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政治と選挙Q&A「東京都都議会議員選挙 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例(17)昭和48年 9月 7日 札幌地裁 昭44(行ウ)16号・昭44(行ウ)23号・昭44(行ウ)24号 保安林指定の解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟事件〕

政治と選挙Q&A「東京都都議会議員選挙 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例(17)昭和48年 9月 7日 札幌地裁 昭44(行ウ)16号・昭44(行ウ)23号・昭44(行ウ)24号 保安林指定の解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟事件〕

裁判年月日  昭和48年 9月 7日  裁判所名  札幌地裁  裁判区分  判決
事件番号  昭44(行ウ)16号・昭44(行ウ)23号・昭44(行ウ)24号
事件名  保安林指定の解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟事件〕
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  1973WLJPCA09070006

要旨
◆保安林指定解除処分の取消訴訟における訴えの利益
◆森林法が保安林制度によつて保護しようとしている利益(取消しを求める法律上の利益)
◆保安林指定解除処分後の樹木の伐採による森林性の喪失と右解除処分の取消しによつて回復すべき法律上の利益の有無
◆保安林指定解除処分に伴う樹木の伐採後に、右保安林の機能を代替させる目的で施設を構築したが、右施設は、いまだ保安林の機能を完全に果たすまでには至つていないとして、当該解除処分の取消しの訴えの利益を認めた事例
◆保安林制度による地域住民の平和的生存権と保安林指定解除処分の取消しを求める法律上の利益
◆違憲審査権の行使が裁判所の義務とされる場合の要件
◆いわゆる統治行為論の適用範囲
◆自衛隊の憲法適合性は司法審査の対象となるか(積極)
◆憲法九条の意義
◆自衛隊及びその関係法規の違憲性
◆自衛隊の防衛に関する施設の設置目的と森林法二六条二項にいう「公益上の理由」

裁判経過
上告審 昭和57年 9月 9日 最高裁第一小法廷 判決 昭52(行ツ)56号 保安林解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟・上告審〕
控訴審 昭和51年 8月 5日 札幌高裁 判決 昭48(行コ)2号 保安林解除処分取消請求控訴事件 〔長沼ナイキ基地訴訟・控訴審〕

出典
訟月 19巻9号1頁
判タ 298号140頁
判時 712号24頁

評釈
深瀬忠一・ジュリ 771号41頁
深瀬忠一・ジュリ 555号120頁
深瀬忠一・ジュリ 552号76頁
深瀬忠一・ジュリ 550号89頁
小林直樹・ジュリ 549号48頁
福島新吾・ジュリ 549号40頁
川添利幸・ジュリ 549号35頁
宮沢俊義・ジュリ 549号16頁
市原昌三郎・ジュリ臨増 565号6頁(昭48重判解)
阿部照哉=東条武治・判評 177号2頁
新井章・判時 712号21頁
深瀬忠一・判時 712号17頁
伊達秋雄・判時 712号14頁
今村成和・判時 712号11頁
和田英夫・判時 712号7頁
佐藤功・判時 712号4頁
鈴木敦・ジュリ別冊 246号360頁(憲法判例百選Ⅱ 第7版)
鈴木敦・ジュリ別冊 218号366頁(憲法判例百選Ⅱ 第6版)
佐々木高雄・ジュリ別冊 187号376頁(憲法判例百選 II 第5版)
佐々木高雄・ジュリ別冊 155号364頁(憲法判例百選Ⅱ 第4版)
佐々木高雄・ジュリ別冊 131号356頁(憲法判例百選Ⅱ 第3版)
佐々木高雄・ジュリ別冊 96号346頁(憲法判例百選Ⅱ 第2版)
浦田一郎・ジュリ別冊 96号344頁(憲法判例百選Ⅱ 第2版)
佐々木高雄・ジュリ別冊 69号284頁(憲法判例百選Ⅱ)
浦田一郎・ジュリ別冊 69号282頁(憲法判例百選Ⅱ)
長谷川正安・法時 45巻14号19頁
深瀬忠一・法時 45巻14号25頁
和田英夫・法時 45巻14号41頁
星野安三郎・法時 45巻14号47頁
奥平康平・法時 45巻14号62頁
小林孝輔・法時 45巻14号68頁
江橋崇・法時 45巻14号75頁
小林直樹・法時 45巻14号8頁
深瀬忠一・法時 46巻2号90頁
深瀬忠一・法時 46巻3号105頁
S.H.E.・時の法令 839号47頁
S.H.E.・時の法令 840号47頁
大平善梧・青山法学論集 15巻3・4号137頁
影山日出弥・法セ 245号97頁
新井章・法セ増刊(憲法訴訟) 276頁
新井章・法と民主主義 438号26頁
新井章・法と民主主義 441号68頁

参照条文
行政事件訴訟法9条
森林法25条
森林法26条
日本国憲法81条
日本国憲法98条
日本国憲法9条
日本国憲法前文

裁判年月日  昭和48年 9月 7日  裁判所名  札幌地裁  裁判区分  判決
事件番号  昭44(行ウ)16号・昭44(行ウ)23号・昭44(行ウ)24号
事件名  保安林指定の解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟事件〕
裁判結果  認容  上訴等  控訴  文献番号  1973WLJPCA09070006

第一目 当事者の表示
第二目 主文
第三目 事実
第一次  当事者の求めた裁判
第二次  原告らの主張
第一、請求の原因
一、保安林指定の解除処分、原告らとの関係
二、憲法第九条、森林法第二六条第二項違反(公益性の欠如)
(一)憲法違反にもとづく本件処分の違法性
(二)憲法の平和主義および自衛隊と司法審査
(三)自衛隊の規模、装備、能力
(四)自衛隊の米軍との一体性および航空自衛隊の役割
(五)自衛隊の反民主主義的性格
(六)結語
三、森林法第二六条第二項違反(必要性の不存在)
四、森林法第二六条第二項違反(代替施設の不備)
五、森林法第三二条第二項違反(聴聞会の無効)
第二、被告の本案前の申立に対する反論(訴えの利益)
第三次  被告の主張・認否
第一、本案前の申立の理由(原告らの訴えの利益の欠如)
第二、原告らの請求原因に対する認否
第三、本件保安林指定の解除処分の適法性
一、保安林指定の解除処分の手続的適法性
(一)本件保安林の概要
(二)本件保安林指定の解除手続
(三)聴聞会の適法性
二、保安林指定の解除処分の実体的適法性
(一)防衛庁の計画による第三高射群施設
(二)防衛施設の設置の公益性
(三)防衛施設の最適地性
(四)解除面積の必要最少限性
(五)代替施設
三、自衛隊の合憲性
(一)統治行為論
(二)自衛隊の任務、編成、装備(自衛のための必要最少限性)
四、結語
第四次  当事者の提出・援用した証拠
第四目 理由
第一次  当事者間に争いのない事実
第二次  原告皆川咲の住所および書証の成立の認定
第三次  原告らの訴えの利益について
第四次  請求原因の判断の順序について
第五次  本件保安林指定の解除処分の憲法第九条違反、および森林法第二六条第二項の公益性の欠如について
第一、当事者双方の主張の要旨
第二、自衛隊の司法審理の法的可能性
(いわゆる統治行為論について)
第三、憲法の平和主義と同法第九条の解釈
一、憲法前文の意義
二、憲法第九条の解釈
三、右憲法解釈の実質的な裏づけ
四、自衛権と軍事力によらない自衛行動
第四、自衛隊の規模、装備、能力(関係法規も含む)
一、警察予備隊の発足から保安隊、自衛隊への発達
二、自衛隊の組織、編成、行動
三、自衛隊の装備、軍事能力、演習訓練
第五、自衛隊の対米軍関係
第六、自衛隊およびその関係法規の違憲性並びに本件保安林指定の解除処分の森林法第二六条第二項にいう公益性の欠如
第六次  結語
 

第一目 当事者の表示
1 原告らの氏名、住所および訴訟代理人の氏名は別紙当事者目録(一)記載のとおり
2 被告および指定代理人の氏名は別紙当事者目録(二)のとおり

 

第二目 主文
1  被告が昭和四四年七月七日農林省告示第一、〇二三号をもつてした左記保安林の指定を解除する旨の処分を取消す。
(1)解除にかかる保安林の所在場所
北海道夕張郡長沼町(国有林)
(2)保安林として指定された目的
水源のかん養
(3)解除の理由  高射教育訓練施設および同連絡道路敷地にするため
2  訴訟費用は被告の負担とする。

