【選挙から学ぶ判例】crps 裁判例 lgbt 裁判例 nda 裁判例 nhk 裁判例 nhk 受信料 裁判例 pl法 裁判例 pta 裁判例 ptsd 裁判例 アメリカ 裁判例 検索 オーバーローン 財産分与 裁判例 クレーマー 裁判例 クレプトマニア 裁判例 サブリース 裁判例 ストーカー 裁判例 セクシャルハラスメント 裁判例 せクハラ 裁判例 タイムカード 裁判例 タイムスタンプ 裁判例 ドライブレコーダー 裁判例 ノンオペレーションチャージ 裁判例 ハーグ条約 裁判例 バイトテロ 裁判例 パタハラ 裁判例 パブリシティ権 裁判例 ハラスメント 裁判例 パワーハラスメント 裁判例 パワハラ 裁判例 ファクタリング 裁判例 プライバシー 裁判例 プライバシーの侵害 裁判例 プライバシー権 裁判例 ブラックバイト 裁判例 ベネッセ 裁判例 ベルシステム24 裁判例 マタニティハラスメント 裁判例 マタハラ 裁判例 マンション 騒音 裁判例 メンタルヘルス 裁判例 モラハラ 裁判例 モラルハラスメント 裁判例 リストラ 裁判例 リツイート 名誉毀損 裁判例 リフォーム 裁判例 遺言 解釈 裁判例 遺言 裁判例 遺言書 裁判例 遺言能力 裁判例 引き抜き 裁判例 営業秘密 裁判例 応召義務 裁判例 応用美術 裁判例 横浜地裁 裁判例 過失割合 裁判例 過労死 裁判例 介護事故 裁判例 会社法 裁判例 解雇 裁判例 外国人労働者 裁判例 学校 裁判例 学校教育法施行規則第48条 裁判例 学校事故 裁判例 環境権 裁判例 管理監督者 裁判例 器物損壊 裁判例 基本的人権 裁判例 寄与分 裁判例 偽装請負 裁判例 逆パワハラ 裁判例 休業損害 裁判例 休憩時間 裁判例 競業避止義務 裁判例 教育を受ける権利 裁判例 脅迫 裁判例 業務上横領 裁判例 近隣トラブル 裁判例 契約締結上の過失 裁判例 原状回復 裁判例 固定残業代 裁判例 雇い止め 裁判例 雇止め 裁判例 交通事故 過失割合 裁判例 交通事故 裁判例 交通事故 裁判例 検索 公共の福祉 裁判例 公序良俗違反 裁判例 公図 裁判例 厚生労働省 パワハラ 裁判例 行政訴訟 裁判例 行政法 裁判例 降格 裁判例 合併 裁判例 婚約破棄 裁判例 裁判員制度 裁判例 裁判所 知的財産 裁判例 裁判例 データ 裁判例 データベース 裁判例 データベース 無料 裁判例 とは 裁判例 とは 判例 裁判例 ニュース 裁判例 レポート 裁判例 安全配慮義務 裁判例 意味 裁判例 引用 裁判例 引用の仕方 裁判例 引用方法 裁判例 英語 裁判例 英語で 裁判例 英訳 裁判例 閲覧 裁判例 学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例 共有物分割 裁判例 刑事事件 裁判例 刑法 裁判例 憲法 裁判例 検査 裁判例 検索 裁判例 検索方法 裁判例 公開 裁判例 公知の事実 裁判例 広島 裁判例 国際私法 裁判例 最高裁 裁判例 最高裁判所 裁判例 最新 裁判例 裁判所 裁判例 雑誌 裁判例 事件番号 裁判例 射程 裁判例 書き方 裁判例 書籍 裁判例 商標 裁判例 消費税 裁判例 証拠説明書 裁判例 証拠提出 裁判例 情報 裁判例 全文 裁判例 速報 裁判例 探し方 裁判例 知財 裁判例 調べ方 裁判例 調査 裁判例 定義 裁判例 東京地裁 裁判例 同一労働同一賃金 裁判例 特許 裁判例 読み方 裁判例 入手方法 裁判例 判決 違い 裁判例 判決文 裁判例 判例 裁判例 判例 違い 裁判例 百選 裁判例 表記 裁判例 別紙 裁判例 本 裁判例 面白い 裁判例 労働 裁判例・学説にみる交通事故物的損害 2-1 全損編 裁判例・審判例からみた 特別受益・寄与分 裁判例からみる消費税法 裁判例とは 裁量労働制 裁判例 財産分与 裁判例 産業医 裁判例 残業代未払い 裁判例 試用期間 解雇 裁判例 持ち帰り残業 裁判例 自己決定権 裁判例 自転車事故 裁判例 自由権 裁判例 手待ち時間 裁判例 受動喫煙 裁判例 重過失 裁判例 商法512条 裁判例 証拠説明書 記載例 裁判例 証拠説明書 裁判例 引用 情報公開 裁判例 職員会議 裁判例 振り込め詐欺 裁判例 身元保証 裁判例 人権侵害 裁判例 人種差別撤廃条約 裁判例 整理解雇 裁判例 生活保護 裁判例 生存権 裁判例 生命保険 裁判例 盛岡地裁 裁判例 製造物責任 裁判例 製造物責任法 裁判例 請負 裁判例 税務大学校 裁判例 接見交通権 裁判例 先使用権 裁判例 租税 裁判例 租税法 裁判例 相続 裁判例 相続税 裁判例 相続放棄 裁判例 騒音 裁判例 尊厳死 裁判例 損害賠償請求 裁判例 体罰 裁判例 退職勧奨 違法 裁判例 退職勧奨 裁判例 退職強要 裁判例 退職金 裁判例 大阪高裁 裁判例 大阪地裁 裁判例 大阪地方裁判所 裁判例 大麻 裁判例 第一法規 裁判例 男女差別 裁判例 男女差别 裁判例 知財高裁 裁判例 知的財産 裁判例 知的財産権 裁判例 中絶 慰謝料 裁判例 著作権 裁判例 長時間労働 裁判例 追突 裁判例 通勤災害 裁判例 通信の秘密 裁判例 貞操権 慰謝料 裁判例 転勤 裁判例 転籍 裁判例 電子契約 裁判例 電子署名 裁判例 同性婚 裁判例 独占禁止法 裁判例 内縁 裁判例 内定取り消し 裁判例 内定取消 裁判例 内部統制システム 裁判例 二次創作 裁判例 日本郵便 裁判例 熱中症 裁判例 能力不足 解雇 裁判例 脳死 裁判例 脳脊髄液減少症 裁判例 派遣 裁判例 判決 裁判例 違い 判決 判例 裁判例 判例 と 裁判例 判例 裁判例 とは 判例 裁判例 違い 秘密保持契約 裁判例 秘密録音 裁判例 非接触事故 裁判例 美容整形 裁判例 表現の自由 裁判例 表明保証 裁判例 評価損 裁判例 不正競争防止法 営業秘密 裁判例 不正競争防止法 裁判例 不貞 慰謝料 裁判例 不貞行為 慰謝料 裁判例 不貞行為 裁判例 不当解雇 裁判例 不動産 裁判例 浮気 慰謝料 裁判例 副業 裁判例 副業禁止 裁判例 分掌変更 裁判例 文書提出命令 裁判例 平和的生存権 裁判例 別居期間 裁判例 変形労働時間制 裁判例 弁護士会照会 裁判例 法の下の平等 裁判例 法人格否認の法理 裁判例 法務省 裁判例 忘れられる権利 裁判例 枕営業 裁判例 未払い残業代 裁判例 民事事件 裁判例 民事信託 裁判例 民事訴訟 裁判例 民泊 裁判例 民法 裁判例 無期転換 裁判例 無断欠勤 解雇 裁判例 名ばかり管理職 裁判例 名義株 裁判例 名古屋高裁 裁判例 名誉棄損 裁判例 名誉毀損 裁判例 免責不許可 裁判例 面会交流 裁判例 約款 裁判例 有給休暇 裁判例 有責配偶者 裁判例 予防接種 裁判例 離婚 裁判例 立ち退き料 裁判例 立退料 裁判例 類推解釈 裁判例 類推解釈の禁止 裁判例 礼金 裁判例 労災 裁判例 労災事故 裁判例 労働基準法 裁判例 労働基準法違反 裁判例 労働契約法20条 裁判例 労働裁判 裁判例 労働時間 裁判例 労働者性 裁判例 労働法 裁判例 和解 裁判例

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(33)平成21年10月14日 東京高裁 平20(う)2284号 

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(33)平成21年10月14日 東京高裁 平20(う)2284号

裁判年月日  平成21年10月14日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(う)2284号
事件名
上訴等  上告  文献番号  2009WLJPCA10146010

裁判経過
上告審 平成24年10月15日 最高裁第一小法廷 決定 平21(あ)1985号 収賄、競売入札妨害被告事件
第一審 平成20年 8月 8日 東京地裁 判決 平18(刑わ)3785号・平18(刑わ)4225号 収賄、競売入札妨害被告事件〔福島県談合汚職事件〕

出典
刑集 66巻10号1208頁<参考収録>

裁判年月日  平成21年10月14日  裁判所名  東京高裁  裁判区分  判決
事件番号  平20(う)2284号
事件名
上訴等  上告  文献番号  2009WLJPCA10146010

 

主文

原判決を破棄する。
被告人Y1を懲役2年に,被告人Y2を懲役1年6月にそれぞれ処する。
この裁判確定の日から,被告人両名に対し,各4年間それぞれその各刑の執行を猶予する。
原審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

 

理由

第一  控訴の趣意
弁護人の控訴の趣意は,主任弁護人宗像紀夫,弁護人堀内捷三及び同藤原朋奈共同作成名義の控訴趣意書(上記各弁護人及び弁護人鶴間洋平共同作成名義の弁論要旨を含む。なお,主任弁護人は,事実誤認を除く論旨は主張整理書面に記載のとおりである旨釈明した。)に,これに対する答弁は,検察官中原亮一及び同畑中良彦共同作成名義の答弁書に,検察官の控訴の趣意は,検察官渡辺恵一作成名義の控訴趣意書(検察官田辺泰弘及び同畑中良彦共同作成名義の弁論要旨を含む。)に,これに対する答弁は,主任弁護人宗像紀夫,弁護人堀内捷三,同鶴間洋平及び同藤原朋奈共同作成名義の答弁書にそれぞれ記載されたとおりであるから,それらを引用する。
第二  原判決の認定した罪となるべき事実
1  原判示第1の事実
被告人Y1(以下「被告人Y1」という。)は,福島県知事として,同県の事務を管理し執行する地位にあり,同県が発注する建設工事に関して,一般競争入札の入札参加資格要件の決定,競争入札の実施,請負契約の締結等の権限を有しており,被告人Y2(以下「被告人Y2」という。)は,被告人Y1の実弟であり,縫製品の製造,加工,販売等を業とするa株式会社の代表取締役として同社を経営していたが,同県は同県東部の木戸川の総合開発の一環として行う○○ダム本体建設工事(以下「○○ダム工事」という。)につき,一般競争入札を経て,平成12年10月16日,b株式会社,c株式会社及びd株式会社の共同企業体に発注したところ,被告人両名は,共謀の上,b社が○○ダム工事を受注したとき被告人Y1から有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨(以下「○○ダム工事受注の謝礼の趣旨」という。)で,b社副会長のAがe株式会社取締役副社長のBに指示をして,e社が買取に応じることを知りながら,被告人Y2が,Aの指示を受けたBに対し,e社においてa社の所有する時価合計8億円相当の同県郡山市〈以下省略〉ほか15筆の土地合計約1万1101平方メートル(以下「本件土地」という。)を8億7372万0317円で買い取るよう求め,e社が同価格で買い取ることを承諾させた。その結果,平成14年8月28日,e社から,その売買代金として,同市の株式会社大東銀行本店のa社名義の当座預金口座に8億7372万0317円が振込送金された。このように,被告人Y2は,被告人Y1との共謀に基づき,前記土地売却による換金の利益及び売買代金と時価相当額との差額7372万0317円の供与を受けて,同県知事の職務に関し,賄賂を収受した。
2  原判示第2の事実
被告人Y2は,同県が平成16年8月20日に施行した県北流域下水道整備工事(以下「本件下水道工事」という。)の指名競争入札に関し,同工事をf株式会社及びg株式会社の共同企業体に落札させるため,f社東北支店副支店長のC(以下「C」という。),かねてから同県が発注する公共工事の受注調整に関与してきたD,g社の代表取締役であったE(以下「E」という。),前記入札に参加した他の共同企業体を構成する建設業者の営業担当者らと共謀の上,公正な価格を害する目的で,同月中旬ころ,仙台市青葉区の株式会社h東北支店事務所から前記他の共同企業体を構成する建設業者の営業担当者に電話連絡をするなどして,他の共同企業体がf社及びg社の共同企業体の入札価格より高い金額で入札する旨協定し,談合した。
第三  弁護人の理由齟齬ないし理由不備,訴訟手続の法令違反の主張について
一  理由齟齬ないし理由不備の主張について
1  論旨は,要するに,原判決は,①原判示第1の罪に関し,本件土地の価格につき,「罪となるべき事実」の項においては「時価」と判示しながら,「争点に対する判断」の項では「相当価格」と説示し,異なる概念を用いているのは,理由齟齬がある,②同じく原判示第1の罪に関し,贈賄者とされるA及びBの共謀の有無,本件土地の換金の利益に関する被告人Y2の認識及び時価に対する被告人両名の認識についての各判断を遺漏しており,理由不備がある,③原判示第2の罪に関し,Dの原審証言は,平成16年5月下旬か6月ころ,被告人Y2がf社による本件下水道工事の受注を了解した,というものであるのに対し,Cの原審証言では,同年1月か2月ころまでには,Dがその受注につき了承していた,というのであり,両証言は矛盾するのに,両証言をともに信用できるとした原判決には理由齟齬がある,というのである。
2  しかしながら,①については,原判決が,「罪となるべき事実」の項で用いている「時価」と,「争点に対する判断」の項で用いている「相当価格」が,同一の意味内容を有するものであることは,判文全体の趣旨に照らして明らかであるから,原判決に理由齟齬はない。②については,原判決が認定した原判示第1の「罪となるべき事実」は,共謀による収賄罪のそれとして欠ける点はなく,所論指摘の点につき,「争点に対する判断」の項で別途説示されていないからといって,その点が理由不備に当たるものとは解されない。③については,所論指摘のCの原審証言部分は,Cの受け止め方に基づく発言に過ぎず,所論指摘のDの原審証言と直ちに矛盾する訳ではないから,両証言の信用性をともに肯定した原判決に理由齟齬はない。なお,所論中には,他にも理由不備ないし理由齟齬をいう点もみられるが,いずれも失当である。
