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「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例(5)平成29年 8月29日 知財高裁 平28(行ケ)10271号 審決取消請求事件

「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例(5)平成29年 8月29日 知財高裁 平28(行ケ)10271号 審決取消請求事件

裁判年月日  平成29年 8月29日  裁判所名  知財高裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(行ケ)10271号
事件名  審決取消請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA08299001

事案の概要
◇発明の名称を「ソーラーポスター」とする特許出願拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消しを求めた事案

関連審決・命令
特許庁 不服2015-21980 平成28年11月 7日

出典
裁判所ウェブサイト

裁判年月日  平成29年 8月29日  裁判所名  知財高裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(行ケ)10271号
事件名  審決取消請求事件
裁判結果  請求棄却  上訴等  確定  文献番号  2017WLJPCA08299001

原告 株式会社ドクター中松創研
同訴訟代理人弁理士 鮫島信重
被告 特許庁長官
同指定代理人 黒瀬雅一
吉村尚
山村浩
真鍋伸行

 

主文

1  原告の請求を棄却する。
2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求
特許庁が不服2015-21980号事件について平成28年11月7日にした審決を取り消す。
第2  事案の概要
1  特許庁における手続の経緯等
⑴  原告は,平成24年11月28日,発明の名称を「ソーラーポスター」とする特許出願(特願2012-260408号。請求項数1。甲1)をしたが,平成27年9月7日付けで拒絶査定を受けた(甲8)。
⑵  そこで,原告は,平成27年12月11日,これに対する不服の審判を請求するとともに(甲9),同日付け手続補正書により,特許請求の範囲の変更を内容とする補正(以下「本件補正」という。)を行った(甲10)。
⑶  特許庁は,上記審判請求を不服2015-21980号事件として審理を行い,平成28年11月7日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との別紙審決書(写し)記載の審決(以下「本件審決」という。)をし,同月28日,その謄本が原告に送達された。
⑷  原告は,平成28年12月20日,本件審決の取消しを求める本件訴訟を提起した。
2  特許請求の範囲の記載
⑴  本件補正前の記載
本件補正前の特許請求の範囲請求項1の記載は,平成27年5月8日付け手続補正書により補正された次のとおりのものである(甲5)。以下,この請求項1に記載された発明を「本願発明」といい,その明細書(甲1)を,図面を含めて「本願明細書」という。
【請求項1】公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え,基材の片側に感圧性接着剤,リリースライナーを設け,該リリースライナーにはスリットを設け,このスリットは掲示板にポスターを貼る時に,そのスリットからリリースライナーの一部を剥がして接着面の一部をむき出しにして掲示板に位置決めして貼り,次に残りのリリースライナーを剥がしてポスター全面を貼るように構成され,蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光することを特徴とするソーラーポスター。
⑵  本件補正後の記載
本件補正後の特許請求の範囲請求項1の記載は,次のとおりである(甲10)。以下,この請求項1に記載された発明を「本願補正発明」という。下線部は,本件補正による補正箇所を示す。
【請求項1】ポスターの人名に蓄光インクを使用せずに,逆にバックに蓄光インクを使用することにより大きな面積で強力な効果となり,また人名に蓄光インクを使用せずに人物の目のみに蓄光インクを使用することにより蓄光インクの量を人名に使うより最小限に少なくして大幅なコストダウンをし,しかも強力に目立ち,大効果があることを特徴とする高効果蓄光ポスター。
3  本件審決の理由の要旨
