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「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(58)平成16年 8月10日 青森地裁 平15(ワ)32号 名誉毀損に基づく損害賠償請求事件

「選挙 コンサルタント」に関する裁判例(58)平成16年 8月10日 青森地裁 平15(ワ)32号 名誉毀損に基づく損害賠償請求事件

裁判年月日  平成16年 8月10日  裁判所名  青森地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)32号
事件名  名誉毀損に基づく損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2004WLJPCA08109002

要旨
◆被告組合が、原告は被告組合の代表理事に在任中、背任罪及び有印私文書偽造・同行使罪を犯し、被告組合に損害を負わせたとして原告を刑事告訴するとともに、告訴事実を報道機関に公表して新聞報道がされたことについて、原告が、かかる告訴事実は存在しなかったのであり、原告は社会的評価を著しく傷つけられ精神的損害を被ったとして、被告組合並びに現代表理事被告B及びその他の理事・監事に対し、損害の賠償及び謝罪広告の掲載を求めた事案において、被告Bについて名誉毀損該当性や因果関係を認め、また、告訴事実について真実性や真実相当性はないとして、被告組合及び被告Bに対して慰謝料150万円及び弁護士費用50万円の支払を命じるとともに、被告組合に対して謝罪広告の掲載を命じた事例

出典
裁判所ウェブサイト

参照条文
民法709条
民法710条
民法723条

裁判年月日  平成16年 8月10日  裁判所名  青森地裁  裁判区分  判決
事件番号  平15(ワ)32号
事件名  名誉毀損に基づく損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容  文献番号  2004WLJPCA08109002

主文

1  被告A漁業協同組合及び被告Bは,連帯して,原告に対し,200万円及びこれに対する平成15年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告A漁業協同組合は,原告に対し,別紙(3)記載のとおりの謝罪広告を東奥日報朝刊に別紙(2)記載のとおりの条件で1回掲載せよ。
3  原告のその余の請求を棄却する。
4  訴訟費用は,原告と被告A漁業協同組合との間においては,原告に生じた費用の25分の1と被告A漁業協同組合に生じた費用の5分の1を被告A漁業協同組合の,原告に生じた費用の25分の4と被告A漁業協同組合に生じた費用の5分の4を原告の負担とし,原告と被告Bとの間においては,原告に生じた費用の25分の1と被告Bに生じた費用の5分の1を被告Bの,原告に生じた費用の25分の4と被告Bに生じた費用の5分の4を原告の負担とし,原告とその余の被告との間においては,原告に生じた費用の5分の3とその余の被告に生じた費用全部を原告の負担とする。
5  この判決は,1項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1  請求の趣旨
1  被告らは,原告に対し,連帯して1100万円及びこれに対する平成15年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  被告らは,原告に対し,別紙(1)記載のとおりの謝罪広告を東奥日報朝刊に別紙(2)記載のとおりの条件で1回掲載せよ。
3  訴訟費用は被告らの負担とする。
4  仮執行の宣言。
第2  事案の概要
本件は,被告A漁業協同組合(以下「被告組合」という。)が,原告が被告組合の代表理事に在任中,背任罪及び有印私文書偽造・同行使罪を犯し,被告組合に損害を負わせたとして原告を刑事告訴するとともに,告訴事実を報道機関に公表し,新聞報道がされたことについて,上記告訴事実は存在しなかったのにもかかわらず,これによって原告が犯罪者ではないかとの嫌疑を世間一般から受け,人格に対する社会的評価を著しく傷つけられ精神的損害を被ったとして,原告が,被告組合並びに理事又は監事であるその余の被告らに対し,慰謝料の支払及び謝罪広告の掲載を求めた事案である。
