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  • 【政治と選挙の裁判例一覧】「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例
  • 「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例(80)平成14年 3月26日  東京地裁  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件
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「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例(80)平成14年 3月26日  東京地裁  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件

「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例(80)平成14年 3月26日  東京地裁  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件

裁判年月日  平成14年 3月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号
事件名  東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2002WLJPCA03260002

要旨
◆銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものであるから、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、外形標準課税をすることは許されず、地方税法七二条の一九が外形標準課税を許す「事業の情況」があるものとは認められないとして、銀行業等につき外形標準による法人事業税の課税を定める東京都の条例が地方税法七二条の一九に違反する無効なものであるとされた事例

新判例体系
公法編 > 税法 > 地方税法〔昭和二五年… > 第二章 道府県の普通… > 第二節 事業税 > 第二款 法人の事業税… > 第七二条の二四の四 > ○事業税の課税標準の… > (一)「事業の情況」の要件該当性
◆各事業年度の終了の日における資金の量が五兆円以上である銀行業等を行う法人に対し制定日から五年以内に開始する各事業年度の法人事業税について、課税標準を業務粗利益とし、税率を原則として三パーセントとして課税するとする「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」につき、地方税法第七二条の一九は、例外四業種以外の事業について「事業の情況に応じ」て外形標準を用いることとする場合にも、応能原則に基づく課税であることを当然の前提としており、ここでいう「事業の情況」とは、当該事業の収益構造や法律上の特別の制度の存在など当該事業が順調に行われていてもなお所得が担税力を適切に反映しないといった事業自体の客観的状況を意味するのであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基づく業績状況といった事業自体の客観的性質に基づかない事態は含まれないものと解するのが相当であるところ、銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものであり、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、同条が外形標準課税を許す「事業の情況」があるものとは認められず、本件条例は、同規定に反して違法であり、無効である。

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章 総則 > 第一条 > ○司法権の限界 > (二)法律上の争訟 > (2)法令の効力又は解釈についての裁判を求める訴
◆平成15年1月30日東京高裁、平14(行コ)94号等〔「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号)の無効確認請求及び同条例に基づく租税債務不存在確認請求は、不利益処分を待って同条例の効力を争い事後的に誤納金又は過納金の返還等を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情の存在を見いだすことができないなど判示の事実関係の下では、不適法である。〕と同趣旨

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章 総則 > 第一条 > ○司法権の限界 > (三)裁判権の限界 > (2)行政庁の作為、… > (ロ)消極に解する事… > (ⅱ)地方自治関係
◆「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号)の無効確認請求、同条例に基づく事業税に係る更正処分及び決定処分の予防的不作為請求並びに同条例に基づく租税債務不存在確認請求は、不利益処分を待って同条例の効力を争い事後的に誤納金又は過納金の返還等を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情の存在を見いだすことができないなど判示の事実関係の下では、不適法である。

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章 総則 > 第一条 > ○司法権の限界 > (三)裁判権の限界 > (3)公法上の義務等… > (ロ)消極に解する事例
◆平成15年1月30日東京高裁、平14(行コ)94号等〔「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号)の無効確認請求及び同条例に基づく租税債務不存在確認請求は、不利益処分を待って同条例の効力を争い事後的に誤納金又は過納金の返還等を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情の存在を見いだすことができないなど判示の事実関係の下では、不適法である。〕と同趣旨

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第一章 総則 > 第三条 > ○抗告訴訟 > (一)行政庁の処分 > (3)訴訟の対象とし… > (チ)法令・一般処分… > (ⅰ)法令の制定・公… > (b)処分性なしとするもの
◆平成15年1月30日東京高裁、平14(行コ)94号等〔「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号)の制定は抗告訴訟の対象たる行政処分に当たらない。〕と同趣旨

公法編 > 行政訴訟法 > 行政事件訴訟法〔昭和… > 第二章 抗告訴訟 > 第二節 その他の抗告… > 第三六条 > ○無効等確認の訴えの… > (一)無効原因 > (3)瑕疵の重大且つ明白性を要件としない事例
◆平成15年1月30日東京高裁、平14(行コ)94号等〔更正の請求を拒否する内容の通知処分は、その根拠となる条例が無効である場合、その瑕疵が明白なものか否かにかかわらず、無効である。〕と同趣旨

 

裁判経過
控訴審 平成15年 1月30日 東京高裁 判決 平14(行コ)245号・平14(行コ)246号・平14(行コ)247号・平14(行コ)248号・平14(行コ)249号・平14(行コ)250号・平14(行コ)251号・平14(行コ)252号・平14(行コ)253号・平14(行コ)254号・平14(行コ)255号・平14(行コ)256号・平14(行コ)257号・平14(行コ)258号・平14(行コ)259号・平14(行コ)260号・平14(行コ)261号・平14(行コ)94号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求控訴事件

出典
裁判所ウェブサイト
判タ 1099号103頁
判時 1787号42頁
判例地方自治 226号16頁

評釈
太田幸夫・判タ臨増 1125号248頁(平14主判解)
浜谷直子・法令解説資料総覧 246号119頁
吉村典久・行政関係判例解説 平成14年 93頁
北野弘久・法と民主主義 368号0頁
渕圭吾・税研 106号219頁
三木義一・税 57巻7号4頁
江原勲・税 57巻6号28頁
佐藤英明・税研 103号26頁
堀口和哉・月刊税務事例 34巻8号1頁
吉田典保・税法学 550号181頁

参照条文
行政事件訴訟法3条
行政事件訴訟法3条2項
行政事件訴訟法4条
国家賠償法1条1項
条例
地方税法72条の12
地方税法72条の19

裁判年月日  平成14年 3月26日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号
事件名  東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件
裁判結果  一部却下、一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2002WLJPCA03260002

《判決書本文目次》
主文/113
事実及び理由/114
第1 当事者の求めた裁判/114
(原告ら)/114
(被告ら)/115
1 (本案前の答弁)/115
2 (本案の答弁)/115
第2 事案の概要/115
1 法令の定め/115
2 前提事実/115
(1)原告ら/115
(2) 被告ら/116
(3) 本件条例の審議・制定/116
(4) 本件条例の趣旨/116
(5) 本件条例の概要/116
(6) 本件条例に基づく課税/116
3 争点/117
(1) 請求1ないし4に係る訴えの適法性(争点1―本案前の争点)/117
(2) 本件条例の適法性・有効性(争点2―請求1ないし6の本案の争点)/117
(3) (請求5の誤納金返還請求部分につき)本件通知処分の有効性並びに誤納金及び還付加算金額(争点3)/117
(4) (争点3につき消極の場合、請求6の過納金返還請求部分につき)本件通知処分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額(争点4)/117
(5) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)被告東京都の責任原因(争点5)/117
(6) (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)原告らの損害(争点6)/117
4 当事者の主張/117
第3 争点に対する判断/117
1 争点1(請求1ないし4に係る訴えの適法性)について/117
(1) 請求1及び2について/117
(2) 請求1ないし4について/118
2 争点2(本件条例の適法性・有効性)について/120
(1) 争点2についての判断の位置付け/120
(2) 事業税の沿革/120
(3) 現行の事業税の性格/123
(4) 地方税法七二条の一九の解釈/125
(5) 本件外形標準課税への当てはめ/127
(6)結論/127
3 争点3(本件通知処分の有効性等)及び争点4(本件通知処分の取消事由の有無等)について/128
(1) 更正の請求に対する拒否処分が無効となる場合について/128
(2) 本件通知処分の効力について/128
(3) 誤納金返還請求について/128
(4) 還付加算金請求の認められる範囲について/128
(5) 争点4について/128
4 争点5(被告東京都の責任原因)について/128
(1) 本件条例制定に至る事実経過/128
(2) 被告東京都の本件条例制定行為の違法性/131
(3) 被告東京都知事ほかの故意・過失/131
5 争点6(原告らの損害)について/134
(1) 繰延税金資産の減少について/134
(2) 信用低下及びそれによる営業上の損害/135
(3) 損害賠償請求についての結論/137
第4 結論/137

〈判決書別紙目次〉
別紙一覧表〈省略〉
(別紙2)認容額一覧表/138
(別紙3)請求額一覧表/139
(別紙4)資金量一覧表〈省略〉
(別紙5)当事者の主張/140
1 争点1のア(請求1及び2[本件条例の無効確認請求]に係る訴えの適法性)について/140
(原告らの主張)/140
(1) 処分性について/140
(2) 原告適格について/140
(3) 被告適格について/141
(被告らの主張)/141
(1) 処分性について/141
(2) 原告適格について/141
(3) 被告適格について(被告東京都の主張)/142
2 争点1のイ(請求3[予防的不作為請求]に係る訴えの適法性)について/142
(原告らの主張)/142
(被告らの主張)/145
3 争点1のウ(請求4[租税債務不存在確認請求]に係る訴えの適法性)について/148
(原告らの主張)/148
(被告らの主張)/149
4 争点2(本件条例の適法性・有効性)について/149
(原告らの主張)/149
(1) 憲法九四条違反について/149
(2) 憲法一四条(平等原則)違反について/150
(3) 憲法一三条又は三一条(適正手続)違反について/152
(4) 地方税法七二条の一九違反について/153
(5) 地方税法七二条の二二第九項違反について/157
(6) 地方税法六条二項違反について/157
(被告らの主張)/158
(1) 憲法九四条に適合することについて/158
(2) 憲法一四条一項に適合することについて/159
(3) 憲法三一条に違反していないことについて/161
(4) 地方税法七二条の一九に適合することについて/162
(5) 地方税法七二条の二二第九項に適合することについて/166
(6) 地方税法六条二項に違反しないことについて/167
5 争点3(本件通知処分の有効性並びに誤納金及び還付加算金額)について/167
(原告らの主張)/167
(被告東京都の主張)/168
6 争点4(本件通知処分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額)について/169
(原告らの主張)/169
(被告らの主張)/169
7 争点5(被告東京都の責任原因)について/169
(原告らの主張)/169
(1) 加害行為の違法性について/169
(2) 故意・過失について/170
(被告東京都の主張)/170
(1) 違法性について/170
(2) 故意・過失について/170
8 争点6(原告らの損害)について/171
(原告らの主張)/171
(被告東京都の主張)/173
(別紙6)繰延税金資産減少額一覧表〈省略〉
(別紙7)法人事業税比較一覧表〈省略〉
(別紙8)自己資本比率比較一覧表〈省略〉
(別紙9)自己資本比率適用基準一覧表〈省略〉
(別紙10)納税額一覧表〈省略〉
(別紙11の1)株価比較一覧表〈省略〉
(別紙11の2)株価変動グラフ〈省略〉
(別紙12)貸出余力低下額及び利子収入減少額一覧表〈省略〉

〈略称一覧〉
事項  略称
被告東京都が平成一二年四月一日に制定した「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号) 「本件条例」原告らと被告東京都との間で本件条例が無効であることの確認を求める請求
「請求1」
原告らと被告東京都知事との間で本件条例が無効であることの確認を求める請求
「請求2」
被告東京都知事が原告らに対し本件条例に基づく平成一三年四月一日に開始する事業年度分の事業税に係る更正処分及び決定処分をしてはならないとの不作為を求める請求 「請求3」
原告らと被告東京都との間で原告らが本件条例に基づき平成一三年四月一日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことの確認を求める請求 「請求4」
被告東京都が、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(i)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による各金員を支払うことを求める請求 「請求5(1)」
被告東京都が、原告三菱信託銀行に対し、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円に対する平成一三年八月三日から、うち七億一八五五万八三〇〇円に対する同年七月三〇日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四月から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払うことを求める請求 「請求5(2)」
被告東京都が、原告ユーエフジェイ銀行に対し、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円に対する平成一三年七月二九日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円に対する同年八月三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払うことを求める請求
「請求5(3)」
請求5(1)ないし(3) 「請求5」
原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同各原告に対応する別紙3(g)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで同各原告に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分の取消しを求める請求
「請求6(1)ア」
被告東京都が、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(j)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払うことを求める請求 「請求6(1)イ」
原告三菱信託銀行が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三菱信託銀行分)欄及び同(g)欄の(旧日本信託銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで原告三菱信託銀行及び訴訟承継前第二七七号事件原告日本信託銀行株式会社に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分の取消しを求める請求 「請求6(2)ア」
被告東京都が、原告三菱信託銀行に対し、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円に対する平成一三年一〇月七日から、うち七億一八五五万八三〇〇円に対する同年一〇月一三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払うことを求める請求
「請求6(2)イ」
原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三和銀行分)欄及び同(g)欄の(旧東海銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで訴訟承継前第二六五号事件原告株式会社三和銀行及び訴訟承継前第二六八号事件原告株式会社東海銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分の取消しを求める請求
「請求6(3)ア」
被告東京都が、原告ユーエフジェイ銀行に対し、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円に対する平成一三年一〇月一一日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円に対する同年一〇月一三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払うことを求める請求
「請求6(3)イ」
請求6(1)ないし(3)の各ア及びイ
「請求6」
地方税法七二条の一二の定める、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業の四業種 「例外四業種」
事業税につき、各事業年度の「所得及び清算所得」以外の課税標準 「外形標準」
外形標準を用いた課税
「外形課税」又は「外形標準課税」
本件条例二条三項の定める「業務粗利益等」 「業務粗利益等」
本件条例二条一項の定める「銀行業等」
「銀行業等」
本件条例の定める、「銀行業等」に対する法人事業税の課税標準を業務粗利益等とする外形標準課税 「本件外形標準課税」
各事業年度の終了の日において本件条例二条二項の定める「資金」の量が五兆円以上である銀行業等を行う法人
「銀行等」
原告三井住友銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告ら、第二六六号事件原告株式会社住友銀行(商号変更前)、訴訟承継前第二六一号事件原告株式会社さくら銀行、訴訟承継前第二七七号事件原告日本信託銀行株式会社、第二六五号事件原告株式会社三和銀行(商号変更前)並びに訴訟承継前第二六八号事件原告株式会社東海銀行 「当初原告ら」
当初原告らの個々の者 「各当初原告」
本件条例に基づき計算された事業税額
「既納税額」
平成一二年四月一日から開始する事業年度 「平成一二事業年度」
被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで各当初原告に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分 「本件通知処分」
平成一三年四月一日から開始する事業年度 「平成一三事業年度」
財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三八年大蔵省令第五九号)
「財務諸表規則」
甲第166号証[小早川光郎東京大学教授・鑑定意見書] 「小早川教授・鑑定意見書」予防的不作為訴訟の適法要件について、下級審の裁判例が挙げるとされる、①行政庁が処分をすべきことについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められること(一義的明白性)、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であること(緊急性)、及び③他に救済方法がないこと(補充性)という三要件
「適法三要件」
本件条例に基づいて計算された税額
「新基準税額」
地方税法七二条の一二の原則規定に従い課税標準を所得として従来の税率で計算した事業税額 「旧基準税額」
「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」 「早期健全化法」
甲第167号証[首藤重幸早稲田大学教授・鑑定意見書] 「首藤教授・鑑定意見書」銀行業等以外の事業を行う法人
「他業種法人」
甲第85号証[碓井光明東京大学教授・鑑定意見書] 「碓井教授・鑑定意見書」
甲第100号証[首藤重幸早稲田大学教授・意見書] 「首藤教授・意見書」
貸倒引当金繰入額(一般及び個別)、貸出金償却及び不良債権売却損等
「不良債権処理額」
法人事業税外形課税実施問題研究会(一六都道府県 委員長福岡県副知事)が昭和五二年一一月三〇日に取りまとめた「法人事業税の外形課税の実施に関する報告」
「五二年外形課税実施案」
被告東京都知事が本件条例を公布したこと 「本件公布行為」
被告東京都知事、主税局長以下主税局職員、東京都議会を構成する東京都議会議員その他被告東京都の公務員が行った、本件条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会への提出行為、当該議案の議決行為及び本件条例の公布行為等の一連の行為
「本件条例制定関係行為」
甲第157号証[弥永真生筑波大学助教授・鑑定意見書]
「弥永助教授・鑑定意見書」
個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針 「個別実務指針」
甲第158号証[神田秀樹東京大学教授・鑑定意見書] 「神田教授・鑑定意見書」
甲第159号証[朝日監査法人・鑑定意見書]
「朝日監査法人・鑑定意見書」
大阪府の外形標準課税条例
「大阪府条例」
各当初原告がそれぞれ被った損害の合計額として主張している、別紙6記載の各損害額にそれぞれ金一億円を加算した金額
「損害合計額」
昭和二三年法律第一一〇号により全部改正された地方税法 「二三年法」
昭和二九年法律第九五号による改正前の地方税法(昭和二五年法律第二二六号)
「二五年法」
税効果会計の適用により財務諸表等規則八条の一二第一項一号に基づき資産として計上される金額 「繰延税金資産」
第二五六号事件原告 株式会社第一勧業銀行
(以下「原告第一勧業銀行」という。)
同代表者代表取締役 杉田力之
株式会社さくら銀行訴訟承継人第二六一号事件原告兼第二六六号事件原告(平成一三年四月一日の商号変更前の商号は「株式会社住友銀行」) 株式会社三井住友銀行
(以下「原告三井住友銀行」という。)
同代表者代表取締役 西川善文
第二六二号事件原告 株式会社富士銀行
(以下「原告富士銀行」という。)
同代表者代表取締役 山本惠朗
第二六三号事件原告 株式会社東京三菱銀行
(以下「原告東京三菱銀行」という。)
同代表者代表取締役 三木繁光
第二六四号事件原告 株式会社あさひ銀行
(以下「原告あさひ銀行」という。)
同代表者代表取締役 伊藤龍郎
株式会社東海銀行訴訟承継人第二六八号事件原告兼第二六五号事件原告(平成一四年一月一五日付け商号変更前の商号は「株式会社三和銀行」) 株式会社ユーエフジェイ銀行(以下「原告ユーエフジェイ銀行」という。)
同代表者代表取締役 寺西正司
第二六七号事件原告 株式会社大和銀行
(以下「原告大和銀行」という。)
同代表者代表取締役 海保孝
第二六九号事件原告 株式会社横浜銀行
(以下「原告横浜銀行」という。)
同代表者代表取締役 平澤貞昭
第二七〇号事件原告 株式会社八十二銀行
(以下「原告八十二銀行」という。)
同代表者代表取締役 茅野實
第二七一号事件原告 株式会社北陸銀行
(以下「原告北陸銀行」という。)
同代表者代表取締役 犬島伸一郎
第二七二号事件原告 株式会社福岡銀行
(以下「原告福岡銀行」という。)
同代表者代表取締役 寺本清
日本信託銀行株式会社訴訟承継人第二七七号事件原告兼第二七三号事件原告 三菱信託銀行株式会社
(以下「原告三菱信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 内海暎郎
第二七四号事件原告 安田信託銀行株式会社
(以下「原告安田信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 衛藤博啓
第二七五号事件原告 ユーエフジェイ信託銀行株式会社
(平成一四年一月一五日付け商号変更前の商号は「東洋信託銀行株式会社」。以下「原告ユーエフジェイ信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 土居安邦
第二七六号事件原告 中央三井信託銀行株式会社
(以下「原告中央三井信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 古沢煕一郎
第二七八号事件原告 住友信託銀行株式会社
(以下「原告住友信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 高橋温
第二七九号事件原告 みずほ信託銀行株式会社
(以下「原告みずほ信託銀行」という。)
同代表者代表取締役 山田正次
第二八〇号事件原告 株式会社日本興業銀行
(以下「原告日本興業銀行」という。)
同代表者代表取締役 西村正雄
原告ら訴訟代理人弁護士 園部逸夫
同 西村利郎
同 岩倉正和
同訴訟復代理人弁護士 小久保崇
同 矢嶋雅子
同 岡田純一
原告ら訴訟代理人弁護士 櫻庭信之
同 佐藤丈文
同 弘中聡浩
同 斎藤玄太
同 中山龍太郎
同 飛田博
同 櫻井由章
被告 東京都
同代表者知事 石原慎太郎
被告 東京都知事
石原慎太郎
被告ら訴訟代理人弁護士 上谷清
同訴訟復代理人弁護士 笹本摂
同 山口健司
被告ら訴訟代理人弁護士 半田良樹
被告ら指定代理人 小林紀歳
外七名

 

主文
1  原告らの被告東京都知事に対する訴えをいずれも却下する。
2  被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙2(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙2(a)欄記載の各金員に対する別紙2(f)欄記載の各日から平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまでは年4.1パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙2(c)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による各金員を支払え。
3  被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円に対する平成一三年八月三日から、うち七億一八五五万八三〇〇円に対する同年七月三〇日からそれぞれ平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
4  被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円に対する平成一三年七月二九日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円に対する同年八月三日からそれぞれ平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
5  原告らの被告東京都に対するその余の請求のうち、金員請求に関する2項ないし4項に記載の部分以外の部分を棄却し、その余の請求に係る訴えをいずれも却下する。
6  訴訟費用は被告らの負担とする。
7  この判決は、2項ないし4項に限り、仮に執行することができる。ただし、被告東京都が、各原告につき附帯請求部分を除く当該原告の請求認容額の六割(ただし、一万円未満切捨て)に相当する金員の担保を供するときは、当該原告の仮執行を免れることができる。

