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「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例(6)平成28年11月28日 名古屋高裁 平27(う)131号 受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件

「公職選挙法 ポスター」に関する裁判例(6)平成28年11月28日 名古屋高裁 平27(う)131号 受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件

裁判年月日  平成28年11月28日  裁判所名  名古屋高裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(う)131号
事件名  受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
裁判結果  破棄自判・有罪(懲役1年6月、執行猶予3年、金30万円追徴(求刑 懲役1年6月、金30万円追徴))  上訴等  上告<上告棄却>  文献番号  2016WLJPCA11286002

要旨
◆現金授受を認める贈賄者証言の信用性を否定し受託収賄等を無罪とした原判決において、事実認定上、とりわけ証拠評価の上での論理則、経験則等に照らして不合理で是認し難い誤りがあるとしてこれを破棄し、贈賄者証言の信用性を認めて有罪とした事例

裁判経過
上告審 平成29年12月11日 最高裁第三小法廷 決定 平29(あ)160号
第一審 平成27年 3月 5日 名古屋地裁 判決 平26(わ)1494号 受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件

評釈
郷原信郎・法セ 756号28頁

参照条文
刑法197条1項
刑法197条2項
公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律1条1項

裁判年月日  平成28年11月28日  裁判所名  名古屋高裁  裁判区分  判決
事件番号  平27(う)131号
事件名  受託収賄、事前収賄、公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律違反被告事件
裁判結果  破棄自判・有罪(懲役1年6月、執行猶予3年、金30万円追徴(求刑 懲役1年6月、金30万円追徴))  上訴等  上告<上告棄却>  文献番号  2016WLJPCA11286002

上記の者に対する受託収賄,事前収賄,公職にある者等のあっせん行為による利得等の処罰に関する法律(以下「あっせん利得処罰法」という。)違反被告事件について,平成27年3月5日名古屋地方裁判所が言い渡した判決に対し,検察官から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官梅田健史出席の上審理し,次のとおり判決する。

 

 

主文

原判決を破棄する。
被告人を懲役1年6月に処する。
この裁判が確定した日から3年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金30万円を追徴する。

 

