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「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例(222)昭和37年 5月31日  東京地裁  事件番号不詳 公職選挙法違反、出入国管理令違反被告事件

「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例(222)昭和37年 5月31日  東京地裁  事件番号不詳 公職選挙法違反、出入国管理令違反被告事件

裁判年月日  昭和37年 5月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  事件番号不詳
事件名  公職選挙法違反、出入国管理令違反被告事件
裁判結果  有罪  上訴等  控訴  文献番号  1962WLJPCA05316001

出典
刑集 23巻1号17頁

裁判年月日  昭和37年 5月31日  裁判所名  東京地裁  裁判区分  判決
事件番号  事件番号不詳
事件名  公職選挙法違反、出入国管理令違反被告事件
裁判結果  有罪  上訴等  控訴  文献番号  1962WLJPCA05316001

主文

被告人北村洋二を懲役一年六月
被告人城戸久を懲役一年四月
被告人川合正勝を懲役一年八月
被告人大木操を禁錮二年
被告人篠塚吉太郎を懲役一年六月
被告人井手哲夫を懲役一年四月
被告人渡会恍を懲役一〇月
に処する。
被告人北村洋二、同城戸久及び同井手哲夫に対し、この裁判が確定した日から各三年間右刑の執行を猶予する。領置してある一万円札七五枚(昭和三五年押第八九号の一九のうち)はこれを被告人井手哲夫から没収する。
被告人大木操、同篠塚吉太郎両名からそれぞれ金四〇〇万円、
被告人篠塚吉太郎から金一四九万五、〇〇〇円、
被告人井手哲夫から金一一〇万二、〇五四円、
被告人渡会恍から金三四万七、〇〇〇円
をそれぞれ追徴する。
訴訟費用中、証人武藤幸一に支給した分の二分の一、並びに証人木村兼彦、同寺本真(昭和三六年三月一七日支給)及び同雄鹿清美に支給した分の各全部は、これを被告人川合正勝の、証人石岡登代治に支給した分はこれを被告人大木操の、証人中川勝也に支給した分はこれを被告人篠塚吉太郎の、証人高松元久に支給した分はこれを被告人井手哲夫の、各単独負担とし、証人久保田正英に対し昭和三五年五月二八日支給した分はこれを被告人北村洋二、同城戸久及び同川合正勝三名の、同証人に対し同年四月二一日支給した分はこれを被告人川合正勝及び同大木操両名の、証人丸山朝吉、同永川憲一、同川野登喜男、同松本忠興、同太田寛治、同今西忠一及び同小田義行に支給した分はこれを被告人北村洋二、同城戸久、同川合正勝及び同井手哲夫四名の、証人中村璋、同柚木園淳及び同本多実に支給した分はこれを被告人北村洋二、及び同川合正勝両名の、証人前田稔、同野島峰雄、同柴崎正雄、同片桐守及び同仲山利平に支給した分はこれを被告人川合正勝及び同篠塚吉太郎両名の、証人丸山巌に支給した分はこれを被告人大木操及び篠塚吉太郎両名の、各平等負担とする。
公訴事実中、
(一)  被告人篠塚吉太郎は、昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に際し、東京地方区から立候補した鮎川金次郎の選挙事務所の責任者大木操を補佐したものであるが同候補者に当選を得しめる目的をもつて、同候補者のため投票取りまとめ等の選挙運動を依頼しその報酬等として同年五月下旬頃、同都中央区銀座西八丁目七番地キヤバレー「グランドパレス」内において、選挙運動者石田啓次郎に対し現金一万円を供与したとの点(罰条、公職選挙法第二二一条第一項第一号)につき、被告人篠塚吉太郎は無罪。
(二)  右被告人篠塚吉太郎、及び同選挙に際し、右候補者鮎川金次郎の出納責任者雄鹿清美を補佐した被告人井手哲夫は共謀の上、同年六月一日頃、同都千代田区平河町一丁目二番地所在の、同候補者の選挙事務所において、同候補者に当選を得しめる目的をもつて、同候補者のため投票取りまとめ等の選挙選動を依頼されていた選挙運動者中野範吾に対し、右選挙運動をしたことの報酬等として現金三万円を供与したとの点(罰条、公職選挙法第二二一条第一項第三号(第一号))につき、被告人篠塚吉太郎及び同井手哲夫はいずれも無罪。

 

 

理由

(罪となるべき事実)
昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に際し、日本中小企業政治連盟(以下「中政連」と略称する。)総裁鮎川義介の二男で、同連盟青年婦人局長の地位にあつた鮎川金次郎は同連盟の推薦によりその組織を基盤として同年五月七日東京地方区から立候補の届出をし、選挙運動期間中、自由民主党の公認候補者となり、同党の支持をも受けて当選(後、辞任)したもの、
被告人北村洋二は右鮎川義介の義弟(金次郎の叔父)にあたり義介を会長とする中小企業団体中央会において特別事業局長の地位にある等の関係から同選挙に際し、鮎川金次郎のための選挙運動資金(いわゆる裏資金(法定外選挙費用、選挙運動者に対する報酬金等の不法支出の資金)を含む)この資金源としてその調達、出金方を担当して同人の当選を図つたもの、被告人城戸久は中政連の事務総長であつて、同選挙に際し同連盟の選挙対策本部長となり鮎川金次郎ほか同連盟推薦の候補者数名全員の当選を目標として選挙運動を推進し、特に鮎川金次郎候補者については、これを同連盟総裁鮎川義介の後継者と目して強く支持し、その当選を期していたもの、
被告人川合正勝は右中小企業団体中央会特別事業局総務部長の職にあり、昭和三三年一〇月頃同選挙における鮎川金次郎の立候補に備えその選挙運動の母体として、同人を中心とする「新日本経済文化研究会」及び同人の支持者をもつて組織する「鮎川金次郎後援会」が設立されるや、鮎川義介、被告人城戸等の依頼により同研究会監事及び同後援会次長に就任し、右両会の実質上の責任者として同年一二月頃以降、被告人井手哲夫等を指揮し、右両会の活動を通じて鮎川金次郎の人物、経歴、抱負等の宣伝、普及に努め、同人の立候補届出と同時に右両会の活動が、同候補者の選挙事務所を中心とする選挙運動に移行した後は、同選挙事務所の責任者(選挙事務長)被告人大木操と前記被告人北村(又はその指示を受けた本多実)との間に介在して前記選挙運動資金の供給につき資金源たる同被告人の意を体してその出金の窓口となり被告人北村の出金する正規の選挙費用資金を同選挙事務所の出納責任者雄鹿清美に、同裏資金を被告人大木の指名した被告人篠塚吉太郎に、それぞれ受け渡すなどして鮎川金次郎の当選に尽力したもの、