事実及び理由
第1  当事者の求めた裁判
(原告ら)
1  (下記2の予備的併合関係にある請求との間での主位的請求)
原告らと被告東京都との間で、被告東京都が平成一二年四月一日に制定した「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第一四五号。以下「本件条例」という。)が無効であることを確認する(以下「請求1」という。)。
2  (請求1と単純併合又は予備的併合関係にある請求)
原告らと被告東京都知事との間で、本件条例が無効であることを確認する(以下「請求2」という。)
3  被告東京都知事は、原告らに対し、本件条例に基づく平成一三年四月一日に開始する事業年度分の事業税に係る更正処分及び決定処分をしてはならない(以下「請求3」という。)。
4  原告らと被告東京都との間で、原告らが、本件条例に基づき平成一三年四月一日に開始する事業年度に係る事業税を納付する租税債務を有しないことを確認する(以下「請求4」という。)。
5(1)  (原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告らにつき後記6(1)の予備的請求との間での主位的請求)
被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(i)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による各金員を支払え(以下「請求5(1)」という。)。
(2)  (原告三菱信託銀行につき後記6(2)の予備的請求との間での主位的請求)
被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円に対する平成一三年八月三日から、うち七億一八五五万八三〇〇円に対する同年七月三〇日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求5(2)」という。)。
(3)  (原告ユーエフジェイ銀行につき後記6(3)の予備的請求との間での主位的請求)
被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円に対する平成一三年七月二九日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円に対する同年八月三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求5(3)」といい、請求5(1)ないし(3)を併せて「請求5」という。)。
6(1)  (原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告らにつき請求5(1)と予備的併合関係で、かつ、次のアとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして同各原告に対応する別紙3(g)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで同各原告に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す(以下「請求6(1)ア」という。)。
イ 被告東京都は、原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対し、それぞれ同各原告に対応する別紙3(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙3(c)欄記載の各金員に対する別紙3(j)欄記載の各日から支払済みまで年4.5パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙3(d)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求6(1)イ」という。)。
(2)  (原告三菱信託銀行につき請求5(2)と予備的併合関係で、かつ、次のアとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 原告三菱信託銀行が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三菱信託銀行分)欄及び同(g)欄の(旧日本信託銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで原告三菱信託銀行及び訴訟承継前第二七七号事件原告日本信託銀行株式会社に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す(以下「請求6(2)ア」という。)。
イ 被告東京都は、原告三菱信託銀行に対し、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円に対する平成一三年一〇月七日から、うち七億一八五五万八三〇〇円に対する同年一〇月一三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求六6(2)イ」という。)。
(3)  (原告ユーエフジェイ銀行につき請求5(3)と予備的併合関係で、かつ、次のアとイとの間では単純併合の関係にある請求)
ア 原告ユーエフジェイ銀行が申告納付した平成一二年四月一日に開始する事業年度に係る事業税が過大申告であったとして別紙3(g)欄の(旧三和銀行分)欄及び同(g)欄の(旧東海銀行分)欄記載の各日に行った各更正請求に対し、被告東京都知事が平成一三年八月三〇日付けで訴訟承継前第二六五号事件原告株式会社三和銀行及び訴訟承継前第二六八号事件原告株式会社東海銀行に対してそれぞれした「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の各通知処分を取り消す(以下「請求6(3)ア」という。)。
イ 被告東京都は、原告ユーエフジェイ銀行に対し、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円に対する平成一三年一〇月一一日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円に対する同年一〇月一三日からそれぞれ支払済みまで年4.5パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え(以下「請求6(3)イ」といい、請求6(1)ないし(3)の各ア及びイを併せて「請求6」という。)。
7  訴訟費用は被告らの負担とする。
8  仮執行宣言
(被告ら)
1  (本案前の答弁)
(1) 原告らの請求1ないし4に係る訴えをいずれも却下する。
(2) 請求1ないし4に係る訴訟費用は原告らの負担とする。
2  (本案の答弁)
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
(3) 請求5(1)ないし(3)、請求6(1)ないし(3)の各イにつき、仮執行免脱宣言
第2  事案の概要
本件条例は、各事業年度の終了の日における資金の量が五兆円以上である銀行業等を行う法人に対し、制定日から五年以内に開始する各事業年度の法人事業税について、課税標準を業務粗利益とし、税率を原則として三パーセントとして課税するものであるところ、本件は、原告らが、本件条例は憲法及び地方税法に違反して無効であると主張して、行政事件訴訟法三条四項の無効等確認の訴えとして、本件条例の無効確認を被告東京都に対し(請求1)、また、被告東京都知事に対し(請求2)求めるとともに、いわゆる無名抗告訴訟として被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分の差止め(請求3)を、同法四条後段の当事者訴訟又は民事訴訟として被告東京都に対し本件条例に基づく租税債務不存在確認(請求4)を求め、さらに、原告らが平成一二年事業年度分につき留保文言を付した上で本件条例に基づき計算された事業税額を被告東京都に申告納付したことから、被告東京都に対し、主位的に同事業税額の誤納金としての還付及び還付加算金の支払並びに本件条例の制定に関係する一連の行為及び公布行為が違法であるとする国家賠償及び同賠償額に対する遅延損害金の支払(請求5)を、また、原告らが同申告納付後直ちに同事業税が過大申告であったとして更正の請求を行ったのに対し被告東京都知事が「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分をしたことから、予備的に被告東京都知事に対し同通知処分の取消し、被告東京都に対し同事業税額の過納金としての還付及び還付加算金の支払並びに前記国家賠償及び同賠償額に対する遅延損害金の支払(請求6)を求めた事案である。
1  法令の定め
(1)  地方税法七二条の一二は、法人事業税の課税標準を、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業以外の事業については各事業年度の所得及び清算所得によると規定し、同四業種(以下「例外四業種」という。)を除き所得課税としているが、その一方で、地方税法七二条の一九は、同四業種以外の事業についても、事業の情況に応じ、資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得及び清算所得とこれらの課税標準とを併せて用いることができる旨規定する(以下、各事業年度の「所得及び清算所得」以外の課税標準を「外形標準」といい、外形標準を用いた課税を「外形課税」又は「外形標準課税」という。)。
(2)  地方税法七二条の二二第九項は、同法七二条の一九によって所得及び清算所得以外の課税標準を用いて事業税を課する場合における税率は、所得及び清算所得を課税標準として同法七二条の二二第一項、二項、六項及び八項の税率による事業税の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない旨規定する。
2  前提事実(次の事実は、括弧内に認定根拠を掲げた事実のほかは、当事者間に争いのない事実である。)
(1)  原告ら
ア 原告日本興業銀行を除くその余の原告ら及び次のイないしエの各合併による訴訟承継前原告らは、それぞれ銀行法四条一項に基づく免許(銀行法平成一〇年法律第一三一号附則二条一項参照)を受けた銀行であり、原告日本興業銀行は、長期信用銀行法四条一項に基づく免許(長期信用銀行法平成一〇年法律第一三一号附則二条一項参照)を受けた長期信用銀行である。
イ 商号変更前の第二六六号事件原告株式会社住友銀行は、平成一三年四月一日、商号を「株式会社三井住友銀行」に変更し、同月二日、訴訟承継前第二六一号事件原告株式会社さくら銀行を吸収合併した。したがって、原告三井住友銀行は、同日をもって訴訟承継前第二六一号事件原告株式会社さくら銀行より、同銀行の一切の権利義務を承継した。
ウ 原告三菱信託銀行は、平成一三年一〇月一日、訴訟承継前第二七七号事件原告日本信託銀行株式会社及び訴外東京信託銀行株式会社を吸収合併した。したがって、原告三菱信託銀行は、同日をもって訴訟承継前第二七七号事件原告日本信託銀行株式会社より、同社の一切の権利義務を承継した。
エ 商号変更前の第二六五号事件原告株式会社三和銀行は、平成一四年一月一五日、商号を「株式会社ユーエフジェイ銀行」に変更し、同日、同銀行を存続会社として、訴訟承継前第二六八号事件原告株式会社東海銀行と合併した。したがって、原告ユーエフジェイ銀行は、同日をもって訴訟承継前第二六八号事件原告株式会社東海銀行より、同銀行の一切の権利義務を承継した。
(2)  被告ら
被告東京都は、本件条例を制定した地方公共団体である。
被告東京都知事は、被告東京都の長であり、地方自治法一六条二項に基づき本件条例を公布した者であり、かつ、本件条例に基づき事業税に係る更正・決定を行う権限を有する者(本件条例一六条一項及び二項)である。
(3)  本件条例の審議・制定
ア 被告東京都知事は、平成一二年二月七日、東京都庁での記者会見において、後記(5)の外形標準課税の構想による本件条例の案を平成一二年東京都議会第一回定例会に提案する旨発表した。
イ 被告東京都知事は、同月二三日開会の東京都議会第一回定例会に本件条例の議案(第二〇六号議案)を提出し、同議案は、同月二九日から同年三月二日までの間、東京都議会本会議で審議された。
ウ 同年三月二二日には、東京都議会財政委員会において、本件条例案について集中審議が行われ、同委員会は、同月二三日、本件条例案につき採決をし、委員全員の賛成で可決した。
エ 東京都議会本会議は、同月三〇日、本件条例案につき採決をし、反対者一人を除く賛成多数で可決した。
オ 被告東京都知事は、同年四月一日、本件条例及び東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例施行規則(平成一二年東京都規則第二六〇号)を公布し、本件条例は、同日施行された(本件条例附則一条)。
(4)  本件条例の趣旨
本件条例の趣旨は、地方税である法人事業税の課税標準について、地方税法七二条の一九に基づき、同法七二条の一二の課税標準とは異なる課税標準の特例を定めることにあると規定されている(本件条例一条)。すなわち、被告東京都は、法人の行う「銀行業等」(本件条例二条一項)に対する事業税の課税標準を、各事業年度の「所得」(同法七二条の一二)から本件条例二条三項に定める「業務粗利益等」(以下「業務粗利益等」という。)という外形標準に変更するべく、本件条例を制定したものである。
(5)  本件条例の概要
ア 本件条例は、本件条例二条一項に定める「銀行業等」(以下「銀行業等」という。)に対する法人事業税の課税標準を業務粗利益等とする外形標準課税(以下「本件外形標準課税」という。)を規定している。ただし、その対象を、各事業年度の終了の日における「資金」(本件条例二条二項)の量が五兆円以上である銀行業等を行う法人(以下「銀行等」という。)に限定するとともに、平成一二年四月一日以後五年以内に開始する各事業年度分の法人事業税についてのみ適用することとしている(本件条例三条三項)。また、銀行業等に対する法人事業税の税率は、原則として一〇〇分の三である(本件条例五条)。
イ 本件条例における法人事業税の確定手続としては、確定申告納付制度が採用されており(本件条例九条一項)、本件条例の適用を受ける銀行等は、原則として、各事業年度の終了の日から二か月以内に、当該事業年度の業務粗利益等及び事業税額等を記載した申告書を提出の上、被告東京都知事に対して法人事業税を納付しなければならない(本件条例九条一項及び二項)。銀行等がかかる申告書を提出しなかった場合には、被告東京都知事が、調査によって、業務粗利益等及び事業税額を決定する権限を有するとともに(本件条例一六条二項)、銀行等が、申告書を提出した場合であっても、業務粗利益等又は事業税額が被告東京都知事の調査と異なる場合には、被告東京都知事が、これを更正する権限を有する(本件条例一六条一項)。
(6)  本件条例に基づく課税
ア 原告三井住友銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く原告ら、前記(1)イ及びエの各商号変更前の原告ら並びに前記(1)イないしエの各合併による各訴訟承継前原告ら(以下、これらを併せて「当初原告ら」といい、その個々の者を「各当初原告」という。)のうち、原告日本興業銀行を除くその余の者は、前記(1)アのとおりいずれも銀行であり、本件条例二条一項一号の定める銀行法その他の法律の規定によりその業務を行っている者であって、原告日本興業銀行は、前記(1)アのとおり長期信用銀行であり、本件条例二条一項二号の定める長期信用銀行法の規定によりその業務を行っている者であって、平成一二年三月三一日の時点で当初原告らにつき本件条例二条二項の定める「資金」の量は、別紙4「資金量一覧表」記載のとおりであり、いずれも五兆円以上であった。
イ 当初原告らは、それぞれ、平成一二事業年度分につき、「本件条例が違憲・違法であることを主張して係争中であり、今回の納付申告により本件条例の合憲性・適法性を認めるものではない旨を念のため付記する。」との留保文言を付して、本件条例に基づき計算された事業税額(以下「既納税額」という。)を被告東京都に申告納付した(甲152の1ないし21)。
各当初原告について、平成一二事業年度につき申告納付した各既納税額は各当初原告に対応する別紙3(a)欄各記載のとおりであり、各納付日は各当初原告に対応する別紙3(f)欄各記載のとおりである。
また、各当初原告について、地方税法七二条の一二に従い事業税の課税標準を「所得」として従来の税率で税額を算出すると、各当初原告に対応する別紙3(b)欄各記載の旧基準税額となる(甲101)。
ウ 各当初原告は、それぞれ、上記各申告納付後直ちに、各当初原告が申告納付した平成一二年四月一日から開始する事業年度(以下「平成一二事業年度」という。)に係る事業税が過大申告であったとして、被告東京都知事に対し更正の請求を行った(甲153の1ないし21)。これに対し、被告東京都知事は、平成一三年八月三〇日付けで、各当初原告に対してそれぞれ「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を行った(甲154の1ないし21)。各当初原告について、各更正請求日は各当初原告に対応する別紙3(g)欄に、前掲「理由がないと認め、更正しないことにした」旨の通知処分のされた日は各当初原告に対応する別紙3(h)欄にそれぞれ記載のとおりである。
3  争点
(1)  請求1ないし4に係る訴えの適法性(争点1―本案前の争点)
ア 請求1は被告東京都に対し、請求2は被告東京都知事に対し、それぞれ本件条例の無効確認を求める請求であるところ、被告らは本件条例が抗告訴訟の対象としての処分性及び原告適格を欠く旨を主張し、また、被告東京都は請求1につき被告適格を欠く旨主張する(争点1のア[請求1及び2に係る訴えの適法性])。
イ 請求3は、被告東京都知事に対し本件条例に基づく更正処分及び決定処分の差止めを求める無名抗告訴訟としての予防的不作為訴訟であるところ、被告東京都知事は、その無名抗告訴訟としての適法要件を欠く旨主張する(争点1のイ[請求3に係る訴えの適法性])。
ウ 請求4は、被告東京都に対する当事者訴訟又は民事訴訟としての本件条例に基づく租税債務の不存在確認請求であるところ、被告東京都は、訴えの利益を欠く旨主張する(争点1のウ[請求4に係る訴えの適法性])。
(2)  本件条例の適法性・有効性(争点2―請求1ないし6の本案の争点)
原告らは、本件条例が憲法一四条、三一条、九四条、地方税法七二条の一九、七二条の二二、六条二項に反して違憲・違法であるから本件条例は無効である旨主張し、被告らはこれを争う。
(3)  (請求5の誤納金返還請求部分につき)本件通知処分の有効性並びに誤納金及び還付加算金額(争点3)
原告らは、本件条例は違憲・違法・無効であるから本件通知処分の瑕疵も重大かつ明白である旨主張し、誤納金の還付及び還付加算金の支払を求めるのに対し、被告東京都はこれを争う。
(4)  (争点3につき消極の場合、請求6の過納金返還請求部分につき)本件通知処分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額(争点4)
(5)  (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)被告東京都の責任原因(争点5)
原告らは、本件条例の公布行為及び制定に関係する一連の行為は違法であり、同公布行為をした被告東京都知事、制定に関連する一連の行為をした被告東京都知事ほか被告東京都の職員、都議会議員には故意・過失がある旨主張し、被告東京都はこれを争う。
(6)  (請求5又は請求6の国家賠償請求部分につき)原告らの損害(争点6)
4  当事者の主張(別紙5)
上記の各争点に対する各当事者の主張は、別紙5「当事者の主張」のとおりである。
第3  争点に対する判断
1  争点1(請求1ないし4に係る訴えの適法性)について
(1)  請求1及び2について
ア 本件において、請求1及び2が、その請求の趣旨のとおり、全く一般的に本件条例が無効であることの確認を求めるものであるならば、同各請求に係る訴えは、いずれも具体的争訟性を欠き、その訴訟形態の如何を問わず、いずれも不適法なものである。すなわち、裁判所法三条一項にいう「法律上の争訟」として裁判所の審判の対象となるのは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に限られ、このような具体的な紛争を離れて、裁判所に対して抽象的に法令の有効・無効の判断を求めることはできないのであるから(最高裁判所昭和二七年一〇月八日大法廷判決・民集六巻九号七八三頁、最高裁判所平成元年九月八日第二小法廷判決・民集四三巻八号八八九頁、最高裁判所平成三年四月一九日第二小法廷判決・民集四五巻四号五一八頁参照)、具体的争訟性を欠く訴えは不適法といわざるを得ないのである。
イ 原告らは、本件条例は、まさに大手銀行という特定の者に対する課税処分ないし行政処分そのものである旨主張するが、本件条例が施行されても、それだけでは原告らを含む特定の者に具体的な納税義務が当然に発生するものではなく、本件条例の課税要件を充足した納税義務者の申告又は行政庁の更正処分若しくは決定処分によって納付すべき税額が確定し、具体的な租税権利義務関係となるのであって、そうした行為により具体化された権利義務ないし法律関係を争うのではなく、単に本件条例の無効確認を求めるというのでは、本件条例の適用を受ける可能性のある者につき上記確定行為がされれば具体的権利義務又は法律関係が生ずる可能性があるという抽象的な関係を問題とするにすぎないし、本件条例上の課税要件への具体的事実の当てはめを問題とするものでもないから、結局のところ、請求1及び2は、文字どおり本件条例の一般的・抽象的憲法ないし法律適合性の審査を求めているにすぎないのであって、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争を対象としているものと認めることはできず、原告らの上記主張には理由がない。
また、原告らは、本件条例の制定自体により損害を被ったとして、これを理由に本件条例が抗告訴訟の対象となる行政処分性を有する旨主張するが、行政主体や行政庁の何らかの行為により損害を被る者があったとしても、そのことのみによって当該行為が行政処分であることにはならないのであって、当該行為が損害を受ける者の法的地位に直接的かつ具体的な影響を及ぼす場合に、はじめて当該行為が行政処分性を有するものとなるのである。このことは、行政主体等の事実行為たる不法行為により法的地位に影響を受けずに単に事実上損害を被る者があった場合に、当該事実行為が行政処分となるわけではないことを考えれば明らかである。そして、原告らの主張する損害は、いずれもその繰延税金資産の減少に端を発するものであるところ、これが本件条例制定自体による直接的な効果として具体的に発生するならば、本件条例もまた行政処分性を有することとなるが、繰延税金資産が減少するのは少なくとも本件条例の適用を受けて事業税の負担をすべき者に限られるところ、本件条例が制定されただけでは原告らがその適用を受けるとは確定しておらず、適用を受ける可能性があるにすぎないことは上記のとおりであり、原告らが主張する損害は、いずれもこの可能性の存在という事実状態に基づくものにすぎないのである。したがって、この点の原告らの主張も理由がない。
ウ さらに、原告らは、第二種市街地再開発事業の事業決定に行政処分性を認めた最高裁平成四年一一月二六日第一小法廷判決(民集四六巻八号二六五八頁)を引用し、中間段階の行為が条例制定行為のような、一見すると一般的な処分であっても、当該中間段階の行為による効果が、利害関係人の権利にどのような変動が生ずるかがある程度具体性をもって予測される場合については、なお処分性が肯定される場合があるとして、本件においても行政処分性が認められると主張する。
もとより、上記最高裁判決の事案は、租税に関するものでもなければ、条例の効力が問題となったものでもないから、租税に関する本件条例が抗告訴訟の対象となるか否かという争点にとっては、正に事案を異にするものといわざるを得ないが、この点を措くとしても、上記最高裁判決は、「再開発事業計画の決定は、その公告の日から、土地収用法上の事業の認定と同一の法律効果を生ずるものであるから(同法二六条四項)、市町村は、右決定の公告により、同法に基づく収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地の所有者等は、特段の事情のない限り、自己の所有地が収用されるべき地位に立たされることとなる。しかも、この場合、都市再開発法上、施行地区内の宅地の所有者等は、契約又は収用により施行者(市町村)に取得される当該宅地等につき、公告があった日から起算して三〇日以内に、その対償の払渡しを受けることとするか又はこれに代えて建築施設の部分の譲受け希望の申出をするかの選択を余儀なくされるのである(同法一一八条の二第一項一号)。そうであるとすると、公告された再開発事業計画の決定は、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的な影響を及ぼすものであって、抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると解するのが相当である。」と判示したもので、この判示からすれば、同最高裁判決が、第二種市街地再開発事業の事業計画決定に行政処分性を肯定したのは、①事業計画決定が土地収用法二〇条の事業認定と同一の効果を持つことから、市町村が収用権限を取得するとともに、その結果として、施行地区内の土地所有者等が、自己の土地を収用されるべき地位に立つこと、②施行区域内の土地所有者等が公告の日から三〇日以内に地区外に転出するか、建築施設の譲受け希望の申出をなすかの選択を余儀なくされる効果等があるからであり、すなわち、公告された再開発事業計画の決定が、施行地区内の土地の所有者等の法的地位に直接的かつ具体的な影響を及ぼすものであることから、同決定が抗告訴訟の対象となる行政処分に当たると判断したものと考えられる。
これに対し、本件においては、前記イのとおり、本件条例が施行されても、それだけでは原告らを含む特定の者に具体的な納税義務が当然に発生するものではなく、本件条例の課税要件を充足した納税義務者の申告又は行政庁の更正処分若しくは決定処分によって納付すべき税額が確定し、具体的な租税権利義務関係となるのであり、繰延税金資産の減少もまた本件条例による事業税を負担すべきことが確定して初めて生ずるものであるから、本件条例の施行により、直接的かつ具体的に原告らの権利・義務が形成され、あるいはその範囲が確定されるものでないことは明らかである。したがって、本件条例の施行については、本件条例の規定に基づく原告らの申告又は行政庁の具体的な処分を待たずに、本件条例の施行そのものによって、直ちに原告らの権利義務に影響を及ぼすものではなく、この点で、上記最高裁判決の立場を前提としたとしても、本件条例の制定には処分性は認められないと解するほかない。
エ なお、仮に、請求2が、本件条例の制定行為とは別個に本件条例の公布行為そのものを独立の行政処分と捉え、当該公布行為のみの取消しを求める趣旨であるとしても、同請求に係る訴えはやはり不適法なものといわざるを得ない。すなわち、条例は、議会の議決によって成立するものであり、その成立した条例の内容を住民に知らせるための表示行為が条例の公布であって、これにより条例は住民に対し現実にその拘束力を発動させることとなるが、条例の公布行為自体は、既に一定の内容をもって成立している条例を周知させるために外部に表示する行為であって、条例の制定行為に対する付随的なものにすぎないから、条例の公布行為のみを捉えて、これを抗告訴訟の対象とすることはできない。
(2)  請求1ないし4について
ア 原告らは、本件において、請求1及び2の本件条例の無効確認請求のみならず、請求3において本件条例に基づく事業税に係る更正処分及び決定処分の予防的不作為請求を、請求4において本件条例に基づく租税債務の不存在確認請求をしており、これらの請求態様及び原告らが「本件訴訟の対象たる紛争は、『法律上の争訟』であり、かつ『紛争の成熟性』を有するので、他の訴訟要件を充足する限り、本件の無効確認訴訟、更正処分・決定処分差止訴訟及び租税債務不存在確認訴訟のうち、少なくともいずれか一つは、現時点において訴訟提起をすることが適法とされなければなら」ない旨主張していることからすると、本訴の趣旨とするところは、本件条例に基づいて原告らに対し事業税に係る更正処分等の何らかの不利益処分が行われるのを防止するために、その前提である本件条例が無効であることを主文又は前提問題についての理由中の判断としてあらかじめ確定しておくことにあるものと解せられる。
イ ところで、前記のとおり具体的・現実的な争訟の解決を目的とする現行訴訟制度の下においては、その訴訟形態が、法定の抗告訴訟、無名抗告訴訟、公法上の当事者訴訟、民事訴訟のいずれであるかを問わず、法令違反の結果として将来なんらかの不利益処分を受けるおそれがあるというだけで、その処分権限の発動を差し止めるため事前にその前提となる法令の効力の有無の確定を求めたり、当該処分権限の発動をしないことを命令したり、当該処分権限の発動により具体的に確定される権利義務関係につき同発動前にこれを差し止めるために当該権利義務関係の不存在の確認を求めることが当然に許されるわけではなく、当該法令自体によつて侵害を受ける権利の性質及びその侵害の程度、当該法令違反に対する制裁としての不利益処分の確実性(本件では更正処分及び決定処分等)及びその内容又は性質等に照らし、同処分を受けてからこれに関する訴訟の中で事後的に当該法令の効力を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでない限り、あらかじめ当該法令の効力の有無の確定を求める法律上の利益を認めることはできないものと解すべきである(最高裁判所昭和四七年一一月三〇日第一小法廷判決・民集二六巻九号一七四六頁、最高裁判所平成元年七月四日第三小法廷判決・集民一五七号三六一頁参照)。
ウ これを本件についてみるに、本件条例によれば、本件外形標準課税は、平成一二年四月一日以後開始する事業年度の末日における資金量が五兆円以上の銀行業等に適用されるものであり(本件条例三条一項及び三項)、さらに、資金量が五兆円以上であることのほか、課税標準となる業務粗利益等の総額や外国事業分の業務粗利益等の控除の有無及び算定、被告東京都分の業務粗利益等の算定根拠となる分割基準の算定等を経て具体的な租税法律関係が定まるべきものであり、本件条例の適用される五年間につき、原告らのすべてが本件条例の適用対象となるか否か、各原告につきどのような具体的租税法律関係が生ずるかについては、原告ら自らの主張する銀行業の置かれた昨今の厳しい経済状況にかんがみても、必ずしも定かでなく、原告らのいずれについても、本件条例の適用さらには不利益処分としての更正処分又は決定処分等が行われることが確実であるとは必ずしもいい切れない。
また、原告らに対して本件条例が適用され、本件条例に基づく事業税を納付すべきこととなったとしても、原告らが本件条例の効力を無効と考えるならば、被告東京都知事が本件条例に基づいてする事業税の更正処分及び加算税の賦課決定処分又は原告らが申し立てた更正の請求に理由がないとの通知処分の効力を争う中で本件条例の効力を問題とすれば足りるのである。原告らの主張する種々の損害は、それがあまりにも重大なものであって、事後的な救済を待っていては倒産の危機が生ずるといった事情が認められない限り、同各処分の効力を争う訴訟等において本件条例の効力について適正な判断がされ、さらに、それでもなお回復できない損害については、原告らが本件において被告東京都に対して損害賠償請求を併合提起しているように、金銭賠償を求めることによって、その損害は補填されるものと考えることができるのであるから、あえて現時点において本件条例の無効を確定させる必要はないというべきである。
エ 原告らは、本件条例に基づく事業税の申告をしない場合には、被告東京都知事が本件条例に覊束される結果、原告らに対して更正処分ないし決定処分を行うことは確実であり、この場合、本件条例により「加算金」(本件条例二〇条)等が課されることになり、また、故意不申告罪が成立する場合には、それぞれ原告らの代表者等及び原告ら自身について、刑罰が課されることになり(本件条例一四条)、このように加算金等が課され、また原告ら及びその代表者等に対して刑罰が科される場合には、金融再生委員会により、原告らの免許が取り消され、又は業務停止等が命じられる可能性が十分に存在するのであり(銀行法二七条、長期信用銀行法一七条)、将来確実にされることになる違法な更正処分又は決定処分に伴うこうした損害は、原告らにとって回復し難い重大な損害である旨主張する。
しかし、当初原告らは、前記前提事実(6)のとおり、平成一二事業年度に係る本件条例に基づく事業税につき留保文言を付した上で本件条例に基づく事業税の申告納付をしているのであって、原告らは、平成一三事業年度以降についても、同様の申告納付をすることにより上記のような加算金の賦課や刑罰法規の適用、さらには免許の取消し等の行政処分を回避し、その上で更正の請求をし、本件通知処分のように更正の請求に理由がない旨の通知処分がされたときには同処分を争い、その中で本件条例の無効を主張することも可能であり、そうした今後の事業年度についての申告納付による経済的不利益によって倒産の危機に直面するなど、本件の請求5又は6のように不利益処分を待って本件条例の効力を争い事後的に誤納金又は過納金の返還及び金銭賠償を求めたのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等の特段の事情の存在は、いまだこれを見いだすことができない。
原告らは、その主張に沿うものとして小早川教授・鑑定意見書を引用するが、同鑑定意見書六頁においても、「現実に不利益処分が行われる前であっても、司法的介入を拒否する理由はない」とされるのは、「それが真に救済を必要とするものである限り」という条件を充たす場合に限定されており、原告らについては、上記のとおり事前の救済についての真の必要性があるとは認められない。この点につき、原告らは「本件条例の制定自体により、各種の不利益処分を回避する必要から、不本意ながらも本件条例に従った新基準税額の納付を行うために必要な莫大な資金を調達しなければならず、原告らの企業活動にとって大きな制約となり、原告らの営業活動に対する影響は多種多様に現われ、これら無形損害は甚大かつ広範に生じ、仮に過誤納金還付請求が認容されたとしても、原告らに返還される金額は、各年度の過誤納金にとどまり、原告が現に被っているこれら甚大かつ広範な損害を填補するものでは全くなく、国家賠償請求にしても、『本件条例が制定されなかったとしたらあったであろう原告らの状態』を回復することは現実的には不可能であり、救済として全く不十分といわざるを得ず、今般の銀行業を巡る極めて厳しい我が国の経済環境からすれば、将来金銭的に事後的な措置を得たとしても、原告らの救済として時機を失することは明白である」旨主張する。しかし、新基準税額の納付のために資金調達コストが必要であるとしても、その範囲・程度と同コストが各原告の営業活動に及ぼす影響は、各原告ごとにも異なるものと考えられるが、原告らはその実態を個別具体的に主張立証しようとしない。確かに、原告らの営業は、その主張するとおり「信用」に基づくものであるから、上記の点を個別具体的に主張立証することは困難であると考えられるが、本件における原告らの主張立証は極めて抽象的なものにとどまっており、これを前提とする限り、原告らの本件誤納金又は過納金還付請求及び国家賠償請求が認容されてもなお原告らに回復し難い損害が生じているとまでは認められないし、ましてや、今後の事業年度についての申告納付による経済的不利益によって倒産の危機に直面するとは到底認められない。したがって、原告らのこの点に関する主張も理由がない。
オ よって、請求1ないし4に係る訴えについては、その訴訟形態を問わず、いずれも不適法なものであって、却下を免れない。
2  争点2(本件条例の適法性・有効性)について
(1)  争点2についての判断の位置付け
前記1に説示したように、本件条例の無効確認を求める請求1及び2に係る訴えはいずれも不適法であり、本件条例の無効を前提問題とする請求3及び4に係る訴えもいずれも不適法であり、したがって、請求1及び2の対象として又は請求3及び4の前提問題としては、本件条例の適法性・有効性について判断する必要はない。他方、請求5の誤納金還付請求又は請求6の通知処分取消請求及び過納金還付請求は、本件条例が無効であることを法律上の前提とするものであるから、以下においては、同各請求の前提問題として、本件条例の適法性・有効性について判断する。
(2)  事業税の沿革
本件条例は、前記前提事実(5)アのとおり、法人の事業税を外形標準を課税標準として課するためのものであるところ、法人の事業税ないしこれに類する税の歴史的沿革について、次の事実を認めることができる(甲83、甲84、乙1の4、乙6の3・4・7、乙7の35、公知の事実)。
ア 事業税の沿革は、明治一一年に地方税規則により府県税として創設された「営業税」にさかのぼり、同税は、業種別の定額で納税義務を課すものであった。明治二一年からは市町村がこれに附加税を課した。
イ 明治二九年に、営業税法により国税としての営業税が創設された。この制度は、二四の主要な業種の営業について、売上金額・従業員数等の外形標準により、課税を行うもので、府県及び市町村はこれに附加税を課す一方で、二四の業種以外の営業に対しては、府県が営業税を課し、市町村がこれに附加税を課した。
ウ 大正一五年に営業税法が廃止されて営業収益税法が制定され、営業税の課税標準は外形標準から純収益に改められた。
エ 昭和一五年、地方税法(同年法律第六〇号)が制定され、国・地方を通ずる税制の全面的改正の一環として、国の営業収益税と地方の営業税とが、国税である営業税に統一され、府県は、国からの還付を受けることとなった。
オ 昭和二〇年、敗戦後の民主化の流れの中で地方自治制度にも変革があり、その一環として、昭和二二年、国税であった営業税が地方に移管され、道府県の独立税としての営業税となった。この営業税は純益に課税されるものとされたが、地方税法四八条の三において、特別の必要がある場合においては営業税の課税標準に関しては営業の種類を限り内務大臣の許可を受け四八条の規定による純益のほかその標準を併せ用い又は四八条の規定による純益によらないこともできる旨の例外規定が置かれていた。
カ 昭和二三年、地方税法が全部改正された際(同年法律第一一〇号、以下「二三年法」という。)、事業税が創設されて営業税は廃止された。この時の地方税法は六五条において事業年度の所得を原則的な課税標準とした上で、六九条一項前段において、現行の地方税法七二条の一九とほぼ同様に、「事業税の課税標準については、事業の情況に応じ、第六三条第一項の所得によらないで資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは賃貸価格、土地の地積若しくは賃貸価格、従業員数等を標準とし、又は同項の所得とこれらの標準とを併せ用いることができる。この場合における賦課率は、命令で特別の定をなすものについてはその定により、その他のものについては、第六七条の賦課率による場合における負担と著しく均衡を失することのないように、これを定めなければならない。」と定めた。
この改正において、外形課税を設ける際の許可制が廃止され、内閣総理大臣への報告と、内閣総理大臣が不適当と認めた場合の地方税審議会による審査の制度が設けられることとなり、これに伴い、現行地方税法七二条の二二第九項と同一の「著しく均衡を失することのないように」という規定が、外形課税の限界を画する規定として設けられた。
キ 昭和二四年の地方税法改正(同年法律第一六九号)において、外形課税が課せられる「例外業種」として、電気供給業、ガス供給業及び運送業(運送取扱業を含む。)が盛り込まれた。昭和二四年五月七日衆議院地方行政委員会における地方税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明では、これらの業種においては「料金統制」が行われており、その統制料金の決定に際しては既に税相当額が織り込まれている旨の説明があった(甲83[二四〇頁])。
ク 昭和二四年九月にシャウプ勧告(一次)(乙6の4)が公表された。同勧告は、当時の事業税につき、「事業税は消費者に轉嫁されないものとされているようである。事業税が純所得に課せられているという事実は、事業主は全税額を負担すべきものであるという趣旨を示すにほかならない。純所得税というものは非轉嫁性のものと考えられるのが普通である。」とみた上、「都道府県が企業にある種の税を課すことは正当である。というのは、事業および労働者がその地方に存在するために必要となって来る都道府県施策の経費支払を事業とその顧客が、援助することは当然だからである。たとえば、工場とその労働者がある地域で発展増加してくれば、公衆衛生費は当然増大して来るのである。」との理由から、「従って、われわれは事業税の存続を勧告するものではあるが、それは次の二つの目的を達成するように改革すべきものであると考える。即ち、第一に、純益を課税標準として累積的に圧迫することを幾分緩和すること、第二に、賦課徴税方法を一層簡易化し、原則として國税の賦課徴収の結果に依存しないようにすること。の二つである。最善の解決方法は、單に利益だけでなく、利益と利子、賃貸料および給與支拂額の合計に課税標準を拡張してこれに税率を適用することである。右の課税標準を別な方法で定義すると、それは全収入額から、資本設備、土地、建物等他の企業からの購入の金額を差引いたものがそれである。この差引額は、原料等、他の事業から購入したものの價値に、その企業が附加したところの額である。」と勧告した。この勧告に基づき、新たに地方税法(昭和二五年法律第二二六号、以下、昭和二九年法律第九五号による改正前のこの法律を「二五年法」という。)が制定され(同法附則二条で二三年法を廃止)、「附加価値税」が創設された(同法二三条ないし七四条)。その課税標準は、附加価値、すなわち、法人の場合は、総売上金額からいわゆる必要経費等の特定の支出を控除した金額とされたが(同法三〇条四項、七項)、実施時期は昭和二七年一月一日の属する事業年度分以降等とされた。
その後、昭和二五年九月にシャウプ勧告(二次)が公表され、それに基づき、昭和二六年、附加価値を、控除法のみでなく加算法によっても算出することができる旨の法改正がされた(昭和二六年法律第九五号)。
ケ シャウプ勧告に基づく附加価値税は、その実施が二度にわたって延期された後(昭和二七年法律第二一六号及び昭和二八年法律第二〇二号)、昭和二九年の法改正(同年法律第九五号)により、遂に一度も実施されることのないまま廃止され、それまでの事業税制度と特別所得税制度が統合され、現行の「法人事業税」の制度が創設された。
附加価値税を廃止する理由については、改正案の立案担当者である自治庁税務部長が同年三月八日の衆議院地方行政委員会において次のとおり説明している。
「理論的には、附加価値税は非常によろしいのであります、よろしいのだが、経済の基礎が非常に浅いものだから千億にもなろうとする税金の賦課方法をかえるといたしますと、業界によって非常に重くなったり、軽くなったりいたします。このような負担の激変を与えること、この激変に打ちかつためには、現在のわが国の産業界の基礎があまりに弱すぎるのではなかろうか。そういうようなものについてはやむを得ず従前通りにしておくよりいたし方ないのではなかろうか。こういう考え方が根本にあるわけであります……(中略)……しかしながらもうかれば府県の経費を分担するけれども、損をすれば府県の経費を分担しないというような事業税の姿は、これが国税でありました時代には、所得税を補完する性質の税として、一応理論的にもうなずけるだろうと思うのでありますが、府県の独立税になった場合には、所得税の補完税という観念はとれないと思うのであります。やはり事業の分量に応じて、府県の経費を分担するという考え方が事業税の中に織り込まれるべきではなかろうかというふうに考えるのであります。そういう意味合いからは、やはり所得課税というものは必ずしも適当でないし、やむを得ず従来通り踏襲するだけであって、やはり事業の分量に応じて経費を分担してもらうような課税方式の方が、府県税としての事業税にはふさわしいのだという考え方をとっておるのであります、従ってまた収入金額課税をやって来たものは、今後も収入金額課税をやってもらいたい。もし負担が重すぎるならば、税率の問題ではなかろうかというふうな考え方に立ったわけであります。……(中略)……現在におきましてもなお料金統制が厳格に行われておる事業につきましては、収入金額課税を踏襲するということにいたしたわけであります。」(第一九回国会衆議院地方行政委員会議録第二五号一一頁)
同委員会の審議においては、事業税が応益的性格を有するとの前提に立つ同部長の説明に対し、その前提と法案の内容との関係について疑義が示されたが、本会議においては、附加価値税は「今日の経済情勢から見てこの際これを廃止」するとの改正趣旨が報告され、可決され、参議院においても同部長がほぼ同旨の説明をして可決された(同会議録)第二五号、第三〇号、第一九回国会衆議院会議録第三四号、同国会参議院会議録第一四号)。
また、同改正においては、外形課税が課せられる例外業種に「生命保険業」が新たに加えられた。これは、生命保険業は、利益を契約者に配当金として割り戻すため、事業規模の割には課税上の純益が生じない事業構造になっているからであるとされた。また、運送業のうち、「地方鉄道事業及び軌道事業」以外は、所得課税とされた。これらについて、自治庁税務部長は提案理由として、「生命保険業を新たに加えましたのは、現在は大部分相互保険の形態をとっておりますために、税務計算上の利益が上って来ないと思います。利益が上って来れば全部契約者に割りもどしてしまう。従って税務計算上の利益が上って来ないと思いますが、相当大規模に事業活動をやっております。それならば事業活動の規模に応じてある程度の税金を負担してもらいたい。それでは契約者に配当した、言いかえれば割りもどした部分は損金に見ない。益金にみなして行く方法もあるのでありますが、こういうことは生命保険業が長くやって参りました経営方針に対しまして、大きな影響を与えることになって参ります。課税方法が生命保険業の経営の妙味といいますか、そういうものにつきまして特別な変更を加えるということにもなりまして業界も喜びませんので、そこで収入金額を課税標準として、生命保険業にも事業税を課するという方式に改めることにいたしたわけであります。現在では生命保険業がほとんど事業税を負担しておりませんが、こういう形式をとることによりまして、平年度一億六千万円程度の税金を納めることになるわけであります。そこに但書を加えておりますが、これは地方鉄道軌道整備法によりまして、全く採算の立たぬ鉄軌道であり、ほうっておけば解散してしまう。しかし国全体の見地から採算のとれないような鉄軌道なんだが、それを存続させて行かなければならぬ。こういうようなものにつきましては、地方鉄道軌道整備法によりまして国から補助金を与えることになっております。採算の立たない鉄軌道を国全体の見地から、なお存続さして行くわけなのでありますから、料金統制が行われておりましても、転嫁を可能とするような料金のきめ方が事実上不可能であります。従いまして、こういうものにつきましてだけは所得を課税標準とする規定を挿入することにいたしたのであります。」と説明した(乙6の7[一八二頁]、第一九回国会衆議院地方行政委員会議録第二五号)。
コ 昭和三〇年、外形課税が課せられる例外業種に、「損害保険事業」が新たに加えられた(同年法律第一一二号)。昭和三〇年五月二七日の衆議院地方行政委員会における地方税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明では、損害保険事業の場合、所得の相当部分を資産の運用による利益に求める構造となっているが、法人税法の規定により、配当所得が益金に算入されず、法人税の課税標準たる所得を課税標準とする事業税の課税が、損害保険事業について必ずしも適正を得ていないからであるという説明がされた(甲84[五八頁]、第二二回国会衆議院地方行政委員会議録第一二号二〇頁)。
また、同年六月二〇日の同委員会における審議において、政府委員として出席した同改正法案立案担当者である自治庁税務部長は、外形標準課税はやめられないかとの質問に対し、「事業税というものの性格を考えました場合には、所得を課税標準とすることは本来の筋ではないのじゃないか、やはり付加価値的なもの、あるいは従業員数その他の外形的なものを課税標準に採用した方がいいのじゃないか、こういう考え方をしております。」(第二二回国会衆議院地方行政委員会議録第二四号一〇ないし一一頁)と答弁した。さらに、同部長は、「外形標準によって事業税を収入金額にかけるということを、どういうふうな基準で今後ともおやりになる考えであるか。」との質問に対し、「将来外形課税の範囲をどう広げていくとかいうふうなことは、現在のところ考えていないわけであります。」とした上で、当時外形課税の行われていた業種を三つに分類し、第一類型については、「国が料金統制を行なっておる企業でありまして、しかもその企業が独占的な形態を持っている、……(中略)……その料金が……(中略)……必ず守られ得るものなら、料金を決める場合に織り込まれたものだけは事業税として府県へ支払ってもらう、そうするためには売上金額の何パーセントを事業税とするというふうなきめ方をするのが、一番適当だと思われる」、第二類型については、「企業が相互組織をとっているものでありまして、生命保険業がこれに類すると思われます。相互組織をとっておりまするので、通常利益と思われるようなものが増加して参りましても、これをすべて配当をしてしまいますと、自然税法上の利益というものは上って参りません。相当な規模で事業を行っておるにもかかわりませず、事業税を負担しないということになってしまう」、第三類型については、「損害保険業は、事業の性格からいたしまして、資産の運用によりまする収益というものを中心にして運営されて参ってきております。……(中略)……収益の大部分が配当所得なんでありますけれども、配当所得が益金に算入されません。……(中略)……自然生命保険事業に準じまして、収入金額を課税標準とするように今回改めたい」と説明した(第二二回国会衆議院地方行政委員会議録第二四号一五ないし一六頁)。
サ 昭和三二年(同年法律第六〇号)、地方鉄道事業及び軌道事業について所得課税とされた。昭和三二年二月二八日衆議院地方行政委員会における地方税法の一部を改正する法律案に対する提案理由説明では、バス事業との負担の均衡を図るためであるとされた(甲84[五七五頁])。
この結果、外形課税が課せられる「例外業種」は、電気供給業、ガス供給業、生命保険事業、損害保険事業の四業種となって、現行法に至っている。
(3)  現行の事業税の性格
ア 以上の法人事業税ないしそれに類する税の変遷によると、それらの税は、国税とされたこともあれば地方税とされたこともあり、また、課税標準が純益課税とされたことも、外形課税とされたこともあって、各時代における立法により事業税ないしそれに類する税の立法上の性格付けは変転しているものということができるが、その経過としては、明治時代の外形標準による営業税から純収益を課税標準とする営業税ないし営業収益税を経て、昭和二三年に、現行法とほぼ同様の、原則として所得を課税標準とし、例外的に収入金額を課税標準とする事業税が創設された。
この制度の下で、シャウプ勧告がされたのであるが、同勧告は、事業税は純所得課税であって、事業主が事業の経費からではなく自らの所得から支払うものであるとの理解の下に、新たに異なった立法政策を採用し、これを附加価値税に改めるべきであるというものであった。すなわち、一般に、事業税を応益原則、すなわち、行政サービスへの対価とみる立場では、事業税は所得からではなく経費から支払われるべきものと考えられるのであるから、この勧告は、従来の事業税が応能原則によって課されていたものと理解した上、これを応益原則に基づく内容に変更すべきものとの立場に立つものである。
この勧告に基づく二五年法において、応益課税の考え方により、事業税に代わり収入金課税ともいうべき附加価値税が創設されたにもかかわらず、同税は一度も実施されることなく廃止され、昭和二九年に、再びほぼ現在の事業税が復活したのである。このように二五年法が実施されないままに終わった理由は、前記のとおり「今日の経済情勢から見て」とされているが、その具体的内容は、自治庁税務部長の答弁からすると、賦課方法の変更に伴う負担の激変に産業界が耐えられないこと、すなわち、収入金課税にはほとんどの業界が耐えられないから、所得への課税に復さざるを得なかったことにあったと認められる。そして、地方税法を所管する当時の自治庁においては、その後も、事業税が応益的性格をもつとの見解の下に、所得への課税は望ましいものではなく収入への課税を行うべきものとしながらも、収入への課税を行う業種は、いわば二三年法の延長線上にある前記(2)コの三つの類型に限るとし、これ以外の類型に収入金課税を拡げるとの展望は何ら示していないし、ましてや現行法七二条の一九によって、各都道府県がこれ以外の類型に外形標準課税を行い得るとの見解が示されたこともない。むしろ、前記の質疑内容からは、このように例外を限定しない限りは、従来行われてきた例外的な収入金課税すら存続が危うくなる可能性も存在したものとうかがわれるところである。
このような経緯からすると、二五年法が採用した応益的な考え方は、事業税の賦課を正当化する理由ないしは制度の理想として所管官庁において維持されていたものの、これをそのまま税制に反映させることは納税者の能力を超えるものであったことから、これを廃止せざるを得なくなり、現実の税制としては、納税者の能力に応じた所得課税を基本とする制度を維持せざるを得なかったものということができる。
イ 以上のような経緯を前提として、現行の法人事業税についての定めをみると、課税標準については、地方税法七二条の一九により「法人の行う事業に対する事業税の課税標準は、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業にあっては各事業年度の収入金額、……(中略)……その他の事業にあっては各事業年度の所得及び清算所得による。」と定められ、課税標準は、原則として「各事業年度の所得及び清算所得」とし、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業の例外四業種については例外的に「収入金額」としている。したがって、少なくとも現行地方税法の解釈においては、地方税法七二条の一二が大半の業種について所得を課税標準としていることから、事業税が「所得課税」という意味での応能課税の立場を原則としていることは否定できない。その上、応益原則からすると、税率は比例税率とすべきところ、現行法は法人につき原則として累進税率を採用しており、このことも現行法が応能課税の立場に立つことを裏付けるものである。なお、所得税法及び法人税法は、その課税標準の算定に当たり、事業税額を経費又は損金に算入することを認めており、このことは、事業税は事業の費用ひいては行政サービスの対価であるとの考えに立つものとみえないでもないが、これらは、あくまで所得税法及び法人税法がそれぞれ所得税及び法人税の課税標準を算出するに当たって事業税をどのように扱うかという技術的な規定にすぎないのであるから、事業税自体の課税標準が原則として所得とされている以上、他の税法の技術的な規定の内容によって、事業税の本質が左右されるものではない。
したがって、現行の法人事業税は、応益課税の考え方による税制とすることが立法論としては望ましいとされながらも、現実的にはこれが採用されないまま、所得課税として存続し続け、所得税ないし法人税の附加税的なものとして現実に存在し、機能してきたものということができる(なお、被告らは、事業税が狭義の応能原則に基づくものであるとすると、法人税について附加税を課することを禁じた法人税法一五八条に反すると主張するが、同条は、他の租税の税額を課税標準として課される租税という意味での狭義の「附加税」を課すことを禁じたものであって、他の租税の課税標準を課税標準として課される租税という意味での広義の「附加税」を課すことを禁じたものでないことは、法人住民税に関する規定(地方税法二三条以下、二九二条以下)をみても明らかであり、現行の法人事業税は、法人税の税額を課税標準とするものではないから、同条にいう「附加税」に当たらないが、この点を措き、仮に、同条が広義の「附加税」を課すことをも禁じたものであるとしても、同条は、地方公共団体が法律に基づかないで独自の条例で附加税を課することを禁じたにすぎず、地方税法が附加税の定めを置くことは、一般法に対する特別法の関係からしても、何ら禁じられるものではないから、被告らの主張は失当である。)。
現在、政府・与党内で、現行法人事業税を抜本的に改正して外形標準課税にすることの検討作業が行われているが(甲175、乙6の2、乙6の5、乙6の8、公知の事実)、これも現行の事業税が応能課税とされているための限界を認めつつ、法律改正により応益課税化しようとしているものと理解することができる。
乙第1号証の4において、金子宏教授が、我が国の事業税の課税根拠については利益説の立場をとる見解が圧倒的に多いとしつつ、現在の事業税制度は必ずしも利益説の考え方に即した制度とはなっておらず、現行の事業税は応能課税と応益課税の混合タイプであり、しかも応能課税の要素のより強い混合タイプであるとした上で、制度を利益説の考え方に従って仕組み直すべきか否かを検討しているのも、上記の現行事業税の位置付けの理解に沿うものということができる。また、乙第1号証の8(現代地方自治全集18・地方税[総論]、浅野大三郎、七七頁以下)が、地方税における税負担の求め方に関する原則の一つとして、応益原則を掲げ、「租税は、個別に受ける行政サービスの対価として納めるものではなく、住民が負担能力に応じて納めるべきものであるということが今日の通念になっている。しかし、このことは課税に当たって応益性を考慮することを否定するものではない。行政によって利益を受ける者に対して租税を課することは、一般に理解を得やすいし、合理性もある。」とした上で、「なお、応益原則を考慮して課税するということは、必ずしも応益の程度に応じて税額を定めることを意味するわけではない。税額は負担能力を示す指標に基づいて決定するのが原則である。」とするのも上記理解に沿うものである。
ウ 以上のように現行の事業税について応能課税が原則となっているものと考えることは、租税の本質的な性質として応能原則があることにかんがみれば、むしろ当然のことといえる。
美濃部達吉博士は、「租税とは、國家又は地方公共團體が収入の目的を以つて其の統治権に基づき報償としてではなく一般人民から其の資力に應じて均等に徴収する金銭又は金銭的価格に於いての給付を謂ふ。」と定義し、その解説の中で、「租税は報償の性質を有しない。」、「租税は一般人民に対し其の資力に應じて均等に賦課するものである。」と述べている(美濃部達吉・日本行政法[下巻]一一〇五頁以下)。
また、田中二郎博士は、「租税とは、国又は地方公共団体が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、これらの団体の経費に充てるための財力調達の目的をもって、法律の定める課税要件に該当するすべての者に対し、一般的標準により、均等に賦課する金銭給付である。」と定義し、その解説の中で、「租税は特別の給付に対する反対給付(報償)の性質を持たず、一方的に課徴されるものである。」、「租税は、法律の定める課税要件に該当するすべての者に対し、一般的標準により、均等に課税されるのを原則とする。すなわち、租税は、担税力に基礎を置く均等性の要請に応ずるものでなければならない。」と述べている(田中二郎・租税法[第三版]一頁以下)。
そして、金子宏教授は、租税を「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」と定義し、その解説の中で、「租税は、特別の給付に対する反対給付の性質をもたない(租税の非対価性)。」、「租税は、国民(住民)にその能力に応じて一般的に課される点に特色をもつ。」と述べている(金子宏・租税法[第八版]九頁以下)。
さらに、清永敬次教授は、「租税とは、国又は地方公共団体が、収入を得ることを目的にして、法令に基づく一方的義務として課す、無償の金銭的給付である。」と定義し、その解説の中で、「租税は、無償の金銭的給付である。無償ということは、租税がこれを負担する者に与えられるなんらかの利益と直接結びつかないものであることをいう。……もっとも、租税を公のサービスの利益の対価と見る考え方(いわゆる利益説)も一般的には成立しないわけではないが、租税を負担する個々の者とある特定の利益とを直接結びつけて観念することは困難であろう。」と述べている(清永敬次・税法[第五版]二頁以下)。
以上のような我が国の代表的な学者による租税の定義とその性質の説明からして、一般的に、租税は、そもそも国民の資力ないし能力に応じて課されるものであり、公共サービスの対価としての性質を有しないものと考えられているということができるのであって、その意味において、具体的な租税法令を解釈するに当たっては、特別な規定がない限りは、上記の租税の基本的性格にしたがって、応能原則により課税されているものと解釈をすべきであり、しかも、憲法一四条の定める平等原則からすると、一般に租税は担税力に応じて負担させるべきものであって、担税力との均衡を著しく失する課税には憲法上の問題も生ずるところであり、応能原則はこのことを課税法律関係において実質的に担保する働きを持つものということができるから、応益課税の考え方は、課税標準の選択等具体的な立法を根拠づける一つの要素にはなり得るとしても、法により定められた税の具体的な姿としては、明示的な立法がない限り、性質上当然に応益課税として純化された税というものは想定し難いというべきであって、そうした明文の規定がない場合に、解釈論において現存する税を純粋な応益課税によるものと解釈することは困難である。
エ 他方、神野直彦教授の論文である乙第1号証の7(ジュリスト一一八一号七頁以下)は、本件外形標準課税は地方税法七二条の一九に基づいて導入可能であるとの立論をするものと解されるが、その全体的な論調は、立法論ないしはあるべき姿としての法人事業税を説き、現状においては法人の所得を課税標準とする租税が法人住民税に加えて法人事業税が道府県税として二重に課税されるという異様な事態が生じているとの理解から、「窮余の一策」として地方税法七二条の一九による外形標準課税を行うことを是とするものであり、現行法に基づいて上記異常な事態を解決するとすれば同規定を用いるしか考えられないというにすぎないのであって、その必要性を強調するあまり、現行法の解釈としての領域を越えたものとの感が否めないが、その点を除いた現行法の位置づけについては、むしろ上記の説示に沿うものということができる。
なお、事業税に関する多くの文献が応益原則に言及し、その中には、所管官庁関係者の執筆するものを中心として、現行法もまた応益主義を採用しているかのように記載するものもあるが、これらには、所管官庁が理想とする法制が実現できなかった経緯からして、何とかこれを実現したいとの願望が無意識的にせよ込められている可能性がないとはいえないことに留意すべきであって、前記認定の経緯を客観的にみる限り、実定法としての地方税法は、事業税を応能課税を基本として定めているといわざるを得ず、このような法制の下では、応益原則は行政サービスを受ける者は税金もまた負担すべきであるといった程度の事業税を課することを正当化するための理由の一つとして機能しているにとどまると考えるべきである。
また、被告らは、本件条例の適法性の根拠として、東京高等裁判所昭五九年二月一五日判決(判例時報一一〇五号三七頁[甲88]及びその原審である東京地方裁判所昭和五七年五月三一日判決(判例時報一〇四三号七頁[甲89]を引用するが、これらの裁判例は、個人事業主の事業税の課税標準の算定について、いわゆるみなし法人課税に当たり、事業主報酬を必要経費として控除することを認めないことの違憲性が争われた事案に関するものであり、上記原審判決は、事業税の物税たる性質から事業主報酬は当然に必要経費に算入されるべきである旨の同事件原告らの主張に対し、事業税の課税客体が事業であり講学上の物税に属すること及び課税根拠が応益性の原則に求められる旨の同事件原告の主張を認めた上で、このことから直ちに事業税の課税標準算定に当たり事業主報酬が控除されなければならないことを意味するものではない旨判示したところ、これは、応益原則から一定の結論を導き出しているものではない上、同判決がさらに「事業税の性格及び課税根拠からは、事業税の課税標準は、事業が受ける行政サービス等の受益量をより正確に反映するもの、例えば、収入金額、資本金額、従業員数あるいは付加価値等の外形基準によることが合理的とも考えられるのである。」と説示する部分は、当該事案の結論を導く上で必要な部分ではなく、その後の事業税の沿革及び現行法が種々の見地から個人事業に対しては所得を課税標準とした経緯に触れていることからして、むしろ、個人事業について一切外形標準課税を認めない現行法を前提として、現行法の解釈論を越えた一つの立法論の可能性を述べるにすぎないものと解される。さらに、上記控訴審判決においては、応益原則については直接触れることなく、事業税が物税であるとする点についても、「講学上のいわゆる人税、物税の種類区分は必ずしも明確ではない」とも説示しており、なおさら、現行の事業税が応益原則のみに基づくものであることを認めたものとはいえないのであって、これらの判決の説示をもって被告らの主張を根拠づけることはできない。
さらに、被告らは、仮に地方税法七二条の一二が応能主義に基づく規定であるとすると、外形基準を用いる同法七二条の一九自体が全く不要とならざるを得ず、同法自体が自己矛盾を来すこととなると主張する。しかし、法定の例外四業種と同様に応能原則の観点からも例外的な取扱いをすべき「事業の情況」にあると認められる事業が特定の都道府県にのみ存在するときには、応能原則を採りつつ同法七二条の一九を適用して外形標準課税を行うことができるのであり、同条は、適用される機会は少ないものと予想されるとはいえ、このような事態を想定した規定ということができるのであるから、地方税法自体が自己矛盾を来しているとはいえない。
(4)  地方税法七二条の一九の解釈
ア 以上の観点から、地方税法七二条の一九の規定をみてみると、法人については、原則として法人税法の課税標準である所得の計算の例によって算出した所得を課税標準としつつ、例外四業種についてこのような所得を課税標準としていない理由は次のとおりと考えられる。
まず、電気供給業及びガス供給業については、同法七二条の一四第四項等によって定まる収入金額を事業税の課税標準としているが、これらの事業はいわゆる公益事業であり、料金について認可制が採られ、低く抑えられているため、所得もまた本来あるべき額より低くなっており、これを課税標準としたのでは、事業規模に比較して事業税の負担が少なくなりすぎる一方で、これらの事業の認可料金の中には事業税が含められており、かつこれらの事業は地域的独占事業であるため、これらの法人は、事業税の負担を確実に消費者に転嫁することができる構造となっており、所得の多寡によらずして担税力が確保されているものということができるため、経費の多寡による担税力の変動を考慮する必要がないことから、収入から経費を控除して所得を算出することなく、収入を基本的にそのまま課税標準としたものということができ、したがって、応能原則に基づいて担税力に応じた課税をし得るか否かを検討し、当該事業独自の構造的な情況により所得が担税力を適切に表さないことから、所得に代わって収入を課税標準としているものということができる。
次に、生命保険業及び損害保険業については、地方税法七二条の一四第五項及び六項によって定まる収入金額を事業税の課税標準としているが、これらの事業を行う法人は莫大な資金を投資して利益を上げるものの、その資金は基本的に保険加入者の保険料に由来するものであり、保険料納付者の期待に応えることにより事業が成り立っている面があるため、これらの事業の利益の大部分を配当に回さざるを得ない構造となっている。そのため、税法上の保険事業の所得計算においては、第一に、法人税法上の法人の利益においては、受取配当等が益金に算入されず(同法二三条)、第二に、契約者配当に関して特別な定めが置かれ、法人税法六〇条では、契約者配当が、基本的に保険料の払い戻しであるとの考え方から、「保険業法(平成七年法律第一〇五号)に規定する保険会社が各事業年度において保険契約に基づき保険契約者に対して分配する金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する。」と規定して、配当の支払額を原則として損金の額に算入するという通常の法人とは異なる取扱いを容認している。その結果、これらの事業においては、法人税法の例によって算定した所得は、会計学上の一般通念としての所得とは大きく異なるものとなっており、その結果、これを指標とすることが事業規模や利益の大きさから想定される担税力を十分に表すことのできない構造となっているために、損金の控除を考慮しない収入を課税標準としているものと解することができる。
イ すなわち、これらの例外四業種について、その課税標準を定めるに当たっては、応能原則に基づいて所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを検討し、当該事業の収益構造等の事業自体の客観的性格又は法律上特別の制度があることによって、所得を課税標準としたのでは適切な担税力の把握ができない場合に、外形標準を用いることとしたものということができる。
地方税法七二条の一九のこのような規定の仕方は、前記の租税の本質ともいうべき性格と、事業税の立法の変遷における現行法の位置付けを踏まえて立法されたものというべきであり、前記のように事業税の理想としての応益原則を課税を正当化する一つの要素として念頭に置きつつも、現実に存在している事業税は、例外四業種に対する外形標準課税の部分を含めて、すべからく応能原則を大原則とし、例外四業種以外の業種については、応能原則そのままに所得課税がされ、例外四業種についても、所得を課税標準とするものではないが、適正な担税力の指標として所得が十分に機能しないために所得に代わる担税力の指標として収入を課税標準とするものとして立法されたものと解すべきである。したがって、被告らが事業税は応益課税の考え方に立脚するものであるとして縷々主張する点並びにこれに沿う三木義一教授の意見書(乙3の63、乙3の83)及び占部裕典教授の意見書(乙3の85)は、一つの財政学的見地からの法人事業税のあるべき姿を立法論としていうものとしては理解でき、また傾聴に値すべきものとも思われるが、現行の事業税に関する規定においては、法人事業税を応益課税として純化させて課税標準等に関する関係諸規定をこれにふさわしいものとすることはいまだされていないものというほかなく、そのため、現行の地方税法の規定自体は、憲法一四条に根拠づけられた税の本質に関する大原則の一つである応能課税から脱却しておらず、その結果、条例による法人事業税の課税のあり方にも制約がされているものと解さざるを得ないのであって、この点に関する被告らの主張は、現行の地方税法七二条の一九の解釈としては採用できない。
ウ 以上の考察からすれば、地方税法七二条の一九は、例外四業種以外の事業について「事業の情況に応じ」て外形標準を用いることとする場合にも、応能原則に基づく課税であることを当然の前提としているものというべきである。具体的には、応能原則に基づいて、所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを第一に検討し、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合には、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合には外形標準課税をすることは許されず、例外四業種の場合と同様に当該事業の収益構造等の事業自体の客観的性格又は法律上の特別の制度の存在などから法人税法の例によって算定した所得が当該事業の担税力を適切に反映しない場合に、初めて外形標準を用いることができるというべきである。すなわち、ここでいう「事業の情況」とは、当該事業の収益構造や法律上の特別の制度の存在など当該事業が順調に行われていてもなお所得が担税力を適切に反映しないといった事業自体の客観的情況を意味するのであって、その時々の景気状況や経営の巧拙に基づく業績状況といった事業自体の客観的性質に基づかない事態は含まれないものと解するのが相当である。
この観点からすれば、地方税法七二条の二二第九項が、いわゆる均衡要件として、同法七二の一九によって外形標準を用いて事業税を課する場合における税率が、所得及び清算所得を課税標準とする場合における負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならないことを定めているのは、事業税は応能原則に基づいて所得を課税標準として課されるべきものであるから、たとえ例外的に所得ではなく外形標準を用いる場合であっても、原則である所得を課税標準とする場合の税負担と均衡を失することのないようにしなければならないことを規定したものと解される。
エ 甲第99号証において森信茂樹教授が、地方税法七二条の一九により外形標準課税をすることができるのは、所得基準では恒常的に税収が上がらないという点について制度的な特別の理由のある場合に限って、限定的に課税標準を変えることを容認したものであり、①所得計算を行うに当たって「法律による特別の規定」があること、②その結果、所得基準では事業規模に比較して「税負担が少なくなりすぎること」という二つの基準が備わった場合というように、極めて限定的に解釈されるべきであるとしていることや、甲第186号証において中里実教授が、同規定の「事業の情況」とは「事業自体の客観的性質および特別の法制度上の理由による事業税負担の恒常的な過少性が存在する情況」を意味するものと解されるべきであるとしているのも、上記の説示と同趣旨をいうものと解される。
また、甲第85号証において、碓井光明教授が、地方税法七二条の一九の外形標準課税の存在意義は、「外部から把握することの容易な課税標準による課税」ということにあり、所得課税の理念を基礎において、所得を直接には把握しないものの簡易な外形的課税標準を用いて所得に間接的に接近するのと同じ結果をもたらす趣旨のみにおいて許容されていると理解すべきであって、所得課税における一種の推計課税と同じ結果を、「外形課税」の形式で実現する制度であると解し、したがって、地方税法七二条の一九は所得を直接に把握することを要請する同法七二条の一二の例外規定である以上、当該規定は限定的に解釈されるべきであって、具体的には、外形課税は、①外形課税によらねばならない必要性と、②当該外形課税の合理性がなければ許容されず、いわゆる推計課税において、「推計の必要性」と「推計の合理性」が要件と解されているのとパラレルに考えることができるとして、外形標準課税によらなければならない必要性を厳格に求めるのも、アプローチは異なるものの、その趣旨においては上記の説示と軌を一にするものと解される。
(5)  本件外形標準課税への当てはめ
ア 以上を前提に、本件外形標準課税が地方税法七二条の一九の要件を充たすものか否かを検討すると、まず、上記(4)ウに説示したとおり、当該事業につき所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを第一に検討すべきところ、銀行業等については、所得を課税標準とした場合に事業の性質や法令上の制度の存在により適切な担税力の把握ができないことは何らうかがわれない。
被告らは、銀行業においてはバブル期よりも大きな業務粗利益を上げていながら法人事業税をほとんど負担していない事態を「事業の情況」としているが、このような事態は、バブル崩壊という一時的な景気状況を直接のきっかけとして生じたものにすぎないし、原告らの中にも一部法人事業税を納めている銀行があることからもうかがえるように、個々の銀行のそれまでの業績の推移や経営者の手腕といった主観的事情によって左右されるものであって、銀行業自体が有する客観的情況とは到底いい難いものである。
また、銀行業等の場合、貸倒れは必然的に伴うものであるから、貸倒損失分のリスクを見込んで貸出金利を高く設定することにより、客観的な事業の性格ないし構造として、事業存続のために十分な利益(所得)が得られようになっているものと認められ、貸倒損失を控除した所得こそがその担税力を示すものであって、この点では他の一般事業会社と異なるものではない(甲177、甲186[中里実教授・鑑定意見書])。しかも、銀行業等については、一般には統一的な経理基準により適正な記帳がされ監査等も実施されているのであるから、所得を捕捉するのに困難があるとか、所得が適正に算出されていないとはいえないことも明らかである。
したがって、銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものであり、原則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合に外形標準課税をすることは許されないものというほかなく、銀行業等については、地方税法七二条の一九が外形標準課税を許す「事業の情況」があるものとは認められないのであって、本件条例は、同規定に反して違法であり、無効なものといわざるを得ない。
イ なお、被告らは、本件外形標準課税の選択につき課税自主権に基づく裁量権を有する旨を主張する。しかし、憲法九四条は、「地方公共団体は、……(中略)……法律の範囲内で条例を制定することができる。」と規定し、地方税法二条は、「地方団体は、この法律の定めるところによって、地方税を賦課徴収することができる。」旨定めていて、地方公共団体は法律の定める範囲内でのみ自主課税権を行使できるにすぎない。そして、地方税法七二条の一九の解釈においては、前記(4)ウに説示したとおり、例外四業種以外の事業について外形標準を用いることとする場合には、当該事業につき所得を課税標準とすることにより適切な担税力の把握ができるか否かを第一に検討し、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合には原則どおり所得を課税標準とすべきであって、この場合に外形標準課税をすることは許されず、所得が当該事業の担税力を適切に反映するものである場合になお外形標準により事業税を課税する裁量は一切認められていないものというほかなく、上記アのとおり、銀行業等については、所得が当該事業の担税力を適切に反映すると認められるのであるから、銀行業等に対して外形標準課税を行うことを許す裁量権は認められていないといわざるを得ない。したがって、この点に関する被告らの主張は理由がない。
(6)  結論
よって、本件条例は、本来は外形標準を課税標準として事業税を課することのできる場合ではないのに、地方税法七二条の一九に反して、外形標準を用いて銀行業等に対し事業税を課することを定めた条例であり、憲法違反の主張等原告らのその余の主張について判断するまでもなく、違法なものであり、無効であるというほかない。
なお、条例は、行政処分と異なり、公定力を有するものではなく、しかも、本件のように、地方公共団体に与えられた権限を越えて、実体法規に違反した内容の条例を制定した場合には、そもそも公共団体の有する条例制定権を越えて違法に条例を制定したものといわざるを得ないから、このような場合には、当該条例がいかに適式な手続を経て制定されたものであっても、取消訴訟により取り消されるまでもなく、そもそも無効であるというほかない。
3  争点3(本件通知処分の有効性等)及び争点4(本件通知処分の取消事由の有無等)について
(1)  更正の請求に対する拒否処分が無効となる場合について
本件通知処分は、更正の請求に対する拒否処分として課税処分の一つであるというべきところ、課税処分に課税要件の根幹に関する内容上の過誤が存し、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、被課税者に同処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合には、その過誤が明白なものか否かにかかわらず、当該処分は当然無効と解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年四月二六日第一小法廷判決・民集二七巻三号六二九頁参照)。
(2)  本件通知処分の効力について
本件通知処分は、本件条例が有効であることを前提として同条例に基づいてされたものであるところ、本件条例が無効であることは前記2で判示のとおりであり、租税法律主義にかんがみれば、課税処分においてその根拠となる法令が無効であることは、当該課税処分につきこの上ない極めて重大な瑕疵があるというべきであって、本件通知処分には、課税要件の正に根幹に関する内容上の過誤が存するというほかない。そして、一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないことからすれば、本件通知処分については、上記瑕疵の重大性に照らし、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請をしん酌してもなお、被課税者に同処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的事情のある場合に当たるものというべきである。
よって、本件通知処分はその瑕疵が明白なものか否かにかかわらず無効であるというほかない。
(3) 誤納金返還請求について
そうすると、各当初原告の別紙3(a)欄記載の各既納税額は、無効な本件条例に基づいて算出され、納付されたものであり、これを是認した本件通知処分はそもそも無効であって公定力は生じていないから、同処分を取り消すまでもなく、平成一二事業年度に係る旧基準税額と既納税額との差額は各当初原告にとっては損失であり、被告東京都にとっては法律上の原因を欠いた利得であるから、各当初原告は、同差額を誤納金としてその還付を請求することができるというべきである。そして、前記前提事実(6)イのとおり、各当初原告の平成一二事業年度に係る旧基準税額は別紙3(a)欄記載の「旧基準税額」であると認められ、各原告につき、別紙3(a)欄記載の各既納税額のうち、別紙3(b)欄記載の「旧基準税額」を超過する各金額はそれぞれ誤納金に当たり、その額は、別紙3(c)欄にそれぞれ記載したとおりとなる(これはそれぞれ別紙2(a)欄に記載したものと同じである。)から、原告らは、同誤納金の還付及びこれに対する還付加算金の支払を求めることができるものと認められる。
(4)  還付加算金請求の認められる範囲について
もっとも、原告らの誤納金還付請求に対する附帯請求である還付加算金の請求については、地方税法附則三条の二第三項及び同条一項に規定する特例基準割合が、平成一三年中は年4.5パーセントであったが、平成一四年中は年4.1パーセントとなったことが認められるため(乙6の20)、還付加算金の割合は、平成一三年中の期間については年4.5パーセント、平成一四年中の期間については年4.1パーセントとなる。したがって、原告らへの誤納金還付額に対する遅延損害金の請求のうち、平成一四年一月一日から支払済みまでの分の還付加算金の支払を求める部分は年4.1パーセントの割合により同支払を求める部分に限り理由があり、その余の還付加算金の請求には理由がない。
(5)  争点4について
以上のとおり、本件通知処分については、上記(2)のとおり無効であると判断すべきところ、請求6は、争点3について本件通知処分が無効でないとした場合の予備的請求であるであるから、本件通知処分を無効と判断する以上、請求6については判断する必要がなく、同請求に係る争点4については判断をしない。
4  争点5(被告東京都の責任原因)について
(1)  本件条例制定に至る事実経過
当事者間に争いのない事実、次の判文中に掲記の各証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。
ア 平成一一年夏ないし秋頃、被告東京都知事及び極く少数の被告東京都の職員が秘密裏に東京都の独自の銀行税構想を検討し始めた(争いがない)。
イ 同年一一月以降複数回、全国銀行協会に対して匿名の投書が送付されてきた。それらの投書は、東京都が銀行業のみを対象とする新税導入の準備を進めている事実を告げ、「情報は一切公開する予定はなく、とにかく銀行業界に検討の余地や反論の時間を与えないようにする極めて非民主主義的な手法が採られようとしている」、「あくまでも極秘裏に作業が進められている。来年二月の都議会定例会に条例案が提出されるが、その公表は直前を予定しており、中身を十分明らかにすることなく可決成立させることを意図している。」、「タイムリミットはおそらく年内いっぱいと思われる。」と、警告を発する内容であった(甲16ないし18、192の各1及び2)。
ウ 上記各投書の送付を受けた全国銀行協会は、同月下旬、銀行に対する新税導入構想につき地方税を所管する自治省を訪問し、一地方団体による外形標準課税導入の可否について確認したところ、自治省は、「今日の経済取引は、都道府県にまたがって行われており、外形標準課税を一つの地方公共団体が導入するのは事実上困難である。」、「仮にどこかの都道府県で外形標準課税の導入構想があるのであれば、自治省にも当然話があるはずであるが、現段階では、そういう話は全く聞いていない。」との回答であった(甲191)。
エ 平成一二年一月初め、自治省が被告東京都の主税局税制課に銀行新税構想の有無を電話で問い合わせたところ、被告東京都の税制課は全面的にその構想を否定した(争いがない)。
オ 全国銀行協会は、同月一七日、被告東京都の主税局を訪問して税制部長らと面談し、前記イの各投書を見せて銀行業だけを対象とする新税構想の有無を問い質した。これに対し、税制部長は、「そのような構想は検討していない。仮に外形基準を採用するとなれば条例を作らなければできない。」「この種の案件は、公開の場において議論していくものであり、いきなり明日から導入ということは全くあり得ない。」との回答を行い、銀行業に賦課する新税構想を全面的に否定した(争いがない)。
カ ところが、被告東京都知事は、同年二月七日、臨時記者会見を開き、法人事業税について、大手金融機関を対象とする外形標準課税を導入する方針を発表した。その際、被告東京都知事は、「事前に情報が漏れると、キーキーいう人もでるだろうし、銀行の反発もあるだろうから」、「実はここにいる柿沼局長も知らずにやってきたことです。」、「今日まで全くその秘密裏にことを行ってきました。」との趣旨の発言をし、さらに、この日の発表につき「いってみりゃ、ヘッドスライディングのホームスチールみたいなもんだな。」と発言した。極秘裏に外形標準課税の準備を進めたことに関し、被告東京都知事は、同年三月二二日の都議会において「途中で雑音が入らずに済みましたから。入りかかったことはありましたけれどもね。」、「決して密室だけでものをするつもりはございません。だからこそ、今度も事前に議会筋にもお話ししましたし、参考人も呼んでいただいて、開かれた形で議論したじゃないですか。」と答弁した(都議会での発言につき、乙5の6[一一頁])。
なお、被告東京都の主税局税制部長は、同年二月七日、全国銀行協会に電話をし、銀行業等に対して賦課する外形標準課税導入構想を事前に知っていたこと、及びこの構想を他言しないよう止められていたことを認めた。この電話の後、被告東京都は、全国銀行協会に対し、「銀行業等に対する外形標準課税の導入について」と題する本件条例案の簡潔な資料(乙4の2)を送付した(争いがない)。
キ 全国銀行協会会長は、同日、被告らの外形標準課税導入の方針発表は極めて唐突であり絶対反対であるとのコメントを出した(争いがない)。
また、同月八日、本件条例の構想につき、経団連は、「唐突であり、容認できない」とのコメントを発表し(甲21の3)、越智通雄金融再生委員長は、「課税の公平性の観点から問題がある。業務粗利益に三パーセントの税率で課税するのは極めて過重な負担で、資本注入している銀行の返済能力にも著しい影響を与える。金融行政当局としては到底容認できない。東京を中心に営業する銀行だけを目標にすることは、他の道府県の金融業への課税とのバランスを欠く。」旨を述べ、堺屋太一経済企画庁長官は、「いわば企業の人頭税のようなもので非常に慎重な取扱いが必要だ。」と指摘し、保利耕輔自治大臣は、「都が財政上苦しくなっていることは理解しないといけないが、税の導入はよくよく考えてやらないと後々問題も出てくると述べ、その他、宮沢喜一大蔵大臣、深谷隆司通産大臣、青木幹雄官房長官も、負担の公平や税の中立性、金融システムの安定など、慎重に検討すべきだとの見解を明らかにした旨の新聞報道がされた(甲21の1及び2)。さらに、その直後から、高木勝・明治大学教授(甲19)、深尾光洋・慶応大学教授(甲23)、石弘光・一橋大学学長(甲22)、加藤寛・千葉商科大学学長(政府税制調査会会長)、宮脇淳・北海道大学教授、本間正明・大阪大学副学長(甲24)、林宜嗣・関西学院大学教授(甲25)、水野忠恒・一橋大学教授(甲26)らの学者のほか、他府県知事、経済界等からも、本件条例の及ぼす悪影響や、銀行だけに課税することの不合理性が唱えられている旨の報道がされた(甲21の1ないし3、22ないし26、27の1、28、29)。同月一四日には、小渕恵三内閣総理大臣が、衆議院予算委員会で、「地方税法では条例に基づいて外形標準課税を実施する場合、所得による課税の負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならないと規定しており、この点について慎重な検討がなされる必要がある」旨答弁した(甲30)。
ク 被告東京都の主税局職員は、同月九日、同主税局を訪れた全国銀行協会企画部長ほか二名に対し、本件条例案の内容を説明し、同月一六日、本件条例案を全国銀行協会に送付し、同月二八日にも、本件条例案に関する資料を同協会に送付した(争いがない)。
ケ 前記カの構想発表から一週間後の同月一四日、本件条例案に対し、都議会の主流派である自民・公明両党が議員総会で賛成を決定し、民主・共産両党も賛成の意向を示し、三月三〇日の本会議では圧倒的多数の賛成で本件条例案が成立することが確実となった(甲30、31)。
コ 日本銀行総裁は、同年二月一五日、記者会見において、被告らの外形標準課税構想の発表直後から銀行株が急落した事実を指摘した上、「金融システムの破綻の瀬戸際で、リストラを実行し大規模な構造改革に取り組む金融機関の経営に対し、被告東京都の外形課税導入は悪影響を与えかねない」との重大な懸念を示した(甲33、34)。また、自治省は、被告東京都との間で局長級協議を開き再考を促したが、被告東京都側は外形標準課税導入を強調し翻意の余地を示さなかった(争いがない)。
サ 同月一六日、都議会会議運営委員会に本件条例案が提示された(争いがない)。
シ 被告東京都知事は、同月一八日、本件条例の問題性を主張する保利耕輔自治大臣との会談に関し、被告東京都知事は、記者会見で「話し合う余地はないし、小骨一本抜かない。」、「会うというなら会うが、結果として(保利大臣を)傷つけたくない。」と発言し、本件条例案を見直す意思が全くないことを強調した(争いがない)。
ス 保利自治大臣は、同月二一日、被告東京都知事と会談し、大手銀行に対象を絞った新税案は不公平であり、所得による課税に比して著しく不均衡であるなどの懸念を伝えたが、その際、納税者となる銀行側への説明が不十分であり、極めて唐突である旨を伝えた。しかし、被告都知事は再考要請を拒否した(争いがない)。
セ 全国銀行協会は、被告東京都の外形標準課税導入構想の発表直後から、導入反対を唱えてきたところ、被告東京都は、同日に至って、ようやく全国銀行協会に対する意見交換会を開催した。しかし、全国銀行協会がそれまで出席を求めてきた本件条例の責任者の一人である被告東京都の主税局長は意見交換会に出席しなかった。原告らは、本件条例案作成前の段階で新たな納税義務者となる原告らに議論の余地を与えなかった被告らの態度を厳しく批判した。その後も、全国銀行協会は、被告東京都に対し、同主税局長を交えた意見交換会を再三にわたって申し入れたが、被告東京都はこれを拒否した(争いがない)。
ソ 政府は、同月二二日、本件条例に対する統一見解を閣議口頭了解として発表し、被告東京都に対し、本件条例案の問題点が次のとおりの問題を孕むものであるとして慎重な対応を求めた(甲10)。
(ア) 銀行業という特定の業種のみに対して外形標準課税を新たに導入すること、資金量五兆円以上の銀行業等に対象を限定することに合理的理由があるか疑問がある。
(イ) 地方税法七二条の一九により外形標準課税を導入する場合には所得等を課税標準とする場合の「負担と著しく均衡を失することのないようにしなければならない」(地方税法七二条の二二第九項)とされており、この規定との関係において、本件条例案には疑問がある。
(ウ) 法人事業税の税額は、法人税の課税所得の計算上損金の額に算入される(法人税法二二条三項)こと等から、本件条例案によれば、実際上、今後、被告東京都以外の地方団体の法人関係税及び地方団体全体の地方交付税原資が減少することになる。
(エ) これまで、政府税制調査会を中心に、四七都道府県全てにおいて幅広い業種を対象に薄く広く負担を求める外形標準課税を導入することを検討している中で、被告東京都だけが独自に銀行業等という特定の業種について業務粗利益を課税標準として導入することが妥当か疑問がある。
(オ) 日本経済の状況を考えると、金融システムの安定を確保することが喫緊の政策課題である。このため、金融機関の健全性強化のための自助努力に加えて、国としても公的資金を用い、最大限の取組みを行っているところである。今回の本件条例案は、こうした金融安定化策と整合性を欠くものである。本件条例案が実施されることとなれば、銀行等の自己資本の減少とともに、不良債権処理の遅延、経営健全化計画の履行及び公的資金返済への支障、金融再編への悪影響、金融機関間における競争条件の不均衡といった問題が生ずることが懸念される。また、世界の金融センターを目指す東京金融市場に対する予見可能性、信頼性について、国際的な疑念を招くおそれがある。
タ 被告東京都知事は、同月二三日開会の東京都議会第一回定例会に本件条例の議案(第二〇六号議案)を提出し、同議案は、同月二九日から同年三月二日までの間、東京都議会本会議で審議された(争いがない)。
チ 政府税制調査会は、同月二五日、被告東京都が本件外形標準課税導入方針を発表したことを受けて、急遽、地方法人課税小委員会を開催した。同委員会は、大手金融機関に対象を絞ったことなど、本件条例には問題が多いとの認識で一致し、「一年ぐらいは納税者に議論を投げかけ、意見を聞くべきだ」など、被告東京都の手続が性急だったことを批判する発言が相次いだ(甲40)。
ツ 同月二九日には、同調査会の総会において、本件条例の性急な条例制定手続に批判が集中した。この総会では、被告らが唐突に銀行向けの課税を発表したことは危険な大衆迎合主義である、などと厳しい批判が続出した(甲41)。
被告東京都知事は、同日の東京都議会本会議での質問に答えて、本件条例につき、「銀行に対してなぜ外形標準課税を行うかという理由でありますが、これは、銀行業は十分な収益を得、既に二千億円を超える配当も行っておるにもかかわらず、不良債権処理の結果、都道府県の行政サービスの対価としての事業税をほとんど負担しておらず、また、そうした状況が今後急に好転することは見込まれないこと。そして、銀行業の税収は、バブル期には二千二百億円、現在は百億円程度と、極めて乱高下した不安定なものでありまして、応益課税としての事業税の機能を喪失していることなど、銀行特有の事業の状況を踏まえ、地方税法の規定に基づいて行うものであります。」などと述べた。
また、翌三月一日の同本会議においては、被告東京都の主税局長が、本件条例において課税標準を業務粗利益としたことについて、「業務粗利益は銀行の基本的業務をすべてカバーした指標でありまして、一般企業でいえば、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益に相当いたします。銀行の事業活動の規模を適格に反映した客観的な基準であるとともに、銀行の収益力に裏づけられた担税力も一定程度反映をされております。」と述べた。
テ 東京都議会予算特別委員会において、同年三月一三日、当時の杉田力之全国銀行協会会長、神野直彦東京大学教授及び糸瀬茂宮城大学教授が参考人として本件条例案について意見陳述を行い、同月一三日から同月一六日までの間及び同月二七日、本件条例案は同特別委員会で審議された(争いがない)。
この委員会で杉田会長は、本件条例案と地方税法七二条の一九との関係につき、「地方税法七二条の一九では、事業の状況に応じ、課税標準の特例を設けることができるとなっております。皆様ご承知のとおり、電気、ガス、生保、損保の四業種に対しては、四〇年以上の長きにわたり、収入金額が課税標準になっております。この理由は、電気、ガスについては、料金が認可制で低く抑えられていること、また、生保、損保については、所得の計算上、益金不算入とされる配当が、利益のうちの大きなウエートを占めていること、及び契約者への配当が、事業税の課税標準の計算上、損金の額に算入されること、こうしたことから、所得を課税標準とした場合、事業規模に比較して事業税が少なくなりすぎてしまうためとされております。銀行業には、このような四業種にある事情は存在しておりません。ここでさらに重要な点は、この四業種は、そういった制度上、収益構造上の事業特性から、こうした課税標準を適用することが望ましいとの判断のもと、地方税法において明確に規定されているということであります。したがいまして、これらの業種以外の法人に対して課税標準を変更するに当たっては、特例があるから何でもできるということではなく、誰から見ても納得できる、制度上、収益構造上の合理的な理由が必要なのではないかと強く思うわけでございます。果たして、都の掲げる事由は、この特例を適用するに足るものでありましょうか。都の説明によれば、銀行は、税収動向が不安定であることや、繰越欠損金控除により今後も税収が見込めないこと等が銀行特有の事業の状況であるとしております。……(中略)……しかしながら、税収動向が不安定なのは、所得を課税標準とする現在の法人事業税そのものの特徴であり、銀行という事業に限った特徴ではございません。大手銀行と同程度に、所得、すなわち税収が変動している業種は、他に幾つも存在しているのであります。都が説明するような収益の変動とは、事業の状況ではなく、むしろ経済の状況というべきものであります。これをもって事業の状況と解するのは、まさに恣意的といわざるを得ないのであります。」と指摘し(乙5の4、八頁)、神野教授は、本件条例案に賛成しながらも、立案の過程について「あえて苦言を申し上げれば、このプランが作成されてくる過程でもって、課税される銀行業の方々の声に十分に耳を傾けられてきたでしょうか。そして、何よりも、決定するのは東京都民ですから、東京都民に、またその東京都民の代表者である皆様方に、決定のプロセスがオープンにされていたでしょうか。決定さえよければ、つまり、結果さえよければそれでいいというわけにはいかないだろうと思います。必ず決め方のプロセスというのは結果に含まれます。」と指摘した(乙5の4、一〇頁)。
また、同月一四日の委員会においては、大塚主税局長が、所得課税は基本的には応能原則によるものであるから、地方税法は、事業税につき、応能課税である所得課税を使って、しかも応益課税であるとの擬制をしているとの見解を示し、銀行の業務粗利益が一般企業の売上総利益に当たるとの説明をくり返した(乙5の5、三五頁)。
ト 同月二二日には、被告東京都知事が出席した東京都議会財政委員会において、本件条例案について集中審議が行われ、同委員会は、同月二三日、本件条例案につき採決をし、委員全員の賛成で可決した(争いがない)。
ナ 同月三〇日、都議会議員全九会派中、一会派(一名)を除く、八会派(一二三名)賛成という圧倒的多数の賛成をもって、本件条例は可決成立した(争いがない)。
(2)  被告東京都の本件条例制定行為の違法性
被告東京都知事、被告東京都の主税局長以下本件条例の制定に携わった同主税局職員、東京都議会を構成する東京都議会議員は、本件条例の内容が、前記2のとおり、地方税法七二条の一九に反するにもかかわらず、それぞれ、本件条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会への提出行為、当該議案の議決行為及び本件条例の公布行為を行ったのであり、これらの行為は、地方公共団体の職員として違法な条例の制定により他人の財産権を侵害してはならない義務があるにも関わらず、これに違反して客観的に違法な内容の本件条例の制定に向けた一連の行為をしたものというべきであって、その結果、後記5のとおり、原告らに損害を与えたものと認められるのであるから、これらの行為が、国家賠償法一条一項にいう違法性を有することは明らかである。
本件条例制定の目的が税負担の公平性の確保及び都の安定的な税収の確保にあり、多数決による議会の議決を経て制定されたものであるとしても、その立案過程には、条例に賛成する神野教授ですら指摘するように、課税される納税者の意見を十分に聴かず、都議会議員にも立案過程を明らかにせずにされたという問題があるし、後記認定のとおり、条例案自体が十分な調査検討に基づくものではなく、被告東京都知事をはじめとする提案者側の説明にも誤りや不適切な点が多々存在していた点で大いに問題がある上、そもそも地方自治体の条例制定権は、憲法九四条の定めるとおり「法律の範囲内で」与えられたものであり、地方税法においても、同法「の定めるところによって、地方税を賦課徴収することができる。」(同法二条)と規定されている以上、同法に違反する条例を制定する裁量権がないことは明らかであるから、地方自治体の制定する条例が同法に違反する限り、国家賠償法上も当該条例制定の目的のいかんや議会の議決によってこれを正当化することはできないといわざるを得ない。
(3)  被告東京都知事ほかの故意・過失
ア 本件条例は、地方税法七二条の一九に基づくものであるが、法的素養を有する者が同条とその引用する同法七二条の一二とを併せ読めば、同法七二条の一九にいう「事業の情況」とは、日常用語的な意味ではなく、例外四業種について例外的取扱いをする根拠となった事情に準ずるようなものに限定されるのではないかとの疑義を抱くのが通常であると考えられる。そして、この「事業の情況」についての解釈を行う法律家としては、そのような疑義が生じた以上、上記両条を中心とする事業税の立法の沿革に遡って調査を遂げ、その調査結果を踏まえ、両条の立法趣旨を理解した上でなければ、上記「事業の情況」の意義を確定し得ないとの態度を取るのが、専門家として採るべき途であると考えられる。
このような観点からすると、法律の専門家ではない被告東京都知事や都議会議員はともかくとして、都税に関する条例制定に関する事務を所管し、これらの者に的確な情報を提供すべき立場にある東京都主税局の担当者らは、その所管する地方税に関する法令の専門家として、上記のような調査を遂げて正確な情報を被告東京都知事及び都議会に提供すべき義務を有していたものと考えられる。
しかし、本件全証拠によっても、このような調査に基づいて条例制定の可否が論じられた形跡はなく、本件における被告ら提出の証拠にも、前記両条制定時の国会議事録が含まれていないことからすると、これらの調査が全く行われなかったか、行われたとしてもきわめて不十分なものにとどまったと認めざるを得ず、東京都主税局の担当者らには、この点において、十分な調査をせず被告東京都知事らに的確な情報を伝えなかったことにつき、過失があったといわざるを得ない。
イ  特に、東京都主税局長は、都議会において、現行の事業税につき、所得課税という応能原則による課税が行われていることを認識しながら、あくまでこれが応益原則に基づくものと強弁し、かつ、銀行の業務粗利益が一般事業会社の売上総利益に相当するとの誤った説明を行い、都議会議員らの判断を誤らせるに至ったのであるから、これらについての過失が問われなければならない。すなわち、現に行われている事業税の課税が応能主義によっていることを認識している以上、上記アの疑問と相まって、本件条例のような課税が可能か否かには強い疑問を抱くべきであるにもかかわらず、法の明文に規定されていない応益原則によって本件条例が正当化されると考え、都議会においてもそのような説明をしたことは、所管局の責任者としては、ほとんど重過失に近い過失があったといわざるを得ない。
また、銀行の業務粗利益が一般事業会社の売上総利益に相当するものでないことは、本件において被告らも認めているところであり、それは、前者が貸倒損失を控除していない点にある。すなわち、銀行業の中心を占める貸金業においては資金の供給者から銀行が資金を調達して、資金の需要者に貸し付けるのであるが、一般事業会社における売上に相当するのは需要者から回収する貸付元本とその利息、仕入に相当するのは借受元本とその利息ということになり、双方の元本額は等しいから、貸倒れが全くないと仮定すると、貸付利息から借受利息を控除した業務粗利益が売上総利益に相当することとなるが、貸金業には貸倒れが必然的に発生するものであるから(これは、製造業において仕入れた原料のすべてが製品として仕上げられるわけではなく、一定量の欠陥品や製作の失敗による無駄が生ずることと同じであり、それらの発生は売上高の減少となって売上総利益に反映しているのである。)、この額を控除しない業務粗利益は、売上総利益とは異なったものといわざるを得ないのである。そして、バブル崩壊後に不良債権が大量に発生した銀行業においては、この点こそが、日常用語的意味における事業の情況として、もっとも重視すべきことというべきである。このことからすると、仮に被告らの主張するように、「事業の情況」の意義を柔軟に解釈し、裁量の余地のあるものと解したとしても、このような重要な点を反映しない業務粗利益をもって課税標準としたことは、条例の立案に当たって、当然に考慮すべき事由を考慮しなかったに等しい点において、条例制定権に伴う裁量権の範囲を逸脱したものとの疑いも生じかねないものである。
以上のようなことは、会計や金融について専門的知識を有しない者でも通常の常識人であれば容易に想到し得るところであるから、その点につき誤った説明をした主税局長には、やはり重過失に近い過失があったというべきである。
ウ  被告東京都知事には、以上のような主税局長をはじめとする補助機関に対する適切な指揮監督をしなかった点に過失があるといわざるを得ない。
すなわち、上記(1)に認定した事実によれば、本件外形標準課税の構想が発表された直後から政府関係者が、同構想について適法性に疑問があることなどを理由として、本件条例の制定に対する反対意見や慎重論を述べ、税法学者をはじめとする決して少なくない数の法律学者等の有識者が、本件外形標準課税は憲法一四条及び地方税法に違反する旨や当初原告ら大手銀行に過重な負担を強いるものである旨の意見を公表し、その旨が新聞等で報道され、さらには、閣議口頭了解としての政府の統一見解において、本件条例案が地方税法上の問題点を含む複数の問題を孕むものであるとして慎重な対応を求め、自治大臣も、被告東京都知事に対して、本件条例案の再考を直接求めているし、都議会においても、全国銀行協会の杉田会長があるべき法解釈について適切な意見を述べているのである。これらの意見等を虚心坦懐に聴いたならば、法律や会計に専門的知識がなくても、前記ア及びイのように所管局職員が職務を怠っているのではないかとの疑問を抱き、ひいては、本件条例が法令に違反している可能性が高く、本件条例を制定した場合には違法に原告らの権利を侵害することとなることを十分に認識し得るのが通常であると考えられる。そうであるならば、被告東京都知事は、地方公共団体の執行機関として、地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負うのであるから(地方自治法一三八条の二)、所管局に再調査を指示するなどして本件条例案の適法性につき慎重な検討をすべきであったのに、これを怠り、政府・政府関係者や多数の法律学者等の見解をあえて無視し、同見解と異なる解釈を再考することなく、既に主流派により本件条例案に対する賛成が表明されていて、本件条例案の可決が確実視される状況において、本件条例の議案を都議会に提出し、可決された本件条例につき、地方自治法一七六条四項により法令に違反する議会の議決を再議に付すことなく本件条例を公布したのであるから、被告東京都知事には、補助機関の不十分な検討や誤った説明等を看過し、これに対する適切な指導監督をせず、違法な条例を成立させるに至らせたのであって、このような結果を招いたことに過失があったといわざるを得ない。
エ 被告東京都知事は、前記(1)ツのとおり、本件条例の制定理由の第一として、「銀行業が十分な収益を得、既に二千億円を超える配当も行っている」にもかかわらず、「事業税をほとんど負担して」いないとの指摘を行っている(被告らが本件第一回口頭弁論期日前に提出した証拠の中で、本件条例に関する唯一の法律専門家の見解を記載した乙第一号証の六において、事業の状況を判断する際に、「決定的なのは、所得がないとしながら一九九八年度で大手銀行が二六〇〇億円もの配当をしている事実であろう。」との記載があるのも、同様の指摘と思われる。)。これを素直に聞く限り、健全な常識を有する通常人ならば、銀行業においては、当該年度の業績として多額の配当を行うに足りる所得を得ながら、それをまず株主への配当に充て、残ったわずかな額のみを事業税として納付しているものと理解し、銀行業についての事業税の制度には何らかに欠陥があり、これを是正する必要があると考えるのも、無理からぬところである。健全な常識を有する通常人である都議会議員らの中にも、このように考えて本件条例の制定に賛成した者が多いと考えられる。
しかし、証拠(甲178)及び弁論の全趣旨によると、銀行各社が直近年度に行った配当のほとんどは、その原資を当該年度の利益とするものではなく、従前からの積立金を原資とするものであったことが認められるのである。これらの積立金は、過去の年度における税引後利益を全額配当にまわすことなく、将来業績が悪化した際にも安定的な配当が可能となるようにあらかじめ積み立てられたものであって、いわば既に税金を払い終わったものであるから、バブルの崩壊によりまさに過去に危惧した事態が発生した時期にこれを用いるのは当然のことである。仮に、銀行業に対して何らかの公的援助を行う場合には、このような配当の事実も援助の可否の決定に当たって考慮すべき事項であると考えられるが、これとは逆に新たな税負担を求める際には、このような事実は全く根拠にならないものというべきである。このこと自体は、被告らも、本件訴訟においては認めており、上記の配当の事実は、地方税法七二条の一九にいう「事業の情況」の判断に当たって考慮したものではなく、同条該当性があるとの前提の下に本件条例の制定に踏み切るか否かの判断に当たって考慮した事由にすぎないとしている。
そうすると、被告東京都知事が、このような配当原資についての説明をしないまま、本件条例の制定理由の第一に配当の事実に言及したのは極めて不適切であるばかりか、本来、制定の理由とはならない事項にあえて言及している点において、意図的なものがあるとみられてもやむを得ないところである。このような不適切な発言が本件条例に関する審議の冒頭においてされたことが、都議会議員らに銀行業について誤った認識を抱かせたことは否定できず、このことが都議会議員らの銀行業に対する意識に大きく寄与し、地方税法との整合性について慎重かつ専門的な検討を経ないまま、違法な条例の制定に至ったのであるから、被告東京都知事には、少なくともこのような重要な発言をするに当たってその内容を十分に吟味しなかったために、このような結果を招いたことに過失があったといわざるを得ない。この点において、被告東京都知事は、前記のように単に補助機関に対する指導監督上の責任があるのみならず、自己の不適切な発言についても責任を免れない。
オ 被告東京都は、本件条例による外形標準課税の導入につき適法性を唱える学者の意見や文献があった旨主張するが、そのような学者は、その数だけ見ても上記のとおり違法性を指摘する学者に比して圧倒的少数であり、被告らの上げる文献も何ら具体的な記述や論証により本件条例の適法性を根拠づけるに足りるものではない。
また、被告東京都は、全国知事会議の設置した「法人事業税外形課税実施問題研究会」が取りまとめた五二年外形課税実施案で、法改正によらず、条例により外形課税を実施することが可能とされ、本件条例のような外形標準課税の導入については実務上容認されていた旨主張する。しかしながら、同実施案は、「全都道府県が統一して実施すること」を前提として外形標準課税実施案の作成を検討したものであって(乙7の24[一二七頁②])、本件のように一地方団体のみが単独で外形標準課税を導入することを前提としたものではないし、同案においては、外形標準課税を導入するとしても、「主として製造業を行う法人に限定」しており(同証拠同頁)、「銀行業等」が外形標準課税の課税対象として適当であるとの報告ではない上、同実施案は、昭和五三年一月二〇日の協議の結果、「最近の異常とも見られる深刻な不況にかんがみ、実施の時期に配慮を加える必要がある」等の理由により、結局実施を延期されているのであって(同証拠一二八頁)、同実施案における検討を参照したとしても、本件外形標準課税が違法であると認識しなかったことを正当化できるものではない。
さらに、本件外形標準課税については、前記のとおり閣議口頭了解が発表されているところ、被告東京都は、同了解の表現が「疑問がある」といったものにとどまり、違法であるとの指摘はない旨主張するが、憲法において条例制定権や法律により一定範囲の自主課税権が認められている地方公共団体に対し、政府が閣議の了解との形式により統一見解を発表し、「合理的理由があるか疑問がある」等の指摘を行うからには、その「疑問」はかなり深刻な問題点を指摘するものと捉えるべきであって、しかも、前記(1)ソ(イ)のとおり、本件条例案につき地方税法の関係規定との関係において本件条例案には疑問があると指摘されており、この点は法律上の問題点の指摘にほかならず、全体として地方公共団体の有する憲法上の自治権に配慮して「疑問がある」といった表現を用いたからといって、同指摘が何ら違法性を指摘するものではないということは到底できない。
被告東京都の引用する、自治大臣による「直ちに違法とまでは言えない」との発言についても、同発言のあった同じ地方行政委員会において、保利大臣は、「解釈の問題として非常に難しい問題だなと思って、東京都には、こういう点はいかがなものでしょうかと申し上げた経過があります。」、「私は、実はこれは法律に合っているのか合っていないかの判断というのは、日本の三権分立の思想でいきますれば、司法の判断、裁判所の判断ということになるのだろうと思います。」とも答弁しており、同大臣の発言の一部を捉えて本件条例が適法であると認識したことを正当化することはできないといわざるを得ない(なお、前記閣議口頭了解及び自治大臣の発言は、いずれも本件条例と地方税法七二条の一九との関係には直接ふれていないが、これは、前記2(3)エのとおり、所管官庁である自治省が立法論としては事業税を応益原則に基づくものとすることが妥当と考えていることと無関係ではないと考えられるのであり、このこともまた同条の立法資料を検討すれば容易に看取できるところである。)。
結局のところ、被告東京都知事ほか本件条例の制定に関与した被告東京都の職員らが、真に上記のとおりむしろ少数といえる学者の意見等に全面的に依拠して本件条例の制定関連行為を行ったのであれば、そうした行為は著しく慎重さを欠くものといわざるを得ず、上記のとおり本件条例案につき種々問題が指摘されていた状況にかんがみれば、本件条例の違法性を認識しながらあえて本件条例の制定のための行為をしたものと評価することもやむを得ないというべきである。
カ 上記の被告東京都知事ほかの行為が、公権力の行使に当たり、その各職務を行うについてされたものであることは明らかであるから、被告東京都は、原告らに対し、国家賠償法一条一項に基づき、これら故意又は過失による行為に基づく違法な本件条例の制定により原告らが被った損害の賠償をすべき義務があるというべきである。
5  争点6(原告らの損害)について
(1)  繰延税金資産の減少について
ア 証拠(甲203の1ないし22)及び弁論の全趣旨によれば、当初原告らは、それぞれ、平成一二事業年度三月期末において、本件条例案が都議会において可決されて成立したことに基づき、税効果会計の適用により、繰延税金資産を再計算し、各当初原告の繰延税金資産及び当期利益は、別紙6の各当初原告に対応する欄記載の額が減少した旨財務諸表等に記載したことが認められる。
イ(ア) 税効果会計とは、「貸借対照表に計上されている資産及び負債の金額と課税所得の計算の結果算定された資産及び負債の金額との間に差異がある場合において、当該差異に係る法人税等の金額を適切に期間配分することにより、法人税等を控除する前の当期純利益の金額と法人税等の金額を合理的に対応させるための会計処理」をいい(財務諸表規則八条の一一)、この税効果会計の適用により資産として計上される金額を「繰延税金資産」という(同規則八条の一二第一項一号)。
すなわち、企業会計上の「利益」は、「収益」から「費用」を控除することによって得られ、一方、税法上の「所得」は、「益金」から「損金」を控除することによって得られるが、企業会計上の収益・費用と税法の定める益金・損金は必ずしも一致しないため、企業会計上の「利益」と税法上の「所得」の間には差異が生じ得る。この差異は、具体的には、企業会計上の収益・費用と税法の定める益金・損金の範囲がそもそも異なることにより生ずる永久差異と、範囲は同じでも認識の時点が異なることにより生ずる一時差異とに分けられ、具体的には、交際費・寄付金の損金算入限度超過額、受取配当金の益金不算入額等は「永久差異」の例であり、資産評価損・貸倒損失等の税務否認額、減価償却費・引当金等の損金算入限度超過額等は「一時差異」の例である。そして、これらのうち、永久差異については、そもそも企業会計上の収益・費用と税法の定める益金・損金の範囲が異なることから、期間の経過によっても解消されることはないが、一時差異は、収益・費用又は益金・損金として認識する時期が異なることにより生ずる差異にすぎないため、最終的にはその差異は解消されることになる。例えば、貸倒引当金は、企業会計上は企業が貸倒れによる損失が見込まれると判断した時点で「費用」として計上することになるが、税法上は貸出先が倒産していること等の厳格な要件があり(法人税法五二条、同法施行令九六条参照)、この要件を充たしていない場合にはその処理が否認される。すなわち、企業会計上は「費用」として認められるものについても税法上は「損金」として算入することを認められないことがある。この場合、税法上貸倒引当金の損金算入が否認された時点では、企業会計上の処理と税法上の処理に一時的に差異が生ずることになるのであるが、その後貸出先が倒産に至るとか債権放棄等によって税法上貸倒引当金の損金算入が認容される時点になれば、最終的に企業会計上の処理と税法上の処理の差異が解消されることになる。旧来の企業会計は、このような一時差異が生ずるにもかかわらず、これを無視して当期に納付すべき税額をそのまま税引前当期利益から控除していたのであるが、このような会計処理は当該期の企業の業績を適切に反映していないことから、一時差異にかかる税金の額を適切な会計期間に配分して計上することとしたのが税効果会計である(甲159[朝日監査法人・意見書])。
(イ) 税効果会計に基づく具体的な処理としては、税務上の確定申告による要納付税額をそのまま企業会計上の税費用として計上するのではなく、一時差異等に係る税金の額を加減することにより企業会計上の税引前当期利益に対する法人税等の額を算出し、この額を税務上の確定申告による要納付税額が上回る場合には、その差額は次年度以降の利益が負担すべき法人税等の前払分として、将来の期における税金の支払額を減少させることから、「繰延税金資産」という勘定で貸借対照表上に資産計上することになる。したがって、繰延税金資産は、将来の期における税金の支払額を減少させる効果を有するものであり、「繰延税金資産の減少」は、将来の期における税金の減額効果という経済的利益を受けられなくなることを意味する。他方、税務上の確定申告による要納付税額が会計上の税引前当期利益に対する法人税等の額を下回る場合には、当該下回る金額は次年度以降に支払うべき法人税等の未払分として、将来の税金の支払額を増加させることから、「繰延税金負債」という勘定で貸借対照表上に負債計上することになる。繰延税金資産又は繰延税金負債として計上される一時差異等に係る税金の額は、前払分の回収又は未払分の支払が行われると見込まれる期、すなわち一時差異等が解消すると見込まれる期の税率に基づいて計算されるところ、その税率としては、利益を課税標準として課される税金の所得に対する負担割合を意味する法定実効税率(法人税率・住民税率・事業税率を元に算出される、それらの税金の所得に対する負担割合をいう。乙2の3、一七項。)が使用される。そして、繰延税金資産と繰延税金負債の差額を期首と期末で比較した増減額は、当期に納付すべき法人税等の調整額として、「法人税等調整額」という勘定で損益計算書上に計上しなければならない(甲159[朝日監査法人・意見書])。
(ウ) ところで、税効果会計を採用した場合において、税法令の改正などにより税負担の変更があったときには、財務諸表に将来の法人税等の支払額に対する影響を適正に反映するという税効果会計導入の趣旨、及び商法の会計規制の重要な目的である適正な配当可能利益の計算を担保する必要から、過年度に計上された繰延税金資産及び繰延税金負債につき、変更された税負担に基づく法定実効税率を算出して繰延税金資産の再計算を行うことが求められ(甲158[神田教授・鑑定意見書]、三頁)、再計算により修正された差額は、損益計算書上、通常は税率変更に係る改正税法令が公布された日を含む事業年度の「法人税等調整額」に加減して処理される。
(エ) 税効果会計により計上される繰延税金資産及び当期利益は、各種の税のうち「利益に関連する金額を課税標準とする事業税」に限って計上されるものであるところ、本件条例が有効であるとすると、東京都における銀行業等に対する法人事業税の課税標準が平成一二事業年度において従来の所得から外形基準である業務粗利益に変更され、業務粗利益は「利益に関連する金額を課税標準とする事業税」には含まれないから、法定実効税率の算出に使用される事業税に本件条例に基づく事業税を含めることはできず、その結果、当初原告らの法定実効税率は減少し、将来の税負担軽減額相当分として資産計上されていた繰延税金資産及び当期利益が減少することとなる。
ウ 原告らは、本件条例制定の結果、本件外形標準課税の対象となることが確実であった各当初原告が繰延税金資産の再計算による修正を商法三二条二項、証券取引法一九三条及び財務諸表規則一条一項により強制的に要求され、繰延税金資産をそれぞれ各当初原告に対応する別紙6記載の金額だけ減少させることとなり、同額の損害を現実に受けた旨主張する。
しかしながら、本件条例は、前記2のとおり無効であるから、当初原告らに対して本件条例が有効に適用されることを前提とする当初原告らの繰延税金資産の減少は、客観的には生じなかったものというほかない。前記アのとおり、各当初原告は、その各繰延税金資産が別紙6の各当初原告に対応する欄記載の額だけ減少した旨財務諸表等に記載したことが認められるが、財務諸表において繰延税金資産を含む資産の計上額を減少させる会計処理が行われるのは、原告らの主張するとおり、会社の財産が減少したという「事実が発生」した場合に、その「事実が認識」され、財産の減少が「財務諸表上に貨幣的に表現される」のであって、客観的に会社の繰延税金資産が減少したという事実が発生しなければ、いくら財務諸表においてその計上額が減少したとしても、同額の損害が発生したことにはならないのは明らかである。よって、繰延税金資産の減少自体を損害とする原告らの主張には理由がないというほかない。
他方、客観的には資産の減少が生じていないとしても、その事実に反して財務諸表上当該資産の計上額が減少し、さらには当期利益の計上額を減少したかのように記載することを余儀なくされる場合には、同記載により当該会社の信用低下等の損害が発生し得ることはいうまでもないし、当該会社はそのような一般取引界の認識を前提とした行動をとることを余儀なくされ、この面においても営業上無視し得ない損害を被ることがある。そこで、これらの損害については、項を改めて検討する。
(2)  信用低下及びそれによる営業上の損害
ア  本件条例は、平成一二年三月三〇日に少なくとも適式に成立し、同日の時点で今後施行されることは確実であった上、これを無効とする公権的判断は下されていなかったし、既に成立以前から、その内容や銀行の財務内容に与える影響について広く具体的に報道がされていたのであるから(甲24、34)、一般取引界においては、その時点において、本件条例が有効との前提の下にそれによって銀行の財務内容にどのような影響が出るかを具体的に認識し、その認識を前提として原告らに対する評価を行っていたと認めることができる。そして、この時点における一般取引界における上記認識の具体的内容は、その時点において本件条例が有効との前提で繰延税金資産の再計算をした結果と一致するものと考えるのが相当であるから、そのような行為をすべき義務ないし必要があったか否かにかかわらず、前記(1)アの原告らの財務諸表等への記載と一致するものと考えられる。そうすると、原告らは、これにより、純資産及び当期利益に関する原告らのいわゆる経営・財務指標上も減益として消極的な評価を受けることになり、また、同様に、自己資本が減少したかのように評価されることとなって、銀行経営の健全性を判断するための基準である自己資本比率が各当初原告につき別紙8のとおり減少するとの評価を受けることとなったと認められる(甲205及び206の各1及び2、甲207、弁論の全趣旨)。経営・財務指標や自己資本比率(銀行法一四条の二、長期信用銀行法一七条参照)は、その会社の財務状態、経営の健全性等を表す指標であり、自己資本が特定の銀行の安全性と健全性を表わす重要な指数であることは公知の事実であり、上記繰延税金資産及び当期利益の減少につき広く新聞報道もされたことが認められる(甲168の1ないし3)から、当期利益や自己資本比率といった指標が悪化したとの評価を受けることは、当初原告らの信用を著しく低下させたものと認められる。
さらに、本件条例制定の結果、本件条例が公権的に無効であると判断されるまでの間は、別紙7記載のとおり、平成一二事業年度以降の事業税負担の増加によって将来の利益の減少が見込まれるかのような様相を呈することとなり、その額が決して小さいものとはいえないことから、各当初原告の債務返済能力に対する信頼である各当初原告の信用も低下したものと認められる(甲33、34)。
以上のように本件条例の制定により当初原告らの信用が低下したことは、非公開会社である原告みずほ信託銀行株式会社を除く各当初原告の株価が、本件外形標準課税の構想を発表した平成一二年二月七日から同月一五日にかけて、別紙11の1及び2記載のとおり、著しく下落したことが認められる(甲33、34、208ないし212、弁論の全趣旨)ことからも明らかである。
イ  また、上記のように自己資本比率が低下(別紙8)したとの評価を受けることにより、銀行業等を行う当初原告らの根幹的な収入源である「貸出」の余力が低下するとの営業上の損害も生じたものと認められる(甲207)。すなわち、自己資本が低下する場合には、自己資本比率を維持するためにリスク・アセットの上限額も低下させなければならず、それに伴い、貸出余力の上限も低下することになる。この結果、原告らは、一般取引界によって認識されているそれぞれの自己資本比率を維持しようとすれば、その貸出余力低下分に相当する貸出を実行することが制限され、当該貸出から得られる可能性のある利子収入につきこれを得られる可能性がなくなったということができる。すなわち、貸出を実行すれば得られたであろうはずの「利子収入」の最大額が減少することとなったものと認められる。証拠(甲205及び206の各1及び2、甲207、弁論の全趣旨)及び弁論の全趣旨によれば、各当初原告の貸出余力低下額及びそれに係る利子収入の最大額の減少額は、別紙12に記載のとおりであると認められる。
ウ その後、当初原告らの株価が回復していることから(乙3の2、弁論の全趣旨)、株価の一時的な下落を損害として直接評価することは困難であるし、貸出余力の上限の低下を直接損害として評価することも困難ではあるものの、銀行業自体がもともと信用を基礎として成り立っているものであることに加え、経済の国際化による競争の激化によって、信用状態のわずかな変化も銀行にとっては大きな影響を及ぼす状況が生じていると考えられることからすると、上記のような信用の低下及び営業上の損害はその内容及び程度に照らし、当初原告らに重大な無形の損害を及ぼしたとみるべきであって、これは誤納金の納付によって生ずる還付加算金相当分の損害とは全く別個のものであり、その支払を受けることでは解消しないものと考えるべきである。そして、以上の事情を総合考慮すると、本件条例の制定により当初原告らが被った無形損害の金銭的評価は、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除く各当初原告一行については、それぞれ一億円を下らないものと認めるのが相当である。
エ 他方、原告八十二銀行及び原告福岡銀行は、他の当初原告らとは財務内容が大きく異なっており、原告八十二銀行は、本件条例の制定による財務諸表上の繰延税金資産の減少額は二億三〇〇〇万円で、貸出余力低下額に係る利子収入の減少上限額は二三〇〇万円にすぎず、本件条例が有効であるとした場合に増加することとなる事業税額も五年間で一〇〇〇万円と当初原告らの中でも極端に少ない。原告福岡銀行についても、本件条例の制定による財務諸表上の繰延税金資産の減少額は六八〇〇万円と当初原告らの中では極端に少なく、貸出余力低下額にかかる利子収入の減少上限額についても八〇〇万円と当初原告らの中では極端に少なく、本件条例が有効であるとした場合に増加することとなる事業税額も五年間で四五〇〇万円と原告八十二銀行に次いで少ない。
また、原告みずほ信託銀行については、本件条例制定前において、その自己資本比率が50.0781パーセントであり、その余の当初原告らの自己資本比率が概ね一〇パーセント前後であるのと比較して極めて自己資本比率が高く、本件条例の規定を前提として繰延税金資産及び当期利益が減少したとしても、その自己資本比率は49.0321パーセントに低下するにすぎず、その結果、貸出余力低下額にかかる利子収入の減少上限額は一七〇〇万円と原告福岡銀行に次いで少ない上、原告みずほ信託銀行は、非公開会社であって、少なくとも投資家間における信用の低下について他の公開会社である当初原告らと同列に論ずることはできない。
これらの事情を考慮すれば、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行が本件条例の制定により被った無形損害の金銭的評価はそれぞれ一〇〇〇万円と認めるのが相当である。
(3)  損害賠償請求についての結論
以上のとおり、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除くその余の各当初原告は、それぞれ一億円、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行は、それぞれ一〇〇〇万円の各損害を被ったものと認められ、これらの損害は、被告東京都知事らによる違法な本件条例制定のための各行為に基づくものであるから、同各行為と各当初原告に発生した損害との間には相当因果関係があるものと認められる。よって、各原告(各当初原告の損害賠償請求権を合併により承継した者を含む。)は、被告東京都に対し、国家賠償法一条に基づいて、それぞれが被った損害の賠償を請求することができるというべきであり、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行を除くその余の各当初原告についてそれぞれ一億円、原告八十二銀行、原告福岡銀行及び原告みずほ信託銀行についてそれぞれ一〇〇〇万円及び同各金額に対する平成一二年一〇月二四日(本件訴状送達日の翌日)から民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める原告らの請求は、いずれも理由があるものと認められる。
第4  結論
1  よって、被告東京都知事に対する請求2及び3に係る訴え及び被告東京都に対する請求1及び4に係る訴えはいずれも不適法であるからこれを却下することとし、請求5については、誤納金返還請求及び損害賠償請求として、被告東京都に対し、①原告三菱信託銀行及び原告ユーエフジェイ銀行を除く各原告に対して、それぞれ同各原告に対応する別紙2(e)欄記載の各金員並びに同各金員のうち同各原告に対応する別紙2(a)欄記載の各金員に対する別紙2(f)欄記載の各日から平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまでは年4.1パーセントの割合による各金員、及び同各原告に対応する別紙2(c)欄記載の各金員に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による各金員の支払を、②原告三菱信託銀行に対して、四六億一九三七万四九〇〇円並びにうち三七億〇〇八一万六六〇〇円については平成一三年八月三日から、うち七億一八五五万八三〇〇円については同年七月三〇日からそれぞれ平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を、③原告ユーエフジェイ銀行に対して、九五億八五九五万〇八〇〇円並びにうち六五億〇八八五万九五〇〇円については平成一三年七月二九日から、うち二八億七七〇九万一三〇〇円については同年八月三日からそれぞれ平成一三年一二月三一日までは年4.5パーセントの割合、平成一四年一月一日から支払済みまではそれぞれ年4.1パーセントの割合による金員、及び二億円に対する平成一二年一〇月二四日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の被告東京都に対する金員請求には理由がないからこれを棄却することとする(請求6は、請求5に対し、本件通知処分が無効ではないことを前提とする予備的請求であるところ、前記のとおり本件条例が無効である以上本件通知処分も無効であって、請求5について一部棄却すべき点は請求六についても同様であるから、請求6については判断の要をみない。)。
2  なお、付言するに、本件条例については、前記認定のとおり都議会において圧倒的多数の賛成の下に制定されたものであり、都民の多くがこれに賛意を表していたことは当裁判所に顕著な事実である。これらのことには、長期にわたる厳しい経済状況の下において、そのような事態の発生と銀行業との関連についての一定の考え方が影響を与えている可能性がうかがえないでもない。もとより、このような厳しい状況をより早期に解消し、かつその再発を防止するために、そのような考え方の当否も含めて事態の原因を究明することは有益なことであるし、その結果、法的責任を有する者があると判明した場合には、その責任を厳正に追求することも必要となろう。しかし、それらは、冷静かつ専門的な見地から、それにふさわしい法的手続に則って行われるべきものであり、現行の地方税法の下での銀行業に対する事業税の課税のあり方とは全く無関係の問題である。
本判決は、このような見地から、本件条例が事業税に関する地方税法の定めに違反するものか否かという点について判断を示したものである。したがって、本判決は、現行の地方税法が立法論的にみて妥当なものか否かや、事業税以外の法定外税のあり方といった点にも、何らふれていない。前者については、検討の要否も含めて立法府たる国会の職責に属する事柄であるし、後者については、地方税法の法定外税に関する定めに則ってその当否を検討すべき問題であって、いずれも本件とは無関係の問題である。
3  以上の次第で、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六二条(被告東京都知事は全部勝訴ではあるが、被告東京都の損害賠償債務の発生は被告東京都知事の行為に起因することにかんがみ同条の趣旨を類推する。)、六四条ただし書、六五条一項本文を、仮執行の宣言及び同免脱宣言につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二五九条一項及び三項を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・藤山雅行、裁判官・村田斉志、裁判官・廣澤諭)
(別紙2) 認容額一覧表
(日付は平成13年)
原告名 (a)
誤納金請求
認容額
(円)
(b)
損害賠償
請求金額
(円)
(c)
損害賠償
請求認容金額
(円)
(注)
(d)
請求元本額
(円)
(e)
請求認容
元本額
(円)
(f)
誤納金に係る還付加算金発生日
(月/日)

