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「政治活動 選挙運動」に関する裁判例(14)平成29年 5月18日 東京高裁 平28(う)1194号 公職選挙法違反被告事件

「政治活動 選挙運動」に関する裁判例(14)平成29年 5月18日 東京高裁 平28(う)1194号 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日  平成29年 5月18日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(う)1194号
事件名  公職選挙法違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA05186015

裁判経過
上告審 平成30年 8月24日 最高裁第二小法廷 決定 平29(あ)1033号 公職選挙法違反被告事件
第一審 平成28年 6月 3日 静岡地裁 判決 平27(わ)241号 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日  平成29年 5月18日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平28(う)1194号
事件名  公職選挙法違反被告事件
文献番号  2017WLJPCA05186015

上記の者に対する公職選挙法違反被告事件について,平成28年6月3日静岡地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官岡崎真尚出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

本件控訴を棄却する。

 

理由

第1  本件事案と控訴の趣意
1 本件は,原判決が,「被告人は,平成27年4月12日(以下,特に示さない場合は,平成27年を指す。)執行の静岡市長選挙(以下「本件選挙」という。)に際し,同選挙に立候補する決意を有していたAの選挙運動者であるが,前記Aの兄であるとともに政治団体「a会」の代表者であるB(以下「B」という。)及び前記Aの選挙運動者であるとともに同団体の会計責任者であるCと共謀の上,前記Aに当選を得させる目的をもって,いまだ立候補届出のない同年3月上旬から同月12日までの間,静岡市〈以下省略〉の同団体事務所等において,D(以下「D」という。)を介するなどして,前記Aの選挙運動者であるb株式会社(以下「b社」という。)代表取締役E(以下「E」という。)に対し,同月13日から告示日前日の同月28日までの間に同社の被用者をして前記Aに当選を得させるため街頭で通行人に「A市長選出馬」「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生」等と記されたビラを配りながら「Aです。よろしくお願いします。」と呼び掛けるなど前記Aへの投票の呼び掛け等の選挙運動を依頼し,その報酬として同団体から同社に現金540万4968円を支払う旨の意思表示をし,もって選挙運動者に対し,特殊の直接利害関係を利用して誘導するとともに,立候補届出前の選挙運動をしたものである。」との事実を認定した事案である。
2 本件控訴の趣意は,理由齟齬,審理不尽,事実誤認及び法令適用の誤り等の各主張である。
第2  原判決が公訴棄却をしなかったこと等に関する審理不尽,事実誤認等の主張について
1 原判決の判断
(1) 違法かつ差別的な捜査が行われ,これに基づいて差別的な起訴がなされたから公訴棄却すべきであるとの原審弁護人の主張について
ア 原審弁護人は,本件の捜査は,①呼び掛け文言について虚偽の内容を記載した供述調書や捜査報告書を作成した点,②3月13日の原判示のビラ(以下「本件ビラ」という。)頒布の際,未成年のアルバイト(Eの被用者のこと。以下同じ。)に対し警告を発することなく取調べを行っており,軽微な公職選挙法違反については警告によって行為を中止せず繰り返し違法行為が行われた場合にのみ捜査を開始する運用に反している点,③J(以下「J」という。)の取調べの際,ねつ造したH(以下「H」という。)のメモを見せた点,④3月9日及び14日に行われた,Aの選挙を応援する陣営(以下「A陣営」という。)による本件選挙の選挙対策会議(以下「選対会議」という。)の議事次第,会議録を隠ぺいした点において違法であり,さらに,⑤A陣営のビラ街頭頒布の関係者,とりわけ被告人に対する差別的な捜査を行い,その結果として被告人を起訴したものであるから,本件起訴は,憲法14条,31条に反し,刑事訴訟法338条4号を適用ないし類推適用して本件公訴は棄却されるべきである旨主張する。
イ 一般論として,検察官の裁量権の逸脱によって公訴の提起が無効になる場合がありうることは否定できないが,それは公訴の提起自体が職務犯罪を構成するような極限的な場合に限られると解される(最高裁判所昭和55年12月17日第1小法廷決定・刑集34巻7号672頁参照)。
本件についてみると,①の原審弁護人が指摘する各供述調書や捜査報告書中の呼び掛け文言に実質的な違いがあるとはいえず,現に供述者らも,両者は同じような意味だと考えて気にしなかった旨述べており,捜査官が虚偽の内容を記載したとは認められない。②の主張についてみると,そもそも買収罪は軽微な違反とは到底いえないところ,警察官による上記職務質問の時点においても,多数のアルバイトを使って本件行為をしていたこと等の客観的状況からして背後に買収行為の存在が疑われても何ら不自然ではなく,捜査を継続したことが違法であるとはいえない。③及び④の主張については,本件の関係証拠上,これらの事実を認めることはできない。さらに,⑤差別的捜査・起訴の点についても,起訴に係る公訴事実の内容は,単なる事前運動ではなく,買収罪である点が重要であり,その金額も約540万円と多額であることからすれば,軽微な事案とは言い難く,その可罰的・実質的違法性があることは後記のとおりである。また,本件捜査及び公訴の提起が,対立候補者の陣営と比較して被告人らを不当に弾圧する意図でなされたとの主張も,証拠上これをうかがわせる事情は認められず,採用できない。
そうすると,関係各証拠を検討しても,原審弁護人の主張するような違法で差別的な捜査,起訴が行われたとは認められず,本件起訴が憲法14条,31条に反して検察官の裁量権を逸脱したものとはいえない。
(2) 可罰的違法性に関する原審弁護人の主張について
ア 原審弁護人は,本件ビラ自体には投票依頼の言葉はなく,呼び掛け文言も商業ビラ等の通常の頒布の例にならって業者から提案されたものに過ぎないことや,清水署からの警告に応じてビラの頒布を中止していることなどからすれば,本件行為は法益侵害及び社会的逸脱性のいずれも軽微であって可罰的違法性を欠くと主張する。
イ 確かに,後記のとおり,被告人らが投票呼び掛け文言を積極的に共謀したとまでは認められず,警察官からの警告に応じてビラ頒布をいったん中止し,内容や呼び掛け方を修正したことは認められる。しかし,本件の公訴事実は,単なる事前運動のみならず,利害誘導すなわち公職選挙法の中でも特に厳しく規制されるべき買収罪の類型であり,利用したとされる金額も大きいこと等からすれば,法益侵害及び社会的逸脱性の程度が小さいとは到底いえない。原審弁護人の上記主張は採用できない。
(3) 本件を公職選挙法違反の罪に問うことは,憲法21条1項に違反するから,本件起訴は無効であり,公訴棄却あるいは無罪とすべきであるとの原審弁護人の主張について
