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政治と選挙Q&A「政治資金規正法 ポスター貼り(掲示交渉)代行」に関する裁判例(57)平成23年 7月25日 大阪地裁 平19(ワ)286号・平19(ワ)2853号 損害賠償請求事件

政治と選挙Q&A「政治資金規正法 ポスター貼り(掲示交渉)代行」に関する裁判例(57)平成23年 7月25日 大阪地裁 平19(ワ)286号・平19(ワ)2853号 損害賠償請求事件

裁判年月日  平成23年 7月25日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)286号・平19(ワ)2853号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA07256002

要旨
◆酒類小売業者の団体の事務局長が外国法人発行に係る単一の仕組み債に年金資産の大半を投資した行為について、同事務局長、同団体、同団体の専務理事及び同仕組み債の紹介者が、同団体が運営する私的年金制度の加入者らに対して損害賠償責任を負うとされた事例

出典
裁判所ウェブサイト
判タ 1398号254頁
判時 2184号74頁
証券取引被害判例セレクト 40巻269頁
消費者法ニュース 89号159頁

評釈
李浄植・ジュリ 1473号99頁
池田秀雄・銀行法務21 741号40頁
長田真理・法セ増(新判例解説Watch) 12号321頁

参照条文
民法709条
民法715条
民法719条
酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律30条2項(平17法87改正前)
酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律33条(平17法87改正前)
金融商品の販売等に関する法律3条1項(平15法54改正前)
金融商品の販売等に関する法律3条4項1号(平15法54改正前)
金融商品の販売等に関する法律施行令8条(平19政令233改正前)
裁判官
松田亨 (マツダトオル) 第37期 現所属 大阪高等裁判所(部総括)
平成28年6月7日 ~ 大阪高等裁判所(部総括)
平成27年6月21日 ~ 福井地方裁判所(所長)、福井家庭裁判所(所長)
平成25年7月3日 ~ 大阪地方裁判所堺支部(支部長)、大阪家庭裁判所堺支部(支部長)
平成19年12月5日 ~ 平成25年7月2日 大阪地方裁判所(部総括)
平成19年9月21日 ~ 平成19年12月4日 大阪地方裁判所
平成16年3月22日 ~ 平成19年9月20日 司法研修所(教官)
平成14年4月1日 ~ 平成16年3月21日 大阪高等裁判所
平成11年4月1日 ~ 平成14年3月31日 大阪地方裁判所
平成8年4月1日 ~ 平成11年3月31日 横浜家庭裁判所小田原支部、横浜地方裁判所小田原支部
平成7年4月1日 ~ 平成8年3月31日 東京家庭裁判所
平成5年4月1日 ~ 平成7年3月31日 事務総局家庭局付
平成2年4月1日 ~ 平成5年3月31日 札幌地方裁判所、札幌家庭裁判所
~ 平成2年3月31日 長野地方裁判所松本支部、長野家庭裁判所松本支部

長井清明 (ナガイキヨアキ) 第54期 現所属 東京地方裁判所
平成30年4月1日 ~ 東京地方裁判所
平成27年4月1日 ~ 甲府地方裁判所、甲府家庭裁判所
平成24年4月1日 ~ 神戸地方裁判所伊丹支部、神戸家庭裁判所伊丹支部
~ 平成24年3月31日 大阪地方裁判所
平成21年4月1日 ~ 大阪地方裁判所、大阪家庭裁判所
平成13年10月17日 ~ 平成21年3月31日 東京地方裁判所

久田淳一 (ヒサダジュンイチ) 第62期 現所属 長崎地方裁判所厳原支部、長崎家庭裁判所厳原支部
平成30年4月1日 ~ 長崎地方裁判所厳原支部、長崎家庭裁判所厳原支部
平成27年4月1日 ~ 東京地方裁判所
平成25年4月1日 ~ 那覇地方裁判所、那覇家庭裁判所
平成22年1月16日 ~ 平成25年3月31日 大阪地方裁判所

引用判例
平成23年 2月15日 最高裁第三小法廷 判決 平21(受)627号 損害賠償等請求事件
平成22年11月30日 東京地裁 判決 平18(ワ)18333号 損害賠償請求事件
平成17年 1月18日 東京高裁 判決 平16(ネ)3563号 損害賠償請求控訴事件 〔雪印食品損害賠償請求事件〕
昭和44年11月26日 最高裁大法廷 判決 昭39(オ)1175号 損害賠償請求事件
昭和40年11月30日 最高裁第三小法廷 判決 昭39(オ)1113号 約束手形金請求事件
昭和 8年 2月14日 大審院 判決 昭7(オ)2141号 損害賠償請求事件

関連判例
平成22年11月30日 東京地裁 判決 平18(ワ)18333号 損害賠償請求事件
平成19年 9月28日 東京地裁 判決 平17(刑わ)4868号・平17(刑わ)5270号・平18(刑わ)792号・平18(刑わ)1075号 業務上横領、背任被告事件 〔酒販組合年金基金横領等事件〕

Westlaw作成目次

主文
1 被告Y4,被告全国小売酒販組…
2 原告らのその余の請求を棄却す…
3 訴訟費用は,原告らに生じた費…
4 この判決第1項は,仮に執行す…
事実及び理由
第1 請求
第2 事案の概要
1 前提となる事実(当事者間に争…
(1) 当事者等
(2) 被告中央会における年金共済事…
(3) チャンセリー債への投資に至る…
(4) アルファトロント債及びチャン…
(5) 被告中央会の年金共済事業をめ…
(6) インベスコを通じた投資計画の…
(7) 被告クレディとの契約及びチャ…
(8) 被告Y4の退職
(9) チャンセリー債の償還不能
(10) 被告中央会の年金共済事業の廃止
(11) 被告Y4の刑事責任
2 争点及びこれに関する当事者の…
【被告中央会】
【被告Y4】
【被告Y7】
【被告Y8】
【被告Y2】
【被告Y3】
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
(1) 被告中央会の組織体制
(2) 被告中央会における年金共済事…
(3) 平成14年当時の年金共済事業…
(4) 被告Y4と被告Y2との結びつき
(5) 被告Y2によるアルファトロン…
(6) 被告Y2による被告Y4への働…
(7) 被告Y4によるインベスコへの…
(8) チャンセリー社の設立
(9) カストディアンの調整
(10) 被告Y4によるリベートの要求
(11) 年金共済事業をめぐる検討状況…
(12) インベスコを通じた計画の頓挫…
(13) チャンセリー債購入の意思決定
(14) 被告クレディとの「Trust…
(15) 三菱信託銀行による忠告
(16) チャンセリー債の購入
(17) 被告Y2の報酬及び被告Y4,…
(18) 年金委員会の中止と通常総会の…
(19) 被告Y4の退職
(20) チャンセリー債の償還期限延長…
(21) 被告Y1によるチャンセリー債…
(22) 年金共済事業の停止決議と被告…
(23) 年金共済事業の廃止と年金掛金…
(24) 被告Y4による説明とL弁護士…
(25) チャンセリー債の償還不能
2 以上の事実と弁論の全趣旨によ…
Ⅰ まず,チャンセリー債に対する…
Ⅱ 次いで,チャンセリー債の保護…
Ⅲ 最後に,被告Y7を除く被告中…
3 結論

裁判年月日  平成23年 7月25日  裁判所名  大阪地裁  裁判区分  判決
事件番号  平19(ワ)286号・平19(ワ)2853号
事件名  損害賠償請求事件
裁判結果  一部認容、一部棄却  上訴等  控訴  文献番号  2011WLJPCA07256002

当事者の表示 別紙原告目録及び被告目録のとおり

 

 

主文

1  被告Y4,被告全国小売酒販組合中央会,被告Y7及び被告Y2は,各原告に対し,連帯して別紙請求額一覧表記載の各金員及びこれらに対する平成14年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2  原告らのその余の請求を棄却する。
3  訴訟費用は,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y4に生じた費用を被告Y4の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告全国小売酒販組合中央会に生じた費用を被告全国小売酒販組合中央会の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y7に生じた費用を被告Y7の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y2に生じた費用を被告Y2の負担とし,その余は原告らの負担とする。
4  この判決第1項は,仮に執行することができる。

 