第三目 事実
第一次  当事者双方の求めた裁判
一、本案前の裁判
(被告) 「本件訴えを却下する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
二、本案についての裁判
(原告ら) 主文同旨の判決
(被告) 「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決
第二次  原告らの主張
第一、請求の原因
一、保安林指定の解除処分、原告らとの関係
1、被告農林大臣は昭和四四年七月七日請求の趣旨記載のとおり保安林指定の解除処分(以下たんに保安林指定の解除処分という)をなした。
2 原告らは右保安林所在地の夕張郡長沼町の住民であり、右保安林指定の解除に直接利害関係を有するものである。
二、憲法第九条、森林法第二六条第二項違反(公益性の欠如)
(一)  憲法違反にもとづく本件処分の違法性
本件保安林指定解除処分は航空自衛隊第三高射群の施設(いわゆるミサイル発射基地)およびその連絡道路の敷地にするためになされたものであり、国家の軍事力、防衛が公益性をもつことは当然であるという見地から森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由により必要が生じたとき」にあたるとしてなされたものである。
ところで森林法は保安林指定の解除について二つの場合を定めている。第一はすなわち、同法第二六条第一項が「同法第二五条の保安林の指定の理由が消滅したとき」遅滞なくその「指定を解除しなければならない」とされる場合であり、第二の場合は同法第二六条第二項により「公益上の理由により必要が生じたとき」被告農林大臣は必要とされる部分に限り「保安林の指定を解除することができる」とされている場合である。この第二の場合には第一の場合と対比しても明らかなように、保安林の指定の理由が消滅していないのに公益の必要から指定を解除するものであるから、ここにいう「公益の理由による必要」とは従来の保安林指定の目的をうわまわる内容程度のものでなければならず、かつその解除により周辺住民らの利害関係者の被るべき不利益を代替措置によつて十分に解消できることが当然の要件とされなければならない。このことは保安林の指定の目的が同法第二五条第一項により水源かん養(一号)、土砂の流出、崩壊の防備(二、三号)、風水害、雪害、干害の防備(五号)、なだれ落石の危険防止(六号)など、もつぱら周辺住民らの生命、財産、安全、健康といつた基本的権益のためのものである以上当然である。そして保安林の指定を解除する処分はこのような周辺住民の基本的権益を失わせるものであるから、それは右各要件に拘束される覊束裁量処分であるといわなければならない。この点につき被告は保安林指定の解除はその対象森林の所有者らに対する権利制限を解除し、利益を与える処分に過ぎず、周辺住民はただその指定に伴なう反射的利益を受けているのにとどまるから、その利益を失わせることは法的利益を侵害することにならないので自由裁量処分であると主張する。しかしこのような見解は本末転倒というべきで、右森林法の保安林制度の本旨はまさに前記のように周辺住民らの基本的権益保護のために設けられ、このために森林所有者らに権利制限を課しているものといわなければならない。
ところで被告が本件保安林指定の解除処分事由として掲げる航空自衛隊の高射群施設の建設が後に述べるように憲法第九条に違反することが明らかであるが、このような場合右処分がつぎの二つの点において違法となる。
(1) いかなる国家行為も国の最高法規である憲法に違反しておこなわれることは許されず、もし憲法の条規に違反したならば、その一切の法律・命令・処分は無効とされることは憲法第九八条第一項をまつまでもなく当然の事理であるから、森林法第二六条第二項によつて与えられている保安林指定の解除の権限も憲法条項に反する事由にもとづいて行使することは許されない。したがつて右解除処分が憲法第九条に違反する自衛隊のミサイル発射基地の建設の目的でなされたとすれば、解除処分について被告に与えられた裁量権が覊束裁量であると否とを問わず、また解除のための法的要件を充足していると否とにかかわりなくただちに違憲無効となる。
(2) また右憲法第九条に違反する軍事力による国家防衛は右憲法秩序のもとでは公益的価値をもたないので自衛隊のミサイル基地建設という事由は森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」に該当しないから、したがつて右条項の覊束要件に違反して違法となる。
このようにして本件訴訟では保安林指定の解除処分の事由たる長沼ミサイル基地設置計画が憲法に違反するか否かが中心的争点となる。そこで以下この点について述べる。
(二)  憲法の平和主義および自衛隊と司法審査
1、憲法の平和主義
わが国の憲法第九条はすべての戦争を放棄し、いかなる戦力も保持しないことを定めている。そして自衛隊はその保持を禁止された戦力に該当する。
(1) いうまでもなくわが憲法は平和憲法とよばれているとおりその前文においてくりかえし平和主義について言及している。この前文は憲法制定の理想と目的を内外に宣言するという形式をとつているが、そこに理想、目的としてかかげられているものはいずれも憲法の基本原理であつて、それは憲法の各条項の基本であり憲法の憲法ともいうべき根本規範であつてその各条項の解釈にあたつてもつねにその基準とされなければならないものである。憲法第九条が、すべての戦争を放棄し、すべての戦力を保持しないと定めていることは、同条項自身の解釈としても明らかであるが、その平和主義の原理はすでに前文においてすべての戦争の放棄、すべての戦力の不保持を明らかにしている。
憲法の平和主義の原理は前文中でも特に第二項に主として述べられているが、その第一段では日本国民は恒久平和を念願すること、そのためにみずからの安全と生存の保障を平和を愛好する諸国民の公正と信義に対する信頼のうえにおこうと決意したこと、第二段ではそのことは国際社会が平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を永遠に地上から除去しようとしていることの確認のうえに立つものであつて、この理想実現のためにはその国際社会にわが国も参加しなければならないと希望すること、第三段ではこれらの実現のためには全世界の国民が平和のうちに生存する権利をもつのでなければならないことが述べられている。
そしてこのような非武装主義にもとづいて憲法第九条が一切の戦争の放棄と、戦力の不保持を定めることによつて具体化し、その安全と生存の保障を平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することにした。ここにいう平和を愛好する諸国民とは特定の国民ではなく、世界の諸国民がすべて平和を愛好するものであることを意味するといわなければならない。このことは国際社会が平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めていることによつても明らかであろう。
(2) このような平和主義はわが憲法の他の二つの基本原理である国民主権主義と人権尊重主義とも不可分に結びついているものである。すなわち、前文第一項は「主権が国民に存することを宣言」するとともにこのような原理を採択した動機が「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすること」にあることを明らかにしているところである。そしてまた、この平和主義は国民の基本的人権の保障とも不可分に結びつき、前文第二項を「われらは全世界の国民がひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と結んでいることからも明らかである。
すなわち憲法は平和主義をたんに政治体制の原理として宣言したにとどまるのではなく平和のうちに生存する権利は政治的かつ生存権的な権利であること、しかしこれが全世界に普遍的な自然権的権利であることを確認しているのである。
(3) このような観点から憲法第九条をみるときは同条はすべての戦力の保持を禁じており、たとえ自衛のためであつても戦力を保持することは許されないと解するのが正当といわなければならない。
すなわちその第一項ですべての戦争が放棄されその第二項ではすべての戦力がその保持を禁ぜられていると解する(第一説)か、または第一項では侵略戦争だけが放棄されているが、第二項ですべての戦争が放棄され、すべての戦力が禁じられていると解する(第二説)のが正当である。そして右両説に立つと自衛戦争をも含めたいつさいの戦争がもはや許されないことになる。
しかしこれに対して第一項で放棄されたのは侵略戦争のみであり、そして第二項は第一項の侵略戦争のための戦力の保持を禁じたもので、したがつて自衛のための戦力保持は許されると解する少数の見解(第三説)も存する。
政府は当初、すなわち憲法制定会議とそれに続く時期には右に述べた第二説の見解をとつていたが、その後これに依拠しつつも、昭和二五年警察予備隊設置のころから変化し、依然第二説の立場をとりながらも、「戦力とは近代戦争遂行に役立つ程度の装備、編成をそなえるものをいう」としてこれに至らないものは「戦力」ではないとして警察予備隊、保安隊は右憲法第九条第二項にいう「戦力」ではないと言明し、その後同三〇年を契機として次第に右条項にいう「戦力」とは「自衛のため必要最少限度を越えるもの」をいい、自衛隊は右「必要最少限度を超えない」から右条項にいう「戦力」ではないという立場をとり、被告の主張もまたその後者に属している。
(4) とくに前記第三説は自衛のための戦争、ひいてはそのための戦力の保持を容認するが、このようなことはとりわけ前記した憲法の平和主義に著しく矛盾するものであるが、これを一応別にするとしてもなによりもまず憲法第九条第二項が国の交戦権を否認しており、かりにこの交戦権を国際法上の交戦国の権利と解するにしても、それが否認されていることと著しく矛盾をきたしているといわなければならない。
そして憲法が自衛のための戦争にせよ、もし戦争を認めるのであれば、少くとも戦争宣言の手続ぐらいは定めておくはずであるし、またそのための戦力の保持を認めるならば、その組織、編成の基本、軍の指揮統制についての規定、その要員の充足方法すなわち徴兵制か志願制かなどといつたことについて定めたはずである。ところがこのような規定はいつさいない。
(5) また前記した政府および被告のいう「自衛のために必要最少限度の実力」は憲法第九条第二項にいう「戦力」ではなく、自衛力であるとする見解は戦力および自衛力との各概念を不確定なものとしてその限界を不明確にするものである。
すなわちそれをかりに「自衛のために必要かつ相当な実力」といつてみてもまた「その行使の目的が防衛に限られ、その整備の能力が防衛のためのみのもの」といい代えてみても依然抽象的であつてその内容は不明確であつて、つまりは被告のいうように「自衛力の限界は国際環境、国際情勢、あるいは科学技術の進歩等によりきめるべきものである」ということに帰する。しかしながらこのような見解は必然的に憲法第九条第二項にいう戦力の内容、そして戦力との限界を不確定にするものであつて結局は無限界の軍備増強政策を法的に正当づけようとするものにほかならない。そしてなによりも諸外国においてもみずから侵略を標傍して軍備をもつ国はあるはずがなく、いずれもその国の防衛のために必要とする軍備をもつに過ぎないものとすれば、戦力をもつ国はありえないことにならざるをえない。
(6) また被告は「憲法はわが国が主権国としてもつ固有の自衛権はなんら否定するものではなくわが国が外部から不正な武力攻撃や侵略に対し、それを防止すること、およびそれに必要な力、すなわち自衛力を保有することはなんら憲法に違反するものではない」と主張する。
しかしこれは国内法である憲法と国際法とを混同するものである。いうまでもなく自衛権は今日の国際社会がこれに属する主権国家に承認する国際法上の権利である。したがつて個々の主権国家がそれを望むと否とにかかわらず国際社会がこれに自衛権を付与し承認するものであつて、個々の主権国家が国際社会に向つて自国または他国の自衛権を承認したり否認したりできる筋合のものではない。両者はもともと次元の異なる二つの法律関係であつて、よしんば、わが国の憲法が自衛権を否定しようとしまいと、国際社会がわが国に認める主権国家としての自衛権にはなんらの消長をもきたさないし、また逆に憲法が自衛権を否定しないといつたところで憲法がわが国政府に軍備の保持を禁じている国内法上の法律関係になんの影響をもおよぼすものではない。
そしてまた国際社会が認める自衛権の保障のもとで個々の国家が国内政策として自衛権行使のため軍備をもつと定めるかもたないと定めるかはもとより、当該国家の自由であつて、国の建前として自衛権の発動をなんらかの方法で控えようとすることの可能であることは自明の理である。
そしてわが憲法は前記(1)、(2)で述べたようにその前文および第九条において軍備による自衛権の行使方法を放棄したものである。
とりわけ被告は自衛権の行使の合憲性と軍事力配備の違憲性とを混同しているものである。自衛権とはその国が急迫不正の侵害に対して自衛のための対抗措置をとることの合法性(相手方に対し損害を加えてもその行為が国際法上正当とされ責任を免れるという違法阻却の法理)ということにすぎないのであつて、このために平常から軍事力を配備し、これを行使することのみが唯一の手段ではなく、ほかにも外交交渉、国内抵抗等を含めて幾多の自衛権の行使方法がある。憲法はそれらの方法のなかで軍事力による自衛権の行使を放棄したものである。すなわちわが国は憲法前文にもあるとおり戦争を放棄し、軍備を保持せず、平素から平和的な外交、通商、人事・文化交流などの諸手段によつて国際緊張を除去し、万一の際にも平和を愛好する諸国民の協同の圧力によつて不法な侵略を防止していくことを国是としているものである。そしてこれは自衛権の概念自体が近時次第に純化されてきたとはいえなおあいまいな部分を残しており、また歴史的にも幾多の濫用のあつたことに対する深い反省に発するものといわなければならない。
(7) そうすれば自衛力の規模、装備、能力等は後に述べるものであるけれども、なによりも自衛隊法第三条は自衛隊は「直接侵略および間接侵略に対してわが国を防衛することを主たる任務とし」ているものであり、このための陸海空において行動する部隊なのであるから、まさに憲法第九条第二項にいう「陸海空軍」にあたり、戦力であることは疑いがない。
2 自衛隊と司法審査
なお被告は自衛隊の現状が憲法第九条の禁止するいわゆる戦力に該当するかどうかは司法裁判所の審査の範囲に属しないとし、その根拠として、自衛のための措置として自衛隊を保持するか否か、保持するとしていかなる程度の規模、装備、能力を備えるかはわが国の統治の基本に関するものであり「高度の政治性」をもつことがらであり、そして政府は「憲法の許容する程度の自衛力を保持すること」を決定し、またその程度は「通常兵器による局地戦以下の事態に有効に対処しうる」ことを目標として採択し、これらはいずれも国会において承認をえているものであるからこのような高度の政治的裁量による決定は司法裁判所の審査になじまないと主張する。
しかしながら右の見解はいうまでもなく憲法第九条が一定の範囲内での自衛のための戦力の保持を許容しているとの前提に立つものであり、その根拠のないことは前述したとおりであるが、かりにこの点を一応別としても以下に述べるとおりこの見解もまた根拠を欠くものである。
(1) このような議論は一般に司法審査の対象から除外される一定の国家行為が存在するか否かの問題としていわゆる統治行為論として取扱われ、我が国においても多くの学説、判例は一定の種類のそのような国家行為の存在は認めているものの、しかしそれはたんに「高度に政治的」であるとの一事をもつて司法審査の対象から除外しているものではない。したがつてかりに司法権が法的判断を加えない一定の事項が統治行為として存在するにしても、なおなにをこれに含めるかは慎重な検討を必要とする。
(2) かような統治行為の存在を承認する考え方は以前から諸外国、とくにフランス、イギリス、アメリカにあらわれているが、それらはそれぞれの国の歴史的背景のもとに形成されきたつたものである。そしてそれらは当然のことながら各国の憲法制度の差異、すなわち権力分立の形態、法治主義の発達の程度、裁判権の性質とその地位、裁判所の組織の構造等の差異に応じてそれぞれの特色をもつている。しかしそのなかでもいくつかの共通点もあり、近時その内容も次第に同一化する傾向にある。そのなかから各国に見られる統治行為の内容を大きく分けると第一に議会内部の事項あるいは立法作用に関する事項、第二には対外戦争条約締結等の外交交行為である。ことに注目すべきことには、アメリカ、イギリスにおいて特に顕著であり、またフランスでも最近の判例傾向となつていることは高度に政治的な問題であつても国民の権利、自由に関連し、その法的保護に必要な場合には司法審査の対象となるものとしていることである。それは司法機関が国民の権利救済機関としての職責を第一義とすると考えられてきたことによる。
(3) このような統治行為の考え方は帰するところ一方では法治主義にもとづき国民の権利の保護を十全におこなおうとする国家行為に対する裁判所の司法統制の原理と政治が主権者である国民の信託にもとづき、選挙および一般の言論による国民のコントロールを通じて議会および内閣の責任においておこなわれるべきであるとする民主主義責任政治の原則との調和点をどこに求めるかということに帰着し、結局はその国の憲法体制、すなわちそれは主権者たる国民が定めた憲法の根本規範を最高の基本として、これを実現するための権力分立制の組織形態、とくに司法権の他の二権との権限の関係および司法権に付託された諸権能の内容(憲法保障機能、国民の権利保障機能)等の検討により決められたものに依存している。
しかしてわが国における憲法体制を見るに憲法第九八条は「この憲法は国の最高法規であつて、その条項に反する法律、命令、詔勅および国務に関するその他の行為の全部または一部はその効力を有しない」と定めて、憲法の最高法規性を明らかにし、そしてこれを現実に担保するために同法第八一条で裁判所が「一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する」ものと定めている。
すなわちわが国の憲法は裁判所に一切の国家行為に対する違憲立法審査権を与え、法治主義の原則をもつとも徹底した形で定めたものといえる。したがつてわが国の三権分立のもとでは司法権は他の二権のあらゆる行為についてそれが権利保護の利益と結びついた法律上の争訟である限り、その違憲性を判断する職責と権限をもるものとしていわゆる「司法権の優越」が確立されているのである。
(4) ところでわが国の憲法は以上のような司法制度を採用するとともに議院内閣制を採用し、その責任は選挙を通じて国会に反映される仕組になつている。したがつて例えば国政の基本となる議会の組織運営に関する事項、内閣の組織、内部関係等についての事項はこの民主主義の原則から直接国民の判断にゆだねられているということができる。したがつて、わが国における統治行為は右の限度でのみ承認されているものといわなければならない。
(5) このようにある行為を統治行為として取扱うべきか否かは他国において認められているからわが国においても同様に考えるとすべきではなく、わが国の憲法のとつている前記諸原則を正しくふまえたうえで具体的に検討すべき問題である。ところで憲法の条項に違反するか否かが問題とされているような事件では必らずその解決には政治的な影響のあることは避けられないものであつて、「高度に政治的問題」であるとの一事をもつて司法審査が及ばないとすることは許されないというべきである。そしてたとえ高度の政治性をもつ問題であつても純粋に国内政治の問題であり、その行為について政府のよるべき規範がある場合あるいは国民の権利義務に重大で直接的な関係をもつ場合等は国民の権利救済をその基本的任務とする司法権がその権限を行使すべき場合と考えられるのである。
ことにわが国の憲法はその前文で前述したように「政府の行為によつてふたたび戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し」「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼してわれらの安全と生存を保持しようと決意」して憲法第九条に戦争の放棄、戦力の不保持を定めている以上、このように主権者たる国民がその国政の基本方針を一つの法規範として定立し、自らの政府の行為をこの規範で拘束しようとしている場合には司法権はその政府の行為の憲法適否の判断をすべき職責をもつているのである。
(三)  自衛隊の規模、装備、能力
1 昭和二五年七月八日当時の占領軍最高司令官マッカーサーは一片の書簡により日本政府に対し警察予備隊七万五、〇〇〇人の創設、海上保安庁八、〇〇〇人の増員を指令した。そして八月一〇日には法律によらずポッダム政令によつて警察予備隊令が公布された。右政令によつて設置された警察予備隊は「国家地方警察及び自治体警察の警察力を補うため」(同令第一条)、その「活動は警察の任務の範囲に限らるべきものである」(同令第三条第一項)と規定されていたがその実態は明らかに「軍隊」でありすくなくとも憲法第九条第二項にいう「その他の戦力」に該当するものであつた。それはアメリカの朝鮮戦争逐行にともなう在日の米軍の後方支援基地の警備および日本の治安維持の必要性から創られた米軍の補充部隊であつた。このようにアメリカの極東戦略の一端をになう形でアメリカの一方的要求から創設された警察予備隊は米軍の指導を受け武器を供与されながらその戦力は漸次強力なものとなり、昭和二六年対日講和条約と日米安保条約の締結、翌二七年その発効に歩調をあわせて保安庁が設置されるとともに警察予備隊は保安隊に改組された。当時すでに保安隊の人員は一一万人に増大しており、これとともに海上警備隊も新設され人員六、〇〇〇人とされ、ここに小型陸海軍が発足したのである。
そして昭和二九年三月日米相互防衛援助協定(MSA協定)の調印によつて日本が「その人力、資源、施設および一般的経済条件の許す限り、自国の防衛力及び自由世界の防衛力の発展及び維持に寄与し、自国の防衛能力の増強に必要となることがあるすべての合理的な措置を執り、且つ、アメリカ合衆国政府が提供するすべての援助の効果的な利用を確保するために適当な措置をとる」(同協定第八条)という新しい任務を負つたのである。この新しい任務に応じて防衛二法すなわち防衛庁設置法および自衛隊法が成立し、同年七月には陸海空三軍をそなえた自衛隊が発足した。そしてその目的も前記したたんなる警察力の補充から「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当る」(自衛隊法第三条)に変つた。
その後自衛隊は第一次防衛力整備計画(第一次防、昭和三二年から同三五年まで)、第二次防衛力整備計画(第二次防、同三七年から同四一年まで)、第三次防衛力整備計画(第三次防、同四二年から同四六年まで)と着々とその戦力を強化し、その結果以下のような編成、規模、装備、能力をもつようになつた。
2 自衛隊は防衛庁長官、防衛政務次官、防衛事務次官、参事官、防衛庁本庁の内部部局、統合幕僚会議、附属機関、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊、および防衛施設庁から構成され自衛隊の定員は昭和四四年一〇月末現在二八万七、八〇四人そのうち自衛官の定員は二五万八、〇七四人である。
内部部局は長官官房のほか、防衛、人事、教育、衛生、経理および装備の五局がある。そして幕僚機関としては、陸上幕僚監部、海上幕僚監部、航空幕僚監部があり、それらの長である陸海空各幕僚長は自衛官をもつてあてられ、さらに統合幕僚会議があり、これは議長と各幕僚をもつて組織されこの議長も自衛官をもつてあてられる。
3 陸上自衛隊
陸上自衛官の定員は一七万九、〇〇〇人、自衛官以外の定員一万二、八七九人計一九万一、八七九人であり昭和四五年末現在の自衛官は一五万七、五七一人である。
(1) 組織および編成
幕僚監部のほか長官の直属部隊として方面隊その他の部隊がある。
方面隊は北部、東北、東部、中部、西部の五方面隊である。
方面隊は方面隊総監部のほか師団(二ないし四)を基幹とし、これを支援する特科団(砲兵)または特科群、戦車群、施設団、航空隊、教育団または教育連隊、地区補給処および地区病院を基準として編成されている。
方面隊のほかに幕僚長直属の通信団、第一ヘリコプター団などがある。
師団は独立して作戦する戦略単位であるが、師団司令部のほか、普通科連隊(歩兵)、特科連隊(砲兵)、戦車大隊、対戦車隊、偵察隊、施設大隊(工兵)、通信大隊等で編成されている。
(2) 装備、能力
A 火器
迫撃砲、榴弾砲、加農砲、ロケット、無反動砲、対戦車誘導弾、高射砲、地対空誘導弾ホークなど、列国陸軍の装備している火器はほとんど保有している。
迫撃砲は近接した目標に対する火器であり、曲射射撃が可能のため塹壕や野戦軽掩蓋などを攻撃する陣地戦闘に適し、移動も平易であつて対ゲリラ戦闘に有効である。これが約二二〇〇門ある。
一〇五ミリ、一五五ミリ榴弾砲は中距離の目標に対処する火器であり特に一〇五ミリ榴弾砲は有効射程九、五〇〇メートル、形態が比較的小さく機動性に富み、発射速度、弾丸効力、射撃精度の点からは普通科部隊(歩兵)の直接支援砲として最適である。また携行弾量も多く各種地形状況に応ずる適応性にすぐれ、とくに対迫撃の主要兵器として火器体系上に占める地位は高い。
長距離の目標の制圧には二〇三ミリ榴弾砲、一五五ミリ加農砲、三〇型ロケットがある。加農砲は戦場が縦深にわたり、とくに中距離以遠の目標に対する射撃に適する。
対戦車火力としては一〇六ミリ無反動砲、対戦車誘導弾(ATM)があり対空火力として七五ミリ高射砲、九〇ミリ高射砲、地対空誘導弾ホークがある。なお榴弾砲約八七〇門、加農砲約三〇門、ATM約六〇組、ホーク約五〇基を保有している。
このように陸上自衛隊は陸上戦闘の全局面に対処できる火力を保有している。
B 戦車、車両
戦車には六一式、M四一、M四一A三およびM二四がある。戦車は七二〇両である。うち六一式は現用列国戦車に十分対抗できるものである。またM四一A三戦車は赤外線を利用した夜間操縦用暗視砲装置を装備している。
このほか自走榴弾砲などの自走砲、装甲車、トラックなどの輸送車両がある。なお第四次防で登場する新型戦車は多種燃料使用エンジんを開発したので補給困難な地帯での作戦に適し、また砲搭安定装置を採用し、けわしい山地での射撃姿勢の保持が容易である。
C 航空機
L―一九E、LM―一など固定翼機とV―一〇七、HU―一Bなどのヘリコプター合計約四五〇機保有している。
D 旧陸軍と陸上自衛隊との火力、機動力を対比すると第二次防終了時において一師団あたり一分間の火力は自衛隊で20.5トン、旧陸軍で9.5トン、火力密度(戦闘正面一平方メートルにおける一分間の銃砲による有効破片弾子)は1.9対0.6、火力の効力比三対一、機動力一〇対一でいずれも自衛隊がうわまわる。
(3) 演習、訓練
陸上自衛隊の演習、訓練はいずれも米軍式の装備で、米語を使い、米軍の教えるところにしたがつておこなわれている。
A 昭和四六年八月北海道でおこなわれた陸上自衛隊北部方面隊、航空科運用演習には隊員約一万人、車両約二、〇〇〇台、航空機は北部方面航空隊をはじめ各方面航空隊や第一ヘリコプター団、諸学校から集められた一一七機が参加し、赤部隊(攻撃側)は稚内方面に機械化一個師団が、函館に二個大隊が、苫小牧に一個大隊がそれぞれ上陸、函館、苫小牧方面から道央に進出したという想定のもとに旭川にあつた青部隊(守備側)を急拠ヘリコプターによつて島松演習場に進出させ赤部隊と対戦させるといういわゆるヘリボーン作戦を主体とする演習がおこなわれた。この演習の間、中隊規模のヘリボーン、武装ヘリの用法と効果、敵中深く進入した偵察部隊のヘリコプターによる撤退、LR一(連絡機)の赤外線カメラによる夜間写真偵察、航空機による観測指揮などの訓練、研究がなされた。なおアメリカ太平洋軍司令官ラーソン大将もこの演習を視察した。
右演習はベトナム戦争の教訓に学んだ航空機の運用を中心とした近代戦の訓練であつて、明らかに自衛隊がベトナム戦争型の戦闘に備える演習である。なぜならば、日本の国土に敵が上陸するときにはなによりも日本自身がその国土に対する制空権を失つたときであつて、そのような場合にはこのようなヘリボーン作戦などで戦闘がおこなわれることは現実的に考えられないからである。
B 昭和四三年一〇月三日東富士演習場で自衛隊がはじめて治安行動訓練を公開した。この訓練では第一師団第一特科連隊約二一〇人が出勤し、戦車からヘリコプターまで使つて暴徒を鎮圧した。公開されたのは一日だけであつたが、演習は一週間にわたりおこなわれ、第一師団普通科四個連隊、特科一個連隊、戦車一個大隊四〇〇人が参加した。
こうした演習、訓練は随時おこなわれており、かりに東京の全域が騒乱になつたとしても一夜にして関東周辺の全部隊が東京に集結でき、その全域を包囲し、検問所を設け、地域内を戦車、装甲車をもつて巡察、示威し、暴徒の拠点や中核部隊を完全にせん滅制圧することが可能である。
そして治安出動の教訓とされている米騒動と、関東大震災の研究もおこなわれ、国内人民弾圧部隊としての演習、訓練をおこなつている。
4 海上自衛隊
海上自衛隊の定員は三万七、八一三人、自衛官以外の隊員は四、七五九人、合計四万二、五七二人である。昭和四五年度末の自衛官の現員は三万六、八六九人である。
(1) 組織および編成
海上幕僚監部のほか、長官直轄部隊として自衛艦隊、地方隊、教育航空集団、練習艦隊、中央通信隊群その他がある。
A 自衛艦隊
自衛艦隊は海上部隊と航空部隊からなり、自衛艦隊司令部のほか護衛艦隊、航空集団、掃海隊群、潜水隊群、海上訓練指導隊群、掃陸隊で編成されている。
護衛艦隊は四つの護衛隊群からなり、第一護衛隊群は横須賀、第二護衛隊群は佐世保、第三護衛隊群は舞鶴にそれぞれ司令部がある。
航空集団は五つの航空群(鹿屋、八戸、徳島、下総、館山)その他長官の定める部隊で編成されている。
掃海隊群は第一掃海隊(呉)、第二掃海隊(横須賀)で編成されている。掃海隊は二ないし三の掃海艇で編成され、機雷除去等の任務をおこなう。
潜水隊群は潜水隊四、潜水艦基地隊二、その他長官の定める部隊で編成されている。
B 地方隊は横須賀、呉、佐世保、舞鶴、大湊におかれ、それぞれの警備区域の沿岸海域および海上自衛隊の行動に必要な限度内の陸上地域の警備を負うものとされている。
C 教育航空集団は航空機搭乗員の教育訓練を実施する部隊である。
(2) 装備、能力
A 艦船
自衛艦と支援船に区分される。
自衛艦は警備艦と特務艦とに分けられ、警備艦は護衛艦、潜水艦、掃海艦艇、敷設艦艇、駆潜艇、魚雷艇、哨戒船艇、輸送艦、輸送艇などであり、特務艦は潜水船練習艦、訓練支援艦、海洋観測艦、砕氷艦、潜水艦救難艦、給油艦、特務艇である。
支援船は重油船、練習船などをいう。
自衛艦は二一〇隻約一三万四、〇〇〇トン、支援船は三一〇隻二万七、〇〇〇トンでその総トン数は一六万一、〇〇〇トンである。
護衛艦には対潜攻撃を主としたDD(駆逐艦)と船団護衛を主としたDE(護衛駆逐艦)がある。DDはさらに対潜多用途(対空を主としたものも含まれる)のDDAと対潜を主としたDDK、対潜ヘリコプター装備のDDHなどがある。
例えばDDの「あやなみ」型は基準排水量一、七〇〇トン、速力三二ノット、ECM(対電波装置)、ソナー(超音波水中探知機)、VDS(可変深度ソナー)などを装備し、また「みねぐも」型は基準排水量二、一五〇トン、速力二七ないし二八ノット、対潜無人ヘリコプターDASHを載し、「たかつき」型は三、一〇〇トン、三二ノットで対潜ロケットのアスロック、ボフオースを装備している。昭和四八年二月就役したDDHの「はるな」は対潜ヘリコプター三機を積みミニ「ヘリ空母」といえるものであり、この型は五インチ砲二、アスロック八連装発射機一、三連装対潜魚雷発射管二を装備している。アスロックの最大射程は五海里(約一〇キロ)、速度マッハ一、先端にホーミング魚雷を装着している。
B 航空機
就役機数は約二五〇機、固定翼機には対潜哨戒機、輸送機、救難機などがあり、ヘリコプターには対潜哨戒機、掃海機などがある。対潜哨戒機にはS2F―一、P2V―七、P2Jなどの機種がある。
P2V―七は潜水艦の捜索、攻撃を主務とするほか、機雷の敷設をすることもできる。P2JはP2Vの改造型でMAD(航空磁気探知機)、探照灯、レーダー、ソノブイシステムなど高性能な機械が採用され、一二五ミリロケット弾、ホーミング、魚雷などの対潜武器も搭載されるほか、新しい対潜用電子機器を搭載している。
対潜哨戒ヘリコプターHSS―2はDDH「はるな」に搭載されているものであるが、ソナーを懸吊して潜水艦の捜索をおこない。魚雷二発を装備し、航続距離は八六〇キロメートルである。
C 日本の海上戦力は以上のとおり総排水量は一六万トン強でトン数では世界第一〇位、隻数では第八位である。そして第四次防終了時(昭和五二年)には二四万七、〇〇〇トンの保有を目標としておりその時点では米、ソ、英、仏、西独についで第六位となる。
これをたんにその隻数、トン数だけからみるならば明治三二年頃の旧日本海軍に相当するにすぎないが、かつての海軍の大艦巨砲主義はすでに遺物となり、小型軽量で射程距離、破壊力の大きい魚雷、火砲、ミサイルを積載する現在、旧連合艦隊と比較してその戦力を過少評価することはできない。
(3) 演習、訓練
海上自衛隊はとくに米海軍との合同演習を重視して実施している。日米両艦隊は毎年対潜特別訓練、掃海特別訓練を各一回合同でおこなっており昭和三四年以来の対潜合同訓練は一五回にもおよんでいる。演習計画は海上幕僚監部と在日米海軍司令部との間で基本の打ち合わせをおこない細部は自衛艦隊と在日米軍司令部との間でおこなわれる。合同対潜訓練は同三八年九月以降はいずれも日本海でおこなわれ、とくに日本側の練度が向上した同四三年頃から日本側の参加兵力が増加している。そして訓練の用語はいずれも米語を使い、その編成にあたつては両軍艦艇の混合とし、自衛隊の艦艇にも米語でコールサインがきめられ、また対潜攻撃の戦法も米軍のニックネームがつけられている。これは当面社会主義国との戦闘を予想し日本海における戦闘の訓練を最重点にしているものである。
最近の例として
A 昭和四六年五月二八日から六月五日の間日本海中部および西部でおこなわれた訓練の参加兵力は米第七艦隊の対潜掃討戦隊より対潜空母タイコンデロガ(二万二、八〇〇トン、艦載機四五機)、駆遂艦ヤマコード(三、〇一一トン)など四隻、潜水艦セルフィッシュ(二、六二五トン)、給油艦一隻が、海上自衛隊は護衛艦「なつぐも」、「むらくも」(二、一〇〇トン)、「しきなみ」、「いそなみ」(一、七〇〇トン)、潜水艦「あらしお」(一、六五〇トン)、対潜哨戒機P2V、P2J、S2F(以上は固定翼機)、HSS―2(ヘリ)計三〇機、訓練項目は通信、対潜航空作戦、艦隊防空、洋上給油である。この訓練で注目すべきことは日米同一の指揮系統でおこなわれ、さらにソ連、朝鮮の領域にかなり接近して軍港、レーダーサイトの動き、通信状態を調べた。
B 同年一一月上旬には二週間の日程でハワイ諸島カウアイ島沖において海上自衛隊P2Vと米海軍の原子力潜水艦、通常潜水艦との合同訓練がおこなわれ、対原潜作戦を目標にし、この面でも米海軍の一翼をになう準備をはじめた。
このようにして海上自衛隊はますます深く米戦略体系に組み込まれていきつつある。
なお海上自衛隊のみのものとしても昭和四六年九月四国南方海域で大規模な対潜、対空演習をおこない、これには護衛艦、潜水艦、駆潜艇など約七〇隻、P2V、P2Jなど対潜哨戒ヘリなど六〇機、一万七、〇〇〇人が参加した。これは沖繩返還にともなう日本海上自衛隊の防衛分担海域の拡大に対応するためである。
5 航空自衛隊
(1) 組織および編成
航空自衛隊の定員は四万六、六一七人である。
一国の航空部隊が実戦戦闘を遂行するためには最少限つぎの四つの部隊が必要とされる。第一に実力部隊としての戦闘機隊、第二にその戦闘機を操縦するパイロットの養成部隊、第三に戦闘機の整備部隊、第四に戦闘に際して要する物資の補給部隊である。航空自衛隊は右いずれの部隊をも保有している。
まず戦闘機隊は航空総隊がおかれ北部、中部、西部の三つの航空方面隊から構成されている。各航空方面隊には後述のF86F、F104J、F4EJファントムの各ジェット戦闘機が実戦配備された航空団のほか、ナイキミサイル部隊をもつ高射群とバッジシステムを管理する航空警戒管制団がおかれている。
戦闘機パイロットの養成部隊としては飛行教育集団が、整備に関しては術科教育本部が、物資の補給に関しては補給処が、それぞれ配置されており戦闘を逐行するのに必要な部隊を保有している。さらに航空自衛隊は航空管制や航空気象をおこなう保安管制気象団および航空救難団等がおかれ、戦闘行動が円滑におこなわれるように配慮されている。
(2) 装備、能力
A 戦闘兵器
a ジエツト戦闘機
F86F―最大速度マッハ0.95、航続距離一、二二〇キロメートル、武装、一三ミリ機関砲六門(一分間一、二〇〇発)空対空ミサイル(AAM)サイドワインダー二基(熱線追尾)、ロケット弾三六発、爆弾0.5トン、現有二八〇機
F104J―最大速度マッハ二、航続距離一、六四〇キロメートル、武装、二〇ミリバルカン砲六門(一分間に四、〇〇〇発)、空対空ミサイル(AAM)サイドワインダー四基(熱線追尾)、ロケット弾三六発、爆弾一トン、射撃管制装置、光学照準機、自動警戒管制装置(バッジによる誘導装置)を搭載、現有一九〇機F4E―ファントム、最大速度マッハ2.4航続距離四、〇〇〇キロメートル、武装二〇ミリバルカン砲六門(一分間に四、〇〇〇発)、空対空ミサイル(AAM)スパローⅡ四発(レーダー追尾)、ファルコン四発(熱線追尾)、爆弾七トン、火器管制装置、自動警戒管制装置を搭載、複座式、ECM、ECCM装置を搭載、現有四機、第四次防中に四六機配備決定
FST2改―最大速度マッハ1.6
航続距離二、六〇〇キロメートル、二〇ミリバルカン砲、空対空ミサイル(AAM)サイドワインダー二発、ロケット弾、爆弾、複座式、射撃管制装置、慣性航法装置、電波高度計、管制計算機を搭載、第四次防中に六八機配備決定
b 地対空ミサイル
ナイキアジャックス―速度マッハ2.5、高度一八キロメートル、射程四六キロメートル、発射速度一分間に一発、レーダー追尾、射撃統制装置
ナイキJ―速度マッハ三、高度四五キロメートル、射程一三〇キロメートル
B 情報兵器――バッジ、システム
全国二四のレーダーサイトで捕えられた飛行体は自動的に追尾され、電子計算機によつて一瞬のうちに敵、味方を識別し、その高度、方向、および速度が算出されて、これらのデータはただちに戦闘機部隊やナイキ部隊に伝達され、戦闘機やナイキの誘導から撃破、帰投までの一連の操作が自動的におこなえるシステムになつている。飛んでいる飛行機の燃料まで計算して指令を出したりECMに対処するECCM装置をもつており、目標把握からスクランブル発進まで五分以下である。バッジは攻撃防御両用に使うことができ、進攻作戦をおこなう場合には攻撃のための「目」としての役割を果すことになる。さらにバッジは米軍を媒介にして韓国のシステム、台湾のシステム、フイリッピンのシステムと連動している。
(3) F4EJファントムの特性
F4EJファントムはもともと航空母艦より発進する艦載機として開発されたものであるがインドシナ戦争ではベトナムの北爆、南爆に使われた飛行機である。なおこれを偵察機として改良・使用したのがRF4である。ファントムは現在の自由陣営の第一級戦闘機である。
ファントムの特徴の一つは二人乗りであつて、もう一人の乗員は電子戦闘すなわち電波妨害(ECM)、対電波妨害(ECCM)の任務をもつ。ECM装置は相手方レーダーがスコープ上に目標を識別できないように電波で妨害し、ECCMはECMを妨害するものである。
ファントム戦闘機は前記のようにその航続距離が長く、したがつて行動半径は広く約八〇〇キロメートルである。これは九州板付基地から出発した場合朝鮮半島の全域におよぶことができる。なおこれには空中給油装置もつけられており、給油を受けることによりまた増槽をつけることによりさらに一層航続距離をのばすこともでき、またその装備する空対地ミサイル(ASM)は射程二七〇キロメートルから五四〇キロメートルにおよびこの遠隔発射により対象国領空に侵入しなくとも公海上から攻撃を加えられる。
ファントムを偵察行動に使用すると行動半径は一四〇〇キロとなり前記板付基地から朝鮮半島のみならず大連、ウラジオストック、青島、潘陽、長春にもおよぶ。
また戦闘空中哨戒(キャップ)はファントムの担当する要撃戦闘のもつとも好ましい戦法とされている。これは侵入が予想される空域にあらかじめファントムを待機させて相手機の撃退、進攻の阻止をはかるものである。
(4) 能力の国際比較
わが国の航空自衛隊は前記航空機その他の装備の質量ほか隊員の練度、人員数からみて世界で九番目である。東南アジア、アフリカ、中南米には保有兵力わずか戦闘機二、三機という空軍もある。しかしこれとても空軍として取扱われている。わが航空自衛隊が空軍であることは自他ともに疑いない。
6 自衛隊における隊員教育
自衛隊法第五二条は隊員の服務について、「隊員はわが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、つねに徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、強い責任感をもつて専心その職務の遂行にあたり、事にのぞんでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め、もつて国民の負託にこたえることを期するものとする」と規定する。これは一般国家公務員の服務の根本基準にかんする国家公務員法九六条の規定とくらべて著しく異る。なかでも使命の自覚、一致団結、厳正な規律、危険を顧みず身をもつて責務の完遂にあたるなどはまさに軍人としての服務基準である。
自衛隊の精神教育は旧軍の軍人精神の承継、反共反人民の教育であり、終局的には上官の命令に絶対服従して敵と戦闘する軍人、軍隊をつくることにある。そして旧軍の精神面での伝統を承継しつつ皇国史観的歴史教育により祖国愛、愛国心を養成し、他方社会主義国に対する敵対意識や革新政党、労働組合などに対する敵愾心を植えつける教育がされている。このように自衛隊はその人的な面においても軍隊である。
7 第三次防の特徴と違憲性
第一次防(昭和三三年から同三五年)はその大綱を「国力、国情に応じた必要最少限度の自衛力を整備する」と述べ、第二次防(同三七年から同四一年)は「起り得るべき脅威に対処して有効な防衛力の計画的かつ円滑な整備を図る」としているのに対し第三次防「侵略に対する抑止力として有効な防衛力を整備」することを掲げている。
さてこの第三次防にいたつて初めて現われた「抑止力」としての「有効な防衛力」とはなにを目標にしているものであろうか。そもそも抑止力とは相手をしておじけつかせて攻撃を断念させるほどに有効な反撃力を意味する。つまり相手に対して攻撃によりえられるであろう利益よりも、報復攻撃により受ける損害量の方がわめて大きなことを知らせ、これにより攻撃企図を断念させるのが抑止力の機能であり、その機能が相手方への最大破壊の脅威と釣合う打撃力を常時保持していくことにより発揮できるのである。したがつて抑止力をもつためには相手国、仮想敵国より優位に立つこと、これをうわまわる打撃力を建設することであり、第三次防はもちろん当面は「日米安保体制を基調として」アメリカの核戦力に従属依存しながらという限定づきであるとはいえ、このような方向を目指す具体的な計画をはじめたということである。そしてこの第三次防が目標としている抑止力は昭和三八年の三矢研究にもみられるように朝鮮半島を戦場として中国の核戦力とソ連空軍、ソ連潜水艦の戦力に対処する点にあることを考え合わせるならば朝鮮人民民主主義共和国、中国、ソ連の社会主義国を相手とする抑止力であることは明らかである。
第三次防は陸海空各自衛隊の防衛力向上と任務機能別目標を具体的に設定し、あわせて三自衛隊の有機的協力体制をすすめ総合的運用効果を高めることにしている。とくに海上防衛力の強化が主要項目としてあげられ、沿岸海峡など周辺海域の防衛力の強化および海上交通の安全確保、能力の向上がめざされた。そして海上兵力には五ケ年間に五、七〇〇億円が投入せられ、とくに対潜攻撃能力の強化がはかられている。つまり海上自衛隊の任務はアメリカがアジアで作戦を遂行するうえで不可欠な西太平洋の領海権確保に寄与するため、ソ連、中国の潜水艦を封じ込め、掃討し、これによつて、米第七艦隊、ポラリス潜水艦が自由に行動することを助け、あわせてアメリカ本土からのアジア各地にいたる軍事輸送航路確保のために奉仕するものである。
航空自衛隊は第三次防では海上自衛隊と同じく五、七〇〇億円を投入し、重要地域防空力の強化をめざしているがここにいう重要地域は軍事的観点からの重要地域であつてけつして日本国民の生命と安全を守る観点からのそれではない。すなわち、米軍あるいは自衛隊の攻撃力の発進地、帰投地としての在日米軍および自衛隊の基地の防空が目的なのである。さらに防空力強化の名にかくれて、実際には進攻作戦に使用する高性能、長航続距離の偵察機、戦闘爆撃機の装備が進められて米軍によるアジア進攻作戦への加担の態勢を完成しつつある。
陸上自衛隊は第三次防により空中および地上の機動を向上し、かつ野戦での防空能力を強化するなどの態勢を完成することにしている。このため九、八〇〇億円があてられ、自衛官八万五、〇〇〇人増員され、とくにヘリコプターによる空中機動力を増強する。これはアメリカのインドシナ戦争でのヘリコプター運用にならつたものであり、核戦争からゲリラ戦まであらゆる態様の戦闘に対処できるものとするためである。このような目的と任務をもつた自衛隊を増強していくため第三次防五年間に二兆三、四〇〇億円が投入され、昭和四六年度には陸上自衛隊が一八万人、ホーク五個大隊、海上自衛隊が一四万二、〇〇〇トン、航空自衛隊八八〇機、ナイキハーキュリーズ(自衛隊はナイキJという)四個高射群ほか自衛官四万二、〇〇〇人となる。
以上のように第三次防は社会主義国の強大な武力に対する抑止力を目標に攻撃的な任務と装備を各自衛隊に付与し、かつ装備の国産、更新とナイキJやASMのよう核運搬兵器の保有、開発の第一歩を開いた点に明らかな特徴がある。かかる第三次防はいかなる意味でも憲法第九条に違反するものである。
8 経済的側面からみた軍事力増強の必然性と無限性
(1) 昭和四八年度の自衛隊予算は直接軍事費九、三五四億円で、これは戦後最大の軍事費であり、前年度に比し、一、一四一億円という増加額(増加率16.9%)もまた戦後最大である。実際の軍事費はこれに後年度分の継続費三四五億円、国庫債務負担行為二三三億円が加算されるから一兆二、〇三三億円に達する。これは軍事費の絶対額において世界第七位(資本主義国第五位)である。そしてこれはアメリカ、ソ連、中国、フランス、イギリス(以上いずれも核保有国)、西ドイツ(核非保有国であるがアメリカの核兵器に分担金を支払い、またフランスと共同で核開発の研究をなしている)につぎ非核兵器保有国として世界最大の規模である。
(2) 軍事費の増加率、したがつて軍備拡張の速度の急激であることが自衛隊の特徴である。すなわち第一次防初年度の昭和三三年度軍事費が一、四八四億円、国家予算が一兆三、三三一億円であつたことに対比すれば一五年間に軍事費が6.5倍以上の増額となり、同四八年度の軍事費は同三三年度の総国家予算に匹敵する規模となつている。特に同三五年の安保改訂後毎年一〇%をこえて増加し続けている。同三八年から同四三年までの年平均増加率をみた場合アメリカ8.7%、イギリス1.2%、フランス8.5%、西ドイツ2.1%、イタリヤ5.2%に対し日本は11.2%である。軍事費の増加は具体的には第一次防(昭和三三年〜同三五年)四、五三〇億円、第二次防(同三七年〜同四一年)一兆一、六〇〇億円、第三次防(同四二年〜同四六年)二兆三、四〇〇億円、第四次防(同四七年〜同五一年)四兆八、〇〇〇億円であつてこの増加傾向は将来にわたつてとどまる徴候がない。第四次防では年平均一七%の増加率が見込まれ、その最終段階では年間一兆六、〇〇〇億円、第五次防は一二兆円を越すものとみられる。
(3) 経済軍事化の指標
以上のような日本の軍事費の特徴にもかかわらず軍事費の対GNP比率が一%以下という低水準であることから経済の軍事化を過少評価する見解も少なくない。そして現に昭和二九年の1.73%を境にしてその後現在まで漸減してきている。しかし、それにもかかわらず軍事費の伸びが公共事業費や文教、科学振興費などの伸びを大幅にうわまわりつつその絶対額を激増させ現に世界有数の軍隊となつている。これについては軍事費概念が必らずしも一定でなく、軍事費の国際比較に際しても諸外国で軍事費に計上されているものが日本では軍事費以外の項目で処理されている部分が多く、さらに兵器国産能力を有する国が稀少であるという事実からみれば、広義の軍事費の検討、兵器の生産機構、生産能力とそれを推進させている経済構造的特質が問題とされなければならない。すなわち、昭和四八年度予算に計上されている遺族恩給三、八三〇億円、遺族援護費四一四億円、科学技術振興費二、一一四億円のうち原子力関係経費、宇宙開発関係費の大部分、地方財政における基地の存在に伴なう経費の負担などは諸外国では軍事費に計上している例が多く、また予算にあらわれない軍事費として、自衛隊に無償で提供されている国有財産、アメリカの無償援助によつて装備された軍備の存在も重要である。前者には自衛隊が使用する国有地は昭和四五年度には一一億五、五〇〇万平方メートルでありその基地数は二、一五七個所におよんでおり、その価格は全国立学校財産に匹敵する規模であるが、これらの土地取得費および使用料は軍事費として支出計上されていない。これらのほか日米安保条約および行政協定にもとづく在日米軍関係の費用も本来日本の軍事費に含まれるべきであるから、わが国の軍事費の実態は予算にあらわれた数字よりはるかに大きい額となる。
(4) 軍需産業の復活、成長
軍事費の急激な増加、したがつて自衛隊軍備の増強は軍需生産体制の確立による兵器、装備の国産化とあいまつてすすめられてきた。
昭和二九年MSA協定によつて日本は「直接および間接の侵略にたいする自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うこと」(協定前文)が義務づけられ、「装備品を実行可能な限り日本国内で調達すべきであり、アメリカはそのための情報提供と技術者訓練に協力する」(協定附属書A)ことが定められた。余剰農産物の売上代金は「日本の防衛生産および工業力増強に使用され」なければならないことが池田ロバートソン会談で約束され、朝鮮戦争による米軍の特需とGHQの「完成兵器生産許可」によつて復活した日本の兵器産業はMSA協定の義務によつて増加した自衛隊の国内調達の結果特需依存から日本の軍事予算による「自主」の方向にふみ出した。
そして第一次防のあと第二次防の時期に兵器の量産体制が確立され、継続費、国庫債務負担行為による長期一括発注や前払制度など貿需産業の要求がとり入れられ、国産化体制が本格化した。
第三次防に入ると量的増加のほか質的にもミサイルを含む近代兵器の生産が中心となり、軍需産業の近代化がすすめられた。
前記のように第一次防から第四次防までの所要経費が計画ごとに倍増し、平均発注額も第一次防の年七二四億円、第二次防の一、〇〇六億円、第三次防の一、九九三億円に第四次防では事業費が第三次防の一兆三、七四四億円から三兆四、九二五億円に、しかも国産比率が六五%から七〇ないし七五%に引き上げられ、大企業に流入する金額は三ないし四倍にはね上がることになつて軍事費の異常な増大が日本の軍需産業の成長と日本経済の軍事化をうながしてきた。
(5) 軍需生産の集中、独占化と戦力としての軍需産業育成策
自衛隊による国内調達額の増大とともに軍需生産の中心が巨大独占資本によつて占められるようになりその比重は年々高まつている。昭和四五年度には自衛隊全調達額一、八五五億九、〇〇〇万円のうち上位一〇社で50.2%、上位五社で40.7%、同四四年度も上位五社で五六%を占めとくに三菱重工と三菱電機の二社だけで四六%を独占している。同年の防衛庁契約有資格者数が一、五五〇社であるところをみると集中度の激しさがおのずとわかる。とくに三菱グループは波及効果の大きい航空機、船舶、武器、電子機器、車両という兵器産業の中核を構成する五部門に集中して独占的に支配をなしている。
そして他方防衛庁は昭和四五年七月「防衛産業整備に関する基本方針」を発表し、装備の開発・生産は原則として国内産業に限定すること、一般工業力を有事に際して防衛生産に転換できるようにすることを定めた。この方針によれば「自主防衛力」の基盤は「工業力を中心とするその国の産業力」であり工業力=軍事力という観点が貫かれている。
わが国は高度経済成長政策の過程のなかで日本産業の重化学工業化をすすめてきた。そしてその結果昭和三九年には工業生産中重化学工業の占める割合が68.1%で世界第一位となつたがこれは軍事力の基礎条件として戦前の旧日本帝国主義の夢であつたといわれる。現在の軍事化はこのような産業基盤のうえにたつて兵器生産を無限に拡大できる能力の確保を国の方針として確立したということができる。
ポッダム宣言第一一項は「日本国はその経済を支持し、かつ公平なる実物賠償の取立を可能ならしめるがごとき産業を維持することを許さるべし、但し、日本国をして戦争のため再軍備をなすことを得しむるがことき産業はこの限りにあらず」として軍事産業を潜在戦力として把握したが、今日の防衛庁の右のような方針と対比してみるならばそこに日本経済、日本産業の軍事化の一つの指標を明らかに認めることができる。
そしてさらにこのような軍需産業の発達は産・軍の結合をもたらし、軍需産業の自己増殖性の発現として逆に軍備拡大とそれを合理化する国の戦略決定に影響力をもつ関係がつくりあげられている。防衛庁は昭和四五年八月独占資本との常設的話し合いの場として「防衛関連団体連絡会議」を設置したがこれは自衛隊幹部の兵器生産企業への天下りとともに産軍ゆ着の強化を示す典型ということができる。(ちなみに兵器生産会社に就職した自衛隊幹部の数は昭和三六年一二月末で将一九八人、将補五三九人、一佐一、二八八人合計二、〇二五人である)
以上のように日本の軍事費=軍事力の増強は基本的にはアメリカの極東戦略とそのもとにおける日本の軍需産業資本の要請にもとづいて策定され、被告の主張するような「国際環境、国際情勢、あるいは科学技術の進歩等によつて決定される自衛力の範囲」とはおよそ関係なく、無限に増強の道を歩まざるをえない必然性のもとにあるということができる。
(四) 自衛隊の米軍との一体性および航空自衛隊の役割
1 自衛隊の前身である警察予備隊がアメリカの朝鮮戦争開始の直後昭和二五年七月八日占領軍最高指令官マッカーサーの指示によつて創設されたことはさきに述べた。それはアメリカの朝鮮戦争遂行にともなう日本の米軍基地の治安警備の必要性から創られた米軍の補完部隊であつた。このようにアメリカの一方的要求から創設された警察予備隊はその当初からアメリカの極東戦略の一端をになう形をとり、米軍の指導をうけ、その武器を供与されながら漸次強力なものとなり、同二七年の講和条約と日米安保条約の発効にともない保安隊に変つた。しかしこの段階ではまだアメリカ陸海空軍の駐留を前提としたその補完部隊としての地上軍を重点にしていた。
ところが昭和二七年以降核兵器とその運搬手段の非常な発達にともない、アメリカは政策を転換して、社会主義国への「巻き返えし政策」をとり、軍事的にはニュールック戦略への転換をおこなつた。これは原水爆を中心とした長距離爆撃機、攻撃型空母、地対地ミサイルを攻撃の主体とする大量報復戦略であつた。この戦略転換により地上軍の比重が減少し、米軍が社会主義国周辺にもつていた基地は比較的安全な地点まで後退し、それまでの基地はたんなる前進、中継基地となつた。そこで在日米軍基地でも米地上軍は縮小され、その基地の直接防衛は米軍から保安隊が肩代りすることになつた。そして昭和二九年三月日米相互防衛援助協定(MSA協定)によつて日本みずからその防衛力増強の義務を負担することになりこの任務に応じて同年七月防衛二法が成立して陸海空三軍をもつた自衛隊が発足した。
昭和三六年ケネディ政権になつてアメリカの戦略体制は柔軟反応戦略に転換し、一方ではソ連などには緊張緩和に応ずるかのような政策をとりながらも、他方アジアでは侵略的策動をおこない、この地域での社会主義国と特定の民族解放闘争に対する個別撃破の行動にでるようになつた。そしてこれに応じてアメリカは日本により強力な軍事力の増大を期待し、自衛隊に米軍の有力な同盟軍としての地位を与えるようになつた。
このように自衛隊は当初の警察予備隊から保安隊へ、そして自衛隊へとその装いを変えてはきたものの、その地位は絶えずアメリカ極東戦略と密接に結びつきその一環として発展してきたものである。そして現在においても自衛隊は日本の国土、国民を防衛する軍隊としてではなく、まさに米軍戦略の一翼をにないながら、アジアの民族解放運動と社会主義諸国への攻撃計画の一部を分担するところの米軍に従属した軍隊としての性格と特徴をもつている。
このことは昭和三八年の「三矢研究」にも如実に示されており、米軍が朝鮮半島において武力紛争に介入するときは、自衛隊は「在日米軍の日本本土よりする戦闘作戦行動の許容を含む可能なあらゆる対米作戦協力を積極的に展開し、もつて朝鮮戦線における米軍の早期勝利」のためこれと一体となつて支援するのである。そして右研究では一応「日米作戦調整所」というものの設置がうたわれてはいるが米軍の情報収集、分析能力が自衛隊のそれよりははるかに高度のものであるため右「調整所」は実際には米軍が自衛隊を「指揮する所」となる可能性がきわめておおきいといわなければならない。
そしてこのような自衛隊の米軍に従属した姿はその後のブルラン計画にもより明確な形で認められ、必要に応じては朝鮮、中国への攻撃に参加し、また米軍の占領地域に国連警察軍として参加する計画も描かれている。
2 海上自衛隊の米軍との一体性
(1) 海上自衛隊は日本海および本土南西諸島(その南端は石垣島、与那国島等台湾の至近距離におよぶ)南方諸島(小笠原から南鳥島、沖が鳥島におよぶ)における対潜攻撃力の強化を目標にしつつ増強されている。すでに昭和三八年二月二八日当時の海上幕僚長山中定義は海上自衛隊の任務につき「潜水艦をやつつけるというのが今のアメリカ海軍および私らの方の至上命令になつているわけです。」「それを私らは真剣にアメリカと一緒になつてやつているわけです」「私らの方は量は少ないけれどもうまくやれば自由圏のアメリカの一つのよきパートナーとなつて潜水艦をやつつける非常に強い力になるということを私らは思つているし、アメリカも非常にそれを期待しているわけです。」等々と述べている。また現海上幕僚長石田捨雄も「……従来から私どもが解り易く言う言葉で槍と楯というのがあるのです。槍というのが第七艦隊です。……だから楯である海上自衛隊は私どもの成し得る範囲内での本土の周辺海域の防衛作戦を行なうということで、いざという場合はおつとり刀で迎え撃つというところに我々の出る幕があると考えており、……対処力としての第七艦隊にそのようなことのないよう、またあつても洋上で叩いてもらうようその能力に大きく依存しているわけですね。従つてその見地からいつた場合一本の柱の大部分は大きく依存しているわけであり……」と述べている。
これらはすでに米日連合作戦であり、米日混合艦隊の考え方がみられる。そしてアメリカの現作戦部長E・R・ザムウオルト大将の言葉にもみられるように海上自衛隊はたんに日本周辺のみならず遠くインドネシア海域(マラッカ海峡も含まれる)での連合作戦さえも期待されている。
(2) そしてここで海上自衛隊の担当する対潜作戦は水中ミサイルを装備した原子力潜水艦であり、特に米海軍とともに、ソ連の原子力潜水艦を目標としている。そしてこの原潜なるものは在来型の潜水艦と異なり、水中速力三〇ないし四〇ノット(六〇ないし七〇キロメートル)の高速であり数か月の潜水も可能である。したがつて対原潜作戦にはどうしても攻撃型原潜の保有が必要で現に海上自衛隊では第四次防中で「潜水艦用ミサイルUAUM」(サブロック)および「艦艇推進用の原子力機関」の研究もおこなつており、原潜および核誘導魚雷の保有も技術的にいえば時間の問題である。
3 航空自衛隊の米軍との一体性
(1) 航空自衛隊もその創設以来アメリカ戦略のもとに組み込まれ、米空軍との共同軍事行動を前提として装備、訓練がなされている。このことはアメリカの陸海空の三軍編成方式にならつて航空自衛隊が独立し、その教育、訓練もすべて米軍規格であり、使用用語も米語に統一されていることからもいえる。
とくにアメリカの対ソ戦略は世界的規模で展開されており、北太西洋条約、中東条約、東南アジア条約、日米安保条約、北極海域という連鎖でソ連を中心とする社会主義諸国を包囲しており、日本もその一環としてアメリカ戦略に含まれ極東における重要な一部を形成している。つまり一面では「日本は東アジア大陸を三日月状におおつており背後に広がる太平洋の広大な水域の楯、防護物である。戦略のうえから日本をみると“ある種の防衛報復力”の潜在的前進基地であると同時に日本の後方を行動する米海上機動力のいつそう大きな防護壁である……。日本の戦略上の地位の重要さは奇襲攻撃に始る全面核戦争以外の場合には確固不動である。日本はそれ自体戦力の根源であり、アジア大陸から太平洋方面へのびるいかなる種類の勢力拡張に対しても堅牢不抜の要塞」(ジョージ・ケリー)なのである。
要するにアメリカは基本的には日本の軍事的価値をアジアの社会主義国に対抗してのアメリカ自体の利益のための防護壁、あるいは前線基地として考えているのであつて、日本国民の利益を考えているのではない。
(2) 航空自衛隊を米空軍の事実上一体というに近い関係を示すものに昭和三四年(一九五九年)九月二日当時の第五空軍司令官バーンズ中将と航空総隊司令官松前空将との間でのとりきめ「日本の防空実施に関する取扱い」すなわちいわゆる「松前・バーンズ協定」がある。
同協定第三項には「この取扱いはこれら二国の航空部隊の終始各々の自国の部隊としての本来の姿を保持させつつ且つ一つの団結した防空組織として運用するのを容易にするよう案画したものである。……防空に関する態勢及び防空警報のおくれが日本の防空を危くするような場合には、一方的な処置を行なつた後、調整を行なうことができる」また第四項には「航空警戒管制の運用・府中作戦指揮所は五空を総隊の防空指揮中枢として指定する。航空警戒管制組織は、五空及び総隊双方の航空機に対して所要の指令及び情報を送受する。同組織はまた日本の組織内各分野に防空情報の送受を行なうだけでなく、五空司令官が責任を負つている隣接防空組織との間においてもこれを行なうものとする。日本の防空組織と隣接防空組織との間の情報の交換は、五空司令官の責任であつて五空司令官が主となつて行なう」と規定している。
これによれば航空総隊は米第五空軍と「一つの団結した防空組織として運用される関係にある。また隣接防空組織――韓国、台湾、フイリッピン、ハワイ等――とも密接な連携をもつている。しかもこの協定はいわば「平時」での協定であり平時でさえ一つの組織として運用されるのであるから、「戦時」においては両軍の一体性はいつそう強まり、その場合単一指揮が必要とされ、結局は兵力、情報力等圧到的優位にある米軍の事実上の指揮下に自衛隊がおかれるということにならざるをえないであろう。
元航空幕僚長源田実は航空自衛隊の任務につきつぎのように述べている。「①航空自衛隊の任務はアメリカの反撃力のとびたつていく基地を守る。日本がもし反撃をやるならば日本の反撃力を守ることである。②レーダーもその相当部分は反撃兵力を目標に誘導する。また帰りをうまく誘導してやる。第二次戦争当時の日本の防空部隊みたいな形でただ守るだけでは大した意味をなさない。③その次に考えられるのは国土防衛であるが、これははるかにそれに付随したものとして出るわけである。④日本は非常に前進した位置にある。全面戦争がはじまつたときにさいごは陸上戦闘で追撃しなければならぬ。城下の誓いをさせるということがどうしても起つてくる。そういうばあいに前進基地としての役割を果す。⑤要するに主攻撃力としての米反撃力そのものを最も有効に働らかせるように日本が協力する。これが今の航空自衛隊の装備、兵力、思想をもつてやりうる最大限のことである。」まさにここに日本を基地とする米軍の攻撃作戦行動を誘導し、援護する従属部隊としての自衛隊の本質がある。とくに国土防衛は二のつぎであり、都市の防衛はたいして意味がないというのであるから自衛隊はわが国を防衛するものではなくアメリカ軍の攻撃力を防衛するものだということがはつきりしている。
(3) そしてこのような米空軍の作戦行動における優越性は自衛隊法によつて指揮命令を発すべき内閣総理大臣、防衛庁長官の知らないうちに自衛隊が米軍と歩調を合わせて行動している事実からも認められる。
昭和三七年一〇月二三日のキューバ紛争のとき、極東空軍がアラート3の警戒体制をとつたのに対し、当時の池田首相も知らない間に航空自衛隊はアラート4の体制をしいていたしまた同様のことは同三九年八月の「トンキン湾事件」、同四〇年の北ベトナムの爆撃開始のときにもあつた。そしてこのことを如実に示したのは同四五年三月二一日の連合赤軍による「ヨド号乗取り事件」である。このときは福岡空港から飛立つた日本航空のヨド号は築城基地から発進したF八六Fに監視されながら日本の防空識別圏の境界で韓国空軍に引き継がれ、米第五空軍司令官の命令で韓国の金甫空港に着陸させられたのであるが、このことを当時の愛知外相はまつたく知らなかつた。この事件は米日韓三空軍の一体となつた姿と、その中での米第五空軍の優越性を如実に示した。
また同四四年四月一五日のEC121機撃墜事件のとき米軍は午後一時五〇分の事件発生後、午後三時に自衛隊に通告し、外務省に連絡のあつたのは午後五時であり、国民がニュース速報で知らされたのはじつに事件発生後六時間を経た午後七時五〇分であつた。このように米軍が日本周辺で軍事行動をとろうとするときは、日本政府や日本国民に知らせる前にまず自衛隊に知らせてその協力を要請する。そして政府も国民も知らない間に自衛隊が米軍と共同行動をとつて事実上戦争に突入するという危険さえつねにはらんでいる。
また航空自衛隊の戦闘作戦指揮所(COC)にはアメリかの軍人も入つており、日本を中心に東北アジア全域の航空作戦を指揮している東京府中の米軍基地内にある戦闘指揮所はわが国の航空総隊指令部と米第五空軍司令部が共同で運用しており、そして昭和四三年三月完成したバッジシステムがその全国のレーダーサイトでキャッチした情報は防空管制所(ADCC)、日米共同戦闘指揮所(COC)に伝達され、この指揮所において防空作戦指揮がなされるのである。
そしてナイキ基地はいわゆる一五分待機の常時即応態勢にあるといわれているがこれはソ連からアメリカに向けて発射されたICBMの着弾までの時間を基準にして算出されたものであり、このことはまさに航空自衛隊がアメリカ戦略態勢の一環にくみ込まれている大きな証拠である。そしてわが国がアメリカ空軍と同一の航空機種(例えばF4ファントム)を採用したことはその予備部品の貯蔵、整備支援などを含めてわが国がその大きな兵站補給組織としての役割をになわされていることを意味している。
4 航空自衛隊の軍事的特殊性
航空自衛隊は攻撃的性格をもつがそれはまず兵器としての航空機の攻撃性と、かつそのうえにたつての航空機およびナイキ等を中心とする兵器が情報兵器(バッジシステム)を統合して不可分の一体系をなしつつ航空作戦における攻撃、防御にあたることにおいて示される。
(1) 航空機は陸上部隊、海上艦船にくらべて比較にならないほど非常に大きな行動速度をもつとともにその行動の制約も、右両者が地理的、海洋的条件、気象条件に大きく拘束されるのにくらべて、気象条件に若干制約されるほかは行動も立体的空間においてほとんど無制限に行動することが可能であるといつてよい。したがつてこのような特性をもつとも有効に利用するには航空機に破壊兵器を運搬させてこれを攻撃戦闘兵器として機能させることが最大であり、そのように利用するに至るのは兵器として必然的であるといわなければならない。結局、兵器としての航空機は必要な目標に対しきわめて敏速に確実にそして直接的に攻撃できる特性をもち本質的に攻撃兵器である。
(2) クラウゼヴイツツは「たとえ戦争の目的がたんなる現状維持にすぎないとしても襲撃を撃退することで終ることは戦争の本義に反する……。攻撃への急速で力強い移行、これこそ防御のもつとも彩ある瞬間である。このような移行に直ちに思いをいたさない者、もしくはそれを直ちに防御の一部としてとり入れようとしないものは防御の優越性を永久に理解することはできない」(戦争論第三章「戦略的防御の特質」)と述べているが、この戦争の論理は航空作戦の場合にも完全に貫徹している。
また元航空幕僚長佐薙毅は航空機においては開戦へき頭の航空戦の成否によつて全戦局の勝敗が早期にきめられるとして、その例として一九六七年のイスラエル・アラブ戦争の例を引き敵航空兵力を撃破することはへき頭の第一撃の目標をレーダー基地と航空基地に向けることが大事であると述べている。
このようなことからも航空自衛隊の任務について国側がいかに専守防衛を唱え、その防御的性格を強調しようとも、兵器としての航空機の強大な攻撃性と敵の戦闘能力に対する有効な打撃力としての役割を否定できないのであり、また実際の航空作戦においては防衛の目的を達するためにも敵基地に対する積極的な攻撃行動が不可避となることが戦争の論理であるといわなければならない。
(3) これに加えて現代における航空機による攻撃、防御の戦闘方法ではレーダーによる情報収集と情報のコンピューターによる高速処理を組織化したバッジシステムの導入が不可欠となる。航空自衛隊も昭和四四年四月から(完成は同四三年三月)バッジシステムの運用を開始した。
バッジシステムは目標の捕捉および追尾をおこなうレーダーシステム(全国二四か所のレーダーサイトからなる)。これからえた情報を処理するデーター処理システム(四か所の防空指揮所にある大型要撃計算機を主要な機械とする)ならびにレーダーサイト相互間、レーダーサイトと各基地間、レーダーサイトと航空機間を結ぶ通信システムからなつている。バッジシステムが攻撃を目的として機能するときには、攻撃機の離陸から誘導を開始し、目的地到達にもつとも有効な方法で誘導し、また攻撃が終われば基地まで安全に誘導する役割を果たす。また迎撃を目的とする場合の機能は、レーダーの有効範囲の全航空機をレーダーで捕捉、追尾し、飛行計画と照合して、識別し、不明機に対し、全航空自衛隊の戦闘準備状況を総合的に判断して迎撃機および対空火器の兵器割当、指示、迎撃機の離陸から会敵への誘導をする役割を果たす。
このように航空自衛隊の航空機および対空火器はバッジシステムと結合し、これと連動しながら航空自衛隊全体が一体となつて攻撃と防御の行動が総合的に運用されるシステムとなつている。とくに航空機は滞空時間に制限があり、帰投基地の確保は絶対的条件であり、この基地の防衛は航空機の攻撃の戦闘能力を担保するものである。したがつて、帰投基地の防衛のための対空ミサイル部隊は陸軍および海軍における基地防衛の意義にくらべてその役割は決定的に重要なものであり、それは攻撃能力の一部を構成するものである。
かようにバッジシステムは航空機の攻撃的特性を最大限に有効に発揮させることを目的とした航空兵器の一元的体系であり、それだけをとり出してみると一見防御的ともみえる地対空ミサイル(ナイキJ)にしてもバッジシステムと結合した航空兵器体系のなかにおかれることによつて、航空部隊の攻撃的戦闘能力と機能の一部を構成するものである。
(4) 航空自衛隊の防空作戦の基本的な考え方は昭和三八年度統合防衛図上研究いわゆる三矢研究に端的にあられわれている。すなわち同研究では「米軍の日本からの戦闘作戦行動の実施はこれを契機として共産側の日本に対する航空攻撃を誘発し、もしくは促進する」であろうが「米軍の日本を基地として戦闘作戦行動は朝鮮における武力戦を有利かつ迅速に進展させるため一つの重大なポイントであり、又日本としても朝鮮の戦勢を極力早期に自由陣営の勝利によつて終熄させることが波及を小規模にとどめる最良の策である」と述べたうえ、このような事態にいたることは「ソ連の介入の可能性が生じ北日本に対する武力侵略のおそれが増大するであろう」し、また「西日本方面の米軍基地、サイトさらには日米軍事基地に対する航空攻撃はさけられない事態にたちいた」るであろうことを予測している。このことは第一に自衛隊の防空作戦の実施される局面はたんにわが国がなんらの攻撃もしないまま航空攻撃を受けた場合と異り、米軍の外国に対する軍事侵略のあおりを受けて実施されるということであり、第二に航空自衛隊の防空作戦の必要性または目的を決定する際の基本にあるべきはずのわが国を他国の軍事攻撃からいかに守るかという発想のかわりに、その防空作戦の実施の必要性、目的がもつぱらアメリカ軍が日本を基地としておこなう軍事作戦の成功のためという点にのみしぼられていることである。
(5) 被告は自衛隊は専守防衛を旨としているという。だが航空作戦における専守防空などということはさきに述べたとおり虚言にすぎない。そしてさらにたとえば三矢研究にも「敵の海空基地を破砕せざる限り、日本の直接防衛の目的達成には不十分」であり「海空作戦においては敵の海空基地を攻撃することは目的達成のためやむをえない」と記述されている。
このように航空自衛隊が海外基地攻撃という作戦を実施しなければならない理由は第一に三矢研究からも明らかなようにわが国が大陸に近接して平行に位置し、軍事的に縦深性が不足しているという防衛戦略態勢上の脆弱性にある。この縦深性の不足は侵入機の発見からこれに対する迎撃までの時間的余裕の欠如につながつてくる。現在の超音速航空機では発見から会敵までせいぜい一〇分程度の時間的余裕しかない。このゆえに日本の防空作戦は専守防衛のみでその目的を達することは不可能という結論になる。
このことは航空自衛隊幹部学校記事(昭和四四年一一月号)からも明らかである。すなわち同記事には「ここにおいて私達は専守防空の航空自衛隊の姿をあらためて直視し、その任務の困難性を再認識したのである。この討論における結論は『航空戦は専守防空によつて勝利を得ることができない』ということであつた」といい、作戦の主眼は「対象勢力の航空基地を連続的に攻撃し使用不能とし、その航空活動に制約を与え、わが航空優勢を早期に確立し、航空兵力の七〇%を攻撃にまわし三〇%で防空にあたるとし、防空は攻撃機の発進、帰投時の擁護を重点とするように配置する」と述べられている。
そしてこの日本防衛の戦略態勢上の脆弱性の早急に是正さるべき作戦として前記三矢研究によれば、①韓国の確保と北朝鮮進攻作戦②千島樺太等の一部地域への進攻作戦③敵航空基地、港湾、GM基地等の軍事目標に対する攻撃を含む航空海上撃滅作戦④敵の交通破壊、特に商船隊の捕捉撃滅作戦の実施が必要とされている。
第二にそれに加えて、航空基地、レーダー施設等は地上に露出し、陰敝することができない。しかもこれらの基地、施設は発進攻撃する航空機の帰投のために不可欠であり、かつ現代の航空戦におけるレーダー施設は航空機の目であつてこれら重要施設の破壊は以後のすべての継続を不可能にする。この意味からも航空自衛隊による防空作戦においては専守防空は自殺するものである。第三は航空作戦は奇襲によつておこなつた場合その軍事的効果は著しく大きいということである。航空機による作戦はその高速性を利用しての奇襲の成否にかかつているのである。
ところで憲法は太平洋戦争により日本本土の焼土化をもたらした苦痛にみちた歴史的体験にたつて、外に平和政策、内に民主主義を基調とする国策の推進がわが国土の安全を守る最良の方途である旨宣言したものであるにもかかわらず、以上のような航空自衛隊のおこなうであろう防空作戦はこの憲法の精神とはまつたく背反するもので、わが国をふたたび戦争の惨禍にまきこむおそれのあるものである。
5 本件長沼ナイキJ基地設置の軍事的意義と危険性
(1) ナイキJ導入の意義
ナイキJ基地の設置により航空自衛隊の兵器体系につぎのような効果をおよぼす。第一に迎撃機の機数を削減し、これを攻撃機として利用することを可能にし、航空戦へき頭における海外基地攻撃のための機数を増加させ、第二に攻撃機および迎撃機の発進、帰投時の擁護を完全にし、第三に地上の航空機およびその基地機能ならびに周辺のレーダー基地の安全を確保し、第四に戦術上縦深性を大きくし、防空作戦遂行の基礎条件を有利にし、第五にナイキJの兵器体系は一連の電波兵器体系と連動するものであるからECM(電波妨害装置)に対する対抗電波兵器体系の発達をうながすとともに海外基地攻撃にでていく航空自衛隊自身のECM機能を発達させることになる。このようにナイキJ基地の設置は航空自衛隊全体の作戦計画および行動に大きな影響を与えるものである。
(2) ナイキJの性能諸元構造
ナイキJは全長12.65メートル、直径八〇センチメートル、射程一三〇キロメートル、射高四万五、〇〇〇メートル、速度マッハ三、その構造は弾体とブースター(噴射推進機)の二段ロケットでつくられ、ブースターの全長は約4.5メートル、重量約二トンである。ランチャー(発射台)は一高射隊に九基、弾体はランチャー一基に二弾ずつ、一高射隊につき一八弾が用意されている。
ナイキJは八五度ないし八七度の角度で発射され、地上の四つのレーダー(捕捉、測高、測距、誘導)によつて誘導される。途中でブースターは射方向に向かつて二キロメートルぐらい離れたところを中心とした地域に落下する。ナイキJは直接目標に弾を命中させて落とすのではなく、通常火薬弾頭なり核弾頭を炸裂させて一定範囲の空域に球状ないし卵形にボール(破片)を飛散させることによつて目標を撃破する。その範囲は通常火薬弾頭の場合五〇メートルよりやや多く、核弾頭の場合は非常に広くまたその威力も非常に違う。通常火薬弾頭は相当高性能の炸薬約三〇〇キログラム位を装填する。
またこのようなナイキ基地は移動が可能であり情勢により再展開することもできる。
(3) ナイキの事故、射撃に伴なう危険
一九六八年にアメリカのニュージャージー州の米軍の対空ミサイル陣地でナイキ数発が爆発、弾頭が五キロメートル離れたところに、ブースターが三キロメートル離れたところに飛び兵隊一四、五人が即死した事故があつた。また沖繩でもブースターが破裂してそその破片が部落に飛んでいつた事故が発生している。
ナイキを発射するとブースターは前記したとおり発射方向に向かつて二キロメートルぐらい離れたところに落下する。したがつてこの地域は危険地帯として人の立入は禁止され、またその地域内にいる人は移動退去しなければならない。しかも落下位置は各種機器の故障等によつて狂うこともあり、また気象条件によつて弾体が流れて落ちることもある。アメリカではナイキ基地の周辺五キロメートルを危険地帯としている。4.5メートル、二トンのブースターは多量の火薬を燃焼した後だから非常に高温に熱せられて落下し、その被害は大なるものがある。
またナイキの射撃はいつたんナイキを高度三万メートルに打ち上げて落下させながら追尾させるもので、もしその間にレーダー誘導がECMまたは機器の損壊により絶たれた場合ミサイル本体はそのまま噴射プラス加速度でマッハ三以上の速度で地上に落下するが、この落下位置はまつたく予測がつかない。また目標機の近くで炸裂しても四方に飛散したボールは目標機を撃破するだけでなく、そのまま地上に落下して被害を出す。さらに核弾頭の場合には当然に放射能の惨禍は避けられない。
(4) ナイキJの核装備の可能性
ナイキJの弾頭は一応非核専用で弾頭には核の取つけができないようになつているといわれている。具体的には本体について①核弾頭のような大きなものが取りつけられないようにくもの巣状のフレーム(金属板)を弾頭室のところにしつかりとつけてある。②核弾頭の場合の先端部分のバロメータープルーブが取除かれている。③核弾頭用の乾電池がない。またランチャーについては④核弾頭用のコネクターが除去されている、といわれる。
しかしながらはじめはもつぱら通常弾頭用ミサイルのみを用意していても有事の際核ミサイルさえ用意すればいつでもその発射が可能となり、またランチャーのコネクターなるものもいつてみれば一種のコードとプラグといつた種類のものが中心であつて非常に単純なものであるから核ミサイル発射用に改装することは兵器に関する一応の技術をもつ国にとつてはそれほど難かしいことではないといわれ、日本の技術水準をもつてすれば決して困難とはいえないのである。
それに加えて前記のとおり通常弾頭と核弾頭ではその効果が著しく異なることと、そもそもナイキJの原体であるナイキハーキュリーズは核弾頭用に開発されたミサイルであることを考えれば早晩ナイキJも核装備のミサイルに変ることは明らかであるといわなければならない。
最近に至り内閣総理大臣田中角栄は「防衛用の核は憲法が許容する範囲内という政府見解は自民党内閣である限り変らない」と発言し、防衛局長久保卓也は「地対空ミサイルの核弾頭なども防衛兵器であろうというふうにいわれる」と答弁している。このようにナイキの核ミサイル弾頭自体を合憲とみる以上政府の政策さえ変れば核弾頭の持込み、また製造の危険性は十分にあるものといわなければならない。現に「空の幕僚は通常の兵器で防空をやるのは神わざに等しいと極言する。防空ミサイルを核装備しなければ空からの敵襲を完全に阻止することはできないとみとめているわけだ」とさえいわれている。
(5) 新兵器配置の可能性
しかもまたこのナイキJも一つの戦闘兵器として、相手によりすぐれた、より高性能の兵器が出現すれば全くその効用を失なうものである。そしてさらにそれに対処するにはそれをうわまわる新しいミサイルを作らなければならなくなるのは当然である。現在アメリカ陸軍ではナイキハーキュリーズは次第に旧式な兵器になり、新しいサムDが開発されている。長沼にいつたん基地が設置された場合最初はナイキJであつてもさらにより高性能なミサイルが配置される可能性が十分ある。
そして将来はアメリカが展開中の「戦略ミサイル迎撃ミサイル(ABM)」の体系の一環としてその基地とされる危険がある。ソ連にもつとも近い位置にABMを配置することがもつとも効果的であるからである。
(6) ナイキJの効用
しかし他面現在のこのナイキJの効用についてみるに、いまかりにソ連の極東空軍のうち三〇〇機が第一撃としてわが国に来襲したとして、これに対して航空自衛隊の北部方面隊のもつF104約四〇機、F86二五機で他からの来援のプラスアルファを考慮に入れて迎撃にあたつても、公海上で全部を撃破するのは至難であり、なかには重要防護地域に近づいてくるものもでてくることになる。これを長沼、千歳にある三個の高射隊のミサイルが迎撃することになるが、それも相手方のECMにこちら側のECCMで対抗してこれに勝ち、バッジシステムの機能やミサイル誘導のレーダーの機能が健在であり相手方の空対地ミサイル(ASM)によつて基地が破壊されず、そして相手方の航空機がナイキJの速度(マッハ三)をしたまわるという条件が満たされたと仮定してはじめてナイキJによる迎撃が可能になる。そしてさらにかりに右三個隊合計二七基五四発のミサイルが完全に発射されたとしても第一撃で来襲した三〇〇機のうち五〇機ないし八〇機が損害をうければ防者の勝ちとされている。しかしここでは残つた七〇%の相手機に侵入された場合どれ位の被害をこちら側が受けるのかまつたく考慮されていない。そして元空幕監部防衛部長植村英一は「その戦闘で航空自衛隊の力は三、四日からせいぜい一週間ももちこたえられるかどうかという戦力だ」という。そして「そのあとは米軍の動きで防衛を継続するとか、外交的に解決するとかいろいろある」ということになる。
(7) ナイキ基地の核反撃吸収機能
これに加えて安保条約下における今日の国ぐるみの基地の機能の一つとして「核反撃吸収機能」が指摘されている。それは基地があるから、自衛隊をもつから戦争に巻き込まれるといつた単純な危険性だけではない。否むしろアメリカが核攻撃の戦略体制を展開するなかで日本は核兵器をもつて敵基地を攻撃する前進基地であると同時に敵からの核反撃をアメリカに代つて吸収する機能をもたされているということである。このことはアメリカのラインハルド大佐がその原子戦略に図する論文で指摘していることからも明らかである。
そしてまた本件のようなミサイル基地は戦闘がはじまつた際、たとえ核反撃によらなくとも、真先に敵の襲撃を受けることも避けられない。このことはアメリカが一九六五年北ベトナム爆撃を開始した際はじめの三日間は連続してレーダー基地と対空ミサイル基地を集中して攻撃したことからみても明白である。
長沼町馬追山にナイキ高射一個隊、ランチャー九基、ミサイル弾体一八発を設置することは「侵略の抑止」どころか、かえつて有事の際攻撃の目標とされ、戦禍に巻き込まれるもとになるのである。
(五)  自衛隊の反民主主義的性格
1 国民の「平和に生きる権利」
昭和二〇年八年一五日わが国はポッダム宣言を受諾して連合軍に降伏した。そして日本の軍隊の武装解除と日本軍国主義の解体がすすみ、同二二年五月三日日本国憲法が制定された。七二〇万人におよぶ軍隊は解体され、産業も、教育も軍事から解放され、兵役法、陸海軍刑法、軍機保護法、国防保安法、防空法などいつさいの軍事立法が廃止されただけでなく、刑法、民法、土地収用法などの分野において、軍事条項を削除または廃止する改正がおこなわれ、法律、経済、教育などのあらゆる分野で非軍事化政策がおこなわれた。日本国民はいつさいの戦争と国防協力の義務から解除されて国土と税金と人的関係のすべてについて、戦争と軍備のない自由で豊かな平和の社会の建設にだけ用いる権利(平和に生きる権利)を保障されることになつた。この「平和に生きる権利」こそ日本国憲法の全体を貫く根本精神であつて、国の独立を守るためにはある程度の犠牲はやむをえないというような一般論でこれを否定できるものではない。
もともと旧日本帝国軍隊は人民弾圧の砲火のなかから誕生し、「対内的軍国主義と対外的軍国主義とは相互に因となり果となり」「悪循環を重ねたあげく、内外からの力によつて打倒され、滅亡せざるを得」なくなつたものである。そして前述したとおり自衛隊もまた警察予備隊として誕生するに際し、朝鮮戦争開始直後のわが国の治安を確保することを重要な任務としていたのである。
軍国主義とはその国の支配層の侵略の目的に奉仕するため、巨大な常備軍を中核として経済の軍事化と国家機構全体での軍部の比重と役割を増大させ、好戦的イデオロギーの宣伝や教育を強め、政治経済文化などあらゆる面で全国民を侵略戦争に動員する体制をいう。軍国主義は対内的には国民を軍事体制にしばりつけ、対外的には他民族に対する侵略と抑圧をすすめる主な手段である。ところで軍国主義は人民大衆の犠牲のうえになりたち、したがつて当然人民の抵抗が予想され、支配層にとつて暴力による体制の維持と政策遂行の障害物の除去が不可避となる。その治安機関の担い手はいうまでもなく自衛隊を頂点とし、警察その他がこれに続いている。自衛隊の「間接侵略その他の緊急事態」における「治安出動」はこの行動の一つである。この意味において自衛隊の暴力は国民の「平和に生きる権利」と衝突し、全憲法体系に反するものとなる。
すでに述べたように日本国憲法は「無責任ナル軍国主義ガ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙に出ツルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ」とするポッダム宣言の趣旨をうけつぎ非軍国主義をその基調としている。軍国主義の復活強化は、これまた日本国憲法全体の精神に反するものである。
2、「治安出動」の違憲違法性
(1) 自衛隊法では「自衛隊は……間接侵略に対し、わが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持にあたるもの」(同法第三条)、とされ、治安出動として①内閣総理大臣の命令にもとづく「命令出動」(同法第七八条第一項)、②都道府県知事の要請にもとづき総理大臣の命令する「要請出動」(同法第八一条第一、二項)③防衛出動時の自衛隊自身による「治安行動」(同法第九二条第一項)の三種の場合が定められている。
「命令出動」の要件とされるのは「間接侵略その他の緊急事態」が存在し「一般の警察力をもつてしては治安を維持することができないと認められる」場合であり、「要請出動」にあつては知事が「治安維持上重大な事態につきやむを得ない必要があると認める」場合であり、「防衛出動中の治安行動」は「公共の秩序の維持の必要に応じて」とることができるのである。これらの要件の概念は不明確で多義的であり、拡大、否曲、濫用のおそれがきわめて強く、これを抑制することは至難である。
事実、昭和三五年安保闘争では内閣総理大臣、通産、大蔵各大臣から自衛隊出動を要請しており自衛隊側も秘密裡に治安出動準備を完了していたことは今日では公知の事実といつてよい。
(2) 「命令出動」の要件の一つである「間接侵略」の意義について一般には「一つまたは二つ以上の外部の国による教唆または干渉によつて引き起された日本国における大規模の内乱および騒乱」と解され、外国による教唆、干渉と内乱・騒乱との間の相当困果関係の存在が要件とされる。また「緊急事態」もこの「間接侵略」と密接かつ高度の類似性がなければならず「外国勢力の関与しない大規模な内乱および騒擾などは含まれない」と解されている。
ところが元防衛庁長官増田甲子七は「外部の支援や干渉に基づかない国内の治安かく乱が緊急事態である」と国会で答弁し、またある自衛隊の中堅幹部の研究会では内乱、騒擾、ゼネストが間接侵略に入るとしている。また陸上幕僚長中村竜平は「火炎びんだとかそれよりもつと程度の高いりよう銃だとか若干の火器等も使用される」段階を治安出動の対象となるものとしている。
「間接侵略その他の緊急事態」には国外からの武器の提供とか、挺身部隊等の潜入などの具体的なものが想定されているはずであるのに権力側はたんなる思想活動そのものを「間接侵略等」化しようとしている。杉田一次陸将は富士学校長時代「勤評反対、道徳教育反対闘争」をとらえ、「これこそ近代戦における巧妙な戦争、裏口戦法であり、これがいわゆる間接侵略であろう」と述べている。このようにして治安出動の要件の一つである「間接侵略その他の緊急事態」は現実には民主主義的活動さらにはその思想活動に対してまで拡張されているのである。「間接侵略その他の緊急事態」の概念のあいまいなため支配層、自衛隊によつて拡大解釈され、軍隊を用いて強力な批判勢力を抑圧する方向に指向されつつある。少なくともその危険性がきわめて大きいことは疑いない。政治に対するに政治をもつて、思想に対するに思想をもつて争うのが立憲民主主義の原則であるが、支配層が自己と対立する政治や思想を武力をもつて抑圧し、支配する道が自衛隊法によつて開かれ、少なくともこれを制度として防止できないということは自衛隊ならびに自衛隊法の違憲性を判断するうえで重大といわなければならない。
(3) 「治安出動」は「警察力をもつては治安を維持することができないと認められる場合」にのみ許される(自衛隊法第七八条第一項)のでありこのことは国民の人身に過度の危害を与えることをできるだけ阻止しようとする人権尊重の立場からいえば当然のことである。しかしながら、そもそも自衛隊の治安出動は独占支配の秩序が著しく危殆に頻する事態においてなされ、その場合の独占の期待は“暴徒”に対し、できうるかぎり最大の打撃を与えることであることを思えば「治安出動」に際しての警察力への補充性の原則は安易にふみにじられる危険性を多分にもつているといわなければならない。とくにデモ規制についても警察力は警察権の通常行使であり、自衛隊は権力の非常行使であり、その行使の面で警察と自衛隊では事実上大きな相違がある。
元防衛庁長官増原恵吉はかつて間接侵略の問題に関連して安保のときに見られたような事態の対処として戒厳令の必要性を強調し、政府の設置した憲法調査会の多説数も、戒厳令の制度の必要性とそのための憲法改正を強く要求していたし、防衛庁長官増田甲子七は治安維持責任に関する「警察主、自衝隊従」の原則を定めた「防衛庁と国家公安委員会の協定は時勢にもはや合わない」と述べた。独占支配層の軍事独裁を特質とする戒厳令実現の動きがあるという情勢のもとでこのことは評価されなければならない。戒厳令制度のもとで自衛隊が「治安出動」し強力な武器をもつて治安部隊の中心となり、警察力はその補助的地位に追いやられることは明らかである。今日の制度のもとでも「間接侵略その他の緊急事態」の解釈運用を歪曲、拡大することによつて戒厳令の治安出動と同じ効果をあげることができるし、さきに述べた動きは、すべてその方向を指向しているといえる。それは、実質的な憲法改悪であり、民主主義、人権保障の現憲法体制に対する真向からの否定である。
(4) 「治安行動草案」がつくられたのは昭和三五年一一月である。この草案は米日独占の支配秩序維持を目的とし、労働者を中心とする人民大衆を暴徒とし、大衆行動を「暴動」とみてこれを鎮圧するための綱領である。総論では「治安行動」の一般基準を定め、「各種状況における行動」では①軽易あるいは強力な装備を有する暴徒、すわり込み集団に対する制圧行動、②市街地、山間地帯、炭鉱地帯、夜間などの制圧行動③行政機関、飛行場、発電所、その他警護すべき重要施設や拠点を中心とした制圧行動の各基準について詳細に規定している。
この草案によると「武器の使用」についても①武器使用は最高指揮官の命令により、そのいとまのないときには部隊指揮官の判断で命令し、個々の隊員は正当防衛、緊急避難の場合に限定し、②武器の使用は「出動区域」に限られ、③実力行使は最小限度にとどめ、④実力行使の前に「解散」、「警告」を発して暴徒に退去の機会を与え、⑤実力行使は損害を最小限度にすることなどが定められ、そして「銃の使用」についても「暴徒が単に数発の射撃をしたからといつて、それで本格的な火器の使用が開始されたとし、直ちに応射するのは往々にして暴徒の術策に陥る結果となり必らずしも適当でない。この際重要なのは部隊に対して積極的な抵抗が開始されたかどうかを判断することである」などと一応それなりの配慮が規定されている。
しかし国民としてはそのような配慮や留意事項があることよりも、たとえば武器使用が結局は部隊指揮官の判断でも、さらに個々の隊員の判断によつても使用できることの方に大きな不安を感ずるのである。国民の権利侵害について自衛隊とは比較にならないほど神経をくばつているはずの警察が、いわゆるメーデー事件において丸腰無抵抗のデモ集団に対し警棒をふるい、ガス筒をなげ、拳銃を発射し、死者二名重軽傷者多数を生じさせたことを想起しないではいられない。
事実昭和四四年一〇月三日公開された東富士演習場における公開治安行動訓練でその訓練の統轄責任者である陸上幕僚長山田正雄は「自衛隊が制約行動をするのにいちいち暴徒に警告する必要があるだろうか。警察は実力行使を前に警告するように法律で定められている。しかし個人的な意見だが自衛隊が治安出動する場合、自衛隊がでてきたという事実そのものが暴徒に対する警告なのだからいまさらマイクで警告する必要があるだろうか。かえつて部隊の指揮をあいまいにしてやりにくい。黙つて行動した方がいいではないか」と述べている。これらのことからいつても実際の場合で自衛隊による武器使用に際し「草案」に書かれているような留意が実行されることはまずないであろう。そしてこの「草案」作成の統轄的責任者であつた杉田一次陸将でさえみずからなげいたように「かつて第三管区総監時代、国内の騒乱を想定して図上研究を指導したことがあつたが、治安出動を命ぜられた部隊が直接侵略の敵に対するように、相手を見次第これを敵として射撃し攻撃するという傾向がうかがえて、平素の訓練や躾の恐ろしいものであることを痛感させられ」るのである。
(5) そしてこの「治安出動」は機会民主主義の否定のうえに運用されるものである。まず「命令出動」は国会の承認なしに、内閣総理大臣の判断で実行され、国会の承認手続はその後二〇日以内にやれば足り(自衛隊法第七六条第二項)、「要請出動」は国会の承認はまつたく必要ではなく、都道府県知事は事態が収まつたあとで当該地方議会に報告すればよく(同法第八一条第五項)、そして「防衛出動中の部隊の治安行動」は国会とも地方議会ともなんの関係もない。
これと関連して、治安行動の命令者である内閣総理大臣や防衛庁長官は文民でなければならないことはいうでもないが、旧保安庁法では内部部局の局、課長までがすべて文民であることを要求されていた(同法第一六条)が、保安隊が自衛隊に変る際、右制限は廃止された。(防衛庁設置法第一九条)
しかし内閣総理大臣や防衛庁長官も、実際には「治安行動草案」や「三矢研究」からつんぼさじきにおかれている現状である。まして安保闘争の際に、内閣総理大臣や二、三の閣僚がもつとも熱心な「治安出動」の積極論者であつたとすれば「文民統制」はこれまたすでにその機能を失つているといわなければならない。
3 「治安出動」訓練
(1) 昭和四四年一〇月三日東富士演習場で陸上幕僚長山田陸将統轄のもとに「治安出動訓練」がおこなわれ、はじめて公開された。
その内容はつぎのようなものである。重要施設を想定し、すでに暴徒がビル内に乱入して警察と攻防を演じている。「命令出動」をうけた第一師団特科連隊第一大隊二一〇名はノロシを合図に出動開始。ヘリコプターからレンジャー部隊や完全武装の隊員がビルの屋上に降りる。街路上では暴徒がゲバ棒をふるい投石をくりかえし、鉄ガブト、楯、小銃、擲弾筒の制圧部隊の主力が戦車、装甲車、ブルドーザー、タンクロリー、指揮車、消防車を駆使してじりじりと前進し、暴徒は火焔びんで抵抗する。マイクでの警告、催涙ガス入りの水の放水、暴徒によるガソリン、中古車への放火。「再度警告する。三〇秒後にガスを使用する。」そして「中隊放射開始」の命令がくだり、一斉にガス放射。「制圧前へ」の号令で戦車装甲車は前進、ブルドーザーはバリケードに突込み暴徒は右往左往し、ビル内でも暴徒は空からの降下部隊に制圧されて演習終了。この間三五分である。
(2) 従来、治安出動に関して極力これを秘匿することに専念してきた防衛庁が昭和四三年八月に至つて公然と治安出動およびそのなかでの装備武器使用の方法などを明らかにするようになつた。右の東富士演習場での治安出動訓練の公開もまたこれと軌を一にするものである。これは日本軍国主義の対外的軍事面での急速な復活に応じ、これを支えるものとしての対内的治安出動面の整備を急がざるをえなかつたためであり、そのためには非公然にとどまるわけにはいかなくなつたからである。わずか数百人の暴徒集団にたいし「命令出動」が出されることの違法性はおくとしても、空からはヘリコプター、地上からは戦車など、警察とは異質な軍事力による人民弾圧の狂暴さは想像するだけでも身の毛のよだつ思いである。一個小隊三〇名で警視庁を占領し、三〇〇名あれば一、〇〇〇万人の都民を制圧でき、どんな大規模なデモも五分で鎮圧できるという自衛隊の意識に支えられ、治安出動が一度許されるならば国民の権利も、警察比例の原則も事実上ありえない。
(3) 幸いにしてわが国の自衛隊誕生以来「治安出動」がおこなわれたことは一度もない。しかし戦前の日本帝国軍隊が米騒動や関東大震災時に数万の朝鮮人や社会主義者ないしその疑いで、あるいは誤つて一般市民に対して銃殺、刺殺、斬首、扼首など暴虐無比な行動をした歴史は未だ新しい。
「緊急事態」と「治安出動」のある限り、自衛隊は法的制約をはなれて最大限の武器および戦闘部隊として能力を発動することは不可避である。自衛隊の反人民的、反共教育、治安出動命令拒否やちゆうちよに対する厳罰はそのことの保障でさえある。
自衛隊の対内的治安出動の違憲違法性は対外的防衛出動のそれよりも勝るとも劣らないものである。
4 自衛隊の議会制民主主義の否定
さきに述べた自衛隊の「治安出動」はそれ自体議会制民主主義の否定につながるものであるが、さらに自衛隊は政治的状況いかんでは軍事クーデターに出る傾向を強くもつている。そしてこれは政治における軍部の発言権を増大し、軍事独裁へと発展する危険性がきわめて多いことを示している。たとえば「三矢研究」ではつぎのように展開されていくことが想定されている。
(1) 「三矢研究」は昭和三X年七月九日、朝鮮半島三八度線で武力紛争が発生し、沿海州から朝鮮半島にかけて戦闘行動に出、戦争を拡大してゆく計画である。同年三月までの想定として①昨年末以来の石炭政転闘争の継続と、日韓会談反対を軸とする革新勢力の政治闘争は労働組合の春季闘争と結合して、次第にもり上りをみせていたところ、二月以降東南アジア情勢の悪化にともなう国際情勢の緊迫化により次第に第二の安保闘争の様相を呈しはじめた。②三月に入るや極左学生、極左団体ならびに左翼組合等を主軸とする反政府的言動が次第に顕著となり現政府打倒への行動を策しはじめた形跡がある。③自衛隊はさしあたつて領空侵犯措置の強化の名目で防空警戒措置をとつている。このような「治安悪化の度が激する」のに対応して、自衛隊の「治安出動」がおこなわれ、軍事力を中心とする革新団体の反戦行動に対する弾圧がすすめられる。他方これと平行して「非常事態措置諸法令の研究」がなされ、戦争遂行に必要とされる戦時立法八七件は、開戦の前、五月三一日までに穏密裡に次官会議にかけ、活版印刷などいつさいの準備を完了し、その諸法律を二週間の国会審理で成立させた。
しかしこのなかで戦争遂行のため、国および地方の政治機構の大幅な変更を考え、国防中央機構として、戦争指導、民防衛、国土防空、交通統制、運輸統制、通信統制、放送報道統制、経済統制の各機構があげられている。
国会審議とは名目だけで明らかにクーデターないし軍事独裁である。法令は右のほかストライキ制限、労働力の徴用、衣食住の統制、防衛物資の統制、防衛徴集などを定め、政治、経済、社会、思想の全面にわたつて戦時統制のもとにおかれる。これらはすべて憲法の平和主義的民主的条項の否定を当然の前提とするものであり、労働者の団結権、所有権、職業選択の自由、思想の自由といつたあらゆる民主的権利と民主的政治制度の破壊の上に戦争体制が作りあげられることを事実をもつて明らかにしている。開戦までに社会党、共産党、総評や安保反対国民会議、朝鮮総連などの基地闘争、反対闘争は自衛隊の治安出動によつて弾圧され、破防法の団体規制により解散させられ、それらの機関紙は発禁となり活動家は逮捕投獄される。対内的軍国主義は対外的軍国主義を実行するための担保としての役割を果たしていることがよく示されている。
(六) 結語
以上によつて自衛隊ないしその必要的一環としての本件ミサイル基地設置計画が憲法第九条に違反することは明白となつた。
そうだとすれば、右基地設置を事由としてなされた本件保安林指定解除処分は憲法第九条に反してただちに無効であり、あるいはまた森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」を欠くことに帰して違法といわなければならない。
三、森林法第二六条第二項違反(必要性の不存在)
本件解除処分は森林法第二六条第二項に規定する公益上の理由により「必要が生じたとき」の要件を欠きこの点からも違法である。
1 森林法が保安林の制度を設けた趣旨は同法第一条にいうように「国土の保全と国民経済の発展とに資する」にある。とくに水源かん養保安林は水量調節によつて洪水を防止し、用水を確保することにより農業生産、住民の生命、財産を保護する公益的機能をもつ、したがつて保安林の解除には公益目的に対する高度の「必要性」がその要件とされ、被告の下部機関である林野庁自身ですら「保安林が供される事業の目的およびその性格等からその土地以外に他に適地を求めることができないこと」と定め(昭和三六年五月一八日付林野治第四二〇号林野庁長官通達)右にいう「必要性」の要件を厳格に規制しているほどである。
2 なるほど森林法第二六条第二項は「それが公益上の理由により必要が生じたときは……保安林の指定を解除することができる」と定めるところから、一見すると典型的な公益裁量(自由裁量)規定と解されがちであるが、それはあまりにも形式的な理解であつて、同条項を正しく理解するためには、その実質的意義、つまり保安林の指定(同法第二五条)を解除するということの実質的意味が十分にふまえられなければならない。
すなわち保安林の指定はその目的が水源かん養、土砂の流出や崩壊の防備、風水害や干害などの防備、公衆の保健、風致の保存など人畜、生産物、自然などの保護を通じて結局は地域住民(地方公共団体というのも結局は地域住民にいたる)の生命身体の安全や生活上の物質的、または精神的利益の保護を図ることにおかれているのであるから、それが解除されるということは右にあげた諸般の必要が客観条件の変化によつて消滅したのでない限り(同法第二六条第一項)、つねに関係住民の権利、利益に対する侵害の危険を意味することは見易いところである。そのうえ右にいう地域住民等の利益とはたんなる事実上の反射利益ではなく法によつて保護された制度上本来的な利益である。
そうするならばこの点において住民の権利、利益を制限する法規である右第二六条第二項は覊束裁量の規定と解するのが理の当然であつて、被告も同条項の「公益上の理由により必要が生じたとき」という要件が客観的に要請するところにしたがつてのみ裁量をおこなうことができると解しなければならない(解除処分が森林の所有者に対するものであると仮定しても結局は受益者の権利、利益への危険を度外視して自由に指定を解除することが許されるはずがないから被告の裁量が覊束されることには変りがない)。
3 そしてここにいう「公益上の理由により必要が生じたとき」とは以上に述べたところからすれば一般的には保安林指定の解除による関係住民ないし受益者の権利、利益の侵害の危険がもともと微小(たとえば名所旧跡の風致の保存とか家畜のみの保護など)か、または代替工事等により微小にすることができる場合であつて、かつその指定による利益をうわまわるような他の公益的な必要が生じたときを指すものと解すべきである。保定林の指定が直接受益者の生命身体の安全にかかわる場合があることを考慮するならば被告のいうような単純な比較衡量論は許されない。前記の林野庁長官通達もこのような趣旨においてはじめてよく理解できるといわなければならない。
なお右にいう「公益」は事柄の性質上多様かつ流動的であつて具体的に把え難いが、少なくともそれが今日の憲法秩序のもとでの公的利益でなければならないことは疑問の余地がないからいやしくもこれに反するような利益が「公益」にあたらないことは自明である。
4 ところで本件解除処分に関する森林法の右条項にいう「必要が生じたとき」につき被告の指摘するつぎの諸点にはそれぞれつぎのような疑問がある。
(1) 高射群の高射隊数(三高射隊)と防護すべき地域の範囲(道央地区というのみで範囲が明らかにされないが)との関係を基礎として侵入のおこりうるなどの方向に対しても均衡した配置であること。これによると三高射隊が正三角形的配置となるべきだという程度しか理解できず、馬追山の保安林指定地区でなければならない理由ないし必要性は明らかでない。
(2) 侵入が予想ざれる航空機の性能および行動(特定国の特定の機種を予想したものでなく、諸外国における軍用航空機の性能諸元のすう勢からみて防空上考慮すべき脅威の態様を想定したという)とナイキの能力との関係において防護対象との距離および各高射隊相互の間隔を決定すること。
このような想定によつて選定した敷地がなぜ馬追山でなければならなかつたのかまつたく示されていない。しかも諸外国における軍用航空機の性能諸元は日進月歩の勢で変化しており、被告の説明ではそれにともなつて高射隊の配置場所を変更させなくてはならなくなるように思われる。
(3) 特に警戒を要する重点方向(相対的にみて南北方向の意だという)を定め、その方向を部隊展開の基準とすること。
これは南北方向を部隊展開の基準とするというに尽き、およそミサイル基地配置場所を決定するための原則として検討するに値しない。
そして被告はこれに加えてさらに①レーダー施設が設置できること、②ナイキ設置に必要な地積、地形があり、レーダーとの連絡道路を設けられること、③レーダーサイトとの情報諸元の伝達可能地であることも指摘しているが、このような条件を具備した場所は無数に存在している。さらに、本件解除の目的が告示理由のとおり「高射教育訓練施設の設置」であるとするならば、なおさら自衛隊が全国に広大な基地、演習地を保有することは公知の事実であるからこれを用いることをもつても足りるはずである。
以上の各点からみても本件ミサイル基地のためのことさらに馬追山の水源かん養保安林を伐採し、そこに基地を設置しなければならない必然性もなければ、その必要性、相当性すらもなく、右解除処分が森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」にあたるか否かの問題とは別に「保安林を解除すべき必要が生じたとき」に該当すると認めるべき余地はない。
四、森林法第二六条第二項違反(代替施設の不備)
1 防衛庁(以下国側という)が設置したとする本件代替施設は用水確保の施設、洪水防止施設、砂防施設の三つに大別されるが、その中で一番重要かつ代替施設の根幹となつているのは洪水防止施設中の富士戸一号ダムと砂防ダムである。国側はこれに関し
(1) 保安林伐採による増加水量を伐採前においては毎秒19.5立方メートルが流出するところ、伐採後はこれが24.3平方メートルに増加するのでこの差4.8立方メートルが増加水量として洪水調節の対象とし、これらの数値を千歳さけ、ます孵化場における昭和三〇年から同四〇年までの観測資料を用いて推定した一〇〇年確率日雨量255.7ミリメートルと平均流出率0.46という値を基礎とし
(2) 富士戸一号ダムの機能は洪水調節量六万八、〇〇立方メートル、灌漑用水六万四、〇〇〇立方メートルの計一三万二、〇〇〇立方メートルを湛水面積六万平方メートル、余水吐高さ二メートル、敷幅6.2メートル、洪水ピーク時の排水量毎秒19.37立方メートル(洪水ピーク時のこの排水のときは水深1.5メートル、異常洪水時にはピーク流水量の二割増として毎秒29.16立方メートルで水深1.97メートル、いずれもオーバーフローしないとの設計)
(3) 砂防対策(砂防ダム)数量七基、貯砂量二万〇、三三〇立方メートル、推定流出土砂量、五年間で五、八六四立方メートル(この基礎は裸地年間ヘクタールあたり三〇〇立方メートル、流水期間四か月、草地年間ヘクタールあたり一五立方メートル、流出期間五年)安全率3.1ないし3.9の設計による代替施設を設置したとしている。
2 国側は富士戸一号ダムを設計するにあたり右のように洪水調節の対象にしているのは伐採前の流出量と伐採後の流出量との差毎秒4.8立方メートルの増加水量のみである。これは洪水対策といつてもあくまで保安伐採に対する代替施設であるから、伐採による増加流水量のみを考慮すれば足り、伐採前の流水量にまで手を加える必要はないとの前提にたつものと思われる。
しかしこの考え方はきわめて危険であり、基本的に誤つているものといわなければならない。なぜならばダムをつくつて貯水することはそれだけ危険なエネルギーを一時ダムに蓄積することを意味し、ひとたびダムが決壊すれば蓄積されたエネルギーが一度に放出されて大きな被害をもたらすことになるからである。本件において保安林を伐採しなければ、毎秒19.5立方メートルに相当する水量が流れていたのであるが、伐採することによつて、これに毎秒4.8立方メートルが加わり、毎秒24.3平方メートルに相当する水量が流出し、ダムによつて貯水されることになる。そしてもしこのダムが決壊したとするならば流出する水量はこの増加水量のみでなく、最大貯水量九万九、二〇〇立方メートルのみならず灌漑用水として貯水された六万四、〇〇〇立方メートル、土砂のための余裕二万一、〇〇〇立方メートルの計一八万四、二〇〇立方メートル以上の水が流出することになる。したがつてダムの設計にあたつては伐採による増加水量のみでなく全水量を対象にしなければならない。このことは富士戸一号ダムの余水吐は非調節型であることにも関係する。すなわちダムの水位を自由に調節することはできない。もしこれを調節型にして、水門により水位を調節できるようにするならば、洪水の際出水前にあらかじめダムの水位を下げてダムのオーバーフローを防ぎダムの決壊を防止できる。
3 国側は本件代替施設の設計において一〇〇年確率日雨量を前記のとおり255.7ミリメートルと算出し、これがこれらの設計において唯一、最大の前提となつている。したがつてこの数値に疑問が生じれば流水量計算、ひいてはダムの設計自体に決定的な疑問が生じることになる。
そして国側が右確率日雨量算出にあたつて採用した前記千歳さけ、ます孵化場の昭和三〇年から同四〇年までの観測資料にはつぎのような欠陥がある。
(1) 日雨量を測定するには定時観測によらなければならない。ところが右孵化場の資料では昭和三七年七月以降の観測時刻が早い時で午前六時三〇分、遅い時で午後一時とまちまちで、その幅が六時間三〇分にもおよんでいる。観測結果の正確性を確保するために、観測時刻の厳守は常識である。もしそうしなければ同じ日雨量でも異なる値がでる可能性があるからである。
(2) さらにこの資料には昭和三七年七月から同三九年六月にかけて総数二一日の欠測がみられる。またこれには各年の一〇月から翌年三月までの観測資料が欠如している(これはおそらくこの期間降雪期に入るため不要としたものと推測される)。しかし一〇月一一月にはなお降雨があり、現に昭和五年の夕張川提防決壊の洪水は一一月に起つている。このような欠測あるいは資料の欠如が確率雨量の算出にいかなる影響をおよぼしているかは知るすべもないが、少なくとも不確実であるという重大な欠陥をもつものといわなければならない。
(3) 確率雨量の信頼性はその推定に用いる資料の年数によつてきまる。現在入手しうるもつとも長い記録は五〇年から六〇年間程度のものであるが水文統計学上それでも一〇〇年確率雨量の推定には必ずしも十分とはいえないといわれている。そして農林省がみずから定めた「土地改良事業計画設計基準(以下これを「設計基準」という)第三部第一編第一四条」の解説(10)「降雨記録の調査範囲」で右と同様の指摘をするとともにさらに「この観点から記録はできるだけ長期にわたつて収集し、各種収集する降雨記録のうち少なくとも二、三個は五〇年以上継続している記録を含ませること」としている。前記国側の資料はわずか昭和三〇年から同四〇年までの一一年間の資料期間でこの点からいつても問題にならないものといわなければならない。
(4) 前記「設計基準第三部第一編第一四条」の解説(9)(12)「降雨記録の調査範囲」によると降雨量の調査範囲につきつぎのように規定されている。「洪水流量の資料とする降雨量記録はその重要性にかんがみ広い視野にたつて広い範囲から収集する。少なくとも流域内もしくはその付近の観測所、測候所など四〜五地点から入手できるあらゆる資料を集めること。収集の範囲は数郡ないし一県程度の広さまで考慮に入れることが望ましい」「資料の選定にあたつては次の降雨の性質を参考にすること。降雨量は山地に入つて標高を増すにつれて増加する」。この基例準によると本件での降雨量の調査範囲はわずか千歳一か所のみでこれもまた問題にならないといわなければならない。
4 札幌管区気象台の公式資料に基づき長沼周辺の地点における二〇年以上の年別最大雨量の資料をもとに被告と同様の算式方法により一〇〇年最大雨量を算出すると、支笏湖で385.4ミリメートル、栗沢で341.9ミリメートル、南幌で337.1ミリメートルとなり、いずれも三〇〇ミリメートルを越えており、この数値は国側のいう255.7ミリメートルと比較して大きな差異がある。そしてこれは、①国側の資料は正式の観測資料でないのに反し、右は気象台の公式資料に基づくものであり、②観測年数は二倍の二〇年間の資料であり、③調査範囲は国側の資料よりはるかに広いの諸点において国側の数値よりすぐれたものである。もつとも右公式資料による長沼観測所での一〇〇年確率日最大雨量は176.3ミリメートルであるがこれは同観測所が標高約一〇メートルの平地にあつて本件馬追山保安林の標高との間には七〇ないし二八〇メートルの差があり、また距離も三キロメートル離れている。むしろ国側のさけ、ます孵化場にもつとも近く、かつ同一水系にある観測点としての支笏湖の資料に基づき一〇〇年確率日最大雨量385.4ミリメートルを採用するのがもつとも適正かつ妥当というべきである。
5 かりに一〇〇年確率日雨量を国側の採用する255.7ミリメートルの数値を前提とするにしてもその洪水量の算定には著しく妥当を欠くものがある。すなわち、ダムの設計においては洪水量を基礎にその規模、機能を決定することになるのはいうまでもない。ところでその洪水量(単位流出量、洪水到達時間、洪水流入量)は流域に降つた雨がどのような降り方(雨量分布)で降つた雨の何割が洪水となつて流出し(有効雨量、流出率)、洪水量の時間的変化はどのように表われるかの各点を解析してはじめてえられる。ところが右確率雨量を推定する資料である日雨量は二四時間の降雨量であるが観測方法に限界があるため雨量分布が不明であつたりまた切断されたりする欠陥がある。つまり日雨量は定時観測時刻から翌日の定時観測時刻までに降つた雨量のみを表わし、その間にどのような雨量分布で降つたのか明らかでなく。また雨は現実には右時刻に合わせて降るわけではないから観測時刻をはさんで降つた雨量は切断されて低い数値を示す。
このため現実にダム設計に用いる降雨量(設計雨量)はより安全性の確保をはかる見地から一定の修正をほどこした数値を用いている。前記設計基準第一四条解説(12)(8)では右修正は定時観測による日雨量を五ないし四八%、平均二五%増の修正計算がなされている。ところが国側の計算ではこのような修正についていつさい考慮が払われていない。ちなみに国側の確率日雨量255.7ミリメートルを右の方法で修正して設計雨量を算出すると290.6ミリメートルとの数値が出てくる。
6 ダムを設計する場合、馬追山に降つた雨のうちどの位の量がどのようにしてダムに流入するかを決定することになるがこの検討にあたつて降つた雨の何割が洪水として流出するか、すなわち流出率の決定が重要である。国側は本件において流出率に0.46なる数値を採用しているがこれも妥当ではない。
(1) 流出率は前述したように諸種の条件によつて著しく変化するため画一的に定めることは困難とされているがダム等の設計上一応妥当な基準が設けられている。
A 前記設計基準によればダムの絶対的安全確保の見地から現在流出率は0.8以上を採用することとしている。
B 土木学会の「水理公式集」では馬追山の三紀層山岳は0.7ないし0.8となり、かりに右山の形態から起伏ある土地および樹林にあたるとしても0.5ないし0.75となる。
C アメリカのテキサス道路局の基準は土地の傾斜と利用状況に応じて分類されているが、同基準によれば山地(5.5%以上の勾配のある場合)の林地で流出率を0.7ないし0.8と計算している。ちなみに本件富士戸川本流の勾配は八%である。