ア 原審弁護人は,本件ビラ頒布行為が仮に選挙運動に当たるとしても,その反社会性や違法性は極めて軽微であり,警告等の行為によって容易に文言の修正や頒布の中止をさせることができたし,被告人の過去の同様の頒布行為やK陣営の行為については警告すら行われていなかったのであり,このような軽微な行為について,逮捕・起訴を行うことは,被告人に対するあまりに大きい政治活動の自由の制限であり,憲法21条1項に違反して公職選挙法を違憲的に適用したものであるから公訴棄却又は無罪とすべきである旨も主張する。
イ しかしながら,本件は決して軽微な事案ではなく,単なる事前運動とは異なり,多額の現金を報酬として利害誘導をした買収事犯でありむしろ公職選挙法違反の中でも悪質な類型である。したがって,かかる原審弁護人の主張は理由がなく,本件起訴及び本件に公職選挙法を適用することは,憲法21条1項に違反するものではない。
2 当審弁護人の主張
(1) 著しく差別的な捜査,起訴が行われたとの主張
ア 捜査初期に作成されたLの警察官調書(原審弁7)やMの警察官調書(原審弁10)には「Aをよろしくお願いします。」との文言があるのに,その後の捜査報告書(原審弁15)には「Aです。よろしくお願いします。」との文言があって,前者の文言は,過去の判例では投票依頼の文言として認定されたことがある文言であること,「Aをよろしくお願いします」は,「を」という助詞を用いることで,「よろしく」の対象を明確化しており,その意味で,言葉が向けられた対象者(候補者)を特定する方向に働いているのに対し,「Aです。よろしくお願いします。」は,「です。」と句点により一旦文章を区切っている点で,「よろしく」の意味や対象が曖昧化されているという違いがあることなどからして異なる記載というべきであるのに,原判決は「各供述調書や捜査報告書中の呼び掛け文言に実質的な違いがあるとはいえず,現に供述者らも,両者は同じような意味だと考えて気にしなかった旨述べており,捜査官が虚偽の内容を記載したとは認められない」と認定しており,原審には審理不尽,事実誤認がある。
イ 原判決は,原審弁護人が主張する捜査当局による虚偽のメモのねつ造や選対会議のあるべき議事次第や会議録を隠ぺいする等の違法な捜査に関して,「本件の関係証拠上,ねつ造や隠ぺいの事実を認めることはできない」と説示したが,虚偽のメモのねつ造は,「F(以下「F」という。)が,本件ビラの内容は選挙違反になるので内容を訂正してほしい,と言ったにもかかわらず,被告人らは,それを聞き入れずに元の内容のビラを街頭頒布したものであって,悪質な犯罪である。」との筋書きの下に,捜査当局において,「Fが怒って帰った」という事実をねつ造しようとする理由は十分に考えられるところ,Jは,原審公判において,その旨明確に供述したのに対し,検察官は何らの異議も述べず,何らの反証も行っておらず,原審は,より積極的な訴訟指揮を行うべきであり,3月9日及び14日の選対会議のあるべき議事次第や会議録が検察官から証拠提出されていない点についても,より積極的な訴訟指揮が行われてしかるべきであったから,原審の訴訟手続には審理不尽がある。
ウ 検察官がBに対して虚偽又は誇張した証言を誘導するなど,原審弁護人が主張する捜査当局による被告人に対する差別的な捜査・起訴に関して,原判決は,「本件捜査及び公訴の提起が,対立候補者の陣営と比較して被告人らを不当に弾圧する意図でなされたとの主張も,証拠上これをうかがわせる事情は認められず,採用できない。」とのみ説示するだけで,原審弁護人の主張に答えていないから,原審の手続には審理不尽がある。
(2) 本件が極めて軽微な事案であり,憲法31条,21条1項に違反するとの主張
原判決は,本件が悪質な類型の犯罪行為であるから,適用違憲を問題にする余地はないとして,憲法判断を回避したが,①本件誘導行為によってなされた街頭ビラ頒布は,仮にそれが選挙運動に該当するとしても,外形的には,あくまで選挙民に対してAの名前を告げ,同人の政策等を記載したビラを頒布しただけのことであって,「票をお金で買う」など,お金によって投票行為そのものを歪めてしまう「悪質」な選挙違反行為とはまったく性質を異にすること,②被告人ら,行為者の誰にも,違法性の意識がまったくなく,本件行為の違法性は,極めて軽微であること,③仮に,b社に業務を依頼した本件誘導行為全体について利害誘導罪が成立するとしても,違法行為とされた3月13日のビラ頒布行為についての実質的な対価部分は,約540万円のうちわずかな部分(1日分)でしかなかったということからも,違法性は大きくないこと,④アルバイトによるビラの街頭頒布行為を依頼した被告人らA陣営の構成員の全員,b社のEら関係者,さらに本件に関わった株式会社cの担当者及びアルバイトの誰も,元々,3月13日のビラ頒布行為について,それが違法行為であるとの意識は全くなかったこと,⑤事前運動の禁止の罰条は,もともと,利害誘導罪より法定刑が軽いことから,軽微な罪であるといってよく,本件の事前運動罪についても極めて軽微な事案であること,以上によれば,原判決が,本件を「悪質」な「買収」であったとしたことには事実誤認があり,仮に,公職選挙法違反が成立するとしても,反社会性や違法性が極めて軽微な事案であり,決して悪質なものではない。
そうすると,これに併せ,選挙運動の定義が曖昧不明確であること,当選を意識させる内容のビラが違法であるとはいえないこと,頒布時期を考慮することは判断を不明確にすること,従前は,「(誰々)をよろしくお願いします。」であって,はじめて投票依頼の呼び掛けとされてきたこと,本件呼び掛け文言は,投票依頼の趣旨ではなく,いわば政治臭を極限まで消して,多くの人に受け取ってもらおうという目的の言葉であったといえるから,投票依頼の趣旨のものとはいえないこと,原判決の選挙運動該当性の判断基準は曖昧不明確であること,本件では,さらに警告がなされなかったことなどからすれば,原判決は,本件が選挙運動に該当するかどうかの判断について,公職選挙法を違憲的に適用したものであり,憲法31条に違反する。
また,上記のとおり,本件において,仮に,公職選挙法違反が成立するとしても,反社会性や違法性が極めて軽微な事案であり,決して悪質なものではないことに併せ,被告人の政治活動の自由という人権を規制する手段が,公職選挙法の目的を達成するために有効でも必要最小限でもないこと,本件起訴行為が許されれば,萎縮効果が大きいこと,被告人に対する恣意的,差別的適用であること,本件行為は,仮にそれが事前運動に該当すると評価されたとしても,憲法21条1項で保障されている表現の自由の重大な制限になっていることなどからすれば,原判決は,本件が選挙運動に該当するかどうかの判断について,公職選挙法を違憲的に適用したものであり,憲法21条1項に違反する。
3 当裁判所の判断
原審記録を調査して検討すると,原判決の前記1の認定判断に誤りはなく,原審の訴訟手続及び認定判断には,所論がいう審理不尽,事実誤認,憲法違反は認められない。以下,当審弁護人の主張について検討する。
(1) 当審弁護人の前記2(1)の主張について
ア 当審弁護人の前記2(1)アの主張についてみると,原判決が前記1(1)に記載したとおり説示するように,所論が指摘する各供述調書や捜査報告書中の呼び掛け文言に実質的な違いがあるとはいえないのであって,捜査官が虚偽の内容を記載したものとは認められず,所論がいう審理不尽や事実誤認は認められない。
