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「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(50)平成17年11月18日 和歌山地裁 平15(わ)29号 収賄、背任被告事件

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(50)平成17年11月18日 和歌山地裁 平15(わ)29号 収賄、背任被告事件

裁判年月日  平成17年11月18日  裁判所名  和歌山地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(わ)29号
事件名  収賄、背任被告事件
裁判結果  有罪  文献番号  2005WLJPCA11189001

要旨
◆当時、市長であった被告人が、会社代表者から、同社の土地を市が買収するにあたって便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨の下に、現金三〇〇万円の交付を受けたことについて収賄罪が同市長が愛人関係にあった料亭の若女将と共謀の上、市長の立場にあることを奇貨として、若女将らの利益を図る目的で、若女将らが経営する料亭の建物を市において借り上げて、同市に多額の損害を与えた行為について背任罪がそれぞれ成立するとして、無罪を主張していた被告人に対して、懲役四年、未決算入四〇〇日、追徴金三〇〇万円(求刑五年、追徴三〇〇万円)が言渡された事例。

出典
裁判所ウェブサイト

参照条文
刑法45条
刑法197条1項
刑法197条の3
刑法197条の5
刑法247条
地方自治法138条の2
地方自治法147条
地方自治法148条
地方自治法149条

裁判年月日  平成17年11月18日  裁判所名  和歌山地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(わ)29号
事件名  収賄、背任被告事件
裁判結果  有罪  文献番号  2005WLJPCA11189001

主文
被告人を懲役4年に処する。
未決勾留日数中400日をその刑に算入する。
被告人から金300万円を追徴する。
訴訟費用中,証人O2及び同N2に支給した分はその全額を,同北英知及び同N1に支給した分はそれぞれ各2分の1ずつを,同B3に支給した分のうち,併合前の背任事件における第5回,第8回及び第9回各公判に支給した分はそれぞれ2分の1ずつを,同第26回及び第27回各公判に支給した分はその全額をいずれも被告人の負担とする。

理由
(罪となるべき事実)
被告人は,平成11年1月17日から平成14年7月4日までの間,a1市長として,
第1  同市が市有財産を取得することに関し,予算の調製・執行及び議会に対する議案の提出並びに同市c1公社が行う公有地の取得等につき,同公社に対し,先行取得の依頼,必要な業務命令,予算・事業計画の承認等を行うなど,同市を統括・代表する職務に従事していたものであるが,平成12年8月3日,a1市b1番地所在のa1市役所市長室において,同市d1番地に本店を置き,建築業,土木業及び不動産の仲介業等を営む株式会社e1の代表取締役である分離前の相被告人甲から,e1所有の同市f1番地の土地及び同番g1の土地をa1市が買収するための先行取得として同市c1公社に4億9000万円で購入させる議案をa1市議会に提出するなどの有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたい趣旨の下に供与されるものであることを知りながら,現金300万円の供与を受け,もって上記の自己の職務に関して賄賂を収受した
第2  同市の財産の管理,職員の指揮監督並びに同市の事務を管理・執行していたものであるが,同市が美術品等を展示した観光施設等として利用する名目のもとにa1市h1番地所在の料亭「1 (i」経営者A1)の建物(別紙i1登記簿一覧表記載の建物)を賃借するに当たり,同建物は,建築基準法上飲食店以外の用途に使用することが困難であり,かつ,同建物の一部は国有地に無断で建てられており,残りの部分については多額の地代を国に滞納していたのであるから,そもそも同建物の賃借を差し控えることはもとより,敢えて賃借する場合には,滞納地代を建物所有者において完済させた上,その賃料等について,同市が不当な損害を被ることがないよう,不動産鑑定等により十分な調査をするなどして算出された適正な賃料額に従って賃貸借契約を締結するなど,同市の健全な財政運営を損なわないよう,誠実にその職務を遂行すべき任務を有していたところ,上記料亭が年々累積赤字を続け,地代も滞納するなどの経営困難状態にあったことから,被告人といわゆる愛人関係を続けていた前記料亭「i 1」に若女将として勤務し,同建物の一部を所有する分離前の相被告人乙と共謀の上,市長の立場を奇貨として,同市と乙及び同建物の一部を所有するB1との間に,同建物の賃貸借契約を締結させ,同市に不当に高額な賃料の支払義務を長期間負担させるなどして,上記困窮状態を解消させるとともに乙らの生活を安定させることを企て,被告人において,乙らの利益を図り,同市に損害を加える目的をもって,上記各任務に背き,平成12年5月下旬ころから同年9月下旬ころにかけて,部下職員を指揮して,同建物の賃貸借契約締結に向けた作業に従事させ,同建物が築後約40年の老朽化したもので,その固定資産評価額が約2884万円であり,実勢価格としても,同評価額以下での売却しか見込まれず,月額約36万円が相当な賃料であるのに,適正な賃料額の調査を十分行うことなく,19年6か月にわたる月額140万円という不当に高額な賃料を設定するとともに,本来,同市が賃借人となる場合には,敷金を差し入れる必要性が認められないのに,上記滞納地代約530万円の支払いに充当させるために,敷金を差し入れることとするなどの施策を進め,議会対策として,債務負担行為でなく長期継続契約の形式を採用して予算の承認を得るなどした上,同年9月29日から翌30日にかけて,上記料亭において,a1市と同建物の所有者である乙及びB1との間で,同市が同建物を,同年10月1日から平成32年3月31日まで,月額賃料140万円・敷金700万円で賃借し,毎月の賃料は,乙にその3分の2を,上記B1にその3分の1を支払う旨の賃貸借契約を締結させ,その結果,平成12年10月5日から平成15年3月20日までの間,同市をして,同契約に基づく債務の履行として賃料等合計4900万円を乙らに支払わせ,もって同市に財産上の損害を加えた
ものである。
(事実認定の補足説明)
第1  収賄事件
1  当事者の主張
被告人は,平成12年8月3日,甲と会ったことはなく,甲から現金を受け取ったこともないとし,さらに,j1跡地については,甲から無理に売却してもらったもので,甲の便宜を図ったものではないと供述して本件犯行を全面的に否認し(なお,当公判廷における被告人の供述には,公判手続の更新前のものも存在するが,表記にあたって特に区別することはしない。以下,他の者の公判供述ないし証言についても同様の取扱いをする。),弁護人らにおいても,被告人の供述を前提に,検察官が主張する現金の授受は存在しないし,本件公訴提起は甲の別件逮捕に基づく身柄拘束によって得られた供述等の違法不当な捜査に基づくもので政治に対する不当な介入であるとして被告人は無罪である旨主張しているので,以下,これらの点について,当裁判所の判断を順次補足して説明する。
2  前提事実
当公判廷において取調べ済みの関係各証拠から,以下の各事実が認められる。
(1) 被告人の身上,経歴等
被告人は,昭和20年a1市内で出生し,同市内の高等学校を卒業後,和歌山県警察官,a1市議会議員,和歌山県議会議員を経て,昭和61年6月から平成7年11月までa1市長を3期務め(3期目途中,県知事選挙への立候補に伴い失職),平成11年1月に再度同市長に就任し,平成14年7月に辞職するまで市長職にあった。
(2) 被告人の市長としての職務権限(本件職務権限)
市長には,地方自治法上,当該普通地方公共団体(市)を統括し,これを代表する権限(同法147条)及び当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する権限(同法148条)が定められている。そして,その具体的な担当事務として,同法149条1号により普通地方公共団体の議会に対する議案の提出権,同条2号により予算の調製,執行権が,同条6号により財産の取得,管理及び処分権がそれぞれ定められ,さらに,同法153条1項により長の事務の委任が,同法154条の指揮監督権限がそれぞれ定められている。
また,同法154条によりa1市c1公社(以下,「公社」という。)に対する先行取得の依頼権が,公有地の拡大の推進に関する法律18条2項により公社に対する予算・事業計画の承認権が,同法19条1項により公社に対する必要な業務命令権がそれぞれ定められ,これらの職務権限が被告人にあった。
(3) 市がj1跡地を購入するに至る経緯
ア e1の甲がj1を購入しようと考えるに至った経緯
e1の代表取締役であった甲は,かねてからマンションを自社で建築分譲することを企図し,それに適した物件を探していたところ,平成11年末ころから平成12年初めころにかけて,k1不動産の屋号で不動産仲介業を営んでいたC1から,l1株式会社が所有していたj1(後に建物は取り壊されるが,ここにおいては敷地及びj1建物を指す。以下,取り壊しの前後を問わず「j1跡地」ということがある。)が売りに出されていることを聞いた。そこで,e1では,同年1月から同年2月ころにかけて,j1跡地に分譲マンションの建設を計画し,l1からj1を購入する交渉をしていた。
e1としては,j1跡地への分譲マンション建設を総額約10億円規模の事業とみており,当面の資金として約7億円の資金を準備すれば足りると考えた。そして,e1の自己資金として1億5000万円,甲自身から5200万円,共同出資者となるD1から2億円がその資金として見込まれたため,金融機関からさらに3億円の融資を受けることとし,同年3月ころ,m1銀行に対して分譲マンション建設事業への融資を申し入れたところ,o1協会の保証付融資であれば検討するとの回答を受けたことから,同銀行に対し,融資を申し入れてその資金を賄うこととなった。
イ E1a1市議会議員への協力依頼
平成12年3月初めころ,甲は,j1付近の地元住民がj1跡地のマンション建設に反対しているという話を聞き,E1a1市議会議員(以下,「E1市議」という。)に対し,a1市において建築確認申請を通してもらえるように地元対策等を相談していた。
同月22日,甲,E1市議,市長公室長F1,e1社員G1,不動産仲介業者H1の5人が,a1市内にある料亭「p1」に集まり,j1跡地のマンション建設に関する建築確認申請などの話をした。
ウ e1のj1購入資金
甲は,他の金融機関に預金していた資金もm1銀行の預金口座に移すと共に,平成12年4月17日,D1から2億円を借り入れて,合計4億円をm1銀行の口座に預金したが,同年5月2日,甲は,D1から借り入れていた2億円をm1銀行の口座から引き出し,D1に返還した。
また,同月10日ころ,甲は合計2億7000万円の融資をm1銀行に申し込み,同年6月20日に融資の決定を受けた。
エ 被告人が市でj1跡地を購入しようとした経緯
平成12年3月15日,もともとa1市役所に被告人を訪ねる予定となっていたq1自治会長I1は,j1跡地にマンションが建設されると聞きつけたことから,予定どおり被告人を訪ねた際,被告人にその旨伝えたところ,被告人からk1の自治会だけでも反対して欲しいと言われた。そこで,I1は,r1地区連合自治会長J1に相談し,同月22日付けでこれに沿う陳情書を作成し,同月27日,a1市役所において,その陳情書を被告人に手渡した。
j1を市で購入しようとする被告人の意向は同年5月10日付けの新聞に掲載された。
オ e1とl1との売買契約が成立した事実及びその後の経緯
平成12年5月19日,甲は,e1がl1からj1を3億8000万円で購入する旨の売買契約を同社との間で締結し,後日,売買代金を300万円上積みして3億8300万円とし,その決済日を同年6月20日を取り決めた。
同年6月14日ころ,被告人は,E1市議からj1跡地にe1のマンションが建設されると聞いたため,翌15日,l1のK1社長を訪ね,同人に対し,e1にはj1の購入代金を払えるはずがない旨の話をし向けてe1とl1との売買を妨害しようとした。
甲は,K1から,被告人がl1に来たことを伝えられると共に決済資金の有無を詰問されたため,l1とのj1に関する契約内容について,E1市議を信頼して話していたにもかかわらず,E1市議が被告人と意思疎通ができていないのではないかなどと不信感を抱き,E1市議に苦情を言って同人と決別した。
カ 被告人と甲との平成12年6月21日の面談に至る経緯と面談状況
甲は,a1市によるj1の購入に関して,E1市議を頼るのを止め,L1a1市議会議員(以下,「L1市議」という。)の力添えを得ようと考え,電話でその旨依頼するなどしていたところ,平成12年6月20日,L1市議から,その前日である同月19日,市議会において,被告人が(M1市議会議員に依頼してj1についての市の対応を質問してもらい,それに対して)市でj1の買収をすることは困難である旨の答弁をしたという連絡を受けた。
甲は,同月20日,j1について代金の決済をし,l1からe1への所有権移転登記を受けた。
同日,被告人は甲がj1についての決済を終えたと聞き,E1市議を通じて甲と面談する約束を取り付け,同月21日,市長室において,E1市議を交えて甲と面談した。このとき,被告人は,甲に対し,j1を市に売って欲しいと申し入れ,甲がこれを承諾したことから話がまとまり,さらに,被告人は,甲に対し,j1の購入について,早速平成12年6月議会で議案提出することを約束した。
キ 市が事業用地を買収する際の手続
被告人は,甲と直接交渉してj1を購入する約束をした平成12年6月21日夜,市の関連部局の幹部職員を招集して資料を作成させる一方,公社による土地の取得は更地でなければならないことから甲側においてj1建物を解体してもらい,その費用として1000万円を代金に上乗せする旨の電話で直接甲に話すなどして手続を進め,翌22日早朝から政策調整会議や公社の理事会を開催させ,同日,市議会への議案を提出させた。なお,j1跡地の市による買収代金は最終的には4億9000万円となった。
上記議案は,同年6月27日,総務委員会で可決され,同年7月4日,市議会本会議で可決された。
ク 公社とe1との間の代金決済
平成12年8月22日,公社とe1との間でj1跡地についての売買契約が締結され,同日公社から手付金5000万円が支払われた上,同年11月6日,残代金4億4000万円の決済が行われ,公社がj1跡地の所有権を取得した。
ケ その他の客観的ないし争いのない事実関係
(ア) 平成12年7月31日,被告人は,紀淡連絡道路建設促進大会に出席するため,東京に出張しており,市役所には不在であった。
同年8月3日午前10時21分,G1は(携帯電話で)市役所に電話をかけた。
同年9月1日,e1のa1市における能力審査(以下,「能審」ということがある。)がワンランク上がり,特Aとなった。
(イ) 手帳等の客観的記載状況
平成12年当時,G1が使用していた手帳には,平成12年7月31日欄に「j1の現状N1氏へTEL」との,同年8月3日欄に「10:35 市4FO1様」「9:00 P1邸ドアノブ」などとの記載がある。a1市審議監室のQ1審議監が仕事の関係でその都度記載していたノートには,
4/5 市政提言委員会
市長 r1陳情
j1,持主(l1)こわす
q1自治会長,I1さん-r1連合自治会長へ話し市で買って,中を改造して欲しい
値段的な問題,相談することになっている
500坪で3億円ぐらい
値段相談させてもらう
5/10 (水) 市政提言委員会
市長 r1連合自治会
j1 マンション建てる 水面下で値段交渉している
6/21
法人の事業計画の追加とする
鑑定149,494-/m2
480,000千円÷3210.83m2(971.27坪)
坪494,198円
との記載がある。
被告人は,後の選挙に利用するため,当時秘書官であったO1に指示して,面会をした者の中から必要な人物や団体をピックアップして,面会した日と共にパソコンに入力させて名簿を作成していたが,その名簿によれば,甲が平成12年6月21日及び同年8月3日に面会した旨の記載はない。
3  甲の捜査段階の供述の任意性とその内容の信用性
(1) 甲の捜査段階の供述内容
ア 現金供与を決意するまで
平成11年末か平成12年初めころ,l1がj1を売りに出していると聞いたことから,e1では,平成12年1月か2月ころ,j1跡地に分譲マンションを建設する計画を立て,当時の所有者であったl1からj1を購入する交渉をしていた。また,同年2月か3月ころには,分譲マンションの図面をs1に依頼したり,G1に収支計算書や事業計画案を作成させるなどして分譲マンション建設に向けて着々と準備を進めていた。
ところが,同年3月初めころ,j1付近の地元住民が,j1跡地のマンション建設に反対しているという話を聞き,E1市議に対し,地元が反対してもa1市が建築確認申請を許可するように協力して欲しい旨相談していた。当初,E1市議からは要件さえ整えば被告人が判を押す旨聞いていたものの,その後,a1市がj1の土地を買い上げる意向があるから会おうとE1市議から持ちかけられ,同年3月22日,F1,G1,H1を交えてE1市議と「p1」で会った際には,F1から,地元でマンション建設の反対がある以上,被告人は要件が整っていても建築確認申請を受け付けないなどと聞かされた。F1からa1市がj1を買いたいとの話も出なかったので,後にE1市議に電話して確認すると,やはりa1市が買うとの説明を受けた。
私は,この時点ではマンション建設を諦めてはいなかったものの,E1市議と話を繰り返すうち,j1跡地へのマンション建設によって3億円くらいの利益が見込めることや近隣の取引事例との対比からj1をa1市に売るなら6億から6億5000万円程度になるなどと伝えていたし,E1市議からも,高く買ってもらえるように被告人に口添えしてくれるなどと言ってくれたり,被告人が建築確認申請を受け付けないと聞かされていたこともあって,わざわざ市とけんかしてまでマンションを建設するよりもj1をa1市に売ろうと思うようになった。そして,同年4月ころには,当初,l1からのj1購入予定金額を3億5000万円程度と見ていたが,その金額で購入することが難しくなって,資金繰りが困難となったことから,マンション建設を中止してj1を市に売却しようと考えた。D1から借りていた2億円は,その借用書に年利2割と記載されていたことから,その金利負担を減らすため,同年5月2日に引き出して返済した。同月の連休明けころから同月10日ころまでの間,E1市議が2人で話をしたいと言ってきたため,a1市t1の友人のマンションで会ったが,その際,「市長から一任されてきた」「a1市は4億6000万から8000万,高くても5億くらいでj1を購入するつもりである」と具体的な金額の提示を受けた。
ところが,未だl1がj1を所有していた同月10日,a1市がj1を購入する意向であるとの内容の新聞報道がなされたことから,私は,a1市がl1から直接購入するのではないかと考え,E1市議が本当に被告人から一任されているのか疑問に感じた。そこで,E1市議に電話で相談すると,E1市議は「市長(被告人)には,市長(被告人)の考えがある」「市長(被告人)に会ってみるか」と言われたため,E1市議を信じることにした。
しかし,l1とのj1の売買代金の決済日である同年6月20日の数日前になって,l1の社長K1から呼び出され,「市長(被告人)は,e1はj1をよう買わんのと違うか。ローンの融資もあかんのと違うかと言っていた。おまえ市会議員に相談してるやろ。」などと言って怒られた。私は,E1市議を信じてe1とl1との間の契約内容を話したのに,E1市議と被告人との間で意思疎通がなされていないのではないかとE1市議に対して不信感を持ったため,E1市議を呼び出し苦情を言って同人と決別した。
私は,l1とのj1についての売買代金の決済を数日後に控え,E1市議の言葉を信じてマンション建設計画を中止していたことから,このままa1市が買い取ってくれなければどうしてよいか分からない状態に陥っていた。そこで,以前から懇意にしてもらっているL1市議に電話をかけてそれまでの経緯やE1市議とのやり取りを説明した上,「市がj1買うていうから,それまで計画していたマンション建設を諦めたのに,今さら市が買えへんと言われても困るんですわ」「市長(被告人)の考えがわからないんで,先生(L1市議)からいっぺん確認してもらえませんか」「ここまできちゃあるから,このままa1市で買ってもらいたいんで,先生(L1市議)何とか動いてもらえませんか」と言ってお願いした。
ところが,同月20日,L1市議から電話があり,「市長(被告人)が,議会で,j1を市が買い上げることは難しいと答弁したで」「a1市は,j1を買わないんとちゃうか」と言われた。このとき,今さら買わないと言われてもどうしようもなく,e1は窮地に立たされたと思った。もともとF1から,j1跡地に分譲マンションを建設しようとしても被告人が建築確認申請を受け付けないと言われており,裁判をして勝っても今後a1市で建設業者をやっていく以上,市長とけんかをしても得策ではない上に,2億7000万円も借金してからマンション建設計画を一から始めると数か月間は何もしないまま金利だけを負担しなければならず,大きな赤字を出してしまうことは目に見えていた。そこで,L1市議に対し,「このままでは借金の返済に追われるわ,次のマンションの資金繰りの目途も立たんわで,どうしようもないんです」「何とか,市長(被告人)にお願いして,僕とこ助けてもらえませんか」「もし,a1市が買ってくれないんなら,E1さん(E1市議)としてきた話を,何もかもぶちまけたろかと思てます」などと言い,予定どおりにa1市がj1を買って欲しいと頼み込んだ。
同月21日,E1市議から被告人が会いたがっているとの連絡を受けたが,E1市議と決別した後で,被告人と会うのもしゃくであったからほうっておいたものの,被告人がe1まで来るとの話を聞き,そこまで言うのならと私が市長室まで行った。同日午後3時から4時ころに市長室に行くと,被告人とE1市議がおり,被告人からr1の再開発の話をしてきたので,私のマンション建設計画とその利益について話をし,被告人がl1へj1を買いに行ったことについて,被告人は否定していたものの文句を言い,さらに,私の祖父がj1の最初の所有者であったことや私のr1に対する思いなどを話すと,被告人から,「社長とこのj1を,4億8000万円でa1市に売ってくれませんか」という言葉が出てきた。私は,まさか初めて会った被告人が,私が喉から手が出るほど待ち望んでいたその言葉を言ってくれるとは思っておらず,びっくりして聞き違いではないかと思うほどうれしく,e1の倒産を救ってくれたという感謝の気持ちでいっぱいになった。しかも,4億8000万円なら利益が十分に出ることから,非常にありがたいという気持ちになった。そして,私は,「市長(被告人)がそれで顔が立つんであれば,何も文句は言いません」「市長(被告人)の思うようにして下さい」「ただ,j1という名前を残してもらえませんか」と言った。そして,いつごろ買ってもらえるか質問したところ,被告人は,「あとは議会を通らんとあかん」「明日議会にかけます」と言って,横にいたE1市議に対して,「議会のことは頼みます」と言っていた。私は,a1市が買うのが遅くなれば金利の負担が必要となることから,「できるだけ,早くお願いします」とお願いすると,被告人が,私の方を向いてニヤッと笑いながら,「1億円のもうけで勘弁してください」と言った。
その日,L1市議に電話をかけて,a1市がj1跡地を4億8000万円で購入してくれることになったと報告し,お礼を言ったところ,L1市議から,「僕なりにやらしてもろたんやけど,社長の役に立てて良かった」と言われ,L1市議が被告人に働き掛けてくれたものと確信した。そして,L1市議に対しても,「市長(被告人)が,議会通らんとあかんと言うてましたんで,先生,議会の方もよろしくお願いします」と言って頼み込んだ。
同月22日,被告人から電話があったということで,被告人に電話をかけ直すと,被告人から,「j1の土地は更地で買いたいので,解体をe1でして欲しい」「1000万円上積みして,4億9000万円でいいか」と言われた。私は,a1市が買ってくれなければ赤字になっていたし,解体費用の見積もりも大体700万から800万円くらいであることから,1000万円上積みしてもらえばさらに利益が出ると思い,喜んで引き受けた。
私は,民間会社と契約した場合にはバックリベートを渡すこともそんなに珍しいことではなかったこともあり,被告人に対し,1000万円の上積みの話を受けたときから200万から300万円のお礼をしなければならないと思っていた。しかし,どのようにすればよいかわからなかったので,同月23日ころ,L1市議に電話をかけて,a1市がj1を買ってくれることになったという報告とそのお礼を言い,被告人に対するお礼についても相談した。このときは,L1市議から,議会中であるから議会が終わってからでよいのではないかと言われ,さらに,議会が終わったら相談に乗らせてもらうと言われた。その後,j1の解体工事を始めた同年7月中旬ころ,L1市議に被告人に対するお礼の相談した際には,L1市議から,「市長(被告人)の喜ぶもんしたらええんと違うか。」「でも,解体終わってからでええんと違うか」「それまでに考えとくわ」と言われた。
イ 賄賂の原資と準備
平成12年2月ころ,e1がリースで借りていたu1のリース期限が満了し,私の個人の預金からリースの残価136万円くらいをv1に支払って,リース会社からu1を買い取った。そして,そのu1をe1の従業員であるR1に売ることにしたが,R1が一括で支払うことができなかったため,いったんe1から中古車販売会社のw1に売却したのをR1が購入する形で信販会社のx1で200万円のローンを組むことにした。そこで,同年3月初めころ,w1がx1から受け取った200万円から手数料などを差し引いた百数十万円を現金で受け取り,e1の社長室においてある金庫の中に入れた。u1のリース代の残価136万円くらいを私の個人のお金で支払っていたことから,そのお金も私の個人的な現金だと思っており,数十万円の端数は小遣いとして使ってしまったが,帯のついた100万円はそのまま金庫に入れたままにしておいた。
また,同年5月30日,同年6月1日から同月3日にかけてe1の業者会の旅行で韓国の釜山のカジノに行く際の賭金に使うため,m1銀行n1支店の私名義の個人口座から200万円を引き出した。カジノで儲けたことから帰国時にも100万円の束が2つあり,帰国後,妻に100万円を渡し,残りの100万円はセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。その後,同月21日から翌22日にかけて,被告人が,a1市においてe1から4億8000万円でj1を購入する旨及びその解体費として1000万円を上乗せするとの約束をしてくれたことから,被告人に200万円から300万円のお礼をしようと考え,韓国から帰国後すぐに妻に渡していた100万円を妻に頼んで返してもらい,前述の持ち歩いていた100万円と併せて合計200万円を1つの封筒に入れてセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。
同年7月30日か31日ころ,社長室の金庫に入れていたu1の代金残額100万円を金庫から取り出し,銀行の袋からe1の袋に入れ替え,さらに,セカンドバッグの中に従前から入れていた現金200万円を入れた封筒もセカンドバッグの中でぼろぼろになっていたので,これもきれいな封筒に入れ直し,同月31日,a1市役所の3階応接室でL1市議にお礼として合計300万円の現金をセカンドバッグに入れて持って行った。
同日,G1の目の前でセカンドバッグから100万円を入れた方の封筒を取り出してL1市議に渡そうとしているが,結局,L1市議には受け取ってもらえず,そのままセカンドバッグに入れて持ち帰り,それ以後,100万円を入れた封筒と200万円を入れた封筒の2つの封筒をセカンドバッグに入れて持ち歩いていた。そして,被告人と会う同年8月3日の前日,e1の事務所での業者会の役員会の前,G1が販促委員会をやっている午後6時半ころ,私は,その委員会には出席せず,社長室において,一人でセカンドバッグに入れていた100万円と200万円の入った2つの封筒をA4サイズの大きな封筒に並べて入れ,さらに,S1に持ってこさせた背の低い,まんじゅうを買った時にもらうような手で持つためのひもの付いた紙袋に入れ,紙袋ごと社長室においてある金庫の中に入れておいた。e1で使っているA4版の封筒に300万円を入れることができるものの,300万円を1つの封筒に入れるとパンパンになって入れにくい上,分けて1つの封筒に入れた方が外から書類の様に見えて中身が現金であると気付かれなくてよいと考え,200万円と100万円とに分けて2つの封筒に入れた。
ウ 被告人との面会約束の取り付け
私は,被告人に現金300万円を渡す数日前の平成12年7月31日,L1市議に渡すための現金入り封筒を持って,G1と共に,市役所3階の応接室でL1市議に会った。その日付については,被告人に現金を渡した日の数日前との記憶しかなかったものの,捜査官から,G1が手帳を見ながら日付を特定したということを聞いて私もそのころに間違いないと思う。
応接室では,応接セットの椅子に私とG1が並んで座り,テーブルを挟んで向かいにL1市議が座った。私は,L1市議に対して,「先生,今回はえらいお世話になりました」「これお礼です」と言って,私の右側に置いたセカンドバッグのチャックを開けて,用意していた現金100万円の入っていた封筒の方を右手で取り出して渡そうとしたところ,L1市議は,どちらかの手を前に伸ばし,掌を広げて私に見せるようにしながら,「そんなん,僕受けとれやんよ」「今回,一番がんばってくれたのは市長(被告人)やさかい」と言って断られた。
私は,L1市議が封筒の中身が現金であると気付いて断ってきたことが分かり,その場はセカンドバッグの中に封筒を戻したが,L1市議に対して,「先生にもえらい世話になったし,お礼はしようと思う」と言ったところ,L1市議は,椅子に深く座り直してから,「がんばってくれたんは市長(被告人)やから,お礼を渡すんやったら市長(被告人)に対してやろ」と言われ,私が頼む前に,L1市議から,「今から聞いてみてやる」と言って,その部屋に置いてあった電話機でどこかへ電話をかけ,市長の予定を聞いてくれた。当日は被告人は不在だと言うことで,L1市議に被告人のスケジュールの空いている日を確認してもらい,その日時や秘書の名前をG1に指示して手帳に書き留めさせた。G1の手帳に記載のあった「平成12年8月3日午前10時35分」というのが,私が被告人に現金300万円を渡すために市長室に行った日時に間違いない。
エ 平成12年8月3日
平成12年8月3日,私は,G1に車で迎えに来てもらうことにし,会社の金庫に入れていた現金300万円をG1に持ってきてもらった。
G1には,会社の金庫を開けることのできるS1(常務)から紙袋を受け取って来るように指示をしており,S1にも,朝,G1に金庫の中の紙袋を渡すよう頼んでおいたため,G1が私を迎えに来たとき,車の助手席に私が金庫に入れておいたまんじゅう屋でもらうような紙袋に入った現金300万円の入ったA4版の封筒があった。G1らにはその中身の説明はしていなかった。
市役所へ向かい,待ち合わせの市役所4階市長室まで行くと,エレベーターホールのところで待ってくれていたL1市議が市長室の方へ入って秘書の人を呼んでくれ,その案内で私とL1市議は突き当たりを曲がって,市長室の中に入った。このとき,G1には「待っとけ」と言って市長室の外で待たせていた。
市長室の中では,長い会議用のテーブルの一方の端に被告人が座り,被告人から見て左側にL1市議,右側に私が座った。私は,被告人に対し,「j1の土地を買っていただきありがとうございました」「解体工事も無事終わりました」などとお礼とその報告をしたところ,被告人から,j1の土地に公共の建物を建てるという話があった。会話の流れは忘れたが,a1市の指名業者に登録するための能力審査について被告人と話をしており,「うちの会社,能審の点数800点あるんやけど,ランクが特Aでないのはおかしいと思うんよ」「一回検討してもらえんやろか」と言うと,被告人は,目の前で市長室の電話を使ってどこかに電話をしてくれ,e1のランクを聞いてくれ,はっきりとは覚えていないものの,「800点ありますよ」と言われた気がする。また,私は,e1をj1跡地への建物建設の際の入札の指名業者に入れてもらいたいと思い被告人にその旨頼んでみたものの,この点は被告人に断られた。ただ,L1市議が,被告人に「e1はこれから伸びていくんで,また,応援しちゃってよ」と言ってくれて,非常に有難いと思った。
市長室で5分か10分くらい話をして席を立ったが,その際,それまで足元に置いていた用意していた現金300万円の入った紙袋を机の上に置き,頭を下げながら,a1市でe1からj1跡地を4億9000万円で買ってくれたことに対するお礼と今後もa1市で建設業をやっていく以上,a1市長にはいろいろお世話にならなければならないこともあるので,今後もよろしくという意味で,被告人に対し,「これ僕の気持ちです」と言いながら,両手を現金300万円の入った紙袋に添えて,少し被告人の方に紙袋を押すような形で差し出した。e1は被告人と関係があるわけでもなく,私が被告人と会ったのは,同年2月ころに名刺交換をした際を除いては,同年6月21日が初めてだったので,これら以外に被告人に現金300万円を渡す理由などなかった。このとき,G1から受け取った時に入っていた紙袋のまま渡したのか,A4版の封筒だけを紙袋から取り出して渡したのか記憶がはっきりしないが,現金300万円入りの封筒を被告人に渡したことは間違いない。すると,被告人は,「どうもありがとうございます」と言って,現金300万円を受け取ってくれた。
私は,L1市議に差し出して断られたときのように,被告人に現金300万円を差し出して断られたらどうしようという気持ちもあったが,被告人はあっさりと受け取ってくれたので,拍子抜けした気持ちになった。私は,被告人が受け取ってくれるか心配で,そちらの方ばかりを見ていたので,被告人に現金を渡した際,L1市議が何をしていたかは見ていない。
私とL1市議は市長室を出ると,市長室のカウンターの辺りで別れた。G1が市長室のカウンターの辺りまで向かえに来てくれており,G1が運転する車で自宅まで送ってもらった。
オ 平成12年8月3日以降
平成12年8月3日から数日が経過した後,電話で,L1市議から,「社長,すいませんでした」「市長(被告人)も喜んでたよ」「また何かあったら,いつでも言うてきてよ」と言われた。
その後,日付は覚えていないが,o1協会の件や右翼の件で被告人の下に直接話をしに行ったことがある。
o1協会の件では,e1がo1協会の信用保証を付けてもらってm1銀行から2億7000万円を借りた際,その資金で購入した土地に分譲マンションを建設すると説明していたにもかかわらず,土地を購入するやすぐにa1市に転売したことで,協会から一括返済を請求された上,a1市c1公社から契約時に抵当権を抹消してもらわなければならないと要求されて,o1協会ともめたことから,e1が今後o1協会とつきあう中で悪く思われていると困ると思い,被告人に対し,電話の1本でも入れて,経緯を説明して欲しいと頼んだ。このとき,被告人は「電話入れときます」と快く返事をしてくれたが,市長である被告人に対してo1協会に電話を入れて欲しいなどと頼むことは非常に勇気のいる話であり,私としては,さきに現金を渡していたことから頼みやすかった。
右翼の件では,e1の周辺に右翼が街宣してきて,e1が1億8000万円くらいで購入したj1をa1市に4億9000万円で売ったなどという事実無根の抗議をしてため,被告人に対して,e1の買値などを含むa1市とe1との交渉経緯等を全て公開し,右翼の事実無根の抗議がなくなるようにして欲しいと頼みに行った。このときは,被告人から,非常に申し訳なさそうな言い方で,「交渉の経緯を公表することはできません,a1市にも右翼が来ているし,市も困っています,噂だけのことだから,ここは辛抱しといてほしい」と言われ,頼みを聞き入れてはもらえなかったが,被告人の話にも一理あると思い,それ以上は何も言わなかった。
(2) 甲の捜査段階の供述の任意性の検討
甲の捜査段階における供述内容は,概ね,上記のとおりであるが,甲は,公判廷において,後記のとおり,上記の捜査段階の供述内容を翻し,上記の捜査段階の供述内容については,以下のとおり,自己の意思に反して供述調書が作成されたものであると供述し,弁護人らにおいてもこの甲の公判供述を前提に,上記の捜査段階の供述の証拠能力を争っているので,以下,この点につき検討する。
ア 取調状況についての甲の供述内容
当初,国土利用計画法(以下,「国土法」という。)違反で逮捕されたが,その時から贈賄の調べがされており,連日遅くまで,ときには日付が変わり翌日の午前1時ころまで取調べがなされ,総じて捜査官にその意に沿うように調書の内容を押しつけられた。取調べの最中,担当のT1刑事,U1刑事から,自分が疲れてきた時などに,態度が悪いということで背筋を伸ばせ,下を向くな,わしの目を見よなどと言われたし,(私の)会社を潰すとか,専務やS1を逮捕するとか,妻を逮捕するなどと他の警察官からも言われた。机を叩かれることもあったし,キャップ様のものをぶつけられたこともあった。最後の方では,V1刑事に私が座っている椅子を蹴られた。