⑴  本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりである。要するに,①本件補正は,特許法17条の2第5項の規定を満たすものではないから,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである,②本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。),下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び下記ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
ア 引用例1:登録実用新案第3145939号公報(甲3。平成20年発行。)
イ 引用例2:実願平1-130153号(実開平3-69193号)のマイクロフィルム(甲11)
ウ 引用例3:特開2006-227051号公報(甲12)
⑵  本件審決が認定した引用発明1,本願発明と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア 引用発明1
ベース紙上に,文字,図形又は写真を単独又は複合表示したポスターにおいて,前記文字,図形又は写真の一部又は全部を,数時間以上の残光時間を有する蓄光インクを用いて表示した,政党活動や選挙などに用いる政治用ポスター。
イ 本願発明と引用発明1との一致点
蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光するソーラーポスターである点。
ウ 本願発明と引用発明1との相違点
(ア) 相違点1
本願発明は,公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備えるものであるのに対し,引用発明1は,このことが明確ではない点。
(イ) 相違点2
本願発明は,基材の片側に感圧性接着剤,リリースライナーを設け,該リリースライナーにはスリットを設け,このスリットは掲示板にポスターを貼る時に,そのスリットからリリースライナーの一部を剥がして接着面の一部をむき出しにして掲示板に位置決めして貼り,次に残りのリリースライナーを剥がしてポスター全面を貼るように構成されているのに対し,引用発明1は,その点について明らかでない点。
4  取消事由
⑴  本件補正の許否に係る判断の誤り(取消事由1)
⑵  本願発明に係る進歩性の判断の誤り(取消事由2)
ア 本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り及び相違点の看過
イ 相違点2の容易想到性の判断の誤り
第3  当事者の主張
1  取消事由1(本件補正の許否に係る判断の誤り)について
〔原告の主張〕
本願補正発明は本願明細書の図7及び図8に開示されており,本件補正は特許請求の範囲を減縮したものであるから,本件審決において本件補正を却下したのは不当である。
被告は,本件補正は発明を特定する事項(特許法17条の2第5項第2号。以下「発明特定事項」という。)を削除するものであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに当たらない旨主張するが,失当である。本願明細書の発明の詳細な説明には,被告が発明特定事項であると主張する部分に係る記載が存在するところ,本件補正は,これらの記載を削除するものではない。また,本願明細書には,「本発明は公職選挙法に合致し,且つ日没後も見えるようにしたポスターに関する。」と明記してあり(【0001】),特許請求の範囲に記載されていなくても,本願補正発明は公職選挙法ポスターであるといえる。
〔被告の主張〕
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲請求項1から,「公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え」るという発明特定事項,及び「基材の片側に感圧性接着剤,リリースライナーを設け,該リリースライナーにはスリットを設け,このスリットは掲示板にポスターを貼る時に,そのスリットからリリースライナーの一部を剥がして接着面の一部をむき出しにして掲示板に位置決めして貼り,次に残りのリリースライナーを剥がしてポスター全面を貼るように構成され」るという発明特定事項を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに当たらない。また,本件補正は,請求項の削除を目的とするもの,誤記の訂正を目的とするもの,明りようでない記載の釈明を目的とするものにも当たらない。
したがって,本件補正を却下した本件審決の認定判断に誤りはない。
2  取消事由2(本願発明に係る進歩性の判断の誤り)について
〔原告の主張〕
⑴ 本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り及び相違点の看過について本件審決は,本願発明と引用発明1とは,「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光するソーラーポスター」の点で一致すると認定した。
