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「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(16)平成28年 9月16日 福岡高裁那覇支部 平28(行ケ)3号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(16)平成28年 9月16日 福岡高裁那覇支部 平28(行ケ)3号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件

裁判年月日  平成28年 9月16日  裁判所名  福岡高裁那覇支部  裁判区分  判決
事件番号  平28(行ケ)3号
事件名  地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
裁判結果  認容  上訴等  上告・上告受理申立<上告棄却>  文献番号  2016WLJPCA09166001

新判例体系
公法編 > 行政諸法 > 公有水面埋立法〔大正… > 第四二条 > ○埋立承認の取り消し > (一)埋立承認の取消しを違法とした事例
◆本件事実関係の下では、沖縄防衛局に対する公有水面埋立承認処分の取消処分は、同承認処分に裁量権を逸脱・濫用した違法があるといえないにもかかわらず行われたものであるなど違法であり、それに対する同取消処分の取消しを求める是正の指示は適法であるから、同指示に従わず、同取消処分を取り消さないのは違法である。

 

裁判経過
上告審 平成28年12月20日 最高裁第二小法廷 判決 平28(行ヒ)394号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件

評釈
加藤祐子・法研論集(早稲田大学大学院) 165号47頁
三野靖・自治総研 467号62頁
岡田正則 他・法セ 751号18頁(座談会)
五十嵐敬喜・世界 889号92頁
武田真一郎・成蹊法学 85号222頁
阿波連正一・法政研究(静岡大学) 21巻1号424頁
本多滝夫・法と民主主義 512号34頁
岡田正則・法時 88巻12号106頁
山下竜一・法セ 744号109頁
松永和宏・法セ 743号1頁
白藤博行・法と民主主義 513号30頁
藤川元・Libra 17巻1号36頁
前田定孝・法経論叢(三重大学) 34巻2号47頁
太田直史・法セ増(新判例解説Watch) 20号73頁
人見剛・Law and Practice 11号1頁

参照条文
公有水面埋立法4条1項1号
公有水面埋立法4条1項2号
公有水面埋立法42条1項

裁判年月日  平成28年 9月16日  裁判所名  福岡高裁那覇支部  裁判区分  判決
事件番号  平28(行ケ)3号
事件名  地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
裁判結果  認容  上訴等  上告・上告受理申立<上告棄却>  文献番号  2016WLJPCA09166001

当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり

 

 

主文

1  原告が被告に対して平成28年3月16日付け「公有水面埋立法に基づく埋立承認の取消処分の取消しについて(指示)」(国水政第102号)によってした地方自治法245条の7第1項に基づく是正の指示に基づいて,被告が公有水面埋立法42条1項に基づく埋立承認(平成25年12月27日付沖縄県指令土第1321号,沖縄県指令農第1721号)を取り消した処分(平成27年10月13日付沖縄県達土第233号,沖縄県達農第3189号)を取り消さないことが違法であることを確認する。
2  訴訟費用は被告の負担とする。

 

事実及び理由

第1  請求の趣旨
主文と同旨。
第2  事案の概要
本件は,沖縄防衛局(本件埋立事業の主体は国であり,その実施を沖縄防衛局が担当した。)が,普天間飛行場代替施設を辺野古沿岸域に建設するため,平成25年12月27日,被告の前任者であるA1沖縄県知事(以下,「前知事」という。)から公有水面埋立ての承認(平成25年12月27日付け沖縄県指令土第1321号,沖縄県指令農第1721号。以下,「本件承認処分」という。)を受けていたところ,被告が,平成27年10月13日,別紙1「取消処分の理由」記載のとおり,本件承認処分には公有水面埋立法(以下,「法」といい,単なる法の意味である場合には「」を付することにする。)4条1項1号及び2号の要件を欠いているのにされた違法の瑕疵があるとの理由により,本件承認処分の取消し(平成27年10月13日付け沖縄県達土第233号,沖縄県達農第3189号。以下,「本件取消処分」という。)をしたため,原告は,本件取消処分は,①法的瑕疵のない本件承認処分を取り消した点と,②取消制限により取り消すことのできない本件承認処分を取り消した点において,法42条1項及び3項並びに法4条1項に反して違法なものであるとして,地方自治法245条の7第1項に基づき,別紙2のとおり本件取消処分の取消しを求める是正の指示(国水政第102号。以下,「本件指示」という。)をしたものの,被告が,本件指示に基づいて本件取消処分を取り消さない上,法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(同法251条の5)をも提起しないことから,同法251条の7に基づき,被告が本件指示に従って本件取消処分の取消しをしないという不作為の違法の確認を求めた事案である。
1  関係法令の定め
本件に関係する法令の定め(本件承認処分時のもの)は,別紙3「関係法令の定め」記載のとおりである。
2  前提事実(争いのない事実並びに掲記証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)  原告は,法を所管する国務大臣である。
被告は,法42条1項の承認権限を有する沖縄県知事である。
(2)  沖縄防衛局は,キャンプ・シュワブ施設敷地内から辺野古崎とこれに隣接する大浦湾,辺野古湾の水域を結ぶ形で埋立地を造成し,普天間飛行場の代替施設及びその関連施設としての飛行場(以下,「本件新施設等」という。)を設置するものとして,平成25年3月22日,前知事に対し,沖縄県名護市辺野古沿岸域に本件新施設等を設置するため,別紙4記載の公有水面(以下,「本件埋立地」という。)埋立て(以下,「本件埋立事業」という。)の承認を求めて,公有水面埋立承認願書を提出した(同日付け沖防第1123号。甲A5の1,乙A8。以下,「本件埋立出願」といい,その提出された書面を「本件願書」という。)。本件埋立事業の埋立ては,評価法2条2項1号ト,同法施行令1条,同別表第一の七の項第二欄の要件を満たす同法の第一種事業である。本件埋立事業の目的である本件新施設等である飛行場の建設については,その規模からして評価法の対象事業ではないが(評価法施行令1条別表第一の四項参照),評価条例の対象となっていた(同条例2条2項(1)別表5項)。
(3)  前知事は,平成25年12月27日,国に対して,法に基づく法定受託事務として,次の留意事項(以下,「本件留意事項」という。)を付して,本件埋立地の埋立工事に関する埋立承認処分(同日付け沖縄県指令土第1321号,沖縄県指令農第1721号,本件承認処分。甲A1,乙A1)をした。
ア 工事の施工について
工事の実施設計について事前に県と協議を行うこと。
イ 工事中の環境保全対策等について
実施設計に基づき環境保全対策,環境監視調査及び事後調査などについて詳細検討し県と協議を行うこと。なお,詳細検討及び対策等の実施に当たっては,各分野の専門家・有識者から構成される環境監視等委員会(仮称)を設置し助言を受けるとともに,特に,外来生物の侵入防止対策,ジュゴン,ウミガメ等海生生物の保護対策の実施について万全を期すこと。また,これらの実施状況について県及び関係市町村に報告すること。
ウ 供用後の環境保全対策等について
事業者である国は,米国政府と環境に関する特別な取決めを締結するなどの実効性のある方法により,米軍基地から派生する環境問題の未然防止と米軍基地周辺地域の生活環境及び自然環境の保全について万全を期すこと。また,併せて,国,県,関係市町村等を構成員とする協議会等を設置し,以下の事項を実施すること。
・本施設の供用に伴い米軍等が実施する環境保全対策の実施状況を定期的に把握する。
・本施設の供用に伴い航空機騒音や低周波音など環境保全上の問題等が生じ又は生じるおそれがある場合に改善対策を米軍と協議する。
エ 添付図書の変更について
申請書の添付図書のうち,公有水面埋立法規則第3条第5号(埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書),第7号(埋立地の用途及び利用計画の概要を表示した図面)及び第8号(環境保全に関し措置を記載した図書)を変更して実施する場合は,承認を受けること。
オ その他
埋立工事を竣功したときは,公有水面埋立法第42条第2項の規定に基づき,県知事に通知すること。
(4)  国は,「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(以下,「日米安全保障条約」という。)4条を根拠として設置された日米安全保障協議委員会における合意により,アメリカ合衆国軍(以下,「米軍」という。)海兵隊が駐留する沖縄県宜野湾市所在の普天間飛行場を移設・返還することになったことに伴い(甲A2),本件新施設等を沖縄県名護市辺野古沿岸域に設置するため,本件埋立事業を実施すべく本件承認処分を得たものである。なお,本件埋立事業の主体は国であり,本件埋立事業の実施を担当する沖縄防衛局がその手続を進めた。
本件新施設等の建設地は,沖縄県名護市辺野古崎周辺地区及びこれに隣接する水域であるが,当該辺野古崎周辺地区は,日米安全保障条約及び「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定」(以下,「日米地位協定」という。)に基づき,米軍の施設及び区域(キャンプ・シュワブ)として提供されている(甲A3)。
(5)  被告は,平成27年10月13日,本件承認処分には法4条1項1号及び同項2号の各要件に適合しないにもかかわらずこれらに適合するとした法的瑕疵があったとして,別紙1「取消処分の理由」記載の理由により,国に対し,本件承認処分の取消処分(同日付け沖縄県達土第233号,沖縄県達農第3189号,本件取消処分。甲A4,乙A2)をした。
(6)  原告は,被告のした本件取消処分は,本件承認処分に法的瑕疵がないにもかかわらず取り消した点,取消制限に係る法理に反している点において違法であるとして,平成28年3月16日,地方自治法245条の7第1項に基づき,被告に対し,別紙2の「是正の指示の理由」(以下,「本件指示理由」という。)を付して,本件取消処分の取消しを求める本件指示をした(甲A229,乙A3)。
(7)  被告は,本件指示に不服があるとして,平成28年3月23日,地方自治法250条の13第1項に基づき,国地方係争処理委員会に対して審査の申出をした(甲A230)。
(8)  国地方係争処理委員会は,地方自治法250条の14第2項に基づき,次のとおりの見解を示し,本件指示が同法245条の7第1項の規定に適合するか否かについては判断せず,下記見解をもって審査の結論とする旨の決定(以下,「本件委員会決定」という。)をし,平成28年6月21日到達の書面において,これを原告及び被告に対して通知した(甲A231,乙A4)。