y1銀行に対する詐欺についてはずっと否認していたが,調書(平成14年11月15日付け自白調書)に押印しているので,人から見たら認めているように見えるかも知れない。U1刑事に調書の訂正を求めたことがあるが,いまさら訂正はできないと言われ,もう何を言ってもだめだという気持ちになり,最後には何もかも全部調書に署名捺印(指印)した。G1が逮捕された後,G1が自供し,W1氏も認めていると聞き,誰にも迷惑はかけないから「もうええか」ていうような気持ちもあった。U1刑事だと思うが,認めれば早く出れるし,3月になればゴルフができるなどとも言われた。
G1が逮捕(同月16日)され,同月20日ころから,V1刑事が加わり3人から取調べを受けG1が自供したからお前もしゃべろと言われた。調べがきつくなり,贈賄を認めれば次の逮捕は抑えてやると言われた。このころは,分譲マンションの引渡を控えe1の業務においても重要な時期であった。同月26日に贈賄を認める警察官調書ができているが,これは警察官から,G1が認めているからもうあがいてもあかんとか,ここで認めればG1を出してやるなどと言われたり,これ以上逮捕はしないと言われたため,ここで認めればS1ら社員の逮捕がなくなりG1も出せると思い調書に判を押した。
m1銀行とo1協会に対する詐欺により勾留されている期間中,詐欺については4日程度しか事情を聞かれず,もっぱら被告人に対する贈賄の調べがなされた。このときもT1刑事,U1刑事が調べを担当しており,その調べの中で,「警察を敵に回すのか」,「とことんやっちゃろやないか」,「何年かかってもやったろやないか」,「何年かかかってでもお前はぱくり通してやる」,「z1(警察)の方で6回ほどぱくった」などと例を挙げて言われた。V1刑事からは,白紙の調書に判を押せと言われ,指印する方の手を持って,白紙の調書に判を押すように迫られたが,結局押さなかった。このとき,V1刑事に椅子を蹴られた気がする。このころ,V1刑事かX1刑事から,L1市議や被告人をかばって否認を続けるのは,妻や子どもを女郎屋へ売るのと同じだと言われた。T1刑事は,被告人のことを「あんな悪いやつはいない」,「二度と政治の世界に入れたらあかん」などと言っていた。別件でなんぼでも逮捕したると言われていた。
同年12月22日,自白調書ができているが,G1を出してやれと刑事から言われ,また,このころ,刑事の方から妻やS1らをぱくるというようなことを言われ,認めないとS1らも逮捕されるのではないかと思い,自白調書に判を押した。
同月23日には,北検察官に対しては否認していた。その日の調べは,日付が跨り翌日の午前零時58分(留置人出入簿の記載)まで調べがあった。
同月25日ころ,できた調書と白紙を机の上に置いて,どちらかに指印を押せといわれた。こういうことが2,3回あった。
平成15年1月6日,贈賄による逮捕時の弁解録取において,贈賄を認める内容の調書が作成されているが,このときも贈賄は否定しており,弁護士を呼ぶために調書にサインすると思っていた。
同月24日付けで手書きの私名義の上申書が作成されており,自白した内容となっているが,これはU1刑事から書けと言われたため,一度は拒んだものの,言われるままに記載して指印した。
イ 甲の公判供述における捜査状況についての供述内容の信用性
しかしながら,贈賄の事実を認めた甲の捜査段階の供述は,前述したとおり極めて詳細かつ具体的であるばかりか,全ての記載が甲の自筆による贈賄を認める内容の上申書も作成されているのであって,これらの事情自体が任意に供述されたものであることを推認させる上,これらの供述がなされた時点において既に甲にはY1弁護士が弁護人として選任されており,当時,甲は,勾留理由開示の際には裁判官の面前で自ら意見を述べるなどしており,同弁護士と何度も接見を重ねて打ち合わせを行っていたことに加え,甲に対する取調べにおいて,捜査官が,G1ら関係者の身柄拘束等を引き合いに出したり,関係者の身柄拘束と贈賄を認める供述調書の作成との二者択一を迫るなどして,甲に無理やり贈賄の事実を認めさせる供述調書の作成を繰り返していたということ自体,あまりに露骨すぎる脅迫的取調べ手法であって,にわかに信じ難い内容であるばかりか,甲の捜査段階の供述調書にはそのような手法によっては到底引き出し得ない甲の具体的な言動や心情等についても詳細に記載されており,平成15年1月6日の弁解録取書作成に関する甲の供述はそれ自体不自然不合理でその記載内容とも全く符合しない上,仮に,捜査官によってそのような明らかに不適切な取調べがなされたのであれば,既に被疑者段階から甲及びG1の共通の弁護人として選任されていたY1弁護士にその旨相談した上,捜査官に対して強く抗議をしてもらうなどの対応がとられて然るべきであるのに,そのような措置が講じられた形跡も見当たらないから,甲の当公判廷における捜査官調書の作成経緯等に関する供述の信用性は低いというべきである。
ウ 甲の取調捜査官の公判における証言内容
(ア) V1刑事の甲の取調状況についての証言内容
私は,甲の捜査に関与していたが,甲の一連の事件は,関係者も多く複雑である上,事件自体が過去の話であったことから,各関係者に記憶違いや忘却が生じていたため,記憶喚起や各関係者の供述内容のすりあわせや,確認が必要であり,捜査に時間を要し,長時間にわたる取調べとなり,厳しく追及することもあったし,大きな声を出すこともあった。しかし,取調べ時間については配慮しており,甲の体調を気遣ったり,前日の取調べが遅くまでかかっているとその翌日は遅くから取調べを始めるなどしていた。
それぞれの身柄拘束にかかる被疑事実の取調べを中心にしており,国土法違反の事件のときには,T1,U1両警察官にお金のことを聞かないように指示して贈賄の取調べにならないようにした。中抜き詐欺及び融資詐欺の事件については,犯行による金銭の流れや市によるj1跡地購入経緯等を解明するため,贈賄についての話に及んでも仕方がないと判断していたが,その際にも贈賄の取調べに大部分を当てたことはない。
甲は,当初は(被告人に)お金を持って行ったことはないと供述していたが,平成14年11月25日から引き続いて翌26日も取り調べると,お金を持って行ったことを否定しなくなったことから,切っ掛けが欲しいのかと思い「封筒を持って行ったことはないか」と水を向けると,「今,思い出した」というような態度で,封筒にお金を入れて持って行ったと認める供述を始めた。このときは,G1の供述内容に出てきたL1市議についての話が出てこなかった。3日くらいして,甲は,Y1弁護士と接見した後,封筒の中身は後援会入会申込書であると供述するようになった。同年12月1日には,甲のある程度詳しい自白調書が作成できたが,贈賄額の点で,G1がいう500万円とは食い違う300万円との供述内容であり,その原資も裏付けが取れていなかった。
同月23日,朝から検察庁で検事による取調べがなされており,夕方,z1署で夕食を済ませ,Y1弁護士が接見した後に,北検察官が取調べと調書の作成の続きをしようとすると,甲は否認し始めた。
同月26日,甲の妻の社会保険の不正受給について捜査をしていた点について,Y1弁護士から抗議を受けたが,犯罪があれば捜査をすると答えた。このとき,(Y1弁護士から,)G1が自分は正直に話しているにもかかわらず,甲が自分と違うことを言っているのが非常に辛いと言っていたと聞き,Y1弁護士に対して贈賄事件についての考えを尋ねると,Y1弁護士は,G1は封筒の中身を見たわけではないので甲の話を信用していると言っていた。
平成15年1月11日の取調べでは,甲が髪の毛をスポーツ刈りのように短く切っており,お金を持って行ったとの簡単な内容の調書を作成したが,そのとき,甲は,署名はするものの,指印は躊躇しており,間違いがなければ指印をするように説得すると,根性が要ると言いながら1時間程度かけて指印を押した。
贈賄を認めないと何回も逮捕するとか,Z1,S1らを逮捕するなどとは言っていないし,会社を潰すなどとも言っていない。既にG1は逮捕している以上,贈賄を認めたらG1を逮捕しないなどとは言うはずがない。
(イ) 検察官北英知の証言内容
警察段階では,平成14年11月26日くらいから甲の贈賄事件についての取調べをしていた。私が甲を取り調べたのは同年12月初めころからである。G1が500万円を渡したとの内容の供述をしていたのに対し,甲は300万円を渡したと供述するだけなので,500万円という供述が出るまで甲を取り調べるつもりでおり,甲から調書は取っていない。
同月23日に初めて甲の贈賄の取調べをしたが,このときは,300万円としか甲が供述しないので仕方がないと思っていた。甲は,G1が話していない被告人とのやり取りなどについても具体的に供述していたことから,甲が言う300万円を渡したという話は本当かなと思うようになった。贈賄の事実を認めているときの甲の態度は,堂々と私の目を見ながら,責任はちゃんととるといった態度であった。朝から検察庁に呼び出して取り調べていたが,同日午後3時ころ,調書を作成することとなり,その間,z1警察署に戻って御飯を済ませることとなった。z1警察署ではY1弁護士が甲に接見するというので,その接見が終わった後,同日午後8時半(記録上は午後8時23分ころ)から取調べを再開したが,甲は,いきなりお金を渡していない,後援会の入会申込書を渡したと言ってそれまでの供述を翻した。昼までの聞き取りに基づいて作成した調書の原稿を読み聞かせ,間違っている所があるかと尋ねると,それはないと言っていたが,調書への署名は拒否した。同月23日の数日前の新聞に,警察が被告人への贈賄事件の捜査をしているとの内容の記事が掲載され,それについて被告人がそういうことを言うやつがいれば損害賠償を請求するとか,名誉毀損で訴えるといった内容の新聞記事が掲載されていたことをY1弁護士との接見を通じて甲が知ったことからこれに影響を受けたことが後になって分かった。また,被告人は,市長を務めていたことから土建屋に影響力も強く,その一方で,一般市民に対しては,新聞等にも書かれていたとおり真っ黒な男だというようなイメージもあり,そのような人に金を渡したとなれば,a1市民からも他の業者からも悪く見られることにつながるなど,e1の将来についていいことは全然ないというのが甲の否認の理由であった。
その後,同年12月末,警察から,甲が(贈賄を)再度認めたという連絡があり,同月28日に取調べを行った。このときは,被告人が記者会見において,j1跡地の土地の購入については,甲が7億円をふっかっけてきたのを値切ったと話していたことから,甲もこれを知って憤り,本当のことを言うとして,同月初めころから供述しているとおり,被告人に300万円を渡したことを認める供述を再び始めた。
平成15年1月8日,贈賄の事実で弁録(弁解録取)を取った時,甲は,お金は渡していないと供述したので,平成14年12月28日に認めたのは何やったのかと追及し,何か違う点があるかと確認すると,甲はそんなことはないと言うので,このときは,年末にお話ししたとおり間違いないという内容で弁解録取を作成したはずである。このとき否認した理由は,後に聞いたところによると,L1市議に迷惑をかけたくなかったとの思いがあり,L1市議が逮捕されたら困るとして否認したようであった。なお,平成15年1月8日から11日の間にL1市議を逮捕している。
同月11日,甲が警察で(贈賄を)認める旨の供述をしているが,このときは,G1が認めていることもY1弁護士を通じて知っていたから,しゃべらないと仕方がないのかなということで認める供述になった。
同月22日,市役所において再現見分をしたが,甲は,数日前から否認をしていたものの,その再現見分の際に現場で見ていると,否認をしているはずの甲が再現を自分からしていたのでまた認めるのかなと思った。そして,その後呼んだ時は,きれいにもう認めると話をしており,調書もとったと思う。被告人の影響力があり,立場上,本当のことがしゃべれないのだろうと思った。
(ウ) V1刑事及び北検察官の証言内容の信用性
上記のとおり,甲の取調べにあたったV1刑事,北検察官は,いずれも,本件事案に関する供述内容についてのみならず,甲が供述を翻し,あるいは供述を逡巡する理由等についても言及し,甲自身が贈賄を認める供述をすることによって他の関係者に与える影響を懸念している様子や取調べを受けた際の心情などを交え,供述調書が作成されるに至った経緯や弁護人との対応状況等の事実経過を具体的にかつ詳細に証言していることからすると,両名の証言内容にはそろって説得力が認められ,両者は相互に符合していて,甲の一連の供述調書の作成経過を矛盾なく合理的に説明できることにも照らすと,その信用性はいずれも高いというべきである。
エ 捜査官の公判証言の信用性は高く,甲の捜査段階の供述の任意性を疑わせる事情は存在しないこと
甲は,捜査段階において,被告人へ300万円を渡したとして贈賄を認める供述とそれを否定する(後援会の入会申込書を渡したとする)内容との供述の変遷を繰り返しているが,上記のとおり,捜査官らは,時には厳しく追及することもあったなどと証言する一方,甲の取調べ時間は長くなっていたからその体調を気遣うなどしていたのはもちろん,白紙の調書に署名等を求めたことなどはないし,G1やS1らの身柄拘束を引き合いに出して供述を求めたこともないなど,甲が説明する自白調書の任意性を疑わせる事情をいずれも明確に否定している上,甲が贈賄容疑で逮捕された平成15年1月6日までは,甲の身柄拘束の基礎となっていた他の被疑事実を中心に取調べを進めていることからすると,別件逮捕とのそしりを受けるような事情も認められず,そのような段階で,捜査官が無理な取調べ手法を用いてまで甲から贈賄に関する自白を獲得しなければならないような切迫した事情があったとも考えられず,甲の前記説明はこれらの観点からも信用性が低く,反面,北検察官らが証言するとおり,本件捜査当時における,e1の将来やお世話になったL1市議らに対する思いなどから度々否認に転じたなどという供述が変遷したことについて首肯しうる具体的な理由が存するのであるから,甲の捜査段階の自白が任意になされたことが強く推認される。加えて,北検察官は,G1が贈賄の金額は500万円であったと供述していたことから,当初こそは,これを重視して,甲からも500万円を渡したとの内容の供述が引き出せるよう追及していたところ,甲は贈賄を認めた場面では,あくまで300万円であったとの供述を一貫して繰り返したことから,この甲の供述の方が信用できると思い直して,その供述内容どおりの供述調書を作成したというのであるから,なおさら任意性に疑義を生じさせる事情は認められない。
したがって,贈賄の事実を認めた甲の捜査段階の供述調書等には証拠能力が優に認められる。
(3) 甲の捜査段階の供述の信用性の検討
甲の捜査段階の供述は,実際の体験時から2年余りが経過した後になされたものであるが,(1)で要約して記載したとおり,甲が,j1跡地にマンションを建設しようと計画し,l1からj1を取得しようと交渉する過程でのa1市関係者とのやり取りやj1跡地をa1市が購入する際の経緯,L1市議や被告人との交渉や現金を渡そうとした際の状況だけでなくa1市によるj1跡地の購入が決まるまでの間,甲がマンション建設計画や資金繰りに苦悩している様子,a1市によるj1跡地の購入が決まった後においては,L1市議や被告人にお礼をしなければならないと思い現金を準備する一方で現金を受け取ってもらえるのだろうかと思い悩む様子等が極めて具体的かつ詳細に述べられており,甲がe1の社運をかけてこれに取り組んでいた様子が生き生きと写実性豊かに表現されており,自ら直接体験した者でなければ語り得ない克明な場面描写や臨場感のあふれた迫真的内容となっている。
また,その内容は,G1の手帳の8月3日欄の記載等に非常によく符合することはもちろん,Q1が当時仕事の関係で使用していたノートの4月5日付けとして記載された陳情等の記載内容,同5月10日付けとして記載された値段交渉の記載内容,同6月21日付けのA2首席審議監から聞いた内容を書き留めた記載内容(「鑑定149,494-/m2」はj1の土地の1平方メートルあたりの鑑定額,「480,000千円」はj1の土地代金4億8000万円等)として説明する内容に符合し,平成12年7月31日の被告人の出張不在状況,e1の能力審査のランクの向上等の客観的事実関係とも符合し,賄賂の原資についても預金の出納状況等に沿う合理的な説明がなされているばかりか,後述するように信用性の高いG1及びE1市議の捜査段階の各供述内容だけでなく,L1市議の公判における証言内容やG1の公判における主尋問に対する証言内容ともよく符合している。なお,甲の捜査段階の供述内容と後述するG1のそれとでは被告人に渡した金額に差が存するものの,それとて両者の供述内容につき,捜査官によるの作為的なすりあわせがないことの証左として理解できる。
加えて,甲にとっては,被告人に対して現金を渡したと供述することは,贈賄罪の刑責を問われる危険性が極めて高く,そのことを供述時から熟知していたとみられるのであって,このような危険を冒してまで,事実関係をねつ造し,被告人を重罪に陥れる理由も見当たらないことから,甲の捜査段階における供述は真実をありのままに語った可能性が高く,その信用性は極めて高いというべきである。
(4) 甲の公判供述の信用性
以上に対し,甲は,公判廷において,上記の捜査段階の供述内容を翻し,概要,以下の内容の供述をしているので,その信用性についても検討する。
ア 甲の当公判廷における供述内容
私は,平成12年3月22日,「j1」においてE1市議やF1らと会った際,F1から,地元がマンション建設に反対しているので,被告人が建築許可を出さないであろうと聞いていたが,同年6月21日に市役所において被告人と面会し,市長に一任しますと言ってj1をa1市に売ることを決めるまで,j1跡地へのマンション建設を諦めたことはなかった。被告人から頼まれたため,やむなくマンション建設を取りやめてa1市に売った。被告人にお礼として賄賂を渡す理由は全くない。
L1市議には何も頼んでいないが,同月20日ころ,L1市議が電話で,被告人が市議会においてj1の買収は困難であるとの答弁をしたことを教えてくれた。L1市議に対して,j1の売買に関しお礼をしたいと思ったことはないし,被告人に対するお礼の方法等を聞いたこともない。同年7月31日にL1市議と会ってはいないし,同年8月3日も被告人には会っていない。ただ,これらの日に具体的に何をしていたのかとなると覚えていない。捜査段階では,取調べにあたった捜査官は自分の言うことを聞いてくれず,話を押しつけられた。被告人に現金を渡したという点は,捜査官の押しつけに加えて,被告人には後援会の申込用紙を手渡したことがあるので,それと混同して話したと思う。
イ 甲の公判供述の信用性
甲の当公判廷における供述内容は,E1市議に地元対策を依頼して以来,平成12年6月21日の時点に至るまで,j1跡地にマンションを建設することを諦めていなかったと説明する一方で,同年3月ころには気にかけていたはずのマンション建設実現のための地元対策への取り組みについてその後はどうしたのかについての言及を欠いている上,L1市議に何も頼んでいないというのに,L1市議がj1買収に関する被告人の答弁内容を教えてくれたとしたり,マンション建設に熱心に取り組んでいたというにもかかわらず,同年6月21日に被告人からj1の買収を持ちかけられるや,その場でいきなりj1の売買の帰趨を被告人に委ねるような発言をしたとするなどの点で不自然不合理な内容であるし,同年8月3日やその前後ころの行動についても覚えていない,警察官から聞かされたと供述するなどの曖昧な供述に終始している。加えて,甲は,捜査段階においては,同日に被告人に現金を渡したことを認める供述をする一方で,それと相前後してL1市議に連絡を取って同日に被告人と面会したが,その際に現金ではなくて後援会申込書を渡したという内容の供述をしていたこともあったのであり,被告人に対して現金を渡していないとする理由の説明としても捜査段階のものと公判段階のそれとでは一貫性が認められず,その変遷の理由につき何らの合理的説明をなしえていない。しかも,被告人に対して現金を渡したことを仮に公判で認めるとなれば,それが甲自身にとっても贈賄罪の自白を意味し,有罪に直結しかねないばかりか,その公判供述時点においても未だ現職の市議会議員として政治的影響力を有する被告人を有罪とする有力な証拠となることは明らかで,このような重大な利害を背負った状況下でなされた甲の公判供述の信用性は低いというべきである。
4  G1の捜査段階の供述
(1) G1の捜査段階の供述内容
ア 日付の特定経緯
平成12年に使用していた手帳の平成12年8月3日の欄には,「10:35市4FO1様」と書いてあるが,それが甲と一緒にa1市役所4Fの市長室へ行き,甲が被告人に現金500万円を渡した日に間違いない。私は,e1の仕事で市役所に行くことはよくあるものの,市長室のある4階に行く用事はなく,手帳に記載してあるようにa1市役所の4階に行った用事は,甲と一緒に被告人を訪ねた1回限りである。
この手帳の記載は,市長室に行く数日前ころの同年7月31日,L1市議を訪ねてa1市役所3階の応接室に行った時,L1市議が私の目の前で被告人にアポを取ってくれて,甲の指示でL1市議から指示された日時場所,訪ねる相手の名前を私が手帳に書き込んだものだと思う。
そして,j1の解体工事の報告をN1さんに連絡するように甲から指示され,朝から市役所へ電話をかけてN1さんに連絡を取ろうとしていたが,N1さんに連絡が付かず,後から電話をかけ直そうと思っていたところ,市役所の駐車場で,甲から,N1に電話したかと確認され,私が,「電話したんですが,留守だったんですわ。」「また,やっときます。」と答えた記憶がある。私が甲と一緒に市役所に行くこと自体,珍しいことだったので,市役所の駐車場でこのような話をするのは,平成12年8月3日以外であれば,L1市議に会いに行った日以外になく,私の手帳の平成12年7月31日欄に「j1の現状をN1氏へTEL」という記載が書いてあり,この「j1の現状」というのが解体工事を指すから,私と甲が市役所の3階応接室までL1市議と会いに行った日がその日だったと言える。
イ 平成12年8月3日まで
平成12年7月31日は,私が,e1の事務所で仕事をしていたとき,甲から,「市役所行くから,付いてきてくれるか。」と言われ,単に運転手として付いて行くだけのつもりで付いていった。私は,何気なく車を運転して甲を乗せて市役所の方に向かっていると,車中で甲が,「L1ちゃんとこ行くよって。」と言うのを聞いた。
私と甲は,市役所に着くと最初にエレベーターで3階に上がり,議会事務局の受付でL1市議を呼んでもらい,L1市議に応接室に通してもらった。応接室では,L1市議が最初に座り,甲がその向かいに,私が甲の横に座った。3人が椅子に座ると,挨拶くらいはしたと思うが,その後,私の右側に座っていた甲が,「今回の件で,これ,お礼です」と言いながら,甲の右側に置いていた甲のセカンドバッグの中から,右手で白っぽい封筒を取り出そうとした。このとき,甲は,普通にものを渡すような態度で,コソコソするところもなく,受け取ってもらえるか心配している様子もなく,堂々と渡そうとしていた。
私は,事前にL1市議と会ったら何をするかという話を聞いていなかったものの,甲が「お礼」と言ったことと,甲がL1市議に渡そうとしていた物がどう見ても現金が入っているとしか思えないような封筒だったので,j1跡地の土地建物をa1市が4億9000万円で買ってくれたことについて,お礼として現金を渡そうとしたことがすぐに分かった。この封筒に入った現金の金額については,触ったわけではないのではっきりとは言えないが,1メートルくらい離れたところから封筒の厚さを見たところ,200万円くらいではないかと思った。このときの封筒はe1で使っている封筒だったような気がするが,この点については自信がない。
私は,目の前で甲が現金らしきものが入った封筒を取り出してL1市議に渡そうとしたときは,いくらお世話になった人とはいえ,公務員であるL1市議に現金を渡すのはやばいのではないかと思ってびっくりした。しかし,L1市議を前にして,甲を止めるわけにも行かず,私は,えらいところに同席してしまった,社長も私のいないところで渡して欲しかった,どうしようと思いながらも,表情を変えずにそのまま座っていた。甲の言った「今回の件で」というのは,e1においてはl1からj1を購入してその跡地に分譲マンションを建設する計画を立てていたところ,3月末ころ,E1市議を通じてa1市がj1を購入したいという話を聞き,その年の4月中,遅くとも同年5月2日までには,甲が分譲マンションの建設計画を中止して,l1から購入したj1をすぐにa1市へ転売しようと決心し,m1銀行から2億7000万円の融資を受けており,l1に代金を支払う決済日の直前ころになって,甲がE1市議とけんかをしてしまい,a1市がj1を買ってくれないかも知れない状態に陥った時,甲がL1市議にj1購入について被告人へ口添えするようにお願いしたところ,急きょ,被告人がa1市でj1跡地を4億9000万円で買ってくれることが決まり,e1の倒産の危機が回避されたことがあったので,その件を指していることが直ぐに分かった。
私はそのまま甲とL1市議のやり取りを黙って見ていたが,L1市議も封筒の中身が現金であることがすぐに分かったのか,それはちょっとというような感じで,右手か左手かは覚えていないものの,片手の腕を伸ばして手のひらを広げて甲の方へ向け,上半身は後ろに引くような感じになりながら,困ったような表情で,「それは,順番というもんがあって,やっぱり議会を通してくれたんも,一番がんばってくれたんも市長(被告人)なんで,市長(被告人)に渡してもらわなあかん」と言って,甲の渡した封筒を受け取ろうとはしなかった。
私は,甲から現金200万円くらいの入った封筒を渡されそうになったL1市議が驚いているような感じにも見えたが,L1市議が当時,選挙違反で裁判を受けていた時期で,現金のやり取りには気を遣っている時期であることを知っていたこともあって,私の目の前では受け取れないのかな,それとも,市役所の中で,いつ女の子がお茶を持ってくるか分からない状況なので受け取れないのかなと思って見ていた。
そのような中,L1市議は,ソファの椅子に深く座り直し,「なんと言うても,議会を通してくれたんも,一番がんばってくれたんも市長(被告人)やから。」「わしは市長(被告人)からもらうから,市長(被告人)に渡して。」と甲を諭すように言って,かたくなに甲の差し出した現金の入った封筒を受け取ろうとはしなかった。この様なやり取りを見聞きして,私は,市長と市議会議員の関係はよく分からないが,会社の社長と社員の関係と一緒だなと納得したし,甲は,被告人がa1市でe1からj1跡地を4億9000万円で買ってくれるという約束をしてくれるまでは,l1との決済直前に被告人がl1へ直接j1の購入を申し込みに行ったことなどについて被告人はe1の邪魔ばかりすると怒っていたものの,それでも最終的にa1市でe1からj1跡地を4億9000万円で買うとの決断は被告人がしたのだから,やっぱり,甲が腹を立てている相手であっても,お礼を渡す相手は被告人というのが筋なんだと思いながら聞いていた。
甲は,L1市議が困ったような顔をしたためか,取り出した封筒をセカンドバッグの中に戻したが,被告人だけでなくL1市議にも何らかのお礼をしなければならないという感謝の気持ちからか,なおも「L1さんにも議会のとりまとめをやってもらったんだから,L1さんにもお礼せなあかん。」などと言っていた。L1市議は,その後,すぐに,「ちょっと待ってよ。」といいながら,甲が頼むまでもなく,いきなり,部屋に置いてあった電話機を使って秘書室かどこかに電話をして被告人の所在を確認してくれ,甲に対してその日は不在である旨伝え,続けてこの日なら被告人があいているとして日付と時間を教えてくれた。このとき,私は,甲からメモするようにとの指示を受け,L1市議が言ったとおりの日時場所,訪ねて行く相手の名前を手帳に書き込んでいるが,手帳の8月3日の欄の記載がそれである。私は,このときは甲が一人で被告人のところへ行って欲しいと思いながらこの記載をした。
その後,甲とL1市議は少し雑談をしていたが,この日,L1市議と市役所3階の応接室で話をしていた時間は全部で5分か10分くらいであった。私は,甲とL1市議の話を黙って聞いていたが,被告人が紀淡海峡大橋の件で不在だという話がでたとき「,a2の前の道のやつですかね。」と,その点だけ口を挟んだ記憶がある。
私は,市役所からe1に帰るまでの車内で,甲から,被告人と会う予定の時間に行けるかと聞かれた時も,単に運転手としてついて行くだけにして欲しいという気持ちで了解した。
ウ 平成12年8月3日
平成12年8月3日は,自宅から(a1市)b2にあるお客宅(P1宅)へ向かい,午前9時からドアノブの修理に伺った後,午前9時30分か40分ころにはe1の事務所に到着した。
その前日あたりに,甲から,当日は朝事務所のS1から頼んであるものを受け取って迎えに来るようにと指示されていたため,S1に対し,「社長(甲)の言うてるやつちょうだい。」というような言葉をかけたところ,S1は,社長室から,まんじゅうを買ったときにくれるような背の低い,手で持つためのひもの付いた紙袋を取り出して渡してくれた。その紙袋の中には,A4版の封筒が深く真ん中近くで二つ折りにされて入っていた。同年7月31日に甲がL1市議に現金の入ったような封筒を渡そうとして,L1市議から「市長(〔被告人〕市長)にしてもらわなあかん」と断られた後,L1市議が被告人にアポを取ってくれた時間に甲が被告人に会いに行こうとしていることから,その時に持って行くものが現金であることは最初から想像をしていた。
そして,この日(同年8月3日),自宅まで甲を迎えに行くため,午前10時ころ,車の助手席にS1から受け取った紙袋を乗せて車を運転し,e1の事務所を出た。車を運転しながら,今回の紙袋に入っているA4版の封筒は,同年7月31日に甲がL1市議に渡そうとした封筒よりも大きいなあ,市長(被告人)に現金を渡す以上,L1市議に渡そうとした現金の金額よりも高い金額なのかなあと考えているうちに,金額に興味が出てきたので,さすがに封筒を開けて中を見ることまでは躊躇われたが,信号待ちで車を止めた時,紙袋の中に手を突っ込んでA4版の封筒を外側から触って金額を確認した。現金の入った封筒の厚さを手の感触で調べたところ,仕事上,500万円くらいの現金を扱った際の感覚の記憶との対比から,現金400万円から500万円くらいの厚さの札束であることが分かった。そして,私が,少し力を入れてギュッと封筒を握るなどして感触を確かめると,中に入っていた札束がきれいに二つに別れたため,このA4版の封筒の中には,定型版の大きさの封筒にそれぞれ入れられた札束が二つあると感じると共に,中に入った二つの封筒は100万円分くらいの厚さの違いがあり,薄い方の封筒の厚さが100万円にしては厚すぎると感じたことから200万円くらいに思え,それとの対比から,厚い方の封筒はそれに100万円を加えた300万円と推測し,A4版の封筒中には合計500万円の現金があるものと考えていた。私は,結構高い金額を渡すんだなと思ったが,建設業界では,不動産の仲介だけで売買価格の3パーセントを仲介手数料として支払うことから,4億9000万円でj1跡地を売却したので,単純に3パーセントをかけた1470万円よりは低いという気持ちであった。
その後,甲の自宅に到着し,甲を私が運転していた車に乗せ,この紙袋を甲に渡したとき,甲から,「持ってきてくれたか。」「中身のことは聞くなよ。」と言われた。
私は,甲を車に乗せて市役所に向かい,同日午前10時20分ころ,市役所の立体駐車場に着くと,市長秘書のO1に約束どおり往訪する旨の電話をかけ,それから市役所の中に入って市長室のある4階へ向かった。そして,L1市議からの指示どおり4階の市長室の受付で秘書のO1を呼んでもらおうと思っていたところ,4階でエレベーターを降りると,市長室の受付の手前あたりでL1市議が待ってくれていた。同年7月31日にL1市議から指示された時は,秘書のO1を訪ねて行くようにと言われていたので,私は,まさかL1市議がそこで待っていてくれるとは思っておらず,わざわざ一緒に付いて行ってくれるのか,いい人だなあと思っていた。私と甲が,市役所4階に着いた時間は約束の時間の少し前であり,午前10時30分にもなっていなかったと思う。
L1市議は,甲と簡単な挨拶を交わし,一度奥の部屋に入ると,受付カウンター付近で待っていた私と甲のところに秘書を連れて戻って来て,その秘書に対し,「市長(被告人)に直接渡させてやってよ」と言って,甲が被告人に直接会えるように頼んでくれた。すると,秘書は,一旦市長室の方へ入ると直ぐに戻って来て,「どうぞ」と言って,甲とL1市議に市長室の方へ入るように促したため,S1から受け取った現金500万円くらいが入っている紙袋を私が甲に手渡すと,これを持った甲とL1市議の2人が市長室に入って行った。この時,私は,甲から待っているように指示されたため,市長室の中には入らなかった。このとき,同年7月31日のL1市議の時のように,(被告人)市長も私が同席していては受け取れないだろうと思ったことに加え,公務員である市長に現金を渡す際に同席させないで欲しいという気持ちもあったので,その場に残されてホッとした。
私は,受付カウンターの前で甲らが出てくるのを一人で待つのが嫌だったので,エレベーターホールの椅子に座って待っていると,5分か10分くらいして,L1市議と甲が市長室の方から戻ってきてた。市長室の中での会話は全く聞こえなかったが,甲が市長室に入るときに持っていた現金500万円が入った紙袋を持っていなかったので,甲が被告人にその紙袋を渡してきたことが分かった。私は,これまで法律に触れるような仕事をしたことがないという誇りを持っていたので,甲が被告人に賄賂を渡してしまったことについては,e1が今後も発展するためには仕方ないのかなという諦めと,でも,やっぱり渡すべきではなかったのにという複雑な気持ちでいたが,甲に対して意見することもできず,全て胸の中に納めていた。
(2) G1の捜査段階の供述の信用性
G1の捜査段階の供述は,7月31日に甲が賄賂をL1市議に渡そうとした際に同席した状況等が具体的に明らかにされているし,会社のために甲が行ったこととはいえ,違法行為がなされる場面に自分が居合わせなければならなかった複雑な心情を吐露したもので,場面描写と迫真性に富んでおり,自己が勤務する会社の社長がa1市の市議会議員に対して賄賂を供与しようとした場面に居合わせた,あるいは,市長に賄賂として供与される現金入り紙袋とともに社長を市役所まで送り届けたといった,極めて特異な内容であるから,強く印象に残ったと考えられ,他の類似するような体験との混同もほとんど考え難い内容である。また,G1は,後述するように当公判廷の証人尋問において,最終的には捜査段階の供述内容を翻し,上記の7月31日及び8月3日の出来事を否定しているものの,その理由としては証人尋問当日に甲の弁護人(Y1弁護士)から市役所の来庁者名簿等を見せられたからであるなどと記憶喚起の契機となった理由としては説得力に乏しい不自然な説明をしている上,検察官によりなされた主尋問においては,自信はないなどとしながらも甲がL1市議に封筒を渡そうとした状況についての記憶があるなどと捜査段階の供述内容と符合する内容の供述をすると共に,捜査段階の供述は,その当時の記憶に基づいて正確に供述したことを認める証言をしている。さらに,G1の捜査段階の供述内容は,本件当時,G1自身が利用していた手帳の記載を基にして記憶喚起を図って導かれたものであるから,その内容がその手帳の記載に符合することは当然としても(なお,G1は,甲がL1市議に対して現金を渡そうとした直後に,市長である被告人に対しても現金を渡すのではないかと思いながら予定を記載している以上,その用件等について直接的な記載を残すことが憚られる状況にあったと考えられるから,それを欠いていることには合理的な理由が認められる。),G1の電話履歴等に加え,信用性の高い前記甲の捜査段階の供述内容や後記のL1市議の当公判廷における証言内容ともよく符合している。さらに,G1の捜査段階の供述内容は,被告人のみならず甲の刑事責任を問うに際しても重要な証拠となるべきものであるし,それによってL1市議,ひいてはG1自身にまで刑事責任を問われかねないものとなっているところ,関係証拠によれば,G1は,平成6年11月にe1に入社して以来まじめに勤務していた者で,本件当時はもとより,捜査官の取調べを受けた時点においても,同社社長の甲から最も厚い信頼を受けていた社員の1人であった事実が認められるから,このようなG1が,自身のみならず,その勤務先社長の甲についてまでもが刑事責任を問われかねないことを当時から熟知しながら,そのような危険を冒してまで,ことさらに虚偽の事実を作出して甲や被告人あるいはL1市議らを重罪に陥れる危険にさらす理由は全く窺われない。以上に指摘した事情からすると,G1の捜査段階の供述内容は真実をありのままに語った可能性が高く,その信用性は極めて高いというべきである。
5  L1市議(L1)の当公判廷における証言内容
(1) L1市議(L1)の当公判廷における証言内容
甲とは,平成9年ころ,e1のZ1専務を通じて知り合った。以後,e1で自分の選挙の応援をしてもらったり,e1の集まりに参加したりした。
何年のことかは正確には覚えていないが,6月ころ,市議会にa1市でj1跡地を購入するという議題の提案があった日の1週間か10日程度前,甲から,j1跡地にマンションを建設する計画を中断しなければならなくなったので,市の方で買ってもらえるように尽力して欲しい,今,市の方でこのj1用地を買ってもらえないような状況になったらうちは大変なことになるという内容の電話があった。この件については他の議員に頼んでいたという話も聞いていたことから,その後,市議会での被告人のj1を買わないという答弁内容を電話で伝えた以外,何も行動は採らなかった。
