日頃から取調官同士の情報交換等も再開された。(甲総ア第25号証の1054(乙国第42号証),甲総ア第427号証の1及び同3)
(10)  1回目会合事件に関する強制捜査の準備(平成15年5月7日から同年5月12日まで)
ア 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月7日)
A14警部補は,平成15年5月7日,原告X1を取り調べ,原告X1は,1回目会合の開催時期について,同年2月初め頃であること,参加者について,従前は参加者として挙げていたA89は来ていなかったこと,供与した金額は,1人につき3万円入口の封筒2通の合計6万円を供与したことなどを供述した。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同年5月7日の朝の話として,「だれとだれがきてなんかいはなしをしたかそして1けんに2枚づつおかねをもらったかとききます」,「1けんに1枚だといったら1けんに2枚もらっているといってきかないです」,同日の昼の話として,「じさまもかいしゃのしゃちょうがきたときにおかねをもらっていたでしょうときいてもらってないといったらけいじさんがいまからようらまでいってきいてくるといいましたあなたわまたうそばっかりいっていますといいました」などと,A14警部補が原告X1の供述の2倍の数値で誘導していた旨の記載がある。また,同日の夜の話として,「いちばんさいしょのひにおうちにきたときわだれとだれがきましたかX13さいしょわきてなかった2回目にきたそのときただおじとおやじがA2はのことでくちげんかをしてX12おじわさきにかえった」との記載がある。上記各記載のうち,「じさま」はA112を,「X12おじ」は亡X12をそれぞれ意味するものと認められる。
(甲総ア第25号証の1037,甲総ア第375号証,甲陳第16号証,弁論の全趣旨)
イ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月7日)
本件現地本部は,平成15年5月7日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補において,原告X2の取調べを行い,原告X2は,1回目会合の開催時期は原告X2の長女A148が入院していた同年2月5日及び同月6日の前後頃,供与された金額は,3万円入りの封筒2通で合計6万円だったことなどを供述した。(甲総ア第25号証の1041)
ウ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月7日)
本件現地本部は,平成15年5月7日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補において,亡A1を取り調べ,亡A1は,1回目会合の受供与金額について,妻のX14の分と合わせて3万円入り封筒2通の合計6万円の供与を受けたことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書1通に署名・指印した。
しかし,A1ノートの同月7日の欄には,「またふりだしにもどり,1回目の集まりに戻り,今度は1人2枚のふうとう受け取ったと云ふのです。呆れてものも云へないです。1人3万円をもらったというのです。a3部落の人全部3万円づつもらったことになっていたのです。また明日もこのことについて争うことになりそうです。」などと供述調書の内容とは全く食い違う認識が示され,A17警部補が亡A1の言い分に耳を貸さなかった旨の記載がある。(甲総ア第25号証の1033,同1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の380)
エ 原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の本件刑事事件に関する供述の一致
原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1は,平成15年5月7日までに,本件現地本部がした取調べにおいて,本件刑事事件に関して,いずれも,本件選挙の投票日の前に,X1宅で4回ほど,原告X6への投票依頼等を目的とした買収会合が行われて,各会合で現金が供与され,その額は,1回目会合が6万円,2回目会合及び3回目会合がいずれも5万円,4回目会合が10万円であった旨を供述した。(争いのない事実)
オ 原告X8に対する任意の取調べ(平成15年5月8日)
本件現地本部は,平成15年5月8日,原告X8に対して任意同行を求め,A36巡査部長及びA64巡査において,原告X8を取り調べ,原告X8は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①本件買収会合は同年2月上旬から4月上旬にかけて5回くらいあり,原告X8が出席して金員を供与されたことが3回くらいあること,②a3集落の6世帯は,原告X1が選挙運動を一生懸命に行ったことやほとんどの人が原告X6から買収金をもらっていることから,本件選挙では原告X6を支持した人が多いと思うこと,③1回目の会合は,原告X8が風邪で体調を崩していた同年2月上旬にあり,その夜,他の家族が就寝した後に帰宅した原告X4から,X1宅で原告X6の選挙の会合があり,現金の供与を受けたことを聞かされ,3万円の入った白色封筒を手渡されたこと,④原告X8は,上記3万円を原告X4から受け取った後しばらくして,家計を管理していた義母のA131に全額を渡し,その際,実際には原告X8が同年1月から同年2月上旬にかけて体調不良でパート先の勤務時間が少なくほとんど給料が出なかったが,あたかもパートの給料であるかのように渡したため,A131は,選挙の買収金だとは知らないはずであることなどが記載されている。(甲総ア第25号証の953)
カ 原告X2に対する任意の取調べ(平成15年5月8日)
本件現地本部は,平成15年5月8日,原告X2に対して任意同行を求め,A16警部補及びA40巡査部長において,原告X2の取調べを行い,原告X2は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①原告X2は,これまでの県議会議員選挙で,特定候補の選挙運動をしたことはなく,本件選挙でも選挙運動はしておらず,本件選挙では四浦校区全体で支持していたA2県議を支持していたこと,②原告X1は,同年2月上旬頃,原告X2の自宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼してきたことがあり,1回目会合は,その後の2月上旬頃開催され,原告X2の長女A148が入院していた同月5日及び同月6日の前後だったこと,③原告X2は,1回目会合の開催日当日の午前6時半過ぎ,出勤途中に原告X1から声をかけられ,その日の夜に,原告X6がX1宅に来るから,仕事が早く終わったら,X1宅に来るよう誘われ,その日の午後7時過ぎ頃,1回目会合に参加するため,X1宅に行ったこと,④1回目会合の参加者は,a3集落から原告X2のほか,原告X1夫妻,A112,亡A1,亡X12,原告X4,原告X5が,a3集落以外では,a4集落から原告X3がおり,原告X6とA5も来ていたこと,⑤1回目会合は,X1宅の中江の間で行われ,原告X1夫妻,A112,原告X5はこたつの間に座って,午後7時30分頃から始まり,原告X6とA5は,挨拶をし,さらに四浦校区側の参加者らと雑談をして30分ほどで帰宅したこと,⑥四浦校区側の参加者は,午後8時頃,こたつの間に移動して,お茶や焼酎を飲みはじめたところ,原告X1が参加者に現金の入った茶封筒を配布し,原告X3が,中を見てみようなどと言いながら封を破って封筒の中を確認し,他の者も封を破ってそれぞれ現金3万円が入っていることを確認したこと,⑦原告X4は,茶封筒の封を破った後,原告X1に代わりの封筒がないか尋ね,原告X1が原告X4に白色封筒を渡したこと,⑧参加者は,原告X1から現金を受け取った後,さきいかなどをつまみに焼酎を飲むなどして宴会をしたこと,⑨原告X2が,宴会の途中,A2県議を支持している人が参加していることを指摘したら,亡A1か亡X12がどちらの支持でも構わないなどと応答したため,原告X9が気分を害し,亡X12がその原告X9の態度に腹を立てて口論になり,亡X12は先に帰宅したこと,⑩1回目会合で供与された6万円は,パチンコとガソリン代等に費消したこと等が記載されている。(甲総ア第429号証の349)
キ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月8日)
本件現地本部は,平成15年5月8日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補及びA47巡査部長において,亡A1を取り調べ,亡A1は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,①1回目会合は,同年2月上旬頃にあり,亡A1がしている民生委員の定例会が毎月第2火曜日に開催されるが,同年2月の第2火曜日は,2月11日に当たり祝日であったため,定例会が1週間延び,1回目会合はその祝日の4,5日前のことだったと記憶していること,②亡A1は,1回目会合の開催日の前日の午後5時30分頃,原告X1から1回目会合の案内を受けたこと,③亡A1は,1回目会合の開催日の午後8時過ぎ,X1宅に到着し,その後,他の参加者が集まってきたこと,④1回目会合の四浦校区側の参加者は,亡A1と原告X1夫妻,A112のほか,原告X4,原告X2,原告X5,亡X12,原告X3であり,原告X6とA5が来ていたこと,⑤参加者11名は,X1宅の中江の間に原告X6とA5を他の参加者が囲むように座って行われ,原告X6とA5が10分くらい挨拶をして,その後,原告X1が焼酎やさきいかなどのつまみを出して,皆でこたつの間に移動し,宴会を始めたこと,⑥原告X6とA5は,午後9時過ぎ頃帰宅したこと,⑦原告X1が参加者に封筒を配った際に既に原告X6とA5が帰宅していたかどうかはよく思い出せないが,原告X1は,参加者に対し,現金の入った茶封筒を2通ずつ配ったこと,⑧参加者が原告X1から封筒を受け取った後,亡X12がA2県議の後援会に入会したことを巡って原告X9と亡X12の口論になり,怒った亡X12が先に帰宅したこと,⑨原告X9と亡X12の口論との前後関係は覚えていないが,原告X3が原告X1から受け取った封筒について,中を開けて確認してみると言って参加者の前で封を破り,中に3万円が入っていることを確認し,他の参加者も封を開けて中を確認し,どの封筒にも3万円が入っていたこと,⑩亡A1は,供与された現金を1つにまとめようと思い,原告X1に新しい封筒がないか尋ねたところ,原告X1が白色封筒を何枚か持ってきてくれたこと,⑪亡A1が現金を白色封筒に入れ直した後,原告X2や原告X3と牛の世話について話をしたが,その時,自分の腕時計を確認すると午後9時30分を過ぎていたので,帰ろうと思い,席を立ったが,このことからすると,亡A1が原告X1から現金を受け取ったのは,午後9時30分頃になると思うこと,⑫1回目会合で供与された6万円のうち,5000円は,p商店で食料品,たばこ6箱,カロリーメイト2本の購入に充て,残りの3万円は月末の集金,簡易保険の支払,ガソリン代等の生活費に充て,残りの2万5000円は後日,p商店でたばこやジュース,菓子代に費消したことなどが記載されている。
しかし,A1ノートの同年5月8日の欄には,「昨日の3万円2人分6万円のつかい道について午前中争い,午後,調書を書き,午後8時まででした。」と,受供与金の使途について取調官と争いになったこと及び長時間の取調べであったことが記載されている。(甲総ア第25号証の1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の382)
ク 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月9日)
本件現地本部は,平成15年5月9日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補及びA47巡査部長において,亡A1を取り調べ,亡A1は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,1回目会合で供与を受けた6万円のうち,500円はp商店で食料品等の購入に充て,残りの5万5000円のうち,5万円は,亡A1の牛の競り市の際に牛の運搬等に協力してくれているA88に対し,原告X6への投票依頼及び票のとりまとめの依頼と併せて,牛の運搬代金名目で供与したこと,②亡A1が,A88に5万円を供与して原告X6に対する本件選挙での投票及び票の取りまとめの依頼をしたのは,A88が四浦公民館の役員をしており,顔が広いこと,A88は普段から牛の運搬等に無償で協力してくれており,牛の運搬代金名目を付ければ,受け取りやすいと思ったからであることが記載されている。
しかし,A1ノートの同月9日の欄には,「金のつかいみちについて私は2,3月甘藷代や年金でやりくりして来たので,今,2月11万,3月に15万もらったと云われても,つかいみちは見つからず,それでは誰かに配ったのか。と云われ,ない。と云うと,それではすじが通らない。と云う事。とにかく,金はないのですから,しょるいじょうの金ですからむづかしい。3人位の話が一つにならないと,1日でも一つのについてヒントをあたへてかきなほすのです」と,A17警部補が亡A1の説明に対して説明がつかないとして,A17警部補自ら亡A1に対してヒントを与えて供述内容を誘導していた旨が記載されている。(甲総ア第25号証の1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の383)
ケ A88に対する任意の取調べ(平成15年5月9日)
本件現地本部は,平成15年5月9日,A18警部補及びA37巡査部長において,A88の自宅を訪れて同人から事情聴取し,A88は,同日付け供述調書1通に署名・指印した。
同供述調書には,亡A1が同年2月中旬頃の午後8時頃,A88宅を訪れ,いつも牛を運んでくれてありがとう,これは牛を運んだ代金として受け取ってくれ,と言いながら5万円を手渡そうとし,A88は,一旦は断ったが結局は受け取ったことが記載されている。
A88が本件訴訟に提出した陳述書には,上記供述が警察にしつこく確認されて,その場を終わらせるために述べた虚偽の供述であること,後日,A75検事の取調べを受けたが,その際に,上記供述が虚偽のものであることをA75検事に説明した旨の記載がある。
本件刑事事件において,A88が亡A1から牛の運搬代として5万円を受け取ったことを内容とする検面調書は証拠として提出されていない。(甲総ア第25号証の215,甲総ア第425号証,乙国第22号証,弁論の全趣旨)
コ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月9日及び同月11日)
A14警部補及びA63巡査は,平成15年5月9日及び同月11日,原告X1の取調べを行い,原告X1は,同月9日付け供述調書及び同月11日付け供述調書各1通にそれぞれ署名・指印した。
上記同月9日付け供述調書には,①本件買収会合は4回あり,その開催時期は,それぞれ同年2月上旬頃,2月下旬頃,3月中旬頃,3月下旬頃であること,②1回目会合について,原告X1は,同年2月上旬頃,f社から退社しようとした際,事務所で原告X6に声をかけられ,「選挙の話をしたいから,X1の家に人を集めてくれ,○日の午後7時30分頃に来るから,X3にも連絡してX1の家に来るように伝えてくれ」と指示されたこと,③原告X1は,同日の帰宅後,原告X6の指示に基づき,a3集落のX12夫妻,原告X4夫妻,X5夫妻,原告X2夫妻,A1夫妻に対し,電話か直接各自の自宅を訪れて,「○日の午後7時半頃にうちに集まって下さい。うちのX6社長が来るから,都合が良かったら来て下さい。」と1回目会合の案内をし,原告X3にも電話で連絡し,併せてできるだけ夫婦で参加するよう伝えたこと,④1回目会合は,2月上旬頃の午後7時半頃から始まり,集合時間の少し前に原告X6とA5がX1宅に到着し,その後,a3集落の亡X12,原告X4,原告X5,原告X2,亡A1,a4集落の原告X3が集まり,原告X1夫妻及びA112を加えた9名が四浦校区側から参加したこと,⑤会合は,中江の間に上記9名,原告X6及びA5の11名が円座して始まり,原告X6とA5が挨拶をし,15分程で両名の挨拶が終わり,しばらく参加者で話をしていたが,その後,こたつの間に移動し,原告X1がビールや焼酎等の飲物と,落花生やさきいかなどのつまみを出して,午後8時頃から宴会が始まったこと,⑥原告X1は,会合の前日に原告X7から焼酎と現金を予め渡されており,ビールやつまみは,その現金の中から代金を支払って原告X1が手配したこと,⑦宴会が始まって30分ないし40分が経過した頃,原告X6は,原告X1に声をかけて2人で8畳の間に行き,現金の入った茶封筒十数通を手渡し,原告X1のところは,原告X9とA112の分を合わせた3通を取り,残りの参加者には妻や夫の分を合わせた2通ずつを供与するよう指示したこと,⑧原告X1,原告X6はその後,こたつの間の宴会の席に戻り,原告X1は,前回選挙でもa3集落の住民が原告X6から買収金を受け取っていたことから,何の恥じらいもなく,現金の入った茶封筒の束をこたつの間の板張りの床の上に置き,それを見た原告X6から人前に付かないところに隠さなかったことを咎めるような表情をされたこと,⑨原告X6とA5は,その後帰宅し,原告X1は,原告X6とA5の帰宅後の午後8時30分過ぎ頃,こたつの間で参加者に対し,原告X6からだという趣旨のことを告げて現金の入った茶封筒を2通ずつ手渡し,原告X3がいくら入っているのかと発言したことから,原告X1が封を破って確認すると,現金3万円が入っており,皆も続いて封を破って現金3万円が入っていることを確認し,互いにたくさん入っているなという意味のことを言い合ったこと,⑩原告X1は,参加者の多くが封筒を破ったことから,現金を新たな封筒に入れ直すよう提案して,自宅にあった白色封筒や祝儀袋を提供したこと,⑪1回目会合の際,原告X9が亡X12に対し,亡X12がA2県議の会合に出席していたのでA2県議を支持するのではないかと述べ,亡X12が,原告X9もA2県議の会合に出席していたことを指摘して口論になり,亡X12は先に帰宅したことなどが,同年5月11日付け供述調書には,同月9日の供述のうち,亡X12と原告X9が口論したことに関し,亡X12がA2県議の会合に出席していないことを思い出し,原告X9が亡X12に対し,A2県議を支持しているのにどうして1回目会合に参加したかと告げたことが口論の切っ掛けであることが,それぞれ記載されている。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同月8日の朝の話として,「なんでどまでやったのかこたつのそばでやっているのにとうそばっかりいっていますといわれました」,「ゆうべのかえるときのかをとけさのたいどわちがっているといってとてもおこりました」などと,取調官から嘘を言っていると言われたこと,怒られたことを記載し,同月8日の夜の話として,「きのうのよるわけいじさんが私がかのやのだいわにスーツオかツタトいったらけいじさんがだいわのほうに二人りしらべにいったといってほんとうにかったのかどうしてかっていないのにうそおそんなにゆうのかといってとてもおこってつくえをたたいたりしました」などと,取調官から嘘を言っていると机を叩かれた旨を記載し,同月9日の朝の話として,「もらったときわみんなわどうゆうふうにいってうけとりましたか そのばであけてみましたか みんなわ3万円はいっていたといってびっくりしましたか」などの記載をし,同月10日の昼の話として,「オードーブルオナンデかしまからとったのかせいじやまからとったのかときにけいじさんがいったみたいでおくさんがじぶんでつくったといったらなんでうそおいっていたのかといっておこりました」,「うそおゆうているのでA145とA146とA117おやじもしらべてもらうといいました」,「いまけいじさんがじさまおしらべにいっていますといいました」,「おまえがうそおゆうのでみんなよんでしらべなくてわいけないといいました」などと,原告X1が嘘を言っていること,家族を取り調べる又は取り調べている旨を告知されたことを記載し,同月11日の朝の話も,同様に,「A117もおやじもA145もよばれてはなしをしています」,「おまえのせいでみんなにめいわくがかかっているかじぶんわすこしもはんせいしないといっています」などと,家族を取り調べている旨を告知されたことを記載した。(甲総ア第25号証の683,甲総ア第375号証,甲総ア第429号証の27)
サ 亡A1に対する任意の取調べ(平成15年5月10日)
本件現地本部は,平成15年5月10日,亡A1に対して任意同行を求め,A17警部補及びA47巡査部長において,亡A1を取り調べ,亡A1は,同日付け供述調書2通に署名・指印した。
上記各供述調書のうち1通には,①本件買収会合には,5回目の会合があり,それは同年4月10日頃の夜にX1宅で開催されたこと,②5回目の会合の四浦校区側の参加者は,亡A1のほか,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X5,原告X13,原告X2,原告X3,A88であり,原告X6,原告X7,A5,f社の専務であるA89が来ていたこと,③5回目の会合では,原告X6と原告X7が挨拶をし,そこでA5から原告X9,原告X5,原告X13,原告X3,A88に対し,現金30万円が入った茶封筒が供与され,A89から亡A1,原告X2,原告X4に対し,現金30万円が入った茶封筒が供与されたことが記載されている。
しかし,A1ノートの同年5月10日の欄には,「今日は1回目の集りの日程についてといつめられま志たがわからず 2回目の金のながれについてきかれました家の生活ヒについてはあつ居るのですがもらつとされる金のはいる所がないのでそれはだれかにくばったといわれまことにこまった事と思ふ。午後になって5回目の集りがあったといわれびっくりそれもとうひょう3日前それに現金30万円もらったと云ふ事」と,取調官が,亡A1の供述を信用せず,様々な他の被疑者の供述と組み合わせて亡A1から供述を誘導して引き出そうとしていた旨の記載がある。(甲総ア第25号証の1091,甲総ア第405号証の1,甲総ア第429号証の385)
シ 原告X1に対する勾留中の取調べ(平成15年5月12日)
A14警部補は,平成15年5月12日,原告X1を取り調べた。
A14警部補は,平成16年5月26日の第1次刑事事件等の第22回公判期日において行われた証人尋問において,平成15年5月12日の原告X1に対する取調べにおいて,原告X1が,X1焼酎事件に関し,原告X7から15通の現金2万円の入った封筒を受け取った後,原告X3を自宅に呼んで原告X9と共に,a3集落以外の8名に対しては1万円ずつを抜き取った上,原告X9が4万円,原告X3が2万円,原告X1が2万円を着服したと供述した旨を証言した。原告X1は,同日,供述調書に署名・指印していない。
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年5月13日,原告X1を取り調べ,原告X1は,1回目会合の宴会のときに,A117を原告X6に挨拶させ,原告X6からは,原告X9及びA112の分のみならず,A117の分も併せて現金3万円の入った封筒4通の供与を受けたことを供述し,その旨の供述調書に署名・指印した。
しかし,原告X1は,X1ノートに,同月12日の朝の話として,「9時半からもううそお10回ぐらいついているとゆってきかない」,「とってないといっているのになんでとったのかきかれましたうそおいっているていってほんとうのことをいわないといってなんでうそばっかりゆうのといってとてもおこりました」,「おかねわとってないといってもほんとうのことわいわないといっておうごえをだしてさけんでうそおいっているおれのゆうことがわからないのかといってとてもおこります」などと,取調官が否認する原告X1に対して,嘘をついていると怒り,大声を出して叫んでいる旨の記載をし,同月13日の朝の話として,「A117もきていたとゆうのになぜうそおついたのかなんでうそおゆうからまたなんかいでもたいほするべんごしさんにもおかねをもらったといいましたかべんごしさんがきたらおかねを4人とも3万円五万円十万円もらったといってくださいとけいじがいった」,「たるみずしのかちょうわうそをいったので3回たいほした」,「かごしまからけいじさんが30人んおうえんにきていますわたしがうそおゆうからうえのかんぶの人とがほんとうのことをいっていないといってとてもはんせいしてないといっています」,「私たしもおかねをもらってないのになんになんじゅうまんつかったかといってもそれわもらってないのでいえない」などと,取調官に対して嘘を言うから警察が逮捕を繰り返す旨,弁護士に対して金をもらったと告げることを要請した旨,垂水市の市長が嘘を言ったので3回逮捕した旨,鹿児島市から刑事が30人応援に来ている旨,原告X1が嘘をいうから警察の幹部が原告X1に反省が見られないと言っている旨,原告X1は金をもらっていないのに何十万円使ったかと質問が繰り返される旨を記載した。(甲総ア第25号証の1038,甲総ア第375号証,甲総ア第429号証の29)
ス 原告X1のX1焼酎4月22日捜査事件の身体拘束の終了
原告X1は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,X1焼酎4月22日捜査事件につき平成15年5月13日まで身柄を拘束された。
A75検事は,同日,X1焼酎4月22日捜査事件について,処分保留のまま,原告X1の身柄を釈放した。
同日時点におけるX1焼酎事件に関する被疑事実は,逮捕事実となった,亡A1に対する現金1万円及び焼酎2本の供与事実並びに原告X8に対する現金1万円の供与事実のほか,原告X13外10名の合計13名に対する現金1万円及び焼酎2本の供与事実であった。(甲総ア第25号証の748,乙国第252,弁論の全趣旨)
(11)  1回目会合事件に関する第2次強制捜査(平成15年5月13日)
ア 5月12日付け報告書
県警は,平成15年5月12日,1回目会合5月13日強制捜査に着手するに当たり,A11警部及びA28警部補作成に係る5月12日付け報告書を作成し,逮捕状請求時の一件記録の一部として,大隅簡易裁判所に提出した。
5月12日付け報告書には,X1焼酎事件を通じて原告X8の矛盾点を追及していたところ,原告X8がX1宅における買収会合の存在を自白し,同事実は捜査側が全く知り得なかった秘密の暴露であったと称し,同事実が存在すれば,原告X1が家族,特に同居の義父A112を巻き込みたくないなどの理由で原告X1が未だ真意を話せないのも納得できると判断できるとし,原告X8の供述には高度の信憑性があるとし,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1を更に取り調べたところ,原告X1が同月4日以降の取調べで,会合回数を4回であると自供するに至った旨,原告X4が同月1日以降の取調べにつき,会合が4回あったことを認めた旨,亡A1が,同月3日から,集票目的の会合が4回あったことを認めた旨,原告X2が,同月1日の取調べで否認したが,同月2日から会合への出席事実及び現金の授受の事実を認め,同月4日以降,会合回数が4回であることを認めた旨などがそれぞれ記載され,供述が一致したとしている。
また,原告X1が買収の事実を供述するに至ったのは,原告X6が南日本新聞の記事において「運動員の買収には心当たりがない。違反には憤慨している。」というコメントを出したと聞かされて,原告X6に失望したことがきっかけであり,原告X1から心境の吐露があったとしている。さらに,5月12日付け報告書では,原告らの供述の変遷の過程の叙述が一部概括的なものになっており,供述が変遷するのはa3集落の圧力であるとしている。
そして,強制捜査の必要性については,地域的環境からもうかがわれる閉鎖的な集落を舞台として敢行され,原告X6も深く関係した,犯行回数も多数にわたる買収事案であり,原告X6の関係者による口止め工作が執拗にされており,被疑者らが地域の特殊性から供述を覆さざるを得ない状況下にあるから,証拠隠滅,逃走,自殺防止のため身柄を拘束して取調べをし,被疑者方を捜索差押えをする必要があるとした。(甲総ア第3号証,弁論の全趣旨)
イ 1回目会合5月13日捜査事件における原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1ら6名の逮捕(平成15年5月13日)
(ア) 概略
県警は,平成15年5月13日,1回目会合事件に関し,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1につき,いずれも,同年2月上旬頃,X1宅において,原告X1から,原告X6に当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金6万円の供与を受けたとの被疑事実で,それぞれ通常逮捕し,同月14日,1回目会合事件に関する上記被疑事実に係る各事件(1回目会合5月13日捜査事件)のうち,原告X1,原告X2及び原告X3についてのものを,同月15日,同被疑事実に係る各事件のうち,原告X4,原告X5及び亡A1についてのものをそれぞれ検察官に身柄付き送致をした。
A75検事は,同日,裁判官に対し,上記6名について勾留及び接見等の禁止を請求をした。
原告X1,原告X4,原告X2及び亡A1は,同日,上記各勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問で,被疑事実を認める旨を,原告X3及び原告X5は,同日,上記各勾留に際し,同所で行われた勾留質問で被疑事実を否認する旨を述べた。
裁判官は,同日,1回目会合5月13日捜査事件に関する上記各請求に係る各勾留状の発付及び各接見等禁止決定をした。
A75検事は,同日,同各勾留状を執行し,その後,上記6名に対する勾留延長を請求し,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,上記6名は,同年6月3日まで身柄をそれぞれ拘束された(第2次強制捜査)。(甲総ア第25号証の618,同746,同814,同873,同1094ないし1097,同1132ないし1135,同1218ないし1221,同1256ないし1259,同1315ないし1318,同1420ないし1423,甲総ア第52号証及び53号証,甲総ア第429号証の199,乙国第252号証,弁論の全趣旨)
(イ) 原告X1の逮捕と自白(平成15年5月13日から同月15日まで)
県警は,平成15年5月13日,1回目会合事件に関し,原告X1につき,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年2月上旬頃,自宅において,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金6万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。
原告X1は,同月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕された際の弁解録取手続後に1回目会合の事実について否認に転じたが,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,再度自白し,否認の理由について,原告X1以外にa3集落の4人と原告X3が逮捕されたとの事実を聞き,自分のせいで5人の逮捕者が出たと思い,気が動転したためであり,再度自白した理由についてその後の取調べで原告X1だけが悪いのではないと言われ,気分が落ち着いた旨を供述した。
原告X1は,同日のA14警部補及びA37巡査部長の弁解録取手続,同月14日のA75検事の弁解録取手続及び同月15日の鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続において,いずれも被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の476,556,同686,同746,同1094,甲総ア第429号証の29及び同30)
(ウ) 原告X2の逮捕並びに否認及び自白(平成15年5月13日から同月15日まで)
原告X2は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕され,同日のA16警部補及びA44巡査部長の弁解録取手続で被疑事実を否認したが,その後,同日のA16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,否認したのは逮捕されて気が動転したためなどとして再度自白し,1回目会合の概要について,開催日は2月上旬であり,原告X1から6万円の供与を受けた旨を供述した記載のある同年5月13日付け供述調書に署名・指印した。
原告X2は,同月14日,A75検事の弁解録取手続において,被疑事実に間違いなく,原告X2は,1回目会合の開催日の朝かその前日の朝の出勤途中に原告X1から会合の案内を受け,参加者は,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1,原告X5,亡X12,原告X9,A112,原告X6,A5であり,原告X10が不参加であった旨を供述した弁解録取書に署名・指印し,同月15日の鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続においても被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の588,同756,同814,同1132,弁論の全趣旨)
(エ) 原告X3の逮捕と否認(平成15年5月13日から同月15日まで)
原告X3は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕後,同日のA18警部補及びA50巡査部長の弁解録取手続及び同月14日のA75検事の弁解録取手続,同月15日の鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,X1宅に行ったこともなく,現金をもらったこともないとして,1回目会合の事実関係を全て否認した。(甲総ア第25号証の618,同818,同873,同1218)
(オ) 原告X4の逮捕と自白(平成15年5月13日から同月15日まで)
原告X4は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕され,同日のA15警部補の弁解録取手続,同月15日のA75検事の弁解録取手続及び鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても被疑事実を認めた。
原告X4は,同年5月13日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,①1回目会合は,同年2月上旬にあり,開催日当日の午前6時30分頃,原告X1から,「今夜ちょっと相談があるから,奥さんと一緒にうちに来てくれませんか。」と声をかけられ,原告X6への選挙応援の話だと直感したこと,②原告X4は,同日の午後7時過ぎにX1宅に行ったこと,③1回目会合の参加者は,原告X4のほか,原告X1夫妻,原告X2,亡X12,原告X5,亡A1,原告X3,原告X6及びA5だったこと,④会合は,原告X6とA5が挨拶し,その後,焼酎やビール,落花生やするめ等のつまみが出されて宴会になったこと,⑤原告X6とA5は午後8時頃,帰宅したこと,⑥原告X6及びA5の帰宅後,残った参加者がこたつの間で宴会を続けていると,原告X1が参加者全員に一家に2枚ずつであると説明しながら,白っぽい封筒2枚を配り,中には現金3万円ずつの合計6万円が入っていたこと,⑦供与された6万円のうち,3万円は妻の原告X8に渡し,1万2000円は,二女のA157の高校の授業料の引き落とし口座である原告X4名義の農協の貯金口座に振り込み,残りはガソリン代に費消したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月13日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同月15日,A75検事の弁解録取手続において,被疑事実に間違いない旨を述べるとともに,1回目会合の状況について供述し,そのうち,6万円を供与された場面について,午後10時頃に原告X4が帰宅しようとすると,原告X1から封筒2通を渡され,原告X4が,A2県議を支持しているからと言って受取りを拒否しようとしたが,結局,上記封筒2通を受け取ることにし,受け取った場所は,X1宅の土間であったと記憶しているなどと供述した。(甲総ア第25号証の624,同881,同1256,甲総ア第429号証の199,同210)
(カ) 原告X5の逮捕及び否認(平成15年5月13日から同月15日まで)
原告X5は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕された。原告X5は,示された逮捕状の被疑事実を見て,「6万円もらったと書いてある。でたらめ。でたらめ。」と声を上げた。
原告X5は,同日のA24警部補の弁解録取手続において,被疑事実を否認し,同月14日のA24警部補及びA39巡査部長の取調べにおいて,同年2月上旬,X1宅で,原告X6の選挙運動の依頼のための会合があり,この席で,原告X1から茶封筒に入った現金1万円の供与を受けたことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印したが,同月15日のA75検事の弁解録取手続において再び被疑事実を否認し,同月15日の鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続においても,被疑事実を否認した。(甲総ア第25号証の1420,甲総ア第48号証及び51号証ないし53号証)
(キ) 亡A1の逮捕と自白(平成15年5月13日から同月15日まで)
亡A1は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で逮捕され,同日のA17警部補の弁解録取手続において,被疑事実は間違いないが,気持ちの整理がつくまで詳細について話したくない旨を述べ,同月15日のA75検事の弁解録取手続及び鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続において,いずれも被疑事実に間違いない旨を述べた。(甲総ア第25号証の531,同1315,甲総ア第429号証の386,同455)
ウ 1回目会合5月13日強制捜査の取調べの状況(平成15年5月15日から同年6月5日まで)
(ア) 原告X1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月15日)
原告X1は,平成15年5月15日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,①原告X6から1回目会合の手配を依頼された時の状況につき,同年2月上旬頃,f社の事務所から退社しようとした際,日にちと時刻を指定の上,原告X6から選挙の話をするため,X1宅に人を集めるよう指示され,その中で,会合の開始時刻は,午後7時30分と指定され,原告X3にも連絡するよう指示されたこと,②原告X1が原告X3の自宅に電話して,原告X3に対し,原告X6に指定された日時に,夫婦でX1宅に集まるよう依頼したが,原告X3は,妻のA136は踊りの練習があるから無理である旨を答えたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月15日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の687)
(イ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月15日)
原告X2は,平成15年5月15日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,これまで否認と自白を繰り返した点について,本件選挙で買収金を何回ももらっていたので,取調官から事実を追及されると,取調官の手の内を探りながら,小出しに供述をしていたり,記憶が混乱していた場面もあったが,取調官からいろいろな説明,説得,追及を受け,真実は一つであるから嘘をついても通用しない,今回のことは,早く終わりにして一日でも早く社会復帰し,人生をやり直そうなどと考えるに至り,これからの取調べは今まで以上に,その時の状況を思い出して,全てを正直に話していく気持ちであることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の757)
(ウ) 原告X3に対する勾留中の取調べ並びに自白及び否認(平成15年5月15日)
A18警部補は,平成15年5月15日,原告X3を取り調べ,原告X3に対し,原告X3がC5弁護士と接見して弁護人に選任したことに関し,原告X3及びその親族とC5弁護士が知人関係にあるか等について質問した上,C5弁護士が事件関係者からの依頼を受けて接見に来たのではないか,依頼したのが原告X6であれば,弁護士の主たる目的は,原告X6が逮捕されないためではないか,原告X6が逮捕されれば最終的には原告X3は見捨てられるということになるのではないか,などと指摘し,また,原告X6が原告X1の逮捕後に報道機関からのインタビューでした発言について,「ああいうのをトカゲのしっぽ切りと言うんじゃないですか。」などと述べて,C5弁護士の弁護費用を誰が負担しているか,よく確認しておくよう告げた。(甲総ア第25号証の1044)
(エ) 原告X5に対する勾留中の取調べ並びに自白及び否認(平成15年5月15日,同月26日及び同月27日)
原告X5は,平成15年5月15日からの取調べにおいて,会合に行ったことはない,金はもらっていないとして,被疑事実を否認していたが,同月26日,手書きの申述書を作成し,その中で,「13日間否認し続けて参り皆様に大変御迷惑をおかけ致し申訳なく思っております。」などと記載し,同月27日,手書きの申述書を作成し,その中で,「逮捕事実は間違いありません。弁護士に断をいれけじめをつけてからきっちりとお話を致します。」などと記載したが,その後,再度否認に転じた。(甲総ア第54号証及び55号証,弁論の全趣旨)
(オ) 原告X3に対する勾留中の取調べ(平成15年5月16日)
A18警部補は,平成15年5月16日,原告X3を取り調べ,原告X3が弁護人と接見した後の同日夜の取調べにおいて,費用,依頼主の点から,その弁護士は本当に原告X3のことを一番に思ってやっているのかなどと告げた。(甲総ア第25号証の1044)
(カ) 原告X1に対する勾留中の取調べ並びに自白及び否認(平成15年5月18日及び同月19日)
原告X1は,平成15年5月18日,A90弁護士と接見後,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,1回目会合の被疑事実を否認したが,その後,再度自白し,否認の理由について,A90弁護士の助言に従った旨を供述した記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
原告X1は,同年5月19日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,a3集落の人が原告X1から金をもらったと供述していると聞かされて,原告X1も金を渡したと供述せざるを得なかったが,本当は,X1宅で会合など1度もしていないと1回目会合の被疑事実を否認したが,その後,再度自白し,否認の理由について,原告X6に,原告X1が最初に密告したと思われるのが嫌だったからであることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の690,同693)
(キ) 原告X4に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月19日)
原告X4は,平成15年5月19日,A15警部補及びA54巡査部長の取調べにおいて,差し押さえられた原告X4,原告X8,A110,A116名義の預金通帳,信販会社の領収証等を参照しながら,①原告X4及びその家族らの電話代,自動車ローン代,高校の授業料等の支払合計額が,平成15年1月が12万2281円,同年2月が12万4620円,同年3月が10万0751円であり,他方,毎月の収入は,原告X4,原告X8の給料収入が合計で28万円であり,これにA116の年金収入2万5000円を合わせても30万円程度であって,上記支払を維持するのが困難であったこと,②同年1月の支払は,原告X4夫妻の給料収入の一部と,平成14年12月に原告X4が牛の競り市で子牛を売った際の代金の一部で支払ったが,同年2月以降の支払は,原告X4夫妻の給料収入も一部支払に充てたが,大部分を原告X1から供与を受けた現金をその支払に充てたことなどを供述し,その旨の記載のある平成15年5月19日付け供述調書に署名・指印した。
A116のそお鹿児島農業協同組合の営農口座通帳には,平成14年12月19日,子牛代金として,88万2748円が,平成15年2月25日,子牛代金として37万8104円が,それぞれ入金されている。(甲総ア第429号証の213及び同218)
(ク) 原告X3に対する勾留中の取調べ並びに自白,否認及び自白(平成15年5月19日及び同月20日)
A18警部補は,平成15年5月19日,原告X3を取り調べ,弁護士の先生のことをもう一回よく考えてください,費用と依頼者について聞きましたかと,本当にX3さんのことを一番考えてやってくれるんだったらいいんですけれども,とにかくそれについてももう一回確認したほうがいいんじゃないですかなどという趣旨のことを告げるなどして,事実関係を否認する原告X3に対し,自白するよう説得した。
原告X3は,同月19日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,1回目会合について事実を認め,これまで否認していた理由について,原告X6が逮捕されれば,原告X6が議員を辞職しなければならないと考えたこと及び弁護人からの助言に従ったからであるとし,1回目会合について事実を認めるに至った理由は,前記助言が原告X3の利益を考えてのものではないことが分かったためであること,1回目会合は,A129から依頼を受けて売却した甘藷の代金を受け取った同年2月14日よりも前に開催された記憶があり,その時期は,同年2月上旬であること,1回目会合の参加者は,原告X3のほか,原告X1夫妻,A112,亡X12,原告X4,原告X5,原告X2,亡A1の9名と原告X6及びA5であり,原告X6とA5が選挙の挨拶をして,帰宅した後に原告X1から封筒2枚を渡され,原告X3がいくら入っているのだろうという意味のことを言いながら封を破って確認したところ,封筒1通につき3万円の合計6万円が入っていたこと,1回目会合で原告X1から参加者が現金の供与を受けた後,亡X12と原告X9が口喧嘩をしたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月19日付け供述調書に署名・指印した。
原告X3は,同年5月20日,A77副検事の取調べにおいて,再度,被疑事実を否認したが,その後自白に転じ,同月19日にA18警部補及びA50巡査部長の取調べにおける供述内容と概ね同じ内容を供述して,その旨の記載のある同月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の603,同1044,同1063,甲総ア第429号証の132)
(ケ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月20日及び同月21日)
原告X2は,平成15年5月20日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,①本件買収会合は全部で4回くらいあったこと,②1回目会合は,長女のA148が麻疹で入院した同年2月7日の前後頃の同年2月上旬頃に開催されたこと,③参加者は,四浦校区側は,原告X2のほか,原告X1夫妻,A112,亡A1,亡X12,原告X5,原告X4,原告X3の9名であり,それに原告X6とA5の合計11名であって,A117は,その間,子供部屋にいたこと,④会合は中江の間で行われ,A5と原告X6が挨拶をするなどして30分くらいで終わり,午後8時頃からこたつの間で宴会が始まったこと,⑤以前の取調べでは,原告X6とA5は会合が終るとすぐ帰ったと供述したが,宴会が始まってもしばらく残ってビールを飲むなどしていたこと,⑥原告X1は,原告X6とA5が帰った直後の午後8時10分過ぎ頃,参加者に対し,原告X6からだ,よろしく頼むなどという趣旨のことを言いながら,封筒2通ずつを手渡し,その後,参加者が封筒を破って確認すると封筒1通に3万円が入っていたこと,⑦宴会の最中,原告X2が,A2県議派の人が原告X6の会合に来ているが良いのか,という趣旨の皮肉を言ったところ,亡X12が難しい話をするな,どちらでもよいなどと発言し,これに対して原告X9が,その言い方はないだろうなどと不快感を露わにしたところ,亡X12が原告X9の態度に腹を立てて口論になり,亡X12が先に帰宅したこと,⑧2回目会合からは,亡X12ではなく原告X13が参加するようになったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月20日付け供述調書に署名・指印した。
原告X2は,同年5月21日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,1回目会合の受供与金6万円は,全てパチンコ代とガソリン代に費消した旨を供述した記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の357,同358)
(コ) 原告X1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月22日)
原告X1は,平成15年5月22日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,1回目会合の宴会の途中でA117を原告X6とA5に挨拶させたことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の43)
(サ) 原告X2に対する勾留中の取調べと否認(平成15年5月22日)
原告X2は,平成15年5月22日の午前中,A77副検事の取調べにおいて,被疑事実を否認し,X1宅で会合はなかったし,お金ももらっていない,警察で話してきたことは嘘であるなどと供述した。
原告X2は,1回目会合について,同月8日のA16警部補及びA40巡査部長の取調べ及びその際の一部の供述を訂正した同月22日のA16警部補及びA44巡査部長の取調べでの供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の370,同372)
(シ) 亡A1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月22日)
亡A1は,平成15年5月22日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,本件買収会合は,4,5回あったこと,1回目会合の開催時期は,同年2月9日の日曜日に開かれた民生委員の役員会の1,2日前の頃と記憶していること,亡A1は,普段,午後8時頃に夕食を食べ終わり,本件買収会合のために夕食や入浴の時間を早めた記憶はないので,1回目会合について,X1宅に到着したのは,午後8時過ぎになると思うが,時計を見たわけではなく,30分程度のずれはあり得ること,亡A1がX1宅に到着したときは,既に1回目会合は始まっており,原告X6が挨拶をしている途中であったこと,1回目会合にA117とA145は見かけていないが,亡A1が参加する前に1回目会合に参加していた可能性はあること,1回目会合において,原告X6とA5が帰宅したのは,午後8時30分頃と記憶していること,原告X5は原告X6とA5が帰宅した後,他の四浦校区側の参加者に先駆けて帰宅し,その際,原告X1が原告X5に何か話しかけながら茶封筒を手渡していたこと,1回目会合において,原告X9が亡X12に対し,A2県議を支援していながら原告X6からの現金を受け取ったことを非難して口論になり,2回目会合からは,亡X12の代わりに原告X13が参加したこと等を供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の394)
(ス) 原告X1に対する勾留中の取調べと否認(平成15年5月24日)
原告X1は,平成15年5月24日,A90弁護士と接見後,A14警部補の取調べにおいて,1回目会合の被疑事実の完全否認に転じ,以後,同年6月7日まで,本件買収会合に係る事実関係を否認した。原告X1は,同日のA90弁護士との上記接見において,A90弁護士に対し,同日の取調べ状況に関し,かねてA14警部補からオードブルの入手先を質問されて答えていた店舗から,その裏付けが取れなかったため,A14警部補に怒られた旨を伝えた。(甲総ア第323号証,甲総ア第331号証)
(セ) 原告X4に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月22日)
原告X4は,平成15年5月22日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,①1回目会合は同年2月上旬に開催され,原告X8は,風邪のため参加できず,原告X4は,当日の午後7時過ぎ頃,自宅を出て徒歩2分くらいの距離のX1宅に向かったこと,②1回目会合の参加者は,原告X4のほか,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X5,亡X12,亡A1,原告X3,原告X6及びA5であり,午後7時30分頃には,亡A1を除いて全員がX1宅に集合していたこと,③A117は,会合に参加していないが,会合の開かれていた間に子供部屋を出たり入ったりするのを見かけたこと,④会合は,中江の間で始まり,原告X1とA112を除く9名が机を囲んで中江の間に座り,原告X1とA112がこたつの間に座って,午後7時30分過ぎから行われ,原告X6とA5が挨拶をした後,皆でこたつの間に移って,ビール,焼酎,落花生,するめ等が出されて宴会になったこと,⑤原告X6とA5は午後8時過ぎ頃に帰宅したこと,⑥原告X5は,原告X6及びA5が帰宅した直後に帰宅しようとし,原告X1が原告X5に対し,茶封筒2通を渡そうとし,原告X5は受け取りを拒否するなどしていたが,原告X1が私の顔を潰さないでという趣旨のことを言い,原告X5も最終的には受け取ったこと,⑦A112もその後,原告X1から封筒を受け取り,離れに帰宅したこと,⑧原告X1は,その後,残った原告X2,原告X4,原告X3,亡X12,亡A1に封筒2枚ずつを差し出し,原告X9にも封筒1枚を差し出し,皆がこれらを受け取ったこと,⑨原告X3か亡A1は,原告X1から封筒を受け取った後,いくら位入っているか見てみようという趣旨のことを言って封筒の封を破り,1通に3万円の合計6万円が入っていることを確認し,たくさん入っているな等と言って驚いていたこと,⑩原告X4は,同日の宴会中,頻繁にトイレに行ったため,亡X12と原告X9が口論したことには気付かなかったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同月22日,A76副検事の取調べにおいて,1回目会合の開催日時,会合の内容,現金の供与の状況等について,同日のA15警部補及びA65巡査の取調べにおける供述内容に沿う供述をし,それらの旨の同日付け供述調書2通に署名・指印した。
原告X4は,同月22日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X4が,同年4月19日頃から,原告X6の選挙運動について取調べを受けても,あいまいなことを供述していたのは,四浦集落がA2県議の支持で固まっており,原告X4もまたj店で開かれたA2県議派の集会に夫婦で参加し,A2県議の後援会名簿を勤め先の同僚に回して名前を書いてもらうなどの活動をしていたにもかかわらず,原告X6を応援しているX1から現金を供与されたという話が四浦集落に広まれば,私や家族が村八分になると思ったためであるが,このことを正直に話そうと思ったのは,同年5月5日の1,2日前に,自宅で,A116,A131及び子供たちの前で「自分が選挙の金をもらったのは事実だ,警察に本当のことを話すから見放さないでくれ」と告白したところ,娘から,父を見捨てないから本当のことを話すように言ってくれたためであること,②四浦集落は,以前から選挙の時にお金が配られるという噂があり,原告X4も前回選挙において,原告X6から現金の供与を受けていたので,今回も安易に考えて現金を受け取ったことを反省していること,③原告X4は,1回目会合以外に,原告X1から2万円入り封筒と焼酎2本を,原告X1から5万円入り封筒を,原告X6から5万円入り封筒を,A89から10万円入り封筒2通を受け取り,さらに同年4月ころ,原告X1から5万円入り封筒を,亡A1から5万円入り封筒をそれぞれ受け取ったこと,④同年4月に原告X1から5万円入りの封筒を受け取ったとする点は,原告X1ではなく他の者から受け取ったかもしれないことなどを供述し,それらの旨の同年5月22日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第25号証の625及び同626,甲総ア第429号証の217)
(ソ) 原告X1に対する勾留中の取調べと否認(平成15年5月25日)
原告X1は,平成15年5月25日,A75検事の取調べにおいて,①これまで1回目会合の被疑事実を認め,さらに本件買収会合としてほかに3回の会合があったことを供述していたがそれらは全て嘘であり,a3集落の人がX1宅に集まったことは1度もないこと,②これまで事実を認めていたのは,県警の取調官から何日も事実を認めるよう言われて,仕方なく認めたものであること,③原告X1が同月14日のA75検事の弁解録取手続及び同月15日の鹿児島地方裁判所裁判官の勾留質問手続において,いずれも被疑事実を認めたのは,県警の取調官が怖かったからであることなどを供述し,その旨の記載のある同月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の578)
(タ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月25日)
原告X3は,平成15年5月25日,A18警部補及びA51巡査部長の取調べにおいて,1回目会合で供与を受けた6万円の使途について,①上記6万円は,妻のA136に生活費として渡していること,②原告X3とA136の趣味は貯金であり,生活費は,原告X3名義の郵便貯金の口座からのみ引き落して充てることに決めており,平均して毎月5万円程度の引き落としがあるが,同年2月及び同年3月には,同口座からの引き落としがないことからも上記6万円を生活費として費消したと分かることなどを供述し,その旨の記載のある同年5月25日付け供述調書に署名・指印した。なお,原告X3が,署名・指印したもう1通の同日付け供述調書には,原告X3が,同年2月14日,甘藷の売却代金13万円を取得し,このうち,10万円のみを原告X3名義の農協の貯金口座に入金し,手元に現金3万円を残したことが記載されているが,その3万円が生活費に費消されたか否か,また,他に同様の売上収入等の一部を口座に入金しなかったことがあるか否かについては,同年5月25日付けのいずれの供述調書にも何ら記載されていない。
原告X3は,同月25日,A18警部補及びA51巡査部長の取調べにおいて,①1回目会合の開催日について,原告X3が,原告X6の長男のA129から原告X3方で収穫した甘藷を分けて欲しいと依頼され,甘藷2トンを譲り渡し,その代金を同年2月14日に受け取ったが,1回目会合はそれよりも前にあり,原告X3は,同年2月2日に行われた田之浦山宮神社のダゴ祭りという祭りに旧志布志町文化財の役員として出席したが,同祭りへの出席よりも後であることを記憶していること,②A136は,同月当時,主に土曜日に旧志布志町の文化センターで開催される生涯学習の一環としての踊りの練習に参加していたところ,1回目会合は土曜日に開催され,原告X1から妻のA136も参加するよう誘われた際,A136は土曜日は踊りの練習があるから参加できないと返答した記憶があること,③原告X3が,取調官から本件現地本部がした裏付け捜査の結果,A136の参加していた踊りの練習があったのは,同月1日,同月8日,同月15日,同月21日であることが判明したことを聞かされ,1回目会合の開催日は2月8日に間違いないと思うが,念のため,同月8日頃と供述すること,④原告X3は,同月8日の数日前,電話で,原告X1から同月8日頃の土曜日の午後7時半から,原告X6が自宅に来て選挙の話をするので,A136と一緒に参加しないかと誘われたことから,電話をつないだまま,A136に同月8日に踊りの練習があるかどうかを尋ね,A136からその日も踊りの練習があることを確認した上で,A136は参加できない旨をX1に返答したこと,⑤1回目会合の当日は,午後7時半前ころ,X1宅に着いたこと,⑥1回目会合の参加者は,原告X6及びA5,原告X1夫妻,A112,亡A1,原告X4,原告X2,亡X12,原告X5,原告X3の11名であり,中江の間に円座して行われたこと,⑦1回目会合は,まずA5が挨拶をし,続いて原告X6が挨拶して,その後,参加者が原告X6を激励したこと,⑧原告X6らの挨拶は15分程度で終わり,その後,こたつの間に移動して宴会が始まり,間もなく,原告X6とA5は帰宅したこと,⑨原告X1は,原告X6とA5の帰宅後,参加者に対し,原告X6からである,よろしく頼むなどという趣旨のことを告げて茶封筒を配り,原告X3も茶封筒を2通受け取ったこと,⑩原告X3は,前回選挙時に原告X6から茶封筒2通で4万円の供与を受けていたことから,原告X1から封筒を受け取ると,それより多額の現金が封入されていることを期待して,中身をみてみようなどという趣旨のことを言って,封を開けて中を確認したら封筒1通に3万円が入っており,皆ではしゃいだこと,⑪原告X1から現金の供与を受けた後も宴会が続いていたが,原告X2が,ここにA2県議派の人が来ているがよいかなどと皮肉を言ったため,原告X9及び亡X12が原告X2の言葉に対して怒り,最終的に亡X12が怒って帰宅したこと,⑫原告X3は午後9時頃帰宅したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の138及び同139)
(チ) 亡A1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月23日,同月25日)
亡A1は,平成15年5月23日,A78副検事の取調べにおいて,1回目会合の開催日時や会合の内容,現金の供与の状況等について,同月22日の上記A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおける供述内容にほぼ沿う供述をし,その旨の記載のある同月23日付け供述調書に署名・指印した。
亡A1は,同月25日,A78副検事の取調べにおいて,①1回目会合で供与を受けた6万円の使途について,うち5000円は,同年2月10日にp商店での食料品等の購入代に充て,5000円は,その後のp商店でのたばこ等の購入代に充てたこと,②残りの5万円は,同月11日にA88に対し交付し,その理由は,亡A1は,それまで6回くらいにわたり,牛の競り市の際に亡A1の牛の運搬を依頼したが,これまでその報酬を渡しておらず,その報酬は牛の運搬1回につき1万円程度が相場であったことから,これまでの牛の運搬に対する報酬として支払ったこと,③亡A1は,同日,A88に上記5万円を支払った際,本件選挙の話題になり,A88が,四浦集落がA2県議を支持する一方で,A88及び亡A1が本件有機米契約農家としてf社と取引があったことから,A2県議と原告X6のどちらに投票してよいか困っている旨を発言したことから,亡A1は,A88と同人の妻とでA2県議と原告X6に1票ずつ投票すればよいと助言して,投票依頼をしたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25の376,同379)
(ツ) 原告X4に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月26日)
原告X4は,平成15年5月26日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,原告X4が1回目会合で供与を受けた6万円のうち,原告X8に3万円を渡した残額の使途について,①同年2月7日に国内信販に対して支払った4万7000円は,A116の農協の営農口座から5万円を払い戻して,その支払に充てた記憶があること,②同月8日にNTTドコモに対してそれまで滞納していたA110の携帯電話代の平成14年12月分及び平成15年1月分の合計2万6000円を支払っているところ,同日のファミリーマート見帰店のレシートにおいて,午後10時55分に3万円を支払って4000円の釣り銭を受け取っていることが記載されており,このレシートの記載から,同日,1回目会合から帰宅した後,かねてより,A110から早く支払うよう催促されていた携帯電話の滞納分をその日のうちに支払うことを決めて,A110に自動車を運転させて上記ファミリーマート見帰店で支払ったことを思い出したこと,③上記釣り銭の4000円は,ガソリン代か,同月12日にA157の高校の授業料として支払った1万1520円の一部に費消したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月26日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の218)
(テ) 原告X8に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月24日)
原告X8は,平成15年5月24日,A75検事の取調べにおいて,①1回目の会合は,原告X8が風邪で体調を崩していた同年2月上旬にあり,その夜,他の家族が就寝した後に帰宅した原告X4から,X1宅で原告X6の選挙の会合があり,現金の供与を受けたこと,②1回目会合には,原告X2,原告X5,亡X12,亡A1,原告X6及びA5が来ていたことを聞かされ,3万円の入った白色封筒を手渡されたこと,③原告X8は,その3万円を見て,A116とA131がA2県議を支持していることに照らして,原告X4夫妻への投票依頼のみの趣旨にしては多すぎたことから,家族や友人などへの票の取りまとめの趣旨も含まれていると理解したこと,④上記3万円は,家計を管理していた義母のA131に全額を渡したことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の362)
(ト) 原告X1に対する勾留中の取調べと特異行動(平成15年5月27日)
原告X1は,平成15年5月27日,A75検事の取調べにおいて,他の者が事実関係を認める供述をしていると告げられて,突然,A75検事の前に置かれたパソコンのマウスのコードを引き抜き,マウスのコードを首に1回巻いて,首を絞めるような素振りを見せた。
A75検事は,取調べを中断して,押送の警察官の女性に,原告X1の上記行動を止めてもらうように指示し,押送の警察官において,原告X1を制止した。
原告X1は,この間,「殺して」などと発言し,A75検事は,同日の取調べの続行は不可能であると判断して,押送の警察官に対し,同日の取調べを中止する旨を伝えたが,原告X1が,同日当時,留置されていた鹿児島南警察署に帰ることを拒むなどしたため,A75検事において,「甘えるのもいい加減にしろ。」と怒鳴って注意し,原告X1は,その後,同署に押送された。
A75検事は,同日の原告X1の上記行動を,被疑事実を認める供述をしている者がいて,言い逃れができなくなったため,現実逃避のために首を絞める素振りをしたものと判断した。(甲総ア第25号証の1061,乙国第252号証,証人A75)
(ナ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月27日)
原告X3は,平成15年5月27日,A77副検事の取調べにおいて,1回目会合の状況について,同月25日のA18警部補及びA51巡査部長の取調べでの供述内容に沿う供述をし,さらに,供与を受けた現金6万円の使途に関し,3万4000円のアルミ製の三段梯子を購入した旨などを供述し,その旨の記載のある同月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の383)
(ニ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月28日)
原告X2は,平成15年5月28日,A77副検事の取調べにおいて,1回目会合の開始時間は,参加者全員がそろった後の午後7時過ぎであることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の371)
(ヌ) 原告X4に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月28日から同年6月2日まで)
原告X4は,平成15年5月28日,A76副検事の取調べにおいて,1回目会合の開催時間について,原告X4が午後7時頃自宅を出てX1宅に向かい,X1宅に着いてから,5分か10分して,原告X6が会合の挨拶を始めたこと,亡A1と原告X6の挨拶の先後関係がよく思い出せないこと及び原告X4が同年2月8日,1回目会合から帰宅した後,テレビを見ながら酔いをさまして,自ら自動車を運転して,ファミリーマート見帰店まで携帯電話の滞納分を支払に行ったことのほかは,1回目会合の進行内容,原告X6の帰宅時間,現金の供与の状況,供与された金額の使途等について,同年5月22日及び同月26日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて作成された,同月22日付け及び同月26日付け各供述調書の記載に沿う内容の供述をし,その旨の記載のある同月28日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同年5月29日,1回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同年6月2日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,同実況見分での指示説明等を踏まえ,従前,1回目会合の各参加者の座っていた位置関係等の供述内容に記憶違いがあったなどとして,これらを訂正する供述を行い,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の375,甲総ア第429号証の224,乙国第35号証)
(ネ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月29日)
原告X2は,平成15年5月29日,1回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同年6月2日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,同実況見分の指示説明を踏まえ,従前,1回目会合の各参加者の座っていた位置関係等の供述内容に記憶違いがあったなどとして,これらを訂正する供述を行うとともに,1回目会合の宴会は,午後8時頃から始まり,原告X6らは宴会が始まって30分くらいして帰宅したことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。上記実況見分における原告X2の1回目会合の着席位置についての指示説明は,同日に行われた原告X4の実況見分での指示説明と,位置関係も順番も大きく異なっている。(甲総ア第429号証の366,乙国第37号証,弁論の全趣旨)
(ノ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月29日及び同年6月3日)
原告X3は,平成15年5月29日,1回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同年6月3日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,1回目会合につき,現場の再現の実況見分に立ち会って,従前,1回目会合の各参加者の座っていた位置関係等の供述内容に記憶違いがあったなどとして,これらを訂正する供述を行い,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。上記実況見分における原告X3の1回目会合の着席位置についての指示説明は,同日に行われた原告X4,原告X2,亡A1の実況見分での指示説明と位置関係も順番も異なり,また,従前の取調べでは参加者全員が中江の間に着座していた旨を供述していたのに対し,7名が中江の間に着座し,2名はこたつの間に着座し,残り2名の着座位置については曖昧な指示説明をしている。(甲総ア第429号証の145,乙国第37号証)
(ハ) 亡A1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月29日及び同年6月2日)
亡A1は,平成15年5月29日,1回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同年6月2日,A17警部補及びA68巡査の取調べにおいて,同実況見分の指示説明を踏まえ,1回目会合での各参加者が座っていた位置等についての従前の供述に記憶違いがあったとして,その内容を変更する供述をし,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。亡A1は,同年5月29日の1回目会合の現場の再現の実況見分において,参加者の大半が中江の間にいたとする従前の供述よりも,こたつの間の方に参加者が多数着席する内容の大幅に異なった指示説明をし,またその指示説明の内容は,同日,行われた原告X4及び原告X2の実況見分での指示説明のいずれとも,位置関係も順番も大きく異なっている。
亡A1は,同年5月30日,A78副検事の取り調べにおいて,1回目会合で供与を受けた6万円のうち,5万円をA88に交付したという供述に関し,同年2月下旬の牛の競り市において,同人に子牛の運搬を依頼し,その際,同人から,同月11日に交付した5万円の礼を言われたため,亡A1が何に使ったか聞いてみたところ,A88は飼育している牛の飼料代に費消したとの回答をしたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月30日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の378,甲総ア第429号証の402,乙国第34号証)
(ヒ) 原告X1に対する勾留中の取調べと否認(平成15年6月2日)
原告X1は,平成15年6月2日,A75検事の取調べにおいて,被疑事実を否認し,自白した理由について,A14警部補から「『やった,やった』と言われて認めた。」,「刑事を逮捕してください。」という趣旨のことを訴え,A14警部補について「殺してやりたい。」と述べるなどした。
これに対し,A75検事は,①人の悪口を言うものではないという趣旨の応答,②否認するのは構わないが,ただ,やられたこと以上のことを言って人を陥れることは許されないことだという趣旨の応答をした。(甲総ア第25号証の1061)
(フ) 原告X5に対する勾留中の取調べと否認(平成15年6月2日から同月5日まで)
原告X5は,平成15年6月2日,A24警部補及びA65巡査の取調べにおいて,①同年5月14日に原告X1から現金の供与を受けたことを認めたが,それは家族のことを考えて,早く帰ることができると考えたためであり,同月15日の検察官の弁解録取手続前に弁護人と接見した際,警察の取調べで嘘の供述をした旨を相談したところ,真実を話すよう助言されたため,その後の事情聴取等では被疑事実を否認したこと,②同月26日及び同月27日に申述書を作成したのは,取調官から,他の人は事実を認めていること,否認を続けることは不利な事情になりうること,選挙違反は悪質な場合は実刑もあることなどを告げられ,他の人と早く裁判を済ませようと考えたためであることなどを供述し,その旨の記載のある同年6月2日付け供述調書に署名・指印した。
原告X5は,同年6月3日,A78副検事の取調べを受け,これまでの供述経過及び供述を変遷させた理由について,同月2日のA24警部補及びA65巡査の取調べにおける供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同月3日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第54号証,甲総ア第55号証)
(12)  X1焼酎事件の捜査の継続等(平成15年5月2日から同月30日まで)
ア X1焼酎5月18日捜査事件までの原告ら等の供述内容等(平成15年5月2日から同月17日)
(ア) 亡X12(平成15年5月2日)
亡X12は,平成15年5月2日,A23警部補及びA53巡査部長の取調べにおいて,原告X1から,同年3月22日頃の午前8時頃,本件選挙での原告X6への投票及び票の取りまとめの報酬として,現金1万円と焼酎2本を受け取り,焼酎の銘柄は「○○」だったことを供述し,その旨の記載のある同年5月2日付け供述調書に署名・指印した。(乙県第7号証)
(イ) A86(平成15年5月15日)
A86は,平成15年5月15日,A23警部補及びA53巡査部長の取調べにおいて,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼された日の4,5日後である同年3月20日頃に,自宅で原告X1夫妻の訪問を受け,後援会入会申込書への氏名の記載の礼であるとして現金1万円と菓子2袋と焼酎2本を供与された及びその後の同月下旬頃に,自宅で原告X1の訪問を受け,現金1万円を供与された旨を供述した記載のある同年5月15日付け供述調書2通にそれぞれ署名・指印した。(甲総ア第546及び547号証)
(ウ) A85(平成15年5月15日)
A85は,平成15年5月15日,A48巡査部長及びA63巡査の取調べにおいて,同年2月21日に,自宅で原告X1夫妻から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,同年3月上旬頃に,原告X1から現金1万円と焼酎2本を,同月下旬頃も,現金1万円をそれぞれ供与されたこと,以前の取調べで同月上旬に原告X1から現金2万円と焼酎2本の供与を受けたと供述していたが,それは正直に供述したものではなかったことを供述し,その旨の記載のある同年5月15日付け供述調書1通に署名・指印した。(甲総ア第549号証)
(エ) A87(平成15年5月14日)
A87は,平成15年5月14日,A25警部補及びA62巡査の取調べにおいて,以前に取調べを受けた際は,自殺する等と大声で叫び,取調べに応じなかったが,それは妹である原告X1が逮捕されたため,自分の供述が原告X1の供述の不利になることを恐れたためであるが,これ以上嘘をつきとおすことはできないと思い,これから正直に供述するつもりであること,同年2月9日,法事で家族が集まった際,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼されたこと,同年3月中旬頃に自宅で原告X1夫妻の訪問を受け,本件選挙で原告X6を頼むという趣旨のことを言われて焼酎2本と現金1万円の供与を受けたこと,それ以外にも同年3月下旬に原告X1から1万円の供与を受けたことを供述し,その旨の記載のある同年5月14日付け供述調書1通に署名・指印した。
A87は,同月15日,A25警部補及びA62巡査の取調べにおいて,原告X1から同年3月下旬に1万円の供与を受けたことに関し,従前の取り調べでは,原告X9はその場にいなかったと供述したが,それは,かねてから原告X9が口うるさい人間であり,原告X9に不利な供述をすると後で怒られると思ったからであり,本当は,同月下旬の午後2時頃,墓参りに向かう途中の道で,自動車に乗った原告X1から呼び止められ,原告X6をよろしくと声をかけられて自動車の窓越しに現金1万円の供与を受けたこと,その際,原告X9が自動車の助手席にいたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月15日付け供述調書1通に署名・指印した。(甲総ア第551号証,甲総ア第552号証)
(オ) A108(平成15年5月14日から同月16日)
A108は,平成15年5月14日ないし同月16日の3日間,A22警部補の取調べにおいて,A108が従前の取調べで,原告X1から焼酎2本及び現金2万円を供与されたと供述した点に関し,実際には供与を受けた現金が1万円ではなかったか及び同日以外に原告X1の訪問を受けていないか等について事情聴取されたが,従前の供述を変えなかった。
A108は,同月22日,関屋口交番において,A22警部補の取調べを受け,その際,A22警部補から,取調していた部室の窓の外に向かって「志布志消防団長の妻A108は,2万円と焼酎2本もらったが,それ以外はもらってません」と叫ぶよう大声で何度も告げられ,交番の窓からA22警部補に指定されたとおりの文言の内容を大声で叫んだ。(甲総ア第517の1及び3,甲総ア第527号証,弁論の全趣旨)
(カ) 原告X2(平成15年5月16日)
原告X2は,平成15年5月16日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼された時期について,同年1月下旬か同年2月上旬と記憶しているが,もしかすると,同年2月上旬の1回目会合の後かもしれないことを供述し,その旨の記載のある同年5月16日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書の記載では,原告X2が,同年4月22日のA16警部補及びA40巡査部長の取調べで,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼された時期を同年3月中旬頃と供述していたことには何ら触れられていない。(甲総ア第429号証の354)
(キ) 原告X1(平成15年5月17日)
原告X1は,平成15年5月17日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,①原告X1は,同年2月か3月頃の勤務先退社時に,原告X7から,知人に配って原告X6への票を一票でも多く獲得するよう指示されて,原告X6の後援会入会申込書に氏名を記載したX1焼酎事件受供与被疑者らと原告X1及び原告X3の分を併せた現金2万円入り茶封筒15通及び焼酎2本くくり15組をそれぞれ手渡され,これを原告X1夫妻と原告X3の3人で供与する手順等を相談し,その際,a3集落の5名に対しては,2万円ずつ供与するが,a3集落以外の8名に対しては1万円で十分であるという結論になり,茶封筒8枚からそれぞれ1万円ずつを抜きとって,これを原告X9が4万円,原告X1及び原告X3が各2万円を受け取ったこと,②原告X1,原告X3及び原告X9は,a3集落の5名については原告X1と原告X3が,a3集落以外の8名に対しては原告X1と原告X9がそれぞれ現金と焼酎を配ることにして,原告X1と原告X3で同年2月下旬から3月上旬に2日間くらいに分けて,a3集落の5名に現金2万円と焼酎2本を配り,原告X1と原告X9で同年3月上旬から3月中旬にかけて順次現金1万円と焼酎2本を配ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月17日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の34)
(ク) 原告X8(平成15年5月17日)
原告X8は,平成15年5月17日,A36巡査部長及びA68巡査の取調べにおいて,原告X8が,従前の取調べで,原告X1から同年3月20日に農協での事務手続が終わってから帰宅して間もない午後5時頃に,自宅で現金1万円を供与されたと供述していた点に関し,原告X1のタイムカードの終業時刻が午後5時32分と打刻されていること,原告X8が供述していた農協での事務手続の受付時間が午後4時までであることなどの指摘を受け,供与を受けた時間帯は,午後4時30分くらいであることがはっきりし,原告X1は勤務中に原告X8の自宅に立ち寄ったと考えられると供述し,その旨の同年5月17日付け供述調書に署名・指印し,同月18日,A36巡査部長の取調べにおいて,原告X1が,同年3月20日の午後4時30分頃に一度,a3集落に立ち寄ってから,タイムカードを推すために職場までわざわざ戻ったのか自信がなく,もしかすると,原告X1が職場から帰ってきた後だったかもしれないので,現金1万円の供与を受けたのは,同日の夕方であると供述し,その旨の記載のある同年5月18日付け供述調書に署名・指印した。
なお,a3集落から,原告X8が勤務していたf社の事務所までの自動車での所要時間は30分以上である。(甲総ア第25号証の955,甲総ア第429号証の287,弁論の全趣旨)
(ケ) 亡A1(平成15年5月17日)
亡A1は,平成15年5月17日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,①亡A1は,同年3月上旬か同月中旬頃,原告X1から2万円と焼酎2本を供与されたが,これまでの取調べで,供与された現金を1万円と供述していたのは,金額が大きければ罪も大きくなり,もしもこの件で逮捕などされると,家族にも迷惑がかかるし,四浦集落の人から村八分にされるかもしれないと思い,少ない金額であれば逮捕されないかもしれないと思ったことと,また,取調べが始まった頃に,原告X2と会った時に,原告X2から,警察での取調内容等を聞かれて,焼酎と1万円をもらったと供述していると説明したため,引っ込みがつかなくなって本当のことが言えなかったこと,②また,現金と焼酎を供与されたとき,原告X1だけでなく,原告X3もいたが,原告X1や原告X3から何度も買収金をもらっているため,記憶が混乱していたこと,③原告X3と原告X1は,同年3月上旬か中旬の午後6時頃,亡A1の自宅を訪れ,原告X3において,社長の関係で忙しい,晩酌用の酒を持ってきたなどと言って焼酎を差し出し,原告X3のとなりにいた原告X1において,これもだからなどと言って,現金の入った茶封筒を差し出してきて,亡A1はそれまでも買収金を受け取ったことから,今回だけ断るわけにもいかず,受け取ったこと,④供与された焼酎は,牛の競り市で子牛が売れた時に行うべぶんこ祝いが亡A1宅で同月下旬にあり,原告X2,A88のほかa1集落から2名の者が参加して,大半を費消したこと,⑤供与された現金は,3月中旬頃にショベルカーのリース代として1万8000円を費消し,残りはたばこ代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月17日付け供述調書に署名・指印し,同月19日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,上記ショベルカーのリース代金について,領収証を確認しながら1万7850円であったことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
亡A1は,同月18日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,原告X1は,同年1月下旬か2月上旬頃,亡A1に対し,原告X6の後援会入会申込書に氏名の記載を依頼してきたことなどを供述し,その旨の供述調書に署名・指印した。同供述調書の記載では,原告X2が,同年4月22日のA16警部補及びA40巡査部長の取調べで,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼された時期を同年3月中旬頃と供述していたことには何ら触れられていない。(甲総ア第429号証の388,同389及び同391)
イ X1焼酎5月18日捜査事件の逮捕勾留(原告X9)(平成15年5月18日)
(甲総ア第203号証,同205号証,同206号証,乙国第252号証,弁論の全趣旨)
(ア) 原告X9の逮捕と送致(平成15年5月18日,同月19日)
県警は,平成15年5月18日,X1焼酎事件に関して,原告X9につき,原告X1と共謀の上,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月上旬頃,A85,A86及びA87の自宅において,同人らに対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金1万円及び焼酎2本を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で通常逮捕して,同月19日頃,同被疑事実に係る事件を検察官に身柄付きで送致した(X1焼酎5月18日捜査事件)。
(イ) 原告X9に対する勾留請求と原告X9の否認(平成15年5月20日)
A77副検事は,平成15年5月20日頃,裁判官に対し,原告X9について勾留を請求した。
原告X9は,同月20日,上記勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問において,被疑事実のうち,上記A85,A86及びA87方を訪れたことは認めるが,現金や焼酎を供与したかは記憶にないとして被疑事実を否認する旨を述べた。
(ウ) 原告X9の勾留及び勾留延長(平成15年5月20日)
裁判官は,同日,上記請求について,勾留状を発付し,A77副検事は,同勾留状を執行し,その後,同勾留の延長を請求した。
原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年6月8日まで身柄を拘束された。
(エ) 原告X9の釈放(平成15年6月8日)
A75検事は,平成15年6月8日,X1焼酎5月18日捜査事件について,処分保留のまま,原告X9の身柄を釈放した。
ウ X1焼酎5月18日捜査事件の原告ら等の供述経過等(平成15年5月18日から同年5月30日まで)
(ア) 原告X9に対する取調べ(平成15年5月18日,20日の否認)
原告X9は,平成15年5月18日,X1焼酎5月18日捜査事件で逮捕後,同日のA19警部補及びA52巡査部長の弁解録取手続及び同月19日のA77副検事の弁解録取手続,同月20日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。(甲総ア第203号証,甲総ア第205号証,甲総ア第206号証)
(イ) 原告X1に対する取調べ(平成15年5月20日,同月21日の自白)
原告X1は,平成15年5月20日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,A86に対し,現金1万円と焼酎2本のほかに菓子2袋を供与したことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
原告X1は,同月20日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,①原告X1は,同年2月下旬か同年3月上旬頃,亡A1宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書に氏名の記載を依頼したこと,②原告X1は,X1焼酎事件受供与被疑者らから氏名を記載してもらった原告X6の後援会入会申込書を原告X7に提出したところ,同年2月下旬頃か同年3月上旬頃,現金2万円と焼酎2本を,X1焼酎事件受供与被疑者らに配るよう指示されたこと,③原告X1は,同年3月上旬か同月中旬頃,原告X3とともに亡A1宅を訪れ,原告X3において,X6社長のことで焼酎を持ってきたという意味のことを言って,焼酎2本を渡し,さらに原告X1において,これもだからという意味のことを言って,現金2万円の入った封筒を渡したことを供述し,その旨の記載のある同年5月20日付け供述調書に署名・指印した。
原告X1は,同月20日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,①原告X1は,同年3月上旬か同月中旬頃,原告X3とともに原告X4宅を訪れ,原告X1において,原告X4宅に隣接する牛小屋で作業をしていた原告X4に対し,選挙ではX6社長のことを頼んだという意味のことを言って,焼酎2本と現金2万円の入った封筒を渡したことを供述し,その旨の記載のある同年5月20日付け供述調書に署名・指印した。
原告X1は,同月21日,A14警部補及びA41巡査部長の取調べにおいて,A85宅を訪れて原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼し,地卵10個を手渡し,A85から竹細工を代わりにもらったこと,同年3月上旬か同月中旬頃に,A85に対し,現金1万円と焼酎2本を手渡したが,その際,A85がこれを受け取ろうとしなかったため,玄関にこれらを置いてすぐに立ち去ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月21日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の39ないし42)
(ウ) 原告X3に対する取調べ(平成15年5月20日の自白)
原告X3は,平成15年5月20日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,X1焼酎事件に関し,①原告X3が,同年3月頃,原告X1から電話でX1宅に来るよう呼び出されて,X1宅を訪れると,X1宅のこたつ台の上に封筒が15通置いてあり,原告X1から原告X7からであると告げられてそれらの封筒のうち1通を手渡され,中には現金2万円が入っていたこと,②原告X1が,それら封筒が原告X7からX1焼酎事件受供与被疑者らに配るよう指示されて渡されたものであると説明し,a3集落以外の人は1万円でよいのではないかと提案して,原告X9と原告X3がこれに同意し,封筒8通の中から現金1万円ずつの合計8万円を抜き取った上,これを3人で分配するに当たり,原告X1と原告X3は,2万円の入った封筒1通ずつを既に受け取っていたことから,原告X1及び原告X3は,上記8万円のうちの現金2万円ずつを受け取り,原告X9は上記8万円の残りの4万円を受け取ったこと,③原告X1,原告X9及び原告X3が,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,a3集落の者には,現金2万円と焼酎2本を,a3集落以外の者には,現金1万円と焼酎2本を供与することを相談で決定し,原告X3がa3集落の5名について,原告X3が供与することを提案したところ,原告X1が一緒に回ると申し出たため,2人でa3集落の者に供与して回ることになったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の133)
(エ) 原告X4に対する取調べ(平成15年5月20日の自白)
原告X4は,平成15年5月20日,A15警部補及びA53巡査部長の取調べにおいて,X1焼酎事件に関し,原告X4が,同年3月上旬か同月中旬頃の午後6時30分頃,自宅に隣接した牛小屋で牛の世話をしていた際に,原告X1及び原告X3の訪問を受け,原告X1から焼酎2本及び現金2万円の供与を受けたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の214)
(オ) 原告X9に対する取調べ(平成15年5月20日の自白と同月21日の自白の撤回)
原告X9は,平成15年5月18日,X1焼酎5月18日捜査事件で逮捕後,同日のA19警部補及びA52巡査部長の弁解録取手続及び同月19日のA77副検事の弁解録取手続,同月20日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X9は,同月20日頃,A19警部補の取調べにおいて,A87,A86,A85に対し,現金1万円と焼酎2本を供与したこと,X1宅に原告X6等が来て選挙運動の会合が開かれ,その際,会合に参加した原告X1夫妻及びa3集落の住民が原告X6への投票の報酬として現金を受け取ったことが事実である旨の供述をした。
原告X9は,同月21日,原告X9を応援してくれる人がいるなどとして自白を撤回し,以後,同月29日まで,被疑事実を否認した。(甲総ア第203号証,甲総ア第205号証,甲総ア第206号証,甲総ア第212号証,弁論の全趣旨)
(カ) A86に対する取調べ(平成15年5月21日の自白)
A86は,平成15年5月21日,A76副検事の取調べにおいて,同年3月16日に,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,同月20日に,原告X1夫妻から後援会入会申込書への氏名の記載の礼であるとして現金1万円と焼酎2本と菓子2袋の供与を受け,同月下旬頃に,現金1万円の供与を受けたと記憶している旨を供述した記載のある同年5月21日付け供述調書1通に署名・指印した。(甲総ア第548号証)
(キ) A85に対する取調べ(平成15年5月22日の自白)
A85は,平成15年5月22日,A76副検事の取調べにおいて,同年2月21日に,自宅で原告X1夫妻から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,その際,200円相当の地卵10個を手渡され,原告X1に返そうとしたが受け取らないため,A85の夫が作った1000円相当の竹細工を代わりに渡したこと,同年3月上旬頃に,後援会入会申込書への氏名の記載の礼を言われ,さらに,「気持ちだから。」などと言われて原告X1から現金1万円と焼酎2本を手渡され,原告X1に返そうとしたが,原告X1がそのまま自動車で立ち去ったこと,同月下旬頃に,原告X1と世間話をしていると,いきなり原告X1から折りたたんだ封筒に入った現金1万円をポケットに入れられ,原告X1に返そうとしたが,原告X1がそのまま立ち去ったことをそれぞれ供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書1通に署名・指印した。(甲総ア第550号証)
(ク) 原告X9に対する取調べ(平成15年5月30日の自白とその撤回)
原告X9は,平成15年5月30日,A19警部補及びA52巡査部長の取調べにおいて,①逮捕されてから10日以上が過ぎ,今回の事件を早く終わらせたいという思いもあり,正直なことを話したいという気持ちがあること,②原告X1や原告X5が長く身柄拘束されるのを避けるため,原告X9が自白する必要があると考えていること,③原告X9がA87,A86,A85に現金と焼酎を供与したことは事実であること,④X1宅に原告X6などが訪れて何度か選挙の会合を開き,その度毎にと言っていいほど,原告X6から現金の供与を受けたことは事実であること,⑤これまでC1弁護士と相談してきた以上,自白するにしてもC1弁護士に話をしてからでないと,正直に供述することはできないこと,⑥たとえ,C1弁護士になかったことはなかったと話を通すよう助言されても,原告X1と原告X5の身柄拘束を1日でも早く解くためには,被疑事実を否認するのは嘘なので刑事さんに本当のことを話しますと言うつもりであることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印するとともに,同日,白紙の紙面に「私は,A87,A86,A85さん達に現金1万円としょうちゅうを2本をくばった事でたいほされましたが現金やしょうちゅうをくばった事はまちがいありません。私の家で会合があって現金をもらった事もまちがいありません。私はべんごしさんにそうだんをしていますので正直に話す事をべんごしさんにそうだんしてから刑事さんに正直にじじつを話します。」との内容の手書きの文書を作成した。
原告X9は,同日,C1弁護士と接見した後,再度,否認に転じた。
(甲総ア第209号証,乙国第224号証,乙国第225号証,弁論の全趣旨)
(ケ) 原告X9に対する取調べ(接見内容に関する取調べ,平成15年5月31日)
A19警部補は,平成15年5月31日,原告X9の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成し,その中には,同月30日の原告X9とC1弁護士の接見に関し,「弁護士さんに『焼酎やお金等を配ったことや私方で会合があったことなどを話しましたし,紙も書きました。今からは,刑事さんに正直に話したいと思っています。』と話したら,弁護士さんから『あなたを思っている人がいるのだから,それは,白状したらだめです。』と言われましたので,私は,『はい,わかりました。そうであれば,私も先生の言うこと聞いて,やっていないと言っていきます。』と返事しました。私としても,正直に話したいと言って弁護士さんに説得したのですが,弁護士さんは私の説得を聞いてくれませんでした。」などの記載がある。A19警部補は,同月30日にも,原告X9の取調べにおいて,同日の原告X9とC1弁護士の接見に関し,同月31日付け供述調書の上記記載内容と同趣旨の内容の供述調書を作成した。(甲総ア第209号証,甲総ア第325号証,甲総ア第326号証,弁論の全趣旨)
(コ) 原告X2に対する取調べ(平成15年5月22日)
原告X2は,平成15年5月22日,A77副検事の取調べにおいて,原告X1から原告X6の後援会入会申込書に氏名の記載を依頼された時期は,同年1月下旬から同年2月上旬であり,1回目会合よりも前である旨を供述した記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書の記載では,原告X2が,同年4月22日のA16警部補及びA40巡査部長の取調べで,原告X1から原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼された時期を同年3月中旬頃と供述していたこと,同年5月16日のA16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,1回目会合と上記氏名の記載を依頼された時期の先後関係についてあいまいな供述をしていたことには何ら触れられていない。(甲総ア第25号証の370)
(サ) 原告X2に対する取調べ(平成15年5月24日の自白)
原告X2は,平成15年5月24日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,①これまで,原告X1から現金2万円と焼酎2本を供与されたと供述してきたが,本当は,原告X1のほか,原告X3からも供与を受けており,これまで原告X3をかばって供述できなかったが,原告X3が逮捕され,かばう必要がなくなったので,真実を供述するつもりになったこと,②原告X1と原告X3から焼酎と現金の供与を受けた時期は,同年3月上旬か中旬であり,それは,亡A1の依頼を受けて,リース会社からショベルカーを借りて亡A1の畑を整地した同年3月9日頃のことであり,この時には,すでに1回目会合と2回目会合が開催され,1回目会合で原告X1から現金6万円を,2回目会合で原告X1と原告X3から現金5万円を供与されていたこと,③原告X1と原告X3は,午後6時過ぎ頃に原告X2の自宅を訪れ,原告X3において,原告X6からだ,よろしく頼むなどと告げながら,「○○」という銘柄の焼酎2本を差し出し,さらに原告X1において,選挙は好きではないが,X6社長が本件選挙に立候補するからよろしくお願いしますという趣旨のことを言いながら現金2万円の入った封筒を差し出し,原告X2がこれらを受け取ったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月24日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の360)
(シ) 原告X2に対する取調べ(平成15年5月25日の自白)
原告X2は,平成15年5月25日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,①原告X1から同年3月上旬か中旬頃に供与された現金2万円が封入されていた封筒は白っぽい色だったと記憶しているが,定かではなく,現金はいずれもパチンコに費消したこと,②原告X3から供与された焼酎の「○○」は,普段,原告X2が好んで飲む銘柄ではないため,妻の原告X10に発見されると詰問されると思い,その日のうちに,原告X2が普段から好んで飲む「若潮」という銘柄の焼酎の瓶に中身を入れ替え,「○○」の空き瓶は,出勤途中にある酒販店の自動販売機の裏側に人目に付かないように捨てたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の361)
(ス) 亡A1に対する取調べ(平成15年5月25日の自白)
亡A1は,平成15年5月25日,A78副検事の取調べにおいて,同年3月上旬か中旬頃に原告X1と原告X3から現金2万円及び焼酎2本の供与を受けた状況に関し,同月17日及び同月19日のA17警部補及びA47巡査部長の取調べにおける供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の534)
(セ) 原告X4に対する取調べ(平成15年5月27日の自白)
原告X4は,平成15年5月27日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,原告X4が,同年3月上旬か同月中旬頃,原告X1及び原告X3から供与を受けた現金2万円及び焼酎2本の使途に関し,現金2万円は,同年3月7日に旧志布志町に支払った国民健康保険税の滞納分3万円,同月11日に,国内信販に支払った長女A156の自動車のローン代2万3340円,同日に支払ったA157の高校授業料1万2000円,同月17日に国内信販に支払った原告X4の軽トラックのローン代1万8201円のいずれかの一部又は全部に支払ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の220)
(ソ) 亡A1に対する取調べ(平成15年5月27日の自白)
亡A1は,平成15年5月27日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,原告X6及びA5並びに原告X1及び原告X3から供与を受けた焼酎の空き瓶の処分方法等について,勘違いしていた部分や嘘のことを話していた部分があるとして,①同年1月下旬に原告X6及びA5から供与を受けた焼酎2本のうち,1本は,同年2月下旬の牛の競り市の際に亡A1宅で行ったべぶんこ祝いで費消し,焼酎の空き瓶は亡A1の畑に置いて,耕作用トラクターのラジエーターに水を補給するのに使用しており,もう1本は,同年2月下旬,娘の原告X16が墓参りのため亡A1宅を訪れた際,持って帰らせたこと,②同年3月上旬に原告X1及び原告X3から供与を受けた焼酎2本は,同月下旬の牛の競り市の際に亡A1宅で行ったべぶんこ祝いで費消し,焼酎の空き瓶は,これまでリサイクルに出したなどと虚偽の供述をしていたが,取調官から,リサイクル業者からの裏付けが取れないと指摘されて,本当は,同年4月14日,原告X3が亡A1宅を訪れて空き瓶を回収し,警察が動いているようだから気を付けてくれと警告してきたのだが,これまで原告X3に迷惑が掛かると思い,供述することができなかったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。
亡A1は,同年5月27日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,原告X1が,同年3月中旬頃,亡A1宅を訪れ,亡A1宅に隣接する牛小屋の前の車庫で作業をしていた亡A1に対し,今回は少しだけだから,たばこ代くらいだから,原告X6から渡すよう頼まれたからという趣旨のことを言いながら,1万円を供与したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の396及び同397)
(タ) 原告X16に対する取調べ(平成15年5月27日の自白)
原告X16は,平成15年5月27日,自宅でA21警部補及びA61巡査の取調べを受け,原告X16は,同年2月頃,墓参りなどの用で亡A1宅を訪れた際,亡A1から「○○」という銘柄の焼酎の一升瓶1本をもらったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印するとともに,上記焼酎の一升瓶を任意提出し,同年3月18日に,原告X16の次男の高校合格祝いとして,亡A1から3万円をもらったこと,同月下旬頃,原告X16の次男の高校の入学金・制服代等に必要な10万円を用立てられず,亡A1に2万5000円を借金を申し込んだこと,亡A1から,同年4月4日に同額の現金を受け取ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印するとともに,上記焼酎の一升瓶を任意提出した。(甲総ア第25号証の435,甲総ア第554号証)
(チ) 原告X3に対する取調べ(平成15年5月28日の自白・焼酎瓶の投下)
原告X3は,平成15年5年28日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,X1焼酎事件で供与した焼酎の空き瓶の処分に関し,同年4月15日か同月16日頃,原告X7から電話で,X1焼酎事件受供与被疑者らに供与した焼酎の空き瓶を回収して処分するよう指示され,a3集落以外の8名は原告X1に任せて,a3集落の5名分の焼酎の空き瓶を先に回収しようと思い,原告X1,原告X2,原告X4,原告X5,亡A1の自宅を回り,まだ飲み終わっていないものを除いて,原告X2から1本,亡A1から2本の合計3本の空き瓶を回収して,自宅から500メートルくらい離れた道路沿いの崖下に投棄したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の827)
(ツ) 原告X2に対する取調べ(平成15年5月30日の自白)
原告X2は,平成15年5月30日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,原告X2が,同年3月9日前後の同月上旬か同月中旬頃に原告X1及び原告X3から,現金2万円と焼酎2本の供与を受けた日から4,5日後の同月上旬か同月中旬頃の午後6時頃,原告X1が原告X2の自宅を訪問し,原告X2に対し,時間があれば,原告X2夫妻で原告X6の選挙事務所に顔を出して選挙運動を手伝って欲しいなどと言いながら,現金1万円の入った茶封筒1通を供与したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月30日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の364)
(テ) 原告X3に対する取調べ(平成15年5月30日の自白・焼酎瓶の買い取りへの変更)
原告X3は,平成15年5月30日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,本件現地本部の捜査官らが,原告X3が空き瓶を捨てたと供述した場所を捜索したが,空き瓶が発見されなかったことに関し,①原告X3は,回収した上記空き瓶を,本当は,宮崎県串間市内にある酒販店であるキンコーに持ち込んで1本当たり10円で買い取ってもらったが,このことが明らかになると,空き瓶の回収を指示した原告X7から,なぜしっかりと処分しなかったか責められるとともに,金銭的に細かい人間だと思われると考えたからであること,②原告X3は,今回のことで,警察の裏付け捜査はすごいことまでやる,嘘は絶対につけない,あったことを正直に話そうと心に決めたこと,③原告X3が,上記空き瓶を上記酒販店に持ち込んだのは,同年4月12日のことであり,したがって,空き瓶を回収したのは,同月7日から9日の間のことだと思い出したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月30日付け供述調書に署名・指印した。
本件現地本部は,原告X3の上記供述に関し,宮崎県串間市内の酒販店に対し,裏付け捜査を行ったが,原告X3の供述に合致する焼酎の空き瓶の買取りの事実は確認できなかった。(甲総ア第25号証の1046の2,甲総ア第429号証の142)
(13)  未立件の余罪等とされるものに関する各原告の供述等(平成15年5月18日から同年5月31日まで))
ア 原告X8の平成15年5月28日の供述
原告X8は,平成15年5月28日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X8は,これまで,原告X6の本件選挙に関し,同年2月上旬に,原告X4が原告X1からもらってきた3万円を受け取り,同月中旬か下旬頃に,原告X1から5万円の供与を受け,同月下旬か3月上旬頃に,原告X1から5万円の供与を受け,同月中旬頃に,原告X1から焼酎2本と現金2万円の供与を受け,同月中旬頃に,原告X1から1万円の供与を受け,同年4月12日に原告X3から5万円の供与を受けたこと,②原告X4は,逮捕される2日前の同年5月11日の夜,原告X4宅で,A116,A131,A110及びA157の前で,「自分は,選挙のことで調べを受けているが,自分が選挙の金をもらったのは本当だ,嘘を話すわけにはいかないから,調べでは本当のことを話す。」と言い,A110とA157に対し,「こんな父を見捨てないでくれ」と泣きながら話し,A157も「お父さんを見捨てることはない。」などと応答していたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の363)
イ 亡A1の平成15年5月18日,同月19日,同月25日の供述
亡A1は,平成15年5月18日,A10署長宛ての手書きの申述書を作成し,本件選挙に関し,同年2月上旬から同年4月中旬にかけて,原告X1から6万円,原告X1から5万円,原告X1から2万円と焼酎2本,原告X3から5万円,原告X6から10万円,原告X3から20万円,A89から20万円を受け取った旨を記載した。
亡A1は,同年5月19日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,同年4月14日又は同月15日,自宅で原告X1の訪問を受け,口止め料として5万円を受け取ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月19日付け供述調書に署名・指印した。
亡A1は,同年5月25日,A78副検事の取調べに対し,亡A1が,原告X6の本件選挙に関し,同年1月下旬頃,自宅で原告X6とA5から焼酎2本を,同年2月上旬に1回目会合で原告X1から6万円を,2月下旬頃,2回目会合で原告X1か原告X3のいずれかから5万円を,同年3月上旬頃,自宅で原告X1と原告X3から2万円と焼酎2本,同月中旬頃,自宅で原告X1から現金1万円を,同月中旬頃,3回目会合で原告X1か原告X3から現金5万円を,同月下旬頃,4回目会合で原告X6から10万円,同年4月4日の本件選挙の告示後に,自宅で原告X1と原告X3から20万円をもらい,その総額は,49万円と焼酎4本であること,そのほかにも本件選挙の投票日よりも後の同年4月14日,原告X1から口止め料として5万円を受け取ったことなどを供述し,その旨の供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の532,甲総ア第411号証,甲総ア第429号証の392)
ウ 原告X4の平成15年5月18日,同月22日の供述
原告X4は,平成15年5月18日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,①原告X4は,同年4月13日の本件選挙の投票日の数日前,X1宅で5回目の会合に,原告X1夫妻,原告X2,原告X5,原告X3,亡X12,亡A1とともに参加し,原告X1のほか,原告X6,原告X7,A5,A89から投票依頼及び票の取りまとめを依頼され,A89から現金20万円の供与を受けたこと,②原告X1から,同年4月14日か同月15日頃,自宅で,口止め料として5万円を受け取ったことを供述し,上記①及び上記②の内容をそれぞれ記載した同年5月18日付け供述調書各1通に署名・指印した。
原告X4は,同年5月22日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X4は,1回目会合以外に,原告X1から2万円入り封筒と焼酎2本を,原告X1から5万円入り封筒を,原告X6から5万円入り封筒を,A89から10万円入り封筒2通をそれぞれ受け取り,さらに同年4月頃,原告X1から5万円入り封筒を,亡A1から5万円入り封筒をそれぞれ受け取ったこと,②同年4月に原告X1から5万円入りの封筒を受け取ったとする点は,原告X1ではなく他の者から受け取ったかもしれないことなどを供述し,それらの旨の同年5月22日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第25号証の625,同626,同883,甲総ア第429号証の212)
エ 原告X3の平成15年5月23日の供述
原告X3は,平成15年5月23日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,口止め料につき,①同年4月14日の午後7時頃,原告X1から電話で呼び出されてX1宅を訪れた際,原告X1が原告X3に対し,原告X7から原告X6の選挙運動について警察が捜査しているので,買収会合の参加者や現金及び焼酎等の受供与者に口止めをするよう指示されて,口止め料として現金の入った封筒を預かっていることを打ち明けてきたため,原告X1と原告X3が封筒の封を開けて確認してみると,封筒一通につき現金5万円が封入されていたこと,②口止め料を渡す相手は,X1焼酎事件受供与被疑者ら13名と4回目会合に出席していたA97,A103副公民館長,A88,A124及び原告X3,原告X1,原告X9,A112及びA117の22名であり,封筒も22名分であったこと,③原告X1が上記22名のうち,四浦集落の者には5万円,その他の者には3万円を交付すればよいのではないかと提案して,原告X9及び原告X3でこれを了承して,四浦集落以外の者8名分の封筒から2万円ずつの合計16万円を抜き取り,これを原告X1,原告X9,A112,A117に各3万円ずつ,残った4万円を原告X3がそれぞれ受け取ったこと,④原告X1,原告X9及び原告X3は,口止め料を交付する分担について,原告X3において,a3集落の原告X2,原告X5,原告X4,亡A1及び亡X12並びにa4集落のA88及びA124の合計7名に交付し,その余を原告X1において交付することを決めたと思うが,勘違いしているかもしれないことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月23日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の137)
オ 原告X3の平成15年5月31日の供述
原告X3は,平成15年5月31日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,原告X3が本件選挙において,原告X6から投票依頼及び票の取りまとめに対する報酬として10回以上,現金の供与を受けており,①同年2月8日頃の1回目会合における原告X1からの現金6万円,②2回目会合における5万円,③3回目会合における5万円,④同年3月下旬の4回目会合における原告X6からの10万円,⑤X1焼酎事件における,現金2万円及び焼酎2本並びに他の選挙人に対して買収金として供与すべきだった現金の中から抜き取った2万円,⑥同年4月14日頃の口止め料としての5万円及び他の選挙人に対して口止め料として交付すべきだった現金の中から抜き取った4万円のほか,⑦原告X3が自宅で鶏小屋の修理をしていたところ,原告X6が訪れて供与された現金3万円,⑧原告X3がA129に頼まれて甘藷を分けるに当たり,A129が甘藷の運搬のために原告X3の自宅を訪れた際,A129から現金3万円,⑨A129が上記甘藷の運搬のために原告X3の自宅から持ち出したコンテナを返却に来た際,A129から5万円,⑩原告X3が,同年2月14日に上記甘藷の代金を受け取りにf社を訪れた際,A129から甘藷の代金とは別に1万円,⑪原告X3が原告X6から森山校区と潤ヶ野校区の戸別訪問の依頼を受け,3日間かけて戸別訪問をした後にf社の事務所で原告X6から4万円,⑫原告X6及び原告X7が,同年3月21日のa2集落小組合の総会に出席し,原告X3を含む集落の出席者15名に対し,1人当たり10万円,⑬原告X6からf社の事務所で,原告X4に渡すよう依頼された白封筒入りの30万円のうち,原告X3の取り分10万円をそれぞれ受け取ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月31日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の143)
カ 原告X2の平成15年5月19日,同月28日,同月31日の供述
原告X2は,平成15年5月19日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,原告X1から本件選挙の投票日の数日後,本件買収会合の事実を警察に言わないよう依頼され,現金5万円を受け取ったことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
原告X2は,同日,A10署長宛ての手書きの申立書を記載し,その中で,①原告X2は,同年2月上旬か同月中旬にあった1回目会合で,原告X1から現金6万円の供与を受けたこと,②この他に数回あった本件買収会合において,原告X1から5万円,原告X7から5万円,原告X6から10万円の供与をそれぞれ受けたこと,③原告X1と原告X3から30万円の供与を受けたこと,④原告X1と原告X3から焼酎2本と現金2万円の供与を受けたこと,⑤原告X1から現金1万円の供与を受けたこと,⑥原告X1から本件選挙後に口止め料として5万円を受領したこと,⑦これらの事実は取調べの当初,供述することができなかったが,自分の罪に気付き,正直に供述しようと思っていること,⑧記憶が混乱している部分があるが,いろいろな場面を思い出して本当のことを話すことが自分や家族のためだと思っていることなどを記載した。
原告X2は,同年5月28日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,原告X2が本件選挙の告示日前後に,原告X1及び原告X3から現金30万円の供与を,本件選挙の告示日前後に,亡A1から現金3万円の供与をそれぞれ受けるとともに,本件選挙の投票日の数日後頃に,原告X1から5万円を受け取ったが,それらの現金及び4回目会合で供与を受けた現金10万円を,いずれもパチンコ代とガソリン代に全て費消したこと,本件現地本部の裏付け捜査により判明した同年4月3日のガソリン代3183円及び同月10日のガソリン代3119円は,いずれも上記現金10万円の一部から支払ったものであることをを供述し,その旨の記載のある同年5月28日付け供述調書に署名・指印した。
原告X2は,同月31日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,亡A1が同年3月25日に自宅で行ったべぶんこ祝いに参加した状況について,①参加者は,亡A1,原告X2,A88のほか,a1集落に居住するA166及びその妻であり,②参加者は,亡A1を除いて焼酎を飲み,途中で出された焼酎の銘柄が「○○」であったこと,③亡A1は,普段であれば,一番年下の原告X2に焼酎瓶ごと渡して自由に注がせるのだが,その日は,焼酎瓶を亡A1の手元に置き,珍しく原告X2らに酌をしてくれ,焼酎の銘柄を原告X2らに知られたくない様子だったこと,④取調官に,亡A1がなぜそのような行動を取ったかと聞かれて改めて考えてみると,亡A1も,原告X2と同様に,同年3月上旬か中旬頃,原告X1及び原告X3から現金と焼酎の供与を受けており,そのことを原告X2らに勘ぐられないようにするためだったと思うことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月31日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の759,同760,甲総ア第429号証の363,同365)
(14)  1回目会合事件に関する第1次起訴(平成15年6月3日)
ア 第1次起訴(平成15年6月3日)
A75検事は,平成15年6月3日,裁判所に対し,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1を被告人として,1回目会合事件について,公職選挙法違反の罪でいずれも身柄付きで公訴提起した(当庁平成15年(わ)第217号公職選挙法違反被告事件。第1次刑事事件)。(争いのない事実)
イ 第1次刑事事件に係る起訴後勾留に関する接見等禁止(平成15年6月3日)
また,検察官は,同年6月3日,裁判官に対し,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5について,第1次刑事事件に係る起訴後勾留に関し,接見等の禁止を請求し,裁判官は,同日,上記6名につき,第1回公判期日までの間の各接見等禁止決定をした。(甲総ア第25号証の1099及び同1100,同1137及び同1138,同1223及び同1224,同1260及び同1261,同1320及び同1321,同1426及び同1427)
ウ 第1次刑事事件に関する公訴事実の要旨
第1次刑事事件の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補した原告X6の選挙運動者であり,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,自宅において,いずれも曽於郡区の選挙人である原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,上記5名に対し,それぞれに現金6万円ずつの合計30万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をした,②原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5は,いずれも,同年2月上旬頃,X1宅において,原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,各自現金6万円の供与を受けたというものである。(甲総ア第25号証の19)
エ 第1次起訴に係る検察官の検討内容
A75検事は,第1次起訴をするに当たり,証拠の評価につき,同日の時点で自白をしている者が亡A1,原告X4,原告X2,原告X3の4名であり,否認している者が原告X1及び原告X5の2名である中,以下の理由から上記4名の自白の信用性があって,有罪を獲得できる見込みがあるとの判断をした。
① 亡A1,原告X4,原告X2,原告X34名の自白内容が,1回目会合事件の被疑事実及び重要な間接事実の枢要部分で一致し,相互に信用性を支え合っているものと評価した。
② 亡A1,原告X4,原告X2,原告X34名が概ね一貫して事実を認めているといえるものと評価した。原告X3も,当初は否認であったが,同年5月19日に20日以降は一環して事実を認めていることから,上記評価を覆すものではないと評価した。一部の被疑者が自白と否認を繰り返している点は,弁護人による捜査妨害が理由であり,信用性を減殺するものではないと判断した。
③ 本件公訴提起に先立つ平成15年5月2日頃,A12警部から,原告X1のほか,在宅で取調べ中の被疑者らから買収会合の事実についての供述が出ている旨の説明を電話で受けるとともに,A12警部の指示で,県警の本件刑事事件の原告X1らの取調官同士が,それぞれ担当する原告らの供述内容を相互に情報交換しないようにして,原告らの供述を引き出すようにしている旨を聞いており,その上で,原告らの供述が会合の回数,買収金の金額等が概ね一致したことの報告を受け,これらの4回の本件買収会合の概要の供述が枢要部分で最終的に一致したことを供述の信用性を高める積極要素の1つと判断した。
④ 4名の1回目会合の自白の中に,亡X12と原告X9が口論をしたこと及び原告X3が現金の入った封筒を供与された後,その場で開封して中身を確認したことが含まれ,この点について,秘密の暴露ではないものの,被疑者しか知り得ない事情であり,供述の信用性を高めるものと判断した。
⑤ A75検事が上記6名の被疑者全員の弁解録取手続を行っているところ,その際の原告X2の供述態度が,被疑事実の読み聞かせに対し,間違いない旨を即答し,A75検事からの質問に対し,質問の意図をくみ取って,質問されていない事項まで積極的に回答していた等の点で信用性を高めるものと判断した。
⑥ 4名の自白の使途先として,一部裏付けが取れ,その中でも特に,原告X4が同年2月8日にファミリーマートで支払った携帯電話の料金が,1人3万円ずつとする受供与金額に近い額であり,原告X4の供述と合致していることから信用性が高いものと判断した。使途先が一部しか取れないことは,一人当たり6万円という受供与金額においては不自然ではないと評価し,原資についても,総額36万円という供与金額においては,判然としなくても不自然ではないと評価した。
⑦ 原告X1が平成15年5月27日の取調べでマウスコードで自らの首を絞めるなどの行為については,原告X1が否認に転じたが,他に事実を認めている者がいたため,言い逃れができなくなったための行動と評価し,その後の取調べでA14警部補を逮捕して欲しいなどと告げたことについても,上記4名の自白と内容が概ね一致する原告X1のそれまでの自白内容の信用性を疑わせるものとは評価しなかった。(甲総ア第25号証の1061,証人A75,弁論の全趣旨)
オ 1回目会合に関する原告X1の供述(平成15年6月9日から同年7月16日まで)
(ア) A75検事による平成15年6月9日の取調べ
原告X1は,平成15年6月9日,A75検事の取調べを受け,1日目会合の状況に関し,同年5月9日のA14警部補及びA63巡査の取調べでの供述内容に概ね沿う供述をし,その際,①会合の予定時刻と終了時刻には触れず,②前回選挙でもX1宅で原告X6の選挙の会合があり,原告X1が原告X6から渡された現金入りの封筒をa3集落の人に渡したこと,③会合の案内をしたとき,原告X3に妻も連れてくるよう伝えたが,妻は踊りの練習があるから参加できない旨を聞いたことを追加し,④開始時刻について,午後7時30分頃に四浦校区側の参加者がそろい,それより前に原告X6とA5が到着していたことを追加し,⑤宴会の途中で,A117を原告X6に挨拶させたことを追加し,⑥原告X6が原告X1に対し,参加者に供与する現金の入った封筒の束を渡すとき,原告X1のところは4通取るよう指示したこと,⑦原告X6及びA5が帰宅し,A112が続いて離れに戻った後,原告X5も帰ろうとしたので,現金の入った封筒を2通渡し,原告X5は拒否する素振りを見せず,受け取ったこと,⑧原告X1が原告X6から受け取った4通の封筒は,原告X9,A112,A117に1通ずつ渡し,残った1通の3万円は,スーパーマーケットでの買い物やガソリン代に費消したことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の367)
(イ) A14警部補による平成15年6月21日の取調べ
原告X1は,平成15年6月21日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,1回目会合から4回目会合の全体の受供与金等について,①本件選挙で4回くらいの会合をX1宅で開催し,その席で原告X6や原告X7から現金をもらっていたこと,②その現金の使途として,貯金箱に入れた記憶があること,③平成14年の夏頃500円硬貨を満杯まで貯めると10万円になる缶の貯金箱を100円ショップで購入し(以下,同貯金箱を「従前貯金箱」という。),従前貯金箱は,500円硬貨を貯金していたら5ないし6か月で一杯になり,それを原告X1名義の郵便貯金口座に入金した記憶があり,それは原告X1名義の郵貯総合通帳で確認すると,平成15年1月14日の11万2000円の入金に該当すること,④現在,自宅にある貯金箱は,従前貯金箱とは異なり,500円硬貨を満杯まで貯めると50万円になる貯金箱(以下「本件500円貯金箱」という。)と100円硬貨を満杯まで貯めると10万円になる貯金箱(以下「本件100円貯金箱」といい,本件500円貯金箱と併せて「本件貯金箱」という。)がそれぞれ1つずつあり,いずれも従前貯金箱が一杯になった後の同月中旬頃,100円ショップで購入したものであること,⑤本件貯金箱は,いずれも原告X6が本件選挙への立候補を表明した後に購入したもので,前回選挙でも4回くらいの会合で10万円くらいの現金の供与があったことから,本件選挙でも同様に現金の供与があるものと期待して購入したものであること,⑥原告X6から供与を受けた現金は,生活費として費消したが1000円札で200円くらいの買い物をしたお釣りを直ちに本件貯金箱に入れていったこと,⑦本件100円貯金箱には,1万円札を1枚と5000円札を1枚,1000円札を5枚ほど入れた記憶があるが,これは,同僚のA113から紙幣を何回も折りたたむと100円硬貨を貯める貯金箱に入ると言われて,実験したものであり,このうち1万円札は,4回目会合の10万円のうちの一部であると記憶していること,⑧本件貯金箱の中の現金は,原告X6及び原告X7から供与を受けた現金を生活費に使った釣り銭が大半を占めるのは間違いないことを供述し,その旨の記載のある同年6月21日付け供述調書に署名・指印した。
なお,県警が,同月25日,本件貯金箱を領置して開封し,内容物を精査したところ,本件500円貯金箱には,500円硬貨が73枚の合計3万6500円が,本件100円貯金箱には,1万円札が1枚,5000円札が1枚,1000円札が6枚,100円硬貨が487枚,50円硬貨が132枚,10円硬貨が481枚,5円硬貨が144枚,1円硬貨が477枚の合計8万2307円がそれぞれ在中していた。(甲総ア第429号証の63,乙国第104号証,105号証)
(ウ) A75検事による平成15年6月22日の取調べ
原告X1は,平成15年6月22日,A75検事の取調べを受け,1回目会合の状況について,同年6月9日のA75検事の取調べでの供述内容に概ね沿う供述をし,その際,①会合の開始時刻についても何ら触れず,②前回選挙でもX1宅で原告X6の選挙の会合を行い,2万円か3万円の参加者への供与金があり,従前の取調べでは,原告X1が参加者に供与したと供述したが,よく思い出してみると,原告X6が直接参加者に供与していたこと,③前回選挙の会合は3回ないし4回開かれ,原告X6が会合の度に現金の入った封筒を参加者に供与していたこと,④1回目会合では,他の参加者に先んじて,原告X6とA5がX1宅に到着し,原告X6がX1宅を見て,今時天井がはっていない家は珍しいと感心したこと,⑤原告X1は,宴会の席でA117を原告X6に挨拶させたこと,⑥原告X6から原告X1が参加者に供与する現金の入った封筒を手渡される際,原告X6から原告X1,原告X9,A112,A117の4名分の封筒を別途受け取ったことなどを追加ないし訂正し,その旨の記載のある同年6月22日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書には,前回選挙時のX1宅での会合で,原告X6が参加者に直接現金を供与するなど,既にX1宅を訪れているのに,1回目会合のためにX1宅を訪れた際,今時天井がはっていない家は珍しいなどと初めて訪れたような感想を述べたことについての疑問等は記載されていない。(甲総ア第25号証の368)
(エ) A14警部補による平成15年6月23日の取調べ
原告X1は,平成15年6月23日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べを受け,1回目会合での受供与金の使途に関し,①前回選挙での買収会合の受供与金は,原告X5に依頼され,四浦郵便局の実績作りのため,原告X5に預けたこと,②X1宅で買収会合が2回ほど開催された後の同年3月中旬頃,原告X5がX1宅を訪ね,本件買収会合での受供与金を四浦郵便局に預けるよう依頼したため,原告X1は,その日の夜,原告X5宅を訪れ10万円を預け,さらに同年4月上旬頃20万円を預けたが,その原資は,いずれも原告X1と原告X9の本件買収会合での受供与金であること,③原告X5は,原告X1から預かった上記30万円を原告X1名義ではなく,原告X5名義か原告X5の知人名義の口座で管理していること,④a3集落の他の者も同様に本件買収会合での受供与金を原告X5に預けていると思われること,⑤a3集落のリーダー的存在である原告X5に迷惑が掛かると思い,この事実は今の今まで供述することができなかったことを供述し,その旨の記載のある同年6月23日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書には,原告X5が原告X1から預かった現金を原告X5又はその知人名義の口座で管理する必要があるかについて,何ら記載されていない。(甲総ア第25号証の719)
(オ) A14警部補による平成15年6月24日の取調べ
原告X1は,平成15年6月24日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べを受け,1回目会合の状況につき,概ね同年5月9日のA14警部補及びA37巡査部長の取調べの際の供述内容及び同年6月22日のA75検事の取調べの際の供述内容に沿う供述をし,その際,①会合の予定時刻及び開始時刻が午後7時30分であったことを再度追加し,②従前の取調べにおいて,ビールや焼酎,つまみは前日に原告X7から代金を預かって原告X1が手配したと供述していた点は,ビールや焼酎,つまみは,原告X7から前日に現物を会社で渡されていたことを思い出したとして訂正し,封筒を渡した状況についても原告X5が先に帰ったことを思い出したとして状況の説明を訂正し,③宴会で参加者が原告X6に対し,次は奥さんを連れてきて下さいと発言したため,原告X6が,今度,一緒に連れてきますと回答したことを追加し,④従前の警察での取調べでは,原告X6から会合の参加者に供与するための現金が入った封筒の束を受け取った際,原告X1は,原告X1夫妻及びA112の分の3通を受け取ったと供述していたが,本当は,A117の分も含めた4通分であり,しかも,原告X1から4通もらってよいかと申し出て原告X6の了解を得たこと,⑤同年5月11日のA14警部補及びA37巡査部長の取調べ時には,原告X9と亡X12が喧嘩して,亡X12がその後会合に参加しなかったと供述していたが,その後の会合にも何回か参加していたことを思い出したとして訂正して,その旨の記載のある同年6月24日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の66)
(カ) A75検事による平成15年6月26日の取調べ
原告X1は,平成15年6月26日,A75検事の取調べを受け,1回目会合の状況に関し,従前の検察官の取調べで,①従前の警察での取調べでは,原告X6から会合の参加者に供与するための現金が入った封筒の束を受け取った際,原告X1は,原告X6から原告X1夫妻,A112及びA117の分の4通を受け取るよう指示されたと供述していたが,本当は,原告X1の方から4通もらってよいかと申し出て原告X6の了解を得たこと,②1回目会合で参加者に配った封筒の封を破ったのは,原告X1ではなく,参加者の男性のうちの一人だったことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の369)
(キ) A75検事による平成15年6月26日の取調べ
原告X1は,平成15年6月26日,A75検事の取調べを受け,1回目会合の受供与金の使途に関し,同月23日のA14警部補及びA37巡査部長の取調べでの供述内容に概ね沿った供述をし,その際,原告X5が原告X1から預かった30万円を管理している口座の名義が誰であるのかは,原告X5を信用していたので知らない旨を供述した記載のある同月26日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書には,原告X5が原告X1から預かった30万円を口座で管理するに当たり,なぜ,原告X1名義にしない必要があるのかについて何らの記載はない。(甲総ア第25号証の565)