本件指示にまで立ち至った一連の過程は,国と地方のあるべき関係からみて望ましくないものであり,国と沖縄県は,普天間飛行場の返還という共通の目標の実現に向けて真摯に協議し,双方がそれぞれ納得できる結果を導き出す努力をすることが,問題の解決に向けての最善の道であるとの見解。
(9)  被告は,本件指示に基づいて本件取消処分を取り消さない上,法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(地方自治法251条の5)を提起せず,原告は,本件委員会決定の通知から30日(地方自治法251条の7第2項2号,同法251条の5第2項第1号)を経過した平成28年7月22日に本件訴訟を提起した。
3  争点
本件では,原告は,本件取消処分を取り消すよう指示した本件指示に被告が従わない不作為の違法の確認を求めているところ,被告は,本件指示が地方自治法245条の7第1項所定の法定受託事務の処理が法令の規定に違反しているときとの要件を満たさずにされた違法なものである,すなわち本件取消処分は適法である旨主張し,その前提となる本件承認処分に対する取消権の発生要件たる本件承認処分の違法性(裁量の範囲内のものを含むと主張する。)について,取消しをする際にしたそれについての被告の判断に要件裁量等があり,その判断には裁量権の濫用・逸脱等はない,よって,本件承認処分は法4条1項1号及び同項2号の要件を充たしていないと認められるべきであるなどと主張する。これに対し,原告は,本件承認処分の取消権の発生要件たる本件承認処分の違法性について,被告の判断に要件裁量等はなく,前知事がした本件承認処分における法4条1項1号及び同項2号の要件の判断に裁量権の逸脱・濫用が認められない限り,取消権は発生しないところ,それはないとして,本件取消処分は取消事由がないのにされた違法なものであると反論し,また,何らかの瑕疵があるとしても,取消制限に反する旨主張している。よって,争点は次のとおりとなる(なお,被告は,本件請求は,平成28年3月23日経過時という過去の時点における法律関係の確認を求めるものであって,確認の利益がなく不適法である旨主張する。しかし,訂正された本件請求の趣旨及び請求の原因によれば,本件請求は現時点(口頭弁論終結時)において被告が本件指示に従わないことの違法の確認を求めていると解されるので,上記被告の主張には理由がない。
また,被告は上記訂正が訴えの変更に当たり,かつ,不当であると陳述する。しかし,訴状によれば,原告は,当初,請求の趣旨を本件指示に基づいて本件取消処分を「平成28年3月23日までに取り消さないことが違法であることを確認する。」としており,同日経過から現時点(口頭弁論終結時)に至るまでの不作為の違法の確認を求めていたと解されうるものであった。しかし,請求の原因においては,「被告が,本件指示に基づいて本件取消処分を取り消さない上,法定の期間内に是正の指示の取消訴訟(地方自治法251条の5)をも提起しないことから,同法251条の7に基づき,その不作為の違法の確認を求めた」(訴状16頁6行目から同頁9行目)としていて,地方自治法251条の7所定の不作為の違法確認の訴えを提起したものであることが明らかであるところ,同訴えは,口頭弁論終結時の不作為の違法を確認するものであり,その他訴状の記載からして,原告があえて上記平成28年3月23日経過時点以降の不作為の違法の確認を求める理由が見当たらないことからすれば,訴状の請求の趣旨の上記記載は無意味な誤記であることが訴状全体から認められると言うべきである。よって,同年8月4日付けの訴状訂正申立書により請求の趣旨が訂正されたと解されるので,上記被告の主張には理由がない。
(1)  本件指示の違法性
ア 本件取消処分における取消権の発生要件(審理対象)及びその判断方法(争点1)
イ 法4条1項1号について
(ア) 要件審査の対象に国防・外交上の事項が含まれるか(争点2)
(イ) 本件承認処分の法4条1項1号の要件欠如の有無(争点3)
ウ 法4条1項2号について
要件審査に埋立地の竣功後の利用形態を含むのか及び本件承認処分の法4条1項2号の要件欠如の有無(争点4)
エ 本件承認処分において法4条1項1号及び同項2号の要件が欠如している場合に取消制限の法理の適用によって本件取消処分は違法と言えるか(争点5)
オ 「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義及び国土交通大臣である原告が行える是正の指示の範囲(争点6)
(2)  本件指示の違憲性
本件新施設等建設の法律上の根拠及び自治権の侵害の有無(争点7)
(3)  不作為の違法性
仮に本件指示が適法であるとして,被告が本件指示に従わないことは違法と言えるか(争点8)
4  争点に対する当事者の主張
(1)  争点1(本件取消処分における取消権の発生要件(審理対象)及びその判断方法)について
ア 被告
(ア) 本件訴訟の審理対象及び判断方法
a 審理対象
本件訴訟における審理の対象は,本件取消処分が「法令の規定に違反している」(地方自治法245条の7第1項)と言えるかである。そして,被告は,本件取消処分における本件承認処分の瑕疵の存否の判断において裁量権を有しているので,その裁量権の逸脱・濫用がない限り,本件取消処分が違法であるとは言えないところ,本件取消処分には上記裁量権の逸脱・濫用がないので,「法令の規定に違反している」とは言えない。
本件取消処分は,裁量行為である本件承認処分が①法4条1項1号及び同項2号の要件を充足していないという内容の瑕疵と②その判断過程が合理性を欠いているという判断過程の瑕疵の二つがあるとして行われたものである。そして,これらに対する司法審査の対象は,①本件取消処分における内容の瑕疵についての判断については,裁量行為としてその瑕疵があるとの判断に裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか,②本件取消処分における判断過程の瑕疵については,その瑕疵があるとの判断過程において不合理性が認められるか否かである。また,上記①の内容の瑕疵には裁量権の逸脱・濫用があることにより違法と評価される程度に至っている違法の瑕疵と裁量権の範囲内にあり違法と評価される程度に至っていない不当の瑕疵が含まれると解される。
上記のように解する根拠は,行政庁は,根拠法令により裁量行為として原処分をなす権限を与えられたことにより,原処分を再審査する際にも,同根拠法令により,諸事情を総合考慮して原処分時に申請要件が具備されていたものかを裁量行為として行う権限が与えられていることにある。すなわち,本件では,法42条1項により裁量行為である承認の権限を与えられた被告は,自ら行った裁量行為である承認処分を再審査する際にも裁量判断として要件を充足していたかを全面的に審査できるものであって,原処分の判断過程を対象としなければならないという審査対象の限界はない。
b 判断方法
本件取消処分が「法令の規定に違反している」と言えるか判断するに当たっては,次の理由から,当該判断について国家機関は尊重しなければならない。
①法の免許・承認に係る要件適合性の判断が法定受託事務として都道府県知事の事務とされたのは,埋立ての対象とされた地域について,当該地域の国土利用として適正かつ合理的であるか否かという当該地域に係る総合調整的判断は,当該地域の実情に詳しく,かつ,当該地域の行政責任主体である都道府県知事の判断に委ねるのが合理的と考えられたことによるものである。さらに,②地方分権改革により国と地方公共団体が対等・協力の関係とされ法定受託事務が地方公共団体の事務とされた趣旨よりすれば,都道府県知事の法の要件適合性判断についての政策的,技術的要件裁量は都道府県知事のみが行うことができるものであり,所管大臣を含めほかの国家機関が都道府県知事と同一の立場で法の要件適合性を直接判断することはできないものというべきである。そして,③免許・承認における判断は自然公物の公用廃止にかかる総合調整判断であり,厳格さが求められている。
(イ) 不当の瑕疵(裁量内違法)
そして,本件取消処分は,本件承認処分に違法の瑕疵があるとして行われたものであり,本件承認処分に不当の瑕疵があるとして行われたものではないが,本件承認処分の法令要件違反における裁量範囲を逸脱する違法と連続する関係における裁量範囲内の違法でない要件違反がある場合(以下,「裁量内違法」という。)は,少なくとも不当な瑕疵があるといえるので,仮に本件承認処分が違法であると評価できなくとも,不当の瑕疵があるとの判断について裁量の逸脱・濫用がなければ,本件取消処分は違法とは言えない。
イ 原告
(ア) 本件訴訟の審理対象及び判断対象
本件取消処分においては,本件承認処分が違法であること,すなわち,本件承認処分について前知事の裁量権の範囲の逸脱ないし濫用があることが必要であり,その点が,本件訴訟の審理対象である。そして,後記(3)イ及び(4)イのとおり,本件承認処分には裁量権の逸脱・濫用は認められないので,本件承認処分は違法といえず,違法でない本件承認処分を取り消した本件取消処分は「法令の規定に違反している」といえる。
上記のように解する根拠は,取消権発生の要件は原処分に違法の瑕疵があることであり,それがあるかどうかは法律解釈から客観的に判断され,最終的には裁判所において確定されるべきであり,その点の行政庁の判断に裁量権はないところ,承認処分は裁量行為であるから,その際に裁量権の逸脱・濫用がない限り違法とはならないからである。
(イ) 被告への反論
a 本件取消処分における裁量(前記ア(ア)a)
被告は,本件取消処分における裁量行為である本件承認処分の違法性の有無の判断において裁量があると主張するが,本件承認処分をする際に法4条1項1号及び同項2号の要件適合性の判断について要件裁量があることは,前知事の本件承認処分に係る認定判断が違法であるか否かについての要件裁量があることまでをも意味するものではない。
b 判断過程の瑕疵(前記ア(ア)a)
被告は,原処分の判断過程に瑕疵がある場合にも取り消しうる旨主張するが,法に基づく埋立承認処分については,その判断過程に瑕疵があったのみでは,職権取消しの根拠となる法律による行政の原理違反が生じ得ないのであるから,これを理由に職権取消しをすることはできない。
c 「法令の規定に違反している」の審査密度(前記ア(ア)b)
行政処分の違法性は,当該行政処分の根拠法規の解釈・適用により客観的に決まるものであり,最終的に裁判所において判断されるものであるから,被告が違法であると判断すれば前知事の本件承認処分に違法の瑕疵があったことにはならず,司法権が行政庁の判断を尊重すべきとは言えない。
また,各大臣は所管する法律等に係る都道府県の法定受託事務の処理が「法令の規定に違反」していると認めるときには,是正の指示(地方自治法245条の7)を行う権限を有し,また,場合によっては代執行(地方自治法245条の8)の手続をとることができるとされ,法に基づく免許・承認権限についてもかかる規律が同様に適用されるところ,公有水面埋立てに係る都道府県の法定受託事務の処理,すなわち,免許・承認権限の行使が「法令の規定に違反」しているか否かの判断は,所管大臣が自ら第1号要件適合性を判断することなしには成り立ち得ないものである。
d 不当の瑕疵(前記ア(イ))
仮に,本件承認処分が不当の瑕疵によって取り消されうるものであり,その場合の本件訴訟の審理対象が,本件取消処分において被告がした本件承認処分に不当の瑕疵があるとの裁量権行使としての判断であるとしても,後記(3)イ及び(4)イのとおり,本件取消処分の本件承認処分に不当の瑕疵があるとの判断について裁量権の逸脱・濫用が存するので,本件承認処分に不当の瑕疵もなく,本件取消処分は違法である。
(2)  争点2(法4条1項1号の要件審査の対象に国防・外交上の事項が含まれるか)について
ア 原告
(ア) 沖縄県知事が法に基づき埋立承認の要件該当性を判断するに当たって,日米間の合意によって米軍に提供する本件新施設等の配置場所を辺野古沿岸域とすることの国防・外交上の適否について,これを審査判断する権限があると解する余地はなく,仮に,沖縄県知事が,法4条1項1号の要件(以下,「第1号要件」という。)適合性を判断するに当たり,国防・外交上の観点からみた埋立ての必要性につき審査判断をすることができるとしても,都道府県知事は,国の本来果たすべき役割に関する国による国防・外交上の政策判断を尊重すべきことは当然であるから,国の当該判断が明らかに合理性を欠いていると認められない限り,これを覆して独自に審査判断することはできないというべきである。
(イ) 以上のように解する根拠は,①本件埋立事業については,日米両政府間の協議や閣議決定を経て国において米軍に提供する埋立地として辺野古沿岸域を選択したものであって,米軍に提供する土地等の使用又は収用の認定と同様,政治的,外交的判断を要するのみならず,駐留軍基地に関わる専門技術的な判断を要するものであるから,国の政策的,技術的な裁量に委ねられている(最高裁平成8年8月28日大法廷判決・民集50巻7号1952頁参照)。そもそも国務を総理し,外交関係を処理し,又は条約を締結するのは,行政権の行使について全国民を代表する議員からなる国会に対し連帯して責任を負うとされている(憲法66条3項,内閣法1条2項)内閣の職権事項(憲法73条1号,2号,内閣法1条1項)であることからすると,国防・外交に係る国家の基本的政策を踏まえて,国内外における多種多様な諸般の事情を総合的に考慮の上で,日米安全保障条約に基づき提供される米軍施設及び区域の配置場所等につき決定することができるのは内閣にほかならず,都道府県知事にかかる国家の存立を左右する事項について独自に審査判断をする権限は付与されていない。また,②地方自治法が定める国と地方公共団体との役割分担の観点からみると,地方自治法1条の2第1項及び第2項によれば,地方公共団体は地域における住民に身近な行政を担うのに対し,国は,国際社会における国家としての存立に関わる事務を重点的に担うとされており,日米間の合意や我が国の安全保障にかかる政策判断に基づいて実施される本件埋立事業のような施策については,沖縄県知事は,国の本来果たすべき役割に関する重要な政策的判断を尊重すべきである。さらに,③埋立承認が法定受託事務として都道府県知事の事務とされたのは,当該地方の実情に詳しい都道府県知事の判断に委ねるのが合理的と考えられたからであるから,当該都道府県の区域を越える広域的な影響等があると考えられる埋立てについては,その可否の判断を当該区域を管轄する都道府県知事のみに委ねることが適当でないという趣旨から,法は,国土交通大臣の認可(法47条1項及び公有水面埋立法施行令32条2号及び3号)を定めていることからすれば,都道府県知事の判断は当該都道府県の区域に限定されると解される。
イ 被告
法において,国の公益実現を目的とする埋立てについても承認の権限は都道府県知事に付与され,国防・外交に関する事業について特別の規定を置かれていないことからすれば,法において,国防・外交を特権的な公益として位置づける規定・仕組みは存しないといえる。以上によれば,国防・外交に係る埋立事業であっても都道府県知事は埋立てによる不利益と正当化しうる公共性・必要性が認められるか否かについて実質的に判断をしなければならない。
(3)  争点3(本件承認処分の第1号要件欠如の有無)について
ア 被告
(ア) 法4条1項1号の意義,判断枠組み及び審査密度
法4条1項1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」とは,埋立て自体及び埋立ての用途・埋立て後の土地利用を対象として,得られる利益と生ずる不利益という異質な諸利益について,現行の法体系の下で社会に普遍的に受け入れられている諸価値に基づいて比較衡量し,総合的判断として,前者が後者を優越することを意味するものと解される。
そして,それに瑕疵があるかの判断枠組みは,前記4(1)ア(ア)a記載のとおりであるが,要約すると,①第1号要件を充足していないという内容の瑕疵と②その判断過程が合理性を欠いているという判断過程の瑕疵の二つがある。また,上記①の内容の瑕疵には裁量権の逸脱・濫用があることにより違法と評価される程度に至っている違法の瑕疵と裁量権の範囲内にあり違法と評価される程度に至っていない不当の瑕疵が含まれると解される。そして,①の本件取消処分における内容の瑕疵についての判断については,裁量行為として裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか,②の本件取消処分における判断過程の瑕疵については,その瑕疵の判断過程において不合理性が認められるか否かである。
(イ) 内容の瑕疵について
a 埋立ての必要性に根拠がないことについて
本件埋立事業が認められなくとも,海兵隊の機能に変更は生じず,喫緊の課題である普天間飛行場周辺の被害・負担の解決が必要であるということと,埋立土砂が約2100万立方メートルという長期間を要する大規模埋立工事の必要性との間には,次元の相違があり,普天間飛行場の被害・負担の解決の必要性から直ちに本件埋立出願に係る事業の必要性が導かれるものではない。また,抑止力の維持,海兵隊の一体的運用,沖縄県の地理的優位性などの普天間飛行場を沖縄県内以外に移設することは適切でないという埋立ての必要性には実証的根拠がない。
b 埋立てによる不利益について
本件埋立事業を実施することは,本件埋立地における代替性のない自然環境を不可逆的に喪失させ,かつ,下記(a)ないし(e)のような米軍基地の存在による地域公益侵害を固定化させるものであるから,昭和48年改正で法の重要な役割として位置づけられた環境保護の要請や環境基本法1条が定める「現在及び将来の国民の健康で文化的な生活の確保に寄与するとともに人類の福祉に貢献」という目的に反し,憲法92条による地方自治の本旨の保障,「公共の福祉の増進」という法の目的や国土利用計画法2条が定める「公共の福祉を優先させ,自然環境の保全を図りつつ,地域の自然的,社会的,経済的及び文化的条件に配意して,健康で文化的な生活環境の確保と国土の均衡ある発展を図ること」という国土利用の基本理念に反し,「法」の根本理念たる正義衡平の観念・平等原則にも反する。
(a) 米軍基地の存在による自治権侵害
米軍基地には,日本国法令による規制,国内法の環境保全規制が及ばない。米軍基地の提供,運用及び返還について関係地方公共団体の意向を反映させる仕組みがない。米軍は,公の目的として無制限に民間の港湾・空港を使用し,施設間の移動として施設外の訓練をする。米軍が保有する動産の保有,使用及び移転について課税がされない。米軍の軍人は軍人の旅券及び査証に関する法令が適用されず,その家族も含め外国人登録が免除されている。米軍の軍人・軍属に対する刑事裁判手続に制約がある(公務執行中の作為又は不作為から生じる罪の裁判権は米軍当局が第1次の権利を有する)。米軍の軍人・軍属の公務外の不法行為による損害賠償は,日米地位協定上の特権はないものの,事実上,請求するのは困難であり,日米地位協定18条6項の慰謝料,国による見舞金制度では不十分である。
(b) 沖縄県における健全な経済振興を阻害
(c) 米軍基地に起因する環境破壊
航空機騒音による周辺地域住民の生活や健康の重大な悪影響,赤土汚染,PCB漏出,油状物質(タール状物質)汚染,六価クロム・鉛・フッ素・ヒ素汚染,アスベスト検出,ダイオキシン汚染
(d) 米軍基地に起因する事件事故等
航空機事故,パラシュート降下訓練に伴う事故,被弾事故,山林火災,劣化ウラン弾使用事件,原子力軍艦(潜水艦等)の寄港,米軍人等の公務外の事故・犯罪
(e) 選挙等で示された沖縄県の民意に反すること
c 小括
以上のとおり,代替性のない希少な自然の喪失,航空機騒音・低周波音,生還環境等,地域振興の阻害要因となること及び沖縄県の過重な米軍基地負担を固定化するという本件埋立事業による不利益を正当化するに足りる具体的な根拠は認められない。よって,本件埋立出願は第1号要件を充足していなかったものと認められ,処分をするために法律上必要とされる要件を欠いてなされた本件承認処分は違法であり,取消しうべき瑕疵が存したものである。
d 被告がした上記判断には裁量権の逸脱・濫用がないこと
被告は,本件埋立事業により生ずる自然環境,生活環境や沖縄県の振興開発への悪影響が深刻であるのに対して,埋立必要理由書の記載は抽象的なものにすぎず,かつ,国防施設について他の公共施設と異なる特権的な地位が認められるものではないことから,これらを比較衡量し,総合的に判断して,「国土利用上適正且合理的ナルコト」とは言えず,本件埋立出願は,第1号要件を充足していないものと判断した。この判断は,慎重な検討過程を経て,具体的な根拠に基づいてなされた合理的なものであり,この法の要件適合性判断について,被告の要件裁量の逸脱・濫用は認められないものである。
(ウ) 判断過程の瑕疵について
前知事が,本件埋立出願が第1号要件に適合すると判断した過程は,自然環境についていうと,本件埋立事業対象地域が非代替的な世界的にも希少な自然的価値を有することを考慮せず,平成24年3月27日に前知事が沖縄防衛局に対して提出した知事意見(以下,「本件知事意見」という。)及び平成25年11月29日付の本件埋立出願に対する環境生活部長意見(以下,「本件環境生活部長意見」ともいう。)等で指摘された専門的見地からの環境保全上の問題点の指摘を安易,不当に軽視し,その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず,他方で,抽象的で具体性がなく,実効性の担保されていない沖縄防衛局の言い分を過重に評価しており,この考慮要素の選択や判断方法ないし過程は不合理なものである。また,70年余にわたり米軍基地の過重負担のため県土の適正な利用を妨げられ,異常なまでに米軍基地が集中して国土利用上の均衡ある発展を阻害されてきた沖縄県に,さらに将来にわたって基地の過重負担を固定化することを何ら考慮していないものであり,当然尽くすべき考慮が尽くされていない。そして,埋立てによりかけがえのない貴重な自然環境が喪失することや基地の過重負担が固定化されるという深刻な不利益と,本件埋立事業による利益との比較衡量すらもなされていないものであり,当然尽くすべき考慮が尽くされていない。
以上によれば,前知事による本件埋立承認の審査過程での考慮要素の選択や判断方法ないし過程は不合理なもので,その結果,第1号要件の充足についての判断が左右されたものと認められるから,前知事が本件埋立出願について第1号要件を充足したとする判断の過程には,違法の瑕疵が存するものである。
よって,被告が,上記のとおり前知事の第1号要件適合性判断過程は合理性を欠いていたもので違法の瑕疵があったと判断したことについて,この判断が不合理なものとは認められない。
(エ) 不当の瑕疵(裁量内違法)
仮に本件取消処分における本件承認処分が第1号要件審査において裁量権の逸脱・濫用があって違法であるとの判断が認められないとしても,本件取消処分において本件承認処分が第1号要件審査において不当(裁量内違法)の瑕疵があるとの判断に裁量権の逸脱・濫用はない。
イ 原告
(ア) 法4条1項1号の意義,判断枠組み及び審査密度
法4条1項1号の「国土利用上適正且合理的ナルコト」との要件は,その文言及び事柄の性質上,当該埋立て自体及び埋立地の用途が国土利用上の観点からして適正かつ合理的なものであることを要するとする趣旨と解され,その要件該当性判断に当たっては,国土の利用上適正かつ合理的であると判断するため必要な限度で当該埋立地の用途が考慮され,その限度で当該埋立て後の土地利用が周囲の自然環境及び生活環境に及ぼす影響についても考慮される。承認権者がこれに該当するか否かを判断するに当たっては,国土利用上の観点からの当該埋立ての必要性及び公共性の高さと,当該埋立て自体及び埋立て後の土地利用が周囲の自然環境等に及ぼす影響など,相互に異質な利益を比較衡量した上で,地域の実情などを踏まえ,技術的,政策的見地から総合的に判断することになることから,承認権者である都道府県知事には一定の裁量が認められると解される
そして,このような行政庁の一定の裁量に委ねられている判断の適否を裁判所が審査するに当たっては,当該判断が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である(最高裁平成18年11月2日第一小法廷判決(以下,「最高裁平成18年判決」という。)・民集60巻9号3249頁参照)。
(イ) 本件承認処分の第1号要件適合性
前記のとおり,取消権発生要件としての原処分に違法の瑕疵が存するかを判断するに当たっては,原処分に上記裁量権の逸脱・濫用があり,違法であるかを審理・判断すべきである。
上記観点から,本件承認処分において,国土利用上の観点からの当該埋立ての必要性及び公共性の高さと,当該埋立て自体及び埋立て後の土地利用が周囲の自然環境等に及ぼす影響などの諸事情を比較衡量すれば,本件埋立事業が「国土利用上適正且合理的」であることは明らかである。
a 埋立ての必要性について
国土利用上の観点からの埋立ての必要性については,①普天間飛行場の周辺住民等の具体的な危険を除去する必要性,②米軍海兵隊の一体的運用,沖縄本島の地理的優位性,抑止力維持,普天間飛行場代替施設としての適切性(滑走路も含め,所要の地積が確保できること,既に同地にキャンプ・シュワブが存在し,既存の提供施設・区域を活用でき,かつ,その機能を損なうこともないこと,航空部隊と関係する米軍海兵隊の施設等が近傍にあること,移設先の自然環境・生活環境に最大限配慮できること),沖縄の負担軽減から普天間飛行場代替施設を辺野古沿岸域に建設する必要性及び③普天間飛行場を抱える宜野湾市の経済発展のために本件埋立事業を実施する必要性があり,公共性については,日米関係の信頼関係を維持することなどの国防・外交上の公益,沖縄県の負担を軽減する公益及び安全保障の見地から抑止力の維持を図る公益がいずれも大きいといえる。
b 埋立てによる不利益について
当該埋立て自体及び埋立て後の土地利用が周囲の自然環境等に及ぼす影響については,埋立て自体によって失われる自然環境に対して保全措置が講じられ,埋立て後の本件新施設等の設置により生じる辺野古沿岸周辺住民に対する航空機事故の危険性や騒音被害の発生可能性が格段に低いといえる。ましてや,第1号要件に適合するとした前知事の判断が重要な事実の基礎を欠くとか,その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くということはできない。
(ウ) 被告への反論
a 上記(3)ア(イ)aについて
被告は,本件埋立出願を拒否しても「現状が変わらない」だけである旨述べるが,そもそも被告は本件埋立出願を拒否したのではなく,一旦された本件承認処分を取り消してこれを覆したものである上,本件承認処分は,上記のような普天間飛行場の危険性除去の方策等に係る日米間の合意や,長い年月を通じて,沖縄県や名護市を含めた関係者間の努力と決断の積み重ねの上にされたものであって,これを取り消すことは,かかる合意や積み重ねをことごとく覆滅させるものであり,日米間の信頼関係のみならず,我が国の安全保障政策の実施にも多大な悪影響を及ぼすものである。
b 上記(3)ア(ウ)について
前知事は,本件埋立事業の第1号要件適合性に関し,沖縄県作成の審査基準(甲A40)にのっとり,適切に審査を行ったものと認められることに加えて,普天間飛行場の返還を実現するためには日米合意に基づきその前提条件である代替施設を建設する必要があること,代替施設の建設地としては辺野古沿岸域がいまや現実的な実現可能性のある唯一の選択肢であること,本件埋立事業の実施によって,普天間飛行場の危険性を除去しつつ我が国の安全保障を確保するという公益や,日米間の信頼関係維持,沖縄の負担軽減,宜野湾市の経済発展といった公益がもたらされること,他方で,本件埋立事業によって生じる自然環境や生活環境等への影響は最小限に留まること等の事情を比較衡量すれば,本件埋立事業によって生じる利益が不利益を上回るものであることは明らかであり,かかる総合判断に基づいて本件埋立事業の第1号要件適合性を認めた前知事の審査判断の内容や考慮要素の選択等には,何ら不合理な点は認められない。
c 上記(3)ア(エ)について
被告が主張する不当の瑕疵については,我が国がアメリカ合衆国(以下,「米国」という。)から普天間飛行場の返還を受ける高度の必要性,公共性及び公益性があり,その返還のためにはその代替施設を建設する必要があり,辺野古沿岸域の他に現実的な実現可能性のある上記代替施設の移転先がなく,自然環境や生活環境等への影響や沖縄県における米軍施設及び区域に係る負担を考慮したとしても第1号要件適合性が認められることからすれば,仮に被告の本件取消処分における不当な瑕疵があるとの審査について裁量があるとしても,その裁量権行使が裁量権の範囲を逸脱・濫用した著しく不合理なものであるといえる。
(4)  争点4(法4条1項2号の要件審査に埋立地の竣功後の利用形態を含むのか及び本件承認処分の法4条1項2号の要件欠如の有無)について
ア 被告
(ア) 法4条1項2号の意義,判断枠組み及び審査密度
法4条1項2号は「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」と定めているところ,「十分配慮」との要件の意義は,問題の現況及び影響を的確に把握した上で,これに対する措置が適正に講じられ,その程度が十分と認められることである。
そして,その判断枠組みは,前記4(1)ア(ア)記載のとおり,①法4条1項2号の要件(以下,「第2号要件」という。)を充足していないという内容の瑕疵と②その判断過程が合理性を欠いているという判断過程の瑕疵の二つがある。また,上記①の内容の瑕疵には裁量権の逸脱・濫用があることにより違法と評価される程度に至っている違法の瑕疵と裁量権の範囲内にあり違法と評価される程度に至っていない不当の瑕疵が含まれると解される。そして,①の本件取消処分における内容の瑕疵についての判断については,裁量行為として裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか,②の本件取消処分における判断過程の瑕疵については,その瑕疵の判断過程において不合理性が認められるか否かである。
そして,昭和48年改正により追加された第2号要件は,自然環境は慎重かつ周到な保護が求められていること,地方公共団体の責任者たる都道府県知事に対し,当該地方公共団体の地域環境を保全する観点から法上の権限を行使することを強く要請していること,現代社会が環境保全に求める水準が高くなっており慎重な判断が求められていること,第2号要件の判断は専門技術的な知見に基づいてなされるものであることより,要件適合性の判断は,地域環境保全という規範の趣旨に照らして,厳格になされるべきものである。さらに,免許を付与する方向に向かっては,第2号要件は専門的な知見に基づく慎重・厳格な判断が要請される一方,免許を拒否する方向に向かっては,当該事業の実施によって影響を受けることとなる多様な自然その他の環境的価値を慎重かつ総合的に勘案した柔軟な判断が要請されるものである。
(イ) 内容の瑕疵
そして,被告は,本件埋立出願は,承認時において第2号要件を充足していなかった(内容の瑕疵)と認めたところ,以下のとおり,沖縄防衛局による申請内容は,本件知事意見,本件環境生活部長意見で示された問題点に対応できておらず,第2号要件に適合しているとは認められないものであり,「問題の現況及び影響を的確に把握」したとは言い難く,「これに対する措置が適正に講じられている」とも,ましてやその程度が「十分」とも言えないので,「其ノ埋立ガ環境保全及災害防止ニ付十分配慮セラレタルモノナルコト」とは認められず,本件承認処分は問題の現況及び影響を的確に把握した上で,これに対する措置が適正に講じられ,その程度が十分と認められないのであり,上記被告の内容の瑕疵についての判断に要件裁量の逸脱・濫用は認められない。
a 生態系について
本件埋立事業実施区域一帯は,特異的な生物群と希少種が分布する貴重な生態系を保持しているので,①本件埋立事業の必要性,国内においてこの地域を選定して事業を実施することの必要性・適切性,②仮に事業を実施する場合の環境保全策の内容・実効性等,環境保全施策との整合性について,③本件埋立事業の埋立面積が必要最小限度であることについて,それぞれ具体的に明らかにされなければならないところ,具体的な検討がなされていると言えない。
また,他の海域との比較等がなされておらず,かつ,この地域の生態系の特徴と希少性,すなわち河川域から汽水域のマングローブ林,礁池の存在しない深く切れ込んだ湾と砂泥地の存在という沖縄本島でも希有で多様で複合的な生態系のもとで,驚くべき極めて多様な生物種が生息しているという特徴の把握がまったくなされていない。
国による評価はいずれも定性的評価であって定量的評価ではない。さらに,各生物に対する調査・評価だけでは不十分であり,生態系相互のつながりについて調査・評価が不可欠であるのに,国による生態系の調査はこの視点を欠き極めて不十分な内容である。
b 海藻草類について
①消失する海草藻場に対する評価は極めて具体性を欠き,回避・低減策が検討されておらず,種ごとの調査もなく,海草帯の機能も検討されておらず,他に藻場が存在するから本件埋立地にある藻場の消失は問題はないという誤った記載が散見され,②消失する海草藻場についての代償措置が具体的でなく,実効性も不明であり,③地形変化による塩分低下の周辺海域の海草藻場への影響が,科学的な整合性に欠ける定性的な予測によるものであり,予測されたとは言えない,④工事に伴う水の濁り及び堆積についての措置に具体性がなく,実効性も不明である。
c ジュゴンについて
①調査期間が短く,地域個体群特定の根拠が不明であり,地域個体群の将来にわたる生息域とその生息環境の予測がなされておらず,②施設の存在による影響についてのPVA分析(個体群存続可能性分析)は不十分であり,ジュゴンが辺野古前面の藻場を利用していない根拠は不明であり,消失する海草藻場に関する環境保全措置について具体的な方法や効果,影響が明らかにされていない,③工事によるジュゴンの生息域への影響(杭打ち,石材投入の水中音等)の回避・低減のための措置が不十分であり,④施設供用後の影響についての措置について具体的に検討されておらず,⑤施設供用後の事後調査について検討されていない。
d ウミガメについて
①産卵場所の予測について,ウミガメが本件埋立事業実施区域を利用している理由についての予測をせずに行われており,科学的根拠に基づくものといえず,②ウミガメ類の上陸・産卵のための代償措置として,キャンプ・シュワブ弾薬庫下砂浜における具体的措置が明らかにされておらず,③工事中及び施設供用時の措置(街灯等の灯に対するもの)が不明であり,実効性が担保されていない。
e サンゴについて
①サンゴの生息ポテンシャル域についての評価が不適切であり,②サンゴの移植の不確実性に対する措置,事後調査についての検討が不十分であり,③水象の変化によるサンゴ類への影響についての予測・評価に科学的根拠はなく,対策の具体性や実効性は不明であった。
f 埋立土砂による外来種の侵入について
本件埋立事業では約1700万立方メートルという大量の県外の土砂が搬入されるところ,沖縄県の生物多様性の保護の重要性から外来種(特にアルゼンチンアリ)の侵入について十分な対策が求められ,上記土砂の地域は特定され,具体的な対策を取り得るところ,沖縄県が4度に渡って対策を求めたのにもかかわらず,専門家の指導・助言を得るという曖昧かつ抽象的なものしか示さなかった。
g 航空機騒音について
①普天間飛行場及び嘉手納飛行場について締結された平成8年の騒音防止協定(以下,「平成8年協定」という。),普天間飛行場については平成24年にオスプレイ配備を受けて新たに締結された「日本国における新たな航空機(MV-22)に関する日米合同委員会合意」(以下,「平成24年協定」という。)はいずれも形骸化しており,飛行経路は周辺地域上空を基本的に回避するという対策には実効性が認められず,また,環境保全措置が必要である場合には米軍に措置を理解して運用するよう要請するという対策にも実効性が認められず,②事業実施区域内において環境基準を超過する騒音が発生しないという評価は信用できない(位置通報点(航空機が航空管制機関へ位置通報を行う地点),場周経路(有視界飛行によるタッチアンドゴーの訓練を行うときに使用する飛行経路),施設間移動及び風向き(特に夏季の東向きの風)による音の伝播について十分検討されておらず,オスプレイの騒音検証に必要なデータが示されていないし,その騒音基礎データが大きくずれており,普天間飛行場で運用されていた大型固定翼機が岩国飛行場に移転したことを考慮した飛行回数の予測がなされておらず,名護市の現状における観測データと大きく乖離し,騒音評価基準としてLAmax(A特性音圧レベルの最大値に基づいて生活騒音レベルを判断する手法)が用いられていない)。
h 低周波音について
航空機騒音と同様の問題の他に,①心理的影響についての閾値(低周波音が人や物に対して心理的・生理的あるいは物的な影響・反応を生じさせる最低値)は,物的影響と異なり,平成16年に環境省が定める「低周波音問題対応の手引書」によるものではなく,昭和55年に作成された「低周波音に対する感覚と評価に関する基礎研究」によるものを採用しており,②予測は沖縄防衛局が用いた環境基準値である閾値を超えている。
(ウ) 判断過程の瑕疵
次のとおり,生態系,海藻草類,ジュゴン,ウミガメ,サンゴ,埋立土砂による外来種の侵入,航空機騒音,低周波音のいずれの事項についても,前知事の本件承認処分における審査基準への適合性の判断過程は合理性を欠いていたと認められ,前知事が,本件埋立出願が第2号要件に適合すると判断した過程は,本件埋立事業対象地域が非代替的な世界的にも希少な自然的価値を有することを考慮せず,本件知事意見,本件環境生活部長意見等で指摘された専門的見地からの環境保全上の問題点の指摘を安易,不当に軽視し,その結果当然尽くすべき考慮を尽くさず,短期間で審査結果を出し,他方で,抽象的で具体性がなく,実効性の担保されていない沖縄防衛局の言い分を過重に評価しており,この考慮要素の選択や判断方法ないし過程は不合理なもので,その結果,第2号要件の充足についての判断が左右されたものと認められるから,前知事による第2号要件適合性判断の過程には,違法の瑕疵が存するものである。
a 生態系について
事業実施区域の生態系の保全につき,その希少性や多様性をふまえた価値・保全の重要性の程度を他の海域等との比較を行うことによって検討しなかったことにより,判断の過程において考慮すべき事情が考慮されず,その結果,当該区域の生態系の保全の重要性に対する評価が明らかに合理性を欠いた。
また,沖縄防衛局による評価は,いずれも定性的評価であって定量的評価ではない。
さらに,生物相互間のつながり・影響についての考慮が不十分・不適切である。
b 海藻草類について
事業対象区域については広大な面積での海草藻場が消失することが明白であるにもかかわらず,沖縄防衛局の申請内容では,消失する海草藻場の機能の把握がなされていないうえ,海草藻場の一部が消失しても,周辺海域における海域生物の群集や共存の状況に大きな影響は生じないと予測されるといった明らかな誤りがみられる。一応示された環境保全措置についての具体性や実効性も不明なままである。沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,消失する海草藻場に対する環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。審査結果別添資料をみても,上記問題点については何ら触れられていないことから,本件知事意見や本件環境生活部長意見が指摘する問題点は何ら解消されていない。
c ジュゴンについて
沖縄防衛局の申請内容では,そもそも環境影響評価のために実施された調査の期間が不十分であり,予測・評価の手法,結果が科学的根拠を欠くこと,施設による影響については,PVA分析の前提となる数値の設定が不適切であることにより,ジュゴン個体群の存続可能性,埋立対象地の重要性についての分析が不十分な結果となっていること,ジュゴンの主要な餌となる海草藻場の移植や生育基盤の改善についてその方法や具体的効果や影響とその根拠が示されていないこと,工事による影響については,ジュゴン個体群への影響について検討されていないうえ,ジュゴン監視・警戒システムについて何ら科学的根拠が明らかにされていないこと,施設供用による影響については,その対策の内容や実効性が何ら担保されていないこと,事後調査については,事後調査目的や方法,内容等についてすら触れられていない空疎なものであること等といった非常に多くの問題点があり,本件知事意見等においても指摘されていた。沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。ジュゴンは,絶滅危惧種として,特に慎重な判断が要請されるべきであるにもかかわらず,審査過程においては,上記の問題点について検討された形跡がない。
d ウミガメについて
沖縄防衛局の申請内容では,キャンプ・シュワブ沿岸で現にウミガメが産卵している理由,その重要性について何らの評価を行わないまま,何らの科学的根拠もなく,他の産卵可能な場所に回避するだろうとの希望的観測を表明するにとどまっていること,ウミガメの上陸・産卵場所の消失に伴う代償措置となる砂浜整備案について,その内容及び実効性が全く明らかにされていないこと,その他工事中の作業船の航行や施設供用時のナトリウムランプ等の使用に対する保全措置について実効性が不明であること等の問題点がみられ,本件知事意見等においても指摘されていた。沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。このような問題点があるにもかかわらず,別添資料で触れられているのは,①船舶の航行方法,②工事区域内で産卵が確認された場合の運行計画の調整などの保全措置,③供用時のナトリウムランプの使用と海面への照射回避のマニュアル作成,④事後調査の記載のみであり,本件知事意見等が指摘する問題点は何ら解消されていない。
e サンゴについて
沖縄防衛局の申請内容では,本件埋立事業対象地域におけるサンゴの生息域に関するポテンシャル評価が適切でないこと,サンゴは移植技術が確立していないからこそ移植が失敗した場合の対処等のリスク管理が必要になってくるところ,全く検討がなされていないこと,移植先案については2箇所が示されているものの,移植先に存するサンゴ群生に対する影響等が検討されていないこと,移植の事後調査期間の設定が不適切であること,水象の変化によるサンゴへの影響について変化率による評価をしないことの正当性について十分な説明がなされていないこと等の問題点がみられ,本件知事意見や本件生活環境部長意見においても指摘されていた。沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。このような問題点があるにもかかわらず,審査過程においては,上記の問題点について検討された形跡がない。
f 埋立土砂による外来種の侵入について
沖縄防衛局は,沖縄県の有する貴重な生物多様性をふまえて,確実に外来種の侵入を防止し,万が一,外来種の侵入があった際には,予め綿密な防除策を構築しておく必要があったにもかかわらず,「埋立てに用いる購入土砂等の供給元などの詳細を決定する段階で,生態系に対する影響を及ぼさない材料を選定し,外来種混入のおそれが生じた場合には,外来生物法や既往のマニュアル等に準じて適切に対応し,環境保全に配慮することとする。なお,埋立土砂の種類ごとに注意すべき生態系への影響の検討は,専門家の助言を得ながら行うこととする。」として,沖縄県の4度にも渡る指摘に対しても,何らの具体的な防除策も明らかにしていない。この点について,沖縄防衛局は,「対象地域の特定が出来ないことから具体的な防除策は明らかにできない。」との見解を示しているが,そもそも,本件埋立事業の規模や使用される土砂の性質に鑑みれば,事業者は予め対象地域を具体的に特定すべきであり,その見解自体,何ら具体的な防除策を明らかにしない理由にならないばかりか,本件願書添付図書-10「埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」に明らかなとおり,土砂採取地域は具体的に特定されている以上,なおのことその見解は理由がないものである。したがって,沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。
g 航空機騒音・低周波音について
沖縄防衛局の申請内容は,米軍機が周辺地域上空を基本的に回避することや,環境保全措置が必要である場合には米軍に措置を理解して運用するよう要請するという米軍側の運用に期待するにすぎないものである。平成8年協定が司法の場においてすら形骸化しているとまで断じられ,平成24年協定も締結直後から多数の違反飛行が確認されているという現状において,普天間飛行場とは異なり実効性を有する措置であることを示す必要があるにもかかわらず,米軍機の航行に関して実効性ある協定等の締結をしていない。そして,位置通報点の設定,有視界飛行におけるB滑走路の場周経路の設定,施設間移動の具体的なシミュレーション等,周辺地域上空を米軍機が回避して航行し得るのかについて何ら検討されていない。また,沖縄防衛局は,近隣集落においては環境基準を超過する騒音は発生しないとの予測結果を示しているが,前記位置通報点の設定等に加えて,風向きによる音の伝播可能性等,騒音被害の発生において極めて重要な意義を有する事情が加味されておらず,また,機体の特殊性や音響的特性を有するオスプレイについては,事前の環境影響評価手続における不備が影響し,予測の妥当性の検証に必要な数値等が環境影響評価書に記載されていないなどその予測は極めて不適切であり,そのことは名護市の調査においてピーク騒音レベルが沖縄防衛局の調査結果と大きな乖離を示していることからも裏付けられる。これらに加えて,そもそも,軍事基地としての特徴や対象地域の静謐な環境特性を踏まえれば,WECPNL(加重等価継続感覚騒音レベル)のみならずLAmaxを併用して騒音被害を把握すべきであったにもかかわらずこれを採用していない点も極めて不適切である。
低周波音についても,同様に国の環境保全措置は何ら実効性を有するものでない。心理的・生理的影響について,より新しい研究結果を反映した環境省の手引きに基づく閾値を採用することなく,具体的根拠もないままに自らに有利な報告に基づく閾値を採用したばかりか,オスプレイについては,事前手続の不適切さを受けて評価書段階において初めて評価の対象となった結果,物理的影響に関しては全ての測定地点において,環境省の手引きとの比較において有利な閾値が設定されている心理的影響についても一部地点において環境基準を超過するという不整合がそのままにされている。
したがって,沖縄防衛局の申請内容は,問題の現況及び影響を的確に把握したとは言い難く,環境保全措置が適切に講じられているともましてやその程度が十分とも言えない。
(エ) 不当の瑕疵(裁量内違法)
仮に本件取消処分における本件承認処分が第2号要件審査において裁量権の逸脱・濫用があって違法であるとの判断が認められないとしても,本件取消処分において本件承認処分が第2号要件審査において不当(裁量内違法)があるとの判断に裁量権の逸脱・濫用はない。
イ 原告
(ア) 法4条1項2号の意義,判断枠組み及び審査密度
第2号要件は,「水面を変じて陸地となす埋立行為そのものに特有の配慮事項を定めたもの」(甲B8)とされ,埋立地の竣功後の利用形態ではなく,埋立行為そのものに随伴して必要となる環境保全措置等を審査するものである。よって,埋立ての用途によって設置される工作物等による環境影響は対象外であり,航空機騒音及び低周波音は審査の対象外である。被告の主張する「十分配慮」の意義は争わない。当該審査は,対象事業(評価法2条2項)によって変化する環境において,いかなる要素を保全し,また,当該要素をどのように保全するかについて,将来の予測を含めて判断し,「環境保全」に「十分配慮」したといえるか否かを決めるものであるから,対象地の自然的条件や環境保全技術等,専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するものである。このような第2号要件適合性に係る審査の性質に加え,法が「十分配慮」という一義的に決まらない抽象的な文言を用いていることからすれば,法は,同要件を判断する免許・承認権者に対して,一定の裁量権を与える趣旨であると解される。
そして,このような技術的な見地からの裁量に委ねられた事項について行政庁が行った判断については,当該判断が環境影響評価書等を資料として,裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認等があること等により重要な事実の基礎を欠き,又は事実に対する評価が明らかに合理性を欠くことや,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものとして違法となるとすべきものと解するのが相当である。
この点,第2号要件適合性の審査(評価法33条3項)の性質は,対象事業(評価法2条2項)によって変化する環境において,いかなる要素を保全し,また,当該要素をどのように保全するかについて,将来の予測を含めて判断し,「環境保全」に「十分配慮」したといえるか否かを決めるものであるから,対象地の自然的条件や環境保全技術等,専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要するものであり,このような審査の性質及び一義的に決まらない抽象的な文言を用いていることに照らせば,法は,免許・承認権者に対し,第2号要件適合性を認める方向ないし認めない方向のいずれに対しても等しく一定の裁量権を与えていると解され,認めない方向についてのみ片面的に広い(柔軟な)裁量権を認めているとは解されない。
(イ) 内容の瑕疵
「環境保全」に「十分配慮」したといえるか否かは,事業の実施による環境への負荷をできる限り回避し,又は低減するといった観点から(評価法3条),専門技術的な知見に基づく総合的な判断を要し,一義的に決まるものではないから,これを判断する絶対的な基準はなく,仮に,事業者が実施しようとする環境保全措置よりも優れた措置が存在するからといって,そのことから直ちに第2号要件を欠くことになるものではない。また,埋立行為は環境を少なからず変化させるものであるから,環境保全措置を講じたとしても,事業による環境に対する影響を完全になくすことはできないところ,事業による影響の予測・評価は,将来のことを対象とするものであることに加え,自然環境や生態系に関する科学的知見が万全ではない以上,完全な予測・評価はあり得ず,環境変化の予測や環境保全措置の実効性について,工事実施中及び供用後において一部予測結果と異なる状況が生じることも考えられる。予測の不確実性が高い場合においては,そのような予測の不確実性を謙虚に捉え,その対応策を織り込み,環境保全措置を実行可能な範囲で有効なものにするために事後調査や環境監視調査を充実させ,専門家の助言・指導を受けて柔軟に対応できる管理を行うことが重要なのであって,公有水面埋立てに係る環境影響評価書の作成段階で,あらゆる観点からの完全な予測・評価をすることや,生態系影響等に係る環境保全措置の実効性を完全に担保することは困難な場合が一般的である。また,本件において,環境保全措置の内容を全て事前に具体的に記載することは,変化し得る状況に即応した柔軟な対応を困難にする点でむしろ相当ではない。事後調査や環境監視調査で順応的管理を行うという対応は,通常の環境影響評価においてごく普通に行われていることであって,被告の指摘は,いずれも国に対して実行不可能な措置を強いたり,一般的な環境保全措置からかけ離れた措置を要求したりするものであり(甲A56),第2号要件を充足しないとする理由としては失当である。そして,以下のとおり,被告の個別事項への指摘は理由がないので,判断過程において重要な事実の基礎を欠くとか,その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くという余地はなく,裁量権の逸脱・濫用がないことは明らかである。
a 生態系について
①国は,沖縄県に対して,「実施区域及びその周辺の沿岸域が「自然環境の保全に関する指針」における評価ランクⅠ(自然環境の厳正な保護を図る区域),埋立土砂発生区域の大部分は同指針における評価ランクⅡ(自然環境の保護・保全を図る区域)に指定されていることを十分認識の上,これに配慮し,各環境要素に対し,赤土等の流出防止対策を始めとする,環境影響を回避・低減するための実行可能な最大限の環境保全措置を講じることとした結果,「沖縄県環境基本計画」の「事業別環境配慮指針」等との整合は図られるものと評価しました。」(甲A142)としたことからも明らかなとおり,沖縄県の環境保全施策との整合性に配慮して,実行可能な範囲における最大限の環境保全措置として,本件埋立事業に係る環境保全措置を策定したものであり(甲A5の7),②沖縄県環境生活部長の意見に対する沖縄防衛局の回答において,「飛行場施設に係る用地ごとの必要面積については,埋立必要理由書(添付図書-1)に記載したとおりですが,埋立区域については,現在提供されているキャンプ・シュワブの陸上部分を活用するとともに,飛行場施設等の配置について,周辺集落への影響や米軍の運用上の所用を踏まえ,海上部分ができる限り最小となるよう配慮したものです。」(甲A142)と回答しているとおり,国は,本件新施設等の規模が最小となるよう配慮したことについて,その根拠を示している。
環境影響評価における現地調査の調査地域は,「環境影響を受ける範囲と認められる地域」とされているから(評価法6条1項,評価条例4条の4,6条2項参照),他の海域は現地調査の対象とされないし,通常,他の海域を現地調査の対象とすることはない(甲A56)。他の海域で現地調査がされない以上,現地調査が行われた海域と同時期に同等の精度(調査地点数,調査頻度・期間,調査方法等)で行われた調査結果は他の海域には存在しないこととなり,そのような情報精度の異なる地域を比較することは適正な評価手法ではない(甲A56)。
公有水面の埋立て又は干拓の事業に係る環境影響評価の項目並びに当該項目に係る調査,予測及び評価を合理的に行うための手法を選定するための指針,環境の保全のための措置に関する指針等を定める省令(平成10年農林水産省・運輸省・建設省令第1号。以下,「指針省令」という。甲B16)は,予測に足りる科学的な知見がない場合には,事業者による当該知見に係る研究の実施を求めておらず,さらに,予測に足りる事例もない場合には,定性的な予測を行うことを想定しているし,評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項(平成9年環境庁告示第87号。甲B17)において,「第二 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」の一(5)(本件願書を沖縄県に送付した平成25年3月当時。現在は,「第四 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」の一(5))は,「予測は,対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響の程度について,工事中及び供用時における環境の状態の変化又は環境への負荷の量について,数理モデルによる数値計算,模型等による実験,既存事例の引用又は解析等の方法により,定量的に把握することを基本とし,定量的な把握が困難な場合は定性的に把握することにより行うものとする」とされ,定量的評価を行うためには,科学的に確立した方法があることが前提であるところ,生態系の機能については確立された評価方法はない。さらに,国は,生態系の分布及び海域生態系と陸域生態系との関連について詳細に検討し,一般的に求められる水準を十分に満たしている。
b 海藻草類について