しかし,引用例1には,文字を蓄光インクで印刷することが記載されている(【0021】)のに対し,本願明細書には,「インクで垣根を形成して穴を形成し,UVインク使用の場合は前記穴の中に蓄エネルギ体を埋め込むことを特徴とする。」という記載(【0004】)があり,引用発明1と本願発明とは,蓄光体の形成のやり方が異なる。また,引用発明1には,本願発明のようにポスターの背景や目に蓄光体を入れる構成(図7,図8)は記載されておらず,引用発明1と本願発明とは,蓄光体を配置する部分が異なる。本願発明の特許請求の範囲には,「インクで垣根を形成して穴を形成し,UVインク使用の場合は前記穴の中に蓄エネルギ体を埋め込む。」という内容が読み取れるものである。
⑵ 相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
ア 引用例2について
引用例2には,「ポスター用紙裏面に接着剤若しくは発泡弾力性粘着剤等の粘着剤層を介して剥離紙を積層し,該剥離紙には上下左右に個々の剥離紙に分離する切目を形成した選挙用のポスター」が記載されているが,本願発明のような特別な構造により夜間又は暗所で所定部分が発光するものではない。
また,引用発明2は,貼付け面に凹凸がある場合の考案であり,本願発明とは使用目的が全く異なる。本願発明は,ポスターの「貼りやすさ」をポイントとして発明したものであるが,引用例2には,「貼りやすさ」の発想がない。
したがって,引用発明2から本願発明の構成に至ることは困難である。
イ 引用例3について
引用発明3は,リリースライナーと切り込みの形状を工夫することにより,印字されたラベルをリリースライナーを伴った状態で貼付台紙に正確に貼り付けるための発明であり,本願発明のような,所定領域を光らせるポスターとは全く関係がない。
また,本願発明は,ポスターの「貼りやすさ」をポイントとして発明したものであるが,引用発明3には,「貼りやすさ」の発想がない。
したがって,引用発明3から本願発明を想到することは困難である。
〔被告の主張〕
⑴ 本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り及び相違点の看過について本願発明は,ソーラーポスターの発光に関し,「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光する」とのみ特定している。上記〔原告の主張〕は,本願発明の特定事項に基づかない主張であり,失当である。
⑵ 相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
ア 引用例2について
引用例2には,「この考案は…,ポスターを貼ったり,剥がしたりする作業が容易にできる…ポスターを提供することを目的とする。」(2頁11行~2頁15行)と記載されていることから,引用発明2とは,ポスターを貼ったり,剥がしたりする作業が容易にできる,つまりポスターを貼りやすくしたものである。
したがって,本願発明と引用発明2との目的に差異はない。
イ 引用例3について
引用発明3は,対象物(配送物)にラベル31を貼付する際に,ラベルを剥離紙を剥がさない状態で配送物に貼付位置合わせを行い,剥離紙32に形成された切り込み322の,例えば,狭い方の剥離紙を先に剥がしてラベルの一部を接着した後残りの剥離紙を剥がしてラベルの残り部分を貼付するようにして使用して,ラベルが対象物の貼付位置に正しく貼付できるようにしたものであり,ラベルを対象物に対して貼りやすくしているものであることが明らかである。
第4  当裁判所の判断
1  取消事由1(本件補正の許否に係る判断の誤り)について
⑴  本件補正の目的について
前記第2の2のとおり,本件補正は,①補正前の本願発明から,「公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え」という記載,及び「基材の片側に…ポスター全面を貼るように構成され」という記載を削除するとともに,②補正前の本願発明の「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光することを特徴とするソーラーポスター」を,「ポスターの人名に蓄光インクを使用せずに,逆にバックに蓄光インクを使用することにより…また人名に蓄光インクを使用せずに人物の目のみに蓄光インクを使用することにより…大効果があることを特徴とする高効果蓄光ポスター」という記載に訂正するものである。
前記①により,本願補正発明は,本件補正前の本願発明が有していた,ポスターが合致するべき条件及びポスター全面を掲示板に貼付けするための構成に係る発明特定事項については限定がないことになる。また,前記②は,上記条件及び構成に関するものではなく,蓄光インクの使用箇所に関するものである。