総雨量(ミリ) 流出率(%) 国側の補正率
一〇以下 〇 〇
一〇~三〇 一〇 〇
三〇~五〇 三〇 一〇
五〇~一〇〇 五〇 三〇
一〇〇~二〇〇 八〇 五〇
二〇〇~三〇〇 九〇 八〇
三〇〇以上 九五 九〇

(2) 一般に降つた雨は最初は地中に浸透し、有効雨量として流出しないが、雨量が累加するにつれて地表が飽和状態となつて流出量は増大する。設計基準では右総雨量と流出率の関係をつぎのように定めている。
ところで被告は北海道開発局が長沼地区での実測によつて算出した流出率は総雨量五〇ミリメートル程度では山地で0.284、平地で0.633となつているという。したがつて右表によれば三〇ないし五〇ミリメートルの流出率三〇%に相応している(したがつて国側のように補正する必要はない)。しかし国側はさらにそれを補正したうえ、一時間毎の降雨量を算出し、その合計と確率日雨量との比により平均流出率0.46を算出している。
ところで右開発局の実測資料はつぎにかかげるものであり〈下表〉右山地および平地での流出率はいずれもその平均値である。しかし流出率に対する総雨量は被告のいうように単純に五〇ミリメートルではなく右表の総雨量の平均値でなければならない。そうするとその平均値は山地では31.7ミリメートルであり平地では39.0ミリメートルである。ところが被告はなぜか右平均流出率に総雨量の最高値を対応させている。このような被告の操作はあえて流出率を過少にしようとする作為としか理解できない。

山地部   洪水年月日 総雨量(ミリ) 流出係数
1 昭三五・六・九 三五・〇 〇・二六一
2   三五・六・一四 一二・〇 〇・三二五
3   三五・六・二七 四四・〇 〇・二九七
4   三五・七・一〇 五二・〇 〇・三〇五
5   三五・八・一 一二・〇 〇・二六八
6   三五・八・一一 三五・〇 〇・二四六
平地部 1   三五・七・一〇 五〇・〇 〇・五一四
2   三五・七・二五 三二・〇 〇・六六五
3   三五・八・一一 三五・〇 〇・七一九

(3) つぎに総雨量と流出率の関係についてみるに前記設計基準の定めるものを国側の方法によつて補正し、グラフにすると後記階段状の線(実線)ができる。しかし流出率は累加雨量と同様に連続的に変化するものと考えられるからこれを補正すると点線の曲線がえられる。この曲線によつて被告と同一方法で計算すると平均流出率は被告の算出した0.46よりはるかに大きい0.589となる。