第一勧業銀行 5,789,635,300 100,000,000 100,000,000 5,889,635,300 5,889,635,300 8/3
三井住友銀行 16,633,029,700 200,000,000 200,000,000 16,833,029,700 16,833,029,700 8/3
富士銀行 8,577,623,000 100,000,000 100,000,000 8,677,623,000 8,677,623,000 8/3
東京三菱銀行 7,322,203,700 100,000,000 100,000,000 7,422,203,700 7,422,203,700 8/3
あさひ銀行 4,113,081,300 100,000,000 100,000,000 4,213,081,300 4,213,081,300 8/3
ユーエフジェイ銀行 9,385,950,800 200,000,000 200,000,000 9,585,950,800 9,585,950,800
(旧三和銀行分) (6,508,859,500) (100,000,000) (100,000,000) (6,608,859,500) (6,608,859,500) 7/29
(旧東海銀行分) (2,877,091,300) (100,000,000) (100,000,000) (2,977,091,300) (2,977,091,300) 8/3
大和銀行 1,078,529,700 100,000,000 100,000,000 1,178,529,700 1,178,529,700 7/30
横浜銀行 532,399,600 100,000,000 100,000,000 632,399,600 632,399,600 8/3
八十二銀行 13,172,600 100,000,000 10,000,000 113,172,600 23,172,600 7/28
北陸銀行 163,018,600 100,000,000 100,000,000 263,018,600 263,018,600 7/30
福岡銀行 14,594,400 100,000,000 10,000,000 114,594,400 24,594,400 7/30
三菱信託銀行 4,419,374,900 200,000,000 200,000,000 4,619,374,900 4,619,374,900
(旧三菱信託銀行分) (3,700,816,600) (100,000.000) (100,000,000) (3,800,816,600) (3,800,816,600) 8/3
(旧日本信託銀行分) (718,558,300) (100,000,000) (100,000,000) (818,558,300) (818,558,300) 7/30
安田信託銀行 1,035,318,000 100,000,000 100,000,000 1,135,318,000 1,135,318,000 8/3
ユーエフジェイ信託銀行 1,792,369,800 100,000,000 100,000,000 1,892,369,800 1,892,369,800 8/3
中央三井信託銀行 4,191,352,700 100,000,000 100,000,000 4,291,352,700 4,291,352,700 8/3
住友信託銀行 2,264,864,200 100,000,000 100,000,000 2,364,864,200 2,364,864,200 8/3
みずほ信託銀行 849,477,600 100,000,000 10,000,000 949,477,600 859,477,600 7/27
日本興業銀行 4,284,830,000 100,000,000 100,000,000 4,384,830,000 4,384,830,000 8/3
合計 72,460,825,900 2,100,000,000 1,830,000,000 74,560,825,900 74,290,825,900

