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政治と選挙Q&A「公認 候補者 公募 ポスター 新人 戸別訪問 国政政党 地域政党」に関する裁判例(27)平成19年 3月27日 岡山地裁 平11(ワ)101号・平13(ワ)257号・平13(ワ)1119号・平13(ワ)1439号・平14(ワ)1177号・平14(ワ)1178号 退職慰労金請求事件、貸金請求事件、損害賠償請求事件、所有権移転登記抹消登記手続等請求事件 〔岡山市民信金訴訟・第一審〕

政治と選挙Q&A「公認 候補者 公募 ポスター 新人 戸別訪問 国政政党 地域政党」に関する裁判例(27)平成19年 3月27日 岡山地裁 平11(ワ)101号・平13(ワ)257号・平13(ワ)1119号・平13(ワ)1439号・平14(ワ)1177号・平14(ワ)1178号 退職慰労金請求事件、貸金請求事件、損害賠償請求事件、所有権移転登記抹消登記手続等請求事件 〔岡山市民信金訴訟・第一審〕

裁判年月日  平成19年 3月27日  裁判所名  岡山地裁  裁判区分  判決
事件番号  平11(ワ)101号・平13(ワ)257号・平13(ワ)1119号・平13(ワ)1439号・平14(ワ)1177号・平14(ワ)1178号
事件名  退職慰労金請求事件、貸金請求事件、損害賠償請求事件、所有権移転登記抹消登記手続等請求事件 〔岡山市民信金訴訟・第一審〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA03277003

要旨
◆破綻した信用金庫の理事の善管注意義務違反による損害賠償請求が一部認容された事例

出典
判タ 1280号249頁

評釈
木村哲彦・判タ 1285号31頁
岩田合同法律事務所・新商事判例便覧 2852号(旬刊商事法務1855号)
浅井弘章・銀行法務21 700号63頁
浅井弘章・銀行法務21 714号31頁

参照条文
民法644条

裁判年月日  平成19年 3月27日  裁判所名  岡山地裁  裁判区分  判決
事件番号  平11(ワ)101号・平13(ワ)257号・平13(ワ)1119号・平13(ワ)1439号・平14(ワ)1177号・平14(ワ)1178号
事件名  退職慰労金請求事件、貸金請求事件、損害賠償請求事件、所有権移転登記抹消登記手続等請求事件 〔岡山市民信金訴訟・第一審〕
裁判結果  一部認容  上訴等  控訴  文献番号  2007WLJPCA03277003

甲・丙事件原告,乙・丁事件被告 甲野太郎
(以下「原告甲野」という。)
同訴訟代理人弁護士 田村比呂志
乙・丁・戊事件原告 株式会社整理回収機構
(以下「原告RCC」という。)
同代表者代表取締役 奥野善彦
同訴訟代理人弁護士 伊多波重義
同 櫛田寛一
同 日髙清司
同 内藤秀文
同 小久保哲郎
同 田端聡
ほか
甲事件被告 岡山市民信用金庫
(以下「被告信金」という。)
同代表者代表清算人 平松敏男
同訴訟代理人弁護士 栢野万里恵
丙・丁・己事件被告 一色和男
(以下「被告一色」という。)
丙・丁事件被告 三井治男
(以下「被告三井」という。)
同 四谷良男
(以下「被告四谷」という。)
丙事件被告 六田文男
(以下「被告六田」という。)
丁事件被告 二宮明男
(以下「被告二宮」という。)
戊事件被告 一色桜子
(以下「被告桜子」という。)
同 三井梅子
(以下「被告梅子」という。)
被告一色,同三井,同四谷,同六田,同二宮,同桜子,同梅子
訴訟代理人弁護人
今田俊夫
同 西村広基
丙事件被告 五木元男
(以下「被告五木」という。)
同訴訟代理人弁護士 藤林律夫
同 尾﨑達夫
同 伊藤浩一
同 金子稔
己事件原告 乙山次郎
外16名
己事件原告ら訴訟代理人弁護士 光成卓明

 

主文
(甲事件)
1  原告甲野の被告信金に対する甲事件請求を棄却する。
(乙事件)
2 原告甲野は,原告RCCに対し,2919万8022円及びこれに対する平成12年4月23日から支払済みまで年18.25パーセントの割合による金員を支払え。
(丙事件)
3 原告甲野の被告一色,同三井,同四谷,同六田及び同五木に対する丙事件各請求をいずれも棄却する。
(丁事件)
4(1) 原告甲野,被告一色,同三井,同四谷及び同二宮は,各自,原告RCCに対し,6億円及びこれに対する被告三井においては平成14年12月19日から,その余の丁事件被告らにおいては同月28日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 原告RCCのその余の丁事件各請求をいずれも棄却する。
(戊事件)
5(1) 被告一色と被告桜子が別紙物件目録1記載の建物の20分の19の共有持分権についてした平成10年2月1日付け贈与契約を取り消す。
(2) 被告桜子は,原告RCCに対し,別紙物件目録1記載の建物についてした別紙登記目録1記載の登記の抹消登記手続をせよ。
(3) 被告三井と被告梅子が別紙物件目録2記載の土地の100分の69の共有持分権及び別紙物件目録3記載の建物についてした平成10年8月26日付け各贈与契約をいずれも取り消す。
(4) 被告梅子は,原告RCCに対し,別紙物件目録2記載の土地についてした別紙登記目録2記載の登記及び別紙物件目録3記載の建物についてした別紙登記目録3記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
(己事件)
6 己事件原告らの被告一色に対する己事件各請求をいずれも棄却する。
(各事件)
7 訴訟費用中,甲・乙・丙事件について生じた費用は原告甲野の負担とし,丁事件について生じた費用はこれを10分し,その4を原告RCCの負担とし,その余を丁事件被告らの負担とし,戊事件について生じた費用は戊事件被告らの負担とし,己事件について生じた費用は己事件原告らの負担とする。
8 この判決は,2項及び4項(1)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由
第一  請求
(甲事件)
1  被告信金は,原告甲野に対し,5793万1753円及びこれに対する訴状送達日の翌日(平成11年2月17日)から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(乙事件)
2 主文2項と同じ。
(丙事件)
3 被告一色,同三井,同四谷,同六田及び同五木は,各自,原告甲野に対し,5793万1753円及びこれに対する被告四谷においては平成14年1月18日から,その余の丙事件被告らにおいては同月13日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(丁事件)
4 原告甲野,被告一色,同三井,同四谷及び同二宮は,各自,原告RCCに対し,10億円及びこれに対する被告三井においては平成14年12月19日から,その余の丁事件被告らにおいては同月28日からいずれも支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(戊事件)
5 主文5項(1)ないし(4)と同じ。
(己事件)
6 被告一色は,己事件原告らに対し,それぞれ別紙請求金額計算一覧表の請求額欄記載の金員及びこれに対する平成14年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二  事案の概要
一  前提事実(争いのない事実並びに挙示する証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1  当事者及び関係者
(一) 被告信金
(1) 被告信金は,大正5年,「有限責任岡北信用組合」として設立され,信用金庫法施行に伴い,昭和26年12月,「岡山市民信用金庫」に改組され,平成6年8月,西大寺信用金庫と合併した。
被告信金は,平成5年3月,平成6年3月期及び平成7年3月期にはいずれも過去最高の税引前利益を計上し,平成8年3月期及び平成9年3月期には表面上無難な決算であったが,平成10年3月期及び平成11年3月期には税引前利益が激減し,平成12年3月期には大幅な赤字決算となり,自力での経営再建は困難と判断し,平成13年2月5日,おかやま信用金庫への事業全部譲渡により解散し,清算手続が開始された。かかる事態を受けて,預金保険機構は,平成13年1月,おかやま信用金庫に対する金銭の贈与として約239億円,被告信金からの資産の買取りとして約108億円の合計347億円の公的資金を投入した。
被告信金の平成2年3月期から平成12年3月期までの各決算内容は,別表7のとおりである。
(2) 被告信金の管理,運営は,総代会及び理事会のほか,朝会と称する常勤役員による会合等によってなされていた。
(3) 被告信金の平成10年10月当時の本部の組織体制は,各理事以下,概要,次のとおりであった。

ア 業務本部 (ア) 審査管理部(前・審査部)
(イ) 業務推進部
イ 管理本部 (ア) 事務部
(イ) 資金証券部(前・市場金融部)
(ウ) 総務部
(エ) 総合企画部(丙11,12,69)

(二) 被告信金の役員関係
(1) 一色昭男(以下「亡昭男」という。)は,昭和48年3月から平成10年6月19日まで理事長を務めたが,同年9月9日,死亡した。
(2) 被告一色は,平成2年4月から平成6年8月まで常務理事,平成6年8月から平成10年6月18日まで専務理事,平成10年6月19日から平成13年2月まで理事長を務めた。
(3) 原告甲野は,昭和26年10月に被告信金に入庫し,昭和48年5月19日から昭和53年5月18日まで理事,昭和53年5月19日から平成4年5月14日まで常務理事(主に市場金融部担当),平成4年5月15日から平成10年6月18日まで専務理事(市場金融部担当)を務め,同日,役員を辞任した。このうち平成9年5月の連休明けころから平成10年6月18日までの間は,病気療養のため休職していた。
(4) 被告二宮は,平成6年8月から平成10年6月19日まで副理事長を務めた。
(5) 被告三井は,平成6年8月から平成10年6月18日まで常務理事(審査部長),平成10年6月19日から平成11年6月28日まで専務理事(業務本部長)を務めた。
(6) 被告四谷は,平成6年8月から平成10年12月31日まで常務理事を務めた。
(7) 被告五木は,全国信用金庫連合会(以下「全信連」という。)から被告信金に出向し,平成10年6月19日から平成12年3月1日まで被告信金の専務理事(市場金融部長)を務めた。
(8) 被告六田は,平成10年6月19日から平成13年2月まで常務理事を務めた。
(三) 被告桜子は,昭和44年12月12日,被告一色と婚姻し,被告梅子は,昭和30年8月3日,被告三井と婚姻した。被告桜子と同梅子は,後記贈与がされた平成10年3月ないし同年8月当時,いずれも夫である被告一色,同三井と同居して生活していた。なお,被告桜子は,亡昭男の長女である。
(四) 己事件原告らは,平成13年2月4日まで被告信金に雇用され,従業員として勤務していた者であるが,同日,被告信金の整理業務の終了に伴い,解雇された。
2  被告信金の株式会社A造船所に対する融資
(一) 被告信金の行う融資の審査や監理は,審査管理部が行っていた。
(二) 株式会社A造船所(以下「A造船」という。)は,昭和41年4月に設立され,鋼船の建造及び修理等を目的とする株式会社である。
被告信金は,平成7年9月21日の融資委員会において,A造船に対し,総額約9億1000万円と見込まれる資金融資の実行を決定した。
被告信金の融資委員会は,理事長,常勤理事及び審査部長により構成されるところ,亡昭男は理事長として,被告二宮は副理事長として,原告甲野,被告一色,被告三井及び被告四谷はいずれも常勤理事としてそれぞれ融資委員会を構成しており,上記の融資委員会に出席して上記融資の実行の決定をした。
(三) 被告信金は,A造船に対し,平成7年10月9日から同年12月25日までの間,次のとおり,6回にわたって手形貸付けを実行した(以下「本件各融資」という。)。なお,本件各融資の使途,返済期限,返済方法,内入返済額,残高等は,別紙貸出目録のとおりである。
① 平成7年10月9日 1億8000万円
② 同年10月30日 3億6000万円
③ 同年11月20日 6000万円
④ 同年11月30日 1億6000万円
⑤ 同年12月8日 1億3500万円
⑥ 同年12月25日 1億7500万円
(四) A造船あるいはその関係者(船木勇介,船木幸介,船木大介ら)は,本件各融資の担保として,被告信金に対し,別紙担保物件目録記載のとおり,同目録1の各不動産に極度額6億5000万円の根抵当権を,同2の各不動産に極度額1億円の根抵当権を,同3の各不動産に極度額3000万円の根抵当権を,同4の土地に極度額2500万円の根抵当権をそれぞれ設定した。
A造船の関係者(船木幸介,船木陽介)及び債権者(砂田一郎,石塚二郎,水野八郎,黒沢三郎,白井四郎,青山七郎)は,被告信金に対し,本件各融資に基づく債務を連帯保証する旨それぞれ約した。
(五) A造船は,平成12年10月末の支払を最後に,以後,被告信金に対する支払を利払いも含めて完全に停止し(本件各融資の元本残高は合計6億7400万円),平成13年9月6日,期限の利益を喪失し,平成14年8月7日,不動産競売開始決定を受けて実質的に経営破綻した。その後,原告RCCが担保物件の任意売却や競売等により合計4520万3235円を元本に充当したので,本件各融資の元本現残高は,6億2879万6765円となった。(丙207)
3  被告信金のアジア債への投資
(一) 被告信金の行う有価証券投資やデリバティブ取引は,平成6年8月の西大寺信用金庫との合併前においては審査部証券課が担当し,合併後においては「市場金融部」が設置されて同部が担当していたが,平成10年8月,同部の名称が「資金証券部」に変更された(以下,名称変更の前後を問わず「市場金融部」という。)。
市場金融部の責任者は原告甲野であったが,同原告が退職した後は,被告五木が市場金融部の責任者となった。
(二) 被告信金は,平成4年3月からデリバティブ取引(主に金利スワップ契約)を開始し,当初は金利低下局面であって被告信金の金利観が的中し,金利スワップ契約において利益を得ていたが,平成6年7月に長期金利が一時的に上昇した際,この傾向が永続的に続くものと予測して金利スワップ契約のポジションを「固定払い変動受け」に傾けたところ,予期に反して金利は低下を続けたため,金利スワップ利息は大幅な支払超過となり,平成7年度以降,金利スワップ契約において多額の損失を抱える状態となった。この後,被告信金は,アジア債を中心とする高金利の金融商品の購入を急激に増加させて行った。(丙11)
(三) アジア債について
(1) ペレグリングループ
ア ペレグリン・インベストメンツ・ホールディングス・リミテッド(以下「PIHL」という。)は,1988年に設立され,1990年に香港証券取引所に上場し,当時は日本・韓国を除くアジアで最大の投資銀行の持株会社であり,香港に本社を構え,北朝鮮やベトナムでの合弁などアジアにおいて幅広い投資銀行業務を展開しており,債券業務が大きな伸びを示していた。
イ 同社の子会社であるペレグリン・フィックスト・インカム・リミテッドは,営業開始から2年で利益を計上できるまでに成長し,平成7年には総額90億米ドルのアジア企業及び金融機関の債券の引受けや売買を行っており,アジア8か国,ニューヨーク,ロンドンに拠点を置き,アジア債券の引受け・売買仲介を行う部門としては当時では世界最大の規模を有していた。比較的開かれた市場であるタイとインドネシアにおいては,これらの国内の新規発行債券取扱高のうち,それぞれ45%,60%のマーケットシェアを占めていた。
ウ アジア・インベストメンツ・インターナショナル・リミテッド(以下「AII」という。)は,ペレグリングループの債券発行を目的とした会社であり,インドネシアやタイの私企業が現地通貨建で発行した社債を担保証券として,通貨スワップをかけてドル建ないし円建に仕立て直した(リパッケージした)債券(AII債)を発行していた。
AII債は,原債券発行体からAIIに対し支払がなされた場合には購入者に償還金が支払われるが,原債券発行体からAIIに対して支払がなされない場合には,償還金の支払が制限されることとなっていた。これを示すべくAII債の説明文書には「limited recourse bond(限定的償還請求権付き債券)」の記載があった。したがって,AII債の購入者は,原債権を発行したインドネシア又はタイの私企業の信用リスクを引き受けることになる。
なお,日本国内の投資家に販売できる海外CP(コマーシャル・ペーパー)は第3位(A−3格)以上の短期格付けが必要であり,これに満たない低格付けまたは無格付けの海外CPを日本に持ち込むことはできなかったが,AII債はこれを回避するために原債券をリパッケージし,持ち込み制限のないユーロ債へと形を変えたものであった。(丙47)
エ PIHLは,平成9年6月30日に公募で第1回円貨社債(以下「PIHL公募債」という。)を発行したが,これとは別に,私募債であるユーロ円債券(以下「PIHL債」という。)を発行していた。
PIHL債は,ACN(アジア・カレンシー・ノート)プログラムという名称で発行され,PIHLにおいて,当該債券発行資金をインドネシアの私企業(ポリシンドなど)の社債購入資金に充てることが予定されていた。この利払及び償還は,原債券のキャッシュフローにリンクするという「クレジットリンク」が設定されており,インドネシアの私企業の社債がデフォルトに陥った場合は,PIHL債の利払及び償還もなされず,したがって,PIHL債はインドネシアの私企業の信用リスクを負担する商品といえた。(丙40,45の2)
オ 被告信金は,ペレグリン証券会社東京支店(Peregrine Brokerage Limited Tokyo Branch,以下「ペレグリン証券会社」という。)からAII債,PIHL債等のアジア債を購入していた。
平成8年におけるペレグリン証券会社の株式取引高は,世界9位であり,アジア太平洋地域では1位であった。(乙イ10)
(2) 被告信金は,平成8年6月からアジア債の購入を開始したが,平成9年12月までの購入・償還等の経緯は別表5のとおりであり,このうち平成9年4月25日までの間に購入したアジア債の内容及び保有状況は別表1,2のとおりである(以下,被告信金が購入,保有したAII債及びPIHL債を総称して「本件アジア債」という。)。
(3) 被告信金の平成9年3月31日時点の会員勘定(自己資本額)は,211億2792万9000円であった。被告信金は,別表5のとおり,平成8年11月27日から平成9年11月18日まで本件アジア債だけで自己資本額である約211億円を超える保有高を計上し続けていた。
(四) 原告甲野は,有価証券投資に関する決裁権限を有していたものであり,別表1,2記載のアジア債全ての購入を決裁した。
亡昭男,被告一色,被告二宮,被告三井及び被告四谷は,本件アジア債に関する当日運用報告書を確認の上,押印していた。
(五) 平成9年7月にタイで始まった通貨危機が他のASEAN諸国等に波及し,東南アジア地域の経済が大混乱に陥り,さらに平成10年1月にPIHLが破綻したため,本件アジア債が利払停止,処分・償還不能の状態に陥り,本件アジア債のうち別表4−1記載の債券(合計約187億円)がデフォルト(債務不履行)となった。その結果,被告信金は,本件アジア債等の債券につき,平成10年3月期に約11億円,平成11年3月期に約66億円,平成12年3月期に約66億円の強制償却をするに至り,この損失が被告信金の経営を大きく圧迫した。なお,原告RCCは,後に別表4−1のとおり,償還不能となった本件アジア債のうち約48億円を回収したので,本件アジア債の損失額は,現在のところ約139億円である。
原告RCCは,別表3記載のアジア債の購入の違法性を主張しているが,このうちデフォルト(債務不履行)となったものは別表4−2のとおりであり,回収額を控除した後の残額(損失額)は77億3059万1547円である。
(六) 本件アジア債の損失に加え,被告信金の平成12年3月期決算では,約125億円の貸倒引当が計上され,約165億8900万円の当期損失を計上し,貸借対照表上約15億円の債務超過に陥り,被告信金の当時の理事らは,自力での経営再建は困難と判断し,平成13年2月5日,おかやま信用金庫への事業全部譲渡により解散し,清算手続が開始された。
4  被告一色及び被告三井の各不動産贈与
(一) 被告一色は,平成10年3月30日当時,別紙物件目録1記載の建物(以下「本件物件(1)」という。)につき20分の19の共有持分を有していたが,そのころまでに(ただし,契約締結の時期については争いがある。),妻である被告桜子に対し,同共有持分を贈与(以下「本件贈与(1)」という。)し,同日,別紙登記目録1記載の登記手続をした。
(二) 被告三井は,平成10年8月26日当時,別紙物件目録2記載の土地(以下「本件物件(2)」という。)を所有していたが,同日,妻である被告梅子に対し,同物件のうち100分の69の共有持分権を贈与(以下「本件贈与(2)」という。)し,同月28日,別紙登記目録2記載の登記手続をした。
また,被告三井は,平成10年8月26日当時,別紙物件目録3記載の建物(以下「本件物件(3)」という。)を所有していたが,同日,妻である被告梅子に対し,同建物を贈与(以下「本件贈与(3)」という。)し,同月28日,別紙登記目録3記載の登記手続をした。
5  原告甲野に対する退職慰労金不支給
(一) 被告信金の役員退職慰労金支給規程(以下「本件支給規程」という。)には,次の規定がある。
1条 役員に対する退職慰労金は,役員が退任する場合に,その在任期間中の功労に報いるために,総代会の承認を得て支給する。
2条 退職慰労金の額は退任時における各役位の報酬月額に各役位在任年数および各役位係数を乗じた額の合計額とする。
算式
各役位報酬月額×各役位在任期間(年数)×各役位係数の合計額
(1) 退任時に該当する役員がいない場合の報酬月額は別途理事会において決定する。又,退任前の役位で同一の役位に複数の報酬月額が存在する場合は上位の報酬月額を使用する。
(2) 在任期間に端数がある場合は月割計算とし,1ヶ月未満は切捨てる。
ただし,通算期間の中で調整を必要とする場合は上級の役位による。
(3) 上記算式に適用する役位係数は次のとおりとする。

(役位)  (係数)
会長,理事長  2.5
副理事長,専務理事  2.2
常務理事  2.0
常勤理事  1.8(以下,略)