1  争いのない事実等(争いがないか,証拠により容易に認められる事実)
(1)  当事者
ア 原告は,被告組合の組合員であり,平成11年3月4日から同14年3月28日まで,被告組合の組合長として代表理事であった者である。
イ 被告組合は漁業協同組合であり,被告B(以下「被告B」という。)は被告組合の現代表理事,被告C(以下「被告C」という。)は被告組合の三席理事,被告D(以下「被告D」という。)は被告組合の副組合長(次席)理事,被告E「以下「被告E」という。)は,被告組合の代表監事の地位にある者である。
(2)  工事の経過等
ア 被告組合は,訴外F(以下「F」という。)と,平成13年10月29日,A町漁場管理強化施設移設工事について,建設工事請負契約を締結した(乙2)。
平成13年12月20日,同工事は完了し,平成14年1月31日,被告組合はFに対して報酬501万5850円を支払った。
イ その後の平成14年2月28日,被告組合はFと,報酬金を801万1500円,工事期間を同年3月1日から同月20日までとの約定で,A町漁場管理強化施設修繕工事(以下「本件修繕工事」という。)の建設工事請負契約を締結した(甲17)。
同年3月20日,本件修繕工事の完了検査がなされ,工事が完了したことを認める検査調書(以下「本件検査調書」という。乙8)が作成された。
同年4月30日,被告組合は,Fに対し,本件修繕工事の報酬として,801万1500円を支払った。
ウ 同年12月3日,被告組合理事会は,別紙(4)記載の告訴事実で原告を刑事告訴する決議を行い,同月4日,被告組合は,背任罪,有印私文書偽造・同行使罪で原告を刑事告訴した(以下「本件告訴」という。)。
エ 被告Bは,同日,東奥日報紙ほか新聞各紙の記者に対し,本件告訴をしたこと及び告訴状に本件告訴事実が記載されていることを話し,同月5日,「被告組合が背任などの容疑で元組合長を告訴した」との内容の報道がされた。
2  争点
(1)  本件告訴等の被告らの行為が名誉毀損行為に当たるか
(原告の主張)
被告組合は,原告に客観的に背任及び私文書偽造等の容疑が存在しなかったにもかかわらず,被告らの行った理事会決議に基づいて,本件告訴を行うとともに,当該告訴内容を報道機関に対して公表しており,これは原告に対する名誉毀損行為にあたる。
(被告らの主張)
捜査機関に対して本件告訴をしたのは被告組合であるから,その余の被告らにおいては損害賠償債務を発生させる責任原因が存在しない。
また,平成14年3月20日に801万1500円を支払ったという事実を摘示しただけでは,原告の社会的評価に何の影響も及ぼさないので,その余の告訴事実が真実であると認められる限り,特段の問題は生じない。
(2)  因果関係の有無
(原告の主張)
被告組合は,本件告訴事実をマスコミに対して積極的に公表しており,被告らの行為と原告の名誉が毀損されたことには因果関係がある。
(被告らの主張)
新聞報道をするか否かは各報道機関の完全な任意に委ねられているので,被告らの行為と原告の名誉が毀損されたこととの間には因果関係がない。
(3)  告訴事実の真実性
ア 背任の事実について
(ア) 工事の完了の点
(被告らの主張)
工事完了を裏付ける写真のないこと,工事完了予定日から3か月以上にも渡って延々と作業が行われていること,Fの担当者である訴外G(以下「G」という。)が,被告Bに対して工事の未完了を訴訟外において認めていることなどにより,平成14年3月20日時点において本件修繕工事が未完了であったことが裏付けられる。
また,甲第16号証は本件修繕工事着工前に作成される見積書であり,本件修繕工事の内容全てをあらわすものであるが,甲第16号証中に記載された明細には,甲第12号証から甲第15号証に記載された部品が含まれており,これらが工事完了期日以降に納入等されているのは決定的である。
仮に,Fにおいて工事が完了した旨の認識を有していたとしても,工事完了期日後3か月にも渡って延々と作業を続けなければならないような状態は,客観的に見て工事が完了したものとは評価されない。
(原告の主張)