イ 当審弁護人の前記2(1)イの主張についてみると,Jは,原審公判において,警察の取調官から,Hが作成したと思われる3月10日付けの選対会議の議事録であると説明を受けて示された紙の右上に「Fさんが途中で怒って帰った。」という内容の3行程度のメモがあり,取調官から「Fは怒って帰ったのではなかったか。」と質問を受けた旨供述するのであるが,本件各証拠をみても,Jの供述を裏付ける証拠はない。また,Hは,原審公判において,3月9日の選対会議の会議録を捜査機関に任意提出したのかについて曖昧な供述をし,任意提出した会議録等の範囲については確認の時間もなかったというのであるから,Hの原審公判供述は,捜査側に隠ぺいがあったことを根拠付けるものとはいえない。したがって,原判決が前記1(1)において前記1(1)の原審弁護人の③及び④の主張について説示するとおり,原審記録上,所論指摘のねつ造や隠ぺい等を認めることはできず,原審において,より積極的な訴訟指揮をする必要があったともいえないから,所論がいう審理不尽は認められない。
ウ 当審弁護人の前記2(1)ウの主張についてみると,原判決が前記1(1)において前記1(1)の原審弁護人の⑤の主張について説示するとおり,差別的捜査・起訴の点についても,起訴に係る公訴事実の内容は,単なる事前運動ではなく,買収罪である点が重要であり,その金額も約540万円と多額であることからすれば,軽微な事案とは言い難く,その可罰的・実質的違法性があり,本件捜査及び公訴の提起が,対立候補者の陣営と比較して被告人らを不当に弾圧する意図でなされたとの主張も,証拠上これをうかがわせる事情は認められず,原審がその点に関して訴訟指揮をするなどして解明する必要があったともいえず,所論がいう審理不尽は認められない。
(2) 当審弁護人の前記2(2)の主張について
原判決も説示するとおり,本件の公訴事実は,単なる事前運動のみならず,利害誘導すなわち公職選挙法の中でも特に厳しく規制されるべき買収罪の類型であり,利用したとされる金額も大きいこと等からすれば,法益侵害及び社会的逸脱性の程度が小さいとは到底いえず,公職選挙法違反の中でも悪質な類型であるとした原判決の判断に誤りがあるとはいえないから,本件行為の違法性が極めて軽微であるとする所論は採用することができず,それを前提とする憲法31条,21条1項違反(適用違憲)の主張もまた採用の限りでない。
論旨はいずれも理由がない。
第3  選挙運動該当性,本件誘導行為の利害誘導罪該当性,呼び掛け文言についての共謀,違法性の意識等に関する理由齟齬,審理不尽,事実誤認及び法令適用の誤り等の主張について
1 原判決の判断
(1) 選挙運動該当性等に関する原審弁護人の主張について
ア 公職選挙法における選挙運動とは,特定の公職の選挙につき,特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的で,直接又は間接に必要かつ有利な周旋,勧誘その他諸般の行為をすることをいうものと解される(最高裁判所昭和38年10月22日第3小法廷決定・刑集17巻9号1755頁等参照)。
本件公訴事実において選挙運動とされている行為は,本件誘導行為であるところ,その誘導の内容は,Eに対し,Eの会社に540万円の報酬を支払うという直接利害関係を利用して,アルバイトをして,本件ビラを配りながら,原判示のとおり呼び掛けるなどの行為(以下,これらをあわせて「本件行為」という。)をさせるよう依頼したことである。
そこで,まず本件行為についてみると,本件ビラには「A市長選出馬」「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生」との記載があり,本件行為が本件選挙の約1か月前という直前の時期に行われたことからしても,本件ビラが,本件選挙という特定の公職の選挙における,Aという特定の立候補予定者に関するものであることは明らかである(原審弁護人もこの点については争っていない。)。また,本件ビラの記載や本件呼び掛けには,Aへの投票を直接依頼する内容は含まれていないものの,本件選挙が約1か月後に迫った時期に,「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生となる。」などと直接的に静岡市長選での当選を意識させる内容のビラを,「Aです。よろしくお願いします。」などと立候補予定者の名前を強調して頒布していることからすれば,本件行為が本件選挙におけるAへの投票依頼の趣旨でなされていることは明白であるし,頒布の相手方においても,そのような趣旨であると受け取るに十分な行為といえる。
したがって,本件行為は,本件ビラの記載内容,頒布時期,本件呼び掛けの内容等に照らし,本件選挙の立候補予定者であるAに当選を得させるために必要かつ有利な活動であり,アルバイトらも上記趣旨を十分に理解した上,Aに当選を得させる目的をもって本件行為をしたものと認められる(この点に関する証人G(以下「G証人」という。)の供述は十分に信用できる。)から,選挙運動に当たるというべきである。
そうすると,本件行為をアルバイトに行わせるようEを誘導した本件誘導行為も,本件行為と同様に,本件選挙の立候補予定者であるAに当選を得させるために必要かつ有利な活動であり,被告人や共犯者らがAに当選を得させる目的をもってこれを行ったことは明らかである。
なお,本件ビラは,原判示の政治団体がAの出馬及び同政治団体の政策を知らせるニュースとして発行したものとされ,政治活動としての体裁をとっているものの,上記政治団体はAの本件選挙への立候補が決まった後に設立されたものであること,その活動内容も,Aの選挙対策会議が中心で,本件行為以前に一般的な政策等の宣伝活動や同政治団体による会報等の頒布がなされた形跡はうかがわれないこと,本件誘導行為が報酬の支払いという利害関係を利用してなされ,相手方であるEやその被用者であるアルバイトにおいて,上記政治団体や擁立候補者の政策・識見等への賛同から本件に関与したという側面は全くみられないこと等からすれば,同政治団体の活動の実態は,専ら本件選挙におけるAへの投票の獲得に主眼を置いていたものと認められ,本件誘導行為はもはや単なる政治活動の範ちゅうを超えているというべきである。
以上からすれば,本件誘導行為は,選挙運動に当たると認められる。
イ 原審弁護人は,公職選挙法221条1項2号にいう利害誘導行為は,本件においては報酬支払の意思表示であるから,本件でどのような依頼がなされたかについては,報酬支払の意思表示がなされた時点を基準として判断すべきであるという前提に立ち,報酬支払の意思表示の時点では,本件呼び掛け文言について言及されていなかったのであるから,本件呼び掛け文言は依頼内容には含まれない旨主張する。
しかし,公職選挙法221条1項2号の利害誘導罪は,選挙人又は選挙運動者自身ないしその者と関係のある会社等に対する特殊,直接の利害関係を利用して,選挙運動者等を誘導する行為を禁じたものであり,誘導行為がなされたときに成立するものであるところ,本件における「誘導」行為の対象は,上記のとおり,Eに対し,本件行為をアルバイトに行わせることを依頼してその旨決意させようとした行為であることは明らかであって,報酬支払の意思表示は,Eの会社との間で「直接利害関係」を形成,利用する行為に当たるとみるのが相当である。したがって,上記誘導行為が報酬支払の意思表示の前になされる必要はないというほかない。
そうすると,本件では,A陣営におけるビラ街頭頒布の担当者であったDが周旋者として,被告人らの依頼内容をEに伝達しているのであるから,被告人らにどこまで共謀が成立するかは別論として,報酬支払の意思表示後の依頼も含めて,DがEに伝達した依頼内容が本件誘導行為の内容となるというべきである。原審弁護人の上記主張は,採用できない。