3  以上により,論旨はいずれも理由がない。
二  訴訟手続の法令違反の主張について
1  論旨は,要するに,①原判示第1及び第2の各罪に関し,被告人Y2の検察官調書(原審乙15,16,18,20ないし26,28ないし33)は任意性がないのに,これらを証拠として採用し,事実認定に使用した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,②原判示第1の罪に関し,弁護人請求に係る平成12年4月の知事日程(原審弁81)は,○○ダム工事の件で被告人Y1と面談した旨の当時福島県土木部長であったFの原審証言が虚偽であることを立証できる決定的証拠であるから,この証拠請求を却下した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,③同じく原判示第1の罪に関し,本件収賄罪の成否を左右するほどに重要な意味を持つものとして弁護人らが指摘した後記「秋保会談」の本件における位置付け等について何らの判断も示さず,また,同様に本件収賄罪の成否を左右する重要な事情の一つとして弁護人が指摘した本件売買に先立って行われたs社への本件土地売却交渉の持つ意味について何らの検討も加えなかった原判決には,審理不尽の違法がある,というのである。
2  まず,①については,関係証拠を総合すれば,原審がその説示する理由により所論が挙げる被告人Y2の検察官調書の任意性を肯定した判断に誤りはないといえる。
所論は,原判決が,被告人Y2の検察官調書の任意性を肯定するについて,被告人Y2が,連日弁護人と接見し,取調状況を報告していること,取調べに当たった森本宏検察官の意図,目的を十分理解し,作成された供述調書の内容も把握した上,署名,指印していること,供述調書の内容は他の証拠と符合していること,その中には検察官が誘導するはずのない心情が吐露されたものがある(原審乙15)ことなどの点を挙げたのにつき,ア被告人Y2が日曜・祭日を除きほぼ連日弁護人と接見したとしても,1回の接見時間は短く,親族等の逮捕を示唆したり,長時間にわたって怒鳴ったり,机を叩き,上着を床に叩き付けるなどの暴力的かつ威迫的取調べに屈服することを防ぎ切ることは困難である,イ森本検察官は,被告人Y2が関知しない状況の下,本件収賄容疑に関する不利益事実の一部承認を内容とする平成18年10月9日付け,同月12日付け,同月13日付け及び同月14日付け各検察官調書をねつ造するなどしており,被告人Y2の供述調書作成経緯に関する森本検察官の原審証言は到底信用できず,この森本証言を前提に,被告人Y2が検察官調書の内容を把握した上で署名,指印したとするのは誤りである,ウ被告人Y2の検察官調書は,具体性や迫真性が欠如し,客観的証拠や信用性の高い証拠による裏付けがない,エ被告人Y2が森本検察官に対し「兄の選挙さえなければ」などと言って嗚咽し,原審乙15号証の被告人Y2の検察官調書中に心情を吐露した記載があるとしても,被告人Y2が吐露した心情は公職選挙法違反事件に関するもので,本件とは関係がなく,また,上記記載は多数ある検察官調書中の一部に過ぎず,他の全ての検察官調書に任意性が認められる理由とはなりえない,旨主張する。
しかしながら,アの点は,森本検察官の原審証言によれば,同検察官が,被告人Y2の取調べの際,親族や関係者に対する捜査の行方あるいは公判審理の進行見込み等に言及したことは認められるものの,それらが根拠のない説明とは言い難く,同検察官の取調べの態度,方法等もそれ自体では任意性を失わせるほどのものとは認められない。そして,関係証拠によれば,被告人Y2は,日曜・祭日を除きほぼ連日のように弁護人と接見し,その都度,供述内容を含めた取調べ状況を伝え,弁護人から強い激励及び種々の助言を受け,森本検察官が示唆したとする親族等の逮捕の可能性は乏しいなどとも教示されていたことが認められるのであり,このような弁護人との接見状況は,被告人Y2の虚偽の自白を誘発する恐れを減じるとともに,その意思決定の自由を侵害されるのを防ぐのに相応の役割を果たしたと評価できる。イの点は,被告人Y2は,原審公判で,所論指摘の各検察官調書の署名と,各葉及び末尾の指印が自身のものであることを認めており,にも拘わらず,録取内容を見落としたというのは不自然というしかなく(ちなみに,所論も被告人Y2が内容を把握していたことを争わない平成18年10月27日付け検察官調書中には,「これまでにお話ししてきたとおり,(b社のAさんらは,○○ダムを受注できたこと等に対するお礼の意味合いでe社に買取を依頼してくれたりしたことは分かっていました。)」などの前置きがあり(当審弁3),それ以前に被告人Y2が不利益事実の一部承認等を内容とする供述をしていたことを看取させる部分がある。),所論の挙げる検察官調書が被告人Y2が内容を関知することのないまま作成されたとは考えられない。所論が他に主張する点を考慮しても,被告人Y2の供述調書作成経緯に関する森本検察官の原審証言に不合理といえるまでの点は見出せず,これを信用できないものではない。ウの点は,被告人Y2の検察官調書の内容は,随所に迫真的な心情を伴った具体的なものであると認められるし,後記のとおり,信用性の高いA,B,F及びDの各原審証言とも符合する上,原判示第1の罪に関する被告人Y1との共謀状況等に関しては,a社の業務報告書(原審甲241)の内容や被告人Y1のa社の取締役辞任といった客観的証拠ないし事実により裏付けられているなど,信用性は高いといえる。エの点は,森本検察官は,原審で,収賄容疑による逮捕から1週間も経たない時点で,被告人Y2が収賄事件等に至る経緯や背景事情に関する心情を吐露した旨証言するところ,その際に録取された検察官調書(当審弁3)中の心情に関する供述内容も,収賄事件についてのそれとして納得できるものであり,所論がいうような公職選挙法違反事件に関する心情をすり替えたものとは認められない。そして,原判決摘示の原審乙15号証の検察官調書が被告人Y2が収賄罪で起訴される直前に作成されていることにも照らすと,被告人Y2において,相当の期間,真意を吐露する状況,すなわち,取調官から不当な圧迫を受けていない状況下にあったことが窺われるといえる。
その他所論が縷々主張する点を検討しても,所論指摘の被告人Y2の検察官調書の任意性を肯定し,証拠採用の上,事実認定に使用した原審の訴訟手続に,所論のいうような法令違反は認められない。
3  次に,②については,原審記録によれば,所論指摘の証拠は,公判前整理手続において,検察官から証拠開示を受けていながら,弁護人が証拠請求しなかったものであることが明らかであり,原審第17回公判に至って,証拠請求したことにつきやむを得ない事由は見当たらないから,この証拠請求を却下した原審の措置に誤りはない。
また,③については,所論指摘の「秋保会談」が関係者の間でなされたことや,本件売買に先立って本件土地がs社へ売却されようとした経緯があることは,本件収賄罪の成否を決する上での間接事実となり得ないではないものの,関係証拠に照らすと,本件を判断する上でこれらはさほどの重要性を持つ事情とは認め難く,原判決が所論主張の観点についての十分な検討経過を示さなかったことが,審理不尽の違法を推測させる根拠となるものではない。
なお,所論中には,被告人両名の各検察官調書には信用性がないのに,これらを事実認定に使用した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反がある,とする部分があるが,所論のいう点は原審の訴訟手続の法令違反となるものではなく,他に審理不尽をいう点も含め,いずれも採用できない。
4  以上の次第で,論旨はいずれも理由がない。
第四  原判示第1の罪に関する弁護人の事実誤認等の主張について
一  事実誤認の主張について
1  論旨
論旨は,要するに,原判示第1の罪につき,被告人Y1はb社の○○ダム工事受注につき有利便宜な取り計らいをしたことは一切なく,e社がa社から本件土地を8億7372万0317円で買い取ったのは,当時の時価の範囲内における通常の経済取引であり,買取を求めた被告人Y2においても,また買取を承諾したA及びBにおいても,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨との認識は有していない上,被告人Y1に至っては,被告人Y2から事前にも事後にも本件土地の買取に関する報告すら受けていないのであり,被告人Y2が本件土地売却による換金の利益及び売買代金と時価相当額の差額の利益を得た訳でもないから,いずれにしても,被告人両名は無罪であり,有罪と認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
2  本件の事実関係
記録を調査し,当審における事実取調べの結果を総合すると,本件の経緯及び状況として,次のような事実を認めることができる。
(1) 被告人Y1は,平成14年当時,家業のa社の筆頭株主兼取締役であるとともに,4期目となる福島県知事の地位に就いており,同県発注の工事につき原判示のとおりの職務権限を有し,実弟である被告人Y2は,a社の株主であるとともに代表取締役社長としてその業務を遂行していた。
(2) Aは,b社における○○ダム工事受注の営業責任者であり,Bは,e社の実質的な経営者であったが,e社にとってb社は多数の下請工事を受注させてくれる重要な取引先であったため,Bは,b社における実力者であるAと懇意にしていた。
(3) 福島県発注の公共工事に関し,関係各建設会社においては,かねてから,知事である被告人Y1の実弟として工事受注に影響力を行使していると目していた被告人Y2の意向を踏まえ,談合を繰り返してきており,他方,被告人Y2も,工事受注を働き掛けてくる建設会社等の中から本命となる受注業者を選定の上,歴代の同県土木部長等をして同選定業者への有利な取り計らいをさせ,関係建設会社に本命となるべき業者を伝達する形で談合に関与し,その建設会社から謝礼等として金員を受領し,被告人Y1の選挙資金等に充てるなどの行為をしていた。
(4) b社では,各担当者が,被告人Y2に対し,○○ダム工事を受注させてほしい旨の要請を繰り返していたが,平成9年ころ以降は,これにAも加わり,ときにはBも同道して受注の要請をしていた。
(5) a社は,原判示のとおり,平成5年ころから安価な中国製品に押されるなどして売上高が下落し,平成11年3月期から毎年億単位の金額の経常損失を計上するようになり,累積債務を解消して経営を再建するため,大規模なリストラを実施した上,経営の軽量化を推進すべく,従来の工場敷地を売却して工場を移転し,余剰金を借入金の返済や従業員のリストラに伴う退職金の支払に充てる方針を建てざるを得なくなり,当面の措置として,工場敷地のうち原判示の約1200坪の駐車場用地(以下「本件駐車場用地」という。)の売却を図ろうとした。
(6) 平成11年初めころ,被告人Y2は,Aに対し,上記のようなa社の現況を説明した上,従業員のリストラに伴う退職金の支払資金を調達する必要性等を理由に,b社による本件駐車場用地の買取を依頼した。Aは,b社が買い取るには採算面で問題があったため,回答を保留していたが,同年5月ころ,被告人Y2から,○○ダム工事受注につき前向きな姿勢を示されたことで,被告人Y1にも好意ある取り計らいが伝わることを期待し,b社の代わりに下請業者であるe社に買い取らせようと考え,Bに対し,○○ダム工事受注後の下請工事の発注を約束の上,被告人Y2の言い値での買取を求め,Bもこれを承諾したため,被告人Y2にその旨伝えた。
(7) ○○ダム工事受注に関する被告人Y2の上記姿勢を受け,Aは,b社を○○ダム工事受注の本命業者として業界調整をして貰うため,Bに手配を依頼し,平成11年5月ころ,秋保温泉の旅館において,そのころ東北地方の公共工事の談合を仕切っていたi株式会社のGと元同県土木部長のHとの間で会合を持ったところ,b社が○○ダム工事を受注する段取りが取られることが確認された。Aは,慎重を期し,その後においても,被告人Y2に対し,b社が○○ダム工事受注を希望している旨を福島県側にも伝えるよう繰り返し要請していた。
(8) 被告人Y2は,被告人Y1に対し,平成11年4月ころ,a社のリストラのため,いずれ本件土地と本件駐車場用地からなる工場敷地を売却して他に移転すること,及び当面は敷地の一部である本件駐車場用地を売却する予定であることなどを報告した上,同年9月ころには,b社の尽力で本件駐車場用地をb社の関係会社に売却できることになったことや,そのb社から○○ダム工事を受注したいと頼まれていることなどを報告して,それぞれ,被告人Y1の了承を得た。
(9) 本件駐車場用地については,被告人Y2とBの間でその売買価格につき何度か交渉を行うなどした結果,平成11年11月9日,被告人Y2の当初の希望に近い3億4800万1566円でe社に売却され,即日代金の支払がなされ,被告人Y2はその全額を大東銀行等からの借入金の返済や運転資金に充てた。
(10) 上記売却を踏まえ,被告人Y2は,平成11年12月ころ,それまでに現金を渡すなどして協力を求めていた同県土木部長のFに対し,世話になっているb社の○○ダム工事受注に関し便宜な取り計らいをするよう依頼した。これを受け,Fは,部下のIに対し,b社が○○ダム工事の本命業者である旨伝え,b社が入札参加資格を満たすように資格要件を調整することを指示した。
(11) そのころ,Aは,被告人Y2から,かねての希望どおりに,被告人Y1や福島県側に○○ダム工事受注に対するb社の要請を取り次いだ旨を伝えられた。