これを用いて流入量を計算すると伐採前で毎秒24.9立方メートルとなり伐採後は29.3立方メートルとなつて富士戸一号ダムの能力をはるかに超える流入量となる。
7 富士戸一号ダムに流入する洪水の流入量を算出するには国側の採用した流出函数法では通常つぎの方法で算出する(この意味は降雨が始まつてから何時間目にどの位の最大洪水量が出るかを推定し、これによつてダムの機能を設計するものである。国側の計算によると伐採前は一三時間目に毎秒19.485立方メートルの最大洪水量になるとしている。)
A 経過時間毎の降雨量(雨量分布)に流出率を乗じて各時間毎の有効雨量を算出する。
B 右時間毎の有効雨量にそれぞれ単位流出量を乗じて、右有効雨量の流出完了までの時間とその経過時間毎の流出量を算出する。
C 右経過時間毎に分割した有効雨量のそれぞれに対する流出量を合計して経過時間毎の洪水量を算出する。
ここで重要なことはA、Bで指摘されている単位流出量は降雨そのものでなく、有効雨量の流出量であり、あくまでこれを前提としなければならない。ところで国側はいつたん有効雨量を算出しながらこれを用いないで、降雨量そのものに単位流出量を乗じて時間別流出量を出し、これに平均流出率0.46を乗じている。これは有効雨量を用いると洪水量が19.5ミリメートルではなく28.9ミリメートルとなりこれを少なくするために手順を逆にして平均流出率を用いて操作したものとしか解されない。
(8)(1) このように国側は富士戸一号ダムの設計の前提として用いた確率日雨量、流出率の決定、流出量の算出過程でそれぞれ過少に算出している。そしてかりに国側のいう確率日雨量、流出率を設計基準より一ランク下げてとつたとしても流入量算定の際有効雨量を採用したただけで伐採前毎秒28.9立方メートル、伐採後32.9立方メートル、異常洪水39.5立方メートルとなる。またほかの要素はすべて国側のとおりで流出率を設計基準どおりだとしても同様の値となり、いずれも富士戸一号ダムの余水吐の限界能力をはるかに超える結果となる。
原告らが流出率導出に設計基準を曲線に修正し、そして有効雨量を用いて算出すると、伐採前の流入量毎秒58.0立方メートル、伐採後62.8立方メートル異常洪水75.36立方メートルとなつて、じつに国側の計算の二倍以上の値となる。
(2) また設計洪水ピーク流量の算定においては流域面積が比較的小さい場合ラショナル式を用いるのが通常であり、この式は雨量資料が不十分な場合に用いられ安全性からいつて妥当と考えられている。ところが国側は保安林伐採後の施設内についてのみラショナル式を採用し、これよりはるかに大きい面積である施設外の部分については単位図法を採用している(単位図法はラショナル式より値が小さく算出される)。
本件の場合前記支笏湖の資料を前提として全流域についてラショナル式を用いて算出すると、その値は前項の数値よりさらに大となる。
9 さらにその他の点についてみるに
(1) ダム建設の設計には前述のように設計雨量を前提としておこなうが、最終的に重要なのは雨量そのものではなく、これからの流量である。ところが雨量から流量への変換方法に不明な点が多いので、実務では安全を見込むため一定の修正を施すことになつている。本件においても国側は最大洪水流入量を24.331ミリメートルとしながらも異常洪水の場合の安全を見込むため、これを1.2倍にして29.16ミリメートトルを前提として余水吐を設計している。この観点から国側の流量決定をみると、一般に流域面積が小さい間は設計洪水流量はその面積に比例して増大し、流域面積が大きくなるにつれて洪水流量の増加の率が低くなる傾向を示している。これは到達時間が一時間を超えるようになると、降雨強度が時間に反比例して小さくなるからである。そしてわが国の土地改良事業における一一六のダムについての調査結果によると流域面積一〇平方キロメートル以下の場合には一平方キロメートルあたりの単位洪水流量(これを比流量という)はきわめて大きく、五平方キロメートルでは毎秒二〇立方メートル、三平方キロメートルでは毎秒二三立方メートルにおよんでいる。
ところが本件富士戸川本流の流域面積は3.76平方キロメートルであるから国側の比流量を算出するとやつと毎秒5.2立方メートル
(19.5m3/sec÷3.76km3=5.2m3/sec)にすぎず右調査結果にくらべても著しい開きがあり、前記支笏湖の有効雨量を採用しても比流量は15.5平方メートルとなり国側の計算の三倍の数値になる。
(2) また富士戸一号ダムは洪水調節能力についても問題がある。前記設計基準第三部第一編第一七条は「フイルダム余水吐設計にあたつては原則として貯水池満水面以上の一時的な洪水貯留能力を考慮に入れない。ただし非調節型余水吐でかつ流域面積に比べて満水面積がかなり大きく十分に安全が確認できる場合に限り余水吐の洪水調節能力を考慮に入れてよい」としている。非調節型の余水吐(本件はこれにあたる)を設けた貯水池では流入洪水は貯水池満水面上に一部一時的に貯留されるので余水吐から流水する最大流水量は最大流入量よりかなり小さい(貯水池のこの能力を洪水調節能力という)。これはわが国では流入洪水の流量曲線図が未だはつきりつかめないことと、加えてわが国の気象、地形条件がきわめて高い降雨強度の雨をもたらす特性があるのでダムの決壊を防ぐためこのように定められている。ただ右基準第一七条解説では満水面積が流域面積の三〇分の一より大きく洪水到達時間が相当長い(一時間以内では不可)場合は貯水池自体が洪水調節能力をもつもので例外として考慮してもよいとされている。ところで富士戸川の流域面積は三七六ヘクタール、富士戸一号ダムの満水面積は、六万平方メートルでその比は六三分の一であるから、右基準からして洪水調節をしてはならない場合に該当する。そしてこれを持たせるには国側の設計の二倍以上のダムにしなければならないことになる。
(3) 前記設計基準によればダム設計においてはダム本体の保護と、放水された水がダムの下流端を洗掘したり浸食したりすることのないようにするために放流水のもつエネルギーを減殺する装置を設けることが必要とされている。これには大別して排水式(一種の池にいつたん落下させる)とスキージャンプ式(水流を空中にはね上げて落とす)があるが富士戸一号ダムにはなんらこのような減勢装量が設置されていない。このためダムの余水吐末端部において水田が浸食されている。
10 つぎに砂防ダムについて検討する。
国側の計算によれば七基の砂防ダムの集水面積は183.4ヘクタールでうち工事地区33.5ヘクタール、山林地区149.9ヘクタールにわかれ、前者は工事中四か月を「裸地」とし工事終了後張芝により「草地」にするが盛土の安定、完全な草生状態になるまでを五年間と見込んでいる。そして貯砂量は七基の砂防ダムの合計で二万〇、三三〇立方メートル、合計土砂流量は5.864立方メートルで安全率は3.1ないし3.9倍を見込んでいるとしている。しかしながら
(1) 国側は林地の土砂流出量を考慮しないで、裸地のみから流出することを前提としている。林野庁礼幌営林局発行の「治山提要」では普通林地は年間ヘクタール当り一立方メートルの土砂が流出するとされている。そして前記のとおり本件砂防ダムの集水面積には149.9ヘクタールの林地がある。
(2) また国側は工事地区につき工事期間四か月のみを裸地とし、工事後は草地になるからヘクタール当り三〇〇立方メートルから一五立方メートルを減じこれが五年間流出するとする。しかし張芝が完全な草生状態になるには通常数年かかるのが常識でありしたがつてこの間は裸地として土砂流出を考えるべきである。
(3) 本件防衛施設の建設にともない残土七方万四、〇〇〇立方メートルが出てこれを六か所の捨場で処理することになつているがこれについては国側はいつさい土砂流出について考慮していない。しかしながら残土処理の方法としてかりに張芝するとしても十分機能をもつに至るまで数年かかるとして前述のとおりとなるが、かりに草地としてもヘクタールあたり一五立方メートルを見込むのが妥当である。
(4) また本件保安林の解除面積は35.1ヘクタールであるところ、このうちの工事地区33.5ヘクタールのみが土砂流出の対象となつている。したがつてこの差1.6ヘクタールはいかなる状態になるのか不明であるがこれも皆伐跡地を一ヘクタールあたり八立方メートルの土砂流出を考えるべきである。
このようにして算出するとわずか一年間での土砂流出量は一万〇、二六四立方メートルとなりその安全率は、1.9倍に低下する。そしてさらにその後四年間同様に流出するとすれば最大流出量は五万一、三二〇立方メートルとなり安全率はマイナス2.5倍となる。つまり砂防ダムは完全に土砂でうずまり、土砂は下流に流出し、ひいては富士戸一号ダムの機能をより低下させる結果となる。
五、森林法第三二条第二項違反(聴聞会の無効)
本件保安林の解除処分は森林法第二項に定める公開による聴聞会(以下聴聞会という)をおこなわずにした違法がある。
1、(1) 北海道知事は昭和四三年七月一九日および同月二七日それぞれ請求の趣旨記載の保安林を解除予定保安林にする旨の森林法第三〇条による告示をした。
そこで右解除に直接の利害関係をもつ一三九名の長沼町住民は右告示の内容に異議があるとして同法第三二条第一項に基づき法定の期間内に北海道知事を経由して被告農林大臣に意見書を提出した。右のような場合被告は同法第三二条第二項により公開の聴聞会をおこなわなければならないとされている。
(2) 被告は昭和四三年九月一六日から同月一八日までの三日間礼幌市中央区北二条西一丁目所在の礼幌営林局において、および同四四年五月八日から一〇日までの三日間夕張郡長沼町所在の長沼町公民館において聴聞会を開催することにした(以下前者を第一回聴聞会という)。
(3) 第一回聴聞会において被告の指名した議長は議事次第が「一開会宣言、二告示内容の説明、三意見書提出者の陳述、四散会」である旨告げて開会を宣言し、第二の告示内容を説明した。
ところが議長の右説明によると保安林解除の理由が知事の告示した「高射教育訓練施設」の敷地とは異なり実戦部隊であるナイキハーキュリーズを装備する航空自衛隊第三高射群施設敷地のためであることがはじめて述べられ、告示による解除理由と実際の解除理由の不一致が明らかになつた。また右解除にともなう代替施設について長沼町議会では町長から三一億円の予算規模の施設をすると説明されていたが右議長の説明ではわずか四億三、二〇〇万円の施設でしかもそれは解除後数年にわたつておこなわれるものであるというものであるというものであつた。
これに加えて従来、水害に悩まされ続けてきた長沼地区に洪水調節機能をもつ保安林の指定を解除してまでなぜ前記のような施設を作らなければならないのか、またどの程度の代替施設を要するかの判断にあたつては解除部分にどのような規模態様の施設が作られ、その結果従来保安林が果たしてきた用水確保、洪水調節等の機能がどの程度損われることになるかなどの点に関する正確な知識が必要不可欠と解されるのにこれらの点に関する説明がまつたくなかつた。
そこで意見書提出者らは意見陳述のために必要であるとの判断から議長に対し、告示内容と説明との不一致点および右の疑問点を明確にするよう質問したが、議長はそれ以上の説明をしようとはしないで、内容が専門的なので学識経験者を呼んで意見を聞きたいという意見書提出者らの要望も拒否した。ちなみに昭和三七年一一月二二日付林野治第一四五四号林野庁長官通達「保安林および保安施設地区の指定、解除等の事務手続について」によれば「聴聞にはつとめて学経験識者および保安林の指定等に係る利害関係者等の出席を求めてその意見を聞くものとする」となつている。
このような状況のなかで議長は一方的かつ強行的に意見の陳述を求めるばかりであつたが、このため意見陳述がまつたくなされないまま初日の陳述が二日目に、さらに一日目、二日目の陳述が三日目に繰り越され、結果として二日目は九〇名、三日目は一三〇数名の陳述が予定されることとなり、時間的にも事実上不可能の状態のなかで第一回聴聞会は三日間を通じ一名の意見陳述もなされてなかつた。
(4) 第二回聴聞会は昭和四四年五月八日から一〇日まで三日間長沼町所在の長沼公民館でおこなわれた。ところで森林法第三二条第三項によれば聴聞会の開催はその期日の一週間前までに意見書提出者に通知するとともに公示しなければならないとされている。そうすれば第二回聴聞会の開催通知は四月三〇日までに各意見書提出者に到達しなければならないのに右通知の到達したのはいずれも五月一日以降のことで、また告示がなされたのも五月一日とのことである。したがつて第二回聴聞会も法律の要件を充足しない、違法な手続を前提として開催されたものである。
第二回聴聞会においても告示内容の説明に関し第一回聴会の場合と同様の諸点について問題が生じたことが、これに加えて第一回聴聞会における代替施設の予算規模四億三、二〇〇万円が第二回聴聞会では八億二、七〇〇万円という規模に変更されており、またその判断の前提となる解除部分にどのような規模、態様の施設が作られるかについては前回同様なんらの説明もされなかつた。そこで意見書提出者らはこれらの諸点につき質問を求めたが議長はこの質問さえ認めようとはしないでまつたく非民主的なやり方で一方的に議事を強行しようとしたためこれをめぐる紛糾のなかで結局三日間を通じて意見書提出者は一人も意見を陳述できずに終つた。
2 このように第一回および第二回聴聞会はいずれも意見陳述の段階までに至らず前段階としての告示内容の説明すら十分におこなわない状態で終つている。また第二回聴聞会は森林法第三二条第三項の通知および告示の法的要件さえみたしていない。結局法定の聴聞会は第一、二回とも不成立であるが、ここで意見書提出者が意見を陳述できなかつたのは被告の指名した議長が告示内容の説明に関連する保安林解除の目的、必要性、解除部分に作られる施設内容、代替施設等の重要な内容をなんら説明しようとはしないで、聴聞会制度の趣旨に反するような非民主的な方法で一方的に聴聞会を強行しようとしたことに起因している。第一回聴聞会において二日目に九〇名、三日目に一三〇数名の陳述を予定し、やり方によつては可能だとしてそれを強行しようとした議長の態度、第二回聴聞会の議長の聴聞会にのぞむについての職権的強圧的基本姿勢、加えて自衛隊協力会の副会長でミサイル基地設置促進期成会設立準備委員長を代理人として入場させ、陳述を求めようとした態度、また第二回聴聞会開催中長谷川農林大臣が聴聞会の結果いかんにかかわらず保安林の解除をおこなう意向の発言したことなどに被告の聴聞会強行の意図が顕著にあらわれているといわなければならない。
3 さらに前記林野治第一四五四号林野庁長官通達は「森林法第三二条第二項の聴聞期日および場所は意見書提出者の便宜をも参酌して選定する」と定めているのに第一回聴聞会は時期および場所ともに意見書提出者の便宜をまつたく考慮することなく、刈入れ直前の農繁期に、しかも地理的に離れた礼幌市で、農業従事者の意見書提出者の出席が事実上きわめて困難な状況のなかで開かれ、第二回聴聞会は開催場所を長沼町に移したものの開催時期はやはり田植直前の農繁期でしかもほかにより広い会場があるのに第一回目のときの約半分の面積しかない会場を選んだ。
ことさらに右のような時期および場所を選んで聴聞会を開催したのは結局関係者の出席を事実上制限したなかで聴聞会を形式的に、強行しようとする政治的意図に基づくことは明白である。
4 被告がこのような基本的姿勢でのぞみ、しかも前記のように不成立な聴聞会を前提としてされた本件保安解除処分はその手続に重大な瑕疵があり違法といわなければならない。
およそ手続の公正が刑事手続においてのみならず行政庁が行政行為をする場合にも最大限に尊重されなければならないことは憲法第三一条の趣旨からいつても当然であり、行政行為においても重要な手続上の瑕疵が当該行為を無効にするものであることは一般に認められているところであり、そして一般に行政庁が行政行為をするにあたり、利害関係人の立会または協議を必要としている場合、あるいは公開の聴聞、利害関係人の弁明の機会の供与等の手続を必要としている場合には、これらの利害関係人の利益を保護し、行政処分の正当性を保障するための手続を欠くときは右にいう重要な手続上の瑕疵として当該行為を無効とするものと解されている。
したがつて前記のとおり法定の手続である聴聞会が開かれていない以上本件保安林の指定解除処分は手続に重大な瑕疵があり無効である。
5(1) つぎに被告は「議長がおこなつた告示内容の説明に対し相当数の出席者から質問という形での発言があり、この発言についてはその形式が質問という形式でなされたとしてもその実質は告示容に対する異議意見の陳述と認められるものが大部分であつた」と主張する。
しかし聴聞会はそもそも利害関係をもつ個々の意見書提出者の陳述を聞くための制度であつて全体として意見の陳述らしきものがあつたことをもつて足りる制度ではない。森林法施行規則第二一条の二第三項が意見書提出者が出席していないときでも、提出した意見書を議長が朗読することをもつて陳述にかえるべきことにしているのは、右のように聴聞会が個々の意見書提出者の陳述を聞くための制度であることを基本にふまえていることによるものである。被告の主張は理由がない。
(2) 被告はさらに意見書提出者らはみずからの陳述の機会を放棄したと主張する。しかし、意見書提出者みずから陳述の機会を放棄したというような事実は第一、二回の聴聞会を通じて一度もなかつたのである。意見書提出者らが陳述に入れなかつたのは前記したとおり議長が告示内容の説明に関する質問に誠意をもつて答えようとはしないでもつぱら非民主的な方法で形式的に聴聞会を強行しようとしたことに起因している。この被告の主張もまた失当である。
第二、被告の本案前の申立に対する反論(訴えの利益)
1  行政事件訴訟法第九条は「処分の取消しの訴え……当該処分は、……の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者……に限り提起することができる」と原告適格を定めている。したがつて本件訴訟における原告適格の問題は原告らが本件保安林指定の解除処分の「取消しを求める法律上の利益を有する者」に該当するといえるか否かの問題に帰する。
さて、右にいう「法律上の利益を有する者」には当該処分の直接の相手方である者が含まれていることには異論はないがさらに右のような直接の相手方でなくとも広く「処分の取消しを求める法律上の利益」をもつものもこれに含まれることはいうまでもない。
そして右にいう「法律上の利益」とは従来たんに実体法上の「権利」のみならず「法律上保護されている利益」までも含むものと一般に解されてきたが、近年さらに広く実定法上の制約にもとらわれることなく、「法律上の保護に価する利益」までもこれに含め、国民の側に当該処分を争う質的な利益が認められる限りいわゆる事実上の反射的利益をも右にいう「法律上の利益」に含められてきている。
他方行政訴訟制度自体についてもこれを国民の利益保護の制度として原告らの権利、利益の性質から原告適格を決定しようとするよりはむしろ違法な行政処分に対する国民的コントロールの制度とみて係争処分の性質に応じて当該処分を争うのにもつとも適切な利益状態にある者に原告適格を与えるべきだとまでされている。したがつて被告の主張する反射的利益の理論は取消訴訟の原告適格を制限するための理論としては今日もはやその機能を失つたものといわなければならない。
2  そこで本件についてみると、森林法第三章第一節に規定されている保安林制度は本来その周辺の住民やそこを通行する国民の生命・財産・安全・健康等を保護するための制度であつて、当該森林の所有者その他の権利者を保護することを目的としたものでない。このことはそもそも同法第二五条第一項が保安林の指定の目的として水源かん養(第一号)、土砂の流出、崩壊の防備(第二、三号)風水害、潮害、干害等の防備(第五号)、公衆の保健(第一〇号)などいずれも周辺住民らの右のような諸利益の保護となるものだけに限定していることによつてもすでに明らかなところであるが、さらに同法第三六条第一項が「保安林の指定によつて利益をうける地方公共団体その他の者」を予定していること、また同法第三一条、第三四条が保安林の指定にともない森林所有者に対して立木伐採や土地の形質変更の禁止など厳しい権利制限を課していることなどからみても明らかである。
このような周辺住民の利益の保護はその手続面においても保障されていて同法第二七条は保安林の指定またはその解除に直接利害関係をもつ者への指定、解除の申請権を認め、同法第二九条、第三〇条は被告が保安林を指定、解除しようとする場合の通知、告示義務を定め、同法第三二条第一、二項はこれに対する利害関係者の異議意見書の提出権を認めたうえで公開の聴聞をおこなう旨を定め、いずれも周辺住民らの利益を手厚く保護している。
以上のように保安林制度の本旨ならびに法の諸規定をみるときは、保安林の指定、解除により直接利害関係をもつ周辺住民らがその指定、解除処分によつて受けるであろう利益、不利益はたんなる事実上の反射的利益でないことはもとより「法律上保護に価する利益」でもなく、まさに直接森林法によつて「法律上保護されている利益」といわなければならない。
3  そうすれば前述のように原告らはいずれも長沼町に居住する住民であること、他方、本件保安林は長沼町と由仁町との町界に位置する通称馬追山の約一、五〇〇ヘクタールの保安林の一部であつて、右保安林は明治三〇年の最初の指定当時から、長沼町および由仁町の水田用水の確保および洪水による災害防止の目的で保安林として指定されたものであること、現に右保安林は長沼町が明治二五年開村以来しばしば洪水等に見舞われた都度、町民らの生命・財産等の被害を防止、軽減するのに役立つてきたこと、被告自身も原告らを森林法第二七条第一項にいう「直接利益関係者」と心得てその意見書を受理し、聴聞会に出席を求めていることなどの諸事実からみても、原告らが本件解除処分の取消しを求めるにつき法律上の利益をもつていることは当然のことであるといわなければならない。
4  なお被告は保安林指定の取消しを求める目的は保安林の維持存続を期待するところにあるから、保安林そのものが伐採されてしまえば右解除処分の取消しを求める訴えの利益は消滅すると主張するが、かりに伐採されたとしても森林法第三四条の二は「森林所有者らが保安林の立木を伐採した場合には当該保安林に係る森林所有者は、当該保安林に係る指定施業要件として定められている植裁の方法、期間および樹種に関する定めに従い、当該伐採跡地について植裁しなければならない」と定めているのであるから、本件解除処分が取消されれば本件保安林の所有者である国(具体的にはその所管に応じて防衛庁または林野庁)は行政事件訴訟法第三三条により伐採跡地に新たに植裁し、保案林を復元させることを義務づけられることになるので、原告らは同法第九条にいう「処分……の効果が……なくなつた後においてもなお処分……の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者」の場合にあたるものといわなければならない。
5  被告はさらに本件保安林の指定解除処分に際しては右保安林の機能消滅に代る代替施設が完備し、その経済上、保安上の影響は完全に補填されているのであるから原告らの法律上の利益は消滅したと主張する。
しかしながら被告の施行した代替工事なるものは前記第一、四で述べたとおり著るしく不備、不完全なものであつて、原告の法律上の利益の侵害の危険は依然として存在し、したがつてこの点においても原告らの本件訴えの利益は存続しているものといわなければならない。
第二次  被告の主張・認否
第一、本案前の申立理由(原告らの訴えの利益の欠如)
1  原告らは本件保安林指定の解除処分の取消しを求める利益をもたない。すなわち、およそ行政処分取消訴訟の原告適格をもつ者は「当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」に限られる(行政事件訴訟法第九条)のであるが、原告適格をもつか否かは、行政処分によつて法的に保護された利益が侵害されるか否かによつて判断されなければならず、ある法令の規定が直接保護しようとしている利益ではなく、本来ほかの目的のために設けられている法令の規定が行政権の行使に対して一定の法的制約を課している結果としてたまたま保護される結果となるようないわゆる反射的利益の侵害を受けているにすぎない者は右にいう原告適格にはあたらない。なぜならば行政処分によつて法的に保護された利益は侵害される場合にはじめてその処分または裁決の取消しがその者の権利ないし利益の救済として意味をもち、ひいてはその者が取消しを求める法律上の利益をもつということができるからである。
2  ところで本件保安林を含む通称馬追山保安林は夕張郡長沼町および由仁町の水田用水等を確保するために明治三〇年から同四四年の間四回にわたつて水源かん養保安林として指定(森林法第二五条第一項一号)されて今日に至り、本件解除処分当時におけるその面積は一、五〇八ヘクタールであつた。この水源かん養保安林は森林の樹木ならびにこれによつて形成された落葉、落枝および林地土壌の作用によつて山地の降雨を地下に滲透させ、降雨直後の地表流下量を減少させることにより、河川流量をほぼ一定にして、豪雨時、融雪時等の増水時に洪水ピークを下げる洪水調節機能および渇水時の流量を平常の状態に近づける渇水緩和機能をもつものである。
そして一般に森林として指定するかどうか、指定するとしていかなる目的の保安林として指定するかは森林がその地域全体において占める位置、付近の状況等一般公共の利益となる要素を斟酌考慮して、公益的観点から決定されるものであつて、周囲の土地所有者や居住者などの個人的な利益のために決定されるものではない。したがつて保安林指定の有無は原則として被告農林大臣の右公的判断について当、不当の問題が生ずるとしても、違法の問題は起りえない。
それゆえ原告らの主張にかかる本件保安林によつて原告らの受ける利益は、かりにそれが利益といえるものであるにしても、それはたんに保安林として指定されたことによる反射的利益ないし偶然の事実上の利益であつて、いまだ法律が直接保護しようとしている利益ということはできないと解すべきである。原告らは、森林法が保安林の「指定若しくは解除に直接の利害関係を有する者」に保安林としての指定もしくは解除の申請権を認め(同法第二七条第一項)、あるいは指定または解除の告示に対する異議についての意見書の提出および聴聞の機会を与えている(同法第三二条)ことから隣接地域住民らの保安林指定もしくはその解除によつて受ける利益は法によつて保護された本来的な利益であるかのように主張するが、右申請権ならびに意見書の提出および聴聞の機会が利害関係をもつ地方公共団体の長にも認められていることからも明らかであるように、これらの手続は保安林の指定もしくはその解除について被告のおこなう前記公益の判断につき参考となるべき意見を提出する機会を与え、もつて公正妥当な林野行政の運営を担保しようとするにすぎないものであり、たんにこれらの手続が認められているからといつても原告らが法律によつて直接保護された利益をもつていることにはならない。
3  またたとえ原告らが法律によつて直接保護された利益をもつているとしても以下に述べるように本件訴えの利益はすでに消滅している。
(1) 保安林としての指定は、森林を対象としてされるものであるところ、ここにいう森林とは「木竹が集団して生育している土地及びその土地上にある立木竹」または「木竹の集団的な生育に供される土地」をいう(同法第二条第一項第一、二号)のであつて、右の森林でないことが明白なものを対象としてされた保安林の指定は無効であるとともに、保安林として指定された後に明白に森林性を喪失した場合には右指定処分は当然失効するものと解される。
ところで本件処分によつて保安林としての指定を解除された森林約三五ヘクタールについては本件処分後その樹木はすべて伐採され、その跡地には半永久的な射撃統制施設、発射施設等の高射教育訓練施設および連絡道路が構築されているのであるから、それはいかなる意味においても同法にいう森林性を失つたといわざるをえないのである。したがつて、かりに本件保安林指定解除処分が取消されたとしても、本件跡地の森林性が復活するものではないのであるから原告らの本件訴えの利益はすでに消滅したというべきである。
(2) また本件保安林を含む通称馬追山保安林は一定の地域に対する灌漑用水および飲料水の確保を目的とした水源かん養林として指定されたものであつて、洪水調節機能および渇水緩和機能をもつものであるから、その一部につき保安林の指定を解除して樹木を伐採し、その跡地に各施設を構築することはそれだけを取り上げてみる場合には本件保安林が従来水源かん養保安林として果たしてきた機能を多少とも低下させることになるといわなければならないであろろう。しかしながら灌漑用水の確保のためには用水路の補強、新たな導水路および揚水施設等の設置によつて南長沼用水路から必要水量毎秒0.22立方メートルを用水不足地域に送水することによつて、また飲料水の確保のためには上水道施設を設置することによつてそれぞれ十分補填されているのである。さらに洪水防止のためには砂防堰堤(七基)および富士戸川の本流と支流との合流点に堰堤(富士戸一号堰堤)を建設したほか、富士戸川本流上流部の堰堤(富士戸二号堰堤)を補強するとともに馬追運河の左岸一、〇〇〇メートルを嵩上げしたことによつて、洪水の危険性もほぼ除去された。したがつて本件保安林指定の解除処分によつて多少とも考えられる経済上、および保安上の影響はいずれも代替施設の完備によつて完全に補填されているのであるから、かりに本件保安林指定の解除処分が取消されても、なんら原告らにとつて新らな利益を生ずる余地はありえないのでこの点からも原告らの本件訴えの利益はすでに消滅したものである。
第二、原告らの請求原因に対する認否
1  請求原因第一、一、1を認める。
2  同第一、一、2中つぎの一名を除きその余の者が夕張郡長沼町に居住していることを認める。すなわち原告皆川咲は夕張郡栗山町に居住している。
3  同第一、二ないし五をいずれも争う。
第三、本件保安林指定の解除処分の適法性
一、保安林指定の解除処分の手続的適法性
(一)  本件保安林の概要
1 概況
本件保安林は夕張川の支流の上流部にあたり夕張郡長沼町と由仁町との町界をなす標高八〇ないし二九七メートルの丘陵性の山地約一、五〇〇ヘクタールの水源かん養保安林の一部である。水源かん養保安林は森林のもつ理水機能に着目したものであつて、用水の確保、洪水防止の機能を有するものである。
ア 地況
地質は第三紀層に属し、基岩は砂岩、泥岩、頁岩、凝灰岩および安山岩などから構成され、樽前火山灰が堆積し、土壌は砂壌士からなつている。傾斜は五ないし二〇度の緩斜ないし中斜地で南北にせき梁が走る丘陵地形である。このせき梁から東西に多数の渓流が流出しているが、保安林指定の解除地(約三五ヘクタール)はこの団地の北寄りの小水系の一部で集水区域内にある保安林面積は二八七ヘクタールである。
イ 林況
約一、五〇〇ヘクタールにわたるこの保安林は、トドマツ、エゾマツ、カラマツ、ストローブマツ等五ないし三五年生の人工林が主体をなし、一部比較的急斜地はナラ、シナ、イタヤ等の老壮齢の天然生広葉樹でおおわれ、ヘクタール当り約一三〇立方メートルの蓄積をもち、生育はいずれも中庸である。下層植生はクマザサが密生している。またこのうち指定解除地は約七〇%(二五ヘクタール)が人工造林地で他は広葉樹を主とした天然生林であり人工林は六ないし三ないし三五年生の前記樹種からなり、このうち七七%(一九ヘクタール)が一二年生以下、その半数が六年生である。
2 保安林の指定
この一団地の保安林は、通称馬追山国有林と呼ばれ、明治三〇年、同四二年ないし同四四年の間四回にわたり長沼町および由仁町の水田用水の確保および洪水による災害防止のために水源かん養保安林に指定された。この指定当時の面積は二、一六一ヘクタールであつたが昭和二四年、同二七年の二回にわたり開拓用地にあてるために保安林の一部解除がおこなわれた。その結果保安林の面積は長沼町一、〇九六ヘクタール、由仁町四一二ヘクタールとなつた。同四三年六月このうち長沼町所在の分六七ヘクタールを防衛庁に所管換えし、そのうえ約三二ヘクタールと林野庁所管国有林三ヘクタールについて本件保安林指定の解除処分がされたのである。
(二)  本件保安林指定の解除手続
本件保安林指定の解除手続は二つに分かれている。その一は札幌防衛施設局長が航空自衛隊第三高射群施設(高射教育訓練施設)敷地とするために森林法第二七条に基づいて被告農林大臣に申請したものであり、その二は右施設の連絡道路として必要な部分について札幌防衛施設局長が国有林野法による国有林の貸付申請をしたことに基づき所轄札幌営林局長が被告に対して保安林指定の解除の上申をしたのもである。以下右解除手続の概要を述べると
(1) 札幌防衛施設局長は、昭和四三年六月一二日航空自衛隊第三高射群施設(高射教育訓練施設)を設置するため、被告あての同日付保安林解除申請書を北海道知事に提出した。
(2) 北海道知事は、同年六月一三日、右保安林の指定解除はやむをえないものであるとの意見書を付して右申請書を被告に進達した。
(3) 被告は同年六月二〇日右申請書ならびに意見書を受理したが、北海道林務部長あてに疑義を照会するなど慎重に審査した結果、右解除を相当と認め同年七月一三日北海道知事あてに同法第二九条の通知をおこない、同知事は同月一九日北海道告示第一、四八五号をもつて同法第三〇条の予定告示をおこなうとともに長沼町役場において関係書類を縦覧に供した。
なお連絡道路の敷地に関する部分については同年七月八日付で札幌営林局長から被告あてに上申書が提出され、同年七月二三日右被告から同法第二九条の通知がされ、同月二七日北海道告示第一、五七〇号をもつて同法第三〇条による予定告示がされた。
(4) 右予定告示に対する異議意見書の提出期限は高射教育訓練施設の敷地については同年八月一八日、連絡道路の敷地については同月二六日であつたが、それぞれの期限までに両者を合併した異議意見書が一三八通提出され、これを受理した北海道知事は同月三〇日付でこれらを被告に進達した。
(5) そこで被告は同年九月一六日から一八日まで三日間札幌市中央区北二条西一丁目所在の札幌営林局の会議室において公開による聴聞会(第一回)をおこなうこととしその旨を同月五日付で意見書提出者一三七名(一三八通の意見書のうち一通には異議意見の内容およびその理由が記載されていなかつたので除外)に通知するとともに同月七日付官報で告示した。
右聴聞会は予定どおり実施されたが、被告としてはなお同四四年五月八日から一〇日までの三日間夕張郡長沼町所在の長沼町公民館において第二回目の聴聞会をおこなうこととし、その旨を同年四月二八日付で一二八名(意見書の取下げ者九名を除外)に通知するとともに、同年五月一日付官報で告示し、右聴聞会も予定どおり実施された。
(6) 以上の手続を経たうえで、被告は本件保安林指定の解除をすることを相当と認め同年六月七日農林省告示第一、〇二三号をもつて本件保安林指定の解除の告示をするとともに関係書類を北海道庁ならびに長沼町役場において縦覧に供した。
(三) 聴聞会の適法性
本件保安林指定の解除にあたつては前述したように二回の聴聞会がおこなわれたが、いずれも法の定める聴聞会として完全におこなわれたものである。
1 第一回聴聞会
原告らは第一回聴聞会は一人の意見陳述もされないまま終つたと主張しているが、これは事実に反する。第一回聴聞会においては議長がおこなつた告示内容の説明に対し、相当数の出席者から質問という形で発言があり、この発言についてはその形式が質問という形でされたとしても、その実質は告示の内容に対する異議意見の陳述と認められるものが大部分であつた。このような見地から三日間にわたる聴聞会において陳述された異議意見を要約するとつぎのとおりである。
① 洪水対策上不安であるから代替施設を設置した後に伐採すべきである。②代替施設計画に基づく工事実施の確実性が明らかになるまでは保安林を解除すべきではない。③代替工事の実施時期が明らかになつたとしても町民の納得が得られた後でなければ保定林指定の解除をなすべきではない。④第三高射群施設を設置するということは憲法上問題があり、保安林指定の解除理由として公益性があるとはいえない。⑤解除予定告示における解除理由の表示と実体とが相違しているので当該告示は違法であり取消されるべきである。⑥馬追山山麓付近の居住者の家には水道がついていないので飲料水の確保に不安があり、工事等による飲料水の汚濁の防止の点から飲料水対策を講すべきである。⑦水田耕作者にとつては保安林伐採により農業用水の確保に不安がある。⑧交通量の増大にともなう騒音、ほこりによる農作物等の被害に対する措置を講ずるべきである。⑨防衛庁係官に代替施設の説明をさせ、資料の解説をおこなうべきである。⑩聴聞会を長沼町で開き、時期的にも農繁期と重ならないようにすべきである。
右のように第一回聴聞会においては多数の出席者から異議意見の陳述がされたのであるから、意見の陳述がまつたくされていないとの原告らの主張は失当である。
ところで原告らは右聴聞会において代替施設の内容や工事の時期が明らかでないこと、あるいは解除の予定告示に記載された解除理由が実体と合致しないことなどを指摘し、これらについての疑義が解明されない以上異議意見の陳述は不可能であるとしてことさらに質問という形での発言をくりかえしたのであるが代替施設の内容等については資料を配布し必要な事項については各聴聞期日の冒頭において議長が説明しているのであるから(なお原告らの要望をいれて札幌防衛施設局事業部長に説明させようとしたが、これは原告らによつて阻止された。)原告らとしては十分に意見の陳述ができたはずであり、かりにこれらの点について疑義があるのであれば、その点を指適すること自体が一つの意見となるものである。また予定告示に記載された解除理由が実体に合致しないという点についてもその違法を指適すれば足りることであつて、それが是正されない以上意見の陳述が不可能であるとは解されない。なお本件保安林の解除理由は航空自衛隊第三高射群施設(高射教育訓練施設)を設置するためであり、この施設は一朝有事の際には実戦行動をとることができる部隊であることは原告ら地元住民にとつて公知の事実であり、聴聞会においても議長が明らかにしている事柄である。
以上のように原告らが本件聴聞会において意見の陳述を拒んだことについてはなんら正当な理由がなく、それらはもつぱら聴聞会の正常な運営を妨害するためにされたものである。
この状況において議長は終始出席者に対して意見の陳述を求めたのであるが、いたずらに妨害的発言がくりかえされるばかりであつたので第三日目の午後一一時四八分に至りもはや意見の陳述はないものと判断して聴聞会を閉会したのであり、森林法の定める聴聞会として完全におこなわなれたものである。
2 第二回聴聞会
右に述べたように第一回聴聞会においては法の定める聴聞は完全におこなわれたものであるが、被告としては原告ら地元住民の要望を尊重し再度地元住民に意見陳述の機会を与るため重ねて第二回の聴聞会を開催することにしたのである(なお第一回の聴聞会終了後二六件の異議意見書の取下げがあつたので第二回聴聞会における異議意見書提出者の数は一一一人となつた。)。そして特に第一回聴聞会においては原告から告示内容の説明は文書資料として配布されたい旨の要望もあつたので第二回聴聞会の開催にあたつては異議申立人各人宛に通知状とともに代替施設の設置計画の概要を記載した書面を添えて送付するとともに同年五月一日からは長沼町役場においてそれらの施設の構造図、位置図等を縦覧に供するなどの措置を講じた。
このようにして開催された第二回聴聞会においては第一日目から一人の陳述人について多数の代理人が出頭し、代理人全員を聴聞会場に入場させよとの要求のために聴聞会会場の受付が混乱したのをはじめとして、陳述人らは会場内に入つてからも議長の議事進行に関する指示に従うことなく、おのおの勝手に発言をおこなつて、議長が告示内容の説明に入ろうとすると怒声とともに一斉に議長席に押しかけて取囲んでは議事の進行を妨害し、議長が再三にわたつて異議意見の陳述を求めるにもかかわらずこれに応じようとはしないで(なお途中で陳述しようとした陳述人がこの混乱のなかで倒れ怪我をした)、いたずらに代理人の制限の徹回や会場の移転、陳述人、代理人らの椅子席の増加の問題をもち出して議事の進行を混乱させて妨害した。第二日目も同様にして経過し、第三日目の聴聞会期日においても陳述人らはくりかえし前同様の発問を求めたり、あるいは机をたたき野次、怒声をあげるなどして喧騒をきわめ、議長が告示内容の説明に入ろうとするとさらにいつそう激しい怒声と罵声を浴びせ、同時に陳述人らは一斉に議長席前に殺到し、議場は騒然たる状態となり、遂には議長席のテープレコーダーのコードが切断され、議長席の机の脚が折られるなどの事態が発生し、さらに議長の身体の危険すら生じかねない状態にまで立至つた。
このため議長はもはやこれ以上聴聞会を続けることは不可能と判断し、午後一〇時三〇分聴聞会の閉会を宣したのである。
しかしその間にあつても陳述人の代理人多田、木崎らからは実質的に異議意見とみられるものが述べられた。その発言を要約するとつぎのようなものであつた。
①予定告示の解除理由と実体は相違しているので予定告示のやり直しをすべきである。②代替施設の計画の内容は事業費が四億円から八億円になつているなど前回の聴聞会のときの説明と大幅に異なつており告示内容を変更すべきである。③教育訓練施設といつているが、防衛庁は国会において本当の教育訓練部隊は浜松に設けるといつている。④防衛施設庁は来年以降の代替施設の実施については約束できないといつている。これでは代替施設の確実な実行を期待できない。
このように第二回聴聞会も森林法の規定するところに従つて十分におこなわれたものである。
二、保安林指定の解除処分の実体的適法性
防衛庁は本件保安林を航空自衛隊第三高射群施設の敷地として使用しようとする計画であるが、国家の防衛が公益性をもつことはいうまでもないことであり、防衛上の技術的見地から本件保安林が最適地であつて他に適地を求めることがむずかしく、解除面積は必容最小限度であり、かつ解除による保安上の影響については後述するごとき代替施設を設置することにより支障はないので被告は森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由により必要が生じた」ものとして、本件保安林指定の解除処分をしたものであつて、右処分には原告らの主張するような違法はない。
(一)  防衛庁の計画による第三高射群施設
わが国における防衛力整備については、昭和三二年五月二〇日の閣議決定「国防の基本方針」に従つて同三三年度以降同四一年度まで第一次および第二次防衛力整備計画が決定、実施されたのに引き続き、同四二年度以降同四六年度までの第三次防衛力整備計画が決定され実施された。
すなわち第三次防衛力整備計画は同四一年一一月二九日にその大綱が国防会議および閣議において決定され、その「一般方針」の項において「防衛力の向上については、特に周辺海域防衛能力および重要地域防空能力の強化ならびに各種の機動力の増強を重視する」旨が述べられ、さらに「主要整備目標」の項において航空自衛隊関係について「重要地域の防空力を強化するため、地対空誘導弾部隊を増強し、新戦闘機の整備に着手するとともに警戒管制組織の自動化を完成する等警戒管制能力の向上、近代化を図る」旨が決定されている。ついで同四二年三月一三日の国防会議および同月一四日の閣議において第三次防衛力整備計画の主要項目について決定されたが、そのなかで「防空力の強化」の項において「防空のの強化のため、地対空誘導弾ホークを装備する部隊および非核弾頭専用に改修した地対空誘導弾ナイキ・ハーキュリーズを装備する部隊をそれぞれ二隊編成し、さらに各一隊の編成の準備をする。なおナイキ・ハーキュリーズの誘導弾およびホークは国産とする」旨が述べられ、航空自衛隊の従来保有するナイキ部隊の二個高射群に加え、第三次防衛力整備期間内にさらに二個高射群を増強配置することが決定された。航空自衛隊の地対空誘導弾部隊である高射群は一朝有事の際にわが国における政治、経済の中枢地区および交通の要衝を防護するためその周辺に配置され、防空の任務にあたるとともに即応態勢において教育訓練を実施するものである。
現在京浜地区に第一高射群、北九州地区に第二高射群が配置されているが、第三次防衛力整備計画の決定に基づき、新たに北海道の中央部に第三高射群(三個高射隊編成)の配置を決定し、さらにその高射隊については航空自衛隊千歳基地内に二個高射隊(第九・第一〇高射隊)本件保安林に一個高射隊(第一一高射隊)の配置を決定した。なお第三高射群に属する群本部および整備補給隊は、同じく千歳基地に置かれ指揮所運用隊は当別分とん基地に置かれる。
(二)  防衛施設の設置の公益性
国家の防衛は自国の平和と安全を維持し、その存立をまつとうするための基礎条件となるものであり、防衛をめぐる各般の措置に重大な欠陥や致命的な不足があれば、外部から武力攻撃を受けた場合に、国の平和と安全は脅威を受け、国家としての存立にも重大な結果をもたらし、このような事態においては国民の基本的人権の保障の基盤も危うくなる。したがつて国家の防衛および防衛施設の設置は、きわめて高度に公益性をもつ国家作用であるというべきである。
(三)  防衛施設の最適地性
1 高射群における各高射隊の配置は、つぎの原則に基づいてまず配置すべき地域を決定する。
(1) 高射群の高射隊数を防護すべき地域の範囲との関係を基礎として全方向に対し均衡した配置であること。
(2) 侵入が予想される航空機の性能および行動をナイキの能力との関係において防護対象との距離および各高射隊相互の間隔を決定すること。
(3) 特に警戒を要する重点方向を定め、その方向を部隊展開の基準とすること。
2 さらに配置地点の決定にあたつてはつぎの諸条件を満足させることが必要である。
(1) ナイキの能力発揮にもつとも重要なレーダーの効率を確保するために周囲にレーダー電波の障害となる山などのない開闊地のなかの高地にレーダー施設を設置できること。
(2) ナイキ施設を設置するのに必要な地積があり、また工事可能な地形であること、特にレーダー等を設置する地域と発射機等を設置する地域との距離が所定の範囲内であり、その間に障害物がなく、また連絡道路を設けられること。
(3) 防空組織運用の一環としてもつとも重要な警戒管制部隊(レーダーサイト)との情報諸元の伝達が可能な地点および地形であること。
3 本件保安林地区はその所在、地形および周囲の状況ならびに当別分とん基地にある警戒管制部隊、千歳基地における群本部、警備補給隊および二個高射隊との関係において、前記の原則および諸条件を満足させる最適地であつて他にこれにまさる適地を見出すことは困難である。第三高射群各高射隊の配置場所の調査検討にあたつて既存の自衛隊施設の活用を考慮し、第九、第一〇の二個高射隊については部隊配置の右原則等からみて最適地とはいえないがその許容限度内であるところから千歳基地に右二個高射隊の配置を決定したのであるが、本件高射隊の敷地については既存の自衛隊施設では右原則等を満足させる場所がなかつたので本件土地への配置を決定したのである。また千歳基地内に配置する二個高射隊は本件土地に配置される高射隊との連けいによつてはじめて効果的に連用されるのであつて、この意味においても本件土地への高射隊の配置は第三高射群にとつてもつとも重要であるといえる。各高射隊は平時においては即応態勢のもとで教育訓練を主として実施するか、この教育訓練は部隊練成訓練が主体であり、警戒管制部隊および各高射隊との有機的な連けいのもとに防空組織の一環として実際的配置において実施することが必要である。したがつて教育訓練の点からいつても本件土地は必要であり最適地であるといえるのである。
(四)  解除面積の必要最少限性
本件保安林指定の解除処分により解除された保安林は夕張郡長沼町所在の保安林(実測面積32.264ヘクタール第三高射群施設敷地)および同保安林(実測面積2.8464ヘクタール同施設連絡道路敷地)であつて、その合計は35.1104ヘクタールである。右土地に建設を計画している第三高射群第一一高射隊の施設は大別してレーダー等の射撃統制施設、ランチヤー(九基)等の発射施設、弾体の組立、整備および弾薬庫施設およびに管理居住施設である。これらの各施設に要する敷地面積(整地による法面を含む)は射撃統制施設7.050ヘクタール、発射施設10.750ヘクタール、弾体の組立整備弾薬庫6.950ヘクタール、管理住居施設7.514ヘクタールの合計32.264ヘクタールで、また連絡道路敷地はその法面も含め2.8464ヘクタールである。
以上のように保安林指定の解除面積はすべて第三高射群の施設、連絡道路およびそれらの保全に要する敷地として利用されるものであり必要最少限度のものである。
(五)  代替施設
本件保安林は水源かん養保安林として一定範囲の地域に対して灌漑用水および飲料水、雑用水の確保ならびに洪水防止の機能をもつていた。本件保安林指定の解除により立木を伐採し、防衛施設の建設工事をすることにより従来の水源かん養保安林として果してきた前記機能が低下することは否定はできないが、そのために設置する灌漑用水確保のため代替施設、飲料水等の確保のための代替施設、洪水防止のための代替施設および砂防施設により前記保安林としての機能は完全に補填代替されるのである。まず灌漑用水の不足量は南長沼用水路から分水し、必要水量毎秒0.22立方メートルを用水不足地域に送水して補填する。このため南長沼用水路を補強するとともに新たに導水路、揚水施設を新設し、さらに貯水および用水の水温の上昇をはかる目的で堰堤を建設する。また飲料水、雑用水確保のため、上水道施設を設置し不足する各戸に配水する。つぎに洪水防止の目的で砂防堰堤(七基)ならびに富士戸川本流と支流の合流点に堰堤(富士戸一号堰堤)を建設するほか、富士戸川本流上流部の既設の堰堤(富士戸二号堰堤)を補強するとともに、馬追運河の左岸一、〇〇〇メートルにわたり嵩上げをする。したがつてなんらの支障も生じない。
三、自衛隊の合憲性
(一)  統治行為論
原告らは憲法第九条は戦力の保持を禁じているところ、自衛隊は右条項にいう戦力にあたり、したがつて本件自衛隊の基地の設置は森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」に該当しないと主張し、かつ自衛隊の現状を立証しようとする。
しかし自衛隊の現状が憲法の右条項の禁止するいわゆる戦力に該当するかどうかは司法裁判所の審査の範囲に属しないものといわなければならない。
1 およそ独立国が自衛権をもつことは自明のことであり、憲法第九条も、わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立をまつとうするために必要な自衛のための措置をとることまでも禁止したものでないことは明らかである。そしてこの自衛のための措置として、みずから自衛隊を保持して自衛の措置を講ずるか否か、また自衛隊を保持するにしても、いかなる程度の規模、装備、能力等を備えるかなどは、わが国の存立の基礎にきわめて重大な関係を持つ事柄であつて、流動する国際環境、国際情勢ならびに科学技術の進歩等を将来の展望をも含めて総合的に判断し、わが国の国力、国情に応じて決すべききわめて高度の政治性をもつ問題である。
2 わが国は憲法の許容する限度の自衛力を保持することとして自衛隊法を制定したのであるが、その自衛隊によるわが国の防衛力の装備方針は前記したとおり、昭和三二年五月二〇日閣議決定にかかる国防の基本方針に示されているように「国力国情に応じ自衛のため必要な限度において効率的な防衛力を漸増的に整備すること」であり、そして整備する防衛力は第二次防衛力整備計画(同三六年七月一八日閣議決定)以来明示されているように、通常兵器による局地戦以下の事態に有効に対処しうるものを目標としているのである。そして現在における自衛隊の全体としての規模、装備、能力等は、右のような政府の基本方針に基づき、国会に提案された関係法律ならびに予算等について、国会における慎重な審議を経たうえ、その承認をえて逐次形成されてきたものであつて、これらの政府、国会の決定行為はわが国の国家統治の基本に関するものであり、主権者たる国民に対し、直接政治責任を負うところの政治部門が、流動する国際環境、国際情勢あるいは科学技術の進歩等諸般の事情を総合的に考慮し、かつ、憲法第九条の精神にのつとり高度の政治的裁量によつて決定したものであつて、その当否は、最終的には主権者たる国民の政治判断に委ねられるべきものであり、国民に対し政治責任を負わない、純司法的機能をその使命とする司法審査になじまない性質のものであるばかりでなく、裁判に必然的に随伴する手続上の制約からみても司法裁判所が審査すべきものではない。
3 このことはすでに昭和三五年六月八日付最高裁判所大法廷判決によつても肯認されているところである。すなわち同判決は「日本国憲法は立法、行政、司法の三権分立の制度を確立し、司法権はすべて裁判所の行うところとし(憲法七六条一項)、また裁判所法は裁判所は一切の法律上の争訟を裁判するものと規定し(裁判所法三条一項)、これによつて、民事、刑事のみならず行政事件についても、事項を限定せず、いわゆる概括的に司法裁判所の管轄に属するものとせられ、さらに憲法は一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを審査決定する権限を裁判所に与えた(憲法八一条)結果、国の立法、行政の行為は、それが法律上の争訟となるかぎり、違憲審査を含めてすべて裁判所の裁判権に服することになつたのである。しかし、わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免がれないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法審査の対象となるものと判断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局三権分立の原理に由来し当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれど、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきものである。」と判示している。またこれより先昭和三四年一二月一六日付最高裁判所大法廷判決も、日米安全保障条約の違憲問題について同条約は「主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をそのまま使命とする司法裁判所の審査には原則としてなじまない性質のものであつて、(中断)それは第一次的には右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には主権者の有する国民の政治的判断に委ねられるべきものであると解するのを相当とする。」と判示しているが、右判決が日米安全条約の違憲審査が司法裁判所の審査になじまないと判断したのは、同条約の内容に着目しその内容が「主権国としてのわが国の平和と安全、ひいてはわが国の存立の基礎に極めて重大な関係を有する」との判断によるものであつて、その趣旨からすれば、当然わが国が自衛の手段として自衛隊を設置すること、および自衛隊の規模、装備、能力等をどの程度にするかは主権国としてのわが国の存立の基礎にきわめて重大な関係をもつ高度の政治性をもつものというべきであつて、それが違憲なりや否やの法的判断は原則として司法裁判所の審査にはなじまないと結論することができるのである。
(三)  自衛隊の任務、編成、装備、(自衛のための必要最少限性)
かりに自衛隊の憲法第九条への適合性について司法審査権が及ぶとするも自衛隊は同条にいう戦力ではなく自衛権に基づく自衛力であつてなんら右条項に抵触するものではなく合憲のものである。
1 憲法第九条は戦力の保持を禁止しているが、わが国が主権国としてもつ固有の自衛権をなんら否定するものではなく、わが国が外部からの不正な武力攻撃や侵略を受けた場合、それを防止することおよびそれに必要な力、すなわち自衛力を保有することまで禁止するものではない。憲法が自衛権を否定せずその平和主義が決して無防備、無抵抗を意味するものではないことは、すでにいわゆる砂川事件についての前掲昭和三四年一二月一六日付最高裁判所大法廷判決において判示されているところである。すなわち同判決は「同条(憲法第九条)は同条にいわゆる戦争を放棄し、いわゆる戦力の保持を禁止しているのであるが、しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。」「わが国が自国の平和と安全を維持し、その存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは国家固有の権能の行使として当然のことをいわなければならない。すなわち、われら日本国民は、憲法九条二項により同条項にいわゆる戦力は保持しないけれども、これによつて生ずるわが国の防衛の不足は、これを憲法前文にいわゆる平和を愛好する諸国民の公正と信義に信頼することによつて補い、もつてわれらの安全と生存を保持しようと決意したのである。そしてそれは、必ずしも原判決のいうように、国際連合の機関である安全保障理事会等の執る軍事的安全措置等に限定されたものではなく、わが国の平和と安全を維持するための安全保障であれば、その目的を達するにふさわしい方法又は手段である限り国際情勢の状態に即応して適当と認められるものを選ぶことができる。」と明言している。
憲法第九条第一項は「国権の発動による戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」として国際紛争解決の手段としての戦争を放棄することを規定しているが、右により放棄したものはあくまで国際紛争解決の手段すなわち自国の主張を他国に認めさせるための圧迫手段としての戦争であつて、たんに侵入に抵抗し、自衛のための戦闘行為までも放棄したものではなくこのような点は当然の事理として判例、学説においても異論のないところである。そして憲法第九条第一項は、同条全体の実体規定であり、続く第二項は、その方法論的保障規定であるから、同項は第一項と総合的に解釈されなければならない。そして同条第二項は「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力はこれを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と規定しているが、これは第一項によつて放棄することを定めた国際紛争解決の手段としての戦争をひき起こすようなことのないようにするために国際紛争解決の手段である戦力を保持しないことを定めたと解しなければならない。
前記最高裁判所判決も「憲法九条の趣旨に即して同条二項の法意を考えてみるに、同条において戦力の不保持を規定したのは、わが国のいわゆる戦力を保持し、自ら主体となつてこれに指揮権、管理権を行使することにより、同条一項において永久に放棄することを定めたいわゆる侵略戦争を引き起こすがごときことのないようにするためであると解するのを相当とする。」と述べて右同旨の判断を示している。したがつて同項は自衛のための戦闘力の保持についてはなんらこれを禁じているものではなく、自衛力を保持することはなんら違憲というべきではない。自衛隊は右にいう自衛権にもとづく自衛力であつて、憲法第九条第二項にいう戦力ではない。
2 自衛権に基づく自衛力の限界、およびその範囲内でどの程度の戦力を具備すべきかは一定ではなくその最終判断は流動する国際政治、軍事情勢に適応しつつ、わが国と国民の安全と生存について現在ならびに将来にわたつて国民に対して直接の責任を負う立法機関および行政機関の裁量に属するところである。そして自衛隊は国会および内閣においてそれが憲法に適合するものとの政治裁量的判断にしたがい自衛隊法をもつてわが国の自衛のためにこれを設け、その目的に適合させて、次項のとおりその組織、管理方式を定めたものであるから合憲であり、後に述べるように本件保安林に設置を計画されている防衛施設が自衛のために必要かつ、相当な限度内にとどまることは明らかであるから、その設置はけつして憲法に違反するものではない。
3 自衛隊の任務、編成等は具体的に防衛庁設置法および自衛隊法に定められており、防衛力の整備については防衛力整備計画に基づき、各年度の予算によつて定められているが、昭和四四年一〇月末現在におけるその概要はつぎのとおりである。
(1) 自衛隊は防衛庁長官、防衛政務次官、防衛事務次官、参事官、防衛庁本庁の内部部局、統合墓僚会議、附属機関、陸上自衛隊、海上自衛隊、航空自衛隊および防衛施設庁(総務部に置かれる調停官労務部および附属機関を除く)より構成されており、自衛隊の定員は二八万六、八〇四人、そのうち自衛官の定員は二五万八、〇七四人である。
(2) 陸上自衛隊
陸上自衛隊の定員は一七万九、〇〇〇人、自衛官以外の隊員の定員は、一万二、八七九人、合計一九万一、八七九人である。
A 組織および編成
陸上幕僚監部のほか、長官の直轄部隊としての方面隊その他の部隊があり、長官直轄の機関として学校、補給処等がある。部隊の単位は、方面隊、師団、団、連隊、群、大隊、中隊等である。
a 方面隊
陸上自衛隊は全国を五方面区に区分し、それぞれに方面隊を配置している。方面隊はそれぞれの方面区を警備区域として、その区域についての警備責任を負う。
方面隊は方面総監部のほか師団二ないし四を基幹とし、これを支援する特科団または特科群、戦車群、施設団、航空隊、教育団または教育連隊、地区補給処および地区病院を基準として編成されている。
師団は方面隊の基幹となる主動部隊であり独立して相当期長にわたつて行動できる墓本的な作戦部隊で定員約九、〇〇〇人(一部約七、〇〇〇人)で一三個師団体制をとつている。師団は師団司令部ほか、普通科連隊(三ないし四)、特科連隊、戦車大隊、対戦車隊、偵察隊、施設大隊、通信大隊で編成されている。
b 方面隊以外の長官直轄部隊および機関
方面隊以外の長官直轄部隊として第一ヘリコプター団、通信団等があり、機関としては幹部学校、幹部候補生学校のほか富士学校、航空学校等の各種の学校(計一五)ならびに需品、武器、施設、通信および衛生の五補給処が置かれている。
c 各自衛隊の共同機関
各自衛隊の共同機関として、自衛隊体育学校、自衛隊中央病院および自衛隊地方連絡部が置かれていて陸上幕僚長を通じて指揮監督される。
B 主要装備
a 火器
小銃、機関銃等の小火器のほか近距離の目標に対する火力として各種の迫撃砲を普通科連隊等に装備して、中距離の目標の制圧および破壊火力として一〇五ミリ榴弾砲、一五五ミリ榴弾砲を師団の特科連隊等に装備している。さらに遠距離の目標の制圧および破壊火力として二〇三ミリ榴弾砲、一五五ミリ加農砲および三〇型ロケットがあり、方面隊の直轄部隊に装備している。
対戦車火力としては一〇六ミリ無反動砲、対戦車誘導弾等があり、対空火力としては七五ミリ高射砲、九〇ミリ高射砲、L―九〇高射機関砲、および地対空誘導弾ホークがある。その保有数量は迫撃砲約二、二〇〇門、榴弾砲約八七〇門、加農砲約三〇門、三〇型ロケット約三〇基、無反動砲約一、三〇〇門、対戦車誘導弾約六〇組、高射砲約二〇〇門、およびホーク約五〇基である。
b 戦車および車両
戦車には六一式戦車、M四一、M四A三およびM二四戦車(約七二〇両)がある。そのほか自走砲(約四六〇門)、装甲車(約五七〇両)および各種トラック等がある。
c 航空機
観測、連絡用あるいは連絡偵察用として固定翼機および小型ヘリコプター、空中機動力として中型、大型ヘリコプターがあり、就役機数は約三四〇機である。
(3) 海上自衛隊
海上自衛官の定員は三万七、八一三人、自衛官以外の隊員の定員は四、七五九人、合計四万二、五七二人である。
A 組織および編成
海上墓僚監部のほか、長官の直轄部隊として自衛艦隊、地方隊、教育航空集団練習艦隊、中央通信隊群、その他の部隊がある。また長官直轄の機関として学校、病院がある。
a 自衛艦隊
自衛艦隊は海上部隊と、航空部隊をもち自衛艦隊司令部のほか護衛艦隊、航空集団、掃海隊群、潜水隊群、海上訓練指導隊群、揚陸隊で編成されている。
護衛艦隊は、護衛艦隊司令部のほか三個の護衛隊群、その他で編成され、護衛隊群は護衛隊司令部のほか二個ないし三個の護衛隊その他で編成されている。
航空集団は、航空集団司令部のほか五個航空群および一個航空隊で編成されている。
b 地方隊
海上自衛隊はわが国土と沿岸海域を五区に区分し、それぞれに地方隊をおく。地方隊は、それぞれの区を警備区域とし、警備区域の沿岸海域および海上自衛隊の行動に必要な限度内の陸上地域について警備責任を負う。
地方隊は原則として地方総監部のほか護衛隊、駆潜隊、掃海隊、基地隊、揚陸隊、基地隊、防備隊のほか補給処、工作所等の後方支援部隊で編成されている。
c 教育航空集団
航空機の搭乗員の教育訓練を実施する部隊で、司令部のほか教育航空群および教育航空隊で編成されている。
d その他の長官直轄部隊および機関
その他の長官直轄部隊としては練習艦隊、中央通信隊群等が、機関としては幹部学校、幹部候補生学校および術科学校の各種の学校(計五)ならびに病院がある。
B 主要装備
a 艦船
海上自衛隊の艦船は独立任務を遂行する自衛艦(二一〇隻、約一三万四、〇〇〇トン)と補助的任務に従事する支援船(三一〇隻約二万七、〇〇〇トン)とに区別される。
自衛艦は、警備艦と特務艦に大別され、警備艦はその任務遂行の態様により、機動艦艇(護衛艦四一隻、約七万五、〇〇〇トン、潜水艦一〇隻、約一万二、〇〇〇トン)機雷艦艇(掃海艦艇四二隻、敷設艦艇二隻)、哨戒艦艇(四五隻)、および揚陸艦艇(五二隻)に区別され、特務艦には砕永艦、潜水艦、救難艦、給油艦、特務艇合計一八隻がある。また支援船には、えい船、水船、重油船、運貨船、交通船等がある。
護衛艦は船団護衛、哨戒、対潜掃討等広範囲の任務に従事できる海上自衛隊の主力艦艇で、大きさは一、〇六〇トンないし三、〇五〇トンである。装備は艦型により異なるが、新しい型のものは三インチ連装速射砲および五インチ単装速射砲(対空火器)ならびにアスロック、ダッシュ、ボフホース型ロケット発射機、ホーミング魚雷発射管(対潜武器)等をもちうち一隻には艦対空誘導弾ターターを備えている。
潜水艦の大きさは七五〇トンないし一、六五〇トンであり魚雷発射管三門ないし八門を装備している。
b 航空機
就役機数は約二五〇機で、固定翼機には対潜哨戒機、輸送機、救難機、練習機があり、対潜機にはレーダー、ソノブイおよびロケット弾魚雷を装備している。
ヘリコプターには対潜哨戒機、掃海機、救難機、練習機があり、対潜機には、ソーナーおよび魚雷を装備している。
(4) 航空自衛隊
航空自衛官の定員は四万一、一八三人、自衛官以外の隊員の定員は五、〇二一人計四万六、二〇四人である。
A 組織および編成
航空幕僚監部のほか、長官直轄部隊として航空総隊、飛行教育集団、輸送航空団、保安管制気象団その他の部隊がある。
また長官直轄の機関として、術科教育本部、学校、補給統制処、補給処および病院がある。
a 航空総隊
直接防衛の任にあたる実動部隊であつて、航空総隊司令部のほか航空方面隊(三)その他の部隊で編成されている。
航空方面隊は全国を三つの防衛区域に区分し、それぞれに航空方面隊を配置して担当防衛区域の防衛の任にあたらせている。
航空方面隊は司令部のほか、航空団(一ないし四)、高射群、航空警戒管制団(隷下に七ないし九個の警戒群をもち、対空警戒および要撃管制をおこなう部隊)その他の部隊で編成されている。
b 飛行教育集団
航空機操縦士の教育訓練を実施する部隊で、飛行教育集団司令部のほか航空学生教育隊、飛行教育団(三)および航空団(一)で編成されている。
c その他の長官直轄部隊および機関
その他の長官直轄部隊としては、輸送航空団、保安管制気象団、実験航空隊、航空救難群、中央航空通信群等があり、機関としては幹部学校、幹部候補生学校、術科学校(五)のほか術科教育本部、補給統制処、補給処(三)、病院である。
B 主要装備
a 航空機
航空機は、戦闘機、練習機、輸送機、救難機等があり就役機数は約九六〇機である。
戦闘機は全天候戦闘機F104J約一九〇機、F86F約二九〇機を保有する。F104Jは最大速度マッハ二であり、空対空誘弾サイド・ワインダー、ロケットおよびM六一機関砲を装備している。
F86Fはサイド・ワインダーおよびM三機関銃を装備している。
b 地対空誘導弾
地対空誘導弾ナイキ(七二基)が装備された二個高射群が編成されている。
4 とくに本件長沼基地に設置される地対空誘導弾ナイキはいわゆるミサイル(一般的には電波、赤外線または有線などにより誘導されるもの、すなわち誘導弾について概括的に使用されている呼称)に属する。一般にミサイルはその使用目的、性能によつて戦略ミサイルと戦術ミサイルに分類され、また使用形態によつて地対地、空対地、水中対空、地対空、空対空および艦対空ミサイルに分類されている。このうちいずれが攻撃用であり、防御用であるかは使用目的と性能によつて判断されるべきものであるが、戦術ミサイルのうち地対空、艦対空の防空用ミサイルは明らかに純然たる防御用の兵器である。
そして第三高射群に装備を計画しているナイキ・ハーキュリーズは防空用の地対空ミサイルであり、現在航空自衛隊の装備するナイキ・アジャックスを改良し、性能を向上させた防空兵器であつて、もつぱら一定の地域防空のため、その周辺に配置され、武力攻撃のために侵入した航空機に対処することを目的としたミサイルであり、その性格としては高射砲等在来の防空兵器の進歩発展したものである。
しかも高射砲等に比し、その性能が飛躍的に向上したとはいうものの、その機構上対地攻撃は不可能であり、射程が約一三〇キロメートルであるから配置場所において外国に対する武力攻撃をおこなうことは到底不可能である。また米国におけるナイキ・ハーキュリーズは核、非核の両弾頭を装備できるが現在わが国で国産中のナイキ・Jは非核専用に設計されていて、核弾頭は装着できない。したがつて、核弾頭の使用はミサイルの機構上からも不可能であるし、政府の堅持する非核三原則からいつても核の使用はあるはずがない。しかも遂年性能の向上する航空機による武力攻撃からわが国を防衛するため、これに対応する防空装備の質的向上をはかり防空力を強化することは自衛隊本来の使命であり、ミサイル化した装備を保有し、配備することは、当然に自衛のため必要かつ相当な限度内にとどまるものということができる。
5 以上のとおり自衛隊の編成、装備は、自衛のための必要最小限度内のものである。すなわち自衛力の限界は国際環境、国際情勢、あるいは科学技術の進歩等によりきめるべきものであつて、観念的にまた数字的にきめられるものではない。現在の自衛隊の規模、装備は、第三次防衛力整備計画に基づいてその組織装備がすすめられているものであるが、同計画は防衛力整備の目標を「通常兵器による局地戦以下の侵略事態に対し、もつとも有効に対応しうる効率的な力」をそなえることに置いているにすぎないから、少なくともそれが自衛力の限界内であることは明らかであり、かつ実際の自衛隊の装備等も右計画に基づき国会の承認した予算によつて調達されているのである。したがつて前記自衛隊の規模、装備等が憲法により保持を許されている自衛力の限界をこえるものでないことはきわめて明らかである。
四、結語
森林法第二六条第二項は「農林大臣は、公益上の理由により必要が生じたときは、その部分につき保安林の指定を解除することができる。」と規定する。これはその森林を保安林として存続させてその機能を発揮させるという必要性とその森林を保安林として利用することをやめて他に転用することの必要性とを比較考慮して、後者の方の公益性がより大でる場合には、そのより大きな公益のために、その保安林の保全機能により保持されていた公益を犠牲にして保安林指定の解除処分をすることができるということである。
本件保安林指定の解除は前記したとおり航空自衛隊第三高射群の施設およびその連絡道路の敷地とするためになされたものであつて、国家の防衛および防衛施設の設置はきわめて高度の公益性をもつものであり、その敷地としては本件土地が最適地であつて他に適地を見出すことは困難で、しかも解除面積は必要最少限度のものであり、かつ解除による保安上の影響については代替施設の設置により完全に補填代替されるものである。したがつて本件保安林指定の解除処分は同項にいう「公益上の理由により、必要が生じた」ものに該当することは明らかである。また森林法第二六条第二項による保安林指定の解除処分は森林の所有者らに対しいつたん課した制限を解除し、本来の権能を回復する行為であるから、これらの者に対する関係で自由裁量行為であり、受益者との関係においてもその利益は前記したとおり反射的利益にすぎないのであるから、指定の解除によつてこれらの利益を失わせることは、法的利益を奪うことにはならないから、この者に対する関係でもやはり自由裁量行為である。本件保安林指定の解除処分の理由は前述のとおりであつて裁量権の濫用もしくは逸脱の瑕疵はない。
かりに同項による保安林の指定の解除処分は行政庁の自由裁量に委ねられたものでないとしても、本件処分は前記のとおり右同項にいう「公益上の理由により必要が生じた」場合に該当することは明らかであるから本件処分には違法の瑕疵はない。
以上のとおり本件保安林指定の解除処分は、その手続面においても、またその実体面においてもなんらの瑕疵がないから、これを違法であるとして右処分の取消しを求める原告らの本訴請求は理由がないことは明らかである。
第三次  当事者の提出、援用した証拠
(一)  原告ら
1  書証(括弧内は被告の認否)甲第一号証1ないし11(いずれも認)、第二号証1ないし4、第三号証1ないし5、第四ないし第六号証(いずれも不知)、第七号証ないし第九号証、第一〇号証1ないし4、第一一号証、第一二号証1ないし10、第一三号ないし第一五証、第一六号証1ないし4第一七、一八号証、第一九号証1、2、第二〇号証、第二一号証1、2、第二二号証1ないし6、第二三ないし第二六号証、第二七号証1ないし4第二八、二九号証、第三〇号証1、2、第三一号証、第三二号証1ないし3、第三三ないし第三六号証、第三七号証1、2、第三八号証1ないし3、(いずれも認)、同号証4ないし8(いずれも不知)、同号証9、第三九ないし第一四七号証、第一四八号証1ないし3、第一四九ないし第一六八号証、第一六九号証1ないし6、第一七〇ないし第一七六号証、第一七七号証1ないし3、第一七八ないし第一八三号証、第一八四号証1、2、第一八五ないし第一九八号証(いずれも認)を提出
2  人証 証人源田実、同緒方景俊、同内田一臣、同山田昭、同林茂夫、同高橋甫、同中村竜平、同木崎哲夫、同小山内宏、同遠藤三郎、同田畑茂二郎、同小林直樹、同鷲見友好、原告伊藤隆、同土田栄、同関口喜一郎、同高倉正一、同清水与作の各尋問結果を援用
(二)  被告
1  書証(括弧内は原告らの認否)乙第一号証1ないし68、(いずれも認)、第二号証1ないし4、第三号証1、2、第四号証1、2、第五号証1、2、第六号証1ないし3、(いずれも不知)、第七ないし第一一号証、第一二号証1ないし3、第一三号証、第一四号証1ないし66、第一五号証1ないし3、第一六号証1ないし4、第一七ないし第一九号証、第二〇号証1ないし47、第二一号証1ないし5(いずれも認)を各提出
2  人証 証人沢辺守、同植村英一、同藤沢信雄、同大久保隆信、同志満善一の各尋問結果援用