(注)損害賠償請求認容額に対する遅延損害金の起算日はいずれも平成12年10月24日である。以上

(別紙3) 請求額一覧表
(日付はすべて平成13年)
原告名 (a)
既納税額
(円)
注1
(b)
旧基準税額
(円)
注2
(c)
過誤納金額
(円)
((a)-(b))
(d)
損害賠償
請求金額
(円)
(e)
請求元本額
(円)
(f)
納付日
(g)
更正
請求日
(h)
更正請求否認通知日
(月/日)
(i)
誤納金に係る還付加算金発生日
(月/日)
(j)
過納金に係る還付加算金発生日
(月/日)

第一勧業銀行 8,921,310,300 3,131,675,000 5,789,635,300 100,000,000 5,889,635,300 7/2 7/6 8/30 8/3 10/7
三井住友銀行 16,633,029,700 0 16,633,029,700 200,000,000 16,833,029,700 7/2 7/10 8/30 8/3 10/11
(旧さくら銀行分) (8,736,462,800) (0) (8,736,462,800) (100,000,000) (8,836,462,800) 7/2 7/10 8/30 ― ―
(旧住友銀行分) (7,896,566,900) (0) (7,896,566,900) (100,000,000) (7,996,566,900) 7/2 7/10 8/30 ― ―
富士銀行 8,577,623,000 0 8,577,623,000 100,000,000 8,677,623,000 7/2 7/3 8/30 8/3 10/4
東京三菱銀行 13,963,419,400 6,641,215,700 7,322,203,700 100,000,000 7,422,203,700 7/2 7/10 8/30 8/3 10/11
あさひ銀行 4,113,081,300 0 4,113,081,300 100,000,000 4,213,081,300 7/2 7/6 8/30 8/3 10/7
ユーエフジェイ銀行 9,385,950,800 0 9,385,950,800 200,000,000 9,585,950,800
(旧三和銀行分) (6,508,859,500) (0) (6,508,859,500) (100,000,000) (6,608,859,500) 6/28 7/10 8/30 7/29 10/11
(旧東海銀行分) (2,877,091,300) (0) (2,877,091,300) (100,000,000) (2,977,091,300) 7/2 7/12 8/30 8/3 10/13
大和銀行 1,904,410,500 825,880,800 1,078,529,700 100,000,000 1,178,529,700 6/29 7/10 8/30 7/30 10/11
横浜銀行 532,399,600 0 532,399,600 100,000,000 632,399,600 7/2 7/9 8/30 8/3 10/10
八十二銀行 129,292,100 116,119,500 13,172,600 100,000,000 113,172,600 6/27 7/11 8/30 7/28 10/12
北陸銀行 163,018,600 0 163,018,600 100,000,000 263,018,600 6/29 7/24 8/30 7/30 10/25
福岡銀行 44,595,300 30,000,900 14,594,400 100,000,000 114,594,400 6/29 7/12 8/30 7/30 10/13
三菱信託銀行 4,419,374,900 0 4,419,374,900 200,000,000 4,619,374,900
(旧三菱信託銀行分) (3,700,816,600) (0) (3,700,816,600) (100,000,000) (3,800,816,600) 7/2 7/6 8/30 8/3 10/7
(旧日本信託銀行分) (718,558,300) (0) (718,558,300) (100,000,000) (818,558,300) 6/29 7/12 8/30 7/30 10/13
安田信託銀行 1,035,318,000 0 1,035,318,000 100,000,000 1,135,318,000 7/2 7/11 8/30 8/3 10/12
ユーエフジェイ信託銀行 1,792,369,800 0 1,792,369,800 100,000,000 1,892,369,800 7/2 7/9 8/30 8/3 10/10
中央三井信託銀行 4,191,352,700 0 4,191,352,700 100,000,000 4,291,352,700 7/2 7/11 8/30 8/3 10/12
住友信託銀行 2,264,864,200 0 2,264,864,200 100,000,000 2,364,864,200 7/2 7/4 8/30 8/3 10/5
みずほ信託銀行 849,477,600 0 849,477,600 100,000,000 949,477,600 6/26 7/6 8/30 7/27 10/7
日本興業銀行 4,284,830,000 0 4,284,830,000 100,000,000 4,384,830,000 7/2 7/4 8/30 8/3 10/5

注1 既納税額とは、被告東京都が平成12年4月1日に制定した「東京都における銀行業等に対する事業税の課税標準等の特例に関する条例」(東京都条例第145号)に基づき納付した、平成12年4月1日に開始する事業年度にかかる事業税額
注2 旧基準税額とは、地方税法72条の12に従い事業税の課税標準を所得とし、従来の税率で算出された平成12年4月1日に開始する事業年度にかかる事業税額                      以上

 