①本件願書「添付図書-6」環境保全に関し講じる措置を記載した図書(甲A5の7。以下,「本件環境保全図書」という。)において,本件埋立事業の実施区域周辺の海面が消失することによる海草藻場生態系の場の消失の影響について,海草類の消失面積を具体的に示した上で,「代替施設本体の埋立域に集中して生息している生物種や群集はみられず,多くの生物種と群集は,辺野古地先から松田地先に広がる海草藻場の広い範囲に分布しています。このことから,代替施設本体の存在によって海草藻場の一部が消失しても,周辺海域における海域生物の群集や共存の状況に大きな変化は生じない」と予測し,海草藻場への依存度が比較的高い生物種を列記して,「代替施設の範囲に集中して分布するものではなく,他の海草藻場が分布する地域にも生息が確認されており,残存する周辺の海草藻場において生息環境は保全されるものと考えられます」とするなど具体的に予測・評価を行っている(甲A5の7)。また,既往の科学的知見を参考に,海草藻場の消失に対する回避・低減について検討した上で,海草類の移植等や事後調査を行うなど,実行可能な範囲でできる限り環境保全措置を講じており,海草の種ごとの消失面積を算定することは技術的限界,経済的合理性の観点からみて困難である。海草帯の機能の把握については,本件環境保全図書において,技術的限界から重要な種に絞って評価している。被告が主張する誤った記載については,埋立区域内の海草藻場において,集中して生息する生物種や群集が確認されず,近隣の辺野古から松田に広がる海草藻場にこれら生物種が分布しているという調査結果を踏まえ,そこから導き出される予測結果として,埋立区域に係る海草藻場の消失に伴い,海域生物種や群集に大きな変化はない旨を記載したものであり(甲A56),被告が指摘するような,事業実施区域における海草藻場が消失することを問題ないとするものではない。②海草藻場は,気象・海象などの自然環境の影響を受けやすいため,海草藻場の代償措置の実施においては,自然の環境変動により当初の計画では想定できなかった状況になる可能性があるから,海草藻場の消失に対する代償措置の効果を具体的に記載することは困難であるし(甲A56),国は,海草藻場の消失に対する代償措置として,本件環境保全図書においては,改変区域周辺の海草藻場の被度が低い状態の箇所や代替施設の設置により形成される静穏域を主に対象とし,専門家等の指導・助言を得て,海草類の移植や生育基盤の改善による生育範囲拡大に関する方法等やその事後調査を行うことについて検討し,可能な限り実施することとしている(甲A5の7)。また,海草の移植等の技術は依然として確立されたものとはいい難いことから,指針省令32条1項2号に基づく事後調査を実施することとし,専門家の助言・指導を受けつつ,必要な措置を講じることとしている(甲A5の7)。③地形変化による塩分変化の海草藻場への影響については,亜熱帯性海草類に関する科学的知見がなく,数値シミュレーションによる塩分変化の予測をもとに,定性的に予測したものであって,これ以上に具体的な予測をすることを求めることは,実施不可能な措置を強いるものである。④工事による水の濁りについては水産用水基準を適用して予測・評価を行っており,環境保全措置としても汚濁防止膜の設置・使用について,これが海草藻場に与える影響について具体的に検討した上で,設置するか否かを決定している。
c ジュゴンについて
①ジュゴンについては,本件環境保全図書において,航空機を用いた生息状況調査及び海草藻場の利用状況調査を環境影響評価手続に係る現地調査(平成20年度)に加え,平成19年度及び平成21年度から平成23年度までの計5年間の結果を基に予測・評価しており(甲A5の7),調査期間が短いとは言えないし,ジュゴンの地域個体群については,航空機を用いた生息状況調査で上空から撮影されたジュゴンの写真から,尾びれの切れこみ等の身体的特徴を検討し3頭を個体識別している。個体識別においては,平成19年8月から平成24年1月までに確認された198頭のうち,その92パーセントに当たる182頭を識別しており,識別できなかった16頭についても,同日に4頭以上の個体を確認した日がないこと,確認当日とその前後の出現状況や出現海域を分析し,当該3頭のいずれかである可能性が高いと結論づけたものであり(甲A5の7),本件環境保全図書において,ジュゴンの将来における生息域の予測について記載しており,具体的には,嘉陽沖に常在する個体Aは,これまでの調査結果からみて,嘉陽地区の海草藻場に大きな変化がない限りは今後も同地区を餌場とすること,個体Bは平成16年以降一貫して古宇利島沖を主な生息場としていることから,今後も古宇利島沖の藻場を餌場とすること,個体Cは行動範囲が比較的広いが,事業実施区域周辺における個体Cの主な餌場は嘉陽地先の海草藻場と考えられ,辺野古地区前面の海草藻場を利用する可能性は小さいと推測される旨を記載しており(甲A5の7),さらに,生息環境については,「海藻草類」の環境要素で予測するなど,地域個体群の将来にわたる生息域とその生息環境の予測を示している。②国は,ジュゴンの個体群維持に係る評価については,そもそも定性的評価が妥当であると考えていたが,本件知事意見を踏まえ,限られた知見の中で可能な範囲でPVAを実施したものであり,その内容も有識者研究会の提言に基づき適切に実施したものである。また,ジュゴンの生息状況調査の結果判明した個体の確認状況を根拠に予測したものであって,予測には合理性があり,海草藻場は,自然環境の影響を受けやすいため,代償措置の効果について具体的に記載することが困難な中で,国は,有識者研究会の提言を受けて海草類の移植や生育基盤の環境改善等の環境保全措置を行うこととしており,実行可能な範囲で科学的根拠に基づいて環境保全措置を講じている。③ジュゴン監視・警戒システムは,鳴音探知に関する研究を応用できる旨の有識者研究会の提言を受けて導入し,タイで行われた検証試験において一定の成果を出しているものであって,科学的に実効性のある措置であり,水中音の予測結果を基にジュゴンが工事中の水中音の影響を受ける可能性があると推定される範囲を具体的に設定し,その範囲内に入った場合は工事を中止し,範囲から離れることを確認して工事を再開すると具体的な対策を明らかにしており,傾斜堤護岸工事と中仕切堤の基礎捨石投入工事は,本件環境保全図書(甲A5の7)に示すように,石材をワイヤーモッコに載せ,クローラクレーンでできるだけ低い位置(水面付近あるいは水中)まで移動させて投入するなど,できるだけ工事によって生じる音がジュゴンに与える影響を小さくするよう配慮することとしており,さらに陸上から水深が浅い部分に投下することから,石材が着底する際の発生音は,予測の対象とした杭打ちやケーソン護岸工事に伴う海上から行う捨石投入工事に比べて小さいと考えられる。④米軍による取組は,環境保護及び安全のために策定された日本環境管理基準(甲A84)に従って適切に行われることになっており,国は,米軍に対して施設供用についての影響への対策を講じるよう,実施可能な限りの措置を講じることとしている。⑤本件環境保全図書において,ジュゴンに係る施設の存在・供用(運用開始後)の事後調査として,主な生息地である嘉陽周辺海域における生息状況調査を行うこととしており,国は,事後調査の目的,方法,内容及び影響が生じた場合の対策や実効性等について本件環境保全図書に具体的に記載している。
d ウミガメについて
①ウミガメが産卵する砂浜をどのように選択しているのかを解明する科学的知見は存在しない中で,国は,有識者研究会の検討を踏まえて予測・評価をしたのであり,安易に判断したものではない。②砂浜整備については具体的な整備箇所を示した上で,産卵には不適と考えられる砂浜についてより良好な環境条件を整えることなどを専門家等の助言を受けて行うとともに,砂浜整備を実施した際には環境の維持,ウミガメ類の利用状況のモニタリングを行うとして,具体的な内容や実効性について明らかにしている。また,ウミガメ類の上陸,産卵場所の創出のための砂浜整備に関し,その整備箇所については,これまでの現地調査により,砂浜の厚さや砂浜の奥行き・広がりなどの上陸・産卵に必要な地形等の条件について把握できたことから,本件環境保全図書に案として記載したものである(甲A5の7)が,具体的な整備内容,例えば,必要と考えられる砂浜の厚さや設置を予定する人工設備等をどうするかといった点については,事業の進捗に伴うウミガメ類の上陸・産卵の変動や砂の厚さを含めた周辺の自然環境の変動に伴い変更が生じることから,これらの状況について,最新の情報を改めて把握した上で,専門家等の助言を得て決定することとした。③ウミガメ類の作業船との衝突回避措置を講じることが一般的でない中で,見張りの励行やウミガメ類の回避可能な速度での航行,事後調査の実施と実施可能な範囲で環境保全措置を講じることとしている。また,国は,研究例を参考に照明設備の機種等を選定し,実効性はある程度担保されている上,米軍に対する周知,要請等を行うとしている。日本環境管理基準において,米軍はウミガメ類の生息地の保護及び向上のための合理的措置を採ることになっていることを踏まえても,国は実施可能な範囲で実効性のある環境保全措置を行うこととしている。
e サンゴについて
①ポテンシャル域とは,対象生物の分布域について,地形等の物理的環境の状況に基づいて,長期的に分布域となる可能性のある区域をいうところ(甲A56),被告の指摘する本件環境保全図書の記載は,現況のサンゴ類の消失面積について述べたものであって,そもそもポテンシャル域について述べたものではない。また,サンゴのポテンシャル域は全体で約950ヘクタールであり,本件埋立事業に伴う消失面積は約30ヘクタールであって,その消失率は3.2パーセントにとどまり,サンゴ類の消失が比較的小規模にとどまるとする有識者研究会の報告を踏まえても,国の行った評価が適切でないとは言えない。②埋立てにより消失するサンゴ類については,一度に移植を実施するか否かや移植後の埋立工事の進捗状況に関わらず,移植したサンゴ類が死亡又は損傷した場合に,再度の移植が困難であることはいうまでもないことであり,環境生活部長の指摘は,単に移植がうまくいかなかった場合の懸念を述べたにすぎず,サンゴ類の移植をしなければ,移植リスクの有無を問わず,埋立てによる改変区域内のサンゴ類は確実に死滅するのであって,それにもかかわらず,「移植がうまくいかないおそれがあるから」といって移植そのものを取りやめるのでは,サンゴ類の保全が図れなくなる。また,事後調査の調査期間についての「概ね3か月」とは,移植直後は短期間に経過観察を行うことを否定するものではなく,本件の移植計画においても,移植直後には1か月ないし2か月に1回の頻度で経過観察をすることとしている。③事業の実施に伴う水象の変化については,本件環境保全図書(甲A5の7)において,潮流シミュレーションにより予測しており,当該シミュレーションについては,有識者研究会において「現在のシミュレーション技術に合致し,予測条件も適切に設定され,着目すべき観測点についても,流れの状況が概ね的確に再現されていることを確認した」とされている(甲A58)。流速の大きい潮流が海岸に流入することが幼生の新規加入やサンゴ類の成長を促し,サンゴ礁の幅の違いにつながっている可能性を指摘する知見が存在するところ,かかる知見は本件埋立事業の実施区域周辺におけるサンゴ類の生息範囲における流動環境条件と一致していることから,国は,沖側から岸側に向かって流速の大きな潮流が流入する環境が成長にとって良好となるとして,流速の絶対値を設定して評価し(甲A5の7,甲A56),その上で,波浪や流れの変化に伴うサンゴ類への影響については,本件環境保全図書において「事業実施区域周辺のサンゴ類の生息範囲においては,サンゴ類の生残に影響を及ぼすような高波浪の状況は施設等の存在時においても現況と変化がないと考えられます。また,成長に影響を与えるような代表波浪及び流れについても現況と大きな変化はなく,おおむねサンゴ類の成長にとって良好と考えられる範囲にあり,現況のサンゴ類の流動環境は維持されるものと推察されます」(甲A5の7)と予測しており,これに基づいて,本件環境保全図書では,そもそも環境保全措置等の対策について触れていないものである。
f 埋立土砂による外来種の侵入について
埋立承認申請に当たって採取場所を確定させる必要はなく,外来種対策は外来種や現地の状況によって異なるため,埋立土砂の採取場所が確定していない埋立承認申請時において,対策を具体的かつ詳細に記載することは不可能であるところ,そのような中で,国は,当該時点で考えられ得る外来種混入対策を明らかにしている。埋立土砂の調達が確保されていることを示す目的で,それまでに行った,土砂の供給業者等に係る委託調査結果により確認した土砂調達場所及び搬入経路を例示として示したにすぎない。
g 航空機騒音について
①オスプレイの飛行経路は,平成24年9月の日米合同委員会の合意により,できる限り人口密集地を避け,移動の際は可能な限り水上を飛行する旨合意しており,政府としても上記合意を遵守するよう米側に申し入れ,米側においても今後も上記合意を遵守し,安全性を最大限確保する旨述べている。国においてオスプレイが上記合意に違反した飛行を行ったとの確証も得られていないところであり,環境保全措置に実効性がないとは言えない。②位置通報点は飛行経路上に設定されることが一般的であるから,本件の環境影響評価において,飛行経路を基に騒音の予測計算を行っている以上,位置通報点の設定を加味する必要があるとの被告の主張には意味がない。場周経路に関する被告の主張については,国は米軍との必要な協議等を実施し,環境保全に万全を期すこととしており,その実効性がないとは言えないし,米軍が想定外の飛行経路を運用した場合も含めて騒音予測をすることは,考え得るあらゆる飛行経路を想定しなければならなくなり,国に実行不可能な措置を強いることになる。施設間移動に係る航空機騒音の予測・評価について,一般的に,航空機の飛行回数は,航空機騒音に係る環境基準の適否を確認するために,年間を通じた標準的な飛行回数を設定することとしている(甲A57,甲A93(平成16年11月1日防衛施設庁長官「第一種区域等の指定に関する細部要領について(通達)」別紙第1の2(2)イ))ところ,国は,前知事の意見を踏まえ,オスプレイ配備に伴い米軍海兵隊が作成した資料(甲A94の1,2)を基に,一般的に行われているとおり,上記通達に基づいて飛行回数を設定したものであり(甲A57),十分な合理性が認められる。また,風向きを考慮した予測については,航空機は風向きにより着陸,離陸等の方向が異なることから,標準飛行回数を北東,南西方向に振り分けて,風向きを考慮した予測を行った。さらに,騒音レベル(LA)予測コンターについて夏季,冬季の風向,風速を仮定してそれぞれ試算した結果を参考として資料編に記載した(甲A5の7)。風の影響を考慮した騒音伝搬の予測に当たっては,気象の影響を考慮できる手法として研究が進められているPE法(PE法は,電波や水中音響などの分野で広く使われ,近年,音の屋外伝搬にも応用されつつあり,パラメータの入力の仕方により大気の乱れや地面の変化の状態までも計算に反映させることが可能である。甲A107)を用い,対象機種をMV-22とCH-53として,騒音伝搬への風の影響は上空発生音よりも地上付近から発生する騒音の方が明らかであることが知られているため,それぞれエンジンテスト時とホバリング時について試算を行った。風向・風速については,辺野古崎であるWE-8地点における夏季代表として風向をE(東の風),平均風速を3.1m/s,冬季代表として風向をN(北の風),平均風速を5.6m/sとした(甲A5の7)。その結果,夏季は陸域側に,冬季は海域側に騒音コンターが移動することが判明し,騒音の伝搬に関する風向きによる影響は正負両方あることが示された。以上のように,風向きによる音の伝搬の影響について十分検討している。オスプレイについては,騒音の値が最も高いホバリング時について騒音予測を行っていることから,垂直離着陸モードについて騒音基礎データを示していないとしても問題はなく,また,国は,オスプレイの飛行時における騒音基礎データを線グラフで示しており,これによって大まかな騒音レベルを把握することは十分に可能である。飛行回数の予測については,航空機騒音が高くなるような条件で予測計算するとの観点から,時間帯に重み付けをした騒音発生回数を算出し,平均飛行回数が最多となる平成8年度の飛行回数を採用するなど適切に予測しており,十分な検討を行っている。被告が指摘するピーク騒音レベルの予測はオスプレイを対象とするもの(甲A5の7)であるのに対し,名護市が測定している航空機騒音等のデータは,キャンプ・シュワブの演習場地区内に所在する既存のヘリ着陸帯等を使用する航空機の騒音を測定したものであり,「オスプレイを含む全ての航空機騒音の測定結果」(甲A301)であることから,両者を単純に比較することはできない。また,環境影響評価書作成当時,我が国においては航空機騒音に係る環境基準としてWECPNLが用いられていたから,これにより評価を行ったことは妥当である。
h 低周波音について
①低周波音による心理的影響については環境基準がないところ,環境省の「低周波音問題対応の手引書」の参照値が「苦情に関する参照値」(甲A108の2)であるため,心理的影響を予測するための値としては,「圧迫感・振動感」を示した他の論文(甲A143)の感覚閾値を採用する方が適当と考えたため,他の事業でも用いられていた上記閾値を目安として採用したものであるから,物的影響と心理的影響とで異なる閾値を用いたことは何ら不当ではない。②低周波音による影響(物的影響・心理的影響・生理的影響)については,調査研究の過程にあるため,現時点において環境基準などはなく,心理的影響・生理的影響については,これまでに環境省や国内外の研究機関により低周波音による影響に関する様々な調査研究が実施されており,こうした調査研究により得られた閾値を環境保全のための目標値(目安)として設定し,評価を行っている。物的影響については,環境省が公表している低周波音問題対応のための「手引」(甲A108の1)において低周波音問題対応のための評価指針としての参照値が示されており,本件環境保全図書においてもこのうちの物的影響に関する参照値を使用している。ただし,当該参照値は,固定発生源から発生する低周波音について苦情の申し立てが発生した際に,低周波音によるものかを判断するための目安として示されたものであり,低周波音についての対策目標値,環境アセスメントの環境目標値,作業環境のガイドラインなどとして策定したものではないとされている(甲A108の1,2)。したがって,このような参照値を超えていることをもって「基準値を超過している」とする被告の主張は失当である。また,確かに一部の予測地点において,心理的影響及び生理的影響に関する目標値の超過がみられるが,これらの影響については,飛行経路,機種及び距離などの様々な要因や個人差,建物の状態によっても影響の出方に差があり,対応も個々に異なることから,環境影響の回避・低減の検討については,事前の環境保全措置を講ずることは困難であり,個別に対応する必要があるため,事後調査において低周波音の測定及び聞き取り調査を実施し,どのような影響があるかを把握するとともに,必要に応じて,対策を検討し,適切に対応することとしている(甲A5の7)。
(ウ) 判断過程の瑕疵
被告は,本件承認処分の審査過程に合理性がないことを縷々主張しているが,そのような事情が本件承認処分の瑕疵となるのか不明である。処分庁における調査及び審査といった内部事情は,一旦行った授益的処分を取り消すべき事情にはならない(最高裁昭和28年9月4日第二小法廷判決・民集7巻9号868頁参照)。
第2号要件を充足していたか否かは,承認処分時に本件知事意見及び環境影響評価書を踏まえて判断されるものであり,本件知事意見発出時点における要件適合性を論ずる意味はない。そして,本件知事意見の後に,沖縄県等から4度にわたり第1号要件及び第2号要件に関する計260問の質問があり,これに対して適正に回答を行ったところ(甲A36,甲A37,甲A39,甲A111,甲A142),前知事は,これを踏まえて,法4条1項各号要件に適合するとして本件承認処分を行ったものである。また,第2号要件に適合するとした前知事の判断が違法の瑕疵を帯びるのは,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したか否かによって判断されるのであって,本件知事意見が呈する疑問点が承認時点で解消されていたか否かは問題にならない。
(エ) 不当の瑕疵
仮に,本件取消処分における本件承認処分の不当の瑕疵の審査について裁量があるとしても,法は,第2号要件適合性の判断について,都道府県知事の専門技術的見地からの裁量判断に委ねたものであって,その際には,当時の科学的知見に照らして実施が可能であるかという技術的限界や,当該事業の性質等を踏まえ,ある調査や環境保全措置に要する費用・時間に見合う環境保全上の効果を有するかという経済的合理性等の観点から,社会通念上,事業者の実行可能な範囲でできる限り環境影響を回避・低減したといえるかが考慮されることになるというべきであって,技術的限界・経済的合理性を無視するような著しく不合理な求めをすることで第2号要件適合性を否定するような裁量権の行使の在り方は,裁量権の範囲を逸脱・濫用するものであるといえる。本件承認処分においては,沖縄防衛局は一般的な手法で適正・合理的な影響評価をしているところ,本件取消処分においては技術的限界・経済的合理性を無視するような著しく不合理な求めによって第2号要件適合性を否定しており,被告の本件取消処分における不当の瑕疵があるとの判断についての裁量権の行使が裁量権の範囲を逸脱・濫用した著しく不合理なものであるといえる。
(5)  争点5(本件承認処分において法4条1項1号及び同項2号の要件が欠如している場合に取消制限の法理の適用によって本件取消処分は違法と言えるか)について
ア 原告
(ア) 本件取消処分における取消制限の法理の適用
行政庁は,当該処分に違法又は不当の瑕疵があると認めてこれを取り消すかどうかを判断するに当たっては,①当該処分の法的性質(法的安定性が要請される程度,当該処分を取り消した場合に害される利益の内容や程度),②当該瑕疵の内容や程度,③当該瑕疵の生じた原因等の事情を総合的に比較衡量して,取消しにより失われる利益を勘案してもなお取消しによって得られる利益を保護しなければならないと認められる場合に限り,職権取消しをすることができるものである(最高裁昭和43年11月7日第一小法廷判決・民集22巻12号2421頁等参照)。軽微な瑕疵,とりわけ単なる不当の瑕疵を理由とする取消しについては,処分の法的性質からして法律関係の安定が強く要請される場合,瑕疵が生じた事情について処分の相手方に帰責性がない場合には,職権取消しを認める余地はないというべきである。
そして,法の埋立承認は,埋立てに係る事業が強い公益性及び公共性を有し,長い年月を掛けた利害関係者との調整の結果として判断され,大規模な予算の準備と執行を伴う事業についての処分であり,公有水面を埋め立てる法的地位を付与する授益的処分であり,これに対する強い社会的信頼が生じる処分であり,当該処分を基礎とした新たな法律関係が重層的に形成される処分であることから,法的安定性が強く要求されるところ,本件承認処分においては,①については,普天間飛行場の周辺住民等の生命・身体に対する危険(航空機事故や騒音被害)の早期除去及び沖縄県の負担軽減(本件新施設等の規模は普天間飛行場の半分以下であり,新たな施設及び区域の土地提供を求めるものではないこと,普天間飛行場返還後の跡地利用による宜野湾市の経済的利益)という本件埋立事業の公共性,本件承認処分が米国及び関係地方公共団体との長年にわたる交渉,関係者との利害調整等によるものであること,本件埋立事業のために積み上げてきた膨大な経費(補償金を含む)等が無駄になり,個別の契約関係者に大きな不利益を与え,さらに,本件承認処分から本件取消処分までの約1年10か月の間に,日米間において,本件承認処分を受けて,普天間飛行場の移設の推進等の重要性を確認し,その取組を進めていくため引き続き協力していくことが確認され,また,平成26年12月2日には,米上下両院軍事委員会が,在沖縄米軍海兵隊のグアム移転に関し,米軍再編計画が不透明であるとして執行を一部凍結していた予算の執行凍結を解除する旨の合意をし,2015会計年度の国防授権法において,同年度に米政府が要求していたグアム移転関連経費5100万ドルを全額認めるとともに,執行凍結条項を削除し(甲A233の1,2),新たな政策を進展させている。②については,仮に本件承認処分について瑕疵があるとしても,それは軽微なものである。③については,上記本件承認処分の瑕疵の生じた原因について,沖縄防衛局については何ら帰責性がない。
以上によれば,本件承認処分は,その性質上極めて高度の法的安定性が要求される処分であって,取消しの制限が妥当する範囲は広範である。そうすると,本件承認処分の瑕疵が仮にあったとしても裁量権の範囲内における不当の瑕疵に止まり,適法性の回復の要請という利益自体が存在しないものであるのみならず,その瑕疵が生じた原因が事業者である国には存しないという本件の事情の下においては,本件承認処分を取り消すことが適法と解される余地はなく,本件取消処分が違法であることは明らかである。
(イ) 被告への反論
a 後記(5)イ(ア)について
職権取消しが制限されるか否かは,当該処分の法的性質(法的安定性が要請される程度,当該処分を取り消した場合に害される利益の内容や程度),当該瑕疵の内容や程度,当該瑕疵の生じた原因等の諸事情を総合的に衡量して,取消しにより失われる利益を勘案してもなお取消しによって得られる利益を保護しなければならないか否かで決まるものと解されるから,公益保護のための事業について免許等が法律上要求されているからといって,一律に職権取消しが制限されないとはいえず,免許等を与える行政処分についても取消しを制限する必要があることに変わりはない。
b 後記(5)イ(イ)について
行政行為の職権取消しには法律の特別の根拠は必要でないが,その権限はもとの行政行為の根拠規定に含まれると解されるところ,本件承認処分の根拠規定は法42条1項であり,本件取消処分の根拠規定も同条項と解される。そして,取消制限は,法42条1項に基づく取消権の行使そのものを制約する法理として作用するのであるから,同法理に基づく取消しが許されない場合にされた取消権の行使は,同条項の解釈を誤ったものとして,同条項に違反することとなる。そして,本件取消処分が同法理に反するものと評価できる場合には,本件取消処分の法的根拠である法42条1項に反するものと評価できるから,「法令の規定」に違反したといえ,原告は被告に対して「是正の指示」をすることができる。
c 後記(5)イ(ウ)について
職権取消しを制限する根拠の1つが,処分の名宛人の信頼の保護にあるとしても,それをもって,これを援用できる者が名宛人に限られると解する必要はない。本件取消処分が取消制限に反するものと評価できる場合には,本件取消処分の根拠規定である法42条1項に反するものと評価できるところ,地方自治法は法令の規定に違反した地方公共団体の事務処理を許さないことは明らかであるから,原告が法令に違反した本件取消処分を放置し,是正の指示をしないことは,むしろ同法に反する結果となる。
d 後記(5)イ(エ)について
本件承認処分に瑕疵があったとしても,それを職権で取り消すことが許されない場合には,本件取消処分こそが法律に基づく行政に違反するのであるから,法律に基づく行政を維持するために,原告が,本件取消処分が「法令の規定に違反している」として被告に対して是正の指示をすることができるのは,当然である。
e 後記(5)イ(オ)について
仮に,法に基づく公有水面埋立ての免許・承認処分が単純な授益的処分ではなく,二重効果的処分であるとしても,事業者に対する授益的処分としての性質を失うわけではない。法は,公有水面埋立ての免許・承認処分について法的安定性を強く要請している上,本件承認処分はかかる法的安定性が極限的にまで高められた処分であるといえるから,本件承認処分の職権取消しが制限されないと解する余地はない。
f 後記(5)イ(カ)について
本件承認処分に第1号要件及び第2号要件を充足するか否かという違法の瑕疵があったか否かは,最終的に裁判所において判断されるものであり,被告が判断したからといって,直ちに本件承認処分に違法の瑕疵があったといえるわけではない。
g 後記(5)イ(キ)について
被告の主張は,取消制限法理を平面的な諸利益の比較衡量と捉え,時系列による形式的に保護される利益の区分を行おうとしている点において,その理解を根本的に誤っているものである。確かに,取消制限法理の大きな枠組みは諸利益の比較衡量であるが,取消権が制限される根拠は法的安定性の要請等に求められ,求められる法的安定性の内容や程度は,個々の行政処分の性質によって様々であるから,取消しによって生じる不利益と瑕疵ある行政処分を維持することによって生じる不利益を単に平面的に比較衡量するのではなく,問題となる行政処分の法的性質がいかなるものであるのかについて,根拠法令の趣旨や諸規定に基づく検討が無視されてはならない。
これを法に基づく免許・承認処分についてみるに,同処分は,一般的に,①埋立てに係る事業が強い公益性及び公共性を有していること,②長い年月をかけた利害関係者との調整の結果として判断されるものであること,③大規模な予算の準備と執行を伴う事業に伴う処分であること,④公有水面を埋め立てる法的地位を付与する授益的処分であって,これに対する強い社会的信頼が生ずる処分であること,⑤当該処分を基礎として新たな法律関係が重層的に形成される処分であること,といった性質を有している。これらの性質に照らせば,埋立免許・承認処分が取り消されることによって,不可避的に莫大な損害が発生するのみならず,それまでに積み重ねられてきた準備行為が全て水泡に帰すことになりかねず,事業者を著しく不安定な立場に置くことになるが,そのような事態は法の予定する事態ではなく,法に基づく承認処分は,法的安定性が強く要請されている処分である。
h 後記(5)イ(ク)について
本件埋立事業において,沖縄防衛局は,一般的な手法で適正・合理的な環境影響評価を実施しており,専門家である有識者研究会の検討結果も踏まえて,経験豊富な環境コンサルタント会社に依頼して,専門的見地からできる限りの環境保全措置を採っているのであって,十分な配慮がされている。また,環境保全措置を更に充実させることについては,本件承認処分の留意事項に付されている環境保全対策等についての沖縄県との協議や環境監視等委員会の助言を通じても実現可能である。このように,本件承認処分における瑕疵は極めて小さく,本件承認処分を放置することによる不利益も極めて小さいものである。
そして,日米両政府は,これまでも沖縄の負担軽減について努力してきたし,普天間飛行場の機能が本件新施設等に移転すれば,その規模は現在の半分以下に縮小される上,本件新施設等の建設は,既に米軍施設及び区域(キャンプ・シュワブ)として提供されている場所及び海域で行われるものであるから,沖縄の負担を軽減するものであり,本件新施設等の建設は沖縄の負担軽減策の一環として評価できるものである。本件新施設等の建設が沖縄の負担を固定化するものとの被告の主張は,その前提を欠く。
イ 被告
(ア) 行政行為に瑕疵がある場合には,正当な権限を有する行政庁は,法律による行政の原理又は法治主義の要請に基づき,法規違反又は公益違反を是正するために,職権によりこれを取り消すべきものである。行政行為に瑕疵がある場合には,行政庁はこれを是正するというのが大原則であり,職権取消制限の法理は,あくまでも行政に依存する私人の信頼利益保護のための例外的な法理である。
そして,公益保護のために事業について免許や資格が法律上要求されている場合について,職権取消しを制限することにより,違法に付与された免許や資格に基づく事業を将来にわたって継続させることを内容とした職権取消制限の法理は存しないものというべきである。
(イ) さらに,職権取消制限の法理は,判例上,条理として認められたものであって,地方自治法245条の7第1項における「法令の規定」とは言えない。
(ウ) また,国の機関が名宛人となる法42条1項の「承認」は,私人が名宛人となる法2条1項の「免許」とは本質的に異なる制度であり,沖縄防衛局は,私人とは異なる立場で処分の名宛人となるものである。そして,職権取消制限の法理は私人の信頼利益の保護のための法理であるところ,公有水面埋立承認の名宛人である沖縄防衛局は国家の機関であるから,職権取消制限の法理により救済されるべき対象でない。とするならば,そもそも処分の名宛人である沖縄防衛局自体が同法理の対象とならないのであるから,国土交通大臣である原告が職権取消制限の法理を持ち出しえない。
(エ) 法定受託事務に国の関与が認められるのは,法律に基づく行政を維持するためであるところ,法の要件を充たさない違法な本件承認処分を維持することを目的として,原告が是正の指示をすることができるとすると,違法な本件承認処分が維持されることとなり,矛盾する。
(オ) 公有水面埋立ての承認は,単純な授益的処分ではなく,公有水面という自然公物の公用廃止であり,公衆はその自由使用を廃されるという不利益を与えられるとともに,かけがえのない社会的利益を喪失させるものであることから,それについて職権取消制限は適用されない。
(カ) さらに,本件承認処分が第1号要件及び第2号要件を充足しないと判断された以上,公益のため,必ず取り消されなければならない。
(キ) 職権取消制限法理の適用を検討するに当たり,取消制限により保護される権利利益に該当するか否かについては,時系列による区分が必要である。瑕疵のある原処分がされた時点以前に形成されていた権利利益などで,瑕疵のある原処分時に瑕疵のない承認拒否処分がされたとすれば,それにより失われるはずの権利利益は,取消制限法理での考慮対象とはならない。また,瑕疵のある原処分を取り消そうとするときに,当該原処分を受けてすでに生じている新たな権利利益や法律関係が考慮されるにとどまり,その時点で生じていない,原処分によって将来得られる権利利益や法律関係は区別して除外されなければならない。
本件指示理由では,①国家間でした約束事を実現できないことによる国際的な信頼関係の低下,②普天間飛行場周辺の住民の生命・身体又は財産に対する危険性の除去を振り出しに戻すこと,③普天間飛行場跡地利用による年間約3866億円に上るとされる経済的発展が頓挫すること,④沖縄県全体の負担軽減も実現できないこと,⑤辺野古沿岸埋立工事等に国が支出した約473億円が無駄になることを掲げているが,①については,本件承認処分以前の積み重ねの問題であり,同処分によって生じた信頼の問題ではなく,②ないし④については,本件承認処分時と本件取消処分時とのいずれの時点でも異ならず,⑤については,本件承認処分以前に生じているものであり,いずれも職権取消制限の理由たり得ない。
(ク) 本件取消処分をしないことによって本件承認処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持する不利益は甚大である。すなわち,沖縄県への極端なまでの過度の基地集中のために,70年余にわたって沖縄県の自治が侵害され,住民が負担にあえいできたものであり,沖縄県民は,基地の異常なまでの集中の解消を求め,本件埋立出願に対する明確な反対の意思を示しており,本件埋立事業は,この沖縄の民意に反して,本件埋立地の貴重な自然環境を破壊し,付近の生活環境を悪化させ,地域振興開発の阻害要因を作出するものであり,これは,基地負担・基地被害を沖縄県内に移設してさらに将来にわたって固定化するものにほかならないのであって,本件承認処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められることが明らかであるから,本件取消処分は適法である。
(6)  争点6(「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義及び国土交通大臣である原告が行える是正の指示の範囲)について
ア 被告
(ア) 「法令の規定に違反する場合」の意義について
法が公有水面の埋立ての免許・承認を法定受託事務として都道府県知事の事務としたのは,都道府県知事が当該地域における行政責任主体であり,かつ,地域的特性を熟知しているからであり,免許・承認における判断は自然公物の公用廃止にかかる総合調整判断であり,厳格さが求められていることからすると,当該判断について国家機関は尊重しなければならず,法定受託事務の処理について都道府県知事に裁量が付与されている場合について,「法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認められるとき」(地方自治法245条の7第1項前段)とは,法定受託事務の処理について裁量の逸脱・濫用という違法があり,その違法が全国的な統一性,広域的な調整等の必要という観点から看過しがたいことが明らかである場合をいう。
しかし,本件指示理由は,個別処分の違法を理由としているにすぎず,全国的な統一性,広域的な調整等の必要という観点から看過しがたい違法があるとされておらず,また,その違法も明らかとは言えないので,本件指示は違法である。
(イ) 原告が行える是正の指示の範囲について
法に係る法定受託事務についての国土交通大臣である原告の関与は,原告の所掌事務である「国土の総合的かつ体系的な利用,開発及び保全」(国土交通省設置法3条1項)の範囲に限られ,かつ,法の目的の範囲内に限られるところ,本件指示の理由は,国土交通大臣の所掌している事務でなく,かつ,法の目的ではない,外交及び防衛であるので,本件指示は国土交通大臣の権限を逸脱するものとして,違法である。
イ 原告
(ア) 「法令の規定に違反する場合」の意義について
地方公共団体は法令に違反してその事務を処理してはならず(地方自治法2条16項),法令に違反して行った地方公共団体の行為は無効とされるのであって(同条17項),地方自治法が法令の規定に違反した地方公共団体の事務処理を許さないことは明らかである。法令違反があれば,かかる法令が守ろうとした公益を侵害していることが明らかであって,所管大臣による是正の指示は,かかる公益侵害状態を是正するためにされるものであるから,「法令に違反している」ことについて被告の主張するように限定的に解して,法令に違反した地方公共団体の事務処理を放置することこそ,地方自治法に反するものである。
(イ) 原告が行える是正の指示の範囲について
各大臣は,憲法に定める行政権に係る職権を行使する内閣の一員として,内閣の一体的かつ統一的な方針ないし政策判断に基づき,これを前提としてその所掌に係る事務を処理するのである。この点,国土交通大臣は法の所管大臣であるとともに,内閣の一構成員であることからすれば,都道府県知事による法に基づく法定受託事務の処理が法令の規定に違反する場合において,所管大臣としての立場から,法定受託事務の処理の適正を確保するために是正の指示(地方自治法245条の7)その他の関与をなし得るのであり,かつ,このような公有水面埋立てにかかる関与が,国防・外交上の政策判断を含む内閣の一体的かつ統一的な方針ないし政策判断を前提としてされるものであることは当然であって,国土交通大臣が内閣の一構成員である以上,当該関与に当たり国土交通大臣が前提とする事情がその所掌事務の範囲によって制約を受けるものとは解されない。
(7)  争点7(本件新施設等建設の法律上の根拠及び自治権の侵害の有無)について
ア 被告
(ア) 本件新施設等建設の法律上の根拠の有無について
本件新施設等建設は,我が国の領域主権,地元自治体の自治権を直接制約し,その周辺住民の生活に多大な影響を与えるもので,国政の重要事項であって法律の根拠が必要であり,また,日米安全保障条約及び日米地位協定に基づく規制を伴うものであるが,それは立地自治体の自治権を大幅に制限するものであり,その内容は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」に該当するものであるにも関わらず,具体的な根拠となる法律がないので,憲法41条及び92条に違反している。
(イ) 本件新施設等建設の自治権の侵害の有無について
本件新施設等建設は,米軍基地の存在によって,次のとおり,沖縄県の自治権を侵害し,環境破壊や事件事故等を被るものであり,本件指示は憲法92条に違反する。
①地域環境に関する公益侵害(自然環境(海草藻場,ジュゴン,ウミガメ,サンゴ類)への悪影響(外来種の侵入),航空機騒音等による生活環境への悪影響),②沖縄県の自治権の侵害(米軍基地には,日本国法令による規制,国内法の環境保全規制が及ばない。米軍基地の提供,運用及び返還について関係地方公共団体の意向を反映させる仕組みがない。米軍は,公の目的として無制限に民間の港湾・空港を使用し,施設間の移動として施設外の訓練をする。米軍が保有する動産の保有,使用移転について課税がされない。米軍の軍人は軍人の旅券及び査証に関する法令が適用されず,その家族も含め外国人登録が免除されている。米軍の軍人・軍属に対する刑事裁判手続に制約がある(公務執行中の作為又は不作為から生じる罪の裁判権は米軍当局が第1次の権利を有する),米軍の軍人・軍属の公務外の不法行為による損害賠償は,日米地位協定上の特権はないものの,事実上,請求するのは困難であり,日米地位協定18条6項の慰謝料,日本による見舞金制度では不十分である。),③米軍基地に起因する環境破壊(航空機騒音による周辺地域住民の生活や健康に重大な悪影響,赤土汚染,PCB漏出,油状物質(タール状物質)汚染,六価クロム・鉛・フッ素・ヒ素汚染,アスベスト検出,ダイオキシン汚染)や事件事故等(航空機事故,パラシュート降下訓練に伴う事故,被弾事故,山林火災,劣化ウラン弾使用事件,原子力軍艦(潜水艦等)の寄港,米軍人等の公務外の事件事故)
イ 原告
(ア) 本件新施設等建設の法律上の根拠の有無について
本件新施設等は,日米間の合意の下で,国会に承認された条約(憲法73条3号)である日米安全保障条約及び日米地位協定に基づき提供されるものであって,それは我が国の存立や安全保障の維持にかかわる事務であるところ,地方自治法の規定をつぶさにみても,当該事務の処理を地方公共団体の権限とする定めはなく,かえって,かかる事務は国において重点的に担うべきものと定められている。したがって,本件新施設等は,日米間の合意の下で,法律上及び条約上の根拠に基づいて建設され提供されるものであるから憲法41条に違反せず,また,当該事務は「地方公共団体の組織及び運営に関する事項」ではなく,何ら自治権の侵害は観念できないから,憲法92条にも違反しない。また,国会に承認された条約である日米地位協定2条は,米軍に提供する個々の施設及び区域に関する協定は,日米地位協定25条に定める日米合同委員会を通じて両政府が締結しなければならない旨規定するところ(同協定2条1項(a)),本件新施設等が完成すれば,日米合同委員会を通じて日米両政府が本件新施設等を米軍に提供することを合意することになる。そうすると,我が国は,米国に対し,別途法律を制定することなく,国会に承認された条約に基づいて本件新施設等を提供できるのであって,これにより米軍は適法に本件新施設等を運用できることになるから,被告の上記主張はその前提を欠く。
(イ) 本件新施設等建設の自治権の侵害の有無について
被告が指摘するような沖縄県に米軍施設及び区域が集中していることによって生じているとされる種々の問題も,内閣ないし日米両政府において考慮,検討されるべき問題であって,沖縄県の自治権を侵害するか否かという問題も法4条1項1号及び同項2号の各要件において考慮できるものではないから,本件における法の適用が憲法92条に違反すると解する余地はない。また,本件新施設等は,従前から米軍施設及び区域として提供されていた陸域及び海域において建設するものであって(甲A3,甲A168,甲A169),沖縄県の自治権が及ばない陸域・施設を新たに作出するとの被告の主張は,この点においても,前提において誤っている。
(8)  争点8(仮に本件指示が適法であるとして,被告が本件指示に従わないことは違法と言えるか)について
ア 原告
(ア) 相当の期間の経過及び特段の事由がないこと
本件指示における是正の指示は既にした取消処分を取り消す処分をするというにすぎず,長時間を要する行為を要するものではないから,地方自治法251条の7第1項の定める「相当の期間」とは,本件指示に示された1週間であり,これを経過したことにより,被告の不作為は違法となった。
(イ) 不作為の違法の意義について
相当の期間の経過を正当とするような特段の事情がある場合に上記不作為が違法とならない場合がありうるとしても,被告主張の国地方係争処理委員会の決定は,上記不作為が違法となった後に生じた事情であるから,これに該当しない。
仮に上記のように解されず,係争処理制度や訴え提起をしないという一連のことが不作為の違法があると評価されるとしても,本件では,被告は,平成28年6月21日に本件委員会決定の通知を受けたにもかかわらず,法定の出訴期間である30日後の同年7月21日が経過しても,是正の指示の取消訴訟を提起せず,かつ本件指示に従った措置も講じなかったので,上記「相当の期間」は経過し,かかる被告の不作為は違法であると言える。
原被告間の代執行訴訟(当庁平成27年(行ケ)第3号事件)における和解においては,是正の指示の適法性に関する司法手続と司法手続外での協議の双方を同時に行うこととされており,本件委員会決定も是正の指示にかかる措置の前提として国と沖縄県が協議することを命じるものでもない。そして,国と沖縄県は,普天間飛行場の返還及び代替施設の辺野古地区への移設に関して協議を行っているが,辺野古移設を巡る双方の考えは,従前と変わっておらず,容易にその解決が図られる状況になく,その協議が整うまで原告が是正の指示にかかる措置を猶予しているという状況も認められないので,被告が主張するような特段の事情があるとは言えない。なお,地方自治法251条の5第1項1号の「審査の結果」「に不服がある」とは都道府県の主観的な評価によって決まるものではなく,審査申出の趣旨と審査の結果を比較して客観的に定まるものであるところ,本件では,被告は,本件指示の取り消し勧告を求めたところ,本件指示の適否について判断しない本件委員会決定が出されたのであるから,「審査の結果」「に不服がある」と言え,本件指示の取消訴訟を提起することができる。
イ 被告
(ア) 相当の期間が経過していないこと及び特段の事情が認められること
被告としては,本件指示が適法かこれに不服があるとして国地方係争処理委員会に審査申出をするか検討を要するのであり,原告が主張する1週間が相当であるとは言えない。むしろ,本件においては「相当の期間」とは原告及び被告が真摯に協議して相互に了解を得られるのに十分な期間と解するのが相当である。
仮に,「相当の期間」を経過したとしても,それを正当化するような特段の事情があれば,是正の指示に従わないことは違法とは言えないところ,本件承認処分の名宛人たる沖縄防衛局が取消訴訟を提起していない中で原告が是正の指示を出せるのか極めて疑問であり,その是正の理由も具体的ではないこと等から上記特段の事情が認められる。
(イ) 不作為の違法の意義について
地方自治法251条の7の不作為の違法については,「是正の要求」又は「是正の指示」をした各大臣とそれを受けた地方公共団体の間の法律解釈の齟齬を解消する手段として,地方公共団体において,国地方係争処理委員会の係争処理制度の活用やその後の訴えの提起の途が開かれているにもかかわらず,それぞれ相応の一定の期間を経過してもそうした対応をせず,かつ,相当の期間内に是正の要求に応じた措置又は是正の指示に係る措置を講じなければならないにもかかわらず,それぞれ相当の期間を経過しても,なお是正の要求に応じた措置又は是正の指示に係る措置を講じていないという一連のことが不作為の違法があると評価されるものと解される。
また,被告は本件指示に対し,国地方係争処理委員会に審査申出をし,同委員会は本件委員会決定をしたところ,国地方係争処理委員会は,公正・中立な第三者機関として,国の関与の適法性・正当性を判断する職責を担うという点において,地方自治法上の国と地方公共団体の間における紛争処理制度の一つとして,非常に重要な機関であり,かかる地方自治法上における,国地方係争処理委員会の位置付け,意義からして,国地方係争処理委員会による審査を経て出された決定は,地方自治法上重みのあるものであり,国及び地方公共団体の双方が尊重すべきものであるところ,前提事実(8)のとおり,国地方係争処理委員会は,本件指示の適法性について判断せずに協議をすべきとの本件委員会決定を出しており,被告としては,同決定に不服があるとして,国の関与の取消訴訟を提起することはおよそ考えがたいことからすれば,被告が本件指示に従わないことに上記のような違法があるとは言えない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
掲記証拠ないし弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  沖縄の米軍基地等(甲A2,甲A14の2,甲A47,甲A84,甲A161,甲A165ないし167,甲A270の1,2,甲A271の1,2,甲A276の1,2,甲A288の1,2,甲A291の1,2,甲A292の1,2,甲A293,乙B1,乙C3,7ないし14,16,25ないし27,29,31ないし33,37及び38,乙D15,20,26ないし28,85,乙E27の1,2)
ア 沖縄の米軍基地の経緯
(ア) 米軍占領と基地構築
昭和20年4月1日に沖縄本島への上陸を果たした米軍は,同月5日に読谷村字比謝に米国海軍軍政府(占領軍である米国海軍が占領地である沖縄の土地,財産及び住民を管理する組織機構)を設置し,布告第1号(いわゆる「ニミッツ布告」)を公布し,南西諸島とその周辺海域を占領地域と定め,日本の司法権,行政権の行使を停止し,軍政を施行することを宣言した。沖縄を占領した米軍は,住民を一定の地区に設置した収容所に強制隔離し,沖縄全域を直接支配下に置き,軍用地として必要な土地を確保したうえ基地の建設を進める一方で,米軍にとって不要となった地域を住民に開放し,居住地及び農耕地として割り当てていった。
沖縄の米軍基地は,占領当初においては,米国の極東政策上特に重要な基地として認識されてはいなかったが,昭和24年以降における中華人民共和国の成立や朝鮮戦争の勃発等,極東における国際情勢の変化により,米国は極東政策の転換を余儀なくされ,沖縄の戦略的価値が認識されるようになった。
(イ) 講和条約後の軍用地
昭和27年4月28日,「日本国との平和条約」の発効により日米間の戦争状態は終了し,日本は独立国としての主権を回復することになるが,その代償として,日本固有の領土である沖縄は同条約3条により日本本土から分断され,米国の施政下におかれた。一方で,同条約の発効により米軍による沖縄の占領状態が終了し,従来の「ヘーグ陸戦法規」を根拠とする軍用地の使用権原も当然その法的根拠を失うこととなった。
同条約締結後も引き続き沖縄の軍事基地を確保する必要があった米国としては,たとえ同条約3条により施政権者たる地位を与えられたとしても,土地所有者との契約によるか,又は,強制使用手続のいずれかにより,軍用地の使用権原を新たに取得するための法制が必要であった。そのため米国民政府(昭和25年10月4日統合参謀本部の極東軍総司令部に対する一般命令第79号による沖縄統治に当たる現地機関としての「琉球列島米国民政府」)は,班接収地の使用権原と新規接収を根拠づける布令を次々と発布し,軍用地使用についての法的追認を行うと同時に,新たな土地接収を行った。
まず,米国民政府は,昭和27年11月1日,布令第91号「契約権」を公布し,賃貸借契約による既接収地の継続使用を図ったが,契約期間が20年と長期のうえ軍用地料が低額であったため,契約に応じた地主はほとんどいなかった。同布令では,琉球政府(米国民政府の下部組織であり,沖縄の住民の自治的組織として昭和27年4月に設置されたもの)行政主席(米国民政府民政副長官によって任命される行政府の長)と土地所有者との間で賃貸借契約を締結し,琉球政府が米国政府に土地を転貸することになっていた。
次いで,米国民政府は,昭和28年4月3日,土地の使用権原を取得するため,布令第109号「土地収用令」を公布した。
同布令は,本来既接収地の使用権原を取得することを目的として制定されたものであったが,当時は米軍基地の建設,強化が進められていたため,実際にはもっぱら軍用地の新規接収のみに適用され,既接収地の使用権原については依然として法的根拠を欠いていたことから,米国民政府は,昭和28年12月5日,布告第26号「軍用地域内に於ける不動産の使用に対する補償」を公布した。
米国は,同布告の中で,一方的に,「軍用地について,昭和25年7月1日または収用の翌日から米国においてはその使用についての黙契とその借地料支払の義務が生じ,当該期日現在で米国は賃借権を与えられた」と宣言し,既接収地の使用権原を合法化した。
(ウ) 銃剣とブルドーザーによる新規接収
既接収地の使用権原及び新規接収の根拠となる法令の整備を終えた米国は,この時期に那覇市安謝・銘苅地区,宜野湾市伊佐浜,伊江村真謝・西崎地区等の各地において,武装兵の力によって強制的に新規の土地接収を行っていった。
このような米国の態度に対して住民は,各地で米軍の銃剣をもった武装兵とブルドーザーの前に座り込むなどの反対闘争を繰り返し,激しい抵抗を示した。
(エ) 島ぐるみ闘争
こうした新規の土地接収に対する住民の反対・抵抗運動が高まる中で,軍用地料をめぐる問題が新たな争点とされてきた。そこで,米国は,毎年賃借料を支払う代わりに,土地代金に相当する額を一括して支払う方が得策であるとの観点から,いわゆる一括払いの計画を発表したが,ほとんどの住民から反対され,またこの問題を重視した立法院(住民による選挙で選ばれた者による琉球政府の立法機関)も昭和29年4月30日,「軍用地処理に関する請願決議」を全会一致で採決した。この決議の中で要請された「軍用地問題に関する四原則」(①米国の買い上げ又は永久使用,軍用地料の一括払いの絶対禁止,②軍用地料の適正かつ完全な補償,地主の合理的算定に基づく請求額による軍用地料決定,1年ごとの評価及び支払,③米軍による損害についての適正な賠償,④不要地の返還と新たな土地収用の禁止)は,その後の沖縄における基地闘争の基本原則となるものであった。
しかし,米下院軍事委員会が昭和30年10月23日から行った沖縄の軍用地問題の調査報告書(いわゆるプライス勧告)が,「軍用地問題に関する四原則」を認めず,一括払いの妥当性を強調し,新規の土地接収を肯定したものであったことから,沖縄の住民は一斉に反対運動に立ち上がり,各地で軍用地四原則貫徹住民大会や県民大会が開かれるなど,プライス勧告反対のいわゆる「島ぐるみ闘争」が沖縄全域に広がっていった。
「島ぐるみ闘争」にもかかわらず,米国は,昭和32年2月23日,布令第164号「米合衆国土地収用令」を公布して「限定付土地保有権」なる権利を設定し,地価相当額の地料の一括払いを実施した。また,同布令の切替及び強制収用の規定に基づいて,同年5月には,那覇空港,嘉手納飛行場を始め,14市町村にわたる軍用地について,次々と「限定付土地保有権」の収用宣告書を発し,軍用地料の一括払いを行った。
(オ) 沖縄の基地問題への取り組み
沖縄県における米軍基地については,昭和47年5月の日本復帰に際し,すみやかな整理縮小の措置をとるべきとする国会決議がなされたにもかかわらず,基地の整理縮小は遅々として進まず,復帰後,米軍基地(専用施設)の返還が本土で約58.7パーセントと進んだのに対し,沖縄県では約18.2パーセントの返還にとどまり,戦後70年を経た現在においても,国土面積の約0.6パーセントにすぎない沖縄県に,全国の米軍専用施設面積の約73.8パーセントが集中し,同県土面積の約10.2パーセント,沖縄本島においては約18.3パーセントを米軍基地が占める状況となっている。
(カ) 日本本土及び沖縄における米軍基地面積(専用施設面積)の推移は以下のとおりである。