ウ また,原審弁護人は,本件ビラは公職選挙法上違法なビラではない(①公職選挙法148条1項の「新聞紙」に当たり,同条2項は「販売を業とする者」以外にもその趣旨が適用されるべきであるし,②同法142条に該当する文書ではない。),あるいは本件呼び掛け文言は投票依頼の言葉ではないなどとも主張する。
しかし,本件行為は,本件ビラを頒布しながら原判示の呼び掛けを行うという一連一体の行為であるから,これを全体としてみたときに選挙運動として評価されるかどうかが問題となるのであって,本件行為のうち一部分のみを取り出して論じる原審弁護人の上記主張はいずれも失当である(なお,本件ビラに公職選挙法148条2項が適用されないことは明らかであるし,本件ビラが同条1項の新聞紙に当たるとは認められない。)。
(2) 本件呼び掛け文言についての共謀に関する原審弁護人の主張について
ア 前提となる事実関係
関係各証拠によれば,以下の事実経過が争いなく認められる。
(ア) 平成27年2月頃,被告人は,共犯者であるBを知人から紹介され,Bから,その妹であるAを本件選挙へ立候補させることを考えているので本件選挙に向けて協力してほしい旨の依頼を受け,選挙アドバイザーとしてA陣営に参加することになった。
(イ) 被告人は,本件以前までに1000件以上の選挙に携わっており,無党派でボランティアを活用した市民派選挙の専門家として活動していた。他方,被告人以外のA陣営の構成員の多くは,選挙に関しては素人ばかりであったため,Bは,構成員らに対し,全面的に被告人の指示,助言に従って活動するように伝えていた。
(ウ) Bは,被告人の助言により,自身が代表者となって政治団体「a会」を設立した。
(エ) 被告人は,3月上旬頃,選対会議において,選挙戦略の中心の1つとして,Aの政策を記載したビラの街頭頒布を提案し,Bらの賛成を得てこれを進めることとなり,被告人及びDがビラ街頭頒布の担当者となった。被告人は,選対会議において,ビラの街頭頒布を業者に発注して行うことを提案し,Bらの承認を得た。これを受けたDが,b株式会社の代表取締役であるEにビラ街頭頒布を依頼し,Eとの間で,代金やビラ街頭頒布のスケジュールや方法に関する交渉等を行った。
(オ) 被告人は,上記のビラ街頭頒布の提案をした初期の段階から,選対会議等において,Bらに対し,告示前の期間は「一票」や「投票」という言葉を使わないように繰り返し指示していた。
(カ) 被告人は,本件ビラの原稿を作成して印刷に出し,3月9日の選対会議において,本件ビラの原案を出席者に見せ,Bらの承認を得て本件ビラを頒布することとした。
(キ) Dは,3月12日,Eから呼び掛け文言について「Aです。よろしくお願いします。」でよいか確認された際,それで大丈夫である旨伝えた。
イ 検討
(ア) Dは,原審公判において,3月9日の選対会議で本件ビラの原案を見せられた際,被告人から,本件ビラを「Aです。よろしくお願いします。」と呼び掛けて配っても問題ない旨の説明をされたと供述する。
しかし,証人として出廷したB,C,H,J等の選対会議の出席者は,そのような被告人の発言があったことは記憶にないと述べている。選対会議の出席者であるJの作成した事務所見取図(原審甲121)からすれば,選対会議における各出席者の着席位置はさほど離れていないと考えられ,上記の出席者がみな,ビラを見せられた場面は記憶しているのに,その際の呼び掛け方のやり取りは記憶にないというのであるから,この点のD供述は,記憶違いの可能性も十分ありえ,ただちには信用することができない。したがって,呼び掛け文言についてDが供述するような明示的なやり取りがあったと認めるには合理的疑いが残る。
(イ) もっとも,Dは,本件ビラを見た際に,特定候補者や特定選挙が明示されたビラの内容に驚き,「こんなの配れるんですか。」などと尋ねると,被告人から,本件ビラは直接の投票依頼の文言を含んでいないから大丈夫である旨言われたと述べている。この供述は,他の関係者の供述とも矛盾はなく,やり取りの際の自らの心情を含めた具体的かつ自然な内容であって,十分信用することができる。この点,Jも同様の供述をしているし,被告人自身,誰かとそのようなやり取りをした覚えはある旨述べている。そうすると,Dが,被告人とのやり取りを通じて,「投票」や「一票」という言葉を使わなければ本件呼び掛けのような文言を使ってビラを配ることも許容されると認識していたことが認められる。そして,前記のとおり,Bらは,被告人から「投票」や「一票」という言葉は使わないように指示されており,本件呼び掛けをすることは十分ありえると思っていたと述べている。さらに,被告人自身,上記の指示をしたことや,本件のような立候補予定者のビラ頒布の際に,名前と「よろしくお願いします。」という言葉を用いて呼び掛けることがある旨述べており,実際にも,被告人は,3月21日に行われた街頭演説において,「Aです」「よろしく」などと連呼していた(原審甲122)。これらの事実関係からすると,被告人及びBらは,ビラ街頭頒布時の呼び掛け文言を具体的に認識していたわけではないものの,DがEに本件ビラの街頭頒布方法を指示するに当たり,本件呼び掛け文言のような,「投票」や「一票」という言葉を使わない頒布方法を指示することを基本的に了解しており,それでも構わないと考え,また,自分以外の関係者も同様の認識であることを互いに認識していたことが認められる。以上からすると,被告人らの間には,Dを通してEに対し本件呼び掛け文言を使ったビラ頒布を依頼することについて,未必の故意による黙示的な共謀が認められる。
ウ 原審弁護人の主張について
(ア) 原審弁護人は,本件利害誘導が行われた時点においては,本件呼び掛け文言を用いてビラ頒布を行うことが依頼されていなかったことが明らかであり,その時点で本件呼び掛け文言についての共謀があったということは論理的にあり得ない旨主張する。しかし,原審弁護人の上記主張は,利害誘導を報酬支払申込みであるという前提に立っており,その前提が誤っていることは既に述べたとおりであって,上記主張は前提を欠くものであり採用できない。
(イ) また,原審弁護人は,①被告人を含む関係者らは一律の呼び掛け文言が必要であるとは認識していなかったし,②被告人は関係者に対し,「投票」,「一票」を「お願い」するといった依頼文言を使わないよう指南していたが,それ以外の文言の使用を許容する発言はしていないのであるから,このような状況で検察官の主張するような合意があったとはいえないとも主張する。
しかし,①共謀の成立においては,共謀内容としてはある程度概括的であってもよく,必ずしも一律の呼び掛け文言が必要とまで認識する必要も,特定の呼び掛け文言を合意する必要もないと解されるし,②また,被告人が呼び掛け文言についての具体的な指示をしていないとしても,前記のとおり,被告人らは,「投票」や「一票」という言葉を使わなければどのような頒布方法をとろうとも選挙運動には当たらないという認識の下に,あえて何の具体的指示も出さずにDに本件ビラの頒布方法を委ねていたのであるから,本件呼び掛け文言を含む形で本件ビラの街頭頒布方法を指示するのであればそれでもよいという合意が暗黙に形成されていたものと認められる。
(3) 違法性の意識に関する原審弁護人の主張について