(12) 被告人Y1は,平成12年1月,Fに対し,○○ダム工事の受注業者にはb社を検討してはどうかなどと告げ,自己の意中の受注業者がb社である旨示唆した。暫くして,Fは,前記Iから,b社が入札に参加できるよう資格要件を定めた旨の報告を受け,被告人Y1の意向にも沿っているとして,これを了承し,さらに同年4月には,被告人Y1に対し,○○ダム工事の入札参加資格要件を説明した上,b社を含めて二十数社の大手建設会社に入札参加資格がある旨を報告した。
(13) 平成12年8月,○○ダム工事の一般競争入札が実施され,b社を含む原判示共同企業体が落札したが,この入札までの間に,前記Gを通じ,業界調整が行われ,関係建設会社間でb社が○○ダム工事を落札できるように入札価格を調整する旨の協定がなされていた。○○ダム工事落札後,Aは,Bを同道し,被告人Y2の自宅にお礼の挨拶に出向いた。
(14) 平成12年10月,b社を含む共同企業体と福島県との間で○○ダム工事に関する正式契約が締結されたが,間もなく,被告人Y2は,知人のEから,g社が○○ダム工事に加わることができるよう手配することを依頼され,これをAに取り次いだところ,Aは,部下を通じて他の共同企業体を説得し,正規ではない裏の施工者としてg社を共同企業体に入れることにした。
(15) a社は,本件駐車場用地の売却により当座の苦境を凌いだが,経営危機が抜本的に解決されることはなく,本件土地の早期売却が必要となり,被告人Y2は,平成12年11月ころ,Aに対し,b社において本件土地を買い取るよう申し入れた。Aは,これに協力する旨返答したものの,b社社内で検討したところでは,採算上買取は無理との結論に至り,被告人Y2の希望には添えないこととなったが,被告人Y2には○○ダム工事の件で世話になったとの思いがあり,これを伝えられないままでいた。
(16) b社による本件土地買取が思うように進展しない中,被告人Y2は,原判示不動産仲介業者のJが持ち込んできていたスーパーマーケットを展開する株式会社jへの売却話にも期待し,平成12年12月ころから,Jに委任して交渉を進めていたが,j社には原則として出店する店舗の敷地を購入しない方針があるなどしたため,双方の条件が折り合わなかった。そうこうするうち,平成13年夏ころ,Jはs社に対する会館建設用地としての売却の方が有望と見込み,被告人Y2の承認を取り付けたところ,折から,e社においても,株式会社kの仲介でs社に対し,本件駐車場用地を本件土地と抱き合わせた上での売り込みを図り,同年9月には,k社に交渉窓口を一本化し,s社との折衝を進めたが,同年中にはs社側から購入困難との意向が示され,平成14年3月ころ,この話は完全に頓挫した。
(17) この間,a社では,平成13年2月,従業員の退職金の支払等に充てるため,大東銀行から2億円を借り入れるに当たり,連帯保証人となることをb社に依頼し(同年3月下旬になり,b社の都合で,被告人Y2を連帯保証人とした上でb社からa社に対する貸付けに切り替えられた。),また,同年7月,工場の移転先として同県安達郡本宮町の土地等を購入した際にも,b社の関連会社のl株式会社から,被告人Y2が連帯保証人となって2億円の貸付けを受けた。これらb社又はその関連会社からの債務保証や融資は,被告人Y2のAに対する要請に基づくもので,Aは,a社と被告人Y1の関係等を隠したまま,これらの案件を取締役会にかけたが,後にこの点がK社長の知るところとなり,叱責されるなどした。
(18) 平成13年末から平成14年初めころ,被告人Y2は,Aに対し,b社とl社からの前記借入金の返済期限の延伸を依頼するとともに,本件土地買取の見込み等を尋ねたが,その際,Aは,融資の件でも,本件土地買取を進める件でも,被告人Y1がa社の取締役になっている点がb社社内で問題視されているとして,被告人Y1が取締役から外れる必要がある旨告げた。そこで,被告人Y2は,被告人Y1に対し,本件土地売却を進める上で被告人Y1がa社の取締役となっていることが支障になっているとして,b社から取締役辞任を要請されている旨説明して,取締役辞任を求めたところ,被告人Y1もこれを了解し,同年5月に取締役を辞任した。
(19) 平成14年2月ころ,Aは,被告人Y2に対し,b社が本件土地を買い取ることは困難である旨打ち明けたが,被告人Y2から,強く再考を求められ,依頼に応えるためには前回の駐車場用地の件と同様,e社に買い取って貰うしかないと考え,同年4月ころ,被告人Y2にその方針を伝えた上,Bに対し,被告人Y2の要請に応じなかった場合,今後福島県発注の工事の受注にも支障が生じかねないなどとした上で,被告人Y2の言い値で本件土地を買い取るよう依頼した。Bは,b社から引き続き下請工事等の発注がなされることを期待して,特段の利用目的はなかったものの,これを承諾し,被告人Y2とBの間で本件土地の売買価格等を詰めることとなった。
(20) e社による本件土地買取が決まったことを受け,被告人Y2は,平成14年5月か6月ころ,被告人Y1に対し,a社の工場が移転することになったこと,売却が難航していた本件土地をb社の関係会社が買い取ることになったこと及びこれにより退職金の支払や負債の圧縮が可能となることなどを報告したところ,被告人Y1も異議なく了承した。
(21) これと前後して,被告人Y2は,Jに対し,e社に本件土地を売却することになった旨告げたところ,Jから,e社が本件土地及び本件駐車場用地にショッピングセンターを建設し,j社等にそのテナントとして出店して貰うことを決めた上で売却する案を勧められ,e社やj社との交渉をJに委ねた。
(22) その後,Jにおいて,e社やj社との間で,テナント料等につき種々折衝した結果,平成14年8月には,j社が同所に建設されるショッピングセンターに出店することが固まった。この折衝と並行し,Jが,本件土地の売買価格として,被告人Y2には低めの7億8000万円を,Bには高めの8億2000万円をそれぞれ提示したところ,当初は,双方とも不満な対応を示したものの,Bが折れたため,被告人Y2にその旨報告すると,被告人Y2から,e社は,本来であれば必要な土地活用方策を検討してテナントなどを探すためのコンサルタント費用3000万円ないし5000万円を拠出しなくて済んでいるとして,その分を価格に上乗せするよう求められた。そこで,Jが,改めて,テナントの確保等に責任を持って対処する旨Bを説得し,売買価格として約8億7000万円を再提示した結果,Bも,j社のテナント料の増額を求めつつも,承諾するに至り,これらの報告を聞いた被告人Y2も最終的に了承し,売買価格が決定した。
(23) このような経緯を経て,平成14年8月28日,a社が,e社に対し,本件土地を代金8億7372万0317円で売却する旨の契約が締結され,同日,e社からa社の銀行口座に代金全額が入金され,その後,b社とl社への借入金返済に約3億6400万円,大東銀行への借入金返済に約3億6800万円,大東銀行の当座貸越分に約8400万円,a社の運転資金等に残額約6000万円がそれぞれ充てられた。
(24) a社とb社ないしe社は,営業上の接点はなく,A及びBは,被告人Y2の依頼でe社が本件土地を買い取るのは,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨である旨暗黙裏に意思を相通じており,被告人両名においても,このようなAやBの意図を認識していた。
3  主要な証拠の信用性について
(一) 前記2の認定に沿う主要な証拠であるA,B,Fの各原審証言及び被告人両名の自白を内容とする検察官調書の核心部分の内容は,情況事実に整合した自然なものであり,相互に裏付け合い,他の関係証拠とも符合し,反対尋問あるいはそれぞれの検察官調書との間で不合理とまでいえる動揺ないし変遷は認められず,各人において特段虚偽供述をする理由も認められないことなどに照らして,いずれも信用性が高く,これらと対比すると,被告人両名の各公判供述にはそれぞれ合理性に欠ける部分があり,上記認定に反する部分については信用し難いところ,本件の争点ごとについてのそれぞれの証拠の信用性に関する判断は,原判決が「争点に対する判断」の項で適切に説示するとおりである。所論にかんがみ,以下,若干補足する。
(二) 所論は,Aは,本件とは別件のダム工事に関する談合に関与した嫌疑があり,刑事責任を追及されるおそれが多分にあった上,本件土地取引に関しても,b社との関係で自己保身に走る動機を有し,本件贈賄罪につき公訴時効が成立していることとも相俟ち,検察官に迎合して虚偽の証言をしている旨主張する。
しかしながら,Aの原審証言を精査しても,所論主張の談合罪の嫌疑を危惧して証言をしている節はなく,原判決も説示するとおり,所論のいう自己保身のみから,本件土地買取に○○ダム工事受注の謝礼の趣旨が含まれているとの虚偽供述をする理由も見出せず,本件贈賄罪につき公訴時効が成立していることは,Aにおいて,自己の責任を免れ若しくは軽減するため,虚偽供述をする動機がないことを意味し,反面,被告人両名を罪に陥れる理由は何ら見当たらないのであって,これに,(一)に記載した諸点をも踏まえれば,所論が強調するAの供述経緯や弁護人からの事前面接要請に対する非協力的態度等を考慮しても,Aが検察官に迎合して虚偽の証言をしたとは認められない。
(三) 所論は,Bは,実刑が見込まれた自らの巨額脱税事件の捜査段階において,検察官から公判では執行猶予が付与されるよう配慮する旨の利益誘導を受け,原審公判における証言当時は第1審で上記事件につき実刑判決を受けて控訴中であったが,なお検察官の配慮を受けて執行猶予判決を得たいとの心境にあり,Aと同様に本件贈賄罪につき公訴時効が成立していることも加わって,検察官に迎合して虚偽の証言をしている旨主張する。
しかしながら,Bの原審証言を精査しても,同人が,検察官から所論主張のような利益誘導を受けた形跡は何ら窺われない上,原審証言の内容如何が同人自身の脱税事件の犯情に効果的な影響を与えるとも考え難く,本件贈賄罪につき公訴時効が成立していて虚偽供述の動機が消失しているなど,事実に反して被告人両名を罪に陥れる理由も見当たらないことに加え,(一)に記載した諸点をも併せ考慮すれば,Bが検察官に迎合して虚偽の証言をしたとは到底認められない(なお,当審における弁護人からのBの再度の証人尋問請求については,その必要性を認め難い。)。
(四) 所論は,Fは,原判示第2の下水道工事談合事件の主犯ないし中心的人物として身柄を拘束されて取調べを受けたのに,処分保留で釈放され,その後不起訴処分がなされており,自己の刑事処分を免除されるのと引換えに検察官に迎合して虚偽の証言をしている旨主張する。
しかしながら,Fの原審証言は,体験者でなければ語り得ない内容を含み,可能な限り記憶を喚起して正確な証言をしようと努めていることが証言自体から窺われる真摯なものであり,捜査段階における供述と食い違いが生じた部分についても相応に納得できる説明がなされている上,その証言内容を精査しても,Fが検察官から原判示第2の下水道工事談合容疑につき不起訴を示唆されて取調べを受けた形跡は窺われず(なお,Fは後記のとおり,本件下水道工事談合事件における主役ないし中心的人物とはいえず,同事件で起訴されないことが不自然,不合理とまでは認め難い。),ましてや,被告人両名との本件以前の関係に照らしても,ありもしない事実をねつ造して被告人両名を不利な立場に陥らせることなどまず考えられないのであって,(一)に記載した諸点をも総合すれば,所論が不明朗と指摘するFの預金に関する金員の出入状況や検察側証人としてのFに対する厚遇等を勘案しても,Fが所論のいうように検察官に迎合して虚偽の証言をしたとは認められない。
(五) 所論は,被告人Y2の検察官調書は信用性がない旨主張するけれども,任意性についての判断の項(第三の二の2)で説示した各事情に徴し,その信用性は高いというべきである。
(六) 所論は,被告人Y1の検察官調書は,具体性や迫真性に欠け,罪悪感や自白に至る経緯等の記載もなく,客観的状況にも符合せず,検察官が自白を強要するなどして,殊更虚実取り混ぜて作成したものにすぎず,信用性がない旨主張する。
しかしながら,関係証拠によれば,被告人Y1は,通常逮捕以降,私選弁護人が日曜・祭日を除きほぼ連日接見し,強い激励や助言を続ける中で,約1週間後に全面否認から自白に転じ,以後捜査段階では自白を維持していたことが認められるところ,「記憶を喚起し,弁護人のアドバイスも受け,記憶にあることはあるように,ないことはないとして,事実は事実として認めなければならないという気持ちの整理も付いた。」として,自白するに至った経緯を説明するところ(原審乙2)も相応に納得できるものであり,被告人Y1も検察官調書の任意性自体は争っておらず,このような被告人Y1の供述状況自体が自白の信用性を高める有力な事情といえる。また,被告人Y1の検察官調書の内容を精査すると,記憶のある部分ないしは記憶を喚起した部分と,そうでない部分が明確に区別されているほか,被告人Y2から本件土地売却の報告を受けた際の心情や記憶には濃淡があって,細かい点を含めてよく思い出せないなどとされていてその点に言及がないか簡潔なものにとどまっている点についても,それなりの説明がなされているといえる。加えて,被告人Y2との共謀状況及びその形成過程に関しては,前記a社の業務報告書の内容や被告人Y1のa社の取締役辞任といった客観的証拠ないし事実によって裏付けられ,b社への有利便宜な取り計らいの点は,前記のとおり信用性の高いFの原審証言により支えられているなど,主要部分で関係証拠とも符合している。他方で,被告人Y2の検察官調書とは細部では食い違いも存し,b社への有利便宜な取り計らいとなるFへの働き掛けの内容も,Fの原審証言とはかなりニュアンスを異にしているほか,本件土地の売却先である会社の名前は聞いていないとしていたり,検察官が想定した賄賂の内容も積極的には肯定していないなど,被告人Y1の言い分がきちんと通されていることを窺わせる部分もある。以上からすれば,被告人Y1の公判供述にあるごとく,支援者等に対する捜査範囲の拡大や波及を危惧して虚偽の自白をしたとは考え難く,被告人Y1の検察官調書は,大筋では信用できるものといえる。