3条 在任中,功労のあった役員に対しては,第2条の退職慰労金支給額の30%を超えない範囲で,功労金を支給することが出来る。
4条 在任中,金庫の業績進展に格別の功績があった役員,金庫の合併あるいは金庫再建の時期に格別の功績があった役員に対しては,第2条の退職慰労金支給額の20%を超えない範囲で,前条の功労金に加算して特別功労金を支給することが出来る。
5条 この規程に基づく退職慰労金の支給時期は,理事の場合は理事会で監事の場合は監事の協議により決定した日から2ヶ月以内とし,支給方法は本人名義の預金口座へ振り込むか,または金庫の自己宛小切手で支給する。ただし,本人が死亡の場合は遺族に支給する。
6条 不正行為等により退任する役員に対しては,理事会にはかり退職慰労金の支給を取り止め,または減額することが出来る。
7条 この規程に定めのない事項および疑義の生じたときは,理事会において決定する。
(二) 被告信金は,平成10年6月19日,通常総代会において,「第84期(平成10年度)中において理事及び監事の退任が生じた場合の退職慰労金の金額,支払時期,方法等について当金庫の一定の基準に従って理事に関する部分については理事会に一任する」旨の決議をなした。
(三) 被告一色,被告三井,被告五木,被告四谷及び被告六田ほか数名の理事らは,平成10年10月22日,被告信金の理事会を開催し,審議の結果,過年度において投資した有価証券並びに貸出金において,多額の償却等の事由が発生し,会員勘定の特別積立金を大幅に取り崩さざるを得ない状況であり,業績が極端に落ち込んだので,理事に対する退職慰労金を支給すべき理由(本件支給規程1条)が見当たらないとして,「退任理事である一色昭男氏,二宮明男氏,甲野太郎氏の3名に対しては退職金を支給しない。又,現在在任の一色和男氏,三井治男氏,四谷良男氏,六田文男氏,七瀬久男氏及び八代政男氏の6名については,今後退任した場合の退職慰労金の計算においては理事就任日より平成10年6月19日迄は役員退職慰労金支給規程の対象外とする。」旨全員一致で決議(以下「本件不支給決議」という。)した。
その結果,原告甲野は,役員退任に当たって被告信金から本件支給規程所定の退職慰労金の支給を受けることができなかった。
6  被告信金の原告甲野に対する貸付け
(一) 被告信金は,昭和60年3月11日,原告甲野に対し,5978万円を貸し付け,平成6年7月25日,同原告との間で,この貸金につき次のとおり合意した。
(1) 弁済期限 平成14年4月23日
(2) 遅延損害金 年18.25パーセント
(二) 被告信金は,平成9年9月24日,原告甲野に対し,次の約定で400万円を貸し付けた。
(1) 平成9年10月22日から毎月22日限り4万5657円宛分割弁済し,平成17年9月22日までに残額を弁済する。
(2) 遅延損害金 年18.25パーセント
(3) 原告甲野が,被告信金に対する債務の一つでも期限に弁済しなかったときは,全ての債務につき期限の利益を失い,直ちに残債務を一括返済する。
(三) 原告甲野は,平成12年4月22日,上記(二)の分割金の支払を怠り,上記(一)及び(二)の貸金(以下,これらを「本件貸金」という。)について,同日の経過により期限の利益を失った。なお,上記(一)の貸金元本残高は2637万円,上記(二)の貸金元本残高は282万8022円であり,合計2919万8022円である。
(四) 原告甲野は,平成12年5月1日,被告信金に対し,原告甲野の被告信金に対する8712万9775円の退職慰労金請求権を自働債権として本件貸金の残債務と対当額において相殺する旨の意思表示をした。(甲11,12)
7  被告信金は,平成13年1月29日,原告RCCに対し,被告信金が有する債務不履行に基づく損害賠償請求権,本件貸金債権等を譲渡し,それぞれ譲渡通知手続を了した。
二  本件各請求の概要等
1  原告RCCの本件各請求
原告RCCは
(一) (丁事件)
被告一色,原告甲野,被告二宮,被告三井及び被告四谷(以下,この5名を「被告理事ら」という。)は,いずれも被告信金の理事として被告信金に対して善管注意義務を負っているところ
ア 善管注意義務に違反してA造船に本件各融資を実行し,被告信金に5億1281万6765円の損害を被らせたから,債務不履行に基づく同額の損害賠償義務を負う。
イ 善管注意義務に違反して本件アジア債の投資を実行し,被告信金に77億3059万1547円の損害を被らせたから,債務不履行に基づく同額の損害賠償義務を負う。
と主張して,被告理事らに対し,上記アの賠償金に内金4億円及び上記イの賠償金の内金6億円の合計である10億円並びにこれに対する各訴状送達日の翌日(被告三井は平成14年12月19日,その余は同月28日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求め
(二) (戊事件)
本件贈与(1)ないし(3)は,被告一色及び被告三井の責任財産を減少させるものであり,同被告らに対して前記(一)ア,イの損害賠償請求権を有する被告信金(債権者)を害する行為であると主張して,詐害行為取消権に基づき,被告桜子に対し,本件贈与(1)の取消し及び別紙登記目録1の登記の抹消登記手続を求め,被告梅子に対し,本件贈与(2),(3)の各取消しと別紙登記目録2及び3の各登記の抹消登記手続を求め
(三) (乙事件)
本件貸金契約に基づき,原告甲野に対し,本件貸金の残元本2919万8022円及びこれに対する期限の利益の喪失後である平成12年4月23日から支払済みまで約定の年18.25パーセントの割合による遅延損害金の支払を求めた。
2  原告甲野の本件各請求(甲・丙事件)及び乙事件における相殺の抗弁
原告甲野は,被告一色,被告三井,被告五木,被告四谷及び被告六田(以下,この5名を「被告後任理事ら」という。)は,その権限を逸脱して本件不支給決議を行い,あるいは,原告甲野が休職した後の本件アジア債の管理を誤って被告信金の業績を悪化させ,これにより原告甲野が退職慰労金を得ることをできなくさせたので,原告甲野に対し,不法行為に基づき,退職慰労金相当損害金8712万9775円を賠償する義務を負い,そして,被告信金は,民法44条に基づき,原告甲野に対して同額の損害賠償義務を負うと主張して
(一) (乙事件)
原告RCCの乙事件に係る請求に対し,被告信金に対する上記の損害賠償請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をしたとの抗弁を主張し
(二) (甲・丙事件)
被告後任理事らに対しては不法行為に基づき,被告信金に対しては民法44条に基づき,損害賠償金8712万9775円から上記(一)記載の相殺に供した2919万8022円を控除した残額である5793万1753円及びこれに対する各訴状送達日の翌日(被告信金は平成11年2月17日,被告四谷は平成14年1月18日,その余の被告らは同月13日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
3  己事件原告らの本件請求
己事件原告らは,被告一色は,本件アジア債の管理に関する重大な過失により被告信金に多額の損失を発生させ,被告信金を破綻に至らしめたと主張して,被告一色に対し,平成17年7月26日法律第87号による改正前の信用金庫法35条2項(以下,改正注記は省略する。なお,現行では39条の2第1項に相当する。)に基づき,別紙請求金額計算一覧表の請求額欄記載の各損害賠償金及びこれに対する訴状送達日の翌日(平成14年1月13日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
三  争点
(A造船関係)
1 A造船への本件各融資に関する被告理事らの被告信金に対する債務不履行責任の有無(丁事件関係)
(アジア債関係)
2 アジア債購入に関する被告理事らの被告信金に対する債務不履行責任の有無(丁事件関係)
3 アジア債の管理に関する被告一色の己事件原告らに対する信用金庫法35条2項の責任の有無(己事件関係)
4 本件不支給決議に関する不法行為責任の有無(甲・乙・丙事件関係)
(被告桜子及び被告梅子関係)
5 詐害行為取消権の成否(戊事件関係)
第三  争点に関する当事者の主張
(A造船関係)
一  A造船への本件各融資に関する債務不履行責任
1 原告RCCの主張
(一) 被告理事らは,被告信金に対し,受任者としての善管注意義務を負うところ,信用金庫の公益性に照らすと,上記注意義務は,一般の会社役員以上に重い義務というべきである。
具体的には,金融機関の融資は安全性の原則を遵守しなければならず,融資を決定するにあたっては,関係法令並びに被告信金の定款及び貸付規定等を遵守することはもとより,事業者への融資の場合は,融資先の信用調査により融資金の回収のために万難を排さなければならない。
(二) 本件各融資は,以下のとおり,返済能力のない赤字会社に対し,赤字補填を目的として,具体的な返済財源や返済計画もないまま実質的に無担保でなされた融資であって,回収の見込みがなく,安全性の原則に反した融資であり,これを実行した被告理事らには善管注意義務違反が認められる。
A造船は,返済能力に重大な懸念が顕在化している状態であったから,融資の判断にあたっては,通常の場合にも増して慎重に償還可能性を検討することが必要であり,追加融資分について確実な担保があるか,追加融資分のみならず,既存融資分の返済をも可能とする事業計画の実現について相当高度の蓋然性が客観的に確保されるような特段の事情がない限り融資を差し控えるべきであったといえる。この特段の事情は,被告理事らにおいて主張・立証する責任がある。
(三) 返済能力のない赤字会社に対する融資
(1) A造船の劣悪な財務状況
A造船は,造船不況の影響による過当競争のあおりを受け,赤字工事でも受注せざるを得ず,これが同社のキャッシュフローを悪化させていた。そのため,支払手形の決済資金を通常業務の売上金で賄うことができず,新造船を受注すると前受金を従前の支払手形決済資金に充てるという「先食い」をするようになり,材料購入費や下請業者への支払は支払手形を増発して対処したため,多額の支払手形の決済に追われ,目先の決済資金獲得を目的とした採算度外視の赤字工事を受注するという自転車操業を繰り返した。
折からの造船不況により継続的な新造船の受注を確保することは困難であり,新造船の受注が途切れれば資金繰りが早晩行き詰まることは目に見えていた。仮に新造船の受注が継続しても,赤字工事となることが稀ではなく,既に生じている多額の資金不足を改善することは事実上不可能であった。A造船は,修繕船の受注も狙っていたが,すぐに土砂が堆積して「浮きドック」の使用が不可能となり,大量の修理の受注により資金繰りを改善することも絶望的な状態であった。
このように,A造船は,本件各融資の当時,いつ資金ショートが起こっても不思議ではない,倒産間近の極めて劣悪な財務状況にあった。
(2) A造船の決算書
ア 決算書の表面上の財務状況
A造船の平成7年2月期営業報告書では,約1億3200万円の繰越損失があり,約1億円の債務超過となっている。また,本来,流動比率(流動資産÷流動負債)は120ないし130%程度であるべきところ,A造船の流動比率は約94%にすぎず,資金繰りが極めて厳しいことが分かる。
イ 決算書の分析により判明する財務状況
A造船の決算書を分析すれば,同社の財務状況は見かけ以上に劣悪であり,11億円を超える資金不足が生じていることが容易に判明する。すなわち,平成7年2月期営業報告書によれば,23億8400万円の短期的な資金手当が必要なところ,実際に回収,使用が見込める資産は総計12億8100万円にすぎないから,この差額11億0300万円の資金不足があったといえる。
損出しをして真実の財務状況を明らかにした平成8年2月期営業報告書では約9億円の債務超過となっていることから,同社の資金不足額が9億円を下らないことは明らかである。
(四) 赤字補填を目的とする融資
A造船が被告信金に支払手形決済資金の融資を申し込んだことは,もはや「先食い」によって決済資金を捻出することさえできず,融資がされなければ即手形不渡り,倒産へと至る末期的状況にあることを意味する。
このような状況にあるA造船に対して支払手形決済資金等を融資することは,赤字会社の赤字補填を目的として融資するものであり,安全性の原則からすれば到底許されない。
(五) 実質無担保の融資
(1) 不動産担保
ア 本件各融資については,前提事実のとおり,A造船の不動産等について,合計8億0500万円の根抵当権が設定されている。
不動産担保調査表上の時価評価額は合計約8億1200万円とされ,所定の担保掛目である60%を乗じた担保評価は約4億9000万円,先順位に設定されている担保(約1億0600万円)を差し引いた正味の担保余力は約3億8500万円であった。
仮にこの評価が妥当であるとしても,大幅な担保割れであるが,上記の担保評価は,今後必要と思われる資金総額に合わせて設定されただけであり,何の根拠もないものであった。
平成7年度の固定資産評価によれば,全担保物件の評価額は約1億2800万円にすぎない。このうち先順位担保権が設定されている物件(別紙担保権目録1ないし3番)の固定資産評価額合計約1億1900万円に担保掛目(60%)を乗じると約7100万円となり,さらに先順位の担保額1億0600万円を控除すると担保余力は皆無であり,被告信金が第1順位の担保権を設定した船木幸介所有の更地(同目録4番)についても,その固定資産評価額は約889万円にすぎず,本件各融資の総額から見れば,実質的には無担保での融資実行といえる。
イ 被告信金の内規である「貸出および審査に関する権限規定」6条2項(2)ホでは「処分による最低見積価格は担保時価総額の60%以内とするとともに,この処分価格が貸出極度の最高限度となる。」旨規定する。本件各融資の実質的な担保評価額は約900万円にすぎず,上記内規によって定められた貸出の最高限度は約540万円となるから,これを大幅に超えた本件各融資は内規に違反している。
なお,この内規は,一般に担保処分に際しては延滞利息や他の債権者との兼ね合い等から早期の売却を迫られる場合が多いため,担保不動産の評価の際に基準とすべき価格は,すぐに売却できる価格であって,正常な状態における取引市場価格とは異なる。よって,この趣旨は,決裁権限者が誰であろうと妥当するというべきである。
(2) 人的担保
本件各融資については,前提事実のとおり8名の連帯保証人が付されたが,本件各融資の総額に見合うだけの保証能力はない上,本件各融資に際して,これらの連帯保証人の資力等についての調査検討は何らなされなかった。
(六) 返済計画・事業計画の有無
本件各融資の融資申請書の「返済源資」欄には,「売上金をもって返済」と記載されているだけであって,具体的な返済原資の見込みや返済計画については何ら検討されていない。
とりわけ,本件各融資のように,返済能力に重大な懸念があって追加融資について明確に消極的な姿勢をとっていた貸出先に対し,一転して融資実行を可とする判断をする際には,債務者から書面化された事業計画書の提出を受けてその内容を慎重に吟味し,金融機関内部においても,より厳しい見方での事業計画書を作成するのが本来の融資審査のあり方である。しかし,本件各融資においては,何らの事業計画書も残っていない上,被告理事らが主張するような返済計画を前提とした討議がなされた形跡もないのであるから,かかる事業計画そのものが存在していなかったとしか考えられない。
(七) 返済計画・事業計画の実現可能性(妥当性)
(1) 被告理事らの主張する収益予想は,劇的な業態の変更を前提とするものであり,このようなことが一朝一夕にできるはずがないから,その実現可能性がないことは明白である。現に平成8年2月期には,①新造船の売上高は28億円にむしろ増え,修繕船の売上高は3400万円に減る一方で,②工事原価は売上高を上回る35億円へと増大しており,被告理事らの主張とは全く逆の方向へと事態は推移していた。
自転車操業を続けているA造船が,売上高の小さい修繕船中心の業態へシフトすることは,資金繰りの破綻を招くものであるし,修繕船の需要は極めて乏しく,また,浮きドックはすぐに土砂が堆積しやすく,毎年浚渫をしなければ使用できない状況にあり,浮きドックの大きさも小型船にしか対応できないものであって,受注できる船舶が限られるため,修繕船中心の業態へのシフトはそもそも実現不可能であった。
経済不況の影響もあり,造船業界は業況が厳しく将来性が見込めない状況にあった。その上,平成7年6月には,旧運輸省(以下,旧省庁名を使用する。)がいわゆる権利トン数制度といわれる内航海運船腹調整事業の廃止を見込んだ答申を出しており,近い将来同事業が廃止されることがほぼ確実に見込まれる状況であった。なお,同事業は,既存業者の既得権保護のための制度であり,これを廃止することになると,自由競争の中で弱小の中小零細業者が淘汰されていくのは必然であり,そうなると,一般船主と呼ばれる中小零細の個人船主を主な顧客とするA造船も同様に淘汰されていくことが予想できたものであり,このことは被告理事らも本件各融資時に認識していた。
(2) 日本砂利株式会社(以下「日本砂利」という。)の代表取締役砂田一郎(以下「砂田社長」という。)は,もともとA造船の経営に参画することに非常に消極的であったが,被告三井の強い説得により,渋々,A造船の名目上の新社長に就任することになったものであり,「経営に対する意欲」はなく,新造船の注文をとってくるための営業活動をしていたにすぎない。
仮に砂田社長が砂利業界の実力者であったとしても,同社長にはA造船の営業活動を期待するのみで,同社の実質的な経営権を与えていなかったのであるから,これで瀕死の状態にあったA造船の経営を立て直すことができると考えることは到底合理的な判断とはいえず,砂田社長の社長就任は,本件各融資を正当化するための口実にすぎない。
砂田社長の就任によって取引先がA造船の再建に協力してくれるとの期待については,平成7年9月20日の債権者会議において,大口債権者9者が各5000万円(合計4億5000万円)の出資を行うという計画が決定されたものの,これ自体,当面の資金繰り凌ぎでしかなく,抜本的な再建策とはいえない上,同月末までに集まったのは3億2000万円にすぎず,本件各融資の時点において,既に協力体制や再建計画が破綻していたといえる。
(八) 被告理事らの認識
被告理事らは,A造船が返済能力のない赤字会社であること,本件各融資が赤字補填を目的とすること,本件各融資が返済原資や返済計画の存在しない融資であることを認識していたといえる。
平成7年10月4日付けの融資申請書には,不動産担保が「貸出極度0にて管理のこと」と記載されており,被告理事らは実質的には担保余力がゼロであることを認識していた。
(九) 被告信金の損害額
A造船は,平成14年8月7日,不動産競売開始決定を受けて実質的に経営破綻した。本件各融資の元本現残高は,前提事実2(五)のとおり6億2879万6765円であり,A造船に弁済可能性はない。
これから,別口の融資に関する利息として返済された可能性のある金額(合計1億1598万円)を控除した5億1281万6765円が被告信金の損害額である。
(一〇) 結論
以上より,被告理事らは,債務不履行に基づき,被告信金に対し,連帯して5億1281万6765円の損害を賠償する義務を負う(ただし,原告RCCは内金4億円を請求する。)。
2 被告理事らの主張
(一) 注意義務
信用金庫の理事は,株式会社の取締役と同様に,経営の専門家として,合目的的かつ政策的な判断を常に求められており,その判断を下すに当たっては,理事に自ずから広い裁量権が認められている。
したがって,信用金庫の理事がした融資決裁上の判断により,結果的にその融資が回収不能となって信用金庫に損害を与えたとしても,直ちに理事の善管注意義務違反が肯定されるわけではなく,融資の条件,内容,担保の有無,内容,借主の財産,経営状態のほか,信用金庫の経営状態,経済社会的状況等の諸事情を総合的に判断し,その理事の判断が著しく不合理なものであって,上記裁量権を逸脱した場合に限り,善管注意義務違反が問題となるというべきである。理事には裁量権があるから,原告RCCにおいて,理事の裁量権逸脱の事実を立証する責任があるといえる。
(二) 安全性の原則は,重要な要素であるが,全くリスクのない融資だけを行っていたのでは信用金庫の経営として成り立たない場合や信用金庫の地域経済に対する貢献という理念にも悖ることになりかねない場合も考えられるから,結局は,上記裁量権の範囲内か否かの問題に帰着する。
(三) A造船の財務状態
原告RCCの主張を前提に資金不足額を計算しても,A造船には回収可能な財産が16億5500万円程度ある(前受金のうち3億7400万円分は半成工事に計上できる正当な資産であるから,これを回収可能額に加算すべきである。)から,資金不足額は7億2900万円にすぎない。
融資の可否を決する際に最も重要なことは,過去及び将来にわたる生きた企業活動を全体として見た場合の融資金の回収可能性であり,その判断には広い裁量権が認められるのであり,決算書の分析結果はこの回収可能性の考慮要素にすぎない。特に,A造船のような中小造船業においては,不況時には累積赤字を計上し,好況時に解消するパターンがほとんどであり,また新造船が期末に仕掛かり状態か竣工済みかで各科目の数値が大きく変動する特殊性を有するから,原告RCCが主張するように不況時の特定の期の決算書を分析した結果に基づいて融資の判断をすればその結論を誤る可能性が高い。
(四) 赤字補填を目的とする融資
支払手形決済資金や未払金の支払資金等の「後ろ向き資金」については,これを拒否すれば直ちに倒産に至るのであるから,地域経済に対する貢献という理念を持つ信用金庫としては,可能な限り調査し,回収可能性があると判断した場合には,たとえ十二分の担保を保全していなかったため融資金が回収不能になったとしても,善管注意義務違反を問われないと解すべきである。
(五) 実質無担保の融資
(1) 貸出および審査に関する権限規定6条2項(2)ホの規定は,支店長受入れの可否を規定しているものであり,被告理事らには適用されない。同14条2項(6)ロの規定では担保掛目が審査部長の権限とされているから,審査部長は,掛目を60%にすることに拘束されない。
(2) 本件各融資は,不動産の担保力にのみ依存した融資ではなく,貸出極度額がゼロとなっているのはその趣旨である。
本件各融資の前に保証人らが10日間で合計3億2000万円を集めることができたことは,保証人の資力があるという証拠である。また,保証人は,A造船の債権者団から選ばれているが,その目的は,再建計画において同社の支援を申請してきた業者らに継続的かつ積極的な協力をさせることにあり,再建計画上,重要な意味がある。
(3) 本件各融資は,平成7年9月20日に融資依頼を受けてから極めて短期間で融資の可否を判断しなければならない事案であった。そのような短期間では,最優先事項である再建計画の内容や実現可能性を中心とする回収可能性の調査検討に重きが置かれるのは当然であり,被告理事らは限られた時間の中で人的物的担保についての可能な調査は尽くした。
(六) 返済の可能性,事業計画の実現可能性
(1) 事業計画
本件各融資に当たっては,次のとおり,A造船の事業計画を予測し,この計画に実現可能性があり,これによれば,毎年7448万円の返済が合理的に見込まれたのであるから,返済可能性があった。
ア A造船の売上予測
(ア) 新造船の年間の粗利は6000万円と予想された。
すなわち,新造船の年間受注を1.5隻,船価を4億円,建造粗利を10%とすれば,年間の完成工事高は6億円,粗利は6000万円と予測された。
(イ) 修繕船の年間の粗利は9600万円と予想された。
すなわち,修繕船の年間受注を64隻,船価を本検査32隻が約700万円,中間検査32隻が約300万円,修繕粗利を30%とすれば,年間の修繕収入高は約3億2000万円,粗利は9600万円と予測された。
(ウ) よって,年間の工事利益は,合計1億5600万円と予想された。
なお,浮きドックは土砂の堆積により本件各融資時点までほとんど稼働していなかったが,その理由は新造船業務をメインとしていたからであり,日本砂利の協力の下で浮きドック浚渫の目処が立っていたから,修繕業務への転換に十分期待することができた。
イ A造船の一般管理費予測
(ア) 役員報酬
第29期では年間6700万円であったが,旧経営陣のうち船木幸介と船木陽介の役員報酬のみとなり,月額100万円(年間1200万円)になると予測できた。
(イ) 給料手当等
第29期では2675万円であったが,平成7年6月の従業員が18名であるので,1人当たりの平均は148万円程度である。
再建計画中は従業員を雇用せず,受注の都度,人夫を依頼する形態にすることとして徐々に人員の削減を行った場合,退職金の支払を含めて年間2000万円程度まで減少すると予測できた。
(ウ) 接待交際費
第29期は2400万円であったが,これは新造船受注のためのオペレーターの接待等の費用であったが,今後,修繕業務に転換すれば接待費の大幅な削減が可能であり,1000万円程度まで減少すると予測できた。
(エ) 旅費交通費
第29期は,1100万円であったが,700万円程度まで減少すると予測できた。
(オ) 諸税負担金
第29期では4400万円であったが,1000万円程度まで減少すると予測できた。
(カ) 保険料
第29期では817万円であったが,350万円程度まで減少すると予測できた。
(キ) 減価償却費
340万円程度まで減少すると予測できた。
(ク) その他一般管理費
経費削減や経理面の強化により1000万円程度まで減少すると予測できた。
(ケ) 営業利益
以上より,年間の一般管理費は合計7590万円と予測されるから,年間の営業利益は8010万円と予測できた。
ウ 当期利益予想
年間の受取利息は800万円,年間の支払利息は3000万円,税引前利益が5810万円と予測できた。そうすると,これに対する法人税が2102万円となり,当期利益が3708万円と予測できた。
エ 返済原資予想
当期利益に,工事原価減価償却費(3400万円)と一般管理費減価償却費(340万円)を加味すると,長期借入金の返済原資は,7448万円と予想できた。
オ 返済期間
本件各融資にあたっては毎年7448万円の返済が合理的に見込まれるため,実質6億7900万円というべき本件各融資の完済までに要する期間は約9年と予想された。実際には1年の据置期間を含めて10年で完済する予想を立てていた。
カ なお,本件各融資時点において,出資者5名が年間各2000万円を出資(合計1億円)し,返済に充当することも予定されていた。
(2) 事業計画の実現可能性
ア 被告信金の職員をA造船に出向させ,同社の経理面をチェックし,旧経営陣の退任と新役員の就任で経営も合理化され,使途不明金や資金の流用がなくなり,大口債権者が新役員と保証人になることで債権者らの協力も担保できたことから,A造船の再建計画は実現できると合理的に予測できた。
イ A造船は,長期融資による援助を必要とする資金不足の状態にあった。長期融資の場合に,9年先までの返済原資が具体化することは容易ではなく,長期融資は利益償還により行うのが通常であるから,確実に合理的期間内に返済できるといえる程度に事業計画の実現可能性があるならば,融資の決定は許されるべきである。
当初短期資金として融資した本件各融資金を直後に長期資金に変更したが,本件各融資はもともと長期資金への変更を前提とした融資であったから,問題はない。
財務内容が劣悪な事業者に対し,将来の再建計画に望みを託して融資を実行する場合には,融資金の回収が長期化することは当然であり,問題は回収が合理的期間内にできるか否かという点である。
ウ 砂田社長の就任で3億2000万円もの出資金が集まったということは,砂田社長の力量を示すものである。
出資金が全額集められなかった場合の条件も当初から設定し,その条件はクリアしていたから,再建計画は順調に進んでいたといえる。
エ 本件各融資当時,権利トン数が将来的に廃止されるという見通しはあったが,廃止によりかえって修繕需要が拡大するという予測があった。
(七) 注意義務違反
以上のように,平成7年9月21日の融資委員会の時点においては,本件各融資金が回収可能であると合理的に判断し得る状況であったこと,A造船が岡山県の造船業界で実質唯一の内航海運業者向けの造船所で技術力も高く,存続させる社会的意義が高かったこと,大手金融機関が融資対象としないこのような地域の中小企業に融資をし,地域経済を守り,活性化させることに信用金庫の存在意義があること,造船業界全体も不況の中にあり,赤字経営を続ける造船会社が数多く存在していたこと,融資の条件として経営陣の交代等再建の前提となる条件が付加されていたこと,再建計画が船舶整備公団もその手腕を高く評価する砂田社長の上位役員就任により十分に実現可能であったこと,A造船の大口取引先代表者を保証人兼新役員とすることにより取引先の再建計画への協力が期待できたこと,被告信金の経営状態は極めて良好であったことなどを総合考慮すれば,たとえ本件各融資時点でA造船が劣悪な財務状況であったことを認識して融資を実行したとしても,裁量の範囲内で合目的的かつ政策的に判断したものであり,被告理事らの判断に裁量権の逸脱はない。
(八) 本件各融資後の事情の変化
本件各融資の時点では合理的期間内での返済可能性があったが,本件各融資の後,A造船の浮きドックの浚渫が予定より1年以上も遅れ,さらに,平成10年10月の大雨で再び土砂が堆積する事態となったこと,砂田社長が,当初の協議に反して全く修繕業務への転換を図ろうとしなかったこと,西大寺地区担当理事であった七瀬久男(以下「七瀬」という。)が,A造船の再建が不可能と思い込んで再建を諦め,その職務を事実上放棄したこと,海砂利採取の全面禁止など予想し得ない事情により,再建計画が順調に進まず,本件各融資金の返済が滞る事態となった。
このように,本件各融資金の返済が滞った原因は,融資時点では予想できなかった事情によるところが大きく,被告理事らに善管注意義務違反は認められない。
(アジア債関係)
二 アジア債への投資に関する債務不履行責任
1  原告RCCの主張
(一) 信用金庫の理事は,投資業務を行うにあたって,善管注意義務の一環として,安全性の原則を厳守する義務を負う。すなわち,金融機関の経営の健全性と預金者保護の観点から,投資業務において,利殖性よりも償還の安全性,確実性が重視されなければならない。不特定多数の預金者から金員の預託を受けている金融機関においては,一般の事業会社よりも厳格に投資業務の限界が画されなければならない。
具体的には,金融機関においては,特定銘柄のハイリスクな有価証券へ集中的に投資を行い,その投資数量が自己資本額や年間の業務純益額などからみて明らかに過大であり,財務体質を脆弱にせしめる危険性のある投資は許されないというべきである。
(二) アジア債購入の違法性
本件アジア債の購入のうち,別表3記載の債券の購入(以下「本件各投資」という。)は,以下のとおり,特定銘柄のリスク商品に集中的に過大な量の投資を行ったものであり,自己資本額を超過し(別表3の14番については,大口融資規制に違反し),被告信金の財務体質を脆弱にせしめる危険性のある投資であって,善管注意義務に違反するというべきである。
(1) ハイリスク性
ア カントリーリスク
(ア) 本件アジア債は,いずれもタイ及びインドネシアの現地企業が発行する社債の信用リスクを引き受ける内容の外債であり,企業の種類も複数である。本来これらの企業の信用リスクの内容は,個々の企業ごとの財務内容によって異なってくるはずである。
しかし,現地企業が属する国が,カントリーリスクが高く社会的経済的インフラが脆弱と評価されている場合,企業の社債の信用リスクを検討する際には,個々の企業の信用リスク以前に,当該国家のカントリーリスクが問題になる。けだし,国家の社会的経済的インフラが脆弱な場合,特定の経済事象により当該国家の社会的経済的インフラが破壊された際に企業が被る影響がより大きくなるからである。かかる意味で,本件アジア債においては,当該国家のカントリーリスクと企業自体の信用リスクが密接に関連している。
(イ) 本件アジア債の原債券の発行地は,いずれもタイとインドネシアであり,購入時のこれらの国の国債信用度の順位は28位から41位であり,社会的経済的インフラが相対的に弱かった。
BISの自己資本規制は,OECD加盟国以外の国債については,全額を自己資本比率算出にあたっての分母となるリスク資産として計上することを求めており,このことからもOECD加盟国でないタイ及びインドネシアの国債が持つリスクは高いといえる。
インドネシアの場合,平成9年当時より,平成10年のスハルト大統領の任期満了を控え,反対政党の指導者の変動に伴って多数のデモで暴動が起こる等して政情不安定な状態が続いていた。
(ウ) 一般に民間企業の社債の信用度は,その発行地の国債の信用度よりも相当程度低く,リスクも非常に高い。BISの自己資本規制が,民間の事業企業に対する債券については全額を自己資本比率算出にあたっての分母となるリスク資産として計上することを求めているのも,その現れである。
このことからすれば,本件アジア債の信用度は極めて低く,それを購入することのリスクが著しく高いことは明らかである。
イ 格付けの不存在
債券格付けは,債券の発行体が償還期限に予定どおり支払う能力についての意見である。無格付けの債券は,定評ある専門機関による信用リスク評価が行われていない債券であるから,従前から発行体の会社と取引があり,外部からの情報がなくとも信用状況について独自に判断することができるという特殊な場合を除き,通常は投資家の投資対象とならない。したがって,無格付けの債券は,投資家の投資対象となりにくく,第三者に売却することにより資金回収を図ることが困難であり,極めて流動性の低い債券といえる。
本件アジア債は,すべて無格付けである。これは,仮に格付けを取得しても極めて低い格付けとなり,かえって債券の販売が困難になるという事情があると推察される。
なお,本件アジア債自体には格付けがないが,本件アジア債の原債券発行体たるポリシンド社についての格付けがB格からBB格(投機級)であり,それ以外の民間企業もBB以下であるか,格付けのない企業であり,安全性のかなり劣る商品であった。
ウ 支払準備資産に該当しないこと
本件アジア債は,支払準備資産に該当しない。これは,本件アジア債が流動性が低く,換金処分が困難であるという意味でハイリスク資産であることを意味する。
エ 債券として異常な高利
本件アジア債の利率は,4%ないし13%であり,これは当時の日本国債の利率(10年物で2.5%)に比して相当な高利率である。
一般に有価証券においては,リターンとリスクが相関関係にあるから,本件アジア債は,日本国債と比べると,数倍の大きなリスクを含む有価証券であったといえる。
オ 流動性の欠如
(ア) 「流動性が高い」というのは,購入者として不特定多数が想定され,売却価格が個別交渉に左右されずに決定され,迅速に換価できることをいう。債券市場が整備されている公募債の場合は流動性が高い。
本件アジア債は,私募債(特定又は少数の投資家を対象として発行される債券)である。一般に私募債は,必要なときに迅速に換価することが困難であり,流動性が低い。私募債に債券市場はなく,本件アジア債の売却先は,事実上,債券を販売したペレグリン証券会社しか想定できない。そうすると,売却価格の決定は,ペレグリン証券会社との個別交渉に委ねられることになるが,足下を見られる可能性があるし,個別交渉を行う必要があること自体,迅速な換価の妨げとなる。これがまさに流動性リスクである。特にアジア経済に不安が生じた時点で被告信金がペレグリン証券会社に買い戻しを求めても,大量の同種商品を抱え込んでいるペレグリン証券会社が被告信金の保有する大量のアジア債を一斉に買い受けることはあり得ず,仮に買い受けたとしても極めて低い言い値での取引となり,被告信金に巨額の損失が生じることとなる。
本件アジア債は,償還期間が1年ないし2年近い長期債が多く,それだけリスクに晒される期間が長く,流動性が低いため,中途換金が困難なまま長期保有を余儀なくされるため,機関投資家でさえアジア債の長期債を敬遠していた。
(イ) 本件アジア債は,ディスクロージャー制度の保障がなく,信頼できる基礎情報が提供されず,格付けもなく,長期保有のリスクもあり,機関投資家が警戒するリスクを含有するものであり,著しく流動性が低い。さらに本件のように大量に保有すると,状況が悪化したときに売却が困難となり,一気に売り抜けることはまず不可能である。
(ウ) 本件アジア債を4回売却した事実については,AII債間の乗り換えや買い直しを行ったもの,あるいはペレグリン証券会社の要請で売却が行われたものにすぎず,取引増大中に同種商品を反復売買することはペレグリン証券会社にとって歓迎すべきことであるから,これら4回の売買の事実をもって,ペレグリン証券会社が常に買い取りに応じるとはいえない。
カ ペレグリングループの位置付け
本件アジア債は,ペレグリングループが組成した商品であるから,万一ペレグリングループが破綻した場合には,そのこと自体によって円滑な投資資金の回収が困難となる点でペレグリングループの信用リスクをも考慮しておく必要があった。
PIHLは,1988年に設立された新興企業であり,アジアの高成長を頼みにしたリスクの高い積極的な経営戦略をとって短期間で高成長を遂げたものであり,それだけに経営上のリスクも大きい。PIHL発行債券の目論見書には,事業経営上のリスクとして,競争の激しさや同社が市場において取引されるに至らない会社に対して将来上昇を見込んで多くの直接投資を行っている等の記載があり,PIHLの信用リスクが把握できる。
(2) 特定銘柄への集中度
本件アジア債の原債券は,タイのタナヨンという企業が発行元となった債券を除けば,すべてインドネシアの企業が発行元になっている。
原債券を発行した企業体が複数であっても,それらが同一国に属するのであれば,カントリーリスクの点から,特定銘柄に集中していると考えるべきである。特に,本件のようにカントリーリスクが高く,当該国の社会的経済的インフラが脆弱な場合,その趣旨はより強く妥当する。
(3) 投資額の過大性
ア 自己資本額の超過(別表3の14番を除く。)
被告信金の会員勘定は,平成9年3月期の211億2792万9000円が最大であった。被告理事らは,自己資本額を超過してハイリスクである本件アジア債を購入することを差し控えるべきであったのに,別表3の1ないし13番の購入は,既に本件アジア債の投資残高が会員勘定(自己資本額)を超えていた状況下でなされたものであり,明らかに過大であり,違法である。
イ 大口融資規制限度額の超過(別表3の14番)
(ア) 金融機関は,多数の預金者からの資金を預かっていること,地域社会への影響力が大きいこと等から,経営における危険分散を図り,財務の健全性を図るための不可欠の規制として,同一人に対する貸付限度額を広義の自己資本額の20%以下とする規制がある(信用金庫法89条1項,銀行法13条1項等)。
銀行法施行規則14条4項(平成10年12月1日施行)では,銀行等の貸借対照表の有価証券勘定に社債として計上されるもののうち,その発行の際にその取得の申込みの勧誘が私募に該当するものであった社債が大口信用供与規制の対象となるとされる。
(イ) 平成8年10月当時の被告信金の大口融資限度額は約45億円である。これに対し,同年10月31日時点のポリシンド社発行の債券を原債券とするアジア債の購入高は合計約74億7711万円に達していた(別表1中のAII#264,#66,#116,PIHL#1)。
①これらの債券は,被告信金の貸借対照表の有価証券勘定に社債として計上されているものではないが,その原債券はポリシンド社発行の社債であり,その発行の際の取得申込みの勧誘は私募に該当するから,銀行法施行規則14条4項の趣旨が妥当する。②これらの債券の実体は原債券であるポリシンド社発行の社債であり,被告信金からポリシンド社に巨額の資金が流れる仕組みとなっており,さらに私募の形式であるがゆえに流動性が欠如しており,その焦げ付きのリスクが固定化しているから,大口信用供与規制の趣旨が妥当する。さらに,③金融機関の本来的業務で公共性のある融資でさえ,危険分散と財務の健全性を図る目的で大口融資規制が設けられているのであるから,何ら公共性もなく,金融機関の附随業務にすぎない投資行為に関しては,危険の分散と財務の健全性を図る必要性がより強く妥当するはずである。
