「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例(35)平成22年11月29日 東京高裁 平22(行ケ)26号 裁決取消、選挙無効確認請求事件
「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例(35)平成22年11月29日 東京高裁 平22(行ケ)26号 裁決取消、選挙無効確認請求事件
裁判年月日 平成22年11月29日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(行ケ)26号
事件名 裁決取消、選挙無効確認請求事件
裁判結果 請求棄却 上訴等 確定 文献番号 2010WLJPCA11296002
要旨
◆市長選に立候補し、選挙公報の掲載文の原稿を申請した原告が、市の選挙管理委員会職員から顔写真の適式な添付及び文章の訂正を求められたため、同原稿を持ち帰り、結局選挙公報に掲載されずに選挙が行われたことにつき、本件職員により選挙公報への掲載申請を拒否されたとして、公職選挙法205条1項に基づく選挙無効確認等を求めた事案において、市選管は、掲載文の内容自体が甚だしく公序良俗に反することが客観的に明白であり、それを公表することが条理上許されないと解すべき特段の場合でない限りその掲載を拒否できず、任意の訂正を勧告できるにすぎないと解されるところ、本件職員は選挙公報の掲載文原稿につき任意の訂正勧告をしたのであって、原告がそれ以上掲載申請の手続をとらずに立ち去ったのであるから、原稿の受理拒否があったとは認められず、本件職員の対応に公職選挙法205条1項違反はないなどとして、請求を棄却した事例
出典
判例地方自治 344号9頁
参照条文
公職選挙法172条の2
公職選挙法205条1項
みどり市選挙公報の発行に関する条例3条(平19みどり市条例8)
みどり市選挙公報の発行に関する規程2条(平19みどり市選管告8)
みどり市選挙公報の発行に関する規程4条(平19みどり市選管告8)
裁判年月日 平成22年11月29日 裁判所名 東京高裁 裁判区分 判決
事件番号 平22(行ケ)26号
事件名 裁決取消、選挙無効確認請求事件
裁判結果 請求棄却 上訴等 確定 文献番号 2010WLJPCA11296002
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 被告が平成22年8月12日に行った同年4月11日執行のみどり市長選挙における選挙の無効確認を求めた原告の異議申立てに対する裁決を取り消す。
2 上記選挙の無効を確認する。
第2 事案の概要
1 本件は、平成22年4月11日執行の群馬県みどり市の市長選挙(以下「本件選挙」という。)に立候補した原告が、本件選挙の効力に関する異議の申出(以下「本件異議申出」という。)を棄却した同市選挙管理委員会(以下「市選管」という。)の決定(以下「本件決定」という。)に対する審査の申立て(以下「本件審査申立て」という。)を棄却した裁決(以下「本件裁決」という。)を不服として、本件裁決の取消しを求めるとともに、本件選挙の無効の確認を求める事案である(なお、請求の趣旨では、「異議申立てに対する裁決」との記載をしているが、正しくは、「審査申立てに対する裁決」である。また、本件選挙の無効を確認するとの判決を求めているが、公職選挙法(以下「公選法」という。)203条、205条に基づき本件選挙を無効とすることを求めるべきところ、原告は無効確認を求めているものと解される。)。
2 前提となる事実(当事者間に争いのない事実)
(1) 平成22年4月4日(以下、同年については年の記載を省略する。)、本件選挙(4月11日執行)の期日が告示された。本件選挙には、当時の市長であるA(以下「A候補」という。)と原告が立候補した。市選管の委員長はB、書記長はC(以下「C」という。)であった。
(2) 原告は、4月4日の告示日に、みどり市役所笠懸庁舎の立候補届出会場において、選挙公報の掲載文の原稿を作成した。原告は、その掲載文原稿に新聞から切り抜いた自己の顔写真を貼付した。
(3) これに対し、市選管職員は、上記写真の貼付は、「みどり市選挙公報の発行に関する条例」(以下「条例」という。)に基づく市選管の告示である「みどり市選挙公報の発行に関する規程」(以下「規程」という。)に違反するので適式な写真を添付するよう求めた。それを受けて、原告は、上記顔写真を剥離した。
