「選挙妨害 ポスター」に関する裁判例(19)平成20年 1月10日 東京地裁 平19(ワ)20886号 損害賠償等請求事件
「選挙妨害 ポスター」に関する裁判例(19)平成20年 1月10日 東京地裁 平19(ワ)20886号 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年 1月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)20886号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA01108004
要旨
◆Bとの通称で参議院議員選挙の東京選挙区から立候補し、落選した原告が、新聞社である被告に対し、被告が報道において全立候補者のうちの本件12名の立候補者のみを「主な候補者」として連日報道し、原告を含めたその余の立候補者を「主な候補者」から除くことで、原告の名誉を毀損し、原告を侮辱するとともに、憲法14条の精神、21条、公職選挙法1条、148条、235条の2に違反する違法な報道をすることで、原告に精神的苦痛等の損害を与えたと主張して、不法行為に基づき200万円の支払及び謝罪広告の掲載を求めた事案において、本件報道は、本件選挙の東京選挙区に本件12名の立候補者しか立候補しておらず、原告を含むその余の立候補者が立候補していないとの印象を与えるものではないのであるから、本件報道が原告の社会的評価を低下させるものということはできず、原告の名誉を毀損したり、原告を侮辱するものということはできないこと、憲法14条、21条は、直接原告と被告との関係のような私人相互の関係に適用されるものではないこと、公職選挙法1条、148条、235条の2に違反するものではないなどとして請求を棄却した事例
参照条文
民法709条
裁判年月日 平成20年 1月10日 裁判所名 東京地裁 裁判区分 判決
事件番号 平19(ワ)20886号
事件名 損害賠償等請求事件
裁判結果 請求棄却 文献番号 2008WLJPCA01108004
東京都港区〈以下省略〉
原告 X
大阪市〈以下省略〉
被告 株式会社朝日新聞社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 秋山幹男
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は,原告に対し,200万円を支払え。
2 被告は,原告に対し,別紙1記載の謝罪文を別紙2記載の条件で掲載せよ。
第2 事案の概要
1 争いのない事実等(末尾に証拠の付されていない事実は,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,Bとの通称で,平成19年7月12日公示,同月29日投票及び開票の参議院議員選挙(以下「本件選挙」という。)において東京選挙区から立候補し,落選した者である。本件選挙の東京選挙区には,原告を含め20名の立候補者が立候補した(以下,本件選挙の東京選挙区の全20名の立候補者を「全立候補者」と総称する。)。
イ 被告は,朝日新聞を発行する新聞社であり,本件選挙の選挙運動の期間中の同月12日から同月28日まで及び本件選挙当日の同月29日に本件選挙の東京選挙区の報道をした(以下,被告による本件選挙の選挙運動の期間中及び本件選挙当日の本件選挙の東京選挙区に関する報道を「本件報道」という。)。なお,被告の発行する朝日新聞は,本件選挙の公示日の前1年以来,毎月3回以上,号を逐って定期に有償領布し,第3種郵便物の承認のあるものであり,かつ,引き続き発行するものであるので,公職選挙法148条3項1号所定の要件を具備する新聞である。
(2) 本件報道の内容
ア 被告は,平成19年7月12日付け朝日新聞夕刊都内版(乙1)に,「参院選東京選挙区 20人届け出激戦 都内各所で第一声」との見出しの下,本件選挙の東京選挙区に20名の立候補者が立候補したこと等を伝える記事を掲載するとともに,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,所属政党,現職,新人等の別,経歴,出身校及び住所を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載するとともに,同一の大きさの顔写真を掲載した。