第四目 理由
第一次  当事者間に争いのない事実
原告らの請求原因事実および被告の主張事実のうちでつぎの各事実は当事者間に争いがない(なお(一)ならびに(二)の頭書、(1)ないし(5)および(6)中「関係書類……」以下の記述は原告らは弁論の全趣旨から争わないものと認める。)。
(一)  馬追山保安林の概要
1  概況
本件馬追山保安林は夕張川の支流の上流部にあたり夕張郡長沼町と由仁町との町界をなす標高八〇ないし二九七メートルの丘陵性の山地約一、五〇〇ヘクタールの水源かん養保安林の一部であること、水源かん養保安林は森林のもつ理水機能に着目したものであつて、用水の確保、洪水防止の機能をもつものであること。
A 地況
地質は第三紀層に属し、基岩は砂岩、泥岩、頁岩、凝灰岩および安山岩などから構成され、樽前火山灰が堆積し、土壌はは砂壌土からなつていること。傾斜は五ないし二〇度の緩斜ないし中斜地で、南北にせき梁が走る丘陵地形であること、このせき梁から東西に多数の渓流が流出しているが保安林指定の解除地(約三五ヘクタール)はこの団地の北寄りの小水系の一部で集水区域内にある保安林面積は二八七ヘクタールであること。
B 林況
約一、五〇〇ヘクタールのこの保安林はトドマツ、カラマツ、ストローブマツ等五ないし三五年生の人工林が主体をなし、一部比較的急斜地はナラ、シナ、イタヤ等の老壮齢の天然生広葉樹でおおわれ、ヘクタールあたり、約一三〇立方メートルの蓄積をもち、生育は中庸であること、下層植生はクマザサが密生していること。
またこのうち指定解除地は約七〇%(二五ヘクタール)が人工造林地で、他は広葉樹を主とした天然生林であり、人工林は六ないし三五年生の前記樹種からなり、このうち七七%(一九ヘクタール)が一二年生以下、その半数が六年生であること。
2  保安林の指定
この一団地の保安林は通称馬追山国有林と呼ばれ、明治三〇年、同四二年ないし同四四年の間四回にわたり長沼町および由仁町の水田用水の確保および洪水による災害防止のために水源かん養保安林に指定されたこと、この指定当時の面積は二、一六一ヘクタールであつたが、昭和二四年、同二七年の二回にわたり開拓用地にあてるため保安林の一部解除がおこなわれ、その結果保安林の面積は長沼町一、〇九六ヘクタール、由仁町四一二ヘクタールとなつたこと、同四三年六所在の分六七ヘクター月このうち長沼町ルを防衛庁に所管換えし、そのうち約三二ヘクタールと、林野庁所管の国有林三ヘクタールについて、本件保安林指定の解除処分がなされたこと。
(二)  本件保安林指定の解除手続
本件保安林指定の解除手続は二つに分かれていること。その一つは札幌防衛施設局長が航空自衛隊第三高射群施設(高射教育訓練施設)敷地とするため森林法第二七条に基づいて被告農林大臣に保安林指定の解除を申請したものであり、その二は右施設の連絡道路として必要な部分について札幌防衛施設局長が国有林野法による国有林の貸与申請をしたことに基づき、所轄札幌営林局長が被告に保安林指定の解除の上申をしたものであること。以下右解除手続の概要は、
(1)  札幌防衛施設局長は昭和四三年六月一二日航空自衛隊第三高射群施設(高射教育訓練施設)を設置するため、被告あての同日付保安林指定の解除申請書を北海道知事に提出したこと。
(2)  北海道知事は同年六月一三日右保安林指定の解除はやむをえないものであるとの意見書を付して右申請書を被告に進達したこと。
(3)  被告は同年六月二〇日右申請書ならびに意見書を受理したが、北海道林務部長あてに疑義を照会するなど慎重に審査した結果、解除を相当と認め、同年七月一三日北海道知事あてに同法第二九条の通知をおこない、同知事は同月一九日北海道告示第一、四八五号をもつて同法第三〇条の予定告示をおこなうとともに長沼町役場においても関係書類を縦覧に供したこと。
なお連絡道路の敷地に関する部分については同年七日八日付で札幌営林局長から被告あてに上申書が提出され同年七月二三日被告から同法第二九条の通知がされ、同月二七日北海道告示第一、五七〇号をもつて同法第三〇条による予定告示がされたこと。
(4)  右予定告示に対する異議意見書の提出期限は高射教育訓練施設の敷地については同年八月一八日、連絡道路の敷地については同月二六日であつたが、それぞれの期限まで両者を合弁した異議意見書が一三八通(原告ら主張では一三九名)提出され、これを受理した北海道知事は同月三〇日付でこれらを被告に進達したこと。
(5)  そこで被告は同年九月一六日から一八日までの三日間札幌市中央区北二条西一丁目所在の札幌営林局の会議室において公開による聴聞会(第一回)をおこなおうとし、その旨を同月五日付で意見書提出者一三七名(一三八通のうち一通には異議意見の内容およびその理由が記載されていなかつたので除外)に通知するとともに同月七日付官報で告示したこと。
また被告は同四四年五月八日から一〇日までの三日間夕張郡長沼町公民館において再度公開による聴聞会(第二回)をおこなうことにし、その旨を同年四月末頃付で一二八名(意見書取下げ者九名を除外)に通知するとともに同年五月一日付官報で告示したこと。
(6)  その後被告は本件保安林指定の解除をすることを相当と認め、同年七月七日農林省告示第一、〇二三号をもつて本件保安林指定の解除の告示をするとともに関係書類を北海道庁ならびに長沼町役場において縦覧に供したこと。
(三)  原告らのうち原告皆川咲を除いたその余の者はいずれも夕張郡長沼町に居住するものであること。
第二次  原告皆川咲の住所および書証の成立の認定
1  原告皆川咲の住所は、同原告の訴訟代理委任状から夕張郡長沼町市街地銀座区であることを認める。
2  成立に争いのある甲第二号証1ないし4、第三号証1ないし5、第四ないし第六号証、第三八号証4ないし8はいずれも原告らの弁論の全趣旨から、また乙第二号証1ないし4、第三号証1、2、第四号証1、2、第五号証1、2、第六号証1ないし3はいずれも証人沢辺守の尋問結果からいずれもその成立の真正を認める。
第三次  原告らの訴えの利益について
被告は原告らが本件訴訟につき訴えの利益をもたないとして以下の(一)1、(二)1、(三)1のとおり主張する。しかし右各主張は(一)2、(二)2、(三)2の理由によつていずれも採用できず、(四)記述の理由をも含めて原告らは本件訴訟につき法律上の利益をもつものといわなければならない。
(一)1  およそ行政処分の取消訴訟において原告適格をもつ者は行政事件訴訟法第九条にいう「当該処分……取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者」でなければならないが、原告らは本件保安林指定の解除処分についてはたんにいわゆる反射的利益をもつ者にすぎず、右条項にいう法律上の利益をもつ者にはあたらない。すなわち本件保安林は長沼町および由仁町の水田用水等の確保、洪水などの防止を目的としたいわゆる水源かん養保安林であるところ、これを保安林として指定する際には、その森林がその地域全体において占める位置、付近の状況等を参酌して公益的観点からされるのであつて、その所有者や周囲の居住者などの個人的利益のためにされるものではない。したがつて、原告らがかりに右指定によつて利益を受けるにしても、それはたんに保安林として指定されたことからくる反射的利益ないし偶然的な事実上の利益であつて、いまだ法律が直接保護しようとしている利益ということはできない。そして、森林法第二七条第一項、第三二条等が地区住民に保安林としての指定もしくは解除の申請権を認め、また指定もしくは解除の告示に対する異議につき意見書の提出、聴聞の機会を与えているとしても、それが当該地方公共団体の長にも認められていることからも明らかなように、これは保安林の指定もしくは解除について被告のする前記公益判断につき参考となる意見を徴し、もつて林野行政の公正妥当な運営を担保しようとするものにすぎず、これをもつて原告らが法律によつて直接に保護された利益をもつていることにはならない、と主張する。
2  森林法第三章第一節に規定する保安林制度の趣旨は同法第二五条第一項が保安林指定の目的としてその保安林地区の水源かん養(第一号)、土砂の流出、崩壊の防備(第二、三号)、風水害、干害等の防備(第五号)、なだれ等の防止(第六号)、公衆の保健(第一〇号)、その他を列挙していることからも明らかなように、たんに当該森林の所有者またはその他の権利者の個人的利益を保護しようとするものではなく、その森林付近の地域住民の生命、身体、財産、健康、その他生活の安全等を保護しようとするものであることはいうまでもない。このことは同法第二七条第一項が「保安林の指定若しくは解除に……直接の利害関係を有する者」は保安林の指定もしくは指定の解除を農林大臣に申請する権利があるとしていること、同法第二九条が「農林大臣は、保安林の指定又は解除しようとするときは、あらかじめその旨」を所在場所、指定または解除の目的、指定施業要件、解除の理由とともに「森林の所在地を管轄する都道府県知事に通知しなければならない。」とし、これをうけて同法第三〇条が「都道府県知事は、前条の通知を受けたときは、遅滞なく……その通知の内容を告示し、その森林の所在する市町村の事務所に掲示(し)……なければならない。この場合において、保安林の指定又は解除が第二七条第一項の規定による申請にかかるものであるときは、その申請者にも通知しなければならない。」と規定し、また同法第三三条第一項が「農林大臣は、保安林の指定又は解除をする場合には、その旨」を、その所在場所、指定または解除の目的、指定施業要件、解除の理由とともに「告示するとともに関係都道府県知事に通知しなければならない。」とし、同条第三項がこれをうけて「都道府県知事は、第一項の通知を受けたときは、その処分の内容を……その処分が第一項の申請に係るものであるときはその申請者に通知しなければならない。」と規定し、(右各規定はつぎに述べる第三二条の意見書提出権等の規定とともに同法第三三条の二および三において保安林の指定施業要件の変更の場合にも準用されている。)さらに同法第三二条第一項が「第二七条第一項に規定する者は、第三〇条の告示があつた場合においてその告示の内容に異議があるときは、……農林大臣に意見書を提出することができる。」とし、同条第二項が「農林大臣は、前項の規定による意見書の提出があつたときは、これについて公開による聴聞会を行なわなければならない。」、また同条第四項が「農林大臣は、第三〇条の告示の日から四〇日を経過した後(第一項の意見書の提出があつたときは、これについて第二項の聴聞をした後)でなければ保安林の指定又は解除をすることができない。」といずれも規定していることからも明らかである。そしてこのような保安林の指定の予定告示の効果の反面として、同法第三一条により「都道府県知事は、」森林所有者その他の権利者に対し「保安林予定林について……九〇日をこえない期間内において、立木竹の伐採又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為を禁止することができ……」、また指定後は保安林においては同法第三四条によつて原則として「都道府県知事の許可をうけなければ、立木を伐採してはなら(ず)」(第一項)また同様に「都道府県知事の許可をうけなければ、立木を伐採し、立木を損傷し、家蓄を放牧し、下草、落葉若しくは落技を採取し、又は土石若しくは樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為をしてはならない。」ことになる。
このような諸規定からみるときは保安林の制度はたんに特定の個人の利益の保護を目的とするものではなく、一定の地域住民の利益の保護を目的とするものであるという意味において、それなりの公共的、公益的目的をもつ制度であるといつてさしつかえないが、しかしこのようにいうことは個々の地域住民を直接考慮することのないまつたく抽象的、一般的公共性を目指すことを意味するものではない。このことは前記第二七条第一項がほかに「利害関係を有する地方公共団体の長」にも保安林の指定または指定解除の申請権(したがつて同法第三〇条、第三二条、第三三条の場合も前に同じ)を認め、また第三三条の二第二項にも同様に「利害関係を有する地方公共団体の長」の指定施業要件の変更申請権を認め、さらに同法第三六条第一項が受益者負担につき「保安林の指定によつて利益をうける地方公共団体……」と規定しているとしても前記制度本来の趣旨の解釈を左右するものではない。
以上のとおり森林法が保安林制度によつて保護しようとしているものはその地区住民のもつ生命、身体、財産、健康その他生活の安全等の利益であるから、この地区住民の利益は被告の主張するようなたんなる反射的利益ではなく、まさに右森林法によつて保護された利益であるといわなければならない。
原告らがいずれも本件馬追山保安林の存在する夕張郡長沼町に居住する者であることは前記第一次(三)、第二次1で記述したとおりであるから、原告らは本件保安林指定の解除処分の取消しを求めるについては行政事件訴訟法第九条にいう「法律上の利益を有する者」に該当する。
(二)1  また被告は、およそある森林が保安林として指定されるには、その対象地が森林としての性状をもたなければならず、森林でないものを対象としてされた保安林の指定の無効であり、また、いつたん保安林として指定されても、その後、森林性を喪失したならば、右指定処分も当然に失効するものといわなければならない、そして、本件処分によつて保安林の指定を解除された森林約三五ヘクタールについては、右処分後すでにその樹木は伐採され、その跡地には半永久的な射撃統制施設、発射施設等のナイキ高射教育訓練施設およびその連絡道路が構築されていて、森林性は失われており、かりに本件解除処分が取消されても、現実の事実状態として森林性が復活することがないから原告らの本件訴えの利益はすでに消滅したと主張する。
2  なるほど、保安林が森林としての性状を永久に喪失するならば(たとえば河川によって著しく浸蝕され、また地変により、湖底、海底に埋没するなど)、その保安林としての指定もまたその効果を失うに至るとみるべきことは被告の主張のとおりである。しかし、保安林がたんに樹木の伐採、地形の変化、山林火災などにより一時的にその森林性を喪失することがあつても、その跡地にその後自然の力によつて森林性を回復する可能性がある場合はもちろん、その他現代の土木工事、植林、営林技術による人為的な措置によつて回復が可能である限りは、右にいう森林性を未だ喪失していないといわなければならない。
このことはたとえば森林法第三四条の二が「森林所有者等が保安林の立木を伐採した場合には、当該保安林に係る森林所有者は、当該保安林に係る指定施業要件として定められている植裁の方法、期間および樹種に関する定めに従い、当該伐採跡地について植裁しなければならない。」と定め、また同法第三八条第一項が「都道府県知事は、第三四条第一項の規定に違反した者若しくは同項の許可に附した同条第六項の条件に違反して立木を伐採した者又は偽りその他不正な手段により同条第一項の許可を受けて立木を伐採した者に対し……当該伐採跡地につき、期間、方法および樹種を定めて造林に必要な行為を命ずることができる。」と規定し、また第三八条第二項も第三四条第二項に違反した場合につき右と同様に定め、さらに第三八条第三項も森林所有者が第三四条の二による植裁義務を履行しない場合には都道府県知事はその所有者に対し、期間、方法などを定めて植裁を命ずることができると規定しているなどいずれも森林性の回復を予定した規定が存在することからも明らかである。
したがつてもし本件保安林指定の解除処分が取消されるならば、法律上当然に保安林指定が復活することになるので、本件保安林の所有者である国は前記森林法第三四条の二によつて右保安林の指定施業要件(この点本件口頭弁論に提出された証拠資料からは右保安林についての施業要件がまかされていたのか否か、またいかなる内容の要件が指定されているのか明らかではないが)に従つて伐採跡地に樹木を植裁しなければならない義務を負うことになり、またかりに指定施業要件を欠いていたとしても、行政事件訴訟法第三三条および森林法第三八条第一項の規定の趣旨からみても、被告が同様に伐採跡地に樹木を植裁して森林性を回復する措置をとらなければならない義務を負うことは明らかである。
そして、本件保安林指定の解除処分の対象となつた山林の位置、範囲、規模等は前記第一次(一)で記述したとおりであり、また解除処分後の森林樹木の伐採形態、その跡地に構築されたいわゆる高射教育訓練の各施設および工作物を、乙第一〇、一一号証、第二一号証1ないし5からみても、未だ右各施設工作物を除去したならばその跡地に植裁することにより森林性を回復することは十分可能であると認められるので、原告らはなお行政事件訴訟法第九条にいう「処分の取消しによつて回復すべき」法律上の利益をもつといえる。
(三)1  さらに被告は本件保安林指定の解除処分後、その対象地区の樹木を伐採し、その跡地に前記各施設を構築することによつて、本件馬追山保安林の従来から果たしてきた水源かん養林としての機能を若干低下させることになるにしてもすでに富士戸一号、二号の堰提、砂防提(七基)、馬追運河の一部嵩上げ工事などの代替施設工事の施行完成により、灌漑用水、飲用水の確保は十分にされており、また洪水の危険性も除去されて、右解除処分による経済上および保安上の影響は完全に補填されているから、右解除処分が取消されても原告らにとつてなんら新たな利益を生ずる余地はなく、原告らの訴えの利益は消滅したと主張する。
2  しかしながら被告が右代替施設工事の設計基準および工事施行の結果として提出援用する乙第一二号証1ないし3、第一三号証、第一四号証1ないし66、第一五号証1ないし3、第一六号証1ないし4、第一七ないし第一九号証、第二〇号証1ないし47、証人大久保隆信、同志満善一の各尋問結果は、原告らの提出する甲第一七〇ないし第一七六号証、第一七七号証1ないし3、第一八〇ないし第一八三号証、第一八四号証1、2のほか、原告らの弁論の趣旨(前記第三目、第二次、第一、四)からみて、前記富士戸一号堰提についてはその設計の基礎となつた一〇〇年確率日雨量資料の不十分さ、またその設計過程における洪水の流出率、比流量の算定などにつきかなりの疑問点が残されており、さらに砂防堰提についての土砂流出量の計算などについても同様であつて、右代替施設工事によつても、未だその洪水の危険性が完全に除去されているとはいえないので、本件保安林指定の解除処分の取消しを求める原告らの訴えの利益はなお存在するものといわなければならない。
(四)  それに加えて、右森林法を憲法の秩序のなかで位置づけたうえで、その各規定を理解するときには、同法第三章第一節の保安林制度の目的も、たんに同法第二五条第一項各号に列挙された個個の目的にだけ限定して解すべきではなく、右各規定は帰するところ、憲法の基本原理である民主主義、基本的人権尊重主義、平和主義の実現のために地域住民の「平和のうちに生存する権利」(憲法前文)すなわち平和的生存権を保護しようとしているものと解するのが正当である。したがつて、もし被告のなんらかの森林上の処分によりその地域住民の右にいう平和的生存権が侵害され、また侵害される危険がある限り、その地域住民にはその処分の瑕疵を争う法律上の利益がある。
そして本件保安林指定の解除処分の理由は前記第一次(二)で述べたように第三高射群施設などの設置で、それは後述のようにいわゆるナイキJの発射基地であり、証人源田実、同緒方景俊、同高橋甫、同山田昭、同小山内宏、同植村英一の各尋問結果からはこのような高射群施設やこれに併置されるレーダー等の施設基地は一朝有事の際にはまず相手国の攻撃の第一目標になるものと認められるから、原告らの平和的生存権は侵害される危険があるといわなければならない。しかも、このような侵害は、いつたん事が起きてからではその救済が無意味に帰するか、あるいは著るしく困難になることもまたいうまでもないから、結局この点からも原告らには本件保安林指定の解除処分の瑕疵を争い、その取消しを求める法律上の利益がある。
第四次  請求原因の判断の順序
原告らの主張する請求原因は、前記事実欄記載のように、自衛隊の憲法第九条違反を含む森林法第二六条第二項の公益性の欠如、同条同項の必要性の欠如、同条同項の代替施設の瑕疵、同法第三二条第二項の聴聞会手続の瑕疵の四点である。そしてこれらはいずれも独立して右解除処分の取消しを求めることのできる違法事由である。
このように、ある処分の取消しを求める理由として、憲法違反(法律違反であつてもその内容に憲法違反をいう場合を含む)の理由と、単純な法律違反の理由がともに主張されている場合については、もし単純な法律違反の点について判断することにより、その訴訟を終局させることができるなら、あえて憲法違反の主張については判断しないとの見解が唱えられているが、この見解にはそれなりに相当の根拠があると考える。なぜならば憲法第八一条は特に明文をもつて裁判所が、いつさいの法律、命令、規則および処分の憲法への適合性を審査できること、すなわち、いわゆる違憲審査権をもつことを定め、この限度では司法権は他の二権、すなわち立法権、行政権に優位することを定めているけれども、裁判所は違憲審査権の行使にあたり、憲法体制ないし憲法秩序のなかにおける司法権の地位と役割ならびに司法作用の特性からくる制約などの諸条件を考慮したうえで、右審査権を行使するかしないかを決めなければならないと考えられるからである。この場合に考慮すべき事柄としては、第一に、憲法が、立法権、行政権および司法権の三つの国家機関は相互に抑制しつつ均衡を保つという三権分立制度をもつて、民主的な統治機構の理想としている以上、三権はできる限り相互に、それぞれ各権の判断を尊重すべきであるということ、第二に、司法権は、具体的訴訟事件について、その限りで法を判断し、適用する権限をもつものであり、すなわち、私権の救済を本旨とするものであること、第三に、法律、命令、規則等に対する違憲審査権の行使の結果に伴なう政治的、社会的あるいは経済的影響力のもつ意味は予測しにくい、微妙なものがあること、第四に、司法権の作用権作用と機能には、その特有な手続的な制約があること、つまり、主張、立証は原則として当事者の訴訟活動に委ねられ、裁判所が職権をもつて証拠などの取調をする場合も補充的なものにすぎず、かつ、その裁判の執行方法も限定されていること、が挙げられているが、このような諸点を考慮して、裁判所が憲法違反の主張についての判断をできる限り最終判断事項として留保し、その権限の行使を慎重にしようとすることは十分な理由があるといわなければならない。しかしながら、右の原則は、いつ、いかなる場合にも、裁判所が当事者の主張のうち憲法違反の主張については最後に判断すべきであるとまでいうものではない。むしろ、わが国は、憲法を中心とする法治国家であるから、立法、司法、行政の三権はいずれも憲法体制、あるいは憲法秩序のなかでその権限を行使しなければならないのであつて、それら三権のなかでも司法権だけが法令等の憲法適合性を最終的に判断する権限と義務をもつているのであるから、裁判所は具体的争訟事件の審理の過程で、国家権力が憲法秩序の枠を越えて行使され、それゆえに、憲法の基本原理に対する黙過することが許されないような重大な違反の状態が発生している疑いが生じ、かつその結果、当該争訟事件の当事者をも含めた国民の権利が侵害され、または侵害される危険があると考えられる場合において、裁判所が憲法問題以外の当事者の主張について判断することによつてその訴訟を終局させたのでは、当該事件の紛争を根本的に解決できないと認められる場合には、前記のような憲法判断を回避するといつた消極的な立場はとらず、その国家行為の憲法適合性を審理判断する義務があるといわなければならない。
なぜならば、もしこのような場合においても、裁判所がなお訴訟の他の法律問題だけによつて事件を処理するならば、かりに当面は当該事件の当事者の権利を救済できるようにみえても、それはただ形式的、表面的な救済にとどまり(同一の紛争がまた形を変えて再燃しうる)、真の紛争の解決ないしは本質的な権利救済にならないばかりか、他面現実に憲法秩序の枠を越えた国家権力の行使があつた場合には、裁判所みずからがそれを黙過、放置したことになり、ひいては、そのような違憲状態が時とともに拡大、深化するに至ることをもこれを是認したのと同様の結果を招くことになるからである。そして、このことは、さらに本来裁判所が憲法秩序、法治主義(法の支配)を擁護するために与えられている違憲審査権を行使することさえも次第に困難にしてしまうとともに、結果的には、憲法第九九条が、裁判官をも含めた全公務員に課している憲法擁護の義務をも空虚なものに化してしまうであろう。
そこで、本件についてみるに、原告らの主張する前述の憲法第九条違反、森林法第二六条第二項の公益性の欠如の主張からは、わが国の自衛隊の存在が、憲法の基本原理の一つである平和主義に違反するものではないかとの疑いがもたれるのであり、かつ、前記第三次で認定したように、本件保安林指定の解除処分が航空自衛隊の第三高射群の基地設置と不可分に結びつくものであり、そしてその結果、原告、原告らの平和的生存権、その他の権利の侵害のおそれが生じていると疑われるのであるから、前述したところにより、裁判所としては、憲法判断を回避することは許されないのであつて、違憲審査権を積極的に行使すべき場合に該当するといわなけれはならない。
したがつて以下まずこの点から判断する。
第五次  本件保安林指定の解除処分の憲法第九条違反、および森林法第二六条第二項の公益性の欠如について
第一、当事者双方の主張の要旨
1、原告らの右の点についての主張の要旨は、
被告が森林法第二六条第二項によつてした本件保安林指定の解除処分は、航空自衛隊第三高射群の施設(いわゆるミサイル発射基地)、およびその連絡道路敷地とするためのものであるが、しかし、陸、海、空各自衛隊は、いずれも憲法第九条によつてその保持を禁じられている陸海空軍に該当するので、その存在は違憲である。そして、被告が森林法の各条項によつて与えられた権限を行使するにも、当然に憲法の各条項に合致してこれをする義務を負い、かつ、これに違反した場合には、その権限行使の結果は無効となるものである。そうすれば、被告が右自衛隊の施設等設置の目的でした本件保安林指定の解除処分は、憲法第九八条第一項の規定をまつまでもなく、違憲であつて無効である。
さらに、右のような違憲の存在である自衛隊の施設等の設置は、森林法第二六条第二項にいう公益上の理由にはならないので、被告の右処分はこの点でも違憲なものである。
というにある。
2  これに対して被告の主張の要旨は、
(1) 防衛庁は、本件保安林を航空自衛隊第三高射群施設等の敷地として使用する計画であるが、これは、昭和四二年三月一四日内閣において決定された第三次防衛力整備計画に基づくものである。ところで、国家の防衛が公益性をもつものであることはいうまでもない。すなわち、国家の防衛は、自国の平和と安全を維持し、その存在をまつとうするための基礎条件であり、もし、これに欠陥があつて外部から武力攻撃をうけた場合には、国の平和と安全のみならず、国民の基本的人権の保障さえも危くなる。したがつて、国家の防衛および防衛施設の設置は、きわめて高度の公益性をもつ国家作用である。それゆえ、本件保安林指定の解除処分も、森林法第二六条第二項にいう公益上の理由により必要が生じたものとして適法である。
(2) 自衛隊が、憲法第九条の禁止するいわゆる戦力に該当するかどうかは、司法権の審査の範囲には属さない。およそ独立国が自衛権をもつことは自明のことであつて、憲法第九条もわが国の平和と安全を維持し、その存在をまつとうするために必要な措置までも禁止したものでないことは明らかである。そして、この自衛のための措置として、自衛隊を保持するか否か、また保持するにしても、いかなる程度の規模、装備、能力等を備えるかなどは、わが国の国家統治の基本に関する事柄であつて、流動する国際環境、国際情勢、ならびに科学技術の進歩などを、将来の展望をも含めて総合的に判断し、わが国の国力、国情に応じて決すべききわめて高度の政治性をもつ事柄であり、したがつて、主権者である国民に対し、直接責任を負うところの国会および政府が、高度の政治的裁量のもとに決定し、その当否は、最終的には主権者である国民の政治判断に委ねるべきものであつて、国民に対し政治責任を負わない純司法的機能をその使命とする司法審査になじまないものであるばかりでなく、裁判に必然的に随伴する手続上の制約を考えても、裁判所が審査すべきものではない。
(3) かりに、自衛隊の憲法適合性について司法審査権がおよぶとしても、自衛隊は、わが国の自衛権に基づく自衛力であつて、憲法第九条にいう戦力ではなく、したがつて合憲である。すなわち、憲法は、わが国が主権国としてもつ自衛権を否定するものでないことはいうまでもなく、その平和主義が、決して無防備、無抵抗を意味するものではなく、わが国が外部からの不正な武力攻撃や侵略を受けた場合、それを防止すること、そしてそれに必要な力、すなわち、自衛力を保有することまで禁止するものではない。そして自衛隊は右にいう自衛権に基づく自衛力である。というに帰する。
3  原告らと被告の主張するところからは、実体的な論点として、自衛隊が憲法第九条にいう「陸海空軍その他の戦力」に該当せず合憲であるとすれば、その施設設置のために被告のした本件保安林指定の解除処分は森林法第二六条第二項にいう公益性があり、もしそれが右憲法条項に抵触して違憲の存在だとすれば、被告の右解除処分自体も憲法に違反し、かつ、森林法の右条項にいう公益性を具備できないことになり、当事者双方の主張は、この点でその論点を共通にしているものということができる。
そして森林法第二六条第二項は、保安林指定の解除処分をするための実体的な要件として、解除の目的が「公益上の理由」に基づかなければならないとしているところ、ここにいう公益性は、憲法を頂点とする法体系上価値を認められるものでなければならないことはいうまでもなく、自衛隊が、憲法に違反する存在であるとすれば、その防衛施設の設置という目的は、右にいう「公益上の理由」にあたらないものといわなければならないから、本件保安林指定の解除処分について前記「公益上の理由」の要件の存否を判断するためには、自衛隊の防衛施設の設置が憲法に違反するか否かの問題を判断しなければならないことになる。
しかしながら、被告は、右論点に先立つて、自衛隊の憲法適合性については、司法審査は及ばないとし、これに対し、原告らは当然に右の司法審査が可能であるという前提に立つている。したがつて以下まず自衛隊の憲法適合性についての司法審査の可能性の点から検討する。
第二、自衛隊の司法審査の法的可能性(いわゆる統治行為論について)
1  憲法第七六条第一項は「すべての司法権は、最高裁判所および法律に定めることろにより設置する下級裁判所に属する。」と規定し、さらに、同法第八一条は「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定している。後者は、その文言からも、下級裁判所もまた前審裁判所として、いつさいの法律、命令、規則または処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限をもつものである、と解されることは多言を要しない。そして、裁判所法第三条もこれらをうけて「裁判所は日本国憲法に特別の定めのある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判」すると定めている。したがつて、右各条項からは、現在の自衛隊の規模、組織、編成などを規定している防衛庁設置法(昭和二九年六月九日法律第一六四号)、および自衛隊法(同上年月日法律第一六五号)を中心とした関連諸法規および自衛隊に関する国家行為が一応司法審査の対象となる、とみることは当然といえよう。
しかし、このような一般論を前提としたうえで、なお種々の実際的要請のもとに、司法審査の範囲外とされる法律、命令、規則、処分、あるいはその他の国家行為の分野があるか否かの問題がある。そして、この問題はいわゆる「統治行為」、または「政治問題」という名称で論じられている。
2  一般に、このように一定の国家行為を司法審査から除外しようとする考え方は、憲法体制や、国家組織の理論的帰結というよりは、むしろ、各国の歴史的、社会的諸事情のもとに形成され発展してきたのであり、そのため、この考え方の内容は、各国各様であつて、統一したものをみない。そこで、代表的なものと目されるフランスおよびアメリカについて検討してみよう。
(1) このような統治行為の存在をもつと早くから問題にしたのはフランスであるといわれる。フランスにおいては、古くから行政裁判制度の発達によつて、原則として、いつさいの行政機関の行為がコンセイユ・デタ(参事院)の統制のもとに置かれることになつたが、その例外として、それが、政治的動機によること、または政治的性質をもつているという理由で、どのような訴訟の対象にもならないとされる一群の国家行為の存在を認め、これを「統治行為」と呼んだ。しかし、具体的にいかなる行為をもつて統治行為とするかは、必ずしも明確ではなく、結局は、コンセイユ・デタがその行政裁判の歴史のなかで、いくつかの裁判例によつてただ経験的に積重ねてきたものにすぎないが、一応つぎのものがそのなかに含まれるとされている。すなわち、①内政上の行為として、(イ)政府と議院との関係における行為、たとえば、政府による下院の解散、(ロ)コンセイユ・デタによる内部的秩序の維持のための処置と確認される行為、たとえば、軍隊内部の懲戒処分、②外交上の行為として、(イ)領土の合併およびその効果、(ロ)条約の有権的解釈、(ハ)外交上のとりきめ、または条約の条項の適用上の行為、(ニ)その他、③戦争行為がそれである。
このような行為が統治行為とされてきたのは、フランスでは、一面においては、行政訴訟につき一般的に審査権をもつたコンセイユ・デタが、高度に政治性をもつ国家行為について議院との間で争いの生ずることを避けようとするなどの政治的合目的的配慮からと、他面において、当時、公法の領域においては、法規が未だ完全に整つてはいなかつたため、コンセイユ・デタが、司法裁判所とは異なつて、厳格な法の拘束を受けるものではなく、またそれは司法権の機関ではなく行政権の機関としての性格から、多分に政策的考慮を加味して裁判をする可能性を与えられていた、という歴史的背景に基づくものであろうといわれている。
しかし、近時フランスにおける法治主義の進展とともに、このような統治行為の考え方は、漸次縮減の方向にあるとされている。
(2) アメリカの裁判所も、その性質上高度に政治に関連する国家行為をいわゆる「政治問題」と呼び、これについて司法審査をおこなうことを避けてきた。それは、三権分立制の基盤のうえでは、一定の事項について、政治機関たる立法機関と行政機関が最終決定権をもち、たとえその事項が法律上の争訟となつても、裁判所は政治機関の最終決定に従うべきで、これについて司法審査をすることが許されないとするものである。しかし、フランスの場合と同様に、その具体的な範囲は必ずしも明らかではない。ただ、アメリカの裁判所が、その長い歴史のなかで樹立したこのような政治問題には、つぎのものが含まれるといわれている。すなわち、①国際関係として、(イ)条約の効力、(ロ)戦争の開始および終了の決定、(ハ)外国人の入国禁止および追放、(ニ)領土権の範囲、(ホ)国家の承認、(ヘ)その他、②内政関係として、(イ)共和政体の保障、(ロ)インデアン種族と州との争い、(ハ)連邦と州との争い、(ニ)その他、がそれである。
このような政治問題に司法審査権が立入らないとする実質的な根拠について、J・P・フランクは、第一に、迅速かつ単一の政策を必要とする場合、とくに、対外事項に関するある種の問題については、明確な、そして臨機の解答を出すことが、正しい解答を出すことよりも、より強く要求されることがある、第二に、司法権が有能に処理できない場合、すなわち、立法的解決に委ねるを相当とするか、または、事件の処理に裁判所が知ることのできない情報が必要な場合、第三に、他の政府部門の権限たることが明瞭の事項、第四に、処理不可能な状況を避ける必要性、をあげている。しかし、このようななお若干の不明確さを伴なう政治問題には、アメリカの裁判所はこの方向にあまりにもいきすぎているのではないかという批判がなされ、そしてまた、前記したフランク自身も、政治問題の理論はもつと好ましくない方向に拡大しつつあり、個人の自由の重要な要求を司法審査から排除するものであるから、アメリカの制度の精神に反するものであり、やむをえない場合に限定されるべきである、と結論づけている。
そして、現在では、アメリカの判例は、次第に形式的には司法審査に適合しないとされる行為(たとえば外交問題)である場合にも、とくに個人の重要な人権の侵害を含む事件においては、政治問題として司法審査の外におくことなく、まさに、個々の事件ごとに審査すべきか否かをきめるという傾向を確立しつつあるといわれている。
3  わが国においては、右のような統治行為として司法審査の範囲外とされるべき問題について、未だ学説、判例上確立したものを見ない。しかも、前記したフランス、アメリカで論じられている統治行為、政治問題というものは、いずれも、前述のように、その国の歴史的背景のもとに形成され、発達してきたものであるから、それらの国とは歴史的社会的事情も相違し、しかも、右両国とは異なり、憲法第八一条によつて司法権が立法権、行政権のするいつさいの行為にも、審査権をもつ旨規定し、その限度では司法権の他の二権に対する優位を成文上明記しているわが国にただちに導入することもまた妥当を欠くものといわなければならない。
とりわけ、一定の分野の国家行為を司法審査の対象から除外するということは、そのこと自体がすべての国家行為が法のもとにおこなわれ、かつ司法裁判所の審査に服し、これにより国民の権利を擁護するという近代民主主義制度の根幹をなす法の支配ないし法治主義とは対立するものであり、それらは、おのおのの歴史の段階において、その特殊な政治的事情のなかでそれなりの合理性をもつていたとしても、右法治主義からはあくまでも例外的な現象といわなければならず、このことだけからみても、それはフランスの傾向やフランクの批判をまつまでもなく拡大されるべきものではない。
4  わが国の憲法第八一条は、さきにも指摘したように「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定している。そしてこの「……一切の法律、命令、規則または処分が……」なる文言は、それ自体からまつたく例外を認めない趣旨にも解しうる。
しかしながら、同憲法中にも、たとえば、第五五条本文は「両議院は各々その議員の資格に関する争訟を裁判する。」と定め、また第六四条第一項は「国会は、罷免の訴追を受けた裁判官を裁判するため、両議院で組織する弾劾裁判所を設ける。」と規定しており、これらはいずれも第七六条、第八一条の例外を定めたものとみることができる。
さらに、最高裁判所は、昭和三五年六月八日衆議院解散の効力に関する裁判所の審査権限について、「すなわち衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であつて、かくのごとき行為について、その法律上の有効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは…あきらかである」旨(民集第一四巻第七号一二〇六頁)を、また同三七年三月七日法律制定の議事手続の効力が争われた事件につき「しかしながら、同法は両院において議決を経たものとされ適法な手続によつて公布されている以上、裁判所は両院の自主性を尊重すべく同法制定の議事手続に関する所論のような事実を審理してその有効無効を判断すべきでない。」(民集第一六巻第三号四四六頁)旨各判示している。これらはいずれも政府と国会の関係および国会内部の事項に関するものとみることができる。
加えて、同裁判所は、昭和三四年一二月一六日米安全保障条約の憲法適合性の争われたいわゆる砂川事件について、「ところで本件安全保障条約は、……主権国としてのわが国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するものというべきであつて、その内容が違憲なりや否やの法的判断は、その条約を締結した内閣およびこれを承認した国会の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点がすくなくない。それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的判断に委ねらるべきものであると解するのを相当とする。」(刑集第一三巻第一三号三、二二五頁)と判示し、「一見極めて明白に違憲無効であると認められ」る場合を除き、司法審査の対象外としている。この判例はいうまでもなく条約の解釈、または効力の問題に関するものである。
5  被告は、自衛隊の憲法適合性の問題は高度の政治性のある事柄であり、かつ、国家統治の基本にかかわる問題であるから、司法審査の対象とならないという。なるほど、前掲昭和三五年六月八日付最高裁判所判決は、その前段で「しかし、わが憲法の三権分立の制度の下においても、司法権の行使についておのずからある限度の制約は免れないのであつて、あらゆる国家行為が無制限に司法権の審査の対象となるものと即断すべきでない。直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。この司法権に対する制約は、結局、三権分立の原理に由来し、当該国家行為の高度の政治性、裁判所の司法機関としての性格、裁判に必然的に随伴する手続上の制約等にかんがみ、特定の明文による規定はないけれども、司法権の憲法上の本質に内在する制約と理解すべきである」旨判示している。
しかし、右判決は、前記したように衆議院の解散の効力に関して判示されたものであつて、ただちに本件にも適切であるとは思われない。このような司法審査の対象から除外される国家行為の容認は、前記したようにあくまでも法治主義に対する例外であつて、このような例外の理由を述べた判示は、普遍化されるべき性格をもつものではなく、この点を顧慮しないで、右の一般論的叙述部分のみを安易に拡大ないしは抽象化することはついには、法治主義の崩壊にも至る危険をはらんでいるものといわなければならない。そのことは、前述したように、統治行為論を生みだしたフランスおよびアメリカにおいても、いずれもその長い裁判の歴史のなかで、その時時の政治、社会の情勢に慎重な考慮を払いながらただ例外としてのみ容認してきた経緯からも容易にうかがい知ることができるのである。
そしてわが国の憲法が第九七条、第九八条にもみられるように、国民の権利と自由を最大に保護しようとしていることからみれば、このような憲法秩序を維持するためにも、右のような例外は最少に局限されるべきことはいうまでもない。
6  そして被告のいう「高度の政治性」、「国家統治の基本」なる概念は、いずれもきわめて内容を限定し難い不明確な概念であつて、なにをもつて「高度の政治性」あるいは「国家統治の基本」というかは、きわめて流動性に富み、このような曖昧な概念には、ときにはきわめて広汎な解釈を与えることも可能にするおそれがある、といわなければならない。そしてまた、こと法令等の憲法適合性が問題とされる場合には、多かれ少なかれ同時に政治性を伴うことは不可避であり、また、その法令等が少なくとも国家統治の基本と無関係なものは存在しないといわなければならない。そしてこのような曖昧な概念をもつて、司法審査の対象外とされる国家行為の存在を容認するときには、それらの概念が、ときにはきわめて危険に拡大解釈され、そして裁判所は、国家行為の過誤から国民の基本的人権の救済を図ることなく、かえつてみずから門戸を固く閉ざさざるをえなくなるおそれがある。このような被告の主張は、法治主義、そして司法権の優越の原則を、わが国の基礎として定めた現行憲法第八一条の規定にも、また同法第九七条、第九八条などの規定にもみられる憲法の趣旨、またその精神にも合致するものとは思われない。
7  また被告は前記第一、2、(2)で要約したように、わが国が、自衛のために自衛隊を保持するか否か、また保持するとしても、いかなる程度の規模、装備、能力等を備えるかなどは、流動する国際情勢、および科学技術の進歩等を総合的に判断して決すべきもので、自衛隊の憲法適合性の問題は、司法裁判に随伴する手続上の制約からみても、司法裁判所の審査になじまないと主張する。
しかしながら、自衛隊の憲法適合性、つまり国家安全保障について軍事力を保持するか否かの問題については、憲法は前文および第九条において、明確な法規範を定立しているのであつて、その意義および解釈は、まさに法規範の解釈として客観的に確定されるべきものであつて、ときの政治体制、国際情勢の変化、推移とともに二義にも三義にも解釈されるべき性質のものではない。そして、当裁判所も、わが国が国際情勢など諸般の事情を総合的に判断して、政策として自衛隊を保持することが適当か否か、またこれを保持するとした場合どの程度の規模、装備、能力を備えるか、などを審査判断しようとするものではなく、まさに、主権者である国民がわが国がとることのできる安全保障政策のなかから、その一つを選択して軍隊等の戦力を保持するか否かについて定立した右憲法規範への適合性だけを審査しようとするものである。そうであるとすれば、裁判手続のなかで、一定範囲で自衛隊の規模、装備、能力等その実体を明らかにすることのできる程度で主張、立証が尽くされれば、国際情勢、その他諸々の状況を審理検討するまでもなく、自衛隊の右憲法条規への適合性を容易に検討できるのであつて、その間、裁判手続に随伴するなんらの桎梏も存在することなく、結局、被告主張のように、司法審査の対象から除外しなければならない理由は見出すことができない。
8  結局わが国において、憲法第八一条の例外として、司法審査から除外されるべき国家行為は、前記4の事例にだけ認められてきたのであり、これらを除いたその余のいつさいの法律、命令、規則または処分の憲法適合性の審査は、憲法第七六条、第八一条、裁判所法第三条により、司法裁判所の審査の範囲内にあるものであり、したがつて、本件訴訟においても当然に司法審査は及ぶものといわなければならない。
第三、憲法の平和主義と同法第九条の解釈
一、憲法前文の意義
1 およそ一国の基本法たる憲法において、それを構成する各個の条項の記述に先だつて、前文としてその憲法制定の由来、動機、目的、あるいは基本的原理などが明記され、また宣言されていることは、しばしばみられるところである。
わが国の現行憲法も、前文を四項にわけ、その第一項ないし第三項において「憲法の憲法」とでもいうべき基本原理を定めている。それは、国民主権主義と、基本的人権尊重主義と、そして平和主義である。
2 平和主義については、まずその前文第一項第一段において、「日本国民は……諸国民との協和による成果とわが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、……この憲法を確定する。」と規定し、また、その第二項においては、「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するものであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う。われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」と規定し、そして、第三項において、「われらは、いずれの国家も自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従うことは、……各国の責務であると信ずる。」旨述べたあと、最終第四項で、「日本国民は、国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達成することを誓う。」として前文を結んでいる。
このような憲法の基本原理の一つである平和主義は、たんにわが国が、先の第二次世界大戦に敗れ、ポツダム宣言を受諾させられたという事情から受動的に、やむをえず戦争を放棄し、軍備を保持しないことにした、という消極的なものではなく、むしろ、その前文にもあるごとく、「われらとわれらの子孫のために……わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、……再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意」(第一項)するにいたつた積極的なものである。すなわち、一方では、この平和への決意は、たんに今次太平洋戦争での惨禍をこうむつた体験から生じた戦争嫌悪の感情からくる平和への決意にとどまらず、それは、日清、日露戦争以来今次大戦までのすべてについて、その原因、ならびに、わが国の責任を冷静にかつ謙虚に反省し、さらに、その結果を、後世の子孫たちに残すことにより、将来ふたたび戦争をくり返さない、という戦争防止への情熱と、幸福な国民生活確立のための熱望に支えられた、理性的な平和への決意であり、そしてまた、他方において、一般に戦争というものが、たんに自国民だけではなく、広く世界の他の諸国民にも、限りない惨禍と、底知れない不幸をもたらすことは、必然的であつて、このような悲劇についての心底からの反省に基づき、今後そのような悲劇を、わが国民だけではなく、人類全体が決してこうむることのないように、みずから進んで世界の恒久平和を念願し、人類の崇高な理想を自覚して、積極的にそれを実現するように努めることの決意である。そして、この決意は、現在および将来の国民の心のなかに生き続け、真に日本の平和と安全を守り育てるものであり、究極的には、全世界の平和をもたらすことになるものである。
このように、わが国は、平和主義に立脚し、世界に先んじて軍備を廃止する以上、自国の安全と存立を、他の諸外国のように、最終的には軍備と戦争によるというのではなく、国内、国外を問わず戦争原因の発生を未然に除去し、かつ、国際平和の維持強化を図る諸活動により、わが国の平和を維持していくという積極的な行動(憲法前文第二段)のなかで究極的には「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」(同第二項第一段)のである。これは、なによりもわが国が、平和憲法のもとに国民の権利、自由を保障する民主主義国家として進むことにより、国内的に戦争原因を発生させないこと、さらに、平和と国家の繁栄を求めている世界の諸国のなかで、右のように、平和的な民主主義国家として歩むわが国の生存と安全を脅かすものはいないという確信、そしてまた、今日世界各国の国民が、人類の経験した過去のいついかなる時期にもまして、わが国と同様に、自国の平和と不可分の世界平和を念願し、世界各国の間において、平和を乱す対立抗争があつてはならない、という信念がいきわたつていること、最後に、国際連合の発足によつて、戦争防止と国際間の安全保障の可能性が芽ばえてきたこと、などに基礎づけられているものといえる。このことは、憲法が、その前文第二項第二段からとりわけ第三項において、自国のみならず世界各国に対しても、利己的な、偏狭な国家主義を排斥する旨宣言して、自国のことばかりにとらわれて、他国の立場を顧慮しようとしない独善的な態度を強くいましめていることからも明らかである。
このような前文のなかからは、万が一にも、世界の国国のうち、平和を愛することのない、その公正と信義を信頼できないような国、または国家群が存在し、わが国が、その侵略の危険にさらされるといつた事態が生じたときにも、わが国みずからが軍備を保持して、再度、武力をもつて相戦うことを容認するような思想は、まつたく見出すことはできないといわなければならない。
3 このような憲法前文での平和主義は、他の二つの基本原理である国民主権主義、および基本的人権尊重主義ともまた密接不可分に結びついているといわなければならない。
(1) すなわち、憲法前文第一項は、前記した「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないようにすることを決意し、」に続けて、「主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確立する。」とし、さらに、「そもそも国政は国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基づくものである。」と平和主義と国民主権主義とを結びつけていることからも明らかである。このことは、過去の歴史上、戦争が、国民の生命財産を守るために国民の意思によつておこなわれたことよりも、しばしば、国民とは遊離した一部の者が支配する政府の独善と偏狭のために原因が形成され、ぼつ発したという事実に基づいて、そのような過ちを二度とくり返さないために、国民主権のもとに強く政府の行動を規制し、その独善と専行を排除することにより、平和の万全を確立しようとするものであり、他面、国民主権主義が、真に国民のためのものとして確立されるためには、そこには、平和主義が十全に確保されていなければならないとの思想に基礎づけられているものである。
(2) 他方、前文第二項は、前記した平和主義の規定に続けて、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」ことを明記している。これは、この平和的生存権が、全世界の国民に共通する基本的人権そのものであることを宣言するものである。そしてそれは、たんに国家が、その政策として平和主義を掲げた結果、国民が平和のうちに生存しうるといつた消極的な反射的利益を意味するものではなく、むしろ、積極的に、わが国の国民のみならず、世界各国の国民にひとしく平和的生存権を確保するために、国家みずからが、平和主義を国家基本原理の一つとして掲げ、そしてまた、平和主義をとること以外に、全世界の諸国民の平和的生存権を確保する道はない、とする根本思想に由来するものといわなければならない。
これらの思想は、また、国際連合憲章前文にもみられるところであり、さらに、第三回国連総会において採択された「人権に関する世界宣言」の前文に、「人類社会のすべての構成員の固有の尊厳と平等で譲ることのできない権利との承認は、世界における自由、正義および平和の基礎をなしているので、人権の無視と軽べつとは、人類の良心をふみにじつた野蛮な行為を招来したのであり、また、人間が言論及び信仰の自由と恐怖及び欠乏からの自由(解放)を享有する世界の到来はあらゆる人たちの最高の熱望として宣言されて来た」、という文言によつても明らかにされているところであつて、わが国の憲法も、これらの思想と合致し、これをさらに徹底したものである。
そして、この、社会において国民一人一人が平和のうちに生存し、かつ、その幸福を追及することのできる権利をもつことは、さらに、憲法第三章の各条項によつて、個別的な基本的人権の形で具体化され、規定されている。ここに憲法のいう平和主義と基本的人権尊重主義の二つの基本原理も、また、密接不可分に融合していることを見出すことができる。
4 そして、国民主権主義が国民各自の基本的人権尊重と、これまた不可分に結びついていることは、改めて述べるまでもないことであつて、ここに三基本原理は、相互に融和した一体として、現行憲法の支柱をなしているものであつて、そのいずれか一つを欠いても、憲法体制の崩壊をもたらすことは、多言を要しないところである。
前文の最後は、これらの憲法を貫く諸原理は、たんに美辞麗句に終ることのないように、日本国民みずからが、国家の名誉にかけて、全力をもつてこれらの崇高な理想と目的を達成することを、全世界の前に宣言したものである。
二、憲法第九条の解釈
1 憲法第九条の解釈は、前述の憲法の基本原理に基づいておこわなければならない。なぜならば、第九条を含めた憲法の各条項は、前記基本原理を具体化して個別的に表現したものにほかならないからである。
憲法第九条第一項は、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際粉争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と規定し、同条第二項は、「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。」と規定している。
2 まず第九条第一項についてみると、
(1) 「日本国民は正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求する」旨の文言は、前文掲記の平和主義を、第九条の規定にあたつても、再認確し、さらに、あらゆる国家が、正義と秩序を尊重し、平和を愛好するものであり、それを信頼するとともに、国際社会に正義と秩序が支配するならば、平和が保持されるとの確信のもとに、それを誠実に希求し、かつ、その目的のたあに、同項に以下の規定を置くとするものである。
(2) 「国権の発動たる戦争」とは、国家行為としての戦争と同意義である。なお本項では国権の発動によらない戦争の存在を容認する趣旨ではない。
(3) 「武力による威嚇又は武力の行使」ここにいう「武力」とは、実力の行使を目的とする人的および物的設備の組織体であるが、この意味では、後記第九条第二項にいう「戦力」と同じ意味である。「武力による威嚇」とは、戦争または戦闘行為に訴えることをほのめかしてなされる威嚇であり、「武力の行使」とは、国際法上認められている戦争行為にいたらない事実上の戦闘行為を意味する。
(4) 「国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」ここにおいて、国際紛争を解決する手段として放棄される戦争とは、不法な戦争、つまり侵略戦争を意味する。この「国際紛争を解決する手段として」という文言の意味を、およそいつさいの国際紛争を意味するものとして、憲法は第九条第一項で自衛戦争、制裁戦争をも含めたいかなる戦争をも放棄したものであるとする立場もあるが、もしそうであれば、本項において、とくに「国際紛争を解決する手段として」などと断る必要はなく、また、この文言は、たとえば、一九二八年の不戦条約にもみられるところであり、同条約では、当然に、自衛戦争、制裁戦争を除いたその他の不法な戦争、すなわち、侵略戦争を意味するものと解されており(このことは同条約に関してアメリカの国務長官が各国に宛てた書簡に明記されている。)、以後、国際連盟規約、国際連合憲章の解釈においても、同様の考えを前提としているから、前記した趣旨に解するのが相当と思われる。したがつて、本条項では、未だ自衛戦争、制裁戦争までは放棄していない。
3 つぎに同条第二項についてみる。
(1) 「前項の目的を達成するため」の「前項の目的」とは、第一項を規定するに至つた基本精神、つまり同項を定めるに至つた目的である「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求(する)」という目的を指す。この「前項の目的」なる文言を、たんに第一項の「国際紛争を解決する手段として」のみに限定して、そのための戦争、すなわち、不法な戦争、侵略戦争の放棄のみの目的と解すべきではない。なぜなら、それは、前記した憲法前文の趣旨に合致しないばかりか、後記するように、現行憲法の成立の歴史的経緯にも反し、しかも、本項の交戦権放棄の規定にも抵触するものであり、かつ、現行憲法には宣戦、講和などの戦争行為に関するいつさいの規定を置いていないことからも明らかである。
(2) 「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。」「陸海空軍」は、通常の観念で考えられる軍隊の形態であり、あえて定義づけるならば、それは「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体」であるということができる。このゆえに、それは、国内治安を目的とする警察と区別される。「その他の戦力」は、陸海空軍以外の軍隊か、または、軍という名称をもたなくとも、これに準じ、または、これに匹敵する実力をもち、必要ある場合には、戦争目的に転化できる人的、物的手段としての組織体をいう。このなかにはもつぱら戦争遂行のための軍需生産設備なども含まれる。ここで、その他の戦力の意味をひろく戦争のための手段として役立ちうるいつさいの人的、物的勢力と解することは、近代社会に不可欠な経済、産業構造のかなりの部分がこれに含まれることになり妥当ではない。
このようにして、本項でいつさいの「戦力」を保持しないとされる以上、軍隊、その他の戦力による自衛戦争、制裁戦争も、事実上おこなうことが不可能となつたものである。
(3) 被告は、「外部からの不正な武力攻撃や侵略を防止するために必要最少限度の自衛力は憲法第九条第二項にいう戦力にはあたらない」旨主張する。しかしながら、憲法の同条項にいう「戦力」という用語を、通常一般に社会で用いられているのと意味を異にして憲法上独特の意味に解しなければならないなんらの根拠を見出すことができないうえ、前記と同様に、かような解釈は、憲法前文の趣旨にも、また憲法の制定の経緯にも反し、かつ、交戦権放棄の条項などにも抵触するものといわなければならない。
とりわけ、自衛力は戦力でない、という被告のような考え方に立つと、現在世界の各国は、いずれも自国の防衛のために必要なものとしてその軍隊ならびに軍事力を保有しているのであるから、それらの国国は、いずれも戦力を保有していない、という奇妙な結論に達せざるをえないのであつて、結局、「戦力」という概念は、それが、自衛または制裁戦争を目的とするものであるか、あるいは、その他の不正または侵略戦争を目的とするものであるかにかかわらず、前記したように、その客観的性質によつてきめなければならないものである。
(4) 「国の交戦権は、これを認めない。」 「交戦権」は、国際法上の概念として、交戦国が国家としてもつ権利で、敵の兵力を殺傷、破壊したり、都市を攻撃したり、占領地に軍政をしいたり、中立国に対しても一定の条件のもとに船舶を臨検、拿捕し、また、その貨物を没収したりなどする権利の総称をいう。この交戦権を、ひろく国家が戦争をする権利と解する立場は、第一項の「国権の発動たる戦争」と重複し、妥当ではない。
またこの交戦権放棄の規定は、文章の形からいつても、(1)で記述した「前項の目的を達するため」の文言にはかからず、したがつて、その放棄は無条件絶対的である。このため、この「前項の目的」の解釈に際し、侵略戦争の放棄のみに限定し、自衛戦争および制裁戦争は放棄されていないとする立場、ならびに本項で自衛力は戦力に含まれないとして、自衛戦争を容認する被告の立場は、少なくとも、いかなる形にせよ戦争を承認する以上、その限度で、国際法上の交戦権もまた容認しなければ不合理であつて、これらの立場は、いずれも、この交戦権の絶対的放棄に抵触するものといわなければならない。
三、右憲法解釈の実質的な裏づけ
以上のような当裁判所の解釈は、つぎのような憲法成立の経緯、その他の事実によつても裏づけられるものである。
1(1) 現行憲法が、第二次世界大戦でのわが国の敗戦の結果生まれたものであること、そして、この敗戦が、昭和二〇年(一九四五年)八月一〇日わが国がポツダム宣言を受諾したことによることはいうまでもない。
ポツダム宣言は、その第六項において、「吾等ハ無責任ナル軍国主義ガ世界ヨリ駆逐セラルルニ至ル迄ハ平和安全及正義ノ新秩序ガ生ジ得ザルコトヲ主張スルモノナルヲ以テ日本国国民ヲ欺瞞シ之ヲシテ世界征服ノ挙ニ出ヅルノ過誤ヲ犯サシメタル者ノ権力及勢力ハ永久ニ除去セラレザルベカラズ」と、第七項では「右ノ如キ新秩序ガ建設セラレ且日本国ノ戦争遂行能力ガ破砕セラレタルコトノ確証アルニ至ル迄ハ聯合国ノ指定スベキ日本国領域内ノ諸地点ハ吾等ノ茲ニ指示スル根本的目的ノ達成ヲ確保スル迄占領セラルベシ」と、また、第九項で「日本国軍隊ハ完全ニ武装ヲ解除セラレタル後各自ノ家庭ニ復帰シ平和的且生産的ノ生活ヲ営ムノ機会ヲ得シメラルベシ」と、そしてさらに、第一一項第一段に「日本国ハ其ノ経済ヲ支持シ且ツ公正ナル実物賠償ノ取立ヲ可能ナラシムルガ如キ産業ヲ維持スルコト許サルベシ但シ日本国ヲシテ戦争ノ為再軍備ヲ為スコトヲ得シムルガ如キ産業ハ此ノ限ニ在ラズ」と各明記している。
このようなポツダム宣言のもとに、同年八月一五日、戦後の日本が再出発したのである。
(2) かくして、新生日本となつたわが国において、昭和二一年三月六日政府から「憲法改正草案要綱」が発表されたのち、同年四月一〇日衆議院議員の総選挙がおこなわれ、ついで同月一七日「憲法改正案」が発表され、そして、同年五月一六日に召集された第九〇帝国議会(いわゆる制憲議会)に政府は右改正案を上程した。右議会の審議において、当時の内閣総理大臣吉田茂は同案に「戦争放棄」の規定を置くにいたつた動機について、つぎのように述べている。
「政府が憲法改正の必要を認めまして、研究に着手しましてから、欧米その他の日本に対する感情、考え方に付て色々事態が明瞭になつて来ますると共に、日本の国際関係に於て容易ならざるものがあることを考えざるを得なくなつたのであります。先ず第一、日本の従来に於ける国家組織、この国家組織が再び世界の平和を脅かすが如き組織であると誤解されたのであります。日本を戦争に導いた原因、国情、組織等が世界の平和に非常な危険を感ぜしむるものありと誤解されたことであります。随て、又日本が再軍備をして世界の平和を紊す、攪乱することの危険がありはしないか、これは聯合国に於て最も懸念した所であります。故に先ず第一に聯合国と致しまして、日本に対して求むる所は日本の軍備の撤去であります。日本が再軍備が出来ないようにする。日本の軍備撤去と云うこと、世界の平和を脅かさざるような国体の組織にすると云うことが必要である。これは固より誤解から生じたのであります。……併しながらこの五箇年の間の戦の悲惨なる結果から見まして、斯の如く考え、又世界が平和を愛好すると云う精神から考えまして、日本に対する疑惑、懸念は又尤もと考えざるを得ないのであります。……斯くの如き疑惑の下にあつて、……日本が如何にして国体を維持し、国家を維持するかと云う事態に際会して考えて見ますると、日本の国体、日本の国家の基本法たる憲法を、まず平和主義、民主主義を徹底せしめて、日本憲法が毫も世界の平和を脅かすが如き危険の国柄でないと云うことを表明する必要を、政府と致しましては深く感得したのであります。」(逐条日本国憲法審議録第一巻四二、四三頁)
また憲法第九条の規定に関しては同総理大臣はつぎのように説明をしている。
「戦争抛棄に関する本案の規定は、直接には自衛権を否定しては居りませぬが、第九条第二項に於て一切の軍備と国の交戦権を認めない結果、自衛権の発動としての戦争も、又交戦権も抛棄したのであります。従来近年の戦争は多く自衛権の名に於て戦われたのであります。満洲事変然り、大東亜戦争亦然りであります。今日我が国に対する疑惑は、日本は好戦国である、何時再軍備をなして復讐戦をして世界の平和を脅かさないとも分からないというのが、日本に対する大なる疑惑であり、又誤解であります。先ず此の誤解を正すことが今日我々としてなすべき第一のことであると思うのであります。又この疑惑は誤解であるとは申しながら、全然根抵のない疑とも言われない節が既往の歴史を考えて見ますると多々あるのであります。故に我が国に於ては如何なる名義をもつてしても交戦権は先づ第一進んで抛棄する、抛棄することに依つて全世界の平和の確立の基礎を成す、全世界の平和愛好国の先頭に立つて、世界の平和確立に貢献する決意を先づ此の憲法において表明したいと思うのであります。」(前同審議録第二巻八二、八三頁)
同様の趣旨は、国務大臣金森徳次郎の右議会での説明にもみられる。すなわち同国務大臣は、「第九条の規定は……本当に人類の目覚めの道を日本が第一歩を踏んで、模範を垂れる積りで進んで行かう、斯う云う勇断を伴つた規定である訳であります。……此の第一項に該当しまする部分、詰り不戦条約を明らかにするような規定は、世界の諸国の憲法中類例を若干見得るものであります。日本ばかりが先駆けて居ることではございませぬが併し其の第一項の規定、詰り或種の戦争はやらないと云うことをはつきり明言するだけではどうも十分なる目的は達し得ないのでありまして、諸国の憲法も之に類する定めは甚だ不十分であります。さうなりますると更に大飛躍を考へて、第二項の如き戦争に必要なる一切の手段及び戦争から生ずる交戦者の権利をなくすると云ふ所迄進んで、以て、此の画期的な道義を愛する思想を規定することが適当なこととなつたと思うのであります。」(前同審議録二巻二七頁)
また国務大臣幣原喜重郎は右議会において戦争放棄の意義についてつぎのように述べている。「実際この改正案の第九条は戦争の抛棄を宣言し、わが国が全世界中最も徹底的な平和運動の先頭に立つて指導的地位を占むることを示すものであります。今日の時勢に尚国際関係を律する一つの原則として、或範囲内の武力制裁を合理化、合法化せむとする如きは、過去に於ける幾多の失敗を繰返えす所以でありまして、最早我が国の学ぶべきことではありませぬ。文明と戦争とは結局両立し得ないものであります。文明が速かに戦争を全滅しなければ、戦争が先ず文明を全滅することになるでありましよう。私は斯様な信念を持つて此の憲法改正案の起草の議に与つたのであります」(前同審議録第二巻二一、二二頁)
以上のように、憲法改正案の提案者らは、制憲議会において、わが国は、完全な非武装主義に立脚して、戦争を放棄する旨言明している。したがつて、制憲議会およびこれを支える国民の意思は、永久平和主義、戦争放棄方式を憲法の基本原理の一つとして採用したことは明らかである。これら現行憲法成立経過の点からみても、前記一、二の解釈の正当であることが裏づけられる。
2 そしてこのことは、また、旧大日本帝国憲法と現行憲法の規定のあり方を対比してみても明らかである。すなわち、かつて陸海軍を擁した旧憲法は、その第一一条において「天皇ハ陸海軍ヲ統帥ス」と、また第一二条では「天皇ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム」と、さらに第一三条で「天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講ジ及諸般ノ条約ヲ締結ス」と、そして第一四条で「天皇ハ戒厳ヲ宣告ス 戒厳ノ要件及効力ハ法律ヲ以テ之ヲ定ム」と陸海軍の指揮、編成や戦争の開始および終結に関する手続などを定めていた。しかし現行憲法は、このような重要な事項に関して明文の規定を欠いていることはもちろん、それらを法律などに委任する旨の規定もまつたく置いていない。このことは現行憲法が前記のような歴史的経緯のもとに、自衛のための軍備の保有さえも排除した趣旨に解せざるをえないものといわなければならない。
3 以上のような永久平和主義と戦争放棄に関するわが憲法の規定の渕源は、とくに、今世紀に入つて以来、世界の諸国がそれぞれの憲法や条約において取決めた幾多の戦争の禁止や制限に関する規定の流れのなかに求めることができる。
(1) 諸外国の憲法における戦争放棄の規定の出現は、古く一八世紀にさかのぼるが、とくに今世紀に入つてからは、その数も著しく増大している。
まずその先駆をなすものは、フランスの一七九一年の憲法(いわゆる大革命憲法)である。同憲法はその第六篇「フランス国民と他国民の関係」のなかで、「フランス国民は、征服の目的をもつていかなる戦争をも行うことを放棄し、またいかなる国民の自由に対しても決して武力を行使しない。」と規定した。これと同旨の規定は、その後、同国の一八四八年の憲法(いわゆる二月革命憲法)前文の五、一九四六年の憲法(いわゆる第四共和国憲法)前文にも引き継がれている。
また同様に、侵略戦争の放棄については、ブラジルの一八九一年の憲法第八八条は「いかなる場合にも、ブラジル合衆国は直接にも又間接にも、自ら或は他国の同盟として征服の戦争には従事しない。」と規定し、同国の一九三四年の憲法も同旨の規定を置き、さらに、一九四六年の憲法第四条は、これに加えてその前段で、「ブラジルはその加盟する国際安全機関の定める仲裁若しくは紛争解決の平和的手段を採る余地がないか、又は失敗に帰した場合でなければ戦争に訴えない。」として、侵略戦争以外の戦争すなわち自衛戦争、制裁戦争にも厳重な制約を置き同様の趣旨の規定は同国の一九六七年の憲法第七条にも引き継がれている。
他方、つぎに述べる一九二八年の不戦条約の戦争放棄条項を国内法化して憲法上の規定としているものもみられる。まず、スペインの一九三一年の憲法第六条は、「スペインは、国家の政策の手段としての戦争を放棄する。」と定め、続いて、フイリピンの一九三五年の憲法第二条第三節は、「フイリピンは国策遂行の手段としての戦争を放棄し、一般に受諾された国際法の諸原則を国内法の一部として採用する。」と規定し、一九四七年のビルマ憲法第二一一条、一九四九年のタイ憲法第六一条も同旨である。
またこれとは別に、一九四七年のドイツ民主主義共和国憲法第五条第三項は、「いかなる市民も、他の国民の抑圧に仕える戦闘的行動に参加してはならない」と、同年のイタリア共和国憲法第一一条前段は、「イタリアは、他国民の自由を侵害する手段および国際紛争を解決する方法としての戦争を否認する。」と規定し、さらに、一九四八年の大韓民国憲法第六条、同国の一九六二年の憲法第四条「大韓民国は国際平和の維持に努力し、侵略戦争を否認する」の規定、一九四九年のドイツ連邦共和国憲法第二六条第一項「諸国間の平和な共同生活をみだすおそれがあり、かつその意図をもつて行われる行動、とくに侵略戦争の遂行を準備する行動は違憲とする。これらの行動は処罰する。」などの規定もある。
(2) このような国内法上の戦争放棄の立法化の動向とともに、国際社会においても一九世紀後半から、次第に国家間の武力行使がもたらす惨禍を省み、これを防止するために国家主権を制限しようとする傾向がみられるようになつた。
まず、一九一九年六月二八日成立した国際連盟規約(ヴエルサイユ平和条約第一編)は、その前文で、「締約国ハ戦争ニ訴ヘザルノ義務ヲ受諾シ」と明記し、さらに第一二ないし第一五条において各国が戦争に訴える前に、平和的な解決手段により争いの解決に努めるべき義務を定めて、戦争行為を制限した。その後、国際連盟は、一九二四年第五回総会でいわゆる「ジユネーブ議定書」を、また、一九二八年第八回総会でいわゆる「一般議定書」を各採択し、国際紛争の平和的処理のための調停、司法、仲裁などの手続を規定した。
一九二八年フランス外務大臣ブリアンが発議し、これにアメリカ国務長官ケロッグが賛成して成文化された「戦争の放棄に関する条約」(いわゆる「不戦条約」)には、わが国をも含めて、世界のほとんどすべての国が加入した(もつとも当時右の不戦条約に加入していなかつたアルゼンチンほか三国の南米諸国も、これと同内容の「ラテンアメリカ不戦条約」には加入していた。)。
同条約第一条は、「締約国ハ国際紛争解決ノ為戦争ニ訴フルコトヲ非トシ且其ノ相互関係ニ於テ国家ノ政策ノ手段トシテノ戦争ヲ抛棄スルコトヲ其ノ各自ノ人民ノ名ニ於テ厳粛ニ宣言ス」と表明し、第二条で、「締約国ハ相互間ニ起ルコトアルベキ一切ノ紛争又ハ紛議ノ性質又ハ起因ノ如何ヲ問ハズ平和的手段ニ依ルノ外之ガ処理又ハ解決ヲ求メザルコトヲ約ス」と規定し、明文をもつて、国際紛争の解決の手段としての戦争を禁止するに至つた。
当時、右条約に加入していたわが国は、国際条約によつて侵略戦争を放棄し、自衛のためのみにその陸海軍を保有していたものとみなければならない。しかるに、昭和八年(一九三三年)に始まる満州事変を契機として、その後の日中事変、そして昭和一六年(一九四一年)に始まる第二次世界大戦への突入した歴史は未だ記憶に新らしく、そして、前述したとおり、戦後の現行憲法は、まさにかような歴史的事実をふまえて誕生するに至つたものであることを想起しなければならない。
(3) かような幾多の戦争防止への努力も空しく、一九三九年から一九四五年の六年間にわたつた第二次世界大戦は、またしても世界各国にはかり知れない戦禍をもたらす結果となつた。一九四五年六月二六日、連合各国代表は国際連合憲章に合意した。右憲章前文では、「われらの一生のうち二度まで言語に絶する悲哀を人類に与えた戦争の惨害から将来の世代を救い……善良な隣人として互いに平和に生活し、国際の平和、安全を維持するために力を合わせる……」旨の決意が宣言された。そしてさらに、同憲章第二条第三項は「すべての加盟国は、その国際紛争を平和的手段によつて、国際の平和及び安全並びに正義を危くしないように解決しなければならない。」とし、同条第四項は「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない。」として、不法な戦争、侵略戦争、またはそれに至らない武力による威嚇、その行使を全面的に禁止し、さらに、その自衛権の行使についてさえも、同憲章第五一条は「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。」と一応容認はしているものの、さらに続けて「この自衛権の行使に当つて加盟国がとつた措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のため必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基づく権能及び責任に対してはいかなる影響も及ぼすものではない。」と規定している。
このように現在では、世界各国のもつ自衛権の行使にすら幾多の制約が存在するものである。
(4) このようにして、世界の潮流は、とりわけ今世紀に入つてからは、それまでの一九世紀的な国家主権の一内容としての自己保存権的自衛権の概念、そしてそれに基づく戦争行為の正当化の考え方を大きく変容させた。とくに、前記した第一次世界大戦後の不戦条約を契機として、自衛権を国家の自己保存権的色彩から脱却させ、たんに外部からの急迫不正な侵害に対する自国を防衛する権利としてのみ国際法上容認し、これを越えるいつさいの戦争行為を禁止したのである。
しかしそれにもかかわらず、その後も、いくつかの国々においてときには「自衛」の名のもとに、ときには「自衛権の行使」と称して、戦火が絶えることなく、わずか二十有余年にして、ふたたび第二次世界大戦の惨禍に世界を巻込むに至つたことは、今ここであらためて述べるまでもない。
そこで、前項で述べたように、第二次世界大戦後の国際連合憲章は、このような自衛権の濫用を厳しく規制するために、第五一条において自衛権の行使自体に強い制約措置を定めるに至つた。すなわち、①自衛権の行使を、「外国からの武力攻撃が発生した場合」のみに限定して、いわゆる先制的自衛行動を否認し(もつともこの点については若干の国際法学者からは異説が唱えられているが、世界の大多数の国々においてはこのように解されている)、②自衛権の行使は「安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持について必要な措置をとるまでの間」に限定し、かつ、③加盟国がとつた自衛の「措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない」として、その報告義務を定めた。したがつて、これらの規定に従わない自衛行動は、国際法上正当な自衛権の行使とは認めることのできないものである。