したがって,前記②の点を勘案しても,本件補正により,本願補正発明は,本願発明が有していた,ポスターが合致するべき条件等の発明特定事項については限定がないことになるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものではなく,請求項の削除を目的とするもの,誤記の訂正を目的とするもの,明りようでない記載の釈明を目的とするものの,いずれにも当たらない。
⑵  原告の主張について
ア 原告は,本件補正は特許請求の範囲を減縮したものであると主張する。
しかし,前記⑴のとおり,本件補正は,発明特定事項を限定するものではないことが明らかであり,特許請求の範囲の減縮を目的とするものとは認められない。
イ 原告は,本願明細書の発明の詳細な説明には,前記⑴の発明特定事項であるとされる部分に係る記載が存在するところ,本件補正は,これらの記載を削除するものではなく,また,本願明細書には,「本発明は公職選挙法に合致し,且つ日没後も見えるようにしたポスターに関する。」と明記してある(【0001】)ことから,本件補正は発明特定事項を削除するものではない旨主張する。
しかし,前記⑴のとおり,本件補正によって,ポスターが合致するべき条件等に係る発明特定事項が本件補正前の特許請求の範囲請求項1から削除され,本件補正後の請求項1がこの発明特定事項を有しないことは,特許請求の範囲の記載から明らかである。原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものであり,採用できない。
なお,本願明細書の発明の詳細な説明においても,「上述の実施例では,本発明を選挙ポスターに適用した場合を例にとって説明したが,本発明はこれに限るものではない。例えばコンサートや各種のイベントの勧誘を行う場合にも同様に用いることができる。このような選挙用ポスターやポスター以外も本発明に含まれる。」(【0013】)として,発明の対象が選挙用ポスターに限られるものではない点が明記されている。
⑶  小括
したがって,本件補正は,特許法17条の2第5項の要件を満たさないものであるから,本件補正を却下した本件審決の判断に誤りはなく,取消事由1は理由がない。
2  取消事由2(本願発明に係る進歩性の判断の誤り)について
⑴  本願発明について
本願発明に係る特許請求の範囲請求項1の記載は,前記第2の2⑴のとおりであり,本願発明の特徴は,以下のとおりである。
ア 本願発明は,公職選挙法に合致し,かつ日没後も見えるようにしたポスターに関するものである(【0001】)。
イ 従来の選挙用ポスターは,日没後は見ることができなかった(【0002】)。そこで,本願発明は,夜でも候補者の氏名等を読み取ることができるようにしたポスターを提供することを目的としている(【0003】)。
ウ 本願発明は,公職選挙法ポスターの規格に合致する条件を備え,蛍光体のごとき発光体を用いずに,太陽エネルギ又は車のヘッドライト等のエネルギを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光することを特徴とする(【0004】,【0014】)。例えば,インクで垣根を形成してできた穴に,蓄エネルギー体を埋め込み,候補者の名前等を形成する。ここで蓄エネルギ―体とは,吸収した蓄えたエネルギーを光として放出する物質である(【0004】,【0008】,【図3】)。
エ 本願発明は,公職選挙法に抵触することなく形成され,暗所や夜でも候補者の氏名や要点が読み取れるので,他の候補者の名前は見えないのに,本ポスター候補者のみの名前が見え,候補者の氏名を記憶に残すことができ,当選確率が上がる効果がある(【0005】,【0008】)。
オ また,本願発明に係るポスターは,基材の片側に感圧性接着材,スリットの入ったリリースライナーを備え,掲示板にポスターを貼る時には,スリットからリリースライナーの一部を剥がして接着面の一部をむき出しにして掲示板に位置決めして貼り,次に残りのリリースライナーを剥がしてポスター全面を貼るようになっている。そのため,ポスターをしわなく,速く要領よく掲示板に貼ることができる(【0009】【図4】)。
⑵  引用発明1について
引用例1(甲3)には,前記第2の3⑵アのとおり,引用発明1が記載されていることが認められ,この点について当事者間に争いはない。
引用発明1の特徴は,以下のとおりである。
ア 従来,文字又は図形の一部を通常インクで印刷し,他部を蓄光インクで印刷した発光ポスターが提案されていたが,残光時間が10分~60分であって,政治用には採用される利点がなかった。しかし,蓄光インクは,最近は数時間以上の残光時間が見込まれるようになったので,政治用ポスターとしても不採用の条件が少なくなった(【0004】)。
イ そこで,引用発明1の政治用ポスターでは,ベース紙上に,文字,図形又は写真を単独又は複合表示したポスターにおいて,前記文字,図形又は写真の一部又は全部を,数時間以上の残光時間を有する蓄光インクを用いて表示するようにした(【0006】【図1】)。ここで,政治用ポスターとは,政党活動用ポスター,政治活動用ポスター,又は選挙用などのように政治に直接又は間接的に効果を発揮するポスターをいう(【0008】)。