イ 被告は,同月13日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の1)に,「参院選公示5議席へ熱い舌戦」との大見出しを付した上で,「20人,29日に審判」との小見出しの下,本件選挙の東京選挙区に20名が立候補したこと等を伝える記事を掲載するとともに,「主な候補者 街で第一声」との小見出しの下,C,田村智子,D,保坂三蔵,E,F,G,川田龍平,鈴木寛,山口那津男,大河原雅子及び丸川珠代という12名の立候補者(以下,上記12名の立候補者を併せて「本件12名の立候補者」という。)の演説内容の骨子を顔写真入りで掲載した。他方,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,所属政党,現職,新人等の別,経歴,出身校及び住所を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
ウ 被告は,同月14日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の2)に「主な候補者の横顔 上 [上から届け出順]」との見出しの下,本件12名の立候補者のうちC,田村智子,D,保坂三蔵,E及びFの計6名の経歴及び公約等を顔写真入りで掲載し,他方で,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
エ 被告は,同月15日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の3)に「主な候補者の横顔 下 [上から届け出順]」との見出しの下,本件12名の立候補者のうちG,川田龍平,鈴木寛,山口那津男,大河原雅子及び丸川珠代の経歴及び公約等を顔写真入りで掲載し,他方で,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
オ 被告は,同月16日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の4)に「雨よ,風よ,『一票』よ」との大見出しを付した上で,「公示後初『選挙サンデー』」との小見出しの下,本件12名の立候補者の同月15日の選挙活動に関する記事を掲載するとともに,「主な候補者へのアンケート 」との小見出しの下,本件12名の立候補者についての被告によるアンケートの結果を掲載した。
カ 被告は,同月17日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の5)に「主な候補者へのアンケート 」との見出しの下,本件12名の立候補者についての被告によるアンケートの結果を掲載した。
キ 被告は,同月18日付け朝日新聞朝刊都内版(甲1の6)に「対北朝鮮政策『対話より圧力優先』 主な候補者半数『反対』」との見出しの下,被告と東京大学の研究室が共同で行った調査結果による,本件12名の立候補者の個別政策課題に対する立場を示す記事を掲載した。
ク 被告は,同月20日付け朝日新聞朝刊都内版(乙2)に「鈴木寛・保坂・山口氏 現職3氏やや先行 大河原・田村・丸川・川田氏 新顔4氏が横一線」との見出しの下,被告の電話調査の結果による本件選挙の東京選挙区の序盤の選挙情勢に関する記事を掲載し,上記記事の中で本件12名の立候補者のうちの9名の立候補者につき言及するとともに,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
ケ 被告は,同月23日付け朝日新聞朝刊都内版(乙3)に「『無党派層』の心つかめ 遊説・応援しのぎ削る」との見出しの下,本件12名の立候補者の同月21日及び22日の選挙運動等を紹介する記事を掲載し,他方で,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
コ 被告は,同月26日付け朝日新聞朝刊都内版(乙4)に「『朝日東大共同調査』改憲 是か非か・理由,各候補様々」との見出しの下,被告と東京大学の研究室が共同で行った調査結果による,本件12名の立候補者の憲法改正に関する考え方を紹介する記事を掲載した。
サ 被告は,同月27日付け朝日新聞朝刊都内版(乙5)に「鈴木寛氏がリード大河原・保坂・川田の各氏逃げ切り懸命」との大見出しの下,被告の電話調査の結果による本件選挙の東京選挙区の終盤の選挙情勢に関する記事を掲載し,上記記事の中で本件12名の立候補者のうちの9名の立候補者に言及し,「『朝日東大共同調査』主な候補の大半,社会保障を重視」との小見出しの下,被告と東京大学の研究室が共同で行った調査結果による,本件12名の立候補者の社会保障政策に関する考え方を紹介する記事を掲載した。他方,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