別紙4  資金量一覧表〈省略〉

別紙5  当事者の主張
1 争点1のア(請求1及び2[本件条例の無効確認請求]に係る訴えの適法性)について
(原告らの主張)
(1) 処分性について
ア 本件条例は、前記前提事実(5)アのとおり、納税義務者の要件を極めて具体的・限定的に規定しており(本件条例二条ないし四条)、当初原告らは、前記前提事実(6)のとおり、平成一二事業年度に係る事業税について現にその出捐を強いられ、平成一三年四月一日から開始する事業年度(以下「平成一三事業年度」という。)の末日においても原告らを含む特定の者が本件外形標準課税の対象となることは明らかである。そして、被告らが本件条例によりこれら特定の範囲の者に課税する「意図」も当初から明らかであった。これは、被告らが、公的資金の注入を受けたいわゆる「大手銀行」という特定の範囲の者を対象として、いわば狙い撃ちして課税しようとしたためであり、本件条例は、まさに大手銀行という特定の者に対する課税処分ないし行政処分そのものである。
イ 本件条例の制定により、原告らに対しては、税効果会計手続に基づき繰延税金資産及び当期利益が減少した結果、莫大な損害が直ちに発生している。
すなわち、本件外形標準課税の対象となることが確実であった各当初原告は、平成一二年三月期において、繰延税金資産の再計算による修正を、商法三二条二項、証券取引法一九三条及び財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和三八年大蔵省令第五九号、以下「財務諸表規則」という。)一条一項により強制的に要求され、繰延税金資産をそれぞれ各当初原告に対応する別紙6記載の金額だけ減少させることとなった。かかる減少に係る修正差額は、平成一二年三月期において、同額だけ法人税等調整額を減少させる結果、同額だけ当期利益を減少させることになった。各当初原告は、本件条例の制定により、直接、各原告に対応する別紙6記載のとおりの莫大な金額の損害を現実に受け、その法的利益が現実に変動していることが明らかである。かかる変動は、他の行政庁の処分・行為がされたことにより生じた結果ではなく、まさに「本件条例の制定」自体の結果として生じているのであるから、本件条例により直接生じたものと評価されなければならない。
したがって、本件条例は「処分性」を有するものであり、適法に抗告訴訟の対象となる。
ウ また、本件条例は、今後各事業年度における具体的な更正処分若しくは決定処分又は通知処分がされることを予定しているということができ、このことから、仮に、本件条例の制定自体を中間段階における行為とみなした場合であっても、本件条例の処分性は肯定されるべきである。中間段階にある本件条例制定行為が違法であるにもかかわらず、行政庁による最終段階の行為により原告らの権利が侵害された事実がより具体的に明らかとなるまで、原告らに待つよう要求するのは余りにも酷であるばかりでなく、無駄な手続を積み重ねることにもなるからである。この見地から、最高裁判所は、第二種市街地再開発事業の事業計画の決定に行政処分性を認めている(最高裁判所平成四年一一月二六日第一小法廷判決・民集四六巻八号二六五八頁)。この最高裁判決からすると、条例制定行為のような一見すると一般的処分と見られる行為であっても、それによる効果が、利害関係人の権利に直接の影響を与えて変動を生ずるとまではいえないとしても、その権利にどのような変動が生ずるかがある程度具体性をもって予測される場合については、なお処分性が肯定される場合があると考えるべきであり、本件条例の制定によって、原告らに所得が発生しなくとも本件外形標準課税が課税されることについては具体性をもって予測されたことは明らかである。したがって、本件条例の制定行為には、抗告訴訟の適法要件としての「処分性」が認められる(甲166[小早川光郎東京大学教授・鑑定意見書。以下「小早川教授・鑑定意見書」という。]三頁、四頁)。
(2) 原告適格について
ア 本件において、原告らは、後記8(原告らの主張)(1)ないし(3)のとおり、本件条例の制定により、重大な損害を現に被り、自己の財産権その他の法的利益を既に侵害され、また、後記2(原告らの主張)(3)イ(イ)ないし(エ)で述べるとおり、今後回復し難い重大な損害を被ることは確実であることから、行政事件訴訟法三六条の「当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者」に該当することは明らかである。
イ また、請求4においては、本件条例が違法無効であることという点について既判力が生じないので、本件条例ないしそれに準ずるものが違法無効であるか否かが訴訟上再び問題となった際に、同請求に関する確定判決の理由中における本件条例の有効性に関する判断と矛盾した判断がされる理論的可能性が存する。したがって、本件においては、請求1の本件条例の無効確認請求は、請求4と比較して本件条例に起因する本件紛争を解決するための争訟形態としてより直截的かつ適切なものである。
ウ 今後、毎事業年度個別的な更正処分、通知処分等の処分が課される度にその都度個別に処分取消訴訟を提起して処分を争わなければならないと強制するのは極めて煩雑かつ迂遠である。ここでもし訴えの利益を認めないとした場合には、裁判所は、毎事業年度において、各銀行から同じ論点に関し提訴がある度に繰り返し判断を求められることになり、時間・費用・労力のいずれの点においても、当事者及び裁判所に対し極めて無駄で多大な負担を強いることとなる。その点、個別的な処分の基礎となる「本件条例自体の無効確認」を適法とすれば、訴訟は一回で済むのである。本件条例の合憲性・適法性に重大なかつ具体的な疑問が既に現存し、かつ、今後課税処分の度に将来発生することが確実な派生的な個々の紛争の抜本的解決のためには、より直截的で適切である「本件条例自体の無効確認請求」を適法とすべきであり、原告らに原告適格及び訴えの利益を認めるべきである(小早川教授・鑑定意見書五頁)。
エ 被告らは、原告らについては、行政事件訴訟法三六条の定める消極的要件を欠く旨主張する。同条は、①「当該処分…に続く処分により損害を受けるおそれのある者」、という文言と、②「当該処分…の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」、という文言を、「その他」という文言でつないでおり、文言の形式的な解釈からすれば、①は、②の例示の意味しか持たないということになり、②の消極的要件を欠けば無効等確認訴訟は不適法となるかのようである。しかし、この点については従来から争いのあるところであり、最高裁判所昭和五一年四月二七日第三小法廷判決・民集三〇巻三号三四八頁は、このような考え方を斥け、たとえ現在の法律関係に関する訴訟によって救済が可能であり、②の消極的要件を充たさないとしても、①の要件を充たすときには、無効等確認の訴えを適法としている。
したがって、本件条例の無効確認請求について原告適格が認められるか否かは、①の要件を充たしているか否かによって決せられるのであって、現在の法律関係に関する訴訟によって救済が可能か否かということは問題とならないという点において、被告らの主張は誤りである(南博方編「条解行政事件訴訟法」八〇四頁以下参照)。
(3) 被告適格について
仮に、被告東京都の主張するとおり、請求1について同被告に被告適格がないとしても、請求1との間で単純併合又は予備的併合の関係に立つ請求として、被告東京都知事に対し請求2として本件条例の無効確認を求める。
(被告らの主張)
(1) 処分性について
ア 租税に関する法律及び普通地方公共団体の制定する条例は、それが施行されただけでは、具体的な納税義務が生ずるものではない。換言すれば、直接国民、住民の権利・義務が形成され、あるいはその範囲が確定されるものではないのである。したがって、条例自体の有効、無効は法律上の争訟に該当するわけではなく、無効確認を求める対象ともなり得ない。
イ 原告らは、本件条例によって、平成一三事業年度の末日において原告らを含む特定の者が課税の対象となることが明らかである旨主張するが、本件条例によれば、本件外形標準課税は、平成一二年四月一日以後開始する事業年度の末日における資金量が五兆円以上の銀行業等に適用されるものである(本件条例三条一項及び三項)ことを一般的、抽象的に定めているにすぎず、さらに、原告らを含む特定の者が各事業年度の末日において五兆円以上の資金量を有するか否かは、明らかとはいえないことはもとより、仮にその可能性があったとしても、それはあくまでも可能性であるにとどまり、原告らの納税義務が形成されていないのみならず、その範囲も全く未確定である。
ウ また、原告らは、本件条例制定自体の結果として、平成一二年三月期において繰延税金資産及び当期利益を減少させ、そのことが原告らの法的利益に現実に変動を生じていることも明らかである旨主張するが、そもそも、原告らのいう企業会計における繰延税金資産及び法人税等調整額は、本件外形標準課税の課税標準として用いられておらず、また、地方税法、東京都都税条例(昭和二五年東京都条例第五六号)及び本件条例は、企業会計における繰延税金資産及び法人税等調整額について何ら規定を設けていないのであるから、仮に、平成一二年三月期において、繰延税金資産が減少し、その結果、当期利益も同額減少したとしても、それは、商法、証券取引法等の諸規定に基づく企業会計上の処理結果を述べているものにすぎず、本件条例制定の直接の効果といえるようなものではない(乙1の1)。
原告らは、日本公認会計士協会の平成一二年四月一八日付け「東京都の外形標準課税に係る税効果会計適用上の取扱い」をよりどころとするものと思われるが、同取扱いは、いわば業界の指導とでもいうべきものであって、その内容を見ても明らかなように、平成一三年三月期に行うべき本件条例に基づく会計処理を前倒しすることを一義的に強制するものではない(乙1の1)。繰延税金資産及び当期利益の減少は、会計処理上の任意の選択の結果を都合よく援用しているだけのことであって、本件条例制定自体の直接の効果とはいえない。
エ 以上によれば、原告らの主張をもって、本件条例が原告らの権利義務その他法的利益に直接影響を及ぼす処分に当たるということはできない。
(2) 原告適格について
ア 行政事件訴訟法三六条は、無効等確認の訴えの要件の一つとして、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものに限り(消極的要件)提起できる旨定めているから、現在の法律関係に関する訴えによって、目的を達することができる場合には無効確認の訴えは許されない。
イ 本件条例によれば、決算期後二か月以内に申告をしなければならないところ、当初原告らは、申告納付期限内に申告をした上、その更正の請求を行い、被告東京都知事は、平成一三年八月三〇日付けで更正請求否認決定処分である本件通知処分を当初原告らに対して行った。原告らはそれぞれ本件通知処分を争うことができ、現に訴えの変更により、その取消しの訴えを提起している。
したがって、原告らは、本件条例の無効を前提とする上記訴えにより、本件条例の効力を争うことができ、これにより原告らの目的を達することが可能であるから、本件条例の無効確認の訴えは不適法である。
(3) 被告適格について(被告東京都の主張)
請求1は、被告東京都が本件条例の制定の「行為」を行ったとの前提に立って、被告東京都に対して、本件条例の無効確認を求めるものである。
ところで、条例の制定は、①条例案の提出(地方自治法一四九条一号及び同法一一二条一項)、②条例案の議決(同法一一六条一項)、③条例の公布・施行(同法一六条二項、三項)の各具体的行為から成り、それとは別の全体的なものとしての「制定行為」なるものは存在しない(長野士郎「逐条地方自治法〔第一一次改訂新版三刷〕」一三六頁)。そして、①の行為者は、普通地方公共団体の長及び議員(同法一四九条一号及び同法一一二条一項)、②の行為者は、議会(同法一一六条一項)、③の行為者は、普通地方公共団体の長(同法一四九条九号)とされている。
このような理解に立つと、請求1は、普通地方公共団体たる被告東京都が憲法、法律等に基づいて有する優越的地位において、執行機関を通じて行使する行政権、議会を通じて行使する立法権の各行使、すなわち、①、②の行為か、又は③のいずれかの具体的行為に対する不服を内容とする訴訟と解するほかない。
そうすると、請求1は、①、②及び③の各行為者を被告としない点において、行政事件訴訟法三八条一項により準用される同法一一条一項に反し、具体的行為者でない被告東京都を相手方として提起したものであるから、訴訟要件を欠き、不適法として却下を免れない。
2 争点1のイ(請求3[予防的不作為請求]に係る訴えの適法性)について
(原告らの主張)
(1) 予防的不作為訴訟の適法要件について、下級審の裁判例(札幌高等裁判所昭和五二年九月二六日判決・判例タイムズ三六四号二〇五頁等参照)上、いわゆる「義務付け訴訟」と区別することなく、①行政庁が処分をなすべきことについて法律上覊束されており、行政庁に自由裁量の余地が全く残されていないために、第一次的な判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないと認められること(一義的明白性)、②事前審査を認めないことによる損害が大きく、事前の救済の必要が顕著であること(緊急性)、及び③他に救済方法がないこと(補充性)という三要件(以下「適法三要件」という。)を定立するものが少なくない。
(2) しかしながら、予防的不作為訴訟は、「義務付け訴訟」と異なり、現状の悪化を防ぐもので、違法な公権力の行使からの防衛であり、国家からの権利・利益の侵害を限定するという市民的法治原理に馴染むので、その適法要件は義務付け訴訟の場合に比べて厳格に適用されるべきではなく(甲11[塩野宏「行政法Ⅱ」第二版]一九一頁参照)、本件のように「法律上の争訟」であり、「紛争の成熟性」も認められるような場合については、いずれの訴訟形態による救済が適切かという観点から適法三要件が弾力的に適用されなければならない。特に、紛争の成熟性が十分高く認められ、時間の経過によって紛争の実体が変わる可能性がない場合、すなわち、事実に関しては当事者間に争いがなく、もっぱら法の解釈適用につき争いがあり、この点に関する判断によって争いが解決できるような場合であって、行政庁に第一次的判断権を留保することが重要でない場合には、②及び③の要件は特に緩やかに解すべきである(甲12[白石健三「公法上の義務確認訴訟について」公法研究第一一号所収五四頁及び五五頁]及び阿部泰隆「公権力の行使と差止訴訟(上)」判例タイムズ五三四号二一頁ないし二三頁参照)。
無効と信ずる法令等により一定の義務を課され権利侵害を受けたと考える者(原告)が、その義務の不履行に対する不利益処分の危険に直面するために不本意にも憲法ないし法律上の権利を放棄してその義務を履行するか、それとも、あえて義務の履行を拒否して不利益処分の危険に身を晒すか、という選択を余儀なくされるような場合には、それが真に救済を必要とするものである限り、現実に不利益処分が行われる前であっても、司法的介入を拒否する理由はない(小早川教授・鑑定意見書六頁)。
(3) 本件においては、上記のように弾力的に解された適法三要件を充足することは明白である。また、仮に適法三要件につき緩やかに解することが許されない場合であっても、次のとおり、やはり適法三要件のいずれの要件をも充足することは明らかである。
ア 一義的明白性の要件について
本件条例に基づく更正処分及び決定処分の処分要件は、銀行等の各事業年度末における資金量及び課税標準である業務粗利益等の金額等を含め、全て一義的に明らかになる数値的データその他一義的に明確な事実により認定されるものであり、かかる処分要件の認定につき、課税庁の専門的技術的な見地からの判断は全く不要である。加えて、被告東京都知事は、更正処分又は決定処分を行うについては本件条例上覊束されており、その裁量が一切認められないことから、被告東京都知事に当該処分についての第一次的判断権を留保させることは全く重要ではない。
しかも、原告らが不本意にも違憲・違法と信じる本件条例に従った義務(本件条例に基づいて計算された税額[以下「新基準税額」という。]の申告納付)を履行しない限り、原告らに対する同一の処分が今後毎期繰り返されることになり、また、原告らが不本意ながらもやむなく本件条例に基づいて計算した事業税額をいったん納付し、その後、本件条例の違憲・違法を理由に更正請求を行った場合においても、被告らにおいて本件条例の違憲・違法を認めて、更正請求やその後の通知処分に対する異議申立てを認める可能性は皆無である。このように行政庁において条例の違憲又は違法を認める可能性がないところでは、裁判所が直ちに本案に対する司法審査に及んだとしても三権分立に反するとされる余地は全くない。よって、本件で予防的不作為訴訟を適法と認めても、行政庁の第一次的判断権の尊重の原則からの制約を考慮する必要は全くない(小早川教授・鑑定意見書七頁)。
なお、行政庁に第一次的判断権を留保する理由は、「法を具体的経験的事実に結び付ける過程を第一次的に行政庁に担当させることによって、具体的事実との結び付きにおいて争いが成熟することを期待する」ことにあるので、事実に関しては当事者間に争いがなくもっぱら法の解釈適用につき争いがあり、この点に対する判断によって争いが解決されるというような場合には、行政庁に第一次的判断権を留保する必要はそもそもないというべきである(甲12[前掲白石「公法上の義務確認訴訟について」]五四頁参照)。この点、本件訴えにおける争点としては、本件条例が憲法ないし地方税法に違反するか否かという問題点が既に具体的に明らかになっており、更正処分又は決定処分を経る前においても既に本件争いは十分高度に成熟しているといえるので、本件事案の下においては、行政庁に第一次的判断権を留保させる理由は全く存しない。したがって、かかる観点からも、本件については、一義的明白性の要件を充足しているということができる。
イ 緊急性の要件について
(ア) 既に発生した損害
前記1(原告らの主張)(1)イで述べたとおり、本件条例の制定による繰延税金資産及び当期利益の減少により、既に原告らは別紙6記載のとおり莫大な損害を現に被っており、その法的利益に対して重大な影響が生じているだけでなく、自己資本比率の悪化、事業税負担による将来の利益の大幅な減少等が発生し、同時に、原告らの金融機関としての「信用」が既に大きく低下しており、信用の低下という事態は、回復し難い重大な損害である。その他、自己資本比率の低下等に伴い発生した回復し難い重大な損害は、後記8(原告らの主張)(3)に述べるとおりである。
(イ) 将来の更正処分又は決定処分に伴う原告らの損害
また、被告東京都知事が原告らに対して違法な更正処分ないし決定処分を行う場合、追加して支払うべき事業税額(各当初原告につき別紙7のとおり)に加えて、原告らに対しては「延滞金」(本件条例一七条)及び「加算金」(同二〇条)等が課され、この金額は莫大な金額に上ることが見込まれる。また、「正当な理由」がなく申告書を提出期限内に提出しなかったとして故意不申告罪(本件条例一四条)が成立する場合には、それぞれ原告らの代表者、代理人、使用人その他の従業者でその違反行為をした者につき、一年以下の懲役又は二〇万円以下の罰金に処せられるとともに(本件条例一四条一項)、原告ら自身についても、二〇万円以下の「罰金刑」が科されることになっている(本件条例一四条二項)。加えて、金融再生委員会は、原告らの行為が「法令」「に違反したとき」又は「公益を害する行為をしたとき」に該当すると判断する場合には、原告らの銀行業若しくは長期信用銀行業の免許を取消し又はその業務の全部若しくは一部の停止等を命ずることができるとされている(銀行法二七条、長期信用銀行法一七条)から、このように加算金等が課され、また原告ら及びその代表者等に対して刑罰が科されるような原告らの申告ないし不申告に関する行為が本件条例に違反するものとして上記法令違反等に該当すると判断される場合には、原告らの免許が取り消され又は業務停止命令等が命じられ得るのである。
以上のように、原告らは、本件条例が無効であることを前提として申告を行い、又は申告しない場合には、将来の違法な更正処分又は決定処分に伴い加算金等を課されることが確実であり、また、刑罰に処せられ、又は銀行業若しくは長期信用銀行業の免許の取消し等を受け得るところ、原告らは、これらによって、その財務状況に重大な影響を受けるばかりか、その「信用」が毀損され、回復し難い重大な損害が発生することは確実である。
(ウ) 更なる信用の低下による原告らの損害
さらに、「信用」は、銀行の債務返済能力に対する一般公衆ないし市場の信頼を基礎としているので、心理的要因によってさえ低下する可能性があるという極めて微妙な性質を有している。また、信用を築くのには数十年の歳月を要するけれども、信用を失うのに時間は全く要しない。この点、原告らは既に本件条例の制定により信用の低下という重大な損害を被っているが、今後、本件外形標準課税の適用がある五年間に本件外形標準課税により増加すると見込まれる事業税負担額は、別紙7記載のとおりであり、かかる五年間に原告らの財務状況は重大な悪影響を受けることは明らかであるので、これにより原告らの信用がかかる短期間のうちに一層低下することは確実であるといえる。また、前述のように、将来の更正処分又は決定処分に伴い原告らの信用はより一層低下することも明らかであり、これにより原告らの信用の低下に拍車がかかり、原告らの経営・財務状態にとって更なる回復し難い悪影響を与えることは必至である。このように、原告らに対して本件訴訟による早期の救済が与えられない場合には、原告らの信用が一層低下し、回復し難い重大な損害が拡大することは確実であるといえる。
(エ) 他の地方公共団体が外形標準課税を課する場合の損害
大阪府議会は、平成一二年五月三〇日に、本件外形標準課税と全く同様の外形標準課税を課す条例案を可決し(甲7[平成一二年五月三一日付け日本経済新聞朝刊五面])、同条例は、同年六月九日に公布された(甲8[同日付け大阪府公報三頁ないし九頁])。また、全国知事会が、同月二七日に法人事業税への外形標準課税の導入案をまとめる(同月二八日付け日本経済新聞朝刊五面)など、外形標準課税導入の動きは、全国レベルで展開しているといえる。
かかる状況が示すとおり、他の地方公共団体が、被告東京都にならって、続々と銀行業等のみを対象として本件条例と同内容の違憲・違法な課税を行う危険性は極めて高いといえる。そして、仮に日本全国の多くの地方公共団体が本件外形標準課税と同じ内容の外形標準課税を課すことになる場合には、原告らの経営・財務に致命的な損害を与えることもまた必至の状況である。
(オ) 損害の回復の困難性
原告らが新基準税額の申告納付を行った上で、地方税法七二条の一二の原則規定に従い課税標準を所得として従来の税率で計算した事業税額(以下「旧基準税額」という。)と新基準税額の差額について更正の請求を行い、それに対して被告らより理由がない旨の通知処分があった度に原告らが毎年処分取消訴訟及び過誤納金還付請求等の訴訟を提起しなければならないとした場合には、過誤納金の返還を受けることのみについても、最後の課税処分があってから更に年月を要することになる。それまで原告らは、毎年、不本意ながらも本件条例に従った新基準税額の納付を行うために必要な莫大な資金を調達しなければならず、現に原告らは、平成一三年六月末の申告納税期限において、平成一二事業年度の法人事業税を新基準税額をもって納税申告せざるを得なかった。その結果、原告らのキャッシュ・フローは大きく減少し、本件条例が原告らに莫大な資金調達を余儀なくさせ、原告らの企業活動にとって大きな制約となったことは厳然たる事実として存在する(甲165[高木光学習院大学教授・鑑定意見書。以下「高木教授・鑑定意見書」という。]五頁)。本件条例がもたらす原告らの営業活動に対する影響は多種多様に現われ、これら無形損害は甚大かつ広範に生じている。
ところが、仮に本件訴訟において、原告らの過誤納金還付請求が認容されたとしても、原告らに返還される金額は、各年度の過誤納金に還付加算金を付加した金額にとどまるのであり、原告らが現に被っているこれら甚大かつ広範な損害を填補するものでは全くなく、救済として全く不十分である。また、国家賠償請求にしても、完全賠償主義の建前であったとしても、事後的な金銭補償である限り、「本件条例が制定されなかったとしたらあったであろう原告らの状態」を回復することは現実的には不可能であり、同様に救済として全く不十分といわざるを得ない。さらに、マスコミ報道等から知られるように、巨額の不良債権処理、株価低迷、企業再編、国際的な経済不況等々、今般の銀行業を巡る極めて厳しい我が国の経済環境からすれば、将来金銭的に事後的な措置を得たとしても、原告らの救済として時機を失することは余りに明白なのであって、本件条例が原告らに対して及ぼす被害の深刻さを併せると、本件における事前救済の必要性・緊急性が切迫していることは公知の事実である。
(カ) 小括
以上のとおり、原告らは、今後重大な損害を被ることが確実であり、また、既に発生した重大な損害が更に拡大することは明白で、かかる重大な損害は、事後的な救済では回復が著しく困難であることも明らかである。したがって、本件においては、事前審査を認めないことによる損害が甚大で事前の救済の必要が顕著であるといえるので、緊急性の要件を充足するというべきである。
ウ 補充性の要件について
原告らの被る回復し難い重大な損害の発生を事前に回避するためには、後記8(原告らの主張)で述べる各当初原告に対する回復し難い重大な損害の発生から一年以上経過した段階で違法な更正処分や決定処分に対して取消訴訟を提起させるのでは、原告らの救済手段として全く十分ではない。銀行については、その信用が失墜してしまった後では、司法による救済はもはや手遅れであることは、近年の幾例もの金融機関の破綻事例に照らしても経験則上明らかである。
したがって、原告らが本件で提起している他の請求が認められる場合でない限り、他に十分な救済手段が存しない以上、この要件をも充足することは当然である。
(4)ア なお、最高裁判例は、予防的不作為請求については、義務付け訴訟とは異なり、「訴えの成熟性」の観点から、その適法性を柔軟に審査判断していると解すべきである(司法研修所編「―改訂―行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究」一四〇頁参照)。すなわち、最高裁判所昭和四七年一一月三〇日第一小法廷判決(民集二六巻九号一七四六頁)は、「義務の履行によって侵害を受ける権利の性質およびその侵害の程度、違反に対する制裁としての不利益処分の確実性およびその内容または性質等に照らし、右処分を受けてからこれに関する訴訟のなかで事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合は格別、そうでないかぎり、あらかじめ右のような義務の存否の確定を求める法律上の利益を認めることはできないものと解すべきである」と判示しているところ、この最高裁判例の判示する基準により本件訴訟の成熟性の有無について判断しても、以下のとおり、請求3については紛争の成熟性が肯定されるというべきである。
イ まず、前記1(原告らの主張)(1)イで述べたとおり、本件条例の制定による繰延税金資産及び当期利益の減少により、既に原告らは別紙6記載のとおり莫大な損害を現に被っており、その法的利益に対して重大な影響が生じているだけでなく、自己資本比率の悪化、事業税負担による将来の利益の大幅な減少等が発生し、同時に、原告らの金融機関としての「信用」が既に大きく低下しており、信用の低下という事態は、回復し難い重大な損害である。その他、自己資本比率の低下等に伴い発生した回復し難い重大な損害は、後記8(原告らの主張)(3)に述べるとおりである。
ウ また、原告らが本件条例が無効であることを前提として申告を行い、又は申告しない場合には、被告東京都知事が本件条例に覇束される結果原告らに対して更正処分ないし決定処分を行うことは確実であるほか、加算金や罰金、免許取消し等の措置が採られる可能性もあることから、本件訴訟による早期の救済が与えられない限り、原告らにとって回復し難い重大な損害が生ずることは前記(3)イ(イ)に述べたとおりである。
エ さらに、「信用」というものは、いったん低下し始めるとこれを失うのに時間を要しないところ、前記(3)イ(ウ)で述べたとおり、本件外形標準課税の適用がある五年間に原告らの財務状況に重大な悪影響を与えることは明らかであるので、早期の救済がされない限り、原告らの信用がかかる短期間のうちに一層低下することは確実であるといえる。また、前記(3)イ(イ)で述べたように、将来の更正処分又は決定処分に伴い原告らの信用はより一層低下することも明らかであり、これにより原告らの信用の低下に拍車がかかり、原告らの経営・財務状態にとって回復し難い悪影響を与えることもまた必至である。このように、原告らに対して本件訴訟における早期の救済が与えられない場合には、原告らの信用が一層低下し、回復し難い重大な損害が拡大することは確実であると言える。
オ 上記イないしエの回復し難い重大な損害を可及的に回避するべく、裁判所による早期の救済が強く要求される。回復し難い重大な損害の発生から一年以上も経過した後において提起される違法な更正処分又は決定処分に対する取消訴訟等の事後的な救済手段では、原告らにとって十分な救済手段が与えられているとは到底いい得ない。
加えて、本件訴訟の争点としては、本件条例が憲法一四条一項及び三一条に違反しているか、並びに地方税法七二条の一九及び同法七二条の二二第九項に違反するかという問題点が既に具体的に明らかになっている。
したがって、前掲最高裁判所昭和四七年一一月三〇日第一小法廷判決の考え方により紛争の成熟性を判断するとしても、本件訴訟には、紛争の成熟性が認められ、しかもその成熟性の程度が十分に高いことは明白である。
(5) 以上のとおり、本件においては、適法三要件の全てを充足するとともに、仮に前記最高裁判所昭和四七年一一月三〇日判決における訴えの利益(紛争の成熟性)の判断の下でも適法性が肯定されることは明らかであるので、本件の更正処分及び決定処分の差止めを求める請求3に係る訴えは適法である。
なお、請求3は、平成一三事業年度の事業税に関するものであるから、平成一二事業年度に係る事業税のみについて関係する本件通知処分の取消訴訟の提起により補充性や紛争の成熟性が失われることはあり得ない。
(被告らの主張)
(1) 無名抗告訴訟は、法定抗告訴訟や民事訴訟によっては救済されない場合の補充的な訴訟形式であり、特に行政事件としては、行政事件訴訟法の処分取消訴訟中心主義の例外に当たるものであるから、その要件は厳格に解するべきである。
(2) 明白性の要件を具備していないことについて
本件条例による事業税に係る更正処分及び決定処分を行うに当たり、行政庁は、本件外形標準課税の適用の要件である資金量が五兆円以上であることのほか、課税標準となる業務粗利益等の総額や外国事業分の業務粗利益等の控除の有無及び算定、被告東京都分の業務粗利益等の算定根拠となる分割基準の算定、さらには税額の計算過程等を納税者の書類・帳票及び関係文書等から、税務上の専門的技術を駆使して調査するものであるところ、どのような調査をどのような方法で行うか、その結果をどのように評価し、判断するかは、個々の事実関係の下で第一次的に行政庁たる被告東京都知事が、総合的に行うことによってはじめて可能となる重要かつ困難な事務に属するものである。
このような調査・判断なくして更正処分及び決定処分は行い得ないのであるから、請求2は、第一次的判断権を行政庁に留保することが必ずしも重要でないという明白性の要件を充たすものでないことは明らかである。
(3) 緊急性の要件を具備していないことについて
原告らの主張する事前審査を認めないことによる損害は、現に発生していないものや本件条例の制定との間に因果関係のないものであり、煎じ詰めれば過去一五年間における法人事業税額の平均的負担水準との差額に見合う程度のものにすぎない。以下のとおり、原告らに対して本件訴訟による早期の救済が与えられないとしても、本件条例の制定によって、回復し難い損害が生じないことは明らかであり、本件訴えは緊急性の要件を欠くものである。
ア 本件条例の制定による繰延税金資産及び当期利益の減少について
(ア) 原告らは本件条例の制定により繰延税金資産及び当期利益が減少したと主張するが、この主張は、本件条例が違憲・違法・無効であることを主張しながら、会計処理においては、本件条例による課税を受けることを前提とした処理をし、その結果をもって損害であるとする論法である。
(イ) また、原告らのいう繰延税金資産及び当期利益の減少による損害は、税効果会計手続に基づく会計処理によって生ずる損害であるにすぎず、現実に発生した損害ということはできない。
仮にこれが損害であるとしても、財務会計処理手法に起因する会計処理上の損害であるにすぎず、本件条例の制定を原因として発生した実質的損害でないことは前記1(被告らの主張)(1)ウで述べたとおりである。
(ウ) さらにいえば、そもそもこのような損害は、税効果会計上は、各事業年度の期末に、その時点での税率を用いて過年度に計上された額を修正しなければならないものとされ(乙2の1ないし3)、本件条例は平成一二年四月一日に公布・施行されたものであるから、本件条例に基づく税効果会計上の処理は、平成一三年三月期において過年度に計上された額の修正が行われるべきものである。にもかかわらず、原告らは、未だ計上する必要のない、本件条例の内容を一年間先取りした繰延税金資産及び当期利益の減少を、平成一二年三月期において、あえて自ら計上したものである。したがって、仮に、そのような会計処理によって、原告らに何らかの損害が生じたとしても、それは、自らの行為によって発生した損害であって、本件条例の公布・施行によって発生したものでないことも明らかである。
(エ) 原告らは、本件条例の制定により、税効果会計手続に基づき繰延税金資産及び当期利益(平成一二年三月期分)が減少した結果、莫大な損害が直ちに発生していると主張する。
しかし、原告らの主張する損害は、平成一二年三月期の会計処理によって生じたものであるが、真実そのような損害が発生するのであれば、あえて一年間の前倒しをしてまで、本件条例の内容を先取りした税効果会計手続に基づく繰延税金資産及び当期利益を減額修正することは、およそ考えられないことである。一年間も前倒しして莫大な損害を発生させたことにつき、重大な経営責任が問われざるを得ないからである。このことは、原告らの主張する損害が単なる帳簿上の会計処理によるものであって、現実の損害でないことを示すものにほかならない。
(オ) ちなみに、日本公認会計士協会は、平成一二年四月一八日、平成一二年三月期決算において、本件条例の内容を先取りした税効果会計手続に基づく繰延税金資産を計上することを許容する「東京都の外形標準課税に係る税効果会計適用上の取扱い」(乙2の1)を公表したが、これも、本件条例に基づく会計処理を前倒しすることを原告らに義務づけるものではないから、原告らが、あえて、不必要な前倒しの会計処理を行ったことに変わりはない。
イ 「信用の低下」による損害について
(ア) 原告らは、銀行等の金融機関としての信用は、その債務返済能力に関する一般公衆ないしは市場の銀行等に対する信頼であり、①前述した繰延税金資産及び当期利益の減少、②同繰延税金資産及び当期利益の減少がもたらした純資産及び経営・財務指標への悪影響並びに自己資本比率の減少(別紙8)、③平成一三年三月期から見込まれる事業税負担の増加に伴う利益の減少、④銀行財務格付けの近い将来における引上げ可能性の低下、及び⑤原告みずほ信託銀行株式会社を除く原告らの平成一二年二月七日から同月一五日にかけての株価の低下により原告らの信用が低下したと主張する。
(イ) しかしながら、①の損害については既に述べたとおり、税効果会計に基づく将来において確定されるべき会計上の損害であり、現実に発生している損害ではないのみならず、自ら選択した会計処理(税効果会計の不必要な前倒し)の結果でしかない。
(ウ) ②の損害についても、現実に発生した損害でない会計処理上の損害を現実の損害として取り扱った結果であり、自ら選択した会計処理の結果でしかないことは①の損害と同様である。
のみならず、自己資本比率についていえば、海外に営業拠点を有する金融機関に対して適用される「国際統一基準(BIS基準)」と営業拠点が国内にのみある金融機関に対して適用される「国内基準」があるところ(銀行法施行規則二一条の二第一項、二項、長期信用銀行法施行規則二〇条の二第一項、二項)、当初原告らに適用される自己資本比率規制は、別紙9のとおりであり、当初原告らは、その主張する自己資本比率低下(別紙8)後においても、いずれも、優に自己資本比率規制値を超えており、これが信用低下をもたらすものでないことは明らかである。
(エ) ③の損害は、将来生ずべき会計上の損害であるというものであるから、現在の支払能力とは関わりのないものであり、これが原告らの信用を低下させるものでないことは明らかである。
(オ) ④の損害は、本件条例制定に伴う結果として当然に生ずるものではなく、任意の格付機関の評価であるのみならず、単なる一般的な可能性の問題でしかない。なお、新聞報道によれば、米国格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスにあっては、これから予測される不良債権処理額に比べると、本件外形標準課税による負担額は「驚くに値するほどの金額ではない」と指摘し、「悲観的な情勢の中でもう一つマイナス材料が加わっただけで、これにより格付けに影響は出ない」と結論づけている(乙7の1)。したがって、本件条例制定が原告らの格付けに影響するものでないことも明らかである。
(カ) ⑤の損害については、本件条例制定に伴う結果として当然に生ずるものではなく、株取引市場における原告らの経営状況全般に対する評価であるから、これが本件条例の影響によるものと即断することはできない。現に、この株価の低下は一時的なものでしかなく、平成一二年三月三一日の原告ら全体の株価は、平均的に見て本件条例案公表直前の平成一二年二月七日当時の水準を上回っている(乙3の2)。
(キ) 加うるに、そもそも、企業に対する信用は、企業の経営状況・経営能力全体に対する評価の結果であって、ひとり租税制度によって上下するものではない。一般に企業が課税の対象となることは、企業の最終的な利益を減少させることはあり得るとしても、そのことが直ちに信用を低下させることに結びつくものではない。本件外形標準課税の対象になるということは、それだけ事業規模が大であり、収益力を有するものであることの証左となるから、むしろ当該企業の信用力を増大せしめる要因ともなり得るものである。これをことさら信用失墜に結び付ける主張は失当というべきである。
ウ 原告らの既に発生したその他の重大な損害の主張について
(ア) 原告らは、①自己資本比率の低下(別紙8)により、貸出の余力が低下し、利子収入の最大限度額が減少する損害を被り、②事業税負担(別紙7)が増加することが見込まれることによって、原告らのコスト(費用)が増加し、国際競争力を大きく失う損害を被った旨主張する。
(イ) しかしながら、①自己資本比率の低下は、税効果会計という会計処理特有の取扱いによって生ずるものであって、本件条例制定に伴って当然に生ずるものでないことは既に繰延税金資産について述べたと同様である。また、利子収入の最大限度額の減少というのは、貸付け可能な資金の全額が現に貸し付けられることを前提にした数字上の損害であり、これが現実の損害ということができないのは明らかである。さらに、本来、本件条例制定が、税効果会計に影響を与えるのは、平成一三年三月期からであるのに、原告らは、これをあえて一年間前倒しして会計処理を行った結果によるものであり、自ら招いた結果である。加うるに、原告らの自己資本比率は、その低下にもかかわらず、自己資本比率規制値を十分に上回っていることは前記イ(ウ)で述べたとおりであるから、原告ら主張のような貸出余力が規制されることはないのであり、これにより利子収入が減少することもないというべきである。
(ウ) 次に、②事業税負担が増加することが見込まれることによって、原告らのどのようなコスト(費用)が増加したというのか不明であるが、それが会計処理によって生ずるコストであれば、それは会計処理の前倒しによって自ら招いたコストであり、また、そのことによって国際競争力が当然に低下するということもできない。したがって、本件条例制定によって原告らの国際競争力が低下したという主張も失当というべきである。
エ 「将来の更正処分又は決定処分に伴う原告らの損害」について
本件条例が議会の議決を経て適法に成立・公布されたものであることはいうまでもないところ、仮に原告らがこれを違憲・違法であると考えるのであれば、現にその義務を課されることとなった原告らは、その時点で本件条例を容認するものではないことを留保して、いったん本件条例に従った申告納付を行い、その上で条例の違憲・違法を理由に納付額が損害に当たるとして損害賠償ないし不当利得返還請求訴訟を提起し、損害を回復すれば足りるはずである。原告らは、このような方法によって、加算金や刑罰ないし免許の取消し・停止という事態を回避することができるし、現に生じた損害を回復することができる。そのためには、一定の支出を伴うこととなるものの、原告らの主張が正当であれば、近い将来回復できるのであるから、原告らの企業規模からいって一時の負担に耐えられないとは思えない。本件外形標準課税に基づく申告納付税額と従前の所得課税に基づくそれとの差額を超えて、原告らの主張するような損害が発生することはあり得ない。したがって、原告らの同主張は失当である。
オ 「更なる信用の低下による原告らの損害」について
本件外形標準課税の適用のある五年間に増加すると見込まれる事業税負担額が原告らの主張するとおりの額であるとしても、資金量五兆円以上の事業規模を有する者に対する負担額は、業務粗利益等の三パーセントの金額を超えるものではないから、これが高額にすぎ、原告らの信用を低下させるものということはできない。
また、業務粗利益等の三パーセントに相当する金額は、過去一五年間に銀行が納めてきた法人事業税額を勘案して決められた税率をもとにして算出された額であり、他方、原告らの現在の業務粗利益の額は、いわゆるバブル期におけるその額と比較しても増加しているのであり(乙3の3)、過大に課税されるものではない。したがって、将来においても原告らの経営・財務状況に回復し難い悪影響を与えるとは考え難い。
カ 他団体が「外形標準課税を課する場合の損害」について
被告東京都以外の地方公共団体において、本件外形標準課税と同じ内容の外形標準課税を導入することとするか否かは、それぞれの地方公共団体の自主的判断で決められるべきことであり、本件条例の制定とは何らの因果関係もないから、この点の原告らの主張はそれ自体失当である。
(4) 補充性の要件を備えていないことについて
上記(3)エのとおり、原告らにおいては、本件条例を容認するものでないことを留保した上で、本件条例に従ってその都度申告納付を行うことにより、加算金等を課されあるいは刑罰を科される事態を回避し、その後に、損害賠償ないし不当利得返還請求訴訟を提起することによって損害の回復を図り、その他の不利益を確実に回避することが可能である。
したがって、更正処分又は決定処分の差止めを求める他に適切な救済手段がないということはできないから、補充性の要件も欠いている。
(5) 小括
以上のとおりであるから、請求3は、無名抗告訴訟の適法要件とされる明白性の要件、緊急性の要件及び補充性の要件のいずれをも欠く不適法な訴えである。
3 争点1のウ(請求4[租税債務不存在確認請求]に係る訴えの適法性)について
(原告らの主張)
(1) 「法律上の争訟」性について
ア 日本国憲法は、一切の「法律上の争訟」(裁判所法三条)に関する裁判権を司法裁判所に与え(憲法七六条一項)、特定の紛争が「法律上の争訟」に該当する限り、(刑事事件を除き)行政訴訟の手続によるか民事訴訟の手続によるかはともかく、司法裁判所の管轄に属することとしているところ、「法律上の争訟」とは、①当事者間の具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争であって、②法律の適用により終局的に解決し得べきものと解されている(最高裁判所昭和二九年二月一一日第一小法廷判決・民集八巻二号四一九頁)。
イ 請求4の租税債務不存在確認請求は、原告らが対象となることが明らかである本件条例に基づく租税法律関係という法律関係の存否に関する紛争である上に、原告らが本件条例が無効であることを前提として申告を行い又は申告しない場合には、被告東京都知事により違法な更正処分ないし決定処分がされることが確実であるので、この意味においても、かかる法律関係は司法判断の対象とすべき十分な具体性を備えている。したがって、上記①の要件を充足することは明らかである。
さらに、同請求においては、その争点として、本件条例が憲法ないし地方税法に違反するか否かという問題点が存在していることは具体的かつ極めて明白であり、憲法・法律の適用により終局的に解決し得べき性質の紛争であるから、上記②の要件を充足することもまた明らかである。
ウ 原告らは、各事業年度の個別的な更正処分又は決定処分等の課税処分を待たずして、本件条例の制定自体によって原告らの会社としての経済的価値が減少し、損害を被っており、その事実に基づき繰延税金資産及び純利益の再計算を法律上強制されている。さらに、原告らには信用、国際競争力及び自己資本比率の低下等の有形・無形の損害が生じたのであり、以上より、原告らの「財産権」と「営業の自由」に対する侵害行為があったことは明らかである(高木教授・鑑定意見書三頁)。そして、被告らは、本件条例が合憲・適法である旨を、平成一二年度の事業税の納税期以前(本件条例制定当時)から一貫して主張しており、原告らが本件条例が違憲・違法であることを前提とした行為を行った場合に、平成一三年度以降も毎年事業税の租税債権が存在する旨を主張してくることは明白である。このように、平成一三年度の事業税に係る租税債務に関し、原告らの権利・法律的地位に不安が既に現存しているのであり、この不安定性を除去するためには租税債務不存在確認請求の訴えの利益を認めるべきである。
請求4の租税債務不存在確認請求における問題の核心は、法人事業税の「税額計算の正確性」ではなく、そもそも本件租税債務の発生根拠となる「本件条例が違憲・違法であり無効」であるがゆえに「租税債務が存在し得ないか否か」という点だけである。原告らは、行政庁の税額計算の間違いを訴えて租税債務の不存在確認を求めているのではない。本件のように、条例無効を理由とする平成一三年度の事業税の租税債務の有無について求める裁判の提訴を、その納税期が経過して被告らが更正処分又は通知処分等を行うまで原告らに待たせるのは、時間と労力の多大なる無駄であるだけでなく、当事者と裁判所にとっても甚大なコストの浪費となることは明白である。本来、法律上の争訟性の有無を含む訴えの利益の有無の問題は、「紛争解決の一回性」の観点から検討されるべきであるが、本件の場合、形式的な観点のみから訴えの利益を否定してしまうのは明らかに「紛争解決の一回性の要請」に反するものといわざるを得ない。
以上から、請求4の対象は、「法律上の争訟」である。
(2) また、本件の請求4につき「紛争の成熟性」を有することは、前記2(原告らの主張)(4)のとおりであるので、仮に法定抗告訴訟及び無名抗告訴訟による本件の各請求の適法性が認められないとあえて仮定しても、当事者訴訟又は民事訴訟のいずれかの訴訟形態による権利救済が認められなければならない。
すなわち、本件訴訟の対象たる紛争は、「法律上の争訟」であり、かつ「紛争の成熟性」を有するので、他の訴訟要件を充足する限り、本件の無効確認訴訟、更正処分・決定処分差止訴訟及び租税債務不存在確認訴訟のうち、少なくともいずれか一つは、現時点において訴訟提起をすることが適法とされなければならず、本件条例が憲法ないし地方税法に違反して無効であるか否かについて、裁判所による本案審理がされることが日本国憲法の要求するところである。
そして、請求4の租税債務不存在確認訴訟は、原告らと被告東京都との間の租税法律関係という公法上の権利関係を訴訟物としていることは明らかであり、また、本件においては、被告東京都知事が原告らの申告に係る事業税額について更正処分又は決定処分を行わないようにするべく、課税庁たる被告東京都知事にも判決の拘束力(行政事件訴訟法四一条一項、三三条一項)を及ぼす必要があり、当事者訴訟の手続を活用することが適切であると考えられる。したがって、本件の場合、当事者訴訟としてその適法性が肯定される。
なお、請求4は、平成一三事業年度の事業税に関するものであるから、平成一二事業年度に係る事業税のみについて関係する本件通知処分の取消訴訟の提起により補充性の要件が失われることがないことは、請求3の場合と同様である。
(3) 他方、仮に当事者訴訟としての適法性が認められないとあえて仮定するとしても、請求4は「法律上の争訟」に該当し、「紛争の成熟性」を有する以上、裁判所としては、憲法上の裁判を受ける権利を実質的に保障しなければならないから、これを民事訴訟として適法な訴訟形態が選択されたものと解して取り扱わなければならない(前掲「―改訂―行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究」八頁参照)。
(4) 当事者訴訟としての請求4が確認の利益以外の訴訟要件を充足することは明らかであるところ、被告東京都知事が更正処分又は決定処分を行うについては本件条例上覊束されているので、その裁量が全くなく、原告らに対して違法な更正処分又は決定処分を行うことは確実であるため、原告らの租税法律関係上の地位に不安・危険が現実に生じている。また、現時点において租税債務を負担しない旨の確認判決を得ておかなければ、今後被告東京都知事によりされることが確実である違法な更正処分又は決定処分に対する抗告訴訟という事後的な救済手段をもってしては回復し得ない重大な損害を原告らが被ることは確実であるため、現時点において確認判決を得ておくことが最も有効適切な手段であることも明らかである。したがって、本件訴えには確認の利益が当然に認められる。
(5) なお、かかる訴えの利益につき、前掲最高裁判所昭和四七年一一月三〇日判決の基準に則り、当該不利益処分を受けてからこれに対する訴訟の中で事後的に義務の存否を争ったのでは回復し難い重大な損害を被るおそれがある等、事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情がある場合に限り、その適法性が認められるとする見解(前掲「―改訂―行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究」三一八頁参照)もあるが、かかる見解による場合にも本件訴えにつき訴えの利益(成熟性)が認められることは、前記2(原告らの主張)(4)イないしエで述べたとおりである。
(6) 以上のとおり、請求4は、適法な当事者訴訟(ないし民事訴訟)として認められなければならない。
(被告らの主張)
(1) 法律上の争訟性について
本件条例は、各事業年度の終了の日における資金量が五兆円以上である銀行業等を行う法人を適用対象としているから、原告らが平成一三事業年度において本件条例の適用を受け具体的な納税義務を負うことになるか否かは、平成一四年三月三一日以降になってはじめて確定され、具体化されることになる。
したがって、原告らが本件外形標準課税の対象となるか否か、その事業税額がいくらになるか不明であるから、原告らと被告らとの間には具体的な権利義務又は法律関係の存否に関する紛争は未だ存在していないといわざるを得ない。
(2) 紛争の成熟性について
原告らは、本件条例の制定により、回復し難い重大な損害が発生すると述べているが、そもそもそのような回復し難い重大な損害が発生しないこと、あるいは何らかの損害が発生したとしても事後的救済手段によって回復可能であることについては前記2(被告らの主張)(3)で述べたとおりである。
したがって、原告らは、本件条例上の義務違反により、更正・決定処分等の不利益を受ける可能性があるとしても、回復し難い重大な損害を被るおそれはなく、その他事前の救済を認めないことを著しく不相当とする特段の事情は存しない。
(3) 以上のとおり、請求4は、法律上の争訟性及び紛争の成熟性を有しないものであるから、訴えの利益を欠く不適法な訴えというべきである。
4 争点2(本件条例の適法性・有効性)について
(原告らの主張)
(1) 憲法九四条違反について
ア 我が国の厳しい経済状況に対する認識から、金融機関の抱える不良債権処理促進を強力に推進させるべく「金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律」(以下「早期健全化法」という。)が平成一〇年一〇月に制定され、我が国の最優先事項の一つとして金融機関による不良債権の最終処理が進められていた。
被告らは、そのような状況下で、国からの平成一二年二月二二日付け閣議口頭了解(甲10)による再考の勧告をも無視し、早期健全化法の趣旨及び目的(同法一条)に逆行する効果をもたらす本件条例の制定を強行した。その結果、本件条例は、平成一二年三月期において、原告らの巨額の繰延税金資産を減少させ、その減少額と同じ金額の税引後当期利益を減少させた(甲168の1ないし3)。同時に、早期健全化法の要請する不良債権の最終処理にとって不可欠となる原資(剰余金)を大幅に喪失させ、しかも、経営の合理化、財務内容の健全性及び業務の健全かつ適切な運営確保の方策等を定めた経営健全化計画(同法五条)の提出を義務づけられた大手銀行のうちの約半分が、平成一二年三月期において本件条例の影響を被り、経営健全化計画を達成できなかった(甲169の1ないし3)。
国法たる早期健全化法が、正に「国策」として金融機関の不良債権処理を事実上強制している状況下において、本件条例は、不良債権処理の法的意味を大きく損なうものであって、本件条例の制定目的に正当性は到底認められない。早期健全化法と本件条例を各目的、趣旨及び効果等の観点から比較すれば明らかなとおり、本件条例は、「法律の範囲内」においてのみ条例制定権を認める憲法九四条に違反しており、被告らにはこのような条例を制定する裁量はない(甲167[首藤重幸早稲田大学教授・鑑定意見書。以下「首藤教授・鑑定意見書」という。]九頁)。
イ また、本件条例は、原告らの不良債権処理額等控除前の計数値である業務粗利益に対し課税するものであるが、これにより東京都が徴収する事業税額は所得課税の計算上原告らの「損金」に算入されるので、本件条例は他の地方団体の法人二税及び地方交付税を減少させる効果を持つ。その減少額は、被告らが本件条例制定当時認識していたところによっても、五年間で実に四〇〇億円程度、旧自治省の試算によると、最大で年間二一〇億円から二一五億円(五年間で一〇五〇億円以上)にも上るとされる(甲170)。
したがって、被告による本件条例の制定行為は、一方的に他の地方団体の税収と国税を大幅に減少させ、地方団体間調整や、国・地方間の税源の適正配分の基準を示す地方税法の趣旨・目的及び効果において大きく矛盾しているのであり、本件条例は地方税の範囲を明らかに逸脱している(首藤教授・鑑定意見書五頁)。
(2) 憲法一四条(平等原則)違反について
ア 総論
本件条例は、(例外四業種を除く)あらゆる業種の中から銀行業等だけを対象とし、しかもその中から更に資金量五兆円以上の銀行等に限定して、本件外形標準課税の対象とするものである。しかしながら、このような本件条例による課税上の区別は、明らかに憲法一四条一項が定める法の下の平等(平等原則)に違反し、地方税法違反の有無を論じるまでもなく当然に無効である。この点、本件条例は、地方税法の規定に基づいて制定されたものとされている(本件条例一条)が、憲法一四条一項に違反して地方税法を解釈した上で制定されたものであるので、当然に無効なのである。
イ 条例による課税上の区別に関する合理性の判断基準について
憲法九四条及び地方税法二条の趣旨からすれば、地方公共団体が条例により租税を課す場合の課税上の区別に関する裁量権は、憲法及び地方税法の目的・趣旨から厳格に制限されることになる。地方公共団体が無制限に条例を制定し得るとした場合には、「人の支配」を許す結果になり、憲法の立脚する「法の支配」の原理から許されない。
そして、本件条例における区別の合理性を客観的に判断すれば、次に述べるとおり、第一に本件条例の目的は不当であり、かつ、第二に区別態様も著しく不合理であるから、本件条例は憲法一四条に違反する。
ウ 目的が不当であることについて
(ア) 税負担の公平性の確保という目的について
行政サービスを受けながら法人事業税の負担額が大きく低下している法人は銀行業等以外にも多数存在し、例えば、不動産業、建設業、証券業、鉄鋼業等の多くの業種において、銀行業等と同様、法人事業税の負担額が大きく低下している。したがって、銀行業等だけが法人事業税をほとんど負担していないなどという事実は全く存しない。
しかも、そもそも現行の地方税法は、担税力に応じた税負担という意味の公平性を原則としており、このことは、地方税法七二条の一二が、原則として、「所得」を法人事業税の課税標準としていることからも明らかであって、担税力の低下に応じて税負担が減少している納税者が存在することは、現行の地方税法がもともと予定し是認するところであり、これを不公平と評価することはできない。
むしろ、本件条例により銀行等のみが課税される場合には、上記のように法人事業税の負担額が大きく低下している「銀行等以外の業種」と本件外形標準課税の対象となる「銀行等」との間の税負担の不公平が発生するから、本件条例は、税負担の公平性を確保するものとはいえない。
(イ) 都の安定的な税収の確保という目的について
被告東京都における現在の全法人の法人事業税の負担額は、いわゆるバブル期に入る前(約一五年前)と比較すると、ほぼ同じ水準であって、この比較によれば、被告東京都の税収が急激に低下しているとか不安定であるなどという事実は存在しない。
被告らが、現在の被告東京都の税収が「バブル期における税収」と比較して大きく低下していることをもって税収が不安定であると考えているのであれば、それは「バブル期」という極めて異常な時期と現在を比較している点において明らかに不当である。さらに、バブル経済崩壊の影響により事業税の負担額が大きく低下している業種は、前述のとおり銀行業等以外にも多数存在するのであって、銀行業等からの税収のみを問題視する根拠も全く存在しない。
加えていえば、仮に被告東京都の税収が変動しているとしても、上記(ア)で述べたとおり、納税者の担税力の変動に応じて税収が変動するのは、景気感応的な「所得」を課税標準とする地方税法の是認するところである。したがって、安定的な税収の確保を図るという本件条例の目的自体が極めて不当なものである。
エ 区別態様が著しく不合理であることについて
(ア) 「銀行業等」に限定することの不合理性について
前記の本件条例の二つの目的のうち、①の都の安定した税収の確保という「目的」と銀行業等に課税対象を限定して課税するという「手段」との間に合理的な関連性が全くないことは明らかである。けだし、かかる目的を達成するために外形標準課税を導入するのであれば、全ての業種を対象とすべきであり、銀行業等に限定する理由は存在しないし、上記ウ(ア)のとおり、銀行業等と同様に法人事業税の負担額が低下している他の業種が存在している以上、銀行等だけに対して外形標準課税を行う合理的な理由は存しないからである。
次に、②の税負担の公平性の確保という「目的」との関連でも銀行業等に限定して課税するという点に「合理性」が全く認められない。租税法の基本原則である公平性の原則は、「課税のうえで、同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは状況に応じて異なって取り扱われるべきことを要求する」(甲5[金子宏著「租税法」第七版補正版]八六頁)。そして、上記ウ(ア)のとおり、銀行等と同様の状況にある、銀行業等以外の事業を行う法人(以下「他業種法人」という。)が多数存在しているのであり、「公平性の原則」からは、それらと銀行等とを課税上は同様に扱うことが要求される。したがって、税負担の公平性の確保という目的からすると、他業種法人に課税せず、銀行等に限定して課税することを正当化する理由は全くない。
また、そもそも「銀行業等」という特定の業種に対してのみ課税標準を変更することは、地方税法の趣旨に照らして許されず、条例制定権の裁量の範囲を逸脱するものである。すなわち、地方税法は、法人事業税について、その物税としての基本的性格に基づいて、明示的に例外とされる例外四業種を除き、業種等の人的事情による区別を許さず全ての業種について一律に「所得」を課税標準とし(同法七二条の一二)、全ての業種について可及的に均一の取扱いをすることを旨としている。したがって、地方税法七二条の一九を適用する場合も、特定の業種についてのみ外形標準課税を課すことは、かかる地方税法の趣旨に反する。
特定の業種についてのみ外形標準課税を課することが地方税法の趣旨に直ちに反しないとあえて仮定しても、全ての業種について可及的に均一の取扱いがされるべきことを要求する地方税法の趣旨にかんがみるならば、「既存の例外四業種の場合に例外的取扱いが許容される必要性」と同程度の必要性が存在する場合に限ってその合理性が認められると解されるべきである。そして、地方税法七二条の一二が例外四業種の場合に例外的に各事業年度の「収入金額」を課税標準としている趣旨は、①電気供給業・ガス供給業は、公共事業で、料金が認可制で低く押えられているため、所得を課税標準としたのでは事業規模に比較して事業税負担が過少になるからであり(ただし、認可料金の中には事業税が含まれており、かつ地域独占事業であるので、これらの法人は事業税の負担を確実に消費者に転嫁できる。)、また②生命保険業・損害保険業は、利益に占める配当のウェイトが極めて大きいが、所得の計算上それが益金に算入されず、かつ契約者配当が所得の計算上損金に算入されることから、所得を課税標準としたのでは事業規模に比較して事業税負担が過少になるためである(甲6[前掲金子「租税法」]三五三頁)。すなわち、「所得」以外の課税標準が許容される必要性は、事業自体の客観的性質及び法制度(税法制度)上の理由による事業税負担の恒常的な過少性が存する場合にのみ認められるというべきである。しかるに、銀行業等の場合の近年の事業税負担の減少は、近時の経済状況を原因とした不良債権処理、リストラ等を主原因としており、これは景気変動に基づく一時的・偶然的事情によるものにすぎず、銀行業等については、上記のような事業税負担の恒常的な過少性が存しないのであって、例外四業種と同程度の必要性は全く認められない。
(イ) 「資金量五兆円以上」に限定することの不合理性について
仮に都の安定した税収の確保という目的が不当でないと仮定しても、当該目的と「資金量五兆円以上」の銀行等に限定して課税するという手段との間に合理的な関連性が全くないことも明らかである。けだし、安定した税収の確保という目的を達成するためであれば、資金量五兆円未満の銀行等を含めて(資金量の多寡にかかわらず)全ての銀行等に対して課税する方が、明らかに効果的であり、資金量五兆円以上の銀行等に限定する理由がないからである。また、資金量五兆円未満の銀行等についても、法人事業税の負担額が低下しているものが存在している以上、資金量五兆円以上の銀行等だけに対して外形標準課税を行う合理的な理由はないからである。