本件修繕工事には以後3年間の消耗部品の予備品が含まれており,これらの全てが3月20日までに被告組合に納入されていなかったとしても,予備品相当物品が受注者側のFで在庫管理が確認されていれば,他の修繕工事は終了していたのであるから,本件修繕工事が完了したと解される。工事写真帳(甲9)に,本件修繕工事に着工する前の写真を使っていたことは,適切な写真を撮っていなかったというだけのことに過ぎず,他の写真から工事が行われたことは明らかである。
また,Gが工事の未完了を認めたとする点も,被告らが原告の共犯者のごとくGに厳しい質問を浴びせ,無理矢理引き出したものであり,その内容自体も,少なくともテープには修繕工事が完了していないのに完了したことにして代金を払ってもらった旨明確に述べた箇所は存在しない。
甲第12号証等の被告の主張する書証の記載も,いずれも不自然なものではなく,平成14年3月20日に本件修繕工事は完了していた。
(被告らの反論)
証人Hによれば,消耗品が揃って初めて工事が完了したものとして検査調書が作成されることになるのであり,それが納入されない限りは工事が完了したとはいえない。
(イ) 代金支払の有無の点
(被告らの主張)
平成14年3月20日に代金を支払っていないのは事実だが,工事が完了していないにもかかわらず工事の完了を認め,検査調書を作成したことは,Fの報酬支払請求を現実に可能とさせるものにほかならず,報酬を支払ったものと同視される行為である。
(原告の主張)
争う。
(ウ) 損害の発生の点
(被告らの主張)
損害には,財産的実害を生ぜしめた場合だけではなく,実害発生の危険を生ぜしめた場合も含まれるところ,本件では,工事の完了を認めたことにより,実害発生の危険性を生じさせたものである。
(原告の主張)
争う。
(エ) 図利加害目的の点
(被告らの主張)
工事が完了していないことを認識しながら,検査調書を作成すれば,被告組合に抽象的損害が生じること,及び,Fに抽象的利益が生じることは容易に認識できるのであるから,原告が図利加害目的を有していたことは明らかである。
(原告の主張)
争う。
イ 私文書偽造・同行使の事実について
(被告らの主張)
本件修繕工事時の理事である訴外I,同J,同K及び同Lは,皆,検査調書への記名・押印に同意しておらず,被告組合において組合長に押印を一任する旨の慣行も存在しない。
また,原告は,他の理事の記名・押印を冒用の上,理事会の決議を経ることなく多額の借入を重ねてきたことが判明しており,これは,原告が他の理事の記名・押印を冒用したことを容易に裏付ける事実である。
(原告の主張)
本件検査調書の理事名の記名・押印は,被告組合の文書作成要領・慣行に従って被告組合の職員が作成したものである。
被告組合では,理事会の議事録やその承認を得た件で,各理事が後に記名・押印が必要なものは,原則として各理事名を個々的な確認と承諾をとることなく記名した上,各理事が組合事務所に預けていた認印を使用して職員側で押捺しておくことが広く慣行として行われていた。
本件でも検査の立会をしたのは原告本人とH参事であったが,検査の結果,本件工事の完了が認められたので,慣行に従い各理事の記名・押印がされたものである。本件修繕工事の理事会による承認,工事の実施,完了検査の実施,検査調書の作成等一連の経過に沿って801万1500円が支払われているのであって,本件検査調書の記載が文書偽造罪を構成することはあり得ない。
(被告らの反論)
原告の主張するような慣行は存在しないし,検査調書と理事会ないし総会の議事録を同列に捉えるということもできない。
(4)  真実と信じたことの相当性
(被告らの主張)
被告Bは全ての議事録に目を通し,原告が「工事中」であることを発言した部分を確認していること,被告Bの調査によれば被告組合において工事の完了に立ち会った者がいないこと,工事が未完了であったことをGに確認していること,事前に捜査機関に相談していること,及び,捜査機関から告訴を勧められたこと,訴外Jから事情を聴取していること,工事写真帳及び納品書等を基礎とした訴外M(コンサルタント)の報告を受けていること,本件施設の現場管理者である訴外Nから工事の状況等について聴取していること,同事実を報告の上で理事会決議を経て告訴に至っていることなどからすれば,被告らには,本件告訴事実を真実と誤信したことについて相当な理由がある。
(原告の主張)
争う。
被告Bは,F側で用意できる客観的な工事に関する資料をF側に一切請求しておらず,担当のGにきちんと尋ねることもしていない。被告Bの行動は,はじめに刑事告訴ありきのものであったといえる。