(4) また、市選管職員は、上記掲載文原稿中の「立候補届出が受理されなかった」旨の文章について訂正を求め、原告がこれを黒く塗りつぶした。
(5) 原告の選挙公報の掲載文原稿は、その後原告が持ち帰っており、掲載されることなく選挙が執行され、A候補が当選した。
(6) 原告は、4月26日付けで本件異議申立てを行い、市選管は、5月21日本件決定を行い、原告は、6月14日、本件審査申立てを行い、被告は、8月12日付けで本件裁決を行い、原告は、9月13日に本件訴えを提起した。
3 争点と争点に関する当事者の主張
本件の争点は、市選管職員の行為が、原告の選挙公報への掲載申請を拒否したものとして、選挙無効の要件である「選挙の規定に違反することがあるとき」(公選法205条1項)に該当するといえるか否かである。
(1) 原告の主張
ア 市選管職員は、原告が選挙公報の原稿用紙に貼付した桐生タイムスという新聞の第1面に載った原告の顔写真の切り抜きについて、原本ではないこと、サイズも規格外であり、枚数も2枚必要なのに1枚しかないので受理できないと言った。原告が写真を剥がしてそのまま掲載してほしいと主張したが、市選管職員は、それでは受理できないと言った。
イ 何度か押し問答が繰り返された後、市選管職員は、掲載文の内容中の、立候補手続書類の受理拒否がされたという文言が、事実と違うから書き換えてもらいたいと言った。市選管職員がそのように言うということは、写真の不提出については、受理拒否の理由にはしないということか確認を求めると、Cは、これを渋々認めた。
ウ ところが、市選管職員に指摘されて書き直した2枚目の原稿までが受理拒否された。理由は、字が読みづらい、字が原稿用紙の内枠からはみ出している、内容が市の行政の非難や中傷になっているというものだった。市選管職員は、条例か規程の文言を引用して、相手方候補者の個人攻撃になるような文言や、一般的な公序良俗に反する文言の原稿は、受理拒否できると言った。原告は、その条例や規程を見せてほしいなどと言って反論し、両者の主張はかみ合わなかった。市選管職員がとっていた態度は明らかに受理拒否であった。
エ 原告は、県職員らとのやりとりが刑事事件とされ留置・拘留され牢獄から出て来たばかりであったので、大声を出すことも、執拗に食い下がることもできなかった。原告は、この選挙が終わったら訴えるからな、選挙公報で自分の立候補が一般市民に周知されなくとも、1分1秒でも早く選挙運動に取りかかるしかないなどと宣言したのである。
オ 本件裁決は、原告が選挙公報の掲載文原稿と同時に掲載申請書を提出していないことを理由としている。
しかし、原告は、いわゆる「難癖」を付けられて執拗に受理拒否をされていたのであるから、掲載申請書を出せるものではない。また、市選管職員は原告の掲載文原稿の受理拒否をしている間、一度として掲載申請や掲載申請書の話をしておらず、申請書の用紙の交付も行わなかった。本件裁決の上記理由は、その場に居合わせた報道機関の者からの話も聴取しておらず、独断と偏見に満ちた被告の主張であって、裁決の理由にはなり得ない。
カ 本件裁決は、市選管が受理拒否の対応をとっていたとしても、周囲には報道機関もいたのであるから、原告が一方的に掲載文を再度提出すれば、市選管も相応の対応を取らざるを得ないことが十分に期待できたのに、原告が結局掲載文の原稿を再度提出することなく持ち去ったことを理由としている。
しかし、報道関係者が居ながら、原告が一方的な掲載申請ができなかったのは、それだけ報道関係者が市選管の側に与していたからである。また、原告は、当日、何度受理拒否をされても一方的に掲載文の提出をして、掲載申請の意思の表示をしていたのであるから、本件裁決は事実を誤認している。さらに、市選管が相応の対応を取らざるを得ないなどというのも事実誤認である。市選管は、原告の立候補をあって無きがごときものにする動機や目的が存在していたからである。
(2) 被告の主張