理由

第1  原判決と控訴趣意について
本件は,原判決が被告人を無罪としたのに対し,検察官が控訴を申し立てた事件である。
1  事案の概要
本件は,当時美濃加茂市の市議会議員であり,その後市長選挙に立候補して市長に当選した被告人が,立候補前の平成25年3月から同年4月にかけて,株式会社aの代表者であったAから,災害時の給水設備である浄水プラントを同市立の学校に設置できるようにとの請託を受けて,市議会で質疑を行ったり,市職員に浄水プラントの資料を渡して検討を促したりするなどし,市長就任後も浄水プラントの設置契約ができるようにとの請託を受けるなどし,それらの報酬として,同年4月に2回にわたり,現金合計30万円を受け取ったとされる,受託収賄,事前収賄,公職者あっせん利得の事案である。
2  本件公訴事実
本件公訴事実は,以下のようなものである。
被告人は,平成22年10月13日から平成25年5月8日までの間,岐阜県美濃加茂市議会議員として,同市議会における質問,質疑及び発言等の権限を有し,同年6月2日施行の同市長選挙に当選して同市長に就任した後は,同市長として,同市が行う契約の締結等の事務を統括掌理する職務を行うものであるが,
(1)  同年3月7日,名古屋市〈以下省略〉所在の飲食店「b店」(以下「b店」という。)において,株式会社a(以下「a社」という。)の代表取締役であるAから,a社が美濃加茂市との間で災害時の給水設備である自然循環型雨水浄水プラント(以下「浄水プラント」という。)を同市立の学校に設置する契約が締結できるように同市議会議員としての権限を行使するとともに同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同月14日,同市〈以下省略〉所在の美濃加茂市議会議場において,同年同市議会第1回定例会本会議で,同市に対する質疑を行い,同市での浄水プラントの導入を検討されたい旨発言し,同月22日,名古屋市〈以下省略〉所在の飲食店「c店」(以下「c店」という。)において,Aから,前同様の有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同月25日頃,美濃加茂市〈以下省略〉所在の美濃加茂市役所において,防災対策,消防防災施設の設置及び管理等の職務に従事していた同市総務部防災安全課長Bに対し,浄水プラントの資料を交付して検討を促し,同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して,同市がa社と浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上,同年4月2日,同市〈以下省略〉所在の飲食店「d店」(以下「d店」という。)において,Aから,前記質疑,発言及びあっせんをしたことの報酬並びに今後も同様の取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,現金10万円の供与を受け(以下「第1授受」という。),もって自己の職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受するとともに,自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき,その報酬として財産上の利益を収受し,
(2)  前記(1)記載のとおり,Aから,a社が同市と浄水プラントを設置する契約が締結できるように同市職員に働き掛けるなど有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾していたところ,同月15日頃,前記美濃加茂市役所において,B課長に対し,浄水プラントの件を早急に取り組むように要望した文書を送付し,同市議会議員としての質疑及び質問等の権限に基づく影響力を行使して,同市がa社と浄水プラントを設置する契約を締結するように申し入れてあっせんした上,同月25日,名古屋市〈以下省略〉所在の飲食店「e店」(以下「e店」という。)において,Aから,美濃加茂市議会議員として引き続き同市職員に働き掛けてa社が同市と浄水プラントを設置する契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受けるとともに,前記美濃加茂市長選挙に立候補して同市長になろうとしていた被告人が同市長に就任した後も前記契約が締結できるように有利かつ便宜な取り計らいをしてほしい旨の請託を受け,これを承諾し,同日,同店において,Aから,同市議会議員として前記あっせんをしたことの報酬,今後も同様のあっせんをすることの報酬及び同市長に就任した後も前記有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬として供与されるものであることを知りながら,現金20万円の供与を受け(以下「第2授受」といい,第1授受と併せて「各現金授受」という。),もって自己の権限に基づく影響力を行使して公務員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをすることにつき,その報酬として財産上の利益を収受するとともに,公務員になろうとする者が,その担当すべき職務に関し,請託を受けて,賄賂を収受した。
3  原判決の概要
原判決は,本件の争点として,以下の4点を指摘した。
①  各現金授受の存否。
②  Aから被告人に対する依頼の内容及び同依頼が請託と評価できるか否か。
③  被告人が市議会で浄水プラントの導入を促す質疑及び発言を行ったと認められるか否か。
④  被告人のB課長に対する働き掛けが市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえるか否か。
その上で,最も主要な争点であった各現金授受につき,いずれもその存在を認めるには合理的な疑いが残るとして,被告人を無罪とした。
原判決が述べる理由の概要は,以下のとおりである。すなわち,本件では贈賄者とされるAの原審公判証言の信用性が大きな争点となるところ,原判決は,同証言につき,一方で,全体として具体的かつ詳細で,供述内容に矛盾を含むなど明らかに不合理な内容も見受けられず,弁護人の反対尋問にも揺らいでおらず,一定の裏付けも存するとしながら,他方で,各現金授受という核心的場面について具体的で臨場感を伴う供述がなされているとはいえないし,捜査段階からの供述経過にも多々不自然な点があると評価した。また,原審検察官の主張する,a社名義の預金口座の出入金の状況などの間接事実も,各現金授受の裏付けとはならないとし,会社経営の実績があり数億円の融資詐欺を敢行してきたAであれば,具体的で詳細な体裁を整えた供述をすることは困難ではないし,原審での証言に先立ち検察官と入念な打合せをしてきたこともうかがわれ,さらには,Aには,虚偽供述をする理由ないし動機が存在した可能性もあるとして,Aが虚偽,あるいは作られた供述に及ぶおそれを強調し,結論として,Aの原審公判証言の信用性には疑問が残り,各現金授受の事実を一貫して否定している被告人の供述や,これに沿うCの原審公判証言を排斥することはできないとした。
4  控訴趣意
原判決に対する検察官の控訴の趣意は,検察官大圖明作成の控訴趣意書並びに同梅田健史作成の平成27年8月18日付け意見書,同年10月28日付け意見書2,同年11月6日付け意見書3,同月20日付け意見書4,同月25日付け意見書5,同年12月10日付け意見書6,平成28年1月6日付け意見書7,同月8日付け訂正申立書,同月25日付け意見書8,同年2月16日付け意見書9,同年3月11日付け意見書10,同月31日付け意見書11及び同年4月28日付け意見書13に,控訴趣意に対する答弁は,弁護人郷原信郎,同神谷明文,同山内順,同新倉栄子,同上原千可子,同渡辺海太共同作成の答弁書(その1),答弁書(その2)及び「控訴審での事実審理における弁護人の立証方針について」と題する書面並びに弁護人郷原信郎作成の平成27年11月4日付け意見書,同月24日付け意見書(2),同年12月9日付け意見書(3),平成28年1月12日付け意見書(4),同年3月17日付け意見書(5)及び同年4月26日付け意見書(6)に,それぞれ記載されているとおりであるから,これらを引用する。
控訴趣意の論旨(以下単に「論旨」という。)は,事実誤認(各現金授受の事実を認めなかった原判決の誤り)をいうものである。
すなわち,論旨は,要するに,第1として,Aの原審公判証言を離れ,各現金授受に関連する情況証拠を適切に評価すれば,それだけでも各現金授受の存在が推認され,第2として,Aの原審公判証言は,それらの情況証拠に整合し,かつ合理的に説明する内容であるとともに,捜査段階で,供述が先行した上で後に裏付け証拠が得られるなど,虚偽供述をしたとは考えられず,信用性に疑いを容れる余地はなく,各現金授受の存在が認められるのに,原判決は,証拠に対する評価を誤り,前記のとおり各現金授受の存在が認められない旨の誤った判断をしたものであり,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるから,破棄を免れない,というのである。
以下においては,この論旨に対応して検討を進める。
第2  前提事実
まず,記録によって,明らかに認められる事実を摘示しておく。
1  当事者等
(1)  被告人は,平成22年10月13日から平成25年5月8日(以下「平成25年」は省略する。)までの間,美濃加茂市議会議員として(以下「美濃加茂市」の記載は省略することがある。),同市議会での質問,質疑及び発言等の権限を有しており,その後,6月2日執行の同市長選に出馬して当選し,同日付けで同市長に就任して以降,同市が行う契約の締結等の事務を同市総務部総務課に分掌させるとともに,同課職員を指揮監督し,同事務を統括掌理する具体的職務権限を有していた。
(2)  A(昭和45年○月○日生)は,a社(地下水や雨水を浄化して飲料水化する濾過機のレンタル事業等を業とする。)の代表取締役として,かねてより,名古屋市議会議員に働き掛けるなどして,プールに溜まった雨水を浄化する濾過機と停電時でも稼働する太陽光発電パネルを一体化した浄水設備である浄水プラントをレンタルする事業等を進めていたものの,名古屋市における事業は進展せず,契約締結には至っていなかった。
(3)  Aは,知人のDの紹介で知り合ったCに対し,活動費を渡すなどして,a社の浄水設備を名古屋市の施設に導入してレンタル契約を締結してもらうべく,名古屋市議会議員等に対して働き掛けるなどの活動をしてもらっていた。Aは,2月頃,Cを介して,被告人のことを知り,美濃加茂市に浄水プラントを導入してレンタル契約を締結してもらえるよう動いてもらうべく,Cから被告人の紹介を受け,3月7日に3人で会うことになった。
2  3月7日の会合等
(1)  被告人,A及びCは,3月7日昼頃,b店で食事をした。被告人とAはこれが初対面であった。Aは,その席において,被告人に対し,Aがかつて名古屋市教育委員会宛に作成した浄水プラント事業に関する資料を渡し,その内容を説明するなどした。
(2)  b店での会食後,Aは,被告人に対し「本日はお忙しい中,足をお運びいただき誠にありがとうございました。微力ながら議員のお力になれることがありましたら,何なりと遠慮なくおっしゃって下さい。つまらないことでも結構です。遠慮なくおっしゃって下さい。役所から問い合わせがございましたら,すぐに報告させていただきます。」とのメールを送信した。
(3)  被告人は,3月7日又は8日,b店で受け取った資料を持参して美濃加茂市防災安全課を訪れ,同課職員に対し前記資料を手渡して浄水プラントの導入の検討を促した。その後,同課B課長は前記職員から同資料を受け取り,目を通した上で同課内の回覧に回した。
3  被告人の議会における発言と事前の書面提出
(1)  被告人は,3月11日付けで,市議会議長に対し,同月14日に予定されている平成25年度美濃加茂市議会第1回定例会で予定されている質疑での質問事項を記載した「議案質疑発言通告書」を作成提出した。同通告書中には,「防災施設整備事業について」として「①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか。②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考えは。」との記載があった。同月11日頃,B課長は,上記議会での答弁案を作成するに際し,上記被告人の質問事項について,前記2(3)のとおり被告人が提案しに来たa社の浄水プラントを導入する考えがあるのかを質問する趣旨であると考え,同答弁案を作成し,防災安全課が属する総務部のE部長にその旨を伝えた。
(2)  3月14日の前記定例会での,前記の防災施設整備事業についての一連の質疑の中で,被告人が,新しいものをできるだけ導入する考えがあるのかと質問したのに対し,Eが答弁した内容には,以下のようなものが含まれていた。E「新しい技術の導入ということで議員さんからもちょっと御提案いただいておりますけれども,それはプールにたまる雨水の活用ということで御提案いただきました。これについては環境に大変優しいということもありますし,災害時においても有効な水源となるということで,学校の現在の施設ですね,それに簡単に連結ができるかどうか,また維持管理の方法などについても,教育委員会とか,また学校といろいろ協議をしてまいりますし,また業者のほうにもいろいろとこの辺のお話も今後伺って,本当に有効なものであったら導入に向けて検討をしていくということで,よろしくお願いしたいと思います。」。これに対し,被告人は「新技術の話ですが,この前テレビで見たのでは,マンホールを簡易式トイレにするだとかいろいろな取り組みが,今アイデアがありますので,しっかりした精査をしていただいた上で,導入できるものは導入するという考えを検討していただきたいと思います。」と発言しただけで,Eの答弁に対して訂正などはしなかった。
4  3月22日の会合と,その後の被告人及びAと防災安全課との接触
(1)  被告人,A及びCは,3月22日午後2時過ぎ頃,c店に集まり食事をした。この席でAは,前記2(1)の資料に美濃加茂市の内容を盛り込んだ浄水プラントの資料を被告人に交付し,浄水プラントについての説明をした。
(2)  3月25日頃,被告人は,防災安全課を訪れ,B課長に対し,前記(1)の資料を渡し,a社の者から説明を聞くようにという趣旨のことを言った。
(3)  3月26日,B課長は,Aに対し電話をかけ,翌27日に市役所において浄水プラント事業に関する打合せを行いたい旨述べた。Aは,同日,防災安全課宛の浄水プラント事業の資料を持参して市役所に赴き,B課長らに対し同資料を渡して,a社の浄水プラントの仕組み等について説明をした。このとき,Aは,まず1つモデル校としてどこかの学校に設置することを依頼し,B課長は当時プールを使っていなかった美濃加茂市立f中学校(以下「f中学校」という。)をモデル校として具体的に導入を提案してみてはどうかと話した。
5  4月1日から同月2日にかけてのa社名義の銀行口座の入出金状況等
4月1日,株式会社g(Aの知人であるFが経営する会社である。以下「g社」という。)名義のイオ信用組合多治見支店普通預金口座から,Aが管理する株式会社大垣共立銀行(以下「大垣共立銀行」という。)大曽根支店のa社名義の普通預金口座に15万円が振込送金された。同月2日午前8時57分頃,同銀行春日井支店に設置されたATMにおいて,同口座から15万円が出金され,同日午前8時59分頃,同ATMにおいて,A名義で,他の銀行のG名義の口座に5万円が振込送金された。
6  4月2日のd店における会合等
(1)  4月2日午前,Aと被告人との間で,次の内容のメールのやり取りがあった。
ア 午前8時25分頃,Aから被告人へ
「おはようございます。朝から申し訳ございません。ご相談とお渡ししたい資料がございます。どの時間でも結構ですので,少しお時間」「頂けませんでしょうか?美濃加茂の方に伺わせて頂きますので,宜しくお願い致します。」
イ 午前8時48分頃,被告人からAへ
「御世話になります!今日は正午なら何とかなりますが,いかがですか!?」
ウ 午前8時49分頃,Aから被告人へ
「ありがとうございます。正午にどちらに伺えば宜しいでしょうか?」
エ 午前8時59分頃,被告人からAへ
「市役所の近くのd店では,いかがですか?わざわざすいませんm(__)m」
オ 午前9時頃,Aから被告人へ
「了解致しました。宜しくお願いします。」
カ 午前9時02分頃,被告人からAへ
「中に入る時間はないと思うので外で宜しくお願いします!」
キ 午前9時03分頃,Aから被告人へ
「了解致しました。」
ク 午前11時52分頃,Aから被告人へ
「到着致しました。」
ケ 午前11時56分頃,被告人からAへ
「まもなく着きます!」
(2)  同日,AがCに対して,d店において被告人と会う予定がある旨を伝えたところ,CがAに同行する旨申し出たことから,AとCは,a社の事務所からAの運転する自動車に乗ってd店に向かった。同日正午頃,被告人,A及びCは,d店に入店し,各人がいずれもランチ及びドリンクバーを注文して飲食し,同日午後零時45分頃,Aが全員分の飲食代をまとめてクレジットカードで支払い,3名は退店した。なお,この席で,Aは被告人に対し,B課長との4月1日の折衝の状況等について記載した文書などの資料を交付した。
(3)  4月2日のその後,Aと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた。
ア 午後5時40分頃,Aから被告人へ
「本日はお忙しい中,突然申し訳ございませんでした。議員のお力になれるよう,精一杯頑張りますので宜しくお願いします。」
イ 午後7時03分頃,被告人からAへ
「こちらこそわざわざありがとうございます!全ては市民と日本のためなので宜しくお願いいたします!」
7  4月4日からe店における会合まで
(1)  4月4日から同月13日にかけて,防災安全課に提出する資料等の作成及びその修正等に関し,被告人,A及びCのメールのやり取りがあり,被告人からAに対し,B課長の対応に不満を感じている旨のメールが送信された。なお,Aから被告人へのメール送信のうち記録に表れているものは,初対面の3月7日から4月1日までの間は合計7通であったが,前記6(3)のやり取りの後,同月4日から,e店の会合のあった同月25日までの間に41通のメールが送信され,また,午前1時を過ぎてからメールが送信されたこともあった(4月5日)。