また,被告らは,現実に本件修繕工事が行われていたか現物を確認・調査すれば,それが実際行われたことが直ちに判明したはずである。
被告らの言い分によれば,本件修繕工事が完了していなかったのであればFの支払をストップさせたはずであるが,これをしていないのは本件告訴が被告らの重大な過失による告訴であることを裏付ける。
(5)  損害額
(原告の主張)
原告は,被告らの行為により名誉を毀損され,精神的損害を受けた。これに対する慰謝料は1000万円が相当である。
そして,被告らの不法行為責任を追及するため,原告は弁護士に訴訟行為遂行を委任せざるを得なくなったから,被告らの不法行為と相当因果のある弁護士費用は100万円を下らない。
(被告らの主張)
争う。
工事が完了していないことを告訴事実としたのであるから,損害の有無は,工事が未完了であるにもかかわらず工事の完了を認めたという事実を被告組合が捜査機関に対して摘示したことによって,どのような数額の損害が生じたのかが論じられなければならない。
第3  争点に対する判断
1  争いのない事実,証拠(甲1,5の1・2,7,9~23,25,32,33,39,41,42,乙7~13の1・2,15,18~20,22~24,証人H,同G,被告B本人,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件修繕工事の状況,本件告訴の状況等について,以下の事実が認められ,これを覆すに足りる証拠はない。
(1)  A町漁場管理強化施設移設工事完了後の平成14年2月22日(以下,特に断りのない限り,日付は平成14年のそれを指す。),被告組合理事会において,本件修繕工事を含む追加工事費支払に関する議題が付議された(甲25)。同日の理事会では,上記議題は承認されなかったが,2月27日の理事会において,上記議題が再度付議されたところ,追加工事費の支払が承認され,本件修繕工事についても特段異議が出されることはなかった(甲32)。
被告組合は,2月28日,報酬を801万1500円,工事期間を3月1日から20日までとの約定で,Fとの間で本件修繕工事について請負契約を締結した(甲17)。
なお,本件修繕工事の報酬には,施設の修繕工事代金のほかに,平成12年度及び平成13年度においてFが納入したレーダー等に関する消耗品代金のうち未払となっていた分の代金,及び以後3年分の消耗部品の予備品の代金も含まれていた(甲41,証人G)。
(2)  3月20日,予定されていた施設の修繕工事が完了したことから,Fは完成届(甲19)及び検査執行申請書(甲20)を被告組合に提出し,これを受けて,被告組合では,組合長である原告の決裁を経て,H参事により工事が完了したことを認める原告名義の検査調書(本件検査調書)が作成された。
本件検査調書には,検査立会者の欄に,実際には完了検査に立会をしていないI,J,K,Lの各理事の記名及び押印がなされていたが,この押印は,各理事から個別的な承諾を得ることなく,必要な際に使用できるように各理事から組合事務局に預けられていた印鑑を用いて,組合事務局職員によってされたものであった。
(3)  3月26日,被告組合総代会において,本件修繕工事を含む諸工事の内容が報告されたが,同日の総代会では承認を得ることができず,これを承認するか否かの判断は総会に委ねられることとされた(乙18)。
3月28日,被告組合総会が開催され,3月26日の総代会において持ち越しとされた上記の件について報告がされ,議論の結果,最終的に承認されるに至った(乙19)。なお,総会の席上,原告は同日行われる予定となっていた被告組合代表理事選挙に立候補しないことを表明し,4月28日付で代表理事を退任した。
(4)  4月30日,被告組合は,Fに対し,本件修繕工事の報酬として,801万1500円を支払った。
(5)  本件修繕工事完了後,ほどなくして施設の一部に異常が再発したため,Fは別途代金を徴収することなく,6月ころまで再度補修工事を行った。
また,予備の修繕部品については,本件修繕工事後もFが引き続き施設の保守点検を行うこととなっていたため,被告組合に納品されることなくFが保管していたが,平成15年度以降,Fが保守点検を行わないこととなったため,平成15年4月ころ,被告組合に納品された(甲41,証人G)。