4  事実関係に対する所論について
前記2の事実関係は,原判決もほぼ同旨を認定しており,「争点に対する判断」の項の該当箇所でその認定理由を詳細に説示するところも相当として是認できる。以下,主要な点につき,所論に即して付言する。
(一) (8)の平成11年4月ころ及び同年9月ころの被告人Y2の被告人Y1に対する各報告について
所論は,各報告の有無や内容を争うが,(8)に沿った被告人両名の各検察官調書は,前記のとおり,a社の業務報告書の内容によっても強く裏付けられている上,(11)の被告人Y2のAへの連絡内容や(12)の被告人Y1のFに対する働き掛けとも整合しており,十分信用できる。
(二) (12)の平成12年1月の被告人Y1のFに対する働き掛け及び同年4月のFの被告人Y1に対する報告について
① 所論は,(12)に沿ったFの原審証言は,アIからの報告の点を除き,何ら裏付け証拠がない,イFは,同年4月の入札参加資格等の報告経緯につき,捜査段階では,被告人Y1からの呼出しに応じて知事室を訪ねた際の出来事であったと明言していたのに,原審では,自発的に知事室を訪ねた際の出来事である旨証言しており,首肯できる理由なく供述を変遷させている,ウ同年1月,4月及び5月の各知事日程及び同年1月の副知事日程の各記載内容は,Fが被告人Y1と面談していないことを決定的に示している,エ被告人Y1から○○ダム工事の意中の受注業者がb社である旨示唆されたとしながら,これを上司や部下等にも知らせなかったばかりか,落札結果を被告人Y1に報告しなかったのは,不自然な対応であるなどの点を指摘し,信用性が全くない旨主張する。
アの点は,被告人Y1の検察官調書も,Fに対する働き掛けの言葉のニュアンスが相違し,あるいは,Fからの入札参加資格等に関する報告時期が判然としない面はあるにせよ,Fの原審証言と概ね符合している上,(11)の事実も,Fの原審証言を間接的に裏付けるものといえる。
イの点は,Fは,原審において,捜査段階では,検察官から,被告人Y1による呼出しによるものではないかと強く言われ,記憶が十分ではなかったために混乱し,呼び出された際の心情を含め,誘導されるまま供述したが,改めて冷静に記憶を喚起した結果,要件が事務的な内容でもあり,自発的に出向いた際のことであったのを思い出した旨証言しており,供述変更の経緯に特段不自然なところはなく,これを所論主張のような同年4月の知事日程との関係による辻褄合わせの虚偽証言とは考え難い。
ウの点については,Fは,原審において,大要,「平成12年1月上旬,副知事には説明済みの土木部の人事案件につき,被告人Y1に相談に行くため,秘書課に依頼し,知事の空いている時間を見計らって呼んで貰い,案件の性質上,秘書も席を外し,被告人Y1と2人きりの中で,所要の説明をしたが,終了後,被告人Y1から,(12)の趣旨に沿う発言があった。また,同年4月,○○ダム工事の入札参加資格の件を報告するため,前同様,秘書課に依頼し,知事の空いている時間を見計らって呼んで貰い,b社関連の話が出ることも危惧して1人で赴き,多分知事室で,(12)のとおり,2,3分説明した。そうした事情から,知事日程には面談の記載がなされていないと思う。このように,部長が知事に説明する場合,短時間で済む案件の時は,事前に予定を組むことなく,その都度,秘書課から,知事の空いている時間帯に呼んで貰い説明している。」旨の証言をしている。ところで,平成12年1月と4月の各知事日程及び同年1月上旬の副知事日程の該当部分に,Fが被告人Y1と面談する予定の記載も,実際に面談したとの書き込みも見当たらないことは,所論指摘のとおりである。しかしながら,各知事日程及び副知事日程とも,手書きの書き込み部分を含め,実際の作成者による記載状況等が説明されている訳ではなく,所論指摘の「知事秘書としての留意事項」と題する書面の内容を踏まえて検討してみても,各日程に知事や副知事の関係人との面談予定ないし面談結果が細大漏らさず逐一記載されていることが明らかとまではいえない。また,前記各知事日程及び副知事日程を見ると,先行の予定終了時刻と次の予定開始時刻との間に時間的間隔があることも少なくなく,特に副知事日程はその時間的間隔がより大きい上,知事に関する当初の予定の開始時刻や終了時刻あるいは行動予定がしばしば変更されている状況も認められる。さらに,当時の副知事であったLは,原審において,大要,「知事や副知事には,事前に予約されていない飛び込みの報告もよくあり,一般論ではあるが,知事日程にしろ副知事日程にしろ,予め予約が取られた場合には大体記載する扱いではあるが,面談があった場合に必ずしもすべて記載される訳ではないし,内部のレクチャーと人事案件の報告は,知事の判断で人事案件の報告が優先されることがある。」旨の証言をしており,現に,副知事日程には,「知事と副知事との接触は必ず記録しておくこと」との付箋が貼付されており,それ以外の接触は必ずしも記載されない場合があることを窺わせている。そして,Fの原審証言によれば,同年1月の面談と同年4月の面談は,いずれも飛び込みでなされたものとされているが,同年1月の知事日程の記載は事前に組まれた日程が記録されているのにとどまっており,飛び込みによる面談がなかったことまで示されている訳ではないし,Lは,原審証言で,同知事日程上,同月7日は,時間帯によっては飛び込みによる人事案件の報告が可能である旨を証言している。また,同年4月の知事日程の事後的書き込みとみられる部分にFの面談についての記載がない点も,Fの原審証言にあるような報告の要件やそれに要した時間をも考え併せると,面談自体の不存在を意味するとまではいえないものと考えられる。以上を総合考慮すると,同年1月及び4月の知事日程や同年1月上旬の副知事日程にいずれもFとの面談記載がない一方,同年5月19日の知事日程に小町ダムの件を巡るFの面談記載があることや,Lの原審証言によっても,同年1月中旬以降の副知事日程に飛び込み報告を含むとされるFの面談記載が存することをもって,Fの原審証言が決定的に弾劾されるとは言い難く,所論に沿う被告人Y1の公判供述も,具体的記憶に基づくものではないから,それを左右しない。
エの点のうち,(12)の被告人Y1からの働き掛けをたやすく口外しなかった点については,Fは,原審で,事柄の性質や立場から,上司に話せるはずはなく,部下のIに対しては,既に被告人Y2の依頼を受けて指示を出しており,改めて,Iに対し,被告人Y1への報告用として入札参加資格要件に関する資料整備を指示した以外,部下にも基本的に説明する必要を感じなかった旨首肯できる説明をしているところである。また,○○ダム工事の入札結果を被告人Y1に報告しなかったことに関しては,Fは,原審で,入札参加資格の関係でのb社の扱いには注意していたものの,入札結果には関心がなく,落札業者が挨拶に出向くはずなので,自分は報告しなかった旨証言しているところ,Fとしては,b社が○○ダム工事の入札に参加することができるようにさえすれば,あとは談合によってb社が当然落札するはずであると踏んでいたとも考えられるのであり,この点は,被告人Y1においても同様の考えでいたとみる余地があるから,所論のいうような対応が必ずしも不自然という訳ではないと考えられる。
② 所論は,ア被告人Y1の検察官調書中の「○○ダムだけど,b社はどうなってんの。」とのFに対する被告人Y1の発言部分は,被告人Y1自身の言葉ではなく,検察官から,このような表現であれば,「天の声」を出したことにはならないとの甘い言葉に誘導され,大したことにはならないとの認識の下に,虚偽と分かりつつ,検察官調書に署名,指印したにすぎない,イ検察官の主張を前提にしても,被告人Y1が,(8)の被告人Y2からの平成11年9月ころの報告を受けた後,幾らでも機会がありながら,4か月も経過した後に至って,Fに対する働き掛けをしたというのは,対応として不合理である,ウ被告人Y1には○○ダム工事に関する予備知識はなく,Fに対し,b社が○○ダム工事を受注できるよう働き掛けることは不可能である,エFは,(10)のとおり,Iに対し,既にb社に便宜を計らうよう指示を出しており,被告人Y1のFに対する働き掛けは何らの意味もなく,それを行う必要性もなかった旨主張する。
アの点をみると,被告人Y1の検察官調書によれば,前記発言は,被告人Y2からb社の○○ダム工事受注の希望を聞き,その希望を叶えてあげたいとの被告人Y1の意図をFに理解して貰うためのものとなっており,逮捕時の弁解録取手続で収賄容疑事実を読み聞かされて否認したところの,b社への有利便宜な取り計らいをしたか否かに関する重要な事項であって,被告人Y1も当然そのことは分かっていたと認められる。しかも,前記発言は,平成18年10月31日付け検察官調書(原審乙2)で初めて供述された後,翌日付け検察官調書(原審乙3)において,検察官から,b社の○○ダム工事受注の希望を端的にFに伝えたかどうかという観点の下に,改めて,前記発言をした際のニュアンスはどのようなものであったかを問い質されたのに対し,正確な言葉は思い出せず,前記発言のような言い方をしたとしか答えようがない旨根拠を挙げて維持されており,なお,同検察官調書では,Fからの入札参加資格等の報告についても,「b社はどうなってんの,などと言ったときとは別の機会に,Fがb社が入札参加資格要件を満たしているということを知らせてくれたことがあったように思うが,どの機会に,どのような言い方をされたのか具体的にはよく覚えていない。」旨供述するにとどまっている。そして,各検察官調書が録取される間に弁護人が接見していることをも考慮すると,各検察官調書の内容は,いずれも被告人Y1がきちんと自己の言い分を通した結果のものと認められる。したがって,所論に沿った被告人Y1の公判供述は信用できず,前記発言部分は被告人Y1が自分の表現で供述した旨認定した原判決の説示に誤りはないと考えられる。
イの点は,被告人Y1は,Fと二人きりでの密談可能な機会を見計らう中で,Fに対する働き掛けをしたとみられるから,所論がいうほど不合理な対応とは認められない。
ウの点は,関係証拠によれば,福島県の規程上,○○ダム工事の受注業者選定に際しては一般競争入札が実施されることが明らかであり,このことは当時知事4期目に入っていた被告人Y1も,当然知っていたと考えられるのであるから,被告人Y2からb社の○○ダム工事受注の希望を聞けば,入札参加資格等に関し,b社に対して便宜な取り計らいをするよう働き掛けることは可能といえる。
エの点は,被告人Y1において,(10)のFのIに対する指示を知っていたとの証拠はなく,たとえ知っていたとしても,Fに対し,b社の○○ダム工事受注につき遺漏のない対応をするよう改めて自ら働き掛ける意味が否定されるものではない。
(三) (18)の被告人Y1の取締役辞任の経緯について
所論は,被告人Y2は,Aからは,b社及びl社に対する借入債務の返済期限の延伸の関係で被告人Y1の取締役辞任を求められたにすぎないから,被告人Y1に対し,本件土地売却に必要との理由を挙げて,取締役辞任の件を持ち出すはずはない旨主張する。
そこで検討すると,被告人Y1は,a社の大株主兼取締役会長であったところ,平成7年に,被告人Y2からa社が福島県内で自社ブランド製品を販売する旨告げられた際,知事の職務との兼ね合いで,自ら申し出て役員報酬を辞退しつつも,取締役までは辞任しなかったことが証拠上明らかである。こうした経緯に照らしても,平成14年時点で,被告人両名が公判で供述するように,被告人Y2において,特段の説明をすることなく,a社の業務に何ら関与しておらず,将来もその予定のなかった被告人Y1の長男を後釜に据えることを前提に,被告人Y1のa社の取締役辞任を求め,被告人Y1もまたその訳を問い質すことなく唯々諾々とそれを了承したというのは,双方の対応とも甚だ不自然というほかなく,到底額面どおりに受け取れるものではない。これについて,被告人Y1は,原審及び当審公判で,被告人Y1の取締役の地位は名目にすぎないからとの説明を受けたかもしれない旨供述するが,そうだとしても,これが直ちに首肯できるほどの理由となる訳ではない。
他方,被告人Y2は,検察官調書で,(18)のとおり,Aから,融資の件でも,本件土地買取を進める件でも,被告人Y1がa社の取締役になっている点がb社社内で問題視されているとして,取締役から外れる必要がある旨要請されたなどと供述している。また,Aも,原審で,b社とl社からの貸付金に関する返済期限の延伸を巡り,被告人Y1がa社の取締役に就任したままであることが,社長に知れて叱責されるなどしたため,被告人Y2に対し,被告人Y1が取締役を早急に辞めない限り,今後協力できないと強く求めた旨証言し,Bも,原審で,本件土地の買取を依頼される前,Aが,被告人Y2に対し,被告人Y1がa社の取締役から外れない限り,これ以上のことはできないと述べたことがある旨証言している。もっとも,A及びBの原審各証言によっても,Aが協力できないとする内容がどのようなものを意味するかは一義的に明確ではないが,当時,被告人Y2が,Aに対し,本件土地の買取及びb社とl社に対する借入債務の返済期限の延伸を依頼していることに照らし,Aもそれらを念頭に置いていたと考えられ,少なくとも,被告人Y2においては,本件土地の買取及びb社とl社に対する借入債務の返済期限の延伸の関係であると受け止めたとみるのが自然な状況にあるといえる。したがって,被告人Y2の上記供述は信用できるというべきである。
