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「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(1)令和元年 9月 6日 大阪地裁 令元(わ)2059号 公職選挙法違反被告事件

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(1)令和元年 9月 6日 大阪地裁 令元(わ)2059号 公職選挙法違反被告事件

裁判年月日  令和元年 9月 6日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  令元(わ)2059号
事件名  公職選挙法違反被告事件
文献番号  2019WLJPCA09069002

出典
裁判所ウェブサイト

裁判年月日  令和元年 9月 6日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  令元(わ)2059号
事件名  公職選挙法違反被告事件
文献番号  2019WLJPCA09069002

主文

被告人を懲役1年に処する。
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)
被告人は,平成31年4月7日施行の大阪市議会議員選挙に際し,a 区選挙区から立候補したものであるが,自己の当選を得る目的をもって,
第1  被告人の選挙運動者であるAの仲介により,Bが前記選挙の選挙運動期間である同年3月29日から同年4月6日までの各日,被告人の選挙運動用自動車上における選挙運動のために使用される者(いわゆる「うぐいす嬢」,以下「車上運動員」という。)を欠員することなく計4名手配するなどの選挙運動をすること並びに前記B及び同人が手配した車上運転員らが前記自動車に乗車して同選挙区の選挙人に投票を呼び掛けるなどの選挙運動をすることの報酬として,同月2日,前記Aに対し,大阪市a区(住所省略)株式会社C銀行D支店に開設された「E後援会 E」名義の普通預金口座から,同支店に開設された「F」名義の普通預金口座へ現金75万6000円を振込入金し,そのうち現金3万6000円を前記Aに供与し
第2  前記Aと共謀の上,同日,同人が,前記Bに対し,前記第1記載の報酬として,前記普通預金口座に入金された前記75万6000円のうち現金72万円を,大阪府羽曳野市(住所省略)株式会社C銀行G支店に開設された前記B名義の普通預金口座へ振込入金して同金額を前記Bに供与し
たものである。
(事実認定の補足説明)
1  争点
本件の争点は,①Aへの金銭供与は選挙運動者に対する違法な買収行為に当たるか,②①が違法な買収行為に当たるとした場合に,Aに対する金銭供与について被告人に買収の故意があったといえるか,③被告人とAとの間で,判示第2のBに対する買収についての共謀や故意が認められるかである。
2  ①について
⑴  まず,選挙運動とは,特定の公職の選挙につき,特定の立候補者又は立候補予定者のため投票を得又は得させる目的をもって,直接又は間接に必要かつ有利な周旋,勧誘その他諸般の行為をすることをいう。本件で,Aは,平成31年4月7日施行の大阪市議会議員選挙に際し,a区選挙区から立候補する被告人のための投票を得させる目的で,前記選挙の選挙運動期間の各日,被告人の選挙運動用自動車上における車上運動員を欠員することなく計4名手配し,車上運転員を前記自動車に乗車させて同選挙区の選挙人に投票を呼び掛けさせており,これらは,選挙につき直接又は間接に必要かつ有利な周旋,勧誘その他諸般の行為をすることであって選挙運動に当たる。
そして,被告人は,これらの選挙運動を行ったAに対し,対価として3万6000円を供与したのであるから,これが買収に当たることは明らかである。
⑵  弁護人は,Aが選挙コンサルタント業者であり,選挙運動者ではなく,適法に報酬を支払うことができる旨主張するが,そもそも被告人の供述するコンサルティング契約をしたとの内容は,Aの供述中に現れない。被告人の供述する内容も,契約内容や対価等が定まっていなかったという極めて不合理なもので,信用できない。弁護人の主張はその前提を欠く。なお,弁護人の主張に鑑み更に検討しても,Aが選挙コンサルタントを名乗っていたことがあるからといってその活動が選挙運動でなくなるはずもない。弁護人が弁論で指摘する「選挙時報」においても,車上運動員等の派遣に対する報酬支払に問題がないのは,人材派遣会社が選挙運動者に該当しないことが前提である。弁護人の主張は採用できない。対価を求める選挙コンサルタント業者が多数いたと弁護人が指摘する点は,前記判断にいささかも影響を与えない。
3  ②について