(6)  被告Bは,7月31日,被告組合代表理事に就任したが,その後,本件修繕工事に不正があるのではないかとの疑いを持った。
そこで,被告Bは,Fの担当者Gを被告組合事務所に呼んで事情を聞いたほか,現場管理者である訴外Nや訴外Jら本件修繕工事の当時の理事から事情を聞いたり,被告組合の理事会,総代会,総会の議事録に目を通したりするとともに,弁護士や税理士,警察にも相談するなどして調査を行った。その結果,被告Bは,原告を背任及び私文書偽造・同行使の罪で告訴する方針を決め,これを被告組合理事会に諮ることとし,12月3日,被告組合理事会は,別紙(4)記載の告訴事実で原告を刑事告訴する決議を行った。なお,被告組合の理事であった被告B,同C,同Dは,上記理事会において,原告を告訴する決議に賛成し,監事であった被告Eは,上記決議に対して異議を述べなかった。
これを受けて,被告Bは,12月4日,A警察署に告訴状(乙12)を提出して本件告訴を行ったが,被告Bは,本件告訴当時,本件修繕工事が架空工事である可能性があるとも認識していた。
(7)  本件告訴後,被告Bは青森県警察本部へ本件告訴を行ったことを報告に赴き,そこで新聞記者らから本件告訴に関して取材を受けた。これに対し,被告Bは,青森県警記者クラブにおいて本件告訴の内容をレクチャーした上,告訴状の写しを記者クラブ宛にファックスさせ,報道機関各社に交付した。
その結果,翌12月5日,別紙(5)記載のとおり新聞各紙において本件告訴に関する報道がなされた。
以上の事実が認められる。
2  争点(1)(本件告訴等が名誉毀損行為に当たるか)について
前記認定のとおり,被告らは,本件告訴を行う旨の理事会決議を行った上,被告Bをして警察に告訴状を提出させており,かかる被告らの行為は,原告の社会的評価を相当程度低下させる行為といえ,名誉毀損行為に当たるというべきである。
被告らは,本件告訴をしたのは被告組合であるから,被告組合以外の被告らについては責任原因が存在しない旨主張する。
しかしながら,被告組合以外の被告らは皆,理事会において本件告訴をすることについて賛成するなどして被告組合が本件告訴を行うとの意思決定を行ったのであるから,本件告訴の主体が被告組合であっても,被告らの行為は告訴を行うのと同視しうるものといえ,名誉毀損行為となるというべきである。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
3  争点(2)(因果関係の有無)について
(1)  前記認定のとおり,被告Bは,被告組合の代表者として,本件告訴を行ったのみならず報道関係者である新聞記者らに対して告訴事実をレクチャーするなどしているのであるから,これと原告の名誉が毀損されたこととの間には因果関係が認められる。
被告らは,新聞報道をするかは各報道機関の任意に委ねられているから,損害との間に因果関係がない旨主張するが,報道関係者から取材を受け,本件告訴事実についてレクチャーするなどした場合には,それが報道されるということは通常の経過であるから,被告らの主張は採用することができない。
(2)  もっとも,被告C,被告D,被告Eについては,本件告訴にかかわったのみで,新聞記者らに対して告訴事実をレクチャーするなどしたことには関与していないと認められるところ,本件告訴を行ったことにより,直ちにそれが新聞報道されるわけではないから,行為と原告が主張する損害の発生との間に因果関係が認められない。
したがって,被告C,被告D,被告Eに対する原告の請求は理由がない。
4  争点(3)(告訴事実の真実性)について
(1)  背任の事実について
ア 原告が3月20日に本件修繕工事代金の支払をした,との事実が真実でないことについては当事者間に争いがない(なお,被告らは,工事の完了を認めたことは代金を支払ったことと同視しうる行為であると主張するが,両者は事実として明らかに異なる行為であるし,工事の完了を認めたとしても,現実に工事が完了していないのであれば直ちに代金の支払義務が発生するとは解されないから,工事の完了を認めたことと代金を支払ったことは同視しえず,被告らの主張は採用することができない。)。