日本(1972年以降は
沖縄を除く面積)
沖縄
1945(S20)年 4万5000エーカー
(約182km2)

1951(S26)年 124km2
1952(S27)年 1352.636km2
1954(S29)年 162km2
1955(S30)年 1296.360km2
1957(S32)年 1005.39km2
1958(S33)年 660.528km2 1958(S33)年 176km2
1960(S35)年 335.204km2 1960(S35)年 209km2
1965(S40)年 306.824km2
1970(S45)年 214.098km2
1972(S47)年 196.991km2 1972(S47)年 278.925km2
1985(S60)年 82.675km2 1985(S60)年 248.61km2
2013(H25)年 80.919km2 2013(H25)年 228.072km2

a 米軍施設及び区域の返還
平成8年4月から現在までに,沖縄県が米国から返還された米軍施設及び区域は,別紙5「沖縄県内の在日米軍施設・区域(専用施設)の返還状況一覧(平成8年4月1日以降)」のとおりである。
b 米軍施設及び区域の機能の本土等への移転
平成9年度から,キャンプ・ハンセンにおける米軍海兵隊沖縄県道104号線越え実弾射撃訓練について,本土5自衛隊演習場(北海道:矢臼別演習場,宮城県:王城寺原演習場,山梨県:北富士演習場,静岡県:東富士演習場,大分県:日出生台演習場)へ移転させ,平成18年度からは,嘉手納飛行場の航空機が,千歳基地(北海道),三沢基地(青森県),百里基地(茨城県),小松基地(石川県),築城基地(福岡県)及び新田原基地(宮崎県)の自衛隊施設から行われる移転訓練へ参加し,平成23年度からは,新たな移転先としてグアムなどを追加した。また,オスプレイに係る訓練を沖縄県外へ移転させ,嘉手納飛行場へ飛来して鳥島射爆撃場等で実施されていた空対地射爆撃訓練の一部を三沢対地射爆撃場(青森県)で実施し,平成26年8月には,普天間飛行場に配備されていた15機の空中給油機KC-130の全機の岩国飛行場への移駐を完了させた。
イ 沖縄の米軍基地に関連する事件等
(ア) 航空機事故
日本復帰後も米軍基地に関連する航空機事故が多数発生しているところ,平成16年8月13日には,米軍海兵隊所属のCH-53Dヘリが,宜野湾市の沖縄国際大学の構内に墜落する事故が発生した。同事故は,米軍海兵隊第31海兵遠征隊所属のCH-53Dヘリ(乗員3名)が,沖縄国際大学の市道に隣接した本館建物に接触し,墜落,炎上した結果,当該建物の一部や周辺の樹木等が炎上又は破損したほか,近隣の住宅等にも部品が屋根に落下する等,多大な被害を与えた。
(イ) パラシュート降下訓練に伴う事故
パラシュート降下訓練に伴う事故も,日本復帰後多数発生しており,うち3件は伊江島補助飛行場での物資投下訓練に伴うものであり,平成12年1月の重量物1個(270キログラム)の提供施設内黙認耕作地(提供施設内で耕作地と使用され,それについて米軍が黙認していると思われる土地)への落下,平成14年10月の段ボールで梱包した水入りプラスチック製容器3個(75.3キログラム)の提供施設区域外への落下,平成16年12月の物資の投下の際パラシュートが開かないままの提供施設内降下目標付近への落下となっている。また,平成25年5月1日,平成26年1月14日,同年3月26日,同年4月17日及び同年12月9日にもパラシュート降下訓練に伴う事故が発生している。
(ウ) 被弾事故
米軍基地から派生する被弾事故も,日本復帰後多数発生しており,施設別にはキャンプ・ハンセンが最も多く,次いでキャンプ・シュワブが多く,その次には伊江島補助飛行場と続いている。
キャンプ・シュワブに関連する被弾事故は,射程距離の長い重機関銃によるものが多く,昭和53年12月発生の名護市許田区の民家,畑,道路等への被弾事故を始め,昭和59年5月の名護市許田区におけるトラックへの被弾事故,昭和62年10月の恩納村の国道58号を走行中のタクシーへの被弾事故,平成14年7月の名護市数久田区のパイン畑への被弾事故があった。沖縄県は,同月の被弾事故を受け,キャンプ・シュワブ内のレンジ10におけるM2重機関銃の実弾射撃演習の廃止を要請したが,米軍は,射角制御装置の設置により安全対策が施されたとして,平成15年2月21日に同訓練を再開した。
(エ) 山林火災
米軍基地内での山林火災も,日本復帰後多数発生している。
(オ) 赤土汚染
沖縄県内の基地内からの赤土等が河川,海域に流出している。例えば平成元年10月にはキャンプ・ハンセンから,平成4年5月にはキャンプ・シュワブから,平成14年7月にはキャンプ・ハンセンから,それぞれ赤土が流出している。
(カ) PCB漏出事故
平成7年11月30日に返還された恩納通信所跡地から,カドミウム,水銀,PCB,鉛,ヒ素等の有害物質が検出された。
(キ) 劣化ウラン弾使用事件
平成7年12月から平成8年1月にかけて鳥島射爆撃場において,約1520発の劣化ウランを含有する徹甲焼夷弾が発射された。
(ク) 油状物質(タール状物質)汚染
昭和56年に返還された沖縄県北谷町のキャンプ瑞慶覧射撃場跡地の地中から,平成14年1月,店舗拡張工事の掘削中に黒い油状物質入りのドラム缶が次々に発見されてその総数は187本と大量に及び,周辺土壌がドラム缶の油状物質(タール状物質)により汚染されていることが発覚した。
(ケ) 六価クロム,鉛,フッ素,ヒ素汚染
平成11年6月,嘉手納弾薬庫地区返還跡地から,那覇防衛施設局の調査の結果,六価クロム,鉛で環境基準以上の数値が出た。平成18年11月には読谷補助飛行場跡地から,鉛,フッ素などで環境基準以上の数値が出た。平成25年8月,キャンプ・ハンセンに米空軍ヘリが墜落したが,現場から環境基準を超えるヒ素など数種の有害物質が検出された。
(コ) 鉛汚染
平成13年2月,キャンプ・コートニー旧クレー射撃場周辺海域等において日本環境管理基準を超えた鉛汚染が発覚した。
(サ) アスベスト検出
平成20年3月,キャンプ瑞慶覧の米軍直轄工事において,事業者が搬出した廃棄物からアスベストの検出が確認された。
(シ) ダイオキシン汚染
平成25年6月,昭和62年8月に返還された米空軍嘉手納基地の一区画(沖縄市サッカー場)の工事現場からダイオキシン(ドラム缶数十本,米国「ダウ・ケミカル社」の社名あり)が発見された。
(ス) 主な米軍人等の公務外の事件・事故
a 平成7年9月4日,沖縄本島北部において,在沖縄米軍海兵隊員3人が女子小学生を暴行する事件が発生した。被疑者は同月29日に起訴され逮捕された。
b 平成10年10月7日,北中城村において,女子高校生が酒気帯びの在沖縄米軍海兵隊員が運転する車にひき逃げされ,死亡する事故が発生した。被疑者の米兵は,同月13日に起訴された後,日本側に身柄が引き渡されたが,起訴前の身柄の引渡しが実現しなかった。
c 平成13年6月29日,北谷町美浜において,在沖米空軍兵士による婦女暴行事件が発生した。沖縄県警察本部が同年7月2日に逮捕状の発付を受け,外務省を通して身柄の引き渡しを米国政府に要請したが,身柄の引き渡しに5日間も期間を要した。
d 平成14年11月2日,沖縄本島において,在沖縄米軍海兵隊少佐による強姦未遂事件が発生した。沖縄県警察本部が同年12月3日,逮捕状の発付を受け,外務省を通して身柄の引き渡しを米国政府に要請したが,同月5日に開催された日米合同委員会において,米国政府は身柄の引き渡しを拒否した。
e 平成15年5月25日,沖縄本島北部において,在沖縄米軍海兵隊員による強姦致傷事件が発生した。沖縄県警察本部が同年6月16日,逮捕状の発付を受け,外務省を通して身柄の引き渡しを要請したところ,同月18日に開催された日米合同委員会において,米国側より被疑者の起訴前の拘禁移転について要請に応じる旨の回答があり,沖縄県警察本部は,同日中に身柄の引渡しを受け被疑者の米兵を逮捕した。
f 平成17年7月3日,沖縄市において,在沖米空軍兵による女子小学生に対する強制わいせつ事件が発生した。
g 平成20年2月10日,北谷町において,在沖縄米軍海兵隊員による未成年者に対する暴行被疑事件が発生した。同月11日に沖縄県警が被疑者を逮捕し,身柄を拘束した。その後,被害者が告訴を取り下げ,同月29日に被疑者は釈放された。
h 平成22年8月4日,那覇市において,米軍海兵隊員による強制わいせつ致傷事件が発生した。この事件では,沖縄県警が被疑者の海兵隊員を逮捕,身柄を確保していたことから,身柄の引渡しは問題とはならなかった。逮捕された海兵隊員は,岩国を拠点とする部隊に所属していたが,米国本国の次の勤務先に行く途中に休暇で沖縄に滞在していたものであった。
i 平成23年1月12日,沖縄市において,在沖米空軍軍属による交通死亡事故が発生した。那覇地方検察庁沖縄支部は同軍属を公務中を理由に不起訴処分としたが,遺族は不起訴処分を不服として,那覇検察審査会に審査を申し立て,同審査会は,起訴相当と議決した。この事件を契機に,米軍属に対する裁判権の行使に関して運用の改善がなされ,同軍属は日本側で裁判を受けることになった。
j 平成24年10月16日,沖縄本島中部において,米国テキサス州フォートワース海軍航空基地所属の海軍兵2名による集団強姦致傷事件が発生した。
k 平成24年11月2日,読谷村において,在沖米空軍兵による住居侵入事件が発生した。この事件では,被疑者の米空軍兵が負傷し,海軍病院に搬送されたため,身柄は米軍手中のまま,捜査が進められた。
l 平成28年3月13日,米軍キャンプ・シュワブ所属の在沖海軍1等水兵が,那覇市内のホテル内の廊下で熟睡していた女性を自室に連れ込んで暴行した準強姦容疑で逮捕されるという事件が発生した。
m 平成28年4月28日,うるま市において,米軍元海兵隊の軍属が歩行中の女性を殺害し死体を恩納村の山林に遺棄するという死体遺棄,殺人及び強姦致死容疑で逮捕されるという事件が発生した。
n この米軍元海兵隊の軍属による女性暴行殺人事件を受け,在沖縄米軍は,平成28年5月27日,同年6月24日までの約1か月間,日米地位協定の対象となる全軍人・軍属とその家族の基地外での飲酒及び深夜0時以降の外出を禁止することを決めた。
ところが,その僅か約1週間後の同年6月4日,米軍嘉手納基地所属の二等兵曹の女が,嘉手納町の国道58号線上で,対向車と正面衝突し乗車中の女性に重傷を負わせるという事故を起こした。同二等兵曹の女からは,基準値の約6倍のアルコールが検知された。
(セ) 沖縄県民の米軍基地への意識
a 県民大会
前記(ス)a記載の平成7年9月4日に沖縄本島北部で発生した海兵隊らによる少女暴行事件に伴い,同年10月21日,基地の整理縮小,地位協定の見直しを要求する県民総決起大会が開催され,主催者発表で8万5000人が参加した。
平成17年7月19日,キャンプ・ハンセン・レンジ4の実弾射撃訓練の開始に伴い,陸軍複合射撃訓練場の即時閉鎖・撤去,金武町伊芸地域の基地撤去を求め,陸軍複合射撃訓練強行実施緊急抗議県民大会が開催され,主催者発表で1万人が参加した。
平成22年4月25日,A2内閣総理大臣の同年5月末までに普天間飛行場の移設先を決めるとの発言に伴い,「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と,県内移設に反対し国外・県外移設を求める県民大会」が開かれ,主催者発表で9万3700人が参加した。
平成24年9月9日,オスプレイが普天間基地に配備されることに伴い,配備計画の撤回,普天間基地閉鎖・撤去を求め,米軍の新型輸送機オスプレイの普天間飛行場配備に反対する県民大会が開催され,主催者発表で10万1000人が参加した。
平成27年5月17日,普天間飛行場の名護市辺野古への県内移設阻止に向けた県民大会が開催され,主催者発表で約3万5000人が参加した。
平成28年6月19日,前記(ス)nの事件に伴い,在沖縄米軍海兵隊の撤退,日米地位協定の抜本的改定を求め,「元海兵隊員による残虐な蛮行を糾弾! 被害者を追悼し海兵隊の撤退を求める県民大会」が開催され,主催者発表で約6万5000人が参加した。
b 県民投票
平成8年9月8日,「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票条例」に基づき,「日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小」の可否について県民投票が実施され,投票率59.53パーセント,有効投票数52万8770票,無効投票数1万2856票,賛成票48万2538票,反対票4万6232票であった。
c 選挙
(a) 平成14年名護市長選挙
平成14年2月3日,名護市長選挙が行われ,現職のA3氏が普天間飛行場の辺野古移設に反対する候補者らを抑えて当選した。
(b) 平成14年沖縄県知事選挙
平成14年11月17日,沖縄県知事選挙が行われ,現職のA4氏が県外移設を主張する候補者らを抑えて当選した。
(c) 平成18年名護市長選挙
平成18年1月22日,名護市長選挙が行われ,当時の滑走路案については拒絶するものの普天間飛行場の辺野古移設を容認していたA5氏が同移設を反対する候補者らを抑えて当選した。
(d) 平成18年沖縄県知事選挙
平成18年11月19日,沖縄県知事選挙が行われ,A4県政の継承を主張するA1氏が普天間飛行場の辺野古移設反対及び国外移設を主張する候補者らを抑えて当選した。
(e) 平成22年名護市長選挙
平成22年1月24日,名護市長選挙が行われ,普天間飛行場の辺野古移設に反対するA6氏が当選した。
(f) 平成22年沖縄県知事選挙
平成22年11月28日の沖縄県知事選挙は,「日米合意の見直しと普天間基地の県外移設の実現」を強く求めることを公約として掲げたA1氏が再選した。
(g) 平成26年沖縄県知事選挙
辺野古新基地建設が最大の争点となった平成26年11月16日の県知事選挙で,辺野古新基地建設に反対するY氏が当選した。
(h) 平成26年名護市長選挙
辺野古新基地建設の賛否が最大の争点となった平成26年1月19日の名護市長選挙では,新基地建設に反対する現職のA6氏が再選した。
(i) 衆議院議員選挙
平成26年12月14日に行われた衆議院議員選挙では,沖縄県内の小選挙区すべてで,辺野古新基地建設に反対する候補者が当選した。
(j) 宜野湾市長選挙
平成28年2月24日に行われた普天間飛行場をかかえる宜野湾市長選挙では,現職のA7氏が,被告を支持するa組織が推すA8氏を抑えて再選した。
(k) 沖縄県議会議員選挙
平成28年6月5日に行われた沖縄県議会議員選挙では,被告を支持する与党が,改選前議席を4議席を上回る27議席を獲得した。
(l) 参議院議員選挙
平成28年7月10日に実施された参議院議員選挙では,辺野古新基地建設反対を主張するA8氏が,b党公認の現職で沖縄担当大臣のA9氏を抑えて当選した。
d 議会決議
(a) 沖縄県議会
平成22年2月,沖縄県議会は,「米軍普天間飛行場の早期閉鎖・返還と県内移設に反対し,国外・県外移設を求める意見書」を可決した。
平成26年1月10日,沖縄県議会は,「米軍普天間飛行場の閉鎖・撤去と辺野古移設断念を求める意見書」と「A1沖縄県知事の公約違反に抗議し,辞任を求める決議」を可決した。
(b) 宜野湾市議会
宜野湾市議会は,平成25年12月17日,「普天間基地の県内移設断念と早期閉鎖・撤去に関する意見書」及び「普天間基地の県内移設断念と早期閉鎖・撤去を求める決議」をいずれも否決した。
(c) 那覇市議会
平成26年1月6日,那覇市議会は,「A1県知事の辺野古埋め立て承認に抗議し,辺野古移設断念と基地負担軽減を求める意見書」を可決した。
(d) 名護市議会
平成26年2月3日,名護市議会は,「辺野古移設を強引に推し進める政府に対して激しく抗議し,普天間基地の県内移設断念と早期閉鎖・撤去を求める意見書」と「A1沖縄県知事の辺野古埋め立て承認に抗議し,撤回を求める意見書」を可決した。
ウ 日米地位協定に関連する規定
米軍並びにその軍人,軍属及び家族は,日米地位協定に基づき,日本国内の場合と異なる次のような処遇等を受けている。
(ア) 施設の設置・使用
日米安全保障条約6条は,「日本国の安全に寄与し,並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため」に,米軍は,「日本国において施設及び区域を使用することを許される。」とし,施設・区域の使用及び米軍の地位は,「別個の協定」及び「合意される他の取極」により規律されると定めている。上記を受けて締結された日米地位協定は,同協定2条1項で,日本が米国に提供する「個個の施設及び区域に関する協定」(以下,「提供協定」という。)は合同委員会(同協定25条)を通じて両政府が締結すると定めている。その上で,いずれか一方の要請があるときは,提供協定を再検討しなければならない(同協定2条2項)とし,施設・区域が「この協定の目的のために必要でなくなったときは,いつでも,日本国に返還しなければならない」(同条3項)と定めている。
(イ) 出入・移動
日米地位協定5条は,同条1項で,米軍の船舶・航空機は,無償で日本の港湾,空港に出入りできること,同条2項では,米軍の船舶・航空機・車両並びに軍人等・家族は,施設・区域への出入,施設・区域間の移動,施設・区域と日本の港・飛行場間の移動ができること,軍用車両の移動には,道路使用料等の課徴金を課さないことを定めている。同条3項では,米軍が港湾を利用する場合の通告義務,強制水先を免除することを定めている。
出入・移動に関連しては,同協定9条2項において,軍人等・家族の日本への出入国について旅券及び査証に関する日本法令の適用が除外されており,同協定10条1項及び2項において,車両移動の際の運転免許証,車両登録に関する日本法令の適用が免除もしくは緩和されている。
(ウ) 課税
日米地位協定13条は,米軍が,日本で保有し,使用し,又は移転する財産について租税を課さないこと,軍人,軍属及び家族は,米軍等に勤務することによる所得について租税が免除されること,軍人,軍属及び家族は,一時的に日本にあることのみに基づいて日本に所在する動産の保有,使用,移転についても租税が免除されることを定めている。
(エ) 刑事手続
日米地位協定17条1項は,刑事裁判権分配の基本について,「この条の規定に従うことを条件として,(a)合衆国の軍当局は,合衆国の軍法に服するすべての者に対し,合衆国の法令により与えられたすべての刑事及び懲戒の裁判権を日本国において行使する権利を有する。(b)日本国の当局は,合衆国軍隊の構成員及び軍属並びに家族に対し,日本国の領域内で犯す罪で日本国の法令によつて罰することができるものについて,裁判権を有する。」としている。
日米地位協定17条3項(a)(ⅰ)は「もつぱら合衆国の財産若しくは安全のみに対する罪又はもつぱら合衆国軍隊の他の構成員若しくは軍属若しくは合衆国軍隊の構成員若しくは軍属の家族の身体若しくは財産のみに対する罪」,同(ⅱ)「公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪」については米軍が第一次裁判権を有すると規定し,同項(b)は,「その他の罪については,日本国の当局が,裁判権を行使する第一次の権利を有する」としている。
日米地位協定17条5項(c)は「日本国が裁判権を行使すべき合衆国軍隊の構成員又は軍属たる被疑者の拘禁は,その者の身柄が合衆国の手中にあるときは,日本国により公訴が提起されるまでの間,合衆国が引き続き行うものとする」と規定している。
(2)  本件埋立地周辺(辺野古海域と大浦湾を中心とし,西側の宜野座村豊原・松田地先から東側の名護市嘉陽地先まで)の自然
本件埋立地の北部に連なる大浦湾は,大きく切れ込んだ湾奥に汀間川と大浦川の二つの河川の河口が位置し,礁池を形成することなく水深30mを越える深い谷を形成しており,砂泥質の底質も広がっている。このため,淡水域の河川から干潟,マングローブ林,泥場,砂場,海草藻場,サンゴ群集といった沖縄本島でも類例のない多様な環境が複雑な生態系を構成している。
本件埋立地周辺では,絶滅危惧種262種を含む5334種の生物種が確認されている。同地域は,環境省作成の絶滅の恐れのある野生生物(動植物)について,「レッドリスト」の中でも最も保全の必要性の高い絶滅危惧ⅠA類(CR)に指定されているジュゴンの生息域となっている。また,同地域のサンゴ礁には,カクレクマノミなど沖縄に生息する6種のクマノミ全てが観察されるなど多数の魚類が豊富に生息し,大規模なアオサンゴ群集もみられる。そして,大浦湾河口部のマングローブ林・干潟には,希少種であるトカゲハゼなどの魚類のほか,ミナミコメツキガニといった甲殻類,シマカノコ,マングローブアマガイなどの底生生物などレッドリスト掲載の生物が多数生息している。さらに,大浦湾西深部の砂泥地は,泥場で透明度が低いにもかからず大規模な群集を形成しているユビエダハマサンゴ群集などがあり,詳細な生息地が知られていなかったオキナワハナムシロ(貝類)や新種の甲殻類など特異的な生物群と希少種が分布するなど,サンゴ礁の発達する琉球列島の中にあって極めて特異な生物相を有する。そして,かかる湿地の多様な生物相をもつ湿地帯は,絶滅危惧Ⅱ類(VU)のエリグロアジサシなど渡り鳥の生息地ともなっている。
さらに,辺野古地先海域・大浦湾は,沖縄県の「自然環境の保全に関する指針(1998年)」により,沿岸域の大部分が,評価ランクⅠとして,自然環境の厳格な保護を図る地域とされ(乙F1),本件埋立事業の埋立土砂発生区域の大部分の区域については,評価ランクⅡとして,自然環境の保護・保全を図る区域と評価されている。
(3)  普天間飛行場及びキャンプ・シュワブの概要
ア 普天間飛行場の概要
普天間飛行場は,沖縄県中部に位置する宜野湾市の中央部に位置し,昭和20年から米軍による使用が開始され,現在は米軍海兵隊が使用している施設及び区域である。また,同飛行場は,国際連合の軍隊が使用することができる。同飛行場周辺には,学校や住宅,医療施設などが密集している状況にある。同飛行場施設の概要は以下のとおりである(甲A5の2,甲A47)。
施設面積 約4.8平方キロメートル
施設概要 滑走路約2700メートル,格納庫,倉庫,隊舎など
使用部隊 第一海兵航空団,第○海兵航空群,第18海兵航空管制群,第17海兵航空支援群
機能 オスプレイなどを運用する機能,空中給油機を運用する機能,緊急時に外部から多数の航空機を受け入れる基地機能
イ キャンプ・シュワブの概要
キャンプ・シュワブは,沖縄県名護市辺野古に所在し,米軍海兵隊により,昭和31年から使用が開始され,現在はキャンプ地区及び訓練場地区として陸上部隊に使用されている施設及び区域である。キャンプ・シュワブの概要は以下のとおりである(甲A3,甲A5の2,甲A168,甲A169,乙D20)。
施設面積 約20.6平方キロメートル(キャンプ地区と訓練場地区)
施設概要 事務所,隊舎,訓練場など
使用部隊 第三海兵遠征軍
使用水域 第1水域(北緯26度31分40秒,東経128度02分51秒の点と北緯26度30分57秒,東経128度02分16秒の点の間の陸岸から50メートル以内の水面域)
第2水域(北緯26度31分40秒,東経128度02分51秒の点から真方位90度に引いた線と北緯26度30分57秒,東経128度02分16秒の点から真方位132度45分に引いた線の間の陸岸から500メートル以内の水面域)
第3水域(北緯26度32分00秒,東経128度05分24秒の点,北緯26度29分34秒,東経128度08分13秒の点,北緯26度25分15秒,東経128度03分49秒の点,北緯26度25分15秒,東経128度01分35秒の点及び北緯26度28分42秒,東経127度59分57秒の各点を順次結んだ線の内側で陸岸に接続する水面域(日本国の航路灯浮標は含まない。))
キャンプ・シュワブLST(北緯26度31分24.5秒,東経128度03分02秒の点から真方位80度の線上1000メートルの点,その点から真方位145度の線上2150メートルの点を結ぶ線を中心に両側200メートルの水面域(日本国の航路灯浮標は含まない。))
辺野古ビーチ(北緯26度30分38.5秒,東経128度02分05秒の点から真方位132度45分の線と北緯26度30分57秒,東経128度02分16秒の点から真方位132度45分に引いた線との間の陸岸から800メートル以内の水面域)
(4)  辺野古への新施設設置計画の経緯
ア 平成8年4月12日のA10内閣総理大臣とA11駐日米国大使との会談において,普天間飛行場は,沖縄県に既に存在する米軍施設及び区域の中に新たにヘリポートを建設すること,空中給油機を岩国飛行場に移転させることなどの一定の措置が執られた後,今後5年ないし7年程度で全面返還されることが合意された(甲A6)。沖縄県における米軍施設及び区域の整理,統合及び縮小並びに米軍の運用の方法を調整する方策について,沖縄に関する特別行動委員会(沖縄県に所在する在日米軍施設・区域に関わる諸問題を協議する目的で日米間に平成7年11月20日に設置された協議機関(甲A47,乙D20),以下,「SACO」という。)が日米安全保障協議委員会に対し勧告を作成することとなり,平成8年12月2日,A12外務大臣,A13防衛庁長官,A14国防長官及びA11駐日米国大使ら閣僚等が出席した日米安全保障協議委員会(日米安全保障条約4条によって設置された協議機関)において,上記閣僚等は,普天間飛行場に所在する部隊・装備等の移転先として海上施設案を追求し,今後5ないし7年以内に,十分な代替施設が完成し運用可能となった後,普天間飛行場を返還する旨の「SACO最終報告」を承認した(甲A2)。
イ A4沖縄県知事は,平成11年11月22日,軍民共用空港とすること及び米軍による施設の使用については15年の期限を設けること等の実現に関し具体的な方策が講じられるよう求めた上で,普天間飛行場の移設候補地として「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」が適切であると判断した旨表明し(甲A7),A3名護市長は,同年12月27日,同表明について,前提条件が確実に実施されるための明確で具体的な方策が明らかにされなければ移設容認を撤回するとの条件の下,受入れを表明した(甲A8)。同月28日,政府は,代替施設の建設地点を「キャンプ・シュワブ水域内名護市辺野古沿岸域」とし,今後,代替施設の工法及び具体的建設場所の検討を含めて基本計画の策定を行う旨の「普天間飛行場の移設に係る政府方針」を閣議決定した(甲A9)。
ウ 政府は,平成12年8月25日,代替施設の基本計画の策定について沖縄県及び地元の地方公共団体との間で協議するため,代替施設協議会を設置し,沖縄県及び名護市等と協議を開始した(甲A10の1ないし3)。上記協議会は9回開催され,普天間飛行場の代替施設の工法や形状等について協議された。代替施設の工法としては,埋立工法,杭式桟橋工法(多数の支柱で上部構造物を支える方式)及びポンツーン工法(箱形構造物を浮かべ係留する方式)が検討されたが,9回目の上記協議会の開催日である平成14年7月29日,A15沖縄及び北方対策担当大臣,A16防衛庁長官,A17外務大臣,A4沖縄県知事及びA3名護市長との間で,代替施設の建設はキャンプ・シュワブ水域内において埋立工法で行い,その形状は概ね長方形とする旨の基本計画が決められた。その概要は,代替施設の滑走路の数は1本,滑走路の長さは2000メートル,代替施設本体の面積は,最大約184ヘクタールであり,具体的建設場所は,「辺野古集落の中心(辺野古交番)から滑走路中心線までの最短距離が約2.2キロメートル」である。(甲A11の1,2。別紙6)。また,同年12月16日,A17外務大臣,A18防衛庁長官,A19国務長官及びA20国防副長官ら閣僚が出席した日米安全保障協議委員会において,上記閣僚は,上記アのSACO最終報告の実施に関する両政府のコミットメントを再確認し,代替施設の建設をキャンプ・シュワブ水域内において埋立工法で行うこと等を内容とした上記基本計画に基づいて迅速に移設を進めることも確認した(甲A12)。
エ 平成17年10月29日,A21外務大臣,A22防衛庁長官,A23国務長官及びA24国防長官ら閣僚が出席した日米安全保障協議委員会において,上記閣僚は,日米安全保障体制を中核とする日米同盟は,日本の安全とアジア太平洋地域の平和と安定のために不可欠な基礎であり,同盟に基づいた緊密かつ協力的な関係は,世界における課題に効果的に対処する上で重要な役割を果たしており,安全保障環境の変化に応じて発展しなければならないことを踏まえ,沖縄を含む地元の負担を軽減しつつ抑止力を維持するべく在日米軍と関連する自衛隊の態勢の再編を検討した結果,①米国は太平洋における海兵隊の緊急事態への対応能力をハワイ,グアム及び沖縄の間で再配分することで沖縄の負担を大幅に軽減させる,②沖縄県民が早期返還を強く希望する普天間飛行場の移設先を名護市辺野古のキャンプ・シュワブとし,「キャンプ・シュワブの海岸線の区域とこれに近接する大浦湾の水域を結ぶL字型に普天間飛行場代替施設を設置する」ことを発表した。上記閣僚らは,地元との調整を完了することを確約するとともに,事務当局に対して,これらの個別的かつ相互に関連する具体案を最終的に取りまとめ,具体的な実施日程を含めた計画を平成18年3月までに作成するよう指示した。日米双方は,これらの具体案の迅速な実施に求められる必要な措置をとることの重要性を強調した(甲A13)。
オ その後,周辺地域上空の飛行ルートを回避してほしいとの地元要望を踏まえ,平成18年4月7日,A25防衛庁長官とA5名護市長及びA26宜野座村長との間で,代替施設の建設場所について,平成17年10月29日に日米安全保障協議委員会において承認された政府案を基本に,別紙7のとおり,名護市の要求する辺野古地区,豊原地区及び安部地区並びに宜野座村の要求する宜野座村の各上空の飛行ルートを回避することとして,①周辺住民の生活の安全,②自然環境の保全,③同事業の実行可能性に留意して建設すること等について合意した(甲A5の2)。
カ 平成18年5月1日,A27外務大臣,A25防衛庁長官,A23国務長官及びA24国防長官は,日米安全保障協議委員会に出席し,同委員会において,同日の同委員会文書である「再編実施のための日米ロードマップ」により,上記オの合意を踏まえて,離陸・着陸のいずれの飛行経路も海上となるようにV字型の2本の滑走路から成る案として,代替施設を辺野古岬とこれに隣接する大浦湾と辺野古湾の水域を結ぶ形で設置し,2本の滑走路をV字型に配置すること,その概要は,V字型に配置される2本の滑走路はそれぞれ1600メートルの長さを有し,2つの100メートルのオーバーランを有し,各滑走路の在る部分の施設の長さは,護岸を除いて1800メートルとされている(別紙7参照)。本件新施設等の工法は原則として埋立てとなること,第三海兵機動展開部隊の要員約8000名とその家族約9000名を平成26年までに沖縄からグアムに移転すること,これらの完了により,普天間飛行場の他,嘉手納飛行場以南の相当規模の土地の返還が可能になること,嘉手納飛行場の航空機の訓練を県外の自衛隊基地での訓練に参加させることにより行うことを合意した。また,上記閣僚は,同委員会について,「本日開催された安全保障協議委員会において,閣僚は,本日の同委員会文書『再編実施のための日米のロードマップ』に記されている,2005年10月の再編案の実施の詳細を承認した。閣僚は,これらの再編案の実施により,同盟関係における協力は新たな段階に入るものであり,また,地域における同盟関係の能力強化につながるものであることを認識した。今後実施される措置は,日米安全保障条約の下での日米双方のコミットメントを強化すると同時に,沖縄を含む地元の負担を軽減するとの日米双方の決意を示すものである。これは,安全保障上の同盟関係に対する国民一般の支持を高める基礎を提供するものである。閣僚は,日本国政府による地元との調整を認識し,再編案が実現可能であることを確認した。また,閣僚は,これらの再編案を完了させることが同盟関係の変革の基礎を強化するために不可欠であることを認識し,日米安全保障条約及び関連取極を遵守しつつ,この計画を速やかに,かつ,徹底して実施していくことを確約した。」旨を共同発表した(甲A14の1,2)。
キ また,平成18年5月11日,A25防衛庁長官とA4沖縄県知事との間で「在沖縄米軍再編に係る基本確認書」が締結され(甲A5の2),同月30日,普天間飛行場の移設について,同月1日に日米安全保障協議委員会において合意された案を基本として,早急に代替施設の建設計画を策定することを含む「在日米軍の兵力構成見直し等に関する政府の取組について」が閣議決定された(甲A5の2)。
ク A2民主党党首は,平成21年衆議院総選挙前,普天間飛行場について,「海外移転が望ましいが,最低でも県外移設が期待される」などと主張し,同選挙後発足した民主党政権は,沖縄基地問題検討委員会を設置し,主に県外移設案を検討することとなった。
しかし,A2内閣総理大臣は,平成22年5月,前知事との会談の中で普天間飛行場の県内移設を表明し,同月28日,日米安全保障協議委員会における,A28外務大臣,A29防衛大臣,A30国務長官及びA31国防長官との共同発表の場において,普天間飛行場を移設し,同飛行場を日本に返還するとの共通の決意が表明され,オーバーランを含み,護岸を除いて1800メートルの長さの滑走路を持つ代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置する意図を確認したことが発表された。また,同委員会において,普天間飛行場のできる限り速やかな返還を実現するために,代替施設の位置,配置及び工法に関する専門家による検討を速やかに(いかなる場合でも平成22年8月末日までに)完了させ,検証及び確認を次回の日米安全保障協議委員会までに完了させることが決定された(甲A5の2,乙B1,乙D20)。
政府は,平成22年5月28日,普天間飛行場を早期に移設・返還するために,代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に設置することを閣議決定した(甲A5の2)。
ケ その後,代替施設の位置,配置及び工法などに関する専門家による検討を経て,日米安全保障協議委員会は,平成23年6月21日,普天間飛行場の代替施設は,「海面の埋立てを主要な工法として,専門家会合によって記されたようなV字型に配置される2本の滑走路を有するものとすること」を決定し,普天間飛行場の固定化を避けるために平成26年よりできるだけ早い時期に完成させるとのコミットメントを確認したことを発表した(甲A5の2)。
他方,平成23年6月1日,前知事は,防衛大臣に対し,県外移設の可能性の再検討を求めるとともに,在日米軍・海兵隊の意義及び役割について,たとえば,沖縄の地政学的意義について,何をもって潜在的紛争地域と認識しているのかなど,約30項目にわたる具体的な質問を記載した書面を送付し,同年12月19日,防衛大臣は,前知事に対し,可能な限り詳細に答えた回答書を送付した(甲A65,甲A67)。
さらに,平成24年6月18日,前知事は,防衛大臣に対し,同趣旨の質問と資料提供を求め,同年12月11日,防衛大臣は,前知事に対し,可能な限り詳細に答えた回答書を送付した(甲A66,甲A68)。
コ 平成24年4月27日,日米安全保障協議委員会において,普天間飛行場を辺野古に移設する現在の計画が,引き続き,唯一の有効な解決策であるとの認識が再確認された。この際,前記カのロードマップのうち,第三海兵機動展開部隊の一部移転と普天間飛行場以外の嘉手納飛行場以南の土地の返還とを普天間飛行場の移転の問題と切り離して行うことも決定した(甲A15)。
サ 平成25年4月,「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」が公表され,普天間飛行場について平成34年度又はその後に返還可能とされた(甲A16)。
シ 平成25年10月3日,日米安全保障協議委員会において,前記コの在日米軍の一部移転と普天間飛行場以外の嘉手納飛行場以南の土地の返還を推進させること,普天間飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが,同飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であるとの認識が再確認された(甲A17)。
ス 平成26年10月20日,「日米共同報道発表」により,その他の土地の返還を加速するとともに普天間飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが,同飛行場の継続的な使用を回避する唯一の解決策であることが再確認された(甲A18)。
セ 平成26年12月2日,米上下両院軍事委員会は,在沖縄米軍海兵隊のグアム移転に関し,米軍再編計画が不透明であるとして執行を一部凍結していた予算の執行凍結を解除する旨の合意をした。米国政府は,2015会計年度の国防権限法案において,5100万ドルを全額計上するとともに,執行凍結条項を削除した(甲A233の1,2)。
ソ 平成27年4月27日,日米安全保障協議委員会において,普天間飛行場の代替施設をキャンプ・シュワブ辺野古崎地区及びこれに隣接する水域に建設することが,運用上,政治上,財政上及び戦略上の懸念に対処し,普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策であることが再確認された(甲A19)。
タ 平成27年4月28日,米国で開催された日米首脳会談において,A32内閣総理大臣から「辺野古移設が唯一の解決策との政府の立場は揺るぎない。沖縄の理解を得るべく対話を継続する」旨の発言がなされた(甲A20)。
(5)  普天間飛行場返還後の跡地利用計画の策定状況等
ア 平成8年のSACO最終報告において普天間飛行場の全面返還が合意されたことを受け,平成11年に普天間飛行場の移設に係る政府方針が閣議決定され,同政府方針の中で,駐留軍用地跡地利用の促進及び円滑化等に関する方針が示されるとともに,政府は,その円滑な実施を図るため,平成12年5月,内閣官房長官,沖縄開発庁長官,沖縄県知事及び宜野湾市長を構成員とする跡地対策準備協議会を設置した(甲A21,甲A22)。
イ 平成13年12月に開催された第6回跡地対策準備協議会において,9分野106項目にわたる「普天間飛行場の跡地利用の促進及び円滑化等に係る取組分野ごとの課題と対応の方針についての取りまとめ」が示され,上記の対応方針では,「国,県,市が連携・協力して,普天間飛行場の跡地利用の促進及び円滑化等に取り組む」ことが謳われており,宜野湾市及び県は跡地利用計画の策定に向けた具体的な取組みに着手し,3ないし4年後を目処に具体的な跡地利用計画策定の基礎となる跡地利用の基本方針を策定することが示された(甲A21,甲A23)。
ウ 平成14年7月に政府が策定した沖縄振興計画においては,普天間飛行場の跡地利用について,「沖縄県全体の振興に影響が及ぶものと考えられていることから,国,県,宜野湾市が連携して,跡地利用の基本方針及び跡地利用計画の策定に向けて取り組む」と定められた(甲A21,甲A24)。
エ 沖縄県及び宜野湾市は,平成16年2月,基本方針の策定に当たって普天間飛行場跡地利用基本方針策定審議調査会を設置し,同審議調査会において,基本方針の策定に関する重要事項について審議調査を行うとともに,これと並行して,自然環境や文化財に関する調査,関係地権者等の意向醸成に関する調査,都市計画に関する調査,産業・機能の導入に関する調査など,広範な調査を実施し,普天間飛行場跡地利用基本方針検討委員会において,これら調査の成果などを踏まえ,基本方針策定に向けた総合的な検討が行われ,平成17年6月,「普天間飛行場跡地利用基本方針の策定にかかる指針」(甲A25)が提言された(甲A21,甲A26)。
オ 沖縄県及び宜野湾市は,前記アないしエの終了を受けて,平成18年2月,普天間飛行場の跡地利用に関する基本方向,分野別の方針及び今後の取組方針を示した普天間飛行場跡地利用基本方針を策定した(甲A21,甲A26)。
カ 沖縄県及び宜野湾市は,今後,基本方針を具体化した跡地利用計画を策定し,それに基づき事業の準備を行い,事業の実施に至る工程を着実に進めていく必要があることから,平成19年5月,跡地利用計画の策定を返還の3ないし4年前までに行うとするなど,同策定に向けた具体的な取組の内容・手順・役割分担等を明らかにした普天間飛行場跡地利用計画の策定に向けた行動計画を策定した(甲A21,甲A27)。
キ 平成19年度以降は,上記行動計画に基づき,県市共同調査において,前提条件の整理,計画方針の取りまとめに向けた検討を行うとともに,宜野湾市において,自然環境や文化財調査,地権者への情報提供及び意見交換を進める一方で,沖縄県において,平成24年5月に普天間飛行場跡地を中南部都市圏域の新たな振興拠点と位置づける沖縄21世紀ビジョン基本計画(甲A28)を策定し,さらに,沖縄県や宜野湾市をはじめとする関係市町村において,平成25年1月に普天間飛行場を含めた6施設の跡地利用の方向性を示した中南部都市圏駐留軍用地跡地利用広域構想を策定した(甲A29)。同構想では,平成8年のSACO最終報告及び平成18年の日米安全保障協議委員会での合意により,普天間飛行場等が返還されるとして,普天間飛行場の跡地はリゾートコンベンション産業,医療生命科学産業,環境エネルギー産業,文化産業(アフターコンベンションに資する都市型エンターテイメント産業),スポーツツーリズム産業等に利用されることが想定されており(甲A29),沖縄県の推計によれば,同構想に基づく利用がされた場合には,これらの活動に伴う消費や投資等の経済取引により個人・事業者等への支出が発生し,その直接経済効果は,卸・小売業,飲食業,サービス業その他産業の売上高及び不動産賃貸額などによって年間約3866億円に上り,返還前の地代収入,軍雇用者所得,米軍等への財・サービスへの提供額,基地周辺整備費等及び基地交付金などによる年間約120億円に比べ約32倍もの経済効果を上げると予想されている(甲A31)。また,直接経済効果の発生額を源泉として経済的取引の連鎖により他の商品・サービスへの需要が波及し,様々な産業の生産が誘発される結果,またそれによって所得,雇用等が誘発される効果である経済波及効果についてみても,生産誘発額が返還前の年間130億円から3604億円(28倍),所得誘発額が年間35億円から928億円(26倍),誘発雇用人数が年間1074人から3万4093人(32倍),税収効果が年間14億円から430億円(32倍)に上ると予想されている(甲A31)。
ク 沖縄県及び宜野湾市は,上記広域構想や基本方針,行動計画に基づくこれまでの取組の成果を踏まえて,平成25年3月,その位置付けとして,平成8年のSACO最終報告及び平成18年の日米安全保障協議委員会での合意により普天間飛行場の返還が合意されたことを踏まえて開始した跡地利用計画の具体化に向けた中間的な成果として全体計画の中間取りまとめを策定した(甲A30)。
ケ 沖縄県及び宜野湾市は,全体計画の中間取りまとめを基に県民,市民及び地権者の意見聴取等を行うとともに,普天間飛行場跡地及び周辺の整備に係る課題の整理や事業スキーム案の検討を実施した上で,跡地利用計画の具体化に向けた行程計画案を作成するため,平成26年3月,普天間飛行場跡地利用計画策定調査業務報告書を作成,公表した(甲A32)。
コ 沖縄県は,平成27年8月,「普天間飛行場跡地(仮称)普天間公園等検討調査業務」に係る企画提案書を募集した(甲A33)。
(6)  評価法及び評価条例に基づく環境影響評価書作成経緯
ア 沖縄防衛局長は,本件埋立事業の予定地における評価法に基づく環境影響評価に先立つ環境現況調査として,公共用財産使用について前知事の同意を得た上で,平成19年5月から,海生生物について,サンゴ類調査,水中ビデオカメラ調査及びパッシブソナー調査等を行い,海象調査について,流向・流速調査,水温・塩分調査,波高・波向調査,濁度調査及び補砂器調査等を行った(甲A69,甲A70の1ないし3)。
イ 沖縄防衛局長は,平成19年8月,本件埋立事業に係る環境影響評価方法書(以下,「本件方法書」という。)を作成し(甲A71),同月7日付けで,前知事,名護市長及び宜野座村長に対し,本件方法書を各送付し(甲A72,評価法6条1項,評価条例6条1項),同月14日,その公告をするとともに,同日から同年9月13日までの間,方法書を住民等の縦覧に供した(甲A73,評価法7条,評価条例7条)。また,沖縄防衛局長は,同年8月14日,方法書について環境保全の見地からの意見を有する者の意見書の提出期限を同年9月27日と定めて意見を求めた(甲A73,評価法8条1項,評価条例8条1項)。
ウ 沖縄防衛局長は,平成19年10月22日付けで,前知事,名護市長及び宜野座村長に対し,本件方法書に対する住民意見を取りまとめ,その概要を記載した書類を各送付した(甲A74,評価法9条,評価条例9条1項)。
エ 前知事は,沖縄防衛局長に対し,平成19年12月21日付けで飛行場等の設置について,平成20年1月21日付けで公有水面の埋立てについて,それぞれ知事意見を書面で送付した(甲A75,甲A76,乙A32,乙A34,評価法10条1項,評価条例10条1項)。
オ 沖縄防衛局長は,平成20年3月15日から平成21年3月4日にかけて,本件方法書を前提に,法及び条例の規定により選定した項目及び手法に基づき,本件埋立事業に係る環境影響評価のための調査を実施し,環境影響評価準備書(以下,「本件準備書」という。)を作成した(甲A77,評価法12条,14条,評価条例12条,14条)。
カ 沖縄防衛局長は,平成21年4月1日,前知事,名護市長及び宜野座村長に対し,本件準備書を各送付し(甲A78,評価法15条,評価条例14条1項),同月2日,その公告をするとともに,同日から同年5月1日までの間,本件準備書を住民等の縦覧に供した(甲A79,評価法16条,評価条例15条)。また,沖縄防衛局長は,本件準備書について環境保全の見地からの意見を有する者の意見書の提出期限を同月15日と定めて意見を求めた(甲A79,評価法18条1項,評価条例17条1項)。
キ 前知事は,平成21年4月21日,名護市長及び宜野座村長に,本件準備書を送付した(評価条例14条2項)。
ク 沖縄防衛局長は,本件準備書の記載内容を周知させるため,平成21年4月22日に名護市久志支所において,同月23日に宜野座村立松田地区公民館において,同月24日に辺野古交流プラザにおいて,それぞれ説明会を開催した(評価法17条1項,評価条例16条1項)。
ケ 沖縄防衛局長は,平成21年6月15日,前知事,名護市長及び宜野座村長に対し,本件準備書に対する住民意見を取りまとめ,その概要を記載した書類を各送付した(甲A80,評価法19条,評価条例18条1項)。
コ 前知事は,本件準備書に対する意見の概要及び沖縄防衛局の見解を取りまとめた書類を名護市長及び宜野座村長に送付した(評価条例18条2項)。
サ 前知事は,平成21年10月13日,同日付け「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価準備書に対する知事意見について」によって,意見を述べた(乙A36,乙A38,評価法20条1項,評価条例19条1項)。
シ 沖縄防衛局長は,平成23年12月28日,環境影響評価書を完成させ,前知事に対し,16部を送付し(評価法21条2項,22条,評価条例20条2項,21条),平成24年1月5日,不足分の8部を追加送付した(甲A81,評価条例21条)。
ス 前知事は,平成24年1月19日,沖縄県環境影響評価審査会に対し,普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価書の審査について諮問し,同審査会は,同年2月8日,前知事に対し,上記について答申した(乙A5)。前知事は,同月20日,飛行場等の設置について,同年3月27日,公有水面の埋立てについて,沖縄防衛局長に対し,それぞれ前知事の知事意見(本件知事意見)を送付した。当該意見には,次の内容の記載があった(甲A82,甲A83,乙A6,乙A7,評価法24条,評価条例22条1項)。
「普天間飛行場代替施設建設事業の実施に係る環境影響について,事業者である国は,評価書の総合評価において「事業の実施に際して,環境保全上,特段の支障は生じない」としているが,次に示す不適切な事項等により,名護市辺野古沿岸域を事業実施区域とする当該事業は,環境の保全上重大な問題があると考える。また,当該評価書で示された環境保全措置等では,事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全を図ることは不可能であると考える。」
セ 防衛省は,本件知事意見を踏まえて環境影響評価書を補正するために「普天間飛行場代替施設建設事業に係る環境影響評価に関する有識者研究会」(以下,「本件有識者研究会」という。)を設置し,同研究会は,平成24年4月27日から9回の会合を開催し,同年12月,最終報告書を作成した(甲A58)。
ソ 沖縄防衛局長は,平成24年12月18日,補正後の環境影響評価書(以下,「本件評価書」という。)を前知事,名護市長,宜野座村長に送付した(評価法25条3項,26条2項,評価条例23条3項)。
タ 前知事が,平成24年12月19日,名護市長及び宜野座村長に補正後の本件評価書を送付した(評価条例23条4項)。
チ 沖縄防衛局長が,平成24年12月27日,環境影響評価書を作成したこと及び縦覧場所等を官報に掲載して公告し,同日から平成25年1月29日まで住民等の縦覧に供した(評価法27条,評価条例24条)。
(7)  本件承認処分の経緯
ア 沖縄防衛局は,平成25年3月22日,前知事に対し,本件願書を提出したところ(本件埋立出願),同年4月12日に前知事から補正を求められたため(平成25年4月12日「普天間飛行場代替施設建設事業に係る公有水面埋立承認申請書の補正について」(土海第85号,農港第78号)。甲A34),同年5月31日,補正要求に基づき補正した部分を差し替えたものを提出した(本件願書)。
イ 前知事は,法3条1項に基づき,平成25年6月28日,本件埋立出願の要領について沖縄県公報で告示するとともに,同日から同年7月18日までの間,本件願書及び関係図書を沖縄県のホームページ上及び沖縄県内の合計8か所に設置して縦覧に供したところ,縦覧期間内において,利害関係人から3511件の意見書が提出され,期間外においても61件(平成25年8月30日時点)の意見書が提出された(甲A35の10)。
ウ 前知事は,法3条1項に基づき,平成25年8月1日,関係市町村長である名護市長に対し,回答期限を同年11月29日と定めて意見照会を行うとともに,建設省及び運輸省発出の通達(甲B8)に基づき,関係機関である沖縄県環境生活部長に対しても回答期限を同日と定め,第11管区海上保安本部中城海上保安部長及び沖縄県農林水産部水産課長に対しては,回答期限を同年9月30日と定めて意見照会を行った。沖縄県環境生活部長は,同年10月11日,上記意見照会に対する回答のために専門家から助言を得るための「普天間飛行場代替施設建設事業埋立承認申請手続に係るアドバイザー設置要領」を定め(乙A13),同月18日,沖縄県環境影響評価審査会第4期委員である環境分野の専門家13名に助言を依頼し(乙A15),同月19日から同月27日にかけて,同専門家から上記助言を得た(乙A17から21)。前知事は,同年9月30日に第11管区海上保安本部中城海上保安部長及び沖縄県農林水産部水産課長から,同年11月27日に名護市長から,同月29日に沖縄県環境生活部長から,それぞれの意見照会に対する回答を受理した(甲A35の6ないし9)。沖縄県環境生活部長の回答(本件環境生活部長意見)には,次の記載があった(甲A35の8)。
「普天間飛行場代替施設建設事業は,環境保全指針において「自然環境の厳正な保護を図る区域」であるランクⅠと評価され,絶滅が危惧されるジュゴンが生息する沿岸海域で大規模な埋立を行い,生活環境が良好で静穏な地域に米軍飛行場を移設するものであることから,環境影響が極めて大きいと考えられ,可能な限り,環境影響の回避・低減を図り環境保全に万全を期す必要がある。当該事業に係る環境影響評価書に対して述べた知事等の意見への対応状況を確認すると,以下のことなどから当該事業の承認申請に示された環境保全措置等では不明な点があり,事業実施区域周辺域の生活環境及び自然環境の保全についての懸念が払拭できない。」
エ 沖縄県は,平成25年10月4日,沖縄防衛局に対し,第1次質問を送付したところ,同月25日,沖縄防衛局は,同質問に対する回答を行った(甲A36,乙A9,乙A10)。
オ 沖縄県は,平成25年11月8日,沖縄防衛局に対し,第2次質問を送付したところ,同月20日,沖縄防衛局は,同質問に対する回答を行った(甲A37,乙A11,乙A12)。
カ 沖縄県は,平成25年12月4日,沖縄防衛局に対し,名護市長及び沖縄県環境生活部長からの意見に対する見解を求めるとともに,第3次質問を送付したところ,同月10日,沖縄防衛局は,同意見に対する見解を明らかにするとともに同質問に対する回答を行った。当該回答には次の記載がある(甲A142,乙A25,乙A26)。
「本事業に係る環境影響評価に当たっては,実施区域及びその周辺の沿岸域が「自然環境の保全に関する指針」における評価ランクⅠ(自然環境の厳正な保護を図る区域),埋立土砂発生区域の大部分は同指針における評価ランクⅡ(自然環境の保護・保全を図る区域)に指定されていることを十分認識の上,これに配慮し,各環境要素に対し,赤土等の流出防止対策をはじめとする,環境影響を回避・低減するための実行可能な最大限の環境保全措置を講じることとした結果,「沖縄県環境基本計画」の「事業別環境配慮指針」等との整合性は図られるものと評価しました。」
キ 沖縄県は,平成25年12月12日,沖縄防衛局に対し,名護市長及び沖縄県環境生活部長からの意見に対する見解の内容確認を行うとともに,第4次質問を送付したところ,同月17日,沖縄防衛局は,上記確認事項及び同質問に対する回答を行った(甲A39,乙A27,乙A28)。