(ク) A78副検事による平成15年7月16日の取調べ
原告X1は,平成15年7月16日,A78副検事の取調べを受け,同日付け供述調書に署名・指印した。
同供述調書の内容は,1回目会合の受供与金の使途について,同年6月21日のA14警部補及びA37巡査部長の取調べでの供述内容に概ね沿うものの,従前貯金箱の購入時期を,従前供述していた平成14年夏頃とは異なり,2年くらい前と供述し,その結果,従前貯金箱で11万円余りを貯めた期間について,5,6か月ではなく,より長期間を要したものであることを前提に,本件貯金箱では,原告X6からの買収金によって,3,4か月という短期間で貯められたとする新たな供述内容が記載されている。しかし,他方で,従前貯金箱を購入した時期等について供述が変遷した理由について何ら記載されていない。(甲総ア第25号証の567)
カ 裏付け捜査その他関係者の供述等と1回目会合の開催日の特定状況(平成15年4月27日から同年6月3日まで)
(ア) 平成15年5月7日及び同月8日のパチンコ店
本件現地本部は,平成15年5月7日及び同月8日,原告X2が常連となっているパチンコ店の店員に事情聴取して,同月7日付け供述調書及び同月8日付け供述調書各1通を作成した。上記各供述調書には,原告X2が同パチンコ店の常連であり,平成14年は,毎日のように来店していたが,平成15年に入ってから来店が少なくなり,平成15年1月下旬頃から週に2,3回ないし3,4回の割合で来店していたことなどが記載されている。(甲総ア第25号証の354及び同356)
(イ) 平成15年5月10日のp商店に併設された給油所での給油歴
本件現地本部は,平成15年5月10日頃,原告X2が利用していたp商店に併設された給油所での給油歴について,裏付け捜査を行い,原告X2が現金カードを利用し,その給油伝票ジャーナルから,原告X2が,同年1月6日に税込み3024円相当の,同月20日に同額相当の,同年2月21日に税込み5922円相当の,同年3月4日に税込み3024円相当の,同月20日に税込み3183円相当の,同年4月3日に税込み3183円相当の,同月10日に税込み3119円相当の,各給油歴があることを確認した。(甲総ア第25号証の357及び358)
(ウ) 平成15年5月30日頃の株式会社宮崎クボタにおける捜査
本件現地本部は,平成15年5月30日頃,原告X3が三段梯子を購入したと供述した購入先である株式会社宮崎クボタの関係者に事情聴取した結果,原告X3には,同年3月15日に税込み1万5540円の梯子の購入歴があることを確認した。(甲総ア第25号証の359,弁論の全趣旨)
(エ) 平成15年4月27日のp商店における捜査
本件現地本部は,平成15年4月27日,亡A1のp商店での食料品等の購入歴について,A102公民館長から事情聴取を行って,同日付け供述調書を作成し,同供述調書には,亡A1は,3,4日に1回の割合で,買い物や給油に来店し,食料品は,たばこ6箱,1缶200円の栄養補助食品及び1袋300円位の5個位入りのパンをまとめ買いすることが多く,その他,同年3月3日に軽油1510円分の,同月9日に灯油3900円分の,同月12日に軽油14リットルの,同月25日にたばこ1箱の,同年4月5日にバッテリー充電300円分の,同月8日に軽油1350円分の,同月14日に軽油及び栄養補助食品の合計760円分をいわゆるつけ払いで購入し,いずれも代金は支払済みであることなどが記載されている。(甲総ア第25号証の365)
(オ) 平成15年5月6日の原告X17の供述
原告X17は,平成15年5月6日,自宅でA48巡査部長の取調べを受け,亡A1から,同年3月18日頃,長男の中学校の卒業と高校入試の合格祝いを兼ねて,現金2万円を受け取ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月6日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の434,乙国第116号証)
(カ) 平成15年5月27日の原告X16の供述
原告X16は,平成15年5月27日,自宅でA21警部補及びA61巡査の取調べを受け,亡A1から,同年3月18日に,原告X16の次男の高校合格祝いとして,現金3万円を受け取り,さらに,同月下旬頃に,原告X16の次男の高校の入学金・制服代等に必要な10万円を用立てられず,亡A1に2万5000円の借金を申し込み,亡A1から,同年4月4日,同額の現金を受け取ったことを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の435,甲総ア第554号証,乙国第117号証)
(キ) 平成15年5月30日のA136の供述
原告X3の妻であるA136は,平成15年5月30日,志布志署に任意出頭して,A78副検事の取調べを受け,A136は,同年2月に入ってからすぐの日の夕方頃,自宅で,何者かと電話中の原告X3から,「今度の土曜日の夜の集まりがあるが参加できるか。」と聞かれ,その日は旧志布志町の生涯学習の民謡同好会の踊りの練習が入っていたため,「土曜日の夜は踊りがあるから行けない。」旨の返答をしたことがあり,その会話をしたのが同年2月に入ってからすぐのことと記憶しているので,集まりがある土曜日とは,同年2月8日を指すと考えられる旨を供述した記載のある同年5月30日付け供述調書に署名・指印した。
A136は,平成16年10月13日,第1次刑事事件等の第28回公判期日での証人尋問において,原告X3から参加を誘われた土曜日の夜の集まりとは,平成15年1月にj店で行われた四浦校区審議委員会主宰の新年会である旨を証言した。(甲総ア第25号証の360,同1051,乙国第33号証)
(ク) 平成15年5月22日,同月23日,同月28日のA117の供述
原告X1の長男であるA117は,平成15年5月22日,志布志署に任意出頭して,A76副検事の取調べを受け,①同年2月頃,自宅で会合があり,午後7時半頃子供部屋でテレビを見ていたら,こたつの間の方から,「今度,県議選に出ます。」などの挨拶の声が聞こえ,それから10分ほどしてから原告X1に呼ばれ,原告X6に紹介されて挨拶をしたこと,②こたつの間には,原告X1夫妻,原告X6,原告X5,原告X13,原告X4,原告X2,亡A1,原告X3がいたこと,③午後8時頃,子供部屋からトイレに行った際,何気なくこたつの間の様子を見ると,原告X1が膝をついて,誰かに茶封筒らしきものを手渡そうとしているところを見たこと,④上記①ないし③の話は嘘ではないことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印し,同日,A21警部補及びA54巡査部長の取調べを受け,①同年3月中旬頃,原告X6とA5がX1宅を軽自動車で訪問し,A117が対応すると,A5がお父さんかお母さんはいないかという趣旨のことを言いながら,後部座席から何かを取り出そうとしたが,原告X6がA5に対し,ここは要らないなどと言って,直ぐに隣のA137の自宅の方に自動車を運転させていったこと,②A117は,A5が原告X9か原告X1に後部座席に積んである物を渡そうとしたが,原告X6が渡さなくてよいと指示したものと受け取ったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印した。
A117は,同月23日,志布志署に任意出頭して,A21警部補及びA54巡査部長の取調べを受け,①A117は,同年4月17日の午後11時頃,原告X1及び原告X9が電話をしていることに気付き,電話の相手方は,原告X1の話し方などからA89であり,その日に原告X9が受けた取調内容を確認する電話のようだったこと,②A117は,同月18日,警察での取調べから帰宅した原告X1と原告X9が会話をしており,原告X9が「何人かは証拠があがっている。」などと発言していたため,A117は,会合のことがばれたのではないか,次は自分が呼び出されるのではないかと不安に思ったこと,③A117が原告X9から聞いた話では,原告X6が同年4月23日から同月25日頃,原告X9の職場に電話をかけ,弁護士を頼んだことを告げられたところ,原告X9は,既にC1弁護士を弁護人に頼んだので必要がない旨を述べて断ったことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月23日付け供述調書に署名・指印した。
A117は,同月28日,志布志署に任意出頭して,A76副検事の取調べを受け,①同月22日に供述した会合は,同年2月上旬のことであり,A112も出席していたこと,②A117が原告X6に挨拶をした際,5分程,会合の場にとどまっており,その際,どの地域はどの候補が強いであるとかどの候補はどのくらいの票を取りそうだなどの話をしていたが,会合があったのが,こたつの間だったのか中江の間だったのかよく思い出せないこと,③同年2月上旬のほかにも1度,a3集落の人が自宅に集まったことがあり,参加者は,原告X9夫妻,原告X4,亡A1,原告X2,亡X12又は原告X13,原告X5だったが,部屋が中江の間だったのかこたつの間だったのかよく思い出せないことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の524,同525,乙国第32号証,乙国第226ないし228号証)
(ケ) 1回目会合の開催日の特定状況(平成15年6月3日頃まで)
本件現地本部及びA75検事は,1回目会合の開催日について,同年6月3日頃までに,①原告X1が,取調べにおいて,開催日を同年2月上旬頃と供述し,かつ,1回目会合のために会社を早退した旨を供述し,f社のタイムカード等から,同年2月1日,同月8日,同月22日に,原告X1が会社を早退したことが確認できたこと,②原告X2が,取調べにおいて,開催日を同年2月上旬頃と供述し,かつ,原告X2が同月1日は釣りクラブの新年会に出席していたことを供述し,裏付け捜査の結果もこれが裏付けられ,③原告X2が,開催日は,娘のA148が串間の病院に入院してる頃であり,会合の開催日は,少し早めに病院に来てA148を見舞って,早めに帰宅した旨を供述し,その期間が同月7日から同月12日までであったことが裏付けられたこと,④亡A1が,開催日を同年2月上旬頃と供述し,かつ,同月9日は,民生委員の役員会に出席し,その1日か2日前だったと供述し,裏付け捜査の結果,亡A1が同月9日に同役員会に出席した事実も確認できたこと,⑤原告X4は,原告X8が1回目会合に体調不良により出席していない旨を供述し,裏付け捜査の結果,原告X8がパート先のo店を同年1月15日から同年2月16日まで欠勤している事実が確認できたこと,⑥原告X4は,平成14年1月分と平成15年の1月分の2か月分の携帯電話代が滞納になり電話を止められていたが,1回目会合の受供与金でその日のうちにファミリーマートで支払をした旨を供述し,裏付け捜査により,上記携帯電話の滞納分が同年2月8日に支払われ,同月9日から通常の通話ができるように戻っていたという事実が確認でき,かつ,捜索で押さえた関係資料の中に,同年2月8日午後11時前のファミリーマートのレシートの印字により,3万円を支払って釣り銭を受領していることが判明したこと,⑦原告X3が1回目会合について,妻のA136の都合を確認したが,踊りの練習があり行けなかった旨を供述し,裏付け捜査の結果,A136が2月8日の土曜日に踊りの練習に参加してるという事実が確認できたことから,証拠上,他に開催できる合理的な日が存在しないとして,1回目会合の開催日は同年2月8日に行われた可能性が高いものと特定した。
なお,A75検事は,平成17年3月9日,第1次刑事事件等の第36回公判期日の証人尋問において,「起訴の段階で,2月8日が犯行があった,買収会合があった日だと特定しなかった理由は何でしょうか。」とのC11弁護人からの質問に対し,「それについては特にないですね。」と回答した。
また,原告X1が平成15年7月17日のA78副検事の取調べにおいて署名・指印した同日付け供述調書には,「1回目の会合は,今年の2月8日夜にあったのでした。」との記載がある。(甲総ア第25号証の389,同1054,同1062,乙国第42号証,乙国第44号証,証人A75,弁論の全趣旨)
(15)  4回目会合事件に係る第3次強制捜査等(原告X6,原告X7,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4及び原告X9)
ア 原告らに対する4回目会合に関する取調べ(平成15年5月18日から同年6月12日まで)
(ア) 原告X8に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月18日)
原告X8は,平成15年5月18日,A36巡査部長の取調べにおいて,①4回目会合は,同年3月下旬から同年4月上旬の午後7時頃から始まり,原告X8及び原告X4は,参加が遅くなって,X1宅に着いたときには会合は始まっていたこと,②X1宅の8畳の間には,唐揚げ,エビなどが盛られた大皿2個と刺身などが準備されていたこと,③参加者は,原告X4夫妻のほか,原告X6,原告X7,A5,原告X3,原告X1,原告X9,A112,亡A1,原告X14,原告X2夫妻,亡X12,原告X5,原告X11,A88,A124であり,他にも来ていたかもしれないこと,④会合で原告X6らの挨拶が一通り終わると宴会になり,原告X10と原告X8は,宴会の途中,宴会が長くなりそうだから先に帰ることとして,2人でX1宅を出ようとしていたところ,原告X7が挨拶に来て,原告X8と原告X10にそれぞれ10万円を手渡したことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の289)
(イ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月22日)
原告X3は,平成15年5月22日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,4回目会合につき,①開催日は,同年4月上旬であると記憶していること,②開催日の前日,原告X1から電話で4回目会合を開催することの連絡を受け,開催日の午後7時頃,同じa4集落に居住するA88とA124とともに原告X3の自動車でX1宅に行ったこと,③参加者は,原告X6,原告X7,A5,A89と原告X1夫妻,亡A1,原告X2,原告X5,原告X4夫妻,X12夫妻,原告X3,A88,A124,A97,A103副公民館長,原告X11であったこと,④会合は,X1宅の8畳の間で行われ,原告X6,原告X7が挨拶をして,挨拶の後,原告X7から封筒を手渡された原告X6が参加者一人ずつに対し,封筒を手渡していき,受け取りを拒否した者はいなかったこと,⑤原告X6が参加者に封筒を配った時間は午後7時半頃であると思うこと,⑥原告X6が参加者に封筒を配った後,原告X1が宴会の準備を始めたので,原告X3がA88及びA124に宴会も参加するか尋ねたところ,両名とも参加しない旨を答えたので,原告X3は,宴会が始まる前にA88及びA124とともに自宅に帰り,自宅に帰り着いた時間は,午後8時過ぎだったこと,⑦原告X6から受け取った封筒には現金10万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月22日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の134)
(ウ) 亡A1に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月25日)
亡A1は,平成15年5月25日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,4回目会合について,①4回目会合の開催日は,同年3月下旬に開催された民生委員運営委員会や四浦公民館総会の前後頃の同年3月下旬から4月上旬のことであること,②亡A1は,4回目会合の開催日の前日に,原告X1から電話で,4回目会合が次の日の夜にあり,原告X6がこれまでよりも多く金員を供与する予定であると言っており,亡A1の妻の原告X14も連れて来て欲しいなどと誘いを受け,A88にも参加を打診できないか相談され,亡A1においてA88に電話し,同人から4回目会合への参加の了解を取り付けたこと,③亡A1が午後8時過ぎにX1宅に着いた時には,既に4回目会合が始まっており,原告X6が挨拶をしており,原告X6を巡る選挙情勢が明るくなりつつあることなどを述べていたこと,④4回目会合の出席者は,原告X6,原告X7,A5,A89,原告X1夫妻,原告X2夫妻,原告X4夫妻,原告X5,原告X13,原告X3,原告X11,A88,A134であったこと,⑤4回目会合の宴会は,X1宅の8畳の間で行われ,盛り皿料理2皿くらいとつまみ,焼酎などが並べられていたこと,⑥原告X14は,原告X6の挨拶が終わった頃,亡A1に対し,体調を理由に帰宅したい旨を述べ,亡A1は,原告X14を送って一旦帰宅し,再度,X1宅を訪れたこと,⑦宴会が始まると,原告X6が茶封筒の束を手に持って,出席者1人1人に挨拶しながら,それを手渡していて,亡A1も茶封筒を受け取ったこと,⑧原告X6は,午後9時頃帰宅し,帰り際に挨拶をするとともに,今夜のことは口が裂けても言わないでくださいと口止めをして帰って行ったこと,⑨原告X6からもらった茶封筒には10万円が入っており,この10万円の使途についてはよく思い出してから供述するつもりであることを供述し,その旨の記載のある同年5月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の395)
(エ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月27日)
原告X2は,平成15年5月27日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,①4回目会合は,原告X2が牛の競り市で亡A1などが子牛を出品するのを手伝った同年3月25日の前後頃の3月下旬か,または選挙告示前の4月上旬頃に開催され,②4回目会合は,午後7時30分過ぎ頃参加者が全員そろって会合が始まり,③4回目会合の参加者は,原告X1夫妻,A112,原告X2,亡A1,亡X12,原告X4夫妻,原告X5,原告X3,A88,A124,原告X11,原告X6,原告X7,A5,A89であり,その他にもf社の女性従業員2名が参加していたと記憶しているが,もしかするとそれらの女性従業員2名は別の会合の時に出席していたのかもしれないこと,④会合は8畳の間で行われ,司会進行役はおらず,A5,A89,原告X6がそれぞれ挨拶して,それらの挨拶は,10分くらいで終り,宴会が午後7時40分過ぎ頃から始まったこと,⑤宴会では,天ぷら,唐揚げなどが入った盛り皿2皿と刺身皿2皿,さきいか,ピーナッツなどのつまみと焼酎,ビールなどが出されたこと,⑥原告X6は,午後8時頃,原告X7から茶封筒の束を受け取ると,参加者に酌をしながら回り,封筒を順に手渡していき,原告X2も10万円の入った茶封筒を受け取ったこと,⑦原告X6らは,午後9時頃帰宅し,宴会は午後9時30分くらいに終了したこと,⑧供与された10万円の使途はよく思い出してから供述することなどを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の766,甲総ア第429号証の362)
(オ) 原告X4に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月27日)
原告X4は,平成15年5月27日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,4回目会合に関し,①開催日は,同年3月下旬か同年4月上旬で,原告X4は,午後7時過ぎ頃,X1宅に行ったこと,②四浦校区側の参加者は,原告X4夫妻のほか,原告X1夫妻,A112,原告X2夫妻,A1夫妻,亡X12,原告X5,原告X3,A88,A124,原告X11であり,A134も参加していたような気がするが,記憶がはっきりせず,このほか,原告X6,原告X7,A5,A89,f社の中年の女性従業員などが来ていたこと,③会合は,8畳の間で開かれ,テーブルに,唐揚げなどのオードブルが2,3皿と焼酎,ビールなどが用意されていて,午後7時30分頃,全員がそろったところで,原告X6,原告X7,A5が順に挨拶をして,その後,宴会になり,宴会中に,原告X6が「こんなことをしてはいけないんだけど,私も必死ですのでどうか助けて下さい。」などと言いながら,四浦校区側の参加者に対し,1人ずつ茶封筒を配りながら頭を下げていったこと,④原告X6らは,茶封筒を配り終わると間もなく帰宅し,その後,茶封筒の中身を確認すると10万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月27日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の219)
(カ) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月28日)
原告X2は,平成15年5月28日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,4回目会合で供与を受けた現金10万円は,パチンコ代とガソリン代に全て費消したこと,本件現地本部の裏付け捜査により判明した同年4月3日のガソリン代3183円及び同月10日のガソリン代3119円は,いずれも上記現金10万円の一部から支払ったものであることを供述し,その旨の記載のある同年5月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の363)
(キ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月29日)
原告X3は,平成15年5月29日,A18警部補及びA50巡査部長の取調べにおいて,4回目会合につき,①以前の取調べで,4回目会合に参加するためA88とA124とともに原告X3の自動車でX1宅に行ったと供述したが,原告X3の自動車でA88及びA124と3人で参加したのは,A97宅で別の機会に原告X6が出席して行われた会合のことと記憶が混同したものであり,さらに,A97とA103副公民館長が4回目会合に参加していたとする点も,上記A97宅での会合の記憶と4回目会合の記憶が混同したものであり,4回目会合でのことではなかったこと,②4回目会合の開催日は,同年4月上旬と供述していたが,同年3月21日のa2集落小組合の総会の後で,同年3月28日の四浦小学校の教員の離任式よりも前であることを思い出したこと,③原告X3は,4回目会合の開催日の前日,原告X1から「明日の午後7時半頃,自宅に来て下さい。」との電話連絡をもらい,4回目会合の開催日当日,X1宅に午後7時10分頃に到着したこと,④4回目会合の出席者は,原告X6,原告X7,A5,A89,f社の従業員らしき女性2名と原告X1夫妻,A112,原告X2夫妻,原告X5,原告X4夫妻,X12夫妻,亡A1,原告X3,A88,A124,原告X11であり,原告X14が参加していたかははっきりしないこと,⑤会合は,午後7時30分頃から始まり,A5,A89,原告X6の順で15分くらい挨拶をした後,宴会になったこと,⑥宴会では,ビール,焼酎などと刺身が入った大皿1枚と唐揚げや天ぷらが入った大皿1枚が出されていたこと,⑦原告X6が,午後8時頃,宴会の参加者に酌をして回り,原告X3も原告X6から酒を注がれながら料理を勧められたが,歯の治療中であり食べられないことなどを話し,原告X6は,その後,茶封筒を取り出して,少しですけどなどと言いながら,原告X3に茶封筒を手渡し,その後も原告X6は,別の参加者にも順次酌をしながら,買収金を供与していた様子であったこと,⑧茶封筒には10万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年5月29日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の141)
(ク) 原告X2に対する勾留中の取調べと自白(平成15年5月30日)
原告X2は,平成15年5月30日,A77副検事の取調べにおいて,4回目会合について,会合の開始時刻について午後7時過ぎ頃としている点,f社の女性従業員2名が4回目会合に参加したと断定している点,原告X2は,同女性従業員2名が原告X6を社長と呼んでいたからf社の従業員だと思ったことが加わっている点などのほかは,同月27日のA16警部補及びA44巡査部長の取調べにおける供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同年5月30日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の390)
(ケ) 原告X3に対する勾留中の取調べと自白(平成15年6月3日)
原告X3は,平成15年6月3日,A77副検事の取調べにおいて,同年5月29日のA18警部補及びA50巡査部長の取調べでの供述内容に沿う供述をし,さらに,その受供与金10万円の使途について,自動車のタイヤ2本の交換,トラクターの軽油の費用及びパチンコ等に費消した旨を新たに供述し,その旨の記載のある同年6月3日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の421)
イ 第3次強制捜査の着手(平成15年6月4日から同年7月2日まで)
(ア) 4回目会合6月4日捜査事件(原告X6,原告X7,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4)
県警は,平成15年6月4日,4回目会合事件に関し,原告X6及び原告X7につき,共謀の上,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で通常逮捕した。
県警は,同年6月4日,4回目会合事件に関し,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3,原告X4につき,いずれも,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金10万円の供与を受けたとの被疑事実でそれぞれ通常逮捕した。
原告X5は,同年6月4日,逮捕状に対する弁解録取手続において,被疑事実を否認し,同月5日,A24警部補の取調べに対しても否認した。(前記前提となる事実,甲総ア第56,57号証)
(イ) 4回目会合6月4日捜査事件の送致と勾留請求(平成15年6月5日,同月6日)
県警は,平成15年6月5日,原告X6及び原告X7についての上記被疑事実に係る各事件を,同月6日,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5についての上記被疑事実に係る4回目会合6月4日捜査事件を,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
A73検事は,同月6日,裁判官に対し,上記8名について勾留請求をした。
原告X3,原告X4,原告X2及び亡A1は,同日,上記各勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問において,被疑事実を認める旨を,原告X6,原告X7,原告X1及び原告X5は,同日,同所で行われた勾留質問において被疑事実を否認する旨をそれぞれ述べた。
裁判官は,同日,上記各請求に係る各勾留状を発付し,A73検事は,同日,上記各勾留状を執行し,その後,上記8名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年6月25日まで身柄をそれぞれ拘束された。(前記前提となる事実,甲総ア第25号証の749,同815,同827,甲総ア第59号証,甲総ア第69号証,甲総ア第140号証,甲総ア第429号証の201,同456)
(ウ) 4回目会合6月8日捜査事件(原告X9)
県警は,平成15年6月8日,4回目会合事件に関し,原告X9につき,同年3月下旬頃,自宅において,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,現金10万円の供与を受けたとの被疑事実で,通常逮捕した。(前記前提となる事実)
(エ) 4回目会合6月8日捜査事件の送致と勾留請求(平成15年6月10日)
県警は,平成15年6月10日,同被疑事実に係る4回目会合6月8日捜査事件を検察官に身柄付きで送致した。
A77副検事は,同年6月10日,裁判官に対し,原告X9について勾留を請求した。
原告X9は,同日,上記勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問において,被疑事実を否認する旨を述べた。
裁判官は,同日,上記請求に係る勾留状を発付した。
A77副検事は,同勾留状を執行し,その後,原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同月29日まで身柄を拘束された。(前記前提となる事実,甲総ア第216号証)
ウ A22警部補による原告X11に対する任意段階での取調べ(「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」発言)
(ア) 任意段階での取調べ
本件現地本部は,平成15年6月5日から同月10日までの間,原告X11に対し,午前7時頃に自宅を訪れて任意同行を求め,志布志署において,A22警部補において,取調べを行った。取調べ時間は,原告X11の申し出により,同月5日,同月7日,同月9日及び同月10日の取調べ前又はその途中に体調不良でかかりつけの病院で点滴を受けるなどした時間並びに原告X11の父の病院への見舞いを経た上で志布志署に出頭した日を除いて,午前8時頃から午後8時頃ないし午後9時頃まで取調べを行った。(甲総ア第400号証,甲総ア第527号証,甲陳第10号証,原告X11本人,弁論の全趣旨)
(イ) A22警部補の取調べの態様
A22警部補は,平成15年6月6日又は同月7日頃,原告X11の取調べにおいて,否認する原告X11に対し,取調室の外の廊下に出て,大声で「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」などと文言を指定して叫ぶよう指示し,原告X11は,A22警部補の指示した文言を取調室の外の廊下に出て志布志署内に向かって叫んだ。(甲総ア第25号証の1084,甲総ア第527号証,甲陳第10号証,原告X11本人,弁論の全趣旨)
エ 第3次強制捜査における4回目会合事件に関する原告らの供述経過等(平成15年6月4日から同月25日まで)
(ア) 原告X1関係(平成15年6月4日から同月21日まで)
a 原告X1の否認(平成15年6月4日)
原告X1は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA14警部補及びA37巡査部長の弁解録取手続,同月6日のA75検事の弁解録取手続及び同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。(甲総ア第25号証の700,同749,甲総ア第429号証の7)
b 平成15年6月7日の手書きの申立書による自白
原告X1は,平成15年6月7日,手書きの申立書を作成し,「X6しゃちょうからせんきょのおかね10万円をもらったことはまちがいありません。みとめなかったりゆうはいまはいえませんほんとうにみんなにめいわくをかけてすみませんでしたはやくじけんをすませていえにかえりたいとおもいます」と記載し,4回目会合に係る被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の702の2)
c A14警部補による平成15年6月8日の取調べにおける自白
原告X1は,平成15年6月8日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,4回目会合6月4日捜査事件の被疑事実は間違いないこと,①原告X1がX1焼酎事件受供与被疑者らに対し,焼酎と現金を供与したことも間違いないこと,②原告X1が,1回目会合で原告X6から交付された現金3万円入りの封筒を参加者に供与したことも間違いないこと,③原告X1が,長い間,逮捕されたa3集落の人などに迷惑をかけたと思うこと,④これから全てのことを正直に話していこうと思うことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月8日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の49)
d A75検事による平成15年6月8日の取調べにおける自白
原告X1は,平成15年6月8日,A75検事の取調べを受け,①本件買収会合は,全部で4回あり,1回目が同年2月上旬,2回目がそれから2週間くらい間をあけてから開催され,2回目会合では,原告X1と原告X7が参加者を回って現金入りの封筒を渡し,その封筒には5万円が入っていたこと,②今回逮捕された10万円の供与は本件買収会合のうち,最後の4回目の会合に当たり,開かれた時期は同年3月下旬であること,③4回目会合は,原告X1が,原告X6から,f社の事務所において,本件選挙の会合を開催することを指示され,a3集落の住民と原告X3に連絡をとったこと,④4回目会合の参加者は,原告X1夫妻のほか,a3集落の原告X4夫妻,A1夫妻,亡X12,原告X5,原告X2夫妻,a4集落の原告X3,A88,a1集落のA97,A103副公民館長,a2集落の原告X11であり,A88,A97,A103副公民館長,原告X11は,原告X1は声を掛けていないので,原告X3又は原告X6が連絡したと考えられ,A112が出席していなかったような記憶であること,⑤原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5,A89,A114,A113が参加し,3人ずつ2組に分かれてX1宅に到着し,原告X6と原告X7は,先に到着した組に入っていたこと,⑥会合は午後7時30分過ぎに8畳の間で始まり,原告X6,原告X7,A89,A5がそれぞれ立ち上がって挨拶し,細かい挨拶の内容は覚えていないが,選挙が近いので最後までよろしくという趣旨のことを言っていたこと,⑦原告X6は,4人の挨拶が終わった後,準備してくれなどと宴会の準備をするよう指示してきたので,原告X1,原告X10,原告X8とA113,A114で宴会の準備をして,つまみやお酒を出したこと,⑧宴会で出したお酒は,焼酎とビールであり,いずれも原告X7が会社から持ってきたものであること,⑨原告X1は,宴会の途中で原告X7がバッグから茶封筒を出して原告X6に手渡しているところを目撃したこと,⑩原告X1は,宴会の途中,原告X6に後ろから肩をたたかれ,振り返ると,原告X6がどうもなどと言いながら,茶封筒を手渡してきたこと,⑪封筒には10万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月8日付け供述調書に署名・指印した。
同供述調書には,宴会で出したお酒の手配に関する記載はあるものの,宴会で出したつまみがどのようなもので誰が手配したものかについて何らの記載がない。(甲総ア第25号証の558,弁論の全趣旨)
e A90弁護士との平成15年6月11日の接見におけるオードブルの注文先
原告X1は,平成15年6月11日,A90弁護士との接見において,原告X1が同日の取調べで,オードブルの注文先を尋ねられ,mホテルからであると供述したが,その裏付けが取れなければまた追及されるに違いないと思う旨を伝えた。(甲総ア第323号証)
f 平成15年6月12日の否認及び同月13日の再度の自白
原告X1は,平成15年6月12日の午前中,県警の取調べにおいて,4回目会合の状況等について供述した後,午後から検察庁において,検察官の取調べを受けて否認に転じた。
原告X1は,同月13日,A37巡査部長及びA70巡査の取調べにおいて,否認の理由について,①検察官から良く覚えていない会合の時の話を聞かれたこと,②弁護人から被疑事実を否認するよう言われていたことから,頭が痛くなって被疑事実を否認した旨を,同月12日のA75検事の取調べで,弁護人から被疑事実を認めると他の参加者が逮捕されることになるなどと言われたためである旨を供述した。(甲総ア第25号証の559,同709,弁論の全趣旨)
g A90弁護士との平成15年6月13日の接見におけるオードブルの注文先
原告X1は,平成15年6月13日,A90弁護士との接見において,mホテルでのオードブルの注文の事実の裏付けが取れなかったため,オードブルは,原告X7が持ってきたと供述した旨を伝えた。(甲総ア第323号証)
h A37巡査部長による平成15年6月16日の取調べ(4回目会合)
原告X1は,平成15年6月16日,A37巡査部長及びA70巡査の取調べにおいて,①原告X1は,原告X6の指示で,自宅で選挙の会合を4回くらい開催したこと,②原告X6から10万円を供与されたのはその最後の会合であること,③原告X1は,4回目会合の4,5日前,原告X6から,f社の事務所で,日にちと時刻を指定されて,集落の人を集めるよう指示され,指定された時刻は午後7時30分だったこと,④原告X1は,原告X6の指示に基づき,a3集落の住民及び原告X3に対して4回目会合の案内の連絡をし,四浦校区側の参加者は,A1夫妻,原告X4夫妻,原告X2夫妻,亡X12,原告X5,原告X3であり,原告X1がこれらの者の他に会合の案内をした者はおらず,他に四浦校区からの参加者がいたかどうかは思い出せず,A112が会合に参加したかも記憶がはっきりしないこと,⑤4回目会合の参加者のうち,原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5,A89,A113,A114であること,⑥会合には,盛り皿料理を2,3皿,焼酎,ビール,さきいかなどのつまみを出したこと,⑦盛り皿料理は,原告X1が注文したものではなく,原告X7が手配すると言っていたものであること,⑧会合は,参加者が多いため,8畳の間を使うこととし,テーブルを3つ並べて使ったこと,⑨会合は午後7時30分からの予定であったので大半の人がその時刻にX1宅に集まっており,原告X6は,原告X7及びA5と一緒に移動してきた様子で,X1宅に到着したとき,原告X1と挨拶をしたこと,⑩A89,A113,A114は,オードブルを持って遅れてX1宅に到着したこと,⑪会合は7時30分からの予定であったが,会合が始まったのは,A89らが到着した後の午後8時頃からであり,とにかく料理が来るのが遅かったという記憶があること,⑫原告X6らも到着が遅かったかもしれないこと,⑬会合は,参加者が8畳の間に着座した後,原告X6が挨拶をして始まったことを供述し,その旨の記載のある同年6月16日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の57)
i A37巡査部長による平成15年6月16日の取調べ(4回目会合のごみの処分)
原告X1は,平成15年6月16日,A37巡査部長及びA70巡査の取調べにおいて,①原告X1は,4回目会合で原告X6から10万円を供与されたこと,②会合の宴会で盛り皿料理が2,3皿と焼酎,ビール,さきいかなどが出され,これらはいずれも原告X7が準備したものであること,③原告X1は,普段から生ごみをX1宅の家の裏にある杉山に捨てており,会合の宴会の残飯も同じ場所に捨てたことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
県警は,同月17日に大隅簡易裁判所裁判官の捜索差押許可状の発付を受けた上,同月18日,X1宅の北側の山林を捜索し,中華たれの空き袋(ビニール製)1個,しょう油さし(ソラマメ型,プラスティック製)1個,料理用装飾品(はご板型)1個,ばらん(緑色9枚,水色1枚)10枚,わさび(未開封のもの)2袋,わさび(開封されたもの)1綴,しょう油の空き袋(ビニール製)3個,あわびの貝殻1個,巻き貝の貝殻3個を差し押さえた。(甲総ア第25号証の712,乙国第60号証)
j A37巡査部長による平成15年6月17日の取調べ
原告X1は,平成15年6月17日,A37巡査部長及びA70巡査の取調べにおいて,①4回目会合の開始時刻は午後8時頃であり,原告X6が最初に挨拶をして始まり,司会進行役はいなかったこと,②宴会で刺身が出たかどうかは覚えていないこと,③宴会で紙コップや紙皿を使っていないが,A113らが用意してきたかどうかは分からないこと,④原告X6から茶封筒に入った10万円の供与を受けたこと,その意味合いは,投票依頼と家族・知人への投票の依頼の報酬であること,⑤原告X6らは午後9時頃に帰宅したことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の59)
k A75検事による平成15年6月18日の取調べ
原告X1は,平成15年6月18日,A75検事の取調べを受け,同月16日のA37巡査部長及びA70巡査の取調べにおける4回目会合についての供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同月18日付け供述調書に署名・指印した。
原告X1は,同日,A75検事の取調べを受け,4回目会合の状況に関し,同月8日のA75検事の取調べでの供述内容に概ね沿う内容の供述をしたが,参加者について,従前は,A88,A97,A103副公民館長,原告X11が参加していたという趣旨の供述をしたが,他の参加者が上記4名も参加していたというのであれば参加していたのだと思うが,原告X1の記憶にはないことと訂正するなどし,その旨の記載のある同月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の560,同561)
(イ) 原告X2関係(平成15年6月4日から同月19日まで)
a 原告X2の自白(平成15年6月4日)
原告X2は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA16警部補及びA44巡査部長の弁解録取手続及び同月6日のA77副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の590,同772,同815)
b A16警部補による平成15年6月16日及び同月17日の取調べ
原告X2は,平成15年6月16日及び同月17日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,4回目会合の状況に関し,①4回目会合の開催日は,同年3月25日の牛の競り市の前後の3月下旬頃で同年4月に入っていたとしても告示日の同月4日より前であること,②4回目会合の開催日の前日,原告X1から電話で会合の案内があり,いつもの時間に来るよう言われたこと,③上記案内は電話でなく直接口頭で聞いたかもしれないこと,④原告X2は,パチンコ代がもらえると思いながら,午後7時過ぎ,X1宅に向かったこと,⑤原告X2より先に来ていたのは原告X3と原告X4だったと思うこと,⑥原告X4については来ていなかったかもしれないこと,⑦8畳の間にはテーブルが設置され,最初は盛り皿などは並べられていなかったこと,⑧徐々に参加者が集まり,原告X6と原告X8も来たこと,原告X8は会合が始まってから遅れて来たこと,原告X4も遅れたかもしれないこと,⑨参加者は,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4夫妻,亡A1,亡X12,原告X5,原告X3,A88,A124,原告X11であったこと,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5,A89,f社の女性従業員2名であったこと,⑩原告X13は,本件買収会合に1度だけ参加したことがあるが,4回目会合には参加していなかったと思うこと,⑪原告X10と原告X14は出不精なので参加していなかったと思うが絶対に出席していないとは言い切れないこと,⑫4回目会合はその他の会合よりも遅く始まったような気がすること,その時間は,原告X6らが到着した後の午後8時過ぎ頃であり,従前の説明で午後7時30分過ぎ頃としていたのは訂正すること,⑬会合は8畳の間で始まり,原告X6,A5,A89らが10分程度挨拶をし,それが終わると原告X1及びf社の従業員2名が宴会の準備をして引き続き8畳の間で宴会が始まったこと,⑭宴会には,焼酎,缶ビール,天ぷら,唐揚げなどが入った盛り皿が2皿,かんぱち,いかなどの刺身皿が2皿,ピーナッツなどが出されたこと,⑮刺身が一人分ずつパックに入っていたかは,4回の本件買収会合のうち,1回はそのようなことがあったと思うが,4回目会合では大皿に盛りつけられていたと記憶していること,⑯宴会は,乾杯の音頭はなく,午後8時20分頃から始まったこと,⑰宴会が始まり,5,6分後,原告X7が茶封筒の束をバッグから取り出し,原告X6に渡し,原告X6は参加者に酌をして回ったこと,⑱原告X2も原告X6に酌をしてもらい,○○はおいしくないと冗談を言ったら,原告X6はそう言わずに飲んで下さいと苦笑いを浮かべ,それから選挙情勢の話題になり,原告X6から現金10万円の入った茶封筒を手渡されたこと,⑲原告X2は,3回目会合で原告X7から現金を手渡されていたので,この間はありがとうございましたなどと声を掛けると,原告X7も言葉の意味が分かったらしく,いつもすみませんねなどと声を掛けながら酌をしてくれたこと,⑳午後9時頃宴会は終了し,原告X6らは帰宅し,残った参加者も9時30分頃には帰宅したことなどを供述し,その旨が順次記載された同年6月16日付け及び同月17日付け各供述調書にそれぞれ署名・指印した。(甲総ア第25号証の778,同779)
c A77副検事による平成15年6月19日の取調べ
原告X2は,平成15年6月19日,A77副検事の取調べにおいて,①4回目会合は,午後8時頃から始まったことを思い出したこと,②原告X2は,4回目会合の時も午後7時過ぎにX1宅に行ったが,参加者が集まらず,午後7時30分を大きく過ぎた午後8時頃から会合が始まったことを思い出したことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の391)
(ウ) 原告X3関係(平成15年6月4日から同月24日まで)
a 原告X3の自白(平成15年6月4日)
原告X3は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA18警部補及びA61巡査の弁解録取手続及び同月6日のA77副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の604,同834,同872)
b A18警部補による平成15年6月16日の取調べ
原告X3は,平成15年6月16日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の状況に関し,①3月下旬の午後8時頃に原告X6から現金10万円を供与されたこと,②4回目会合の開催日は,同年3月21日のa2集落小組合の総会の後で,同年3月28日の四浦小学校の教員の離任式よりも前であること,③原告X3は,4回目会合の当日,X1宅に午後7時10分頃に到着し,原告X1からは7時30分頃に来るよう電話で連絡を受けたこと,④X1宅で参加者がそろうのを待っていると,A2県議を支持していたはずのA88が現れ,これまで3回の会合には参加していなかったA88が告示間近の4回目会合に参加したことから,原告X6支持に寝返ったと考えたこと,⑤A88は当時,原告X3に対し,4回目会合に参加した理由を原告X1に依頼されたからだと説明したが,原告X1は,A88と親しい付き合いをしていなかったし,A2県議を支持しているA88を原告X6の会合に呼べるだけの力もないので,原告X3は,亡A1の働きかけでA88が4回目会合に参加したと思ったこと,⑥A88がX1宅に来た後,A2県議を支持していた原告X11とA124がX1宅に来たが,原告X3は,A2県議の支持者であったA88,原告X11及びA124の3人には声を掛けておらず,他にその3人を呼び集められる人物は,参加者の中では亡A1しか考えられないこと,⑦4回目会合の出席者は,原告X6,原告X7,A5,A89,f社の従業員らしき女性2名と原告X1夫妻,A112,原告X2夫妻,原告X5,原告X4夫妻,X12夫妻,亡A1,原告X3,A88,A124,原告X11であり,4回目会合に初めて参加した人物は,A89,f社の従業員らしき女性2名,A88,A124,原告X11の6人だったことなどを供述し,同年6月16日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の149)
c A18警部補による平成15年6月17日の取調べ(開始時間を午後8時とするもの)
原告X3は,平成15年6月17日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の状況に関し,①X1宅の8畳の間にほとんどが集まると会合が開始され,従前の取調べで時間どおりの午後7時半頃に開始されたと供述していたが,よく思い出してみると,居間でお茶を飲んだり,8畳の間に移ってからかなり待ったので,午後8時頃に開始されたと思うこと,②会合の最初にA5が挨拶し,その後,A89,原告X6の順で挨拶し,原告X7は,原告X6の挨拶の間,原告X6の斜め後ろに立っていたこと,③その後,宴会の準備がされ,宴会に出されたのは,缶ビール,焼酎,ジュース,刺身が入った大皿が1皿,唐揚げや天ぷらが入ったオードブルが1皿で,これまでの3回の会合のつまみがピーナッツやさきいか等であり,4回目会合だけ刺身等が出されたこと,④宴会では原告X6が酌をして回り,原告X3は,原告X6と選挙情勢等について話したり,原告X6から料理を勧められたが,歯の治療中であり食べられないことなどを話し,原告X6から現金10万円入りの封筒を受け取ったこと,⑤A88,A124,原告X11以外の参加者は,既に何度も選挙の買収金をもらっていたので悪びれる様子もなく受け取っていたこと,⑥現金入りの封筒を受け取った時間は,午後8時30分頃であると考えられること,⑦買収金は人に見られないように1対1で隠れて渡すのが普通だが,原告X6が参加者の前で堂々と買収金を渡していたのは,これまでの3回の会合において,A88,A124及び原告X11の3人を除く参加者に対しては何回も買収金を渡していたためであり,原告X3らが誰かに漏らさない限り,警察にばれることは絶対にないと考えたからだと考えられること,⑧原告X6から受け取った現金10万円はへそくりとして使用するため,自宅の小物入れに隠したことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月17日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の150)
d A18警部補による平成15年6月21日の取調べ(4回目会合の受供与金10万円の使途)
原告X3は,平成15年6月21日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の受供与金10万円の使途について,①国民健康保険税として9000円,②ガソリン代として6480円くらい,③トラクター用の軽油代として4800円くらい,④エンジンオイルの交換代として3200円くらい,⑤鶏の飼料代として2万0970円くらい,⑥食品代等に10500円くらいを費消し,手元に3万5000円くらいが残っていることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の841)
e A18警部補による平成15年6月24日の取調べ(4回目会合の参加者)
原告X3は,平成15年6月24日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の参加者に関し,①原告X10,原告X11,A88が4回目会合に参加していたのは間違いなく,A2県議支持だったA88と原告X11が参加したことは驚きだったこと,②A124も参加していたかもしれないこと,③A88と原告X11に4回目会合への参加を呼び掛けたのは原告X3ではなく,亡A1だと考えられることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の157)
(エ) 原告X4関係(平成15年6月4日から同年7月2日まで)
a 原告X4の自白(平成15年6月4日)
原告X4は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA15警部補の弁解録取手続及び同月6日のA76副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の629,同897,甲総ア第429号証の201)
b A76副検事による平成15年6月13日の取調べ(4回目会合の状況)
原告X4は,平成15年6月13日,A76副検事の取調べにおいて,4回目会合の状況に関し,①開催日は,二女の高校の終業式があった同年3月25日より後で,同年4月6日のa1集落の花見よりも前だったこと,②原告X1から開催日の当日に案内され,午後8時頃,原告X8とともにX1宅に到着したこと,③参加者は,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X4夫妻,原告X2夫妻,亡X12,原告X5,原告X3,原告X11,A88,A124であり,A134は来ていたか何回も警察で聞かれたが,はっきりせず,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5,A89,f社の従業員の女性2,3名であったこと,④原告X9がX1宅に着いたときには,8畳の間に長机が設置され,オードブルが2,3皿置かれて,紙皿も置かれていたこと,⑤宴会が始まる直前にA1夫妻がX1宅に到着し,かんぱちといかの刺身のパックが各人毎に出され,ビールや焼酎も一緒に出され,原告X6が立ち上がって挨拶し,原告X7,A5が順に挨拶して,亡A1が挨拶と乾杯をして宴会が始まり,それからしばらくして,原告X6が立ち上がって,こんなことはしてはいけないが,私も必死です,助けて下さいという趣旨のことを言って,原告X7から封筒の束を預かり,皆に配り歩いたことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月13日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の394,甲総ア第429号証の219,弁論の全趣旨)
c A15警部補による平成15年6月15日及び同月16日の取調べ(4回目会合の日時)
原告X4は,平成15年6月15日及び同月16日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,4回目会合に関し,①同年3月29日の勤務先での花見の前後にあった記憶であり,同年3月25日か同月26日に四浦校区公民館総会の準備会と旧志布志町立田之浦中学校(以下「田之浦中学校」という。)の教師の送別会に参加し,同じく同月25日か同月26日頃の夜,長男のA110とファミリーマート串間店に送金手続をしたりしたので,それらの日は4回目会合はなかったという記憶であること,②4回目会合に誘われたのは開催日当日の朝に原告X1から声を掛けられたからで,その日は勤務先での仕事が忙しく,帰宅したのが午後7時を過ぎており,それから夕食と入浴を済ませ,X1宅に向かったので,原告X8とX1宅に向かったのは,午後8時頃だと思うこと,③原告X4夫妻がX1宅に着くと,既に原告X6,原告X7,A5,A89は到着しており,A89とはこの日が初対面であり,参加者は,座卓を並べた8畳の間で座卓を囲むように座っていたこと,④四浦校区側の参加者は,原告X4夫妻と原告X1夫妻,A112,原告X2夫妻,亡X12,原告X5,原告X3,A88,原告X11が既に来ており,原告X4夫妻より10分程遅れてA1夫妻が到着し,出席者が全員そろったという記憶であること,⑤出席者の中にA124がいたかどうかは自信がないこと,⑥原告X4夫妻がX1宅に到着したときはオードブルが3皿ほど座卓の上に並べられていたような記憶があること,⑦オードブルには,唐揚げ,魚のフライなどが入っており,別の容器に盛られた刺身も出されたこと,⑧会合は,A1夫妻が到着したところで始まり,原告X6,X7,A5が1人5分くらい挨拶し,その後,ビールや焼酎が出されて宴会になり,宴会が始まって15分くらいして,原告X7がバッグから封筒の束を取り出して原告X6に渡し,原告X6が参加者に酌をして回りながら封筒を渡していき,原告X4も原告X6に酌を注がれた際,若者の雇用対策の話をし,原告X6に対し,選挙も一緒で口先だけで実行が伴わなければ駄目ですよ,などと声を掛け,原告X6が頑張りますから助けて下さいと返答するなどし,その後,原告X6が頼みますと言いながら封筒を渡してきたので,原告X4がこれを受け取ったこと,原告X6らは午後9時頃帰宅したこと,⑨原告X4は,原告X4と同じく四浦公民館の審議委員をしているA88から,自分たちはA2県議派だけれどご馳走になったりお金をもらったりした以上,自分たちの家から1票でもいいから原告X6に投票しなければいけないという趣旨のことを言われたこと,⑩封筒には現金10万円が入っており,原告X8が供与された10万円とともに母のA131に預けたことなどを供述し,それらの旨が順次記載された同月15日付け,同月16日付け及び同月17日付け各供述調書にいずれも署名・指印した。(甲総ア第25号証の904,甲総ア第429号証の231,同233)
d A15警部補による平成15年6月17日の取調べ(4回目会合の受供与金の寄託状況)
原告X4は,平成15年6月17日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,4回目会合の受供与金を母のA131に預けた状況に関し,①原告X4がA131に,原告X6から原告X4夫妻で供与を受けた現金20万円を,原告X1からもらった金であると伝えてA131に渡したところ,X1宅で会合があることなどを知っていたA131も買収金であることを察して,そんな金だったら私が預かってあげるという趣旨のことを言って封筒を受け取ったこと,②原告X4が同年5月1日の取調べで買収会合の事実を認めたその日の夜,原告X4は,両親に対し,警察で全てを正直に話した旨を伝えたところ,父のA116は,仕方がない,罰金は牛でも山でも売って払わざるを得ない等と言ってくれ,A131も横で黙って聞いていたこと,③原告X4の家計について,同年4月16日以降,借金の支払がないのは,原告X1から買収金の供与を受けたことの口止めをされたことなどから,このまま買収金で借金の返済を続ければ,選挙の金をもらったことがばれてしまうと思って,警戒したことが理由の1つであること,④原告X4宅の家宅捜索で現金が見つかっていないのはA131が見つかりにくいところに隠しているからであることなどを供述し,その旨の記載のある同年6月17日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の906)
e A76副検事による平成15年6月18日の取調べ
原告X4は,平成15年6月18日,A76副検事の取調べにおいて,4回目会合のうち,午後8時頃にX1宅に到着してからの状況について,同月15日及び同月16日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの供述内容に沿う供述をし,その旨の記載がある同月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の235)
f A15警部補による平成15年6月19日の取調べ(4回目会合の受供与金の寄託状況)
原告X4は,平成15年6月19日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,4回目会合の受供与金20万円を母のA131に預けたとの供述に関し,本当は預けていないのではないかとの問いに対し,①A131に預けたことは絶対に間違いないこと,②原告X4は,当初の取調べにおいて,借金の返済やガソリン代,娘の高校の授業料の支払に充てたなどと供述していたが,実際は,ほとんどを母のA131に預けており,A131も選挙の買収金であることを知って預かっているので,このことを供述すると母まで逮捕されると思い,供述できなかったが,取調官からいくら買収金をもらったことを明らかにしても使途を明らかにしなければ,警察も検察も裁判所も一部否認とみなすと指摘され,原告X4自身,本当のことを言わなければ罪を償うことはできないと考えを改めたため,買収金をA131に預けたことを供述するに至ったこと,③A131が原告X4から買収金を預かったことを供述せず,結果的に原告X4が否認と見なされ,罪が重くなっても自分が蒔いた種であるから受け入れることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の908)
g A15警部補による平成15年6月23日の取調べ(原告X6外の写真による面割り)
原告X4は,平成15年6月23日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,原告X6外の写真による面割りを行ったが,原告X6を特定することができ,原告X7については,特定の写真を似ていると指摘するにとどまり,A5,A89,A113,A114については全く特定することができず,これに対し,原告X4は,人の顔を覚えるのが苦手である旨供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の240)
h A15警部補による平成15年6月24日の取調べ(4回目会合の参加者)
原告X4は,平成15年6月24日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,原告X10,A88,原告X11について,いずれも4回目会合で初めて本件買収会合に参加したものであり,4回目会合に参加したことは間違いがないことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の241)
i A15警部補による平成15年6月24日の取調べ(4回目会合の受供与金の寄託先の変更)
原告X4は,平成15年6月24日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,①原告X4がA131に預けた20万円をA131が自宅に隠し持っていると供述したのは嘘であり,本当は,同年3月下旬か同年4月上旬頃に原告X5から,先日の買収金を貯金して欲しいと依頼されて承諾し,現金20万円を原告X5に預けたこと,②原告X4は,それからしばらくした同年4月上旬頃,原告X5から,原告X4の名義で貯金すると買収金であることが警察にすぐに分かってしまうから,ほとぼりが冷めてから子供名義か何かで貯金して良いかと聞かれ,これを了承したことなどを供述し,さらに取調官から,警察が捜査に入っていない同年4月上旬頃に上記のような会話をすることは不自然ではないかとの問いに対し,③上記のような会話をしたのが同年4月中旬以降かもしれないことを回答し,さらに,④できればこのことは警察には隠しておいて,罰金を支払う原資などに使用しようと考えていたことなどを供述し,それらの旨の記載のある同年6月24日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の914)
j A15警部補による平成15年6月25日の取調べ(4回目会合の再現の実況見分と1回目会合における各参加者の座席の変更)
原告X4は,平成15年6月23日,4回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同月25日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,同実況見分の指示説明を踏まえ,1回目会合での各参加者が座っていた位置等についての従前の供述に記憶違いがあったとして,その内容を変更する供述をし,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
(甲総ア第429号証の244,乙国第110号証)
(オ) 原告X5関係(平成15年6月4日から同月25日まで)
a A24警部補による平成15年6月4日からの取調べ(否認)
原告X5は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA24警部補及びA55巡査部長の弁解録取手続及び同月6日のA78副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X5は,同月6日から同月25日までの取調べにおいて,4回目会合6月4日捜査事件の被疑事実をいずれも否認した。(甲総ア第56号証,甲総ア第58号証,甲総ア第59号証,甲総ア第61ないし64号証,弁論の全趣旨)
b A24警部補及びA78副検事による平成15年6月17日から同月25日までの取調べとX5ノート
原告X5は,平成15年6月17日及び同月19日,A24警部補の取調べに対して,被疑事実を否認した。
X5ノートには,同月17日欄に,「A24さんは私が早くかえれるとは云わなかったよねと云われたのでハイとは云わなかったが,皆別な人はみとめて先のバスでどんどん行ってゐる,いつまでも否認するとどんどん罪が重くなる,早く自分のあやまちをみとめた方が早くすんで早く帰れると云った事は事実だ,文章には書かない。」との記載があり,A24警部補が原告X5に対して利益誘導をしていた旨が記載されている。
A78副検事は,同月20日,原告X5を取り調べたが,原告X5は,被疑事実を否認した。
A24警部補は,同月21日,原告X5を取り調べた際に,C5弁護士及びC7弁護士が原告X5が求めていないときも頻繁に面会に来ることを指摘し,同弁護士らは原告X6が依頼した弁護士であることを伝え,原告X5が被疑事実を認める申述書を書いた翌日から連続して面会にきた理由を尋ねる中で,原告X6が原告X5に対して原告X6が逮捕されないように否認してがんばるように伝えるために面会に来ていると思わせるようなやりとりをした。
原告X5の第2次強制捜査以降の県警の担当取調官は,A24警部補であり,立会補助者は,A39巡査部長,A65巡査,A55巡査部長,A63巡査などであった。(甲総ア第48号証,甲総ア第49号証,甲総ア第51号証,甲総ア第54号証,甲総ア第56号証,甲総ア第57号証,甲総ア第60ないし64号証,甲総ア第588号証)
(カ) 原告X6関係(平成15年6月4日から同月25日まで)
a 被疑事実の否認(平成15年6月4日から同月26日まで)
原告X6は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA12警部及びA39巡査部長の弁解録取手続及び同月5日のA73検事の弁解録取手続,同月6日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X6は,同月6日から同月25日までの取調べにおいて,4回目会合6月4日捜査事件の被疑事実をいずれも否認した。(甲総ア第66号証,甲総ア第68ないし87号証,弁論の全趣旨)
b 県議会議員の辞職(平成15年6月16日)
原告X6は,平成15年6月16日,鹿児島県議会議長宛てに,一身上の都合として同年7月20日をもって,鹿児島県議会議員を辞職する旨の辞職願及び県警本部長宛てに,関係者に多大なご迷惑をかけたことの謝罪を表明した申述書を作成し,同年6月16日のA12警部及びA39巡査部長の取調べにおいて,同年7月20日の鹿児島県議会議員の辞職をもって,原告X6の選挙運動に関し,逮捕者を出したこと等への責任を取ることを供述し,その旨の記載がある同年6月16日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第72号証)
(キ) 原告X7関係(平成15年6月4日から同月25日まで)
原告X7は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA29警部補及びA53巡査部長の弁解録取手続及び同月5日のA73検事の弁解録取手続,同月6日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X7は,同月6日から同月25日までの取調べにおいて,4回目会合6月4日捜査事件の被疑事実をいずれも否認し,f社,d社,有限会社b,有限会社cの会計処理の概要,本件選挙での原告X6の選挙運動の概要,その中で戸別訪問,選挙事務所での炊出し,後援会名簿等を元にした電話連絡による投票依頼,支援者との会合等を行ったことなどを供述した。(甲総ア第136号証,甲総ア第139ないし155号証,弁論の全趣旨)
(ク) 原告X8関係(平成15年6月12日から同月25日まで)
a A36巡査部長による平成15年6月12日の取調べ(自白)
原告X8は,平成15年6月12日,A36巡査部長及びA64巡査の取調べにおいて,4回目会合は,原告X8が参加したそれまでの本件買収会合と違い,唐揚げなどの盛り皿料理や刺身などのご馳走が出た会合であったこと,供与された金額もそれ以前が5万円だったのに,4回目会合は10万円とこれまでより高額だったことから,よく覚えていることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の289)
b A36巡査部長による平成15年6月13日の取調べ(受供与金の使途)
原告X8は,平成15年6月13日,志布志署に任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,①原告X8は,4回目会合で供与を受けた10万円は,原告X4に預けた上,原告X4がA131に預けていること,②自動車のローンのまとまった支払がないのは原告X4やA131が買収金でローンを支払うと警察にばれてしまうと考えているからだと思うこと,③原告X8は,同年5月上旬頃,仏壇の下の引き戸にビニール袋に入った現金が入っているような外観の封筒2通を見て,それが4回目会合で供与を受けたものだとすぐに分かったが,A131は,原告X8らが買収金をもらったことを知っていながら,「親の顔に泥を塗るようなことをしたのか,やっていないことはやっていないと言わないといけない。」などと言っていたので,原告X8も見なかったことにしようと思い,そのままにしておいたこと,④原告X8の家は警察の捜索が2度も入っているのに,現金が見つからない理由は,A131が置き場所を変えているからかもしれないことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月13日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の958)
c A36巡査部長による平成15年6月15日の取調べ(4回目会合の開始時刻)
原告X8は,平成15年6月15日,志布志署に任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,4回目会合に関し,①従前の取調べで午後7時頃に開始したと供述したが,よく考えたら,午後7時30分頃から始めると聞いていて,それより30分くらい遅れて参加したことを思い出したこと,②4回目会合があった日は,原告X4の帰宅が午後7時を過ぎており,原告X4夫妻は,風呂,夕食,着替えをしてから自宅を出たこと,③原告X8は,会合に遅れていることが気になっていたので,自宅を出る前に時計を見たところ,午後8時頃だったこと,④原告X8の自宅からX1宅までは徒歩2分程度であり,原告X4夫妻が到着すると,既に会合が始まっていて原告X6が挨拶をしていたこと,⑤参加者は,原告X6,原告X7,A5,f社の男性1名,f社の女性2名,原告X5,亡X12,原告X10,原告X3,原告X9,A112,A88,A124,原告X11,原告X1,原告X2及びA1夫妻であること,⑥4回目会合は,10万円という驚くほど高額の現金の供与を受けたこと,これまで会合と違い,盛り皿や刺身などが出されたこと,手伝いの女性が来ていたことが特徴だったことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月15日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の292)
d A36巡査部長による平成15年6月16日の取調べ(4回目会合の料理)
原告X8は,平成15年6月16日,志布志署に任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,4回目会合に関し,①宴会では唐揚げ,天ぷらなどの盛り皿料理と発砲スチロールのトレーに乗せた刺身が出され,焼酎,ビール,ペットボトルのソフトドリンクが出され,紙皿,紙コップが準備されていたこと,②原告X8は,当時,こんなにご馳走があるなら夕食を食べてこなければ良かったと思ったこと,③宴会は原告X3の乾杯の発声で始まったこと,④原告X8と原告X10は,午後9時頃,宴会の途中で先に帰ろうとしたところ,原告X7に呼び止められ,土間に近い中江の間のところで,2人とも現金の入った封筒を受け取ったこと,⑤封筒には現金10万円が入っており,原告X8は,現金を原告X4に預け,原告X4からA131に渡っているはずであること,⑥原告X8は,従前の取調べで,10万円の使途について,原告X8のリュックサック式バッグの内ポケットに入れた,使い道は思い出せないなどと供述したが,正直に供述すればA131に捜査が及び供述したのが原告X8だと分かるとA131からいじめられると思ったため供述できなかったことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の293)
e A36巡査部長による平成15年6月18日の取調べ(家族への否認との説明)
原告X8は,平成15年6月18日,任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,①原告X8は,本件公職選挙法違反事件について,警察の取調べでは正直に買収金をもらったことを話しているが,家に帰ると家族にはお金はもらっていないと説明していることから,原告X4の3人の妹にも同じように説明したところ,原告X4の妹達は,原告X4のために弁護士を依頼したこと,②原告X4と面会した弁護士を通じて,原告X4が警察の取調べで正直に買収金をもらったことを話していることを知ったA116やA131は,「X4は脳が狂ったんだ,あんなになるな」と馬鹿正直に話をするなという意味のことを発言し,息子のA110も親父が出てきたら叩いてやるなどと言っていること,③原告X8の家族らは,原告X4夫妻が,選挙前の夜に2人で会合に出かけ,給料日でもないのに現金をA131に渡していることを知っているのに,全く関係がないようなことを言っているので,原告X8は,家族の前で,警察の取調べで正直に買収金をもらったことを話していることを打ち明けられず,警察で買収金はもらっていないと説明していること,④原告X8がそのような態度を取るのは,家族や集落から仲間はずれにされると不安になるからであることなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の295)
f A76副検事による平成15年6月19日の取調べ
原告X8は,平成15年6月19日,志布志署に任意出頭の上,A76副検事の取調べを受け,4回目会合の状況に関し,同年6月15日及び同月16日のA36巡査部長及びA64巡査の取調べでの上記供述内容に概ね沿う供述をし,4回目会合での受供与金の使途につき,原告X8は原告X4に10万円を渡し,原告X4から,原告X4の受供与金と合わせて20万円をA131に渡したと聞いていることを供述し,その他,原告X6及び原告X7について,①県議会議員であれば県民を守るのが役目であるのに,2人が買収金を渡していないと嘘を言うことで,原告X4夫妻が,a3集落や四浦校区の人から嘘を言っているのではないかと疑いを持たれているのが現状であること,②原告X8は,現在,自宅では家族に買収金をもらっていないと説明しているが,これは,買収金をもらったと話せば義父母に対する裏切り行為になり,原告X6や原告X7にも迷惑がかかることになって,四浦校区から村八分になること,③裁判が始まれば,原告X4や原告X8が買収金をもらったと供述していることが分かってしまい,原告X4と原告X8は村八分に遭い,2人でどこかに暮らすしかなくなること,④一番よいのは,原告X6と原告X7が原告X4夫妻に買収金を渡したと言ってくれれば,四浦校区の人にも原告X4夫妻の言っていることが嘘ではないと分かってもらえるので村八分にならないことなどを供述し,その旨の記載がある同月19日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の412,同643)
g A76副検事による平成15年6月20日の取調べ(自殺未遂の後の口止め)
原告X8は,平成15年6月20日,志布志署に任意出頭の上,A76副検事の取調べにおいて,①原告X4が,同年4月20日,自殺未遂騒ぎを起こした後,A116,A131,原告X4,原告X8,A110,A157が自宅で話し合いを持ち,原告X4が,買収金を受け取ったことは事実で,原告X6からも買収金を受け取っており,原告X4のみならずa3集落の住民の多くが買収金を受け取っていて,自分が本当のことを話したらa3集落の住民の多くにも警察の捜査が及び,迷惑を掛けることになるが,本当のことを話すか嘘を話すかで悩んで川に飛び込んだことなどを告げたが,A116とA131は,a3集落の住民や原告X6に迷惑が掛かるから金を受け取ったことは言うなと指示してきたこと,②原告X1が,同年3月中旬頃,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載について,焼酎2本と現金2万円を渡してきた際,現金2万円を受け取ったことを知ったA116は,そんな金は怖いから返してきなさいと原告X8に指示してきたこと,③原告X8は,同月12日の朝方,四浦校区内の細又という交差点に呼び出され,原告X3から原告X6を頼むと言われて,5万円の入った白い封筒1通を渡されたが,その原資は,原告X3が自分の財布から5万円も原告X8に供与できる余裕はないはずなので,原告X6かその関係者から預かってきたものに違いないこと,④以前の警察の取調べで,逮捕しないから本当のことを言いなさいと言われたことはなく,金を受け取ったと言えば逮捕されると言われたが,本当のこと,つまり原告X1,原告X7,原告X3から買収金を受け取ったことを取調べで話したことなどを供述し,それらの旨が順次記載された同年6月20日付け供述調書3通にそれぞれ署名・指印した。(甲総ア第25号証の417,同647,同653)
h A36巡査部長による平成15年6月23日の取調べ(受供与金の寄託先)
原告X8は,平成15年6月23日,志布志署に任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,①これから話すことは内緒話として話すこと,②原告X4夫妻が4回目会合で供与された20万円及び5回目の本件買収会合で供与された20万円の合計40万円は,A131に預けてあり,当初の取調べでは,A131に警察の捜査が及ぶと思い,このことを供述することができなかったが,取調べで追及される度,お金の行き先のことを言わないと終わらないと分かり,選挙のお金はA131に渡したことを供述したこと,③A131は,その現金が悪いお金であることを十分に知っているが,A131からは警察の取調べでは知らないと言い通していると聞かされていること,④原告X8は,A131が金を隠す場所を取調べで尋ねられ,仏壇の下の棚でビニール袋に入れた封筒を見たなどと供述したが,それは作り話であり,作り話をした動機は,A131が原告X5に現金を預けたことを隠したかったからであること,⑤取調官から,「原告X8や原告X4が言っていることは信用されていない,お金は出てこないではないか,自分たちが言ったことが本当のことだと信用してもらうためにも,お金の流れをはっきりさせないといけない。」と言われ,来るところまで来たから正直に話そうと思ったこと,⑥原告X8は,同年4月19日の取調べで原告X1から1万円と焼酎をもらったこと,原告X3から原告X6の選挙のことで5万円をもらったことを供述したところ,その日の夜原告X3から自宅に脅迫電話があり,A116やA131からも責められ,夫と自殺することまで考え,その後,原告X8が警察に話したことが皆に分かってしまったと思って具合が悪くなり寝込んだこと,⑦A131は,そのような理由で寝込んでいる原告X8に対し,あのお金は原告X5に預けたと言われ,原告X8は,それを聞いて,選挙のお金を原告X5に預けたことは言ってはいけないと思ったこと,なぜなら原告X5には世話になっているし,四浦校区の人達から信頼があって誰もが原告X5に従っているので,原告X5のことは悪く言えないからであること,⑧原告X5がA131から預かった金をどのようにしたのかは聞いていないが,家の中から見つからないのであれば,原告X5がどこかに隠し持っていると思うことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月23日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の965)
i A78副検事による平成15年6月23日の取調べ(受供与金の寄託先)
原告X8は,平成15年6月23日,志布志署に任意同行の上,A78副検事の取調べを受け,同日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書には,4回目会合の受供与金をA131が原告X5に預けたことに関し,同日のA36巡査部長及びA64巡査の取調べでの上記供述内容に沿う記載があり,加えて①A131が原告X5に対し,現金のまま持っておいてもらうよう預けたのか,原告X8,原告X4,A110,A157,A116のいずれかの貯金口座に入金してもらうよう預けたのかは分からないこと,②A131が原告X5に現金20万円を預けたと教えてくれたことを今まで供述できなかったこと,③その理由は,原告X5がA131から現金を預かったことを聞かれて迷惑がかかると思ったからであること,④原告X10が,4回目会合に出席して現金入りの茶封筒を受け取っていることは間違いないこと,⑤原告X8は,原告X10に対して,警察の取調べでは原告X10のことは話していないと説明していること等の記載がある。(甲総ア第25号証の415)
(ケ) 原告X9関係(平成15年6月8日から同月29日まで)
a A19警部補による平成15年6月8日の取調べ(否認)
原告X9は,平成15年6月8日,4回目会合6月8日捜査事件で逮捕後,同日のA19警部補及びA52巡査部長の弁解録取手続及び同月10日のA77副検事の弁解録取手続並びに同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。(甲総ア第213号証,甲総ア第215号証,甲総ア第216号証)
b A19警部補による平成15年6月10日から同月25日までの取調べ(自白)
原告X9は,平成15年6月10日から同月24日までの取調べにおいて,4回目会合6月8日捜査事件に係る被疑事実を否認していたが,同月25日の取調べにおいて,原告X9がこれまで被疑事実を否認していたのは,自分のわがままを通したものであって,本当は被疑事実があったことは間違いないが,逮捕された後も事実関係を否認している原告X5の関係もあるので,今日はこれだけで詳しいことは明日から供述するという旨の供述をした。(甲総ア第217号証,甲総ア第218ないし230号証,甲総ア第232号証,弁論の全趣旨)
c A19警部補及びA32警部補による平成15年6月26日の取調べ(自白)
原告X9は,平成15年6月26日,A19警部補及びA32警部補の取調べにおいて,号泣しながら,「X5姉さんは,折れんやろな。やっぱりX5姉さんを一人にする訳にはいかん。嫁さんには悪いけど。逃げられないのは分かってるけど,できない。昨日のことは,堪忍して下さい。嫁さんに悪いけど,昨日のことは堪忍して。もう堪忍して。両方とも助けられないから。X5姉さんを一人にする訳にはいかん。X5姉さんと一緒になるわ。罰は罰として受けます。X5姉さんと一緒に行く。どうか,許して下さい。昨日のことは撤回して下さい。」,「刑事さんには悪いけど,X5姉さんは絶対に折れないと分かっている。嫁さんにはそれで頑張って貰いたい。X5姉さんのためになるか,ならないか分からないけど。ためにならないかも知れないけど,『やっていない。』で通していきます。刑事さんには本当に悪いけど,『やっていない。』という調書を作ってください。お願いします,お願いします,お願いします。調書を作って下さってありがとうございます。」などと供述し,その旨の記載がある同月26日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第229号証)
d A19警部補及びA32警部補による平成15年6月29日の取調べ(自白の理由)
原告X9は,平成15年6月29日,A19警部補及びA32警部補の取調べにおいて,原告X9が,同月25日の取調べで事実関係を認める旨の供述をした理由について,①事実関係を認めている原告X1と事実関係を認めていないであろう原告X5のことを考えたとき,両方を同じように助けることはできないが,X1宅で会合があったと供述すれば,原告X1とは話が合うことになり,その結果,事件がこれ以上長引かず,原告X5も留置場から出られると思ったこと,②これまで一緒に生活してきた,身柄拘束されている他のa3集落の人のことを考えたとき,「その人達が私に対して嘘を言っている。」と言い続けていても話が進まないので,事実関係を認めようと思ったこと,③いつか全員が留置場を出て,集落に残された人や子供たちと生活することになるが,原告X9が他の逮捕された住民と食い違う話をしていたら,皆が逮捕される前のような,昔のような間柄で暮らせないと考えたこと,④原告X6,原告X7が再度,逮捕され,集落の別の人が逮捕されたことを知り,原告X9が事実関係を否認していることが原因かもしれないと思い,別の集落の人にまで迷惑が掛かってしまったと思ったこと,⑤原告X6が県議選に出なければ,皆が警察の取調べを受けることもなく,昔のままでいられたと思うと,原告X6が憎らしくなってきたことなどが事実関係を認めた理由であることを供述し,その旨の記載がある同月29日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第232号証)
(コ) 亡A1関係(平成15年6月4日から同月25日まで)
a 亡A1の自白(平成15年6月4日)
亡A1は,平成15年6月4日,4回目会合6月4日捜査事件で逮捕後,同日のA17警部補及びA68巡査の弁解録取手続及び同月6日のA78副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の537,甲総ア第429号証の403,同456)
b A78副検事による平成15年6月6日の取調べ(口止め及び10万円の金額)
亡A1は,平成15年6月6日,A78副検事の取調べにおいて,4回目会合の状況に関し,①原告X6は,4回目会合の参加者に封筒を配り終えて帰宅するに当たり,参加者に対し,このことは絶対に秘密にして欲しいなどという趣旨のことを告げ,A5も,このことは首が切れても言わないで欲しいなどという趣旨のことを告げて口止めをしたこと,②亡A1は,原告X6から渡された封筒の中に10万円が入っているのを確認し,これまでの金額に比べ高額なのに驚くとともに,そのような高額の買収金を受け取ったことで原告X6に縛られたと思うようになり,以後,原告X6を支持したことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の538)
c A17警部補による平成15年6月16日及び同月17日の取調べ(4回目会合の出席者等)
亡A1は,平成15年6月16日及び同月17日,A17警部補とA55巡査部長の取調べにおいて,4回目会合に関し,①開催日は,民生委員運営委員会があった同年3月28日頃,四浦校区公民館の総会があった同年3月30日頃の同年3月下旬か同年4月上旬だったこと,②亡A1は,会合の2,3日前に原告X1から会合の案内を受け,今度は夫婦で来て欲しいと言われ,原告X14も参加させたこと,③亡A1は,3回目会合か4回目会合か忘れたが,原告X1からA88への連絡を頼まれ,会合の案内をしたことがあったこと,④A1夫妻が自宅からX1宅に向かったのが,午後8時過ぎだったこと,⑤亡A1がX1宅に着くと,8畳の間に座卓が設置してあり,ほとんどの参加者が集まっていて,既に原告X6が挨拶を始めていたこと,⑥4回目会合の参加者は,四浦校区側がA1夫妻のほか,原告X1夫妻,A112,原告X4夫妻,原告X2夫妻,原告X5,原告X13,原告X3,A88,原告X11で,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5,A89,f社の女性従業員2名くらいであり,5回くらいあった本件買収会合の中で,4回目が一番参加者が多かったこと,⑦4回目会合で,A88や原告X2と牛の競り市で落とされた牛の値段の会話をしたのでA88も出席していること,⑧会合の途中,原告X6の挨拶が終わったところで原告X14が帰りたいと申し出たため,亡A1は,隣に座っていた原告X11に,妻を自宅に送ってくると伝えて中座し,原告X14を自宅に送ったこと,⑨宴会では,オードブルが2皿出され,串焼,えび,煮染め,鶏の唐揚げなどが入っていたこと,焼酎が出されていて,ビールが出されていたかはよく思い出せないこと,⑩宴会の途中,午後9時頃,原告X6が参加者に封筒を配って回り,亡A1も受け取ったが,候補者本人から受け取るのは今回が初めてであり,心臓が高鳴ったこと,⑪候補者本人が有権者に現金を供与するという話はこれまで聞いたことがなかったこと,⑫宴会では,原告X4,原告X2,A88と牛の競り市での売却価格が平成15年になって安くなったことなどの会話をしたこと,⑬供与された現金は10万円であり,使途はよく思い出してから供述することなどを供述し,その旨が順次記載された同年6月16日付け及び同月17日付けけ各供述調書にそれぞれ署名・指印した。(甲総ア第429号証の409及び410)
d A17警部補による平成15年6月18日の取調べ(受供与金の使途)
亡A1は,平成15年6月18日,A17警部補とA55巡査部長の取調べにおいて,4回目会合の受供与金の使途に関し,①同年4月上旬頃,a2集落に住むA134に対し,雨戸等の修理のお礼と小遣い名目で2万円を渡し,二女の原告X16に,孫の高校入学金の補助として2万5000円を渡したことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の412)
e A78副検事による平成15年6月18日の取調べ
亡A1は,平成15年6月18日,A78副検事の取調べにおいて,4回目会合に関し,同月16日及び同月17日のA17警部補とA55巡査部長の各取調べ及び同月6日のA78副検事の取調べでの上記各供述内容に沿う供述をしたほか,4回目会合の連絡を原告X1からされた際,原告X1からA88に声を掛けるよう言われてこれを引き受け,電話でA88に4回目会合に出席するよう誘い,その際,A2県議を支持していたA88には,原告X6が来ることを告げず,X1宅で寄り合いがあると誘ったところ,A88は参加を約束してくれたことを供述し,それらの旨の記載がある同月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の402,甲総ア第591号証,乙国第96号証)
f A78副検事による平成15年6月19日の取調べ(受供与金の使途)
亡A1は,平成15年6月19日,A78副検事の取調べにおいて,4回目会合の受供与金の使途に関し,同月18日のA17警部補とA55巡査部長の取調べでの供述内容に沿う供述をし,その旨の記載がある同月19日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の403,同539)
g A17警部補による平成15年6月20日の取調べ(べぶんこ祝い)
亡A1は,平成15年6月20日,A17警部補とA55巡査部長の取調べにおいて,①亡A1は,同年2月下旬及び同年3月下旬,べぶんこ祝いを自宅で行ったこと,②亡A1が,同年2月下旬及び同年3月下旬に自宅で行ったべぶんこ祝いには,本件買収会合に参加した原告X2などのほか,A97やA166など他の四浦校区の住民も参加したことから,亡A1や原告X2が裏で原告X6の支持に回っていることを悟られないよう,本件買収会合の話は一切しなかったことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の414)
h A17警部補による平成15年6月25日の取調べ(受供与金の使途の変更)
亡A1は,平成15年6月25日,A17警部補とA72巡査の取調べにおいて,4回目会合の受供与金の使途に関し,①従前の取調べでA134に対し,2万円を渡したと供述した点は虚偽であり,そのような供述をしようと思った動機について,10万円の使途を思い出せず,追及される残額を少しでも減らそうと思い,A134であれば,飲み歩いて自宅に帰らないことが多く,裏付けの事情聴取もしにくいと考えたためであること,②亡A1は,同年3月25日に原告X14名義の農協の普通貯金口座から10万円の払戻しを受け,同月31日の簡易保険代として2万7000円を,同年4月上旬頃,甥の娘の結婚式の祝儀代として5万円を使ったと記憶して残金がなくなってきたので,4回目会合で供与された10万円のうち,5万円を保管していた軽トラックのダッシュボードから財布に移し,原告X16に対し,孫の高校の入学準備のための費用が足りないと言われ,2万5000円を渡し,残りはたばこ等の購入費としてp商店に2500円くらい,同月13日頃に肥料の購入費として曽於森林組合志布志支所に2万5000円くらいを支払ったことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の420)
(サ) 第3次強制捜査に係る事件の身柄の釈放(平成15年6月25日)
A73検事は,第3次強制捜査に係る事件については,処分保留のまま,平成15年6月25日,原告X6,原告X7,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5の身柄を,同月29日,原告X9の身柄をそれぞれ釈放した。
ただし,同月25日の時点で,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1に関する第1次刑事事件に係る起訴後勾留による身柄拘束は継続している。(甲総ア第25号証の19,乙国第40号証,乙国第252号証,弁論の全趣旨)
オ 未立件の余罪等に関する供述状況等
(ア) 原告X3関係(平成15年6月13日から同月20日まで)
a A77副検事による平成15年6月13日の取調べ(口止め料)
原告X3は,平成15年6月13日,A77副検事の取調べにおいて,口止め料につき,同年5月23日のA18警部補及びA50巡査部長の取調べでの供述内容に沿う供述をし,その旨の記載のある同年6月13日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の605)
b A18警部補による平成15年6月20日の取調べ(金品の受領)
原告X3は,平成15年6月20日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,原告X3が原告X6の本件選挙に関して,金品を受け取ったのは,①同年1月中旬,自宅の鶏小屋の前で原告X6から封筒入りの現金3万円,②同年1月下旬から同年2月上旬,自宅に甘藷を取りに来たA129から茶封筒入りの現金3万円,③同年1月下旬から同年2月上旬,甘藷の運搬に使用したコンテナの中に入れられた白封筒入りの3万円,④同年2月8日頃,1回目会合での6万円,⑤同年2月8日から同月14日頃までの間の2回目会合での5万円,⑥同年2月14日,甘藷の代金として受領した13万円と別にA129から供与された1万円,⑦同年2月下旬から同年3月中旬頃,X1焼酎事件における,現金2万円及び焼酎2本並びに他の選挙人に対して買収金として供与すべきだった現金の中から抜き取った2万円,⑧同年2月下旬から同年3月中旬頃,3回目会合での5万円,⑨同年3月下旬頃,4回目会合での10万円,⑩同年4月4日の告示後,原告X3の父の7回忌があった同月10日までの間に,森山校区と潤ヶ野校区の戸別訪問をしたことの謝礼として,原告X6から4万円,⑪同年4月14日頃,口止め料としての5万円及び他の選挙人に対して口止め料として交付すべきだった現金の中から抜き取った4万円の合計53万円であることなどを供述し,その旨の記載のある同年6月20日付け供述調書に署名・指印した。上記供述は,同年5月31日のA18警部補及びA50巡査部長の取調べでの余罪についての供述内容のうち,A129から甘藷のコンテナの返却を受けるに当たり,受領した金額が5万円から3万円に減少し,原告X6及び原告X7が,同年3月21日のa2集落小組合の総会に出席して原告X3を含むa2集落及びa4集落の出席者15名全員に対して1人当たり10万円を供与した事実及び原告X3が原告X6からf社の事務所で,原告X4に渡すよう依頼され,白封筒入りの30万円のうち,原告X3が10万円を受領し,20万円を原告X4に交付した事実についての供述がなくなっている。原告X3は,同年6月20日の取調べにおいて,逮捕された1回目会合と4回目会合の事実に間違いないか改めて確認され,原告X6以外からの買収金の供与の事実の有無,原告X6を陥れる意図の有無を問われ,1回目会合と4回目会合の事実は間違いなく,その余の質問はいずれも否定した。(甲総ア第25号証の830,同839)
(イ) 原告X4関係(平成15年6月14日)
原告X4は,平成15年6月14日,A76副検事の取調べにおいて,本件買収会合のうち,5回目の会合について,①同年4月8日頃,原告X1から連絡をもらい,午後7時過ぎ頃,原告X41人でX1宅を訪れたこと,②他の参加者は,四浦校区側が,原告X1夫妻,A112,原告X4,原告X2,原告X3,亡X12,亡A1,原告X5であり,原告X6の関係者が原告X6,原告X7ともう1名であったこと,③宴会は行われず,こたつで皆でお茶を飲んだこと,③このときも原告X6から投票依頼と票の取りまとめを依頼され,こたつの上で20万円入りの封筒1通を受け取ったことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月14日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の630)
(ウ) 原告X8関係(平成15年6月20日)
原告X8は,平成15年6月20日,任意同行の上,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,①本件買収会合は全部で5回あったこと,②原告X8は,1回目会合には参加していないが,原告X4が参加して,原告X8のために現金3万円入りの封筒を受け取ってきていること,③原告X8は,2回目会合に参加して,原告X4とは別に現金5万円が入った封筒を,3回目会合にも参加して,原告X4とは別に現金5万円が入った封筒をそれぞれもらっていること,④原告X8は,4回目会合にも参加し,大皿に盛られたご馳走を出され,原告X4とは別に現金10万円が入った封筒をもらっていること,⑤原告X8は,5回目の本件買収会合にも参加して,原告X4が現金20万円入りの封筒をもらったことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の296)
(16)  1回目会合事件及び4回目会合事件に関する第4次強制捜査等(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
ア 第4次強制捜査に着手する方針と本件刑事事件に対する捜査態勢の拡充(平成15年6月25日,同月29日)
A73検事は,平成15年6月25日までに,第3次強制捜査に係る被疑事実につき,供与金の原資についての特定ができていないこと,4回目会合の開催日時についても3月下旬という以上の詳細な特定ができていないこと,4回目会合についてオードブルが提供されたという点について,自白している被疑者の一致した供述であるが,その入手先が未解明であったこと,供与された現金が高額であることの背景事情が未解明であったこと,使途先の裏付けが被疑事実の供与金額の総額に対してほとんどできていないこと等を理由に処分保留として原告らの身柄を釈放し,新たに第4次強制捜査に着手する方針を決め,同年6月25日,原告X6,原告X7,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5の身柄を4回目会合6月4日捜査事件について,同月29日,原告X9の身柄を4回目会合6月8日捜査事件についてそれぞれ釈放し,県警において,同月25日,4回目会合6月25日捜査事件で原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8を,同月29日,1回目会合6月29日捜査事件で原告X9をそれぞれ通常逮捕した。
検察庁は,この頃,同庁の検察官及び検察事務官を複数名,新たに本件刑事事件の捜査に当たらせるととともに,他庁から応援の検察官を求めるなどして,本件刑事事件に対する捜査態勢を拡充した。
(前記前提となる事実,甲総ア第25号証の1065,弁論の全趣旨)
イ 逮捕(平成15年6月25日)
(ア) 原告X6の逮捕(平成15年6月25日)
本件現地本部は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件に関し,原告X6につき,自己に当選を得る目的をもって,同年2月上旬頃,原告X1と共謀の上,X1宅において,原告X1,亡A1,原告X2,原告X5,原告X3及び原告X4に対し,自己に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,同年3月下旬頃,原告X7と共謀の上,本件選挙において原告X6を当選させる目的をもって,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X11,A88,原告X10及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。(甲総ア第25号証の2744)
(イ) 原告X7の逮捕(平成15年6月25日)
県警は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件に関し,原告X7につき,原告X6と共謀の上,原告X6に当選を得る目的をもって,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X11,A88,原告X10及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金10万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実で,通常逮捕した。(甲総ア第25号証の2818)
(ウ) 原告X11,A88,原告X10及び原告X8の逮捕(平成15年6月25日)
県警は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件に関し,原告X11,A88,原告X10及び原告X8につき,いずれも,同年3月下旬頃,X1宅において,原告X6から,原告X6の当選を得させる目的をもって,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,各自現金10万円の供与を受けたとの被疑事実で,通常逮捕した。(甲総ア第25号証の2968,同2991,同3026,甲総ア第425号証)
(エ) 原告X9の逮捕(平成15年6月29日)
県警は,平成15年6月29日,1回目会合6月29日捜査事件に関し,原告X9につき,同年2月上旬頃,自宅において,原告X6及び原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって,同人への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として供与されるものであることを知りながら,現金3万円の供与を受けたとの被疑事実で通常逮捕した。(甲総ア第231号証,弁論の全趣旨)
ウ 送致(平成15年6月27日頃,同年7月1日頃)
県警は,平成15年6月27日又は同日頃,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての4回目会合6月25日捜査事件を,それぞれ検察官に身柄付きで送致した。
県警は,同年7月1日頃,原告X9についての1回目会合6月29日捜査事件)を検察官に身柄付きで送致した。(甲総ア第25号証の654号証,甲総ア第94号証,甲総ア第158号証,甲総ア第234号証,甲総ア第268号証,甲総ア第286号証,甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
エ 勾留請求等(平成15年6月28日)
A73検事は,平成15年6月28日,裁判官に対し,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての4回目会合6月25日捜査事件において,勾留及び接見等の禁止を請求した。
原告X8は,同月28日,上記勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問において,被疑事実を認める旨を述べた。
原告X6,原告X7,原告X11,原告X10は,同日,上記各勾留の請求について,同所で行われた勾留質問において,被疑事実を否認する旨をそれぞれ述べた。
A73検事は,同年7月1日頃,裁判官に対し,原告X9についての1回目会合6月29日捜査事件において,勾留及び接見等の禁止を請求した。
原告X9は,同日,上記勾留の請求について,裁判所で行われた勾留質問において,被疑事実を否認する旨を述べた。(甲総ア第25号証の991,同2746,同2820,同2945,同2970,同2993,同3028,甲総ア第95号証,甲総ア第235号証,甲総ア第269号証,甲総ア第281号証,甲総ア第287号証,甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
オ 勾留決定等(平成15年6月28日)
裁判官は,平成15年6月28日,原告X6,原告X7,原告X11,A88,原告X10及び原告X8についての4回目会合6月25日捜査事件の上記各請求に係る各勾留状の発付及び接見禁止等決定をした。
A75検事ないしA73検事は,同各勾留状を執行し,その後,上記6名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年7月17日まで身柄をそれぞれ拘束された。
裁判官は,同年7月1日頃,原告X9についての1回目会合6月29日捜査事件の上記請求に係る勾留状の発付及び接見等禁止決定をし,A73検事は,同日,同勾留状を執行した。
その後,原告X9は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年7月17日まで身柄を拘束された。(甲総ア第25号証の2745,同2746,同2819,同2821,同2944,同2946,同2969,同2971,同2992,同2994,同3027,同3029,甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
カ 4回目会合についての供述状況等(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
(ア) 原告X1関係(平成15年6月28日から同年7月14日まで)
a A14警部補による平成15年6月28日の取調べ
原告X1は,平成15年6月28日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,4回目会合の宴会で使ったテーブルについて,①a3集落には,20年前にa3集落で買った折りたたみ式の長テーブルがあり,a3集落の各住民が集まりなどの際に共同で使用しており,使用後は最後に使った家で保管されていること,②a3集落とa1集落では,年に1回,観音講と呼ばれる安産祈願のために女性が集まって食事をする会合が開かれ,1年前の観音講が原告X2宅で行われ,以降,上記長テーブルが原告X2宅で保管されていたこと,③原告X1は,上記長テーブルを4回目会合で使用するため,会合の開催日の1日か2日前,原告X9の軽トラックを使って原告X2宅に向かい,原告X10から原告X2宅の物置に保管してあった上記長テーブルを借りて,X1宅に運び込み,4回目会合で使用したこと,④4回目会合で使用した後,X1宅で保管するのが邪魔だったため,原告X2宅の物置に再度,返却したことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の723)
b A14警部補による平成15年7月13日の取調べ
原告X1は,平成15年7月13日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べを受け,①原告X1が先週の日曜日(同月6日),検事調べにおいて,いろいろと質問され,頭が痛くなって,検察官にも警察官にも「みんなめちゃくちゃだ。」,「なにもかもめちゃくちゃだ。」と言って,これまでの供述を全部ひっくり返したことがあったが,取調官からの話を聞いて,裁判も近づいており,早く事件を済ませないといけないと思い直したこと,②原告X1が同年2月上旬に自宅で会合があり,原告X6から選挙の金を預かり,会合の参加者に配ったこと,同年3月末頃に自宅で会合があり,原告X6から選挙の金10万円をもらったことはいずれも間違いなく,早く事件のことを済ませたいこと,③警察署の階段に七夕飾りが置かれているのを見て,子供が小さかった頃を思い出し,早く事件を済ませて四浦に帰ろうと思うこと,④弁護士の面会でも早く四浦に帰れるようお願いしたいと思うことなどを供述し,その旨の記載のある同年7月13日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の730)
c A78副検事による平成15年7月14日の取調べ(4回目会合の日時,出席者,料理)
原告X1は,平成15年7月14日,A78副検事の取調べを受け,4回目会合について,①原告X1は,開催日を,観音講という会合が開かれた同年3月30日の頃に4回目会合があったという記憶があり,4回目会合の開催日には,勤務先を早退して会合の準備をしたこと,②f社のタイムカードで確認すると,原告X1の3月下旬の早退日は,同月24日と同月27日の2日であり,同月25日から同月27日は,A113がf社を欠勤しており,わざわざ欠勤中のA113に会合の手伝いをしに来てもらったことはないので,会合の開催日は同月24日に間違いないと思うこと,③原告X1は同日の数日前,f社の事務所で原告X6から,最後にやる会合だから,a1集落,a2集落,a4集落の人も集めてもらえないかなどと言われ,原告X1がいつがいいか日にちを確認したら,原告X6と原告X7は,同月24日は何も用事がないと回答したため,4回目会合の開催日は同日に決まったこと,④原告X1は,a1集落,a2集落,a4集落の住民にも会合の案内をしなければならなくなったが,原告X1には誰がA2県議派かもよく分からず,原告X3の方が会合の人集めに適任だと思ったので,原告X7に言って,原告X3に会合の人集めをお願いしてもらうよう申し出たこと,⑤原告X6が,会合の開催日は5時まで仕事をしなくてよいので早退してよいと言ったような記憶があること,⑥会合の開始時間は原告X6に指定されなかったが,それまでの3回が午後7時30分頃に開始したので,a3集落の住民らには,午後7時30分に集まるよう連絡し,さらに最後の会合だったため,夫婦で参加するよう頼んだこと,⑦原告X1は,同日に勤務先で原告X7から料理は手配してあるという話を聞いたので,何も準備をしなかったこと,⑧原告X1は,同日,f社を昼に早退して,原告X9の時計を買いに行き,安物はすぐに壊れるので,旧志布志町内の時計店で1万5000円の時計を購入したが,原告X9の給料で支払う予定だったため,原告X1は代金を持ち合わせておらず,翌日に原告X9がその代金の支払に行ったこと,⑨4回目会合の四浦校区側の出席者は,原告X1夫妻のほか,原告X4夫妻,原告X2夫妻,A1夫妻,亡X12,原告X5,原告X3で,A88と原告X11は参加したかどうかよく覚えていないこと,⑩A117とA112は参加してないこと,⑪原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5,A89,A113,A114であり,原告X6,原告X7ともう一人が先に来て,A89ともう2人が後から来たこと,A89と一緒に来た2人が盛り皿料理を持ってきてくれたこと,⑫会合は8畳の間にテーブルを出して,8畳の間と中江の間にまたがって行われ,男性が8畳の間に入り,原告X1,原告X8,原告X10,原告X5,原告X14,A113,A114が8畳の間と中江の間の境目から中江の間に入ったところに座ったこと,⑬会合では,原告X6,原告X7,A5,A89がそれぞれ立ち上がって挨拶したこと,⑭その後,原告X6の指示で,宴会の準備を初め,原告X1,原告X10,原告X8,A113,A114で盛り皿料理,ビール,焼酎などを8畳の間のテーブルに出したこと,⑮盛り皿には鶏の唐揚げ,エビ,卵焼き,などが入っており,刺身があったかは覚えていないこと,⑯原告X1は,宴会の途中で,原告X7が茶封筒を原告X6に手渡しているのを目撃し,その後,原告X6が出席者に酌をしてまわって,出席者が原告X6に礼を言ったり頭を下げたりしているのを目撃したこと,⑰その後,原告X1が参加者と談笑していると,背後から肩をたたかれ,振り返ると原告X6がいて,「どうもな。頼んでな。」などと言いながら,原告X6から封筒を手渡されたこと,⑱封筒の厚さは,それまでの3回の会合と比べて厚みがあったこと,⑲封筒には10万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年7月14日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の387)
d A78副検事による平成15年7月14日の取調べ(受供与金10万円の使途)
原告X1は,平成15年7月14日,A78副検事の取調べを受け,4回目会合の受供与金10万円の使途につき,①同年3月26日の夕方6時過ぎ頃,原告X5が自宅を訪ねてきて,もらった10万円を貯金して欲しいと依頼されたため,その場で原告X5に渡したこと,②原告X5は,その現金をa3集落の名前の1つの貯金口座に貯金し,原告X1が必要な時にはいつでも払い戻して届けてくれる約束であったことなどを供述し,同年7月14日付け供述調書に署名・指印した。同供述調書には,上記10万円と原告X1が同年同年6月26日のA75検事の取調べ及び同年6月23日のA14警部補及びA37巡査部長の取調べで供述した,原告X1が原告X5に預けた同年3月の10万円及び同年4月の20万円との異同について何ら触れていないほか,なぜ,a3集落の住民からの預かり金を1つの口座に貯金する必要性があったのかについても何ら触れられていない。(甲総ア第25号証の369,同388,同719)
(イ) 原告X2(平成15年6月26日から同年7月10日まで)
a A16警部補による平成15年6月26日の取調べ
原告X2は,平成15年6月26日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,4回目会合と他の本件買収会合の違いについて,①4回目会合には,A89及びf社の女性従業員2名が来ていたこと,②A88,A124,原告X11が3人そろって参加したのは4回目会合だけであること,③オードブルや刺身が出た本格的な宴会で原告X6に酌をしてもらいながら現金10万円をもらったこと,④1回目会合が原告X1から6万円,2回目会合が原告X1から原告X3を介して5万円,3回目会合が原告X7から5万円だったが,4回目会合は,原告X6から直接供与され,金額も10万円と大きかったことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の789)
b A16警部補による平成15年6月28日の取調べ
原告X2は,平成15年6月28日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,亡X12の参加状況につき,1回目会合に出席して,原告X9と口論になり,2回目会合に参加していなかったところ,3回目会合には出席していたと思うが,はっきりと断言できず,4回目会合も出席していたという記憶だが,印象が薄いので出席していないかもしれないことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の792)
c A77副検事による平成15年7月10日の取調べ
原告X2は,平成15年7月10日,A77副検事の取調べにおいて,4回目会合の開催日につき,原告X2の孫が 同年3月16日から同月25日の間入院していたところ,その退院日より前であり,同月21日は勤務先に休日出勤しており,その翌日も土曜出勤しており,これらの日に会合はなかったという記憶であり,同月23日は,孫の見舞いに行っているため帰宅が遅くなったことから,会合の開催日は同月24日であるといえることなどを供述し,その旨の記載がある同年7月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の596)
(ウ) 原告X3関係(平成15年6月25日から同年7月10日まで)
a A18警部補による平成15年6月25日の取調べ
原告X3は,平成15年6月25日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の参加者は,原告X6,原告X7,A5,A89,A113ともう一人f社の事務員らしき女性,原告X1夫妻,A112,亡A1,原告X2夫妻,原告X4夫妻,亡X12,原告X3,A88,A124,原告X11の20名が参加していたことは間違いないことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。
(甲総ア第429号証の158)
b A18警部補による平成15年6月29日の取調べ
原告X3は,平成15年6月29日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の参加者について,A88,原告X11,A124のうち,はっきり参加したと断定できるのは,A88と原告X11の2名であることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の160)
c A18警部補による平成15年7月2日の取調べ
原告X3は,平成15年6月23日,4回目会合の現場の再現の実況見分に立ち会い,同年7月2日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,同実況見分の指示説明を踏まえ,1回目会合での各参加者が座っていた位置等についての従前の供述に記憶違いがあったとして,その内容を変更する供述をし,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の162,乙国第112号証)
d A18警部補による平成15年7月9日の取調べ
原告X3は,平成15年7月9日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,4回目会合の開催日について,同年3月24日頃,シルバー人材センターに会員費を支払い,ホームセンターで買い物をした後,f社の事務所に立ち寄って原告X6と選挙情勢について会話をして立ち去ろうとしたとき,原告X6から,今夜,X1宅で会合をするので参加してくださいと案内を受けたことを思い出したことなどを供述し,その旨の記載のある同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の168)
e A77副検事による平成15年7月10日の取調べ
原告X3は,平成15年7月10日,A77副検事の取調べにおいて,4回目会合の開催日について,同月9日のA18警部補及びA61巡査の取調べでの供述内容にほぼ沿う内容で,開催日を同年3月24日と断定する供述を行い,その旨の記載のある同年7月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の423,甲総ア第429号証の168)
(エ) 原告X4(平成15年7月4日から同年7月14日まで)
a A15警部補による平成15年7月4日の取調べ(4回目会合の開催日)
原告X4は,平成15年7月4日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,4回目会合の開催日に関し,①同年3月29日の土曜日の勤務先の花見より前の平日であること,②従前の取調べで同月25日か同月26日に四浦校区公民館総会の準備会と田之浦中学校の教師の送別会に参加し,同じく同月25日か同月26日頃の夜,長男のA110とファミリーマート串間店に送金手続をしたと供述していた点につき,田之浦中学校の教師の送別会に参加していたのが同月26日でファミリーマート串間店に行ったのが同月25日であることが裏付け捜査の結果判明したとのことなので,それらの両日は開催されていないこと,③同月27日は,午後7時から午後10時まで視聴した番組があったことが判明したので,同日も開催されておらず,可能性があるのは,同月24日と同月28日であることなどを供述し,その旨が記載された同年7月4日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の250)
b A76副検事による平成15年7月8日の取調べ(4回目会合と他の本件買収会合との違い)
原告X4は,平成15年7月8日,A76副検事の取調べにおいて,4回目会合と他の本件買収会合の違いについて,①3月下旬にされたのは,4回目会合だけであること,②金額も10万円とそれまでより高額であること,③それまではこたつの間で供与を受けたが,4回目会合は8畳の間であったこと,④原告X10,原告X11,A88,A124,f社の従業員の女性が初めて参加したこと,⑤原告X6本人から供与を受けたこと,⑥宴会に出された料理がオードブルや刺身であったことなどから他と区別が可能である旨を供述した記載がある同年7月8日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の635)
c A76副検事による平成15年7月9日の取調べ(4回目会合の開催日,参加者,開始時刻,受供与金の使途)
原告X4は,平成15年7月9日,A76副検事の取調べにおいて,4回目会合について,①開催日は,同年3月25日は中学校の教員の送別会,同月29日は勤務先の花見,同月30日は,四浦小学校の体育館での四浦校区公民館の総会,同月31日はa1集落の総会にそれぞれ出席しており,同月22日は亡A1宅でべぶんこ祝いに参加しており,会合はなかったはずであり,会合が開催されたのは,自宅に帰るのが遅くなった日だったという記憶であり,残業をしていた同月28日か,もう一つは,給料日であり,終業後,原告X8と買い物をするなどしてから帰宅した同月24日のどちらかであること,②参加者,開始時刻,原告X4夫妻が到着してからの8畳間の状況,開始後の会場でのエピソード等について同年6月15日及び同月16日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの上記供述内容に概ね沿う記載の供述をし,供与された10万円の使途について,③原告X8の分と合わせた20万円を一旦A131に預けたが,10万円を返してもらい,そのうち5万円は原告X8に渡して親戚に原告X6への投票依頼の趣旨で供与するよう指示し,残りの5万円は,勤務先の花見の際,同僚にA2県議への投票依頼の趣旨で1万円ずつ供与しようとしたが断られ,さらにスナックの飲食代を全額払おうとしたが断られ,スナックの飲食代のうち,自分の負担分に費消し,その余はガソリン代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の397,同903,同905)
d A15警部補による平成15年7月14日の取調べ(受供与金の使途の変更)
原告X4は,平成15年7月14日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,4回目会合等で供与された現金の使途等について,従前の取調べで,4回目会合で原告X4夫妻が供与された20万円と本件選挙の投票日の数日前頃供与された20万円の合計40万円をいずれも原告X5に預けたと供述したことに関し,①その後の取調べで4回目会合での受供与金をA131に預けたうちの10万円はすぐに返してもらって,5万円を原告X8の親戚5人に,残りの5万円を原告X4の職場の同僚5人に同年3月29日の花見の席でA2県議への投票依頼をして1万円ずつ供与しようとしたが,受け取りを拒否されたため,その後のスナックの飲み代をおごったと供述したが,取調官から原告X4の職場の同僚に確認したところ,1万円を供与しようとした事実はなく,スナックに行ったが,代金を支払ってもらった事実もないということが確認できたと聞いて,5万円を職場の同僚のスナックの代金に費消したという供述が自分の勘違いであることに気付いたこと,②本当は,スナックでの原告X4分の支払と,その他電話代,ガソリン代等に費消したこと,③上記40万円の残りの30万円は,うち10万円について,A131が4回目会合から数日後の同年3月下旬ないし4月上旬に,原告X5からの買収金を貯金して欲しいとの意向に応じて原告X5に預け,うち20万円は,原告X4が同年4月15日の夜,原告X5に簡易保険の掛け金を支払った際に,同年3月下旬ないし4月上旬の10万円と同様に預かって欲しい旨を申し出たところ,この日は,原告X1が本件公職選挙法違反事件の口止め料として5万円を原告X4に供与した日であり,原告X4と同様に口止め料をもらい,警察が本件選挙違反事件の捜査をしていることを認識した原告X5において,原告X4名義で貯金すると警察にばれてしまうから,このまま預かり,ほとぼりが冷めたら,子供の名義か何かで貯金して良いかと尋ねられ,原告X4においてこれを了承したことなどを供述し,その旨が順次記載された同年7月14日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第429号証の258及び同259)
(オ) 原告X6関係(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
a 原告X6の否認(平成15年6月25日)
原告X6は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,同日のA12警部及びA39巡査部長の弁解録取手続,同年6月27日のA74検事の弁解録取手続,同月28日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。(甲総ア第88号証,甲総ア第94号証,甲総ア第95号証)
b A12警部による平成15年7月2日の取調べ(自白及びA12丸に乗れば発言)
原告X6は,平成15年7月2日,A12警部及びA39巡査部長の取調べにおいて,原告X6がこれまで事実関係を否認してきたのは,逮捕された四浦校区の住民が買収金を受け取ったと供述している者と受け取っていないと供述している者の2つに分かれており,原告X6が買収金を供与したと供述すれば,受け取っていないと供述している者たちから,買収金を供与していないと供述すれば,受け取ったと供述している者たちから,どうしてそのような供述をするのかいずれも追及され,2つの言い分に分かれた四浦校区の住民たちが事実があったかどうかで大きな揉めごとになり,自殺者や事件事故などが起こって四浦校区の人間関係に大きな問題を残せば,それらの原因を作ったことを子供や孫の代まで非難され続けかねないことなども考え,態度を決めかねていて,そうであるなら,とりあえず事実関係は否認しておいて,判断を裁判所に任せればよいと考えていたからであるが,本当は事実に間違いない旨を供述した記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。
A39巡査部長は,同日の取調べにおいて,原告X6が上記同日付け供述調書の署名・指印を終えてA12警部が取調室を出たため,取調室内で原告X6と2人きりになった際,原告X6に対し,A12警部の言うとおりにしたらいい結果になるという趣旨で,A12丸に乗ればいいところに着くという発言をした。(甲総ア第25号証の1069,甲総ア第96号証,原告X6本人)
c A12警部による平成15年7月8日の取調べ(否認)
原告X6は,平成15年7月8日,A12警部及びA39巡査部長の取調べにおいて,同月2日に被疑事実を認める供述をしたことにつき,①同日の取調べ後,留置場の房内に入ってからいろいろ考えたところ,どうして事実無根のことでこのような裁判になったのかどうしても納得できないため,裁判でそのことを明らかにしたいと思うこと,②裁判所が被疑事実があったと判断するのであれば,その判断に従うこと,③逮捕者の中で供述が分かれており,原告X6の供述でどちらかに決めると,反対の供述をした者から非難され,問題が発展して自殺者まで出るような事態も予想されることから,原告X6の判断ではなく,裁判所の判断で被疑事実の有無を決めて欲しいことなどを供述して,自白を撤回し,その旨の記載がある同年7月8日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第97号証)
d 原告X6の否認(平成15年7月17日まで)
原告X6は,平成15年7月8日から同月17日までの取調べにおいて,4回目会合6月25日捜査事件に係る被疑事実をいずれも否認した。(甲総ア第98ないし115号証,弁論の全趣旨)
(カ) 原告X7関係(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
原告X7は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,同日のA12警部及びA39巡査部長の弁解録取手続,同年6月27日のA74検事の弁解録取手続,同月28日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X7は,同年6月28日から同年7月17日までの取調べにおいて,4回目会合6月25日捜査事件に係る被疑事実をいずれも否認した。
X7ノートには,同年6月25日欄に「何人逮捕者を出せば良いのか,ひきょう者だと言われた。」,「これからも何人も出てくると言われた。」との,同月26日欄に「刑事さんに,ひきょう者だと言われてくやしかったと言ったらすまなかったとわびられた。」,「私の担当を変わされるところだったけど,後10日間担当させて下さいとお願いされた事を言われた。」との,同月27日欄に「信用もなくなるし,時間も無沙,お金もとぶに捨てる様な事と。」,「罪も重くなる。」,「私たちの首もひっとぶと」との,同年6月28日に,「状況は悪化するばかり,選挙違反どころじゃなくなる。」,「大変なことになる。」,「逮捕者も続出するだろう。」,「弁護士も調べの流れはわかっていない。」,「裁判では大恥をかくだろう「へ」のつっぱりにもならない。」,「子供3人も調べてもよいのだが。」との,7月1日欄に「四浦の件をはやく腹をくくりすかっとしましょう。」,「A129君まで逮捕させますか。」,「この事件はどう考えているのか,早くかたづけようと。」,「まだ多さんの逮捕者が出る。」との,7月3日欄に,「このままだと前に進めませんネ!!」,「再再逮捕も考えますか?わかりません。」,「A129君も逮捕する用素はあるんだと言われた。」,「子供まで巻きこんでも良いのか?と。」,同月6日に「調べすごくいきびしい,うそをついている。」,「四浦に行っている,四浦の人はうそつきか。」,「逮捕までされて,苦しい思いをしてそして罰金まですると150万円位になると思う そんな嘘をつくか。」,「A1さんは民生委員,X3さんは校民館長までした信用のある人達だ。」,「A53部長にまで信用してないと言われた。」,「X6もすごく苦しんでいる。」,「今回の逮捕者で誰が持らってないと聞いているか 最初は知りませんと言ったが,A88さんだけですと答えた。」,「途中おこって30分位~40分位A29刑事机をたたいて出て行った。」,「私していたら刑事さんにはウソはつきませんと言った 今日は何もかもがイヤと思った。X6が 首までどっぷりいのししのワナにはまったと言ったそうだ どんな意味で言ったのかわかりませんけど(中略)A129まで逮捕すると言われて心配」との,同月7日欄に「持らってない人は誰かと言われてA88さんだけですと言ったら煙草箱を投げておまえはうそつきこれで終りと」との,同月18日欄に「ポリグラフでも何回行っていると言うのもあたっている。」,「機械は信用出来ませんと言った。」,「持らった人に私の写真他の人30人位の写真を見せて私の事をこの人だと皆が言ったと伝えられた。」との記載がそれぞれある。
なお,原告X7の第3次強制捜査以降の県警の担当取調官は,A29警部補及びA53巡査部長であった。(甲総ア第136ないし138号証,甲総ア第141ないし144号証,甲総ア第146ないし151号証,甲総ア第153ないし186号証,甲総ア第281号証,甲総ア第317ないし319号証,弁論の全趣旨)
(キ) 原告X8関係(平成15年6月25日から同年7月11日まで)
a 弁解録取手続等における自白(平成15年6月25日,同月27日,同月28日)
原告X8は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,同日のA36巡査部長の弁解録取手続において被疑事実を認め,同月27日のA76副検事の弁解録取手続において,原告X6ではなく,原告X7から10万円を供与されたものであることなどを述べ,同月28日の裁判官の勾留質問手続において,被疑事実を認めた。(甲総ア第25号証の654,同968,同991)
b A36巡査部長による平成15年6月26日の取調べ(自白)
原告X8は,平成15年6月26日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べを受け,①正直に警察に話をしてきたのに何で逮捕されるのだろうと警察に対して反発してやりたい気持ちになったこと,②選挙の悪い金をもらう前に戻れることなら戻ってやりたいと思うが,実際にあったことなので仕方がないこと,③本当のことを最後まで話していき,反省しているところを裁判官に認めてもらい,少しでも軽い刑にしてもらうようにしたいと思っていることなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の969)
c A36巡査部長による平成15年6月30日の取調べ(親戚への供与)
原告X8は,平成15年6月30日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,4回目会合の受供与金の使途に関し,①従前の取調べにおいて,4回目会合で原告X4とともに供与を受けた20万円全てをA131に預けたと供述したが,それは嘘で,原告X8が受け取ったうちの5万円は,原告X8の親戚5人に1万円ずつ渡したこと,②これまで1万円を渡した人に取調べが及ぶと思い供述することができなかったこと,③5万円を親戚に渡すことになったのは,4回目会合の次の日,原告X4から,会合の度に金をもらってばかりでは原告X6に悪いので,原告X4も勤め先の人に持って行って原告X6への投票依頼をし,原告X8においても5万円を親戚の人達に持って行って原告X6への投票を依頼するよう言われたからであること,④4回目会合があった週の週末に一人で親戚の所を回ったが,皆旧志布志町以外に居住していて,旧有明町出身のA4県議を応援している人もいるから,選挙の話をせず,お金だけを渡したこと,⑤そのためか,お金を突き返した者はいなかったことなどを供述し,さらに,上記1万円の現金を渡した親戚の氏名は言いたくないという原告X8に対し,取調官から選挙の話をしなかったのであれば罪に問うことはできないが,それでも親族の名前を告げられないかとの質問を受け,これに対して,原告X8は上記親戚5人の氏名などを供述し,それらの旨の記載がある同年6月30日付け供述調書に署名・指印した。
本件現地本部が,原告X8の上記供述に基づき,原告X8の親戚5名に確認したところ,いずれも原告X8が訪れた事実自体を否定した。(甲総ア第25号証の1026,甲総ア第429号証の304)
d A30警部補による平成15年7月5日の取調べ(給料日,テレビ番組の記憶)
原告X8は,平成15年7月5日,A30警部補及びA56巡査部長の取調べにおいて,①4回目会合が開催された日は,原告X4の給料日であり,給料日にはいつも買い物をする習慣になっていて,帰宅後,奮発して夕食を作り,テレビを見ながら夕飯をとり,面白いテレビの途中でX1宅に出かけたのを思い出したこと,②これまでの会合は時間に遅れないよう食事もとらずにX1宅へ行ったが,ご馳走が出たこともなかったので,4回目会合では食事を済ませてから参加し,会合に遅刻したことを思い出し,また,その日に限ってご馳走が出たのに,夕食を済ませたので余り食べられなかったことも思い出したこと,③原告X4の給料日は月曜日であること,④その日みたテレビ番組の内容は芸能人のカラオケ番組だったことを覚えており,新聞のテレビ欄で確認すると,同年3月24日に午後7時からKKB鹿児島放送で放映された番組であることが分かったので,4回目会合は同日頃になると思うことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月5日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の308)
e A76副検事による平成15年7月11日の取調べ
原告X8は,平成15年7月11日,A76副検事の取調べにおいて,4回目会合の開催日に関し,同年7月5日のA30警部補及びA56巡査部長の取調べでの供述内容に概ね沿う供述を,会合に参加してから現金を供与されるまでの経緯について,同年6月15日及び同月16日のA36巡査部長及びA64巡査の取調べでの供述内容に概ね沿う供述を,供与を受けた10万円のうち5万円を親戚に渡した点について,同月30日のA36巡査部長及びA56巡査部長の取調べでの供述内容に概ね沿うが,親戚5名にいずれも原告X6への投票依頼をしながら現金を供与し,全員が受け取ったこと,上記親戚5名が現金の受供与の事実を否認しているのは取調べを受けるのが怖くて嘘をついていると思うことなどを供述し,それらの旨の記載がある同年7月11日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の413,甲総ア第429号証の292,同304,同308)
(ク) 原告X9関係(平成15年6月29日から同年7月11日まで))
原告X9は,平成15年6月29日,1回目会合6月29日捜査事件で逮捕後,同日のA19警部補及びA32警部補の弁解録取手続,同年7月1日のA77副検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X9は,同年6月30日,A19警部補及びA32警部補の取調べにおいて,原告X1やその他,被疑事実を認めているa3集落の住民について,①かつて,嘘を言っているそれらの者に対し,「絶対に許さない。必ず問いつめてやりたい。」と思っていたこと,②今は,「原告X1が言ったことに合わせて,集落の人は嘘を言ってくれた。」,「原告X1のことを考えて嘘まで言ってくれたのだから,何とか助けてやりたい。」という気持ちもあるが,どうしても同じ気持ちにはなれないと思っていることなどを供述し,その旨の同日付け供述調書に署名・指印した。
原告X9は,同日から同年7月17日までの取調べにおいて,X1宅で会合は行われていないとして,いずれも事実関係を否認した。(甲総ア第231号証,甲総ア第233ないし241号証)