イ 被告らは,背任の事実のうち,本件修繕工事が3月20日の時点で完了していなかったとの点は真実であると主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,3月20日の時点において,予定されていた施設の修繕工事は完了していたと認められるのであって,本件修繕工事が3月20日の時点で完了していなかったと認めるに足りる証拠はない。
被告らの主張する諸点のうち,①修繕工事に用いた部品が工事期間終了後に納入されているという点(甲12~15)は,証拠(甲41,証人G)によれば,本件修繕工事の完了後に異常が発生した部分について用いられたものと認められ,本件修繕工事が完了していなかったことを裏付ける事実とはいえない。②また,一部の消耗品が3月20日に納入されていなかった点についても,前記認定のとおり,本件修繕工事の報酬金には以後3年間分の消耗品の予備品の代金も含まれており,同日以後もFが引き続き保守管理を行うこととなっていたため被告組合に納入されなかったことにすぎず,このことにより本件修繕工事が完了していなかったと評価することは相当でない。③その他,工事写真の不存在をいう点を含め,被告らが主張する諸点は,いずれも本件工事が完了していなかったことを裏付けるものとはいえない。
ウ そうすると,背任の事実については,3月20日に工事が完了していなかった点及び同日に代金の支払をしたとの点が真実と認められず,実行行為及びその前提事実という重要な部分について真実性の立証がないことになるから(最高裁第1小法廷昭和58年10月20日判決・裁判集民事140号177頁参照),被告らの主張は,その余の点について検討するまでもなく,採用することができない。
(2)  私文書偽造・同行使の事実について
前記認定のとおり,原告は,各理事から個別的な承諾を得ることなく,本件検査調書に各理事の記名・押印をしている。
しかしながら,前記認定のとおり,各理事は自己の印鑑を事務局に預けており,被告組合では,通常,理事会等の議事録への押印は,各理事に内容を確認することなく事務局が押印をしていたこと,本件修繕工事が行われる前のA町漁場管理施設移設工事の際の検査調書(乙5)作成の際も,本件と同様の処理が行われ,これについて理事等から特段異議が出された形跡はないことからすれば,本件検査調書作成時において,本件修繕工事が完了した場合には,検査調書に立会人としての記名・押印することを承諾するとの意思を,各理事が有していたことも窺われないわけではない。I及びJ作成名義の上申書(乙23,24)には,上記の認定に反する記載があるが,I作成の証明書(甲30)要確認の記載に照らして,にわかに信用することができない。
そうすると,前記のように各理事の個別的な承諾がないという一事のみから,原告が各理事の作成名義を冒用したとの事実が真実であると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
5  真実と信じた相当性について
(1)  背任の事実について
前記のとおり,被告らは,背任の事実を真実と信じたことに相当な理由がある旨主張する。
しかしながら,本件告訴状には,本件修繕工事が架空工事であった疑いが強い旨記載されており(乙12),本件告訴当時,被告Bは本件修繕工事が架空工事ではないかとの疑いを有していたと認められるところ,被告Bは,当時被告組合代表理事の立場にあり,本件修繕工事が行われたか否かについて容易に調査できる立場にあったと考えられるから,そのような認識を有していたこと自体,被告らが本件告訴に当たり十分な調査を行っていなかったことを裏付けるものといえる。
加えて,被告らが誤信の相当性として主張する事情について検討するに,①3月26日の被告組合総代会において,原告が「工事中」であることを認める発言をしたとの点は,原告の上記発言が,予備の修繕部品が今後納入されるという趣旨の発言であり,これが本件修繕工事の未完了を認める趣旨でないことは,議事録(乙18)の記載から容易に判断できることである。②また,Fの担当者であるGに本件修繕工事が未完了であることの確認をしたとの点も,Gは予備の修繕部品について,代金を前払としたという趣旨の発言をしたに過ぎず,本件修繕工事が未完了であるとの発言をしていたとは認められない(乙13の1・2)。むしろ,実際に話を聞いた被告Bは,客観的な資料等に基づいてGから事情を聴取したわけではなく(証人G),これも被告らが本件告訴に当たり十分な調査を行わなかったことを裏付ける事情ともいえる。③その他,被告らが主張する事情はいずれも本件修繕工事が完了していなかったことを直接に裏付けるような事情といえない。