ア 被告人及び原審弁護人は,被告人が本件行為を違法であるとは認識しておらず,①被告人が過去に本件ビラと同様のビラの作成・頒布につき,自治省から「違法でない」との確認を得ていたこと,②被告人は1000回を超える選挙応援を行い,同様のビラを選挙告示前に多数頒布していたが,警告や逮捕・起訴をされたことがないこと,③被告人が関与していない選挙で同様のビラが頒布された場合も同様に,警告や逮捕,起訴に至ったものはないと認識していたこと,④被告人が本件行為には公職選挙法148条2項が適用されると認識していたことには相当の理由があることから,被告人には違法性の意識がなかったことについて相当な理由があり,責任故意が認められない旨主張する。
イ 被告人の長年にわたる多数の選挙運動の経験のなかで,上記のような事情があったとすれば,確かに被告人が本件行為を違法でないと信じたことに全く根拠がないとは言い難い。しかし,被告人がこれまで行ってきた選挙応援は基本的にボランティアによるものであり,本件のように業者に有償で依頼することは被告人にもほとんど経験がなかったのであるから,公職選挙法上,買収罪が厳しく規制されていることからしても,業者に有償で依頼する以上,利害誘導に当たらないよう特に慎重に行動しなければ違法評価を受けるおそれがあることは十分意識できたはずである。そうすると,被告人に上記のような経験があったとしても,それは本件について違法性の意識がなかったことの相当な理由にはならず,むしろ被告人が新聞折込業者から本件ビラの「市長選」の文言等の削除を求められたり,本件ビラを見たDから「(街頭頒布が)できるんですか」などと驚かれたりしていたという事情も踏まえれば,被告人が違法性について意識する契機は十分あったといえる。
以上によれば,被告人が違法性の意識を有していなかったことについて相当の理由があるとはいえず,責任故意に欠けるところはない。
2 当審弁護人の主張
(1) 原判決の前記1(1)アにおける選挙運動該当性に関する判断についての審理不尽,事実誤認,法令適用の誤りの主張
ア 「選挙運動」について,最高裁は,原判決が1(1)アにおいて摘示するとおり定義しているが,民主制下の選挙権は,最も基本的かつ重要な権利であるため,国民の選挙における自由な選択を実現するために,選挙運動を含む政治活動の自由は,表現の自由の内容をなすものとして,憲法21条1項によって保障され,基本的人権の中でも優越的な地位にあるものとされていることからすると,上記判例による選挙運動の定義は,曖昧で不明確でかつ著しく広範囲となり,そのため,とりわけ本件のような事前運動に対して不当な制約となり,極めて不合理,不当な事態を招来させているといわれているから,「選挙運動」の定義として,「特定の選挙において,特定の候補者あるいは政党への投票を得るために行う選挙人などに対する直接の具体的な投票の呼び掛け又は票の取りまとめの依頼のことをいう」と解すべきであり,本件において,呼び掛け文言が「Aです。よろしくお願いします。」である限り,「選挙に於ける当選に有利ならしめるためにしたであろうと推測せられる行為」ではあるかもしれないが,投票依頼の意思が,直接的かつ客観的に明示されているとはいえないから,公職選挙法129条にいう「選挙運動」には該当しない。そうすると,Eらは,同法221条1項2号の「選挙運動者」にも該当しないことになるから,被告人に同条違反は成立しない。以上によれば,原判決には事実誤認,法令適用の誤りがある。
イ 原判決は,「直接的に静岡市長選での当選を意識させる内容のビラを,「Aです。よろしくお願いします。」などと立候補予定者の名前を強調して頒布していることからすれば,本件行為が本件選挙におけるAへの投票依頼の趣旨でなされていることは明白である」と認定しているが,①本件ビラについては,選挙告示を間近にした政治活動において一般的に頒布されている多くのビラ(原審弁27,30)と同様のものでしかない,②「Aです。よろしくお願いします。」との街頭呼び掛け文言については,これを投票依頼の言葉と評価すること自体に問題があるほか,当該文言がビラ配り業者のEによって商業ビラなどの頒布において一般的に使われている呼び掛け文言に倣って提案され,それにDが同意したもの過ぎない,③G証人の供述は,本件ビラ自体が「違法なビラ」であるというG証人の誤った認識に基づくものであり,それは取調官による誘導によるものであり,G証人は,原審弁護人から「警察,検察から,(ビラもビラを配る行動もいけないと)言われたんですか」と問われて,表面的には「そうは言われていないと思います」と答えたのは,G自身の証言が警察や検察に何らかの困惑を生じさせ,そのことによって警察又は検察からG証人自身に危険が及ぶ事態を恐れてのことであって,その供述は信用できない,以上によれば,原判決の認定には事実誤認がある。
ウ 原判決が「(ビラの)頒布の相手方においても,そのような趣旨(本件行為がなされているのは,本件選挙におけるAへの投票依頼の趣旨のこと)であると受け取るに十分な行為といえる」と判断するに当たって具体的な証拠としたものは,G証人が,街頭ビラ配りの現場において,「頒布の相手方」である通行人の一人から「これは選挙違反じゃないの」と言われたことしかないが,G証人は,当日街頭でビラ配りをしようとした相手400人程度の中のたった一人から,「これは選挙違反じゃないの」と断定的ではなく疑問形で言われたにすぎず,他の24人のビラ配りのアルバイトの誰一人として「選挙違反」等の指摘を受けた者はいない(原審甲123ないし145)から,原判決の判断を裏付ける証拠は何ら示されていないというほかなく,原判決には,審理不尽がある。
(2) 原判決の前記1(1)アにおける「本件政治団体の実態」に関する判断についての事実誤認,法令適用の誤りの主張
ア 原判決が,本件政治団体の実態について,「この政治団体はAの本件選挙への立候補が決まった後に設立されたものであること」を摘示するが,そもそも政治団体をいつ設立するかは公職選挙法上全く自由であり,特定の候補者の立候補が決まった後にその候補者やその候補者の政策を支援するために政治団体が設立されることは,何ら違法なものでも不当なものでもなく,普通に行われているから,原判決には事実誤認がある。
イ 原判決は,本件政治団体の実態について,「その活動内容も,Aの選挙対策会議が中心で,本件行為以前に一般的な政策等の宣伝活動や同政治団体による会報等の頒布がなされた形跡はうかがわれないこと」を摘示するが,設立の届け出がなされた政治団体の活動の内容も多種多様であって,選挙期間中以外では選挙に係わる活動(選挙運動を除く。)を行うことは何ら禁じられているものではない。原判決は「本件行為以前に一般的な政策等の宣伝活動等がなされた形跡はうかがわれない」というが,そのことは何ら違法性のあることではないし,政治団体設立の時期からすれば,特に非難されるべきことではないから,原判決には事実誤認,法令適用の誤りがある。
ウ 原判決は,本件政治団体の実態について,「本件誘導行為が報酬の支払という利害関係を利用してなされ,相手方であるEやその被用者であるアルバイトにおいて,上記政治団体や擁立候補者の政策・識見等への賛同から本件に関与したという側面は全く見られないこと」を摘示するが,そもそも「アルバイト等がその依頼者の政策・見識等に賛同して街頭ビラ配りに関与する」ということは,本件に限らず元々あり得ることとは一般に認識されていないし,その依頼された活動(街頭ビラ配り)の選挙運動性を左右するものでないことも明らかで,「アルバイト賃金目当てで活動していたのだから,政治活動ではなく,選挙運動(投票依頼)である」との論理は,経験則に反する的外れの論理でしかないから,原判決には事実誤認,法令適用の誤りがある。