シ 被告は,同月28日付け朝日新聞朝刊都内版(乙6)に「論戦,あと1日限り 参院選 あす投票 無党派層の動向がカギ」との見出しの下,翌日の同月29日が投票日であること等を伝える記事を掲載するとともに,上記記事の中で主な候補者として本件12名の立候補者に言及した。他方,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,所属政党,現職,新人等の別,経歴,出身校及び住所を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載するとともに,同一の大きさの顔写真を掲載した。
ス 被告は,同日付け朝日新聞朝刊都内版(乙7)に「5議席,民意誰に きょう投開票『期日前』,前回の1.65倍」との大見出しの下,同日が本件選挙の投票及び開票日であることを紹介する記事を掲載するとともに,上記記事の中で主な候補者として本件12名の立候補者に言及し,「選挙戦終えて 主な陣営ひとこと 届け出順」との小見出しの下,本件12名の立候補者の本件選挙戦を終えての感想等を掲載した。他方,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を,活字の大小及び配列につき同一書式で掲載した。
2 本件は,原告が被告に対し,被告が本件報道において全立候補者のうちの本件12名の立候補者のみを「主な候補者」として連日報道し,原告を含めたその余の立候補者を「主な候補者」から除くことで,原告の名誉を毀損し,原告を侮辱するとともに,憲法14条の精神,21条,公職選挙法1条,148条,235条の2に違反する違法な本件報道をすることで,原告に精神的苦痛等の損害を与えたと主張して,不法行為に基づき,200万円の支払及び謝罪広告の掲載を求めている事案である。
3 争点及びこれに関する当事者の主張
(1) 本件報道が原告の名誉を毀損し,原告を侮辱するものであるか(争点(1))
(原告の主張)
被告は,本件選挙の東京選挙区には,全立候補者として20名の立候補者がいるにもかかわらず,「主な候補者」の名の下に,本件12名の立候補者のみを連日報道し,明確な理由も告げずに原告を「主な候補者」から除いており,本件報道は,一般読者に本件12名の立候補者だけが有力な候補者であり,原告がいわゆる泡沫候補であるかのような印象及び本件選挙に本件12名の立候補者しか立候補しておらず,原告が立候補していないかのような印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものであって,原告の名誉を毀損し,原告を侮辱するものである。
(被告の主張)
特定の新聞が選挙報道において特定の候補者を「主な候補者」として報道しなかったとしても,それは当該新聞の意見や扱いにすぎず,それだけでは当該候補者の社会的評価を低下させるものということができないから,本件報道は,原告の社会的評価を低下させるものではなく,原告の名誉を毀損するものでも,原告を侮辱するものでもない。
また,被告が朝日新聞の選挙報道において,特定の候補者を「主な候補者」として報道することは,被告の意見及び論評であって,事実を摘示するものではなく,公正な論評として違法ではない。
(2) 本件報道が憲法14条の精神,21条,公職選挙法1条,148条,235条の2に違反して違法であるか(争点(2))
(原告の主張)
ア 本件報道は,以下のとおり,報道の自由の名の下に原告を含む全立候補者の平等の権利を侵害し,選挙の公正を害するものであり,憲法14条の精神,21条に違反し,違法である。
(ア) 全立候補者のうち本件12名の立候補者以外のその余の立候補者についての顔写真入り報道は,本件12名の立候補者に比べて著しく少なかった。
(イ) 全立候補者のうち本件12名の立候補者以外のその余の立候補者については,アンケートが実施されておらず,一般読者に対し,立候補者の考え方や趣味及び人間性等を伝える機会が奪われた。
(ウ) 本件12名の立候補者については,「『朝日・東大共同調査』主な候補者の政策・政治スタンス」との小見出しの下,その政策が紹介されているにもかかわらず,その余の立候補者については政策が紹介されなかったために,原告は,唯一の政策である教育問題につき発表する機会を奪われた。