被告人大木操は、さきに衆議院書記官長、貴族院議員、東京都副知事等を歴任し、衆、参両院の議員選挙にも立候補した経験があり、自由民主党に党籍を有し、右昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に際しては、中政連首脳者に推されて、鮎川金次郎の立候補届出と同時に設置された同候補者の選挙事務所の責任者(選挙事務長)に就任し、選挙運動期間を通じて選挙区(東京地方区)全域に亘り(但し東京都下の市部及び郡部(いわゆる三多摩地区)については同方面の有力者中野喜介を補佐者として同人に委嘱し同人を通じて)その選挙運動の全般を総括主宰し、同候補者のため自由民主党の公認その他同党の支持を獲得するにつき力があつたもの、
被告人篠塚吉太郎はかねて被告人大木と親密の間柄にあり、同選挙に際し同被告人が鮎川金次郎の選挙事務長に就任するや、同被告人の秘書格としてこれを補佐し、前記選挙運動の裏資金の授受等を担当して、選挙運動に従事したもの、
被告人井手哲夫は中政連の職員であつて前記「研究会」及び「後援会」の設立以降両会に派遣されてその会計事務を担当し、鮎川金次郎の立候補届出後は、同候補者の選挙事務所の出納責任者雄鹿清美の補佐役となり、その各担当事務を通じて鮎川金次郎の当選を図つたもの、
被告人渡会恍は被告人川合と親交があり、同選挙に際し同人の依頼により同候補者のため選挙情報の収集等の選挙運動に従事したもの
であるが、
第一、被告人北村洋二は被告人城戸久から、被告人川合正勝等において鮎川金次郎候補の他の選挙運動者に適宜に支給すべき選挙運動報酬、費用並びに前記「後援会」及び同候補者の選挙事務所が、その選挙運動に関し負担した諸債務の弁済に充てる資金として被告人川合正勝に対し、金一、一〇〇万円を出金すべきことを示唆要請されるや、これに応じ、いずれも東京都千代田区平河町一丁目二番地所在、中政連本館内において、
(一)  昭和三四年五月三〇日頃、被告人川合に対し、現金六〇〇万円、
(二)  同年六月一日頃、かねて被告人川合が右資金の受領方を依頼していた中政連総務局長兼経理局長相原義雄に対し現金五〇〇万円
を各手交し、もつて被告人川合に対し金一、一〇〇万円を交付し、
第二、被告人城戸久は、被告人川合から右第一記載の資金の出金斡旋方を依頼されるや、同年五月二九日頃前同所において被告人北村洋二に対し、同記載の趣旨の資金一、一〇〇万円を被告人川合に交付すべきことを示唆要請し、被告人北村をしてその旨決意させ、よつて、同被告人をして同記載のとおり二回に亘り計金一、一〇〇万円を被告人川合に交付するに至らしめもつて被告人北村の右第一記載の犯行を教唆し、
第三、被告人城戸久、同北村洋二は、被告人大木操、同篠塚吉太郎から右両名が、同候補者のため前記選挙運動をしたことの報酬、両名からその配下の選挙運動者に対の適宜に支給すべき選挙運動報酬、並びに右両名が右選挙運動に関し刑事上の捜査訴追を受けるに至つた場合の弁護費用等の資金として金五〇〇万円の出金方を要請されるや、被告人城戸、同北村共謀の上、八、四〇〇万円を供与することを申し合せ、いずれも被告人城戸において前同所で同趣旨のもとに、
(一)  同年六月二日頃被告人篠塚に対し現金二〇〇万円、
(二)  その数日後被告人大木に対し、現金二〇〇万円、
を手交し、もつて被告人大木、同篠塚両名に金四〇〇万円を供与し
第四、被告人川合正勝は、
(一)  被告人北村洋二から、右第一記載の趣旨のもとに金一、一〇〇万円を交付されるものであることを知りながら、同記載の場所において、
(イ) 同年五月三〇日頃、自ら現金六〇〇万円を受領し、
(ロ) 同年六月一日頃、かねてその受領方を依頼していた前記相原義雄をして現金五〇〇万円を受領させ、
もつて金一、一〇〇万円の交付を受け、
(二)  被告人井手哲夫に対し、単一の意思をもつて右第一記載の趣旨のもとに同所において、
(イ) 同年五月三〇日頃、自ら現金六〇〇万円、
(ロ) 同年六月一日頃、前記相原義雄を介して現金五〇〇万円、
を手交し、もつて金一、一〇〇万円を交付し、
(三)  同候補者に当選を得しめる目的で、同所において、被告人篠塚吉太郎に対し、同被告人が前記選挙運動をすることの報酬、費用並びに同被告人から他の選挙運動等に適宜に支給すべき選挙運動の報酬、費用等の資金として、
(イ) 同年五月初頃、現金一〇〇万円、
(ロ) 同月七日頃、現金五〇万円、
(ハ) 同月一〇日頃、現金五〇万円、
(ニ) 同月二〇日頃、現金一〇〇万円、
を各供与し、
(四)  同候補者に当選を得しめる目的で、同所において、被告人渡会恍に対し、同被告人が前記選挙運動をすることの報酬及び費用として、
(イ) 同月上旬頃、現金三万円、
(ロ) 同月二〇日頃、現金二万円、
(ハ) 同月二五日頃、現金三万円、
を各供与し、
(五)  前記「後援会」の職員として、同候補者のためその立候補届出前の選挙運動に従事していた板谷賢一と共謀の上、同候補者に当選を得しめる目的で、同年四月一四日頃、東京都北多摩郡小平町野中新田与右衛門組七九〇番地渓義昌方において、同候補者のため投票取糎め等の選挙運動を依頼されていた右渓義昌に対し、同人が右選挙運動をすることの報酬、費用並びに同人から他の選挙運動者等に適宜に支給すべき選挙運動の報酬、費用等の資金として、現金一〇〇万円を供与し、
(六)  法定の除外事由がないのに、同年一〇月二二日頃、鹿児島県奄美大島古仁屋港から漁船姫丸に乗船して同県徳之島に至つた上、同月二三日頃、有効な身分証明書に出国の証印を受けることなく、同船で沖縄方面に向けて本邦を出国し、
第五、被告人大木操、同川合正勝、同篠塚吉太郎は共謀の上、同候補者に当選を得しめる目的で被告人篠塚において、いずれも東東都立川市曙町二丁目九二番地立川商工会議所において、被告人大木操の委嘱により前記三多摩地区における同候補者のための選挙運動を統括していた中野喜介及びこれを補佐していた草皆明子の両名に対し、かねて同人等に供与することを約諾していた同人等が右選挙運動をすることの報酬、費用並びに同人等から他の選挙運動者等に適宜に支給すべき選挙運動の報酬、費用等の資金の一部として、
(一)  同年五月一五、六日頃、現金一〇〇万円、
(二)  同月二〇日頃、現金一〇〇万円、
(三)  同月二四日頃、現金五〇万円、
を各手交しもつて右中野、草皆両名に対し金二五〇万円を供与し、
第六、被告人川合正勝、同井手哲夫は共謀の上、いずれも被告人井出において同月末頃、東京都千代田区平河町一丁目二番地所在、中政連別館内鮎川金次郎選挙事務所において、