(2)  被告人は,4月4日頃,f中学校のPTA会長であり,従前から付き合いのあったHが運営する保育園を訪れ,Hに対し,雑談の中で「機械で雨水を浄化して水をためて,災害時に飲料水として使うということをやりたいと思っているんです」「f中のプールが放置されているので,そこでやりたい」「そういうのを市として進めていきたいのですが,どうでしょうか」などと言った。また,被告人は,同月8日,f中学校の入学式に出席し,その際,同校のI校長に対し「f中には使っていないプールがありますよね」「そのプールの水を使って災害時の水を確保するための浄水機を設置したいんですよ」と言った。Iは,3月下旬に既にB課長から電話で打診を受けていたが,同校で大きな工事が続いていたことから,これ以上の新たな工事はやめてほしい,子供たちが勉強に専念できないという気持ちを持っており,B課長にも消極的な返事をしていたが,被告人に対しては「アイデアとしてはおもしろいですね」などと話を合わせた。
(3)  被告人は,4月上旬頃,防災安全課を訪れ,B課長に対し「先日議会でも質問した件ですが,a社の新しい浄水施設の検討はどうなってますか」などと尋ねた。B課長が,浄水プラントは良いシステムだが飲料水などとしての使用は問題があるのではないかと話したところ,被告人はB課長に「ちゃんと話をすれば各方面から理解を得られると思うので,よろしくお願いします」などと言った。
(4)  Aは,4月8日頃,市役所を訪れてB課長と面談し,B課長に対し,教育総務課宛の浄水プラント事業に関する資料を手渡した。B課長は,同日,教育総務課長のJのもとを訪れ,浄水プラントの導入について説明し理解を求めたが,Jは,飲料水として使用する際の衛生面の問題などを指摘した。すると,被告人が通りがかり,B課長とJの議論の間に入ってきて,「a社の件を話されてるんですか」「良い制度でしょ」と言った。Jが「いや,飲料水に使うなんて絶対駄目ですよ」「プールの水なんか子供に飲ませられないですよ」などと,問題点を挙げて強く反対した。その後,被告人は「いろいろな意見はあると思いますが,良い制度だと思いますのでよろしくお願いします」と言って,教育委員会を後にした。
(5)  被告人は,4月15日,B課長のもとを訪れ,次のような書面を交付した。同書面は,「美濃加茂市防災安全課 御中」として,「美濃加茂市議会議員 Y」名義で,「書面での質問をさせていただきたいと思います。」「今後の議会での活動をより有意義なものにするための内容ですので,ご理解よろしくお願いいたします。」と記載した上で,質問事項として「・ご提案いただきました「自然循環型雨水浄水プラント」への見解。13日の関西地区での震度6を超える直下型の地震においても水道管の破裂が確認されました。また,今年も起こりうる大雨においてできる限りの対策はするべきであると考えます。その上で,今回の提案内容は市民の方々の安心安全を考えると喫緊に取り組むべき内容ではないでしょうか。明日にも起こりうる地震,夏までに備えをしておきたい大雨対策ですので,このような急ぎでの質問をさせていただきました。プラントが学校に設置されることでの教育効果も大変有意義なものであるとPTAをはじめとした市民の方々からの意見も頂いておりますが,いかがお考えでしょうか。宜しくお願い致します。」と記載し,「mailで構いませんので,明日16日正午までにご回答いただきたいと存じます。」として被告人のメールアドレスが記載されているものであった。被告人は,4月16日夜,B課長からメールで浄水プラント導入に当たっての問題点の指摘を受け,Aとメールのやり取りをした上,同月17日,B課長に対し,指摘を受けた問題点に意見を付し,更なる回答とa社による説明会の開催を求めるなどの内容のメールを送信するなどし,明らかに浄水プラントの美濃加茂市への導入を働き掛ける意味を持つ行動を取った。
8  市長選をめぐる動向
4月19日,美濃加茂市のK前市長が,病気を理由に辞職することを公表した。被告人は,同月21日頃,前市長の後援会青年部の代表であるLから,市長選に出馬する気持ちがあるか尋ねられ「チャンスがあれば僕にください」と答えた。同月22日,青年部のメンバーから被告人に対し,出馬の打診があり,被告人は「チャンスをいただければ出たいと思っています」と言った。ただ,メンバーからは,両親の同意を得るべきである,また,両親がいいと言っても自分たちの仲間がだめだと言ったらこの話はなかったことになるなどと話した。同月30日,青年部の主要メンバーと被告人が集まって意見交換と話合いをし,青年部として被告人を支援することを決め,被告人にもその旨を告げた。被告人は,それに先立つ同月23日,Cに市長選のことで電話をかけて政策について話したり,同月25日,知人に立候補に前向きな内容のメールを送信して支援を頼んだり,同月26日までには選挙事務所の候補地を見に行き,同月27日には選挙ポスター用の写真を撮るなどしていた。
なお,同市長選挙は5月26日告示され,6月2日に執行されて,被告人が当選した。
9  4月25日のe店における会合と,そこに至る経緯等
(1)  4月24日未明,被告人からCに対し「お時間ある時にCさんに政策等のご指導いただきたいので,よろしくお願いします。」旨のメールを送信し,Cは快諾する旨の返信をした。Cは,同日朝,Aに対し,被告人から前記の連絡を受けたので一度連絡をいただきたい旨のメールを送信した。
(2)  Aは,4月24日頃,Dに対し,50万円を貸してくれないかと依頼した。Dは,翌25日にAに対し,50万円を貸す旨伝え,同月26日頃,Aに現金50万円を直接渡した。
(3)  4月25日午前10時46分頃,株式会社中京銀行(以下「中京銀行」という。)高蔵寺支店のATMで,Aが管理する同行楠町支店のa社名義の普通預金口座から90万円が出金された。また,同日午後3時15分頃,株式会社十六銀行(以下「十六銀行」という。)楠町支店のATMで,Aが管理する同行今池支店のa社名義の普通預金口座に70万円が入金された。
(4)  4月25日午後6時17分頃,被告人は,Cに対し「遅くなってすいません!今夜ですが,名古屋のどこかで九時半過ぎでも良いですか??」などの内容のメールを送信し,Cは,同日午後7時15分頃,これを承諾する返信を送った。
(5)  4月25日午後9時半頃から午後10時前にかけて,A,C及び被告人は,e店に順次集まり,座敷に座って飲食をした。Aは,同日午後10時41分頃,Cに対し「そろそろ,おいとまします。議員に具体的に,どう行動すべきかを教授しておいて下さい。お願いします。」旨のメールを送信した上で先に退店した。
10  e店での会合後のAと被告人との間のメールのやり取り
4月26日,Aと被告人との間で,次の内容のメールがやり取りされた。
(1)  午前8時49分頃,Aから被告人へ
「昨晩はありがとうございました。市長選頑張って下さい。お手伝いや,ご協力,そして…。なんでも遠慮なくご相談下さい。」
(2)  午後零時31分及び32分頃,被告人からAへ
「昨晩はありがとうございました!本当にいつもすいません。昨日は盛り上がりましたが現実はそんなに簡単なものではないので,見極めながら興して」「いきますので,色々お力お借りしますが宜しくお願いします!」
(3)  午後零時32分頃,Aから被告人へ
「かしこまりました。」
11  市長選の応援
Cは,被告人の市長選挙に協力するために美濃加茂市内の旅館に宿泊したが,その宿泊代金(19泊分9万1200円)はAが負担した。6月2日の市長選挙の後,12泊分5万7600円の宿泊代金が滞納されていたため,同月28日,旅館の主人が,Cから被告人の選挙の応援のため宿泊すると聞いていたことから,美濃加茂市役所に電話をかけ,選挙の関係で宿泊費の支払が滞っている,Cが泊まっていてa社が払うことになっていたが支払がないので困っている旨を言った。秘書係長からその旨を聞いた被告人は,同日,Cに対し「旅館の支払がまだだとのことでCさんとAさんの名刺が回ってきました。」「宜しくお願い致します。」旨のメールを送信した。これに対し,Cから被告人に対し「Aさんが連絡つかなかったようです。連絡して,旅館の人もすみませんとのことでした。申し訳ありませんでした。」「Aにはしっかり言っておきます。本当に申し訳ありませんでした。」旨のメールを送信した。これに対し,被告人は「ありがとうございます!」と返信した。代金はA(a社)が支払った。
12  浄水プラントの実証実験
(1)  5月20日,市役所において,B課長,A,f中学校のI校長らが出席し,Aが浄水プラントの説明を行う説明会が実施された。
(2)  被告人は,市長就任後も,美濃加茂市への浄水プラント事業の導入に関して,EやB課長に対してその進捗状況を確認したり,設置予定場所となっていたf中学校に下見に出向くなどした。
(3)  7月31日付けで,a社と美濃加茂市との間において,浄水プラントをf中学校に設置して2か月間の実証実験を行う旨の確認書が交わされ,8月12日,f中学校に浄水プラントが設置された。その後,同実証実験期間は平成26年3月末まで延長された。
13  融資詐欺による逮捕,起訴等
Aは,a社の事業に関し,株式会社三井住友銀行の担当者に嘘を言うなどして1000万円をだまし取るなどしたとして,平成26年2月6日,逮捕され,同月26日,起訴された。また,Aは,a社の事業に関し,十六銀行の担当者に嘘を言うなどして1100万円をだまし取ったとして,同年3月5日,再逮捕され,この事案についても,同月26日,追起訴された。なお,これらの事件での捜査の結果,Aが行った詐欺が成立する可能性のある融資事案で捜査機関が把握したものの融資額は,返済未了のものだけで,上記2件を含め約1億3200万円であった。
さらに,Aは,被告人の弁護人らの告発に基づき同年9月4日に名古屋地方検察庁に受理された,a社の事業に関して十六銀行今池支店の担当者に嘘を言うなどして合計4000万円をだまし取った詐欺等の事案につき,同年10月20日に追起訴された。
平成27年1月16日,Aは,上記各起訴に係る事案と,本件で問題となっている各現金授受に係る贈賄の事案と併せて有罪となり,懲役4年に処せられ,この判決は控訴がなく確定した。
第3  検察官の第1の論旨について
検察官は,認定できる間接事実により各現金授受の存在が推認されると主張しているので,以下検討する。
1  所論は,後記のAの原審公判証言を離れて,前記第2の前提事実からだけでも,被告人とAの癒着関係とその深まり,被告人による特定業者に対する有利,便宜な取り計らいとA側の動機の存在,贈賄金の準備及び贈賄の機会の存在等の事実が認められ,これらによって各現金授受の存在が推認されるとして,以下のとおり主張する(なお,弁護人は,原審公判前整理手続で間接事実として主張されていなかった事実を現金授受を推認させる事実として扱うことは訴訟手続の法令違反であるなどというが,公判前整理手続において,どのような間接事実から要証事実が推認されるのかをすべて主張することは求められておらず,その後の審理を経て証拠上認められるに至った事実を,要証事実を推認させる間接事実として主張することは,特段の事情のない限り違法とはいえない。)。
(1)  本件での浄水プラント導入の経緯を見ると,関係者の反対意見等を押し切り,十分な議論や検討もなく,Aが被告人に導入を求めてからわずか約5か月という早さで設置されている。これは,市議会議員であり6月からは市長となった被告人の市関係者に対する強い働き掛けがあったからであり,被告人とAの癒着関係がうかがわれる。
(2)  第1授受があったとされる4月2日の後,Aの被告人へのメールの回数が急激に増え,その要求も過度のものになっており,被告人もこれを受け入れ,従前にもまして浄水プラント導入のための働き掛けを強めている。第2授受があったとされる同月25日以降は,Aは,被告人に対し,反対の立場にあるf中学校長への口添えを依頼するなど度が過ぎた要求をし,被告人もこれに応じた動きをしている。このように,各現金授受を機に両者の癒着関係の深まりがみられる。
(3)  前記第2の6(1)のとおり,Aは,4月2日,被告人に面会を依頼するメールを送信し,面会が決まった直後に金融機関で手元に現金10万円を残す出入金をしてから,資料を準備するなどしてd店に赴いており,この経過からは,Aが手元に残した現金10万円は,被告人に供与することを企図して準備されたものであることが合理的に推認される。また,前記第2の9(2)のとおり,Aは,同月24日,被告人との面会の予定が入りつつあった時期にDに借入を申し込み,同(3)のとおり面会の日である同月25日に手元に現金20万円を残す出入金をしており,この経過からは,Aは,手元に残った現金20万円を被告人に供与することを企図していたものと推認される。
(4)  以上に加え,Aは4月2日及び同月25日に被告人と面会しており,各現金授受の機会があったのであり,これらの間接事実により各現金授受の事実が推認される。
2  この点,確かに,被告人は,第2の2のとおり,3月7日にb店でAから浄水プラントの資料を受け取り,説明を受けるや,その日又は翌日には防災安全課を訪れてB課長に検討を促し,同3のとおり,同月11日には,議案質疑発言通告書に「災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考えは。」という,B課長ら防災安全課の職員にとっては,記載内容とタイミングからすれば浄水プラントのことを指していると理解される内容の記載をし,実際に同月14日の市議会で同内容の質問をし(後記第5の2のとおり,同質問が浄水プラントのことを言っているのは明らかである。),その後も,前記第2の7のとおり,Aらとメールのやり取りを通じて浄水プラントの導入に向けた対策を検討したり,複数の関係者のもとを精力的に訪れて浄水プラントの導入を働き掛けるなどしており,Aも,4月2日以降,それ以前よりも頻繁に被告人に対してメールを送信し,その内容も,資料を送付して意見を求めたり,4月中の発注若しくは仮契約を求めるなど,より強い要求を含むものとなっていることがうかがわれる。被告人が市議会議員であり,Aが一民間事業者で,しかも,これまで浄水プラントを実施した実績の全くない事業者であることを考慮すると,なぜ被告人がここまでAの事業である浄水プラントの導入を強く働き掛けたのかは通常理解し難いとも考えられ,その理由としては,検察官がいうように,被告人とAの癒着関係があり,それが各現金授受を契機に深まっていたからだとみることも可能性としては否定できない。
3  しかし,結論としては,この論旨を肯定することはできない。
その理由は以下のとおりである。まず,被告人は,Aとの初対面の時に,浄水プラントの説明を受け,資料も受け取って,その直後からB課長をはじめとする防災安全課職員らに対し働き掛け,議会での質疑内容に盛り込むなどしている。すなわち,第1授受があったと主張されている4月2日よりも前から,素早くかつ強力に,浄水プラントの導入に向けた動きを始めていたことが認められるのであるから,各現金授受があったから,被告人が浄水プラントの導入に積極的になったというような明確な対応関係は認められない。被告人はかねてから環境対策を政策として掲げるなど環境問題に強い関心を持っていたことも併せ考慮すると,弁護人が主張するとおり,被告人の浄水プラント導入に向けての積極的な行動をとった理由の少なくとも一つとして,被告人が原審公判供述で述べているような,浄水プラントの導入が美濃加茂市にとって有意義な事業であると被告人が認識していたことがあったとみられる。Aの要求が強まっていったのも,被告人が浄水プラントの導入に向けて積極的に動いてくれるのをみて,Aにおいて,もっと要求すれば早く浄水プラントの導入を実現できるのではないかと考えて,要求をエスカレートさせたとみる余地がある。
また,前記1(3)の,各現金授受の原資となり得る現金を準備していたと主張する点も,論旨のような推認を支えるに値する間接事実と評価することはできない。10万円,20万円という金額は,少額とはいえないが,現金として携帯していても特段不自然ではない金額であり,加えて,Aが,金融機関の口座にお金を残さず,常に現金を手元に持っておくという習慣があると述べていることも考慮すれば,弁護人が主張するとおり,これらの現金を手元に残す出入金をしたこと自体から,これを被告人に供与することを企図していたものと推認することはできない(もっとも,前記第2の9(2)の,AがDに対し借金を申し込んでいたという事実は,後記第4の4(4)アのとおりAがDに告げていた借金の理由(被告人に交付する)も併せ考慮すれば,本来的には,Aが,被告人に対し金銭を供与することを企図していたことを推認させる事実であるとはいえるが,この事実のみで第2授受の事実を推認するには十分であるとはいい難く,また,原審でDの証人尋問を行った際の立証趣旨が限定されていたことをも考慮して,ここでは,この事実をこれ以上取り上げない。もっとも,後記のAの原審公判証言の信用性の検討の際には改めて検討を加える。)。
以上述べたとおりであって,Aの原審公判証言を離れ,本件に関する間接事実だけから各現金授受の存在が推認できるとはいえないから,検察官のこの論旨は採用できない。
第4  検察官の第2の論旨について
1  検察官は,Aの原審公判証言は,認定できる間接事実に整合し,かつ合理的に説明する内容であるとともに,その供述経過にも照らせば,信用性に疑いの余地はなく,各現金授受の事実を認定できると主張している。この点は,Aの原審公判証言の信用性を否定した原判決と正反対の主張をしており,控訴趣意では,別に項目を立てて,原判決がAの原審公判証言の信用性を否定したことについて,それが論理則,経験則等に反していると論じている。本判決では,本件の各現金授受を明確に認めているAの原審公判証言の信用性を,原判決の判断枠組みを念頭におきながら検討することとし,原判決の判断についても,この信用性判断の中で検討した。
供述の信用性判断については,一般に用いられている判断方法によった。ただし,本件は,現金を渡したとしているAの原審公判証言が,受け取っていないという被告人の供述と真っ向から対立しており,以下にみるAの供述内容等に照らして,現金を渡したことが勘違いや記憶違いということは考えにくく,単純化すれば,Aが記憶どおり真実を述べていると認められるのか,又は,意図的に虚偽の事実を述べている疑いがあると判断されるのかが問題であり,そのような観点からの考察も重要であることを予め指摘しておく。
まず,Aの原審公判証言の内容を概観しておく。
(なお,Aについては,当審においても事実取調べとして証人尋問を行った。これは,弁護人が主張し,かつ,原判決も指摘するように,原審における証人尋問に際して,検察官が入念な打合せを行ったため,Aの原審公判証言が,客観的な資料と矛盾がなく,具体的かつ詳細で,不自然,不合理な点がない供述となるのは自然の成り行きと評価されたことを考慮して,職権で採用し,検察官側の事前の打合せを控えてもらって,時間が経ったとはいえ,証人自身のそのときの具体的な記憶に基づいて供述してもらおうと試みたものである。しかし,受刑中のAが,当審証言に先立ち,原判決の判決要旨に目を通したという,当裁判所としても予測しなかった事態が生じたことから,当裁判所の目論見を達成できなかった面があることは認めざるを得ない。したがって,当審におけるAの証言内容がおおむね原審公判証言と符合するものであるといった理由で,その信用性を肯定するようなことは当然差し控えるべきである。その上で検討を進めることとする。)