したがって,本件アジア債の購入についても大口融資規制が類推適用され,1つの投資先については約45億円の限度額の範囲で行うべきであるといえるところ,被告信金が平成8年10月31日までにポリシンド社発行の債券を原債券とするアジア債を合計約74億7711万円も購入したことは違法である。別表3の14番の購入額は約47億円であり,この1回の買付分だけで既に大口融資規制の限度額を超えていることからも,その違法性は明白である。
なお,仮に大口融資規制が類推適用できないとしても,この規制の趣旨にかんがみ,危険の分散と財務の健全性を図ることが被告理事らの善管注意義務の内容であること自体は否定できないはずである。
ウ 年間業務純益額との比較
平成9年3月期の被告信金の業務純益額は,13億1933万円である。これに対し,同年4月25日付けの本件アジア債保有残高は約252億円であり,上記純益額の22倍である。
これは,もし本件アジア債のリスクが現実化して償還不能となった場合,被告信金の利益で損失を埋め合わせるために22年間も要することを意味する。かかる規模の投資は,業務純益により回復困難な損失を出す可能性のある投資というべきであり,金融機関の財務体質を脆弱にせしめるものであって許されない。
(4) 判断形成過程の問題
ア 新たなリスクテイクを差し控えるべき状況
(ア) 多額の損失が発生した状況下での投資
被告信金は,デリバティブ(主に金利スワップ)取引を平成4年3月から開始し,平成6年から金利上昇を見込んで金利スワップ契約のポジションを「固定払い変動受け」に傾けたところ,その金利観がはずれ,平成7年以降は,金利スワップ利息は大幅な支払超過となり多額の含み損を抱える状況となった。平成8年3月の決算期には,ディーリング金利スワップの利息交換での支払超過が約28億円となり,含み益を有していた債券を売却して損失の穴埋めをした。ところが,その後の金利変動により,平成8年10月にはさらに57億円を超える含み損が発生した。
このように被告信金は,デリバティブ取引によって多額の損失を抱え,新たなリスクテイクを差し控えるべき状況にあったにもかかわらず,本件各投資を行ったものである。
(イ) リスク管理体制が未整備な状況下での投資
本件各投資が行われた平成9年4月末までの間,原告甲野が独断で本件アジア債の運用方針を決定し,購入銘柄を選定していた。つまり,被告信金には,運用担当者と運用協議者との分離・牽制のシステムが存在せず,事実上,市場金融部の責任者である原告甲野の独断専行によって投資業務を行い得る状況にあった。
被告信金は,有価証券の運用方針について,一応の内規を定めていたものの,その運用枠は,有価証券投資の規模が拡大するにつれて年々緩和されて形骸化して行った。内規違反の事態が生じても,取引を縮小するのではなく,内規を緩和することで内規違反の事態を糊塗しており,これは,被告信金の健全経営への配慮や投資のリスク管理意識が欠如していたことの現れである。
(ウ) 当局からの警告の存在
平成7年8月の日本銀行(以下「日銀」という。)所見では,デリバティブ取引関係損失の処分策定に当たっては,決算計数への配慮等のために,新たなリスクを招来する取引等を行うことがないように留意しなければならないことが警告された。
イ 調査・分析等の欠如
本件アジア債は外国債券であり,法に基づいたディスクロージャーが行われていない私募債であり,情報入手が極めて困難な商品であったから,本件アジア債を購入する場合には,債券の仕組みやリスク,償還可能性等について,相当な調査や分析が求められる。
ところが,被告信金は,本件アジア債の購入に際し,目論見書の取り寄せをせず,証券会社から送られた極めて簡略な「約定速報」等のみを情報源として,その購入を決定しており,当局からの警告を無視し,リスクの程度やリスクの分散についての検討を一切せず,リスクヘッジも行わず,外部の専門家への調査依頼等を行った形跡もなく,極めて杜撰な調査・検討のまま購入に至った。
ウ 内規違反
本件各投資は,既に形骸化した内規にさえ違反していた。つまり,平成8年度の運用枠として支払準備率は原則120%以上とされていたが,平成9年3月の支払準備率の平均は110.64%であり,内規を満たしていなかった。さらに平成9年運用枠においては内規上100%以上に緩和されたが,平成9年4月末の支払準備率は84.37%であり,同年5月の支払準備率の平均は84.67%であり内規に違反していた。
(三) 被告理事らの注意義務違反
(1) 原告甲野
原告甲野は,本件各投資をすべて決裁し,これを実行した。同原告は,本件アジア債の目論見書を取得していないし,原債券発行企業の目論見書すら取得していないなど,その危険性に対する把握が不十分のまま過大な投資を行い,上記の善管注意義務に違反した。
原告甲野は後任者責任論を主張するが,本件アジア債は流動性を欠いており,後任者が本件アジア債を売却することは,タイの通貨危機発生前であっても極めて困難であったし,通貨危機発生後に売却することは不可能であった。
(2) 被告一色,被告二宮,被告三井及び被告四谷
被告一色,被告二宮,被告三井及び被告四谷は,非公式な理事会の実質を有する朝会の際に,本件アジア債の購入についての報告を毎日受けており,毎日,当日運用報告書の回覧を受け,その内容を確認の上押印しており,当局から再三の警告を受けていたから,本件各投資の違法性,危険性を容易に認識できたといえる。
とすれば,同被告らは,本件アジア債の投資について,被告信金の財務体質を著しく脆弱ならしめる投資が行われないように監視し,本件各投資を阻止すべき注意義務があったといえる。
しかるに,同被告らは,上記注意義務を怠り,本件各投資について,当日運用報告書の内容を確認の上押印して承認し,監視義務に違反した。
(四) 損害額
本件各投資にかかるアジア債のうち別表4−2記載の6銘柄は償還不能となったが,これらの購入額合計から後に原告RCCが回収した額(前提事実3(五))を控除した額である77億3059万1547円が,被告信金が本件各投資により被った損害額である。
(五) 結論
以上より,被告理事らは,善管注意義務に違反して本件各投資を行った債務不履行に基づき,被告信金に対し,77億3059万1547円の損害を賠償する義務を負う(原告RCCは内金6億円を請求する。)。
2  原告甲野の主張
(一) 本件アジア債による損害発生の原因は,原告甲野の後任者による本件アジア債の管理の誤りにあるのであって,原告甲野が本件アジア債の購入を決裁,実行したこと自体は,善管注意義務に違反するものではない。したがって,原告甲野は,被告信金に対して債務不履行責任を負わない。
(二) 当時の被告信金は,資本の自由化による外資の進出,金融自由化による金利競争,長期不況下での優良貸出先の激減という状況の下,金庫として生き残りをかけた活動が求められていた。原告RCCの主張するような硬直的な資金運用の仕方では,破綻を多少先延ばしできても,生き残りは困難であったというべきであり,本件アジア債のリスク,過大性,内規の変更も,そのような観点から検討されるべきである。
(三) ハイリスク性
被告信金は生き残りをかけた活動が求められており,リスク回避の十分な配慮の下で金融商品すべてを視野に入れて,資金運用を行う必要があり,預金金利を上回る利回りを確保するためにはリスクある商品についても取引の対象とせざるを得なかった。
変動商品は1日1日の市場の動きにより価値が変動するものであるから,資金運用の担当者は,リスクを少なくするための事前調査,リスク回避の方策確保,刻一刻と変動する経済状況に対する監視を行って,マーケット状況に迅速かつ的確に対応する必要がある。ハイリスクとなるか否かはリスクを軽減すべき前記注意義務を尽くしているか否かによる。
(1) カントリーリスク
確かに発展途上国の場合,先進国に比してカントリーリスクは高く,購入時,インドネシアやタイの国債信用度は29位ないし39位くらいであった。なお,日本の国債の信用度は30位である。
しかし,インドネシアの国債はトリプルBであり,世界の有価証券市場において投資適格とされている。そして,発展途上国の基幹産業を担う企業は,国の政策と密接に結びつき,国の支援も厚く,当該国の国債の信用度と同視できる。原告甲野は,発行企業の資料収集,現地調査により,これらの企業が財閥系の国策と結び付いた基幹産業を担う企業であることを確認した上で投資したものである。
(2) 格付けの不存在
本件アジア債は,当該国に社債制度がないため,仕組み債として発行されたものであって,元々格付会社は格付けを行っていないものであり,債券市場においては実質的格付けは存在する。
無格付けであっても,確実に売却できるのであれば投資しても問題はない。現に無格付けの商品は,特に問題なく市場に流通しており,多くの証券会社が扱っている。
(3) 支払準備資産
支払準備率を瞬間的にわずかに割ったことがあった(平成9年4月,5月)が,本件アジア債は流動性があり,いつでも現金化できるので,支払準備資産の要請に反するものではない。
(4) 高利性
どのような投資でもリスクを伴うものであり,重要なことは,いかに高い運用効率を確保しつつリスク管理を行うかである。
(5) 流動性
本件アジア債は,多くの証券会社が取り扱い,日本の投資市場で流通しており,売り注文をなせば,いずれの証券会社でもこれに応じたものである。
被告信金は,リスク管理の一環として,メリルリンチ証券ほか10社の外国証券会社との間に取引窓口を開設しており,実際に,アジア債につきペレグリン証券会社,新日本証券,日興証券と取引を行っていた。被告信金が主としてペレグリン証券会社を取引先としていたのは,同社が東南アジア債券についてプライスリーダー的存在であり,信用度が高く,多数の得意先を持ち,被告信金が売り注文をなせば容易に取引が可能となるため他の証券会社より有利な条件で買い取ってくれるという事情があったからである。このように本件アジア債は,容易に売却することができ,売買には数日あれば十分である。
債券取引においては,不特定多数の購入者に広く知らしめることにより行う公募債であるか,特定少数者を相手に募集する私募債であるかは,その流動性の有無,高低に影響することがない。債券は公募債,私募債の区別なく売買されており,私募債であるから売買がまれにしか成立しないというのは事実に反する。私募債は,一定の基準を満たした優良企業しか発行できず,その信用性に支えられて発行できるものであって流動性が高いといえる一面もある。
(三) 特定銘柄への集中度
分散投資の原則は,あるべき投資姿勢であるが,これは,長期にわたって保有し続ける性格の投資商品について強く妥当する考え方である。本件アジア債のように,漫然と償還期を待つのではなく,俊敏に売買を行うことにより利益を得ることを目的とする場合などには,集中的な特定銘柄に対する投資は,投資効果を上げるために必要であり,許される。
本件アジア債の原債券の発行企業は複数存在するから,特定銘柄への集中投資と評価されるいわれはない。
(四) 投資の過大性
(1) 自己資本額の超過
購入した有価証券がすべて損失となることはないから,自己資本額が有価証券購入額の限界を画するものではない。
過大投資か否かの判断は,期待損失額(=与信額×デフォルト率×{1−回収率})が重要な基準となる。インドネシア国債の格付けはトリプルBであるから,デフォルト率は0.9%以下,回収率を最悪に想定して0とすると,期待損失額は投資額250億円の場合,2億2500万円である。
自己資本を超えた投資が固定化すれば問題であるが,本件アジア債は,流動性があるのであって,固定化した投資とはいえない。
(2) 大口融資規制
有価証券の場合は,貸金債権とは異なり,流通性があるから,貸付に関する規制である大口融資規制が適用又は類推されるものではない。
(3) 年間業務純益額との比較
過大投資か否かの判断は,上記(1)のとおり期待損失額を基準にすべきである。
貸付けも有価証券投資と同様のリスクが存在するから,原告RCCの主張に従えば,有価証券投資及び貸付について,年間業務純益である約13億円の範囲しか行えないこととなり,被告信金の業務を否定することになり,金融機関として生き残れない。
(五) 判断形成過程の問題
(1) 新たなリスクテイクを控えるべき状況
ア 多額の損失が発生した状況下での投資
(ア) 平成8年3月期に金利スワップの支払超過が28億円となったが,一営業期間のみで損害と評価するのは誤りであり,償還等していない段階では損害評価はできない。有価証券取引による運用益が28億円計上されたから,実質的にみて損失は生じていない。
原告RCCは,単純に支払利息と受取利息の差だけに着目して58億円の含み損があったと主張するが,金利スワップは,将来変動した場合に発生する損失をヘッジするためのものであって,経営の安定化のための保険に類するものであり,予想に反して市場金利が下がった場合には,金融機関の変動金利負債の支払利息が減少することによる損失低下,固定金利資産に基づく高利の受取利息による利益の獲得により,金利スワップの損失はカバーされるのであるから,支払利息と受取利息の差だけに着目して金利スワップの損失を判断することはできない。
本件アジア債購入は,デリバティブ取引の損失穴埋めのために行ったものではなく,資金の安全かつ効率的な運用という基本姿勢に基づき購入したものである。
(イ) 平成7年8月の日銀所見では,新たなリスクテイクを控えるべきことに関する警告がなされているが,上記のような観点に反するものであり,誤った事実認識に基づくものである。
イ リスク管理体制が未整備な状況下での投資
原告甲野は,後記のとおり,外債を扱いながら,徐々に管理体制を構築していった。
被告信金は運用担当部と管理の分離が行われており,原告甲野は,運用担当部に独自の判断で投資行為を行わせていた。被告一色は,資金運用の業務に精通しており,原告甲野の判断に誤りがなかったから特に口を出さなかっただけであり,原告甲野が独断専行していたわけではない。
被告信金は,金庫として生き残るため,企業努力を行う上で必然的に資金運用に関する内規も変更していったものである。旧大蔵省が設けた支払準備率制度は,経営を硬直化させるとの観点から見直しが行われ,旧大蔵省は一時200%としていた支払準備率を漸次緩和し,平成9年には100%,平成10年には廃止したものであり,被告信金の内規の変更は,この対応に沿うものである。
(2) 調査・分析等の欠如
原告甲野は,後記のとおり,事前の調査はもちろん,事後のリスク管理についても十分な手当を行い,損失の生じない状態でかつ管理体制の構築を尽くして休職に入ったものである。
(3) 内規違反
定められた内規自体は遵守している。
(六) 善管注意義務違反
原告甲野は,以下のとおり,善管注意義務を果たした。
(1) 原告甲野は,現地企業を訪ね,これらの企業が財閥系の国策と結びついた基幹産業を担う企業であることを確認し,ペレグリン証券会社だけでなく,他の証券会社や銀行からも本件アジア債の説明を受けるなどの調査をした上で投資したものであり,購入にあたって,事前調査,リスクの検討を十分に行った。
(2) 原告甲野は,リスク回避のために以下の方策を講じた。
① 経済変動に迅速,的確に対応するためマスコミと契約し,端末機を導入しリアルタイムで情報を入手できるようにした。
② 判断を誤らないように専門家からコンサルティングを受け,セミナーに積極的に参加し,能力向上を図った。
③ 被告信金内に証券アナリストを養成すべき旨提案し,この方向付けをした。
④ 外国債券の流動性確保及び情報収集するために,メリルリンチ証券など外資系証券会社と常時取引できる体制を構築した。
⑤ クレジットデリバティブ(売却を容易にすることを狙って複数の債券を組み合わせて商品化するもの)を採用した。
⑥ 独断にならないよう,常に事前に亡昭男に相談して決定すると同時に毎日開かれる朝会で役員全員に報告を行っており,他の役員に対する事前説明及び経過説明を定期的に行っていた。
⑦ 毎月初めに監督官庁に対し債券取引について前月実績を報告し指導及び意見を求めていた。
⑧ 原告甲野が休職するにあたり,資金運用委員会を組織して事前協議制を採用した。また,ロスカットルールを明文化した。
(七) 責任の所在(後任者責任論)
(1) 金融機関の資金運用において,前任者が購入したものであっても,後任者が保有を決定した以上,その管理責任の所在は後任者(原告甲野の休職後に被告信金の理事であった者をいい,原告甲野を除く。)にある。
原告甲野は,平成9年4月26日以降,病気療養のため資金運用の担当を外れ,自宅療養していた。幾度かは出勤したり会議に出席したことはあったが,朝会には一度も出席していない。同日以降,アジア債の管理は,後任者がなすべき職務であった。
(2) 本件アジア債の購入行為自体は,損失を生じさせる行為ではなく,実際,原告甲野が休職に入る平成9年4月までは利益は上がっていても,損失は生じていない。原告甲野が本件アジア債を購入したこと自体は,善管注意義務に違反するものではなく,事後のリスク管理体制も原告甲野において構築していたことから,後任者が適切な管理をしていれば,本件の損害は生じなかったはずである。したがって,本件損害の責任の所在は,原告甲野にはなく,後任者の管理責任にある。
(3) 被告信金の保有していたアジア債は,容易に売却することができ,売買には数日あれば十分である。後任者は,原告甲野の休職後下落まで7か月間,ペレグリン証券会社から提示される価格で売却する機会があったところ,自己の判断で保有し続け,その後下落したものである。この間,平成9年7月ころにはタイの通貨危機が表面化し,同じ経済圏であるインドネシアへの波及が予想されたことから,後任者は,この時点で売り逃げることにより損失を避けることができたし,また,アジア債の価格が暴落した平成9年12月以降であっても,アジア債を売却することは可能であり,この時点で売却すれば,20億円余りの損失は生じたものの,被告信金の破綻は生じなかったはずである。その後も,本件アジア債の発行元となったインドネシアの各企業は健在であり,ペレグリン証券会社に代わる債券保全回収業務を行う証券会社に依頼しておけば,相当の償還金の回収ができたにもかかわらず,漫然と放置したためさらに損害は拡大したものである。
このように,本件アジア債が償還不能となって被告信金に生じた損害は,後任者が投資環境の変化に応じた迅速かつ的確な対応を行わなかったことに起因する。休職後の原告甲野にとっては,刻々と変動する金融市場の動きを把握して迅速に対応することは不可能であり,休職後の損害を原告甲野に帰責することはできない。
3  被告理事ら(原告甲野を除く。この項については以下同じ。)の主張
(一) 平成7年4月以降,超低金利水準となり,スワップ取引の評価損は膨大となり,年々多額のキャリー損(実現損)を生むこととなった。そのため,原告甲野は,①平成5年3月期から平成8年3月期は国債の売却益をもってスワップのキャリー損を穴埋めし,②仕組み物の救済スワップ取組により評価損の先送りをするとともに,③平成8年7月からアジア債などハイクーポン債の購入を進め,この債券利息収入で釣り合いを取り,スワップの年間キャリー損を填補しようとした。
被告理事らは,原告甲野のアジア債購入を次善の策としてやむを得ないものと考えていた。すなわち,金利スワップ取引において固定払いポジションに傾斜した以上,短期金利が低下する限り年々スワップ契約の逆鞘が表面化するから,この対応として外債などハイクーポン物に染手しようとしたのはやむを得ない次善の策であった。当時のアジアは,発展地域とされ,先進国のマネーを盛んに吸収していた。国内金利の反転にかけるか,アジア債のクーポン収入にかけるかの選択となれば,後者を選択したことをもって当然に非難することはできない。
(二) 市場金融部職員は,原告甲野の決定した運用方針に基づいて行動する,いわば原告甲野の補助者に過ぎなかった。実際,被告理事らは,原告甲野が決定・実行した取引を2,3日後に当日運用報告書によって回覧していたにすぎない。また,原告甲野は,アジア債のリスクが記載された「資金運用担当役員会議資料」の内容を把握していたが,この内容を他の役員に周知徹底させなかった。
(三) 流動性について,事後的に考えれば,本件アジア債は,私募債であり,公募債ほどの完全な流動性は期待できないものであった。アジア通貨危機が発生した際,被告理事らは,ペレグリン証券会社に本件アジア債を売却するとか,原債券を他の証券会社に移すとかの交渉をしたことがないが,その理由は次のとおりである。
(1) 本件アジア債は,大半が円建てであり,被告信金に為替負担はなく,かつハイクーポンであったから,スワップのキャリー損対策としてのアセットスワップ対応債券として保有することが必要であった。
(2) ペレグリングループは,アジア債を扱っては世界で最有力であり,日本の証券会社で対抗できる会社はなく,中国株を通じて中国政府との深い繋がりもあり,有力香港財閥とも強い関係を有していたから,アジア金融危機も十分乗り切れると考えていた。PIHLが破綻した直接の原因は,増資の失敗にあり,アジア金融危機は直接の原因ではない。
(3) ペレグリン証券会社は他に転売先を確保しない限り買い取りには応じないものと考えられるから,大量にふくれあがった本件アジア債を一斉に売り逃げることは現実には困難である。
(4) 本件アジア債は,リパッケージ債の仕組み上,取扱証券会社を替えることができない債券であった。
(四) 原告甲野は,後任者責任論を主張して,本件アジア債の損失の責任を被告理事らに転嫁しようとしている。
しかし,被告理事らは,平成10年6月末まで資金運用担当役員(専務理事)であった原告甲野から,休職の際も退職の際も,適式な引継ぎを受けていない。原告甲野は,休職あるいは退職するにあたっては,後任者を明確に指名して,後任者の納得の上で取引量を縮小するか売却して引継ぎをすべきであったし,休職あるいは退職するつもりでいたならば,その直前時において本件アジア債の大量購入をするべきではなかった。
また,被告理事らは,アジア通貨危機に際して,大量にふくれあがった本件アジア債を一斉に売却することは困難であったし,被告理事らの管理下で購入したアジア債は,リスクの低い短期債であり,為替リスクのない円建てであり,その量もわずかであり,ペレグリン証券会社から現地情報を得る目的で極めて保守的で慎重な対応に徹していたものである。タイ通貨危機が発生してからも何の忠告もしなかった原告甲野から後任者責任論を展開される筋合いはない。
三 本件アジア債の管理に関する被告一色の己事件原告らに対する信用金庫法35条2項の責任の有無
1  己事件原告らの主張
(一) 責任原因
被告一色は,平成9年5月中旬以降,本件アジア債の管理を担当していたところ,後記(二)のとおり,その管理についての重大な過失により,被告信金に本件アジア債について巨額の損失を被らせた。そして,本件アジア債についての損失により被告信金が破綻に至り,その結果,己事件原告らが被告信金を解雇されるに至った。したがって,被告一色は,信金法35条2項に基づき,己事件原告らの損害を賠償する義務を負う。
(二) 管理上の重過失について
(1) 本件アジア債は,平成9年5月当時,流動性のないものではなかったが,東南アジアの経済の混乱やペレグリングループの経営不安が発生すれば,流動性が容易に損なわれるデリケートな商品であった。
したがって,平成9年5月に原告甲野が事実上の休職状態に入った後,被告信金の資金運用担当責任者の地位を事実上引き受けることになった被告一色は,①まず,本件アジア債の性質やリスクについて十分に把握するよう努めなければならず,②本件アジア債の流動性が消失し,あるいは低下する危険性があるようであれば,危険が現実化しないうちに速やかに売却するなどの措置を講ずべき義務があった。
しかるに,被告一色は,①平成9年5月中旬以降,被告信金が大量に保有していた本件アジア債の性質やリスクについて何ら調査,検討を行わなかった。また,②タイ通貨危機が始まり,タイバーツの為替相場が急落した平成9年7月中旬の時点あるいはタイがIMFに融資要請を行った同月28日の時点で,本件アジア債の流動性が消滅する危険性があったから,リスク回避のために本件アジア債を売却すべきであった。遅くともインドネシアルピアが完全変動相場制に移行した同年8月14日の時点では,インドネシアについても同様の通貨危機が発生し,本件アジア債の流動性が消滅する危険性があったから,リスク回避のために本件アジア債を売却すべきであった。
そして,同年7月中旬から8月中旬までの時期であれば,東南アジアの通貨危機はいまだ深刻化しておらず,ペレグリングループの経営悪化も深化していなかったから,本件アジア債を大きな損失なしに売却することは可能であった。したがって,この時期までに本件アジア債を売却しなかった被告一色には重大な過失がある。
(2) また,インドネシアが平成9年10月8日にIMFに支援要請をした後ころには,本件アジア債の売却は事実上困難になったと考えられるが,その時点で,被告一色は,ペレグリングループや原債券の発行体企業の信用情報を調査し,回収や債権保全の措置を講じ,さらには,ペレグリン証券会社が破綻する場合に備えて,同社にかわって原債券発行体の債務履行を管理すべき証券会社を確保すべき義務があった。しかし,被告一色は,平成10年1月にPIHLが破綻するまでの間,本件アジア債の管理について,座して償還を待つのみであり,何らの対策も講じなかった重大な過失がある。
(三) 損害額
己事件原告らは,平成11年当時,被告信金から別紙請求金額計算一覧表の「平成11年給与収入」欄記載の金員を受給していたが,被告信金が破綻したため,平成13年2月4日に被告信金を解雇され,これによって,平成13年2月から平成14年1月までの間の労働収入が大幅に減少した。この労働収入減少額が己事件原告らの被った損害の額というべきであり,その額は同表の「請求金額」欄記載の金員を下らない。
4  被告一色の主張
前記二の3(四)のとおり,被告一色は,原告甲野が平成9年5月に休職した後,原告甲野から適式な引継ぎを受けておらず,同月以降,資金運用部の責任者に就任した覚えはなく,本件アジア債の管理について善管注意義務に違反したところはない。よって,被告一色に重過失があるとはいえない。
四 本件不支給決議に関する不法行為責任
1  原告甲野の主張
(一) 退職慰労金支給判断に係る裁量権の濫用・逸脱による不法行為
被告信金は,原告甲野が被告信金の理事に就任した際,原告甲野との間で,本件支給規程に基づいて退職慰労金を支払うことを約した。
本件支給規程によれば,総代会において支払決議がされた場合,理事会の判断で支払制限が出来るのは「不正行為等により退任する役員」に限定されている(6条)ところ,原告甲野は,疾患を理由に理事を退任したから,「不正行為等により退任する役員」には当たらない。また,この「不正行為等」は犯罪行為又はこれと同視できる強い非難を伴う行為を意味すると解すべきであるが,原告甲野はそのような行為をしていない。
被告後任理事らは,本件支給規程6条に定める支払制限に該当する事実がないのに,裁量権を逸脱して本件不支給決議を行ったから,不法行為に基づき,原告甲野に対し,退職慰労金相当額の損害賠償義務を負う。
(二) 被告後任理事らによる業績悪化による不法行為
被告信金は,平成10年10月22日開催の理事会において,投資した有価証券の価額低下等による業績悪化を理由として,本件不支給決議をしたものであるが,仮に本件不支給決議が正当であったとしても,この業績悪化は,原告甲野の休職中に,被告後任理事らが本件アジア債の管理を怠り,価額低下に対し適正に対処することなく漫然と放置して損害を生じさせた結果によるものである。
すなわち,被告後任理事らが本件アジア債の管理を尽くしていたならば,被告信金の業績悪化が生じることもなく,原告甲野は退職慰労金の給付を得られていたものであって,被告後任理事らのこの過失によって原告甲野が退職慰労金を得られなくなったといえる。よって,被告後任理事らは,不法行為に基づき,原告甲野に対し,退職慰労金相当損害金の賠償義務を負う。
(三) 被告信金の責任
被告信金は,被告後任理事らの上記(一)又は(二)の不法行為について,民法44条に基づき,原告甲野に対して同様の賠償義務を負う。
(四) 損害額
原告甲野は,被告信金の役員として通算25年在任し,被告信金の今日の基礎を築くのに多大な貢献をしたものであって,本件支給規程4条の「格別の功績があった役員」に該当し,特別功労金の支給適格を有していた。そこで,本件支給規程に基づき計算すると,別紙退職慰労金計算書のとおり,原告甲野の退職慰労金は金8712万9775円となるから,この金額が損害額である。
2  被告信金及び被告後任理事らの主張
(一) 退職慰労金支給判断に係る裁量権の濫用・逸脱による不法行為
本件支給規程6条は,退任役員に「不正行為等」があった場合には理事会は退職金の支給を取りやめることができる旨規定しており,原告甲野が,上記二の1のとおり,本件各投資に関する善管注意義務に違反して被告信金に多額の損害を与えた行為が,この「不正行為」に該当する。
なお,本件支給規程6条は「不正行為等」としており,理事会において不支給決定ができる場合を「不正行為」に限定していないので,仮に原告甲野に善管注意義務違反が認められなくとも,一般経済情勢,会社の実績,経営状態,功績の軽重,任務懈怠の内容や程度,金庫に与えた損害の程度などにかんがみ,不支給又は減額することが社会通念上相当と認められる場合も「不正行為等」に含まれる。
本件のように破綻した金融機関の理事については,破綻を招いた結果責任を免れないから,特段の事情がない限り,退職慰労金を支給しないことが社会通念上相当であり,現に破綻後に役員に対して退職慰労金を支給した金融機関はなく,原告甲野以外の役員は,破綻を招いた責任を自覚して本件不支給決議に賛成しており,ひとり原告甲野のみが本件不支給決議に反対しているのであり,破綻の大きな原因は,原告甲野が主導的に推し進めた本件アジア債の購入にあることに照らしても,原告甲野に退職慰労金を支給しないことは相当であり,本件不支給決議をした被告後任理事らに裁量権の逸脱又は濫用はない。
(二) 被告後任理事らによる業績悪化による不法行為
本件アジア債による多額の損害が発生したのは,上記二の1のとおり,原告甲野在任時に違法な本件各投資が行われたことに起因している。本件アジア債は,商品それ自体の性質として流動性に欠けており,その保有量が容易に売り逃げできない程度に過大であることからも流動性に欠けており,被告後任理事らが機敏に売却することを期待できる状態ではなかった。
(被告桜子及び被告梅子関係)
五 詐害行為取消権の成否
1  原告RCCの主張
(一) 詐害行為性
被告信金は,前記一の1及び二の1のとおり,被告一色及び被告三井に対し,本件各融資(A造船関係)及び本件各投資(アジア債関係)に関する各債務不履行に基づき,合計10億円以上の損害賠償請求権を有していたところ,被告一色は本件物件(1)以外に,また,被告三井は本件物件(2)及び本件物件(3)以外にそれぞれめぼしい財産を有しておらず,両被告とも,いずれも10億円以上の損害賠償債務を履行することはできないから,本件贈与(1)ないし(3)は詐害行為にあたる。
(二) 債務者の詐害意思
平成10年2月1日締結の本件贈与(1)は,PIHLの倒産(同年1月13日報道)の後になされたものであり,このような時期に責任財産を減少させたことは,被告一色において,その詐害性を認識していたものといえる。
また,同年8月26日締結の本件贈与(2)及び(3)は,PIHLの倒産,約55億円の積立金の取り崩し,退任役員への退職金不支給の議論などがあった後になされたものであり,このようなタイミングで責任財産を減少させたことは,被告三井において,その詐害性を認識していたものといえる。
(三) 受益者が善意とはいえないこと(抗弁に対する反論)
次の点からすれば,受益者たる被告桜子や被告梅子が善意であったとは考えられない。
(1) 被告一色と被告桜子は,同居の夫婦であり,両名は意思を通じていたものとみるのが自然である上,被告桜子は,亡昭男の長女であり,被告信金の状況を知らないはずがない。本件物件(1)の共有持分権は,被告一色の唯一の財産であり,その財産をPIHL倒産の直後に贈与する必然性がなく,しかも,亡昭男に悪性腫瘍が発見され,その介護で多忙なときに本件贈与(1)の登記手続を行う必然性もない。
(2) 被告三井と被告梅子は,同居の夫婦であり,両名は意思を通じていたものとみるのが自然である。被告三井のめぼしい財産は本件物件(2)及び(3)のみであり,その財産を被告信金の破綻問題や経営陣の責任問題が浮上する中で生前贈与する必然性がない。
2  被告桜子及び被告梅子の主張
(一) 詐害行為性
原告RCCが被保全債権として主張する債務不履行に基づく損害賠償請求権の存在は争う。
被告桜子は,本件物件(1)の住宅ローン残債務のうち668万円を支払った。よって,本件贈与(1)のうち,668万円の限度では詐害行為性が認められない。
(二) 債務者の詐害意思及び受益者の善意(後者は抗弁主張)
(1) 被告一色と被告桜子は,平成9年8月,本件贈与(1)を口頭で合意し,平成10年3月下旬にその旨の登記手続をするため,司法書士に依頼したところ,原因行為の日を「平成9年8月」とすることは余りに離れすぎているので,登記手続を依頼した日に近い大安の日である「平成10年2月1日」とした。
このように,被告一色と被告桜子は,PIHLの破綻(平成10年1月)の前から本件贈与(1)を合意しており,本件贈与(1)が被告信金を害することとなることを知らなかった。
(2) 被告三井は,平成8年ころから体力が減退し,平成9年10月25日にC型肝炎の診断を受け,将来の死後のことを考えるうちに,実父の相続争いのときに兄弟間で醜い争いになったことを思い出し,妻である被告梅子と相談し,①被告梅子が相続争いに巻き込まれることを未然に防止し,また,②婚姻して20年以上同居した夫婦の場合には税務上の特典があることを考慮して,本件贈与(2)及び(3)を締結した。
よって,被告三井及び同梅子は,本件贈与(2)及び(3)が被告信金を害することとなることを知らなかった。
第四  当裁判所の判断
(A造船関係)
一  A造船への本件各融資に関する債務不履行責任
1 事実経過
証拠(乙イ7,丙11,12,24ないし26,72ないし141,163ないし202,206ないし209〔書証の枝番はすべて含む。〕,証人七瀬久男,証人砂田一郎,被告三井本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(一) 審査部
(1) 被告信金では,審査部長権限を超える金額の貸出は融資委員会の権限とされており,融資委員会は,理事長,常勤理事と審査管理部長により構成され,常勤監事も出席することが可能であり,必要に応じて店長等を出席させることとされていた。本件各融資の当時,審査の多くは常務理事以上の間の持ち回りで実施されていた。(丙11)
(2) 被告信金では,業績回復と債権保全を図るべく業況不芳先への職員出向制度を実施していたが,出向先の粉飾決算が判明しなかったケースがあるなど必ずしも有効に機能してはいなかった。(丙11)
(3) 七瀬は,平成6年8月1日から平成11年6月30日まで被告信金の常勤理事を務め,平成7年2月からは西大寺地区担当理事として,西大寺地区の融資等を担当していた。(丙12,206)
(二) 本件各融資前の当局からの指摘(丙24ないし26)
(1) 日銀は,平成4年12月11日,被告信金に対し,次のとおり指摘した。
ア 収益償還計画や事業計画の詰めが不十分な事例,地縁・人縁を過信し,企業実態把握の甘い事例が多い。後向き資金等を軽々に肩代わりしている例など慎重さに欠ける事例が目に付いた。本支店一体となって審査力の向上や規律の引き締めに真剣に取り組む必要がある。
イ 試算表・資金繰表の徴収あるいはその内容吟味が不十分であるほか,融資実行後の業況フォローや経営改善指導が不十分なまま,やや漫然と貸増しを行っている事例などが目立った。累損先・債務超過先に対し,安易な融資条件緩和,物的担保不足の与信等を容認するなど融資の基本に悖る取扱いも依然として見受けられる。融資委員会に付議する制度を設けているが,現状は十分なチェック機能を果たしていない憾みがあり,問題先の中間管理を徹底する必要がある。
ウ 不動産担保の定期洗い替え規定がない点は問題含みであり,早期に担保規定を見直し,適時適切に追加担保を徴収する体制を整備する必要がある。
(2) 旧大蔵省中国財務局は,平成6年11月16日付け検査報告書にて,次のとおり指摘した。
ア 貸出の審査管理面では,前回(平成4年)以降,審査副部長制の実施(平成5年2月)による体制整備,大口先・業況不振先による本部役員によるモニタリングの強化,事業計画書,返済財源の検討等の充実を図っている。
イ しかし,今回の査定においても,(1)財務分析等による債務者の業況把握がやや不十分,(2)不動産担保の評価の適時,的確な見直し,物件の実態把握が不十分,(3)設備資金に応需する際の事業計画の検討が不十分などの事例が引き続き見られ,貸出の審査管理の一層の強化・充実に努める必要がある。
(3) 日銀は,平成7年8月,被告信金に対し,次のとおり所見を示した。
ア 与信審査体制は,ネット純債額等を考慮した実質的な営業店長専決枠が小幅であり,不動産担保の受入をすべて審査部承認とし時価評価をチェックするなど,かなり徹底した「本部主導体制」を取っており,それゆえ,バブル期にも慎重な姿勢を維持してきたことが与信内容の悪化を回避するのに大きく寄与していた。また,最近,「不動産担保評価システム」を開発,稼働させているなど的を得た施策を講じている。
イ しかし,個別の案件では,(1)返済財源の踏み込んだ確認が行われていない事例,(2)財務内容よりも資産の有無に着目し,「不動産担保安住」で応需してきた結果,不動産取引低迷のなかで資金固定化を招いている事例,(3)業況不芳先に対し,実情確認や改善指導を行うことなく,支手決済資金等の名目で安易に貸増しを行っている事例等が散見される。
ウ こうした点をみると,業容の拡大や審査案件の高度化・困難化に伴い,従来の本部一元的な審査体制だけでは回りかねる部分が出ていたのではないかとも考えられる。既に努力されているところではあるが,営業店長層の意識改革等を促しつつ営業店への権限移譲を進めていくこと,一方で営業店に手に余る大口の固定化与信については早期に本部に吸い上げ,強力な回収施策を講じることなど本部と営業部との間の業務分担の見直しも検討が必要である。
エ また,被告信金は,「地価は下落していない」という予断をもって担保評価見直しを行って来なかった結果,保全不足のまま業況不芳先に対し大幅な貸増しを行ってしまった事例もある。少なくとも債務超過先等に対しては,定期的に不動産担保評価の見直しを行う必要性も感じられた。
(三) A造船の業況
(1) A造船の前身である株式会社船木造船所(代表者船木大介)は,昭和38年1月,岡山県西大寺市正儀〈番地略〉を本店とし,鋼船・木船の建造及び修理,傭船・木船の付属類一切の製造及び修理等を目的として設立された会社であり,主に500トン以下の船を建造していた小規模の造船所であったが,資金が行き詰まり,昭和40年9月,破産宣告を受け,昭和45年10月破産手続終結により解散した。
(2) 海原真助ほか9名は,設立発起人となり,昭和41年4月,資本金を60万円,本店を岡山県西大寺市正儀〈番地略〉(現在,岡山市西大寺正儀〈番地略〉)としてA造船を設立した。設立時60万円であった資本の額が,その後数回の増資を経て,昭和46年6月に540万円,平成8年3月に1640万円となった。
造船業者の格付けは,6段階あるところ,A造船は,上から4番目のクラスと位置付けられていた。(丙72,98,206)
(3) A造船の平成7年4月30日から同年10月3日までの経営陣は,次のとおりであった。(丙74の4)