ア 市選管は、新聞から切り抜いた顔写真貼付は、規程に違反するので適式な写真を貼付するよう求めたところ、原告は、掲載文原稿から顔写真を剥離した。また、市選管が、原稿中にあった「立候補届出が受理されなかった」旨の明白な虚偽事実の記載の訂正を求めたところ、原告は当該部分の上に線を引いた。市選管は、そのような訂正では明白な虚偽事実が記載されているのと同じである旨説明したところ、原告は、当該部分の文字を1文字ずつ塗りつぶした。市選管は、掲載文の原稿の文字が乱雑で印刷されない枠外にもはみ出していた上に、上記訂正によって一段と見栄えが悪くなったことから、書き換えも可能である旨述べた。その時刻はまだ午後4時過ぎころで、締切りの午後5時までは、書き換えの時間的余裕は十分あったが、原告は、突然「もういい。」と言って選挙公報に掲載しない旨の意思表示をした。Cが「提出をしませんね。」と確認したのに対し、原告は、「もういい。時間がない。」などと答え、掲載文原稿を持って、立候補会場から立ち去ってしまった。
イ みどり市長の選挙の候補者は、選挙公報に氏名、経歴、政見、写真等の掲載を受けようとするときは、掲載文及び写真を添えて、文書で市選管に申請しなければならないが、原告は、選挙公報掲載申請書を提出していないから、選挙公報への掲載を申請していない。
しかも、上記アのとおり、市選管は、原告から、その場で短時間に記載された掲載文原稿の確認を求められ、法令の定める条件に沿って適式に作成されているかを事前確認し、適法に任意の訂正を勧告したにすぎない。これに対し、原告は突然機嫌が悪くなり、最終的確定的な選挙公報への掲載意思を表示することなく、Cの意思確認に対して、掲載しない旨の意思表示をして退出してしまったのである。
したがって、原告主張の受理拒否の事実はない。
第3 当裁判所の判断
1 選挙無効の要件について
(1) 選挙の効力に関する争訟において、選挙の全部又は一部を無効とすることができるのは、「選挙の規定に違反することがあるとき」で、かつ、「選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合」に限られる。そして、「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として選挙の任にある機関(以下「選挙執行機関」という。)が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反することがあるとき又は直接かような明文の規定は存在しないが選挙の基本理念である選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指す(最高裁昭和51年9月30日第一小法廷判決・民集30巻8号838頁)。
(2) 市町村長の選挙においては、当該選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会は、公選法167条から171条までの規定に準じて、条例で定めるところにより、選挙公報を発行することができるとされている(公選法172条の2)。そして、条例(乙4)では、候補者が選挙公報に氏名、経歴、政見、写真等の掲載を受けようとするときは、その掲載文及び写真を添えて、当該選挙の告示のあった日の午前8時30分から午後5時までに、文書で委員会に申請しなければならないとされ(3条1項)、その掲載文においては、候補者はその責任を自覚し、他人若しくは他の団体の名誉を傷つけ、若しくは善良な風俗を害し、又は特定の商品の広告その他営業に関する宣伝をする等いやしくも選挙公報としての品位を損なう記載をしてはならないとされている(同条2項)。また、市選管は、3条1項の規定による申請があったときは、掲載文を原文のまま選挙公報に掲載しなければならないとされている(4条1項)。
(3) さらに、条例の委任を受けた規程(乙5)においては、条例3条1項の申請をしようとするときは、選挙公報掲載申請書に、掲載文1通及び写真2枚(同一原版によるものに限る。)を添えて、市選管に提出しなければならず(規程2条1項)、その写真は当該選挙の期日前3月以内に撮影した写真でなければならないとされ、その大きさなどについても規定されている(規程2条2項)。
また、規程では、掲載文について、一定様式の原稿用紙に黒色で、通常文章に使用する文字等で記載するといった体裁についての規定をした上(規程3条)、その3条に違反した場合や、市選管が、文字等が著しく小さい場合、文字等が著しく大きい場合その他の事由により印刷が著しく不鮮明となるおそれがあると認める場合には、候補者に訂正を求めることができ、候補者がその求めに応じない場合には、当該部分を選挙公報に掲載しないことができるとされている(規程4条1、2項)。