2  Aの原審公判証言(以下においては,特に断らない限り,これを「A証言」という。)の概要
(なお,以下の説示において証拠を掲記する場合,甲の番号は原審証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を,職の番号は原審証拠等関係カード中の職権採用証拠の番号を,検の番号は当審証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を,それぞれ示す。また,原審証拠等関係カード中の弁護人請求証拠の番号は「原審弁」,当審証拠等関係カード中の弁護人請求証拠の番号は「当審弁」と,それぞれ特定する。)
(1)  被告人に接近した動機
平成25年2月頃,Cから被告人について聞いた。美濃加茂市議で前回選挙でトップ当選して若くて生きのいい人がいる,今度会うのでa社の宣伝をしてくるから資料を用意しろと言われた。是非美濃加茂市での導入に動いてもらえるようお願いし,浄水プラントの資料等を渡した。その後,Cから,被告人に興味を持ってもらえたので3人で会おうと言われた。被告人が動いてくれて美濃加茂市で浄水プラントが導入できたら他の自治体に情報発信して販路を拡大し,自転車操業状態から抜け出せるんじゃないかと考えた。
(2)  3月7日,b店での顔合わせ
3月7日の昼にb店で被告人,Cと会った。同店で,被告人が来る前に,Cが,今度議会でY君(被告人)が防災のことをやるみたいだよ,ただ,さすがにこのタイミングだとa社のことを盛り込んでもらうのは難しそうだと言っていた。その後被告人が到着した。被告人に浄水プラントの資料(名古屋市教育委員会用に作成したもの。甲77資料1はその写し)を渡したらぱらぱらとめくって読んでいた。運ばれてきた食事を取りながら,Cが被告人に,今度議会で防災のことやるんだよね,さすがに今回はa社のこと盛り込むのは難しいよね,と言うと,被告人は,難しいかも知れませんねと言っていた。その後,Cから被告人に,これまで名古屋市で,同市議会議員から,名古屋市病院局の役人に濾過機の導入を働き掛けてもらったり,同市議会で質問をする形で同市の教育委員会に浄水プラントの導入を働き掛けているなどと説明した。次いで,私から被告人に浄水プラントについて説明した。前記資料を基に,災害時に太陽光の動力を使って濾過機を動かしてプールにたまった雨水を飲料水化する,契約はレンタルなので初期費用が要らない,という説明をした。そして,浄水プラントを全国で一番初めに美濃加茂市で導入していただきたい,それに是非力を貸してほしいとお願いした。被告人は,いいですね,やりましょうと言ってくれた。これで同市での導入が実現するかもしれないと思った。被告人に,同市議会での質問や役人に対する働き掛けをしていただきたいと思っていた。前記のとおりCから名古屋市での取組みを伝えていたので,自分がそう考えているということは被告人にも分かっていると思った。代金は私のクレジットカードで支払った。帰り際,被告人は,今からだと議会にはちょっと間に合わないかもしれないが,役所の方は今から行けば間に合うので,一度担当者に話してくると言った。被告人と別れた後,Cに,すごい行動力ですねと言うと,Cは,さすがに違いますねと言った。同日,被告人に対し「微力ながら議員のお力になれることがありましたら,何なりと遠慮なくおっしゃって下さい。」などのメールを送った。
(3)  3月22日,c店での会合とその後
美濃加茂市議会終了後の3月22日,c店で被告人,Cと会った。このとき,被告人に,浄水プラントの資料(前回渡したものに,美濃加茂市の内容を盛り込んだもの)を渡した。被告人は,こないだの議会の反応,良かったですよと言った。それを聞いて,議会で質問してくれたんだ,b店で言っていたことが間に合ったんだと思った。食事の後,前記資料を使って浄水プラントの話をした。プラントの仕組みや,レンタル契約であれば初期費用が要らないという説明をした。被告人は真剣に聞いてくれ,濾過機の性能等の質問をした。そして,私は,美濃加茂市で導入されるよう是非お力を貸していただきたいと話した。被告人は,是非やりましょうと言ってくれた。その後,Cから被告人に,役人の使い方,動かし方をレクチャーしていた。具体的には,役人は「議会で質問するぞ」と言えばびびって動く,口頭ではなく全部書面でやり取りして逃げられなくするなどの話をし,今後議会で質問するようなことになったら原稿は僕の方で作るので心配しなくていいなどと言っていた。また,Cから被告人に対し,9月に市長選あるよね,Y君出なよ,K市長が次出なかったらY君出なよと言ったら,被告人は,だったら考えられなくもないですね,でも本当にそうなったらCさん協力していただけますかと言っていた。Cは,何でもやるよと言い,資金のほうもAさん協力してくれますよねと振ってきた。私は,もちろん協力すると言った。Cは,梅雨くらいまでにa社の浄水プラントを導入して,その後マスコミ入れて名前と顔を売って9月の市長選に向かえばいいんですよと言った。また,Cは,全校では役人は腰が重くなる,まず1校モデル校として設置するという方が役人は動きやすいなどと言っていた。Cから,梅雨くらいまでに導入するならどんなスケジュールだったら可能か尋ねられたので,4月中に仮契約や発注をもらえれば間に合うと答えた。Cは被告人に,じゃあ4月中に仮契約に行きましょうよと言っていた。被告人は,やってみましょうという感じで答えていた。そして,被告人がCに,選挙戦とは別に,普段から政策ブレーンとして協力してほしいと言ったところ,Cは,何でもやりますよ,けど僕高いですよと言った。被告人は,市議の給料安いんですよ,お金全然ないんですよ,だけど市長になればポケットマネーで出せるかもしれません,と言っていた。Cから,だけどAさんも協力してくれますよねと振ってきたので,もちろん私も協力しますと答えた。Cが協力することによってかかる活動費のことだと思った。店を出て,私のクレジットカードで会計をし,被告人が1000円出してきたので受け取った。被告人は,今から役所に行けば間に合うのでこの資料を持って担当者に会ってくると言った。
3月26日,防災安全課のB課長からa社事務所に対し,被告人から話を聞いたが一度詳しい話を聞きたいので市役所まで来てほしいという依頼の電話があった。被告人が話をしてくれたと思った。イメージしていた反応より早かったので,相当プレッシャーをかけてくれたんだと思った。翌日の27日,市役所に行って,B課長らに資料を渡して,浄水プラントについて一連の説明をした上で,まず1個,モデルとしてどこかの学校に設置していただけないかと話した。B課長から,だったらf中かな,f中学校で具体的に提案してくれないかと言われたので,B課長にお願いし,同月28日及び29日にも市役所に行き,f中学校の平面図や配管図を見せてもらった。
(4)  第1授受の動機,贈賄金の原資,授受の経緯
3月30日ないし31日頃,被告人に現金10万円をあげようと考えるようになった。議会で質問をしてもらったり,迅速な行動でB課長をつないでもらったりしたお礼と,この勢いを今後も続けてもらいたい,今後も役人への働き掛け,議会での発言等もしてもらいたいというお願いの気持ちをこめて,お渡ししといた方がいいかなと思った。被告人はお金を受け取ってくれると思った。理由は,プライベートでの食事ができることと,食事の際にお金の話が出る方というのは,少しのお金なら渡しても大丈夫だろうと考えていた。手持ちの金を使ってしまうと次の支払が厳しくなることから,被告人への10万円と個人的な借金の返済金5万円の計15万円をFに依頼して借りた。
4月2日朝,被告人にメールを送った。「渡したい資料がある」と書いたが,このときどうしても会って相談したいことや直接渡したい資料があったわけではない。メールを送った後,車で自宅を出て大垣共立銀行春日井支店に向かった。その後,被告人から,正午なら何とかなる旨のメールの返事が来た。上記支店のATMで,同銀行大曽根支店のa社の口座から15万円を出金し,そのうち5万円を返済のため振り込み,残った10万円を備え付けてあった封筒に入れた。振込手続中に被告人からメールが来て,d店で会うことになった。
その後,a社の事務所に向かう途中で,Cに連絡を取った。被告人にお金を渡すことはCに言うつもりはなかった。なぜなら,以前Cから「議員に渡すお金があるなら僕に下さい,実際動くのは僕なんだから」と言われたことがあった。また,平成23年12月頃,実際にCから,名古屋市の役人に渡すお金を300万用意してくれと言われて,Dから借りて渡したことがあった。Cからは,決裁権のある役人に渡したと聞いている。また,同年10月,11月くらいに,名古屋の市議にも10万くらい渡したことがある。それで,被告人に渡すと言うと,それなら僕にくれと要求されるかなと思った。ただ,会ったことが後でばれたりしてCとの関係が悪くなっても嫌だなと思ったから,Cには「被告人にも時間がないので,資料だけ渡してすぐ帰ってきます」と言おうと思った。ところが,Cは「じゃ,僕も行きます」と言ったので,承諾した。被告人に,資料に紛れ込ませてお金を渡そうと思った。Cに絶対ばれてはいけないとは思っていなかった。最悪,Cさんか,という気持ちだった。
クリアファイルに資料を挟んで,その裏に現金入り封筒を挟んで,クリアファイルごと大きめの封筒に入れて渡せばカモフラージュできると思った。a社の事務所に着いて,4月1日のB課長との打合せの報告書を作った。e店のときと違ってカモフラージュが必要だと思ったのは,当初は駐車場で会うだけという前提だったからである。
Cと車でd店に向かった。d店に着いた後被告人が来て,時間が空いたので中に入りましょうと言われて3人で店に入った。ランチとドリンクバーを3人分注文し,CがドリンクバーにCと被告人の飲み物を取りに行った。自分は,用意して持っていった大きめの封筒をテーブルの上に出し,中のクリアファイルを表紙側を上にして引き出し,半分くらい出して被告人に見せ,そのまま封筒ごと引っ繰り返して裏側を見せ,裏側に挟んだ銀行の封筒を見せた。その後,クリアファイルを封筒にしまって封筒ごと被告人に差し出しながら「これ,少ないですけど足しにして下さい」と小声で言った。被告人は,普通にすんなり「すいません,助かります」と言いながら受け取った。自分は,Cには内緒という意味で,左手の人差し指を立てて唇に当てるジェスチャーをした。Cが戻ってきて,a社の浄水プラントの話をした。会計はまとめて私がクレジットカードで支払った。当日の夜,お礼のメールを送った。d店の後,被告人は引き続き役人に対する働き掛けを続けてくれ,書面による役人とのやり取りも始めてくれた。
(5)  第2授受の動機,贈賄金の原資,授受の経緯
4月24日朝,Cからメールがあり,午前9時過ぎに電話をかけたところ,同人から,被告人が市長選に出ることになり市長の後継指名ももらった,間違いなく当選するだろうと聞いた。ここでもう一度,被告人にお金を渡しておいた方がいいと思った。今までも動いてもらってるお礼もあるが,今後市長選に突入して忙しくなっても,議員辞職後もそのまま影響力を持って働き掛けをお願いしたいのと,市長になったら,市長のお力で導入をお願いしたいという気持ちから。前回が10万だったので,市長になるかもしれない方なので倍の20万とした。原資は知人のDから借りようと考えた。手持ちの金を使って渡してしまうと今後の支払や資金繰りが苦しくなるのが見えていたから。資金繰りの関係で50万借りようと思った。4月24日の朝にDに電話をした。被告人が市長選に出るということになったので,ここでちょっと渡しておきたい,だから貸してくれと頼んだ。Dには前にも300万のとき相談しているので,本当のことを言っても大丈夫と思っていた。Dは,落選したらどうするなどと言い,いったんペンディングになったが,後に貸してくれることになった。
4月25日の夕方過ぎ頃に,同日に被告人と会うことが決まったとCから連絡をもらった。そこでお金を渡すことにした。この時点ではDからお金を借りる段取りはできていたが,お金の受取は翌26日ということになっていたので,手元にあった現金20万円(その日の朝にa社の中京銀行楠町支店の口座から90万を出金し,うち70万円をa社の十六銀行今池支店の口座に入金して残ったお金)を渡すことにした。この日もCに言うつもりはなく,Cが席を外したときにでも渡せばいいと思っていた。
店には,Cと自分が先に着いた。茶封筒に現金20万を入れて行った。被告人が着く前,Cに「今日YさんはCに選挙協力の依頼で来るはずだ。Cの活動費に関しては自分の方で見るので,その代わりと言っては何だが,市長選で忙しくなるけど浄水プラントの件は動きが止まらないようにYさんのほうにお願いしてもらいたい。」とお願いした。そして,その日は自分は先に帰るので後は二人でゆっくり打合せして下さいと言ってCに2万円渡した。
被告人は10時前に着いた。被告人は机を挟んで私とCの対面に座った。被告人から,市長選に出ることになった,市長の後継指名ももらったと報告を受けた。市長の後援会の青年部の後援ももらえそうだと言っていた。より一層,当選間違いないだろうと思った。被告人はCに,マニフェストや政策作りを至急手伝ってもらいたいと言っていた。Cは,そんなのは簡単ですよ,でも僕高いですよと言い,私にも「Aさん協力してくれますよね」と話を振ったのでもちろん協力すると言った。Cは被告人に,Aさんもこう言ってるので,a社の浄水プラントの件を,市長選で忙しくなるだろうけど止めないでやってくれ,何とかお願いしますなどと言っていた。自分もお願いしますと言った。被告人は,分かってます,何でも言って下さいと言った。議員のときには議員の影響力を持って役人に働き掛けてほしい,辞職した後も影響力を維持して働き掛けをお願いしたい,市長に当選したら市長の力で導入をお願いしたいという意味合いで言った。Cが,市長になってしまえば市長の専決でやったほうが早いかもしれませんねと言っていた。被告人は,それもそうですねと言っていた。そして,自分が,市長になってもa社のことは見捨てないでくれとお願いした。被告人は,そんなわけないじゃないですかと言ってくれた。
その後Cが席を外した。理由は分からないがトイレかなと思った。脱いでおいてあったジャケットの内ポケットから茶封筒を出し,立ってテーブルをぐるっと回る形で,被告人の左隣まで移動した。両膝をついて正座よりちょっと腰を浮かせた姿勢で,被告人の方を向いて,テーブルよりも低い位置で陰になるところで「これ,少ないけど足しにしてください。」と言って両手で差し出した。被告人は,いつもすいません,助かりますと言って受け取った。恐縮したような顔つきだった。私は,これもCには内緒にしといて下さいと,言葉で言った。自分の席に戻った後,被告人に,選挙期間中Cを自由に使って下さい,その費用は私が用意しますと伝えた。そして,私は先においとまするが,今日の支払はCに預けてあるので心配なさらずに結構ですと伝えた。Cが戻ってきて,被告人と政策の話などをしていた。Cにメールを送り,店を出た。翌日,被告人にメール(前記第2の10)を送った。「そして…。」とは,お金とか資金とかいう意味である。なお,Dからは翌26日に50万を借り,a社の銀行口座に入金し,別の支払に充てた。
3  供述内容の具体性等について
まず,供述内容それ自体の問題として,A証言の具体性等を検討すると,供述内容は,前記のとおり,相当程度具体的かつ詳細で,その時々のAの抱いた感情や思いをも交えたものであり,その内容に特に不合理な点は見当たらず,弁護人からの反対尋問にも揺らいでいない。内容の具体性,合理性,一貫性は,原判決も否定していないところである。このような点は,一般的には,供述の信用性を高める事情と考えられる。
4  情況証拠との整合性について(A証言の信用性を高める事情)
次に,供述内容が,証拠上認められる情況証拠とどの程度整合するかを検討する。供述内容が真実であれば,他の情況証拠と整合するのが当然であり,また,その整合の仕方次第では,供述の信用性が相当高まることがある。以下,項目毎に検討する。
(1)  授受の資金の流れ
ア 第1授受について
前記第2の5のとおり,Aは,4月2日の午前中に,a社名義の預金口座から15万円を引き出した上で5万円を振込送金しており,同日,d店で被告人と会う前に,Aが被告人に供与したと供述する額の現金10万円が手元に残っていたことになる。前記のとおり現金の準備の事実自体から直ちに現金授受の事実を推認できるわけではないが,上記のようなA証言に符合する金額の現金が準備されていたことは,A証言の客観的な裏付けとなる。当日,Aから被告人に面会を依頼するメールを送信し,正午に会える旨の約束を取り付けるのと並行して,現金10万円を残す出入金がなされているという事実経過も併せて,A証言とよく整合する。
イ 第2授受について
前記第2の9(3)のとおり,Aが,4月25日にa社名義の預金口座から90万円を引き出した上で,a社名義の他の預金口座に70万円を入金した事実が認められ,同日,e店で被告人と会う前に,Aが被告人に供与したと供述する額の現金20万円が手元に残っていたことになる。この事実も20万円を同日に被告人に渡したとするA証言と合致するものである。
(2)  各現金授受に至る経緯について
前記第2の2ないし4のとおり,被告人は,3月7日のb店での会合の直後から,防災安全課に対して浄水プラント導入に向けた働き掛けを始め,市議会議長に対して浄水プラントの導入を示唆する内容の議案質疑発言通告書を提出し,実際に議会でこれに沿った質疑・発言を行い(なお,この質疑・発言が浄水プラントの導入を促すものであることは,後記第5の2のとおりである。),その後も防災安全課に対する働き掛けを続け,その結果,実際に同月26日の同課のB課長からの呼出しにより同課とAとの打合せが始まり,モデル校として1校設置するという方向で計画が具体的に進行し始めた。このような事実経過を,被告人とAの癒着の表れと断じることができないのは前記のとおりであるとしても,前記2(1)ないし(3)のA証言はこのような事実経過に符合するものであるし,これらを経て,Aが浄水プラント導入の実現に向けた被告人の影響力に強く期待したことが推認されるのであり,前記2(4)のとおり,被告人へのお礼とお願いの気持ちから現金供与を思い立った旨のAの証言は,このような事実経過と符合するものである。
また,前記第2の7のとおり,被告人が,Aからの働き掛けもあり,浄水プラント導入に向けての関係者への働き掛けをより強めていた(その方法は,議会での質問をほのめかす,書面でやり取りするなど,A証言にある,c店でのCのレクチャーの内容に沿うものである。)矢先に,同8,9のとおり,被告人の市長選への立候補の話が現実的なものとして動き出したものであり,Aとしては,被告人がこれまでどおりの働き掛けを続けてくれることに期待するとともに,被告人が市長になった場合には更に強く浄水プラント導入を推し進めてくれることに期待を抱いたことは容易に推認され(このことは,Aが同11のとおり市長選の応援を買って出たことにも表れている。),前記2(5)のとおり,今後も影響力を持って働き掛けをお願いしたい,市長になったら市長の力で導入をお願いしたいという気持ちから,更なる現金供与を決めた旨のAの証言は,このような事実経過と整合的である(なお,被告人は,4月25日の時点では市長選に出るかどうかはっきりしておらず,e店では市長になったら市長の力で導入をお願いするなどの話は一切出ていないなどというが,前記第2の8,10の各事実に照らせば,被告人自身はe店での会合の段階では既に市長選への立候補を決めており,Cらに対しても立候補の意思を告げていたことは明らかであり,A証言のとおり,市長になった場合のことが話題に上ることは,むしろ自然の成り行きといえる。)。