そして,被告人Y2は,検察官調書で,被告人Y1に対し,本件土地買取を進めるため,b社から被告人Y1の取締役辞任を要請されていると説明した旨供述し,被告人Y1も検察官調書でこれと同旨の供述をしているところであるが,Aからの取締役辞任要請は,Bへの本件土地買取依頼の前であり,また,被告人Y2は,被告人Y1に対し,債務保証や融資の話は報告していない一方,(8)のとおり,平成11年4月の段階で既に工場敷地の売却方針を伝えていたことにもかんがみれば,被告人Y2が,被告人Y1に対し,取締役辞任を求めた際,本件土地売却の件での必要性のみを理由に挙げたというのも納得できるところである。
以上によれば,被告人両名が検察官調書で供述するとおり,被告人Y1は,被告人Y2から,本件土地売却を進めるために必要であると告げられた上で,a社の取締役を辞任するよう求められ,これを了承したものと認められる。
(四) (20)の被告人Y2の被告人Y1に対する本件土地売却の報告について
所論は,アたとえ,被告人Y1が工場移転の事実を知っていたとしても,本件土地売却の報告を受けていたことには直ちに結び付かない,イ被告人Y2が,被告人Y1に対し,b社等からの債務保証や融資はもちろん,s社への売却方針も告げていないことは,e社に対する本件土地売却の件も報告していないことを推測させる,ウ被告人Y2の妻のMや被告人Y1の妻のNの原審各証言に照らし,被告人Y1が本件土地売却の報告を受けていなかったことは明らかである旨主張する。
しかしながら,アの点は,原判決も説示するとおり,Oの検察官調書(原審甲137)によれば,被告人Y1は,平成14年7月8日ころには,工場移転を知っていたと認められるところ,(8)のとおり,平成11年4月ころ,被告人Y2から,工場敷地を売却して他に移転する旨説明を受けていたことと照らし合わせれば,本件土地売却を知っていたことになる筋合いであり,これらは,平成14年5月か6月に,被告人Y2から工場移転及び本件土地売却の報告を受けた旨の被告人Y1の検察官調書の内容を強く裏付けるものである。
イの点については,被告人Y2は,検察官調書で,a社はY1家の家業である上,被告人Y1が大株主兼取締役会長であり,従業員も被告人Y1の選挙を応援していたことからも,リストラにも絡む土地の処分については,被告人Y1に対してきちんと説明したが,債務保証や融資は過渡的なものであり,被告人Y1が耳に入ることも嫌うので,説明しなかった旨供述するところ,被告人Y1がかねてリストラに反対しており,被告人Y2が苦慮していたことは,Fの原審証言等からも窺われるところであり,被告人Y2において,リストラを推進するためにも,被告人Y1の理解を得る配慮が欠かせなかったことは十分理解できる一方,債務保証や融資はa社の経営上,通常の資金繰りの問題にとどまり,業務に関与していなかった被告人Y1に一々報告していなかったことも納得し得る対応といえる。なお,所論指摘のs社に対する売却案は,交渉が進展しないまま頓挫しており,本件駐車場用地や本件土地の売却が事実上決まった場合とでは,被告人Y1に対する報告の価値に雲泥の差があって,同列に論じられるものではない。
ウの点については,なるほど,被告人Y2の妻であるMは,原審において,被告人Y2に対し,本件土地を売却する予定であることを聞き,被告人Y1に相談するよう勧めたが,否定的な言葉しか返ってこなかった上,本件土地売却後も,被告人Y1にこれを伝えるよう促したが,任されているとの理由でやはり同調してくれなかった旨証言しているところである。しかし,本件土地売却前の遣り取りに関しては,Mも理由等を確認しておらず,被告人Y2の真意は判然としない上,売却後の遣り取りも,事前に本件土地売却の内定を報告して,了承を得ていたことと必ずしも矛盾するものではない。また,被告人Y1の妻であるNは,原審において,本件土地にj社が出店するとの噂話をした際,被告人Y1は否定的反応を示した旨証言しているが,被告人Y1の検察官調書による限り,被告人Y1は,被告人Y2から,b社の関係会社が本件土地を買い取ることは耳にした旨述べているが,j社の出店を知らされたとは供述していない。そうすると,M及びNの原審各証言は,身内の証言である点をさておいても,(20)のとおりの認定を左右するには足りない。
(五) (24)のA及びBの本件土地買取の趣旨等について
所論は,A及びBは,いずれも,e社による本件土地買取につき,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨とは思っておらず,実際,Aは,Bに対し,本件土地買取を依頼した際,同趣旨を何ら説明しておらず,AとBとの間で,同趣旨の下に本件土地の買取を行う旨の意思連絡もなかった旨主張する。
しかしながら,Aは,原審で,本件土地買取は○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に行われたものであり,Bも,阿吽の呼吸でその趣旨を分かったと思う旨証言し,Bも,同様に,その趣旨を忖度できた旨証言しているところ,これらの証言内容は,次の諸点に照らし,十分な根拠に基づくものとして,いずれも信用することができるといえる。
すなわち,前記のとおり,Aは,以前から,被告人Y2に対し,○○ダム工事受注への働き掛けを繰り返し行っており,時にはBもこれに同道していたこと,こうした働き掛けをしている最中,Aは,被告人Y2から,○○ダム工事受注につきb社に対する好意ある姿勢を示され,Bに対し,b社では採算上買取困難とされた本件駐車場用地につき,下請工事発注約束までして,e社による被告人Y2の言い値での買取を依頼し,Bも,特段利用目的もないまま,e社をしてこれを買い取らせていること,また,Aは,被告人Y2を介し,被告人Y1やFに対し,b社の○○ダム工事受注希望を取り次いで貰って,有利便宜な取り計らいを受けて,○○ダム工事受注を首尾良く遂げた上,その受注成功後には,Bを同道の上,被告人Y2の許にお礼の挨拶に出掛けていること,そして,Aは,○○ダム工事の正式契約後,被告人Y2の依頼を受け,無理をして,g社の裏共同企業体入りやb社等による債務保証や融資の実現に手を貸した上,b社では採算上困難との判断に達していた本件土地の買取を被告人Y2から強く求められると,前同様,Bに持ち掛けて,要請に応じなかった場合の今後の工事受注への支障等も説明の上,被告人Y2の言い値での買取を依頼し,Bも,依頼を受けた時点では特段の利用目的もないまま,それを承諾していること,さらに,後記のとおり,Aは,本件土地売買契約後,被告人Y2の求めに応じ,1億円の拠出までBに口添えし,Bもこれに応じていること,a社とb社ないしe社とは営業面では何らの関係も有せず,AやBが,当時,被告人Y2に対し,b社による○○ダム工事受注の件以外に恩義を感じるような事情はほかに見当たらないことなどを指摘できる。
これらによれば,Aが,Bに対し,e社による本件土地買取を依頼し,これを実現させたのは,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨を含む意図の下に行ったことが明らかであり,また,b社の○○ダム工事受注に深く関与するなどしたBにおいても,Aの意図を十分推測して依頼に応じ,e社をして買い取らせたと認めるに十分である。したがって,AとBの前記原審各証言は十分信用でき,AとBの間で,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下にe社が本件土地を買い取ることにつき,暗黙裏に意思を相通じていたことも優に認めることができる。
なお,所論は,Aは,b社との関係での自己保身から,本件土地買取をBに持ち掛けたものである旨主張するが,所論のいう自己保身と○○ダム工事受注の謝礼の趣旨とは併存するだけでなく,前記のとおり,Aが,自己保身のみから,本件土地買取に○○ダム工事受注の謝礼の趣旨が含まれている旨の虚偽の供述をする理由が見出せないことは原判決が説示するとおりであって,Aも,原審証言のみならず,捜査段階でも,重点の置き方はともかく,本件土地買取の理由として,自己保身と○○ダム工事受注の謝礼の趣旨が併存していた旨供述しているところであって,所論のいうような点からAの原審証言の信用性が否定されるものとは考えられない。
(六) (24)の被告人両名における本件土地を買い取って貰うことについての趣旨の認識等について
所論は,被告人両名には,いずれも,e社において本件土地を買い取ることにつき,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨との認識はなく,その旨の意思を相通じたこともない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,被告人Y2は,Aらb社関係者から○○ダム工事受注の依頼を受け続ける中で,Aの計らいにより,本件駐車場用地をe社において買い取って貰い,これを受けて,Fに対し,b社の○○ダム工事受注のための働き掛けを行い,前後して,被告人Y1に対しても,b社の尽力で本件駐車場用地をb社の関係会社に売却することになったことやb社が○○ダム工事受注を希望していることを報告していること,また,被告人Y2は,b社の○○ダム工事受注後には,Aに依頼し,g社の裏共同企業体入りの実現やb社等による高額の債務保証及び融資といった特別な便宜も得ていること,そして,被告人Y2は,Aに対し,他への売却が思いどおりに進まなかった本件土地につき,b社による買取を繰り返し依頼し,本件土地買取に必要であるとして求められるや,被告人Y1のa社の取締役辞任の了承を取り付けた上,結局は,Aの計らいによって,前回同様,e社による本件土地の買取を実現していること,さらには,被告人Y2は,本件土地売買契約後,退職金支払資金が不足したとして,Aに対し,善処を求め,その口添えにより,Bを通じ,e社から1億円が提供されていること,a社とb社あるいはe社は,営業上の接点はなく,当時,AやBが,b社が○○ダム工事を受注できたこと以外に被告人Y2に恩義を感じるような事情は見当たらないこと,一方,被告人Y1も,被告人Y2から,b社の尽力でb社の関係会社が本件駐車場用地を買い取ってくれることや,b社が○○ダム工事受注を希望している旨の報告を受け,Fに対し,自らb社の希望実現のための働き掛けを行い,受注成功後には,被告人Y2から,本件土地の買取を進めるため必要としてa社の取締役辞任を求められてこれに応じた上,b社の尽力で関係会社に本件土地を買い取って貰うことになった旨の報告を受け,これを異議なく了承していることなどからすれば,被告人Y2はもちろん,被告人Y1においても,e社による本件土地の買取は,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に行われることを認識した上,被告人両名が意思を相通じ,被告人Y2において,その買取を実現させたと認めるに十分であり,同旨の被告人両名の検察官調書も信用できるものといえる。
5  本件土地売却により得られる利益の内容について
所論は,本件土地売却により,a社は,換金の利益も,売買代金と時価相当額の差額の利益も得ていない旨主張する。
そこで検討すると,前記2の事実関係によれば,a社においては,本件土地を早期に売却し,売買代金を会社再建の費用等に充てる必要性があったにも拘わらず,思うようにこれを売却できずにいる状況の中で,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下にe社に買い取って貰ったことからすれば,土地売却による換金の利益を得たことは優に認められ,この換金の利益が賄賂に当たることもいうまでもない。
しかしながら,本件土地の時価相当額が8億円であり,土地売却により,a社において,売買代金8億7372万0317円と時価相当額との差額である7372万0317円の利益も得たとし,この利益をも賄賂と認定した原判決の判断は是認し難い。その理由は,次のとおりである。
(一) 本件土地の時価に関し,検察官が客観的な資料として証拠請求しているのは,不動産鑑定業者の財団法人m及び不動産鑑定士のPほか1名共同作成の不動産鑑定評価書(原審甲132)が唯一のものであるところ,同評価書によれば,本件土地に関連した基準地の価格は,平成14年7月時点で1平方メートル当たり7万1800円であり,これを前提にした場合,本件土地の価格は約7億9700万円とはなるものの,本件土地自体は大型店舗用地や業務用地等の一体利用の潜在的可能性を有するが,昨今の不動産市場の動向等から,最有効使用は低層住宅地等として分割利用することであるとし,価格の算出に当たっては,最有効使用及び市場参加者の観点から収益還元法を採用することなく,取引事例比較法による比準価格と開発法による価格を求め,両試算価格を調整の上で,取引事例比較法による比準価格を重視し,結局5億1100万円と判定している。しかしながら,本件土地は,売買契約時点で,本件駐車場用地と一体として,買主のe社がショッピングセンターの店舗を建築し,これにテナントとしてj社が出店することが固まっており,現に,売買契約書にも店舗賃貸事業を目的に買い取るものである旨明記されるとともに,特約として売主の買主に対するテナントの入居決定に協力する義務も付されているのであって,不動産鑑定士のQが原審証言でいう,「テナントの出店条件等がほぼ固まっていてショッピングセンターとしての使用が予定されている場合」に当たるとみるのが相当である。そして,Qの原審証言によれば,低層住宅地域にある土地につき,テナントの出店条件等がほぼ固まっていてショッピングセンターとしての利用が予定されている場合,そのような利用が予定されている土地としての価格と,低層住宅地として利用される土地としての価格の二通りを算出し,いずれが最有効使用であるかを検討した上で,最終的価格を判定することになるが,通常はショッピングセンターとしての利用を最有効使用と扱うのが多いとされている。したがって,本件土地売買契約時点における適正な時価の算出のためには,前記不動産鑑定評価書における検討内容では不十分といわざるを得ず,Qの原審証言にある手法に基づく鑑定に拠るべきであるが,本件証拠の中には,そのような手法による直接的な鑑定結果はない。