(一)  同候補者の選挙運動者柴崎正男に対し、同人が同候補者のため選挙運動用文書の頒布、掲示に関する企画の立案、実施の統括並びに投票取纒め等の選挙運動をしたことの報酬並びに右選挙運動に関する犯罪の嫌疑による司法官憲の追及を免れさせるための逃避資金として、現金一〇万円、
(二)  同候補者の選挙運動者中島勉に対し、同人が同候補者のため移動選挙事務所に関する計画の立案、実行及び投票取纒め等の選挙運動をしたことの報酬並びに前同趣旨の逃避資金等として、現金一〇万円、
(三)  前記同候補者の選挙運動者板谷賢一に対し、同人が同候補者のため被告人大木を補佐して選挙運動をしたことの報酬及び前同趣旨の逃避資金として、高松元久を介して現金一〇万円、
を各供与し、
第七、被告人大木操、同篠塚吉太郎は共謀の上、単一の意思の下に同年六月二日頃及びその数日後の二回に亘り、前記中政連本館内において、被告人城戸、同北村の両名から右第三記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、同記載のとおり各現金二〇〇万円を受領しもつて、金四〇〇万円の供与を受け、
第八、被告人篠塚吉太郎は、
(一)  いずれも前同所において、被告人川合正勝から、右第四の(三)記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、
(イ) 同年五月初頃、現金一〇〇万円、
(ロ) 同月七日頃、現金五〇万円、
(ハ) 同月一〇日頃、現金五〇万円、
(ニ) 同月二〇日頃、現金一〇〇万円、
の各供与を受け、
(二)  同候補者に当選を得しめる目的で、いずれも前記鮎川金次郎選挙事務所において、
(イ) 同月下旬頃、被告人大木操を補佐するいわゆる選挙参謀の地位にあつた石田啓次郎に対し、同人が同候補者のための選挙運動をすることの報酬、費用並びに同人から他の選挙運動者等に適宜に支給すべき選挙運動の報酬、費用等の資金として現金一〇万円、
(ロ) 同月下旬頃、同候補者の選挙運動者前田稔に対し、同人が同候補者のため東京都内の移動飲食店組合関係者の投票取纒め等の選挙運動をすることの報酬並びにこれが投票買収資金等として現金一三万円、
(ハ) 同月一〇日頃、同候補者の選挙運動者小河原新一郎に対し、同人が同候補者のため投票取纒め及び選挙応援演説等の選挙運動をすることの報酬及び費用として現金五万円、
(ニ) 同候補者の選挙運動者伊藤新助に対し、同人が同候補者のため選挙情報収集等の選挙運動をすることの報酬及び費用として、
(1) 同月一〇日頃、現金五、〇〇〇円、
(2) 同月中旬頃、現金一万円、
(3) 同月二〇日頃、現金五、〇〇〇円、
(4) 同月下旬頃、現金一万円、
(ホ) 同候補者の選挙運動者野島峰雄に対し、
(1) 同月中旬頃、同人が同候補者のため個人演説会の応援弁士として芸能人を出場させることの交渉、連絡等の選挙運動をすることの報酬及び費用として現金五、〇〇〇円、
(2) 同人に対する前同報酬、費用並びに同人が交渉依頼した芸能人弁士に支給すべき選挙運動(応援演説)報酬の資金として、
(a) 同月二〇日頃、現金一万円、
(b) 同月下旬頃、現金九万円、
を各供与し、
(三)  同候補者に当選を得しめる目的で、被告人渡会恍に対し、いずれも、前記中政連別館前路上に駐車中の乗用自動車内において、
(イ) 同月六日頃、同被告人が前記選挙運動をすることの報酬、費用並びに同候補者の氏名を宣伝し、或いは同候補者等をして知名人、有力者等と面識を得て前期選挙を有利に展開させるため、同被告人所属の社交団体永楽倶楽部(東京都千代田区大手町二丁目三番地野村ビル内)に同候補者及び前記石田啓次郎を加入させるための入会金その他の費用として現金一〇万円、
(ロ) 同月一〇日頃、同被告人が前記選挙運動をすることの報酬及び費用として現金二〇万円、
を各供与し、
第九、被告人篠塚吉太郎、同井手哲夫は共謀の上、いずれも同年六月一日頃、前記鮎川金次郎選挙事務所において、
(一)  被告人篠塚において前記野島峰雄に対し、同人が前記第八の(二)の(ホ)の(1)の選挙運動をしたことの報酬として現金二万円、
(二)  被告人篠塚において右候補者の選挙運動者永川憲一に対し、同人が同候補者のため選挙応援演説、選挙情報収集等の選挙運動をしたことの報酬及びこれに要した費用の弁償として現金二万円、
(三)  被告人篠塚において同候補者の選挙運動者丸山朝吉に対し、同人が同候補者のため選挙情報収集等の選挙運動をしたことの報酬及びこれに要した費用の弁償として、右永川憲一を介し現金一万円、
(四)  被告人篠塚において同候補者の選挙運動者鈴木六郎に対し、同人が同候補者のため各達挙運動者間の連絡、前記選挙事務所における来客との応待、個人演説会の推進等の選挙運動をしたことの報酬及びこれに要した費用の弁償として現金一万円、
(五)  被告人篠塚において同候補者の選挙運動者今西忠一に対し、同人が同候補者のため東京都内の天理教関係者等に投票を依頼する等の選挙運動をしたことの報酬として現金一万円、
(六)  被告人井手において同候補者の選挙運動者太田寛治に対し、同人が同候補者のため街頭演説及び個人演説会の企画立案、及び実施を統括する等の選挙運動をしたことの報酬、これに要した費用の弁償並びに同人から配下選挙運動者等に適宜に支給すべき選挙運動報酬及び実費弁償の資金として現金一〇万円、
を各供与し、
第一〇、被告人井手哲夫は、
(一)  被告人川合から、右第一記載の趣旨のもとに金一、一〇〇万円を交付されるものであることを知りながら、前記中政連本館内において、
(イ) 同年五月三〇日頃、現金六〇〇万円、
(ロ) 同年六月一日頃、前記相原義雄を介して現金五〇〇万円
を各受領し、もつて金一、一〇〇万円の交付を受け、
(二)  前記柴崎正男と共謀の上、右候補者に当選を得しめる目的で、右柴崎において同年五月中旬頃東京都台東区浅草千束町二丁目六番地仲山利平方において、同候補者の選挙運動者中山利平に対し、同人が同候補者のため投票取纒め及び当時行われていた東京都台東区浅草所在の浅草神社の祭礼(三社祭)に際し、町内会御酒所等に同候補者名義で清酒を奉納してその氏名を宣伝する等の選挙運動をすることの報酬並びに右奉納清酒購入資金として、右仲山の妻雪子を介し現金五万円を供与し、
第一一、被告人渡会恍は、
(一)  いずれも前記中政連本館内において、被告人川合正勝から、右第四の(四)記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら、
(イ) 同月上旬頃、現金三万円、
(ロ) 同月二〇日頃、現金二万円、
(ハ) 同月二五日頃、現金三万円、
の各供与を受け、
(二)  いずれも前記中政連別館前路上に駐車中の乗用自動車内において、被告人篠塚吉太郎から、