ウ 引用発明1の政治用ポスターは,短くとも数時間以上,なるべく6時間以上残光するので,最短でも日没から数時間は光ることになり,夜間の認識を深めることができる効果がある(【0013】)。
⑶  本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り及び相違点の看過について
ア 前記⑵のとおり,引用例1に引用発明1が記載されていることについては,当事者間に争いがない。
そして,引用発明1の「数時間以上の残光時間を有する蓄光インク」とは,光を吸収して蓄光し,夜間又は暗所で発光するものであるから,「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で」「発光する」ものである。そして,この蓄光インクを用いて「文字,図形又は写真の一部又は全部」を表示すれば,ポスターの「所定部分」が発光するものである。
したがって,本願発明と引用発明1との一致点を,蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光するソーラーポスターである点,とした本件審決の認定に誤りはない。
イ 原告は,本願発明の特許請求の範囲には,「インクで垣根を形成して穴を形成し,UVインク使用の場合は前記穴の中に蓄エネルギ体を埋め込む。」という内容が読み取れるものであり,引用発明1と本願発明とは文字の発光方法や蓄光体の形成のやり方が異なる旨主張する。
しかし,前記第2の2⑴のとおり,本願発明は,蓄光体に関しては,「蛍光体のごとき発光体を用いず,太陽エネルギーや車のヘッドライト等のエネルギーを吸収し,夜間又は暗所で所定部分が発光する」と特定しているだけであり,インクにより形成された孔に蓄光体を埋め込む構成や,ポスターの背景や目に蓄光体を入れる構成は,本願発明の内容を成すものではないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づくものではない。また,原告が主張する蓄光体の形成方法や位置に関する構成は,本願発明の一実施例にとどまるものであり,これらの構成が本願発明の必須の構成であると解することもできない。
したがって,上記原告の主張は,採用できない。
⑷  相違点2の容易想到性の判断の誤りについて
ア 引用例2について
(ア) 引用例2の実用新案登録請求の範囲(1頁5行~9行),従来技術及びその問題点(1頁16行~2頁15行),実施例(3頁5行~9行,同頁13行~4頁10行,同頁18行~5頁7行)の記載及び【図1】(別紙引用例図面目録1参照)によれば,本件審決が認定したとおり,引用例2には,「ポスター用紙裏面に,接着剤若しくは発泡弾力性粘着剤等の粘着剤層を介して剥離紙を積層し,該剥離紙には,上下及び左右両側部に,個々の剥離紙に分離する切目を形成した,ポスターを貼ったり,剥がしたりする作業が容易にできる,選挙用のポスター。」が記載されていることが認められる。この点について,「ポスターを貼ったり,剥がしたりする作業が容易にできる」との点を除き,当事者間に争いはない。
(イ) 引用発明2の特徴は,以下のとおりである。
従来,例えば選挙用のポスターは,現場でポスター裏面全体に接着剤又はのりを塗布し,掲示板,電柱等に貼り付けていた。しかし,作業能率が悪く,全面に貼着しているので,剥がしにくく,また凹凸部のある面に貼り付ける場合,ポスター表面も凹凸となり,ポスターの美感が損なわれる問題があった。ピンによってポスターの周辺を数箇所止める方法もあるが,コンクリート面の場合は止めることができない。裏面の四周辺に両面接着テープをあらかじめ貼り付け,現場で剥離紙を剥がして貼り付ける方法もあるが,多くの手間を煩わす欠点があった(1頁16行~2頁10行)。
そこで,引用発明2においては,ポスター用紙裏面に,接着剤若しくは発泡弾力性粘着剤等の粘着剤層を介して剥離紙を積層し,該剥離紙には,上下及び左右両側部に,個々の剥離紙に分離する切目を形成した(1頁5行~9行,【図1】)。
引用発明2に係る選挙用のポスターは,貼着場所,貼着面の状態,貼着期間に応じて必要とする剥離紙を剥がして貼着することができる。すなわち,全体の剥離紙を剥がして貼り付けることも,一部の剥離紙のみを剥がして貼り付けることもできる(3頁13行~4頁10行)。
また,引用発明2に係る選挙用のポスターは,ノリ付けが不要なので容易に貼着させることができる。さらに,一部分だけ貼着させれば,容易に剥がすことができるとともに,貼着面に凹凸があってもその凹凸がポスター表面に出ないので美麗に貼着させることができる(4頁18行~5頁7行)。
イ 引用例3(甲12)について