次に,原判決も援用摘示しているが,Qは,原審において,本件土地上の建物賃料収入を基準にし,仙台市における調査結果を踏まえ,本件土地を利用した場合の利回りを数値化し,平成15年10月時点の本件土地の時価を算定しているところ,それによれば,本件土地を郊外型ショッピングセンターとして利用した場合には,一般投資家が期待する利回りにより算定すると,6億0525万7708円,投資対象として最も一般的な標準的規模によるオフィスビルとして利用した場合には,通常の取引で生ずる利回りにより算定すると,6億7144万8015円をそれぞれ上回らず,平成14年10月1日時点の投資価値も同様である旨証言している。しかしながら,他方で,Qは,原審において,前記算定に使用した利回りは,個別の不動産を意識したものとはなっていないため,個別の不動産の価格を適正に算出することはできず,前記各算定価格も,本件土地を見ていない以上,適正な利回りを反映しているか否か判断ができないことから,あくまでも,一般的な投資家が考える利回りを当て嵌めた場合がどのようなものかを示す程度の意味にとどまる旨明言しているのである。そうすると,Qの算出した前記各価格も,本件土地の時価の判断に当たり,それなりの資料にはなり得るとしても,自ずと限界があるというほかない。
なお,関係証拠によれば,本件土地売買契約を受け,福島県企画調整部交通・土地政策室において,国土法に基づく審査に当たって算出した本件土地の1平方メートル当たりの価格は5万7000円とされており,本件土地全体では約6億3300万円となるが,この数値は区割宅地分譲を最有効使用とする前提の評価であって,前記不動産鑑定評価書と同様の問題を孕んでいることが明らかである。
確かに,原判決も指摘するように,Qの原審証言にある各算出価格と福島県交通部・土地政策室の分析価格とは近似する上,Qの原審証言にある期待利回りの数値の取り方次第によっては,算出価格が,前記不動産鑑定評価書と近似することも,検察官の主張するとおりであるが,いずれも算出の基礎ないし前提に問題があるだけでなく,算出方法等が異なるにしても,不動産鑑定士間の評価額の乖離が大きいことにもかんがみると,上記の点が結果の信頼性を高め合う関係にあるとは認め難い。
(二) 他方,関係証拠の中には,本件土地の時価を窺い知ることができる資料として,上記(一)に掲げた資料のほかに,次のようなものがある。
まず,本件土地売買を仲介したJは,検察官調書で,本件土地の時価は高くとも8億円相当である旨供述し,8億円も時価の範囲内であるとしており,Bも,原審において,本件土地の時価は,Jが当初提示した8億2000万円より数パーセント低く,8億円を切ると思った旨証言するが,8億円を大幅に割り込む趣旨の証言とは解されない。また,b社の代表取締役副社長であったRは,原審で,b社がa社に債務保証や融資をした際,担保徴求した本件土地につき,一般的には時価よりは低額とされる路線価を基礎として8億円見当と評価した旨証言している上,k社の担当者としてs社に対する本件土地の売却交渉に当たったSも,検察官調書で,本件土地の時価は,路線価を基礎として坪22万円ないし23万円(総額約7億4000万円ないし約7億7000万円)程度が妥当であった旨供述している。このように,本件土地売買に関係した不動産仲介業者や不動産開発も業とする複数の建設業者の時価の見立て額が,揃って8億円とほぼ等しいか又はこれに近似していることは,各見立て時の条件の相違等を考慮に容れても,本件土地の時価を推し量る上で,それなりの意味があると考えられる。
加えて,Sの検察官調書によれば,Sは,s社に対し,売主側の被告人Y2とBの意向を踏まえてのものながら,売却希望価格として坪27万円ないし28万円(総額約9億0800万円ないし約9億4000万円)を提示していることが認められ,前記のとおり,Jも,Bに対し,売却価格として当初8億2000万円を提示しているところ,これら提示額は,売買交渉の時期も異なる上,いずれも交渉戦術の面が含まれた金額であるにしても,SやJの立場等にかんがみ,法外のいわゆる吹っかけに類する金額とまでは認め難く,各提示額ないしはそれに近い価格での売買が成立する余地があることを示すものとして,無視できない。
なお,Jの検察官調書によれば,Jは,被告人Y2から,コンサルタント料の上乗せを理由に売買価格の増額を求められた際,e社に対する当初の提示価格には被告人Y2の言い分のコンサルタント料が折り込み済みであると考え,若干の違和感を覚えた旨供述してはいるものの,他方で,被告人Y2の意向を踏まえたBとの再交渉においては,テナントの確保等に責任を持って対処する旨根拠を挙げて,売買価格を約8億7000万円とする案の了承を取り付けている上,その際にBから求められたj社の賃料値上げも後に実現させており,売買契約書にも売主が買主に対してテナントの入居決定に協力する義務が謳われていることにも照らし,売買価格の増額要因として首肯し得ないではない事情が加わったとみることも可能であり,契約成立時の売買代金約8億7000万円が時価を超えるとは思っていない旨のJの原審証言も一概に排斥し難い。
ちなみに,被告人Y2も,検察官調書において,本件土地の時価につき,8億円程度が限度と思っていた旨供述しているところ,Bの原審証言によれば,後記のとおり,本件土地売買後,被告人Y2が,Bに対し,1億円の新たな資金提供を求めた際,Bから,当初の時点で売買代金に加算して組み込んで貰えれば応じていた旨告げられ,Jに対しては最終合意価格以上の希望を求めることができなかった旨述懐しているが,Jに対し,8億2000万円からさらに増額を求めた際にそれなりに理由を挙げている点をも考え併せると,被告人Y2の上記供述が約8億7000万円が通常の売買価格としての限度内であることを否定する趣旨のものとも解されない。
(三) 以上を総合すれば,本件土地売買契約時の時価がおよそ8億円を上回ることはないものと直ちには断定し難い状況にあり,ひいては,本件土地売買代金と時価相当額との差額が幾らであるかも証拠上は不明であるといわざるを得ない。
6  本件土地売却により得られる利益に対する被告人両名の認識について
所論は,被告人両名には,本件土地売却により,換金の利益を得るとの認識も,売買代金と時価相当額の差額の利益を得るとの認識もなかった旨主張する。
しかしながら,本件土地売却の経緯や売買代金の使途等を把握していた被告人両名が,本件土地売却により換金の利益を得るとの認識を有していたことは優に認めることができるものの,売買代金と時価相当額の差額の利益を得るとの認識については,仮にこれがあるとしても,以下のとおり,被告人Y2についてはともかく,被告人Y1については肯認し難い。
(一) まず,本件土地売却を推進した被告人Y2の売買価格に対する態度をみると,関係証拠によれば,被告人Y2は,本件土地につき,b社において8億円で買い取るよう求めていたが,応じて貰えない中で,Aの計らいにより,e社による買取が決まった際,Jに対し,坪25万円ないし26万円(総額約8億4000万円ないし約8億7300万円)での売却希望を述べるとともに,Jから上限と釘を刺されていた8億2000万円という金額をe社が受け入れたにも拘わらず,更に上乗せを求めて約8億7000万円での売却を実現させたことが明らかであり,たとえ,正確な時価を知らなかったにせよ,被告人Y2なりにこの辺りが限度と見込んでいた8億円をできるだけ超える価格で買い取って貰う意図であったと認められる。
(二) 次に,被告人Y1について,検察官は,原審における冒頭陳述において,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨で本件土地を買い取るものである以上,売買代金額は具体的に聞かなかったものの,時価よりも高いものとなるであろうと未必的に認識した旨,当審における控訴趣意書及び弁論要旨では,時価相当額を相当程度超える金額でb社側に買い取って貰うことを,概括的ではあっても,高い蓋然性をもつものとして認識,認容していたとして,売買代金と時価相当額との差額の利益を得ることにつき,未必的認識を有していた旨主張している。
確かに,被告人Y1は,検察官調書において,本件土地の売買価格につき,「謝礼として買い取ってくれたのであるから,価格面においても,なにがしかの便宜を図ってくれたことは想像できた。」旨,上記検察官の主張に沿うかのような供述をしてはいるが,他方で,「本件土地の売買手続が思うように進まなかった様子であったが,b社が,関係する会社を使って買い取ってくれ,資金的に助けてくれたことが分かった。ただ,売買代金は聞いていないし,相場よりも高く買い取ってくれたのかどうか,仮に相場より高く買い取ってくれたとしても,どの程度高く買い取ってくれたのかも分からない。」とも供述しており,そもそも,価格面での便宜というのも,それ自体が余りにも漠然としているだけでなく,本件土地の売却が難航している状況下での買取であることから,時価までは届かないにしても,可能な限り高い売買価格となったことを想定した趣旨と理解する余地も少なからずあり,反面,売買価格が時価を超えている可能性の有無には何ら触れるところがなく,その可能性があるとまで考えていたかどうかすら判然としない。
また,被告人Y2において,本件土地をe社に売却するに当たり,時価と見込んでいた額よりもできるだけ高く売却したいとの意図を有していたと思われることは前記のとおりであるが,被告人Y1の検察官調書を精査しても,被告人Y2の本件土地売買価格に対する方針につき思い巡らした形跡は存しない。一方,被告人Y2の検察官調書によっても,本件土地売買を報告した時点での被告人Y1の認識は,「b社の受注依頼工作が奏功し,知事の意向が発せられたことによって,受注が成功したものと考え,その謝礼の趣旨で,思うように売れない土地の買取の依頼をしてくれ,その結果,e社が買い取ってくれることになったと理解したと思った。」とされていて,換金の利益のみに言及しているとしか受け取れない内容にとどまっており,売買価格につき,被告人Y1がいかなる認識を抱いたかにつき,何ら供述するところがない。
加えて,関係証拠によれば,e社に対する本件土地売却に当たり,被告人Y2は,被告人Y1に対し,売買価格に関し,買主の意向はもちろん,被告人Y2の方針や具体的な希望価格,さらには,実際に妥結した売買価格すら報告しておらず,被告人Y1の方からも,それらの点につき言及していなかったと認められ,売却手続を被告人Y2に一任していた被告人Y1としては,売買価格の帰趨を判断する具体的手掛かりを有していなかったものといわざるを得ない。なお,被告人Y2は,検察官調書では,本件駐車場用地売却の際,被告人Y1に対し,売買価格を報告した旨供述しているものの,聞いた覚えはない旨の被告人Y1の検察官調書の供述は俄に排斥し難く,本件駐車場用地の売買価格を根拠に,本件土地の売買価格に対する被告人Y1の認識内容を推測するのも困難である。
これらのほか,被告人Y1が,検察官調書で,換金の利益及び売買代金と時価相当額の差額の利益を賄賂と解釈している旨の検察官の説明を受けながら,同解釈の妥当性は裁判所の判断に任せる旨供述している点をも併せ考慮すると,本件土地売却において,被告人Y1には,未必的にせよ,売買価格が時価よりも高額あるいは相当程度超える額となる認識,ひいては,その売買代金と時価相当額の差額の利益を得る認識があったとは認め難く,被告人Y2との間で同利益を得るについての意思連絡があったとするにも疑問が残ることにならざるを得ない。
(三) ところで,収賄罪の成立には,当該公務員自身において,供与される利益が職務に対する不法な対価である旨の認識を必要とするが,上記のとおり,本件土地売却に当たり,売買代金と時価相当額の差額の利益を得ることにつき,被告人Y1が未必的認識すら有していたとは認め難い以上,たとえ,客観的には本件土地売買価格が時価を超えていて,そこに差額が生じており,非公務員である被告人Y2がその差額を利益として得るとの認識の下に本件土地を売却したものであったとしても,これを賄賂として収受したということはできない。
これに対し,原判決は,被告人Y1は,b社の関係会社が○○ダム工事受注の謝礼の趣旨で本件土地を買い取ることを認識しており,換金の利益を受ける旨の認識はあったとして,売買代金と時価相当額との差額の有無に対する認識内容がいかなるものであるかに触れることなく,換金の利益及び売買代金と時価相当額との差額の利益の両者を賄賂とする収賄の共同正犯としての認識に欠けるところはない旨説示している。原判決の判文全体の趣旨からすると,被告人両名間に本件土地を買い取って貰うとの利益を受ける旨の意思連絡があったことを根拠とするものと考えられるが,土地を売却した場合,換金の利益は常に生ずる反面,時価相当額を上回る売買代金との差額の利益は必ず随伴する訳ではないことからすれば,換金の利益を得る認識を有することだけを根拠にして,売買代金と時価相当額との差額の利益を得る認識まであったとするのは相当でないと解される。
(四) 以上の次第で,原判決が,被告人両名間に,本件土地の売買代金と時価相当額の差額の利益を得ることにつき意思連絡を認め,同利益を賄賂として収受する旨の共謀まで認めたのは,事実を誤認したといわざるを得ない。
7  本件土地売却による換金の利益の帰属について
所論は,本件土地売却による換金の利益は,a社にのみ帰属するのであって,被告人Y2に帰属することはなく,もとより,被告人両名において,その利益が被告人Y2に帰属する旨の認識も有しなかった旨主張する。