ク 前知事は,行政手続法5条1項に基づき定めた公有水面埋立免許の審査基準(甲A40)に基づいて本件願書の審査を行い,法4条1項各号要件該当性に係る各審査基準につき,別紙8内容審査及び別紙9別添資料記載のとおり審査して,適合すると判断して(甲A35の1ないし4,乙A29,乙A30),平成25年12月27日,本件願書の承認を行った(本件承認処分)。
(8)  本件環境保全図書(甲A5の7)
ア 本件環境保全図書は,次のとおり,全13章及び資料から成り立っている。
(ア) 第1章 事業者の名称,代表者の氏名,主たる事務所の所在地及び対象事業の名称
(イ) 第2章 対象事業の目的及び内容
(ウ) 第3章 対象事業が実施されるべき区域及びその周囲の概況
(エ) 第4章 方法書,準備書に対する意見及び事業者の見解
(オ) 第5章 環境影響評価の項目並びに調査,予測及び評価の手法
(カ) 第6章 調査結果の概要並びに予測及び評価の結果
6.1 予測の前提 6.2 大気質 6.3 騒音 6.4 振動
6.5 低周波音 6.6 水の汚れ 6.7 土砂による水の濁り
6.8 地下水の水質 6.9 水象 6.10 地形・地質
6.11 塩害 6.12 電波障害 6.13 海域生物
6.14 サンゴ類 6.15 海藻草類 6.16 ジュゴン
6.17 陸域動物 6.18 陸域植物 6.19 生態系 6.20 景観
6.21 人と自然との触れ合いの活動の場
6.22 歴史的・文化的環境
6.23 廃棄物等 6.24 その他知事意見により追加した項目
(キ) 第7章 環境保全措置
(ク) 第8章 事後調査
(ケ) 第9章 総合評価
(コ) 第10章 環境影響評価を委託された者の名称,代表者の氏名及び主たる事務所の所在地
(サ) 第11章 評価書作成に当たっての準備書記載事項との相違の概要
(シ) 第12章 環境影響評価書(補正前)に対す知事意見及び事業者の見解
(ス) 第13章 評価書補正に当たっての評価書記載事項との相違の概要
イ 本件環境保全図書における調査,予測及び評価の結果の概要は別紙10のとおりである。
(9)  本件埋立地の規模及び埋立場所
本件埋立地の規模及び埋立場所は,以下のとおりである(甲A5の1,2,7(2-3~6))。
用途,土地利用計画 普天間飛行場の代替施設として離着陸施設,エプロン,管理・設備施設等及び作業ヤード用地を設ける。
埋立地の規模 代替施設の施設面積 約2平方キロメートル
埋立面積 約1.6平方キロメートル
滑走路 約1200メートル(オーバーラン600メートル)
埋立場所 キャンプ・シュワブ辺野古崎地区に隣接するキャンプ・シュワブ使用水域
(10)  米軍海兵隊
ア 米軍海兵隊は,「即応態勢部隊(A FORCE IN READINESS)」であること,すなわち,危機発生に対する即応性と機動性を有することを最大の特徴とし,その組織は,迅速に派遣可能な柔軟かつ自己完結型の戦闘兵力を提供できる海兵空陸任務部隊「MAGTF:Marine Air-Ground Task Force」という組織編成のあり方に基づいて編成される。「「MAGTF(マグタフ)」は,様々な軍事作戦任務を行うための海兵隊の基本的な組織」であり,任務・作戦の内容に応じ「規模の拡大・縮小が可能で,多用途に使え,広範囲にわたる有事,危機,紛争に対応可能な遠征兵力を戦闘部隊司令官に提供することができる」(甲A176)。そして,連合部隊チームであるMAGTFの指揮及び調整は,「配備前の訓練から,配備中,軍事行動の全ての段階を通じ,単独の指揮官によって行われる。海兵隊は,航空,陸上,兵站の各部隊をまとめ,自立した一つの部隊として運用」されるものであり,「海兵空陸任務部隊は,空から,または海から,あるいはその両方から迅速に展開するために,任務に応じ編制される。どんな任務であっても,一つの海兵空陸任務部隊は展開可能な4つの部隊要素で構成される。司令部隊(CE)(引用注:Command Element),陸上戦闘部隊(GCE)(引用注:Ground Combat Element),航空戦闘部隊(ACE)(引用注:Aviation Combat Element),兵站戦闘部隊(LCE)(引用注:Logistics Combat Element)である」(甲A176,甲A177の1,甲A178,甲A179)。
米軍海兵隊においては,どのような任務においても基本単位であるMAGTFは司令部隊,陸上部隊,航空部隊及び兵站部隊という不可分の4つの要素で構成され,それらの結合したものが自立した一つの部隊として運用される。この編成をとることによって,米軍海兵隊の特徴である優れた機動性と即応性を発揮でき,武力紛争から自然災害に至るまで,種々の緊急事態に迅速に対応する初動対応部隊として,他の米軍(陸軍,海軍,空軍)が果たし得ない,重要な役割を担っている。
イ 米軍海兵隊は,上記のとおり,その即応性・機動性を発揮するため,司令部隊,陸上部隊,航空部隊,兵站部隊の4つの要素により構成され一体的に運用されることを基本としつつ,これによって編成されるMAGTFの規模については,任務・作戦内容に応じて柔軟に変更することとされており,有事,危機,紛争,災害等,広範囲にわたるどのような事態にも柔軟に対応できるようにするため,MAGTFの規模を主に以下の3つに分類している(甲A176,甲A177の1,甲A178,甲A179,乙D1)。
① 海兵遠征軍(「海兵機動展開部隊」ともいう。英文名称:Marine Expeditionary Force 同略称:MEF)
・司令官:中将
・兵力規模:20,000人~90,000人
・継戦能力:60日間
・海兵遠征軍は,大規模な有事や危機に対応するための主要な戦闘組織であり,平時と有事における主要な「常設海兵空陸任務部隊」である。
② 海兵遠征旅団(「海兵機動展開旅団」ともいう。英文名称:Marine Expeditionary Brigate 同略称:MEB)
・司令官:准将
・兵力規模:3,000人~20,000人
・継戦能力:30日間
・海兵遠征旅団は,中規模機動部隊であり,海兵遠征部隊と海兵遠征軍の中間に当たる能力を提供する。いかなる地理条件においても,上陸強襲と陸上での持続的作戦を実施することが可能である。
③ 海兵遠征部隊(「海兵機動展開隊」ともいう。英文名称:Marine Expeditionary Unit 同略称:MEU)
・司令官:大佐
・兵力規模:1,500人~3,000人
・継戦能力:15日間
・前方展開する海兵遠征部隊は場陸即応群の艦船に乗船し,統合戦闘指揮官の下,管轄地域において継続的に活動しつつ海上を拠点とする柔軟な海兵空陸任務部隊を提供する。
ウ 米軍海兵隊の任務のローテーションは,全18か月の期間に及び,その間,大きく分けて,①学校教育や実働訓練を行う段階である「展開前」の段階(約6か月),②前方展開,演習・訓練,実任務等を行う段階である「展開」の段階(約6か月),③即応態勢を維持し,さらに,その後の部隊編成解除,次の展開準備を行う「展開後」の段階(約6か月)の3段階に分けられている。このローテーションは,米軍海兵隊における部隊展開計画(Unit Deployment Program英文略称:UDP)と呼ばれている。UDPの進行の間,米軍海兵隊員は,米国本土における錬成のための訓練や,沖縄県等における練度維持のための訓練を行った上,さらに,洋上に展開して即応態勢を維持する実任務を遂行し,その後,編成の解除と次の展開準備の段階に至る(甲A178,甲A179,乙D1)。中でも,上記②の「展開」の段階においては,編成されたMAGTF(MEF,MEB又はMEU)において,司令部隊,陸上部隊,航空部隊,兵站部隊の各部隊が連携し,共同して前方展開し,訓練や演習,実任務等を行うことから,この「展開」段階において上記4要素が一体的に訓練や任務遂行に当たることは,米軍海兵隊の即応性・機動性の確保の見地からは特に重要である。
そして,米軍海兵隊の部隊運用において,その中心的な役割を担うのが,上記4要素のなかでも,特に,陸上部隊と航空部隊である。米軍海兵隊の作戦上,陸上部隊と航空部隊は不可欠の構成要素であり,その連携は極めて重要である。また,これらの部隊に装備や食料などを補給する兵站部隊(後方支援部隊)の存在も重要である。そして,陸上部隊と航空部隊とは,その連携を深めるために,多くの時間を共有して合同で訓練を実施する必要があり,そのため,陸・空合同で訓練や演習を効果的に実施するためには,両部隊はそれぞれの近傍に所在する必要がある。米軍海兵隊の部隊同士は深い相互依存関係にあり,米軍海兵隊の一体性を維持し,その優れた即応性・機動性を発揮するべく,MAGTFを構成する4要素のなかでも,特に陸上部隊及び航空部隊が,任務地において近傍に所在し,随時の訓練や演習を行い,さらには洋上展開や実任務に当たることが必要的に求められている(甲A178)。
(11)  在沖縄米軍海兵隊の現状等
ア 沖縄県に所在する米軍海兵隊は,第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF:「第三海兵機動展開部隊」ともいう。)の司令部及びその隷下にある第三海兵遠征旅団(3D MEB:「第三海兵機動展開旅団」ともいう。)の司令部,及び第31海兵遠征部隊(31ST MEU:「第31海兵機動展開部隊」ともいう。)等である(甲A176,甲A177の1ないし7,甲A178,甲A179)。上記3つのうち,最大規模のMAGTFである第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)の任務は,太平洋軍司令官に前方駐留・展開兵力を提供することで,フェーズ・ゼロ(平時)活動や戦域安全保障協力活動を行い,有事や緊急事態への対応を支援し,また,既存の作戦計画を迅速に遂行できる態勢を整えておくということにある(甲A176,甲A177の2)。
イ 第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)は,キャンプ・コートニー(沖縄県うるま市)にその司令部を置き,その構成部隊を沖縄県,日本本土(岩国航空基地,キャンプ富士)及びハワイに配置している。第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)は,司令部以外の他の構成部隊として,第一海兵航空団(航空部隊),第三海兵師団(陸上部隊)及び第三海兵兵站群(兵站部隊)によって構成されており,第一海兵航空団の司令部はキャンプ・フォスター(沖縄県那覇市・宜野湾市・うるま市・沖縄市・中頭郡北谷町・北中城村:キャンプ瑞慶覧)に,第三海兵師団の司令部はキャンプ・コートニー(同上)に,第三海兵兵站群の司令部はキャンプ・キンザー(沖縄県浦添市:牧港補給地区)に所在する。また,第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)隷下の第三海兵遠征旅団(3D MEB)の司令部はキャンプ・コートニー(同上)に,また,第31海兵遠征部隊(31ST MEU)の司令部がキャンプ・ハンセン(沖縄県名護市・国頭郡恩納町・宜野座村・金武町)に,それぞれ配置されている(甲A176,甲A177の1ないし13,甲A178,乙D1)。
このうち,第31海兵遠征部隊(31ST MEU)は,米軍海兵隊のなかでも,「唯一,常時前方展開している海兵遠征部隊で,アジア太平洋地域における米国の即応部隊」であり,その任務としては,揚陸即応群の艦船に定期的に乗船し,海上を拠点とする柔軟な海兵空陸任務部隊(引用注:MAGTF)を提供するとともに,略奪された船への接近・乗船・捜索・押収,墜落した航空機や人員の戦術的回収など海上特殊任務を含む急な任務を行い,さらに,人道支援や災害救助にも対応し,中型・大型航空輸送,陸上輸送,医療・歯科衛生業務,物資配給,電力や水の生産,重機や建設作業なども行っている(甲A176,甲A177の7)。
ウ 普天間飛行場から本件新施設等への移転が予定されているのは,第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)の航空部隊である第一海兵航空団隷下の回転翼強襲支援群(ヘリ部隊)であるところの第○海兵航空群であり,普天間飛行場の機能である①オスプレイなどを運用するヘリ部隊による海兵隊陸上部隊の輸送機能,②空中給油機を運用する機能,③緊急時に外部から多数の航空機を受け入れる基地機能のうち,①の機能が本件新施設等へ移転する(甲A5の2,甲A176,甲A177の4,甲A178,甲A179,乙D1)。第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)の陸上部隊である第三海兵師団の所属部隊については,第4海兵連隊,戦闘強襲大隊及び第3偵察大隊がキャンプ・シュワブに配置され,また,第12海兵連隊(海兵砲兵連隊)が,キャンプ・ハンセンに配置されている(甲A177の9及び10,甲A178,甲A179)。上記第○海兵航空群は,上記陸上部隊や兵站部隊の輸送機能を担っており,上記ヘリ部隊の存在によって,他の部隊を迅速に輸送するための航空輸送手段が確保されている。
(12)  普天間飛行場に関する状況等
宜野湾市内には,平成27年度において,幼稚園8施設,小学校9校,中学校5校,高等学校3校及び大学1校の学校等施設や,同年7月末現在で4万1605世帯の住宅,同年9月4日において,75の医療施設や,その他の公共施設等が密集しているところ(甲A41),沖縄県が本土復帰を果たした昭和47年から平成27年3月18日までの間に,105回(年平均2.4回)の航空機による事故が発生している(甲A42)。
沖縄防衛局は,普天間飛行場周辺の騒音問題に対処するため,かねてより周辺地域の住宅防音工事の助成事業を実施しており,これまで約427億円の補助金を支出し,1万世帯以上の防音工事が実施されているが(甲A43の1,2),依然として,航空機による騒音等の被害や,事故等に対する危険感・不安感などの精神的被害に対する苦情が,平成26年度には300件以上,平成27年度は9月までに160件以上が宜野湾市に寄せられた(甲A44の1,2)。
(13)  本件埋立事業における既契約
国においては,本件埋立事業として,平成27年11月までに環境影響評価手続(大気,水,土壌,動植物等の現況調査等)や測量等調査(気象,地質,文化財等調査),既存隊舎等の移設に係る設計及び普天間飛行場の代替施設の護岸・埋立等に係る設計,既存隊舎等の移設工事・解体工事,飛行場配置に係る基本検討等について民間事業者との間で請負契約を締結し,かかる調査,設計や工事等を実施してきたところ,平成27年度末までに当初契約金額約1293億円の契約を締結し,そのうちの約577億円を既に支払っている(甲A228。上記契約のうち,本件埋立事業の枢要な部分を占める護岸築堤等の工事について,当該工事は,ハイブリッドケーソン(鋼材と鉄筋コンクリートを一体化したケーソン)やRCケーソン(鉄筋コンクリート製のケーソン)を製作し,キャンプ・シュワブまで運搬し,設置するものであるが,各対象のケーソンの大きさや構造による所要性能があり,また,施工上必要となる時期に必要な期間,製作ヤードを確保する必要があること等から,受注者は,ヤードの管理者や船舶会社等との間で,あらかじめ契約を締結する必要があり,国(沖縄防衛局)は,平成26年度に当該受注者等との間で,当初契約金額で約567億円の契約を締結した(甲A110)。)。
2  争点1(本件取消処分における取消権の発生要件(審理対象)及びその判断方法)について
(1)  当裁判所の採用する取消権の発生要件及びその判断方法について
ア 特段の根拠規定がない場合
当裁判所は,本件承認処分のような授益的処分の取消し,すなわち侵害的処分については,特段の根拠規定なく,原処分庁が職権で行政処分を取り消すいわゆる自庁取消し(以下,単に「取消し」ともいう。)の要件として,原処分が違法であること,すなわち原処分において要件裁量権が認められる場合には,その行使が逸脱・濫用にわたり違法であると認められることを要し,原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合には取消権はそもそも発生しないものと解する。その理由は以下のとおりである。
まず,個別の根拠規定なくして一般に取消しが認められるとされる根拠は,法律による行政の原理ないし法治主義に求められ,行政行為は法律に従って適法に行わなければならないから,法律に違反する違法な行政行為は効果を持つべきではないところ,「法」の仕組みとして違法な処分も取り消されない限り効力を有すると取り扱われる(公定力)から,違法な処分は取り消さなければならないという点にある。他方,このような「法」の仕組みから,原処分がされることにより,一定の法律状態が形成され,それを前提として関係者が行動することにより様々な法律関係や事実状態が積み重ねられる。このようなことが一般的に想定される以上,原処分に何らの違法がないにもかかわらず,原処分庁において,それらを覆滅させることができるという根拠は見出せない。
そして,このように取消権発生の根拠は法律による行政の原理の回復にあるため特段の法的根拠は必要ではなく,原処分の根拠規定に含まれていると解される。他方,侵害的処分の取消しは,公益目的違反等不当な状態を回復させるために行うとしても上記のような問題は生じず,別問題である。なお,本件承認処分は自然海浜を消滅させる点では二重効果的処分とは認められないが,仮に二重効果的処分としても授益的処分の性質を有する以上,授益的処分取消しと同様である。
これに対し,原処分に不当又は公益目的違反の瑕疵があるにすぎない場合にも取消権が発生するとする考えがある(ただし,このうちかなりのものは,授益的処分と侵害的処分の区別,取消権の発生要件と取消制限の区別が明確でないように思われる。)。しかし,これらが原処分の違法をもたらすものでない限り,上記取消権発生の根拠は存しない。ちなみに,公益目的があることが具体的な処分要件とされていれば,その処分要件の存否を検討した結果,処分要件を欠くと判断されることがあることはもちろんであり,「法」が予定しない目的のために裁量権を行使すれば裁量権の逸脱・濫用となるが,それは原処分に処分要件を欠くのにされたなどの違法があることによって取消権が発生するのであって,公益違反によって直接取消権が発生するわけではない。加えて,不当も公益目的違反もともにあいまいな用語であり,特定の概念を導くことが困難であることから,その恣意的な行使運用を招くおそれがある。
また,被告は,行政不服審査法が原処分の不当をも対象としていることをもって,違法に至らない程度の不当が取消事由に該当すると主張する。しかし,行政不服審査手続は,私人の権利利益の救済を主たる目的とするものであり,私人の申立てによって開始され,原処分庁とは異なる行政庁において,不十分ながらも公正かつ透明な手続により審理判断され,その結果には不可変更力及び実質的確定力が生じると考えられる。自庁取消しはこれとは異なり,もっぱら違法状態等を回復させることを目的とし,申請人が不知の間にその意思に反してなされることがあり,両者が同一であるとは到底いえず,後者の取消事由は前者の審査対象に比べて制限されてしかるべきである。よって,被告の同主張は採用できず,取消権発生要件は原処分に違法の瑕疵がある場合に限られる。なお,被告は,原告が主張する不当を理由とする職権取消しに関する法解釈の一部を認めると陳述するが,法解釈は裁判所の職権事項であり,当事者の自白に拘束されるものではない。また,同法解釈は原告第2準備書面第2の1の記述の一部であるところ,同準備書面は被告が本件取消処分の処分理由として不当は主張しないと明言していた時点で陳述されたものであって,そのこと自体から実際には存しない被告の主張を議論の前提として慮った仮定の主張であり,かつ,実際にも,同準備書面の冒頭に記載されているとおり,原告の主張は,本件の審理対象は,本件承認処分における瑕疵の有無であり,前知事の裁量判断には違法の瑕疵はもとより不当の瑕疵もないというものであること,同書面の結論において,被告がした本件取消処分は裁量権の範囲を逸脱・濫用する違法なものであるとしていることに照らしても,被告が認めると陳述する対象部分は,仮にそうであったとしても不当の瑕疵は存しないとの結論を導くために,被告が主張するであろう法解釈を原告が想定して述べたにすぎない。そして,これらは,被告においても,明白な事柄や原告の主張を合理的に解釈すれば明らかなことである。よって,いずれの点からも,当裁判所は,上記被告の陳述に拘束されるものではない。
イ 本件承認処分の関係法令が上記アと異なる趣旨を有するものであるか
これについては個別法令が処分庁に原処分を行う権限を付与した趣旨・目的を考慮し,また,当該法令に取消権に関する規定が存する場合には,その趣旨に沿って解釈されるべきものである。
そこで検討するに,法が知事に承認権限を付与した趣旨は,国は元々固有の埋立権を有するものの,当該地域に与えることになる埋立て自体から生じる諸般の利害状況の調整や工事から生じる弊害の防止策等については,地方の実情に詳しい知事に判断させることとしたものと解されるのであり,地方自治法上も法定受託事務とされている。そして,公有水面の埋立事業は,水面を陸地に改変する大規模な事業として行われるものであって,埋立場所の環境を大きく変更することになることから,地元の地方公共団体や利害を異にする各種団体,漁業権との調整等が不可避的に求められることとなり,法は,これらに鑑みて,埋立免許・承認処分をする前の手続として,埋立願書等を縦覧に供し,かつ期限を定めて地元市町村の意見を聴くこととしたり(法3条1項,42条3項),埋立対象となる公有水面に権利(漁業権や入漁権など)を有する者の同意を得ることとするなど(法4条3項1号,5条1号ないし4号,42条3項),埋立免許・承認処分を行う都道府県知事が,地元市町村や利害関係人の意見を聴取し,それらの利害調整を経た上で,賛成意見や反対意見を踏まえて最終的に埋立免許・承認処分を行うことを予定している。埋立てはこのように大規模で長期にわたる事業であるから,その性質上,事業者が準備する資金も莫大なものであり,もし工事途中で資金が枯渇して工事が中断すれば事業目的を達成できないだけでなく,想定以上の環境悪化を招くおそれもあるから,法は,これに鑑みて,埋立願書に資金計画書を添付させ(法2条3項3号,42条3項),埋立免許・承認処分をする要件の一つに「出願人ガ其ノ埋立ヲ遂行スルニ足ル資力及信用ヲ有スルコト」を挙げるなどしている(法4条1項6号,42条3項)。また,工事関係者の数も種類も多数に上り,社会経済に広範かつ重大な影響を及ぼす。このように,埋立免許・承認処分は,それが一旦されると,当該処分を基礎として様々な法律行為や事実行為が重層的に形成されるという性質を必然的に有しており,そのため,一旦した法2条1項の免許を取り消しうる場合を詐欺の手段をもって埋立免許を受けたときと定め,かつその時期的限界を竣功認可の告示の日の前に制限した(法32条1項3号)と解される。加えて,国が行う埋立事業については,法は,「免許」(法2条1項)に関する規定のいわゆる読み替え規定によるのではなく,別個に「承認」(法42条1項)に関する規定を置き,必要な限度で免許に関する規定を準用するに止めている。そして,「承認」について準用されていない「免許」に関する規定は,法12条及び38条(免許料の徴収に関する規定),法13条(都道府県知事の指定する合理的期間内に埋立工事を着手して完了することを求める規定),法13条の2のうち埋立区域の縮小又は期間の伸長部分(出願事項の変更に関する規定),法16ないし21条(埋立権の譲渡に関する規定),法22条及び24条(埋立工事が申請願書等のとおり適切に施工されたか否かを検査し,竣功の認可及び竣功認可の告示を前提として土地所有権を与える規定),法23条(竣功認可前に実質的に埋立地の利用を開始することを禁止するための規定),法25条(公共用国有地の下付に関する規定),法26条(土地改良法等の適用に関する規定),法27条,28条及び30条(竣功認可後に埋立地を売却する等により当初の埋立免許を潜脱して利益を得ようとする行為を禁止するための処分制限等の規定),法29条(埋立免許の妥当性を根拠付ける埋立地の用途を竣功認可後に変更することで埋立免許審査を潜脱する行為を禁止するための埋立地の用途変更制限の規定),法32ないし36条(法令違反等に対する監督措置や免許失効条件を定める規定),法39条ないし41条の2(罰則等について定める規定),法47条(国土交通大臣の認可手続等を定める規定),法48条(国土交通大臣の権限の地方整備局長又は北海道開発局長に対する委任について定める規定)である。これらは,国が事業主体であることによるもののほか,法1条1項により,国が公有水面に管理権限を有し,公有水面の埋立権を独占していること,その埋立ての目的もまた国の事業・事務であることを前提として,国の埋立てについては,前記のとおりの観点から,埋立地の実情に精通した都道府県知事の「承認」に係らしめているにすぎないのに対し,国以外の者の埋立ては,公有水面についての埋立権を有していないため,都道府県の知事による「免許」によって埋立権の設定を新たに受けるものであって,公有水面の埋立権を本来有している国に対する「承認」と公有水面の埋立権を国以外の者に対して新たに設定する「免許」では,その性質は異なるといえる。特に,法47条1項において,政令により知事の権限を行使するに際し国土交通大臣の認可を要することとする事由を定めることとしていることは埋立権が本来国に属する機能であることを担保するものといえる。以上総合すると,法42条3項が,知事の監督権に関する法32条を準用しない趣旨は,国の事業においては同条1項各号に規定する事態が生じても直ちに取消権が生じることとはしない意図に出たものと解するのが相当である。よって,法の解釈としても,法42条1項の承認に対する取消権が同承認が違法である場合以外にも生じると解することはできない。すなわち,仮に前記アの論点において不当又は公益違反の瑕疵が取消事由になると解すべきであるとしても,法の解釈としてはこれらが取消事由とはならないと解される。
ウ 小括及び本判決では裁量内違法の有無についても判断すること
当裁判所の解釈は以上のとおりであり,これによれば,本件訴訟の審理対象は前知事がした本件承認処分にその裁量権の範囲を逸脱し,または,濫用した違法があると認められるかである。
ただし,本件の事案に鑑み,被告が主張する以下の意味での不当(裁量内違法)に限り判断を示すことにする。
すなわち,本件承認処分は要件裁量行為であり,処分庁は要件充足性判断において一定の裁量権を有しているから,直接その判断の当否を審査すれば要件を充足していないと認められるにもかかわらず,その認定及び評価を誤って処分を行ったとしても,それが裁量権の範囲内にあり,裁量権の逸脱・濫用にまで至らない場合には違法とならない。しかし,裁量という衣を取り払ってしまえば,それは法定の要件を充足しないにもかかわらずなされた法令違反の処分ということもできる。したがって,これにおいては上記取消権発生の根拠を満たすと見ることもできなくはなく,また,概念として不明確であるとも言えない。
そこで,争点3及び4では,本件承認処分につき,裁量権の逸脱・濫用があり違法と認められるかに加えて,直接その判断の当否を審査し,要件を充足していないにもかかわらずその認定及び評価を誤り処分を行ったものと認められるかを判断する。
(2)  取消権行使における要件裁量の有無等,司法判断の手法について
ア 取消権行使における要件裁量
被告は,原処分である本件承認処分に違法(内容の瑕疵と判断過程の瑕疵)及び不当の瑕疵があると主張しつつも,被告(現知事)が本件取消処分においてした同違法があるとの判断は,本件承認処分におけるのと同様に要件裁量の下に要件の存否を認定するものであり,裁判所は,このような被告のした本件取消処分における本件承認処分に違法や裁量内違法の瑕疵があるとの判断については,それに裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるかを,同じく被告のした本件承認処分に判断過程の瑕疵があるとの判断については,そのように判断した被告の判断過程に不合理性が認められるか否かを判断すべき旨,端的に言えば,本件承認処分に裁量権の逸脱・濫用がなく,すなわち客観的ないし法的には瑕疵がなくとも本件取消処分は適法である旨,そして,その根拠は承認処分に要件裁量が認められる以上,同処分の根拠規定を根拠とする取消権行使の審査も同様であるという点にあると主張する。なお,被告は元々判断代置の方法により原処分を審査できると主張しており,あえて,不当の瑕疵を主張する意義はその旨の被告の判断に裁量権があるという点にあると解される。
しかし,原処分庁に行政処分の取消しを認めた根拠が違法な行政処分を取り消すことによる法律による行政の原理の回復にある以上,原処分に違法の瑕疵があることは取消権の発生要件であり,不可欠である。
にもかかわらず,被告の主張によれば,後日,処分要件の有無を要件裁量権の下に再審査し,要件を欠くと判断すれば,原処分に裁量権の逸脱・濫用がなく,それ自体は違法ではなくても,あるいは原処分がした要件充足の判断がそもそも裁量の範囲内にある上に直接その判断の当否を法的・客観的に審査しても要件を充足していると認められる場合(以下,「裁量内適法」という。)でも,取り消すことができることになる。すなわち,取消権発生の根拠を全く伴わないばかりか,法的,客観的に裁量内適法である原処分に対する再審査の判断が裁量内において誤って違法と判断したものであるとしても有効に取り消せるという不条理を招くことになる。
そして,そのような判断に対して司法審査が及ばないというのであるから,「法」の支配の一内容である司法審査を通じて行政の恣意的権力行使を否定するという機能を損なうものである。「法」の支配は,起源としては国民の権利利益の保障を意図するものであるが,必ずしも私人の個人的利益よりも一般公共の利益が劣後するとはいえず,一般公共の利益の保障のためにも「法」の支配は貫徹されなければならない。ちなみに,国民の権利利益の保護にかかる主観訴訟は,国民が憲法上裁判的保護を受ける地位にあるため,訴訟要件を具備すれば特段の規定なくして違法な処分を争って出訴することができるのに対し,行政機関は,そのような地位を有しないため,特別の規定により客観訴訟が認められる場合であることを要するが,いずれも違法な処分を取り消すことにより,原状を回復し適法性を維持することが中核的機能である。よって,主観訴訟であると客観訴訟であるとでこのような点に差異があると言うことはできない。
さらに,裁量とは,法律による行政の原理のもとに,立法者が執行者である行政に対し,執行過程において自己決定(裁量)の余地を認めて委任したものであるから,いかなる範囲(審査過程のどこにかも含めて)で裁量が与えられたかを個別法の解釈として明らかにさせた上で,これに対する裁判所の統制は委任の趣旨目的に照らして委任の範囲を超えたか否かに止まるというものである。このような裁量及びその審査のあり方という点でも,対私人,対私益にかかる事案に限って審査が厳格に行われ,対国,対公益であれば,裁量が広くなるという根拠もない
よって,被告のした本件承認処分に瑕疵があるとの本件取消処分における判断に要件裁量が認められるとの主張は採用できない。
イ 地方自治権による制約
(ア) その他,被告は,地方自治権・自治体裁量権を根拠に司法権の限界・特別の配慮の必要があるとも主張する(第2の4(1)ア(ア)b①,②)。同主張は,具体的にいかなる効果を伴うというのか明確ではないものの,上記アの根拠あるいは,本件訴訟において司法審査の及ばない,あるいは,被告のした本件取消処分を維持するような解釈・判断をすべきであるとの趣旨とも解しうるので,以下判断する。
そもそも,地方分権推進法並びに地方自治法平成11年及び24年改正の趣旨は,国と地方の関係を上下主従の関係から対等協力の関係にする,即ち,行政機関内部での不透明で公正さの担保のない力関係,利害関係で決まるようなシステムから,いわゆる透明で割り切れたシステムにする,すなわち地方公共団体が,地域に関する事務を自らの判断で処理しその結果に責任を負う,いわゆる自己決定・自己責任の権限と責任を負う国とは別の統治機関であることを前提に,国は国際社会における国家の存立に関する事務等を,地方公共団体は地域住民のための自治団体として地域の利害に関する事務を担当することにより,それぞれの事務分担を明確に分けることにあった。とはいっても,本件のように国の事務と地方の事務の双方に深く関わるものがあり,また,本来は地方の事務に当たるとしても全国的に統一的に運用されるべきものがあるなど,双方の利害が対立し法解釈に関する意見が異なることがある。そのような場合にそれぞれが独立の機関として対立が続けば,行政が服すべき法的適合性原則に反する状態が解消できず,国地方の関係が不安定化し,ひいては地方分権の流れが逆流し国の権限を強化すべきであるとの動きが起こることを懸念して,その解決方法が設けられた。そして,そこでも透明で割り切れたシステムにするという観点からは,行政内部での不透明な調整ではなく,国の関与の手続を明確に規定し,その手続の中で解決がつかない場合は,第三者であることから中立的で公平な,法律上の争訟を裁判する法律解釈の専門家であることから適正な判断がそれぞれ期待でき,かつ透明で安定した手続を有する裁判所に判断させることとしたものである。そして,是正の要求や指示がされた場合,それは,国と地方との間に公益実現のための法解釈・適用に争いがあるということであり,それは重大な事態であり,迅速に解決される必要があるからこそ,地方自治法は審査申出及び提訴に期間制限を設け,かつ,迅速な審理手続を定めたものであるし,また,仮に地方公共団体の事務処理が違法であればその違法状態は速やかに解消されなければならず,仮にそれが適法であれば,違法な是正の指示等により地方公共団体が適法な事務処理を改めなければならない法的義務を負わされているという状態を速やかに解消しなければならない。したがって,裁判所としては,是正の要求や指示がされ地方公共団体がそれに従わないことから地方自治法所定の訴えが提起された場合は,所定の手続に沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされているのであり,それを全うすることこそが上記のとおり地方自治法改正の趣旨にかなうゆえんであって,国と地方の双方の利害が対立する事案において,判断を回避したり,地方公共団体に有利な結果となるようにすることが求められているわけではない。
そこで,本件について検討するに,まず,司法審査の対象という観点からは,地方自治法により認められた訴訟形態として適法に訴えが提起された以上,裁判所に審査権限があることに疑いの余地はない。
次に,裁量統制の手法については,裁量は前記のとおり立法権者の権限により規定されるものであるから,地方自治法及び法の解釈によるべきことになる。そして,地方自治法は,上記のとおりの趣旨で国と地方公共団体の関係が併立的協力関係とし,上下や指揮監督関係を否定し,国の関与には法の根拠が必要であり,比例原則の適用なども定めるものの,本件訴訟は地方自治法が定める司法判断を求める手続であり,その中でも代執行訴訟に比べ,執行力を持たず被告の不作為が違法であることを確認することによって被告に任意に履行させるというものであり,制度検討過程において,地方公共団体が不作為の違法を確認する判決を受けてもそれに従わないのではないか,そうなれば,制度が無意味になるというだけでなく,裁判所の権威まで失墜させることになり,ひいては日本の国全体に大きなダメージを与えてしまうとの懸念が表明されるほどマイルドな訴訟形態であること,本件が地方公共団体が処理する事務とはいえ,国が本来果たすべき役割に係るものであって,国においてその適正な処理を特に確保する必要があるとされる法定受託事務に関するものであるから,国の関与が比較的強く認められている類型であり,法定受託事務の合法性の確保が求められること,さらにいえば,本件訴訟は立法技術上機関訴訟とされたものの,その性質が本来抗告訴訟である場合もありうるところ,本件は,国の事業にかかる埋立承認が取り消されたことからその取消しを指示した事案であり,本来的には行政行為の効力に関する不服として抗告訴訟に類する利益状況にあるといえることからして,被告の取消権行使に要件裁量その他被告の判断の司法への優越を認めるべき根拠はない。法の解釈としても,前記(1)の説示に照らして同様である。被告の主張には理由がない。
(イ) 被告は,埋立承認が公有水面の廃止を内容とする二重効果的行政処分であることや,法の昭和48年改正で公有水面による利益を保護することとして埋立てに対する規制強化を図ったことを指摘して,被告が承認を拒否する方向に強い裁量権を有するとの趣旨を主張する(第2の4(1)ア(ア)b③)。
しかし,二重効果的行政処分であることは双方の利害を調整する必要があるとは言えても直ちに公有水面による利益を優先させるということにはならず,法の解釈の問題である。そして,上記改正後の法は,公有水面が維持されることによる利益と埋立ての必要性との比較考量を第1号要件に照らして判断することを求めるものであり,上記改正前の法が埋立てを進める方向に偏していたものを中立に修正したとはいえるものの,逆に公有水面の維持を重視し,埋立てを認めないのを原則とするようにしたとは読み取れない。よって,被告の上記主張は採用できない。
(3)  判断過程の瑕疵の主張について
被告の主張によれば,原処分における判断結果が違法であるということとは別に,これと独立して,考慮すべきでない事情を考慮したり,重く考慮すべき事情を軽く考慮するといった判断過程の瑕疵があれば判断結果が正しくとも取消事由となるというのである。当裁判所も判断権者に意思能力が欠けていたというような事情が独立した違法事由となることまで否定するつもりはないが,被告主張の判断過程の瑕疵は,元来,要件裁量行為に対する審査密度の向上のため,その判断過程を統制する手法であって,判断結果の当否と切り離すことができないものである。したがって,被告の主張は,この点において既に採用できず,争点3及び4における被告の同主張につき判断の必要はないが,念のため判断することとする。
3  争点2(第1号要件審査の対象に国防・外交上の事項が含まれるか)について
(1)  第1号要件は,埋立て自体及び埋立地の用途が国土利用上の観点からして適正かつ合理的なものであることを要するとする趣旨と解され(甲B15),承認権者がこれに該当するか否かを判断するに当たっては,国土利用上の観点からの当該埋立ての必要性及び公共性の高さと,当該埋立て自体及び埋立て後の土地利用が周囲の自然環境ないし生活環境に及ぼす影響などと比較衡量した上で,地域の実情などを踏まえ,総合的に判断することになる。
(2)  前記のとおり,第1号要件は当該埋立ての必要性及び公共性の高さを埋立てに伴う種々の環境変化と比較するものであるから,埋立てに係る事業の性質や内容を審査することは不可欠であり,そのことは,それが国防・外交に関わるものであっても何ら変わりはない。
そして,埋立承認が法定受託事務であるとはいえ,それは地域の実情を踏まえて判断する必要があることから,知事にその判断をさせることにしたものであるから,その意味ではそれは「地域における事務」(地方自治法2条2項)ともいえる。
以上により,知事の審査権は国防・外交に係る事項に及ぶものと解するのが相当である。
これに対し,原告は前記第2の4(2)アのとおり主張する。しかし,従来普通地方公共団体の処理することのできない国の事務として列挙されていた規定(平成11年法律第87号による改正前の地方自治法2条9項)が削除され,地方自治法2条2項は,「普通地方公共団体は,地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。」と規定しており,普通地方公共団体は地域における公共性のあるあらゆる事務を処理することとなった。そして,普通地方公共団体の事務処理に関しては,法律又はこれに基づく政令によらなければ,同法245条で定める国の関与を受けることはなく(同法245条の2),今後の立法の指針としてではあるが,国は,普通地方公共団体が,その事務処理に関し,国の関与は,その目的を達成するために必要最小限度のものとするとともに,普通地方公共団体の自主性及び自立性に配慮しなければならないとし(同法245条の3第1項),国は,できる限り,普通地方公共団体が法定受託事務の処理に関し,同法245条3号に規定する国の関与をすることのないようにしなければならないとされた(同法245条の3第2項)。
以上の法定受託事務等についての地方自治法の改正経緯に加え,法定受託事務である(法51条1号,42条1項)本件承認処分の要件審査である第1号要件の審査において,原告が第1号要件の審査対象外であると主張する国防・外交に関する事項を除外する定めがないことからすれば,上記第1号要件の審査対象に関する原告の主張を採用することはできない。
さらに,原告は知事が国防・外交に関する事項を審査する場合は,国の判断が明らかに合理性を欠いていると認められない限りはこれを覆すことはできないとも主張する。
この点確かに国防・外交に関する事項は本来地方公共団体が所管する事項ではなく,地域の利益に関わる限りにおいて審査権限を有するにすぎない。そして,地方公共団体には,国防・外交に関する事項を国全体の安全や国としての国際社会における地位がいかにあるべきかという面から判断する権限も判断しうる組織体制も責任を負いうる立場も有しない。ところが,例えば,軍事基地は,軍事行動に出ようとする者に対する抑止力であると言っても,目に見えるものではなく,周辺住民にとって身近なものではなく,かえって,有事には弾道ミサイル等による攻撃の対象となりうるなど,武装テロ集団が活動するような危険がない限り,周辺住民にとっていわば単なる迷惑施設であろうし,それが自国の指揮下にない他国の基地であれば一層のことである。そのようなことから,本来知事に審査権限を付与した趣旨とは異なり,地域特有の利害ではない米軍基地の必要性が乏しい,また住民の総意であるとして40都道府県全ての知事が埋立承認を拒否した場合,国防・外交に本来的権限と責任を負うべき立場にある国の不合理とは言えない判断が覆されてしまい,国の本来的事務について地方公共団体の判断が国の判断に優越することにもなりかねない。これは,地方自治法が定める国と地方の役割分担の原則にも沿わない不都合な事態である。そうすると,国の判断が明らかに合理性を欠いていると認められない限りはこれを覆すことはできないとまでは言えないものの,国の判断が不合理とまでは言えないのであれば知事はこれを尊重すべきであるとはいえる。したがって,国の説明する国防・外交上の必要性について,具体的な点において不合理であると認められない限りは,そのような必要性があることを前提として判断すべきである。
4  争点3(本件承認処分の第1号要件欠如の有無)について
(1)  第1号要件の判断は,上記3(1)のとおり,様々な一般公益の取捨選択あるいは軽重の判断は高度の政策的判断に属するとともに,専門技術的な判断も含まれるから,承認権者である都道府県知事には広範な裁量が認められるものと解される。そして,このような行政庁の広範な裁量に委ねられている判断の適否を裁判所が審査するに当たっては,当該判断が裁量権の行使としてされたことを前提として,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により,重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成18年判決参照)。
この点,被告は,本件承認処分の第1号要件の審査における違法性について,内容の瑕疵と判断過程が合理性を欠いているという判断過程の瑕疵ととらえ,司法審査の対象は,いずれも被告がした本件取消処分における本件承認処分に瑕疵があるとの判断であり,①内容の瑕疵についての判断については,裁量行為として裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか,②判断過程の瑕疵については,その瑕疵があると判断過程において不合理性が認められるか否かであると主張するが,前記のとおり,判断対象は取消要件である本件承認処分に違法の瑕疵があるか否かであり,また,上記②についての被告の主張は本件承認処分の第1号要件の審査における考慮要素の選択や考慮要素の評価に関するものであり,上記判断と異なり,上記①及び②のように分けて判断する必要性も認められないので,上記被告の主張は採用しない。
また,被告は,本件取消処分において被告の判断が国その他の機関において尊重されなければならないとも主張するが,それは立法者が付与した裁量権の範囲に限られるものであり,それを超えるものでないことは既に説示したことから明らかである。
そこで,本件承認処分の第1号要件の審査について,重要な事実誤認等により,その内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められ,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといえるか検討する。併せて,裁量内違法の存否について判断するが,これについては,被告に主張立証責任があると言うべきであるから,具体的な主張に対して検討を加えれば足りるのであるが,その前提として,前知事の第1号要件についての判断全体についても念のため検討しておく。
(2)  前知事の判断の検討
ア 埋立必要理由書の埋立ての動機と必要性について
(ア) 証拠(甲A5の2)によれば,沖縄防衛局が前知事に対して本件埋立出願に際して提出した埋立必要理由書(以下,「本件埋立必要理由書」という。)には,埋立ての動機と必要性について,次のとおり記載されていることが認められる。
「わが国の周辺地域には,依然として核戦力を含む大規模な軍事力が集中しているとともに,多数の国が軍事力を近代化し,軍事的な活動を活発化させるなど,安全保障環境は一層厳しさを増している。
こうした中,わが国に駐留する米軍のプレゼンスは,わが国の防衛に寄与するのみならずアジア太平洋地域における不測の事態の発生に対する抑止力として機能しており,極めて重要である。
また,沖縄は南西諸島のほぼ中央にあることやわが国のシーレーンにも近いなど,わが国の安全保障上,極めて重要な位置にあるとともに,周辺国から見ると,大陸から太平洋にアクセスするにせよ,太平洋から大陸へのアクセスを拒否するにせよ,戦略的に重要な位置にある。
こうした地理的な特徴を有する沖縄に,高い機動力と即応性を有し,様々な緊急事態への対処を担当する米軍海兵隊を初めとする米軍が駐留していることは,わが国の安全のみならずアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与している。
普天間飛行場には,米軍海兵隊の第三海兵機動展開部隊隷下の第1海兵航空団のうち第○海兵航空群などの部隊が駐留し,ヘリなどによる海兵隊の航空輸送の拠点となっており,同飛行場は米軍海兵隊の運用上,極めて大きな役割を果たしている。
他方で,同飛行場の周辺に市街地が近接しており,地域の安全,騒音,交通などの問題から,地域住民から早期の返還が強く要望されており,政府としても,同飛行場の固定化は絶対に避けるべきとの考えであり,同飛行場の危険性を一刻も早く除去することは喫緊の課題であると考えている。
わが国の平和と安全を保つための安全保障体制の確保は,政府の最も重要な施策の一つであり,政府が責任を持って取り組む必要がある。日米両政府は,普天間飛行場の代替施設について,以下の観点を含め多角的に検討を行い,総合的に判断した結果,移設先は辺野古とすることが唯一の有効な解決策であるとの結論に至った。
【国外,県外への移設が適切でないこと】
・中国の軍事力の近代化や活動の活発化など厳しさを増す現在のわが国周辺の安全保障環境の下,在沖海兵隊を含む在日米軍全体のプレゼンスや抑止力を低下させることはできないこと,特に,在日米軍の中でも唯一,地上戦闘部隊を有している在沖海兵隊は抑止力の一部を構成する重要な要素であること
・潜在的紛争地域に近い又は近すぎない位置が望ましいこと,また,沖縄は戦略的な観点からも地理的優位性を有していること,
・米軍海兵隊は,司令部,陸上・航空・後方支援部隊を組み合わせて一体的に運用する組織構造を有し,平素から日常的に各構成要素が一体となり訓練を行うことで優れた機動力・即応性を保ち,武力紛争から人道支援,自然災害対処に至るまで幅広い任務に迅速に対応する特性を有しており,こうした特性や機能を低下させないようにすることが必要であること。例えば,普天間飛行場に所属する海兵隊ヘリ部隊を,沖縄所在の他の海兵隊部隊から切り離し,国外,県外に移設すれば,海兵隊の持つこうした機動性・即応性といった特性・機能を損なう懸念があること
・普天間飛行場の危険性を早期に除去する必要があり,極力短期間で移設できる案が望ましいこと
【県内では辺野古への移設以外に選択肢がないことについて】
・滑走路を含め,所要の地積が確保できること
・既存の提供施設・区域を活用でき,かつ,その機能を損わないこと
・海兵隊のヘリ部隊と関係する海兵隊の施設等が近くにあること
・移設先の自然・生活環境に最大限配慮できること
また,辺野古への移設にあたっては,空中給油を行う機能や緊急時に多数の航空機を受け入れる機能は県外へ移転することとしており,移転後の基地の規模は現在の半分以下とするなど,着実な負担軽減を図っているところである。
以上のとおり,政府は,普天間飛行場の固定化はあってはならないとの立場から同飛行場の危険性除去が緊急の課題と考えている。現在の日米合意に基づき,移設を着実に実施することで,在日米軍の抑止力を維持しつつ,沖縄の負担軽減を実現することにより,施設・区域の安定的な使用を確保し,わが国の安全のみならずアジア太平洋地域の平和と安定に大きく寄与できることから,本事業は極めて必要性が高いものである。」
(イ) 以上の記載内容は,前記認定事実に照らして,特段具体的に不合理な点があるとは認められず,後記(3)において判断したとおり,被告の主張には理由がないことから,上記のような埋立ての必要性があるものと認めるのが相当である。
イ 本件承認処分における審査
(ア) 審査経過について
認定事実(7)によれば,前知事は,本件埋立必要理由書を伴う本件願書を受け,関係市町村及び関係機関に意見を求めるとともに,沖縄県が,4度にわたって,沖縄防衛局に対して質問を行い,別紙8内容審査及び別紙9別添資料記載のとおり,審査を行い,本件承認処分を行っているところ,第1号要件審査については,前知事は,別紙8内容審査1ないし5頁及び別紙9別添資料1ないし3頁のとおり,審査している。
(イ) 審査結果
上記の第1号要件審査の内容並びに認定事実(3)及び(12)によれば,その審査内容は,普天間飛行場の危険性の除去を喫緊の課題とし,同飛行場の移転先の確保が必要であり,本件新施設等は住宅地上空の飛行を回避するために沿岸域を埋め立てて建設するものであり,また,キャンプ・シュワブの一部を利用するものであって,かつ,本件新施設等は普天間飛行場施設の約半分の面積であり,埋立区域は制限区域であるキャンプ・シュワブ水域内にある,飛行状況に伴う大気,水質の予測結果は環境基準を充足し,それらによる生物等への影響も軽微と考えられ,飛行場の騒音も一部地域で環境基準相当を超過する予測があるものの住宅地域では超過していないとして要件該当性を認めているものである。
(ウ) 小括
上記審査経過及び結果は,前記ア(ア)の国の国防・外交上の判断に具体的に不合理な点があるとは認められないかを検討した上,人口が密集する宜野湾市の中心部を占め,周辺住民を日々騒音と事故の危険にさらし続けている普天間飛行場が返還されることを前提とし,本件新施設等がそのための代替施設であること,その建設範囲がもともと米軍に提供されていた土地,海域であること,岬の先端周囲を埋め立ててV字型の滑走路を設けることにより,離発着時における民有地上空の飛行が回避され,騒音や事故の危険が軽減されるところ,その面積が普天間飛行場の半分に縮小されることを考えれば,本件新施設等を建設する必要性は高く,海水面が失われること,それに対する保全策,沖縄に米軍基地が集中するに至った経緯や現在もそれが改善されていないこと,本件新施設等の周辺住民を日々一定の騒音と事故の危険にさらすことも考慮した上で,沖縄県全体としては,一定程度の改善であることは否定しがたい事実として,第1号要件具備を肯定したものであり,その前提とした事実及びその評価に誤りや不合理な点があるとは認められない。
(3)  被告の主張に対する判断
ア 埋立ての必要性に根拠がないことについて
(ア) この点,被告は,本件埋立必要理由書にある在沖海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力の維持の必要性について実証的根拠が示されておらず,本件埋立事業による不利益を正当化するに足りる埋立ての必要性を肯定できないと主張する。
しかし,抑止力とは,「侵略を行えば耐え難い損害を被ることを明白に認識させることにより,侵略を思いとどまらせるという機能を果たすもの」(甲A190の1,2)であり,我が国において,防衛政策における最も基本的な概念であり,国家の安全保障における「第1の目標は,我が国の平和と安全を維持し,その存立を全うするために,必要な抑止力を強化し,我が国に直接脅威が及ぶことを防止するとともに,万が一脅威が及ぶ場合には,これを排除し,かつ被害を最小化することである」とされている(甲A187)ところ,米軍海兵隊は,MAGTFとして編成される司令部隊,陸上部隊,航空部隊,兵站部隊の4要素が一体として運用されることにより,その最大の特徴である即応性や機動性を発揮することから,普天間飛行場の全面返還に伴い,同飛行場に所在する米軍海兵隊の航空部隊のみを切り離し,沖縄県外に移設すれば,米軍海兵隊の任務遂行能力に支障を生じることとなり,その結果,米軍海兵隊がその重要な一部を担っている抑止力が低下することとなるので,米軍海兵隊が,MAGTFとしての一体性を保持しつつ,我が国の戦略的要衝としての地理的優位性を有する沖縄県に駐留することは,我が国の安全保障のための抑止力として機能しているものである(甲A176,甲A177の1,甲A178,甲A179)。