また、税負担の公平性の確保という目的からも、資金量五兆円以上か否かで区別する理由は全くない。地方税法は、前述した法人事業税の基本的性格に基づいて、人的事情による区別を許さず可及的に均一の取扱いをする趣旨であって、本件条例における銀行等の資金量という人的事情による区別は上記の地方税法の趣旨に反する。
(ウ) 課税標準を「業務粗利益等」とすることの不合理性について
採用される外形標準は、銀行業等の事業規模・活動量を表すために適切であることが必要であり、そうでない場合には、区別態様の合理性が否定されなければならない。
銀行業等の場合には、課税標準を業務粗利益等とすることは、結局「売上」に対する課税を意味することになるが、かかる「売上」等の金額には、他社からの「仕入」に相当する金額、すなわち他社の事業規模・活動量を表す金額までもが含まれるので、外形標準としては明らかに不当である。また、業務粗利益等においては、銀行業等の場合に売上の減少として評価されるべき貸倒損失等が控除されていない。すなわち、業務粗利益等を課税標準とすることは、不当な外形標準である「売上」よりも更に課税ベースの広い、いわば「水増し売上」に対する課税であり、この意味でより一層不当な外形標準であるというべきである。
(エ) 区別態様の相当性を欠くことについて
区別態様の合理性が認められるためには、それが更に「相当性」を有していなければならない。これを本件に則していえば、他業種法人の状況とその事業税負担額との関係を基準として、資金量五兆円以上の銀行等が負担することになる本件外形標準課税に基づく事業税負担額が当該銀行等の状況に応じて過大である場合には、相当性がないことになる。すなわち、担税力に応じて税負担をするという「応能課税」を前提とした公平性の観点からは、他業種法人の担税力とその事業税負担額との関係を基準として、資金量五兆円以上の銀行等が負担することになる本件外形標準課税に基づく事業税負担額がその担税力に比べ過大である場合には、相当性がない。また、受益に応じて税負担をするという「応益課税」を前提とする公平性の観点からは、他業種法人が受けている行政サービスの量とその事業税負担額との関係を基準として、資金量五兆円以上の銀行等が負担することになる本件外形標準課税に基づく事業税負担額がその受けている行政サービスの量に比べ過大である場合には、相当性がない。
この点につき、留意すべきことは、資金量五兆円以上の銀行等と同様に担税力が低下し、事業税の負担額が大きく低下している他業種法人が現実に多数存在し、それらの他業種法人も当該銀行等と同様、その事業規模・活動量に応じて行政サービスを受けているにもかかわらず、別紙7記載のとおり、本件外形標準課税の結果、資金量五兆円以上の銀行等だけが平成一三年三月期の法人事業税負担予測金額の合計額の比較において約9.77倍(約778.9億円増加)(当初原告ら二一行の平成一三年三月期の所得及び業務粗利益等のそれぞれの予測金額に基づく試算結果による。)もの事業税を負担することである。すなわち、資金量五兆円以上の銀行等と同様の担税力を有し、行政サービスを受けている他業種法人の事業税負担額には全く影響がないのに、かかる銀行等の事業税負担額のみ一〇倍近くも増加することを意味する。さらに、別紙7記載のとおり、原告らのうち一五行は、事業税負担額が一〇億円以上も増加することになる。
このように、本件外形標準課税に基づく原告らの事業税負担額は、その担税力に比し、またその受益の程度に比し、著しく過大であるから、その区別態様が「相当性」を欠いていることは極めて明らかである。
オ 小括
以上のとおり、本件条例による課税上の区別は、著しく不合理的な区別であることが明らかであり、このような恣意的な区別に基づく課税対象の選別は憲法一四条の平等原則に違反するものであり許されない。
(3) 憲法一三条又は三一条(適正手続)違反について
ア 憲法三一条の定める適正手続の保障は、行政手続にも準用されると解されている(最高裁判所平成四年七月一日大法廷判決・民集四六巻五号四三七頁)。
本件条例は、納税義務者の要件を極めて具体的・限定的に規定しており、平成一二事業年度の末日において原告らを含む約三〇法人という特定の者が本件外形標準課税の対象となることは明らかで、被告らが本件条例によりこれら特定の範囲の者に課税する意図であったことも当初から明瞭であった。名宛人が「特定」されている条例は、「法規」たるべき重要な構成要素を欠くのであるから、たとえ形式的には立法であっても「実質的意味の立法」ではなく、そのような名宛人が特定された条例の制定行為は、特定の名宛人を対象とする「行政処分」と同視できる。したがって、本件条例は、原告らを含む「特定の者」を狙い撃ちした課税処分ないし行政処分と同視することができ、その手続には、憲法三一条が準用されるというべきである。
また、すべての行政処分について憲法上適正手続の保障が及ばないとしても、当該処分により私人が重大な損失を被る場合については適正手続の保障が及ぶべきところ、本件条例制定行為により、原告らは莫大な額に及ぶ資産及び純利益の減少等の重大な損失を被ったのであるから、行政処分性を有する本件条例の制定について原告らには憲法上適正手続の保障が及ばなければならない。
イ 本件においては、上記のとおり、本件条例がその適用対象を極めて限定しているため、本件条例の適用を受ける原告らに対してその意見聴取のための手続を履践することが容易であった。
また、本件外形標準課税の構想が発表された直後から、政府、政府関係者その他多数の権威ある学者等の有識者が本件条例の適法性に対する強い疑問を公に表明していたので、本件条例の違憲性・違法性につき法律学者等の意見に則って十分慎重な検討を行う必要があった。
さらに、前記1(原告らの主張)(1)イ、同2(原告らの主張)(3)イ(ア)、後記8(原告らの主張)(3)で述べるとおり、本件条例の制定の結果、原告らは、回復し難い重大な損害を既に被っているが、かかる損害は被告らにとっても十分予期し得べきものであったので、不利益を被る原告らから十分な意見聴取を行う等事前に十分慎重な手続を履践する必要があった。
そして、税負担の公平性の確保及び被告東京都の安定的な税収の確保という目的を達成するために、上記の本件条例の違憲性、違法性に関する慎重な検討及び原告らが被る重大な損害に関する慎重な手続の必要性を排除するほどの緊急性は全く存在しなかった。
以上からすると、本件条例の制定に至る手続においては、憲法三一条の要求する適正手続の内容として、本件外形標準課税の納税義務者たる原告らに対する十分な説明等の事前の「告知」及び原告らからの意見聴取の場を設けること、本件条例の違憲性・違法性について検討する十分な議論の場を設けること、原告らが防禦を尽くせる程度の十分な情報を開示すること等の「聴聞」の手続の履践が要求されていたことは火を見るより明らかである。
ウ また、議会へ代表者を選出する権利を持たず、かつ、極めて限定された範囲のないしは特定の者に対し新たに納税義務を賦課する場合には、課税する側は、これら権利義務に直接影響を受ける課税対象者に対し、当該新税の立案過程に直接参加する機会を提供するか、あるいは、少なくともその過程を開示し、かつ、新税案の内容について十分に合理的な説明を行うと同時に、選挙権のない当該納税義務者にも立案段階における意見陳述等の政治的活動などによりその意向を新税立案過程に反映させ得る機会を実質的に確保しなければならない。この意向を直接又は間接的に立案過程に反映させ得る機会を実質的に確保すべき観点からすれば、行政庁による議会への条例案提出前の新税導入構想の発表は、新たな納税義務者とされる者に対し十分な時間的余裕をもって行う必要があることはいうまでもない。
しかしながら、本件外形標準課税の構想は都議会開会が差し迫った平成一二年二月七日に突如として公表され、それから二週間も経過した後である同月二一日に至って全国銀行協会に対して被告東京都から本件条例の説明がされたが、その場の説明には合理性がなく、全国銀行協会は、原告らの代表として、その後も本件条例制定の目的の根拠となる事実を証する十分な資料の提出及び本件条例制定に関する合理的な説明を被告東京都に対して求めたが、被告東京都からは何ら十分な資料の提出及び合理的な説明がされることはなかった。
むしろ、本件では、被告らは、是が非でも本件条例を成立させるために、納税義務者となる原告らに意向を条例案に反映させ得べき時間的余裕を与えず、しかも、納税者である原告らが加盟する全国銀行協会からの銀行業への外形標準課税構想の問い合わせに対し虚偽の回答をして立案過程を秘匿し、原告らから本件条例案に対する意向反映の機会を意図的に奪った。被告東京都知事には、政府や学者を含む各方面からの多数の反対意見にもかかわらず、納税義務者となる原告らの意向を汲もうとする姿勢は全く見られなかった。確かに、都議会予算特別委員会において三名の参考人に対する意見聴取は形式的には行われ、その際には、条例に賛成する立場の神野直彦教授でさえ「このプランが作成される過程でもって、課税される銀行業の方々の声に十分に耳を傾けられてきたでしょうか。」との疑問を示しているものの、本件条例案が発表される前段階において、既に都議会の主要な各党派が早々と条例案賛成の意向を表明し可決成立が確実となっていたことから、その後の参考人からの意見聴取が本件条例の成否・内容に影響を与える可能性は皆無であった。このように、本件条例の一連の制定過程において、条例案を廃案又は修正させ得るような機会が事実上完全に奪われたまま、原告らは、一方的に本件外形標準課税の納税義務者とされたのである。
したがって、本件条例の制定に至る手続は、適正な手続を要求する憲法一三条又は三一条に明らかに違反する。
エ 憲法三一条は、人権制約に際して、その内容が実体面にわたって適正でなければならないことをも要求すると解するのが通説であり、判例上も認められているところ、被告らが納税者となる原告らに対して実質的な手続保障を履践しなかったことを背景として、本件条例は著しく不合理な内容の条例となった。したがって、本件条例は、かかる実体面の適正の要求を充たさず憲法一三条又は三一条に反し、違憲無効である(甲172[戸松秀典学習院大学教授・鑑定意見書]一一頁及び一二頁)。
(4) 地方税法七二条の一九違反について
ア 地方税法七二条の一九は、「事業の情況に応じ」外形標準課税の採用が必要である場合に限って、極く例外的に外形標準課税を採用することを認めているにすぎないので、本件外形標準課税が同条項に照らして適法であるか否かは、本件外形標準課税の採用が「事業の情況に応じ」必要であると評価できるかどうかによることになる。そして、同条項の文言の解釈は、憲法及び地方税法の目的・趣旨から厳格に制限されなければならない。けだし、憲法の要請から離れて地方税法の規定について地方公共団体による任意の解釈を許す場合には、前述のとおり、憲法九四条の趣旨に反することになるだけでなく、ひいては「人の支配」を許す結果になり、憲法の立脚する「法の支配」の原理を実現し得なくなるからである。
イ(ア) まず、前記(2)エ(ア)のとおり、地方税法は、例外四業種を除き、全ての業種について可及的に均一の取扱いをする趣旨であるので、そもそも特定の業種のみについて本条を適用することは、「事業の情況に応じ」という要件を充たさない。
(イ) 地方税法七二条の一九は、例外四業種以外の法人・個人の行う事業についての課税標準につき、一定の外形的指標を課税標準として用いることを容認している。しかし、その文言からは、例外四業種以外の法人・個人の行う事業の中から特定の個人・法人のみを一律の客観的な指標によって抽出して課税標準を異にすることまで容認していると解釈することはできない。地方税法七二条の一九の「あわせ用いることができる」という併用方式について定める部分も、法人の業種や法人の資金規模等によって課税標準を変えることを許容するものではなく、併用方式を全法人に適用することを想定したものであると解される。要するに、同規定は、課税標準は全法人につき均一に採用する趣旨の規定である、ということになるから、特定の業種のみを取り出して外形課税を課すことは、同規定によっては許容されていないと解される。
(ウ) また、一つの業種の中から、ある特定の指標で区別を行い、外形課税によるものとそうでないものとを区別することを容認しているとは、なおのこと解釈することはできない。このことは、例外四業種について、何ら事業規模等による区別を許容していないことからも明らかである。昭和二二年の地方税法四八条の三第一項においては、外形課税は、「営業ノ種類ヲ限リ」許容する旨が規定されていたので、このような個別の導入も予定されていたといえる。しかし、現行法においてわざわざ上記文言が削除され法文上の表現が変えられていることからすれば、逆に外形課税を導入するに当たっては、全業種を一括して対象としなければならないことを念頭に置いていたと解される(甲85[碓井光明東京大学教授・鑑定意見書。以下「碓井教授・鑑定意見書」という。])。
(エ) 仮に被告らの主張のように、特定の業種のみに外形課税を導入することができるとすれば、極端な例では、銀行業については業務粗利益を標準とするほか、デパートについては売場面積を、パチンコ店については従業員数を、というように、不統一な課税が可能ということになる。しかし、上記の結果は、課税の公平を著しく損なうものであることが明白であり、地方税法七二条の一九が、このような事態を想定しているとはいえない(甲90[水野忠恒「東京都外形標準課税条例の評価」ジュリスト一一八一号二頁])。
(オ) 地方税法は、二つの場合のみに不均一の課税を許容しているが、このことは、それ以外の場合には、負担の程度を均一に適用するという「均一課税の原則」を地方税法が採用していることを意味していると解される。不均一の課税が許容されている場合とは、第一に、「公益上その他の事由に因り必要がある場合」の不均一課税(公益等による不均一課税)の場合である(地方税法六条二項)。第二に、地方団体の「一部に対して特に利益がある事件」に関する不均一課税(受益による不均一課税)の場合である(地方税法七条)。これらの二つの場合以外については、地方税法は、不均一な租税の負担を認めておらず、地方税法七二条の一九の適用に当たっては、例外四業種以外については、一律に外形課税を導入することを想定していると解するべきである(碓井教授・鑑定意見書)。
(カ) いわゆる「物税」すなわち租税客体の存在に対して課せられる租税においては、「物」自体に担税力の根拠が見いだされ、そのような担税力に応じて税を負担させることが税負担の公平の原則に適う以上、そのような「物」をどのような者が所有しているかといった事情を考慮に入れて税負担を決めることは、税負担の公平に反するものである。「物税」においては、法令が明示的に許容する場合を除き、納税義務者の「人的事情」は考慮の外に置かれるべきなのである。
そして、本件条例が問題とする「法人事業税」は、事業を行っているという事実それ自体を担税力の根拠とし、この事実に着目して「事業」そのものを課税客体として課される税目であることから、「物税」に当たるところ、本件条例は、本来「物税」において考慮すべきでない納税義務者側の人的事情である「銀行業を営んでいるかどうか」「資金量はいくらであるか」という点に着目し、この人的区別を基準として一律に課税標準を異にした課税上の取扱いをしているのであるから、この点においても、一層違法性は明らかである。
また、物税について納税義務者の属性等によって租税負担の程度を異ならせる場合には、それぞれの個別の正当化事由を具体的に検討すべきであると一般的に解され、行政実例もそのような立場を採っているところ、本件条例は、物税たる事業税に関し、銀行業、しかも資金量が五兆円以上の銀行に限って、一律に、課税標準を他の法人と異にする措置を採るものであり、適用対象の税負担を不均一とするに当たって、納税義務者の個別具体的な事情を斟酌する内容とはなっておらず、この点においても問題がある。
(キ) さらに、これまで政府税制調査会等で議論されてきた外形課税は、課税ベースを広くし、薄く広く税を負担させようというものであり、一部の業種に限定した形のものではなかった。事業税の性質が応益課税であるとの見解に固執するのであれば、行政サービスはあらゆる業種が受けているのであるから、一部の業種に限定して外形課税を導入するというのは筋違いというべきものである。このことからも、被告らが本件条例によって実現したものは、地方税法七二条の一九が予定していた外形課税などではなく、銀行業を営むものに対する「銀行新税」という法定外税を、法律の根拠なく導入したものにほかならず、地方税法二五九条の潜脱である。法定外税の手続で新税を導入すると様々な手続があり要件も厳しいことから、地方税法七二条の一九の規定を用いたということを、東京都議会の財政委員会の中で、被告東京都知事自身が認めており(乙5の6[六頁])、この被告東京都知事の説明は明らかに「地方税法の潜脱」を自認したものであるといえる。
ウ(ア) 次に、特定の業種にのみ本条を適用することが直ちに違法とならないと仮定しても、上記の地方税法の趣旨にかんがみるならば、例外四業種の場合に例外的取扱いが許容される必要性と同程度の必要性がある場合に限って、「事業の情況に応じ」という要件を充たすというべきである。しかしながら、銀行等については、前記(2)エ(ア)のとおり、かかる必要性は全く認められない。
(イ) 地方税法は、その構成上、明らかに「所得」を原則的な課税標準と定め、外形標準を用いるのはあくまでも例外としている。このことは、地方税法が、同法七二条の一二における課税標準についての規定を中心に置き、同法七二条の一九の外形課税による場合の具体的な定めは、都道府県の条例に委任していることから窺うことができる(地方税法三条)。この観点からは、地方税法七二条の一九の外形課税の要件は、厳格に解さなければならない。なぜなら、都道府県の広範な裁量によって課税標準を変えることができるとすれば、租税負担公平の原則に反する結論となり得るからである。そこで、地方税法は、かかる結論を回避するための要件として、「事業の情況」という要件を定めたと解される。また、立法の経緯を見ると、事業税の前身である営業税の規定には、「事業の情況に応じ」という文言の代わりに「特別の必要ある場合においては」という文言が用いられ、極めて厳しい要件が課せられていた。現行法の規定は明らかにこの流れを引いており、外形課税の採用についても、同様に厳しい要件が引き続き課せられていると解すべきである。換言するならば、地方税法は、無制限に地方税法七二条の一九の外形課税を認めているわけではなく、外形課税が許容されるためには、それを許容するに足りるだけの必要性と合理性が必要なのである(碓井教授・鑑定意見書、甲98[碓井光明「地方税の法理論と実際」一八頁])。
(ウ) 現行法の例外四業種について外形標準課税を定めた趣旨は、①電気供給業及びガス供給業については、法律(電気事業法一九条、ガス事業法一七条)で料金が認可制となっていること、②生命保険業及び損害保険業については、契約者配当が所得計算上損金に算入されること(法人税法六〇条)などから、所得基準によっては、事業規模に比較して税負担が少なくなる点に、外形課税が認められた根拠があると認められる。これらは、いずれも所得基準では恒常的に税収が上がらないという点について制度的な特別な理由ないし恒久的な構造的特徴がある場合に当たるといえる(甲6[金子宏「租税法」第七版補正版]三五三頁)。したがって、「事業の情況」という要件は、これらの例外四業種の場合と同様に、所得基準では恒常的に税収が確保できないという点について制度的な特別な理由ないし恒久的な構造的特徴がある場合に限って充足されると解釈されるべきである(甲99[森信茂樹大阪大学教授・意見書]、甲100[首藤重幸早稲田大学教授意見書。以下「首藤教授・意見書」という。])。
(エ) この点について、被告らは、所得によらないで、売上金額等を課税標準とした方が、当該事業活動の規模をより適正に把握できるような場合が「事業の情況」の要件を充たす場合であると主張し、その根拠として、三木義一教授及び神野直彦教授の見解を引用する。
しかし、現在、銀行の税収が減少しているのは、被告らも認めるように近時の経済状況を原因とした不良債権処理、リストラ等を主原因としているにすぎず、景気変動に基づく一時的・偶然的事情によるものにすぎないという点で、例外四業種の場合とは全く異なっている。所得課税を原則的な課税標準とする事業税が、景気感応的であり、景気によって税収が大きな変動を受けることは広く知られているところであるが、被告らの主張によれば、景気の変動による税収の減少前の事業税総額の水準、換言すれば、当該事業が全体として一つの自治体に負担すべきと考えられる税負担とはいくらを指すのか、あるいは景気変動による税収の減少が何年間継続すれば「事業の情況」の要件を充たすというのか、という点について、全く地方団体の判断に委ねられることになってしまう。これでは、自治体間の財源配分の均衡・適正化を図り、かつ、事業活動等に対する予測可能性を与えようという枠付け法としての地方税法の存在意義を否定することに等しい。そして現に被告らが本件条例を制定したことにより、原告らの市場における計測的事業経営は混乱したのであり、法的安定性が著しく損なわれる結果となった。被告らの主張は、地方税法七二条の一九の規定を、「過去の納税実績を基礎に、ある一つの事業が全体として負担すべきであると地方団体が判断する事業税総額の水準を、当該事業がある一定期間にわたって達成できない場合、当該地方団体は当該事業に対して、従前の事業税総額の水準に達し得る程度で外形課税を選択することができる」と書き換える、いわば「条文の書き換え」を主張する見解と言わざるを得ない(首藤教授・意見書)。
よって、被告らの、銀行業について「事業の情況」の要件を充たす、という主張には、全く理由がない。
エ(ア) また、「事業の情況に応じ」という要件を充たすには、本条により採用される外形標準は、客観的に銀行業等の事業規模・活動量を表すのに適切な外形標準でなければならない。しかし、前記(2)エ(ウ)のとおり、「業務粗利益等」は、不当な外形標準であるので、この要件を充たさない。
(イ) 被告らは、本件条例を制定するに当たり、銀行業等における「業務粗利益」が一般事業会社における「売上総利益」に相当するものと判断し、「業務粗利益」と「売上総利益」とを比較して、その比較結果から銀行業等に対してだけ外形標準課税条例を適用したと主張し、本件条例を成立させた平成一二年第一回定例東京都議会でも、被告東京都の主税局長は同趣旨の説明をしている(乙5の3[一七二頁])。
しかしながら、銀行業等における「業務粗利益」は、一般事業会社における「売上総利益」との比較対象とは到底なり得ない全く異なる概念であり、「業務粗利益」と「売上総利益」とを比較したというのは、銀行業務の大宗を占める枢要な業務である「貸出業務の本質」について、被告らが全く理解していなかったことの決定的な証左と認められる。したがって、被告らは、本件条例を制定するに当たって重大な立法事実に関して致命的な事実誤認があったというべきであり、しかも、条例の制定に当たっては、当然なすべき銀行の貸出業務の調査・検討を怠ったことをも如実に表しており、調査を怠ったという意味において立法事実の重大な欠如も認められるところである。
(ウ) 「業務粗利益」と「売上総利益」とは、制度目的においても表示上も共通基盤を完全に欠いた関係にある。「業務粗利益」は「資金利益」、「役務取引等利益」、「特定取引利益」及び「その他業務利益」から構成されるが(甲109の注記3参照)、銀行業務の八割以上を占める貸出業務に関する項目である「資金利益」について、貸出業務に不可避な費用である貸倒引当金繰入額(一般及び個別)、貸出金償却及び不良債権売却損等(以下併せて「不良債権処理額」という。)が何ら反映されていない。このことは、会計学的にみて、「業務粗利益」は、費用と収益が対応する「売上総利益」という損益勘定科目とは明らかに異なる概念であることを示しているのであり、「業務粗利益」が「売上総利益」に相当すると判断できないことを意味し、しかも、「業務粗利益」が銀行業の事業活動規模を現すというには重大な疑問を呈することにもなる。
オ(ア) また、本件条例は、応益課税の観点からみても事業税の本質と矛盾し、被告らが条例制定権を濫用したものである。外形標準課税の本質を「行政サービスの受益の対価」と捉えるのであれば、被告らが主張するとおり、その論理的帰結として、受益の程度に比例した金額を納税者に課税することが要請される。したがって、ある地方公共団体が外形標準による新たな事業税を導入する場合には、行政から享受するサービスの受益の程度との均衡を失することがないよう配慮し、できるだけ受益の程度に応じた税負担を求めるように課税標準を選択し、税率を設定することが求められる。
(イ) 法人事業税は、法人の事業活動と地方の行政サービスとの幅広い受益関係に着目して事業に対して課される税であることから、課税標準となる外形標準は、「法人の事業活動の規模」をできるだけ適切に表すものでなければならない。この見地から、合理的な外形標準としては、「給与基準」、「物的・人的基準」、「付加価値基準(事業活動価値基準)」及び「資本金基準」の四基準が一般に挙げられる。しかし、このうちの「資本金基準」は、外形標準としては合理的ではない。そこで、公共サービスからの受益を測定する尺度ないし「物差し」としては、「資本金基準」を除く、「給与基準」、「物的・人的基準」、「付加価値基準(事業活動価値基準)」の三基準が適切な指標となると考えられる。これに加え、外形標準としての「従業員数基準」について見ると、行政サービスの一般的な内容に道路、港湾、教育、衛生その他の施設利用があることからすると、「従業員数」を外形標準とすることには前示の三基準に準じた合理性が認められる。
(ウ) 本件条例による事業税収が被告東京都の事業税収入全体に占める「納税シェア」を計算すると、平成一三年度に関しては、被告東京都が法人事業税による税収を一兆一〇三一億円(甲111)程度と見込む一方、本件条例によって得られる銀行業等からの税収については、一四一六億円程度と見込んでいることから(甲112)、本件条例により資金量五兆円以上の銀行業等が負担する法人事業税額は、法人事業税額の総額の12.8パーセントとなる。
他方、事業活動規模を表す尺度ないし「物差し」としての①給与基準、②人的物的基準、③付加価値基準(事業活動価値基準)及び④従業員数基準から算出される本件条例適用対象となる金融機関(資金量五兆円以上の銀行業等)による事業税額の「合理的な納税シェア」は、①給与基準1.16パーセント、②物的・人的基準1.31パーセント、③付加価値基準(事業活動価値基準)2.09パーセント、④従業員数基準1.72パーセントである(甲113)。
事業活動規模を適切に表す指標とされる前示の各外形標準と対比してみると、本件条例は、常軌を逸した過大な事業税負担を原告らに対して強いるものであることが顕著となっている。この格差を倍数で表すと、①給与基準との格差11.03倍、②物的・人的基準との格差9.77倍、③付加価値基準(事業活動価値基準)との格差6.12倍、④従業員数基準との格差7.44倍となる。
このように、本件条例は、原告ら資金量五兆円以上の銀行業等に対し、本来合理的とされる税負担よりも、実に六倍から一一倍もの極度に重い事業税を課するものとなっている。
(エ) 「都内の銀行業等の従業員数」が「都内の全法人就業員数」に占める「割合」は、1.72パーセントであるが、これらの銀行業等の従業員による東京都の施設利用等による行政サービスの受益の量がその「七倍以上」もの量に及んでいるとみることに合理性を見いだすことは、いかなる観点からみても到底不可能である。被告らは、本件条例が「応益原則」に基づいた事業税である旨主張しているが、上記の結果を見ると、被告らの主張とは正反対に、本件外形標準課税は「応益課税原則」から全く乖離しており、被告らの本件条例による外形標準課税の定め方が完全に恣意的なものであったことを露呈させている。よって、本件条例には応益課税原則と本質的な矛盾がある。
(オ) 被告東京都が法人等に対して提供する行政サービスの現実を見ると、銀行業等のみが都内の法人に対する行政サービスの12.8パーセントもの突出したサービスを受益しているなどという事実は絶対に有り得ないのであり、それにもかかわらず、被告らは本件条例により、合理的な受益の程度を著しく超えて恣意的に重税を賦課したものであり、被告らは憲法上認められた条例制定権を濫用したものである。
カ 本件条例は地方税法違反である以上、条例制定裁量論を論じる余地はなく、この違法な本件条例は、被告らの条例制定裁量論をもって違憲性、違法性を消失させることはあり得ないというべきである(首藤教授・鑑定意見書七頁)。法律に適合するかどうかという問題の場合には、法律自体が規範としてはかなり明確であり、行政庁に認められた行為の幅というのは本来的に小さい。しかも、本件において原告らが主張している違法事由の主なものは、裁量の範囲というものが考えられないものである。
被告らは、地方税法七二条の一九の文言が「…できる。」と規定していることを根拠に、特定業種に外形標準課税を導入するか否か、導入するとしても中小金融機関に配慮するか否かについて裁量の余地が残されていると主張する。しかし、同条は、「資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等を課税標準とし、又は所得及び清算所得とこれらの課税標準とをあわせ用いることができる。」と規定しており、その文言からは上記の裁量の余地は看取できない。また同条は業種毎に区別して外形課税を導入することを本来想定していないと解すべきであり(碓井教授・鑑定意見書)、同一の事業の中での事業規模に応じて課税標準を外形標準と所得等に分けることは、許されない(首藤教授・意見書)。したがって、この点に関する被告らの上記主張は独自の見解にすぎない。
キ 以上のように、銀行業等については、「事業の状況に応じ」という本条の要件を充たしているとはいえない。したがって、本件外形標準課税は、地方税法七二条の一九に違反する。
(5) 地方税法七二条の二二第九項違反について
ア 地方税法七二条の二二第九項の定める均衡性については、実際に本件外形標準課税による負担が生ずる事業年度においての、所得を課税標準とした場合の税率による負担と外形標準課税の場合の税率による負担との均衡性を問題とする必要がある。
イ 特定の業種のみに外形課税を導入した場合には、この地方税法七二条の二二第九項の要件については、より厳格に適用されるべきである(碓井教授・鑑定意見書)。このような厳格な解釈は、昭和二三年に現在の事業税制度が確立した際に、それまで外形課税を設ける際に要求されていた内務大臣の許可制を廃止した代わりに、この均衡要件が入れられたという立法の流れと符合するものである。
ウ 本件においては、所得基準(旧基準)による場合と、本件条例(新基準)による場合の納税額は、それぞれ別紙10「納税額一覧表」(甲101)のとおりであるが、その差額の最も多い銀行では八七億円余、原告ら全体では七二四億円余もの差額が生じており、旧基準下の負担の実に約7.7倍の負担増となっている。これが、常識的に見て「著しく均衡を失する」ことは明らかであり、本件条例は、地方税法七二条の二二第九項にも違反する。
エ この点について、被告らは、外形課税は、各事業で算定される現実の所得が当該事業の規模を適切に表さない場合に導入する意味があるので、この規定をある特定の年度の現実の所得金額による租税負担と比較するという意味に理解しなければならないとすれば、外形課税の存在意義を否定することになると主張する。
しかし、被告らの見解では、特にどの程度の年数を対象として考えるかどうかによって恣意が入り込む余地があり、現に本件でもいわゆるバブル期における原告らの税負担の額を比較の対象に入れるか否かで結論が大きく左右されることとなる。したがって、仮に地方税法がそのような比較を想定しているのであるならば、上記イのような立法の経緯でこの均衡要件が制定されたことも併せて考えると、どの程度の年数で比較すべきかということまで法文に規定されていたはずである。ところが、この点が明文で規定されていないということは、単年での比較を想定していたと考えるのが適切な解釈である(碓井教授・鑑定意見書同旨)。よって、被告らの主張には、全く根拠がない。
(6) 地方税法六条二項違反について
ア 本件条例は、資金量五兆円以上の銀行についてのみ課税標準を異ならせるものであるから、これは地方税法に定める不均一課税の状態を生み出すものにほかならない。地方税法は、前記のとおり、同法六条二項及び同法七条の二つの場合に限り不均一の課税を許容しているところ、地方団体の地域的な一部について区別を持ち込むものではない本件条例は、地方税法七条によっては正当化され得ないから、本件条例が許容されるためには、結局、地方税法六条二項の要件を充たさなければならないということになる。
イ 課税標準について不均一の取扱いが認められると仮定したとしても、本件条例は、資金量五兆円以上の銀行を区分して、ただちに税負担を重くする方向で不均一課税を行っている。しかし、沿革的理由及び解釈論的理由から同法六条二項は税負担の軽減のための規定であると一般に解されており、また重課の方向の不均一課税は地方税法七条に規定があることを理由に、重課の方向で地方税法六条二項を発動させることはできないと解されている。したがって、本件条例は、地方税法六条二項を重課の方向で発動させたことにおいて違法である。
ウ しかも、被告らが根拠として提出した東京都議会ないし同関連記録のどこにも、本件条例の制定に当たって、本件条例の不均一課税の問題を議論した形跡は見られない(乙5の1ないし9)。のみならず、不均一課税を導入する場合、条例の該当規定の見出しに「不均一課税」という文言を入れたり、条文の本文の中に地方税法六条二項を引用するのが通常の規定の仕方であるが、本件条例はそのような定め方にもなっていない(甲1)。
エ さらに、仮にこの点を措くとしても、資金量五兆円未満の銀行に対して外形課税を導入しなかった理由について、被告らは、「中小金融機関への配慮」という点を挙げているが、これが「公益上の理由」に当たるとはいえない。すなわち、課税標準の不均一課税を通じて金融機関の取引先や経済の活性化を図るという趣旨であれば、資金量五兆円以上の銀行に不均一課税を適用した方が一般法人を含め住民の一般的な公益につながるということはできるかもしれないが、大手銀行に重課税を実施し、中小金融機関のみを優遇しても、住民や経済社会のための一般的な公益に大きく資するといえるかといえば、大手銀行の公共性の高さにかんがみるならば相当問題がある。
オ もともと不均一課税の規定は租税公平主義の大きな例外であり、これを濫りに適用することは税負担の公平の観点から許されない。不均一課税の規定を適用するに当たっては、あくまでも個別・具体的にその適否が慎重に検討されるべきであるので、納税者の属性等によって、個別・具体的な事情が検討されることなく、一律に本規定を適用するようなことは許容されない。このような解釈からすれば、本件条例のように、資金量によって区分し、資金量五兆円未満のものについては一律に課税標準を異にするというような不均一課税の方法は違法であることが明らかである。さらに、外形課税というものが、本来は課税ベースを広くすることによって税負担を広く浅くするという趣旨に立脚するものであることからすると、資金量五兆円未満の銀行のみ所得基準を維持するということは、一層その合理性を欠き、公益上の理由がないということができる。
(被告らの主張)
(1) 憲法九四条に適合することについて
ア(ア) 地方公共団体の課税自主権と国の経済政策との調整に関しては、都道府県の法定外普通税、法定外目的税についての地方税法二五九条、二六一条三号、七三一条二項、七三三条三号のように地方税法に明文の規定が置かれている。しかし、地方税法七二条の一九には、このような調整の必要性をうかがわせるような文言はない。したがって、地方税法七二条の一九の規定に基づく本件条例に「国の経済政策」との調整の観念を法的義務として持ち込むこと自体が、文理に反するだけでなく、事業税の性格を考慮した同条の立法趣旨ないしは実質的意味に反するものであるということができる。
(イ) また、本件条例に基づく現実的影響については、そもそも、繰延税金資産及び税引後当期利益の減少は、税効果会計手続に基づく会計処理によって生ずる減少にすぎないことは、前記1(被告らの主張)(1)ウで述べたとおりであり、本件外形標準課税により見込まれる被告東京都の年間増収額は一一〇〇億円(乙3の7、実際の予算見積額は一〇〇〇億円)であり、それと各銀行が平成一二年三月に予想していた業務純益約三兆円、不良債権処理見込額三兆円等の規模を考えれば、各銀行にとって上記負担額は決して過重なものではない。したがって、本件条例が制定されても、原告らの原資(余剰金)の大幅な喪失、経営健全化計画の不達成をもたらすことはなく、本件条例は、国の経済政策を阻害するほどの要因になるものではない。
(ウ) なお、経済への影響を考える場合、次の点をも留意する必要がある。
被告東京都の行う行政サービスにより、都民及び東京都における銀行業等を含むすべての法人は、直接間接に多大の利益を受けており、これらの行政サービスを支障なく行うための資金として、法人からは法人事業税を徴収するものであるから、法人事業税収入が確保されなければ、歳出の抑制も考慮しなければならず、そうすると、行政サービスの低下を招き、ひいては、銀行業等を含む法人の健全な事業活動が阻害されることにもなりかねない。
さらにいえば、被告東京都は、中小企業の保護を主要な政策と位置づけ経済対策を行っており(乙3の57)、さまざまな都市施設の建設等により公共投資を行っている。これらの経済対策や公共投資の結果、経済は活性化し、それに伴い、銀行業等の預金が増加し、貸付けも増加するところ、本件条例に基づく税収は、これらの資金の一部として使われることになるから、本件条例による課税は、めぐりめぐって銀行業等に還元されることになるものである。
(エ) 以上のとおり、国の経済政策を本件条例の制定に優先させなければならないとの法的義務はないし、本件条例は、全体として国の経済政策を阻害するものではなく、「法律の範囲」を逸脱するものではない。
イ(ア) 次に、他の地方団体の法人二税及び地方交付税を大幅に減少させるから地方税の範囲を明らかに逸脱しているとの主張も失当である。
法人税法三八条二項においては、法人事業税は、損金算入税目とされている一方で、道府県が標準税率を超える税率で事業税を課する場合には、制限税率の範囲内においていわゆる超過課税を行うことができる(地方税法七二条の二二第八項)。この法人事業税の超過課税における超過部分は、当然のこととして他の地方団体の法人の所得を減らすことになり、その法人税額にも影響を及ぼすこととなるのであって、本件条例により、他の地方団体の法人二税等に影響が及んだとしても、それは、地方税法及び法人税法が認めるところであるというべきである。
(イ) また、確かに、主税局の試算では、他の地方団体につき、平成一四年度から平成一八年度の五年間で法人二税及び地方交付税で合計四〇四億円の減少になる(乙3の58)。この限度での影響は否定しない。しかし、原告らの主張が依拠する旧自治省の試算及び日本総合研究所の予測は、毎年課税所得が発生するとした場合の上限値であり、現在の銀行の状況からすれば、五年間の繰越欠損金の控除期間内に課税所得が発生するかどうかは極めて疑問であるから、現状のように大半の銀行が赤字である場合には、影響はほとんどない。原告らの主張する数字は、誇張されている。
(ウ) さらに、東京都内に勤務する多数の他県居住者(いわゆる千葉都民、埼玉都民)は、その勤務する間、被告東京都の行う様々な行政サービスを享受するものである。仮に本件条例の制定行為が原告ら主張のとおり他の地方団体の法人事業税収を減少させるとしても、そのような減少は、多数の他県居住者が被告東京都から多くの行政サービスを受けている現状からすれば、ある程度予定しているものといえる。しかも、本件条例の制定について、近県の地方団体からの反対はない。
また、平成一二年二月二四日、第一四七回国会地方行政委員会において、当時の保利自治大臣は、「東京都がおやりになったことは直ちに違法とまでは言えないという状態でありますし、むしろ、地方分権の建前、課税自主権の問題からいえば、当然のことをおやりになったという解釈もできる」と答弁している(乙6の1)ことからすれば、地方自治の主管官庁である自治省(現総務省)も、本件条例の制定を容認しているものである。
(2) 憲法一四条一項に適合することについて
ア 本件条例は、税負担の公平性の確保及び被告東京都の安定的な税収の確保を目的とし、区別の態様として外形標準課税の適用対象を資金量五兆円以上の銀行業等に限定し、課税標準を業務粗利益等としたものであるが、以下に述べるとおり、同立法目的は正当なものであり、かつ区別の態様も同目的との関連で合理的であるから、憲法一四条一項に適合するものである。
イ 目的が正当であることについて
(ア) 税負担の公平性の確保の目的について
a 事業税は、その課税客体が事業であり(地方税法七二条一項)、講学上の物税に属するものであって、その課税根拠が事業が収益活動を行うに当たり地方公共団体から受ける各種の行政サービスに要する経費を受益の程度に応じて負担すべきであるとの応益性の原則に求められる(東京高等裁判所昭和五九年二月一五日判決・判例時報一一〇五号三七頁及びその第一審東京地方裁判所昭和五七年五月三一日判決・判例時報一〇四三号七頁)。
すなわち、事業は、道路、橋梁、港湾、学校、公衆衛生施設等の各種の都道府県の設置する公共施設の利用や公共サービスの受益があってはじめて収益活動を行うことができるものであることから、事業を行う者は当然にこれら行政のために必要とされる経費を賄うための租税を負担すべきであると考えられているのである(乙1の3[佐々木喜久治監修、正橋正一著「事業税(平成五年度版)」]一頁、乙6の2[自治省「地方税制の現状とその運営の実態」]二〇五頁)。
b ところで、銀行業等は、ここ数年にわたって、最終利益を計上する以前の臨時損失、とりわけ不良債権処理にかかる損失額が多額に及ぶため、十分な収益を上げながらも事業税の課税所得が発生していない。すなわち、当初原告ら二一行のうちの一九行の業務粗利益をみてみると、いわゆるバブル期の平成二年三月期には約五兆六〇〇〇億円であったものが、平成一一年三月期には七兆五〇〇〇億円を超えており、いわゆるバブル期を上回る業務粗利益を上げながら、銀行業等は事業税をほとんど負担していないのである(乙3の4ないし6)。これは、法人の事業活動の地方公共団体の行政サービスからの受益という関係に着目すると、負担の公平を著しく損なうものである。
そこで、本件条例は、このような銀行業等の事業の情況にかんがみ、銀行業等に対して所得課税を継続すると当該事業の活動量に応じた課税が困難となるため、外形標準課税を導入することにより税負担の実質的な公平性を確保しようとしたものであり、したがって、その立法目的は正当なものである。
原告らの主張するように、行政サービスを受けながら法人事業税の負担額が大きく低下している法人が銀行業等以外にもあることは事実である。しかしながら、これらの法人は、いわゆるバブルの崩壊による経済事情の悪化により売上総利益(いわゆる粗利)自体が低下しているのであって、銀行業等とはありようが異なっている。いわゆるバブル期よりもかえって大きな業務粗利益を上げながら、莫大な不良債権処理を行った結果、最終的に所得が激減して、事業税をほとんど負担していないのは銀行業等だけであり(乙3の4ないし6)、また、銀行業等の法人事業税収の低下の程度は、他業種に比べて大きく、さらに、各年度におけるその負担額は、不安定であって(乙3の6)、もはや応益課税としての法人事業税の機能が喪失しているという特殊な状況が生じている。本件条例が銀行業等を適用対象とするのは、このような銀行業等に特有の事業の情況に着目したものである。
(イ) 被告東京都の安定的な税収の確保の目的について
大手銀行三〇行からの法人事業税収は、いわゆるバブル期には二二〇〇億円であったのに対し、平成一一年三月期においては一〇〇億円程度となるなど、銀行業等の税収動向は極めて不安定である(乙3の7)。いわゆるバブル崩壊後に銀行業等の法人事業税負担が低下したのは、銀行業等が、いわゆるバブル期よりも業務粗利益を上げていながら不良債権処理に係る損失額が多額に及ぶためである。
いわゆるバブル期前から現在までの間の被告東京都における法人事業税収は、不安定であり(乙3の11)、また、上記の現在の税収との比較の対象は、いわゆるバブル期における税収のみではなく、いわゆるバブル期前から現在までの一五年間についての税収であり、そして、その期間についてみると、銀行業等の法人事業税収が不安定であることは明らかである(乙3の11)。
そこで、本件条例は、このような銀行業等の事業の情況にかんがみ、外形標準課税を導入することにより銀行業等からの法人事業税収を安定させ、もって被告東京都の安定的な税収を確保しようとしたものであり、したがって、その立法目的は正当なものである。
通常、企業活動の規模は所得の額に反映されるといえるから、地方税法で所得基準の除外例とされている事業を除けば、原則として、所得基準を適用して特別の不都合はない。しかし、いわゆるバブル崩壊後の銀行業等の事業の情況をみると、現行の所得課税では、応益課税としての法人事業税の機能が喪失しており、本件条例は、銀行業等の税負担の公平性を確保するとともに、被告東京都の安定的な税収を確保することを目的としているのである。
ウ 区別態様が合理的であることについて
(ア) 銀行業等に限定したことの合理性について
前記イ(ア)aで述べたとおり、事業税は、応益原則に基づく税であり、都道府県の各種の公共サービスからの受益に対する経費負担と観念されており、本質的には、その所得の有無にかかわらず、事業活動の規模に応じて定まることが望ましいとされている。このため、地方税法七二条の一九は、その事業の情況に応じ、所得によらないで、売上金額等を課税標準とし、又は所得とこれらの課税標準とを併せて用いることができると規定しているのである(前掲東京高等裁判所昭和五九年二月一五日判決)。
所得が事業規模等事業の受ける行政サービス等の受益の程度と著しくかけ離れたものとなったような場合には、所得を基準とすることが合理性を欠くことが懸念され、そのような場合には、行政サービス等の受益の程度をより適切に反映するもの、例えば、収入金額、資本金額、従業員数あるいは付加価値等の外形標準によることが合理的と考えられ、だからこそ地方税法七二条の一九は、外形標準を課税標準とし得る旨規定しているのである(前掲東京高等裁判所昭和五九年二月一五日判決及びその第一審東京地方裁判所昭和五七年五月三一日判決)。
ところで、銀行業等は、不良債権処理に係る損失額が多額に及ぶため、いわゆるバブル期よりも業務粗利益を上げていながら、所得課税による法人事業税をほとんど負担していないのが実情である(乙3の4)。そこで、本件条例は、銀行業等のこうした事業の情況にかんがみ、地方税法七二条の一九の規定に基づいて、銀行業等に限定して外形標準課税を行うこととしたものであり、したがって、区別態様として合理的であり、実質的公平を図る方策として、公平性の原則に何ら反するものではないことは明らかである。
原告らは、特定の業種についてのみ外形標準課税を課することは、既存の例外四業種の場合に例外的取扱いが許容される必要性と同程度の必要性が存在する場合に限ってその合理性が認められる旨主張する。しかしながら、地方税法七二条の一九を以上のように限定的に解する根拠はない。事業税は、明治一一年に創設された営業税を前身とし、課税客体は事業であり、事業そのものの経済的価値に担税力を見いだしている税として一般に解されており、「所得」が本質的に望ましい基準では必ずしもなく、事業そのものの価値や収益力を計る一つの目安にすぎないのである。したがって、外形標準課税が認められる「事業の情況」というのは、事業税の趣旨からみて、所得で課税すると極めて不公平になる事情を広く含む概念と解される。
これを本件についてみると、銀行業等は、税収動向が極めて不安定で、十分な収益を上げており、行政サービスの対価としての事業税をほとんど負担していないという不公平な情況にあるのであるから、これが、地方税法七二条の一九にいう「事業の情況」に該当することは明らかである(乙1の4[三木義一「外形標準課税と訴訟の論点」都市問題九一巻一〇号四九頁])。
(イ) 資金量五兆円以上に限定することの合理性について
本件条例が適用対象を資金量五兆円以上の銀行業等に限定したのは、中小金融機関に配慮したためである。すなわち、①銀行業等における事業規模の状況をみると、資金量五兆円以上の銀行業等の資金量が、三八〇〇以上ある民間預金取扱金融機関の全資金量の五割を超えていること(乙3の8)、②業務粗利益とほぼパラレルに変動する傾向のある業務純益ベースで見ても、資金量五兆円以上の銀行の業務純益総額は、都市銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行一三六行の業務純益総額三兆八〇〇〇億円の約七割を占めていること(乙3の9)によるものである。税負担の公平性は、実質的公平性を図るための合理的差異を容認するものである上、外形標準課税の導入に当たって、中小金融機関等に対し配慮することは、条例制定権者の政策判断として十分に合理性があるものというべきである。したがって、本件条例が上記のとおり資金量五兆円以上に限定したことの合理性は十分認められる。
なお、都内の資金量五兆円未満の銀行業等については、税収が安定している(乙3の10)。
(ウ) 課税標準を業務粗利益等とすることの合理性について
本件条例が課税標準を業務粗利益とした理由は、①銀行業等における業務粗利益は、銀行業等の基本的業務をすべて網羅した指標であり、銀行業等の事業活動の規模を最も適切に反映する客観的指標であること、②現行の所得と比較して、かなりの安定性が期待できることなど、銀行業等の事業活動量の指標として最も適切なものだからであり(乙2の12)、本件条例が、課税標準を業務粗利益としたことは、合理性を有する(乙1の4及び5)。
原告らは、課税標準を業務粗利益とすることは売上ないしは水増し売上に対する課税を意味するから外形標準として不当である旨主張する。しかしながら、業務粗利益は、売上とは異なるものである。外形標準課税にいう「外形標準」とは、従業員や資本金など、外から客観的に把握できるものをいうところ、業務粗利益は、銀行業等の基本的業務をすべて網羅した指標であり、銀行業等の事業活動の規模を最も適切に反映し、把握できる客観的指標に該当すると解される(乙1の4及び5)。
(エ) 区別態様が相当性を有することについて
本件条例は、区別の態様として適用対象を資金量五兆円以上の銀行業等に限定し、課税標準を業務粗利益としたものである。応益原則に基づく事業税の本質からすれば、事業税負担額は、事業活動の規模に応じて定まるべきものであるところ、業務粗利益は、前記(ウ)で述べたとおり、銀行業等の事業活動の規模を最も適切に反映する客観的指標であるから、これを課税標準とする事業税負担額は、銀行業等の事業活動の規模を反映しているものである。したがって、本件条例の区別の態様は、相当性も有するものである。
原告らは、外形標準課税に基づく原告らの事業税負担額は、他業種法人の情況とその事業税の負担額との関係において、その担税力に比し、また、その受益の程度に比し、著しく過大である(一〇倍近く増加する。)から本件外形標準課税の区別態様は相当性を欠いている旨主張する。しかしながら、銀行業等の法人事業税収は、他業種と比べて極めて不安定であり、応益課税としての事業税の機能を喪失しているため、銀行業等については、事業の情況に応じた課税標準を適用することが税負担の公平確保のため必要である。また、所得以外の課税標準による課税の比較の対象たる所得課税による負担は、所得課税による税収が景気の変動等に連動して変化することを考慮すれば、ある程度の期間を通じた税負担とすべきところ、原告らの約一〇倍増加するとの試算は、平成一三年三月期の所得及び業務粗利益を予測しただけの比較によるものであるから、それ自体失当といわざるを得ない。
(3) 憲法三一条に違反していないことについて
ア 憲法三一条は「行政手続」にも適用ないし類推適用される余地がないとはいえないが、そもそも本件条例の制定行為は「立法行為」であって、立法行為に憲法三一条の適用ないし類推適用の余地はない。
本件条例においては、課税対象行が限られた銀行になるものの、条例上、名宛人として銀行名が明示されていないことは明らかであるから、名宛人が特定されているとはいえない。さらに、本件条例は、平成一二事業年度の末日における資金量が五兆円以上の銀行業等に適用されるものである(本件条例三条一項及び三項)ことを一般的、抽象的に定めているにすぎず、さらに、原告らを含む特定の者が当該事業年度の末日において五兆円以上の資金量を有する場合には、本件条例の対象となるが、これを下回る事業年度があれば課税対象から外れることもあるのである。したがって、このことをもって本件条例の制定行為を特定の名宛人を対象とする行政処分と同視できるとする原告らの主張は失当である。
イ また、地方税法においては、条例を制定する場合に聴聞を義務づけている規定は、同法三五〇条二項以外には存在せず、本件条例の制定は、事業税における外形標準を導入するというものであるから、同項に該当しないものであり、納税義務者の聴聞が必要とされるものではない。
ウ 上記の法律論は別としても、本件条例は、次に述べるとおり、原告ら納税者への真摯な説明等を経て制定されたものである。
本件条例は、東京都民の代表である被告東京都知事によって東京都議会に提案され(地方自治法一四九条)、東京都民の代表である東京都議会議員による審議・議決を経て成立した(地方自治法九六条)ものであり、法律の定める手続を経て制定されたものである。そして、都議会においては、平成一二年三月一三日の予算特別委員会において、当時の杉田力之全国銀行協会会長(原告株式会社第一勧業銀行頭取)を参考人として招き、その意見陳述を聴取した(乙5の2)。
しかも、被告らは、原告らのいうように納税者の理解と協力を得るように努力していくことは重要であるとの認識を持ち、以下のように事実上利害関係者に真摯な説明をし、意見聴取等の機会を設けている。
まず、平成一二年二月二一日、主税局総務部長及び税制部長ほか二名は、全国銀行協会を訪問し、約三時間にわたり、六〇名余に対し、本件条例の趣旨、制度の必要性、その内容等について、資料(乙4の4)をもとに詳細な説明を行った(乙4の1)。その際、事業の情況、税負担の状況、資金量五兆円以上の銀行業等を対象とした理由等の論点について意見交換を行い、本件条例の基本的な論点について網羅し、これに対し丁寧な説明を行ったものであるから、一応の理解は得られたものと認識していた。ところが、その後、同月二三日、全国銀行協会から資料請求があったので、既に外部に公表している資料を中心に提供できる資料を用意し、同月二八日、全国銀行協会あて送付した(乙4の5)。さらに、同月二九日、全国銀行協会から、レベルを上げて、主税局長から説明を受けたいとの要請があったが、被告らは、同月二一日、既に事務レベルでは本件条例案について説明を行って、一応の理解を得ていたものであるから、新たに主税局長が、同月二一日の意見交換会と同じ形式で六〇名余に対し説明をしても、これを上回るような実のある議論ができることは期待できなかったので、全国銀行協会会長や役員等少人数との意見交換会を行いさらに理解を深めたいとの提案を全国銀行協会に対し行った。しかし、全国銀行協会が六〇名余全員による同会の開催にこだわった結果、意見交換会の方式について双方の意見が一致せず、その開催に到らなかったものであり、被告らとしては、条例案の内容を説明し、かつ意見を交換する場を持つべく最大限の努力をしたのである(乙3の65)。
また、各銀行からの問い合わせに対し説明を行うとともに、経済同友会等の関係団体にも同様の説明を行い、同年三月二日に行われた東京都議会予算特別委員会においては、利害関係者である杉田全国銀行協会会長、財政を専門とする神野直彦東京大学経済学部教授、金融を専門とする糸瀬茂宮城大学事業構想学部教授の三人を参考人として意見聴取を行っている(乙5の4)。
さらに、同月七日に全国銀行協会がマスコミに配付した「都の答弁・説明に対する七つの疑問点」と題する文書に対しては、同日、同文書に対する被告東京都の考え方をホームページ上で公表している(乙3の66)。
このように、本件条例制定行為においては、憲法の定める適正手続の保障は及ばないことから、告知、聴聞を行う必要はないにもかかわらず、被告らは事実上利害関係者に真摯な説明をし、意見聴取等の機会を設けてきたものである。したがって、本件条例が適正な手続を経ていないとの原告らの主張は、以上の点からも失当である。
なお、原告らは、本件条例案の策定前に、被告らが全国銀行協会からの問い合わせに対し虚偽の回答をして立案過程を秘匿したと非難するところ、この点についての事実は、同年一月一七日、主税局税制部長は全国銀行協会職員と面談し、匿名の投書(甲16ないし甲18の各1及び2)を示された上、銀行に対する新税(正しくは新税ではない。)構想について、確認を求められたが、主税局税制部長がこれを否定したものである。内部で検討中の事案について、これを外部に公開することによって計画の実現が不当に妨げられる恐れがあるような場合には、しっかりとした見通しが持てるまで、公開を避けることは、組織としてはやむを得ない対応である。その代わりいったん本件条例案を東京都議会に提出することを公表して以降は、上記のとおり、利害関係人に対し真摯な説明をし、意見聴取等の機会を設けてきたものであるから、これをもって、本件条例制定手続が違法と評価されるいわれはなく、原告らの非難は当たらないものである。
(4) 地方税法七二条の一九に適合することについて
ア(ア) 地方税法七二条の一九が外形標準課税を定めているのは、次のを(イ)ないし(キ)のとおり、法人事業税が、応益原則に基づく税であり、都道府県の各種の公共サービスからの受益に対する経費負担と観念されており、本質的には、その事業の利益の有無にかかわらず、事業活動の規模に応じて定まることが望ましいから、所得によらないで、売上金額等を課税標準とした方が、事業活動の規模をより適正に把握できるような場合には、それを課税標準とすることが公平性の観点からも合理的であることによるものである。
そうすると、地方税法七二条の一九に定める「事業の情況」とは所得によらないで、売上金額等を課税標準とした方が、当該事業活動の規模をより適正に把握できるような場合をいうものと解される(乙1の6[前掲三木義一「外形標準課税と訴訟の論点」都市問題九一巻一〇号(二〇〇〇年一〇月号)]四九頁、乙1の7[神野直彦「外形標準課税と地方分権」ジュリスト一一八一号]七頁)。
これを本件についてみると、銀行業等は、いわゆるバブル期以上の収益を上げ、行政サービスの対価としての事業税をほとんど負担しておらず、応益課税としての事業税の機能を喪失している。正にこの事業の情況からすれば、所得によらないで、業務粗利益を課税標準とした方が、当該事業活動の規模をより適正に把握できるのである。
したがって、銀行業等に限って外形標準課税を導入した本件条例が、地方税法七二条の一九に適合することは明らかである。なお、この間、銀行業等においては多数の株主配当を継続しているが、被告らは、このことを「事業の情況」に当たる事情として考慮したものではない。
(イ) 地方税法七二条の一二は、電気供給業、ガス供給業、生命保険業及び損害保険業の課税標準については、収入金額という外形標準を用いることとし、その採用を義務づけているが、この例外四業種について、所得基準を用いず、収入金額という外形標準を用いるべきこととしている理由は、所得基準によっては、事業の規模又は活動量に見合った税負担を求めることができないため、収入金額という外形標準を採用しているのである。電気供給業及びガス供給業では、その事業の公益的性格、すなわち、物価安定という政策目的から料金を規制されているため、これらの事業について所得を課税標準とした場合には、膨大な施設と従業員を有し都道府県の行政サービスを多く受けているにもかかわらず、受ける利益に比較して法人事業税額は非常に少額となってしまうので、収入金額基準を採用しているのである。また、生命保険事業については、①その収入した保険料のほとんどが責任準備金、支払準備金及び契約者配当準備金として損金に算入されること、②保険料を運用した結果生ずる受取配当金は益金に算入されないこと等のため、生命保険事業の課税標準について、仮に、法人税の所得又は清算所得の計算の例により算定した各事業年度の所得又は清算所得を課税標準として法人事業税の課税を行うこととした場合には、その事業規模や活動量等が大きいにもかかわらず、本来負担すべき税額よりも非常に少額の負担となる。さらに、損害保険事業については、①他の企業に比較して社内留保の必要性が高く、営業利益がほとんどでないこと、②投資利益は大部分が配当所得であり、その配当所得は益金不算入とされていること等により、法人税の所得又は清算所得の計算の例により算定した各事業年度の所得又は清算所得を課税標準とすることは適当でない。そこで、これを避けるために、収入金額を課税標準とすることとされているのである。ここに法人事業税が応益課税であるとの思想が明確に示されている。これらの事業について所得標準課税を採用することが応益原則に矛盾するからこそ、収入金額基準が明定されたと理解しなければならない。
(ウ) 課税標準に係る条文において、一つの条文の中で、応益主義と応能主義という全く異なる理念ないし原則を同時に導入している法律はない。このことは、応能主義に立脚している法人税法二一条及び所得税法二二条をみれば明らかである。仮に事業税が応能主義を採っているとすれば、地方税法七二条の一二所定の四業種についても、その課税標準については、その事業の情況にかかわらず、所得基準を用いるべきものである。地方税法七二条の一二を応能課税に関する規定ととらえる見解は、この四業種に係る課税標準の規定を空文化するものであるのみでなく、同法七二条の一九の規定との統一的解釈を放棄して、応益原則と応能原則という互いに矛盾する原則を一つの税体系の中に導入するという誤りを犯すものであり、その結果、法解釈における最も重要な要請の一つである、法規の適用に当っては、人によって、又は事件によって、その適用の結果が異なってはならないという、いわゆる一般的確実性を害する結果となり、ひいては法の行為規範としての機能を喪失させてしまうものである。
(エ) 次に、地方税法七二条の一九が、例外四業種以外の業種であっても、「事業の情況に応じ」、「資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数等」の外形標準を用いることができると定めている点は、その文言からして、まさに、応益課税に関して定めたものである。