(ケ) 原告X10関係(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
原告X10は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,同日のA31警部補及びA41巡査部長の弁解録取手続,同年6月27日のA80検事の弁解録取手続,同月28日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X10は,同月28日から同年7月17日までの取調べにおいて,4回目会合6月25日捜査事件の被疑事実をいずれも否認した。(甲総ア第267ないし278号証)
(コ) 原告X11関係(平成15年6月25日から同年7月17日まで)
a 弁解録取手続における否認(平成15年6月25日,同月27日)
原告X11は,同年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,同日のA21警部補及びA55巡査部長の弁解録取手続,同年6月27日のA80検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。(甲総ア第283号証,甲総ア第286号証,甲総ア第287号証)
b 原告X11の否認(平成15年7月13日まで)
原告X11は,平成15年6月27日から同年7月13日までの取調べにおいて,4回目会合6月25日捜査事件の被疑事実につき,原告X11が二十数年来,X1宅に上がったことはなく,買収金も受け取っていない旨を述べて事実関係を否認した。
なお,原告X11は,同年6月27日,A21警部補及びA55巡査部長の取調べにおいて,「今日,私は裁判所に行って裁判官から10日間勾留すると言われましたが,それは私がお金を貰ったからだと思います。」との記載がある同日付け供述調書に,同年7月10日,A21警部補及びA55巡査部長の取調べにおいて,「X2君は,私の遠い親戚になる人ですが,すなおという名前のとおり,素直で嘘など付かない人であり,私も信用している人です。昨日,検事さんから,X2もあなたがお金を貰った事を話していると教えてもらいました。私は検事さんの話を聞いて,本当にX2君が,そのような言っているのだろうかなどと疑いました。しかし,本当にX2君がそのように言っているのであれば,X2君は正直に話をしているのだと思います。」との記載がある同年6月25日付け供述調書に,それぞれ署名・指印している。(甲総ア第285号証,甲総ア第288ないし294号証,弁論の全趣旨)
c 原告X11の自白(平成15年7月13日)
原告X11は,平成15年7月13日,A21警部補及びA55巡査部長の取調べにおいて,①これまでの取調べで事実関係を否認してきたが,取調官から,原告X11が門徒として通っている寺の教えに,その人の身になってみないと分からないことがある,とあることを告げられ,自分のことだけでなく相手のことも考えるよう諭されて,他の被疑者も狭い留置場に入れられ,毎日取調べを受けていることから,他の被疑者も早く留置場から出してあげて,みんなと一緒に四浦に帰りたいと思うようになり,そのためには,他の被疑者と話を合わせた方がいいと考えるようになったこと,②被疑事実は間違いなく,本件選挙のことで,X1宅で10万円を受け取ったと認めることを供述し,その後,取調官からの①いつもらったかとの問いに対し,はっきり分かりませんと,②誰からもらったかとの問いに対し,はっきり分かりませんと,③どこでもらったのかとの問いに対し,場所ははっきり分かりませんと,④その時,他に誰がいたかとの問いに対し,はっきり分かりませんと,⑤もらったお金は何に使ったかとの問いに対し,はっきり分かりませんといずれも回答し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第294号証)
d 原告X11の否認(平成15年7月17日まで)
原告X11は,その後,平成15年7月17日までの取調べにおいて,再度,被疑事実を否認した。(甲総ア第295ないし298号証,弁論の全趣旨)
(サ) 亡A1(平成15年7月10日)
亡A1は,平成15年7月10日,A78副検事の取調べにおいて,4回目会合の開催日につき,べぶんこ祝いを自宅で開催した同年3月25日の前後頃であり,同月24日か同月26日という記憶であったが,取調官から同月26日は原告X4が田之浦中学校の教師の送別会に出席していて,4回目会合が同月26日である可能性はないということを説明されて,4回目会合の開催日が同月24日で間違いないと考えることなどを供述し,その旨の記載がある同年7月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の543)
(シ) A88関係(平成15年6月25日)
A88は,平成15年6月25日,4回目会合6月25日捜査事件で逮捕後,県警及び検察官の取調べにおいて,被疑事実を否認した。(弁論の全趣旨)
キ 本件買収会合の背景事情(四浦校区の選挙風土,閉鎖性,前回選挙の事情等)に関する第2次強制捜査以降の原告らの供述内容等(平成15年5月18日から同年7月17日まで)
(ア) 亡A1関係
a A17警部補による平成15年5月18日の取調べ(原告X6を支持する理由,現金の受供与)
亡A1は,平成15年5月18日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,①四浦校区では,前回選挙において新人として立候補した原告X6を支持していたが,その理由は,当時,四浦校区に顔を出すのが原告X6だけだったからであること,②前回選挙では,原告X1や原告X3が,原告X6のため,熱心に選挙運動をしており,X1宅で原告X6を応援するための会合が2,3回開催され,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4,原告X5,亡X12,亡A1,原告X3などが参加し,原告X1から合計で5万円くらいの現金の供与を受けたことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の389)
b A17警部補による平成15年5月29日の取調べ(現金の受供与)
亡A1は,平成15年5月29日,A17警部補及びA49巡査部長の取調べにおいて,平成12年12月から平成13年1月の前回選挙の告示日の頃にかけて,X1宅で原告X6を応援するための会合が2回くらい開催され,原告X1夫妻,原告X4,原告X2,亡X12などが出席しており,当時は原告X3はまだシルバー人材センターからf社の仕事を紹介される前であったから,参加していなかったという記憶であり,この時の会合で,原告X1から合計で3万円くらいの現金の供与を受け,四浦校区の中で対立候補を支持しそうな有権者2,3人に対し,今度の選挙は対立候補より原告X6の方が優勢だと思うが,原告X6をひとつ頼むなどという趣旨のことを言って,投票の働きかけをしたことなどを供述し,その旨の記載のある平成15年5月29日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の399)
c A17警部補による平成15年6月25日の取調べ(四浦校区)
亡A1は,平成15年6月25日,A17警部補及びA72巡査の取調べにおいて,①四浦校区は,山間に囲まれ,道路事情が悪いため,外部との交流が少なく,閉鎖的な面があること,②四浦校区の良い面は,外部からの圧力に対して団結心と結束力が強いが,保守的な考えを持つa2集落小組合と開放的な考えをもつa1集落小組合の間で,公民館行事の日程などで対立することが多いこと,③これまでの選挙で四浦校区が特定の候補1人の支持にまとまることはなく,大抵の場合が2つか3つの候補に分かれること,④過去の選挙でも四浦集落の様々な所で選挙の会合が開かれ,票の奪い合いをし,戸別訪問で金を配ったという噂を聞いたこともあり,亡A1も35年前の町議選挙か何かのときに,運動員から買収金を受け取ったことがあったこと,⑤本件選挙では,四浦校区公民館がA2県議の後援会を立ち上げることになっていて,このような中で原告X6を支持し,買収金を受け取ったと分かると村八分にされると思い,買収金のことは他の人には話していないこと,⑥原告X6がX1宅で5回くらいにわたって選挙の会合を開いたのは,普通では考えられないが,前回選挙でX1宅のほか,A97宅など四浦校区の何カ所かで会合を開けたのに,本件選挙では,A97が原告X6への協力を断ったことを聞いており,X1宅でしか会合が開けなかったからであり,X1宅での会合を通じて四浦校区の住民を呼び寄せ,支持の拡大を狙ったものだと考えられること,⑦亡A1は,2回目会合の際,A5から,a3集落以外の住民を集めてもらえないかと言われたことがあり,本件買収会合にa3集落の住民しか出席者が集まらないことに内心がっかりしていたと思うこと,⑧亡A1は,四浦校区がA2県議の支持で固まっていたことで原告X6への投票依頼はほとんどすることができず,原告X4の父のA116とA124に対し,原告X6への投票依頼をしたことなどを供述し,その旨が記載された同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の419)
d A82副検事による平成15年7月9日の取調べ(原告X6の選挙運動)
亡A1は,平成15年7月9日,A82副検事の取調べにおいて,①原告X6は,前回選挙では農村代表をスローガンに掲げて選挙運動を行っており,四浦校区は,ほとんどの人が農業に従事しているなど,農村代表という親近感から四浦校区では原告X6を支持した人が多かったと思うこと,②本件選挙では,現職のA2県議が四浦校区の長年の悲願であった本県県道の拡幅工事を実現させたことがきっかけで四浦校区公民館が主体となってA2県議の後援会が四浦校区にできることになったこと,③現職のA2県議が平成14年12月には,本件選挙への立候補を表明していたが,原告X6は平成15年1月になってから立候補表明をし,亡A1は,原告X6が出遅れたと思ったこと,④もっとも,四浦校区でA2県議の後援会が立ち上げられたのは同月21日になってからであり,A2県議の支持も本県県道の拡幅工事が理由であり,もともと旧輝北町の出身であるA2県議が四浦校区にしっかりとした地盤を持っていたわけでもないのに対し,原告X6は,旧志布志町の出身で四浦校区内の農家とも付き合いがあり,現に前回選挙では四浦校区のかなりの人が原告X6を支持したことから,四浦校区がA2県議を支持することを知った原告X6が,f社の従業員であるX1宅を拠点に,繰り返し会合を開き,現金を供与することで四浦校区内の原告X6への票を固めようとしたのではないかと考えられ,実際に,亡A1は,原告X6から現金を供与される度にA2県議支持から原告X6支持へと心が傾いていったこと,⑤1回目会合で受け取った3万円の入った封筒を見たとき,亡A1は,たくさん入っていると思ったがその時点では態度を決めておらず,2回目会合で受け取った5万円の入った封筒を見たときも,亡A1は,たくさん入っていると思ったがその時点では態度を決めておらず,四浦集落の目があるので表向きはA2県議の支持を装っていたこと,⑥同年3月に入ってから四浦校区のA2県議の後援会が活動を始めて,後援会名簿への署名を求めるなどし,亡A1もA2県議の後援会名簿に署名したこと,⑦亡A1は,原告X6がA2県議の後援会名簿のことを知って,a3集落の人の票が切り崩されないように3回目会合を開いて5万円の供与をしようとしたのではないかと思うこと,⑧亡A1は,現に3回目会合の現金の供与で迷っていた気持ちが原告X6支持に傾いたこと,⑨そして亡A1は,4回目会合で10万円の供与を受け,これで縛られたと思い,原告X6に投票しなければならないと思ったこと,⑩4回目会合は,それまで出席していなかったa4集落のA88やa2集落の原告X11も参加した,それまでの中で一番参加者が多い会合であり,これについて,亡A1は,四浦校区の票が喉から手が出るほど欲しかった原告X6が,経営する会社の従業員の自宅を拠点に四浦校区の住民の買収をしたものの,四浦校区公民館がA2県議の後援会名簿の署名集めを始めたことから折角固めたa3集落の票をA2県議派に切り崩されると心配して3回目会合を開き,出席者がA2県議の支持に傾いていないという感触をつかんだため,四浦校区でa3集落以外からも参加者を集めて4回目会合を開き,参加者の力で支持者を増やそうとしたのではないかと思うことなどを供述し,その旨の同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25証の404,乙国第129号証)
(イ) 原告X4関係
a A76副検事による平成15年5月22日の取調べ
原告X4は,平成15年5月22日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X4が,同年4月19日頃から,原告X6の選挙運動について取調べを受けても,あいまいなことを供述していたのは,四浦集落がA2県議の支持で固まっており,原告X4もまたj店で開かれたA2県議派の集会に夫婦で参加し,A2県議の後援会名簿を勤め先の同僚に回して名前を書いてもらうなどの活動をしていたにもかかわらず,原告X6を応援しているX1から現金を供与されたという話が四浦集落に広まれば,私や家族が村八分になると思ったためであるが,このことを正直に話そうと思ったのは,同年5月5日の1,2日前に,自宅で,A116,A131及び子供の前で「自分が選挙の金をもらったのは事実だ,警察に本当のことを話すから見放さないでくれ」と告白したところ,娘が,父である原告X4を見捨てないから本当のことを話すようにと言ってくれたためであること,②四浦集落は,以前から選挙の時にお金が配られるという噂があり,原告X4も前回選挙において,X6から現金の供与を受けていたので,今回も安易に考えて現金を受け取ったことを反省していることなどを供述し,それらの旨の同年5月22日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第25号証の625及び同626)
b A15警部補による平成15年5月28日の取調べ
原告X4は,平成15年5月28日,A15警部補及びA65巡査の取調べにおいて,前回選挙の際,告示前後に,X1宅で原告X6を応援する会合が3回ほど開かれ,原告X6は毎回参加し,原告X7も1,2回参加し,A5は出席しておらず,四浦校区側からは,本件選挙の際と同じ面々である原告X1夫妻,原告X4夫妻,亡A1,原告X2,原告X5,亡X12,原告X3などが参加して,時には,A112,原告X14,原告X10,原告X13が参加し,会合の度に原告X1から3万円くらいずつの現金の供与を受け,1度は原告X6から直接現金の供与を受け,合計で10万円くらいの供与を受け,他の参加者も同じくらいの現金の供与を受けていると思われること等を供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の222)
c A15警部補及びA76副検事による平成15年6月18日の各取調べ
原告X4は,平成15年6月18日,A15警部補とA69巡査の取調べにおいて,①原告X4がA2県議の支持者でありながら,原告X6の選挙の買収金を受け取ったかについて,現に生活苦であることも理由だが,a3集落のような田舎の小さな集落では,集落の人からある候補者の後援会に入ってくれ,集会に参加してくれと頼まれれば,たとえ自分に他に支持する候補者があっても協力しなければならず,買収金を渡された時も受け取りを拒否すれば,あとで警察沙汰になった場合に誰が通報したか,誰が口を割ったかが問題になった場合,受け取りを拒否した人が真っ先に疑われ,それが事実であると分かったときには村八分にされること,②原告X4が今回のことを供述する上で気がかりだったのも誰が通報したか,誰が口を割ったが問題になった場合のことで,同年4月,警察の取調べを受けたとき,警察の捜査から逃げ切ることはできず,いずれ全てを話さなければならないときがくるが,自分が全てを話してしまえば集落の人に迷惑を掛けるばかりでなく,家族も村八分にされることになるから,死んでお詫びしようと思い,近くの川に入水自殺を図ったことがあり,小さな集落で人間関係を保つには死まで覚悟しなければならないときもあるということなどを供述し,その旨の記載のある同年6月18日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同日,A76副検事の取調べにおいて,入水自殺について同日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの供述内容に沿う供述をし,その旨が記載された同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の631,甲総ア第429号証の235)
d A15警部補による平成15年6月25日の各取調べ(四浦校区の地域性)
原告X4は,平成15年6月25日,A15警部補とA69巡査の取調べにおいて,選挙を巡る四浦校区の地域性について,①四浦校区での候補者選びの基準は,主義主張,政策ではなく,金をくれるかくれないかで候補者を選ぶ傾向があること,②四浦校区では選挙が行われる度に,四浦校区内の多くの有権者が金をもらったり,飲ませ食わせの接待を受けるが,その都度,お互い様という考えから口が堅く,警察にばれることは絶対にないという自信を持っており,これまでも原告X4が知る限り,逮捕者が出たことはないこと,③四浦校区の県議選では,無投票だった前回の県議選を除き,地元である旧志布志町からの立候補者があったので,他町の候補者が入り込む余地はなかったが,今回は,他町出身のA2県議が四浦校区の道路整備に尽力したため,A2県議と地元である旧志布志町出身の原告X6とで支持が分かれたこと,④四浦校区審議委員会では,A2県議の支持を決めていたが,地元出身の原告X6を支持する声もあり,四浦校区審議委員会ではA2県議の支援のため様々な活動をし,原告X4も原告X8にA2県議の後援会への入会を働きかけさせたりしており,A2県議が四浦校区で買収金を配ったという話は聞いていないが,四浦校区ではA2県議派と原告X6派の票の獲得合戦が加熱していったことは間違いないことなどを供述したとこと,⑤さらに取調官からの,本件選挙で何故,a3集落の人たちに繰り返し多額の現金が配られたと思うかの問いに対し,たった19票しかないa3集落に繰り返し現金が配られたことは明らかにおかしいが,A2県議派が多くを占める四浦校区の拠点がX1宅にしかなく,原告X6は本当はもっと四浦校区の多くの住民を集めたかったが,結果的にa3集落の人しか集めることができず,原告X6は不本意だったが,集まってもらった以上買収金を配らざるを得なかったと思うことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の243)
e A76副検事による平成15年7月8日の各取調べ(四浦校区の地域性)
原告X4は,平成15年7月8日,A76副検事の取調べにおいて,選挙を巡る四浦校区の地域性について,①四浦校区での候補者選びの基準は,金をくれるかくれないかで候補者を選ぶ傾向があること,②これまでも四浦校区には選挙の金がばらまかれたことはあったが,処罰された者はいないこと,③四浦校区審議委員会では,A2県議の支持を決めていたこと,旧志布志町の街では地元出身の原告X6を支持する機運が高まっていたが,原告X6には評判の悪い一面もあったこと,④旧志布志町ではA2県議派と原告X6派が6対4くらいの勢力分布であり,原告X6は地元である旧志布志町で大量の票を獲得する必要があったため,A2県議派が多くいる四浦校区で支持者を増やそうとしたと考えられること,⑤a3集落の同じ人に繰り返し現金を渡す必要はないという点は,原告X6としては別のメンバーを会合に集めるつもりだったが,原告X1が,私達が経済的に困窮しているのを助けるためにa3集落の者を繰り返し呼んだか,または密告させないための口封じだった可能性もあることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の400)
f A76副検事による平成15年7月10日の取調べ(家族との対立)
原告X4は,平成15年7月10日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X4が,志布志署の警察官から,原告X4の家族が,原告X4を今後家に入れないと発言していることを聞かされ,これは原告X4の両親が,原告X4に対し,警察に買収金を受け取ったと真実を供述したことが四浦校区に対する裏切り行為をしたので家に戻ってくるなと言っていることを意味すると理解したこと,②原告X4が,同年4月20日,四浦校区にある福島川に入水自殺を試みた理由は,警察の取調べで真実を話せば,一緒に金をもらった四浦校区の人の名前を話さなければならなくなり,その人たちも警察の取調べを受けるようになるので,裏切り行為になると思い,真実を話すくらいなら私が死ねば四浦校区の人達に迷惑をかけないと迷っていたからであること,③原告X4は,その後の警察官の取調べで自白したが,その理由は,警察官から原告X4以外の人が自白して真実を話していると告げられたことから,自分が否認しても真実は他の人から分かる,それなら真実を言った方が楽になると自分なりに考えていたからであること,④原告X4は,警察に真実を話せば,四浦校区の裏切り者になることも,実家に入れてくれず追い出されてしまうことも分かっていたが,悩んだ末に真実を話すようになったこと,⑤原告X4は,家族から見捨てられ,四浦校区の人からも見捨てられる覚悟はできており,それでも本当のことを言うしかないのは,原告X4の性格に由来するものかもしれないこと,⑥なぜ,真実を話す者がこんなに苦労をしなければならず,嘘を話す人が楽になるのかなどとよく考えることなどを供述し,その旨の記載がある同年7月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の638)
(ウ) 原告X2関係
a A16警部補による平成15年5月16日の取調べ
原告X2は,平成15年5月16日,A16警部補及びA44巡査部長の取調べにおいて,①本件選挙では,四浦校区審議委員会が中心となって,四浦校区の校区民が一体となって,本件県道の拡幅工事の予算獲得に尽力してくれたA2県議を支持していたこと,②原告X2もA2県議を支持し,原告X2は原告X6から多額の買収金の供与を受けたとはいえ,知り合いに投票依頼をするようなことは,四浦校区民に知れ渡るリスクが高くてできなかったこと,③四浦校区,その中でも特にa3集落は,これまでの選挙のたびごとに買収金をもらっており,買収金をもらうことは何の抵抗もないこと,④原告X2は,選挙の度にパチンコ代がもらえるという認識であったこと,⑤原告X6は,前回選挙において,X1宅で会合を数回開催し,原告X2のほか,a3集落の原告X9,A112,亡A1,亡X12,原告X5,原告X4,a4集落の原告X3も2,3回にわたって,合計で5万円ないし6万円の現金の供与を受け,原告X1及び原告X3は,原告X6のために選挙運動を行っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の354)
b A16警部補による平成15年6月25日の取調べ
原告X2は,平成15年6月25日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,①本件選挙では,四浦校区審議委員会が中心となって,四浦校区の校区民が一体となって,本件県道の拡幅工事の予算獲得に尽力してくれたA2県議を支持していたこと,②本件選挙においてほとんどがA2県議の支持で固まっている四浦校区で唯一,原告X6の会合ができたのが,原告X1の家であったこと,③a3集落が四浦校区の中でも山奥にあり,会合をしても目立たないこと,④四浦校区は,選挙の度に現金買収の話の絶えない地区で,物や金をくれた人に投票しているのが実態で,四浦校区の人達の票は物や金でどうにでもなると思われても仕方がないこと,⑤前回選挙のときは,四浦校区で支持する特定の候補はおらず,原告X6は,四浦校区で買収金を供与して多くの票を獲得し,四浦校区は物や金でどうにでもなると感じたはずであること,⑥原告X6は本件選挙でも同じように多くの票を獲得しようとしたが,立候補の表明も遅れ,A2県議の支持で固まっていたため,X1宅を拠点に何回も会合を開いてA2県議の票の切り崩しを図ったと考えられること,⑦四浦校区は閉鎖性があって人のことを絶対に密告しないという変な意味での団結力があり,原告X6は,a3集落の人が買収金をもらったと警察に密告することはないと考えていたかもしれないこと,⑧原告X6がA2県議の票の切り崩しに躍起になっていただろうことは理解できるが,原告X2は,気心の知れた人達に原告X6への投票依頼をして,それが四浦校区の人達に知れたら,それこそ村八分の目に遭うと思い,選挙運動はしなかったことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の787)
c A77副検事による平成15年7月10日の取調べ
原告X2は,平成15年7月10日,A77副検事の取調べにおいて,①本件選挙では,四浦校区審議委員会が中心となって,四浦校区の校区民が一体となって,本件県道の拡幅工事の予算獲得に尽力してくれたA2県議を支持していたこと,②本件選挙においてほとんどがA2県議の支持で固まっている四浦校区で唯一,原告X6の会合ができたのが,X1宅であったこと,③a3集落は四浦校区の中でも山奥にあり,人目に付かないこと,④四浦校区は,昔から選挙において草刈り場と呼ばれ,選挙の度にいろいろな候補から買収金をもらい,たくさんもらった方に投票するところだと言われてきたこと,⑤原告X6が,会合の参加者の中で期待していたのは,亡A1と原告X3で,亡A1は,選挙の度に人を使うなどしてお金を配っているという噂があって,旧志布志町内でも有名であり,原告X3も四浦校区公民館の前公民館長であり,四浦校区外にも顔が広いこと,⑥それ以外の人を何度も会合に呼んだ理由は,a3集落で会合をする以上,呼ばれなければA2県議派に寝返られたり,密告される恐れがあるからだと思うことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の393)
(エ) 原告X1関係
a A14警部補による平成15年6月18日の取調べ
原告X1は,平成15年6月18日,A14警部補及びA37巡査部長の取調において,①四浦集落は,本件選挙でA2県議を支持する人が多かったため,一人でも多くの人を原告X6の陣営に引き入れるために繰り返し現金を供与したと思うこと,②原告X6が,取調べにおいて,本件刑事事件はA2県議又はA4県議が仕組んだことであり,現金の供与を受けたと供述している者はA2県議又はA4県議から供与を受けた事実をすり替えて供述していることについてどう思うかという問いに対し,それは本当に原告X6の言葉とは思えず,本当だとすれば,原告X1が何のために原告X6のためにローラー作戦に出たり炊き出しをしたりして,選挙運動をしてきたのか分からず,A2県議やA4県議の陣営から現金を供与されたこともないこと,③原告X6が,取調べにおいて,X1宅に一度も行ったことがないと供述していることについてどう思うかという問いに対し,原告X6は,同年2月上旬頃,1回目会合の時に初めてX1宅にあがり,今時天井のない家は珍しいなどと感想を述べていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年6月18日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の60)
b A14警部補による平成15年6月26日の取調べ
原告X1は,平成15年6月26日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べを受け,①四浦校区は,昔から選挙の度にお金が動いていたこと,②選挙が終わる度に旧志布志町の市街地の住民から四浦の人はまた選挙で金をもらったと陰口を言われていたこと,③前回選挙でも4回くらい買収会合を開催して原告X6から合計で10万円くらいを供与されたこと,④四浦校区の住民は,本件県道の拡幅工事に尽力しているA2県議を支持する者が多かったため,原告X6は,四浦校区の住民を原告X6派に引き入れるため,複数回,買収会合を開催したと考えられること,⑤原告X6は,亡A1が元四浦校区公民館の公民館長であり,原告X2が元消防団の役員であり,原告X5が四浦郵便局長であることを知っていたこと,⑥本件買収会合は,全てが原告X6の指示によるものではなく,2回目会合は,参加者の側から今度は奥さんを連れてきて欲しいと言って,会合をもう一度開催することを要求したこと,⑦本件選挙において四浦校区内で他に会合があったことは聞いたことがなく,ただ,同僚のA113とA114から,うちでも会合があったという趣旨の話を聞いたことがあるが複数回の会合が開催されたかは聞いていないことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の69)
c A78副検事による平成15年7月17日の取調べ
原告X1は,平成15年7月17日,A78副検事の取調べを受け,4回の会合が開催された背景について,①本件選挙では,前回選挙と異なり,四浦校区の住民は,ほとんどが本件県道の拡幅工事に尽力しているA2県議の支持に回ったため,原告X6は四浦集落での拠点が原告X1しかいなかったところ,原告X6は四浦集落の票が一票でも欲しかったため,1回目会合を開催したこと,②a3集落の住民は,前回選挙でも原告X6から買収金を供与されており,本件選挙でも買収金がもらえるという下心があって1回目会合に参加し,1回目会合の中で,さらに買収金をもらおうという汚い気持ちから,原告X6に対し,今度は奥さんが見てみたいと申し向けて,2回目会合を開催し,再度,買収金を供与せざるを得なくさせたこと,③1回目会合では,買収金をもらったとはいえ,参加者は,原告X6を支持するとは決めていなかったこと,④2回目会合は,参加者からの今度は奥さんの顔が見たいという要望が切っ掛けで開催されたので,1回目会合から間を置かず,1回目会合の10日後くらいの日に開催されたこと,⑤2回目会合では,1回目会合の1人当たり3万円という金額より多い,一人当たり5万円が供与されたこと,⑥同年3月に入ると,f社の従業員らは,仕事そっちのけでいわゆるローラー作戦等に従事させられ,A89は,本件選挙の見通しについて危機感を露わにしていたところ,原告X6から3回目会合の開催を指示され,原告X1は,原告X6が本件選挙で落選するかもしれないという危機感を抱いて1人でも支持者を増やして3回目会合を開催しようと決意したと理解したこと,⑦1回目会合から3回目会合は参加者がほとんど同一だが,亡A1は四浦校区の民生委員を長年勤め,原告X3は四浦校区公民館の元公民館長であり,原告X5は四浦郵便局の局長であって,彼らの応援を取り付けることが1票でも多く獲得できることにつながること,⑧3回目会合の後,d社の従業員から,原告X6が落選したら従業員のせいであるなどとするA129の発言があったことを聞き,原告X6を巡る選挙情勢が相当厳しいことを知ったが,その頃,原告X6から4回目会合の開催を指示され,最後の会合だからa1集落,a4集落,a2集落の人を集めるよう指示されたこと,⑨4回目会合では,これまでと違い,オードブルが提供され,しかも2回目会合及び3回目会合で供与された5万円の2倍の10万円という現金が供与され,原告X6が必死であったことが理解できたことなどを供述し,その旨の記載のある同日年7月17日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の389)
(オ) 原告X3関係
a A18警部補による平成15年6月25日の取調べ(四浦校区の特殊性)
原告X3は,平成15年6月25日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,①四浦校区は,不便なところにある集落で,お互いが助け合って生活していることから団結心が強く,反面村八分になることを極度に恐れていること,②四浦校区は,住民の生活の苦しさから,選挙では金や物でどうにでもなると言われてきたこと,③平成7年の統一地方選挙で,四浦校区を挙げて誰かを支援しようという動きはなく,四浦校区ではA2県議とA4県議から買収金の供与を受けた人もいたという噂があり,このような状況から選挙運動次第で四浦校区の票は誰でも取れる状況にあること,④原告X6は,前回選挙で四浦校区の票が金や物でどうにでもなり,かつ,村八分を恐れる住民は,買収されたことを絶対に口外しないという四浦校区の特殊性を知り,本件選挙でも原告X3やa3集落の住民らに投票や票の取りまとめを依頼したと考えられること,⑤本件選挙では,早い段階から四浦校区はA2県議の支持で固まったため,原告X6は従業員である原告X1の自宅であるX1宅しか拠点にする場所がなく,そこから,確実に原告X6に投票が欲しい,A2県議で固まった四浦校区で原告X6の票を1票でも多く獲得してもらいたい,四浦校区以外の職場の同僚や親戚,友人に働きかけをしてもらいたい,A2県議も買収金を配っていると考え,買収金を打ち返して得票を確実にしたいとの考えから,複数回の買収会合をしたと考えられること,⑥X5夫妻は,四浦校区では絶大なる信頼を受けており,A2県議支持の人でも原告X5から原告X6への投票依頼があれば,大概の人は断ることができないことなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の158)
b A77副検事による平成15年7月8日の取調べ(四浦校区の特殊性)
原告X3は,平成15年7月8日,A77副検事の取調べを受け,四浦校区のこれまでの選挙のあり方について,①原告X3は,昭和28年から現在の居住地に住み,その頃から,四浦校区は選挙の度に現金が飛び交い,選挙の度に様々な候補者から現金を幾重にももらってきており,他の四浦校区の住民も同様に買収金をもらっており,買収金をもらう際,他の候補者からいくらもらったと伝えると,それより多い金額をくれたりしていたこと,②四浦校区の住民は,現金をたくさんくれた候補者に投票するというのが実情であったこと,③前回選挙の際,当時,四浦校区公民館の館長をしていた原告X3は,原告X6が前回選挙の立候補の挨拶をしたがっている旨を人づてに聞き,原告X6を四浦校区公民館の新年会で挨拶させたところ,その2,3日後に原告X6から新年会に出席した人に渡して欲しいと頼まれて現金20万円を渡され,原告X3には別途2万円の入った封筒を渡され,原告X3が新年会の出席者に,原告X6への投票を依頼して1万円ずつ配り歩き,その後,X1宅で行われた2回の会合で合計6万円を供与されたことがあり,原告X6は,四浦校区の選挙の実体を知っていたこと,④同年3月中旬頃,四浦校区内のある住民の自宅でA2県議の会合が開かれ,原告X3も参加を呼び掛けられたところ,四浦校区ではA2県議を支持することに決まっていたので,断ることもできず,会合に参加し,亡A1や原告X2などもその会合に参加したことから,原告X6は,その情報をどこからか聞きつけて,原告X3らがA2県議派に寝返ると心配して,3回目会合,4回目会合と会合を連続して開き,供与金額も増額したと考えられること,⑤原告X6が,本件買収会合で選挙運動員として期待していたのは,原告X3,亡A1,原告X5,原告X2の4人で,原告X3は前四浦校区公民館の公民館長で,選挙運動をすれば四浦校区内で40票,街の方で20票から30票は確実に票を取る自信があり,亡A1は四浦校区の民生委員をしており,四浦校区で70票から80票を取ることができ,街の方を併せると100票は取ることができ,原告X5は四浦校区で50票から60票を取ることができ,原告X5が旧志布志町の裕福な家の出身で交友範囲が広いことから,街の方を併せると100票は取ることができ,原告X2は,将来の公民館長候補と言われており,四浦校区だけで40票から50票は取ることができること,⑥原告X6がその4人以外の参加者にも多額の現金を供与したのは,それなりの票集めが期待できることに加え,X1宅で会合を行う以上,a3集落の住民はすぐに会合があったことに気付き,呼ばれなかった者が密告する恐れもあったことからであることなどを供述し,その旨の記載のある同年7月8日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の422)
(カ) 原告X8関係
a A36巡査部長による平成15年6月25日の取調べ(四浦校区と村八分)
原告X8は,平成15年6月25日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,①四浦校区の住民は,葬式にはほとんどの人が来るし,お互いを思いやる心や一つにまとまる力は他の地域では真似ができないくらいであるが,集落の行事や決めたことに従わない人達は村八分にされ,集落から相手にされなくなるので,そのことが怖くて仕方なく集落の輪の中に入っている人もいると思うこと,②四浦校区では,本件選挙では,本件道路の拡幅工事を約束したA2県議を支持することになっていて,本件選挙で原告X6から買収金を受け取ったが,本当の話ができない人は,お金でA2県議派から原告X6派に寝返ったと言われ,四浦校区から村八分にされるのを恐れていたからである旨などを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の300)
b A78副検事による平成15年7月4日の取調べ(村八分)
原告X8は,平成15年7月4日,A76副検事の取調べにおいて,①原告X8が捜査機関の取調べでは本件買収会合があったと供述し,他方で弁護人であるC10弁護士との接見では被疑事実はなかったと説明している理由について,a3集落や四浦校区が小さな集落であり,その四浦校区の人達が選挙の金をもらったということを原告X8が捜査機関に対して正直に話したことが四浦校区の人達の耳に入ると,原告X8やその家族の義父母や息子や娘が,四浦校区の裏切り者とされ村八分になるのが怖いからであること,②原告X8がC10弁護士に対して,買収金を受け取ったとどうしても言えないことについて,取調官からの,あなたとして,一番良い方法は何ですかとの問いに対し,原告X6や原告X7が原告X4夫妻に現金を供与したことは間違いないと供述してくれたら,四浦校区の人やa3集落の人も原告X8が言うことを信用してくれて,村八分にもならず,集落に帰れると思うことを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の655)
c A78副検事による平成15年7月9日の取調べ(親戚5人への投票依頼)
原告X8は,平成15年7月9日,A78副検事の取調べにおいて,①四浦校区は交通の便が悪かったが,A2県議が本件県道の拡幅工事に尽力したことで,本件選挙では四浦校区はA2県議を支持することでまとまっており,原告X4は,四浦校区公民館の審議委員でありながら,A2県議の後援会の役員にもなってA2県議を支援していたこと,②原告X6にとってみれば四浦校区で票を獲得するのは難しい状況だったが,X1宅で会合を開いて,近隣住民を呼び支援を依頼しようとし,1回目会合はどれだけ人が集まるか試しに開催してみて,A2県議の後援会の役員である原告X4が出席したことから,a3集落は原告X6を支援すると考えて2回目会合で1回目会合より多い現金5万円を供与して支持を取り付けようとしたと考えられること,③原告X8は,2回目会合まではA2県議を支持していたが,3回目会合で5万円を受け取り,原告X1が一人で一生懸命原告X6を応援している姿を見るとかわいそうになり,4回目会合で10万円という大金を受け取ると,原告X6が落選したら,金ばかりもらって応援しなかったとして後々仕返しされるのが怖くなり,親戚5人に1万円ずつ供与して原告X6への投票依頼をしたこと,④原告X6としては何度も会合を開催し,買収金を供与することでA2県議を支持していたa3集落の人から支持を取り付けようとしたことと,四浦校区で民生委員をしている亡A1,四浦簡易郵便局の局長である原告X5,四浦校区公民館の元公民館長である原告X3のような影響力のある人の支持を取り付けることが目的だったと考えられること,⑤a3集落の住民は原告X8を含め頑固で口が堅く,一旦決めたことは譲らない性格の者が多く,かつ経済的に困窮しているので,1回や2回の買収金を受け取ったくらいで支持する候補を変えないところがあることなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の418)
(キ) 原告X6関係(平成15年6月20日,同年7月7日)
原告X6は,平成15年6月20日,A12警部及びA39巡査部長の取調べにおいて,①前回選挙において,四浦校区で,亡A1,A88,A97に対し本件有機米契約農家として,借り上げた休耕田での有機米の製作を依頼していたこと,f社の従業員であった原告X1も居住していたこと,他にも知人がいたことなどから,四浦校区のほとんどが原告X6を支援していたこと,②原告X6は,前回選挙において,四浦消防分団詰所,湯ノ山温泉,X1宅のほか,四浦校区の2名の個人宅を借りて,近所の有権者を集め,原告X6への投票と票の取りまとめの依頼などの選挙運動をしたこと,③X1宅を含め,個人宅で会合をした際は,いずれも先方に焼酎や料理,つまみの準備を依頼し,そのうちの一部につき,原告X6で刺身の盛り合わせか何かを持参し,近所の住民5,6人ないし6,7人程度が集まってくれたことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。
A97は,同年7月7日,県警の事情聴取において,①前回選挙での原告X6との関係に関し,原告X6が,平成13年1月頃,四浦消防分団詰所であった四浦校区の会合に前回選挙の立候補の挨拶等をし,その際,四浦校区の休耕田の有効活用として減農薬の有機米の耕作を提案し,亡A1,A88,A97がそれに賛同して,A97が,以後,本件有機米契約農家としての稲作業に関与するようになったこと,②前回選挙では,原告X6が構成員になっている志布志を語る会の集まりを四浦校区内にある湯ノ山温泉で行い,さらにそのときの参加者のうちの5,6人とA97の自宅で食事会をしたこと,③本件選挙では,平成15年1月頃,原告X6から電話で本件選挙への立候補の表明と応援の依頼を受けたが,四浦校区ではA2県議を支持することが既に決まった後だったので,その旨を告げて原告X6からの依頼を断ったこと,④原告X6が,本件選挙の告示日の約2週間前にA97の自宅を訪問して,立候補の挨拶回りの途中である旨を告げて顔写真入りの名刺1枚を差し出すとすぐに立ち去ったことなどを供述した。(甲総ア第83号証,乙国第136号証)
ク 本件買収会合の開催日,買収資金の原資等裏付け捜査の結果等(平成15年5月9日から同年7月27日まで)
(ア) 時計の購入先関係(平成15年7月5日)
県警は,平成15年7月5日までに,原告X1の供述に係る同年3月24日の時計の購入先から,同日,原告X1が来店し,1万8000円の男物の腕時計を購入し,代金については,原告X1の供述どおり,掛け売りとして,翌日に原告X9が同代金を支払いにきたことを確認した。(甲総ア第25号証の441及び442)
(イ) 亡A1の祝儀金関係(平成15年6月24日)
県警は,平成15年6月24日までに,亡A1が,亡A1の甥の娘の結婚式のため,祝儀金2万円を交付したことを確認した。(甲総ア第25号証の443及び444)
(ウ) 原告X4夫妻の祝儀金関係(平成15年7月27日)
県警は,平成15年7月27日までに,原告X4夫妻が,原告X8の甥の結婚式に出席し,祝儀金3万円を交付したことを確認した。(甲総ア第25号証の446)
(エ) 端午の節句用の幟関係(平成15年5月9日)
県警は,平成15年5月9日までに,原告X2が,同年3月11日から同月19日までに,孫の端午の節句用の幟を発注し,その代金は3万5700円であったことを確認した。(甲総ア第25号証の447)
(オ) 庭木の枝払い関係(平成15年6月28日)
県警は,平成15年6月28日までに,原告X3が,同年3月下旬か同年4月上旬頃,知人に自宅の庭木の枝払いを依頼し,その報酬として1万円を支払ったことを確認した。(甲総ア第25号証の448)
(カ) 鶏の飼料関係(平成15年6月19日)
県警は,平成15年6月19日までに,原告X3が,原告X3の供述する額を下回るものの,鶏の飼料代として,同年3月11日に2870円,同年3月31日に1913円,同年4月11日に1896円,同年4月24日に1896円,同年4月28日に3793円の飼料を購入していることを確認した。(甲総ア第25号証の449)
(キ) 7回忌,焼酎2本関係(平成15年6月28日)
県警は,平成15年6月28日までに,原告X3が同年4月10日に原告X3の父の7回忌で仏前に1万円を供え,同月26日,原告X3の弟に対し,猪の肉をもらったお礼として,焼酎2本を渡したことを確認した。(甲総ア第25号証の450)
(ク) 筍関係(平成15年6月28日)
県警は,平成15年6月28日までに,原告X3が,同年4月4日から同月5日にかけて,原告X3の子らに対し,原告X3の孫2名宛ての入学祝い金各2万円と一緒に,筍を送ったとの供述の裏付けとして,同日頃,原告X3の子らに対し,筍を宅急便で送ったことを確認した。(甲総ア第25号証の451)
(ケ) 原告X6名義の預貯金通帳,f社,d社,有限会社b,有限会社c名義の預貯金通帳等関係(捜査未了で終了)
県警は,第3次強制捜査の期間中までに,原告X6名義の預貯金通帳のほか,原告X6が経営に関与するf社,d社,有限会社b,有限会社c名義の預貯金通帳,その他帳簿類を押収して,本件公職選挙法違反事件の供与金の原資の解明のため,これらの精査を行ったが,第3次強制捜査の勾留延長満期である同月25日までに,原資を解明できなかった。(甲総ア第25号証の1054(乙国第42号証),同1065,証人A34)
(コ) アリバイ関係
a 原告X6が本件新年会及び本件懇親会に出席した事実の判明(平成15年7月24日)
本件現地本部は,平成15年7月24日,原告X6の陣営におけるいわゆるローラー作戦の従事者等から事情聴取をしている過程で,原告X6が同年2月8日の午後7時から午後10時にかけてmホテルで行われたs中学校昭和○年卒業生同窓新年会(本件新年会)に出席していた事実を把握し,その頃,原告X6が同年3月24日の午後6時から行われていた上小西自治会の総会及びその後午後7時30分から行われる予定であった上小西自治会の懇親会(本件懇親会)のうち,本件懇親会に出席して挨拶をしていた事実を把握した。
A73検事は,同年7月24日頃,原告X6が本件新年会及び本件懇親会に出席していた事実が判明したことの報告を受けた。
なお,mホテルは,旧志布志町の中心部に立地する。(甲総ア第25号証の1054,同1067,甲総ア第384号証,甲総ア第430ないし433号証,甲総ア第536号証の1)
b 1回目会合のアリバイに関する捜査(平成15年7月24日)
県警は,平成15年7月24日頃から本件新年会関連の捜査を行い,①本件新年会において,参加者からの有力な情報はなかったが,mホテルの給仕係2人が本件新年会の開始前にmホテルの支配人から,本件選挙に立候補予定の原告X6が出席するので,粗相のないようにとの指示を受けていたため,原告X6の行動を把握しており,それによると,午後7時50分頃から9時30頃までの間,姿が見えなかった旨の供述を得たこと,②本件新年会の出席者の1名が,mホテルまで原告X6の車両に同乗してきたが,その際,mホテルの裏側の駐車場に原告X6の車両を駐車した記憶である旨を供述し,他方で,原告X6が本件新年会の終了後に利用した代行運転手は,ホテル正面の駐車場から出発したと記憶している旨の供述をことから,原告X6が本件新年会を途中でいったん抜けて1回目会合に出席した後,本件新年会に戻ったものであり原告X6にアリバイは成立しないと結論づけた。(甲総ア第25号証の1054(乙国第42号証)の515ないし527,弁論の全趣旨)
c 4回目会合のアリバイ関係について(平成15年7月24日)
県警は,平成15年7月24日頃から本件懇親会関連の捜査を行い,関係者への事情聴取から,①上小西自治会の総会は,同年3月24日の午後6時から開始したが,これには原告X6は出席せず,その後,本件懇親会は,午後7時20分頃から開始され,冒頭近くの10分程度で挨拶を終え,本件懇親会の会場を立ち去った旨の供述を得て,原告X6が本件懇親会の席で挨拶をして,その後,4回目会合に出席したものであり原告X6にアリバイは成立しないと結論づけた。
A73検事は,1回目会合と4回目会合のアリバイに関し,県警が行った上記各捜査以上の補充捜査を求めず,同年8月12日頃までに,1回目会合と4回目会合に関する原告X6のアリバイの成否について,県警と同趣旨の判断をした。(甲総ア第25号証の1054(乙国第42号証),弁論の全趣旨)
(サ) オードブルの購入先関係(平成15年7月17日)
県警は,4回目会合に提供されたオードブルの購入先の裏付けを平成15年5月から行い,捜査する範囲を次第に拡大させていったが,同年5月25日までには,その特定に至らなかった。
県警は,その後,同年7月17日までに,f社又はその関連会社が運営する農場に近い鹿児島県志布志市松山町内にあるショッピングセンターカシマにおいて,同店の商品の注文・販売歴を記載した大学ノートに,4回目会合の開催可能日である同月24日に3000円のオードブルが3つ,2000円のオードブルが1つ販売されていた事実が記載され,ただし,販売先までは記載されておらず,その経営者に何度も事情聴取したが,同経営者は,それらのオードブルを原告X6に販売したものでは絶対にない旨を供述した。
なお,同店の従業員の中に,亡A1の親族がいることも判明した。(甲総ア第25号証の1065)
(シ) A117関係(A75検事による平成15年7月7日の取調べ)
A117は,平成15年7月7日,A75検事の取調べにおいて,①同年1月20日,原告X1からリハビリ費用として2万円の贈与を受けたこと,②同年2月20日頃,A145の自動車ローンを立て替えたことでA117が生活苦に陥ったため,原告X1から3万円の贈与を受けたこと,③A117の現在の勤務先への勤務を開始した日の前日である同年3月3日,通勤に必要なガソリン代及びたばこ代として2万円の贈与を受けたこと,④現在の勤務先の給料日である同月25日かその翌日である同月26日,借金の支払で給料がなくなったため,生活費として2万円の贈与を受けたこと,⑤これまで原告X1に頼み込んで小言を言われながらやっと経済的援助を得ていたのに,同年1月からの4回に限り,頼んだわけでもないのに原告X1から援助を受け,不思議に思ったことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月7日付け供述調書に署名・指印した。
A117は,同日,A75検事の取調べにおいて,①同年1月28日,簡易保険の特定保険金として約92万円を受け取ったが,このうち原告X1に対し,これまでの借金の返済の一部として5万円を交付し,A117の入院費を立替払いをしていたA146に対し,30万円を交付し,原告X9にパチンコ代として2万円を交付し,A145に小遣いとして5万円を交付し,ガソリン代のつけ払い分として6万円,A117とA145の携帯電話代として4万円,自動車のローンと任意保険料2か月分として4万4000円,基礎年金の2か月分として2万円,滞納していた住民税として3万5000円をそれぞれ支払い,その余の約30万1000円は全て生活費や遊興費に費消したこと,②同年3月上旬,社会保険事務所からの休業補償費として約42万円を受け取り,このうち30万円を原告X9の借金の返済に充て,A145の自動車ローンとして4万円を立替払いし,原告X9に2万円程度を貸し付け,その余の6万円は全て生活費と遊興費に費消し,この中から原告X1には一切金銭を交付していないことを供述し,その旨の記載がある同年7月7日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の526,同527)
(ス) 原告X5の所持金及び貯金
a 原告X5の所持金合計43万1441円
原告X5は,平成15年5月13日,1回目会合5月13日捜査事件で通常逮捕された際,所持金として,1万円札37枚,5千円札5枚,千円札35枚,500円硬貨1枚,100円硬貨7枚,50円硬貨3枚,10円硬貨7枚,5円硬貨3枚,1円硬貨6枚の合計43万1441円を所持していた。(乙国第123号証及び124号証)
b A137の積立郵便貯金36万0064円
原告X5の夫であるA137は,平成15年5月8日当時,据置期間1年毎月3万円の積立郵便貯金をしており,同日,満期となった積立郵便貯金が払い渡され,その払渡額は36万0064円であった。(甲総ア第453号証)
c 原告X5の所持金の原資
原告X5は,県警ないし検察官の取調べにおいて,原告X5が平成15年5月13日の通常逮捕時に所持していた43万1441円の原資を問われ,夫のA137名義の満期になった上記積立郵便貯金について払渡を受けた36万円と原告X5が従前から所持していた現金6万円ないし7万円の合計額であると回答した。(甲総ア第25号証の1087)
(セ) 4回目会合の開催日の特定不能
県警及びA73検事は,平成15年6月25日までには,原告らの供述及び裏付け捜査の結果等から,4回目会合の開催日を特定するに至らなかった。(甲総ア第25号証の1065)
ケ 原告X10
(ア) 任意捜査段階の取調べ時間
本件現地本部が行った本件公職選挙法違反事件に係る原告X10の取調べ時間のうち,原告X10が平成15年6月25日に第3次強制捜査で身柄拘束される以前のものは,以下のとおりである。
なお,C3弁護士は,同月13日,原告X10の代理人として,県警本部及び本件現地本部宛てに,原告X10に対する任意出頭による取調べが違法な捜査に当たるとして抗議するとともに,原告X10が今後の任意同行には応じない意向であること等を通知した。
① 同年4月下旬頃の午後7時頃から午後7時半頃までの間の30分程度
② 同年5月7日の午後2時頃から午後8時頃まで
③ 同月8日の遅くとも午後6時頃から午後8時頃まで
④ 同月10日の午前8時30分頃から午後6時頃まで
⑤ 同月14日の午前8時頃から午後6時頃まで
⑥ 同月16日の午前8時30分頃から午後6時頃まで
⑦ 同月19日の午前8時30分頃から午後6時頃まで
⑧ 同月26日の午前8時30分頃から午後5時頃まで
⑨ 同月27日又は同月28日の午前8時30分頃から午後6時頃まで
⑩ 同年6月6日の午前9時頃から午後8時頃まで
⑪ 同月7日の午前9時頃から午後8時頃まで
⑫ 同月8日の午前9時頃から午後8時頃まで
⑬ 同月12日の午前10時頃から午後5時30分頃まで
⑭ 同月23日の午前8時50分頃から午後8時15分頃まで(甲総ア第25号証の1088,甲総ア第385号証及び386号証,甲陳第9号証,原告X10本人)
(イ) X10書簡の記載内容
X10書簡には,平成15年6月28日欄に,「裁判所で否認したか認めたかを聞かれる。」,「20日間しかないからその間に認めてどんどん話をすすめるか裁判で争って長くなるかなど言われる。」との,同月29日欄に,「今の状態では家族,娘に大きな心配,迷惑をかけることになる。」,「証拠もたくさんあるから裁判官も勾留をしたんです。あなたは裁判官,検事,弁護士にうそをついたことになると言われる。」,「このままだったら,娘やじいちゃんばあちゃんに迷惑が及びますよ。娘の幸せのためにも早く話をすすめた方があなたのためですよといわれる。」,「娘の幸せをこわす権利があなたにはないでしょう。」,「今度は大声でどなりながらあなたは母親のクズだそれでも人並の母親といえるのか。」,「娘にこんなに心配かけて。」,「X10,自分の目を見ろ,目が見れないのか うそをついているから目が見えんとやろ。」,「とにかく早く事件をすませるのがみんなのためだ,裁判まで引っぱってなんになるんだなんの得があるんだばっかり。」,「自分がもらっていないんだったらその説明をしなさいとしつこくいわれる。」,「裁判にいく人がそんなにだまっていたらどうして検事と戦えるの,弁護士が戦うんじゃなくて自分が戦うんだよ,最悪の方向にだんだん行って大変なことになるよ,あなたの回りの人達にただいな迷惑が行くだろう。」との,同月30日の欄に,「無実の人がどうして自分の名前をあげた人達をうったえないのか,自分だったら訴える,あなたにはそんな所が全然ないじゃないか。やっぱり嘘をついているじゃないか」との,同年7月1日の欄に,「早く法にのって,20日間で手続きを終らせてあとは部屋でゆくりできるじゃないか。」,「私が自分にまかせれば一生懸命調書を書くから裁判で検事に証拠を一つ一つ言われなくてもいいし調書を読むだけだかららくでいい。」,「お父さんがあったと言っているのに反対のことを言ってお父さんの足を引っぱっている。」,「今も100人位の刑事が志布志に来て証拠を1つ1つ集めている。ますます悪い立場になっている。」との,同月3日の欄に,「とにかく私の立場がだんだん悪くなっている。この3月下旬の1つだけ認めてくれれば早く調書もとれるし勾留期間内に終えて裁判では,らくをしていれるとの説得をされる。」との,同月4日の欄に,「私が認めないおかげで何回もじいちゃんばあちゃんの所やA148の所に刑事さんが行っているはずだと私をおどすありさまです。今度はこういう事もいいました。あなたには他にもあるんだからとか言い出して来ました。」,「私が否認しているせいで私の回りの人達に迷惑がかかるのが心配です。今度は姉の所まで調べるのではと思うしA147も遠いけど大丈夫だろうか。私が認めた時にはそういう心配がなくなるとのことを刑事さんは言います。」との,同月5日の欄に,「悪い状態の中でどうして裁判官の前で弁解できるか,あなたにはできないよ。会合もあったのに皆なが認めているのに,ひとりだけないと言ってみたり,お父さんと反対のことをいったり誰もあなたのこと信じる人なんている訳がない。早く調書を書いて早く終わらせてらくになろうよ。自分達がついているから大丈夫だよなどと言っています。」との,同月6日の欄に,「やっぱり夫婦は同じ方向に行かないと弁護士さんだってやりにくいと思う。弁護士さんに頼んでみたらどうですか。皆いろんなことを言っているからこうなったら勝目はないよ。あなたは絶対に損をするよとか言われました。」,「説得の嵐が朝から続いています。自分の名前何百回も呼ばれたような気がします。それだけ刑事さんも必死だなあと感じます。刑事さんの話では言ってないのは私だけだよとか言っています。」との,同月12日の欄には,「今日は嘘発見機にかけられました。午前中はその検査で終わりでした。」,「嘘発見機の結果が警察のゆうりみたいだよと言われる。細い所はまだわからないけどということです。」,「何人もの人達が私の名前をあげているそうです。あなたの立場はそうとうに不利,だれが見ても本当のことを言っているのは誰かすぐわかる。自分が有罪になるとわかっていて嘘を言う人はいない。あなたがどんなにもらっていないと言っても誰も信じる人なんていないよ。あんなに大きな法廷で真実が明らかになって大くの人達の前で恥をかくのは目に見えているというのです。弁護士はどんなふうに考えているんだろうね。お父さんはもらったと言っているしあなたはもらっていないと言っているしどんなに頭のいい弁護士か知らないけど,どうやって裁判をやるつもりなんだろう。」,「あなたが認めれば,今否認しているよりは早く帰ることができる 裁判官も反省していると見てくれる だからよくなる。」との,同月13日の欄に,「X8さんがあなたも会合にいたと言っている。お金をもらったといっている。具体的に話をしている。誰がみてもあなたが嘘を言っているとしか見えない。」,「あなたが自分はそこにいないと言うならその理由を言ったらどうなんだ。そしたらそのうらをとってあなたの無実を証明してあげるからとそのくり返しです。」との,「いつまでもその態度で帰った時に表彰状でももらえるのか。もらっていないのだったらその理由を納得できるように説明したらいいじゃないか。(大声で)もらっていない,会合はないだけでは理由にならないそうです。自分達のいいたいほうだいです。」,「今日は大声の連続です。あなたはひとりで刑事に負けたくない負けたくないと思っているだろうけどあなたはもうどうしようもないんだよ。あなたの言っていることが嘘なんだから。誰が自殺までして嘘を言う人がいると思うか。自分が有罪になるとわかっていて嘘をいう人はいないでしょう。(X4さんのことを言っています。)そして本当のことを言ってるX8さんやあんたのお父さんのことはどう思っているとか聞かれて人のことは知りませんとか言うと,あんたはお父さんのことを人と言うのかと今度は刑事と書記管ふたりで私をののしりかたがすごかったです。あなたには良心というものがないとか,子供や孫に嘘をついて申し訳ないという気持ちはないのかと私は悪人よばわりです。」との記載がある。(甲総ア第387ないし390号証)
(ウ) 原告X10の担当取調官
なお,原告X10の第4次強制捜査以降の県警の担当取調官は,平成15年7月9日までがA31警部補及びA41巡査部長であり,同月10日からがA19警部補及びA32警部補であった。(甲総ア第266号証,甲総ア第267号証,甲総ア第270ないし273号証,甲総ア第275号証,甲総ア第278ないし280号証)
コ 原告X9及びA88の釈放(平成15年7月17日)
A73検事は,第4次強制捜査に係る事件のうち,原告X9及びA88に対するものについて,処分保留のまま,平成15年7月17日,原告X9及びA88の身柄をそれぞれ釈放した。(甲総ア第234号証,甲総ア第235号証,甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
(17)  4回目会合事件に関する第2次起訴(平成15年7月17日)
ア 4回目会合事件に関する原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対する起訴
(ア) 第2次起訴1(平成15年7月17日)
A73検事は,平成15年7月17日,裁判所に対し,原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8を被告人として,このうち,原告X11,原告X10及び原告X8については身柄付きで,4回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第266号公職選挙法違反被告事件。第2次刑事事件1。)をした。
第2次起訴1は,本件刑事事件のうち,第1次刑事事件に次いでされたものである。(甲総ア第25号証の26)
(イ) 第2次起訴1の公訴事実の要旨
第2次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8は,いずれも本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X6及び原告X7から,本件選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年3月下旬頃,X1宅において,各自現金10万円の供与を受けたというものである。(甲総ア第25号証の26)
イ 1回目会合事件及び4回目会合事件に関する原告X6及び原告X7に対する起訴(平成15年7月17日)
(ア) 第2次起訴2(平成15年7月17日)
A73検事は,第2次刑事事件1の公訴提起と同日である平成15年7月17日,原告X6及び原告X7を被告人として,1回目会合事件及び4回目会合事件について公職選挙法違反の罪で身柄付きで公訴提起(当庁平成15年(わ)第269号公職選挙法違反被告事件。第2次刑事事件2)した。(甲総ア第25号証の2705)
(イ) 第2次起訴2の公訴事実の要旨
第2次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,①原告X6は,原告X1と共謀の上,自己を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれに現金6万円ずつの合計30万円を供与するとともに,いずれも立候補届出前の選挙運動をし,②原告X6及び原告X7は,共謀の上,前同様の目的をもって,いまだ立候補届出のない同年3月下旬頃,X1宅において,同選挙区の選挙人である原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1,原告X5,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金10万円ずつの合計100万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をしたというものである。(甲総ア第25号証の2705)
ウ 求令起訴(平成15年7月17日)
また,A73検事は,平成15年7月17日,第2次刑事事件1において,被告人のうち,原告X1,亡A1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び原告X9について,裁判所に対し,裁判官の第2次起訴1の起訴後勾留の職権発動を求める,いわゆる求令起訴を行った。(甲総ア第25号証の26,弁論の全趣旨)
エ 接見等の禁止の請求(平成15年7月17日)
A73検事は,平成15年7月17日,第2次刑事事件の被告人12名全員について,裁判官に対し,第2次起訴の起訴後勾留について,接見等の禁止を請求した。(甲総ア第25号証の1117,同1172,同1238,同1294,同1367,同1479,同2749,同2824,同2950,同2973,同3008,同3031)
オ 勾留状の発付及び接見等禁止決定(平成15年7月17日)
原告X1,原告X2,原告X3及び原告X4は,平成15年7月17日,上記各起訴後勾留に際し,裁判所で行われた勾留質問において,公訴事実を認める旨を陳述した。
亡A1,原告X5及び原告X9は,同日,上記各起訴後勾留に際し,同所で行われた勾留質問において,公訴事実を否認する旨をそれぞれ陳述した。
裁判官は,同日,第2次刑事事件1において,被告人10名全員につき,いずれも勾留状の発付及び接見等禁止決定をし,第2次刑事事件2において,被告人両名に,いずれも,第1回公判期日の日の午後10時までの間の接見等禁止決定をした。(甲総ア第25号証の1115,同1116,同1118,同1170,同1171,同1174,同1236,同1237,同1239,同1292,同1293,同1295,同1365,同1366,同1368,同1477,同1478,同1480,同2750,同2824,同2948,同2949,同2951,同2974,同3009,同3032)
カ 第1次起訴の公訴事実のうち原告X1と原告X6の共謀に関する訴因変更(平成15年7月17日)
また,検察官は,平成15年7月17日,裁判所に対し,第1次起訴の公訴事実のうち,原告X1が行ったとされる公職選挙法違反の行為の訴因について,原告X1が原告X6と共謀の上で行ったものとし,罰条に刑法60条を追加する訴因変更及び罰条の追加の本件訴因変更請求をした。(甲総ア第25号証の68)
キ 第2次起訴に係る検察官の検討内容
(甲総ア第25号証の1026,同1065,同1109,同1117,同1121,同1152,同1172,同1177,同1238,同1243,同1286,同1294,同1299,同1346,同1367,同1371,同1461,同1479,同1483,同2749,同2824,同2950,同2954,同2973,同2977,同3008,同3031,同3035,甲総ア第429号証の63,同304,乙国第104号証,乙国第105号証,弁論の全趣旨)
A73検事は,第2次起訴をするに当たり,証拠の評価につき,自白をしている原告X1,亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X3の6名の自白内容が概ね一致していることなどのほか,後記(ア)ないし(ウ)のとおり,第4次強制捜査に着手する前の平成15年6月25日時点から新たに判明した各事情及びそれに対する評価並びに上記6名と弁護人との接見状況及び上記6名が居住する四浦校区の特殊性を踏まえ,上記6名の自白の信用性について,有罪を獲得できる見込みがあると判断した。
(ア) 平成15年6月25日以降に判明した事項
a 携帯電話の通話履歴,タイムカード等の資料関係
被疑者の携帯電話の通話履歴,タイムカード等の資料と被疑者らに対する記憶喚起により,4回目会合の開催日として,証拠上,平成15年3月24日と特定することができた。
b 平成15年3月24日のオードブル4つの販売歴関係
オードブルの入手先について,f社又はその関連会社が運営する農場に近いショッピングセンターカシマにおいて,平成15年3月24日にオードブル4つの販売歴があり,同店の経営者から販売先は,原告X6ではないとの供述を得ていたが,同店の従業員の中に亡A1の親族がいたことから,同店の経営者の供述が虚偽である可能性が高く,同店がオードブルの入手先である可能性が高いと判断した。
c 本件貯金箱関係
原告X1が,供与金の釣り銭を本件貯金箱に入れていたというような供述について,裏付け捜査を行った結果,本件貯金箱に合計で11万円程度の現金が入っていたことが判明した。
d 原告X8の親族への1万円供与の供述の信用性
原告X8が,4回目会合の受供与金10万円のうち,半額の5万円を原告X8の親族に1万円ずつ供与した旨の供述をし,県警において,それら供与先に対し事情聴取をしたところ,全ての供与先から否認され,原告X8の供述の裏付けは取れなかったものの,A73検事は,供与先とされた者にとっては,自己の犯罪事実についての供述であって,いずれも虚偽の否認をする動機があり,他方,原告X8があえて虚偽の供述をして親族を罪に陥れる動機はないこと,原告X8の同供述がなかなか現れなかったという過程に照らしても,原告X8が悩んだ末に供述したものとみて,信用性が肯定できると判断した。
e 原告X6の危機感による4回の現金の供与
被疑事実が,概ね同じ受供与者に対し,4回にわたって多額の現金が供与されている点について,被疑者らの供述から,①1回目会合の際,原告X6が,次は奥さんが見たいと参加者にせがまれ,2回目会合を開くことになったとの供述を得ることができ,②3回目会合に関しては,原告X6の関係者の供述の中に,同年3月中旬の原告X6の票読みで,旧志布志町内で7000票以上獲得できなければ当選は困難であるが,同時点で6000票か6500票程度しか確保できていないことに危機感を持っていたとの趣旨の供述を得ることができ,他方,被疑者らの供述から,3回目会合で1票でも多くの票集めを求める原告X6らに対し,参加者の一人が四浦校区はA2県議派が固めているので厳しいなどと告げたとの供述を得たことから,原告X6の危機感が3回目会合及び4回目会合の開催につながったと推測することが可能であったこと,③四浦校区には,草を好きなだけ刈れるように,お金をまけばいくらでも票が買えるという意味での草刈り場という選挙風土があるという学校の教職員の供述及び被疑者の供述を得たことから,4回の会合を開催し,同一の参加者に多額の現金を供与したことが合理的に説明ができると評価した。
f その他
自白している被疑者らに対し,被疑事実を自白しているのはA2県議派の陰謀であるか質問したところ,全員が否認した。
上記6名の各自白供述につき,取調官の誘導あるいは取調官への迎合による可能性があるかという点について,同各自白供述供述の内容が激しく変遷し,不一致部分も多いことに照らして,取調官の誘導,あるいは取調官への迎合によりなされることは考えにくいと判断した。
(イ) 自由な弁護士の接見
本件刑事事件では接見の指定を終始一貫して行っていないにもかかわらず,被疑者は一部の者を除いて弁護人との接見した後も一貫して自白しており,自白が全体として,自由な弁護士の接見を経ても揺るぎがないものとみることができ,自白の信用性及び任意性が基礎付けられると判断した。
他面において,否認している被疑者の供述に,具体性がなく,信用することができないと評価した。
(ウ) 四浦校区の特殊性
A73検事は,第2次起訴をした平成15年7月17日,第2次刑事事件に係る原告らの起訴後の勾留に関し,接見禁止等を請求した。A73検事は,亡X12を除く原告らに係る同接見禁止等の請求において,罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由として,①わずか6世帯しかないa3集落内のX1方において行われた現金買収の事案であるところ,a3集落は,同じく四浦校区に属するa4集落,a1集落,a2集落の者らとは緊密な関係にあるものの,それ以外の者に対しては極めて閉鎖的排他的な集落であること,②自白している被告人が,自己及び家族の集落における立場が悪くなること,ないし,家族の中における自分の立場が悪くなることを憂慮して否認に転じるおそれが大きいことなどの同事案の特殊性があることを指摘した。
A73検事は,同月29日,原告X9,原告X10,原告X11,原告X8の第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,同月31日,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,亡A1の第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での(ただし,原告X3は第2次刑事事件1のみについての)各起訴後勾留につき,それぞれ接見禁止等を請求し,それらの請求書において,接見禁止等を請求する理由として,関係各証拠を総合すると,原告らの居住する四浦校区(a3集落,a4集落,a1集落,a2集落)は,選挙のたびに金が飛ぶいわゆる「草刈り場」(現金を打てば誰でも票が取れる)であり,それだけに現金受供与の事実を捜査官に話す者が出ると,それ自体を密告と捉え,密告者に対しては集落ぐるみで圧力をかけるなどして,事実を否認させ,これに従わない者に対しては村八分にするなど裏切り者を絶対に許さない極めて閉鎖的排他的な傾向が顕著であること,四浦校区の居住者は,家族から密告者が出れば,最悪の場合,家族ごと村八分にされかねず,家族の中から密告者が出ないようにするため家族も必死であることなどが認められることなどを指摘した。
(18)  2回目会合等7月23日捜査事件(原告X6及び原告X7)
ア 逮捕(平成15年7月23日)
県警は,平成15年7月23日,2回目会合事件及び3回目会合事件に関し,原告X6及び原告X7につき,本件選挙に際し,原告X6が曽於郡区に立候補する決意を有していたことから,原告X6,原告X7及び原告X1において共謀の上,原告X6に当選を得る目的をもって,原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,原告X6に対する投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬等として,それぞれに現金5万円を供与し,同年3月中旬頃,原告X6を当選させる目的をもって,X1宅において,同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,前同様の趣旨で,それぞれに現金5万円を供与し,もって一面立候補届出前の選挙運動をしたとの被疑事実でそれぞれ通常逮捕した(2回目会合等7月23日捜査事件)。(甲総ア第25号証の2772,同2839)
イ 送致(平成15年7月24日)
県警は,平成15年7月24日,2回目会合等7月23日捜査事件をそれぞれ検察官に身柄付き送致をした。なお,A73検事は,同日頃,原告X6が本件新年会に出席していたとの情報を得た。(甲総ア第25号証の2772,同2839,甲総ア第25号証の1067,甲総ア第118号証,甲総ア第187号証,弁論の全趣旨)
ウ 勾留請求(平成15年7月24日)
A73検事は,平成15年7月24日,裁判官に対し,上記両名について勾留及び接見等の禁止を請求した。(甲総ア第25号証の2773,同2774,同2840,同2841,弁論の全趣旨)
エ 勾留(同年7月24日)
原告X6及び原告X7は,平成15年7月24日,上記各勾留に際し,裁判所で行われた勾留質問で,被疑事実を否認する旨をそれぞれ述べた。
裁判官は,各勾留状の発付及び接見禁止等決定を行い,A73検事は,同各勾留状を執行し,その後,上記両名は,裁判官の各勾留期間延長決定を経て,同年8月12日まで身柄をそれぞれ拘束された。(甲総ア第25号証の2773ないし同2775,同2840ないし同2842,甲総ア第119号証,甲総ア第188号証,弁論の全趣旨)
オ 2回目会合,3回目会合に係る供述経過等と買収資金の原資の裏付けの不存在(平成15年6月28日から同年8月12日まで)
(ア) 原告X6関係(平成15年7月23日から同年8月12日まで)
原告X6は,平成15年7月23日,2回目会合等7月23日捜査事件で通常逮捕後,同日のA19警部補及びA32警部補の弁解録取手続,同月24日のA74検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X6は,同日から同年8月12日までの取調べにおいて,いずれも被疑事実を否認した。(甲総ア第116号証,甲総ア第118ないし135号証)
(イ) 原告X7関係(平成15年7月23日から同年8月12日まで)
原告X7は,平成15年7月23日,2回目会合等7月23日捜査事件で通常逮捕後,同日のA29警部補及びA53巡査部長の弁解録取手続,同月24日のA74検事の弁解録取手続,同日の裁判官の勾留質問手続のいずれにおいても,被疑事実を否認した。
原告X7は,同日から同年8月12日までの取調べにおいて,いずれも被疑事実を否認した。
原告X7は,同月11日,有限会社cにおいて,原告X6個人が所有又は有限会社cが賃借した土地を利用して自主耕作して取得した甘藷をf社が契約農家から仕入れた甘藷とともに焼酎製造会社に販売していたことに関連して,有限会社cの自主耕作分の甘藷の生産量を帳簿上に反映させていなかったこと及びf社が甘藷の仕入先の農家から,各種申請書類の作成等の便宜のため,同仕入先の農家の印鑑を預かり保管していたことを利用して,実際には,自主耕作した甘藷であるにもかかわらず,f社の仕入先の農家の名義を使用して,f社が農家から仕入れたかのように架空仕入を計上し,その支払名目で,平成14年10月から同年12月末までの間に,合計約150万円ないし160万円程度の現金を不正に捻出していた旨を供述し,県警が,その裏付け捜査を行ったが,架空仕入を記載したf社の仕切帳及びf社が上記仕入先の農家から預かり保管していた印鑑を発見したものの,自主耕作分の甘藷に係る帳簿類,伝票類の発見に至らず,十分な裏付けを得ることはできなかった。県警及び検察官は,その他,本件買収会合での原資となる裏付けを得ることはできなかった。
原告X7は,上記架空仕入によって不正に捻出した現金の使途について,従業員のボーナス等に充てた旨を供述した。(甲総ア第25号証の1059,同1065,同1082,甲総ア第185号証,甲総ア第187ないし199号証,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告X3関係(平成15年6月28日から同年8月11日まで)
a A18警部補による平成15年6月28日の取調べ
原告X3は,平成15年6月28日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,①2回目会合について,開催日が同年2月8日から2月14日の間であり,原告X1から電話連絡を受けて原告X3も出席し,出席者は他に,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,A112,亡A1,原告X2,原告X4,亡X12,原告X5であり,午後7時30分頃から中江の間で始まり,A5,原告X6,原告X7が挨拶をして,その後,こたつの間に移動して宴会になり,ビール,焼酎,ジュース,さきいか,漬け物,お菓子等が出され,宴会の最中に原告X1から封筒に入った現金5万円の供与を受け,2回目会合は午後9時頃に終了したこと,②2回目会合において,原告X3が原告X1から封筒を受け取り,出席者に渡したことはなかったこと,③3回目会合は,開催日が同年2月下旬から3月中旬で,原告X1から電話連絡を受けて原告X3も出席し,他の出席者は,上記2回目会合の出席者と同一であり,午後7時30分頃から8畳の間で始まり,原告X6とA5が挨拶をして,その後,宴会になり,ビール,焼酎,ジュース,さきいか,お菓子などが出され,宴会の最中に原告X7から封筒に入った現金5万円の供与を受け,原告X2が途中で先に帰り,会合は午後9時頃に終了したことなどを供述し,その旨の記載がある同年6月28日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の159)
b A77副検事による平成15年7月9日の取調べ
原告X3は,平成15年7月9日,A77副検事の取調べにおいて,2回目会合の状況について,①2回目会合は,1回目会合から10日くらい経った同年2月18日前後に開催されたこと,②原告X1から2回目会合の連絡を受け,原告X6が来る時間は午後7時30分であると聞いたこと,③原告X3は,午後7時過ぎ頃,X1宅に到着し,他の四浦校区側の参加者は,原告X3と原告X1夫妻,A112のほか,原告X2,亡A1,原告X4夫妻,原告X5,亡X12であり,原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5であったこと,④亡X12は参加していなかったかもしれないこと,⑤会合は中江の間で行われ,テーブルは設置されておらず,参加者が円座になって始まり,A5,原告X6,原告X7の順に挨拶をしたこと,⑥原告X6は,その挨拶の中で,前回選挙と違い,本件選挙では厳しい選挙戦になっていることなどを話したこと,⑦その後,こたつの間で宴会になり,さきいか,ピーナッツなどのつまみとビール,焼酎などの飲物が出され,原告X6らは会合が始まって30分か40分で帰宅し,それから10分くらいしてから,原告X1が現金入りの封筒を配ったこと,原告X3が配ったりはしていないこと,⑧封筒には現金5万円が入っていたことなどを,3回目会合について,①3回目会合の開催日は,3月中旬で2回目会合からは間が空き,4回目会合とは1週間くらいしか間がなかったこと,②原告X1から電話で3回目会合の連絡を受け,開始時間は午後7時30分であると聞いたこと,③原告X3は,午後7時過ぎ頃,X1宅に到着し,他の四浦校区側の参加者は,原告X3と原告X1夫妻,A112のほか,原告X2,亡A1,原告X4夫妻,原告X5,亡X12であり,原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5であったこと,④会合は中江の間で行われ,参加者が小さなテーブルを囲んで座り,A5,原告X6,原告X7の順に挨拶をしたこと,⑤その後,中江の間の小さなテーブルをこたつの間のこたつの近くに移動させて宴会になり,宴会が始まってすぐくらいに原告X7が原告X3に近づき,少しですけどと言いながら,茶封筒を差し出してきて,原告X7は,その後,参加者全員に茶封筒を配って回ったこと,⑥原告X2が用事があるといって早めに帰宅したこと,⑦原告X7が参加者に封筒を配り終え,しばらくすると原告X6らは帰宅し,原告X6らがX1宅にいた時間は,30分か40分くらいだったこと,⑧封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載のある同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の608)
c A18警部補による平成15年7月20日の取調べ
原告X3は,平成15年7月20日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,従前の取調べで同年2月8日から同月14日の間と供述していたが,1回目会合と2回目会合をたて続けに行った記憶がないので,明確な根拠はないが2月下旬頃と訂正すること,②会合の連絡は,原告X1から電話で受けたという記憶であるが,記憶違いで原告X6かその関係者から受けたかもしれないこと,③参加者は,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であり,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4夫妻,原告X13,原告X5,原告X3であり,従前の取調べで原告X8を参加者として挙げていないのは勘違いであって,実際には原告X8が参加しており,従前の取調べで原告X5ではなく亡X12を参加者として挙げたのは,原告X13が2回目会合か3回目会合のどちらかには参加していて,1回目会合で亡X12と原告X9が口論になったので,2回目は原告X13が出席したのではないかと思うがはっきりしたことは分からないこと,④会合は午後7時30分頃から中江の間で始まり,A5,原告X6,原告X7の順に合計10分程度の挨拶をし,亡A1が遅れて到着し,その後宴会になったこと,⑤宴会には天ぷら,ピーナッツ,さきいか,漬け物,缶ビール,焼酎等が出され,原告X6,原告X7,A5は,しばらく宴会に参加して,午後8時頃帰宅したこと,⑥原告X1は,原告X6の帰宅後,茶封筒の束を持ってきて,原告X3に茶封筒数通を渡して参加者に配布するよう依頼し,原告X3と原告X1で手分けして参加者に配布したこと,⑦従前の取調べで,原告X3が封筒を配布したことはないと供述したのは,罪が重くなると思ったからであること,⑧封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の859,甲総ア第429号証の172)
d A18警部補による平成15年7月21日の取調べ
原告X3は,平成15年7月21日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,3回目会合に関し,①開催日は,従前の取調べで同年2月下旬頃から同年3月中旬頃と供述していたが,4回目会合と開催された日にちが近く,同年3月21日のa2集落小組合の総会よりも前であったので,同月中旬頃と訂正すること,②参加者は,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であり,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4夫妻,亡X12,原告X5,原告X3であったこと,③会合は午後7時30分頃から中江の間で始まり,A5,原告X6の順に挨拶をし,原告X7は,原告X6と一緒に頭を下げるなどし,亡A1が遅れて到着し,その後宴会になったこと,④宴会では,ピーナッツ,ウインナー,漬け物,缶ビール,焼酎等が出されたこと,⑤原告X6,原告X7,A5は,しばらく宴会に参加し,その途中,原告X6,A5,亡A1,原告X3が選挙情勢について話し合い,A2県議派が四浦校区で後援会名簿の署名を集めていることを知ったA5が,誰か協力してくれる人はいないかと述べたのに対し,亡A1が四浦校区はA2県議の支持で固まっているので難しいと回答したこと,⑥これに対し,A5がそこを何とかならないだろうかと重ねて依頼して,原告X6も,1票でも多く票を見つけて下さいなどと述べていたこと,⑦原告X6,原告X7,A5は午後8時頃帰宅したこと,⑧原告X1は,原告X6の帰宅後,茶封筒の束を持ってきて,原告X3に茶封筒数通を渡して参加者に配布するよう依頼し,原告X3と原告X1で手分けして参加者に配布したこと,⑨参加者の中に原告X5が本当に参加していたかについて,原告X3の記憶では参加していたと思うこと,⑩原告X2が用事があるから先に帰る旨を述べており,先に帰宅したと思うが,買収金は少なくとも原告X1か原告X6の関係者の誰かが原告X2にも渡しているはずであると思うこと,⑪封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の861,甲総ア第429号証の174)
e A18警部補による平成15年7月25日の取調べ
原告X3は,平成15年7月25日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,3回目会合に関する原告X3の供述が,会合の場所について8畳の間であり,供与者が原告X7であると間違った供述をしたのは,①8畳の間の壁にA112の妻の遺影が飾ってあったのを4回目会合以外の本件買収会合の最中に見た覚えがあり,1回目会合と2回目会合が中江の間で行われたので,残る3回目会合が8畳の間で行われたと思ったこと,②原告X1から8畳の間で供与された覚えはなく,4回目会合は原告X6から供与されたが,原告X6から供与されたのはこの1回だけという記憶であり,A5から供与された記憶がないので,そうだとすると3回目会合は原告X7から供与された以外にいないので,3回目会合が原告X7に供与されたと思うようになったことがそれぞれ原因であることを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の177)
f A80検事による平成15年8月11日の取調べ
原告X3は,平成15年8月11日,A80検事の取調べにおいて,①2回目会合の開催日について,同年2月下旬だが,同月21日は買い物からの帰りが遅くなり,同月28日は体調不良で通院したことから,上記両日以外の日であること,②3回目会合の開催日について,同年3月中旬だが,同月14日と同月20日は別の予定があり,同月15日は夕方に自宅で宅配便の配達を受けた日であり,同月17日及び同月18日はシルバー人材センターの仕事があり,仕事中にその後の予定のことを気にしなかったのでこれら両日でもないので,上記同月14日,同月15日,同月17日,同月18日,同月20日以外の日であることなどを供述し,その旨の記載がある同年8月11日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の616)
(エ) 原告X4関係(平成15年7月9日から同年8月10日まで)
a A76副検事による平成15年7月9日の取調べ
原告X4は,平成15年7月9日,A76副検事の取調べにおいて,①2回目会合の開催日を同年2月中旬頃と供述していたが,同月下旬かもしれないこと,②2回目会合は,午後7時頃,原告X8とともにX1宅に行き,原告X8が勤務先の漬け物を持参したこと,③2回目会合は,午後8時頃,原告X6,原告X7,A5がX1宅に到着したこと,④2回目会合の四浦校区側の参加者は,原告X4夫妻,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X3,原告X5,亡X12,亡A1であったこと,⑤2回目会合では午後9時頃,原告X6,原告X7,A5が帰宅し,その頃,原告X5が帰宅し,原告X1が原告X5に封筒を渡していたこと,⑥原告X1は,午後10時頃,宴会中の参加者に現金5万円の入った封筒を配ったこと,⑦3回目会合の開催日はそれまで同月下旬頃と供述していたが同年3月上旬頃かもしれないこと,⑧3回目会合は,午後7時30分頃,原告X8とともにX1宅に行ったこと,⑨3回目会合の参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X4夫妻,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X3,原告X5,亡X12,亡A1であったこと,⑩3回目会合は,午後8時前まで原告X6らの挨拶があり,その後,宴会になったこと,⑪2回目会合では午後8時半過ぎ頃,原告X6,原告X7,A5らが帰宅し,その頃,原告X5も帰宅し,原告X1が原告X5に封筒を渡していたこと,⑫原告X1は,午後9時30分頃,宴会中の参加者に現金5万円の入った封筒を配ったこと,⑬原告X2が3回目会合で先に帰ったという記憶はないことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の636及び637,弁論の全趣旨)
b A15警部補による平成15年7月20日の取調べ
原告X4は,平成15年7月20日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,原告X4が牛の競り市で子牛を売却した同年2月24日の翌日である同月25日頃という記憶であること,②原告X4は,2回目会合には,午後7時頃までに夕食と入浴を終えて,原告X8と自宅を出てX1宅に向かい,X1宅に着いたときは自分たちが一番乗りだったこと,③出席者は,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X4夫妻,原告X2,亡X12,原告X5,亡A1,原告X3であり,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であったこと,④会合は,午後7時30分から始まり,中江の間で10分程度,A5,原告X6,原告X7の挨拶を聞き,その後,こたつの間に移動して宴会になったこと,⑤宴会では,缶ビール,焼酎,落花生,さきいか,漬け物などが出され,盛り皿料理や刺身は出ていなかったこと,⑥原告X6及びその関係者は,午後8時過ぎに帰宅していったこと,⑦原告X1は,原告X6の帰宅後,宴会を続ける参加者に対し,現金入りの封筒を配布し,原告X5も先に帰宅しようとしたことろを原告X1が呼び止めて現金入りの封筒を配布していたこと,⑧封筒には5万円の現金が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の261)
c A15警部補による平成15年7月21日の取調べ
原告X4は,平成15年7月21日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,3回目会合に関し,①開催日は,同年3月2日から同月15日頃までの間という記憶であること,②原告X4は,3回目会合には,午後7時過ぎ頃までに夕食と入浴を終えて,原告X8と自宅を出てX1宅に向かい,X1宅に着いたときは自分たちよりも原告X2と亡X12が先に到着してこと,③出席者は,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X4夫妻,原告X2,亡X12,原告X5,亡A1,原告X3であり,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であったこと,④会合は午後7時30分頃から始まり,中江の間で10分程度,A5,原告X6,原告X7の挨拶を聞き,その後,こたつの間に移動して宴会になったこと,⑤宴会では,缶ビール,焼酎,落花生,さきいか,漬け物のほか,さつまあげとウインナーなどが出されたこと,⑥原告X6及びその関係者は,午後8時過ぎに帰宅し,原告X5も早めに帰宅し,他の参加者も早めに帰宅した者がいたこと,⑦原告X1は,原告X6の帰宅後,宴会を続ける参加者に対し,現金入りの封筒を配布したこと,⑧早めに帰宅した参加者から,現金を受け取らなかったと不平不満があったとも聞かないし,参加者はそもそも現金をもらいに来ているので,全員が現金を受け取っているはずであること,⑨封筒には5万円の現金が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月21日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の262)
d A15警部補による平成15年8月4日の取調べ
原告X4は,平成15年8月4日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,本件買収会合の出席者に関し,①原告X4が,同年5月6日の午前8時頃,原告X8と共に,軽トラックで四浦バス停留所近くの資源ごみのごみ収集所に空き缶などのゴミを捨てに行った際,原告X5に会ったが,原告X5は,原告X8がゴミ袋を荷台から出してゴミ収集所に捨てているのを待っている間に,怖い顔をして原告X4に近づき,余計なことを話さないでねという趣旨のことを告げてきて,原告X4が,原告X5のことは話していないという趣旨の返答をし,丁度,原告X8が軽トラックに戻ってきたところで,その会話は終わったこと,②原告X4は,原告X5からゴミ収集所で口止めをされた話題は,原告X4が2回目に逮捕された後の同年6月上旬の取調べで供述したが,その際に調書にしてもらったかどうかは覚えていないことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月4日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の270)
e A76副検事による平成15年8月4日の取調べ
原告X4は,平成15年8月4日,A76副検事の取調べにおいて,原告X5から同年5月6日頃に口止めをされた経緯について,同年8月4日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの上記供述内容に概ね沿うが,原告X5から口止めされた際,原告X8も助手席に乗っていたという点で異なる供述をし,その旨の同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の623)
f A15警部補による平成15年8月6日の取調べ
原告X4は,平成15年8月6日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,2回目会合に関し,①亡X12ではなく原告X13が参加していたことはなく,原告X13は,原告X4の父の従姉に当たるが夜はほとんど出歩かないので,本件買収会合には1度も出席していないこと,②A5が,本件買収会合への人の集まりが悪いという発言をしたことは覚えていないこと,③2回目会合では刺身や盛り皿料理は出ていないこと,④参加者に茶封筒を配布していたのは,原告X1だけであるかと思うが,原告X4は,原告X1から受け取ったが,他の者が誰から受け取ったか正確には覚えていないこと等を供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の271)
g A15警部補による平成15年8月7日の取調べ
原告X4は,平成15年8月7日,A15警部補及びA69巡査の取調べにおいて,2回目会合での受供与金の使途に関し,同年2月25日にファミリーマート見帰店で支払った1万5410円の原資にしたこと及び残額はその後の小遣い銭やガソリン代に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月7日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の941)
h A76副検事による平成15年8月9日及び同月10日の取調べ
原告X4は,平成15年8月9日,A76副検事の取調べにおいて,2回目会合に関し,同年7月20日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの上記供述内容に概ね沿う供述をし,その際,①原告X4は,同年2月24日,牛の競り市で子牛を競りに出し,37万2000円で売却し,2回目会合の宴会で亡A1にその話をしたところ,亡A1は,同月22日に子牛を競りに出して47万円か48万円で売れたという話を聞き,飼育方法などについて教えてもらったことなどを新たに供述して,その旨の記載がある同年8月9日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同月10日,A76副検事の取調べにおいて,2回目会合に関し,①2回目会合で子牛の売却代金の話をしたのは間違いなく,子牛の売却代金が決まったのは同年2月24日であるが,その日は亡A1と会った記憶はないこと,②同月25日に携帯電話代を支払っているがこの原資が何であったかはよく思い出せず,同月24日に受け取った給料から支払った可能性もあることなどを供述し,その旨の同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同日,A76副検事の取調べにおいて,3回目会合に関し,同年7月21日のA15警部補及びA69巡査の取調べでの上記供述内容に概ね沿う供述をし,その際,原告X6及び原告X7がX1宅に到着した時刻を午後7時45分か午後7時50分頃だったと思うことを供述し,それらの旨の記載がある同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。
原告X4は,同日,A76副検事の取調べにおいて,2回目会合での参加者の着席位置について,同年7月9日のA76副検事の取調べにおいて原告X4が作成して,同日付け供述調書に添付された図面の記載と,同年8月9日のA76副検事の取調べにおいて原告X4が作成して,同日付け供述調書に添付された図面の記載とが異なる理由及び3回目会合での参加者の着席位置について,同年7月9日のA76副検事の取調べにおいて原告X4が作成して,同日付け供述調書に添付された図面の記載と,同年8月10日のA76副検事の取調べにおいて原告X4が作成して,同日付け供述調書に添付された図面の記載とが異なる理由について供述した。
その理由は,①原告X4が同年7月9日の取調べでの2回目会合及び3回目会合の着座位置の図面を作成した後も,2回目会合及び3回目会合のことを思い出そうと努力し,その結果,同日の取調べでの説明が違うのではないかと気付いたため,同年8月9日及び同年8月10日の取調べでは,新たな記憶に基づき図面を作成したこと,②新たな記憶とはいうものの,はっきりとした記憶ではなく,確実なものではないことなどであった。原告X4は,その旨の記載がある同日付け供述調書2通に署名・指印した。
上記各図面では,いずれも大半の参加者が机を囲む形の着座位置を示す記載がされているが,同年7月9日に作成されたものと,同年8月9日ないし同年8月10日に作成されたものでは,原告X6及び原告X7の着座位置を含め,その着座位置は大幅に異なっている。(甲総ア第25号証の620ないし622,同636,同637,同641及び642,甲総ア第429の262)
(オ) 原告X2関係(平成15年7月9日から同年8月11日まで)
a A77副検事による平成15年7月9日の取調べ
原告X2は,平成15年7月9日,A77副検事の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,亡A1宅でべぶんこ祝いがあった同年2月22日前後の同年2月下旬頃で,午後7時30分から始まったこと,②参加者は,四浦校区側が原告X2,亡A1,原告X3,原告X4夫妻,原告X5,原告X1夫妻であり,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であり,A112は参加していたかはっきりせず,亡X12は参加していなかったこと,③会合は中江の間で行われ,A5,原告X6とともに原告X7も挨拶をしたこと,④現金の供与は,原告X1が原告X3を介して参加者に配っていた記憶だが,原告X1から直接受け取ったかもしれないこと,⑤受供与金額は5万円でいずれもパチンコ代等に費消したことを供述し,3回目会合について,①開催日は2回目会合から3週間くらい後の同年3月中旬頃であること,②参加者は,四浦校区側が亡A1,亡X12,原告X4夫妻,原告X3,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X5であり,A88も来ていたかも知れず,原告X6の関係者は,2回目と同じであったこと,③場所は,従前8畳の間と供述していたが,中江の間で行われ,3回目会合は原告X2が他の人より先に帰ったが,帰り際にX1宅の木戸口で原告X7に呼び止められ,5万円入りの茶封筒を渡されたこと,④現金は全てパチンコ代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の594)
b A16警部補による平成15年7月20日の取調べ
原告X2は,平成15年7月20日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,牛の競り市に亡A1の子牛を出品した同年2月22日の前後の同年2月下旬頃であること,②原告X2は,2回目会合の当日,自宅から午後7時過ぎ頃にX1宅に向かったこと,③2回目会合は,午後7時30分頃から始まったこと,④参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,原告X2,原告X4夫妻,原告X5,亡A1,原告X3であり,亡X12も原告X13も参加していなかったこと,⑤会合は,中江の間とこたつの間にまたがって行われ,A5,原告X6,原告X7が挨拶をしたこと,⑥その後,こたつの間に場所を移して,宴会になり,宴会が始まって10分くらいで原告X6らは帰宅したこと,⑦その後,原告X1が封筒の束をもって宴会中の出席者に近づき,何通かを原告X3に渡して出席者に配りはじめ,原告X2は原告X3から手渡されたこと,⑧封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の807)
c A16警部補による平成15年7月21日の取調べ
原告X2は,平成15年7月21日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,ショベルカーを借りて亡A1の畑を整地した同年3月9日前後の同年3月中旬頃であること,②原告X2は,3回目会合の当日,自宅から午後7時過ぎ頃にX1宅に向かったこと,③3回目会合は,午後7時30分過ぎ頃から始まったこと,④参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,原告X2,原告X4夫妻,原告X5,亡A1,亡X12,原告X3であり,亡X12も原告X13も参加していなかったこと,⑤会合は,中江の間とこたつの間にまたがって行われ,A5,原告X6,原告X7が挨拶をしたこと,⑥その後,こたつの間に場所を移して,宴会になり,原告X2は焼酎を1,2杯飲んだ午後8時頃,用事があると言って席を立ったこと,⑦原告X2が,X1宅の勝手口から外に出て木戸口に向かおうとしたところ,原告X7から呼び止められ,現金の入った封筒を手渡されたこと,⑧封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の808)
d A16警部補による平成15年7月22日の取調べ(受供与金の使途)
原告X2は,平成15年7月22日,A16警部補及びA71巡査の取調べにおいて,2回目会合及び3回目会合での受供与金の使途に関し,いずれもパチンコとガソリン代に費消したことなどを供述し,それらの旨が順次記載された同日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第25号証の809及び810)
e A80検事による平成15年8月8日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X2は,平成15年8月8日,A80検事の取調べにおいて,2回目会合の状況に関し,同年7月20日のA16警部補及びA71巡査の取調べでの供述内容に概ね沿う供述をし,その旨の記載がある同年8月8日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の586,同807)
f A80検事による平成15年8月9日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X2は,平成15年8月9日,A80検事の取調べにおいて,3回目会合の状況に関し,同年7月21日のA16警部補及びA71巡査の取調べでの供述内容に概ね沿う供述をし,その旨の記載がある同年8月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の587,同808)
g A80検事による平成15年8月11日の取調べ(2回目会合の開催)
原告X2は,平成15年8月11日,A80検事の取調べにおいて,2回目会合の開催日につき,同年2月22日はべぶんこ祝いがあったとして,同日以外の同年2月中旬であること,3回目会合の開催日につき,同年3月14日は,午後11時頃まで残業しており,同日以外の同年3月中旬であることなどを供述し,その旨の記載がある同年8月11日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の598)
(カ) 原告X1関係(平成15年7月20日から同年8月10日まで)
a A14警部補による平成15年7月20日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X1は,平成15年7月20日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べにおいて,2回目会合について,①2月下旬に開催された2回目会合の数日前,原告X6に対し,1回目会合で,参加者が原告X6に「奥さんの顔も見たい。」と言っていたことを理由に2回目会合を開催してもらえるよう依頼したところ,原告X6がこれを了承し,原告X6が開催の日時を指定してきたこと,②2回目会合の開始時間は,午後7時30分とされたこと,③原告X1はa3集落の住民に対して2回目会合の連絡をしたが,原告X3に連絡した覚えがなく,原告X6から連絡されたものだと思うこと,④2回目会合の参加者は,四浦校区側が原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X5,亡A1,亡X12,原告X3であり,A112とA117は参加せず,原告X6の関係者は原告X6,原告X7,A5であったこと,⑤会合は午後7時30分に中江の間で始まり,原告X6,原告X7,A5が挨拶をし,その中で原告X6は,「他の四浦の人にも声かけをお願いします。」などと言っていたが,原告X1は,a1集落が一番大きいがA2県議派が多いので,声かけすれば文句を言われるなどと考えたこと,⑥原告X6らの挨拶が終わるとしばらく話し合いになり,その後,こたつの間で宴会になったこと,⑦宴会には,焼酎,ビール,さきいか,ピーナッツなどで,焼酎とさきいかなどのつまみは前日に原告X7から渡されたもので,ビールは1回目会合の残りであること,⑧宴会が始まってしばらくして,原告X6に声を掛けられ,中江の間に誘導されて,参加者に1枚ずつ配布するよう指示され,封筒の束を渡されたこと,⑨原告X6らはしばらくして帰宅し,その直後,原告X1が原告X3と手分けして参加者全員に封筒を1枚ずつ配布したこと,⑩封筒には5万円が入っており,いずれも生活費として費消し,釣り銭は本件貯金箱に入れ,原告X9の分も原告X1が一旦預かり,パチンコ代等として2万円を原告X9に渡し,残りは,生活費にしたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の101)
b A14警部補による平成15年7月21日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X1は,平成15年7月21日,A14警部補及びA37巡査部長の取調べを受け,3回目会合について,①開催日は同年3月中旬頃で,原告X6から日を指定され,会合をするから人を集めるよう指示されたこと,②原告X1は,a3集落の住民に対して,3回目会合の連絡をしたが,原告X3に連絡した覚えがなく,原告X6から連絡されたものだと思うこと,③原告X1は,A2県議を推す人が多いa1集落に行って本件買収会合の案内をすることはできず,何十年も一緒に住んでいるa3集落の住民にしか声を掛けられなかったこと,④3回目会合の参加者は,四浦校区側が原告X1夫妻,原告X2,原告X4夫妻,原告X5,亡X12,亡A1であり,A112は参加していたか定かではなく,A117,A145は参加しておらず,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であったこと,⑤3回目会合は午後7時30分から中江の間で始まり,原告X6,原告X7,A5がそれぞれ挨拶し,その後,こたつの間で宴会が始まったこと,⑥宴会ではさきいか,ピーナッツ,ビール,焼酎などを出し,つまみは会合の前日に原告X7から渡されたものであること,⑦宴会が始まってしばらくしてから,原告X6から参加者に1通ずつ配布するよう指示され封筒の束を渡されたこと,⑧原告X6,原告X7,A5は,それからしばらくして帰宅し,その後,原告X3と手分けして,参加者に現金の入った封筒を配布したこと,⑨原告X6らよりも先に帰宅した者がいるかどうかは定かではないが,原告X6より先に帰った者がいるとすれば,原告X7から封筒を手渡されたかもしれないこと,⑩封筒の中には現金5万円が入っており,原告X1はそれを生活費として費消し,釣り銭は本件貯金箱に入れたことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の104)
c A78副検事による平成15年8月9日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X1は,平成15年8月9日,A78副検事の取調べにおいて,2回目会合について,①原告X1は,1回目会合で参加者から今度は奥さんの顔が見たいとの発言があったことから,同年2月下旬,原告X6に対し,みんなが奥さんに会いたがっていると告げたところ,原告X6が了解し,その1日か2日後,2回目会合の日を指定してきたこと,②原告X6は,原告X1に対し,会合に集まる人数などは聞いたりせず,四浦校区の人をたくさん集めるよう指示したが,原告X1は,a3集落以外の人とあまり付き合いもなく,A2県議派かどうかの区別もつかないことから,a3集落の住民のみに声を掛けたこと,③原告X1は,原告X6の選挙の会合をする時間は午後7時30分と決めていたので,午後7時前までには夕食を済ませ,当日は,午後7時30分前頃に原告X6が一番早くX1宅に到着したこと,④2回目会合に参加した原告X6の関係者は,原告X6,原告X7,A5であり,四浦校区側の参加者は,午後7時30分過ぎ頃に集まり,顔ぶれは,原告X1夫妻のほか,原告X4夫妻,原告X2,亡X12,原告X5,亡A1,原告X3だったこと,⑤会合は,参加者がそろったところで,原告X6,原告X7,A5が中江の間に,他の参加者がこたつの間に座り,原告X6,原告X7,A5が挨拶をし,その後,宴会が始まったこと,⑥宴会には,焼酎とさきいかやピーナッツを出したこと,⑦原告X6は,宴会からの帰り際,原告X1に封筒の束を渡して,参加者に配るよう指示したこと,⑧原告X1は,原告X6らが帰宅した後,こたつの間の参加者全員に封筒を配り,その際,一人ずつ手渡ししたわけではなく,遠くの人には誰かに中継してもらったが,それが誰かはよく覚えていないこと,⑨封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の552,弁論の全趣旨)
d A78副検事による平成15年8月10日の取調べ(2回目会合及び3回目会合の開催日)
原告X1は,平成15年8月10日,A78副検事の取調べにおいて,2回目会合の開催日は原告X9の給料日である同年2月22日前後頃の2月下旬であり,3回目会合は,同年3月5日から同月22日までの間の中間頃の3月中旬でどちらも平日であったことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の575)
e A78副検事による平成15年8月10日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X1は,平成15年8月10日,A78副検事の取調べにおいて,3回目会合について,①原告X6から会合の開催を指示されたのは,開催日の2,3日前で後援会事務所の手伝いが終わった後のことで,2回目会合の時と同じく,四浦校区の人をたくさん集めるよう指示されたが,原告X1は,a3集落の住民のみに声を掛けたこと,②会合は,午後7時30分頃から開始する予定であり,原告X1は,午後7時前頃には,夕食を済ませていたこと,③会合の出席者は,四浦校区側が,原告X1夫妻のほか,原告X4夫妻,原告X2,亡X12,亡A1,原告X3であり,原告X6の関係者が原告X6,原告X7,A5であり,原告X6らは,午後7時30分前にX1宅に到着したこと,④会合は,参加者がそろってから,2回目会合と同じように,原告X6らが中江の間,四浦校区側の参加者がこたつの間に座って,原告X6達3人の挨拶があり,その後,宴会になったこと,⑤宴会では焼酎,ビール,さきいか,ピーナッツ,原告X1が買った大根の漬け物を出したこと,⑥原告X8が漬け物を持参してきたことはなかったこと,⑦原告X6が帰り際に,原告X1に封筒の束を渡し,参加者に配るよう指示したこと,⑧原告X1は,原告X6らが帰宅した後,原告X3と手分けして参加者全員に封筒を配布したこと,⑨原告X2が3回目会合で先に帰ったかどうかは覚えていないこと,⑩封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の554)
(キ) 原告X8関係(平成15年7月9日から同年8月10日まで)
a A78副検事による平成15年7月9日の取調べ(2回目会合及び3回目会合の開催日)
原告X8は,平成15年7月9日,A78副検事の取調べにおいて,①2回目会合でX1宅を訪れた際に,午後8時から「歌謡コンサート」というテレビ番組をX1宅で見た記憶があり,「歌謡コンサート」は同年2月25日に放送されているので,2回目会合の開催日は,同日で間違いないこと,②原告X8は,2回目会合で,こたつの間で同番組を見ているときに原告X1から現金の入った封筒を受け取ったこと,③3回目会合は,しばらくの間原告X8の自宅に滞在していた義理の妹が帰って行った同年3月10日頃に開催されたという記憶であること,④原告X8は,3回目会合で,X1宅の台所で持参したパート勤務先の漬け物を切っているときに原告X1から現金の入った封筒を受け取ったことなどを供述し,その旨の同年7月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の656,弁論の全趣旨)
b A76副検事による平成15年7月11日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X8は,平成15年7月11日,A76副検事の取調べにおいて,2回目会合に関し,①2回目会合でX1宅を訪れた際に,午後8時から「歌謡コンサート」というテレビ番組をX1宅で見た記憶があり,「歌謡コンサート」は同年2月25日に放送されているので,2回目会合の開催日は,同月下旬であること,②原告X8は,原告X4と午後7時頃にX1宅に行き,パート勤務先の漬け物を皆に食べてもらおうと思って持参したこと,③X1宅での会合は,普通,午後7時30分から始まるが,原告X8が午後7時にX1宅に向かったのは,漬け物を切ったり原告X1の手伝いをするためであること,④原告X6,原告X7,A5は,午後7時30分頃,X1宅に到着し,参加者は,上記3名のほか,原告X1夫妻,A112,原告X13,原告X2,原告X4夫妻,原告X3,亡A1,原告X5,原告X11であったこと,⑤会合は中江の間とこたつの間にまたがって行われ,原告X6,原告X7,A5が挨拶して午後8時頃には帰宅し,その後,こたつの間で宴会になったこと,⑥宴会ではビール,焼酎,さきいか,漬け物などが出され,原告X8は,「歌謡コンサート」を見始めたが,その後は台所とこたつの間ないし中江の間を行ったり来たりしていたこと,⑦原告X8がこたつの間にいるとき,原告X5が立ち上がり,原告X1から封筒を受け取って台所の奥の勝手口から帰宅し,それからしばらくして,原告X8がこたつの間か中江の間でテレビを見ているとき,原告X3がこたつの間の参加者に封筒を配っているのを見たこと,⑧その後,原告X8が台所にいたとき,原告X1から封筒を渡され,その後,こたつの間の方に戻ってまだ続いていた「歌謡コンサート」を見たこと,⑨封筒には5万円が入っていたことなどを供述し,その旨が記載された同年7月11日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の657)
c A76副検事による平成15年7月11日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X8は,平成15年7月11日,A76副検事の取調べにおいて,3回目会合に関し,①参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,A112,亡X12,原告X2,原告X3,亡A1,原告X11,原告X4夫妻であり,原告X5は,その日の朝,原告X8が簡易保険料の振込みを依頼した際に,今日の会合には行かないと言っていたからであること,②原告X6,原告X7,A5がX1宅に来た後,午後7時30分頃から,中江の間とこたつの間にまたがって会合が始まり,原告X6,原告X7,A5の挨拶が30分程度あって,午後8時頃に原告X6らが帰宅したこと,③その後,宴会になり,宴会にはウィンナー,さきいか,ピーナッツ,ビール,焼酎などが出され,その頃,原告X2が帰宅したこと,④原告X1は,午後9時頃,宴会をしていた参加者に現金の入った封筒を配布し,原告X8がこたつの間付近で茶を飲んでいたときに,原告X8にも現金入りの茶封筒を差し出されたこと,⑤封筒には現金5万円が入っていたことなどを供述し,その旨が記載された同年7月11日付けの供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の658)
d A36巡査部長による平成15年7月20日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X8は,平成15年7月20日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,子牛を競り市に出した同年2月24日よりも後の同月下旬頃だと記憶していること,②原告X8は,原告X4と午後7時頃,X1宅を訪れたこと,③参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4夫妻,原告X5,亡A1,原告X13,原告X3であったこと,④会合は午後7時30分頃,中江の間で始まり,原告X6,原告X7,A5が挨拶をし,その後こたつの間で宴会になったこと,⑤宴会には落花生,さきいか,ビール,焼酎などを出したこと,⑥原告X6らは,午後8時頃に帰宅したこと,⑦その後,原告X5が帰宅しようとすると,原告X1が原告X5に茶封筒を渡し,その頃,原告X3もこたつの間にいる参加者に封筒を配布しており,原告X8は,原告X1から封筒を受け取ったこと,⑧参加者に封筒が配られた時間は,午後8時30分頃だと思うこと,⑨封筒には5万円が入っており,原告X8は,3万円をA131に渡し,2万円はガソリン代や食料品の購入代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の318)
e A36巡査部長による平成15年7月21日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X8は,平成15年7月21日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,3回目会合に関し,①開催日は,原告X4の妹が滞在していた同年3月7日から同月10日の間より後の同月中旬頃だと記憶していること,②原告X8は,原告X4と午後7時頃,X1宅を訪れ,原告X8のパート先で作った漬け物を持参したこと,③参加者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,A112,原告X2,原告X4夫妻,亡A1,亡X12,原告X3であり,原告X5は用事があると言って参加しなかったこと,④会合は午後7時30分頃,中江の間で始まり,原告X6,原告X7,A5が挨拶をし,その後こたつの間で宴会になったこと,⑤宴会には,いかの形をしたつまみ,ピーナッツ,ウィンナー,ビール,焼酎などを出したこと,⑥原告X6らが帰宅する前か後かは不明であるが,原告X2が用事があるから帰ると言って早めに帰宅したこと,⑦原告X8が午後8時30分頃トイレに行こうとすると原告X1から封筒を渡されたこと,⑧原告X8がトイレからこたつの間に戻ると亡X12からお前ももらったのか,お前のところは2つだからいいなという趣旨のことを言われ,他の参加者にも封筒が配られたことが分かったこと,⑨封筒には5万円が入っており,原告X8は,全額をガソリン代や食料品の購入代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の319)
f A36巡査部長による平成15年7月25日の取調べ(2回目会合の状況の齟齬)
原告X8は,平成15年7月25日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,2回目会合につき,同年5月5日のA36巡査部長及びA64巡査の取調べと同年7月20日のA36巡査部長及びA56巡査部長の取調べとで供述内容が異なる点につき,①参加者は,同年5月5日の取調べでは挙げていなかったA112と原告X7も参加していたという記憶であること,②会合を中江の間で行った状況及び着座位置等につき,同年5月5日の取調べでは,テーブルは出ていなかったと供述していた点もテーブルにお茶を出したことなどを思い出しており,同年7月20日の供述が正しいこと,③同年5月5日の取調べにおいて,原告X1から封筒をもらった後,原告X6に頭を下げたと供述している点は,4回目会合と勘違いしたものであることなどを供述し,その旨の記載がある同年7月25日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の284,同285,同318,同322)
g A36巡査部長による平成15年8月2日の取調べ(原告X5の口止め)
原告X8は,平成15年8月2日,A36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおいて,原告X8が,同年5月6日の午前8時過ぎ頃,原告X4が運転する軽トラックに乗って四浦バス停留所近くのごみ収集所に危険物を捨てに行った際,原告X5に会い,原告X5は,顔を強ばらせて原告X4に近づき,私の名前を出さないでねという趣旨のことを告げてきて,原告X4が,出してないという趣旨の返答をしたのを助手席で聞いていたことことなどを供述し,その旨の記載がある同年8月2日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の330)
h A76副検事による平成15年8月4日の取調べ(原告X5の口止め)
原告X8は,平成15年8月4日,A76副検事の取調べにおいて,原告X5から同年5月6日頃に口止めをされた経緯について,同年8月2日のA36巡査部長及びA56巡査部長の取調べにおける供述内容に沿う供述をし,その旨の記載がある同年8月4日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の652)
i A75検事による平成15年8月10日の取調べ(2回目会合の状況)
原告X8は,平成15年8月10日,A75検事の取調べにおいて,2回目会合の状況に関し,同年7月20日のA36巡査部長及びA56巡査部長の取調べでの上記供述内容に概ね沿う供述をし,その旨の記載がある同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の650,甲総ア第429号証の318)
j A75検事による平成15年8月10日の取調べ(3回目会合の状況)
原告X8は,平成15年8月10日,A75検事の取調べにおいて,3回目会合の状況に関し,同年7月21日のA36巡査部長及びA56巡査部長の取調べでの上記供述内容に概ね沿う供述をし,その旨の記載がある同年8月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の651,甲総ア第429号証の319)
k A75検事による平成15年8月10日の取調べ(2回目会合で見たテレビ番組の記憶違い)
原告X8は,平成15年8月10日,A75検事の取調べにおいて,原告X8が,従前の取調べで2回目会合でX1宅で「歌謡コンサート」を見たと供述した点につき,出演者の記憶が実際とは異なるなどしたため,記憶違いであることが分かったことなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の662)
l A75検事による平成15年8月10日の取調べ(2回目会合及び3回目会合の供述の齟齬)
原告X8は,平成15年8月10日,A75検事の取調べにおいて,原告X8が2回目会合と3回目会合について,A76副検事の取調べ,その後の警察での取調べ,その後のA75検事の取調べでの各供述内容に食い違いがある点について,①A76副検事の取調べで2回目会合と3回目会合に原告X11が参加していたと供述していた点は,よく考えると原告X11は4回目会合しか来ていなかったことを思い出し,2回目会合及び3回目会合の記憶と4回目会合の記憶が混同したものと考えられること,②A76副検事の取調べで,2回目会合では台所で買収金を受け取り,3回目会合ではこたつの間で買収金を受け取ったという供述になっているが,その後の取調べでは買収金を受け取った場所が,2回目会合がこたつの間,3回目会合が台所となっている点については,原告X8は一貫して供述していたが,A76副検事が勘違いをして誤った内容の供述調書を作成してしまい,原告X8も調書内容を確認した際にも勘違いしたものであることなどを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の663)
(ク) 亡A1関係(平成15年7月20日から同年8月10日まで)
a A17警部補による平成15年7月20日の取調べ(2回目会合の状況)
亡A1は,平成15年7月20日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,2回目会合に関し,①開催日は,べぶんこ祝いをした同年2月22日前後頃の同年2月下旬であること,②亡A1は,2回目会合の当日,夕食を済ませた午後8時頃,自宅からX1宅に向かったこと,③亡A1は,原告X1が時間を指定しなかったことから夕食を済ませていけばいいと考えていたこと,④亡A1の自宅からX1宅までは4,5分しかかからず,亡A1がX1宅に到着したときは,会合は始まっていて,原告X6の挨拶も終わり,参加者が中江の間で茶を飲みながら雑談していたこと,⑤出席者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X5,原告X13,原告X3であり,亡X12は,1回目会合で原告X9と口論になったことが原因かは分からないが参加しておらず,A112も参加していないという記憶であること,⑥原告X6が農政連の推薦,h党の公認が受けられず,組織票が得られないと話し,A5が2回目会合の参加者が少ないという感想を述べ,さらに,今のところ原告X6とA4県議が五分五分ではないだろうかという話をしていたこと,⑦その後,こたつの間に移り,宴会になり,落花生,さきいか,漬け物,焼酎などが出されていたこと,⑧原告X6らは,午後8時30分頃には帰宅したこと,⑨亡A1は原告X6らが帰宅した後も宴会で参加者と話をしていたが,10分程したところで先に帰ろうとしたとき,原告X1に呼び止められ,封筒を渡されたこと,⑩封筒の中には10万円が入っており,簡易保険料の支払,ガソリン代,たばこ代等に費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月20日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の434)
b A17警部補による平成15年7月21日の取調べ(3回目会合の状況)
亡A1は,平成15年7月21日,A17警部補及びA47巡査部長の取調べにおいて,3回目会合に関し,①開催日は,田之浦中学校の卒業式に民生委員として出席した同年3月13日から彼岸入りした同月18日頃の同年3月中旬であること,②亡A1は,3回目会合の当日,夕食を済ませた午後8時頃,自宅からX1宅に向かったこと,③亡A1は,原告X1が時間を指定しなかったことから夕食を済ませていけばいいと考えていたこと,④亡A1の自宅からX1宅までは4,5分しかかからず,亡A1がX1宅に到着し,亡A1が到着してから原告X6が挨拶をしていないという記憶であるが,もしかすると,その後に原告X6の挨拶があったかもしれないこと,⑤出席者は,原告X6,原告X7,A5,原告X1夫妻,原告X4夫妻,原告X2,原告X13,原告X3であり,亡X12は,1回目会合で原告X9と口論したことから,2回目以降は原告X13が出席していたという記憶であり,原告X5もA137の体調が悪いか何かの理由で参加していなかったように思うが,はっきり言い切れず,A112も参加していないという記憶であること,⑥原告X6が志布志の商工会が応援してくれること,農政連が応援してくれることになったことなどを話し,A5は,四浦校区でこれ以上協力をしてくれる人はいないのかという趣旨のことを亡A1に尋ね,亡A1は四浦校区は厳しいという返答をしたのに対し,A5は,そこを何とかお願いしますと言って,さらに票の取り込みを依頼する趣旨の発言をしていたこと,⑦その後,こたつの間に移り,宴会になり,落花生,さきいか,いかの形をしたお菓子,柿の種,さつまあげ,焼酎などが出されていたこと,⑧原告X6らは,宴会が始まってしばらくして帰宅し,3回目会合では原告X2が原告X6らと前後して帰宅したこと,⑨亡A1は原告X6らが帰宅した後も宴会で参加者と話をしていたが,10分程したところで先に帰ろうとしたとき,原告X1に呼び止められ,封筒を渡されたこと,⑩封筒の中には10万円が入っており,同年3月18日に亡A1宅に来た孫の高校合格祝いとして費消したことなどを供述し,その旨の記載がある同年7月21日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の435)
c A77副検事による平成15年8月10日の取調べ(2回目会合及び3回目会合の開催日)
亡A1は,平成15年8月10日,A77副検事の取調べにおいて,①2回目会合では,亡A1と原告X4が牛の競り市での牛の落札価格の話をするなどしたので,亡A1が出品した同年2月22日,原告X4が出品した同月24日よりも遅い日に開催されたと思うこと,②3回目会合の受供与金は,同年3月18日に孫の高校の合格祝いとして費消しているので,はっきりした日付けまでは分からないが同月10日から同月18日までの間に開催されたと思うことなどを供述し,それらの旨が順次記載された同年8月10日付け供述調書2通に署名・指印した。(甲総ア第25号証の547,同548)
カ 傍聴人の罵声に関する供述内容等(平成15年8月9日,同月11日)
(ア) 傍聴人の罵声に関する原告X4の供述(平成15年8月9日)
原告X4は,平成15年8月9日,A76副検事の取調べにおいて,本件刑事事件の法廷で傍聴席の四浦校区の住民が騒ぐなどしている理由について,①原告X4は,同年5月5日,家族の前で,自分が選挙でお金をもらったのは事実だ,嘘を話すわけにはいかないから,警察の取調べで本当のことを話す,こんなお父さんを見捨てないでくれ,と話して,娘は,お父さんを見放すことはないと言い,息子も両親も妻も反対せず,原告X4の家族は,原告X4が,買収金を受け取ったのは事実だと供述していることを知っていること,②他方,妻の原告X8も,その頃の警察での取調べを受けていて,家族の前では,原告X8が警察の取調べで買収金は受け取っていないと供述していると説明しており,家族は原告X8の説明を信じているはずであること,③原告X2は,警察の取調べで買収金を受け取ったと供述し,その妻のX10は,警察の取調べで買収金を受け取っていないと供述していると聞いていること,④原告X2は,裁判では,買収金を受け取っていないと述べたこと,⑤亡A1も警察の取調べでは買収金を受け取ったと供述し,裁判では,買収金を受け取っていないと述べたこと,⑥原告X5は,警察の取調べでも裁判でも買収金は受け取っていないと述べていること,⑦このように,人ごとに言うことが違っているので,四浦校区の住民達も何が事実なのか分からない状況であるから,四浦集落のような全員が助け合って生きてきた小さな集落で選挙違反の者が出たら,四浦校区の住民全員が世間から悪い目で見られるのを恐れ,できれば選挙違反の者が出ない方が良いと考えているから,買収金を受け取ったと認めている人に対して脅しのようなことを言っていることなどを供述し,その旨の記載がある同年8月9日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の640)
(イ) 傍聴人の罵声に関する原告X3の供述(平成15年8月11日)
原告X3は,平成15年8月11日,A80検事の取調べにおいて,「7月31日,私の裁判がありましたが,裁判が終わった後,私は傍聴人から『お前だけなんで認むっとよ』などと罵声を浴びせられました。きっと,傍聴人は私に否認するよう仕向けているのだと思います。法廷で否認している人を拍手したり,私に罵声を浴びせた人はおそらく四浦に住む人達だと思いますが,四浦の人達も私達がこんなにも長期間拘束されているのを見れば,私達が選挙のお金を貰ったことが真実であると分かっていると思っています。にもかかわらず,私に否認するよう仕向けるのは,私達がX6先生からお金を貰ったと裁判所に判断されれば困る事情があるからだと思います。その困る事情が何かということは,本人ではないので私には分かりません。しかし,これまで四浦校区では,公然とならなかっただけで選挙の度に金が飛び交っていたのは事実ですし,四浦の人達にやましい気持ちがあるのは事実だと思います。」などと供述し,その旨の記載がある同年8月11日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の615)
(19)  4回目会合7月24日捜査事件(A5及びA89)
ア 逮捕(平成15年7月24日)
県警は,平成15年7月24日,A5及びA89を4回目会合事件の供与被疑者としてそれぞれ通常逮捕した。
A89及びA5は,同日,県警の取調べにおいて,被疑事実を否認した。(弁論の全趣旨)
イ 送致(平成15年7月25日)
県警は,平成15年7月25日頃,同人らを4回目会合事件の供与被疑者とする4回目会合7月24日捜査事件について,それぞれ検察官に身柄付送き身柄付きで送致した。
A89及びA5は,同月25日,検察官の取調べにおいて,被疑事実を否認した。(弁論の全趣旨)
ウ 勾留請求と勾留(平成15年7月25日)
A73検事は,平成15年7月25日頃,裁判所に対し,上記両名について勾留を請求した。
裁判官は,同日,勾留状の発付をし,A73検事は,同勾留状を執行し,さらに,上記両名は,裁判官の勾留期間延長決定を経て,同年8月13日まで身柄をそれぞれ拘束された。
A73検事は,同日,上記被疑事実に係る事件について処分保留のまま,上記両名を釈放した。(以下,上記4名に対する逮捕及び勾留に係る捜査を「第5次強制捜査」という。)(甲総ア第490号証,甲総ア第491号証,乙県第2号証,弁論の全趣旨)
エ 3回目会合事件及び4回目会合事件に関する原告X1,原告X5,原告X8,亡A1,原告X4,原告X2及び原告X3の送致(平成15年8月8日)
県警は,平成15年8月8日,3回目会合事件及び4回目会合事件に関し,原告X1を供与被疑者とし,原告X8,亡A1,原告X4,原告X2及び原告X3をいずれも受供与被疑者とする各事件及び3回目会合事件に関し,原告X1を供与被疑者とし,原告X5を受供与被疑者とする各事件を,それぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
(20)  2回目会合事件及び3回目会合事件に関する第3次起訴(平成15年8月12日)
ア 2回目会合事件及び3回目会合事件に関する原告X6及び原告X7に対する第3次起訴(平成15年8月12日)
(ア) 第3次起訴1(平成15年8月12日)
A73検事は,平成15年8月12日,裁判所に対し,原告X6及び原告X7を被告人として,2回目会合事件及び3回目会合事件について公職選挙法違反の罪で身柄付きで公訴提起(当庁平成15年(わ)第292号公職選挙法違反被告事件。第3次刑事事件1。)した。
第3次起訴1は,本件刑事事件のうち,第2次刑事事件に次いでされたものである。(甲総ア第25号証の2708)
(イ) 第3次起訴1の公訴事実の要旨
第3次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,両名は,原告X1と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,①いまだ立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともに,いずれも立候補届出前の選挙運動をし,②いまだ立候補届出のない同年3月中旬頃,X1宅において,いずれも同選挙区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をしたというものである。(甲総ア第25号証の2708)