事実及び理由

第1  請求
被告らは,各原告に対し,連帯して別紙請求額一覧表記載の各金員及びこれらに対する平成14年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2  事案の概要
本件は,被告中央会が営む私的年金制度の加入者である原告らが,被告中央会の事務局長の地位にあった被告Y4が被告中央会の理事会等に諮ることなく,被告中央会の年金共済基金(以下「年金資産」という。)の約8割に相当する約144億円を被告Y2の持ち込んだ仕組み債に投資したところ,同仕組み債が詐欺的な商品であって,その償還期限が到来したにも関わらず,全く元本償還を受けられないことにより,原告らが被告中央会から年金掛金の返還を受けることができなくなったと主張して,被告Y4,被告中央会,被告中央会の理事及び監事ら,被告Y2,被告Y2を被告Y4に紹介した被告Y3,上記仕組み債の購入と保管に関与した被告クレディ及びその従業員であった被告Y1に対し,不法行為等に基づき,各原告の年金掛金累計額の約7割に相当する金額に弁護士費用を加えた別紙請求額一覧表記載の金額(合計約1億7500万円,その内訳は別紙年金契約・損害額一覧表記載のとおり。)の損害賠償を求めた事案である。
1  前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)  当事者等
ア 原告ら
原告らは,いずれも被告中央会が営む私的年金制度の加入者であり,被告中央会に対し,別紙年金契約・損害額一覧表の掛金相当額累計欄記載の年金掛金を支払った者である。
イ 被告中央会
(ア) 被告中央会は,酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律(昭和28年法律第7号。以下「組合法」という。)に基づき,昭和28年11月に設立され,酒税法の規定に基づく酒税保全措置の実施に対する協力や酒販業者の利益増進を図ること等を目的とする法人である。
(イ) 被告中央会は,昭和58年4月から,国民年金等の公的年金制度を補完する私的年金制度として,年金共済事業を行ってきた。
ウ 被告Y5,被告Y9,被告Y13,被告Y7,被告Y6,被告Y11,被告Y10,被告Y12,被告Y14,被告Y8,被告Y16及び被告Y15
(ア) 被告中央会には,最高意思決定機関として総会が置かれているほか,役員として理事及び監事が置かれており,理事全員で構成する理事会の決議により,理事のうちから会長,副会長,専務理事及び常務理事が選任され,会長が会を代表し,業務執行に関する必要な事項は理事会で決議することとされていた。
また,被告中央会は,理事会の諮問機関として,各事業分野を担当する4つの委員会を設置しており,年金共済事業関係の委員会としては,年金(運営・対策)委員会(以下「年金委員会」という。)が設置されていた。
(イ) 前記の被告らは,いずれも平成14年度の被告中央会の役員等であり,その役職は,次のとおりである。
被告Y5 会長理事,年金委員会委員
被告Y9 副会長理事,年金委員会委員長
被告Y13 副会長理事
被告Y7 専務理事,年金委員会委員
被告Y6 理事,年金委員会委員
被告Y11 理事
被告Y10 理事
被告Y12 理事
被告Y14 理事
被告Y8 年金委員会委員
被告Y16 監事
被告Y15 監事
(ウ) 被告Y7は,平成17年ころまで,北海道旭川市において,約40年間に渡り,酒類の小売業を営む株式会社のほか,不動産賃貸業,ホテル経営業等を目的とする複数の株式会社の代表取締役を務め,同時に,これらのグループ会社の役員も務めていた。
被告Y7は,平成8年5月から被告中央会の理事,平成11年5月から専務理事代行を務め,平成12年5月から専務理事として被告中央会の常務を担い,平成15年5月から平成17年5月まで被告中央会の副会長の地位にあった。被告Y7は,平成14年当時,被告中央会の専務理事として,主として年金共済事業に関する常務を執行し,具体的な事務作業に当たる事務局を指揮監督する立場にあった。
(エ) 被告Y8は,被告中央会の理事ではなかったが,信用金庫に勤務していた経験があったことから,東京小売酒販組合(被告中央会の下部組織)において知己があった被告Y5に頼まれて,平成11年6月,年金委員会委員に就任した。
エ 被告Y4
(ア) 被告中央会には,年金共済事業の運用に関する企画立案,年金資産の運用管理,運用委託先の信用度及び運用能力の調査等の業務を所管する事務局が置かれていた。
(イ) 被告Y4は,平成5年1月に全国酒販協同組合連合会から被告中央会に転籍した後,年金共済課長,政策部課長,同部次長兼情報企画課長,年金局長兼政策部次長を歴任し,年金共済事業の運用に関する企画立案,年金資産の運用管理などの事務を担当した。その後,平成11年7月からは,被告中央会の事務局長として,年金資産の運用も含めた年金共済事業全般を統括し,平成15年7月に退職するまで,10年以上の間,年金共済事業を担当していた。
被告Y4は,被告中央会での職歴や,年金共済事業に関する知識の豊富さ等から,「年金共済事業のエキスパート」,「ミスター年金」と呼ばれ,年金共済事業に関し,被告中央会の理事や職員らから厚い信任を得ていた(甲63,64,乙B29,乙F1)。
(ウ) なお,被告Y4は,平成11年7月から平成15年7月までの間,被告中央会の事務局長と併せて,全国小売酒販政治連盟(以下「酒政連」という。)の事務局長も兼任していた。酒政連は,政治資金規正法に基づいて,被告中央会の会員の一部(約10万人)により設立された被告中央会の関連団体であり,平成14年ころは,酒類小売業免許の規制緩和への対抗措置を講ずべく,国会議員等に対する陳情活動などを展開していた。
オ 被告Y2
被告Y2は,アルファ・トロント・シリーズ社(以下「アルファトロント社」という。)東京事務所代表の肩書を有し,平成14年初めころから,ツンドラ・キャピタル・マネージメント社(以下「ツンドラ社」という。)が組成した仕組み債であるアルファトロント債の紹介業務を行っていた者である。
カ 被告Y3
被告Y3は,もともと,酒販業の規制緩和に対抗するための議員立法の取りまとめ役をしていた国会議員の秘書であった者である。同議員は,平成12年の国政選挙で落選したが,被告Y3は,同議員を通じ政界とのつながりがあったことから,同年から平成14年11月ころまで,被告中央会の関連団体である酒政連の政治顧問に就任することになった。
キ 被告クレディ
被告クレディは,スイス債務法に基づいて設立され,チューリッヒに本店を置き,預金等の金銭の受入れ,自己又は第三者のための有価証券の購入及び販売等を含む銀行業に属する取引を行うことなどを目的とする会社である。
ク 被告Y1
被告Y1は,平成14年当時,被告クレディのジュネーブ支店に勤務し,プライベートバンキング部門(主に個人の富裕層を顧客として金融サービスを提供する部門)の顧客窓口担当業務を行っていた者である。
(2)  被告中央会における年金共済事業の概要及び運営状況
ア 被告中央会は,昭和58年4月,その会員である酒販組合の組合員等の老後の生活の安定を図るため,国民年金等の公的年金制度を補完する私的年金制度として年金共済事業を開始した。被告中央会の年金共済事業は,年金共済規程及び年金共済規程施行規則(以下「施行細則」という。)に基づき運営されていたが,加入者の掛金などを原資として構成される年金資産については,その運用を信託銀行や投資顧問会社などに委託していた。
イ 被告中央会の年金共済事業は,いわゆるバブル経済の破綻等を契機とする運用資産の減少,脱退者の増加と加入者の減少,加入者の高齢化に伴う支給額の増加などのため,平成6年ころから収支が悪化し,事業継続が次第に困難となっていた。
平成13年12月末時点における被告中央会の年金共済事業の運営状況は,掛金元本約332億円に対し,年金資産時価換算額が約321億円まで落ち込み,約11億円の掛金元本割れの状態に陥っていた。
(3)  チャンセリー債への投資に至る経緯
ア 被告中央会の事務局長であった被告Y4は,被告中央会の年金共済事業の継続が困難になっていたことから,平成14年2月ころ,酒政連の政治顧問の地位にあった被告Y3に,投資関係の専門家を紹介するよう依頼した。
イ これに対し,被告Y3は,被告Y4に被告Y2を紹介した。そして,被告Y2は,同年2月ころ,被告Y4に対し,SPCが発行する私募債であるアルファトロント債を購入するよう勧めた。しかし,被告Y4は,アルファトロント債への投資は,被告中央会が運用責任を問われる自家運用(被告中央会が自ら年金資産を管理し,運用する取扱いをいう。以下同じ。)に該当するとして,被告Y2の勧誘を断った。
被告Y4及び被告Y7は,平成14年8月ころ,被告Y2から,再びアルファトロント債の説明を受けた。
ウ その後,被告Y4は,平成14年9月,被告中央会とコンサルティング契約を締結していた株式会社格付投資情報センター(以下「R&I」という。)のC(以下「C」という。)に対し,被告Y2からアルファトロント債の説明をさせたうえ,その購入についての意見を問い合わせた。すると,Cは,アルファトロント債は評価の対象外である旨述べた。
被告Y4は,被告中央会の年金資産のうち約30億円を運用していたインベスコ投信投資顧問(以下「インベスコ」という。)の常務取締役営業部長D(以下「D」という。)に対し,被告中央会のためにアルファトロント債を購入できないか働きかけた。すると,Dは,同年9月下旬ころ,被告Y4に対し,インベスコの運用枠のうち10億円分についてアルファトロント債を取り扱うことができると返答した。
エ 被告Y4は,同年10月ころ,被告Y7からアルファトロント債への投資に関する了承を得た。そして,被告Y2は,被告中央会による投資に適した形にするために,アルファトロント債をチャンセリー債へと組み替えるとともに,チャンセリー債のカストディアン(債券の保管管理をする金融機関をいう。以下同じ。)を探し始めた。
(4)  アルファトロント債及びチャンセリー債の概要
ア アルファトロント債は,いわゆる仕組み債,すなわち資金の運用や管理方法,償還資金の調達方法などが,予め発行条件の一部として設定されている債券である。
被告Y2の説明によると,アルファトロント債はツンドラ社が組成した仕組み債であり,同社が設立したSPC(Special Purpose Company〔特別目的会社〕。特定の資産を担保に有価証券等を発行して資金調達をする会社をいう。)であるアルファトロント社が,アルファトロント債の発行により投資家から資金を調達して,その資金を管理会社であるRMマネジメント社に供給し,RMマネジメント社が,イギリス国内の弁護士事務所に裁判費用の融資事業を行い,その融資事業により発生した貸付債権をアルファトロント社が取得することによって,投資家に対する債券の償還資金を調達するという仕組みを有していた。
イ チャンセリー債は,ツンドラ社が被告中央会向けに組成した仕組み債であり,債券の発行会社であるSPCの名称がチャンセリー社,管理会社の名称がインバロ社とされ,SPCが資金を調達する方法として,証書による貸付けでなく有価証券を発行する方法によるほかは,アルファトロント債と同一の仕組みを有していた。
ウ アルファトロント債及びチャンセリー債は,18か月満期で年6.25%,36か月満期で年6.75%の高利回りが予想されていたが,元本は保証されておらず,弁護士事務所への貸倒れリスクやインバロ社の倒産リスクなどがあるものであった。また,両債券は,いずれも,トラックレコード(取引履歴)がなく,格付け機関による評価もされていない新規開発の私募債であった。
(5)  被告中央会の年金共済事業をめぐる検討状況(年金懇談会の開催等)
ア 以上のような,被告Y4らによるチャンセリー債への投資計画と前後して,年金資産運用の総幹事会社である三菱信託銀行は,平成14年2月以降,被告中央会の理事らに対し,被告中央会の年金共済事業は,既に破綻状態にあるとして,再三にわたり,事業の廃止を含む抜本的な検討を提案していた。
しかし,被告中央会の理事らは,年金共済事業の解散による組合員の離反や組織の求心力低下などを懸念して,三菱信託銀行による事業廃止の提案を拒絶した。
イ 被告中央会には,理事会の諮問機関として年金委員会が設置されていたが,年金委員会の構成員(年金委員会委員。以下「年金委員」という。)は,基本的に被告中央会の理事から選出された者であり,年金問題について専門的な知識・経験を有していなかった。そこで,被告中央会の会長理事であった被告Y5の指示により,平成14年8月ころ,三菱信託銀行の提案に対抗して年金共済事業の継続を模索すべく,同行以外の外部専門家も加えた次のメンバーで構成される年金懇談会が設置された。
(ア) 被告中央会の理事及び監事ら
被告Y9(副会長理事,年金委員)
被告Y7(専務理事,年金委員)
E(理事,年金委員)
被告Y16(監事)
被告Y4(事務局長)
(イ) 年金共済事業に係る外部専門家
三菱信託銀行の担当者
C(R&I)
F(以下「F」という。)(メリルリンチ日本証券〔以下「メリルリンチ」という。〕)
被告Y2(アルファトロント債の紹介者)
ウ 平成14年8月から10月まで合計5回にわたり開催された年金懇談会では,概ね次のような議論がされた。
(ア) 年金制度面について
被告Y9,被告Y7及び被告Y4らは,三菱信託銀行による年金共済事業の廃止提案を拒絶した。しかし,その間にも年金資産の掛金元本割れが進行し,被告中央会の年金共済事業は,年金給付の減額や中途脱退の制限などの制度変更をせざるを得ない状況に追い込まれていった。
(イ) 年金運用面について
このような状況の中,被告Y9,被告Y7及び被告Y4らは,運用面の改善による年金共済事業の継続を志向し,三菱信託銀行に対して新たな運用方法を取り入れるよう求めた。
これを受けて,年金懇談会に参加していたメリルリンチのFが,オルタナティブ商品(デリバティブや不動産投資信託,仕組み債など,株式や債券といった伝統的な金融資産に代わる投資対象資産をいう。)を組み入れた運用(以下「オルタナティブ運用」という。)を提案した。Fは,オルタナティブ運用は基本的にハイリスク・ハイリターンであり,流動性・換金性の点にも問題があるが,被告中央会の年金資産について,今後3~5年で元本割れの状況を回復するのに必要な利回りは4%台前半であるところ,これを確保するためには,年金資産の75%程度をオルタナティブ運用に回す必要があると述べた。
これに対し,三菱信託銀行の担当者やR&IのCは,オルタナティブ運用は年金資産の運用としてはリスクが大きく,せいぜい年金資産の10%程度にとどめるべきであるといった意見を出すなどし,結局,年金資産の回復を図る有効な運用方法については結論が得られなかった。
エ 被告中央会は,年金懇談会での議論を受け,平成14年11月20日,役員会(理事会に監事の出席を加えたものであるが,監事に議決権はなく,被告中央会の定款上は理事会との位置づけである。)を開催し,同役員会において,①実績配当制への移行,平成15年3月以降の中途脱退の制限及び脱退一時金の支給額減額などの制度変更をすること,②年金資産運用については,オルタナティブ商品を組み入れた資産配分とすることなどを決議した。そして,その内容は,平成14年12月5日,被告中央会の臨時総会で承認された。
オ なお,年金懇談会,年金委員会,役員会及び臨時総会のいずれにおいても,アルファトロント債あるいはチャンセリー債への投資が話題になったことも,それが承認されたこともなかった。
(6)  インベスコを通じた投資計画の頓挫と被告クレディの登場
ア 被告Y4らは,平成14年9月ころから,インベスコを通じてアルファトロント債(チャンセリー債)に投資する計画を進めていたが,この計画は,同年11月下旬ころ,Dがインベスコの米国本社から運用成績不振を理由に解雇する方針を伝えられたことなどから,頓挫するに至った。
イ 被告Y2は,そのころ,被告クレディのジュネーブ支店に勤務していた被告Y1に対し,被告クレディにチャンセリー債のカストディアンとなってもらいたい旨依頼したところ,同年12月中旬ころ,被告Y1が,これを受諾した。そこで,被告Y2は,被告Y4に対し,被告クレディなら金額を問わずチャンセリー債を取り扱うことができる旨を伝えた。
(7)  被告クレディとの契約及びチャンセリー債への投資
ア 被告Y1は,「Trust Agreement」(乙B1)及び「Important Subscriber Information」(甲21の5)と題する英文の書面を持参して来日し,平成14年12月20日,被告Y2とともに,被告中央会の事務所を訪れた。
イ 被告Y4は,北海道旭川市内の被告Y7の自宅に電話をかけ,被告Y7から,被告クレディとの契約につき了解を得たうえ,総務部長のG(以下「G」という。)に指示し,被告Y1が持参した各書面の確認欄に,それぞれ被告中央会の代表印を押捺した。
ウ 被告Y4は,Gに指示し,平成14年12月30日から平成15年4月22日にかけて,被告クレディに開設された被告中央会名義の口座に,3回に渡り,合計144億7981万円を送金した。
エ 被告クレディは,平成15年1月7日から同年5月2日にかけて,3回に渡り,額面合計143億9000万円分のチャンセリー債を購入した。
オ 被告中央会は,被告クレディに対し,チャンセリー債の購入手数料として3597万5000円を,保管手数料として7551万7227円をそれぞれ支払った(合計1億1149万2227円)。
(8)  被告Y4の退職
被告Y4は,平成15年1月中旬ころから同年5月下旬ころまでの間,合計3回に渡り,被告Y2から,被告Y3を通じて,チャンセリー債購入の謝礼金として合計約1億3800万円の金銭を受領し,同年7月31日,1100万円余りの退職金を受け取って,被告中央会を退職した。
(9)  チャンセリー債の償還不能
ア 被告中央会は,平成15年10月から平成17年3月までの間,チャンセリー債の利払い等として,合計10億2776万8750円の金員の支払を受けた。しかし,チャンセリー債の元本については,平成18年4月の償還期限到来後も,現在に至るまで一切償還されていない。
イ チャンセリー社が調達した資金の運用を担っていたインバロ社は,平成16年6月22日,清算手続に入り,現在破綻を来している。
(10)  被告中央会の年金共済事業の廃止
被告中央会の年金共済事業は,平成15年12月5日の臨時総会決議に基づいて停止された後,平成16年5月20日の通常総会決議に基づいて廃止され,原告らの年金掛金相当額の85%から給付済み年金額を控除した額を3回に分割して返還することとされた。ところが,平成17年8月4日の被告中央会の臨時総会で,上記返還も中止する決議がされた(乙A15)。
(11)  被告Y4の刑事責任
被告Y4は,チャンセリー債への投資を実行したことが背任罪(刑法247条)を構成するなどとして,平成19年9月28日に,東京地方裁判所において懲役7年の有罪判決の宣告を受けた。その後,同判決は確定し,被告Y4は現在服役中である。
2  争点及びこれに関する当事者の主張
【被告中央会】
《争点》
(1) 被告中央会は,平成16年5月20日の通常総会の決議に基づき,年金契約上の履行責任として掛金累計額の85%の返還義務を負うか
(2) 年金契約上の債務不履行責任の有無
ア 被告中央会は,年金資産について分散投資を行い,自家運用を回避すべき年金契約上の義務に違反したか
イ 被告中央会は,銀行届出印や実印の使用及び年金資産たる預金の送金手続を行うに当たり,理事の書面による決裁を要求しなかった点で,年金資産を適正に管理する年金契約上の義務に違反したか
ウ 被告中央会は,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,被告クレディに事情調査を要求する等の年金契約上の義務を怠ったか
(3) 被告中央会は,後述する被告Y4の不法行為について使用者責任を負うか
《原告らの主張》
(1) 被告中央会は,平成16年5月20日の通常総会の決議に基づき,年金契約上の履行責任として掛金累計額の85%の返還義務を負うか
ア 被告中央会は,平成16年5月20日の通常総会において,各年金加入者に対し,掛金相当累計額の85%の返還決議を行った以上,年金契約上同額の返還義務を負う。
イ 被告中央会は,平成17年8月4日の臨時総会において,「平成16年5月20日総会決議である年金廃止に伴う掛金85%の分割返還の中止案承認の件」を決議し,年金の償還を中止する旨の決議をしたから,契約上の履行責任はないと主張する。
しかし,同決議における分割返還の中止とは,年金の償還を,債権の回収又は回収不能の確定することという条件に係らしめる趣旨であるが,「回収又は回収不能の確定すること」という条件は,当該決議が年金加入者の基本権の変更を伴う内容であることに照らすと曖昧にすぎる。
したがって,同決議は,無効というべきである。
ウ さらに,同決議は,年金加入者の具体的権利を不利益に変更するものであるにもかかわらず,変更の必要性,相当性に欠け,無効である。
すなわち,本件で償還原資が不足したのは,被告中央会の善管注意義務違反に起因するから,変更の必要性を容易に認めるべきではない。
加えて,年金加入者と被告中央会の会員である被告中央会傘下の酒販組合連合会または酒販組合の組合員とは,必ずしも一致しない(年金共済規程5条)。
したがって,年金加入者は,総会決議への手続参加が保障されない以上,不合理な決議に拘束される理由はないから,上記の決議は相当性に欠けるというべきである。
(2) 年金契約上の債務不履行責任の有無
ア 被告中央会は,年金資産について分散投資を行い,自家運用を回避すべき年金契約上の義務に違反したか
(ア) 被告中央会は,原告らに対し,年金契約上,年金資産を適正に保管する義務,予想される投資結果に確実性のある金融商品を選定し,かつ,分散投資を行う義務を負っていた。その手段として,被告中央会は,自家運用を回避すべき義務を負っていた。
(イ) 被告中央会の事務局長たる被告Y4が,チャンセリー債を購入し,平成14年12月上旬から平成15年4月までの間,運用委託先との契約を順次解除し,年金資産147億円の返還を受け,そのうち144億7981円を被告クレディに送金したのは,上記の分散投資義務及び自家運用回避義務に違反する。
(ウ) 被告中央会は,本件のチャンセリー債の購入,送金に関し,被告Y4の独断で実施され,被告中央会はむしろその被害者であると主張する。
しかし,被告Y4は,本件当時,被告中央会の事務局長の地位にあり,運用委託先との連絡事務や情報収集事務の補助業務を行い,被告中央会の年金共済事業において不可欠の役割を担っていた。被告Y4は,被告中央会の理事らから信頼を受け,年金共済事業に従事していた。
したがって,被告Y4の前記分散投資義務及び自家運用回避義務違反は,信義則上,被告中央会の故意又は過失と同視されるものである。
イ 被告中央会は,銀行届出印や実印の使用及び年金資産たる預金の送金手続を行うに当たり,理事の書面による決裁を要求しなかった点で,年金資産を適正に管理する年金契約上の義務に違反したか
被告中央会は,原告らに対し,年金契約上,年金資産を適正に保管する義務を負っていた。ところが,被告中央会は,銀行届出印や実印の使用及び年金資産たる預金の送金手続を行うに当たり,理事の書面による決裁を要求していなかった。そのため,被告中央会の事務局の職員は,被告Y4の指示だけで,チャンセリー債への投資に伴い必要となる契約手続・送金手続を行うことができた。上記の各手続を行うに当たり,理事の書面による決裁が必要とされていれば,チャンセリー債への投資を回避することができた。
したがって,被告中央会が,銀行届出印や実印の使用及び年金資産たる預金の送金手続を行うに当たり,理事の書面による決裁を要求しなかったことは,上記の年金資産を適正に管理する義務に違反する。
ウ 被告中央会は,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,被告クレディに事情調査を要求する等の年金契約上の義務を怠ったか
被告中央会は,チャンセリー債の償還事故が発生して以降(遅くとも平成16年6月30日以降),被告クレディに事情調査を要求する等の債権回収努力義務を負っていたというべきであるが,それを怠った。
(3) 被告中央会は,後述する被告Y4の不法行為について使用者責任を負うか
被告Y4は,後述するように,被告中央会の被用者として,その事業の執行について,不法行為に基づき,原告らに損害を与えた。したがって,被告中央会は,使用者責任を負うというべきである。
《被告中央会の主張》
(1) 被告中央会は,平成16年5月20日の通常総会の決議に基づき,年金契約上の履行責任として掛金累計額の85%の返還義務を負うか
ア 被告中央会は,平成17年8月4日の臨時総会において,「平成16年5月20日総会決議である年金廃止に伴う掛金85%の分割返還の中止案承認の件」を決議し,当面2回分の償還実施を中止する旨を決定した。
本件の年金共済事業に関する契約は,制度的契約(複数の契約について統一的・画一的な取扱いが要求され,また,個々の契約ごとの交渉や契約内容の合意が認められない等の特徴を有する契約)である。同決議は,制度的契約の根幹をなす年金共済規程45条(〔制度の改廃〕中央会は,社会情勢の変化等により,本制度の適正な運営に支障をきたす恐れがあると判断したとき,総会の決議を経て,本制度の改廃を行う。)に基づく制度変更であり,その内容は明確である。しかも,決議内容について明確性が必須であるとする法的根拠もない。したがって,同決議は,適法かつ有効なものである。
よって,被告中央会は,年金契約上の履行責任を負わない。
イ 被告中央会は,平成17年8月23日の年金の償還が事実上不可能であることが確定したため,債務不履行に陥るのを避ける目的で,上記の償還実施を中止する旨の決議をするに至った。
したがって,上記の決議による制度変更の必要性があったことは明らかである。
ウ 被告中央会は,年金共済事業を「組合員の福利厚生に関する施設」(定款4条9項)として創設した。そこで,原則として組合員を対象としつつ,年金共済事業の性格上,組合員に準じる者も加入できるようにしたものである。被告中央会の事業である以上,その最終意思決定権が総会にあり,総会の議決権を有する者が組合員であることは,制度の本質であり,制度的契約の帰結である。
したがって,上記の決議による制度変更には相当性がある。
(2) 年金契約上の債務不履行責任の有無
ア 被告中央会は,年金資産について分散投資を行い,自家運用を回避すべき年金契約上の義務に違反したか
(ア) 被告中央会は,平成14年12月5日の臨時総会において,自己都合による年金制度からの脱退を禁止する等の制度変更案を決議した。もっとも,経過措置が設けられた結果,経過措置期間中の脱退者の増加が見込まれ,年金資産の流出は,約100億円と予測された。そこで,被告中央会は,投資顧問会社との投資一任契約を順次解除し,運用資産を現金化した。
以上のとおり,被告中央会は,理事会,理事,監事及び事務局の職員一同,適法であるとの認識で,投資一任契約を解除し,運用資産を現金化したものである。
(イ) 被告中央会は,被告クレディが投資顧問会社となって年金資産を管理,運用すると認識した上で,被告Y4の指示の下,被告クレディに対し,送金を行った(ところが,実態は,被告Y4がチャンセリー債を購入する際,自家運用の禁止を隠蔽するため,被告クレディと結託したというものであった。)。
(ウ) 以上のとおり,被告中央会は,投資一任契約の解除及び被告クレディへの送金ともに,適法な行為であるとの認識で行った。
チャンセリー債の購入については,被告中央会の関与なしに,被告Y4が独断で行ったものである。被告Y4は,被告中央会の被雇用者であって履行補助者ではない。また,被告Y4が履行補助者であるとしても,被告Y4の不法行為は,年金契約の履行に際しての行為であることから,被告Y4の不法行為が,信義則上,被告中央会の不法行為と同視されることはない。
したがって,被告中央会には年金契約上の債務不履行は成立しないというべきである。
イ 被告中央会は,銀行届出印や実印の使用及び年金資産たる預金の送金手続を行うに当たり,理事の書面による決裁を要求しなかった点で,年金資産を適正に管理する年金契約上の義務に違反したか
前記ア(ア)~(ウ)のとおり,被告中央会は,理事会,理事,監事及び事務局の職員一同,投資一任契約の解除及び被告クレディへの送金ともに,適法な行為であるとの認識で行ったものである。
したがって,被告中央会に,年金資産の適正管理義務違反はないというべきである。
ウ 被告中央会は,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,被告クレディに事情調査を要求する等の年金契約上の義務を怠ったか
原告の主張する債権回収努力義務の存在自体否認する。
なお,被告中央会は,被告クレディ,被告Y2及び被告Y1に対し,チャンセリー債の未償還に係る約144億円の損害賠償を請求する訴え(東京地裁平成18年(ワ)第18333号事件)を提起するなどし,上記の未償還金の回収に努力している。債権回収努力義務を尽くしているというべきである。
(3) 被告中央会は,後述する被告Y4の不法行為について使用者責任を負うか
争う。被告Y4の不法行為の被害者は,被告中央会であり原告らではない。
【被告Y4】
《争点》
(1) 被告Y4が,平成14年12月当時,被告中央会の年金資産をチャンセリー債の購入に充てた行為は,不法行為を構成するか
(2) 原告らには損害が発生したか
(3) 被告Y4がチャンセリー債へ投資したことと原告らの損害との間に因果関係があるか
《原告らの主張》
(1) 被告Y4が,平成14年12月当時,被告中央会の年金資産をチャンセリー債の購入に充てた行為は,不法行為を構成するか
被告Y4が,平成14年12月当時,被告中央会の年金資産を運用委託先から引き上げ,約144億円をチャンセリー債の購入に充てた行為は,次のとおり,原告らに対する不法行為を構成する。
ア 被告Y4は,被告中央会の理事会における審議・決定を経ないまま,上記のチャンセリー債への投資を実行した。これは,被告中央会の年金共済規程及び施行細則に違反する。
イ チャンセリー債の購入に約144億円を充てることは,当時運用可能な年金資産(約208億円)の約7割にも及ぶ集中投資に当たる。被告中央会の年金資産の運用に当たっては,リスクを分散させることが求められるのであって,上記の集中投資は,原告らの年金資産を不用意に危険にさらすもので違法である。
ウ チャンセリー債の購入は,専門的なリスク判断及び運用実態や仕組みの確認も経ないまま,自家運用で実施された。被告中央会の内部でも,チャンセリー債のリスクを適切に判断できるような調査検討はされなかった。これは,原告らの年金資産を不用意に危険にさらすもので違法である。
(2) 原告らには損害が発生したか
原告らは,年金の掛金分について,返還を受けることが現に不可能になっており,現実に掛金累計相当額の85%の損害を被っている。
(3) 被告Y4がチャンセリー債へ投資したことと原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y4がチャンセリー債に投資した後,同債が未償還事故を起こした結果,原告らが前記の損害を被った以上,被告Y4の違法行為と原告らの損害との間に因果関係があることは明らかである。
《被告Y4の主張》
(1) 被告Y4が,平成14年12月当時,被告中央会の年金資産をチャンセリー債の購入に充てた行為は,不法行為を構成するか
ア 平成14年12月当時,被告中央会の年金運用規程上,新規運用先の採用に当たっては理事会の承認を得るべき施行細則が存在していた。しかし,新規運用先の採用に当たり,その都度,理事会の事前承認を得る必要があったわけではなく,事後報告も許容されていた。チャンセリー債への投資も,理事会に事後報告され,承認されている。
したがって,チャンセリー債への投資に当たり,被告Y4が,原告らの主張に係る手続違反をした事実はない。
イ 被告中央会の年金制度は,平成14年12月当時,元本毀損の状態にあった。同月の総会決議では,リスクを分散した投資配分とする旨の決議とともに,年金制度を解散せず,3~5年かけて,年利5%以上の利率で運用して財政状況を改善し,元本毀損をできる限り回復することを目指すことも決議されている。
これを受け,被告Y4は,元本毀損を回復するため,新たな投資運用先を探したのであり,そうした条件を満たす金融商品が,チャンセリー債であった。確かに上記の総会では,リスクを分散した投資配分とすることも決議されたが,これだけを墨守しても,財政内容は改善しない。総会決議を受けた被告中央会の役職員としては,当然のことながら,元本回復を可能とする運用利率を持つ新たな投資運用先を直ちに探して,実際に運用をスタートさせなければならない任務を負担していた。当時,年金懇談会等において様々な投資案件や商品が検討されたが,運用利率や安全性から考えて,チャンセリー債への投資以外に,安全かつ短期間に元本を回復することができる投資商品はなかった。そうした状況の中で,被告Y4は,後記ウのとおり,リスクをヘッジした上で,チャンセリー債への投資を行った。
以上のとおり,被告Y4のチャンセリー債への投資は,被告中央会の事務局長としての任務を忠実に遂行したものと評価すべきである。
ウ 被告Y4は,チャンセリー債の購入によるリスクをヘッジするため,直接投資をせず,被告クレディと信託契約を締結し,同被告を通じて投資を行った。そして,被告Y4は,被告クレディ(被告Y1)から,英国でのリスク調査の結果,信託契約を締結してもよいとの回答を受けた上で,チャンセリー債への投資を実行している。被告クレディのリスク説明の内容や世界的な金融機関である被告クレディがチャンセリー債への投資を引き受けてもよいと判断していることから,同投資を行ってもよいと判断したものであって,金融の専門家でない事務職員として可能な限りの十分な調査とリスク回避策を講じている。
したがって,被告Y4は,リスク回避の措置を十分にとったものであり,少なくとも被告Y4はそのように認識していた。
(2) 原告らには損害が発生したか
チャンセリー債に対する投資の運用先のインバロ社の清算法人は,現在も英国の裁判所の監督下で投資金の回収努力を継続している。加えて,被告中央会は,被告クレディに対しても損害賠償請求訴訟を提起しているところ(東京地裁平成18年(ワ)第18333号事件),同訴訟で被告中央会が勝訴すれば,被告中央会はチャンセリー債への投資による損害を回復できる蓋然性が極めて高く,原告らの損害も回復される蓋然性が高い。したがって,原告らの損害は未だ確定していない。
(3) 被告Y4がチャンセリー債へ投資したことと原告らの損害との間に因果関係があるか
被告中央会は,被告Y4によるチャンセリー債への投資を認識した後(被告Y4が被告中央会を退職した後)にも,内部で検討の上,当該投資の継続を決定している。すなわち,被告中央会では,被告Y4の退職後に,本件投資を継続するかどうかが内部で改めて議論されたのであり,被告中央会の理事会は,チャンセリー債への投資について認識した後,一貫して同投資を前提とした行動をとり,最終的に年金制度の解散を被告中央会の総会に付議した際も,同投資を維持するかどうかが理事会内部で議論された結果,最終的にチャンセリー債への投資を維持することが決定され,総会に付議された。そして,年金制度の解散を決めた平成16年5月20日の被告中央会の総会でもチャンセリー債への投資を維持するかどうかがその場で議論され,一部に反対論が出たものの,最終的にそれを維持することを前提に解散を決議しているのである。
このように,被告中央会は独自の判断でチャンセリー債への投資を維持することを決定した。したがって,被告Y4の行為と原告らの損害との間には,被告中央会の上記の決定が介在しているのであって,それにより因果関係が中断されたというべきである。
【被告Y7】
《争点》
(1) 本案前の主張
原告らには本件訴訟の原告適格があるか
(2) 被告Y7が被告Y4のチャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したことは,被告中央会の理事としての注意義務に違反するか
(3) 被告Y7の前記の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するか
(4) 原告らには損害が発生したか
《原告らの主張》
(1) 本案前の主張
原告らには本件訴訟の原告適格があるか
原告らは,年金契約者として本件訴訟を提起している。被告中央会と年金契約を締結し,取引関係に入った者は,組合法30条2項(平成17年法律第87号による改正前のもの。以下同じ。)にいう「第三者」の典型例である。したがって,原告らは「第三者」に当たり,原告適格を有する。