これらの事実経過は,各現金授受と直接的に符合するものではないが,A証言と整合し,その自然さを示すものといえる。
(3)  選挙戦の応援について
前記第2の11のとおり,Aは,Cが被告人の市長選挙に協力するために美濃加茂市内の旅館に宿泊した際の宿泊代金を負担したことが認められる(なお,被告人は,Cがどう思ってそこにいたか分からない等と述べるが,旅館経営者の検面調書(甲57),被告人とCの間のメールの内容(職1・番号384以下)によれば,選挙の協力のためであったことは明らかである。)。これは,前記のとおりAの期待の表れであることに加え,代金支払をめぐる,旅館側からの問合せに対する被告人の対応やメールのやり取りをみる限り,事前にA,C及び被告人の3者間で,宿泊代金をAが負担する旨で合意ができていたことがうかがわれる。この件は,各現金授受があったとされる時期よりも後のことであるとはいえ,被告人のために活動するCの費用をAが負担するということが前提になっており,既にそのような関係が被告人,A及びCの間で形成されていたことを物語る。被告人は,Aがこの件で経済的負担をすることになることを明らかに分かっていたし,それを拒否したり,躊躇したりした形跡はない。このような関係が形成されていたということは,Aから被告人に金銭の交付がなされる素地ができていたともいえ,これは,各現金授受があったというA証言と整合的である。これを被告人の側から見れば,Aの経済的な援助を期待していたか否かはともかく,それを受けることに特段の拒絶はなかったということになる。なお,ここで,Aが,役人等に金銭等を供与することについて抵抗がなかったことにも触れておく。Aは,各現金授受の前に,Cに言われて,名古屋市の役人に渡すお金として300万円を渡したと供述している。Dもこれに沿う供述をしており,Aの供述するとおりの事実があったことが推認される。具体的にはCに渡したものであるから,実際に役人に渡っているか否かは不明であるが,Aは,自らの事業を行政に働き掛けるためには,役人に現金を渡すことも辞さない人間であったといえる。本件においても,Aが被告人に現金を渡すという行動に出る素地のある人間であったことがうかがえる。
(4)  AのD及びMへの発言
ア Dの原審公判証言(以下「D証言」という。)によれば,Aは,前記第2の9(2)のとおり,4月24日頃,Dに対し借金を申し込むに際し,市長選で前市長の地盤を引き継ぎ当選が確実な被告人に今のうちに恩を売っておきたいから50万円貸してくれないかと頼んだことが認められる。これは,第2授受において,被告人に現金を渡したとするAの供述の信用性を高めるものである。Aが,Dに依頼した時点で,被告人に対し金銭を供与することを企図していたことを推認させる事実だからである。
また,Mの原審公判証言(以下「M証言」という。)によれば,前記第2の12のとおり浄水プラントの実証実験が始まった後の8月22日,Aと,その知人であるMが,f中学校に浄水プラントを見に訪れ,その際,MがAに対し,よくこんなとこに付けれたねと言うと,Aが,接待はしてるし,食事も何回もしてるし,渡すもんは渡してると述べたこと,Mは,かねてよりAから被告人の応援をしている旨聞いていたことから,被告人に現金を渡したという趣旨に理解し,何百万か渡したのかと尋ねると,Aが30万くらいと述べたことが認められる。この事実は,各現金授受に関するA証言と金額も含めて整合している。
イ D,Mの各証言は,原審で取り調べられた際の立証趣旨等をも考慮し,これらの供述から各現金授受を推認させるものとしては扱ってはいないが,A証言の信用性に関わる証拠であることは否定できない。そして,それらの証拠から認められるこれらの事実は,本来的に,後から作為して作り上げることのできない事実であるという意味において,A証言の信用性を質的に高めるものと評価できる。すなわち,Dにしろ,Mにしろ,Aの話を聞いたのは,Aが,前記2の13のとおり融資詐欺により逮捕されるよりも9か月以上前とか,5か月以上前である。前述したように,A証言が信用できないとすれば,それは意図的に虚偽の事実を述べたことにならざるを得ないであろうが,これらの事実は,DやMが偽証しない限り,後から虚偽の事実を作り上げることはまず考えられないことである。Aが,仮に虚偽供述の動機があって,被告人に現金を渡したと嘘を述べたとすれば,客観的な状況に符合するような嘘を述べるであろうから,確かに,お金の出入りを頭に入れて,どの日にいくらの金額を渡したとすれば矛盾しないかは考えられないことはないであろう。しかし,逮捕されるよりもずっと前の時点で,後に虚偽供述をするためのいわば布石として,DやMに虚偽の事実を述べるであろうか。通常そのようなことは考え難く,しかも,複数の人間に話す必要はないであろう。そうだとすると,DやMの証言は,A証言の後から作り上げたという虚偽性を排除する有力な証拠であり,A証言の信用性を相当程度担保するものといえる。原判決がこのような観点からDやMの証言を検討した形跡はうかがわれない。
ウ D,Mの各証言自体の信用性についても検討しておく。
まず,両者共に,偽証罪という制裁を覚悟してまで,あえて虚偽の証言をするだけの理由や必要は見出せない。たしかに,両者共に,Aとは友人関係にあり,Aとの関係も悪くないとみられるが,それでも,あえて偽証するだけの理由や必要は見出せない。
Dは,Aから,平成25年4月下旬頃,市長に当選確実の被告人に今のうちに恩を売っておきたいから,50万円貸してほしいとの依頼を受け,Aの熱意やa社にプラスになればと思い50万円を渡し,その数日後,Aからお金を被告人にちゃんと渡したというお礼を受けたと証言している。この際に,Aが渡したとする金額は20万円であるから,金額に食い違いはあるが,時期や市長選挙の関係から見て,第2授受に際してのことであると認められ,もちろん,AもDにそのような依頼をしたことを認めている。Dが,自己の記憶に従って証言していることは疑いない。
Mは,前記のとおり証言している。Mとしては,一業者に過ぎないAが公共の施設に浄水施設を設置できるとは思っていなかったので,何百万円単位のお金を渡したと予想していたのに,Aから30万円と聞いて少ないなと思ったというのである。この証言は具体的で臨場感がある。原判決は,M証言におけるAの発言内容は曖昧であると評価するが,金銭授受の点は,決して曖昧とはいえない。確かに夜の接待に関する部分は,M証言自体が曖昧ではあるが,金銭授受の点を同様に扱うのは不当である。AとMの間で,被告人に対する金銭授受に関して,Mが述べるようなやり取りがあったものと認められる。
エ AがDやMに虚偽の事実を述べた可能性
Aが,後日被告人に金を渡したという嘘をつくために,予めDやMに虚偽の事実を述べるという可能性が考え難いのは,前述したとおりである。ここでは念のため,その他の事情で虚偽の事実を述べた可能性を検討しておく。
Dに対しては,確かに金を借りたいという目的があったので,そのための方便であったと考える余地はあるが,金を借りるための方便であれば,わざわざこのような犯罪となるようなことではなく,もっと金を借りやすいような嘘をつくのが自然であろう。
Mに対しては,もし,Aが嘘を言ったとすれば,冗談で言ったとか見栄を張って嘘をついたというぐらいしか理由が見当たらない。話の内容から見て,一時の座興として冗談を言ったとはうかがえないし,見栄を張ったというのなら,Mも感じたように,金額をたかだか30万円だなどといわず,もっと多い金額や100万円などというきりの良い金額をいうのが自然だと思われる。
DやMがAから聞いたとされる内容は,やはり,その時点でのAの認識を反映したものと考えざるを得ない。
なお,Aが,犯罪行為ともとれる自己の行為を,なぜD及びMに話したのかという点については,Aと両名の関係に原因があり,そのような話をしても,DもMも決して告発等をする人間ではないとAが承知していたからであろう。
5  供述経過について
原審段階でも,Aの供述経過が問題となり,原判決は,Aの供述経過を検討し,結論的には,捜査段階からの供述変遷を捉えて,A証言の信用性を否定する方向で判断している。その判断に誤りがないかどうかを審査するために,原審で取調べ済みのA証言や,同人の捜査段階の供述調書(原審弁3ないし8等。供述経過に関する証拠として取り調べられている。)に加えて,当審において,Aに対する取調べを担当したN警察官(以下「N警察官」という。)の証人尋問(検13)や,同警察官作成の取調べメモ(検1,2等)の取調べを行った。
(1)  N警察官の当審公判証言(以下「N証言」という。)
ア N警察官は,Aが各現金授受について供述するに至った経緯について,当公判廷で,以下のとおり証言している。
(ア) Aが第2授受について供述するに至った経緯
Aを融資詐欺の事件で取り調べていたが,平成26年3月15日の数日前に,上司のO警部から贈賄のほうも取り調べるようにという指示があったので,同日,詐欺以外の余罪の取調べを開始した。Aは,①Cから,(名古屋市の)決裁権のある者3人に1人100万円ずつ渡せばa社の浄水機を導入できると言われてCに300万円渡した,②a社の浄水機を名古屋市に導入できればという条件で,名古屋市議会議員のコラムを情報誌に載せる約束をした,③同市議にゴルフクラブをあげたという話が出た。午後,家族の話をした。積み残したものがあればまたこうやって戻ってくることになる,家族の元に正々堂々と帰れということを懇々と説諭した。Aは下を向いてしばらく男泣きをした後「実は20万円くらいを渡しました。」「Yさんにです。」と言った。時期は平成25年のゴールデンウィーク前後頃,渡した場所はe店という居酒屋,渡した理由は,お世話になって今後浄水機を入れてほしいからと話していた。また,原資は,Dから,被告人に渡したいからと50万円を借り,うち20万円を使ったと言った。前記名古屋市議に対する贈賄の可能性が高いと考えていたので,被告人への20万円の話が出たとき,率直なところ「そっちかい」と思った。私はO警部にこのAの供述について報告するとともに「こんな,裏の取れんような話,言ってますわ。」と言った。Dも,そんな賄賂資金と知って渡せば罪になるかもしれないと思って供述しないだろうと思っていた。それ以前に,Dがその旨の供述をしているという話は聞いたことがなかった。ところが,平成26年3月16日か17日,他の捜査員がDに確認したところ,Aに50万円渡したと言っているということを聞いた。はっきり言って驚いた。
e店については,Aから聴取した内容に基づいて別の捜査員が同店に行き,平成26年3月18日か19日,3人で4月25日に利用していることが発覚した。また,原資については,その後供述が変わった。前記第2の9(3)の90万円の出金があったので,Aに対し,50万円をその日に準備できていたんだったらこの90万円の使い道はどうなるのかという意味で,この90万円はどうなったのかと確認したところ,Aから,この90万円から20万円払ったという供述を得た。これも平成26年3月18日か19日くらい。この供述を聞いた後で,4月25日の70万円の入金について,O警部に入金時間を確認し,入金時間を知った。
平成26年3月16日及び17日にも,Aの取調べをした。取調べメモ(検2)は,同月16日の取調べを,私がメモしたものである。「Y 20万は渡した」矢印して「50万 Dに借りた」「DにはYに50万渡したいと相談」「CにYには渡していない。と言ってあった。渡していた方がいいと思った。」「10」「少ない」「30~50では多い」「受け取りやすいのは20万」「e店」「Cがトイレに行った時」が,20万円の贈賄に関する記載である。
(イ) Aが第1授受について供述するに至った経緯
私は,他にもまだ出るんじゃないかと疑い,Aを追及した。Aは,(被告人と言ったかどうかは覚えていないが)ほかにもあると思います,よく思い出しますというようなことは言っていた。その後の取調べで,④前記名古屋市議に10万円を渡した,⑤Aが持っていたプリウスを被告人に渡した(結局Cが使っていた),⑥被告人が市長選に出る際に裏選対としてCを美濃加茂に送り込んだが,その宿泊費や運動費用として現金を渡したという公職選挙法(違反)の事実を自供した。そして,平成26年3月19日,夜の取調べのためにAを留置場から出し,その手錠を外すか外さないかぐらいの頃に,Aが,刑事さん思い出しました,被告人にd店で10万渡してますというようなことを言い始めた。思い出したきっかけについては,その日の午前中又は昼からの取調べで,4月2日のメールのやり取り(前記第2の6(1))について,その意味をAに聞いたと思うが,Aは,夜の取調べで,さっきd店のメール見たんですけども,渡す資料なんかないのにそこには書いてあったので,おかしいと思って思い出した,というようなことを言っていた(なお,後に,Aを贈賄で逮捕した後,d店で渡した資料(前記第2の6(2))が判明し,c店で渡したのと別の資料であることが分かった時点で,Aに尋ねたところ,電話で言えばいい内容であり,自分にとってそう大事な資料じゃないと言っていた。)。
渡したのは4月2日にd店で,原資はDかFに借りた,振り込んでもらって出金したというようなことを言っていた。当時私の手元には,A絡みの口座の取引明細が一杯並んだ表があったので,それで確認したところ,ちょうどその日に15万円の出金があったが,時間が分からなかったので,O警部にAの供述の内容を報告するとともに照会をお願いした。Aが供述を始めて1週間くらい後,朝に金を下ろしていることと,5万円をAが昔勤めていたクリニックの院長に振り込んでいること(前記第2の5)が分かった。
この取調べの際にも,取調べメモ(検1)を作成していた。「d店 10万」「いつ」「お金借りて下ろす」「〈C〉?」「いなかった?」「ForD」「20万の前」「これが最初」「封筒」,「〈Y〉」又は「〈I〉」「言わなかったわけじゃない,メール見て変と思」が,その部分である。
イ N証言は,具体的かつ詳細で,その内容に不自然,不合理な点はない。Aが第2授受について供述を始め,原資としてDから50万円を借りたと供述し,これをDに確認するに至る経緯における心情については,捜査官としてのごく自然な心情の動きを述べているものといえる。取調べメモ(検1,2)とも符合し,その内容を合理的に説明している。前記第2の5,9(3)のような出入金の状況だけでなく,例えば,第2授受に関し,平成26年3月18日にe店の来店状況に関するノートが押収されており(甲10),同月24日に前記第2の9(3)の70万円の入金について捜査関係事項照会がなされ,同月25日に入金時刻等の詳細について回答があり(甲13・資料4),また,第1授受に関し,平成26年3月20日に,大垣共立銀行大曽根支店のa社名義口座から4月2日になされた15万円の出金について「出金状況(取引種別,時間,仕向場所,振込先口座情報等)」についての照会がなされ(検17),同月24日に出金時刻等の詳細について回答があったなど(甲12・資料3),警察からの捜査関係事項照会をしたきっかけと,これに対する回答によりその状況が発覚していった経緯に関する客観的な証拠にも符合している。弁護人からの,取調べメモ(前記検1,2以外の,検16(当審弁3)等を含む。)に基づく反対尋問に対しても崩れていない。
アに掲記した部分以外に目を向けると,例えば,曖昧な部分を残した供述も断定で取っていたという点は,ともすれば不正確な供述調書を作成したという誹りを受けかねないものであるし,汚職事件の摘発は警察にとって「金星」になるという面がある,当初の融資詐欺による逮捕(前記第2の13)が,贈収賄事件の捜査のため身柄を確保するという面もないとは言えないなど,捜査官としては通常認めにくいと思われる内容についても率直に述べている。また,N警察官は,当審での証言に先立ちA証言の内容を聞き知っていたことがうかがわれるが,決して周辺的とは言えない事項(第1授受について記憶喚起した経緯,d店にCがいたことを思い出した経緯)について,A証言と異なる趣旨の証言をしており,自己の記憶に基づいて供述しようという姿勢がうかがわれる。
したがって,N証言は,相応に信用できると評価して差し支えない。
(2)  供述経過に対する評価
Aの供述経過をN証言をも加えて整理すると,一応以下のようになる。
ア 先に供述された第2授受については,Aは,Dから50万円を借りてその中から20万円をe店で被告人に渡したと供述し,その後,90万円の出金があることについて問われ,当該90万円の中から20万円を支払った旨供述を変えており,これらの供述がなされた後の裏付け捜査で,実際に4月25日にAが3名でe店を利用したことや,70万円の入金が90万円の出金の後になされ20万円が手元に残っていることなどが判明していったものと考えられる。
弁護人は,N証言の信用性を争い,Dの供述内容がAに伝わり,Aはこれに従って虚偽の第2授受の供述をしたとの立場から,種々主張している。
確かに,Dによれば平成26年2月にはAに被告人に提供する目的の50万円を渡した旨の供述を始めていたというのであり,その情報が警察内部で,N警察官らAの担当者に伝わっていなかったと断定することは慎重でなければならない。そこで,仮に,それが伝わっていたとして検討すると,Dは50万円という数字を言っていたのに,Aが20万円と供述したのは,やはりAが,自らの認識で述べたと考えるのが自然である。弁護人は,20万円なら当時の資金繰りの状況との関係で辻褄合わせが楽だったから20万円としたともいうが,もしD供述に合わせるなら,50万円というのが最も辻褄が合うはずである。当時の資金繰りについて正確に記憶し,これに基づいて虚偽の供述をして捜査機関に信用させようとしていたのであれば,逆に,なぜ原資について当初Dから借りたお金である旨供述し,その後供述を変遷させるという,供述の信用性について疑いを差し挟む原因となりかねないような供述態度をとったのかという疑問を抱かざるを得ない。やはり,Dから借りたのが50万円であるということを記憶しつつ,被告人に渡した金額が20万円であると記憶していたために,そのように供述したものと見るのが自然である。
イ 次に第1授受についてみると,Aは,金融機関からの出金時刻が捜査機関に判明していない段階で,原資について,DかFに借りた,振り込んでもらって出金したと供述し,その後に,実際にFから入金のあった口座から4月2日の朝に出金があり,かつ,供与したという10万円が手元に残る入金をしていたことが判明していったことが認められ,第1授受についても,Aが自らの記憶にある事実を供述したことが推認される。