(イ) 同月六日頃、右第八の(三)の(イ)記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら現金一〇万円、
(ロ) 同月一〇日頃、右第八の(三)の記載の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら現金二〇万円、
の各供与を受け、
(三)  同候補者に当選を得しめる目的で、前記伊藤新助に対し、同人が同候補者のため選挙情報の収集等の選挙運動をすることの報酬及び費用として、
(イ) 同月一〇日頃東京都北区王子一丁目附近から前記鮎川金次郎選挙事務所に向けて走行中の自動車内において現金二、〇〇〇円、
(ロ) 同月中旬頃、前記永楽倶楽部において現金五、〇〇〇円、
(ハ) 同月二〇日頃、前記中政連本館内において現金五、〇〇〇円、
(ニ) 同月下旬頃、同所において現金一万円、
を供与し、
たものである。
(証拠の標目)(省略)
〔(一) 被告人川合に対する本件各公職選挙法違反の公訴事実は、同被告人は判示選挙に際し被告人大木操とともに候補者鮎川金次郎のための選挙運動を総括主宰し、その間判示各公職選挙法第二二一条第一項の罪を犯したものである(罰条同条第三項)というのであるが、同法にいわゆる「選挙運動を総括主宰した者」とは、特定の候補者のために選挙運動が行われる全地域に亘り選挙運動の中心となり、ある期間継続してその運動を全面的に支配した者をいうものと解すべきであるところ、前掲関係証拠によれば、被告人川合はさきに鮎川金次郎のための選挙運動母体たる判示「研究会」及び「後援会」の活動の実質上の最高責任者として両会の資金面をも掌理して来た関係上同人の立候補と同時にその選挙事務所が設置され被告人大木がその責任者(いわゆる選挙事務長)となり右両会の活動が同選挙事務所を中心とする選挙運動体制に切り替えられるや、引き続き同選挙事務所の幹部の一員として選挙運動の全期間に亘り、その運動資金の取扱(配分、授受)に関与するに至り、関係幹部の申合せによる正規のルートとして選挙運動者からの出金要求を受け付けてこれを資金源たる被告人北村洋二に伝達し、同被告人の出金する正規の選挙費用資金はこれを被告人大木の指揮下にある出納責任者雄鹿清美に、いわゆる裏資金はこれを同被告人の指名したその取扱者被告人篠塚吉太郎に、それぞれ引き渡したほか、判示のような各金員授受の行為をして、選挙運動を促進したものであることが認められるが、その半面において選挙運動が右選挙事務所を中心として行われる体制に入つた以後において、被告人川合がこれに関与したのは、主として右資金取扱の面に限り、選挙運動の実際面は、選挙運動の全期間及び選挙区の全域に亘り、選挙事務長たる被告人大木が、その一切を統轄指揮したものであることは判示認定のとおりであるのみならず、資金取扱の面においても(1)判示第一、第二、第四の(一)(二)及び第一〇の(一)の金一、一〇〇万円については、被告人川合は、その出金により予定の資金総額を超過する形勢となつたため、先ず被告人城戸久と相談の上、同被告人を通じ、且つ、その口添えを得てこれを被告人北村に請求した結果その出金を得たものであること、しかも右金員を直接被告人井手哲夫に交付したことにつき、被告人篠塚から、前記出金ルートを乱すものとして強硬な抗議を受けていること、(2)判示第三及び第七の金四〇〇万円については、はじめ被告人大木、同篠塚両名から金五〇〇万円の出金要求を受けて内心これに不同意であつた被告人川合は、諾否の確答を与えなかつたところ右両名は、更に被告人城戸に対し同様の申入れをし、同被告人は、被告人川合の右意向を知りながらこれを被告人北村に伝え、同被告人と協議の結果、右要求額を削減して金四〇〇万円を出金することに決し、被告人北村、同城戸等から直接被告人大木、同篠塚に対しこれが手交されていること、(3)判示第五の金二五〇万円についても、中野喜介から直接被告人大木に対し金三五〇万円程度の出金方の要請があり同被告人がこれを諒承した結果、被告人川合は右約諾の履行として被告人北村から計金二五〇万円の出金を得て、被告人篠塚を介し、右中野及び草皆明子にこれを手交したものであること等が窺われ、これによつて見れば被告人川合は候補者鮎川金次郎のためにする選挙運動資金取扱の面においても、その収支を全面的に掌握支配する立場にあつたものではなくただ資金源たる被告人北村の補助者乃至その出金の窓口たる立場において、資金供給ルート一環を分担したに過ぎないものと解するのが相当であり、このほか、関係証拠を精査検討しても、公訴事実指摘のように、被告人川合が被告人大木とともに、同候補者のための選挙運動を総括主宰したものと認めるに足りる資料はない。
(二)  被告人川合に対する判示第四の(三)の点の公訴事実は、同被告人は相被告人上野浩と共謀の上被告人篠塚に対し選挙運動をすることの報酬等として計金三〇〇万円を供与した(罰条公職選挙法第二二一条第一項第一号刑法第六〇条)というのであるが、右現金三〇〇万円は前后四回に亘りいずれも被告人川合から被告人篠塚に直接手交されたものであることは判示認定のとおりであつて、右現金引渡しの実行に相被告人上野が関与した事実を認めるに足りる何等の証拠がないばかりか、被告人川合及び右上野間に右金員を出金手交することの謀議その他共同加功の意思連絡があつたものと認めるに足りる証拠も存しない。なるほど前掲関係証拠によれば、被告人川合は前記選挙運動資金供給ルートの一環を荷うべき立場上、後日、右資金(特に裏資金)の授受に関して司直の追及を受けるに至つた場合累、が資金源たる被告人北村ほか鮎川義介の側近者、ひいては右義介本人に及ぶべきことを虞れ、これが防止策として、同選挙告示の前後頃被告人篠塚同座の席上、相被告人上野に対し、情を明かして被告人川合が前記出金ルートに則り扱うべき選挙運動資金につき、上野においてこれが仮装の資金となるべきことを懇請したところ、相被告人上野は、かねて鮎川義介から事実上恩義を蒙つていた関係上これを快諾し、捜査官の取調を受けるに至つた場合は金二〇〇〇万円の限度において、あたかも同人が資金源となつて被告人川合に選挙運動資金を供給したものの如く偽装して捜査の防波堤となるべきことを約し、その後この諒解の下に被告人川合から被告人篠塚に対し右金三〇〇万円の出金がなされたことが窺われるが、更に同証拠によれば、右諒解成立当時、相被告人上野としては〓後特段の出金要請があれば格別、さもない限り現実に被告人川合のため資金源となつて同被告人とともに被告人篠塚等に対し選挙運動資金を供給する意思はなく(これは当時鮎川金次郎のための選挙運動者の一部に相被告人上野の参加を敬遠忌避する空気があつたため、同人としては相被告人佐々木芳朗とともに、一応同候補者のための選挙運動から手を引いていたためである。)被告人川合、同篠塚もまたこれを期待せず、右諒解の内容はあくまで相被告人上野が被告人北村に代り選挙運動資金源たることを仮装するにあつたものであることが認められるので、右諒解によつて被告人川合及び相被告人上野間に被告人篠塚に対する選挙運動裏資金供与の共同意思が成立し被告人川合の被告人篠塚に対する判示金三〇〇万円供与の所為により右共同意思が実現されたものと見ることは不可能であり公訴事実指摘のようにこれを同被告人との共同正犯と解すべき限りではない。