(2) 被告Y7が被告Y4のチャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したことは,被告中央会の理事としての善管注意義務違反に当たるか
被告Y7が,チャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したことは,次のとおり,善管注意義務違反に当たる。
ア 判断の前提となる情報収集・分析・検討の不合理性(違法事由Ⅰ)
(ア) 被告Y7は,平成14年8月ころ,被告Y4とともに,被告Y2から,チャンセリー債と同じ仕組みを有するアルファトロント債に関する説明を聞いた。
(イ) 被告Y7は,平成14年8月から9月にかけての年金懇談会への出席を通じ,オルタナティブ商品の危険性を認識していた。
さらに,被告Y7は,格付けの専門家であるR&IのCから,上記のアルファトロント債に関し,「信用格付けの対象にすらならない」と聞かされていた。
(ウ) 被告Y7は,被告中央会の平成14年11月20日の役員会に出席し,「リスクを分散した資産配分とする」旨の決議に加わり,集中投資が許容されないことを認識していた。
(エ) 被告Y7は,専務理事として,年金関連の常務を執行し,具体的事務作業に当たる事務局長たる被告Y4を直接指揮監督する立場にあった。
(オ) 以上(ア)~(エ)の事実からすれば,被告Y7は,被告Y4からチャンセリー債への投資の了承を求められた際,チャンセリー債への投資が極めてリスクの高いものであることを認識できたはずである。
そうすると,被告Y7が,平成14年12月20日,チャンセリー債への投資に関する被告Y4の説明を全て鵜呑みにして,被告Y4の説明を裏付ける資料等を確認することなく,チャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,パスポートを貸与したことは,善管注意義務違反に当たるというべきである。
イ 判断過程及び内容の合理性
(ア) 判断過程の違法(違法事由Ⅱ)
被告Y7は,被告中央会の理事会における審議・決定を経ないまま,上記のチャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,パスポートを貸与した。これは,被告中央会の年金共済規程及び施行細則に違反し,善管注意義務に違反する。
(イ) 判断内容の違法(違法事由Ⅲ)
チャンセリー債の購入に約144億円を充てることは,当時運用可能な年金資産の約7割にも及ぶ集中投資に当たる。被告中央会の年金資産の運用に当たっては,リスクを分散させることが求められるのであって,上記の集中投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,パスポートを貸与したことは,原告らの年金資産を不用意に危険にさらすもので違法である。
ウ なお,①チャンセリー債に投資を行った当時,被告中央会の年金資産の運用状況が危機的であり,②被告Y7が無報酬に限りなく近い,非常勤の専務理事であったとしても,善管注意義務違反の責を免れない。
(3) 被告Y7の前記の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するか
前記(2)の被告Y7によるチャンセリー債への投資の了承は,被告Y4との共同不法行為(民法719条)にも該当する。
(4) 原告らには損害が発生したか
原告らは,年金の掛金分について,返還を受けることが現に不可能になっており,現実に掛金累計相当額の85%の損害を被っている。
《被告Y7の主張》
(1) 本案前の主張
原告らには本件訴訟の原告適格があるか
原告らは,被告Y7に対し,組合法30条2項に基づき,年金資産について被った損害の賠償を請求している。しかし,原告らが,理事の責任を追及するためには,代表訴訟(組合法33条による平成17年法律第87号による改正前の商法〔以下「平成17年改正前商法」という。〕267条の準用)の方法によらなければならない(東京高裁平成16年(ネ)第3563号同17年1月18日判決・金融商事判例1209号10頁参照)。原告らは,理事の第三者に対する損害賠償責任を規定した組合法30条2項の「第三者」に当たらない。
したがって,本件訴えは,却下されるべきである。
(2) 被告Y7が被告Y4のチャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したことは,被告中央会の理事としての善管注意義務違反に当たるか
被告Y7の善管注意義務の具体的内容を考慮するに当たっては,被告中央会の組織の規模,目的,職務内容,職務分配,被告Y7の職務権限等との関係で,個別具体的に考察する必要がある。
ア チャンセリー債に投資を行った当時の酒販年金の状況
被告中央会の年金制度は,当時元本割れを起こし,さらに毎月資産の目減りが進んでいる状況にあった。すなわち,従前の資産運用を維持するということは,それ自体,役員の善管注意義務違反を問われるような状況にあり,現状維持という選択肢はなかった。
当時の酒販年金の状況及び被告中央会の方針決定を踏まえると,被告Y7は,資産状況を3~5年以内に回復し得る運用利率を有する新たな投資運用先を調査・採用した上で,運用を開始する任務を有していたというべきである。
イ 被告Y7に期待される職務遂行の水準
被告Y7は,無報酬に限りなく近い,非常勤の専務理事であり,資産運用の専門家でもない,一酒販小売業者にすぎなかった。被告Y7の善管注意義務を考えるに当たっては,この点を踏まえた職務遂行の水準を前提に,衡平に判断すべきである。
ウ 判断の前提となる情報収集・分析・検討の合理性(違法事由Ⅰに対する反論)
(ア) 原告らは,被告Y7が,格付けの専門家であるR&IのCから,アルファトロント債に関し,「信用格付けの対象にすらならない」と聞かされていた点を問題にする。
しかし,Cの発言は,アルファトロント債のような商品はR&Iでは扱っていない,評価の対象外であるとの趣旨のものである。アルファトロント債がリスクの高い債券であるとの趣旨の発言ではない。
(イ) 原告らは,被告Y7が,被告中央会の平成14年11月20日の役員会に出席し,「リスクを分散した資産配分とする」旨の決議に加わり,集中投資が許容されないことを認識していたと主張する。
しかし,「リスクを分散した資産配分」というのは,これまでの運用のような国内外の株式,債券に運用先を限定しないという趣旨である。
(ウ) 被告Y7に要求される情報収集の範囲は,専務理事として出席する被告中央会の総会,理事会,年金委員会で得られた情報及び事務局を通じ,報告される情報に限定されるというべきである。それ以上に被告Y7独自の積極的な情報収集の義務を課すことは,被告Y7に不可能を強いることになるからである。
被告Y7は,被告Y4を事務局長とする事務局及び各種委員会での情報を基に,チャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したのであり,情報収集について不合理な点はない。
エ 判断過程及び内容の合理性
(ア) 判断過程の合理性(違法事由Ⅱに対する反論)
a 被告Y4は,平成14年12月20日,被告Y7に対し,チャンセリー債への投資の了承を求めた際,被告Y5を始めとする理事会の承認を得た旨の説明を行い,被告Y7はそれを信頼した。したがって,チャンセリー債への投資に関する理事会の決議がなかったとしても,被告Y7はそれを容易に認識できないし,それに関し責任を問われるものでもないというべきである。
b 施行細則30条1項及び36条は,必ずしも年金資産の新規運用機関の特定まで要求するものではなく,一定の条件・特性を具備する運用機関とする旨を理事会で承認し,具体的な機関の選定を事務局に委ねることも許容していたと解釈すべきである。
本件ではオルタナティブ運用を組み入れる旨の理事会の決定は存在したから,チャンセリー債と特定した上での事前承認の欠如は問題にならないというべきである。
c 平成15年8月28日及び同年9月23日開催の年金委員会,同年12月5日開催の臨時総会では,チャンセリー債への投資に関する説明がされ,理事らから特段の異議が出された形跡はない。特に,後者の臨時総会では,第5号議案として総会の承認を得ている。
以上の経緯によれば,チャンセリー債への投資に関し,少なくとも事後の総会による承認があったことは明らかである。
(イ) 判断内容の合理性(違法事由Ⅲに対する反論)
a 被告Y4は,平成14年12月20日,被告Y7に対し,チャンセリー債は,①6.75%の固定利回りで3年間資産運用をすれば,年金制度の元本不足分を相当程度回復できる,②元本を確保された上,固定金利であり為替リスクもなく,保険により二重三重にリスクヘッジがされていて,被告Y7の任務にも沿う投資である,③被告クレディが信託契約を締結し,自家運用のリスクがヘッジされており,さらに被告クレディの現地調査でも,チャンセリー債は信頼できる商品であるとされている,④多くの投資希望者が予想され,判断を先送りしてはチャンスを逸するおそれがあるなどと説明し,チャンセリー債への投資についての了承を求めた。
b 被告Y7は,当時の酒販年金の危機的状況や,当時3~5年以内に資産状況を回復できるような他の具体的な選択肢は誰からも提示されていなかったこと等を踏まえ,チャンセリー債への投資を相当と判断した。
c これによれば,被告Y7は,チャンセリー債への投資に関して適切な情報収集を行い,チャンセリー債に集中投資することのリスクをも踏まえ,それに対するヘッジも確認し,利害得失を熟慮した上で,投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,パスポートを貸与したものである。したがって,被告Y7は,専務理事として要求される職務遂行の水準を満たした判断をしており,善管注意義務違反に該当しない。
(3) 被告Y7の前記の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するか
原告らの共同不法行為の主張は,全て争う。
なお,原告らは,被告Y7と他の被告らとが連帯責任を負うことを前提に損害賠償請求をしているが,失当である。
(4) 原告らには損害が発生したか
被告中央会は,被告クレディ,被告Y2及び被告Y1を被告として,チャンセリー債への投資に関する損害賠償請求訴訟(東京地裁平成18年(ワ)第18333号事件)を提起する等,チャンセリー債への投資に関する債権回収に努めており,原告らの損害の発生及びその額は未確定である。
【被告Y5,被告Y9,被告Y6】
《争点》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(3) 被告Y5,被告Y9及び被告Y6(以下「被告Y5ら」という。)は,被告中央会の年金委員たる理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
(4) 被告Y5らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
《原告らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
ア 組合法30条2項
組合法30条2項は,「理事が法令又は定款に違反する行為をしたときは,総会の決議によった場合でも,その理事は,第三者に対して連帯して損害賠償の責めに任ずる」と理事が第三者に責任を負う場合を規定する。
被告Y5らは,「法令」(組合法30条2項)には民法644条の善管注意義務は含まれないと主張するが,次のとおり,失当である。
イ 「法令」(組合法30条2項)の解釈
(ア) 組合法30条2項の「法令」から民法644条の善管注意義務を除外する規定はない。
(イ) 組合法30条2項の趣旨は,法人の活動を具体的に担う機関として,種々の職責を負っている理事らに対し,法令・定款を遵守して法人の活動が適正に行われるようその責任を規定し,これに違反して第三者に損害を与えた場合には,直接第三者に対して責任を負う旨を定めた規定である。
上記の趣旨に鑑みれば,組合法30条2項の「法令」には法人の活動が適正に行われるために向けられたすべての法令を含むと解釈すべきである。
(ウ) 平成17年改正前商法266条1項5号は,取締役が会社に対して損害賠償責任を負う場合として,「法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シタルトキ」を規定していた。これは組合法30条2項と同じ規定振りであるところ,判例通説上,平成17年改正前商法266条1項5号の「法令」には,民法644条の善管注意義務も含まれると解釈されていた。
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
原告らは,年金契約者として本件訴訟を提起している。被告中央会と年金契約を締結し,取引関係に入った中で被った損害が,組合法30条2項の「損害」に当たることは明らかである。
(3) 被告Y5らは,被告中央会の年金委員たる理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
ア 施行細則32条に基づく善管注意義務の内容
被告中央会の施行細則第7章「資産運用」の32条は,(運用検証)との表題の下,「事務局は委託各機関から3カ月ごとに運用実績を聴取し,専門の外部機関により運用評価を取得の上,年金運用委員会に報告することを要す。」と定める。これは,年金委員たる理事らの善管注意義務の具体的内容を表したものである。
同条の趣旨・目的は,事務局に運用状況を報告させ,年金委員がそれに基づいてその状況を検証するところにある。すなわち,施行細則は,年金委員会に運用検証を実施させ,監事による3か月ごとの業務監査と相まって年金資産の運用状況の適正を図ろうとしていたと解釈される。
そうすると,年金委員は,事務局が適時適切に運用状況を報告すればそれに依拠して運用状況を検証すれば足りるが,仮に事務局からの報告が遅延し,実施されない場合には,年金委員自ら事務局に対し,運用状況の報告・情報提供を積極的に求める義務を負っていたというべきである(被告Y5については,被告中央会の会長職にあったこと,被告Y9については,被告中央会の年金委員会委員長職にあったことも上記義務の発生根拠となり,これらは,会長ないし年金委員会委員長としての義務違反にも該当する。)。
イ 本件の善管注意義務違反の具体的内容
(ア) 運用検証の日常的な懈怠
被告Y5らは,平成14年当時,事務局に対する年金資産の運用状況の報告・情報提供の要求等をせず,年金資産の運用状況の検証を怠っていた。これにより,被告Y4において,チャンセリー債に約144億円もの年金資産を注ぎ込むことを可能にした(年金資産の運用方法の変更が決議された平成14年12月5日の臨時総会終了後も,年金資産の運用状況の検証は実施されなかった。)。
(イ) 平成15年2月14日ころの運用検証の懈怠
被告Y5らは,年金委員会が開催された平成14年11月14日の3か月後(施行細則32条参照)である平成15年2月14日ころ,事務局から年金資産の運用状況の報告を受け,運用状況の検証を行う義務があった。
これを正しく実施していれば,平成14年12月下旬に被告Y4によって実施された運用委託先との契約解除,被告クレディへの送金,ひいては理事会決議を経ないチャンセリー債への無断投資の事実が明らかとなり,その後の送金(平成15年3月3日の64億8448万円,同年4月22日の44億9544万円)の中止等の措置を講じ,原告らの損害の発生を防止できた。事務局が年金資産の運用状況の報告・情報提供を遅延していた場合には,被告Y5らの方から積極的に報告・情報提供を求める義務があった。
被告Y5らは,これらの年金資産の運用の検証を怠ったから,これは善管注意義務違反に当たる。
(ウ) 平成15年1月27日ころの運用検証の懈怠
当時の年金資産の危機的な運用状況を受け,平成15年1月27日,被告中央会の理事会が開催されることになった。当時の危機的状況に鑑みると,被告Y5らは,かかる理事会に先立ち,事務局から報告を受けて年金資産の運用状況の検証を行う義務があり,事務局から報告がない場合,自ら報告・情報提供を要求する義務があったというべきである。
かかる義務が果たされれば,前記(イ)と同様,その後の原告らの損害の発生を防止できた。被告Y5らの上記義務の懈怠は,善管注意義務違反に当たる。
(4) 被告Y5らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
前記のとおり,被告Y5らが前記(3)イの義務を尽くせば,その後の原告らの損害の発生を防止できた。したがって,被告Y5らの前記善管注意義務違反と原告らの損害の発生との間に相当因果関係があることは明らかである。
《被告Y5らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
ア 組合法30条2項
組合法30条2項の「法令」には,次のとおり,民法644条の善管注意義務の規定は含まれない。
イ 「法令」(組合法30条2項)の解釈
(ア) 「法令」に民法644条も含まれるとした場合,被告中央会の役員の第三者に対する責任が,株式会社の役員の第三者に対する責任よりも加重される事態になる(被告中央会の理事は法令定款違反〔軽過失を含む〕が要件となるのに対し,株式会社の役員は悪意重過失が要件となる。)。しかし,非営利団体である被告中央会の理事の責任の方が,営利団体の株式会社の役員の責任よりも重いというのは,いかにも不自然な解釈であって失当である。
(イ) 昭和25年法律第167号による改正前の商法(以下「昭和25年改正前商法」という。)266条2項は,取締役が第三者に対し責任を負う場合について,「法令又ハ定款ニ反スル行為ヲ為シタルトキ」と規定していた。これは,組合法30条2項と同じ規定振りであるところ,判例通説上,昭和25年改正前商法266条2項の「法令」には,善管注意義務は含まれないと解釈されていた。現行の商品取引所法53条2項にも,組合法30条2項と同様の規定があるが,同規定についても,一般的な任務懈怠(善管注意義務違反)が認められるだけでは,対第三者責任は生じないと解されている。組合法30条2項の「法令」も同様に解釈すべきである。
(ウ) 原告らは,平成17年改正前商法266条1項5号の「法令」には,民法644条(善管注意義務)も含まれる点を指摘する。しかし,同項は取締役の会社に対する責任を規定した条文にすぎない。理事の第三者に対する責任を規定した組合法30条2項の解釈論には影響しないというべきである。
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
原告らの主張する損害は,被告中央会が損害を被ったことによって原告らが被った損害(いわゆる間接損害)である。間接損害は,本来,代表訴訟(組合法33条による平成17年改正前商法267条の準用)によって回復すべき損害であるから,組合法30条2項の「損害」には含まれないというべきである。
(3) 被告Y5らは,被告中央会の年金委員たる理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
ア 原告らの主張する施行細則32条について
施行細則32条は,「『事務局は』委託各機関から3カ月ごとに運用実績を聴取し,専門の外部機関により運用評価を取得の上,年金運営委員会に報告することを要す。」と規定していることから明らかなように,事務局に義務を課す規程であって,年金委員会や年金委員に義務を課す規程ではない。同条は,資産運用を委託された金融機関は,委託者に対し,四半期ごとに運用実績の報告書を送付することが慣行となっていることを前提とした規程である。
したがって,施行細則32条が,原告らの主張する年金委員の善管注意義務を根拠付けることはあり得ないというべきである。
イ 年金委員の職務
年金委員会の招集権限は,被告中央会の会長のみが有し,委員個人は委員会開催の請求権限を有しない(委員会規程7条)。また,年金委員個人は,委託先金融機関の運用実績の報告及び外部機関の運用評価に関し,直接,事務局に対して報告を求める権限を有していなかった。
年金委員会が年金資産の運用に関して有する権限は,運用委託先間のシェア変更,委託金融機関の解約,機関内資産配分(施行細則30条2項,36条)である。
以上によれば,事務局が,各委託金融機関から運用実績の報告を受け,特定の委託先の運用実績が不十分でシェア配分等に不都合があると判断した場合,当該判断を受けてはじめて,年金委員会が開催されることになるというべきである。すなわち,年金委員会及び年金委員は,極めて受動的な立場にあり,年金委員会に出席して事務局の報告を受ける以上に,資産の運用状況について最新の情報に基づいて検証を積極的に行い,事務局に積極的に報告や情報提供を要求する義務を負っていたとは到底いえない。
したがって,原告らの主張する運用検証義務は,年金委員の善管注意義務の内容を構成しないというべきである。
(4) 被告Y5らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
原告らの損害は,被告Y4の不法行為によって生じたものである。
被告Y4は,刑事事件において,「チャンセリー債を購入し終わって報酬が手に入り次第,できる限り早く中央会を辞める考えでいましたので,辞めるまでの理事会,総会では,チャンセリー債を購入した事実を隠し続けて,在職中の私への責任追及を免れるつもりだったのです。」と供述しており,チャンセリー債の購入の事実が明るみに出ないよう手を尽くしていたことが明らかである。
したがって,原告らの主張に係る年金資産の検証を行ったとしても,被告Y4の故意による不法行為による被害の発生は避けられなかった。被告Y9及び被告Y6の職務と原告らの損害との間には,相当因果関係がないというべきである。
【被告Y13,被告Y11,被告Y10,被告Y12,被告Y14】
《争点》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(3) 被告Y13,被告Y11,被告Y10,被告Y12及び被告Y14(以下「被告Y13ら」という。)は,被告中央会の理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
(4) 被告Y13らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
《原告らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
以上,被告Y5らに対する主張と同旨。
(3) 被告Y13らは,被告中央会の理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
ア 年金資産の管理に関する理事の義務
被告中央会の理事会は,年金資産の管理及び運用に関し,最高位の審議・決定機関である。そこで,各理事は,年金資産の管理及び運用に関する事項が議題となる理事会において,年金資産の現状の運用状況を把握する義務があった。
イ 本件の善管注意義務違反の具体的内容
被告Y13らは,平成15年1月27日開催の理事会及び同年4月3日開催の理事会において,年金委員を務める理事から,年金資産の現状の運用状況の報告を受ける必要があった。報告がない場合,被告Y13らは,同理事会の席上,自ら積極的に,年金委員を務める理事に対し,報告を要求する義務を負っていた(被告Y13については,被告中央会の副会長職にあったことも,上記義務の発生根拠となる。)。
かかる義務が履行されていれば,平成14年12月下旬に被告Y4によって実施された運用委託先との契約解除,被告クレディへの送金,ひいては理事会決議を経ないチャンセリー債への無断投資の事実が明らかとなり,その後の送金(平成15年3月3日の64億8448万円,同年4月22日の44億9544万円)の中止等の措置を講じ,原告らの損害の発生を防止できた。
以上によれば,被告Y13らは,上記の義務を懈怠した点で,善管注意義務違反に当たる。
(4) 被告Y13らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らに対する主張と同旨。
《被告Y13らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
被告Y5らの主張と同旨。
なお,被告Y13は,組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)が含まれるとしても,「法令」違反について軽過失である場合は免責されるべきであるとも主張する。
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
被告Y5らの主張と同旨。
(3) 被告Y13らは,被告中央会の理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
ア 理事の善管注意義務の内容
被告中央会は,理事が,普段は小売酒販店の経営者であり,非常勤であることを考慮し,委員会制度及び事務局制度を設けていた。さらに,重大案件に関しては監督官庁(国税庁)との相談を経て決定を行うことが慣例化していた。年金共済事業に関しては,年金委員会が設けられ,年金共済規程,施行細則が規定されていた。しかも,外部の有識者が参加する年金懇談会が設置され,年金運用に関し,集中的な議論もされていた。
以上の被告中央会の体制を考慮すると,理事の善管注意義務は所属委員会の所管の業務執行を主たる内容とし,他の委員会の所管業務については当該所属委員の検討・判断を信頼することが許容され,その検討過程や内容が特に不合理・不十分である等特段の事情がない限り責任を負わないと解すべきである。
イ 善管注意義務違反の不存在
(ア) チャンセリー債への投資について,平成14年11月14日の年金委員会,平成14年11月20日の理事会,平成14年12月4日の理事会,平成14年12月5日の総会のいずれでも,議題として上程されることはなかった。被告Y4は,チャンセリー債への投資を殊更に秘匿していた。事務局長が違法な取引を企画実行することは極めて異例のことで,通常では想像の及ばない事態である。
(イ) 本件では,年金委員会の年金資産の運用に関する検討の過程や内容が特に不合理・不十分であるという特段の事情はなく,年金委員以外の理事は,年金委員会の報告・説明に信頼を置くことが許容されるというべきである。年金委員以外の理事は,年金共済事業の具体的実情につき自ら積極的に確認する注意義務を負うものではない。
したがって,原告らの主張に係る各理事会において,自ら積極的に年金委員を務める理事に対し,報告を要求する義務など認められない。
ウ 被告Y13の個別事情
被告Y13は,本件のチャンセリー債への投資当時,酒販制度・社会対策委員会の副会長として,酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法の成立に向け,財務省・国税庁との折衝を重ねる等尽力していた。所管外の年金共済事業に関し,積極的な報告要求をする義務まで負っていたとはいえないというべきである。
エ 被告Y13らの前記の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らの主張と同旨。
【被告Y8】
《争点》
(1) 組合法30条2項の理事ではない年金委員への類推適用の可否
(2) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(3) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(4) 被告Y8は,被告中央会の年金委員として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
(5) 被告Y8の前記の義務違反は不法行為を構成するか
(6) 被告Y8の前記(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
《原告らの主張》
(1) 組合法30条2項の理事ではない年金委員への類推適用の可否
年金委員会の職責は,本来理事会の権限とされるべきものの一部に含まれる。また,年金委員会に委譲された権限の重要性を踏まえれば,年金委員には,組合法30条2項が類推適用されるべきである。
(2) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(3) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(4) 被告Y8は,被告中央会の年金委員として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
以上,被告Y5らに対する主張と同旨。
(5) 被告Y8の前記の義務違反は不法行為を構成するか
被告Y8の前記善管注意義務違反について,不法行為も成立する。
(6) 被告Y8の前記(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らに対する主張と同旨。
《被告Y8の主張》
(1) 組合法30条2項の理事ではない年金委員への類推適用の可否
ア 組合の理事が,組合法30条2項に基づき第三者に対し責任を負うのは,組合の活動がその機関である理事の職務執行に依存しており,理事にはこれを行うための地位と権限が認められているからである。
これに比べて,年金委員会は,被告中央会が展開する広範囲の事業の一部にすぎない年金共済事業において限定された役割を果たすにすぎない。年金委員会は理事会の下部組織であり,年金委員会の決定はいずれも理事会に報告される(施行細則36条)。
したがって,組合(被告中央会)の活動が年金委員会の職務執行に依存しているという関係にはないから,組合法30条2項を年金委員に類推適用することはできない。
イ 理事は,総会において選任され,定款等において,任期・報酬・解任等に関する事項が規定され,理事会が構成される。これに対し,年金委員会や委員については,定款上規定が存しない。さらに,年金委員会の招集についても会長が行うとされ,年金委員自身には,委員会の招集権限さえなかった。
すなわち,被告中央会において,理事と年金委員とでは,その地位に隔絶した差異が存在する。
なお,株式会社の取締役の第三者責任を規定した平成17年改正前商法266条ノ3を取締役以外の者に類推適用した事例もあるが,それは,「対外的にも対内的にも重要事項についての決定権を有する実質的経営者(事実上の代表取締役)であった者」等限定的に解釈されている(東京地裁昭和61年(ワ)第7641号,同62年(ワ)第832号平成2年9月3日判決・判例時報1376号110頁参照)。
このように,理事と年金委員の地位・職責の違いを考慮すれば,組合法30条2項を年金委員に類推適用する余地はないというべきである。
(2) 組合法30条2項の「法令」に善管注意義務違反は含まれるか
(3) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(4) 被告Y8は,被告中央会の年金委員として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
以上,被告Y5らの主張と同旨。
(5) 被告Y8の前記の義務違反は不法行為を構成するか
原告らの主張は争う。そもそも,原告らの主張する年金資産の運用検証義務自体,年金委員の善管注意義務の内容を構成しないから,不法行為の主張は失当である。
(6) 被告Y8の前記(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らの主張と同旨。
【被告Y16,被告Y15】
《争点》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか(組合法33条は「監事については,第30条・・・の規定を・・・準用する。」と規定するから,組合法30条2項は監事に準用される。)
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
(3) 被告Y16及び被告Y15(以下「被告Y16ら」という。)は,被告中央会の監事として,適時適切に年金資産に関する監査を行う義務を怠ったか
(4) 被告Y16らの前記義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
《原告らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
以上,被告Y5らに対する主張と同旨。
(3) 被告Y16らは,被告中央会の監事として,適時適切に年金資産に関する監査を行う義務を怠ったか
ア 施行細則33条に基づく善管注意義務の内容
被告中央会の施行細則第7章「資産運用」の33条は,(監査)との表題の下,「事務局は運用実績に基づき,監事による監査を3カ月に一度受けることを要す。又,年金数理人にも同様の資料を送付し,最低限,書類上の監査を受ける事を要す。」と定める。すなわち,被告中央会の監事は,3か月に1回,監査を行う義務を負っていた。
監事が行うべき監査の具体的内容は,年金資産の運用実績を確認し,当該運用実績に対応する年金資産の残高の有無を当該運用委託先に報告を求める等の方法により確認し,さらに運用委託先の変更等の年金資産の変動があった場合には,当該変動が被告中央会の内部諸規程に即したものか否かを確認するというものである。
イ 本件の善管注意義務の具体的内容
(ア) 監査の日常的な懈怠
被告Y16らは,平成14年当時,被告中央会の監事の地位にあったにもかかわらず,前記アの監査を怠っていた。これにより,被告Y4において,チャンセリー債に約144億円もの資産を注ぎ込むことを可能にした。
(イ) 平成14年12月末日時点を対象とする業務監査
被告Y16らが,平成14年12月末日時点を対象とする前記アの施行細則33条に基づく監査を適切に実施していれば,平成14年12月下旬に被告Y4によって実施された運用委託先との契約解除,被告クレディへの送金,ひいては理事会決議を経ないチャンセリー債への無断投資の事実が明らかとなり,その後の送金(平成15年3月3日の64億8448万円,同年4月22日の44億9544万円)の中止等の措置を講じ,原告らの損害の発生を防止できた。
さらに,被告Y16らにおいては,運用委託先の被告中央会に対する報告書を確認するだけで,被告Y4による運用委託先との契約解除,送金の事実を認識でき,その上で,理事会や年金委員会の議事録等の書類を確認さえすれば,当該送金が被告中央会内部の諸規程に違反するものであることを認識できたのである。
したがって,被告Y16らの上記義務の懈怠は,善管注意義務違反に当たる。
(4) 被告Y16らの前記義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らに対する主張と同旨。
《被告Y16らの主張》
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
(2) 原告らの損害は,組合法30条2項の「損害」に当たるか
以上,被告Y5らの主張と同旨。
(3) 被告Y16らは,被告中央会の監事として,適時適切に年金資産に関する監査を行う義務を怠ったか
ア 監事の年金共済事業に関する監査義務の具体的内容
原告らは,施行細則33条が「事務局は運用実績に基づき,監事による監査を3カ月に一度受けることを要す。」と規定することを根拠に,監事には年金共済事業について3か月ごとの監査義務があったと主張する。
しかし,同条は,「『事務局は』監査を・・・受けることを要す。」との規定の仕方から明らかなとおり,被告中央会(事務局)の側で監査を受ける義務を定めたものにすぎず,監事の側から監査を行う義務を規定したものではない。
さらに,被告中央会では,投資運用会社からの運用実績は,事務局の検討を経た後,順次,年金委員会及び理事会に報告され,検討が行われる。すなわち,監事による監査は,事務局,年金委員会及び理事会による検討を経た後の段階のものにすぎない。そうすると,実質的にも,監事に対し,3か月ごとに一度,年金共済事業に対する監査を行う義務を課する必要はないというべきである。
被告中央会の事務局も,監事に対し,毎年1度しか年金の運用実績を報告していなかったが,これも年金共済事業に関する監事による監査は,年に1度しか予定されていなかったことを示すものである。
したがって,監事は,3か月に1回,年金共済事業に対する監査をする義務を負ってはいなかったというべきである。