(イ) また,被告は,海兵隊の一体的運用の必要性,沖縄の地理的優位性を根拠として県外等移設が適切でないとすることにつき実証的な説明は一切なく,本件埋立事業による不利益を正当化するに足りる埋立ての必要性を認めることはできないと主張する。
しかし,認定事実(10)及び(11)のとおり,普天間飛行場から本件新施設等への移転が予定されているのは,第三海兵遠征軍(Ⅲ MEF)の航空部隊である第一海兵航空団のうち,第○海兵航空群であり,米軍海兵隊の部隊運用において,任務,作戦の実働部隊となるのは陸上部隊,航空部隊,兵站部隊であるところ,普天間飛行場に配置されている第○海兵航空群は,陸上部隊や兵站部隊の輸送機能を担っており,同ヘリ部隊の存在によって,他の部隊を迅速に輸送するための航空輸送手段が確保されている。そして,原告は,普天間飛行場に所在する米軍海兵隊の航空部隊を沖縄県外に移転し,他の3部隊(司令部隊,陸上部隊及び兵站部隊)と切り離すことについては,米軍海兵隊が確保すべき必要最低限の初動対応能力を阻害し,又は制限することとなり,さらに,一体性を維持するための合同訓練等にも支障を来たすことになる結果,米軍海兵隊の一体性は維持されず,その最大の特徴である即応性・機動性を失わしめるという問題があり,現実の県外・国外移設の検討の結果としても,普天間飛行場の航空部隊を県外・国外に移転することについては,その支援・連携対象である陸上部隊から一定の距離以上に離れることから,米軍海兵隊の運用に支障を来たすことが,確認されているのであり,県外・国外移設が現実的な方策でないとしている。また,沖縄の地理的優位性については,①南西諸島を結んだ線は,おおむね,東シナ海と太平洋とを画する線を形成し,東シナ海から海路で太平洋にアクセスしようとすれば,南西諸島の近海を通過することになり,その逆も同様であり,南西諸島は,地理的・戦略的にみて,我が国の領土領海の防衛,ひいては我が国の安全保障上も重要な意義を有していることから,これらの島嶼の防衛体制の確保が,極めて重要な課題である,②シーレーンとは,「国家がその存立のために,他国によって脅かされてはならないと見る海上の交通路」(甲B27)をいい,特に,我が国の通商上,戦略上,重要な価値を有し,有事に際して我が国の存立を維持するため確保すべき海洋上の航路のことであり,我が国の主要なシーレーンは,ペルシャ湾及びホルムズ海峡,紅海及びアデン湾を起点とし,インド洋を経て,マラッカ海峡を通過し,南シナ海を経て,南西諸島地域を北上し,本州近海に至る航路であり(甲A187),我が国のシーレーンにおける航行の自由及び安全を確保することもまた,我が国の存立にとっては,極めて重要な課題であるところ,これに隣接する位置にある南西諸島,ひいてはその中心部にある沖縄本島は,シーレーンの安全確保という見地からも,重要な地理上の意義を有する,③我が国の周辺領域である北東アジア地域には,朝鮮半島や台湾海峡といった,我が国の安全保障に影響を及ぼす潜在的な紛争発生地域が存在しており,これらの地域において危機が発生した場合には,かかる危機に迅速かつ効果的に対応可能な体制を整えておくことは,我が国の安全保障上,重要な課題であるところ,沖縄本島は,いずれの方面の潜在的紛争地域に向かっても,比較的短時間で迅速な軍事的対応が可能な位置にありながらも,それらの地域から一定の距離を保っているので,南西諸島及びその周辺海空領域は,我が国の存立や安全保障の確保といった見地から,重要な戦略的・地政学的意義を有する領域であるところ,そのほぼ中央に位置する沖縄本島は,我が国の戦略的要衝として位置付けられる,④第三海兵遠征軍の管轄地域と配備及び南西諸島の各島嶼部の防衛の観点から,東アジアに展開する米軍海兵隊の配置場所としても地理的優位性があるとしている。そして,証拠(甲A178,甲A179,甲A189,甲A188,甲A196の1~3,甲A208)によれば,沖縄と潜在的紛争地域とされる朝鮮半島や台湾海峡との距離は,ソウルまでが約1260kmであり,船舶での移動時間が約34時間,オスプレイの固定翼モードでの速度時速230マイル(368km)で約3.5時間となり,台北までが約630kmであり,船舶での移動時間が約17時間,オスプレイで約2時間となること,他方,北朝鮮が保有する弾道ミサイルのうちノドンの射程外となるのは我が国では沖縄などごく一部であること,南西諸島は,我が国の海上輸送交通路に沿う位置にあり,沖縄本島はその中央にあること,これに対し,グアムからは,ソウルまでが約3220km,台北までが約2760km,沖縄までおよそ2200kmであること,また,尖閣諸島をはじめとする先島諸島周辺では,中国軍及び中国公船の動きが活発化していることが認められる。このような事実並びに認定事実(10)及び(11)に照らして,上記原告の説明内容に前提事実の誤りや判断に不合理な点があるとは認められない。
また,被告は,普天間飛行場に配備された航空機部隊は輸送機を中核とし,強襲揚陸艦に搭載されて艦船からの輸送及び強襲揚陸に対する支援を行うことを任務とし,揚陸艦の母港は長崎県佐世保基地であるから,沖縄から海兵隊が展開するには佐世保基地から回航した揚陸艦が沖縄に到着するのを待たなければならないとして,沖縄から海兵隊航空基地を移設しても海兵隊の機動力・即応力が失われることはない旨具体的に指摘する。
しかしながら,証拠(甲A176,甲A178,甲A179,甲A184,甲A185)によれば,在沖縄米軍は,潜在的紛争地域に比較的近い位置にあり,航空機による展開も想定して,距離的近接性による対応の迅速性確保は軍事上きわめて重要であること,その中でも海兵隊は武力紛争から自然災害まで種々の緊急事態に迅速に対応する初動対応部隊として他の軍種が果たせない重要な役割を持っており,強襲揚陸作戦ばかりでなく,海上阻止行動,対テロ作戦や安定化作戦,平時における人道支援・災害救助,敵地における偵察・監視,人質の奪還等の特殊作戦や危機発生時の民間人救出活動も任務としていること,これらの場合には在沖縄米軍海兵隊独自の活動として強襲揚陸艦とは別に行うことも想定していること,大規模な軍事行動の場合は佐世保基地の米海軍艦隊が2,3日をかけて沖縄に来航して輸送するが,沖縄の第三海兵遠征軍は,迅速な展開のできる自己完結型の戦闘部隊として,陸,空,兵站の各兵力を併せ持ち,他の軍種による支援を待つことなく,海兵隊の有する航空機部隊により,北東アジアと東南アジアをつなぐ諸島のどこへでも,必要な場所へ沖縄の戦闘地上部隊や支援部隊を迅速に輸送することができ,そのことを想定していること,現に,平成25年11月8日にフィリピン中部で発生した台風による被害に対する救援作戦において,在沖縄米軍海兵隊の航空部隊が普天間飛行場からフィリピンまで他軍の支援を受けることなく陸上部隊を輸送したことが認められる。そして,これらの事実に国際テロの拡大,海賊行為の発生,海洋における経済権益等をめぐるグレーゾーンの拡大,北朝鮮による核兵器や弾道ミサイルの開発,島嶼部への攻撃を想定して南西諸島の自衛隊配備を進めるなどの昨今の情勢(甲A194の1,2,甲A195,甲A196の1ないし3)を併せれば,強襲揚陸艦とは別に在沖縄米軍海兵隊独自の活動として海兵隊の有する航空機部隊により行う機能も在沖縄米軍海兵隊における重要な任務であると認められる。
そうすると,被告の上記指摘はその前提において海兵隊の持つ一部の任務に該当しうるに過ぎず,その余の重要な任務については,海兵隊航空基地を沖縄本島から移設すれば海兵隊の機動力・即応力が失われることになるから採用することができない。
以上によれば,被告の上記主張に加え,被告のこの点についての他の主張を考慮したとしても,前記判断を左右するものではない。
(ウ) 被告は,普天間飛行場の返還の必要性から本件新施設等の設置の必要性を導くことはできないとして,現実に普天間飛行場が返還される時期はかなり先のことであり,それまでは普天間飛行場を使用することにより海兵隊の機能に変更は生じない等と主張する。しかし,そもそも,認定事実(4)アのとおり,普天間飛行場の返還合意は沖縄県内の米軍施設及び区域内に新たにヘリポートを建設することが前提とされており,これが満たされなければ,返還合意自体が履行されない関係にあり,かつ,普天間飛行場が返還されることとなるまでは本件新施設等が米軍基地として使用されるわけではないから前者と後者は二者択一の関係にあること,その間に上記合意に基づく本件新施設等による一部機能の代替以外の方法で普天間飛行場が返還される可能性,すなわち,前記ア(ア)のとおり,一体的運用が必要とされる以上,海兵隊全体が沖縄に駐留する必要性が失われるか,本島近辺に他の代替地を確保する必要性があるところ,被告からそのような可能性を示唆する具体的な根拠は示されていない。むしろ,認定事実(4)イないしタのとおり,平成11年以降,普天間飛行場の代替施設を辺野古沿岸に設置する旨の閣議決定以来,これを前提に検討が進められ,国において,県外移設を表明し検討してみても,結局は,普天間飛行場の返還のためには本件新施設の設置が唯一の解決策とされるなどしたこれまでの移転を巡る経緯や前記昨今の情勢からしてその可能性があるとは考えにくく,本件新施設等が設置されなければ,普天間飛行場が返還されない蓋然性が有意に認められる。そうなると,認定事実(5)のとおり,予定される普天間飛行場跡地利用による沖縄県全体の振興や多大な経済的効果も得られない。他方,仮に将来海兵隊全体が沖縄に駐留する必要がなくなるとすれば,そのときは,本件新施設等もキャンプ・シュワブも必要がなくなり,返還されることになるはずである。米軍において沖縄駐留の必要がなくなったときにあえて駐留を継続することがないことは当然であり,認定事実(1)ア(カ)並びに(4)カ及びコのとおり,元は海兵隊の一部グアム等への移転に伴う基地用地の返還も本件新施設等の設置と一体のものとされていたものを,普天間飛行場以外の用地については,本件新施設等の設置と切り離して進行させるとしたこと,普天間飛行場についても,その一部機能の本土移転を本件新施設等の設置と切り離して先行実施をしたことから裏付けられる。
これを要約すると次のとおりである。
①普天間飛行場の騒音被害や危険性,これによる地域振興の阻害は深刻な状況であり,普天間飛行場の閉鎖という方法で改善される必要がある。しかし,②海兵隊の航空部隊を地上部隊から切り離して県外に移転することはできないと認められる。③全在沖縄米軍海兵隊を県外に移転することができないという国の判断は戦後70年の経過や現在の世界,地域情勢から合理性があり尊重すべきである。④そうすると県内に普天間飛行場の代替施設が必要である。⑤その候補として本件新施設等が挙げられるが,他に県内の移転先は見当たらない。よって,⑥普天間飛行場の被害を除去するには本件新施設等を建設する以外にはない。言い換えると本件新施設等の建設をやめるには普天間飛行場による被害を継続するしかない。
(エ) これに対し,被告は次のとおり主張する。すなわち,①本件新施設等の建設には長い年月を要し,その間は普天間飛行場が継続使用され被害が継続する。②普天間飛行場による騒音被害や危険性は,平成8年及び平成24年に日米安全保障協議委員会で合意された航空機騒音規制措置という日米両国間の地位協定に関わる合意事項が遵守されていないことにより深刻化しているのであるから,これを遵守させることによりそれを防止できる。③本件新施設は恒久的な強度を有する基地であり,名護市の地域振興を恒久的に阻害する。しかし,次に述べるとおりいずれも採用できない。①について,それはより短期間で返還される他の手段があることが前提であるはずであるが,上記のとおり不可能である。また,その間は本件新施設等が供用されることはないから,米軍基地が増えることにはならない。②について,同規制措置は,全て「できる限り」とか「運用上必要な場合を除き」などの限定が付されており,そもそもこれが遵守されていないとの確認は困難である(甲A90ないし92)から,被告の主張はその前提を欠いている。しかも,規制措置の内容を見てもそれによって普天間飛行場による騒音被害や危険性が軽減できる程度は小さく,これらは周囲を住宅密集地に囲まれた普天間飛行場に海兵隊の航空部隊が駐留すること自体によって発生していることが明らかであるから,普天間飛行場から海兵隊の航空部隊が他に移転すること以外に除去する方法はない。③について,本件新施設自体は恒久的な強度を有するとしても,もし,地域情勢の変化等により海兵隊が沖縄に駐留する必要がなくなれば,当然のことながら本件新施設にも駐留する必要がなくなり返還されるはずであり,本件新施設を建設することにより米軍基地を恒久化することにはならない。
よって,そのことによって本件承認処分における第1号要件の審査について前記判断を左右するものとは言えない。
(4)  被告は,埋立ての遂行による不利益として,第2の4(3)ア(イ)記載のとおり,沖縄県の民意に反して,豊かで貴重な自然環境と良好な生活環境を破壊し,沖縄県や名護市の環境保護等の施策を阻害して新基地を建設し,過去70年余にわたり背負わされてきた沖縄の過重な基地負担をさらに将来にわたって固定化する不利益(米軍基地の存在による自治権侵害,健全な経済振興の阻害,米軍基地に起因する環境破壊,米軍基地に起因する事件事故等,沖縄県民の民意に反すること)を主張する。
確かに,認定事実(1)によれば,沖縄は,昭和20年4月に米軍が上陸し,占領されてから講和条約まで基地建設が進められ,講和条約後の米国の施政下の下,島ぐるみ闘争による住民による反対・抵抗運動の中,軍用地として新規接収が続き,昭和47年5月の日本復帰後も米軍基地の返還が本土と比較して3分の1しか進まず,全国の米軍専用施設面積の約73.8パーセントが沖縄に集中していること,沖縄の米軍基地に関連する多くの航空機事故,パラシュート降下訓練に伴う事故,被弾事故,山林火災が発生するとともに,赤土汚染,PCB漏出,劣化ウラン弾使用,油状物質汚染,六価クロム,鉛,フッ素及びヒ素汚染,鉛汚染,アスベスト検出,ダイオキシン汚染という環境問題等が発生していること,米軍人等による女性に対する性犯罪が現在に至るまで発生し続けていること,日米地位協定により,米軍,その軍人,軍属及び家族は,国内の場合と異なる処遇を受けていること,本件埋立事業の反対を含む米軍基地の縮小,閉鎖及び返還,米軍海兵隊の撤退,日米地位協定の見直し等に関する県民大会が開催され,日米地位協定の見直し及び基地の整理縮小に関する県民投票で賛成票が圧倒的多数であったことが認められる。以上によれば,本土と比較して,沖縄は重い米軍基地負担を負っているといえる。また,認定事実(1)に証拠(甲A243,乙H13)及び弁論の全趣旨を併せれば,戦後70年にわたり他国からの武力行使や武装勢力によるテロなどもなく平和な状態が継続する中で,軍用地料や基地労働者所得等の基地関係収入の比重が相対的に低下していくことにより,基地が存在することによる弊害が県民の多数により強く認識され,平成22年以降は,衆議院議員選挙,参議院議員選挙,知事選挙,名護市長選挙及び沖縄県議会議員選挙において本件新施設建設に反対する候補者が多く当選し,沖縄県議会,那覇市議会及び名護市議会において本件新施設建設に反対する決議がなされていることなど基地の整理縮小を求める民意が形成されてきたことが認められる。そして,このような民意は沖縄県の特殊事情に基づくものとして十分考慮されるべきである。
さらに,認定事実(2)によれば,本件埋立地周辺は,特異な地理的環境を有し,多様な生態系が存在し,その中には多くの希少種や新種が含まれており,その自然環境は貴重なものであり,その保全は強く求められるものといえる。
しかし,認定事実(3)及び(9)並びに弁論の全趣旨によれば,本件埋立事業によって設置される予定の本件新施設等は,普天間飛行場の施設の半分以下の面積であって,その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用水域内であることを考慮すれば,沖縄県の基地負担の軽減に資するものであり,そうである以上本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても,普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意(認定事実(1)イ(セ)c(e)ないし(i))に反するとは言えないし,両者が二者択一の関係にあることを前提とした民意がいかなるものであるかは証拠上明らかではない。
環境については,後記5のとおり,第2号要件審査において本件承認処分の判断に誤りがあるとは認められず,水面の陸地化に伴う自然破壊等に対し適正かつ十分な措置がとられると期待できること,加えて,法4条1項1号は,当該埋立てが国土利用上公益に合致する適正なものであることを求めるものであるから,特に本件のような自然海浜の埋立てにおいては,その価値に着目しそれを保全することにより得られるであろう利益をも考慮する必要があるが,その上で,様々な一般的公益を比較考量すべきであって,被告が主張するように,法の趣旨が自然環境を他の公益より重視し,埋立てを否定する方向で判断することを求めているものと解すべき根拠はない。
以上によれば,上記被告の主張する事実を考慮したとしても,本件承認処分の第1号要件の審査が誤りであると認めることはできない。その他,被告は,上記事情から本件埋立事業の実施が憲法92条等に反すると主張するが,上記のとおり,いずれも採用できない。
(5)  結論
以上のとおりであるから,普天間飛行場の移設先として,本件埋立事業の必要性があり,それに伴う公有水面の廃止,環境悪化等の不利益を考慮したとしても本件埋立事業には合理性が認められるとして第1号要件該当性を肯定できるとした判断が誤りであると認めることはできない。したがって,この点において本件承認処分に裁量内違法はない。加えて,政策的判断を要することから裁量権が付与された場合に,基礎事実の認定に誤りがなく,考慮要素を選択し,その軽重を評価・判断して結論を導く過程は正に政策的判断に属するものであり,裁量の幅は広いと言うべきであるから,裁量権の範囲を逸脱又は濫用した違法がないことは明らかである。
(6)  判断過程の瑕疵について
被告は,本件承認処分の審査過程に合理性がないことを縷々主張しているが,前記(2)ないし(4)に説示したとおりであるほか,そのような事情が本件承認処分の瑕疵となる根拠を見出すことはできない。
なお,土地収用法20条に基づく事業認定は,私人の絶対的権利である土地所有権を奪うための処分である点で法4条の処分とは性質を異にしており,判断手続も異なって然るべきであるから,第1号要件の違法性審査においては,考慮要素の軽重判断といったレベルまで対象とすべきではなく,前知事の政策的判断に委ねられる。
5  争点4(第2号要件審査に埋立地の竣功後の利用形態を含むのか及び本件承認処分の第2号要件欠如の有無)について
(1)  第2号要件審査に埋立地の竣功後の利用形態を含むのか
第2号要件の意義については,法4条1項1号,3号及び4号の要件との文言の対比及び被告が主張するように第2号要件も第1号要件と同じく埋立て自体によるものではなく,埋立て後の埋立地の用途に関するものも審査対象になりうると解すると第1号要件と第2号要件が重複することになるから,第2号要件は,「水面を変じて陸地となす埋立行為そのものに特有の配慮事項を定めたもの」(甲B8)と解され,埋立地の竣功後の利用形態ではなく,埋立行為そのものに随伴して必要となる環境保全措置等を審査するものであると解するのが相当である。よって,被告の主張する施設供用後の影響についての措置(第3の5(4)ウ(エ)),施設供用後の事後調査(第3の5(4)ウ(オ)),施設供用時の措置(第3の5(4)エ(ウ)),航空機騒音(第3の5(4)キ)及び低周波音(第3の5(4)ク)は,第2号要件の考慮要素ではないと解するのが相当であるが,第1号要件の埋立てによる不利益の軽減等という面では意味があるので,以下ではこの点についても判断することとする。
(2)  第2号要件の判断枠組み及び審査密度について
第2号要件において,「環境保全」について「十分配慮」されたとは,環境保全について,十分といえる程度に問題の現況及び影響を的確に把握した上で,これに対する措置が適正に講じられたことをいう(甲B8)ところ,そのような措置が講じられない場合には,周辺の環境悪化を招き,私人の個別的利益を具体的に侵害するおそれがある。他方,同要件の文言からして,一定の裁量的判断を許容するものと解され,しかも,環境とは,種々多様な内容を包括するものであり,かつ,それにおいては,多方面にわたる専門技術的知見を踏まえた総合的判断が必要とされるものである。以上によれば,第2号要件の審査は,専門技術的知見を尊重して行う都道府県知事の合理的な裁量判断に委ねられているといえる。このような都道府県知事の判断の適否を裁判所が審査するに当たっては,当該判断に不合理な点があるか否かという観点から行うべきであり,具体的には,現在の環境技術水準に照らし,①審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか,②本件埋立出願が当該具体的審査基準に適合するとした前知事の審査過程に看過しがたい過誤,欠落があるか否かを審査し,上記具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは,本件埋立出願が上記具体的審査基準に適合するとした前知事の審査の過程に看過しがたい過誤,欠落があり,それが結論に影響を与えた具体的可能性がある場合には,前知事の判断に裁量権の逸脱・濫用があるとして,本件承認処分は違法であると解すべきである。
この点,被告は,本件承認処分の第2号要件の審査における違法性について,内容の瑕疵と判断過程が合理性を欠いているという判断過程の瑕疵ととらえ,司法審査の対象は,いずれも被告がした本件取消処分における本件承認処分に瑕疵があるとの判断であり,①内容の瑕疵についての判断については,裁量行為として裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用した違法があるか,②判断過程の瑕疵については,その瑕疵があるとの判断過程において不合理性が認められるか否かであると主張するが,前記のとおり,判断対象は取消要件である本件承認処分に違法の瑕疵があるか否かであり,また,上記②についての被告の主張は本件承認処分の第2号要件の審査における考慮要素の選択や考慮要素の評価に関するものであり,上記判断と異なり,上記①及び②のように分けて判断する必要性も認められないので,上記被告の主張は採用しない。
また,被告は第2号要件が追加されたことを指摘して,同要件の認定はこれを認める方向へは厳格に行うべきであるなどと主張するが,前記のとおりであり,同要件を具備しているかどうかは同条項に従って行えば足りる。よって,被告の主張は採用しない。
次に,本件承認処分の第2号要件の審査について,現在の環境技術水準に照らし,①審査において用いられた具体的審査基準に不合理な点があるか,②本件埋立出願が当該具体的審査基準に適合するとした前知事の審査過程に看過しがたい過誤,欠落があるか否かを審査し,上記具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは,本件埋立出願が上記具体的審査基準に適合するとした前知事の審査の過程に看過しがたい過誤,欠落があり,それが結論に影響を与えた具体的可能性があると認められ,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものといえるか検討する。併せて,裁量内違法の存否について判断するが,これについては,被告に主張立証責任があると言うべきであるから,具体的な主張に対して検討を加えた上で判断する。
(3)  本件承認処分において第2号要件が欠如していたかについて
ア 認定事実(6)及び(7)によれば,前知事は,環境影響評価書の審査の際に本件知事意見を表明し,その後,本件埋立必要理由書を伴う本件願書を受け,関係市町村及び関係機関に意見を求めるとともに,沖縄県が,4度にわたって,沖縄防衛局に対して質問を行い,沖縄県環境生活部長による本件環境生活部長意見を受けながら,別紙8内容審査及び別紙9別添資料記載のとおり,審査を行い,本件承認処分を行っているところ,第2号要件審査については,前知事は,別紙8内容審査6及び7頁並びに別紙9別添資料4ないし26頁のとおり,審査している。
イ 審査基準の合理性
上記審査における第2号要件に関する基準は,沖縄県が,平成6年10月3日,行政手続法の施行に伴い,法2条の「免許」として定めた審査基準(以下,「本件審査基準」という。)であるところ(甲A40),本件審査基準に不合理な点は見出せない。
ウ 審査過程と結論の合理性
上記の第2号要件審査の内容によれば,その審査内容は,①護岸,その他の工作物の施工,②埋立てに用いる土砂等の性質への対応,③埋立土砂等の採取・運搬及び投入,④埋立てによる水面の陸地化においては,現段階で取り得ると考えられる工法,環境保全措置及び対策が講じられており,さらに災害防止にも十分配慮されているとして本件審査基準該当性を認めているものであり,本件承認処分における第2号要件審査について,その審査過程に誤りがあるとは言えない。
(4)  次に,被告の主張について検討する。
水面が失われること自体は第1号要件において評価済みであり,第2号要件は,埋立行為に伴う自然環境等の影響を極力防止しようとするものである。しかし,失われる水面のすべての機能を他に再現することはもとより不可能な上,自然環境や生態系に関する科学的知見が万全であるといえず,環境に関する予測には一定程度の不確実性を伴うものと考えられることからすれば,第2号要件において,そもそも完全な環境保全のための予測・評価及び措置を求めることは相当ではない。また,同等程度の成果が得られるなら効率的な手法で行うべきことは,そうでなければ長期間事業目的を達成できないこと,多額の費用が国民の負担に帰することからも明らかである。このようなことからすると,第2号要件の審査時点では,現在の知見をもとに実行可能な範囲において環境の現況及び環境への影響を的確に把握した上で,これに対する措置が適正に講じられることで足り,上記不確実性に対応するには,承認後に引き続き事後調査や環境監視調査を行い,その場その時の状況に応じて専門家の助言・指導に基づいて柔軟に対策を講じることはむしろ合理的である。
そして,前提事実(3)によれば,本件承認処分に付される本件留意事項では,工事中の環境保全対策等については,実施設計に基づき環境保全対策,環境監視調査及び事後調査などについて詳細検討し県と協議を行うとし,詳細検討及び対策等の実施に当たっては,各分野の専門家・有識者から構成される環境監視等委員会を設置し助言を受けるとし,証拠(甲A59ないし63(枝番号を含む))によれば,国は,上記留意事項に従い,環境監視委員会を設置し,環境保全措置の具体的な実施等について検討していることが認められる。
ア 生態系について
(ア) 被告は,本件埋立事業実施区域一帯は,特異的な生物群と希少種が分布する貴重な生態系を保持しているところ,本件承認処分時の第2号要件の審査過程において,①本件埋立事業の必要性,国内においてこの地域を選定して事業を実施することの必要性・適切性,②仮に事業を実施する場合の環境保全策の内容・実効性等,環境保全施策との整合性,③本件埋立事業の埋立面積が必要最小限度であることについて,具体的な検討がなされていると言えないと主張する。
しかし,上記①の点は,第2号要件において考慮すべき事項ではない。また,上記②について,沖縄防衛局は,本件出願に際し,本件環境保全図書(甲A5の7)を提出しており,その内容に加え,認定事実(7)カの沖縄県環境生活部長の意見に対する沖縄防衛局の回答に照らせば,上記②について具体的な検討がなされていないとは言えない。上記③については,本件埋立必要理由書の本件埋立地の規模についての記載(甲A5の2(25~66頁))及び第3次質問における沖縄県環境生活部長の意見に対し沖縄防衛局が「飛行場施設に係る用地ごとの必要面積については,埋立必要理由書(添付図書-1)に記載したとおりですが,埋立区域については,現在提供されているキャンプ・シュワブの陸上部分を活用するとともに,飛行場施設等の配置について,周辺集落への影響や米軍の運用上の所用を踏まえ,海上部分ができる限り最小となるよう配慮したものです。」と回答している(甲A142)とおり,滑走路を岬の先端部にV字型に配置したのは,離着陸時の飛行経路が民有地上空を通過しないようにするためであり(別紙7),かつ,当初案(別紙6)と比べて滑走路の長さも埋立面積も縮小されていることに照らせば,上記③について具体的な検討がなされていないとは言えない。そして,この点についての被告の他の主張を考慮したとしても,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(イ) 被告は,他の海域との比較をするなど,辺野古海域と大浦湾の価値,特徴が適切に評価されていないと主張するが,他の海域との比較がないことによって上記評価が不適切であるとは直ちに言えず,上記評価が不適切であり,それによって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認められる的確な証拠があるとは言えない。
(ウ) 被告は,①沖縄防衛局の辺野古海域の生態系の評価は定量的でなく定性的であり,②生態系相互のつながりについて調査・評価が欠けていると主張する。そして,A33は,各生態系サービスを定量的に評価する方法がある旨,本件環境保全図書について,生態系相互のつながりについて具体的な内容の記述がない旨述べる(乙H8。以下,乙H8の陳述書を「A33陳述書」という。)。
しかし,別紙3関係法令の定め記載の指針省令及び評価法の規定による主務大臣が定めるべき指針等に関する基本的事項(平成9年環境庁告示第87号)における「第二 環境影響評価項目等選定指針に関する基本的事項」の一(5)(平成25年3月当時)は「予測は,対象事業の実施により選定項目に係る環境要素に及ぶおそれのある影響の程度について,工事中及び供用時における環境の状態の変化又は環境への負荷の量について,数理モデルによる数値計算,模型等による実験,既存事例の引用又は解析等の方法により,定量的に把握することを基本とし,定量的な把握が困難な場合は定性的に把握することにより行うものとする。」と定めている(甲B17)。以上に照らせば,定性的評価であるというだけで不当とは言えない。
そして,証拠(甲A5の7(6-2-31~161,6-6-171~187,189~259,6-7-117~231,237~244,6-14-97~110,116~136,6-15-164~166,191~199,6-16-274~278)),甲A56,甲A57,甲B18)によれば,定量的評価を行うには科学的に確立された評価方法が必要であること,生態系の機能の多くについてはこのような方法が確立されていないこと,国は一部の環境要素については定量的評価を行っていることが認められる。以上の点に鑑みると,国は定量的評価が可能なものについては定量的評価を行い,それが困難な場合に定性的評価を行っているものと推認できる。
この点,A33は,サンゴ礁の漁場としての機能につき漁獲量を用いるとする。しかし,漁獲量は様々な要因で変動するところ,辺野古沖も大浦湾も閉鎖性の水域ではないこと,どの範囲の漁獲量を用いるのか及び魚種による差異は把握できるのかいずれも不明であることからすれば,上記A33の見解は採用できない。上記①によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認められる的確な証拠があるとは言えない。また,上記②については,被告が指摘するような調査・評価不足があっても,それによって本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認められる的確な証拠があるとは言えない。この点,A33は,ジュゴンは沿岸で海草を食べ沖合で糞をし,その糞が沖合の小型動物の生活に関わるとする。しかし,ジュゴンの個体数に照らして,沖合でした糞が沖合の小型生物に有意に影響するとは考えがたく,上記A33の見解は採用できない。また,この点についての被告の他の主張(対象区域の表現等)についても,それによって本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
イ 海藻草類について
(ア) 被告は,①消失する海草藻場に対する評価は極めて具体性を欠き,②回避・低減策が検討されておらず,③種ごとの調査もなく,④海草帯の機能も検討されていない,⑤他に藻場が存在するから本件埋立地にある藻場の消失は問題はないという誤った記載が散見されるなどと主張する。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-15-165,166,6-19-1-150~151)によれば,①については,海草類の消失面積を辺野古前面海域10.5ヘクタール,大浦湾側57.8ヘクタールの合計68.3ヘクタールと具体的に示した上で,「代替施設本体の埋立域に集中して生息している生物種や群集はみられず,多くの生物種と群集は,辺野古地先から松田地先に広がる海草藻場の広い範囲に分布しています。このことから,代替施設本体の存在によって海草藻場の一部が消失しても,周辺海域における海域生物の群集や共存の状況に大きな変化は生じない」と予測した。さらに,「オオアシヤガイ,サラサダマ,クサイロカノコ,マルシロネズミ,アラゴマフダマ,ニライカナイゴウナ,リュウキュウサルボウ,ソメワケグリ,ウチワガイ,サザナミマクラ,ヤマホトトギス,ユキミノガイ,カブラツキガイ,イレズミザル,カワラガイ,オキナワヒシガイ,リュウキュウアオイ,コニッコウガイ,ヒラセザクラ,ミガキヒメザラ,ミクニシボリザクラ,タイワンシラオガイ,オミナエシハマグリなど」海草藻場への依存度が比較的高い生物種を列記して,「代替施設の範囲に集中して分布するものではなく,他の海草藻場が分布する地域にも生息が確認されており,残存する周辺の海草藻場において生息環境は保全されるものと考えられます」としており,具体性がないと認められない。②については,回避・低減策を検討するために,普天間飛行場代替施設の配置決定を異なる6つの計画としており(甲A5の7(4-5-77)),回避・低減策が検討されていないとは言えない。③については,被告は,本件環境保全図書において,157スポットと9ラインで種別の調査結果が示されており,これらを解析すれば,種ごとの分布域を把握でき,種ごとの消失面積も算出できると指摘する。しかし,これらの解析で種ごとの消失面積を正確に算出できるとは考えられない。④については,本件環境保全図書(甲A5の7(6-19-1-118,6-19-1-125))によれば,海域区分ごとの生息種の整理,藻場の生物生産機能,物質循環機能,生物の共存機能及び環境保全機能並びに海草藻場及びホンダワラ藻場に存在する生物種を記載しており,海草帯の機能の検討はされている。これに対し,被告は,類型区分毎に当該区域においてジュゴンやウミガメ以外の生物種によってどのように海草帯が利用されるかを把握していないと指摘するが,その作業が困難なものであるのに対し,それをすることによって,それをしないでする保全策と具体的にどのような違いが生じるのかA33陳述書によっても明らかでない。⑤については,被告が指摘する「海草藻場内では種々の生物が共存しており,ある生物種や群集が生息しなくなると,これと共存していた種類に影響が発生する可能性が考えられます。しかし,代替施設本体の埋立域に集中して生息している生物種や群集はみられず,多くの生物種や群集は,辺野古地先から松田地先に広がる海草藻場の広い範囲に分布しています。このことから,代替施設本体の存在によって海草藻場の一部が消失しても,周辺海域における海域生物の群集や共存の状況に大きな変化は生じないと予測されます。」(甲A5の7(6-19-1-150))との本件環境保全図書の記載は,埋立区域内の海草藻場において,集中して生息する生物種や群集が確認されず,近隣の辺野古地先から松田地先に広がる海草藻場にこれら生物種が分布しているという調査結果を踏まえ,そこから導き出される予測結果として,埋立区域に係る海草藻場の消失に伴い,海域生物種や群集に大きな変化はない旨を記載したもの(甲A56)と言え,被告が指摘するような,事業実施区域における海草藻場が消失することを問題ないとするものではないので,上記被告の主張には理由がない。
(イ) 被告は,消失する海草藻場の代償措置が具体的でなく,実効性も不明である旨主張する。
しかし,海域の環境は自然による変動が大きいことから,予め移植先を決定しておくよりも,その候補地を選定するに止め,移植の際に詳細な調査・検討を行って具体的な移植場所・移植方法を確定することの方が合理的であるといえるところ,本件環境保全図書においては,改変区域周辺の海草藻場の被度が低い状態の箇所や代替施設の設置により形成される静穏域を主に対象とし,専門家等の指導・助言を得て,海草類の移植や生育基盤の改善による生育範囲拡大に関する方法等やその事後調査を行うことについて検討し,可能な限り実施するとし,移植先の案を図示している(甲A5の7(6-15-229,231))。この点について,A33陳述書は,移植時に移植先を変更する可能性を認めながら,複数回検討することにより,成功の可能性を高めることにつながると思う旨述べるが,その根拠も不明である。また,被告は,移植時に初めて調査したら,適切な移植先がなかったとしたらどのような措置をとりうるのかと指摘するが,予め調査してそうであったときと同様の措置をとることになると考えられるので,予め調査する必要を裏付けるものではない。よって,上記被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(ウ) 被告は,地形変化による塩分低下の周辺海域の海草藻場への影響が,科学的な整合性に欠ける定性的な予測によるものであり,予測されたとは言えないと主張する。
しかし,本件環境保全図書によれば,事業に伴う塩分の変化が海草類に及ぼす影響について,塩分に係るシミュレーション結果から,辺野古川河口部を除く海草類の生育範囲のほぼ全てにおいて塩分の変化はほとんどないと予測され,また,塩分に係る現地調査によれば,海草類の生育範囲においては,塩分は0.5パーセント程度の変動があることが確認されていること(甲A5の7(6-6-66,6-15-206~211))を踏まえれば,事業に伴う海草類の生育範囲における塩分の変化は,自然変動の範囲内となることから,熱帯性海草の塩分に関する知見の有無に関わらず,代替施設の存在による影響が小さいとの予測は可能である。この点についてのその他の被告の主張を考慮したとしても,それによって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(エ) 被告は,工事に伴う水の濁りや堆積についての措置に具体性がなく,実効性も不明であるとしている。
しかし,本件環境保全図書によれば,海草藻場への影響を考慮して,辺野古地先の前面海域に汚濁防止膜を設置せず,海域における土砂による水の濁りに係る環境保全措置として,海中への石材投入や床掘・浚渫及び海上ヤードの撤去による水の濁りの影響を低減させるため,施工箇所を取り囲むような汚濁防止枠を設置・使用し,埋立工事は,外周護岸を先行施工して可能な限り外海と切り離した閉鎖的な水域を作り,その中へ埋立土砂を投入することにより,埋立土砂による濁りが外海へ直接拡散しないような工法とする,海中へ投入する基礎捨石等については,材料仕様により石材の洗浄を条件とし,採石場において洗浄された石材を使用する,埋立てに関する工事中の浮遊物質量(SS)について事後調査し,海域の濁りが対象地点に比べてSSが2mg/L以上となる場合は,必要に応じて専門家等の指導・助言を受けて,施工方法の見直しや環境保全措置の改善を図る(甲A5の7(6-1-19~23,6-7-125,7-6,8-4))とされており合理的な措置と認められる。にもかかわらず被告は十分な検討がないとか具体的でないとか種々指摘するが,いずれも採用できない。この点でも,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
ウ ジュゴンについて
(ア) 被告は,①調査期間が短く,②地域個体群特定の根拠が不明であり,③地域個体群の将来にわたる生息域とその生息環境の予測がなされていない旨主張する。そして,A34は,本件環境保全図書では,他海域にいる非識別個体の出現が相対的に低く記録された可能性があり,生息頭数の推定値は過小推定の可能性がある,本件埋立地を含む辺野古周辺から嘉陽に至る海域は,現存するジュゴンにとって重要な餌場であり,ジュゴン個体群の将来の存続のためにも貴重な餌場であるとする(乙H7。以下,乙H7の陳述書を「A34陳述書」という。)。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-16-2,3,6-16-7~9,6-16-23~25,6-16-170,6-16-200,201)によれば,①平成20年度の航空機を用いた生息状況調査及び海草藻場の利用状況調査並びに環境影響評価手続に係る現地調査に加え,平成19年度及び平成21年度から平成23年度までの計5年間の結果を基に予測・評価しており,②ジュゴンの地域個体群については,航空機を用いた生息状況調査で上空から撮影されたジュゴンの写真から,尾びれの切れこみ等の身体的特徴を検討し3頭を個体識別し,平成19年8月から平成24年1月までに確認された198頭のうち,その92パーセントに当たる182頭を識別しており,識別できなかった16頭についても,同日に4頭以上の個体を確認した日がないこと,確認当日とその前後の出現状況や出現海域を分析し,当該3頭のいずれかである可能性が高いと結論づけ,③嘉陽沖に常在する個体Aは,これまでの調査結果からみて,嘉陽地区の海草藻場に大きな変化がない限りは今後も同地区を餌場とすること,個体Bは平成16年以降一貫して古宇利島沖を主な生息場としていることから,今後も古宇利島沖の藻場を餌場とすること,個体Cは行動範囲が比較的広いが,本件埋立事業実施区域周辺における個体Cの主な餌場は嘉陽地先の海草藻場と考えられ,辺野古地区前面の海草藻場を利用する可能性は小さいと推測される旨を記載し,さらに,生息環境については,「海藻草類」の環境要素で予測されている。以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(イ) 被告は,①施設の存在による影響についてのPVA分析(個体群存続可能性分析)は不十分であり,②ジュゴンが辺野古前面の藻場を利用していない根拠は不明であり,③消失する海草藻場に関する環境保全措置について具体的な方法や効果,影響が明らかにされていないと主張する。そして,A34は,PVA分析について,ジュゴンからみた海草藻場の価値や利用頻度に関して,現在利用中の藻場とその他の藻場とが同じであると仮定するのは正しくない,海草藻場が安定していると仮定するのは事実に反し,楽観に過ぎる,個体群変動に密度効果を取り込んでいない,建設工事に伴う周辺環境の変化による影響及び本件新施設等の供用の影響の評価も考慮すべきである,想定する現在頭数の幅を適正にすべきであるとする(乙H7。A34陳述書)。
しかし,本件環境保全図書によれば,①については,PVAの実施に当たっては,本件有識者研究会の提言により,ジュゴンに関する情報が限られているものの,確認されている個体数が数頭(3頭)ということを踏まえれば,この事業がなくても絶滅リスクは高いと見積もられ,さらに,かなり楽観的なパラメータを与えても当該リスクは高いと考えられることから,事業に伴う影響を明確にできるよう,知見の無いパラメータなどについては楽観的な値を与えることとした。すなわち,他のリスクを小さく評価することにより,事業に伴う影響を相対的に大きくすることになる。このような観点から,楽観的なパラメータを与えることとし,沖縄本島周辺と沖縄県全体を対象とし,計算結果についても先島諸島を含む場合と含まない場合を分けて記載している(甲A5の7(6-16-275~278),甲A142)のであり,A34陳述書の指摘はいずれも学術的な意見の相異の範囲を出ないものと認められ,上記分析方法の合理性を否定するに足りるものではない。よって,上記PVA分析により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。②については,上記第3の5(4)ウ(ア)記載の理由でジュゴンが辺野古前面の藻場を利用する可能性は低いとしたものである。そして,被告が主張するように平成26年5月から7月に辺野古沖において110本以上の食み跡があったとしても,これは本件承認処分後の事情であり,沖縄のジュゴンが摂餌場を変更することがあること(乙H7)に照らせば,本件環境保全図書における上記評価が不合理であるとは言えない。③については,上記第3の5(4)イ(ア)及び(イ)のとおり,環境保全措置を採っている。以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(ウ) 被告は,工事によるジュゴンの生息域への影響(杭打ち,石材投入の水中音等)への回避・低減のための措置が科学的根拠がなく不十分であると主張している。そして,A34は,事業者はジュゴンの行動変化が検出された場合には適切に対応すると述べるが,ジュゴンの行動を観察すること,その行動の変化を認識するのは困難であり,それによって騒音,振動及び衝突への対策を立てることは難しく,その対策も具体的に示されず,その有効性も証明されていないとする(乙H7。A34陳述書)。
しかし,国は,平成19年1月から平成24年1月までの5年間にわたり航空機を使用したジュゴンの生息状況調査(現地調査)を実施した結果,延べ198頭確認されたジュゴンのほとんどが沖合5km程度までの範囲に位置し,最も岸から離れた場所で確認された個体も,その距離は約10kmであり,ジュゴンの生息個体数が多くジュゴンの行動生態に関する研究が最も進んでいるオーストラリアでの調査研究成果によると,ジュゴンに発信機を取り付けて長期的な移動状況を追跡した結果,ジュゴンは沿岸から離れて移動することはまれであり,沿岸から離れた場合の距離が12.8km±1.3kmと報告されていた(甲A56)。以上のような現地調査の結果及びオーストラリアでの行動追跡結果を根拠として,作業船が沖縄本島沿岸を航行する場合は10km以上離れて航行することとしたものである(甲A5の7(6-16-254))。さらに,証拠(甲A5の7(6-16-279~282),甲A56,甲A58)によれば,ジュゴンに係る鳴音探知に関する研究が進められており,特に水産関係において,定置網や刺し網によるジュゴンの混獲を防止するための警戒システム構築に関する技術が開発されるなど,ジュゴンの鳴音探知に関する研究が進められていることから,これらの知見及び技術を工事等の船舶とジュゴンとの衝突回避に応用することが可能と考えられる旨の本件有識者研究会の提言を受けてジュゴン監視・警戒システムに導入し,当該システムに関し,工事海域へのジュゴンの来遊状況を確認するための「工事海域監視・警戒サブシステム」と,工事中及び供用開始後のジュゴンの生息・移動状況の変化の有無を確認するための「生息・移動監視・警戒サブシステム」を構築し,このうち,工事海域監視・警戒サブシステムは,ヘリコプターによる生息確認に加え,船舶を利用したジュゴン監視用プラットフォームを大浦湾内に配置し,ジュゴンの工事海域への来遊状況を監視・警戒することとし,プラットフォームには曳航式ステレオハイドロホン(ジュゴンの鳴音による存在確認)やスキャニングソナー(発射した超音波の反射波による存在確認)を設置することとし,生息・移動監視・警戒サブシステムは,ヘリコプターによる生息確認に加え,ジュゴンがこれまで生息または移動が確認されてきた海域(嘉陽,古宇利島,安田,辺戸岬)に水中録音装置を設置して水中音響データを録音し,録音データよりジュゴンの鳴音を検出することにより,各海域での生息確認を行うこととし,監視・警戒サブシステムにより得られたデータを一元的に管理するための「データ解析センター」を設置し,ジュゴンの鳴音の専門家及びデータ解析者を配置してジュゴンの鳴音の有無を判断するとしている。また,杭打ち工事などによる水中音対策については,本件環境保全図書において,海産哺乳類に対する水中音の影響に関する既往知見を基に,ジュゴンに影響を及ぼす水中音のレベルを設定した上で,工事の際に発生する水中音のレベルとともに,ジュゴンの主な生息域及び行動範囲と水中音との関係について予測しており,当該予測においては,ジュゴンの主な生息域である嘉陽地先においては,工事期間中の一定期間において工事に伴う水中音によりジュゴンの行動に影響を与える可能性があること,ジュゴンの移動が確認されたことのある大浦湾内は,工事期間中の期間にわたりジュゴンの行動に影響を与えるレベルの水中音が発生するため,ジュゴンが大浦湾内に来遊した場合にはジュゴンの行動に影響を与える可能性があると予測し,その上で,工事の実施に当たっては,ジュゴンの生息位置を監視し,ジュゴンが施工区域内で確認された場合は,施工区域から離れたことを確認した後に着手し,施工区域へのジュゴンの接近が確認された場合は工事関係者に連絡し,水中音の発する工事を一時的に休止するなどの対策を講じるとともに,杭打ち工事による急激な音の発生は,ジュゴンの行動に変化を及ぼすおそれがあるため,杭打ちの開始時は弱く打撃し,一定時間経過後に所定の打撃力で杭打ちを行うことにより,ジュゴンへの水中音の影響を低減する措置を講じることとしている(甲A5の7(6-16-223,224,6-16-251,252,6-16-282))。石材投入による水中音対策については,証拠(甲A5の7(2-72,6-16-227),甲A37(11頁))によれば,傾斜堤護岸工事と中仕切堤の基礎捨石投入工事は,石材をワイヤーモッコに載せ,クローラクレーンでできるだけ低い位置(水面付近あるいは水中)まで移動させて投入するなど,できるだけ工事によって生じる音がジュゴンに与える影響を小さくするよう配慮することとしており,さらに陸上から水深が浅い部分に投下することから,石材が着底する際の発生音は,予測の対象とした杭打ちやケーソン護岸工事に伴う海上から行う捨石投入工事に比べて小さいと考えられるので,陸上からの基礎捨石投入工事は,ジュゴンに対して影響を及ぼす可能性が考えられる水中音の主な発生源ではないと認められる。以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(エ) 被告は,施設供用後の影響についての措置について具体的に検討していないと主張する。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-16-284))によれば,国は,施設供用後の環境保全措置として,ジュゴンへの光による影響を回避するため,可能な限り海面に向けた照射を避けることや,航行船舶とジュゴンとの衝突回避のため,航行経路や航行速度の制限について十分に配慮することについて,米軍に対してマニュアル等を作成して示すことにより周知するとしており,そして,証拠(甲A84)によれば,環境保護及び安全のための在日米軍による取組は,日米の関係法令より厳しい基準を選択するとの基本的考えの下で在日米軍の活動と施設が人の健康と自然環境を保護できるよう保障するために作成された日本環境管理基準に従って,適切に行われることになっていることからすれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
(オ) 被告は,施設供用後の事後調査について検討されていないと主張する。
しかし,本件環境保全図書によれば,ジュゴンの施設供用後における事後調査については,水中録音装置による来遊記録及び潜水目視観察(マンタ法)による食跡記録を実施することとし,水中録音装置による来遊記録については,本件有識者研究会の提言を基に,嘉陽周辺海域及び他の生息海域(古宇利島沖など)におけるジュゴンの生息域のサンゴ礁礁縁を中心とした海域において,供用後3~5年程度の生息状況が安定したことを確認するまで毎日調査し,潜水目視観察(マンタ法)による食跡記録については,安部及び嘉陽地先の海草藻場において,毎月1~2回,供用後3~5年程度まで調査を行い,生息状況が安定したことを確認した後に終了するものであり,事後調査の結果により環境影響の程度が著しいことが明らかになった場合の対応の方針として,事業実施前における各種調査データの変動範囲をはずれた状態の継続する状況が生じた場合は,専門家等の指導・助言を受けて,環境保全措置の改善を図るとしている(甲A5の7(8-11,12,9-22))。以上によれば,上記被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
エ ウミガメについて