(三)  被告人篠塚吉太郎、同井手哲夫に対する判示第九の(五)の点の公訴事実は、右両名共謀の上、昭和三四年六月一日頃鮎川金次郎候補者の選挙事務所において今西忠一に対し、選挙運動をしたことの報酬等として現金二万円を供与したと言うのであるが、前掲92、112(但し、被告人井手の供述記載部分を除く)114、115及び120の証拠によれば、右供与金額は判示のとおり金一万円であることが認められ公判調書中、被告人井手の右認定に反する供述記載部分及び124の証拠をもつてしても右認定を左右するに足りない。〕
(法令の適用)
被告人北村洋二の判示第一、被告人川合正勝の判示第四の(二)の各金員交付の所為(いずれも包括一罪)は、公職選挙法第二二一条第一項第五号前段(第一号)に、被告人城戸久の判示第二の金員交付教唆の所為(包括一罪)は同条同項同号刑法第六一条第一項に、被告人川合の判示第四の(一)、被告人井手哲夫の判示第一〇の(一)の各金員受交付の所為(いずれも包括一罪)は同選挙法第二二一条第一項五号後段(第一号)に、被告人川合の判示第四の(三)((イ)乃至(ニ))(四)((イ)乃至(ハ))及び(五)、被告人篠塚の判示第八の(二)の(イ)ないし(ハ)(ニ)((1)乃至(4))(ホ)((1)(2)((a)及び(b))(三)((イ)及び(ロ))被告人井手の判示第一〇の(二)及び被告人渡会恍の判示第一一の(三)((イ)乃至(ハ)の各金員供与の所為は、同条同項第一号(但し被告人川合の右第四の(五)、被告人井手の右第一〇の(二)については、各刑法第六〇条をも適用)、被告人大木、同川合、同篠塚の判示第五の(一)乃至(三)の各金員供与の所為(包括一罪)は同選法第二二一条第三項(第一項第一号)刑法第六〇条(なお被告人川合、同篠塚につき各刑法第六五条一項)に、被告人北村、同城戸の判示第三の(一)(二)(包括一罪)、被告人川合、同井手の判示第六の(一)乃至(三)、被告人篠塚、同井手の判示第九の(一)乃至(六)の各金員供与の所為は、同選挙法第二二一条第一項第三号(第一号)刑法第六〇条に、被告人大木、同篠塚の判示第七の金員受供与の所為(包括一罪)は同選挙法第二二一条第三項(第一項第四号(第三号))刑法第六〇条(なお被告人篠塚につき刑法第六五条第一項)に、被告人篠塚の判示第八の(一)((イ)乃至(ニ))被告人渡会の判示第一一の(一)((イ)乃至(ハ))及び(二)((イ)及び(ロ))の各金員受供与の所為は同選挙法第二二一条第一項第四号(第一号)に、被告人川合の判示第四の(六)の不法出国の所為は、出入国管理令第七一条、第六〇条第二項(第一項)第二条第一号第五号、出入国管理令施行規則第一条、旅券法附則第七項に各該当するが被告人川合、同篠塚の右第五、被告人篠塚の右第七の各罪については、刑法六五条第二項により、それぞれ同選挙法二二一条第一項の罪の刑を科すべきである。よつて、右各罪の所定刑中被告人大木についてはいずれも禁錮刑を、その余の被告人六名についてはいずれも懲役刑を選択し、被告人渡会には前示の前科があるから刑法第五六条第一項第五七条により各罪の刑につき累犯加重をし、被告人七名の以上の各所為は、それぞれ同法第四五条前段所定の併合罪であるから同法第四七条本文第一〇条を適用し(被告人川合については重い公職選挙法違反罪の刑に)各併合罪加重をした刑期範囲内において被告人七名に対しそれぞれ主文第一項のとおり量刑処断し、被告人北村洋二、同城戸久及び同井手哲夫に対しては情状にかんがみ同法等二五条第一項に則りそれぞれ主文第二項のとおり各自の刑の執行を執予し、領置してある一万円札七五枚(計七五万円、昭和三五年押第八九五号の一九のうち)は被告人井出が判示第一〇の(一)の犯行により交付を受けた金一、一〇〇万円中、受交付の趣旨に従い判示第九の(一)乃至(六)のほか、他に支給または支出した残額一八五万二〇五四円の一部であるから公職選挙法第二二四条前段によりこれを被告人井手から没収し、(一)右残額中、その余の金一一〇万二〇五四円、(二)被告人大木操、同篠塚吉太郎が判示第七の犯行により共謀して収受した金四〇〇万円、(三)被告人篠塚吉太郎が判示第八の(一)の犯行により収受した計金三〇〇万円中、受供与の趣旨に従い判示第八の(二)及び(三)のとおり、計金七一万五〇〇〇円を他に供与したほか日月電機株式会社に金七五万円、鈴木しげに金三万円及び石田啓次郎に金一万円をそれぞれ支払い又は支出した残額金一四九万五〇〇〇円、(四)被告人渡会恍が判示第一一の(一)(二)の犯行により収受した計金三八万円中、受供与の趣旨に従い鮎川金次郎及び石田啓次郎両名の永楽クラブ入会金及び会費合計金三万三〇〇〇円を支出した残額金三四万七〇〇〇円はいずれもこれを没収することができないから同条後段に則り、それぞれその価額を主文第四項のとおり当該被告人から(但し右(二)については被告人大木、同篠塚両名の連帯負担の関係において)追徴することとし、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り主文第五項のとおりこれを関係被告人に負担させることとする。
(公訴事実中、無罪の部分について)
本件公訴事実中
第一、被告人篠塚吉太郎に対する、主文第六項の(一)記載の点について審究するのに、証拠によれば同被告人が昭和三四年六月二日施行の参議院議員選挙に際し東京地方区から立候補した鮎川金次郎の選挙事務所の責任者大木操を補佐したものであること並びに同年五月下旬頃、東京都中央区銀座西八丁目七番地キヤバレー「グランド・パレス」内において、同候補者のための選挙運動者石田啓次郎に対し現金一万円を手交したことを認めることができるが、更に証拠に基づいて検討するのに、右石田は被告人篠塚の依頼により同日同候補者の選挙運動者丹羽比呂志の紹介で右「グランド・パレス」に赴き、始業前の午後五時頃マネージヤーから訓辞を受けるため同店の従業員(ボーイ、女給等)約一〇〇名が一室に集合した機会を利用して約一〇分間に亘りこれ等従業員に対し候補者鮎川金次郎の人物、政見を紹介推薦し、同選挙において同候補者を支持せられたい旨の演説をしたが、右演説終了後、鮎川金次郎の選挙運動者として、右推薦演説の機会を提供してくれた同店の好意に