このような戦争行為の否認への流れは、まさに人類の歴史の赴くところといわなければならない。なるほど現在でもなお世界の各国が独立国として自衛権をもち、そしてこれに基づいて各国独自の軍事力を保持していることは現実の姿である。しかし、このような自衛権なるもの自体は、つねに本来その濫用の危険性をはらんでいるものであり、歴史は幾多の濫用の事実を教えていることもまた明らかである。わが国の憲法も、前述したように、このような潮流をふまえたうえで、これを越え、これに先駆けて「恒久の平和を念願し……平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して……」「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めている国際社会において名誉ある地位を占め……」、そして「国家の名誉にかけ、全力をあげてこの崇高な理想と目的を達することを誓」いながら、永久平和主義、戦争放棄の道を選んだのである。
四、自衛権と軍事力によらない自衛行動
もちろん、現行憲法が、以上のように、その前文および第九条において、いつさいの戦力および軍備をもつことを禁止したとしても、このことは、わが国が、独立の主権国として、その固有の自衛権自体までも放棄したものと解すべきでないことは当然である(昭和三四年一二月一六日付最高裁判所判決参照)。しかし、自衛権を保有し、これを行使することは、ただちに軍事力による自衛に直結しなければならないものではない。まず、国家の安全保障(それは究極的には国民各人の生命、身体、財産などその生活の安全を守ることにほかならない)というものは、いうまでもなく、その国の国内の政治、経済、社会の諸問題や、外交、国際情勢といつた国際問題と無関係であるはずがなく、むしろ、これらの諸問題の総合的な視野に立つてはじめてその目的を達成できるものである。そして、一国の安全保障が確保されるなによりも重要な基礎は、その国民の一人一人が、確固とした平和への決意とともに、国の平和問題を正しく認識、理解し、たえず独善と偏狭を排して近隣諸国の公正と信義を信頼しつつ、社会体制の異同を越えて、これらと友好を保ち、そして、前記した国内、国際諸問題を考慮しながら、安全保障の方法を正しく判断して、国民全体が相協力していくこと以外にありえないことは多言を要しない。そしてこのような立場に立つたとき、はじめて国の安全保障の手段として、あたかも、軍事力だけが唯一必要不可なものであるかのような、一面的な考え方をぬぐい去ることができるのであつて、わが国の憲法も、このような理念に立脚するものであることは勿論である。そして、このような見地から、国家の自衛権の行使方法についてみると、つぎのような採ることのできる手段がある。つまり甲第一七九号証、証人田畑茂二郎の尋問結果からは、自衛権の行使は、たんに平和時における外交交渉によつて外国からの侵害を未然に回避する方法のほか、危急の侵害に対し、本来国内の治安維持を目的とする警察をもつてこれを排除する方法、民衆が武器をもつて抵抗する群民蜂起の方法もあり、さらに、侵略国国民の財産没収とか、侵略国国民の国外追放といつた例もそれにあたると認められ、また証人小林直樹の尋問結果からは、非軍事的な自衛抵抗には数多くの方法があることも認めることができ、また人類の歴史にはかかる侵略者に対してその国民が、またその民族が、英知をしぼつてこれに抵抗をしてきた数多くの事実を知ることができ、そして、それは、さらに将来ともその時代、その情況に応じて国民の英知と努力によつてよりいつそう数多くの種類と方法が見出されていくべきものである。そして前記した国際連合も、その創立以来二十有余年の歴史のなかで、いくつかの国際粉争において適切な警察行動をとり、双方の衝突を未然に防止できた事実もこれに付加することができる。
このように、自衛権の行使方法が数多くあり、そして、国家がその基本方針としてなにを選択するかは、まつたく主権者の決定に委ねられているものであつて、このなかにあつて日本国民は前来記述のとおり、憲法において全世界に先駆けていつさいの軍事力を放棄して、永久平和主義を国の基本方針として定立したのである。
第四、自衛隊の規模、装備、能力(関係法規も含む)
一、警察予備隊の発足から保安隊、自衛隊への発達
甲第七号証のほか関係法令から、つぎの事実が認められる。
1 警察予備隊の創設
朝鮮事変の開始直後である昭和二五年七日八日、当時の連合国最高指令官マッカーサーは、日本政府に対し書簡をもつて、警察予備隊七万五、〇〇〇人の新設と、海上保安庁八、〇〇〇人の増員を指令した。そして、同年八月一〇日日本政府によつて公布された警察予備隊令(政令第二六〇号)第三条は、その任務としてつぎのように規定している。「警察予備隊は、治安維持のため特別の必要がある場合において、内閣総理大臣の命を受け行動するものとする。警察予備隊の活動は、警察の任務の範囲に限られるべきものであつて、いやしくも日本国憲法の保障する個人の自由及び権利の干渉にわたる等その権能を濫用することがあつてはならない。警察予備隊の警察官の任務に関し必要な事項は政令で定める。」それにもかかわらず、警察予備隊は、その設立当初より米軍から供与されたカービン銃などをもつて武装し、その教育も米軍の指示のもとにおこなわれた。当時、連合国総司令部のホイットニー民政局長は、「ポリスリザーブ(警察予備隊)は普通の警察ではない。内乱がおこつたり、外国から侵略があつたとき、それに立向うべきものだ。だから警察予備隊の隊員にはさし当り各人にカービン銃をもたせる。将来は予備隊が大砲や戦車などを持つことになるだろう。」といつたといわれる。
2 昭和二六年九月八日、日本政府と連合国との間に「日本国との平和条約」(いわゆる対日講和条約)が調印され、あわせて、アメリカ政府との間に「日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約」(以下旧安全保障条約という)が締結され(公布はいずれも同二七年四月二八日)た。右旧安全保障条約の前文第五項では「……アメリカ合衆国は、日本国が、攻撃的な脅威となり又は国際連合憲章の目的及び原則に従つて平和と安全を増進すること以外に用いられうべき軍備をもつことを常に避けつつ、直接及び間接の侵略に対する自国の防衛のため漸増的に自ら責任を負うことを期待する。」と規定された。ここに、わが国が条約上の義務まで至らないまでも、締約相手国の期待にそうべく自発的に防衛のために軍備をもつ責任を負うに至つたのである。(もつともこの点は昭和三五年一月一九日締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」(いわゆる新安全保障条約)には記載なく、代つて同条約第三条に「締約国は、個別的に及び相互に協力して継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持し発展させる。」と規定され、わが国の条約上の義務は現行憲法に従うものとされた。)かようにして、同二七年七月三一日、従来の警察予備隊令に代えて保安庁法(法律第二六五号)が公布施行され、警察予備隊および海上保安庁内の海上警備隊は保安庁に統合され、その名称も「保安隊」および「警備隊」に改められた。当時その人員は、保安隊一一万人、警備隊七、五九〇人であつた。
右保安庁法第四条は、保安庁の任務として、「保安庁は、わが国の平和と秩序を維持し、人命および財産を保護するため、特別の必要がある場合に行動する部隊を管理し、運営し、およびこれに関する事務を行い、あわせて海上における警備救難の事務を行うことを任務とする。」と規定し、また同法第六一条第一項は、「内閣総理大臣は、非常事態に際して、治安の維治のため特に必要があると認める場合には、保安隊又は警備隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。」と、そしてさらに、同法第六四条は都道府県知事の要請による出動、第六五条は海上における警備行動、第六六条は災害派遣をいずれも規定した。なお同法第六八条は、保安隊らの保有する武器につき、「保安隊及び警備隊は、その任務の遂行に必要な武器を保有することができる。保安官及び警備官は、その任務の遂行に必要な武器を所持することができる。」と規定した。ちなみに、警察法は警察官の所持する武器については、「警察官は、その職務の遂行のため小型武器を所持することができる。」(第六七条)と定めているのみである。
3 昭和二九年三月八日、日本政府とアメリカ政府との間に、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互防衛援助協定」(いわゆる日米相互防衛援助協定、MSA協定)が調印された。同協定の前文第三項にも前記した旧安全保障条約前文第五項と同様のわが国の防衛力漸増責任が規定された(もつとも同協定第九条第二項では「この協定は、各政府がそれぞれ自国の憲法上の規定に従つて実施するものとする。」と規定されている)。そして、同年六月九日、従前の保安庁法に代えて、防衛庁設置法(法律第一六四号)、および自衛隊法(法律第一六五号)が公布施行された。
右防衛庁設置法第四条によれば、防衛庁の任務は、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つことを目的とし、これがため、陸上自衛隊、海上自衛隊、及び航空自衛隊を管理し、及び運営し、並びにこれに関する事務を行うこと……」とされ、さらに同法第七条により、各自衛隊の定員は、陸上自衛官一三万人、海上自衛官一万五、八〇八人、そして新たに設置された航空自衛官六、二八七人で、これに統合幕僚会議に所属する陸海空各自衛官を加えて総計一五万二、一一五人となつた。
そして自衛隊の任務は、自衛隊法第三条第一項により、「わが国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、直接侵略及び間接侵略に対しわが国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当るものとする。」とされ、その行動に関しては後記二5のように、同法第七六条(防衛出動)第七八条、第八一条(いずれも治安出動)、第八二条(海上警備行動)がそれぞれ規定され、また、その武器の保有について同法第八七条は、前記保安庁法と同様に、「自衛隊は、その任務の遂行に必要な武器を保有することができる。」と規定し、そしてその行使については後記二、5のとおり同法第八八条ないし第九三条、第九五条が規定された。
二、自衛隊の組織、編成、行動
まず防衛庁および自衛隊の組織、編成、行動を関係法令に基づきみてみるに、
1 防衛庁設置法によれば、防衛庁は、国家行政組織法第三条第二項の規定に基づいて、総理府の外局として設置され(防衛庁設置法第二条)、その長である防衛庁長官は国務大臣をもつてあて(第三条)、その任務は、前記した各自衛隊の管理、運営のほか、条約に基づく外国軍隊の駐留、および日米防衛相互援助協定の規定に基づくアメリカ政府の責務のわが国内における遂行に伴う事務で他の行政機関の所管に属していないものをおこない(第四条、第五条)、本庁には長官官房のほか防衛局、人事教育局、衛生局、経理局、装備局の五局を置き(第一〇条)、それぞれ長官を補佐し(第二〇条)、また、本庁には陸上、海上、航空の各幕僚監部を置き(第二一条)、各幕僚監部の長をそれぞれ幕僚長とし、これに各自衛官をあて、各幕僚長は、防衛庁長官の指揮監督を受けて幕僚監部の事務を掌理する(第二二条)。各幕僚監部は、各自衛隊についての防衛警備に関する計画立案、教育訓練、行動、編成、装備、配置、情報、経理、調達、補給等の計画立案の事務等をおこなう(第二二条)。
また本庁に統合幕僚会議を設置し(第二五条)、同会議は議長、陸上、海上、航空各幕僚長をもつて組織し(第二七条)、統合防衛計画の作成および各幕僚監部の作成する防衛計画の調整、統合後方補給計画の作成および各幕僚監部の補給計画の調整、統合訓練計画の方針の作成および各幕僚監部の訓練計画の調整、出動時における自衛隊に対する指揮命令の基本および統合調整、防衛に関する情報の収集および調査、その他防衛庁長官の命じた事項に関して同長官を補佐する(第二六条第一項)。なお統合幕僚会議には統合幕僚学校を付置して上級部隊指揮官または上級幕僚を教育し、かつ自衛隊の統合運用に関する基本的な調査研究をおこなう(第二六条第二項、第二八条の二)。
国防に関する重要事項を審議する機関としては内閣に国防会議を置き、その議長は内閣総理大臣がなり、同会議員は内閣法第九条により指定された国務大臣、外務大臣、大蔵大臣、防衛庁長官、経済企画庁長官をもつて構成し、国防の基本方針、防衛計画の大綱、これに関する産業等の調整計画の大綱、防衛出動の可否を審議する(第六二条、国防会議の構成等に関する法律第三条、第四条)。
なおそのほかに自衛隊の施設の取得、これに関する事務、建設工事の実施、管理をおこなうために防衛施設庁がある(防衛庁設置法第三九条、第四一条)。
2 自衛隊法は自衛隊の任務、部隊の組織および編成、行動および権限、隊員の身分の取扱いなどを定めているが(第一条)、自衛隊とは防衛庁長官、防衛政務次官、防衛庁の事務官および参事官、防衛庁本庁の内部部局ならびに統合幕僚会議、その附属機関、陸上、海上、航空各自衛隊、防衛施設庁を含み(第二条第一項)、陸上、海上、航空各自衛隊は各幕僚監部ならびに各幕僚長の監督を受ける部隊および機関を含む(同条第二ないし第四項)。
そして、内閣総理大臣は内閣を代表して自衛隊の最高の指揮監督権をもち(第七条)、防衛庁長官は内閣総理大臣の指揮監督をうけ、自衛隊の隊務を統括する。ただし、陸上、海上、航空各幕僚長の監督を受ける部隊および機関に対する指揮監督はそれぞれの幕僚長を通しておこなう(第八条)。
陸上、海上、航空各幕僚長は防衛庁長官の指揮監督をうけ、それぞれ陸上、海上、航空各自衛隊の隊務および所部の隊員の服務を監督しそれぞれの部隊等に対する長官の命令を執行する(第九条)。
3 そして各自衛隊の以上のほか組織、編成は、
(1) 陸上自衛隊の部隊は、方面隊、その他の長官直轄部隊とし、方面隊は方面総監部、師団その他の直轄部隊から、師団は師団司令部および連隊、その他の直轄部隊からなり(第一〇条)、方面隊の長である方面総監は長官の指揮監督を受けて方面隊の隊務を統括し(一一条)、師団の長である師団長は方面総監の指揮監督を受けて師団の隊務を統括し(一二条)、方面隊および師団以外の部隊の長は防衛庁長官の定めるところにより上官の指揮監督を受け当該部隊の隊務を統括する(第一四条)。方面隊は北部(方面総監部所在地は札幌市)、東北(仙台市)、東部(東京都)、中部(伊丹市)、西部(熊本市)の五個、師団は一三個師団とし師団司令部は第一師団東京都、第二師団旭川市、第三師団伊丹市、第四師団福岡県築紫郡春日町、第五師団帯広市、第六師団東根市、第七師団千歳市、第八師団熊本市、第九師団青森市、第一〇師団名古屋市、第一一師団札幌市、第一二師団群馬県北群馬郡榛東村、第一三師団広島県安芸郡海田町にそれぞれ配置する(第一三条)。
(2) 海上自衛隊は自衛艦隊、地方隊、教育航空集団、練習艦隊、その他の長官直轄部隊とし、自衛艦隊は自衛艦隊司令部、護衛艦隊、航空集団、掃海隊群その他の直轄部隊からなり、護衛艦隊は護衛艦隊司令部および護衛隊群その他の直轄部隊からなり、地方隊は地方総監部、護衛隊、掃海隊、基地隊、航空隊その他の直轄部隊からなり、教育航空集団は教育航空集団司令部、教育航空群その他の直轄部隊からなり、練習艦隊は練習艦隊司令部、練習隊その他の直轄部隊からなる(第一五条)。
自衛艦隊司令官、護衛艦隊司令官、航空集団司令官、教育航空集団司令官、練習艦隊司令官はいずれも防衛庁長官の指揮監督を受けてそれぞれ自衛艦隊、護衛艦隊、航空集団、教育航空集団、練習艦隊の隊務を統括する(第一六条ないし第一六条の三、第一七条の二、三)。地方総監は同長官の指揮をうけて地方隊の隊務を(第一七条)、その他の部隊の長も同長官の定めるところにより上官の指揮監督を受け当該部隊の隊務を統括する(第一八条)。地方隊は横須賀(地方総監部所在地は同市)、舞鶴(同市)、大湊(むつ市)、佐世保(同市)、呉(同市)の五個に分かれて配置されている(第一九条)。
(3) 航空自衛隊は航空総隊、飛行教育集団、航空団、保安管制気象団その他の長官直轄部隊からなり、航空総隊は航空総隊司令部、航空方面隊その他の直轄部隊から、航空方面隊は航空方面隊司令部、航空団その他の直轄部隊からなり、飛行教育集団は飛行教育集団司令部、航空団、飛行教育団その他の直轄部隊から、航空団は航空団司令部、飛行群その他の直轄部隊から、保安管制気象団は保安管制気象団司令部、保安管制群、気象群その他の直轄部隊からそれぞれなる(第二〇条)。
航空総隊司令官、飛行教育集団司令官、航空団司令、保安管制気象団司令はそれぞれ防衛庁長官の指揮監督を受けて航空総隊、飛行教育集団、航空団、保安管制気象団の各隊務を統括し(第二〇条の二、三、五、六)航空方面隊司令官は航空総隊司令官の指揮監督を受け航空方面隊の隊務を統括し(第二〇条の四)、その他の部隊の長は右同長官の定めるところにより上官の指揮監督を受け当該部隊の隊務を統括する(第二〇条の七)。
航空総隊、保安管制気象団、飛行教育団、輸送航空団はそれぞれ一個とし、前二者の司令部を東京都に、後二者の司令部は浜松万と境港市に、航空方面隊は北部(司令部所在地は三沢市)、中部(入間市)、西部(福岡県築紫郡春日町)の三個に、航空団は八個として第一航空団は浜松市に、以下第二航空団は千歳市、第三航空団は小牧市、第四航空団は宮城県桃生郡矢本町、第五航空団は宮崎県児湯郡新富町、第六航空団は小松市、第七航空団は茨城県東茨城郡小川町、第八航空団は福岡県築上郡稚田町にそれぞれ配置する(第二一条)。
(4) そのほかに各自衛隊の機関として学校、補給処、補給統制処、病院、地方連絡部を置き、学校においては隊員に対し職務上必要な知識、技能を修得させるための教育訓練など、また補給処においては自衛隊の需品、火薬、弾薬、車両、航空機、施設器材、通信器材等の調達、保管補給または整備、およびこれに関する調査研究をおこなう(第二四条ないし第二八条)。
4(1) 自衛官の階級は陸上自衛隊は陸将、陸将補、一ないし三等陸佐、一ないし三等陸尉、準陸尉、一ないし三等陸曹、陸士長、一ないし三等陸士があり、海上、航空自衛隊も右各区分に対応する階級をもつて構成されている(第三二条)。そしてその服務本旨は「わが国の平和と独立を守る自衛隊の使命を自覚し、一致団結、厳正な規律を保持し、常に徳操を養い、人格を尊重し、心身をきたえ、技能をみがき、強い責任感をもつて専心その職務の遂行にあたり、事に臨んで危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に努め、もつて国民の負託にこたえることを期するものとする。」(第五二条)とされている。
(2) なお昭和四七年度における自衛隊員の定数は、陸上自衛官一七万九、〇〇〇人、海上自衛官三万八、三二三人、航空自衛官四万一、六五七人で、統合幕僚会議に属する自衛官を含めて総計二五万九、〇五八人である(防衛庁設置法第七条)
そのほかに防衛出動命令が発せられた場合、防衛招集命令により自衛官となるいわゆる予備自衛官の員数は三万六、三〇〇人とされ(自衛隊法第六六条、第七〇条)、予備自衛官は年に二回以内訓練招集を受けて訓練に従事する(第七一条)。
5 自衛隊の行動
(1) 自衛隊法は、防衛出動につきつぎのように定めている。「内閣総理大臣は、外部からの武力攻撃(外部からの武力攻撃のおそれのある場合も含む)。に際して、わが国を防衛するために必要があると認める場合には、国会の承認を得て、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。ただし、特に緊急の必要がある場合には、国会の承認をえないで出動を命ずることができる。」(第七六条第一項)「前項ただし書の規定により国会の承認をえないで出動を命じた場合には、内閣総理大臣は、直ちに、これにつき国会の承認を求めなければならない。内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又は出動の必要がなくなつたときは、直ちに、自衛隊の撤収を命じなければならない。」(同条第二、三項)この防衛出動の場合にはわが国を防衛するために必要な武力を行使することができ、この武力の行使に際しては国際法規および慣例によるべき場合にはこれを厳守し、かつ事態に応じ合理的に必要と判断される限度を越えてはならないものさされ(第八八条)、また必要に応じ公共の秩序を維持するために行動することもできる(第九二条第一項)。
(2) 治安出動についてはつぎのように定められている。「内閣総理大臣は、間接侵略その他の緊急事態に際して、一般の警察力をもつては、治安を維持することができないと認められる場合には、自衛隊の全部又は一部の出動を命ずることができる。」(第七八条第一項)「内閣総理大臣は、前項の規定による出動を命じた場合には、出動を命じた日から二〇日以内に国会に付議して、その承認を求めなければならない。ただし、国会が閉会中の場合は又は衆議院が解散されている場合には、その後最初に召集される国会において、すみやかに、その承認を求めなければならない。内閣総理大臣は、前項の場合において不承認の議決があつたとき、又出動の必要がなくなつたときは、すみやかに、自衛隊の撤収を命じなければならない。」(同条第二、三項)
「都道府県知事は、治安維持上重大な事態につきやむをえない必要があると認める場合には、当該都道府県公安委員会と協議の上、内閣総理大臣に対し部隊等の出動を要請することができる。内閣総理大臣は、前項の要請があり、事態やむを得ないと認める場合には部隊等の出動を命ずることができる。」(第八一条第一、二項)「都道府県知事は、事態が収まり、部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、内閣総理大臣に対し、すみやかに、部隊等の撤収を要請しなければならない。内閣総理大臣は、前項の要請があつた場合又は部隊等の出動の必要がなくなつたと認める場合には、すみやかに、部隊等の撤収を命じなければならない。都道府県知事は、第一項に規定する要請をした場合には、事態が収つた後、すみやかに、その旨を当該都道府県の議会に報告しなければならない。」(同条第三、四項)
そしてこれらの出動した自衛隊の部隊等の職務の執行には警察官職務執行法が準用されるが、その場合、右職務執行法中の「公安委員会」の任務役割は「(防衛庁)長官の指定する者」がこれをおこなう。また右職務執行法第七条により自衛官が武器を使用するには正当防衛または緊急避難に該当する場合を除き当該部隊指揮官の命令によらなければならない(第八九条)。また自衛官が①職務上警護する人、施設または物件が暴行または侵害をうけ、またうけようとする明白な危険があり、武器を使用するほか、他にこれを排除する適当な手段がない場合、②多衆集合して暴行もしくは脅迫をし、また暴行もしくは脅迫しようとする明白な危険があり、武器を使用するほか他にこれを鎮圧し、また防止する適当な手段がない場合、その事態に応じ合理的と判断される限度で武器を使用することができる。ただしこの場合も正当防衛、緊急避難に該当す場合を除き当該部隊の指揮官の命令によらなければならない(第九〇条)。
また前記防衛出動に際しての公共の秩序維持にあたつての武器使用も右と同様である(第九二条)。さらに自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、航空機、車両または液体燃料を職務上警備しているとき人またはそれらのものを防護するために必要と認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし正当防衛、緊急避難に該当する場合のほか人に危害を与えてはならない。(第九五条)
(3) そのほかに、防衛庁長官は海上における人命もしくは財産の保護または治安の維持のため特別の必要がある場合には内閣総理大臣の承認をえて自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができ(第八二条)、都道府県知事その他政令で定める者は天災地変その他の災害に際して人命または財産の保護のため必要があると認める場合には部隊等の派遣を防衛庁長官またはその指定する者に要請することができ、この場合長官またはその指定する者は事態がやむをえないと認めるならば部隊等を救援のため派遣することができる。ただし天災地変その他の災害に際しとくに緊急を要し前記知事の要請をまついとまがないと認められるときはその要請をまたないで部隊等を派遣することができる。(第八三条)
(4) さらに防衛庁長官は外国の航空機が国際法規または航空法その他の法令の規定に違反して、わが国の領域の上空に侵入したときは自衛隊の部隊に対し、これを着陸させ、またはわが国の領域上空から退去させるため必要な措置をとらせることができる(第八四条)。
三、自衛隊の装備、軍事能力、演習訓練
(一) 前記したように、自衛隊法第八七条は、「自衛隊はその任務の遂行に必要な武器を保有することができる。」と規定しているのみでその「必要な武器」の内容、たとえばその種類、数量、性能などは明らかではない。それで以下陸上、海上、航空の各自衛隊につき、本件口頭弁論に提出された証拠から認められる限度で、その装備、軍事能力およびその演習訓練をみてみることにする。
まず、甲第七号証、第一九四号証からはつぎの事実を認めることができる。
(1) 昭和二九年保安隊から自衛隊になつた当初、自衛隊の装備していた兵器のほとんどは未だ米軍から供与されたものであつた。
ところで昭和三三年度から始まり同三五年度までの三か年にわたつておこなわれた第一次防衛力整備計画(以下第一次防という)では、その目標を「必要最小限度の自衛力の整備」はおき、予算総額四、五三〇億円(実際の支出額は四、七二一億円)で装備の増強をおこなつた。その計画内容は、陸上自衛隊が六管区隊、四混成団、自衛官一八万人、予備自衛官一万五、〇〇〇人、海上自衛隊が艦船保有トン数一二万四、〇〇〇トン、うち護衛艦八万三、〇〇〇トン、掃海艇一万六、五〇〇トン、その他約二万四、〇〇〇トン、航空機二二二機、航空自衛隊が保有機数一、三四二機、三三飛行隊編成で、うち全天候戦闘機部隊九隊、昼間戦闘機部隊一八隊、偵察機部隊三隊、輸送部隊三隊であつたが、人員の整備に若干の欠員のあつたほかほぼその目標に近い線で達成された。(なお証人高橋甫の尋問結果からは、この陸上自衛隊の人員一八万人はすでに当時のイギリス陸軍の人員に匹敵するものであつたことが認められる。)
(2) その後、昭和三七年度から同四一年度までの五か年間に第二次防衛力整備計画(以下第二次防という)に基づき、目標を「通常兵器の使用による局地戦以下の侵略に対し有効に対処しうる防衛体制の基盤を確立する」ことにおき、予算総額一兆一、五〇〇億円(実際の支出額は一兆三、八七七億円)で自衛隊の装備の近代化、機動力の向上、対空誘導弾の導入、情報機能の整備、充実に重点が置かれ、かつ、次第に兵器の国産化にも力が注がれ、その結果、陸上自衛隊一八万人、五方面隊、一三個師団(うち機甲師団一個を含む)が編成され、地対空ミサイル・ホーク部隊が配置され、また予備自衛官は三万人に増員となり、また海上自衛隊には国産の護衛艦、潜水艦があいついで配備され、そして護衛艦には対潜水艦ミサイル「アスロック」が装備され、また国産の潜水艦六隻による第一潜水隊群も編成され、その結果保有艦艇約一四万三、七〇〇トン、うち護衛艦艇約九万〇、三〇〇トン、潜水艦一万六、五〇〇トン、掃海艦艇一万五、七〇〇トン、海峡港湾防備艦艇等約二万一、二〇〇トン、航空機は対潜ヘリコプター二三機を含めて二三五機を保有し、さらに航空自衛衛隊は、従来のF86F戦闘機のほか、新たに諸性能の著しく向上したF104J戦闘機二〇〇機が国産で配備されることになり、保有機数一、〇三六機で二四飛行隊が編成され、うち全天候戦闘機部隊一一隊、昼間戦闘機部隊八隊、偵察部隊一隊、輸送機部隊二隊、その他となり、また地対空ミサイル・ナイキアジャックス二大隊も編成され、自動警戒管制組織の建設に着手した。
(二)1 前掲甲第七号証、第一九四号証によればつぎの事実を認めることができる。
第二次防に引き続いて、昭和四二年度から同四六年度までの五か年間に第三次防衛力整備計画(以下第三次防という)が実施され、その目標を、「通常兵器による局地戦以下の侵略事態に対し最も有効に対応しうる効率的なもの」を整備することにおき、「特に周辺海域の防衛能力および重要地域防空能力の強化ならびに各種の機動力の増強を重視する」ことにした。このため、①陸上自衛隊関係では、現有部隊の充実等のため自衛官の編成定数は従来の一八万人のままとするが、機動力を向上させ、防空能力を強化するためにヘリコプター、装甲車、および地対空誘導弾部隊を増強するとともに、新装備の導入をおこない装備体系を改善するほか、戦車、対戦車火器等の更新増強をおこなう。②海上自衛隊関係では、周辺海域の防衛能力および海上交通の安全確保能力を向上させるため護衛艦、潜水艦等の各種艦艇の増強、近代化を図るとともに、新固定翼対潜機、飛行艇等を整備する。③航空自衛隊関係では、重要地域の防空力を強化するため、地対空誘導弾部隊を増強し、新戦闘機の整備に着手するとともに、警戒管制組織の自動化を完成する等警戒管制能力の向上、近代化を図る。④技術研究開発関係では高等練習機、レーダー搭載警戒機、輸送機等の航空機、短距離地対空誘導弾の各種誘導弾、その他各種の装備、器材についての研究開発をおこなうとともに、技術研究開発体制を強化することになつた。
その結果第三次防での陸上、海上、航空各自衛隊の装備、軍事能力、およびその演習訓練は以下に記述するようなものになつた。
2 陸上自衛隊の装備、能力、演習訓練
(1) 装備能力
前掲甲第七号証のほか同第一〇号証4、第六三号証、第一三四号証、証人中村竜平の尋問結果からつぎの事実を認めることができる。
前記したように、第二次防以来、陸上自衛隊は五方面隊、一三個師団となつており、その他に空挺団、施設団、通信団、長官直轄部隊、学校、補給処、病院がある。一師団の構成は九、〇〇〇人をもつてするもの七個師団七、〇〇〇人をもつてするもの五個師団、そのほかに第七師団は機甲師団とされている。通常の師団は、普通科連隊(いわゆる歩兵)三ないし四個(一個連隊は約一、二〇〇人で小銃、銃剣その他の兵器で装備)、および特科連隊(いわゆる砲兵、一個連隊は約一、三〇〇人)、戦車大隊(戦車約六〇両)、施設大隊(いわゆる工兵)、補給隊、輸送隊などをもつて構成されている。
陸上自衛隊の保有する武器の主なものは、砲として、一五五ミリ榴弾砲八六八門、加農砲三二門、高射砲、高射機関砲を含めて二〇四門、無反動砲一、二九六門、自走砲四六四門、迫撃砲二、一六四門、機関銃六、七〇〇挺、小銃一七万九、五〇〇挺、また誘導弾としては、対戦車誘導弾(ATM)五五台、地対地誘導弾(三〇型ロケツト)三〇台、地対空誘導弾(ホーク)一〇〇基、車両としては六一式戦車六五五両を含めて戦車九七〇両、装甲車六三〇両、その他の車両一万九、〇〇〇両、航空機は固定翼機一三七機、回転翼機はV107、HU1などを含めて二一〇機である。
そしてこれらの装備は、いずれも兵器として、現在世界各国の陸軍の保有する一流の兵器にくらべてなんら遜色のない性能をもつものであり、また、旧日本陸軍の装備と比較しても、一師団あたり、火力においては約四倍、また機動力、通信力を含めた総合戦力では約一〇倍の威力をもつている。
(2) 演習訓練
陸上自衛隊での訓練は、日毎におこなわれているが、その代表的なものに昭和四六年八月二三日から二六日にかけて北海道でおこなわれたヘリボーン演習と、同四四年一〇月上旬東富士演習場でおこなわれた治安訓練を掲げる。
A 前掲甲第七号証、同一三四号証、証人中村竜平、同林茂夫の各尋問結果からはつぎの事実が認められる。
北海道でおこなわれた右ヘリボーン演習(昭和四六年度陸幕特命演習、北部方面隊演習)では攻撃側は赤軍と呼ばれ、札幌市の第一一師団がこれにあたり、防御側は青軍と呼ばれて千歳市の第七師団中の一個連隊が参加、両者あわせて人員が約九、八〇〇人、攻撃側が北から侵攻し、島松演習場および千歳付近を確保しようとし、防御側は島松付近を確保してこれを防御する想定で、島松の演習場で両者が会戦、この演習では部隊の移動はヘリコプターを使つて富良野、旭川、滝川から対戦車火器、一〇六ミリ無反動砲や若干のジープとともに輸送され、参加したヘリコプターはV107大型、HU1B中型を主力として一二二機、各部隊のもつ六一式戦車をはじめとする多数の戦車、装甲車も参加した。なお、この演習をアメリカ大平洋軍司令官ラーソン大将が観戦した。
このようなヘリーボーン作戦は、戦術的目的をもつてする空中機動作戦で、地上作戦では即応できない緊急かつ緊要な時期における要点の占領、あるいは重要目標の攻撃をおこなうものであるが、その特徴は、行動が秘匿性に富み、かつ単純、軽易に実施することができ、その奇襲性を最大限に発揮し、敵の遊撃部隊の活動の機先を制し、これを分断孤立化させるとともに一挙に覆滅し、かつ、その撤収、補給なども敏速におこなえ、作戦全般の遂行を容易にすることにある。この作戦では、ヘリコプターによつて輸送可能なすべての戦闘部隊が武装したまま兵器などとともに運般しておこなわれ、その能力は、V107四二機、小型観測ヘリコプターLOH四機でもつて、一個連隊(一、〇〇〇人)を四〇〇キロメートル以上離れた地点に二往復で空輸することができ、いわゆる「空飛ぶ歩兵」と呼ばれている。そしてこのような一個連隊の奇襲増強は、師団単位の戦闘の勝敗を左右することができるとさえいわれている。またこれに用いられるヘリコプター自体も、機関銃で武装し、さらに2.75インチロケツト弾、対戦車ミサイルATMなどをも装備してヘリボーン作戦を援護し、空中砲兵としての役割を果たす。このような作戦はとくに対ゲリラ戦に有効といわれ、かつてフランス軍のアルジエリア戦で、また近くは米軍のベトナム戦争で多く用いられたものである。
B そしてまた、一般に、このような演習は、たんなる訓練とは異なり、一国の基本的な防衛戦略を基礎として計画実施され、有時になればほぼそのまま実戦にも利用されるのであつて、それはただ一回限りの局地戦闘訓練や軍事技術の習得を目的とするというものとしてみるべきものではない。すなわち、このような演習においては、その演習の場所それ自体は本来固有な意味をもつものではなく、あらゆる類似の地形、気候の個所を想定して部隊の種類、規模が決定され、またその移動の手段、方法、距離等が選ばれているものである。そして前掲証拠のほか甲第二一号証1、2、第一八六号証、証人高橋甫の尋問結果からは、その基本構想についても、右のヘリボーン演習は昭和四二年の陸上自衛隊北部方面隊のいわゆる「菊演習」などとその想定を同じくし、ただその規模、内容を漸次充実、進展させたものであり、また、このような演習は、通常たんに陸上自衛隊が単独でおこなうことは稀で、むしろ他の海上、あるいは航空自衛隊との協同のもとにおこなわれることが多く、右菊演習には、それに合わせて航空自衛隊の「隼作戦」がおこなわれており、また前記ヘリボーン演習もそれに相前後して海上自衛隊が陸上自衛隊第一二師団の第二普通科連隊一、〇〇〇人を、本州の直江津から北海道の釧路(のちに室蘭に変更)に海上輸送する、いわゆる「矢臼別転地訓練」が実施されていることが認められる。(もつともヘリボーン演習には、航空自衛隊も対地支援作戦のため参加する予定であつたが、昭和四六年七月三〇日の全日本空輸旅客機との衝突事故のため中止されたといわれる。)
C 前掲甲第七号証、第一三六号証によればつぎの事実が認められる。
静岡県東富士演習場でおこなわれた治安行動訓練の報道関係者に公開されたのは一〇月二日から三日間であつて、約五〇〇人の地上部隊からなる同訓練の一部のみであるが、その公開された際の模様は、訓練は、重要拠点であるビルを約三〇〇人のヘルメツト、角材で身を固めた暴徒が占拠したとの想定にたつて、陸上自衛隊第一師団の砲兵連隊を中心とした二一〇人が出動してその排除にあたるというものであつた。「状況開始」のラツパとともにまず暴徒集団に扮した一隊がビルに突入、これに対して、装甲車三台、戦車一台、ヘリコプター三機、ブルドーザ、タンクローリーなど機動部隊、楯と銃で武装した兵士が出動し、火炎ビン、投石、放火などによつて抵抗する暴徒を約三〇分で鎮圧した。この訓練を視察した陸上幕僚長山田正雄は、「今日は攻撃だけだが、訓練は防御、そ撃のほか夜間訓練などあらゆる場合を想定してやつている。各中隊に四人ずついるそ撃兵は腕、足などねらつたところは必らず撃てる。」と語つた。
3 海上自衛隊の装備、能力、演習訓練
(1) 装備、能力
甲第七号証、第一〇号証4、第二五号証、第六三号証、第一三四号証、証人内田一臣の尋問結果からつぎの事実を認めることができる。
海上自衛隊は、前記二、3、(2)のとおりの編成、配置であるが、その詳細は、護衛艦隊の司令部は旗艦内にあり、それはさらに、第一(司令部所在地横須賀)、第二(同佐世保)、第三(同舞鶴)の各護衛艦隊群と、掃海隊(司令部所在地横須賀)に分かれ、各護衛隊群はそれぞれ三個の護衛隊に分かれる。そして各護衛隊には二ないし三隻の護衛艦が属している。自衛艦隊には潜水隊群(司令部所在地呉)も含まれ、これは、第一ないし第三潜水隊と、横須賀および呉の各潜水艦基地隊に分かれる。各潜水隊には、二ないし四隻の潜水艦が属している。航空集団(司令部所在地下総)は、第一(司令部所在地鹿屋)、第二(同八戸)、第三(同徳島)、第四(同下総)、第二一(同館山)の各航空群に分かれ、各航空群は、一ないし四個の航空隊からなつており、その他に自衛艦隊には、海上訓練指導隊群(司令部所在地横須賀)、第一揚陸隊、給油艦が属している。
海上自衛隊の保有する艦艇は、支援船(約三一〇隻)を除き、総隻数二一六隻、総トン数一七万五、〇〇〇トン(実就役は二〇五隻一四万四、〇〇〇トン)である。種類は、警備艦として護衛艦、潜水艦、掃海艇、掃海母艦、哨戒艇、駆潜艇、魚雷艇などがあり、特務艦として輸送艦、砕氷艦、給油艦、敷設艦などがある。護衛艦の保有は四五隻で九万トン、これはアメリカでは「デストロイヤー」と呼ばれ、駆逐艦に属する艦種である。そのなかには対潜ヘリコプターや対潜ミサイルアスロックを積載しているものもある。潜水艦の保有は一四隻二万トンで、いずれも通常燃料(非原子力)型である。掃海艇の保有は四二、二隻、掃海母艦一隻、魚雷艇は各艇約一〇〇トンで、その速度三〇ないし四〇ノツト、魚雷や対艦ミサイルSSMを積載するが、その隻数は明らかでない。その他保有する艦艇隻数は哨戒艦艇、輸送艦艇各五〇隻、敷設艦二隻、給油艦一隻、潜水艦救難艦一隻、その他の特務艦艇二〇隻などである。
保有する航空機の総数は約二七〇機である。このうち、大型固定翼機はP2V対潜哨戒機四八機を含めて六五、六機、このP2V対潜哨戒機は航続距離二、〇〇〇マイルで魚雷四本八トンを積載する性能をもつている。小型固定翼機はS2F対潜哨戒機を含めて五〇機、ヘリコプターはHSS2三三機を含めた対潜ヘリ五〇機、その他にV107掃海ヘリ四機、S62救難ヘリ六機がある。その他に練習機、輸送機を保有する。
海上自衛隊は、諸外国の海軍に比較して、その保有する艦艇のトン数では世界第一〇位、隻数では第八位、予算規模では第一四、五位で、総合では第一〇位内外である。
(2) 演習訓練
甲第七号証、第一三四号証、第一四二号証、第一四五号証、第一四八号証1ないし3、証人内田一臣、同高橋甫の各尋問結果から、つぎの事実を認めることができる。
海上自衛隊の目標とするところは、わが国に対する直接侵攻の排除と周辺海域における制海権の確保にあり、この周辺海域には、わが国本土近海のみでなく、沖繩、南西諸島、小笠原諸島、南鳥島をも含む海域であり、そして、近時、世界の海軍力で潜水艦の占める役割が増大したことから、海上自衛隊の訓練も、主として、対潜水艦作戦の訓練が中心とされている。
A 対潜作戦訓練は、昭和三四年以来同四六年までの一三年間、毎年一、二回米海軍との間で合同しておこなわれ、これには海上自衛隊側からは護衛艦、潜水艦、対潜哨戒機などが、また米海軍からは対潜空母、駆逐艦、潜水艦、給油艦などがこれに参加し、四ないし一二日間の日程でいずれも日本海を含めた日本近海で演習がおこなわれている。
B 昭和四六年一一月には海上自衛隊はハワイで米海軍の訓練施設を借用して訓練をおこない、これに潜水艦一隻、P2V対潜哨戒機六機が参加した。
C さらに海上自衛隊のみのものでは、同四六年度の演習として同年九月二九日から翌一〇月一〇日までの一二日間瀬戸内海から四国南方約一、八〇〇キロメートルに及ぶ西太平洋の海域で、海上交通の保護、沿岸防備の実施訓練を目的とする演習がおこなわれ、これには、自衛艦隊と呉地方隊が参加し、護衛艦、潜水艦、駆潜艇など約七〇隻の艦艇とP2V、P2Jなどの対潜哨戒機、HSS2対潜ヘリコプターなど約六〇機、海上自衛隊員約一万七、〇〇〇人が参加し、大規模に、対潜、対空、掃海、給油、通信の総合訓練がおこなわれた。なおこれには航空自衛隊、陸上自衛隊も協力参加した。
D このような演習は、前記した陸上自衛隊の演習の場合と同様に、当然にわが国の防衛戦略を基礎とするものであることはいううまでもなく、それらに参加する艦艇、航空機なども、次第に航続距離の長い大型艦艇が増加し、その搭載兵器も逐次新鋭化、高性能化し、また演習海域もわが国の沿岸海域から、漸次日本海中央海域に、また西太平洋海域にと極東海域全般に拡大され、その海域において、あるいは海上自衛隊独自で、また、米海軍と共同で、潜水艦、航空機、水上艦艇一体となつての対潜水艦作戦遂行の能力を強化し、あわせて、同海域での海上交通を確保して海上優勢を確立することを目指しているものといえる。
4 航空自衛隊の装備、能力、警備、演習訓練
(1) 装備、能力
甲第七号証、第一〇号証4、第六三号証、第六五ないし第七一号証、第八二号証、第九九号証、第一三二号証、第一三四号証、第一三九号証、第一九二、一九三号証、証人源田実、同緒方景俊、同植村英一、同藤沢信雄、同小山内宏、同遠藤三郎、同林茂夫の各尋問結果からつぎの事実が認められる。
A 航空総隊に所属する航空方面隊が北部、中部、西部の三方面隊に分かれ、それらの方面隊に八個の航空団が属していることは前記二、3、(3)のとおりであるが、さらに詳細には、北部航空方面隊には、第二航空団のほか、第八一航空隊(所在地八戸)、北部航空警戒管制団(三沢ほか)、第三高射群(千歳、長沼)、北部航空施設隊(三沢、千歳)が、さらに中部航空方面隊には、第三、第四、第六、第七航空団のほか、中部航空警戒管制団(入間ほか)、第一高射群(入間ほか)、中部航空施設隊(入間、小松)が、また西部航空方面隊には、第五、第八航空団のほか、第八二航空隊(岩国)、西部航空警戒管制団(春日ほか)、第二高射群(春日ほか)、西部航空施設隊(芦屋)がそれぞれ属しており、航空総隊には、その他に航空総隊司令部飛行隊(入間)、偵察航空隊(入間)、防空指揮所(府中)が属している。なお各航空方面隊の警戒管制団には、その下にさらに、数個の群をもち、その各群はわが国全土の二四か所に散在して、レーダーによりわが国周辺の空の監視にあたつており、この警戒管制体制は、後記するように、第三次防において自動化されバツジシステムを構成している。
航空自衛隊の保有する航空機の総数は約九六〇機である。このうち戦闘機としてはF86F約二八〇機、F104J約一九〇機が含まれる。F86F戦闘機は、速度0.8マッハ、二五〇キロ爆弾を二ないし四発積載、航続距離一、四三〇キロメートル、一三ミリ機関砲六門、2.75インチ空対空ロケット(マイテイ・マウス)二四発を装備する性能をもつ。F104J戦闘機は、全天候要撃用で、速度はマッハ2.0、行動半径二五〇ないし二六〇キロメートル、機関砲一門と空対空ミサイルサイドワインダー二発、五〇〇ポンド(二二五キログラム)爆弾二発積載する性能をもつ。このF104Jは、七飛行隊で編成されており、一隊は一八機(ただし沖繩の飛行隊は二五機)、予備三ないし五機からなつており、F86Fも七飛行隊で編成されている。その他の保有航空機としては、F86Fを改造したRF86F偵察機は約二〇機で一飛行隊編成、さらに、輸送機には、C46約三〇機、YS11約一〇機、練習機には、T33ジェット練習機約二〇〇機、T1A、T1Bあわせて約五〇機、T34約一〇〇機、さらに、MU2捜索機八機、ヘリコプターはV107、S62あわせて約二〇機がある。
現有のF104J戦闘機の次期戦闘機としては、F4EJフアントムがすでに第三次防において一〇四機配置を決定され、おもに、第四次防において実際に配置される。F4EJフアントムはF104J、F86F戦闘機がいずれも単座制であるのにくらべて複座制であり、乗員の一人はECM、ECCM(いずれも電波妨害装置)などの電子機器の操作にあたるほか、その性能としては、速度は2.4マッハ、航続距離二、八〇〇キロメートル、行動半径四五〇ないし四六〇キロメートル、上昇限度は二万一、六〇〇メートル、爆弾5.5トンを積載できる。このF4FJフアントムは、戦闘機としては、現在世界各国の保有するもののなかで第一級の性能をもつものである。また、これらのF86F、F104J、F4EJフアントムは、いずれも迎撃戦闘機としてのほかに戦闘爆撃、地上支援攻撃の目的にも使用できる。
以上のほか、航空自衛隊は、対空誘導弾ナイキアジヤックス七二基、ナイキJ二九基を保有するがその組織、性能は後記(3)のとおりである。航空自衛隊は、その保有機数などからみると、現在世界の諸外国空軍のなかで九位ないし一〇位の地位にある。
B 航空自衛隊では、第二次防から第三次防にかけて、それまでの警戒管制体制の自動化を図り自動警戒管制組織、つまりバッジシステムを導入、配備した。すなわち、昭和三九年一二月四日および同四〇年七月一八日に、それぞれ日本政府とアメリカ政府との間で、わが国にバッジシステムを配備することについての取決めがなされ、第二次防からその建設に着手され、第三次防である同四三年に完成、その後運用試験を経て、同四五年より実用態勢に入つた。
バツジシステムは、全国二四か所(北海道では稚内、網走、根室、当別、奥尻、襟裳の六か所)の防空監視所にあるレーダーが、わが国周辺の空を監視し、それらのレーダーからの情報は、自動的に三沢、嶺岡山、笠取山、春日にある防空指揮所に伝達され、同所にある大型要撃計算機で即刻その高度、速度、飛行方向が計算され、相手方、味方の区別、その型、機種の識別がなされ、さらに、わが国の防空体制のなかから要撃に用いられるべき航空機、ミサイルなどの兵器の選択、割当てもなされ、そしてその後、発進した要撃機を自動的に目標に向けて誘導し、またその帰途も基地まで誘導してその安全を確保する機能を果たす。とりわけ、レーダーの覆域が外国の領土、領海にまで及ぶときには、発進した味方の航空機をして、相手の反撃を回避させながら、攻撃に参加するよう誘導することも可能であつて、この点バッジシステムは、たんにわが国の防空、防御機能のみをもつものとはいえない。そしてこれらのバッジシステムからの情報は、即刻、三沢、入間、春日にある防空管制所に、さらに、府中の航空総隊司令部の戦闘指揮所にも伝達される組織である。
C ナイキJ部隊の編成、同ミサイルの性能およびその役割
航空自衛隊の地対空誘導弾部隊は、ナイキアジヤックス部隊とナイキJ部隊に分かれ、それらは、前記のとおり、第一ないし第三高射群に分属配置されているが、そのほかに第四高射群が京阪神地区に建設されつつある。
一つの高射群の構成は、ナイキの指揮、運用をする指揮運用隊、指揮業務の補佐機関である群司令、ナイキを運用する高射隊、その整備補給をする整備補給隊からなつている。一つの高射隊は、一五〇ないし二〇〇人の人員をもつて編成され、それは、さらに、射撃統制小隊と発射小隊に分かれ、射撃統制小隊は、レーダーを運用して相手機の発見、捕捉、ナイキの誘導にあたる。このためレーダーには、捜索、目標追随、ミサイル追随、目標測距の四種類がある。発射小隊は、一隊に九発射機が配置され、平常一発射機に二基のナイキ弾体が準備されている。
第三高射群では、群司令は千歳に、指揮運用隊は当別町に、第九、第一〇高射隊は千歳基地に、そして第一一高射隊は本件長沼町馬追山に配置されている。
ナイキJの構造は、ミサイル本体の長さ(ブースターを含む)は12.5メートル、直径八〇センチメートル、重量は4.5トン、燃料はブースター、ミサイルともに固体燃料を使用し、発射機(ランチャー)から発射される。その速度は三マッハ、射高は四万五、〇〇〇メートル、射程距離は約一三〇キロメートルで、レーダーにより目標に誘導される。ナイキJは、米軍の使用する同型のミサイルナイキハーキュリーズが核、非核両用であるのに対し、非核専用であり、そのためミサイル弾頭部には特殊な加工が施こされており、また、その発射機もコネクターなどが除去されている。ナイキJの弾頭部分には、約二〇〇キログラムの高性能火薬が充填されており、目標機の至近距離で炸裂して弾片を飛散させ、それによつて撃墜、あるいは損傷を与える。
このようにナイキJは、陸上自衛隊のもつ地対空誘導弾ホークが低空用であるのと異なり、高空用誘導弾である。
本件長沼に配置されたナイキJは、千歳に所在するナイキJとともに、北海道中央区、苫小牧地区、および千歳基地の防御を目的としている。
D ナイキJの導入と防空態勢の変化
現在一国の防空防衛組織は、その国全土にわたる総合的、複合的なものであることはもちろんであるが、ナイキJの導入は、わが国の防空組織につぎのような大きな変化をもたらした。従来は、まずレーダーなどによる警戒管制装置が侵入機を発見して、つづいてF104Jを中心とする要撃戦闘機が緊急発進(いわゆるスクランブル)して防空態勢に入つていたのであるが、ナイキJの導入により、まず、その射程距離である一三〇キロメートル前方において侵入機に対する有効な防衛線をひくことが可能となり、その後方はホークミサイル、七五ミリ高射砲(いわゆるスカイスーパー)、三五ミリ二連装高射機関砲(L90)などで補う。それにより、要撃戦闘機は、当然にナイキJの防空線の外側において防御をおこなう方が効率的となるので、同機の主体は、それまでのF104Jからこれに合うような性能をもつF4EJフアントム戦闘機に漸次切り替えられている(第三次防から第四次防にかけての整備計画)。そしてこの比較的航続距離の長いF4EJフアントムは、右のナイキの防衛線の外側で、公海、公空上を常時警戒飛行(いわゆるCAP)を続け、ひとたびバッジシステムからの指示があれば、ただちに、迎撃戦闘態勢に入ることができるようになる。その結果、第三次防における純然たる要撃戦闘機F104Jによる迎撃態勢は、主としてわが国の領空あるいは沿岸上空においておこなわれることを予定していたが、第四次防では遙か公海上でおこなわれることになる。しかも前記したようにバッジシステムは、攻撃用手段としても機能できることも考えあわせるとき、外国に対する万一の先制攻撃も不可能なこととはいい切れない。
(2) 警備、演習訓練
前掲各証拠のほか、甲第四九号証、第六一号証、第八三号証、第一三〇号証、第一三六号証、証人高橋甫の尋問結果によればつぎの事実を認めることができる。
A 警備としては航空自衛隊は、わが国を防衛する目的で、北は宗谷海峡から、日本海のほぼ中央を通り、朝鮮海峡を経て西南諸島に至り、そこから伊豆諸島南を通つて根室海峡を経て宗谷海峡に至る空域に防空識別圏を設定し、日夜同空域に入る国籍不明機に対し警戒体制をとるとともに、同空域での航空優勢を確保しようとしている。そして発見した国籍不明機に対しては、ただちに所轄基地から、F140Jなどの要撃戦闘機を発進させて、その確認、退去措置をとつている。このような警備行動は、昭和三三年から同四三年三月までに二、三九六回におよんでいる。
B 演習訓練としては、航空自衛隊は海上自衛隊との共同訓練として、艦船の捜索、発見、攻撃訓練が昭和四三年度二〇数回、同四四年度約四〇回、同四五年度三〇数回といずれも日本近海でおこない、また毎年一回バッジシステム、ECM、ECCMなどを使つた総合演習、対地支援演習などをおこなつている。
たとえば航空自衛隊初の総合演習である昭和四四年度の「やまと一号作戦」は、同年一一月に三日間にわたつておこなわれたが、その内容は、まず航空優勢の確保の演習として、侵入機がECMを使用して防空レーダーを攪乱させながら進攻してくるのに対して、味方はECCMによりこれを防御しながらバッジシステムを全面的に活用し、F104J戦闘機とナイキJによりこれを撃破し、さらに地上支援演習として、F86F一六機、輸送機一〇機が九州築城基地から宮城県松島基地まで一、〇〇〇キロメートル以上を移動し、途中、紀伊半島から伊豆半島までの間ではF104J戦闘機による空中援護戦闘の訓練をおこない、その後、青森県三沢基地などから右松島基地に集結したF86Fと合流して、合計五〇機が、宮城県王城寺演習場において地上攻撃の支援をおこなつた。
また同四五年度の総合演習である「飛鳥作戦」は、同月一〇月に五日間にわたつて、輸送機二五機、戦闘機二三〇機が参加し、バッジシステムの運用、ECM、ECCM、地上支援攻撃訓練などがおこなわれた。
このような演習は、前記した陸上自衛隊、海上自衛隊の演習の場合と同様に、わが国の防衛戦略を基礎として計画、実施されていることはいうまでもない。
5 いわゆる「三矢研究」について
甲第三八号証1ないし9、第一四〇号証、第一八五、一八六号証、第一九四号証、証人緒方景俊、同中村竜平、、同遠藤三郎の各尋問結果によれば、つぎの事実を認めることができる。
昭和三八年度に、自衛隊統合幕僚会議事務局および各自衛隊幕僚監部が中心となつておこなつた同年度統合防衛図上研究、いわゆる「三矢研究」では、朝鮮半島において武力衝突が発生したとの想定のもとに、これに伴う、わが国の防衛のための自衛隊の運用などに関して研究がされている。これによると、その主要研究項目は、①基礎研究として、「非常時において必要な統幕事務局及び統合委員会等の組織・機能ならびにこれらと内局、各幕、米軍及びその他の関係各省庁との連けい要領」その他、②状況下の研究として、その一「非常事態の生起に際し、とくにその行動においてとらえるべき国家施策の骨子」、その二は「非常事態の生起に際し、自衛隊としてとるべき措置」が掲げられているが、このうち、右その二においては、さらに、「昭和三八年度防衛及び警備計画における作戦構想の適否、とくに次の事項実施上の問題点、a作戦準備、b戦略展開、c初期作戦、d対着上陸侵攻作戦」が研究題目となつている。そして自衛隊の具体的運用などについて、まず米軍が朝鮮半島へ、さらに沿海州、中国東北部に出動したとの想定のもとに、自衛隊は、わが国土を米軍の後方支援基地として確保しつつ、具体的状況に応じた各種の戦闘行動に入ること、とりわけ、わが国自体に対して相手国より反撃がおこなわれた場合、これに対処して起すべき軍事行動の種類、規模、方法などが細目にわたつて検討され、さらに、紛争が核兵器の使用までに発展する場合や、米軍が千島、樺太、北朝鮮を占領した場合などの種々具体的状況の想定のもとに、その際の自衛隊のとるべき軍事諸行動、および米軍との協同関係の調整、とりわけ、日米統合作戦司令部の設置などの研究がされ、そしてまた、これらの事態に際して、わが国国内にも起りうる混乱、反戦抵抗、暴動などに対処して、その治安維持のために、非常事態措置法令の施行をはじめとした戦時国家体制の確立なども対象項目として詳細な研究がおこなわれている。
そしてこれらの研究目的は、甲第三八号証3の「極秘 昭和三八年度総合防衛図上研究(三矢研究)」によれば、これらの「……非常事態に際するわが国防衛のための自衛隊の運用ならびにこれに関連する諸般の措置及び手続を統合の立場から研究し、もつて次年度以降の統合及び各自衛隊の年度防衛及び警備の計画作成に資するとともに米軍及び国家施策に対する要請を明らかにして防衛のための諸措置の具体化を推進する資料とする。」とされており、また、右研究当時の統合幕僚会議事務局長田中義男も、この三矢研究は、わが国将来の防衛計画に影響を与えるものとして考えられていた、と述べていた。ところで、わが国の防衛戦略の大綱は、一応昭和三二年五月二日内閣閣議で決定された「国防の基本方針」、およびその後の第二次、第三次の各防衛力整備計画などに示されており、自衛隊は、これらに基づいて、毎年統合幕僚会議においてその年度の「統合情報見積」なるものを作成し、これを基礎として「統合年度防衛警備計画」(なおこれは旧日本軍の「年度作戦計画」に対応するものである)や、各自衛隊の「年度防衛警備に関する計画」を作成して、国外からの武力攻撃に対する防衛行動や、国内での治安維持のための警備活動に際しての自衛隊の作戦、運用を定めているが、この三矢研究は、前記したその目的や田中事務局長の発言などを考えあわせると、右の「統合年度防衛警備計画」とまつたく無関係な、架空な研究討論としてみることはできないといわなければならない。
6 第四次防における各自衛隊の展望
前記のとおり、第三次防衛力整備計画は昭和四六年度に終了するが、引き続いて同四七年度から同五一年度までの五年間に、第四次防衛力整備計画(第四次防)が実施される。甲第一〇号証1ないし4、第一二号証9、10、第一三ないし第一五号証、第一六号証、1、2、第一七、一八号証、第二八号証、第三四号証、第五〇号証、第七三ないし第七六号証、第八〇、八一号証、第九〇号証、第九九号証、第一一三号証、第一一六号証、第一二三、一二四号証、第一二六ないし第一二九号証、第一三三号証、第一四一号証、第一四三、一四四号証、第一九二号証、証人緒方景俊、同内田一臣、同中村竜平の各尋問結果によれば、右整備計画において防衛庁がその整備目標とする計画案はつぎのとおりであることを認めることができる。
(1) まず、その立案の趣旨として、「わが国の防衛力は、……複雑な国際情勢のもとでわが国の独立と平和を守るためには、なお十分な体制にあるとはいえない。」とし、「最近の国際情勢からみて……わが国に対し差迫つた脅威があるとは考えないが、武力紛争が跡を絶たない国際政治の現実にかんがみると、防衛力は、国家の安全を確保するため……万一の事態に備えてこれを保持しなければならない。」そしてその防衛力は「通常兵器による局地戦事態における侵略に対処しうる専守防衛の態勢を確立するため……わが国の国力国情にふさわしく、かつ科学技術の進歩に即応した効率的な防衛力の整備をめざすとともに、所要経費の面においてその他の重要な国家諸施策との調和に留意する。」とする。その防衛力の基本構想を「わが国周辺における航空優勢、制海を確保しつつ被害の局限、侵略の早期排除に努める……」とし、その整備方針として、「陸・海・空各自衛隊の総合防衛力の向上を図(り)……自主防衛態勢の整備に努める。また沖繩の施政権の返還に伴い、同地域に所要の防衛力を配備する。」、そして具体的には「①科学技術の進歩等に即応して、装備の更新と近代化を推進するとともに教育訓練体制を充実して練度の向上を期する。②早期に事態に対応して適確に行動し、かつ、陸・海・空自衛隊の統合運用能力を高めるよう、情報機能、指揮通信機能等を強化する。③将来の防衛力の向上と装備の国産化に資するため、部内外の能力を活用して、わが国の実情に即した装備の開発を推進する。」としている。そしてこれに基づいて、
A 陸上自衛隊については、五方面隊、一三個師団一八万人体制を維持しつつ、装備の充実、近代化により師団を中心とする部隊の戦闘力の向上を図るとともに、ホーク部隊を増強するほか、部隊等の組織の合理化をおこなつて、効率的な陸上防衛力の整備を推進する。装備の充実、近代化についてはヘリコプターおよび装甲車の増強、各種火砲の自走化等による空地機動力の向上と、戦車、対戦車火器および対空火器および対空火器の増強による火力の充実を重視する。なお警備部隊等の要員にあてるため予備自衛官をさらに増大する。
B 海上自衛隊については、沿岸海域の防衛体制を強化し、あわせて上陸侵攻対処能力を充実するため高速ミサイル艇、潜水艦等の増強をおこなうとともに、護衛艦の更新に際し、対艦および対空ミサイルの導入等水上打撃力および対空能力の向上を図る。また、わが国周辺の海域における海上交通の安全を確保するためヘリコプター搭載護衛艦、対潜航空機の増強等、対潜能力の強化を図り、護衛部隊の充実、近代化と対潜掃討部隊の増強をおこなう。
C 航空自衛隊については、防空力を増強し、強化するために、既定のF4EJフアントム飛行隊四個隊を整備するほか、沖繩配備、および将来の減耗に対処するため、新たにフアントム飛行隊の整備に着手するとともに、ナイキ部隊を増強し、バッジシステムを強化するために固定三次元レーダー、移動警戒隊の整備を推進する。さらに現用の支援戦闘機および偵察機をそれぞれ新機種に更新し、上着陸侵攻に対処する能力および全天候警戒偵察能力等を向上させ、また現有の固定翼機C46輸送機の減耗に伴い、機種を現在国産開発中のC1輸送機に更新し航空輸送力を充実近代化するとともに、同様国産開発中のT2超音速高等練習機を整備し、操縦教育の効率化を図る。
なお四次防の総予算は五兆二、〇〇〇億円であり、経済変助を加味すると最終的には五兆八、〇〇〇億円位になるだろうと見込まれている。このようにして各自衛隊の個別的装備内容は以下のようになる。
(2) 陸上自衛隊(予算一兆八、〇〇〇億円)人員の増員はないが、四個師団を機械化し、ホークを四個群ふやして八個群とし、戦車は六一式を主に約一、〇〇〇両、昭和五〇年度以降新型戦車約一〇〇両取得、対戦車ミサイル二四〇基、自走砲二〇〇門、L90高射機関砲八〇門、装甲車八五〇両、ヘリコプター三八〇基を装備する。なお予備自衛官を六万人とする。
(3) 海上自衛隊(予算一兆三、〇〇〇億円)総数八〇隻、一〇万トンを調達する。(この間老朽除籍艦艇は一〇〇隻四万トン)。この結果、保有する艦艇二〇〇隻二四万五、〇〇〇トン、航空機二二〇機になるが、第四次防中の実就役は一八〇隻一八万五、〇〇〇トン、一八〇機の見込み、個別的には、涙滴型潜水艦九隻、一万七、〇〇〇トンを調達、既存のものとあわせて一八隻三万三、〇〇〇トンとするが、第四次防中の実就役は一五隻の予定。さらに八、三〇〇トン級ヘリ六機積載護衛艦DLH二隻、四、〇〇〇トン級艦対空ミサイル装備の護衛艦DDG一隻、三、五〇〇トン級短距離艦対艦または艦対空ミサイル装備の護衛艦DDA二隻、二、三〇〇トン級OH6A改対潜ヘリ一機搭載護衛艦DDK五隻、一、五〇〇トン級「ちくご」型沿岸護衛艦DE一〇ないし一二隻、高速ミサイル水中翼艇PTH(一八〇トン)一四隻、魚雷艇PT(一四〇トン)一三隻を調達する。以上の結果、護衛艦は五五隻一三万トンとなり、護衛艦隊は五群となる。そのほか機雷、哨戒、揚陸、特務各艦艇二四隻二万七、〇〇〇トンを調達、対潜哨戒機P2J四五機、対潜哨戒艇PS1一五機を調達、保有するP2Jを八五機、PS1を三〇機とする。対潜ヘリは九〇機に増強、他にV107掃海ヘリ、C1改輸送兼機雷敷設機、練習機など約七〇機を調達、また、海のバッジといわれるCCS(指揮管制通信組織)を配置。自衛官五、〇〇〇人、予備自衛官三、〇〇〇人を増員する。
(4) 航空自衛隊(予算一兆五、五〇〇億円)保有機数を九〇〇機とし、実就役八八〇機一四飛行隊とする。F4EJフアントム戦闘機六飛行隊一五八機(うち一飛行隊は沖繩用)を調達し、既存のF104J四飛行隊とあわせ一〇飛行隊とする。ナイキミサイル部隊三個を増強、合計七大隊とし、レーダー基地は沖繩用四基地増設を含めて合計二八基地とし、さらに、固定三次元レーダー隊を六隊、移動レーダー隊を三隊にする。またバッジシステムの大型計算機一セットを二セットにし長時間連続運用を可能にする。早期警戒機AEWを入れる。支援戦闘機は現用のF86F四飛行隊をT2改一二〇機四飛行隊に、偵察機RF86FをRF4E二一機一飛行隊にかえる。現在のC46、YS11二輸送機隊をC1三〇機とYS11の混成二輸送隊とする。高等練習機T2を八〇機調達。自衛官三、〇〇〇人ないし三、五〇〇人増員、予備自衛官二、〇〇〇人を新設する。
7 わが国の防衛予算と諸外国の軍事費との比較
昭和三三年度から始まつた第一次防の総予算が四、五三〇億円、同三七年度からの第二次防が一兆一、五〇〇億円、同四二年度からの第三次防が二兆三、四〇〇億円、同四七年度からの第四次防が五兆二、〇〇〇億円であることは前記1、6で述べたとおりであるが、これを各年平均すると、第一次防は一、五一〇億円、第二次防は二、三〇〇億円、第三次防は、四、六八〇億円、第四次防は一兆〇、四〇〇億円となり、第二次防以降その防衛予算額は各次防ごとに倍加されて増大していることになる。甲第六一号証、第一六〇号証、第一六二、一六三号証、証人山田昭、同小内山宏、同鷲見友好の各尋問結果によれば、右のような防衛予算の伸び率は、現在世界の諸外国においてもその例を見ないものであり、また第四次防の予算をもつてすれば、わが国の防衛費は、アメリカ、ソ連、中国、西ドイツ、フランス、イギリスにつづいて世界第七位になるといわれ、これらの諸国中西ドイツを除いてはいずれも核保有国であつて、現在においても、これらの諸国の軍事費から核開発や核戦力維持に必要な諸経費や海外駐留費などを差引いた本土防衛費だけをとつてみると、わが国と大差のないものになるとさえいわれていることを認めることができる。
第五、自衛隊の対米軍関係
(1)  昭和三五年一月一九日日本政府とアメリカ政府との間で締結された「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」第三条は「締約国は、個別的に及び相互に協力して、継続的かつ効果的な自助及び相互援助により、武力攻撃に抵抗するそれぞれの能力を、憲法上の規定に従うことを条件として、維持発展させる。」と、第四条は「締約国は、この条約の実施に関して随時協議し、また日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたときはいつでも、いずれか一方の締約国の要請により協議する。」、第五条第一項は「各締約国は、日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危くするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続きに従つて共通の危険に対処するよう行動することを宣言する。」と定め、わが国に対する武力攻撃に対処して自衛隊と米軍との共同行動をとることを規定している。
(2)  甲第五九号証によれば、昭和三四年九月二日自衛隊航空総隊司令官松前未曾雄空将と、米第五空軍司令官ロバート・W・バーンズ空軍中将との間で取決められた「日本の防空実施に関する取扱い」(いわゆる松前・バーンズ協定)ではつぎのように定めている。一項「この取扱いは、戦時緊急計画の実施以前における第五空軍(以下「五空」という)と航空総隊(以下「総隊」という)との日本での防空運用実施上の基本的責任を明らかにするものである。」、三項「日本における航空警戒管制組織の移管計画完了後、防空組織の地上通信電子部門は総隊が維持運用し、この組織内で総隊と五空双方の要撃機が運用される。この取扱いは、これら二国の航空部隊の終始各々の自国の部隊としての本来の姿を保持させつつ、且つ一つの団結した防空組織として運用するものを容易にするよう案画したものである。防空組織全般に通ずる運用は、この取扱いの発効時に発令して制定する双方の部隊共通の運用手段に従い実施する。(中略)、防空に関する態勢及び防空警報のおくれが、日本の防空を危くするような場合には一方的な処置を行つた後、調整を行うことができる。」、四項「府中作戦指揮所は五空と総隊の防空指揮の中枢として指定する。防空運用実施上の運用通信系統は、府中作戦指揮所から防空管制所、防空指令所を経て、防空監視所に至るものとする。航空警戒管制組織は、五空および総隊双方の航空機に対して所要の指令及び情報を送受する。同組織はまた日本の組織内各分野に、防空情報の送受を行うだけでなく、五空司令官が責任を負つている隣接防空組織との間においても、これを行うものとする。日本の防空組織と隣接防空組織との間の情報の交換は、五空司令官の責任であつて五空司令官が主となつて行う。日本にある防空の全地上通信電子施設は総隊が運用するが、総隊は、五空が防空管制所を防空指令所に五空の連絡人員を配置することを認め、かつそれを希望する。これらの連絡班は五空司令官がその任務を行う必要な諸機能を果すものとする。このような班は、日本の防空組織内で総隊と五空が二つの部隊として運用されるかぎり、その間必要であろう。」、五項「要撃機の運用は現行運用手順にしたがい実施する。然しながら、総隊の要撃機は航空自衛隊の要撃準則を守り、五空の要撃機は太平洋空軍交戦準則を守るものとする。武器の使用に対する決定は、すべて行動中の要撃機に武器を使用させる権限を委託されているそれぞれの国の指揮官が行なわなければならない。防空管制所と防空指令所にある五空連絡班は、五空司令官が兵力の使用を行う中間実行機関となる。」といずれも航空総隊と米第五空軍が共同して日本の防空にあたる旨が規定されている。
(3)  甲第一三九号証によれば「日本国と米国とのバッジ組織の取極」(昭和三九年一二月四日付)の1項には「日本国政府は、半自動航空兵器管制組織を設置する。この組織は、日本国政府により維持され、運営され及び使用される。また同組織からえられる資料は、日本国の防衛に利用するためにアメリカ合衆国政府の使用に供される。」と取決められている。
(4) 海上自衛隊と米海軍との対潜作戦などの共同訓練の状況は前記第四、三、3、(2)のとおりであるが、さらに証人内田一臣の尋問結果からは、その訓練の際の使用語はいずれも米語であり、また、自衛艦隊の護衛艦などには、いずれも米語のニックネームが付されてそれで呼ばれ、また、その作戦方法のいくつかは米語のまま海上自衛隊内でも使用されていることが認められ、また、航空自衛隊に関しては前掲甲第五九号証、証人源田実、同緒方景俊、同植村英一によれば、米第五空軍司令官と自衛隊航空司令部はいずれも同じ府中市にある同一敷地内にあり、しかも一部建物は共同で使用しており、また航空総隊司令部にある戦闘指揮所には米軍要員も入つており、また、航空自衛隊と第五空軍との間には幕僚以下の各種の連絡機関があつて随時接触交渉がもたれていること、そして、たとえば、昭和四四年四月一五日発生した米空軍の偵察機EC121型機が北朝鮮付近で撃墜された事件の際には、その情報は、まず第五空軍から総隊司令部に伝えられ、その後に総隊司令部から航空幕僚の方へ、さらに防衛庁長官へと伝達されたこと、そして米空軍が緊急態勢に入る場合には、航空自衛隊もまたそれに準じた警戒態勢をとることが認められ、証人中村竜平の尋問結果からは、陸上自衛隊でも、また、必要に応じて随時米軍と接触連絡をとつていること、が認められる。
(5) また、朝鮮半島などわが国周辺の諸国において武力衝突や紛争が発生した場合における自衛隊の対米軍関係、とりわけ、米軍のこれらの紛争地への出動を前提としたその後方支援基地の確保、そしてこのためのわが国の治安の確立、その他日米統合作戦司令部の設置による協同作戦行動などについては、いずれも前記第四、三、5の三矢研究に関して記述したとおりである。
(6)  そして最後に、甲第二四号証によれば、元航空自衛隊幕僚長源田実は、個人的な見解だとしながらも、つぎのように述べている(日時は昭和三七年一二月二〇日)。
「今、自衛隊で、航空自衛隊はもとより、米軍と非常に緊密な共同の下にやる準備をしております。陸上でも海上でももとよりそうでありますが、……その三軍がねらつているところにニュアンスの違いがあるわけです。実にニュアンスというより思想に非常に大きな違いがあるわけです。そこらも国防上の矛盾になつてきまして、たとえば陸上では局地戦争を考えるほうが都合がいいわけなので、まあこういうことを言うと具合が悪いのですが、局地戦争と言わないと今の陸上自衛隊を使う場所がないわけなのであります。そういうことは私は極端な言い方かもしれませんが内乱でも起きないかぎりは陸上自衛隊は海外派兵はできないし使う場所がないのです。……航空自衛隊などというものは局地戦を考えてわずかな兵力が来たつて航空自衛隊を使う場所がない。F104などああいう飛行機を、局地戦などということであまり使える性質のものではない。ゲリラ戦なんかでもあまり役立たない。海上はちようどその中間に位いする兵力を持つております。したがつて、各自衛隊、あるいは防衛庁部内の内局でも……この局地戦が日本で起るか起きないかということは……各自衛隊によつても判断が違つてきている。しかし、私は、アメリカというものを相手にしないで日本を侵略することはできない。アメリカを相手にするということは日本にいるアメリカ軍の飛行機が、これは直ちに反撃に転ずる。これは防御だけはやつてないのです。日本の自衛隊みたいに防御だけということは絶対ない。もとより防御も少しやります。しかしこの大部分というのは全部攻撃なのです。……これが防御の戦争で、局地戦だから攻撃はやらないといつて、そのまま待つておつたら自滅するだけだ」、「そこで全面戦というものが起きた場合に、日本が果たす役割というもの、……第一、この日本列島というものは戦略的な価値というものが非常に大きなものであります。日本列島というものが持つている、ここに展開された航空基地なりレーダー網なり、あるいは海上基地なり、こういうものはアメリカ軍が反撃し攻撃する場合には、これを誘導するために実に大きな役割を持つております。自衛隊そのものが持つている兵力というものが、もしこれをもつて東京とか大阪とか、あるいは北九州とか、ああいう工業都市などを守ろうとするならば、航空自衛隊の持つている力などというものは微々たるものであつて、これによつてほとんど守りうるものではない。……今の戦争においては百機来たうち、たとい十機残つても、その十機のもたらす惨害というものはものすごい損害であつて、これは潰滅的打撃を日本の各都市に与える。来るやつのうち九〇パーセント以上もたたき落とすなどということは特別な新兵器でも出ないかぎりはほとんど不可能なことである。」、「そこで問題は今の日本の航空自衛隊というものが、何を目標として訓練をし、何をやるべきかというと……そのうちの攻撃的な面は日本はやらないことになつておりますからやらないのですが、防御の主体というものはアメリカの持つている反撃力を守る。日本自体が反撃すれば日本の反撃力を守ることである。アメリカの反撃力が飛立つている基地を守る。日本がもし反撃をやるならば、日本の反撃力を守るように、そういう具合にこれを配置すべきである。またレーダーなんかもそうであります。もとより日本にやつてくるやつに対して探知しなければならぬのですが、同時に、このレーダーとかいうものが、すべてその相当部分はどこへ向かうべきかというと、その相当部分は反撃兵力を目標にして誘導するためである。また帰りをうまく誘導してやる。そういう具合に使つて初めてこれが生きてくる。単に第二次戦争当時の日本の防空部隊みたいな形で、ただ守るだけ、都市の防空、何の防空だと守るだけの形においてはそう大して意味をなさないと私は考える、……こういう形において全面戦の場合に日本の空軍というものは役割を果すべきである。その次に考えられるのは国土の防衛でありますが、これは、はるかにそれに付随したものとして出るわけであります。」、「その次に日本自体が非常に前進した位置にあります。これは全面戦争が始まつた場合に一応、勝敗は、だいたい片はそれでつくけれども、その後の、やはり陸上戦闘ということで追撃しなければならぬ。城下の誓いをさせるということが、最後にどうしても起つてくる。そういう場合に、前進基地としての役割を果すことになる。それから日本だけではありませんが沖繩、台湾、フイリピン……こういう列島線というものは太平洋を把握するための潜水艦なり飛行機に対する監視、防御、こういうことに対する実に大きな役割をいたします。また、同じく海上自衛隊がやるべきですが、列島線の内側、要するに日本海とか黄海とか東シナ海とか、こういう面の制海権の確保あるいは制空権の確保、これは単に海上ばかりでなく空軍も入るわけです。それから日本の近海の潜水艦、これを掃討するというような問題がここに日本の役割として出てきます。」、「そういうことが日本の役割になるわけでありますが、そういう役割をするのは今の自衛隊の力をもつてある程度可能であると考えます。要するに主攻撃力、これはアメリカの反撃力そのものを、最も有効に働かせるように日本が協力する。これが今の航空自衛隊の現装備、現兵力、現在の思想をもつてやりうる最大限のことである。」、「したがつて……日本としてやるべきことはなんとしても戦争というものを防がなければならない。戦争を防ぐためにはアメリカの現在持つている戦略的優位性を保持するために協力するような形がいちばんいい。」、「……その上でアメリカとどいうい具合に手を組んでいくのか、あるいは台湾なり、朝鮮なりとはどうやつて手を組んでいくか、今は……沖繩はアメリカを通じてできますが、台湾、朝鮮とは手を組めない。防衛的には憲法の制約もあります。憲法の制約は、解釈によつてどうにでもできると思うのでありますが、台湾、朝鮮と手をつながないと戦略的にみましても、日本の防衛は成立たない。しかし、これと手をつなげない。こういう問題を根本的に考え直さなければならぬと考えております。」
第六、自衛隊およびその関係法規の違憲性、並びに本件保安林指定の解除処分の森林法第二六条第二項にいう公益性の欠如
1  以上認定した自衛隊の編成、規模、装備、能力からすると、自衛隊は明らかに「外敵に対する実力的な戦闘行動を目的とする人的、物的手段としての組織体」と認められるので、軍隊であり、それゆえに陸、海、空各自衛隊は、憲法第九条第二項によつてその保持を禁ぜられている「陸海空軍」という「戦力」に該当するものといわなければならない。そしてこのような各自衛隊の組織、編成、装備、行動などを規定している防衛庁設置法(昭和二九年六月九日法律第一六四号)、自衛隊法(同年同月同日法律第一六五号)その他これに関連する法規は、いずれも同様に、憲法の右条項に違反し、憲法第九八条によりその効力を有しえないものである。
2 森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」があるというためには、解除の目的が、前記第五次、第一、3で述べたように憲法を頂点とする法体系上価値を認められるものでなければならないから、前項のように、自衛隊の存在およびこれを規定する関連法規が憲法に違反するものである以上、自衛隊の防衛に関する施設を設置するという目的は森林法の右条項にいう公益性をもつことはできないものである。このように、軍事力による国の防衛が現行憲法のもとでは、公益性をもちえないことは、旧土地収用法(明治三三年三月七日法律第二九号)と同現行法(昭和二六年六月九日法律第二一九号)の規定を対比してみても明らかである。すなわち旧帝国憲法下で施行されていた旧土地収用法第一条第一項が「公共ノ利益ト為ルベキ事業ノ為之ニ要スル土地ヲ収用又ハ使用スルノ必要アルトキハ其ノ土地ハ本法ノ規定ニ依リ之ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得」と規定し、続いて同法第二条が「土地ヲ収用又ハ使用スルコトヲ得ル事業ハ左ノ各号ノ一ニ該当スルモノナルコトヲ要ス」とし、その第一号で「国防其ノ他軍事ニ関スル事業」と規定していたが、現行憲法下で成立、公布された現行土地収用法では、その第一、二条において旧法第一条に該当する土地収用目的の公共利益性を同様に明記しながらも、その個別的事業項目を規定する第三条では旧法第二条第一号に該当する国防その他軍事に関する事業なる項目をまつたく含めてはいない。
3  被告が、昭和四四年七月七日農林省告示第一、〇二三号をもつてなした本件保安林指定の解除処分は、自衛隊の組織の一部である航空自衛隊第三高射群第一一高射隊の射撃基地施設の設置および同連絡道路敷地とするためであることは前記のとおりである。したがつて自衛隊の右施設等設置のためにされた、被告の右処分は、森林法第二六条第二項にいう「公益上の理由」を欠く違法なものであり、取消しを免がれない。
第六次  結語
そうすれば、その余の諸点につき判断を加えるまでもなく、原告らの本訴請求は理由があるので認容することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して被告の負担とし、主文のとおり判決する。(福島重雄 稲守孝夫 稲田龍樹)