(ウ) 接見等の禁止請求(平成15年8月12日)
検察官は,平成15年8月12日,第3次刑事事件1において,被告人である原告X6及び原告X7について,裁判所に対し,各自の起訴後勾留について,接見等の禁止を請求し,裁判官は,同月13日,第3次刑事事件1において,原告X6及び原告X7につき,いずれも,第1回公判期日の日の午後10時までの間の接見等禁止決定をした。(甲総ア第25号証の2791,同2792,同2851,同2852)
イ 原告X1,亡A1,原告X2,原告X4,原告X3及び原告X8に対する第3次起訴(平成15年8月12日)
(ア) 第3次起訴2,第3次起訴3及び第3次起訴4(平成15年8月12日)
A73検事は,第3次刑事事件1が公訴提起されたのと同日の平成15年8月12日,裁判所に対し,原告X1,亡A1,原告X2,原告X4,原告X3及び原告X8を被告人として,このうち,原告X3及び原告X8をそれぞれ別事件として,2回目会合事件及び3回目会合事件について公職選挙法違反の罪でそれぞれ公訴提起(原告X1,亡A1,原告X2及び原告X4につき,当庁平成15年(わ)第293号公職選挙法違反被告事件,第3次刑事事件2。原告X3につき,同第294号公職選挙法違反被告事件,第3次刑事事件3」という。原告X8につき,同第295号公職選挙法違反被告事件,第3次刑事事件4。)をした。(甲総ア第25号証の33,同38)
(イ) 第3次起訴2の公訴事実の要旨
第3次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者であり,亡A1,原告X2,原告X4は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6及び原告X7と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,いずれも曽於郡区の選挙人である亡A1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,亡A1外4名に対し,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をし,いまだ原告X6の立候補届出のない同年3月中旬頃,X1宅において,前同様の亡A1外4名に対し,前同様の報酬として,それぞれに現金5万円ずつの合計25万円を供与するとともにいずれも立候補届出前の選挙運動をした,②亡A1,原告X2及び原告X4は,いずれも,前記原告X1らから,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において各自現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において各自現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。(甲総ア第25号証の33)
(ウ) 第3次起訴3の公訴事実の要旨
第3次起訴3の公訴事実の要旨は,原告X3は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X1から,同選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。(甲総ア第25号証の38)
(エ) 第3次起訴4の公訴事実の要旨
第3次起訴4の公訴事実の要旨は,原告X8は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,原告X1から,同選挙に立候補の決意を有していた原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の,同年3月中旬頃,X1宅において現金5万円の供与をそれぞれ受けたというものである。(甲総ア第25号証の2903)
(21)  第3次起訴に係る検察官の検討内容
A73検事は,第3次起訴を,4回の会合が開催された本件刑事事件の全体像を解明するために必要な公訴提起と位置づけ,証拠の評価につき,①2回目会合と3回目会合についての各自白供述者から詳細な取調べを行い,会合の開催可能日も数日にまで絞り込むことができ,一定程度の特定はできたと評価したこと,②原資の特定には至らないものの,f社において平成14年12月頃までに架空仕入れを計上して,帳簿外の現金160万円程度を捻出していることが証拠上うかがえ,このことから,他にも不正な現金を拠出している可能性が十分に考えられ,原資が解明できないことを消極評価すべきものとはいえないと評価したこと,③1回目会合については,平成15年2月8日に行われたとしても,本件新年会を途中で抜けて,再度,本件新年会に戻ったと考えられること,④4回目会合については,本件懇親会の後に4回目会合に向かったと考えられ,いずれもアリバイが成立しないものと評価し,4回の本件買収会合が開催された合理的嫌疑があるものと評価した。(甲総ア第25号証の1065,弁論の全趣旨)
(22)  2回目会合事件に関する第4次起訴(平成15年8月27日)
ア 原告X1及び原告X5に対する第4次起訴(平成15年8月27日)
(ア) 第4次起訴1(平成15年8月27日)
A73検事は,平成15年8月27日,裁判所に対し,原告X1及び原告X5を被告人として,2回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第320号公職選挙法違反被告事件。第4次刑事事件)した。
第4次起訴1は,本件刑事事件のうち,第3次刑事事件に次いでされたものである。(甲総ア第25号証の40)
(イ) 第4次起訴1の公訴事実の要旨
第4次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決 意を有していた原告X6の選挙運動者であり,原告X5は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,①原告X1は,原告X6及び原告X7と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ原告X6の立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である原告X5に対し,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金5万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をした,②原告X5は,原告X1から,原告X6を当選させる目的をもって原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月下旬頃,X1宅において現金5万円の供与を受けたというものである。(甲総ア第25号証の40)
イ 原告X6及び原告X7に対する第4次起訴(平成15年8月27日)
(ア) 第4次起訴2(平成15年8月27日)
A73検事は,第4次刑事事件1が公訴提起された同日の平成15年8月27日,原告X6及び原告X7を被告人として,2回目会合事件について公職選挙法違反の罪で公訴提起(当庁平成15年(わ)第321号公職選挙法違反被告事件。第4次刑事事件2)した。(甲総ア第25号証の2711)
(イ) 第4次起訴2の公訴事実の要旨
第4次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者,原告X7は,原告X6の妻でかつ選挙運動者であるが,両名は,原告X1と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月下旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である原告X5に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金5万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものである。(甲総ア第25号証の2711)
(23)  1回目会合事件に関する第5次起訴(平成15年10月10日)
ア 1回目会合事件に関する原告X1及び原告X6並びに亡X12の送致(平成15年9月29日)
県警は,平成15年9月29日,1回目会合事件に関し,原告X1及び原告X6をいずれも供与被疑者とし,亡X12を受供与被疑者とする各事件を,亡X12について在宅事件としたまま,それぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
イ 1回目会合事件に関する第5次起訴(平成15年10月10日)
A73検事は,平成15年10月10日,裁判所に対し,原告X6及び原告X1を被告人として,1回目会合事件について,それぞれ公職選挙法違反の罪で公訴提起(原告X6につき当庁平成15年(わ)第394号公職選挙法違反被告事件(第5次刑事事件1),原告X1につき同第395号公職選挙法違反被告事件(第5次刑事事件2))した。
A73検事は,同日,亡X12を被告人として,1回目会合事件について,公職選挙法違反の罪で在宅で公訴提起(当庁平成15年(わ)第396号公職選挙法違反被告事件(第5次刑事事件3))した。(甲総ア第25号証の43,同45,同47)
ウ 第5次起訴の公訴事実の要旨
第5次起訴1の公訴事実の要旨は,原告X6は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補することを決意していた者であるが,原告X1と共謀の上,自己を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である亡X12に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金6万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものであり,第5次起訴2の公訴事実の要旨は,原告X1は,本件選挙に際し,曽於郡区から立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者であるが,原告X6と共謀の上,原告X6を当選させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年2月上旬頃,X1宅において,曽於郡区の選挙人である亡X12に対し,自己への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として,現金6万円を供与するとともに立候補届出前の選挙運動をしたというものであり,第5次起訴3の公訴事実の要旨は,亡X12は,本件選挙の曽於郡区の選挙人であるが,本件選挙に立候補の決意を有していた原告X6の選挙運動者である原告X1から原告X6を当選させる目的をもって,原告X6への投票及び投票取りまとめ等の選挙運動をすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,同年2月上旬頃,X1宅において,現金6万円の供与を受けたというものである。(甲総ア第25号証の43,同45,同47)
(24)  第4次起訴及び第5次起訴に係る検察官の検討内容
A73検事は,第4次起訴及び第5次起訴の各時点において,各証拠の評価につき,第3次起訴の時点の証拠評価と同様の評価をした。(弁論の全趣旨)
(25)  未立件の余罪等についての供述状況等
ア X1焼酎9月9日事件の送致(平成15年9月9日)
県警は,平成15年9月9日,X1焼酎事件に関し,原告X8及び亡A1を受供与被疑者とする事件並びにA85,A86及びA87をいずれも受供与被疑者とする事件をそれぞれ検察官に送致した。(弁論の全趣旨)
イ 一部の刑事事件についての不起訴処分(平成15年12月26日)
検察官は,平成15年12月26日,本件公職選挙法違反事件のうち,X1焼酎4月22日捜査事件,X1焼酎5月18日捜査事件,4回目会合6月25日捜査事件のうち,A88を被疑者とするもの,1回目会合6月29日捜査事件,4回目会合7月24日捜査事件及びX1焼酎9月9日事件について,いずれも不起訴処分とした。(甲総ア第425号証,弁論の全趣旨)
ウ 未立件の余罪等
(ア) 原告X3関係
a A18警部補による平成15年7月1日の取調べ
原告X3は,平成15年7月1日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,原告X6やその関係者から本件選挙に関して受け取った現金に関し,これまで供述していた53万円の現金以外に,同年3月下旬か4月上旬頃,125万円の買収金の供与を受け,八野校区,森山校区,潤ヶ野校区でそれぞれ原告X6の支持者を紹介してくれた3名の者に5万円ずつの15万円を報酬として供与し,その後,原告X6が四浦校区の40軒,八野校区の20軒,森山校区の15軒,潤ヶ野校区の23軒に各1万円ずつの合計98万円を供与して,原告X6への投票と票の取りまとめを依頼し,残りの12万円を原告X3の取り分としたことなどを供述し,その旨の記載のある同年7月1日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第429号証の161)
b A18警部補による平成15年7月2日の取調べ
原告X3は,平成15年7月2日,A18警部補及びA61巡査の取調べにおいて,原告X6から同年3月下旬か4月上旬頃,125万円の買収金の供与を受け,四浦校区ほか98軒に1万円ずつ供与した件に関し,その状況の詳細を供述し,その中で,四浦校区では,本件買収会合に参加した者の世帯を除いたうちの40軒に1万円ずつ現金を供与し,60票から70票は,A2県議から原告X6に票が動いたのではないかと思うこと,買収した人の名前はいうことができず,それを言えば,40人もの人が警察の取調べを受けて処分を受けることや四浦公民館の前公民館長が四浦公民館の決めたことに従わず,原告X6を推したことで村八分にあい,四浦校区で住めなくなることなどを供述し,その旨の記載のある同年7月2日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の850)
c A18警部補による平成15年7月10日の取調べ
原告X3は,平成15年7月10日,A77副検事の取調べにおいて,同月2日のA18警部補及びA61巡査の取調べでの供述内容にほぼ沿う供述をし,その旨の記載のある同月10日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の426,弁論の全趣旨)
d A18警部補による平成15年7月11日の取調べ
原告X3は,平成15年7月11日,A77副検事の取調べにおいて,従前の取調べにおいて供述していた原告X6から本件選挙について受け取った現金53万円のうち,本件選挙の投票日前に受け取った41万円の使途につき,24万円は,妻のA136の親戚14人と,四浦校区外の原告X3の知人10人に原告X6への投票依頼をして1万円を供与し,残りの17万円を生活費,鶏の餌,ガソリン代,小遣い,その他買い物に費消したことを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の611)
(イ) 原告X4関係
原告X4は,平成15年7月9日,A76副検事の取調べにおいて,原告X4は,4回の本件買収会合で順に6万円,5万円,5万円,10万円の供与をそれぞれ受けたこと以外に,①原告X1から2万円と焼酎2本,②亡A1から5万円,③原告X3から5万円,④原告X1から5万円の現金を受領していることを供述し,その旨の記載がある同日付け供述調書に署名・指印した。(甲総ア第25号証の636)
(26)  本件刑事事件における公判期日の経緯等(平成15年7月3日から同年11月7日まで)
ア 第1次刑事事件の第1回公判期日(原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5関係)
(ア) 第1回公判期日の開廷
裁判所は,平成15年7月3日,第1次刑事事件につき,裁判官A168(以下「A168裁判官」という。)において,第1次刑事事件の第1回公判期日を開廷した。(甲総ア第25号証の49)
(イ) 国選弁護人の解任の職権発動の促しを行うことの予告
A168裁判官は,平成15年7月3日,同公判期日の開廷時間の1時間程前に,検察官から,同期日において,国選弁護人の解任の職権発動の促しを行うことの予告を受け,第1次刑事事件の弁護人らと協議の上,同公判期日において,被告人であった原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5の各人定質問手続のみを行って,起訴状朗読以降のその余の冒頭手続を一切行わずに,次回期日について,追って指定とした。(甲総ア第25号証の49,同2169及び2170,弁論の全趣旨)
イ 合議決定
裁判所は,平成15年7月7日,第1次刑事事件について,合議体により審理及び裁判することを決定し,同日,裁判長裁判官A169(以下「A169裁判長」という。)が,第1次刑事事件を審理する合議体の裁判長として,その公判期日を同月31日午前11時と指定した。
C11弁護士は,同日,第1次刑事事件における原告X5の弁護人として,裁判所に対し,同日付け「訴訟指揮に関する上申書」と題する書面を提出して,原告X5の第1次刑事事件に係る起訴後勾留につき,第1回公判期日までの接見等禁止決定が付されているところ,同月3日の上記公判期日において,実体審理が一切行われず,実質的な第1回公判期日が終了していないことから,原告X5に対する接見等禁止決定の効力が継続していること等の事情にかんがみ,次回の公判期日をできるだけ早い日時に指定することを求めた。
A169裁判長は,同月9日,第1次刑事事件について,その公判期日を,同月23日午前10時と指定した。(甲総ア第25号証の57及び58,同67,同2170)
ウ 弁論併合決定等
(甲総ア第25号証の68ないし70,同2906)
(ア) 併合決定(原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5関係)
検察官は,平成15年7月17日,裁判所に対し,第2次起訴及び本件訴因変更請求をするとともに,第2次刑事事件1の弁論について,第1次刑事事件の弁論との併合を請求した。
裁判所は,同月18日,第1次刑事事件に,第2次刑事事件1のうち,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対するものの弁論を併合することを決定をした(第1次刑事事件等)。
(イ) 合議決定(原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8関係)
裁判所は,平成15年7月18日,第2次刑事事件1のうち,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対するもの(以下「原告X9外第2次刑事事件」という。)について,合議体により審理及び裁判することを決定した。
エ 第1次刑事事件等の第2回公判期日(原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5関係)
(ア) 第2回公判期日の開廷
裁判所は,平成15年7月23日,第1次刑事事件等につき,A169裁判長を裁判長裁判官とし,A168裁判官及び裁判官A170(以下「A170裁判官」という。)を陪席裁判官として構成される合議体において,第2回公判期日を開廷した。(甲総ア第25号証の71)
(イ) 原告X5の忌避申立て
原告X5の主任弁護人であったC11弁護士は,同公判期日において,起訴状朗読以降の冒頭手続に先立ち,原告X4に対する第1次刑事事件におけるC8弁護士解任命令とC2弁護士解任命令(本件国選弁護人解任命令)に関与したこと等を理由に,A169裁判長及びA168裁判官に対する各忌避申立てを行った。
裁判所は,同公判期日において,第1次刑事事件等から,このうちの原告X5に対する事件の弁論の分離及び分離した同事件の次回期日について,既にされていた同月31日午前11時との期日指定の取消しを決定して,同期日を追って指定とした。(甲総ア第25号証の71,同75)
(ウ) 原告X1,原告X2,原告X3,原告X4及び亡A1関係の冒頭手続
裁判所は,平成15年7月23日,第1次刑事事件等の第2回公判期日において,第1次起訴に係る公訴事実について,起訴状朗読以降の冒頭手続に入り,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4及び亡A1に対する審理を行った。
裁判所は,同冒頭手続において,本件訴因変更請求について,これを許可する決定をした。(甲総ア第25号証の71)
(エ) 犯行の具体的日時等の求釈明
原告X1の主任弁護人であったA92弁護士,亡A1の主任弁護人であったC10弁護士及び原告X2の弁護人であったC3弁護士は,平成15年7月23日の冒頭手続において,第1次起訴に係る各公訴事実につき,それぞれ,①平成15年2月上旬頃とする犯行時期についての具体的日時の特定,②上記公訴事実に係る犯行が,同一日時の同一場所における犯行であるか否か,③原告X6と原告X1の共犯関係につき,実行共同正犯であるか共謀共同正犯であるか否かについて求釈明を申し立てた。
これらに対し,A73検事は,上記公訴事実に係る犯行が,同一日時の同一場所における犯行であることを釈明したが,その余の上記求釈明に対しては,訴因として特定されているとして具体的な回答をせず,これに対し,A169裁判長は,検察官に対し,上記公訴事実について,何ら釈明を求めなかった。(甲総ア第25号証の71)
(オ) 原告X1,原告X3及び原告X4の自白並びに原告X2及び亡A1の否認
原告X1,原告X3及び原告X4,平成15年7月23日の冒頭手続において,被告事件に対する陳述(いわゆる罪状認否)につき,いずれも上記各公訴事実に間違いない旨を述べた。
A92弁護士は,原告X1の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき意見を留保する旨を,A94弁護士は,原告X3の弁護人として,同手続において,被告事件に対する陳述につき,公訴事実を認めた原告X3と同様である旨の意見を述べ,A96弁護士は,原告X4の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,意見を留保する旨をそれぞれ述べた。
原告X2及び亡A1は,同手続において,いずれも上記各公訴事実はなかった旨をそれぞれ述べ,C3弁護士は,原告X2の弁護人として,C10弁護士は,亡A1の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。(甲総ア第25号証の71,同73,同74)
(カ) 原告X1,原告X4,原告X2及び亡A1の弁論の分離
裁判所は,平成15年7月23日の同公判期日において,第1次刑事事件等から,このうちの原告X1,原告X4,原告X2及び亡A1に対する事件の弁論の分離を決定し,分離した同事件の次回期日につき,既に指定されていた同月31日午前11時に行うこととした。(甲総ア第25号証の71)
(キ) 原告X3の審理の継続
裁判所は,その後,同公判期日において,原告X3に対する上記公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。
裁判所は,同公判期日の続行期日につき,既にされていた同月31日午前11時との期日指定を同日午前11時30分と変更した。(甲総ア第25号証の71,同72,同215,同217)
オ 原告X9外第2次刑事事件の第1回公判期日(原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8関係)
(ア) 第1回公判期日の開廷
裁判所は,平成15年7月29日,原告X9外第2次刑事事件につき,A169裁判長を裁判長裁判官とし,A168裁判官及びA170裁判官を陪席裁判官として構成される合議体において,第1回公判期日を開廷して,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対する審理を行った。
裁判所は,同公判期日において,人定質問以降の冒頭手続を行った。(甲総ア第25号証の2907の1)
(イ) 犯行の具体的日時等の求釈明
原告X9の弁護人であったC1弁護士,原告X10の弁護人であったC3弁護士,原告X8の弁護人であったC10弁護士及び原告X11の弁護人であったC14弁護士は,平成15年7月29日の冒頭手続において,第2次起訴1に係る各公訴事実について,それぞれ,①平成15年3月下旬頃とする犯行時期についての具体的日時の特定,②同一日時の同一場所における犯行であるか否か,③X1宅とする犯行場所について,具体的場所の特定について求釈明を申し立てた。
A73検事は,これらに対し,同一日時の同一場所における犯行であることを釈明したが,その余の上記求釈明に対しては,訴因として特定されているとして具体的な回答をしなかった。
これに対し,A169裁判長は,弁護人が指摘する上記各事項について検察官に対する釈明を求めなかった。(甲総ア第25号証の2907の1,同2908ないし2910)
(ウ) 原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8の否認と無罪答弁
原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8は,平成15年7月29日の同冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも上記各公訴事実はなかった旨を,C1弁護士は,原告X9の弁護人として,C14弁護士は,原告X11の弁護人として,C3弁護士は,原告X10の弁護人として,C10弁護士は,原告X8の弁護人として,弁護人の被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,その後,同公判期日において,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対する上記各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の2907の1及び2,同2920及び2921)
カ 忌避申立ての却下決定と弁論の併合(原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5関係)
(ア) 各忌避申立ての却下決定
裁判所は,平成15年7月29日,上記A169裁判長及びA168裁判官に対する各忌避申立てについて,いずれも却下する決定をした(当庁平成15年(む)第370号事件)。(甲総ア第25号証の79)
(イ) 弁論の併合
原告X5の弁護人であったC11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同月30日,同決定に対する即時抗告権を放棄して,原告X1,原告X2,原告X4及び亡A1に対する第1次刑事事件等に,原告X5に対する第1次刑事事件等の弁論の併合を請求し,裁判所は,同日,上記請求のとおり,弁論の併合を決定した。(甲総ア第25号証の79及び80,同89)
キ 第1次刑事事件等の第3回公判期日(原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5関係)(平成15年7月31日)
(ア) 第3回公判期日の開廷と冒頭手続
裁判所は,平成15年7月31日,第1次刑事事件等の第3回公判期日を開廷して,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する審理を行った。
裁判所は,同公判手続において,前回期日に引き続いて,上記5名に対する第1次起訴に係る公訴事実についての冒頭手続を行った。(甲総ア第25号証の91)
(イ) 犯行の具体的日時の求釈明
原告X5の主任弁護人であったC11弁護士は,平成15年7月31日の起訴状朗読以降の冒頭手続において,原告X5に対する第1次起訴に係る公訴事実について,①平成15年2月下旬頃とする犯行時期についての具体的日時の特定,②同一の日時,同一の場所での同一の機会における犯行であるか否か,③現金の供与の具体的態様について求釈明を申し立てた。
A73検事は,これらに対し,上記公訴事実に係る犯行が,同一日時の同一場所における犯行であることを釈明したが,その余の上記求釈明に対しては,訴因として特定されているとして具体的な回答をしなかった。
これに対し,A169裁判長は,弁護人が指摘する上記各事項について検察官に対する釈明を求めなかった。(甲総ア第25号証の91,同93)
(ウ) 第1次起訴に係る被告事件の罪状認否(1回目会合事件に関する原告X5の否認)
A92弁護士は,平成15年7月31日の冒頭手続において,原告X1の主任弁護人として,A96弁護士は,原告X4の主任弁護人として,いずれも,前回期日において意見を留保し,第1次起訴に係る被告事件に対する陳述につき,引き続き意見を留保し,訴訟手続を進めることについては異議がない旨を述べた。
原告X5は,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,公訴事実はなかった旨を述べた。
C11弁護士は,原告X5の主任弁護人として,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,原告X5が無罪である旨の意見を述べた。(甲総ア第25号証の91)
(エ) 第2次起訴1に係る被告事件の罪状認否(4回目会合事件に関する原告X1及び原告X4の自白並びに原告X2,亡A1及び原告X5の否認)
裁判所は,平成15年7月31日の同公判期日において,1回目会合事件に関する第1次起訴に係る公訴事実についての冒頭手続の後,4回目会合事件に関する第2次起訴1に係る各公訴事実について冒頭手続を行った。
原告X1及び原告X4は,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも公訴事実に間違いない旨を,原告X2,亡A1及び原告X5は,同手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも公訴事実はなかった旨をそれぞれ述べた。
A92弁護士は,原告X1の主任弁護人として,A96弁護士は,原告X4の主任弁護人として,同手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも意見を留保する旨をそれぞれ述べ,C3弁護士は,原告X2の弁護人として,C10弁護士は,亡A1の主任弁護人として,C11弁護士は,原告X5の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,同公判期日において,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する第1次起訴及び第2次起訴1に係る各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の91,同92,同94,同2920)
(オ) 犯行の具体的日時の求釈明
原告X2の弁護人であったC3弁護士及び原告X5の主任弁護人であったC11弁護士は,平成15年7月31日の同公判期日において,第2次起訴1に係る公訴事実に関し,同年3月下旬頃とする犯行時期の具体的日時の特定等について求釈明を申し立てた。
A73検事は,これらに対し,犯行時期についてこれ以上の特定の必要はないとして,具体的な回答をしなかった。
これに対し,A169裁判長は弁護人が指摘する上記各事項について検察官に対する釈明を求めなかった。(甲総ア第25号証の91,同93)
ク 第1次刑事事件等の第4回公判期日(原告X3関係)(平成15年7月31日)
裁判所は,平成15年7月31日,原告X3に対する第1次刑事事件等の第4回公判期日を開廷して,原告X3に対する第2次起訴1に係る公訴事実について審理を行った。
原告X3は,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,公訴事実に間違いない旨を,A94弁護士は,原告X3の弁護人として,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,原告X3と同様である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,同公判期日において,原告X3に対する上記公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の97及び98)
ケ 弁論の併合(原告X9外第2次刑事事件及び第3次刑事事件4)
検察官は,平成15年8月12日,第2次刑事事件2に第3次刑事事件1の,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する第1次刑事事件等に第3次刑事事件2の,原告X3に対する第1次刑事事件等に第3次刑事事件3の,原告X9外第2次刑事事件に第3次刑事事件4の,各弁論の併合をそれぞれ請求した。
裁判所は,同月13日,上記各請求のとおり,各弁論の併合をそれぞれ決定した(以下,上記各弁論の併合により同時に審理されることとなった原告X9外第2次刑事事件及び第3次刑事事件4を併せて「原告X9外第2次刑事事件等」といい,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1を,その後,上記両事件に第4次刑事事件2の弁論の併合がされたときは,その同事件も併せて,同弁論の併合の前後で特に区別せずに,単に「第2次刑事事件2等」という。)。(甲総ア第25号証の99ないし102,同2715及び2716,同2911及び2912)
コ 原告X9外第2次刑事事件等の第2回公判期日(原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8関係)
裁判所は,平成15年8月27日,原告X9外第2次刑事事件等につき,第2回公判期日を開廷して,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対する審理を行った。
裁判所は,同公判期日において,第3次起訴4に係る公訴事実について,冒頭手続を行い,原告X8は,同冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,上記公訴事実はなかった旨を,C10弁護士は,原告X8の弁護人として,弁護人の被告事件に対する陳述につき,被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,その後,同公判期日において,上記公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の2913の1及び2,同2920及び2921)
サ 弁論の併合(第1次刑事事件等と第4次刑事事件1,第2次刑事事件2等と第4次刑事事件2)
検察官は,平成15年8月27日,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する第1次刑事事件等に第4次刑事事件1の,第2次刑事事件2等に第4次刑事事件2の,各弁論の併合をそれぞれ請求した。
裁判所は,同月28日,上記各請求のとおり,各弁論の併合をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の103及び104,同2717及び2718)
シ 第2次刑事事件2等の第1回公判期日(原告X6及び原告X7関係)
裁判所は,平成15年8月29日,第2次刑事事件2等の第1回公判期日を開廷して,原告X6及び原告X7に対する審理を行った。
裁判所は,同公判手続において,人定質問の後,第4次起訴2に係る各公訴事実の審理につき,原告X6及び原告X7並びに原告X6の主任弁護人であったC6弁護士及び原告X7の主任弁護人であったC7弁護士による刑事訴訟規則179条2項の猶予期間の放棄を経た上,第2次起訴2,第3次起訴1及び第4次起訴2に係る各公訴事実について,起訴状朗読以降の冒頭手続を行った。
C6弁護士は,同手続において,原告X6の主任弁護人兼原告X7の弁護人として,上記各公訴事実について,①それぞれの犯行が原告X6及び原告X7の,又は原告X6,原告X6及び原告X1の共謀とされている点について,共謀の日時,場所,現場共謀か事前共謀かの別,②それぞれ平成15年2月上旬頃,同月下旬頃,同年3月中旬頃及び同年3月下旬頃とされる各犯行時期についての具体的日時の特定について求釈明を申し立てた。
A73検事は,これらに対し,上記各公訴事実につき,訴因として特定されているとして具体的な回答をしなかった。これに対し,A169裁判長は,弁護人が指摘する上記各事項について検察官に対する釈明を求めなかった。
原告X6及び原告X7は,同手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも上記各公訴事実はなかった旨をそれぞれ述べた。
C6弁護士は,原告X6の主任弁護人として,C7弁護士は,原告X7の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,その後,同公判期日において,上記各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の2719の1及び2719の2,同2720及び2721)
ス 第1次刑事事件等の第5回公判期日(原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5関係)(平成15年9月3日)
裁判所は,平成15年9月3日,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する第1次刑事事件等について,第5回公判期日を開廷して,第3次起訴2及び第4次起訴1に係る各公訴事実につき審理を行った。
A92弁護士,A91弁護士,C3弁護士,C9弁護士,A96弁護士,C10弁護士,C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,冒頭手続において,それぞれ原告X1,原告X2,原告X4,亡A1又は原告X5の弁護人として,第3次起訴2及び第4次起訴1に係る各公訴事実につき,連名で同日付け起訴状に対する求釈明申立書を提出し,C11弁護士において,同書面のとおり,①平成15年2月下旬頃とする2回目会合の犯行時期について,同月21日から同月28日までの間という趣旨であるか,②平成15年3月中旬頃とする3回目会合の犯行時期について,同月11日から同月20日までの間という趣旨であるか,③上記各犯行時期について,具体的日時が特定されていない理由,④上記各公訴事実に係る受供与が同一の機会にされたものとする趣旨であるかについて求釈明を行った。
A73検事は,これに対し,上記①,②及び④について,いずれも上記求釈明においてC11弁護士らが指摘するとおりの趣旨であること,③について,日時を特定できるところまで捜査が終わっていないことが理由であることを釈明した。
原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5は,同手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも上記各公訴事実はなかった旨を,A92弁護士は,原告X1の主任弁護人として,C3弁護士は,原告X2の弁護人として,A96弁護士は,原告X4の主任弁護人として,C10弁護士は,亡A1の主任弁護人として,C11弁護士は,原告X5の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
さらに,原告X1と原告X4は,同公判期日において,第1次起訴及び第2次起訴1に係る各公訴事実につき,被告事件に対する陳述につき,いずれも,これまで上記各公訴事実を認めていたが,本当はそのような事実はなかった旨の従前と異なる認否を述べた。
A92弁護士は,原告X1の主任弁護人として,A96弁護士は,原告X4の主任弁護人として,いずれも上記各公訴事実について,これまで意見を留保してきた被告事件に対する陳述につき,被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,同公判期日において,第3次起訴2及び第4次起訴1に係る各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。
C11弁護士は,同公判期日において,第1次刑事事件等における各公訴事実の各犯行時期の具体的日時の特定に関し,裁判所において検察官に対する釈明を求めないのかについて求釈明した。
A169裁判長は,これに対し,同公判期日において,上記各犯行時期の具体的日時について,現時点で検察官に対し,これ以上の釈明は求めない旨を回答した。(甲総ア第25号証の105及び106,同215ないし217)
セ 第1次刑事事件等の第6回公判期日(原告X3関係)(平成15年9月3日)
裁判所は,平成15年9月3日,原告X3に対する第1次刑事事件等について,第6回公判期日を開廷して,第3次起訴3に係る各公訴事実につき審理を行った。
原告X3は,冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,公訴事実はなかった旨を,A95弁護士は,原告X3の弁護人として,被告事件に対する陳述につき,被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
さらに,原告X3は,同公判期日において,第1次起訴及び第2次起訴1に係る各公訴事実の被告事件に対する陳述につき,これまで公訴事実を認めていたが,本当はそのような事実はなかった旨の従前と異なる認否を述べ,A95弁護士は,原告X3の弁護人として,上記各公訴事実についても被告人が無罪である旨の意見を述べた。
裁判所は,同公判期日において,第3次起訴2に係る各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。
A95弁護士は,原告X3の弁護人として,第1次起訴に係る原告X3に対する公訴事実につき,同年2月上旬頃とする犯行時期の具体的日時の特定について求釈明したが,これに対し,A73検事は,同公訴事実について,犯行時期の特定はされており,これ以上の日時の特定の必要はない旨を回答し,A169裁判長も同趣旨の見解を述べた。(甲総ア第25号証の108ないし111,同215ないし217)
ソ 弁論の併合(第1次刑事事件等)(平成15年9月4日)
裁判所は,平成15年9月4日,職権で原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X5に対する第1次刑事事件等に,原告X3に対する第1次刑事事件等の弁論を併合することを決定した。(甲総ア第25号証の117)
タ 原告X9外第2次刑事事件等の第3回公判期日,第1次刑事事件等の第7回公判期日及び第2次刑事事件2等の第2回公判期日(平成15年9月17日)
裁判所は,平成15年9月17日,原告X9外第2次刑事事件等につき,第3回公判期日を開廷して,原告X9,原告X11,原告X10及び原告X8に対する審理を継続し,同月24日,第1次刑事事件等につき,第7回公判期日を開廷して,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X5に対する審理を継続し,同日,第2次刑事事件2等につき,第2回公判期日を開廷し,原告X6及び原告X7に対する審理を継続して,同年10月8日,職権で第1次刑事事件等に,原告X9外第2次刑事事件等及び第2次刑事事件2等の各弁論を併合することを決定した。(甲総ア第25号証の121,同123,同2722,同2725及び2726,同2917,同2920及び2921)
チ 弁論の併合(第1次刑事事件等と第5次刑事事件1及び第5次刑事事件2)(平成15年10月14日)
検察官は,平成15年10月10日,第1次刑事事件等に第5次刑事事件1及び第5次刑事事件2の,各弁論の併合をそれぞれ請求し,裁判所は,同月14日,上記各請求のとおり,各弁論の併合をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の124ないし126)
ツ 第1次刑事事件等の第8回公判期日(平成15年10月17日)
裁判所は,平成15年10月17日,第1次刑事事件等について,第8回公判期日を開廷し,亡X12を除く本件無罪原告らに対する審理を行った。
裁判所は,同公判期日において,第5次起訴1及び第5次起訴2に係る各公訴事実の審理につき,原告X6,原告X1,原告X6の主任弁護人であったC6弁護士及び原告X1の主任弁護人であったA92弁護士による刑事訴訟規則179条2項の猶予期間の放棄を経た上,上記各公訴事実についての冒頭手続を行った。
A73検事は,上記各公訴事実に関し,犯行時期が平成15年2月上旬頃としている点について,第1次起訴に係る各公訴事実における犯行と同一機会のものである旨を釈明した。
原告X6及び原告X1は,同冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,いずれも上記各公訴事実はなかった旨を,C6弁護士は,原告X6の主任弁護人として,A92弁護士は,原告X1の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,いずれも被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,同公判期日から,職権で順次,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1に対する被告人質問を開始した。(甲総ア第25号証の127,同220)
テ 弁論の併合(第1次刑事事件等と第5次刑事事件3)(平成15年10月22日)
裁判所は,平成15年10月22日,職権で第1次刑事事件等に第5次刑事事件3の弁論を併合することを決定した。(甲総ア第25号証の130)
ト 第1次刑事事件等の第9回公判期日(平成15年10月31日)
裁判所は,同年10月31日,第1次刑事事件等について,第9回公判期日を開廷し,本件無罪原告らに対する審理を行った。
裁判所は,同公判期日において,第5次起訴3に係る公訴事実についての冒頭手続を行った。
A73検事は,上記各公訴事実に関し,犯行時期が平成15年2月上旬頃としている点について,第1次起訴に係る各公訴事実における犯行と同一機会のものである旨を釈明した。
亡X12は,同冒頭手続において,被告事件に対する陳述につき,上記公訴事実はなかった旨を,C4弁護士は,亡X12の主任弁護人として,被告事件に対する陳述につき,被告人が無罪である旨の意見をそれぞれ述べた。
裁判所は,同公判期日において,第5次起訴に係る各公訴事実につき,証拠調べ手続に入り,その審理を継続した。(甲総ア第25号証の131及び132,同215ないし217)
ナ 第1次刑事事件等に関する第10回公判期日から第14回公判期日まで(平成15年11月12日から平成16年1月16日まで)
裁判所は,平成15年11月12日から平成16年1月16日にかけて,第1次刑事事件等につき,第10回公判期日から第14回公判期日までを開廷し,検察官の請求に係る本件無罪原告らの捜査段階の供述調書等の書証についての同意の有無の確認,同意のあった書証の取調べのほか,職権で原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1に対する各被告人質問等の証拠調べ手続を行った。
上記各被告人質問は,平成15年12月26日に行われた第1次刑事事件等の第13回公判期日で終了した。(甲総ア第25号証の136ないし140,同215ないし220)
ニ 第1次刑事事件等に関する第15回公判期日から第40回公判期日まで(平成16年2月4日から平成17年5月27日まで)
裁判所は,平成16年2月4日から平成17年5月27日にかけて,第1次刑事事件等につき,第15回公判期日から第40回公判期日までを開廷し,本件無罪原告らの取調べを担当した警察官及び検察官並びに目撃者等に対する検察官の請求に係る証人尋問等の証拠調べ手続を行った。
A84検事は,平成16年9月24日に行われた第1次刑事事件等の第27回公判期日において,裁判所の求釈明に対する回答として,本件刑事事件における各公訴事実に関し,平成15年2月上旬頃とする1回目会合の開催時期は,同月8日頃のことであること,同年3月下旬頃とする4回目会合の開催時期は,同月24日頃のことであること,同年2月下旬頃及び同年3月中旬頃とする2回目会合及び3回目会合の開催時期は,これ以上の特定ができないことを釈明した。
裁判所は,平成17年5月27日の第1次刑事事件等の第40回公判期日において,同月24日,亡A1が死亡したことから,第1次刑事事件等から亡A1に対する事件の弁論を分離し,同事件につき,次回期日を追って指定とした。(甲総ア第25号証の141及び142,同145,同148ないし151,同153ないし159,同162ないし165,同167ないし173,同176,同178,同215ないし220,弁論の全趣旨)
ヌ 第1次刑事事件等に関する第41回公判期日から第51回公判期日まで(平成17年6月29日から平成18年7月27日まで)
裁判所は,平成17年6月29日から平成18年7月27日にかけて,第1次刑事事件等につき,第41回公判期日から第51回公判期日までを開廷し,原告X6のアリバイの成否等に係る弁護人側の立証として,書証の取調べ及び目撃者の証人尋問等の証拠調べを行った。
A74検事は,平成17年7月15日の第1次刑事事件等の第42回公判期日において,第41回公判期日における弁護人らの求釈明に対する回答として,本件刑事事件の各公訴事実につき,1回目会合の開催日が平成15年2月8日,4回目会合の開催日が同年3月24日であることを釈明した。
この釈明に先立って,県警及びA73検事は,4回目会合の開催日時について,a3集落が携帯電話の通話困難地域であることから原告X6及び原告X7の携帯電話の通話履歴から,会合開催の不可能な日を確定させるとともに,受供与者のそれぞれの勤務先のタイムカード等の資料,テレビ番組をよく見る被疑者について,番組表を元に記憶喚起を促すなどして,4回目会合の開催日時の特定の作業を行った。
その結果,原告X1は,開催日時について,勤務先を早退した日である同年3月24日か同月27日が開催日であると供述し,亡A1は,同月28日に民生委員会に出席し,同月25日が亡A1宅でのべぶんこ祝いがあったので開催が不可能である旨を供述し,原告X2は,同月25日の亡A1宅でのべぶんこ祝いに参加したため開催が不可能な日である旨を供述し,原告X4は,同月26日に田之浦中学校の教師の送別会に出席したこと,同月27日には原告X8と自宅で午後7時から午後10時まで放送されたテレビを見ていたこと,同月29日には勤務先の花見に参加し,同月30日に四浦小学校の教師の送別会に参加したため,開催が不可能な日である旨を供述し,原告X8は,同月27日,原告X4と自宅でテレビ番組を見ていた,同月29日には知人の葬儀に出席していたことを供述し,上記各供述の裏付けが取れたこと,4回目会合の参加者とされるf社の従業員であるA113とA114の2人が同月24日に早退しており,同月25日から27日,A113がf社を欠勤していること,原告X6の同月下旬の携帯電話での午後7時30分くらいから午後9時30分くらいまでの間の架電状況を確認したところ,同月24日と同月26日に架電がなかったことから,証拠上,他に合理的な開催日は存在しないものとして,4回目会合が同月24日に行われた可能性が高いものと特定した。(甲総ア第25号証の179ないし181,同183,同184,同186ないし188,同191ないし194,同201,同1054(乙国第42号証),同1065,甲総ア第435号証,弁論の全趣旨)
ネ 論告及び求刑並びに最終弁論及び最終陳述(平成18年9月29日,同年11月7日)
裁判所は,第1次刑事事件等につき,平成18年9月29日,第52回公判期日を開催し,検察官の論告及び求刑を,同年11月7日,第53回公判期日を開廷し,弁護人らの最終弁論及び原告らの最終陳述を行った。(甲総ア第25号証の204ないし209)
(27)  本件刑事事件の公訴提起後の原告らの接見等の禁止と保釈
ア 原告X1関係
(ア) 第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判官に対し,原告X1につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X1に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,第2次起訴1をした同年7月17日,裁判官に対し,原告X1につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X1に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X1に対する第1次刑事事件についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同月23日,裁判所に対し,原告X1につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X1に対し,同勾留に関し,同月31日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の71,同1099,同1100,同1104,同1105,同1117,同1118)
(イ) 第1次刑事事件での勾留更新等
裁判所は,平成15年7月25日,原告X1に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,同年8月3日からその勾留期間を更新することを決定した。
A73検事は,原告X1に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月31日,裁判所に対し,原告X1につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X1に対し,上記各勾留に関し,いずれも同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の91,同1108ないし1110,同1121及び1122)
(ウ) 保釈
A92弁護士及びA91弁護士は,同年8月11日,裁判所に対し,原告X1に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月13日,同保釈の請求についての求意見に対し,然るべくとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X1の保釈を許可した。
検察官は,同月14日,原告X1の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1125ないし1128,同1131)
イ 原告X2関係
(ア) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判所に対し,原告X2につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X2に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1137及び1138)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
C3弁護士は,平成15年7月16日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X2に対する接見等禁止の全部解除又は一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,接見等禁止の全部解除につき,不相当であり却下すべきとの,同一部解除について然るべくとの意見を述べた。
裁判官は,同月17日,原告X2の同接見等禁止につき,同月18日の午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X2の長女との接見を認める一部解除を決定した。
A73検事は,第2次起訴1をした同月17日,裁判官に対し,原告X2につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の同月18日の午後1時から午後4時までの間の原告X2の長女との接見を除く接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X2に対し,同勾留に関し,同月18日の午後1時から午後4時までの間のうちの30分間の原告X2の長女との接見を除く第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X2に対する第1次刑事事件についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同月23日,裁判所に対し,原告X2につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X2につき,同勾留に関し,同月31日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の71,同1141ないし1143,同1147,同1148,同1172,同1174)
(ウ) 勾留更新と接見等の禁止
裁判所は,平成15年7月25日,原告X2に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,同年8月3日から,その勾留期間を更新することを決定した。
A73検事は,原告X2に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月31日,裁判所に対し,原告X2につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X2に対し,上記各勾留に関し,いずれも同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。
裁判所は,同年8月26日から同年11月12日までの間に,原告X2に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。A73検事は,同年9月3日及び同年9月24日,それぞれ裁判所に対し,原告X2につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,上記各請求により,原告X2に対し,上記各勾留に関し,同年10月17日午後10時までの接見等の禁止を各決定した。(甲総ア第25号証の91,同1151ないし1153,1156ないし1158,同1161及び1162,同1165,同1167,同1177,同1178,同1181及び1182,同1185ないし1187,同1191及び1192)
(エ) 接見等の禁止の一部解除
C3弁護士は,平成15年9月8日,裁判所に対し,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中の原告X2に対する各接見等禁止の全部解除又は一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,接見等禁止の全部解除につき,不相当であり却下すべきとの,同一部解除について30分程度を目途に然るべくとの意見を述べた。
裁判所は,同月9日,原告X2に対する上記各接見等禁止につき,同月12日の午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X2の姉及び長女の両名と同時に接見を認める一部解除を決定した。(甲総ア第25号証の1193及び1194,同1198)
(オ) 保釈
C3弁護士は,平成15年11月6日,裁判所に対し,原告X2に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月7日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月10日,上記原告X2についての保釈請求を却下した。
C3弁護士は,同月13日,裁判所に対し,原告X2に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X2の保釈を許可した。
検察官は,同月14日,原告X2の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1201ないし1208,同1211ないし同1214,同1217)
ウ 原告X3関係
(ア) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判官に対し,原告X3につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X3に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1223及び1224)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
A94弁護士は,平成15年7月7日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X3に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。
裁判官は,同月8日,原告X3の同接見等禁止につき,同月10日の午後1時30分から午後2時までの間のうちの30分間,原告X3の妻であるA136との接見を認める一部解除を決定した。(甲総ア第25号証の1227ないし1129)
(ウ) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X3につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X3に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X3に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同月31日,裁判所に対し,原告X3につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X3に対し,同勾留に関し,同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の91,同1238及び1239,同1243及び1244)
(エ) 第1次刑事事件での勾留更新
裁判所は,平成15年7月25日,原告X3に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,同年8月3日からその勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1232)
(オ) 保釈
A94弁護士は,平成15年8月20日,裁判所に対し,原告X3に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月21日,同保釈の請求についての求意見につき,然るべくとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X3の保釈を許可した。
検察官は,同月22日,原告X3の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1247ないし1252,同1255)
エ 原告X4関係
(ア) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判官に対し,原告X4につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X4に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1261及び1262)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
C9弁護士及びA96弁護士は,平成15年7月10日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X4に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,不相当との意見を述べた。
裁判官は,同月11日,原告X4の同接見等禁止につき,同月17日の午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X4の長女であるA156との接見を認める一部解除を決定した。(甲総ア第25号証の1265ないし1268)
(ウ) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X4につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X4に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1294及び1295)
(エ) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,原告X4に対する第1次刑事事件についての冒頭手続を終えた公判期日の日である平成15年7月23日,裁判所に対し,原告X4につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X4に対し,同勾留に関し,同月31日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の71,同1280,同1281)
(オ) 第1次刑事事件での勾留更新
裁判所は,平成15年7月25日,原告X4に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,同年8月3日からその勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1284)
(カ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,原告X4に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である平成15年7月31日,裁判所に対し,原告X4につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X4に対し,上記各勾留に関し,いずれも同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の91,同1286,同1287,同1299,同1300)
(キ) 保釈
A96弁護士は,平成15年8月6日,裁判所に対し,原告X4に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月7日,同保釈の請求についての求意見につき,然るべくとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X4の保釈を許可した。
検察官は,同月8日,原告X4の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1303ないし1309,同1312)
オ 原告X5関係
(ア) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判官に対し,原告X5につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X5に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1426及び1427)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC11弁護士は,平成15年6月24日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X5に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。
裁判官は,同月25日,上記申立てについて,職権発動しないこととした。
C11弁護士は,同年7月3日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X5に対する接見等禁止の全部解除又は一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同月4日,同申立てについての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。
裁判官は,同月4日,原告X5の同接見等禁止につき,同月7日の午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X5の長女との接見を認める一部解除を決定した。
A73検事は,同日,裁判所に対し,裁判官がした上記接見等禁止の一部解除の決定に対する準抗告を申し立て,裁判所は,同日,同準抗告を棄却した。(甲総ア第25号証の1438,同1439,同1447,同1448,同1450,同1451,同1454,同1455)
(ウ) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X5につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X5に対し,同勾留に関し,第1回公判期日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1479及び1480)
(エ) 勾留更新
裁判所は,平成15年7月25日,原告X5に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1459)
(オ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1についての各冒頭手続をいずれも終了した公判期日が開廷された平成15年7月31日,裁判所に対し,原告X5につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X5につき,上記各勾留に関し,いずれも同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の91,同1461,同1462,同1483,同1484)
(カ) 保釈請求却下
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,平成15年8月11日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月12日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり直ちに却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記原告X5についての保釈請求を却下した。
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同月14日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈請求の却下決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月18日,同抗告を棄却した。
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同月12日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,原告X5の健康状態の悪化を理由に勾留執行の停止の職権発動を促す申立てをした。
A73検事は,同月14日,同申立てについての求意見に対し,原告X5が同年7月4日から収監されていた鹿児島拘置支所の法務技官医師が,原告X5につき,入所時の尿検査により糖尿病,高脂血症と診断したほか,感情失禁様症状があったことから不安神経症と診断したが,不安神経症に対しては,同月29日から投薬を開始し,糖尿病及び高脂血症に対しては,同年8月1日から食事療法の指導を開始したこと,当時の診察時の表情や会話のスムーズさ,血液検査の結果等から,勾留については耐えうるものと思料されると判断したこと等を理由に,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記申立てについて職権発動しないこととした。(甲総ア第25号証の1458,同1498ないし1500,同1504,同1508,同1511ないし1515)
(キ) 勾留の執行停止と抗告による取消し
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,平成15年8月15日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,原告X5の健康状態の悪化を理由に勾留執行の停止の職権発動を促す申立てをした。
裁判所は,同日,C4弁護士と面談して,原告X5との同日の接見状況等につき事情を聴取するなどし,検察官に対する求意見をしたが,検察官検事A171は,同月13日から事情の変化はないとして,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。裁判所は,検察官及び原告X5の弁護人らの双方に対し,入院先の病院についての意向を確認した。C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同月18日及び同月19日,裁判所に対し,同申立てに関し,従前から原告X5が自律神経失調症の症状も訴えており,糖尿病との合併症の疑いもあること等から少なくとも検査のための入院が必要であるとして,受け入れ可能な病院及び期間についての情報提供を行い,A73検事は,裁判所に対し,原告X5の体調は安定しており,鹿児島拘置支所以外の病院での検査等は必要ないとの報告を受けた旨及び裁判所が勾留の執行停止の裁判をしたときは抗告の申立てを検討する旨を伝えた。
裁判所は,同月20日,原告X5の上記各勾留につき,制限住居を弁護人が情報提供した原告X5を受け入れ可能な上記病院とすること,出監及び収監を原告X5の弁護人が付き添わなければならないこと,原告X5の弁護人及び上記病院の医療関係者以外の者との接触を禁止すること等の指定条件を付した上で,同月22日午後3時から同月29日午後3時までの間の勾留の執行停止を決定した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記勾留の執行停止の決定に対する抗告を申し立て,その理由として,弁護人の主張に係る原告X5の手足の震えの症状が軽微なものであること,手足の変色が改善していること,抗不安薬の投与により,表情も明るくなったことなどを主張した。
福岡高等裁判所宮崎支部は,同月21日,原決定を取り消した。(甲総ア第25号証の1516ないし1532,同1536ないし1544)
(ク) 勾留更新
裁判所は,平成15年8月26日から同年11月12日までの間に,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。A73検事は,同年9月3日及び同月24日,それぞれ裁判所に対し,原告X5につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,上記各請求により,原告X5に対し,上記各勾留に関し,同年10月17日午後10時までの接見等の禁止を各決定した。(甲総ア第25号証の1460,同1465及び1466,同1469及び1470,同1473及び1474,同1487及び1488,同1491ないし1493,同1496及び1497)
(ケ) 保釈
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,平成15年10月23日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A75検事は,同月24日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり直ちに却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X5の保釈を許可した。
A75検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月27日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同年11月1日,最高裁判所に対し,福岡高等裁判所宮崎支部がした上記保釈許可決定に対する抗告の決定に対し,特別抗告を申し立て,最高裁判所第二小法廷は,同月19日,同特別抗告を棄却した。
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同年10月31日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同年11月4日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X5の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月7日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C11弁護士,C4弁護士及びC12弁護士は,同月13日,裁判所に対し,原告X5に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X5の保釈を許可した。
検察官は,同日,原告X5の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1547ないし1549,同1553,同1564,同1567,同1573,同1576,同1578,同1580,同1584,同1594,同1597ないし1599,同1602)
カ 原告X6関係
(ア) 第2次刑事事件2での起訴後勾留と接見禁止等
A73検事は,第2次起訴2をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X6につき,第2次刑事事件2での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X6に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,2回目会合等7月23日捜査事件について原告X6の勾留請求した同月24日,裁判官に対し,原告X6につき,2回目会合等7月23日捜査事件での起訴前勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X6に対し,同勾留に関し,接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2749,同2750,同2774,同2775)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年7月29日,裁判官に対し,第2次刑事事件2での起訴後勾留中の原告X6に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を,C6弁護士,C5弁護士及びC7弁護士は,同日,裁判官に対し,2回目会合等7月23日捜査事件での起訴前勾留中の原告X6に対する接見等禁止の一部解除の職権発動をそれぞれ求める各申立てをし,A73検事は,同月30日,上記各申立てについての裁判所裁判長裁判官からの各求意見に対し,いずれも不相当であり却下すべきとの各意見を述べた。
裁判官は,同月31日,上記各申立てについて,いずれも職権発動しないこととした。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同年8月1日,裁判官に対し,第2次刑事事件2での起訴後勾留中の原告X6に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を,C6弁護士,C5弁護士及びC7弁護士は,同日,裁判官に対し,2回目会合等7月23日捜査事件での起訴前勾留中の原告X6に対する接見等禁止の一部解除の職権発動をそれぞれ求める各申立てをした。
A73検事は,同月4日,上記各申立てについての裁判官からの各求意見に対し,上記起訴後勾留に係る接見等禁止の一部解除については不相当との,上記起訴前勾留に係る接見等禁止の一部解除については不相当であり却下すべきとの各意見を述べた。
裁判官は,同日,原告X6の上記各接見等禁止につき,いずれも同月8日の午前9時から午後0時まで及び午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X6の長女との接見を認める各一部解除をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の2755ないし2759,同2784ないし2788)
(ウ) 第3次刑事事件2での起訴後勾留と接見禁止等
A73検事は,第3次起訴1をした平成15年8月12日,裁判官に対し,原告X6につき,第3次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同月13日,原告X6に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1についての各冒頭手続をいずれも終了した公判期日が開廷された同月29日,裁判所に対し,原告X6につき,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X6に対し,上記勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。
(甲総ア第25号証の2762,同2763,同2791,同2792,同2795,同2796)
(エ) 保釈請求却下
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年8月29日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同年9月1日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記原告X6についての保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の2804ないし2813)
(オ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から平成16年6月8日までの間に,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1678,同1687,同1697,同1702ないし1708,同1717,同1726,同1731ないし1736,同2766)
(カ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月24日,同年10月17日,同年10月31日,同年11月12日,同月26日,同年12月12日,裁判所に対し,原告X6につき,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等をそれぞれ請求し,裁判所は,上記各同日,原告X6に対し,上記各勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の1679及び1680,同1683及び1684,同1688及び1689,同1693及び1694,同1698及び1699,同1709及び1710,同1713及び1714,同1718及び1719,同1722及び1723,同1727及び1728,同2768及び2769,同2800及び2801)
(キ) 保釈請求却下等
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年10月27日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月28日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月29日,上記原告X6についての保釈請求を却下した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同年11月5日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所が同年10月29日にした上記原告X6についての保釈請求の却下決定に対する抗告及び裁判所が同月31日にした前記第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中の原告X6に対する各接見等禁止の決定に対する抗告をそれぞれ申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同年11月10日,上記各抗告をいずれも棄却した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同月13日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記原告X6についての保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の1731ないし1741,同1745,同1749,同1753,同1758,同1761ないし1765)
(ク) 接見等の禁止の一部解除
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年12月3日,裁判所に対し,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での起訴後勾留中の原告X6に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,然るべく(ただし,1回限り)との意見を述べた。
裁判所は,同月4日,原告X6の上記各接見等禁止につき,いずれも同月5日の午後9時から午後0時まで及び午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X6の長女との接見を認める各一部解除をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の1691,同1768ないし1770)
(ケ) 保釈許可と抗告による取消し
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年12月24日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月26日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月27日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同月31日,最高裁判所に対し,福岡高等裁判所宮崎支部がした上記保釈許可決定に対する抗告の決定に対し,特別抗告を申し立て,最高裁判所第二小法廷は,平成16年1月15日,同特別抗告を棄却した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同月16日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月19日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月22日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同年2月25日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月26日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同年3月2日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同月16日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月17日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A75検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月22日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同年4月9日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A74検事は,同月12日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A74検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月14日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の1773,同1776,同1777,同1781,同1791,同1794,同1799,同1802,同1805,同1806,同1810,同1820,同1823,同1826,同1827,同1831,同1842,同1845,同1848,同1849,同1853,同1863,同1867,同1870,同1871,同1875,同1884)
(コ) 保釈
C6弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成16年6月30日,裁判所に対し,原告X6に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A84検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同年7月1日,上記請求に係る原告X6の保釈を許可した。
A84検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月2日,同抗告を棄却した。
検察官は,同日,原告X6の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1887,同1890,同1891,同1895,同1903,同1906)
キ 原告X7関係
(ア) 第2次刑事事件2での起訴後勾留と接見禁止等
A73検事は,第2次起訴2をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X7につき,第2次刑事事件2での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X7に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,2回目会合等7月23日捜査事件について原告X7の勾留請求した同月24日,裁判官に対し,原告X7につき,2回目会合等7月23日捜査事件での起訴前勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X7に対し,同勾留に関し,接見等の禁止を決定した。
A73検事は,第3次起訴1をした同年8月12日,裁判官に対し,原告X7につき,第3次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X7に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X7に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1についての各冒頭手続をいずれも終了した公判期日が開廷された同月29日,裁判所に対し,原告X7につき,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X7に対し,上記勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2823,同2824,同2829,同2830,同2841,同2842,同2851,同2852,同2855,同2856)
(イ) 保釈請求却下
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,平成15年8月29日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同年9月1日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記原告X7についての保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の2864ないし2873)
(ウ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から平成16年2月9日までの間に,原告X7に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1933,同1942,同1951,同1956ないし1958,同1967,同1976,同1977の5及び1977の6,同2833)
(エ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月24日,同年10月17日,同月31日,同年11月12日,同月26日,同年12月12日,裁判所に対し,原告X7につき,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等をそれぞれ請求し,裁判所は,上記各同日,原告X7に対し,上記各勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の1934及び1935,同1938及び1939,同1943及び1944,同1947及び1948,同1952及び1953,同1959及び1960,同1963及び1964,同1968及び1969,同1972及び1973,同1977の1及び1977の2,同2835及び2836,同2860及び2861)
(オ) 保釈請求却下
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,平成15年10月27日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月28日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月29日,上記原告X7についての保釈請求を却下した。
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,同年11月5日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所が同年10月29日にした上記原告X7についての保釈請求の却下決定に対する抗告及び裁判所が同月31日にした前記第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留中の原告X7に対する各接見等禁止の決定に対する抗告をそれぞれ申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同年11月10日,上記各抗告をいずれも棄却した。
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,同月13日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件1及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記原告X7についての保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の1977の7,同1977の10,同1978,同1982,同1987,同1991,同1996,同2034ないし2038)
(カ) 接見等の禁止の一部解除
C7弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,平成15年11月18日,裁判所に対し,第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での起訴後勾留中の原告X7に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,原告X7の長女との接見につき,然るべく,その余につき,不相当との意見を述べた。
裁判所は,同月18日,原告X7の上記各接見等禁止につき,いずれも同月20日の午前9時から午後0時まで及び午後1時から午後4時までの間のうちの30分間,原告X7の長女との接見を認める各一部解除をそれぞれ決定した。(甲総ア第25号証の2041ないし2043)
(キ) 保釈許可と抗告による取消し
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,平成15年12月24日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月26日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X7の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月27日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,同月31日,最高裁判所に対し,福岡高等裁判所宮崎支部がした上記保釈許可決定に対する抗告の決定に対し,特別抗告を申し立て,最高裁判所第二小法廷は,平成16年1月15日,同特別抗告を棄却した。
C7弁護士,C5弁護士,C13弁護士及びC7弁護士は,同月16日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月19日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X7の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月22日,原決定を取り消し,上記保釈請求を却下した。(甲総ア第25号証の2000,同2010,同2046,同2049及び2050,同2054,同2064,同2067,同2072,同2075,同2078,同2079)
(ク) 保釈
C7弁護士,C5弁護士,C6弁護士及びC13弁護士は,平成16年2月25日,裁判所に対し,原告X7に対する第2次刑事事件2及び第3次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月26日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X7の保釈を許可した。
A73検事は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈許可決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同年3月2日,同抗告を棄却した。
検察官は,同日,原告X7の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の2013,同2014,同2017,同2018,同2024,同2082,同2093)
ク 原告X8関係
(ア) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見禁止等
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X8につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X8に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X8に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月29日,裁判所に対し,原告X8につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X8に対し,同勾留に関し,第2回公判期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,同年8月27日,裁判所に対し,原告X8につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X8に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の3031,同3032,同3035,同3036,同3039,同3040)
(イ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から同年11月7日までの間に,原告X8に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の3043,同1614,同1621)
(ウ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月17日,裁判所に対し,原告X8につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X8に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の3044及び3045)
(エ) 保釈
C10弁護士は,平成15年10月27日,裁判所に対し,原告X8に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月28日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月28日,上記X8についての保釈請求を却下した。
C10弁護士は,同年11月13日,裁判所に対し,原告X8に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X8の保釈を許可した。
警察官は,同月14日,原告X8の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1615ないし1618,同1622ないし1625,同1628)
ケ 原告X9関係
(ア) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X9につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X9に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X9に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月29日,裁判所に対し,原告X9につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X9に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,同年8月27日,裁判所に対し,原告X9につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X9に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2950,同2951,同2954,同2955,同2959,同2960)
(イ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から同年11月7日までの間に,原告X9に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の2963,同1604及び1605)
(ウ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月17日,裁判所に対し,原告X9につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X9に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2964及び2965)
(エ) 保釈
C1弁護士は,平成15年11月13日,原告X9に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月14日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X9の保釈を許可した。
検察官は,同日,原告X9の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1606,同1610,同1613)
コ 原告X10関係
(ア) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見禁止等
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X10につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X10に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X10に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月29日,裁判所に対し,原告X10につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X10に対し,同勾留に関し,第2回公判期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,同年8月27日,裁判所に対し,原告X10につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X10に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の3008,同3009,同3012,同3013,同3017,同3018)
(イ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から同年11月7日までの間に,原告X10に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の3021,同1660,同1670)
(ウ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月17日,裁判所に対し,原告X10につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X10に対し,同勾留に関し,次回公判期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の3022及び3023)
(エ) 保釈
C3弁護士は,平成15年11月5日,裁判所に対し,原告X10に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月6日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月10日,上記X10についての保釈請求を却下した。
C3弁護士は,同月13日,原告X10に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記X10についての保釈請求を許可した。
検察官は,同日,原告X10の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1661,同1667,同1668,同1671ないし1674,同1677)
サ 原告X11関係
(ア) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,原告X11につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,原告X11に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,原告X11に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である同年7月29日,裁判所に対し,原告X11につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X11に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,同年8月27日,裁判所に対し,原告X11につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X11に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2973,同2974,同2977,同2978,同2982,同2983)
(イ) 勾留更新
裁判所は,平成15年9月9日から同年11月7日までの間に,原告X11に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の2986,同1629,同1644)
(ウ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,平成15年9月17日,裁判所に対し,原告X11につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,原告X11に対し,同勾留に関し,次回期日の開廷日の午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の2987及び2988)
(エ) 保釈
C14弁護士は,平成15年10月28日,裁判所に対し,原告X11に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,原告X11にバセドー病及び自律神経失調症の既往歴があること等を指摘して保釈を請求し,A73検事は,同月29日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,その理由中に,同年9月22日の原告X11の血液検査結果では甲状腺機能等に以上は認められず,血圧が軽度高値であった以外異常所見がなく,自律神経失調症の程度も軽微であること等を指摘し,裁判所は,同日,上記X11についての保釈請求を却下した。
C14弁護士は,同年11月6日,裁判所に対し,原告X11に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月7日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月10日,上記X11についての保釈請求を却下した。
C14弁護士は,同月13日,裁判所に対し,原告X11に対する第2次刑事事件1での起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月14日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る原告X11の保釈を許可した。
検察官は,同日,原告X11の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1630ないし1635,同1638ないし1641,同1645ないし1648,同1651)
シ 亡X12関係
亡X12については,在宅捜査とされ,身柄は拘束されていていない。(弁論の全趣旨)
ス 亡A1関係
(ア) 第1次刑事事件での起訴後勾留と接見等の禁止
A75検事は,第1次起訴をした平成15年6月3日,裁判所に対し,亡A1につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,亡A1に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
C10弁護士は,同年7月4日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の亡A1に対する接見等禁止の全部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同日,同申立てについての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。
裁判官は,同日,上記申立てについて,職権発動しないこととした。(甲総ア第25号証の1320,同1321,同1324,同1325)
(イ) 接見等の禁止の一部解除
C10弁護士は,平成15年7月9日,裁判官に対し,第1次刑事事件での起訴後勾留中の原告X4に対する接見等禁止の一部解除の職権発動を求める申立てをし,A73検事は,同月10日,同申立てについての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べた。
裁判官は,同日,亡A1の同接見等禁止につき,同年7月14日の午後1時30分から午後2時までの間のうちの30分間,亡A1の二女である原告X16との接見を認める一部解除を決定した。
A73検事は,同日,裁判所に対し,裁判官がした上記接見等禁止の一部解除の決定に対する準抗告を申し立て,裁判所は,同日,同準抗告を棄却した。(甲総ア第25号証の1330ないし1332,同1335,同1337)
(ウ) 第2次刑事事件1での起訴後勾留と接見等の禁止
A73検事は,第2次起訴1をした平成15年7月17日,裁判官に対し,亡A1につき,第2次刑事事件1での起訴後勾留中の接見禁止等を請求し,裁判官は,同日,亡A1に対し,同勾留に関し,第1回公判期日までの接見等の禁止を決定した。
A73検事は,亡A1に対する第1次刑事事件についての冒頭手続を終了えた第1回公判期日の日である同月23日,裁判所に対し,亡A1につき,第1次刑事事件での起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,亡A1につき,同勾留に関し,同月31日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1367,同1368,同1341,同1342)
(エ) 第1次刑事事件での勾留更新
裁判所は,平成15年7月25日,亡A1に対する第1次刑事事件での起訴後勾留につき,その勾留期間を更新することを決定した。(甲総ア第25号証の1343)
(オ) 検察官立証が終了する期日までの接見禁止等
A73検事は,亡A1に対する第2次刑事事件1についての冒頭手続を終えた公判期日の日である平成15年7月31日,裁判所に対し,亡A1につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中,検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,同日,亡A1に対し,上記各勾留に関し,いずれも同年9月3日午後10時までの接見等の禁止を決定した。(甲総ア第25号証の1346及び1347,同1371及び1372)
(カ) 保釈請求却下
C10弁護士は,平成15年8月11日,裁判所に対し,亡A1に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月12日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同日,上記亡A1についての保釈請求を却下した。
C10弁護士は,同日,福岡高等裁判所宮崎支部に対し,裁判所がした上記保釈請求の却下決定に対する抗告を申し立て,福岡高等裁判所宮崎支部は,同月18日,同抗告を棄却した。(甲総ア第25号証の1387ないし1390,同1394,同1398)
(キ) 勾留更新と接見等の禁止
裁判所は,平成15年8月26日から同年11月12日までの間に,亡A1に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,順次,その勾留期間を更新することを決定した。A73検事は,同年9月3日及び同月24日,それぞれ裁判所に対し,亡A1につき,第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留中の検察官立証が終了する期日までの接見禁止等を請求し,裁判所は,上記各請求により,亡A1に対し,上記各勾留に関し,同年10月17日午後10時までの接見等の禁止を各決定した。(甲総ア第25号証の1351ないし1353,同1356,同1357,同1360,同1361,同1376,同1377,同1380ないし1382,同1385,同1386)
(ク) 保釈請求却下と保釈
C10弁護士は,平成15年10月24日,裁判所に対し,亡A1に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同月27日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当であり却下すべきとの意見を述べ,裁判所は,同月28日,上記亡A1についての保釈請求を却下した。
C10弁護士は,同年11月13日,裁判所に対し,亡A1に対する第1次刑事事件及び第2次刑事事件1での各起訴後勾留につき,保釈を請求し,A73検事は,同日,同保釈の請求についての求意見に対し,不相当との意見を述べ,裁判所は,同日,上記請求に係る亡A1の保釈を許可した。
検察官は,同月14日,亡A1の身柄を釈放した。(甲総ア第25号証の1401ないし1404,1407ないし1410,同1413)
(28)  本件無罪原告らの取調べ時間,志布志署の取調室の概要等
ア 本件無罪原告らの取調べの日時及び時間
(弁論の全趣旨)
(ア) 原告X1関係
原告X1が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-1「原告番号1・X1留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(イ) 原告X2関係
原告X2が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-2「原告番号2・X2留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(ウ) 原告X3関係
原告X3が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-3「原告番号3・X3留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(エ) 原告X4関係
原告X4が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-4「原告番号4・X4留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(オ) 原告X5関係
原告X5が本件公職選挙法違反事件に関し,身柄拘束後に県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-5「原告番号5・X5留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(カ) 原告X6関係
原告X6が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-6「原告番号6・X6留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(キ) 原告X7関係
原告X7が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-7「原告番号7・X7留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(ク) 原告X8関係
原告X8が本件公職選挙法違反事件に関し,県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-8「原告番号8・X8留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(ケ) 原告X9関係
原告X9が本件公職選挙法違反事件に関し,身柄拘束後に県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-9「原告番号9・X9留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(コ) 原告X10関係
原告X10が本件公職選挙法違反事件に関し,身柄拘束後に県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-10「原告番号10・X5留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(サ) 原告X11関係
原告X11が本件公職選挙法違反事件に関し,身柄拘束後に県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-11「原告番号11・X11留置人出入り時間一覧」のとおりである。
(シ) 亡X12関係
亡X12は,本件公職選挙法違反事件に関し,在宅による任意取調べを受けたのみであって,留置場の出入り時間に関する記録は存在しないため,亡X12に関する別紙「留置人出入り時間一覧表」は欠番とする。
(ス) 亡A1関係
亡A1が本件公職選挙法違反事件に関し,身柄拘束後に県警及び検察官から受けた取調べの日時及び時間は,別紙4-13「原告番号13・A1留置人出入り時間一覧」のとおりである。
イ 志布志署の取調室の概要等
(ア) 志布志署の取調室
志布志署の取調室は,平成15年当時,2階建ての志布志署の2階にある生活安全課の一角に位置し,3つの取調室が並列して設置されており,一番外側の取調室以外,窓はない。
取調室の内部は,3畳間より少し広く,入口付近に補助官の使用する机及び椅子が,中央付近に取調官と被疑者等が使用する机があり,入口から見て奥側に被疑者等の使用する椅子が,手前側に取調官が使用する椅子がそれぞれ設置されていた。
取調室の入口のドアは,補助官が椅子に座ったままの状態であれば,開閉することができない状態であった。(甲総ア第539号証の1及び2,弁論の全趣旨)
(イ) 志布志署関屋口交番
関屋口交番は,志布志市中心部にある交番である。
関屋口交番において取調べに使用する部屋の窓は公道に接している。(甲総ア第517号証の1ないし3,甲総ア第536号証の1,弁論の全趣旨)
(29)  本件無罪原告らの弁護人の選任状況等
ア 原告X1の弁護人
(ア) C1弁護士とA90弁護士の選任と解任
原告X1の娘であるA146は,平成15年4月22日,X1焼酎4月22日捜査事件につき,C1弁護士を原告X1の弁護人に選任した。
原告X1は,同年5月14日,原告X1に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,C1弁護士から紹介されたA90弁護士を弁護人に選任した。
原告X1は,同月21日,同事件について,C1弁護士を弁護人に選任し,原告X1は,同年6月4日,第1次刑事事件の主任弁護人として,C1弁護士を選任した。
原告X1は,同月19日,原告X1に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,C1弁護士及びA90弁護士をいずれも弁護人から解任した。(甲総ア第25号証の2102ないし2106,甲総ア第325,甲総ア第326号証)
(イ) C2弁護士の選任と解任
A168裁判官は,平成15年6月19日,原告X1に対する第1次刑事事件につき,C2弁護士を国選弁護人に選任した。
A73検事は,同年7月3日,第1次刑事事件の第1回公判期日の直前,A168裁判官に対し,C2弁護士とC8弁護士につき,いずれも原告X1と原告X4に接見等禁止決定が付されているにもかかわらず,親族からの手紙を閲読させたことを理由に,同期日において,罪状認否の前に検察官として,国選弁護人の解任の職権発動を促す予定であることを予告した。
A168裁判官は,同年7月3日,A73検事からの上記予告を受けて,同期日において,被告人への罪状認否を行わないこととした上で,同月4日,C2弁護士から意見聴取をした上,同月7日,原告X1に対する第1次刑事事件等につき,C2弁護士を国選弁護人から解任した(C2弁護士解任命令)。(甲総ア第25号証の1065,同2109ないし2111,同2169及び2170,弁論の全趣旨)
(ウ) A91弁護士及びA92弁護士の選任
A169裁判長は,平成15年7月8日,原告X1に対する第1次刑事事件につき,同事件を審理する合議体の裁判長として,A91弁護士及びA92弁護士を国選弁護人に選任した。
A91弁護士とA92弁護士は,同月10日,第1次刑事事件の主任弁護人としてA92弁護士を指定した。
A169裁判長は,同年9月24日,原告X1に対する第1次刑事事件等につき,副主任弁護人としてA91弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の121,同2112ないし2114)
イ 原告X2の弁護人
(ア) A93弁護士の選任と解任
原告X2は,平成15年5月15日,原告X2に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,A93弁護士を弁護人に選任した。
原告X2は,同年6月19日,原告X2に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,A93弁護士を弁護人から解任した。(甲総ア第25号証の2115,同2116)
(イ) C3弁護士の選任
原告X2は,平成15年6月20日,原告X2に対する第1次刑事事件につき,C3弁護士を弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の2118)
(ウ) C4弁護士の選任
原告X2は,平成16年4月7日,原告X2に対する第1次刑事事件等につき,C4弁護士を弁護人に選任し,C3弁護士及びC4弁護士は,同日,主任弁護人としてC3弁護士を指定した。
A169裁判長は,同月9日,原告X2に対する第1次刑事事件等につき,副主任弁護人としてC4弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の149,同2119,同2120)
ウ 原告X3の弁護人
(ア) C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の選任と解任
原告X3は,平成15年5月14日,原告X3に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士を原告X3の弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,同年6月4日,原告X3に対する第1次刑事事件につき,いずれも弁護人から辞任した。(甲総ア第25号証の2121,同2122)
(イ) A94弁護士の選任
A168裁判官は,平成15年6月9日,原告X3に対する第1次刑事事件につき,A94弁護士を国選弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の2124)
(ウ) A95弁護士の選任
原告X3は,平成15年8月26日,原告X3に対する第1次刑事事件等につき,A95弁護士を弁護人に選任した。
A169裁判長は,同日,原告X3に対する第1次刑事事件等につき,A94弁護士を国選弁護人から解任した。(甲総ア第25号証の2125及び2126)
(エ) C4弁護士の選任
原告X3は,平成16年6月9日,原告X3に対する第1次刑事事件等につき,C4弁護士を弁護人に選任し,A95弁護士及びC4弁護士は,同日,主任弁護人としてA95弁護士を指定し,副主任弁護人になるべき者としてC4弁護士を届け出た。
A169裁判長は,同日,原告X3に対する第1次刑事事件等につき,副主任弁護人としてC4弁護士を指定した。
A95弁護士は,平成18年6月5日,死亡した。(甲総ア第25号証の154,同2127ないし2129)
エ 原告X4の弁護人
(ア) A93弁護士の選任と解任
原告X4は,平成15年5月22日,原告X4の1回目会合5月13日捜査事件につき,A93弁護士を弁護人に選任した。
原告X4は,同年6月9日,原告X4に対する第1次刑事事件につき,A93弁護士を弁護人から解任した。(甲総ア第25号証の2130,同2131)
(イ) C8弁護士の選任と解任
A168裁判官は,平成15年6月12日,原告X4に対する第1次刑事事件につき,C8弁護士を国選弁護人に選任した。
A73検事は,同年7月3日,第1次刑事事件の第1回公判期日の直前,A168裁判官に対し,C8弁護士につき,原告X4に接見等禁止決定が付されているにもかかわらず,親族からの手紙を閲読させたことを理由に,同期日において,罪状認否の前に検察官として,国選弁護人の解任の職権発動を促す予定であることを予告した。
A168裁判官は,同日,検察官からの同予告を受け,同期日において,被告人への罪状認否を行わないこととした上で,同月4日,C8弁護士から意見聴取をし,同月7日,原告X4に対する第1次刑事事件につき,C8弁護士を国選弁護人から解任した(C8弁護士解任命令)。(甲総ア第25号証の2133ないし2135,同2169,同2170,弁論の全趣旨)
(ウ) C9弁護士及びA96弁護士の選任とC9弁護士の無実の者を有罪とする弁護活動を行うことはできない旨の上申書
A169裁判長は,平成15年7月8日,原告X4に対する第1次刑事事件につき,C9弁護士及びA96弁護士を原告X4の国選弁護人に選任し,C9弁護士とA96弁護士は,同月11日,主任弁護人としてA96弁護士を指定した。
C9弁護士は,同月31日,裁判所に対し,国選弁護人の解任を希望する上申書を提出し,その理由として,原告X4の弁護方針についての意向は,公訴事実を認め,可能な限り早い保釈許可決定の獲得と,可能な限り早い審理の終結を目指すというものである一方,C9弁護士は,原告X4が公訴事実を認めることは真実に反するものであって,無実の者を有罪とする弁護活動を行うことはできず,今後,被告人である原告X4との間で信頼関係を失う可能性が高いことを記載したが,裁判所は,C9弁護士の解任は行わなかった。(甲総ア第25号証の2136ないし2139,弁論の全趣旨)
オ 原告X5の弁護人
(ア) C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の選任
原告X5は,平成15年5月13日,原告X5に対する1回目会合5月13日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,同年6月4日,C7弁護士を主任弁護人と指定した。(甲総ア第25号証の2144,同2145)
(イ) C11弁護士の選任
原告X5は,平成15年6月7日,原告X5に対する第1次刑事事件につき,C11弁護士を選任した。
C5弁護士,C6弁護士,C7弁護士及びC11弁護士は,同月10日,原告X5に対する第1次刑事事件につき,C7弁護士を主任弁護人と指定した。(甲総ア第25号証の2146,2147)
(ウ) C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の辞任
C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,平成15年6月30日,原告X5に対する第1次刑事事件につき,いずれも,弁護人を辞任した。(甲総ア第25号証の2148)
(エ) C12弁護士及びC4弁護士の選任
原告X5は,平成15年7月8日,原告X5に対する第1次刑事事件につき,C12弁護士及びC4弁護士を弁護人に選任し,C11弁護士,C12弁護士及びC4弁護士は,同月11日,原告X5に対する第1次刑事事件につき,C11弁護士を主任弁護人と指定した。(甲総ア第25号証の2149ないし2151)
カ 原告X6の弁護人
(ア) C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の選任
原告X6は,平成15年6月4日,原告X6に対する4回目会合6月4日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,同年7月22日,原告X6に対する第2次刑事事件2につき,主任弁護人としてC6弁護士を指定し,副主任弁護人となるべき者としてC5弁護士を届け出た。(甲総ア第25号証の2876,2883)
(イ) C13弁護士の選任
原告X6は,平成15年7月25日,原告X6に対する第2次刑事事件2につき,C13弁護士を弁護人に選任し,同日,原告X6に対する2回目会合等7月23日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士,C7弁護士及びC13弁護士は,同月30日,原告X6に対する第2次刑事事件2につき,主任弁護人としてC6弁護士を指定した。
A169裁判長は,平成16年5月26日,原告X6に対する本件刑事事件につき,副主任弁護人としてC5弁護士を選任した。(甲総ア第25号証の153,同2877,同2878,同2884)
キ 原告X7の弁護人
(ア) C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の選任
原告X7は,平成15年6月4日,原告X7に対する4回目会合6月4日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士は,同年7月22日,原告X7に対する第2次刑事事件2につき,主任弁護人としてC7弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の2879,同2883)
(イ) C13弁護士の選任
原告X7は,平成15年7月25日,原告X7に対する第2次刑事事件2につき,C13弁護士を弁護人に選任し,同日,原告X7に対する2回目会合等7月23日捜査事件につき,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C5弁護士,C6弁護士,C7弁護士及びC13弁護士は,同月30日,原告X7に対する第2次刑事事件2につき,主任弁護人としてC7弁護士を指定した。
A169裁判長は,同年12月12日,原告X7に対する本件刑事事件につき,副主任弁護人としてC6弁護士を選任した。(甲総ア第25号証の138,同2880,同2882,同2884)
ク 原告X8の弁護人
(ア) C10弁護士の選任
原告X8は,平成15年7月2日,原告X8に対する4回目会合6月25日捜査事件につき,C10弁護士を弁護人に選任した。
原告X8は,同年7月24日,裁判所に対し,弁護人選任に関する回答書において,第2次刑事事件1につき,私選弁護人を解任することを前提に,国選弁護人の選任を請求する旨の意向を示し,C10弁護士は,その後,裁判所の裁判所書記官から,原告X8が上記意向を示していることの連絡を受けて,同月29日の原告X9外第2次刑事事件の第1回公判期日の直前に,原告X8と接見し,引き続きC10弁護士が原告X8の私選弁護人として活動することを確認した。(甲総ア第25号証の1091,同3055,同3056,甲総ア第429号証の321)
(イ) C15弁護士の選任
原告X8は,平成15年9月19日,原告X8に対する第2次刑事事件1につき,C15弁護士を弁護人に選任した。
C10弁護士及びC15弁護士は,同月26日,原告X8に対する第2次刑事事件1につき,主任弁護人としてC10弁護士を指定した。
A169裁判長は,平成16年4月23日,原告X8に対する本件刑事事件につき,副主任弁護人としてC15弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の150,同3057,同3058)
(ウ) C11弁護士の選任
原告X8は,平成17年10月21日,原告X8に対する本件刑事事件につき,C11弁護士を弁護人に選任した。C10弁護士,C11弁護士及びC15弁護士は,同日,原告X8に対する本件刑事事件につき,主任弁護人としてC10弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の2157及び2158)
ケ 原告X9の弁護人
(ア) C1弁護士の選任
原告X9は,平成15年5月21日頃,X1焼酎5月18日捜査事件につき,C1弁護士を弁護人に選任した。
原告X9は,同年6月14日,4回目会合6月8日捜査事件につき,C1弁護士を弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の3049,甲総ア第325,甲総ア第326号証,弁論の全趣旨)
(イ) C10弁護士の選任
原告X9は,平成16年3月24日,原告X9に対する第2次刑事事件1につき,C10弁護士を弁護人に選任し,原告X9,C1弁護士及びC10弁護士は,同日,原告X9に対する第2次刑事事件1につき,主任弁護人としてC1弁護士を指定した。
A169裁判長は,同月26日,原告X9に対する第2次刑事事件1につき,副主任弁護人としてC10弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の148,同2152,同2153)
コ 原告X10の弁護人
(ア) C3弁護士の選任
原告X10は,平成15年6月9日,当時,原告X10が任意捜査を受けていた本件公職選挙法違反事件につき,C3弁護士を原告X10の弁護人に選任した。
原告X10は,同年6月27日,原告X10に対する4回目会合6月25日捜査事件につき,C3弁護士を弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の3053,甲総ア第385,甲総ア第386号証)
(イ) C4弁護士の選任
原告X10は,平成16年4月7日,原告X10に対する第2次刑事事件1につき,C4弁護士を弁護人に選任した。C3弁護士及びC4弁護士は,同日,原告X10に対する第2次刑事事件1につき,主任弁護人としてC3弁護士を指定した。
A169裁判長は,同月9日,原告X10に対する第2次刑事事件1につき,副主任弁護人としてC4弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の149,同2155)
サ 原告X11の弁護人
原告X11は,平成15年7月4日,原告X11に対する4回目会合6月25日捜査事件につき,C14弁護士を弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の3050)
シ 亡X12の弁護人
亡X12は,平成15年10月16日,亡X12に対する第5次刑事事件3につき,C12弁護士,C4弁護士及びC11弁護士をいずれも弁護人に選任した。
C12弁護士,C4弁護士及びC11弁護士は,同日,亡X12に対する第5次刑事事件3につき,主任弁護人としてC4弁護士を指定した。
A169裁判長は,同年12月12日,亡X12に対する第5次刑事事件3につき,副主任弁護人としてC11弁護士を選任した。(甲総ア第25号証の138,同2161,同2162)