そこで検討すると,関係証拠によれば,a社は,被告人両名の実父が創業したY1家にとっての家業であり,平成10年以降,被告人両名の持つ株式総数は6割を超え,被告人Y2のみでも2割強となっていること,被告人Y2は,被告人Y1の支持の下,相応の報酬を得て代表取締役社長として,長らく実権を握ってa社の経営に当たってきており,経営上必要な資金の手当を講ずべき立場にあったこと,被告人Y2は,被告人Y1とともに,平成10年に,一族外の株主であるn株式会社とo株式会社との間で,a社が経営上必要な資金を調達できない場合には,被告人両名が協力し,上記2社には資金調達に協力する義務はなく,経営責任をいっさい負担しないこととする旨の協定を締結していたこと,a社において,経営上必要な資金調達のために融資を受けるに当たっては,通常,代表取締役社長の被告人Y2が連帯保証していたこと,本件土地売却当時,a社の債務についての被告人Y2の連帯保証額は,大東銀行分が約7億4000万円,b社及びl社分が約3億6000万円の合計約11億円にも上っていたこと,本件土地売買代金の大半は被告人Y2が連帯保証した借入等債務の返済資金に充てられ,その分だけ被告人Y2の連帯保証責任が縮減する結果となっており,この帰結は,本件土地売却を推進した被告人Y2も分かっていたことが認められる。
以上のように,被告人Y2は,株主あるいは代表取締役としてa社と深い関係を有し,その経営上必要な資金調達義務を負い,a社の借入債務につき連帯保証をしていることなどにかんがみると,a社の資金繰り状況如何は,被告人Y2にとっても,資金調達義務や連帯保証責任にも連動して影響を与える密接な利害関係を有する事柄ということができる。そうすると,a社が,経営上是非とも必要としていた資金繰りの手段として,本件土地売却によって得た換金の利益は,被告人Y2においても同時にこれを享受する関係にあり,同様の利益を得たことになると解するのが相当である。このように解することについては,所論主張のようにa社の弁済能力の検討は必要不可欠ではなく,また,公判前整理手続において賄賂の帰属主体の関係も争点とされ,検察官が被告人Y2への帰属根拠としてa社及び被告人Y2の各経済的負担の関連性をも主張していたことに照らし,不意打ち認定となるものでもない。
そして,被告人Y2は,a社における自己の立場や役割等に照らし,a社が本件土地売却により換金の利益を得ることは,被告人Y2にとっても同様の利益を得ることになる旨当然認識していたと認められ,現に,検察官調書で,a社と自己の経済的負担の相互関係等を踏まえて,本件土地売却により個人的にも助かった旨供述しているところである。また,被告人Y1も,被告人Y2がa社の借入債務につき通常は連帯保証していることや,本件土地売買代金がa社の借入債務の返済資金等に充てられる旨を分かっていたことが証拠上認められるところ,検察官調書において,「不動産がなかなか売り手の思うように売れない状況にあるときに,それを買い取ってくれたことにより退職金や借入金の返済資金が調達でき,従業員や組合が納得する形で新工場に移転できたことは,a社の経営責任を負っていた弟のY2にとって,経済的・心情的に非常に助かることであった。」旨供述しており(原審乙6),a社が本件土地売却により換金の利益を得ることは,被告人Y2にとっても同様の利益を得ることになる旨認識していたと認めるのが相当である。
8  結論
以上のとおりであって,原判決には,本件土地の時価及び売買代金と時価相当額との差額並びに被告人両名がその差額の利益を賄賂として収受したとの点につき,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるといわざるを得ない。
論旨はこの限度で理由がある。
二  採証法則違反の主張について
論旨は,要するに,原判決における,A,B,F及び森本の原審各証言並びに被告人両名の各検察官調書の信用性を肯定した証拠評価や,本件土地売買の経緯や趣旨,被告人両名の共謀及び時価に関する事実認定は,いずれも不合理であり,経験則に反する証拠の取捨選択ないし事実認定が許されないとする最高裁判例に違反する,というのである。
しかしながら,論旨は,結局は事実誤認の主張に帰するところ,これらに対する判断は既に説示したとおりである。
第五  原判示第1の罪に関する検察官の事実誤認の主張について
1  論旨は,要するに,本件土地売買後の平成14年9月30日に,e社から有限会社pを介してa社に支払われた1億円は本件土地の売買代金に含まれるもので,これを収受することも,○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下にa社の再建資金を賄うに足りる金額で本件土地を買い取って貰う旨の事前共謀に含まれるのに,これらを否定し,被告人両名に賄賂としての1億円の収受を認めなかった原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認がある,というのである。
2  そこで検討すると,関係証拠を総合すると,所論主張の1億円は本件土地売買代金には含まれず,1億円の支払と本件土地売買とは別個の独立した行為であり,本件土地を買い取って貰って利益の供与を受けるとの共謀に包摂されることはなく,この点に関する独立した被告人両名の共謀が認められない以上,1億円についての収賄罪は成立しないとした原判決の認定,判断は相当として是認できる。以下,所論に即して付言する。
3  所論は,①1億円は本件土地売買代金に含まれることは明らかであり,被告人Y2の検察官調書(原審乙24)もそのように理解する妨げとはならない,②被告人Y2は,当初からa社の再建資金等を2度に分けて贈賄側から得る意図であったから,当初契約時の売買代金と時価相当額の差額及び追加して支払われた1億円の各収受は包括一罪の関係にある,③被告人Y1は,本件土地売買を隠れ蓑にして売買代金と時価相当額の差額の利益を収受することを未必的に認識しており,その手段,方法を被告人Y2に包括的に委ねていたもので,1億円の収受は事前共謀に含まれる旨主張する。
(一)  ①については,まず,1億円の支払経緯等をみると,関係証拠によれば,本件土地売買代金が全額支払われた後,被告人Y2は,従業員に対する退職金の支払資金が約1億円不足することを知り,早急の手当の必要を感じて,平成14年9月,Aに対し,理由を説明して善処を求めた結果,Aの口添えもあり,Bも1億円の拠出に応ずることになったこと,しかし,e社としては,売買代金は既に全額支払済みであり,その増額を合理化し得るだけの事情の変更はなく,a社に対し,売買代金の増額分としてはもちろん,融資等の名目での拠出も困難であったため,被告人Y2とBが協議の上,a社の関連会社で休業状態のq社を迂回した融資名目とすることにしたこと,これにより,同月30日e社からq社名義の銀行口座に1億円の振り込みがなされ,同年10月7日同口座からa社に入金され,従業員に対する退職金の支払に充てられたこと,その後,e社では,拠出した1億円の扱いに苦慮するうち,本件土地のテナントが増えてテナント料が増大したため,これを口実にして売買代金の増額分扱いとすることになり,平成15年2月28日付けで,その旨の契約書が作成され,これに沿って,a社,e社及びq社間でそれぞれ経理処理や資金移動がなされたこと,そして,被告人Y1は,e社からのa社に対するこの1億円の提供を巡る一連の出来事については全く知らされていないことが認められる。
このように,本件土地の買主であるe社としては,1億円を拠出した時点において,実質的にも形式的にも売買代金の増額分とは扱っておらず,後にそうした扱いにしたのは名目にすぎないのであって,1億円の提供を受けた売主のa社においても事情は同様であった以上,1億円が本件土地売買代金に含まれないことは明らかといわなければならない。これについて,AやBは,原審で,1億円は売買代金の一部である旨証言したが,これは,当初の時点で売買代金に1億円が折り込まれていても買取に応じていたことを理由とするもので,前記認定を左右するものではなく,所論指摘の被告人Y2の検察官調書も,1億円が本件土地売買代金に含まれないとの趣旨に理解するのが自然である。
なお,所論は,1億円が土地売買代金に含まれるかどうかの判断に当たっては,本件土地売買によりもたらされる賄賂,特に売買代金と時価相当額の差額の利益の収受が土地売買に藉口した金銭そのものの収受であることを踏まえる必要がある旨主張するけれども,そもそも本件全体の構造を土地売買に藉口した賄賂の収受であるとみる前提を採用することが困難である上,追加の1億円についてみても,これがa社に当初帰属した時点においては,当事者間においてすら,土地売買代金との実質はもとより,その名目すら有していなかったのであるから,所論主張の点を考慮しても,追加の1億円が土地売買代金に含まれるものではないことに変わりはない。
(二)  次に,②については,被告人Y2は,検察官調書において,本件土地売買代金で退職金支払資金全額を賄う予定であったが,売買契約後,a社のT総務部長から,退職金の支払資金が1億円不足する旨聞かされ,早急に手当の必要を感じた旨供述しているところ,原審供述も同旨となっている上,Tや総務課長であったUの各検察官調書によってもこの点は裏付けられており,信用性が高い。
これについて,所論は,本件土地売買契約の直前,a社は,大東銀行に対し,l社に返済すべき債務額は2億円であるのに,これを1億円少なく見せ掛けており,被告人Y2は,売買代金で退職金に充当する資金1億円が不足することは予め分かっていた旨主張する。しかしながら,関係証拠によれば,本件土地売買前後におけるa社からの大東銀行に対する一連の説明でも,本件土地売買価格の見込額は最大限でも9億円としかなっておらず,売買代金の使途としても,退職金支払資金として1億円余が終始明示されているとともに,l社への返済分も,債務額を2億円とする前提の下に,売買契約直前では,そのうちの1億円を返済することが予定されていたこと,ところが,本件土地売買代金からl社に対する借入債務全額の2億円が返済されたこと,なお,本件土地売買当時,l社に対する借入債務の返済期限は平成15年3月まで延伸されていた一方,従業員に対する退職金の支払は大幅に遅滞しており,早急に手当する必要があったことが認められ,これらによれば,a社においては,本件土地売買代金から退職金を支払う予定であったが,l社に対し,債務の一部である1億円を返済する予定のところを全額の2億円を返済したことで,退職金支払資金として当て込んでいた1億円が不足するに至ったとみるのが自然である。したがって,所論は採用の限りでなく,前記第四の一の5の(二)の被告人Y2の述懐も,所論主張を根拠付けるものとは認め難い。
他方,A及びBの両名が,ともに当初契約時の本件土地売買代金により,a社の資金需要が賄われると考えており,売買代金の増額名目を理由にすることを含め,被告人Y2が,新たな資金提供を求めてくることは予想外の事態と受け止めていたことは,関係証拠に照らし,疑う余地はない。
そうすると,被告人Y2が,1億円の資金援助を求め,A及びBがこれに応じ,e社をして1億円を拠出させたのも,それぞれ,本件土地売買とは別個に,新たに生じた意思に基づくものにほかならず,たとえ,1億円が賄賂に当たると仮定しても,その収受は換金の利益の収受と包括一罪の関係にあるとは認められない。
(三)  ③については,本件土地売買に関し,被告人Y1は,前記のとおり,売買代金と時価相当額との差額の利益を得ることを未必的にも認識していたとは認め難く,もとより,売買代金とは別個の金員の支払を受けることまで認識していたことを認めることができるだけの証拠は皆無である。したがって,本件土地売買代金に含まれず,かつ,被告人Y1が予め支払われることを知らされていなかった1億円について,被告人Y1に収賄罪が成立しないことは当然であり,被告人Y2についても同様といわなければならない。
4  その他,所論が縷々主張する点を検討しても,原判決に所論がいうような事実誤認はなく,論旨は理由がない。
第六  原判示第2の罪に関する弁護人の事実誤認等の主張について
一  事実誤認ないし法令適用の誤りの主張について
1  論旨は,要するに,被告人Y2は,原判示第2の談合には一切関与しておらず,仮に何らかの関与が認められるとしても,幇助の罪責を負うにとどまるから,共謀共同正犯として有罪であるとした原判決には,共謀共同正犯の成立に関する最高裁判例に違反し,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認,ひいては,刑法60条の解釈適用の誤りがある,というのである。
そこで検討すると,関係証拠を総合すれば,原判示第2の事実は優に認められ,原判決が「争点に対する判断」の項の該当箇所において説示するところも相当として是認でき,当審における事実取調べの結果によっても,その認定判断は左右されない。