(3) 原判決の前記1(1)イの本件誘導行為が利害誘導罪に当たるとする判断についての法令適用の誤り,判例違反,理由齟齬の主張
原判決は,「公職選挙法221条1項2号の利害誘導罪は,選挙人又は選挙運動者自身ないしその者と関係のある会社等に対する特殊,直接の利害関係を利用して,選挙運動者等を誘導する行為を禁じたものであり,誘導行為がなされたときに成立するものであるところ,本件における「誘導」行為の対象は,上記のとおり,Eに対し,本件行為をアルバイトに行わせることを依頼してその旨決意させようとした行為であることは明らかであって,報酬支払の意思表示は,Eの会社との間で「直接利害関係」を形成,利用する行為に当たるとみるのが相当である。したがって,上記誘導行為が報酬支払の意思表示の前になされる必要はないというほかない。そうすると,本件では,A陣営におけるビラ街頭頒布の担当者であったDが周旋者として,被告人らの依頼内容をEに伝達しているのであるから,被告人らにどこまで共謀が成立するかは別論として,報酬支払の意思表示後の依頼も含めて,DがEに伝達した依頼内容が本件誘導行為の内容となるというべきである」と説示している。
しかしながら,判例は,「労働組合の幹部である被告人らにおいて,(「電話による投票依頼をすることを従業員等に対して依頼する」という選挙運動を行う)選挙運動者である支店長らに対し,選挙運動の報酬として,上記労働組合から上記支店長らの勤務する支店に金員を支払う旨の意思を表示したことは,被告人らにおいて,上記労働組合と上記支店との間の金員支払関係という特殊の利害関係を利用して選挙運動者に対し誘導をしたものということができる。」(最高裁判所平成16年12月21日第3小法廷決定・刑集58巻9号1086頁)としており,「選挙運動の報酬として金員を支払う旨の意思表示」が「特殊の利害関係を利用しての誘導」であると認定しているのであるから,「利害誘導行為」に関する原判決の判断には,法令適用の誤り,判例違反がある。
また,原判決は,「報酬支払いの意思表示」を「(利害)誘導行為」とは分離して位置づけたのに,その一方で,「多額の現金を報酬として利害誘導をした買収事犯である」,「本件ビラの街頭頒布等の選挙運動をすることを依頼し,その報酬として約540万円を支払う意思表示をして利害誘導をするとともに事前運動をしたという公職選挙法違反の事案である」と説示しており,「報酬支払いの意思表示」が,「直接利害関係を形成,利用する行為」に止まらず,選挙運動者に行動を依頼してそれを決意させる行為と一体となって「(利害)誘導行為」を構成していることを示すもので,理由に齟齬がある。
(4) 原判決の前記1(1)ウにおける本件ビラ頒布の違法性に関する判断についての審理不尽,法令適用の誤りの主張
原判決は,何ら理由を明らかにすることなく「本件ビラが公職選挙法148条1項の新聞紙に当たるとは認められない。」と判断しているから,原判決には,審理不尽,法令適用の誤りがある。また,「新聞紙の販売を業とする者」以外の者が選挙期間中以外に「選挙に関する報道及び評論」を掲載する新聞紙を頒布する方法としてどのような方法が認められるのかについては,公職選挙法に明確な規定はなく(明確な禁止規定はない。),原判決は,「本件ビラが公職選挙法148条1項の新聞紙に当たるとは認められない。」との誤った判断をして,何らの審理もされていないから,原判決には審理不尽,法令適用の誤りがある。
(5) 原判決の前記1(2)の呼び掛け文言についての共謀に関する判断についての事実誤認,法令適用の誤り等の主張
ア 未必の故意による黙示的な共謀を認めた点
原判決は,「共謀の成立においては,共謀内容としてはある程度概括的であってもよく,必ずしも一律の呼び掛け文言が必要とまで認識する必要も,特定の呼び掛け文言を合意する必要もないと解される」とするが,「未必の故意による黙示的な共謀」により共謀共同正犯の成立を認定することは,未必の故意および共謀の範囲を無制限に拡張することになり,罪刑法定主義の観点から到底容認できるものではなく,原判決には罪刑法定主義違反の違法がある。
イ 被告人が本件呼び掛け文言を用いることを了解していたと認定している点
原判決は,「被告人及びBらは,ビラ街頭頒布時の呼び掛け文言を具体的に認識していたわけではないものの,DがEに本件ビラの街頭頒布方法を指示するに当たり,本件呼び掛け文言のような,「投票」や「一票」という言葉を使わない頒布方法を指示することを基本的に了解しており,それでも構わないと考え,また,自分以外の関係者も同様の認識であることを互いに認識していたことが認められる」と説示した上,原審弁護人の主張に対し,「被告人が呼び掛け文言についての具体的な指示をしていないとしても,前記のとおり,被告人らは,「投票」や「一票」という言葉を使わなければどのような頒布方法をとろうとも選挙運動には当たらないという認識の下に,あえて何の具体的指示も出さずにDに本件ビラの頒布方法を委ねていたのであるから,本件呼び掛け文言を含む形で本件ビラの頒布方法を指示するのであればそれでもよいという合意が暗黙に形成されていたものと認められる」と説示しているところ,被告人は,投票依頼と受け止められないように「投票」や「一票」という言葉を使ってはならないということをA陣営のメンバーに対して周知していたのであって,「投票」や「一票」という言葉を使わなければどのような頒布方法を行っても良いと指示していたわけではないから,原判決には事実誤認がある。
(6) 原判決の前記1(3)の違法性の意識に関する判断についての事実誤認,法令適用の誤りの主張
原判決は,「被告人が新聞折込業者から本件ビラの「市長選」の文言等の削除を求められたり,本件ビラを見たDから「(街頭頒布が)できるんですか」などと驚かれたりしていた」という事情を,被告人に自らの行為の違法性について意識する契機があったことの理由として挙げているが,①被告人が過去に本件ビラと同様のビラの作成・頒布することにつき,自治省(当時)から「違法でない」との確認を得ていたこと,②被告人は1000回を超える選挙応援を行い,同様のビラを選挙告示前に多数頒布していたが,警告や逮捕・起訴をされたことがないこと,③被告人が関与していない選挙で同様のビラが頒布された場合も同様に,警告や逮捕,起訴に至ったものはないと認識していたこと,④被告人が本件行為には公職選挙法148条2項が適用されると認識していたことには相当の理由があるといった原審弁護人が主張する事情について,原判決は「上記のような事情があったとすれば,確かに被告人が本件行為が違法でないと信じたことに全く根拠がないとは言い難い」とも説示するのであって,原判決が摘示する事情は,被告人に違法性について意識させる契機となるものといえないことは明らかであるから,原判決には事実誤認,法令適用の誤りがある。
3 当裁判所の判断
原審記録を調査して,検討すると,原判決の前記1の認定判断には,後記のとおり,その一部に措辞不適切な点や事実誤認が認められる。しかしながら,原審の訴訟手続及び認定判断には,所論がいう理由齟齬,審理不尽,法令適用の誤り等は認められず,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認も認められない。以下,当審弁護人の主張について検討する。
(1) 当審弁護人の前記2(1)の主張について
ア 当審弁護人の前記2(1)アの主張についてみると,「選挙運動」及び「選挙運動者」について,弁護人独自の法令解釈を前提とするものであり,原判決には所論がいう事実誤認,法令適用の誤りはない。