代表取締役  船木大介(会長)
同  船木勇介(社長。以下「船木社長」という。)
取締役  船木幸介(専務)
同  船木亮介(常務)
同  船木陽介(常務)
監査役  船木美江

(4) 平成7年6月当時,A造船の従業員は17名(設計士1名,事務員4名,工員12名)であり,出稼ぎ工員(常駐)は43名であり,主たる工場設備としては,乗用車6台,4tトラック1台,クレーン4台,台船(浮桟橋)1隻などのほか,次のものがあった。(丙75,77)
ア 新造船及び修繕船台(鋼船)
第1船台 499トンまで(修繕専用)
第2船台 850トンまで(新造専用)
第3船台 499トンまで(新造及び修繕)
イ 1300トンの浮きドック(フローティングドック;全長70.2m×全幅17.5m×内幅13.9m。修繕専用)
(5) A造船は,昭和48年ころから,被告信金に毎月5万円の積立預金をするようになった。被告信金は,昭和61年から,A造船に対し,定期預金の範囲内で手形貸付を行うようになり,以後のA造船に対する手形貸付及び手形割引等の状況は,別紙貸出取組推移表のとおりである。(丙76,206)
(6) A造船は,昭和58年ころからの造船不況の影響による過当競争のあおりを受け,また,砂田社長の要望もあって昭和63年ころに浮きドック購入費用(浚渫は,日本砂利が実施した。浚渫費用2800万円)を短期資金で調達したものの,すぐに稼働不能になったこと等が原因で,資金繰りが悪化し,そのため,赤字工事でも受注せざるを得ず,工事受注のために多額の接待交際費を支出してキャッシュフローを悪化させていった。そのため,支払手形の決済資金を通常業務の売上金で賄うことができず,新造船を受注すると前受金を従前の支払手形決済資金に充てるという「先食い」をするようになり,材料購入費や下請業者への支払は支払手形を増発して対処したため,多額の支払手形の決済に追われ,目先の決済資金獲得を目的とした採算度外視の赤字工事を受注するという自転車操業を繰り返した。
なお,かつて岡山県下には中小造船所が15ないし16社あったが,その後の造船不況により廃業が続出したため,平成7年当時,A造船と玉野市所在の1社のみとなっていた。(丙77,93,101)
(7) 別紙財務内容一覧表のとおり,A造船の決算上では,平成6年2月期は,総売上高約28億6500万円,営業利益約4600万円,当期利益約100万円(約79万円),繰越損失約6900万円,資本▲約3900万円であり,平成7年2月期は,総売上高約20億6900万円,営業利益▲約2400万円,当期利益▲約6300万円,繰越損失約1億3200万円,資本▲約1億0200万円であった。
(8) 本来,120ないし130%程度であるべき流動比率(流動資産÷流動負債)は,A造船の場合は約90%(平成6年2月期)あるいは約95%(平成7年2月期)にすぎず,資金繰りが極めて厳しい状況であつた。
(9) 内航海運船腹調整事業の動向(丙208,209)
ア 内航海運においては,昭和41年より,内航海運組合法に基づき日本内航海運組合総連合会が行う事業として,船舶の建造に際し,一定の比率(引当比率)による既存船の解撤を求めるというスクラップ・アンド・ビルド方式による内航海運船腹調整事業が実施され,この事業については,同法により独占禁止法の適用が除外されていた。
しかし,同事業が長期にわたり実施される中,引当資格(俗に「権利トン数」と呼ばれる。)が内航海運業者により取引可能な財産として認識されるとともに,金融機関から融資を受ける際に担保又は含み資産として評価されるなど,同事業への過度な依存体質を生み,このことが事業規模拡大等による経営基盤強化に向けた構造改革が進まない要因の一つになったことや,同事業の下では意欲的な事業者の事業規模の拡大や新規参入が制限されるため,内航海運業の活性化等の支障になったこと等,同事業に対する否定的評価が取り上げられるようになった。
そこで,旧運輸省は,平成6年7月,海運造船合理化審議会に対し,「今後の内航海運対策について」を諮問し,同審議会は,内航海運船腹調整事業の見直し等の内航海運対策について検討を行い,平成7年6月5日,旧運輸省に対し,同事業の計画的解消を図り,市場原理をより強く働かせることを内容とする答申を提出した。
本件各融資は,この段階でなされたものであるが,この当時,同事業の廃止が実現するのか,実現する場合のその時期等については,不明確な状況であり,政府の公式見解もないという状況であった。
なお,この内航海運船腹調整事業は,先のとおり,俗に権利トン数と呼ばれる引当資格を付与することにより既存の零細業者の既得権を保護する効果があったが,同事業が廃止されると,資金力のある大規模業者に船数が増え,自由競争の原理が働き,資金力が乏しく船数を増やせない既存の零細業者(個人船主)は淘汰されていく可能性があった。また,平成6年7月,同事業の計画的解消を内容とする答申が提出されたことで,実際に廃止されるまで船主が新造船を造り控え,それが影響して船価が値下がりするという見方もあった。(証人七瀬9,10頁)
イ 政府は,本件各融資後である平成8年3月29日,閣議決定「規制緩和推進計画の改定について」において,内航海運船腹調整事業について,「荷主の理解と協力を得ながら5年間を目途に所要の環境整備に努め,その達成状況を踏まえて同事業への依存の解消時期の具体化を図る」こととした。ここで初めて廃止時期に関する政府見解が出たが,それでも5年後(平成13年)に廃止時期の具体化を図るという程度の抽象的なものであった。
しかし,内航海運業者は引当資格の財産的価値に依存して資金調達している場合が多いことから,海運造船合理化審議会は,平成10年2月,引当資格の財産的価値を手当てしつつ同事業を早期に解消するため,新たに船舶を解撤する事業者に対し,解撤する船腹量に応じて交付金を交付するとともに,船舶を建造する者から建造する船腹量に応じて納付金を納付させるという内航海運暫定措置事業を導入することを内容とする答申を出した。政府は,これを受けて,同年3月閣議決定「規制緩和推進3か年計画」において,内航海運暫定措置事業を導入することにより内航海運船腹調整事業を解消することとし,同年5月にその措置をとった。
(四) 取引メイン化と債務保証の依頼
(1) 被告信金は,別紙貸出取組推移表のとおり,平成7年5月当時,A造船との間での手形割引等の取引残高が約4億円あった。なお,A造船の被告信金に対する預・積金残高は,平成7年6月26日時点で合計約1億0600万円であった。(丙206,88)
(2) A造船は,葵新建設株式会社振出の手形をトマト銀行にて手形割引したが,同社の資金手当が計画通りに行かず,同手形のジャンプを繰り返したため,メインバンクであるトマト銀行や信用保証協会から不信感を買い,トマト銀行から取引縮小の意向を伝えられ,船舶整備公団共有貨物船建造に係る債務保証(建造船引渡時まで中間払金の返還債務を保証するもの)も謝絶された。そこで,船木社長は,平成7年6月上旬,メインバンクであるトマト銀行との信頼関係がなくなったとして,被告信金に対し,取引メイン化と債務保証を要請した。(丙77,93,95,206)
(3) 被告信金による平成7年6月13日の調査によって,2億円の手形(同年5月末期日)をジャンプしてもらいたい旨のA造船の依頼にトマト銀行が応じなかったこと,そのため,船木社長が資金集めに奔走したこと,A造船は今後3億ないし4億円の融資を希望しており,船木社長が日本砂利の砂田社長に相談したところ,砂田社長から被告信金を紹介されたことが判明した。(丙77,78,206)
(4) 被告信金は,同年6月16日ころ,融資稟議を行い,フルカバー,つまり,同額の預金を担保にとることを条件に上記の債務保証を実行することを決定した。(丙206)
(5) 七瀬は,同年6月17日及び19日,船木社長,船木幸介らから,①規制緩和(権利トン数制度の廃止)されると,当分の間,新造船の仕事がなくなり,修理部門を主力にせざるを得ない,②修理中心となると,コンスタントに修理業務を受注できる需要が必要である,③既に新造船工事用の部品代,下請代の支払のために振出済みの支払手形の額面は,修理の売上高と比べて大きな金額に達しており,修理部門に重点を移すと資金繰りが行き詰まり,キャッシュフロー面で不安が生じる可能性があるなどの事情を聴取した。(丙206)
(6) 被告信金の融資委員会は,同年6月19日,①上記の債務保証については,A造船のトマト銀行に対する預金約2億円を被告信金にシフトし,これに質権を設定することを条件に承認し,②取引メイン化については,A造船の平成7年2月期の決算上,繰越損失金が約1億3200万円もあり,財務内容が思わしくないとの理由で否決し,この結果を同社に伝えた。(丙206)
(7) 被告三井は,同年6月20日,「債務保証の実行報告書を見ると,トマト銀行から預金約2億円をシフトするという条件が記載されていない」旨を指摘し,七瀬は,同日,A造船に対し,債務保証の担保として保証額の100%に相当する定期預金を設定する必要性を説明した。しかし,A造船は,預金額よりも借入額の方が多いとの理由で,トマト銀行からの預金の払戻しができなかった。そこで,七瀬は,信用保証協会に相談するように指示した。(丙79,81,83,206)
(8) A造船は,信用保証協会に相談するも打開策が得られず,同年6月23日,被告信金に対し,「どうしても債務保証の裏付けとなる定期預金が用意できなければ,船舶整備公団から同月29日に支払われる予定の2億1460万円をそのまま担保として当庫に定期預金するので,それを事実上担保として扱って欲しい」との「見合い担保」の申入れをした。七瀬は,債務保証については,「見合い担保」によって事実上フルカバーになるのでこれに応じることは可能と考えたが,取引のメイン化については,「先食い」になっているA造船の財務内容を改善する必要があることを指摘し,A造船の債務を全て被告信金が引き受ける形は好ましくないと判断し,トマト銀行に頭を下げて今後も同行と取引をするように申し渡した。(丙206)
(9) 被告信金は,同年6月26日,保証書を作成して,上記の債務保証を実行した。(丙206)
(五) 平成7年6月末の支援要請
(1) A造船は,前記経緯のとおり,船舶整備公団から支払われた請負代金を被告信金の定期預金としたが,これが見合い担保として拘束されたことから,平成7年6月末日の支払手形決済資金に窮し,その資金捻出のために決済日の2日前である同月28日,被告信金に対し,長期資金1億3700万円,手形割引3億6600万円(合計5億0300万円)の融資を駆け込みで申し込んだ。しかし,被告信金が長期資金の融資は困難であると伝えると,A造船は,同年6月末の支払手形決済資金として4億8800万円の手形割引の申出と,同年7月10日までに1億6500万円の単名借入の申出に切り換えた。
同年6月28日付け融資申請書の本部申請事由欄には「主力銀行であるトマト西大寺との取引トラブルから同行への申込みができなくなり,当庫へ無理を承知での申込みとなったものであり,当庫の支援がなければ倒産は必至であり,できるだけ協力したい」と記載されている。
七瀬は,上記申入れに対し,債務保証に当たりA造船の方から見合い担保を提案して来たのに,そのために資金繰りが苦しくなったという理由で,わずか数日後に4億8800万円もの手形割引を要求するとは滅茶苦茶だとは思ったが,翌日の融資委員会で判断を仰ぐこととした。(丙97の1,丙127の1,丙206)
(2) 被告信金の同年6月29日融資委員会では,決算書や資金繰表(同月1日付けのものであり,同年6月から同年10月までの短期的な資金繰表,丙173)を見る限り,今後10億円程度の資金が必要であること,流動性資産,負債のアンバランスから長期資金4ないし5億円が必要であること,資金繰りは手形操作のみに頼っていること,資金の「先食い」が明らかであること,支援するなら,被告信金の社員を出向させてでもA造船の体質を改善させなければ危険であり,それなりの覚悟が必要であること,支援を打ち切っても,今なら傷は浅くて済むこと,発行している銀行保証書も不履行にすればいいこと,年商20億円を維持するならば,手形による資金繰りは可能かも知れないが,新造船受注が途切れて修繕にウエイトをかけるようになれば,年商はダウンして資金繰りが行き詰まること,被告信金のみに依存することは被告信金の負担が大きく,複数行の協調融資が必要であるが,その場合,日生町信用農協を巻き込んだ協調融資等が考えられること,銀行保証書発行の時点で資金繰表の把握が出来ていなかったこと,造船業は先進国では将来性がないこと,経営が無計画すぎることなどが指摘され,「私は無理をしたくない。断りたい。」との亡昭男の発言もあり,明朝,船木社長から直接事情を聴取することとなった。(丙92,95,206)
(3) 被告信金は,同年6月30日朝,船木社長らからの事情聴取により,「先食い」の発端は,8年前(昭和63年ころ)に手形を操作して修繕用の浮きドックを購入し,そのため,総額2億6000万円を要した点にあること,その浮きドックは,購入後1,2年で土砂が堆積し,今は使用できない状態であるが,今年中を目処に浚渫し,稼働させたいこと,修理業務を扱う業者は瀬戸内にはあるが,県下にはほかになく,漁業補償問題で新規開業も難しいこと,日生の船をA造船で修理すれば,修理中は自宅で休めるメリットがあること,新造船の競争はますます激しくなること,体質改善に取り組んだ場合,特に修繕部門は2ないし3割の純益は固く,役員報酬のカットは月額100万円以上実施して,当期利益1000万ないし1500万円は可能であると思うこと,被告信金からの出向の受入れには積極的であること,今年の秋から修理業務への移行を進める予定であること等の情報を得たが,「先食い」状態で修繕業務に傾斜したらどうなるか,体質改善に取り組んだら何年くらいで黒字転換が可能かとの各問いには,明確な回答が得られなかった。(丙93)
(4) 被告信金の同年6月30日の融資委員会では,今後支援するなら,最低7億円は必要であること,今月末の支援に応じるとすれば,今後それなりの覚悟が必要であること,被告信金のみで協力することはリスクが大きいこと,潮流の変化もあって,A造船の所在地では造船業は無理であること等が議論され,被告一色から「資金繰表を見る限りでは11月までは倒産しないようになっているので,協力すべきだと思う。」旨の発言がなされたが,最終的には,亡昭男が「支援したくない」との意向を示したため,手形割引の実行はしないこととして,午後2時20分閉会となった。
しかし,その後,七瀬がA造船に否決の結論を伝えた後,被告三井が「割引手形は預かっていないだろうな。」と言うので,七瀬がその確認をしたところ,被告信金の神崎支店長がこれを預かっていることが判明した。すると,被告三井は,「そんなもの預かっていたら大変だ。先方も割引してくれるものと安心しているのに,今さら(午後3時目前)どうすることもできないだろう。今になって断ったら,A造船も困るし,訴訟でも起こされたら当金庫は敗訴する。そういう判例もある。もう一度役員に集まったもらおう。」と述べ,同日午後2時35分,急遽,融資委員会が再招集され,被告三井から趣旨説明があった後,同日午後2時40分,緊急避難的に4億8800万円の手形割引に応じることを決定し,同日,これが実行された。なお,その際,被告一色より,「8月までの目安で支援体制を整え,その間に改善計画を示してもらい,改善策が出来ていなければ,切ってしまおう」との発言があった。
この融資申請書の同年6月30日決裁の「貸出承認通知書」欄には,「当社体力弱体であり資金繰受手により「先食い」されている。今後の資金繰りも受注量,受手状況の変化により厳しい状況となる,業況推移に注意を要す」と記載されていた。
この4億8800万円の手形割引の実行により,被告信金のA造船に対する貸出残高は,平成7年6月末時点で8億3000万円となった。(丙76,94,95,127の1,丙206)
(5) 被告三井作成の平成7年7月4日付け「信用不安先に対する与信(割手・手貸・金庫保証等)付与に際しその対応に付き注意喚起の件」と題する書面には,「会社内容は,下記のとおり不芳,かつB/S面による資金運用は,支手増発ならびに前受金の「先食い」(約7〜8億円と判断)により繰り回されており(当社最大の問題),今後,現在以上の売上げが続き「先食い」が出来ない限り何れ資金ショートを来たし倒産必至の状態である。」,「当社決算書により内容調査すれば,期間損失決算よりも寧ろ資金運用が支手増発と前受金の「先食い」により繰り回されていることが問題であることは一目瞭然である。」と明記されている。(丙97)
(6) 被告三井は,同年7月7日,日生町信用農協の専務理事と面談し,同専務理事から,日生船籍の貨物船は180隻あり,修繕需要はあること,規制撤廃(権利トン数制度の廃止)されれば,新造船は減少し,修繕需要が増加することが見込まれること(営業権価格があるため,船の使用期間は11年であったが,今後は16年ないし18年間使用できる見込みである。法定検査が4年に1回,中間検査2年目ごとに1回。10年目以後は船底の鋼板厚み検査も加わり,修繕費が高くなる。),造船不況により造船業者は激減し,近隣には,岡山に2社,木ノ江(広島)に17社,小豆島に2社の合計21社しかないこと(うち修繕業務が可能な業者は5社程度),修繕につき,造船所の利益率は30%前後であって高いと言われていること,修繕費用は保険により100%賄われること,修繕業務可能の造船所が少なく,遠隔地での修理となるため,日生の船主も不便を訴えているので,船木社長らから修繕船の紹介について依頼があれば尽力すること等の業界情報や協力の申出を得た。(丙98)
(7) 被告三井らは,同年7月11日,船木社長から,浮きドックを日生港へ移動して稼働することは漁業組合が異なるので難しいこと,浮きドックの浚渫については,砂田社長が岡山県に働き掛けていること,今後,新造船は年間2.5隻に抑え,修繕船部門にウエイトを掛けること,新造船は日本砂利の船でさえ粗利10%弱であって儲からないが,修繕は30%の粗利が可能であること,船価はバブル期に比べ値下がりしていること等の事情を聴取し,船木社長に対し,「資金運用が支手ならびに前受金の「先食い」により行われており,近い将来憂慮すべき状態にある」と指摘して,早急に財務内容を改善することや収益改善のために役員が率先して努力すること等を申し入れた。(丙98,100,206)
(六) 平成7年7月末の支援要請
(1) A造船は,平成7年7月27日,被告信金に対し,またしても手形決済期日の直前に同月末の手形決済資金の支援要請をした。被告信金は,同日,砂田社長から,日本砂利が被告信金とメイン取引をしていることから,A造船も被告信金とメイン取引を深めるよう勧めたこと,砂田社長としては,A造船の経営に参画する意思はないこと,A造船がこんなに悪いとは思っていなかったこと,A造船が立ち直れるのであれば,建造代金の前渡金として1億円の手形を発行してもよいこと等の事情や意向を聴取した。
被告信金は,翌28日(金),融資委員会(原告甲野は欠席)を開催し,砂田社長からの聴取事項を報告し,資金繰表からして最低6億円の資金が必要であり,返済原資はないこと,ここで不渡りを出すと被告信金の被害は2億3270万円程度になり,10月まで伸ばすと被告信金の被害が2億2680万円になること等が指摘され,この融資依頼は断る方向で決着したが,砂田社長との関係もあるので,同月31日(月)に原告甲野が出勤した際,同原告の意向を聞くことで持ち越しとなった。なお,被告三井は,同月28日,七瀬に対し,A造船の関係者の資産調査をするように指示し,七瀬は,神崎支店長に対し,極秘で調査するように指示した。(丙101,206)
(2) 同年7月31日の朝会での協議の結果,原告甲野が砂田社長から直接意向を聞いた上で最終判断をすることとなり,原告甲野,被告三井及び七瀬は,同日,砂田社長と面談し,同社長から,「A造船の業況がこんなに悪いとは思わなかった。私がA造船を引き受けて経営に全面的にタッチすることはできない。そんなことをしたら,うち(日本砂利)の方が倒れる。日本砂利グループの船は20数隻あるが,その修繕は他の造船所へ依頼しており,作業船の修繕のみA造船へ依頼している。新造船につき,私の方からA造船で作ってもらったらと勧めたことはない。船舶整備公団からの振込金2億1460万円が定期預金として被告信金に拘束されているので,資金支障を生じている。」等の事情を聴取した。
被告信金の融資委員会は,同日,A造船の同月末の支払手形決済資金の支援要請を否決し,同社が不渡りを出すことを前提に不動産仮差押えの準備などに着手した。
被告信金の神崎支店長は,A造船が不渡処分に至ることを想定して,同年7月31日付け「倒産・不渡処分先整理経過報告書」を起案作成した。同書面には,「以前より不足資金を前受金等の先食いでまかなってきたが,景気後退により船価がダウン,売上高が向上せず,前期決算で多額の欠損を計上し,財務内容の悪化が表面化,金融支援得られず,不渡り発生となる」,「資金の先食い,財務内容の改善の指導ができていなかったことを反省し,今後は財務諸表による分析・指導を行い,倒産防止に努めたい」などと記載されている。(丙90,102,103,206)
(3) A造船は,同年7月31日の支払手形のうち約9200万円については,同社のトマト銀行当座預金残高にて決済し,残りの約1億2400万円については,手形の返却依頼をかけて同年8月20日までジャンプし,不渡り手形が発生する事態を何とか避けることができた。(丙105,206)
(七) 平成7年8月末の支援要請
(1) A造船は,平成7年8月22日にも被告信金に対して支援要請をしたが,これも同月末日の支払手形決済資金の資金繰りに窮したためであった。七瀬は,「現状が限界であり,これ以上の協力はできません。他行に窓口を拡げるか,トマト銀行と仲直りするように。」と述べて,この要請を即座に謝絶した。
被告信金は,同日,船舶整備公団から,「万一,A造船が倒産し,公団共有船が竣工不能となった場合には,公団,船主,銀行等の協議により善後策を講じるが,場合によっては他の造船所で継続工事をさせることもある。仕掛高(出来高)と銀行保証との相殺はしない。A造船の金融負債は意外に少ない。権利トン数制度が廃止されたら,中小船主と中小造船所は大変になる。」,「全国の中小造船所の財務内容はA造船と大差なく,不況時には累積赤字を計上し,好況時に解消するというパターンがほとんどであり,契約金等の先食いも多々ある。A造船は経理面においてルーズと思われる。A造船は得意先も多く,技術力は評価されていると思う。,修理部門においては,船主は,船籍港近辺で定期検査,修理を行うので,造船所間での競争がある。修理等は暴利はないが確実に現金収入となり,材料費,人件費も見積に算入するので損は絶対にない。」等の事情を聴取した。(丙106ないし108,206)
(2) A造船は,同年8月末にも,何とか不渡りを出すことなく乗り切った。(丙206)
(八) 再建計画の策定
(1) 船木社長は,平成7年9月12日,脳梗塞で入院し,半身不随の状態になった。(丙206)
(2) 船木社長の入院を受けて,A造船の債権者団は,同年9月13日,17日,20日に,急遽,債権者代表会議を開催した。その債権者代表者は,次のとおりである。(丙110)
① 日本砂利 代表取締役 砂田社長
② 東備ヤンマー株式会社 代表取締役 黒沢三郎
③ 豊産業株式会社 代表取締役 白井四郎
④ 有限会社旭船舶工業所 代表取締役 赤木五郎
⑤ 青山重工業株式会社 代表取締役 青山六郎
⑥ 有限会社水野電気商会 代表取締役 水野八郎
⑦ 株式会社東洋電機工作所 部長 金本九郎
(なお,上記②ないし⑦の各社については,以下,株式会社,有限会社との表記を省き,社名だけを記載する。)
(3) 日本砂利は,被告信金と昭和37年より取引をしており,16億ないし18億円の借入れをしていた。
A造船は,平成7年9月14日当時,有限会社大勢海運(以下「大勢海運」という。)から新造船受注(公団共有船)について約3億円の前受金,有限会社日南汽船(以下「日南汽船」という。)から新造船受注について8600万円の前受金,日本砂利から新造船受注(ただし,同月11日に解約された。)について2億円の前受金を受領していた(すべて約束手形による支払)。(丙110,174)
(4) 債権者団は,平成7年9月20日,次のとおり,A造船の再建計画案を決定し,これにA造船は同意した。(丙110,206)
① 上記7社の代表者は一律5000万円を出資する。
② 現役員船木幸介,船木陽介は,各5000万円を出資する。
③ 上記7社の代表者により新役職を決定する。
④ 平成7年9月20日13時をもってA造船の所有財産一切は上記7社の代表者が預かる。
⑤ 上記財産一切を持って銀行と接渉する。
⑥ ただし,銀行との接渉が不調に終わったときは,上記決定事項は消滅する。
(5) 債権者団代表者らは,同日,被告信金に対し,A造船の前記再建計画案を持参の上,同社への融資(総額約9億1000万円)の申出をした。その際,債権者団代表者らより,砂田社長は代表者にはならないが,A造船の上位役員に名を置くこと,出資予定の合計4億5000万円をもって,9月末期日の支払手形4億6500万円を決済し,仮に9月末までに4億5000万円が集まらず手形決済資金に不足が生じた場合には,手形を一部ジャンプすること,支払手形総額(11億5700万円)の20%(2億3100万円)を値引方式でカットするよう協力を求めること,大口債権者のうち,豊産業は,「造船業界は非常に厳しい状況であり,ここでA造船が倒産することになれば,他の中小の造船所も倒れる危険性が大きいので,ぜひ支援したい。」旨の,東備ヤンマーは,「特に日生地区の修繕船をA造船へ持ち込ませるよう全面的に協力する。日生にはケミカルセンター建造の技術者がいるので彼らをA造船でタンカー建造(修繕)に従事させてもよい。日生の船は499トンが主流であり,A造船の浮きドックで修理可能である。」旨の,ニチゾウも再建に協力する旨の各意向を表明していること,船木社長には経営手腕がないこと,修繕部門は,日本砂利とそのグループが20隻,砂田社長の知り合いが180隻の船舶を保有しているから,仕事は十分にあり,採算面も,修繕は粗利3割は確実であり,ほとんど保険で賄えること,今後の内航海運業界の見通しは明るいこと(陸運コストが高いため,外航船は1港しか入港できないため),負債内容は,支払手形11億5700万円,未払金6300万円であるが,支払手形は20%カットするよう協力を求めるので,要支払額は9億2600万円となること,試算の結果,恒常的な必要運転資金は約1億4000万円(月200万円×7か月分)と見込まれるが,最近の財務内容は分からないこと,今後必要な資金総額は9億1000万円であるが,平成8年2月には支払手形値引分(2億3100万円)が解消される見込みであること,船木幸介及び船木陽介を除き現経営陣は退陣させ,役員報酬(年間6700万円)を浮かせ,給与,労務費等も大幅に減少できるから,儲けのよい修繕部門にウエイトを掛ければ必ず立ち直ること(砂田社長談),修繕は船主の地元に近い方がよいこと,現在,経理内容がつかめない状態であり,試算表すら作れないこと等の事情が説明された。(丙111,112)
(6) 同年9月21日の融資委員会では,「砂田社長は,自己の債権を回収すれば逃げるのではないか」,「砂田社長によれば,現在,経理内容がつかめない状態で,試算表すら作れないようである」,「日銀行員は,日生信金の取引先の連鎖倒産を回避したいと言っていた」との指摘があり,協議の結果,次の①ない③の条件をクリアすることを条件に支援する方向で行くが,再度,砂田社長にこの条件の確認と次の④及び⑤の確認を行うことが決定された。(丙111,112,206)
① 被告信金から職員を派遣すること。出来れば,経理部長として実印を預からせてもらう。
② A造船,船木大介会長,船木社長及び船木幸介の各所有物件に不動産担保を設定すること
③ 新社長,新代表役員(出資者7名に打診),船木大介会長,船木社長,船木幸介,船木陽介を保証人とすること
④ 同年9月30日までに4億5000万円の出資の実現は可能か。
⑤ もし同日までに4億5000万円が揃わなかったら当日の支払手形のジャンプは可能か。
(7) 被告一色及び被告三井は,同年9月22日,砂田社長と面談し,同社長から上記(6)①ないし③の条件について了承を得た上,「9月末に予定されている4億6100万円の支払手形の決済資金については,4億5000万円の出資金を充てる予定であり,出資金が拠出できない分については手形をジャンプすることで対処できるであろう」との説明を受け,「自分としては代表役員就任は辞退したいが,他の債権者の協力が得られないことも考えられるので,就任もやむを得ないであろうと考えている。日本砂利の前渡手形2億円については他の債権者に優先して回収する予定である。」という情報を得た。(丙113,206)
(8) A造船の大口債権者27社は,同年9月26日,次のとおり再建計画を決定した。(丙110)
① 9月末日の手形及び全振出手形は,すべて決済する。
② 仕掛かり船2隻の完成引渡しを行うため,発行手形の値引きを依頼する。
③ 値引き率は,製品納入業者30%,加工外注業者20%とする。
④ 9月末の手形から引き落とされたことが確認できた時点で値引き分の手形(最終期日の翌日の期日)を申し受ける。
⑤ A造船の代表取締役に日本砂利の砂田社長が就任する。
⑥ 未払金については,新体制が発足後,別途協議する。
(9) 被告信金は,同年9月28日,別紙担保物件目録記載の不動産につき,固定資産評価証明書等を徴収の上,担保評価を行った。(丙135,136)
(10) 七瀬は,同年9月29日,砂田社長及び司法書士と面談し,根抵当権設定や新役員選任のスケジュールを確認し,さらに,砂田社長から,当初の再建計画案に変更した点があること(日本砂利の石塚二郎会長が出資者に加わった点,出資者の中に減額する者が出た点),新代表者は2人にする方針であること(砂田社長は留守が多いため)等の事情を聴取した。(丙115)
(11) 被告信金は,同年10月2日,上記のとおり担保評価を行った上,別紙担保物件目録記載のとおり,総額8億0500万円の根抵当権を設定する手続を了した。
被告信金の不動産担保調査表によれば,全物件の時価評価額は約8億1200万円,担保評価額は約4億8700万円であり,先順位の担保を引いた正味の担保評価額は約3億8600万円であった。
この担保権設定日をもって,被告信金がA造船とメイン取引を開始することとなった。
(12) A造船は,同年9月末までに出資金が3億2000万円(内訳は,砂田社長,石塚二郎,水野八郎,黒沢三郎,船木幸介及び船木陽介が各5000万円,白井四郎が1000万円,赤木五郎及び青山七郎が各500万円であり,予定の4億5000万円より1億3000万円の不足となる。)しか集まらなかったことから,同年10月2日,支払手形(9月末期日)約3億4400万円のうち,約2億3900万円分を決済し,約6200万円分は組み戻したものの,約4400万円分が資金不足により不渡りとなる恐れが生じた。しかし,翌早朝,砂田社長がトマト銀行に現金約4400万円を持参することで不渡処分を免れることができた。(丙117,206)
(13) A造船の経営陣は,同年10月3日,次のとおり変更された。なお,その後,平成8年4月1日に赤木五郎が取締役に就任した。(丙74,119,122)