対する義理合い上、そのまま直ちに退出することも憚かられ、偶々同店マネージヤーの勧めもあつたので暫時同店の客として飲食した上、多少の金を置いて行こうと考えていたところへ、被告人篠塚も行き合せたので、同行の丹羽比呂志と共に三名で食卓につき酒肴を注文して飲食したが、被告人篠塚は所用のため中座退席するに当り、右石田に対し、一万円札一枚を手交し、右三名の飲食代金等の支払を依頼し、右石田はその旨を諒承してこれを預り、右金員をもつて同店に対する支払(代金六七五〇円)をなし、その領収証を受け取つて帰つたものであることが認められ、かかる事実経過と、被告人石田啓次郎が日本中小企業政治連盟から派遣されて鮎川金次郎の選挙事務所における選挙参謀格ないし長老格の地位に就いていた者である一方、被告人篠塚は同事務所の責任者大木操を補佐し同事務所の運営、選挙運動者の行動の全般につき鞅掌する者としてかかる飲食代金等については当然自らこれを決済処理すべき立場に在つたこと、並びに右石田が本件につき逮捕されるに至るまで右領収証を保管していたことなどを考え合せると、この場合の飲食は、右石田及び被告人篠塚等が同店に対する儀礼上候補者鮎川金次郎の選挙運動者又は同候補者の選挙事務所の所属員として、いわば鮎川金次郎支持者を代表する公的な立場においてなしたものであつて、その代金は同選挙事務所においてこれを負担するのが当然と認められる事情にあつたため、被告人篠塚においてその責任上進んで自ら出金したものであり、これを右石田に手交したのは、右飲食代金等の支払を依頼して一時同人にこれを寄託したに過ぎず同人もまたその趣旨においてこれを預り、その金員をもつて右飲食等の代金の決済をなしたものであつて、双方とも同候補者のための選挙運動報酬として右飲食の饗応をし、又は、これを受け、もしくはその代金支払後の残額をその報酬として供与し又は領得する等の意図はなかつたものと解するのが相当である。被告人篠塚及び右石田啓次郎の司法警察員又は検察官に対する各供述調書中この認定に反する供述記載部分は、右認定のような各種の情況に照して、たやすく措信し難く、他に右金一万円が選挙運動をすることの報酬として授受された事実を肯認するに足りる証拠はない。そうであるとすれば公訴事実中、この部分については犯罪の証明がないものと言わねばならない。
第二、被告人篠塚吉太郎及び同井手哲夫に対する主文第六項の(二)記載の点について審究するのに、証拠によれば被告人篠塚が前示のとおり、前同選挙に際し候補者鮎川金次郎の選挙事務所の責任者大木操の補佐官であつたことのほか、被告人井手が同候補者の出納責任者雄鹿清美を補佐していたものであること、右被告人両名相談の上被告人篠塚において、公訴事実指摘の日時、場所において、中野範吾に対し現金三万円を手交したことはこれを認めることができる。しかしながら更に進んで証拠に基づき検討するのに、右中野は鮎川金次郎が会長をしていた日本ゲートボール協会の幹事を勤めていた関係で、同協会理事長池上金治の依頼により同会から、右鮎川金次郎の政治活動を支援する目的で組織された鮎川金次郎後援会の事務応援のため派遣され、書道五段の特殊技能を有するところから昭和三四年三月上旬以降、同後援会事務所において無給で各種の揮毫に応じて来たものであるところ、右選挙に際し同年五月七日から右後援会事務所が鮎川金次郎の選挙事務所に切り替えられた後も引き続きその事務を応援し選挙運動期間中、最も繁忙な同月九日頃から同月二九日頃までの間、連日同事務所において選挙運動者等の要請に応じ、その内容の指示を受けて、書家としての特技を提供し、選挙に関する推薦状、個人演説会場用懸垂ポスター、挨拶状及びその封筒の上書、陣中見舞に対する礼状等無数の文書の揮毫に従事して来たため、同選挙事務所の管理に当つていた被告人篠塚及び同会計出納事務の処理に当つていた被告人井手は、その労を多とし、協議の上選挙運動の終了した同年六月一日夜、右中野がかかる文書の作成に従事したことに対する謝礼として被告人篠塚から同人に対し右金三万円を渡したものであることを認めることができるのであつて、かように、書家として文書の内容を指示してその作成を依頼され、いわば機械的にその技能を提供してこれが揮毫に従事するが如きは、その文書の内容が選挙運動を目的とするものであつてもなお単に選挙運動の準備行為たるに止まり、これを目して選挙運動自体と解するを得ないから、同被告人がかかる文書の作成に従事したことの謝礼として右金三万円を受領した行為は、公職選挙法第二二一条第一項第三号(第一号)の罪を構成しないものと言わざるを得ない。もつとも右中野が同年四月初旬頃鮎川金次郎後援会事務所に勤務中、前記池上金治の依頼により某区会議員選挙に立候補予定の大千代子の後援会の会合に出席し、公職選挙の有権者多数を含む参集者に対し、鮎川金次郎後援会の趣意書を配布し、前記参議院議員選挙に際し立候補する予定の鮎川金次郎を支援せられたい旨の挨拶をし、もつて鮎川金次郎のため事前の選挙運動をしたことは証拠上これを窺うに足りるが、被告人篠塚、同井手並びに右中野の各供述調書及び同人等の当公判廷における各供述によつてもこのことは右金三万円の授受に際し当事者双方の全く念頭におかなかつたところであつて、右金員は右中野が右選挙運動をしたことは全く無関係に、単に叙上のような文書の作成に従事したことに対する謝礼の趣旨で手交し、かつ受領されたものであることを看取するに十分であり、(右各供述調書中には一見右金員が選挙運動報酬として授受されたかの如き供述の記載があるが、右は結局右認定と同趣旨のことを述べたものと解せられ、これを牴触するものとは認め難い。)他にこれが、右中野が候補者鮎川金次郎のため投票取りまとめ等の選挙運動をしたことの報酬として授受されたものであることを認めるに足りる証拠はない。そうであるとすれば、公訴事実中、この点についてもまた犯罪の証明がないものと言うほかはない。
よつて右各公訴事実については、刑事訴訟法第三三六条後段に則り、被告人篠塚吉太郎、同井手哲夫に対し、それぞれ主文第六項のとおり無罪の言渡をする。
よつて主文のとおり判決する。


「政治ポスター貼り 公職選挙法 解釈」に関する裁判例一覧
(211)昭和39年 1月29日 東京地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(212)昭和39年 1月13日 名古屋高裁金沢支部 昭37(ナ)1号 当選の効力に関する訴願の裁決取消請求事件
(213)昭和38年12月 7日 花巻簡裁 昭37(ろ)32号 公職選挙法違反事件
(214)昭和38年10月10日 大阪高裁 昭37(ナ)2号 市議会議員選挙無効裁決取消請求事件