(ア) 被告は,本件環境保全図書によると,調査をしたところ,ウミガメはキャンプ・シュワブ沿岸に産卵しているところ,同沿岸は産卵に好適な場所とはいえず,ウミガメは好適な場所に上陸して産卵しているとは限らないと判明したものの,それ以上の上陸場所選択の要因は判明しなかった,周辺には産卵のために上陸可能な場所があるので,そこでの産卵が可能であるとの予測をしているところ,その産卵場所の予測について,ウミガメが事業実施区域を利用している理由について予測をせずに行われており,科学的根拠に基づくものとは言えないと主張する。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-13-94~99,6-13-102~104,6-13-276,6-13-347))によれば,平成19年度以降5年間にわたる上陸調査の結果や,沖縄県教育委員会によって行われたウミガメ類上陸調査の結果について,ウミガメ類の上陸・産卵に関する既往知見を基に,灯火・照明の有無,人の活動,車両の乗り入れ,リーフからの距離,砂浜の規模といったウミガメ類の上陸・産卵に関する条件を評価することによって,事業実施区域周辺の大浦湾東部,安部,嘉陽の砂浜はウミガメ類の上陸・産卵に良好な場所と考えられたことや,東村・国頭村地域に産卵に利用される砂浜が多数存在することなどから上記のように予測している。既存の知見や上記検討を超えて新たな知見を得るべきであるとは認められない。以上によれば,上記被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(イ) 被告は,ウミガメ類の上陸・産卵のための代償措置として,キャンプ・シュワブ弾薬庫下砂浜における具体的措置が明らかにされていないと主張する。そして,A33は,ウミガメ類の上陸・産卵の場所については,潮位,砂浜の傾斜,砂粒のサイズ,砂浜維持のための離岸堤の構造が重要である旨指摘する(乙H8)。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-13-347~349))によれば,「本事業実施区域付近では,北側のキャンプ・シュワブ弾薬庫下にかけて(延長約1000m)の範囲には,砂浜(約400m)や小型のポケットビーチが分布しています。」とした上で砂浜整備箇所(案)を図示し,「これらの砂浜は,人の活動が少なく,光や音の影響が少ない場所で,平成19年から平成23年までの調査では上陸,産卵がみられています。ただし,この地域の砂浜は奥行きが狭く,卵が冠水しやすい地形であるなど,上陸,産卵には不適と考えられる環境条件となっています。」としながら,整える環境条件は,①接岸上陸がしやすいこと,②光,音の影響が少ないこと,③人の活動による上陸,産卵妨害が少ないこと,④卵が冠水しないこと,⑤車両走行による卵の破壊がないこと,⑥車両の轍,漂着ゴミによる仔ガメの帰海妨害がないことといった,ウミガメ類の上陸・産卵にとって良好な条件であるとしており,さらに,専門家等の助言を得て決定することとしている。これに上記の点を合わせれば,現在ウミガメの上陸場所等に関する知見が十分ではないため,A33が指摘するような点を含めて今後専門家の助言を得て実施すれば足り,本件承認処分時点で決定しておかなければならないとは言えない。以上のとおりであるから,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 被告は,工事中及び施設供用時の措置(街灯等の灯に対するもの)が不明であり,実効性が担保されていないと主張する。
しかし,本件環境保全図書によれば,工事中の作業船の航行に対する環境保全措置に関しては,見張りを励行し,ウミガメ類との衝突が避けられるような速度で航行することとしている(甲A5の7(6-13-344))。そして,環境保全及び安全のための在日米軍による取組は,日本環境管理基準(甲A84)によるところ,同基準は,日米の関係法令のものより厳しい基準を選択するとの基本的考えによっており,在日米軍は,生息が分かっている絶滅危惧種(ウミガメ類を含む)及び日本国政府による保護種とその生息地を保護し向上させるための合理的措置を執るものとされており,本件環境保全図書においては,この点について米軍に対する周知要請を行うとされている(甲A5の7(7-25))。以上によれば,上記被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
オ サンゴについて
(ア) 被告は,サンゴの生息ポテンシャル域についての評価が不適切であると主張している。そして,A33は,本件環境保全図書においては,現在のサンゴの分布や種組成を使用して解析が行われており,サンゴが豊富に生息していたと思われる過去の情報を参照しておらず,将来のサンゴ群集の回復について勘案されていないとする(乙H8。A33陳述書)。
被告は,本件環境保全図書に,「施設等の存在に伴う被度5%以上のサンゴ類の消失面積は図-6.14.2.2.2に示したとおり,辺野古前面海域では消失する生息域はなく,大浦湾側で6.9haの生息域が消失すること(大浦湾の現況のサンゴ類生息範囲に対する消失率は3.5%)となります。」,「また,代替施設周辺のサンゴ類は図-6.14.2.2.2に示したように,消失するサンゴ類の被度は,全般に5~25%であり,注目されるサンゴ群生はみられていませんが,ハマサンゴ属やキクメイシ属などのサンゴ類が生息しており,それらは埋立てに伴い消失することになるため,可能な限り工事施工区域外の同様な環境条件の場所に移植し,その後,生息状況について事後調査を実施します。」と記載され,約6.9haという面積が消失することを評価した上で,「埋立てによるサンゴ類そのものの生息域の減少の程度は小さいと考えられます」としている(甲A5の7(6-14-117,6-19-1-151))ことをもって,サンゴの生息ポテンシャル域についての評価が不適切であると主張する。しかし,これらは,ポテンシャル域に関する評価ではなく,現在のサンゴの分布を前提としたものであり,これを前提として評価を行うことは,むしろ原則とされるべきである。加えて,ポテンシャル域とは,対象生物の分布域について,地形等の物理的環境の状況に基づいて,長期的に分布域となる可能性のある区域をいうところ,本件環境保全図書の作成に当たり,サンゴ類につき,これを計測したところ,約950haであり,これに対し,消失が予測された面積は30haであるから影響は小さいと評価されており(甲A5の7(6-14-117,119),甲A56),ポテンシャル域を評価しても上記評価は誤りではない。以上によれば,上記被告の主張等及びこの点についてのその他の被告の主張によって,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
(イ) 被告は,①サンゴの移植の不確実性に対する措置,②事後調査についての検討が不十分であると主張する。そして,A33は,本件環境保全図書においては,サンゴの移植元,移植先,移植すべき群生の決定,移植方法,移植後のモニタリング内容についての項目は挙げられているものの,具体的検討方法,調査内容と各調査項目の結果をサンゴの移植にどのように利用するかについて記載されていない,移植後のモニタリングの期間は最低でも10年は必要であるとしている(乙H8。A33陳述書)。
しかし,①については,サンゴ類の移植技術が十分に確立していないリスクを踏まえた上で,移植先を具体的に示すためには,種類毎に詳細に調査し,個別に適切な移植先を探す必要があるところ,海域の環境は自然による変動が大きいことから,予め移植先を決定しておくよりも,その候補地を選定するに止め,移植の際に詳細な調査・検討を行って具体的な移植場所・移植方法を確定することの方が合理的であるところ,実際に移植を行う際に専門家の助言を受けながら調査・検討をすることはむしろ合理的であり(甲A56),本件環境保全図書において,移植先の案を図示しており(甲A5の7(6-14-164)),その後,実際にも,サンゴ類については,現時点までに環境監視等委員会において具体的な移植計画の検討が行われ,大部分が環境保全図書の移植先(案)の範囲内を移植先としている(甲A62の5(13頁ないし15頁))。②については,本件環境保全図書によれば,事後調査の時期は「移植後概ね3か月毎」としている(甲A5の7(8-10))ところ,これは,沖縄県のサンゴ移植マニュアルの趣旨を否定するものではなく,むしろ移植直後は同様の頻度で経過観察を行うことを予定しており(甲A56),また,沖縄防衛局は,沖縄県環境生活部長への回答において,事後調査の期間は専門家等の指導・助言を得て今後決定するとしている(甲A142)。これらによれば,上記被告の主張等及びこの点についてのその他の被告の主張によっても,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
(ウ) 被告は,水象の変化によるサンゴ類への影響についての予測・評価に科学的根拠がなく,対策の具体性や実効性は不明であると主張する。
しかし,本件環境保全図書(甲A5の7(6-14-120~136))によれば,潮流シミュレーションにより予測し,流速とサンゴ類の成長に関する知見をもとに,流速の絶対値を設定して評価を行っていることに加え,水象の変化がサンゴ類に与える影響についても,上記シミュレーション結果及び波浪や流れの変化がサンゴ類に及ぼす影響に係る既往知見を基に予測・評価を行い,「事業実施区域周辺のサンゴ類の生息範囲においては,サンゴ類の生残に影響を及ぼすような高波浪の状況は施設等の存在時においても現況と変化がないと考えられます。また,成長に影響を与えるような代表波浪及び流れについても現況と大きな変化はなく,おおむねサンゴ類の成長にとって良好と考えられる範囲にあり,現況のサンゴ類の流動環境は維持されるものと推察されます」と評価し,対策不要としており,このように絶対値評価により評価が可能である以上,被告の指摘する変化率による評価は必要がない(甲A56)。よって,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認められない。
カ 埋立土砂による外来種の侵入について
被告は,沖縄県の生物多様性の保護の重要性から外来種(特にアルゼンチンアリ)の侵入について十分な対策が求められるところ,土砂の採取場所は特定しているので具体的対策を取り得るのに,専門家の指導・助言を得るという曖昧かつ抽象的なものしか示されていない旨主張する。
確かに,証拠(甲A5の11)によれば,本件出願の際に添付された「埋立に用いる土砂等の採取場所及び採取量を記載した図書」には,土砂採取場所は,本部地区,国頭地区,徳之島地区,奄美大島地区,佐多岬地区,天草地区,五島地区,門司地区,瀬戸内地区とされ,供給業者の採取場所も図示されており,それぞれの土砂ストック量とそれぞれの地区からの搬入経路が示されていることが認められる。しかし,そもそも承認審査時には外来種の侵入がない地区であったとしても,実際の採取時には侵入があるかもしれず,承認審査時には既存の情報から採取場所を選定しておくにとどめて,採取時までに綿密な対策を講じることには合理性がある。そして,本件環境保全図書(甲A5の7(6-19-1-157,158))において,当該時点で考え得る外来種の混入対策について,埋立土砂の供給元などの詳細を決定する段階で生態系に影響を及ぼさない材料を選定することなどにより環境保全に配慮することとし,陸域生物・生態系への影響として陸産外来種の混入のおそれがあることから,①供給元の調査により事業区域周辺の生物相・生態系に影響を及ぼすことのない資材であることを確認すること,②外来種として地域に影響が及ぼされる可能性が残る場合には,供給元で駆除等の対策がされたことを確認して用いること,③土砂搬入,造成後にモニタリング調査を行い,外来種が記録された場合は適切に駆除するとしている。そして,原告が主張するように,事業の有無や開始時期が不明な状況で,土砂供給業者と土砂購入に係る契約を締結し,外来種に係る調査を行うことはできず,上記地区は例示であり,土砂採取場所が特定されていないとしたうえで,土砂の採取場所が確定した時点で,当該場所に応じた防除対策等を策定し,さらに,①供給業者等との契約手続に当たっては,外来種混入等の対策として,生態系に対する影響を及ぼさない措置を講ずる旨を発注仕様書に規定すること,②現地調査の実施主体は供給業者等を想定し,最終的には事業者の責任で行われるが,更なる調査が必要と判断される場合には,供給業者等への確認の依頼や必要に応じて事業者が主体となった調査を実施することもあり得ること,③駆除等の対策がとれない場合には当該採取場所からの購入を見送ることを含めて検討し(甲A37),さらに,アルゼンチンアリについて「アルゼンチンアリ防除の手引き」(乙E9)に準拠した方法を実施するとしており(甲A142),沖縄防衛局は,外来種の混入対策について現在までさらに具体的な検討を続けており,平成28年3月時点において,現地調査対象種として動物4種(ハイイロゴケグモ,セアカゴケグモ,クロゴケグモ,アルゼンチンアリ),植物10種(オオキンケイギク,ミズヒマワリ,オオハンゴンソウ,ナルトサワギク,オオカワヂシャ,ナガエツルノゲイトウ,ブラジルチドメグサ,アレチウリ,スパルティナ・アルテルニフロラ,ボタンウキクサ)を選定し,調査の方法・時期・頻度,水・薬剤等による洗浄,くん蒸又は熱処理等による防除対策等について具体的に検討した上,専門家の指導・助言を得ている(甲A247(309頁ないし342頁))。
以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認められない。
キ 航空機騒音について
(ア) 被告は,普天間飛行場に関する平成8年協定や平成24年協定はいずれも形骸化しており,本件新施設等における環境保全措置が必要である場合には米軍に措置を理解して運用するよう要請するという対策には実効性が認められないと主張する。
証拠(甲A88,乙D20)によれば,航空機の進入及び出発経路はできる限り学校や病院を含む人口密集地域上空を避けるように設定するなどとする平成8年協定や平成24年協定が締結されたところ,普天間飛行場は,その全周が人口密集地であり,そうであるからこそ「できる限り」との限定が付されていることに照らすと,これらが直ちに遵守されていないとは認め難い。これに対し,本件新施設等は滑走路前面を含む約300度の周囲が海に面し,住宅密集地はその西方面中心に点在するだけである上,離着陸時の飛行経路はすべて海上に設定されている(甲A5の7(2-11~13))。そうすると,本件承認処分における本件留意事項(前提事実(3)ウ)において,この点について米軍との協議を行うことが求められていることに照らし,その実効性を期待しうるものといえ,上記被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとまでは言えない。
(イ) 被告は,①位置通報点,②場周経路,③施設間移動及び④風向きによる音の伝搬についての検討が不十分であり,⑤オスプレイの騒音検証に必要なデータが示されておらず,また,騒音基礎データが大きくずれている,⑥普天間飛行場で運用されていた大型固定翼機が岩国飛行場に移転したことを考慮した飛行回数の予測がなされておらず,⑦名護市の現状の観測データとの乖離が大きく,⑧騒音評価基準としてLAmaxが用いられていないため,事業実施区域内において環境基準を超過する騒音が発生しないという評価は信用できないと主張する。
しかし,①については,証拠(甲A57)に照らせば,航空機騒音の予測計算において位置通報点は重要ではなく,②については,被告は,有視界飛行時のB滑走路の場周経路の設定をしない点を指摘するが,本件環境保全図書(甲A5の7(2-11~13,6-3-75~77))及び証拠(甲A104)によれば,有視界飛行時の場周経路は北東風でも南西風でもA滑走路を使用することとされ,B滑走路の使用は,管制官の指示等,運用上の所要から必要とされる場合などに限定され,その場合には当該運用上の必要に応じて様々な経路をとることになることが認められ,当該事実に照らせば,B滑走路について場周経路を設定しないことが不合理といえず,③については,オスプレイの施設間移動にかかる騒音の予測・評価については,米軍海兵隊が作成した環境レビューを基に算出されており(甲A93,甲A94の1及び2),それらが不合理であるとは言えないし,オスプレイが1000フィート以上の飛行もあり得ることから(甲A208),1000フィートでの予測も著しく不合理であるとは言えないし,④については,本件環境保全図書(甲A5の7(4-5-13,6-2-20,12-1-14,資6-3-85~93))によれば,航空機は風向きにより着陸,離陸等の方向が異なることから,標準飛行回数を北東,南西方向に振り分けて,風向きを考慮した予測を行っており,さらに,騒音レベル(LA)予測コンターについて夏季,冬季の風向,風速を仮定してそれぞれ試算した結果を参考として資料編に記載し,風の影響を考慮した騒音伝搬の予測に当たっては,気象の影響を考慮できる手法として研究が進められているPE法(甲A107)を用い,対象機種を騒音レベルの大きいオスプレイとCH-53Dヘリとして,騒音伝搬への風の影響は上空発生音よりも地上付近から発生する騒音の方が明らかであることが知られているため,それぞれエンジンテスト時とホバリング時について試算を行い,風向・風速については,辺野古崎であるWE-8地点における夏季代表として風向をE(東の風),平均風速を3.1m/sとし,冬季代表として風向をN(北の風),平均風速を5.6m/sとして予測したところ,その結果は無風状態を前提にするものに比べて,夏季は陸域側に,冬季は海域側に騒音コンターが移動することが判明し,騒音の伝搬に関する風向きによる影響は正負両方あることが示されており,これらの検討が不十分であるとはいえず,⑤については,本件環境保全図書(甲A5の7(6-3-69,6-3-73,74,12-1-9))によれば,騒音値が最も高いホバリング時について騒音基礎データを記載し,ホバリング時の騒音予測及び評価を行っており,垂直着陸モードの騒音基礎データがないことが不合理であるとはいえず,また,証拠(甲A5の7(6-3-68))及び弁論の全趣旨によれば,参考として示したオスプレイのナセル角(ナセルとはプロペラを取り付けたシャフトやエンジンを収納した部分であり,これが水平(0度)になると固定翼モード,垂直(90度)になるとヘリコプターモードである。甲A224)60度及び80度のグラフについて,目盛りが一つずれる誤記があったことが認められるものの,グラフのデータ引用を誤ったのみであり,予測については正確なデータを用いていることから,騒音の評価等についてこれによる影響はない,⑥については,大型固定翼機とオスプレイでは訓練形態や機種が異なること(甲A57)からすれば,大型固定翼機が移転したことによって,直ちに従前の大型固定翼機の飛行回数に相当する回数がオスプレイの飛行回数に割り振られるとはいえず,大型固定翼機の飛行回数をオスプレイの飛行回数に割り振らないことが不合理であるとはいえず,⑦については,本件環境保全図書(甲A5の7(資6-3-26))及び証拠(乙E23)によれば,調査対象がオスプレイに限定されるのか否かで異なっており,オスプレイに限定していない名護市の調査結果が高く,オスプレイに限定している本件環境保全図書の調査結果は低い。よって,本件環境保全図書のデータと名護市の観測データに乖離が生じていても著しく不合理とはいえず,⑧については,本件環境保全図書作成時の日本における航空騒音に係る環境基準はWECPNLが用いられていることから(甲A57),騒音評価基準としてLAmaxが用いられていないことが不合理であるとは言えない。以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
ク 低周波音について
(ア) 被告は,心理的影響についての閾値について,物的影響と異なり,平成16年に環境省が定める「低周波音問題対応の手引書」によるものではなく,昭和55年に作成された「低周波音に対する感覚と評価に関する基礎研究」によるものを採用しており,不当である旨主張する。
しかし,証拠(甲A5の7(12-1-19),甲A108の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,上記「低周波音問題対応の手引書」が低周波音の心理的影響についての閾値を示しているものとはいえず,それについての環境基準が定められていないこと,本件環境保全図書で用いられた低周波音の心理的影響についての閾値は東京国際空港拡張事業及び中部国際空港建設事業で用いられていることが認められる。以上に照らせば,上記被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあるとは言えない。
(イ) 被告は,予測が沖縄防衛局が用いた環境基準値である閾値を超えている旨主張する。
しかし,被告が主張する環境基準値のうち物的影響に関するものは,証拠(甲A108の1,2)及び弁論の全趣旨によれば,固定発生源から発生する低周波音について苦情の申立てが発生した際に,低周波音によるものかを判断するための目安として示されたものであり,低周波音についての対策目標値,環境アセスメントの環境目標値,作業環境のガイドラインなどとして策定したものではないことが認められる。また,上記目標値を超過していることについては,飛行経路,機種及び距離などの様々な要因や個人差,建物の状態によっても影響の出方に差があり,その対応も異なることから,本件環境保全図書においては,事後調査において低周波音の測定及び聞き取り調査を実施し,どのような影響があるかを把握するとともに,必要に応じて,対策を検討し,適切に対応することとしていることが認められる(甲A5の7(6-5-69,12-1-18)。以上によれば,上記被告の主張及びこの点についてのその他の被告の主張により,本件承認処分における第2号要件の審査に誤りがあると認めるに足りる証拠はない。
(5)  判断過程の不透明・不合理について
被告は,本件承認処分の審査過程に合理性がないことを縷々主張しているが,前記(4)に説示したとおりであるほか,そのような事情が本件承認処分の瑕疵となる根拠を見出すことはできない。
被告は,本件知事意見,本件環境生活部長意見の疑問点・問題点が解消されたことについて具体的に明らかにされていないと主張するが,前記第3の1(7)ウないしク,5(3)のとおり,本件承認処分は,そのことを踏まえてなされたものであり,これらの意見が作成された時点ではそのような疑問を抱いていたとはいえるものの,それに対する回答により理解が得られたからこそ承認したものと推認される。被告が指摘することが本件承認処分の瑕疵となる根拠を見出すことはできない。
(6)  結論
以上によれば,本件審査基準に不合理な点があるといえず,かつ,本件埋立出願が本件審査基準に適合するとした前知事の審査に誤りがあるとも言えないので,前知事の判断が誤りであるといえず,本件承認処分に裁量内違法があるとは言えない。さらに,具体的審査基準に不合理な点があるといえず,かつ,本件埋立出願が上記具体的審査基準に適合するとした前知事の審査の過程に看過しがたい過誤,欠落があり,それが結論に影響を与えた具体的可能性があるともいえないので,本件承認処分が裁量権の範囲を逸脱・濫用した違法なものであるとは言えない。
6  争点5(本件承認処分において法4条1項1号及び同項2号の要件が欠如している場合に取消制限の法理の適用によって本件取消処分は違法と言えるか)について
本件承認処分に裁量権行使の逸脱・濫用があるとは認めるに足りず違法であるとは言えないのであるから,これに対する取消権は発生せず,本件取消処分はその点において既に違法である。また,仮に裁量内違法が取消事由に該当すると解したとしても,本件承認処分にこれがあるとも認めるに足りず,この点においても同様である。ただし,本件事案に鑑みて,念のため,仮に裁量内違法が取消事由に該当すると解し,かつ,本件承認処分に裁量内違法があると認められた場合に,その取消権行使が制限を受ける結果,本件取消処分が違法となるかについて,以下判断する。なお,不当について,裁量内違法とは異なる公益目的違反等の概念を採用したとしても,同様であると解される。
(1)  取消制限の意義
取消権発生要件について既に説示したとおり,瑕疵のある処分も公定力を有し,処分がされることにより,一定の法律状態が形成され,それを前提として関係者が行動することにより様々な法律関係や事実状態が積み重ねられる。瑕疵のある処分をしてしまったことにより生じたこのような法律関係や事実状態を保護する必要がある。このような法的安定性の確保が取消制限の根拠であり,加えて,授益的処分の取消しは,申請者の既得権や信頼を保護するという観点も加わり,これを取り消すべき公益上の必要があること,それと取り消すことによる不利益とを比較して前者が明らかに優越していることが必要であると解される。そして,その考慮要素としては,処分の性質及び瑕疵の性質・程度,瑕疵を生じた原因も加わり,判断においては処分の根拠法令等に則して判断されるべきである。
(2)  判断
ア 公有水面の埋立承認処分の性質
取消権発生要件について既に説示したとおり,公有水面の埋立事業は多大な費用と労力を要し,様々な法律・利害関係が積み重なっていく性質を有し,法も一旦した法4条の免許を取り消しうる場合を詐欺の手段を以て埋立免許を受けたときと定めるなど,取消権の行使を制限する趣旨の規定を設けていること等からすると,公有水面の埋立承認処分に対する取消権行使は法的安定性の確保のためより制限されるべきものと解される。
イ 瑕疵の性質・程度
上記のとおり,瑕疵の性質は,裁量の範囲内の不当であり,すなわち,考慮すべき事情をいずれも考慮した上で,その利害調整において優劣の判断を誤ったというにすぎないものである。既に説示した点に鑑みて,本件承認処分において重く考慮すべき事情を軽く考慮したり,考慮すべきでない事情を考慮したとは認めがたい。そうすると本件においては,違法状態を回復するという公益上の必要性までは認められず,不当な状態を回復すべきであるにすぎないばかりか,その不当性も事情評価の軽度な誤りであって,瑕疵の存否が一見して明らかなものではないから,その意味では瑕疵のある処分が存続することにより,取消権の根拠である法律による行政の原理が損なわれる程度は小さい。
ウ 瑕疵を生じた原因
瑕疵を生じた原因は,前知事の判断における過誤であり,申請者にあるとは認められない。
エ 取り消すべき公益上の必要
自然海浜を保護する必要等があげられるが,他方,既に説示したとおり,本件埋立事業を行う必要性自体は肯定できるので,前者が後者に程度において勝ったというにすぎず,その分取り消すべき公益上の必要が減殺されるものというべきである。
オ 取り消すことによる不利益
(ア) 日米間の信頼関係の破壊
本件承認処分は,認定事実(4)のとおり,17年あまりに及ぶ日米両政府間の交渉,協議,調整の経過の上にされたものである。加えて,本件承認処分から本件取消処分までの約1年10か月の間にも,平成26年10月20日に,日米間において,本件承認処分を受けて,普天間飛行場の移設の推進等の重要性を確認し,その取組を進めていくため引き続き協力していくことが確認され(認定事実(4)ス),同年12月2日には,米上下両院軍事委員会が,在沖縄米軍海兵隊のグアム移転に関し,米軍再編計画が不透明であるとして執行を一部凍結していた予算の執行凍結を解除する旨の合意をし,2015会計年度の国防権限法案において,同年度に米政府が要求していたグアム移転関連経費5100万ドルを全額認めるとともに,執行凍結条項を削除した(認定事実(4)セ)。このように,本件承認処分の前後にわたり,様々な事実関係が構築され,我が国に対する米国の信頼は増していたところ,本件承認処分が取り消されることにより,辺野古沿岸域を埋め立てて本件新施設等を建設し,普天間飛行場を返還するという日米間の合意が履行できなくなる。このような事態になれば,普天間飛行場の返還及び代替施設の提供に関し,これまでの交渉,協議及び調整を通じ培われてきた米国の我が国に対する信頼は一挙に失墜する可能性がある。
(イ) 国際社会からの信頼喪失
上記(ア)のとおり,本件承認処分が取り消されれば,米国との間の上記合意について我が国が履行できなくなり,今後の諸外国との外交関係の基礎となるべき,国際社会からの我が国に対する信頼が低下する可能性がある。
(ウ) 本件埋立事業に費やした経費
認定事実(13)に加え,本件埋立事業に当たっては,沖縄防衛局長と名護漁業協同組合代表理事組合長との間で,平成26年5月20日付けで本件埋立事業及び本件新施設等の設置による漁業権等の消滅,漁業の操業制限等に係る損失補償契約を締結しており,同局長から同組合長に対し約30億円の補償金が支払われている(甲A235及び弁論の全趣旨)ところ,本件取消処分が認められれば,本件埋立事業が頓挫することになり,同事業に費やされた上記経費や諸資材,諸機材等が無駄になるほか,契約解除に伴う相当金額の損害賠償金が生じる可能性があり(甲A50の1,2),かかる経済上の不利益は重大である。
(エ) 第三者への影響
認定事実(13)によれば,本件承認処分が取り消されることにより本件埋立事業を進められなくなれば,国が締結した契約を前提に契約関係に入った民間業者等に対し,法的,経済的な悪影響が広範に及ぶ可能性がある。
カ 結論
以上のとおりであり,本件においては,そもそも取り消すべき公益上の必要が取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められない上,その他の点を考慮すれば,本件承認処分の取消しは許されないというべきであり,そうすると本件取消処分は,取消権の根拠規定である法42条1項,同法4条1項1号及び2号の解釈適用を誤ったこれらの法令に違反するものであると認められる。
(3)  被告の反論について
(ア) 被告は,公益保護のために事業について免許や資格が法律上要求されている場合は,違法に付与された免許や資格に基づく事業を将来にわたって継続させることを内容とした職権取消制限の法理は適用されないと主張するが,埋立免許は単なる資格の付与にとどまらず,譲渡や相続が認められる(法16条,17条)などそれ自体に財産的価値等を伴うものであり,法的安定性の確保の必要性も認められるので,上記被告の主張が採用できないことは明白である。
(イ) 被告は,職権取消制限の法理は,判例上,条理として認められたものであって,地方自治法245条の7第1項における「法令の規定」とは言えない旨主張するが,上記(2)カのとおり,本件取消処分は,取消権の根拠規定である法42条1項,同法4条1項1号及び2号の解釈適用を誤ったこれらの法令に違反するものであり,「法令の規定に違反している」と言え,上記被告の主張は理由がない。
(ウ) 被告は,職権取消制限の法理は私人の信頼利益の保護のための法理であるところ,公有水面埋立承認の名宛人である沖縄防衛局は国家の機関であるから,職権取消制限の法理により救済されるべき対象でない,そもそも処分の名宛人である沖縄防衛局自体が同法理の対象とならないのであるから,国土交通大臣である原告が職権取消制限の法理を持ち出しえない旨主張するが,上記(1)のとおり,取消制限の趣旨は法的安定性の確保にあるところ,国に対する処分の取消しであっても法的安定性の確保の要請はあるので,上記被告の主張は採用できない。
(エ) 被告は,法定受託事務に国の関与が認められるのは,法律に基づく行政を維持するためであるところ,法の要件を充たさない違法な本件承認処分を維持することを目的として,原告が是正の指示をすることができるとすると,違法な本件承認処分が維持されることとなり,矛盾する旨主張するが,上記(1)のとおり,原処分が違法であることを前提にそれに対する取消権が発生するものの,法的安定性を確保するためにその行使が制限される場合があり,それにもかかわらず取消権を行使することは違法であって,被告の主張によっても上記判断は左右されない。
(オ) 被告は,公有水面埋立ての承認は,公有水面という自然公物の公用廃止であり,公衆はその自由使用を廃されるという不利益を与えられるとともに,かけがえのない社会的利益を喪失させるものであることから,それについて職権取消制限は適用されない旨主張するが,前記のとおり,昭和48年の法改正により水面保護の優位を定めたとは認められず,上記(2)のとおり,瑕疵の程度等を考慮した上,法的安定性の確保のために公有水面埋立ての承認を取り消す必要がある場合があるのであるから,上記被告の主張には理由がない。
(カ) 被告は,本件承認処分が第1号要件及び第2号要件を充足しないと判断された以上,公益のため,必ず取り消されなければならない旨主張するが,上記(オ)のとおり,上記被告の主張には理由がない。
(キ) 被告は,職権取消制限法理の適用を検討するに当たり,取消制限により保護される権利利益に該当するか否かについては,時系列による区分が必要であり,瑕疵のある原処分がなされた時点までに形成されていた権利利益などで,①瑕疵のある原処分時に瑕疵のない承認拒否処分がされたとすれば,それにより失われるはずの権利利益は,取消制限法理での考慮対象とはならず,②瑕疵のある原処分を取り消そうとするときに,その時点で生じていない,原処分によって将来得られる権利利益や法律関係は区別して除外されなければならない旨を主張する。
しかし,承認処分がされることにより,上記①及び②についても,一旦は有効ないし有益なものとして扱われ,または,将来得られることとなった以上,それを前提として行動することになるから,法的安定性確保の観点から,考慮することは可能である。また,仮に被告が主張するように解したとしても,上記(2)オ(ア)の日米間の信頼関係の破壊及び同(イ)の国際社会からの信頼喪失については,本件承認処分自体及び同処分から本件取消処分までに形成された日米間の信頼関係及び国際社会からの信頼は存在すると言え,また,上記(2)オ(ウ)の本件埋立事業に費やした費用及び同(エ)の第三者への影響についても,認定事実(13)並びに証拠(甲A228,甲A235)によれば,国は,本件埋立事業に関し,第三者との間で,平成26年度は約567億円の契約を締結し,約192億円の支出をし,平成27年度は約388億円の契約を締結し,約104億円の支出をしており,さらに,国は,名護漁業協同組合代表理事組合長との間で,平成26年5月20日付けで本件埋立事業及び本件新施設等の設置による漁業権等の消滅,漁業の操業制限等に係る損失補償契約を締結しており,同局長から同組合長に対し約30億円の補償金が支払われていることが認められるので,本件承認処分自体及び同処分から本件取消処分までの本件埋立事業に費やした費用が存在し,同期間において生じた第三者との関係に対する影響も存在すると言えるので,上記被告の主張によって上記判断が左右されるとは言えない。
(ク) 被告は,本件取消処分をしないことによって本件承認処分に基づき既に生じた効果をそのまま維持する不利益,すなわち,沖縄県への極端なまでの過度の基地集中のために,70年余にわたって沖縄県の自治が侵害され,更に,沖縄県民の民意に反して,本件埋立地の貴重な自然環境を破壊し,付近の生活環境を悪化させ,地域振興開発の阻害要因を作出するものであり,これは,基地負担・基地被害を沖縄県内に移設してさらに将来にわたって固定化するものにほかならないのであって,本件承認処分を放置することが公共の福祉の要請に照らし著しく不当であると認められることが明らかであるから,本件取消処分は適法である旨主張する。
しかし,前記4(4)記載のとおり,本件埋立事業による普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものであり,そうである以上本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても,普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとは言えない。また,環境については,前記5のとおり,第2号要件審査において本件承認処分の判断に誤りがあるとは認められず,水面の陸地化に伴う自然破壊等に対し,適正かつ十分な措置が取られると期待できることに加え,前記4(4)記載のとおり,本件埋立事業によって設置される予定の本件新施設等は,普天間飛行場の施設の半分以下の面積であって,その設置予定地はキャンプ・シュワブの米軍使用水域内であることからすれば,本件埋立事業が被告の主張する地域振興開発の阻害要因とは言えない。さらに,沖縄県の自治権侵害については,上記本件新施設等の面積及び設置予定地に加え,本件新施設等の設置場所を沖縄県内とする地理的必然性が肯定できることからすれば,そのことによって上記判断は左右されない。以上によれば,上記被告の主張には理由がない。
7  争点6(「法令の規定に違反する場合」(地方自治法245条の7第1項)の意義及び国土交通大臣である原告が行える是正の指示の範囲)について
(1)  被告は,「法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(地方自治法245条の7第1項前段)とは,法定受託事務の処理について裁量の逸脱・濫用という違法があり,その違法が全国的な統一性,広域的な調整等の必要という観点から看過しがたいことが明らかである場合をいうと主張し,本件指示理由では本件取消処分が全国的な統一性,広域的な調整等の必要という観点から看過しがたい違法があるとされておらず,その違法も明らかと言えないので,本件指示は違法であると主張する。
しかし,まず,裁量権の逸脱・濫用の違法については,前記のとおり,取消要件である瑕疵の存否について被告に裁量はないから主張の前提を欠いている。また,本来国が果たすべき役割であって,国においてその適正な処理を確保する必要がある法定受託事務について,法令の規定に違反する行為を是正するために是正の指示を定めたこと(地方自治法245条の7)からすれば,違法である法定受託事務処理を放置することはできず,これについて是正の指示を行うことは当然に許容される。上記条項の文言上も,上記被告が主張するような違法に限定すべきとは言えず,当該被告の主張は採用できない。
また,被告は,上記のように解すべき根拠として,是正の指示を含めた関与は「一定の行政目的を実現するため」に認められたものであるとした上で,「一定の行政目的」とは「全国的な統一性,広域的な調整,行政事務の適正な執行を図る等の行政目的」を意味するとする文献を引用して限定的に解釈されるべきであると指摘する。しかし,「一定の行政目的を実現するため」とは地方自治法245条3号中の文言であり,上記文献も同条項に関する記載部分であるところ,同号は,是正の指示(同条1号ヘ)とは異なるいわゆる非定型的関与を定めたものである。そして,同法245条の3第2項は,国に対し,できる限り地方公共団体に対し非定型的関与を行うことのないよう求めているものであり,その趣旨は国の地方公共団体に対する関与をできるかぎり透明なものとするため,是正の指示を含む定型的関与によるべきであるとするものと解される。したがって,被告の主張は,地方自治法上是正の指示とは明確に区別してその利用を制限すべきものとされた非定型的関与の規定を,是正の指示にも適用すべきであるという失当なものであることが明白である。
(2)  被告は,法に係る法定受託事務についての国土交通大臣である原告の関与は,原告の所掌事務である「国土の総合的かつ体系的な利用,開発及び保全」(国土交通省設置法3条1項)の範囲に限られ,かつ,法の目的の範囲内に限られるところ,本件指示理由は,国土交通大臣の所掌している事務でなく,かつ,法の目的ではない,外交及び防衛であるので,本件指示は国土交通大臣の権限を逸脱するものとして,違法である旨主張する。
しかし,そもそも,是正の要求の要件が「各大臣は,その担任する事務に関し,都道府県の自治事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(地方自治法245条の5第1項)と規定しているのに対比して,是正の指示の要件は,「各大臣は,その所管する法律又はこれに基づく政令に係る都道府県の法定受託事務の処理が法令の規定に違反していると認めるとき」(同法245の7第1項)と定めている。これは,法定受託事務に関する是正の指示については自治事務に関する是正の要求よりも広く,都道府県が処理する法定受託事務に係る法令を所管する大臣であることだけが要件とされており,自らの担任する事務に関わるか否かに関係なく,法定受託事務の処理が違法であれば,是正の指示の発動が許される趣旨と解される。よって,この点において被告の主張に理由がないことは明らかである。しかも,前記第3の3のとおり,そもそも,法による都道府県知事の第1号要件の審査権は防衛・外交に係る事項にも及ぶと解されるところ,その法を所管する国土交通大臣が上記法による都道府県知事の第1号要件の審査権について同法245条の7第1項の是正の指示を行うに当たって,上記審査権の及ぶ防衛・外交に係る事項を考慮することは当然許容されるものであり,上記被告の主張には理由がない。
8  争点7(本件新施設等建設の法律上の根拠及び自治権の侵害の有無)について
(1)  被告は,本件新施設等建設は,国政の重要事項であるとともに自治権を大幅に制限するものであるにもかかわらず,具体的な根拠となる法律がないので,憲法41条及び92条に違反している旨主張する。
しかし,本件新施設等の建設及びこれに伴って生じる自治権の制限は,日米安全保障条約及び日米地位協定に基づくものであり,憲法41条に違反するとはいえず,さらに,本件新施設等が設置されるのはキャンプ・シュワブの米軍使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋立地であって,その規模は,普天間飛行場の施設の半分以下の面積であり,かつ,普天間飛行場が返還されることに照らせば,本件新施設等建設が自治権侵害として憲法92条に反するとは言えない。
(2)  被告は,本件新施設等建設は,米軍基地の存在によって,第2の4(7)ア(イ)のとおり,沖縄県の自治権を侵害し,環境破壊や事件事故等の損害を被らせるものであり,本件指示は憲法92条に違反する旨主張する。
しかし,地方自治は憲法92条以下において制度として保障され,具体的には地方自治法その他の法律によって定められる。地方自治法及び法により許容される限度の国の関与が当然に憲法92条に違反するとは言えない。そして,本件指示が地方自治法及び法により許容されるものであることは既に述べたとおりである。
被告は,ここにおいて住民自治権と団体自治権の双方が侵害されているというものの,これらはいずれも地方的な事務に関する公的な意思形成のあり方に関するものであり,前者は意思形成に係る住民の政治参加の要素に着目したものであり,憲法93条により具体化されている。後者は地域の団体の国家から独立した意思形成の点に着目した概念であり,憲法94条により明らかにされている。本件で問題となる米軍基地の存在によって制限されたものは具体的には県の団体自治のうちの憲法94条が規定する地方公共団体の権能のうち自治行政権の侵害であると解される。すなわち,広範な米軍基地内や軍人軍属の犯罪行為に自治行政権が及ばず,それによって現実に環境破壊や事件事故の被害が生じていることをもって,沖縄県の現状が既に憲法94条を導く根拠である憲法92条に違反しているから,新たな米軍基地を建設することはすべて憲法92条に違反し許されないという趣旨であると理解できる。しかし,上記のとおり,地方自治法245条の7第1項の要件を満たすと認められる是正の指示が新たな米軍基地を建設することを目的とする限り一切許されないとまでは認めることができない。そして,本件新施設等が設置されるのはキャンプ・シュワブの米軍使用水域内に本件埋立事業によって作り出される本件埋立地であって,その規模は,普天間飛行場の施設の半分以下の面積であり,本件新施設等で米軍が運用を開始するときには普天間飛行場が返還されるのであるから,自治権の及ばない範囲は減少することが明らかである。加えて,前記のとおり,本件新施設等の設置場所を沖縄県内とする地理的必然性が肯定できることも考慮すると,上記沖縄県の自治権の制限・米軍による環境破壊や事件事故等によって本件指示は憲法92条に違反するとは言えない。
9  争点8(仮に本件指示が適法であるとして,被告が本件指示に従わないことは違法と言えるか)について
(1)  相当の期間の経過及び特段の事情について
地方自治法においては,法定受託事務に関する是正の指示がなされた場合は,地方公共団体はそれに従う法的義務を負い,それに係る措置を講じるのに必要と認められる期間,すなわち,相当の期間を経過した後は,それをしない不作為は違法となる(地方自治法251条の7第1項本文参照)と解される。
他方,是正の指示に不服がある場合には,地方公共団体の長は,是正の指示から30日以内に国地方係争処理委員会へ審査の申出をすることができ(地方自治法245条の13第1項,同条4項),その審査・勧告(同法250条の14第2項)は,是正の指示が違法でない場合は,国の行政庁及び地方公共団体の長にその旨を通知し,是正の指示が違法である場合には,国の行政庁に対し,必要な措置を講ずべきことを勧告するとともに,地方公共団体の長に通知することとし,上記勧告について国の行政庁はこれに沿った措置を講ずべき立場に置かれるものの,これに拘束されるものではない(同法250条の18第1項)。地方公共団体の長は,その審査結果等に不服があれば,審査結果の通知から30日以内に是正の指示の取消しの訴えを提起することができ(同法251条の5第1項1号,同条2項1号),国の行政庁が上記勧告に従わない場合にも地方公共団体の長は是正の指示の取消しの訴えを提起できるとする(同法251条の5第1項4号)。また,是正の指示を行った大臣は,是正の指示に係る措置を講じない地方公共団体の長が是正の指示に対し審査の申出をしないとき,審査の申出をし,その結果等が通知されても是正の指示の取消しを求める訴えを提起しないときは,地方公共団体の不作為の違法に関する確認の訴えを提起できるとしている(同法251条の7第1項)。
以上によれば,是正の指示がされて,それに係る措置を講じるのに必要と認められる期間である相当の期間が経過した以降は,同措置を講じない不作為が違法である状態(但し,違法が確定したわけではない。)は継続しており,地方公共団体からする審査申出期間,審査期間及び出訴期間は国の提訴を制限する期間であると解するのが相当である。また,上記国地方係争処理委員会の勧告には拘束力はないのであり,是正の指示が違法であるとされたとしても,国の行政庁が上記勧告に従って指示を取り消すなどしなければ,是正の指示の効力は存続し,それを受けた地方公共団体はそれに従う義務を負い続けているというべきである。
そこで,まず,本件の相当の期間がいつまでかについて判断する。その起算日は是正の指示が被告に到達した日であり,それに係る措置を講じるのに必要な期間には是正の指示の適法性を検討するのに要する期間も含まれると解されるが,その期間が具体的にどの程度になるかは従前の経過を踏まえて決されるべきであり,本件指示の違法性は,平成27年11月17日に提訴され,5回の口頭弁論期日を経て,平成28年2月29日に弁論終結し,同年3月4日に和解で終了した従前の代執行訴訟と主たる争点が共通することになること(当裁判所に顕著な事実)に鑑みると,遅くとも本件委員会決定が通知された時点では是正の指示の適法性を検討するのに要する期間は経過したというべきであり,その後に本件取消処分を取り消す措置を行うのに要する期間は長くとも1週間程度と認められるから,本件訴えが提起された時点では相当の期間を経過していることは明らかであり,本件指示に係る措置を講じない被告の不作為は違法となっている。これに対し,被告は,相当の期間が経過していないと主張するが,上記判断を左右するものではない。また,被告は相当の期間が経過したとしてもそれを正当化する特段の事情が認められるとして種々主張するが,いずれも採用できない。
(2)  不作為の違法の意義について
被告は,地方公共団体の長に国地方係争処理委員会への審査申出やその後の訴え提起の途が開かれているにもかかわらず,それぞれ相応の一定期間を経過してもそうした対応をしないなどの一連の経過に照らし,地方公共団体の長の対応に故意又は看過しがたい瑕疵のあることが認められて初めて不作為の違法が認定できると解するべきであると指摘する。しかし,前記(1)のとおり同見解は採用できない。その理由は以下のとおりである。すなわち,平成11年地方自治法改正の際に,国からする不作為の違法確認訴訟が規定されなかった趣旨は,地方公共団体が不服申立期間を経過することにより是正の指示等の適法性が確定すると解されたためである。これに対し,平成24年改正では,上記訴訟を新設し,地方公共団体の自主的判断を尊重するべく提訴制限期間を設けたものである。そして,不服申立期間を経過することによっては単に地方公共団体からの不可抗争力が生じるだけで,是正の指示の適法性は確定せず,国からする不作為の違法確認訴訟において同違法を主張できるとされたのであるから,手続を懈怠することで違法性が高められると解する必要性が乏しい。国地方係争処理委員会の手続を経ても,是正の指示が撤回されるなど被告の不作為が違法である状態が解消されなかった以上,被告において,前記のとおり,最終的な解決手段として用意された訴え提起を行うことにより,自らの違法状態を解消することが地方自治法の趣旨に沿うものである。また,不作為の違法確認訴訟には代執行訴訟のような補充性の要件がないのはもちろん,公益要件も加えないことにしたこと,提訴対象を是正の要求・指示に限定する一方,国地方係争処理委員会への申立てを前置しなかったのは,重要案件につき,いずれが正しいにせよ,国と地方公共団体の対立により,前記の違法状態が長く続くことは好ましくなく,迅速に処理すべきとされたことや,その他地方自治法の規定上もそのように解すべき根拠は見出せないことからもこの点に関する被告の主張は理由がない。
また,被告は,国地方係争処理委員会の本件指示の適法性について判断せずに協議をすべきであるとの決定を尊重して,国の関与の取消訴訟を提起しなかったものであり,被告の不作為が違法とはならないと主張する。しかし,まず,国地方係争処理委員会は行政内部における地方公共団体のための簡易迅速な救済手続であるにすぎず,上記のとおりその勧告にも拘束力が認められていないことから,是正の指示の適法性を判断しても,後記のとおり双方共にそれに従う意思がないのであれば,それを判断しても紛争を解決できない立場である。そして,国や地方公共団体に対し訴訟によらずに協議により解決するよう求める決定をする権限はなく,もちろん国や地方公共団体にそれに従う義務もないことは明らかである。加えて,証拠(甲A231,甲A310の1,2,乙A4,被告本人尋問の結果)によれば,本件決定は協議により解決することが望ましいとの意見を述べたにすぎず,被告主張のような趣旨であったとは認められない。また,証拠(甲A243,甲A307ないし309)によれば,前の代執行訴訟等において和解が成立したこと,被告は本件取消処分の取消しを指示する本件指示がされて,不作為の違法確認訴訟が提起され,認容判決が確定すれば,これに従って本件取消処分を取り消す旨表明したことがその和解の前提とされていること,したがって,被告が同確定判決に従わないこととした場合に,同訴訟において是正の指示の違法性を主張できるかというような問題が生じることはなく,同和解につき被告に錯誤があるなどの事情はなく,他方,被告は本件訴訟においてもその確定判決に従うと述べているから,原告にも錯誤があるとの事情はなく,有効に成立したこと,同和解によれば,国地方係争処理委員会の決定が被告に有利であろうと不利であろうと被告において本件指示の取消訴訟を提起し,両者間の協議はこれと並行して行うものとされたことが認められる。そして,国地方係争処理委員会は前記のとおり地方公共団体のための簡易迅速な救済手続であり,是正の指示に対しては,その適法性のみを審査するところ,同委員会において本件指示を違法と判断しても,国はこれに従わないことが和解の前提となっており,同委員会の決定自体は紛争解決のために意義のあるものではなく,その手続において議論として争点を整理すること,その間に原被告において解決のために協議をすることにのみ意義があったことは,同和解関係者は一同認識し,和解成立の前提としていたことである(当裁判所に顕著な事実)。これによれば,国地方係争処理委員会の決定は和解において具体的には想定しない内容であったとはいえ,元々和解において決定内容には意味がないものとしており,実際の決定内容も少なくとも是正の指示の効力が維持されるというものに他ならないのであるから,被告は本件指示の取消訴訟を提起すべきであったのであり,それをしないために国が提起することとなった本件訴訟にも同和解の効力が及び,協議はこれと並行して行うべきものと解するのが相当である。
以上のとおりであり,本件訴訟が提起されたことが地方自治法の精神に沿わない状態であるとは認められない。本件のようにそれ自体極めて重大な案件であり,しかも,国にとって,防衛・外交上,県にとって,歴史的経緯を含めた基地問題という双方の意見が真っ向から対立して一歩も引かない問題に対しては,互譲の精神により双方にとって多少なりともましな解決策を合意することが本来は対等・協力の関係という地方自治法の精神から望ましいとは考えるが,被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば,前の和解成立から約5か月が経過してもその糸口すら見出せない現状にあると認められるから,その可能性を肯定することは困難である。そうすると,前記のとおり,平成11年及び平成24年の地方自治法の改正の経緯から,本件訴訟に対して所定の手続に沿って速やかに中立的で公平な審理・判断をすべき責務を負わされている裁判所としてはその責務を果たすほかないと思料するものである。
以上によれば,被告が本件指示に従わないことは不作為の違法に当たると言え,本件委員会決定があることをもって,上記判断は左右されない。
第4  結論
以上によれば,本件取消処分は,本件承認処分に裁量権を逸脱・濫用した違法があると言えないにもかかわらず行われたものであるなど違法であって,それに対する本件指示は適法である。そして,被告が,適法な本件指示に従わず,本件取消処分を取り消さないのは違法であり,原告の請求には理由がある。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 多見谷寿郎 裁判官 蛭川明彦 裁判官 神谷厚毅)