a1市がj1跡地を購入することが決まった後,甲から,どうもいろいろとお世話になってありがとうございましたという内容の電話があった。また,甲は,明示的にではないものの,ニュアンスとして被告人や私に対してお礼がしたいと言ってきたことがあったが,マンション建設計画を中断してa1市にj1跡地を売ったe1はお礼を持って行く立場ではないと答えておいた。
平成12年7月29日ころ,甲が,G1を連れてa1市役所に私を訪ねて来たことがあり,議長応接室で,私に対して,いろいろと世話になったとして,セカンドバッグから封筒を取り出して渡そうとしてきた。封筒の厚みや色などは覚えていない。その中身を見た訳ではないが,お金ではないかと思え,そうであれば罪となることが分かっていたし,具合が悪いので,そんなもんあかんぞ,などと言って,手を相手に突き出すような動作をして断った。甲は,いろいろとお世話になったのに,と受け取ってもらいたがっていた。このとき,冗談半分と甲から差し出された封筒の受け取りを断る理由として,「今回のことで一番汗かいちゃん(た)のは(被告人)と違うか,もらうんやったら(もらうなら)(被告人)からもらうよ」と言ったところ,甲は納得したようであった。
また,甲は被告人に対してお礼の挨拶に行きたい様子であったことから,議長応接室の電話から秘書課に電話をし,O1さんと思われる相手を通じて,数日後に面会するアポをとった。甲に面会予定日を伝えると,甲がG1に伝え,G1が手帳に記載しているようだったが,G1の手帳を覗き込んで見たわけではないので何を書いていたかまではわからない。お礼の挨拶へ行くということでアポをとったが,ひょっとしたらお金を渡したりするんと違うかななどという危惧は持っていた。
甲が被告人に対してお礼に行くと言っていたとき,私は,甲がお金か何かのお礼を持って行くのではないかとの心配から同席したくない気持ちもあったが,e1は甲だけでなくZ1専務らその社員の方との付き合いもあり,e1が大きな会社になることを願っていたし,アポを取ったのが私であったことから,朝慌てて起きて行って,市役所の4階のエレベーター前で甲らを待ち受け,実際に同席した。その前夜は,私の公職選挙法違反の公判期日が入っていた日の夜であったからたくさんのお酒を飲んでおり,当日,二日酔いであったが,アポまで取ったのだから同行しなければ悪いと感じていた。甲は,G1とともに時間どおりに来ており,甲はセカンドバッグを,G1は紙でできた菓子袋のようなものを持っていた。G1が持っていた袋の中身は分からないが,被告人のところへ持って行くものだと思った。
私が,受付の女性にe1の来庁を伝えると,奥の方から誰かが迎えに来たため,私と甲が市長室へ向かい,G1はロビーで待っていた。G1が持っていた紙袋は甲が持っていた。市長室に入ると,被告人がおり,市長室のテーブルの東側に被告人,北側に私,南側に甲が位置して椅子に腰掛けたと記憶している。このとき,甲が紙袋をどこに置いていたのかは正確に記憶している訳ではないが,テーブルの上にあれば記憶していると思うのでテーブルの上にはなかったと思う。甲が被告人にお礼を言い,a1市における指名業者のランクの話が出ており,1ランク上にして欲しいというような話が出ていた。市長室にいたのは,全体としてみても10分前後くらいだと思う。話が終わると,私は,甲より先に出ようと,真っ先に席を立って出口へ行った。数日前に議長室で私が甲と面会したときの様に,その席上で甲が被告人にお金が入っているのではないかと思われるようなものを渡されたら困ると思って先に席を立ち,その光景を見ないようにして出口へ向かった。甲と被告人の話の内容は覚えていないが,出口のあたりで甲を待ち,一緒に礼をして出たと思う。私は,甲が持っていた紙袋を被告人に渡すところは見ていないものの,甲が市長室から出たときにその紙袋を持っていなかったと思うので,被告人に渡したのか,置いてきたのだろうと思った。市長室から出ると,エレベーター前の待合いの椅子にG1がおり,その場所で甲と別れた。
(2) L1市議(L1)の証言内容の信用性
L1市議の証言内容は,議長応接室で甲から現金が入っていると思われる封筒を渡されそうになり,言い訳などを述べてそれを拒んだ上,被告人へお礼のあいさつへ行きたい様子の甲の意向を受けて甲が被告人と面会するための約束を取り付け,面会日当日,甲が現金を被告人に渡すかも知れないと危惧しながらもその責任上甲に同行することとして,市長室でその場に居合わせたなどといったものであって,極めて自然な流れといえるのみならず,当時の市長に対する贈収賄という重大犯罪の有力な裏付けとなりうるものであって,一歩誤れば自分も贈賄の共犯として刑責を問われる可能性があるばかりか,市議会議員としてのモラルや清廉性にも重大な疑念を生じさせて世間の厳しい非難を浴びかねず,証言当時においてもa1市議会議員を務めていたL1市議にとっては,極めて証言がしにくく,証言するには相当の覚悟が必要な事柄であるにもかかわらず,衆目のある公開の法廷で,真摯かつ率直な態度で明確に証言されており,その内容は捜査段階から基本的に一貫したものであることが窺われる上,その証言中には,曖昧な部分も存するものの,その体験時から3年余りの期間が経過していることなどに照らすと無理もないと考えられる一方で,議長応接室で賄賂と疑われる現金入りとおぼしき封筒を差し出されたことやその後も現職の市長に対して賄賂が渡されるかも知れないといった場に居合わせるといった特異な体験の核心部分については明確に供述していることからすると,その証言には高い信用性が認められる。もっとも,L1市議の証言内容は,甲から封筒を差し出された日付につき平成12年7月29日ころとして甲の捜査段階の供述内容等と完全に一致しているわけではないが,日付の感覚それ自体に狂いが生じやすいことが一般に指摘されている上,同証言も日付について含みを持たせた言い方をしていることや甲とのやり取りについては順序立てて具体的かつ明確に供述されていることからするとその証言全体の信用性を損なわせるような性質のものではないというべきであるし,その他の部分は,前記の信用性の高い甲やG1の捜査段階の各供述内容,G1の手帳の記載内容や後のe1の能力審査のランクの向上の事実等とも符合しており,とりわけ,L1市議においては,ことさらに虚偽の事実を作り上げて,選挙で自分を応援してくれていた甲や一時は政治的に対立する関係にあったものの平成11年ころからは良好な関係にあった被告人を重罪に陥れる理由や利益は全く窺われないのであるから,この点からもL1市議の証言には高い信用性が認められる。
6  E1市議(E1)の供述内容
(1) E1市議(E1)の捜査段階の供述内容
平成12年3月6日,a1市c2のスナックで,顔見知りの甲から「r1のj1を買って,その跡地にマンションを建てたい。」,「(建築確認)申請の関係で,市長が判を押してくれるように頼んでもらいたい。」「地元が反対した場合,力を貸してもらいたい。」と相談を受けた。私は,同月上,中旬ころ,被告人に「市長,e1が,r1のj1のあとにマンションを建てるんで,許可の判押してやってもらえませんか。」と頼んだところ,被告人は,私が見せた甲の資料をぺらぺらとめくっただけで,「いいですよ。」「要件さえそろえば判押しますよ。」などと言っていた。
ところが,その数日後,被告人が,突然,「j1を保存したい。」などと言い出した。私は,びっくりして,e1にマンション建てさせてやって欲しいと言ったが,被告人は,反対運動が起こっていることなどを上げて,あくまでj1を保存したい様子で,e1にj1を保存するように説得するようにと言って来たので,私は,業者であるe1にj1を保存させるのは無理なので,市が買うようにと勧めたところ,被告人は,このころからj1を買いたいと言い出した。
被告人が買いたいという意向を表明したことから,私は,被告人の側近で私とも親しいF1を同席させて,同月22日,料亭「p1」で甲らと会った。このとき,私は,a1市がj1を購入する意向である旨を甲に伝えたが,甲はなおもその土地にマンション建設をしたいと話していた。F1は,e1にマンションを建設されたら困ることから,建築確認申請を提出しても被告人は判を押さない可能性が高いというような話をした。結局,このときはa1市が買うという話もできず,(建築確認申請に)判を押すと約束することもできず,どっちつかずの中途半端な話で終わった。
その後,甲からF1の話の真意について尋ねられた際,私は,「市長は,j1を買いたがっているが,まだはっきり決まったわけではないから,F1さんは立場上あれしか言えなかったんや。」「でも,市は,j1を買ってくれると思う。」と説明して納得してもらった。
同年4月になってからも被告人はj1を保存したい,a1市で買いたいという話をしていたことから,甲にその話を伝えていた。同月中旬ころ,甲から,「マンション建てたら,3億円くらい儲かる。」「近隣の取引で,坪60万から65万の取引があった。j1は1000坪近くあるから,6億か6億5000万円くらいになる。」などという話が出たので,「できるだけ,高く買うてもらえるように市長に言っておくわ。」と答えると,甲は,「よろしくお願いします。」と言っていた。その後,被告人が,(j1を)4億円くらいで買いたいと言ってきたとき,甲から聞いたこれらの話を伝えた。
同月下旬ころから5月初めころ,被告人が4億5000万から6000万くらいでj1を買いたいなどと具体的な金額を口にしたため,私は,同月の連休明けころ,a1市t1にある甲の知り合いのマンションの部屋で甲と会い,被告人から任されてきたとして,被告人から聞いていた金額を伝えたが,甲から総額4000万円くらいの経費がかかるという説明を受け,「図面を2回も書いている。」「もっと高い金額で買って欲しい。」などと言われたので,私は,「市長も,非公式やけど鑑定しているみたいや。」「高くても5億までやろ。」などと説明したが,甲が困っている様子を見せたので,甲に「市が買うんやったら絶対値段つり上げるよ。」と言った。このとき,私は,e1がl1からj1を購入する金額やe1が土地購入後のマンション建設資金として借りた資金を既に返却したとも聞かされた。
同月10日,j1の購入をa1市が検討しているとの記事がd2新聞に掲載されたことで,甲から抗議の電話がかかってきたが,被告人の考えがよく分からなかったので,「市長(被告人)には市長(被告人)の考え方があるんやろ。」と話をごまかしたが,被告人との意思疎通ができているのか疑問を持たれていると感じ,私は,「市は買ってくれると思うよ。」「市が買うんなら,僕は汗かいてでも市長(被告人)に高く買ってもらえるように説得するよ。」と言い,甲に被告人と会ってみるかとたずねると,甲も私のことを信用してくれた様子で,結局,甲が被告人と会うことはなかった。
同年6月14日ころ,私は,市民会館で被告人と会ったとき,被告人から4億7000から8000万円くらいの金額でj1を買いたいと言われた。私は,甲がマンションを建てれば3億くらいの儲けがあることから,6億円くらいで買うようにと被告人に話していたこともあり,また,この金額を私が伝えてもどうせ甲に断られると思い,「買うんやったら,ええ値で買うたらなあきませんよ。そんな値段やったら,僕から甲社長にはよう言わん。」などと言うと,被告人は,私の目の前で誰かに電話をかけて鑑定士に金額を聞くよう依頼している様子であった。
その日か数日後以内くらいに,甲から呼び出され,被告人がl1とe1との売買を邪魔しに来たと言って怒られた。私は,e1から4億8000万円くらいの金額で購入したいと言ったその日にl1に行ったと聞いて「知らなんだ。」と言うほかなく,また,甲から,「ほんまに市はj1を買ってくれるのか。」と迫られたが,被告人の気持ちが分からなくなったので,「そんなこと知らん。」と答えるほかなかった。
私は,腹が立ったことから被告人に会いに行き,「市長,変なことしたなあ。」「昼間会った時,e1から買いたいと話しといて,舌の根も乾かんうちにl1へ直接話しに行くというのはどういうことですか。」「横取りする話はおかしいんちゃうん。」と問いつめると,被告人は手付金の確認に行っただけだとなどと言っていたが,なおも抗議すると「悪かった。」と答えていた。
同月19日,被告人が,市議会において,a1市でj1を購入したいが,既にマンション業者が購入することになっているからa1市で購入することは難しいと答弁したため,私は,a1市がj1を購入することはなくなったと諦めかけていた。しかし,同月20日,突然,被告人から,電話で,特別な起債を見つけたことからj1を買うことができると告げられ,「すぐに社長に連絡を取って下さい。」などと言われた。
同月21日午後3時か4時ころ,甲を市長室に呼び出し,私もそれに立会った。被告人が,e2ビジョンについて話したり,甲がかつて甲の祖父がj1を所有していたことなどを話した後,被告人が,「j1は復元する。」「j1を4億8000万円で売って下さい。」と言い出した。私も被告人に口添えしたところ,甲は,「市長(被告人)の言い値でええよ。」「ただ,買うのであれば早く買って欲しい。」と言い,4億8000万円でj1をa1市に売ることを承諾した。
被告人は,「明日の議会にかける。」「議会で賛成をとって契約したい。」などと言い,最後に「1億円のもうけで勘弁してください。」と甲に言った。これは,私が,e1はマンションを建設すれば3億円くらいの利益が上がるから,6億円くらいでj1を買ってやって欲しいと言っていたことに対して,儲けが1億円で勘弁して下さいと言ったものだと思う。
このとき,私は,9月議会に提案すればよいと言ったが,被告人は6月議会に提案すると言うので,次は私が議会で頑張る番だと思い「そしたら,委員会は私が何とかします。」「任せといて下さい。」と言った。同月22日に市長からj1の買収の案件が議会に上程され,同月26日に総務委員会で審議された後,私が反対の委員を説得して,賛成してもらえるように根回しをした。
(2) E1市議(E1)の捜査段階の供述の信用性
E1市議の捜査段階の供述内容は,甲からマンション建設に関する依頼を受けてからその後a1市がj1跡地を取得するに至るまでの紆余曲折をたどった経過や自ら積極的に被告人にj1の買収を働き掛けたりした際の被告人とのやり取りの状況などが,当時の心情を織り交ぜながら自然な流れの中で具体的かつ詳細に明らかにされており,実際に体験したものでなければ容易に語り得ない臨場感と迫真性を有している上,信用性の高い甲の捜査段階の供述内容はもとより,新聞記事の掲載状況や市議会の審議状況等とも非常によく符合していることや被告人と親しい関係にあったE1市議がことさら被告人に不利な供述をする理由や必要性も見当たらないことから,その信用性は高いというべきである。
(3) E1市議(E1)の公判証言
ア E1市議(E1)の証言内容
既に記憶が曖昧となっているが,当時使っていた手帳に記載があることから,平成12年3月6日,甲と会っていると思う。その際,j1の土地にマンションを建設するにあたっての許認可において,被告人にスムーズに判を押してもらえるように協力して欲しいといった内容の話があり,その旨を被告人に伝えた。
同年3月ころ,F1らとともに甲と「p1」で会ったが,このときは建築確認申請の話程度で,a1市がj1を買うなどということは全く話に出ていない。捜査段階の供述内容は,a1市がj1を購入する意向があって,そのことをF1に説明してもらうために来てもらったなどというものになっているが,それは捜査官からF1がそういっていると言われたためそうなっている。
被告人が,j1を保存するためにj1を買いたいと言うことはあったが,財源のない具体性を欠いたものであった。被告人がl1へ行ったことについて甲から抗議があり,私も被告人に抗議をしたが,このとき,(私の方が)許認可をお願いしている立場であったから元の持ち主の所へ行くのはおかしいとは言ったものの,市が横取りする話はおかしいなどとは言っていない。
甲には,a1市が買いに来れば,その購入金額が合えば売ったらいいし,値段が合わず,自分でマンションを建てるならそうすればよい,そのときは,私は,市長に対して(建築確認申請の)認可の申請を強く求めます,と話していた。
同年6月21日までは,被告人からj1を買いたいという具体的な話は一度もなかった。a1市の買値はその日ではなくて,後日の交渉で決まったと思う。甲からはj1を幾らで購入したかなど聞いておらず,a1市が買うとしても4億数千万しか出せないと被告人がいうので,2億円くらいの利益の上乗せがあるであろうから6億円くらいで市が買うというのであれば,甲にも説明できる金額だと考えていた。
検察官から事情聴取を受けた際に,j1をa1市が買ってやって欲しいと思っていたので,a1市でj1を購入したいという連絡を被告人からの聞いたときは嬉しく思ったという内容の供述調書が作成されているが,そのように思ったことはなく,その点については何度も抗議したが,結局,そういう調書に署名指印した。捜査段階の供述調書の内容は,自分の記憶が曖昧であったことから,捜査官から他の人がこう言っていると言われ,そうですか,ならそのとおりでしょうということで,そのような内容の調書が作成された。
イ E1市議(E1)の公判証言の信用性
E1市議の公判証言の内容は,当時,新聞紙上に掲載されるなどして世間の注目を浴びていたa1市によるj1跡地の購入に関わるもので,甲の依頼の下に,a1市がj1を購入するようにと被告人らを説得し,あるいはその過程で一貫しない被告人の言動をたしなめるなどした経緯や状況を述べるものであり,その内容の特異性に照らせば比較的記憶に残りやすく,また,他の体験との混同も生じにくいとみられる性質のものであるのに,終始,断定を避けており,捜査段階における明確な供述内容と対比すると曖昧な内容の証言に止まっており,体験時からの月日の経過を考慮しても相当に不自然さが窺われる。しかも,E1市議は,捜査段階の供述内容から変遷した部分については,それらの供述調書が作成された際,すでに自己の記憶が曖昧となっていたので,捜査官から他の人の供述内容というのを教えられ,その人がそれで良いのならよいと考え,そのような内容の調書に署名するなどしたなどと証言しているが,調書作成当時も市議会議員を務めており,a1市と甲との間でのj1を巡るやり取りにおいて重要な役割を果たした者としては余りにいいかげんで無責任な説明内容である上,j1跡地をa1市が購入した本件において,捜査段階においては被告人に不利益な内容をも供述しているのに,これと対応する事項について被告人が述べた内容として調書化された部分は皆無であるなど,E1市議が証言する捜査段階の供述調書の作成過程の説明は不自然,不合理といわざるを得ない。翻って考察するに,E1市議は,甲がa1市にj1跡地を売却する際の初期段階から関与しており,その経過をよく知る者として贈収賄事件の証人の中で極めて重要な地位にあったことから,その証言内容如何によっては同事件の帰趨を大きく左右すると共に,現職市議会議員としての自分の世評にも悪影響を生じさせるおそれもあった上,本件当時現職の市長であり,今なお市議会議員の地位にある被告人と親しい関係にあることから,被告人の面前で被告人にとって不利な内容の証言をすることを躊躇し,真実を語ることをためらったものとみることができる。
(4) そうすると,E1市議の捜査段階の供述内容の信用性は高い一方,これに反するE1市議の公判証言部分の信用性は低いといわざるをえない。
7  S1の供述内容
(1) S1の捜査段階の供述内容
私はe1で常務取締役として一人で経理を担当しており,甲と2人だけで社長室の金庫を管理していた。平成12年8月3日の午前中,G1に社長室の金庫から紙袋を取り出し,手渡したことがある。私の記憶ではe1の業者間の役員会がe1の会議室で行われた日の翌日に手渡した記憶があり,e1の役員会は第1水曜日の午後7時が恒例となっており,同月2日が第1水曜日にあたるからこのようにいえる。当時,銀行印を社長室の金庫に毎日しまってから帰宅していたが,同月2日の夜,金庫を開けたときは,金庫内に紙袋を見た記憶がないので,同日夜に甲が自ら入れたのだと思う。そして,翌3日は,前日の役員会で決まった知事選出馬候補の応援会の案内状や会場となる「f2」の予約業務などをしているときに,G1が私のところに来て「社長(甲)の言ってるやつをちょうだい。」などと言ってきた。甲から金庫の中の紙袋をG1に渡すように言われたのが,前日(2日)か当日(3日)朝かははっきりとは覚えていないが,甲の指示なく渡すことはない。
同年6月に社員旅行として,韓国へ行った際,その数日前に甲から指示を受けて,200万円をm1銀行n1支店の甲個人名義の口座から引き出し,銀行の封筒のまま直接甲に手渡した。私は,韓国でも,帰国してからも200万円を預かってそのお金を銀行に入金した覚えはない。
同年2月,当時,会社がリースを受けていたu1のリースを取りやめることとなり,その車自体は,社員のR1がw1を通じて購入することとなった。そのとき,甲が車両代や諸費用などを合わせて合計181万7788円を立て替えることとなり,私が,g2信金h2支店から180万3738円を引き出し,不足分のお金を足して支払った。そして,同年3月ころになり,R1のローン契約がw1を通じて組まれたことから,甲が立て替えていたお金をw1のB2さんが封筒に入れて持ってきてくれた。この金は甲が立て替えていたお金であると分かったので,封筒に入れたまま社長室の金庫に入れた。封筒の中を見たわけではないが,手に持った厚さなどから,その中には,1万円札100枚束とバラの1万円札が数十枚入っているとわかった。その後,社長室の金庫の中には,その封筒が半年ほど入れっぱなしにされていたが,同年8月初めころから見当たらなくなった。この封筒の行方について気を揉んでいたので,封筒が見当たらなくなってから2,3日して,甲にその封筒の所在を尋ねると,甲は,何に使ったなどと口にして言わなかったが,私の方を見てニタッと笑ったので,私は,甲が封筒を持ち出したと分かり安心した。
(2) S1の捜査段階の供述の信用性
S1の捜査段階の供述は,e1における日常的な現金管理の方法のみならず,平成12年8月2日から同月3日にかけての現金管理や封筒に入った現金が金庫からなくなったことに気付いて気を揉んだり,その原因を知って安心したりした状況などが具体的に供述されており,e1において,甲以外に現金管理が可能な唯一の役員ないし社員として稼働していた状況等が極めて詳細に供述されていることに加え,信用性の高い捜査段階の甲の供述内容やG1の供述内容のみならず,関係金融機関の現金出納状況等とも符合していることに加え,S1は,平成2年からe1の役員・従業員として,e1代表者甲の下で長年にわたって稼働しており,虚偽の事実を作出してまで恩義のある甲や市長であった被告人を重罪に陥れる利益や理由は全く窺われない上,S1は,平成14年11月ころから警察等において取調べを受けていたところ,その当時,甲に対して捜査機関による捜査が進められていたことを知った上で前記のような供述をしていることに照らすと真実を記憶のままに語った可能性が高く,その信用性は高い。
(3) S1の公判証言
ア S1の公判証言の内容
これに対して,S1は,当公判廷において,「金庫内にあった数百万円の金がなくなったのは,平成12年の秋か冬のことだった。」「金庫の中に紙袋が入っていたことはなく,平成12年8月3日にG1に金庫から紙袋を取り出して渡したことはない。」「警察署等においては,意に添わない調書が作成されたが,その際,調書の訂正ができるとは知らなかったし,逮捕されるかもしれないという恐怖の中,早く取調べが終わって欲しいと思って署名した。」などと証言している。
イ S1の公判証言の信用性
しかしながら,S1の公判証言は,「金庫の中に入っている紙袋を渡したことはなく,(検察官に対して)何度も,金庫の中に紙袋が入っていたことはないと申し上げてきた。」などと述べる一方で,「検察官の取調べの際に,紙袋は金庫の中に入ってなかったという話はしていない。」と証言したり,平成15年1月に行われた検察官による取調べでは,取調べが早く終わって欲しいとの思いから,警察で認めた内容のとおり,検察官に言われるまま認めたなどと証言し,本件における重要部分についての証言内容に変遷が認められるなど,一貫性がなく,総じて曖昧,不明確なもので,体験時からの時間の経過を考慮しても相当に不自然な内容である。その上,S1自身,自己が述べた内容と異なる供述調書が作成されたとするC2警察官からの取調べ時においても,警察官の口調は穏やかであり,賄賂やe1のお金や経理等の関係で取調べを受けているという認識の下に取調べを受けていたなどと公判廷において証言しているのであるから,捜査段階の供述内容を公判における証言において変遷させた理由にも合理性が認められないというべきである。また,S1は,供述を変遷させた経緯について,自分が甲に不利な供述を捜査段階でしていたことが甲の母親に知られてしまい,甲の母親から,甲に不利な供述をしないように迫られた旨証言していることに加え,S1と甲との人的関係やその地位から,甲や同人と対向犯の刑責を問われている被告人の面前では,同人らに不利な内容の証言をすることは困難と窺える状況があったと認められる。
(4) そうすると,S1の捜査段階の供述内容の信用性は高い一方,これに反する公判証言の信用性は低いとみるべきである。
8  収賄事件小括
以上のとおり,平成12年8月3日,被告人に対してj1跡地の買収のお礼等の趣旨で現金300万円を供与したという甲の捜査段階の供述自体の信用性は極めて高い上,それによく符合する内容のG1の捜査段階の供述及びL1市議の証言並びにG1の手帳の記載等によって,現金収受場面を中心とする情況事実が相当程度裏付けられている上,甲が被告人に賄賂を渡すに至った経緯のみならず賄賂の原資やそれが入った紙袋の移動状況等についても,この点に関する甲の捜査段階の供述と整合性を有するL1市議の証言内容やG1及びS1の各捜査段階の供述によって合理的に説明ないし裏付けが可能であるから,同日,a1市役所市長室において,被告人が,甲から,賄賂として現金300万円を収受したという事実の存在が強く推認される。
9  被告人の弁解供述の信用性
被告人は,捜査段階から甲から賄賂を受け取ったことはない旨一貫して供述し犯行を否認しているところ,当公判廷における罪状認否において,平成12年8月3日には,甲やL1市議とは会っていないし,j1跡地についても,私の方から甲に無理に頼んで希望を大幅に下回る価格で売却してもらったもので,その便宜を図ったことはない旨供述したほか,概要,以下のとおりの弁解供述をしている。
(1) 被告人の弁解供述の内容
平成12年3月初めころ,市長室を訪ねてきたI1からj1がマンションになるという話を聞き,私は,日頃からj1付近の風情を非常にいいと思っていたため,内心困ると思った。そこで,I1からr1連合自治会においてもj1にマンションが建設されることには反対であると聞いたので,私もこの問題には前向きに対処しようという気持ちになり,I1に対して,その旨を陳情書等の文書にして提出するよう促したところ,同年3月27日,面会に来たr1連合自治会の人から陳情書が提出されたため,私はこれに前向きに対応する旨答えた。
それから程なくして(3月末から4月初め),E1市議が,図面等を持参し,e1がj1の土地にマンションを建築するに際しての建築確認許可申請を下ろして欲しいということで来た。
私は,知人から,e1にはマンション建設ができないと聞いていたことから,e1は(j1取得の)契約をしていないにもかかわらず,地元の反対運動をあおって市へ売り込みをかけるのではないかと思い,マンションが建設されることについては半信半疑の状態であった。同年4月中旬,I1からe1が手付をうっていると教えられたものの,信じ難いと感じた。j1の保存に前向きに対応すると自治会等に説明したことなどから,この時期ころには,最終的にはa1市で買収をするなどしなければならないかななどと考えていた。
同年5月10日付d2新聞にa1市がj1の買収を検討しているといった内容の記事が掲載された。j1をa1市で買いたいという趣旨のことも誰かに話した記憶はないものの,これは市役所内のエレベーターあたりで不用意に話していたのが聞かれたのかも知れない。
同年6月中旬ころ,E1市議が市長室へ来て,j1にマンションが建設されてもいいのかと言ってきたことから,私は,引きずられるように本音が出てしまい,j1を保存したい旨伝えた。すると,E1市議は,保存するのであれば,市が買うしかないと言った。それで,幾ら位するのかとE1市議に突き詰めると,坪65万などと言っていたため,E1市議は売り込みに来たものと思い,不信感が生じ,あの辺りであればせいぜい坪45,6万と思ったから,電話で,A2に鑑定をとってくれと指示した。そして,その後すぐ,(同月15日ころ),l1のK1のところへ行くと,既に手付の授受を終えていると聞いたので,腹立ち紛れにe1ではj1の売買代金の決済はできないと言った。l1から出て公用車に乗るなり,Z2特別秘書に電話をし,j1にマンションを建設して採算が取れるか確認したが,採算が取れると聞き,このままではr1にとって大きな禍根を残すと考えた。
私がl1へ行った翌日,E1市議が怒って電話をかけてきた。このときは,E1市議は売り込みに来たと思っており,不信感を持っていたので,l1へ売買事実の確認へ行っただけと答えた。
私がl1へ行ったことで,a1市に買う意思があるとe1に伝わるのではないか,そうなると市が購入する際に足元を見られてしまうと考えた。そこで,同月19日,議会で一般質問があり,あらかじめM1議員にj1について質問して欲しいと頼んでおき,その質問に答えて,買収は難しい旨答弁した。
同月20日午後,l1のK1社長に電話をかけると,(j1売買の)決済を終えたと聞かされ,ショックを受けた。そこで,E1市議に依頼し,e1に連絡を取ってもらって面談の機会を手配してもらった。同月21日,A2から,j1は土地の見方にもよるが,坪55万円くらいまでなら出せるので,55万円以上は絶対に言うなといわれた。同日,E1市議と共に,市長室で甲と面会をし,r1に対する思いを切々と訴えると共に,j1に対する甲の思いを聞くなどしていた。当初,甲は,私の話を憮然とした表情で聞いていたが,3,40分くらい経過したころから,ぽつぽつと話をしだしたので,私は「これだったら落とせる」と思った。E1市議も,a1市に売っちゃってよなどと説得してくれ,さらに甲に対し,「あんた,市とけんかしてまでそこまで金もうけしたいんか」というようなことまで言ってくれた。私が,思い切って一つ値段をぱすっと提示して売ってもらおうと,坪49万円でどうかと尋ねると,甲は,苦虫を潰したような表情で,「もう,あんたに負けたよ」というような表情で,「市長(被告人)に任せるよ」と言い,a1市が買うこととなった。私は当初は9月議会でも良いかと思ったが,甲は,依然としてぶぜんとした表情のままであったから,甲の気持ちが変わったり,より高い値で買い受ける人物が現れないように,9月議会ではなく,翌日,既に開催されていた6月議会に追加議案として提案することとし,「明日追加議案で提案します」と伝えた。甲とは,1時間から1時間20分程度話をしていたと思う。
甲との面談を終え,秘書室へ行ってA2に連絡を取ってもらい,追加議案提出の準備をした。この機会を逃したらr1に大きな禍根を残すと思い,関係者を説得した。
同月22日朝,市役所において,A2から政策調整会議の準備をしている段階で,公社の先行取得にあたっては更地でなければならないことが分かり,売主において解体してもらうため解体費を金額に上乗せする旨伝えられて承認した。これは,A2がその裁量で自分が責任を持つからという格好でしたのではないかと思う。同日,政策調整会議を朝一番に行っている。
私は,秘書のO1に頼んで訪問者の名簿を作成していた(市長面談等整理の)タイトルのパソコン中のデータのこと。これには面談した人を,個人,団体,企業等に分類するなどして,いつ面談したかなどを記録し,選挙等において活用しようとしていた。同年8月3日の面談の記録として,D2土地家屋調査士(株式会社i2の人)との記載があるが,その日に面談したかなどは今となっては記憶にない。面会簿には,しょっちゅう来ている人については,記載がない場合もある。同年6月21日に甲と面会したときも,急きょ自分から甲に来てもらい,5時15分以降に面談したので残っていないと思う。
同年8月3日には甲と会っていないし,甲からお金をもらってもいない。お金をもらう理由もない。平成12年において,j1の件でL1市議と連絡を取ったことはない。L1市議から頼まれてe1ないし甲との面談,面会の予約をしたことは一切ない。e1はL1市議の支援をしていたとE1市議から聞いていたので,E1市議から許認可について頼まれた際,L1市議がどうして何も言わないのかなと疑問に思ったことがある。同年6月21日以降,甲と会ったのは計3回だけで,1回目は,同年11月8日ころ,右翼について話をした。2回目は,平成13年4月以降ころ,甲からj1の工事をさせて欲しいなどと話があり,3回目は,平成14年春(3月)ころ,屏風の寄付を受けたころから,その感謝状を贈呈した。
平成12年7月13日,e1の名前が面談の記録にあるが,面会したという具体的な記憶はない。ただ,A2から,e1が支払を2回に分けて行って欲しいと言っていると聞いたことがあり,そのことかとも思う。
市長に再任した直後から,自己が市長室で面談するときは,業者に限らず全ての場合に職員か審議監を同席させ,賄賂を授受しているなどとあらぬ誤解をされないようにしていた。相手の状況を見て,途中退席を命じることはあったが,議員と会うときにも通常は同席してもらっていた。
捜査段階で,甲とj1の売買代金を決める際,金額を2万円ずつ下げさせ,最後に,坪当たり50万円から後,更に1万円下げさせたという内容の供述をしているが,捜査官の誘導によるもので,甲の供述内容である1回で金額を提示したのではないかと捜査官から追及を受けたか否かは覚えていない。坪当たり49万円と決めたが,これはA2に行わせていたつかみ(・・・)の鑑定(37万円ないし55万円)の範囲内であるが,このときの鑑定人の名前等の実務的なことはA2に任せていたので分からない。
(2) 被告人の弁解供述の信用性
被告人の弁解内容の骨格は,平成12年8月3日に甲に会ったことはないとするもので,当時,被告人がO1に指示して作成していた面会者の名簿にもその日に甲と面会した旨の記載がない点や前記の甲の公判供述内容,G1の最終的な証言内容等とも一応符合するものである。
しかしながら,被告人は,同日に甲と会っていないと明言するものの,それを裏付ける根拠やその日の出来事や具体的行動については記憶がないなどの曖昧な供述に終始し,合理的な説明が出来ていないことに加え,j1を市で買い上げなければr1の将来に大きな禍根を残すことになるとして,j1の買収の検討を進めていたというにもかかわらず,その具体的場面やその当時の判断の根拠については,A2に任せていたので分からない,あるいは記憶にないなどと述べるにとどまっており,被告人が説明するr1地域への思い入れとその時点での言動やその記憶との間に合理的に説明し難い不自然なかい離が窺われる上,そのような被告人の思い入れに基づき,甲と交渉して市がj1跡地の購入を決定する際にも,金額の決定の方法や経緯については捜査官に誘導されたため値切った内容の供述調書の体裁になってしまったと供述しているなど,極めて不自然かつ不合理な内容となっている。また,被告人は,a1市がj1を購入する意向があるということは平成12年6月20日ころまでは誰かに話した覚えがないなどと供述する点については,Q1において被告人が話した内容を書き留めたものである旨説明しているQ1が本件当時使用していたノートの平成12年4月5日欄の記載内容やその説明内容と符合しない上,同年6月21日,甲と面会した際,坪49万円と話をしたとする点については,E2が作成した案件付議申請書等において,市の購入金額が4億8000万円と明記されていることや審議監らが翌22日の政策調整会議に付するために検討した際,4億8000万円という金額が出ていたことと符合しないなど,被告人の供述は客観的な証拠や事実経過と大きく整合性を欠いているばかりか,前記のとおり,信用性の高い甲の捜査段階の供述等とも一致しないものであるから,その信用性は極めて低いとみるべきである。
10  弁護人らの主張
弁護人らは,G1の手帳の平成12年8月3日欄の記載はi2のD2らが被告人と面会する予定を記載したもので,同日午前10時35分ころには,被告人は市役所市長室において収入役のF2の立会の下,D2らと面会しているため甲と面会することはあり得ないし,被告人は市長室において業者等と面会する場合には,不正がないようにするため必ず市の職員を同席させていたため,甲及びL1議員の3人だけで会うこともあり得ないから,被告人には犯行の機会はなく,被告人が甲から平成12年8月3日に現金300万円を受け取ることもあり得ないとし,さらに本件は後記の背任事件と併せ,甲の形式的微罪による別件逮捕に端を発した捜査機関による違法不当な政治介入である旨主張する。
(1) G1の手帳の記載について
ア G1の手帳に関し,G1は,当公判廷において,捜査段階の供述を大きく翻し,最終的には自己が使用していた手帳の平成12年8月3日の欄の記載は,i2のD2らの予定を記載したものであり,その記載はi2の事務所で記載したものだと思うが,それをいつ記載したか,また,そのときD2以外に誰がいたかなど覚えていないとし,手帳のその日の記載がD2の予定を書いたものだとすると,自分はその日には市役所には行っていない筈だし,同年7月31日にも市役所でL1議員に会ってもいないと思うなどと証言している。