以上の諸点に照らせば,被告らが本件告訴事実を真実と信じたことに相当の理由があるとは認められない。被告らの主張は採用することができない。
(2)  私文書偽造・同行使の事実について
前記認定のとおり,本件修繕工事の完了検査に立ち会った理事がいないこと,本件告訴時に,本件修繕工事がなされた当時理事であった訴外Jから,本件検査調書への記名・押印を求められたことはなく,記名・押印をするについて同意を求められたこともない旨の上申書(乙11)を得ていたことなど,被告らの主張する諸事情からすれば,被告らにおいて,原告が,各理事の個別的な承諾を得ずに本件検査調書への記名・押印をしたことを真実と信じたことについては,一応の理由があると認められる。
しかしながら,本件告訴事実は,本件検査調書に各理事の作成名義を冒用したというのであり,この点について真実の証明がないことは前記のとおりである。加えて,告訴はそれを受けた者に重大な損害を与える危険を有する行為であるから,これを行うにあたっては慎重な注意を要し,犯罪の嫌疑をかけるのに相当な調査を行うべきである。特に,被告Bは,被告組合の代表理事であり,被告組合において預かっていた理事の印鑑使用の実情等について容易に調査することができる立場にあったものと認められる。
上記事情に鑑みると,被告らとしては,単に,本件検査調書について名義人である各理事が個別的に記名・押印やその同意を求められたかということを聴取するだけではなく,その作成経緯や被告組合における印鑑使用の実情などについて,原告や被告組合事務局職員から事情を聴取するなどして,真に記名・押印についての承諾がなかったといえるかどうかの調査を尽くしたときに,真実であると信ずるにつき相当な理由があったといえるものと解される。
しかるところ,被告らが,原告や被告組合事務局の職員から本件検査調書が作成された経過等について事情を聴取した事実は認められず,前記のとおり本件修繕工事の具体的な内容や,これが完了したのかという点についても十分な調査をしていないことからすれば,被告らが上記事実を真実と信じたことについて相当な理由があると認めることはできず,他にこれを認めるに足りる証拠もない。
したがって,被告らの主張は,採用することができない。
6  損害額等について
被告組合及び被告Bの行為により,本件告訴事実が新聞報道され,原告は,相当の精神的苦痛を被ったと認められるところ,前記のとおり,被告Bは本件告訴事実について容易に調査しうる立場にありながら,十分な調査をすることのないまま被告組合を代表して本件告訴を行っており,被告Bの過失は重大であるといえる。しかし,他方で,本件告訴事実に係る新聞報道は実名でなされたわけではなく,原告の社会的評価が低下したのは主としてA町及びその周辺に限られると認められ,その他本件に顕れた諸般の事情をも総合考慮すれば,原告の受けた苦痛を慰謝すべき金額は150万円をもって相当であると認められる。
また,原告は本件名誉毀損行為により上記損害を被り,本件訴訟の遂行を弁護士に委任せざるを得なくなったのであるところ,本件事案の内容を考慮すれば,弁護士費用のうち50万円は本件と相当因果関係のある損害と認める。
そして,上記の諸事情からすれば,原告の名誉は未だ回復されたということはできないから,名誉回復のための措置として,被告組合をして別紙(3)記載のとおりの謝罪広告を別紙(2)記載の要領に従い,東奥日報朝刊に1回掲載させることが相当である。
第4  結論
よって,本件請求は,被告組合及び被告Bに対して,連帯して,不法行為に基づく損害賠償として200万円,及び,これに対する不法行為の後である平成15年2月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払,並びに,被告組合に対して名誉回復のための措置として謝罪広告の掲載を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 河野泰義 裁判官 伊澤文子 裁判官 石井芳明)

(以下別紙省略)
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