ス 亡A1の弁護人
(ア) C10弁護士の選任
亡A1は,平成15年5月21日,亡A1の1回目会合5月13日捜査事件につき,C10弁護士を弁護人に選任した。(甲総ア第25号証の2140)
(イ) C2弁護士の選任
原告X16は,平成15年7月17日,亡A1の子として,亡A1に対する第1次刑事事件等につき,C2弁護士を亡A1の弁護人に選任し,C10弁護士とC2弁護士は,同月18日,主任弁護人としてC10弁護士を指定した。
A169裁判長は,平成16年4月23日,亡A1に対する第1次刑事事件等につき,副主任弁護人としてC2弁護士を指定した。(甲総ア第25号証の150,同2141ないし2143)
(30)  接見内容に関する取調べの状況等
ア A7参事官による接見内容の調書化の指示
(ア) A90弁護士との接見後における原告X1による否認とA7参事官の指示
A14警部補は,平成15年5月18日,原告X1がA90弁護士と接見後の取調べにおいて,被疑事実の否認に転じ,その後,再度自白するに至り,否認に転じた理由につき,A90弁護士の助言に従った旨を供述したことを,A9情報官に報告した。
A9情報官から報告を受けたA7参事官は,A14警部補に対し,原告X1の否認の理由として,弁護人との接見内容を調書化するよう指示した。(甲総ア第332号証,甲総ア第341号証)
(イ) A14警部補が作成した原告X1の供述調書
A14警部補は,平成15年5月18日,上記指示に基づき,原告X1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「今日の午前11時30分頃,弁護士さんが警察署に来たので面会しました。弁護士さんから,貴方からお金を渡されて逮捕された5人のうち,A1さん,X4さん,X2さんはお金を貰ったと言って認めていますが,X3さん,X5さんは貰ったことはありませんと言っていますということを聞かされました。そして,弁護士さんが私にお金や焼酎はやったことはないと言いなさいと言いました。」,「今日の午前中に弁護士さんから言われたことが原因で,そのように刑事さんに言いました」との記載がある。(甲総ア第25号証の690,甲総ア第332号証)
(ウ) 原告X3の否認とA7参事官の指示
A18警部補は,平成15年5月19日,原告X3の取調べにおいて,原告X3がそれまでの取調べで被疑事実を否認していた理由につき,弁護人から否認するよう助言されたためであることなどを供述したことを,A9情報官に報告し,A9情報官から報告を受けたA7参事官は,A18警部補に対し,原告X3の否認の理由として,弁護人との接見内容を調書化するよう指示した。(甲総ア第341号証,甲総ア第343号証)
(エ) A18警部補が作成した原告X3の供述調書
A18警部補は,平成15年5月19日,上記指示に基づき,原告X3の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私が逮捕されてこれまで嘘を言ってきた理由は,(中略)刑事さんから何を言われても行っていない,貰っていないと専門家の弁護士から言い通すように言われ,それを言い通すことによって無罪になると思っていたことであります。」,「しかし,刑事さんから説得を受けて弁護士は,X6さんが警察に捕まらないために私につけた弁護士で,本当に私のことを思っている弁護士ではないということが分かりX6さんをかばっていても自分のためにはならないと思い,正直に話す気持ちになりました。」,「弁護士の先生から,何を聞かれても行っていない,貰っていないと言いなさいと言われていたことから,どうしても言い出せませんでした。しかし,今正直に話をして本当にホッとして胸のつかえが取れた気がします。今まで私は,弁護士の先生のせいで言いたいことも言えずにいました。これからは弁護士の先生の言うことに惑わされたりすることがないように,弁護士は付けずに私の意思で,あったことは全て正直に話します。ですから,この前選任した弁護士の先生は断ります。」との記載がある。(甲総ア第429号証の132,甲総ア第343号証)
イ A75検事の指示
A7参事官は,平成15年5月19日頃,本件刑事事件の捜査につき,弁護人から被疑者に対する否認の働き掛けが認められるとして,A75検事に報告し,今後の対応について協議した。
A75検事は,上記原告X1の同月18日付け供述調書の「弁護士さんが私にお金や焼酎はやったことはないと言いなさいと言いました。」との記載及び上記原告X3の同月19日付け供述調書の「刑事さんから何を言われても行っていない,貰っていないと専門家の弁護士から言い通すように言われ」との記載から,弁護人から被疑者に対する否認の働きかけがあり,それらの働きかけが同時期にされていて,組織的なものである可能性があると考え,A79検事正及び当時の検察庁の次席検事と協議の上,本件刑事事件では,捜査妨害に該当するような弁護人からの被疑者に対する組織的な否認の働き掛けが行われている可能性があると判断して,同月20日頃,弁護士の接見後に被疑者が否認に転じた場合はその理由について事情聴取し,弁護士からの否認の働きかけによるものであった場合,弁護人の違法な弁護活動が認められた場合には,それらを調書化する捜査方針(以下「本件調書化方針」という。)を採ることを決め,A12警部を通じて,県警の捜査官らに対し,その旨を指示するとともに,検察庁の検察官らに対しても同様の指示をした。
A75検事は,同年5月22日頃,志布志署での本件現地本部の捜査会議に出席し,①弁護人が被疑者に圧力を掛けているようであること,②被疑者が接見後に否認に転じた場合はその理由を聞いて,その理由が弁護人の否認の働きかけがあったということが明らかになれば調書化しておいてください,③その場合に,弁護人の違法な弁護活動が認められた場合も調書化しておいてください,④検察庁では,場合によっては弁護人についての懲戒処分申請も考えられるという趣旨のことを発言した。
本件刑事事件の主任検察官がA75検事からA73検事に引き継がれた後も,本件調書化方針が維持された。(甲総ア第25号証の1062,同1065,甲総ア第341号証,甲総ア第344号証,甲総ア第347号証,甲総ア第348号証,弁論の全趣旨)
ウ 平成15年5月18日から同年6月2日までの接見内容等に関する取調内容等
(ア) 原告X1関係(A14警部補による平成15年5月26日の取調べ)
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年5月26日,原告X1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「X5さんだけは,会合に行ったこともないし,お金を貰ったこともないと話していることを弁護士さんから聞きました。」,「X5さん以外のA1さん,X4さん,X2さん,X3さんは,私の家に会合に行って,私から封筒入りのお金を貰ったと警察の人に話していると弁護士さんから聞きましたが,この4人の男の人達は馬鹿です。私から言わせると馬鹿な男達です。以上のとおり録取して読み聞かせたところ次のとおり供述した。私は,X5さんが会合に行ったこともないし,お金をもらったこともないということを弁護士さんからは聞いていません。問 留置場の中に入っていて誰からそんなことを聞いたのか。答 知りません。問 先日の取調べでは弁護士さんから聞いたと話していたがどうか。答 弁護士さんからは聞いていません。(中略)私は部落の人を馬鹿とは言っていない。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の699)
(イ) 原告X3関係
a A77副検事による平成15年5月20日の取調べ
A77副検事は,平成15年5月20日,原告X3の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私が,これまで否認してきたのは,(中略)私に会いに来た弁護士さんからあなたはもらっていないんだから無罪ですから。などと,言われたからでした。私は,弁護士さんから言われた『あなたはもらっていないんだから』というその意味は,暗に,私がX1さんから現金をもらっていないという話を通しなさい,そうすれば無罪になるからという意味に受け取りました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の603)
b C7弁護士の接見時における原告X3の認識とC5弁護士の解任
原告X3は,平成15年5月21日,C7弁護士と接見した際,C7弁護士に対し,原告X3が,捜査機関に対して被疑事実を認める供述をしており,弁護人は必要ないことなどを述べるとともに,原告X3が,A18警部補から,原告X6が逮捕されたら現在選任している弁護人から無視される旨を伝えられたことなどを告げた。
C7弁護士は,原告X3の説得を試みたが奏功せず,原告X3は,同月22日,C5弁護士からの接見の申し出を拒絶し,同日付けで弁護士解任届と題する文書を作成して,C5弁護士を解任する意向を記載した。
同文書は,同月26日,C5弁護士の弁護士事務所に送付され,C5弁護士,C6弁護士,C7弁護士は,同年6月4日,原告X3の弁護人を辞任した。(前提となる事実,甲総ア第329号証,甲総ア第330号証)
c A18警部補による平成15年5月22日の取調べ
A18警部補及びA50巡査部長は,平成15年5月22日,原告X3の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。その中には,C5弁護士やC7弁護士との接見及びC5弁護士の解任後に接見に来たA172弁護士(以下「A172弁護士」という。)との接見に関し,「C5先生や,C5先生の代わりに来たC7先生という弁護士から『何を聞かれても,行っていない,貰っていないと言い通しなさい』と言われており,本当のことが言えませんでした。しかし,刑事さんから何度も説得されたり,弁護士の態度を見るうちに弁護士は本当は私のためではなく,X6先生のために一生懸命しているんだということが分かり始めました。」,「私は弁護士のせいで言いたいことも言えず,またC5先生たちは,私のためではなく,X6先生のために一生懸命であったことが分かり,C5先生の弁護は断ろうと決めました。今日の午前中,C5先生が面会に来てくれましたが,私はC5先生には会わず,解任届を書き看守の人にC5先生に渡してもらうように頼みました。」などの記載があり,さらに,A136の依頼で来た弁護士との接見等に関し,「弁護士の先生は,60歳位の男の人でした。その先生は『こんにちは,弁護士のA172と言います』『奥さんから依頼があって来ました』と言いました。私は弁護士を頼むつもりはありませんでしたので『C5先生も今日,正式に断りました。事件のことは何もかも正直に話しましたから,弁護士は結構です』と言ったところ,A172先生は『もう一度やり直してもらえないでしょうか』と以前のように,X1さんの家にも行っていないし,お金も貰っていない,ともう一度事実を否認してくれないかという意味のことを言いました。(中略)このA172先生もC5先生たちと同じように,私ではなくX6先生を助けるためだけに私のところに来たのではないだろうかと腹立たしく思いました。そこで,私は『私が会合に行って,お金を貰ったのは事実です』『刑事さんにもちゃんと話しました』『一昨日は検事さんの取調べも受け,検事さんにも正直に話しました』といいました。するとA172先生は,『あなたの意思で話したのなら仕方ないですね』と言った。」,「今回逮捕されてから私に面会に来てくれたC5先生やC7先生は,私のためでなくX6先生が捕まらないようにするため,私の口封じに来た弁護士でした。また,今日来たA172弁護士は,妻の依頼を受けて来たということでしたが,(中略)妻が頼んだということはとても信じられません。」,「はっきりしたことは分かりませんが,私がC5先生を断ったことから,X6先生を助けようとしている誰かが私の妻が依頼したと嘘を言い,私に事件のことを否認させるために私に付けようとした弁護士ではないだろうかとさえ疑って考えてしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第4号証,甲総ア第25号証の822,弁論の全趣旨)
d A77副検事による平成15年6月2日の取調べ
A77副検事は,平成15年6月2日,原告X3の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。その中には,「私が否認したのは,(中略)逮捕された後私に会いに来た弁護士さんから,『否認を通して頑張るように』という意味のことを言われたことなどからでした。」,「C5という弁護士が私に会いに来てくれました。そして,私の逮捕容疑事実について簡単に聞いてきましたので,私は,『X1方には行っていないし,お金も貰っていない』と答えました。(中略)C5弁護士にそのように答えたところ,C5弁護士はそれならあなたは無実ですから頑張りなさい。と言いました。私は,(中略)お金のことが心配になり誰が先生にお願いしたんですか。と尋ねたところC5弁護士は,あなたの奥さんから頼まれました。と答えました。」,「その翌日15日,(中略)確かこの夜もC5弁護士がやって来ました。そして,裁判所でのことについて聞かれましたので,私は『裁判所にも会合には行っていないし,お金も貰っていないと答えた。』という趣旨のことを答えました。すると,C5弁護士は,『あなたを信じます。あなたは無罪ですから頑張りなさい。』と私を激励してくれました。また,このときだったと思いますが,C5弁護士は,X5さんのことについて,X5さんは,最初認めていたけど否認した。』というような話を教えてくれました。私は,弁護士が言ったその言葉の意味は『X5さんは,最初は認めていたようだけど,今は否認して頑張っていますよ。だからあなたも頑張りなさい。』と言っているのだと思いました。それで私は弁護士の言葉に対し『分かりました。』と答え,引き続き否認して頑張るという気持ちを伝えました。」,「その若い弁護士は,私に会合に行っていないのなら最後までそのように話しなさいと言われました。私は,会合には行っていないと最後まで通しなさいと言っていると思いました。それでその若い弁護士さんにも,分かりました。と答えて,否認を通すことを約束しました。」,「それから数日したところで,(中略)またその若い弁護士が来ました。そのときもその弁護士は,私に頑張りなさい,と同じような話をした記憶です。また,このときだったと思いますが,私は,X6さんが弁護士を頼んでくれていると思っていましたが,念のためその若い弁護士に,『弁護士を頼めばお金が大分いると聞いていますが。』と聞いてみたところ,その弁護士は『大丈夫です。お金は要りません。』と言いました。それで,私は,やはりX6さんがお金を出して頼んでくれた弁護士だと思いましたので,『X6先生が頼んでくれたんですか。』と尋ねてみたところ,その弁護士は,『そうです。』と答えたことから,X6さんが弁護士を頼んでくれたのだと分かるとともに,X6さんがお金を出して頼んだ弁護士だから,私に,否認して頑張れと言っているのだと思いました。」,「弁護士は,X6さんが頼んだ弁護士であり,その弁護士も私のことを心配してくれて,頑張りなさいと言っているのではなく,X6さんに手が回らないように,X6さんのために私に会いに来て,私に,否認を続けて頑張るようにと言っているのではないかとと思いました。」,「その検事さんから調べを受けた翌日でしたが,またその若い弁護士がやって来ました。私は,ちゃんと正直に話すことにしたことや,検事さんの調べにおいても正直に話して調書を録ってもらったことを話そうと思い,弁護士さんにその旨話しましたが,弁護士は『もう1回考え直して下さい。』ともう1度否認するようにと言ってきました。私は弁護士に振り回されてもう1度否認しようという気にはなりませんでしたので,『もういいです。もう弁護士はいりませんから。』とはっきりと言いました。その翌日頃,今度はA172という弁護士が私に会いにやって来ました。A172弁護士は,私に,『もう1度考え直すことは出来ませんか。』とC5弁護士の後やって来た若い弁護士と同じようなことを言いましたが,私は,『もう弁護士の先生はいりません。』とはっきり断りました。私は,C5弁護士の次にやって来た若い弁護士には,『弁護士はいらない』とはっきり言っていたことから,誰に頼まれて来たのだろうと思い,A172弁護士に『誰から頼まれたのですか。』と聞いたところ,最初は,私の妻から頼まれたようなことを言いました。弁護士のことなど知らない私の妻が頼むはずはありませんでしたので,そのことを言い,さらに尋ねたところ,『X6さんから。』とX6さんから頼まれたことを教えてくれました。私が,A172弁護士にも,弁護士は必要ないことをはっきり伝えたところ,A172弁護士も帰っていきました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の384)
(ウ) 原告X2関係
a A77副検事による平成15年5月22日の取調べ
A77副検事は,平成15年5月22日,原告X2を取り調べ,原告X2は,その当初,被疑事実を否認したが,その後,自白に戻った。A77副検事は,その後も同日の取調べを継続して,1回目会合の開催状況について同日付け供述調書を作成したが,否認の理由については聴取したものの,否認が一時的なものであったため,調書化する必要はないと判断し,同供述調書に何ら記載しなかった。(甲総ア第25号証の370,乙国第238号証)
b A16警部補による平成15年5月22日の取調べ
A16警部補及びA44巡査部長は,平成15年5月22日,原告X2の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「本日,検事さんから逮捕事実について取調べを受けた際,当初,その事実を否認しました。否認の理由は,私が選任したA93弁護士さんと接見した際,私は事実を刑事さんに話していると言っても,弁護士さんは『それは,嘘の話だろう』『何故,調書にサインするのか』等と話し,あたかも事実を否認しなさいと言ったような口ぶりであり,そのことを考えると頭が混乱し,検事さんの前で事実を否認するようなことを話してしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の763)
c A75検事の指示とA77副検事による平成15年5月28日の取調べ
A77副検事は,A75検事に,原告X2が平成15年5月22日の取調べで弁護士の助言に従い,一時否認に転じたことを報告したところ,A75検事から,同日の否認の理由を調書化するよう指示され,同月28日,原告X2の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。
同供述調書には,原告X2が同月22日の午前中に一旦否認に転じ,同日の午後に再度自白に戻った理由についての供述が記載されている。その中に「A93弁護士は『当番弁護士だから来た。』と言い,続けて『弁護士を頼むのか。』といきなり言いました。私は,その乱暴な口調にびっくりしましたが,どっちにしろ今回の事件について弁護士を頼もうと思っていましたのでA93弁護士に『頼もうとは思っているんですが。』と答えました。するとA93弁護士は,『お前は銭は持っているのか。50万,50万で100万はいるぞ。』と乱暴な口調で言いました。私は,その言葉使いに頭に来ましたが,相手が弁護士でしたので,感情を抑えて『いいえ,お金は何とか都合を付けてでもお願いしたいと思っているんですけど。』と答えました。私は,A93弁護士を頼むつもりでそのように言ったのではなく,何とかお金の都合を付けてでも弁護士は頼みたいという意味でそのように言いました。するとA93弁護士は『どんだけの違反をしているのか。』と聞いてきましたが,私は,逮捕事実のX1から現金6万円を貰った事実の他に,その後X1方であった3回の会合で,5万円,5万円,10万円とX1やX6さん本人から貰うなどしたことを大まかに説明しました。それに対しA93弁護士は『2,3年は刑を喰らうやろうな。俺を頼むんだったら俺が引き受けるけど。』と言いました。私は,A93弁護士をその場で頼もうとは思いませんでしたので『待ってください,女房とよく話し合ってください。』と言いました。するとA93弁護士は『奥さんから依頼の電話が来てます。』と,そのときは普通の口調で言いました。私は,裁判所の勾留質問で勾留通知先を聞かれた際,『妻にお願いします』と言っていましたので,裁判所から妻に通知が行き,妻がA93弁護士に頼んだのかなと思いました。それでA93弁護士を頼むことにして『女房からそう言われているのであればそれでいいです。お願いします。』と,A93弁護士に言ったところ,この日は引き上げて行きました。」,「A93弁護士が2回目か3回目の接見にやって来ました。私は,A93弁護士が言っていた弁護料の1回目の50万円を誰が支払ったのか気になりましたので,A93弁護士に『誰がお金を払ったのですか。』と聞いてみたところ,A93弁護士は『娘さん達が出して奥さんがちゃんと払ってくれました。』と言いました。」,「A93弁護士は,『調書は何通くらいまでまいてもらいましたか。』と聞いてきましたので,私は,『3,4通くらいだと思うんですけどね。』と答えました。そのように答えたところ,A93弁護士は『調書にはサインはしたのですか。』と尋ねますので,私は『はい,しました。』と答えました。するとA93弁護士は,私に『何でサインしたのか。』と言ってきました。私はA93弁護士に『間違いないからサインしました。』と答えましたが,A93弁護士はさらに『あと何通くらい録られるのですか。』と聞いてきました。私にはあと何通録られるのか分かりませんでしたので『私には分かりません。刑事さんにあって聞いてください。』と答えたところ,A93弁護士は『刑事には会えない。』と言っていました。その後,A93弁護士はいきなり『あんたは嘘を言っているんじゃないか。』と言い始めました。私は,それまでちゃんと刑事さんに話をし,調書も録ってもらっていましたので『ちゃんと正直に話している。調書も録ってもらっている。』と答えたところ,A93弁護士は『奥さんはあんたが無実だと信じている。奥さんは頑張っているんだから。他の人も頑張っているから。』と言いました。私は,A93弁護士の言っている意味が最初分からず『どういうことですか。』と尋ねたところ,A93弁護士は『X5とかX4とか否認をして頑張っているから。』と答えました。私は,その言葉を聞き,A93弁護士が私に否認するよう言っているのだと思いました。」,「A93弁護士は,さらに私に『検事さんには本当のことを言いなさい。あんたは嘘を言っているんだから。否認をして頑張り通さないといかんがね。』と言ってきました。私は,A93弁護士に,これまで刑事さんに本当のことを言って調書を録ってもらっていることを話していたにもかかわらず,『検事さんには本当のことを言いなさい。』と言い,続けて『あなたは嘘を言っているんだから。否認して頑張り通さないといかんがね。』と言いましたので,その言葉の意味は『嘘の供述をしてきたと検事さんには言いなさい。そして今後は否認を通して頑張らないといけないよ。』と言っていると分かりました。私は,そのように否認すると,裁判が長引くのではないかと思い,その旨聞いてみましたが,A93弁護士は『他の人達も頑張っているんだから。』と言って,否認をして頑張るように言いましたので,弁護士の言うとおり,今後は否認しようと考え『分かりました。否認します。』とA93弁護士に答えたところ,この日は帰っていきました。」,「5月26日の日にA93弁護士が接見にやって来ましたが,私は,A93弁護士がこれまでと同じように私に否認するよう言うようであれば,解任しようと思っていましたので,A93弁護士に『実は,私の意と添わない弁護であれば解任したいんですが。』と私の気持ちを伝えました。A93弁護士は『検事調べがあったそうだね。』と聞いてきましたので,私は『ありました。正直に話して調書も録ってもらいます。』と答えた上で『情状面で弁護して頂けませんか。そうしてもらえないなら解任します。』と私の気持ちをさらに伝えました。するとA93弁護士は『じゃあ分かった。情状面でいく。』と言ってくれましたので,私は『それじゃあよろしくお願いします。』と言って引き続き弁護を頼むことにしたのでした。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の372,乙国第238号証)
(エ) 原告X4関係
a A15警部補による平成15年5月22日の取調べ
A15警部補及びA65巡査は,平成15年5月22日,原告X4の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私は今日,妹たちが雇ってくれた弁護士と接見をした時,弁護士さんから,『あなたの妹さん達は,あなたと縁を切ると言っていますよ』と言われ,大変なショックを受けました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の888)
b A15警部補による平成15年5月27日の取調べ
A15警部補及びA65巡査は,平成15年5月27日,原告X4の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私は,今日昼食後に,妹達が雇ってくれた弁護士さんと接見をし,私が,本年2月上旬頃,X6さんや,X1さん等から,今回の県議選で,X6さんに対する投票と,家族や知人,友人などにもX6さんに投票してくれるように働きかけることに対するお礼として現金を頂いたことが事実であることを話しました。(中略)しかし,弁護士さんは,私が,今回X1さんから現金をもらったことは事実です,情状酌量の方向で弁護をお願いしますと相談したのに,『黙っておけば無罪になる』『今からでも遅くないから今後は黙っていなさい』等と言われました。私はこの弁護士さんの言葉を聞いて,『黙っておけば本当に無罪になるのだろうか』『そんなことが通用するのだろうか』『弁護士さんは,何か考えがあるのだろうか』と思いましたので,弁護士さんに,『じゃあ,弁護士さんは,2月上旬ころ,X1さん方で開かれた集まりに私が出席していないことや,現金を貰っていないことを証明してくれるのですね』と聞いたら,弁護士は急に黙り込んで何も答えられませんでした。」,「弁護士さんが,私に言った『黙っておけ』『黙っておけば無罪になる』と言った意味は,私に『無罪になりたかったら警察の取り調べでは,真実を話すな』ということです。しかし刑事さんも,私が黙り込めば,当然その理由を聞かれると思いますが,私も刑事さんの取調べを受けながら,ずっと黙っていることはできませんので,黙る理由をそれなりに話さなければならなくなります。そうすれば,私としても『今まで話したことは全部嘘です。』等と言って,また黙り込むしかありません。しかし,『今まで話したことは全部嘘です。』というのは,『私にとっては嘘の何ものでもない』のです。結局弁護士さんは,私が『X1ちゃんからお金を貰ったことは事実です』と言っているのに,黙っておけということは,『私に嘘を言えと言っていることと同じだ』と思いました。」,「私は,先週の木曜日ころにも,名前は言いたくありませんが,この妹達が雇ってくれた弁護士さんと,午後から2回に分けて接見をしましたが,この時も弁護士さんは,『X2さんとX5さんも事実を認めていませんよ,あなたも会合には出席してはいないのではないですか,お金も本当は貰っていないのではないですか』と言いました。(中略)弁護士さんが何かアリバイ等の証拠を見つけて私を助けてくれるのだったら否認して,助かるものなら助かりたいという思いが起こりました。ですからこの時も,弁護士さんに,『私が会合に行っていないことや,お金を貰っていないことを証明してもらえるのですか』と期待して尋ねたところ,この時も弁護士さんは,黙り込んで何も答えてくれませんでした。また,この1回目の接見当時,私は,家族に眼鏡の差し入れを頼んでいたにもかかわらず,一向に届かなかったことから,もう家族は私のことを見放したのだなあと悲しくなり,弁護士さんに,『誰も差し入れに来てくれないので,弁護士さんの方から,私の家族に,もう縁を切ってくれと伝えて下さい』とお顧いしたところ,弁護士さんは,『いくら何でもそんなことはできません』と言われました。ところが弁護士さんは,暫くしてまた2度目の接見に来られた際には,『あなたの妹さん達は,あなたと縁を切ると言ってますよ』等と言われました。」,「私自身も,事実をしっかり認めるべきだと考え,今日も弁護士さんが,私に対し,『黙っておけ』『黙っておけば無罪になる』等と言われましたが,私は弁護士さんに,『私が,X1さんから現金を貰ったことは事実なんですから,もう私の気持ちを惑わすようなことは言わないで下さい』ときっぱりお願いしました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の221)
c A76副検事による平成15年5月27日の取調べ
A76副検事は,平成15年5月27日,原告X4の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成し,同供述調書には,原告X4が,同日の取調べの前の取調べの最中に「選挙の金を貰っていないと言っていいのですか。」と発言した理由が記載され,その中には「A93先生は,私に,『黙っていたら,無罪になるのです』『妹たちが兄弟の縁を切ると言っていますよ』と言うので,私は『妹たちが縁を切るという惨いことを先生は私に言うのですか』と言いました。すると,A93先生は黙っていました。」,「今日もあなたの調べの前にA93先生と面会しましたが,そのときのことも話します。今日もA93先生は,私に,『黙っていたら,無罪になるのです』『今からでも遅くないですよ』と言うので,私は,今からでも黙っていたり,嘘を話したら,無罪になるのだろうかと思ったので,私は,A93先生に,『私がお金を貰っていないと嘘を話したら先生はその証明ができるのですか』と聞いたところ,先生は黙っていました。私は,『X6候補は弁護士を頼んでいますか』と聞きました。A93先生は,『頼んでいない』と言いました。私は,『X2君は金を貰った事を話していますか』と聞いたところ,『話しています』と言いました。女房のことが心配だった私は,『女房も弁護士を頼んでいるのですか』と聞いたのです。A93先生は,『頼んでいない』と言いました,私は,女房も金を貰ったことで警察の調べを受けていることを知っていたことや,私だけが弁護士を頼んでいることから,女房が不憫だと思い,A93先生に,自分の弁護人を解任すると言いました。A93先生は,今日の面会のとき,私の息子も連れて警察に来ていると言うので,私は『息子には,かあちゃんやじいちゃん,ばあちゃんのことを頼むと話して下さい』とお願いしました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の373)
d A78副検事による平成15年5月30日の取調べ
A78副検事は,平成15年5月30日,原告X4の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私は,今日,私の妹たちが雇ってくれた弁護士のA93先生が午前11時過ぎに面会に見えました。A93先生は,私に『元気ですか』と声をかけられましたので,私は妻や子供のことが心配であったし,妻や子供の近況が知りたかったことから,前回A93先生が面会に見えたとき『私の家に行って妻や子供に私は元気でいると伝えてくれませんか』と頼んでいたことから,A93先生に『私の家に行って妻や子供に私は元気でいると伝えてもらえましたか』『家族は元気でしたか』と聞いたところ,A93先生は『この前,接見に来たとき一緒に警察署の駐車場であなたのお母さんと息子さんにあっているから自宅には行っていない』と言われて,一番心配している妻の様子が聞けず,また,前回私の実母が警察署まで来ていたのに息子と一緒に来たとだけしか言われていなかったことから,実母のことも話してくれなかったA93先生に対して腹が立つと共に私が頼んだことをちゃんとしてくれないのでガッカリしました。」,「私は,A93先生に最初に面会したとき,私のことを弁護してくれるどころか,『黙っていなさい,黙っていれば無罪になる』と言って,私に否認するように勧めて,更に『妹さん達はあなたと縁を切ると言っていますよ』と言って,逆に私を否認するように脅すようなことを言ったり,また先週の火曜日にA93先生が面会にみえたとき『私は,今回の逮捕事実をしっかり認めて罪を償おうと考えているので情状酌量の方向で弁護をお願いします』と頼んだのに,逆にA93先生は私に『今からでも遅くないから』『黙っておきなさい』『黙っておけば無罪になる』と暗に私に『嘘の供述をしなさい』というようなことを言って,事実を認めて罪を償おうとする私を惑わすようなことばかり言うので,私は前回の面会の時,弁護土さんに『あなたを解任しようと思うので今度来るときは解任届の用紙を持って来てほしい』と頼んでいたのでした。ところが,今日,A93先生が面会にみえたときは頼んでいた解任届をもって来るどころか『X1さんは否認していますよ』『だからあなたもどうなんですか』と言って,私に『X1さんも否認しているからあなたも今からでも否認しなさい』というような意味のことを言われました。私は,この言葉を聞いてA93先生には『事実は全て認めていますので,後は情状でお願いします』と頼んでいるのに,私が頼んだこともせず,否認させて一体誰を弁護しているのだろうかと思うとA93先生に腹が立ってしまって『X1ちゃんが何と言おうが俺には関係ねえ』と言いました。私がこのように言うとA93先生は一時黙ったままでした。この後,A93先生は,『出たいでしょ』と言われますので,私は,『出たいですよ』と言うと,A93先生は,『保釈を申請しますか』と言われますので,私が『いくらかかるんですか』と言ったら,A93先生は『200万かかる,どうしますか』と言いましたが,今の私にはお金もないし,保釈は無理じゃないかと思いましたので,『お金がないので保釈は却下します』と言いますと,A93先生は『却下されるとしょうがないですね』と言われ,A93先生としては私が保釈をお願いするのを期待されていたのではないかと思いました。私は,トイレに行きたかったので私の方から『トイレに行きたいので先に失礼します』と言って面会室を自分から先に出たのでした。私は,A93先生を解任したいのですが,どうにかならないものでしょうか。A93先生には本当に困っています。」,「また,もう一人困った弁護士さんがいます。それはX5さんの弁護士さんです。今日の午後1時過ぎにX5さんの弁護士さんが面会に来ており,弁護士さんがX5さんに面会する声が聞こえてきました。X5さんの弁護士さんは,わざとかどうかは知りませんが,『黙っておきなさい』とか『何も話すな』というような声が房にいる私にも聞こえるような声で,X5さんを説得していました。」,「私としてはX5さんも,現金をもらったことを正直に話して罪を償って一緒に集落に帰って『大変やったけれども,またこれからもお願いします』と言って,一緒に仲良く暮らしていこうと思っているのに,弁護士さんがX5さんを否認させると,集落に帰ってくるのも遅くなって気まずくなるんじゃないかなと心配しているところです。私は,X5さんの弁護士さんにも,X5さんに正直に話すように説得してほしいと思っているのに,期待が裏切られて残念な思いがしましたし,正直に話している自分にも否認を勧めているようで本当に困ってしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の374)
e A15警部補による平成15年5月30日の取調べ
A15警部補及びA65巡査は,同年5月30日,原告X4の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成し,その中には,A78副検事が作成した上記同日付け供述調書の内容に概ね沿う記載がある。(甲総ア第429号証の223)
(オ) 亡A1関係
a A17警部補による平成15年5月21日の取調べ
A17警部補及びA49巡査部長は,平成15年5月21日,亡A1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私は,これまで,今回の鹿児島県議会議員選挙に関し,立候補して当選したX6さんの運動員であるX1,X3や,X6さん本人から,X6さんへの投票や票の取りまとめに対するお礼として,現金や焼酎を貰ったことを話してきましたが,そのとおり間違いありません。刑事さんから,現在の気持ちを尋ねられたことから,これまでの話は間違いないと答えました。しかし,気持ちに迷いがないかどうかを尋ねられた時に,何も答えることが出来ませんでした。実を言うと,今日の午後から面談に来た担当の男性弁護士のC10弁護士から『逮捕されたX4,X2,X5達はお金を貰ったことを話していない。だからあなたも他の人達と同じようにお金を貰ったことを認めてはならない』と言われました。そのため,C10弁護士には『選挙の金は貰っていない』と嘘の話をしてしまいました。」,「問 何故弁護士に嘘の話をしたのか。答 私としましては,X4たちが事実を認めていないということを聞き『自分だけが事実を認めてしまうと罪を1人でかぶることになるかもしれない』と不安な気持ちになり,C10弁護士に嘘の話をしてしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の393)
b A17警部補による平成15年5月28日の取調べ
A17警部補及びA49巡査部長は,平成15年5月28日,亡A1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「刑事さんから現在の気持ちに迷いがないかどうか尋ねられました。しかし,素直に迷う気持ちはありません。これまで話してきたことは本当のことです,と話せませんでした。先日もそうでしたが,実を言いますと,夕食前に面談に来られたC10弁護士から『X5さんは,まだお金を貰ったことを話していません。自分がやっていないことは認めたらいけない』というようなことを言われました。C10弁護士から一方的な感じで事実を認めるなというようなことを言われたものですから,C10弁護士に押しきられるような感じで『選挙の金は貰っていない』と嘘のことを話してしまいました。」,「問 どのような理由で弁護士に嘘の話をしてしまったのか。答 本音を言いますと『まだ,選挙の金を貰っていないと話をしている人がいれば,もしかするとまだ罰を受けずにすむかもしれない。そうであれば,弁護士さんには金を貰っていないと言えばいい』と思う気持ちも確かにありましたので,弁護士さんの『自分がやっていないことは認めたらいけない』ということを聞き,つい嘘のことを話してしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の398)
c A78副検事による平成15年5月30日の取調べ
A78副検事は,平成15年5月30日,亡A1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「私は,今月28日の夕食を食べた後に,娘達が頼んでくれたC10弁護士が面会に来て,私に『どこまで調べが進んでいますか。自分がやってないことは認めてはいけません』ということを言われました。私は,C10弁護士に『4回目の金の流れのところ』と言いました。C10弁護士は『自分がやってないことは認めてはいけません。X5さんはまだお金をもらったことを話してないそうです』と言って,一方的な感じで話をされて,事実を認めるなというようなことを言われたものですからC10弁護士に押し切られたような感じで『選挙の金はもらってない』と言って,これまで1回目のX1方での寄り合いの席でX1から現金をもらったことについては,既にC10弁護士に話していましたので現在刑事さんに取調べを受けている4回目のX1方での寄り合いでX6さんから直接現金10万円をもらったことについて事実を認めて取調べを受けていましたが,そのことについて『選挙の金はもらってない』とC10弁護士に嘘を付いてしまいました。」,「C10弁護士さんからは,この他に2回面会を受けていますが,1回目はC10弁護士の紹介があり,その後,家族との連絡事項などについて聞かれましたので警察に差し押さえられた貯金通帳から妻の入院費を支払ってくれるようにということなどをお願いしました。2回目の面会のときは,C10弁護士から『X3さんがそれまで言わなかったのに選挙でお金をもらったということを話すようになった』というようなことを言われましたので,私は,選挙でお金をもらったことを話しているのは自分ばかりかとそれまで思っていましたので,X3が話を始めたと聞いて,自分ばかりでなくて良かったと思いました。先程も話しましたが,3回目の面会のとき,C10弁護士が『X5さんが話をしていない』ということを聞いて,まだX5さんは話してなかったのかと思うと,正直に話さない方がいいかもと気持ちが揺らいだりもしたのでした。」との記載がある。(甲総ア第25号証の536)
d A17警部補による平成15年5月31日の取調べ
A17警部補及びA49巡査部長は,平成15年5月31日,亡A1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,「今日,私の担当のC10弁護士の面談を受けましたが,その面談の時に『自分がやっていないことは認めたらだめですよ』と,あたかも,選挙の金を貰ったことは認めたらいけないようなことを言われたので話します。C10弁護士の面談は,今日の午後1時30分頃から午後2時頃までの30分くらい,志布志警察署の留置場にある面談室で面談をしました。C10弁護士から,私が逮捕された事実について聞かれましたが,私は,C10弁護士に『X1方で開かれた選挙の集まりの時,X1から現金6万円を貰い,そのうちの5万円はA88に手渡した』と話しました。そうしたところ,C10弁護士は私に『X5さん,X9,X1の3人は事実を認めていない。だから,あなたも,やっていないことは絶対に認めてはならない』と言われました。」,「問 弁護士にそのようなことを言われたときにあなたはどのように思ったか。答 はい,私とすれば,これまで刑事さんや検事さんに話をしたことが本当のことであり,X1やX6さんたちからX6さんへの投票や票集めに対するお礼として現金を貰ったことは間違いありません。C10弁護士さんの口ぶりからすると『X5さんやX1夫婦が罪を認めていないので,あなたも認めたらいけませんよ』というふうに受け止めました。私自身,少しでも早く自由の身になりたいという気持ちはありますが,金を貰った側ですから,もうしばらく留置されても仕方がないと思っています。」,「なお,C10弁護士に,いつ自由の身になれるのか聞きましたところ『起訴後に保釈はききます』と言われました。また,私が再逮捕されるかされないかC10弁護士に聞いたところ『再逮捕されることはない』と言われましたが,もし私が再逮捕されても私が選挙の金を貰ったのは1回だけではないので,仕方ないと思います。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の400)
エ 平成15年6月8日から同年6月24日までの接見内容等に関する取調内容等
(ア) 原告X1関係
a A14警部補による平成15年6月8日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月8日,原告X1の取調べにおいて同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA90弁護士との接見内容について,「鹿児島の警察署に来てからは,A90さんという弁護士さんが私のところに面会に来るようになりました。1,2回目は,私が逮捕されたことについて刑事にどのように話をしているとかの話を聞いていました。しかし,何回目の面会の時であったか忘れましたが,私のところに面会に来た時,『貴方は,このまま事実を認めていたら,X6社長や奥さんのX7さんも逮捕されてしまいますよ。』と言われました。そしてA90弁護士さんは,『会合はなかったと言いなさい,誰も家には来なかったと言いなさい,お金はX6社長から預かっていないと言いなさい,X5さんは,一旦は認めたけど,今は認めていませんよ,だから貴方も家での会合はなかったから,お金を渡せるはずがないと言いなさい』と面会室のガラスのところに顔を近づけて,私にそのように言いました。」,「2回目の逮捕事実の期限が切れる前頃には,A90弁護士さんから『貴方はこのままだったら,裁判もなくて留置場から出られますよ』と言われましたので,私も『信じている弁護士さんから,このように言われたから,ここから出られる,もう少しだから,頑張ってこのまま本当のことは言わないでおこう』と心に決めました。しかし,信じていたA90弁護士さんが言ったようなことにはならず,6月4日には,また逮捕されてしまいました。ですから,今の私の気持ちは『弁護士さんのことを本当に信じていいのか』という気持ちもあって,とても複雑な気持ちです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の704)
b A75検事による平成15年6月8日の取調べ
A75検事は,平成15年6月8日,原告X1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成し,その中で原告X1とA90弁護士との接見内容について,「この弁護士さんが私にお金をあげたということを話しているとX6社長とX7さんが逮捕されてしまうと言ってきました。そして,この弁護士さんは,私に『会合はなかったと言いなさい。誰も家には来なかったと言いなさい。お金はX6社長から預かっていないと言いなさい。X5さんも1回は認めたけど今は認めていません。だからあなたも家での会合はなかったのだからお金は渡していないと言いなさい。』などと言ってきました。」,「その後,二回目の逮捕の期限が近くなった頃に弁護士さんに『このままだったら出て家に帰れる。』と言われました。」,「ですが,結局,検事さんから6月3日に裁判にかけると聞かされました。そして,その翌日には,10万円をもらったことで逮捕されてしまいました。このようなことがあって,少しずつ弁護士さんのことが信じられなくなってきました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の557)
c A14警部補による平成15年6月9日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月9日,原告X1の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA90弁護士との接見内容について,「今朝の9時過ぎ頃にA90弁護士さんが面会に来ました。これまで逮捕された3つの事実について認めたことや昨日検事さんに調書を取ってもらって署名したことをA90弁護士さんに話しました。すると,A90弁護士さんは面会室のガラスに顔を近づけて『お前は何でそんなことを言ったのか』と大きな声で怒鳴られました。」,「A90弁護士さんは,『警察はそのように言って,後の人間を何人でも逮捕するんだ,警察を信用したらいけない,貴方が正直に話をすると,ここから出られないよ,刑事は事件のことを聞くだけだが,弁護士は裁判をしていくんだ,裁判が長くなるか,どうかは弁護士が決めることだ,裁判は俺達弁護士の仕事だ』と言われました。」,「前回の逮捕の時,A90弁護士さんに『会合はしていない,誰も来ていない』と指示された後,私は『やっていない,貰っていない』と言っていましたが,刑事さんに再び認めた後の面会でも『お前は何で,面会室で話したことを刑事にしゃべったのか』と怒られたことがありました。ですから,今は『弁護士さんから言われたことと,刑事さんに正直に話していくこと』で頭が混乱しています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の705)
d A14警部補による平成15年6月10日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月10日,原告X1の取調べで同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA90弁護士及びC1弁護士との接見内容について,「A90弁護士の指示で,それまで刑事さんに正直に話していた内容を全てひっくり返していました。また,A90弁護士さんからは,『今度の事件は裁判になることもなく,6月3日が過ぎたら外に出られるでしょう』と言われていたことから,『私の家で会合なんかなかった,X6社長やX7さん,a3集落の人も今年になって家に来たことはない,誰も来ていない,お金もやってない,X6社長からお金も預かっていないのに,どうして私がお金を渡せるんですか』と刑事さんに食ってかかりました。」,「しかし,6月3日の日に,私が裁判にかけられることを検事さんから聞いて本当にがっかりしました。そして,6月4日には外に出られるどころか,私にとって3回目の逮捕となってしまいました。6月4日は私だけではなくて,a3集落の人やX6社長とX7さんまで逮捕されました。」,「A90弁護士さんから『貴方が認めたら,X6社長とX7さんは逮捕されてしまいますよ』と言われたことから,それからというもの『会合なんかなかった,やっていない,貰っていない』という言葉を繰り返してきました。しかし,X6社長とX7さんが逮捕された上に,外に出られると思っていた私までもが逮捕されてしまいました。このことがあって,私はA90弁護士さんのことが分からなくなりました。」,「弁護士さんは普通の声で当たり前のように私に『これからも会合はなかったと言いなさい』と言いました。」,「面会の時にC1弁護士から,『会合はなかったと言いなさい,お金は貰っていないと言いなさい,それで通しなさい』と言われており」,「私とA90弁護士さんが面会室で話した内容を刑事さんに教えたというのは内緒にして欲しいと思います。と言うのは,A90弁護士さんが誰から聞いて分かつたのか知りませんが,先月,A90弁護士さんが面会に来た時,ガラス越しに『お前は,面会に来た時の内容を刑事に話したな,なんで,そんなことを言うのか』と言われてひどく叱られたことがありました。」,「C1弁護士やA90弁護士に対しては,不信感を持っているという気持ちもありますが,私がお願いした弁護士だから断る訳にもいかないというところがあって複雑な気持ちです。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の52)
e A37巡査部長による平成15年6月11日の取調べ
A37巡査部長及びA70巡査は,平成15年6月11日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA90弁護士及びC1弁護士との接見内容について,「前にも言いましたように,A90弁護士さんから,『お前は,私との面会の内容を刑事に話すな』と言われて,もの凄く怒られたことがありましたので,刑事さんに面会の内容は話しにくいのですが,今は刑事さんのことを信頼していますので,今日の面会の内容も教えます。今日も私は,面会室のガラス越しに弁護士さんの顔をしっかりと見て,『刑事さんには認めて話をしています』と言いました。そうしたところ,弁護士さんは,『あなたの話は他の人達と合わないはずだ,あなたの話は一生合わない,あなた以外にも認めている人がいるけど,認めている人と話が合うはずがない』と言いました。この話を聞いて,私は,『何か合わない話があるのだろうか,認めている人と話が合わないということはどういうことだろう,刑事さんに説明したいことも言えなくなる,ずっと前の話をするのだから,覚えていないところもあるはずだ』と思いました。」,「弁護士さんは『X3さんは選挙でもらったお金で釣り竿を買ったと刑事に話した,刑事がX3さんの家に行って探したけど,釣り竿はなかった,あなた達がいくら説明してもなかなか話が合わないはずだよ,事実を認めたらいけないよ,事実を認めても話が合わないのだから』と言いました。私はこのように言われて,『刑事さんに本当のことを話していこうと思っているのに,弁護士さんは何てことを言うのだろう』と思いました。」,「私はA90弁護士さんとC1弁護士さんから,選挙のお金のことは認めるなと言われ続けておりますし,刑事さんや検事さんには,あったことを正直に話さないといけないということで,正直言って,頭が混乱しています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の707)
f A75検事による平成15年6月13日の取調べ
A75検事は,平成15年6月13日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA90弁護士との接見内容について,「それまで私は正直に話をしていましたが,弁護士さんが面会に来た際,会合があったことやX6社長からお金をもらったということを話さないように言われ,検事さんや刑事さんが言っていることと違うので混乱してしまいました。また,このまま私が会合があったということを正直に話していると,ほかに会合に参加してお金をもらった人が逮捕されてしまうということを弁護士さんから言われました。弁護士さんは,そのように逮捕されなければおかしいと言っていました。私は,その弁護士さんの話を聞いて,このまま本当のことを話していると今逮捕されていない10万円をもらった会合に出席していた人達が逮捕されてしまうことになると思い,会合があったという本当のことを話すのが本当にいいことなのか分からなくなりました。それで,検事さんの前で会合がなかったことや10万円をもらったことはないと嘘をついたのです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の559)
g A37巡査部長による平成15年6月14日の取調べ
A37巡査部長及びA70巡査は,平成15年6月14日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書等を作成した。同供述調書には,原告X1とC1弁護士及びA90弁護士との接見内容について,「私は,都城のC1弁護士さんと鹿児島市のA90弁護士さんを頼んでいます。前から弁護士さんはいらないとは思っていましたが,弁護士さん達がわざわざ来てくれることから,ずっと断れずにいました。今日もC1弁護士さんが来てくれましたが,私は,C1さんには,『事件のことを刑事さんに話している,当たり前に話をしている』と話しました。C1弁護士さんは機嫌が悪くなって,『このままであれば,裁判もずっと長くなりますよ,私はもう来れない』と言いました。弁護士さんが私を怒鳴ったという訳ではありませんが,言い方が私を見放したような言い方でしたので,機嫌が悪いと分かりました。私は,このC1さんの態度を見て,『弁護士さんはもういらない』と決めました。」,「弁護士さんは,私のところに来て,『どういうことを聞かれているか』とか,『どういう取調べを受けているか,お金をもらったと認めてはいけない』というばかりで,私の気持ち等は全く聞いてくれませんでした。昨日までは,『誰のことを信用していいのか分からない』と言いましたが,今は,私の気持ちを分かっていくれる検事さんや刑事さんのことを信用して,事件のことを話していくつもりです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の710)
h A14警部補による平成15年6月18日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月18日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC1弁護士及びA90弁護士との接見内容について,「2人の弁護士さんと面会する度に『お金をやったとか,貰ったとか認めてはいけない』と言われていたことから,正直に事実を話したことを何回もひっくり返してきました。」,「刑事さんも,私のことを良く思っていなかったと思います。しかし,私自身も悩んでいたんです。(中略)私は,刑事さんや検事さんと2人の弁護士さんの間に挟まれて,本当に悩んでいました。私としては,せっかく娘のA146が頼んでくれた弁護士さんだったことから,C1弁護士さんやA90弁護士さんのことを信頼していましたが,先日,C1弁護士さんが面会に来た時に,『このままであれば,裁判もずっと長くなりますよ,私はもう来れない』と,私を見放したような言い方をされたので,私としても『私を悩ますようなことばかり言う弁護士はもういらない』と思うようになりました。」,「面会にきたA90弁護士さんから『貴方が事実を認めたら,X6社長とX7さんは逮捕されてしまいますよ』と言われたことから,『会合なんかなかった,やっていない,貰っていない』と言い通してきました。」,「A90弁護士さんの指示どおりに,それまで刑事さんに正直に話してきた内容を全てひっくり返してきました。」,「A90弁護士の指示に従って刑事さんに嘘を言い続けていました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の60)
i A75検事による平成15年6月18日の取調べ
A75検事は,平成15年6月18日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC1弁護士との接見内容について,「私は,その面会のときにC1先生から取調べでどういうことを聞かれたか聞かれましたので,会合があったこととお金をもらったことを話していると言いました。そして,私は,これまで私についていたC1先生と鹿児島の弁護士の先生に刑事さんや検事さんの前で話している内容は嘘のことだと話をしていたのですが,この土曜日の面会のときに初めて会合があったこととお金をもらったことが本当のことであるというような話をしました。しかし,C1先生は,私に『社長さん達と話が合わないので裁判が長くなる。会合はなかったと言いなさい。』などと言ってきました。私は,C1先生が娘のA146に頼まれたという話を聞いていたのに何で社長と話が合わないなどと言ってきたのだろうと思いました。弁護士さん同士が連絡を取り合っているのかもしれないと思いました。」,「C1先生は『もう来れない。』と私に言ってきました。私は,この面会のときのC1先生の言葉が怒鳴っているわけではないのですが,何か私を見捨てるような感じがしました。私はこれまで刑事さんや検事さんに会合の話とお金をもらったりあげたりした話をした後,弁護士さんが会うと必ず会合がなかった,お金をもらったりあげたりしたことはなかったと言うように言われました。私は,その度に混乱してどうしていいのか分からなくなりました。私は,検事さんの取調べのときに検事さんから自分のための弁護士であるかどうかちゃんと自分で考えてみるように言われました。そのように考えてみると私についていたC1先生と鹿児島の弁護士の先生は,私のためになっていないのではないかという気持ちになりました。それで,日曜日,鹿児島の弁護士の先生が面会に来たのですが,私は会いたくないと言いました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の563)
j A37巡査部長による平成15年6月19日の取調べ
A37巡査部長及びA70巡査は,平成15年6月19日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,C1弁護士又はA90弁護士との接見内容について,取調官からの原告X5がこれまでの取調べで会合には行っていないなどと供述していることについてどう思うかとの問いに対する回答の中で,「弁護士さんから会合やお金のことを認めてはいけない等と言われ続けました。本当のことを言おうか,どうしようかと毎日考えると頭が痛くなって,気が狂いそうになったこともありました。刑事さんや検事さんには本当に迷惑を掛けました。今は刑事さんや検事さんに本当のことを話していますが,刑事さんや検事さんの顔を見るとほっとします。嘘を言っているころは,取調べを受けるのが苦しかったのですが,今は留置場の中にいるより,取調べを受けている方が気が楽です。X5さんにも早く正直に話した方が気持ちが落ち着くよと言ってあげたい気持ちです。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の61)
k A14警部補による平成15年6月24日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月24日,X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC1弁護士及びA90弁護士との接見内容について,「弁護士さんから,事実を認めてはいけないと言われていたことから,それまで刑事さんに正直に話していた内容を全てひっくり返していました。」との記載がある。(甲総ア第429号証の66)
(イ) 原告X2関係
a A16警部補による平成15年6月17日の取調べ
A16警部補及びA71巡査は,平成15年6月17日,原告X2の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X2とA93弁護士との接見内容について,「只今から弁護士費用のことについて説明します。弁護士については,妻X10がお願いしてくれたみたいで,私が鹿児島中央警察署に勾留が決定した日に,『A93弁護士さん』が接見に来てくれました。確か,私が逮捕されたのは,『5月13日』で,その二日後の『5月15日の夕方』のことでしたが,その日に選任届を書いて,A93弁護士さんを選任しました。その後の,接見の時,弁護士費用について尋ねたところ,A93弁護士さんは『東京の娘さんから,50万円支払ってもらいました』と話しました。私は,その話を聞いて,弁護士費用については,『二女A147が50万円を出してくれたこと』を知りました。私は,弁護士さんに,『今回の件については,事実を正直に話して,調書にも署名をしています。今後も正直に話をして,早く社会復帰したいと考えています。裁判は情状面でお願いします』などと,『今回の事件に対する気持ち』『今後の裁判のこと』などを話しました。すると,弁護士さんは,私が選任した弁護士であるにもかかわらず,私の考えを無視して『何故,嘘の話をするのか。何で嘘までついて逮捕されるのか。X5さんは頑張っているのに,何で貴方は頑張れないのか』などと話し,いかにも『事実を否認しなさい。貰っていないと言いなさい』といったような話し振りでした。私は,弁護士さんの話し振りから,『本当に娘から弁護士費用が出ているのだろうか。もしかすると,X6さん達から費用が出ているのではないだろうか。X6さん達が仕向けた弁護士ではないだろうか』と感じましたので,弁護士さんに何回となく『弁護士料は,本当に娘から出ているのですか。X6さん辺りから出ていたら,即座に解任します』などと強い口調で言いました。すると,弁護士さんは,少し驚いたような表情を見せましたが『費用は娘さんから貰いました。他の人達から貰っていません。信用してください』などと話し,他の人達から費用は貰っていないと言い切りました。しかし,弁護士さんは,『X5さんは否認していますよ。選挙の会合があったんですか。話は合わないでしょう』などと話し,明らかに弁護士さん同士で情報交換している節が見られましたので,もしかすると,娘が出している弁護士費用の他に,X6さん達が出している費用もあるかも知れません。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の780)
b A77副検事による平成15年6月18日の取調べ
A77副検事は,平成15年6月18日,原告X2に対する取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X2のA93弁護士及びC3弁護士との接見内容について「私が否認した理由についても,前にも話したとおり,私の妻から頼まれて来たと言ったA93弁護士から,『嘘の供述をしてきたと検事さんには言いなさい。今後は否認して通して頑張らないといけない』という意味のことを言われたことから,その気になり否認したと正直に話しました。私は,検事さんにそれらの事情を話して調書を作成してもらいましたが,その際,A93弁護士に『情状面で弁護していただけませんか。そうしてもらえないなら解任します。』と私の気持ちを伝え,A93弁護士も『じゃあ,分かった。情状面で行く。』と言ってくれたことから引き続きA93弁護士に弁護を頼むことにしたことも調書に書いてもらいました。私は,その後6月4日に,X6さんから選挙のお金10万円を貰った事実で再逮捕されましたが,A93弁護士は,再逮捕された後なかなか面会に来てくれず,確か6月9日ころようやく面会に来てくれました。私は,A93弁護士には,私が事実を認めていることなどを妻のX10に伝えてくれるように頼んでいましたが,そのことを伝えてくれたかどうかもA93弁護士が面会に来てくれなかったことから確かめられず,A93弁護士は解任して国選弁護人を頼もうかと考えていました。それで,面会に来たA93弁護士に『経費もかさむし解任したいと思っているんですが。』と私の気持ちを伝えたところ,A93弁護士は『この前100万円準備できるかと言ったのは,裁判で争った場合のことを考えて言ったのであって,争わないのであれば100万円もかかりません。50万円と少しで終わるでしょう。』と答えました。私は,A93弁護士に腹が立っていましたので,『あなたは,私が再逮捕されてから1回も来てくれなかった。妻のことも,私は正直に話をしていることを伝えて欲しいと頼んでいるのにそれをしてくれているとは思えない。それで解任したいと思っている。』と言ったところ,A93弁護士は『私もあなたがここから早く出られるように頑張ります。ただ,再逮捕された関係で第1回公判での保釈は難しいと思う。第2回公判で保釈されるように頑張ります。』と答えました。私は,私の妻のX10も警察の調べを受けていると刑事さんから聞いていましたので,そのことを尋ねてみましたが,A93弁護士はそのことを知らないようでした。妻には,私がお金を貰ったことを話していませんでしたので,私がX6さんらから選挙のお金を貰ったのは間違いないことを妻に伝えるように頼んでいたのに,妻にも会っていないのではないかと思いました。それで私は,A93弁護士に『私がX6さんらからお金を貰ったことは間違いないことを伝えてください。』と再度お願いし,それが伝わらなかったら解任することを告げました。A93弁護士は,『分かりました』と言って引き上げて行きました。このA93弁護士がやって来た日と同じ日でしたが,夕方,C3という弁護士が私に会いに来ました。弁護士が接見に来たということで接見室に入りましたが,A93弁護士ではなかったことから,X6さんが頼んだ弁護士だと思い,『弁護士が違いますね』と言って部屋から出ようとしたところ,その弁護士が『X2さんちょっと待って下さい。』と言いました。その弁護士は,私に『奥さんからの依頼で来ました。C3です。』と言いました。それで,席に戻り話を聞きましたが,C3弁護士は『今朝,奥さんから電話をもらいました。そこで奥さんに事務所に来てもらいましたが,奥さんは警察で取り調べを受けていると話し,大変疲れている様子でした。奥さんは,X2さんが選任しているA93弁護士が何もしてくれないと言い,私にX2さんの弁護をして欲しいと言ってきました。それで,あなたの意向を聞きに来たのですが,奥さんは弁護士が2人でも構わないと言っています。』と言いました。私は,既に起訴されている,X1から現金6万円を貰った事実や,再逮捕されたX6さんから現金10万円を貰った事実は間違いないことであり,私の気持ちとしては,50万円をA93弁護士に私の娘らがお金を準備して払っていなければ,A93弁護士を解任して国選弁護士を頼もうかと思っていたことから『弁護士は2人もいりませんよ。本当はA93弁護士も解任して国選弁護士を頼もうかと思っています。』と伝えたところ,C3弁護士は『そうですよね。』と答えました。私は,一応情状面を弁護してくれるということでA93弁護士に引き続きお願いすると言ってあったことから,C3弁護士は必要ないと思い『私は一応A93弁護士にお願いしていますので,お断りします。どうしてもと言うなら取り調べを受けている妻の弁護をしてください。』と私の気持ちを伝えたところ,C3弁護士は『分かりました。このことは今日中に奥さんに伝えておきます。』と言って引き上げて行きました。その後,6月12日ころの夜でしたが,私は,少し風邪気味でその日の取調べを終えた後早めに休んでいたところ,C3弁護士が接見にやって来ました。C3弁護士は『奥さんからどうしでもあなたの弁護をしてくれと言われました。奥さんとA93弁護士はしっくりいかないらしいです。』と言って,この日私に会いに来た理由を説明しました。私は,風邪気味で体調も悪く,早めに休んでいたところにC3弁護士がやって来たこともあって,C3弁護士に『もう寝ていました。こんな時間に何事ですか。2人もいらんて。もうよか。』と,弁護士は2人もいらない,もういいですということを伝えたところ,C3弁護士は『A147さんからも連絡が来ました。』と言いました。A147というのは,東京に住んでいる私の次女です。私は,A93弁護士でさえ解任しようかと思っており,国選弁護人に変えようかと思っていたくらいでしたから『弁護士はいらない事件ですよ。国選弁護士で十分です。』とC3弁護士に言ったところ,C3弁護士は『そうなんだけど。奥さんがどうしてもと言ってるんですよ。』と言いました。それで仕方なく『じゃあ2,3日待って下さい。A93弁護士が来たときに話しをしてみます。』と言ったところ,C3弁護士は『そうですか。分かりました。』と言って帰っていきました。その後,昨日のことでしたが,朝方C3弁護士が接見にやって来ました。C3弁護士は『奥さんから電話があって,どうしても会ってくれと言われました。』と言いました。私は,X10らがどうしてもC3弁護士に私の弁護を頼みたいと思っていると考え,C3弁護士に『どのくらいかかりますか。』と,弁護士費用のことを尋ねてみたところ,C3弁護士は,『20万から30万あれば十分でしょう。』と言いました。それで,そのくらいの額であればC3弁護士に変えてもいいと思い,『A93弁護士を解任したらお願いします。』と答えました。それで,留置係の人に頼んでA93弁護士に連絡を取ってもらい,A93弁護士に来てもらいました。そして,A93弁護士に『国選弁護人を頼むことにしました。』と言って,解任することを伝えました。C3弁護士に変えるとは言えませんでした。A93弁護士は『分かりました。』と答え,19日に解任届を持ってくるということで帰っていきました。A93弁護士のそれまでの話では,東京にいる次女のA147が50万円を用意してくれてそれを着手金として貰っているということでしたが,その50万円がどうなるかという話はしませんでした。昨日の夕方,再びC3弁護士が接見にやって来ましたので,A93弁護士を解任することにしたことや,19日に解任届けを出す話をしましたが,その解任届を出した後,C3弁護士の選任届を出すことになりました。それで,今回の一連の事件の弁護人は,C3弁護士に頼むことになると思います。」との記載がある。(甲総ア第25号証の592)
c A77副検事による平成15年6月19日の取調べ
A77副検事は,平成15年6月19日,原告X2の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,A93弁護士及びC3弁護士との接見内容について,「昨日,A93弁護士を解任することにしたことや,19日,つまり,今日A93弁護士が解任届を持ってきてくれることになっていると話しましたが,本日午前中,A93弁護士が解任届の用紙を持ってきましたので,それに署名し,A93弁護士を解任しました。A93弁護士から,着手金として私の妻から50万円を受け取っていることを聞いていましたので,その内いくらか戻ってくるのだろうかと思い,A93弁護士に『お金の方はいくらか返して頂けるのでしょうか。』と尋ねたところ,『半額の25万円は返します。』と答えられました。私は,A93弁護士を解任した上でC3弁護士の選任届を出すことにし,一昨日C3弁護士にそのことを話していましたが,その話をした際,C3弁護士に『私が起訴されている事実も,逮捕勾留されている事実も間違いない』ことを話した上で,『情状面でよろしくお願いします。』とお願いしたところ,C3弁護士は『分かりました。』と答えて私の希望どおり情状面だけの弁護をしてくれることを約束してくれました。C3弁護士は,弁護士費用のことについては,『20万から30万あれば十分でしょう』と言っていましたので,A93弁護士から返ってくる25万円で何とかなるのではないかと思っているところです。」との記載がある。(甲総ア第25号証の593)
(ウ) 原告X3関係
a A77副検事による平成15年6月19日の取調べ
A77副検事は,平成15年6月19日,原告X3の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X6が本件刑事事件をでっち上げだと主張していることについての感想としての供述として,原告X3とC5弁護士及びC7弁護士との接見内容に関し,「否認したのは,私自身が処罰されるということもありましたが,一番大きな理由は,私が事実を認めると,せっかく当選したX6さんが議員を辞めなければならなくなると思ったことと,私に会いに来た弁護士さんから,『否認を通して頑張るように』という意味のことを言われたことなどからでした。X6さんを守ろうという気持ちがあって,私も本当のことを何度も話そうと思いながら否認を続けたのでした。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の606)
b A18警部補による平成15年6月20日の取調べ
A18警部補及びA61巡査は,平成15年6月20日,原告X3の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,C5弁護士,C7弁護士,A172弁護士及びA94弁護士との接見内容について,「逮捕翌日の5月14日にはq法律事務所のC5弁護士が面会に来ました。(中略)しかし,C5先生や,その後,C5先生の代わりに来たC7先生という弁護士から,何を聞かれでも,行っていない,貰っていないと言い通しなさいと言われており,本当のことが言えませんでした。取調べの際,刑事さんから本当のことを話しなさい,X1さんの家に行っていないのであれば,それを証明する証拠がなければいけないと言われ,私も裁判は証拠であると知っていましたので,このことを面会に来たC7先生に尋ねました。すると,C7先生はそんなのは必要ない,あなたは行っていないんでしょう,貰っていないんでしょうと,否認しなさいと言われましたので,証拠は必要なはずだがと思うと,弁護士の先生にだんだん不信感がわいてきました。(中略)妻達家族のものは,弁護士は知らないので,X6先生が頼んでくれたのではないかと思いました。そこで,面会に来られたC7先生に『X6先生からの依頼ですか』と聞いたところ,C7先生は『そうです』と答えられました。私は,C7先生の答を聞いて初めて『X6先生が弁護士費用を出すことで約束ができているので,私には弁護士費用の話はしなかったこと』が分かりました。X6先生からの依頼で弁護士が私に面会に来ているということはどういうことかと考えるようになりました。私のことを本心から思ってくれる弁護士さんであれば,私がX6先生から6万円の買収金を貰ったことについて正直に話そうと思っていることについて,そのようにするように言われるはずだと思っていました。しかし,弁護士の先生からは逆に否認しなさいと言われたことから,X6先生が逮捕されないようにしている,つまりX6先生かばいの弁護士であることが分かりました。(中略)X6先生かばいであることが分かりましたので,弁護士がX6先生からの依頼であることを聞いた時点で正直に話そうと心に決めました。」,「その後,妻からの依頼ということでA172という弁護士の先生が面会に来ました。(中略)A172先生と会ったところ,A172先生は,もう一度やり直してもらえないでしょうかと,もう一度,事実を否認するように言いましたので,私は,弁護士はいりませんと言って正式に断りました。」,「その後は,A94という国選弁護士の先生を選任していますが,A94先生は,私が6万円の逮捕事実を認めていることについては,今のまま正直に話していくように言ってくれますので,私が思っていたような弁護士の先生だと思います。ですから,A94先生には一日も早くでられるようにお願いしています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の840)
(エ) 原告X4関係
a A15警部補による平成15年6月12日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年6月12日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4とC10弁護士との接見内容について,「私は,昨日の夕方,A1さんが選任しているC10弁護士さんが接見に来ましたので会って話しをしましたが,私は,C10弁護士さんが私に会いに来た意図が分かりません。私は,はっきり言って,他の人が選任している弁護士さんなんかとは会いたくないのですが,刑事さん,今後も私は,自分の意思とは関係なく会いに来る弁護士さんと絶対会わなければならないのでしょうか。」,「問 あなたが会いたくなければ,会うことを拒否することもできるはずが,何か気掛かりなことがあるのですか。答 私は,これまで刑事さんに,今回の事件のことを含め,悩みや苦しみなどを聞いて貰っていますので話しますが,昨日午後6時頃,看守さんから,弁護士さんが接見に来ているから出なさいと言われました。私は丁度昨日の昼,国選弁護人の選任届を書いて提出していたので,早速,国選弁護人が接見に来て下さったと思って接見室に入ったところ,長髪で背の高い痩せた45歳くらいの弁護士が既に椅子に腰掛けて待っておられました。その弁護士は,私に,C10ですと自己紹介されました。私は,C10という名前を聞いた時に,どきっとしました。というのは,私は,今月9日に解任したA93弁護士との1回目か2回目の接見の際,A93弁護士が私の前で広げた書類に,現在私と共に逮捕されているa3集落の人達の名前と,担当弁護士の名前が書いてあるメモ紙が目に入り,この時,A1さんの担当弁護士がC10と書いてあったことを覚えていたからです。そこで私は,自分の方から,あなたは,A1さんの弁護士さんではありませんかと尋ねてみました。するとC10弁護士さんは,そうですよと答えられましたので,私は,何でA1さんの担当弁護士が私に会いに来るのだろうと思ってA1さんの弁護士さんが私に何の用事ですかと尋ねたところ,お父さんは貴方のことを大分心配していましたよと言われましたので,私が,四浦に行かれたのですかと尋ねたところ,C10弁護士は,いいえ,行っていませんけど,ここの駐車場で息子さんと会いました。あなたの家族や他の人の家族もあなたが貰ってないと信じてますよ。あなたは貰ってないんでしょう,A1さんやX5さんは,貰ってないと言っていますよ。等と,とても厳しい表情で矢継ぎ早に聞かれました。私は,貰ったのは事実だから正直に話をしていますよと答えました。すると弁護士さんは,更に厳しい顔つきで,嘘を言わなくていいですよ,息子さんや親兄弟は,あなたを信じていると言っていますよ,それでもいいんですか。と聞かれましたので,私は,自分の信念を言っているだけですと答えました。すると弁護士さんは,お金を貰ったのは,4回ですか。いくらですか。と聞いてきましたので,私が,貰った金は6万,5万,5万,10万です。と答えたところ,C10弁護士は,とても歯がゆそうな顔をして,裁判では貰っていると言っているあなたと,貰ってないと言っているA1さんやX5さん,X12さんとの争いになりますよ,争いは,刑事さんが供述したら早く出られるとか,誘導尋問をしていることで争いになりますよ,等と言いました。私は,このC10弁護士さんの話を聞いて,結局,今回私達についている弁護士は,私達のアリバイなど,証拠を揃えて裁判で争うのではなく,ただ単に刑事さんが誘導尋問して無理矢理自供させられていることを私達から引き出して争うことしか考えていないというか,その程度のことしか出来ないのだなあと思いました。そして,これは私の推測ですが,このC10弁護士さんは,X5さんの弁護士さんとも連絡をとり,A1さんと接見するついでに,私と会って,私に対し,私の家族やa3集落の人達が私がお金を貰っていないことを信じている等と私に伝えて私を動揺させ,できることならX5さんと同じようにして否認させようと考えているのではないかと思いました。私はこんな弁護士さんと話をするのがバカバカしくなって,それでよろしいですよ,もういいですかと言って立ち上がろうとしたところ,C10弁護士さんは,あきれたような顔をして,あなたが貰っていると言えば仕方ないですねと言いましたので,私は看守さんに弁護土さんとの話が終わったことを告げて房に戻りました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の901)
b A76副検事による平成15年6月13日の取調べ
A76副検事は,平成15年6月13日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4とA93弁護士及びC10弁護士との接見内容について,「私は,6月9日付けで,それまで私の弁護人になっていたA93先生を解任しましたが,それは,私の弁護をしてくれなかったからです。その理由を聞いて下さい。A93先生は,私と会ったときには,黙っていれば無罪になるのですよと言うので,私は,黙っていれば本当に無罪になるのだろうかと思うとともに,私が嘘を,つまり選挙の金を貰っていないと調べ官に話した場合,そのアリバイを作ってくれるのだろうかと不審に思いました。嘘が通るのであれば,それが一番いいのです。でも,嘘はいつかはばれるということは,私だって分かります。嘘はつきたくありません。私は,A93先生に,嘘のアリバイを作れるのですかという意味のことを話したら,黙っていました。また,A93先生は,保釈で出たくないですかと言うのです。社会に戻るのは私の希望です。本当なら,保釈ででも何でも社会に出て家に帰りたいですよ。そのA93先生は,保釈で出るには200万円要りますと言ったのです。そんな大金は私方にはありません。そのA93先生が嘘で通せるとか保釈の金のことを言うので,私は,この人は本当に私の弁護をしてくれるのか不審だったので,私は,解任してもらったのです。」,「また,6月11日,この志布志警察署にC10弁護士が来て面会しています。そのC10先生は,A1の弁護人であることをC10先生から聞きました。そのC10先生は,私に対して,あなたは,お金は貰っていないんでしょうと聞きましたが,そのお金というのは,私がこれまで話したX1からの6万円であることが分かりました。私は,C10先生に,X1から6万円貰ったのは事実です,これまで4回金を貰いましたと言いました。そのC10先生は,メモをしていました。そして,C10先生は,否認している人達に申し訳ないと思いませんかと言うので,私は,いや,私は,自分の信念で本当のことを話すだけですと言いました。また,C10先生は,私に,裁判では,お金を貰っているというあなたと,貰っていないというA1さんやX5さん,X12さんの争いになる,争いは,刑事さんが供述したら早く出られるとか,誘導尋問していることで争いになりますよと聞いてました。私は,本当のことを警察官やあなたに話しているのに,何でそんなことを言うのだろう,本当にA1さんやX5さん,X12さんはどんな話をしているのだろうかと思いました。私は,A1さんやX5さん,それにX12さんの弁護人を頼んだのは,A1さんの娘さんだと刑事さんから聞いていました。そのC10先生の話の内容は,私には余り喋らないように一方的に話している感じがしました。警察官やあなたに真実を話している私の頭の中をゴチャゴチャに混乱させて,お金を受け取ったことはないと言わそうとしている,これはX6さんが罪を負わないように,つまりX6さんを守るためだ,金を貰っていないと嘘を話している人を守るためだと思ったのです。真実を話している私のことなど考えていない態度だと分かりました。そんなC10先生とも会いたくありません。」との記載がある。(甲総ア第25号証の399)
c A15警部補による平成15年6月15日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年6月15日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4とC10弁護士との接見内容について,「昨日,午後の取調べを終え留置場に戻るとき,今月11日に,私に会いに来られたA1さんが選任しているC10弁護士さんが偶然留置場から出てこられ,廊下でばったり合いました。私は,C10弁護士さんと会って,結果的には不愉快な思いをしましたが,一応C10弁護士さんは,家族が私のことを心配していると教えて下さいましたので,C10弁護士さんとすれ違う時,お礼の意味で頭を下げながら,こんにちわと言って挨拶をしたところ,C10弁護士さんは私と目があって気付いていたにも関わらず,私のことを無視して足早に階段を降りて帰って行かれました。確かに私は,今月11日に,C10弁護士さんが会いに来てくれた時,C10弁護士さんが,あなたは貰ってないんでしょう,A1さんやX5さんは,貰ってないと言っていますよ。嘘を言わなくていいですよ。息子さんや親兄弟は,あなたを信じていると言っていますよ。それでもいいんですか。等と,事実を認めて一日でも早く罪を償おうと考えている私に,A1さんとX5さんが否認していることを教えて,暗に私にも否認するように勧めましたので,私はそれ以上話しをするのがバカバカしくなって,それでよろしいですよ,もういいですか等と言って私が立ち上がったので気分を害されたとは思いますが,難しい試験を受かって,罪を犯した人の立場に立って弁護をする人が,いくら気分を害したとはいえ,礼儀として挨拶したのに無視するなどとは信じられないことであり,人間としての常識を疑いたくなります。本当に頭に来ました,余計なことですが,誰かに聞いて貰いたくて話しました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の902)
d A15警部補による平成15年6月16日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年6月16日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4が4回目会合の状況の詳細を供述した後の供述として,それまで接見してきた弁護人の接見内容に関し,「私は,このように警察に事実を話すということは,それだけ罪が重くなり,事実が多ければ多いほど罰金も高くなることも刑事さんから教えてもらい良く分かっています。また,これまで接見した弁護士さんからも,再三『あなたは貰ってないんでしょう,誰々は否認していますよ,あなたも黙っていなさい,黙っていれば無実になる』等と,色々言われましたが,私がX6さんやX1ちゃん等から今回の県議選に際して現金を貰ったことは事実なのです。」との記載がある。(甲総ア第429号証の233)
e A76副検事による平成15年6月18日の取調べ
A76副検事は,平成15年6月18日,原告X4に対する取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,原告X4とC8弁護士との接見内容について,「私は,本日,国選弁護人のC8弁護士と会いました。その先生は,私に,あなたが,選挙の金6万円を貰ったのは間違いありませんかと聞いたので,私は間違いありませんと答えました。その先生は裁判を1回で終わらせるようにしましょうか,その裁判に身内の人を立ち会わせたいのですが,あなたの子供は何歳ですかと聞くので,私は息子は19歳で,上の娘が21歳ですと言いました。先生は,息子は19歳だから駄目だけど,娘を立ち会わせましょうかと言うので,私はそのようにして下さいと話しました。その先生は,私に対して,黙秘するようにとか否認するようになどということは一言も言わず,その態度から私のことを思っていると感じたので,私は,今後そのC8先生にお願いするようにしたのです。あなたから,X6候補の側ではあなたの弁護料を払う意思はないということを聞きましたが,私自身,X6候補が頼んだ弁護士を頼む気持ちは全くありません。その理由は,X6候補が頼んだと思われる弁護士は,私に黙秘するようなことを話して嘘を言うように話すことから,そんな弁護士は信用できず,信用することができない弁護士を頼む必要はないと思うからです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の632)
(オ) 亡A1関係
a A17警部補による平成15年6月8日の取調べ
A17警部補及びA68巡査は,平成15年6月8日,亡A1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,亡A1とC10弁護士との接見内容について,「私は,昨日,6月7日の午後4時頃から午後5時頃まで,私が選任しているC10弁護士と志布志警察署の面会室で面談をしました。その面談の中で,C10弁護士から,『警察は,あなたの奥さんが入院している病院まで押しかけて行き,無理な取調べをしている』と教えてもらいました。そのことをC10先生から聞き,私は,『警察は妻を犯人扱いしている,体調が悪くて入院しているのに,病院まで押しかけて来て,長期間取調べるとは許せない,もう警察に正直に話をするのも嫌になった』と大変腹が立ちましたので,夕方の取調べの時に,刑事さんに『どうして警察は入院している妻の所へ押しかけて無理矢理取調べるのか,何回,妻から話を聞けば済むのか』と文句を言いました。(中略)私が文句を言った後,刑事さんから妻のX14が5月31日に志布志町の藤後病院を退院し,自宅にいることや6月5日から事情聴取のため,出頭要請をしていることを教えてもらいました。そのようなことをC10先生が一言も教えてくれないものですから,私は警察が長期間にわたり,入院中の病院で無理矢理取調べをしているものと思ってしまったのです。刑事さんの説明で,X1方で選挙の集まりに出席していた複数の人間から私の妻のX14も,その集まりに出席していたという話が出ているということで,事実確認のために事情聴取が必要であり,警察が,決して妻を犯人扱いしている訳ではないことがわかりました。」,「C10先生は,私に妻が病院を退院して自宅にいることや,6月5日から事情聴取の要請をしていることなどの事実を全く教えてくれませんでした。刑事さんが説明してくれたこようなことを,C10先生が話してくれていたら,私としても警察に腹を立てることもありませんでした。C10先生に対しては,妻を含めた家族のことや,妻への事情聴取のことについて本当のことを伝えてもらいたいと思います。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の406)
b A17警部補による平成15年6月19日の取調べ
A17警部補及びA55巡査部長は,平成15年6月19日,亡A1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,亡A1とC10弁護士との接見内容について,「また,私が逮捕されてからしばらくしてC10弁護士が私の担当になりましたが,面談した当初にC10弁護士から『やっていないことは絶対に認めてはいけませんよ』などと,『今回のことは認めたらいけませんよ』というようなことを強い口調で言われたことから,C10先生には正直な話ができませんでした。」との記載がある。(甲総ア第429号証の413)
(カ) 原告X9関係
A19警部補及びA52巡査部長は,平成15年6月12日,原告X9の取調べにおいて,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X9とC1弁護士の接見に関し,「この間,C1弁護士さんが面会に来たのは3回目ですが,面会に来た弁護士さんからは,『やってないから,やっていないと言いなさい。』と言われています。私は,この意味を事実については,『言うな,言うな。』と言われていると思っています。しかし,弁護士さんは『言うな,言うな。』と言うだけで,どうして,私に『言うな,言うな。』と言うのか,その理由を説明してくれません。今後,私が『どうなる,こうなる。』と言って,教えてくれれば良いのですが,そのようなことを教えてくれませんので,先が見えない状態です。何か1つでも『これは,こうなっています。』と教えてくれれば良いのですけど,3回も面会に来たのに何も教えてくれません。」,「C1弁護士さんからは,『言うな,言うな。』と言われていますが,前回,面会にやって来た時,『もうすぐ,留置場から出られるかも知れません。』と言われて,私としては,近い内に留置場から出られるものと信用していました。しかし,私方で行われてた会合の時に,X6さんから選挙違反のお金を10万円受け取ったという事実で,6月8日に再逮捕されてしまいました。C1弁護士さんを信用していた私は,再逮捕されたことで大ショックを受けて,その瞬間,天国と地獄を味わいました。」などの記載がある。(甲総ア第218号証)
オ 平成15年6月30日から同年7月16日までの接見内容等に関する取調内容等
(ア) 原告X1関係
a A14警部補による平成15年6月30日の取調べ(C2弁護士との接見内容)
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年6月30日,X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC2弁護士との接見内容について,「さっき,弁護士さんが面会に来ましたので,取調べを一旦中止してもらって面会しました。この弁護士さんは,私がC1弁護士とA90弁護士に辞めてもらった後から来ている国選の弁護士さんです。」,「弁護士さんは,以前私がお願いしていたC1弁護士とそれまでの経緯を電話でやり取りしていたと言っていました。私は弁護士さんから,裁判にかけられた事件の事実について間違いないですかと尋ねられましたので,私は,『はい間違いないです』と答えました。しかし,弁護士さんは持ってきた調書を台の上に置いて開いてから,裁判にかけられている人でX5さんだけは認めていません。他のA1,X3,X2,X4の4人も話が合わなくて,裁判の時に事実を認めるか認めないか決まっていない,4人は裁判で,お金を貰ったと言うか,貰っていないと言うかまだ決まっていないと説明しました。」,「認めても,認めなくても10月頃までは出られないよ。保釈金も300万円位で,裁判が始まっても保釈される人とされない人がいるよと言われました。」,「都城のC1弁護士のところに昨日お姉さん達が行きました。明日は,鹿児島の私の事務所に貴方のお姉さん達が来ます。お姉さん達と会って話をしてから,また夕方頃,面会に来ますからということも言われました。」,「法律のことを知らない私ですが,弁護士さんが認めても,認めなくても10月頃までは出られないよと言われたことについては,納得できませんでした。(中略)しかし,弁護士さんから認めても認めなくても長く入っているよと言われたことから,なんで,認めている人と認めていない人が一緒に出るのよと思いました。さっき,弁護士さんと会って,そのようなことを言われたことから,私は『この弁護士さんも私を悩ませるようなことを言う人だ』と思いました。」,「弁護士さんは,帰り際にX6さんは,弁護士費用や生活費を出してくれないのですかと聞きましたので,いや,それは出してくれないと思いますと答えました。そして,X6さんのところを何で辞めるのですか,と聞かれましたので,もう,行きたくないから辞めますと答えました。X6社長の話をしている途中で,私に『貴方は刑務所に行くよ』ということも言われました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の725)
b A75検事による平成15年7月2日の取調べ(C2弁護士との接見内容)
A75検事は,平成15年7月2日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC2弁護士との接見内容について,「もう私は疲れてしまいました。裁判でどう言っていいのか分からなくなりました。今日の3時ころ,私の弁護士さんが来ました。この弁護士さんは,一昨日も私に面会に来ました。そのときに私に『裁判は長くかかります。認めていても認めなくても一緒ですよ。』などと言ってきました。」,「裁判のことはよく分かりません。ですから,今まで面会のとき弁護士さんが言ったことは本当なのではないかと思っていました。ただ,そんな私でも事実を認めている人と認めていない人で同じくらい長く裁判がかかり,一緒になるという弁護士さんの話はおかしいと思いました。私は,前にC1弁護士さんと鹿児島のA90弁護士さんに辞めてもらいました。これは,私がa3集落の人達にX6社長に頼まれて,現金入りの封筒を配ったことが間違いないのにそれを説明しても,『会合はなかったと言いなさい。』などと言ってきて,検事さんや刑事さんに本当のことを話したと言っても,『他の人達と話が合わない。』『裁判が長くかかる。』などと脅かすようなことを言ってきたので,私を困らせる弁護士さんだと思い,辞めてもらったのです。それなのに,国選という国で選んだ弁護士さんが,C1弁護士さん達と同じようなことを言ったので,この人も私を困らせる弁護士さんだと思いました。ですから,この前に来たときも何か嫌な気持ちがありました。」,「弁護士さんは,部屋に入ってきて,私に裁判にかかっているX2さん,X4さん,A1さん,X3さん,X5さんの5人にX6社長の選挙のために,現金30万円をあげたことが間違いないか聞いてきました。私は,間違いなくX6社長に頼まれて,私の家でX2さん,X4さん,A1さん,X3さん,X5さんに県議会議員選挙でX6社長に投票することと他の人へX6社長に投票することをお願いすることのお礼として一人に6万円ずつ合計30万円を渡しましたので弁護士さんに,『はい。』と間違いないと答えました。すると,弁護士さんは,調書を見だして,『調書がおかしい。こんなのは信用できないし僕は信じられない。あなたがやったことじゃない。やってないのにやったと書いてある。これじゃあ納得できない。』などと私に言ってきました。私は,やったことは間違いないので早く終わらせて四浦に戻りたいという気持ちだったのですが,弁護士さんにそのようなことを言われて『はぁーあ。』とがっかりしたような気持ちになりました。」,「私は,弁護士さんに『裁判はいつごろになりますか。』というようなことを聞いたところ,弁護士さんは7月は全然開いてないから2回目がお盆過ぎくらいになると思います。』と言っていました。」,「また,弁護士さんは前のときも言っていたように『認めても,認めなくても一緒だから。裁判は長くかかるから。』と言ってきました。私は,前にもこの話と同じ話を聞いたときも,認めている人と認めていない人が一緒なのはおかしいと思いました。」,「私が,弁護士さんに保釈できるか聞いたところ,弁護士さんは『だめです。この事件は人聞が多いから。みんなと話をするからできません。2回目の裁判が終わったら分かるかも知れない。』と言っていました。」,「弁護士さんは,私に『お姉さん達が昨日来ました。』などと言ってきました。前の面会のとき,私は,弁護士さんから『お姉さんに会いますけど何か言っておくことはありますか。』と言われたので,私は『ありません。』と言いました。」,「弁護士さんは,私に姉とあったことを伝えた後『やってないと言わないと家に帰ってこられない。大変なことになるよとお姉さんが言っていました。』などと私に言ってきました。私は,この言葉を聞いて,今回の裁判にかかっている事実を認めると町に働きにでてもいじめられるし,部落でも相手にされなくなるという意味で言ってきたのだと思いました。私は,この言葉を聞いて,私のことを脅かして事実を認めさせないようにしているのだと思いました。」,「弁護士さんは『A1さんが明日の裁判でもらっていないと言って戦うと言っているということが今日の午前中に分かりました。X2さんも裁判でもらっていないと言って戦うと今日の午前中に変わったそうです。』などと言ってきました。(中略)私は,先程もお話ししましたように,X2さんたちに私の家でX6社長に頼まれて現金が入った封筒を渡したことは間違いありません。それを弁護士さんに説明したのにこのように裁判で戦えと言われ,弁護士さんから裁判で嘘をつくように言われたと思いました。」,「その後,弁護士さんは私にA146が書いたという手紙を見せてくれました。私と弁護士さんの間には透明の板がありますので,その透明の板に手紙をくっつけて,私の方に見えるようにしてくれました。A146の手紙は3枚の手紙でした。手紙には『明日,裁判に来るから家のことは心配しなくてもいいから。A145も彼女がいるから家のことはするからいいから。裁判が長くかかってもいいから。心配しなくていいから。本当のことを裁判で言って。』というような内容でした。A146は,既に結婚していて鹿屋に住んでいますので,今回の事件のとき,家におらず,私がa3集落のX2さんたちにX6社長の選挙のために現金入りの茶封筒を配ったことを知りません。だからこの手紙を見たとき,私はこの手紙は姉達がA146に言って書かせたのではないかと思いました。姉達は,私が県議会議員選挙でX6社長へ投票することと他の人にX6社長に投票することをお願いするお礼として現金や焼酎を配ったことを知っています。だから,私が私の家でa3集落のX2さんたちに対して,現金入りの茶封筒を配ったことが間違いないことも知っていると思います。それでも,私に『配っていないと言うように。』と言っていると弁護士さんから聞かされました。結局,姉達は私に嘘をつくように言ってきたのだと私は思いました。そして,姉達は,A146が家にいなくて私がa3集落のX2さんたちにX6社長の選挙のお金を配ったかどうか分からないので,A146に私がX6社長の選挙のお金を配ったことはないという嘘を教えて手紙を書かせたのではないかと思ったのです。私は,このA146の手紙を見せられて,A146は私がやっていないと思っていると思いました。A146は,裁判にも来ると手紙に書いてきました。そんなA146がいる前で私がやったことは間違いないと言うのは私にとっては本当に辛いことです。このA146の手紙を見せられて,裁判でお金を配ったという本当のことを話していいのかと思うようになりました。その後,弁護士さんは私に『明日裁判で質問するから答えて下さい。』と言って,帰っていきました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の566)
c A14警部補による平成15年7月14日の取調べ(C1弁護士及びA90弁護士との接見内容)
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年7月14日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とC1弁護士及びA90弁護士との接見内容について,「C1弁護士は,私が焼酎とお金を配ったということで逮捕された4月22日の翌日頃に私のところに面会に来てくれていた弁護士でした。C1弁護士は,私が鹿児島市内の警察署に移った後も面会に来てくれましたし,私の夫X9が逮捕されてからは,X9の弁護もしてくれています。X9が逮捕された後の面会は,都城から私のところに面会に来た後にX9のところに面会に行っていたようでした。私と面会をしたC1弁護士からは,X9さんには私が事実を認めるなと言ってます,お金を貰ったことを認めるなと言っていますから,X9さんも頑張っていますと聞かされていました。私の方は,X9が逮捕された後の5月下旬頃からA90弁護士にお金を貰ったと認めてはいけないと言われていたことから,A90弁護士の指示どおりにしていました。しかし,6月4日に逮捕されてから数日経った頃には,誰のことを信用していいのか分からなくなったという気持ちと,検事さんや刑事さんに事件のことを正直に話して,少しでも早く裁判を済ませて普通の生活に戻りたいという気持ちになり,刑事さんにX6社長から選挙のお金を貰っていたことを正直に話しました。私が事実を認めていた頃の6月中旬頃にもC1弁護士が面会に来ました。私が,C1弁護士に事実を認めて刑事さんに調書を作ってもらっていますと言ったところ,C1弁護士は,まだ,間に合うから,ひっくり返しなさいと,まだ,時間があるから,事実をひっくり返して認めていない調書を作ってもらいなさいと言いました。私が刑事さんに真実を話しているのに,また私を悩ますようなことを言っていると思ったことから,面会が終わった後,刑事さんに,もう,弁護士には会いたくないと言って私の気持ちを伝えました。その後,刑事さんや検事さんにお願いして,C1弁護士には私の弁護を辞めてもらいました。」,「A90弁護士がいつものように刑事に何を聞かれているかと質問して,その内容をノートに書いていました。その後,雑談の中で刑事というのは取調べをして認めさせれば,どんどん上に上がって偉くなるんだよと,刑事は,犯人の取調べをして事実を認めさせれば,どんどん階級が上がって出世するものなんだよという意味のことを言いました。(中略)昨日,刑事さんから,A90弁護士が言ったことが,全くのでたらめであることを聞いて,びっくりしました。私としては,弁護士さんが言われることだから,本当だと思って少しも疑っていませんでした。(中略)私が事実を認めなかった頃,A90弁護士から言われたこともひとつの原因であったことは間違いありません。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の731)
d A14警部補による平成15年7月15日の取調べ(A92弁護士との接見内容)
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年7月15日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA92弁護士との接見内容について,「今日の午後2時過ぎ頃,弁護士さんと面会しました。私には2人の国選弁護士さんがいますが,今日来たのは,先週の9日頃初めて来たA92という弁護士さんの1人だけでした。もう一人の弁護士さんは,A92弁護士さんから名刺を見せてもらっていましたが,名前は覚えていません。今から,A92弁護士さんと面会して怒られたことを説明します。初めてA92弁護士さんに面会した時は,感じの良い弁護士さんだと思いましたが,さっき面会した時は,この前とは正反対だったことから,私も腹が立っています。」,「私が全ての事実をひっくり返した後の7月9日頃に,私に付いてくれた2人の国選弁護士さんのうちの1人であるA92弁護士さんが初めて面会に来てくれました。私は,7月6日から,全部の事実をひっくり返していたことから,9日の日に面会に来てくれたA92弁護士さんにも,お金も貰っていない,私の家で,会合なんかなかったと言いました。すると,A92弁護士さんも分かりました,これからは,私ともう1人の弁護士さんと貴方の3人で裁判を戦って行きましょうと優しく言ってくれて,真実ではない私の言葉を信じてくれました。(中略)そして,昨日は検察庁に行って,これまでとは違う眼鏡をかけた検事さんにも事実を認めて調書を取ってもらいました。ですから,A92弁護士さんに言ったことは,私が投げやりな気持ちになっていた時のことであり,刑事さんや検事さんに話したように,裁判にかけられている事実やX6社長から10万円を貰っていたことが本当の話です。(中略)裁判も近いし,弁護士さんには本当のことを言った方が良いと考えたことから,午前中の取調べが終わった後,留置場の人に頼んで弁護士さんのところに電話をかけてもらいました。(中略)A92弁護士さんが,今日は,夕方ここに来るつもりでした,電話がかかってきましたが,何の用事ですかと透明の板越しに聞きました。私が,この前,弁護士さんには認めないと言ったけど,認めますと伝えました。すると,A92弁護士さんは,はあーと言ったので,私がもう一度,弁護士さんに認めますと言いました。初めてA92弁護士さんと面会した時は,優しくて感じの良い人だと思っていましたが,私が『認めます。』と言った途端,顔色が変わって怒ったような顔つきになりました。その顔を見て,私はこの前とは全然違う,この弁護士も今までの弁護士と一緒だ,あーあと思ってがっくりきました。」,「A92弁護士さんは,(中略)私の調書や逮捕されている他の人の調書を見て,なんで,6月10日に取られた『お金をやった。』という調書だけしかないのか,やってないという調書はなんでないのかと聞きました。また,他の調書を見て本当に貴方が栂印をしたのかと聞きましたので,私がしましたと答えました。私が刑事さんにも検事さんにも認める調書を取ってもらいました,昨日も検事さんの取調べがありましたと言ったところ,まだ,取調べもしているのかと言って,私が言う言葉に全て怒っているという感じを受けました。A92弁護士さんは,私が『認めます。』と言った言葉をノートに書きましたが,とにかく,今日は忙しいから,これで帰ります,明日の午前中に2人で来ます,とにかく2人で来ますからと言って面会室を出て行きました。私としては,A92弁護士さんに真実ではないことを伝えていたので,裁判も近いことから,このままだと私が認めない方向で裁判が進んでしまうと考えた結果,『認めます。』ときっぱりと言いました。それに対して,A92弁護士さんは明らかに怒った顔つきになってしまいました。その姿を見て,あーあ,やっぱり,この弁護士も今までの弁護士と同じだ,この前は感じが良かったのに,私が本当のことを言った途端,機嫌が悪くなった,感じが良かったけど,今日で本性が出たと思いました。私は,これからの裁判のことを考えで,正直にA92弁護士さんに話をしましたが,A92弁護士さんの態度を見て,なんで怒らないといけないのだろうと思い,私も腹が立ちました。明日は2人の弁護士さんが来ると思いますが,今日,A92弁護士さんに言ったとおり,「認めます。」ときっぱり言うつもりです。裁判も認めて,早く出られる方向で進めて下さいと言います。そうじゃないと,私のための弁護士ではないと思います。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の732)
e A14警部補による平成15年7月16日の取調べ(A92弁護士との接見内容)
A78副検事は,平成15年7月16日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,その中には,原告X1とA92弁護士との接見内容について,A14警部補及びA37巡査部長が同月15日に作成した原告X1の同日付け供述調書における上記記載とほぼ同内容の記載がある。
(甲総ア第25号証の568)
(イ) 原告X2関係
a A16警部補による平成15年7月1日の取調べ(C3弁護士との接見内容)
A16警部補及びA71巡査は,平成15年7月1日,原告X2の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X2とC3弁護士との接見内容について,「弁護士さんには,『6万円の事実,10万円の事実は,刑事さん検事さんに正直に話しています。』と話し,事実は認めていることを説明しております。そして,裁判官の前でも事実は間違いありませんと認めますので,情状の方で裁判は進めて下さいとお願いしています。弁護士さんも情状面で裁判は進めて行きましょうと話してくれております。当初は,裁判になったら保釈申請をお願いしようと考え,保釈金の工面を串間市に住んでいる実姉に頼もうと思いましたが,弁護士さんの話によると,あてにしていた姉が今年6月上旬頃,病気で倒れてしまい,保釈金の工面が出来ませんので,保釈申請は出来そうにありません。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の794)
b A16警部補による平成15年7月3日の取調べ(C3弁護士との接見内容)
A16警部補及びA71巡査は,平成15年7月3日,原告X2に対する取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X2とC3弁護士との接見内容について,「勿論,弁護士さんには,罪状認否については,次回公判まで態度を保留しますと答えることを話し納得してもらいました。弁護士さんからは,何故,事実を認めているのに,態度を保留する必要があるのかと尋ねられましたが,理由は言わず,私の考えですので,これで行かせてくださいとお願いしました。弁護士さんには,その理由を話しませんでしたが,実は,今回の件が原因で,嫁いでいる長女A148が離婚問題に直面して悩んでいることを聞きました。もし,私が初公判で事実を間違いありませんとすんなり認めてしまうと,私のことを信じているA148にこれまで以上のショックを与えてしまうのではないかと考えたからでした。弁護士さんから,態度を保留しなさいと言われたのではありません。」,「初公判では,罪状認否で態度を保留し,次回公判から事実を認めて,情状面で進めて行こうと考えております。この考えは,弁護士さんにも話しておりますし,弁護士さんもそのようにしましょうと話してくれました。」などの記載がある。(甲総ア第4号証,甲総ア第25号証の797,弁論の全趣旨)
(ウ) 原告X4関係(A76副検事による平成15年7月2日の取調べ・C8弁護士との接見内容)
A76副検事は,平成15年7月2日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4とC8弁護士との接見内容について,「実は,6月30日の夜,志布志警察署の面会室で,C8弁護士の面会を受けたことでショックを受けました。」,「面会に来た弁護士はA110を連れて来た,あなたの子供から手紙を預かっていると言って,娘の手紙が2枚綴り,息子の手紙が1枚,私の妹(中略)の手紙が1枚でした。その弁護士は,娘の手紙から先に見せましたが,その手紙の見せ方は,私と弁護人との聞にある透明のプラスチックの壁に,その手紙を押しつけるようにしていました。1枚ずつ押しつけるようにしながら,私に読めますかと言いました。私は,はい,分かりましたと言って,自分でプラスチックの壁に押しつけられている手紙を読んだのです。娘の手紙の内容は,お父さん,本当のことを言って頑張って下さい,おばちゃんが職場で白い目で見られているそうです,おばちゃんが職場を辞めたら,高校を辞めなければいけないと思います,国分の姉ちゃんは,病院で白い目を気にしながら働いているそうです。などと書いてあり,その娘の手紙には,本当のことを話して下さい,お父さんならできるはずですなどということも書いてありました。その娘の手紙は私が見ても娘の字であることが分かりました。娘の手紙には特に本当のことを話して下さいと強く書いてありました。次に見せられたのが,息子A110の手紙です。その息子の手紙の内容は,お父さん,自分だけ楽な道をとらないで下さい。他の人が迷惑します。じいちゃんは,びっこを引きながら1人で仕事を頑張っています。1日も早く父ちゃんが帰ってくるのを待っていますなどと書いてありました。その息子の手紙は,私が見ても息子A110の字であることが分かりました。次に妹の手紙ですが,その内容は,兄さん,自分だけ楽な道をとらないで下さいなどと,息子A110の手紙の内容とほぼ同じでした。その手紙を見た後,C8弁護士は,私に起訴がないとは限りませんよ,裁判は,1回では終わらないかもしれませんよ,裁判は長くなるかもしれません,あなた達は,トカゲのシッポ切りだなどと言いました。今話した娘と息子,それに妹(中略)の手紙の便箋は,普通の便箋でした。そして,弁護士は,3通の封筒を私に見せました。娘,息子,妹から私宛の封筒で,住所は書いていませんでした。住所を書いていなかったので,私は,その封筒を見て,弁護士さんが娘,息子,妹に対して,手紙を書くように言ったものだと思いました。その後,弁護士は,X5さん,X2君,X1さん,A1さん,X3さんの供述調書を見せてくれました。それらの調書には,X1さんから6万円を貰ったことが書いてあり,事実を認めている調書でした。その5名の調書を見せた後,弁護士は,あなたは,否認しますか,情状酌量で行きますかと言いました。私は,情状酌量の方でお願いしますと言いました。そして,弁護士は,完全に否認しているのはX5さんだけですと言いました。その後ですが,弁護士は,私に,あなたの息子は,あなたが帰ってきても家に入れないと言っていると言いました。弁護士が私に見せた手紙の内容は,私が選挙の金を貰ったことを取調べ官に正直に話していることで,私の妹(中略)は職場で白い目で見られているから,職場を辞めなければいけないかもしれないということと,その妹は,私の娘の学費を払ってくれていることで,職場を辞めることになったら,娘は高校を辞めなければならないのだ,また,私の娘のA156も,働いている国分の職場で白い目で見られている,私の父は,私が選挙の金を貰ったと行って留置場にいることで,私の分まで農業の仕事をすることになり,足まで悪くなってびっこを引くようになった,そのようなことになったのも,私が選挙の金を貰ったからだと言っているからだ,家庭をそのようになるまで苦しめているのだから,警察官や検察官には選挙の金を貰っていないと嘘のことを言ってくれと感じました。また,弁護士は,『トカゲのシッポ切り』と言いましたが,それは,候補者は罪から逃れて,あんた達金を貰った下の者が罪を受けるのだ,警察と検察は金を貰ったと話している人達は見捨てるのだという意味だと思ったのです。私は,弁護士が手紙を見せたり,「トカゲのシッポ切りだ。」などと言ったこと,そして,私の大事な娘が高校を辞めることになるかも知れないなどと言うので,これは私に嘘をついて否認しろと言っていると思ったのです。今話すように,妹が職場を辞めることになったら,娘が高校を辞めなければならなくなると言われた言葉もショックでしたが,裁判が長くなると言われたことでは,自分が長期間留置場に入っていなければならないのかと思ってショックを受けたのです。また,弁護士は『起訴がないとは限りませんよ』と言いましたが,そうなると,自分の罪が重くなると考えたことでもショックを受けました。」,「私は,自分がお金を貰ったことは正直に話して裁判官の正しい判断を受けた方がいい,そのためには正直に事実を話した方がいいと思っていたので,弁護士には,A110に,お父さんとお母さんを信じられないんだったら,捨てなさいと伝えて下さいと言ったところ,弁護士は,私に,伝えていいんですかと言いました。C8弁護士は,奥さんには,C10弁護士が会っています,あなたは,移監されるという話は聞いていませんか,鹿児島の拘置所に移管されたら,何回も会いに来るんですけど,今は頻繁には来れません,あなたは,A93弁護士に大分きついことを言ったそうですねと言いました。そのC8弁護士の話しぶりから,私は,以前,私に会ったA93弁護士と会っているのだ,A93先生と同じように,この先生も私に嘘をついて否認しろと言っているのだと判断したので,私は,あなたもそうですけど,あなたは,私のアリバイを証明してくれるのですかと言ったのです。すると,C8弁護士は,行動にも限度がありますから,そんなことはできませんと言いました。私が,家族の証言はアリバイにはならないのでしょうと言うと,それはアリバイにはなりませんよと言いました。また,C8弁護士は,私に,食事の時間を短くしたり,殴られたりして,厳しい取調べを受けていませんかと言うので,私は,そんなことはありません,私の調べは少ないですからと言いました。また,C8弁護士は,否認しでもいいですよ,どうしますかと言うので,私は,情状酌量でお願いしますと答えたのです。弁護士は,私に変わらないですね,情状酌量で進めますからと言いました。これまで話したような内容から,私は,C8弁護士も,A93弁護士と同じように,私の残された家庭の苦しいことを話すとともに,「あなたは否認しますか,情状酌量で行きますか。」とか「否認してもいいですよ。」と言っていることから,選挙の金を貰っていないと嘘をついて否認しなさいと説得していると思いました。」,「今日もC8弁護士が面会に来ましたが,C8弁護士は,私に,明日,裁判ですけど,否認で行くんですか,情状酌量で行くんですかと言うので,私は,情状酌量で行きます,供述どおり行きますと言いました。このようにC8弁護士は私に対して,嘘をついて否認するように説得している態度ですが,私は,弁護士のそのような説得には負けません。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の634,弁論の全趣旨)
(エ) 原告X3関係
a A18警部補による平成15年7月9日の取調べ(C5弁護士との接見内容)
A18警部補及びA61巡査は,平成15年7月9日,原告X3の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X3とC5弁護士との接見内容について,「逮捕された翌日の5月14日の夜,q法律事務所のC5弁護士が面会に来られました。(中略)弁護士の先生と面会する前に,刑事さんから弁護士の先生はあなたの味方だから,私には嘘をついてもいいけど弁護士の先生には本当のことを話しなさい,そうでないと,弁護士の先生は真実を知らないまま,誤った弁護活動をすることになり,後で大変なことになりますよと説明を受け,私も,なるほどそうだと思いました。刑事さんの言ったことが納得できましたので,私は,弁護士の先生には6万円貰ったことを正直に話して,後は弁護士の先生にお願いするしかない,そして,早く家に帰れるようにしてもらおうと思いました。(中略)接見室に入るとq法律事務所のC5ですと紹介を受けました。C5先生と面会した際,C5先生からあなたは逮捕されましたが,逮捕事実は本当ですかと聞かれましたので,私ははい,そうですと答えたところ,C5先生は驚いていました。すると,C5先生は,本当に貰ったのですかと念押しをしましたので,私は本当ですと逮捕事実にあるようにX1さんから6万円の買収金を貰ったことを正直に話しました。更に,C5先生から警察の取調べではどのように話したのですかと聞かれましたので,私は取調べでは行っていません,貰っていませんと話しましたと言いました。私が警察に逮捕事実を認めていないと言ったところ,C5先生は,あくまでもその主張を通しなさいと行っていない,貰っていないと言いなさいと言いました。私は買収金を貰ったことをC5先生に話したのに,C5先生は,行っていない,貰っていないと言って,逮捕事実を否定しなさいと言っていることが分かりましたので驚きました。というのも,私としては,C5先生が,あ,そうですか,それならば,貰ったことを正直に話して早く終わるようにしましょうと言うかと思っていたのに,否定するように言われたことから驚いたわけです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の854)
b A18警部補による平成15年7月11日の取調べ(C5弁護士との接見内容)
A77副検事は,平成15年7月11日,原告X3の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X3とC5弁護士との接見内容について,「私は,以前,私が否認した理由などについて話しましたが,逮捕された翌日の5月14日に私に会いに来たC5弁護士に『X1方には行ってないし,お金も貰っていない』と答えたところ,C5弁護士から『それならあなたは無実ですから,頑張りなさい』などと言われたことも否認した理由の1つであると話しましたが,本当は,弁護士には逮捕されている事実は間違いないと伝えていました。」との記載及び同記載に続けて,A18警部補及びA61巡査が同年7月9日に作成した同日付け原告X3の供述調書における上記記載に沿う内容の記載がる。(甲総ア第25号証の610)
(オ) 原告X8関係
a 畦滞警部補による平成15年7月2日の取調べ(C10弁護士との接見内容)
畦滞警部補及びA56巡査部長は,平成15年7月2日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X8とC10弁護士との接見内容について,「この弁護士さんは,私が逮捕されてから鹿児島中央警察署に勾留の身になってから,これまで2回面会に来て,あなたは,お金を貰っていないんでしょうと強調されて言われ続けています。只今から,C10さんとの面会状況等について話します。私は,これまで刑事さんの取調べにたいしては,X1さんの家でX6さんの選挙会合があり,その席上で奥さんのX7さんから封筒入りの現金10万円を貰ったことを正直に話しをしてきました。このことは事実間違い有りません。ところが,C10さんの1回目の面会の際には,お金を貰っていませんと話をしています。理由は,C10さんから最初にX4の両親や子供達が心配していますよ,大阪の妹さん達も心配していますよ等と家族のことを話した後に,あなたは,絶対お金を貰っていないんでしょうと言って私がお金を貰っていないことを強調して言われたことから,私もお金を貰ったという本当の話をすれば,家族を悲しませる結果になると考えてしまい,私が警察で話していることとは反対の話,つまり私は選挙ではお金を貰っていないという嘘の話をしてしまいました。2回目の面会の際には,接見室のガラス越しに子供達や大阪の妹からの手紙を実際に見せられました。その手紙の内容も一部覚えており,A157の手紙には心配しないでいいからね,これが済んだら温泉にでも行こうねと書いてあり,A110からの手紙には警察を信用するな,体に気をつけてね,と書いてありました。また,妹の手紙には,絶対お金は貰っていないんでしょう,頑張りなさいという内容の手紙でした。その手紙を見せた後,C10弁護士さんは,家族がみんな待っていますよ,裁判では頑張りましょうねと言って話して,あなたはお金は絶対貰っていないんでしょうと強調されたので,お金を貰ったと言えば都合が悪いんだろうと思い,警察で話していることとは反対の絶対お金は貰っていませんと弁護士さんには嘘の話をしてしまったのです。2回の面会とも,絶対お金は貰っていないんでしょうと強調して弁護士さんに言われたので,本当のことが話せませんでした。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の306)
b A76副検事による平成15年7月4日の取調べ(C10弁護士との接見内容)
A76副検事は,平成15年7月4日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X8とC10弁護士との接見内容について,畦滞警部補及びA56巡査部長が同年7月2日に作成した原告X8の同日付け供述調書における上記記載に概ね沿う内容であるが,ただし,原告X8がC10弁護士に対し,買収金を受け取っていないと説明している理由について,原告X8が買収金を受け取ったことを捜査機関に供述していると四浦校区の住民に知られれば,村八分にされるからであるとすることが記載されている。(甲総ア第25号証の655)
c A76副検事による平成15年7月16日の取調べ(C10弁護士との接見内容)
A76副検事は,平成15年7月16日,原告X8の取調べを行い,原告X8とC10弁護士との接見内容について,「私は,4月13日に投票があった鹿児島県議会議員選挙に関して,曽於郡区から立候補して当選したX6さんの奥さんのX7さんから,買収金10万円を貰ったことで取調べを受けていますが,そのことについては,警察官や検察官に対しては,正直に,10万円貰ったことは間違いないと話しましたが,面会に来た弁護士の先生には,10万円貰ったことはないと嘘を話していました。でも,7月14日に面会に来た弁護士の先生には,真実を,つまり10万円貰ったことは間違いないと話すとともに,家族の人には,私が10万円貰ったことを話したということは言わないで下さいと言いました。」,「7月14日には,弁護士の先生にも本当のことを話しましたが,そのときは,家の人には言わないで下さいと念を押しましたが,その先生は,多分家の人にも,私が選挙の金を貰ったと話していることを伝えていると思います。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の659)
カ 平成15年7月18日から同年8月8日まで
(ア) 原告X1関係
a A14警部補による平成15年7月18日の取調べ
A14警部補及びA37巡査部長は,平成15年7月18日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,その中でA91弁護士との接見内容について,「A91弁護士さんと面会した時のことについて話します。A91弁護士さんとは,今朝9時前頃から30分位面会しました。一番最初に,今朝の新聞に事件のことが載っていることを教えてもらい,その新聞記事を台の上に載せました。A117やA145が元気にしていること,A112じいちゃんが白内障で手術をしたけど,今は元気にしていること,A146に電話をしたら,子供が出来て,今3ヶ月であることなどを伝えてもらいました。」,「私は,A91弁護士さんに事件のことをこの前の弁護士さんに言ったとおりです。早く出られるようにしてくださいと,この前来たA92弁護士さんに『裁判にかけられていることは認めます』と言ったとおり,認めます,正直に話していますので,早く留置場から出られるようにしてください,お願いしますという意味で伝えました。私の話を聞いたA91弁護士さんは,面会室の台の上に置いた,逮捕された四浦の人の名前が書かれたノートを見て,頭をひねりながら,納得がいきません,信じられません,こんなことは,信用することできない,嘘だ,貴方の家で会合が1回あったのなら,話も分かるが,4回もあったなんて,とても信じられない,納得がいかないと言って,私が『認めます』と言った言葉を否定しました。そして,X5さん以外にも認めていない人がいる,A1さんも認めていない,逮捕された人の話はみんなバラバラだ,4回の会合で同じ人にお金をやっているのはおかしい。貴方も認めたり,認めなかったりしてあやふやだ。貴方の家だけで会合をするのはおかしいと言いました。さらに,私が言った『早く出られるようにしてください』と言ったことについては,認めている人と認めていない人がいるから,早く出られませんよ,いつまでかかるか分かりませんよと言いました。私はA91弁護士さんが言われることを一方的に聞いていました。A91弁護士さんは,裁判所が辞めさせた国選弁護士さんのことについても触れて,貴方のことを弁護してくれる弁護士なのに断って,良い人だったのにと言って,私を非難するようなことも言いました。最後に,A91弁護士さんは,とにかく,貴方の言うことは信用することができない,私は,今から東京に出張に行きます。裁判が始まる前にA92弁護士がもう1回来ます。その時,いろいろ資料を広げて見せて説明するはずですと言いました。A91弁護士さんから,このように言われたことから,私が正直に話していることを信用してくれないと思って,頭が痛くなりました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の97)
b A78副検事による平成15年7月18日の取調べ
A78副検事は,平成15年7月18日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA91弁護士との接見内容について,A14警部補及びA37巡査部長が同日に作成した同日付け原告X1の供述調書における上記記載に沿う内容が記載され,原告X1とA92弁護士との接見内容について,「今日の午後4時半頃,今度はA92弁護士さんが面会にみえました。A92弁護士さんは,私に逮捕状はないのと聞かれましたので,私は起訴状はもらっていましたが,逮捕状はもらっていないので,ありませんと言うと,今度は私に私が調べを受けたときの調書を写したのを7通見てくださいと言って渡されました。私は,A92弁護士さんに認めますからと1回目の会合の現金を配った事実を認めることを話すと,A92弁護士さんは,何も言わずに今度は私にお金はありますか,車の鍵はありますか,携帯電話はありますかというようなことを聞かれました。私は,(中略)お金はあります,車の鍵は家です,携帯電話はありますと言うと,A92弁護士さんは22日にまた来ますから,その時打ち合わせましょう,と言った後何かあったら電話をしてください,電話帳に載っていますからと言って,帰って行かれました。」との記載がある。(甲総ア第25号証の569)
c A37巡査部長及びA57巡査部長による平成15年7月30日の取調べ
A37巡査部長及びA57巡査部長は,平成15年7月30日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書2通を作成し,そのうち1通には,「昨日,弁護士さんの面会があって,弁護士さんからまだ取調べをしているのかと,やかましく言われました。私は日が長いからお願いして取調べ室に行っていますと言ってやりました。」との記載が,もう1通には,原告X1とA92弁護士及びA91弁護士との接見内容について,同月23日に行われた第1次刑事事件等の第2回公判期日において,原告X1の弁護人らが公訴事実に対する意見を留保したこと及び今後の弁護方針などに関し,「昨日の夕方,弁護士さんが来て面会がありました。私には2人の弁護士さんが付いてくれていますが,2人一緒に面会に来ました。(中略)A92さんという弁護士さんだと思いますが,まだ調書をよく見ていない,全部見ないと決められない,今度もこの前みたいに決められないと説明しました。この後,A92弁護士から今度の裁判はどうしますか,認めますかと聞かれましたので,私は事実を認めるという意味で,はいと答えました。私の弁護士さんには,X3さんと同じように,あったことはあったこととして早く済ませて欲しいという気持ちから,弁護士さんに『はい』と答えたのでしたが,弁護士さんは,X1さんの言うとおりで行きますからとか事実は間違いないですかとかは聞かれませんでした。本当であれば,私の気持ちをよく聞いてくれて,次の裁判のことを考えてくれないといけないはずだと思います。刑事さんからは,弁護士さんもいろいろ考えがあるんじゃないの,弁護士さんのことを悪く言ったらいけないよ,X1さんのことを考えて弁護してくれるはずだよと言われましたが,今度も決められないと言われたことから,私の思っているとおりしてくれない,裁判は長くかかってしまうと感じています。私が裁判では認めて行きたいことを言った後から,弁護士さん達は怖い顔になって,まだ取調べを受けているのか,まだ調書を取っているのかと私に向かってやかましく言いました。私は,毎日,刑事さんや検事さんが私の悩みを真剣に聞いてくれていることから,弁護士さんは何も知らないくせあんまりだと思って,下にいると退屈だから上げてもらっている,調書は取っていない,自分でお願いしている。と言い返しました。また,帰り際には,弁護士さんから弁護士達を馬鹿にするな,私は偉いんだぞと怒鳴られました。私は,弁護士さんから,この言葉を聞いてショックを受けました。普通の裁判では,弁護士さんは味方になって私を助けてくれるものだと思っていましたが,昨日の面会で私の裁判では味方になってくれないとはっきり分かりました。弁護士さんから弁護士達を馬鹿にするな,私は偉いんだぞと言われたことがショックでしたので,私は検事さんや刑事さんにこのことを言いました。刑事さんは,裁判では自分の考えでのぞみなさいと励ましてくれました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の741,甲総ア第429号証の113)
d A78副検事による平成15年7月30日の取調べ
A78副検事は,平成15年7月30日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X1とA92弁護士及びA91弁護士との接見内容について,同月23日に行われた第1次刑事事件等の第2回公判期日において,原告X1の弁護人らが公訴事実に対する意見を留保したこと及び今後の弁護方針並びに原告X1が自分の意思で取調べに応じていることに関し,A37巡査部長及びA57巡査部長が同年7月30日に作成した同日付けの原告X1の供述調書における上記記載に沿う内容が,保釈等に関し,「私は,家族との面会や保釈のことを聞いてみようと思って,A91弁護士さんに面会や保釈はどうなんですかと言ったところ,A91弁護士さんは怒って,ノートを見てみないといけない,誰が保釈が出るとか面会が出来ると言ったか,あてにするな,いつになるかわからん,何で早く帰れるだなんて言うんだ,誰が言ったかと言いました。(中略)面会や保釈のことは刑事さんに聞いたと言ったところ,A91弁護士さんは弁護士達を馬鹿にするな,偉いんだぞと言って怒鳴って帰っていきました。(中略)私は,A91弁護士さんもA92弁護士さんも私の気持ちをよく聞いてくれる人だと思っていたのですが,こんなに怒られると何も相談する気持ちになれません。刑事さんや検事さんからは,弁護士さんもいろいろあなたのことを考えてくれているわけだから,弁護士さんのことを悪く言ったらいけない,X1さんのことをよく考えて弁護してくれるはずだよと言われていたのに,今回,馬鹿にした憶えはないのに怒鳴られて,本当に自分のためにしてくれる弁護士さん達だろうかと思ってしまいました。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の572)
e A78副検事による平成15年8月8日の取調べ
A78副検事は,平成15年8月8日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書2通を作成し,それらの中には,原告X1とA92弁護士及びA91弁護士並びにC2弁護士との接見内容について,「私に付いているA92弁護士さんが今月1日の昼過ぎに面会に見えました。A92弁護士さんは面会室で面会した私に『調書を見ておいて下さい。』と言って,調書を看守の人に預けられました。そしてA92弁護士さんは7月以降の調書がない,あるはずだと言われましたので,私は上にあるんじゃないと警察の調べ室にあるのじゃないかと言いました。A92弁護士さんはじゃあ,調書とかノートとか調べてみないと分からないと言いました。私は,この面会の日に9月3日午前10時までは面会が出来ないという接見禁止の紙が来ていましたが,家族との面会が何とかできないものかと聞いてみようと思い,A92弁護士さんに面会は出来ないのですかとA92弁護士さんに聞いたところ,A92弁護士さんは,面会は出来ないと言われました。しかし,私はどうしてもできないものかと思い,もう1回A92弁護士さんに面会は出来ないのですかと聞いたところ,A92弁護士さんは少し怒ったようにして紙が来てるでしょと言われて,接見禁止の紙が来ていることを言われました。その後,A92弁護士さんは追起訴があるから長くなるよ,面会は出来ないよと言われました。私は,追起訴という言葉の意味が分からなかったのでA92弁護士さんに追起訴って何ですかと聞いたところ,A92弁護士さんは2回目の会合や3回目の会合も起訴されるんだって,だから長くなるんだよと言って,裁判がずっと長引くようなことを言われました。私は,A92弁護士さんから「なんとか家族と面会が出来るようにしてみましょうか。」という言葉を待っていたのに,一言もそのようなことを言わずに頭ごなしに「面会は出来ない,裁判は長引くだけだ。」と言われ,私は,裁判になっている事実は全部間違いないと認めているのにA92弁護士さんは認めてくれずにいることから,A92弁護士さんは何を言っても私のいうことは聞いてくれないと思いました。」,「昨日,今度はもう1人の担当の弁護士であるA91弁護士さんが面会に見えました。A91弁護士さんは私にA117君は逮捕されるらしいと言っておろおろしているらしいということを教えてくれました。私は,これを聞いて何でA117が逮捕されるんだろうか,A117は心配しておろおろして交通事故でも起こしはしないかなどと思うと心配で心配で考え事がまた1つ増えてしまいました。また,A91弁護士さんは裁判所が解任したC2弁護士さんがA146の手紙を面会のとき,私に見せたことについて,ただ手紙をみせたぐらいでC2弁護士さんを辞めさせて,A146さんは事件を認めたらいけないと言っているなどと言って,裁判所が解任したC2弁護士さんが面会に見えて,私にA146の手紙を見せたことぐらいで私がC2弁護士さんを辞めさせないでもいいのにということをまた言われました。私は,はっきり言って,裁判所が解任したこのC2弁護士さんは私の弁護士を辞めてくれて良かったと思っています。このC2弁護士さんは,私の姉が『やっていないと言わないと家に帰ってこれない,大変なことになるよとお姉さんが言っていた』と言ったり,『A1さんやX2くんが取調べの時は認めているが,裁判になったらひっくり返す』ということを私に言って事実を認めるなと言い,また『保釈は300万円くらいかかる』とか『7月には裁判は1回も出来ない』などと言って,保釈にはお金がたくさんかかり,裁判は事実を認めても長くかかるというようなことを言って私に本当のことを話していいかどうか迷わせるようなことを言って困らせる弁護士さんでしたので,自分のためには何もならない弁護士さんだと思ったのでした。」,「私はA146が今回の選挙の事件には全く関係なく,選挙の事件に巻き込みたくなかったのでA91弁護士さんにA146は選挙事件のことは知らないと言いました。A91弁護士さんは,帰り際に,私に,裁判ではいろんなことを聞かれるよ,家の人に何か言うことはありませんかと言われましたので私はA91弁護士さんにも相談しにくかったのですが,丁度,台風が来ていましたのでそのことが心配で台風が来るからちゃんと戸締まりをするように,私の方は元気だからと言ってくださいと言いました。このように,A91弁護士さんも私が1回目の会合や4回目の会合の事実を認めているかぎりは,私と家族との面会のことは何もしてくれないと思いました。」,「7月29日に弁護士さんが面会に来て,私に,『弁護士達を馬鹿にするな,偉いんだぞ。』と言って怒って帰ったと話し,その弁護士さんは,私の2人いる弁護士さんの中のたぶんA91弁護士さんだと思い,A91弁護士さんと言って話しましたが,この弁護士さんは,今度の7月31日の裁判の時,私の座っている直く私の近くの弁護士さんの席に座っていましたが,弁護士さん達と検事さん達が2回目の会合や3回目の会合も裁判になるならないと言い合った後,私に向かってまだあるんだってよーと大きな声で言った弁護士さんと同じ弁護士さんでした。(中略)ただ今その弁護士さんは,A91弁護士さんではなくてA92弁護士さんであると検事さんに教えてもらい,私が名前を間違っていたことが判りましたので,『弁護士達を馬鹿にするな,偉いんだぞ』と言って怒った弁護士さんは,A92弁護士さんと訂正して下さい。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の573及び574)