代表取締役  砂田社長
同  水野八郎(専務,常駐)
取締役  石塚二郎
同  黒沢三郎
同  青山七郎(青山重工㈱の社長)
同  船木幸介
同  船木陽介(ただし,平成9年4月26日退任)
監査役  白井四郎

(九) 本件各融資
本件各融資は,次のとおり実行された。
(1) 平成7年10月9日の手形貸付
ア A造船は,同年10月3日,被告信金に対し,出資金の不足額1億3000万円と未払金5000万円の計1億8000万円の資金を同月9日までに融資してもらいたい旨依頼した。(丙119,206)
イ 同日,被告信金の融資委員会では,A造船の新役員は,出資金不足1億3000万円については早期に別の人選を行って補填する予定であり,浮きドックは平成8年4月ころより稼働させ,修繕船に全力を向ける意向を示していること,担保不動産に関し,個人提供分は1億円程度の評価であり,会社(事務所兼工場)については坪3万円の評価は厳しいこと(せいぜい坪2万円ないし3万円,すなわち,8000万円程度の評価),融資をすれば,今後8ないし9億円の支援をせざるを得ないこと,今が底なので今後の資金繰りは考えなくてよいと思うこと等が議論されたが,特段の反対意見は出ず,A造船の依頼に応じて本件各融資を実行することが決定された。(丙206)
ウ 砂田社長は,平成7年10月4日,被告信金に対し,今後の資金繰りについては「先食い」はしないことを約束した上,新たな出資者2名程度の追加を考えていること,受注については,日本砂利グループの小さな船の修繕で喰い継いで行くこと,5年間で6億の返済は難しいが,出資者が年間2000万円程度拠出し,5社で年間1億円程度の返済は可能と考えられ,これは5社の社長も了解済みであること,今後は修繕を主力に経営すること,平成8年4月には県の補助を受けて浮きドックを浚渫すべく県会議員へ依頼すること,浮きドックを使用すれば船が傷付かないため,修繕船の受注は必ず増加すること,修繕船の受注は,船の検査日が決まっているので計画が立ちやすいこと,修繕部門の試算は,1隻完了期間7日間,年間40隻,平均単価1500万円,収益率30%として,年間1億8000万円の粗利益が見込めること(日本砂利は6隻で年間1億円支払っているので,これが参考になること),日本砂利の建造船(船価4億1000万円)は,長崎の造船所で3.6億円分を造り,A造船で5000万円分を艤装する予定であること,被告信金からの出向者は,砂田社長の代理として派遣されるものであるから,出向者に手形,小切手,印鑑等全てを任せることを伝えた。被告信金からは,七瀬が月に2,3回,A造船に訪問することを伝えた。(丙119,122)
エ 同年10月4日,融資申請書が起案され,被告信金は,同月9日,A造船に対し,手形貸付により1億8000万円の融資(本件各融資①)を実行した。
この融資申請書には,「返済源資」欄には「出資金の未達分の調達130百万,売上金50百万を以て弁済」,「申請事由」欄には「当社再建の為に債権者中心に再建計画を策定するも当初予定の出資金4億5千万が3億2千万円しか集まらず1億30百万の不足となり,今後計画通り再建する為本件申込となった。」,「部・支店長所見」欄には「当面資金回収のめどが無く,当庫の支援のみがたよりとなっており,保全面で不安はあるも,当庫の支援総額はピーク時で9億円程度となる見込」との記載がある。また,同融資申請書の同年10月6日決済の「貸出承認通知書」欄には,不動産担保につき「貸出極度0にて管理のこと」と記載されている。
同年10月4日付け合算実質利回り算出表には,割引手形残額5億3000万円,手形貸付1億8000万円,預金合計約3億1600万円(船木大介,船木幸介の預金を含む。),合算実質利回り4.78%と記載されていた。(丙128の1,3,丙206)
(2) 平成7年10月30日の手形貸付
ア A造船は,同年10月20日,支払手形決済資金2億2000万円,バージ船建造代金1億4000万円の支払に充てる目的で,被告信金に対し,3億6000万円の融資を申し込んだ。返済原資は,売上金により決済とされていた。
被告一色及び七瀬は,同年10月23日,砂田社長に対し,出向者の派遣を来年1月(定期異動期)まで待って欲しいと伝えて了承を得,砂田社長から,同年12月末引渡予定の日南汽船の件が片づいた後にA造船の再建計画を行うこと,今後の新造船の受注は,採算がチェックして合えば請け負うが,今までのような無理な受注はしないこと,修理部門は,日本砂利グループで約20隻,家島の知人関係の船で約10隻から始めると適当な仕事はあること等の事情を聴取した。(丙124,129)
イ この融資申請書の同年10月27日決済の「貸出承認通知書」には,「①業況推移注視対応,月別資金繰表早期徴求,毎月チェック励行のこと,融資金額資金使途以外の流用させない様,特に注意指導のこと,②追加保証人個人信調送付のこと」と記載されている。(丙129)
ウ 被告信金は,同年10月30日,A造船に対し,手形貸付により3億6000万円の融資(本件各融資②)を実行した。(丙129)
エ A造船は,船舶整備公団共有船を完成させ,同年11月10日,この引き渡しが終了した。この結果,被告信金が銀行保証を履行する事態にはならなかった。
A造船は,同年11月15日,船舶整備公団より残額約2億2300万円,大勢海運より約6500万円の支払を受け,被告信金に対し,同日,別紙貸出目録2番のとおり,1億4000万円を内入弁済した。(丙125)
(3) 平成7年11月20日の手形貸付
ア A造船は,同年11月15日,被告信金に対し,未払金の支払に充てる目的で6000万円の融資を申し込んだ。返済原資は,売上金をもって決済とされていた。(丙130)
イ この融資申請書の同年11月20日決済の「貸出承認通知書」には,「業況注視対応のこと。建設代金回収チェック徹底,引当管理徹底のこと,業況(受注変化等)聴取し把握しておくこと」と記載されている。(丙130)
ウ 被告信金は,同年11月20日,A造船に対し,手形貸付により6000万円の融資(本件各融資③)を実行した。
(4) 平成7年11月30日の手形貸付
被告信金は,同年11月30日,A造船に対し,手形貸付により1億6000万円の融資(本件各融資④)を実行した。
(5) 平成7年12月8日の手形貸付
ア A造船は,同年12月7日,支払手形の決済,下請代金支払に充てるべく,被告信金に対して1億3500万円の融資を申し出た。返済原資は,日南汽船造船代金及び売上金をもって決済とされていた。
この融資申請書の同年12月8日決済の「貸出承認通知書」には,「①業況推移注視。(有)日南汽船建造資金回収チェック,既貸決済励行のこと,②資金繰及び受注状況把握報告のこと」と記載されていた。(丙131)
イ 被告信金は,同年12月8日,A造船に対し,手形貸付により1億3500万円の融資(本件各融資⑤)を実行した。
(6) 平成7年12月25日の手形貸付
ア A造船は,同年12月18日,支払手形決済,買掛金支払,人件費支払に充てるべく,被告信金に対し,1億7500万円の融資を申し込んだ。返済原資は,売上金をもって決済とされていた。
この融資申請書の「申請事由」欄には「現在,受注はバージ船と貨物船(499t)が予定されており,いづれも収益確保の見積りであり,来年からは徐々に経営内容が良転する見込」,「12/26頃,日南汽船建造代金受領を以って手貸246M回収予定」等と記載されていた。(丙132)
イ 七瀬は,平成7年12月19日には,手形貸付である本件各融資を証書貸付に一本化し,1年の据え置き期間を置いて2年目から割賦返済とする旨の変更案を起案していた。なお,この案では,A造船に対する与信体制を,①再建用の与信(長期運転資金)と②建造用の与信(短期運転資金)との2本立てとすることを提示していた。なお,この1本化案については,現在体質改善のため努力中であり,返済原資も確定しておらず,132百万円の繰越損失を1年間の元金据置きでカバーできるものではなく,本案では返済もたれ必至であり,時期尚早の取組みと思われる旨の丙川の意見が付されていた。(丙126)
ウ 被告信金は,同年12月25日,A造船に対し,手形貸付により1億7500万円の融資(本件各融資⑥)を実行した。
エ A造船は,日南汽船の新造船を完成させ,同月19日ころの検査を経て,日南汽船から建造代金を受領し,同月25日,このうち2億2600万円を別紙貸出目録4(1億6000万円)及び同5(8600万円)のとおり被告信金に対し弁済した。(丙131の1,丙132の1)
オ 被告信金のA造船に対する平成7年12月末時点での貸出残高は,約8億8400万円(本件各融資以外の貸出も含む。)であった。
(一〇) 本件各融資後の状況
(1) 被告信金の従業員である九重は,平成8年2月から平成10年1月まで,同従業員(神崎支店長)である十条安男は,平成10年2月から平成11年6月までそれぞれA造船に出向し,常駐で経理や総務等を担当した。(丙190,被告三井)
(2) A造船の平成8年2月期営業報告書では,別紙財務内容一覧表のとおり,総売上高約30億9700万円,営業利益▲5億4400万円,当期利益▲約7億9900万円,繰越損失約9億3100万円,資本▲9億0100万円であり,これは被告信金の出向陣が損出しをして真実の財務状況を明らかにしたものであった。(丙140の3,丙190)
(3) 平成8年2月期には,①新造船の売上高は約28億円に増えたが,修繕部門への転換は,平成8年4月ころに浮きドックを浚渫した後に行うことが予定されていたこともあって,修繕船の売上高は約3400万円に減った,しかし,その一方,②工事原価は売上高を上回る約35億円へと増大していた。
(4) 旧大蔵省中国財務局は,平成8年10月2日,被告信金の経営状況を検査し,貸出業務について,「業況不振でメイン行が支援を打ち切った先であるが,取引拡大意識の先行や代表者の経営手腕等を過信するあまり,再建計画が策定されていないにもかかわらず,メイン行に替わり支手決済資金等に応需するなど全面支援を図った結果,多額の資金の固定化を招いているもの」があると指摘した。この指摘にかかる事例は,本件各融資に該当するものであり,具体的には,「当庫は,新たに就任した親会社の代表者からの要請を受け,具体的な再建計画が策定されていないにもかかわらず,融資先拡大意識の先行や代表者の経営手腕を過信したことから,7年10月支手決済資金等に応需し,その後も,回収に懸念がある大幅な赤字会社に対し,保全不足のまま運転資金への貸出を続け,ピーク時の貸出残高は10億円となるなど,再建計画等の検討不十分なまま当庫単独で全面支援を図った結果,多額の資金の固定化を招いている。」と指摘された。(丙26,191)
(5) 被告信金神崎支店長は,平成9年2月12日,A造船の収益予想について,「業績推移実績ならびに予想表」と題する書面を作成していたが,同書面では,平成9年2月期は返済原資を捻出できる見込みがなく,平成10年2月期は,4億9000万円の新造船を3隻,3億5000万円の新造船を1隻受注し,その他修理を受注し,工事収入19億円を目指し,約2460万円の返済原資を確保する予想が立てられていた。(丙192の3)
(6) 別紙貸出目録3記載のとおり,A造船が被告信金に平成8年12月16日に1000万円を弁済したことにより,平成9年2月28日時点で本件各融資の残高は6億7400万円となったが,同日,これが証書貸付(弁済期限平成12年2月28日一括返済)に切り替えられた。この切換えの際,当初,本件各融資に基づく債務の連帯保証人であった青山七郎及び船木陽介は,申出により連帯保証人から除外された。なお,その後の平成10年7月,日本砂利が連帯保証人に追加設定された。(丙133,134)
(7) 被告信金は,本件各融資の後にも,A造船に対し,別紙貸出取組推移表のとおり,手形貸付等を実行し,平成9年9月に取引残高が最大14億9800万円(うち手形貸付及び証書貸付の残高は10億1800万円)に達した。
(8) A造船は,平成8年4月までに浮きドックを浚渫する予定であったが,間に合わず,平成9年5月下旬,被告信金から2000万円の融資を受けて浮きドックを浚渫した。しかし,平成10年10月の大雨で土砂が堆積し,浮きドックの使用が不能になったので,その後,再び浮きドックを浚渫した。(丙193,証人砂田一郎38頁)
なお,A造船の平成9年2月期事業年度分の確定申告書(丙195)の繰延資産の償却額の計算欄には,平成8年4月に浚渫工事1875万円を要した旨の記載があるが,上記(5)の収益予想からもうかがえるとおり,当時はまだ新造船工事がメインであり,修繕業務へ転換できていなかった時期であるから,平成8年4月の浚渫工事というのは必ずしも「浮きドック」の浚渫工事を指すものとはいい難い。
(9) 平成10年12月4日付け「担保不動産再評価後の実質設定額大巾減少について」と題する書面には,「平成7年9月当時,当社メイン銀行であるトマト銀行が撤退し倒産の恐れがあり,当庫が支援を決定した際,必要額の保全の為,緊急に担保設定したもので逆算して設定額を決めたもので,設定は805Mとしているが,貸出極度は0とし実質的なポジションには反映されていない。」,「805Mの設定金額は今後の運転資金発生予想金額であり,担保評価額とは関係ない。今回の担保評価見直しが妥当と思われる。」旨の記載がある。
同書添付の各「不動産担保調査表」においては,次のとおり,時価評価等が見直された。(丙137)
① 当初極度額6億5000万円と評価されていた別紙担保物件目録1記載の各不動産については,時価総額1億1677万円(処分による最低見積価格7006万円)と再評価された。
②当初極度額1億円と評価されていた同目録記載2の各不動産については,時価総額約1871万円(処分による最低見積価格約1123万円)と再評価された。
③ 当初極度額3000万円と評価されていた同目録記載3の各不動産については,時価総額約1932万円(処分による最低見積価格1159万円)と再評価された。
④ 当初極度額2500万円と評価されていた同目録記載4の土地については,時価約1626万円(処分による最低見積価格約976万円)と再評価された。
(10) A造船は,本件各融資の後も営業実績が振るわず,平成7年2月期約20億6900万円,平成8年2月期約30億9700万円であった総売上高を維持することができず,むしろ減少し,平成9年2月期以降の総売上高は,別紙財務内容一覧表のとおり,平成9年2月期が約11億6700万円,平成10年2月期が約14億9500万円,平成11年2月期が約3億9500万円,平成12年2月期が約1億1400万円,平成13年2月期が約4900万円,平成14年2月期が約3400万円であった。
砂田社長の就任後,同社長の営業努力によりA造船が新造船を受注したのは,合計約6隻であった。
平成9年2月期以降,修繕工事高が伸び悩んだが,この主たる原因は,修繕船受注に向けて日生地区への営業活動を十分にしていなかったこと等にあったと考えられる。(丙166,207,証人砂田一郎)
(11) 平成11年9月時点の被告信金のA造船に対する取引残高は,別紙貸出取組推移表のとおり,約9億3380万円となった。
(12) 被告信金は,平成12年3月31日,A造船に対する貸付金残金約9億0356万円から不動産担保及び保証人の非拘束定期預金等を控除した約6億8638万円を償却処理した。(丙188)
(13) 平成10年に広島県の海砂利採取が全面禁止となり,その後,広島県の業者からの圧力もあって,岡山県も,平成12年9月,平成15年度以降の海砂利採取の全面禁止を発表し,これにより業者は船に投下した資本の回収の見込みが立たなくなるなどの影響を受けた。岡山県下では,この海砂利採取の全面禁止により,海砂利採取用の作業船や運搬船の需要がほとんどなくなった。平成10年ころより,海砂利採取を主たる業務としていた日本砂利の経営が危機に陥り,砂田社長は日本砂利の経営にかかりきりとなり,A造船の再建に尽力する余裕がなくなった。そして,砂田社長は,平成12年9月,A造船の代表取締役を辞任するに至り,また,新造船の多くが砂利採取船であったA造船の新造船売上がほとんど期待できない状態になった。(丙172,証人砂田一郎14頁)
(14) A造船は,平成12年10月31日の支払を最後に,被告信金に対する利払いを含めた支払を停止し,平成13年9月6日到達の催告により,同日,本件各融資についての期限の利益を喪失し,平成14年8月7日,不動産競売開始決定を受けて実質的に経営破綻した。期限の利益喪失の時点での本件各融資の元本残高は,6億7400万円であった。なお,被告信金のA造船に対する貸付残高(本件各融資を含む。)は,別紙回収状況一覧表のとおり,平成13年1月29日当時,合計約8億9931万円であった(なお,同表NO3は,本件各融資を証書貸付に切り換えたものである。)。
被告信金は,上記支払停止までの間,A造船から本件各融資や別口の融資の金利等として合計約1億1598万円の支払を受けた。(丙163ないし165,207)
(15) 原告RCCは,本件口頭弁論終結日までに,別紙回収状況一覧表のとおり,担保物件の競売や任意売却等によって合計4520万3235円を回収し,これを本件各融資の弁済に充当した。その結果,本件各融資の元本残高は,最終的に6億2879万6765円となった。(丙164,167,201,207)
(16) 砂田社長は,原告RCCからの保証債務履行請求に対し,A造船の実質的経営者は被告信金であるから保証債務の履行を請求される謂われはないと主張して,その履行を拒んでいる。
なお,A造船の発行済み株式総数中,日本砂利と砂田社長とが合計63.4%(平成10年2月期以降は67%)を保有していた。(丙167,169,190,195,196)
2 被告理事らの善管注意義務の内容
被告理事らは,被告信金の理事であり,委任契約に基づき,その職務を行うにあたっては,被告信金に対して善管注意義務を負う(信金法39条,商法254条3項,民法644条)。具体的には,被告信金の経営の健全性を確保すべく,融資についての回収可能性の判断は慎重になすべきであるところ,被告信金は地元金融機関として,貸出先が地元の中小企業を中心としており,十分な担保を有するとは限らないことから,貸出先の収益性や将来性に対する慎重な審査,貸出条件の設定,貸出後のモニタリングなどによりリスク管理を徹底することが求められる。
理事がこのような善管注意義務に違反して信金に損害を与えた場合には,信金に対して連帯して損害賠償の責任を負う(信金法35条1項)。
3 被告理事らの善管注意義務違反の有無
(一) A造船に対する長期融資について
本件各融資の名目額は合計10億7000万円であるが,最終融資である本件各融資⑥が実行された平成7年12月25日までに合計3億8600万円(同年11月15日1億4000万円,同年12月25日2億4600万円)が弁済されているから,その実質融資額は合計6億8400万円である。
被告信金は,平成7年9月20日,A造船の総額9億1000万円と見込まれる融資依頼に応需して本件各融資を実行し,その後にも追加融資を行い,弁済や切り替えを経て,最終的には別紙回収状況一覧表の記載の9億1800万円の貸付を長期融資金としてまとめたと考えられるから,被告信金のA造船に対する長期融資金は,本件各融資を含め9億1800万円であるといえる。
(二) A造船の財務状況等
(1) 前示認定事実によれば,A造船は,造船不況の影響を受け,赤字工事でも受注せざるを得ない状況に陥っており,資金繰りに追われ,支払手形の決済資金を通常業務の売上金で賄うことができず,新造船受注時の前受金を「先食い」して手形決済資金に充てる自転車操業の状態であったことは明白である。
(2) A造船の平成7年2月期の決算によれば,合計23億8400万円の短期的な資金手当(支払手形,買掛金,短期借入金,未払金の合計額)が必要であった。
一方,弁論の全趣旨によれば,A造船の実際に回収が見込める資金は,売掛金3800万円(回収見込みの乏しい不良債権は除く。),半成工事4700万円(決算上は13億5700万円であるが,受領済13億1000万円を除いたもの。),前受金3900万円(決算上は4億1300万円であるが,取引先が既に仕事をした過去の工事代金を計上したと思われる3億7400万円分を除いたもの。被告理事らは,これを半完工事に計上できると主張するが,これを半成工事に計上しても,その工事にかかる請負代金は既に13億1000万円受領しているから,半完工事の回収見込額は上記記載と変わらない。),預貯金1億6100万円(見合い担保として事実上拘束されたトマト銀行の預金を除く。),棚卸品1億3300万円,受取手形8億1000万円,その他5300万円の合計12億8100万円であったことが認められる。
そうすると,平成7年2月期の決算上,A造船は,およそ11億円(短期的な資金手当必要額−回収見込み資産)に上る短期資金が不足し,資金繰りが滞れば,直ちに倒産必至の危機的状況にあったことがうかがえる。
(3) 次に,被告信金の出向陣が損出しをして真実の財務状況を明らかにした平成8年2月期の決算(丙140の3)によれば,約9億円の債務超過であり,また,流動負債合計14億2388万円と流動資産合計2億9222万円にかんがみれば,本件各融資当時には約11億円の資金不足状態であったとうかがえるが,この決算では債権者(新役員)からの出資金のうち約3億1000万円を仮受金として流動負債に計上しており,この仮受金は出資金であり,当面返還する必要に迫られない性質の金員であるから,これを控除すれば実質的には約8億円の資金不足状態であったといえる。
(4) このようにみれば,被告信金は,実質的には約8億円の資金不足の状態にあったA造船に対して,実質総額9億1800万円の長期融資を実行したものといえる。
これらA造船に対する長期融資は,同社の資金不足の解消(先食い状態の解消)と再建への支援のためになされたものではあるが,資金不足額の程度に照らせば,ほとんどが資金不足の解消に向けられたものと評価せざるを得ない。
しかし,前示の船舶整備公団の説明によれば,全国の中小造船所の財務内容は,不況時には累積赤字を計上し,好況時に解消するというパターンがほとんどであり,A造船の財務内容と大差がないというのであるから,A造船の財務内容が他の中小造船所に比して特別劣悪ということはなく,A造船も,景気が良くなれば累積赤字が解消に向かう可能性があったほか,再建計画が軌道に乗った場合には累積赤字が解消する可能性があった。
そうすると,本件各融資は,再建計画が軌道に乗れば回収可能性があるものといえるから,赤字補填を目的としているというだけで直ちに安全性の原則に違反した融資ということはできず,要は,人的物的担保からの回収可能性,営業利益からの回収可能性がどの程度あったかという問題に帰着するというべきである。
(三) 物的担保
(1) 被告信金の平成7年9月28日付け不動産担保調査票によれば,別紙担保物件目録1記載の不動産の時価を約6億6250万円,これに60%を乗じた担保評価額を約3億9767万円,これから先順位担保権の被担保債権合計6700万円を控除した額(担保余力)を約3億3067万円としていた。しかし,上記の時価評価は,平成7年固定資産評価額(合計8211万円)の8倍にも上っており,その点についての明確な根拠がなく,前示1(一〇)(9)のとおり貸出必要額から逆算して設定したにすぎないものであって,その正確性は信用するには足りない。したがって,上記不動産については,基本的に平成7年固定資産評価額によって担保評価額を定めるべきところ,この平成7年固定資産評価額8211万円から先順位担保権の被担保債権合計6700万円を控除した額(担保余力)は,約1510万円である。
(2) 別紙担保物件目録2記載の不動産の平成7年固定資産評価額は合計約2213万円であるから,これを時価(あるいは処分による最低見積価格)とみれば,これから先順位担保権の被担保債権1800万円を控除した額(担保余力)は,約410万円である。
(3) 別紙物件目録3記載の不動産の平成7年固定資産評価額は合計約1486万円であるから,これを時価(あるいは処分による最低見積価格)とみれば,これから先順位担保権の被担保債権合計2130万円を控除した額(担保余力)は,0円である。
(4) 別紙物件目録4記載の不動産の時価(あるいは処分による最低見積価格)は,平成7年固定資産評価額のとおり,約889万円とみるべきである。この不動産については,平成10年12月4日付けの「不動産担保調査表」において時価約1626万円(処分による最低見積価格約976万円)と再評価されているから,担保評価額を980万円とみる限りでは相当性の範囲内である。
(5) 以上のとおり,本件各融資においては総額8億0500万円の根抵当権が設定されているものの,当該不動産の価値や先順位担保権の存在等を踏まえれば,その担保余力は合計2900万円程度にすぎず,不動産の時価の変動可能性や先順位抵当権の被担保債権額の減少可能性,実際の回収金額(別紙㈱A造船所回収状況表のとおり約4520万円)等を考慮して担保余力を高く見積もったとしても,5000万円を超えることはなかったといえる。
(四) 人的担保
(1) 本件各融資には,当初,砂田社長,石塚二郎,水野八郎,黒沢三郎,白井四郎,青山七郎,船木陽介及び船木幸介の合計8人の連帯保証人が付されていた。後二者はA造船の当初からの役員であり,その余は,A造船の債権者関係者であって再建計画により同社の役員に就任した者である。
(2) これらの者の資力について十分な調査検討がなされた形跡はうかがえないが,後に原告RCCによってなされた調査をも踏まえると資産状況は次のとおりである。
すなわち,砂田社長は日本砂利の代表取締役であり,平成7年10月25日当時,被告信金に40万円の非拘束定期預金があり(平成9年2月13日時点では680万円),不動産を所有していた(ただし担保権あり)。石塚二郎は日本砂利の会長であり,同日当時,被告信金に約1億2460万円の非拘束定期預金があり,無担保の不動産を所有していたが,日本砂利の被告信金等に対する債務の保証人となっていたから,本件各融資金の返済原資は限られることになる(非拘束定期預金の半分程度と見積もらざるを得ない。)。水野八郎は㈲水野電気商会の代表取締役であり,不動産を所有し(ただし,平成12年に他に売却した。),黒沢三郎は東備ヤンマー㈱の代表取締役であり,不動産(オーバーローン)を所有し,青山七郎は青山重工㈱の代表取締役であり,不動産(オーバーローン)を所有していた。白井四郎は豊産業㈱の代表取締役であり,法人名義の不動産があった。(丙129の2,丙131の2,丙133の2,丙169の1,3)
(3) 実際,これらの者が中心となって短期間で平成7年9月末までに3億2000万円を集めることができたことからすると,上記の連帯保証人の資力調査は十分になされたとはいえないものの,ある程度の資力があったことは認められるが,人的担保の性質上,これを過大評価することはできず,上記の連帯保証人全員でもってしても,せいぜい1億円程度の弁済資力しかなかったものとみるべきであり,他に関係証拠を検討するも,上記の連帯保証人にそれ以上の弁済資力があったと認めることはできない。
(五) 再建計画
(1) 再建計画の概要
前示の事実によれば,被告信金は,本件各融資をするにあたって,A造船から再建計画あるいは資金繰計画を書面の形で徴収していないものの,同社関係者あるいは関係機関等から再建計画に関連する様々な事情を聴取しており,これらの被告信金が関係者から事情聴取したところによれば,A造船の再建計画は,概要,次のようなものであったことが認められる。
ア 船木幸介及び船木陽介を除いて旧経営陣を退陣させ,債権者らを中心に新役員を選任し,代表取締役を砂田社長と水野八郎の2人とする。
イ 本件各融資金によって先食い状態を解消し,採算の合わない工事の受注は止めて,採算の合う工事を受注して行く。
平成8年4月までに浮きドックを浚渫し,浚渫完了した後から修繕業務を中心に行う。
砂田社長の営業手腕により,新造船と修繕船の受注を確保する。特に修繕船は,日本砂利グループや日生地区からの受注が見込まれる。
ウ 役員報酬など経費を大幅にカットする。その他,経理面では,被告信金の出向者による管理を行う。
エ 長期資金という前提で本件各融資を行う。再建計画が軌道に乗れば営業利益によって返済をしていくが,軌道に乗るまでは,出資者5社が年間2000万円ずつ拠出し,年間1億円程度を返済することでつなぐ。
オ 大口債権者が新役員及び保証人となることで,取引先の継続的な協力が期待できる。取引先には債権の20〜30%カットに応じてもらう。
(2) 修繕業務への転換
ア 修繕業務に転換するという点については,前示認定事実によると,権利トン数制度が将来廃止された場合には,新造船需要は減少するものの,船舶の使用期間が平均11年から16年ないし18年に長期化すると予想され,修繕需要の増加が見込まれること,法定検査(本検査)は4年に1回,中間検査は2年目毎に1回(4年に1回)あり,その度に修繕受注の機会があること,修理業務を扱う業者は瀬戸内にはあるが,広島県下に集中しており,岡山県下にはA造船ほか1社しかなく,漁業補償問題があるため,他社による新規開業も難しいこと,先食い状態であれば,修繕業務に転換すると資金繰りが行き詰まる可能性が高いが,先食い状態が解消され,長期間の分割弁済となれば,その懸念はないこと,修繕業務に転換するためには浮きドックを稼働させる必要があるが,これは日本砂利の協力により浚渫できる見込みがあったこと(ただし,A造船の所在地は土砂が堆積しやすく,2,3年に1回は浮きドックの浚渫が必要になると見込んでおくべきであったが,これも日本砂利の協力により対処できると期待できた。),修繕は3割の粗利益が期待できること,日本砂利グループの船舶は20隻程度あり,日生船籍の貨物船は約180隻あるから,修繕需要はある程度見込まれること,A造船の浮きドックは,日生船籍の貨物船程度であれば,これを修繕することが可能であること,現状では,岡山県下に修繕業務可能の造船所が少ないため,遠隔地で修繕しているが,日生の貨物船をA造船で修理すれば,修繕中は自宅で休めるメリットがあり,不便を訴えている船主もいることから,これらの船主による需要が見込まれること,日生の船主に対して大きな影響力を持つ日生町信用農協の専務理事が,修繕船の紹介について依頼があれば尽力する旨述べたこと,A造船は得意先も多く,技術力は評価されていたこと,日生の船主にエンジンや機械を納入している東備ヤンマー株式会社が,日生地区の修繕船をA造船へ持ち込ませるよう全面的に協力するほか,日生にいるケミカルセンター建造の技術者をA造船でタンカー建造(修繕)に従事させてもよいとの意向を表明していたこと等の事実が認められる。以上の諸事情に照らせば,A造船の修繕業務への転換は十分実現可能であると見込むことができたと判断される。
なお,砂田社長は,修繕を主に行えば年間40隻,平均単価1500万円,収益率30%として,年間1億8000万円の粗利益が見込める旨説明していたが,この試算は,日本砂利グループの砂利船を念頭に置いたものと思われる。砂田社長の証言によれば,日本砂利の砂利船は,A造船の浮きドックに入らないというのであるから,事後的に考えれば,この試算は本件再建計画の参考にはなり難い。
イ 修繕売上見込み
前示認定の砂田社長の平成7年9月20日及び同年10月30日の説明によれば,A造船の修繕業務として日本砂利グループの船が約20隻見込むことができるというのであり,砂田社長がこのような説明をした以上,この20隻の船舶はA造船の浮きドックに入る大きさであり,かつ,砂田社長の命令により,必ずこの約20隻がA造船で修繕するものと期待できた。また,再建計画時には日生地区の約180隻の貨物船の修繕受注を見込んでおり,前示認定のとおり日生町信用農協や砂田社長,東備ヤンマーの協力が期待できる状況であったから,このうち60%に相当する108隻がA造船で修繕することが期待できた。
以上によれば,修繕のためA造船に持ち込まれる可能性のある船舶は,合計約128隻程度はあると見込むことができたといえる。そして,前示のとおり,船舶の法定検査(本検査)は4年に1回の頻度で,中間検査も同じく4年に1回の頻度で行われ,その検査の度に修繕受注の機会があるというのであるから,法定検査時の修繕受注が年間32隻(128隻の4分の1)ほど見込め,中間検査時の修繕受注も年間32隻ほど見込むことができたことになる。
そうすると,修繕価格を本検査700万円,中間検査300万円とすると,1年間で本検査2億2400万円,中間検査9600万円,合計3億2000万円程度の修繕収入が計数上算定できることになるから,A造船が修繕業務に転換すれば,同額程度の年間修繕収入高を上げることが期待できたということができる(なお,修繕船の利益率は30%とされているから,その粗利益は,年間9600万円程度となる。もっとも,A造船にあっては,およそ2,3年に1回は浮きドックの浚渫費用約2000万円を負担する必要はあったというのであるから,年間800万円を差し引くと,年間実質粗利益は8800万円程度となるというべきである。)。
(3) 経理,経営の問題
次に,A造船の経理,経営面についてみるに,前示の事実によれば,A造船の旧経営陣による経理,経営には相当の問題があり,これを解消することがその再建に寄与すると考えられたことが認められる。
そして,前示の事実によれば,砂田社長は,当初,A造船の経営に参画する意思がないと述べていたが,平成9年9月22日には,「自分としては代表役員就任は辞退したいが,他の債権者の協力が得られないことも考えられるので,就任はやむを得ないだろう」との考えに至っており,代表取締役を2名とすることで代表取締役に就任することを承諾したこと,ただし,砂田社長は,「留守にすることが多い」と予め断っており,水野八郎を常駐の代表取締役とし,被告信金の出向者に手形,小切手,印鑑等を預けることとし,自ら経理,経営を全面的に執行する認識はなかったことが認められるのであり,このように,砂田社長は,A造船の代表取締役に就任したが,主としてその営業手腕による受注の増加と他の債権者の協力姿勢を維持させることが期待されていた一方で,A造船の経理,経営面については,砂田社長が全面的に掌握することは困難であり,常駐の代表取締役である水野八郎のほか,被告信金の出向者によって補うことが予定されていたといえる。
以上の事実によれば,A造船の経営は,代表取締役かつ連帯保証人であった砂田社長と水野八郎とがその責任者となったものの,その権限の範囲や責任の所在に不明確な点があり,この点に不安を抱えていたことは否定できないとしても,ともかく,A造船の旧経営陣による経理,経営問題の刷新が期待できたということは十分に可能であるし,被告信金の出向者による今後の経理,経営が監視される体制が構築され,また,海運業界で高く評価されていた砂田社長の人脈や営業手腕が債権者の協力とA造船の業績の向上に資すると期待されたことをも併せ考慮すると,被告信金が,平成7年9月20日以後間もない時点において,被告信金の監視体制と砂田社長の力量に期待し,A造船の再建は可能であるとの見通しをもったことにも,合理性があると認められる。
(4) 返済原資について
前示認定事実に証拠(丙75,140,195ないし198)及び弁論の全趣旨を総合すれば,A造船の返済原資は,次のとおりであると認められる。
ア 売上
(ア) 修繕収入高
A造船の年間修繕収入高は,合計3億2000万円,年間粗利益は9600万円が期待できたが,2,3年に1回の浮きドックの浚渫費用約2000万円を控除すると,実質年間粗利は8800万円と見込まれたことは,前示のとおりである。
(イ) 新造船収入高
再建計画前においてもA造船の新造船受注件数は3隻から7隻であったところ,修繕業務を主力にするとしても,日本砂利の支援が期待できることから,年間1.5隻の新造船受注を見込むことができた。実際,砂田社長は,平成8年2月期から平成12年2月期までの5年間で6隻の新造船受注を獲得したというのであるから,上記予測は相当性の範囲内であった。
そして,平均船価を4億円とすれば,年間の新造船収入高は6億円であり,建造粗利率を10%とすれば,年間粗利は6000万円と予測できた。
なお,A造船の新造船の粗利率は,平成6年2月期では約8.04%,平成7年2月期では約8.7%であったが,当時のA造船は先食い状態にあって赤字工事でも受注せざるを得ない状態であったから,先食い状態を解消し,受注数を減らしてでも採算性を重視し,かつ,材料費を安くする等すれば,建造粗利率を10%にまで伸ばすことは期待できたといえる。
(ウ) 年間の工事利益
以上より,修繕船及び新造船の年間工事利益は,1億4800万円となることが期待できた。
なお,平成6年2月期の年間工事利益は約2億3030万円,平成7年2月期のそれは約1億8020万円であったから,上記期待額は合理的予測の範囲内であるといえる。
イ 一般管理費
(ア) 役員報酬(実質は給与とみられるから,ここで検討する。)
平成6年2月期は約5887万円,平成7年2月期は6742万円であったが,旧経営陣が2名(船木幸介,船木陽介)を除いて退陣し,1人月額50万円とすれば,年間1200万円にまで減額することが期待できた。
実際,年間役員報酬額は,船木大介,船木社長,船木亮介及び船木美江が平成7年9月ころまで在任していたため,平成8年2月期は約2391万円であったが,これらの者が退任した後である平成9年2月期が1300万円,平成10年2月期が1268万円,平成11年2月期が約947万円であったから,上記期待額は合理的予測の範囲内であったといえる。
(イ) 給与手当,法定福利費,厚生費
平成6年2月期は約3009万円,平成7年2月期は約2676万円であったが,再建計画により人員削減等の措置を講じれば,2300万円程度にまで減少させることは期待できた。
実際,平成8年2月期は2771万円であったが,平成9年2月期は約2256万円,平成10年2月期が約2026万円となり,上記期待額は合理的予測の範囲内であったといえる。
(ウ) 接待交際費
平成6年2月期は約2084万円,平成7年2月期は約2475万円であったが,これは新造船受注のためにオペレーターの接待等のために支出したというもの(丙93の5頁)であり,再建計画に沿って修繕船業務に転換すれば,接待交際費の大幅な削減が可能であり,1400万円にまで減少させることは期待できた。
実際の接待交際費は,平成8年2月期は約1475万円,平成9年2月期は約350万円,平成10年2月期は約1861万円であったが,これは修繕業務に転換できなかったことも影響していると考えられる。
(エ) 旅費交通費
平成6年2月期は約1012万円,平成7年2月期は約1109万円であったが,経費削減の努力をすれば,700万円程度にまで減少させることは期待できた。
実際,平成8年2月期は920万円,平成9年2月期は約147万円,平成10年2月期は約78万円となり,上記期待額は合理的予測の範囲内であったといえる。
(オ) 課税負担金
平成6年2月期は約3271万円,平成7年2月期は約4463万円であるが,平成8年2月期は約1389万円,平成9年2月期は約668万円,平成10年2月期は約648万円にまで削減できたことから逆算して,再建計画当時,1200万円にまで減少可能であったといえる。
(カ) その他の一般管理費
平成6年2月期は約3160万円,平成7年2月期は約2970万円であったが,平成8年2月期は約2340万円,平成9年2月期は約1940万円,平成10年2月期は約1920万円にまで削減できたことから逆算して,再建計画当時,2000万円にまで減少可能であったといえる。
(キ) 一般管理費(合計)
以上より,一般管理費は合計8800万円程度に抑えることができると期待できた。
実際,平成8年2月期は1億1285万円,平成9年2月期は6664万円,平成10年2月期は7801万円であり,上記期待額は合理的予測の範囲内であった。
ウ 当期利益予想
(ア) 営業利益
上記の工事収入と一般管理費を踏まえれば,6000万円と予想できる。
(イ) 受取利息
平成6年2月期は約1586万円,平成7年2月期は約1367万円であったが,平成8年2月期は約815万円,平成9年2月期は約125万円,平成10年2月期は約36万円となった。本件各融資当時の判断としては被告理事らの主張のとおり800万円と予測したとしても,あながち不合理ともいい難い。
(ウ) 支払利息
平成6年2月期は約6160万円,平成7年2月期は約5637万円であったが,平成8年2月期は約3618万円,平成9年2月期は約2999万円,平成10年2月期は3767万円となった。これを前提にすれば,年間の支払利息を3600万円と予想する限度では相当性の範囲内である。
(エ) 税引前利益
3200万円と予測できる。
(オ) 法人税
上記(エ)に対する法人税額は,下記の合計1124万円である(平成10年法律第24号による改正前の法人税法66条)。
a 800万円部分(税率28%) 224万円
b 残2000万円部分(税率37.5%) 900万円
(カ) 当期利益
以上によれば,毎年2070万円程度の当期利益を計上することが期待できたといえる。
エ 返済原資
工事原価減価償却費は,平成6年2月期が約3700万円,平成7年2月期が約1540万円であったが,平成8年2月期が約3410万円,平成9年2月期が約1790万円,平成10年2月期が約2710万円となった。
また,一般管理費減価償却費は,平成6年2月期が約820万円,平成7年2月期が約860万円であったが,平成8年2月期が約340万円,平成9年2月期が約320万円,平成10年2月期が約270万円となった。
本件各融資時点で工事原価減価償却費を2500万円,一般管理費減価償却費を300万円と予測する範囲では合理性が認められるので,これらの額を当期利益に加算すれば,毎年4870万円の返済原資を確保することが合理的に期待できたといえる。ただし,これは,日本砂利を始めとするA造船の大口債権者の協力が継続するという前提があってのことであり,この点については,大口債権者の代表者が保証人兼新役員になることにより担保されていたといえる。
被告理事らは,毎年7448万円の返済が合理的に見込まれたと主張するが,前示のとおり本件各融資時点で見込みのあった返済可能額は毎年4870万円であったというべきであり,これ以上に返済見込みがあったと認めるに足りる証拠はない。
(六) 検討
(1) 本件で被告理事らの善管注意義務違反の対象として主張されているのは,本件各融資であり,前示のとおり,その額は,実質6億8400万円である。
原告RCCは,本件各融資は,返済能力のない赤字会社に対して赤字補填を目的としてなされた回収の見込みない融資であって,具体的な返済財源や返済計画はなく,実質的に無担保でなされた安全性の原則に反する融資であるとして,これを実行した被告理事らには善管注意義務違反があると主張し,①A造船に返済能力がなく,②赤字補填を目的とする回収見込みのない融資であること,③実質無担保融資であり,④返済財源や返済計画もなかったことを問題点として指摘する。
(2) 前示の事実によれば,A造船は,造船不況による影響から赤字受注を繰り返しつつ,新造船受注時の前受金を先食いして支払手形決済資金としており,そのため,約11億円に上る短期資金の不足が続き,資金繰りが途絶えれば,直ちに倒産必至の状態にあったこと,本件各融資にあたって設定された物的担保は,高く見積もったとしても,5000万円を超えることはなく,また,人的担保も,連帯保証人には一応の資力があったことは認められるものの,過大な評価はできず,せいぜい1億円程度が期待できたにとどまっていたこと,本件各融資は,A造船の倒産を防止すべく,上記短期資金の不足を補填するために実行されたものであることが認められるから,原告RCCが指摘する前記問題点は,上記の限度では妥当な指摘であるということができる。
(3) しかしながら,A造船に対する本件各融資の当否については,次の観点をも考慮する必要があったといえる。
まず,前示の事実によれば,平成7年7月28日時点の融資委員会の協議結果によれば,A造船が不渡りを出した場合,その時点において,被告信金の被害が2億3270万円になり,10月まで伸ばすと被告信金の被害が2億2680万円になると見込まれていたこと,そして,A造船は,メインバンクであるトマト銀行に見限られ,被告信金以外の金融機関とメイン取引を開始することも期待できず,被告信金がメインバンクとなって本件各融資を実行すれば持ちこたえるが,それをしなければ,上記のとおり,間もなく倒産することは必至であったことが認められるから,A造船は,既に他の金融機関からの融資を期待できず,被告信金が本件各融資を否決してA造船が倒産した場合には,被告信金自身,その時点において,2億3000万円程度の損害を受けることが予想された状況下にあったことが,本件各融資の前提であったことが認められる。
次に,前示の事実によれば,A造船は,岡山県下では数少ない造船業者(県内で合計2社)であり,規模は大きくないが昭和38年からの伝統もあり,技術力は高く,存続させる価値の高い企業であったこと,A造船が倒産すれば,他の中小の造船所も倒産する危険性があると指摘されていたこと,瀬戸内地方は,内航海運業や小型造船業などの内航関連産業が当該地域の基幹産業としての役割を果たしている,いわゆる「船どころ」と呼ばれる地域であり,造船業者の倒産が地域経済全体に影響を及ぼすことが予測されること(丙208の2の58頁),現に,A造船は,当時,船舶整備公団共有船の造船を行っている最中であり,A造船が倒産し,この公団船の建造が頓挫すれば,建造を引き継ぐ業者を探すなど一定の混乱が避けられず,具体的にも,地域経済に相当な影響を与えるものと予想されること,また,日本砂利は,A造船に対する大口債権者であったし,当時,A造船に対して砂利船の建造を注文し,2億円の手形を振り出していたこともあって,A造船が倒産すれば,日本砂利の経営にもこれが波及し,ひいては,日本砂利に対して約16ないし18億円(平成7年4月時点の貸出残高約18億8800万円,丙185の3)を融資していた被告信金にも重大な影響を与える危険もあったこと,そして,A造船が倒産し,それによって日本砂利の経営が悪化した場合には,被告信金の日本砂利に対する債権の回収可能性にも悪影響が出ること等の事情を踏まえれば,本件各融資を否決すれば,A造船が倒産することにより,被告信金に上記2億3000万円程度の損失が確定するほか,日本砂利との関係も悪化し,日本砂利に対する債権の回収にも悪影響が生じるなどのデメリットがあったことが認められ,このような事情を踏まえれば,被告信金が本件各融資を否決すれば,間もなくA造船が倒産し,その後の関連業者の連鎖倒産の危険性や地域経済に大きな影響を与える可能性があったといえる。そうすると,A造船の倒産を防止し,これを再建させるために被告信金が本件各融資を行ったことは,単にA造船の救済というだけではなく,地元産業の維持,発展や地域経済にも寄与する側面を有していたということができるのであって,その意味で,本件各融資は,信用金庫としての被告信金存立の目的に沿うものであったということができる。
したがって,本件各融資の実行については,上記のとおりの事情をも勘案しなければならず,被告理事らの裁量権行使の適否を判断するにあたっては,この点についても考慮するのが相当である。
(4) そこで,以下,前示の事実に基づき,前記諸事情をも勘案しつつ,本件各融資が実行されるに至った経緯やその後のA造船倒産の原因について検討する。
ア 被告信金は,平成7年6月上旬,A造船から支援要請を受け,同月28日には,合計5億0300万円に昇る融資の申込みを受けたが,船木社長らから事情聴取をするなどして情報収集に努めた結果,同月30日,一旦は支援を拒絶することに決まったものの,たまたまA造船から割引手形を預かっていたことが判明したため,急遽,緊急避難的に4億8800万円の手形割引に応じ,さらにその後も調査を継続し,A造船が前受金の「先食い」をしており,いずれ資金不足に陥って倒産必至の状態にあること,造船業界では,権利トン数制度の廃止が日程に昇っており,これが実施されれば,新造船の需要は減少するが,修繕船の需要が増加することが見込まれ,岡山では,A造船のほかには修繕業務が可能な業者は1社しかなく,また,漁業協同組合の有する漁業権との関係で,新規業者の参入も困難であるため,今後修繕業務については展望があることなどの情報を入手することができたこと,被告信金は,同年7月下旬と8月下旬にもA造船から支援要請を受けたが,砂田社長や船舶整備公団から事情を聴取し,特に船舶整備公団からは,全国の中小造船所の財務内容はA造船と大差なく,不況時には累積赤字を計上し,好況時にこれを解消する状況にあり,契約金(前受金)の「先食い」も多いこと,A造船は,経理面においてルーズと思われるが,得意先も多く,技術力は評価されていると思われること,修繕部門においては,損は絶対にないことなどの情報を入手したが,いずれの機会にも支援を拒絶し,A造船倒産に備えて債権保全措置を講じる準備も整えたものの,A造船は,同年7月下旬と8月下旬の2回にわたって危機を乗り切ったこと
イ ところが,同年9月12日,船木社長が脳梗塞で倒れ,経営の中核を失ったことから,日本砂利ほか6社で構成するA造船の債権者団は,同月13日,17日,20日に債権者会議を開催し,善後策を協議した結果,新たに4億5000万円を出資して同年9月末の支払を乗り切るとともに,今後上記債権者団の代表者による新経営陣によってA造船の経営刷新と再建を図り,併せて,被告信金に支援を要請する旨が決定され,同日,債権者団代表者らから被告信金に対し,その旨の申し出がされたこと,そして,その際,上記債権者団の代表者らは,被告信金に対し,A造船が倒産すれば,他の中小造船所も倒産する危険性があることから,全面的に支援,協力をするし,修繕部門は,仕事も十分あり,粗利も3割は確実であること,試算によれば(ただし,試算表は作成されていない。),今後必要な資金総額は9億1000万円であり,必要運転資金は約1億4000万円であり,役員報酬を浮かせ,給与,労務費等も大幅に削減できるし,利益率の高い修繕部門にウエイトを掛ければ,A造船の再建は可能であることなどを説明したこと,そこで,被告信金では,同月21日の融資委員会において,支援の是非について協議がなされ,その結果,①被告信金から職員を派遣して経理を掌握すること,②A造船や船木一族の所有物件に担保権を設定すること,③新役員や船木一族を保証人とすることの3条件が整えば,支援の方向で行くが,④同月末までに4億5000万円の出資の実現は可能か,⑤これができなかった場合,当日の支払手形のジャンプは可能かの2点について砂田社長に確認をとることとなり,同月22日,被告一色らが砂田社長と面談し,上記①ないし③の条件について了承を得た上,④,⑤の各点についても十分の見込みがあり,砂田社長としても,A造船の新代表者就任もやむを得ないと考えていることなどの情報を得ることができたこと,そこで,被告信金は,同月26日のA造船大口債権者27社により前記再建計画(77丁)が決定されたのを受け,同月28日に担保不動産の評価を試み(ただし,前示のとおり,これは形式的なものにすぎなかった。また,上記保証人の資力調査が行われた形跡はない。),同月29日に上記出資状況を確認するなどした上,当初予定した上記出資金4億5000万円は,3億2000万円しか集まらず,1億3000万円の不足となるものの,同月21日の融資委員会において決定された支援条件が概ね満たされたものとして,同年10月2日,A造船の支援に踏み切り,同月9日の手形貸付を皮切りとして,本件各融資を実行していったこと
本件各融資が実行されるに至った経緯は,以上のとおりである。
しかし,A造船の再建計画は,結局のところ,失敗に帰しているが,本件においては,再建計画実行後の資料がほとんど証拠として提出されておらず,そのため,同計画が挫折した原因について,確たる事実を認定することはできないといわざるを得ないが,関係証拠と前示の事実によれば,次のような事情が介在したことにより,同計画の遂行ができなかったものと忖度される。すなわち,①平成10年の広島県に引き続き,平成12年に岡山県でも海砂利採取が全面禁止になり,砂利採取船の新造船受注が壊滅状態になったほか,日本砂利の存続もが危機に陥り,砂田社長が日本砂利の経営にかかり切りになったこと,②本件各融資の時点においては,権利トン数の計画的解消を図る旨の答申があったのみで権利トン数の廃止とその時期についての政府の公式見解もなく,本件各融資後の平成8年3月になって5年後(平成13年)に廃止時期の具体化を図るという閣議決定がなされたのであるが,平成10年5月に至り,突然,内航海運暫定措置事業の導入により権利トン数が廃止され,結果的に,本件各融資の時点では予想し難い極めて早い時期に権利トン数が廃止され,新造船の売上が思うように上げられなかったこと,③本件各融資の時点では,5,6年後以降には権利トン数の廃止により新造船の受注が激減することは想定の範囲内であり,そのことを想定して修繕業務への転換を図る予定でいたが,A造船は,修繕船受注に向けて日生地区に積極的に営業活動を行わず,砂田社長の当初の説明に反して,修繕業務への転換が円滑に行われず,修繕の受注が当初の想定よりも大幅に少なく,修繕船による営業利益が伸びなかったこと,④造船不況の状態が一向に好転しなかったことなどの事情が関係していると推察することはできる。また,A造船の内部事情としては,再建計画実行後の被告信金の出向職員あるいは西大寺地区担当理事である七瀬による調査や被告信金への報告が十分でなかったこと(このことは,本件各融資前においては詳細な報告書を作成して被告理事らに報告していたが,本件各融資後においては,このような報告書がほとんど作成されていないことからもうかがえる。),A造船の新代表者となった砂田社長や水野八郎は,造船業を本業としておらず,経営実績,経験に欠けるところがあったし,先に指摘したところであるが,砂田社長,水野八郎及び被告信金からの出向職員や七瀬らの権限と責任体制が確立していなかったことも,修繕業務への転換等の経営方針の不徹底につながった可能性があり,これらの諸事情も,上記再建計画が挫折した一原因となったものと考えられる。
(5) よって前示の事実に基づいて検討するに,被告信金は,A造船の支援に踏み切った平成7年10月2日の時点において,A造船が新造船受注時の前受金を「先食い」して支払手形の決済資金とするなど危機的な状況にあり,その再建のためには9億1000万円に昇る短期資金を必要としていたことを知った上で本件各融資を実行したものであり,その際の担保物件の評価も,形式的なものにすぎず,実勢を評価したものではなかったし,A造船の新役員や船木一族にも保証人となってもらったとはいえ,その資力調査は行われた形跡がないというのであるが,被告理事らは,これらの事情を全て知悉しつつ,本件各融資を実行したものであるから,本件各融資が赤字填補を目的としていたとか,無担保融資であったとかの一事をもって,直ちに被告理事らに善管注意義務の違反があるということはできず,被告理事らがかかる事情を知悉しつつ,敢えて本件各融資を実行したことが,その当時の状況や信用金庫の存立目的等に照らして適切な裁量の範囲を逸脱し,社会的にも許容されるものでない場合に初めて被告理事らに善管注意義務の違反があるというべきである。