イ 当審弁護人の前記2(1)イの主張についてみると,原判決が説示するとおり,本件行為は,本件ビラを頒布しながら原判示の呼び掛けを行うという一連一体の行為であるから,これを全体としてみたときに選挙運動として評価されるかどうかが問題となるのであって,本件行為のうち一部分のみを取り出して論じる当審弁護人の主張は失当である。また,本件ビラについて,公職選挙法142条の法定外文書である違法なビラであるとG証人が認識していたとも解されず,警察又は検察から自身に危険が及ぶ事態を恐れていたとしてG供述の信用性を論難する所論は,当審弁護人の憶測にすぎず,所論はその前提を誤るものである。原判決に所論がいう事実誤認はない。
ウ 当審弁護人の前記2(1)ウの主張についてみると,原判決は,「本件ビラには「A市長選出馬」「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生」との記載があり,本件行為が判示の静岡市長選挙の約1か月前という直前の時期に行われたことからしても,本件ビラが,本件選挙という特定の公職の選挙における,Aという特定の立候補予定者に関するものであることは明らかであり(原審弁護人もこの点については争っていない。),本件ビラの記載や本件呼び掛けには,Aへの投票を直接依頼する内容は含まれていないものの,本件選挙が約1か月後に迫った時期に,「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生となる。」などと直接的に静岡市長選での当選を意識させる内容のビラを,「Aです。よろしくお願いします。」などと立候補予定者の名前を強調して頒布していること」から,「頒布の相手方においても,そのような趣旨であると受け取るに十分な行為といえる」と説示しているところ,ビラの記載内容や頒布方法等からそのような判断をしたものと解され,原判決の判断を裏付ける証拠は何ら示されていないという所論は原判決を正解しないものであって,原判決には,所論がいう審理不尽はない。
(2) 当審弁護人の前記2(2)の主張について
ア 当審弁護人の前記2(2)アの主張についてみると,原判決の摘示する「本件政治団体がAの本件選挙への立候補が決まった後に設立されたものであること」は,本件政治団体の活動の実態が本件選挙におけるAへの投票の獲得に主眼を置いていたことを推認させる事情といえるから,原判決の判断に誤りはなく,また,原判決は,設立時期について,所論がいうように違法であるとか不当であるとか判断しているものでないから,所論は原判決を正解しないものであって,原判決には,所論がいう事実誤認はない。
イ 当審弁護人の前記2(2)イの主張についてみると,原判決の摘示する「その活動内容も,Aの選挙対策会議が中心で,本件行為以前に一般的な政策等の宣伝活動や同政治団体による会報等の頒布がなされた形跡はうかがわれないこと」は,本件政治団体の活動の実態が本件選挙におけるAへの投票の獲得に主眼を置いていたことを推認させる事情といえるから,原判決の判断に誤りはなく,また,原判決は,「本件行為以前に一般的な政策等の宣伝活動等がなされた形跡はうかがわれない」ことについて,所論がいうように違法性があると判断しているのでないから,所論は原判決を正解しないものであって,原判決には,所論がいう事実誤認,法令適用の誤りはない。
ウ 当審弁護人の前記2(2)ウの主張についてみると,原判決が摘示する「本件誘導行為が報酬の支払という利害関係を利用してなされ,相手方であるEやその被用者であるアルバイトにおいて,上記政治団体や擁立候補者の政策・識見等への賛同から本件に関与したという側面は全く見られないこと」は,本件政治団体の活動の実態が,本件選挙におけるAへの投票の獲得に主眼を置いていたことを推認させる事情といえるから,原判決の判断に誤りはなく,所論がいうように経験則違反があるとはいえず,原判決には,所論がいう事実誤認,法令適用の誤りはない。
(3) 当審弁護人の前記2(3)の主張について
所論が引用する最高裁判所平成16年12月21日第3小法廷決定は,その決定理由によれば,労働組合の幹部である被告人らが,小選挙区選出議員選挙の候補者等として届出をする予定の者に当選を得させる目的をもって,電話により有権者に投票依頼を行ういわゆる電話戦術を実施するため,電話による通信販売業務の企画,実施,労働者派遣事業等を営む会社の支店長らに対し,上記届出予定の者等への投票を電話により依頼する要員を確保して上記労働組合の施設に派遣することを依頼し,その報酬として,上記労働組合から上記支店に金員を支払う旨の意思を表示するなどした事案において,投票を電話により依頼する要員を確保して派遣する行為等は,選挙運動であり,当該行為に従事する上記支店長らは選挙運動者に該当するとした上で,被告人らにおいて,そのような選挙運動者である上記支店長らに対し,選挙運動の報酬として,上記労働組合から上記支店長らの勤務する上記支店に金員を支払う旨の意思を表示したことは,被告人らにおいて,上記労働組合と上記支店との間の金員支払関係という特殊の利害関係を利用して選挙運動者に対し誘導をしたものということができるとして,公職選挙法221条1項2号の罪(利害誘導罪)の成立を認めた同事件の原審判決を相当として是認したものであって,被告人らが上記支店長らに対し,選挙運動を依頼した後,被告人らにおいて,上記支店長らの勤務する上記支店に金員を支払う旨の意思表示がなされたという経過を辿った事案である。
ところで,所論は,選挙運動の依頼が行われ,その後報酬支払の意思表示が行われた上記事案について利害誘導罪の成立を認めた上記判例を前提とし,これに対し,本件の事実経過は,街頭におけるビラ頒布についてのDによるEとの交渉の過程で報酬支払の意思表示が行われた後,本件呼び掛け文言が決まり,DがEに依頼した街頭におけるビラ頒布の選挙運動該当性が確定するに至るという経過を辿っており,上記判例の事案との相違に着目して,本件事案において利害誘導罪の成立を認めた原判決は判例違反であるとするものと解される。
しかしながら,検察官が平成28年12月21日付「答弁書(補充)及び釈明書」及び平成29年1月6日付「釈明書」において主張するように,上記判例の事案や本件事案のように,一定の選挙運動の依頼がなされると共にこれについての報酬支払の意思表示が行われる事案においては,報酬支払の意思表示と選挙運動の依頼行為が相まって,公職選挙法221条1項2号の利害誘導罪の実行行為である利害誘導行為に該当すると解するのが相当であるところ,このような事案においては,依頼の当初から選挙運動の依頼であることが確定していることが多く,そのような場合にはこれに続く報酬支払の意思表示によって利害誘導罪が成立すると解される。上記判例は,まさにそのような事案において,当該事案に即して,報酬支払の意思表示が行われた時点で利害誘導罪が成立することを認めたものであって,本件事案のように,街頭におけるビラ頒布行為の依頼が行われ,報酬支払の意思表示がされた後に,ビラ頒布の際の呼び掛け文言が決まり,当該ビラ頒布行為の選挙運動該当性,したがってまたEの選挙運動者該当性が確定するに至った場合において,利害誘導罪の成立を否定する趣旨を含むものとは解されない。原判決に所論がいう法令適用の誤り,判例違反はない。所論は採用できない。