イ 善管注意義務の不存在
被告Y16らは,平成14年,15年当時,毎年7月ころに1度,事務局,年金委員会及び理事会の検討の後,年金共済事業の決算監査を実施していた。被告Y16らは,平成14年7月24日に年金共済事業に関する監査を適切に実施しており,善管注意義務違反はないというべきである。
(4) 被告Y16らの前記義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告Y5らの主張と同旨。
【被告クレディ,被告Y1】
《争点》
(1) 国際裁判管轄の有無
ア 被告中央会と被告クレディが締結した「Trust Agreement」における専属的管轄の合意の効力は,本件訴訟にも及ぶか
イ 不法行為地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
ウ 義務履行地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
(2) 被告クレディ及び被告Y1は,チャンセリー債の内容に関し,説明義務を怠ったか
(3) 被告Y1は,原告らに対し,チャンセリー債の健全性に関し,積極的な虚偽説明を行ったか(被告クレディは,使用者責任を負うか)
(4) 被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」の内容に関し,説明義務を怠ったか
(5) 被告クレディ及び被告Y1の前記(2)~(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
(6) 被告クレディは,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,チャンセリー債に係る債権回収に向けた事情調査等をする条理上の義務を怠ったか
(7) 被告クレディは,チャンセリー債の保護預り業務の受託を回避すべきであったか
(8) 原告らには損害が発生したか
《原告らの主張》
(1) 国際裁判管轄の有無
ア 被告中央会と被告クレディが締結した「Trust Agreement」における専属的管轄の合意の効力は,本件訴訟にも及ぶか
本件訴えは,原告の被告クレディ及び被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求である。したがって,被告中央会・被告クレディ間で締結された契約書記載の専属的裁判管轄の合意の影響を受けることはない。
イ 不法行為地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
(ア) 被告クレディの従業員であった被告Y1が,日本国内において,被告中央会と「Trust Agreement」の締結行為をし,原告らが日本国において損害を受けたことからすれば,「我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係」(最高裁平成12年(オ)第929号,同年(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)が存することは明らかである。
(イ) また,本件は投資勧誘事件に関する不法行為の事案であるから,管轄を定めるに当たり,上記の客観的事実関係の存在を厳格に要求することは,当事者間の公平を失する。
(ウ) さらに,原告らは,被告クレディ及び被告Y1の積極的な虚偽説明も加害行為の一つとして主張しているところ,かかる作為による不法行為に関しては,日本国内の裁判所に管轄があることは明らかである。
ウ 義務履行地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
本件の不法行為地は我が国であり,義務履行地も我が国である。さらに,我が国に管轄を認めても,条理に反する結果は生じない。したがって,義務履行地としても,我が国の裁判所に管轄が認められる。
(2) 被告クレディ及び被告Y1は,チャンセリー債の内容に関し,説明義務を怠ったか
ア 説明義務(総論)
被告クレディ及びその従業員の被告Y1は,被告中央会に対し,①チャンセリー債の内容(特にリスク要素),②チャンセリー債は,年金資産の運用対象として相応しくないこと(特に集中投資を回避すべきこと),③チャンセリー債には国際的投資詐欺集団であるインペリアル・コンソリデイテッド・グループが関与しているゆえ,購入を回避すべきこと,以上の事実を説明すべき義務を負っていたのに,それを怠った。説明義務の発生根拠は,次のとおりである。
イ 金融商品販売法上の義務
(ア) 被告クレディは,「金融商品販売業者等」(平成15年法律第54号による改正前の金融商品の販売等に関する法律〔以下「金融商品販売法」という。〕3条1項)に当たる。
(イ) 被告クレディは,被告中央会が,「金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者」(金融商品販売法3条4項1号。以下「特定顧客」という。)に該当するから,金融商品販売法上の説明義務は発生しない旨主張する。しかし,被告中央会は,次のとおり,「特定顧客」に当たらない。
a 原告らと被告中央会との間の年金契約は,「共済に係る契約」(同法2条1項4号)に該当しないから,被告中央会は「金融商品販売業者等」ではなく,「特定顧客」に当たらない。
b 「共済に係る契約」の保険契約者との締結は,原則として「金融商品の販売」(同法2条)に当たるが,金融商品の販売等に関する法律施行令(平成19年政令第233号による改正前のもの。以下「同法施行令」という。)3条に列挙された法律の規定により締結される契約については,例外として「金融商品の販売」に該当しない。
原告らと被告中央会との間の年金契約は,公的な性格を有し,同法施行令3条に列挙された法律の規定により締結される契約と共通する面がある。
したがって,原告らと被告中央会との間の年金契約は,「金融商品の販売」に該当しないから,被告中央会は,「金融商品販売業者等」ではなく,「特定顧客」に当たらない。
c 「特定顧客」とは,「金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者」(同法3条4項)であるところ,被告中央会は,「専門的知識及び経験を有する者」に該当しないから,「特定顧客」に当たらない。
(ウ) したがって,被告クレディは,金融商品販売法上,「Trust Agreement」の締結の際,被告中央会に対し,前記アの説明義務を負っていたというべきである。
ウ 「Trust Agreement」に付随する信義則上の説明義務
(ア) 被告中央会は,金融知識に乏しく,チャンセリー債の仕組みや内容を正確に理解することは困難であった。
(イ) これに対し,被告クレディは,世界有数の金融機関であり,「Trust Agreement」に基づき,約1億円という多額の手数料を得た。被告クレディは,被告中央会が年金資産の運用のために,チャンセリー債に投資することやチャンセリー債には国際的投資詐欺集団であるインペリアル・コンソリデイテッド・グループが関与していること,チャンセリー債が投資商品としての健全性を著しく欠いていることを認識していた。
(ウ) 以上の事情によれば,被告クレディ及び被告Y1は,被告中央会に対し,「Trust Agreement」に付随する信義則上の義務として,前記アの説明義務を負っていたというべきである。
(3) 被告Y1は,原告らに対し,チャンセリー債の健全性に関し,積極的な虚偽説明を行ったか(被告クレディは,使用者責任を負うか)
被告Y1は,「Trust Agreement」の締結の際,被告Y4に対し,被告クレディが,英国においてチャンセリー債の内容に関する調査を行った結果,社債は健全なものであると判断した旨の虚偽の説明を行った。この事実が,不法行為に当たることは,明らかである。
さらに,被告クレディは,上記不法行為について使用者責任を負う。
(4) 被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」の内容に関し,説明義務を怠ったか
被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」に付随する信義則上の義務として,被告中央会に対し,提供するサービスの内容に関し,被告中央会が指示したチャンセリー債の購入・保管に係る義務しか負担しないことを説明すべき義務を負っていた。
しかし,被告クレディ及び被告Y1は,当該説明を怠ったから,これは不法行為に該当する。
なお,被告クレディ及び被告Y1の各不法行為は,被告Y4及び被告Y2との共同不法行為を構成する。
(5) 被告クレディ及び被告Y1の前記(2)~(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告クレディ及び被告Y1の不法行為の結果,被告中央会は,チャンセリー債への投資を実行し,ひいては原告らが損害を被ったのであるから,前記の説明義務違反等と原告らの損害との間に相当因果関係があることは明らかである。
(6) 被告クレディは,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,チャンセリー債に係る債権回収に向けた事情調査等をする条理上の義務を怠ったか
被告クレディは,被告中央会との間で,「Trust Agreement」を締結し,チャンセリー債の保護預り業務を担当した。このような先行行為の結果,被告クレディは,チャンセリー債の償還が遅延ないし不能となった際には,条理上,チャンセリー債に係る債権回収に向けた事情調査等をする義務を負うというべきであるが,その義務を懈怠している。
(7) 被告クレディは,チャンセリー債の保護預り業務の受託を回避すべきであったか
被告クレディは,被告中央会に不適合なリスクの高いチャンセリー債の保護預り業務の受託を回避すべき義務があったのにこれを怠った。
(8) 原告らには損害が発生したか
原告らは,年金の掛金分について,返還を受けることが現に不可能になっており,現実に掛金累計相当額の85%の損害を被っている。
《被告クレディ,被告Y1の主張》
(1) 国際裁判管轄の有無
ア 被告中央会と被告クレディが締結した「Trust Agreement」における専属的管轄の合意の効力は,本件訴訟にも及ぶか
被告中央会及び被告クレディは,「Trust Agreement」において,同契約に関連する訴訟は,ジュネーブの裁判所が専属的裁判管轄権を有することを合意した。
原告らは,被告中央会の年金共済制度に自ら加入した者であり,「Trust Agreement」の実質的な受益者である。それにもかかわらず,原告らが,被告中央会が締結した上記の専属的裁判管轄の合意を否定するのは,禁反言の原則に違反する。「Trust Agreement」に基づく専属的管轄合意には,原告らも拘束されるというべきである。
イ 不法行為地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
(ア) 原告らは,被告クレディがチャンセリー債の内容に関する説明をすべきであったという作為義務の根拠を立証していない。したがって,「我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係」は証明されていない。
原告らは,「Trust Agreement」の締結が,日本国内で行われたと主張するが,「Trust Agreement」はスイスにおいて成立した。すなわち,その締結場所は,スイスである。
(イ) 原告らは,投資勧誘事件に関する不法行為の事案を前提とするが,そもそも被告クレディは,被告中央会に対し,投資を勧誘したことはなく,勧誘に関与したこともない。また,本件事案において,前記(ア)の客観的事実関係の存在の証明を要求することが,当事者間の公平を失することにならないのは明らかである。
(ウ) 被告クレディは,原告らの主張するような積極的な虚偽説明をしたことはないし,そのように誤解される言動を行ったこともない。よって,そのような積極的な虚偽説明による不法行為が成立する余地はない。
(エ) 以上によれば,不法行為地として,我が国の裁判所に管轄を認めることはできない。
ウ 義務履行地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
不法行為に基づく損害賠償請求権者が,自らの所在地が損害賠償義務の履行地であることを理由に管轄の存在を主張できるとすれば,不法行為地として我が国の裁判所に管轄を認めるに当たり,「我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係」の証明を要求した趣旨を没却することになる。
不法行為地として,我が国の裁判所に管轄を認めることができない以上,義務履行地として,我が国の裁判所に管轄を認めることもできないというべきである。
エ 被告Y1について
被告Y1は,被告クレディの従業員であった者であり,本件訴訟において,被告クレディの従属的立場にある。
したがって,国際裁判管轄についても,被告クレディと同様に考えるべきである。
(2) 被告クレディ及び被告Y1は,チャンセリー債の内容に関し,説明義務を怠ったか
ア 説明義務(総論)
被告クレディは,「Trust Agreement」上,次の(ア)~(エ)の義務のみを負い,チャンセリー債の内容に関する説明義務を負わない。
(ア) 顧客が指示した非伝統的ファンドの商品を,顧客に代わり,被告クレディのグループ会社又はノミニー(名義人)の名において購入すること(第1条第1文)
(イ) 顧客のために顧客の計算及びリスク負担において当該商品を保有し管理すること(同条第3文,第4条)
(ウ) 保有している当該商品について被告クレディが受領した利子,配当その他の分配金を一定の控除後に顧客に提供すること(第6条)
(エ) 顧客又は顧客が書面により指名する者に,当該商品の投資持分を引き渡すこと(第8条)
イ 金融商品販売法上の義務
(ア) 被告中央会は,年金共済制度に基づき,「共済に係る契約」(金融商品販売法2条1項4号,同法施行令3条)を締結しているところ,当該契約の締結は,「金融商品の販売」に当たる(同法2条1項4号)。
そうすると,被告中央会は,「金融商品の販売」を業として行う者であるから,「金融商品販売業者等」に該当し(同法2条3項),さらに「特定顧客」に該当する(同法3条4項1号,同法施行令8条)。
したがって,被告クレディは,被告中央会に対し,金融商品販売法上の説明義務を負わない(同法3条4項1号)。
(イ) 原告らは,原告らと被告中央会との間の年金契約は,「共済に係る契約」(同法2条1項4号)に該当しないと主張するが,いずれもその論拠を欠き,失当である。
ウ 「Trust Agreement」に付随する信義則上の説明義務
(ア) 被告中央会は,前記のとおり,金融商品販売法上も「金融商品販売業者等」に該当し,金融機関・機関投資家等と同様に扱われるプロの投資家である。
さらに,被告中央会は,年金資産の運用及びチャンセリー債の内容(リスク要素を含む。)について,信託銀行,格付機関,投資顧問会社等の外部の専門家からアドバイスを受けることができる立場にあり,実際にアドバイスを受けていた。その結果,チャンセリー債のリスク要素を含む商品内容を長期にわたって分析し,認識した上でチャンセリー債への投資を決定した後に,被告クレディにカストディ業務を依頼した。被告中央会は,独自の判断で自家運用による投資をしたこともある。
したがって,金融商品に関する知識・理解・経験の差を原因として説明義務が発生する余地はない。
(イ) 被告クレディは,被告中央会から,投資判断又は年金資産の運用についての報酬や手数料を受領したことはない。被告クレディは,カストディアンとしての報酬(保護預り業務に対する報酬)しか受領していない。被告クレディは,被告中央会又は被告Y2から,チャンセリー債のリスクその他の内容面について調べるよう要請されたこともなければ,被告中央会が調査を期待しているとの示唆を受けたこともない。したがって,被告クレディが報酬を受領したことによって,説明義務が発生する余地はない。
(ウ) 被告クレディが「Trust Agreement」上負っていた義務は,前記ア(ア)~(エ)のとおりである。運用資産が年金資産か否かによって,契約の相手方の義務の内容が変わるものではない。被告クレディは,被告中央会の年金資産の運用に口出しをする立場になかったし,実際に被告中央会による年金資産の運用実態(チャンセリー債への投資がいわゆる集中投資であるか否か)や運用方針を認識しておらず,認識すべき立場にもなかった。したがって,被告中央会が年金資産の運用のために,チャンセリー債に投資することを認識していたとしても,原告らの主張するような説明義務は発生しない。
(エ) 被告クレディは,チャンセリー債に関し,カストディアンとして関与する限りで,被告クレディ又はその関連会社にとってのリスク等の形式審査を,自らのためにその裁量で行う。しかし,チャンセリー債の購入指示をしてきた被告中央会や原告らに対し,商品内容や安全性に関する調査義務を負うことはなく,実際に調査も実施していない。もとより,インペリアル・コンソリデイテッド・グループの関与についても認識していない。
したがって,被告クレディが,チャンセリー債にインペリアル・コンソリデイテッド・グループが関与していた旨認識していたとか容易に認識し得たことなどを前提とする原告らの主張は,失当である。
(3) 被告Y1は,原告らに対し,チャンセリー債の健全性に関し,積極的な虚偽説明を行ったか(被告クレディは,使用者責任を負うか)
被告Y1は,原告らの主張するような積極的な虚偽説明をした事実はないし,そのように誤解される言動を行ったこともない。
そもそも,被告クレディは,カストディアンにすぎず,独自に債券の調査を行い,被告中央会のために投資に関する評価をする立場にない。したがって,積極的な虚偽説明を行う意味が全くない。被告クレディは,被告中央会又は被告Y2から,チャンセリー債のリスクその他の内容面について調べるよう要請されたこともなければ,被告中央会が調査してもらいたいと期待しているとの示唆を受けたこともない。したがって,そもそもそのような虚偽説明をするはずがない。
(4) 被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」の内容に関し,説明義務を怠ったか
ア 被告中央会は,金融商品販売法上も「金融商品販売業者等」として,プロの投資家として扱われる存在である。しかも,被告中央会は,平成14年10月初旬(被告クレディの関与以前)の段階で既にチャンセリー債の購入を決定し,その後,被告中央会の指示する商品の購入・保管を委託するためだけに,被告クレディと「Trust Agreement」を締結した。被告クレディが提供するサービス内容は自明であったというべきである。「Trust Agreement」上も,被告クレディの義務は明示されている。
したがって,被告クレディ及び被告Y1は,被告中央会と「Trust Agreement」を締結するに当たり,「Trust Agreement」の内容に関し,逐一説明をする法的義務を負ってはいなかったというべきである。
イ 被告クレディ(被告Y1)は,「Trust Agreement」に基づき提供するサービスの内容に関し,チャンセリー債の保護預りの義務しか負担しないことを明確に説明している。
原告らは共同不法行為の主張もするが,前記のとおり,被告クレディ,被告Y1に不法行為が成立する余地はないから,失当である。
(5) 被告クレディ及び被告Y1の前記(2)~(4)の義務違反と原告らの損害との間に因果関係があるか
被告中央会は,平成14年10月初旬(被告クレディの関与以前)の段階で既にチャンセリー債の購入を決定していた。被告クレディは,チャンセリー債の購入の勧誘行為に一切関与しておらず,投資運用の裁量もなかった。被告クレディの関与が,被告中央会の投資決定に影響を及ぼすことはあり得ないというべきである。そして,被告中央会の年金資産の運用の実質的な権限を有していた被告Y4がチャンセリー債への投資を敢行した主要な目的は,多額の謝礼金を受けることにあった。また,被告中央会は,年金制度の維持に強い意欲を有しており,被告クレディの関与なしに,チャンセリー債へ投資することも可能であった。
これによれば,被告Y4ないし被告中央会は,被告クレディがカストディアンとして関与するか否かにかかわらず,チャンセリー債への投資を実行したことは疑いの余地がない。被告クレディの関与と原告らの損害との間には,相当因果関係がないというべきである。
(6) 被告クレディは,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,チャンセリー債に係る債権回収に向けた事情調査等をする条理上の義務を怠ったか
被告クレディが,「Trust Agreement」上,被告中央会に対し負う義務は,前記(2)ア(ア)~(エ)だけである。「Trust Agreement」の締結及びその履行を先行行為として,条理上,原告らの主張するような債権回収義務が発生することはない。さらに,債権回収義務と原告らの損害との間に,因果関係は存在しない。
(7) 被告クレディは,チャンセリー債の保護預り業務の受託を回避すべきであったか
被告クレディは,被告中央会にとってチャンセリー債が不適合であって,その購入を再考するよう説明ないし助言する義務を負わない。
(8) 原告らには損害が発生したか
原告らの損害の発生について争う。
【被告Y2】
《争点》
被告Y2が,被告中央会に対し,チャンセリー債を紹介した行為は,原告らに対する不法行為を構成するか
《原告らの主張》
(1) 被告Y2は,チャンセリー債は十分な償還が不能又は困難であることを知りながら,被告中央会に対し,その事情を開示することなく,これを売り込んだ。このようなチャンセリー債の売り込み行為は,不法行為に該当する。
(2) 被告Y2は,①チャンセリー債にインペリアル・コンソリデイテッド・グループが関与していること,②同グループは国際的詐欺集団であること,③チャンセリー債と同様の仕組みのインペリアル債が破綻したこと,④チャンセリー債の目論見書には英国内の法律事務所に対する保険付債権をチャンセリー社が買い取る旨記載されているところ,実態はチャンセリー社はチャンセリー債に関する投資の運用先であるインバロ社に対する無担保融資を行っていたにすぎないこと,以上の事情を認識し,さらに,チャンセリー債の組成・発行にも関与していた。
その上で,被告Y2は,上記国際的詐欺集団の詐欺行為の一環で,当該集団の代理人として,被告中央会に対し,チャンセリー債を販売した。
したがって,上記のチャンセリー債の販売行為は,不法行為に該当する(この不法行為は,被告Y4,被告Y1及び被告クレディとの共同不法行為となる)。
《被告Y2の主張》
(1)ア 被告Y2が平成14年2月及び8月にチャンセリー債の商品説明を行った当時,チャンセリー債に問題は生じていなかった。したがって,被告Y2は,チャンセリー債の償還が不能又は困難であることを知る由もなかったというべきである。
イ 被告Y2は,平成14年2月ころから随時,被告Y4及び被告中央会の事務局の職員に対し,「アルファ・トロント・シリーズ社私募投信募集要項」を示しつつ,チャンセリー債の内容・リスク等について説明を行っている。
ウ したがって,原告らのチャンセリー債の違法な売り込みに係る主張は,理由がない。
(2) なお,原告らの主張は,インペリアル・コンソリデイテッド・グループが,国際的投資詐欺集団であることを前提とする。
しかし,平成20年9月下旬,英国の裁判所は,同グループの幹部が詐欺共謀罪に問われた事件に関し,同罪での告訴を棄却している。すなわち,同グループが国際的投資詐欺集団と位置づけることはできない。さらに,被告Y2は,チャンセリー債の組成・発行に関与していない。
したがって,被告Y2は,不法行為責任を負わない。
【被告Y3】
《争点》
被告Y3は,前記の被告Y2及び被告Y4の不法行為に加担ないし幇助をしたか
《原告らの主張》
(1) 被告Y2及び被告Y4の不法行為への加担
ア 被告Y3は,平成14年2月ころ,被告Y2を被告Y4に引き合わせ,同年7月ころ,被告Y2が被告Y4に対してアルファトロント債の内容説明及び売り込みを行った機会に同席し,平成14年11月上旬ごろから,数回にわたって,被告Y4が被告Y2からリベートを受領するのに協力した。
イ 被告Y3は,被告Y2から1億4744万1032円という多額のリベートを受領しており,これは被告Y3の被告Y2及び被告Y4の不法行為への関与の度合いの強さを示すものである。
(2) 被告Y3の認識
被告Y3は,上記(1)の行為当時,アルファトロント債及びチャンセリー債が被告中央会の年金資産の運用対象としては相応しくない「危険な外債」であることを認識していた。
(3) これによれば,被告Y3は,アルファトロント債及びチャンセリー債が危険な外債であることを認識しつつ,上記(1)の行為を行ったのであるから,当該行為は,被告Y2及び被告Y4の不法行為に対し,加担ないし幇助したものと評価されるべきである。
《被告Y3の主張》
(1) 被告Y2及び被告Y4の不法行為への加担に対する反論
ア 被告Y3は,被告Y4に対し,被告Y2を紹介したにすぎない。これをもって,被告Y4の不法行為に対する加担・幇助に当たるとはいえない。
イ 被告Y3が被告Y4・被告Y2間の紹介料の授受に関与したことは,被告Y4のチャンセリー債への投資との間に物理的・心理的な因果関係がないから,不法行為への加担や幇助には当たらない。
ウ 被告Y3が被告Y2から受領したのは,紹介料に過ぎず,被告Y2が被告Y4・被告Y2の不法行為に関与していたことを示す事情であるとはいえない。
(2) 被告Y3の認識に対する反論
被告Y3は,チャンセリー債の仕組みを全く知らなかった。そもそも,被告Y3は,被告中央会の年金運用とは無関係であり,被告中央会の年金運用の対象としてチャンセリー債が適格性を有するか否かを判断する立場になく,その能力もなかった。まして,原告らの主張に係る被告Y4の不法行為の発生など全くの予測の範囲外であった。
したがって,被告Y3においては,チャンセリー債の償還不能によって原告らが損害を被ることについて,予見可能性がなかった。
(3) これによれば,被告Y3は,被告Y2や被告Y4の不法行為に加担していないし,原告らの損害発生について予見可能性もなかったから,不法行為責任を負わない。
第3  当裁判所の判断
1  認定事実
前提となる事実,甲18~21(いずれも枝番号を含む,以下同じ。),25~41,44,47,53~86,124,135,136,149,160,167~169,乙A35,乙B5,7,9,11~13,15~18,25~31,乙C21,39,40,43,乙D3,4,乙E1,乙F1,2,乙I2,乙J20~24,乙N3及び乙S7並びに原告X1,被告Y4,被告Y5,被告Y7,被告Y13,被告Y16,被告Y2及び被告Y1の各本人尋問の結果並びに証人G及び証人Hの各証言,掲記の証拠と弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1)  被告中央会の組織体制
ア 被告中央会は,酒販組合(税務署の管轄ごとの酒類小売業者による組織)及び酒販組合連合会(都道府県を区域とする酒販組合の組織)を会員とし,酒税の保全への協力や酒販業者の利益増進を図ることなどを目的とする法人である。
イ 被告中央会には,法令及び定款に基づき,最高意思決定機関として総会(通常総会及び臨時総会)が置かれている。また,役員として理事(23名以内)及び監事(3名以内)が置かれており,理事全員で構成する理事会の決議により,理事のうちから会長(1名),副会長(4~6名),専務理事(1名)及び常務理事(1名)が選任される。そして,会長が会を代表し,業務執行に関する必要な事項は理事会で決議することとされている。
ウ 被告中央会の役員(理事及び監事)は,酒販組合連合会・酒販組合の役員・組合員又はそれ以外の者で酒類販売業に関し学識・経験を有する者のうちから選任することとされていた。実際には,被告中央会の役員の大多数は,全国の小売酒販店を経営する店主のうち,税務署の管轄ごとの組織である酒販組合の理事長に選出され,かつ,都道府県単位の組織である酒販組合連合会の会長として選出された者であった。これらの役員は,全国各地に居住して,年に数回上京するという勤務形態であり,比較的低廉な報酬(年間15~30万円)しか受け取ることがなかった。(以上につき,甲1,乙N3)
エ 被告中央会の事務局には,総務・会計関係を取り扱う部局としての総務部,情報企画・年金共済関係を取り扱う部局としての政策部が設置されていた。そして,政策部の下部組織として,情報企画課,年金共済課が設置されていた。年金共済課は,年金制度の運用に関する企画の立案,年金資産の運用管理,運用委託先の信用度や運用能力の調査等の業務を所管していた。
オ 平成11年当時の被告中央会事務局の組織体制は,別紙1のとおりであるが,平成14年時点においても,総局が総務部と名称変更されたほかは,ほぼ同様の体制であった。
(2)  被告中央会における年金共済事業の概要
ア 被告中央会は,昭和58年4月1日以降,その会員である酒販組合の組合員及びそれに準じる者らの老後の生活の安定のために,国民年金等の公的年金制度を補完する私的年金制度として,年金共済事業を開始した。被告中央会の年金共済事業は,組合法82条1項6号にいう「組合員の福利厚生に関する施設」を法令上の根拠とし,年金共済規程は,「業務の執行,会計の処理その他本会の運営に関し必要な事項は,規約で定める。」とする被告中央会の定款8条に基づき定められた規則であった。
被告中央会の年金共済事業の給付金には,①5年以上の加入期間を経過した加入者が一定の年齢に達することによって受給要件を満たした後に定期的に支払われる長寿年金(又はつなぎ年金),②受給要件を満たした後に受給者の選択により一括払いで支払われる選択一時金,③受給要件を満たす前に死亡等やむを得ない事由により脱退した者(又はその遺族)に支払われる脱退一時金(又は遺族一時金)があり,これらの金額はいずれも年金共済規程で定められていた。
イ 被告中央会は,年金資産を自家運用する権限を有していたが(年金共済規程48条2項),自らが管理運用責任を問われることを避けるため,昭和58年当初から,総幹事会社である三菱信託銀行との間で,加入者管理等を含めた年金資産の管理・運用事務を包括的に受託することを内容とする指定金銭信託契約を締結し,年金の給付や年金資産の管理を委託していた(なお,三菱信託銀行は,平成14年4月ころからは,同系列の日本マスタートラスト信託銀行と共同受託していた。)。
そして,年金資産の運用面に関しては,被告中央会は,さくら投信投資顧問,シュローダー投信投資顧問,三井生命グローバルアセットマネジメント,インベスコ,損保ジャパンアセットマネジメントの5社の投資顧問会社との間で投資一任契約を締結し,その運用を委託していた。具体的には,これらの投資顧問会社は,法律上資金の受入れができないため,被告中央会は,三菱信託銀行との間の指定金銭信託契約に基づき,投資顧問会社ごとに運用額を割り当て,投資顧問会社の運用指図の下,三菱信託銀行において有価証券の受渡し,利息・配当金の受入れ,現物の保管等の資産管理を行うという方法を採っていた。そして,資産運用を委託された投資顧問会社等は,被告中央会の事務局に対し,四半期ごとに運用実績の報告書を送付していた。
被告中央会の年金共済事業は,毎年4月1日から翌年3月31日を事業年度とし,事務局は,毎年6月下旬ころ,三菱信託銀行から財務諸表作成のための運用実績等の資料の送付を受けていた。
また,被告中央会は,平成5年以降,年金資産の運用に関する助言や,投資顧問会社の運用実績の評価を主たる目的として,R&Iとの間でコンサルティング契約を締結し,平成8年には,年金運営に係る包括的な助言業務に関する契約を締結していた。
ウ 被告中央会は,理事会の諮問機関として,各事業分野を担当する4つの委員会を設置しており,年金共済事業関係の委員会として,年金共済規程に基づき,年金委員会が設置されていた。被告中央会の年金資産の運用に関しては,平成9年12月11日の臨時総会決議で改正された施行細則(甲3,甲18の6,7)により,新規運用委託機関の採用については理事会の承認事項とされ,運用委託機関との解約や資産配分率の変更については年金委員会の承認事項であり,理事会の報告事項とされた(施行細則36条)。年金委員会の招集権限は,被告中央会の会長理事のみが有していた。
なお,理事については,組合法及び被告中央会の定款によって,職務の内容・任期・報酬・選任・解任等について規定されていたのに対し,年金委員の地位・権限等については,特に明文規定はなかった。
エ 監事による監査対象は,被告中央会の年金共済事業に限られず,組合員から徴収された賦課金や政治活動資金の使途・収支等に対する監査や中央会が所有する不動産に関する監査なども含んでいた。
被告中央会の事務局は,運用実績に基づき,監事による監査を3か月に一度受ける必要がある旨が規定されていた(施行細則33条)。実際には,被告中央会においては,年金共済事業に関する決算作業が毎年6月下旬に終了した後,三菱信託銀行から送付を受けた財務諸表作成のための資料等を基礎として,7月から9月ころにかけて,年1回,監事による監査が行われていた。
オ 被告中央会の年金共済事業の仕組みは,別紙2のとおりである。
(3)  平成14年当時の年金共済事業の運用状況
ア 被告中央会の年金共済事業は,いわゆるバブル経済の破綻等を契機とする運用収益の減少に加え,加入者の高齢化に伴う年金受給者の増加等といった構造的な要因から,平成6年以降,年金資産の時価評価額が責任準備金(将来年金の給付を予定どおりに行うために当該時点で保有しておかなければならない資産の額)を下回る状況に陥った。入出金額の推移を見ても,平成7年以降は,入金よりも出金が上回る状況となり,平成12年度には,その差が約30億円に達するまでに至った。加入者数についても,平成6年度末(平成7年3月31日)時点では約4万2000人であったのが,中途脱退者の増加と新規加入者の減少により,平成13年度末(平成14年3月31日)には約2万2000人まで大幅に減少した。
被告中央会は,このような状況に対応して,配当率の引下げ等の措置を講じてきたが,平成12年度の年金資産の運用利回りはマイナス11.21%となり,平成13年12月末時点の年金資産の時価評価額(約321億円)は,掛金元本(約332億円)を約11億円も下回る状態に陥った(甲6)。
イ このような状況の下,三菱信託銀行は,平成14年2月ころ,被告中央会に対し,年金資産の掛金元本割れが生じており,年金資産の時価が責任準備金を超えるためには,5年間連続で8%超の利回りが必要となるところ,この数値は現在の運用環境からは非常に困難であるとして,年金共済事業の解散を含めて検討するしかないという見通しを伝えた(甲6,7)。
さらに,三菱信託銀行は,同年4月12日,被告中央会に対し,被告中央会の年金共済事業は,今後さらに財政状況が悪化するリスクが高く,早急に事業の廃止を視野に入れ,今後の方針について検討する必要があると指摘し,その後も,再三に渡り,年金共済事業の廃止を含む具体的な検討をするよう要請した(甲8~10)。
ウ 他方,当時の小売酒販業界においては,平成13年1月に酒販免許制度の距離基準が廃止されるなど,規制緩和が進行していた。これを受け,被告中央会としては,既存の小売酒販業者の利益を守るため,救済措置の実施が喫緊の課題となっていた。その中で,被告Y5を始めとする被告中央会の理事らは,当時,酒販業の規制緩和に対抗する緊急措置法の成立のため,組織として一枚岩になる必要があり,被告中央会の求心力低下を防ぐため,年金共済事業の廃止はどうしても避けたいと考えていた。
そこで,被告Y5を始めとする被告中央会の理事らは,「元本割れの状態で年金制度を廃止すれば,中央会の信頼が失墜するのは確実であり,中央会という組織自体の崩壊につながりかねない」等と年金共済事業の存続を強く主張した。
(4)  被告Y4と被告Y2との結びつき
ア 被告Y3による被告Y2の紹介
被告Y4は,平成14年2月ころ,被告中央会の年金共済事業が,その存続自体を危ぶまれるような状況に陥っていたことから,当時,酒政連の政治顧問をしており,国会議員の秘書をしていたことがあって,幅広い人脈を有していた被告Y3に,投資関係の専門家を紹介するように依頼した。これに対して被告Y3は,被告Y4に対し,ゴルフ仲間の被告Y2を紹介した。