しかしながら,G1は,当時e1の正社員として勤務しており,i2においては名目的な発起人になっていたに過ぎないと認められるのに,常時行動を共にしていたわけでもないD2らの予定を日頃から使用している自らの手帳に記したものであるとするなど,G1の証言は,その内容自体相当に不自然かつ不合理な内容であるし,その証言は,被告人に賄賂が供与された日の出来事などを詳細に明らかにした捜査段階の供述を翻してなされているところ,G1は,捜査段階の供述を転じさせた理由として,平成15年7月9日の最初の証言当日の朝,Y1弁護士から,市役所の来庁者名簿とi2の約款か何かの書類やF2の名刺を見せられ,またそのときの事情を聞かされたことによって,前記手帳の記載がD2らの予定を書いたものであったことを思い出したなどと証言しているところ,G1は,証人尋問中においてさえも,検察官による主尋問に対しては,同月8日に検察官から証人テストを受けた際,手帳の平成12年8月3日の記載がi2のD2らの予定を記載したものである旨の弁護側の主張の骨子に沿う新聞報道がなされていたのも既に知っていて,検察官からもそうではなかったかと確認されたが,それによっても手帳の当該記載がD2らのものであることを思い出さなかったと証言していた上,最初の証言前日までの記憶だと留保はつけながらも捜査段階とほぼ同じ内容の証言をしていたのであって,明らかに不合理な変遷を辿っている上,公開の法廷で,贈収賄の事実をそろって真っ向から争っている自己の勤務先会社社長の甲や元市長で現職市議会議員である被告人に対して不利な内容の供述をすることが非常にためらわれる立場にあったことに照らすと,G1の当公判廷における最終的証言部分の信用性は低いというべきである。
イ もっとも,G1の当公判廷における最終的証言部分の内容は,当公判廷におけるD2の証言内容と符合することから,D2の証言内容の信用性についても検討を加える。
(ア) D2の証言内容
平成12年4月3日,私と,G2,H2及びG1とで,i2を設立した。設立後,市役所内の関係部署にあいさつ等を済ませたころ,土地家屋調査士であるG2が所属する土地家屋調査士会が国土調査の関係で被告人に陳情しているので,それを切っ掛けに面会できたらいいと考えて知人のつてをたどった。すると,私とG1がi2の事務所にいるとき,H2からG1に電話で面会予約がとれたと連絡があり,同年8月3日に市長と面会することが決まった。当時,私は,業務手帳等を付けていなかったことから,忘れないようにその場にいたG1に書いておいてくれと頼んだ。ただ,G1が実際に手帳に記載しているところは見ていない。
面会当日(8月3日)午前10時ころ,私は,i2の事務所からG2及びH2と3人で車に乗って市役所へ向かった。G1からは,その前日あたりに来られないとの連絡があった。市役所では,立体駐車場の有料駐車場に駐車し,直接,電話等の連絡をすることなく市役所4階の受付へ向かった。応接室ではなく,長いすで10分ほど待った後,面会する部屋に入ると,収入役のF2が同席することとなり,F2とあいさつを交わし,名刺をもらった。その後,入室してきた被告人から,市の政策などについての話を聞いたが,その内容は覚えていない。被告人からは,「大変厳しい時代やけど若い力で頑張ってよ」などと言われた。後日,3人で振り返ってみると,被告人と面会している時間は大体10分から15分程度であると思うが,その長さについて特に根拠はない。その後,車を駐車した立体駐車場へ戻り,市役所の駐車場を出た。このとき領収書をもらっており,それには,「00年8月3日」,「10時55分出」,「10時15分入」,「W160円現」などと記載してあった。i2では,領収書は全て綴って保管している。市長(被告人)と市役所で会ったことは平成12年8月3日の1回しかない。
(イ) D2の証言内容の信用性
D2の証言内容は,平成12年8月3日に市長室へ行った際の状況について時間経過等について主尋問に際しては明確に供述しており,その証言は,G1の手帳の8月3日欄の記載の理由をそれなりに説明していて,F2の名刺の存在や市役所の立体駐車場領収書の記載内容とも一見符合するものである。
しかし,その証言態度を子細にみると,検察官による反対尋問に対しては,随所において,「と思います」「かもしれない」などと述べて断言を避けるなど必ずしも明確な記憶に基づかないまま証言した節が窺える上,市長室において1回しか面会していない市長(被告人)が話した政策の内容等について記憶が完全に欠落しているほか,G1が市長(被告人)との上記面会予定を手帳に記載したとする理由の説明部分については,D2はi2の事務所内にいたのであるから,容易に自らメモをとることが出来る状況にあったと考えられるのに,たまたまG1がその場にいたというだけで,e1で日常的に勤務しているG1が使用している手帳にわざわざこれを記載させる必要性は認められないなどの点で相当に不自然,不合理である上,同旨のG1証言の信用性自体が低いことは前述したとおりである。さらに,捜査段階(平成15年1月19日)においてD2に対して事情聴取を行ったI2警察官の証言内容は,明確で不自然なところは特に見当たらないことなどから基本的に信用性が認められるところ,その事情聴取の中において,D2が,被告人と面会したのは,平成12年8月3日の正午近くの午前中であるが,特に根拠となる資料はなく,被告人との面会時間は2,3分で,D2が被告人に名刺を差し出し,「お願いします」と言い,被告人は,「がんばれよ」と言った,という程度であったと話をしていたと証言していることと大きく矛盾している。加えて,D2は,G1と共にi2を設立し,甲が代表を務めるe1とも取引関係にあるなど甲とのつながりも深く,被告人に対して賄賂を供与したことを公判で強く否定している甲のため,甲及び被告人に敢えて有利な証言をする動機の存在も否定することはできず,以上の諸点に照らすとその証言内容の信用性は低いといわざるを得ない。
ウ そうすると,G1の当公判廷における証言内容自体の信用性が低いばかりか,D2の当公判廷における供述内容も同様に信用性が低いといわざるを得ないことに加え,前記の領収書及びF2の名刺には,その受取人を特定する記載は全くなく,D2の前記証言以外にその受領状況を直接説明するものもない上,その領収書には,D2の作成していた総勘定元帳を見てもi2では同日中に経理処理がなされておらず,振替伝票も作成されていないことからすると,同日にその駐車料金の支出が実際になされていたかも確認することができない状況にあるし,i2の総勘定元帳と確定申告書の決算書とは雑費の金額が異なっており,J2税理士が作成したという総勘定元帳の一部も補正部分しかなく,後刻の加工の可能性を否定できるだけの担保も存しないなど,領収書がD2らと被告人が面会した直後,その記載時刻ころにD2らによって受け取られたものであることを認めるに足りるだけの根拠は希薄といわざるを得ないから,結局,G1の手帳の平成12年8月3日欄の記載がD2らの予定を記載したもので,甲らが同日は市役所に行っていないとする弁護人の主張は採用することはできない。
(2) 市長室における業者等と面会に際しての市の職員の同席について
ア 被告人は,市長室において被告人が面談をする際には,市職員(秘書または審議監等)を立ち会わせるシステムが存しており,平成12年8月3日に甲とL1市議との3人で面会したことはないし,同年6月21日には確かに甲と面会しているが,このときは午後5時15分以降の面会であったため職員の都合がつかず,職員の同席がなかったにすぎないなどと供述するところ,市長公設秘書室秘書班に所属していたO1は,市議会議員のみが市長と面談する場合はともかく,市議会議員が業者を連れてきて被告人と面談をする場合,市の職員が必ず同席し,通常は収入役(F2)が,場合によっては審議監が同席するとし,同日,甲が被告人と面会した際,市の職員が立ち会ったか否かは覚えていないものの,5時以降の面談については異例のことなので,原則が適用できてはいなかったなどと被告人の供述内容と一見符合する証言をしている。
イ しかしながら,O1は,捜査段階においては,面会者の用件が分かっている場合は担当審議監や担当部局の担当者が立ち会い,用件が不明な場合はA2に相談して立ち会いの必要の有無を決めてもらっており,被告人の後援会関係者や親しい方等の場合は審議監等は立ち会わなかったし,被告人が希望する場合も審議監等は立ち会わなかったと供述した上,被告人とe1との面会日程を組んだことは2回あり,1回目はa1市がj1を買い取ることが決まった直前の日,2回目はa1市がj1を買い取ることが決まってからで,L1市議からの申し込みによるもので,L1市議からの申し込みであれば用件を聞かないことも多く,L1市議が立ち会うのであれば審議監は立ち会わないことが多いので,このときも用件は聞いていないと思うし,審議監も同席していないと思うなどと供述している。捜査段階のO1の供述は,具体的かつ明確で,L1市議らの証言内容とも符合することから高い信用性が認められる一方,その公判証言は,本件において一つの争点となっている市長面会の立ち会いに関する一定の基準の有無,内容といった重要部分についてその内容を大きく変遷させている上,O1は,被告人の秘書官として約3年半その身近で働いていた者であり,証言当時も依然として市職員として勤務を続けていたところ,その証人尋問前に被告人の弁護人から依頼を受けた市職員から数回にわたり捜査段階の供述内容について話を聞かれ,捜査段階の供述内容が誤っているのではないかと確認されたとも証言しており,これらの事情が公判証言の内容に影響を与えた可能性も考えられるから,その信用性は低いとみざるを得ない。
これに加えて,被告人においても,捜査段階においては,自己が職員を立ち会わせるか否か決めていたとして,その公判供述のような厳格なシステムが存在するといった説明は全くしていないのであって,上記の公判供述は,市によるj1の購入金額決定の経緯とも併せ,本件において重要な部分につき供述内容を変遷させたもので,その変遷の理由についても何ら合理的根拠が窺われない。
ウ また,被告人は,平成12年6月21日の甲との面会は午後5時15分以降であったと供述するが,この点については,その際に面会した甲及びE1がいずれも捜査段階において午後3時ころから午後4時ころのことと供述していて,Q1も執務時間中にA2から4億8000万円でj1を購入すると聞いた旨これらに沿う供述をしていることと符合しないのであるから,この点についても被告人の供述内容は信用性が低く,そのような事実を認めることはできない。
(3) 小括
そうすると,被告人と甲間においては,現金を授受する犯行の機会がなかったとする弁護人らの主張は,採用することができない。
(4) 捜査機関による政治介入とする点について
すでに甲の捜査段階の供述の任意性の検討において明らかにしたとおり,本件においては甲と被告人との間での贈収賄事件についての捜査を目的として,甲に対する国土法違反という微罪での別件逮捕により捜査が進められたということはできないし,上記のとおり,被告人は,甲から現金の交付を受けたとして収賄事件により逮捕され,その捜査手続の各段階においても刑事訴訟法等の関係法令に違反する事情も窺われないことからすると,弁護人らの批判は当たらないし,それは後述する背任事件においても同様といえる。
なお,被告人は,公判廷におけるその最終陳述の一環として,捜査段階において,警察官から市議会議員を辞するように迫られた旨供述しているところ,そのような事情をそれまでに実施された被告人質問においても明確には供述していないのであって,それまでに供述できなかった理由も明らかにしていない上,被告人も警察官の職歴を有しており,捜査段階から弁護人が選任されていたことに加え,本件捜査の各段階において,警察官による特段の違法行為の存在を窺わせるような事情も存しないことからすると,その供述の信用性は低いといわざるを得ないから,結局,捜査の違法をいう被告人及び弁護人らの主張は採用することが出来ない。
11  総括
以上のとおりであって,当公判廷で取調べた関係各証拠によれば,被告人が,平成12年8月3日,a1市役所4階市長室において,甲からj1跡地の買収に関わる謝礼等の趣旨で現金300万円が在中する封筒を受け取り,賄賂を収受した事実は優に認めることができ,これに反する弁護人らの主張はすべて採用することができない。
第2  背任事件
1  当事者の主張
被告人は,いわゆるi1事業は,自己がかねてよりa1市長として取り組んできたr1地域の振興のためには是非とも必要であり,乙の利益を図るものではないし,i1建物の賃貸借契約(以下,「本件賃貸借契約」という。)における賃料等の条件についてもいずれも正当で不当なものはなく,担当各部署に対応を委ね,適正に議会承認等の手続を履践しているのであるから自己に任務違背はないし,a1市に損害を生じさせたものではないと供述し,弁護人らにおいても,被告人の供述を前提に,i1事業の必要性,本件賃貸借契約の内容や決定過程をみても被告人の任務違背行為はなく,被告人には背任罪における故意や図利加害目的は全くないし,乙との間で共謀した事実もないとして,被告人は無罪である旨主張している。以下,これらの点に関する当裁判所の判断を順次補足して説明する。
2  はじめに
そもそも背任罪は,他人のために事務を処理する者が,図利加害目的で任務に背く行為をすることによって本人に損害を与えることがその成立要件とされていて,未遂罪を処罰する規定もないことから,本件のような不動産賃貸借における借り受け側の背任罪の成否が問題となる場合には,借り受ける必要のない不動産を借り受けるという点の任務違反も考えられるものの,これが双務有償契約であることから,不動産を借り受ける条件如何が損害発生の有無を判断するための重要な点となると考えられる。すなわち,通常の経済取引における賃借条件の合理的範囲内あるいはむしろこれよりも有利な条件で不動産を借り受けることができたような場合にあっては,単に借り受ける必要がない不動産を借りたという点だけでは,損害の発生が直ちには見込めず,実質的違法性を持たない場合が十分に考えられ,逆に当該物件の賃貸借の必要性の有無及び程度に加え,その賃貸借条件が通常の経済取引において許容される範囲内を超えた場合にはその逸脱の程度如何によって背任罪が成立する場合があると考えられるところ,検察官が,本件背任の起訴状の公訴事実中で,単に借り受ける必要のないものを借り受けたという任務違反(いわば借受違反)のみならず,相手側に不当に有利な契約条件で借り受けたという任務違反(いわば借受条件違反)を問題にしているのも,このような考慮に基づくものと考えられる。当裁判所も,本件においては,借受違反のみならず借受条件違反の有無を検討しなければ,その実質的違法性の有無,すなわち本件背任罪の成否を確定することができないと考えるので,以下このような観点から,前記二つの義務違反があるか否かの検討を含め,本件における背任罪の成否について論じることとする。
3  前提事実
当公判廷において取調べ済みの関係各証拠によれば,以下の各事実が認められる。
(1) 被告人の職務権限,職務内容等
前記のとおり,被告人は,平成11年1月から平成14年7月まで2度目のa1市長の職にあり,a1市長として,市の財産の管理,職員の指揮監督並びに市の事務を管理・執行する権限があり,市の健全な財政運営を損なわないよう誠実にその職務を遂行すべき任務を有していた(地方自治法138条の2,147条,148条,149条1項,154条,地方財政法4条等)。
(2) i1の営業状態
i1は,昭和8年ころ,乙の祖父K2がa1市h1番地の国有地上に建築した木造2階建ての別荘と,その後同所に増築した建物等で構成されているが,昭和28年ころ,これを利用して,乙の父L2と母A1が料理旅館「i1」として営業するようになった。
しかし,昭和60年ころ,建物内の防火設備の関係から旅館業を廃業し,以降,料亭として営業するようになり,平成3年ころにはL2が他界したことから,A1がその経営者となった。乙は,昭和58年ころから若女将としてi1で稼働するようになったが,これまで結婚歴はなく,乙の実弟B1は,昭和63年ころから,i1で会計等を担当していた。A1に対しては給料等は支払われていないが,乙及びB1には,平成12年当時それぞれ25万円くらいと30万円くらいの給料が支払われていた。
i1の経営は,いわゆるバブル経済崩壊に伴って次第に悪化し始め,平成9年ころからは毎年赤字を計上するようになり,当初は金融機関からの借り入れで凌いでいたものの,平成11年ころからはA1が自己資金をi1の運転資金に注入することを余儀なくされ,平成11年に820万円余り,平成12年に930万円余りの経費を負担していた。
(3) 建物の状況等
i1は,長期間にわたり増築を繰り返し,主に本館,本館と接して併設された通称「鉄筋部分」,西別館,北別館,茶室からなるものであるが(登記簿上は全部で13の家屋番号),大部分の建物はB1が所有し,乙が所有している建物は家屋番号j2番の木造瓦葺平屋建ての1棟(北別館)のみで,その面積はi1の建物全体の約3パーセント程度であった。
i1の建物は,いずれも築後約40年以上を経過しており,平成12年当時における固定資産評価額は合計約2884万円であった。また,i1は,現行の建築基準法が制定される前に建築された,いわゆる既存不適格建築物に該当するため,用途を変更する場合には,耐火構造や耐震構造の面で同法の基準を満たすような改修工事を施さなければならないものであった。
i1の建物の敷地は国有地であったことから,近畿財務局に年間約319万円の地代を納付していたが,平成10年ころから地代の一部を滞納するようになり,i1側は月10万円しか払えないと言って,その金額しか納付しない状態が続いたため,平成12年9月29日の本件賃貸借契約締結時には,地代滞納額の合計額は約530万円に上っていた。
また,i1の庭園部分や乙名義の建物の敷地については,本件賃貸借契約締結以前,国に対する地代は支払われておらず,不法占拠状態であった。
(4) 被告人と乙との関係
被告人は,以前から折りに触れi1に食事に訪れていたが,平成11年1月ころから乙と顔見知りとなり,同年8月ころから,乙の紹介で乙が通っていた絵画教室にも通うようになった。
その後,被告人は,乙と次第に親密になり,平成12年4月ころからは妻子がありながら同女と継続的に肉体関係を持つなどのいわゆる愛人関係となり,乙の自宅,被告人が乙のアトリエ用として準備した市内のマンション,ホテルなどで肉体関係を重ねていた。
また,被告人と乙は,少なくとも同年4月29日ころから同年10月31日までの間だけでも,ほぼ毎日,執務時間か否かを問わず多数回にわたって携帯電話でメールや電話のやり取りをしており,後述するように被告人が市役所において市職員幹部らにi1事業について初めて話をした同年5月29日と,翌30日には,被告人が乙に各12回と18回,乙が被告人に17回と22回の送信ないし通話(以下,「送信等」という。)を行っており,i1事業が政策調整会議に付された同年8月8日及び同月23日には,被告人から乙へ各10回,乙から被告人へ各13回と17回,同事業が市長査定に付された同月18日には,被告人から乙に6回,乙から被告人に7回,a1市と乙らとの間で本件賃貸借契約が締結されるに至った同年9月29日から翌30日にかけて,被告人から乙に各11回と16回,乙から被告人に各13回と18回の送信等の記録が両者間に認められる。
さらに,被告人は,乙と一緒に利用していたホテル代を負担していたのみならず,平成12年3月から平成13年12月までの間,乙に対し,24回にわたり(なお,平成12年中の現金の受け渡し状況は,3月24日ころに10万円,4月23日ころに10万円,5月12日ころに20万円,同月24日ころに30万円,6月24日ころに20万円,8月1日ころに20万円,9月2日ころに20万円,10月7日ころに20万円,11月4日ころに20万円,12月2日ころに20万円,同月26日ころに20万円の11回,合計210万円に及ぶ。),現金合計500万円を手渡していた上,平成12年5月から平成13年7月までの間,アメリカ,カナダ,オランダ,ニュージーランド等公務も含めて合計5回にわたり乙を海外旅行に同行させ,同女の旅行費用合計420万円余り(このうち,平成12年5月分の旅行代金は123万円を下らない。)についても,乙が支払ったことはなく,全て被告人及び被告人の後援会幹部がこれらを支払っていた。
また,平成12年10月ころからは,本件賃貸借契約によりi1を使用することができなくなった乙のため,被告人がアトリエ用マンションを準備してこれを無料で自由に使わせていた。
(5) 本件賃貸借契約を締結するに至る経緯等
ア 乙,A1,B1は,i1と同じr1地域に所在するK3邸が和歌山県の迎賓館とされているのを知っていたため,平成10年ころから公共団体や会社等にi1を借りてもらいたいなどと家族間で話をしていた。
平成11年10月ころ,市は,r1地域を再生するため,株式会社k2にe2ビジョンという振興策の企画書の作成を依頼していたが,平成12年5月10日に実施された中間報告(市長に対するプレゼンテーション用)において,被告人は,k2のM2に対し,i1を一度見た上,その利用を同ビジョンの中に組み入れて検討するよう指示した。
同月14日から同月28日にかけて,被告人は,姉妹都市訪問のため公務としてアメリカ・カナダ旅行に赴き,その際,乙を同伴させたが,両名は,旅行中,同行職員の目にもいかにも親密そうな態度を示していた。
イ 前記アメリカ・カナダ旅行の帰国翌日の同月29日ころ,市の幹部職員を集めて行われた朝のミーティングにおいて,被告人は,突然,「市でi1を借り上げたい。」などと発言し,迎賓館等としてi1を借り上げる事業の実行を首席審議監のA2に指示した。首席審議監には,事務分掌上,事業内容を決定する権限はなく,市長の命令指示等を担当部局に伝えたり,各担当者の調整を行うことなどを業務としていた。
なお,A2は,被告人が初めて市長になったころ,被告人に引き立てられて秘書官課長補佐となり,その後,市長公室次長等を経て,首席審議監に抜擢された,被告人が最も信頼していた人物であるが,本件i1の借り上げが問題となった後に死亡した。
ウ 同月30日ころ,被告人は,A2と市建設部営繕室室長N2,同室営繕第2班長O2を伴ってi1を訪れ,乙と共にN2らにi1の建物の内部を見せて回り,市が美術館や迎賓館として使う場合の改修費用を計算するよう同人らに指示した。
同年6月上旬ころ,被告人,A2,N2,O2に加えて,市都市計画部建築審査室長P2が集まった際,「i1は,(その建物がいわゆる既存不適格建築物であって)建築基準法上の基準をクリアすることが必要で,飲食店としての用途を他に変更すれば莫大な費用がかかるため,飲食店としてしか使用できず,i1を美術館として利用することは無理である」との意見が職員側から被告人に対して述べられたが,被告人は,「何とか使える方法を考えて欲しい。何とかできないか。」などと言って,さらに検討を促したところ,間もなく,P2が,従前と同じ飲食店として利用し,店内に美術品を飾る程度であれば用途変更にはあたらない旨報告したところ,被告人はこれを喜び,「それで行こう。」と言い,結局,建物の用途変更をしない範囲において美術品等を展示する迎賓館という名目で利用することが決定された。
また,このころ,被告人は,A2に対して,花いっぱい大会に間に合わせるために9月議会にi1事業を間に合わせるようにと指示を出した。
エ 被告人は,同月中旬ころ,l2事務所のQ2に自ら直接電話をかけてi1を一度見て欲しい旨依頼し,同月下旬には,被告人が同行を指示したA2と一緒にi1を見に行かせ,同事務所がi1改修工事のための測量を行った。
その結果,改修工事に約2億6000万円の費用が必要との見積りが出され,被告人は,市長室でQ2からその報告を受けた際,予算がないなどと言ってもっと金額を下げるように指示したことから,最終的には約1億4000万円の見積りが出された。
オ A2は,被告人の指示後の調査で,i1が国有地に建てられていること,乙側が地代500万円余りを滞納していること,乙名義の建物や庭園部分が国有地に対する不法占拠状態となっていることを知ったことから,それ以後,近畿財務局和歌山財務事務所に赴くなどして,不法占拠部分について市が借り上げる方向で交渉するようになった。
その結果,同年9月29日に至り,不法占拠となっている乙の所有する建物と庭園部分については,市が国との間で土地を賃借し(その内容は,対象土地は962.22平方メートル,貸付料は平成12年10月1日から平成13年3月31日までの期間で79万334円。なお,a1市から平成15年3月14日付け賃貸借契約終了の通知文書により,前記契約は以後更新されることはなく,平成15年3月31日をもって前記賃貸借は終了したとみられる。),国と市との賃貸借契約終了の際に,市が乙の所有建物を撤去して前記財務事務所に戻すことを合意した。被告人も,i1が国有地上に建築されていることやA2が近畿財務局との交渉に苦労していたことについては,A2から報告を受けて知っていた。
カ A2は,平成12年6月中旬ころから,審議監室審議員R2と一緒にi1に赴き,乙側との間でi1を賃貸借する契約内容等について交渉するようになった。
また,同年7月上旬ころからは,審議監のQ1においても,A2から本件賃貸借契約の契約書等の相談を受けたり,その内容に関する調査を依頼されるようになり,さらには,R2によって作成された本件賃貸借契約の原案の確認を行うなどした。
乙,A1,B1は,前記交渉当時の乙とB1の給料が,それぞれ月額25万円と30万円程度だったことから,地代や税金を除いて,A1の分も含め3人で一人当たり25万円ないし30万円くらいの賃料,すなわち最低でも3人分で月額100万円くらいをもらいたいと考え,その旨をA2に伝えた。乙らは,同年7月中旬ころ,A2から,賃料が月額150万円ではどうかとの提示を受け,それを了承する旨伝えた。
また,Q1は,同年7月中旬ころから下旬にかけて,A2から,本件賃貸借契約の内容について,期間を20年,月額賃料を150万円,敷金を賃料の5か月分,借り上げ開始時期を同年11月とすることなどに決まった旨聞かされた。
ただし,同年8月上旬ころ,地代の減額がされる見込みとのことで,最終的には,賃料月額が140万円となり,市側の都合で,借り上げ開始時期は同年10月からに変更された。
被告人も,A2から,賃料が月額140万円であることや敷金を賃料5か月分支払うことなどの報告を受けていたが,これに何ら異議を唱えていない。
キ 同年7月中旬ころ,市産業部観光振興室長N1は,A2から,市がi1の建物を賃借し,美術品等を展示した観光文化施設として利用する事業の担当を依頼され,市産業部長S2と相談の上,これを引き受け,同月下旬ころ,振興第2班長T2及び同班事務主任U2をi1の担当者に指名した。
そのころ,N1は,A2から,先方(乙ら)との交渉は全部こちらでやるので,交渉が終わるまで直接連絡するのを控えてくれと言われていた。
同年8月に入り,i1事業の予算計上に関して,主計員ヒヤリング,財政室長査定,財政部長査定が順次行われていたが,いずれも問題点を指摘されるなどして厳しい評価を受けることとなったが,財政室長査定及び財政部長査定においては,被告人からのトップダウンの案件で,政策的判断を要するということが考慮されたため保留とされた。
同月8日,S2の申請により,i1事業が政策調整会議(1回目(なお,後記のとおりi1事業は2度にわたって政策調整会議で審議されているため,便宜上このときを「1回目」と記し,後日の同会議を「2回目」と記す。))に付され,N1が担当者として説明に立ったが,事業の内容や目的,月額賃料140万円の根拠などについて,出席者から厳しい質問が相次ぎ,事業内容等を十分理解していなかったN1がまともに答えられず,a1市助役V2から,説明できる事業ではないなどと叱責され,結局,i1事業案件は保留となった。同会議直後,N1は,A2から,しっかりするようにと叱責されると共に,被告人からも次の政策調整会議ではちゃんと説明できるようにしておくようにと叱責された。
同月中旬ころ,A2からN1に対し,i1事業の賃料額について,不動産鑑定士から適正賃料を聞くようにとの指示がなされ,そのころ,N1から更に指示を受けたT2及びU2が市の評価委員をしていたW2不動産鑑定士(以下,「W2鑑定士」という。)にi1の名前を出さずにその不動産としての概要を告げておおよその金額を確認したところ,月額36万円程度の賃料が適正である旨の回答を得た。
被告人は,そのころ,N1から,W2鑑定士の評価額が月額36万円であるという報告を受けた際,「それじゃあ安すぎて使えんな。話にならんな。」「あの立派な大きなi1が(地代引いたら)わずか16,7万円かよ。そんなばかなことはないぞ。文化的な価値や風情や景観の価値が全く考慮されてないん違うか。もう一遍聞いておくれよ。」などと言い,N1らに対してもう一度評価を聞き直すように指示をした。しかし,賃料の鑑定においては,文化的価値を考慮することはできないという報告をN1やA2から受けたことから,被告人は,両名に対し,別の手を考えるよう指示し,これに従ってN1がT2らと検討した結果,市が賃借している市の中心部のオフィスビルの月当たりの平米単価で比較すれば,i1の方が割安であることが判明したことから,これをA2及び被告人に報告したところ,それでいくように言われたことから,これに沿って議会や委員会資料を作成し,月額140万円の金額の根拠付けを行った。
ク 同年8月18日に実施された市長査定においても,財政課主計員からi1事業の必要性や緊急性は不明で事業効果にも疑問があり,月額140万円の賃料の根拠が不明で妥当性に欠け高すぎるなどの厳しい反対意見が出され,V2からも,政策調整会議で保留となっているのに,市長査定で先に予算要求を認めるのはおかしいという反対意見が出されたにもかかわらず,被告人は,「この事業をどうしてもやりたいんです。やらせてください。」などと言って反対意見を抑えて押し切った結果,i1事業に予算を付ける決定がなされた。
被告人は,同日,乙に直接電話をし,i1の建物に付されている抵当権を早く抹消すること及び(i1にある)美術品のリストを作ることを指示した。i1の建物に設定された(根)抵当権の各登記は,本件賃貸借契約締結前にいずれも抹消されている。
同月23日,i1事業が2回目の政策調整会議に付されたが,既に市長査定で承認されていたことから,反対意見も出ずにすんなりと承認された。
U2は,N1の指示で同月8日ころ,i1事業の担当者としてi1を借り上げる賃貸借契約書案を作成しており,その中には,市が予算措置をとれなかったときには契約を解除する旨の条項が入れられていたが,その条項を見たN1から,同月16日ころ,R2が作成した契約書の原案に基づき契約書を作成し直すよう指示された。
R2が作成した原案には,本来長期継続契約には必要であるはずの解除権の留保の規定が明示されておらず,敷金返還の条項もなく,さらには,乙,A1,B1の賃料の配分率が3分の1ずつである旨が記載されていた。
ケ 同年9月6日から同月27日までa1市議会の平成12年9月議会が開催され,i1事業に関しては,同年10月1日から平成13年3月31日までの6か月間の月額140万円の賃料と経費の合計2680万3000円が必要とする予算として提出され,産業企業委員会における審議を経た上で平成12年9月27日に議会で前記予算のとおり承認された。
被告人は,乙に,i1事業が議会で可決されたころ,その旨連絡した。
コ 同月29日,被告人は,市長として本件賃貸借契約を締結することについての決裁をしてこれを承認し,同日夜から翌30日未明にかけて,i1に乙,A1,B1,A2,N1らが集まり,契約書の内容を確認した上,本件賃貸借契約を締結した。
(6) 本件賃貸借契約の内容
主な契約内容は以下のとおりである。

契約当事者(柱書) (甲)B1及び乙
(乙)a1市
契約の対象(1条) i1建物,i1の造作物及び備品,什器等
契約期間(3条) 平成12年10月1日から平成32年3月31日までとする。
乙は,翌年度以降の賃貸借料の支払義務は,各年度の予算の範囲内とする。

展示協力(4条) 乙は,甲の承諾を得て甲の所有する美術品等を無償で使用,展示できるものとする。
賃料(5条) 月額140万円
ただし,甲はそれを配分し,B1はその3分の1の46万6666円とし,乙はその3分の2の93万3334円とする。
賃貸借料の改定があった場合も,この配分率は不変とする。

敷金(5条) 乙は,敷金として賃貸借料の5か月分に相当する額を支払う。
賃貸借建物の管理(8条) 来客等の故意又は過失に因って生じた賃貸借対象物,美術品等の損害については,乙がその賠償責任を負う。
維持経費の負担(9条) 修理費,光熱水費,清掃費,環境衛生管理費,設備及び機器等の修繕費,火災及び盗難等の保険料,警備又は管理費等の必要経費は乙の負担とする。
契約の解除(10条) 甲は,乙がこの契約に定める条項に違反したときには,この契約を解除することができる。
賃貸借建物の返還(11条) 乙は,この契約を解除したときは,直ちに当該建物等を原状に復して返還しなければならない。

(7) 本件賃貸借契約締結後の状況
ア 平成12年11月,市から整備工事設計業務委託を受けたl2事務所がi1の改装の設計を開始し,平成13年4月からは,市が1億4000万円の費用をかけて,エレベーターを設置するなどの改修工事が施された。
イ 同年3月にa1市包括外部監査人による包括外部監査が行われ,i1事業については,債務負担行為としての議決を経るべきものだったという結論が出た。
同年8月,a1市個別監査人による個別外部監査が行われ,契約当事者間で解除権の留保を了承しているという供述を無視して解除権の留保を否定することができないことから,本件賃貸借契約を債務負担行為と断定することはできず,長期継続契約に該当する旨の結論が出た。
ただし,「個別外部監査結果報告書に添えて提出する意見書」には,補助者の3名の弁護士が,本件賃貸借契約は債務負担行為に該当するとの意見であることが記載され,本件賃貸借契約書のようなあいまいな文言は後日のトラブルの原因となりやすいから見直し,明確な契約文書を作成すべきである旨記載されている。
ウ a1市は,平成14年1月22日付けで,i1建物を登録有形文化財として,和歌山県に登録申請しているが,その後,手続の進展はない。
エ 平成14年4月21日施行のa1市の条例に基づいて,i1は,市観光・文化センター「m2」(以下,「センター」という。)としてオープンし,その中には小さな喫茶店が入っていたものの,展示スペース等が大きくとられていて展示物が多く,建物が主として飲食店として使用されているとはいいがたい状況にあった。平成14年度のオープン期間にセンターに費やされた費用は5100万円余り(センター内事務所のa1市職員2名,再任用2名の人件費は除く)に上り,同センターの収入は,ホール使用料が170万6000円,和室使用料が44万7200円,会議室使用料が16万3500円であった(なお,ホール使用料としての収益には,a1市が予算措置を講じ,n2協会に予算を丸投げして実施したo2事業としての各種イベントが含まれている。)。平成14年度中,来館者は1日平均約74人であったが,使用料を払ってセンターを利用した人は10人程度であった(センターに来た人の多くは,市の予算を使って行われたイベントの各種展示会等の見学者であった。)。
オ 平成12年10月5日,d2ー1銀行r1支店乙名義の口座に,市から466万6667円(敷金700万円の3分の2の1円未満を切り上げた額に相当)が,i3銀行j3部B1名義の口座に,市から233万3333円(敷金700万円の3分の1の1円未満を切り捨てた額に相当)がそれぞれ振り込まれており,同月6日,乙の口座から358万384円が,B1の口座から179万190円がそれぞれ出金され,同日,これまで不払いとなっていた部分についての土地の賃料と延滞金合計537万574円全額が国に対して支払われている。
カ 平成15年2月28日,前記条例を廃止する条例が市議会で議決承認されたことから,市は乙側に対し,本件賃貸借契約を解除する旨文書で通知し,同年3月31日,i1は閉館した。同年6月12日,乙らが市による上記契約解除は承服できないとして,市に対して,賃料の支払いを求める民事訴訟を提起した。
平成12年10月5日から平成15年3月31日までの間に本件賃貸借契約の賃料及び敷金として市から乙及びB1に支払われた金額の合計は,4900万円である。
4  任務違背行為の存在
(1) 借り上げ自体の不当性
ア i1を借り上げることの問題性
i1は,前記の前提事実で認定したとおり,本件賃貸借契約締結当時(その準備や交渉段階も含む)の建築基準法にも適合しない,いわゆる既存不適格建築物であって,その用途変更には莫大な費用を要することから,経済的観点からみるとこれが事実上不可能ともいうべき状況にあったばかりか,i1の建物の一部は国有地上に無断で建てられていた上,i1建物を所有していた乙及びB1において,平成10年ころから契約通りの賃料が支払えなくなり,本件賃貸借契約締結の時点では530万円以上の地代を国に滞納していたことが認められるなど,a1市において,i1の借り上げが検討された時点においても,i1は見過ごすことのできない様々な大きな問題を抱えており,仮に,当時経済的に沈滞していたr1地域の活性化をa1市が政策的見地から図る必要があったとしても,このような問題の多い物件を事業内容やその効果あるいは他物件との利害得失等に関する十分な比較検討も行うことなしに敢えてa1市が借り上げる必要性があったとは考えられない。以下,この点について少し詳しく説明する。
イ 市役所職員の供述