法人の所得は、当該法人に特別の事情、すなわち、風水害、火災等による損失や不動産の売却損失など、通常では発生しない損失があったことによる当該法人の事業活動量に比して所得が非常に少なくなるような事情がない限り、当該法人の事業活動量を表す指標の一つと考え得るものといえる。つまり、ここでいう所得基準とは、応能原則を示すものではなく、あくまでも応益原則の中での一つの指標としての役割を果たしているにすぎないのである。しかしながら、業務粗利益や売上総利益が上がっているにもかかわらず、不良債権処理額や特別損失が極めて大きいため、恒常的に所得が低水準に抑えられ、それに伴い事業税負担が極めて低くなっている場合には、法人の所得は当該法人の事業活動量を示す指標としての役割を果せなくなる。この結果、この指標を用い続けることは同程度の事業活動量又は事業規模をもつ他の法人との公平を欠くことになる。このことは、前述の電気供給業及びガス供給業の場合と同様である。これと同様に評価されるような事業の情況がある場合にも、公平の見地から、応益主義の基本に立ち戻って、所得以外の課税標準を用いることが必要となり、地方税法七二条の一九は、まさにこのような場合に対応する規定である。
以上によれば、地方税法七二条の一二が例外四業種以外の業種について所得基準を用いていることと地方税法七二条の一九が外形標準を用いていることは、応益主義を採ることを前提として、はじめて完全に説明することができることを示している。
仮に、地方税法七二条の一二が応能主義に基づく規定であるとすると、外形標準を用いる同法七二条の一九自体が全く不要とならざるを得ず、同法自体が自己矛盾を来していることとなる。
(オ) 事業税の前身である明治二九年創設の営業税(国税)においては、全面的に外形標準課税が採用されていた。大正一五年の営業税(地方税)においては、純益課税又は外形標準課税が採用された。また、昭和二二年の営業税(道府県税)においては、許可制で外形標準課税が採用され、昭和二三年の事業税(現行の事業税のルーツ)においては、現行とほぼ同様の裁量特例の外形標準課税規定が置かれた。昭和二三年制定の事業税に代わるものとして創設された昭和二五年の附加価値税においては、全面的に外形標準課税(課税標準は、純益、利子、賃借料、給与支払額とされた。)が採用された。そして、現行の事業税は、上記のとおり、昭和二三年の事業税の形態を採っているものである。以上によれば、事業税は、これまで、全面か又は所得と併用か、許可制か又は裁量特例かの別はともかく、ほぼ一貫して外形標準課税を採用していることが分かる。このような理解に立てば、事業税は、これまで、ほぼ一貫して応益原則に立脚した税であったということができる。
また、現行の事業税の姿は、昭和二九年度の税制改正においてほぼ確立したといってよい。すなわち、シャウプ勧告によって創設することとされた附加価値税は、昭和二五年の第八回国会において可決・成立したが、逐年その実施時期が延期され、一度も実施されることなく昭和二九年度に廃止された。この附加価値税に代えて恒久的な制度として存置することとされたのが、現行の事業税であり、昭和二三年度に創設された事業税と特別所得税とを統合して成立したものである。法人に係る事業税の課税標準は、その後の改正を経て、現在では、地方税法七二条の一二の規定において、例外四業種以外の業種にあっては国税である法人税の課税標準である所得によることとされている。この所得基準を用いることとした趣旨は、法人税と同一の所得基準を用いた方が、税務当局としても課税標準の捕捉等について国税・市町村税の税務当局との直接的ないし間接的な連携・助力等が得られるというメリットがある一方、納税義務者である法人としても申告納税等に便宜であるメリットがある等によるものであった。また、附加価値税は、事業税に代わるものとして創設されたものであることから、仮に附加価値税が実施されていたとすれば、事業税は廃止されていたことになり、事業に対して課される税の課税標準は、付加価値額とされていたはずである。
こうした経緯を経て成立した現行の事業税は、課税標準を法人税と同様の所得としているからといって、決して応能負担の原則に立脚した性格の税ではなく、当時の我が国経済の実情等により、付加価値の一部とされる所得を課税標準とし、応益原則に立脚した性格の税として成立したものであることは、その経緯等から見て明らかである。したがって、例外四業種以外の業種の課税標準に所得基準を用いることとしたことについては、事業税が応益主義に立脚するものであることを前提としつつ、以上の事柄に配慮して、所得基準を用いることとしたとしても、応益課税の原則が大きく損なわれることはないとの考えに基づくものであるとするのが、沿革からみて正確な理解の仕方である。
(カ) 以上のとおり、事業税は、都道府県が事業に対して与える各種のサービスについて事業自らがこれに要する経費を負担すべきであるとする考え方である応益主義に基づいている。事業は、道路、橋梁、港湾、学校、公衆衛生施設等各種の都道府県の設置する公共施設の利用による受益があってはじめて完全な収益活動を行うことができるものであるから、事業を行う者は当然にこれらの行政のための必要とされる経費を賄うための租税を負担すべきであると考えられているのである(乙1の3)。他方、所得税、法人税等は、応能主義を採っている。この応能主義は、税負担能力に応じて税を負担するのが公平であるという考えであるから、国家ないし地方公共団体の活動に伴う経費負担をどのように配分するかを示すものであるが、その負担の根拠を何ら示すものではない(財政学要論〔第四版〕・肥後和夫編一一七頁)。
また、事業税は、事業そのものに経済価値収得の力が存するものとして課する税であり、事業に対する課税であることから、事業にとっては賃金等と同様にその事業を行うための一種の経費であると考えられている。事業税が所得税及び法人税の所得計算に際して必要な経費又は損金に算入されるということは(所得税法四五条一項、法人税法三八条二項参照)、このことを物語っている。国税である所得税及び法人税、また、地方税である都道府県民税及び区市町村民税が利潤のうちから支払われる税金であるのに対し、事業税はその経費として支払われる税金である(乙1の3)。このように、事業税は、収入金額、資本金額、売上金額等の外形標準を課税標準に用いた場合はもとより、所得を課税標準に用いた場合でも、それは、各種の行政サービスを供給するために必要とされる経費と考えられており、他面では、事業を行うための経費と考えられている。他方、所得税及び法人税は、所得を課税標準に用いているが、その所得税負担及び法人税負担は、行政サービスの受益の関係においてその経費としての対応関係はなく、また、事業活動の関係においても、経費とは認められていないのである。
以上のとおり、同じ所得を課税標準に用いた場合でも、事業税と所得税及び法人税とが、その取扱いを全く異にしているのは、とりもなおさず両者の本質的な性質の違いに根ざすものであり、経費の観点からみると、事業税と所得税及び法人税とは、その性格を全く異にしており、前者は応益主義に立脚し、後者は応能主義に立脚していることは、このことからも証明されている。地方税法七二条の一二所定の所得基準を用いている部分も、上記にいう経費の観点から応益主義に基づくものであって、応能主義に基づくものでないことが裏づけられる以上、地方税法七二条の一九が応能課税の例外を定めたものでないことは、明らかである。
事業税は、①地方公共団体の企業に対する行政サービスの提供、②企業における収入を生み出す事業の活動、③企業の地方公共団体に対する事業税の納税、①地方公共団体の企業に対する行政サービスの提供、という仕組みの流れで事業活動の経費になっているということである。上記①から③へという考えは、正に、事業税が応益原則に立脚する、税と行政サービスとの関係を表しているのである。したがって、事業税を経費・損金算入するという所得税法及び法人税法上の取扱いは、事業税が応益原則に立脚した税であることの証左といえるものである。「狭義の応能原則」に立脚した税である所得税及び法人税においては、このような考えはない。すなわち、所得税及び法人税は、国から受ける行政サービスの対価(経費)であるという考えではもちろんなく、また、そもそも、国民又は企業の収入を生み出す事業活動の経費という考え自体がないのである。したがって、事業税が所得を課税標準にする場合においても、所得税法及び法人税法上、それを経費・損金に算入するということは、事業税と所得税及び法人税とでは、所得を課税標準にすることは同じであっても、その性格を根本的に異にするものなのである。
(キ) 地方税法七二条の一二における所得を課税標準とする部分が原則規定で「狭義の応能原則」を定めたもの、すなわち、所得が事業税の課税標準の基本になるべきものであるとすると、それは法人税と同じ課税標準を用いることになって、附加税(金子宏・租税法〔第八版〕一八頁)的な要素をもつこととなり、附加税を課すことを禁止している法人税法一五八条との関係でかえって疑義が生ずることになる。この点については、事業税が、同法七二条の一二における所得を課税標準とする部分を含め、基本的に応益原則という異なった性質に基づく税であるので、許容されているものと解される。
通常、事業活動が活発であれば、売上総利益又は業務粗利益も大きく、それに伴い所得も多くなる。逆に、事業活動が低調であれば、通常、売上総利益又は業務粗利益も小さく、それに伴い所得も少なくなる。このように、事業活動量と所得とは、通常、比例関係にあるから、通常であれば、事業活動量を表す指標として所得をとることとしても、結果的には別段の不都合はない。それゆえ、地方税法七二条の一二は、大部分の業種について所得を課税標準としているものである。
イ(ア) 憲法は、地方公共団体に対し、地方自治の本旨に従ってその事務を処理するための課税権、すなわち、必要な財源を自ら調達する権能を付与している。地方公共団体は、憲法上、いかなる租税をいかなる課税要件のもとに賦課・徴収するかを自主的に決定することができる権能を付与されているのである(前掲東京高等裁判所昭和五九年二月一五日判決・判例時報一一〇五号三七頁。金子宏・租税法〔第八版〕・弘文堂九五頁)。このように地方公共団体においては、地方税の課税要件及び税率等について自主性が認められる以上、それに相応しい裁量権が認められ、しかも、それは、憲法上の要請に基づくものである。
地方税法七二条の一九は、かかる要請の一つの具現化として認められているものということができ、同条は、「事業の情況に応じ」という一義的明確性を欠く不確定概念を用いて、外形標準課税の導入の要件を定めているところ、同概念は、他の法文における「土地の合理的利用に寄与する」といったものと同種の不明確な多義的概念である。また、同条は、「……できる。」として、外形標準課税の導入権限発動の可否を一義的に明定していないのである。そして、同条所定の外形標準課税の導入は、事業税の性質、公平性・安定性等の地方税の諸原則等に照らし、所得課税では不合理な事業の情況がある場合にその是正を図ることを目的とするものであるが、地方税は、地方公共団体の財政需要を充足するという本来の機能に加え、地方公共団体においては、行政サービスの供給等を通じて資源の適正配分を行い、さらに、所得の再分配、景気の調整等の諸機能をも有しており(金子宏・租税法〔第八版〕一頁ないし八頁)、また、他の地方公共団体への影響等その他広汎な諸事情の検討を要求されることもあり、したがって、地方公共団体がその住民の税負担を定めるについて、財政・経済・社会政策等全般からの総合的な政策判断を必要とするばかりでなく、課税要件等を定めるについて、極めて専門的な判断を必要とすることも明らかであり、また、その事柄の性質上、時には高度に政治的な判断を要求される場合もあり得るのである。
以上の理解に立てば、どのような業種に同条所定の外形標準課税を導入するかどうか、それを導入する場合に期間をどうすべきか、また、いかなる範囲・課税要件を選択すべきか等については、当該地方公共団体の裁量に委ねられていると解するのが相当である。
(イ) 以上の見地に立って、本件において、銀行業等について外形標準課税を導入し、かつ、資金量五兆円以上のものに限ったことが裁量権の逸脱・濫用に当たるかどうかについてみると、以下の情況からして、裁量権の逸脱・濫用は、全くない。
a 銀行業等は、いわゆるバブル期よりも多い業務粗利益を上げながら(大手一九行の業務粗利益をみると、バブル期の平成二年三月期は、約五兆六〇〇〇億円であったが、平成一一年三月期には七兆五〇〇〇億円を超えている。)、多額の不良債権処理の結果、法人事業税をほとんど負担していない(上記各時期の法人事業税額は、それぞれ一八二七億円、三四億円である。)。業務粗利益と税負担の関係が以上のような状況にある業種は、銀行業等だけである。
b 法人事業税をほとんど負担していないという銀行業等の情況は、今後、急好転することは見込めない(乙3の17)。
c 銀行業等の法人事業税収の低下の程度は、他業種に比べて大きく、かつ、各年度におけるその負担額は、バブル期をはさんで極めて不安定である(乙3の13)。
こうした情況は、税の公平性、安定性等を大きく損なわせるものであり、また、所得標準課税を続けた場合には、応益課税としての事業税制度の信頼を失わせる原因にもなりかねないものである。さらに、銀行業等には、次に述べる銀行業等特有の事情があった。
銀行業等の預金金利等が、いわゆる低金利政策により、これまでに例をみないほど低く抑えられている結果、銀行業等の業務粗利益が増大しているにもかかわらず、事業税をほとんど負担しないのは、売上総利益に対応して事業税を負担している他の法人と比べ不公平である。また、銀行業等の大半が、東京に本店又は支店を構えており、行政サービスを含めた、いわゆる集積の利益を享受しているにもかかわらず、事業税をほとんど負担しないのは、その利益の享受に対応して事業税を負担している者と比べ不公平である。銀行業等が、事業の活動量に対応した事業税を負担することなしに、社会的・公共的責任を果たしたということはできない。
さらに、銀行業等においては、バブル期を上回る業務粗利益を上げ、二〇〇〇億円を超える多額の株主配当を行っている(乙3の19)。確かに、赤字法人であっても、その法人の存続等を考えた場合、株主配当を行う必要があろう。しかし、バブル期を上回る業務粗利益を上げ、地方公共団体から多くの行政サービスを受けているのであるから、事業税についても応分の負担をすべきである。赤字法人であっても、二〇〇〇億円を超える多額の株主配当を行っているということは、相当の内部留保(任意積立金)があり、少なくとも、現実の税支払能力がある証左となる。
本件外形標準課税導入により見込まれる被告東京都の増収額は、約一一〇〇億円(実際の予算見積額は、一〇〇〇億円)である。銀行業等が平成一二年三月に予想している業務純益三兆円、不良債権処理見込額約三兆円の規模を踏まえれば、決して過重な負担ではない。また、本件外形標準課税導入により他の道府県の税収への影響は少ない。現実の影響額を試算すると、五年間で一七三億円、年平均三五億円弱にすぎない。
以上のとおり、上記①ないし③に併せて、上記で述べた付加的事情も総合的に考慮し、銀行業等に対し本件外形標準課税を導入したものである。
(ウ) 本件外形標準課税において、すべての銀行業等に対して一律に外形標準を適用すべきか、あるいは外形標準を用いる対象銀行等を一定の範囲に止めるとすべきかについては、法人道府県民税の超過不均一課税と同様に中小零細法人に対する政策的配慮をどこまで行うべきかという問題であり、そして、それは、一にかかって政策的判断に委ねられるべき問題である。
わが国の金融機関は、平成一一年三月末現在、資金量五〇兆円に近い大銀行から、地域・職域を中心として活動する中小金融機関まで含めると、三八〇三行(乙3の8、乙3の48)にも及ぶ。いわゆる大手行との経営体力格差を考慮すると、中小金融機関に対する何らかの配慮が必要であることは、いうまでもない。資金量五兆円未満の銀行業等の税収は、比較的安定しているといえるが、資金量五兆円以上の銀行業等は、極めて不安定である。このことから、資金量五兆円未満の銀行業等については、税収面からみた場合、「事業の情況」が資金量五兆円以上の銀行と異なっており、従前どおりの所得基準によっても支障がないと判断できるのであり、したがって、「五兆円」は、適切な基準となり得る。また、資金量「五兆円」を基準として用い、結果として、適用対象法人数が一定の範囲に限られるとしても、全金融機関に占める割合が五五パーセントを超えるなど、銀行業等の活動実態の概ね過半をカヴァーすることができることとなる。以上の諸点等を総合的に判断した結果、資金量五兆円以上の銀行に限って、本件外形標準課税を導入したものであるから、本件外形標準課税の導入について、銀行業等に限定し、かつ、資金量五兆円以上のものに限定した点に十分合理性が認められるというべきである。
(エ) 地方税法七二条の一九は、「事業の情況に応じて」外形標準課税を導入することができると規定しており、「事業の情況」という文言からいっても、原告ら主張のように例外四業種を除く全業種を対象とすべきであると解することはできないし、また、通常、各業種の「事業の情況」は、好況・不況を含めその各業種によって異なっていることからすれば、各業種の「事業の情況」は、その各業種によって異なっているにもかかわらず、全業種について一律に外形標準課税を導入しなければならないとすると、各業種間で実質的不公平が生ずることになる。昭和二二年の地方税法四八条の三所定の「営業ノ種類ヲ限リ」も、いわば当然のことを規定したものである。現行地方税法七二条の一九は、昭和二二年の地方税法四八条の三のような、「特別ノ必要アル場合」及び「内務大臣ノ許可」という実体上及び手続上の制約を課しておらず、ただ単に「事業の情況に応じて」という不確定概念である実体上の要件を定めているにすぎない。個々の業種の性格及び事業規模又は事業活動量に応じた適切な外形指標を選択することこそ、公平の原則に適合するといえる。現行地方税法七二条の一九が、外形標準として「資本金額、売上金額、家屋の床面積若しくは価格、土地の地積若しくは価格、従業員数」を例示しているのは、個々の業種の性格及び事業規模又は事業活動量に異なった情況があるためである。
したがって、現行地方税法七二条の一九は、以上で述べたことと「従業員数」の後に「等」と規定していることを併せ考えると、個々の業種の性格及び事業規模又は事業活動量に応じて、上記例示している外形標準やそれ以外の適切な外形標準を用いることを想定しているものと解するのが相当である。
(オ) 前記(原告らの主張)(4)オの主張は、根拠のない独自の主張であり、原告らが合理的であるとする課税標準は銀行業等の課税標準とするにはいずれも不適当である上、「納税シェア」に関する主張については、特に、本件条例による納税シェア」を12.8パーセントとしている点について、基礎としているデータそのものに以下のような大きな疑問がある。
まず、本件条例によって得られる銀行業等からの税収については、平成一三年度は本件条例に基づく事業税の申告納付が行われる初年度であることから、所得課税に基づく中間申告分が「〇」ないし「〇」に近かったために、平年度に比べ中間申告分が多く見込まれており、本件条例に基づく平年度ベースの税収見込み額は一〇〇〇億円程度であり、実際に平成一三年度の確定申告実績額(年税額)は一〇二二億円であったもので、本件条例に基づく納税シェアを論ずるのであれば、あくまでもこれらの数値によるべきであり、導入初年度という特殊な状況の数値と比較すべきではない。この確定申告実績額に基づいて納税シェアを算出すると、9.6パーセントであり(1,022÷{11,031−(1,416−1,022)}×100=9.61)、原告らは、過大な税負担を強いられたと、ことさらに強調ないし見せかけようとしており、不当である。
また、原告らの議論は、東京都内の法人の七割を占める赤字法人を含めた全法人に対して外形標準課税を導入するものとして、各事業活動規模基準に基づき納税シェアを算出していると考えられるが、全業種について外形標準課税を導入するとした場合の税負担の問題と、銀行業等のみを対象とした本件外形標準課税における税負担の問題とは、全く次元の異なる問題であり、これらを混同した原告らの議論の誤りは明らかである。
さらに、従業員基準に基づく納税シェアの算定結果と、給与基準に基づく納税シェアの算定結果について、原告らのいう「合理的な納税シェア」においては、従業員基準と給与基準とでは、従業員基準で1.72パーセント、給与基準で1.16パーセントとなっているが、一般に、銀行業等は他業種より給与水準が高いとされていることから、給与基準による納税シェアの方が高くなって然るべきであるのにそうなっていない。
(5) 地方税法七二条の二二第九項に適合することについて
ア 地方税法七二条の二二第九項の規定する所得課税との均衡については、所得課税による税収が景気の変動等に連動して変動することを考慮すれば、ある程度の期間を通じて比較すべきものである。すなわち、所得課税による場合は、税負担の変動が大きく、とりわけ銀行業等にあっては、その税負担の変動は著しいから(乙3の6)、特定の年度だけを取り上げて均衡を論ずることは適当ではなく、ある程度の期間を通じた税負担を勘案していくことが不可欠である。すなわち、外形標準で課税するのは、各事業で算定される特定の年度の現実の所得では、当該事業の規模を適切に表せないと判断されるからこそである。にもかかわらず、もし、この場合の税収を当該特定の年度の所得を基準として課税した場合と差が出ないようにしなければならないのであれば、外形標準課税を導入する意義自体が失われてしまうことは容易に理解されるところであり、多言を費やすまでもなかろう(三木義一前掲論文五五頁、乙1の5)。
イ これを本件についてみると、本件条例の税率は、いわゆるバブル前、バブル期、バブル崩壊後の一五年間の税収実績を勘案したものであって、所得課税との均衡が図られているのであるから(乙3の7)、本件条例は、地方税法七二条の二二第九項に適合するというべきである。
ウ 地方税法七二条の二二第九項の均衡を、租税負担総額の負担の均衡と解するとしても、これを複数年の均衡とすることに何らの不合理もないし、地方税法が均衡の要件について何らの規定もしていないことが、単年での比較を想定していたことにもならない。なぜなら、単年での比較を想定していたとすれば、複数年の比較についてと同様に、その旨の規定を置くことができたはずだからである。
本条項は租税負担の合理的な均衡を目指すものと解されるところ、そのような合理的な均衡を目指す本条項の趣旨を実現するためには、単年での比較にこだわる必要はないのみならず、そのような制約を加えることは、既に事業の情況の変動により著しい税負担の減少が生じた後においては、前年度との均衡を図るのでは、本条項の定める事業の情況の変動に伴う税負担の減少を回復できないことになり、妥当ではなく、かえってその妨げとなるというべきである。これを恣意的判断が入り込む余地ありとして単年度での均衡という解釈上の制約を加えることは、合理的な均衡を実現する上では妨げとなるのであるから、採り得ないものである。
地方税法七二条の二二第九項の定める均衡の原則は、上述したとおり、租税負担の合理的な均衡を図ろうとするものと解すべきであるところ、銀行業等にあっては、他業種における売上に相当する業務粗利益が、最近において最も景気の好況期にあったいわゆるバブル期における実績をも上回っているにもかかわらず、膨大な不良債権を処理することによって、事業税の課税標準たる所得を大幅に減少させ、事業税をほとんど納税していない状況に立ち至っている。全法人事業税納税額の中で占める大手銀行三〇行における納税額の割合でみると、過去一五年間の納税額割合9.78パーセント(一五年間大手銀行三〇行納税額一兆六三二〇億円÷一五年間全納税額一六兆六七五〇億円)に対し、平成六年度以降は八年度を除き2.3ないし5.8パーセントと四分の一ないし五分の三以下に、平成一一年度予算では1.5パーセントと六分の一以下に低下している(乙3の7、乙4の5中の6丁目「法人事業税に占める主要三〇行の割合」)。このような不均衡を解消することは他業種との間の実質的平等を回復することになり、最も合理的な均衡を図ることになるものである。したがって、本件条例の制定は、地方税法七二条の二二第九項の定める均衡の原則に適合しこそすれ、均衡を失するということはできないのである。
(6) 地方税法六条二項に違反しないことについて
地方税法六条二項が規定する「不均一課税」とは、特定の場合において、条例により「一般の税率と異なる税率で課税する」ことをいうものである(乙6の14・六六頁五行目以下、乙6の15・七四頁六〜七行目)。他方、本件条例は地方税法七二条の一九の規定に基づくものである。同規定は、課税標準の変更について定めた規定であり、この場合の税負担については、同法七二条の二二第九項により所得課税の場合と著しく均衡を失することのないようにしなければならない旨定められており、同法六条二項の不均衡課税制度とは別個の、課税標準の変更により生ずることのあり得る課税の不均一性についても取り込んだ自己完結的な制度として設けられているものである。したがって、同法七二条の一九の規定に基づき制定された本件条例について、地方税法六条二項の不均一課税の要件を検討する必要がないことは明らかである。
5 争点3(本件通知処分の有効性並びに誤納金及び還付加算金額)について
(原告らの主張)
(1) 行政処分が無効であると認められるためには、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大かつ明白な瑕疵がなければならない(最高裁判所昭和三四年九月二二日第三小法廷判決・民集一三巻一一号一四二六頁)。ここで、前記4(原告らの主張)で述べたとおり、本件条例の内容は、その上位規範たる憲法九四条及び一四条並びに地方税法七二条の一九及び七二条の二二第九項に違反し、その制定手続も憲法三一条に違反していることから、処分庁たる被告東京都による本件条例の制定に当たり、本件条例の合憲性、適法性の認定に「重大」な瑕疵があることは火を見るより明らかである。
(2) また、処分庁の認定に「明白な」瑕疵があると評価されるためには、「処分成立の当初から、誤認であることが外形上、客観的に明白である場合」をいう(最高裁判所昭和三六年三月七日第三小法廷判決・民集一五巻三号三八一頁)ところ、本件条例は、前記4(原告らの主張)で述べたとおり、かかる憲法及び地方税法の明文に明らかに反するものであることから、処分庁たる被告東京都による本件条例の制定に当たり、本件条例の合憲性、適法性に関する認定が誤っていたことが当初から外形上客観的に明白である場合といえる。
加えて、本件においては、政府、政府関係者、学者その他多くの有識者が本件条例の適法性に強い疑問を表明していたことが留意されるべきである。特に、平成一二年二月二二日に早々と発表された政府統一見解(甲10[閣議口頭了解])は、本件条例が憲法及び地方税法に違反する疑いが強いことを表明したものである。これは、本件条例の違憲性・違法性が当初から外形上客観的に明白であったことを如実に示すものといえる。
(3) 以上のとおり、本件条例は無効である。よって、別紙3(a)欄記載の各既納税額は、無効な条例に基づいて算出されたものであり、これら納付税額のうち、別紙3(b)欄記載の「旧基準税額」を超過する金額、すなわち、別紙3(c)欄記載の額は誤納金に当たるので、原告らは、それぞれ同誤納金の還付及びこれに対する還付加算金の支払を求める。
(被告東京都の主張)
(1) 前記4(被告らの主張)のとおり、本件条例は合憲・適法であり、そして、それが合憲・適法である以上、本件通知処分が無効になる余地はない。
(2)ア 平成一二年二月二二日の閣議口頭了解(甲10)は、本件条例案について、五つの点から疑問等があるとして、被告東京都に対して慎重な対応を求めている。しかし、当該閣議口頭了解に係る文書は、本件条例案について、疑問を呈して慎重な対応を求めているだけであり、違憲・違法の点は全く指摘していない。むしろ、本件条例については、国における地方自治の所管部局の長である保利耕輔自治大臣自身が平成一二年二月二四日(本件条例制定前)の衆議院地方行政委員会において、違法ではなく課税自主権の見地から解釈上当然に制定できると明確に述べている(乙6の1、二七頁)。
イ また、原告らが指摘するように、学者の中には、本件条例の適法性について疑問視する者もいるが、逆に、本件条例の適法性を容認している多くの学者がいることも疑いのない事実である(乙7の19ないし22)。本件条例制定当時の文献からも、本件条例のような外形標準課税の導入を容認していたと解することができる。「事業税逐条解説・自治省府県税課編・地方財務協会」(乙1の28)や「地方税―各論Ⅰ―現代地方自治全集⑲」(乙1の29)は、事業の情況に応じて外形標準課税の導入についての地方公共団体の裁量権を認めているのであって、このことからすれば、事業の情況に応じて特定の業種やその中の一定範囲の者に外形標準課税を導入することについて許容していないと解することはできず、むしろ、これを容認していたものと解することができるのである。また、同各文献は、外形標準課税の税率についても、単に、所得課税によるときの税負担と著しく均衡を失しないように定めなければならないと述べているものであって、原告らが指摘するように、外形標準課税導入の直近の年度における所得課税によるときの税負担との比較において、その均衡を失してはならないとはいっていないのである。したがって、上記各文献に照らしても、本件条例が、地方税法七二条の一九及び地方税法七二条の二二第九項に違反していると評価することはできないというべきである。
ウ さらに、本件条例のような外形標準課税の導入については、実務上容認されていた(乙7の23及び24)。すなわち、昭和五一年一二月二三日、全国知事会議において、法人事業税への外形標準課税の基本方針が決議され、これを受けて、昭和五二年二月二四日、「法人事業税外形課税実施問題研究会」(一六都道府県 委員長福岡県副知事)が設置され、同実施問題研究会は、昭和五二年四月二七日開催の第一回研究会において問題別に三つの部会を設置し、その後五回の研究会と延べ一七回に及ぶ部会の審議を経て、昭和五二年一一月三〇日に「法人事業税の外形課税の実施に関する報告」(以下「五二年外形課税実施案」という。)を取りまとめ、法改正によらず、条例により外形課税を実施することが可能であり、その準備が整ったことを明らかにした。その内容は、次のとおりである。
(ア) 対象業種は、主として製造業を行う法人とする。
(イ) 中小法人へ配慮し、資本の金額又は出資金額が五億円以上の法人に限定して、外形課税を導入する。
(ウ) 課税標準は、所得と外形標準額を併用するものとし、外形標準額については、給与、利子及び賃借料の合計とする。
(エ) 税率については、地方税法七二条の二二第九項に適合するよう定めるものとし、そのような考えに立って、外形標準額に係る税率については、対象法人に係る過去五年間の事業税負担額の平均値をベースとする。
五二年外形課税実施案は、昭和五三年度から実施する予定で検討されてきたものであるが、結局のところ、それは延期となった。すなわち、昭和五三年一月二〇日、全国知事会議を開催し、五二年外形課税実施案の取扱いについて協議した結果、「最近の異常ともみられる深刻な不況にかんがみ、実施の時期に配慮を加える必要があること、政府税制調査会の答申で提案されている新税(一般消費税)との関連を考慮する必要があること等の事情から、昭和五三年度からの条例による外形課税の実施は、一応延期することもやむを得ない。」との決定を行ったのである。
ところで、五二年外形課税実施案の内容は、その対象業種の限定、中小法人への配慮、税率の決め方(過去五年間の事業税負担額の平均値をベースとする)等をみれば明らかなとおり、本件条例案の内容と非常に似ている。そして、五二年外形課税実施案については、実施しないこととしたものではなく、実施を延期したものであり、その理由も、当時の経済事情や検討中の新税(一般消費税)との関連を考慮する必要がある等の政治的・政策的事情(なお、一般消費税は、昭和六三年一二月に採用され、平成元年四月に実施された。)によるものであり、憲法・地方税法に照らし、違憲・違法であるという理由によるものではない。すなわち、五二年外形課税実施案の内容については、違憲・違法ということは全く問題にされていなかった。当然のことながら、国からも地方公共団体側からも、(違憲・違法という指摘は、全くなかった。
エ また、「銀行業等に対する外形標準課税の導入」に対する意見等(平成一一年度に被告東京都知事が提起した政策に対して寄せられた東京都民の意見等のうち、上記項目〔平成一二年二月八日〜同年三月一七日集計分〕に対するもの。)では、その約八割が本件条例に賛成し、約一割が反対であった(乙7の25)。
オ 以上によれば、仮に本件条例に瑕疵があったとしても、その程度は、上記判断基準にいう「何人の判断によっても、ほぼ同一の結論に達し得る程度に明らかである」場合に該当しないことは、明白である。
(3) 以上のとおり、本件条例は、重大かつ明白な瑕疵はなく、したがって、この点に関する原告らの主張も理由がないといわざるを得ない。
(4) 仮に、本件条例が無効であるとして原告らの誤納金還付請求が認められる場合であっても、地方税法附則三条の二第三項及び同条一項に規定する特例基準割合は、平成一四年中は年4.1パーセントとなったため(乙6の20)、還付加算金の割合は、平成一三年中の期間については年4.5パーセントであるが、平成一三年中の期間については年4.1パーセントであり、原告らの還付加算金の請求はこの限度で認容されるにすぎない。
6 争点4(本件通知処分の取消事由の有無並びに過納金及び還付加算金額)について
(原告らの主張)
(1) 本件条例は、前記4(原告らの主張)のとおり、憲法及び地方税法に違反し違憲かつ違法なものであるところ、仮に、既納税額は、本件通知処分が存在するため、基礎になっている行政処分、すなわち本件通知処分が取り消され公定力が排除されない限り、納税者は不当利得として還付を求めることができない過納金であると判断される場合には、原告らは、予備的に、本件通知処分の取消しを請求し、かつ、別紙3(c)欄に定める差額の過納金還付及びこれに対する還付加算金の支払を求める。
(2) なお、原告らが本件通知処分の取消しを請求するに当たり、本件は、行政事件訴訟法八条二項三号「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当することが明らかであるから、同条一項ただし書の適用に従い異議申立てを前置する必要はない。
本件の場合、前記前提事実(6)ウのとおり、原告らは、本件条例が憲法及び地方税法に違反する違憲・違法な条例であり無効であるとの理由により、被告東京都知事に対し、更正請求を行ったが、そもそも基本的に法の執行機関(行政機関)にすぎない被告東京都知事には、東京都議会により制定された本件条例が、憲法に適合するか否か、又は、地方税法に従って制定されたものであるか否かという点について判断する権限が存在しない。実質的に考えても、被告東京都知事は、本件条例を東京都議会に提案した上、本件条例について「適法ということを信じる」「相手(原告らを指す。)がもし裁判するなら、堂々と受けて、(略)裁判の中でいっていきたいと思っております。」と答弁し(乙5の6、二頁)、また、被告東京都主税局長も、原告らが本件条例に従った申告納付を行わない場合には、更正決定の処分をし、原告らが行政手続で審査請求をしてきた場合、審査請求を棄却する旨答弁している(同一七頁)。そして何より、現在、被告東京都知事及び被告東京都は、本訴訟において、本件条例が合憲・適法であると主張しており、被告らが原告らの審査請求を認容する可能性が皆無であることは明白である。したがって、原告らが本件通知処分の取消しを請求するに当たり、異議申立手続を経ないことについての正当理由が存在する。
(被告らの主張)
前記4(被告らの主張)のとおり、本件条例は合憲・適法であり、そして、それが合憲・適法である以上、本件通知処分に取消事由はない(なお、被告東京都知事は、本件通知処分の取消請求につき、原告らの、異議申立手続を経ないことについての正当理由が存在する旨の主張を争っていない。)。
なお、仮に本件通知処分が取り消される場合の還付加算金の率については、前記5(被告東京都の主張)(4)のとおりである。
7 争点5(被告東京都の責任原因)について
(原告らの主張)
(1) 加害行為の違法性について
ア 本件請求における加害行為は、①東京都議会における本件条例の議決が法令に違反するにもかかわらず、被告東京都知事が地方自治法一七六条四項に従い再議に付さないで本件条例を公布したこと(以下「本件公布行為」という。)、及び②被告東京都知事その他被告東京都の公務員が違憲・違法が明らかである本件条例の制定に関係する一連の行為をしたことである。
イ 再議に付さないで本件条例を公布したことの違法性について
被告東京都の「議会の議決」が「法令」「に違反すると認める」場合には、被告東京都知事は、理由を示してこれを再議に付さなければならない(地方自治法一七六条四項)。「法令」「に違反する」とは、議決の内容が違法である場合のほか全ての違法な場合を言う(甲14[園部逸夫監修・太田和紀著注解法律学全集第六巻「地方自治法Ⅰ」四六九頁]参照)。このように東京都議会の議決が法令に違反すると認める場合、被告東京都知事は、裁量の余地がなく、再議に付すことを義務づけられ、これを再議に付することなく、その議決に基づいて事務を執行すると、その行為は「違法」となる(甲14[前掲「地方自治法Ⅰ」四六九頁]及び甲15[盛岡地方裁判所昭和三二年三月一九日判決・行裁集八巻三号四二三頁])。
本件条例は、前記のとおり違憲・違法であることが明らかであるので、その議案に係る東京都議会の議決の内容が法令に違反することもまた明らかである。したがって、被告東京都知事は、裁量の余地なく、本件条例に係る議決を再議に付すことを義務づけられていたのであり、にもかかわらず、再議に付すことなく当該議決に基づき、本件公布行為を行ったものである。よって、被告東京都知事の本件公布行為は、国家賠償法一条一項の違法性を有する。
ウ 本件条例の制定に関係する一連の行為の違法性について
被告東京都知事、主税局長以下主税局職員、東京都議会を構成する東京都議会議員その他被告東京都の公務員は、本件条例の内容が、前記のとおり、憲法九四条、一四条並びに地方税法七二条の一九及び七二条の二二第九項の一義的な文言に明らかに反するにもかかわらず、本件条例の議案の立案行為、当該議案の東京都議会への提出行為、当該議案の議決行為及び本件条例の公布行為等の一連の行為(以下「本件条例制定関係行為」という。)を行った。また、前記のとおり、本件条例の制定につき適正な手続が履践されていないことから、本件条例制定関係行為は、憲法三一条にも明らかに違反するものである。
したがって、被告東京都知事らによる本件条例制定関係行為が、国家賠償法一条一項にいう違法性を有することは明らかである。
(2) 故意・過失について
ア 本件公布行為に係る故意・過失について
地方公共団体の事務を、自らの判断と責任において、誠実に管理し及び執行する義務を負う執行機関(地方自治法一三八条の二)については、議会の判断に依拠することなく、独自に法令違反の有無についても判断することが要求されていると解すべきであるので、その過失の認定は、他の公務員に比し、厳格にされるべきことは当然である。
本件外形標準課税については、その構想が発表された直後から政府及び政府関係者が本件条例の制定に対する反対意見及びその適法性に強い疑問があるとの意見を表明していた。また、税法学者をはじめとする多くの法律学者は、一様に本件外形標準課税は、憲法一四条及び地方税法に違反するとの意見を公表しており、他方、法律学者でこれを適法であると断言する意見は一切公表されなかった。
したがって、被告東京都知事は、本件条例が法令に違反していることを明らかに認識していたというべきであり、また、仮にかかる法令違反を認識していなかったとしても、上記のような事情の下では、かかる本件条例は違憲かつ違法である旨の見解に慎重に耳を傾け従わなければならなかったというべきである。すなわち、被告東京都知事は、上記の法律学者等の見解と異なる解釈を行い、本件条例の議案に係る議決を適法と認めたのであるから、被告東京都知事に故意・過失があることは、極めて明らかである。
イ 条例制定関係行為に係る故意・過失について
上記アの事情に照らすと、本件条例制定関係行為についても、被告東京都知事らに故意・過失が認められることは明らかである。
(被告東京都の主張)
(1) 違法性について
原告らの国家賠償法一条一項所定の「違法」性に関する主張は、要するに、本件条例が憲法一四条、三一条及び九四条並びに地方税法七二条の一九、七二条の二二第九項及び六条二項に違反することを前提とするものである。しかしながら、本件条例がこれらに違反しないことは、前記4(被告らの主張)で既に述べたとおりであり、国家賠償請求の要件の一つである「違法」行為がない以上、その余について検討するまでもなく、原告らの請求が成り立たないことは明らかである。
(2) 故意・過失について
ア 本件条例については、前記5(被告東京都の主張)(2)で述べたとおり、政府関係者及び学者等において見解の対立が見られたが、閣議口頭了解に係る見解は、前記五つの点から単に疑問を呈したにすぎず、むしろ国における地方自治の所管部局の長自身が違法ではなく課税自主権の見地から解釈上当然に制定できると明言するとともに、多くの学者が本件条例の適法性を容認し、また、本件条例制定当時の文献に照らしても、本件条例の適法性は認められ、見解が分かれていたものではなく、さらに、実務上も本件条例とほぼ同じような内容の条例案が容認され、その取扱いが分かれていたものでもなかったのであるから、本件条例制定関係行為について、一応の論拠が肯認できることはいうまでもなく、したがって、被告東京都知事らに、故意・過失が認められないことは、明らかであるというべきである。
イ また、地方公共団体における条例制定の権限と責任は、当該地方公共団体の議会にあり(地方自治法九六条一項一号)、当該地方公共団体の長にはなく、地方公共団体の議会と長は、それぞれが固有の権限と責任を有する独立した機関である(地方自治法九六条以下、一三八条の二以下)から、地方自治法一七六条四項の再議については、法令等の規定についてある特定の解釈を採ることが長の注意義務の内容となるのは、当該規定の趣旨が他の一切の解釈を許されない程に一義的で明白である場合に限定されるものと解される。
これを本件についてみると、上記のとおり、本件条例については、政府関係者及び学者等において見解の対立が見られたが、閣議口頭了解に係る見解は上記五つの点から単に疑問を呈したにすぎず、むしろ国における地方自治の所管部局の長自身が違法ではなく課税自主権の見地から解釈上当然に制定できると明言するとともに、多くの学者の意見、本件条例制定当時の文献及び実務例に照らしても、本件条例とほぼ同じような内容の条例案が容認され、その取扱いが分かれていたわけではなかったのであるから、本件条例について、憲法及び地方税法上、一義的明白な違法がないことは疑う余地がなく、したがって、本件条例の公布行為について、被告東京都知事に、故意・過失が認められないことは、明らかであるというべきである。
8 争点6(原告らの損害)について
(原告らの主張)
(1) 税効果会計手続に基づき発生した損害について
ア 各当初原告には、前記1(原告らの主張)(1)イのとおり、本件条例の制定により、税効果会計手続に基づき繰延税金資産及び当期利益が減少した結果、莫大な損害が直ちに発生しており、直接、それぞれ各当初原告に対応する別紙6記載のとおりの莫大な金額の損害を現実に受けた。
イ これは、本件条例制定によって原告らの経済的価値が減少させられ財産権が侵害されたこと、及び、原告らがその事実を、「公正なる会計慣行」(商法三二条二項)及び「一般に公正妥当と認められる企業会計の基準」(証券取引法一九三条、財務諸表規則一条一項。甲156)に従って自己の財務諸表に反映させることを強制されたことに基づくものである。繰延税金資産を含む資産の計上額を減少させる会計処理が行なわれるのは、会社の財産が減少したという「事実が発生」し、その「事実が認識」され、財産の減少が「財務諸表上に貨幣的に表現される」からである。繰延税金資産は、将来の課税所得を減少させる権利ないし利益を貸借対照表上貨幣的に評価したものであり、本件条例がこのような原告らの利益を減少させるものであるため、貸借対照表上も繰延税金資産の縮減した金額が計上されたのである(甲157[弥永真生筑波大学助教授・鑑定意見書。以下「弥永助教授・鑑定意見書」という。]一〇頁)。繰延税金資産は、当該資産の回収可能性について十分検討し慎重な決定を経て、回収可能性の確実なものに限って貸借対照表に計上されるのであり(乙2の3[平成一〇年一二月二二日付け日本公認会計士協会作成の「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」。以下「個別実務指針」という。]二一項、一九八頁)、この点は一般の他の資産と異なるものではなく、繰延税金資産の場合だけ特に貸借対照表への計上要件が緩和されているわけではない。
本件では、被告らによる本件条例の制定により、原告らは、この資産が減少したことから純利益(税引後当期利益)を一行当たり数千万円から数十億円減少させられ原告らの会社自体の経済的価値が減少したのであるから、これ自体が「法律上の損害」に当たる上(甲158[神田秀樹東京大学教授・鑑定意見書。以下「神田教授・鑑定意見書」という。]六頁、甲157[弥永助教授・鑑定意見書]八頁、一〇頁、一一頁)、その結果、原告らの不良債権処理原資や配当原資も減少させるなど、実際上原告らの企業活動に重大な制約をもたらしている。このような本件条例のもたらした事実に対する原告らの認識が平成一二年三月期の財務諸表に正確に反映されたのである。
なお、上記の損害は、平成一二事業年度以降各事業年度に発生する個別の事業税に関して、外形標準課税によって計算した事業税額と従来の所得基準によって計算した事業税額の差額に相当する損害(過誤納金相当額)に先立って、本件条例の制定自体によって、原告らの資産の一部を喪失させ会社の経済的価値を低下させた「損害」であり、当該損害は、後に各事業年度において原告らが還付を求める過誤納金によっても完全に填補され得る損害ではない。
ウ 本件条例の公布日は平成一二年四月一日ではあるが、同年三月三〇日の本件条例の可決成立により法定実効税率が減少することが確実となり、平成一一年三月期の財務諸表に計上されていた各当初原告の繰延税金資産の資産性が法定実効税率の減少に対応して失われることは明らかとなった。このように翌期の期首において既に「資産性がない」ことが明白なものを、財務諸表上ないし計算書類上資産として計上し続けることは、架空資産を計上し続けることを意味するのであって、いかなる意味においても「公正なる会計慣行」とは到底いうことはできない(神田教授・鑑定意見書三頁、五頁、弥永助教授・鑑定意見書六頁、七頁)。このような「真実性の原則」のみならず、「明瞭性の原則」からも、利害関係者に対し企業の状況を正確に理解させ、判断を誤らせないようにする見地から、必要な会計事実を明瞭に表示することが必要であった(甲160[企業会計原則第一の四]。神田教授・鑑定意見書四頁、五頁。甲159[朝日監査法人・鑑定意見書。以下「朝日監査法人・鑑定意見書」という。]一二頁)。したがって、「公正なる会計慣行」に該当する企業会計原則の規定にかんがみても、原告らが平成一二年三月期において本件条例に基づき繰延税金資産の再計算を強制されたことは明らかである。このような会計処理を行わないことは、証券取引法一九三条及び財務諸表規則一条にも違反することになる。しかも、本件条例の適用対象となる全ての銀行が、実際上も同月期に本件条例の影響を各財務諸表に反映させたという事実は、このような取扱いが実務上確立した会計慣行となっていたことを端的に示している(朝日監査法人・鑑定意見書一二頁)。
個別実務指針との関係においても、同指針一八項が改正税法の公布日を基準としているのは、改正法が成立しても企業一般に周知しなければ企業は会計処理を行い得ず、明確な基準日を置く必要があって、その方が財務諸表の利用者を混乱させることを防止できるからであり、本件においては、本件条例に基づく外形標準課税の対象となる各銀行はいずれも平成一二年三月末日までに本件条例の内容を十分知っていて、これを同年三月期の決算に反映させるべきことを迷うことはなく、これにより財務諸表の利用者が混乱を起こすことはおよそ考えられなかったから、平成一二年三月期に本件外形標準課税の影響を考慮して繰延税金資産の再計算を行うことこそが同指針の趣旨にむしろ合致するものであった。
この点につき、被告らの引用する日本公認会計士協会の「東京都の外形標準課税に係る税効果会計適用上の取扱い」(乙2の1)は、公認会計士協会が単独で商法、証券取引法及び企業会計原則を改訂できるものではないことを考えれば明らかなように、同取扱いは、平成一二年三月期において繰延税金資産の再計算をしなくても適正な会計処理であるということまでを表明した文書ではあり得ない。また、被告らの主張する大阪府の外形標準課税条例(以下「大阪府条例」という。)の場合との対比についても、大阪府条例は平成一二年三月末日までに成立しておらず、大阪府条例の適用対象となる全ての銀行が、同月末までに大阪府条例の内容の詳細を知っていたという事実はないし、大阪府条例の影響を考慮して同月期の財務諸表を修正することは会計原則上何ら要求されず、むしろこのような修正を行えば、貸借対照表日現在の状況について原告らは誤った会計上の判断を行ったことになるのであり、「商法監査に係る監査上の取り扱い」(昭和五七年九月二一日付監査第一委員会報告第四〇号)(甲164)においても、大阪府条例の影響は、「貸借対照表日において既に存在していた状態でその後監査報告書作成日までにその状態が一層明白になったもの」ではないから、平成一二年三月期の財務諸表に繰延税金資産の再計算の結果を反映すべきことを要求していないし、大阪府条例は、本件条例成立の約二か月後である平成一二年五月三〇日に成立し、同年六月九日に公布されたもので、本件条例の場合とは異なり、原告ら全ての監査報告書が成立日以前に完成していたのであって、そもそも大阪府条例の影響を平成一二年三月期決算に反映させることは実務上不可能であったから、この点に関する被告らの主張も失当である。
よって、本件条例の制定により原告らの資産及び純利益が縮減されるという事態は、平成一二年三月末までに発生したものである。
なお、仮に被告らの主張のとおり、原告らにおいて平成一二年三月期に本件条例に基づき繰延税金資産の再計算を行うことを強制されておらず、原告らが平成一二年三月期にこのような再計算を行わなかったとあえて仮定するとしても、原告らが平成一二年九月中間期までに本件条例の制定による損害を被り、同中間期において本件条例に基づき繰延税金資産の再計算を行うことを強制されていたことは明らかである(朝日監査法人・鑑定意見書一五頁、一六頁)。したがって、遅くとも本件条例の公布日を含む中間事業年度(平成一二年四月一日から同年九月三〇日までの期間)までには繰延税金資産の再計算を行わなければならなかったのであり、被告らの主張は失当である。
(2) 金融機関としての信用の低下という損害について
ア 銀行業等は、預金及び市場からの資金調達を事業の根幹としており、これらはいずれも金融機関としての信用、すなわち、預金及び資金調達に係る債務が返済可能であることに対する信頼で成り立っている。したがって、銀行業等にとっては、金融機関としての信用を高水準で保持していることが不可欠であり、他方、かかる信用が少しでも低下する場合、即預金その他市場からの資金の調達能力を低下させ、資金調達コストを増加させるので、直ちにその財務・経営状態に重大な悪影響をもたらし、重大な損害が生ずるのである。
イ 本件条例が制定されたことにより、上記(1)の莫大な金額の損害が発生したことに加えて、以下のような状況も発生しており、その結果、各当初原告の金融機関としての信用は既に大きく低下してしまった。
まず、いわゆる経営・財務指標や自己資本比率(銀行法一四条の二、長期信用銀行法一七条参照)は、その会社の財務状態、経営の健全性等を表す指標であるので、これらが悪化すれば、当然に信用も低下するところ、本件条例の制定の結果発生した繰延税金資産の減少及び当期利益の減少は、純資産及び当期利益に関する原告らの経営・財務指標に、直接の悪影響を与えている。また、同様に、「自己資本」が減少することから、銀行経営の健全性を判断するための基準である「自己資本比率」が各当初原告につき別紙8のとおり減少することになった。
次に、本件条例制定の結果、別紙7記載のとおり、平成一二年四月一日から開始する事業年度以降の事業税負担の大幅な増加によって将来の利益の大幅な減少が見込まれることから、各当初原告の債務返済能力に対する信頼も大きく低下した。
さらに、これらの影響の結果、銀行財務格付けの将来的な方向性に悪影響を与え、各当初原告の銀行財務格付けが近い将来引き上げられる可能性は著しく低下した。銀行財務格付けは、銀行の財務状況の健全性や安全性に対する評価であり、それが近い将来引き上げられる可能性が著しく低下したとの評価を受けたのであるから、既に各当初原告に対する信用が低下したことが、格付機関により表明されたものといえる。
加えて、各当初原告(ただし、非公開会社である原告みずほ信託銀行を除く)の株価は、本件外形標準課税の構想を発表した平成一二年二月七日から同月一五日にかけて、別紙11の1及び2記載のとおり、著しく下落した。これによっても各当初原告に対する信用は大きく低下したことが証明されている。
ウ 以上のように、本件条例制定により、各当初原告の金融機関としての信用は既に大きく低下し、銀行業にとって不可欠の基盤が大きく毀損されることとなったのであり、原告らは、極めて重大な損害を既に被っている。しかも、いったん低下した信用は容易には回復されないものであるから、原告らの被った信用の低下という損害は、回復困難な重大な損害である。
(3) 既に発生したその他の重大な損害について
ア 各当初原告の自己資本比率の低下(別紙8)については、それにより銀行業等を行う原告らの根幹的な収入源である「貸出」の余力が低下したことにより、貸出を実行すれば得られたであろうはずの「利子収入」の最大額が「減少」するという損害を被ったことになる。すなわち、自己資本が低下する場合には、自己資本比率を維持するためにリスク・アセットの上限額も低下させなければならず、それに伴い、貸出余力の上限も低下することになるのである。この結果、原告らは、自己資本比率を維持しなければならない以上、その貸出余力低下分に相当する貸出を実行することが制限され、当該貸出から得られるはずの利子収入が得られなくなったのである。各当初原告の貸出余力低下額及びそれに係る利子収入の最大額の減少額を試算した結果は、別紙12に記載のとおりである。以上のように、原告らは自己資本比率の低下により、既に重大な損害を被ったといえる。
イ また、本件外形標準課税により各当初原告の事業税負担が別紙7記載のとおり著しく増加することが見込まれ、原告らのコスト(費用)が大幅に増加し、かつ、前記(2)で述べたとおり、原告らの信用が多大に低下したために、その国際競争力もまた大きく低下した(平成一二年二月九日付け日本経済新聞朝刊三面、同月一一日付け日本経済新聞朝刊五面等参照)。経済のグローバリゼーション化が急激に進んだ現在のビジネス界において、銀行にとって国際競争力は極めて重要なものであり、これを失うことは個々の銀行にとって重大な損害であることはいうまでもない。
(4) 各当初原告は、前記(1)のとおり、繰延税金資産の減少及び当期利益の減少により別紙6記載のとおりの多額の損害を被ったほか、前記(2)及び(3)のとおり、信用の低下等の重大な損害を被った。そして、かかる信用の低下等の損害は、損害額を数理的に算定できない無形の損害ではあるが、極めて重大なものであることは何人も否定し得ず、株価の低下その他の事情を斟酌するならば、その額は、各当初原告につきそれぞれ、最大限少なく見積っても金一億円を下ることはないと評価される。したがって、各当初原告は、それぞれ合計で、少なくとも別紙6記載の各損害額にそれぞれ金一億円を加算した金額(以下「損害合計額」という。)の各損害を被ったことになる。また、かかる損害は、被告東京都知事らによる違憲・違法な本件公布行為及びそれを含む本件条例制定関係行為に基づくものであるから、本件公布行為及び本件条例制定関係行為と各当初原告に発生した損害との間の相当因果関係も問題なく認められる。そして、原告らは、本件訴訟において、以上の各損害合計額のうち、一部請求として、各当初原告につきそれぞれ金一億円及びこれに対する平成一二年一〇月二四日(本件訴状送達日の翌日)から民法所定の年五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。
(被告東京都の主張)
(1) 前記2(被告らの主張)(3)で詳述したように、原告らの主張する損害は、現実の損害ではないもの、単なる可能性にとどまるものでしかなく、いずれも現在の損害とはいえないものである。また、税効果会計に伴う一連の損害は、本件条例が無効な場合には発生する余地はないと解されるところ、原告らは、本件条例は無効であると主張するものであるから、主張自体矛盾している。したがって、本件公布行為及び本件条例制定関係行為により損害を被った旨の原告らの主張は失当である。
さらに、仮に原告らに原告らの主張する損害が発生しているとしても、前記2(被告らの主張)(3)で既に詳述したように、本件公布行為及び本件条例制定関係行為と同損害とは因果関係が認められないことも明らかである。
(2) 繰延税金資産は、原告ら自らが主張するとおり、「将来の課税所得を減少させる」ものであるにすぎない。だからこそ、原告らが主張するように「当該資産の回収の可能性について、十分検討し慎重な決定を経て」企業会計に計上されることが必要とされるのである。これが決して確定しているものでないことは原告らのこの点の主張からも明らかである。
加うるに、繰延税金資産は、例えば、課税されるべき所得がないために所得から控除できなかった損金のうち、その後五年以内に生ずる課税所得から控除することのできる損金(繰越欠損金)に対する課税所得相当額を予め資産として企業会計に計上するものであるから、五年以内に課税所得が生ずることが必要であるほか、その額がどの程度のものかを予測して、将来生ずるであろう所得課税の減少額に実効税率を乗じて算定される税額相当額を企業会計上資産扱いにするものである。したがって、繰延税金資産は、景気の動向や企業成績等に左右されるから、厳密には、その発生や額を確定することのできない性質のものである。仮に、五年以内に利益(課税所得となるべき額)が発生しなければ、もともと資産価値のないものとして確定することになるのである。そうすると、繰延税金資産が利益として現実化するとしても、それは五年以内におけるいずれかの年度の法人事業税の確定の時期でしかないのである。
繰延税金資産の実態は、このようなものにすぎないのであり、これを原告らが主張するとおり「将来の課税所得を減少させる権利」と称するとしても、それは「将来の課税所得を減少させる」可能性があるというにすぎず、厳密には実体のない、未確定の権利としかいい得ないものであり、結局のところ権利の名に値しない期待的利益であるにすぎないものである。したがって、権利の名に値しない期待的利益を評価して貸借対照表に計上された繰延税金資産が本件条例の制定によって減少したとしても、それは企業会計上の取扱いによって生ずる減少であって、法律上の損害といえないことは明らかである。
(3) 仮に、本件条例の制定によって損害が発生するとしても、その損害は、将来における各事業年度に発生する個別の事業税に関して、外形標準課税によって計算した事業税額と従来の所得基準によって計算した税効果会計上の事業税額の差額に相当するものでしかないのであり、それ以外のそれに先立つ原告ら主張の損害は、企業会計制度に起因する損害というべきである。よって、この点に関する原告らの主張は理由がない。
(4) 本件条例が公布・施行されたのは平成一二年四月一日であって、それまではその効力は生じていない。したがって、未だ効力の生じていない条例は、原告らに何らの法的効果も発生させるものではないから、それ以前の平成一二年三月三〇日の本件条例の可決成立の時点で、平成一一年三月期の財務諸表に計上されていた原告ら各銀行の繰延税金資産の資産性が法定実効税率の減少に対応して失われることは論理的にあり得ないことである。このように本件条例の効力により原告らの繰延税金資産の資産性に影響が及ぶべきものを、本件条例の効力自体が発生していない時点で、既にその影響を受けたものとして財務諸表に計上することは、それこそ事実に反する架空計上と評価され得るものということもできるのであり、このような前倒しによる処理は、財務会計上の処理としても、「公正なる会計慣行」ということはできない。
「真実性の原則」及び「明瞭性の原則」からいえば、未だ公布もされていない本件条例の効力を先取りして、平成一二年三月期の財務諸表上に繰延税金資産の再計算の結果を計上することは許されないというべきであり、それこそ「真実性の原則」及び「明瞭性の原則」にもとる行為ということができるのである。翌期の期首において「資産性がない」ことになるものであっても、当該期すなわち平成一二年三月期に資産性があるものを、資産性がないものとすることが論理必然的に求められるものでないことは明らかである。
したがって、原告らが、本件条例の制定により、公正な会計慣行及び証券取引法に基づき平成一二年三月期において繰延税金資産の再計算を強制されたとする主張は、いずれの観点からも容認し得ないものである。
(5) 個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針(乙2の3。以下「個別実務指針」という。)一八項は、「税効果会計で適用する税率は決算日現在における税法規定に基づく税率による。したがって、改正税法が決算日までに公布されており、将来の適用税率が確定している場合は改正後の税率を適用する」と規定している。これは、改正税法が公布されていない限りその税率を税効果会計に取り込むことができないこと(少なくとも、これを取り込む必要のないこと)を明確にしたものであり、原告らが「平成一二年三月期に本件外形標準課税の影響を考慮して繰延税金資産の再計算を行うことこそが、個別実務指針の趣旨にむしろ合致する」という論拠はおよそ見いだすことはできない。
(6) このように公認会計士協会自ら発出した個別実務指針一八項においても、公布日をもって財務諸表に反映させることを明確にしているのであって、「東京都の外形標準課税に係る税効果会計適用上の取扱い」(乙2の1)も、「平成一二年三月期において、繰延税金資産・負債を条例に従って計上したときは、適正な処理と判断する。」とし、なお書きにおいて、「このような処理を行った場合」の留意事項を述べているにすぎないから、そのような文言からして、平成一二年三月期において繰延税金資産の再計算をしなくても適正な会計処理であることを否定するものでないことは論ずるまでもないことである。
(7) 以上のとおり、本件条例の制定によって、原告らは、財産権を侵害され、「法律上の損害」を被った事実はなかったのであり、平成一二年三月期に繰延税金資産の再計算を強制され、原告らの資産及び純利益に関し、減少した財務諸表計上額を計上することを余儀なくされた事実もないことは明らかである。よって、この点に関する原告らの主張は失当である。