(215)昭和38年 7月27日 東京地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(216)昭和38年 6月20日 大阪高裁 昭38(う)469号 公職選挙法違反被告事件
(217)昭和38年 5月27日 名古屋高裁 昭32(行ナ)2号 行政処分取消請求事件
(218)昭和38年 4月18日 和歌山簡裁 昭37(ろ)233号 公職選挙法違反事件
(219)昭和37年 8月16日 名古屋高裁金沢支部 昭36(う)169号 公職選挙法違反事件
(220)昭和37年 7月11日 仙台高裁 昭37(ナ)1号 町議会議員選挙当選無効訴願裁決取消請求事件
(221)昭和37年 6月18日 東京地裁八王子支部 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(222)昭和37年 5月31日 東京地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反、出入国管理令違反被告事件
(223)昭和37年 4月18日 東京高裁 昭35(ナ)15号 選挙無効確認請求事件
(224)昭和37年 4月 6日 名古屋高裁 昭35(ナ)2号 議会議員選挙の効力に関する異議事件
(225)昭和37年 3月 5日 仙台高裁 昭36(ナ)2号 当選無効裁決取消請求事件
(226)昭和37年 1月22日 山形地裁 昭34(わ)229号 公職選挙法違反事件
(227)昭和37年 1月20日 東京高裁 昭36(ナ)1号 村長の当選無効請求事件
(228)昭和37年 1月16日 東京高裁 昭36(う)1094号 公職選挙法違反被告事件
(229)昭和36年12月20日 大阪高裁 昭36(う)1464号 公職選挙法違反事件
(230)昭和36年10月 5日 大阪高裁 昭36(う)277号 公職選挙法違反事件
(231)昭和36年 9月 2日 一関簡裁 昭36(ろ)3号 公職選挙法違反事件
(232)昭和36年 7月29日 広島高裁 昭36(ナ)1号 当選無効請求事件
(233)昭和36年 7月29日 広島高裁 事件番号不詳〔1〕 当選無効事件
(234)昭和36年 6月30日 東京高裁 昭34(ナ)15号 選挙無効確認訴訟請求事件
(235)昭和36年 5月17日 東京地裁 昭31(ワ)5192号 損害賠償請求事件
(236)昭和36年 5月10日 仙台高裁 昭35(ナ)4号 市議会議員選挙無効確認等請求事件
(237)昭和36年 4月 8日 福岡地裁 昭35(ヨ)363号 仮処分申請事件 〔福岡玉屋懲戒解雇事件〕
(238)昭和36年 3月20日 最高裁第二小法廷 昭35(あ)2226号 公職選挙法違反被告事件
(239)昭和36年 3月18日 東京高裁 昭35(ナ)14号 選挙無効請求事件
(240)昭和36年 3月14日 最高裁第三小法廷 昭35(あ)2366号 公職選挙法違反被告事件
(241)昭和36年 3月 3日 最高裁第二小法廷 昭35(あ)1511号 公職選挙法違反被告事件
(242)昭和36年 2月24日 最高裁第二小法廷 昭35(あ)1233号 公職選挙法違反被告事件
(243)昭和35年11月22日 仙台高裁 昭35(ナ)3号 町会議員選挙の効力に関する訴願裁決取消請求
(244)昭和35年 9月16日 東京高裁 昭34(ナ)11号 都議会議員選挙無効請求事件
(245)昭和35年 9月13日 大阪高裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(246)昭和35年 8月10日 広島高裁 昭35(う)199号
(247)昭和35年 8月 9日 大阪高裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(248)昭和35年 8月 2日 小笠原簡裁 昭34(ろ特)2号 公職選挙法違反事件
(249)昭和35年 7月26日 福岡高裁 昭34(ナ)7号 県議会議員選挙無効確認請求事件
(250)昭和35年 6月18日 東京高裁 昭34(ナ)12号 選挙無効請求事件
(251)昭和35年 6月10日 福岡高裁宮崎支部 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(252)昭和35年 6月 6日 盛岡簡裁 昭34(ろ)137号 公職選挙法違反事件
(253)昭和35年 5月23日 広島高裁松江支部 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(254)昭和35年 4月19日 福岡高裁 昭34(ナ)21号 市議会議員選挙無効確認請求事件
(255)昭和35年 4月 5日 名古屋高裁金沢支部 昭34(う)271号 公職選挙法違反事件
(256)昭和35年 3月24日 高松高裁 昭34(ナ)4号 裁決変更当選確認請求・裁決取消請求併合事件
(257)昭和35年 3月11日 大阪地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(258)昭和35年 3月 3日 東京高裁 昭34(う)2142号 公職選挙法違反被告事件
(259)昭和35年 2月 1日 広島高裁 昭34(ナ)3号 当選の効力に関する訴願裁決取消等請求事件
(260)昭和35年 1月30日 出雲簡裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(261)昭和35年 1月22日 名古屋高裁金沢支部 昭34(ナ)2号 参議院議員選挙無効事件
(262)昭和34年12月23日 神戸地裁洲本支部 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(263)昭和34年12月22日 広島地裁 昭34(わ)303号 公職選挙法違反被告事件
(264)昭和34年10月27日 福岡高裁 昭34(う)461号 公職選挙法違反被告事件
(265)昭和34年 9月29日 東京高裁 昭34(ナ)1号 訴願裁決取消請求事件
(266)昭和34年 8月18日 宮崎地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(267)昭和34年 7月11日 長崎地裁 昭31(わ)430号 公職選挙法違反、国家公務員法違反事件
(268)昭和34年 1月30日 東京高裁 昭29(ネ)1917号 行政処分取消請求控訴事件
(269)昭和33年 2月24日 福岡高裁宮崎支部 昭32(ナ)1号 当選無効裁決取消請求事件
(270)昭和33年 1月31日 福岡高裁 昭31(ナ)4号 裁決取消等請求事件