なお,被告Y3が秘書をしていた国会議員は,酒販業の規制緩和に対抗する緊急措置法を立法するために種々の活動を行っていたが,平成12年の国政選挙で落選した。被告Y3は,同議員が落選する前は,酒政連の事務局長を兼任していた被告Y4を通じて,酒政連にパーティー券を購入してもらったり,政治献金をしてもらったりしていた。そして,被告Y3は,同議員の落選後も,酒政連の政治顧問に就任して,酒政連から給料を受け取ることになったほか,私的にも,年上の被告Y4から,しばしば,ゴルフや海外旅行などの遊興費を負担してもらったり,高級クラブやレストランでの飲食を振る舞われたりして,被告Y4に承従する関係にあった。
イ 被告Y2の立場
(ア) 被告Y2は,平成12年ころ,イギリスのインペリアル・コンソリデイテッド社(以下「インペリアル社」という。)が運営する投資ファンドが発行するインペリアル債の紹介業務を始めた。インペリアル債の紹介業務は,インペリアル社の一般的な商品に関する資料を渡され,その内容が理解できれば行うことができ,報酬は出来高制,活動経費は自費負担であった。被告Y2は,インペリアル社やその関連会社の従業員という立場にはなく,いわゆる個人事業主として,インペリアル債の紹介業務を行っていた。
(イ) 被告Y2は,平成13年夏ころ,インペリアル社が主催したパーティーで,南アフリカ出身の公認会計士であり,同社の役員であったI(以下「I」という。)と知り合った。その後,Iは,インペリアル社を辞めて,バハマ国にツンドラ社を設立したが,被告Y2は,Iに誘われ,ツンドラ社が平成13年6月27日にカナダに設立したSPCであるアルファトロント社の発行するアルファトロント債の紹介業務を始めた。
(ウ) アルファトロント債の紹介業務も,インペリアル債の紹介業務と同様に,報酬は出来高制で,活動経費は自費負担であり,被告Y2は,ツンドラ社やその関連会社の従業員という立場にはなく,アルファトロント社の設立及びアルファトロント債の組成にも関与していなかった。
ウ アルファトロント債の説明資料等
(ア) 被告Y2は,ツンドラ社から,英文の私募投信募集要項,日本語で表記された平成13年9月1日付けの「アルファ・トロント・シリーズ社私募投信募集要項」(乙D1。以下「アルファトロント債私募要項」という。),「アルファ・トロント・シリーズ社の説明とファンド概要」と題する説明資料(甲54の2。以下「アルファトロント債説明資料」という。)の交付を受けていた。
(イ) アルファトロント債説明資料には,アルファトロント債の特徴として,概ね次の内容が記載されていた。
①利回りは,18か月満期では年6.25%,36か月満期では年6.75%である,②個人・法人投資家が投資した資金について,SPCは,管理会社であるRMマネジメント社に対して融資を行うが,RMマネジメント社からイギリスの法律事務所に貸し出された融資債権は,自動的にSPCの名義に再登記され,返済金は法律事務所から直接SPCの口座に入金される,③貸付先の法律事務所が敗訴してもI.G.I保険が差額を支払い,法律事務所自体に事故があってもロイズ保険が弁護士賠償責任保険を支払うことになっており,法律事務所に対する融資債権に二重の保険でリスクヘッジがされている,④ファンドのパフォーマンスは,株,債券,為替,商品市場などにおける価格変動には全く依存しない。
(ウ) 他方,アルファトロント債私募要項には,概ね次の内容が記載されていた。
①(円建ての)アルファトロント債を,1口600万円として,10万口まで発行する,②アルファトロント債は,期限前償還をすることができない,③アルファトロント債は,アルファトロント社の事前承認がない限り,第三者に譲渡することができない,④アルファトロント社の支払能力は,弁護士事務所に対する融資事業の市場動向や,為替変動の影響を受ける,⑤保険会社は,融資の填補をしない場合がある。保険の有効性が継続される保証はない,⑥アルファトロント債は無登録証券である。
(エ) 被告Y2は,アルファトロント社の許可を得て,アルファトロント債私募要項の末尾に「Alpha Toronto Series Inc.東京代表事務所 在日代表Y2」などと連絡先を記載したページを付け足し,アルファトロント債説明資料にも,ファンド名称について「Zensyukyoファンド会社」と書き込み,最後に自分の連絡先を記載したページを挿入したが,それ以外の部分には手を加えずにそのまま使用していた。被告Y2は,ツンドラ社から交付を受けたこれらの書面に基づいて,アルファトロント債の説明を行っていた。
(5)  被告Y2によるアルファトロント債の説明等
ア 平成14年2月ころの説明
被告Y2は,平成14年2月ころ,被告Y3も同席の下,被告Y4及び政策部年金共済課の係長であったJ(以下「J」という。)に対し,15~30分間程度,持参したアルファトロント債私募要項を用いながら,アルファトロント債の説明をし,同債への投資を勧めた。しかし,被告Y4は,アルファトロント債はハイリスク・ハイリターンなものだという印象を受け,また,同債への投資は,被告中央会が運用責任を問われる自家運用になるとして,被告Y2の勧誘を断った。
イ 平成14年5月ころの説明とFの紹介
(ア) 被告Y2は,平成14年5月ころ,被告Y4から,アルファトロント債に関する説明を求められ,被告中央会の事務所を来訪した。被告Y2は,Jのほか,政策部長であったH(以下「H」という。)に対し,自らが扱っている商品を紹介した雑誌記事を渡すとともに,再びアルファトロント債の内容を説明した。
(イ) そのころ,被告Y2は,被告中央会以外の投資家にもアルファトロント債への投資を勧誘しており,同年6月ころには,メリルリンチに勤務していた知人のFに対し,メリルリンチの金融商品としてアルファトロント債を販売してもらうよう依頼していた。Fは,アルファトロント債はそれなりに魅力のある商品であると考え,メリルリンチの社内で取扱いができるかどうかを検討した。しかし,アルファトロント債が有価証券でなく証書貸付の形式を採っていたことや,投資規模が約20億円と比較的小さかったことなどから,最終的には,メリルリンチの金融商品として販売することは見送った。
(ウ) その後,被告Y2は,Fに対し,被告中央会にオルタナティブ商品を紹介することができないかと依頼した。Fは,被告中央会がメリルリンチの金融商品を投資対象とするかもしれないと考え,同年6月から7月にかけて,被告Y2とともに被告中央会に出向き,被告Y4やJらに対し,オルタナティブ運用やメリルリンチが取り扱っている仕組み債などについて説明した。
ウ 平成14年8月ころの説明
(ア) 被告Y4は,被告中央会の年金資産の回復を図る運用方法を模索するために年金懇談会を立ち上げたことに合わせて,高利回りをうたっていたアルファトロント債について再度説明を受けようと考え,平成14年8月ころ,被告Y2を被告中央会の事務所に呼び出した。
(イ) 被告Y2は,アルファトロント債私募要項に加え,アルファトロント債説明資料を持参し,これらの資料に沿って,被告Y4,被告Y7,Jらに対し,約1時間30分に渡り,アルファトロント債の仕組みやリスクについて,概ね次のとおり説明した。
①アルファトロント債は,イギリス国内における損害賠償請求訴訟に必要な裁判費用(敗訴保険の保険料等)の貸付事業に投資するためのファンドである,②投資家から集めた資金は,イギリスにあるインバロ社を通じて,同国内の法律事務所に裁判費用を融資する事業を営んでいる法人に対し投資される。融資対象の裁判の案件は,交通事故,呼吸器系の病気に罹患した炭鉱労働者などである,③炭鉱労働者の損害賠償請求は,イギリス政府がリストを作成しており,確実に支払われる。また,敗訴の場合に備えて保険がかけられている。法律事務所が返済義務を負うので,持ち逃げされる可能性は低い。法律事務所自体が倒産したり,持ち逃げしたりした場合には,弁護士協会でかけている保険により融資金が返済される。SPCやインバロ社の過失により償還ができなくなった場合も,保険金により投資家に元本と利息が払われる,④投資家が受け取る利回りは年6.75%である,⑤資料には,RMマネジメント社とあるが,インバロ社がRMマネジメント社を吸収合併したので,今後はインバロ社を通じて融資を行うことになる。
(ウ) 被告Y4は,上記の説明を受けた際,被告Y2に対して,アルファトロント債は元本保証なのかと質問した。
被告Y2は,これに対し,元本保証という言葉は使えないが,制度上考えられるリスクを何らかの形で保全する「元本確保型」の商品であること,元本が返せなくなる要因として想定できる事態については保険をかけているが,想定されていない事態が起きた場合には元本が償還されない可能性があること,想定されていない事態とはヨーロッパで核戦争が起きたり,大規模な自然災害が起きてイギリスの経済が混乱したような場合だが,そのような事態が起きる可能性は低いなどと説明した。
エ その後の説明と被告Y3に対する口利きの依頼
被告Y2は,平成14年8月以降も,何度か被告中央会に出向き,被告Y4に対し,アルファトロント債について説明した。このころから,被告Y4は,上野のクラブなどで,被告Y2と飲食を共にするようになった。また,被告Y2は,このころ,被告Y3に対し,六本木のレストランで,「この話が決まったら紹介料を払うよ。だからいろいろ頼むよ。」などと言って,被告中央会への口利きを依頼するようになった。
オ アルファトロント債についてのR&Iの評価
被告Y4は,平成14年9月初旬,アルファトロント債を専門家に評価してもらおうと考え,メリルリンチのFのほか,被告中央会とコンサルティング契約を締結していたR&IのCに同席してもらい,改めて,被告Y2からアルファトロント債の説明を受けた。その後,被告Y4から,アルファトロント債に対する意見を求められたCは,「(アルファトロント債は,)評価の対象外です。評価できないものはお勧めできません。」として,否定的な見解を述べた。
(6)  被告Y2による被告Y4への働きかけ
ア 被告Y2は,平成14年9月上旬ころ,被告Y4と虎ノ門のホテルオークラで食事を共にし,被告Y4に対し,ラスベガスにあるビスタコンチネンタルという鉱山会社(以下「ビスタ社」という。)の株式について,インサイダー取引になってしまうので,あまり詳しい話はできないとしたうえ,鉱山の開発が当たったら大化けするかもしれないなどと話して,同社の株式を購入するよう勧めた。
イ 被告Y4は,被告Y2が儲け話で釣ってアルファトロント債を購入させようとしたと受け止めつつも,平成14年10月から11月にかけて,被告Y2の勧めに従い,自己資金200万円を拠出して,被告Y2にビスタ社株式を購入するよう依頼した。このころから,被告Y4は,アルファトロント債への投資に尽力すれば,被告Y2から何らかの見返りが得られるのではないかと期待するようになった。
ウ また,被告Y7及び被告Y3も,被告Y4から,被告Y2の紹介に係るビスタ社株式の購入を勧められ,同株式を購入した。
(7)  被告Y4によるインベスコへの働きかけ
ア 被告中央会は,平成9年1月にインベスコと投資一任契約を締結し,平成14年当時,時価で約38億円の年金資産を同社に運用させていた。しかし,被告中央会が年金資産の運用を委託していた投資顧問会社のうち,インベスコは特に運用成績が悪く,被告中央会の年金委員会では,インベスコとの投資一任契約を解約したらどうかという意見が出されていた(乙A21)。そのため,被告Y4は,インベスコに対して,年金資産をアルファトロント債に変更するよう求めれば,同社は,被告中央会から投資一任契約を解約されることをおそれて,それに従うのではないかと考えるようになった。
そこで,被告Y4は,平成14年9月上旬に被告Y2からビスタ社株式の話を持ちかけられた後,インベスコのDに対し,「イギリスで,訴訟を請け負う弁護士を通じて,訴訟を起こしたい人に訴訟費用を貸し付ける商品がある。いい商品なのでインベスコで扱ってもらえないか」などと言って,インベスコの運用指図権の範囲内でアルファトロント債を購入することを検討できないかと打診するとともに,被告Y2に対し,インベスコに出向いて,アルファトロント債を取り扱ってもらうよう依頼した。
イ 被告Y2は,銀座で会食の場を設け,被告Y4のほか,F,被告Y3とともに,Dに対し,インベスコでアルファトロント債を取り扱うことができないかと打診した。また,被告Y2は,インベスコを5,6回訪問して,Dのほか,インベスコの総務部長,社内弁護士,運用担当部長などに対し,アルファトロント債説明資料等を用いながら,商品の仕組みなどの説明を行った。その後,インベスコとツンドラ社の役員及び弁護士らとの間で,何回かに渡り電話会議が行われるなどした。
ウ その結果,インベスコは,アルファトロント債には,SPCから先の資金の流れが不明確であるなどのリスク要因があることを認識したが,商品のスキームそのものは成立し得るものであって,全く話にならない商品ではないと考え,平成14年9月下旬ころ,アルファトロント債を取り扱うことを決定した。そして,Dは,平成14年9月下旬ころ,被告Y4に対し,インベスコ社内で検討した結果として,同社の運用枠約38億円のうち,バンクローンプロダクト(インベスコの金融商品)を約28億円分購入するのであれば,残りの10億円の枠でアルファトロント債を購入してもよいと回答した。しかし,インベスコとしても,同債の危険性について判断できない部分があったため,同時に,被告中央会に対し,アルファトロント債の購入を決定したのは被告中央会であり,同債の購入に関する責任は被告中央会が負う旨を記載したサイドレター(差入書)の交付を受けることを条件として提示した。
エ 被告Y4は,平成14年9月末,R&IのCに対し,「投資顧問会社にオルタナティブ商品を組み入れた運用方法を提案させたので,R&Iとしてそれを評価してもらいたい。」と依頼した上で,「既に諸般の事情があり,10億円くらいのある商品については採用することが決まっている。この商品の採用は被告中央会の中でもごく一部の人しか知らない。」と告げたが,その商品の内容については何も話さなかった(甲39の5)。
これに対し,Cは,同年10月11日,被告Y4に対し,オルタナティブ商品を選定するに当たっては,①トラックレコードを有すること,②ハイリスクでないこと,③為替リスクがないこと,④流動性があることなどの条件を満たす必要があると説明した(甲39の6)。
オ 被告Y4は,平成14年10月中旬ころ,被告Y7に対し,被告Y2から勧められたアルファトロント債は,投資資金の貸付先が弁護士事務所なので取りっぱぐれがありません,保険もかかっているので大丈夫です,年金資産が掛金元本を回復するには,アルファトロント債に投資するしかありませんなどと言って,アルファトロント債への投資に対する了承を求めた。
被告Y7は,被告Y4のこのような話を信じ,また,被告中央会の年金資産の元本割れを回復した専務理事として評価されたいという思いも手伝って,そのころ,アルファトロント債の内容や危険性について特に調査などをすることなく,被告Y4に対し,アルファトロント債への投資を了承した。
(8)  チャンセリー社の設立
ア ツンドラ社は,インベスコがアルファトロント債に投資するための細かい条件について,インベスコと交渉や打合せをした。その際,投資の条件として,インベスコから,証書による貸付けの形式でなく,有価証券である社債の形式を採る必要がある旨の要望があった。そこで,ツンドラ社は,平成14年10月9日,被告中央会による投資を受け入れる専用のSPCとして,カナダにチャンセリー社を設立し,チャンセリー社が私募債を発行して,インベスコの運用指図権に基づき被告中央会が社債を購入する仕組みが採用されることになった。
イ ツンドラ社は,チャンセリー債の発行に当たり,平成14年11月中旬ころ,「Chancery&Leadenhall Limited Private Placement Memorandum(Series 1 Debentures)December 2002」と題する英文の書面(甲43の2,3。以下「チャンセリー債私募要項」という。)を作成した。
ウ チャンセリー債私募要項には,概ね次の内容が英文で記載されていた。
①チャンセリー社が,その目的を成功裏に実行できるかは,全く保証の限りでない,②チャンセリー社は,2002年(平成14年)10月9日に設立したばかりであり,事業運営歴はない,③チャンセリー債の発行により調達した資金は,チャンセリー社の運営等の経費と,訴訟費用に係る融資債権の取得のために使用される。そのため,チャンセリー社の償還能力は,この融資事業の市場動向によって左右される,④保険会社により提供される保険によっても,償還資金が不足する場合があり,また,保険会社が保険契約を打ち切ることができる場合がある,⑤イギリス国内の経済情勢や為替相場の影響などにより,チャンセリー社が償還原資となる裁判費用融資のための貸付債権を取得できなくなる場合もある,⑥購入予定者は,本投資のメリットやリスクを含め,発行会社及び募集条件に関し,自ら審査し,それに依拠しなければならない。購入予定者は,本投資の判断に当たり,専門家の助言を受け,本投資に関するリスクを十分に査定し,それを引き受ける,⑦購入予定者が法人等の組織の場合,500万カナダドル相当の純資産を有する適格投資家でなければならない。
エ 最終的なチャンセリー債の仕組みは,概ね別紙3のとおりであることが判明している。なお,チャンセリー債には,チャンセリー社からインバロ社を通じた弁護士事務所等への資金の流れや,インバロ社の資金管理状況等を検証する仕組みは組み込まれていなかった。また,チャンセリー社のインバロ社に対する融資債権は,無担保非優先債権であり,チャンセリー債の償還原資となるインバロ社からチャンセリー社への返済可能性は,インバロ社の業務・財産状況によって変化するものであった。そして,インバロ社もチャンセリー債も格付機関の格付は取得していなかった。
(9)  カストディアンの調整
ア インベスコは投資顧問会社であり,資金の受入れを行うことができないため,別途,カストディアンを確保する必要があった。しかし,当時,インベスコが運用指図をする資金を管理していた日本トラストマスター信託銀行は,三菱信託銀行と被告中央会の年金資産の管理・運用事務を共同受託していたため,チャンセリー債のカストディアンを引き受けることを期待しがたい状況にあった。
イ そこで,インベスコのDは,チャンセリー債の保護預りを大和銀行に依頼した。しかし,被告中央会の年金資産が掛金元本割れを起こしており,三菱信託銀行が年金の廃止を勧めている中で,大和銀行が保護預りを引き受けるわけにはいかないとして,その引受けを断られた。被告Y2も,被告Y4の指示を受け,平成14年10月半ばころから,カストディアンを引き受けてもらえる銀行を探した。しかし,外国債券の保護預りをしたことがないことや,被告中央会の年金資産が掛金元本割れを起こしていることなどを理由として,約10行の信託銀行から断られた。
ウ 当時,被告クレディのジュネーブ支店に勤務していた被告Y1は,平成14年10月半ばころ,知人から,被告Y2が外国の金融商品の保護預り先として日本国内に店舗のある外資系信託銀行を探しているとの照会を受けた。しかし,被告クレディは,当時,日本国内に支店を有していなかった。そこで,被告Y1は,被告Y2に対し,被告クレディが日本で保護預り業務を引き受けることはできないとして,別の知人を通じて,フランスのソシエテジェネラル信託銀行を紹介した。
(10)  被告Y4によるリベートの要求
ア 被告Y4は,平成14年10月下旬ころ,被告Y3に対し,チャンセリー債の購入について,被告Y2から紹介料をもらうつもりはないのかと尋ねた。被告Y3は,それ以前に,被告Y2から,「契約が成立したら紹介料を払うから。」と言われていたが,これを被告Y4に伝えると,被告Y4に横取りされてしまうと思い,「分かりません。」と答えた。
イ 被告Y4は,平成14年11月初めころ,被告Y2及び被告Y3とともに上野のクラブに出向き,被告Y2に対し,「俺がファンドを成功させてやる,やってやるよ。」,「昔,日本信託を主幹事に採用したときは,理事達の中には,自分がやっている酒屋を建て替えた人もいたんだよ。」,「今回の話,俺が頑張って決めるからさ。俺には何かないの。」などと言って,チャンセリー債の購入に関するリベートを要求した。
被告Y2は,被告Y4にリベートを渡せば,インベスコを通じた10億円分だけでなく,ほかの投資顧問会社の運用指図権の枠にもチャンセリー債を加えてもらえるかもしれないと考えた。そして,被告Y2が自ら主導するのではなく,被告Y4と被告Y3との間で金銭のやりとりをすれば,リベート授受への関与が弱くなると考え,「Y16君には紹介料を払いますが,Y4さんと私は,直接は関係ないですから,Y4さんには直接払うことはできません。後は,Y4さんとY16君で勝手にやって下さい。」などと言って,被告Y4に直接リベートを支払うことを断った。とはいえ,被告Y2は,被告Y4と被告Y3の関係を知っており,被告Y4が被告Y3を介してリベートを受け取るであろうことは認識していた。その場に同席していた被告Y3も,特に異議を述べることはなかった。
ウ 被告Y4は,そのころ,チャンセリー債の購入額の1%程度のリベートを期待し,チャンセリー債の購入額が増えれば,それに応じてリベートの額も増えると思い,運用可能な年金資産の全額をチャンセリー債に集中投資しようと考えるようになっていた。
そのような中,被告Y4は,被告Y2から,インベスコを通じたチャンセリー債の購入額を20億円に引き上げられないかと打診されて,直ちにこれを承諾し,インベスコのDにその旨を伝えた。しかし,Dからは,「そんなことはできない。10億円が上限で,それ以上はリスクが高い」などとして断られた。被告Y4は,インベスコの10億円を足がかりにして,インベスコ以外にもチャンセリー債を取り扱ってくれる金融機関を見つけようとした。
被告Y4としては,なるべく早く被告中央会にチャンセリー債を購入させて,被告Y2から1億円程度のリベートを受け取ったら,被告中央会を辞めるつもりであった。
(11)  年金共済事業をめぐる検討状況(年金懇談会の開催等)
ア 以上のような,被告Y4や被告Y2らによるチャンセリー債投資の画策と相前後して,被告中央会では,平成14年8月ころ,年金共済事業の維持及び変更等を検討するために,被告中央会の理事,監事,事務局長,被告Y2及び三菱信託銀行やR&Iの担当者等の有識者を集めて意見を聴取する年金懇談会を立ち上げることを決定し,同月9日から同年10月16日までの間,5回にわたる会合を開いた。
イ 年金懇談会及びこの期間に開催された理事会等の出席者は,別紙4のとおりであり,主な議論の内容は,次のとおりであった。
(ア) 平成14年8月9日 第1回年金懇談会(甲13の1)
a 議論の要旨
三菱信託銀行は,平成14年8月9日付けの書面(甲10)をもって,被告中央会に対し,年金共済事業の廃止を視野に入れた具体的な対応に着手するよう要請した。
これに対し,被告Y4及び被告Y7らは,年金共済事業を維持したいと要望し,三菱信託銀行に対し,再度,存続を前提とした将来予測(シミュレーション)を実施するよう求めた。
b 主な発言の要旨
(a) 解散も視野に入れるということは,中央会としての組織存続の問題にも発展する(被告Y4)。
(b) 年金問題は,組合の命取りになる最重要案件だと思っている。理事たちは理解していない。専務になって年金を見ているが,抜本的に考えないといけない時期に来ている。どうしたら制度が存続していけるかを考えなければならない。シミュレーションの前提は存続でなければならない。(被告Y7)
(c) オルタナティブやREIT(Real Estate Investment Trust〔不動産投資信託〕)など,元本割れするものもあるが,これらを組み合わせることでポートフォリオを作り直すというところが解決方法ではないか(メリルリンチF)。
(d) 解散するにしても継続するにしても,最終的には中央会の決定次第となる(三菱信託銀行)。
(イ) 平成14年8月28日 第2回年金懇談会(甲13の2,甲24の4)
a 議論の要旨
三菱信託銀行が,再び被告中央会の年金共済事業のシミュレーションを実施し,それを説明した。
これに対し,被告Y4は,三菱信託銀行のシミュレーションは,運用面の改善というアプローチに欠けていると非難し,その後,年金資産の掛金元本への回復を目標として,新たな運用方法を取り入れ,その運用方法に合わせた制度に変更する方向へと議論が進んだ。その結果,メリルリンチのFに,R&Iと協議した上で,新たな運用方法について提案してもらい,三菱信託銀行がその運用方法に合わせた制度変更案を検討することになった。
b 主な発言の要旨
(a) (三菱信託銀行のシミュレーションでは,)主要4資産(国内外の上場株式及び公社債等の流動性の高い資産)による運用でなく,さらに運用方法を工夫しながら,より高い収益を得ることは考慮されていないのか。銀行としてあまりにも自信のない,責任のないコメントはして欲しくない。(被告Y4)
(b) オルタナティブ運用は,当然ハイリスク・ハイリターンであるが,リスクを低くし分散させることはできる(メリルリンチF)。
(c) 年金制度と中央会組織の存続は両輪である。存続を大前提に考えて議論する。これからは,どれくらい制度配当率を下げて制度継続をしていけるのか,運用も回るのか,許容範囲がどこまでなのかの議論がしたい。(被告Y7)
(d) 従来の4資産ではなく,オルタナティブ投資や不動産など,長期安定的に収益を得られる商品もあるように開いている。三菱の数ある商品の中からそういうものを入れたらどうだろう。(被告Y4)
(e) 総会に出したって理事会に出したって,分かる奴は一人もいやしないんだから,ここで全部決めていかないといけない(被告Y7)。
(f) 先日,7月24日に監査があり,年金の決算書を見たが,直感的に取り付け騒動が起きると思った。それを避けるためには何をするべきかを考えないといけない。制度改正・資金凍結もあり得る。(被告Y16)
(g) 年金資産が掛金元本を回復するような運用をしてもらいたい(被告Y9)。
(h) とりあえずの目標は元本ラインの回復である(被告Y4)。
(i) 慌てて,2,3年で不足金をなくさなくてもよい。20年,30年かかっても結構だ。その時点で,俺たちはいないのだから。(被告Y7)
(ウ) 平成14年9月12日 役員会(甲22の3)
a 議論の要旨
年金共済事業の関係については,年金懇談会での議論を踏まえ,年金共済事業の存続を前提とする方向で,制度変更(給付減額と脱退抑制)と運用方針変更(従来の4資産による運用に加え,オルタナティブ運用の導入)を行うことが報告された。
b 主な発言の要旨
年金の運用状況について酒販通信(被告中央会の機関誌)で報告されていない。年金委員会の対応があまりにも鈍すぎる。扱っている金額が大きいのだから,もっと神経質になって欲しい。(被告Y10)
(エ) 平成14年9月13日 第3回年金懇談会(甲13の3)
a 議論の要旨
メリルリンチのFから,今後3~5年で,被告中央会の年金資産を掛金元本まで回復させるのに必要な利回りは4%台であり,この程度の利回りを得るためには,一つのオルタナティブ商品につきポートフォリオの10%を超えないとの条件を付した上で,年金資産の75%程度をオルタナティブ運用とする必要があると提案された(甲39の3)。
これに対し,R&IのCや三菱信託銀行の担当者は,ハイリスク・ハイリターンのオルタナティブ運用に年金資産の75%も充てることについて反対し,せいぜい10%程度の割合にとどめるべきとの意見を出すなどした(甲79の2,3)。
また,三菱信託銀行の担当者から,メリルリンチの提案は平成14年3月末を基準としたものであるが,同年4月~8月までの運用状況がさらに悪化し,マイナス8.5%程度になっていると報告された。そこで,被告Y9及び被告Y7らは,三菱信託銀行に対し,現時点における年金資産の時価評価額の開示と,それをベースとしたシミュレーションの再実施を要求した。
b 主な発言の要旨
(a) (メリルリンチからオルタナティブ運用の提案を受け,)ヘッジファンド等は非常にマイナスイメージが強い。重要な判断材料として,それまでの実績・他の年金制度の採用状況等がある。(被告Y4)
(b) 世界中にある3000以上のヘッジファンドのうち,メリルリンチで扱っているのは,たった30程度しかない。それくらい,手法・リスク管理能力・実績を精査して判断している。(メリルリンチF)
(c) メリルリンチが提案する仕組み債は,3~5年後以降について4%の利回りが保証されているわけではないのに,満期が20年後となっており,満期前にこれを売却した場合には,実質的にマイナスの利回りとなる。また,仕組み債は,中央会の自家運用を必然的に伴うものとなって問題である。このような資産を75%も組み入れることなど,とてもできない。オルタナティブ運用というのは,文字通り代替であって,年金運用の主役ではない。すべてがオルタナティブ運用というのはあり得ない。日米における年金基金の現状をみても,オルタナティブ商品の全資産に占める割合は10%が目安とされ,違った戦略のオルタナティブ商品に分散投資するのが望ましいとされている。現在の状況の中で,中央会の望んでいるような4%以上の利回りを有し,元本も確保できる商品・戦略は,残念ながら存在しない。そのような基本的な認識が必要である。(R&IC,三菱信託銀行)
(d) 酒販年金は既に破綻状態にあると思う。加入者の皆さんに平等に損をしてもらい,組合もそれなりの代償を払うところまできている。(被告Y16)
(オ) 平成14年10月1日 第4回年金懇談会(甲13の4)
a 議論の要旨
三菱信託銀行から,「酒販年金共済制度のシミュレーション(給付減額を行った場合の財政状況)」と題する書面(甲80の2)が配付され,年金資産の時価評価額が平成14年3月末時点からさらに減少し,同年8月末時点で約280億円となり,元本に対する不足金が約45億円に拡大したことが報告された。三菱信託銀行は,年金共済事業の解散が最善策であるとの提案を示したが,被告Y4,被告Y9及び被告Y7らは,三菱信託銀行の総幹事会社としての努力や誠意が感じられないと憤り,三菱信託銀行に対し,同行の提案による運用面及び制度面の改善案の作成を要求し,次回,年金懇談会としての最終結論を出すこととなった。
b 主な発言の要旨
(a) 三菱信託銀行は,毎年1億円も2億円もフィーをとって,悪くなりましたという報告しかできないのか。この半年間何をやっていたのか。もう少し誠意のある姿勢を示してくれ。(被告Y4)
(b) 今ここで運用責任を言っても始まらない。もうこの制度は破綻している。破綻しているものを維持しようとするから無理がある。ここではっきりと線を引いて,返すものは返さないともっとひどくなる。解散した方が,組合員のためには,損はするがベターだと思う。(被告Y16)
(c) 解散となれば,組合の存続にまで関わってくる。(年金資産の時価が)下がったから解散というのなら,年金制度自体が世の中にあるべき制度ではないということになる。三菱信託銀行からは,早く案を出せといっても,いつまでたっても出てこない。(被告Y7)
(d) 三菱信託銀行には,企業責任としての努力,誠意が全く見受けられない。このようなことで世の中通るのか。中央会の依頼に沿って,金融機関としての誠意を持った対応をお願いする。(被告Y9)
(カ) 平成14年10月16日 第5回年金懇談会(甲13の5)
a 議論の要旨
三菱信託銀行は,平成14年8月末時点の年金資産の時価水準まで責任準備金を減額した上で,実績配当制を導入する制度変更案を提案し,運用方法についても,4資産での運用を堅持しつつ,国内債券を60%以上組み入れ,年利1.7~2.7%程度の運用利回りを目標とする改善案を提案した。また,解散する場合に備え,解散に至るスケジュールを含む詳細な解散手順や必要な手当ても示した。
しかし,被告Y4及び被告Y7らに,運用面に関し,従来の4資産での運用に限られていることに不満を持ち,制度面に関する変更提案も非常にハードランディング志向であると非難した。結局,年金共済事業の存続の可否については,理事会(役員会)及び総会での決定を仰ぐこととなった。
b 主な発言の要旨
(a) 4資産でなく,オルタナティブ商品を取り入れることはできないのか。オルタナティブ商品の組み入れ比率は総資産の10%程度であるなどと言われているが,全く根拠はないと思う。(三菱信託銀行には,)従来の4資産とはコンセプトの異なる新たな運用手法について積極的な提案をいただきたい。ただ,玉石ある中で,過去の実績のない,あるいはハイリスクのものは困る,外国のものであれば,為替リスクの問題あるいは流動性の問題等についても提案してくれと言った。豊富な受託経験を持っている三菱信託からすればたくさん提案してもらえると思っていたから,はっきり言ってがっかりした。(被告Y4)
(b) 私は最初から意見が違う。既に制度は破綻したと考えている。頭を下げるなら少しでも早い方が理解を得られる。制度を維持することはできないと思う。夢を描いても仕方がない。(被告Y16)
(c) 取り付け騒ぎになり,本当に収拾のつかない状況に陥った状況こそが,酒販組合にとっても,三菱信託銀行にとっても最悪の状況なのではないか。大変厳しい状況ではあるが,Y16監事がおっしゃったところを一刻も早くやっていただくしかない。(三菱信託銀行)
(d) 制度存続の可能性をかけて,制度変更あるいは運用方法の改善をして,加入者に理解を求めていくことになると思う。その中で,オルタナティブ商品を含めた運用方法について考えられる余地はないか。(被告Y4)
(e) 元本までどうにか届けば,取り付け騒ぎにならないと思う。5年先,8年先に元本まで回復するという確実な見込みが立てば,12月の総会でも説明できる。(被告Y9)
(f) 三菱信託銀行と我々の目指す山が違う。ソフトランディングの方法も出し,理事会及び総会で決定することになる。(被告Y7)
(g) 監督官庁及び金融機関の多方面にわたって相談し,存続の可能性がゼロなのか結論を出す。最終結論は制度主体である中央会の責任で行わなければならない。(被告Y4)
(キ) 平成14年11月14日 年金委員会(甲14)
a 議論の要旨
被告中央会の年金共済事業の制度面と運用面の両方を変更することにより,年金資産の時価評価額を3~5年で掛金元本まで回復させることを目標に,制度の存続を図ることとなった。
b 主な発言の要旨
(a) 中央会の組織破綻につながる問題なので,短期での破綻は避けなければいけない。その認識に立って,今後3年~5年という期間の中で,徐々に縮小していく道をとらざるを得ないと思う。運用については,大きく組み替えることで乗り切っていきたい。(被告Y4)
(b) 解散するといっても簡単にできるものではない。中央会としては,まずは継続していくということを基本的に考えていかなければならない。継続するためには,(被告Y4の言うような)選択肢でいかなければいけない。(被告Y8)
(c) 頑張って5年間くらいやって,次の人たちがソフトランディングをして上手にやるということ。最低3年,5年のスパンの中で年金問題をソフトランディングして,3年後5年後に,別の人たちに考えてもらわないと。(被告Y7)
(ク) 平成14年11月20日 役員会(甲15,21の3)
a 議論の内容
平成14年12月5日の被告中央会の臨時総会に臨む方針として,今後3~5年で資産状況を回復することを目標として掲げた上で,実績配当制(予定利率を固定するのではなく,配当利率を運用実績に連動させる制度)への移行や,平成15年3月以降の中途脱退の制限及び脱退一時金の支給額減額などを内容とする年金制度の変更と,オルタナティブ商品を組み入れること等により,リスクを分散した資産配分に変更して,3~5年で資産状況の回復を目指した運用とすることが提案され(甲21の3),出席した理事らは,これを了承した。
b 主な発言の要旨
(a) 資産運用だが,保険,貸付信託,国債等に組み替えながら,確実に元本を確保する運用に切り替えていきたい(被告Y4)。
(b) 制度存続がいいのか。ますますマイナス要因が増えるだけではないか。制度存続の可否について,臨時総会に諮るべきではないか。(被告Y10)
(c) 現在,経済情勢が最低の状況にあり,解散の時期が妥当かどうか。3年から5年のスパンを考えて,少しでも元本に近づける努力をしていくべきである。(被告Y7)
(d) リスクは当然あると思うが,年金制度解散ということになると,組合組織の存続にもつながる話になる。合理化して様子を見ることも大事だ。(被告Y11)
(ケ) 平成14年12月4日 役員会(甲16)
a 議論の内容
当時,被告中央会にとって政治的な懸案事項であった,酒販業の規制緩和に対抗する緊急措置法案の進捗状況について報告され,主に,与野党の国会議員への働きかけ等の方針に関して議論された。年金共済事業については,平成13年3月末時点の財政状態等についての監査報告がされたほかは,特に議論の進展はなかった。
b 主な発言の要旨