(エ) 被告は,本社情勢調査として,本件選挙の東京選挙区の情勢につき本件12名の立候補者のうちの9名についてのみ報道した。
イ 本件報道は,一般読者に,本件選挙に本件12名の立候補者しか立候補しておらず,原告が実際に立候補していないかのような印象を与えるものであるから,虚偽の事項を記載したものであり,かつ,本件12名の立候補者及びそれ以外の立候補者につき,前者を主な候補者,後者を泡沫候補として差別的に峻別しているものであるから,事実をわい曲して記載したものであって,公職選挙法148条,235条の2に違反する。
また,本件報道においては,本件選挙の東京選挙区の情勢につき本件12名の立候補者のうちの9名についてのみ報道しており,このような被告による選挙結果の予想記事は,選挙干渉及び選挙妨害に他ならず,選挙の自由公正を阻害し,選挙人の自由な判断で投票することを阻害するという意味において,同法1条に明らかに反するとともに,人気投票の公表の禁止を定める同法148条,235条の2に違反する。
(被告の主張)
被告は,憲法21条1項により,報道及び評論の自由を保障されており,被告が発行する朝日新聞は,公職選挙法148条3項の要件を具備する新聞であり,同条1項により,虚偽の事項を記載し又は事実をわい曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害するものに当たらない限り,選挙に関し,報道及び評論を掲載する自由を保障されている。
被告は,本件報道を行うに当たり,本件選挙の公示日の平成19年7月12日,その翌日の同月13日及び投票日前日の同月28日に全立候補者の氏名,年齢及び経歴等を紹介する「候補者一覧」を掲載し,本件選挙の公示日及び投票日前日には全立候補者の顔写真も掲載するとともに,多数回にわたり,全立候補者の氏名,年齢,主な肩書,現職,新人等の別及び所属政党等を紹介する「候補者一覧」を掲載し,一般読者に立候補者が誰であるかを等しく伝えるように努めるとともに,国会に議席を有する政党の公認候補者であり,当選の可能性が高いと判断される8名の立候補者(田村智子,D,保坂三蔵,G,鈴木寛,山口那津男,大河原雅子及び丸川珠代),平成19年4月の東京都知事選挙で多数の得票を得た2名の立候補者(C,F),薬害エイズ事件をめぐる活動で社会の関心を集め,多数の得票が予想された川田龍平及び憲法改正が議論されている中で,東条英機の孫という特別な属性を有しながら,自ら憲法を論じるニュース性の高い候補者であるEを「主な候補者」として位置付け,「第1声」,「横顔」,「アンケート結果」,「政策・政治スタンス」,「有権者を対象とした選挙情勢調査結果」,「選挙活動の状況」,「重視する政策」及び「選挙戦を終えて」等の見出しの下に記事を掲載したが,原告については,平成19年の東京都港区区議会議員選挙(定数34)に立候補し,得票順位で立候補者51人中50位であったことなどから,「主な候補者」として取り上げなかった。
本件報道は,全立候補者を平等に取り扱う「候補者一覧」を掲載する一方で,特定の立候補者についてその政策や選挙活動の状況,選挙情勢等について記事を掲載したものであり,虚偽の事項を記載したり,事実をわい曲して記載したものではないのであるから,憲法21条1項,公職選挙法148条1項により保障された報道及び評論の自由の範囲内のものであって,何らの違法性はない。
また,被告が独自取材による選挙の情勢調査に関する記事を掲載することは,公職選挙法148条1項により報道機関に保障された選挙の立候補者に関する報道及び評論に当たるものであり,同法138条の3所定の「人気投票の経過又は結果」の公表とは,その目的及び態様を異にし,これには当たらないことが明らかである。
(3) 被告の前記不法行為による原告の損害(争点(3))
(原告の主張)
被告の前記不法行為により原告の被った有形無形の損害に対する慰謝料は200万円を下らない。
(被告の主張)
原告の上記主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件報道が原告の名誉を毀損し,原告を侮辱するものであるか)について
原告は,本件報道は,一般読者に本件12名の立候補者だけが有力な候補者であり,原告がいわゆる泡沫候補であるかのような印象及び本件選挙に本件12名の立候補者しか立候補しておらず,原告が立候補していないかのような印象を与えるものであり,原告の社会的評価を低下させるものであって,原告の名誉を毀損し,原告を侮辱するものであると主張している。