f A37巡査部長及びA58巡査部長による平成15年8月8日の取調べ
A37巡査部長及びA58巡査部長は,平成15年8月8日,原告X1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,A91弁護士との接見内容について,「昨日の昼,弁護士さんが面会に来ました。私の息子のことで心配になることを言って帰りましたので,このことを刑事さんに言っておかないといけないと思いました。昨日面会に来たのは,A91という弁護士さんで,私に付いてくれている国の弁護士さんのうちの一人です。(中略)私が椅子に座ると,A117君は自分も逮捕されるんじゃないかと思って怖がっています,A117君は誰かにお前も逮捕されると言われたようです,家にいてもいつ逮捕されるかと心配で,家の中をうろうろしているようです,と私に向かって言いました。このことを聞かされて,私はいてもたってもいられずに,早くこのことを刑事さんに言わないといけない,息子まで逮捕されれば大変なことになる,私のせいで息子まで逮捕されたらもう生きていられない,息子に申し訳が立たない,A117が考えすぎて事故でもしたりしたら取り返しのつかないことになると思いました。このことを刑事さんに相談しましたところ,A117君を逮捕するという話は聞いていない,安心しなさい,直ぐに志布志の刑事さんに言って,A117君に会ってもらうようにするからと言ってくれました。私からもどうかA117に会って話を聞いてあげて欲しいとお願いしました。刑事さんの言葉を聞いて一安心しましたが,弁護士さんはこのことを言いにわざわざ私のところに面会に来たのでした。私は刑事さんの言葉を聞いて,弁護士さんは,私がこれまで事件のことを認めていることから,あなたが事件を認めればA117まで逮捕されることになるよと言いたかったのではないかと思いました。志布志の刑事さんには,本当に申し訳ないのですが,A117に会って本当に誰かに「お前も逮捕される。」と言われて脅されているか確認して貰いたいのです。弁護士さんは,私や子供達のことを心配してこのことを教えてくれたのであれば何も問題はないのですが,このことが事実ではない話であれば,本当に弁護士さんは信用することができないと思います。ただでさえ,裁判が延び延びになっていることや事件のことで毎日頭が痛いのに,わざわざこのことを言いに来て,私を不安にさせた弁護士さんは信用できません。昨日の面会では,この他にA146の手紙のことで弁護士を辞めさせる必要はなかった,次の裁判ではいろいろ事件の内容を聞かれる,今頃まで取調べをするのはおかしいと言っていました。本当であれば,あなたは裁判では事実を認めると言いましたが,事実は間違いないですか等と言って,私の話を聞いてくれるのが本当だと思います。A146の手紙については,前の国の弁護士さんが面会の時に私に見せたのは事実でしたので,そのことを刑事さんに教えただけのことで,私が弁護士さんを辞めさせた訳ではありません。弁護士さん達はしてはいけないことをして,私の弁護を辞めさせられたのに,私が辞めさせたようなことを言いますので,頭に来ます。自分達が悪いことをしたのに私に言いがかりをつけるのはおかしい話だと思います。本当であれば,弁護士さんは,私のおかげで迷惑をかけましたと謝りに来るのが人としてするべきことだと思います。昨日の面会のことについてもA117を逮捕する等ということは,刑事さん達も知らないことで,A117が誰かに脅されているのであれば,弁護士さん達が助けてやるのが当たり前だと思います。弁護士さんからは,A117君に会ってみましょうかとか,誰が脅したか聞いてみましょうか等という言葉はありませんでした。私は弁護士さんから,私を気遣う言葉はこれまで一度も聞いておらず,A117のことにしても頼んでも無駄だという気持ちから,お願いもしませんでしたが,国からの弁護士さんで弁護料が足りないのだったら,お金を借りてでも支払うのでこれくらいのことはしてくれてもいいのではないかと思います。弁護士さんは,事件のことについて,私の言うことを信用してくれませんので,私も弁護士さんのことは信用していません。このことは,刑事さんに言わされていることではなく,私の本当の気持ちです。A117のことは,私のことを心配してくれている刑事さんに相談するしかないと思って,お話したことです。」との記載がある。(甲総ア第429号証の121)
(イ) 原告X2関係
A16警部補及びA71巡査は,平成15年7月24日,原告X2の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X2とC3弁護士との接見内容及び公判期日での公訴事実を否認した理由等について,「裁判前日の夕方,弁護士接見の際,弁護士さんには,罪状認否は留保することを話し,納得してもらっていました。しかし,初公判の罪状認否では,『X1から1円足りとも貰っていません。会合もありません』と事実を否認しました。弁護士さんには,私が否認することを全く話していなかったことから,びっくりされたと思います。私は,裁判の前夜,罪状認否はどうしようかと色々と考えました。事実を認めて,一日も早く裁判を終えてa3集落に帰ろうとも考えました。しかし,初公判には,私の娘A148やa3集落の人達が大勢傍聴に来ることを弁護士さんから聞いていましたので,私達がお金を貰っていないと思っているa3集落の人達の気持ち,そして娘A148などの見ている前で事実は間違いありませんなどとはとても言えないと思い,とてもじゃないけど,事実を認めることはできないと考えました。それに,事実を認めて,否認した人達よりも早くa3集落に帰れても,事実を認めたことで,『事実はないと信じ込んでいるa3集落の人達や親戚などから白い目で見られてしまう。事実を認め早くa3集落に帰っても肩身の狭い思いをするだけであるなどと考えました。そこで,私が考えたことは,事実を否認し最終的には,裁判官の判断した判決に従うというものでした。私は,これが最善の策と思いました。ですから,私は,弁護士には全く相談もせず,初公判の罪状認否の時,事実を否認しました。」,「事実についてはこれまで詳しく説明し調書に取ってもらったように,事実はあったことですので,裁判で無罪になるとは思ってもいません。私は,事実はあったことですから,事実で争う気持ちはありません。刑事さんからは,取調べ当初,厳しい取調べを受けましたので,その辺の所で裁判を進めていくつもりでおります。しかし,徹底的に争うといったような気持ちはありません。裁判の進み具合では,途中で事実を認めるかも知れません。最終的には,裁判官の判決に従うつもりでおりますし,控訴して無罪を勝ち取るまで争う気持ちなど全くありません。」,「今,刑事さんには,私の正直な気持ちを話しましたが,今後の裁判の進め方について,私が今話したことを弁護士さんには,一言も話しておりません。弁護士さんは,打合わせなしに私が罪状認否で事実を否認したことから,裁判官から,意見を求められた時,『無実を主張します』と私に合わせた意見を言いましたが,今話した私の気持ちを弁護士さんに説明して納得してもらえるかが心配です。弁護士さんがもし私の考えに納得してもらえなかった時は,私が選任した弁護士さんですので解任して,国選弁護人をお願いしようと考えています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の811)
(ウ) 原告X4関係
a A15警部補による平成15年7月23日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年7月23日,原告X4に対する取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4と弁護人との接見内容等について,「裁判から帰ってきて,夕方,弁護士さんが今日の裁判のことを説明するために会いに来られました。弁護士さんは,私の供述が信用することができないので納得ができない等といわれましたが,X9さん方で選挙の集まりがあって,私がお金を貰ったのは事実ですので,私は再度弁護士さんに情状酌量の方向でよろしくお願いしますとお願いしました。私の気持ちは今後も変わりません。一度男が口にしたことを翻すようなことはしません。」などの供述がある。(甲総ア第25号証の932)
b A15警部補による平成15年7月25日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年7月25日,原告X4に対する取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X4とC10弁護士との接見内容等について,「妻が選任している弁護士は,大阪の妹達が雇ったC10弁護士ですが,C10弁護士は,私が志布志警察署に居る時,私に突然会いに来て,私が,買収金を貰ったのは事実だと言っているのに,A1さんやX5さんは貰ってないと言っている,あなたも貰っていないんでしょう,嘘を言わなくていいんですよ,息子さんや親兄弟は,あなたを信じていると言っていますよ,それでもいいんですか等と言って,暗に私に否認するように勧めた弁護士なので,おそらくC10弁護士は,妻にも否認するように勧めていると思います。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の933)
c A15警部補による平成15年7月29日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年7月29日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,原告X4とA96弁護士及びC9弁護士との接見内容及び今後の公判期日での罪状認否の予定等について,「昨日の夕方,刑事さんが取り調べを終えて帰られた後,A96弁護士さんが会いに来られました。私は,A96弁護士さんと会って,がっかりしました。私は,今の拘置所生活がきついこともありますが,早く家に帰って,心配を掛けている両親や身内,職場の人達に謝り,そして一日でも早く仕事をしたいので,A96弁護士さんに,次の裁判が終わったら,保釈申請をしてもらえますかとお願いしました。するとA96弁護士さんは,保釈申請はしてみるけど,あなたは本当にお金をもらったの,あなたを罪人にしたくないのよねえ,奥さんの担当のC10弁護士さんは,今回の事件は警察がでっち土げたと言っていますよ,X5さんが頑張っているから,X6さんも認めませんよ,A5さん達も逮捕されたから,まだ裁判は長引きますよ,あなたは,他の人より先に保釈されて出たとき,他の否認している人達に,ごめんね,先に出たよと言えますかと聞かれました。私は,お金を貰ったのは事実なんですよ,だから情状酌量の方向で弁護をお願いしてきたじゃないですかと答えました。すると,A96弁護士さんは,否認している人が多いからあなたも否認しておいた方がいいんじゃないと言いました。また,A96弁護士さんは,大阪の妹さんからファックスで手紙を預かってきましたと言いながら,紙袋の中から,大阪に住んでいる私の妹のA173・45歳が弁護士さん宛にファックスで送ったと思われる手紙の写しを1枚取り出し,自分の膝の上に置いて私の前で読まれました。手紙の内容については,父A116が,日射病で倒れて足の骨を折ったこと,長女のA156が職場や看護学校で,白い目で見られているということ,次女A157が,23日の裁判を見に来ていたことに気づいたかということ,X2君や,A1さんが否認しているから,私にも頑張って否認しろという意味のこと等でした。私は,このA96弁護士さんが読み聞かせてくれたA173の手紙の内容を知って,まだ,家族は私が言っていることを信用してくれていないのだなあと思いがっくり来ました。そしてA96弁護士さんにも腹が立ちました。その理由は,私が鹿児島南警察署の留置場でA96弁護士さんとC9弁護士さんに会った時,私が事実を認めていることを家族に伝えて下さいと言ったところ,2人ともこれを約束してくれましたが,A173の手紙の内容を知って,弁護士さん達が私の気持ちを全く家族に伝えてくれていないことが分かったからです。結局,昨日A96弁護士さんが私に対してされた行為は,手紙そのものを私に見せたか見せないかの違いだけであって,妹の手紙を私に読み聞かせて私を動揺させ,否認させるつもりにはかわりなかったのですから,A96弁護士も,以前私に子供達の手紙を見せて裁判所から解任されたC8弁護士と同じことをしていると思いました。家族や弁護士さん達が,私の無実を願い,私を罪人にしたくないと言ってくれるのは大変有り難いのですが,私が今回の県議選に際して,X1さんや,X6さんから買収金を貰ったことは事実です。だから,今後も家族や弁護士さんがどのような方法を使って私に否認させようとしても,私の気持ちは変わりません。四浦で私達夫婦の無実を願いながら帰りを待っている家族が,どんな辛い思いで生活しているかも分かっています。肩身の狭い思いをしていると思います。しかし私は,いくら家族が辛い思いをして待っていると言っても,あったことをなかったと言いとおせば罪を免れることができるような世の中は間違っていると思いますので,今後の裁判でも正直にありのままを話します。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の267)
d A15警部補による平成15年8月1日の取調べ
A15警部補及びA69巡査は,平成15年8月1日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,原告X4とC9弁護士との接見内容について,「昨日の裁判中に,私の担当のC9弁護士が,裁判長に解任を申し出ていましたが,私は,C9弁護士とは5回位接見をしました。C9弁護士は,一昨日の最後の接見の時に,私に対し,あなたの供述が半信半疑です,保釈されて帰っても,後で裁判で他の人の証人に立たなくてはいけませんよ,X4さんは,情状酌量の方向で弁護してくれる弁護士がいいんですか等と言っていました。私を担当しているC9弁護士も,A96弁護士も,(中略)私が刑事さんの取り調べに対してこれまで供述してきた話のうち,どの部分が納得がいかないとか,信用できないから,実際どうなのかといった細かい質問はほとんどしていないのに,私のどこが信用することができないのか,こっちの方が聞きたいくらいです。」などの記載がある。(甲総ア第25の937)
e A76副検事による平成15年8月8日の取調べ
A76副検事は,平成15年8月8日,原告X4の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,原告X4と弁護人との関係について,「6月9日には,それまで私の弁護人であったA93先生を解任しましたが,その解任したことについては,私は,A93先生が信用できなくなって腹が立ったことから,その解任のことなどを自分からあなたに話して調書にしてもらっています。そして,その後に私に面会に来たC10先生も,私に対して,あなたはお金を貰っていないんでしょうとか,否認している人たちに申し訳ないと思いませんか等と話して,私に,選挙の買収金をもらっていないと否認しなさいということを暗に話していたことから,私は,このC10先生も信用できない人だ,私のために弁護をする弁護人ではないと考えて,そのC10先生とは会いたくなくなり,腹が立ったことから,そのことをあなたに話して調書にしてもらったことは間違いありません。その後に私の弁護人になったC8先生は国選弁護人でした。そのC8先生は,7月7日付で,私の弁護人を解任になりましたが,(中略)そのC8先生も,A93先生と同様に,私に対して,暗に否認するようなことを言っていたことから,私は,C8先生は,事実を認めている私のことを考えてくれる人ではない,事実を否認している人や,選挙の買収金を私達に渡したX6さんやX7さんを無罪にするために動いている弁護人だと考えました。そして,私は,私自身のことを考えてくれる他の弁護人を頼んだ方が良いと考えるようになっていたので,C8先生が解任されたことは良いことだと思っていました。だから,C8先生が解任されたことでは,そのころホッとした気持ちになっていたのが本音です。今話すように,私のことを考えてくれる他の弁護人が良いと思っていた私には,A96先生とC9先生が私の国選弁護人になってくれました。そのC9先生は,事実を認めている私の話をあまり聞いてはくれずに,あなたが言うことは信用ができないと言うので,私は,C9先生も,これまでのA93先生やC8先生と同じで,私のことは考えてはくれずに,X6さんやX7さんを無罪にすることばかりを考えている人だと思うようになっていたのです。その後の7月31日の法廷では,そのC9先生も私の弁護人を辞めると言い出しましたが,C9先生が私の弁護人を辞めると言ったことでホッとしたのが本音です。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の639)
(エ) 亡A1関係
A17警部補及びA47巡査部長は,平成15年7月25日,亡A1の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,亡A1とC10弁護士との接見内容及び公判期日で公訴事実を否認した理由等について,「裁判には,私の娘達3人の姿が見えましたし,四浦校区の人達も傍聴に来ていました。私の前にX2の認否が行われましたが,裁判官の質問に対し,X2がX1からはお金は1円も貰っていません。というようなことを大きな声ではっきりと事実を否認した時,傍聴席の方から拍手が沸き上がりました。その拍手は,おそらくX2の家族や四浦校区の人達の拍手だと思いましたが,X2が否認したことで拍手が沸いたことからも,逮捕されている人達の家族や四浦の人達は私達の無実を信じていることがわかりました。一方,X3とX4,X1が起訴事実を認めた時は,X2の時とは違い,誰も拍手してくれる人はおらず,シーンと静まりかえっていました。そのことからも,逮捕された人達の家族や四浦校区の人達はみんな私達の無実を信じてくれているものと思いました。(中略)実を言いますと,以前担当の弁護士さんから『あなたの娘さんたちは,あなたが裁判で事実を認めたら,帰って来なくていいと話していますよ』というようなことを聞かされましたので,娘達は私の無実を信じていることがわかりました。」,「四浦校区の人達も私の家族と同じように私達逮捕された人達の無実を信じてくれているのではないかと思います。そのため,四浦の人達の前で事実を認めてしまうと,私達のことを信じてくれている四浦の人達にも白い目で見られますし,裏切り者扱いされ,今後四浦での生活もできなくなるのではないかと,とても心配です。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の437)
(オ) 原告X8関係
a A36巡査部長及びA56巡査部長による平成15年7月24日の取調べ
A36巡査部長及びA56巡査部長は,平成15年7月24日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X8が裁判所に対する弁護人選任に関する回答書において,私選弁護人を選任せず,国選弁護人の選任を請求する旨の意向を示したことに関するC10弁護士との接見内容等について,「私は逮捕されてからこれまで,大阪に住んでいる主人の妹達が頼んでくれたC10弁護士さんを私選弁護人として頼んできました。しかし,裁判となると時間もかかり,長引けば長引くほど弁護士費用もかさみ,お金がかかれば妹達にもそれだけ負担をかけることになり,今まで申し訳なく思っていました。(中略)裁判を受ける身にしたら,私選弁護人であろうが国選弁護人であろうが,私の立場になって弁護をしてくださることは同じだと思いますので,裁判所からの書類が届いた時から,ずっと裁判になったら国選弁護士さんに頼もうと考えていました。ところが,接見に来たC10弁護士さんにその事を相談すると,あなたには私がいますがね,お金は貰っているので何も心配いりませんよと言われて来ました。C10さんの話を聞くと,あなたは弁護士を変える必要などない,お金はいくらかかっても妹さん達が払うから心記いらないと言われているような気がしてなりませんでした。しかし,私の気持ちの中では主人の妹(中略)3人の結婚式には呼ばれてもいない私のために,わざわざ妹達が弁護士費用を出してくれるだろうかと信じられないところもありました。私は,身内にお金の迷惑を掛けたくないと考えているのに,その気持ちが揺らぐような話をされてとても苦しんできたのも事実です。夕べもC10弁護士さんの接見があり,裁判は長引くかもしれませんが,お金の心配は必要ありませんと言われましたが,私としましては,今まで話しましたとおり,『裁判が長引けば,これまで以上に弁護士費用もかかる。これ以上妹達にも迷惑が掛けられない』と思い,今朝,思い切って弁護士を国選弁護士に変更することで書類を提出しました。裁判で早く事実を認めて家に帰りたいと思っています。今度,C10弁護士さんが来たら,どのように説得されようが弁護人を解任することを伝えたいと考えています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の321)
b A36巡査部長及びA56巡査部長による平成15年7月27日の取調べ
A36巡査部長及びA56巡査部長は,平成15年7月27日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成し,原告X8とC10弁護士との接見内容について,「7月26日の夕方,C10弁護士さんが面会に来て,私に不安になるような話をされたのでこのことについて話します。」,「先日,裁判所から私が留置されている鹿児島中央警察署留置場に届いた書類には,裁判の弁護人を私選弁護人にするか国選弁護人にするか自分で選んで裁判所に送り返すようになっていました。(中略)いい機会だから国選弁護人に変えようと思い,書類の国選弁護人と書いてある方に○を回して提出しました。これは,私の考えでやったことであり,私はこれまでもC10弁護士さんにお金のかからない国選弁護士さんにしたいということは話していました。しかし,C10弁護士さんは,私がいるがね,お金は貰ってるから心配はいらないよなどと言って,私が国選弁護士に変えたいということを受け入れてくれませんでした。昨日の夕方は私が面会の申し入れをした訳ではありませんがC10弁護士さんが面会に来ました。私は7月24日に裁判所に書類を出していたので,留置場の担当の人から弁護士さんが来られましたと言われた時には,国選弁護士が来たのかなと思いましたが,面会に来たのはC10弁護士さんでした。C10弁護士さんは,私に裁判の日を早めて7月29日にしてもらうことにしたと裁判のことなどを話されてから,息子さんのA110君とA5さんの奥さんなどが私の事務所に来ましたよ,A110君はお母さんが話したからみんな逮捕されたんだと話していましたよと話されました。また,C10弁護士さんは,夫の弁護士さんから聞かれたのか分かりませんが,旦那さんも次の裁判では認めないはずだよと話されました。」などの記載がある。(甲総ア第429号証の324)
c A36巡査部長及びA56巡査部長による平成15年7月29日の取調べ
A36巡査部長及びA56巡査部長は,平成15年7月29日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X8とC10弁護士との接見内容及び公判期日で公訴事実を否認した理由等について,「私は,午前10時頃留置されている鹿児島中央警察署を出発して,裁判所の部屋で裁判が行われる午前11時になるのを待っていました。すると,私の担当をしているC10弁護士さんが午前10時半頃,私がいる部屋に面会にやって来たのです。私は,C10弁護士さんを見て顔つきで何か怒っているなと言うのが分かりました。護送のために私に付いてきた女の警察官と男の警察官は弁護士さんの面会ということで,部屋の外に出られると,C10弁護士さんは私に国選にしたんだねと言いました。私は自分が裁判所に出した弁護士を私選から国選に変えるという書類を見てC10弁護士さんは機嫌が悪いのかなと思いながら,お金がいるからと答えました。するとC10弁護士さんは私に弁護士費用は貰っていると言ったがねと言うと,事件のことについてあなたはお金を貰っていると言っているがねと言われたのです。私は,最初のころは家族などに正直に話していることを知られたくないと思い,C10弁護士さんには『お金は貰っていない』と話していましたが,刑事さんから『弁護士には正直に話さないと弁護士は弁護活動はできないよ』と言われて,それからC10弁護士さんには,警察や検察の調べには正直に話している』と言っていました。しかし,私の言い方が悪かったのかC10弁護士さんは,私が選挙でお金を貰っていることを話していることを初めて知ったような怒った言い方で子供が待っているよ,今日の裁判を受ける3人は戦うと言っているよと言われたのです。私も,子供のことを言われると裁判では事実を認めて正直に話そうと思っていた気持ちがぐらつき,弁護士さんは自分に認めたらいけないと言っているんだと思ったのです。」,「検察官が起訴状に書いてある事実を読まれ,裁判官は私達1人1人に事実はどうですかと聞かれました。(中略)次にX10さんも事実はありませんと否認し,私の番になりました。私は正直に事実を認めて早く裁判を終わらせたい,裁判では他の人が否認しても正直に話そうと思っていたので『ありました』と答えるつもりでした。しかし,いざ裁判でみんなが見ている場所に立ってみるとX9さんもX11さんもX10さんも認めてないのに自分だけ認めたらみんな何て思うだろう,さっき自分を叱ったC10弁護士さんも横にいるのにどうしようと思い,心の迷いがありました。ですから,裁判官から聞かれたときは言葉に詰まり,どちらとも言えない返事をしたように思います。裁判官にも私が答えたことが分からなかったらしく,裁判官から聞き直され,私はみんなに合わせた方がいいと思い,小さい声で『ありませんでした』と否認しました。私は,裁判で『ありませんでした』と言ったことで,直ぐに『しまった,他の人につられて反対のことを言ってしまった』と反省しました。」,「また,私の弁護人であるC10弁護士さんについては,私達より先にあった,夫達の裁判のことも話してくれないし,夫が裁判で認めたのか否認したのかも分かりません。刑事さんからは,夫は裁判では認めたと聞きましたが,このような大事なことをC10弁護士さんが私に教えてくれないことや,裁判の前になって事実を認めている私に怒って子供の話を持ち出したりするところを見ると誰のために弁護活動をしているのだろうと疑いたくなります。私は,裁判所に国選弁護人にしたいと書いて書類を提出しているので,C10弁護士さんには悪いけど解任したいと思っています。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の989)
d A76副検事による平成15年8月4日の取調べ
A76副検事は,平成15年8月4日,原告X8の取調べを行い,同日付け供述調書を作成した。同供述調書には,原告X8とC10弁護士との接見内容及び公判期日で公訴事実を否認した理由等について,「裁判官から起訴状に書いてある事実は間違いないか尋ねられました。私の左側にはX10さんがいましたが,そのX10さんは起訴事実は認めませんでした。その後,私に事実は間違いないか裁判官が聞きましたが,そのとき,私は,事実は間違いないと言おうとしたのです。でも,X10さんは,今言ったように,事実を認めない話をしていたことから,私も『ありませんでした』と言ってしまいました。私としては,事実は間違いありませんと言うつもりが,ありませんでしたと言ってしまったのです。私1人だったら,私は,事実は間違いありませんとはっきり言えたと思いますが,X10さんが事実はないという意味で,『ありません』と言ったことから,私もX10さんにつられて『ありませんでした』と言ってしまったのです。私は,『しまった』と,違ったことを言ってしまったと思ったのですが,そのときには遅かったのです。真実は,これまで話すように,選挙の金を貰ったことは間違いありません。」,「問 その7月29日の裁判の後,弁護士と会ったことはありますか。弁護士と会ったことについては,原則聞けないことになっていますが,あなたがどうしても話したいと言うなら話して調書に書きますが,どうですか。答 話します。その理由は,弁護士に対して腹が立つからです。そのことについて話しますと,裁判が始まる前に弁護士と会いましたが,そのとき,弁護士は,私に『起訴状の事実はどうですか』と,10万円貰った事実は間違いないか,間違いか聞きました。そのとき,私は,弁護士に『間違いない』と言いました。すると,弁護士は,私に『A1さんとX2,X10さん,X11さん,X9さんは,選挙の金を貰っていないと言っていますよ』と言いました。そして,弁護士は,私に『お金を貰っていないと言いなさい』と言ったのです。私は,『貰いました』と言いました。その後,裁判の場に出たのです。法廷では,弁護士さんの顔がよく見えました。私は,その弁護士さんが気にかかりました。でも,本当のこと,つまりお金を貰ったと言おうと思っていたのですが,さっき話したように,X10さんがお金は貰っていないと否認したことから,私もそのX10さんの言葉につられて「ありませんでした。」と言ってしまったのです。本当は「間違いありませんでした。」と言うつもりだったのです。」などの記載がある。(甲総ア第25号証の660)
(31)  本件刑事事件での弁護人のアリバイ立証
ア 弁護人立証の開始
本件無罪原告らの各弁護人は,平成17年6月29日の第1次刑事事件等の第41回公判期日から,弁護人立証を開始した。(甲総ア第25号証の179,同218,弁論の全趣旨)
イ 原告X6のアリバイ供述
原告X6は,第1次刑事事件等の平成17年7月15日の第42回公判期日及び同年9月9日の第44回公判期日において行われた被告人質問において,4回目会合についてのアリバイとして,平成15年3月24日の行動について,「3月24日午後7時過ぎ,mホテルで開かれた本件懇親会に出席するため,原告X6の支援者であるA126の運転する軽自動車でmホテルに行き,午後7時40分頃,会場において皆の前であいさつをした後,各出席者にあいさつして回り,午後8時頃,mホテルを出て,A126とともに,いったん原告X6の選挙事務所に戻り,普通自動車に乗り換えてから,午後8時30分頃,原告X6と親戚関係にあり,原告X6の選挙運動を手伝っていたA174宅で同人と落ち合い,A126及びA174とともに,旧有明町伊﨑田にある鍋集落の民家10軒程度を戸別訪問して回ったが,その中に新車の納車祝いをしている家があった他,途中で,A126が,運転を誤り,車の後部を破損させる事故を経て,午後10時頃,A174宅に帰り着き,そのまますぐに原告X6の選挙事務所に向かい,そこでA126と別れた後,一人で帰宅した。」旨を供述した。(甲総ア第25号証の181,同186,同1069,同1079)
ウ A135,A175,A176,A174,A177,A126のアリバイ供述
mホテルの経営者であったA135,上小西自治会の本件懇親会当時の自治会長であったA175,上小西自治会の本件懇親会当時の役員であり,原告X6の中学校の同級生であったA176,A174,上記鍋集落の住民であり,A174のめいに当たるA177及び上記鍋集落の住民であり,A174と遠い親戚関係にあるA178は,第1次刑事事件等の同年7月29日の第43回公判期日に実施された証人尋問で,A126は,第1次刑事事件等の同年9月28日の第45回公判期日に実施された証人尋問で,原告X6の平成15年3月24日の行動について,いずれも上記原告X6の供述に沿う内容の証言をした。(甲総ア第25号証の184,同187,同1070,同1073ないし1077,同1080,弁論の全趣旨)
エ A174,A126,A177,A178の各証言の要旨
(ア) A174供述の要旨
原告X6は,平成15年3月24日午後8時過ぎ頃,運転手のA126とともにA174の自宅に来て,原告X6の選挙運動のため,3人で鍋集落の民家を戸別訪問して回り,雨の中,1時間ほどかけて10軒程度の民家を訪問してあいさつをしたが,そのうち,A177宅では,車の購入祝いの最中であり,A174と原告X6もお茶を飲ませてもらい,A178宅では,孫の出産祝いの最中であった。また,戸別訪問をしている途中で,運転手のA126が運転を誤り,車の後部をブロックにぶつけたことがあり,午後9時過ぎ頃,自宅に帰り着き,原告X6とA126は,そのまま帰った。(甲総ア第25号証の1074,弁論の全趣旨)
(イ) A126供述の要旨
A126と原告X6は,平成15年3月24日午後8時頃,mホテルを出発し,軽自動車で原告X6の後援会事務所に行き,そこで普通乗用自動車に乗り換え,A174宅に向かった。A174宅で同人を自動車の助手席に乗せ,同人の案内により,雨の中,鍋集落の民家を戸別訪問した。途中,運転を誤り,車の後部をブロック塀にぶつける事故があった。戸別訪問を終え,A174宅を経由して午後10時過ぎに後援会事務所に戻り,そこで原告X6と別れて自宅に帰った。(甲総ア第25号証の1080,弁論の全趣旨)
(ウ) A177供述の要旨
A177は,平成15年5月24日午後6時頃,新車の購入代金の支払をした後,自宅で販売代理店の人たちと新車購入祝いの名目で酒を飲んでいたところ,午後8時過ぎになって,A174が,原告X6とともに車で訪ねてきた。2人は,家に上がってお茶を1杯飲み,「お願いします。」などと言って,2,3分で帰っていった。A174は,A177のおばに当たるが,原告X6とは面識がなく,A177は,原告X6の後援会に入会するなどはしていない。(甲総ア第25号証の1075,弁論の全趣旨)
(エ) A178供述の要旨
A178は,平成15年3月24日午後8時過ぎ,出産のために入院していた長女が退院したため,自宅で退院祝いをしていたところ,A174と原告X6が選挙の挨拶に来て,玄関のところで,「よろしくお願いします。」などと述べ,5分程度で帰っていった。A174は,A178の遠い親戚関係に当たるが,具体的な関係を知らず,冠婚葬祭時に手伝ったりする程度の間柄であり,A178は,原告X6の後援会に入会するなどはしていない。(甲総ア第25号証の1076,弁論の全趣旨)
オ 本件無罪判決の判示
裁判所は,本件無罪判決において,上記各証人の証言は,いずれも,平成15年3月24日の天気,A126の物損事故の発生,A177の家の新車の納入,A178の長女の退院に係る各客観的証拠と一致し,A177及びA178は,いずれもあえて原告X6のため虚偽の供述をするほどの人的つながりも認められず,その他各供述に不自然なところはなく,いずれも信用できるものと評価する判示をした。
なお,原告X6は,同年3月24日の行動について,捜査段階において,本件懇親会に出席したこと及び鍋集落を戸別訪問したことを,捜査機関に対し,いずれも供述していなかった。(甲総ア第1号証,弁論の全趣旨)
(32)  本件無罪判決の言渡しとその骨子等
(甲総ア第1号証,甲総ア第25号証の204,同205,同210,同2386)
ア 公訴棄却の決定
裁判所は,平成17年6月7日,亡A1に対する本件刑事事件につき,公訴棄却の決定をして,同決定の謄本は,同日,C10弁護人に送達された。
イ 本件刑事事件に関する求刑
検察官は,平成18年9月29日,原告X6について懲役1年10月,原告X7について懲役1年2月,原告X1について懲役1年及び追徴10万円,原告X2,原告X3及び原告X4についてそれぞれ懲役10月及び追徴26万円,原告X5について懲役10月及び追徴21万円,原告X8について懲役10月及び追徴20万円,原告X10,原告X11及び原告X9についてそれぞれ懲役8月及び追徴10万円,亡X12について懲役6月及び追徴6万円を求刑した。
ウ 本件無罪判決
裁判所は,平成19年2月23日,本件刑事事件につき,第54回公判期日を開廷し,亡A1を除く本件無罪原告らに対し,いずれも無罪とする本件無罪判決を言い渡し,同判決は確定した。
エ 本件無罪判決の理由
裁判所は,本件刑事事件の判決において,本件無罪原告らをいずれも無罪とした理由として,本件無罪原告らのうちの原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X3の捜査段階での自白並びに原告X1,原告X4及び原告X3の本件刑事事件の公判廷における自白が,要旨以下の理由により信用できず,他に公訴事実を認めるに足りる証拠はないと判示した。
(ア) 原告X6のアリバイの存在
a 1回目会合
1回目会合については,これが平成15年2月8日に開かれたことが複数の根拠によって裏付けられており,逆に,1回目会合が同日以外の日に行われたことを示すような証拠はない。
1回目会合があったとされる同日に,原告X6が午後7時頃からmホテルで行われた本件新年会に出席し,開会してまもなく全員の前で,本件選挙に立候補する旨あいさつをしたこと,その後,出席者に個別にあいさつをして回った中で,午後7時30分頃にA179に対してあいさつをしたこと,閉会した午後10時頃,mホテルから,運転代行業者の運転により帰宅したことが,それぞれ認められ,自白では本件買収会合の全てに出席していたとされる原告X6が,1回目会合の際にX1宅にいた時間帯は,最も短くみたとしても,同日の午後7時半から午後8時頃までとなり,裁判所が,mホテルとX1宅との往復に要する時間等を把握するため,mホテルとX1宅との間を実際に自動車で往復し,所要時間と距離を測定する検証を実施したところ,制限最高速度の範囲内で,かつ,制限最高速度に可及的に近い速度で走行して,約1時間15分を要することが認められ,本件の検証時における走行が非常にスムーズであったこと,県道110号線の区間では,道幅が狭く,曲がりくねって見通しの悪い箇所もある上,街灯も数箇所しかなく,夜間は大部分が真っ暗であるため,高速度を維持しての走行は極めて困難であると考えられることから,仮に,速度違反を犯したとしても,時間短縮はせいぜい数分程度にとどまると考えられ,原告X6が,X1宅で遅くとも午後7時半頃から始まったとされる1回目会合に,最初から参加することは物理的に不可能であるといわざるを得ないし,原告X1は,原告X6が経営する会社の従業員であるから,原告X6としては,原告X1に指示して,別の日に買収会合を開催させることも十分可能であったにもかかわらず,原告X6が,わざわざ自分のために開催された本件新年会の日に,それと時間的に重複する形で,本件新年会の会場であるmホテルからかなり遠方にあるX1宅での買収会合を企図し,これに出席したというのも,甚だ不自然・不合理というべきである。
したがって,原告X6には,1回目会合があったとされる日時に,s中学校の同窓会である本件新年会に出席していたという事実が認められ,1回目会合事件についてアリバイが成立する。
b 4回目会合
4回目会合については,これが同年3月24日に開かれたことが複数の根拠によって裏付けられていると同時に,3月下旬のそれ以外の日については,4回目会合が開かれた可能性を排斥でき,4回目会合が同月24日以外の日に行われたことを示すような証拠はない。
4回目会合があったとされる同日に,原告X6が4回目会合の際にX1宅にいたとされる時間帯は,最も短くみたとしても,午後8時頃から午後9時頃までとなり,原告X6が同日午後7時30分頃からmホテルで行われた本件懇親会に出席し,自治会長のあいさつ,乾杯,A135のあいさつの後に,全員の前で,本件選挙に立候補する旨あいさつをし,引き続き,出席者に個別にあいさつをして回ったこと,原告X6は,午後8時前頃にmホテルを出て,A174,A126とともに,鍋集落に赴いて戸別訪問を行い,午後10時頃,A174方に戻ってきたことが,それぞれ認められ,また,鍋集落とX1宅とは,mホテルを基点として,前者は北西方向,後者は北東方向の全く異なる方角に位置していることが認められ,原告X6が,短くみても午後8時頃から午後9時頃にかけて,X1宅で開かれたとされる4回目会合に参加することは物理的に不可能であり,原告X6が,本件懇親会に出席した後,午後8時前頃にmホテルを出て,X1宅に直行したとしても,X1宅への到着は午後8時30分頃になり,4回目会合に関する原告らの自白は,客観的事実と相容れないものとして,信用できないといわざるを得ない。
c 2回目会合及び3回目会合
2回目会合及び3回目会合については,アリバイの主張がなされていないものの,これらの会合は,いずれも,X1宅という同一の場所において,本件選挙に立候補する原告X6を応援するという同一の目的の下開催されたものとされており,原告らの自白によると,2回目会合は,1回目会合の参加者が,「今度は原告X6の奥さんの顔も見てみたい。」という趣旨のことを述べたことが開催の契機となったとされるなど,4回の会合が相互に極めて密接に結び付いていること,2回目会合及び3回目会合についての原告らの具体的な供述は,1回目会合及び4回目会合に関する供述がされた後に,1回目会合及び4回目会合の事実があったことを当然の前提として,引き出されたものであり,捜査経過に照らしても,4回の会合事実が密接不可分の関係にあるといえることなどにかんがみれば,1回目会合及び4回目会合の存在を否定しつつ,2回目会合及び3回目会合の事実を認めることは,結果として,極めて不自然な事実認定になるといわざるを得ず,2回目会合及び3回目会合に関する自白の信用性もまた大きく減殺される。
(イ) 本件買収会合の不自然・不合理の指摘とa3集落についての指摘
本件買収会合が開かれたとされるのは,わずか7世帯しかない集落であるが,このような小規模の集落において,ほぼ同じ顔ぶれの買収会合を開き,起訴されている分だけでも合計191万円もの多額の現金を供与することに選挙運動として果たしてどれほどの実効性があるのか,実際にそのような多額の現金を供与したのか疑問があり,これらの自白の内容は不自然・不合理である。さらに,起訴されているもの以外にも,①原告X6が,買収会合を開いたことの口止め料として,原告X1に30万円を渡した,②原告X7が,原告X1に対し,会合のお礼として10万円を渡した,③原告X6が,原告X3を介して,原告X2に30万円を渡した,④原告X6が,原告X1らを介して,亡A1に20万円を渡したなどとされており,これを前提にすると,原告X6は,原告X1らを介し,a3集落及びその周辺地域の住民に対し,相当に多額の金銭をばら撒いたということになる。
A12警部は,多額の現金が供与された点について,受供与者個人の投票買収という趣旨だけでなく,受供与者を通じて他の選挙人に対して働きかけをしてもらうという運動買収の趣旨も含まれていたと判断した旨供述するが,原告らの自白内容をみても,運動買収を働きかけるようなやりとりは特にみられず,家族への働きかけは別として,大半の者は現に選挙運動をしたような形跡も認められないのであり,多額の金銭が供与された理由を運動買収の趣旨が含まれていたとして説明することも困難というべきである。
(ウ) 受供与金についての指摘
これらの自白において供与されたとされる現金については,これだけ多額の現金が供与されたというのであるから,原告X6やその親族等の預金残高の変動等,原告X6がこれらの金銭を拠出したことをうかがわせる何らかの客観的な徴表があってしかるべきである。
それにもかかわらず,このような客観的証拠は全く本件において提出されておらず,供与金の原資が全く解明されておらず,供与後における使途も不明であるなどの客観的証拠の裏付けを欠いている。
(エ) 自白の合理的理由のない変遷についての指摘
自白した原告らの供述は,いずれも自白した当初は,1回の買収会合についてのみ供述していたが,同年5月2日に原告X4が買収会合が2回開催されたと供述するや,同月3日には,原告X8,原告X1及び亡A1がそろって,3回の買収会合の事実を供述するとともに,原告X4も買収会合の回数を3回と訂正し,同日に取調べのなかった原告X2も,同月4日に3回の買収会合の事実を供述するに至り,同日に原告X1が買収会合の回数を4,5回ぐらいと供述するや,これに影響されるかのように,同月5日から6日にかけて,他の4名が買収会合の回数を4回と訂正するに至っている。
このように,買収会合の回数に関する供述は5名とも変遷を重ね合理的理由のない変遷をしている上,その変遷の過程で,ある者の供述内容が他の者にそれぞれ相互に影響を及ぼしあっていたことが強く疑われる。
買収会合で供与された金額についても,当初は供述内容に相当のばらつきがあったが,最終的には5名の供述が一致しているところ,この供述経過にも不自然な点が看取され,一方の供述が他方に影響を及ぼした疑いがあり,A14警部補ら取調官が他の被疑者の供述内容の情報を得て,金額を更に追及した結果,金額が変遷していったと考えた方が,つじつまが合い,経過としてはるかに自然である。
このように本件無罪原告らがいずれも合理的な説明の困難な供述の変転を繰り返すなど,供述の信用性を否定する方向に働く事情が多々認められ,取調官による押し付けや誘導がない状況で,このような供述経過になるとは考え難く,連日のように極めて長時間の取調べを受け,取調官から執拗に追及されたため,苦し紛れに供述したり,捜査官の誘導する事実をそのまま受け入れたりした結果,このような供述経過になったとみる余地が多分にあると考えられる。
(オ) 自白内容の具体性,迫真性についての指摘
本件無罪原告らの自白は,4回にわたる会合の様子やその前後の経過等について,具体的かつ詳細で,体験した者でなければ語り得ないと考えられるような迫真的な内容も含んでおり,その自白内容をみる限りでは,信用性が高いと評価すべきようにも思われるところ,1回目会合と4回目会合については,アリバイの存在によって,本件無罪原告らの自白するような買収会合の事実は存在しなかったのであり,それにもかかわらず,あるはずもない事実が,さもあったかのように,具体的かつ迫真的に表現されている。
自白した本件無罪原告らは,いずれも,長期間・長時間にわたる取調べで取調官から厳しく追及され,供述を押し付けられたと主張しているところ,本件無罪原告らの自白の中に,あるはずもない事実がさもあったかのように具体的かつ迫真的に表現されていることは,自白の成立過程で,自白した本件無罪原告らの主張するような追及的・強圧的な取調べがあったことをうかがわせるものであり,本件買収会合の事実に関する本件無罪原告らの自白全体の信用性に疑問を生じさせるというべきである。
(33)  接見交通侵害国賠事件の判決
ア 接見交通侵害国賠事件の提起
C5弁護士,C8弁護士,C3弁護士,A92弁護士,C2弁護士,A90弁護士,C9弁護士,A96弁護士,C7弁護士,C10弁護士及びC1弁護士は,本件公職選挙法違反事件の弁護士人等であったが,平成16年,被告国及び被告県に対して,検察官及び県警察本部司法響察員らが,本件公職選挙法違反事件の被疑者及び被告人らを取り調べた際に,本件無罪原告らなどから,弁護人らとの接見内容を聴取し,さらにこれを供述調書に録取したことで,当該行為により弁護人の秘密交通権が侵害されたと主張して,国家賠償法1条1項及び民法719条1項に基づいて損害賠償請求事件を提起した。(甲総ア第4号証)
イ 判決内容
裁判所は,平成20年3月24日,被告国及び被告県に対して,上記弁護士らに対して各50万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である被告県においては平成16年5月8日から,被告国においては同月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を命ずる判決をし,その理由中で,A75検事,A78副検事,A77副検事,A76副検事,A14警部補,A37巡査部長,A19警部補,A18警部補,A16警部補,A15警部補,A17警部補,A30警部補,A36巡査部長が,上記弁護士らの接見交通権を違法に侵害し,過失があったと認められ,これらの行為は,本件公職選挙法違反事件に係る被疑事実の一連の捜査のために検察官及び司法警察員が共同して行った行為であるというべきであるとして,被告県及び被告国は,これらの行為によって生じた損害について,共同不法行為責任(民法719条1項)を負うものと認めた。
また,裁判所は,上記検察官及び上記警察官らが,弁護士の憲法の保障に由来する重要な権利たる接見交通権を侵害し,その回数たるや,実に,A90弁護士において12回,C1弁護士において8回,C2弁護士において3回,A92弁護士において7回,C5弁護士において3回,C7弁護士において3回,C3弁護士において5回,C10弁護士において17回,C8弁護士において2回,C9弁護士において3回,A96弁護士において2回にも及び,これらにより本件公職選挙法違反事件にかかる弁護活動を著しく困難にせしめたことは容易に想像することができ,また,捜査機関が各原告らの弁護活動を捜査妨害的行為と位置づけて殊更に接見内容を聴取する行為は,弁護士としての誇りを踏みにじるものであり,また本来原則として被疑者と弁護人間のみに知られるべき接見内容を暴く行為というべきで,今後の弁護士の刑事弁護活動を困難せしめる行為であって,上記弁護士らの精神的損害が甚大であると判示した。(甲総ア第4号証)
2  争点(1)ア(本件公職選挙法違反事件の捜査における平成15年4月16日までの初期段階における強い予断と偏見に基づく捜査の開始に関する県警の違法性の有無)
(1)  任意捜査の適法性の判断基準
ア 刑事訴訟法の規定に基づく任意捜査の適法性
刑事訴訟法189条2項は「司法警察職員は,犯罪があると思料するときは,犯人及び証拠を捜査するものとする。」と規定するところ,「犯罪があると思料するとき」とは,特定の犯罪の嫌疑があると認められるときをいうと解され,犯罪があると思料するに至る原因については,告訴・告発等といった刑事訴訟法に規定があるものに限られず,新聞報道,匿名の申告,風説等,何ら限定はないと解される。
また,刑事訴訟法は,それらの端緒に基づく嫌疑の有無についての認定も,「犯罪があると思料するとき」として司法警察職員に委ねており,また,特定の犯罪についての嫌疑ではなく,何か犯罪となるべき不正が行われたかもしれないと思われる段階でなされる捜査機関の活動,例えば,匿名の申告や風評の内容の真偽や確度について調査するなどといった,刑事訴訟法上捜査といえない捜査着手のための準備活動というべきものについても,刑事訴訟法197条1項において,「捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる。但し,強制の処分は,この法律に特別の定のある場合でなければ,これをすることができない。」と規定している。
同項でいう「必要な取調」とは,単に被疑者,参考人の取調べに限らず,広く捜査のために必要とされる一切の手段,方法を意味するとみるべきであり,したがって,捜査機関は,強制の処分以外は,特別の定めを要しないで,任意で行われる限り,捜査の目的を達するため必要な限度において一切の手段,方法を採ることが許容されるものと解すべきである。
しかし,任意捜査も公権力の発動であるので,捜査機関は必要な限度を超えてはならないが,具体的にいかなる捜査の手段,方法を採るべきかという点については,任意捜査の方法や態様は多種多様であり,それによってもたらされる個人の権利・利益の侵害やその危険の程度も様々であることを勘案すると,任意捜査の適法性は,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断されるべきものである。
イ 任意捜査の適法性の判断時と判断基準(職務行為基準説・合理的理由欠如説)
ところで,刑事手続における実体形成は,捜査機関が主観的嫌疑を形成した段階から,証拠資料を集積しながら漸次発展し形成されていくものであり,起訴検察官が公訴提起に必要な客観的嫌疑を形成した段階を経由して,最後に裁判所が犯罪の証明の成否に関する心証を形成し,刑罰法規を具体的に適用する段階に至る動態的かつ発展的な性格を有していることからすると,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による捜査活動が違法とされるわけではなく,捜査機関による捜査活動はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であるというべきである(職務行為基準説。最高裁判所昭和49年(オ)第419号同53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁参照)。
そして,警察官又は検察官の判断が,捜査活動について国家賠償法上違法というためには,警察官または検察官の判断が,その判断時において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官又は検察官を前提として通常考えられる警察官又は検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要であるというべきである(合理的理由欠如説。なお,最高裁判所昭和59年(オ)第103号平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁参照,最高裁判所平成4年(オ)第77号平成8年3月8日第二小法廷判決・民集50巻3号408頁参照)。
ウ 本件における適用
そこで,争点(1)アについては,A5ビール事件の捜査を開始してから,平成15年4月17日及び同月18日に四浦校区の住民らに対する事情聴取を行うまでの間において,県警が本件公職選挙法違反事件の任意捜査を行ったことが,その当時の具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案した場合に,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していたか否かを,後記第3・2(2)ないし同(4)において検討する。
(2)  A5ビール事件の経緯及びその後の捜査の違法性の有無等
ア 端緒
原告らは,A5ビール事件の端緒となる情報は,受供与者とされるe社の事務室の机に,iホテルと書いた年賀の熨斗がついた缶ビール1ケースが置いてあった旨の情報提供に対して,これを本件選挙の買収のために,A5からe社に贈られたものとの嫌疑を持ったこと自体,単なる思い込みで主観的な憶測を超えるものではないと主張する。
確かに,前記第3・1(4)エにおいて認定したとおり,A5は,平成15年1月上旬にiホテルから年賀の熨斗がついた缶ビール1ケースを渡したことを認めており,iホテルの営業活動の一環として年賀の品を渡すことは通常の行為であって不自然ではないものの,同月上旬が本件選挙を控えた時期であること,前記第3・1(4)アにおいて認定したとおり,A5が任意に本件現地本部に原告X6の陣営の選挙体制表を提供したが,同選挙体制表では,A5が原告X6の運動員ないし旧志布志町の責任者であるとされており,本件現地本部がA5の動静に留意するのはその職務上において当然であることから,缶ビール1ケースの供与が本件選挙の買収に当たる可能性について捜査をすること自体は,単なる思い込みで主観的な憶測とまではいうことができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ 捜査(A2県議への情報収集)
原告らは,A12警部とA14警部補が,投票日である平成15年4月13日,A5ビール事件について,原告X6の対立候補者であってA12警部の旧知の間柄であるA2県議を自宅に訪ねて情報収集を行ったことが,公正・中立を旨とする警察官の行動としては,軽率で極めて偏頗な捜査であると主張する。
確かに,前記第3・1(4)ウにおいて認定したとおり,A12警部は,本件選挙の投票日である同日,A14捜査官と共に,選挙情報を得る目的で,A12警部と旧知の仲であり,原告X6の対立候補であったA2県議をその自宅に訪問しており,本件選挙においては,A2県議に関しても,選挙違反の嫌疑については捜査をする抽象的な可能性が存在する以上,被疑者となり得るA2県議から県警幹部のA12警部が情報収集することは,A2県議の選挙違反に係る証拠の隠滅を助長させる契機になりかねず,また対立候補である原告X6に関する情報収集であるから,本件選挙での対立候補の追い落としに警察が荷担したとの誹りを受けることは明らかであり,警察の公正さに疑問を呈させるという不適切な捜査であったというべきである。
しかし,前記第2・2(5)イの前提となる事実のとおり,本件現地本部が原告X6に係るA5ビール事件の捜査のために設置され,上記情報収集も,既に端緒情報のあるA5ビール事件の捜査の一環として行われたものであることに照らせば,A5ビール事件の捜査に関し,A2県議から情報を収集したことは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないとまではいうことができない。。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ A6外1名の否認と捜査の継続
原告らは,A6が,A5の経営するiホテルに客を紹介したお礼や年始の挨拶にビールをもらった旨のA5と同じ供述を警察にしていたことにより,A5ビール事件の合理的な嫌疑は既に消滅し,平成15年4月15日の時点で,立件が不能となったことは明白であったから,直ちに本件公職選挙法違反事件の捜査を終了すべきであって,これ以降のA5に対する捜査継続が違法であると主張する。
しかし,前記第3・1(4)エにおいて認定したとおり,A5が,e社を訪れて缶ビール1ケースを渡したことの目的は,前年の秋頃から宿泊客を紹介してもらい,iホテルの売上げに貢献してくれたことへのお礼という名目であるものの,実際には,原告X6の選挙運動のためであったとの内容の供述調書に署名・指印していること,宿泊客を紹介された時期とビールを渡した時期にも時間的間隔があること等に照らせば,A6外1名がいずれも缶ビール1ケースが買収目的であったことを否認し,A6がA5の経営するiホテルに客を紹介したお礼や年始の挨拶にもらったとしてA5と同じ供述を警察にしていたことがあるとしても,これらの否認によってA5ビール事件の立証には困難が生じたということにすぎず,捜査機関が,供与者であるA5の前記供述が存在する以上は未だ嫌疑は残っているとみることも不合理ではなく,A6が上記のとおり否認した同時点においても,A5ビール事件の捜査を継続して,A5に対し,任意出頭を求めて取調べを継続することは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
エ 本件選挙への時間的近接性の有無と捜査への協力的態度の有無等の外形的事実
原告らは,ビールを贈った時期が本件選挙の告示日又は投票日から離れた時期であること,A2県議派だったA6外1名に,選挙運動で缶ビール1ケースを供与すると,警察に情報提供される危険が高いこと,A5が,原告X6の陣営の選挙体制表を任意に提供して捜査に協力的であったことから,A5に選挙違反がないことが明らかであったというべきであり,A5ビール事件の嫌疑は,県警の主観的嫌疑の域を出ないものであったと主張する。
しかし,捜査機関にしてみれば,前記第3・1(4)エにおいて認定したとおり,A5がe社を訪れて缶ビール1ケースを渡したことの目的は,原告X6の選挙運動のためであったとの内容の供述調書に署名・指印していること,宿泊客を紹介された時期が平成14年の秋頃であり,ビールを渡した平成15年1月とは時間的間隔がある上,A5が,宿泊客を紹介してもらい,iホテルの売上げに貢献してくれたことへのお礼というのは名目であるとしていること等に照らせば,捜査機関が,原告ら主張に係る外形的事実を踏まえながらもなお供与者の供述が存在する以上は嫌疑が残っているとみることも不合理ではなく,A5ビール事件の捜査を継続して,A5に対し,任意出頭を求めて取調べを継続することは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
オ 結論
以上によれば,本件現地本部が,A5ビール事件の捜査を継続したことは,国家賠償法上違法であるということはできない。
(3)  A5焼酎事件の捜査
ア 特別協力者の情報の確度と平成15年4月15日以降の捜査
原告らは,特別協力者なる情報提供者からの情報の内容をみると,A98やA99が,森山校区又は潤ヶ野校区の住民であること,A98とA99はいずれも本件有機米契約農家ではないことから,上記情報は確度の高いものとは到底いえず,本件現地本部が,平成15年4月16日に,亡A1,A99及びA98の同行・取調べを敢行したことは,任意捜査の限界を超えた違法なものであったと主張する。
しかし,前記第2・2(3)イ(ウ),同ウの前提となる事実,前記第3・1(3)ア,同イにおいて認定したとおり,原告X6は,本件選挙において,無所属の新人として立候補し,h党公認で農政連の推薦を受けるなどしていた現職議員の候補者3人のうちの1人を破って当選し,本件選挙以前には,前回選挙で志布志町議会議員の補欠選挙に当選して町議会議員を2年程度務めただけにすぎず,原告X6が未だ安定した選挙の地盤を確立していない可能性があったにもかかわらず,旧志布志町において,曽於郡区の総得票のほぼ半数である6943票を獲得し,原告X6の旧志布志町における得票率が65.8パーセントであったこと,前記第3・1(4)イ,同エ及び同キにおいて認定したとおり,A5がe社に缶ビール1ケースを渡したとの情報が存在したこと,A5が,缶ビール1ケースの供与が,原告X6の選挙運動のためであったとの内容の供述調書に署名・指印していることなどからすると,捜査機関としては,原告X6が何らかの公職選挙法違反を行った可能性を疑うことも一定の合理性がないともいえないこと,前記第3・1(5)アにおいて認定したとおり,A98は森山校区内に,A99は,潤ヶ野校区内に居住する実在の人物であり,本件有機米契約農家であるか否かは別として,上記情報の内容は,いずれも旧志布志町の内之倉地区に居住する3名の実在の人物を特定して,原告X6から現金が供与されたという可能性を指摘しているものであったこと等の状況に照らすと,これらの者に志布志署への同行を求めた上で,任意に事情を聞くことは,捜査機関としては合理性があるというべきである。
そして,上記3名から事情聴取する中で,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,亡A1は,本件現地本部が事情聴取を開始した日である同月16日に,A5及び原告X6の訪問を受け,「X6ちゃんが選挙に出っで,頼んじなあ。」,「頑張っじなあ,頼んじなあ。」と本件選挙への立候補の挨拶を受けたこと,A5及び原告X6の帰宅後,自宅の玄関横の縁側に,「○○」という銘柄の焼酎が置いてあり,亡A1は,A5及び原告X6が置いていったものと理解したことを供述したのであり,その供述内容にも不自然な点はなく,同供述を得た時点で,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められるというべきである。
イ 不相当な誘導の有無
原告らは,亡A1の上記供述に係る供述調書の記載内容に,原告X6とA5の立候補の挨拶回りの訪問の際に「出っで,頑張っでなあ」と言ったことが,投票依頼だけではなく票の取りまとめの依頼とまでは推測することができないこと,亡A1が断定的にA5らが焼酎を置いたと理解した前提の事情がなく,焼酎2本だけで票の取りまとめの報酬と解するには飛躍があり,A16警部補の不相当な誘導の形跡があると主張する。
しかし,前記第2・2(2)ウのとおり,a3集落は,四浦校区の集落の中でも,より宮崎県串間市との県境に近い山間部の行き止まりに位置する集落であり総世帯数6世帯で総人口21名の規模の集落であるから,亡A1においても,A5らが亡A1宅を訪問してから1時間のうちに何者かが亡A1宅に現れ,亡A1に無断で焼酎2本を置いて立ち去る可能性などは殊更に考えないのが通常であると認められ,亡A1がA5らが焼酎を置いたと理解したとする供述に不自然な点はなく,不相当な誘導の形跡があるとは認められない。
また,「出っで,頑張っでなあ」との文言又は焼酎2本が投票依頼だけなのか票の取りまとめの依頼までなのかについては,今後の取調べにより明らかにされるべきものであり,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,上記供述調書には,亡A1の署名・指印があることに照らせば,平成15年4月16日の時点において,亡A1が上記供述をしたことを疑わせるべき事情はない。
したがって,A16警部補の不相当な誘導の形跡があるとする原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 任意性の有無
原告らは,上記供述調書の記載における亡A1の娘の苗字及び亡A1の署名・指印がある最終頁のフォントからすると,不相当な誘導を行ったA16警部補が,同供述調書の読み聞け及び閲覧の手続をしていないことがうかがわれるから,亡A1の同日の取調べが任意になされたものであるか,疑問があると主張する。
しかし,A16警部補が,平成15年4月16日の時点において,不相当な誘導を行ったことを認めることができないことは,前記第3・2(3)イにおいて判示したとおりである。
上記供述調書の亡A1の署名・指印がある頁の活字のフォントがそれまでの頁のフォントと異なる点についても,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,焼酎2本をもらった相手方の氏名こそ,署名・指印のある頁の前頁に記載されているような体裁になっているものの,原告X6の本件選挙における投票依頼等の対価として焼酎2本の供与を受けたという結論は亡A1が署名・指印した頁に記載されていること,被告県が主張するように,それまで使用していたプリンターの不具合の発生と別のプリンターの使用を契機に活字のフォントが変わる事態もあながち不自然ではないと考えられること,前記第3・1(5)イ(イ)において認定したとおり,亡A1が本件刑事事件の被告人質問においても,A5から焼酎をもらった事実の供述は維持していること等に照らせば,A16警部補が同供述調書の読み聞け及び閲覧の手続をしなかったことを疑わせるべき事情はない。
したがって,亡A1の同日の取調べが任意になされたものであるか疑問があるとする原告らの上記主張はいずれも採用することができないというべきである。
エ A14警部補のA5に対する踏み字による取調べ
原告らは,A5焼酎事件の捜査は終了すべきであり,捜査継続は違法であったにもかかわらず,本件現地本部が,A5に対し,A14警部補による踏み字を強要した常軌を逸した取調べを行ったことは,原告X6の陣営による選挙買収が行われたものとの予断・偏見に支配されて,証拠がない中で無理に自白を取ろうとしたからに他ならず,A5焼酎事件の捜査を継続したことには国家賠償法上の違法があると主張する。
確かに,前記第3・1(5)エにおいて認定したとおり,A14警部補は,A5に対し,平成15年4月16日午前9時過ぎ頃から取調べを行い,亡A1がA5及び原告X6から焼酎の供与を受けたことを自白したことを基に,黙秘を続けるA5に対して,A5の自白を得る目的で,「A5,お前をこんな人間に育てた覚えはない A162」,「じいちゃん,早く正直なじいちゃんになってください A163」,「娘をこんな男に嫁にやったつもりはない。」等の文章の紙面3枚をA5に見せた上で,椅子に座っていたA5の足下に並べて置いて,同紙面を踏むように指示し,さらに,同指示に従わないA5の両足首を両手でつかんで同紙面を踏ませて,違法に自白を得ようと本件踏み字行為を行っていたのであって,本件踏み字行為は,警察の職務を行う者が,その職務を行うに当たり,被疑者に対して陵辱・加虐の行為をするという常軌を逸した取調べであって,断じて許されるものではない。
しかしながら,A14警部補がA5の取調べ中に行った本件踏み字行為の原因が,A5焼酎事件の証拠がないことによるものであること又は選挙買収が行われたものとの予断・偏見に支配されていたことを認めるに足りる証拠はなく,本件踏み字行為をもって,直ちに本件現地本部が行うA5焼酎事件の捜査全体が違法となってその捜査の継続が違法となるものではないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
オ 結論
以上によれば,原告らの主張する任意捜査の限界を逸脱したという点は,A14警部補のA5に対する本件踏み字行為による常軌を逸した取調べ以外には,これを認めるに足りる事情は見当たらず,本件踏み字行為をもって,本件現地本部が行うA5焼酎事件の捜査の継続ないしは捜査全体が直ちに違法となるものではないから,本件現地本部がA5焼酎事件の捜査を継続したことは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできないというべきである。
したがって,本件現地本部が,平成15年4月16日に,亡A1,A99,及びA98の同行・取調べを行ったことにつき,国家賠償法上の違法はないというべきである。
(4)  平成15年4月17日及び同月18日の四浦校区の住民らに対する取調べ
ア 任意同行
原告らは,選挙買収の合理的な嫌疑はなく,A5も,四浦校区への買収の嫌疑を強く否認したにもかかわらず,予断・偏見の下で,本件現地本部が,平成15年4月17日の四浦校区の住民らに対して取調べを開始したことが違法であると主張する。
しかし,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,亡A1は,同月16日の取調べにおいて,亡A1がA5及び原告X6の訪問を受け,本件選挙への立候補の挨拶を受けたこと,A5及び原告X6の帰宅後,自宅の玄関横の縁側に,「○○」という銘柄の焼酎が置いてあり,亡A1は,A5及び原告X6が置いていったものと理解したことを供述したのであり,同供述を得た時点で,少なくとも捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められるというべきである。
また,四浦校区が旧志布志町の中心部から離れた小規模な集落であることからすると,A5と原告X6が,亡A1宅のみを訪れるのではなく,同一の機会に四浦校区の集落内を訪問した可能性があるとして,嫌疑の有無を確認していくことは合理性があるというべきである。
してみると,本件現地本部が,捜査を継続し,同月17日の四浦校区の住民らに対して任意同行を求めて取調べを開始したことが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ 公民館長及び副公民館長からの聴取
原告らは,A12警部が,平成15年4月16日,A102公民館長及びA103副公民館長の下を訪問して,A102公民館長及びA103副公民館長が原告X1が原告X6の関係する農場で働いていたことや本件有機米契約農家としてA97,亡A1及びA88の名前を挙げただけであるのに,A12警部がこれらの者において原告X6の陣営から物品や現金をもらっているという情報を得たとして違法な捜査をしたと主張する。
前記第3・1(5)ウにおいて認定したとおり,A12警部は,A2県議派が多数派であるとのA102公民館長及びA103副公民館長の説明にもかかわらず,A2県議派が多数であるはずの四浦校区内で原告X6の支持に回った者が出たのは,原告X6の正当な選挙運動のためではなく,原告X6の選挙陣営による戸別訪問及び物品の供与並びに選挙人への供応接待が行われていたことによる見込みが高まったと考え,原告X6の支持者として名前の出た原告X9,原告X3,原告X2,原告X4,原告X11,A97及びA88について,翌日から,任意同行を求めて,捜査を開始することを決めたものであるが,前記第3・1(5)アにおいて認定したとおり,A16警部補が,同月15日夜,特別協力者なる情報提供者から,A98,A99及び亡A1が原告X6の選挙運動員から本件選挙に関し金品をもらっている旨,その情報は上記3名のうち1名から直接聞いた旨の情報を得ていること,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,亡A1が,原告X6及びA5から焼酎2本くくりの供与を受けたと供述していたことに照らすと,その他の選挙人への戸別訪問及び物品の供与並びに供応接待に関する見込みについては,未だに嫌疑の有無を確認していくことは不合理であるとまではいえず,A12警部の行動は,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないというべきである。
また,原告らは,A12警部が,A102公民館長に対して,自首するならばお構いなしとすると伝えて取引を持ちかけた旨を主張し,これに沿った供述部分のあるA102公民館長の尋問調書及び陳述書(甲総ア第426号証の1及び2)を提出するが,これらの書証によれば,A102公民館長には,A12警部に対して情報提供をしたことによって捜査が拡大したことによる不都合を事後的に減殺しようとする態度が認められ,そのためA102公民館長の上記供述部分については,全面的には信用することができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 戸別訪問,物品の供与の可能性
原告らは,亡A1,A102公民館長及びA103副公民館長の供述のどれに照らしても,戸別訪問,物品の供与が行われている可能性が高いとはいえず,原告X6やA5が亡A1宅を訪問した事実はあるとしても後援会活動の一環としてなされている可能性があり,物品買収の証拠物も収集保全されていないことに照らして,本件現地本部の捜査が違法であると主張する。
しかし,前記第3・1(5)イ(ア)において認定したとおり,亡A1がA5及び原告X6の訪問を受けて焼酎の供与を受けた旨の供述がある以上,少なくとも捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められ,本件現地本部が,捜査を継続し,平成15年4月17日の四浦校区の住民らへの取調べを開始したことが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
エ 取調べの継続
原告らは,原告X6及びA5による四浦校区における選挙違反の嫌疑は何ら認められないにもかかわらず,平成15年4月17日から,四浦校区の住民である原告X9,A97,A88,原告X3,原告X4,原告X2及び原告X11の7名を取調室に連行し,取調べを行ったことが違法なものであると主張する。
しかし,前記第3・2(4)アにおいて判示したとおり,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められるのであるから,本件現地本部が,捜査を継続し,同日及び同月18日に四浦校区の住民らに対して任意同行を求めて,その取調べを開始したことは,任意捜査である限りにおいて,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(5)  予断・偏見の主張と捜査比例の原則
さらに,原告らは,本件現地本部が,本件公職選挙法違反事件の捜査の初期段階から,本件選挙において原告X6の陣営による組織的な選挙違反があったものと,強い予断と偏見を持っていたことを前提として,違法主張の根拠として捜査比例の原則を挙げ,刑罰権行使という目的達成のために,捜査(手段)が適合的かが問題となるのは,犯罪事実の存在が前提となるから,通常の捜査官を基準として,その時点で現に収集した証拠資料及びそのときの捜査状況から収集し得た証拠資料に照らして,その合理的な判断過程から犯罪事実が存在しない場合には,刑罰権の発動はあり得ないのであり,目的適合性の原則から,その後の捜査は,それだけで違法であって,本件がそれに該当するとも主張する。
しかし,捜査活動の国家賠償法上の違法を検討するためには,通常の捜査官を基準として,その時点で現に収集した証拠資料及びそのときの捜査状況から収集し得た証拠資料に照らして,捜査官の判断がその判断時において裁量権を逸脱した行き過ぎたか否かを判断するのであって,事後的に振り返って精査するのではなく,原告らの捜査比例の原則における「犯罪事実が存在しない場合」とは,嫌疑が主観的にも客観的にも全く存在しない場合を指すものというべきであって,本件では,前記第3・2(4)アにおいて判示したとおり,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑自体は存在していたのであるから,原告らの捜査比例の原則における「犯罪事実が存在しない場合」には当たらないというべきである。
(6)  争点(1)アに関する結論
以上のとおり,本件の事実関係に照らすと,志布志署のA10署長及びA12警部らの本件現地本部が,本件選挙において原告X6の陣営による組織的な選挙違反があったものと強い非合理な予断と偏見を抱き,合理的でない嫌疑をかけて,A5ビール事件ないしA5焼酎事件の捜査を開始し,情報収集をし,原告らに対する事情聴取を始めたという原告ら主張に係る違法があるとまでは認めることはできず,上記捜査自体についてば,一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできず,原告ら主張に係る違法があるとまでは認めることはできない。
以上によれば,争点(1)アに関する原告らの主張はいずれも採用することができない。
3  争点(1)イ(X1焼酎事件の端緒の把握に至る四浦校区の住民らに対する任意同行の継続から本件買収会合事件の捜査に着手する前の平成15年4月29日までの捜査に関する県警の違法性の有無)
(1)  被疑者に対する取調べの方法ないし態様の違法性に関する判断基準
一般的に,警察官が,犯罪を捜査するについて必要があるときに被疑者の取調べを行うに当たっては,強制,拷問,暴行,脅迫,偽計等の被疑者を威圧又は欺罔するような方法を用いるなどして,その自由な意思決定を阻害してはならない一方で,捜査の目的を達成するために必要な範囲内で,かつ,任意性を損なうことのない限りにおいてであれば,追及的な取調べ,理詰めの尋問,比較的長時間にわたる取調べを行うことが常に否定されるというものではないのであって,任意取調べは,強制手段によることができないというだけでなく,さらに,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるものと解すべきである(最高裁判所昭和57年(あ)第301号昭和59年2月29日第二小法廷決定・刑集38巻3号479頁参照)。
そこで,取調べの方法ないし態様の違法性の判断は,強制,拷問,暴行,脅迫,偽計等の被疑者を威圧又は欺罔するような方法を用いていたならばもちろんのこと,取調官による被疑者に対する直接の有形力の行使や切り違い尋問などについては,被疑者の自由な意思決定を阻害するものとして原則として違法になるというべきである。
次に,そこまでに至らない大声,威圧,否認による不利益な見通しの告知,間接の有形力の行使等については,これが被疑者に恐怖心を与え,次に,自白による有利な見通しの告知,自白の誘導・勧誘等については,これが被疑者を錯誤に陥らせ,さらに,長時間取調べや一定期間の取調べの継続等については,これが被疑者の自由意思を制圧する程度に達し,また,暴言,強要等については,これが被疑者に屈辱や著しい不安等を与えて,これらの結果,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないといえるかを,事案の性質,それらの行為態様,その行為前後の被疑者の態度や応答等,被疑者の属性,嫌疑の程度等から総合的に違法性を判断すべきである。
(2)  平成15年4月17日及び同月18日の取調べ
ア たたき割りと呼ばれる違法な取調べの有無と原告らの自白の虚偽性の有無
原告らは,本件現地本部が,平成15年4月17日及び同月18日の取調べにおいて,合理的な必要性もなく本件無罪原告らを捜査対象とした上,違法な手段により志布志署への任意同行を求め,休憩時間等も与えず,長時間にわたって実質的に身柄拘束した上,原告らの主張に係るたたき割りと呼ばれる手法を用いた威迫,恫喝,不相当な誘導による違法な取調べを行い,X1焼酎事件についての虚偽の自白を引き出し,これを基に,違法に第1次強制捜査に踏み切り,さらに違法な捜査を継続させた旨を主張し,これに沿う本件無罪原告らの本件刑事事件での公判供述,本件訴訟での各原告本人尋問での供述,本件無罪原告らが本件訴訟に提出した各陳述書における陳述記載部分が存在する。
そこで,以下,原告らの主張に係る取調べ等の任意捜査の違法性の有無を検討するに当たり,任意取調べ等の任意捜査を行ったこと自体の合理性の有無,それらの方法ないし態様における違法性の有無について検討する。そこで,以下,原告らの主張に係る違法な取調べの有無を検討するに当たり,取調べ自体の合理性の有無,取調べの方法ないし態様について検討する。
なお,①任意捜査を行ったこと自体の合理性については,前記第3・2(1)イ及びウのとおり,警察官または検察官の判断が,その判断時において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官又は検察官を前提として通常考えられる警察官又は検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかという観点から判断し,②任意捜査の方法ないし態様に違法性があったかについては,前記第3・2(1)アのとおり,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断し,③任意捜査の中で,特に取調べの方法ないし態様に違法性があったかについては,前記第3・3(1)のとおり,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないといえるかどうかを,事案の性質,それらの行為態様,その行為前後の被疑者の態度や応答等,被疑者の属性,嫌疑の程度等から総合的に検討する。以下,それ以降の本件現地本部ないし県警の捜査の違法性について検討する場合も,同様である。
イ 原告X1及び原告X8も新たに事情聴取の対象とした上で,任意同行による取調べを続行すること
まず,原告X1及び原告X8も新たに事情聴取の対象とした上で,任意同行による取調べを行うこと自体について検討する。
本件現地本部は,前記第3・1(6)ア(オ),同(カ),同(キ)において認定したとおり,平成15年4月17日及び同月18日の四浦校区内の住民らに対する事情聴取に関し,原告X3からa2集落小組合の総会において原告X6の長男A129の依頼に応じて原告X6のビラを配布した旨の自供を得たこと,原告X9から原告X1とともに戸別訪問をした旨の自供を得たこと,原告X4から,A2県議の選挙運動について戸別訪問等を行ったこと,本件選挙における原告X6の選挙運動については,ほとんど供述することができず,現時点では,原告X6の選挙運動のうち,1パーセント程度しか供述していないこと等の原告X6について表面化していない相応の選挙運動が行われたことをほのめかす供述を得たこと,原告X4が妻である原告X8から原告X1について原告X6の選挙運動で帰りが遅くなるとの話を聞いたことなど原告X8が原告X1による原告X6の選挙運動について何らかの事情を知っていることをほのめかす供述をそれぞれ得たことからすると,同月18日の捜査が終了した時点には,A5の入院によりA5焼酎事件についての立件は困難な見通しとなり,その余の四浦校区における選挙違反情報は戸別訪問の可能性があった程度でしかなかったものの,前記第3・2(3)ア及び同(4)アにおいて判示したとおり,本件現地本部がA5焼酎事件の捜査を行うこと自体については,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑が認められ,四浦校区が旧志布志町の中心部から離れた小規模な集落であることからすると,A5と原告X6が,亡A1宅のみを訪れるのではなく,同一の機会に四浦校区の集落内を訪問した可能性があるとして,原告X4がほのめかしたような未だ表面化していない相応の規模の原告X6の選挙運動が存在する可能性を疑って,嫌疑の有無を確認していくことには,一定の合理性があるものといわざるを得ない。
そこで,原告X1及び原告X8も新たに事情聴取の対象とした上で,任意同行による取調べを続行した方針自体に関する限りにおいては,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえないというべきである。
ウ A14警部補による原告X1に対する平成15年4月18日の取調べの違法性の有無
(ア) A14警部補による平成15年4月18日の取調べ
原告らは,本件踏み字行為の捜査官でもあるA14警部補が,原告X1に対して,探索的・渉猟的取調べをし,憲法上の権利でもある投票の秘密を侵害する尋問を繰り返し,不相当な誘導をして,選挙買収をしたのではないかとの予断の下で,取調べを継続したことにより,原告X1が「殺してくれ。私を殺してくれ。いいから私を殺してくれ」と精神錯乱の状態になったものであって,任意捜査の方法ないし態様に違法性があったと主張し,本件公職選挙法違反事件における取調べに関して詳細な387頁に及ぶ聴き取り書(甲陳第16号証)を提出する。
(イ) A14警部補の平成15年4月18日の取調べの問題性
そこで,原告X1の取調べの個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断し,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないといえるかどうかを,事案の性質,それらの行為態様,その行為前後の被疑者の態度や応答等,被疑者の属性,嫌疑の程度等から総合的に検討する必要がある。
確かに,原告らが指摘するとおり,A14警部補は,A5ビール事件等の取調べにおいて,A5に対し,取調室で踏み字をさせた捜査官であって,A14警部補が,被疑者の説得の方法として,紙に字を書いたり絵を描いたりすることは通常のように行っていたことは,前記第3・1(5)エにおいて認定したとおりであり,本件踏み字行為当時,取調べに同席していたA38巡査部長が,A14警部補に対して,本件踏み字行為を制することはなく,そのまま本件踏み字行為に立ち会い,その後の取調べを続けていたこと,本件現地本部は,A14警部補による本件踏み字行為を特に問題とせず,特段の対応を取らず,A10署長にも特に報告をしていなかったことに照らすと,本件踏み字行為の2日後に行った取調べにおいても,A14警部補が,原告X1に対して,本件踏み字行為と類似の行為を行ったかどうかは別として,原告ら主張のように原告X1を精神錯乱の状態にさせる程度の原告らの主張に係るたたき割りの手法による違法な取調べを行った可能性を直ちに否定することはできない。
(ウ) 原告X1の供述の信用性
しかしながら,原告X1は,原告本人尋問において,聴き取り書(甲陳第16号証)に記載された事項について,主尋問においてすら多くの点で憶えていないと供述し,ましてや反対尋問においても同様の供述を繰り返し,反対尋問による聴き取り書の信用性の確認を行うことができない状況にあったほか,平成15年4月27日の取調べで「13人に1万円と焼酎2本を渡したと言ってきたが,本当は現金は2万円ずつ渡した。」とこれまでの供述を訂正した理由について,本件訴訟における原告本人尋問において,被告県代理人からの質問には「ほかの人が2万円と言っている,だから2万円だろうなどと言われたので認めた。」などと供述しているが,裁判官からの質問では,「1万円だと言っても,A14刑事は聞かなくて,結局わたしが数字を言っていくと,2万円と言った時に,そうだということになって,2万円になってしまった。」などと供述に一貫性がないことがそれぞれ認められる。
原告X1の身柄拘束の期間及び取調べの時間が長いことからすると,原告X1が,原告本人尋問において,細部にわたる質問の場合に,記憶がないために供述ができない場合もあることはやむを得ない面もあるが,節目節目の部分についての供述さえも曖昧な点があることからすると,原告X1の供述ないし聴き取り書(甲陳第16号証)の内容は,原告X1本人の記憶があいまいであった部分を断定的に記載した可能性があるとうかがえる部分もあり,客観的事実と一致する部分以外は,その信用性は高くないものといわざるを得ない。
(エ) 原告X1の平成15年4月18日の状態
そして,前記第3・1(6)ア(ク)において認定したとおり,原告X1は,平成15年4月18日,A14警部補から任意同行を求められたことに対して興奮し,A14警部補に対し,X1宅に上がって仏壇のところに焼酎がないことを見てくるように強い口調で求めたり,取調べはX1宅で行うようにと求めたりしており,原告X1が原告X9から原告X9の同月17日の取調べが焼酎の供与のことだったと聞いていたことから,A14警部補から焼酎を持参したのではないかと追及されると興奮状態になったことがうかがわれ,同月18日の午前中の取調べが,取調べ初日であること,当初は世間話から始まり,その後,後援会の署名集めとパンフレットの配布の話が始まったこと,それ以外の取調べの状況が不明であることからして,原告X1が,同日の午後,女子トイレの中に閉じこもって「私を殺して」と騒いだことに関しては,原告X1が同様の興奮状態にあったためであることは認められる。しかし,「私を殺して」等の発言だけで原告X1が精神錯乱状態になったと直ちに認めることはできない。
そして,取調べを受ける被疑者が興奮状態になることは被疑者の特性によっては必ずしも特異な状況であるとまで評価することができないところ,A14警部補が,原告X1においてA14警部補に対し供述した内容の不明点等について追及したことに対し,原告X1が質問の趣旨さえ理解することができず,黙り込んだ原告X1に対して,説明がないと考えたA14警部補からの繰り返される質問に対して,原告X1がやり場がなくなった挙げ句に興奮状態となったのではないかとも考えられ,他にA14警部補の同日の取調べの状況を示す証拠がない以上,A14警部補の同日の取調べに関しては,原告X1を精神錯乱の状態にさせる程度の原告らの主張に係るたたき割りの手法による違法な取調べであってそのため原告X1が精神錯乱状態ないし興奮状態になったとまでは認めることはできない。
(オ) 原告X1の原告本人尋問
この点,原告X1の原告本人尋問においては,A14警部補から平成15年4月18日の取調べで,焼酎を配ったことを認めろと一日中大声で叫ばれたなどとする供述部分が存在する。
確かに,その2日前である同月16日には,前記第3・1(5)エにおいて認定したようなA14警部補の本件踏み字行為という常軌を逸した取調べがされたのであれば,原告X1の供述のとおり,焼酎を配ったことを認めろと一日中大声で叫ばれる取調べであった可能性もあり得るものの,上記説示したとおり,原告X1の供述は客観的事実と一致する部分以外は,信用性は高くないものといわざるを得ない。そして,同月18日は,原告X8がX1焼酎事件の自白を始める前であり,原告X1にとっても捜査の初日であって,捜査機関としても,同月17日に四浦校区の住民の事情聴取を始めてから原告X6の経営する会社の従業員の事情聴取をするのは原告X1が初めてなのであるから,A14警部補が,原告X1に対し,まずは原告X1が関与した原告X6の選挙運動全般について聴取していたとみるのが自然であって,いきなり原告ら主張に係るたたき割りによる取調べをしていたとまでは認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告X1の上記供述部分は,事実認定の証拠資料とすることはできない。
(カ) A14警部補の供述
他方,被告県は,原告X1が,A2県議支持者であるa3集落中の2軒が対立候補者である原告X6に投票したと思う根拠について質問されて返答に窮したことから,用便に立った際,女子トイレに閉じこもって「私を殺して,包丁を持ってきて私を殺して。」などと叫んだものであり,A14警部補が強圧的な取調べによって原告X1を精神的に追い詰めたなどという事実はないと主張し,A14警部補も,これに沿って,本件刑事事件において,平成15年4月18日の取調べにおいては,原告X1が,原告X2以外はA2県議の支持者であるなどとした上で,「a3集落の5世帯中,X4方,X12方の2軒については,A2県議支持者であったが,X6に投票してくれたと思っている。」などと供述したことから,原告X1に対して,A2県議支持者である2軒が対立候補者である原告X6に投票したと思う理由について質問したところ,原告X1は黙り込み,午前の取調べ終了後,取調室において「私を殺してくれ,いいから私を殺してくれ。」などと叫ぶなどし,さらには,午後の取調べにおいて用便に立った際,女子トイレに閉じこもって,「私を殺して,包丁を持ってきて私を殺して。」などと叫んだ旨を供述している(甲総ア第25号証の1036)。
しかし,A14警部補が前記のような質問をしたところ,原告X1が黙り込んだ末に「私を殺してくれ,いいから私を殺してくれ。」と叫ぶこともまたおよそ自然な経緯であるとは考え難いことであって,「私を殺してくれ,いいから私を殺してくれ。」との発言があったことは認められる以上,A14警部補が,国家賠償法上違法と評価すべき程度のものかはさておき,何らかの追及的な取調べをした可能性もうかがわれるのであって,A14警部補の上記供述部分も信用することができない。
したがって,被告県の上記主張は採用することができない。
(キ) 結論
以上によれば,原告X1が,いかなる経緯で「私を殺してくれ,いいから私を殺してくれ。」との発言をしたかについては,なお明らかではなく,他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はないため,A14警部補が,原告X1に対して,探索的・渉猟的取調べをし,不相当な誘導をして,選挙買収をしたのではないかとの予断の下で,取調べを行ったとする原告らの上記主張は,採用することができない。
エ A20警部補による原告X2に対する取調べの違法性の有無
原告らは,A20警部補が,平成15年4月17日及び同月18日,出勤途中の原告X2を待ち伏せするなどし,捜査官に取調べに応じたくない旨を述べた原告X2に対して,任意同行に応じなければ逮捕するなどと告げて無理に志布志署に連行し,いずれの日も早朝から深夜にわたって,延べ22時間30分もの長時間の取調べをし,その間,不相当な誘導・脅迫を伴う探索的な取調べをしたと主張する。
しかし,前記第3・1(6)ア(エ)において認定したとおり,原告X2は,少なくとも同月17日は勤務先に出勤後に連絡を受けて職場から取調べに向かったのであって,原告X2の作成した陳述書(甲陳第1号証)においては,「私が聞かれた内容は,X6が四浦に田んぼを作っているか,とか,X6と会ったのはいつか,A119の選挙運動をあなたはしたみたいだけども本当か,A5という人を知っているか,四浦に田んぼを作った経緯,それの中心になった人々は誰なのか,たとえば,焼酎があなたの家に置いてなかったか,といったものでした。」と記載され,原告ら主張に係る事実の記載はなく,原告X2本人尋問においても,原告ら主張に係る事実の供述はなく,本件刑事事件の公判廷における被告人質問においても,同月17日及び同月18日の取調べは厳しい取調べはなかったと供述している。
したがって,原告X2が,原告主張に係る長時間の取調べは受けたものの,同月17日及び同月18日において,原告ら主張に係る不相当な誘導・脅迫を伴う探索的な取調べを受けたとまで認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
オ A35巡査部長による原告X3に対する取調べの違法性の有無
原告らは,A35巡査部長が,平成15年4月17日から同月19日まで,原告X3に対し,黙秘権の告知をしないまま取調べを行い,原告X1から金をもらっているだろうが,原告X8に5万円をやっただろうがなどと特段の根拠のないままに繰り返し自供を迫るという手法で執拗に追及する取調べを行い,被疑者に合理的な反論さえさせないという態度であって,被疑者の人格的尊厳を全く省みない違法な取調べをしたと主張し,これに沿った原告X3の陳述書(甲陳第2号証)を提出する。
しかし,前記第3・1(6)ア(オ)において認定したとおり,原告X3の同月17日付け供述調書の内容からすると,a2集落小組合の総会における原告X6のビラの配布と公職選挙法違反の認識の有無について取調べがあったことは認められるものの,同日時点で,原告X8に対する5万円の供与について取り上げた調書は作成されず,その他上記陳述書部分においても,同日に被疑者の人格的尊厳を全く省みない違法な取調べがされたことの記載はなく,単に,同日の取調べに関し,陳述書では,「X1から金をもらっているだろうが。」などとと言われ,原告X1からの現金受供与について取調べを受けた旨を記載している。
この現金の受供与の点について,被告県代理人から,本件訴訟の原告本人尋問において,同日の時点では捜査線上に現金の受供与が上がってきていない事実と矛盾しているのではないかと追及されると,原告X3は,「ちょっと記憶にございませんです。分かりませんですね,もう。」などと曖昧な供述に変化している(原告X3本人尋問の結果)。
また,原告X3は,A35巡査部長の取調べとは異なる場面であるものの,A18警部補から被疑事実を認めれば早く留置場から出られるなどの利益誘導をされたか否かについては,本件刑事事件の公判供述では,A18警部補からそのような発言はなかった旨を供述している(甲総ア第25号証の1017)。他方で,本件訴訟の原告本人尋問では,後の同年5月19日におけるA18警部補の取調べにおいて,被疑事実を認めた理由の一つに,被疑事実を認めれば早く留置場から出られると言われ,その言葉を信じた旨を供述する(原告X3本人尋問の結果)など,取調べに時間的に近接した時点における本件刑事事件の公判における供述と本件訴訟の原告本人尋問とで完全に相反する供述をしていることからすると,原告X3による本件公職選挙法違反事件の取調べの態様についての供述内容には一貫性がなく,単なる記憶違い等としては合理的な説明がつかない程度に変遷しているといわざるを得ない。
以上によれば,原告X3の陳述書(甲陳第2号証)中の原告ら主張に係る陳述記載部分は,事実認定の基礎とすることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
カ A26警部補による原告X4に対する取調べの違法性の有無
原告らは,A26警部補が,平成15年4月17日から同月19日まで,原告X4の出勤途中を制止して強引な方法により志布志署への任意同行を求め,極めて長時間の取調べを行い,同月17日の時点では,本件無罪原告らに具体的な嫌疑はなかったのであるから,このような長時間の取調べを行うことが違法であって,同月18日の時点では,A26警部補が,不相当な誘導及び恫喝を伴う自白を強制する取調べを行なったと主張する。
まず,A26警部補が,同月18日に,出勤途中の原告X4に対して,任意同行を求めた事実は認められるものの,原告ら主張に係る不相当な誘導及び恫喝を伴う自白を強制する取調べを行なった事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
次に,原告らは,同月17日の時点では,本件無罪原告らに具体的な嫌疑はなかったのであるから,このような長時間の取調べを行うことが違法であると主張するが,前記第3・2(3)ア及び同(4)アにおいて判示したとおり,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められ,四浦校区が旧志布志町の中心部から離れた小規模な集落であることからすると,A5と原告X6が,亡A1宅のみを訪れるのではなく,同一の機会に四浦校区の集落内を訪問した可能性があるとして,嫌疑の有無を確認していくことは合理性があるのであるから,本件現地本部としては,四浦校区内において,原告X4がほのめかしたような未だ表面化していない相応の規模の原告X6の選挙運動が存在する可能性を疑ったとしても一定の合理性があり,原告X4に対する取調べが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができない程度には達していないといわざるを得ない。
さらに,原告X4は,本件刑事事件の公判供述では,同月17日にA26警部補及びA62巡査の取調べを受け,どのような質問をされたかについて,「焼酎をもらっただろう。」と言われたなどと回答し(甲総ア第25号証の1010),本件訴訟において提出した陳述書(甲陳第3号証)には「A26警部補からいきなり大声でX6さんから焼酎をもらっただろうと言われた。」との陳述記載部分があるが,他方,本件訴訟の原告本人尋問では,原告ら代理人からの「1日目,A26刑事から焼酎をもらっただろうと,そういうことを聞かれた記憶はございませんか。」との質問に対し,「私の記憶ではございません。」(原告X4本人尋問)と供述し,被告県代理人からの「陳述書1頁の9行目の所に警察に行くとA26刑事とA62巡査の二人から調べを受け,いきなり大声でX6さんから焼酎をもらっただろうと言われましたと書いてあるんですけれども,これは間違いということでいいんですか。」との質問に対し,「間違いです。」と明確に否定する(原告X4本人尋問の結果)など,供述に一貫性がない。
また,原告X4は,本件訴訟の本人尋問において,同年5月4日の任意取調べの時点で,警察車両に乗る際,手錠を掛けられた旨を供述し,被告県代理人から,本件刑事事件の公判でどうしてその話題がでなかったかに関し,「後から思い出した。」などと不合理な供述もしているところ,任意取調べを行うための任意同行に関して,任意の取調べの時点で手錠を掛けられたのであれば明白に違法な取調べであって,自白の任意性に大きな影響を与える事実であって,本件刑事事件の公判で問題とされないはずはないところ,本件刑事事件でかかる事実が出てきていないこと自体が不自然である(原告X4本人尋問の結果)。
このように,原告X4が本件公職選挙法違反事件の取調べの態様について供述する内容には一貫性がなく,原告X4の取調べの態様に関する前記供述は,単なる記憶違い等としては合理的な説明がつかない程度に変遷しているといわざるを得ない。。
してみると,原告X4のA26警部補が,不相当な誘導及び恫喝を伴う自白を強制する取調べを行なったとする供述部分はいずれも事実認定の基礎とすることができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
キ A25警部補による原告X9に対する取調べの違法性の有無
原告らは,原告X9が,本件公職選挙法違反事件での取調べに関し,A25警部補の取調べにおいて身体を揺すられた旨を主張している。
しかし,その内容は,①本件刑事事件の公判供述では,A25警部補と取調べ補助者2人から体を揺すられた旨を供述し(甲総ア第25号証の1085),これに対して,②本件訴訟で提出した陳述書では,机を挟んで向かい合ったA25警部補から,肩に手を掛けて体を揺すられた旨を陳述し(甲陳第8号証),さらに,③本件訴訟の本人尋問では,後ろに立ったA25警部補から肩を揺すられた旨を供述し(原告X9本人尋問の結果),供述内容に一貫性がなく,原告X9自らが体験したはずのエピソードに関して単なる記憶違い等としては合理的な説明がつかない程度に変遷しているといわざるを得ない。
原告X9は,別の取調べにおいて,取調室の机の上に乗ったA19警部補からばか呼ばわりされた旨を主張しているが,その内容は,①本件刑事事件の公判供述では,A19警部補に机の上からばかと言われた,A19警部補がばかと言って机の上に乗ったなどと供述し(甲総ア第25号証の1085),②本件訴訟における陳述書及び本人尋問では,A19警部補が,机の上に座ってあぐらをかいて,ばかと言ったと供述していたものであって(甲陳第8号証,原告X9本人尋問調書),原告X9の本件公職選挙法違反事件の取調べの態様について供述する内容に一貫性がなく,これも原告X9自らが体験したはずのエピソードに関しては単なる記憶違い等としては合理的な説明がつかない程度に変遷しているといわざるを得ない。
してみると,原告X9の上記A25警部補の取調べに係る供述部分はいずれも事実認定の基礎とすることができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ク A36巡査部長による原告X11に対する取調べの違法性の有無
原告らは,A36巡査部長が,平成15年4月17日,何も身に覚えのない原告X11に対し,「あんたは金をもらったどが。(もらっただろう。)」と見込みの取調べを行い,原告X11が,「いやもらっちょらん。」と答えると,驚くような大声で「もろちょっどが。」と怒鳴り,自白を強制し,誰からもらったのか明らかにせず,何度も怒鳴りつけ,それでも,原告X11が,「いや,もらってない。」と答えると,その後の取調べのなかで,「X6さんから」と名前を出して,もらったことを認めるよう強制し,「A2だったけど,お金をもらってからX6に寝返ったどが。」と決めつけて,原告X6から金をもらったことを認めるよう強制し,取調室から出してもらえず,昼食休憩後も取調べが続き,「X4の家にあったコップに,お前の指紋がついていた。」と偽計を用いて,自白を強制したと主張し,これに沿った原告X11の陳述書(甲陳第10号証)を提出する。
しかし,「X4の家にあったコップに,お前の指紋がついていた。」とは原告X4宅ないしその周辺であるa3集落内で何らかの買収会合が行われたことを前提とする質問であって,仮に,捜査機関が同日の時点で,具体的に上記原告X4宅等において本件買収会合が開催された事実を把握するなどしていたのであれば,原告X11以外の捜査対象者に対しても,当然,そのような事実の有無を確認しているはずであるが,本件全証拠によってもそのような事情を見いだすことはできず,原告X11の供述は客観的事実に合致しないものであるといわざるを得ない。
してみると,上記陳述記載部分は事実認定の基礎とすることができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(3)  平成15年4月19日から同月22日までの取調べ
ア 原告X8及び原告X4に対する取調べ
(ア) 平成15年4月19日のA36巡査部長による不相当な誘導・恫喝の有無
原告らは,原告X8が,平成15年4月19日,任意出頭を拒否しても認められず,執拗に出頭を求められて志布志署に無理に同行させられ,A36巡査部長の取調べを受けたが,嫌疑なき取調べであり,それ自体,違法であったところ,A36巡査部長が,午前9時53分から午後10時20分までの間の長時間にわたる取調べにより,原告X8に対して,原告X8の心理学的特徴(知的脆弱さ)に配慮することなく,「X1が焼酎を配ったと言っている,みんなもらったと言っている。」と怒鳴りつけるなどして,否定する原告X8に対し,「この馬鹿が。」と人格を傷つけたものであり,明らかに不相当な誘導・恫喝による陵虐の長時間の取調べを行い,さらに,A36巡査部長は,否認する原告X8に対し,「罰金で済む。」,「X1が認めている。みんな認めている。」,「夫の両親,子供たちも警察に呼ぶ。」と利益誘導を繰り返しながら,脅迫して自白を強制し,その結果,A36巡査部長は,同日午前11時頃,原告X8に虚偽の自白をさせたと主張し,その旨の陳述書(甲陳第7号証)を提出し,それに沿う原告X8の本件刑事事件の公判供述がある(甲総ア第25号証の1014)。
確かに,A36巡査部長は,本件刑事事件の公判期日において,この取調べにつき,原告X8に対して「あなたが正直な話ができないのであれば家族のほうから話を聞くことにもなりますよ。」と告げ,「それじゃあ家族のほうから話を聞く準備をしなさい。」と補助者に命じ,補助者が,「分かりました。」と部屋を出たところ,原告X8が,「ちょっと待って。」と言って「X1ちゃんから焼酎をもらった。」と供述した旨を供述し(甲総ア第25号証の1030),前記第3・1(6)イ(ア)において認定したとおり,原告X8は,同日午前中の取調べにおいて,X1焼酎事件の自白をしたほか,原告X1からだけではなく,原告X3からも,同月12日の午前7時頃に5万円の供与を受けた旨も自白しているところ,原告X8は,本件刑事事件の公判において,この点についても,A36巡査部長から告げられた事実を認めさせられたという趣旨を供述している(甲総ア第25号証の1014)。
そこで検討すると,第1に,原告X8が,任意出頭を拒否しても認められず,執拗に出頭を求められて志布志署に無理に同行させられたこと,原告X8に対して,原告ら主張に係る原告X8の心理学的特徴(知的脆弱さ)に配慮することなく怒鳴りつけるなどして取調べをしたこと,原告X8に対して「この馬鹿が」と人格を傷つけたこと,「罰金で済む。」,「X1が認めている。みんな認めている。」と言ったことについては,これを認めるに足りる的確な証拠はない。
第2に,原告X8に対する取調べが嫌疑なき取調べであってそれ自体が違法であるとの点については,前記第3・2(3)ア及び同(4)アにおいて判示したとおり,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められ,四浦校区が旧志布志町の中心部から離れた小規模な集落であることからすると,A5と原告X6が,亡A1宅のみを訪れるのではなく,同一の機会に四浦校区の集落内を訪問した可能性があるとして,嫌疑の有無を確認していくことは合理性があるのであるから,本件現地本部としては,四浦校区内において,原告X4がほのめかしたような未だ表面化していない相応の規模の原告X6の選挙運動が存在する可能性を疑ったとしても一定の合理性がある一方で,原告X8に対する取調べが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができない程度に達しているということはできない。
第3に,原告X8に対して,原告X8の親族に関する取調べをすると告知することが脅迫により自白の強制であって,A36巡査部長が不相当な誘導・威嚇により供述の自由を侵害した違法があるとの点については,上記のとおり,捜査機関にとって,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑は認められ,かつ,原告X4がほのめかしたような未だ表面化していない相応規模の原告X6の違法な選挙運動が存在する可能性があったのであるから,これらの嫌疑の有無を確認していくことは合理性があり,この原告X8の親族に関する取調べをする旨の告知が,社会通念を超えた違法なものとまで評価することはできないというべきである。
しかも,本件現地本部において,原告X3から原告X8への現金の供与があったことを疑って原告X8に自白を迫ったのであれば,当然,原告X3を供与者として,その他の四浦校区の住民に対しても現金の供与があったことは疑うはずであり,そのような事実の有無を他の捜査対象者に対しても同様に取り調べて確認して然るべきである。しかし,本件全証拠によっても,原告X8以外の捜査対象者が同日の時点においてそのような事実の有無を確認されたことをうかがわせる事情は見いだせないし,原告X8の供述によっても,最終的にどのようなやり取りがあって原告X3から5万円の供与を受けた旨の供述調書が作成されたのかは憶えていないというのであり(甲総ア第25号証の1014),A36巡査部長が自白を強制したとする原告X8の公判供述部分は不自然であって,これを事実認定の証拠資料とすることはできない。
以上によれば,原告X8が,同月19日の取調べにおいて,原告X1及び原告X3から現金ないし焼酎の供与を受けた旨を,原告X8に対する強制ないし原告X8の知的脆弱性に乗じて供述させられたことを認めることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) 平成15年4月20日の自殺未遂
原告らは,原告X4夫妻が,平成15年4月19日の夜は,恐怖と不安で眠れず,同月20日朝,「昨日のような取調べが始まるか」と考え,「本当のことを言っても全く信用してもらえず,生き地獄のような取調べがずっと続くのなら死んだ方がましだと考え」て自殺を考え,近くの畑にある柿の木で首を吊ろうとしたが,長男のA110に止められ,原告X4は,長男のA110に制止されてもなお,四浦校区を流れる福島川に飛び込んで入水自殺を図ったが,現場に居合わせたA111に救助され,自殺を遂げるに至らなかったことがあり,これがA36巡査部長による不相当な誘導・恫喝による取調べの過酷さを示すものであったと主張し,これに沿った原告X4及び原告X8の各陳述書(甲陳第3号証,甲陳第7号証)を提出する。
しかし,まず,原告X4及び原告X8が自宅近くの畑の柿の木で首つり自殺を図った点は,そのような事情があったとすれば,本件刑事事件の弁護人らにも,原告X4及び原告X8が過酷な取調べを受けていたことを示す事情として,その出来事を話しているはずであるし,本件刑事事件の弁護人らがそれらの事情を聞いていれば,自白の任意性に関わる重要な問題であるから,本件刑事事件の公判での被告人質問において,原告X4及び原告X8に対して質問をして然るべきであるところ,そのような弁護人からの過酷な取調べに関する質問がされたことはうかがえず(甲総ア第25号証の1010,同1014,同1020,同1024),原告X4及び原告X8の各陳述書部分は,にわかには納得することができず,同陳述記載部分は事実認定の基礎とすることができない。
次に,前記第3・1(6)イ(カ)において認定したとおり,原告X4が,自宅近くを流れる川にある落差1メートルほどの滝の滝壺に飛び込んだが,すぐ近くで釣りをしていたA111に救助された経緯があるところ,近くの川に入水自殺を試みたとされる点は,滝壺に飛び込んだ事実はあるものの,滝の落差に照らして,これが自殺を覚悟した入水であったか否かは必ずしも明らかではなく,さらに,飛び込んだ動機について,原告X4の陳述書(甲陳第3号証)をみると,嘘の自白をしたことの罪悪感や先の見えない不安感等が原因だったというのであり,仕事を休んで任意同行に応じることの不満は表明されているものの,これが,本件現地本部の取調べの過酷さを直ちに表すものとみることはできない。
したがって,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) 原告X4夫妻に対する平成15年4月21日の違法な取調べの有無
原告らは,原告X4夫妻が,平成15年4月20日には自殺を図るほど精神的に不安定な状況にあったのに,同月21日,取調室に連行されて,取調べを強要され,原告X8が,同日のA36巡査部長からの取調べにおいて,同月19日の自白は,事実ではなく,原告X1から焼酎と現金をもらったことはないと否認したにもかかわらず,A36巡査部長から,繰り返し,知的障害に配慮しない不相当な誘導・威嚇を伴う取調べを受け,焼酎1本と現金1万円をそれぞれ別の機会にもらったと再度,自白させられ,その手法として,A36巡査部長が,同日の取調べにおいて,実際には,同日の時点で原告X1は否認と自白を繰り返している状況であるのに,原告X1があたかも自白しているように切り違い尋問と評価すべき偽計を用いて誘導したと主張する。
確かに,原告X8の同日付け供述調書(甲総ア第25号証の944)には,「本当の事を話さないといけないけど,言えば四浦集落には住めなくなると思い本当の事が言えませんでした。しかし,刑事さんから話を聞いているうちに,X1ちゃんも本当の事を話しているのかな。自分一人だけでなく,みんなが本当の事を話してくれれば四浦集落に住めると思うようになりました。」と記載されており,A36巡査部長が,原告X8に対し,同日の取調べにおいて,原告X1が自白している旨を述べていることが認められる。
しかし,一般的に被疑者の自白ないし否認の時点と被疑者の調書作成の時点と時間差があることから,原告X8の上記供述の時点において,原告X1が自白していたか否認していたかについては,必ずしも明らかではないことから,その時点において,A36巡査部長が虚偽の事実を伝えていたか否かは判明しない。
また,A36巡査部長が原告X1の供述内容を述べたことについては,同供述内容と原告X8との供述の不一致部分について問いただす目的においては,取調べ上,必要な面もあり,その限りにおいては,切り違い尋問と評価すべき偽計による誘導に必ずしも該当しないことが明らかである。
これらのことからすると,A36巡査部長が,原告ら主張に係る切り違い尋問と評価すべき偽計として誘導したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
また,原告らは,A36巡査部長が,原告X8に対して,原告X8が虚偽の自白をしていたことを知りながら,知的障害があり,迎合しやすい原告X8に嘘の自白を迫っていたと主張するが,A36巡査部長において原告X8が虚偽の自白をしていたことを知っていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
そして,前記第3・1(6)イ(ア),同(ウ)及び同(エ)において認定したとおり,同月19日にX1焼酎事件の自白をした原告X1,原告X8及び亡A1のうち,原告X8のみが同日の午前中に自白し,亡A1と原告X1が同日の午後に自白していることからすると,原告X8が同日19日の午前中,X1焼酎事件の供述をし,これがX1焼酎事件の端緒になったとみるのが相当である。
したがって,A36巡査部長からX1焼酎事件の自白を強制されたとの原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) A27警部補による原告X4に対する平成15年4月21日の違法な取調べの有無
原告らは,原告X4を自殺未遂に追い込んだA26警部補に代わり,A27警部補が,平成15年4月21日,原告X4を取り調べたところ,A27警部補は,原告X4が,前日,自殺を図った者で,精神的に追い詰められていたことを知りながら,また,原告X4の知的能力にも配慮せず,不相当な誘導・恫喝を伴う強制により既に抵抗する気力を喪失していた原告X4に対して違法な取調べを継続し,「原告X8が3月中旬頃に原告X1から焼酎1本をもらい,その後,3月20日以降の時期で,原告X8の所持金が少なくなっているはずの時期に1万円を所持していたことがあり,不思議に思った。」旨の供述調書(甲総ア第25号証の878)を作成させたと主張する。
しかし,同供述調書が,原告X4の知的能力にも配慮せず,不相当な誘導・恫喝を伴う強制により既に抵抗する気力を喪失していた原告X4に対して違法な取調べを継続した結果作成されたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(オ) A36巡査部長及びA25警部補の平成15年4月22日の違法な取調べの有無
原告らは,A36巡査部長が,原告X8に対し,A25警部補が,原告X4に対し,平成15年4月22日,原告X8が原告X1から受け取ったとする1万円の使途につき,原告X8から原告X4に5000円が交付されたよう,2名の供述を合わせるために不相当な誘導・恫喝を伴う尋問を行ったと主張する。
確かに,原告X8及び原告X4の供述は,交付した日時と金額が一致しているが,原告らが認めるとおり,交付した状況が異なるのであるから,不相当な誘導・恫喝を伴う尋問を行った結果であるとまでは認めることはできない。
その他,原告らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ A20警部補による亡A1に対する取調べの違法性の有無
(ア) 原告らの主張
亡A1は,平成15年4月19日,X1焼酎事件に関し,同月16日と同様,何について取り調べたいのかは一切告げられずに任意同行を求められ,朝から志布志署で取調べを受け,夕方になって,A20警部補に「仮に,X1が3月中に来るとしたら上,中,下のいつがよいか。」というような形で質問を受け,亡A1がこれに答えていくうちに,A20警部補に「ほれみろ,3月初旬にX1が来て,X6さんを頼むと言って焼酎2本と現金1万円を受け取ったのは間違いないな。」などと言われて,虚偽の自白を強いられた旨を主張し,それに沿う亡A1の本件刑事事件における公判供述がある(甲総ア第25号証の1011及び同1021)ので,この点について検討する。
(イ) A1ノートの記載内容
前記第3・1(6)イ(ウ)において認定したとおり,A1ノートには,亡A1が平成15年4月19日に捜査機関からの呼出しを受け,買収の疑いで追及されたのに対し,それはないと突っぱねていたが,午後6時頃,取調官から仮の話として,原告X1が同年3月中に来るとしたら上,中,下のいつがよいかなどと聞かれたことなどが記載されているところ,亡A1は,本件刑事事件の公判供述について,A1ノートの同記載を明示された上,その記載をいつしたのか質問され,同年4月19日の取調べから帰宅してその日のうちに記載したことなどを供述しながら(甲総ア第25号証の1021),本件刑事事件の公判供述において,A20警部補から,同日の取調べにつき,何の話をされているのか分からないまま,午後3時頃から雑談として,仮の話として,原告X1が同年3月中に来るとしたらいつがよいかなどと尋ねられたと供述しており,A20警部補から仮の話を持ちかけられた時刻及び仮の話を持ちかけられた経緯について不一致の点はあるものの,A1ノートの記載内容自体が,前記第3・1(6)イ(ウ)において認定したとおり,遅くとも同年5月上旬までに記載が開始されていて,その記載内容は,前記第3・1(6)イ(キ),同(7)ケ,同(8)サ,同(9)エ,同ク,同セ,同ト,同(10)ウ,同キ,同ク,同サにおいて認定した同年5月上旬までの亡A1の供述内容の変遷とも合致しており,A1ノートの記載の信用性は高いというべきである。
被告県は,A1ノートに,取調べ実施日として,同年4月19日,同月20日,同月22日,同月23日,同月25日,同月26日,同月30日,同年5月2日ないし同月10日が記載されているものの,実際に取調べが行われた同年4月16日,同月24日についての記載がないなど,後日まとめ書きしたことによる思い込みや,記憶違いが記載されているのであって信用することができない旨を主張する。しかし,上記取調べの実施日のずれはわずかであるということができるし,A1ノートの同年4月19日及び同月20日欄には,同年5月上旬から見ても数週間以内のいずれも特徴的な出来事についての記載がされているのであって,記憶違い等の可能性も考えにくく,被告県のこの点に関する主張は採用することができない。
したがって,亡A1の同年4月19日の取調べについては,A1ノートに記載してあるとおり,A20警部補から,買収の疑いで追及され,これを突っぱねていたところ,「仮に,X1が3月中に来るとしたら上,中,下のいつがよいか。」などと仮定の話として質問を受け,亡A1がこれに答えていくうちに,A20警部補からその回答が仮定の話ではなく真実ではないかと告げられるなどしたことが認められる。
しかし,一般的に,取調べにおいて,被疑者は必ずしも常に真実を供述するものではなく,罪を逃れるためや第三者をかばうためなどの理由から虚偽の供述をすることも少なくないことにかんがみれば,供述を得るためにある程度の仮定的な質問をすることが直ちに社会通念上偽計とまで評価することはできない。
そして,A20警部補の亡A1に対する取調べにおいては,自由に発言をさせない,弁解させる機会を与えない,発言の撤回を許さない等の事情はうかがえない。
してみると,これらの証拠上認定することができる事実に基づけば,A20警部補の行為が,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないものとまでいうことはできない。
ウ A16警部補の原告X2に対する取調べの違法性の有無
(ア) A16警部補の「お前を死刑にしてやる。」発言の有無
原告らは,原告X2が,A16警部補から,平成15年4月20日の取調べにおいて,「お前を死刑にしてやる。」と恫喝されたなどと主張し,原告本人尋問においてもこれに沿う供述をしている。
しかし,原告X2の供述によっても,A16警部補は,後に,選挙違反は,交通違反と同じなどと,公職選挙法違反の刑罰が軽微であることを理由に自白を迫るなどしたというのであり,このことは,公職選挙法違反が,法定刑として死刑という極刑の選択まで予定されているほどの重大な犯罪であることを前提とする前記発言と矛盾しており,刑罰が軽微であることを理由に自白を迫る可能性はあっても,「死刑」にすると発言することは,あまりに不自然な経過であるといわざるを得ない。
したがって,原告X2本人の「お前を死刑にしてやる。」と恫喝された旨の供述は信用することができず,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(イ) A16警部補による供与金額の誘導の有無
また,原告X2は,X1焼酎事件に関して平成15年4月22日にした被疑事実を認める供述をするに至った際の取調官とのやり取りについて,本件刑事事件の公判において,A16警部補からの供与を受けた現金はいくらかとの質問に対し,原告X2が5000円と答えたところ,A16警部補からそんな半端なお金じゃないと否定され,原告X2が1万円ですかと言ったら,A16警部補に違うと言われ,原告X2が,供与を受けた金額を5000円ずつ上げていったところ,2万円のところで,A16警部補から「そうだよ,2万円だよ。」と言われたという趣旨の供述をしている(甲総ア第25号証の1013)。
しかし,検察官から,原告X2が最初に作成した自白調書には1万円と焼酎2本をもらったという内容の記載があることを指摘された(甲総ア第25号証の1013)後の弁護人からの質問において,A16警部補から供与金額の質問に対し,原告X2が5000円と回答したことにつき,A16警部補からそんな半端な金じゃないと否定された後,原告X2が1万円ですかと述べたところ,A16警部補から,ああそうだ,1万円だと言われたと供述しており(甲総ア第25号証の1023),これに沿った原告X2の陳述書(甲陳第1号証)も存在する。
してみると,このように,原告X2には,A16警部補に,受供与金額がいくらであるかについての供述を受け入れられるまで,最初の金額から5000円ずつ上乗せしながら4回も回答したという特徴的なエピソードについて,記憶違い等では説明し難い供述の変遷があるというべきであって,原告X2の供述するようなA16警部補の誘導内容に係る供述部分は,いずれも事実認定の基礎とすることができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) A16警部補による原告X2の追跡
被告県は,A16警部補が,平成15年4月22日,原告X2が帰りたいと言うのを無視して取調べを行い,憤慨して取調室を出て行った原告X2を連れ戻したという点について,原告X2が声を荒げて,「貰ってない。X1に会わせてくれ。帰ります。」などと申し立て,取調室から出て駐車場へと向かったため,このような興奮状態で車を運転させて帰宅させることは危険と判断し,原告X2の後を追って駐車場付近で同人に対して「冷静になって下さい。」と申し向けたところ,落ち着きを取り戻し,「分かりました。」と言って自ら取調室に戻ったと主張する。
しかし,前記第3・1(6)イ(サ)において認定したとおり,A16警部補は,同日,原告X2が取調べ中に両手を机の下に置いた状態で手遊びをすることを見とがめて,原告X2の両手を机の上に置きなさいと命じるなど,任意捜査で原告X2の協力を求めた上での取調べとしては,原告X2の意思に反することを命じた上,原告X2が志布志署から退去したいと申し出て,取調べを拒否して,志布志署の建物の2階から1階に降り,志布志署の建物を出て,警察署の駐車場に駐めてある原告X2の自家用車まで戻ったにもかかわらず,原告X2に対して取調室に戻ることを求めて,原告X2を取調室に戻らせるなどしており,原告X2が興奮状態であれば,落ち着いてから運転するように告げて,自由に退去を認めるべきであったのにそれを妨害し,興奮状態の原因となった取調室に戻らせるなどしていたものである。
ところで,前記第3・2(1)アにおいて判示したとおり,任意捜査の適法性は,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断されるべきものであって,既に退去の意思を明らかにして駐車場まで戻った原告X2を取調室に連れ戻したA16警部補の行為が国家賠償法上違法とならないのは,原告X2が真摯に任意にA16警部補の説得に応じた場合である必要があるというべきである。
ところが,本件では,原告X2が明示的に取調べを拒否する旨を申し立てて,志布志署から退去したいと言って,志布志署の建物を出て駐車場に駐めてある自家用車に戻ったところに,A16警部補及びA40巡査部長の二人がかりで追いかけてきて,取調室に戻るように説得したのであって,他方,原告X2にとり,興奮状態の原因となった取調室へ,特段の事情がないのにあえて戻るとは考え難く,本件において,そのような特段の事情は見当たらない。してみると,原告X2が,A16警部補の説得に対して真摯に任意に応じたとみることは,社会通念に照らして困難である。
以上によれば,そのような被疑者に対してなお説得を試みて取調室に連れて行くことは,本件における被疑事実の内容,被疑事実の嫌疑の程度,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案すると,A16警部補の行為は,任意捜査の限度を超えたものであるというべきである。
したがって,被告県の上記主張は採用することができず,A16警部補の上記行為は,国家賠償法上の違法な取調べであるというべきである。
エ A26警部補による原告X5に対する取調べの違法性の有無
原告らは,原告X5が,平成15年4月20日の取調べにおいて身体拘束を受け,A26警部補から「頭を上げろ,芝居が上手だ。」,「警察で取調べを受けていること自体,何かあるから取り調べているのであって既に罪人だ。」,「金品の受領があったことを話さないと帰宅できない,また逮捕等ということになると子ども・親戚に多大な迷惑がかかる。」などと脅迫されたなどと主張し,原告X5も,原告本人尋問において,任意同行を求められた際,警察手帳の提示も何についての事情聴取かも告げられず,原告X5が行政連絡員を務めている関係で,集落内に何か問題でもあって話を聞きにきたものと想像して同行に応じたこと,取調べも当初,何か変わったことはありませんかと抽象的な質問ばかりされ,本件選挙に関する取調べとは分からなかったこと,その他取調べにおいてA26警部補から上記各発言があった旨を供述し,陳述書(甲陳第4号証)にもこれに沿う陳述記載部分がある。
しかし,原告X5において,警察が何についての事情聴取か告げずに任意同行を求めてきたのであれば,何についての事情聴取か分からなければ尋ねるのが普通であるし,同月17日から6世帯しかないa3集落において,原告X9,原告X4,原告X2,亡A1,原告X1及び原告X8が順次,本件選挙に関して警察からの任意同行を求められている状況において,原告X5が同月20日に警察からの任意同行を求められた際,最初に,原告X5が行政連絡員を務めている関係で,四浦集落内に何か問題でもあって話を聞きにきたものと想像したことや,取調べの当初,本件選挙のことを聞かれていると分からなかったこともまた不自然である。
してみると,原告X5の上記供述ないし陳述記載部分は,これを認めるに足りる他の客観的証拠の裏付けがなく,上記部分については,事実認定の基礎とすることができないといわざるを得ない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
オ A14警部補による原告X1に対する取調べの違法性の有無
(ア) いわゆるたたき割りの手法による違法な取調べとの主張
原告らは,A14警部補が,平成15年4月19日以降,原告X1の説明を全部嘘だと決めつけた不相当な誘導等を用いた原告らの主張に係るたたき割りの手法による違法な取調べを行った旨を主張するので,以下,検討する。
(イ) A14警部補の脅迫行為
A14警部補は,前記第3・1(6)イ(エ),同(8)ウ,同ク,同(9)オ,同サ,同タ,同(10)ア,同コ,同シにおいて認定したとおり,平成15年4月19日の取調べにおいて,焼酎及び現金の供与を認めない原告X1に対し,正直に供述しないのであれば,原告X1の義父であるA112を志布志署に同行させて事情聴取する予定であることを告げており,X1ノートには,同月30日には,原告X1が何回も嘘を言うから何回も逮捕する旨,嘘を言っているから弁護士も逮捕する旨,同年5月2日には,原告X1が嘘を言っているので,X4の5人も逮捕する旨,同月7日には,A112から事情聴取する旨,同月10日には,原告X1が嘘を言っているので,A145とA146とA117と原告X9も取り調べる旨,刑事がA112を調べに行っている旨,原告X1が嘘を言うので原告X1の家族をみんな呼んで取り調べる旨,同月11日には,A117も原告X9もA145も取り調べられている旨,同月13日には,A117も本件買収会合に参加していたというのに嘘をついた旨,嘘をついたからまた何回でも逮捕する旨,垂水市の課長は嘘を言ったので3回逮捕した旨を告げたことの記載があり,かかる記載は,原告X1の取調べ状況に対応したものとなっていることから,信用性が高いものというべきである。
これらのことからすると,A14警部補は,原告X1が,A14警部補の意に沿わない供述をした際には,執拗に,原告X1やその親しい者等への事情聴取だけではなく逮捕を行うことを予告し,その中には,弁護士を逮捕するとしている点など,明らかに職権濫用となりうる虚偽の事実も含まれているのであって,そうであるとすると,これらA14警部補の発言は,全体として,原告X1が新たな供述をしない場合の捜査の見通しを述べたものという話では全くなく,害悪の告知に基づく自白の強要にしかすぎないというべきである。
そうであるとすると,A14警部補の行為は,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないものであるということができ,A14警部補が,同年4月19日から同年5月13日までの原告X1に対する取調べにおいて,原告X1やその親しい者への身柄拘束等の予告を合理的な根拠もなく繰り返した脅迫行為を用いたものであって,前記取調べは,違法であるとみるのが相当である。
これに対して,A14警部補は,弁護士を逮捕するとの発言に関し,本件刑事事件の公判において,同年4月29日の日に弁護士との面会後に原告X1が下を向くなど態度がおかしかったため,弁護士が証拠隠滅をしているのであれば弁護士も逮捕することになる旨を説明したなどと証言しているところ(甲総ア第25号証の1037),A14警部補において,同月29日の時点で弁護人による罪証隠滅の可能性を疑うような事情があったのであれば,同年5月18日より前に,その旨をA9情報官に報告するなどの措置を執っているはずであるが,本件全証拠によってもそのような事情は見いだせず,逆にA9情報官に報告するまでの事情ではないと判断していたのであれば,原告X1に対して弁護士を逮捕するなどと告げるのはあまりに唐突であって不自然であり,A14警部補の上記証言は,弁護士が証拠隠滅をしているような事情がないにもかかわらず,弁護士が証拠隠滅をしているとして弁護士まで逮捕することを告げて,原告X1の自白を維持させようとしているものにすぎず,信用することができないというべきである。
(4)  原告X1を第1次強制捜査により身柄拘束したこと
ア 判断基準
前記第3・2(1)イにおいて判示したとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による捜査活動が違法とされるわけではなく,捜査機関による捜査活動はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であるというべきであり,警察官又は検察官の判断が,捜査活動について国家賠償法上違法というためには,警察官または検察官の判断が,その判断時において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官又は検察官を前提として通常考えられる警察官または検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要であるというべきである。
したがって,原告X1を第1次強制捜査により身柄拘束したことの違法性も,平成15年4月22日の時点で,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,原告X1の身柄拘束の必要性があると思料したことが,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきである。
イ 県警の平成15年4月22日までの証拠資料
前記第3・1(6)エにおいて認定したとおり,県警は,平成15年4月22日までの時点で,①原告X8が,同年3月中旬頃,原告X1から焼酎と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,②亡A1が,同月上旬頃,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白し,うち焼酎の空き瓶1本を任意提出したこと,③原告X1が,同月中旬頃,X1焼酎事件受供与被疑者らに対し,現金1万円と焼酎2本を供与したことを自白したこと,④原告X2が,同月中旬頃,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑤原告X4が,原告X8の所持金の多寡について,原告X8が原告X1から現金1万円の供与があったことを裏付けるかのような供述をしたこと,⑥A104が,同年2月中旬から同年3月中旬頃までの間に,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑦A86が,原告X1から焼酎2本と現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑧A108が,同月上旬から中旬頃の1日から1週間くらい後の日に,原告X1から現金1万円の供与を受けたことを自白したこと,⑨上記各自白は,原告X2を除くいずれも本件無罪原告らが,本件現地本部による事情聴取を受け始めてから1日目ないし2日目までになされたものであり,原告X2についても,X1焼酎事件についての取調べを始めてから2日目になされたものであることなどの証拠関係を基に,第1次強制捜査への着手を判断した。
そうであるとすると,原告らが主張するような,①受供与者の自白が,供与を受けた時期について,同年2月中旬頃から同年3月中旬頃まで時間的間隔があり,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載の依頼,焼酎の供与,現金の供与がそれぞれ同一の機会にされたのか,一部又は全部が別の機会にされたのかについて不一致があること,②供与を受けた焼酎の本数についても1本か2本かの不一致があること,③原告X8が自宅前で原告X1から現金の供与を受けたと供述する日時が,原告X1の勤務先のタイムカード上の退社時刻の記載と整合しないこと,④原告X8及び原告X4の供与を受けた現金の使途に関する供述が激しく変遷していること等の事情が認められ,これらに係る原告らの主張は,事後的に検討すると正鵠を得ている面があるものの,なお,多くの者が短時間の取調べのうちに被疑事実に概ね沿う内容を自白し,不一致点については,捜査の初期段階であることにかんがみれば,今後の捜査の進展により供述者の記憶の整理等によって解消される可能性が考えられること,焼酎の空き瓶の任意提出を受け,客観的証拠も一応存在すること,原告X8の供述では,原告X1の勤務先のタイムカード上の記載と整合しない点は,同年4月22日までに原告X1のタイムカードの精査が通常要求される捜査であるかという点をおくとしても,その後の捜査により,原告X8の記憶の整理等によって不整合が解消される可能性があること,供与された金品も一般的な相場とされている範囲から大きく外れるものではなく,供述内容自体にも不自然な点はないことからすると,X1焼酎事件の合理的な嫌疑があると考えられる。
そして,供与者と受供与者の関係や証拠の多くが供述証拠であるという証拠構造等に照らせば,身柄拘束の必要性も認められると判断することは,その判断時において,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していたということはできないというべきである。