i1の借り上げに関与したa1市職員においては,被告人が説明する(市民の)迎賓館や美術品の展示等という目的で積極的にa1市でi1を借り上げる必要性があったという者はほとんどみられず,a1市職員らは,いずれもi 1事業をトップダウンの事業としてとらえ,行政機関に属する者として上司等から求められた職務を行っていたに過ぎない。
(ア) 営繕室においては,室長であったN2,その部下O2及びP2は,被告人やA2からi1を美術館等として借り上げるようにとの指示を受けたが,i1は非常に古い建物で,度々建築基準が厳しくなる方向で改正されてきた建築基準法上不適合部分が数多くみられることから,多分に問題があり,i1の利用は困難であると判断し,その旨A2や被告人に伝えたと証言ないし供述している。もっとも,P2は,既存不適格建築物であるi1を用途変更なくして用いることができる方法を提言しているが,それは,協議を重ねる中で,被告人から「何とか使う方法はないか。」「何やったらいけるんか。」「どうしてもi1を市の施設として活用したい」と強く言われたからに過ぎず,決して被告人に積極的に賛意を表したものではない。
(イ) 観光振興室においては,N1が平成12年6月半ばにe2ビジョンの策定に関与したE2からi1事業について聞き,同年7月中旬ころ,A2からその担当部になると言われたと供述しているほか,N1の部下T2及びU2らも,A2からi1事業の担当をするように指示されたが,被告人の意向を受けた審議監室主導で話が進められており,乙側との交渉は全部こちらでやるので控えるようにと言われていた上,その時期はj1事業も忙しい状態であったから仕方なく引き受けたとし,政策調整会議に向けてi1事業の案件付議申請書を作成するなどし,同年8月8日の政策調整会議(1回目)に臨んだ際は,事業の内容はおろか,何のためにi1を借りるのか,その目的さえ決まっておらず,i1を借り上げる必要性や賃料の根拠等の説明が不十分であったため保留となったとそろって説明している。また,N1は,A2から,i1事業は,従前から観光振興室で検討しており,乙側との交渉も7月ころから観光振興室で行っていたと委員会等において事実とは異なる説明をするように言われたと供述しており,観光振興室において敢えてこのような事実を作り上げる必要もないことからするといずれも信用できる内容であり,観光振興室においても同様にi1事業に積極的でなかったことは明白である。
(ウ) 財政部においては,市財政部財政室長X2,同室主計員Y2が,i1をa1市で借り上げる必要性,緊急性が認められず,事業化による効果も見えないなどとしてi1事業自体についての疑問を指摘し,平成12年9月議会で補正予算にかける必要性,緊急性も全く認められないとして,室長査定及び部長査定を保留とした。
(エ) これら市職員は,いずれもその職務に誠実に取り組んできた者であって,その捜査段階の供述内容及び公判における証言内容は,いずれも具体的かつ合理的で,相互に一致ないし符合する内容である上,Q1,O2及びU2らがその都度記載していたノートや手帳のみならず乙の手帳等の記載にもよく符合するもので,いずれも信用性は高いといえる。
以上にみたとおり,i1には,建築基準法上の問題等があった上,i1事業の内容や目的,効果等が明確に定まっていなかったことなどから,関係部局の市職員のほとんどがi1の借り上げを積極的に推進するべきであるとは考えておらず,むしろこれを推進した場合の問題点をるる指摘し,そのことを被告人にも明確に告げていたにもかかわらず,これを一向に聞き入れようとはしない被告人やその意を受けてこれに忠実に従おうとしていたA2の指示によって問題点の克服を迫られる状況にあったとみることができる。
ウ 被告人の弁解
(ア) 被告人の弁解内容
私は,昭和46年4月にa1市議会議員に当選したころから,r1の活性化について考えており,昭和61年a1市長に当選してからも,p2を建設するなどしてa1市の活性化に取り組んできた。平成11年1月,a1市長に再任され,同年2月の定例市議会での所信表明に際し,r1をa1市のシンボルゾーンとして売り出していこうと考え,同年4月,機構改革により,テーマパーク推進室を作るなどしてr1の活性化等を指示した。同年9月ころ,k2にe2ビジョン策定を委託するため,委託費(1200万円)を予算として提案して議会承認を受けた。k2からの依頼を受けて,地元関係者からの意見聴取のため,q2振興ビジョン策定委員会を設置し,地元関係者からの意見を聴くなどしていた。
平成11年夏ころ,関西一円からの集客を狙い,o2事業に取り組み,平成12年2月議会で,約1億5000万円の予算を計上し,可決承認されている。
平成11年9月及び同年12月の各定例会議においては,q2を中心とするリゾート性や美しい自然環境等を生かし,和歌山を再生し,経済の活性化に役立てる考えであるなどとし,あるいは,r1に美術館等の文化施設を配置するなどして文化の華を咲かせる考えを有していることを明らかにしている。
私は,さらにZ2からr1地域の活用などについて意見を聴くなどしていたが,従前から,i1に会合等で行った際,その建物が建築物としてすばらしいものだと感銘を受けるとともに,i1には,川端龍子,伊藤深水,土田麦僊,渡瀬陵雲という著名な日本画家が長期滞在して創作活動をし,その作品や画家らからの礼状が残されているということについても聞いていた。
そのような経緯の中で,a1市長の政策として,r1活性化のため,施策を模索していたところ,平成12年5月10日,k2の中間報告があった。そこにある①r1の自然,歴史的環境の魅力,イメージの承継と新たな魅力づくり,②近郊地域を含めた市民のための生活,小リゾート地としての魅力づくり,新しい和歌山の発展の可能性を見出すまちづくりといった基本的な考え方を受けて,文化的な建物であり,文化品等が多数存しているi1を利用することを考えた。
そこで,平成14年4月から始まる花いっぱい大会に間に合わせるため,e2ビジョンの最終結果が出る前であったものの,i1事業を早急に進めた。
(イ) 被告人の弁解内容の信用性
上記の被告人の弁解内容は,当公判廷において弁護側証人として証言したZ2の証言内容に概ね沿うものであるが,その証言内容は,r1地域の振興のためには,イベント興行をするよりも,r1に存する寺院等を見て歩く散策コースを考える方がよいとして,i1の前にs2の駐車場があることから,i1付近を散策コースの最後の休憩場所に最適だとの考えを持っていたところ,平成11年10月10日,被告人らとi1でr1活性化について議論し,同年12月末ころにも勤労者福祉センター会議室でr1振興について被告人らと議論した際などにその内容を話していたなどというものである。しかしながら,Z2の証言するi1に関する議論状況は,捜査段階においては,被告人はもとより他の職員も何ら供述していない内容であり,公判段階に至ってから初めてその存在が語られるようになった点で,証言の経緯は不自然といわざるを得ない上,Z2は,市職員を退職した後,市長に再任された被告人から引き上げられて約3年半近くにわたり地方公務員法に基づく特別秘書として被告人の身近で働いていた者であって,被告人とかなり親しい関係にあるとみられる上,前記の事情から被告人に多大な恩義を感じていたとしても全く不自然ではなく,被告人の罪を免れさせるため被告人の公判弁解に沿うようことさら被告人に有利な証言をした可能性が高い。
そして,e2ビジョンの策定に関与したM2,E2及びA3の各供述によれば,k2の最終結果報告は平成12年9月に作成されており,最終のe2ビジョン策定委員会が開催されたのも同年7月21日であり,被告人から市職員等に対して,i1事業を持ちかけた同年5月末ころには,いまだk2の中間報告しかできあがっていなかった上,その最終結果がでる前にi1の賃料交渉のみならず契約内容を事実上確定していることからすると,i1事業と同ビジョンの関連性は低いとみざるを得ない。そして,M2及びE2の各供述中では,「r1地域振興の重要課題は廃屋,廃旅館の再利用にあり,そのための調査や議論が優先されてきたこと,経営している店を閉めさせてまで市の施設を建設する考えはなかったことから,i1のことは中間報告の市長プレゼン(テーション)までは,一度も調査や策定委員会の議論の対象にはなっていなかったこと,k2の中間報告があった同年5月10日,被告人がi1やj1を活かさないといけないなどと言い,i1をe2ビジョンに組み入れて検討するように指示したことを受け,E2及びM2がi1まで足を運んだこと,同年6月12日のe2ビジョン関係の作業部会で,E2において,「市長がi1をゲストハウスとして整備したいと考えているようなので,ビジョンの中に入れさせてもらいます。」と説明したのがe2ビジョン関係の会議でi1が取り上げられた最初であることなどが述べられており,これらは総じて具体的かつ詳細な内容を有していて,M2及びE2のいずれにおいてもことさら事実関係を歪曲させて供述する特段の利益や必要性も窺われないことからすると,上記の供述の信用性は高いというべきである。そうすると,上記のM2,E2の供述内容に反する被告人の説明供述部分は信用することができない。
また,被告人の供述は,r1の活性化といった一般的な事項についてはそれなりに詳細ではあるものの,ことi1事業の必要性や緊急性,具体的事業効果といった段となると,いたずらにi1の建物や場所,その文化的価値を自己の主観面に大きく依拠して賞賛するのみで説得力に乏しい抽象的な説明に終始しており,とりわけr1に点在する廃旅館等の問題が長らく放置されていたのに,その有効活用を真剣に検討した形跡もなく,かつ部下からi1事業の問題点を具体的に指摘されていたのにこれに全く耳を貸そうとはせず,短兵急にi1事業を押し進めようとした事実との整合性も保てないなど相当に不自然かつ不合理な内容というべきで,その供述の信用性は低いといわざるを得ない。
さらに,被告人がi1事業を平成14年4月から始まる花いっぱい大会にまでに間に合わせたかったなどと供述している点については,確かに,間に合わせることで一時的にはi1が他の期間よりも活用される可能性は考えられるものの,i1事業は約20年という長期の賃借期間に巨額の費用を投じることが予定されていた上,N1の証言によれば,花いっぱい大会はわずか一週間程度のイベントに過ぎず,観光振興室では1回目の政策調整会議前に両者をリンクさせる案は持っていなかったとのことであり,E2の供述によれば,平成12年7月か8月ころに観光振興室のN1室長か審議監室のA2首席から,花いっぱい大会までにj1やi1をオープンさせることができれば,花いっぱい大会の期間中にお客さんを呼んで見てもらうことができるので,可能ならば,それまでにオープンさせたいなどという話があったが,両者はあくまでも別個の事業として並行的に進められていたと説明されている上,同年7月中旬から下旬にかけて,既にi1を借り上げる契約内容の重要部分についてa1市が乙らから内諾を得ている状態(ただし,当時賃料の合意額は月額150万円)であったことから,両者にみるべき関連性は乏しいというべきで,花いっぱい大会の日程がi1事業推進の正当性を何ら裏付けるものとみることはできない。
エ 弁護人らの主張
さらに,弁護人らは,市の重要な政策決定は,政策調整会議,予算査定,市議会等において,それぞれの承認や議決に基づいて決せられるものであり,市職員の意見を聴取して決めるものではなく,i1事業については,上記の各段階で十分に審査,議論された上で決定,実施されている上,N2,O2及びP2がi1の借り上げについて,建築基準法上の問題点を指摘してはいるものの,借り上げそのものについて反対してはいないなどと主張する。
しかし,政策調整会議,市議会等における承認ないし議決手続の存在が直ちに被告人の背任罪の成立を妨げるものではないし,これらの承認等に際して,実情にそぐわない説明がなされるなどの事情が認められる場合には,むしろそのことが背任罪の成否に関する情況証拠となるというべきである。
この点について,N1は,以下のとおり証言する。
N1は,i1事業については,A2を中心に審議監室で担当部署等との打ち合わせをしたが,いわゆるトップダウンの事業で,政策調整会議(1回目)に諮る段階においても,事業計画,効果等についても具体的なものはなかったところ,政策調整会議(1回目)においては,期待していたA2や被告人からのフォローはなく,自分がその立場上,理解している範囲で事業内容の説明をしたものの,V2などから厳しい質問を受けて頭の中がパニックになり,うまく回答できず,結局,保留となった。後に,A2や被告人から,「もっとしっかりしてもらわな困る」といわれた。2回目の政策調整会議に向けて,被告人からは,はっぱをかけられたり,i1の利用方法について,喫茶コーナーを設けたり,有吉佐和子の記念品コーナーを設けたりなどの提案があった。i1の賃料は,相手方との交渉で決まっているとA2から聞かされていたが,その根拠については聞かされておらず,その妥当性を議会等で問われたとき,何らかの説明ができなければならないとの考えはあった。A2から,不動産鑑定士の意見が使えるか調べてみるようにとの話があり,W2鑑定士に正式な鑑定ではないものの,概要を聞いてみると,40万円を下回る数字の返答があったため,これでは使えないという話になった。さらに,宮大工に相談しようと宮大工を探したが,結局,手近に宮大工が見つからなかったので,a1市で借りている他の物件との比較をしてみた。被告人は議会説明のために他の物件との比較をする方法については,仕方がないと感じているようなイメージであった。私としても,i1とa1市が借りている他の物件とは,所在地域や建物の構造,利用目的等が違いすぎると感じていたが,他に賃料の正当性を根拠付ける方法がなかった。最終的には,賃料が相手方との交渉で決まっているから仕方がないということで落ち着いた。
上記N1供述部分は,具体的かつ明確であって迫真性のある内容で,捜査段階における供述と概ね一致していて一貫性が認められる上,ことさら虚偽の事実を作出してまで被告人を重罪に陥れる利益や必要性等が窺われないため,基本的に信用性が高いといえるところ,N1が証言しているとおり,同人らは,必ずしも市内部の会議ないし議会等における審査,議論に必要な客観的で正確な情報を提供していたわけではなく,i1事業を進めるにあたってA2や被告人の指示あるいは意向に沿って,同人らに好都合な情報を意図的に選択して提供し,これに沿わない不都合な事情は部外者には秘匿したまま手続が進められていたとみられることに加え,N1のみならず公判で証言した市職員の多くがi1事業はトップダウンの事業であったと明確に証言しているのみならず,この2回目の政策調整会議は,市長査定の事業承認後に行われるといった例外的かつ変則的な順序をたどっており,出席者は意見は意見として言うが,市長査定を通った意味を認識しており被告人の事業に対する意欲を感じてこれに反対しづらい状況が生じていたとV2が証言していることからしても,すでに慎重な審査,検討や自由闊達な討議を行いがたい状況にあったことが窺われるなど,一連のi1事業の審査,検討にあたっては,これが十分になされたとは到底認めがたい。
したがって,弁護人らの主張は採用することができない。
オ i1の借り上げ後の利用状況
市観光文化センターとしてのi1の利用状況は,前記の前提事実記載のとおりであるところ,そこからも明らかなとおり,その利用目的と市の財政負担状況に照らすと,芳しい成果を上げていないばかりか,市の財政支出の継続的な増加を招く結果となっている。このような結果は,決して予想外の出来事とみるべきではなく,i1事業の目的が曖昧で事業内容が詰められていなかったことに根本的原因があったとみるべきである。そして,当初からr1における大きな問題点として従前より指摘されていた廃屋,廃旅館等の問題は依然として取り残されたままとなっていることからすると,そもそも飲食店(料亭)として営業中で法的にも多数の問題を抱えていた建物を早急に市が借り上げて行うi1事業の必要性自体がなかったというべきである。
カ 小括
そうすると,i1をa1市において借り上げることは,それに伴う大きな問題が存在し,放置された廃旅館等の処理などの先に対処すべき問題がある上,a1市の職員においてもi1事業を熱心に進める職員が乏しいなど,その遂行の必要性が低い事業であり,実際にもみるべき成果を収めていない事業であったといわざるを得ず,これらにかんがみると,被告人が述べるような事業の必要性は認めることができないというべきである。
(2) 月額140万円の賃料が不当に高額であること
ア 不動産鑑定士の評価
(ア) 総論
本件においては,本件賃貸借契約が締結された平成12年9月29日の時点におけるi1の月額支払賃料の相当額を36万5000円とした不動産鑑定士B3の不動産鑑定評価書(以下,「B3鑑定」という。)と,その相当額を141万円とした不動産鑑定士C3の不動産鑑定評価書(以下,「C3鑑定」という。)が存する。
a B3鑑定士は,昭和54年11月ころから不動産鑑定士として不動産鑑定業を開業し,平成3年から平成5年にかけて,社団法人a3協会和歌山部会の部会長を務めており,現在(証言時,平成16年2月4日),民事調停委員,競売の評価人,和歌山県の関係では収用員の予備委員,国土庁の地価公示評価委員の各職務に従事している。
建物の賃料の鑑定は,最近では件数が少なくなり,年2,3件程度している。
B3鑑定人は,対象不動産(i1の土地,建物の権利者)とは何らの利害関係になく,i1自体を平成15年6月30日に直接確認しに行っており,B3鑑定は,自分自身でi1の建物の適正賃料について鑑定した内容が正確に記載されている。
b 他方,C3鑑定士は,t2大学土木工学科出身で,同大学院で都市計画を学び,同大学院卒業後は,しばらく民間会社で都市再開発業務等に従事した後,実父が経営していた補償コンサルタント会社(u2株式会社)に入社し,平成9年に代表取締役に就任して現在に至っているところ,不動産鑑定士のほか,測量士,一級建築士,補償業務管理士の各資格を有しており,v2協会理事(平成16年4月より),w2地方裁判所の登録鑑定人等の職務に従事し,多くの鑑定業務に携わり,不動産の適正賃料の鑑定についても年に1,2件手がけている。
(イ) 各論その1〔地域分析〕
a B3鑑定は,対象不動産が属する地域の客観的な特性(所在地,法的規制の有無や状況)として,a1市は,市中心部の比較的利便性の高い住宅地域では不動産取引等もやや回復しているものの,対象不動産が属する地域の近隣地域は,a1市の南西部にあって,古くから景観の優れた近畿でも有数の観光旅館街として栄えてきた地域であったが,近年は宿泊客数の減少は著しく,地域は衰退の一途を辿り,数多くの旅館が休業,廃業に追い込まれている状況にあるとし,近隣地域の大部分はx2の山麓に位置する南向き傾斜地で,宅地造成規制区域に指定されていること,その一方,近隣地域は南方にq2,q1海水浴場,p2等が,東方にはy2やz2が一望できる景勝地でもあることから都市計画法上第一種風致地区に指定され,建築規制がなされていることを指摘した上で,隣接及び周辺地域には,歴史的文化財や建造物,文化施設が数多くあり,近隣地域は市中心部及び駅への接近性には劣るものの,地域一帯は観光地のみならず潜在的には保養地や住宅地としても良好な環境を有する地域とする。
そして,これらの事情を踏まえ,将来の動向につき,”燦”黒潮リゾート構想において重点整備地区に指定されているものの,リゾートの中心がq2r2沖に立脚しているp2に移行しつつあり,今後とも当該地域の観光地としての相対的地位は低下していくものと思料するとしている。
b C3鑑定によると,対象不動産が属する地域の客観的な特性については上記B3鑑定と共通の把握がなされているものの,「同一需給圏及び市場の特性」及び「将来の動向」についてみると差異が存する。
平成11年以降のr1における観光客の推移を見ると,宿泊者数は減少しているものの,入込数(宿泊込)は増加している。また,平成11年から平成14年までの4年間で日帰客数は約22パーセント増加しているとし,将来の動向については,景気回復の遅れから,保養地や住宅地としての発展は未だ期待することはできず,宿泊客数は減少するものの,日帰り客数や入込数の増加が見込まれることにより,当該地域の観光地としての相対的地位は徐々に向上していくものと思われるとされている。
c しかしながら,C3鑑定は,その中においても引用されている「r1観光客数の推移」(a1市観光課資料より)等の表の数字を基にしていると思料されるところ,当該数字はテーマパークであるp2の入込数を含んだ数字であって,b3にあるc3やd3にあるq1などの入場者数が年々減少傾向にあることからすると,対象不動産(i1)が属する地域の集客力を正確に反映しているものとはいいがたい(その意味で,B3鑑定には合理性が認められる。)。
C3鑑定士は,当公判廷において「(a1)市に行って,このデータ(「r1観光客数の推移」等の表)をいただいただけで,p2が実際に含まれているかどうかというのはちょっと分かっておりません。(統計資料がどうして増えているのかという調査は)詳しくはしておりません。」などと証言するとおり,収集したデータの内容を十分に検討,調査することなく鑑定の基礎に用いていることに加え,C3鑑定士は,大阪市内で開業しており,鑑定作業を経た後においてもb3に存する観光地c3を知らないと証言するなどr1の実情に疎いといわざるを得ず,その鑑定結果の信用性にも疑問を生ずる余地があるというべきである。
(ウ) 各論その2〔最有効使用〕
a B3鑑定は,対象不動産の個別条件を検討するに当たり,〔同一需給圏における対象不動産の競争力の程度〕として,風光明媚な海岸沿いに位置するものの景気の長期低迷状態等による影響が強く,周囲には廃館したままの旅館も数多く見られ,地域は衰退傾向にあるため,市場競争力は弱いとの前提に立ち,〔最有効使用〕を飲食店舗の敷地と判定している。
b C3鑑定によると,〔最有効使用〕は,多目的スペースを有する料亭としての敷地(多目的スペースを有する料亭とは,宴会・会議・イベント・お茶会といったコンベンションスペース並びにこれらに付帯するサービスを有する料亭という意味。)とされる。
(エ) 各論その3〔土地の再調達原価〕
不動産の基礎価値は,再調達原価(価格時点において,再調達することを想定した場合において必要とされる適正な原価の総額)に減価修正を行い,減価額を控除して求められる。
a B3鑑定は,土地の再調達原価につき,取引事例比較法を適用して隣接,周辺及び同一需給圏内の類似地域に存する取引事例につき規範性のある事例を選択し,必要な事情補正・時点修正を施した後,価格形成の要因の比較を行って比準地価を求め,さらに公示価格に規準して対象地の更地価格を求め,対象地の更地価格を4800万円(23400円/m2)と評価し,これを土地の再調達価格としている。
b C3鑑定もB3鑑定と基本的に同一の手法により対象地の更地価格を算出するも,「当該施設は,自然の地形を生かし,自然をうまく取り込んだ設計で」あるとし,土地に含まれる造成コストは,複雑な地形の上に,岩盤の上に建つといった特殊な条件の下に建設されているため,「最も歩掛率の高い部類(20~30%アップ)に属するものと考えられる。」とし,土地の再調達価格を6000万円と評価している。
c C3鑑定においては,C3鑑定士自身当公判廷において証言するように,「本件土地は,造成費用のかかる土地であるから,l2事務所作成の報告書記載の造成工事費3700万円を加味して土地の再調達原価を算出」している。しかしながら,C3鑑定のように造成費用を考慮して算出する場合は,土地自体を造成がなされる前の状態(山地)として把握し,他の山地等と比較して価格が算出されるべきところ,C3鑑定は,その別紙(2)に記載のとおり取引事例として比較した土地は全て宅地であることから,造成費用を考慮した価格にさらに造成費用を考慮する内容となっており,造成費が二重に考慮されてしまい不当に高額となる。
以上に対し,B3鑑定にはそのような二重評価等はみられず,不合理な点は認められない。
(オ) 各論その4〔土地の減価修正〕
a B3鑑定は,対象地上には鉄筋コンクリート造並びに木造の旅館,居宅,茶室等数棟の建物があるところ,いずれも築後約40年以上を経過し,設計,設備の面で陳腐化・老朽化が見られる上,対象建物の内の一部(北別館)には,敷地占有権原に争いがあることから,減価率を更地価格の15パーセントとし,減価額を720万円と考え,最終的な土地の基礎価値を4080万円としている。
b これに対し,C3鑑定は,敷地の占有権原は本件賃貸借契約締結時である平成12年9月29日時点では争いがないとして,土地の減価修正を行わず,土地の基礎価値を再調達原価と同じ6000万円としている。
c しかしながら,C3鑑定が前提とする「敷地の占有権原は本件賃貸借契約当時…争いがない」との部分については,本件対象不動産(i1の建物)が敷地とする国有地について,一部乙らに占有権原がなく,不法占有状態となっていた部分につき,対象不動産(i1の建物)を借り受けようとするa1市において国から賃借することで,土地所有者(国)からの当該土地の利用権についての争いを事実上防止したものにすぎない。そして,不動産鑑定において,一般の市場で形成される価格を求める場合に,当事者を特定した上で鑑定すること自体,不合理な内容を有している上,C3鑑定においても,対象不動産の敷地の一部について,a1市が国から一定の土地の賃借権を設定してもらい,その賃料等を負担する一方で,その負担については考慮されないまま鑑定結果としての対象不動産の適正賃料が算出されることとなり,C3鑑定による限り,a1市に二重の負担を強いることとなり,合理性を欠く。
もっとも,C3鑑定士が指摘するように,対象不動産において敷地占有権原が問題となっているのは北別館のみであるところ,北別館建物の床面積の対象不動産(i1)全体に占める割合は僅かに3パーセント程度であるから全体から15パーセントの減価をすることはその限りにおいては乖離の程度が著しいとも言い得る。しかし,対象不動産は,その一体利用が前提とされており(だからこそa1市も全体を借り上げている。),不法占拠部の割合がそのまま減価の割合につながるとは言えない上,B3鑑定は,前記の15パーセントの減価の根拠として,不法占拠部分の存在のみならず,本件対象不動産は築後40年以上が経過しているなど建物が非常に古く,将来必ず取り壊し費用が生じることを考慮して,減価修正しているものであって,15パーセントの減価も根拠を欠くものではない。
また,弁護人らは,対象不動産は,その築年数の古さ故に,建坪率も高さも現在の規制に基づいていない建物である上,その建物の随所に入手困難な高級木材が用いられ,当時は,現に高級料亭として利用されており,維持管理ないし補修の状況,メンテナンスの状況も非常によいのであるからから,土地にとっては,より有効に活用されているといえ,建て付け増価が生じることはあっても建て付け減価は生じないはずであると主張する。しかし,本件賃貸借契約締結時の建築基準法にも適合しないいわゆる既存不適格建築物で,築後40年以上が経過している本件対象不動産においては,将来建物の取り壊し費用が発生することは明らかであるため,それを踏まえた金額が土地の価格になるべきであり,市場性に基づいて合理的に土地の価格を算出すれば,減価修正せざるを得ない。
したがって,B3鑑定における土地の減価修正は合理的といえる。
(カ) 各論その5〔本件建物の基礎価値〕
a B3鑑定は,建物の基礎価格についても,再調達原価から減価額を控除する方法で算出しているが,保守条件を普通として把握した上,本件対象不動産のうち,木造建物部分及び鉄筋コンクリート建物部分のいずれにおいても経済的耐用年数をすでに経過しており,各建物の減価率を95ないし98パーセントとして,建物基礎価格を1561万円としている。
b これに対し,C3鑑定は,B3鑑定と同様の算出方法を採用するも,防水関係に配慮することで経済的耐用年数を木造建物につき60年,鉄筋コンクリート建物につき80年とみて,未だ経済的耐用年数の経過がないとして減価率を90パーセントとし,建物基礎価格を5382万4000円としている。
c しかしながら,対象不動産(i1)の現状を見るに,防水関係に配慮が必要であるなどとC3鑑定士も証言しているとおり,対象不動産の老朽化は否めず,実際に木造建物の縁側などが下がっていてジャッキアップなどをしなければ危険な状態にあったこと(O2証言)などの事情からすると,本件対象不動産の維持,修繕費等を考慮するともはや経済的耐用年数を超過しているとみる方が自然というべきで,現実の使用に耐えうる期間が何年になるかはともかくとしても,経済的耐用年数をC3鑑定士が60年ないし80年として未だ経済的耐用年数の経過を認めないことについては合理性を見出しがたい。したがって,この点においてはB3鑑定は合理的というべきである。
(キ) 各論その6〔期待利回り〕
a B3鑑定は,土地建物の期待利回りの数値について,比隣の賃料粗利回り,投資利回り,還元利回り等を総合勘案し,当該地域における標準的と認められる期待利回りを土地については4.5パーセント,建物については8パーセントと認定している。そして,その根拠として,和歌山で一般的に使われている利回りの数字,土地については4.5パーセント,建物については7ないし8パーセントを用いたとしている。
b これに対し,C3鑑定は,土地建物の利回りを一体のものと把握し,期待利回りを12パーセントと設定しているところ,その数字の根拠として,C3鑑定士は,「第1回収益用不動産の利回り実態調査(平成14年)」(以下,「調査報告書」という。)をあげ,その上で,「一般に投資における期待利回りは,住宅・事務所・店舗等の用途によってリスクが異なるため,それぞれの用途における相対的なリスクを適切に反映しなければならない。」「多目的スペースを有する料亭の経営は,内容的には料亭であり,当該施設の敷地規模や建物延床面積では旅館業に近いことから,他の用途に比べ相対的に厳しい(中略)ため,期待利回りを他の一般的な投資物件(住宅・事務所等)と同一水準とすることはできない。」「当該物件については投資リスクが相当程度高いものと判断されるため,投資家の立場から期待利回りを考えた場合,15パーセント以上の利回りが期待できなければ危険であると思われるが,本件鑑定評価は賃料の評価であるため,これを保守的に抑え12パーセントと認定した。」とし,当公判廷においても同様に,「築年数,経過年数の長いものほどリスクが増えるということで利回りが高くなる。それから建物の規模が大きいほどリスクが高くなるから利回りが高くなる。」などと証言している。
さらに,弁護人らは,上記C3鑑定を根拠付けるため,不動産鑑定の基本書には,「期待利回りを求める方法については,収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずるものとする。」との記載がなされていることを挙げ,還元利回りの数字と期待利回りの数字を同一とするC3鑑定が合理的であると主張する。
c まず,利回りについて,土地,建物を一体のものとして把握するか否かは,鑑定の手法に関する事項であるからそれ自体はいずれの方法でよく,これ自体をもって直ちに賛否を決し得ないので,この点以外について両鑑定の合理性を検討する。
C3鑑定士が利回りの根拠とする調査報告書は,同報告書自体に資料に偏りがあるので実態を示すものではない旨の注意書があり(同報告書,9ページ),実際にも同報告書94ページの統計は約80件ほどの資料に基づくものであり,資料としての正確性や根拠については疑問を抱かざるを得ないし,その期待利回りを12パーセントと設定している点については,その数字が一般的な投資利回り(総収益利回りであって,必要経費や減価償却費を引いていないもの)の最大値であることからすると,C3鑑定において,最終的に必要経費や減価償却を加えていることから,これらを二重に考慮する結果となる上記数字に合理性はないというべきである。
そして,不動産の価格を算定するにあたって収益還元法を用いる場合,純収益を還元利回りで割って算出することから,還元利回りが高くなれば不動産の価格が低くなる関係にある。すなわち,収益還元法の場合は,リスクの高い物件(儲かる見込みの薄い物件)は利回りが高くなり,不動産価格が安くなるという関係にあるはずであり,これが市場における常識にも適うというべきであるが,上記C3鑑定はこれに矛盾する(実際,i1事業の様な賃貸借事例においては,投資する側とは借主を指すのは明白であり,物件の収益性が低ければ低いだけ借主が多額の賃料を払うというのであれば,まさに「ハイリスクローリターン」ということになるのであって,C3鑑定士の説明では投資者を貸主として捉えた説明として,全く逆の結論に至る。)。
また,弁護人が主張する「期待利回りを求める方法については,収益還元法における還元利回りを求める方法に準ずる」点については,あくまで「準ずる」というだけであって,一致するというものではない上に,上記のとおり矛盾を抱えたままの状態で採用することはできない。
他方,B3鑑定においては,前述のとおり,和歌山の実情に根ざした鑑定がなされているものとして,合理性が高い上に,土地建物を一体として計算すれば,5.47パーセント(償却後純賃料利回り)となる旨証言し,社団法人a3協会資料委員会作成の一般統計資料第16号28ページの2000年オフィス市場における償却前純賃料利回り(「その他」の欄で5.7パーセント,全国平均5.5パーセント)として記載の数字ともほぼ合致する。
そうすると,B3鑑定の合理性は高く,C3鑑定の合理性は低いと見ざるを得ない。
(ク) 各論その7〔月額支払い賃料〕
a B3鑑定は,積算法(対象不動産の賃料の基礎になる基礎価格を求め,それに期待利回りを乗じて,不動産の賃貸借を継続するために必要な必要費用を加算した額をもって適正賃料とする方法)により算出した積算賃料39万4000円/月と平成11年のi1の収支データを修正して使用した収益分析法(企業収益の総収益を分析して収益純賃料を求め,それに必要経費を加える方法)により得られた収益賃料32万7000円/月を前提に,事業の安定性等を踏まえ,本件においてより精度が高く説得力のある積算賃料を重視し,収益賃料を参酌の上,実質賃料39万4000円/月とし,さらに敷金700万円の運用益を差し引いて,最終的にi1の月額支払適正賃料を36万5000円としている。
b これに対し,C3鑑定は,積算賃料を実質賃料として143万円とし,さらに敷金700万円の運用益を差し引いて最終的にi1の月額支払賃料を141万円としている。ここにおいてはi1は赤字経営であったことから収益分析法は用いられてない。
c いずれの鑑定士においてもi1建物の特異性から類似の取引事例が存しないとして賃貸事例比較法(類似する賃貸事例を収集して,その事例を事情補正等を行うなどして賃料を比較する方法)は用いられていないものの,B3鑑定は積算法に収益分析法を組み合わせて検討しているのに対し,C3鑑定は収益分析法を用いていない。また,いずれの鑑定においても,i1は最有効利用を飲食店舗の敷地ないし多目的スペースを有する料亭としての敷地として把握されているところ,従前のi1の営業自体がほぼ最有効使用に則った営業形態であるとみられることから,単に赤字であるからとの理由だけで全く収益分析法を用いないのは疑問の余地がある。
C3鑑定によると,月額141万円の賃料を支払っても,なお賃借人は黒字を出すことが可能ということになるが,月額141万円の儲けが出るようであれば,そのリスク評価も高くないはずである上,前述のとおりA1は経営改善及び経営努力を重ねつつも店主借りをしなければi1を運営できなかったと証言していることに加え,a1市が行ったi1事業において,民間会社が市から転貸を受けて営業した喫茶店(ただし,その賃貸借面積は約35平方メートル)においては,月額賃料がわずか約2万6000円であったにもかかわらず,赤字が続いて採算性が合わず,7か月余りで撤退を余儀なくされていることからすると,現実性が全くなく,机上の空論であって,信用性は低いといわざるを得ない。
また,r1地域にある他の廃旅館の所有者は,r1地域の旅館等を買い取ってくれる者も借りてくれる者もいない状態であり,市から頼まれれば140万円よりもはるかに安く貸している旨供述しているところ,もとより各建物の広さ,古さ,特性,場所等の違いはあったとしても,当時の地域の実情を示す地元の生の声としてこれらが十分傾聴に値することに照らしても,C3鑑定結果は,現実とかけ離れており,その信用性は低いといわざるを得ない。
(ケ) 各論その8〔文化財的価値等の考慮の可否〕
a 弁護人らにおいては,i1は,文化的にも歴史的にも由緒があることから,その価値や美術品の価値をも賃料に反映させるべきであって,これを反映しないB3鑑定は不当であるし,市議会等においても本件賃貸借契約における賃料の額が高額であるとして問題視する意見はなかったのであるから月額賃料36万5000円の評価額は市民感覚に反する旨主張する。