弁護人は,この点についても,N証言の信用性を争い,Aが,当審証言で,第2授受の原資がDからの借入金ではなく金融機関からの出金であったことを思い出したきっかけとして,警察官の手元にあったa社とA個人の全ての口座の一覧表により判明したと述べていることを根拠に,Aは,原審で証拠として提出されているAとa社の預金口座の異動明細(甲91添付のもの)を示され,これが裏付けとなり得るような虚偽の第1授受の事実を作出したなどと主張している。
しかし,Aは,当審において,前記「一覧表」について,刑事がそれを見て質問してきたのか,私がそれを見て何か気付いたのかはっきりしないと述べており,必ずしもそれを示されたという供述をしている訳ではない(その意味で,この当審A証言は,前記のN証言と矛盾しない。)し,その「一覧表」が,前記異動明細と同一かどうかも明らかではない。仮に前記異動明細を示されたとすれば,そこには前記第2の5の4月1日のg社からの15万円の入金も記載されているのであるから,原資について前記のような「DかFに借りた」という供述にはならないはずである。この点,弁護人は,g社からの15万円について,後の警察の捜査で他の使途に当てていることが明らかになった場合に辻褄が合わなくなることから,いわば予防線を張ったものであるという趣旨の主張をしているが,口座間の送金等であればいざ知らず,口座から出金した15万円の金銭について,捜査によりそこまで明確な使途が明らかになるということは通常考え難く,Aがそこまでの深慮遠謀に基づいて供述をしていたとは考えられない。むしろ,前記のとおり,Aが自らの記憶に従って第1授受について供述し,ただ原資については記憶が明確でなかったことから「DかFに借りた」と供述し,後の捜査でF(g社)からの入金であることが明らかになっていったとみるのが,自然である。
したがって,この点についての弁護人の主張にも,理由がない。
(3)  以上のとおりであって,Aの捜査段階における供述経過をみても,Aは,その時々における自己の記憶に従って供述していたものと推認され,その結果としてのA証言も,供述経過を理由にその信用性を否定されることはないというべきである。
6  原判決の証拠評価について
A証言の信用性についてのこれまでの検討によれば,A証言には相当の信用性が認められるという結論になるが,原判決は,前記のとおり,A証言の信用性については疑問があると判断している。以下,原判決が指摘する点を順次検討する。
(1)  各現金授受という核心的場面について具体的で臨場感を伴う供述がなされていないという点について
ア 第1授受について
原判決は,第1授受に関するA証言について,①Cにドリンクバーで取ってくるよう頼んだ飲み物の種類等について具体的な説明がない,②Cがドリンクバーに行って戻ってくるまでのCの様子について何ら説明がなく注意を払った形跡もない,③それまで2回昼食を共にしただけの被告人に対し,賄賂であるという認識を持ちながら現金を交付する場合,犯罪行為を行う者として緊張感を覚えたり,受取を拒否されて浄水プラント事業の美濃加茂市への導入が頓挫してしまうことへの警戒感などの気持ちを抱いたとしても不思議ではないが,そのような心情について具体的に述べられていない,という点を指摘する。
(ア) このうち①については,所論指摘のとおり全く重要な事項ではなく,そのようなことは説明しなくても,また,その前提として覚えていなくても,A証言の信用性を失わせるものでは全くない。
(イ) ②については,AとCの関係,殊に,Aにとって,被告人に金銭を渡したことをCに知られるということがどのような意味を有するのかに関わる。
この点,Aは,前記のとおり,この件以前に,Cから言われて,名古屋市の役人に渡すお金として300万円を,Dに借りてCに渡したことがあったとしている。したがって,被告人に金を渡すことをCに知られても,特に犯罪として告発される等の心配はなかったと考えられ,むしろ,「議員にお金を渡すぐらいなら僕に下さい」などとCが言っていたことからすれば,Cに金を要求されることは避けようとは思っていたものの,ばれたらばれたで最悪Cだから仕方ないと思っていた旨のA証言も,十分信用することができる。
そもそも,Aの供述するとおり,資料でカモフラージュして渡したという交付の方法をとったのであれば,発覚しにくく,Aが,交付の際,Cの様子にさほど注意を払っていなかったとしても,決して不自然ではない。Cの様子について説明がないという点は,A供述の信用性を失わせるものではない。
(ウ) ③については,確かに,現金を渡そうとすることで逆に被告人の心証を害してしまい,浄水プラント導入に向けての良い流れが頓挫してしまう可能性もないとはいえないし,Aが供述するような,飲食の席でお金の話が出たから現金を渡しても大丈夫であるなどというのが合理的な判断といえるのかどうかも,疑問がある。しかし,Aは,前記のとおり,Cに対し,以前にも名古屋市の役人に渡すという趣旨で,Dから借りて300万円を渡したことがあったのであり,Aにとって被告人への現金供与が,所論のいうように「日常的な営業活動に付随する,いわば,営業活動の延長線上の行為」とまでいえるかどうかはともかく,前記のような現金供与の経験がない者と比べて,心理的な抵抗感は小さいものであったことが推認される。その上,この時被告人に渡した金額は10万円とさして多額ではなかったことも心理的な抵抗感を小さくしていた要因と考えられる。この点は,第2授受(この際は20万円であるが。)についても同様である。さらに,渡した後の被告人側の反応が,Aの予想どおり,何のためらいもなく受け取ったことから,渡す際の緊張感などの印象が一層弱まっていた可能性も十分考えられる。そうすると,捜査段階や公判において,現金を渡す際の緊張感,警戒感が語られなかったとしても,信用性に影響を及ぼすほど不自然とはいえない。
イ 第2授受について
原判決は,第2授受に関するA証言について,①Cが戻ってくるまでの様子について何ら説明がないし注意を払った形跡もない,②現金授受の方法について,他により簡便で目立たない方法も考え得るのに,時間を要し,目立ち易く,席に戻ってくるCが自分から死角になるような,机を回り込んで被告人の左側まで移動して茶封筒を渡すという方法を採った理由について合理的な説明がない,③A証言における第2授受の際のAと被告人とのやり取りが第1授受とほとんど変わらない内容になっている,という点を指摘する。
(ア) ①については,前記ア(イ)で述べたのと同様のことがいえるし,Aの供述するとおりCがトイレに行ったと思ったのであれば,ある程度の時間は戻ってこないと考えるのが自然であり,Cの様子について注意を払うなどしていなかったとしても不自然とはいえない。
(イ) ②については,確かに,原判決が指摘するような,メニュー表で隠すなどして机越しに渡すという方法の方が,目立たず,短時間で済むといえる。もっとも,4月25日に被告人,C及びAがe店で着席した座席は,同店東側窓際にある小上がりであり,西側フロア部との境目の南側が木製の開き戸(目の細かい格子状になっている。)で隔てられ,同開き戸沿いのフロア部に,下側約半分が隠れる形で棚(下駄箱)が置かれており,店内西側にあるトイレとの間にはカウンター(店内南側に設置されている。)があり,カウンターとの間には1辺10cm角の柱が3本立てられている(甲105)など,外に完全に開かれた状態ではなく目隠しになるものもある座席であることが認められ,Aが,席の外から見られることをさほど気にしなかったとしても不自然ではない。時間についても,Aが供述する被告人の左側まで机を回り込んで移動して渡すという方法が,原判決がいうような机越しに渡す方法と比較して,さほど長時間を要するわけでもない。さらに,前記(ア)で述べたところも併せ考慮すれば,Aが説明する第2授受の方法が,特に理由がなければ採ることが考えにくいというほど不合理なものともいえない。
(ウ) ③の点については,確かに,A証言では,第1授受,第2授受のいずれについても,Aが「少ないですけど足しにして下さい。」と言い,被告人が「すいません,助かります。」と言ったなどというやり取りがあったと述べている。もっとも,贈賄という行為の性質上,当事者としては目立たないように手早く済ませようとするのが通常であろう。ましてや個室ではないから,現金を渡すことが了解されれば,最小限の言葉しか交わさない方が自然である。第1授受と第2授受で当事者間のやり取りが同じ内容のものとなったとしても,特に不自然であるとはいえない。
ウ 以上のとおりであって,原判決が「核心的場面について具体的で臨場感を伴う供述がなされていない」と指摘する各点は,いずれも,それぞれの具体的な状況を考えれば,信用性に関わるような問題とはいい難く,A証言の信用性を失わせるものではない。原判決のこれらの点についての指摘は,供述の信用性判断における経験則に反しているといわざるを得ず,是認できない。
(2)  供述経過について
原判決は,Aの捜査段階の供述経過について詳細に検討し,この点を,A証言の信用性を否定する根拠の一つとしている。A証言の信用性は,前述したとおり,勘違いとか,記憶違いとかではなく,意図的に虚偽供述を行った疑いがあるか否かが中心問題であり,単に記憶違いや記憶喚起の過程と考えられるものは,それを根拠にA証言の信用性を否定する根拠とはなりにくい。逆に,意図的に虚偽供述を作り上げていく過程と考えられるのであれば,それは信用性に大きな影響を及ぼすことは当然である。原判決は,前述したとおり,供述経過をかなり詳細に検討しているが,そのような観点から供述経過を検討したか否かは判然としない。当審においてもこの点についての事実取調べを行ったところであるから,以下,その結果も踏まえて検討する。
原判決が疑義を呈している点は,主に第1授受についての供述がなされた経過に関するものであり,その内容は以下のとおりである。①Aが,平成26年3月16日付け上申書(甲73),同年3月17日付け上申書(甲74)で,第2授受についてしか記載していない(第1授受の記載がない)。②Aの平成26年3月27日付け警察官調書(原審弁3。以下「原審弁3」という。)では,第1授受の記載があるが,d店にAと被告人の二人だけで行った(Cはいなかった)という記載になっている。③Aは,原審弁3の作成時点では記憶が曖昧だったというが,平成26年3月28日付けで,被告人の市長選の応援等について具体的かつ詳細な警察官調書(原審弁4,5)があるのと対比して不自然である。④Aは,原審弁3で,d店で被告人に渡した資料が以前渡した資料と同じものである旨,後の公判証言と異なる説明をしており,変遷がある。そして,原判決は,以上の点を踏まえて,Aの捜査段階の調書について,Cがd店に同行していた事実が初めて調書化されたのが平成26年5月1日付け検察官調書(原審弁6)で,Cがd店で飲み物を取りに離席した機会に被告人に対して現金を交付した事実が初めて調書化されたのが同月7日付け警察官調書(原審弁7)であるところ,Aは,刑事から,同年4月13日頃に,4月2日付けd店のジャーナルを示され,これをきっかけに,Cがd店に同行していたこと,同人が飲み物を取りに離席した機会に被告人に現金を交付したことを捜査機関に対して供述するようになった可能性があると指摘している。
また,原判決は,その他のA証言の問題点として,⑤Aは,3月7日,b店で,Cの紹介で初めて被告人に会い,同月22日にもc店で被告人,Cと会食しているところ,原審弁3に,3月7日にb店で被告人,Cと会った事実が記載されていない,⑥Aは,平成26年5月1日付け検察官調書(原審弁6)で,c店での会合(3月22日)の後,B課長からa社に連絡をもらった点(前記第2の4(3)の,3月26日のB課長からの連絡と考えられる。)に関し,被告人が美濃加茂市の役人にどのように働き掛けたかは分からないが,Cが言っていたように,議会で質問することを引き合いに出すなど,市議会議員としての力を使ってうまくやってくれたのではないかと思った旨供述しているが,Aは,公判廷で「c店において,市議会での反応が良かったという被告人の発言を聞いて,b店で話していたことが間に合って被告人が議会で質問してくれたことが分かった,3月23日の被告人からのメールなどにより,被告人が美濃加茂市の役人に相当プレッシャーをかけてくれたのだと感じた」と供述しており,整合性を欠き,供述に変遷が認められる,このように指摘している。
ア まず①の点について,A証言では,上申書(甲73,74)を作成した当時は,e店で被告人に20万を渡したことなどは覚えていたが,d店で10万円を渡したことは覚えておらず,刑事には,前にも金を渡したことはあるが,いつどこで渡したかや金額については思い出せないと説明した,それから2ないし3日後には,d店で10万円を渡したことを思い出した,名古屋市議に10万円渡したことをまず思い出し,それで被告人にも10万円でいいかと(思ったと)いうことを思い出した,と述べている。
原判決は,以下のとおり説示している。(a)贈賄という非日常的行為は通常は強く印象に残るはずであるであるし,現金を渡したのも2回に過ぎないというのであれば,具体的な日の特定はまだしも,被告人に現金を渡した機会及びその金額については記憶に残っていてしかるべきである。(b)Aは,8月22日,f中学校で,Mに対し,渡した相手方が被告人であることを暗に認めた上で「しかるべき人に30万円くらいを渡している。」旨を告げた事実が認められるが,それから7か月しか経っていない平成26年3月中旬頃の時点で,d店の件について曖昧な記憶しかなかったというのは不自然である。(c)Aが述べる,上申書作成から2ないし3日後にd店で10万円を渡したことを思い出したという点の裏付けとなる上申書や捜査資料の存在はうかがわれず,Aのこの供述内容は信用できない。
(ア) このうち(c)については,N警察官は,当審で前記のとおり証言しており,この証言が信用できることは前に説示したとおりであり,これと符合する前記A証言も信用することができる(第1授受について思い出したいきさつについてはAとN警察官の供述に食い違いがあるが,この点は結論を左右しない。)。これによれば,Aは,平成26年3月19日に第1授受について思い出し,N警察官に対して供述していたことが認められる。
(イ) (b)の点については,Mの当該発言から,Aが取調べで最初に第2授受について供述した平成26年3月15日まで,原判決も指摘するとおり7か月近くが経過しているのであって,当該発言の後に記憶が減退したとしても,必ずしも不自然とはいえない。
(ウ) 以上のとおりであるが,(ア)のとおりAが平成26年3月19日に第1授受について思い出しN警察官に対して供述したことが認められるとしても,確かに,原判決が前記(a)のとおり指摘するように,第2授受について供述した段階で,それより以前の第1授受についていついくら渡したか思い出せないという点については,疑問がなくはない。しかしながら,第2授受があったとされる4月25日のe店では,被告人,C及びAの間で被告人の市長選への立候補が話題となっており,Aとしては,被告人が市長に当選することで浄水プラントの導入が更に前進することを強く期待していたことがうかがわれるのであり,そのような状況での被告人への現金授受の方が,Aにとってより強く印象に残っていて,そのために先に供述したことになったと考えられ,ことさら,虚偽を作り上げたとの疑いを生じさせるものではない。
イ 次に②の点について,A証言では,平成26年3月27日以前に,警察官に対し,Cがd店にいたかどうかはっきりしないと説明していた,同日付け警察官調書(原審弁3)作成時点では,d店で被告人に現金を渡したときに二人だけだったことは思い出せたが,それ以外についてはうろ覚えであり,警察官からも,メールを見てもCが同席していたとは思えない,今回はCの件は外しとくぞというふうに言われたため,Cが同席していなかった内容の調書が作成された,その後,メール等の詳しい資料を熟読するうちに,平成26年3月末頃から4月上旬頃には,被告人が到着するのをd店の駐車場でCと一緒に待っていた情景等を思い出した,その後,同月13日頃,警察官がジャーナルと呼んでいる,伝票のようなものがA4の紙で二,三枚のもの(甲8資料4)を渡され,Aさんの分どれか分かるかと聞かれ,全部見させてもらって,これですと言ったら,警察官から,そうなんだわ,Aさんの言ってたとおりなんだわと言われた,と述べている。
原判決は,以下のとおり説示している。(a)Aが,平成26年3月27日の取調べで警察官にCの存在について話していた形跡はないし,原審弁3にもCの同席を示唆したような記載は全く見当たらないばかりか,賄賂を渡した後にCの話題などを出しながら食事をした旨の記載すら存在することに照らすと,同日の取調べの際には,Aは被告人と二人だけで食事をしたとの記憶しかなかったのではないかと疑われる。(b)思い出した経緯についても,Aは,既に原審弁3で,被告人とd店の駐車場で待ち合わせたこと自体は供述しているし,4月2日午前中に被告人とAとの間でやり取りされたメール(前記第2の6(1))を見ても,Cを同行していた事実を推測させるような記載は見当たらないことからして,前記資料等を見たことをきっかけに思い出したというAの説明は首肯できない。よって,この点に関するAの公判供述の信用性には大きな疑問があり,Cがd店に同席していたか否かという重要な事実に関して,Aの供述は変遷しているといわざるを得ない。
(ア) (a)の点については,平成26年3月19日付け取調べメモ(検1)には,第1授受に関する部分に「〈C〉?」「いなかった?」という記載があるところ,この記載も含め,4月2日のd店でのCの同席に関するAの供述経過等について,N警察官は以下のとおり証言している。
Aは,第1授受について供述を始めた時点では,d店にCは「いなかったと思う」と言っていたが,断定はしていなかった。
平成26年3月27日の取調べでは,Cはいないという話だったが,曖昧だった。C側の通話履歴かメールの履歴で同日にAと連絡を取った様子がなかったので,Aに対しそのことを話したら,やっぱりいなかったんですねということだったので,じゃあいなかったんだねということで,断定して,Cはいなかったという調書を作成した。Aに「Cいなかったことに今回はしとくぞ」という言い方はしていないが,Aがそう捉えたのかもしれない。原審弁3の,d店でCの話をしたという記載については,何を話したのと聞いたら,CさんがいなかったらCさんの話もしてますよねということで,その話が入った。
その後,d店は3人で利用しているということが判明した。平成26年4月中旬頃,d店に対する照会の回答が来て,利用履歴のジャーナルにAが使っていたクレジットカードの番号がある伝票があり,3人だということが分かった。同月13日頃,Aに見せたが,驚いた様子ではなかった。ああ,Cさんいたんですねという話があって,私が,二人なんじゃないのと向けたら,いえいえ,私の勘違いです,Cさんに間違いありませんと言っていた。ジャーナルを見せたときに思い出したという印象を受けた。