(271)昭和33年 1月31日 福岡高裁 事件番号不詳〔1〕 裁決取消等請求事件
(272)昭和32年12月26日 東京高裁 昭31(ナ)5号 選挙無効確認請求事件
(273)昭和32年12月26日 仙台高裁 昭32(ナ)3号 町議会議員の当選の効力に関する訴願裁決取消請求事件
(274)昭和32年 9月30日 仙台高裁 昭31(ナ)7号 市議会議員選挙無効確認事件
(275)昭和32年 9月20日 最高裁第二小法廷 昭31(オ)1024号 当選の効力に関する決定取消請求事件
(276)昭和32年 6月 3日 名古屋高裁金沢支部 昭31(ナ)1号 町議会議員の当選無効の裁決取消請求事件
(277)昭和32年 3月28日 東京高裁 昭31(ナ)12号 選挙無効請求事件
(278)昭和32年 1月28日 札幌高裁函館支部 昭30(ナ)2号 選挙無効確認請求事件
(279)昭和31年10月19日 東京高裁 昭30(ナ)13号 市長選挙無効確認等請求事件
(280)昭和31年10月 9日 最高裁第三小法廷 昭31(あ)777号 公職選挙法違反被告事件
(281)昭和31年 7月12日 仙台高裁秋田支部 昭29(ナ)4号 市長選挙の当選の効力に関する訴願裁決取消請求事件
(282)昭和31年 7月12日 仙台高裁秋田支部 昭29(ナ)2号 当選無効確認請求事件
(283)昭和31年 5月26日 仙台高裁 昭30(ナ)9号 市議会議員当選無効確認請求事件
(284)昭和31年 3月26日 東京高裁 昭30(ナ)27号 市議会議員選挙の当選の効力に関する裁決取消請求事件
(285)昭和31年 3月13日 仙台高裁秋田支部 昭30(う)135号 公職選挙法違反事件
(286)昭和31年 3月12日 松江地裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(287)昭和31年 3月 1日 仙台高裁 昭30(ナ)15号 村議会議員当選の効力に関する訴願裁決取消請求事件
(288)昭和31年 1月30日 東京高裁 昭30(ナ)15号 市長選挙の一部無効確認請求事件
(289)昭和31年 1月14日 東京高裁 昭30(ナ)26号 県議会議員の当選の効力に関する裁決取消請求事件
(290)昭和30年12月24日 東京高裁 昭30(ナ)18号 村議会議員選挙無効請求事件
(291)昭和30年 9月29日 大阪高裁 昭30(ナ)5号 当選無効請求訴訟事件
(292)昭和30年 5月31日 名古屋高裁 昭30(う)278号 公職選挙法違反被告事件
(293)昭和30年 4月27日 東京高裁 昭30(ナ)2号 衆議院議員選挙無効訴訟事件
(294)昭和30年 1月26日 福岡地裁 昭29(ナ)1号 市会議員選挙無効裁決取消請求事件
(295)昭和30年 1月11日 最高裁第三小法廷 昭29(あ)2090号 公印偽造・偽造公印不正使用・公職選挙法違反被告事件
(296)昭和29年11月17日 東京高裁 昭29(う)829号 公職選挙法違反被告事件
(297)昭和29年 8月 3日 名古屋高裁 昭29(う)487号 公職選挙法違反事件
(298)昭和29年 5月 6日 東京高裁 昭28(く)109号 再審請求棄却決定に対する即時抗告事件
(299)昭和29年 5月 4日 大阪高裁 昭28(う)2507号 公職選挙法違反事件
(300)昭和29年 4月 8日 福岡高裁 昭29(う)68号 公職選挙法違反事件
(301)昭和29年 2月 8日 東京高裁 昭28(ナ)8号 参議院全国選出議員選挙の一部無効に関する訴訟事件 〔佐野市参院選挙無効事件・控訴審〕
(302)昭和28年12月 1日 最高裁第三小法廷 昭28(オ)681号 市議会議員の選挙の効力に関する訴願裁決取消請求上告事件
(303)昭和28年11月28日 名古屋高裁 事件番号不詳 公職選挙法違反被告事件
(304)昭和28年11月14日 名古屋高裁金沢支部 昭28(う)303号 公職選挙法違反事件
(305)昭和28年11月10日 東京地裁 事件番号不詳 公印偽造偽造公印不正使用公職選挙法違反被告事件
(306)昭和28年10月30日 東京高裁 昭28(う)2394号 公職選挙法違反被告事件
(307)昭和28年 9月21日 仙台高裁 昭28(ナ)3号 町議会議員当選無効裁決取消請求事件
(308)昭和28年 6月 1日 札幌高裁函館支部 昭28(ナ)1号 市長及び市議会議員選挙無効確認請求事件
(309)昭和28年 5月 9日 大阪高裁 昭28(う)418号 公職選挙法違反事件
(310)昭和28年 4月10日 福岡高裁 昭27(ナ)15号 裁決取消請求事件
(311)昭和28年 3月 5日 大阪高裁 昭26(ナ)22号 市会議員当選無効確認請求事件
(312)昭和28年 1月20日 大阪高裁 昭27(ナ)2号 衆議院議員選挙当選無効請求事件
(313)昭和27年 5月24日 名古屋高裁金沢支部 昭26(ナ)8号 村議会議員選挙の当選の効力に関する訴願裁決取消請求事件
(314)昭和27年 5月16日 東京高裁 昭27(ナ)2号 市議会議員選挙無効請求事件
(315)昭和27年 5月 6日 大阪高裁 昭26(ナ)25号 選挙無効確認請求事件
(316)昭和27年 3月12日 広島高裁松江支部 昭26(う)244号 公職選挙法違反被告事件
(317)昭和27年 2月29日 広島高裁松江支部 昭26(ナ)1号 村長選挙の当選の効力に関する訴訟事件
(318)昭和27年 1月11日 仙台高裁 昭26(ナ)19号 当選無効裁決取消請求事件
(319)昭和26年12月28日 高松高裁 昭26(ナ)4号 市議会議員選挙無効請求事件
(320)昭和26年 7月19日 東京高裁 昭26(ナ)5号 選挙運動に関する支出金額の制限額超過による当選無効事件
(321)昭和26年 7月 6日 大阪高裁 昭26(う)763号 公職選挙法違反被告事件
(322)昭和26年 5月31日 広島高裁 昭25(う)1037号 公職選挙法違反事件
(323)昭和26年 5月 9日 広島高裁 昭25(ナ)2号 当選の効力に関する訴訟事件
(324)昭和25年12月25日 東京高裁 昭24(ナ)16号 村長解職投票無効事件
(325)昭和25年 1月27日 仙台高裁 昭22(ナ)2号 知事当選無効確認請求事件
(326)昭和24年11月15日 東京高裁 昭24(ナ)10号 衆議院議員選挙無効事件
(327)昭和23年11月20日 東京高裁 昭23(ナ)5号 東京都教育委員選挙無効確認事件


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