ウ 4月22日付け捜査報告書
原告らは,4月22日付け捜査報告書に事実と合致しない記載があることをもって,第1次強制捜査に違法がある旨を主張する。しかし,前記判示の証拠関係に照らせば,原告らが指摘する4月22日付け捜査報告書の記載内容が,裁判官の判断に大きな影響を与えるとまでみることはできず,このことをもって,上記評価を覆すものとまでいうことはできない。
したがって,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(5)  第1次強制捜査後から平成15年4月29日までの各本件無罪原告らに対する捜査
ア 具体的な嫌疑の有無と取調べをすること自体の違法性の有無
原告らは,本件現地本部が,X1焼酎事件ほかの具体的な嫌疑もなく,四浦校区の住民らに対する事情聴取を開始し,原告らに対し,次々と違法な手段により志布志署への出頭を求めた違法があると主張する。
しかし,前記第3・3(4)イにおいて判示したとおり,平成15年4月22日の時点において,X1焼酎事件の嫌疑はあると考えられ,供与者と受供与者の関係や証拠の多くが供述証拠であるという証拠構造等に照らせば,身柄拘束の必要性も認められると判断して取調べを行うこと自体は,その判断時において,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していたということはできないというべきである。
イ 取調べの態様における違法性の有無
(ア) いわゆるたたき割りの捜査
原告らは,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対する第1次強制捜査後から平成15年4月29日までの取調べにおいて,原告らの主張に係るたたき割りと呼ばれる手法を用いた違法な取調べを行って,X1焼酎事件についての虚偽の供述を引き出したと主張する。
原告らの主張に係るたたき割りの捜査なるものの存在ないしその違法性の上記主張は,つまるところ,県警ないし本件現地本部の本件無罪原告らに対する取調べにおいて違法があったものとの主張と理解することができるので,以下,取調べにおける違法性の有無について,検討する。
(イ) 原告X1関係
まず,原告らは,原告X1が自白と否認の間を転々としたことが,A14警部補の脅迫によるものであって,その供述内容は,平成15年4月25日には,「否認すれば1から2年,刑務所に入らなければならない。」と,「正直に話している人もいるんだ。おまえも認めろ。」,「おまえのせいで,そこでも怒られているがね。」と言われたというものであり,その結果,同月26日には,全く身に覚えがない,不自然・不合理な事実を記載した供述調書(甲総ア第429号証の18)を作成させられ,同月27日には,原告X1が,午前と午後2回にわたり,頭痛薬を看守に求め,取調べを拒否する意思表示をしていたにもかかわらず,長時間にわたり,金額が違うと執拗な重複尋問を繰り返し,不相当な誘導により,原告X1に上記の供述を強制し,同月28日には,恫喝・不相当な誘導による長期間・長時間の重複尋問を繰り返し,もともと質問者の意を酌むことが苦手でそれに抵抗しがちな原告X1であったのに,A14警部補にとって必要な供述変更の説明の求めに合わせて,A14警部補による押しつけにより,原告X8との口裏合わせのストーリーを陳述させられ,これらにより,原告X1が上記の取調べにより,同日午後9時前には,留置場の婦少房の壁に自らの頭を何回も繰り返しぶつけ,留置監督者の制止も聞かず,「もう死んだ方がましだ。」等の言動を発するなどの特異行動が見られたと主張する。
確かに,前記第3・1(7)エにおいて認定したとおり,原告X1には,原告主張に係る特異行動が見られる。また,原告X1は,検察官の弁解録取手続及び裁判官からの勾留質問において事実を否認した理由等については,「逮捕されたことで頭が真っ白になり,警察に逮捕されたら,どれくらいで家に戻れるのだろう,1~2年もの長い間,刑務所に入っていたら,A112じいちゃんの世話をすることができないと思うようになりました。それで,(中略)A1さんやX4さんにお金や焼酎をやったことはないと言って嘘をついてしまいました。」,「本日,刑事さんから,貴方が嘘をつき通すことで,どれだけの人に迷惑がかかるのか分かりますかと言われたことで,このままではいけないと思いました。」と供述している。
これらの供述部分に照らすと,原告X1が,仮に有罪となり実刑判決を受ける場合であれば,自らが刑事施設に収容される期間が1年ないし2年であること,原告X1が否認することで,他の多くの者が迷惑を受けるという内容のやりとりを取調官との間でしていたことが認められ,他方,原告X1の聴き取り書を検討すると,A14警部補が,原告X1に対し,「おまえ1人でやったことではないだろう。正直に話している人もいるんだ。おまえも認めろ。」,「おまえのせいで,そこでも怒られているがね(他にも調べられている人がいて,その人も刑事に私と同じように怒られていると言っていました)。」などと言っていた旨の記載があり(甲陳第16号証),原告X1の聴き取り書の信用性が高くないことについては,前記第3・3(2)ウ(ウ)において判示するとおりであるものの,原告X1の聴き取り書の内容と,原告X1の検察官の弁解録取手続及び裁判官からの勾留質問における供述内容と一致していること,前記判示のとおり,A14警部補が,原告X1において,A14警部補の意に沿わない供述をした際には,執拗に,原告X1やその親しい者等への事情聴取だけではなく逮捕を行うことを予告し,その中には,弁護士を逮捕するとしている点など,明らかに職権濫用となりうる虚偽の事実も述べるなど,害悪の告知に基づく自白の強要をしていたこと及びA14警部補が本件踏み字行為の捜査官であったことに照らすと,原告X1の聴き取り書の上記部分に関しては,信用性が認められるというべきであって,A14警部補が,長時間にわたり,金額が違うと執拗な重複尋問を繰り返し,不相当な誘導により,原告X1に上記の供述を強制したこと,恫喝・不相当な誘導による重複尋問をしていたことが認められ,A14警部補の行為は,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないものであるということができる。
(ウ) 原告X8関係
原告らは,A36巡査部長が,原告X8に対して,長時間の取調べを行う中で不当な誘導をした上で,原告X8が,体調不良のため陽春堂診療所で診察を受け,医師から,取調べのための精神的なものと言われ,安定剤等を処方され,また,栄養のための点滴を受ける状態であったところ,同診療所で点滴を受けていたところに,同診療所で治療を受けるのを待ちかまえており,診療が終わると志布志署への同行を求め,抗拒不能の状態にあった原告X8は,これを断ることはできず,A36巡査部長は,原告X1の供述を前提として,現金は2万円だったろう,焼酎は2本だったろうと決めつけ,不相当な誘導を繰り返して,同月19日付け供述調書の内容変更を求めたが,知的障害があり,精神的に不安定になっていた原告X8は,A36巡査部長の言っている意味が理解できず,供述を変更をすることはなかったと主張する。
確かに,前記第3・1(7)キにおいて認定したとおり,原告X8に対する取調べ時間が長いものであって,本件現地本部は,同月28日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めたものの,原告X8が体調不良を訴えて,旧志布志町内の医療機関で点滴を受けるなどしたため,原告X8に対する同日の取調べを行わず,同月29日,原告X8に対し,志布志署まで任意同行を求めて取調べを行ったものの,同日の原告X8に対する取調べでは供述調書は作成しなかった経緯がある。
しかし,原告ら主張に係る不相当な誘導の内容が必ずしも明らかではないばかりか,原告X8に対する取調べが,原告X8の供述内容の細部を確認する取調べの程度を逸脱して,A36巡査部長による不相当な誘導と評価されるような態様であったことを認めるに足りる的確な証拠はない。
加えて,原告X8に対する取調べ時間についてみても,本件現地本部が,体調不良を訴えた原告X8に配慮して,同月28日には取調べを行わなかったこと,その結果,同月26日から同月28日までの3日間は取調べが行われなかったこと,同月29日の取調べでは供述調書を作成せず,同月30日に医療機関で点滴が終了した後に,取調べをしたこと等に照らして,取調べ時間が長いことをもって,直ちに,原告X8が,不相当な誘導を受け,原告ら主張に係る原告X8の知的障害により精神的に不安定を来したことまでを認めることはできない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) 原告X2関係
原告らは,A16警部補による取調べが酷いため,原告X2がC1弁護士の相談を予約していたところ,A16警部補が相談する当日の平成15年4月25日の朝,原告X2宅の牛舎前で,同行を求め,原告X2がC1弁護士に相談に行くと断っても,A16警部補は,「何で,弁護士に会う必要があるのか。」などと言って,とにかく警察署に来いと命じ,弁護士と相談する権利を奪って,志布志署に連行したものであって,これは,任意捜査の限界を超えた取調べであり,違法であると主張する。
任意捜査の適法性は,個別具体的な状況に照らし,犯罪の軽重,犯罪の嫌疑の強弱,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案して判断されるべきものである。
前記第3・1(7)カにおいて認定したとおり,本件現地本部は,同日,A16警部補において,原告X2に対し,原告X2宅の牛舎前で任意同行を求め,原告X2がC1弁護士を来訪する予約があるという理由で,任意同行を断っても,A16警部補は,志布志署への出頭を求めて,志布志署に同行させたものであって,A16警部補の行為が国家賠償法上違法とならないのは,原告X2が真摯に任意にA16警部補の説得に応じて志布志署に出頭した場合である必要があるというべきである。
本件では,原告X2が,C1弁護士の事務所を来訪する予約をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はないものの,仮に,原告X2が実際には予約をしていなかったとしても,A16警部補が原告X2を説得して,弁護士との相談には向かわせずに取調べに応じさせることは,A16警部補が,同月22日には,任意の取調べの際にも,原告X2が取調べ中に両手を机の下に置いた状態で手遊びをすることを見とがめて,原告X2の両手を机の上に置きなさいと命じたり,志布志署から退去したいと申し出て,取調べを拒否して,取調室を出て,志布志署の建物までも出て,駐車場の原告X2の自動車に戻ったにもかかわらず,追いかけて,原告X2を取調室に戻らせたりしていた経過があったことに照らすと,原告X2にとり,特段の事情がないのに弁護士との相談を断念してあえて任意同行に応じるとは考え難く,本件において,そのような特段の事情は見当たらない。
してみると,原告X2の同月25日の任意同行についての承諾が,真摯なものであったとは認めることが困難であって,同日の捜査は,任意捜査の限度を超えたものであるというべきである。
以上によれば,原告X2が,A16警部補の説得に対して,真摯に任意に任意同行の説得に応じたとみることは,社会通念に照らして困難でおり,そのような被疑者に対してなお任意同行を試みて,弁護士との面会を断念させて,取調べに応じさせることは,本件における被疑事実の内容,被疑事実の嫌疑の程度,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案すると,A16警察部補の行為は,社会通念上許容されるべきものではないというべきである。
したがって,被告県の上記主張は採用することができず,A16警部補の上記行為は,国家賠償法上の違法な取調べであるというべきである。
一方,原告らの主張するA16警部補による同月29日の原告X2の取調べにおいて,原告X1が,同月27日の時点で,X1焼酎事件で原告X2に渡した現金を1万円から2万円に変遷させたことを踏まえて,原告X2に対する不相当な誘導や強要により,原告X1からの受供与金額を1万円から2万円に変更するよう供述を強制したと主張するが,原告ら主張に係る供述の変更が,A16警部補による不相当な誘導や強要によることを認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(オ) 亡A1関係
原告らは,亡A1が,平成15年4月29日午後6時50分から午後11時までの取調べにおいて,A17警部補から「会合があった。」と聞かされた上で,「座元が言っているから間違いない。」と買収会合が3,4回あったと追及され,ほとんど寝ていない中で,同月30日午前7時35分,交通事故を起こし,このことは亡A1に対する取調べが違法な取調べであったことの裏付けであると主張する。
確かに,前記第3・1(8)アにおいて認定したとおり,亡A1は,交通事故を起こし,本件刑事事件における亡A1の被告人供述調書には,上記原告らの主張に沿った供述部分が存在する(甲総ア第25号証の1011)。
しかし,同交通事故が,A17警部補による違法な取調べにより発生したものと認めるに足りる証拠はなく,他に,A17警部補が,亡A1に対して,不相当な誘導・恫喝を伴う取調べを継続し,自白を強要していたことを認めるに足りる的確な証拠もない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 結論
以上のように,第1次強制捜査後から平成15年4月29日までの各本件無罪原告らに対する捜査に関しては,X1焼酎事件の嫌疑があることを理由として身柄拘束をして取調べを行うこと自体は,違法という程度に達していたということはできないものの,原告らの主張に係る取調べの態様等の違法に関しては,原告X1及び原告X2に対する関係での取調べにおいて違法を認めることができ,それ以外については,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の各供述以外,原告らの主張を支える証拠はなく,上記原告X1外4名の供述の信用性が低い部分があることは,これまで判示してきたとおりであるから,原告らの上記主張に係る証拠は事実認定の基礎とすることができない。
なお,原告らは,亡A1が,同月29日の取調べにおいて,買収会合の事実について事情聴取を受けたと主張し,亡A1の本件刑事事件における公判供述にもこれに沿うものがあるが(甲総ア第25号証の1011),前記第3・1(8)サにおいて認定したとおり,A1ノートの5月2日及び同月3日欄の記載に,「又,あらたな事がもちあがって居ました。それはa3部落がX1の家で集りをしたと云う事」とあるのであって,本件刑事事件における亡A1の前記公判供述は同記載と整合せず,事実認定の基礎とすることができない。
(6)  争点(1)イに関する結論
以上のとおり,本件の事実関係に照らすと,本件現地本部がA5焼酎事件の捜査を行うこと自体については,A5焼酎事件についての客観的な嫌疑が認められ,四浦校区が旧志布志町の中心部から離れた小規模な集落であることからすると,A5と原告X6が,亡A1宅のみを訪れるのではなく,同一の機会に四浦校区の集落内を訪問した可能性があるとして,原告X4がほのめかしたような未だ表面化していない相応の規模の原告X6の選挙運動が存在する可能性を疑って,嫌疑の有無を確認していくことには,一定の合理性があり,本件現地本部が,本件無罪原告らに対して,強制捜査でもって取調べをすること自体は,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつその裁量権を逸脱した行き過ぎたものであって,これを経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができない程度には達していない。
しかし,本件無罪原告らに対する取調べの方法ないし態様については,①原告X2が明示的に取調べを拒否する旨を申し立てて,志布志署から退去して駐車場に駐めてある自家用車に戻ったところに,A16警部補及びA40巡査部長の二人がかりで追いかけてきて,取調室に戻るようになお説得を試みて取調室に連れて行くことは,本件における被疑事実の内容,被疑事実の嫌疑の程度,捜査目的達成のためにその手段,方法を採る必要性,緊急性の程度,侵害される法益と保護される利益との権衡,相手方の承諾・同意の有無等を総合勘案すると,A16警部補の行為は,任意捜査の限度を超えたものであるというべきであり,②A14警部補が,原告X1において,A14警部補の意に沿わない供述をした際には,執拗に,原告X1やその親しい者等への事情聴取だけではなく逮捕を行うことを予告し,その中には,弁護士を逮捕するとしているなど,明らかに職権濫用となりうる虚偽の事実を述べ,害悪の告知に基づく繰り返しの脅迫行為を用い自白の強要をしたことは,社会通念上許容されるべきものではなく,③A14警部補が,長時間にわたり,金額が違うと執拗な重複尋問を繰り返し,不相当な誘導により,原告X1に供述を強制したこと,恫喝・不相当な誘導による重複尋問をしていたことは,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないものであるということができ,④A16警部補が,弁護士の相談に赴くとして任意同行を断っている原告X2に対して,原告X2の真摯な承諾なく,任意同行をさせることは,,社会通念上許されず,任意捜査の限度を超えたものであるというべきである。
原告らのその余の違法の主張については,採用することができない。
4  争点(1)ウ(平成15年4月30日の本件買収会合事件の端緒の把握から平成15年5月13日の第2次強制捜査までの捜査に関する県警の違法性の有無)
原告らは,本件現地本部が平成15年4月30日以降も捜査を継続させた上,同年5月1日から本件箝口令を採って,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対し,あり得ない事実についての虚偽の自白をさせた違法がある旨を主張する。そこで,まず,同年4月30日の捜査継続の違法性について検討し,次に,原告らがした自白が虚偽の自白であるか否かを検討する。
(1)  平成15年4月30日の捜査継続の違法性の有無
前記第3・1(7)エ,同キ,同コにおいて認定したとおり,①A85,A105及びA108らが平成15年4月27日までに,同年2月下旬から同年3月上旬にかけて,原告X1から現金1万円等の供与を受けたことを新たに自白し,他方で,原告X1が同年4月27日,供与した現金の額につき,1万円から2万円へと供述を変遷させたため,原告X8,原告X2及び亡A1のほか,上記新たに自白したA85,A105及びA108らとも供与金額についての供述に不一致が生じるに至ったこと,②原告X1は,それまでの取調べにおいて,供与金額を1万円と供述していた理由につき,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,原告X8との間においてのみ,供与金額を2万円ではなく1万円とする口止めを行い,原告X1がX1焼酎事件について取調官から追及を受けた際,X1焼酎事件が発覚したのは原告X8の自白によるものだと直感したため,上記口止めに合わせて2万円ではなく1万円と供述したものであると供述しているところ,供与者のうちの1人だけと供与した金額の一部についてのみ口止めするなどという点で変遷の理由が不合理であること,③原告X8は,受供与金の使途につき,さらに変遷を重ねていることなど,捜査の進展に伴い,X1焼酎事件の自白の信用性を減殺させる事情が現れているということができる。しかし,なお,前記第3・3(4)イで判示した県警の平成15年4月22日までの証拠資料に照らして,同月29日の時点で,X1焼酎事件の嫌疑が完全になくなったとはいうことができず,同月30日に捜査を継続させたことが,前記第3・3(4)アで判示した判断基準のとおり,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできないというべきである。
(2)  自白の虚偽性
ア あり得ない事実を内容とする虚偽の自白であったか
前記第3・1(8)イ,同エ,同(9)アないしナにおいて認定したとおり,原告X8は,平成15年4月30日の取調べにおいて,本件買収会合に関し,同年3月下旬頃,X1宅に,原告X4夫妻のほか,原告X1,原告X9,A112,原告X2,亡X12,原告X5及び亡A1の合計9名が集まって会合が開かれ,参加者に現金1万円が供与されたことを供述した。本件現地本部が本件箝口令の下,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の取調べを行ったところ,同月7日までに,本件買収会合は,同年2月上旬から同年4月上旬頃までの間に4回開催され,参加者は,原告X1夫妻,原告X2,原告X4夫妻,原告X3,原告X5,亡A1,原告X11,亡X12,原告X5,A88,原告X6,原告X7及びA5等であり,1回目会合では参加者に対し,現金3万円入りの封筒2通ずつが配布され,2回目会合では参加者に対し,現金5万円入りの封筒1通ずつが配布され,3回目会合では参加者に対し,現金5万円入りの封筒1通ずつが配布され,4回目会合では参加者に対し,現金10万円入りの封筒1通ずつが配布されたことで供述が概ね一致したとして,本件現地本部は,本件買収会合について立件する方針を決定した。
そこで,本件箝口令に基づく取調べの結果現れた原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の自白が,原告ら主張のようにあり得ない事実を内容とする虚偽の自白であるかについて,前記第3・1において認定した本件無罪原告らの供述調書の自白内容及び裏付け捜査の結果等の証拠関係に照らして,検討する。
イ アリバイ関係
(ア) 本件箝口令の下で供述された自白に関する新たな供述の内容の検討
前記第3・1(10),(11),(15)において認定したとおり,本件箝口令の下で供述された自白について,さらに取調べ及び裏付け捜査を行った結果,以下のような供述が新たにされた。
① 1回目会合ないし4回目会合が開催された経緯につき,2回目会合は,1回目会合時に原告X7が参加していなかったことから,参加者から原告X6に対し,次は奥さんの顔が見たいなどの要望があったために開催され,3回目会合は,原告X6が,a3集落でA2県議の後援会名簿への署名活動などが行われたことを察知するなどして本件選挙に危機感を感じたため開催され,4回目会合は,それまでa3集落の住民及び原告X3のみであったものをa3集落以外のa4集落,a1集落,a2集落にも声を掛けて新たに原告X11及びA88を参加させるなどし,会合後の宴会で出す料理もオードブル等の本格的な盛り皿料理を用意して,原告X6自らが参加者に対して10万円という高額の買収金を供与したものであって,1回目会合から4回目会合は一連の流れの下に開催された相互に密接に関連するものであって,1回目会合から4回目会合はいずれも原告X6が開催日を指定したこと。
② 1回目会合の開催日は,参加者の動静の裏付けを取り,会合の開催不可能日を特定するとともに,タイムカードや各種支払明細等の客観的資料も参照しながら自白者の記憶喚起を図り,
ⅰ)原告X4が,1回目会合で供与を受けた6万円のうち,3万円は原告X8に渡し,残りの3万円は,かねてより長男のA110から滞納していた携帯電話代を支払うよう催促されていたため,会合の終了後,その日の深夜のうちにコンビニエンスストアまで支払に行った記憶があり,その携帯電話代の支払日が平成15年2月8日であること,
ⅱ)原告X1は,1回目会合の準備のため,勤務先を早退した日であり,同年2月上旬の原告X1の早退日は,同年2月1日と同月8日しかないこと,
ⅲ)原告X3は,妻のA136に対し,1回目会合に参加するよう誘ったが,A136は民謡同好会の練習があることを理由に断っており,原告X1もその旨を聞いていて,同年2月上旬の民謡同好会の練習の開催日が同年2月1日と同月8日しかないこと,
ⅳ)原告X2は,同年2月1日には釣りクラブの新年会に出席しており,1回目会合には参加できないことなど,特徴的なエピソードと共に,複数の者が1回目会合を同年2月8日と供述したこと,
そのため,1回目会合の開催日は,客観的な資料によりその裏付けが取れた同年2月8日以外の合理的な開催日が考えられないこと。
③ 1回目会合の開催時間は,亡A1が午後8時過ぎにX1宅に着いたときには既に会合が始まっており,原告X6が挨拶していたと供述するほかは,全員が午後7時30分頃から開始したと供述していること。
④ 4回目会合の開催日は,
ⅰ)原告X6の携帯電話の着信履歴等から,携帯電話の通話困難地域内にあるX1宅を訪問していない日を排除して,会合の開催が可能な日を特定すると,同月24日と同月26日の2日だけが残ること,
ⅱ)参加者の動静の裏付けによっても相当数の日が会合の開催が不可能となり,同月26日は,原告X4が田之浦中学校の教師の送別会に出席していて,4回目会合には参加できないこと,
ⅲ)原告X1は,会合の準備のため,勤務先を早退しているが,同年3月下旬において原告X1が勤務先を早退したのが同月24日と同月27日のみであること,
そのため,客観的な資料等に基づき,4回目会合の開催日は同月24日と特定され,それ以外の合理的な開催日が考えられないこと。
⑤ 4回目会合の開催時間に関し,開催時間は決められておらず,午後8時過ぎにX1宅に着いたら,会合が始まっていたする亡A1を除く,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4及び原告X8の同年6月13日頃までの供述では,概ね午後7時30分頃から始まったと供述していたが,同日頃から原告X2及び原告X3は,午後7時30分の開始予定であったが,実際に開始したのは午後8時頃と供述を変え,原告X1は,一旦,午後7時30分開始予定だったのが,オードブルが到着するのが遅れたなどの理由で午後8時過ぎに開始したことを供述したが,その後,また午後7時30分に開始したとの供述に戻り,原告X4と原告X8は,X1宅への到着が午後8時頃であって,その頃には,会合が始まっていた旨を供述し,原告X8はこれに関連して,会合が午後7時30分開始予定であるのに,自宅を出るのが遅れたため,自宅を出るときに時計を確認したら午後8時だったと供述していること。
(イ) 裏付け捜査
他方,前記第3・1(14)カ,(16)クにおいて認定したとおり,県警は,次のような裏付け捜査をした。
① 県警は,平成15年7月25日までに,原告X6が,同年2月8日の午後7時から午後10時にかけてmホテルで行われたs中学校昭和○年卒業生同窓新年会(本件新年会)に出席していた事実,また,同年3月24日の午後6時から行われていた上小西自治会の総会及びその後午後7時30分から行われる予定であった上小西自治会の懇親会(本件懇親会)のうち,本件懇親会に出席して挨拶をしていた事実をそれぞれ把握したこと。
② 本件新年会において,mホテルの給仕係2人が,本件新年会の開始前にmホテルの支配人から,本件選挙に立候補予定の原告X6が出席するので粗相のないようにとの指示を受けていたため,原告X6の行動を把握しており,それによると,同年2月8日午後7時50分頃から午後9時30頃までの間,原告X6の姿が見えなかった旨の供述を得たこと。
③ 本件懇親会について,関係者への事情聴取から,上小西自治会の総会は,同年3月24日の午後6時から開始したが,これに原告X6は出席しておらず,その後,本件懇親会は,午後7時20分頃から開始され,原告X6は,冒頭近くの10分程度で挨拶を終え,本件懇親会の会場を立ち去った旨の供述を得たこと。
なお,本件刑事事件では,A174,A126,A177及びA178らが,原告X6につき,本件懇親会の後,旧有明町伊﨑田にある鍋集落を戸別訪問していた事実を証言している。
(ウ) 平成15年2月8日午後7時30分の原告X6の所在
以上からすると,まず,1回目会合が開催されたとされる平成15年2月8日の午後7時30分には,原告X6は,mホテルにいたことになる。
してみると,同時刻に原告X6がX1宅で1回目会合に参加していた旨の自白者の合致した供述は客観的事実に反することが明らかである。
(エ) 劣悪な道路事情の中を往復する合理性
被告県は,原告X6が午後7時50分頃から午後9時30分頃までの間,mホテルを抜けて1回目会合に参加し,再度,mホテルに戻ったと主張する。
しかし,そもそも1回目会合は,原告X6が原告X1に指示して開催させ,開催日も原告X6において指定したというのであるから,原告X6としては,1回目会合を本件新年会と異なる日に開催すれば足りたはずであるし,仮に,1回目会合をどうしても本件新年会の開催日近くに開催する必要性があって,かつ,その時期に本件新年会の開催日以外に1回目会合を開催できないなどの特段の事情があって,本件新年会と1回目会合に掛け持ちで参加することにしたとしても,例えば,1回目会合の開催時間を前後にずらして,本件新年会か1回目会合のどちらかに先に出席した上,次の予定があることを告げて早退し,その後,次の会合に参加することにすれば足りるはずである。
しかも,前記第3・1(2)イ及び同ウのとおり,mホテルのある旧志布志町中心部からa3集落までは,非常に見通しが悪く道幅の狭い本件県道を相当区間走行して,自動車で37分程かかる距離にあることに照らせば,なおさら,1回目会合への短時間の参加のために,本件新年会の途中に,1回目会合への参加時間に,劣悪な道路事情の中の往復の移動時間である80分程度を加えた時間を中座して不在にするという予定を立てる合理性は見いだし難い。
まして,原告X6が本件選挙への立候補を表明していた元町議会議員という注目されるべき立場にいる中で,往復の道路事情が上記のとおり劣悪であって,1回目会合に参加した後に本件新年会の会場に戻る時刻が遅延する危険性も少なくないといわざるを得ない中で,本件新年会の他の参加者に周知することなく,そのような中座をすることは,場合によっては,本件新年会の他の参加者から不信感を抱かれかねない行動というべきであって,原告X6がそのような行動をあえて取った特段の事情は,本件全証拠によっても全く見いだすことはできない。
そして,仮に,原告X6がそのような不合理な行動を取ったとしても,X1宅に到着するのは,早くて午後8時30分頃となる。他方で,1回目会合の開始時刻についての原告X1を始めとする本件無罪原告らのうちの自白した者の供述によると,原告X1が原告X6に午後7時30分頃から会合を開始すると指定され,参加者にその旨を伝えて参加を呼びかけ,実際に午後7時30分頃に会合が始まったと供述し,原告X3が原告X1から午後7時30分から会合があると案内されて午後7時30分前にX1宅に到着し,午後7時30分頃に会合が始まったと供述し,原告X4が,午後7時頃にX1宅に到着し午後7時30分頃に会合が始まったと供述し,原告X2が,午後7時過ぎに参加者がX1宅に集まって会合が始まったと供述し,亡A1が午後8時過ぎにX1宅に到着したときには会合が既に始まっていたと供述していて,午後7時30分を中心に,原告X2と亡A1に各供述内容にそれぞれ30分程度のずれが生じている状態である。また,上記5名の供述は,会合が始まって原告X6らの挨拶を聞くまで宴会を始めなかった点でも一致している。そうであるとすると,上記5名の被疑者が,開始時刻について厳密に時計などで確認しておらず,かつ参加者の時間感覚が相当程度緩やかであったと仮定しても,原告X6が実際には午後8時30分に到着した場合にまで,これらの供述と整合するものと評価することは無理があるといわざるを得ない。
したがって,原告X6が午後7時50分頃から午後9時30分頃までの間,mホテルを抜けて1回目会合に参加し,再度,mホテルに戻ったと考えることは到底できないというべきである。
そして,上記のとおり,4回の会合が一連のもので,相互に密接に関連するものであるとすれば,mホテルを抜けて1回目会合に参加することが困難であることは,4回の会合全ての自白の信用性を覆す事情であるとみるのが相当である。
その他,本件新年会を中座して劣悪な道路事情の中を往復して1回目会合へ短時間の参加をする予定を立てる合理性は認められない。
(オ) 4回目会合の開催予定時間における別の会合への出席
4回目会合についても,開催日である平成15年3月24日の開催予定時間である午後7時30分には,原告X6は,本件懇親会に出席するため,mホテルにいたというのであり,それまでの本件買収会合と異なり,会合への参加者を増やし,オードブル等を用意した4回目会合の開催予定時間に,別の会合に出席していること自体,客観的事実との不整合を示すのであって,4回目会合の自白の信用性に重大な疑義を生じさせる事情というべきである。
なお,本件刑事事件において,弁護人らが立証した本件懇親会後の原告X6の行動についても,前記第3・1(31)において本件無罪判決が判示したとおり,その信用性を否定する事情は見いだせないとされた。
ウ 1回目会合ないし4回目会合の構図
(ア) 6世帯有権者数20名が居住するにすぎない極めて小規模な集落でほぼ同じ参加者を招く4回にわたる会合の合理性の有無
本件買収会合の特徴は,曽於郡区の有権者数8万0934名を有する曽於郡区での県議会議員選挙において,わずか6世帯有権者数20名が居住するにすぎないa3集落という極めて小規模な集落内のある1軒の居宅において,a3集落の他の5世帯及びその近隣の集落の住民の5,6名程度というほとんど同じ参加者を招いて4回にわたる会合が開かれ,会合が開かれる毎に,会合の場において参加者の面前で参加者全員に対し,起訴されているだけでも191万円という相場とされる額を大きく超える多額の現金が供与され,候補者本人が毎回,会合に参加し,うち1回は自らが参加者全員に現金を供与したというものであり,集票の効果と経済的負担及び摘発の危険性とを比較した場合に,そのような本件買収会合を開催することに合理性を見いだしがたいという点で構図が不自然である。このことは,本件刑事事件の判決において指摘されるとおりであって,原告らの主張はもっともであるというほかない。
(イ) 運動買収についての検討
これに対して,まず,被告県は,運動買収を含む趣旨であったので構図自体が不合理・不自然ではないと主張する。
しかし,まず,運動買収を含む趣旨であるという点は,会合の参加者の面前で買収金を供与することの理由には全くならないし,運動買収という趣旨についてみても,本件買収会合に複数回参加したとされる者のうち,原告X2,原告X4,原告X8及び原告X5は,原告X6の経営する会社の一従業員の近隣住民という関係でしかなく,繰り返し原告X6のために選挙運動を行うべき利害関係や義理があったことをうかわせるに足りる事情は本件全証拠によっても見いだせない。ましてや,捜査機関の見立てによっても,四浦校区は,本件選挙についてA2県議派で固まっていたというのであり,原告X6を支持すること自体,周囲の者から裏切り者と見られかねない状況下で,上記のような関係にすぎない原告X2,原告X4,原告X8,原告X5に対し,原告X6への投票に加えて,原告X6のための選挙運動をしてもらえることをも期待して,相場とされる金額を大幅に超える買収金を,4回にもわたって繰り返し供与する合理性もまた見いだし難いといわざるを得ない。加えて,亡A1についても,原告X1の近隣住民という関係のほか,本件有機米契約農家であったという関係は認められるものの,同じく本件有機米契約農家として稲作業に関与していたA97が,四浦校区ではA2県議を支持することが決まっているとして,本件選挙における原告X6への支持を断ったと供述していることからすると,亡A1について,原告X6の投票に加えて,原告X6のための選挙運動をしてもらえることをも期待することが合理的であるかについては疑問であるといわざるを得ない。
(ウ) 四浦校区の選挙風土についての検討
次に,四浦校区の選挙風土に関し,被告県は,四浦校区が草刈り場と呼ばれる風土があった旨を主張するところ,本件全証拠によっても,この草刈り場と呼ばれる風土が具体的にどのようなものか判然としない。仮に,選挙の度に各候補者が四浦校区内の得票を目指して,相場とされている金額を大きく超える金額を相互に投下し,住民の間でもそのような買収金の受領を当然のものと考えており,その金額の多い方に投票する習慣が定着していたというような意味であるとすると,会合の参加者の面前で繰り返し多額の現金が供与されることも十分に考えられるものの,そのように考えた場合であっても,四浦校区全体の規模が,本件選挙当時の有権者数が114名にすぎず,前記第3・1(3)イにおいて認定したとおり,本件選挙における曽於郡区の有権者数は,8万0934名であり,このうち,旧志布志町の有権者数をみても1万4728名であることに照らして,四浦校区程度の,その程度の小規模な集落の得票のために,各候補者が何故そのような多額の買収金を投下する風土が形成されるに至ったのか,およそ説明が付かないというべきである。
前記第3・1(16)キ,(24)ウ(ア)bにおいて認定したとおり,四浦校区にそのような選挙風土があったと供述している原告X3でさえ,四浦校区の40軒に相場とされていた1万円ずつを供与したことで,それら世帯の60票から70票を原告X6が獲得できたと票読みしているとおり,相場とされている金額を大きく超える買収金が投下される風土が形成されたことをうかがわせる事情は,本件全証拠によっても見いだせない。
他方で,草刈り場という風土が,四浦校区が,志布志市中心部から離れた小規模な集落の集まりであり,他の地域との交流も少ないため,特定の利益団体とのつながりが薄い,経済的に困窮している世帯が多いなどの理由で,都市部に比べて買収金が投下されることがしばしばあるというような意味であるとすると,そのような風土が形成される可能性は十分に考えられるものの,そのような買収金にも一定の相場が形成されていることからすると,四浦校区においてのみ,その相場とされている金額を大幅に超えて,会合の参加者の面前で繰り返し多額の現金が供与されることの説明が付かないというべきである。
また,仮に,四浦校区に草刈り場という特殊な選挙風土があり,これまでも本件公職選挙法違反事件と同規模の大型な買収事案が繰り返されてきたのであれば,少なくともこれまでの選挙における各候補者の選挙関係者にとって,四浦校区にそのような特殊な選挙風土があり,大型の買収事案が行われていることは,よく知られた事実であったはずである。そうであるとすると,四浦校区内の住民がいかに口を堅く閉ざそうと,そのような選挙運動の実態の風評や噂が繰り返し流れ,捜査機関においてもこれを放置することなく,これまでに摘発事例があって然るべきであるが,A12警部の本件刑事事件における公判供述でも四浦校区において過去に同様の摘発事例はない(甲総ア第25号証の1058)との供述があるのであって,草刈り場という特殊な選挙風土であるという供述は,四浦校区においてこれまで選挙法違反の摘発が一切ないという客観的事実に合致しないものである。
A10署長及びA12警部は,本件刑事事件と同規模の買収事案が過去の事例にも存在したとして,奄美群島におけるいわゆる保徳戦争の事例を挙げて,本件刑事事件における供与金額が不自然でない旨を供述する(証人A10,甲総ア第25号証の1058)が,いわゆる保徳戦争は,主に国政選挙レベルにおける事案であって,支持母体の経済的基盤の点においても当選後の候補者が獲得する権限の点においても選挙区内における経済情勢その他選挙人と候補者の利害関係の程度等の点においてもおよそ異なる状況にあったことは明らかであり,本件刑事事件をいわゆる保徳戦争における選挙違反の事案と類似の事案と見ることに全く合理性はないといわざるを得ない。
A73検事は,本件刑事事件の公判において,2回目会合は1回目会合で参加者に2回目会合を開催するよう求められたからであり,3回目会合は,選挙情勢につき強い危機感を抱いたためであるなどと,4回の買収会合がそれぞれ異なる趣旨で開催されたことがうかがわれる旨を供述しているが,その都度,同じ参加者相手に多額の買収金を供与することの費用対効果の点で不合理である点は何ら説明されておらず,上記評価を覆すべき事情とは認められない。
エ 使途・原資・オードブルの入手先等の裏付け
(ア) 受供与金の使途と日常生活の範囲内の支出
a p商店及びその他の店舗での日用品の購入並びに冠婚葬祭費の支出等
前記第3・1(14)カ,同(16)クにおいて認定したとおり,本件買収会合での受供与金の使途について,①原告X2には,p商店に併設された給油所において,平成15年2月21日に税込み5922円相当の,同年3月4日に税込み3024円相当の,同月20日に税込み3183円相当の,同年4月3日に税込み3183円相当の,同月10日に税込み3119円相当の,各給油歴があること,②原告X3には,株式会社宮崎クボタにおいて,同年3月15日に税込み1万5540円の梯子の購入歴があること,③亡A1は,従前,3,4日に1回の割合でp商店に給油や食料品の購入に来店し,給油のほか,食料品について,たばこ6箱,1缶200円の栄養補助食品及び1袋300円位の5個位入りのパンをまとめ買いすることが多く,このうち,購入履歴の残っているものとして,同年3月3日に軽油1510円分の,同月9日に灯油3900円分の,同月12日に軽油14リットルの,同月25日にたばこ1箱の,同年4月5日にバッテリー充電300円分の,同月8日に軽油1350円分の,同月14日に軽油及び栄養補助食品の合計760円分をいわゆるつけ払いで購入したが,いずれも代金は支払済みであることなどが確認されたこと,④亡A1には,亡A1の孫の高校入試の合格祝いや入学の準備のための費用の一部を援助したり,亡A1の甥の娘の結婚式のため,祝儀金2万円を交付したことがあること,⑤原告X4には,同年2月8日,携帯電話の滞納分2万6000円を支払ったことがあること,⑥原告X1には,同年3月24日,志布志市内において,1万8000円の男物の腕時計の購入し,その翌日に原告X9が代金を支払にきたことがあること,⑦原告X4夫妻には,原告X8の甥の結婚式に出席し,祝儀金3万円を交付したことがあること,⑧原告X2には,同年3月11日から同月19日までに,孫の端午の節句用の幟を発注し,その代金は3万5700円であったこと,⑨原告X3には,同年3月下旬か同年4月上旬頃,知人に自宅の庭木の枝払いを依頼し,その報酬として1万円を支払ったことがあること,⑩原告X3には,原告X3の供述する額を下回るものの,同年3月下旬に,鶏の飼料代として,同月11日に2870円,同月31日に1913円,同年4月11日に1896円,同月24日に1896円,同月28日に3793円の飼料を購入したことがあること,⑪原告X3には,同月10日に原告X3の父の7回忌で仏前に1万円を供え,同月26日,原告X3の弟に対し,猪の肉をもらったお礼として,焼酎2本を渡したことがあることをそれぞれ買収金の使途の裏付けとしているが,これらは,いずれも社会通念上,日常生活の範囲内の支出と見るのが相当のものであって,直ちに受供与金の使途先と評価することはできない。
仮に,その一部に臨時の支出があるとしても,本件無罪原告らの収入額に照らして,社会通念上相当な範囲内の金額の支出を超えておらず,買収金による臨時の収入があったことまでうかがわせる事情たり得ないので,本件の他の諸般の事情も併せかんがみて,これらを買収金の使途の裏付けとまで評価することはできない。そして,本件買収会合については,同年5月13日から繰り返し,被疑者に対する逮捕・勾留がされ,その捜査期間も相当長期に及ぶが,それら長期間の捜査を経てもなお,日常生活の範囲内の支出しか裏付けられないことは,本件買収会合のほか,多数回かつ多額の金銭の交付の事実を否定する間接事実であるというべきである。
b 牛の運搬代金関係
前記第3・1(10)クにおいて認定したとおり,亡A1は,1回目会合の受供与金6万円のうち,5万円はA88に牛の運搬代金として交付した旨を供述し,警察での捜査段階ではA88もこれを認めている。
しかし,A88は,それまでも牛の運搬を無償で引き受けていたところ,亡A1が突如として5万円を交付するという説明自体が,不自然であり,A88の検面調書が作成されていないことから,A88も5万円を受け取ったことを後に否認した可能性が高く,これをもって本件刑事事件の受供与金の使途の裏付けがあったとみることはできないというべきである。
c 本件貯金箱関係
前記第3・1(15)エ(ア)1において認定したとおり,原告X1は,本件貯金箱の中の現金の大半が本件買収会合の供与金で買い物をした釣り銭等である旨を供述している。他方で,本件貯金箱には,本件500円貯金箱に,500円硬貨が73枚の合計3万6500円が,本件100円貯金箱に,1万円札が1枚,5000円札が1枚,1000円札が6枚,100円硬貨が487枚,50円硬貨が132枚,10円硬貨が481枚,5円硬貨が144枚,1円硬貨が477枚の合計8万2307円が在中していたところ,これらすべてが本件買収会合の供与金でした買い物の釣り銭であるとすると,1回目会合のあった同年2月8日から,原告X1が逮捕された同年4月22日までの73日間,仮に毎日,紙幣で100円未満の買い物をして900円ずつの釣り銭を得たとしても,500円硬貨73枚,100円硬貨292枚にしかならないことに照らせば,原告X1のこの点に関する供述は,本件貯金箱内の硬貨の数と明らかに整合せず,原告X1の認識に従って取調官に供述したものであるのかは疑問である。
かえって,原告X1は,平成14年の夏頃に購入した貯金箱で5ないし6か月かけて11万2000円を貯めたと説明しており,その説明に不合理な点はなくむしろ自然であるから,原告X1は日常的に貯金を継続していたとみるのが相当であって,本件貯金箱の内容物もまた,原告X1の日常生活の痕跡の範囲内のものとしか評価することができないのは明らかである。
d 原告X5への寄託
前記第3・1(15)エ(エ)i,同(ク)i,前記第3・1(16)カ(ア)d,同(エ)dにおいて認定したとおり,原告X1,原告X8及び原告X4は,同年6月23日以降になって,本件買収会合での受供与金の一部を原告X5に預けた旨を供述する。
しかし,原告X5が,それらの金員を原告X1,原告X8及び原告X4から預かった直後に,それぞれの名義の貯金口座への入金手続をしない理由がなく不合理である。また,原告X1及び原告X8が同年6月23日まで受供与金の一部を原告X5に預けたという事実を供述しなかった理由は,原告X5に迷惑がかかるというものであるところ,両名とも既に原告X5が本件買収会合に参加して現金の供与を受けていることを供述しておきながら,自らの供与金を原告X5に依頼して貯金した事実を供述することができない合理的理由も見当たらず,いずれの供述もそれぞれの認識に従って取調官に供述したものであるのかは疑問である。
e 利害関係
以上のとおり,本件買収会合において受供与金の使途はほとんど裏付けが取れていないと評価せざるを得ないところ,仮に,原告X6の本件選挙における当選に特段の利害関係があるために,受供与金のほとんどを運動買収に用いたばかりであるとすれば,そのような裏付けが取れない可能性があるが,本件では,そのような特段の利害関係がある者は少ないのであって,してみると,受供与金の使途の裏付けが取れないことは,買収会合の事実を否定する間接事実であるというべきである。
(イ) 4回目会合に提供されたオードブル
既に買収会合の回数,買収会合の参加者,受供与金の額等について自白していた原告X1には,4回目会合に提供されたオードブルについて,その入手先を捜査機関に対して秘匿する合理的理由は考えられず,本件買収会合でオードブルが提供されたのは4回目会合のみであるから,原告X1が,オードブルの入手先を忘却した等とも考えにくいといわざるを得ない。
最終的に原告X1は,4回目会合のオードブルは原告X7において調達した旨を供述しているところ,実際にそのとおりであれば,当初からそのように供述すれば足りるはずである。そうであるにもかかわらず,前記第3・1(16)カ(ア)bにおいて認定したとおり,原告X1は,早く事件を終わらせたいとして自白をしているにもかかわらず,mホテルからオードブルを入手した旨等を供述して,その裏付け捜査を行わせるなどしており,このような原告X1の供述態度は,体験していない事実を供述している可能性を示唆しており,買収会合の事実を否定する間接事実であるというべきである。
(ウ) X1宅の北側の山林における中華たれの空き袋等
前記第3・1(15)エ(ア)iにおいて認定したとおり,県警は,平成15年6月17日に大隅簡易裁判所裁判官の捜索差押許可状の発付を受けた上,同月18日,X1宅の北側の山林を捜索し,中華たれの空き袋(ビニール製)1個,しょう油さし(ソラマメ型,プラスティック製)1個,料理用装飾品(はご板型)1個,ばらん(緑色9枚,水色1枚)10枚,わさび(未開封のもの)2袋,わさび(開封されたもの)1綴,しょう油の空き袋(ビニール製)3個,あわびの貝殻1個,巻き貝の貝殻3個を4回目会合のオードブルの残存物として差し押さえているが,これらの中には,はご板型の料理用装飾品1個が含まれていることなどからすると,これらが正月料理の残存物である可能性も否定することができないなど,日常生活の痕跡の範囲内のものとしか評価することができない。
(エ) 原告X6関係の預貯金通帳,その他帳簿類の押収
前記第3・1(16)ク(ケ),同(18)オ(イ)において認定したとおり,県警は,第5次強制捜査までに,原告X6名義の預貯金通帳のほか,原告X6が経営に関与するf社,d社,有限会社b,有限会社c名義の預貯金通帳,その他帳簿類を押収して,本件公職選挙法違反事件の供与金の原資の解明のため,これらの精査を行い,最終的に,原告X7は,有限会社cにおいて,原告X6個人が所有又は有限会社cが賃借した土地を利用して自主耕作して取得した甘藷を有限会社fが契約農家から仕入れた甘藷とともに焼酎製造会社に販売していたことに関連して,有限会社cの自主耕作分の甘藷の生産量を帳簿上に反映させていなかったこと及びf社が甘藷の仕入先の農家から,各種申請書類の作成等の便宜のため,同仕入先の農家の印鑑を預かり保管していたことを利用して,実際には,自主耕作した甘藷であるにもかかわらず,f社の仕入先の農家の名義を使用して,f社が農家から仕入れたかのように架空仕入を計上し,その支払名目で,平成14年10月から同年12月末までの間に,合計約150万円ないし160万円程度の現金を不正に捻出していた旨の供述に基づき,その裏付け捜査を行ったが,架空仕入を記載したf社の仕切帳及びf社が上記仕入先の農家から預かり保管していた印鑑は発見されているものの,自主耕作分の甘藷に係る帳簿類,伝票類の発見には至らず,十分な裏付けを得ることはできず,その他,本件買収会合での原資となる裏付けを得ることはできなかったものである。
この点,原告X7が合計約150万円ないし160万円程度の不正な帳簿外の現金を捻出した事実は,原資が発見できなかったことの不自然性を打ち消す方向性の事実ではあるとはいうことができるものの,第3次強制捜査から第5次強制捜査までの間,各種帳簿類や預貯金口座等を精査したにもかかわらず,他に本件買収会合の原資が捻出された可能性がある具体的な兆候を発見することができず,上記不正に捻出された帳簿外の現金の額も,本件刑事事件として起訴された受供与金の総額191万円にすら足らず,X1焼酎事件を含む原告X1らが自白した余罪や口止め料なども考慮すれば,明らかにされた上記金額と明らかにすべき金額の差は大きいのであって,これらのことからすれば,原資が特定されなかったことは,なお,本件買収会合の事実を否定する間接事実に当たると評価すべきである。
オ 多額の金員の授受に係る自白形成過程
(ア) 県警の取調べの経緯
前記第3・1(7)ないし(8)において認定した事実から明らかなとおり,本件刑事事件は,原告X1が焼酎2本及び現金1万円をa3集落の住民5名及びa3集落以外の住民8名の合計13名のX1焼酎事件受供与被疑者らに供与したことを端緒とするX1焼酎事件の捜査中に原告X8がした供述,すなわち,X1宅でa3集落の住民9名が集まり,原告X1が参加者に1万円を供与したとの供述が直接の端緒であるところ,県警が,同端緒となった供述を基に,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1を取り調べた結果,上記原告X1外4名の各供述は,会合の回数,受供与金額が増大し,供与者と参加者についても端緒となった供述と大きく異なる内容の供述で概ね一致するに至り,その後,前記第3・1(11)ウ(ク)において認定した事実から明らかなとおり,原告X3も上記原告X1外4名の自白に概ね沿う内容の供述を始めた。
(イ) X1焼酎事件を含めた多額の金員の授受の自白
ところで,前記第3・1(13),同(15)オにおいて認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X3は,それら本件買収会合に係る供述の他に,以下のとおり,X1焼酎事件を含めた多額の金員の授受があったことを認めている。
a 原告X1(15万円,30万円,10万円,10万円,20万円,10万円)
原告X1は,平成15年5月3日付けの供述調書において,本件選挙に関し,金品の供与や受供与をした場面が本件買収会合以外に6回あり,1つ目の場面は,原告X7から15万円を受け取り,X1焼酎事件受供与被疑者らに現金1万円ずつを供与したこと,2つ目の場面は,原告X7から30万円を受け取り,X1焼酎事件受供与被疑者らに現金2万円及び焼酎2本を供与したこと,3つ目の場面は,原告X7から,原告X1へのお礼として現金10万円の供与を受けたこと,4つ目の場面は,原告X7から,原告X1に対する2回目のお礼として現金10万円の供与を受けたこと,5つ目の場面は,原告X7から指示され,亡A1,原告X2,A106,A108及びA104に現金20万円入りの封筒を供与したこと,6つ目の場面は,投票日の4,5日前頃,原告X7から現金10万円入りの封筒を受け取り,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,a3集落以外に居住する8人に供与したことを認めた。
b 原告X8(3万円,5万円,2万円,1万円,5万円)
原告X8は,同年5月5日付け供述調書で,本件選挙に関し,同年2月上旬に開催された1回目の会合に参加しなかったが,原告X4が原告X8の分も現金を受け取ってきたため,原告X4から現金3万円を受け取った後,同年2月中旬か同月下旬頃,役場の配布物を持ってX1宅を訪れた際に原告X1に呼び止められ,1回目会合の時にもらっておいた分だと説明されて白い封筒入りの5万円の供与を受けたこと,同年3月中旬頃に,原告X1が自宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼され,焼酎2本と白色封筒に入った現金2万円の供与を受けたこと,さらに,同月中旬頃に,原告X1が自宅を訪れ,原告X6の後援会入会申込書に氏名を記載してくれたお礼として茶色封筒に入った現金1万円の供与を受け,原告X3から,同年4月10日に,旧志布志町の中心部にあるスーパーマーケットの駐車場で声をかけられ,原告X6への原告X8の家族の票の取りまとめを依頼されて,同月12日に四浦校区内のとある交差点で待ち合わせをして現金5万円の供与を受けたことを認めた。
c 原告X1(原告X6とA5からの口止め料30万円)
原告X1は,同年5月6日付け供述調書で,原告X1が同年4月18日から取調べを受け始めた後で,同年4月22日に逮捕される数日前に,警察の取調べから帰宅した後,原告X6とA5がX1宅を訪れ,原告X6から,原告X6が選挙で金をやっていたことを警察には絶対言うなと口止めされて,茶封筒に入った30万円を口止め料として受け取ったことを認めた。
d 亡A1(30万円)
亡A1は,同年5月10日付け供述調書において,①本件買収会合には,5回目の会合があり,それは同年4月10日頃の夜にX1宅で開催され,その場で,A5から原告X9,原告X5,原告X13,原告X3及びA88に対し,現金30万円が入った茶封筒が供与され,A89から亡A1,原告X2及び原告X4に対し,現金30万円が入った茶封筒が供与されたことを認めた。
e 亡A1(6万円,5万円,2万円,5万円,10万円,20万円,20万円)
亡A1は,同年5月18日,A10署長宛ての手書きの申述書を作成し,その中で,本件選挙に関し,同年2月上旬から同年4月中旬にかけて,原告X1から6万円,原告X1から5万円,原告X1から2万円と焼酎2本,原告X3から5万円,原告X6から10万円,原告X3から20万円,A89から20万円を受け取った旨を記載しており,本件刑事事件及びX1焼酎事件以外に,原告X3から20万円とA89から20万円を受領したことを認めた。
f 亡A1(5万円)
亡A1は,同年5月19日付け供述調書において,同年4月14日又は同月15日,自宅で原告X1の訪問を受け,口止め料として5万円を受け取ったことを認めた。
g 原告X4(20万円,5万円)
原告X4は,同月18日付け供述調書において,同年4月13日の本件選挙の投票日の数日前,X1宅で5回目の会合に,原告X1夫妻,原告X2,原告X5,原告X3,亡X12及び亡A1とともに参加し,原告X1のほか,原告X6,原告X7,A5及びA89から投票依頼及び票の取りまとめを依頼され,A89から現金20万円の供与を受けたこと,原告X1から,同月14日か同月15日頃,自宅で,口止め料として5万円を受け取ったことを認めた。
h 原告X4(2万円,5万円,5万円,20万円,5万円,5万円,5万円)
原告X4は,同年5月22日付け供述調書で,1回目会合以外に,原告X1から2万円入り封筒と焼酎2本を,原告X1から5万円入り封筒を,原告X6から5万円入り封筒を,A89から10万円入り封筒2通を受け取り,さらに同年4月頃,原告X1から5万円入り封筒を,亡A1から5万円入り封筒をそれぞれ受け取ったこと,同年4月に原告X1から5万円入りの封筒を受け取ったことを認めており,2回目会合から4回目会合での受供与がどれを指すかは不明であるが,それ以外の機会での現金の授受を認めた。
i 原告X3(110万円(5万円入り封筒22通))
原告X3は,同年5月23日付け供述調書において,口止め料につき,原告X1とともに,原告X6から,X1焼酎事件受供与被疑者ら13名と4回目会合に出席していたA97,A103副公民館長,A88,A124及び原告X3,原告X1,原告X9,A112及びA117の22名に対して配布するための5万円入り封筒22通を預かり,原告X1と相談の上,上記22名のうち,四浦集落の者には5万円,その他の者には3万円を交付することとして,四浦集落以外の者8名分の封筒から2万円ずつの合計16万円を抜き取り,これを原告X1,原告X9,A112及びA117に各3万円ずつ,残った4万円を原告X3がそれぞれ受け取ったことを認めた。
j 原告X2(6万円,5万円,5万円,10万円,30万円,2万円,1万円,5万円)
原告X2は,同年5月23日,A10署長宛ての手書きの申立書を作成し,その中で,①原告X2は,同年2月上旬か同月中旬にあった1回目会合で,原告X1から現金6万円の供与を受けたこと,②この他に数回あった本件買収会合において,原告X1から5万円,原告X7から5万円,原告X6から10万円の供与をそれぞれ受けたこと,③原告X1と原告X3から30万円の供与を受けたこと,④原告X1と原告X3から焼酎2本と現金2万円の供与を受けたこと,⑤原告X1から現金1万円の供与を受けたこと,⑥原告X1から本件選挙後に口止め料として5万円を受領したことを記載した。
k 原告X8(原告X4の20万円)
原告X8は,任意同行の上,同年6月20日付け供述調書において,A36巡査部長及びA64巡査の取調べを受け,本件買収会合は全部で5回あり,原告X8は,5回目の本件買収会合にも参加して,原告X4が現金20万円入りの封筒をもらったことを認めた。
(ウ) 供述の変遷
本件買収会合に係る原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1の各自白が,最初の供述から,会合の回数や供与された金額が増大されている点について,一般に,自白した者が罪を軽くするため過小に罪を申告することも十分に考えられることから,会合の回数や供与された金額が変遷を重ねて次第に増大していっても,直ちに供述の信用性を減殺するものではなく,少なくとも供述した金額についての供与は実際にあったものと評価することも考えられるが,そうであるとすると,本件における原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1がした本件買収会合以外の多額の金銭の授受に関する供述もまた一定の信用性があるものと評価すべきこととなる。しかし,上記のとおり,その内容は,いずれもa3集落の住民及びX1焼酎事件受供与被疑者ら外数名に対し,繰り返し,多額の金員が供与されているというものである。
そもそも,原告X1は,f社において農作業に従事する一従業員にすぎず,原告X1が原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載を依頼した者は,a3集落の他の住民5名(原告X2,原告X8,亡A1,原告X5,原告X13),a3集落の元住民1名(A86),親族(A104,A87,A105),シルバー人材センターから派遣されて原告X1と同じ農場で農作業をした者(A108,A85)のほか,2名の知人(A106,A107)であって,その程度の交友関係にすぎない原告X1の周囲の者に繰り返し,買収金を供与したとされていること,4回の買収会合に加えて,投票日の数日前という選挙運動を行い得る期間がほとんどない時期に5回目の会合を開催し,20万円又は30万円というそれまでの会合より更に多額の現金の供与を受けたと供述する者が複数いること,本件買収会合に複数回出席した者同士で現金の授受をしていることなど,その供述内容自体が極めて不自然であって,それらの裏付けが取れていると認めるに足りる事情もなく,その信用性は低いといわざるを得ず,そうであるとすると,これら信用性の低い供述は,同供述と同時期にされている4回の本件買収会合に係る供述の信用性についてもまたこれを減殺させるのであって,これらの信用性の低さにもかかわらず,多数の供述が存在することに照らすと,かかる供述の形成過程に不当な働きかけ等の疑義があった可能性があるものと評価せざるを得ない。
(エ) X1焼酎事件を含めた供与金額の多額性
さらに,以上の本件買収会合に関して供与されたとされている191万円だけではなく,これにX1焼酎事件その他の事件に関して供与されたとされる金額も合計すると,供述の重なり部分が存在するとみて,その重なる供述における買収金の金額をどのように評価するかにより幅が生じるものの,本件公職選挙法違反事件に係る供与金は合計で約700万円から約800万円にも達するのであって,この金額自体からしても,これだけの金額が供与されたという本件無罪原告らの各供述の信用性もまた減殺されるのであって,その供述の形成過程に不当な働きかけ等の疑義があった可能性があるものと評価せざるを得ない。
カ その他,供述内容の不自然性等
(ア) 会合参加者の名前の不一致
前記第3・1(16)キにおいて認定したとおり,本件現地本部は,複数の本件無罪原告らから,本件買収会合が4回もX1宅で行われた理由について,四浦校区の大半がA2県議派で固められており,原告X6にとって,会合を開催できる場所が,a3集落のX1宅しかなかったこと,四浦校区全体でA2県議を支援することが決まっていたため,表立って原告X6を支持することはできなかったなどの供述を得ているところ,これらの供述内容が正しいとすれば,4回目会合において,a3集落以外からの原告X6の支持者である本件買収会合への参加者が誰であるかは重大な関心事であったと考えられる。
しかし,前記第3・1(15)から(17)までにおいて認定したとおり,原告X3は,当初,4回目会合にA97,A103副公民館長,A88及びA124等が参加していた旨を供述し,原告X4は,A88,A134及びA124等が参加していたと供述し,原告X2,原告X8及び原告X3は,第2次起訴当時まで原告X11,A88及びA124が参加していた旨を供述し,原告X4は,原告X11とA88が参加していたが,A124が参加していたかどうかは自信がないなどと供述し,原告X1は,原告X11とA88が参加していたかどうか自信がなく,A124の氏名は参加者に挙げられておらず,亡A1は,原告X11とA88が参加していたと供述しているなど,その供述が一致していない。
しかも,a3集落以外の参加者を得るには,原告X6の支持者を通じて,4回目会合への参加を呼びかける必要があるところ,4回目会合に参加したとされる上記原告X11,A88及びA124の3名に対し,4回目会合に参加するよう連絡した者が誰であるかについて供述が明らかではない。
すなわち,原告X1は,4回目会合の開催に当たり,a3集落以外の四浦校区の住民に連絡するよう指示されたが,a3集落以外の者は誰がA2県議派であるかなどが不明であるため,原告X1において人選をして連絡することができないとして,原告X7に対し,原告X3にさせるよう提案して,原告X1はa3集落の住民のみに対し連絡したと供述し,原告X3は,上記3名のいずれに対しても連絡をしておらず,4回目会合に原告X11,A88及びA124の3名が参加しているのを見て,亡A1が声を掛けたと認識していたと供述し,亡A1は,原告X1から,4回目会合の連絡を受けた際,A88にも声を掛けるよう告げられて,A88に対し,連絡したと供述していて,原告X11とA124は,誰が連絡したか明らかでなく,原告X11に対する公判の冒頭陳述においても,原告X11が誰から4回目会合の連絡を受けたかは明らかにされていない(甲総ア第25号証の2907の2)のであって不自然である。
なお,仮に,原告X6又は原告X7が原告X1及び原告X3以外の者を通じて,原告X11やA124らのa3集落以外の四浦校区の住民に対して連絡をしたと考えるとすると,なぜ,1回目会合ないし3回目会合にもその者を関与させなかったのかという点も疑問が残るままである。
(イ) 供与者の変遷
前記第3・1(18)オ(ウ)において認定したとおり,原告X3は,3回目会合について,供与者を原告X7,会合の場所を8畳の間と供述していたが,後に供与者を原告X1,会合の場所を中江の間と変遷させており,その変遷の理由は合理的でなく,体験していない事実を供述している可能性を示唆しているというべきである。
(ウ) X1焼酎事件に係る焼酎の空き瓶の処理に関する変遷
前記第3・1(6)イ(キ),同(12)ウ(ソ)において認定したとおり,亡A1は,X1焼酎事件の焼酎の空き瓶の処理につき,当初,リサイクルに出した旨を供述していたが,リサイクル業者からの裏付けが取れない旨の指摘を受けて,原告X3が回収していった旨に供述を変遷させ,その後,原告X3も,X1焼酎事件の焼酎の空き瓶の回収を行った旨を自認し,回収した空き瓶の処理につき,道路沿いの崖下に投棄したと供述したものの,その裏付けが取れず,続いて原告X3が酒販店に買い取らせた旨を供述したものの,この点でも裏付けが取れなかった。原告X3には,空き瓶の回収後の処理について虚偽の供述をする動機があるとは考え難く,かかる原告X3の供述が変遷することは,原告X3が体験していない事実を供述している可能性を示唆しているというべきであるし,亡A1もまた,空き瓶の処理について,虚偽の供述をする動機があるとは考え難く,体験していない事実を供述している可能性がある。
(エ) 供述の変遷に関する捜査官の共有認識
前記第3・1(18)オ(ウ),(エ),(キ),(ク)hにおいて認定したとおり,原告X8と原告X4は,X1焼酎事件,本件刑事事件の受供与金の使途につき,供述を2転,3転させ,原告X8は,A36巡査部長から,供述調書上の記載によっても,「原告X8や原告X4が言っていることは信用されていない。」,「自分たちが言ったことが本当のことだと信用して貰うためにも,お金の流れをはっきりさせないといけない。」などと指摘されている。
(オ) 原告X2のパチンコ代
原告X2の供述は,供述内容の変遷等も少なく,客観的事実に反する供述も少ないが,これは,上記判示のとおり,A10署長宛ての書面で,合計64万円の金員の受領を認めつつ,その使途につき,ガソリン代以外は全てパチンコに費消したと供述し,X1焼酎事件の空き瓶については,前記第3・1(12)ウ(シ)において認定したとおり,焼酎の供与を受けて直ぐに中身を別の瓶に移し替えて,酒販店に設置された自動販売機の裏に人目に付かないように捨てたなどと,いずれも裏付けの困難な供述をしており,供述の変遷が少ないのはこの裏付けの困難な供述の結果であり,原告X2が,64万円もの大金の大半をどのようにして,しかも短期間においてパチンコにより費消していったのかその状況に不自然な点が存在する。
キ その他の証拠についての検討
A117は,1回目会合の際,X1宅において原告X6に挨拶をし,その際,他の参加者が自宅に集まっているのを目撃したなどと供述しているが,この自白に係る自白調書が作成されたのは,原告X1及び原告X9が逮捕された後のことであり,強制捜査が自分に及ぶことを恐れたA117が,捜査機関に対して迎合して供述した可能性を否定することができず,上記評価を覆すものということはできない。
その他,本件において,上記評価を覆す事情を見いだすことはできない。
ク 結論
以上のとおり,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1及が原告X3の本件買収会合に係る各自白内容は,客観的事実に支えられた開催日時の供述が客観的事実に支えられた原告X6の同日の行動と矛盾し,本件買収会合が開催されたとすれば当然残るはずの客観的事実に合致せず,その供述内容自体も不自然であり,供述の形成過程にも疑義があり,原告X1,原告X3,亡A1の供述が体験していない供述をしている可能性が高く,原告X4,原告X8の供述の信用性は極めて低く,原告X2の供述も裏付けに乏しいのであって,少なくとも証拠上は,本件買収会合が存在していたとは通常考えられないものであるというべきである。
したがって,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の本件買収会合に係る各自白は,存在していたとは通常考えられない事実についての虚偽の自白であるというべきである。
(3)  本件箝口令を採ったことの違法性の有無
以下,A10署長,A12警部ら本件現地本部の捜査幹部が本件箝口令を採ったことに関する違法性の有無について検討する。
ア 本件箝口令の内容
前記第3・1(8)エにおいて認定したとおり,A10署長は,平成15年4月30日,A12警部に対し,本件買収会合の事実の捜査方針について,捜査官に先入観を持たせないため及び供述をありのままに引き出すためという名目により,本件箝口令を出した。その結果,本件買収会合の事実についての捜査官同士の情報交換が禁止され,捜査会議における本件買収会合の事実に関する状況についての報告を簡略化され,A12警部において,本件買収会合の事実に関する情報を一括管理し,取調官からの被疑者の供述内容の報告に応じて,会合の回数を再度確認せよ,供与金額を再度確認せよといった最低限の指示を与えることとなった。
イ 本件箝口令の効果
(ア) 取調官に与える影響
被告県は,本件箝口令は違法ではなく,A10署長及びA12警部が捜査官に先入観を持たせないため及び供述をありのままに引き出すために本件箝口令を採用したと主張し,これに沿ったA10署長及びA12警部の供述(甲総ア第25号証の1054(乙国第42号証),甲総ア第427号証の3,甲総ア第428,証人A10)が存在する。
一般的に,共犯関係にある犯罪の被疑者から事情聴取する取調官にとって,他の共犯者の供述内容,供述過程,供述態度等に係る情報は,被疑者からの供述の信用性についての心証を取るための重要な手がかりの1つであると考えられるところ,本件においては,本件箝口令が遵守されているとすれば,平成15年5月1日から同月7日まで,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の取調べを担当した,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補は,いずれもそれらの十分な情報を与えられず,捜査に臨んでいることになる。
そうであるとすると,上記各取調官は,被疑者の表情や口振り,従前の被疑者の供述内容等,限られた情報の中で被疑者の供述の信用性を判断することになり,被疑者から何らかの供述があって,その供述態度等の不自然な点がない場合には,その供述を一旦は受け入れた上で,A12警部に対して供述内容を報告することとなる。
上記各取調官は,同報告後,A12警部から供与金額を再度確認せよなどの抽象的な指示を受け,場合によっては他の被疑者の供述についての断片的な情報のみの伝達を受け,そのような抽象的な又は断片的な情報のみに基づいて,被疑者の従前の供述が虚偽であることの十分な心証もないまま,被疑者に対し,被疑者の従前の供述を信用することができないものとして扱い,被疑者の供述内容の確認を求めたり別な供述を求めることになりがちであって,そのような結果,供述の変更を迫ることになり,これを繰り返すことによって,被疑者との間で信頼関係を構築ないし維持することが次第に困難になり,被疑者から新たな供述を得るためには,穏便な手段からより威圧的ないし偽計的な手段を用いざるを得ないことは明らかである。また,本件刑事事件の被疑者がいずれも,既にX1焼酎事件等で,相当期間の取調べを経ていることも併せ考慮すれば,そのような威圧的ないし偽計的な手段により虚偽の自白がされる危険性が類型的に高い状況であったこともまた明らかであるというべきである。
そして,A12警部から他の被疑者の供述内容に照らした新たな特定の指示が出る以上,A12警部の指示を受ける取調官による誘導がない状況が確保されないことになり,予断なく真実の供述を引き出せる状況は結局のところ担保し得ないことになることも明らかである。
(イ) 受供与金額に関する自白内容がいずれ近似または一致する可能性
A12警部は,本件刑事事件の公判において,本件買収会合に係る被疑者の供述の信用性につき,本件買収会合に係る供述が,本件箝口令の下,取調官による誘導がない状況下において,金額や回数について変遷があるものの最終的に大筋で一致し,これは,当初は罪を過小申告するなどしていた被疑者が,諦めて真実を供述したものと評価した旨を供述している(甲総ア第25号証の1054)。
しかし,本件刑事事件の被疑事実に即してみると,本件選挙に係る選挙の会合の回数にしても,原告X6の立候補から本件選挙の投票日までの一定期間内に開催可能な回数に限定され,供与される金額にしても,一般に他人に祝儀金を贈与したり,明確な基準のない謝礼等を交付する際は,端数のない数字による相場が形成され,かつその趣旨に照らしてあまりに常識からかけ外れた多大な金額が交付されることは通常あり得ないことからすると,自ずと供与される可能性のある金額は一定の数字に限定されるというべきであり,そうであるとすると,複数の関係者の供述のうち,少ない金額又は回数の者の供述が過少申告であるとの前提で,場合により,あまりに金額ないし回数が突出して多い者については記憶の混同等が考えられるとして,本件無罪原告らに対し,供述の変更を迫ることを繰り返せば,本件無罪原告らの受供与金に関する供述が一定の数値でやがて近似し,又は一致し得ることは,十分に想定できるところであるというべきである。
前記第3・1(8)において認定したとおり,平成15年5月3日の本件無罪原告らの受供与金額について,2万円,3万円,5万円,10万円,20万円の5種類の供述があるところ,これらの供述で挙げられている金額は,いずれも祝儀金等において広く見かける端数のないものであり,本件刑事事件に係る公訴事実として特定された供与金額も3万円(ただし,封筒を2通ずつ供与したため,合計金額は6万円となる。),5万円,10万円であって,明確な基準のない祝儀金ないし謝礼等として通常交付される金額に収まっていることからも明らかであり,取調官が供述の変更を迫ることによって形成されたものとみても矛盾しない。
そして,本件現地本部は,捜査会議を簡略化していることで,本件無罪原告らの供述内容,それら受供与者間の不一致の程度等,本件無罪原告らの供述の変遷過程を踏まえた被疑者の供述の信用性について,多数の捜査員による多角的な批判・考察を行うことができないばかりか,情報を一元管理した者による安易な筋読みや指示等により,被疑者の供述が誤った内容で一致する危険性がより高まるというべきであり,本件箝口令は,むしろ取調官による誘導等が助長される状況を作出していたというべきであり,現に,本件無罪原告らの供述内容が受供与金額を増額する方向で変遷していることは,取調官による誘導を裏付ける事実というべきである。
(ウ) 本件買収会合に関する参加者についての各取調官からの誘導の影響
前記第3・1(8),同(9)において認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1は,各会合の参加者についても供述しており,それら参加者として挙げられている者のほとんどが重なり合っているが,四浦校区側の参加者として挙げられている者は,a3集落6世帯の者か,本件現地本部が平成15年4月17日から取調べの対象とした者ばかりであるし,原告X6の関係者としては,原告X1がA89を挙げるほかは,候補者本人である原告X6,その妻である原告X7,従前からの捜査対象者であるA5なのであって,このように,各取調官の知らない新規の参加者の名前が挙げられていないことは,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の体験した事実がそのような内容であったというよりは,各取調官からの誘導の影響を示唆するものというべきであり,会合の参加者の供述が重なり合っていることをもって,上記各供述の信用性を増強させるものと評価することはできない。
(エ) 危険な捜査であることの予見可能性の有無
したがって,本件刑事事件において本件箝口令を採用することは,A10署長又はA12警部の見立てに不利な情報は共有されずに,取調官による誘導等のない状況が確保されないまま,A10署長又はA12警部の見立てに沿った情報だけが増大する危険性があり,虚偽の内容で供述が一致する危険性が十分にあり得るものであるところ,本件箝口令を採用し捜査を長期間継続することは,そのような虚偽の内容で供述が一致する危険性が高まる違法な捜査であったというべきであり,また,そのような危険性の高い捜査であることは,A10署長又はA12警部が本件箝口令の採用時において十分に予見することができたというべきである。
ウ 本件刑事事件のいわゆる事件の筋読みの不合理性の有無
そうであるにもかかわらず,A12警部らは,本件箝口令を採用した上で原告X1らに対する捜査を平成15年5月1日から同年5月7日頃まで継続し,A12警部において,上記において指摘したとおり,本件箝口令の下,取調官による誘導がない状況において,本件買収会合に係る供述が,金額や回数について変遷があるものの最終的に大筋で一致し,そのことは,当初は罪を過小申告するなどしていた被疑者が,諦めて真実を供述したものと評価したのであるから,このことは,A10署長及びA12警部が,A10署長及びA12警部の見立てに不利な情報を排除して,原告X1らの供述内容から本件刑事事件の全体像の構図を見立てるいわゆる事件の筋読みに当たり,上記のような本件箝口令の危険性を考慮せず,本件がa3集落という極めて小規模の集落であり,多額の買収金が供与されることが現実的であるかといった検討を怠ったまま,その捜査を継続したためであって,このことには,過失があるものと評価せざるを得ないというべきである。
また,A12警部は,捜査官による誘導はない状況であると供述しているが,現にA1ノートには,会合の回数があと1回足りないと指摘された旨や封筒を一人2枚もらったと指摘された旨の記載があることから明らかなとおり,原告らの供述が近似してきた後は,A10署長及びA12警部の誤った事件の筋読みに従い,供述の誘導が可能となるよう,捜査官に対し,自らの筋読みに沿う具体的な事実の聞き取りを違法に指示していたとみるのが相当である。
エ 供述の形成過程
そして,前記第3・1(8)オないしス,同(9)アないしトにおいて認定したとおり,本件箝口令を採用した期間内の原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の供述内容は,大きく変遷を重ねているのであり,加えて,上記認定した変遷過程は,1日毎の被疑者の供述の結論についての取調官の本件刑事事件での公判供述を基に認定することができた限度のものであって,1日の取調べの間に更に供述の変遷があった可能性も否定することができず,このように被疑者の供述が変遷を繰り返していることは,前記第3・4(3)イで説示したとおり,取調官が,より穏健ではない手段を用いて取調べを行ったことを推認させる事情であるというべきである。
加えて,本件現地本部のA5ビール事件以降の捜査状況をみると,A5ビール事件について,本件選挙の投票日である平成15年4月13日に,いきなり原告X6の対立候補であるA2県議を自宅に訪れA2県議から情報提供を受けるなど,捜査の公正性を疑われかねない手法を用い,その後,A5及びA6外1名の受供与者が投票依頼の趣旨を否認して立件が困難になると,直ちに「四浦で金が配られたのは間違いない。金をもらったのは亡A1外2名である。」という程度の特別協力者からの通報を端緒としてA5焼酎事件の捜査に取りかかり,ビール又は焼酎を供与したという嫌疑にすぎないA5に対し,本件踏み字行為をさせてまで取調べを行い,A5が入院してA5焼酎事件の捜査の継続が困難になった同月17日からは,四浦校区内の10名近い住民らに対して早朝から志布志署への任意同行を求めるという大規模な事情聴取を3日間継続して,X1焼酎事件の端緒を得て強制捜査を行っていたというのであって,特別協力者からの上記通報に係る嫌疑の程度とは大きく幅が異なり,a3集落の大部分が関与した重大事犯が発生したとして,A10署長及びA12警部において,原告X6の選挙違反の立件に向けた強い意図を共有し,本件現地本部の捜査が,その強い意図の下に行われていたことをうかがうことができる。そのことも,取調官による強行な手段による取調べがあったことを推認させる事情であるというべきである。
現に,前記第3・1(7),同(8),同(9)において認定したとおり,X1ノートには,原告X1がA14警部補から繰り返し,更なる身柄拘束を行うことを示唆されていると受け取れる記載があるほか,A1ノートにも,供述を求められて脅迫されたとの記載がある。また,原告X2は,A16警部補から,「認めれば地獄へ行かずに済むが,認めなければ地獄へ行く。」などと告げられたことを本件刑事事件の公判で供述(甲総ア第25号証の1013,同1023)し,A16警部補も本件刑事事件の公判で,天国と地獄という言葉を用いたことがあったことを認め,「X2さんに,人生というのは,つらい時期があれば,必ず幸せな時期も来ますよと,人生はこの繰り返しですよと,ですから,過去のことを今更どうのこうのと考えても仕方ありませんよと,物事は前向きに,今からのことを考えてほしいというふうに説明しました。その中で,この幸せな時期については,仮に天国のような時期と言ってもいいでしょうと,で,つらい時期についても地獄のような時期と言ってもいいでしょうというふうに,話の中で例えて話をしたことは確かにありました。」などと供述するが(甲総ア第25号証の1041),原告X2に対してA16警部補が行った一連の任意性を欠いた捜査の経緯に照らすと,A16警部補の説明はにわかに信じ難く,原告X2の供述に沿ったとおり,「認めれば地獄へ行かずに済むが,認めなければ地獄へ行く。」という趣旨の発言があったものとみるべきである。
これらのことに,前記第3・1(5)ないし(7),同(11)において認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1は,同年4月16日ないし同月19日から,断続的に終日にわたるような取調べを受けており,原告X1らの身上・経歴,被疑事実の内容に照らして通常想定される捜査としては,相当の長時間・長期間の取調べを受けてきたと評価すべきこと,志布志署の取調室が被疑者,取調官,立会補助者の3名で入室すると他に余地がない非常に狭い空間であること,原告X8については,体調不良による病院での点滴を経た上で取調べに応じたり,亡A1は,交通事故で入院中の病院から任意出頭に応じたりしている状況下にあったこと,原告X1においては複数回の身柄拘束を示唆され,他の者は延々と任意同行による終日の取調べを断続的に受けることによって,その捜査の終了の見込みが全く立たない状況にあったと考えられることをも併せ考慮すると,本件箝口令を採用した結果,上記期間中に各取調官が原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対してした取調べは,そのような長時間・長期間の取調べの継続下で威圧的,偽計的な取調べと変化していったものであって,いずれも被疑者の自由意思を失わせる程度に達したものとして,社会通念上相当と認められる方法ないし態様を逸脱した違法なものであったと評価するのが相当である。
オ 被告県の主張
被告県は,四浦校区の特殊な選挙風土,過去の奄美群島での買収事案等を理由に,県警の事件の筋読みに過失がなかった旨を主張する。しかし,被告県が主張する事情が,本件買収会合の構図の不自然性を何ら合理的に説明し得ないものであることは,前記第3・4(2)において説示したとおりである。
被告県は,本件無罪原告らが本件買収会合につき,①1回目会合事件で,原告X1が息子のA117に原告X6に対して挨拶をさせたこと,②原告X8が,大根の漬物を持っていき,X1宅の台所で切って,出したこと,③原告X9と亡X12が口論となったこと,④会合参加者が現金の入った封筒を破って中身を確認したこと,⑤会合参加者から,原告X7が来ていないとの声が上がったこと等の迫真的なエピソードを供述したことをもって,県警の被疑者の供述の信用性の判断には誤りがなかった旨を主張する。
しかし,本件箝口令の下での捜査により,違法に本件無罪原告らから自白供述をさせた時点において,本件無罪原告らは,瑕疵ある判断に基づき,同自白内容に係る罪責を負うことを覚悟したものとみるのが相当であるから,その後の取調べにおいて,本件買収会合に係るエピソードを取調官からの質問に応じ,適宜創作も交えるなどして供述することは不自然ではなく,そのような供述を引き出したことをもって,被告県の上記違法な取調べの評価を何ら覆すものではないから,被告県の上記主張は採用することができない。
被告県は,原告X4が,平成15年5月1日の取調べにおいて,買収会合の事実について供述し,その際,A15警部補に対し,「私が自白したことを,あなたが集落の人にばらしたら,私はあなたを包丁で刺す。」などと真剣な表情で申し立てていることからすれば,原告X4の任意性があることは明らかであるし,原告X4が,取調べ中に自分の心境を表した「俳句」を自ら詠むなどしており,A15警部補との間の人間関係に基づき,取調べが任意に行われていた状況は明らかである旨を主張する。
しかし,同日は,本件箝口令が採用された初日であり,同日の事情から,直ちに上記認定を覆すものとまで評価することはできないし,A15警部補の本件刑事事件の公判における証人尋問調書(甲総ア第25号証の1031)によれば,原告X4が,「A15さん,やさしいけれど,こわい人」などと川柳を詠んでいることが認められるが,一般に,脅迫等の被害者が脅迫行為等の最中又は行為後に,加害者に対して迎合した態度を取ることもまれではなく,原告X4が上記川柳を詠んだのみをもって,上記認定を覆すということはできず,この点に関する被告県の上記主張は採用することができない。
カ 結論
A10署長及びA12警部は,平成15年5月1日の段階で,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の取調べに関して本件箝口令を採用することが,虚偽の自白の一致が形成される危険性の高いものであると容易に予見することができたのに,これを怠った過失により本件箝口令を採用し,その間,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補は,違法な取調べを継続し,A12警部が,それらの取調べで得られた供述内容等の情報を一元管理した結果,A10署長とA12警部において,本件買収会合の事件の筋読みを誤り,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補らに対し,誤った筋読みに沿う具体的な事実の聞き取りを指示をした過失により,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対し,存在したとは通常考えられない本件刑事事件に係る被疑事実を認める自白をさせ,その各自白内容が概ね一致する状態を作出したというべきである。
(4)  原告X8に対する簡易ベッド上での任意の取調べと本件買収会合の端緒(同年4月30日)
平成15年4月30日から第2次強制捜査までの捜査に関しては,前記第3・1(7)イ(エ)において認定したとおり,A36巡査部長がした簡易ベッドに横にならせたままでの体調不良を訴える原告X8に対する取調べがあり,これが国家賠償法上違法となるというべきである。
すなわち,A36巡査部長は,同日,原告X8に対し,任意同行を求め,原告X8から体調不良を理由に病院に行かせて欲しい旨の申出を受けて,原告X8を旧志布志町内の医療機関で点滴を受けさせてから,志布志署に同行させ,同日の午前11時頃から志布志署内の簡易ベッドの設置された小会議室で取調べを開始し,原告X8を簡易ベッドに横にならせて取調べを続け,同日付け調書作成1通を作成したことは,原告X8は,横になったままであり,A36巡査部長が問いかけたら目を開いて答えるというような衰弱した状態であったことからすると,上記取調べは,到底任意であったということはできない。
また,仮に,話のきっかけが座位の状態で開始されたとしても,供述調書を作成するまでの間,医療機関の中ではなく警察署の中において簡易ベッドに横にならせたままで取調べを続けていたのであれば,これも,原告X8が,同日,体調不良を訴えて,医療機関に行き,医療機関で点滴を受けてから取り調べに応じたものの,さらに体調不良を訴えたという経過に照らすと,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないというべきであり,任意性を欠く捜査というべきである。
(5)  争点(1)ウに関する結論
以上によれば,本件の事実関係に照らして,県警が,平成15年4月29日の時点で,X1焼酎事件の嫌疑が完全になくなったとはいうことができず,同月30日に捜査を継続させた自体は,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているということはできないものの,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X3の本件買収会合に係る各自白内容は,客観的事実に支えられた開催日時の供述が客観的事実に支えられた原告X6の同日の行動と矛盾し,本件買収会合が開催されたとすれば当然残るはずの客観的事実に合致せず,その供述内容自体も不自然であり,供述の形成過程にも疑義があり,原告X1,原告X3及び亡A1の供述が体験していない供述をしている可能性が高く,原告X4,原告X8の供述の信用性は極めて低く,原告X2の供述も裏付けに乏しいのであって,少なくとも証拠上は,本件買収会合が存在していたとは通常考えられない虚偽の自白であるというべきであって,かかる虚偽の自白が作出された原因は,A10署長及びA12警部が,同年5月1日の段階で,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の捜査本件箝口令を採用し,これにより虚偽の自白の一致が形成される危険性の高いものであると容易に予見することができたのに,これを怠った過失によるものであって,その間,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補は,違法な取調べを継続し,A12警部が,それらの取調べで得られた供述内容等の情報を一元管理した結果,A10署長とA12警部において,本件買収会合の事件の筋読みを誤り,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補らに対し,誤った筋読みに沿う具体的な事実の聞き取りを指示をした過失により,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対し,存在したとは通常考えられない本件刑事事件に係る被疑事実を認める自白をさせ,その各自白内容が概ね一致する状態を作出した。
また,平成15年4月30日から同年5月13日までの第2次の強制捜査までの捜査に関しては,原告X8が,同年4月30日,体調不良を訴えて,医療機関に行き,医療機関で点滴を受けてから取調べに応じたものの,さらに体調不良を訴えても,帰宅が認められず,簡易ベッドに横になって,問いかけられたら目を開いて答えるというような衰弱した状態であったことからすると,到底任意の取調べであったということはできず,被疑者の自由な意思決定を阻害し,任意捜査としては社会通念上許されないというべきであり,国家賠償法上違法となるというべきである。
5  争点(1)エ(第2次強制捜査及びそれ以降の捜査に関する県警の違法性の有無)
(1)  第2次強制捜査
ア 判断基準
前記第3・2(1)イにおいて判示したとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による捜査活動が違法とされるわけではなく,捜査機関による捜査活動はその時点において犯罪の嫌疑について相当な理由があり,かつ,必要性が認められるかぎりは適法であるというべきであり,警察官又は検察官の判断が,捜査活動について国家賠償法上違法というためには,警察官または検察官の判断が,その判断時において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官又は検察官を前提として通常考えられる警察官または検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達していることが必要であるというべきであるから,第2次強制捜査を行ったことについての違法性も,平成15年5月13日の時点で,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5,亡A1の身柄拘束の必要性があると思料したことが,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきであり,以下,検討する。このことは,X1焼酎5月18日捜査事件に係る捜査,第3次強制捜査,第4次強制捜査,第5次強制捜査においても同様である。
イ 供述内容
前記第3・1(10)及び同(12)において認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X4及び亡A1は,平成15年5月8日以降の取調べにおいて,1回目会合の詳細について供述し,それらの供述は,1回目会合は,平成15年2月上旬頃の午後7時30分頃からX1宅で開催され,参加者は,四浦校区側が原告X1夫妻,A112,原告X2,亡A1,亡X12,原告X4,原告X5,原告X3であり,原告X6の関係者が原告X6とA5であったこと,四浦校区側の参加者が,午後8時頃,こたつの間で焼酎を飲むなどしていたところ,原告X1が参加者に現金3万円の入った茶封筒2通を配布したことという点などで概ね一致し,その他,上記原告X1外3名のうちの複数の者が,原告X9と亡A1が口論になったことや,原告X3が,封筒を開封して中の現金を確認したことなどの迫真的なエピソードを供述し,原告X8も1回目会合には体調不良で参加しなかったものの,原告X4を通じて3万円入りの茶封筒1通を受け取ったなど,上記原告X1外3名の1回目会合についての上記各供述に沿う内容の供述をしており,これらの捜査結果に基づき,県警は,第2次強制捜査を行った。
しかし,それらの供述は,前記第3・4(3)において判示したとおり,A10署長,A12警部,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補が,県警の捜査を行うにつき,A10署長及びA12警部において,同年5月1日の段階で原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対し,本件箝口令を採用することが,虚偽の自白の一致が形成される危険性の高いものであると予見することができたのに,これを怠った過失により,違法な本件箝口令を採用し,その間に,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長,A17警部補において違法な取調べを継続し,そのような取調べで得られた供述内容等の情報を一元管理していたA12警部において,本件買収会合の事件の筋読みを誤った過失により,上記原告X1外4名に対し,存在したとは通常考えられない本件刑事事件に係る被疑事実を認める自白をさせ,同時に,瑕疵ある判断に基づき,同自白内容に係る罪責を負うことを覚悟させた結果,その後の取調べにおいて,1回目会合に係る詳細について,取調官からの質問に応じ,適宜創作も交えるなどして供述されたものであるとみるべきであり,上記原告X1外4名に対して行った上記各捜査の内容を現に認識している県警の捜査幹部において,その後の捜査において多額の金銭の授受があったことを示す重要な客観的証拠が発見されるなど,これらの供述の信用性が裏付けられるような新たな捜査の進展もないまま,単に被疑者間で概ね一致した内容の供述や,迫真的なエピソードが追加された供述を引き出したことをもって,買収会合の事案の特性から供述証拠しか得られない場合が多いことを考慮しても,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5及び亡A1を身柄拘束するに足りるだけの嫌疑が存在し,かつその必要性があると思料することは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないというべきである。
したがって,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5及び亡A1に対してなされた第2次強制捜査及びこれにより取調受忍義務を発生させた上での上記原告X1外5名に対する取調べは,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法である。
ウ 被告県の主張
これに対して,被告県は,亡A1が平成15年2月中旬頃,A88に対し,原告X6に対する投票依頼等の趣旨を含めて牛の運搬代金名目で5万円を供与したと供述しているのに対し,A88が,亡A1から牛の運搬代として5万円を受け取ったことを供述していること,原告X17が同年3月18日頃,亡A1の孫に当たる,原告X17の長男の高校の入学祝いとして,亡A1から2万円を受け取ったことを供述していることをもって,上記各供述の信用性を裏付けるものである旨を主張する。
しかし,A88に5万円を交付した点は,まず,現金の授受自体が何ら裏付けられておらず,A88も投票依頼の趣旨について何ら触れていない供述をしたのみであって,このことをもって,本件買収会合があったという上記各供述の信用性が裏付けられるものと到底評価することができない。
また,原告X17が亡A1の孫の高校の入学祝いを受け取った点は,日常生活の痕跡の範囲内のものと評価せざるを得ず,何ら上記各供述の信用性を裏付けるものでないことは前記第3・4(2)エ(ア)において判示したとおりである。
(2)  X1焼酎5月18日捜査事件の嫌疑消滅の有無
原告らは,平成15年5月18日の時点において,X1焼酎事件の原告らの供述内容の不一致は顕著であって,既に嫌疑が消滅しているため,X1焼酎5月18日捜査事件の捜査は違法である旨を主張する。
確かに,前記第3・4(2)オ(イ)ないし(エ)において判示したとおり,X1焼酎事件については,自白者の供述が,当初から,原告X6の後援会入会申込書への氏名の記載の依頼,焼酎の供与,現金の供与がそれぞれ同一の機会にされたか否か,供与を受けた焼酎の本数及び供与を受けた時期について不一致があること,原告X8が原告X1から現金の供与を受けたと供述する日時が,原告X1の勤務先のタイムカード上の退社時刻の記載と整合しないこと,原告X8及び原告X4の供与が信用性に乏しいこと,原告X1が同年4月27日,供与した現金の額につき,1万円から2万円へと供述を変遷させたため,原告X8,原告X2及び亡A1のほか,上記新たに自白したA85,A105及びA108らとも供与金額についての供述に不一致が生じるに至ったこと,原告X1は,それまでの取調べにおいて,供与金額を1万円と供述していた理由につき,X1焼酎事件受供与被疑者らのうち,原告X8との間においてだけ,供与金額を2万円ではなく1万円とする口止めを行っており,原告X1がX1焼酎事件について取調官から追及を受けた際,発覚したのが原告X8の自白によるものだと直感したため,上記口止めに従い,1万円と供述したなどという不合理なものとなっていること等の供述の信用性を減殺させる事情が認められる。
さらに,前記第3・1(6)イ,(7)イないしエ,カ,ケ,コにおいて認定したとおり,原告X1が同年4月27日に,供与金額についての供述を1万円から2万円に変遷させた後,原告X2,A85,A108及び亡A1は,順次,受供与金額についての供述を1万円から2万円に変遷させたが,原告X8が取調べを経た後も受供与金額の供述を変遷させずにいたところ,原告X1が,X1焼酎事件受供与被疑者ら13名に金品を供与した機会は2回あり,1回目が現金2万円と焼酎2本,2回目が現金1万円であるとの供述を始め,その後,さらに,現金2万円と焼酎2本の供与に関し,X1焼酎事件受供与被疑者ら13名のうち,a3集落に居住する5名に対しては2万円を,a3集落以外に居住する8名に対しては1万円を供与したと供述するに至り,その後,A86及びA87は,供与されたものについての供述を1万円と焼酎2本から,1回目に現金1万円と焼酎2本,2回目に現金1万円と変遷させ,A85は,同一の機会に2万円と焼酎2本の供与を受けたとの供述から,同一の機会に現金1万円と焼酎2本の供与を受け,別途,現金1万円の供与を受けたと供述を変遷させたが,A108は,3日間にわたる取調べにおいて,供与を受けたものが1万円と焼酎2本ではなかったかとの問いに対し,2万円と焼酎2本であると従前の供述を維持する回答をして,いったん変更した供述をさらには変遷させなかったことなど,被疑者の各供述の度重なる変遷が,単に自己の罪責が重くなるのを恐れたことという理由では説明が付かない状況にあり,かつ,供与者と受供与者で供与された金額の不一致も解消されきっていないことなど,自白の信用性を相当程度減殺させるものと評価すべき事情が現れていることが認められる。
しかし,他方で,前記第3・1(12)アにおいて認定したとおり,同年5月2日には,亡X12も現金1万円と焼酎2本の受供与を認め,少なくとも,原告X1のほか,X1焼酎事件受供与被疑者ら13名のうち,原告X8,亡A1,原告X2,亡X12,A86,A104,A87,A105,A85及びA108の10名が一旦は,現金1万円と焼酎の供与を受けたことは自白している状況であり,このうち,a3集落以外に居住する者らは,原告X9も同席していたことなどを供述していること,焼酎瓶という客観的な証拠も一応複数提出されていること,県議選レベルの選挙違反における買収事案の相場とされている金額からかけ離れた供与金額ではないことなどの事情からすると,なお,X1焼酎事件の嫌疑が完全に消失したとはいうことはできず,さらに,原告X9の身柄拘束をするに足りるだけの嫌疑が存在し,その必要性もあると判断することが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとまでいうことはできない。
したがって,X1焼酎5月18日捜査事件の捜査に係る原告らの上記主張は採用することができない。
(3)  第3次強制捜査の違法性の有無
前記第3・1(15)アにおいて認定したとおり,県警ないし本件現地本部は,平成15年6月4日の第3次強制捜査の着手までに,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の4回目会合に係る詳細な供述その他本件買収会合に関する供述を収集するなどし,さらに,第2次強制捜査中に,新たに原告X3が4回目会合について原告X1ら上記5名の供述に沿う内容の自白をしたほか,原告X5が,現金の授受等少なくとも本件買収会合に係る事実関係の一部を認める供述をしている。
しかし,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の4回目会合に係る詳細な供述が,県警ないし本件現地本部による違法な捜査の結果,作出された信用性の低いものであることは前記第3・4(2)において判示したとおりである。
そして,原告X3及び原告X5の上記各供述についてみても,これらがいずれも原告X3及び原告X5に対する違法な身柄拘束中に,違法に作出された原告X1ら上記5名の供述の影響を排斥し得ない状況でなされた自白であることに照らせば,これらの自白をもって,原告X1ら上記5名の4回目会合に係る上記各供述を裏付けるものとは到底評価することができない。
また,A117は,第2次強制捜査中の同年5月22日以降,捜査機関に対し,同年2月頃に自宅で会合があり,原告X1に呼ばれ,原告X6に紹介されて挨拶をしたこと,その際,こたつの間には,原告X1夫妻,原告X6,原告X5,原告X13,原告X4,原告X2,亡A1及び原告X3がいたこと,午後8時頃,子供部屋からトイレに行った際,何気なくこたつの間の様子を見ると,原告X1が膝をついて,誰かに茶封筒らしきものを手渡そうとしているところを見たこと,これらの話は嘘ではないことなどを供述しているが,A117の上記供述は,両親である原告X1夫妻がいずれも本件現地本部による捜査の対照とされてから相当期間が経過し,その間に原告X1夫妻がいずれも断続的に取調べを継続された上に身柄拘束された後になされたものであり,A117が,いずれA117も強制捜査の対象とされること等を恐れ,捜査機関に迎合することも無理からぬ状況であったとみるのが相当であるし,A117の供述内容も,子供部屋からトイレに行った際に,偶然,原告X1が参加者に封筒らしきものを渡しているところを見たなどという不自然なものであって,A117の上記供述をもって,原告X1ら上記5名の本件買収会合に係る上記各供述を裏付けるものとは到底評価することができない。
その他,県警は,第3次強制捜査までの間に,本件買収会合の参加者による受供与金の使途の裏付けとして各種の支払等の事実に係る証拠を収集しているが,これらがいずれも受供与者の日常生活の痕跡の範囲内のものと評価せざるを得ないことは,前記第3・4(2)において判示したとおりである。
したがって,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5,亡A1,原告X6,原告X7及び原告X9に対してなされた第3次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での取調べは,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法である。
(4)  第4次強制捜査の違法性の有無
県警は,第3次強制捜査までに収集した原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1の4回目会合に係る詳細な供述その他本件買収会合に関する供述に加えて,前記第3・1(15)エにおいて認定したとおり,第3次強制捜査中に,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1から引き続き4回目会合に係る詳細な供述その他本件買収会合に関する供述を収集し,受供与金の使途についての事実に係る証拠及び原告X1から,4回目会合のオードブルの残存物を自宅の裏の杉山に捨てた旨の供述を得て,中華たれの空き袋,しょう油さし,ばらんなどをX1宅の裏の杉山から押収するなどしたことが認められる。
しかし,原告X1ら上記5名の供述が県警による違法な捜査の結果,作出された信用性の低いものであること,供与金の使途についての事実,中華たれの空き袋等が日常生活の痕跡の範囲内のものと評価すべきものであることはいずれも前記第3・4(2)において判示したとおりである。
したがって,原告X6,原告X7,原告X9,原告X10,原告X8及び原告X11に対してなされた第4次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での原告X6ら上記6名に対する取調べは,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法であるというべきである。
(5)  第5次強制捜査の違法性の有無
前記第3・1(15),(16)において認定したとおり,県警は,第5次強制捜査までに原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1から2回目会合及び3回目会合に係る詳細な供述その他本件買収会合に関する供述及び受供与金の使途についての事実に係る証拠を収集し,加えて,原告X11及び原告X6の4回目会合の存在を認める供述を収集している。
しかし,原告X1ら上記6名の供述が県警による違法な捜査の結果,作出された信用性の低いものであること,供与金の使途についての事実が日常生活の痕跡の範囲内のものと評価すべきものであることはいずれも前記第3・4(2)において判示したとおりである。
また,原告X11及び原告X6の供述がいずれも原告X11及び原告X6に対する違法な身柄拘束中に,違法に作出された原告X1ら上記6名の供述の影響を排斥し得ない状況でなされた自白であって,原告X1ら上記6名の供述を裏付けるものとは到底評価することができないことも前同様である。
したがって,原告X6及び原告X7に対してなされた第5次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での取調べは,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法である。
(6)  争点(1)エに関する結論
以上によれば,本件の事実関係に照らして,県警が第2次強制捜査を行ったのは,A10署長及びA12警部において,過失により本件箝口令を採用し,その間に,A12警部において,本件買収会合の事件の筋読みを誤った過失により,上記原告X1外4名に対し,存在したとは通常考えられない本件刑事事件に係る被疑事実を認める自白をさせたものであって,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5及び亡A1を身柄拘束するに足りるだけの嫌疑が存在し,かつその必要性があると思料することは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないのであるから,原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5及び亡A1に対してなされた第2次強制捜査及びこれにより取調受忍義務を発生させた上での上記原告X1外5名に対する取調べは,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法である。
したがって,それ以降の原告X1,原告X2,原告X4,原告X3,原告X5,亡A1,原告X6,原告X7及び原告X9に対してなされた第3次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での取調べは,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法である。
同様に,第4次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での原告X6ら上記6名に対する取調べも,原告X6及び原告X7に対してなされた第5次強制捜査により取調受忍義務を発生させた上での取調べも,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,証拠の評価について法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,いずれも強制捜査として行われる限りにおいて国家賠償法上違法であるというべきである。
なお,X1焼酎事件に関する捜査については,X1焼酎事件の嫌疑が完全に消失したとはいうことはできず,さらに,原告X9の身柄拘束をするに足りるだけの嫌疑が存在し,その必要性もあると判断することが,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとまでいうことはできないから,X1焼酎5月18日捜査事件の捜査は,違法ということはできない。
6  争点(1)オ(弁護人との接見内容を調書化することによる違法性の有無)
原告らは,本件公職選挙法違反事件において,県警は,検察官と共同して,組織的に,本件無罪原告らが弁護人と接見した後,その接見内容を取り調べて調書化して,弁護人との接見交通権の中核をなす弁護人との秘密交通権を侵害したほか,本件現地本部の捜査官は,上記組織的な接見交通権の妨害とは別に,取調べの際に秘密交通権を侵害したり,弁護人に対する批判を繰り返し述べたりしており,これらの行為は,本件無罪原告らと弁護人との信頼関係の構築を困難にし,本件無罪原告らが本件刑事事件において適切な弁護を受ける弁護権を侵害した違法な捜査である旨を主張するので,以下,検討する。
(1)  接見内容の組織的な調書化
ア 本件調書化方針
前記第3・1(11)ウ(カ)において認定したとおり,原告X1が,平成15年5月18日,A90弁護士の助言に従って否認した旨を供述したことから,A7参事官は,原告X1の取調べに当たったA14警部補に対し,弁護人との接見内容を調書化するよう指示し,原告X3が,同月19日,弁護人から否認するよう助言された旨を供述したことから,A7参事官は,取調べに当たったA18警部補に対し,原告X3の否認の理由として,弁護人との接見内容を調書化するよう指示し,A7参事官は,弁護人から被疑者に対する否認の働き掛けが認められるとして,A75検事に報告し,今後の対応について協議し,A75検事は,本件刑事事件において捜査妨害に該当するような弁護人からの被疑者に対する組織的な否認の働き掛けが行われている可能性があるとして,同月20日頃,本件調書化方針を採ることを決め,A75検事は,同月22日頃,志布志署での本件現地本部の捜査会議に出席して,弁護人が被疑者に圧力を掛けているようであり,検察庁では,場合によっては弁護人についての懲戒処分申請も考えられるという趣旨のことを告げた上,①被疑者が接見後に否認に転じた場合はその理由を聞いて,その理由が弁護人の否認の働きかけがあったということが明らかになれば調書化すること,②その場合に,弁護人の違法な弁護活動が認められた場合も調書化することなどを指示し,本件刑事事件の主任検察官がA75検事からA73検事に引き継がれた後も,本件調書化方針が維持された。本件刑事事件に拘わる取調官の間でも,上記①及び②の基準に従って,接見内容を調書化することの認識が共有された。
イ 本件調書化方針後の接見内容等に関する取調内容等
前記第3・1(30)において認定したとおり,本件調書化方針に基づき,合計で70通以上の供述調書が作成されている。以下,主なものを挙げると,原告X3の平成15年5月22日付け供述調書には,C5弁護士,C7弁護士から,何を聞かれても,行っていない,もらっていないと言い通しなさいと言われて,本当のことが言えなかった旨,弁護士は本当は原告X3のためではなく,原告X6生のため動いていることがわかった旨,原告X2の同日付け供述調書には,A93弁護士が事実を否認しなさいと言ったような口ぶりであったため,検察官に対して事実を否認した旨,原告X2の同月28日付け供述調書には,A93弁護士が,嘘の供述をしてきたと検察官に言って,今後は否認を通して頑張るように指示した旨,原告X4の同月27日付けの供述調書には,弁護士が,黙っておけと指示した旨,原告X4の同月30日付け供述調書には,A93弁護士が原告X4の頼んだこともせず,原告X4に否認させて一体誰を弁護しているのだろうかと腹が立った旨,亡A1の同月28日付け供述調書には,C10弁護士から一方的な感じで事実を認めるなというようなことを言われた旨,亡A1の同月31日付け供述調書には,C10弁護士の口ぶりからすると原告X5及び原告X1夫妻が罪を認めていないので,亡A1も認めてはならないと受け止めた旨,原告X1の同年6月8日付け供述調書には,A90弁護士からこのままだと裁判もすることなく留置場から出られると言われたにもかかわらず,同年6月4日にまた逮捕され,A90弁護士のことを本当に信じていいのかと疑問を持っている旨,原告X1の同日付け検面調書には,X1宅での会合はなかったのだからお金は渡していないと言いなさいと指示された旨,原告X1の同月10日付け供述調書には,A90弁護士から,原告X1が自白したら原告X6及び原告X7が逮捕されると聞かされて,それからというもの,会合なんかなかった,やっていない,もらっていないと繰り返してきた旨,原告X1の同月11日付け供述調書には,事実を認めたらいけないよ,事実を認めても話が合わないのだからと言われた旨,原告X1の6月14日付け及び同月18日付け供述調書には,このままであれば,裁判もずっと長くなるというC1弁護士の不機嫌な態度を見て,弁護士が不要であると考えた旨,原告X2の同月17日付け供述調書には,原告X5は頑張っているのに,何で原告X2は頑張れないのかなどと,事実の否認を指示する話振りだった旨,原告X4の同月13日付け供述調書には,C10弁護士の話の内容が一方的に話している感じがし,原告X6のためにお金を受け取ったことはないと言わそうと態度だと思った旨,原告X1の同年7月2日付け供述調書には,弁護士が調書を見て調書がおかしいと言った旨,原告X1の同月15日付け供述調書には,原告X1が「認めます。」と言った途端,顔色が変わって怒ったような顔つきになった旨,原告X4の同月2日付け供述調書には,弁護士が「トカゲのシッポ切り」と説明して,嘘をついて否認しろと言っていると思った旨,原告X3の同年7月9日付け供述調書には,C5弁護士がもらっていないと主張を通すように指示した旨,原告X1の同年8月8日付け供述調書には,弁護士は,事件のことについて,原告X1のいうことを信用しないし,原告X1も弁護士を信用しない旨,原告X4の同月8日付け供述調書には,C8弁護士も,原告X6及び原告X7さんを無罪にするために動いている弁護人だと考えました旨との各記載があるように,被疑者が弁護人の助言に従って否認した後,再度,自白に転じた場合等に,弁護人との接見内容のほか,弁護人の発言についての被疑者なりの意味付けやそれに対する感想等も聴取されており,弁護人の助言に対しては,多くの供述調書で嘘をついて否認するよう求めてきたなどの意味付けが加えられ,それに対する感想として,依頼者である被疑者本人の利益ではない,原告X6などの利益を考えていると思ったなどの感想が述べられ,それらに加えて弁護人に対するあからさまな不信感や嫌悪感を示すものもある。
ウ 本件調書化方針に基づく調書作成の効果
そして,供述調書の記載にもかかわらず,本件公職選挙法違反事件における本件現地本部の本件無罪原告らに対する取調べの経緯に照らすと,上記判示したような回答の全てを被疑者が自発的に回答したとは考えがたく,本件調書化方針が弁護人の懲戒請求も視野に入れたものであったことも併せ考慮すれば,弁護活動の違法性のニュアンスを引き出そうとした取調官によって相当程度の誘導がなされた結果であるとみるのが相当であるし,仮に,取調官が明示的に誘導しなかったとしても,十分な法律知識があるような被疑者である場合はさておき,そうではない被疑者であれば,被疑者が弁護人の助言に従って否認した後,自白に転じた場合等において,弁護人との接見内容,弁護人の発言についての被疑者なりの意味付け,それに対する感想等を質問すれば,供述の時点では被疑事実を自白した後であるから,被疑事実があったことが真実であることを前提とする以上,その回答内容は,弁護人の助言について否定的なニュアンスで説明せざるを得なくなることは容易に想定することができるところ,捜査官が被疑者に対しそのような質問を繰り返して,その供述内容を何度も調書化することは,被疑者に対し,弁護人に対する不信感や,自白を前提とした情状立証以外の弁護方針に対する拒絶感を植え付けたり,それらを増大させる危険性が高く,弁護人との信頼関係の構築が困難となるものであることは明らかである。
現に,前記第3・1(29)において認定したとおり,本件買収会合を継続的に自白していた原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X8の6人のうち,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4が,当初委任した弁護人をいずれも解任したこと,原告X8も,当初委任した弁護人を解任することを前提に,裁判所に対し,国選弁護人の選任を請求する旨の意向を示したこと,通常,自白している被疑者ないし被告人が弁護人を解任する割合は多くないことは当裁判所に顕著であること,本件買収会合を継続的に自白した被疑者ないし被告人の6人のうちの5人が弁護人の解任する意向を示したこと,その後,公判において,原告X1と原告X4については,弁護人が公訴事実に対する弁護人の意見を複数回の公判にわたって留保し,原告X3は,一旦,自白事件として審理が進んだ後,弁護人が交代した後,原告X3が公訴事実を否認するなど,これらの被疑者ないし被告人につき弁護方針が固まるまでに相当の時間を要していること及び本件買収会合について自白していた上記6名につき,弁護人との間で本件刑事事件について否認して無罪を争う方針が決まるまでの間,本件買収会合についての自白が維持されていることに照らすと,これらは,本件調書化方針の効果であるとみとめられ,いずれも相当因果関係があるものとみるのが相当である。
エ 違法性の有無
(ア) 捜査機関の裁量権の範囲内か否か
捜査機関に広範な裁量権があるとしても,弁護人選任権及び接見交通権の重要性にかんがみ,上記のような捜査手法をみだりに採ることが許されないことは明らかであるところ,被告県は,弁護人に捜査妨害に該当するような弁護活動があると判断されたこと,否認の理由の聴取のために必要であったことなどを主張する。
(イ) 弁護活動
a 正当な弁護活動の内容と本件刑事事件
しかし,一般に,弁護人は,接見時に弁護人からの事実確認に対して被疑事実がなかったと述べる被疑者に対して,捜査機関に対しても被疑事実がなかったと述べるよう助言することはもとより,被疑事実を認めている被疑者であっても,それが虚偽の自白であると合理的に疑われるような場合に安易な自白を慎むよう助言することは正当な弁護活動であるというべきである。
本件刑事事件においては,そもそも自供したとされる自白内容が前記第3・4(2)において判示したとおり,不自然であって,現金の供与があったとされる日も被疑事実上,平成15年2月上旬頃程度の特定しかされていないこと,被疑事実に係る多額の現金の供与を裏付ける客観的な証拠があるというものでもないこと,前記第3・1(30)において認定したとおり,原告X5のほか,亡A1,原告X8,原告X3,原告X9は,調書上においても弁護人に対して,接見の当初,被疑事実がなかったと説明していること(なお,原告X3は,同年7月9日になってから,接見の当初からC5弁護士に対し,捜査機関に対しては被疑事実を否認しているが,実際には被疑事実があったことは間違いない旨を説明したところ,C5弁護士からは,捜査機関に対しても事実を認めるよう助言されると思っていたのに,予想に反して否認を通すよう助言されて驚いたなどとする供述を行っているが,このような供述がにわかに信用することができないことは明らかである。)等にかんがみれば,弁護人において,被疑事実に疑いを持つことは十分に合理的であることは明らかである。
しかるに,原告X1の供述調書上は,原告X1が弁護人に対し,被疑事実についてどのような説明をしていたのかがそもそも明らかにされていないし,亡A1,原告X9,原告X8,原告X3は,当初,弁護人に対し,被疑事実がない旨を説明していたことが調書上明らかにされており,原告X2については,被疑事実は間違いないので情状立証をして欲しい旨を述べる原告X2に対し,A93弁護士が「それは嘘の話だろう。」,「検事さんには本当のことを言いなさい。あなたは嘘を言っているんだから。」などと助言していることからして,被疑事実に疑いを抱いていたことは明らかであり,原告X4については,被疑事実は間違いないという原告X4に対し,弁護人が,「黙っておけば無罪になる。」などと助言していることが記載されているものの,同弁護人は,A93弁護士であって,被疑事実に疑いを持っていることは明らかであるし,黙っておけば無罪になると助言したという点についても,原告X4が,弁護人においてアリバイ等の無罪を証明してもらえるのかとの質問に対し,「黙って下を向いて答えず,再度,『黙っておけば無罪になる。』などとの助言を繰り返した。」などとそもそも弁護人の態度として不自然な内容の供述になっているのであって原告X4の認識に従って取調官に供述したものであるのかは疑問である。
b C8弁護士とC2弁護士の捜査妨害的な弁護活動の不存在
C8弁護士とC2弁護士が家族の手紙を原告X4と原告X1に閲読させたことについては,原告X4と原告X1の家族が罪証隠滅をしようとしていた事情があれば,C8弁護士とC2弁護士の行為も捜査妨害的な弁護活動になり得るところ,前記第3・1(16)キ(イ)fにおいて認定したとおり,原告X4は,同年7月10日,A76副検事の取調べにおいて,原告X4が,志布志署の警察官から,原告X4の家族が,原告X4を今後家に入れないと発言していることを聞かされ,これは原告X4の両親が,原告X4に対し,警察に買収金を受け取ったと真実を供述したことが四浦校区に対する裏切り行為になるので家に戻ってくるなと言っていることを意味すると理解したことなどを供述しているが,他方で,前記第3・1(9)スにおいて認定したとおり,同年5月5日には,A15警部補の取調べにおいて,今日の取調べで供述するに当たり,自分の息子や娘に警察で本当のことを話すがこんな父を見捨てないで欲しいと告げると,息子や娘が何があっても私達のお父さんであるなどと励まされ,これまで嘘をついていたことが恥ずかしくなり,真実を話そうと決心したことなど,原告X4の家族の対応として明らかに相反する内容のことを供述しているのであって,原告X4による原告X4の家族についての供述は原告X4の認識に従って取調官に供述したものであるのかは疑問である。
次に,原告X1は,同年7月2日のA75検事の取調べにおいて,四浦集落に在住しているわけでもない原告X1の姉が,原告X1からX1焼酎事件で焼酎2本と現金1万円を供与されたことで,四浦校区内で多額の買収金が供与された本件買収会合があったことを察知し,四浦校区の選挙の実態を知らない四浦校区出身のA146に対し,嘘を教えて,原告X1が無実であると信じ込ませ,原告X1に嘘をつくように言ってきたという牽強付会な供述をしており,このような内容のことを原告X1が自発的に供述したとはにわかに信じ難く,仮に,そのような供述をしたとしても供述内容に信憑性のないことは明らかである。
したがって,C8弁護士とC2弁護士においても捜査妨害的な弁護活動があったと見ることはできない。
以上のことからすると,本件公職選挙法違反事件において,弁護人にそのような正当な弁護活動を超える活動をしていたことをうかがわせる事情は本件調書化方針を決定した当時はもちろん,その後も見いだせないというべきであり,弁護人に捜査妨害的な弁護活動があったという判断には何ら理由がないというべきである。
(ウ) 否認の理由の聴取
被告県は,これに対して,本件無罪原告らの否認の理由を聴取するのに必要であったとする主張をするものの,前記第3・1(30)において認定した事実からすると,同一の接見時の内容を繰り返し調書化していたり,亡A1の平成15年5月21日の供述調書では,「X6さんへの投票や票の取りまとめに対するお礼として,現金や焼酎を貰ったことを話してきましたが,そのとおり間違いありません。刑事さんから,現在の気持ちを尋ねられたことから,これまでの話は間違いないと答えました。しかし,気持ちに迷いがないかどうかを尋ねられた時に,何も答えることが出来ませんでした。実を言うと,今日の午後から面談に来た担当の男性弁護士のC10弁護士から。」などとして,被疑事実を否認していないにもかかわらず,気持ちに迷いがあることなどを理由に弁護人との接見内容を聴取しているなど,被疑事実を認める気持ちの迷いの有無及びその理由を聴取する合理的な理由は考えにくい。仮に,本件調書化方針に基づき作成された供述調書の一部には,接見内容を聴取する必要性があるものが含まれるとしても,接見内容を繰り返し聴取して膨大な数の同様の内容の供述調書を作成するだけの正当な理由は見いだせない。
オ 被告県のその他の主張
これに対して,被告県は,原告らが秘密交通権を放棄して任意に供述した内容を調書化することは,何ら国家賠償法上違法にはならない旨を主張する。
しかし,たとえ,原告らにおいて,秘密交通権を放棄している事情が認められたとしても,弁護人との信頼関係を困難ならしめられることまでをも了解した事実はないことが明らかであり,被告県の主張は失当である。
(2)  その他弁護権侵害となる捜査の有無
前記第3・1(11)ウ(ウ)において認定したとおり,A18警部補は,平成15年5月15日の原告X3に対する取調べ時に,原告X3がC5弁護士と接見して弁護人に選任したことに関し,原告X3及びその親族とC5弁護士が知人関係にあるか等について質問した上,C5弁護士が事件関係者からの依頼を受けて接見に来たのではないか,依頼したのが原告X6であれば,弁護士の主たる目的は,原告X6が逮捕されないためではないか,原告X6が逮捕されれば最終的には原告X3は見捨てられるということになるのではないか,などと指摘し,また,原告X6が原告X1の逮捕後に報道機関からのインタビューでした発言に触れて,「ああいうのをトカゲのしっぽ切りと言うんじゃないですか。」などと述べて,C5弁護士の弁護費用を誰が負担しているか,よく確認しておくよう告げている。
また,A18警部補は,同月16日の原告X3に対する取調べ時に,原告X3が弁護人と接見した後の同日夜の取調べにおいて,費用,依頼主の点から,その弁護士は本当に原告X3のことを一番に思ってやっているかどうかなどと告げ,同月19日の原告X3に対する取調べ時に,弁護士の先生のことをもう一回よく考えてください,費用と依頼者について聞きましたかと,本当に原告X3のことを一番考えてやってくれるんだったらいいんですけれども,とにかくそれについてももう一回確認したほうがいいんじゃないですかなどという趣旨のことを告げるなどして,もって,事実関係を否認する原告X3に対し,自白するよう説得していた。
原告X3は,同日,1回目会合について事実を認め,これまで否認していた理由について,弁護人からの助言があったこと等であるとした上で,原告X3の利益を考えての助言ではないことが分かったためであることなどを供述し,その旨の記載のある同日付け供述調書に署名・指印している。しかし,C5弁護士は,原告X3の弁護人として選任された以上,弁護士費用を誰が出捐したかにかかわりなく,原告X3の利益のために弁護活動を行う義務を負っていることが明らかであるのに,法律知識も十分でないことがうかがわれる原告X3に対し,A18警部補は,原告X6が弁護士費用を出捐していること及びC5弁護士が最終的に原告X6の利益のために行動し得ることを繰り返し示唆して,弁護人との接見内容を録取した供述調書を作成している。
してみると,上記説示したとおり,この供述調書が本件調書化方針を決定した根拠の一つになっているのであるから,A18警部補のC5弁護士についての上記各発言は,本件調書化方針に基づく取調べと一連のものとして違法であるというべきである。
被告県は,A18警部補が,誰が自己の弁護士を頼んだのか知らなかった原告X3に対して,本人のためにも依頼者を確認した方がよいのではないかという趣旨で,「費用と依頼者については自分でしっかりと確認してください。」などと話したものであり,故意に弁護士を解任させるために話したものではなく,国家賠償法上の違法は認められない旨を主張する。しかし,上記説示したとおり,A18警部補の発言は,被疑者に対し,弁護人が被疑者ではなく弁護士費用の出捐者の利益のために行動すると誤認させて弁護人と被疑者の信頼関係の破壊につながるものであって,A18警部補には,少なくとも重過失があり,A18警部補の行為が国家賠償法上違法であることは明らかである。
したがって,この点に関する被告県の上記主張は採用することができない。
原告らのその他の弁護権侵害となる捜査として種々主張されているものについては,本件において,国家賠償法上違法となると認めるに足りる行為を認めることはできない。
(3)  争点(1)オに関する結論
以上のように,弁護人は,接見時に弁護人からの事実確認に対して被疑事実がなかったと述べる被疑者に対して,捜査機関に対しても被疑事実がなかったと述べるよう助言することはもとより,被疑事実を認めている被疑者であっても,それが虚偽の自白であると合理的に疑われるような場合には,安易な自白を慎むよう助言することがあり,これは正当な弁護活動と考えられる。本件においては,弁護人がそのような正当な弁護活動を超える活動をしていたことをうかがわせる事情は見いだせない。
しかし,県警のA7参事官,地検のA75検事及びA73検事は,本件無罪原告らと各弁護人との接見内容を調書化する方針(本件調書化方針)を立て,これに基づいて,取調官による相当程度の誘導に沿って,接見内容等に関して70通以上の供述調書が作成され,供述内容が何度も調書化された。
このことにより,本件無罪原告らに対し,自白を前提とした情状立証以外の弁護方針に対する拒絶感が,植え付けられたり増大させされたりする危険性が高くなり,弁護人との信頼関係の構築が困難になったものである。
本件現地本部は,本件公職選挙法違反事件の捜査において行った本件調書化方針に基づく原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X9に対する接見内容を聴取した取調べを行い,本件現地本部が,本件無罪原告らの自白が否認に転じた理由について,本件買収会合に関する自白がそもそも虚偽であった可能性を十分に検討しないまま,鹿児島県弁護士会及び宮崎県弁護士会の多数の弁護士らが,本件公職選挙法違反事件において,組織的に,正当な弁護活動を超える違法な行為を多数回繰り返していたと盲信して,合理的な判断をすることを怠ったのであって,その結果,本件刑事事件において,本件無罪原告らが適切な弁護を受ける権利の侵害を招いたものであり,このような弁護権侵害となる違法な捜査が行われずに,本件無罪原告らの自白の維持がなければ,本件公職選挙法違反事件に関しては,早期の解決が図られた可能性もあるのであって,本件調書化方針に基づく取調べは,法の予定する一般的な警察官を前提として通常考えられる警察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,国家賠償法上違法であるというべきである。
7  争点(1)カ(起訴後取調べを行った県警の違法性の有無)
原告らは,県警が,平成15年6月25日以降,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1,原告X3について,第1次起訴の起訴後勾留を利用して,1回目会合事件について,さらなる取調べを継続したが,この捜査は,純然たる起訴後の捜査であり違法である旨,県警は,同日以降,併せて,X1焼酎事件,4回目会合事件についても取調べを継続したが,これら起訴後勾留中の余罪取調べは,弁護人の同意もなく,また,立会いもないままに取り調べることが許されるはずもないのであって違法である旨を主張する。
しかし,刑事訴訟法197条は,捜査については,その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており,同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから,同法198条の「被疑者」という文字にかかわりなく,起訴後においても,捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ,捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが,これによって直ちにその取調を違法とし,その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく,また,勾留中の取調べであるゆえをもって,直ちにその供述が強制されたものであるということもできない(最高裁判所昭和36年(あ)第1776号同年11月21日第三小法廷決定・刑集15巻10号1764頁参照)のであって,被告人の当事者たる地位に照らし,なるべく避けなければならないとはいえ,その必要性がある限り,被告人に対する任意捜査として,起訴後の取調べを行うことが許容されているというべきである。
そして,本件において,同年6月25日以降も本件刑事事件の嫌疑が十分に固まっておらず,証拠も収集されていないことに照らせば,その終局処分を決める上でも捜査の必要性自体は否定することはできないというべきであるところ,本件全証拠によっても,任意捜査としての限界を超えた取調べが行われたことと認めることはできず,したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
なお,被告人の取調べは,前記のとおり,その必要性がある限り任意捜査としてこれを行うことが許容されているのであって,弁護人の了解や立会い等を要するとまでは解することはできず,この点に関する原告らの主張は,採用することができない。
8  争点(1)キ(その他の取調べを行った県警の違法性の有無)
原告らは,その他各原告の取調べにおいて,それぞれ違法があった旨を主張するので,以下,検討する。
(1)  原告X11に対する取調べの違法性の有無
ア A22警部補の「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」と叫ばせる指示
前記第3・1(15)ウにおいて認定したとおり,A22警部補は,平成15年6月6日又は7日頃,原告X11の取調べにおいて,否認する原告X11に対し,取調室の外の廊下に出て,大声で「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」などと文言を指定して叫ぶよう指示し,原告X11は,A22警部補の指示した文言を取調室の外の廊下に出て志布志署内に向かって叫んだことが認められる。
被告県は,A22警部補が原告X11が取調中に自発的に叫んだと主張し,A22警部補は,別件不起訴等国賠訴訟の証人尋問において,原告X11と現金の供与を受けたかで口論になった際,激高した原告X11が突然大声で叫んだ旨の証言をしている(甲総ア第527号証)。
しかし,A22警部補の証言によっても,どのような口論から,突然原告X11が叫ぶという特異な行動を取るに至ったのか不明であるし,A108の取調べにおいても,A108が関屋口交番の窓の外から叫ばされた旨を証言しており,これについてもA22警部補は,現金2万円と焼酎2本をもらったという供述について夫をかばっているのではないか尋ねたが,それを否定したA108に対し,「それで理由がつくのですか,みんなが納得する説明ができますか,本当にその金額をもらっているのであれば,それを町民に言えますか。」と尋ねたところ,突如,A108が窓の外に向かって「私は今回の選挙で現金2万円と焼酎2本をもらいました。」と叫んだという不自然な供述に終始していることも併せ考慮すると,別の機会の取調中に2名の被疑者がいずれも突然叫んだというA22警部補の証言は信用することができないといわざるを得ず,この点に関する原告X11の供述は信用性があるというべきである。
イ 著しい屈辱を与え人格を傷つけるA22警部補の言動
そして,被疑者に対する取調べは,前記第3・3(1)において判示したとおり,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるというべきことから,取調べの違法性の判断は,取調官による被疑者に対する直接の有形力の行使や切り違い尋問などについては,被疑者の自由な意思決定を阻害するものとして原則として違法になるというべきであるが,そこまでに至らない大声,威圧,否認による不利益な見通しの告知,間接の有形力の行使等が,被疑者に恐怖心を与えて,自白による有利な見通しの告知,自白の誘導・勧誘等が,被疑者に錯誤に陥らせて,長時間取調べや一定期間の取調べの継続等が,被疑者の自由意思を制圧する程度に達して,暴言,強要等が,被疑者に屈辱や著しい不安等を与えて,それらの結果,被疑者の自由な意思決定を阻害し,社会通念上許されないといえるかを,事案の性質,それらの行為態様,その行為前後の被疑者の態度や応答等,被疑者の属性,嫌疑の程度等から総合的に判断すべきである。