(4) 上記条例3条1項は、公選法168条1項に、また、条例4条1項は公選法169条2項に、それぞれ準じるものと解される。そして、候補者の提出した掲載文の内容に虚偽の点が存したとしても、その内容自体が甚だしく公序良俗に反することが客観的に明白であり、それを公表することが条理上許されないものと解すべき特段の場合は格別、選挙管理委員会としては、候補者に対し任意の訂正を勧告することはともかくとして、自らこれを訂正すべき権限も義務も有しない(最高裁昭和61年2月18日第三小法廷判決・最高裁判所裁判集民事147号61頁)。条例3条2項については、この最高裁判決からすると、市選管は、条例3条2項に該当する場合でも、掲載文の内容自体が甚だしく公序良俗に反することが客観的に明白であり、それを公表することが条理上許されないものと解すべき特段の場合でない限り、その掲載を拒否することはできず、任意の訂正を勧告できるにすぎないというべきである。
(5) 仮に、市選管において、原告の選挙公報の掲載文原稿について、上記(4)の特段の場合でないにもかかわらず、その掲載申請を拒否したと認められる場合には、選挙執行機関である市選管が条例4条1項に違反したものとして、選挙無効の要件である「選挙の規定に違反することがあるとき」(公選法205条1項)に該当するというべきである。
2 本件についての判断
(1) 前記第2の2の前提となる事実に加え、証拠(甲A1、乙8、9、原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 原告は、本件選挙の告示日である4月4日の朝7時半ころに、市選管を訪れ、まだ立候補届出の受付けが始まっていなかったので、警備員に対し立候補届出書類を市選管に渡してほしいと述べて預けた。原告は、その後、午前8時40分ころ、再度市選管を訪れ、上記のとおり警備員に預けた書類によって立候補届出がされたものと扱われていないことを知って、市選管に抗議した。
イ 原告は、4月4日午後、再々度市選管を訪れ、市選管への不満を述べた上で立候補届出を済ませた。そして、市選管職員から、選挙公報の原稿用紙の交付を受け、その場で記入した。
ウ 選挙公報の掲載申請を受ける前の段階で事前にCが原告作成の選挙公報の掲載文原稿を受け取り、見たところ、写真が新聞の切り抜きで、規程2条の要件を満たしていなかったことから、Cがその点を指摘したところ、原告は、その写真を剥がした。
エ 更に、Cが、上記の原告作成の選挙公報の掲載文原稿の中に、上記アのとおり、受付開始前に警備員に預けた立候補届出書類によって立候補の届出がされたものと扱われていなかったことについて、不受理扱いがされた旨が記載されていたことから、Cは、それは事実に反するので修正してほしいと要請した。原告は、その要請に応じ、不受理扱いがされた旨の記載を線で消したが、Cがその修正では削除されたことにならない旨指摘したところ、原告は当該記載を黒く塗りつぶした。また、原告は、その修正の横に、届出が市選管に到達しなかった旨記載した。
オ しかし、その原稿では、見づらくなってしまったし、もともと当該原稿では、選挙公報に掲載される範囲を示す内枠の外に字がはみ出したり、字が乱雑であったので、Cが原告に対し書き直しを勧めたところ、原告は、「もういい。」、「時間がない。」と言って、上記原稿を持って、立ち去ってしまった。原告が立ち去った時刻は午後4時15分ころであった。
(2) 原告は、原告が作成した選挙公報の掲載文原稿について、市選管職員により受理拒否があった旨主張し、その旨の供述をするので、以下判断する。
ア 原告は、本人尋問において、まず、市選管職員から、写真がないから受理できないと言われ、新聞(桐生タイムス)の自己の写真の切り抜きを貼って出したところ、これも駄目だといわれたので、上記切り抜きを剥がし、これで受理しないのはおかしいのではないかと再三申請の意思を示したところ、じゃあ写真はなくても結構だということになった旨供述し、甲A2(原告の妻の上申書)にもこれに沿う記載がある。