以上のN証言は,d店に対する照会と回答(検9,10),メールの履歴(職1)などの客観的証拠に符合している。また,曖昧な供述について断定した調書を取ることの当否はともかく,本件では,N警察官において,メール履歴からCはいなかったものと判断するということはあり得るところであり,原審弁3において,Aは曖昧な供述をしていたのにCはいなかったという内容になったという点は,決して不自然ではない。ただ,そうであっても,Aにおいて,第1授受について思い出した当初の時点で,Cの同席について記憶が曖昧であったことには変わりない。しかし,この点が原判決がいうような重要な点とは考えられない。前記のとおり,Cに現金授受を見られることにさほど抵抗がなかったのであれば,Cの同席の有無というのはAにとってそれほど強く印象に残る事実とはいえず,当初記憶が曖昧であったのは決して不自然ではないというべきであり,この点で曖昧であったことが,被告人にこのとき現金を渡したという供述の信用性を特段に損なうものと解すことはできない。
(イ) (b)の点は,確かに,メールの履歴(前記第2の6(1))をみる限り,Cに関する記載は無いものの,記憶喚起のあり方として,Cの存在を直接示す記載が無くても,メールを見ながら当時の状況について記憶喚起している中で,Cがいた情景を思い出すということは,経験則上あり得ることであり,この点も特に不自然ではない。
ウ 前記③の点については,確かに,平成26年3月28日付け警察官調書(原審弁4,5)をみると,原判決指摘のとおり,被告人の選挙戦のためにCに美濃加茂市内の宿舎を確保した経緯,Cに活動資金10万円を渡した状況,市長就任後の被告人の足としてCに依頼されて自分のプリウスを提供した経緯など,相当具体的,詳細であり,第1授受のd店の記憶が曖昧だったというのと比較すると,記憶状況に違いがありすぎると感じられるかもしれない。しかし,Aとしては,被告人が市長に当選すれば浄水プラント導入がより前進すると期待していたのであるから,被告人の選挙は関心事であり,また,選挙応援にC用の宿舎を確保するとか,選挙資金として10万円を渡したとか,自分のプリウスを提供するなど,自分に直接関わることも多かったので,記憶に強く残って当然である。この点によってA証言の信用性が失われるとはいえない。
エ 前記④の点については,原審弁3には「Yさんには,当社のパンフレットなどの一式資料はc店であった際に渡しており,この日わいろを挟んだ当社のパンフレットもその時に渡したものと同じでした。ですから,二度も渡す必要のないものをわざわざ美濃加茂まで持ってきて再度渡された意味がわいろをカモフラージュする意味だと分かっていたはずですし,なによりYさんには封筒が見えるように見せていましたから,現金が入っていることは当然に分かったはずでした」旨の記載がある。この記載について,Aは,原審公判証言で,c店で渡した資料をもう一回渡したかもしれない,まあそうであってもおかしくないという言い方をしたが,調書ではああいうふうに断定的にされた,取調べ時に読んだときはそこまで細かく意識していなかったと説明している。
この点,N警察官も,平成26年3月27日の少し前頃から同日までの間に,Aは,d店で被告人に渡した資料は,c店で渡した資料と同じと供述していたが,断定まではしていなかったのを,自分が断定して調書にしたと説明していて,Aの説明と整合している。d店で渡した資料が現金を渡すためのカモフラージュのためだったとすれば,その中身に重要な意味はないから,この点によってA証言の信用性が失われるとはいえない。
オ ⑤の点について,N警察官は,以下のとおり供述している。
当初,c店で初めて会ったという話をしていたときは,b店という名前は出ていなかった。ただ,最初の頃にどこの店に行ったのかという話を聞いたときに,どういう順番だったのかというあやふやな部分はあった。その後,Aが自発的に,やっぱりb店に被告人と行った覚えがあると言った。時期は定かでないが,ガラス張りの部屋で,自分と被告人とCの3人で会ったような気がすると言った。平成26年4月10日にそのような供述が取れ,翌11日に捜査員が裏取りをして,最終的には照会してクレジットカードの署名が回答で返ってきて,それで判明した。
このN証言は信用することができる。この供述によれば,Aは,当初,3月22日のc店が被告人との初対面であると供述していたことになり,通常,強く印象に残ると思われる被告人との初対面の場面についてこのように誤った供述をしていたというのは,確かに不自然とも思えるものの,Aとしては,後に浄水プラントの導入に向けた動きが具体的になり,被告人への期待が強くなった段階での面会の方が強く印象に残っていた可能性もあり,少なくともこの点が,A証言が虚偽であると疑わせる事情とはならない。
カ ⑥の点については,確かに,A証言のとおりであるとするなら,3月26日のB課長からの連絡を受けた段階で「被告人が美濃加茂市の役人にどのように働き掛けたかは分からない」というのは不自然とも思える。しかし,上記のA証言も,あくまでAの推測にすぎないのであるから,これと,同日の時点でも「どのように働き掛けたか分からない」というのが,整合性を欠き供述に変遷が認められるとまではいえない。
キ 以上のとおりであって,原判決が指摘するAの供述経過に関する疑義(各現金授受に関連しないものも多い。)も,通常の記憶の減退,又は記憶喚起の過程として十分説明ができる事柄であり,Aが虚偽供述を作り上げていく過程ではないかと疑われる事情と評価すべきものはない。供述経過の点を,A証言の信用性を否定する理由として用いるのは,供述の信用性判断における論理則,経験則に反しており,是認できない。
(3)  虚偽供述の動機について
原判決は,Aの虚偽供述の動機についても説示している。先にも指摘しているように,A証言は,被告人に現金を渡したという中核部分において,それが信用できないとなれば,意図的に虚偽の供述をしていることになろうから,虚偽の供述をする理由があるか否かを検討することは意味のあることである。原判決は,この点について,次のように指摘している。①Aは,第2授受について初めて供述した平成26年3月15日当時,融資詐欺の事件で起訴され,別件融資詐欺で強制捜査を受けていたもので,なるべく軽い処分,できれば執行猶予の判決を受けるべく,捜査機関の関心を他の重大事件に向けて融資詐欺の捜査の進展を止めたいと考えたり,捜査機関に迎合して情状を良くしようと考えることはあり得る。②現にAは,平成26年9月頃,かつて同じ留置場にいたPに対し,被告人の弁護団から4000万の融資詐欺について告発されたことを知って執行猶予の可能性が遠のいた事を嘆く内容の手紙や,被告人の弁護人がAを悪く言えば言うほどA自身の公判では有利に働く結果となるものと判断していることを伝える手紙を郵送しており,これらの手紙の内容はAに上記意図があったことをうかがわせる。③実際に,平成26年3月26日に融資詐欺の2回目の起訴がなされた後は,被告人の弁護団からの告発を受けて同年10月20日に3回目の起訴がなされるまでの間,融資詐欺の起訴はされていないなど,上記告発まではAの当初の期待に沿う有利な展開になっていた。④さらに,同年4月頃,Aが,Pに対し,被告人に対する現金授受の話を出せば融資詐欺の捜査が止まる旨の話をしている事実(Pの原審公判証言)も,Aの上記意図の存在を推認させる。
所論は,③の点に関し,融資詐欺の捜査経緯について,被害届の提出状況や返済状況等にかんがみて問題がなかったと主張するが,問題は,A自身が詐欺の捜査の見通しについてどのように認識していたかであるから,所論は必ずしも的確な反論になっていない。原判決も指摘するように,確かに,前記第2の13のとおり,Aは,平成26年3月15日頃の時点で,1000万円の融資詐欺で起訴され,1100万円の別の融資詐欺で逮捕されており,他にも詐欺で立件され起訴される可能性のある事案があったのであり,一般的にはAが①のような考えに至ることはあり得る。また,Aは,Pに対し,「(前記第2の13のとおり告発があったことを受けて)どういうことですかぁぁぁ??執行猶予はぁぁぁ??」,「Y弁護団が,私の事を悪く言えば言う程,検察は私を守りに入ります,もちろんこれが公判では私に有利に働くでしょう」などという内容の手紙を送付していることが認められ,Pと同じ警察署の留置場にいた同年4月頃,Pに対し,被告人に対する贈賄の方が起訴されれば詐欺の捜査等がストップするという趣旨のことを言っていたこともうかがわれる。
そうすると,Aが,贈賄の件を捜査機関に述べることによって,融資詐欺についての捜査の進展を妨げ,起訴や求刑等で検察官に手心を加えてもらおうという気持ちを持っていた可能性は否定できない。その限度では,原判決の説示に誤りはない。しかし,Aがそのような気持ちを持っていたとしても,A証言が虚偽かどうかは別問題である。贈収賄は,通常,贈った方も受け取った方もこれを秘し,自ら進んで捜査機関にその件を申告することはまずない。逆に言えば,何らかの特殊な事情がある場合にしか,捜査機関に申告しないのが普通である。本件のAの場合も,被告人に対する贈賄は,本来捜査機関に話すことなど全く考えてもいなかったと思われるのに,自らに対する融資詐欺の件を少しでも軽くするために,捜査機関の前に持ち出したという可能性も十分にあり得る。そして,仮に虚偽の各現金授受の事実を捜査機関に供述したとすると,次のような疑問がある。まず,Aとしても,実際に犯してもいない贈賄という犯罪も加えて処罰を受けるおそれがある上,それによって融資詐欺の捜査,起訴が止められるという保証はない。これは極めて危険な賭けという他なく,Aが,第2授受について供述を始めた段階で,融資詐欺で身柄を拘束され,起訴されて,更に起訴が続く可能性があるという状況に追い込まれていたことを考慮しても,そのような行動に出るとは必ずしも考え難い。また,虚偽の供述をするとして,なぜ2回の現金授受を述べたのであろうか。Aは,Dから,被告人に渡すという名目で50万円を借りたというのであるから,これと辻褄が合うように,第2授受だけを話しておけば,政治家に対する贈賄の事実を作り上げられたはずである。それなのになぜ,わざわざ,それよりも金額の少ない第1授受の件を付け足すのであろうか。一度嘘をつくと,それが嘘でないとするために更に関連して嘘をつかなければならなくなることもあるが,本件の場合の第2授受と第1授受は,それぞれ独立した話として完結できるのである。第2授受があったと信じ込ませるために,第1授受の件を作り上げる必要はないのである。この点も,Aが虚偽の話を作り上げたとすると,説明が付きにくい点である。
以上によれば,Aが,自らの融資詐欺に対する捜査や起訴が進むのを嫌って,捜査機関の目をそらすために,あるいは,検察官等から自己の融資詐欺等の事件処理や求刑に手心を加えるなどの優遇等を期待して,本件を話し出したという可能性は否定できないものの,そのことからA証言が虚偽であると推認されることはなく,虚偽だとするとかえって説明困難な点が存在するといわざるを得ないのである。
7  A証言と相反する証拠について
前述したとおり,A証言は,他の情況証拠と相当程度整合的である。相反している証拠としては,各現金授受を否定する被告人の供述と,3人で会った際の状況について,Aと違った状況を述べているCの原審公判証言(以下「C証言」という。)供述がある。これらの証拠が,A証言の信用性を揺るがすようなものかどうかを検討する。
(1)  C証言について
ア Cは,原審公判で,各現金授受のあったとされる際の状況について,A証言と相反する証言をしている。その内容は以下のようなものである。
4月2日,d店で人の分までドリンクバーに取りに行ったことはない。他人とファミレスに行ったときに他人の分まで飲み物を取りに行ったことはない。なぜなら,自分は基本的に人にこびを売るのが嫌いな人間だからである。4月2日のd店でも,同月25日のe店でも,自分はトイレには行っていない。元々あまりトイレに行くタイプではないし,人といるときに中座するのがよろしくないと思っているので,事前にトイレを済ませる癖がある。飲んでいるとき,食事をしているときにトイレのために席を外すことはほとんどない。被告人,Aと3人でいる時に,携帯電話で席を外したこともない。被告人は忙しい人なので,被告人と一緒にいる時間は貴重だからである。4月25日以外にもe店に行ったことはあるが,これまでe店でトイレでも電話でも席を外したことは一切ない。d店,e店のいずれも,覚えていないということではなく,席を外していないという記憶がある。
イ しかし,原審公判での証言(平成26年10月8日)から約1年半前の会食で席を外したことがあったかどうかなどという点について,上記のように断言できるほど覚えているということ自体,通常考えにくい。のみならず,Cは,捜査段階においては,平成26年6月26日付け検察官調書(甲24)において「Aは,4月2日にd店で会ったときと,4月25日にe店で会ったときの2回,Yにお金を渡したと話していると聞いています。しかし,私は,そのとき,AがYにお金を渡している場面は,見た記憶がありません。ですから,仮に,AがYに金を渡しているとするなら,私がトイレや電話などで席を外した際に渡しているのではないかと思います。」旨,両方の席で席を外した可能性があることを前提とした供述をしている。また,Cは,原審公判での証言の2か月足らず前の平成26年8月18日付けの弁護人作成の供述録取書(原審弁9)においても,4月2日のd店,同月25日のe店では席を外していないと「ほぼ断言できる」とする一方で「(3月から4月にかけての被告人及びAとの会食で席を外したかどうかについて)警察でも検察庁でも取調べで何回も聞かれましたが,1年以上も前のことですので,その会食のときに席を外したことがあったのかどうか,具体的に覚えているわけではありません。」と,公判供述と若干異なる趣旨の供述をしている。そして,この供述の変遷について,Cは,合理的な説明をしていない。
以上の点に照らせば,C証言は,前記のA証言の信用性を左右するような証明力を持つものではないというべきである。
(2)  被告人の供述について
被告人は,原審公判において,各現金授受の事実をいずれも否認している。そして,それは,捜査段階から一貫している。
しかし,被告人は,Aから現金を受け取ったことはないと明確に否定する一方で,Aが各現金授受があったとする際の状況について,曖昧若しくは不自然と評価されるような供述をしている。例えば,4月2日にd店でAと会った際(第1授受のあったとされる局面)のことについて,前記第2の6(1)のメールのやり取りからすれば,当日会った目的の一つとして資料の交付があったはずなのに,被告人は,当日資料を受け取ったかどうかはっきり覚えていない,受け取ったことを否定するわけではないが,渡された資料の内容はちょっと覚えていない,同(2)の資料を見せられても,d店でそれを見たという光景が思い出せないなどと述べている。また,同(1)のメールのやり取りからすれば相当多忙な中時間をやりくりしてAと会ったはずであるのに,当日にAと何を話したのかも具体的な記憶がないなどと供述している。Aの供述からは,この日被告人と会った大きな目的の一つは被告人に現金を渡すことであったことが明らかで,また,Aは,被告人に対して,資料の中に現金入りの封筒を入れて渡したと供述しているところである。被告人としても,多忙な中でわざわざ時間を作ってAらと会ったのに,その目的や話した内容,渡された資料などについて,具体的な記憶がないなどと供述しているのは,やや不自然との感は免れない。
同月25日のe店でのやり取り(第2授受のあったとされる局面)についても,Aと何を話したかはっきり覚えていない,浄水プラントの話も出たかどうか記憶にないし,資料を受け取ったかどうかもはっきり覚えていない,Aが当日どうしてe店に来たのかも分からないなどと述べている。翌日のメールのやり取りでは,被告人自らが,Aからのメールに対して,e店での会合が盛り上がったことを認め,「本当にいつもすみません。」と感謝の意を表していることに照らすと,この被告人の供述にも不自然さが感じられる。
また,直接各現金授受に関連するものではないが,Aから経済的な支援を受けていたことになる,市長選の際のCの宿泊代金の件についての供述にも問題がある。前記第2の11のとおり,被告人の市長選挙に協力するためにCが美濃加茂市内の旅館に宿泊した代金をAが負担していることについても,被告人は,費用を誰が負担しているのかについて当時は全く考えていなかったなどと述べている。同記載の6月28日のメールのやり取りからすれば,それ以前に,被告人,C及びAの間で,旅館の費用をAが負担する旨の合意ができていたことが明らかであるにもかかわらず,Aが費用を負担した理由はちょっと分からないと供述し,検察官の,e店での話に基づいて実際に資金負担をする結果になったのではないかという質問に対しても,よく分からないと述べている。Aから,経済的な支援を受けていた,それも表立って明らかにしたくないような支援を受けていたという,各現金授受に繋がりかねない事項について,当然了解の上で行ったとしか理解できないのに,「分からない。」などと不自然な供述をしているのである。このように,被告人は,各現金授受の有無と密接に関わり,又は各現金授受の事実を認める方向に働く事実関係について,曖昧,あるいは不自然な供述に終始しており,被告人が記憶のとおり真摯に供述しているのかという点で,疑問を抱かざるを得ない。
したがって,被告人の原審公判供述も,前記のA証言の信用性を左右するような証明力を有しないというべきである。
8  各現金授受の存在
以上,述べたとおりであって,A証言は,具体的かつ詳細で,その内容に特に不合理な点は見当たらず,弁護人からの反対尋問にも揺らいでおらず,各現金授受と関係する情況証拠とも整合的であり,N証言等により認められる捜査段階の供述経過に照らしても,自己の記憶に従って供述したものと認められる。原判決は,Aのような会社経営の経験があり,金融機関に対する数億円の融資詐欺を行うことができる能力を有する者がその気になれば,内容の真偽にかかわらず,法廷で具体的かつ詳細な体裁を整えた供述をすることは困難ではないこと,原審証人尋問に臨むに当たり検察官との間で相当入念な打合せをしていることから,客観的資料と矛盾なく,具体的かつ詳細で,不自然かつ不合理な点がない供述となるのは自然であるという。しかし,原判決のこの指摘は今や受け容れ難い。多額の融資詐欺を行ったAであっても,常に虚偽を述べるとは限らないし,関係する諸事実と整合的に虚偽の話を作り上げるのは相当困難であろう。後から事実を作り上げたとは考えられない事情のあることも既に指摘したとおりである。臨場感を伴う供述がなされていないとの原判決の指摘も的を射ていないことも指摘済みである。捜査段階の供述経過も,A証言の信用性を失わせるものではないことも既に説明したとおりである。A証言と相反するCや被告人の供述も,A証言の信用性に疑問を抱かせるようなものではない。他に,その信用性を揺るがすような反対証拠も見当たらない。
したがって,A証言は,これを信用することができ,これによれば,各現金授受の存在を認めることができる。