 

別紙
当事者目録
東京都千代田区〈以下省略〉
原告 国土交通大臣 X
同指定代理人 W1
同 W2
同 W3
同 W4
同 W5
同 W6
同 W7
同 W8
同 W9
同 W10
同 W11
同 W12
同 W13
同 W14
同 W15
同 W16
同 W17
同 W18
同 W19
同 W20
同 W21
同 W22
同 W23
同 W24
同 W25
同 W26
同 W27
同 W28
同 W29
同 W30
同 W31
同 W32
同 W33
同 W34
同 W35
同 W36
同 W37
同 W38
同 W39
同 W40
同 W41
同 W42
同 W43
同 W44
同 W45
同 W46
同 W47
同 W48
同 W49
同 W50
同 W51
同 W52
沖縄県那覇市〈以下省略〉
被告 沖縄県知事 Y
同訴訟代理人弁護士 竹下勇夫
同 松永和宏
同 久保以明
同 秀浦由紀子
同 亀山聡
同 加藤裕
同 仲西孝浩
同指定代理人 W53
同 W54
同 W55
同 W56
同 W57
同 W58
同 W59
同 W60
同 W61
同 W62
同 W63
同 W64
同 W65
同 W66
同 W67
同 W68
同 W69
同 W70
同 W71
同 W72
同 W73
同 W74
同 W75
同 W76
同 W77
同 W78
同 W79
以上

〈以下省略〉

 

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