(a) 年金制度の運営については,長期的な対応を考えなければならない。制度の解散は,経済情勢が悪いときに行うべきではない。(被告Y7)
(b) 考えが甘すぎるのではないか。2.5%の制度配当率の維持はとても期待できない。加入者に対する責任として,情報開示等を含めて厳しく対応しなければならない。(被告Y10)
(c) 加入者に対して,制度を維持するにはこの利回りが妥当だということを示せばいい。制度を維持することを検討していくことが必要である。(被告Y5)
(コ) 平成14年12月5日 臨時総会(乙A9)
平成14年11月20日の役員会で了承された議案が,臨時総会においても承認された。
ウ 被告Y4及び被告Y2は,前記(7)のとおり,既に平成14年9月ころから,インベスコを通じてアルファトロント債やチャンセリー債に投資する計画を着々と進め,被告Y7も,同年10月中旬ころ,その件を了承していた。ところが,被告Y4,被告Y7及び被告Y2は,出席した年金懇談会及び理事会等において,そのことを一切話題にしなかった。そのために,オルタナティブ運用として,具体的にアルファトロント債やチャンセリー債に投資することに関しては,被告中央会の年金懇談会及び理事会等で議題とされたことは一切なく,もとより承認されたこともなかった。
(12)  インベスコを通じた計画の頓挫と被告クレディの登場
ア ところで,インベスコのDは,前記(7)のとおり,チャンセリー債への投資計画を進めていたが,平成14年11月下旬ころ,成績不振を理由にインベスコを解雇されることになり,同年12月1日ころ,被告Y4及び被告Y2に対し,インベスコの指図運用枠を使ったチャンセリー債の購入が困難となった旨を伝えた。その結果,インベスコの運用指図権の枠内でチャンセリー債に投資する計画は頓挫した。
被告Y2は,これを聞いて,何とかして被告中央会にチャンセリー債を購入させる方法を見つけようとした。そして,被告クレディであれば,日本国内に店舗のある外資系信託銀行という条件は満たさないものの,チャンセリー債の購入と保護預りを引き受けてもらえるかもしれないと考え,被告Y4に対し,被告クレディのジュネーブ支店なら被告中央会のためにチャンセリー債の購入を取り扱うかもしれないと述べた。
被告Y4は,インベスコの10億円を足がかりにして,インベスコ以外にもチャンセリー債を取り扱ってくれる金融機関を見つけようとしていたことから,被告Y2に対し,被告クレディと交渉するよう求めた。
イ その一方で,被告Y4は,インベスコがチャンセリー債を取り扱わない以上,このままインベスコと投資一任契約を続ける意味はないと考え,平成14年12月9日付けで,インベスコに対し,投資一任契約の解約を通知した(甲20の4)。その結果,インベスコの運用指図権に係る約38億円もチャンセリー債への投資に回すことが可能になった。
ウ 被告Y2は,同月上旬ころ,ツンドラ社のIから,被告中央会がチャンセリー債を購入した場合の被告Y2の報酬が,購入額の6%であることを伝えられた。
エ 被告Y2は,そのころ,改めて被告Y1に連絡を取り,被告クレディが被告中央会名義の口座を開設して,被告中央会のためにチャンセリー債を購入(以下「代行購入」という。)し,債券を現物で保護預りすることができないかと打診した。
オ 被告Y1は,被告Y2に対し,チャンセリー債を被告クレディで取り扱うに当たって,ジュネーブにある被告クレディのリーガルアンドコンプライアンス部門(以下「コンプライアンス部門」という。)における審査にかけるために目論見書に類する資料を送付するよう依頼し,被告Y2から,チャンセリー債私募要項の送付を受けた。
被告クレディのコンプライアンス部門における審査は,被告クレディが,チャンセリー債私募要項に基づき,チャンセリー債の代行購入と保護預りをすることが可能かどうかという観点から実施された。なお,被告クレディが,顧客との間で,投資一任契約(被告クレディでは,これを「Discretionary Mandate Agreement」と呼んでいた。)を締結する場合には,被告クレディの運用責任の観点から,顧客に生じ得るリスク等の検討も行うこととされていたが,そのような検討は,コンプライアンス部門とは別の部署(アセットマネジメント部門)が行っていた。
カ 被告Y1は,平成14年12月中旬ころ,コンプライアンス部門から,チャンセリー債を取り扱うことができる旨の了解を得た。そこで,被告Y2に対し,被告クレディの審査が通り,被告中央会のためにチャンセリー債の代行購入と保護預りをすることができる旨を伝え,被告Y1が持参する書類(口座開設や契約締結に関する書類)や,被告中央会の方で用意しておくべき書類(登記簿謄本,サイン登録に必要な代表者のパスポート等)について説明した。しかし,その後,被告Y2から,被告中央会の代表者である被告Y5がパスポートを所持していない旨の連絡があった。そこで,被告Y1は,被告Y2に対し,代表者のサイン登録に代えて,被告中央会の代表印及びその印鑑証明書を用意するよう連絡した。
(13)  チャンセリー債購入の意思決定
ア 被告Y2は,平成14年12月中旬ころ,被告クレディから,チャンセリー債の代行購入と保護預りをすることの承諾を得て,被告Y4に,「被告クレディが扱ってくれることになりました。クレディなら,いくらでも大丈夫ですよ」と伝えた。
イ 被告中央会では,平成14年11月20日の役員会及び同年12月5日の臨時総会において,実績配当制への移行や,平成15年3月以降の中途脱退の制限及び脱退一時金の支給額減額などの制度変更をすることが決議されていた。しかし,これらの制度変更については,平成15年2月21日までの周知期間が設けられており,その期間内に多数の加入者の駆込み脱退が予想された。その場合,最大100億円程度の年金資産の流出が見込まれていたことから,被告Y4は,総務部長のGと政策部長のHに指示して,別紙5のとおり,投資顧問会社との投資一任契約を順次解約し,運用資産を現金化し始めた。被告Y4は,年金給付のために必要な資金等も控除すると,チャンセリー債に投資できるのは,最終的には140~150億円程度になると見込んでいたが,差し当たり,インベスコの運用指図権に係る約38億円をチャンセリー債への投資に回すこととした。
ウ 被告Y4は,被告Y7に,チャンセリー債を被告クレディが引き受けてくれそうだと伝えた。被告Y7も,チャンセリー債への投資額は100億円以上になるであろうと認識していたが,これに異を唱えることはなかった。
エ 被告Y4は,平成14年12月18日,今後の被告中央会の年金資産の運用について協議するために,三菱信託銀行のK(以下「K」という。)と面談した際,Kに対し,三菱信託の運用部分を現金化し,インベスコに運用委託している約38億円も解約して,被告クレディを通じてオルタナティブ運用を行うと述べた。Kは,「(被告クレディを通じてする投資は)自家運用になって,被告中央会が運用責任を問われるので,問題です」と警告したが,被告Y4は,これを押し切り,Kに対し,年末までにインベスコで運用していた資金を被告クレディに送金するよう指示した。そして,被告Y4は,被告Y2に対し,「金額が増えるからな。35億円くらいは行くよ。」と伝えた。
(14)  被告クレディとの「Trust Agreement」の締結
ア 被告Y1の来日
(ア) 被告Y2は,被告Y1に対し,被告中央会がチャンセリー債への投資を急いでいるので,契約締結のための書類を揃えて,すぐにでも日本に来て欲しいと要請した。
(イ) そこで,被告Y1は,平成14年12月20日,「Trust Agreement」と題する英文の契約書(乙B1)及び「Important Subscriber Information」と題する英文の書面(甲21の5,乙B6。以下「引受承諾書」という。)を持参して来日し,被告Y2とともに,被告中央会の事務所を訪れた。
(ウ) 被告Y4は,被告Y1及び被告Y2を,被告中央会の会長室に招き入れた。被告Y1は,その場に同席した三菱信託銀行のKに対し,被告クレディがカストディ(債券の保管管理)をさせてもらうことになったと述べた。被告Y1は,被告中央会がチャンセリー債を年金資産の運用対象とすることを知っていた。
(エ) Kは,被告Y4に対し,被告中央会が年金資産の自家運用をできるからといって,信託銀行を使わないのは,年金の性格上問題がある旨述べた。しかし,被告Y4は,「とやかく言うな。一刻も早く手続を進めろ。」などと言って,Kを退席させた。
イ 「Trust Agreement」及び引受承諾書の記載内容
被告クレディが作成し,被告Y1が持参した「Trust Agreement」には,概要,次のとおり記載されていた。
①被告中央会は,被告クレディに対し,チャンセリー債を被告中央会の勘定で引き受けるように指示し,被告クレディは被告中央会のためにチャンセリー債の購入とその保管の委託を受けるが,チャンセリー債の購入は被告中央会の計算で行われ,その危険も被告中央会が負担する,②被告中央会は,チャンセリー債のリスクを理解したことを確認する,③被告中央会は,被告クレディに対し,チャンセリー社が発行する文書を受領し,目を通したことを保証する,④被告中央会が,被告クレディに対し,適時に指示をしなかった場合には,被告クレディは,独自の判断で被告中央会の利益を守るための行為をする権利を有するが,その義務はない,⑤本契約を原因として被告中央会に発生する可能性のあるリスクと結果は,すべて被告中央会の負担とする,⑥本契約に起因する紛争は,チューリッヒ又は契約関係が存在する被告クレディの営業所を管轄する裁判所の専属的管轄に属すること等を合意する。
また,引受承諾書には,「お客様はチャンセリー債のご購入の申込みをされました。」という趣旨の文言が英文で記載されていた。
ウ 被告Y1による説明
被告Y1は,同日,被告Y4に対し,「Trust Agreement」及び引受承諾書の内容を説明しようとしたが,被告Y4は,「いいから,分かっているから,早くやっちゃおうよ。」と言って,その説明を遮り,チャンセリー債の購入については,「機関決定されている。国税庁からもOKが出たし,顧問弁護士も了承している。」などと述べて,契約の締結を急いだ。
なお,被告Y1は,「Trust Agreement」及び引受承諾書を,事前に被告Y4や被告中央会宛に送付していなかった。また,来日の際にも,これらの書面の和訳及び写しを持参しなかった。さらに,「Trust Agreement」の原本を被告中央会に交付することなく持ち帰った。
被告Y4も,チャンセリー債の購入が後に問題となった場合に備え,チャンセリー債に関する資料はできるだけ残さない方がよいと考え,被告Y1に対し,敢えてこれらの書面の和訳及び写しの交付を要求しなかった。
エ 被告Y7による了承
被告Y4は,被告中央会の事務所から,同日,旭川にいた被告Y7に電話をし,「被告クレディの人たちが今,被告中央会の事務所に集まって契約をすることになっている。」,「購入することになっているファンドの規模があまり大きくないので早く契約をしないと買えなくなる。」,「総会でオルタナティブ運用をやるということで承認を得ているから問題ない。」などと言って,被告Y7から,その日に被告クレディと契約を締結することの了承を取り付けた。被告Y7は,チャンセリー債の購入については,被告Y4が事前に会長理事である被告Y5の了承を得ているものと考えていたが,被告Y5に対し,それを直接確認することはなかった。
オ 「Trust Agreement」への押印
被告Y4は,同日,総務部長のGに指示して,同人が総務部経理課の金庫内に保管していた被告中央会の代表印を「Trust Agreement」と引受承諾書に押印させ,事前に用意していた代表印の印鑑証明書(乙B3)を被告Y1に交付した。
被告中央会においては,事務局の総務部長が,銀行印や実印の管理,金融機関に対する送金依頼等の事務一切を掌理していた。もっとも,総務部長は,原則として,被告中央会の理事会等に出席しなかったために,理事会等における決定は,事務局長である被告Y4を通じて伝えられた。今回も,総務部長のGは,事務局長である被告Y4の指示に基づき,具体的な送金等の事務手続を執り行った。
カ 取引担当者のサイン登録
被告Y1は,被告Y2に対し,チャンセリー債の購入等に係る事務手続に当たり,被告中央会の取引担当者のサイン登録をする場合には,その者のパスポートも用意して欲しいと伝えていた。被告Y4は,取引担当者としては,本来は被告Y7が適当であるが,この場に同席していないため,差し当たり,自分がサイン登録をすると言って,被告Y1に対し,パスポートの写しを手渡すとともに,被告中央会の取引担当者としてのサイン登録をした。
キ 被告クレディの署名
被告Y1は,同日すぎころ,「Trust Agreement」に「DEC 31, 2002」と記載し,速達便で被告クレディに送付し,被告クレディは,同月31日までに「Trust Agreement」に署名をした。
ク 「Trust Agreement」の差替えと被告Y7のサイン登録
(ア) 被告Y1は,平成15年1月,被告クレディ内部の契約書式が改訂されたことに伴い,平成14年12月付けの「Trust Agreement」の差替え分として,「Trust Agreement」と題する別の契約書(乙B2)を被告中央会の事務所に届け,被告Y4及びGに対し,契約書式の改訂に伴い,書面の差替えが必要となった旨説明した。これを受けて,被告Y4は,総務部長のGに指示して,新たな「Trust Agreement」に被告中央会の代表印を押印させた。
(イ) その後,被告Y1は,被告Y5その他の被告中央会理事らの了承を得ることなく,新たな「Trust Agreement」の「クライアント」の署名欄に,手書きで「Y5」と書き入れた。なお,平成14年12月付けの「Trust Agreement」と新たな「Trust Agreement」の契約内容は同一であった(以下,両者を区別することなく,「Trust Agreement」という。)。
(ウ) また,そのころ,被告中央会の取引担当者のサイン登録が,被告Y4から,被告Y7に変更された。被告Y1は,被告Y7のパスポートの写しの交付を受け,それを被告クレディのジュネーブ支店に送付した。
(15)  三菱信託銀行による忠告
ア 三菱信託銀行の担当者は,平成14年12月20日以降も,複数回に渡り,被告中央会に対し,「(カストディアンにすぎない被告クレディを通じてオルタナティブ商品を購入することは)自家運用になって,(被告中央会が)運用責任を問われることになる。」などと忠告した。
イ また,三菱信託銀行のKは,平成14年12月27日,被告Y4に対し,被告中央会がインベスコの運用枠について特定金銭信託契約を解除し,その資金をオルタナティブ商品で自家運用するのであれば,主務官庁へ相談・報告すべきこと,インベスコの運用枠については,今後,自家運用分の資産として別途管理していく必要があり,被告中央会側で運用収益及び時価資産額の把握等を行ってもらう必要がある旨の文書(甲38の14)を交付した。
ウ これに対し,被告Y4は,オルタナティブ商品による自家運用については,国税庁に相談済みであると回答した。
(16)  チャンセリー債の購入
ア 「Trust Agreement」に基づき,平成14年12月30日,被告クレディのジュネーブ支店にあるプライベートバンキング部門に被告中央会の口座が開設され,Gは,被告Y4の指示に基づいて,同口座に,次のとおり送金した。
(ア) 平成14年12月30日 35億円
(イ) 平成15年3月3日 64億8448万円
(ウ) 同年4月22日 44億9533万円
(エ) 合計 144億7981万円
イ 被告クレディは,被告Y4の指示により被告Y1が作成した債券購入試算(乙C1,2。チャンセリー債の購入にかかる諸費用を算出した上で,被告中央会の送金額の範囲内で購入可能な金額を算出した明細書をいう。)に基づき,次のとおりチャンセリー債を購入した(甲21の12,14,甲148)。
(ア) 平成15年1月7日
平成16年6月30日償還予定 20億円
平成17年12月31日償還予定 14億7000万円
(イ) 平成15年3月12日
平成16年8月31日償還予定 15億円
同年10月31日償還予定 15億円
同年12月31日償還予定 15億円
平成17年2月28日償還予定 19億5000万円
(ウ) 平成15年5月2日
平成16年10月31日償還予定 44億7000万円
(エ) 合計 143億9000万円
ウ 平成15年3月末の被告中央会の年金資産の時価評価額は185億4410万9036円であり,同時点を基準とすると,被告中央会の年金資産の約78%がチャンセリー債の購入に充てられたこととなった。
エ 被告中央会は,被告クレディに対し,チャンセリー債の代行購入と保管に係る手数料として,次のとおり支払った。
(ア) 購入手数料 3597万5000円
(イ) 保管手数料 7551万7227円
(ウ) 合計 1億1149万2227円
これらの金額は,投資一任契約の場合と異なり,投資の結果によって増減しない定額の金額であった。被告中央会作成の「損益計算書科目説明書」(甲51の5)においても,被告クレディに対して支払った手数料は,他の投資一任業者又は信託銀行に対する手数料科目(「投資顧問料」又は「信託報酬」)とは異なる「債券購入手数料」又は「債券保護預り手数料」科目として計上されていた。
(17)  被告Y2の報酬及び被告Y4,被告Y3,被告Y7のリベート
ア 被告Y2は,平成15年5月上旬までに,被告中央会がツンドラ社からチャンセリー債を購入したことについて,合計8億6340万円(チャンセリー債額面の6%)の報酬の支払を受けた。
イ 被告Y2は,平成14年12月末日ころ,被告Y3に対し,被告中央会が購入したチャンセリー債の額面の2%を紹介料として支払う旨を述べた。その後,被告Y3に対する紹介料支払の旨を知った被告Y4は,被告Y3に対し,「Y16が紹介料をもらうのはおかしいだろう。俺がやったんだから,俺のおかげだ。いくらもらうんだ。」などといって,被告Y3が受領したリベートを自己に渡すよう求めた。
被告Y3は,全額を被告Y4に横取りされるのは惜しいと思い,「契約額の1%です。」と嘘をつき,被告Y2に対し,「Y4さんには,いくら紹介料をもらうか言わないでください。」と口止めを依頼した。被告Y2はこれを了解した。
ウ その後,被告Y2は,被告Y3に対し,「(リベートを)日本で渡すと税金がかかるから,Y16も香港に口座を作れよ。」などと述べ,それを聞きつけた被告Y4やその愛人らとともに,平成15年1月11日,香港に渡航し,HSBC(Hongkong Shanghai Banking Corporation〔香港上海銀行〕)において,被告Y3と被告Y4の口座を開設した。
その上で,被告Y2は,同人が受け取った報酬のうち一部(チャンセリー債額面の2%)を被告Y3の口座に振り込み,被告Y3の口座から被告Y4の口座に,うちチャンセリー債額面の1%に相当する金額を振り替えた。
被告Y2は,その後も,被告中央会がチャンセリー債を購入する都度,ツンドラ社から報酬の支払を受け,被告Y3の口座に送金した。
エ 結局,被告Y4は,平成15年5月までの間に,被告Y3を介して,被告Y2から,本件の投資にかかるリベートとして合計1億3842万1468円を受け取り(乙B20),これを遊興費や生活費等に充てて費消した。
また,被告Y3も,平成15年5月までの間に,被告Y2から,紹介料として合計1億4747万8532円を受け取った(乙B20)。なお,被告Y3は,平成19年4月23日,そのうち1500万円を被告中央会に返還した(乙E2)。
被告Y7も,平成15年7月ころまでに,被告Y4を通じて,700万円を受領したが,これはチャンセリー債のリベートであり,脱税することにもなると思い直し,同年8月ころ,被告Y4にすべて返還した。
(18)  年金委員会の中止と通常総会の開催
ア ところで,平成15年4月ころ,国会では,被告中央会の強い要請を受け,「酒類小売業者の経営の改善等に関する緊急措置法案」等が審議中であった。同法案は,同月2日,衆議院財務金融委員会で可決され,次いで参議院財政金融委員会で審議されることとなった。
イ 被告中央会においては,同月3日,役員会が開催された。被告Y4は,同日の役員会において,被告Y10から,年金共済事業に関する報告を求められると,既に,被告クレディに対し,チャンセリー債の購入資金として,約100億円にも上る巨額の資金を送金していたのにもかかわらず,チャンセリー債や被告クレディの名称については一切報告せず,「(今後の資産運用について,)市場リスクの高い株等から国債,地方債,保険債券等,元本に限りない保証のある運用に随時,切り替えを行っている。」という説明のみを行った。(甲115)
この当時,被告中央会の理事らの関心は,専ら上記緊急措置法案の成否にあり,被告Y4の上記説明に対し,特に疑問を呈する者はいなかった。
ウ その後,被告Y5は,同月9日,国会での陳情活動を強化するため,当座,同月18日までに予定されていた年金委員会を含む被告中央会の全委員会の開催を中止する旨を通知した(乙A31~34)。そして,同年5月22日,被告中央会の通常総会が開催されたが,年金委員会が中止されたこともあって,年金資産の運用に関しては,同年4月3日の役員会における被告Y4の説明を基に,「内外の株式を中心とする市場リスクの高いものから国債・地方債・保険債券など元本を毀損するリスクの低いものにシフトし,低金利ではあるが安定的に収益が期待できるものとなっている。」旨の答弁がされるにとどまった(甲25の4)。
(19)  被告Y4の退職
被告Y4は,平成15年5月ころから,被告中央会の事務局に出勤しなくなった。その後,被告Y4は,被告Y7を除く被告中央会の役員に対し,チャンセリー債や被告クレディとの契約について説明したり,関係する資料等を渡したり,被告中央会の他の職員にその後の事務を引き継いだりすることもなく,同年7月31日,1100万円余りの退職金を受け取って,被告中央会を退職した。
(20)  チャンセリー債の償還期限延長とウエストネバダ債への投資
ア 被告Y7は,平成15年5月から6月ころ,被告Y4から,償還予定のチャンセリー債の償還期限を延長して,他のチャンセリー債と償還期限を揃えれば,さらに利息が多く入ってくるなどと聞いた。
イ そこで,被告Y7は,平成15年8月ころ,償還期限が平成16年8月31日から平成17年2月28日までの間のチャンセリー債の償還期限を平成18年2月28日に,償還期限が平成16年10月31日のチャンセリー債の償還期限を平成18年4月30日に,それぞれ延長する書面に署名をした(甲21の18の1,2)。その際,4本の債券が1本の債券にまとめられた(甲44の8,10,11)。
ウ その後被告中央会は,チャンセリー社から,利息等として,次のとおりの支払を受けた。
(ア) 平成15年9月3日 1億7566万8750円
(イ) 平成16年3月1日 4億3537万5000円
(ウ) 同年4月30日 3億0172万5000円
(エ) 同年11月1日 4500万円
(オ) 同年12月22日 5000万円
(カ) 合計 10億0776万8750円
エ 被告Y7は,チャンセリー債の利息金をさらに利殖するため,平成16年2月ころ,総務部長のGに対し,被告クレディを通じて,同利息金を再運用するよう指示した。Gから連絡を受けた被告Y2は,被告Y7に対し,ビスタ社の関連会社であるウエストネバダ・プレシャスメタルズという鉱山会社(以下「ウエストネバダ社」という。)に対する貸付け(以下「ウエストネバダ債」という。)を提案した。被告Y7は,E(理事)及び被告Y8と協議し,ウエストネバダ債に投資することを決め,平成16年2月下旬ころ,同契約書面に署名した(甲31の2)。
その後,被告Y1は,被告中央会の送金指示書に基づき,平成16年2月27日と同年4月30日の2回に渡り,上記利息のうち合計7億円を,ウエストネバダ社の口座に送金した(甲59の2の1~4)。ウエストネバダ債に対する投資は,被告中央会の理事会,年金委員会及び総会のいずれの承認も得ないものであった。
オ ウエストネバダ社に対する貸付けは,平成17年6月30日に返済されることになっていたが,期限が到来しても,返済されることはなかった。
(21)  被告Y1によるチャンセリー債の説明資料の作成と被告Y7による確認文書の送付
ア 総務部長のGは,平成15年8月28日に開催される年金委員会において,平成14年度の年金財政の決算報告を行うことになっていた。しかし,被告Y4は,同年7月に既に退職しており,チャンセリー債に関する引継ぎもなかったため,Gは,年金委員会において説明するために,被告Y1に対し,チャンセリー債の説明資料の送付を求めた。
イ 被告Y1は,Gからの依頼を受けて,平成15年8月25日,独断で「Chancery&Leadenhall Ltd.債のリスクについて」と題する説明資料(甲21の17)を作成し,これを被告中央会の事務局に送付した。
ウ 上記説明資料には,概要,次のとおり記載されていた。
(ア) 前書き
①ここでまとめたものは,クレディ・スイスから見た当該債券のリスクです,②当該債券のリスクについては,組成,販売主体であるチャンセリー社サイドから委細ご説明を受けることをお勧めします。
(イ) リスク内容
①償還日以前の売却ができず流動性がないこと,②法律事務所の倒産の可能性があるが,法律事務所の倒産については法律事務所が強制加入を義務付けられているロイズの保険によって一定程度カバーされていること,③保険会社の倒産の可能性があるが,再保険により一定程度カバーされていること,④勝訴率の低下の問題があること,⑤ローン市場のマーケット規模の問題があること
(ウ) その他
①チャンセリー社が日本の地方銀行と販売提携作業中であること,②格付け取得が検討されていること
エ 平成15年8月28日に開催された年金委員会において,平成14年度の決算報告の準備のため,年金資産の現状報告がされた。その報告において,政策部長のH及び総務部長のGは,被告中央会の年金資産のうち約140億円が,被告クレディに回され,外国債券の購入に充てられた旨の報告をした。
次いで,被告Y7が,当該債券が私募債であること,利回りが年6.75%であること,投資資金はイギリスの法律事務所に裁判費用として貸し付けられること,ロイズの保険がかけられ,元本が保証されていること,途中解約をしてもペナルティがないことなどを説明した。
オ 被告Y7を除く理事及び年金委員らは,このとき初めて,被告中央会の年金資産が被告クレディにおいて運用されていることを知った。しかし,チャンセリー債という名称は,未だ報告されないままだった。
カ 被告Y7は,被告Y1の求めに応じ,平成15年10月31日,被告中央会が被告クレディにチャンセリー社の発行する債券を数回に分けて引き受けるように指示したこと,当該債券の実質的な買主は被告中央会であり,被告クレディはカストディアンであることを確認する旨の英文の文書(甲43の1~3,乙B19)に署名し,これを被告クレディに送付した。その際,被告Y7は,被告Y1に対し,上記文書につき,何ら質問することはなかったし,異議を唱えることもなかった。
(22)  年金共済事業の停止決議と被告Y2による説明
ア 被告中央会は,平成15年12月5日,臨時総会を開き,年金共済事業を停止することを可決した(甲110の1,2)。その決議に当たり,被告Y7は,「加入者から預かった大事な資金を株で運用することはリスクを伴うので,金融機関等と折衝を重ねた結果,いい投資先を見つけたので,全部の資金を預けている状況である。年間6.75%という高配当で運用しているので,3年間で約20億円利益が出てくるのではと考えている。」などと答弁した。
なお,この時点では,チャンセリー債のうち20億円が平成16年6月30日に償還される予定になっており,その資金により年金共済事業を継続することができる可能性もあったため,被告中央会の年金共済事業を廃止して,加入者に掛金を返還して清算する決定まではされなかった。
イ 被告Y2は,平成16年1月ころ,被告中央会の理事らから,被告クレディを通じた投資についての説明するよう求められた。そこで,被告Y2は,同月29日,「英国訴訟費用に関わるローン債権商品」と題する書面(甲102の2)を作成し,被告中央会に送付した。
ウ 上記書面には,概要,次のとおり記載されていた。
(ア) 重要点の整理
①本商品のリスクとしては,既に法律事務所に対し融資された債権は,確実に元本と年17.9%の金利が付されて返済されるが,新規融資については,訴訟案件の減少などにより実行できない場合がある。その場合,本商品については,満期前に償還して,元本とその時点における金利を支払い,ファンドを閉鎖することになる,②本商品を保護預りしているのは,プライベートバンクとしては世界最大の銀行である被告クレディであり,その厳しい内部審査を経て,顧客に代わって買付けや保護預りができるようになった。被告クレディにチャンセリー債を「扱っていただける」こと自体が,何よりの評価である。
(イ) 投資家(SPC)から見た融資の回収
①法律事務所が勝訴した場合には,相手方の保険会社から元本・金利が支払われ,敗訴した場合にはI.G.I保険が元本・金利を支払うことになっている。つまり,勝訴した場合にも敗訴した場合にも保険によって支払がカバーされる,②法律事務所が倒産した場合にも,業界が加入するロイズ保険が100万ポンドの保証を行う。
(ウ) 契約関係の見取図
契約関係の見取図には,チャンセリー社が法律事務所に対して直接の貸付債権を有している旨の記載があった。
エ 被告Y2は,平成16年3月4日に開催された年金委員会に出席し,チャンセリー債について,概ね次のとおり説明した(甲113)。
①(融資債権には)保険が掛かっており,どんな結果が出ようと最終的には元本と金利は返ってくる,②年度末くらいには,チャンセリー債に格付けがつく。もし格付けがつくと人気が出て,利回りは1%程度に下がってしまう。被告中央会は,非常によい時期に購入したと認識して欲しい,③被告クレディは,プライベートバンキング部門では世界1位の銀行であり,被告中央会はそこに口座を持っているということを認識して欲しい。被告クレディがチャンセリー債を扱うかどうかについては,調査員が何度も調査をした上で,厳しい選別をしているはずである,④被告クレディに支払う保管料には,チャンセリー債について何か問題が起こったときに,被告クレディが責任を持つという意味がある。
オ なお,被告Y2は,平成16年2月ころ,インベスコを退社したDとともに,基本的にチャンセリー債と同様のスキームを持つ仕組み債を組成し,これを荘内銀行に売り込んだ。
(23)  年金共済事業の廃止と年金掛金の一部返還
ア 被告中央会は,平成16年5月20日の通常総会において,年金制度を廃止し,原告らを含む加入者に対し,掛金相当額の85%から給付済み年金額を控除した額を,次のとおり3回に分割して返還することを可決した。もとより,この数字は,チャンセリー債の元本と利息の償還を掛金返還の原資に充てることを前提としたものであった。(甲111の1,2)
第1期返還日 平成16年8月23日 掛金相当額の15%
第2期返還日 平成17年8月23日 掛金相当額の10%
第3期返還日 平成18年8月23日 掛金相当額の60%
イ インバロ社は,平成16年6月21日,同社が保有していた融資債権をイギリスのストラットモアアドミニストレーションサービスという会社(以下「SAS社」という。)に移転し,同月22日,清算手続に入った。同月30日,被告中央会が購入したチャンセリー債の第1回償還期日が到来したが,その償還はされなかった。
ウ 被告中央会は,平成16年8月23日,被告中央会所有の土地建物を担保として全国酒販協同組合連合会から金銭を借入れ,原告らを含む加入者に対し,掛金相当額の15%を返還した。
(24)  被告Y4による説明とL弁護士による調査
ア 被告Y4は,平成16年7月から8月に開催された被告中央会の年金委員会に呼び出され,これらの年金委員会において,①チャンセリー債につき,イギリス大使館に問い合わせたところ,償還を受けられることを確認した,②被告中央会の資金は100%保全されている,③ソフトバンクのM氏がチャンセリー債を購入する予定になっており,その購入代金により償還が受けられるといった虚偽の説明をした。また,被告Y4は,平成17年1月12日に開催された被告中央会の年金委員会において,理事会や総会の承認を得ずにチャンセリー債への投資を行ったことを追及されると,オルタナティブ運用をすることについては,理事会や臨時総会で報告し了承を得ていたと弁解した。
イ(ア) 被告中央会は,平成16年9月,L弁護士(以下「L弁護士」という。)に対し,被告中央会が購入したチャンセリー債に関する調査を依頼した。L弁護士は,被告クレディやチャンセリー社に対し,契約書等の送付を依頼するとともに,イギリスの法律事務所に対し,インバロ社に関する調査を依頼した。
(イ) その結果,平成17年7月ころ,次のとおりの事実が判明した。
①チャンセリー社とインバロ社との間には,資金の流れを直接証明する契約書等が存在しないが,インバロ社は,現実にチャンセリー社から資金の受入れを行っていた,②インバロ社は,実際に法律事務所への裁判費用の貸付事業を行っていたが,契約書の不備や不存在等により,各法律事務所に対する貸付件数及び貸付額が明らかでなかった,③メイプルグローブインベストメント社(以下「メイプル社」という。)が,チャンセリー社に対し,優先弁済権を有する約24億7000万円の貸付債権を有していた。
(ウ) L弁護士は,インバロ社の資金管理能力や同社の創始者の事業手法に問題があり,インバロ社による現実的な資金回収の可能性は極めて低いことや,仮にインバロ社が回収した場合でも,回収金はメイプル社に対し優先弁済される可能性が高いため,チャンセリー債の償還可能性は極めて低いであろうと結論づけた。
(25)  チャンセリー債の償還不能
チャンセリー債は,平成16年12月23日以降,まったく償還されておらず,現時点においても,償還の目途は立っていない
以上のとおり認められる。この認定を動かすに足りる確たる証拠はない。
2  以上の事実と弁論の全趣旨によれば,次のとおり判断できる。
Ⅰ  まず,チャンセリー債に対する投資に直接関与した者らの責任について判断する。
【被告Y4】
(1) 被告Y4が,平成14年12月当時,被告中央会の年金資産をチャンセリー債の購入に充てた行為は,不法行為を構成するか
ア 被告Y4は,被告中央会の事務局長として,被告中央会の年金共済事業の運営,年金資産の運用管理に関する一切の業務を統括する地位にあり,平成5年1月に被告中央会に転籍した後,平成15年に至るまで,約10年間に渡り,被告中央会の年金共済事業の中心的人物として関わってきた。被告Y4は,被告中央会における経歴や,年金共済事業に関する知識の豊富さ等から,年金共済事業に関して,会長の被告Y5や専務理事の被告Y7を始めとする被告中央会の理事や職員からも厚い信任を得ていた。実際にも,被告Y4は,年金懇談会や理事会等において,年金共済事業の運営方針等について積極的に発言して議論を主導し,被告中央会の年金共済事業を統括する実質的な権限を有していたといえる。
イ ところで,被告中央会の年金共済事業をみると,平成6年以降,年金資産の時価評価額が責任準備金を下回り,平成13年12月末時点の年金資産の時価評価額(約321億円)は,掛金元本(約332億円)を約11億円も下回る状態に陥っていた。平成14年2月以降は,総幹事社である三菱信託銀行からも,年金共済事業の解散を含めた検討が必要であると指摘されており,被告Y4は,被告中央会の年金共済事業が危機的な状況にある旨を十分に認識していた。
ウ そして,被告Y4は,年金懇談会の席上を始め,年金資産をオルタナティブ商品で運用するときには,分散投資が絶対的な要請であることを複数の専門家から何度も注意されていた。被告Y4自身,チャンセリー債が,トラックレコード(取引履歴)がなく,格付機関による評価もされていない新規開発の私募債であり,格付すらない私募債であるチャンセリー債への集中投資が,安全かつ安定的に運用すべき年金資産の運用としては明らかに不適合であることを熟知していた。
エ しかるに,被告Y4は,被告中央会においてミスター年金とまで言われて信頼を得ており,年金共済事業を統括する地位にあったところ,その資金管理体制が不十分であることなどを奇貨として,被告Y2からリベートを得ることを意図して,理事会に諮ることも,十分な調査検討を行うこともせずに,平成14年12月20日,被告中央会の代表印を「Trust Agreement」に押印させた上,被告中央会の年金資産の約8割に当たる合計144億7981万円を,被告クレディに開設した口座に送金して,チャンセリー債に投資したのである。