しかし、本件審査申立てにかかる審理におけるCの証言(乙8)では、写真がないから受理できないと述べたことをうかがわせる部分はない。また、前記1(2)の条例3条1項によると、写真はその掲載を希望する者が提出するものとされているが、その添付がないときに掲載文の掲載を拒否できる旨の規定はないから、市選管の職員が、写真の添付がないから選挙公報の掲載文原稿を受理できないなどと言うことは通常考え難い。そして、原告の上記供述と甲A2の内容を裏付ける客観的証拠もないことからすると、これらは直ちに信用することができず、ほかに原告が供述する上記事実を認定するに足る証拠はない。
イ 原告は、次に、Cが、原告の選挙公報の掲載文原稿について、字が読みづらいし、字が内枠からはみ出している上、事実に反しているから、受理できないと言い、事実に反しているという部分については、4月4日朝の「受理拒否」を「到達しなかった」という形に訂正したが、なお字が読みづらい、汚い、内枠からはみ出しているということを理由に受理拒否をした旨供述し、上記甲A2には、この供述に沿う記載がある。
しかし、Cは、本件審査申立てにかかる審理において、上記のとおり、事実に反する部分の修正を依頼した後、書直しを勧めたが、受け付けないなどという言葉は一切使っていない旨証言している(乙8)。そして、字が読みづらいとか、修正によって汚くなったとか、内枠からはみ出したという程度で、選挙公報の掲載申請を拒否できる根拠規定はない。すなわち、条例(乙4)には、拒否できる場合を定めた規定はなく、規程(乙5)においては、前記1(3)のとおり、掲載文が、一定の体裁を定めた規定(規程3条)に違反するなどした場合に、候補者に訂正を求めることができ(規程4条1項)、候補者がその求めに応じない場合には、当該部分を選挙公報に掲載しないことができるとされているが(規程4条2項)、字が読みづらいとか、修正によって汚くなったとか、内枠からはみ出したという程度で拒否できる規定はない。そのため、市選管の書記長が上記の程度のことで選挙公報の掲載文原稿の受理を拒否するなどということは通常考え難い。そして、Cが受理拒否をした旨の原告の供述と甲A2の内容は、これらを裏付ける客観的証拠もないことからすると、直ちに信用することができず、ほかに原告が供述する上記事実を認定するに足る証拠はない。
なお、原告は、Cが、条例や規程により受領拒否ができると述べ、原告がその条例や規程を見せてほしいと述べたが、見せてくれなかった旨の供述もする。しかし、上記のとおり、字が読みづらいとか、修正によって汚くなったとか、内枠からはみ出したという程度で、選挙公報の掲載申請を拒否できる根拠規定はないから、市選管の書記長において、すぐに虚偽だと判明するような事実を述べるとは考え難く、原告の上記供述も、直ちに信用することができない。
原告は、CがA候補から頼まれて、原告の選挙供託金の没収を目的に原告主張の受理拒否を行った旨供述するが、この供述も、これを裏付ける客観的な証拠がなく、信用することができない。
ウ したがって、原告の選挙公報の掲載文原稿について、市選管職員による受理拒否があった旨の原告の主張は採用することができない。
(3) そこで、上記(1)の事実を前提に判断すると、市選管の職員は、原告の選挙公報の掲載文原稿について、条例3条1項の掲載申請の前の準備段階において、その修正等の勧告はしたが、これは、任意の訂正を勧告する行為として適法であるというべきものである。そして、その段階で、原告が、それ以上掲載申請の手続をとることなく立ち去ってしまったのであるから、原告作成の掲載文の原稿の受理拒否があったとは認められず、市選管職員の対応に「選挙の規定に違反することがあるとき」に該当するものがあったということはできない。
以上によると、その余の点について判断するまでもなく、本件裁決の取消しと本件選挙の無効確認を求める原告の請求はいずれも理由がない。
3 結論
よって、本件請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 加藤新太郎 裁判官 柴田秀 都築政則)
「選挙 公報 広報 ポスター ビラ」に関する裁判例一覧
(1)令和元年 5月24日 東京地裁 平28(ワ)17007号 選挙供託金制度違憲国家賠償請求事件
(2)平成30年 7月25日 東京高裁 平30(行ケ)8号 裁決取消請求事件
(3)平成30年 7月20日 福岡地裁久留米支部 平28(ワ)69号 損害賠償請求事件
(4)平成30年 7月18日 大阪地裁 平28(ワ)3174号 懲戒処分無効確認請求事件
(5)平成30年 4月11日 知財高裁 平29(行ケ)10161号 審決取消請求事件