引用例3の発明を実施するための最良の形態の記載(【0013】,【0014】)及び【図6】(別紙引用例図面目録2参照)によれば,本件審決が認定したとおり,引用例3には,「剥離紙32上にラベル状の支持体31が粘着剤層を介して貼り合わされた粘着紙からなるラベルシート3であって,剥離紙32には,印字されたラベルが対象物の貼付位置に正しく貼付できるように切り込み(スリット)322が形成されていて,対象物(配送物)にラベル31を貼付する際に,ラベルを剥離紙を剥がさない状態で配送物に貼付位置合わせを行い,剥離紙32に形成された切り込み322の,例えば,狭い方の剥離紙を先に剥がしてラベルの一部を接着した後残りの剥離紙を剥がしてラベルの残り部分を貼付するようにして使用されるラベルシート3。」が記載されていることが認められ,この点は当事者間に争いがない。
ウ 引用発明1に引用発明2及び引用発明3を適用することの動機付け
(ア) 引用発明2に係る選挙用ポスターは,用紙裏面に,接着剤等の粘着剤層を介して剥離紙を積層するとともに,剥離紙には,上下及び左右両側部に,個々の剥離紙に分離する切目を形成したものである。このポスターは,貼着場所,貼着面の状態,貼着期間に応じて必要とする剥離紙(全部でもよいし,一部でもよい。)を切目によって剥がして貼着することで,ポスターを貼る作業を容易にすることができる(前記ア(ア))。
そして,引用発明2は,引用発明1と同じく選挙用ポスターに関するものである。また,貼付けを容易にすることは,ポスターである以上,引用発明1も当然に有する自明の課題である。そうすると,引用発明1のポスターの貼付けを容易にするために,引用発明2を適用する動機付けが存在すると認められる。
なお,引用発明2は,個々の剥離紙を剥がして貼着する際の手順について特定するものではない。しかし,前記イのとおり,引用発明3のラベルシート3は,対象物(配送物)にラベル31を貼付する際に,剥離紙を剥がさない状態で貼付位置合わせを行い,剥離紙32に形成された切り込み322の,例えば,狭い方の剥離紙を先に剥がしてラベルの一部を接着した後,残りの剥離紙を剥がしてラベルの残り部分を貼付するようにして使用されるものであり,相違点2に係る貼着手法と変わるところはない。そして,このような貼着手法は,切り込みを有する剥離紙を個々に剥がして貼着する際の常套手段であると認められるから,引用発明2においても採用できるというべきである。
そうすると,引用発明1に引用発明2を適用するに際して,引用発明3の常套的な貼着手法を採用し,相違点2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たものである 。
(イ) 原告は,引用発明2は,本願発明のように特別な構造により夜間又は暗所で所定部分が発光するものではなく,また,貼付け面に凹凸がある場合の考案であって本願発明とは使用目的が全く異なり,本願発明のような「貼りやすさ」の発想がないため,引用発明2から本願発明の構成に至ることは困難である旨主張する。
しかし,夜間又は暗所で所定部分が発光する構成は,そもそも相違点2に係る構成ではないから,相違点2の容易想到性を判断するに当たり,引用発明2が当該構成を備える必要はない。
また,前記ア(イ)のとおり,引用発明2に係る選挙用のポスターは,貼着場所,貼着面の状態,貼着期間に応じて必要とする剥離紙を剥がして貼着することができるものであり,貼付け面に凹凸がある場合の利用に限られるものではなく,本願発明と同じく剥離紙全体を剥がして貼着する利用態様も含むものである。
さらに,前記ア(イ)のとおり,引用発明2に係る選挙用のポスターは,ノリ付けを不要としたことで容易に貼着させることができるものであるから,ポスターの貼りやすさに関し,本願発明と目的が相違するともいえない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) 原告は,引用発明3は,本願発明のような文字部以外を光らせるポスターとは全く関係なく,また,ポスターの貼りやすさをポイントとする本願発明と異なり,貼りやすさの発想はないことから,引用発明3から本願発明を想到することは困難である旨主張する。
しかし,相違点2の容易想到性を判断するに当たり,引用発明3が夜間又は暗所で所定部分が発光する構成を備える必要はないことについては,引用発明2の場合(前記(イ))と同じである。そして,引用発明3がポスターに関するものでないからといって,直ちに引用発明3を引用発明1に適用できないことにはならない。
また,引用発明3は,印字されたラベルが対象物の貼付位置に正しく貼付できるように,剥離紙に切り込みが形成されているものであり,貼りやすさを目的とするものと認められる。
したがって,原告の上記主張は,採用できない。
⑸  小括
以上のとおり,本件審決において,本願発明と引用発明1との一致点の認定の誤り及び相違点の看過はなく,相違点2の容易想到性についての判断にも誤りはないから,取消事由2には理由がない。
3  結論
よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第4部
(裁判長裁判官 髙部眞規子 裁判官 山門優 裁判官 片瀬亮)

別紙

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