本件報道が原告の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきである(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)。
そして,本件報道の内容は,前記第2の1の争いのない事実等のとおりであり,朝日新聞紙上において,本件12名の立候補者を主な候補者として取り上げた記事を掲載する反面,本件選挙の公示日である平成19年7月12日付け朝日新聞夕刊都内版,翌日の同月13日付け朝日新聞朝刊都内版及び投開票日前日の同月28日付け朝日新聞朝刊都内版には,全立候補者の氏名,年齢,所属政党,現職,新人等の別,経歴,出身校,住所及び顔写真を各候補者間で同一の条件で掲載し(同月13日付け朝日新聞朝刊都内版については顔写真が掲載されていない。),同月14日付け朝日新聞朝刊都内版,同月15日付け朝日新聞朝刊都内版,同月20日付け朝日新聞朝刊都内版,同月23日付け朝日新聞朝刊都内版,同月27日付け朝日新聞朝刊都内版及び投開票日の同月29日付け朝日新聞朝刊都内版には,「候補者一覧」として,全立候補者の氏名,年齢,職業,所属政党及び現職,新人等の別を各候補者間で同一の条件で掲載している。これによれば,本件報道は,一般読者に本件12名の立候補者が社会的関心の高い立候補者又は本件選挙の東京選挙区での当選の可能性の高い立候補者であるとの印象を与えるものにすぎず,原告を含むその余の立候補者がいわゆる泡沫候補であるとか,本件選挙の東京選挙区に本件12名の立候補者しか立候補しておらず,原告を含むその余の立候補者が立候補していないとの印象を与えるものではないのであるから,本件報道が原告の社会的評価を低下させるものということはできず,原告の名誉を毀損したり,原告を侮辱するものということはできない。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
2 争点(2)(本件報道が憲法14条の精神,21条,公職選挙法1条,148条,235条の2に違反して違法であるか)について
まず,原告は,本件報道が報道の自由の名の下に原告を含む全立候補者の平等の権利を侵害し,選挙の公正を害するものであり,憲法14条の精神,21条に違反すると主張する。
しかし,憲法14条,21条は,国や各種公共団体に対して個人の基本的権利を保障する目的に出たものであり,直接原告と被告との関係のような私人相互の関係に適用されるものではない上,選挙報道については,憲法の趣旨を踏まえて公職選挙法が規定され,報道の自由を前提としつつ報道機関に一定の制約を課して公正な選挙の実現を図っており,憲法の諸規定を直接適用することが予定されていないことは明らかかである。したがって,原告の上記主張は採用することができない。
次に,原告は,本件報道は,一般読者に,本件選挙に本件12名の立候補者しか立候補しておらず,原告が実際に立候補していないかのような印象を与えるものであるから,虚偽の事項を記載したものであり,かつ,本件12名の立候補者及びそれ以外の立候補者につき,前者を主な候補者,後者を泡沫候補として差別的に峻別しているものであるから,事実をわい曲して記載したものであって,公職選挙法148条,235条の2に違反する,本件報道においては,本件選挙の東京選挙区の情勢につき本件12名の立候補者のうちの9名についてのみ報道しており,このような被告による選挙結果の予想記事は,選挙干渉及び選挙妨害に他ならず,選挙の自由公正を阻害し,選挙人の自由な判断で投票することを阻害するという意味において,同法1条に明らかに違反するとともに,人気投票の公表の禁止を定める同法148条,235条の2に違反すると主張する。
前記第2の1の争いのない事実等記載のとおり,被告の発行する朝日新聞は,公職選挙法148条3項1号所定の要件を具備する新聞紙であるから,被告が朝日新聞紙上に,選挙に関して報道及び評論を掲載することは,虚偽の事項を記載し又は事実をわい曲して記載するなど表現の自由を濫用して選挙の公正を害しない限り自由であって,すべての立候補者について一律平等に報道しなければならないとする法律上の根拠は存在しない。そして,政党を支持基盤とする立候補者,知名度やニュース性の高い立候補者,直近の選挙で多数の得票を得た立候補者が他の立候補者よりも社会的関心及びニュース的価値が高く,結果的に得票率も高い傾向にあることは否定し得ないのであるから,本件報道において,被告の編集方針に従い,前記第2の1の争いのない事実等記載のとおり,原告を含む全立候補者の氏名,年齢,所属政党,顔写真等を各候補者間で同一の条件で複数回掲載する一方,政党を支持基盤とする立候補者,知名度やニュース性の高い立候補者及び直近の選挙で多数の得票を得た立候補者を主な候補者という表現を用いてより多くの紙面を割いて報道したことは,何ら虚偽の事項を記載したことにはならないし,事実をわい曲して記載したことにもならないというべきである。