2  すなわち,関係証拠を総合すると,(1)被告人Y2は,前記第四の一の2の(3)のような方法により関係建設会社間の談合に関与していたが,本件当時,被告人Y1への悪影響を懸念し,自身はなるべく表だった動きを避け,建設業者等との折衝は主にDに担当させており,関係建設会社各社も,このような被告人Y2やDの役割分担等を把握の上,工事受注活動等を行っていたこと,(2)f社のCは,本件下水道工事を受注するため,Dに対する働き掛けを繰り返し行っていたが,平成15年12月ころには,Dの発言から,受注を有望と受け止め,平成16年1月か2月ころ,Dの勧めで,当時福島県の外郭団体理事長となっていたFを訪ねた際には,被告人Y2の了解の下の訪問と理解したFから,本件下水道工事の内容等の説明を受けていること,(3)被告人Y2は,Dから本件下水道工事についてf社からの働き掛けがあることを聞いていたところ,同年5月下旬か6月ころには,Dの進言を受け入れ,f社を受注業者の本命とすることを承認の上,Fに伝えるよう指示したこと,(4)同年6月ころ,Dが,Fに対し,本件下水道工事の本命の受注業者はf社である旨伝えると,Fも,これを被告人Y2の意向と理解し,同県土木部係員に対し,f社やこれと共同企業体を構成するg社が入札の予備指名で外れることのないよう留意することを依頼したこと,(5)Cは,f社が確実に本命の受注業者に選定されるようにするため,同月25日,Dに対し,500万円を渡したが,その際のDの発言から,f社が本命の受注業者に選定されたものと受け止め,f社の担当者に対し,その旨伝え,業界調整に入るよう進言したこと,(6)同年8月20日実施に係る本件下水道工事指名競争入札において,f社びg社の共同企業体が落札したが,この落札までの間に,f社の担当者から,東北地方の公共工事の受注を調整する談合で中心的役割を果たしていたr社のVに対し,Dが受注業者の本命をf社とすることを了解している旨伝達され,その後,関係建設会社間で,原判示第2のとおりの入札協定がなされたこと,(7)被告人Y2は,Cから,Dを介して同年7月上旬に前記500万円及び同年8月末に300万円,直接,平成17年8月下旬に200万円を,本件下水道工事受注に関する謝礼の趣旨で受領していることがそれぞれ認められる。
以上によれば,被告人Y2は,Dを介し,Cら関係者との間で,順次意思を相通じた上,本件下水道工事入札談合の成立に重要な役割を果たしたというべきであり,本件競売入札妨害の共謀共同正犯としての罪責を負うことが明らかである。
3  所論は,①本件の主要な証拠であるD及びFの原審各証言並びに被告人Y2の検察官調書は信用性がない,②被告人Y2は,Dに対し,f社を本件下水道工事の受注業者として承認したことはない,③本件において首謀者的役割を果たしたのはDやFである旨主張する。
しかしながら,①については,DやFの原審各証言並びに被告人Y2の検察官調書の主要な部分は,情況事実に沿った自然なもので,相互に補強し合い,他の多くの関係証拠とも符合していることなどから,いずれも信用性が高く,他方,これに反する被告人Y2の原審供述は,不自然であって,信用し難いことは,原判決が「争点に対する判断」の該当箇所において各事項ごとに適切に説示するとおりである。
所論は,Dは,自己の刑事責任を回避若しくは軽減するため,被告人Y2に責任転嫁する虚偽の証言をしている旨主張するが,Dは,原審証言当時,原判示第2の罪を含む罪で有罪判決を受けて執行猶予中の立場にあり,自己の刑事責任を回避ないし軽減する目的で被告人Y2に殊更責任を転嫁する理由は考え難く,被告人Y2との従前との関係にも照らすと,なおさらその理由は考え難く,所論が縷々主張する点を踏まえても,Dが虚偽の証言をしているとは認められない。
②については,被告人Y2が,Dの進言を受け入れ,f社を本件下水道工事の本命の受注業者として承認したことは,Dが原審で明確に証言し,Fも原審で間接的にそれを裏付ける証言をしている上,被告人Y2の検察官調書も同旨となっており,優に認めることができる。
③については,上記2の事実関係に徴すれば,DやFは,被告人Y2の指示ないし依頼の下に動いていることが明らかである。
4  その他,所論が縷々主張する点を検討しても,原判決に所論のいうような事実誤認ないしは判例違反を含む法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
二  採証法則違反の主張について
論旨は,要するに,FやDの原審各証言並びに被告人Y2の検察官調書の信用性を肯定した原判決の証拠評価は不合理であって,経験則に反する証拠の取捨選択ないし事実認定が許されないとする最高裁判例に違反している,というのである。
しかしながら,論旨は,結局は事実誤認の主張に帰するところ,それが理由がないことは,既に説示したとおりである。
(破棄自判)
以上の次第で,弁護人の法令適用の誤りの論旨や検察官の量刑不当の論旨に対する判断をするまでもなく,原判決には,原判示第1の事実について,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり,被告人Y2に関しては,原判示第2の事実と併せて1個の刑を科しているので,被告人両名につき,全部破棄を免れない。よって,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書に従い当裁判所において更に判決することとする。
(原判示第1の罪となるべき事実に代えて当裁判所が認定した罪となるべき事実)
原判示第1の罪となるべき事実のうち,「時価合計8億円相当の」とあるのを削除し,「前記土地売却による換金の利益及び売買代金と時価相当額との差額7372万0317円の供与を受けて」とあるのを「前記土地売却による換金の利益の供与を受けて」と改めるほかは,原判示第1の罪となるべき事実と同一である。
(原判示第1の罪となるべき事実に代えて当裁判所が認定した罪となるべき事実の証拠の標目) (省略)
(弁護人の主張について)
弁護人は,原判示第1の罪となるべき事実に代えて当裁判所が認定した罪となるべき事実について,①b社の○○ダム工事受注後,e社による本件土地買取まで2年も経過しており,本件が○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に行われたとみるには,時期のずれがありすぎ,不自然である,②本件土地売買は,不動産仲介業者のJが介在している点から明らかなごとく,通常の経済取引であって,賄賂性はない,③新規上場に先立つ株式に関する最高裁判例(最高裁昭和63年7月18日決定・刑集42巻6号861頁以下)の趣旨に照らし,土地売却による換金の利益を賄賂とみるためには,土地売却が著しく困難であることが必要である,④本件土地売却による換金の利益は,a社に直接的に帰属する以上,第三者収賄罪が成立することはともかく,単純収賄罪は成立しない,⑤仮に被告人Y2に本件土地売却による換金の利益が帰属したとしても,被告人Y1は何らの利益も享受しておらず,賄賂を収受したとはいえないなどと主張する。
しかしながら,①については,前記第四の一の2の項でみたとおり,被告人Y2は,b社が○○ダム工事を落札した数か月後には,a社の再建資金等に充当するため,b社による本件土地の買取を依頼し始め,その後も催促を繰り返していたところ,Aも,協力する旨被告人Y2に告げてはいたが,b社社内の検討で採算上無理との結論が出て,要求に応じられないまま時間が経過するうち,被告人Y2からの催促が一段と強まったことから,代替手段として,Bに依頼の上,e社をして本件土地を買い取らせたものであり,この間には,被告人Y2の依頼を受けて,いわばつなぎ的に,b社等による債務保証や融資も実現させており,このような経緯に照らしてみると,所論指摘の時期のずれは,e社による本件土地の買取が○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に行われたものであるとの認定を左右しない。
②については,所論がいうように,本件土地買取における売買価格の決定過程をみると,両当事者がそれぞれ自己の利益を勘案した上での経済取引ということはできるが,これが○○ダム工事受注の謝礼の趣旨の下に行われ,被告人Y1と意思を相通じた被告人Y2が土地売却による換金の利益の供与を受けている以上,その換金の利益が賄賂となるのは当然である。また,e社において本件土地を買い取ることは,Jが仲介に入る前の時点で,A,B及び被告人Y2の間でなされた合意により既に内定しており,Jの役割は,被告人Y2とBの意向を踏まえた上で,売買価格等の詰めを行うことにあったものであるから,Jが介在したことをもって,本件土地売却による換金の利益が賄賂であることと相容れないことになるものではない。
③については,土地売却による換金の利益は,所論主張の最高裁判例における新規上場前の株式が賄賂に当たるかどうかが問題とされた事案とは性格が異なり,賄賂に当たるというための要件として,土地売却が著しく困難であることまでが必要とされるものとは解されない。
④については,たとえ,第三者収賄罪が成立する可能性があるとしても,被告人Y1と意思を相通じた被告人Y2が,本件土地売却による換金の利益の供与を受けたと認められるのであるから,単純収賄罪が成立することを妨げるものではない。
⑤については,公務員と非公務員が共謀の上,賄賂を収受した場合には,その賄賂が非公務員のみに帰属する場合であったとしても,共謀による収賄罪が成立するものと解される。
その他,弁護人が縷々主張する点を検討しても,原判示第1の罪に代えて当裁判所が認定した罪となるべき事実は動かない。
(法令の適用)
被告人両名の当裁判所が認定した罪となるべき事実の所為は,被告人Y1については刑法60条,平成15年法律第138号による改正前の刑法197条1項前段に,被告人Y2については刑法65条1項,60条,平成15年法律第138号による改正前の刑法197条1項前段に,被告人Y2の原判示第2の所為は刑法60条,96条の3第2項,1項にそれぞれ該当するところ,原判示第2の罪について所定刑中懲役刑を選択し,被告人Y2については,以上の各罪と原判示の確定裁判があった罪とは刑法45条後段により併合罪の関係にあるから,刑法50条によりまだ確定裁判を経ていない判示各罪について更に処断することとし,なお,判示各罪もまた刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により重い当裁判所が認定した判示第1の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で法定の加重をし,その所定刑期の範囲内で被告人Y1を懲役2年に,その刑期の範囲内で被告人Y2を懲役1年6月に処し,被告人両名に対し,いずれも情状により刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間それぞれその刑の執行を猶予し,被告人Y2が収受した賄賂は金銭に見積もることができないので,刑法197条の5による没収,追徴は行わないこととし,原審における訴訟費用は刑訴法181条1項本文,182条により被告人両名に連帯して負担させることとする。
(量刑の理由)
本件収賄は,当時,福島県知事であった被告人Y1及びその実弟でa社の代表取締役社長であった被告人Y2が,共謀の上,同県発注に係る○○ダム工事をb社が受注できたことの謝礼の趣旨で,b社から建設工事を受注していたe社がa社所有の本件土地を買い取るものであることを知りながら,被告人Y1の職務に関し,e社に本件土地を買い取らせ,被告人Y2が土地売却による換金の利益の供与を受けたとの事案である。また,本件競売入札妨害は,被告人Y2が,f社からの依頼を受け,同県発注に係る下水道工事をf社及びg社で構成する共同企業体に受注させるため,入札に参加するf社やg社等の関係建設会社の担当者らと共謀の上,他の共同企業体がf社及びg社の共同企業体より高い金額で入札することを協定し,談合したという事案である。
収賄事案は,県知事という地方自治体首長が関与した汚職事件であり,県の職務に対する社会の信頼を失墜させかねず,事案自体強い非難に値する。動機は,経営危機に陥っていたa社の再建資金調達のためではあるが,酌むべきものがあるとは言い難く,賄賂の収受が被告人Y2からの強い働き掛けに基づいている点で,態様も芳しくない。被告人Y2は,本件収賄を主導して担った上,被告人Y1も,重責にある自己の立場についての自覚を欠き,当時の土木部長のFに対し,b社が受注することが望ましいと受け取れる発言を行い,これに先だって被告人Y2からも働き掛けを受けていたFをして,b社に対する便宜な取り計らいをさせており,悪質といえる。また,競売入札妨害事案は,入札制度に対する公の信頼を害するもので,これまた強い非難を免れない事案であるところ,被告人Y2は,被告人Y1の実弟である立場を悪用し,被告人Y1の選挙資金に充てるため,同県発注の公共工事の受注業者を事実上選定し,その見返りに金員の供与を受けることを繰り返す中で本件に及んだもので,動機に酌むべき点は認め難く,果たした役割も大きい上,現に高額の謝礼を受領していることに照らすと,その犯情は悪質といえる。ところが,被告人両名とも,公判段階では犯行を否認しており,真摯な反省心が不十分である。被告人両名の刑事責任を軽くみることはできない。
しかしながら,他方,賄賂として得た利益は,検察官主張の土地売買代金と時価相当額の差額の利益についてはこれを認め難く,換金の利益にとどまっていること,収賄事案における被告人Y1の関与は積極的なものではなく,被告人Y1自身には直接的には賄賂は帰属していないこと,被告人Y1は,本件発覚後に知事を辞任している上,本件が広く報道されたことによる社会的制裁を受けていること,被告人Y1に前科は見当たらず,被告人Y2にとって本件各事案は公職選挙法違反による確定裁判の余罪に当たることなど,被告人両名に共通ないしは個々に酌むべき事情がある。
以上を総合勘案すると,検察官の提出した収賄事案量刑資料を踏まえても,被告人両名に対しては,主文の各刑を量定した上,それぞれの刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
(原審における求刑 被告人Y1に対し懲役3年6月 被告人Y2に対し懲役2年6月 被告人両名に対し1億7372万0317円の追徴)
よって,主文のとおり判決する。

 

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