そして,取調べ時のA22警部補の上記のような言動は,原告X11に著しい屈辱を与え,人格を傷つけるものであって,原告X11の属性,本件買収会合の嫌疑の程度,被疑事実が公職選挙法違反における買収事案であって比較的軽微な刑が科せられることが多いこと等の事情にかんがみれば,その後の取調べにおける被疑者の自由な意思決定を阻害し得るものとみるのが相当であって,社会通念上許されず,違法であるというべきである。
(2)  原告X5,原告X7及び原告X10に対する取調べの違法性
ア X5ノート,X7ノート及びX10書簡の信用性
前記第3・1(2)ア(オ),同ウ(エ)及び同カ(ウ)において認定したとおり,原告X5,原告X7,原告X10については,取調べ時に,それぞれX5ノート,X7ノート及びX10書簡を作成しており,これらの文書の記載内容,記載時期,記載方法及び弁論の全趣旨によれば,これらの文書の信用性は高く,これらの文書に記載された取調べの経緯であったとみるのが相当である。
イ 原告X10の取調べ机が動いた旨の供述
原告X10は,これに加えて,A22警部補において,買収会合についての取調べを行い,「X10はうそつきだ。」等大声をあげ,机を叩いたり,10センチメートルほど机が動いてきて原告X10に机が当たったりしたと主張し,原告本人尋問でそれに沿う供述をし,陳述書(甲陳第9号証)にもそれに沿う記載がある。
しかし,本件刑事事件の公判での被告人質問において,A22警部補が原告X10の弁解を聞かず,大声で「X10は会合があったのにないと言っている。」と述べたことなどを供述しているものの,机を叩いたかについては,弁護人から2度にわたり,机を叩いたことはあったかと質問すると「はい。」などと回答したが,弁護人が続けて具体的な態様を尋ねても回答がなく,机が動いてきたという点もあいまいな供述をしており(甲総ア第25号証の1088),原告X10の供述によっては,A22警部補による具体的な態様を認定することができないといわざるを得ない。
したがって,この点に関する原告X10の供述によっては,原告らの上記主張に係る事実を認定することはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はなく,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 原告X7に対する言動
原告X7は,これに加えて,A29警部補が,原告X7の取調時に,「お前は卑怯者だ。みんなが見ていると言うんだけど,お前は双子か,女優か。」と言って,たばこの空の箱を原告X7に向かって投げつけたなどと主張し,原告本人尋問でこれに沿う供述をし,陳述書(甲陳第6号証)にもこれに沿う記載がある。
しかし,原告X7の供述どおりの出来事があったとすれば,相当特徴的な出来事であったはずであり,X7ノートにその旨の記載があって然るべきであるが,X7ノートにもそのような記載がなく,原告X7のX7ノートの記載を超える特徴的な出来事についての供述は事実認定の基礎とすることができず,他にこれを認めるに足りる証拠はなく,原告らのこの点に関する上記主張は採用することができない。
エ 結論
そして,その他,X5ノート,X7ノート及びX10書簡に記載された内容の取調べが行われたことはうかがわれるが,身柄拘束されて取調べを受忍させられたこととは別途に,それらの態様の取調べを社会通念を超えた違法なものとまで評価することはできないというべきである。
(3)  原告X6の一筆調書の違法性の有無
原告らは,A12警部が,平成15年7月1日,否認する原告X6に対し,「X7が罪を認めた。X7はうそをつく人とは離婚すると言っている。」と,真実は,原告X7は自白していないのに,自白しているかのように虚偽の事実を述べて切り違い尋問をして一筆調書に署名させたなどと主張し,原告X6は,原告本人尋問でこれに沿う供述をし,陳述書(甲陳第5号証)にもそれに沿う記載がある。
しかし,原告X6は,逮捕事実を認める上記一筆調書の作成後に,同年7月2日のC5弁護士との接見で原告X7が完全否認のままであることを知り,怒り狂ったと供述する(甲総ア第25号証の1069,原告X6本人尋問の結果)ものの,前記第3・1(16)カ(オ)において認定したとおり,同年7月8日の取調べにおいて,再度否認に転じる理由につき,①留置場の房内に戻っていろいろ考えたところ,どうして事実無根のことでこのような裁判になったのかどうしても納得できないため,裁判でそのことを明らかにしたいと思うこと,②逮捕者の中で供述が分かれており,原告X6の供述でどちらかに決めると,反対の供述をした者から非難され,問題が発展して自殺者まで出るような事態も予想されることから,原告X6の判断ではなく,裁判所の判断で被疑事実の有無を決めて欲しいことを供述しているだけで,C5弁護士との接見の6日後であるにもかかわらず,原告X7が完全否認のままであったことを知ったことなど原告ら主張に係る切り違い尋問を基礎付ける事情に関する記載はなく,他に,原告らの主張する事実を立証するに足りる証拠はない。
したがって,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(4)  その余の原告らに対する取調べの違法性の有無
原告らは,その余の各原告の取調べについても違法があった点を種々主張する。しかし,原告らの主張に係る事実を認めるに足りる的確な証拠はなく,これらの点に対する原告らの主張は採用することができない。
(5)  争点(1)キに関する結論
被疑者に対する取調べは,事案の性質,被疑者に対する容疑の程度,被疑者の態度等諸般の事情を勘案して,社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度において,許容されるところ,A22警部補が原告X11に対して「誰が,俺が金をもらったと言ったのか。」と叫ぶよう指示をしたことは,著しい屈辱を与え人格を傷つけるものであって,原告X11の属性,本件買収会合の嫌疑の程度,被疑事実が公職選挙法違反における買収事案であって比較的軽微な刑が科せられることが多いこと等の事情にかんがみれば,その後の取調べにおける被疑者の自由な意思決定を阻害し得るものとみるのが相当であって,社会通念上許されず,違法であるというべきである。
9  争点(2)ア(第1次起訴までの捜査及び第1次起訴に関する検察官の違法性の有無)
(1)  総論
ア 第1次起訴までの捜査,勾留請求及び勾留延長請求並びに第1次起訴の違法
原告らは,第1次起訴までの捜査,X1焼酎4月22日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求,1回目会合5月13日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求,X1焼酎5月18日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求,これらの間の検察官の取調べ並びに第1次起訴の全てが違法である旨を主張する。
そこで,検察官の取調べ,勾留請求及び勾留延長請求並びに起訴の各違法性に関する判断基準について,以下,検討する。
イ 検察官の取調べ,勾留請求及び勾留延長請求並びに起訴の各違法性に関する判断基準
(ア) 被疑者の取調べの違法性について(職務行為基準説)
検察官は,「犯罪の捜査をするについて必要があるとき」は,その職務行為として,被疑者の出頭を求めて取り調べることが認められているから,被疑者に捜査の対象となっている犯罪の嫌疑があり,当該犯罪の捜査をするについて必要性が認められる限り,検察官は当該被疑者に対する取調べを行うことができ,その具体的な取調べ方法は検察官の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであり,これが違法と評価し得るか否かについては,その方法が,検察官に認められている裁量の範囲を逸脱し,取調べの目的に照らして社会通念上およそ不相当といえる程度に達しているか否かによって判断するのが相当である(最高裁判所昭和49年(オ)第419号昭和53年10月20日第二小法廷判決・民集32巻7号1367頁,最高裁判所昭和59年(オ)第103号平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁を,最高裁判所昭和61年(オ)第1428号平成5年3月16日第三小法廷判決・民集47巻5号3483頁,最高裁判所平成6年(オ)第1119号平成9年8月29日第三小法廷判決・民集51巻7号2921頁参照)。
そして,上記判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なお検察官に認められている裁量の範囲を逸脱し,取調べの目的に照らして社会通念上およそ不相当といえる程度に達しているか否かという観点から検討されるべきである。
(イ) 勾留請求及び勾留延長請求の違法性について(職務行為基準説)
前記第3・2(1)イにおいて判示したとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による捜査活動が違法とされるわけではなく,検察官が勾留請求又は勾留延長請求を行ったことについての違法性は,職務行為基準説に立った上で,勾留請求又は勾留延長請求時において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,勾留請求又は勾留延長請求において要求される犯罪の嫌疑及び勾留の必要性等があると思料したことが,証拠の評価について法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきである。
(ウ) 公訴提起の違法性について(職務行為基準説)
検察官の公訴提起の違法性についても同様に,職務行為基準説に立った上で,公訴提起時において検察官が現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,有罪と認められる嫌疑があると判断した検察官の証拠評価及び法的判断が,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているかどうかで判断すべきである。
さらに,本件のように,公訴が一連の公訴事実について数次にわたって提起された場合には,公訴提起の間に時間的隔たりがある以上,当初の起訴時点の証拠資料のみに基づいて判断するのではなく,各公訴提起の時点におけるそれまでに明らかになった全ての証拠資料を総合勘案して,各公訴提起及び既に提起した公訴に係る訴訟追行行為が,検察官が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反するか否かによって決する必要があり,仮に,公訴提起後,公判において嫌疑を否定する証拠が提出され,既に提起した公訴及び新たに提起する公訴については,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたにもかかわらず,新たに公訴を提起し,既に提起した公訴につき公訴追行を継続した検察官において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記公訴追行をしたと認められるような特段の事情がある場合には,公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,当該検察官には過失があるというべきである(最高裁判所平成17年(受)第1977号平成19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)。
(2)  第1次起訴までの検察官の取調べ
ア 原告X1のマウスコードによる特異行動
原告らは,A75検事が,平成15年5月27日の取調べで,否認する原告X1に自白を強要し,原告X1がマウスコードで自らの首を絞めるなどの特異行動を取った旨を主張する。
検察官の具体的な取調べ方法は検察官の合理的な裁量に委ねられているところであり,検察官の被疑者に対する取調べが自白を強要するものとして国家賠償法上違法とされるのは,取調べの対象となった事案の内容・性質,被疑者に対する嫌疑の程度,被疑者の供述内容を始めとする取調べ時点における証拠関係の下での取調べの必要性・目的等の諸般の事情を勘案して,当該取調べが,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なお当該取調べが社会通念上相当と認められる範囲を超えていないと認められるかどうかを個別的,具体的に検討し,その範囲を超えていると認められる場合と解される。
したがって,検察官が,被疑者に対し,事実を供述するように説得したからといって,直ちに自白を強要したことにはならないし,被疑者の過去の供述の真否を確かめ,あるいは相反する供述の変遷の経過及びその理由,それまでの捜査により判明した客観的な事実との照合による真否の確認をする場合も,直ちに自白を強要したことにならない。
本件では,確かに,前記第3・1(11)ウ(ト)において認定したとおり,原告X1が原告ら主張に係る特異行動を取ったことは認められる。
しかし,原告X1は,同年4月18日のA14警部補の取調べにおいてもトイレに閉じこもり,「殺して」と叫ぶなどの特異行動を取っており,原告X1の供述によれば,A14警部補に焼酎を配ったことを厳しく追及されたためであるとする。しかし,同年4月18日のA14警部補の取調べにおいてどのように自白を強要されたかが明らかではないことは,前記第3・3(2)ウ(ウ)において判示したとおりであり,A75検事の場合であっても,どのように自白を強要されたかが明らかではなく,原告X1の特異行動の原因が,原告X1自身の個人的な属性にある可能性も排除することができず,A75検事が社会通念上許される範囲を超えた追及的な取調べをしたことを認めるに足りる的確な証拠はなく,社会通念上許される範囲を超えた追及的な取調べがあったとする原告X1の供述は事実認定の基礎とすることができない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
イ 原告X2に対する自白強要の有無
原告らは,A77副検事が,平成15年5月22日,A93弁護士からの,検察官に真実を告げるようにとの助言に従って被疑事実を否認した原告X2に対し,「お前は男じゃない。」,「あんたに付いている弁護士は,否認をさせるようじゃ弁護士じゃない。」,「認めて,早く社会復帰するようにした方がいいんじゃないか。」,「X1は認めてちゃんと話しているんだ。」,「ご飯を食べて頭を冷やしてこい。」などと告げて自白を強制したと主張し,原告X2は原告本人尋問でこれに沿う供述をする。
確かに,A77副検事がした発言に関する上記供述は,相当程度具体的で迫真性に満ちたものであって,A77副検事が,本件刑事事件の公判において,上記趣旨の発言はしていないと供述してはいるものの(乙国第239号証),A77副検事が係る発言をした可能性は十分に認められる。しかし,A77副検事の係る発言の内容からすると,不穏当かつ不適切な発言ではあるものの,原告X2の供述が曖昧な面もあることも併せ考えると,直ちに,A77副検事が原告X2に対して自白を強制したもの又はA77副検事の発言が原告X2の供述の任意性,信用性等を失わせるものとまで評価するには足りないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 警察官による取調べの影響を排除しなかった違法性の有無
原告らは,検察官の「公益の代表者」性を根拠として,検察官には,「公正義務」・「客観義務」が課され,司法警察職員の捜査の行き過ぎや偏向を抑制する一般的指示権,一般的・具体的指揮権(刑事訴訟法193条)を有しているから,自白と否認が繰り返されたり,供述内容の変遷が顕著な場合,その他,被疑者の言動等から被疑者の供述の任意性や信用性に影響を及ぼすような警察での取調べの問題があることを示唆する兆候がみられる場合,直ちにすなわち,警察の取調べ状況に疑問を抱き,自ら調査を開始する必要があり,検察官の取調べは,警察での取調べにおける恫喝や不当な誘導の影響を遮断した上で,公正さを保ってなされるべきであって,供述調書の記載内容を基にした不相当な誘導を行って,そのまま引き写したような検面調書を作成するようなことがあってはならないと主張する。
確かに,検察官は,被疑者に対する取調べを実施するに当たっては,嫌疑がある以上,あらゆる角度から取調べを行い,事案の真相究明に努めるべき職責を負っているから,原告ら主張のとおり,司法警察職員の捜査の行き過ぎや偏向があれば,検察官が,一般的指示権,一般的・具体的指揮権(刑事訴訟法193条)を行使して,それを是正し,自ら調査を開始することがあるのは,もっともであって,検察官は,その裁量でもって,上記権限を行使することが可能である。しかし,その方法も検察官の裁量に委ねられているというべきであって,検察官の取調べが,警察での取調べにおける恫喝や不当な誘導の影響を遮断した上で公正さを保ってなされない場合に,国家賠償法上違法となるのは,上記裁量を逸脱した場合であって,本件では,かかる裁量の逸脱を認めるに足りる事実はない。
エ 弁護権侵害となる違法性の有無
(ア) 本件調書化方針の危険性
本件刑事事件においては,A75検事が本件調書化方針を採ることを決定し,検察官が,県警の警察官とともに,本件買収会合を継続的に認めていた原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1から繰り返し,接見内容等を聴取し,前記第3・1(30)において認定したとおり,本件調書化方針に基づき,合計で70通以上の供述調書が作成されており,前記第3・6(1)イ,同ウにおいて判示したように,供述調書の中には,弁護人との接見内容のほか,弁護人の発言についての被疑者なりの意味付けやそれに対する感想等も記載され,弁護人の助言に対しては,多くの供述調書で嘘をついて否認するよう求めてきたなどの意味付けが加えられ,それに対する感想として,依頼者である被疑者本人の利益ではない,原告X6などの利益を考えていると思ったなどの感想が述べられ,それらに加えて弁護人に対するあからさまな不信感や嫌悪感を示すものもあるなどしており,これらの全てを被疑者が自発的に回答したとは考えがたく,本件調書化方針が弁護人の懲戒請求も視野に入れたものであったことも併せ考慮すれば,弁護活動の違法性のニュアンスを引き出そうとした取調官によって相当程度の誘導がなされた結果であるとみるのが相当であるし,仮に,取調官が明示的に誘導しなかったとしても,十分な法律知識があるような被疑者である場合はさておき,そうではない被疑者であれば,被疑者が弁護人の助言に従って否認した後,自白に転じた場合等において,弁護人との接見内容,弁護人の発言についての被疑者なりの意味付け,それに対する感想等を質問すれば,供述の時点では被疑事実を自白した後であるから,被疑事実があったことが真実であることを前提とする以上,その回答内容は,弁護人の助言について否定的なニュアンスで説明せざるを得なくなることは容易に想定することができるところ,捜査官が被疑者に対しそのような質問を繰り返して,その供述内容を何度も調書化することは,被疑者に対し,弁護人に対する不信感や,自白を前提とした情状立証以外の弁護方針に対する拒絶感を植え付けたり,それらを増大させる危険性が高く,弁護人との信頼関係を構築することが困難となるおそれのあるものであることは明らかである。
(イ) 正当な弁護活動の逸脱の有無
そして,捜査機関に広範な裁量権があるとしても,弁護人選任権及び接見交通権の重要性にかんがみ,上記のような捜査手法をみだりに採ることが許されないことは明らかであるところ,前記第3・1(30)イにおいて認定したとおり,A75検事は,A14警部補の取調べで作成された原告X1の同月18日付けの供述調書に「弁護士さんが私にお金や焼酎はやったことはないと言いなさいと言いました。」との記載があること,A18警部補の取調べで作成された原告X3の同月19日付け供述調書に「刑事さんから何を言われでも行っていない,貰っていないと専門家の弁護士から言い通すように言われ」との記載があることを根拠として,弁護人が被疑者に否認を働きかけており,それらの働きかけが同時期に行われていることから,組織的なものである可能性があると考えて,A79検事正及び当時の検察庁の次席検事と協議の上,本件調書化方針を採ることを決定し,A12警部を通じて,県警の捜査官らに対し,その旨を指示するとともに,検察庁の検察官らに対しても同様の指示をしたものである。
前記第3・6(1)エにおいて判示したとおり,一般に,弁護人は,接見時に弁護人からの事実確認に対して被疑事実がなかったと述べる被疑者に対して,捜査機関に対しても被疑事実がなかったと述べるよう助言することはもとより,被疑事実を認めている被疑者であっても,それが虚偽の自白であると合理的に疑われるような場合に安易な自白を慎むよう助言することは正当な弁護活動であるというべきであるが,原告X1の同月18日付け供述調書及び原告X3の同月19日付け供述調書の記述のいずれにも,被疑者が弁護人に対して被疑事実につきどのように説明していたのか何ら記載がなく,弁護人が正当な弁護活動を逸脱した行為をしていることをうかがわせる事情は見いだせない。
したがって,そのような状況下で,A75検事が,本件調書化方針を採り,前記第3・1(30)イにおいて認定したとおり,志布志署での本件現地本部の捜査会議に出席して,弁護人が被疑者に圧力を掛けているようであること及び検察庁では場合によっては弁護人についての懲戒処分申請も考えられることを告げて,①被疑者が接見後に否認に転じた場合はその理由を聞いて,その理由が弁護人の否認の働きかけがあったということが明らかになれば調書化し,その否認の働きかけが弁護人の違法な弁護活動である場合も調書化するよう指示したことや,A73検事が本件調書化方針を引き継いだことは,弁護人に対する不信感や,自白を前提とした情状立証以外の弁護方針に対する拒絶感を植え付けたり,それらを増大させる危険性が高く,弁護人との信頼関係を構築するのが困難となるおそれのあるものであった。そして,現にその後に膨大な通数の調書が作成されるに至ったのに,A75検事及びA73検事において,上記おそれを看過し,本件調書化方針を何ら是正しなかったことにつき,過失があるというべきである。
そして,その後の捜査においても,弁護人の違法な弁護活動の兆候を認めるに足りる証拠はなく,検察官が,前記第3・1(30)において認定したとおり,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1に対し,接見内容を事情聴取して調書化したことに過失があるというべきである。
(ウ) 県警の接見内容聴取に係る取調べの違法
以上のことからすると,検察官が,県警の警察官とともに,第1次起訴までの間に,本件公職選挙法違反事件の捜査において行った本件調書化方針に基づいてした,前記第3・1(30)において認定した原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X9に対する接見内容を聴取した取調べは,違法であるというべきである。
(エ) 被告国の主張
これに対して,被告国は,①刑事訴訟法所定の手続を履践するという正当な目的がある場合や,被疑者が供述を変遷させた場合に,その理由を把握して供述の信用性を吟味・検討するといった捜査上の必要性が認められる場合には,相当な範囲で,弁護人等との接見状況を聴取することは,刑事訴訟法39条1項の趣旨に反するものとはいえず,②被疑者が,黙秘権の保障の下,接見内容について自発的に供述したのであれば,被疑者自身が秘密交通権を放棄して接見内容を捜査機関に告げたものである以上,被疑者自身の「法律上保護された利益」の侵害は認められず,また,これによって被疑者自身に,弁護人等に対する相談を躊躇するなどの萎縮的効果が生じることはおよそ想定し難いから,このような場合もまた,被疑者や被告人が弁護人との間で自由に意思疎通を行い,充実した弁護を受ける権利を保障した刑事訴訟法39条1項の趣旨に反するものとはいえず,検察官が接見内容を聴取することが,国家賠償法上違法となることはない旨を主張する。
しかし,被告国の主張が認められる場合があるとしても,本件刑事事件における本件調書化方針に基づく膨大な通数の供述調書の作成に照らして,被告国の主張は採用することができない。
オ その他の違法
原告らは,他にも第1次起訴までの検察官の取調べにおいて,検察官が被疑者の主張や弁解を聞こうとせず,自白を強要するなど客観義務に反した取調べをした違法があると主張する。
しかし,いずれも検察官の取調べに違法があったことを認めるに足りる的確な証拠はなく,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(3)  勾留請求及び勾留延長請求の違法性の有無
ア X1焼酎4月22日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
前記第3・3(4)において判示したとおり,X1焼酎4月22日捜査事件についての県警の身柄拘束が違法でないところ,X1焼酎4月22日捜査事件の勾留請求についても同様に一定の合理的な嫌疑があったというべきであり,その後の各関係者の供述の変遷等に照らせば,その勾留延長もやむを得ないというべきであるから,いずれも違法ということはできない。
イ 1回目会合5月13日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
(ア) 合理的理由の有無
前記第3・1(9)ナ,同(10),同(11)において認定したとおり,A75検事は,平成15年5月6日頃,4回の本件買収会合の被疑事実の概要の報告を受け,1回目会合について強制捜査する方針を取ることを決定し,同月14日及び同月15日,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5及び亡A1について,それぞれ身柄付き送致を受けたこと,同日の勾留請求勾時までの供述等によれば,原告X1ら6名のうち,原告X1,原告X2,原告X4及び亡A1が事実を認める供述をしており,その内容も大筋で符合し,しかも,出席者の一部が口論となったことや,会合の場で現金の入った封筒を破ったこと程度の具体的な内容が含まれていたこと,これらの供述を裏付ける原告X8,A88の各供述もあったことが認められる。
そして,A75検事の弁解録取手続においても原告X1ら6名のうち,原告X5を除く5名が被疑事実をいずれも認めたことも併せ考慮すれば,前記第3・4(2)において判示したとおり,本件買収会合の構図が不自然なこと,1回目会合が4畳半の中江の間に参加者11人が集まったとするなど,供述内容に不自然な部分があること,本件買収会合の端緒からの本件無罪原告らの供述に大きな変遷があることを考慮してもなお,本件箝口令による捜査の詳細を認識しているとはいうことのできないA75検事において,県警の捜査結果に対する吟味が結果として不十分であり,本件現地本部による事件の見立てをそのまま追認する程度の判断であったとはいえ,原告X1ら6名において罪を犯したと疑うに足る相当の理由があるとした判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえず,未だ法の予定する一般的な検察官の判断として合理的理由が欠如しているということはできない。
(イ) 本件予約帳の精査
原告らは,検察官が通常要求される捜査を行っていれば,平成15年5月15日の勾留請求時までに,1回目会合参加者の同年2月上旬の動向等が明らかになり,本件予約帳を精査することで同月8日に原告X6が本件新年会に出席していた事実も明らかになって,同月上旬に1回目会合を開催するのが不可能であることが判明したはずであるなどと主張する。
確かに,本件予約帳は,前記第3・1(6)ア(ウ)において認定したとおり,A5が原告X6と一緒に行動した日時を調査するために警察が入手したものであるものの,判読が困難な部分もあり,結果として,同年5月15日の勾留請求時までに,同年2月8日における原告X6の本件新年会への出席が直ちに明らかになるものではなかった。
そこで,同年5月15日までの時点で,本件予約帳を精査することが検察官として通常要求される捜査ということはできないし,その余の1回目会合参加者の動向については,いつの時点でどのような具体的な捜査を行うことが通常要求される捜査であるか明らかでないから,原告らの上記主張は採用することができない。
(ウ) 現金の原資及び受供与者の使途
原告らは,本件刑事事件の供与金の合計額である191万円もの高額の現金の原資及び受供与者の使途が全く解明されておらず,供与金の原資の解明及び受供与金の使途の解明は,捜査事項の基本中の基本であり,そして,これらは,通常要求される捜査を遂行すれば収集しえる証拠資料であったなどと主張する。
しかし,第2次強制捜査までに,原告X6及び原告X7に対して,任意に事情聴取して,供与金の原資の解明及び受供与金の使途の解明を図るために,原告X6名義及び原告X7名義の預貯金通帳のほか,原告X6が経営に関与するf社,d社,有限会社b,有限会社c名義の預貯金通帳,その他帳簿類の提出を求めることは,捜査機関の関心事項を開示することとなり,その場合には罪証隠滅の可能性があるとして,その時点でこれらの捜査を避けることには,十分な合理性が認められる。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(エ) その他の原告らの主張
原告らは,その他,種々主張するものの,いずれも上記評価を覆すに足りるものということはできない。
ウ X1焼酎5月18日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
原告らは,X1焼酎5月18日捜査事件における逮捕及び勾留が別件逮捕勾留であったとして,勾留請求及び勾留延長請求が違法である旨を主張する。
しかし,前記第3・1(12)において認定したとおり,平成15年5月18日以降においても,捜査機関がX1焼酎事件についての捜査を継続していることが認められ,この点に関する原告らの主張を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって,この点に関する原告らの上記主張は採用することができない。
(4)  第1次起訴
ア A75検事による第1次起訴の判断
前記第3・1(14)ア及びエにおいて認定したとおり,A75検事は,平成15年6月3日,①原告X2,原告X4,原告X3,亡A1の4名の自白内容が,1回目会合の詳細及び4回の本件買収会合の概要の各枢要部分で一致し,相互に信用性を支え合い,上記4名が概ね一貫して事実を認めているといえるものと評価し,被疑者が一部自白と否認を繰り返している点は,弁護人による捜査妨害が理由であり,信用性を減殺するものではないと評価し,②本件箝口令の結果,4回の本件買収会合に関する被疑者の供述が一致したことも信用性を高める要素の一つと評価し,③1回目会合の自白の中に,亡X12と原告X9が口論をしたこと等,秘密の暴露ではないものの,被疑者しか知り得ない事情であり,供述の信用性を高めるものと評価し,④原告X4の同年2月8日の携帯電話の料金をはじめとするいくつかの点において使途の裏付けが取れ,使途先が一部しか取れないことは,一人当たり6万円という受供与金額においては不自然ではないと評価し,原資についても総額36万円という供与金額においては,判然としなくても不自然ではないと評価し,⑤原告X2の弁解録取手続時の供述態度が真摯であったと評価したことなどから,上記4名の自白の信用性があって,有罪を獲得できる見込みがあると判断して,第1次起訴を行った。
イ A75検事の評価に関する判断
上記のとおり,A75検事は,本件箝口令の結果,4回の本件買収会合に関する被疑者の供述が一致したことも信用性を高める要素の一つと評価しているところ,そうであれば,4回の本件買収会合は,全て存在するか全て存在しないかという一体のものとみて,4回の本件買収会合全体について,使途や原資の裏付けの程度が不十分であること,小規模の集落で繰り返し,会合を行うこと等の構図の不自然さ等を考慮すべきであったとの原告らの指摘はもっともであり,その他,前記第3・1(12),同(13)において認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1は,X1焼酎事件も含めた余罪事件を多数にわたり供述していたほか,X1焼酎事件についてではあるが,亡A1が空き瓶をリサイクルに出したと裏付けの取れない供述をし,その後,原告X3が回収したと供述して,原告X3が空き瓶の回収の事実を認めたが,今度は,原告X3が回収した空き瓶の処理について裏付けの取れない供述を繰り返したことなど,被疑者の自白内容について疑義を生じさせる事実が少なからず認められ,さらに,原告X1が自白と否認を繰り返している点を弁護人からの捜査妨害の結果とみており,その評価を誤ったものといわざるを得ない部分もある。
ウ 一般的な検察官の判断として不合理であるとまではいうことができないこと
しかしながら,他方で,自白者が4名,かつて自白していた者が1名おり,その供述が4回の買収会合の概要についても,1回目会合の開催状況の詳細についても一致している部分が相当多岐にわたること,同日の時点では,1回目会合の開催日に関して合理的な説明が可能であり,原告X4の携帯電話代の支払明細等の客観的証拠と供述が合致しているとみることができること,原告X9やA136の供述も上記各自白と整合する内容の供述をしていたこと,原告らが主張する供述の不一致部分等は,4回の会合の混同や記憶の変質等で説明できる部分も少なくないという見方も可能であること,検察官は,犯罪の一部のみを起訴することなどの広範な裁量が認められており,他方で検察官が捜査において与えられた期間が限られているため,先行して1回目会合を起訴し,4回の会合全体に係る供与金の使途及び原資,4回の会合が繰り返された理由等は,その後の捜査による解明を待つことも判断としては必ずしも不合理なものとはいうことができないことも考慮し,第1次起訴の時点で,自白者が虚偽の自白を行っていることを疑うことが一般的であるともみることはできず,A75検事が,第1次起訴の時点において,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査により入手し得た証拠資料を総合勘案して,原告X1ら6名について有罪と認められる嫌疑があるとしたことにつき,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達して不合理であるとまではいうことができず,第1次起訴は違法ではないとみるのが相当である。
エ 本件新年会への参加に係る捜査
原告らは,通常要求される捜査をすれば,原告X6が平成15年2月8日に本件新年会に参加していたことが判明していたはずである旨を主張する。
しかし,この点に関する原告らの主張を採用することができないのは,前記第3・9(3)の1回目会合5月13日強制捜査に係る勾留請求等の違法性に関して説示したとおりである。
(5)  争点(2)アに関する結論
以上によれば,本件の事実関係に照らして,原告ら主張に係る違法につき,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているか否かを判断すると,第1次起訴までの捜査,勾留請求及び勾留延長請求並びに第1次起訴の違法に関しては,検察官が,県警の警察官とともに,第1次起訴までの間に,本件公職選挙法違反事件の捜査において行った本件調書化方針に基づいてした原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,亡A1及び原告X9に対する接見内容を聴取した取調べは,違法であるというべきであるものの,その他の原告ら主張に係る違法は認めることができない。
10  争点(2)イ(第2次起訴までの捜査及び第2次起訴に関する検察官の違法性の有無)
(1)  4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
前記第3・1(14),同(15),同(16)において認定したとおり,第2次強制捜査の期間中に4回目会合事件について,原告X8,亡A1,原告X3,原告X2,原告X4の供述を得ており,平成15年6月上旬の時点において,本件買収会合についてなお嫌疑が完全に否定されるものでなかったことは,第1次起訴の違法性に関して説示したとおりである。
そして,本件の証拠構造,供与者と受供与者の関係等に照らせば,A73検事の4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件の勾留請求についての判断が合理性を欠くものとして違法性があったと評価することはできず,関係者が多数にわたり,供述が完全に一致していたり,裏付け捜査が不要なほどに事案が解明されていたということもできない。
したがって,それらの勾留延長請求についても,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえず,違法性があったということはできないというべきである。
(2)  4回目会合6月25日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
ア 第4次強制捜査の判断
前記第3・1(16)において認定したとおり,第3次強制捜査の期間中に4回目会合事件について各種捜査を行い,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1が4回目会合の詳細を供述し,原告X1の供述からX1宅の裏の杉山からばらん等が発見されるなどした一方で,原資及び使途のいずれも十分に裏付けが取れなかったこと,オードブルについても原告X1の供述した入手先のmホテルから裏付けが取れず,さらに,平成15年6月13日以降,オードブルは原告X7らで用意したと供述するなどしたため,その入手先の特定が未定となっていたこと,4回目会合の開催日も特定されなかったことから,引き続き第4次強制捜査が行われた。
上記原資,使途の裏付けが取れないこと,原告X1がオードブルの入手先を合理的に説明していないこと,会合の開催日も特定していないことは,いずれも供述の信用性を大きく減殺するものと評価することができるが,他方で原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1の6名の供述が概ね一致することなどを総合的に考慮した場合,なお,A73検事において,強制捜査を行うだけの嫌疑があるものとして,第4次強制捜査を行うと判断することに合理性がないとはいえず,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえず,これを違法と評価することはできないというべきである。
イ A135の証言の信用性の低さ
原告らは,本件現地本部において,平成15年6月13日頃,原告X6が同年3月24日にmホテルで開催された本件懇親会への出席及び同年2月8日にmホテルで開催された本件新年会への出席の各事実を把握したと主張し,A135は,同年6月13日頃,オードブル入手の裏付け捜査のためmホテルを訪れた本件現地本部の捜査員に対応し,mホテルの宴会台帳を任意提出したこと,原告X1ほかの原告らの4回目会合事件の自白供述において,4回目会合の開始時間が,それまで大半の者が午後7時30分としていたのに対し,同日頃を境に,午後8時頃とする供述に変遷していること等の事実をその根拠とし,A135はその証人尋問においてこれに沿う証言をし,陳述書(甲総ア第382号証)にもこれに沿う記載がある。
しかし,A135の証言は,A135が,同年6月当時,本件現地本部において1回目会合と4回目会合がいつ開催された可能性が高いと認識していたのかを知らなかったにもかかわらず,本件現地本部の捜査員から問われてもいない本件新年会と本件懇親会がmホテルで開催された事実を捜査員に告げて,宴会台帳を任意提出し,捜査員が任意提出書等の作成を一切せずにその原本を持ち帰ることになり,mホテルには宴会台帳のコピーを残して営業を続けたというものであり,その内容が極めて不自然であり,本件現地本部が同年7月24日に原告X6のアリバイ捜査のためにmホテルに事情聴取に訪れたことと混同している可能性を否定することができず,これを信用することができない。
また,原告X1ほかの供述における4回目会合の開催時間が午後8時頃に変遷している理由は,他の参加者のアリバイに関連して事情聴取が再度行われた結果である可能性等も否定することができず,このことをもって,本件現地本部において,同年6月13日頃,原告X6が同年3月24日にmホテルで開催された本件懇親会への出席の事実を把握したこと等を推認することはできないというべきである。
他に,この点に関する原告らの上記主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(3)  1回目会合6月29日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
原告らは,1回目会合6月29日捜査事件が嫌疑なき違法な勾留であると主張する。しかし,前記第3・1(10)カ,同(11)イ(オ),同(11)ウ(ク),同(セ),同(タ)において認定したとおり,複数の被疑者が原告X9が1回目会合に出席していたことを供述しており,検察官において,強制捜査を行うだけの嫌疑があるものとして,1回目会合6月29日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求を行う必要性があると判断することに合理性がないとはいえず,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえず,これを違法と評価することはできないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(4)  検察官の取調べ
ア 客観義務違反
原告らは,検察官の取調べに客観義務違反となる違法があった旨を主張する。
しかし,そのような違法な取調べがあったことを認めるに足りる証拠はない。
イ 起訴後の取調べ
原告らは,検察官の取調べに違法な起訴後の取調べがあった旨を主張する。
しかし,被告人の当事者たる地位に照らし,なるべく避けなければならないとはいえ,その必要性がある限り,任意捜査として,これを行うことが許容されていること,本件において,捜査の必要性自体は否定することができず,本件全証拠によっても,任意捜査としての限界を超えた取調べが行われたことと認めることはできないこと,被告人の取調べにおいて,弁護人の了解や立会い等を要するとまでは解することはできないことはいずれも前記第3・7において判示したとおりであり,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 弁護権侵害となる取調べ
被告国は,本件において,検察官が接見内容を聴取したことが,国家賠償法上違法となることはない旨を主張する。
しかし,検察官が,本件調書化方針に基づき,県警の警察官とともに,本件買収会合を継続的に認めていた原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1から繰り返し,接見内容等を聴取したことは,弁護人との信頼関係を破壊する危険性の高い捜査であったことは,前記第3・6(1)において判示したとおりである。
そして,前記第3・1(30)イにおいて認定したとおり,A73検事も本件刑事事件の主任検察官となった平成15年6月4日以降,本件調書化方針を維持しており,この判断に過失があることはA75検事について前記説示したのと同様であり,これに基づき,検察官が,前記第3・1(30)において認定したとおり,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8に対し,接見内容を事情聴取して調書化したことについては,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しており,過失があるというべきである。
したがって,検察官が,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X9に対し,接見内容を事情聴取して調書化したことに過失があるというべきである。
(5)  第2次起訴
ア A73検事による第2次起訴
前記第3・1(17)において認定したとおり,A73検事は,平成15年7月17日,第2次起訴を行った。その判断の根拠は,①自白をしている原告X1,亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X3の6名の自白内容が概ね一致しており信用性が高く,②被疑者の携帯電話の通話履歴,タイムカード等の資料等に合致し,合理的に4回目会合の開催日を特定することができたことが上記自白を裏付けておら,③オードブルの入手先について,原告X6の関与する農場近くの店舗で同年3月24日の販売歴があり,同店の経営者は売却先が原告X6であることを否認するが,同店の従業員の中に亡A1の親族がいるなど,同店の経営者が虚偽の供述をする動機があり,同店がオードブルの入手先である可能性が高く,実際,X1宅の裏からオードブルの残存物が発見され,④X1宅から11万円程度在中の本件貯金箱を発見したことで使途の一部が解明され,⑤原告X8が,4回目会合の受供与金10万円のうち,半額の5万円を原告X8の親戚5名に1万円ずつ供与した旨の供述をし,裏付けは取れなかったものの,あえて虚偽の供述をして親族を罪に陥れる動機がなく,信用性を肯定することができ,⑥4回にわたって多額の現金買収が行われた点は,四浦校区の特殊な選挙風土や,各回毎に異なる開催の契機と動機があったことから説明がつき,⑤自白している被疑者らがA2県議派の陰謀であることを否認したことから,A2県議派の陰謀の可能性がなく,⑥被疑者の供述に変遷と不一致が多く,警察官の誘導あるいは警察官への迎合ではなく,⑦本件刑事事件では接見の指定を終始一貫して行っていないにもかかわらず,被疑者は一部の者を除いて弁護人との接見した後も一貫して自白しており,自白が全体として,自由な弁護士の接見を経ても揺るぎがないものとして,自白の信用性及び任意性が肯定できるというものであった。
以下,A73検事の各判断を検討する。
イ A73検事の判断
(ア) オードブルの入手先
上記A73検事の判断のうち,オードブルの入手先の点は,上記店舗の経営者が虚偽の供述をしたものとの結論が出されているが,前記第3・4(2)エにおいて判示したとおり,原告X1には,その入手先を捜査機関に対して秘匿する合理的理由は考えられず,本件買収会合でオードブルが提供されたのは4回目会合のみであるから,原告X1が,オードブルの入手先を忘却した等とも考えにくいといわざるをえず,そもそも,原告X1は,早く事件を終わらせたいとして自白をしているにもかかわらず,mホテルからオードブルを入手した旨等を供述して,その裏付け捜査を行わせるなどしており,このような原告X1の供述態度は,体験していない事実を供述しているのではないかという点が検討されるべきである。
そして,前記第3・1(15)エ(ア)d,同(16)ク(サ)において認定したとおり,県警は,オードブルの裏付け捜査を平成15年5月から行い,捜査する範囲を次第に拡大させていったが,同月25日までには,その特定に至らず,同日,原告X1が事実関係を否認するに至り,A73検事が主任捜査官を引き継いだ同年6月4日以降も,オードブルの入手先を特定することができていないことはA73検事においても把握していたこと,A75検事が,同月8日,原告X1の取調べをして,同日付け供述調書を作成したところ,同供述調書中,4回目会合で提供された酒類については,原告X7が会社から持ってきたものであるとしてその入手先の供述が記載されているのに対し,つまみ類については何らの記載がないことなどに照らしても,本件刑事事件を担当した検察官において,原告X1の同日のオードブルの入手先に係る供述内容に疑いを持っていたことは明らかであり,そうであるとすると,原告X1が同月13日頃になって,オードブルの入手先について原告X7らにおいて用意したとの供述をしたこと自体の信用性についても疑いを持って然るべきであり,同店の従業員の中に亡A1の親族がいたこと程度の事情をもって,同店の経営者が虚偽の供述をしたと結論付けるのは,事後的に判断すると,検討が不足していたといわざるを得ない。
また,その他にもオードブルの残存物が発見されている点についても,前記第3・1(16)エ(ア)iにおいて判示したとおり,4回目会合の残存物かどうかは明らかでなく,かえって,はご板型の料理用装飾品とともに発見されていることからすると,正月料理の残存物である可能性等も否定することができないこと,第3次強制捜査及び第4次強制捜査を経てもなお原資が解明されていないことも併せ考慮すると,A73検事の判断は,十分な検討がされていたとは言い難く,事後的に判断すると,必ずしも合理的なものであるとはいい難い。
(イ) 受供与金の使途
上記A73検事の受供与金の使途に関する判断のうち,まず,本件貯金箱の点についてみると,前記第3・4(2)エ(ア)cにおいて判示したとおり,本件買収会合の受供与金の使途と考えるには在中している硬貨の枚数が多すぎるのであって,原告X1の供述の信用性は認められないというべきである。
次に,原告X8が本件買収会合の受供与金のうち5万円を親戚5名に1万円ずつ供与したという点についてみると,①原告X8の供述が,それまでも激しく供述が変遷していて,A36巡査部長において,供述調書中にまで原告X8の供述に信用性がないことを記載される程度に達していたこと,②前記第3・1(15)エ(エ)dにおいて認定したとおり,原告X8の従前の供述において,事情を知っている同居の義母が受供与金を隠しているという趣旨のことを供述していて,親戚が罪を追及されかねない内容のことは既に供述していたことからすると,原告X8において,あえて虚偽の供述をして親族を罪に陥れる動機がなく信用性を肯定できるということもできない。
したがって,A73検事において原告X1や原告X8の受供与金の使途に関する上記各供述が信用することができるとする判断をしたことは,事後的に判断すると,検討が不足していたといわざるを得ない。
(ウ) 四浦校区の特殊な選挙風土や本件買収会合の開催の動機
上記A73検事の判断のうち,四浦校区の特殊な選挙風土や本件買収会合の開催の動機について,本件買収会合の構図の不自然性を何ら合理的に説明し得るものでないことは前記第3・4(2)ウ(ウ)において判示したとおりである。
なお,被告国は,A73検事が,原告X6において,四浦校区の有権者数114名の票のみを目当てに4回にわたる買収会合を開催したのではなく,X1宅での買収会合を開催していく過程で,更に買収会合を開催する必要が生じ,結果的に4回の買収会合を開くこととなったものと判断した旨を主張するが,前記第3・1(17)キ(ウ)において認定したとおり,A73検事は,本件刑事事件における被告人に対する起訴後の接見禁止等請求において,a3集落は,同じく四浦校区に属するa4集落,a1集落,a2集落の者らとは緊密な関係にあるものの,それ以外の者に対しては極めて閉鎖的排他的な集落であると主張しており,そのような性格を持つ集落の住民を対象に,四浦校区外の者らへの違法な働きかけを期待したと判断していたのであれば,そのこと自体不合理であるというべきであって,被告国が主張する点は,上記認定・評価を覆すものではなく,これを採用することはできない。
したがって,A73検事の,四浦校区の特殊な選挙風土や本件買収会合の開催の動機についての判断が,事後的にみると,検討が不足していたといわざるを得ない。
(エ) 被疑者の供述に変遷と不一致が多いこと
上記A73検事の判断のうち,被疑者の供述に変遷と不一致が多いことをもって,警察官の誘導あるいは警察官への迎合がないと結論付けた点も,前記第3・9(4)イにおいて判示したとおり,被疑者が余罪事件を多数にわたり供述し,X1焼酎事件における空き瓶の回収について裏付けの取れない供述を複数の者がしていること,多くの者の供述が裏付けの取れない供述の後に変遷するなどしており,変遷の少ない原告X2は,当初から裏付けの取れない供述をしているにすぎないことなど警察官への迎合を疑う事情も多数存在することからすると,事後的にみると,かかる被疑者の供述の変遷と不一致につき検討が不足していたといわざるを得ない。
(オ) 接見後の自白の維持
上記A73検事の判断のうち,原告らが弁護人との接見後に自白を維持していることを信用性を高めるものと結論付けている点については,上記説示したとおり,A73検事において,本件調書化方針を維持して接見内容等を聴取する違法な捜査を継続しておきながら,その影響についての考慮がされていない点で,事後的にみると,検討が不足していたというべきである。
ウ 自白の信用性
しかし,他方で,自白の信用性は諸般の事情を総合評価するしかなく,自白をしている原告X1,亡A1,原告X4,原告X8,原告X2,原告X3の6名の自白内容が概ね一致しており,4回目会合の開催日についても,被疑者の携帯電話の通話履歴,タイムカード等の資料等に合致する点を最大限に考慮して,上記イの(ア)ないし(オ)の各事情を考慮してもなお,原告X1らの供述の信用性があると評価することが判断として到底合理性を肯定することができないとはいいきれないのであって,A73検事が,第2次起訴の時点で,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,亡X12を除く本件無罪原告らに有罪と認められる嫌疑があると判断したことが,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとまではいうことができないというべきである。
したがって,原告らの上記主張は採用することができない。
(6)  争点(2)イに関する結論
以上によれば,本件の事実関係に照らして,原告ら主張に係る違法につき,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているか否かを判断すると,4回目会合6月4日捜査事件及び4回目会合6月8日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求については,本件買収会合についてなお嫌疑が完全に否定されるものでなかったこと,関係者が多数にわたり,供述が完全に一致していたり,裏付け捜査が不要なほどに事案が解明されていたということもできず,4回目会合6月25日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求については,なお,強制捜査を行うだけの嫌疑があるものとして,第4次強制捜査を行うと判断することに合理性がないとはいえず,1回目会合6月29日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求についても,勾留請求及び勾留延長請求を行う必要性があると判断することに合理性がないとはいえず,これらの検察官の行為については,法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているとはいえず,これを違法と評価することはできない。
A73検事が,第2次起訴を行った判断については,事後的にみると,検討が不足していた面もあるものの,他方で,自白の信用性は諸般の事情を総合評価するしかなく,自白をしている本件無罪原告6名の自白内容が概ね一致していたこと等から,原告X1らの供述の信用性があると評価することが判断として到底合理性を肯定することができないとはいいきれず,A73検事が,第2次起訴の時点で,現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案し,亡X12を除く本件無罪原告らに有罪と認められる嫌疑があると判断したことが,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとまではいうことができない。
検察官が接見内容を聴取したことが,本件において,国家賠償法上違法となることは前記判示のとおりである。
11  争点(2)ウ(第3次起訴までの捜査並びに第3次起訴,第4次起訴及び第5次起訴に関する検察官の違法性の有無)
(1)  2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求
ア 勾留請求に係る違法性の欠如
前記第3・1(18)オ,同(19)において認定したとおり,第5次強制捜査の着手時までに2回目会合事件及び3回目会合事件について,原告X1,原告X8,亡A1,原告X3,原告X2,原告X4の供述を得ており,平成15年7月17日の時点において,本件買収会合についてなお嫌疑が完全に否定されるものでなかったことは,前記第2次起訴の違法性に関して説示したとおりである。
したがって,A73検事の2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求についての判断が合理性を欠くものとして違法性があったと評価することはできない。
イ 勾留延長請求に係る違法性の欠如
前記第3・1(16)ク(コ)において認定したとおり,本件現地本部は,平成15年7月24日,原告X6の陣営におけるいわゆるローラー作戦の従事者等から事情聴取をしている過程で,原告X6が同年2月8日の本件新年会及び同年3月24日の本件懇親会に出席して挨拶をしていた事実を把握し,A73検事は,同年7月24日頃,原告X6が本件新年会及び本件懇親会に出席していた事実が判明したことの報告を受けた。
この時点で,本件刑事事件の自白には重大な疑義が生じているというべきであるが,2回目会合等7月23日捜査事件の勾留延長請求時までに,県警においてアリバイの成否に係る裏付け捜査等が終了し,A73検事において,それら証拠の精査とこれまでの証拠の再検討,アリバイの成否の判断を経て終局処分が可能な状態であったとみるべき事情も見いだせないといわざるを得ない。
したがって,2回目会合等7月23日捜査事件の勾留延長請求をしたことに合理性を欠くものとして違法性があったと評価することはできない。
(2)  検察官の取調べ
ア 客観義務違反
原告らは,検察官の取調べに客観義務違反となる違法があった旨を主張する。しかし,原告ら主張に係る違法な取調べがあったことを認めるに足りる証拠はない。
イ 起訴後の取調べ
原告らは,検察官の取調べに違法な起訴後の取調べがあった旨を主張する。しかし,起訴後の取調べは,被告人の当事者たる地位に照らし,避けることが望ましいものの,その必要性がある限り,任意捜査として,これを行うことが許容されていること,本件において,捜査の必要性自体は否定することができず,本件全証拠によっても,任意捜査としての限界を超えた取調べが行われたことと認めることはできないことはいずれも前記第3・7において判示したとおりであり,原告らの上記主張は採用することができない。
ウ 弁護権侵害
前記第3・1(30)のとおり,県警の警察官と検察官は,原告X1,原告X2,原告X4,亡A1及び原告X8に対し,接見内容等を聴取する取調べを行っており,これらが違法な取調べに当たることは前記第3・10(4)ウにおいて判示したとおりである。
(3)  第3次起訴ないし第5次起訴
ア 数次にわたる公訴提起の違法性の判断基準
前記判示のとおり,本件のように,公訴が一連の公訴事実について数次にわたって提起された場合には,公訴提起の間に時間的隔たりがある以上,各公訴提起の時点におけるそれまでに明らかになった全ての証拠資料を総合勘案して,各公訴提起及び既に提起した公訴に係る訴訟追行行為が,検察官が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反するか否かによって決する必要があり,仮に,公訴提起後,公判において嫌疑を否定する証拠が提出され,既に提起した公訴及び新たに提起する公訴については,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたにもかかわらず,新たに公訴を提起し,既に提起した公訴につき公訴追行を継続した検察官において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記公訴追行をしたと認められるような特段の事情がある場合には,公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,当該検察官には過失があるというべきであり,その判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたか否かによるというべきである。その判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたか否かによるというべきである。
イ A73検事のアリバイ不存在の判断
前記第3・1(25)イにおいて認定したとおり,A73検事は,平成15年8月12日,証拠の評価につき,①2回目会合と3回目会合についての各自白供述者から詳細な取調べを行い,会合の開催可能日も数日にまで絞り込むことができ,一定程度の特定はできたと評価し,②原資の特定には至らないものの,f社において平成14年12月頃までに架空仕入れを計上して,帳簿外の現金160万円程度を捻出していることが証拠上うかがえ,このことから,他にも不正な現金を拠出している可能性が十分に考えられ,原資が解明できないことを消極評価すべきものとはいえないと評価し,③1回目会合については,平成15年2月8日に行われたとしても,本件新年会を途中で抜けて,再度,本件新年会に戻ったと考えられるものと評価し,④4回目会合については,本件懇親会の後に4回目会合に向かったと考えられ,いずれもアリバイが成立しないものと評価して,4回の本件買収会合が開催された合理的嫌疑があるものと判断して,第3次起訴を行っている。
ウ 上記判断の合理性
1回目会合に関して本件新年会を途中で抜けて参加してものであるとの上記判断が,本件新年会の会場となったmホテルがあった志布志市中心部と本件買収会合が開催されたa3集落の位置関係等に照らして,到底合理性を有するものでないことは,前記第3・4(2)において判示したとおりである。
被告国は,mホテルからa3集落までの所要時間等は,本件刑事事件における検証を経て初めて明らかになった事項である旨を主張する。
しかし,mホテルからa3集落までの所要時間等については,重要な捜査情報であって,これが被告国の主張どおり,本件刑事事件における検証を経て初めて明らかになったのであれば,A73検事の捜査に遺漏があったというべきであり,しかも,A73検事は,本件刑事事件の公判において,本件刑事事件について主任検察官になった後,本件買収会合の全体像を把握するため,a3集落を視察し,a3集落が人里離れた閉鎖的な場所にあり,秘密が外部に漏れにくいことを把握した旨を供述しており(甲総ア第25号証の1065),視察の時期については明らかではないが,本件刑事事件における検証より前に行われたと認められ,少なくとも視察の目的が本件刑事事件の全体像を把握するためになされたものであることに照らせば,A73検事は,本件刑事事件の全体像が把握された後の第3次起訴の時点では,志布志市中心部とa3集落との往来に相当の時間及び労力を有することは認識し又は認識することが可能であったとみるのが相当であって,この点に関する被告国の主張は採用することができない。
エ 客観的事実との不整合
4回目会合についても,原告X6が,それまでの本件買収会合と異なり,会合への参加者を増やし,オードブル等を用意した4回目会合の開催予定時刻に,本件懇親会に出席するため,mホテルにいたこと自体,客観的事実との不整合を示す事情であることも,前記第3・4(2)において判示したとおりである。
オ 本件買収会合の構図の不自然さ,供述の変遷等
前記判示したとおり,本件買収会合の構図が不自然であること,その他本件買収会合の裏付けとされているものがいずれも日常生活の痕跡の範囲内のものでしかなく,オードブルの入手先も裏付けられておらず,供与金の原資も裏付けられておらず,原告X7が160万円程度の不正な帳簿外の現金を捻出した事実は,原資の裏付けが得られないことによる犯罪事実の消極評価の程度を減殺するものでしかないこと,原告X1らが裏付けの取れない過剰なまでの多数の余罪を供述していること,その他原告X1らの供述には,四浦校区内がA2県議派に固められた状況下で開催された本件買収会合のうち,4回目会合において初めて参加したとされるa3集落以外の参加者についての供述が変遷し,最終的に一致していないこと,原告X11に4回目会合の連絡をしたのが誰であるか不明であること,原告X3が3回目会合について,当初,原告X7から買収金を受け取ったなどと供述し,その変遷の過程も不合理であること,原告X8と原告X4は,供述の変遷が激しいことなど,本件買収会合について自白した者に,少なからず供述の信用性を減殺させる事情があり,供述の変遷等の少ない原告X2は,多額の現金をガソリン代以外,パチンコに全て費消したと供述するなど,当初から裏付けの不能な供述をしていたにすぎないのであって,本件刑事事件の自白の信用性は,本件新年会及び本件懇親会への出席の事実が判明するまでの間,複数の自白供述の内容が概ね一致し,開催日に係るタイムカードや支払明細書,携帯電話履歴と矛盾しないことで支えられていたというべきであった。
そうであるとすると,その一致した自白内容と客観的に整合しない本件新年会及び本件懇親会への出席の事実は,これらの自白全体の信用性,ひいては事件性の有無の評価をも覆しかねない重大な事情であるというべきである。
カ 原告X2,亡A1,原告X8の3名による本件刑事事件の公判における否認
(ア) 否認
加えて,第3次起訴の時点においては,本件買収会合の自白の信用性を相互に支え合っていた者のうち,原告X2,亡A1,原告X8の3名が,本件刑事事件の公判において否認するに至っており,このことも上記自白の信用性を減殺させる事情であるというべきである。
(イ) 四浦校区関係者の傍聴と接見禁止
この点に関し,被告国は,原告X2,亡A1,原告X8が3名とも,公判期日においては四浦校区関係者が多数傍聴している中で起訴事実を認めれば四浦に帰ることができないと思い,事実関係を否認せざるを得なかった旨を供述したのであり,なお自白に合理性がある旨を主張し,前記第3・1(17)キ(ウ)において認定したとおり,A73検事は,平成15年7月29日及び同月31日,原告X1らの本件刑事事件に係る起訴後勾留についてそれぞれ接見禁止等を請求し,それらの請求書において,接見禁止等を請求する理由として,関係各証拠を総合すると,原告らの居住する四浦校区(a3集落,a4集落,a1集落,a2集落)は,選挙のたびに金が飛ぶいわゆる「草刈り場」(現金を打てば誰でも票が取れる)であり,それだけに現金受供与の事実を捜査官に話す者が出ると,それ自体を密告と捉え,密告者に対しては集落ぐるみで圧力をかけるなどして,事実を否認させ,これに従わない者に対しては村八分にするなど裏切り者を絶対に許さない極めて閉鎖的排他的な傾向が顕著であること,四浦校区の居住者は,家族から密告者が出れば,最悪の場合,家族ごと村八分にされかねず,家族の中から密告者が出ないようにするため家族も必死であることなどが認められることなどを記載したことが認められる。
しかし,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1の各供述によっても,本件買収会合があったことを知っている親族等から圧力を掛けられたなどと供述しているのは,原告X4と原告X8の2名であり,これら2名の供述の信用性が低いことは前記説示したとおりである。
(ウ) 圧力なるものの不存在
さらに,前記第3・1(13)アにおいて認定したとおり,原告X4及び原告X8は,いずれも,平成15年5月に家族会議をして,原告X4が捜査機関に被疑事実を認めることを告げて,こんな父を見捨てないでくれなどと述べ,A157がお父さんを見捨てることはないなどと応答した旨の,親族から圧力を掛けられたこととは整合しない事実を供述し,さらに,前記第3・1(15)エ(ク)fにおいて認定したとおり,原告X8の同年6月19日付け検面調書に,原告X6及び原告X7が県議会議員の役目が県民を守ることであるのに,買収金を渡していないと嘘を言うことで,原告X4夫妻が,a3集落や四浦校区の人から嘘を言っているのではないかと疑いを持たれており,一番よいのは,原告X6及び原告X7が原告X4夫妻に買収金を渡したと言ってくれれば,四浦校区の人にも原告X4夫妻の言っていることが嘘ではないと分かってもらえるので村八分にならないことなどの記載が,前記第3・1(30)カ(ウ)cにおいて認定したとおり,原告X4の同年7月29日付け供述調書には,原告X4の妹からの手紙の内容をA96弁護士から聞かされた際の感想として,「まだ,家族は私が言っていることを信用してくれていないのだなあと思いがっくり来ました。」などの記載がそれぞれあって,いずれも四浦校区の住民や原告X4夫妻の親族が本件買収会合があったことを知っていて圧力を掛けているのではなく,むしろ,原告X4夫妻の供述を親族に全く信用されていないことを供述しているし,また,A75検事が作成した原告X1の同年7月2日付け供述調書中に,事情を知った妹らから圧力をかけられた旨の記載があるが,その記載が牽強付会なものであることは前記第3・6(1)エ(イ)bにおいて判示したとおりであって,他に,本件において,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8及び亡A1の親族ないし四浦校区の住民らが事情を知って圧力をかけたことを示す的確な証拠はない。
(エ) 否認の理由の不整合性
他方,前記第3・1(30)カ(イ),同(エ),同(オ)において認定したとおり,原告X2は,事実を認めて否認した人達より早くa3集落に帰ることができたとしても,事実を認めたことで,事実がないと信じ込んでいるa3集落の人達や親戚から白い目で見られ,肩身の狭い思いをすることを理由に否認した旨を,亡A1は,四浦校区の住民や亡A1の家族が亡A1らの無実を信じているのに,それらの者の前で事実を認めてしまうと,白い目で見られて裏切り者扱いされ,四浦校区での生活もできなくなることを心配した旨を供述し,原告X8は,原告X9,原告X11,原告X10が否認しているのに自分だけ自白するとどのように思われるか不安に思い,迷っているところで罪状認否の質問をされたため,直前に認否した原告X10に合わせて事実を否認した旨を供述しているが,これらは虚偽の自白をした者が否認に転じた理由としても整合するものであり,との否認に転じた理由をもって,従前の自白供述の信用性を肯定させるものではないというべきである。
キ 第3次起訴の時点での適法性
もっとも,第3次起訴の時点では,本件買収会合の構図の不自然さ,供述の変遷等があっても,なお,原告X1,原告X3,原告X4の3名が本件刑事事件の公判においても自白を維持しており,本件刑事事件の自白の信用性が,本件新年会及び本件懇親会への出席の事実が判明するまでの間の複数の自白供述の内容が概ね一致し,開催日に係るタイムカードや支払明細書,携帯電話履歴と矛盾しないことで支えられていたのであって,同時点では,本件買収会合の開催日時の供述が最終的には本件無罪原告らの供述に依拠しており,その日時の供述が全く動かし難いものとまではいうことができない。
これらのことを併せ考慮すると,今後,原告X1,原告X3及び原告X4が,本件買収会合の開催日時について,刑事公判において,新たな供述をし,その内容が,客観的証拠と矛盾せず,従前の供述からの変遷の理由についても,合理性を肯定し得るような事情が認められるような場合には,なお,有罪の見込みが得られる可能性があるとみることが全く合理性を欠いているとまでいうことはできない。
また,原告X1,原告X3及び原告X4が本件刑事事件の公判において自白を維持していたことが,弁護権侵害となる違法な取調べの結果であるとみるべき点についても,第3次起訴の時点における検察官にとってみれば,これら3名の公判供述と弁護権侵害となる違法な捜査との間の因果関係についてまで認識することができなかったという可能性も否定することができず,かつ,当然にその因果関係について認識すべきであったとまでいうことはできない。
そうであるとすると,公訴提起の判断につき,広範な裁量権を持つ検察官が,上記証拠関係の下,なお,被告人につき有罪判決を期待したことについて合理性を全く肯定しえないとまでいうことはできず,A73検事が,第3次起訴の段階での証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1,原告X6及び原告X7につき有罪と認められる嫌疑があると判断したことが,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとまではいうことができないというべきである。
ク 第4次起訴,第5次起訴の時点での違法性
前記第3・1(21)において認定したとおり,A73検事は,平成15年8月27日に第4次起訴を,同年10月10日に第5次起訴をそれぞれ行っている。
もっとも,第4次起訴の時点では,A73検事も,原告X6のアリバイに関する証拠を把握していたものではあるが,なお,原告X3が,本件刑事事件の公判においても自白を維持しており,本件買収会合の開催日時の供述が最終的には本件無罪原告らの供述に依拠しておりその日時が全く動かし難いものとまではいうことができないことも併せ考慮すると,第3次起訴において判示したとおり,今後,原告X3において,本件買収会合の開催日又は開催時刻について,客観的証拠と矛盾しない,これまでと異なる日又は時刻に開催されていたことを供述し,その供述について,従前の供述が,その新たな会合の開催日時と異なっていたことについても合理性を肯定し得るような事情が認められるような場合には,有罪の見込みが得られる可能性が残されているというべきであるし,原告X3が本件刑事事件の公判において自白を維持していたことが,検察官によって,弁護権侵害となる違法な取調べを行った結果として導き出されたものである点についても,検察官において,公訴提起の時点においては,弁護権侵害となる違法な取調べと評価されるような捜査を行ったこと自体は認識していたとしても,原告X3の公判供述と上記捜査との間の因果関係等については認識しえないというべきである。
そうであるとすると,公訴提起の判断につき,広範な裁量権を持つ検察官が,上記証拠関係の下,なお,第4次起訴の段階で,被告人につき有罪判決を期待したことについて合理性を全く肯定しえないとまでいうことはできないから,A73検事が,第4次起訴の段階での証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,原告X1,原告X5,原告X6及び原告X7につき有罪と認められる嫌疑があると判断したことが,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとまではいうことができないというべきである。
他方,前記第3・1(26)において認定したとおり,本件刑事事件において,同年9月3日に行われた第1次刑事事件等の第5回公判において,原告X3が本件買収会合に係る公訴事実をいずれも否認し,これによって,本件無罪原告らの全てが否認に転じたのであって,同日の時点では,上記に説示したような新たな自白が得られる可能性もなくなったのであるから,これ以降は,原告らから,本件買収会合の開催日又は開催時刻について,原告X6のアリバイに関する証拠その他の客観的証拠関係と矛盾しない,これまでと異なる日又は時刻に開催されていたことにつき合理性を肯定し得るような供述が得られる見込み,ひいては有罪が得られる見込みは残されていないというべきである。
してみると,A73検事が,少なくとも同年10月10日に行った第5次起訴について,亡X12,原告X1及び原告X6を有罪と認められる嫌疑があると判断したことは,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたというべきである。
したがって,A73検事が,第5次起訴を行ったことについては,国家賠償法上違法である。
(4)  争点(2)ウに関する結論
2回目会合等7月23日捜査事件の勾留請求及び勾留延長請求については,これが合理性を欠くものとして違法性があったと評価することはできない。
第3次起訴については,原告X1,原告X3,原告X4の3名が,第4次起訴については,原告X3が,本件刑事事件の公判においても自白を維持しており,そして,本件買収会合の構図の不自然さ,供述の変遷等があっても,なお,本件刑事事件の自白の信用性が,本件新年会及び本件懇親会への出席の事実が判明するまでの間の複数の自白供述の内容が概ね一致し,開催日に係るタイムカードや支払明細書,携帯電話履歴と矛盾しないことで支えられていたのであって,同時点では,本件買収会合の開催日時の供述が最終的には本件無罪原告らの供述に依拠しており,その日時の供述が全く動かし難いものとまではいうことができないから,公訴提起の判断につき,広範な裁量権を持つ検察官が,上記証拠関係の下,なお,被告人につき有罪判決を期待したことについて合理性を全く肯定しえないとまでいうことはできず,A73検事が,第3次起訴及び第4次起訴をしたことが,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達しているとまではいうことができない。
しかし,原告X3が本件買収会合に係る公訴事実をいずれも否認し,これによって,本件無罪原告らの全てが否認に転じた以降は,新たな自白が得られる可能性もなくなったのであるから,これ以降は,原告らから,本件買収会合の開催日又は開催時刻について,原告X6のアリバイに関する証拠その他の客観的証拠関係と矛盾しない,これまでと異なる日又は時刻に開催されていたことにつき合理性を肯定し得るような供述が得られる見込み,ひいては有罪が得られる見込みは残されておらず,A73検事が,少なくとも同年10月10日に行った第5次起訴について,亡X12,原告X1及び原告X6を有罪と認められる嫌疑があると判断したことは,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたというべきである。
12  争点(2)エ(公訴追行に関する検察官の違法性の有無)
(1)  職務行為基準説
公訴追行の違法性についても,職務行為基準説が妥当し,刑事事件において無罪判決が確定したというだけでは直ちに公訴追行が違法になるということはなく,訴訟追行の時点における証拠資料を総合勘案して,当該訴訟追行行為が,検察官が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反するか否かによって決せられるべきである。
そして,公訴追行時の検察官の心証は,公訴を提起した検察官と同じく,判決時における裁判官の心証と異なり,当該訴訟追行時における各種の証拠資料を総合勘案して合理的な判断過程により有罪と認められる嫌疑があれば足りるものと解すべきであるが,公訴を提起した検察官が引き続いて公判を担当する場合はもとより,別の検察官が公判を担当する場合であっても,公訴追行時の検察官は,公訴を提起した検察官の収集した証拠及び心証を引き継いで公訴を追行することになることから,公訴提起が違法でないならば,刑事事件において無罪判決が確定したことから直ちに公訴追行を継続した検察官の行為に国家賠償法1条1項にいう違法があったと評価されることにはならないものの(最高裁判所昭和59年(オ)第103号平成元年6月29日第一小法廷判決・民集43巻6号664頁),公訴提起後,公判において前記嫌疑を否定する証拠が提出され,当該訴訟追行時には,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたにもかかわらず,公訴追行を継続した検察官において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記公訴追行をしたと認められるような特段の事情がある場合に限り,検察官の公訴追行が国家賠償法上違法と評価されることになるものと解するのが相当である(最高裁判所昭和53年(オ)第1240号同60年11月21日第一小法廷判決・民集39巻7号1512頁,最高裁判所平成元年(オ)第930号,第1093号同5年3月11日第一小法廷判決・民集47巻4号2863頁参照)。
上記の基準は,公訴が一連の公訴事実について数次にわたって提起された場合においても同様であるところ,公訴提起が数次にわたる場合には,公訴提起の間に時間的隔たりがある以上,各公訴提起の時点におけるそれまでに明らかになった全ての証拠資料を総合勘案して,既に提起した公訴に係る訴訟追行行為が,検察官が個別の国民に対して負担する職務上の注意義務に違反するか否かによって決せられるべきであり,公訴提起後,公判において前記嫌疑を否定する証拠が提出され,既に提起した公訴及び新たに提起する公訴については,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたにもかかわらず,既に提起した公訴につき公訴追行を継続した検察官において,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と上記公訴追行をしたと認められるような特段の事情がある場合には,公務員の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,当該検察官には過失があるというべきである。(前記最高裁判所平成17年(受)第1977号平成19年11月1日第一小法廷判決・民集61巻8号2733頁参照)
検察官の上記公訴追行の継続の判断は,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたものとなる場合に,検察官の職務上通常尽くすべき注意義務に違反し,国家賠償法1条1項の適用上違法となり,当該検察官には過失があるというべきである。
(2)  合理性を肯定することができない程度
本件においては認められる以上の事実関係に照らすと,当初は,原告らが自白していたものの,その後,前記第3・1(6)ア(ウ),(14)カ,(16)クにおいて認定したとおり,平成15年4月17日にはA5及び原告X6の動静を調査するため本件予約帳が任意提出され,同日,本件リライト資料が作成され,本件現地本部及び検察官は,同年7月25日までには,原告X6が同年2月8日の午後7時から午後10時にかけてmホテルで行われた本件新年会に出席していた事実及び原告X6が同年3月24日の午後6時から行われていた上小西自治会の総会及びその後午後7時30分から行われる予定であった上小西自治会の懇親会(本件懇親会)のうち,本件懇親会に出席して挨拶をしていた事実を,いずれも把握したのであるから,その段階においても買収資金の原資が引き続き判明せず,本件買収会合がわずか6世帯のa3集落において4回も開催され,起訴されているだけでも191万円,余罪を含めると約700万円から約800万円の受供与金がわずか6世帯のa3集落を中心に供与された本件公職選挙法違反事件ないし本件刑事事件の構図そのものの正当性を再検討する必要があるとして,その必要性を当然に認識することが可能であって,mホテルにおける本件新年会の出席とX1宅における1回目会合の出席とが両立し得るかを改めて吟味する必要があった。
そこで,前記第3・1(26)において認定したとおり,自白していた最後の一人となった原告X3が,本件刑事事件において,同年9月3日に行われた第1次刑事事件等の第5回公判において,本件買収会合に係る公訴事実をいずれも否認し,本件無罪原告らがいずれも否認した段階においては,A73検事としては,本件新年会における原告X6の出席状況とX1宅との往復に必要な時間及び1回目会合の開始時間とを検討して,上記検討の機会に,その職務上通常尽くすべき注意義務を尽くす必要があり,遅くとも第5次起訴をする日である同年10月10日の時点において,第1次起訴から第5次起訴までが本件買収会合の一連の起訴であることに照らして,第1次起訴ないし第4次起訴についても,公訴追行が相当か否かという観点から検討を加えるべきであったのであって,前記第3・12(1)において判示したとおり,A73検事が,少なくとも同年10月10日に行った第5次起訴について,亡X12,原告X1及び原告X6を有罪と認められる嫌疑があると判断したことは,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたというべきであったのと同様に,第1次起訴ないし第4次起訴に係る本件刑事事件の公訴追行に関しても,A73検事が,新たな自白が得られる可能性もなくなった平成15年9月3日の時点において,本件新年会の中座が可能であることについてそれ以上の捜査をせずに,しかも,本件では,逆に原告らが否認に転じたことを弁護士らの組織的な妨害であると安易に結論付けたという特段の事情及びこれまでの自白が警察官及び検察官により継続的に弁護権侵害となる違法な捜査が行われ被疑者の自白が維持されていたという特段の事情があり,公訴提起後,公判において嫌疑を否定する証拠が提出され,当該訴訟追行時には,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたという特段の事情の下で,原告X6が本件新年会を中座することが可能であったとの判断を安易に維持して公訴追行をしたことは,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公訴追行をしたといわざるを得ない。
してみると,前記第3・1(27)ア(ウ),同イ(オ),同ウ(オ),同エ(キ),同オ(ケ),同カ(コ),同キ(ク),同ク(エ),同ケ(エ),同コ(エ),同サ(エ),同ス(ク)において認定したとおり,身柄が拘束されていなかった亡X12,既に,同年8月14日に保釈されていた原告X1,同月22日に保釈されていた原告X3及び同月8日に保釈されていた原告X4を除いて,平成15年10月10日時点において身柄拘束が続いていた,原告X2,原告X5,原告X6,原告X7,原告X8,原告X9,原告X10,原告X11及び亡A1については,勾留の理由がなくなったとして,少なくとも,勾留の必要がなくなったとして,裁判所に対し,勾留の取消し(刑事訴訟法87条1項)を請求すべきであったし,勾留されている被告人又はその弁護人らからの保釈の請求があった場合には,保釈を相当とする意見を提出すべきであった。
しかるに,A73検事が,これを怠ったことは,「公益の代表者」(検察庁法4条)として,裁判所に「法の正当な適用」(検察庁法4条)を請求するという検察官の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,A73検事には少なくとも過失があるというべきである。
そして,A73検事の上記公訴追行の継続の判断は,遅くとも第5次起訴をする日である同年10月10日の時点において,本件刑事事件の全証拠に照らしても本件無罪原告らが有罪と認められる嫌疑があると判断したものであって,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたものというべきであり,A73検事は,検察官の職務上通常尽くすべき注意義務に違反し,同日以後の公訴追行は,国家賠償法1条1項の適用上違法となり,A73検事には過失があるというべきである。
(3)  争点(2)エに関する結論
本件無罪原告らがいずれも否認した段階においては,A73検事としては,本件新年会における原告X6の出席状況とX1宅との往復に必要な時間及び1回目会合の開始時間とを検討して,遅くとも第5次起訴をする日である同年10月10日の時点において,第1次起訴から第5次起訴までが本件買収会合の一連の起訴であることに照らして,第1次起訴ないし第4次起訴についても,公訴追行が相当か否かという観点から検討を加えるべきであったのであって,A73検事が,新たな自白が得られる可能性もなくなった平成15年9月3日の時点において,本件新年会の中座が可能であることについてそれ以上の捜査をせずに,しかも,本件では,逆に原告らが否認に転じたことを弁護士らの組織的な妨害であると安易に結論付けたという特段の事情及びこれまでの自白が警察官及び検察官により継続的に弁護権侵害となる違法な捜査が行われ被疑者の自白が維持されていたという特段の事情があり,公訴提起後,公判において嫌疑を否定する証拠が提出され,当該訴訟追行時には,もはや全証拠資料を総合勘案しても到底有罪判決を期待し得ない状況に至っていたという特段の事情の下で,原告X6が本件新年会を中座することが可能であったとの判断を安易に維持して公訴追行をしたことは,職務上通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく漫然と公訴追行をしたといわざるを得ず,法の予定する一般的な検察官を前提として,通常考えられる検察官の個人差による判断の幅を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして到底その合理性を肯定することができない程度に達していたものというべきであり,A73検事は,検察官の職務上通常尽くすべき注意義務に違反し,同日以後の公訴追行は,国家賠償法1条1項の適用上違法となり,A73検事には過失があるというべきである。
13  争点(2)オ(公訴提起後の身柄拘束に関する検察官の違法性の有無)
(1)  判断基準
ア 接見等禁止の判断基準
前記第3・2(1)イにおいて判示したとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による活動が違法とされるわけではなく,検察官が接見等禁止請求を行ったことについての違法性は,職務行為基準説に立った上で,接見等禁止請求を行った時点において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,被告人又は被疑者について接見等禁止を付すだけの罪証を隠滅すると疑うに足りる相当の理由があると思料したことが,証拠の評価について法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきである。
イ 保釈許可決定に対する検察官の抗告の違法性判断基準
前記第3・2(1)イにおいて判示したとおり,刑事事件において無罪の判決が確定したというだけで直ちに捜査機関による活動が違法とされるわけではなく,検察官が保釈許可決定に対する抗告を行ったことについての違法性は,職務行為基準説に立った上で,同抗告を行った時点において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,抗告の時点において,被告人について権利保釈除外事由が存在する,又は裁量保釈を認めるのを相当とする特別の事情が存在しないと思料したことが,証拠の評価について法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきである。
ウ 保釈請求における求意見に対する回答の違法性の判断基準
保釈請求における求意見は,保釈を却下する限り,必要的ではなく,かつ,求意見があった場合に検察官が必ず回答しなければならないものでもないが,回答する以上は,保釈を許可しない理由がないというべき状況であるにもかかわらず保釈に反対の意見を述べることが,検察官の裁量違反であって違法であるといわざるを得ず,そうであるとすると,前記第3・9(1)イにおいて判示したとおり,職務行為基準説に立った上で,検察官が保釈請求における求意見に対し,反対する旨の回答を行った時点において,捜査により現に収集した証拠資料及び通常要求される捜査を遂行すれば収集し得た証拠資料を総合勘案して,回答の時点において,被告人について権利保釈除外事由が存在する,又は裁量保釈を認めるのを相当とする特別の事情が存在しないと思料したことが,証拠の評価について法の予定する一般的な検察官を前提として通常考えられる検察官の個人差を考慮に入れても,なおかつ行き過ぎで,経験則,論理則に照らして,到底その合理性を肯定することができないという程度に達しているかどうかで判断すべきである。
(2)  本件への適用
本件においては,上記判示したことに照らし,前記争いのない事実における起訴後の接見等禁止請求,保釈許可決定に対する検察官の抗告,保釈請求における求意見に対する反対の回答のうち,平成15年10月10日より以前のものについては,それらがなされた各時点において,検察官が本件買収会合について収集した証拠資料を総合勘案して,被告人につき有罪と認められる嫌疑があると判断し,証拠の評価が合理性を有していないとはいえない状況にあるというべきである。
そうであるとすると,検察官において,今後の立証に当たり,ほぼ供述証拠によってのみ公訴事実が支えられている本件刑事事件の証拠構造に照らし,原告X6及び原告X7を除く原告らがいずれも四浦校区の住民であって,その人的つながりが濃密であるし,原告X6及び原告X7は,原告X1の雇用主の代表者及びその妻であって,自白している被告人に影響を与えることが容易であるとして,起訴後の接見等禁止請求,保釈許可決定に対する検察官の抗告,保釈請求における求意見に対する反対の回答をしたことが国家賠償法上違法であるということはできないというべきである。
これに対して,同年10月10日以降のものについては,公訴追行自体が違法であってその身柄拘束自体も法的根拠を失っているものとみるべきであるから,検察官が行った各被告人への起訴後の接見等禁止請求,保釈許可決定に対する検察官の抗告,保釈請求における求意見に対する反対の回答の違法性を個別に判断するまでもなく,全体として適法性の前提を欠くことにより,国家賠償法上違法となるというべきである。
(3)  争点(2)オに関する結論
自白していた最後の一人となった原告X3が,本件刑事事件の平成15年9月3日に行われた公判期日において,本件買収会合に係る公訴事実をいずれも否認し,本件無罪原告らがいずれも否認した段階になれば第5次起訴において摘示した特段の事情の下では,検察官においては,勾留の理由がなくなったとして,あるいは少なくとも,勾留の必要がなくなったとして,裁判所に対し,勾留の取消し(刑事訴訟法87条1項)を請求すべきであったし,勾留されている被告人又はその弁護人らからの保釈の請求があった場合には,保釈を相当とする意見を提出すべきであったというべきである。しかるに,検察官が,これを怠っていたことは,「公益の代表者」(検察庁法4条)として,裁判所に「法の正当な適用」(検察庁法4条)を請求するという検察官の職務上通常尽くすべき注意義務に違反するものとして,国家賠償法1条1項の適用上違法なものであり,過失があるというべきである。
このように,検察官は,同年10月10日の違法な第5次起訴により,亡X12,原告X1及び原告X6に対し,同日以降,刑事事件の被告人という不安定な地位におかれることを余儀なくされることによる精神的苦痛の損害を与え,同日の亡X12を除く本件無罪原告らに対する公訴取消の検討を怠った違法な公訴追行により,亡X12を除く本件無罪原告らに対し,刑事事件の被告人という不安定な地位におかれることを余儀なくされることによる精神的苦痛の損害を与えたというべきである。
14  争点(3)(損害の発生の有無及びその額)
(1)  被告らの各違法行為
ア A10署長,A12警部,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長,A17警部補,A22警部補の各違法行為
①A14警部補が,平成15年4月19日から同年5月13日までの間に行った脅迫行為を伴う原告X1に対する違法な取調べ,②A10署長,A12警部,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長,A17警部補が平成15年5月1日から同月7日までの間に行った本件箝口令に基づく原告X1,原告X2,原告X4,原告X8及び亡A1に対する違法な取調べ,③A22警部補が,平成15年6月6日又は同月7日頃に行った原告X11を叫ばせた違法な取調べは,それぞれ,その取調べの対象者に対し,違法な捜査を受けさせられることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を与えたほか,上記②の違法な取調べの結果,存在していたとは通常考えられない事実についての自白を作出されたことによって,亡X12を除く本件無罪原告らについて,順次,身柄拘束されて取調受忍義務の下,その取調べを受けることを余儀なくされたこと及びその後も身柄拘束を継続されたことによる各精神的苦痛の損害を与え,さらに,本件無罪原告らについて,同年6月3日以降,順次,公訴提起により刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を与えたというべきである。
イ A18警部補の違法行為
A18警部補が平成15年5月15日から同月19日までの間に行った弁護権侵害となる違法な取調べは,原告X3による同月22日付けの弁護士解任届と題する文書の作成及び同文書のC5弁護士への送付を考慮すると,C5弁護士,C6弁護士及びC7弁護士の辞任と相当因果関係があるというべきであり,原告X3に対し,弁護人の辞任によって弁護人を失わせるという精神的苦痛の損害を与えたというべきである。
ウ A75検事及びA73検事による本件調書化方針並びにA75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A14警部補,A37巡査部長,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補による各違法行為
A75検事及びA73検事による本件調書化方針並びにA75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A14警部補,A37巡査部長,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補による本件調書化方針に基づき接見内容を繰り返し調書化した原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X8,亡A1及び原告X9に対する違法な捜査は,少なくとも原告X1,原告X4及び原告X3の刑事公判での自白の維持及びこの間の弁護人との信頼関係の破壊により,原告X1,原告X4,原告X3の公判活動に支障を生じさせたことによる精神的苦痛の損害を与えたほか,これら公判供述により検察官の公訴提起及び公訴追行の判断に影響を与えて,平成15年10月10日以降の本件無罪原告らの違法な公訴追行の基礎を作ったというべきであり,同日以降も,本件無罪原告らが刑事事件の被告人という不安定な地位におかれ続けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を与えたというべきである。
エ A73検事の行為
A73検事の亡X12についての平成15年10月10日の違法な第5次起訴は,亡X12,原告X1及び原告X6に対し,同日以降,刑事事件の被告人という不安定な地位におかれることを余儀なくされることによる精神的苦痛の損害を与え,同日の亡X12を除く本件無罪原告らに対する公訴取消の検討を怠った違法な公訴追行により,亡X12を除く本件無罪原告らに対し,刑事事件の被告人という不安定な地位におかれることを余儀なくされることによる精神的苦痛の損害を与えたというべきである。
(2)  各原告毎の損害の内容
ア 原告X1
原告X1は,平成15年4月19日から同年5月13日までの間,A14警部補による脅迫行為を伴う違法な取調べないし本件箝口令による違法な取調べをそれぞれ受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年5月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年8月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,同月27日,第4次起訴により,同年10月10日,第5次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年9月3日までの公判においては,弁護人との信頼関係がないまま公判に臨むことを余儀なくされたことによる精神的苦痛を受け,同年10月10日以降は,A73検事による違法な第5次起訴及び第1次起訴から第4次起訴までに係る本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
イ 原告X2
原告X2は,平成15年5月1日から同月7日までの間,本件箝口令による違法な取調べをそれぞれ受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
ウ 原告X4
原告X4は,平成15年5月1日から同年5月7日までの間,本件箝口令による違法な取調べをそれぞれ受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年5月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年8月8日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年9月3日までの公判においては,弁護人との信頼関係がないまま公判に臨むことを余儀なくされたことによる精神的苦痛を受け,同年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
エ 亡A1
亡A1は,平成15年5月1日から同月7日までの間,本件箝口令による違法な取調べをそれぞれ受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,本件刑事事件につき死亡を理由とする公訴棄却の決定がされた平成17年6月7日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
オ 原告X3
原告X3は,平成15年5月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年8月22日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月4日には弁護人を失ったことによる精神的苦痛の損害を受け,同月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年9月3日までの公判においては,弁護人との信頼関係がないまま公判に臨むことを余儀なくされたことによる精神的苦痛を受け,同年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
カ 原告X5
原告X5は,平成15年5月13日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから同年11月13日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年5月13日から同年6月25日までは取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月3日,第1次起訴により,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月27日,第4次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
キ 原告X6
原告X6は,平成15年6月4日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,平成16年7月2日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに平成15年6月4日から同年7月17日まで及び同月23日から同年8月12日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,同月27日,第4次起訴により,同年10月10日,第5次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による違法な第5次起訴及び第2次起訴から第4次起訴に係る本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
ク 原告X7
原告X7は,平成15年6月4日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,平成16年3月2日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに平成15年6月4日から同年7月17日まで及び同月23日から同年8月12日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,同年8月27日,第4次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
ケ 原告X9
原告X9は,平成15年6月8日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,平成15年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年6月8日から同年7月17日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
コ 原告X10
原告X10は,平成15年6月25日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,同年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年6月25日から同年7月17日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
サ 原告X11
原告X11は,平成15年6月6日又は7日,A22警部補の違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同月25日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,同年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年6月25日から同年7月17日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,同年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
シ 原告X8
原告X8は,平成15年5月1日から同月7日までの間,本件箝口令による違法な取調べをそれぞれ受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年6月25日,本件箝口令によって作出された自白によって逮捕されてから,平成15年11月14日に身柄が釈放されるまで,違法な身柄拘束を余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,さらに同年6月25日から同年7月17日まで取調受忍義務を課せられた違法な取調べを受けることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,同年7月17日,第2次起訴により,同年8月12日,第3次起訴により,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受け,このうち,平成15年10月10日以降は,A73検事による本件刑事事件についての違法な公訴追行による精神的苦痛を受けたことが認められる。
ス 亡X12
亡X12は,平成15年10月10日,本件箝口令によって作出された自白及びA73検事による違法な第5次起訴によって,本件無罪判決が確定する平成19年3月10日までの間,刑事事件の被告人として不安定な地位におかれることを余儀なくされたことによる精神的苦痛の損害を受けたことが認められる。
(3)  損害額
本件における原告らに対する上記各損害に係る慰謝料の額を検討すると,本件無罪原告毎に身柄拘束期間に違いがあるが,前記第2・2(11)の前提となる事実のとおり,裁判所は,平成19年10月2日,いずれも刑事補償法に基づく補償金として,原告X1に対し,143万7500円,原告X2及び原告X14に対して,それぞれ232万5000円,原告X3に対して127万5000円,原告X4に対して110万円,原告X5に対して231万2500円,原告X6に対して493万7500円,原告X7に対して341万2500円,原告X8,原告X10及び原告X11に対してそれぞれ178万7500円及び原告X9に対して226万2500円を,それぞれ交付することを決定し,上記12名の本件無罪原告らは,その後,いずれも上記各金額の交付を受けている。
本件無罪原告らが,被告人としての地位にあった時期の長短について検討すると,亡A1は死亡により本件刑事事件の係属期間は,他の原告に比べ大幅に短いが,他方で無罪判決を得る機会を失ったということができること,その余の本件無罪原告らにも,公訴提起の時期のずれにより,若干の違いがあるものの,本件刑事事件の係属期間全体からみるとその差は大きいといえない。
また,原告X1,原告X2,原告X4,原告X8,亡A1は,本件箝口令に基づく違法な取調べを受けたことによる精神的苦痛を受けているが,他方で,原告X5,原告X6,原告X7,原告X9,原告X11,原告X10は,否認を続けたことにより,より糾問的な取調べを長時間にわたって受けていると認められる。また,本件調書化方針による取調べが行われたことにより,原告X1らを始めとする本件無罪原告らと弁護人との信頼関係が破壊され,刑事公判での上記自白が維持され,本件刑事事件における違法な公訴追行の基礎が作り出されたという経緯が認められる。
してみると,被告らの違法な捜査,違法な公訴提起及び違法な公訴追行の内容及び損害の性質等の諸般の事情に照らして,本件無罪原告らがそれぞれに受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は,各自上記刑事補償法に基づく補償金として受領した金額のほかに,それぞれ400万円を下らないとみるのが相当である。
(4)  弁護士費用
弁護士費用は,本件の内容及び審理の経過に照らして上記各損害額の1割5分をもって相当とみるべきであり,したがって,本件無罪原告らの損害について各60万円が本件における違法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害である。
15  争点(4)(消滅時効の成否)
(1)  民法724条にいう「損害及び加害者を知ったとき」
国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権の消滅時効については,同法4条により民法724条の適用を受けるところ,民法724条にいう「損害及び加害者を知ったとき」とは,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時を意味し,同条にいう被害者が加害者を知った時とは,被害者が損害の発生を現実に認識した時をいうと解するのが相当である(最高裁判所平成14年(受)第1355号平成16年12月24日第二小法廷判決・集民215号1109頁参照)。
そこで,以下,本件における損害賠償請求につき,被害者である本件無罪原告らにおいて,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知った時及び被害者が損害の発生を現実に認識した時がいつであるか検討する。
(2)  違法な公訴提起及び違法な公訴追行に係る損害
まず,違法な公訴提起及び違法な公訴追行に係る損害については,現に身柄拘束をされ,または刑事事件の被告人とされただけでは,捜査機関において収集した証拠の内容及びその評価等について認識し得ないため,直ちにこれを違法な公権力の行使によって損害が発生したものと認識することができず,結局,無罪判決が確定したときに,被告人とされていたことが損害であると認識することができるというべきであるし,捜査機関において収集した証拠の内容及び評価に誤りがあってその身柄拘束も違法な捜査に基づく損害であることを認識することができるというべきであり,そうであるとすると,無罪判決が確定したときに,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知ったということができるものと解するのが相当である。
(3)  取調べの違法
次に,平成15年4月25日までに行われたA16警部補による原告X2に対する違法な取調べ,同月30日に行われたA36巡査部長による原告X8に対する違法な取調べ,同年5月7日までに行われたA10署長及びA12警部の指示による本件箝口令に基づく違法な取調べ,同月13日までに行われたA14警部補による原告X1に対する違法な取調べ,同年6月7日までに行われたA22警部補による原告X11に対する違法な取調べについてみるに,捜査の違法の有無は,最終的には嫌疑の程度等を考慮して決せられるものではあるが,本件における違法捜査は,各原告らに向けてその目前において行われたものであり,その態様は,その時点で,各原告がいずれも精神的苦痛を受け得るものであるから,その取調べを受けた時点において,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知ったということができるものと解するのが相当である。
また,本件調書化方針による弁護権侵害となる違法な捜査についても,遅くとも原告X1,原告X4,原告X3が平成15年9月3日,無罪の弁護方針を固めた時点においては,新たに弁護人との信頼関係を構築しており,それまでの状態が捜査機関の取調べによる結果,弁護人との信頼関係を構築していなかった結果であることを認識することができるというべきであり,同日の時点において,被害者において,加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に,それが可能な程度に損害及び加害者を知ったということができるものと解するのが相当である。
(4)  時効の起算日
したがって,上記違法な取調べによる精神的苦痛の損害に係る損害賠償請求権は,それぞれの上記日時が,消滅時効の起算点となり,本件訴訟が提起された平成19年10月19日の時点で,いずれも消滅時効が完成しているというべきである。
(5)  権利濫用
もっとも,本件においては,A10署長及びA12警部の過失により,A14警部補,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補による本件箝口令に基づく違法な取調べが行われ,原告X1外4名の存在していたとは通常考えられない事実についての自白が作出されており,また,A75検事及びA73検事の過失により,A75検事,A77副検事,A78副検事,A76副検事,A14警部補,A37巡査部長,A16警部補,A15警部補,A36巡査部長及びA17警部補による本件調書化方針に基づく取調べが行われ,原告X1らを始めとする本件無罪原告らと弁護人との信頼関係が破壊され,刑事公判での上記自白が維持され,本件刑事事件における違法な公訴追行の基礎が作り出されたという経緯がある。
そうであるとすると,被告県及び被告国の消滅時効の主張は,かかる経緯を経て刑事事件の被告人という不安定な地位におかれていた本件無罪原告に係る本件刑事事件又はその端緒となったX1焼酎事件の取調べの違法を理由とする国家賠償請求権について,本件刑事事件の無罪判決の確定までの間,その権利行使について事実上の著しい支障を生じさせておきながら,その行使が可能であると主張しているに等しいと言わざるを得ない。
他方,原告らは,本件刑事事件の無罪判決の確定から7か月後の平成19年10月19日には本件訴訟を裁判所に提起しているのであって,権利の上に眠る者ということもできない。
このような事実関係の下においては,被告県及び被告国の消滅時効の主張は,権利濫用であって許されないというべきである。
16  本件刑事事件の開示証拠に係る本件訴訟での目的外使用
(1)  開示証拠の目的外使用の禁止と証拠能力
被告国は,原告らが本件訴訟において証拠として提出した本件刑事事件における供述調書(甲総ア第429号証の1号証ないし429の484号証。以下「本件開示文書」という。)が,刑事訴訟法281条の4に規定した刑事手続における開示証拠の目的外使用の禁止に違反する行為であり,その違法性の程度は,刑事司法作用を著しく害する重大なものであって,本件開示文書を採用することがそのような重大な違法行為を助長することになる旨を主張する。
しかし,本件開示文書を本件において証拠として提出することが,刑事訴訟法281条の4の規定に違反するとしても,直ちに本件開示文書の証拠能力が制限されたり,提出行為が民事訴訟法上違法になると解することはできない。
(2)  捜査・公判の協力者への不当な圧力及び関係人の名誉・プライバシー侵害
被告国は,公開が予定されていない刑事記録の内容が一般に公開されることになれば,捜査・公判の協力者への不当な圧力が加えられたり,関係人の名誉・プライバシーが侵害されるおそれが高く,ひいては今後の事件捜査及び公判への協力が得られなくなり,適正かつ円滑・迅速な捜査及び公判の遂行が阻害されることになるため,このような弊害に備えて,検察官が証拠開示の範囲を大幅に限定せざるを得ないことになって刑事司法作用における被告人の防御や迅速な審理を阻害される結果を生じさせると主張する。
しかし,本件開示文書は,いずれも本件無罪原告らが,本件刑事事件における被疑者及び被告人として開示を受けた,本件無罪原告ら各人の供述調書であり,原告らは,本件刑事事件の無罪判決の確定後に本件公職選挙法違反事件における刑事手続の違法を理由とする本件において,本件開示文書を証拠として提出するものであるから,本件刑事事件における被疑事実ないし公訴事実が共犯事件であったことを考慮しても,捜査協力者等に不当な圧力が加えられる事態を招く使用の類型とも,今後の捜査協力等が得られなくなることに備えて証拠開示をためらうような使用の類型ともいうことはできない。
しかも,原告らにとっては,本件開示文書が,本件公職選挙法違反事件における被告らの違法性を立証する重要な書証であるというべきである。
また,関係人の名誉やプライバシーについては,既に,被告国において,一部,第三者の氏名や顔写真等についてマスキング処理のされていない供述調書等を提出したり,被告県において,本件の証拠調べ期日に,文書送付嘱託においてマスキング処理が施された供述調書の記載内容について,マスキング処理された部分の内容を特定して補充した上で,再三にわたって補充内容に基づいて尋問を行い,その際に,被告国においては,特に異議を述べていない。
以上によれば,原告らがその主張の立証のために提出する本件開示文書について,捜査・公判の協力者への不当な圧力及び関係人の名誉・プライバシー侵害を理由に違法性があるとの被告国の主張は採用することができないというべきである。
(3)  民事訴訟法上の信義則違反
被告国は,本件開示文書について書証の申出をすることは,民事訴訟法上の信義則違反に当たる旨を主張する。
しかし,原告らは,本件において,一旦は,文書送付嘱託手続を利用して本件開示文書に係る各供述調書を書証として証拠申出していること,同文書送付嘱託手続によって送付された各供述調書には,いずれもマスキング処理が加えられていたこと,前記判示のとおり,被告県は,本件無罪原告らに対する本人尋問等において,本件開示文書に係る供述調書について,マスキング処理が加えられた部分の記載事項を補充して読み上げた上で,再三にわたって補充内容に基づいて尋問を行うなどしていたのであって,民事訴訟法上の信義則違反を主張する被告国が,その時点では何ら相被告である被告県の訴訟活動に何らの異議を唱えずにいて,原告らが証拠調べが終わった時点において本件開示文書を書証として提出するときには民事訴訟法上の信義則違反を主張するのは,逆に,訴訟活動として公正ではないというべきである。
また,本件開示文書が原告らにとって,本件公職選挙法違反事件における被告らの違法性を立証する重要な書証であることは明らかである。
以上によれば,被告国が,原告らに対して民事訴訟法上の信義則違反を主張すること自体が,本件の審理の過程を踏まえると,信義則違反というべきであって,原告らの本件開示文書の書証の申出を信義則違反とする被告国の主張は採用することができない。
(4)  証拠の必要性
被告国は,本件開示文書について,マスキング加工されたものが既に証拠として提出されており,マスキング部分は,第三者の固有名詞や関係人の病歴等であって,これを明らかにする必要性もないから,証拠として取り調べる必要性がない旨を主張する。
しかし,本件においては,取調べの違法性に関連して,その供述内容の変遷の有無が重要な事情となるのであって,マスキング部分も含めた記載内容を証拠調べする必要性は高いのであって,この点に関する被告国の主張も採用することができない。
(5)  結論
他に本件に現れた一切の事情にかんがみても,本件開示文書に係る書証の申出について,不適法ないし不必要というべき理由はない。
したがって,この点に関する被告国の上記主張は採用することができない。
第4  結語
以上によれば,原告らの,被告県及び被告国に対し,連帯して,原告ら1人当たりにつきそれぞれ2200万円(ただし,亡A1の相続人配偶者妻である原告X14につき1100万円,いずれも亡A1の相続人子である原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18につきそれぞれ275万円)及びこれらに対する本件無罪判決が確定した日である平成19年3月10日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による各遅延損害金の各支払を求める本件請求は,被告県及び被告国に対し,連帯して,原告X1,原告X2,原告X3,原告X4,原告X5,原告X6,原告X7,原告X9,原告X10,原告X8,原告X11及び原告X13につき,それぞれ460万円及びこれに対する同日から支払済みまで前記割合による各遅延損害金の支払を,原告X14につき,230万円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による遅延損害金の支払を,原告X15,原告X16,原告X17及び原告X18につき,それぞれ57万5000円及びこれに対する同日から支払済みまで同割合による各遅延損害金の支払を,それぞれ求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,担保を条件とする仮執行免脱の宣言の申立て及び執行開始時期を判決が被告に送達された後14日経過した時とする申立ては,これを付すのが相当でないので却下することとする。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 吉村真幸 裁判官 玉田雅義 裁判官 中倉水希)

 

別紙
当事者目録
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X1
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X2
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X3
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X4
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X5
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X6
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X7
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X8
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X9
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X10
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X11
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 亡X12訴訟承継人X13
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X14
愛知県津島市〈以下省略〉
原告 X15
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X16
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X17
鹿児島県志布志市〈以下省略〉
原告 X18
上記17名訴訟代理人弁護士 井上順夫
同 永仮正弘
同 末永睦男
同 野間俊美
同 川村重春
同 松下良成
同 森雅美
同 笹川竜伴
同 中園貞宏
同 山口政幸
同 保澤享平
同 熊谷光司
同 内山和哉
同 本木順也
同 小関正信
同 田中佐和子
同 高妻価織
同 玉利尚大
同 佐々木健
同 野平康博
同 西達也
同 浅井正
同 若松芳也
同 伊神喜弘
同 大毛裕貴
同 泉武臣
同 岩井作太
東京都千代田区〈以下省略〉
被告 国
同代表者法務大臣 B1
同指定代理人 B2
同 B3
同 B4
同 B5
同 B6
同 B7
同 B8
同 B9
同 B10
同 B11
同 B12
同 B13
同 B14
同 B15
同 B16
同 B17
鹿児島市〈以下省略〉
被告 鹿児島県
同代表者知事 B18
同訴訟代理人弁護士 和田久
同 蓑毛長史
同 宮原和利
同指定代理人 B19
同 B20
同 B21
同 B22
同 B23
同 B24


「公職選挙法」に関する裁判例一覧
(1)平成28年 3月15日 大阪地裁 平27(ワ)3109号 損害賠償等請求事件
(2)平成28年 3月11日 東京地裁 平25(行ウ)677号 政務調査研究費返還請求事件
(3)平成28年 3月 4日 高松高裁 平27(行ケ)1号 決定取消請求事件
(4)平成28年 2月18日 東京地裁 平27(ワ)1047号 社員総会決議無効確認等請求事件
(5)平成28年 1月28日 東京高裁 平27(行ケ)49号 裁決取消請求事件
(6)平成27年12月22日 東京高裁 平26(ネ)5388号 損害賠償請求控訴事件
(7)平成27年12月21日 名古屋高裁金沢支部 平27(行ケ)4号 裁決取消、当選取消請求事件
(8)平成27年12月17日 東京高裁 平27(行ケ)35号 選挙無効請求事件
(9)平成27年12月16日 大阪高裁 平27(ネ)697号・平27(ネ)1887号 損害賠償請求控訴事件、同附帯控訴事件
(10)平成27年12月14日 東京地裁 平27(行ウ)417号・平27(行ウ)426号・平27(行ウ)427号 地位確認等請求事件
(11)平成27年12月 1日 最高裁第三小法廷 平26(あ)1731号 公職選挙法違反被告事件
(12)平成27年11月25日 最高裁大法廷 平27(行ツ)220号・平27(行ツ)224号・平27(行ツ)236号・平27(行ツ)237号・平27(行ツ)239号・平27(行ツ)257号・平27(行ツ)259号・平27(行ツ)263号・平27(行ツ)264号・平27(行ツ)270号・平27(行ツ)278号
(13)平成27年11月25日 最高裁大法廷 平27(行ツ)267号・平27(行ツ)268号 選挙無効請求事件
(14)平成27年11月25日 最高裁大法廷 平27(行ツ)253号 選挙無効請求事件
(15)平成27年11月19日 最高裁第一小法廷 平27(行ツ)254号 選挙無効請求事件
(16)平成27年10月27日 岡山地裁 平24(行ウ)15号 不当利得返還請求事件
(17)平成27年10月15日 大阪地裁 平25(行ウ)40号 損害賠償等請求事件(住民訴訟)
(18)平成27年 9月17日 名古屋地裁 平26(行ウ)51号 公金支出金返還請求事件(住民訴訟)
(19)平成27年 9月10日 大阪地裁 平26(行ウ)137号 損害賠償等請求事件
(20)平成27年 8月26日 東京地裁 平26(ワ)15913号 損害賠償請求事件
(21)平成27年 6月 2日 大阪高裁 平26(行コ)162号 行政財産使用不許可処分取消等、組合事務所使用不許可処分取消等請求控訴事件
(22)平成27年 6月 1日 大阪地裁 平27(ヨ)290号 投稿動画削除等仮処分命令申立事件
(23)平成27年 5月15日 鹿児島地裁 平19(ワ)1093号 国家賠償請求事件
(24)平成27年 5月15日 鹿児島地裁 平18(ワ)772号 損害賠償請求事件
(25)平成27年 4月28日 広島高裁岡山支部 平26(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(26)平成27年 3月31日 東京地裁 平26(行ウ)299号 投票効力無効取消等請求事件
(27)平成27年 3月26日 大阪高裁 平26(行ケ)5号 選挙無効請求事件
(28)平成27年 3月25日 東京高裁 平26(行ケ)24号 選挙無効請求事件
(29)平成27年 3月25日 広島高裁松江支部 平26(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(30)平成27年 3月25日 福岡高裁 平26(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(31)平成27年 3月23日 大阪高裁 平26(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(32)平成27年 3月20日 名古屋高裁 平26(行ケ)2号・平26(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(33)平成27年 2月 4日 東京高裁 平26(行コ)353号 行政処分取消等請求控訴事件
(34)平成27年 1月16日 東京地裁 平26(行ウ)239号・平26(行ウ)272号 行政文書不開示処分取消請求事件
(35)平成27年 1月16日 東京地裁 平22(行ウ)239号・平22(行ウ)272号 行政文書不開示処分取消請求事件
(36)平成27年 1月15日 最高裁第一小法廷 平26(行ツ)103号・平26(行ヒ)108号 選挙無効請求事件
(37)平成26年12月24日 横浜地裁 平26(行ウ)15号 損害賠償請求事件(住民訴訟)
(38)平成26年11月26日 最高裁大法廷 平26(行ツ)78号・平26(行ツ)79号 選挙無効請求事件
(39)平成26年11月26日 最高裁大法廷 平26(行ツ)155号・平26(行ツ)156号 選挙無効請求事件 〔参議院議員定数訴訟〕
(40)平成26年11月26日 東京高裁 平26(行コ)467号 衆議院議員総選挙公示差止め等請求控訴事件
(41)平成26年11月21日 東京地裁 平26(行ウ)571号 衆議院議員総選挙公示差止め等請求事件
(42)平成26年10月28日 東京地裁 平24(行ウ)496号 三鷹市議会議員および市長選挙公営費返還請求事件
(43)平成26年10月24日 和歌山地裁 平23(行ウ)7号 政務調査費違法支出金返還請求事件
(44)平成26年 9月25日 東京地裁 平21(ワ)46404号・平22(ワ)16316号 損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第2事件)、損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第3事件)
(45)平成26年 9月10日 東京地裁 平24(行ウ)878号 分限免職処分取消請求事件
(46)平成26年 9月 5日 東京地裁 平25(行ウ)501号 行政処分取消等請求事件
(47)平成26年 7月 9日 最高裁第二小法廷 平26(行ツ)96号・平26(行ヒ)101号 選挙無効請求事件
(48)平成26年 5月27日 最高裁第三小法廷 平24(オ)888号 損害賠償請求事件
(49)平成26年 3月11日 東京地裁 平25(ワ)11889号 損害賠償等請求事件
(50)平成26年 2月26日 東京地裁 平24(ワ)10342号 謝罪広告掲載等請求事件
(51)平成26年 1月21日 東京地裁 平25(行ウ)59号 更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分取消請求事件
(52)平成26年 1月16日 名古屋地裁 平23(行ウ)68号 愛知県議会議員政務調査費住民訴訟事件
(53)平成25年12月25日 東京高裁 平25(行ケ)90号 選挙無効請求事件
(54)平成25年12月25日 東京高裁 平25(行ケ)83号 選挙無効事件
(55)平成25年12月25日 広島高裁松江支部 平25(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(56)平成25年12月20日 東京高裁 平25(行ケ)70号・平25(行ケ)71号・平25(行ケ)72号・平25(行ケ)73号・平25(行ケ)74号・平25(行ケ)75号・平25(行ケ)76号・平25(行ケ)77号・平25(行ケ)78号・平25(行ケ)79号・平25(行ケ)80号 各選挙無効請求事件
(57)平成25年12月20日 仙台高裁 平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号・平25(行ケ)4号・平25(行ケ)5号・平25(行ケ)6号
(58)平成25年12月18日 大阪高裁 平25(行ケ)5号・平25(行ケ)6号・平25(行ケ)7号・平25(行ケ)8号・平25(行ケ)9号・平25(行ケ)10号 選挙無効請求事件
(59)平成25年12月18日 名古屋高裁 平25(行ケ)1号・平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(60)平成25年12月16日 名古屋高裁金沢支部 平25(行ケ)2号・平25(行ケ)3号・平25(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(61)平成25年12月 6日 札幌高裁 平25(行ケ)1号 参議院議員選挙無効請求事件
(62)平成25年12月 5日 広島高裁 平25(行ケ)3号 選挙無効請求事件
(63)平成25年11月29日 東京地裁 平25(ワ)18098号 被選挙権侵害による損害賠償請求事件
(64)平成25年11月28日 広島高裁岡山支部 平25(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(65)平成25年11月20日 最高裁大法廷 平25(行ツ)226号 選挙無効請求事件
(66)平成25年11月20日 最高裁大法廷 平25(行ツ)209号・平25(行ツ)210号・平25(行ツ)211号 選挙無効請求事件 〔平成24年衆議院議員総選挙定数訴訟大法廷判決〕
(67)平成25年10月16日 東京地裁 平23(行ウ)292号 報酬返還請求事件
(68)平成25年 9月27日 大阪高裁 平25(行コ)45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件
(69)平成25年 9月27日 東京地裁 平25(ワ)9342号 発信者情報開示請求事件
(70)平成25年 6月19日 横浜地裁 平20(行ウ)19号 政務調査費返還履行等代位請求事件
(71)平成25年 3月28日 京都地裁 平20(行ウ)10号 不当利得返還等請求行為請求事件
(72)平成25年 3月26日 東京高裁 平24(行ケ)26号・平24(行ケ)27号・平24(行ケ)28号・平24(行ケ)29号・平24(行ケ)30号・平24(行ケ)31号・平24(行ケ)32号 各選挙無効請求事件
(73)平成25年 3月26日 広島高裁岡山支部 平24(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(74)平成25年 3月25日 広島高裁 平24(行ケ)4号・平24(行ケ)5号 選挙無効請求事件
(75)平成25年 3月22日 高松高裁 平24(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(76)平成25年 3月18日 名古屋高裁金沢支部 平24(行ケ)1号 選挙無効請求事件
(77)平成25年 3月14日 名古屋高裁 平24(行ケ)1号・平24(行ケ)2号・平24(行ケ)3号・平24(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(78)平成25年 3月14日 東京地裁 平23(行ウ)63号 選挙権確認請求事件 〔成年被後見人選挙件確認訴訟・第一審〕
(79)平成25年 3月 7日 札幌高裁 平24(行ケ)1号 衆議院議員選挙無効請求事件
(80)平成25年 3月 6日 東京高裁 平24(行ケ)21号 選挙無効請求事件
(81)平成25年 2月28日 広島高裁 平24(行ケ)2号 棄却決定取消請求事件
(82)平成25年 2月28日 東京地裁 平22(ワ)47235号 業務委託料請求事件
(83)平成25年 2月19日 東京高裁 平24(ネ)1030号 帰化日本人投票制限国家賠償請求控訴事件
(84)平成25年 2月 6日 大阪地裁 平22(行ウ)230号 選挙権剥奪違法確認等請求事件
(85)平成24年12月12日 東京高裁 平24(行ス)67号 執行停止申立却下決定に対する抗告事件
(86)平成24年12月12日 東京地裁 平24(行ウ)831号 天皇の衆議院の解散等に関する内閣の助言と承認の無効確認請求事件
(87)平成24年12月11日 東京地裁 平24(行ク)433号 執行停止申立事件
(88)平成24年11月30日 最高裁第一小法廷 平24(行ト)70号 仮の差止等申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件
(89)平成24年11月30日 最高裁第一小法廷 平24(行ツ)371号 衆議院議員総選挙公示差止等請求上告事件
(90)平成24年11月28日 東京高裁 平24(行コ)448号 衆議院議員総選挙公示差止等請求控訴事件
(91)平成24年11月22日 東京地裁 平24(行ウ)784号 衆議院議員総選挙公示差止等請求事件
(92)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)95号 選挙無効請求事件
(93)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)72号 選挙無効請求事件
(94)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)65号 選挙無効請求事件
(95)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)64号 選挙無効請求事件
(96)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)59号 選挙無効請求事件
(97)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)52号 選挙無効請求事件
(98)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)51号 選挙無効請求事件 〔参議院議員定数訴訟・大法廷判決〕
(99)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)179号
(100)平成24年10月17日 最高裁大法廷 平23(行ツ)174号 参議院議員選挙無効請求事件


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


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