(6)平成29年12月22日 東京地裁 平27(行ウ)706号・平28(行ウ)585号 各公文書非公開処分取消等請求事件
(7)平成29年10月11日 東京地裁 平28(ワ)38184号 損害賠償請求事件
(8)平成29年 8月29日 知財高裁 平28(行ケ)10271号 審決取消請求事件
(9)平成29年 7月12日 広島高裁松江支部 平28(行コ)4号 市庁舎建築に関する公金支出等差止請求控訴事件
(10)平成29年 4月21日 東京地裁 平26(ワ)29244号 損害賠償請求事件
(11)平成28年 9月16日 福岡高裁那覇支部 平28(行ケ)3号 地方自治法251条の7第1項の規定に基づく不作為の違法確認請求事件
(12)平成28年 8月29日 徳島地裁 平27(ワ)138号 損害賠償等請求事件
(13)平成28年 5月17日 広島高裁 平28(行ケ)1号 裁決取消請求事件
(14)平成27年12月22日 東京高裁 平26(ネ)5388号 損害賠償請求控訴事件
(15)平成27年 3月31日 東京地裁 平26(行ウ)299号 投票効力無効取消等請求事件
(16)平成26年 9月25日 東京地裁 平21(ワ)46404号・平22(ワ)16316号 損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第2事件)、損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第3事件)
(17)平成26年 9月11日 知財高裁 平26(行ケ)10092号 審決取消請求事件
(18)平成26年 5月16日 東京地裁 平24(行ウ)667号 損害賠償履行請求事件(住民訴訟)
(19)平成26年 3月11日 東京地裁 平25(ワ)11889号 損害賠償等請求事件
(20)平成26年 3月 4日 東京地裁 平25(行ウ)9号 公文書不開示処分取消等請求事件
(21)平成25年11月29日 東京地裁 平25(ワ)18098号 被選挙権侵害による損害賠償請求事件
(22)平成25年10月16日 東京地裁 平23(行ウ)292号 報酬返還請求事件
(23)平成25年 9月27日 大阪高裁 平25(行コ)45号 選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件
(24)平成25年 8月 5日 東京地裁 平25(ワ)8154号 発信者情報開示請求事件
(25)平成25年 3月14日 東京地裁 平23(行ウ)63号 選挙権確認請求事件 〔成年被後見人選挙件確認訴訟・第一審〕
(26)平成24年12月 6日 東京地裁 平23(行ウ)241号 過料処分取消請求事件
(27)平成24年 8月10日 東京地裁 平24(ワ)17088号 損害賠償請求事件
(28)平成24年 7月19日 東京地裁 平24(行ウ)8号 個人情報非開示決定処分取消請求事件
(29)平成24年 7月10日 東京地裁 平23(ワ)8138号 損害賠償請求事件
(30)平成24年 7月10日 東京地裁 平23(ワ)30770号 損害賠償請求事件
(31)平成24年 2月29日 東京地裁 平21(行ウ)585号 公金支出差止請求事件
(32)平成23年 5月11日 神戸地裁 平21(行ウ)4号 政務調査費違法支出返還請求事件
(33)平成23年 4月26日 東京地裁 平22(行ウ)162号・平22(行ウ)448号・平22(行ウ)453号 在外日本人国民審査権確認等請求事件(甲事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(乙事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(丙事件)
(34)平成22年11月30日 京都地裁 平20(行ウ)28号・平20(行ウ)46号 債務不存在確認等請求本訴、政務調査費返還請求反訴事件
(35)平成22年11月29日 東京高裁 平22(行ケ)26号 裁決取消、選挙無効確認請求事件
(36)平成22年11月24日 岐阜地裁 平22(行ウ)2号 個人情報非開示決定処分取消及び個人情報開示処分義務付け請求事件
(37)平成22年11月24日 岐阜地裁 平22(行ウ)1号 行政文書非公開決定処分取消及び行政文書公開処分義務付け請求事件