オ(ア) これに対し,被告Y4は,①チャンセリー債への投資は理事会に事後報告され承認されたとか,②チャンセリー債への投資以外に安全かつ短期間に元本を回復することができる投資商品はなかったとか,③チャンセリー債の購入に当たっては,被告クレディと信託契約を締結し,同被告を通じて投資を行うなど,可能な限りの調査とリスク回避策を講じたなどとして,被告Y4の行為は不法行為に該当しないと主張する。
(イ) しかし,①の点については,被告Y4は,チャンセリー債の購入については,年金懇談会はおろか,年金委員会・理事会・総会でも一切明らかにしておらず,被告Y7を除く理事らに,チャンセリー債を購入したことの認識は全くなかった。その後,被告中央会がチャンセリー債なるものを購入していたことが明るみに出て,その償還可能性に疑義が生じたものの,被告Y4や被告Y2の説明により,チャンセリー債の償還延期等もやむを得ないとの判断に至り,今更,解約する訳にもいかずに放置されていたにすぎない。これらの事後的な事情が,被告Y4の不法行為を免責する理由にならないことは当然である。
(ウ) また,②の点については,もともと,被告Y4は,R&IのCや三菱信託銀行の担当者らから,オルタナティブ商品への投資割合は年金資産の10%にとどめるのが相当であり,運用委託先を分散した上で複数の商品を組み合わせるべきであるとの見解を示されていた。また,三菱信託銀行の担当者からも,一般的に企業年金で採用されているオルタナティブ運用の割合は5%~10%であると述べられ,オルタナティブ商品を75%程度組み入れることを提案したメリルリンチですら,一つのオルタナティブ商品につきポートフォリオの10%を超えないとの条件をつけるべきとしていた。加えて,チャンセリー債は,その仕組みが不明瞭であるばかりか,格付機関の格付も取得しておらず,運用実績(トラックレコード)も存在していない新規発行の私募債であるなど,もともと,オルタナティブ商品の中でも極めてリスクの高いものであった。被告Y4自身,平成14年9月ころ,R&IのCから,被告Y2の勧める投資案件は「評価の対象外であって,お勧めできない。」と告げられていたのである。
しかるに,その後,被告Y4は,被告Y2から,大化けが期待されるビスタ株の購入を勧められたり,被告Y16を通じてリベートを受領できることを示唆されると,チャンセリー債の危険性についてほとんど関心を寄せることなく,チャンセリー債の購入へと傾斜していったのである。つまり,被告Y4としては,この段階に至っては,チャンセリー債以外の投資対象はもはや眼中になかったものといえ,果たしてそれが安全かつ短期間に元本を回復できる投資商品であったなどという認識があったのか,すこぶる疑問である。実際,被告Y4がチャンセリー債以外の投資商品を具体的に検討した形跡すらないのである。この点に関する被告Y4の主張は,その前提を欠くものであって失当である。
(エ) さらに,③の点について,被告クレディが紹介された経緯について見ると,被告Y4は,チャンセリー債という個別具体的な銘柄に着目した後,当初インベスコの運用指図権に基づいて購入することを目論んだが,インベスコが法律上資金の受入れを行うことができないため,別途,債券の保管管理をする金融機関(カストディアン)を探していたところ,思いがけずインベスコの運用指図権に基づくチャンセリー債の購入計画が頓挫してしまい,その代わりとして,被告クレディが紹介されたものである。このような経緯を見るならば,被告中央会において,どの金融商品を購入するかという実質的な投資判断は,既に被告Y4によって行われており,被告クレディは,チャンセリー債に係る投資判断の後,その代行購入と保護預りの業務を依頼されたにすぎないということができる。被告Y4が被告中央会の代表印を押印させた「Trust Agreement」においても,「被告クレディは被告中央会のためにチャンセリー債の購入とその保管の委託を受けるが,チャンセリー債の購入は被告中央会の計算で行われ,その危険も被告中央会が負担する。」と明確に記載されているところである。また,被告Y4は,チャンセリー債への投資に先立ち,被告クレディに対し,チャンセリー債の仕組みやリスク,チャンセリー債への投資の是非や適切な投資規模について調査検討を依頼したり,その結果について報告書を受領するなどの行為も一切していない。そればかりか,被告Y4は,「Trust Agreement」や引受承諾書に目を通すことなく,チャンセリー債私募要項すら入手せずに,その購入に至っているのであり,被告クレディが取り扱ったことをいわば言い訳としているにすぎないものと評価できる。したがって,この点に関する被告Y4の主張を採用することはできない。
カ 以上のような被告Y4の地位及び権限,年金資産の性質及び被告中央会における年金資産の状況,チャンセリー債の性質及びリスクの程度,チャンセリー債の購入に至る経緯及び目的,チャンセリー債購入額の年金資産に占める割合に照らすならば,被告Y4がチャンセリー債を購入した行為(より具体的には,平成14年12月20日に「Trust Agreement」に被告中央会の代表印を押印させた行為)が,被告中央会との関係だけでなく,被告中央会の年金共済事業の加入者等である原告らとの関係でも不法行為を構成することは明らかである。
(2) 原告らには損害が発生したか
ア インバロ社は,平成16年6月,清算手続に入っており,被告中央会が依頼したL弁護士による調査においても,インバロ社による融資債権の現実的な回収可能性は極めて低い。また,仮に回収した場合でも,回収金は,同社に対して約24億7000万円の優先弁済権のある貸付債権を有しているとされるメイプル社に対して優先弁済される可能性が高いことなどが判明している。実際にも,チャンセリー債の第1回償還期日である同月30日から現在に至るまで,チャンセリー債の償還は一切されておらず,償還の目途すら立っていないというのである。原告らの年金給付は,チャンセリー債の償還金から賄うこととされているのであるから,チャンセリー債の償還見込みがない以上,原告らに損害が発生していることは明らかである。
イ 被告Y4は,被告中央会は,被告クレディに対して損害賠償請求訴訟を提起しており(東京地裁平成18年(ワ)第18333号事件),同訴訟で被告中央会が勝訴すれば,被告中央会はチャンセリー債への投資による損害を回復できる蓋然性が極めて高いため,原告らの損害も回復される蓋然性が高いなどと主張する。
しかし,同訴訟の第1審では,被告中央会は被告クレディに対して全部敗訴しており(乙B25),現段階において,同訴訟で被告中央会が勝訴して原告らの損害が回復されたとはいえない。この点に関する被告Y4の主張は採用できない。
(3) 被告Y4がチャンセリー債へ投資したことと原告らの損害との間に因果関係があるか
ア 確かに,被告中央会の年金共済事業は,平成13年度末には元本に欠損が生じ,平成14年10月末には,総幹事会社である三菱信託銀行からは,解散するのが最良の選択肢であるとの見解が示されるに至った。被告中央会の理事の被告Y10や,監事の被告Y16からも,被告中央会の年金共済事業は既に破綻しており,これ以上存続させることはできないといった意見も出されていたし,同年12月の臨時総会では,実績配当制への移行や,平成15年3月以降の中途脱退の制限及び脱退一時金の支給額減額などを内容とする年金制度の変更を行うことが決議されていた。このように,平成14年12月当時,被告中央会における年金共済事業については,年金共済事業の解散を含めた抜本的な制度変更等が不可欠な状況にあったといえる。
しかし,そのような状況があったとしても,被告Y4が,被告中央会の年金資産の約8割にも上る約144億円という巨額の金額をチャンセリー債の投資のみに充てた行為が,チャンセリー債が償還されず,原告らの年金掛金が失われるという事態を招き,原告らに損害を発生させたことに変わりはない。被告Y4の行為と,原告らの損害との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。
イ 被告Y4は,被告中央会は,チャンセリー債への投資を認識した後も独自の判断でチャンセリー債への投資を維持することを決定しており,その結果,被告Y4の行為と原告らの損害との間の因果関係は中断されたなどと主張する。
しかし,前記のとおり,被告中央会においては,既にチャンセリー債への投資が実行され,その購入代金も既に送金済みであったから,今更,契約の不成立などを主張したところで,購入代金の返還を求めるのには困難が予想されたし,チャンセリー債が期限前償還できない債券であることから,チャンセリー債への投資を解約する訳にもいかず,放置されたにすぎない。このような事後的な事情により,被告Y4が主張するような因果関係の中断が認められる余地はない。
ウ なお,原告らの損害額について検討すると,被告Y4による不法行為が行われた平成14年12月20日においては,既に被告中央会の年金資産の金額が,原告らを含む加入者の掛金累計相当額(いわゆる元本)を下回っていたことが認められる。しかし,原告らが損害として主張する額は,掛金累計相当額の全額ではなく,別紙年金契約・損害額一覧表のとおり,多い者であっても掛金累計相当額の7割にとどまっている。そして,同日時点における被告中央会の年金資産額が,原告らが主張する額を下回るといえるような事情は見い出し難い。したがって,原告らの損害額については,弁護士費用も含め,全て被告Y4の不法行為と相当因果関係が認められる損害額として認めるのが相当である。
(4) まとめ
以上より,被告Y4は,各原告に対し,別紙請求額一覧表記載の金額につき,不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
【被告中央会】
(1) 被告中央会は,被告Y4の不法行為について使用者責任を負うか
ア 被告中央会は,組合法に基づき,昭和28年11月に設立され,酒税法の規定に基づく酒税保全措置の実施に対する協力や酒販業者の利益増進を図ることなどを目的とする法人であり,昭和58年4月から,国民年金等の公的年金制度を補完する私的年金制度として,年金共済事業を行ってきた。そして,被告Y4は,被告中央会の職員たる事務局長の地位にあって,年金資産の運用も含めた年金共済事業全般を統括していた。したがって,被告中央会は,自らの年金共済事業の運営及び遂行のため,被告Y4を職員として使用する関係にあったということができる。
イ そして,民法715条1項にいわゆる「事業の執行について」とは,被用者の職務執行行為そのものには属しないが,その行為の外形から観察して,あたかも被用者の職務の範囲内の行為に属するものとみられる場合をも包含するものと解すべきである(最高裁昭和39年(オ)第1113号同40年11月30日第三小法廷判決・民集19巻8号2049頁参照)。
被告Y4は,平成14年当時,被告中央会の事務局長として,年金共済事業の運用に関する企画立案,年金資産の運用管理などの事務を含む年金共済事業全般を統括していたところ,同年12月20日,「Trust Agreement」に被告中央会の代表印を押印させ,被告クレディを通じて,被告中央会の年金資産をチャンセリー債に集中投資したというのである。
これを行為の外形から客観的に観察すると,被告Y4の上記行為は,あたかも被告中央会の事務局長としての被告Y4の職務の範囲内の行為に属するとみられることは明らかである。したがって,被告Y4の行為は,被告中央会の事業の執行について行われたものと認めることができる。
ウ なお,被告中央会は,被告Y4の不法行為の被害者は被告中央会であって,原告らではないから,被告中央会が原告らに対して使用者責任を負うことはないと主張する。
確かに,被告Y4は,被告中央会の年金資産の大部分をチャンセリー債に投資して,これを毀損するに至らしめたのであるから,被告中央会と被告Y4の関係には,いわば被害者と加害者の側面があることも否定できない。
しかし,こと年金共済事業の加入者である原告らとの関係では,被告中央会は,被告Y4の使用者たる地位に立つことに変わりはない。この点に関する被告中央会の主張は失当である。
(2) まとめ
以上より,被告中央会は,被告Y4の各原告に対する不法行為につき,各原告に対し,使用者責任(民法715条1項)を負うというべきである。したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告中央会は,各原告に対し,別紙請求額一覧表記載の金額につき,被告Y4と連帯して損害賠償責任を負う。
【被告Y7】
(1) 原告らには本件訴訟の原告適格があるか(本案前の主張)
ア 原告らの被告Y7に対する請求は,組合法30条2項及び被告Y4との共同不法行為に基づく損害賠償請求である。
イ(ア) これに対し,被告Y7は,原告らは組合法30条2項の「第三者」に当たらないから,原告適格がなく,本件訴えは却下されるべきであると主張する。
しかし,給付の訴えにおいては,自らがその給付を請求する権利を有すると主張する者に原告適格がある(最高裁平成21年(受)第627号同23年2月15日第三小法廷判決・裁判所時報1526号33頁)。
原告らの各請求は,原告らが,被告Y7に対し,原告ら自らが(組合法30条2項及び被告Y4との共同不法行為に基づく)損害賠償請求権を有すると主張して,その給付を求めるものである。
したがって,原告らが,上記各請求に係る訴えについて,原告適格を有することは明らかである。
(イ) なお,被告Y7は,裁判例(東京高裁平成16年(ネ)第3563号同17年1月18日判決・金融商事判例1209号10頁)を引用して,原告らが理事の責任を追及するためには,代表訴訟(組合法33条が準用する平成17年改正前商法267条)の方法によらなければならないと主張する。
しかし,被告Y7が引用する裁判例は,株式会社の全株主が平等に不利益を受けるような場合,株主が取締役に対しその責任を追及するためには,特段の事情のない限り,株主代表訴訟を提起する方法によらなければならず,直接民法709条に基づき株主に対し損害賠償をすることを求める訴えを提起することはできないと判断したものである。
ところが,本件において,被告Y4の不法行為により不利益を受けたのは,被告中央会(の会員である酒販組合)の組合員のうち,被告中央会の年金共済事業に加入した者に限られる。つまり,本件は,被告中央会(の会員である酒販組合)の組合員が平等に不利益を受けた場合には該当しないのであり,上記裁判例とは明らかに事案を異にする。
そして,被告中央会の年金共済事業の加入者が必ずしも被告中央会(の会員である酒販組合)の組合員に限られないことに照らすならば,被告中央会の年金共済事業の加入者である原告らが被告Y7の責任を追及するのに,必ず代表訴訟によらなければならないと解すべき理由も見い出し難い。したがって,被告Y7の上記主張は採用できない。
ウ そこで以下,被告Y4との共同不法行為に基づく損害賠償請求について判断する。
(2) 被告Y7が被告Y4のチャンセリー債への投資を了承し,チャンセリー債の購入に当たり,必要書類に署名し,必要書類として自己のパスポートを貸与したことは,被告中央会の理事としての善管注意義務違反に当たるか
ア 被告Y7は,平成8年5月から被告中央会の理事を務め,平成12年5月からは専務理事として,主に年金共済事業に関する常務を執行し,事務局長である被告Y4の事務の遂行について,直接指揮監督し,決裁する立場にあった。
イ 被告中央会の年金共済規程においては,自ら年金資産を管理・運用する権限を有していたものの,実際には,被告中央会が小売酒販店主及びその家族らを構成員とする団体であることに鑑み,外部の専門家に年金資産の運用を委託する方法が採られていた。具体的には,総幹事会社を三菱信託銀行と定め,三菱信託銀行に対し,加入者管理等を含めた年金資産の管理・運用事務を包括的に委託するとともに,年金資産の運用面に関しては,5社の投資顧問会社との間で投資一任契約を締結し,その運用を委託していた。
そして,このような運用を前提として,施行細則においては,新規運用委託機関の採用については被告中央会の理事会の承認事項とされ,運用委託機関との解約や資産配分率の変更については年金委員会の承認事項とされていた。特に,新規運用委託機関の採用については,運用委託先の信用度,運用能力を十分検討した上で理事会に事前に諮ることを要するものとされており,これらの規定については,被告Y7自身も自認するように,被告中央会の専務理事としてよく認識していたはずである。
ウ 被告Y7は,平成14年8月ころ,被告Y4とともに,被告Y2から,アルファトロント債私募要項や,アルファトロント債説明資料に沿って,チャンセリー債と同様の仕組みであったアルファトロント債に関する説明を聞いた。そして,被告中央会においては,投資について専門的な知識を持たず,これまで,年金資産の運用について個別銘柄に係る購入指図をしたことも個別銘柄の説明を受けたこともなかったのだから,被告Y7としては,被告中央会が個別銘柄であるアルファトロント債(及びチャンセリー債)に投資することが自家運用に該当し,これまでのように外部の専門家に年金資産の運用を委託する方法による場合以上に,被告中央会が重い責任を負うことを予見し得た。
そうすると,被告中央会においては,新規運用委託機関の採用についてさえ,運用委託先の信用度,運用能力を十分検討した上で,理事会に事前に諮ることを要するとされていたのであるから,被告中央会が自ら投資商品を選定するのであれば,投資顧問会社を新たに採用する場合以上に,商品の仕組みやリスクについて十分に検討した上,理事会に諮ることが必要であったといえる。被告Y7自身,これらの必要性について認識していたと自認しているのである。
エ さらに,被告Y7は,被告Y2及び被告Y4の説明から,アルファトロント債(及びチャンセリー債)が,いわゆるオルタナティブ商品に該当することを認識していた。そして,平成14年8月から10月にかけての年金懇談会においては,R&IのCが,オルタナティブ商品への投資割合は,他の制度の例や採りうるリスクを考慮しても年金資産の10%にとどめるのが相当であり,しかも,運用委託先を分散した上で複数の商品を組み合わせるべきとの見解を示していたし,三菱信託銀行の担当者も,一般的に企業年金で採用されているオルタナティブ運用の割合は5%~10%であると述べていた。また,オルタナティブ商品を75%程度組み入れることを提案したメリルリンチですら,一つのオルタナティブ商品につきポートフォリオの10%を超えないとの条件をつけるべきとしていた。このように,一つのオルタナティブ商品への投資割合は,高く見積もっても運用可能な年金資産全体の1割を超えないことについては,年金懇談会に出席していた上記の3社ともに意見が一致していた。
被告Y7は,これらの年金懇談会に全て出席し,会合における専門家の意見を聞いて,オルタナティブ商品それ自体の危険性について認識するとともに,リスク許容性が低いという年金資産の特質に照らし,単一商品に集中投資することの危険性についても十分認識していた。実際にも,被告Y7は,平成14年11月20日の役員会に出席し,「リスクを分散した資産配分とする」旨の決議に加わり,オルタナティブ商品に対する集中投資が許容されないことを表明していたのである。
オ このように,チャンセリー債への投資は,投資判断を投資顧問会社等に委託する従前の場合と異なり,被告中央会が主体的に商品を選択して投資判断をするものであった。したがって,チャンセリー債の仕組みはもちろんのこと,訴訟費用の貸付事業の市場規模,貸付運用を行うインバロ社の信用度,運用能力及び運用実績等,貸付債務の履行率並びに類似商品の有無及びその収益性等について,専門家に依頼するなどして調査を行うとともに,専門家の意見を徴するなどして投資の是非や許容される投資規模等を検討すべきであった。被告中央会の専務理事であった被告Y7は,事務局長であった被告Y4の直接の指揮監督権者として,また,被告Y4によるチャンセリー債への投資を知っていた唯一の理事として,被告Y4に対し,これらの調査検討を指示するとともに,チャンセリー債への投資を了承するのであれば,事前にこれを理事会に諮るべき職務上の義務があったというべきである。
カ それにもかかわらず,被告Y7は,チャンセリー債への投資に関する被告Y4の説明を鵜呑みにして,その説明を裏付ける資料等を確認することも,専門家の意見を聴取することも,理事会に諮ることも,さらには,被告クレディとの契約内容さえ確認することもなく,原告らを含む加入者の年金掛金を原資とする被告中央会の年金資産を,被告Y4がチャンセリー債へ投資することを漫然と了承した。これが,加入者である原告らとの関係でも不法行為に該当することは明らかというべきである。
キ(ア) これに対し,被告Y7は,①当時の被告中央会における年金共済事業の危機的状況や,今後3~5年以内に資産状況を回復できるような他の具体的な選択肢が提案されていなかったことからして,被告中央会の年金共済事業を維持・存続するためには,チャンセリー債への投資はやむを得ない判断であった旨主張する。
確かに,被告中央会の年金共済事業は,近い将来,財政的に破綻を免れない状況にあったと考えられる。しかし,年金共済事業を存続し,3~5年で掛金元本を回復するという,被告Y7を始めとする被告中央会の理事会の方針は,年金問題を先送りして,被告中央会の組織維持を図り,自己に対する責任問題が発生しないよう意図されたものにすぎない(被告Y7自身,年金懇談会等において,「最低3年,5年のスパンの中で年金問題をソフトランディングして,3年後5年度に,別の人たちに考えてもらわないと。」とか,「20年,30年かかっても結構だ。その時点で俺たちはいないのだから。」など,問題を先送りして自己保身を図るような内容を述べているのである。)。つまり,チャンセリー債への投資も,そのリスクや仕組みについて吟味した上で,年金加入者から預託された財産である年金資産を回復し,原告らを含む年金加入者の財産的利益を保護するという観点からされたというよりは,むしろ,被告中央会の組織維持あるいは被告Y7自身の責任問題を回避するために行われた疑いが強い。そのこと自体,被告中央会の専務理事としての本来の職務遂行からかけ離れているというべきであって,被告Y7の上記主張は採用できない。
(イ) また,被告Y7は,②無報酬に限りなく近い,非常勤の専務理事であり,資産運用の専門家でもない,一酒販小売業者にすぎなかったのだから,被告Y7に期待される職務遂行の水準はもともと高いものではなかったと主張する。
しかし,被告Y7は,平成14年当時,北海道旭川市において,約40年間に渡り,酒類の小売業を営む株式会社のほか,不動産賃貸業,ホテル経営業等を目的とする複数の株式会社の代表取締役を務め,同時に,これらのグループ会社の役員も務めるなど,地方では有数の事業経営者であった。また,被告Y7は,平成8年から,長期間に渡り被告中央会の理事を務め,平成12年5月からは,専務理事として,主に年金共済事業に関する常務を執行し,事務局長である被告Y4の事務の遂行を直接指揮監督する権限を有していた。実際にも,被告Y4から,直接,チャンセリー債への投資に対する了承を求められ,これに応えているのである。非常勤であるとか無報酬に近いなどの事情は,上記判断を左右しないというべきである。
(ウ) さらに,被告Y7は,③R&IのCから聞かされた,「アルファトロント債は評価の対象外である」という旨の意見は,R&Iが取り扱っていない商品であるという意味であり,アルファトロント債がリスクの高い債券であるという意味ではなかったとか,④被告Y7も参加した,被告中央会の平成14年11月20日の役員会における「リスクを分散した資産配分とする」旨の決議は,これまでの運用のような国内外の株式,債券に運用先を限定しないという趣旨であったとか,⑤被告Y7に要求される情報収集の範囲は,被告中央会の理事会や事務局から報告される情報に限定されるべきであるなどと主張する。
しかし,③R&IのCは,引き続き,アルファトロント債はお勧めできないとも述べていることからすれば,Cの意見は,アルファトロント債がリスクの高い債券であることを示したものであると認められるし,④仮に上記決議が,債券に運用先を限定しないという趣旨であったとしても,そもそも単独の金融商品に集中投資して,年金資産の掛金元本の回復を目指すこと自体,年金資産運用のあり方としておよそ考えられるものではなく,上記決議がそのことをも許容するものであったとはいえない。また,⑤被告Y7は,被告Y4や被告Y2から,アルファトロント債という個別銘柄についての説明を受けるとともに,被告中央会の年金懇談会にも全て出席し,専門家の意見を聞いて,オルタナティブ商品それ自体の危険性や,単一商品に集中投資することの危険性などについて十分な情報を実際に得ていたのであるから,被告Y7の上記主張はいずれも失当である。
(エ) 加えて,被告Y7は,⑥被告Y4から,平成14年12月20日,チャンセリー債への投資について,被告Y5の承認を得た旨の説明を受けたため,それを信頼して自分も了承したと主張する。
しかし,被告Y7は,これに先立つ平成14年10月中旬ころにも,被告Y4に対し,被告Y2の紹介に係る金融商品であり,チャンセリー債と同様の仕組みを有するアルファトロント債に投資することを了承している。すなわち,被告Y7は,被告Y4から,被告Y5の了承を得たと聞かされるよりも前の段階でも,既にこれらの仕組み債に投資することを了承していたのである。そうすると,被告Y5を信頼してチャンセリー債への投資を了承したとする被告Y7の主張は,その前提を欠くものであり失当である。
(オ) さらに,被告Y7は,⑦オルタナティブ商品を組み入れる理事会の決定が存在していたから,チャンセリー債についての事前承認の欠如は問題とならないとか,⑧チャンセリー債への投資に関し,平成15年12月の被告中央会の総会による事後承認があったなどと主張する。
しかし,⑦オルタナティブ商品を組み入れるのと,チャンセリー債という個別銘柄に集中投資するのでは,そのリスク許容度が全く異なるのであり,その相違を理解していなかったとすれば,それ自体,専務理事としての注意義務を尽くしていなかったというほかない。また,⑧被告Y7は,被告Y4によるチャンセリー債への投資を了承し,その後の年金懇談会及び理事会等に幾度も出席しながら,被告クレディでの運用が発覚した平成15年8月に至るまで,被告Y5はおろか,他の理事に対しても,チャンセリー債への投資について一切報告・説明をしていない。加えて,同年10月31日には,被告中央会の総会や理事会に諮ることなく,独断でチャンセリー債の実質的な買主は被告中央会である旨の確認文書に署名し,これを被告クレディに送付するなどしている。その上で,同年12月の被告中央会の総会では,「加入者から預かった大事な資金を株で運用することはリスクを伴うので,金融機関等と折衝を重ねた結果,いい投資先を見つけたので,全部の資金を預けている状況である。年間6.75%という高配当で運用しているので,3年間で約20億円利益が出てくるのではと考えている。」などと,不十分かつ不正確な答弁をして,年金共済事業の停止決議に至っているのである。
つまり,被告Y7は,理事会や総会に対する適時の報告や正確な情報提供という専務理事の任務に十分な関心を払うことなく,独断で行為を行い,かえって,そのような不十分かつ不正確な情報開示の下で行われた総会決議をもって,自己の責任が免責されると主張しているのである。
これが被告Y7の不法行為を免責する理由にならないことは明らかである。
(カ) 被告Y7は,ほかにも,⑨被告Y4から,チャンセリー債投資のメリットや,リスクヘッジがされている等の説明を受け,これらの事情を熟慮した上で,チャンセリー債への投資を相当と判断したなどと主張する。
しかし,前記のとおり,被告Y7は,被告Y4の説明を裏付ける資料等を確認することも,専門家の意見を聴取することも,理事会に諮ることも,さらには,被告クレディとの契約内容を確認することさえなく,被告Y4によるチャンセリー債への投資を漫然と了承したものである。あまつさえ,チャンセリー債の購入に先立ち,被告Y4とともに,被告Y2の紹介に係るビスタ株を購入し,チャンセリー債の購入後は,後日返還したとはいえ,被告Y4から,700万円のリベートを受領しているのである。この点を捉えれば,本来,被告Y4に対し指揮監督を行うべき立場にあるはずの被告Y7が,それどころか,被告Y4とともに,原告ら加入者の利益を顧みることなく,チャンセリー債の投資を推し進めたと評価することができる。この点に関する被告Y7の主張は,到底,これを認めることができない。
(3) 被告Y7の前記の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するか
被告Y7が,被告Y4によるチャンセリー債への投資(より具体的には,平成14年12月20日に「Trust Agreement」に押印させた行為)を了承した行為は,被告Y4の行為と客観的に関連し,両者は共同の行為と評価することができる。したがって,被告Y7の上記行為は,被告Y4との共同不法行為を構成する。
(4) 原告らには損害が発生したか
前記のとおり,原告らには,少なくとも原告ら主張の損害額についての損害が発生したと認めるのが相当である。
(5) まとめ
よって,その余の点につき判断するまでもなく,被告Y7は,各原告に対し,別紙請求額一覧表記載の金額につき,被告Y4と連帯して,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
【被告Y2】
(1) 被告Y2が,被告中央会に対し,チャンセリー債を紹介した行為は,原告らに対する不法行為を構成するか
ア(ア) 原告らは,チャンセリー債は,当初からおよそ償還される見込みのない金融商品であり,被告Y2は,国際的詐欺集団の一員として,被告中央会に対し,チャンセリー債を販売したと主張する。
そこで,この点についてまず検討すると,チャンセリー債には,次のようなリスク要因があった。すなわち,①チャンセリー社は,インバロ社の弁護士事務所に対する融資債権以外に格別の資産を有していないため,融資債権の貸倒リスクがチャンセリー債の償還原資に直接影響すること,②チャンセリー社からインバロ社を通じた弁護士事務所等への資金の流れや,インバロ社の資金管理状況等を検証する仕組みが組み込まれていなかったこと,③弁護士事務所に対する融資需要が飽和状態になれば,弁護士事務所に対する貸出金利が下がってしまうため,チャンセリー債が前提とするビジネスモデルの成否が,弁護士事務所に対する融資事業の市場動向の影響を受けること,④運用実績(トラックレコード)がなく,今後の収益見込みの予測が困難であったこと,⑤インバロ社もチャンセリー債も格付機関の格付を取得していなかったことなどである。そして,チャンセリー債は,利払い等が5回ほど行われただけで,資金を運用していたインバロ社が清算手続に入ったことにより償還不能の事態に陥ったのであるが,その後の調査により,チャンセリー債が償還されなくなった原因の一つとして,インバロ社の資金管理能力や同社の創始者の事業手法に問題があったと考えられる旨の指摘がされている。
以上で指摘した諸点は,チャンセリー債の仕組みが,当初から破綻する危険を内在していたことを窺わせる。
(イ) しかし,他方,①被告Y2は,アルファトロント債及びチャンセリー債の組成に関与していたわけではなかった。また,②チャンセリー債と同様の仕組みを有する金融商品であるアルファトロント債の取扱いを被告Y2から依頼されたメリルリンチでは,自社の商品として販売することを最終的には見送ったものの,担当者は,商品としては魅力があるものと考えていた。また,③アルファトロント債を自社の運用指図権の範囲内で被告中央会のために購入することを被告Y4から依頼されたインベスコでは,上記のようなリスク要因があることを認識しながらも,商品のスキームそのものは成立し得るものであって,全く話にならない商品ではないと考え,被告Y4の依頼を受けることにしていた。さらに,④Dは,平成16年2月ころ,被告Y2とともに,荘内銀行に売り込むことを意図して,基本的にチャンセリー債と同様のスキームを持つ金融商品(仕組み債)を組成していた。加えて,⑤L弁護士による調査結果では,被告中央会から資金を受け入れたチャンセリー社からインバロ社に対して実際に資金の受渡しが行われていたことや,インバロ社が弁護士事務所への裁判費用の貸付事業を実際に行っていたことが確認されている。
(ウ) 以上の事実に照らすならば,チャンセリー債は,財産的価値を経済的見地から評価した場合に極めてリスクの高い商品であったとはいえるが,被告Y2がチャンセリー債と同様の仕組みを有するアルファトロント債の投資勧誘を行った当初から,およそ償還される見込みのない金融商品であり,経済的には無価値であったとか,チャンセリー債のスキーム自体が破綻必至のもので,商品としておよそ成立する余地のないものであったとまでいうことはできないし,被告Y2が,このような認識を有していたと認めることもできない。
イ しかし,被告Y2のアルファトロント債及びチャンセリー債に関する説明及び勧誘方法を見ると,次のとおり指摘することができる。
(ア) チャンセリー債の購入に至るまでの言動
a 被告Y2の業務は,ツンドラ社が組成する商品を投資家に対して紹介し,投資家が当該商品に関心を持った場合には,ツンドラ社又は当該商品の販売業者と投資家との間に立って,商品の売買契約の成立に至るまで,当事者間の交渉を仲介するものであった(被告Y2は,これを「イントロデューサー」と呼称していた。)。そして,被告Y2は,この業務を遂行するために,ツンドラ社から,英文の私募投信募集要項,日本語で表記されたアルファトロント債私募要項のほか,アルファトロント債説明資料の交付を受けていた。
b そこでまず,アルファトロント債私募要項とアルファトロント債説明資料を比較してみると,①アルファトロント債私募要項においては,「アルファトロント社の支払能力は,弁護士事務所に対する融資事業の市場動向や,為替変動の影響を受ける。」と記載されているのに,アルファトロント債説明資料においては,「ファンドのパフォーマンスは,株,債券,為替,商品市場などにおける価格変動には全く依存していない。」と記載されており,両者は重要な点において矛盾している。また,②アルファトロント債説明資料には,法律事務所に対する融資債権は,全て自動的にファンド会社(アルファトロント社)の名義に再登記されるとか,ファンド会社は,法律事務所から直接融資金の返済を受けられるなど,アルファトロント債の安全性を強調しているのに,アルファトロント債私募要項には,融資債権の帰属についての記載が一切ない。さらに,③アルファトロント債説明資料では,アルファトロント債は,二重の保険でリスクヘッジがされていると強調されているのに,アルファトロント債私募要項では,保険金が支払われない場合があると記載されているのみで,保険契約の内容は全く明らかにされておらず,いかなる場合に保険金が支払われるのかすら不明である。加えて,④アルファトロント債は期限前償還ができず,第三者への譲渡制限もある仕組み債であるのに,アルファトロント債説明資料にはその旨の記載がないなど,両者には,アルファトロント債の仕組み及びリスクを判断する上で,重要な部分について記載がなかったり,相互に矛盾した記載があったりした。
そもそも,⑤アルファトロント債は投資信託ではないはずなのに,アルファトロント債私募要項には,「私募投信募集要項」などといった名称が付与されているのである。
本来,アルファトロント債の投資勧誘を行うことを業務としていた被告Y2としては,顧客保護の観点から,これらの重要な矛盾点や不備について,ツンドラ社に問い合わせたり,疑問点を解消したりするのがあるべき態度であったはずである。しかし,被告Y2は,このような不備について関心を抱いたり,アルファトロント債の重要なリスク要因について考慮したりしていない。被告Y2は,SPCが法律事務所に対する融資債権を直接保有しているのか,法律事務所からチャンセリー社に融資金の返済がされていたのかどうかといった,チャンセリー債の償還可能性に直結する重要な事項について,一切確認していないし,被告Y2自身,アルファトロント債が社債であるのか証書貸付であるのか,その違いすら認識していなかったことを自認しているのである。
c また,被告Y2は,被告Y4,被告Y7に対する説明や,被告中央会の年金懇談会への出席を通じて,被告中央会が年金資産を運用に充てることを認識し,しかも,被告中央会の年金資産の時価が掛金元本を割り込む事態に陥っていたことも認識していた。年金資産の運用は,その性質上,安全で安定した運用をすることが大前提であり,可能な限りリスクを回避する必要があるのみならず,定期的に支出(給付)があるため,いかなる投資環境においても,金融資産を現金化する必要がある。それにもかかわらず,被告Y2は,期限前償還ができず,市場で売却することもできない私募債であって,しかも譲渡制限があるアルファトロント債に,被告中央会が投資するのに適切であるのかといった検討すらしないまま売り込んだのである。