なお,原告は,本件報道が,一般読者に,本件選挙に本件12名の立候補しか立候補しておらず,原告が実際に立候補していないかのような印象を与えるものであるとか,本件12名の立候補者以外の立候補者を泡沫候補としていると主張するが,上記主張の理由がないことは,既に前記1で判断したとおりである。
また,被告の本件選挙の東京選挙区の選挙情勢に関する記事は,新聞社である被告が独自の取材活動により得た情報に基づいて選挙情勢についての報道をしたものであって,選挙干渉及び選挙妨害には当たらず,選挙の自由公正を阻害したおり,選挙人の自由な判断で投票することを阻害するものということはできず,選挙に関する人気投票の公表禁止を定める公職選挙法138条の3にいう,公職に就くべき者を予想する人気投票の経過又は結果を公表する所為とは,その目的及び態様を異にするものということができ,何ら同法1条,148条,235条の2及びそれらの趣旨に違反するものということはできない。したがって,原告の上記主張はいずれも採用することができない。
3 結論
以上の次第で,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中村也寸志 裁判官 関述之 裁判官 中保秀隆)
〈以下省略〉
「選挙妨害 ポスター」に関する裁判例一覧
(1)令和元年 5月24日 東京地裁 平28(ワ)17007号 選挙供託金制度違憲国家賠償請求事件
(2)平成30年 7月20日 福岡地裁久留米支部 平28(ワ)69号 損害賠償請求事件
(3)平成30年 2月23日 東京地裁 平27(行ウ)73号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(4)平成28年 9月28日 東京地裁 平25(ワ)29185号 選挙無効等確認請求事件
(5)平成28年 1月13日 熊本地裁人吉支部 平26(ワ)51号 損害賠償請求事件
(6)平成27年11月18日 福岡地裁 平26(ワ)2716号 謝罪広告等請求事件
(7)平成25年12月25日 東京地裁 平24(ワ)25051号 労働組合員権利停止処分無効確認等請求事件
(8)平成25年11月29日 東京地裁 平25(ワ)18098号 被選挙権侵害による損害賠償請求事件
(9)平成24年 9月27日 東京高裁 平24(ネ)1676号 組合長選挙無効確認等請求控訴事件 〔全日本海員組合事件〕
(10)平成24年 1月16日 最高裁第三小法廷 平21(あ)1877号 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、公職選挙法違反、火薬類取締法違反被告事件
(11)平成23年 5月30日 東京高裁 平23(ネ)378号 損害賠償、損害賠償等反訴請求控訴事件
(12)平成23年 3月17日 名古屋高裁 平22(ネ)496号 損害賠償請求控訴事件
(13)平成22年12月15日 東京地裁 平21(ワ)16235号 損害賠償請求本訴事件、損害賠償等請求反訴事件
(14)平成22年10月29日 東京地裁 平19(ワ)31252号 損害賠償等請求事件
(15)平成22年 7月 1日 東京地裁 平20(ワ)31122号 損害賠償等請求事件
(16)平成22年 3月25日 岐阜地裁大垣支部 平20(ワ)253号 損害賠償請求事件
(17)平成20年10月 8日 東京地裁 平13(ワ)12188号 各損害賠償請求事件
(18)平成20年 5月26日 長崎地裁 平19(わ)131号 殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反、公職選挙法違反等被告事件
(19)平成20年 1月10日 東京地裁 平19(ワ)20886号 損害賠償等請求事件
(20)平成19年12月26日 東京地裁 平19(行ウ)171号 退去強制令書発付処分取消請求事件
(21)平成18年 6月29日 東京地裁 平16(特わ)973号 国家公務員法違反事件 〔国家公務員赤旗配付事件〕
(22)平成16年 3月29日 神戸地裁姫路支部 平10(ワ)686号 新日本製鐵思想差別損害賠償請求事件