もっとも,この点,原判決は,前記1(1)イのとおり,「公職選挙法221条1項2号の利害誘導罪は,選挙人又は選挙運動者自身ないしその者と関係のある会社等に対する特殊,直接の利害関係を利用して,選挙運動者等を誘導する行為を禁じたものであり,誘導行為がなされたときに成立するものであるところ,本件における「誘導」行為の対象は,上記のとおり,Eに対し,本件行為をアルバイトに行わせることを依頼してその旨決意させようとした行為であることは明らかであって,報酬支払の意思表示は,Eの会社との間で「直接利害関係」を形成,利用する行為に当たるとみるのが相当である。したがって,上記誘導行為が報酬支払の意思表示の前になされる必要はないというほかない。そうすると,本件では,A陣営におけるビラ街頭頒布の担当者であったDが周旋者として,被告人らの依頼内容をEに伝達しているのであるから,被告人らにどこまで共謀が成立するかは別論として,報酬支払の意思表示後の依頼も含めて,DがEに伝達した依頼内容が本件誘導行為の内容となるというべきである。」と説示しているが,この説示が,本件において報酬支払の意思表示が利害誘導罪の実行行為の一部であることを否定し,本件においてはもっぱらDのEに対する選挙運動の依頼のみが利害誘導罪の実行行為に該当するという趣旨であるとすれば,不適切な説示といわざるを得ない。しかし,報酬支払の意思表示後にDがEに依頼した時点で本件利害誘導罪の成立を認めた原判決の判断に,結論として誤りがあるとはいえず,原判決に,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認等があるとはいえない(なお,原判決が「多額の現金を報酬として利害誘導をした買収事犯である」「本件ビラの街頭頒布等の選挙運動をすることを依頼し,その報酬として約540万円を支払う意思表示をして利害誘導をするとともに事前運動をしたという公職選挙法違反の事案である」と説示するところは,報酬支払の意思表示が「利害誘導行為」のうちの「利害」部分に当たるとの前提で説示したものとも解されるから,「報酬支払の意思表示は,Eの会社との間で「直接利害関係」を形成,利用する行為に当たるとみるのが相当である」との説示と食い違うものとはいえず,所論がいう理由齟齬があるとはいえない。ただし,原判決が報酬支払の意思表示の法的意味合いを「直接利害関係」を形成,利用する行為に限定したことが適切な説示でないことは,上記のとおりである。)。
(4) 当審弁護人の前記2(4)の主張について
公職選挙法148条1項の新聞紙とは,その発行の態様,掲載事項,体裁,発行の時期等総合的に判断して検討することになるが,その判断要素として,不特定多数の者に頒布することをその目的とするものであること,報道及び評論を主たる内容とするものであること,原則として有償頒布されるものであること,反復して発行されるものであることを挙げることができ,報道や評論の自由を尊重するという同条の趣旨に照らせば,単なる選挙運動のためのみと思われるものは含まれないと解されるところ,原判決は,「本件ビラには「A市長選出馬」「Aさんが当選すれば,史上初の女性静岡市長誕生」との記載があり,本件行為が本件選挙の約1か月前という直前の時期に行われたことからしても,本件ビラが,本件選挙という特定の公職の選挙における,Aという特定の立候補予定者に関するものであることは明らかである(原審弁護人もこの点については争っていない。)」などとして,掲載事項,発行時期等から,本件ビラが公職選挙法148条1項の新聞紙に当たるとは認められず,本件ビラに公職選挙法148条2項が適用されないと判断したものと解されるのであって,このような原判決の認定判断に誤りはなく,原判決には,所論がいう審理不尽,法令適用の誤りはない。
(5) 当審弁護人の前記2(5)の主張について
ア 当審弁護人の前記2(5)アの主張についてみると,弁護人独自の法令解釈の主張を前提とするものであり,原判決には所論がいう罪刑法定主義違反の違法はない。なお,本件呼び掛け文言についての共謀に関し,関係証拠に基づいて原判決が認定した前記1(2)アのとおりの前提事実に誤りはなく,これを踏まえての前記1(2)イのとおりの原判決の検討内容にも不合理な点は認められず,関係証拠によって認めることのできる本件の事実関係の下においては,被告人らの間には,Dを通してEに対し本件呼び掛け文言を使ったビラ頒布を依頼することについて,未必の故意による黙示的な共謀が認められる,と認定判断した原判決に誤りはない。
イ 当審弁護人の前記2(5)イの主張についてみると,原判決は,前記1(2)イ(イ)及び前記1(2)ウ(イ)のように,所論指摘のとおりの説示をしている。そこで検討すると,所論が指摘するとおり,前記1(2)ウ(イ)の「前記のとおり,被告人らは,「投票」や「一票」という言葉を使わなければどのような頒布方法をとろうとも選挙運動には当たらないという認識の下に,あえて何の具体的指示も出さずにDに本件ビラの頒布方法を委ねていたのであるから,本件呼び掛け文言を含む形で本件ビラの頒布方法を指示するのであればそれでもよいという合意が暗黙に形成されていたものと認められる」という説示は,「どのような頒布方法をとろうとも」としている点で,すなわち,「投票」や「一票」という言葉を使わない頒布方法であればどのような頒布方法をとろうとも選挙運動には当たらないという認識の下に,上記合意がなされたと認定している点で,不適切といわざるを得ず,その限度において,原判決には事実誤認があると認められる。何故なら,前記1(2)ウ(イ)の説示は,「前記のとおり」としていることからも明らかなとおり,前記1(2)イ(イ)の説示を前提としているところ,この説示においては,「本件呼び掛け文言のような,「投票」や「一票」という言葉を使わない頒布方法」であることが前提とされているからである。
しかしながら,原判決は,原審弁護人の「被告人は関係者に対し,「投票」,「一票」を「お願い」するといった依頼文言を使わないよう指南していたが,それ以外の文言を許容する発言はしていないのであるから,このような状況で検察官の主張するような合意があったとはいえない」という主張に対し,前記1(2)ウ(イ)のとおり説示しているのであるが,原審弁護人が主張するとおり,仮に被告人が「それ以外の文言を許容する発言をしていない」としても,原判決が前記1(2)イ(イ)のように指摘する証拠関係によれば,原判決が前記1(2)イ(イ)のとおり説示する結論に誤りがあるとはいえない。したがって,所論がいう事実誤認の点は,判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。
(6) 当審弁護人の前記2(6)の主張について
原判決も説示するように,被告人のこれまで行ってきた選挙応援での経験や,被告人が新聞折込業者から本件ビラの「市長選」の文言等の削除を求められたり,本件ビラを見たDから「(街頭頒布が)できるんですか」などと驚かれたりしていたという事情からすれば,被告人が違法性について意識する契機は十分あったといえるのであって,少なくとも被告人の責任故意が阻却されない旨の原判決の認定判断に誤りがあるとはいえず,原判決に所論がいう事実誤認,法令適用の誤りはない。
論旨はいずれも理由がない。
第4  結論
以上によれば,当審弁護人が種々主張する諸点を検討しても,原判決の認定判断に所論がいう判決に影響を及ぼすことが明らかな誤りはない。
よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第4刑事部
(裁判長裁判官 植村稔 裁判官 成川洋司 裁判官 杉山正明)

 

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