当事者目録(一)(二)
北海道夕張郡長沼町市街地旭町区
原告 伊藤隆
〈ほか二七〇名〉
右原告ら代理人弁護士
彦坂敏尚
〈ほか四五三名〉
被告 農林大臣
桜内義雄
右指定代理人
高松勇
〈ほか一二名〉
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政治と選挙の裁判例「東京都都議会議員選挙 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例一覧
(1)昭和49年 5月14日 東京地裁 昭49(ヨ)767号 文章の掲載を求める仮処分申請事件 〔サンケイ新聞意見広告に対する反論文掲載請求事件仮処分決定〕
(2)昭和49年 4月26日 東京高裁 昭44(行コ)27号・昭44(行コ)25号 雇用関係存在確認請求控訴事件 〔旧電通省レッドパージ事件〕
(3)昭和49年 4月25日 最高裁第一小法廷 昭48(行ツ)102号 選挙無効請求事件
(4)昭和49年 4月 6日 京都地裁舞鶴支部 昭49(ヨ)6号 ビラ配布禁止仮処分申請事件
(5)昭和49年 3月 6日 東京地裁 昭48(ヨ)2384号 権利停止処分の効力停止等仮処分申請事件 〔東京交通労組自動車部渋谷支部事件〕
(6)昭和49年 2月21日 佐賀地裁武雄支部 昭49(ヨ)3号 仮処分命令申請事件
(7)昭和49年 1月30日 大阪地裁 昭43(ワ)3296号 従業員地位確認等請求事件 〔三菱製紙ショップ制解雇事件〕
(8)昭和49年 1月21日 東京地裁 昭45(ワ)9169号 損害賠償請求事件
(9)昭和49年 1月19日 仙台地裁 昭49(ヨ)19号 雑誌配布禁止等仮処分申請事件
(10)昭和48年12月17日 大阪地裁 昭48(ヨ)3456号 統制処分の効力停止仮処分申請事件 〔動労大阪地本権利停止事件〕
(11)昭和48年12月17日 釧路地裁 昭48(ヨ)47号 統制処分の効力停止仮処分申請事件 〔動労釧路地本権利停止事件〕
(12)昭和48年11月 7日 広島地裁 昭48(ヨ)413号 仮処分申請事件 〔動労広島地本役員執行権停止事件〕
(13)昭和48年 9月27日 東京高裁 昭43(ネ)1813号 地位保全等仮処分申請控訴事件 〔横浜ゴム上尾工場懲戒解雇事件〕
(14)昭和48年 9月27日 福岡高裁 昭48(行ケ)1号 町議会議員補欠選挙無効裁決取消請求事件
(15)昭和48年 9月19日 東京高裁 昭46(行コ)79号 懲戒処分取消請求控訴事件 〔全逓本所支部プラカード事件〕
(16)昭和48年 9月12日 和歌山地裁 昭34(行)1号 和歌山高教組懲戒処分取消事件
(17)昭和48年 9月 7日 札幌地裁 昭44(行ウ)16号・昭44(行ウ)23号・昭44(行ウ)24号 保安林指定の解除処分取消請求事件 〔長沼ナイキ基地訴訟事件〕
(18)昭和48年 9月 4日 佐賀地裁 昭48(ヨ)62号 選挙活動妨害禁止仮処分命令申請事件
(19)昭和48年 5月30日 東京高裁 昭47(ネ)2164号 損害賠償請求控訴事件
(20)昭和48年 5月29日 広島高裁 昭46(行コ)3号 図書閲読冊数制限処分等取消請求控訴事件
(21)昭和48年 4月25日 最高裁大法廷 昭43(あ)2780号 国家公務員法違反被告事件 〔全農林警職法闘争事件・上告審〕
(22)昭和48年 4月19日 名古屋地裁 昭48(ヨ)388号 新聞配布等禁止仮処分申請事件
(23)昭和48年 4月 2日 仙台地裁 昭44(わ)388号・昭44(わ)225号 建造物侵入、傷害事件 〔いわゆる仙台鉄道郵便局事件〕
(24)昭和48年 3月30日 名古屋地裁豊橋支部 昭42(わ)347号 国家公務員法違反被告事件
(25)昭和48年 3月29日 仙台地裁 昭42(わ)120号 公職選挙法違反被告事件
(26)昭和48年 3月29日 松山地裁 昭40(行ウ)9号 免職処分無効確認等請求事件
(27)昭和48年 3月19日 長崎地裁佐世保支部 昭45(ワ)77号 慰藉料請求事件
(28)昭和48年 2月22日 前橋地裁 昭46(わ)280号・昭46(わ)225号・昭46(わ)172号・昭46(わ)247号・昭46(わ)190号 強姦致傷、強姦、殺人、死体遺棄被告事件 〔いわゆる大久保事件〕
(29)昭和48年 1月25日 広島高裁 昭42(ネ)242号・昭42(ネ)53号 国労組合費請求事件
(30)昭和47年12月27日 横浜地裁 昭43(行ウ)3号の1 入場税決定処分取消請求事件
(31)昭和47年12月27日 横浜地裁 事件番号不詳 課税処分取消請求事件
(32)昭和47年12月22日 札幌地裁 昭41(行ウ)1号・昭41(行ウ)4号 課税処分取消請求事件
(33)昭和47年10月13日 東京高裁 昭43(う)1114号 公職選挙法違反被告事件
(34)昭和47年 8月28日 東京地裁 昭45(ワ)12486号 損害賠償請求事件
(35)昭和47年 8月10日 岡山地裁 昭46(わ)507号 国家公務員法違反・公職選挙法違反被告事件
(36)昭和47年 7月20日 最高裁第一小法廷 昭47(行ツ)24号 市議会議員当選の効力に関する訴願裁決取消請求
(37)昭和47年 5月29日 東京地裁 昭43(ワ)12905号 言論の応酬名誉権侵害事件第一審判決
(38)昭和47年 5月22日 大阪地裁 昭37(わ)1385号 公務執行妨害被告事件
(39)昭和47年 5月10日 東京高裁 昭45(ネ)1072号 懲戒戒告処分無効確認請求控訴事件 〔目黒電報電話局戒告事件〕
(40)昭和47年 4月19日 東京高裁 昭44(行コ)5号 退去強制令書発付処分取消請求控訴事件 〔政治亡命裁判・控訴審〕
(41)昭和47年 4月 7日 仙台高裁 昭45(う)164号 国家公務員法違反被告事件
(42)昭和47年 4月 5日 東京高裁 昭44(う)1895号 公職選挙法違反、国家公務員法違反被告事件 〔総理府統計局事件・控訴審〕
(43)昭和47年 3月31日 東京地裁 昭40(ヨ)2188号 仮処分申請事件 〔目黒高校教諭解雇事件〕
(44)昭和47年 3月 3日 東京地裁 昭45(特わ)135号・昭45(特わ)136号・昭45(特わ)134号・昭45(特わ)137号・昭44(特わ)496号・昭44(特わ)445号・昭45(特わ)133号 公職選挙法違反被告事件
(45)昭和46年11月19日 東京地裁 昭46(行ク)52号 執行停止申立事件
(46)昭和46年11月 1日 東京地裁 昭45(行ウ)45号 懲戒処分取消請求事件 〔全逓本部支部プラカード事件〕
(47)昭和46年10月 4日 東京高裁 昭44(う)32号 公職選挙法違反被告事件
(48)昭和46年 8月27日 大阪高裁 昭46(行ケ)4号 選挙無効請求事件
(49)昭和46年 8月 4日 千葉地裁 昭43(ワ)569号 損害賠償請求事件
(50)昭和46年 6月29日 福岡地裁 昭43(ワ)1868号 懲戒休職無効確認等請求事件 〔西日本新聞懲戒休職事件〕
(51)昭和46年 5月14日 名古屋高裁 昭42(行コ)8号 行政処分取消等請求控訴事件 〔いわゆる地鎮祭違憲訴訟・控訴審〕
(52)昭和46年 5月10日 高松高裁 昭44(う)178号 国家公務員法違反事件 〔徳島郵便局事件・控訴審〕
(53)昭和46年 4月30日 名古屋地裁 昭43(ワ)442号 株主総会決議無効確認請求訴訟事件 〔トヨタ自工純血訴訟事件・第一審〕
(54)昭和46年 3月29日 東京地裁 昭42(行ウ)141号 行政処分取消請求事件 〔台湾青年独立連盟所属の中国人に対する退去強制事件〕
(55)昭和46年 1月22日 東京高裁 昭44(ネ)2698号 仮処分控訴事件 〔日立製作所懲戒解雇事件〕
(56)昭和46年 1月21日 大阪地裁 昭40(わ)2982号 公職選挙法違反被告事件
(57)昭和45年12月24日 名古屋高裁金沢支部 昭43(う)186号 贈賄・収賄被告事件
(58)昭和45年11月 7日 名古屋地裁 昭43(わ)1271号・昭43(わ)1272号 公職選挙法違反被告事件
(59)昭和45年10月 9日 東京高裁 昭42(ネ)35号 私有建物九段会館返還請求控訴事件
(60)昭和45年 9月29日 横浜地裁 昭41(ワ)577号 雇用関係存続確認等請求事件 〔日本石油精製転籍事件〕
(61)昭和45年 9月25日 大阪高裁 昭43(う)1525号 公職選挙法違反被告事件
(62)昭和45年 9月 8日 東京地裁 昭44(モ)4872号・昭43(ヨ)10468号 占有使用妨害禁止等の仮処分異議および不動産仮処分申請事件
(63)昭和45年 7月17日 東京地裁 昭42(行ウ)85号 検定処分取消訴訟事件 〔第二次家永教科書事件〕
(64)昭和45年 7月16日 最高裁第一小法廷 昭43(あ)1185号 地方公務員法違反被告事件
(65)昭和45年 7月16日 東京高裁 昭43(行ケ)99号 選挙の効力に関する訴訟事件
(66)昭和45年 7月13日 名古屋地裁 昭43(ワ)3191号 権利停止処分無効確認請求事件 〔王子製紙春日井新労組権利停止事件〕
(67)昭和45年 7月11日 名古屋地裁 昭42(行ウ)28号 損害賠償請求事件
(68)昭和45年 6月30日 福岡地裁小倉支部 昭40(ヨ)497号 仮処分申請事件 〔門司信用金庫解雇事件〕
(69)昭和45年 6月27日 福岡地裁 昭35(ヨ)444号 地位保全仮処分申請事件 〔三井三池整理解雇事件〕
(70)昭和45年 6月24日 最高裁大法廷 昭41(オ)444号 取締役の責任追及請求上告事件 〔八幡製鉄政治献金事件・上告審〕
(71)昭和45年 6月23日 東京地裁 昭43(ヨ)2402号 仮処分申請事件 〔日本経済新聞懲戒解雇事件〕
(72)昭和45年 6月23日 東京地裁 昭42(モ)15801号・昭42(モ)15803号・昭42(ヨ)2317号 仮処分申請、仮処分異議事件 〔亜細亜通信社解雇事件〕
(73)昭和45年 6月10日 岡山地裁 昭38(ワ)595号 地位確認等請求事件 〔山陽新聞懲戒解雇事件〕
(74)昭和45年 5月29日 東京地裁 昭43(ワ)9154号 労働契約存在確認等請求事件 〔問谷製作所解雇事件〕
(75)昭和45年 5月29日 大阪地裁 昭39(ワ)5180号 損害賠償ならびに謝罪文交付請求事件
(76)昭和45年 5月21日 東京地裁 昭43(合わ)308号・昭44(刑わ)5308号 爆発物取締罰則違反・火薬類取締法違反・暴力行為等処罰に関する法律違反被告事件
(77)昭和45年 5月 4日 大阪地裁 昭35(わ)255号 贈賄・単純収賄・受託収賄被告事件
(78)昭和45年 4月27日 東京高裁 昭43(行コ)44号 判定及び休職処分取消請求控訴事件
(79)昭和45年 4月13日 東京地裁 昭42(ワ)8229号 懲戒戒告処分無効確認請求事件 〔目黒電報電話局懲戒戒告事件〕
(80)昭和45年 4月 3日 東京地裁 昭42(ワ)8229号 懲戒戒告処分無効確認請求事件
(81)昭和45年 3月30日 青森地裁 昭42(わ)57号 国家公務員法違反事件 〔いわゆる青森営林局員選挙運動事件・第一審〕
(82)昭和45年 3月 2日 長野地裁 昭40(行ウ)14号 入場税等賦課決定取消請求事件
(83)昭和45年 2月27日 福岡地裁 昭43(行ウ)12号 休職処分取消請求事件 〔福岡中央郵便局職員起訴休職事件〕
(84)昭和45年 2月16日 東京地裁 昭41(ヨ)2340号 仮処分申請事件 〔高砂暖房器ショップ制解雇事件〕
(85)昭和45年 1月30日 東京地裁 昭42(ヨ)2373号 仮処分申請事件 〔三元貿易解雇事件〕
(86)昭和45年 1月23日 京都地裁 昭41(ヨ)242号 健康会懲戒解雇事件
(87)昭和45年 1月12日 大阪地裁堺支部 昭43(ヨ)370号 仮処分申請事件 〔セントラル硝子政治活動妨害事件〕
(88)昭和44年12月26日 大阪地裁 昭42(ヨ)1874号 仮処分申請事件 〔日中旅行社解雇事件〕
(89)昭和44年12月17日 東京高裁 昭41(う)598号 公務執行妨害被告事件 〔いわゆる第二次国会乱闘事件・控訴審〕
(90)昭和44年11月15日 東京地裁 昭34(行)108号 免職処分無効確認事件 〔郵政省職員免職事件〕
(91)昭和44年11月11日 名古屋地裁 昭28(わ)2403号 騒擾,放火,同未遂,爆発物取締罰則違反,外国人登録法違反各被告事件 〔大須事件・第一審〕
(92)昭和44年11月11日 名古屋地裁 昭27(わ)1053号 騒擾、暴力行為等処罰に関する法律違反、放火未遂、外国人登録法違反、外国人登録令違反被告事件 〔大須事件・第一審〕
(93)昭和44年11月 8日 東京地裁 昭43(ワ)662号 損害賠償請求訴訟事件 〔台湾青年独立連盟所属中国人退去強制事件損害賠償請求・第一審〕
(94)昭和44年10月17日 福岡高裁 昭44(う)70号 公職選挙法違反被告事件
(95)昭和44年10月 8日 盛岡地裁 昭39(わ)137号 公職選挙法違反被告事件
(96)昭和44年 9月26日 東京地裁 昭42(ワ)7235号 損害賠償請求事件
(97)昭和44年 9月20日 大阪地裁 昭44(行ク)21号 市議会議員除名処分執行停止申立事件
(98)昭和44年 9月 5日 金沢地裁 昭34(ワ)401号 損害賠償請求事件 〔北陸鉄道労組損害賠償請求事件〕
(99)昭和44年 6月16日 東京高裁 昭41(う)984号 軽犯罪法違反被告事件
(100)昭和44年 6月14日 東京地裁 昭40(特わ)555号 国家公務員法違反、公職選挙法違反被告事件 〔総理府統計局事件・第一審〕