そこで,上記観点から検討するに,A造船は,毎月,支払手形決済資金の調達に追われる中,船木社長が脳梗塞で倒れて入院し,経営の中核を失ったことから,早期に経営陣の体制を整え,支援を実現させなければ,事業の継続が期待できない状況に陥り,しかも,同月末の支払手形決済までわずか10日間しか残されていない状況下,日本砂利ほか6社で構成する債権者団代表者らは,平成7年9月20日,前記のとおりの再建計画案をもって被告信金の支援を要請してきたものであり,被告信金としては,同代表者らが持参した再建計画案を留保したままこれを長期間放置することはできず,当時の状況下において,砂田社長らから口頭で聴取した情報に基づき,再建計画や融資金の回収可能性等を検討した上,経営陣の体制を整えさせて支援を実行するのか,それとも支援要請を拒否してA造船の破綻をやむなしと判断するのかを早急に決定しなければならず,緊急の判断が求められたものであった。
このような緊急の判断が求められた当時の状況下においては,本件各融資を実行した時点において書面による明確な再建計画や返済計画が確立しておらず,返済計画に至っては,前示の検討からしても,あまりに楽観的にすぎる見方をしていたとはいえ,船木社長の入院という突然の出来事が発生し,A造船においてすら,試算表作成の暇もないまま支援要請をせざるを得なかったことにかんがみると,まことにやむを得ない面があるというべきであるし,また,人的物的担保の調査検討が十分にできなかったことについても,同様にやむを得ない面があるというべきであって,安全性の原則を過度に重視するあまり,上記回収可能性を的確に把握した上,担保をフルカバーする安全な融資を常に要求したのでは,十分な担保を持たないことが多い中小企業を主たる顧客とし,地元産業の発展に寄与することが求められる被告信金の存在意義を失いかねないところである。特に,被告信金は,それまでA造船の支援に消極的であったにもかかわらず,その方針を変更して急遽A造船の支援に踏み切ったのは,上記債権者団からの支援要請があったことを最大の理由とするものと認められるのであるが,前示の事実によれば,同債権者団を構成する日本砂利は,約16ないし18億円の融資残高のある取引先であり,その代表者である砂田社長の力量は,その当時においては,高く評価されていたし,他の6社もそれぞれ地元経済界で実績を認められた企業であったことがうかがわれるほか,A造船の債権者は合計で27社に達していたのであるから,被告信金が支援を拒絶し,A造船が倒産する事態に陥った場合には,その影響するところは相当に大きく,ひいて,連鎖倒産等により地域経済全体にもその悪影響が及ぶことが容易に推察できるというべきである。したがって,被告信金によるA造船の支援は,このような視点からも評価されなければならず,上記のとおり,船木社長からではなく,A造船の債権者団からの支援要請であることを重視し,これらの債権者多数を含む地域経済への影響をも考慮してA造船の支援に踏み切った被告理事らについて,適切な裁量の範囲を逸脱した行為があったということはできない。
そして,被告信金は,書面による明確な再建計画や返済計画を徴収していなかったとはいえ,A造船の支援に踏み切るまでに砂田社長を初めとして種々の取引先から情報収集に努め,A造船の経営状況やこれを取り巻く業界事情等については,概ね正確な情報を入手していたと評価されるし,支援のための条件とされた前記事項も相当であり,さらに,本件各融資を実行した後も,被告信金の職員を出向させてA造船の経理を掌握し,経営状態を的確に把握できるような措置を講じていたことが認められるのであって,この面からは,被告信金は,それなりの努力をしているし,情報収集の方法,支援の条件,再建にあたってとられた措置とも合理的であったということができる。
一方,被告信金は,平成5年3月期,平成6年3月期及び平成7年3月期にいずれも過去最大の税引前利益(平成7年3月期約25.4億円)を上げるなど業況は良好であったし(当期利益でいうと平成5年3月期約15.1億円,平成6年3月期約14.9億円,平成7年3月期約17億円であり,平成7年3月期の県下法人申告所得番付で7位),平成7年3月期の特別積立金が約162億円(うち体質強化積立金約14億円),平成8年3月期の特別積立金が約178億円(うち体質強化積立金約17億円)であり,平成7年3月期の自己資本は193億円(平成8年3月期は201億円)であったことが認められるから,本件各融資の当時は,融資委員会における経営判断として,地域経済の維持,繁栄のためには,ある程度のリスクを冒してでも本件各融資の実行に踏み切るだけの余力があったといえるのみならず,被告信金の平成7年3月期の大口融資限度額は15億円(信用金庫基本通達)であり,9億1000万円(実質6億8400万円)程度の融資であれば,この限度額を相当下回るものであったし,その貸し倒れリスクも,上記のとおりの当時の被告信金の財務内容に照らすと,これを脆弱にするほどのリスクであったということもできない。したがって,この点からも,被告理事らの裁量の幅を広く考えても差し支えはない。
さらに,A造船の再建が挫折した原因は,確かな事実を確定することはできないものの,前示のとおりの種々の要因が複合的に作用し,利益率の高い修繕業務への転換を果たすことができなかったことにあると考えられるのであり,そうであれば,A造船の再建が挫折し,本件各融資金を回収することができない事態となったのは,融資判断の誤りというよりも,本件各融資実行後のA造船の経営にあったのではないかと疑われるところでもある。
(6)  以上の次第によれば,被告理事らは,平成7年9月20日以降,前記債権者団からA造船の支援要請を受け,同月末までという限られた期間内に本件各融資の実行の適否を判断すべき状況下に置かれていたこと,その中で,被告理事らは,できる限りの情報収集に努めてほぼ正確にA造船の経営状況や業界事情を把握し,相当な支援条件を提示し,再建にあたっても,被告信金の職員を出向させてA造船の経理,経営状況を的確に把握する措置をとっていること,当時,被告信金は,業績が良好で,その財務内容に照らしても,地域経済の維持,発展のためには,ある程度のリスクを冒してでも本件各融資の実行に踏み切るだけの余力があったし,これにより,被告信金の財務内容を脆弱にするほどのリスクがあったとはいえないこと,上記のとおりに緊急の判断が求められた当時の状況下においては,再建計画や返済計画が明確化するに至らない段階で支援の適否を決しなければならず,この点において,被告信金があまりに楽観的でありすぎたことは否めないとしても,被告理事らは,まさにそのような状況下での決断を求められたのであるから,上記のとおりに楽観的でありすぎたこともまことにやむを得ないというべきであり,これを理由として被告理事らを責めることは酷にすぎることがそれぞれ指摘されるところである。そして,以上に加えるに,被告信金がA造船支援の条件の一つとした出資金4億5000万円については,そのうち3億2000万円の出資がされたにとどまったのであるが,3億2000万円の出資金というのは,客観的には,支援の適否を決するにおいては非常に微妙な金額であり,同額をもって上記条件に適合しないとするのは簡単であるにせよ,それはA造船の再建が挫折した後にされる判断にとどまるのであって,むしろ,当時の被告理事らにおいては,上記3億2000万円は,A造船の存亡の危機に際し,債権者団がその再建を図るべく集めた貴重な資金であり,かかる再建資金の提供を受けながら,なお支援を拒絶するというのは,前示のとおりの信用金庫の存立目的に違背する方策と考えられたであろうと推察される。そうであれば,必ずしも再建計画や返済計画が明確化するに至っていない当時の状況下にあっても,A造船や地域経済のため,被告理事らが上記のとおりの多少のリスクを冒してA造船の支援に踏み切ったことも,社会的に十分許容されるところと認められる。
したがって,被告理事らが本件各融資を実行したことについて,これが適切な裁量の範囲を逸脱し,社会的に許容されない行為であったということはできないから,善管注意義務に違反するということもできない。
なお,原告RCCは,被告理事らは,A造船の再建に消極的であった砂田社長を名目上の新社長に就任させ,同社の実質的な経営権を与えていなかったなどと主張するが,前示の事実によれば,当初消極的であった砂田社長も,平成7年9月22日にはA造船の代表者就任を約していたし,代表者就任後も営業活動に熱心に携わり,相当の成果を上げたことが認められるから,原告RCCの上記主張を採用することはできない。
4 結論
よって,被告理事らには,本件各融資を実行するにあたって善管注意義務に違反したと認めることはできないから,原告RCCの丁事件各請求中この部分に係る請求は,理由がない。
(アジア債関係)
二 アジア債についての本件各投資に関する債務不履行責任
1  事実経過
証拠(〈証拠等略〉)及び弁論の全趣旨によれば,次のとおり認定できる。
(一) 市場金融部
被告信金の市場金融部には,平成2年ないし平成3年ころには,「余資運用方針」(丙27),「有価証券運用権限規程」(丙28),「有価証券等運用管理基準」(丙39の1)の内部規程が存在したが,組織に即した権限規程は整備されておらず,運用枠については,「有価証券の運用方針」と題する表があったのみであり,専ら原告甲野が運用方法を決定し,事後に他の役員に書面回覧の方法により報告していた。
取引内容は,「当日運用報告書」により他の役員に報告され(毎日),また,保有する有価証券とデリバティブ取引のポジションが報告書にまとめられて役員に報告され(10日に1回),役員説明会で担当部が状況説明をしていた(四半期に1回)。(丙11)
(二) 被告信金における資金運用
(1) 被告信金の行った金利スワップ取引の状況は別表6のとおりである。
(2) 平成4年3月期(平成3年4月から平成4年3月まで。なお,丙34等では,この期間を「平成3年度」と呼んでいるが,決算月を基準として「平成4年3月期」と呼ぶこととする。以下同じ。)
ア 被告信金は,平成4年3月からデリバティブ取引(主に金利スワップ取引)を開始し,6か月毎に発生する金利スワップの受入利息と支払利息の差額決済による実現損益(以下「キャリー損」あるいは「キャリー益」という。)として,平成4年3月期には約160万円のキャリー益を計上した。
イ 「みなし元本×(受け実勢レート−払い実勢レート)×残存期間」の算式により得られる額をスワップ取引の評価損益という。この評価損益は,仮定損益であるが,現在の実勢レートが将来にわたっても不変である場合には,評価損益を残存期間で除して算出される当期のキャリー損益として年々顕在化していくことになる。
ウ 被告信金は,平成4年3月期に,国債等債券売却益として約1億2710万円を計上するなどして約7億円の当期利益を計上した。
エ 被告信金の行った金利スワップ契約の相手方は,顧客(顧客とのスワップ取引は平成5年3月から開始した。)である株式会社清輝堂及び丁田勝夫を除けば,すべて証券会社であった。
被告信金がアセットスワップとして金利スワップ契約を利用したものは,被告信金が融資先へ売り出した固定金利ローン(商品名VIP安定ローン)とキャップローンの金利リスクをヘッジするために利用したものがあった。また,それ以外にも貸金や債券の金利リスクをヘッジするために利用したとうかがえるスワップ契約もあった。
また,被告信金は,預金に関連して,商品名「わくわく定期」(平成8年5月から開始)という預金に高利息を確保するため金利スワップ契約を利用していた。
被告信金の契約した金利スワップ契約は,金利リスクをヘッジするという構造ではあるが,なかには収益を上げるためのディーリングというべき取引もあった。(丙11,乙イ1)
(3) 平成5年3月期(平成4年4月から平成5年3月まで)
被告信金は,平成5年3月期に,国債を大量購入し,金利が大幅に低下(平成2年8月6.0%,平成3年7月5.5%,同年11月5.0%,同年12月4.5%,平成4年4月3.75%,同年7月3.25%,平成5年2月2.5%)したため,国債の含み益が急増し,国債等債券売却益約17億2000万円を計上し,このため約15億1234万円の当期利益を計上した。
被告信金は,平成5年3月期から平成6年3月期にかけて,スワップ取引を急激に拡大させていき,そのため,平成4年3月期には70億円であったスワップ残高が,平成5年3月末時点で1163億円,平成6年3月末時点で4687億円にまで上った。
(4) 平成6年3月期(平成5年4月から平成6年3月まで)
ア 平成6年1月,日経金融新聞にて,被告信金のスワップ取引が紹介され,預金量1400億円の中堅信用金庫である被告信金の金利スワップ残高が平成5年12月時点で4400億円に上り,預金量の3倍に達する金利スワップ残高は地銀以下の業態では群を抜く等の記事が掲載された。
イ 被告信金は,平成6年3月末,スワップ残高を4687億円にまで拡大させ,決算期ベースでのスワップ残高がピークとなり,金利低下傾向は終息していなかった(平成5年2月2.5%,同年9月1.75%)ため,当期のスワップ取引のキャリー損は約6億円となったが,国債の運用益は増加していたので,国債の売却益を実現させて,14億8859万円という高水準の当期利益を計上した。
(5) 平成7年3月期(平成6年4月から平成7年3月まで)
ア 被告信金は,原告甲野主導の下,平成6年7月に長期金利が一時的に上昇した際,この傾向が続くものと予測して,金利スワップ契約のポジションを「固定金利払い,変動金利受け」(被告信金が固定金利を支払い,相手方から変動金利を受け取るもの)に傾け,国債運用を縮小し,アルゼンチン,ブラジルなどの中進国の国債等を購入して行った。
イ 平成7年3月期は,金利低下傾向が収束し,国債売却益が延びなかったが,スワップ取引のキャリー益が約2億円であったこと,平成6年8月に西大寺信金を合併したことにより貸出金が増大し,貸出金利息が増収となったこと等により,過去最大の約17億円の当期利益を計上し,当年度の県下法人申告所得番付けで被告信金が7位に躍進した。
(6) 平成8年3月期(平成7年4月から平成8年3月まで)
ア 平成8年3月期は,期中2回にわたって公定歩合が引き下げられ(平成7年4月1.00%,同年9月0.50%),金利が1%に満たない超低金利時代に入り込み,被告信金の国債売却益は増加したが,スワップ取引のキャリー損が約40億円と大幅に膨らみ,これを国債等の債券売却益約27億円によって穴埋めし,当期利益は半減し,約8億円に落ち込んだ。しかし,それでも被告信金は県内の信用金庫では最も高い収益を維持していた。
イ 被告信金は,平成7年7月から,通貨スワップ取引を開始した。
ウ 平成7年6月末ころから,急速にディーリングスワップをアセットスワップとして管理することが増加した。年々キャリー損が発生するディーリングスワップの対策として,固定払スワップをアセットスワップに区分変更し,これにハイクーポンの債券を対応させ,この債券の利益によりスワップのキャリー損を穴埋めするという仕組みであった。(乙イ5)
(7) 平成9年3月期(平成8年4月から平成9年3月まで)
ア 平成8年4月1日付け「有価証券の運用方針」によれば,運用担当者は,百沢貞男(係長,ディーリング,ヘッジ業務),千原弘男(係長,ヘッジ業務・管理と現物の管理),億村(アシスタント),兆野,京町(バックビジネス)であり,運用協議者及び決裁権限者は,原告甲野及び被告一色であった。市場金融部の実情は,原告甲野が責任者であり,百沢,千原がこの部署の主要な業務を担当していた。アジア債については,原告甲野の担当とされ,他の役員には「当日運用報告書」で事後承認を得ることで足りるものとされていた。(丙29の3,乙イ6)
イ 平成9年3月期は引き続き超低金利時代が持続し,平成8年8月ころ,従来の金利上昇の金利観を変更し,固定受けスワップ契約12件合計300億円分を契約し,平成9年1月までに固定受けスワップ10件250億円を解約して益取りしたが,変動受けスワップの支払利息が多く,結局,スワップ取引のキャリー損約20億円を計上した(さらに平成9年4月末に固定受けスワップ1件を解約し,有利なポジションにある固定受けスワップが残り1件となり,被告信金は,再び金利低下に弱いポジションに戻った。)。
一方,債券運用は,金利低下により含み益を拡大させていたアルゼンチン,ブラジルなどの中進国の国債を大量に売却し,ハイクーポンのアジア債を大幅に購入し,これらの国債売却益とアジア債による利益配当金増により当期利益は再び10億円の大台を回復した。
ウ 被告信金の平成8年6月までの外債の購入銘柄は,トルコ,アルゼンチン等の中進国の国債,欧米銀行債や一流外国企業債を主体にしており,残高も181億円程度に留まっていた。途中売却もしばしば行っており,特に購入額が大きい外債は償還日まで保有することは少なかった。
エ 被告信金は,平成8年7月からペレグリン証券会社と取引を開始したが,原告甲野は,同年4月に同社開催のセミナーに参加し,同年9月30日から1週間,同社の招待でインドネシア,タイ,香港の現地企業を視察し,その後,被告信金の有価証券購入が本件アジア債に特化するようになった。被告信金は,スワップのキャリー損を国債売却益等で埋め合わせをしてきたが,国債等の利益では処理し切れなくなってきたため,平成9年3月期及び平成10年3月期には,国債よりもハイクーポン商品であるアジア債を大量に購入して,キャリー損の問題に対処しようとした。(丙34,乙イ1)
オ 平成8年7月4日の全信連岡山支店での資金運用担当役員会議で配付された資料にはアジア債の短期債に関する次の指摘があった。この会議には原告甲野が参加し,この資料は役員に回覧された。(丙47,乙ア7)
(ア) アピール点として,①3ないし6か月の短期間で2%以上で運用することができる,②銀行が発行体の場合は,BISのリスクアセットレシオは20%でカウント可能と考えられる。
(イ) リスクの所在として,①発行債券の担保はアジアの私企業ネームで,無格付けのものも多い。ディスクロージャー制度が未発達のため,短期とはいえ,リスク管理が難しい。②担保債券の発行体の信用リスクに加えて,当該企業所在国のカントリーリスクを負う。特に外貨準備高が大幅に減少した場合の政府による対外支払規制。
(ウ) 意見として,担保債券の発行体のほとんどは信用リスクがBB格以下もしくは無格付けであり,かつ,当該国の為替政策等によるトランスファー・リスクが存在することから,「短期運用だから大丈夫」という安易な考え方は危険です。リスクの高さを認識した上で検討すべきと考えます。
カ 平成8年10月,アジア債が始めてアセットスワップとして利用され,アセット対応債券366億円のうちアジア債が16%を占めた。(乙イ5)
キ 平成6年4月11日時点では10億円であったアセットスワップ残高が,平成8年12月末日には425億円に達しピークとなった。
ク 被告信金は,平成9年3月,公金預金約61億円を期間3か月,レート1.14%で落札し,その資金で本件アジア債を購入した。百沢は,この際,原告甲野に対し,これ以上アジア債を購入すると支払準備率が100%を下回ることになる旨進言した。(丙34,49)
ケ 平成9年3月末時点では外国証券に占める本件アジア債の比率は,48.20%となっていた。(丙34)
(8) 平成10年3月期(平成9年4月から平成10年3月まで)
ア 被告信金は,平成10年3月期に仕組みスワップ(金利交換の時期を数年後にするもの)を取り入れて損失の実現を平成11年以降に先送りする処理をした(なお,評価上の損失を解消することはできていない。)。
平成9年4月1日付け「市場金融部運用方針」では,資金運用委員会が設置(委員は,理事長及び専務理事,つまり,亡昭男,被告一色及び原告甲野である。)され,ロスカットルールが記載された。ただし,スワップに関してはロスカットの規定はない。なお,原告甲野は,休職に入る前は,ロスカットルールの設定には反対していた。(丙11,29の4)
イ 平成9年4月30日時点でのアセットスワップ額は370億円であり,それに対応する債券として約374億円の債券が準備され,その債券のうち約28%(約104億円)がアジア債であり,その余は,メキシコ,トルコ,アルゼンチン等の中進国の国債等であった。
アセットスワップ対応債券の平成8年3月21日時点の平均クーポンレートは,5.19%であったが,アジア債が対応債券になった後の平成9年4月30日時点での平均クーポンレートは5.8825%に上昇した。(乙イ1別紙その11,乙イ5)
ウ 本件アジア債は,支払準備資産非適格であり,平成9年4月末には支払準備率が84.37%まで低下した。この際,被告四谷が原告甲野に注意を促した。(丙30,34)
エ 原告甲野は,過去に手術した胆のう付近に再び痛みを覚えるようになり,自宅療養の必要性を感じたことから,平成9年4月24日の理事会において退職の意向を表明したが,同年5月の連休明けころ,亡昭男から慰留され,同人と協議した結果,1年間は退職を見合わせ,満額の月額報酬(165万4000円)を受給し,月に一回の支店長会議には出席して金利情勢の説明等をするという条件で休職することになった。
そこで,原告甲野は,同年5月の連休明けから出勤しないようになったが,同年6月下旬の総代会で専務理事(資金運用担当理事)に再任された。なお,原告甲野は,休職にあたり,被告一色らに対してスワップの処理や本件アジア債の処理等についての十分な引継ぎをしておらず,月1回の支店長会議には同年6月,9月,10月の3回程度は出席したが,同年11月以降は出席しなくなり,2回ほどファックスで自宅に資料を送付させたり,同年11月21日の中国地区信用金庫協会主催の資金運用担当役員セミナーの講師を務めたほか,ときおり気の合う職員と麻雀,ゴルフ等に興じていた。(乙イ1,6,13)
オ 平成9年5月29日のアジア債保有高は,別表5のとおり最高値である約503億円に上り,同年5月末の外国証券に占める本件アジア債の比率は59.07%になった。
カ 原告甲野の休職後,明確な引継ぎがないまま,事実上,被告一色ら残りの役員らが市場金融部の業務を担当することになった。当時の資金運用委員会は,亡昭男,原告甲野,被告一色の3人で構成されていたが,原告甲野が休職に入ったことで,被告一色は,常務理事以上の役員の合議制にて市場金融部業務に対応することにした。具体的には,当時,預金業務推進担当役員を務めていた被告六田が百沢と協議・検討した上で,被告六田が常勤役員(被告一色,被告三井,被告四谷)に提言して了承を得,亡昭男及び被告二宮が後に追認するという形態であり,役員で中心的役割を果たしていたのは被告六田と被告一色であった。なお,同年9月に市場金融部運用方針を改定して,資金運用委員会の委員に「常務理事」を追加している。
被告一色らは,原告甲野が休職した平成9年5月7日ころ以降,支払準備率100%達成を目標に売却可能な非適格債券を売却して行き,本件アジア債については,ペレグリン証券会社から現地情報を入手する目的で比較的リスクの低い短期アジア債を購入するに留め,償還を受けることにより保有量を徐々に減少させて行き,他方で,支払準備資産である国債等を購入して行った。
なお,別表5の平成9年5月9日約定のAII債の購入3件は,原告甲野が休職前に着地買いで購入し,休職後に実行されたものであった。原告甲野が休職前に購入したアジア債(平成9年4月末時点に保有していたものに限る。)は,平均保有期間637日であり,ドル建てが多く,7%以上のハイクーポンのものが多かったのに対し,被告一色らの管理下で購入したアジア債は,平均保有日数約44日で,すべて円建て(為替リスクが発生しない。)であり,1%未満のロークーポンのものが多く,被告一色らは,このような慎重な姿勢で本件アジア債を購入していた。(丙39,34)
キ 平成9年7月からタイ通貨危機が始まり,間もなくこれがインドネシア経済危機に波及し,被告一色らは,情報収集をしながら事態の推移を見守っていた。なお,本件アジア債は,同年12月までは無事に期限に償還できていたが,年末ころより利払いが止まっていた。
しかし,その後,平成10年1月にPIHLが破綻し,これにより本件アジア債は,仕組み債としての処分は不能となり,解体(通貨スワップ契約の解消)して,償還があるまで原債券を保持するか,処分するかの措置をとらざるを得ない状況となった。償還については,既にアジア通貨危機により暴落した現地通貨での償還ということになり,為替リスクが顕在化していた(本件アジア債購入当初は,この為替リスクをペレグリン証券会社が負担するとされていたが,同社の破綻により,このリスクを被告信金が負担することになった。)。
そこで,被告信金は,本件アジア債の解体作業及び回収作業に従事することとなり,これらの回収不能分等については,強制償却(平成10年3月期は約11億円,平成11年3月期は約66億円,平成12年3月期は約66億円)をするに至り,この損失が被告信金の経営を大きく圧迫した。(乙イ8,乙ウ5,丙11)
ク 平成10年3月期は,このアジア債の損失や約12億円のスワップのキャリー損などにより経常利益が大幅に落ち込み,退職給与積立金約3億円を取り崩して,なんとか当期利益約2億円を計上した。(甲15,51)
ケ アジア通貨危機とPIHL破綻の状況
(ア) 平成8年7月下旬,インドネシアでジャカルタ暴動が発生した。当時のマスコミの論調では,「大統領は国軍を掌握しており,政権はいまだ強固であり,もともと所得格差などによる内政不安は従来から存在していた訳で,今回のことでインドネシアの投資リスクが急に高まった訳ではなく,経済・外交政策に大きな変更がない限り心配はない」とする分析が主流であった。
タイは,平成8年後半から,自国通貨バーツの下落に見舞われていた。(乙イ13,19)
(イ) 平成9年5月11日,アジア開発銀行は,経済のグローバル化と技術革新で今後30年間,アジアは持続的経済成長が可能との楽観的な見方を示し,「アジアの時代」が一段と明確になると発表した。
同年5月29日,インドネシア総選挙にてスハルト政権与党のゴルカルが勝利を収めた。これで政情は安定し,平成10年3月に予定されていた大統領選挙でスハルト現大統領の七選に弾みがつくものと考えられた。(乙イ13,15,16)
(ウ) 平成9年6月22日,世界銀行が97年版レポートを発行し,インドネシア経済についてインフレ率を6.6%に抑えながら実質国内総生産(GDP)を7.8%伸ばしたとして「及第点」を与え,インドネシアが平成17年までに世界の経済大国の上位二十か国に入る可能性を示したが,他方で,最近のタイバーツ下落を暗に示して,インドネシアが外貨準備が多くても油断はできないと注意喚起した。この当時,被告理事らは,インドネシア経済について政情絡みでの不安を感じていなかった。
PIHLは,同年6月30日,第1回円貨社債(利率2.6%)を公募で発行した(PIHL公募債。支払準備資産適格である。)。被告信金は,このPIHL公募債を,同年6月30日に10億円分,同年7月31日に1億7820万円分購入した。(甲5,26,乙イ13,17)
(エ) タイ中央銀行は,従前まではタイバーツを米ドルに連動させる固定制を採用していたが,平成9年7月2日,これを廃止して変動相場制に移行し,バーツ安が進行した。この変動相場制への移行は,市場を重視した政策で,長期的にはタイ経済に好影響を与えるとの見方が多い一方で,国内総生産の8%にも達する経常赤字縮小などは容易ではなく,バーツ相場の落ち着きどころは見極め難く,経常赤字に悩む他の東南アジア諸国も通貨不安の波及を懸念しており,日本企業を中心とする進出外資が資産の目減りや市場縮小に直面する事態も懸念されるという見方もあった。外貨建ての債務を抱えるタイ企業やタイを主要市場としている外資系企業には打撃となるとも考えられ,タイの企業を原債券発行体とするアジア債に不安が生じた。ただし,この時点で被告信金が保有していたタイ関連債券は,別表2記載のAII#245,#275の本件アジア債(原債券発行体タナヨン,合計14億4000万円)とタナヨンCB(約8億2400万円)の合計約22億6400万円のみであった。マレーシアやフィリピンは,海外投資家から「第2のタイになる恐れがある」とみられ,同月2日もバーツ急落を引き金にマレーシアドルとフィリピンペソの売りが優勢になった。
タイの通貨危機は,当初マレーシアやフィリピンに向かったが,インドネシアは平成9年7月時点では比較的安定していた。
タイの通貨危機について,平成9年7月10日ころ,日本,米国,国際通貨基金(IMF)等がタイ政府に金融支援する見通しとなった。このころ既にタイ政府は,日本の民間金融機関に緊急融資への協力を要請しており,さくら銀行(当時)等の有力銀行はこれを受け入れる方針で検討を進めていると報じられた。
IMF当局者は,同年7月27日,バンコク入りし,1週間にわたってタイ当局と経済支援について協議した。同年8月4日にはタイ政府とIMFとの間で基本合意が成立し,タイ政府は同月5日ころ再建策を発表し,IMF等により大規模な支援がなされることとなった。同月21日,IMF専務理事らは,「今回の支援でタイの通貨不安が最悪期を脱したのは疑いない。」という見解を発表した。
タイ通貨危機に関して速やかに日本やIMFを始めとする金融支援の動きが相次いで報じられたこともあって,アジアの債券市場の動きは,同年7月,8月までは半信半疑であり,さほど債券市場に大きな影響は出ておらず,いずれまた現地通貨が戻るとの見方も少なくなかった。アメリカの投資家ソロス氏は,同年8月25日,アジア通貨危機について不正常な売買や通貨不安は間もなく収束する,我々は最近インドネシアのルピアをいくらか買った,市場の圧力で香港ドルの米ドルとの連動性が崩れることはないとの見解を示した。しかし,バーツ安はその後も続き,平成10年1月28日,2.42円にてバーツ安のピークとなった。
被告信金の百沢は,平成9年夏ころ,役員に対し,本件アジア債について「流動性がないから,このまま満期償還まで待つしかない。満額返ってくるとは思わないで欲しい」と説明した。(甲7,乙イ13,18ないし23,31,乙ウ5,証人垓山功男)
(オ) インドネシアは,平成9年8月14日に変動幅の公表を止め,完全変動相場制に事実上移行し,以後,ルピア安が進行した。この時点でインドネシアの企業を原債券発行体とするアジア債に不安が生じたといえるが,同年8月中はさほどルピアは下落していなかったため,被告理事らは,「インドネシアは石油,木材など輸出資源を擁する資源国であり,タイとは違う。ルピアが若干下落しても必ずしもインドネシアに不利に働くとは限らない。」との見方をしていた。
しかし,同年9月以降もルピア売りは止まらず,インドネシア政府は,これに対処するため,同年10月8日,IMFや世界銀行などに金融支援を要請する旨発表した。これを受けて,IMF専務理事は,「インドネシア経済のファンダメンタルズはしっかりしているが,これを機により堅実な経済政策を進める必要がある」と述べた。同月9日の新聞では,支援要請はタイに次ぐ動きで,東南アジアの通貨危機の深刻さが改めて浮彫になったと報じた。
被告信金は,同年10月27日,インドネシアに子会社を持っていた大和銀行から,原債券発行企業の現状情報を入手した。その情報によれば,APPは特に悪い風評もなく,問題がないこと,ポリシンドは最近期日が到来した債券については償還されており,短期的には問題がないこと,メディコ・エナジーは今後期待できる会社であり,現状,格付けを取得するには至っていないこと等が確認された。(乙イ3,24)
(カ) アジア債券の市場は,平成9年9月ころからアジア通貨危機の影響を受け,大混乱に陥った。
PIHLの株価は,平成9年7月から8月下旬までは,15香港ドルを上回る価格で推移し,同年8月末ころ,15香港ドルを割り込み,同年9月は13.5香港ドル付近で推移し,同年10月第3週に急落し,10香港ドルを割り,同年11月は8〜7香港ドルに,同年12月は7〜5香港ドルに下落した。なお,同年8月当時のPIHLの長期債格付けは,BBB+,短期債格付けはA−2であった。
平成9年10月にはアジア通貨危機が香港ドルにも波及し,同月22日には香港ドルが平成7年以来の安値を付け,これを受けて,株価が急落し,香港経済が動揺した。これが連鎖して同月下旬には日米欧の株式市場が急落した。(甲7,乙イ13)
(キ) インドネシア政府は,同年10月30日,IMFなど三国際機関と進めていた支援交渉がほぼ妥結し,翌日これを発表した。支援総額は200億ドルを超える見通しと報道された。これによりインドネシアの金融危機も収束の方向を辿るものと考えられた。誌上では,最近のルピアの相場は比較的安定しており,投資家はインドネシアとIMF等との交渉を見守っていたと考えられる,支援総額200億ドル以上と報道された同月30日のジャカルタの株価は急伸しており,当面はルピア相場の上げ材料になる公算が大きいと報じられた。
しかし,同年11月に入り,韓国のIMFへの支援要請や日本の証券・金融不安(北海道拓殖銀行の破綻,山一証券の自主廃業)など世界的な金融危機の連鎖が続き,同年12月上旬にはスハルト大統領が自宅静養を続けたため,同大統領の健康不安説を再燃させ,投機筋のルピア売り材料とされ,この結果,同年12月中旬以降,インドネシアルピアの独歩安の展開となり,平成10年1月27日,1.12円にてルピア安のピークとなった。(乙イ26)
(ク) PIHLは,株式取引部門で業績が悪化し,平成9年11月に人員削減を決定し,インドネシアなど東南アジアの企業への巨額の融資が焦げ付き,平成10年初めからの香港株式相場の急落で自社の増資計画が中止となり,資金繰りがつかなくなっていた。そして,香港の証券監督当局は,平成10年1月9日,PIHLに対し,経営悪化を理由に新規業務の停止を命じ(同月10日新聞報道),同社は,同月12日,経営継続が困難として会社清算のための法的手続に入ることを発表し(同月13日新聞報道),翌13日,香港の裁判所にて正式な清算手続が開始された(同月14日新聞報道)。同月13日の記者会見にて,同社の会長は,アジア債業務がルピア安の打撃を受けたことを認めた。なお,東京読売新聞では,インドネシアのタクシー会社への2億6500万米ドルの融資の回収の目処が立たなくなったのが破綻の直接の原因であると報じた。日本公社債研究所は,PIHLが清算を申請し,事実上のデフォルト状態が生じているとして,PIHL公募債の格付けをC(債務不履行が生じているの意)に引き下げた。
PIHLの破綻により,本件アジア債は利払い停止,処分・償還不能の状態に陥った。すなわち,本件アジア債の原債券発行体は倒産していないのに,取扱証券会社が破綻することで,原債券発行体がペレグリン証券会社に回金しても,被告信金に償還金が渡らないという事態が生じた。(乙イ13,乙ウ4,丙11,141の2,24)
(ケ) 被告理事らは,タイ通貨危機が始まってPIHLが清算手続に入るまでの間,本件アジア債がスワップのキャリー損対策として必要と考え,ペレグリン証券会社に売却することはしなかった。また,本件アジア債は,スワップが間に絡んでいるため,たとえペレグリン証券会社に不安を感じても,原債券を他の証券会社に移すためにはスワップを再構築する必要性があり,そのため,本件アジア債の取扱証券会社を変更することは極めて困難であった。(乙イ13)
(コ) 原告甲野は,平成9年7月ころ,タイ通貨危機の報道を聞き及び,被告信金保有の本件アジア債の動向が気にかかったが,被告一色らから何の連絡もなかったので特段の措置を講ぜず,平成10年1月にPIHL破綻の報道に接して初めて被告信金に電話を架け,損害見込み額の把握をするように指導するなどした。
なお,アジア通貨危機は,平成11年初頭ころから徐々に立ち直って行った。(甲34,丙16)
(サ) 被告信金は,平成9年12月末時点で,PIHL発行の債券合計16億7700万円(公募債が約11億7800万円,私募債がPIHL#18のみで約4億9800万円),AII債合計192億6100万円を保有していた。(甲36)
コ PIHL破綻後の対処
(ア) 被告信金は,平成10年1月14日,日興證券より「ペレグリン証券破綻に拘る法的手続」と題する文書を取り寄せた。
同年1月21日ころ,被告信金において市場金融部役員説明会が開かれ,被告一色が白板に「自己資本200億円やられた」と書いて保有アジア債についての状況や損害発生見込額を説明し,役員の責任分担についても協議され,原告甲野の退職金を支給しないという意見や,役員全員の責任であるとの意見が出された。この際,PIHL発行の債券合計16億7700万円(公募債とPIHL#18)のうち8.4億円について償却を要すること,AII債合計192億6100万円については,平成9年末ころより利払いが止まっており,回収予想率は60%弱であり,原債券発行体は倒産していないので時間をかけて回収をはかることが説明された。
被告一色は,同年1月28日,原告甲野とともにインドネシア投資セミナーに参加し,全信連に本件アジア債の一覧表を渡して対応策の検討を依頼した。(甲35,乙イ2,8,乙エ10)
(イ) 被告信金は,同年2月5日,全信連から「ペレグリン関連債権等の保全手続等について」と題する書面を受領した。これには,①PIHL公募債約11億7800万円については,社債管理会社(日興信託銀行ほか)を通じて保全手続を行う,②PIHL発行のユーロ円債(PIHL#18)約4億9800万円については,社債管理会社が設置されているか否かを確認の上,設置されていない場合は被告信金自身で債権届出書を提出するなどの保全手続を行う,③AII債(13件)については,AIIが債権届出書を提出するなどの保全手続を行っているか否かを確認の上,行っていない場合は被告信金自身で保全手続が行われるように促す,④AII債の担保債券については,AIIが保全手続等を行っているかを確認の上,行っていない場合は被告信金自身で保全手続が行われるように促すなどと記載されていた。
亡昭男は,同年2月12日,本件アジア債の処理につき支援を仰ぐため全信連理事長と面談した。
被告信金は,同年2月20日,特別目的会社を設立して本件アジア債の処理を行うことについて,リーマン・ブラザーズ証券会社に助言を求めた。(甲36,乙イ2,13)
(ウ) 被告一色は,同年3月2日,全信連に赴いて支援を要請し,また,三井安田法律事務所に赴き,AII債の仕組み,今後の回収方法,現地の裁判費用等について情報を得た。
被告一色は,同年3月5日,全信連と電話で協議し,リーマン・ブラザーズ証券会社との顧問契約は締結せず,全信連にアジア債回収の協力を仰ぐこととなった。そこで,被告信金は,同年3月中旬ころ,全信連とともに,本件アジア債等について調査を行った。この際,全信連岡山支店長から,6月の総代会で100億円程度の特別積立金を目的積立金に振り替える決議を要するのではないかと指摘された。(乙イ2,13)
(エ) 被告信金は,同年3月27日,PIHL発行の債券約16億円(PIHL公募債及びPIHL#18)のうち約8億3800万円を償却し,残りは体質強化積立金20億円を取り崩して決算を乗り越えるという方針を決め,平成10年3月期決算にて,上記を含めた約11億円分の債券を強制償却した。(乙イ1,13)
(9) 平成11年3月期(平成10年4月から平成11年3月まで)
ア 被告一色は,平成10年4月,亡昭男,被告二宮,原告甲野の退任が予定されており,役員が手薄になること,大量のアジア債がデフォルト状態となって多額の損失が発生する見込みであること等の事情もあって,全信連に対し,アジア債処理の対応ができる人の派遣を依頼した(同年6月に被告五木が被告信金に派遣された。)。なお,全信連が試算したところでは,本件アジア債について約160億円の損失発生が見込まれていた。
また,被告一色は,同年4月17日,三井安田法律事務所を訪問してアジア債の回収を正式に依頼したほか,同年5月上旬,香港にあるPIHLの清算事務を担当する会計事務所等を訪問して情報収集に努めた。
被告信金は,同年4月より,常勤役員の月額報酬を減額することとした(休職中の原告甲野は月額約165万円から約98万円に大幅減額)。平成10年3月期に支払われた理事報酬は約1億4403万円(理事9人であるから平均1人1600万円となる。)であり,平成11年3月期に支払われた理事報酬は約1億1486万円(理事8人であるが,当期中に途中退任した理事の在任期間合計17か月分を加えると実質9.5人であり,平均1人1209万円となる。)であり,全体としてみれば,約25%カットされたといえる。(乙イ2,乙ウ5,乙オ29ないし32)
イ 平成10年6月19日の総代会にて,亡昭男,被告二宮及び原告甲野の退任が承認され,かわって,被告一色が理事長に,全信連から出向してきた被告五木が専務理事(市場金融部の責任者)に就任し,被告三井が専務理事に昇格した。
被告信金は,この総代会において,特別積立金や退職給与積立金を取り崩すなどして,これを55億5000万円の体質強化積立金とすることを決定した(体質強化積立金を取り崩すのは理事会の判断のみで可能であるので,平成11年3月期決算にて赤字決算を回避するための準備として行ったものである。平成10年3月期決算時に存した体質強化積立金20億円と併せると合計75億5000万円となった。)ほか,退任理事の退職慰労金については,理事会に一任するという定型的な決議を行ったが,この総代会の開催以前から既に「原告甲野の退職金は半分にすべき」等の議論がされていたところ,そうすると亡昭男の退職慰労金まで減額せざるを得ないという問題もあって結論が出ないまま総代会の日を迎えたため,上記のような定型的な決議となった。(丙69,乙イ2)
ウ 被告五木は,平成10年7月ころから,朝会にて退職慰労金支給の問題が話題になる度に,原告甲野をはじめ全役員に経営責任が問われるべきであるとして,退任役員全員に対して退職慰労金を支給すべきではないと主張していた。
被告五木は,同年7月22日,資金運用状況報告会にて,資金運用状況の説明をしたほか,リスク管理規定の枠組みの再構築について,他の役員と協議した。
被告五木は,同年7月ないし8月ころ,他の役員に対し,被告信金が近い将来,自己資本率4%を下回る可能性が高く,そうすると監督官庁による早期是正措置の対象となること,合併も視野に入れるべきであること等を説明した。
同年8月,インドネシアのダルマラは,その発行する公募債を債務不履行に陥らせ,倒産した。(乙イ11,乙ウ5,丙41の2)
エ 平成10年9月ころ作成の「ペレグリン関連有価証券等の状況」と題する表には,AII債の原債券発行体の業況調査の概要が記載されていた。つまり,タナヨンは業況不調,ダルマラはデフォルトの風評あり,Putra Surya Perkasaは経営危機の風評あり,メディコ・エナジーはデフォルト,倒産の風評あり,ポリシンド,APP及びMathahari Putra Primaは,業況に懸念少ないとされていた。
同年10月22日,本件不支給決議がなされた。なお,同月26日,退任役員に対し,1人あたり100万円の餞別金が支給された。(乙イ1,丙11)
オ 被告五木は,平成10年11月26日,資金運用状況報告会にて,資金運用状況の説明をしたほか,原債券発行体をAPP社とする本件アジア債(AII債)について,ペレグリン証券会社とのスワップ契約を解体することにより原債券を被告信金が保有することの是非等について説明し,他の役員らと協議し,提案どおりスワップ契約を解体して原債券を保有するという方針が決まった。
そして,被告信金は,三井安田法律事務所に依頼して,本件アジア債の解体,回収作業に従事した。
被告信金は,同年11月初旬,常勤役員会で合併やむなしとの結論に至り,同年12月初旬,当時玉野信用金庫を合併しようとしていた岡山相互信金に対し,被告信金も合併に含めるよう正式に依頼し,同月中に,合併の基本合意がなされた。(丙41の1,乙ウ5)
カ 原告甲野は,平成11年2月8日,当庁に甲事件訴訟を提起した。
キ 平成11年3月期は,66億円を強制償却(うち本件アジア債の償却額約62億円)し,経常損失約77億円を計上したが,平成11年4月に金庫の合併が予定されていたので信用不安が生じることを避けるために,体質強化積立金75億5000万円を取り崩して特別利益に計上し,当期利益約3億円を計上して体裁を整えた。(甲51,丙11,52)
(10) 平成12年3月期(平成11年4月から平成12年3月まで)
ア 平成12年3月期は,被告信金が独自で行った最後の決算であり,スワップは相変わらずキャリー損を計上し続けており,有価証券運用においては,新たなリスクテイクを行わないという前提で,アジア債の解体と回収作業を主に行った。回収にあたっては,原債券発行体と個別に交渉し,少額でもいいから少しずつ回収するしか方法がなかったこと,現地通貨が下落していること,スワップの解体費用がかかること等から,現実の回収額は額面よりも大幅に少ないものであった。
ただし,AII#479については,解体前の状態のまま,平成11年5月11日,購入額の半分である約12億円でING証券会社に売却することができた(別表4−1)。(丙34,乙ウ5)
イ 平成11年4月,上記合併の基本合意が公表され,同年5月,被告信金の総代懇談会でこの合併に関する経緯が説明されたが,その後,被告信金の財務内容の不透明性が問題とされ,岡山相互信金の申入れで合併は延期されることになり,これが同年11月に公表され,結局,合併の話は頓挫した。
その後,被告一色は,増資して自力で再建する方策を考えた。被告五木は,非常に苦しい経営実態でそれを隠して増資を募るのは問題であると主張し,旧大蔵省中国財務局もこれを問題視した。
しかし,次年度から時価会計方式が適用されることで,不良債権償却の前倒し処理が要求されるようになり,被告信金は,時間をかけて事態の好転を待つことができず,平成12年3月期決算で,66億円を強制償却(うち本件アジア債の償却額約65億円)し,約166億円の当期損失を計上し,積立金を全額取り崩しても,約15億円の債務超過となり,自力での再建は困難と判断して,結局,増資することなく同年4月に破綻を公表し,平成13年1月を目処におかやま信用金庫へ事業を譲渡することを発表した。(乙イ2,5,乙ウ5,丙12,52)
(11) 平成13年3月期(平成12年4月から平成13年3月まで)
ア 金融監督庁は,平成12年4月14日,被告信金に対し,「経営責任明確化のため,弁護士,公認会計士等金庫関係者以外の第三者を活用した調査を行い,必要な措置を講ずること」等を命じ,被告信金は,この命令を履行するために業務監査委員会を設置した。(丙11)
イ 平成13年3月期は,清算事務所によって清算決算がなされ,スワップのキャリー損約36億円を計上したが,このスワップ損失は預金保険機構の資金援助により処理された。
ウ 被告信金は,AII#480,#435を原債券に解体した上で,平成12年10月16日実施のバルクセールの際に,日興ソロモンスミスバーニー証券会社に売ることができた(売却代金合計約14億1500万円。これは購入金額の33.5%に相当する。)。
(三) 被告信金に対する当局の指摘・指導等(乙イ5,丙11,19,24ないし26)
(1) 日銀岡山支店長は,平成4年12月11日,被告信金に対する考査の結果,①年度間の運用方針を全く策定していないほか,日常取引について「運用内容報告書」による事後報告が常態化しており,至急改善すべきである。投資対応が一部の役員に任せきりとなっており,責任の所在を明確にし,組織的な投資決定・運用管理体制を整備する必要があろう。②一般債券等の現物取引について,保有限度枠の規程がない。取引決済権限規程もトップの関与が不鮮明で十分とはいい難い。運用ルール設定の必要性を示唆して久しいが,努力の跡が窺われない。最近,有価証券運用益への傾斜が目立ち,不測の事態が生じた場合の収益面へのインパクトの大きさを考慮すると,自己資本など自己の体力を総合的に勘案した場合のリスクテイク限度に関する検討を深め,総合的な限度枠を明定する必要がある。また,損切りに関するルールも定めていないが,これでは過去の大幅損失発生の失敗も活かせない訳であり,今後,ロスカットルールを検討し,組織的かつ機動的に対処できる体制を整備する必要がある。組織的なマーケット管理体制を整えると共に,有価証券運用部門の強化,関係者の専門知識の吸収,後継者育成といった点にも配慮が必要である等の所見を示した。
(2) 平成6年11月16日付け旧大蔵省中国財務局検査報告書では,①デリバティブ取引にかかる運用権限,事務手続,ロスカットルール等に関する規程が整備されていないこと,②運用担当者と管理の分離が明確でないこと,③有価証券運用枠が一応定められているが,それをオーバーした運用実績が認められ,事実上形骸化していること,④取引の報告の頻度及び内容につき充実・強化を図る必要があること等が指摘された。
(3) 日銀は,平成7年5月,デリバティブ取引に関する査定指針を策定した。
(4) 被告信金は,平成7年8月の日銀所見において,次の指摘を受けた。
① 被告信金の最大の課題は,デリバティブ取引にかかる多額の損失の処理,その再発防止のための業務運営・リスク管理体制の改善である。
② デリバティブ取引関係損失をもたらした原因は,単に金利観が外れたことだけでなく,被告信金の業務運営・リスク管理体制が取引の規模や内容に比して弱体であったため,損失拡大に歯止めが掛からなかったところにある。したがって,その再発防止のためには,オンバランス・オフバランス一体のALM体制を構築することを含め,デリバティブを中心とするマーケット部門全体について業務運営・リスク管理体制を整備することが必要である。しかし,その損失額の大きさに照らすと,むしろ現時点の緊急の課題は,(1)リスク管理能力及び経営体力の範囲内での取引に回帰すること,(2)その損失額を的確に予測し処分方針を確立すること,(3)問題のある顧客取引についての管理及び保全を強化することである。
③ その際,仕組み物スワップ取引については,保有し続けることに伴うリスクが大きい一方,被告信金では時価評価管理もできない状況にあることから,早急にその解約・整理等を検討する必要がある。また,デリバティブ取引関係損失の処分方針策定に当たっては,決算計数への配慮等のために,新たなリスクを招来する取引等を行うことがないように留意しなければならない。
④ 有価証券投資について,急速に外債投資を増加している点が目立つ。これは,含み損を抱えるスワップ取引と突き合わせヘッジ関係として保有することにより含み損を消すことを狙ったもののようであるが,残存期間や金利水準がマッチしていないため十分にその狙いが達成できていない上,高利回りと引換に新たな信用リスクを負担しているという懸念材料もあり,一時は,一国政府の発行債券で自己資本の半分近くに及ぶ金額を保有したこともある。デリバティブ取引と同様,現物有価証券取引においても,リスクを考慮した運用限度額の設定,投資物件の範囲(格付け基準等)の明確化,報告体制の整備などが必要であり,マーケット取引全体を睨んだ総合的な業務運営・リスク管理体制の整備が求められる。
(5) 旧大蔵省中国財務局は,平成8年10月2日,被告信金に対し,検査報告書にて,デリバティブ取引において多額の損失が発生したことから,利回り確保の意図から比較的格付けの低い外国証券を急増させた運用方針に即した取引が行われておらず,多額の含み損が発生しており,運用枠,運用権限,事務手続,ロスカットルール,対顧客管理等運用の基本となるべき規程も整備されていないこと,金利変動リスクを中心とした各種リスクを総合的に管理する組織体制となっておらず,運用担当と管理担当の明確な分離による相互牽制が機能していない上に,経営陣に対する運用実態及び損益状況の把握のための報告資料等の充実が図られていないなどリスク管理体制が不十分であること,よって運用方針に即した取引を行い,運用規程やALM体制の整備を促進し,リスク管理体制の充実・強化を図る必要があること等を指摘した。
(6) 被告一色は,平成9年4月26日,中国財務局長に対し,①市場リスク管理体制につき,これまで厳正かつ組織的な管理体制が不十分であったため,この度,「市場金融部事務取扱規程」,「リスク管理取扱規程」,「市場金融部運用方針」を制定し,これの厳重な遵守により,有価証券取引等の円滑な取引と適正な事務処理・管理を実施(平成9年4月から実施)します,②従来,10日毎にスワップポートフォリオを作成し,再構築コストを算出していたが,4月から日次ベースで作成し,リスクを管理します,③現在,市場金融部が四半期毎に役員に対して行っている役員説明会の内容をより充実させ,また,資金運用委員会(理事長,専務理事が構成員)を平成9年5月に発足(予定)させ,意思決定機関として位置付けて適正な運用を期する,④市場関連業務について,定期的に内部検査を実施する等の回答をした。
(7) 平成10年4月上旬から下旬にかけて日銀考査が実施され,日銀は,同年4月ないし5月ころ,被告信金に対し,巨額の不良債権の存在,収益力の著しい低下,流動性リスクの顕在化の懸念を挙げ,とりわけスワップ取引の大幅な損失と本件アジア債の不良化を指摘して,被告信金の経営の現状が未曾有の危機に直面している旨の所見を示した。
この所見を記した書面には「10年3月」と手書きで記入されているが,5頁には「おはよう定期」について平成10年3月末残高が記載されていること,11頁②には「この4月から」と記載されていることから,この書面は平成10年4月以降に作成されたものといえる。
(8) 業務監査委員会の諮問機関である「経営責任解明委員会」の平成13年1月30日付け報告書には,①被告信金は,金利スワップ契約による損失,アジア外債による損失,大口融資先(栄進建設,のだ)の焦げ付きの三要因により,破綻のやむなきに至ったものと認められる,②融資については,明らかに手続規定に違反した融資や担保評価に著しい不合理が認められる融資等は認められず,一般的には堅実な融資姿勢が取られていたと考えるが,一部の超大口不芳先(のだ,栄進建設,A造船等)の融資は合理性に疑問があり,このうち被告信金の破綻に直接の関係があったのは,のだ及び栄進建設への融資である,③本件アジア債への投資は,ピーク時平成9年5月に自己資本を超え支払準備率100%を割り込むまでに偏って一国の同種債券に投資したことは,投資対象企業の存立する国の経済に変動が生じたときに金庫に多大の損失をもたらし,金庫の存立を脅かす危険をはらんだものであり,協同組織である信用金庫の資金運用としては明らかに妥当性を欠くといわざるを得ない等と記載されている。
(四) 本件アジア債への投資
(1) 被告信金は,平成8年3月期までは国債投資中心の資金運用を行ってきたが,平成9年3月期以降,国債中心の運用から,高利回りの外国証券,とりわけアジアを中心とした債券投資にシフトしていった。具体的には次のとおりである。(丙11,35)