⑴  本件では,平成30年10月頃,被告人が,Aに対し,翌年施行の大阪市議会議員選挙の選挙運動期間中における車上運動員派遣をBに要請した際の報酬額を聴取するよう依頼し,これに対する応答としてAから,同年11月5日に「ウグイス代金 1日@21,000×4人×9日間」などと現にその上限額(1人1日につき1万5000円)を上回る趣旨及び代金の一部についてのみ領収書が発行される趣旨の記載がある見積書が被告人に送信された。また,選挙運動期間中に,見積書と同金額,同趣旨の合計請求書等が作成され,被告人はその記載内容を確認してAに対し75万6000円を支払っていて,金額は車上運動員4人が9日間活動した場合の報酬上限額を上回る。
なお,見積書は紙面1枚で,前記のほかはほとんど記載がなく,前記記載を見なかった,記載に気付かなかったとの被告人の供述は不自然で信用できない。合計請求書等について,内訳も見ず支払ったという点も同様である。
このように,被告人は,Aが自らの指示を受けて選挙のために車上運転員を手配し,活動させていることを認識して,その対価として,金銭を供与したものである。報酬上限額を上回る部分が車上運動員に対する上限超過の報酬の支払い又は車上運動員手配等に対する報酬に充てられることを被告人が認識していたことにも疑問の余地はない。被告人に,選挙運動者であるAに対して金銭を供与することの認識すなわち本件の故意があったことは明らかである。
⑵  これに対して,弁護人は,選挙コンサルタント業者への報酬の支払いは適法であると思っていたとの被告人の供述に依拠し,被告人に故意がなかった旨を主張する。しかしながら,被告人の供述は,違法性の判断を誤ったというにすぎず,これを前提としても故意の有無に影響しない。また,弁護人は,被告人自身が振込送金を行ったことや,関係証拠が被告人事務所の捜索で容易に発見されたことは被告人に故意がなかったことの証左であると主張するが,これらは,被告人が,自らの行為が捜査機関に露見しないと考えていた場合等でも同様であると考えられるから,被告人の故意の存在に合理的な疑いを生じさせない。弁護人の主張はいずれも採用できない。
4  ③について
⑴  本件では,被告人のAに対する当初の依頼内容等に鑑みると,被告人とAの間では,車上運動員の実際の手配はBがすることが前提であったと認められる。これは,報酬を支給する者の届出書の作成について,被告人がBに直接問い合わせていることにも裏付けられている。そうすると,被告人がAに送金した75万6000円のうち,Aを介してその相当額が,車上運動員の手配を行ったBに供与されることについて少なくとも未必的認識があったと認められる(被告人もこれを否定する供述はしていない)。被告人とAとの間に共謀があったことは明らかである。
被告人は,Bが被告人のために車上運動員として活動する者で,かつ,報酬を支給する者の届出書に記載がないことも認識しており,被告人に故意があったことにも疑問がない。
⑵  これに対し,被告人は,報酬については,コンサルタントであるAに任せていたので,違法な報酬支払いになるとは思わなかった旨弁解する。しかしながら,そもそもこの供述が前提としている被告人とAとの間のコンサルティング契約というべきものがあったという点が信用できず,Aに対する金銭供与について買収の故意がなかったとの点も採用の限りでない。主張はその前提を欠く。弁護人の主張は採用できない。
(法令の適用)
被告人の判示各所為は公職選挙法221条3項1号,1項1号(判示第2の所為についてはさらに刑法60条)にそれぞれ該当するところ,判示各罪について所定刑中懲役刑をそれぞれ選択し,以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により犯情の重い判示第2の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年に処し,情状により同法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとし,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項本文により全部これを被告人に負担させることとする。
(量刑の理由)
本件は,被告人が合計75万6000円という多額の金銭を選挙運動者に供与したものであり,その一部が車上運動員に対して適法に支払うことができたものであることを考慮しても,供与した金額は小さくない。公職の候補者である被告人が自ら買収行為に及んだ点でも悪質である。車上運動員を確保するという動機が,選挙運動者に対する買収を正当化する余地はまったくない。選挙の公正を損なう犯行の責任が重いことは明らかである。
加えて,被告人は公判廷において不合理な弁解に終始し,反省の態度が見られないこと,共犯者との刑の均衡を考慮すると,被告人に懲役刑を科すこととする。
もっとも,被告人に前科前歴はないこと等も踏まえると,本件で懲役刑の実刑に処すべきであるとまではいえない。そこで,今回はその刑の執行を猶予することとするが,公民権停止期間について特別の配慮をすべき事情はないから主文の刑が相当である。
(求刑 懲役1年)
大阪地方裁判所第3刑事部
(裁判長裁判官 中川綾子 裁判官 河村宜信 裁判官 大山洸来)
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