政治と選挙の裁判例(裁判例リスト)

■「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧【1-101】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-consultant/

■「選挙 立候補」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-rikkouho/

■「政治活動 選挙運動」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seijikatsudou-senkyoundou/

■「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou-poster/

■「選挙 ビラ チラシ」に関する裁判例一覧【1~49】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bira-chirashi/

■「政務活動費 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seimu-katsudouhi-poster/

■「演説会 告知 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-seiji-enzetsukai-kokuchi-poster/

■「公職選挙法 ポスター 掲示交渉」に関する裁判例一覧【101~210】
https://www.senkyo.win/kousyokusenkyohou-negotiate-put-up-poster/

■「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧【211~327】
https://www.senkyo.win/political-poster-kousyokusenkyohou-explanation/

■「公職選挙法」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou/

■「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-kouhou-poster-bira/

■「選挙妨害」に関する裁判例一覧【1~90】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bougai-poster/

■「二連(三連)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-2ren-3ren-poster-political-party-official-candidate/

■「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kojin-tandoku-poster-political-party-official-candidate/

■「政党 公認 候補者 公募 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-party-official-candidate-koubo-poster/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-politician/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 公報 広報」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-campaign-bulletin-gazette-public-relations/

■「国政政党 地域政党 二連(三連)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-2ren-3ren-poster/

■「国政政党 地域政党 個人(単独)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-kojin-tandoku-poster/

■「公認 候補者 公募 ポスター 国政政党 地域政党」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-official-candidate-koubo-poster-kokusei-seitou-chiiki-seitou/

■「政治団体 公認 候補者 告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-official-candidate-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster/

■「政治団体 後援会 選挙事務所 候補者 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-kouenkai-senkyo-jimusho-official-candidate-poster/

■「政党 衆議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-shuugiin-giin-poster/

■「政党 参議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-sangiin-giin-poster/

■「政党 地方議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-chihou-giin-poster/

■「政党 代議士 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-daigishi-giin-poster/

■「政党 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-poster-hari-volunteer/

■「政党 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-touin-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「政治団体 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seiji-dantai-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「後援会 入会 募集 獲得 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kouenkai-nyuukai-boshuu-kakutoku-daikou/


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


【資料】政治活動用事前街頭ポスター新規掲示交渉実績一覧【PRドットウィン!】選挙,ポスター,貼り,代行,ポスター貼り,業者,選挙,ポスター,貼り,業者,ポスター,貼り,依頼,タウン,ポスター,ポスター,貼る,許可,ポスター,貼ってもらう,頼み方,ポスター,貼れる場所,ポスター,貼付,街,貼り,ポスター,政治活動ポスター,演説会,告知,選挙ポスター,イラスト,選挙ポスター,画像,明るい選挙ポスター,書き方,明るい選挙ポスター,東京,中学生,選挙ポスター,デザイン


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(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
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(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
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