(38)平成22年11月 9日 東京地裁 平21(行ウ)542号 政務調査費返還(住民訴訟)請求事件
(39)平成22年 9月14日 神戸地裁 平21(行ウ)20号 公文書非公開定取消請求事件 〔兵庫県体罰情報公開訴訟・第一審〕
(40)平成22年 5月26日 東京地裁 平21(ワ)27218号 損害賠償請求事件
(41)平成22年 3月31日 東京地裁 平21(行ウ)259号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(42)平成22年 2月 3日 東京高裁 平21(行ケ)30号 選挙無効請求事件
(43)平成20年11月28日 東京地裁 平20(行ウ)114号 政務調査費返還命令処分取消請求事件
(44)平成20年11月17日 知財高裁 平19(行ケ)10433号 審決取消請求事件
(45)平成20年11月11日 仙台高裁 平20(行コ)13号 政務調査費返還代位請求控訴事件
(46)平成20年 3月14日 和歌山地裁田辺支部 平18(ワ)167号 債務不存在確認等請求事件
(47)平成19年11月22日 仙台高裁 平19(行ケ)2号 裁決取消等請求事件
(48)平成19年 9月 7日 福岡高裁 平18(う)116号 公職選挙法違反被告事件
(49)平成19年 7月26日 東京地裁 平19(行ウ)55号 公文書非開示決定処分取消請求事件
(50)平成19年 3月13日 静岡地裁沼津支部 平17(ワ)21号 損害賠償請求事件
(51)平成18年12月13日 名古屋高裁 平18(行ケ)4号 選挙の効力に関する裁決取消請求事件
(52)平成18年11月 6日 高松高裁 平18(行ケ)2号 裁決取消請求事件
(53)平成18年 8月10日 大阪地裁 平18(行ウ)75号 行政文書不開示決定処分取消請求事件
(54)平成18年 6月20日 京都地裁 平16(行ウ)40号 地労委任命処分取消等請求事件
(55)平成18年 1月20日 大阪地裁 平13(行ウ)47号・平13(行ウ)53号・平13(行ウ)54号・平13(行ウ)55号・平13(行ウ)56号・平13(行ウ)57号・平13(行ウ)58号・平13(行ウ)59号・平13(行ウ)60号・平13(行ウ)61号 障害基礎年金不支給決定取消等請求事件 〔学生無年金障害者訴訟〕
(56)平成17年 9月14日 最高裁大法廷 平13(行ヒ)77号・平13(行ツ)83号・平13(行ツ)82号・平13(行ヒ)76号 在外日本人選挙権剥奪違法確認等請求事件 〔在外選挙権最高裁大法廷判決〕
(57)平成17年 8月31日 東京地裁 平17(行ウ)78号 供託金返還等請求事件
(58)平成17年 7月 6日 大阪地裁 平15(ワ)13831号 損害賠償請求事件 〔中国残留孤児国賠訴訟〕
(59)平成17年 1月27日 名古屋地裁 平16(行ウ)26号 調整手当支給差止請求事件
(60)平成16年 3月29日 神戸地裁姫路支部 平10(ワ)686号 新日本製鐵思想差別損害賠償請求事件
(61)平成16年 1月16日 東京地裁 平14(ワ)15520号 損害賠償請求事件
(62)平成15年12月15日 大津地裁 平14(行ウ)8号 損害賠償請求事件
(63)平成15年12月 4日 福岡高裁 平15(行ケ)6号 佐賀市議会議員選挙無効裁決取消請求事件 〔党派名誤記市議会議員選挙無効裁決取消請求事件〕
(64)平成15年10月28日 東京高裁 平15(行ケ)1号 商標登録取消決定取消請求事件
(65)平成15年10月28日 東京高裁 平14(行ケ)615号 商標登録取消決定取消請求事件
(66)平成15年10月28日 東京高裁 平14(行ケ)614号 商標登録取消決定取消請求事件 〔刀剣と歴史事件〕
(67)平成15年10月16日 東京高裁 平15(行ケ)349号 審決取消請求事件 〔「フォルッアジャパン/がんばれ日本」不使用取消事件〕
(68)平成15年 9月30日 札幌地裁 平15(わ)701号 公職選挙法違反被告事件
(69)平成15年 7月 1日 東京高裁 平14(行ケ)3号 審決取消請求事件 〔ゲーム、パチンコなどのネットワーク伝送システム装置事件〕
(70)平成15年 6月18日 大阪地裁堺支部 平12(ワ)377号 損害賠償請求事件 〔大阪いずみ市民生協(内部告発)事件〕