別紙6  繰延税金資産減少額一覧表〈省略〉

別紙7  法人事業税比較一覧表〈省略〉

別紙8  自己資本比率比較一覧表〈省略〉

別紙9  自己資本比率適用基準一覧表〈省略〉

別紙10  納税額一覧表〈省略〉

別紙11の1  株価比較一覧表〈省略〉

別紙11の2  株価変動グラフ〈省略〉

別紙12  貸出余力低下額及び利子収入減少額一覧表〈省略〉


「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧
(1)令和元年 5月24日  東京地裁  平28(ワ)17007号 選挙供託金制度違憲国家賠償請求事件
(2)平成30年 7月25日  東京高裁  平30(行ケ)8号 裁決取消請求事件
(3)平成30年 7月20日  福岡地裁久留米支部  平28(ワ)69号 損害賠償請求事件
(4)平成30年 7月18日  大阪地裁  平28(ワ)3174号 懲戒処分無効確認請求事件
(5)平成30年 4月11日  知財高裁  平29(行ケ)10161号 審決取消請求事件
(6)平成29年12月22日  東京地裁  平27(行ウ)706号・平28(行ウ)585号 各公文書非公開処分取消等請求事件
(7)平成29年10月11日  東京地裁  平28(ワ)38184号 損害賠償請求事件
(8)平成29年 8月29日  知財高裁  平28(行ケ)10271号 審決取消請求事件
(9)平成29年 7月12日  広島高裁松江支部  平28(行コ)4号 市庁舎建築に関する公金支出等差止請求控訴事件
(10)平成29年 4月21日  東京地裁  平26(ワ)29244号 損害賠償請求事件
(11)平成28年 9月16日  福岡高裁那覇支部  平28(行ケ)3号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
(12)平成28年 8月29日  徳島地裁  平27(ワ)138号 損害賠償等請求事件
(13)平成28年 5月17日  広島高裁  平28(行ケ)1号 裁決取消請求事件
(14)平成27年12月22日  東京高裁  平26(ネ)5388号 損害賠償請求控訴事件
(15)平成27年 3月31日  東京地裁  平26(行ウ)299号 投票効力無効取消等請求事件
(16)平成26年 9月25日  東京地裁  平21(ワ)46404号・平22(ワ)16316号 損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第2事件)、損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第3事件)
(17)平成26年 9月11日  知財高裁  平26(行ケ)10092号 審決取消請求事件
(18)平成26年 5月16日  東京地裁  平24(行ウ)667号 損害賠償履行請求事件(住民訴訟)
(19)平成26年 3月11日  東京地裁  平25(ワ)11889号 損害賠償等請求事件
(20)平成26年 3月 4日  東京地裁  平25(行ウ)9号 公文書不開示処分取消等請求事件
(21)平成25年11月29日  東京地裁  平25(ワ)18098号 被選挙権侵害による損害賠償請求事件
(22)平成25年10月16日  東京地裁  平23(行ウ)292号 報酬返還請求事件
(23)平成25年 9月27日  大阪高裁  平25(行コ)45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件
(24)平成25年 8月 5日  東京地裁  平25(ワ)8154号 発信者情報開示請求事件
(25)平成25年 3月14日  東京地裁  平23(行ウ)63号 選挙権確認請求事件 〔成年被後見人選挙件確認訴訟・第一審〕
(26)平成24年12月 6日  東京地裁  平23(行ウ)241号 過料処分取消請求事件
(27)平成24年 8月10日  東京地裁  平24(ワ)17088号 損害賠償請求事件
(28)平成24年 7月19日  東京地裁  平24(行ウ)8号 個人情報非開示決定処分取消請求事件
(29)平成24年 7月10日  東京地裁  平23(ワ)8138号 損害賠償請求事件
(30)平成24年 7月10日  東京地裁  平23(ワ)30770号 損害賠償請求事件
(31)平成24年 2月29日  東京地裁  平21(行ウ)585号 公金支出差止請求事件
(32)平成23年 5月11日  神戸地裁  平21(行ウ)4号 政務調査費違法支出返還請求事件
(33)平成23年 4月26日  東京地裁  平22(行ウ)162号・平22(行ウ)448号・平22(行ウ)453号 在外日本人国民審査権確認等請求事件(甲事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(乙事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(丙事件)
(34)平成22年11月30日  京都地裁  平20(行ウ)28号・平20(行ウ)46号 債務不存在確認等請求本訴、政務調査費返還請求反訴事件
(35)平成22年11月29日  東京高裁  平22(行ケ)26号 裁決取消、選挙無効確認請求事件
(36)平成22年11月24日  岐阜地裁  平22(行ウ)2号 個人情報非開示決定処分取消及び個人情報開示処分義務付け請求事件
(37)平成22年11月24日  岐阜地裁  平22(行ウ)1号 行政文書非公開決定処分取消及び行政文書公開処分義務付け請求事件
(38)平成22年11月 9日  東京地裁  平21(行ウ)542号 政務調査費返還(住民訴訟)請求事件
(39)平成22年 9月14日  神戸地裁  平21(行ウ)20号 公文書非公開定取消請求事件 〔兵庫県体罰情報公開訴訟・第一審〕
(40)平成22年 5月26日  東京地裁  平21(ワ)27218号 損害賠償請求事件
(41)平成22年 3月31日  東京地裁  平21(行ウ)259号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(42)平成22年 2月 3日  東京高裁  平21(行ケ)30号 選挙無効請求事件
(43)平成20年11月28日  東京地裁  平20(行ウ)114号 政務調査費返還命令処分取消請求事件
(44)平成20年11月17日  知財高裁  平19(行ケ)10433号 審決取消請求事件
(45)平成20年11月11日  仙台高裁  平20(行コ)13号 政務調査費返還代位請求控訴事件
(46)平成20年 3月14日  和歌山地裁田辺支部  平18(ワ)167号 債務不存在確認等請求事件
(47)平成19年11月22日  仙台高裁  平19(行ケ)2号 裁決取消等請求事件
(48)平成19年 9月 7日  福岡高裁  平18(う)116号 公職選挙法違反被告事件
(49)平成19年 7月26日  東京地裁  平19(行ウ)55号 公文書非開示決定処分取消請求事件
(50)平成19年 3月13日  静岡地裁沼津支部  平17(ワ)21号 損害賠償請求事件
(51)平成18年12月13日  名古屋高裁  平18(行ケ)4号 選挙の効力に関する裁決取消請求事件
(52)平成18年11月 6日  高松高裁  平18(行ケ)2号 裁決取消請求事件
(53)平成18年 8月10日  大阪地裁  平18(行ウ)75号 行政文書不開示決定処分取消請求事件
(54)平成18年 6月20日  京都地裁  平16(行ウ)40号 地労委任命処分取消等請求事件
(55)平成18年 1月20日  大阪地裁  平13(行ウ)47号・平13(行ウ)53号・平13(行ウ)54号・平13(行ウ)55号・平13(行ウ)56号・平13(行ウ)57号・平13(行ウ)58号・平13(行ウ)59号・平13(行ウ)60号・平13(行ウ)61号 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件 〔学生無年金障害者訴訟〕
(56)平成17年 9月14日  最高裁大法廷  平13(行ヒ)77号・平13(行ツ)83号・平13(行ツ)82号・平13(行ヒ)76号 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 〔在外選挙権最高裁大法廷判決〕
(57)平成17年 8月31日  東京地裁  平17(行ウ)78号 供託金返還等請求事件
(58)平成17年 7月 6日  大阪地裁  平15(ワ)13831号 損害賠償請求事件 〔中国残留孤児国賠訴訟〕
(59)平成17年 1月27日  名古屋地裁  平16(行ウ)26号 調整手当支給差止請求事件
(60)平成16年 3月29日  神戸地裁姫路支部  平10(ワ)686号 新日本製鐵思想差別損害賠償請求事件
(61)平成16年 1月16日  東京地裁  平14(ワ)15520号 損害賠償請求事件
(62)平成15年12月15日  大津地裁  平14(行ウ)8号 損害賠償請求事件
(63)平成15年12月 4日  福岡高裁  平15(行ケ)6号 佐賀市議会議員選挙無効裁決取消請求事件 〔党派名誤記市議会議員選挙無効裁決取消請求事件〕
(64)平成15年10月28日  東京高裁  平15(行ケ)1号 商標登録取消決定取消請求事件
(65)平成15年10月28日  東京高裁  平14(行ケ)615号 商標登録取消決定取消請求事件
(66)平成15年10月28日  東京高裁  平14(行ケ)614号 商標登録取消決定取消請求事件 〔刀剣と歴史事件〕
(67)平成15年10月16日  東京高裁  平15(行ケ)349号 審決取消請求事件 〔「フォルッアジャパン/がんばれ日本」不使用取消事件〕
(68)平成15年 9月30日  札幌地裁  平15(わ)701号 公職選挙法違反被告事件
(69)平成15年 7月 1日  東京高裁  平14(行ケ)3号 審決取消請求事件 〔ゲーム、パチンコなどのネットワーク伝送システム装置事件〕
(70)平成15年 6月18日  大阪地裁堺支部  平12(ワ)377号 損害賠償請求事件 〔大阪いずみ市民生協(内部告発)事件〕
(71)平成15年 3月28日  名古屋地裁  平7(ワ)3237号 出向無効確認請求事件 〔住友軽金属工業(スミケイ梱包出向)事件〕
(72)平成15年 3月26日  宇都宮地裁  平12(行ウ)8号 文書非開示決定処分取消請求事件
(73)平成15年 2月10日  大阪地裁  平12(ワ)6589号 損害賠償請求事件 〔不安神経症患者による選挙権訴訟・第一審〕
(74)平成15年 1月31日  名古屋地裁  平12(行ウ)59号 名古屋市公金違法支出金返還請求事件 〔市政調査研究費返還請求住民訴訟事件〕
(75)平成14年 8月27日  東京地裁  平9(ワ)16684号・平11(ワ)27579号 損害賠償等請求事件 〔旧日本軍の細菌兵器使用事件・第一審〕
(76)平成14年 7月30日  最高裁第一小法廷  平14(行ヒ)95号 選挙無効確認請求事件
(77)平成14年 5月10日  静岡地裁  平12(行ウ)13号 労働者委員任命処分取消等請求事件
(78)平成14年 4月26日  東京地裁  平14(ワ)1865号 慰謝料請求事件
(79)平成14年 4月22日  大津地裁  平12(行ウ)7号・平13(行ウ)1号 各損害賠償請求事件
(80)平成14年 3月26日  東京地裁  平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件
(81)平成13年12月19日  神戸地裁  平9(行ウ)46号 公金違法支出による損害賠償請求事件
(82)平成13年12月18日  最高裁第三小法廷  平13(行ツ)233号 選挙無効請求事件
(83)平成13年 4月25日  東京高裁  平12(行ケ)272号 選挙無効請求事件
(84)平成13年 3月15日  静岡地裁  平9(行ウ)6号 公費違法支出差止等請求事件
(85)平成12年10月 4日  東京地裁  平9(ワ)24号 損害賠償請求事件
(86)平成12年 9月 5日  福島地裁  平10(行ウ)9号 損害賠償代位請求事件
(87)平成12年 3月 8日  福井地裁  平7(行ウ)4号 仮換地指定処分取消請求事件
(88)平成11年 5月19日  青森地裁  平10(ワ)307号・平9(ワ)312号 定時総会決議無効確認請求、損害賠償請求事件
(89)平成11年 5月12日  名古屋地裁  平2(行ウ)7号 労働者委員任命取消等請求事件
(90)平成10年10月 9日  東京高裁  平8(行ケ)296号 選挙無効請求事件 〔衆議院小選挙区比例代表並立制選挙制度違憲訴訟・第一審〕
(91)平成10年 9月21日  東京高裁  平10(行ケ)121号 選挙無効請求事件
(92)平成10年 5月14日  津地裁  平5(ワ)82号 謝罪広告等請求事件
(93)平成10年 4月22日  名古屋地裁豊橋支部  平8(ワ)142号 損害賠償請求事件
(94)平成10年 3月26日  名古屋地裁  平3(ワ)1419号・平2(ワ)1496号・平3(ワ)3792号 損害賠償請求事件 〔青春を返せ名古屋訴訟判決〕
(95)平成10年 1月27日  横浜地裁  平7(行ウ)29号 分限免職処分取消等請求 〔神奈川県教委(県立外語短大)事件・第一審〕
(96)平成 9年 3月18日  大阪高裁  平8(行コ)35号 供託金返還請求控訴事件
(97)平成 8年11月22日  東京地裁  平4(行ウ)79号・平4(行ウ)75号・平4(行ウ)15号・平3(行ウ)253号 強制徴兵徴用者等に対する補償請求等事件
(98)平成 8年 8月 7日  神戸地裁  平7(行ウ)41号 選挙供託による供託金返還請求事件
(99)平成 8年 3月25日  東京地裁  平6(行ウ)348号 損害賠償請求事件
(100)平成 7年 2月22日  東京地裁  昭49(ワ)4723号 損害賠償請求事件 〔全税関東京損害賠償事件〕


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


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【対応可能な業種リスト|名称一覧】地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)貼り「ガンガン注目される訴求型PRポスターを貼りたい!」街頭外壁掲示ポスター新規掲示プランです。

(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
政治活動/選挙運動ポスター貼り 勝つ!選挙広報支援事前ポスター 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
選挙事務所/後援会連絡所届出代行 公職選挙法の上限/立て札看板設置 1台から可能な選挙立札看板設置
最強の立札看板設置代行/広報(公報)支援/選挙立候補者後援会立札看板/選挙立候補者連絡所立札看板/政治活動用事務所に掲示する立て札・看板/証票申請代行/ガンガン独占設置!


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