(23)平成16年 2月27日 東京地裁 平7(合わ)141号 殺人、殺人未遂、死体損壊、逮捕監禁致死、武器等製造法違反、殺人予備被告事件 〔オウム真理教代表者に対する地下鉄サリン事件等判決〕
(24)平成15年 7月24日 東京地裁 平13(刑わ)2337号 有印私文書偽造、同行使被告事件
(25)平成14年 7月30日 最高裁第一小法廷 平14(行ヒ)95号 選挙無効確認請求事件
(26)平成13年 1月29日 東京地裁 平10(ワ)15657号 損害賠償等請求事件
(27)平成12年 2月23日 東京高裁 平11(ネ)5203号 謝罪広告等請求控訴同附帯控訴事件
(28)平成11年12月13日 大阪地裁 平11(ワ)8121号 損害賠償請求事件 〔大阪府知事セクハラ事件民事訴訟判決〕
(29)平成11年 9月21日 東京地裁 平10(ワ)1177号 謝罪広告等請求事件
(30)平成11年 5月19日 青森地裁 平10(ワ)307号 定時総会決議無効確認請求、損害賠償請求事件
(31)平成 9年 3月18日 大阪高裁 平8(行コ)35号 供託金返還請求控訴事件
(32)平成 8年 8月 7日 神戸地裁 平7(行ウ)41号 選挙供託による供託金返還請求事件
(33)平成 8年 3月29日 東京地裁 平5(特わ)546号 所得税法違反被告事件
(34)平成 6年12月 6日 東京地裁 平2(ワ)2211号 除名処分無効確認請求事件
(35)平成 5年 8月24日 前橋地裁 昭51(ワ)313号 損害賠償請求事件 〔東京電力(群馬)事件〕
(36)平成 5年 5月13日 大阪地裁 平4(ワ)619号 損害賠償請求事件
(37)平成 5年 4月14日 福岡高裁宮崎支部 平3(行ケ)2号 選挙の効力に関する審査申立に対する裁決取消請求事件 〔伊仙町町長選挙無効裁決取消請求訴訟〕
(38)平成 3年 5月28日 大阪地裁 昭61(ワ)7005号 市議会議員選挙投票済投票用紙差押事件
(39)平成 2年12月13日 福岡地裁小倉支部 昭61(ワ)838号 懲戒処分無効確認等請求事件 〔国鉄清算事業団(JR九州)事件〕
(40)平成 2年10月30日 大阪地裁 昭61(わ)1691号 公正証書原本不実記載、同行使、公職選挙法違反等被告事件
(41)平成 2年 3月28日 名古屋地裁 昭63(ワ)2433号 損害賠償請求事件
(42)昭和57年 6月 8日 東京地裁 昭52(ワ)3269号 除名処分無効確認等請求事件
(43)昭和56年 7月 9日 東京地裁八王子支部 昭49(特わ)242号 公職選挙法違反被告事件
(44)昭和55年10月30日 最高裁第一小法廷 昭53(オ)940号 慰謝料請求事件 〔スロットマシン賭博機事件〕
(45)昭和55年 2月14日 最高裁第一小法廷 昭54(行ツ)67号 選挙無効審査申立棄却裁決取消請求事件
(46)昭和54年11月30日 京都地裁 昭53(ワ)260号 謝罪文掲示等請求事件
(47)昭和54年 1月30日 高松高裁 昭49(う)198号 国家公務員法違反被告事件 〔高松簡易保険局選挙応援演説事件・控訴審〕
(48)昭和53年 3月30日 松山地裁西条支部 昭48(わ)107号 公職選挙法違反被告事件
(49)昭和52年 6月16日 福岡高裁 昭50(行ケ)4号 町議会議員選挙無効の裁決の取消請求事件
(50)昭和49年 6月28日 高松地裁 昭40(わ)250号 国家公務員法違反被告事件 〔高松簡易保険局員選挙応援演説事件・第一審〕
(51)昭和48年 3月29日 仙台地裁 昭42(わ)120号 公職選挙法違反被告事件
(52)昭和46年 8月27日 大阪高裁 昭46(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(53)昭和45年12月21日 東京地裁 昭40(行ウ)121号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔大分銀行救済命令取消事件〕
(54)昭和44年 7月 3日 札幌高裁 昭43(う)326号 公職選挙法違反被告事件
(55)昭和43年 8月30日 福岡地裁 昭42(行ウ)18号 救済命令処分取消請求事件 〔九建日報社救済命令取消事件〕
(56)昭和42年 6月29日 東京高裁 昭39(う)1553号 名誉毀損・公職選挙法違反被告事件
(57)昭和42年 6月13日 福岡高裁 昭41(う)934号 恐喝等被告事件
(58)昭和42年 4月25日 東京地裁 昭40(特わ)579号 公職選挙法違反被告事件