b しかしながら,B3鑑定においては,積算法に加え,収益分析法をも併せて採用し,収益賃料も加味して上記の評価額を算出しているところ,この方法によるときは建物の文化財的価値や美術品等の価値はすでに賃料に反映されているといえるから,これを別途に考慮して評価するならば二重評価となって不当であるし,そもそもi1の売上げは平成9年度から赤字であり,建物の文化財的価値や美術品等の価値を前提としても収益性の点ではさほどの意味を持つものとみることはできないというべきである(なお,C3鑑定においてもi1の文化財的価値は大きな考慮要素とはされていないし,同鑑定にあっては,i1建物は経済的耐用年数が未だ経過していないと評価されているところ,そのような建物が文化財的価値等を取得するといった事例はそうそう存在しないといえよう。)。また,市議会等においても賃料が高いとの指摘がなかったとする点についても,前述のとおり,B3鑑定及びC3鑑定の双方が適正賃料の算出にあたって賃貸事例比較法を用いていないことから明らかなとおり,そもそも本件賃貸借契約と類似する賃貸借契約は非常に稀であるから,各議員等においても,市当局側等からの適切な情報提供や説明等がなされなければ本件賃貸借契約や賃料額の妥当性について適切な審議を経ることが難しく,現に,適正賃料の算出にあたっては,i1の経営状況についても考慮する必要があるところ(収益還元法を加味しているB3鑑定はもちろんであるが,C3鑑定も収益還元法を用いていない理由としてi1の赤字経営をあげている。),後記のとおり,市議会等においては,種々の工作ないし情報操作がなされており,上記のような本件賃貸借契約の適正賃料を算出するにあたって必要とされる事情の説明や情報の提供が市当局側からなされておらず,問題点を的確に把握した上での審議がなされていないのであるから,市議会等において賃料の高額さを問題視する意見がなかったとして,それをもって本件賃貸借契約における金額が市民感覚に根ざしているなどということは到底できない。
また,市財政部管財室長D3は,i1の賃料評価額が36,7万円くらいになった旨A2からの報告を受けた被告人から,文化財的な価値を考慮した上で賃料を算出してもらうため再度不動産鑑定士に相談するよう依頼され,W2鑑定士の事務所へ自ら訪れ,i1であることを告げた上で,先日の相談から出ていた36万円程度という数字に対し,「文化財ではないのですが,由緒ある旅館でもあり,もう少し価値は見込めないのですか。」と相談した上,E3の不動産鑑定事務所へも訪れ,i1の参考賃料を算出してくれるよう相談したが,いずれにおいても,文化財的な価格は加味できないとのことであったが,W2鑑定士から44,5万円くらいなら範囲内かなという参考評価の回答をもらったなどと供述しているところ,その供述内容に照らしてもi1の文化財的価値等が賃料にほとんど影響しないことは明らかである。
もとより,a1市においては,前記のとおり,平成14年1月22日付けでi1について登録文化財の申請をしているものの,その申請は,被告人と乙の愛人問題が発覚した後になされていることに加え,これは市の政策調整官F3が,当時の文化財室長G3に指示しているもので,当時の文化財班学芸員が異例のこととして捉えて上層部からの政策的指示と感じたと述べていることなどからすると,a1市による前記申請は,本件賃貸借契約における賃料の算定にあたって格別の意味を持たないというべきであるし,むしろ,市議会等における批判をかわすための隠蔽策とも考えることができるというべきである。
したがって,本件賃貸借契約における適正賃料額を決するにあたり,i1の文化的価値はその額を決する理由とはならない。
c また,美術品無償貸与の点については,乙自身が,美術品を市に無償貸与するせいで本件賃貸借契約の賃料が高くなったものではないことを明確に認めている上,前記賃料額の決定過程において,貸与される美術品の賃料相当額がいくらであるのか,これを建物の賃料に反映させるかなどについて検討されたり,当事者間で話し合いがなされた形跡が全くみられないことに照らすと,この点に関する弁護人らの主張も採用することはできない。
(コ) 小括
以上から明らかなとおり,B3鑑定は,鑑定評価の前提とする事実関係の把握が正確で,これを基にした評価手法も一般的かつ合理的であるばかりか,理論的に整理された過程を経て考察が加えられ適切に賃料の評価がなされているといえるから,その信用性は高い。
他方,C3鑑定は,前提事実の把握が不正確であるのみならず,随所に要素の二重考慮や過大評価が窺われるほか,利回りの算出方法の誤りも認められ,合理的内容とはいえないことから信用性が認められないし,弁護人らが主張するようなi1の文化財的価値等を別個に加味することもできないことから,賃料額の点に関する弁護人らの主張は採用することはできない。
そうすると,本件賃貸借契約における適正賃料はB3鑑定における36万5000円をもって正当とみるべきである。
イ 賃料の決定方法の不当性
本件賃貸借契約の賃料が決まった経緯は,以下のとおりである。
乙は,A2とi1の賃料について話をするに際して,A2に対し,「地代や固定資産税を除いて,私たち3人分の給料は頂きたいと考えています。」「給料は手取りで25万円です。」などと伝え,100万円くらいの賃料が欲しいと言っていたところ,6月から8月までの間にいきなりA2から150万円と言われ,後日140万円に変更になったものの,ありがたい話と思っていたなどと供述しているところ,B1も「(母A1が)私たちに一人当たり30万円くらいもらえたらいいなと言っていた記憶があります。」「(私も)地代を引いて一人30万円あればいいなと思っていました。」「7月半ばころ,A2から月150万円の賃料を提示されて,(当初,三人で話していたよりも)多い目でしたので,それならありがたい話だと思い,A2さんに月150万円でよいと返事しました。」などとほぼ符合する供述をしていることからその信用性は高く,そのような経過があったと認められる。
そして,N1が,「A2は,賃料は,相手方との交渉で決まったもので,一人50万円で月150万円ということになっていると言っていた。」と捜査段階において供述しているように,当初は,賃料が150万円と定まり,その後(7月末から8月上旬ころ),国との間で地代を減額することにつき合意ができたことで,その分を減額して月額140万円と決まったことが認められる。なお,本件背任事件の捜査が開始された時点においては,乙側との交渉の中心となったA2が既に死亡していたことなどから,賃料の実質的な決定過程が十分に解明されていないきらいはあるものの,その交渉が難航した形跡は関係証拠上全く見出せないし,また,被告人を含めた市関係者も,150万円あるいは140万円と決められた根拠につき,乙側の希望という以上の具体的な根拠を明らかにしている者はみられないことも上記認定を間接的に裏付けているといえる。
本来,市等の地方公共団体において不動産を借り上げる際には,不動産鑑定等を通じて十分な調査を行うなどして適正に賃料を決定しなければならないところ,本件のような多額の初期投資を要する事業については特に慎重な判断が求められるともいうべきであるのに,実際には市側が貸主側である乙側の希望額を鵜呑みにしたばかりでなく,これさえも大きく超える賃料額を提示するについて,十分な検討がなされた形跡がみられないにもかかわらず,いとも簡単に契約内容が決められている点で,余りにも安易かつ杜撰な賃料の決定方法というべきであり,前記のように正当と認められるB3鑑定における適正賃料とあまりにもかけ離れていることに照らすと,上記の賃料額決定の実質的な理由は,乙らの生活保障等にあったことが窺われ(実際にN1は,A2から,一人50万円で月150万円とするのは乙側の生活費をまかなうということで話をつけたと言っていたと供述している。),月額賃料を140万円とするにはあまりにも恣意的に過ぎ,不当な賃料決定方法といわざるを得ない。
ウ 小括
以上から,本件賃貸借契約における賃料額は不当に高額であり,その金額の実質的決定方法も,適正な手続が欠落した恣意的な方法によりなされたといわざるをえない。
(3) 敷金を滞納地代充当のために差し入れたことの不当性
ア 市が借り上げる場合には,原則として,敷金を交付する必要がないこと
通常,地方公共団体である市が賃借する場合は,賃料滞納のおそれがないことから,特段の事情がない限り,敷金を差し入れる必要がないところ,とりわけ,本件賃貸借契約においては,改修工事費を市が負担する上,市が原状回復の義務も負う旨定められていることからも,後述する目的以外に,敷金を差し入れるべき特段の事情があったとは考えられず,正当な理由が全く認められない。現に市が賃貸借契約を締結している他の物件のほとんどにおいて敷金が差し入れられていない。
なお,e3ビル(f3)の賃貸借契約においては,市からの敷金の差入れの事実が存するものの,この賃貸借契約においては,包括外部監査において指摘されているように,本来市が負担すべき内装代をその入札を回避すべく敷金として賃貸人に交付しているなど特殊な案件であり,本件とは前提が全く異なる。
イ 滞納地代に充当させるために敷金が支払われたこと
(ア) 乙による滞納地代の市による負担の依頼と交付された敷金の滞納地代への充当
乙自身,「(滞納地代金について,母A1,B1と私と3人で話し合っている中で,)市役所で何とかしてもらえないかというような話も出ました。」「A2(首席審議監)に,地代を滞納していることや市に貸すのであれば一括で(滞納地代を)払って欲しいと(財務局から)言われていることを伝えたと思います。」と供述している。
そして,前記の前提事実記載のとおり,市から振り込まれた敷金を直接の原資として不払分の賃料及び延滞金を支払ったことを乙及びB1も認めている。
(イ) A2が地代の滞納分を敷金で支払わせたいと話していたこと
a Q1は,A2から「i1のほうが土地の使用料について国へ滞納されておるということで,その分を清算する必要がある」と聞かされ,さらに,「(A2が)敷金を乙に支払うことで滞納分を返済させるので,市が敷金を払っていいかどうか(弁護士に)確認して欲しいと頼んできた」などと供述ないし証言している。
また,Q1は,当公判廷において,本件賃貸借契約書には,敷金返還条項が存在しない理由について,「乙の側に支払う敷金というのが,乙さんの滞納している地代の支払いに充てるためのものでしたので,後々の返済が難しいという事情があったためでした。」と証言し,捜査段階においても同旨の供述をしている。
Q1の証言内容は,捜査段階から一貫しているばかりか,本件当時,職務を遂行するためにその都度記録していたQ1自身のノートの記載内容にも符合する内容であることに加え,Q1自身,本件当時は被告人の下で審議監として忠実に職務に当たっていたものであって,ことさら事実関係を歪曲させてまで被告人を重罪に陥れる理由も窺われないことからすると,その証言内容の信用性は高い。
b 加えて,本件賃貸借契約の経緯をみると,市が乙との賃貸借契約を締結した時点において,乙側における地代の未払いが依然として存したため,乙側の敷地利用権は国から解約されかねない状態で,i1事業が頓挫するおそれがあったことを考慮すると,乙側における滞納地代への充当を前提として敷金が交付されたものとしか考えられない。
c もっとも,弁護人らは,敷金返還条項の規定を欠くとしても乙ら貸主が敷金によって担保されていた債権の精算後の残額についてはなお返還義務を負うのであるから,当該返還条項を欠いていることをもって不当ということはできないし,交付された敷金の使途は,その受領者の自由に委ねられるべきものであるとして,仮に滞納地代への充当を前提として敷金が交付されていたとしても不当視すべきことではないと主張する。
しかし,本件賃貸借契約締結当時,a1市と乙らとの間で本件賃貸借契約の賃料の支払に関するトラブルが将来発生することを窺わせる事情は本件契約の違法性ないし不当性という点を除けば特段存在しなかったはずであり,a1市としては,通常の賃貸借契約においてそもそも交付しなくても何らの支障もない多額の敷金を敢えて交付する以上はそうするだけの何らかの特別の事情があったというべきである。そうすると,i1事業が中止されることを予測していたというなら格別,それ以外には上記の理由以外に敷金を交付する理由を認めがたいのであって,このような理由によって敷金を交付すること自体乙らの便宜を図ったものといわざるを得ない。
d なお,B1は,当公判廷において,前記のとおり振り込まれた敷金で滞納地代を支払ったこと自体は認めているものの,それは,単に結果的にそうなっただけで,敷金を払ってもらった理由は休業補償や引っ越し費用等である旨証言している。
しかしながら,B1は,従業員に対する補償として合計200万円くらいを要したと証言しており,これが事実だとしても,敷金として交付された金額700万円との均衡を大きく欠いているばかりか,そもそも休業補償や引っ越し費用等も市が負担する性質の支出ではないのであって,敷金を交付する,あるいは,敷金の金額を決する理由とはならないことは明らかである。また,Q1ノートには敷金の支払いを検討した形跡の記載があるものの,Q1ノートには営業補償や従業員の補償,引っ越し費用を検討した形跡は窺われないことに加え,Q1自身,当公判廷において,敷金を支払う理由として,地代充当のためとは聞いたが,休業補償や引っ越し代に充てるためであるとは聞いたことがないと明確に証言しているのであって,これらに反するB1の証言内容の信用性は低い。とりわけ,B1は,乙の実弟である上,本件賃貸借契約によって市から賃料の支払を受けていたのであり,現在も本件賃貸借契約の継続を主張して市との間で民事訴訟が係属中で,本件における証言内容が前記民事訴訟の帰趨にも影響する立場にあったことなどからすると,前記のB1の証言は信用することができない。
ウ 小括
以上から明らかなとおり,a1市は,本件賃貸借契約中で,本来,支払う必要のない多額の敷金を乙らに支払うことを約束しており,これがもっぱら乙側の滞納地代への充当を目的としてなされ,その約定通りの敷金が交付されているのであって,これら一連の措置は不当というべきである。
(4) 被告人が自ら実質的に契約内容を決定したといえること
ア 観光振興室は契約内容を決定していない
前記の前提事実記載のとおり,被告人がa1市職員幹部に対してi1事業について話をした上,市職員が同事業に関して最初にi1へ赴いたのは平成12年5月30日ころであるが,その際,被告人は,腹心の部下であるA2の外には建設部営繕室のN2及びO2のみを伴ってi1を視察に訪れたに止まり,後に同事業の担当部となった観光振興室の者らをi1に案内したり,その状況の説明をしていない。
N1は,捜査段階において,平成12年7月中旬ころ,A2から観光振興室でi1の事業を担当するよう指示された際,A2が,「i1を美術館や迎賓館みたいな形で利用するという話が市長(被告人)から出てて,審議監室の方で下準備を進めている。借り上げることについて先方との交渉も進めており,ほとんど話はついている。」「先方との話し合いで,賃料は150万円,期間は20年,敷金は5か月分を支払うということになっている。」などと言うのを聞いたと供述している。
また,U2も,同年7月26日,27日ころ,いきなりN1からi1事業を担当するよう指示があったが,N1は既に賃借期間や賃料額等は決まっているという言い方をしていたことなどから,トップダウンの案件だと思っており,観光振興室の方で同事業を企画立案したり契約内容を決定したことはなかったなどとN1の供述によく沿う供述をしている。また,U2は,賃貸借契約書について,N1から言われた内容に沿って観光振興室の方でも一応作成していたが,R2が作成した原案に沿って直すように言われたことから,これに解除権の明確化など自分なりの修正を加えて,N1に提出したが,N1から解除権の記載などにつき修正を求められ,更に作り直したなどとも供述している。
Q1も,同年7月14日ころから同月21日ころにかけて,A2から,賃料を月額150万円にすること,敷金として賃料5か月分を支払うこと,賃借期間を20年間にすること,債務負担行為ではなく長期継続契約とし,解除権という言葉を出さないために「予算の範囲内とする。」という文言にすることなどを全て聞かされたなどと証言している。
既に述べたとおり,N1,U2ら観光振興室職員の供述ないし証言内容は,i1事業が観光振興室の担当に決まったころには既に賃貸借契約の内容がほぼ固まっていたとする点で,相互に一致した内容である上,Q1証言もこれに沿っており,Q1ノートやU2ノート及び賃貸借契約書案の変遷等に関するパソコンの記録などの客観的証拠ともよく符合しているもので,上記市職員らの供述ないし証言内容はいずれも高い信用性が認められる。
もっとも,市議会や産業企業委員会においては,観光振興室がi1事業を企画立案したかのような説明がなされている。しかし,それは,N1が,同年9月上旬ころ,A2から,「先方(乙側)との交渉は,すべて観光(振興室)の方で行ったと答弁しといてくれよ。」,「観光(振興室)が7月中ごろから担当してたと言うたらあまりに拙速すぎると言われるから,前から観光(振興室)の方で検討してたと言うといてくれ。」などという嘘の答弁をするように指示を受けていた結果にすぎない。
イ A2も契約内容を決定していない
前記のとおり,観光振興室は,本件賃貸借契約の内容を決定したことはなく,契約書の原案はA2の指示する内容に従って,審議監室及び観光振興室において作成したことが認められるが,A2自身も賃料や敷金などの本件賃貸借契約の具体的内容を決定したものではない。
Q1,N1らが供述するように,首席審議監という役職は市長の手足となって市長の特命事項を行ったり,市長の命令等を担当部局に指示したり,各担当室の調整を行うことを業務としており,審議監室が自ら業務を企画立案したり,事業化に向けて事務を行うことはなく,契約内容を決定する権限を有しておらず,被告人自身においても,A2には,事務分掌上何らの職務権限がなく,賃貸借契約の金額を幾らにするかなどについて決める権限はなかったことを認めている。
R2の捜査段階の供述によれば,R2が,平成12年6月下旬ころ,A2とともにi1へ行き,乙からできるだけ長くi1を借りてほしいと言われた際,A2は,「その点については市の方でまた検討させてもらってお答えさせてもらいます。」などと言い,即答を避けた旨供述している。
しかも,A2自身,本件賃貸借契約の内容を乙に有利なものにする個人的な利益や動機は窺われないところ,A2は,被告人の側近中の側近で,被告人からの信頼が非常に厚く,日ごろから真面目で几帳面な仕事振りであり,被告人に無断で契約内容や承認手続きなどを決めるような人間ではなく,何事もきちんと被告人に報告をしていて,両者の意思疎通はよくとれており,自分の意見は述べても最終的には被告人の言うとおりに従っていたなどと市の職員らが証言している上,乙供述によれば,平成12年6月5日かその前後ころ,被告人が乙に対して,「これからこの話はA2さん代理で進めていく。」と言ってi1の借り上げについて,A2が被告人の代理として交渉に当たることを告げたとされており,この乙の供述は,Q1らが同年5月29日に被告人からi1事業に取り組むこととその担当をA2とする旨の指示を受けたと述べていることとも符合する内容であって,乙がこの点についてことさら事実を歪曲させて供述しているとも窺われないことからその信用性は高いものと認められる。
これらの事情からすると,被告人は,自己の思い通りに乙に有利な賃貸借契約を締結するため,首席審議監であり腹心の部下でもあるA2のみを市側の実質的な交渉窓口に限定し,それ以外の職員が乙との直接的交渉をしないようにさせ,A2を意のままに動かしつつ,A2を介して市職員に各種の指示をしていたことが強く推認される。
ウ 被告人が本件賃貸借契約の内容やその締結のための準備に向けて,積極的に市職員や乙らに指示を与えていること
(ア) 建築基準法上の問題に関して,営繕室や建築審査室との協議に被告人も参加し自己の意見や要望を述べていること
平成12年5月30日ころ,被告人は,A2,2,N2,O2をi1に連れて行き,i1の木造部分,壁面の青石,眺望等の良さを誉め上げ,同人らに盛んにアピールしている。
また,前記前提事実記載のとおり,平成12年6月上旬ころ,被告人は,A2,N2,O2,P2が集まってi1が既存不適格建築物であるから用途変更は難しく,莫大な費用がかかるので美術館としての活用は無理だなどとの否定的な意見を話している際,被告人自らがさらに検討を促し,積極的にi1の利用方法を考えるよう部下に指示を出していたことが認められる。
(イ) 被告人がQ1やN1に対し,契約内容等に関しても直接指示を与えていたこと
a N1は,i1に関し,被告人に直接報告をしたり,被告人から,直接指示を受けることは珍しいことではなかった旨供述し,さらに以下のような供述をしている。
(a) 政策調整会議の数日後の8月中旬ころ,被告人から審議監室で,i1の利用方法等の構想やイメージなどについて指示があった。
被告人から,飲食店だから食事ができるようにし,部屋を貸し出して部屋で食べてもらうのはどうか,紀州の茶粥を出したり,若い女の子をアルバイトで雇って,着物を着せて受付のインフォメーションで案内してもらったらどうか,などと言われた。
また,被告人から,鉄筋部分は,主に美術館として使い,その大広間は多目的ホールにして,茶会や歌会なんかの文化セミナーをやり,有吉佐和子の記念コーナーも創ったらどうかなどとi1の利用方法に関する具体的な指示を受けた。さらに,被告人から,美術品を無償で借りることになっているから,そのことを契約書に盛り込み,借りる美術品はトラブルに備えて鑑定しておくようにと具体的な指示を受けた。また,被告人から,乙側への営業への配慮から,市が借り上げる話は伏せておき,9月議会で表に出て,その議決があり次第,すぐに乙側と契約を締結して市で借り上げる段取りで手続を進めるようにという指示もあった。
(b) 前記の捜査段階におけるN1の供述内容は,具体的かつ詳細であって,体験した者でなければ容易に語り得ない内容であるばかりか,Q1においても,平成12年8月11日,A2が不在のため代わりにN1と一緒に市長室に入った際,前記N1供述とほぼ同様の内容の事項を市長(被告人)から指示された旨供述しており,実際,Q1ノートの8月11日の欄には前記N1供述に沿う記載が認められることとも非常によく符合するなどその信用性は高い。
b D3及びN1の供述によると,平成12年8月中旬ころ,同人らがW2鑑定士によるi1の賃料の評価額が月額36万円であることをA2に報告した後,被告人にも直接報告したことが認められる。
なお,この点について,被告人は,(乙の公判廷に証人として出廷して,)N1らからW2鑑定士の評価額の報告を受けたことを認めており,その金額には納得できなかったためN1らに再度確認をするよう求め,それでも140万円という金額にはほど遠い結果であったことから,N1に根拠を調べるように言ったなどと供述している。
また,X2の証言からは,被告人が直接X2に対して,i1を借り上げた場合にその改修費用について,起債がつくのか,財源措置があるのかと問い合わせをしている事実が認められる。
(ウ) 被告人が乙にi1関係で直接電話連絡等をしていること
捜査段階において,乙は以下のように供述している。
平成12年6月27日,被告人から電話を受け,i1を市が借り上げる話が進んでいることを財務局に報告しなければならないので,そのことでA2に電話するようにと言われた。同年7月12日,被告人からA2宅へ行くようにと電話連絡を受けた。
市長査定の日であった同年8月18日,被告人が直接電話を寄こし,i1の抵当権を早く抹消することとi1の美術品のリストを作ることを指示してきた。
政策調整会議のあった同年8月8日及び同月23日や市長査定が終了したころなどに,被告人からメールが送られて来ており,i1事業が議会で可決されたころにも,被告人から,もう大丈夫だという連絡を受けた。
さらに,捜査段階において,乙は,同年9月23日ころ,本件賃貸借契約の案と覚書を3人でi1にやって来た被告人から直接手渡され,「心配だったら親せきに見てもらったらいい。」と言われた旨供述している。なお,被告人は,この事実を否定しているものの,この点について乙が敢えて虚偽の内容の供述をする理由もなく,乙の手帳の9月23日の欄に「Beeさん(被告人のこと)3 ヒル.契約書.覚書」という前記供述を的確に裏付ける記載がみられることからその信用性は高く,N1も,9月29日の1週間前ころ,A2と一緒に最終的契約書案を被告人に見せたところ,「これでいい。先方さんにも見てもらおうか。」と言うのを聞いたと供述している事実とも時期的によく符合していること,被告人も,乙の公判で証人として出頭した際,9月20日すぎに,乙に対して「おじさんにみてもらったら」と言ったという限度では事実を認めていることなどから,乙の述べるような事実が存在したものと認められる。
なお,乙が供述する内容は,捜査段階,公判段階を通して,乙における事実に関する具体的認識やその評価の点を除けば,本件当時,使用していた手帳等の記載を基に当時の記憶を喚起して述べられている内容であり,被告人との接触状況を積極的に認めた外形的事実に関する部分は信用性が高いというべきである。
エ 被告人供述の信用性
被告人は,当公判廷において,i1事業に自分が関与した態様や乙との接触状況を中心に,捜査段階での供述内容を大きく変遷させつつも,契約や交渉などの実務的なことについてはA2や各権限を有する担当部署に任せており,必要な決定等は担当部署等においてきちんと検討の上決定されているという認識であったから,その詳細については自分は知らないと供述している。
しかしながら,これまでに述べてきたとおり,被告人は,捜査段階においては,「本件賃貸借契約の決裁をしたことは覚えていないし,契約書を見たこともない。」「乙さんとは肉体関係がなかったということについては,私の命にかけても嘘ではないと断言します。」などと供述した上,(平成12年5月30日ころには)職員らを連れてi1に建物の状況を確認に行ったことはない,A2から建築基準法上問題があると聞いたためP2に電話したところ,問題は生じたが,解決する方向で研究していると聞かされ,その後解決したと知らされたので,何が問題だったのかよくわからなかった,W2鑑定士の月額36万円余りの評価額という報告は一切受けておらず,今聞いて驚いたなどと公判段階とは全く異なる供述をしているし,抵当権の抹消と美術品の無償借り受けの点については,被告人が乙に直接電話をして指示したことなどを公判において初めて認めているなど,基本的供述を大きく変遷させているところ,公判に至って上記のとおり供述内容を一転させているのに,その変遷の理由については「捜査の時は思い出せなかった。」とし,公判に至って,弁護士から関係資料を見せてもらって記憶がよみがえってきたなどと供述しているほかは,何ら具体的な変遷の理由を述べていないのであって,上記に取り上げた供述の変遷状況をみても明らかなとおり,被告人の供述するところによれば,被告人が市長就任以来熱心に取り組んできたというr1地域の活性化の一環としてのi1事業における本件賃貸借契約締結の経緯といった重要な事柄について供述を変遷させる理由としてはあまりに説得力を欠いた不自然極まりないものといわざるを得ず,当公判廷における被告人の供述は,関係各証拠の内容や立証状況等を踏まえ,客観的に争いがたい証拠と極力矛盾しない範囲で自己の弁解内容に修正を加える姿勢に転じた表れと考えられる。
そうすると,本件賃貸借契約の決定状況等に関する被告人の供述は,捜査段階及び当公判廷におけるもののいずれについても信用することはできない。
オ 弁護人らの主張
弁護人らは,関係機関や関係部署によって審査,討議された上で本件賃貸借契約の内容が決定されているから,被告人が前記契約を実質的に決定したとはいえないと主張している。
しかしながら,後述のように,i1事業に関する関係機関や関係部署による審査,討議は,市長としての被告人の強い姿勢やその意向を受けた担当者らの情報操作等により実質的に機能していなかったのであるから,そのような形式的決定権限等を捉えて,被告人が前記契約内容を実質的に決定していないということはできない。
カ 小括
以上のとおり,i1事業の担当部署とされた観光振興室の市職員も乙側との交渉窓口となっていたA2も本件賃貸借契約内容を実質的には決定しておらず,被告人以外にはそのような決定ができる地位,立場にあった者の存在は市役所内部では認められず,被告人が乙との接触を図りつつ,必要に応じて市職員をしてi1事業の推進等に必要な調査等をさせるなどして,当時,親密な関係にあった乙の意向に極力添うように契約内容を実質的に決定し,あるいは乙らの意向によく沿う契約となるようにA2や他の市職員に各種の指示を与えていたことは明白であり,本件賃貸借契約の内容を実質的に決定していたのが被告人であることは優に認められる。
(5) 議会の承認が被告人の任務違背行為を正当化しないこと
上記のとおり,被告人が自ら不当な契約内容を実質的に決定し,任務違背行為を行ったことは明白であり,これについて市議会において予算の承認が得られた事実をもってしても何ら正当化されるものではない。
この点,被告人は,本件賃貸借契約は,市議会での予算の承認を得られたものであるから,これを締結したことに何ら違法性はない旨供述し,弁護人らも同旨の主張をする。そこで,以下,この点について検討を加える。
ア 本件賃貸借契約は,債務負担行為として議会の承認を受けるべきものでああったこと
(ア) 長期継続契約と債務負担行為との違い
地方公共団体における支出が単年度の支出で終わるときは,原則として,当該年度の予算に計上し,議会において議決を得るのみでよいが(地方自治法208条,同210条,同211条,同215条等),地方自治法214条は,「…普通地方公共団体が債務を負担する行為をするには,予算で債務負担行為として定めておかなければならない。」と規定し,地方公共団体の支出が翌年度以降の予算を拘束するときは,債務負担行為として,議会において,事業の事項・期間・事業にかかる費用の総額(限度額)を提示して,議会の承認を受けなければならないとされる。
つまり,翌年度以降の予算をも拘束する以上,当該支出の内容及び全体像を議会で明らかにし,十分な検討を行うことが必要であることから,債務負担行為としての議会の承認が必要とされるのである。
他方,地方自治法234条の3は,「普通地方公共団体は,第214条の規定にかかわらず,翌年度以降にわたり,電気,ガス,水の供給若しくは電気通信役務の提供を受ける契約又は不動産を借りる契約を締結することができる。この場合においては,各年度におけるこれらの経費の予算の範囲内においてその給付を受けなければならない。」と規定し,継続的な支出について,各年度の予算における当該経費の予算額の範囲内においてその給付を受けることを条件として,別途議決を経ることなく,長期にわたって継続する内容の契約(長期継続契約)を締結できるとしている。
これは,各年度の予算における当該経費の予算額の範囲内においてその給付を受けることを条件とした場合であれば,当該契約に基づいて翌年度以降支出される経費は,必ずしも予算を義務づけることにならないので,各年度の予算審議の中で,当該経費について検討し,その減額,削除を図ることができるからである。
したがって,同法234条の3にいう長期継続契約に該当するためには,翌年度以降の予算審議において,当該契約に基づく支出が自由に減額,削除できるものでなければならず,予算措置が取られない場合には解除することができるのが前提であり,実務上も翌年度以降に予算措置が講じられなかった場合には,市側から契約を解除することができる,いわゆる解除権の留保の規定を明示していることが通常である。
このような,債務負担行為と長期継続契約の上記の差異を踏まえると,Q1が捜査段階において供述するように,実際上,債務負担行為として議会に上程すると事業費の総額を提示することになるため,多額の費用を計上することになり,議会の反対を受け易く,一方,長期継続契約とすると,単年度の予算しか計上されず,費用についても低く計上できることから,それだけ議会審議における重要性も低くなり,議会の反対を受けにくくなることになる。
(イ) 本件賃貸借契約は債務負担行為として承認を受ける必要があったか否か
a 検察官は,本件賃貸借契約は,包括外部監査の結果,実質的なa1市の財政負担等を考慮して債務負担行為として承認を受ける必要があったと指摘されていることに加え,形式的にも本件賃貸借契約上には解除権の留保が規定されているとは認められないとされていることなどを挙げて,本件賃貸借契約は債務負担行為として承認を受ける必要があったと主張する。
b 本件賃貸借契約が債務負担行為として審議,承認を受けるべきであったか否かという点については,本件賃貸借契約にa1市側の解除権の留保の規定が存するか否かという点に大きく左右されるところ,本件賃貸借契約においては,その契約書第3条第2項に,「乙(a1市)は,翌年度以降の賃貸借料の支払義務は,各年度の予算の範囲内とする。」旨の条項があるため,その条項により,本件賃貸借契約の解除権の留保が規定されていると解しうるか否かが問題となる。
この点,検察官は,その重視する包括外部監査において,後述のとおり,本件契約は明確に解除権を留保する規定とはなっていないと判断されており,その後行われた個別外部監査においても,それに関与している3名の弁護士から,「解釈上の疑義を残す規定の仕方では,裁判になれば解除権が留保されていないと判断される可能性が高く,債務負担行為に該当する。」との意見が付されている上,個別外部監査において(包括外部監査と同じ公認会計士I3(以下,「会計士I3」という。)が担当しているにもかかわらず)前記文言により解除権が留保されていると解され,債務負担行為と断定することはできないと判断されるに至ったのも,監査人である会計士I3が相手方当事者であった乙から直接ヒアリングを行った結果,乙が,「解除権の留保を了承している。」旨事実と異なる答弁をし,また市側のN1も,「解除権があることは,乙側にも了承してもらっている。」旨の答弁をしたことに起因するとして,本件賃貸借契約においてはa1市側の解除権の留保の規定はない旨主張している。
しかしながら,当公判廷において,Q1は,「A2は,乙側から解除権を入れてほしくないと要求されたため,契約書には解除権という文言をはっきりとは入れず,『予算の範囲内』という解除という表現をやわらかくした文言にすると言っていた。」旨証言しており,それを裏付けるQ1ノートの記載や乙,N1の捜査段階の各供述も認められる上,その後,a1市が本件賃貸借契約を解除した旨の主張をしていることなどからすると,解除権が規定されていると解釈する余地も考えられ,a1市と乙側との間で正にこの点を巡って民事裁判に至っていることから明らかなとおり,前記契約書上の文言解釈だけでは一義的には決することができないのであって,これをもって解除権の留保が規定されていないとにわかに断定することはできない。
したがって,本件賃貸借契約においてはa1市側の解除権の留保の規定を全く欠いているとまでは認めることはできず,この限度では検察官の主張は採用できない。
c もっとも,包括外部監査において,会計士I3が指摘するように,本件賃貸借契約におけるa1市側の財政負担等の観点から検討すると,1億4000万円もの多額の初期投資を行って営業中の建物を借り上げるとなると,投下資本回収の観点からも短期で契約を打ち切ることは困難である上,建物改造費や20年間にわたる賃料と管理運営費とで合計7億6000万円もの多額の支出を強いられるばかりか,本件賃貸借契約においては,「賃貸借料の支払義務は各年度の予算の範囲内とする。」との規定は存するものの,明確に解除権を定めた規定はなく,市の予算措置が講じられない場合における市からの免責的な途中解約規定が明確に定められていないため,途中解約をした場合に市に対し責任追及がなされるのは必至で,長期に契約せざるを得ないとの理由を挙げて債務負担行為により承認を受けるべきものであったと報告書に記載されており,観光振興室のN1及びU2,財政課主計員のY2らがそろって本件賃貸借契約は基本的には債務負担行為の形式で予算を計上すべきであったという趣旨の供述をしていることをも考え併せると,会計士I3が指摘するところは正当なものと認めることができるから,本件賃貸借契約は債務負担行為として承認を受けるべきであったこと自体は疑いがない。
(ウ) そうすると,本件賃貸借契約の文言解釈だけではa1市側の解除権の留保の規定を欠いていると一義的に決し得ないため,長期継続契約の形式で審議,承認を受けること自体が違法であるとまでは断定することができないものの,a1市としては,そもそも後日にこのような争いの余地を残す曖昧な規定によるべきではなかったし,本件賃貸借契約によるa1市の将来にわたる多額の財政負担等の観点をも考慮すると,前記契約を債務負担行為の形式で議会に審議してもらい,その承認を得るべきであったことは明らかである。
イ 被告人が敢えて長期継続契約の形式で議会承認を得たこと
上記のとおり,本件賃貸借契約の予算承認は債務負担行為の形式で承認を得るべきであったといえるところ,Q1は,捜査段階及び公判段階において,A2から,財政室職員と共に長期の賃貸借契約を締結する場合に予算上の措置として債務負担行為の設定が必要かどうか問われた際に,そろって債務負担行為でいかなければならない旨意見を述べたのを受けて,その後A2が,「この賃貸借契約を債務負担行為とすることについては議会を通すのが難しい。」「議会との対応ということで債務負担行為よりも長期継続契約の方がスムーズにいくんじゃないか。」などと言っていたと供述ないし証言しており,さらに,N1も,捜査段階において,「A2は,金額を小さくした方が,議会を通りやすい。債務負担行為をとるよりも,この方が議会は通りやすいんや,などと言い,議会で通りやすくするために,20年間の借り上げに係る事業全体の予算を求めず,9月議会では年度末までの賃料等のみを求めることとした,という意味のことを説明しておりました。」と供述し,公判でも同趣旨の証言をしている。
これらのQ1の捜査段階及び公判における供述ないし証言内容並びにN1の捜査段階及び公判における供述ないし証言内容は,具体的で相互によく符合するなど信用性が高いことに加え,i1事業では,改修費などの初期投資も相当に大きくなることからすると,20年間の賃料等の全てを予算に計上すると膨大な支出額となることから,注目を集め,その審議においては自ずと慎重に行わざるを得なくなることが容易に予想されることからすると,A2が,議会承認を得やすくするために,敢えて債務負担行為ではなく長期継続契約の形式を選択したことが認められる。