国債(%) 外国証券(%)
平成3年3月末  11.4  14.9
平成4年3月末  29.9  14.2
平成5年3月末  59.7  12.4
平成6年3月末  79.4  8.7
平成7年3月末  78.5  17.2
平成8年3月末  76.7  20.8
平成9年3月末  53.6  43.4
平成10年3月末  23.8  73.5
平成11年3月末  33.1  62.5
平成12年3月末  43.4  51.8

(2) 平成9年12月末時点の被告信金の保有外国証券は約433億円であったが,うち東南アジアの占める割合は次のとおり高かった(合計51.3%)。(甲36)
シンガポール 9.7%
香港 3.9%
タイ 5.2%
インドネシア 32.5%
(3) 本件アジア債の購入開始から原告甲野の休職までの間,本件アジア債を途中で(償還期前に)ペレグリン証券会社に売却したものは4件あった。
そのうちAII#231は,AII#378に乗り換える途中での売却(同年2月20日)であり,NZ$建の市場が小さいという理由でUS$建に変更するための乗換えであった。AII#194は,AII#435に乗り換える途中での売却(平成9年4月7日)であり,クーポンレートに差があるのみであって買い直しにすぎない。AII#314,#315の2件の売却(同年2月7日)は,ペレグリン証券会社からの売却要請に被告信金が応じたものであった。(乙イ1,丙50)
(4) 原告甲野は,本件アジア債への投資に当たって,目論見書を取得していなかった(この点,原告甲野は,目論見書を入手していたと供述するが,自身で現物を確認したことはなく,また,書証で提出されているのは「当庫不所持」と記載のある下記APP関係の目論見書のみであり,信用し難い。)。
(5) APP Global Finance Limited目論見書には,要旨,次の記載がある。(丙32)
① インドネシアについて考慮すべき事項として,APPグループの主たる事業は,インドネシアで行われており,インドネシアのインフレ,利率,税制,社会的不安定,政治的,経済的,外交的要因による悪影響を受ける可能性がある。具体的には,インドネシア政府の政権交代,政策変更,デモ,暴動等である。
② 為替レートの変動リスクについて,原債券発行会社は,そのほとんどの金銭収支をルピア建で行っており,甚大なルピアの平価が切り下げとなった場合には,インドネシア国内で販売される商品のルピア価格を上げることができないことになるか,又は,営業成績及びキャッシュフローに甚大な悪影響が起こると予想される。
③ なお,手書きで「当庫不所持」と記載されている。
(6) 別表2のAII#480の債券等は,原証券発行企業がAPP Global Finance Limited(上記債券等を発行するためにケイマン諸島に設立されたAPPグループの特別目的会社)であり,別表2ではシンガポールのカントリーリスクを負担する旨記載されているが,上記(5)の目論見書の記載に照らせば,インドネシアのカントリーリスクをも含む債券であったといえる。(丙32,40,乙イ1)
(7) 別表2のAII#541は,原債券発行体であるMatahari Putraがインドネシアのデパートチェーン経営会社であることから,インドネシアのカントリーリスクを負うといえる。(乙イ1)
(五) スワップ契約について
原告甲野は,スワップ契約が固定金利資産の金利ヘッジであり,保険料であると主張する。
確かにスワップ契約を開始した当初はそのような目的があったと推察されるが,金利低下で被告信金の思惑が外れ,スワップに年々多額のキャリー損が発生するという状態になってからは,たとえば,①アセットスワップ契約表266番は,対応債券を益取りのため途中売却され,スワップは残したまま,その後対応債券を購入して対応させたこと,②アセットスワップ契約表312番,313番は,スワップの約定日からかなり遅れて債券が対応されていること,③当初ディーリングスワップとして契約した311番,246番と350番は,後にアセットスワップに区分変更されて,そのスワップに対応債券があてられたこと,④アセットスワップ契約表328番と336番(合計100億円)は,約66億円分の債券が対応していたが,約34億円分の不足があり,ミスマッチが生じており,この不足分の債券を用意しなければならず,後手となっていたこと等の例(乙イ34)にみられるように,購入した債券のリスクヘッジのためにスワップを利用したという関係性は認められない例が多く,むしろ既にあるスワップの年々発生するキャリー損に対処するために,それに見合う金額と利率の債券を用意するという後手に回っている例が多い。
そうすると原告甲野の上記主張は,単にスワップ契約を取り組んだ当初の意図をいうものにとどまり,金利低下傾向が進んだ後の実態とすれば,被告一色らが主張するとおり,スワップの年々発生するキャリー損に対処するために,それに対応する債券を用意する必要があり,後手に回っていたといえる。
2  被告理事らの善管注意義務の内容
(一) 信用金庫は,有価証券取引を行うこと自体は認められているが,金融機関の本来の資金運用形態は融資業務であるから,預金受入,貸付,手形取引,為替取引という信用金庫の主たる業務に附随する範囲で有価証券取引が認められているにすぎない(信金法53条3項2号)。
なお,信用金庫基本通達(旧大蔵省銀行局)の「資金運用基準」7項(2)は,有価証券の保有については,その証券の確実性,流動性及び収益性を十分に考慮の上,銘柄を選定して保有するものとし,特に株式の取得に当たっては,いやしくも情実等による取得又は投機の目的をもった取得を行わないよう厳に注意するとともに,その取得が特定業種に偏寄することのないよう十分配慮し,資産の流動性,健全性の確保に努めさせるものとすると規定する(丙48)。
(二) 信用金庫の理事は,その信用金庫との委任契約に基づき,その事務を処理するにつき,信用金庫に対し善管注意義務を負い,この義務に違反して信用金庫に損害を与えた場合には,信用金庫に対して連帯して損害賠償の責任を負うことは前示一の2のとおりである。
そして,信用金庫の理事が投資業務を行うにあたっては,金融機関の経営の健全性と預金者保護の観点から,善管注意義務の一環として安全性の原則を厳守する義務を負い,投資業務を行うにあたっては,利殖性よりも償還の安全性,確実性を重視すべきであり,金融機関の財務体質を脆弱にさせるような危険性のある投資は許されないというべきである。
3  本件アジア債のリスク
(一) カントリーリスク
本件アジア債は,いずれもタイ及びインドネシアの現地企業が発行する社債に含有される信用リスクを引き受ける内容の外債であるが,現地企業が属する国が,カントリーリスクが高く社会的経済的インフラが脆弱と評価されている場合,特定の経済事象により当該国家の社会的経済的インフラが破壊された際に企業が被る影響がより大きくなるから,企業の社債の信用リスクを検討する際には,個々の企業の信用リスク以前に,当該国家のカントリーリスクが問題になる。
タイ国債の信用度は平成8年11月が28位,平成9年4月が30位,インドネシア国債の信用度は平成8年11月が39位,平成9年4月が41位であり(乙ア17,18),インドネシア国債の格付けはBBBであり(丙43),両国とも発展途上国であり,社会的経済的インフラが強固ではなかった。この意味で,本件アジア債のカントリーリスクは,先進諸国のそれに比すれば,相対的に相当程度高いものであったといえる。このことは全信連岡山支店で配布された短期アジア債の資料に当該企業所在国のカントリーリスクを負担する旨明記されていたことからもうかがい知ることができる。
(二) 格付け
債券格付けとは,債券の元本償還及び利払いの確実性を一定の符号によってランク付けしたものであり,最上級がAAA(支払の可能性が最も高い。)であり,最低がC(債務不履行になる可能性が最も高い。)であり,BBB格以上が「投資適格」とされ,BB格以下は信用力が低く,投資適格に満たず,一般に「投機的格付け」や「ジャンク債」と呼ばれている(丙16,60,61,204)。一方,無格付けの債券は,専門機関による信用リスク評価が行われていない債券であるから,従前から発行体の会社と取引があり,外部からの情報がなくとも信用状況について独自に判断することができるという特殊な場合を除き,通常は投資家の投資対象とならないから,第三者に売却することにより資金回収を図ることが困難であり,流動性の低い債券といえる。
本件アジア債自体に格付けはない。ただし,本件アジア債の原債券発行体であるポリシンド社(AII#264等)の格付けは,B格からBB格(ジャンク債)であり,それ以外の発行体は,BB以下あるいは無格付けであった(丙43,63,乙イ1の23)。
このように,本件アジア債は,それ自体に格付けがなく,原債券の発行体の格付けもないか,あっても低く,投資非適格商品であり,原債券の発行体の信用リスクも高いといえる。
(三) 高利性
本件各投資に係るアジア債の利率は,別表3のとおり,償還期間が1年未満の短期債を除き,4.3%ないし10.25%(償還期間1年ないし2年)である。短期債であっても,例えば6か月で9.125%,5か月で8.875%という高利なものもある。当時の日本国債の利率が10年物で2.5%であったことに照らし考えると,本件各投資に係るアジア債は,相当な高利の商品であるといえる。また,償還期間が長いほどリスクに曝される期間が長く,それだけリスクを伴う商品というべきである(実際,別表3のとおり,償還期間の短い短期債は無事償還が受けられているものが多いが,償還期間が1年以上の長期債はそのリスクが顕在化して償還が受けられていない。)。
(四) ペレグリングループの信用リスク
AII債は,ペレグリングループのAIIによりリパッケージされた商品であり,AIIが破綻すれば償還金が得られなくなる危険性があり,また,PIHL債は,PIHLが破綻すれば償還が得られないリスクがある。よって,本件アジア債は,ペレグリングループの信用リスクを負担する商品である。
PIHLは,1988年に設立された新興企業であり,アジアの高成長を頼みにしたリスクの高い積極的な経営戦略をとって短期間で高成長を遂げたものであり,平成6年のアジア株の主幹事ランキングで世界10位となり,香港地元資本としては最上位であった(乙イ13別添資料1)。しかし,PIHL公募債の目論見書には,事業経営上のリスクとして,競争の激しさや同社が市場において取引されるに至らない会社に対して将来上昇を見込んで多くの直接投資を行っている等の情報が開示されていた。この意味でペレグリングループは一定程度の経営リスクを抱えた企業であり,特にアジアのカントリーリスクが顕在化した場合には,ペレグリングループの経営にも影響を与える危険性があった。
また,ペレグリングループは,東南アジアの債券の取扱高が世界一に上り,購入者の要望に応じて外貨建てにリパッケージしてアジア債を売却していたというのであり,その為替リスクはペレグリン証券会社が負担する形態が多かったから,東南アジアの通貨が下落すると,その為替リスクが顕在化して,ペレグリン証券会社の経営に影響を与える危険性があった(証人甲野太郎5頁)。
このように,ペレグリングループは,アジアの経済事情や通貨事情の影響を受けやすいという一定の経営リスクを抱えた企業であり,本件アジア債は,このようなペレグリングループの信用リスクを負担する商品であったといえる。
(五) 流動性リスク
(1) 「流動性が高い」というのは,購入者として不特定多数が想定され,売却価格が個別交渉に左右されずに決定され,迅速に換価できることをいう。
証拠(甲8,34,乙ア6,乙ウ2,3,丙16,43,原告甲野10回149項)及び弁論の全趣旨によれば,公募地方債など一定の債券の売買は取引所で行われることがあるが,売買が成立した債券のほとんどは,店頭取引で売買が行われていること,店頭取引の場合,通常,仕切売買,つまり投資家の売注文に対して証券会社自らが買向かい,投資家の買注文に対しては自らが売向かうことによって約定を成立させていること,しかし,当該債券について流動性に問題が生じた場合には,証券会社といえども買向かうことはできなくなること,本件アジア債のような格付けのない商品は,通常は信用状況についての情報を独自に入手するのは困難であるから,投資家の投資対象にはなりにくいこと,本件アジア債は私募債(特定又は少数の投資家を対象として発行される債券)であり,一般に私募債は,債券市場がなく,必要なときに迅速に換価することが困難であり,また,公募債と違って届出の必要がなく,財務内容を公開する必要がなく,信頼できる情報が提供されないため,流動性が低いとされていること,本件アジア債のようなリパッケージ債は,他の一般債券と比較して流動性に欠けるものが多く,その流動性リスクを回避する有効な手段がないこと,短期債(償還期限が1年未満)のアジア債は投資家の人気があったこと,他方で,流動性が低く,中途売買が難しい長期債(1年以上)のアジア債は保有したくないと考えている投資家が多かったことが認められる。
(2) 原告甲野は,本件アジア債を他の証券会社(ソシエテジェネラル)に売却できるか打診したところ,本件アジア債がリパッケージ債であり,保管金融機関の変更やスワップ契約の変更などのコストがかかるため,簿価よりも低い値段しか付かなかったと供述している。実際,原告甲野は,本件アジア債をペレグリン証券会社以外の証券会社に売却した事実はないこと,本件アジア債は被告信金のために単独でリパッケージされた商品であることを併せ考えれば,本件アジア債をペレグリン証券会社以外の証券会社に売却しようとしても上記コストがかかるため簿価よりもかなり低い値段での取引となるから,本件アジア債の売却先は事実上ペレグリン証券会社に限られるというべきである。
原告甲野は,申出をすれば,ペレグリン証券会社が本件アジア債を「外国債券明細表」の「時価単価」欄記載の金額で買取りに応じることが想定されており,これを整理したものが「アジア債券価格推移表」(甲28)であると主張するが,外国債券明細表の「時価単価」欄の金額は,証券業協会が多数の証券会社に値付けをさせて公表する気配値のようなものではなく,単にペレグリン証券会社が自社商品を自分で値付けしただけであり,客観性のある価格ではなく,また,必ずその価格で買い取るという保証もない。アジア通貨危機が発生し,平成9年9月からアジア債券市場が混乱した後であるにもかかわらず,アジア債券価格推移表上の同年11月10日ないし同月30日の「評価千円」の欄には,簿価を上回る値段が記載されたAII債が多数あり,合計でみても簿価を上回る値段が記載されていることから考えても,その金額に客観性があるとはいえず,むしろペレグリン証券会社に売注文が殺到することを避けなければならない状況下での値段設定であるから,顧客に不安を生じさせないようにとの考慮が働いた金額であり,信用できる金額とは到底いえない。
(3) 以上によれば,本件アジア債は,私募債であること,リパッケージ債であることなどの性格から,不特定多数の者に売却することが想定されず,その売却先は,事実上,債券を販売したペレグリン証券会社に限られ,売却価格の決定は,ペレグリン証券会社との個別交渉に委ねられることになる。売却先が事実上1社しかなく,その1社と個別交渉を行う必要があること自体,迅速な換価の妨げとなるというべきであり,流動性リスクが高いといえる。また,ペレグリン証券会社としても,他に同債券の買主が見つかっていない場合には被告信金からの売却依頼に応じ難いから,早急な取引あるいは巨額な取引の場合には,その価格は大幅に足下を見られることが想定され,さらに原債券発行体やペレグリングループに信用不安が生じた場合には,ペレグリン証券会社が本件アジア債の買主を見つけること自体が困難となって被告信金の売却依頼に応じない可能性が高い。そうすると,本件アジア債は,適時迅速に換価できる商品ではなく,信用不安状況が生じても適時迅速に売り逃げすることが極めて困難な商品であるから,流動性が極めて低い商品であるというべきである。
4  過大性
(一) 自己資本額の指標
(1) 以上認定したところによれば,本件アジア債は,相当な高利回りでその商品自体の格付けがなく,原債券発行体の信用リスク(格付けは投機級以下)が高いほか,その発行体の帰属する国家のカントリーリスクも内包しており,ハイリスクの商品であるといえ,流動性が極めて低く,信用不安状況が生じても適時迅速に売り逃げすることが極めて困難な商品であったというのであるから,善管注意義務の一環として安全性の原則を厳守する義務を負う被告信金の理事らは,このようなハイリスクの商品を購入するにあたっては,そのリスクが顕在化して被告信金に多額の損失を生じさせ,被告信金の財務体質を脆弱にさせることがないように努めなければならず,かかる観点からすれば,その購入量は自ずから限界があるというべきであって,被告信金の財務体質を脆弱にさせるような過大な取引を行ってはならないことは自明の理というべきである。
(2) そして,信用金庫は,金融業務の公共性にかんがみ,信用の維持と預金者の保護に努めなければならず(信金法1条),自己資本比率の向上に努めなければならないものとされる(信金法89条1項,銀行法14条の2)。自己資本額を超過する損失が生じる事態になると預金払戻しに支障が生じることになる以上,預金者保護の観点から預金払戻しの確実性が求められる信用金庫などの金融機関にとって,自己資本額がリスクテイクの限界を示す指標となる。このように自己資本がリスクテイクの指標となることは,信金の本来業務である貸付けについて自己資本の20%を大口融資限度額としていることからも明らかである。
信用金庫の本来的業務がそうである以上,付随業務にすぎない有価証券運用についても,この自己資本によるリスク限度が当然に妥当し,有価証券保有額についても,リスクの程度とリスクの所在に応じて自己資本額でもって限界が画されなければならない。そして,本件アジア債のように支払準備資産非適格であり,リスクの所在がインドネシアとタイに集中しているハイリスクな商品を購入する量の限界というのも,この自己資本額を基準にすべきであり,自己資本額を無視した投資は安全性の原則に悖るものというべきである。
(3) そうすると,被告信金の理事は,その善管注意義務として,本件アジア債を購入するにあたっては,安全性の原則を常に意識し,自己資本額を基準として,被告信金の財務体質を脆弱にせしめない程度の範囲内で行うべき注意義務があったというべきである。
具体的には,被告理事らは,①本件アジア債は私募債であり,流動性が極めて乏しく,その性質は原債券発行体に対する資金の貸付けと同視し得るものであり,分散投資と安全性の原則の観点からは,債券購入といえども,自己資本額の20%を限度とする大口融資規制と同じ配慮が必要になるものであるから,本件アジア債の原債券発行体ごとの購入高は,当該発行体が優良格付けを持ちデフォルトの危険が極めて少ないという特段の事情がない限り,自己資本の20%以下にとどめてデフォルトの危険を分散すべき義務を負っていたというべきであり,また,②原債券発行体が異なっていても,AII債とPIHL債は,タイやインドネシアといった東南アジアのカントリーリスクを負担し,ペレグリングループの信用リスクも負担するという意味でリスクの所在が共通しているから,このようなリスクの所在が共通している本件アジア債全体の保有高は,自己資本額の範囲内にとどめてデフォルトの危険を分散すべき義務を負っていたというべきである。
(4) この点,原告甲野は,インドネシア国債の格付けがBBB(デフォルト率0.9%)であるとして,250億円を投資しても期待損失額が2億2500万円にすぎないから,自己資本を超えた購入には問題はないと主張する。
しかし,本件アジア債には格付けはなく,インドネシア国債の格付けを代用することはできず,本件アジア債は,その利回りの程度等から考えて,実質的にはB格以下とみるべきである(丙26,31)から,原告甲野の主張は前提において失当である。また,本件アジア債はリスクの所在が東南アジア圏内に集中していること,本件アジア債は流動性が極めて低く,東南アジアの経済事情の変動等により信用不安が生じた場合,適時迅速に売り逃げることが困難であることから,そのような場合には,本件アジア債のほとんどすべてが高いデフォルトの可能性にさらされ,これを回避する適切な方法がないという危険な事態に陥るのであるから,このような本件アジア債について,単純に債券購入時における期待損失額のみのリスク評価をするだけでは足りないというべきであって,原告甲野の上記主張は採用できない。
(二) 本件アジア債の全体的考察
被告信金の平成9年3月期の会員勘定(自己資本額に相当)は,211億2792万9000円であり,前後を通じて最大値であったところ,被告信金の本件アジア債の投資残高は,別表5のとおり,平成8年11月27日から平成9年11月18日まで,この自己資本額を超過していた。
よって,本件各投資のうち平成8年11月27日以後の購入分(別表3の1番ないし13番)は,②本件アジア債全体の保有高を自己資本の範囲内にとどめてデフォルトの危険を分散すべき義務に違反する違法な投資というべきである。
(三) 原債券発行体ごとの考察
平成8年10月30日時点では,原債券発行体をポリシンドとする本件アジア債の保有高は既に約7億8060万円(別表1のAII#66,#116)あったところ,同月31日にAII#264(約46億9651万円,本件各投資のうち別表3の14に当たる。)とPIHL#1(20億円)を購入した結果,自己資本額の20%を超える合計約74億7711万円がポリシンドに投資されるという事態が生じた。ポリシンドの格付けは,前示のとおりBないしBB格であり,投資適格からは外れるものであり,決して優良格付けでデフォルトの危険が極めて少ないという企業ではなかった。
したがって,本件各投資のうち別表3の14番の購入は,①原債券発行体ごとの投資額を自己資本の20%以下にとどめてデフォルトの危険を分散すべき義務に違反する違法な投資というべきである。
(四) 以上より,本件各投資はいずれも違法である。
なお,スワップのキャリー損を埋め合わせせず,損失として確定させ,赤字決算をすると,当時の金融状況からすると,信用金庫としての信用が失墜し,取り付け騒ぎが勃発するなどの混乱を招き,その時点で事実上の破綻を招く結果になる恐れがあるから,これを避けるべくキャリー損を埋め合わせるためにハイクーポンの商品を購入していったこと自体は,当時の判断としてはやむを得ない面もある。
しかし,スワップのキャリー損を埋め合わせることに固執するあまり,リスクの所在が共通するハイクーポンの商品を大量に購入して新たなリスクテイクを招来することは避けなければならず,このことは当局からの指摘のとおりであり,ハイクーポンの商品を購入してスワップのキャリー損を埋め合わせる必要があるにしても,さらなるリスクテイクを最大限に防止して行うべき義務があるというべきである。
具体的には,ハイクーポンの商品といっても様々であり,リスクの所在の異なる複数の商品を購入してリスク分散を図るなどの対応も考えられたはずである。現に,平成7年12月及び平成8年3月は,アセットスワップ対応債券として,アジア債以外の債券(平均クーポンレート5.2682%,5.1900%)で対処し,平成8年10月は,アセットスワップ対応債券約366億円のうち約58億円(約16%)をアジア債で対応し,約308億円(約84%)をその他の債券で対応させていた。そして,平成8年10月から平成9年4月までの間,アセットスワップに対応させた本件アジア債の平均クーポンレートは,5.3172%ないし6.1438%であるが,同時期のスワップの平均払レートと平均受レートとの差額は,4%未満であり(乙イ5の47頁),このキャリー損をカバーするに足る4%以上の利率の債券は本件アジア債の他にもあるはずである。
してみれば,スワップのキャリー損を埋め合わせるためハイクーポンの商品を購入する必要性があったにしても,アジア債以外のリスクの所在の異なる複数の商品を購入して,リスク分散を図りつつキャリー損に対応することも可能であったというべきであるから,キャリー損の埋め合わせという事情をもって,自己資本額を無視した過大な投資を正当化することはできない。
5  被告理事らの善管注意義務違反
(一) 原告甲野
原告甲野は,本件各投資を決裁し,実行した者であり(前提事実),善管注意義務違反の責任は免れない。
原告甲野は,スワップ契約の目的は変動金利による固定金利資産のリスクヘッジにあり,そのキャリー損は保険料のようなものであり,実質的にみればスワップ契約で損失は生じていないと主張し,この点に関する当裁判所の判断は前示1(五)のとおりであるが,仮に原告甲野の主張をそのまま前提としても,自己資本を無視して過大な投資を行った原告甲野の責任を否定する根拠にはならない。
(二) 被告一色,被告二宮,被告三井及び被告四谷
被告一色,被告二宮,被告三井及び被告四谷は,本件アジア債の投資について,市場金融部担当者に完全に任せきりにするのでなく,自らも調査,検討を行って,違法,過大な投資が行われないように監視し,これを阻止すべき注意義務があったといえる。
しかるに,同人らは,本件アジア債の投資について,原告甲野に完全に任せきりにし,原告甲野が明らかに積極的な投資に傾いていたのに,これを問題視して自らその投資を調査,検討しておらず,むしろ当日運用報告書に押印して違法な本件各投資を承認しており,監視義務を果たしていないことは明らかであり,本件各投資について善管注意義務(監視義務)違反の責任を免れない。
6  後任者責任論について
原告甲野は,自ら休職した後,後任者(原告甲野が休職した後に被告信金の理事であった者をいい,原告甲野を除く。)が本件アジア債の管理を怠ったために本件の損害が発生したとして,後任者責任論を主張する。なお,原告甲野が休職した後であっても,原告甲野は依然として被告信金の理事として月額報酬を満額受領しており,被告一色らに対して明確な引継ぎをなしていないから,上記の「後任者」という表現は適切ではないが,便宜上,この項においては「後任者」と表記する。
(一) 自己資本の超過
原告甲野が休職した後も,平成9年11月18日までは本件アジア債の保有高が自己資本額を超えていたから,後任者は,アジア債の保有高を自己資本額の範囲内に留めるべく適時にペレグリン証券会社に買い戻しを依頼すべきであったといえる。その意味で後任者の管理の在り方に問題があったことは否めない。
しかし,後任者は,そもそも原告甲野から適切な引継ぎを受けていない上,原告甲野の休職後,新規買付はペレグリン証券会社から情報を得るために比較的リスクの低い短期債の購入に留め,約定日に償還を受けて,平成9年11月19日にはアジア債の保有高を自己資本額未満まで減少させたのであるから,後任者が同月18日まで自己資本額を超えるアジア債を保有し続けたことの違法性は,原告甲野による購入行為の違法性に比して小さく,むしろ原告甲野による購入行為の違法性を承継したにすぎないものであるから,これをもって,原告甲野の上記責任を否定することにはならない。
(二) 平成9年8月までの売り逃げ
(1) タイ関連アジア債
後任者は,タイ通貨危機に接した際(平成9年7月ないし8月),タイの企業(タナヨン)発行債券を原債券とするアジア債(2件約14億円,タナヨンCBも含めると合計22.6億円)の処理を検討すべきであったといえる。
しかし,平成9年7月,8月時点では市場の動きは半信半疑であっていずれまた現地通貨が戻るという見方もあったこと,原告甲野や百沢その他の者から早急に売却すべきとの具申がなかったこと,当時,本件アジア債の利払い,償還は問題なく行われていたこと等にかんがみれば,同年7月ないし8月の時点では,タイの通貨危機はしばらくすれば回復するという予測も十分に可能であったといえるし,他方で,タイの原債券発行企業が倒産してタイ関連アジア債がデフォルトになることまで想定するのは困難であったといえる。
また,ペレグリングループの信用リスクについては,アジア債の大半はペレグリン証券会社が為替リスクを負担する仕組みであったから,アジア通貨危機がペレグリン証券会社の経営に影響を与えるであろうと予測することはできるが,市場の反応は,平成9年8月末ころにPIHLの株価が15香港ドルを割り込んだという程度の動きであり,同年8月のPIHLの長期格付けがBBB+,短期格付けがA−2であって,同社の株価や格付けからみても未だ同社の経営に大きな不安要素は発露しておらず,同年8月までの時点において,ペレグリングループが破綻することまで想定するのは困難であったといえる。
そうすると,同年7月ないし8月の時点で,後任者がタイ関連アジア債を売却すべき義務を負っていたとは認め難い。
己事件原告らの主張によれば,本件アジア債は東南アジアの経済混乱などが生ずれば流動性が容易に損なわれる商品であるから,流動性が消失する危険があるようであれば,危険が現実化しないうちに速やかに売却するなどの措置を講じるべきであったという。しかし,仮に本件アジア債の流動性が事実上なくなっても,原債券発行体又はペレグリングループが倒産しない限りは,償還を受けることができるのであり,被告信金に損害は発生しないものである。したがって,基本的には原債券発行体又はペレグリングループの倒産によるデフォルトの予見可能性でもって売り逃げすべきか否かを決すべきである。そもそも本件アジア債の流動性が消滅する危険性というのは,事後的にみれば一定の推認ができるものの,もともと流動性の極めて乏しい商品であるだけに限界線が非常に曖昧であって,明らかな予兆がない限り,適時に判断することは極めて困難である。そして,平成9年7月ないし8月の時点で,近い将来本件アジア債の流動性が消滅することの明らかな予兆があったと認めるに足りる事情はない。
そうすると,後任者が同年8月までにタイ関連アジア債を売却すべき義務を負っていたとは認め難い。
(2) インドネシア関連アジア債(PIHL債を含む)
インドネシアが完全変動相場制に移行した平成9年8月14日以降,ルピア安が進行したというのであるから,後任者は,同日以降,インドネシア関連アジア債の処理を検討すべきであったといえる。
しかし,前示認定のとおり,平成9年8月中はさほどルピアが下落していなかったこと,市場の動きは同年8月までは半信半疑であったこと,原告甲野や百沢その他の者から早急に売却すべきとの具申がなかったこと,世界銀行はインドネシア経済に及第点を与えて評価していたこと,タイとは異なり,インドネシアは資源国であること,当時,本件アジア債の利払い,償還は,問題なく行われていたこと等にかんがみれば,同年8月の時点では,インドネシアが深刻な経済危機に陥いるとは限らないという見方も可能であったといえ,他方で,インドネシアの原債券発行企業が倒産することまで想定するのは困難であった。
また,ペレグリングループの信用リスクについては,前示のとおり,同年8月までの時点において,ペレグリングループが破綻することまで想定するのは困難であった。
そして,同年8月までに,インドネシア関連アジア債の流動性が近い将来消滅することの明らかな予兆があったとも認め難い。
そうすると,後任者が同年8月までにインドネシア関連アジア債を売却すべき義務を負っていたとは認め難い。
(3) 以上のとおり,平成9年8月までの時点では,後任者に本件アジア債を売り逃げすべき義務があったとは認め難い。
なお,仮に同年8月の時点で売り逃げしようとしても,本件アジア債の保有高が約363億円もあったから身動きが取り難く,これを全てペレグリン証券会社に買い戻しを依頼しても,拒否されるか,大幅なディスカウントを迫られる可能性が高い。ごく短期のアジア債であれば,ペレグリン証券会社が買手を見付けることができたかも知れないが,アジア通貨危機の発生した同年8月の時期に長期のアジア債の買手を見付けることは極めて困難であり,被告信金保有の長期のアジア債をすべてペレグリン証券会社に売却できた可能性は極めて低いといわざるを得ない。仮に約363億円分の本件アジア債のうち,半分をペレグリン証券会社に売却できたとしても,その価格は相当足下を見られる上,売却できなかった残りの半分は値崩れの危険にさらされることになってしまう。このように,平成9年8月の時点で売り逃げをしようとしても,相当の損害を覚悟しなければならないものであり,このまま償還期まで持ちこたえれば満額の償還を受けられることから,かなり困難なリスク判断が要求される。このように流動性の乏しい債券を自己資本を超えるまでに大量に保有してしまっては,信用不安が発生したときに身動きがとれない事態に陥るのであり,本件アジア債購入の過大性が違法とされる由縁である。
(三) 平成9年9月以降の売り逃げ
前示認定によれば,アジア債券の市場は平成9年9月ころからアジア通貨危機の影響を受けて大混乱に陥り,PIHLの株価が同年8月末ころから下落を始めて15香港ドルを割り,同年9月から同年10月第2週まで下落傾向が続き,同年10月第3週には急落し10香港ドルを割り込んだというのであり,事後的にみれば,平成9年9月以降は,ペレグリン証券会社に対して本件アジア債の売却依頼をしても事実上応じられず,仮に応じたとしても足下を見られて極めて低い言い値での取引となって莫大な損失が確定することが避けられない状況になったというべきである。
この場合,この時点で莫大な損失を確定させてしまうのか,それとも全額償還されるのを期待して事態の推移を見守るのかの選択を迫られることになるが,本件アジア債が外国証券でかつ私募債であって現地企業の情報が入りにくいという事情もあって,非常に難しいリスク判断を強いるものである。被告信金の抱えるアジア債保有高は莫大であって(平成9年9月2日時点で約363億円)損切り行為自体が被告信金の経営を危機的状況に追い込みかねないこと,利払いと償還が怠りなく実施されていたという当時の状況(同年9月ないし10月)等からすれば,後者を選択したとしても必ずしも誤りとはいい難い。
そうすると,後任者が,同年9月以降,本件アジア債を売却しなかったことをもって善管注意義務に違反するものとはいえない。
そして,インドネシアは,同年10月8日,IMF等に金融支援を要請する旨発表し,これによりアジア通貨危機の深刻さが改めて浮き彫りとなり,事後的にみれば,これ以降,本件アジア債の流動性は事実上消滅したと考えられる。
この点,証人垓山功男は,平成9年10月ころまではペレグリン債を売却しようと思えばできたと証言するが,これを裏付ける客観的資料は全くない上,これは同人がAII債やPIHL債といった本件アジア債とPIHL公募債とを混同した状態でした証言であり,また,同人自身,本件アジア債を扱った経験がないというのであるから,上記証言を採用することはできない。
(四) 保全措置等
本件アジア債の売却が事実上不能となった後において,後任者が現地情報の収集に努めることのほか,将来発生する可能性のある損失額をできるだけ減少させるべく,いかなる保全措置(債権保全措置,ペレグリン証券に代わる債券管理証券会社を確保する措置など)を講ずべき義務があったかについて検討する。
(1) 平成10年1月9日まで
前示のとおり,平成9年10月8日以降,本件アジア債の流動性が事実上消滅したといえるが,それでも,同時点において,本件アジア債の原債券発行企業が倒産した,あるいは倒産が間近であるとの情報があったわけではなく,かえって同年10月27日に大和銀行から聴取したところによれば,現地企業の経営が短期的には問題がないとのことであり,実際,本件アジア債は平成9年内は無事に償還がなされていた。また,PIHLの株価が同年10月第3週から急落し,香港ドルも同時期ころ急落し,PIHLの経営に一定の不安が生じていたが,それでもペレグリン証券会社に対する新規業務の停止命令が報道された平成10年1月10日までは,PIHLが破綻することまで想定することは困難であったといえる。
そうすると,平成10年1月9日までは,後任者が大和銀行から現地情報を収集するなどしたほかに,債権保全措置をとる義務やペレグリン証券会社に代替する管理会社を確保すべき義務があったとはいい難い。
なお,前示のとおり,本件アジア債はスワップが絡んでいるため,取扱証券会社を変更するにはスワップを再構築する必要性があり,莫大なコストがかかり,取扱証券会社の変更は極めて困難であったという点からしても,後任者に取扱証券会社の変更義務を課すことは困難というべきである。
(2) 平成10年1月10日以降
PIHLに対して新規業務の停止命令が出され(平成10年1月10日報道),同社が破綻した後においては,前示のとおり,後任者において,日興證券から「ペレグリン証券破綻に拘る法的手続」と題する文書を取り寄せ,インドネシア投資セミナーに参加し,全信連に対応策の検討を依頼し,全信連から「ペレグリン関連債権等の保全手続等について」と題する文書を受領し,全信連と対処方を協議したほか,リーマン・ブラザーズ証券会社に助言を求め,PIHLの清算事務を担当する会計事務所から情報を収集し,三井安田法律事務所に相談した上,同事務所に本件アジア債の回収を依頼して回収に努めるなどできる限りの努力をしたと認められるところである。これ以上にいかなる回収手段や債権保全の手段等をとっていれば,どの程度の回収が可能であったのかという点は全く明らかでなく,後任者にこの点において善管注意義務違反があるとはいい難い。
(五) 結論
そうすると,後任者の本件アジア債の管理の在り方は,原告甲野によって作出された自己資本額超過の違法を承継したという問題があるものの,原告甲野の責任を否定するまでの事情を見出すことはできない。
後任者責任論が妥当するのは,後任者が独自の判断で購入したAII#679とPIHL#18のデフォルトによる約9億9400万円の損失のみであり,これは原告甲野の責任とは無関係であり,そもそも丁事件請求対象にも入っていない。
7  損害額
以上のとおり,被告理事らは,本件各投資につき善管注意義務に違反したものであり,債務不履行責任を免れない。そして,このうち別表4−2記載の債券がデフォルトとなったから,被告信金は,この債券の購入金額から回収金額を控除した残額である77億3059万1547円の損害を被ったといえる。
よって,被告理事らは,信金法35条1項に基づき,被告信金に対し,連帯して同額の損害を賠償する義務を負う。そして,被告信金が原告RCCに対し,同損害賠償請求権を譲渡し,その通知の手続がされたことは,前記前提事実において確定したところである。そうすると,被告理事らは,各自,原告RCCに対し,上記77億3059万1547円中同原告が本訴において支払を求める6億円の支払義務があるから,原告RCCの被告理事らに対する丁事件各請求は,その限度で正当である。
三 被告一色の信金法35条2項の責任の有無
1  己事件原告らは,タイ通貨危機が発生した平成9年7月の時点やインドネシアが完全変動相場制に移行した平成9年8月14日の時点において,本件アジア債を売却すべきであったと主張するが,前示二の6(二),(三)のとおり,これらの時点で売り逃げしなかった被告一色に善管注意義務違反があると認めることはできない。
もっとも,被告一色が自己資本額超過の違法状態を平成9年11月18日まで維持した点については,被告信金に対する善管注意義務に違反した余地(ただし,平成9年9月以降は除く。)がないではないが,これは原告甲野の作出した違法状態を承継したにすぎないものであり,これをもって重過失とまでは評価し難いから,この点についても,被告一色に信金法35条2項の責任があると認めることはできない。
2  己事件原告らは,本件アジア債の売却が事実上困難となった平成9年10月8日以降,ペレグリン証券会社や原債券発行体の信用情報を調査し,回収や債権保全の措置を講じ,さらにペレグリン証券に代わる管理証券会社を確保すべき義務があったと主張するが,前示二の6(四)のとおり,この点について被告一色に善管注意義務違反を認めることはできない。
3  以上のとおりであり,被告一色が己事件原告らに対して信金法35条2項の責任を負うとはいえない。したがって,己事件原告らの被告一色に対する己事件各請求は,いずれも失当である。
四 本件不支給決議に関する不法行為責任
1  退職慰労金支給判断に係る裁量権の濫用・逸脱
前提事実によれば,本件支給規程6条には「不正行為等により退任する役員に対しては(中略)退職慰労金の支給を取り止め,または減額することが出来る。」との定めがあること,原告甲野の直接的な退任理由は,自らの病気,疾患に伴う職務続行の困難にあったことが認められる。
ところで,本件支給規程6条は,不正行為等により被告信金に有形無形の損失,損害を生じさせた役員に対して退職慰労金を支給することは,相当でない場合が多いことから,かかる定めがされたものと解されるところ,この理は,例えば任期終了により退任した理事について,理事退任後,当該理事の在任中に不正行為等があったことが判明し,これにより被告信金に損失,損害が生じた場合等においても同様に妥当するというべきである。そうであれば,本条の適用にあたっては,被告信金に有形無形の損失を生じさせ,退職慰労金の支給を不相当とするような「不正行為等」があれば足り,「不正行為等」が退任の理由とされる必要まではないと解するのが相当である。
そうすると,原告甲野は,本件各投資(アジア債関係)につき,善管注意義務に違反して被告信金に対し約77億円の損害を与え,これが被告信金の破綻の大きな原因となったものであることは,前示認定のとおりであるから,原告甲野のかかる善管注意義務違反が本件支給規程6条の「不正行為等」にあたることは明らかというべきである。
よって,被告後任理事らが本件支給規程6条に基づいて本件不支給決議をしたことについて,裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められない。
2  被告後任理事らによる業績悪化
原告甲野は,被告後任理事らが本件アジア債の管理を怠ったことにより被告信金の業績が悪化し,その結果,原告甲野が退職慰労金を得ることができなくなったと主張する。
しかし,原告甲野は,上記のとおり,本件支給規程6条の「不正行為等により退任する役員」にあたり,本件不支給決議により退職慰労金を請求できる権利はないし,その期待権もないというほかはないから,原告甲野に損害が発生したとはいえない。
また,被告後任理事らには,本件アジア債の保有高について自己資本額超過の違法状態を維持したという被告信金に対する善管注意義務違反があるものの,原告甲野に対する関係で注意義務に違反した事実はない。
3  結論
以上によると,本件不支給決議について,被告後任理事らに不法行為責任は成立せず,したがって,被告信金に民法44条の責任も成立しない。
また,同様にして,本件不支給決議について被告信金の原告甲野に対する損害賠償責任は成立しないから,乙事件における原告甲野の相殺の抗弁は理由がない。なお,被告信金が原告RCCに対し,本件貸金債権を譲渡し,その通知の手続がされたことは,前記前提事実において確定したところである。
よって,原告RCCの原告甲野に対する乙事件請求は,正当であり,原告甲野の被告後任理事らに対する丙事件各請求は,いずれも失当である。
(被告桜子及び被告梅子関係)
五 詐害行為取消権の成否
1  詐害行為性(客観的要件)
(一) 本件贈与(2)及び(3)の当時,被告三井が本件物件(2)及び(3)の各所有権を有していたことは,争いがない。
(二) 本件贈与(1)の当時,本件物件(1)の共有持分権は,不動産登記簿上,被告一色が20分の19,被告桜子が20分の1であった。
被告桜子は,本件物件(1)の住宅ローンの返済に668万円を支出したから,本件贈与のうち668万円分については詐害行為性がないと主張する。
証拠(乙イ6,乙エ1,8の1,2,乙エ9の1,2,丙141の2,被告一色本人)によれば,本件物件(1)に設定された住宅金融公庫の抵当権(債権額1080万円)が平成9年3月7日弁済により抹消されているが,これは,住宅金融公庫の当時の被担保債権残高が約722万円であったところ,同日,被告一色が被告信金から720万円を借り入れた上,被告一色の預金とあわせて合計約722万円を住宅金融公庫に繰り上げ返済したことによるものであったこと,被告信金は,この720万円の融資の際,本件物件(1)に担保権を設定していないこと,この被告信金からの720万円の借入れの際,被告一色の預金内容(残高が約25万円であった。)が亡昭男及び被告信金の融資担当者の知るところとなり,同月19日,亡昭男及びその妻(一色花子)が「娘婿にたいした預金もないことで恥をかいた」として,被告桜子に合計400万円を交付し,同日,この400万円で被告一色は被告信金に対する720万円の借入金債務を一部返済したこと,一色花子は,平成10年4月22日,被告桜子に268万円を交付し,翌日,これにより,被告一色は,被告信金に対する上記借入金債務を完済したことが認められる。
上記認定の事実によれば,本件物件(1)に設定された住宅金融公庫の抵当権を抹消すべく被担保債権の返済をしたのは,被告信金からその資金を借り入れた被告一色であり,被告桜子は,単に,被告一色の被告信金からの借入金債務の返済に亡昭男らから交付を受けた金員を充てたというにとどまるのであるから,上記被担保債権の返済は,名実ともに被告一色がしたものというべきであり,被告桜子自身が本件物件(1)の抵当権を抹消する資金を拠出したことを認めるに足りる証拠はない。
なお,被告一色の被告信金からの借入金債務の返済は,被告桜子が亡昭男らから交付を受けた金員によってされたものであることは上記のとおりであるが,被告一色の陳述書(乙イ6の10頁)には「昭男理事長夫妻より400万円妻に渡され,残りも早く完済する様厳命された」との記載があり,これによれば,上記400万円のみならず,268万円についても,亡昭男らが被告一色の面目を慮り,被告一色のために,被告桜子を介して交付した援助資金としての性格が強いというべきである。そうすると,上記合計688万円を直接受け取ったのが被告桜子であったとしても,これが被告桜子の独自の財産であるとみるのは困難であり,この点からみても,被告桜子の上記主張は採用し難い。
してみれば,被告桜子が本件物件(1)につき20分の1を超える共有持分権を有していたと評価し得る程度に同物件に対して財産的な寄与をしていたとは認め難く,同物件は,不動産登記簿のとおり,本件贈与(1)の当時,被告一色が20分の19の共有持分を,被告桜子が20分の1の共有持分をそれぞれ有していたと認めるのが相当である。
(三) 前示のとおり,被告一色及び被告三井は,被告信金に対し,債務不履行(アジア債に対する本件各投資の善管注意義務違反)に基づき,いずれも約77億円に上る賠償義務を負うところ,被告一色は本件物件(1)の20分の19の共有持分権以外に,また,被告三井は本件物件(2)及び(3)以外にめぼしい財産を有していることを認めるに足りる証拠はないから,被告一色及び被告三井がした本件贈与(1)ないし(3)は,いずれもその責任財産を減少させ,債権者である原告RCCを害する行為(詐害行為)である。
2  主観的要件
(一) 前示認定事実に証拠(丙141の2,被告一色本人,被告三井本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次のとおり認定できる。
(1) 本件贈与(1)ないし(3)以前より,不良債権問題処理のために原告RCC等による破綻金融機関の経営者の責任追及に関する損害賠償請求訴訟(平成8年のコスモ信用組合事件,東京共同銀行事件,木津信用組合事件など)が行われ,このことは新聞報道等で世人が十分認識し得るところであった。
また,預金保険機構の理事長は,平成10年1月14日,破綻金融機関の経営責任を追及する「責任解明委員会」を4月にも設置することを明らかにし,同年2月下旬ころには,その体制が固まり,いずれも新聞で広く報道された。
(2) 平成10年1月13日,PIHLの破綻が報道された。これにより本件アジア債は利払い停止,償還不能になり,仕組み債としての処分も不能となり,解体して原債券を保持するか,処分するほかなく,回収の見込みもままならず,多額の損失が発生することが予想され,被告信金の財務体制は危機的状況となった。
PIHLの破綻により被告信金の財務体制が危機的状況になったことは,当時,被告一色及び被告三井も認識していた。
(3) 被告一色及び被告桜子は,平成10年3月下旬,司法書士に別紙登記目録1記載の登記の申請手続を依頼し,同月30日,同登記がなされた。
(4) 被告三井は,平成10年8月26日,被告梅子に対し,本件物件(2)及び本件物件(3)の100分の69を贈与し,同月28日,別紙登記目録2,3記載のとおり登記手続をなした。
(二) 本件贈与(1)について
(1) 本件贈与(1)の時期
被告一色と被告桜子は,平成9年8月に本件贈与(1)を口頭で合意した旨主張し,その各本人尋問においても同旨の供述をするが,これらの供述を裏付ける客観的証拠はない。また,同被告らは,同本人尋問において,平成10年(1998年)に結婚30周年を迎えるから,その記念のために当初は夫婦で海外旅行をすることを計画したが,これが不可能であったため,本件贈与(1)の合意したとも供述するが,婚姻(1969年12月12日)から30年目は平成11年であって1年の誤差があるし(勘違いというが,たやすく措信し難い。),宝飾品等であれば格別,結婚30周年の記念に不動産を贈与するというのはいかにも奇異な感を拭えず,不自然というべきであるから,この点に照らしても,同被告らの上記供述はにわかに採用し難い。したがって,上記供述だけでは,平成9年8月に本件贈与(1)の合意が口頭でされたとの事実を認め難く,他にかかる事実を認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件贈与(1)は,登記原因欄のとおり,平成10年2月1日にされたとも考えられるが,被告桜子の本人尋問における供述によれば,平成10年2月1日が登記原因の日とされたのは,同日が「大安」に当たるという以上に特に意味があるわけではないというのであるから,本件贈与(1)が合意された日が同日であるともいい難く,結局,本件贈与(1)が確定的に合意された日は,登記手続を依頼すべく司法書士事務所を訪れた平成10年3月下旬と認めるのが相当である。
(2) 被告一色の詐害意思
ア 本件贈与(1)が確定的に合意された時期は,前示のとおり,平成10年3月下旬と認められ,PIHLが破綻した旨の報道がされた同年1月13日の後となるから,被告一色は,本件贈与(1)の当時,PIHLの倒産により本件アジア債について多額の損失が発生する可能性が高く,被告信金の財務体制が危機的状況に陥り,ひいては,被告一色ら被告信金の役員の責任が追及される事態に発展することを認識していたものと認められる。
このことは,前示のとおり,①平成10年1月21日の市場金融部役員説明会において,被告一色が「自己資本200億やられた」と書いてアジア債の損害発生見込額等を説明し,PIHL発行の債券合計16億7700万円(公募債とPIHL#18)のうち8.4億円について償却を要し,AII債合計192億6100万円については平成9年末より利払いが止まっており,回収予想率は60%弱であると説明されたこと,これによればPIHL発行の債券で8.4億円,AII債で77億0440万円,合計85億4440万円の損失発生が見込まれていたといえること,②この際,役員の責任分担についても協議され,役員全員の責任であるとの意見も出されたこと,③全信連岡山支店長は,同年3月中旬,被告信金の理事に対し,6月の総代会で100億円程度の特別積立金を目的積立金に振り替える決議を要するのではないかと指摘したこと等の事実からも十分うかがえるところである。
イ したがって,被告一色は,本件贈与(1)の当時,本件アジア債について多額の損害が発生し,これについて責任を追及される可能性があることを認識しており,しかも,平成10年1月21日に説明された損害見込額85億4440万円というのは,被告一色の資力をもってしては,到底その全額を弁済できる金額でないことは明らかであり,被告一色にその旨の認識があったことにも疑いはない。
してみれば,このような状況下で本件贈与(1)を行って自らの責任財産を減少させた被告一色は,これにより被告信金の損害賠償請求権の実現に支障が生ずべきことを認識していたものと認められる。
この点,被告一色は,本件贈与(1)の時点では被告信金が破綻するとは思っていなかった旨供述するが,仮に被告信金が破綻しなくても,被告信金に上記のような多額の損害を発生させた以上,被告信金からその損害の賠償を請求される可能性はあるのであり,上記供述を前提にしても上記認定を覆すものではない。
(3) 被告桜子の善意について
被告桜子は,本件贈与(1)を受けることが被告信金を害することとなることを知らなかったとして,この点につき善意であると主張し,本人尋問においても同旨の供述をする。
しかしながら,被告桜子は,被告一色の同居の妻であり,かつ,亡昭男の長女であること,父である亡昭男は,昭和48年から平成10年6月19日まで被告信金の理事長を務め,夫である被告一色は,平成2年から被告信金の理事(常務理事,後に専務理事)を務めていたことは,既に前提事実において確定したところであるし,本件贈与(1)は,前示のとおり,PIHLが破綻して被告信金に多額の損失が生じる可能性が高まり,理事らの責任問題に発展することが予想されるに至った時期にされたものであって,被告一色は,被告信金や被告一色自身がこのような危機的状況にあり,本件贈与(1)を実行すれば,被告信金が被告一色に対して損害賠償請求をすることにつき障害となることを認識しながら,敢えて本件贈与(1)の合意をしたものである。したがって,被告桜子は,被告信金の最要職にある亡昭男や被告一色と親密な関係にあり,日々同被告らと接していたのであるから,たとえ被告信金の財務内容の悪化等について具体的には知り得なかったとしても,亡昭男や被告一色の話から被告信金や被告一色の陥った状況をある程度聞き及んでいたものと推認されるし,また,被告桜子自身,さしたる理由もないのにこの時期に突然本件贈与(1)を受けたことについて,前記のとおり,これが結婚30周年の記念であったなどとにわかに首肯し難い理由を挙げて本件贈与(1)が正当になされた旨を主張するのであるが,このような弁明をすること自体,被告一色の真意を察知していたことを疑わせるに十分である。したがって,被告桜子の上記供述は採用し難く,他に同被告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
(三) 本件贈与(2)及び(3)について
(1) 被告三井の詐害行為
ア 本件贈与(2)及び(3)が合意されたのは平成10年8月26日であり,PIHLが破綻した旨報道された同年1月13日の後となるから,被告三井は,本件贈与(2)及び(3)の当時,PIHLの倒産により本件アジア債について多額の損失が発生する可能性があり,被告信金の財務体制が危機的状況に陥り,ひいては,被告三井ら被告信金の役員の責任追及がされる事態に発展することを認識していたと認められる。
このことは,前示(二)(2)ア①ないし③記載の事情のほか,平成10年4月から被告信金の常勤役員の月額報酬が減額されたこと,同年4月ないし5月に日銀が本件アジア債の不良化等を指摘して被告信金の経営の現状が未曾有の危機に直面している旨の所見を示したこと,同年6月の総代会で特別積立金や退職給与積立金を取り崩すなどして,これを55億5000万円の体質強化積立金とすることが決定されたこと,同年7月ないし8月に将来の被告信金の財務状況の説明を受け,退任役員への退職慰労金を支給しないこと等が議論されたこと等の事実からも十分にうかがえるところである。
イ したがって,被告三井は,本件贈与(2)及び(3)の当時,本件アジア債について多額の損害が発生する可能性が高く,これについて責任を追及される可能性があることを認識しており,しかも,前記平成10年1月21日に説明された損害見込額85億4440万円というのは,被告三井の資力をもってしては,到底その全額を弁済できる金額でないことは明らかであり,被告三井にその旨の認識もあったことにも疑いはない。
してみれば,このような状況下で本件贈与(2)及び(3)を行って自らの責任財産を減少させた被告三井は,これにより被告信金の損害賠償請求権の実現に支障が生ずべきことを認識していたと認められる。
この点,被告三井は,相続紛争を未然に防止するために生前贈与として本件贈与(2)及び(3)を行ったと主張し,本人尋問において,その旨の供述をするが,当時の状況下において,現実にそのような相続紛争が危惧される事態が生じていたとはたやすく認め難いところであるし,また,仮に被告三井にそのような目的があったとしても,それと同時に,自らの責任財産の減少により被告信金の損害賠償請求権の実現に支障を来すべきことの認識があったことは否定できず,両者は両立し得ないものではないから,上記判断を覆すものではない。
(2) 被告梅子の善意について
被告梅子は,本件贈与(2)及び(3)が被告信金を害することを知らなかったとして,この点につき善意であると主張し,本人尋問においても,被告三井からは仕事の話をほとんど聞いておらず,被告信金の経営状態を全く知らなかったと供述する。
しかしながら,被告梅子は,同三井の同居の妻であり,被告三井は,平成6年から被告信金の常務理事(審査部長)を務めていたことは,既に前提事実において確定したところであるし,本件贈与(2)及び(3)がされた平成10年8月26日時点において,被告信金が危機的状況にあったことは前示のとおりである。また,被告信金においては,前記認定のとおり,平成10年4月から常勤役員の月額報酬を減額し,同年7月には退職慰労金の不支給が話題とされていたことが認められるが,被告梅子と同三井とが生計を一にする夫婦である以上,上記月額報酬の減額や退職慰労金の不支給というのは夫婦の生活基盤や老後の生活設計の根幹に関わる問題であるから,これが夫婦間で話題とされなかったとは到底考え難く,ひいて,上記月額報酬の減額等をもせざるを得ないような被告信金の窮状についても,話題が及んだことが容易に推認されるところである。そうであれば,被告梅子の上記供述をたやすく採用することはできず,他に被告梅子の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
3  結論
したがって,原告RCCは,本件各投資(アジア債)に関する損害賠償請求権を被保全債権として,本件贈与(1)ないし(3)につき詐害行為取消権を有する。そうすると,原告RCCの被告桜子及び同梅子に対する本件贈与(1)ないし(3)の各取消しとこれに基づく各所有権(共有持分権)移転登記の各抹消登記請求は,いずれも正当である。
第五  結語
以上の次第によれば
(甲事件)
原告甲野の被告信金に対する甲事件請求は,理由がないから棄却し
(乙事件)
原告RCCの原告甲野に対する乙事件請求は,理由があるから認容し(原告甲野に対する訴状送達の日の翌日が平成12年4月23日であることは記録上明らかである。)
(丙事件)
原告甲野の被告一色,同三井,同四谷,同六田及び同五木に対する丙事件各請求は,いずれも理由がないから棄却し
(丁事件)
原告RCCの原告甲野,被告一色,同三井,同四谷,同二宮に対する丁事件各請求は,各6億円及びこれに対する各訴状送達の日の翌日(被告三井につき平成14年12月19日,その余の丁事件被告らにつき同月28日であることが記録上明らかである。)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないからいずれも棄却し
(戊事件)
原告RCCの被告桜子及び同梅子に対する戊事件各請求は,いずれも理由があるから認容し
(己事件)
己事件原告らの被告一色に対する己事件各請求は,いずれも理由がないから棄却し
訴訟費用の負担につき民訴法61条,64条,65条を,仮執行の宣言につき同法259条を各適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 近下秀明 裁判官 德岡治 裁判官 辻井由雅)