A証言の信用性を否定し,各現金授受の存在は認められないとした原判決には,事実認定上,とりわけ証拠評価の上での論理則,経験則等に照らして不合理で是認し難い誤りがあるといわざるを得ない。
そこで,本件において,各現金授受があったことを前提に,公訴事実が認められるかを更に検討する。
第5  その余の争点について
前記のとおり,各現金授受の存在が認められるので,第1の3で示したその余の争点について判断する。この点は,原判決の判断はないから,当事者の主張を掲げ,当裁判所の検討結果を簡潔に示すこととする。
1  争点①(Aから被告人への依頼の内容及びそれが請託と評価できるか)について
(1)  検察官の主張
ア Aは,3月7日のb店及び同月22日のc店で,市議会議員として,市議会で浄水プラントの導入に向けた質問を行うよう依頼するとともに,市職員に対して浄水プラントを導入することをあっせんするよう依頼した。前者は受託収賄罪の請託に,後者はあっせん利得処罰法1条1項の公職者あっせん利得罪における請託に,それぞれ該当する。
イ また,Aは,4月25日のe店において,被告人に対し,市議会議員として市職員に対して浄水プラント導入をあっせんするよう依頼するとともに,市長に就任した際には浄水プラントを導入するよう依頼した。前者は公職者あっせん利得罪の請託に,後者は事前収賄罪の請託に,それぞれ該当する。
(2)  弁護人の主張
請託があったというためには,請託事項が,当該事件の具体的事情に照らし,ある程度の特定性・具体性を要するところ,Aは,被告人に対し,議会での質問や市職員への働き掛けを明示的にも黙示的にも依頼したことはない。「浄水プラントを導入してほしい」といった極めて漠然とした要望を伝えたことはあるが,この程度では,収賄罪における請託に当たらないことはもちろん,あっせん利得処罰法にいう請託と評価することもできない。
また,請託を「受け」たというためには,請託を承諾したことを要するところ,そもそも依頼に具体性がない以上これに対する承諾があったとは認められないし,被告人の「いいですね,やりましょう。」などの言葉も,社交辞令的な言葉に過ぎず,依頼に対する承諾とは評価できない。
(3)  検討
ア まず,3月7日のb店での請託についてみると,A証言によれば,この席で,Cの被告人に対する説明(これまで名古屋市で,同市議会議員から名古屋市病院局の役人に濾過機の導入を働き掛けてもらったり,同市議会で質問をする形で同市の教育委員会に浄水プラントの導入を働き掛けたりしてもらったなどといったもの)を受けて,Aは,被告人に対し,資料に基づき浄水プラントについて説明した上で,浄水プラントを全国で一番初めに美濃加茂市で導入していただきたい,それに是非力を貸してほしいとお願いしたこと,被告人は,いいですね,やりましょうなどと答えたことが認められる。このやり取りの内容に加え,被告人が,前記第2の2(3)のとおり,b店での会食の当日又は翌日,資料を持参して美濃加茂市防災安全課を訪れ,同課職員に対し同資料を手渡し(これが浄水プラント事業の検討を依頼する趣旨であることは明らかである。),後記のとおりその後の同月14日,美濃加茂市議会で浄水プラントの導入を促す質疑・発言を行っていることに照らしても,b店におけるAの被告人に対する依頼が,美濃加茂市議会議員として同市議会でa社の浄水プラントの導入に向けた質問を行うこと,同じく同市議会議員として同市職員に対してa社の浄水プラントを導入するよう働き掛けることの依頼であることは明らかで,請託の対象となる職務行為が十分に具体性を有し特定されているといえ,前者が受託収賄罪における請託に,後者があっせん利得処罰法1条1項の公職者あっせん利得罪における請託に該当するというべきである。そして,このように具体性を有し特定された請託に対し,被告人は前記のとおり答え,実際に市議会における質疑・発言等を行っているのであるから,請託を承諾したことは明らかである。
イ 3月22日のc店での請託についてみると,A証言によれば,この席では,まず被告人から議会の反応が良かった旨の話があり,その後,Aは,被告人に対し,美濃加茂市の内容を盛り込んだ資料を使って浄水プラントの説明をした上,美濃加茂市で導入されるよう是非お力を貸していただきたいなどと依頼し,被告人は,是非やりましょうと答えたことが認められる。このやり取りに加え,c店での会合までの経緯,前記第2の4(2)のとおり被告人が同月25日にも防災安全課を訪れB課長と会うなどして働き掛けを継続していることなどに照らせば,c店におけるAの被告人に対する依頼が,前記アのb店における依頼と同様の趣旨であり,受託収賄罪及びあっせん利得処罰法1条1項の公職者あっせん利得罪における請託に該当するといえ,これに対する被告人の返答も,この請託を承諾したということができる。
ウ 4月25日のe店での請託についてみると,A証言によれば,この席では,被告人が到着後,市長選の話が出て,その後,被告人到着前の打合せに基づき,Cから被告人に,浄水プラントの件を,市長選で忙しくなるだろうけど止めないでやってほしいと言い,Aも被告人に対しお願いしますと言い,被告人は,分かってます,何でも言って下さいなどと言ったこと,さらには,Cが,市長になれば(浄水プラントについて)専決でやってしまったほうが早いかもしれないなどと言ったのに対し,被告人がそれもそうですねなどと言い,Aが,市長になってもa社のことは見捨てないでくれと言ったところ,被告人がそんなわけないじゃないですかなどと言ったことが認められる。このやり取りに加え,e店での会合までの浄水プラント導入をめぐる経緯,及び,前記第2の8のとおり,会合の6日前に前市長が辞職を表明したばかりで,市長選挙の告示もなされておらず,被告人が正式に立候補するとしても,それまでにまだ若干の日にちがあることが予想される段階であったことに照らせば,e店における被告人に対する依頼が,市議会議員として引き続き同市職員に対してa社の浄水プラントを導入するよう働き掛けることの依頼であるとともに,市長に就任した際には同市でa社の浄水プラントを導入するよう依頼するという,両方の趣旨があったと認められる。これも,請託の対象となる職務行為が十分に具体性を有し特定されているといえるから,前者があっせん利得処罰法1条1項の公職者あっせん利得罪における請託に,後者が事前収賄罪の請託に当たるというべきである。そして,このように請託の内容が特定されているといえる以上,被告人の前記の返答は,この請託を承諾したものと認められる。
2  争点②(被告人が3月14日の市議会で浄水プラントの導入を促す質疑・発言を行ったと認められるか)について
(1)  検察官の主張
被告人は,3月14日の美濃加茂市議会において,前記第2の3のとおりの質疑及び発言を行っているところ,これは,浄水プラントの導入を促すものである。
(2)  弁護人の主張
被告人は,市議会において,浄水プラントではなく,備蓄品について質問をしたのであり,前記第2の3(2)のとおりEから浄水プラントにつき答弁がされているのは,答弁者が質問の意図を取り違えたからである。
(3)  検討
被告人の美濃加茂市議会における質疑・発言の内容は,前記第2の3(2)のとおりである。浄水プラントについて直接的に言及するものではないとはいえ,被告人は,同2(3)のとおり,3月7日ないし8日にa社の浄水プラントの資料を持参して防災安全課を訪れ,同課職員に対し,同資料を手渡して,同課において浄水プラント事業の検討を促し,同3(1)のとおり,同月11日付けで,市議会議長に対し,議案質疑発言通告書を提出しており,同通告書中には,「防災施設整備事業について」として「①今回の整備で,どれくらいの備蓄が可能になるか。②災害対策に,民間が開発した新技術等を導入する考えは。」といった記載をしており,その上で,前記のような質疑・発言をしているものである。このような事実経過に加え,前記通告書では,①の備蓄についての事項とは別に②として「民間が開発した新技術」という記載をしていることにも照らせば,市職員としては,被告人の②の記載が備蓄品ではなく浄水プラントの導入を促す趣旨であると理解するのは当然である。そして,被告人もそのことを十分理解していたと推認され,このことは,同3(2)のとおり,被告人が,マンホールの例を挙げてはいるものの,Eの答弁につき,その中の「新しい技術の導入ということで議員さんからもちょっと御提案いただいておりますけれども,それはプールにたまる雨水の活用ということで御提案いただきました。」という部分を含め訂正するなどしていないことからも明らかである。
したがって,被告人が,同月14日の市議会で,浄水プラントの導入を促す質疑・発言を行ったと認められる。
3  争点③(被告人のB課長に対する働き掛けが,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえるか否か)について
(1)  検察官の主張
被告人は,前記第2の4(2)のとおり,3月25日頃,B課長に対し,浄水プラントに関する資料を渡すことにより,浄水プラントの導入につき前向きに検討することを求めるとともに,同7(5)のとおり,4月15日頃,同人に対し,浄水プラントの件を早急に取り組むように要望した文書を渡して回答を求めることにより,検討結果によっては今後も市議会で質問権等を行使することがあり得る旨を明示的ないし黙示的に示したものであり,これは,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したものといえる。
(2)  弁護人の主張
検察官は,被告人が,今後も市議会で質問権を行使することを示して,市議会議員としての権限に基づく影響力を行使したと主張するが,前記2(2)のとおり,被告人は,市議会における浄水プラントに関する質問を行ったことはない。また,市職員にとって,議会で再質問されることは一般的なことであって,特に負担になるものではないから,これを恐れて対応することは考えられない。検察官が指摘している被告人の行為は,いずれも「市議会議員としての権限に基づく影響力の行使」に該当するとはいえない。防災安全課が浄水プラントの導入に積極的に動いたのは,市としても,災害対策として避難所における水の確保の必要があったからであり,被告人の権限に基づく影響力の行使によるものではない。
(3)  検討
ア 前記第2の4(2)の3月25日頃の働き掛けの内容については,B課長自身が,被告人がa社の資料を渡してきて,a社の者から説明を聞くように言われたという以上の詳しい内容を記憶していない。しかし,被告人は,単なる一私人としてB課長に上記のような依頼をしたものではなく,市議会議員として,しかも,前記2(3)のとおり,直前に市議会で市職員に対して浄水プラントの導入を促す質問等を行い,前記第2の3(2)のとおり,E部長から「導入に向けて検討する」旨の前向きな答弁を得た上で,B課長に働き掛けをしたものである。B課長は,浄水プラントの導入を検討しなければならないと思った理由として,市議会で市議である被告人が浄水プラントの導入を求める趣旨の質疑をし,これに対してEが導入を検討すると具体的に答弁していたので,議員やその背後にいる市民の期待を裏切らないよう導入に取り組まねばならないと思った,また,以前別件で検討が進まなかった際に議会で質疑が繰り返されたことがあったので,ここで導入に向けてきちんと仕事をしなければ被告人から議会で再質問されることもあるかもしれないと考えた旨述べている。これは,市職員としての自然な考えであるし,市職員にとって再質問は,質問に対応する負担のみならず,公の議会の場で,従前の答弁に沿った施策を実行していないという誹りを受けかねないという意味でも,大きな負担になることが容易に推認される。被告人が,そのようなB課長の受け止め方を意識せずに働き掛けをしていたとは考えられない。
以上述べたところからすれば,被告人のB課長に対する働き掛けは,あっせん利得処罰法1条1項の公職者あっせん利得罪における「その権限に基づく影響力を行使し」たものといえる。
イ 4月15日の文書の内容は前記第2の7(5)のとおりであり,明日までという短い期限を設けて,浄水プラント導入についての(前向きな)回答を強く求める趣旨のものである。そして「美濃加茂市議会議員 Y」名義で,「今後の議会での活動をより有意義なものにするための内容」との記載は,回答次第では今後議会で再質問等を行う可能性があることを匂わせたものであり,先にアで述べたところにも照らせば,これは,市職員にとっては強い圧力となるものである。したがって,当該文書による働き掛けが,前同様「その権限に基づく影響力を行使し」たものに当たるのは明らかである。
ウ なお,弁護人は,美濃加茂市副市長の陳述書を引用し,防災安全課が浄水プラントの導入に積極的に動いたのは市としても防災対策として必要があったからであり,被告人の議会での動きや働き掛けに起因するものではないと主張するが,仮に市として必要があったとしても,このことと被告人の権限に基づく影響力の行使とは両立するものであり,前記認定の妨げとなるものではない。
第6  本件公訴事実について
1  前記第1の2(1)
前記第5で認定した事実に加え,これを含む第1授受に至る経緯に照らせば,第1授受に係る現金10万円が,被告人の市議としての職務に関する賄賂であり,かつ市議としての権限に基づく影響力を行使してB課長ら市職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをさせることについての報酬として供与されたものであること,及び,その授受の時点で被告人がその旨を知っていたことが推認され,前記第1の2(1)の事実を認めることができる。
2  前記第1の2(2)
前記第5で認定した事実に加え,4月25日のe店での会話内容,その時点での被告人を取り巻く状況に照らせば,この時点で,被告人が市長になろうとすることが相当程度確実であり,かつ,そのことが客観的に明らかにされているといえるから,被告人は公務員である市長に「なろうとする者」に当たる(被告人は,この時点では市議会議員という公務員であったが,市長という公務員との関係では,「公務員になろうとする者」に当たると解される。)。そして,被告人は,前記第2の8のとおりその後に市長に就任しているから,事前収賄罪の客観的構成要件は満たされる。
そして,前記第5で認定した事実を含む第2授受に至る経緯に照らせば,第2授受に係る現金20万円が,被告人の市議としての権限に基づく影響力を行使してB課長ら市職員にその職務上の行為をさせるようにあっせんをしたこと及び今後も同様にあっせんをさせることについての報酬として,かつ,市長に就任した後も前記有利かつ便宜な取り計らいをすることの報酬として供与されたものであること,及び,その授受の時点で被告人がその旨を知っていたことが推認され,前記第1の2(2)の事実を認めることができる。
3  結論
以上によれば,いずれの公訴事実についても犯罪の証明があったといえるから,被告人を無罪とした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があり,破棄を免れない。論旨は理由がある。
第7  破棄自判
そこで,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄した上,同法400条ただし書により更に次のとおり判決する。
(罪となるべき事実)
前記第1の2の公訴事実のとおりであるから,これを引用する。
(証拠の標目)
括弧内の甲の番号は原審証拠等関係カード中の検察官請求証拠の番号を示し,職の番号は原審証拠等関係カード中の職権採用証拠の番号を示す。
罪となるべき事実で引用した前記第1の2の事実(本件公訴事実)全部(冒頭の事実を含む。)について
原審公判調書中の被告人及び証人Aの各供述記載部分
C(甲24,25),E(甲32),B(甲33,34),T(甲35),J(甲36),I(甲37)の各検察官調書
Hの警察官調書(甲38)
捜査報告書(甲1,2,26ないし29,39ないし41,91,職1)
商業登記簿謄本(甲3)
前同様の前記第1の2(1)の事実について
捜査報告書(甲4ないし9,12)
実況見分調書(甲85)
前同様の前記第1の2(2)の事実について
L(甲43),Q(甲44),R(甲45),K(甲46)の各検察官調書
Sの警察官調書(甲47)
捜査報告書(甲10,11,13,15,30,31,42)
実況見分調書(甲105)
(法令の適用)
被告人の前記第1の2(1)の所為のうち,受託収賄の点は刑法197条1項後段に,あっせん行為の報酬として財産上の利益を収受した点はあっせん利得処罰法1条1項に,同(2)の所為のうち,事前収賄の点は刑法197条2項に,あっせん行為の報酬として財産上の利益を収受した点はあっせん利得処罰法1条1項に,それぞれ該当するところ,これはいずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,いずれも刑法54条1項前段,10条により1罪として,(1)の罪については重い受託収賄の罪の刑で,(2)の罪については重い事前収賄の罪の刑で,それぞれ処断することとし,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い(1)の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年6月に処し,情状により刑法25条1項を適用してこの裁判が確定した日から3年間刑の執行を猶予することとし,被告人が各犯行により収受した賄賂(財産上の利益)は没収することができないので,同法197条の5後段及びあっせん利得処罰法3条後段によりその価額合計金30万円を被告人から追徴することとし,原審における訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。
(量刑の理由)
本件は,市議会議員であり,また,市長になろうとする者であった被告人の収賄事件である。被告人は,一民間事業者からの請託を受けてこれに応じ,浄水プラントの市立学校への導入を図るべく,市議会で市に対してその導入を促す質疑及び発言を行い,前向きな回答を得るや,市職員に対してその導入を繰り返し働き掛けるなどし,前記事業者からその報酬として2回にわたり現金合計30万円を受け取ったものである。被告人の方から賄賂を要求したものではなく,収受した金額は多額とはいえないものの,公職,しかも要職にある者としてはあまりにも安易に犯行に及んでおり,公務員の職務の公正を害し,これに対する国民の信頼を失墜させる犯行である。
被告人の刑事責任を軽くみることはできないが,被告人には前科がないなどの事情もあるので,主文の刑とした上で,その刑の執行を猶予することとした。
平成28年12月1日
名古屋高等裁判所刑事第2部
(裁判長裁判官 村山浩昭 裁判官 大村泰平 裁判官 赤松亨太)

 

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