そして,これまで述べてきたように,A2には,事務分掌上,予算の計上の方法等について決定する職務権限はなく,A2は,市長の特命事項を行う立場に過ぎなかった上,i1事業は被告人の発案にかかるもので,被告人がその推進に躍起となっていたことから,A2が自己の独断で長期継続契約として予算計上を行ったとは到底考えがたく,この点についても被告人の指示があったことが強く推認される。
このことは,Q1が,当公判廷において,被告人が審議監室においてA2と話をした際,被告人が,A2に,「財政(部)も『予算の範囲内とする』ということで言うておった。」などと話し,これに対し,A2が,「分かりました。」と,既に,財政部と協議して知っている様子で答えているのを聞いたなどと証言していることからも裏付けられている。
以上に対し,被告人は,本件当時ころは,市が当事者となる建物の賃貸借契約は債務負担行為ではないとの認識であり,平成13年6月に外部監査を受けるまで債務負担行為か長期継続契約かが問題となることを知らなかったし,そういった法律的な問題は法制室や弁護士に任せていたなどと供述している(被告人公判供述)。しかし,前記供述は,被告人が,捜査段階においては,A2がH3弁護士に長期継続契約とすべきか債務負担行為とすべきかを相談し,長期継続契約で構わないとのことだったので長期継続契約にし,それで予算が通過したのでA2に契約締結に当たらせたなどと経過説明をしていたことと大きく矛盾している上,被告人は,公判段階においても(i1事業について)議会で議決を経る際には長期継続契約という言葉すら知りませんでしたなどと供述しているところ,長期にわたって市長の職に当たっており,予算審議の方法についてもかなりの知識があったと考えられる被告人としてはかなり不自然な説明といわざるを得ず,このような被告人の供述の変転状況や弁解内容にかんがみると,被告人は,その場その場における部分的な合理化により自己の責任を極力回避しようとする態度が顕著に窺えるから,被告人の公判における弁解供述はにわかに信用することはできない。
ウ 本件賃貸借契約は,その正確な実体を明らかにしないまま議会の承認を得ていること
これまで述べてきたとおり,本件賃貸借契約については,議会の予算承認を受けるにあたり,本来,現に営業中のi1の営業を止めさせてまで市で借り上げる特段の必要性,緊急性が存しないこと,賃料算出に当たって,正式な鑑定をしていない上,i1を借りる市側にとって,予算案よりも明らかに有利なW2鑑定士の賃料評価額が出ていたことについては全く言及されていないこと,本来19年6か月間にわたる賃貸借契約であるにもかかわらず,補正予算にかかる借り上げの期間としてはと前置きをつけた上で平成12年10月から平成13年3月までの6か月間である旨S2産業部長が答弁して,長期間の借り上げになることの明言を避けていること,補正予算に計上された予算額も6か月分の賃料や設計委託料等の費用約2680万円程度の計上で済ませ,約20年間で合計7億6000万円もの費用が必要になること等本件賃貸借契約の実体や全体像についても説明していないこと,トップダウンの事業として被告人が当該事業の推進を決定し,市長査定の承認を受けた後に2回目の政策調整会議で承認がなされていること,被告人と乙とが愛人関係にあることなどの本件賃貸借契約の実体はもとよりその背景や経緯となる事情を秘匿したまま市議会の審議に付し,議会の実質審査に資するだけの十分な情報が開示されないまま承認がなされたにすぎない。
なお,被告人においては,W2鑑定士の評価額は市からの正式な依頼に基づく鑑定ではなかったことから,当時としては当然に議会に報告すべきものであったとはいえない旨供述しており,弁護人らにおいても,市からの正式な依頼に基づいていないことなどから,その評価額の正確性や信憑性には疑義があるため,当時としては当然に議会で報告すべきものとはいえない旨主張する。しかし,a1市としては,大きな財政支出を伴う事業の推進を計画する以上,できるだけ賃料を低廉に抑えるべく真剣な努力をすべきであるから,36万円程度といった市側に有利な金額の報告があればより詳細にその根拠等を求め,これを乙側との賃貸借交渉に有効に活用すべきであったと考えられるのに,本件においてそのような努力がなされた形跡は全く窺われないばかりか,かえってその報告を受けた被告人から再検討するよう指示を受けたN1らが,これをうち消す方向の資料集めに奔走するようになり,それ以前にA2を中心に検討されていた140万円の賃料額に近似する賃料の物件の存在のみを検索していることに照らすと,上記のW2鑑定士の評価額は,140万円という金額に著しくそぐわなかったことから敢えて黙殺されたとみざるを得ず,このような極めて不誠実な市側の姿勢が議会における実質的かつ適切な審議を妨げたことは明らかである。
加えて,このような議会対策やそこでの答弁等の方法については,N1が,「被告人は,(i1事業が審議された当時)議会や委員会の対応には敏感になっており,答弁内容を考える際には慎重を期しておりました。」と供述していることや,A2が,産業企業委員会の前に,N1に対し,i1事業の協議の開始時期や,交渉の開始時期等について,虚偽の答弁をするよう指示していたことが認められるが,前記のように被告人自身,i1事業を進めるに際して大きく関与しているばかりか,r1の振興という被告人の市長当選時からの施策にかかわるi1事業に関して,そもそも被告人の了解なくしてその協議や交渉の時期等を敢えて偽って答弁するなどといった重要な判断がA2に許される状況にあったとは到底考えられないことから,これらについて被告人自身が関与ないし指示していたとみるべきである。
エ 小括
以上のとおり,被告人が議会の承認を得やすくするために,長期継続契約という形式で予算案を提出した上,本件賃貸借契約の実体ないしその周辺事情を議会に説明しないばかりかことさらこれらを隠して議会の承認を得ていることは明らかであり,議会の承認を得ているから任務違背にはならないという弁解には全く理由がない。むしろ,このように実体等を秘匿し,ないし偽ったまま議会の承認を得たことも被告人のa1市長としての任務違背の存在を基礎付けているといえる。
(6) 中括
そうすると,被告人は,前記の前提事実記載のとおり,a1市長として,市の健全な財政運営を損なわないよう誠実にその職務を遂行すべき任務を有していながら,敢えてi1を借り上げる必要がないにもかかわらず,不当に高額な賃料を定めると共に賃貸借期間を極めて長期間とし,かつ,市において本来は支払わなくても済ませることが十分できた多額の敷金を差し入れる内容で本件賃貸借契約を締結した点についてはもとより,a1市における契約及び予算承認手続において,本件賃貸借契約の実体等を秘匿し,ないし偽って各手続を行わせた点についても,任務違背行為があったと認められる。
5  被告人には任務違背行為及び損害発生についての故意があったこと
(1) 被告人が賃料を月額140万円にしようと企図しており,それが不当に高額であることの認識認容があったこと
ア 140万円の賃料が不当に高額であることを知っていたこと
被告人は,W2鑑定士の評価が賃料36万円程度であるとの報告をN1から受けていた上,市長査定の際の財政部の意見はi1事業については反対意見であり,Y2が被告人の面前で,「月額賃料の140万円については,客観的な積算根拠が全くなく,相手からの提示額に過ぎず,妥当性に欠ける。建物の状況や地域性からすれば,賃料は高すぎる。」などとその不当性を具体的かつ明確に指摘したことが認められる。
また,被告人も出席していた平成12年8月8日に開催された政策調整会議(1回目)において用いられた資料中の予算内訳に「建物借上料」に加え「土地借上料」が計上されていただけでなく,被告人は,乙側において不法占拠している土地を市が国から借りる件についても決裁していることからすると,被告人においてi1の建物の一部が国有地に無断で建てられているという事実及びそのことに大きな問題があることを知っていたはずであるし,P2ら市職員からの説明によって,i1の建物には建築基準法上の問題(既存不適格建築物であること)があることを明確に知っていたことも認められる。
加えて,被告人は,N1から,市が借りている他の物件の月当りの平米単価で賃料を比較したらi1の方が安い旨の報告を受けるや「しゃあないな,それでいきましょうか。」と発言することによって,その方法で賃料を正当化する根拠作りを了承してその資料作りをさせており,被告人も,その当時から担当者が月額140万円の賃料の正当化に苦労していることを知悉していたことが認められる。
そうすると,被告人においては,i1の月額賃料140万円が一般的賃料相場に比して不当に高額であることを当時から十分に知っていたというべきである。
イ 被告人は当初から高額の賃料を支払う意思であったこと
前記のとおり,本件賃貸借契約の賃料額の決定経過をみると,乙側から地代に加えて一人当たり25万円ないし30万円程度の賃料がほしいとの申し出が市側に対してなされ,それを受けて乙らはA2からいきなり月額150万円の賃料の提示を受けて,これをすぐに了承している。
Q1は,当公判廷において,月額賃料150万円の内訳について,A2から,地代が30万円で,乙が母親の分も含めて合計80万円を,B1が40万円をそれぞれ受け取ると聞いたと証言しており,N1も,A2から「一人50万円。」という概略を聞いたとし,乙側からの申し出があったのでそのとおりに市が応じた旨聞いたと捜査段階において供述しており,これらの証言ないし供述は相互に符合していることから,前記両名に対して,A2が150万円の賃料は乙側の要望であったと説明していたこと自体については信用性が認められる。このように乙らの説明とA2の内部に対する説明には一致しない部分がみられ,その理由については必ずしも十分解明されているとはいえない。しかし,この点をさておくとしても,被告人は,W2鑑定士の評価額が月額賃料36万円くらいであるという報告を受けた際の状況として,「それ聞いて私びっくりしました。なぜかと言いますと,地代20万円払ってるわけですから,20万引いたら16万円しか残らないわけです。あのi1が16,7万円かよと,そんなばかなことはないぞと,文化的な建物の価値とか景観上の価値なんか全然考慮されてないんちゃうかと,一遍よく聞いてきてくれよと,こんなふうに指示をいたしました。」と供述し(被告人公判供述),土地や建物を買収する場合ではないから市では鑑定はしないとしつつも(被告人公判供述),自らより高額な賃料が根拠付けられるようにi1の文化的価値の考慮をN1らに指示したり,それがうまくいかない旨の報告を受けるや別の手段を考え出すよう再度指示し,市が借りている他の物件の賃料額との対比が月額140万円の賃料の根拠付けに使えそうだと知らされると,それが前記のように苦しい根拠付けであることを十分認識しながら,これを使うことを了承するなどしている。
もとより,市が借り上げる不動産の賃料は市の財政負担に帰するのであるから,市長という立場にある以上,できるだけ賃料を低廉に抑えるよう真摯な努力をすべきであり,市側が当初に検討していた賃料額に比べて不動産鑑定士の評価した賃料が大幅に下回っているという本来市側に好都合なはずの情報が得られたのにこれを最初から全く無視し,当初の高額な賃料を維持すべく積極的根拠付けを行う必要は全くなかったはずである。しかも,r1における廃旅館等の問題は依然として残されたままであるから,r1の振興につき真摯に取り組むのであれば,経営が苦しいとはいえ現に営業しているi1のみをことさら優遇しようとするのは全く不合理な対応といわざるを得ない。これらの事情に徴すると,被告人においては,当初から乙側に高額な賃料を支払おうとする意図があったことが強く推認されるし,被告人は,契約締結後,i1事業が社会問題化した際,J3がi1の市による買い上げを示唆したのに対し,被告人は「損させるから売らさん。」などと乙側の視点に立ち,その損得を重視した発言をして,a1市がi1を買い上げることを阻んでいることが認められることも考え併せると,乙と親密な関係を続けていた被告人が,市長という公職をないがしろにして,専ら個人的な理由により当初から高額な賃料の支払いを意図していたことは明白というべきである。
ウ 被告人の弁解は不合理であること
(ア) 被告人は,当公判廷において,① i1の建物の文化的価値や使用されている建材,周辺環境や景観等を考慮すると月額140万円の賃料が高いとは思えない,②1回目の政策調整会議の後,市長特別秘書のZ2に月額140万円の賃料が相当かどうか聞いたところ,Z2は,世間の相場から言えばそれは安いと言ったことから,賃料は高額とは思わなかった,③A2に指示してa1市が借りている他の物件と比較検討させた結果,i1の方が他の物件よりも平米あたりの賃料が安かったことから,i 1の賃料が高額であるとも思わなかったし,r1地域に所在するi1とa1市中心部に位置するオフィスビルとを比較することにも特段問題はないと考えていた,などと供述する。
(イ) しかし,①の点について被告人が供述するところは,不動産の専門家ではない被告人の主観的な価値判断に大きく偏ったもので,具体的な月額140万円の賃料額を裏付ける何ら客観的な根拠となるものではないし,市長査定の席上でも財政部主計員から,それが高すぎて妥当性に欠けるという厳しい意見が出ているのを被告人は直接聞いていたのみならず,被告人自身,不動産鑑定資格を有するW2鑑定士が月額約36万円の評価をしていることを聞かされ,さらにその後にi1の文化的価値を踏まえても月額140万円にはほど遠い金額しかW2鑑定士からは出なかったことも知らされていたのであるから,月額140万円の賃料が不当に高額であったとの認識がなかったなどとみることはできない。
また,②の点については,Z2とのこのようなやり取りをしたこと自体,被告人は,捜査段階において何ら供述しておらず,公判で初めて供述するに至った内容であり,Z2の公判証言と符合するとしても,同証人と被告人とのこれまでの関係に照らすと,そもそも一般的信用性に欠けるといわざるを得ないし,そのようなやり取りが実際になされたことがあったとしても,もとよりZ2は,不動産に関する特別の知見を有するものではなく,r1地域の実勢価格や取引事例を知らないまま,単に被告人から,「おい,どうな,高いかい。」と聞かれ,「いやそんなもん違う。」などと答えたという程度であったと証言しているに止まり,このようなやり取りで①の点で指摘したような専門家たるW2鑑定士の意見がないがしろにされたこと自体が不合理というべきで,Z2とのやり取りが本件賃料の不当性に関する被告人の認識を何ら正当化するものではない。
さらに,③の点については,被告人は,r1地域の廃旅館等の存在がr1地域振興ビジョンにおいて話題にもされ,これが社会問題となっていることを知悉していた上,i1とは所在地はもとより,建物の構造や古さ,使用目的も大きく異なるa1市中心部のオフィスビルとを平米あたりの賃料額で単純に比較して賃料の根拠付けをすることについても,何らの合理性もなく,前述したとおり,N1から賃料比較により根拠付けが可能だと報告を受けた際の被告人の発言内容等に照らしても,被告人はそれが苦しい根拠付けだと知りながらこれを使うことを了承していることから,当初から高額な賃料が予定されていたことを隠蔽するため,事後的に体裁を整えたに過ぎないというべきで,これをもって月額140万円の賃料が不当に高額であったことの認識がなかったなどということはできない。
(2) 被告人が敷金を滞納地代充当のために差し入れることを企図しており,それが不当であることの認識・認容があること
ア 前記のとおり,A2がQ1に対し,敷金を乙に支払うことで滞納地代を返済させる旨話していたことが認められる上,X2証言から,財政室長査定で敷金が必要ないとのことでゼロ査定になりながら,A2が,「敷金の支払いがないとどうしても借りられない。」旨要求したことから,財政部長査定において敷金が復活したことが認められる。また,乙側をしてその滞納地代を支払わせるために市が敷金の差し入れを検討していることについては,被告人においても,被告人に忠実で職務熱心なA2から報告を受けるなどして,知っていたものと十分推認できる。
イ これに対し,被告人は,当公判廷において,自分がアパートを借りる際にはいつも敷金を払っているし,本件賃貸借契約にあたって敷金を支払うことについては市の顧問弁護士であるH3弁護士に確認した上,問題ないとの報告を受けた上で敷金を支払っているのであるから,敷金の支払いには何ら不当な点はない旨供述する。
しかし,前記のとおり市長としての在職期間が長い被告人が,a1市で賃借する場合と個人で賃借する場合とを全く同一視していたとは考えにくい上,敷金の支払いの可否をわざわざ弁護士に確認させること自体,市による賃借の場合には敷金を支払わないことが通例であることを認識していたことを推認させる。
また,H3弁護士は,当公判廷において,「敷金を何に使うのかは聞いていないし,被告人と乙の関係も全く知らなかった。」「市の職員からは,単に,市が敷金を支払うことについては違法かどうかと聞かれたので,適当かどうかの問題は別にして,私的自治の範囲内と考え,敢えて違法というほどのものではないのではないかと答えた。」と証言しており,この点についてH3弁護士がことさら事実関係を歪曲させる理由も窺われず,T2もこれに沿う供述をしていることなどから,この証言には高い信用性が認められるところ,相談に来た市の職員からは敷金支払いの目的や使途,敷金支払を検討するに至った経緯等の重要な事柄については明らかにされないまま相談を受けたH3弁護士が本件敷金支払いに関する問題点を指摘することができなかったとしても,むしろそれは当然のことというべきで,それをもって本件敷金支払いの不当性が何ら払拭される訳ではない。
ウ 以上のとおり,被告人は,乙らの滞納地代の支払いに充てさせるために,本来市が支払う必要がないことを認識しながら,市の敷金支払義務が明記された本件賃貸借契約書を自ら決裁し,これに基づき敢えて敷金を乙らに支払わせたことが認められる。
(3) 小括
これまで認定説示したことから明らかなように,被告人においては,本件賃貸借契約における月額140万円の賃料や5か月分の賃料相当額の敷金の交付等について実質的に決定していた事実が認められるところ,これらの決定にあたって,被告人が月額140万円の賃料が不当に高額であり,かつ,その決定方法についても客観的な情勢や専門家の意見をないがしろにするなど不当なものであることを知っており,また,敷金を交付する必要がなく,これが滞納地代に充当されることを認識しつつそれを意図してその支払いを約束しこれを交付したことが認められるから,当時,a1市長として負っていた市に不要な財政負担を生じさせないという任務に違背し,a1市に損害を発生させることの認識・認容があったというべきである。
6  図利加害目的があること
(1) 被告人と乙とが愛人関係にあり,被告人が乙に各種の利益供与を頻繁にする関係にあったこと
ア 前記のとおり,被告人を乙とは愛人関係にあり,その関係の中において,被告人は乙に継続的に多額の金銭を交付したり,公務である海外旅行にすら同伴させ,その費用を負担するなど各種の便宜を図るなどしていたほか,市長としての執務時間を全く意識することなく頻繁にメールをやり取りするなど公私混同が甚だしい生活状態を続けていた。
そして,被告人と乙とが愛人関係を築いた平成12年4月の翌月に実施されたアメリカ・カナダへの公務旅行の直後に,被告人は市職員に対してi1事業を指示し,当時進めていたe2ビジョンとの明確な関係もなくi1事業を強引に押し進めていたことからすると,被告人が親密な関係となった乙のいっそうの歓心を買うことを企図すると共に,さらに乙が若女将として務め,その母が女将として営業し,赤字が続いていたi1の経済的な窮状を救おうと考え本件賃貸借契約を締結したことが強く推認される。
イ これに対して,被告人は,当公判廷に至って,捜査段階において頑なに否定していた乙との男女関係については認めるに至っているものの,乙への現金の交付については,「乙の家で月3回から7,8回くらい食事をいただいたので,市の料理飲食業の許可業者から接待を受けるのはまずいかなと思って,借りを作らないようにという気持ちで食事代として渡した。」などと弁解したり,i1の営業状態が悪いということは知らず,経営状態も,平成8年ころg3がつぶれ,その客がi1へ回る形になっていたから「ちょっとましじゃないか。」と思っていたなどとも弁解している。
しかし,金銭の供与は乙宅での食事代がわりであったとする被告人の説明は,そもそも交付額の点でその説明を超えていると考えられるし(乙の説明する受領した金銭の使途も食費の域に止まってはいない。),プライベートの領域においても公務を意識していたことを自認するもので,公務とプライベートを区別して行動していたことを強調する被告人の弁解や乙の供述内容の中では相当に不自然といわざるを得ない上,被告人は,上記の現金の交付だけでなく,乙の旅行代金を支払ったり,アトリエとしてマンションの一室を無償で提供するなど,乙に対して過剰なまでの利益や便宜の提供をしていたのであるから,前記現金交付はこれらと同様の意図に出たことが容易に推認でき,全く不合理な内容の弁解と言わざるを得ないし,また,仮にi1の営業状態が悪いということを知らなかったというのであれば,他に廃旅館等が散見されるr1において,現に営業を続けr1の活性化に貢献しているはずのi1のみに巨費を投じて市が借り上げる必要はなかったはずであるから,上記の被告人の弁解内容はやはり不自然不合理といわざるを得ない。
したがって,被告人の弁解供述は信用することが出来ない。
(2) 契約内容が乙側に著しく有利であること
ア 前記のとおり,本件賃貸借契約の内容は,賃料が月額140万円と著しく高額であること,賃貸期間も民法上の上限の期間となる20年に近い非常に長期間にわたること,市が借り受ける契約にはほとんどみられない敷金の差入れの定めがある一方で,敷金の返還については何らの言及もされていないこと,市が原状回復義務を負担するだけでなく,家主側が負担するのが一般的な維持修繕費の他火災保険までもが市の負担となっていること,前記のとおり長期間の賃借期間が定められているにもかかわらず,市からの契約解除を定めた明確な規定が存在しないこと(なお,市においては,長期継続契約の形式で議会承認を経ている以上,通常は解除権が明記されるべきものである。)など,個別の条項をみても乙側に有利な多くの条項が存する。とりわけ,本件賃貸借契約書においては,乙本人の受け取る賃料額まで明記されているところ,乙が所有している建物はi1全体のわずか3パーセントに過ぎないにもかかわらず,不動産名義を有しないA1の取得分と合わせて賃料全体の3分の2を受領し,その割合も不変である旨容易に類例をみず,合理的説明がつきにくい条項が含まれているなど,可能な限り乙の利益を追求したもので,その利益を図るためのものであることは明白である。
また,本件賃貸借契約の締結も議会承認から直ちに行われている上,契約開始日も議会承認から僅か数日が経過した後であるなど,i1の営業ができなくなる乙側に有利な内容となっているし,契約後もi1内に乙家の仏壇や私物がしばらく置かれたままにされていたり,契約内容としては実現していないものの,一時期は市が借り上げたi1の管理人として乙らに給料を支払うことやi1にA1が住み続けることなどまでもが真剣に検討されており,乙側の利益が図られたり,実現はしなかったとはいえ,乙側の事情が極力考慮されている。
イ そして,本件賃貸借契約によって,実際にa1市から乙側に対して,4900万円が支払われているところ,乙自身,「私の給料が月25万円(手取り)で,母が給料を取っていなかった契約前と比較し,収入が増え,母が負債1000万円を返済できたり,地代滞納分約500万円を返済できたり,貯蓄が増えた。その上働かなくても良くなった。」などと供述している。そして,B1も,「i1で働いていた当時,私と妻の給料として額面合計30万円ほどの給料を毎月受け取っていましたが,市からの賃料収入により,従前の収入より約16万円アップしました。その上,i1で働くという時間拘束がなくなり別に収入を得ることが可能となったわけでした。」と述べていることからも,本件賃貸借契約により,乙やその家族の利益が大きく図られたことは疑いを容れない。
ウ もっとも,弁護人らは,本件賃貸借契約は,賃料,敷金の交付等も適正であり,賃貸期間についても改修工事の内容等を考慮すれば相当であるばかりか,乙側においては,本件賃貸借契約に付随して2800万円余りもの価値のある美術品等の無償貸し出しや,抵当権の抹消,従業員の補償や手当等の大きな負担を伴うものでもあり,決して乙らにのみ有利な内容とはなっていない旨主張する。しかし,これまでにみたとおり,そもそも賃料額が適正でない上に,敷金等の交付や賃貸期間等についても乙らに著しく有利な内容となっていることは疑いがなく,美術品等については,乙らにおいてi1の営業を終えてしまうとその価値を生かす場は限られてくる上,抵当権の抹消や従業員の補償等についてもいずれは乙側で対応しなければならない問題であり,本件賃貸借契約において市から支払われる賃料等の収益に比べれば微々たる負担といっても過言ではないことなどから,弁護人らの上記の主張は採用することができない。
(3) 事後に被告人が本件賃貸借契約を売買契約に変更することを拒否したこと
J3は,当公判廷において,i1事業がマスコミ等で問題とされた後の平成13年の終わりころ,市の幹部の意向で市がi1を買い上げる交渉をした際,市役所ではなくh3の事務所でこれを行った理由について,「被告人が,『乙に損をさせるから売らさん。』などと言ったり,被告人が乙にも売らないように言いに行ったりして売買契約に変更させることを断固拒否していたことから,被告人に見つからないように私が乙らを呼び出し,市側の買い上げ交渉の窓口の人達と交渉をすすめるためであった。」などと証言し,さらに,市が2000万円か3000万円ぐらいで買い上げることを検討していたのに対し,被告人は,後援会に対してi1のおかみさんは5億以上でないと売らないという趣旨のことを言っていたが,乙からは(A1が)そのようなことを言っていないと聞かされた旨証言している。
J3証言は,具体的かつ詳細であって,迫真性に富む内容である上,同人は被告人の支援をしていただけでなく,公務である旅行に同行するなど被告人と親しい関係にあったものであるが,J3は平成12年の末ころ,被告人と乙との関係を知り,i1の借り上げを止めるよう私や後援会が制止しているのに,被告人は議会を通れば何の問題もないなどと言ってこれを聞かず,i1事業を進めていたとし,平成14年9月ころ,被告人から一方的に裏切り者などとメールを送られ連絡を取らなくなったことなどの事情からすると,本件当時よりも証言時の方が被告人との関係が悪化していたことが窺われるとはいえ,ことさら事実関係を歪曲させて被告人に敢えて不利な内容の証言をするまでの事情があるとは考えにくく,その証言内容の信用性は高いと言うべきである。
以上に照らすと,市幹部がi1の買い上げを検討しているにもかかわらず,被告人においては,本件賃貸借契約の継続に固執しており,この点についてはr1の振興等の理由からは合理的な説明が付かないことは明白であって,もっぱら,乙らが市の損失において受領する高額な賃料収入を維持するのを意図して,乙らのために,これよりも条件の劣る売買契約への変更を拒否していた蓋然性が高い。
(4) 不当な手続等で予算を計上し議会承認を得ていること
前記のとおり,本件賃貸借契約については,被告人の腹心の部下であるA2が乙側との交渉を行い,「相手さんに失礼に当たったらいかん。」などとA2から説明されて,担当室である観光振興室は直接の交渉を禁止されていたのであって,本件契約内容は,被告人,その意向を受けたA2,乙らの間で実質的に決定されたものといえる。
そして,i1事業は実質的には被告人の発案によるトップダウンの案件であったにもかかわらず,1回目の政策調整会議で保留とされたことから2回目の政策調整会議の前の市長査定において,被告人が是非ともやらせて欲しい旨その出席者らに対して熱心に説くことによって,市長の政策案件としてi1事業の実施を決定する態度を明らかにし,反対意見がそれ以上出るのを押さえつけることによって,市長査定と2回目の政策調整会議を強引に押し通し,議会においても長期継続契約の形式を敢えて採りつつ実質的な審議に必要な情報を提供することなく予算承認を得ていることなどが認められる。
このように,本件賃貸借契約の締結は,その手続面においても不相当な経過をたどっており,被告人において,本件賃貸借契約が,市の損失において乙らの利益を図るためのものであることを知悉した上で,それを様々な手段で隠蔽しつつ一連の手続を進めさせたことは明白である。
(5) 小括
以上のとおり,被告人は,本件賃貸借契約締結の半年近く前から継続的に乙の利益や便宜を図っており,本件賃貸借契約においても,賃料額だけでなく,敷金,契約期間をはじめとして,随所に乙らに有利な条項や条件が設けられている上,事後的にはその利益を維持すべく乙らのために行動していたことは明白であり,被告人が意図したとおりに事態が進行して4900万円の現金が乙らに支払われていることからすると,被告人においては,市の損害の下に乙に利益を得させ,愛人関係にあった乙の歓心を買い,さらにはi1の経営困窮状態を解消させるために,その任務に背いて不当に高額な賃料等を支出させて乙らの利益を図ったことは明白である。
7  共謀関係の存在
検察官は,被告人と乙との間には,遅くとも平成12年5月ころまでにはi1を借り上げることについての背任の共謀が成立し,その後も,被告人は乙と共謀を重ねつつ,乙らの利益を図るため,市長の権限を濫用して,乙側に圧倒的に有利な本件賃貸借契約を締結したと主張するので,以下,両名の共謀の点について検討する。
(1) 被告人と乙との愛人関係の存在と被告人が乙に利益を供与することについての乙の認識
ア 前記の前提事実記載のとおり,被告人と乙とは愛人関係にあり,被告人が乙に対し,金品を渡したりホテル代や海外旅行代金を支払ってやったりしていた。そして,平成12年中の現金の受け渡しのみを取り上げても,前記のように11回合計210万円にのぼっており,本件賃貸借契約の前後を挟んで被告人から乙への利益や便宜の供与が常態化していたことが窺われる。
そして,乙の供述によれば,平成12年3月以降,被告人から定期的にまとまった(数十万円単位の)現金を渡されるようになった理由について被告人に尋ねたところ,被告人は,「そうしたいから。」と言ってくれ,「(a1市によるi1の借り上げに伴って)絵を描く場所がない」などと相談すると,被告人はそのためのアトリエを提供してくれ,旅行についてはいつも被告人から誘われて同行しており,旅行代金を出してほしいと思ったこともないわけではないがその思いを被告人に伝えたことはなく,旅行代金を出してくれなどと言わなくても被告人が代金を用意してくれていたというのであって,乙において,明示的に要求したり希望を述べたりしない場合においてさえも,被告人においてその意を察して,利益や便宜を図っていたことが認められる。
また,乙は,平成12年5月14日から同月28日にかけて,公務として被告人が赴くアメリカ・カナダ旅行に市の職員と共に同行しており(市の職員が同行する市長の公務であり,単なる観光旅行ではないことは,遅くとも旅行参加者を確認した時点において乙にも十分分かっていたはずである。),同年12月26日から同月28日にかけても,公務としての韓国旅行に同行しているほか,平成13年2月のニュージーランド・オーストラリア旅行,同年4月の北アイルランド等への旅行,同年7月のカナダ・アメリカ旅行へ一緒に行くなどしており,1回目の旅行はさておくとしても2回目以降に市職員が同行する旅行に同行するにあたっても,被告人に旅行代金を負担してもらっているなど,被告人の公務に便乗して繰り返し利益や便宜を受けていたことが認められる。
このように,平成12年3月ころから,i1についての本件賃貸借契約が締結された時点に比較的接着した時期においては,機会があればその都度,被告人がその公務に便乗して乙の利益や便宜を図ることが常態化していた。そして,乙においては,このような状況を当然に把握し,自己が被告人に対して明示的に要求し,あるいは希望を述べたりしなくても,乙が明確に拒絶しない限り,被告人が乙の意を察して,その利益や便宜を図る行動にでてくれることをよく認識していたものと認められる。
イ また,前記の前提事実記載のとおり,被告人と乙とは,同年4月ころには肉体関係を持つなどのいわゆる愛人関係となり,乙の自宅,ホテル等において肉体関係を重ね(乙の供述によれば,平成13年秋ころまで,平均して月2,3回の関係を持っていたという。),ほぼ毎日,執務時間か否かを問わず多数回にわたり携帯電話のメール等のやり取りを行っていたほか,被告人は,ほぼ毎月10万円単位の現金を乙に手渡し,さらには,被告人の公務である旅行に乙を同行させているなど,被告人と乙との間には,十分に意思疎通を図ることが可能な機会が存在したものと認められる。そして,乙においては,平成12年5月14日から同月28日にかけての公務としてのアメリカ・カナダ旅行の帰りの飛行機内において,被告人から,i1を美術館にする旨告げられたと供述しているのであって,被告人との共謀関係を捜査段階当初から一貫して否認している乙がこの点についてことさら事実関係を歪曲させて虚偽の供述をしているとも窺われず,被告人が朝ミーティングの席上で,i1事業の件を持ち出した時期ともよく符合することからするとその信用性は高く,そのような事実が存在したこと自体は,ほぼ間違いないものと考えてよく,被告人と乙との間で少なくともi1を市が利用することについての意思疎通が存在したことが窺われる。
(2) 乙によるi1借り上げの依頼とそれに対する被告人の対応
B1及びA1の各供述によると,平成10年ころ以降,i1は売上げが落ちて赤字状態が続いていたため,母A1の個人資金を貸し付ける形でi1を経営しており,A1,B1とi1の経営について話をしていた際,県とか市に借りてもらったらいいのにという話がよく出ていた事実が認められる。
また,乙は,「平成12年春ころから,被告人と親しい付き合いをしていたが,同年春にアメリカ・カナダ旅行へ行く前に母A1が希望していたi1の借り上げについての話を被告人にしたことがある。このときは,被告人がi1に食事に来たことから,「母とi1の建物を誰かに借りてほしいんだということを話しているんです」「どこか借りてくれる人がいればいいなと思ってるんです」と話をした。被告人は,「そうか」という返事をしていた。ただ,このときは,私たちの願いをかなえてくれる人はいないと思っていた。このころは不景気だったし,会社もリストラで財産を処分しているという時期だったので,私や母の希望をかなえて,i1を借りようとしてくれるところなどそうそう見つからないだろうと思っていた。」などと供述しており,この供述自体は格別不合理な内容ではなく,乙がA1やB1と日ごろから話していた内容に沿う自然なものであるから,そのようなやり取りがあったことについては信用性が認められるところ,前記の前提事実記載のとおり,被告人は,上記の乙の話を聞いたころとほぼ同時期にあたる平成12年5月10日にk2のe2ビジョンの中間報告において,M2にi1の同ビジョンへの組み入れを依頼している上,同年5月のアメリカ・カナダ旅行から帰ってきた翌日である同年5月29日,市役所における朝のミーティングでi1事業をしたいと市の幹部に話をしているのであって,被告人は,乙及びその母A1において,i1を借り上げてほしいという意向があることを知ってほとんど間髪を入れずにi1借り上げのための具体的行動を起こしたものとみることができる。
(3) 被告人及び乙の動機
ア 被告人の動機
被告人は,本件当時,a1市長の地位にあったことから,市長としての報酬を受け取っていたが,それ以外には安定的かつ定期的な収入の存在が窺われない。そのような中にあって,被告人は,前記の前提事実記載のとおり,継続的に相当額の現金を渡すなどして乙に対して大きな経済的支援をしており,当時,乙の母A1の個人資産から借り出してその経営を続けていたi1をa1市において借り上げることは,もとより乙らの希望に添うものであり,その契約内容如何によっては(本件賃貸借契約内容のように乙側に有利であれば乙らの確実な生活保障にもつながる契約となる)乙に非常に有利な契約となり,当時愛人関係になってさして間のない乙のいっそうの歓心を買うことができ,その関係を維持するのに役立つことは明らかである。
したがって,被告人に本件犯行の動機があることは明らかである。
イ 乙の動機
i1は,平成9年から毎年赤字を計上しており,経営努力の甲斐もなく,経営していたA1が自己の資金を貸し出す形で赤字を埋め合わせて経営を続けていた。経営していたA1においても,自己の引退後に乙に女将をさせるのは可哀想だと考えている旨述べており,乙自身においても,どうしても女将を続けたいという希望はなかった。また,前記のように,乙,A1及びB1においては,i1を県や市といった地方公共団体,会社等に借り上げてほしいという話をしていた。これらの事情からすると,乙らは,地方公共団体等が借りてくれれば,赤字が続き経営改善の難しい料亭の営業という苦労を続けることなく,長期にわたって安定した収入を得ることができると考えていたことが認められ,その契約内容如何によってはA1を中心としてi1の経営を続けるよりも容易に大きな収益をあげることができると考えていたということができる。
したがって,乙にも本件犯行の動機が認められる。