別紙
退職慰労金計算書〈省略〉
物件目録〈省略〉
登記目録〈省略〉
請求金額計算一覧表〈省略〉
貸出目録〈省略〉
担保物件目録〈省略〉
貸出取組推移表〈省略〉
回収状況一覧表〈省略〉
貸借対照表〈省略〉

別表
1 岡山市民信金保有アジア外債保有推移〈省略〉
2 平成9年4月25日保有アジア債詳細〈省略〉
3 違法アジア外債投資一覧〈省略〉
4−1 アジア債回収状況一覧表〈省略〉
4−2 損害発生アジア債回収状況一覧表〈省略〉
5 アジア債売買一覧表〈省略〉
6 スワップ取引一覧〈省略〉
7 岡山市民信金決算内容一覧〈省略〉
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政治と選挙の裁判例「公認 候補者 公募 ポスター 国政政党 地域政党」に関する裁判例一覧
(1)平成19年 7月12日 東京地裁 平17(行ウ)63号・平17(行ウ)295号・平17(行ウ)296号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(2)平成19年 7月 3日 東京地裁 平17(行ウ)530号・平17(行ウ)531号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分無効確認請求事件
(3)平成19年 6月21日 東京地裁 平16(ワ)10840号 損害賠償等請求事件
(4)平成19年 6月14日 宇都宮地裁 平15(ワ)407号 損害賠償請求事件
(5)平成19年 6月13日 最高裁大法廷 平18(行ツ)176号 選挙無効請求事件 〔衆院選定数訴訟・上告審〕
(6)平成19年 6月13日 最高裁大法廷 平18(行ツ)175号 選挙無効請求事件 〔衆院選定数訴訟〕
(7)平成19年 6月 8日 東京地裁 平18(行ウ)14号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(8)平成19年 5月30日 東京地裁 平19(ワ)4768号 損害賠償請求事件
(9)平成19年 5月30日 東京地裁 平17(行ウ)55号・平17(行ウ)132号・平17(行ウ)133号・平17(行ウ)134号 各難民の認定をしない処分取消請求事件
(10)平成19年 5月25日 東京地裁 平17(行ウ)337号・平17(行ウ)338号・平17(行ウ)339号・平17(行ウ)340号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(11)平成19年 5月25日 青森地裁 平17(行ウ)7号 政務調査費返還代位請求事件
(12)平成19年 5月10日 東京高裁 平18(う)2029号 政治資金規正法違反被告事件 〔いわゆる1億円ヤミ献金事件・控訴審〕
(13)平成19年 5月 9日 東京地裁 平18(行ウ)290号 損害賠償等(住民訴訟)請求事件
(14)平成19年 4月27日 東京地裁 平17(行ウ)439号・平18(行ウ)495号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(15)平成19年 4月27日 東京地裁 平14(行ウ)390号・平17(行ウ)328号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消請求事件
(16)平成19年 4月27日 東京地裁 平14(ワ)28215号 損害賠償請求事件
(17)平成19年 4月27日 仙台地裁 平15(行ウ)8号 政務調査費返還代位請求事件
(18)平成19年 4月26日 東京地裁 平17(行ウ)60号 退去強制令書発付処分無効確認等請求事件
(19)平成19年 4月20日 東京地裁 平15(ワ)29718号・平16(ワ)13573号 損害賠償等請求事件
(20)平成19年 4月13日 東京地裁 平17(行ウ)223号・平18(行ウ)40号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(21)平成19年 4月13日 東京地裁 平17(行ウ)329号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(22)平成19年 4月12日 東京地裁 平17(行ウ)166号 退去強制令書発付処分無効確認等請求事件
(23)平成19年 4月11日 東京地裁 平17(ワ)11486号 地位確認等請求事件
(24)平成19年 3月29日 仙台高裁 平18(行コ)25号 違法公金支出による損害賠償請求履行請求住民訴訟控訴事件
(25)平成19年 3月28日 東京地裁 平17(行ウ)523号・平17(行ウ)534号・平17(行ウ)535号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(26)平成19年 3月28日 東京地裁 平17(行ウ)424号・平17(行ウ)425号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分無効確認請求事件
(27)平成19年 3月27日 岡山地裁 平11(ワ)101号・平13(ワ)257号・平13(ワ)1119号・平13(ワ)1439号・平14(ワ)1177号・平14(ワ)1178号 退職慰労金請求事件、貸金請求事件、損害賠償請求事件、所有権移転登記抹消登記手続等請求事件 〔岡山市民信金訴訟・第一審〕
(28)平成19年 3月23日 東京地裁 平17(行ウ)474号・平17(行ウ)525号・平18(行ウ)118号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件、訴えの追加的併合申立事件
(29)平成19年 3月23日 東京地裁 平16(行ウ)462号・平17(行ウ)344号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(30)平成19年 3月16日 東京地裁 平17(行ウ)380号・平17(行ウ)381号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(31)平成19年 3月 6日 東京地裁 平17(行ウ)111号・平17(行ウ)113号 難民の認定をしない処分取消請求事件、退去強制令書発付処分無効確認請求事件
(32)平成19年 2月28日 東京地裁 平16(行ウ)174号・平17(行ウ)162号 退去強制令書発付処分無効確認等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(33)平成19年 2月26日 熊本地裁 平17(わ)55号・平17(わ)113号 贈賄被告事件
(34)平成19年 2月22日 東京地裁 平16(行ウ)479号・平16(行ウ)480号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(35)平成19年 2月21日 東京地裁 平17(行ウ)375号・平17(行ウ)376号 退去強制令書発付処分取消請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(36)平成19年 2月 9日 東京地裁 平17(行ウ)154号・平17(行ウ)155号・平17(行ウ)479号・平17(行ウ)480号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、退去強制令書発付処分取消請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(37)平成19年 2月 8日 東京地裁 平17(行ウ)22号 退去強制令書発付処分取消等請求事件
(38)平成19年 2月 7日 大阪地裁 平17(わ)7238号・平17(わ)7539号 弁護士法違反、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反被告事件
(39)平成19年 1月31日 東京地裁 平16(行ウ)323号・平17(行ウ)469号 退去強制令書発付処分取消等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(40)平成19年 1月31日 東京地裁 平16(行ウ)396号・平16(行ウ)399号 退去強制令書発付処分無効確認等請求事件、難民の認定をしない処分取消請求事件
(41)昭和27年 4月 4日 佐賀地裁 昭25(行)1号 休職退職取消並びに損害賠償請求事件
(42)昭和27年 1月14日 福岡高裁 昭26(ナ)9号 裁決取消ならびに当選有効確認事件
(43)昭和26年12月25日 福岡高裁 昭26(う)2846号 団体等規正令違反事件
(44)昭和26年12月 3日 大阪高裁 昭26(う)1094号 昭和二五年政令第三二五号違反被告事件
(45)昭和26年11月30日 福岡高裁 昭26(ナ)4号 当選の無効に関する異議申立に対する決定取消請求事件
(46)昭和26年11月20日 名古屋高裁 昭26(ナ)12号 町長選挙に関する選挙無効事件
(47)昭和26年11月 1日 名古屋地裁 昭24(ワ)561号 解雇無効確認請求事件 〔名古屋市職員免職事件〕
(48)昭和26年10月24日 広島高裁松江支部 昭26(う)54号 収賄被告事件
(49)昭和26年10月19日 福岡高裁 昭26(う)2437号 公職選挙法違反被告事件
(50)昭和26年 9月29日 名古屋地裁 昭24(ワ)561号 組合員除名無効確認請求事件 〔名古屋交通組合除名事件〕
(51)昭和26年 9月26日 札幌高裁 昭26(う)365号・昭26(う)366号・昭26(う)367号 国家公務員法違反被告事件
(52)昭和26年 9月 3日 札幌高裁 昭26(う)507号 昭和二五年政令第三二五号違反被告事件
(53)昭和26年 8月24日 高松高裁 昭24(控)1374号・昭24(控)1375号・昭24(控)1376号・昭24(控)1377号・昭24(控)1378号 衆議院議員選挙法違反・虚偽有印公文書作成・同行使等被告事件
(54)昭和26年 8月 7日 札幌高裁 昭26(う)475号 昭和二一年勅令第三一一号違反被告事件
(55)昭和26年 7月 7日 東京地裁 昭25(モ)2716号 仮処分異議申立事件 〔池貝鉄工整理解雇事件〕
(56)昭和26年 6月15日 名古屋高裁 昭26(う)529号 公職選挙法違反事件
(57)昭和26年 5月26日 大阪地裁 昭25(ワ)1824号 解雇無効確認請求事件 〔大阪陶業不当解雇事件〕
(58)昭和26年 5月 9日 広島高裁 昭25(ナ)2号 当選の効力に関する訴訟事件
(59)昭和26年 3月30日 東京高裁 昭25(う)4120号 電車顛覆致死偽証各被告事件 〔三鷹事件・控訴審〕
(60)昭和26年 3月28日 札幌高裁 昭25(う)692号 地方税法違反被告事件
(61)平成18年 6月29日 東京地裁 平16(特わ)973号 国家公務員法違反事件 〔国家公務員赤旗配付事件〕
(62)平成18年 6月20日 京都地裁 平16(行ウ)40号 地労委任命処分取消等請求事件
(63)平成18年 6月13日 東京地裁 平15(行ウ)416号・平16(行ウ)289号 難民の認定をしない処分取消等請求、退去強制令書発付処分取消等請求事件
(64)平成18年 5月15日 東京地裁 平17(ワ)1922号 慰謝料等請求事件
(65)平成18年 4月21日 東京地裁 平16(ワ)7187号 謝罪広告等請求事件
(66)平成18年 3月31日 大阪高裁 平17(行コ)22号・平17(行コ)23号 同和奨学金賠償命令履行請求各控訴事件
(67)平成18年 3月30日 東京地裁 平16(特わ)5359号 政治資金規正法違反被告事件 〔いわゆる1億円ヤミ献金事件・第一審〕
(68)平成18年 3月30日 京都地裁 平17(ワ)1776号・平17(ワ)3127号 地位不存在確認請求事件
(69)平成18年 3月29日 東京地裁 平17(行ウ)157号・平17(行ウ)184号・平17(行ウ)185号・平17(行ウ)186号・平17(行ウ)187号・平17(行ウ)188号・平17(行ウ)189号・平17(行ウ)190号・平17(行ウ)191号 国籍確認請求事件 〔国籍法三条一項違憲訴訟・第一審〕
(70)平成18年 3月28日 東京高裁 平17(行ケ)157号・平17(行ケ)158号・平17(行ケ)159号・平17(行ケ)160号・平17(行ケ)161号・平17(行ケ)162号・平17(行ケ)163号 選挙無効請求事件
(71)平成18年 3月23日 名古屋地裁 平16(行ウ)73号・平16(行ウ)76号 退去強制令書発付処分取消請求、難民不認定処分等無効確認請求事件
(72)平成18年 2月28日 東京地裁 平13(行ウ)150号 行政文書不開示処分取消請求事件 〔外務省機密費訴訟〕
(73)平成18年 2月28日 横浜地裁 平16(行ウ)1号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔神奈川県労委(東芝・配転)事件・第一審〕
(74)平成18年 2月 2日 福岡高裁 平17(行コ)12号 固定資産税等の免除措置無効確認等請求控訴事件
(75)平成18年 1月19日 最高裁第一小法廷 平15(行ヒ)299号 違法公金支出返還請求事件
(76)平成18年 1月12日 大分地裁 平15(わ)188号 公職選挙法違反被告事件
(77)平成18年 1月11日 名古屋高裁金沢支部 平15(ネ)63号 熊谷組株主代表訴訟控訴事件 〔熊谷組政治献金事件・控訴審〕
(78)平成17年12月26日 東京地裁 平17(行ウ)11号 不当労働行為救済命令取消請求事件 〔JR西(岡山)組合脱退慫慂事件〕
(79)平成17年12月 1日 東京高裁 平16(行コ)347号 難民の認定をしない処分取消請求控訴事件
(80)平成17年11月15日 東京地裁 平16(ワ)23544号 損害賠償請求事件
(81)平成17年11月10日 最高裁第一小法廷 平17(行フ)2号 文書提出命令申立却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件 〔政務調査費調査研究報告書文書提出命令事件〕
(82)平成17年10月25日 東京地裁 平16(ワ)14421号 損害賠償請求事件
(83)平成17年 9月15日 東京高裁 平17(ネ)707号 謝罪放送等請求事件
(84)平成17年 9月14日 大阪地裁 平15(行ウ)55号・平15(行ウ)56号・平15(行ウ)57号 所得税賦課決定処分取消請求事件
(85)平成17年 9月 8日 名古屋地裁 平16(行ウ)46号 難民不認定処分取消請求事件
(86)平成17年 8月31日 名古屋地裁 平16(行ウ)48号・平16(行ウ)49号・平16(行ウ)50号 裁決取消等請求各事件
(87)平成17年 8月25日 京都地裁 平16(行ウ)12号 損害賠償請求事件
(88)平成17年 7月 6日 大阪地裁 平15(ワ)13831号 損害賠償請求事件 〔中国残留孤児国賠訴訟〕
(89)平成17年 6月15日 大阪高裁 平16(行コ)89号 難民不認定処分取消、退去強制命令書発付取消等各請求控訴事件
(90)平成17年 5月31日 東京地裁 平16(刑わ)1835号・平16(刑わ)2219号・平16(刑わ)3329号・平16(特わ)5239号 贈賄、業務上横領、政治資金規正法違反被告事件 〔日本歯科医師会事件〕
(91)平成17年 5月30日 名古屋地裁 平15(行ウ)63号 政務調査費返還請求事件
(92)平成17年 5月26日 名古屋地裁 平16(行ウ)40号 岡崎市議会政務調査費返還請求事件
(93)平成17年 5月24日 岡山地裁 平8(行ウ)23号 損害賠償等請求事件
(94)平成17年 5月19日 東京地裁 平12(行ウ)319号・平12(行ウ)327号・平12(行ウ)315号・平12(行ウ)313号・平12(行ウ)317号・平12(行ウ)323号・平12(行ウ)321号・平12(行ウ)325号・平12(行ウ)329号・平12(行ウ)311号 固定資産税賦課徴収懈怠違法確認請求、損害賠償(住民訴訟)請求事件
(95)平成17年 5月18日 東京高裁 平16(行ケ)356号 選挙無効請求事件
(96)平成17年 4月27日 仙台高裁 平17(行ケ)1号 当選無効及び立候補禁止請求事件
(97)平成17年 4月21日 熊本地裁 平16(行ウ)1号 固定資産税等の免除措置無効確認等請求事件
(98)平成17年 4月13日 東京地裁 平15(行ウ)110号 退去強制令書発付処分取消等請求事件 〔国籍法違憲訴訟・第一審〕
(99)平成17年 3月25日 東京地裁 平15(行ウ)360号・平16(行ウ)197号 難民の認定をしない処分取消請求、退去強制令書発付処分等取消請求事件
(100)平成17年 3月23日 東京地裁 平14(行ウ)44号・平13(行ウ)401号 退去強制令書発付処分取消等請求事件


政治と選挙の裁判例(裁判例リスト)

■「選挙 コンサルタント」に関する裁判例一覧【1-101】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-consultant/

■「選挙 立候補」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-rikkouho/

■「政治活動 選挙運動」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seijikatsudou-senkyoundou/

■「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou-poster/

■「選挙 ビラ チラシ」に関する裁判例一覧【1~49】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bira-chirashi/

■「政務活動費 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seimu-katsudouhi-poster/

■「演説会 告知 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-seiji-enzetsukai-kokuchi-poster/

■「公職選挙法 ポスター 掲示交渉」に関する裁判例一覧【101~210】
https://www.senkyo.win/kousyokusenkyohou-negotiate-put-up-poster/

■「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧【211~327】
https://www.senkyo.win/political-poster-kousyokusenkyohou-explanation/

■「公職選挙法」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kousyokusenkyohou/

■「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/senkyo-kouhou-poster-bira/

■「選挙妨害」に関する裁判例一覧【1~90】
https://www.senkyo.win/hanrei-senkyo-bougai-poster/

■「二連(三連)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-2ren-3ren-poster-political-party-official-candidate/

■「個人(単独)ポスター 政党 公認 候補者」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kojin-tandoku-poster-political-party-official-candidate/

■「政党 公認 候補者 公募 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-party-official-candidate-koubo-poster/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 議員 政治家」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-politician/

■「告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター 政党 公報 広報」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster-political-party-campaign-bulletin-gazette-public-relations/

■「国政政党 地域政党 二連(三連)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-2ren-3ren-poster/

■「国政政党 地域政党 個人(単独)ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kokusei-seitou-chiiki-seitou-kojin-tandoku-poster/

■「公認 候補者 公募 ポスター 国政政党 地域政党」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-official-candidate-koubo-poster-kokusei-seitou-chiiki-seitou/

■「政治団体 公認 候補者 告示(公示)日 公営(公設)掲示板ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-official-candidate-kokuji-kouji-kouei-kousetsu-keijiban-poster/

■「政治団体 後援会 選挙事務所 候補者 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-political-organization-kouenkai-senkyo-jimusho-official-candidate-poster/

■「政党 衆議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-shuugiin-giin-poster/

■「政党 参議院議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-sangiin-giin-poster/

■「政党 地方議員 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-chihou-giin-poster/

■「政党 代議士 ポスター」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-daigishi-giin-poster/

■「政党 ポスター貼り ボランティア」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-poster-hari-volunteer/

■「政党 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seitou-touin-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「政治団体 党員 入党 入会 獲得 募集 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-seiji-dantai-nyuutou-nyuukai-kakutoku-boshuu-daikou/

■「後援会 入会 募集 獲得 代行」に関する裁判例一覧【1~100】
https://www.senkyo.win/hanrei-kouenkai-nyuukai-boshuu-kakutoku-daikou/


■選挙の種類一覧
選挙①【衆議院議員総選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙②【参議院議員通常選挙】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙③【一般選挙(地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)
選挙④【特別選挙(国政選挙|地方選挙)】に向けた、政治活動ポスター貼り(掲示交渉代行)


【資料】政治活動用事前街頭ポスター新規掲示交渉実績一覧【PRドットウィン!】選挙,ポスター,貼り,代行,ポスター貼り,業者,選挙,ポスター,貼り,業者,ポスター,貼り,依頼,タウン,ポスター,ポスター,貼る,許可,ポスター,貼ってもらう,頼み方,ポスター,貼れる場所,ポスター,貼付,街,貼り,ポスター,政治活動ポスター,演説会,告知,選挙ポスター,イラスト,選挙ポスター,画像,明るい選挙ポスター,書き方,明るい選挙ポスター,東京,中学生,選挙ポスター,デザイン


(1)政治活動/選挙運動ポスター貼り ☆祝!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
勝つ!選挙広報支援事前ポスター 政治選挙新規掲示ポスター貼付! 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

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アポイントメント獲得代行/後援会イベントセミナー集客代行/組織構築支援/党員募集獲得代行(所属党本部要請案件)/演説コンサルティング/候補者ブランディング/敵対陣営/ネガティブキャンペーン(対策/対応)

(6)握手代行/戸別訪問/ご挨拶回り 御用聞きによる戸別訪問型ご挨拶回り代行をいたします!
ポスター掲示交渉×戸別訪問ご挨拶 100%のリーチ率で攻める御用聞き 1軒でも行くご挨拶訪問交渉支援
ご指定の地域(ターゲットエリア)の個人宅(有権者)を1軒1軒ご訪問し、ビラ・チラシの配布およびアンケート解答用紙の配布収集等の戸別訪問型ポスター新規掲示依頼プランです。

(7)地域密着型ポスターPR広告貼り 地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)
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【対応可能な業種リスト|名称一覧】地域密着型ポスターPR広告(街頭外壁掲示許可交渉代行)貼り「ガンガン注目される訴求型PRポスターを貼りたい!」街頭外壁掲示ポスター新規掲示プランです。

(8)貼る専門!ポスター新規掲示! ☆貼!勝つ!広報活動・事前街頭(単独/二連)選挙ポスター!
政治活動/選挙運動ポスター貼り 勝つ!選挙広報支援事前ポスター 1枚から貼る事前選挙ポスター!
「政治活動・選挙運動ポスターを貼りたい!」という選挙立候補(予定)者のための、選挙広報支援プロ集団「選挙.WIN!」の事前街頭ポスター新規掲示プランです。

(9)選挙立札看板設置/証票申請代行 絶対ここに設置したい!選挙立札看板(選挙事務所/後援会連絡所)
選挙事務所/後援会連絡所届出代行 公職選挙法の上限/立て札看板設置 1台から可能な選挙立札看板設置
最強の立札看板設置代行/広報(公報)支援/選挙立候補者後援会立札看板/選挙立候補者連絡所立札看板/政治活動用事務所に掲示する立て札・看板/証票申請代行/ガンガン独占設置!


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申し込み お問合せ 日本語 お問合せ 問い合わせ お問合せ 問合せ ギャラクシー お問い合わせ グラクロ お問い合わせ グラブル お問い合わせ ゲームアイテム名 グラブル お問い合わせ どこ グラブル お問い合わせ モバゲー グラブル お問い合わせ 巻き戻し ゲーム お問い合わせ 書き方 ゲームトレード お問い合わせ ゲオ お問い合わせ ザトール お問い合わせ ザレイズ お問い合わせ シャープ お問い合わせ 050 シャープ お問い合わせ 冷蔵庫 シャドバ お問い合わせ ネタ ズーキーパー お問い合わせ ズーム お問い合わせ ずんどう屋 お問い合わせ ゼクシィ お問い合わせ セディナ お問い合わせ ローン ゼノンザード お問い合わせ ゼロファクター お問い合わせ ゼンハイザー お問い合わせ ゼンリー お問い合わせ ゼンリン お問い合わせ ゾゾタウン お問い合わせ 電話番号 ソフトバンク お問い合わせ 157 ソフトバンク お問い合わせ 24時間 ソフトバンク お問い合わせ 無料 ダイソー お問い合わせ ダイソン お問い合わせ ドコモ お問い合わせ 151 ドコモ お問い合わせ 24時間 ドラクエウォーク お問い合わせ 2-7-4 トレクル お問い合わせ 400 トレクル お問い合わせ 502 ニトリ お問い合わせ 0570 ヌビアン お問い合わせ ネスレ お問い合わせ ノエル銀座クリニック お問い合わせ ノートン お問い合わせ ノーリツ お問い合わせ ノジマ お問い合わせ パスワード お問い合わせ バッファロー ルーター お問い合わせ ぴあ お問い合わせ ピカラ お問い合わせ ピクトリンク お問い合わせ ピグパ お問い合わせ ピザハット お問い合わせ ビセラ お問い合わせ ビックカメラ お問い合わせ ビューカード お問い合わせ ペアーズ お問い合わせ ペイペイ お問い合わせ 電話 ポケコロ お問い合わせ ポケットカード お問い合わせ ポケ森 お問い合わせ ポンタカード お問い合わせ マイナビ お問い合わせ 2021 ムーモ お問い合わせ メルカリ お問い合わせ ページ メルカリ お問い合わせ ログインできない モバイルsuica お問い合わせ ヤマト運輸 お問い合わせ 0570 ゆうパック お問い合わせ 見つからない りそな銀行 お問い合わせ 24時間 ルイヴィトン 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