(71)平成15年 3月28日 名古屋地裁 平7(ワ)3237号 出向無効確認請求事件 〔住友軽金属工業(スミケイ梱包出向)事件〕
(72)平成15年 3月26日 宇都宮地裁 平12(行ウ)8号 文書非開示決定処分取消請求事件
(73)平成15年 2月10日 大阪地裁 平12(ワ)6589号 損害賠償請求事件 〔不安神経症患者による選挙権訴訟・第一審〕
(74)平成15年 1月31日 名古屋地裁 平12(行ウ)59号 名古屋市公金違法支出金返還請求事件 〔市政調査研究費返還請求住民訴訟事件〕
(75)平成14年 8月27日 東京地裁 平9(ワ)16684号・平11(ワ)27579号 損害賠償等請求事件 〔旧日本軍の細菌兵器使用事件・第一審〕
(76)平成14年 7月30日 最高裁第一小法廷 平14(行ヒ)95号 選挙無効確認請求事件
(77)平成14年 5月10日 静岡地裁 平12(行ウ)13号 労働者委員任命処分取消等請求事件
(78)平成14年 4月26日 東京地裁 平14(ワ)1865号 慰謝料請求事件
(79)平成14年 4月22日 大津地裁 平12(行ウ)7号・平13(行ウ)1号 各損害賠償請求事件
(80)平成14年 3月26日 東京地裁 平12(行ウ)256号・平12(行ウ)261号・平12(行ウ)262号・平12(行ウ)263号・平12(行ウ)264号・平12(行ウ)265号・平12(行ウ)266号・平12(行ウ)267号・平12(行ウ)268号・平12(行ウ)269号・平12(行ウ)270号・平12(行ウ)271号・平12(行ウ)272号・平12(行ウ)273号・平12(行ウ)274号・平12(行ウ)275号・平12(行ウ)276号・平12(行ウ)277号・平12(行ウ)278号・平12(行ウ)279号・平12(行ウ)280号 東京都外形標準課税条例無効確認等請求事件
(81)平成13年12月19日 神戸地裁 平9(行ウ)46号 公金違法支出による損害賠償請求事件
(82)平成13年12月18日 最高裁第三小法廷 平13(行ツ)233号 選挙無効請求事件
(83)平成13年 4月25日 東京高裁 平12(行ケ)272号 選挙無効請求事件
(84)平成13年 3月15日 静岡地裁 平9(行ウ)6号 公費違法支出差止等請求事件
(85)平成12年10月 4日 東京地裁 平9(ワ)24号 損害賠償請求事件
(86)平成12年 9月 5日 福島地裁 平10(行ウ)9号 損害賠償代位請求事件
(87)平成12年 3月 8日 福井地裁 平7(行ウ)4号 仮換地指定処分取消請求事件
(88)平成11年 5月19日 青森地裁 平10(ワ)307号・平9(ワ)312号 定時総会決議無効確認請求、損害賠償請求事件
(89)平成11年 5月12日 名古屋地裁 平2(行ウ)7号 労働者委員任命取消等請求事件
(90)平成10年10月 9日 東京高裁 平8(行ケ)296号 選挙無効請求事件 〔衆議院小選挙区比例代表並立制選挙制度違憲訴訟・第一審〕
(91)平成10年 9月21日 東京高裁 平10(行ケ)121号 選挙無効請求事件
(92)平成10年 5月14日 津地裁 平5(ワ)82号 謝罪広告等請求事件
(93)平成10年 4月22日 名古屋地裁豊橋支部 平8(ワ)142号 損害賠償請求事件
(94)平成10年 3月26日 名古屋地裁 平3(ワ)1419号・平2(ワ)1496号・平3(ワ)3792号 損害賠償請求事件 〔青春を返せ名古屋訴訟判決〕
(95)平成10年 1月27日 横浜地裁 平7(行ウ)29号 分限免職処分取消等請求 〔神奈川県教委(県立外語短大)事件・第一審〕
(96)平成 9年 3月18日 大阪高裁 平8(行コ)35号 供託金返還請求控訴事件
(97)平成 8年11月22日 東京地裁 平4(行ウ)79号・平4(行ウ)75号・平4(行ウ)15号・平3(行ウ)253号 強制徴兵徴用者等に対する補償請求等事件
(98)平成 8年 8月 7日 神戸地裁 平7(行ウ)41号 選挙供託による供託金返還請求事件
(99)平成 8年 3月25日 東京地裁 平6(行ウ)348号 損害賠償請求事件
(100)平成 7年 2月22日 東京地裁 昭49(ワ)4723号 損害賠償請求事件 〔全税関東京損害賠償事件〕
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