(4) 乙における被告人の任務違背及び損害発生についての認識の存在,図利加害目的の存在と共謀の成立
ア 乙における被告人の任務違背及び損害発生についての認識と図利加害目的の存在
乙は,捜査段階において,i1は,築年数が40年以上経過しているばかりか,昭和60年ころには防火設備の関係から従来の料理旅館を続けられず,料亭へと営業形態を転じて営業を続けており,バブル経済の崩壊に伴って売上げも減少し,建物の傷みに対して修理したり,庭の手入れをするなどといったi1の当時の現状を維持していくだけでも費用が嵩んでいたと供述しているほか,当時,以前ほどの眺望の美しさは失われ,近隣には廃旅館等が放置されている上,i1の売上げも落ちて赤字状態が続き,高級料亭として行ってきた従来の営業方法の見直しを進めなければならない状況にあったとし,A1らとの間でi1の建物を誰かに借りてほしいなどと話をしていたが(被告人にもその旨伝えている。),不景気で会社もリストラで財産を処分している時期であったことから自分たちの願いを叶えて,i1を借りてくれる人などいないと思っていたなどとも供述している。
その一方で,乙は,本件賃貸借契約の賃料が月額140万円となった経緯として,140万円というのは150万円だった当初の金額が減額されて決まった金額だが,その150万円という金額は,乙が,A2に対して,地代や固定資産税を除いて,乙ら3人分(乙,B1及びA1)の給料分は頂きたいと考えているとし,乙が当時受け取っていた給料が手取りで25万円である旨告げたところ,A2の方から提示された金額であり,地代と固定資産税,3人分の給料相当額の生活費を合わせても1月あたり100ないし120万円くらいであったことから,それを上回る金額として非常に有難い話だと思ったなどと供述している。
そして,上記の乙の各供述は,概ね一貫した内容を有しており,事実関係をことさら歪曲させて供述しているといった事情も窺われず,i1の当時の経営状態やその近隣の状況等については客観的な裏付けがみられることから,これに一定の信用性が認められるので,上記のような事実経過が存在したとみられるところ,乙においては,乙らが希望するような好条件でi1を借り上げてくれる者が容易に現れるものではないことについては十分認識していたといえ,それにもかかわらず,自分側が提示した希望賃料額を大きく上回る高額な賃料の提示を市側からいきなり受けていることから,その中に通常の取引過程にはみられない異常性や特異性ないし市側による作為性が存在することを十分認識していたというべきである。加えて,契約の相手方がa1市という地方公共団体であるから賃借料の原資には市民らの税金等が充てられることは明白であるところ,乙は自己の提示した金額を大きく上回る金額の提示を受けていながら,その算定根拠について何らの確認等を行った形跡が窺われないなど,A2が提示した高額な賃料等の条件を何らの不満や疑問も述べずにそのまま受け入れている。しかも,本件賃貸借契約における借主であるa1市の提示額は,乙及びB1に対し,同人がi1において勤務していたときとほぼ同額かそれ以上の収入をもたらすのみならず,当時無給とされ,店主貸しまで余儀なくされていたA1に対しても乙と同額の収入を得させる内容であるところ,乙においては,前記のようなi1の現状に加え,従前からi1において乙ら全員の労働の対価として支払われていた金額より多額の金額を何ら労務の提供なくして居ながらにして受領できるものであったことから,a1市においてはその利用目的如何にかかわらず,少なくとも経済的な面においては,採算性を図ることが非常に厳しいことを十分に理解していたはずである。さらに,i1の建物の一部は国有地に無断で建てられており,これについては国から撤去を求められていたにもかかわらず,i1をa1市が借り上げることとなり,a1市と近畿財務局との交渉によって国有地の無断使用部分についてもa1市が地代を負担することとなり,建物を撤去しなければならない不安が解消されている。
そうすると,乙においては,自己が提示した金額を大きく上回る賃借料でa1市にi1を借り上げてもらうことになっている外,同市側から乙側に有利な各種の配慮がなされており,通常の取引過程にはみられない特異性,異常性が存在し,かつ上記の賃借料ではi1事業の採算性を図ることが非常に厳しいことをも認識していたというべきであるから,このような賃料額を含む契約条件が提示されること自体,a1市内部において,適正かつ十分な審査や手続を経ていないものと認識しえたはずであるし,乙自身,i1事業を始めることについては平成12年5月の時点で既に飛行機内で被告人から直接聞いていたこと,同月30日ころ,被告人は,A2らを伴ってi1の視察に行っており,以後,乙側との交渉を被告人の側近ともいえる立場のA2が進めていること,さらに被告人との交際状況やメール等による頻繁な連絡状況などからすると,乙側に非常に有利な内容のi1事業を実質的に決定していたのが被告人であることについても十分に認識があったというべきである。
したがって,乙においては,本件賃貸借契約の締結は,自分や家族を一方的に厚遇する被告人の任務に背く行為であって,それによって自己や家族に法外な賃料収入をもたらす反面,a1市に不当な経済的負担を強いて同市に損害を与えることを認識,認容していたと認められる。
また,乙には前記のような動機も認められることから,被告人の権限濫用,任務違背を自己のために利用しようと考えていたことも明らかである。
イ 共謀の成立
(ア) 以上のとおり,被告人は,平成12年4月ころから乙と愛人関係にあり,日常的に意思疎通が図れる関係を形成していた上,乙に対して,同じころから継続的に相当額の現金を供与するなど各種の便宜を図っていたことからすると,被告人がa1市の事業として最初にi1の活用計画を明らかにした同年5月10日のk2の中間報告の時点で,市長の権限を濫用してでも,i1をa1市で活用することで乙らに利益をもたらそうと考えていたと推認することができ,他方,乙においても,同年5月のアメリカ・カナダ旅行の帰国中の機内において,被告人から市によるi1の活用を最初に打診された際には,それまでに乙家においてはA1らがa1市等によって借り上げてもらえたら良いなどと話をしていた上,被告人と親密な関係になっていたことから,それが乙らにとって非常に都合の良い話となる可能性が高いとの認識を有するに至ったと認めることができる。
しかし,「はじめに」で論じたように,本件における被告人による背任罪の任務違反の有無を決するためには,借受違反のみならず借受条件違反の検討が不可欠で,前述したようにi1の賃貸借契約の内容が,相場を大きく上回る高額の賃料を設定したり本来は不要な敷金を差し入れたりするなど乙側に不当に有利なものとなる見込みであることが明らかになって,はじめて被告人の任務違反に実質的な違法性があることを客観的に確定することができると考えられるところ,平成12年5月ころの時点においては,未だ,i1の賃貸借条件は全く具体化されていなかったことから,乙においても,前記のように被告人が,乙らにとって非常に都合がよく,i1を市に借り受けさせてくれる可能性が高いという認識を有していた以上に,その賃貸借契約の内容が,自分側に不当に有利になることまでをも十分認識することができていたと考えることは困難であって,乙において,その時点で,被告人が,i1事業において,市長としての職務権限を濫用して任務違背に出ることを認識,認容していたと認めるに足る十分な証拠はない。
そうすると,平成12年5月ころの時点において,既に,被告人と乙との間に本件背任罪に関する共謀が成立していたとする検察官の主張は,その限りでは採用することができない。
(イ) もっとも,平成12年7月下旬から8月上旬ころにかけて,本件賃貸借契約の主要な条件である本件賃貸借契約の賃料が月額140万円と決まった経緯については,前記のとおりであるが,当時のi1の地代と固定資産税,乙ら3人(乙,B1及びA1)分の給料相当額の生活費を合わせると1か月あたり100ないし120万円くらいであったことから,乙において,A2に対し,地代や固定資産税を除いて,乙ら3人分の給料分は頂きたいと考えているとして,乙らが当時受け取っていた給料の手取り額が25万円ないし30万円であることなどを告げたところ,A2の方からいきなり150万円と提示があったもので,この点につき,乙は,想定を超えた金額で非常に有難い話だと思った旨述べているのであって,この内容自体,当時のi1の苦しい経営状況に即していることなどから信用できるものであるが,乙らは,前記のように自分達が希望するような条件ですらi1を借り上げてくれる者は容易に見出し難いことを十分認識していたにもかかわらず,これを大きく上回る金額の提示をA2からいきなり受け,その金額の算定根拠等を特段確認することなく受け入れたことが認められる。
そもそも,正常な双務有償契約における条件交渉及びその決定過程において,一方当事者がもっぱら自分側の都合を考え申し出た契約条件に対し,相手方当事者が特段の事情もないのにより債務負担の大きい劣悪な内容の反対提案をすることは通常の経済取引過程においては見られない希有な事態であると考えられるところ,正にそのような状況に遭遇した乙においても,その特異性,異常性については十分に認識していたものと認められるし,前記のとおり乙は,それまでに親密な関係となった被告人から各種の方法によって既に多くの便宜を図ってもらっていた上,乙自身,i1事業については平成12年5月に飛行機内で被告人から聞かされていたことや,同月30日ころ,被告人がA2らを伴ってi1に行き,内部を視察した際にも立ち会っており,それ以後,乙側との交渉を被告人の側近といえるA2が進めていること,乙も捜査段階において,被告人が(i1)事業の責任者であることから,契約を決めたのは被告人だと思っていたと供述していることからすると,乙においては,i1事業を実質的に決定していたのが被告人であることについても十分に認識していたといえ,さらに,乙はi1の若女将として勤務し,それまでの経営状態や周辺旅館等の状況等に照らすとそのような賃借料では一般的に採算性を図ることが非常に厳しいことをも認識していたというべきであるから,このような賃料額の申し出が市側からいきなりなされること自体適正かつ十分な審査や手続を経ていないものと十分に予測し得たと考えられる。しかも,乙は,被告人と当時頻繁に面会していたことはもとより,同人との間において,携帯電話等のメールのやり取りを繰り返しており,相互の意思疎通も十分になされていたといえる客観的情勢からすると,少なくとも被告人に対してはいとも簡単にその理由を確認できる状況にあったのであるし,これに先立ち,乙は,多額の現金をくれようとしていた被告人にその理由を尋ねたことは自認しているのであるから,これよりもはるかに大きな経済的利益を自分のみならずその母や弟にまでもたらすことになる市側の賃料額の提示に何らの疑問を抱かなかったなどとは考え難い。なお,乙において,具体的にどのような手続等を経て本件賃貸借契約をa1市側が具体化させていくかという点についての知識が十分にはなかったとしても,そのことはa1市の内部決裁,手続等の問題に帰着するにとどまり,背任の共謀の成立を妨げるような事情とみることはできない。
上記の事情からすると,乙側が提示した賃料額を何らの交渉も経ないまま,これを大きく上回る賃料額の提示を市側から受け,これを承諾した時点ころにおいては,身分なき乙においても,市の利益を犠牲にしてでも乙らの利益を図ろうとしている被告人の意図を察知し,その任務違背行為を自己のために利用しようとしている客観的状況が明らかになったということができるから,身分なき乙と身分を有する被告人との間で本件背任についての共謀が成立したとみるべきである(なお,(罪となるべき事実)中では,共謀の時期を明示してはいないが,このような趣旨で「共謀の上」と記載している。)。
(5) 被告人の弁解供述
被告人は,当公判廷において,そもそも乙からi1を市等において借り上げてほしいなどと相談されたことはなく,i1の借り上げを思い付いたのは,平成12年5月10日にk2のe2ビジョンの中間報告を受けたことが切っ掛けであり,同年5月14日ころからアメリカ・カナダ旅行に行く前にA1に対し,i1をa1市に売ることについての可能性の打診をした際に,売るのではなく貸すのであればよいとの返事を受けたにすぎず,アメリカ・カナダ旅行へ行った際,市職員らとr1地域の再生等の話をした中でi1の話題が出たかも知れないが,乙に対して,個人的にi1の話をしたことはないし,それ以後も,公務とプライベートを区別していたことから,乙と本件賃貸借契約の内容に関することについては一切話しておらず,その内容や条件,手続といった事務的な事柄については,A2や担当部署等に任せていたため,その詳細は分からない,乙とのメールの送信回数が多いのは送信に失敗したことが原因であるなどとの弁解供述をしている。
しかしながら,被告人の前記供述は,捜査段階からその内容を大きく変遷させているところ,変遷させた理由については,捜査段階では明確な記憶がなく思い出せなかったが,公判に至り,弁護人から資料を見せてもらって思い出したなどと説明しており,自身が市長就任以来,熱心に取り組んできたと繰り返し公判で強調するr1地域の活性化の一環としての事業に関する説明としてはあまりに不自然といわざるを得ないし,公判においても本件で重要な節目となる各出来事の時期等の特定については曖昧な供述を繰り返し,意図的に特定を避けていると窺える部分も多数存在する。しかも,被告人の弁解供述の内容は,自己が当時使用していた手帳等の記載に基づいて捜査官から取調べを受け,外形的事実経過については比較的素直に供述しているとみられる乙が,平成12年5月のアメリカ・カナダ旅行の帰りの飛行機内において,被告人からi1を美術館にする旨言われたと明確に供述していることや,乙が旅行から戻ってきてから間もなくi1をa1市が借りて使用するといった話を乙から聞かされたとA1が公判で証言していることとも齟齬しているほか,i1には,被告人と愛人関係にある乙がその若女将として勤務し,その実母A1がi1に居住しているため,i1事業が乙らの生活状況を大きく変えることは明らかであることから,そもそも公務としてのi1事業とプライベートとしての乙らとの関係を区別すること自体がほとんど不可能ともいえる状況にあったにもかかわらず,これを明確に区別して行動していたと強調すること自体,およそ真実味のない著しく不自然な弁解といわざるを得ないし,被告人は公務である視察旅行等に乙を同行させ,執務時間内外の区別を全くすることなく乙にメールの送信等を行っていることからすると,公務とプライベートの区別という点では被告人の弁解供述は裏付けを欠き,逆に公私混同も甚だしいとの非難を免れないばかりか,被告人と乙とのメール送受信の記録からは,i1事業の推進に向けた節目となる出来事と重なる時期を含めて互いにメール等を頻繁に交換しあっている状況が浮かび上がっていることからも,全く不合理な弁解といわざるを得ない。 なお,多数回に及ぶメール送信の失敗をいう被告人の弁解は,前記送受信の記録にみられるメールのやり取りの状況や乙の捜査段階における供述に照らすと,到底信用できない。さらに,これまでに明らかにしてきたように,i1事業においてはトップダウンの事業として,被告人が発案し,その実質的内容を決定した上,その具体化の過程の各段階においても,被告人が深く関与してきたことは明白であるから,担当部署関係者のみにその責任があるかのような弁解供述は,本件の責任を部下に転嫁しようとする不合理な弁解とみざるを得ず,全く信用することができない。
なお,乙においても,公務とプライベートを分けていたし,具体的な契約条項や手続についてはa1市に任せており,適切に処理されていると思っていたのであるから,任務違背や故意,図利加害目的等も認められない上に,共謀も存しないと供述しているが,これまでに検討してきたところから明らかなとおり,これらの主張も同様に信用することができない。
(6) 小括
以上の次第で,上記のように乙が提示した賃料を大きく上回る賃料の提示をa1市側から受けて乙がこれを了承した時点ころにおいて,被告人と乙との間で本件任務違背行為についての共謀が成立したというべきである。
8  総括
これまで認定説示してきたところから明らかなように,被告人が,乙と共謀の上,乙らの利益を図るために,市長としての任務に背き,本来は借り受ける必要のないi1について乙らに不当に有利な内容の賃貸借契約を締結し,これに基づきa1市に合計4900万円を支払わせて損害を与えたことに合理的疑いを差し挟む余地はなく,これに反する弁護人らの主張はすべて採用することができない。
(量刑の理由)
1  本件は,当時,a1市長であった被告人が,e1の代表者である甲から,同社の土地を市が買収するにあたって便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいという趣旨の下に,現金300万円の交付を受けたという収賄(判示第1の犯行),愛人関係にあったi1の若女将乙と共謀の上,市長の立場にあることを奇貨として,乙らの利益を図る目的で,乙らが所有する料亭の建物を市において借り受ける不当な内容の賃貸借契約を締結し,市から乙らに対して賃料等合計4900万円を支払わせ,市に損害を与えたという背任(判示第2の犯行)の事案である。
2  収賄事件
被告人は,当時,a1市長という重責にありながら,その職責を忘れ,もっぱら自らの金銭欲を満たすという強い利欲に基づく極めて自己中心的な動機に基づいて本件犯行に及んでおり,酌量の余地が全く認められない。
本件犯行においては,被告人側から謝礼として現金等を要求した形跡は窺われないものの,j1(建物及びその敷地)を購入してそこにマンション建設を進めようとしていたe1の代表取締役甲に対して,被告人が市長として,a1市が当該土地を買い上げようとする態度や逆にそれを否定するかのような一貫しない態度を繰り返し示したことで,甲をしてその対応に苦慮させる状況に陥らせていたところ,一転して甲をa1市役所に来庁させて自ら直接交渉をすることにより,市側の事業計画も十分に整わない状況下で甲に約1億円もの転売差益をもたらす価格で当該土地を購入する契約を締結し,その翌日のうちには政策調整会議や公社の理事会の開催を経て市議会に議案提出させる取り計らいをすることによって特定業者に大きな利益を与え,そのような厚遇を望外のこととして喜んだ甲をして,その謝礼として現金の交付をする決意をさせたもので,自らこの種の不正を招くような事態を作り出していることからすると,本件犯行に至る経緯にも酌むべき事情は見当たらない。しかも,被告人は,執務時間である平日の午前中,こともあろうにa1市役所市長室において,甲がお礼として差し出した現金入りの袋を全く躊躇も示さずいともたやすく受け取っているのであって,その態様は,罪障感を著しく欠き,市長としての職務の廉潔性を大きく損なう大胆かつ悪質な犯行である。収受した現金は300万円と高額に及ぶ上,被告人はこれをすべて自己の用途等に費消しているとみられることからすると,それだけの利益を享受しており,市政に対する信頼を非常に大きく裏切る悪質な犯行であり,強い非難を免れない。
3  背任事件
被告人は,乙と愛人関係にあったところ,乙及びその家族に多額の利益をもたらすことで乙のいっそうの歓心を買い,同女との関係を維持しようという極めて自己中心的かつ身勝手な動機に基づいて本件犯行に及んでおり,その公私混同振りは目に余るものがあり,酌量の余地が全く認められない。
本件犯行は,自己がa1市長の地位にあることを利用し,a1市で取り組んできたr1地域の振興等に名を借り,事務分掌上の権限が全くないにもかかわらず,自己の腹心の部下で,自己の意のままに行動する首席審議監にi1事業を排他的に担当させた上,担当各部署には乙側との実質的な交渉や事業の十分な審査,検討をさせないまま,乙らの賃料希望額を大きく超え,賃貸借期間もその希望に沿う長期にわたるなどの同女らに著しく有利な内容の本件賃貸借契約を自ら決定し,これを取り繕うためにi1事業をe2ビジョンに組み込ませると共に,関連性の乏しい花いっぱい大会に間に合わせたいなどと説明し,i1事業がいわゆるトップダウンの事業であったにもかかわらず,あたかもいわゆるボトムアップの事業であったかのような体裁を整えさせるなどの種々の画策をした上,未だ政策調整会議の承認を得ていない段階で市長査定を開かせてその場で強引に同事業を承認させ,議会審議の場でも正確かつ十分な情報を提供しないまま同事業を承認させるなど,極めて強権的かつ計画的に犯行が進められており,誠実に職務にあたっていた多くの市職員を事件に巻き込んでいるのであって,その態様は大胆かつ巧妙で極めて悪質なものといわざるを得ない。とりわけ,本件は,被告人が愛人である乙の歓心を買うために,a1市民によって誠実に納付された貴重な多額の税金を,同女やその家族の利益を図ることを意図し,表向きにはr1の振興や活性化というもっともらしい理由を付けて流用したものであって,選挙民の付託を受けた地方自治体の首長のとるべき行動として非常識極まりない言語道断の犯行である。
本件犯行の結果,a1市においては,当時の逼迫した財政事情の中で,乙らに対し,合計4900万円の支出を余儀なくされているほか,i1の改修工事や維持管理費等のためこれをはるかに上回る支出を強いられ,現実に市民の多くの税金が不当に投入されるという結果を招いており,派生的なものを含め,本件によりa1市が被った損害は大きく,仮に,i1事業が計画どおり進められていれば,平成32年3月まで合計約9億円もの多額の継続的な支出を迫られた可能性が高い。
本件においては,a1市が本件賃貸借契約の解除を主張して乙らとの間で民事裁判に発展し,本件公判における証拠調終了時点においては未だその決着をみていない上,本件による損害も何ら回復されていない。
4  以上のように,本件は,いずれの犯行をみても,極めて悪質かつ重大な事案であるといわざるを得ないところ,被告人はいずれの犯行についても捜査段階から当公判を通じて否認しており,反省の様子はみじんもみられないばかりか,とりわけ収賄事件においては,j1跡地の買収経過や甲との面談状況等について,不自然不合理な弁解供述に終始し,背任事件においては,i1事業は担当部署等が適切に判断した結果であると強弁し,専門的,技術的な部分については知らないなどとして自己の実質的な関与を否定した上で,被告人に忠実に行動していた首席審議監や各担当者らにその責任を押しつける弁解供述を展開しているのであって,自ら率先してこれらの事業を強引に押し進めてきたにもかかわらず,いざその責任を問われる段階に至るや一転して自己の責任を免れようとする態度に終始し,あまつさえ捜査機関が政治介入して自分を陥れようとしているとさえ主張しているのであって,このような応訴態度も厳しい非難を免れないというべきである。
本件各犯行は,市長の職にあった被告人が市政を私物化した挙げ句,いずれもその職務の遂行に際して,ほぼ同時期に相次いで引き起こしたものであって,その結果,市政に多くの混乱を招いたことはもとより,市民の市政に対する信頼や期待を大きく裏切り,日々真摯に勤務している多数の市職員をはじめとする公務員全体に対する信頼を失墜させると同時にその士気を低下せしめるものである上,当時の現職市長による犯行として世間の耳目を集めるなどその社会的影響も大きい。近時,公務員の職務の遂行に際しての犯罪が相次ぎ,国民の非難を浴びている現状に鑑みると,この種事犯に対しては一般予防の見地からも厳しい態度で臨み,その再発を防止する必要性が高い。
5  そうすると,被告人の刑事責任は極めて重いといわざるを得ず,他方において,被告人には業務上過失傷害による罰金前科以外には前科がなく,a1市長ないしa1市議会議員として市政に一定の貢献をしてきたこと,本件が大きく報道され社会的制裁を受けている外,身柄拘束期間も長期に及んでいることなどの被告人のために有利に斟酌すべき事情を考慮しても,被告人に対しては主文の実刑をもって臨むのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑)懲役5年,金300万円の追徴
(裁判長裁判官 樋口裕晃 裁判官 田中伸一 裁判官 新宮智之)


「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧
(1)令和元年 9月 6日 大阪地裁 令元(わ)2059号 公職選挙法違反被告事件
(2)平成31年 3月 7日 知財高裁 平30(行ケ)10141号 審決取消請求事件
(3)平成30年12月18日 高知地裁 平28(行ウ)8号 損害賠償請求及び公金支出差止請求事件
(4)平成30年 9月28日 東京地裁 平26(ワ)10773号 損害賠償請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)
(5)平成30年 6月 6日 東京高裁 平29(ネ)2854号 株主代表訴訟控訴事件
(6)平成30年 4月25日 東京地裁 平28(ワ)31号 証書真否確認、立替金等返還債務不存在確認等請求事件、立替金返還請求反訴事件、立替金請求反訴事件
(7)平成30年 3月30日 東京地裁 平27(ワ)37147号 損害賠償請求事件
(8)平成30年 3月28日 東京地裁 平27(行ウ)616号 閲覧謄写請求事件
(9)平成30年 3月26日 東京地裁立川支部 平28(ワ)2678号 損害賠償請求事件
(10)平成30年 2月 8日 仙台高裁 平29(行コ)5号 政務調査費返還履行等請求控訴事件、同附帯控訴事件
(11)平成29年 5月22日 東京地裁 平28(特わ)807号 公職選挙法違反被告事件
(12)平成29年 3月28日 東京地裁 平25(ワ)28292号 謝罪広告等請求事件
(13)平成29年 3月 8日 東京地裁 平26(行ウ)300号 地位確認等請求事件
(14)平成29年 2月 2日 東京地裁 平26(ワ)25493号 株式代金等請求事件(本訴)、損害賠償請求反訴事件(反訴)
(15)平成29年 1月31日 仙台地裁 平25(行ウ)11号 政務調査費返還履行等請求事件
(16)平成28年 9月16日 福岡高裁那覇支部 平28(行ケ)3号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
(17)平成28年 9月 2日 福岡高裁 平28(う)180号 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反、公契約関係競売入札妨害、加重収賄被告事件
(18)平成28年 4月22日 新潟地裁 平25(行ウ)7号 政務調査費返還履行請求事件
(19)平成28年 3月30日 東京地裁 平21(行ウ)288号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(20)平成28年 3月17日 東京地裁 平26(ワ)23904号 地位確認等請求事件
(21)平成28年 3月17日 福岡地裁 平26(わ)1215号 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反,公契約関係競売入札妨害,加重収賄被告事件
(22)平成28年 3月17日 福岡地裁 平26(わ)968号 入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律違反、公契約関係競売入札妨害、加重収賄被告事件
(23)平成27年 4月22日 東京地裁 平25(行ウ)792号 土地区画整理組合設立認可取消等請求事件
(24)平成27年 2月19日 東京地裁 平25(ワ)19575号 遺言無効確認請求事件、不当利得返還請求事件
(25)平成26年10月27日 熊本地裁 平23(行ウ)9号 損害賠償履行請求事件
(26)平成26年10月20日 東京地裁 平25(ワ)8482号 損害賠償請求事件
(27)平成26年 2月28日 東京地裁 平25(ヨ)21134号 配転命令無効確認仮処分申立事件 〔東京測器研究所(仮処分)事件〕
(28)平成26年 2月26日 東京地裁 平24(ワ)10342号 謝罪広告掲載等請求事件
(29)平成25年 1月29日 和歌山地裁 平19(行ウ)7号 政務調査費違法支出金返還請求事件
(30)平成24年 5月28日 東京地裁 平24(ヨ)20045号 職務執行停止・代行者選任等仮処分命令申立事件
(31)平成23年 8月31日 東京地裁 平22(行ウ)24号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(32)平成22年 7月22日 東京地裁 平20(ワ)15879号 損害賠償請求事件
(33)平成21年10月14日 東京高裁 平20(う)2284号
(34)平成21年 7月28日 東京地裁 平18(ワ)22579号 請負代金請求事件
(35)平成21年 4月28日 大阪地裁 平19(わ)4648号 談合被告事件
(36)平成21年 4月28日 大阪地裁 平19(わ)3456号 談合、収賄被告事件
(37)平成21年 3月27日 宮崎地裁 平18(わ)526号 競売入札妨害、事前収賄、第三者供賄被告事件
(38)平成21年 3月 3日 東京地裁 平19(ワ)10972号 謝罪広告等請求事件
(39)平成21年 3月 3日 水戸地裁 平18(行ウ)7号 小型風力発電機設置事業に係わる損害賠償請求事件
(40)平成21年 3月 2日 東京地裁 平20(ワ)6444号 売上代金請求事件
(41)平成20年10月31日 大阪地裁 平17(行ウ)3号 損害賠償請求、不当利得金返還請求事件(住民訴訟) 〔枚方市非常勤職員特別報酬住民訴訟〕
(42)平成20年 9月29日 東京地裁 平18(ワ)7294号 損害賠償請求事件 〔つくば市 対 早稲田大学 風力発電機事件・第一審〕
(43)平成20年 9月 9日 東京地裁 平18(ワ)18306号 損害賠償等請求事件
(44)平成20年 8月 8日 東京地裁 平18(刑わ)3785号 収賄、競売入札妨害被告事件〔福島県談合汚職事件〕
(45)平成20年 5月27日 東京地裁 平18(ワ)24618号 損害賠償請求事件
(46)平成20年 3月27日 東京地裁 平18(ワ)18305号 損害賠償等請求事件
(47)平成20年 1月18日 東京地裁 平18(ワ)28649号 損害賠償請求事件
(48)平成19年11月 2日 東京地裁 平19(ワ)4118号 損害賠償請求事件
(49)平成19年 3月13日 静岡地裁沼津支部 平17(ワ)21号 損害賠償請求事件
(50)平成17年11月18日 和歌山地裁 平15(わ)29号 収賄、背任被告事件
(51)平成17年 8月29日 東京地裁 平16(ワ)667号 保険金請求事件
(52)平成17年 7月 6日 東京地裁 平17(ワ)229号 請負代金等請求事件
(53)平成17年 5月31日 東京高裁 平16(ネ)5007号 損害賠償等請求控訴事件
(54)平成17年 5月24日 岡山地裁 平8(行ウ)23号 損害賠償等請求事件
(55)平成17年 2月23日 名古屋地裁 平13(ワ)1718号 労働契約上の地位確認等請求事件 〔山田紡績事件〕
(56)平成17年 2月22日 福島地裁郡山支部 平14(ワ)115号 損害賠償請求事件
(57)平成16年 9月 9日 名古屋地裁 平15(行ウ)34号 損害賠償請求事件
(58)平成16年 8月10日 青森地裁 平15(ワ)32号 名誉毀損に基づく損害賠償請求事件
(59)平成16年 5月28日 東京地裁 平5(刑わ)2335号 贈賄被告事件 〔ゼネコン汚職事件〕
(60)平成15年11月26日 大阪地裁 平14(行ウ)186号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔大阪地労委(大阪ローリー運輸労組・双辰商会)事件・第一審〕
(61)平成15年 7月28日 東京地裁 平14(ワ)21486号 損害賠償請求事件
(62)平成15年 4月10日 大阪地裁 平12(行ウ)107号 埋立不許可処分取消請求事件
(63)平成15年 3月 4日 東京地裁 平元(刑わ)1047号 日本電信電話株式会社法違反、贈賄被告事件 〔リクルート事件(政界・労働省ルート)社長室次長関係判決〕
(64)平成15年 2月20日 広島高裁 平14(う)140号 背任被告事件
(65)平成15年 1月29日 広島地裁 平12(ワ)1268号 漁業補償金支払に対する株主代表訴訟事件 〔中国電力株主代表訴訟事件・第一審〕
(66)平成14年10月10日 福岡地裁小倉支部 平11(ワ)754号 損害賠償請求事件
(67)平成14年10月 3日 新潟地裁 平13(行ウ)1号 仮換地指定取消請求事件
(68)平成14年 5月13日 東京地裁 平13(ワ)2570号 謝罪広告等請求事件
(69)平成13年 7月18日 大阪地裁 平12(ワ)4692号 社員代表訴訟等、共同訴訟参加事件 〔日本生命政治献金社員代表訴訟事件〕
(70)平成12年 8月24日 東京地裁 平10(ワ)8449号 損害賠償等請求事件
(71)平成12年 3月14日 名古屋高裁 平10(う)249号 収賄、贈賄被告事件
(72)平成12年 2月18日 徳島地裁 平7(行ウ)13号 住民訴訟による原状回復等請求事件
(73)平成10年 4月20日 大阪地裁 平6(ワ)11996号 損害賠償請求事件 〔誠光社事件・第一審〕
(74)平成10年 3月31日 東京地裁 平7(ワ)22711号 謝罪広告請求事件
(75)平成10年 3月26日 名古屋地裁 平3(ワ)1419号 損害賠償請求事件 〔青春を返せ名古屋訴訟判決〕
(76)平成 9年10月24日 最高裁第一小法廷 平7(あ)1178号 法人税法違反被告事件
(77)平成 9年 3月21日 東京地裁 平5(刑わ)2020号 収賄、贈賄等被告事件 〔ゼネコン汚職事件(宮城県知事ルート)〕
(78)平成 8年 2月14日 東京高裁 平6(う)342号 法人税法違反被告事件
(79)平成 7年 9月20日 福岡地裁 平5(行ウ)17号 地方労働委員会命令取消請求事件 〔西福岡自動車学校救済命令取消等事件〕
(80)平成 7年 2月23日 最高裁第一小法廷 平5(行ツ)99号 法人税更正処分等取消請求上告事件
(81)平成 6年12月21日 東京地裁 平元(刑わ)1048号 日本電信電話林式会社法違反、贈賄被告事件 〔リクルート事件政界ルート判決〕
(82)平成 6年 5月 6日 奈良地裁 昭60(わ)20号 法人税法違反被告事件
(83)平成 5年 3月16日 札幌地裁 平元(わ)559号 受託収賄被告事件 〔北海道新長計汚職事件〕
(84)平成 2年 8月30日 福岡地裁 昭58(ワ)1458号 損害賠償請求事件
(85)平成 2年 4月25日 東京高裁 昭63(う)1249号 相続税法違反被告事件
(86)平成 2年 3月30日 広島地裁呉支部 昭59(ワ)160号 慰謝料請求事件
(87)平成元年 3月27日 東京地裁 昭62(特わ)1889号 強盗殺人、死体遺棄、通貨偽造、銃砲刀剣類所持等取締法違反、火薬類取締法違反、強盗殺人幇助、死体遺棄幇助被告事件 〔板橋宝石商殺し事件・第一審〕
(88)昭和63年11月 2日 松山地裁 昭59(行ウ)4号 織田が浜埋立工事費用支出差止請求訴訟第一審判決
(89)昭和62年 7月29日 東京高裁 昭59(う)263号 受託収賄、外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件 〔ロッキード事件丸紅ルート・控訴審〕
(90)昭和62年 2月19日 東京高裁 昭61(ネ)833号 損害賠償等請求控訴事件 〔総選挙当落予想表事件〕
(91)昭和61年 6月23日 大阪地裁 昭55(ワ)5741号
(92)昭和61年 3月31日 大阪地裁 昭59(ヨ)5089号
(93)昭和60年 9月26日 東京地裁 昭53(行ウ)120号 権利変換処分取消請求事件
(94)昭和60年 3月26日 東京地裁 昭56(刑わ)288号 恐喝、同未遂被告事件 〔創価学会恐喝事件〕
(95)昭和60年 3月22日 東京地裁 昭56(特わ)387号 所得税法違反事件 〔誠備グループ脱税事件〕
(96)昭和59年12月19日 那覇地裁 昭58(ワ)409号 損害賠償請求事件
(97)昭和58年10月12日 東京地裁 昭51(特わ)1948号 受託収賄、外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反事件 〔ロッキード事件(丸紅ルート)〕
(98)昭和56年 9月 3日 旭川地裁 昭53(ワ)359号 謝罪広告等請求事件
(99)昭和55年 7月24日 東京地裁 昭54(特わ)996号 外国為替及び外国貿易管理法違反、有印私文書偽造、有印私文書偽造行使、業務上横領、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反事件 〔日商岩井不正事件(海部関係)判決〕
(100)昭和52年 9月30日 名古屋地裁 昭48(わ)2147号 商法違反、横領被告事件 〔いわゆる中日スタジアム事件・第一審〕
(101)昭和50年10月 1日 那覇地裁 昭49(ワ)51号 損害賠償請求事件 〔沖縄大蔵興業工場建設協力拒否事件・第一審〕


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選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
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