(59)昭和42年 3月23日 東京地裁 昭40(特わ)636号 公職選挙法違反被告事件
(60)昭和41年10月24日 東京高裁 昭38(ナ)6号 裁決取消、選挙無効確認併合事件 〔東京都知事選ニセ証紙事件・第二審〕
(61)昭和41年 5月18日 大阪地裁 昭38(ワ)1629号 委嘱状不法発送謝罪請求事件
(62)昭和40年11月26日 東京高裁 昭39(う)642号 公職選挙法違反被告事件
(63)昭和40年 3月11日 東京高裁 昭39(う)1689号 公職選挙法違反被告事件
(64)昭和39年11月18日 東京高裁 昭39(う)1173号 公職選挙法違反被告事件
(65)昭和39年 6月29日 東京高裁 昭38(ネ)1546号 貸金請求控訴並に同附帯控訴事件
(66)昭和39年 5月29日 東京地裁 昭34(わ)2264号 公職選挙法違反被告事件
(67)昭和38年 5月27日 名古屋高裁 昭32(行ナ)2号 行政処分取消請求事件
(68)昭和37年12月21日 福岡地裁 昭33(わ)1043号 地方公務員法違反事件 〔福教組勤評反対闘争事件・第一審〕
(69)昭和37年 4月18日 東京高裁 昭35(ナ)15号 選挙無効確認請求事件
(70)昭和37年 3月15日 最高裁第一小法廷 昭36(オ)1295号 選挙無効確認請求
(71)昭和36年10月30日 東京高裁 昭32(ナ)1号 住民投票無効確認請求事件
(72)昭和36年 6月30日 東京高裁 昭34(ナ)15号 選挙無効確認訴訟請求事件
(73)昭和35年10月24日 名古屋高裁金沢支部 昭34(ナ)1号 町長選挙無効請求事件
(74)昭和35年 8月24日 札幌高裁 昭35(う)203号 名誉毀損、公職選挙法違反事件
(75)昭和35年 6月18日 東京高裁 昭34(ナ)12号 選挙無効請求事件
(76)昭和35年 5月24日 大津地裁 昭34(ワ)32号 解職行為取消請求、資格確認請求併合事件
(77)昭和33年 7月15日 東京高裁 昭32(う)562号 名誉毀損被告事件
(78)昭和32年12月26日 東京高裁 昭31(ナ)5号 選挙無効確認請求事件
(79)昭和32年 2月28日 東京高裁 昭30(ナ)28号 市議会議員選挙無効確認訴訟事件
(80)昭和31年12月27日 福岡地裁 昭30(ナ)5号 町長選挙無効確認事件
(81)昭和31年11月13日 大阪高裁 昭31(ナ)2号 選挙無効確認事件
(82)昭和31年 5月21日 東京地裁 昭28(ワ)7177号 損害賠償請求事件
(83)昭和31年 3月 5日 大阪高裁 昭30(う)1028号 傷害事件
(84)昭和30年 9月15日 東京高裁 昭30(ナ)5号 衆議院議員選挙無効確認請求事件
(85)昭和30年 4月27日 東京高裁 昭30(ナ)2号 衆議院議員選挙無効訴訟事件
(86)昭和29年11月29日 大阪高裁 昭29(う)1684号 公職選挙法違反事件
(87)昭和28年12月 4日 甲府地裁 事件番号不詳 住居侵入公務執行妨害強要暴行被告事件
(88)昭和25年12月25日 東京高裁 昭24(ナ)16号 村長解職投票無効事件
(89)昭和23年10月18日 名古屋高裁 事件番号不詳 食糧緊急措置令違反被告事件
(90)昭和 5年 9月23日 大審院 昭5(れ)1184号 衆議院議員選挙法違反被告事件
■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
(1)政治活動/選挙運動ポスター貼り ☆祝!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
勝つ!選挙広報支援事前ポスター 政治選挙新規掲示ポスター貼付! 1枚から貼る事前選挙ポスター!
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(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
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(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
選挙事務所/後援会連絡所届出代行 公職選挙法の上限/立て札看板設置 1台から可能な選挙立札看板設置
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