d その説明方法をみても,被告Y2は,投資家が受け取る利回りは年6.75%であるなど,高率のリターンが得られることを強調しつつ,リスクについては,法律事務所が敗訴した場合でも保険が付与されているとか,法律事務所に持ち逃げされる可能性は低いとか,法律事務所自体が倒産しても,弁護士協会が付保した保険により融資金が返済されるなど,殊更にリスクの程度が低いことを強調している。他方,アルファトロント債が期限前償還できないといった根本的なリスクの説明はしていないし,被告Y4から,元本保証なのかと聞かれたときにも,端的に元本保証ではないと答えることなく,「元本確保型」などと,誤解を招きかねない用語を用いている。
e さらに,被告Y2は,3回に渡り年金懇談会に出席し,オルタナティブ運用を提案したメリルリンチのFが,R&IのCや三菱信託銀行の担当者らから,その危険性を再三指摘され,何も反論できない状況に陥ったのを見て,被告中央会がアルファトロント債を購入するには,相当高いハードルがあることを実感し,その後,R&IのCから,直接,アルファトロント債が評価の対象外であってお勧めできない旨を述べられた後は,被告Y4に対し,大化けの思惑のあるビスタ社株式の購入を勧めるなど,利益誘導によりアルファトロント債を購入させるかのような言動をとっている。
このような被告Y2の言動は,その経緯からして,被告Y2において,被告Y4や被告Y7にアルファトロント債への投資を推進させるように利益誘導することを意図したものというほかなく,被告Y4にも,その意図は伝わっていたと認めることができる。実際にも,被告Y4は,R&IのC以外の専門家から,アルファトロント債に対する肯定的な意見が得られていたなどの事情もないのに,被告Y2から上記ビスタ社株式への投資を勧められた直後に,インベスコに対し,同社の運用指図権の範囲内で,被告中央会の年金資産をアルファトロント債に投資するよう働きかけているのである。
さらに,インベスコの運用指図権の範囲内でチャンセリー債に投資するという話がまとまってきた平成14年11月初めころ,被告Y2は,被告Y4に対し,直接的に被告中央会の役職員に対してお礼をすることはできないが,紹介者である被告Y3を通じてお礼をすることは可能である旨を示唆し,被告Y4に対し,リベートの受渡しを期待させた。購入に関する実質的な判断を行う権限を有する被告Y4にリベートの話を持ち出せば,被告Y4が,リベート欲しさに,チャンセリー債のリスクを無視して,その投資を推し進めてしまう危険があり,その結果,被告中央会ひいては加入者である原告らに多大な損害を加えることにつながる危険性があることは,容易に想像することができる。被告Y2自身,このことを認識していたものというべきである。
(イ) チャンセリー債の購入に際しての言動
a 被告Y2は,平成14年2月,被告Y4にアルファトロント債の説明を行った際,被告Y4から,アルファトロント債への投資は,被告中央会が運用責任を問われる自家運用に該当するとして断られているにもかかわらず,同年12月初めに,インベスコの運用指図権の枠内でチャンセリー債に投資する計画が頓挫した後も,被告Y1に対し,被告クレディでチャンセリー債の購入と保護預りができないかと打診し,それが自家運用に該当することを認識しつつ,被告Y4には,被告クレディならいくらでも債券購入と保護預りをすることができるなどと言って,チャンセリー債の購入を決断させている。
そして,被告Y2は,被告Y4が,被告クレディを通じてチャンセリー債を購入することを決断した前後を通じ,被告中央会に対し,チャンセリー債私募要項すら渡していないし,被告Y1から被告中央会にそれが渡されたかどうかの確認もしていない。チャンセリー債の購入により,被告中央会とチャンセリー社とがいかなる関係に立つのか,被告中央会と被告クレディとの間の契約内容がどのようなものになるのかといった,基本的な契約関係の説明すらしていないのである。
b さらに,被告Y2は,被告中央会の理事会及び総会における議事録などを取り寄せ,機関決定がされているのかどうかの確認すらしていない。むしろ,被告Y2は,年金懇談会に出席し,そこでの議論を聞いて,三菱信託銀行の担当者やR&IのCらがオルタナティブ運用についての危険性を指摘し,被告中央会の理事らの間でも議論がまとまらず,まして具体的な投資対象に至っては何も決まっていないことを知っていたのであり,被告中央会における機関決定がされていないことを認識しつつ,あえて無関心を装った疑いが強い。
c 加えて,チャンセリー債私募要項によれば,購入予定者が法人等の組織の場合,500万カナダドル相当の純資産を有する適格投資家でなければならないとされているところ,被告Y2は,被告中央会が上記適格投資家の要件を充たしているかどうかの確認もしていない。
むしろ,被告Y2は,年金懇談会への出席を通じ,被告中央会の年金資産が掛金元本割れしていることを認識していたのであり,上記適格投資家の要件を充たしていないことを認識しつつ,被告クレディを介在させることにより,この問題を回避しようとした疑いすら残るのである。
d もとより,被告中央会の運営する年金共済事業については,投資対象資産の種類を多様化する分散投資を行うことが必要不可欠であって,投資対象を一つに絞って,年金資産全額を失わせるような,リスクを高めることは常識では考えられないものである。いわんや,外国の私募債を組み入れるに当たっては,顧客に与える様々なリスクを検証し,これを顧客に理解させた上で,初めて投資判断をさせることができるものである。しかるに,被告Y2は,上記のような基本的な事項の説明を全くすることなく,被告中央会の適格投資家要件や適切な投資規模などについて一切関心を払うこともなく,いくらでも大丈夫などといって,被告中央会の年金資産の性質及び状況に比べて明らかに過大な危険を伴うチャンセリー債に,できる限り多くの金額を投資させようとしたのである。
(ウ) チャンセリー債の購入後の言動
被告Y2は,被告中央会が,平成14年12月20日に被告クレディと契約を締結し,35億円を送金して,平成15年1月7日,額面合計34億7000万円分のチャンセリー債を購入した後,同月11日ころには,被告Y4及び被告Y3とともに香港まで出向き,現地銀行において口座開設手続などを行った。そして,被告Y3にリベートを渡せば,被告Y4に渡ることを認識しつつ,被告Y3の口座にリベートを入金し,自らその一部を被告Y4の口座に振り替える手続をしているのである。被告Y2は,被告Y4がチャンセリー債を購入するに至るまでの過程で,リベートに関する話を度々述べていたのであるから,被告Y4がチャンセリー債の購入により得られるリベートを期待していたことを認識していたはずであり,その後,最初にチャンセリー債を購入した際に,実際にリベートを渡すことにより,引き続きチャンセリー債を購入すれば,さらにリベートを得られるとの期待を強く抱かせたものと考えられる。実際,被告Y4は,その後も,チャンセリー債を2回にわたって購入し,これに対し,被告Y2は,被告Y3を介して,被告Y4に対し,合計1億3800万円を超えるリベートを渡している。
その後,被告中央会において,チャンセリー債の購入の事実が発覚し,チャンセリー債の問題が顕在化した後は,被告Y2は,保護預りをしていたのが被告クレディであることをよいことに,被告クレディはプライベートバンクで世界最大の銀行であり,商品の取扱いに当たっては,被告クレディが厳しい選別をしているとか,被告クレディに支払う保管料には,チャンセリー債に問題が生じた場合には被告クレディが責任を持つ意味があるなどと虚偽の説明をして,自らの責任逃れに終始しているのである。
ウ まとめ
以上の事実に,被告Y2の報酬が出来高制であり,実際に被告Y2がチャンセリー社から受け取った報酬が8億円を超えていた事実に照らすならば,被告Y2は,専ら巨額の報酬を受け取るために,原告らを含む被告中央会の年金加入者が拠出した年金資産の保護について何ら注意を払うことなく,リベートを支払ってでも,できるだけ多額のチャンセリー債を購入させようと動いていたものと認められる。被告Y2が,被告Y4にチャンセリー債を紹介し,その投資を決断させた行為が,原告らとの関係でも不法行為に該当することは明らかである。
(2) 被告Y2の前記の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するか
被告Y2が,被告Y4によるチャンセリー債への投資(より具体的には,平成14年12月20日に「Trust Agreement」に押印させた行為)を決断させた行為は,被告Y4の行為と客観的に関連し,両者は共同の行為と評価することができる。したがって,被告Y2の上記行為は,被告Y4との共同不法行為を構成する。
(3) 原告らには損害が発生したか
前記のとおり,原告らには,少なくとも原告ら主張の損害額についての損害が発生したと認めるのが相当である。
被告Y2は,被告中央会は被告Y2を被告とする損害賠償請求訴訟(東京地裁平成18年(ワ)第18333号事件)を提起しており,同訴訟において被告中央会が勝訴すれば,被告Y2は,被告中央会と原告らに対して二重の責任を負うことになりかねないと主張する。
しかし,加害者が一つの行為により複数の被害者の権利又は法律上保護される利益を侵害すれば,複数の被害者に対してそれぞれ不法行為に基づく損害賠償責任を負うべきものである。そして,本件各証拠に照らしても,別訴で被告中央会が勝訴すれば,それにより,原告らの損害が直ちに回復すると認めることもできない。したがって,別訴の帰趨が本件における結論を左右することはないというべきである。
(4) まとめ
よって,被告Y2は,各原告に対し,別紙請求額一覧表記載の金額につき,被告Y4と連帯して,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
【被告Y3】
(1) 被告Y3は,前記の被告Y2及び被告Y4の不法行為に加担ないし幇助をしたか
ア 原告らは,被告Y3は,チャンセリー債が被告中央会の年金資産の運用対象として相応しくない危険な外国債であることを認識しつつ,平成14年11月上旬ころから数回にわたって,被告Y4が被告Y2からリベートを受領するのに協力し,最終的には,1億4744万1032円という多額のリベートを受領したと主張し,被告Y2及び被告Y4の不法行為に対し,積極的な加担又は過失による幇助があったとして,民法719条1項又は2項に基づく共同不法行為責任を負うと主張する。
イ(ア) そこでまず,被告Y3に積極的な加担があったといえるかについて検討するに,被告Y3は,平成14年2月ころ,被告Y4の求めに応じ,投資関係の専門家として,平成11年ころから友人関係にあった被告Y2を紹介した。この時点においては,被告Y3は,被告Y2からリベートを受領することができると認識していたわけではないし,客観的にもそれが前提となっていたわけでもない。
(イ) その後,チャンセリー債への投資判断が佳境に入り始めた平成14年10月ころ,被告Y2は,被告Y3に対し,契約が成立したら紹介料を支払う旨を述べた。もともと,被告Y3は酒政連の政治顧問にすぎず,被告Y2も,チャンセリー債の投資判断に関する決定権が被告Y3にないことを認識していた。そうすると,被告Y2からすれば,このような人物にリベートを渡しても,本来ならば,何のメリットもなかったはずである。
ところが,被告Y3は,秘書をしていた国会議員が平成12年の国政選挙で落選するまで,酒政連の事務局長を兼任していた被告Y4を通じて,酒政連にパーティー券を購入してもらったり,政治献金をしてもらったりする関係にあった。その後も,酒政連の政治顧問に就任して,酒政連から給料を受領できるようになるなど,被告Y4には頭が上がらない状況にあった。被告Y2も,このような被告Y4と被告Y3の関係を認識していたのである。
つまり,被告Y2としては,被告Y4に直接リベートを渡して,利益誘導があからさまになることをためらい,被告Y3と被告Y4の関係から,被告Y3にリベートの話を持ちかければ,同被告を通じて被告Y4にリベートが流れることを期待して,被告Y3にリベートを渡したものと考えられる。だからこそ,被告Y2は,被告Y4に対し,被告Y3に紹介料を渡す旨を明確に伝えた上で,後は被告Y3からもらうように告げているのである。そして,実際にも,被告Y3は,被告Y4の要求に負けて,1億4000万円近くもの金額を支払っているのである。
(ウ) 結局,被告Y3は,被告Y2から被告Y4に対するリベートを支払うための口利き役として用いられたのであった。実際にも,被告Y3は,チャンセリー債についてはほとんど知識がなく,チャンセリー債への投資を促進・助長するなど,被告Y4が投資判断を下すに当たり,何らの影響を与えたわけでもなかった。
以上によれば,被告Y3が,被告Y4によるチャンセリー債への投資への積極的な加担があったと認めることはできない。
ウ(ア) 原告らは,被告Y3が,被告Y2から受領できる紹介料に目がくらみ,被告Y4に対し,自己が受け取るリベートの金額について虚偽の説明をした上,約1億5000万円ものリベートを受領したことは,少なくとも過失による幇助に該当し,被告Y3は,原告らに対し,民法719条2項に基づく共同不法行為責任を負うと主張する。
(イ) 確かに,原告らが主張する被告Y3の行為については,道義的には厳しい非難を免れない。
しかし,被告Y3は,被告Y2に対し,当初から積極的にリベートを要求していた訳ではない。被告Y3が予想を上回る多額のリベートを受領することとなったのは,被告Y2が,被告Y3を通して被告Y4にリベートが渡されることを期待して,被告Y3に対し,多額のリベートを提供した結果である。
そして,被告Y3は,酒政連の政治顧問であり,もともと被告中央会の年金共済事業に関する知識には乏しかったし,チャンセリー債の内容についてもほとんど知らなかったのである。このような被告Y3が,被告Y2によるリベートの約束により,チャンセリー債の危険性を認識し得たとしても,それは抽象的な可能性にとどまる。それにより,被告Y4が,被告中央会の年金資産の約8割もの金額をチャンセリー債に集中投資して,被告中央会の年金共済事業の加入者である原告らに損害を与える具体的な認識・予見があったと認めることは困難である。また,前記のような被告Y4との関係に照らすならば,被告Y4に対してチャンセリー債の投資を阻止するよう期待することも困難であった。
これによれば,被告Y3の上記行為が,原告らが主張するような過失による幇助に該当すると認めることもできない。
エ 以上をまとめると,被告Y3には,被告Y4によるチャンセリー債の購入に対する積極的な加担又は過失による幇助があったと認めることはできない。したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告Y3に対する請求を認めることはできない。
Ⅱ  次いで,チャンセリー債の保護預り等に関与した者らの責任について判断する。
【被告クレディ,被告Y1】
(1) 国際裁判管轄の有無
ア 被告中央会と被告クレディが締結した「Trust Agreement」における専属的管轄の合意の効力は,本件訴訟にも及ぶか
被告中央会と被告クレディとの間で締結された「Trust Agreement」においては,いずれも,「本契約に起因する紛争は,チューリッヒ又は契約関係が存在する被告クレディの営業所を管轄する裁判所の専属的管轄に属すること等を合意する。」と記載され,「Trust Agreement」に基づき,被告中央会は,被告クレディのジュネーブ支店にチャンセリー債の購入のための口座を開設した事実が認められる。そして,被告クレディは,原告らは「Trust Agreement」の実質的な受益者に該当するから,上記専属的管轄合意に拘束され,本件訴えについては,ジュネーブ又はチューリッヒの裁判所が専属的裁判管轄権を有すると主張する。
しかし,原告らは被告中央会とは独立した法主体である。しかも,本件訴えは原告らの被告クレディに対する不法行為に基づく損害賠償請求訴訟であるから,本件訴えが被告中央会と被告クレディの間で締結した「Trust Agreement」に基づく専属的合意管轄に拘束されるものではない。したがって,被告クレディの主張は失当である。
イ 不法行為地として我が国の裁判所に本件訴訟の管轄が認められるか
(ア) 原告らの被告クレディに対する訴えは,被告クレディの従業員であった被告Y1が,被告中央会との間で本件各契約を締結した際,チャンセリー債及び「Trust Agreement」の内容について説明をせず,また,積極的な虚偽説明をしたため,被告中央会が,原告らを含む加入者の年金掛金を原資としてリスクの高いチャンセリー債を購入し,その後のチャンセリー債の償還不能により,原告らが年金掛金相当額の返還を受けられなくなったとして,被告クレディに対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償を請求するものである。
(イ) 我が国に住所等を有しない被告に対し提起された不法行為に基づく損害賠償請求訴訟につき,民訴法の不法行為地の裁判籍の規定(民訴法5条9号)に依拠して我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定するためには,原則として,被告が我が国においてした行為により原告の法益について損害が生じたとの客観的事実関係が証明されれば足りる(最高裁平成12年(オ)第929号,同年(受)第780号同13年6月8日第二小法廷判決・民集55巻4号727頁)。
(ウ) 本件では,①被告クレディの従業員であった被告Y1は,我が国の国内にある被告中央会の事務所に出向いて,本件各契約書に被告中央会の代表印の押印を受けたこと,②その際,被告Y1は,被告Y4を始めとする被告中央会の理事又は職員に対し,チャンセリー債及び「Trust Agreement」の内容につき説明していないこと,③「Trust Agreement」に基づき,被告クレディに被告中央会の口座が開設され,被告クレディが被告中央会のためにチャンセリー債を購入したこと,④チャンセリー債の償還不能により,原告ら主張の損害が発生したことが,いずれも認められる。
そうすると,原告らの被告クレディに対する請求についていえば,被告クレディの従業員である被告Y1が「我が国においてした行為により原告らの法益について損害が生じたとの客観的事実関係」を認めることができる。したがって,その余について判断するまでもなく,我が国の裁判所の国際裁判管轄を肯定すべきである。
ウ 被告Y1について
被告Y1は,平成14年当時,被告クレディの従業員であり,本件訴えにおいても被告クレディの従属的立場にあるから,被告クレディと同様,ジュネーブ又はチューリッヒの裁判所が専属的裁判管轄権を有すると主張する。
しかし,そもそも,原告らの被告クレディに対する請求については,我が国の裁判所の国際裁判管轄が肯定されるのである。したがって,被告Y1の上記主張は,その前提を欠くものであって失当である。
(2) 被告クレディ及び被告Y1は,チャンセリー債の内容に関し,説明義務を怠ったか
ア 金融商品販売法上の説明義務について
(ア) 原告らは,被告クレディは「金融商品販売業者等」(金融商品販売法3条1項)に該当するから,「Trust Agreement」の締結の際,被告中央会に対して金融法品販売法3条に基づく説明義務を負っていたのに,被告クレディの従業員である被告Y1は,これに違反し,チャンセリー債の内容についての説明を怠ったと主張する。
これに対し,被告クレディは,①原告らの被告クレディ及び被告Y1に対する請求は,同被告らの原告らに対する不法行為を理由とするものであり,内容的には原告らの被告中央会に対する将来の年金受給権ともいうべきものの侵害を問題とするものであると解されるところ,仮に,同被告らが被告中央会との関係で金融商品販売法上の説明義務に違反しても,それが直ちに第三者である原告らとの関係で不法行為に該当するものではない,②被告中央会はいわゆる「特定顧客」(同法3条4項1号)に該当するから,被告クレディは同法上の説明義務を負わないと主張する。
(イ) まず,①不法行為の点について検討するに,被告Y1は,被告中央会が年金資産を原資としてチャンセリー債を購入することについての認識はあったから,チャンセリー債が償還不能となれば,ひいては原告らを含む年金加入者の年金給付あるいは年金掛金等の返還に支障が生じることまでは認識し得たというべきである。そして,金融商品販売法における説明義務が,販売等の対象となる金融商品に元本欠損が生ずるおそれがある旨や,当初元本を上回る損失が生じるおそれがある旨などを内容とするものであることを併せ考えれば,被告クレディ及び被告Y1に同法の説明義務違反があれば,原告らとの関係においても,それが不法行為となり得るものと解される。
(ウ)a 次に,被告クレディ及び被告Y1に金融商品販売法上の説明義務が認められるかについて,さらに検討する。
同法3条1項は,金融商品販売業者等の顧客に対する説明義務を定めるが,同条4項1号によれば,「顧客が,金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者」(特定顧客)に該当する場合には,金融商品販売業者等は,当該顧客に対し,説明義務を負わないことになる。そして,同法施行令8条は,上記の「政令で定める者は,金融商品販売業者等とする。」と規定している。したがって,被告中央会が金融商品販売業者等に該当するならば,被告クレディ及び被告Y1は,被告中央会に対し,同法上の説明義務を負うことはないことになる。
b そこで,金融商品販売業者等とはいかなる者を指すのかが問題となる。同法2条3項によれば,「金融商品販売業者等とは,金融商品の販売等を業として行う者をいう。」とされ,同条2項によれば,「金融商品の販売等とは,金融商品の販売又はその代理若しくは媒介をいう。」と定められている。そして,同条1項4号によれば,金融商品の販売には,「保険若しくは共済に係る契約で保険契約に類するものとして政令で定めるものの保険契約者又はこれに類する者との締結」が含まれると規定されている。これを受けた同法施行令3条は,「法第2条第1項第4号に規定する政令で定める契約は,次に掲げる法律の規定により締結される保険又は共済に係る契約に該当しない保険又は共済に係る契約とする。」と規定する。
このような法文に従うならば,同法施行令3条所定の「共済に係る契約」とは,まさに同法2条1項4号に定める「保険若しくは共済に係る契約で保険契約に類するものとして政令で定めるもの」それ自体を意味することになる。したがって,さらに重ねて,「共済に係る契約」のうち,「保険契約に類するもの」と「保険契約に類しないもの」とを観念する余地はない。
c そして,共済とは,一定の地域又は職域でつながる者が団体を形成して相互に掛金を拠出し,団体構成員に一定の事由が発生した場合に財産上の給付を行う仕組みをいうと解すべきであるところ(保険法2条1号参照),被告中央会の年金共済事業は,被告中央会の組合員及びこれに準じる者が掛金を拠出して5年以上の加入期間を経過し,一定の年齢に達することによって受給要件を満たした等の場合に,定期的又は一括して金銭が支払われる仕組みを有するものであるから,これが上記の共済に該当することは明らかである。
d さらに,被告中央会の年金共済事業が,(同法施行令3条各号に掲げる)「法律の規定により締結される保険又は共済に係る契約」に該当しないことは明らかであるから,被告中央会の年金共済事業における加入者との間の契約は,同法施行令3条にいう「共済に係る契約」に該当するというべきであり,継続的に,加入者との間で「共済に係る契約」を締結し,それに基づき,年金共済事業の運営を行ってきた被告中央会は,同法施行令8条にいう「金融商品販売事業者等」に該当し,その結果,同法3条4項1号にいう「顧客が,金融商品の販売等に関する専門的知識及び経験を有する者として政令で定める者」(特定顧客)に該当することになる。
したがって,被告クレディは,被告中央会に対し,この点において金融商品販売法3条1項に基づく説明義務を負うことはない。
e これを趣旨からみても,金融商品販売法が金融商品販売業者等に対する説明を不要としたのは,金融商品販売業者等は,その知識・経験・財産の状況などから,適合性の観点からの保護に欠けることとならず,当事者も必ずしも行政規制による保護を望んでいないと考えられることや,このような者については,行政規制ではなく市場規律に委ねることにより,過剰規制による取引コストを削減し,取引の円滑化を促進する等のためであると解される。
被告中央会は,昭和58年4月以降,約20年間に渡り,2万人を超える加入者との間で,掛金を拠出した者に老後一定の要件を満たすことで年金の受給をするとともに,選択一時金や死亡時における遺族年金・遺族脱退一時金の受給も可能であるような共済契約を締結して,継続的に年金共済事業を運営してきたのであり,その資産規模についてみても,年金資産の元本割れが続いていた平成14年当時にあっても,200億円以上の年金資産を有し,これを国内外の株式及び債券等に運用していたのである。
上記の趣旨からみても,このようないわゆる機関投資家は,同法が予定する説明義務の対象には該当しないというべきである。
f これに対し,原告らは,被告中央会が,金融に関する知識や経験に乏しい小売酒販業者の集まりであって,実際には,三菱信託銀行等に年金資産の運用を全て委ねていたことからすれば,被告中央会が「金融商品販売業者等」に該当することはないと主張する。
しかし,被告中央会は,自ら年金資産を管理・運用する権限を有しているのであって,自らが年金資産の管理運用責任を問われることを避けるため,事実上,三菱信託銀行等に対し,年金資産の運用や管理を委託していたにすぎない。このような被告中央会内部における事実上の運用体制は,本来,被告クレディや被告Y1などの外部の者にはあずかり知らないところであるし,金融商品販売法が行政法規たる性質を有する特別法であることを考慮すれば,同法の説明義務の対象となるか否かは,法文に従い,定型的・類型的に判断すべきであり,被告中央会の構成員が現に有する金融に関する知識経験の有無・程度といった法文にない事情を考慮して概念を相対化させることは,相当でない。原告らの上記主張は採用できない。
(エ) ちなみに,被告クレディは,被告中央会から委託を受けて,チャンセリー債の購入を取り次ぎ,「有価証券を取得させる行為」(金融商品販売法2条1項5号)又はその「代理若しくは媒介」(同条2項)を行ったかのようである。
しかし,本件では,被告クレディ及び被告Y1は,被告Y4が,被告Y2による勧誘を受けて,チャンセリー債を購入することを決定した後,チャンセリー債の代行購入と保護預りをする金融機関を探している過程の中で,被告中央会との間で「Trust Agreement」の締結交渉を行い,その締結に至ったものである。「Trust Agreement」の内容も,被告クレディが,チャンセリー債という特定の商品を被告中央会に代わって購入し,保管するというにすぎない。「Trust Agreement」の締結の時点では,既に被告Y4において,チャンセリー債についての投資判断を終えていたものと評価できるし,実際,被告Y4は,初対面で,契約書類を持参してきた被告Y1が「Trust Agreement」について説明しようとすると,「いいから,分かっているから,早くやっちゃおうよ。」などと言って,これを遮ったというのである。
このように,被告クレディは,いわゆるカストディアンとしてチャンセリー債の代行購入と保護預りをすることに限定して関与したにすぎず,しかも,本件では,被告Y4が,被告Y1の説明を遮って契約の締結を急いだという事情がある。
そうすると,重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思の表明があった場合には,同法3条1項の説明義務の規定が適用されないこと(同法3条4項2号)にかんがみても,被告クレディ及び被告Y1に対する説明義務は,同法が予定するものではないとみるべきであり,同被告らに同法3条1項の説明義務を課すことはできない。
(オ) 以上検討したところによれば,被告Y1及び被告クレディは,いずれにせよ,被告中央会に対して金融商品販売法上の説明義務を負うことはないというべきである。したがって,原告らとの関係でも,同法上の説明義務違反を理由とする不法行為責任を負うことにはならない。
イ 「Trust Agreement」に付随する信義則上の説明義務について
(ア) 原告らは,被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」に付随する信義則上の説明義務に基づき,被告中央会に対し,①チャンセリー債の内容(特にリスク要因),②チャンセリー債は年金資産の運用対象として相応しくないこと(特に集中投資を回避すべきこと),③チャンセリー債には国際的投資詐欺集団であるインペリアル・コンソリデイテッド・グループが関与しているゆえ,購入を回避すべきことを説明すべき義務を負っていたのに,それを怠ったと主張する。
(イ)a そこで,被告クレディ及び被告Y1に,原告らが主張するような信義則上の説明義務が認められるかどうか検討する。
被告Y4,被告Y7を始めとする被告中央会の関係者は,平成14年2月以降,複数回に渡り,被告Y2から,アルファトロント債の内容や仕組みについて説明を受けており,そのリスク等についても,R&Iやインベスコといった外部の専門家から意見を聞いていた。被告Y4は,その上で,同年10月ころには,被告Y7の了承も得て,既にチャンセリー債への投資を決めていたのである。
b 被告Y1は,平成14年12月初めころになって,被告Y2を通じて,チャンセリー債の代行購入と保護預りの打診を受けた。その際,被告Y2や被告中央会の関係者から,チャンセリー債それ自体のリスクや収益性等に関する調査を依頼されていたわけではない。また,被告Y1は,被告Y2から,チャンセリー債私募要項の送付を受けたが,これは,いわゆるカストディアンとして,被告クレディのコンプライアンス部門における審査にかけるためであった。実際にも,被告クレディにおける審査は,被告クレディが,チャンセリー債私募要項に基づき,チャンセリー債の代行購入と保護預りをすることが可能かどうかという観点から実施された。
c このように,被告クレディ及び被告Y1は,被告Y2から,チャンセリー債という個別具体的な銘柄を指定され,それを被告中央会のために代行購入して保護預りをするサービスを提供することを依頼されたにすぎない。また,チャンセリー債のリスクを独自に調査し,また,チャンセリー債の私募要綱の記載と実際の仕組みが合致しているかを調査・検討して,これらの事項を被告中央会に対して報告する業務を依頼されていたわけでもなかった。もとより,コンプライアンス部門における審査は,あくまでも被告クレディの社内的なコンプライアンス等の観点から実施されたものにすぎないのであって,被告クレディが,その審査により,チャンセリー債には国際的投資詐欺集団が関与していたとか,チャンセリー債が投資商品としての健全性を著しく欠くなどといったことを認識していたとはいえないし,これらを認識し得べきであったということもできない。
d 被告クレディは,被告中央会から合計1億1149万円余の手数料の支払を受けているものの,これは,あくまでもチャンセリー債の代行購入及び保護預りに係る手数料である。それは,預かり金約144億円の1%にも充たないもので,保護預りの対象に係るリスクまで独自に調査・検討する義務を負担するのに相応しい報酬とはいえない。その支払を受けたからといって,直ちにチャンセリー債に係るリスクや投資対象としての適格性を独自に調査すべきことにもならない。
(ウ) 以上によれば,被告クレディ及び被告Y1が,被告中央会に対し,信義則上,原告らが主張する内容の説明義務を負うべきことにはならない。この点に関する原告らの主張は採用できない。
(3) 被告Y1は,原告らに対し,チャンセリー債の健全性に関し,積極的な虚偽説明を行ったか(被告クレディは,使用者責任を負うか)
ア 原告らは,被告Y1は,「Trust Agreement」の締結の際,被告Y4に対し,被告クレディが,英国においてチャンセリー債の内容に関する調査を行った結果,チャンセリー債が健全なものであると判断した旨の虚偽の説明を行ったと主張する。
イ しかし,前記のとおり,被告Y4を始めとする被告中央会の関係者が,被告クレディ及び被告Y1に対し,チャンセリー債の仕組みやリスク等について調査するよう依頼した形跡はないし,被告Y4らが,「Trust Agreement」の締結前に,被告クレディ及び被告Y1から調査結果を受け取った形跡もない(被告Y1が「Chancery&Leadenhall Ltd.債のリスクについて」と題する説明資料を被告中央会に送付したのは,「Trust Agreement」の締結から約8か月後の平成15年8月25日であって,同説明資料の作成及び送付の事実が,原告らの主張を裏付けることにはならないし,同説明資料の作成に被告クレディが関与したと認めることもできない。)。
そもそも,被告Y4は,「Trust Agreement」の締結以前から,チャンセリー債という具体的な商品に着目し,既にその投資判断を終えていたのである。このような状況において,被告クレディ及び被告Y1が,チャンセリー債の内容に関し,原告らが主張するような虚偽説明をあえて行う必要性も動機も見い出し難い。その他,本件各証拠に照らしても,被告Y1が,原告らの主張するような虚偽説明を行ったことを認めるに足りる確たる証拠はない。この点に関する原告らの主張は失当である。
(4) 被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」の内容に関し,説明義務を怠ったか
ア 原告らは,被告クレディ及び被告Y1は,「Trust Agreement」に付随する信義則上の義務として,被告中央会に対し,提供するサービスの内容に関し,被告中央会が指示したチャンセリー債の代行購入及び保管に係る義務しか負担しないことを説明すべき義務を負っていたと主張する。
イ そこで検討すると,被告Y4は,平成14年9月ころ,インベスコにおけるアルファトロント債の購入を打診し,インベスコは,同月下旬ころ,アルファトロント債(及び同様の仕組みを有するチャンセリー債)を取り扱うことを既に決定していた。ところが,インベスコは投資顧問会社であり,資金の受入れを行うことができなかったため,別途,債券を保管管理する金融機関(カストディアン)を確保する必要が生じた。そこで,インベスコのDや,被告Y2が,被告Y4の指示を受け,同年10月ころから,チャンセリー債の保護預りを引き受けてもらえる銀行を探し始めた。その後,被告Y1は,被告Y2が,保護預り先として日本国内に店舗のある外資系信託銀行を探しているとの照会を受けて,いったんはソシエテジェネラル銀行を紹介したが,インベスコの運用指図によるチャンセリー債の購入計画自体が,Dの解雇によって頓挫してしまった。その結果,被告Y2の依頼により,被告クレディがチャンセリー債の代行購入と保護預りを行うことを受諾したという経緯をたどったものである。
同年12月20日の「Trust Agreement」への押印に先立ち,被告Y4は,三菱信託銀行のKから,(被告クレディを通じてする投資は)「自家運用になって,被告中央会が運用責任を問われるので,問題です」と強く警告されるなど,被告クレディと「Trust Agreement」を締結しても,被告中央会が自ら年金資産を管理し,運用することに変わりはなく,投資判断に関する責任を問われる旨の指摘を受けていたし,被告Y4と被告Y1の間においても,チャンセリー債以外の投資対象の話は全く出ていなかった。
ウ つまり,本件の事実経過をみると,被告Y4において,既にチャンセリー債という個別銘柄に着目し,その投資判断(購入する旨の意思決定)を済ませた後,チャンセリー債の保護預り先を探した結果,被告クレディにたどり着いたものである。そして,被告Y4は,三菱信託銀行の担当者から,被告クレディを通しても被告中央会が責任を負う旨を警告されており,被告クレディとの「Trust Agreement」が,同被告の裁量により被告中央会の年金資産を運用するものではなく,まさに被告Y4が個別に選定したチャンセリー債を被告中央会のために代行購入して,それを保護預りすることを所与の前提とする契約であることを認識していた。言い換えれば,被告Y4は,被告クレディがチャンセリー債について,代行購入及び保管に係る義務しか負担しないことを当然に認識していたといえる。他方,被告Y1も,被告Y2から,被告中央会のためにチャンセリー債を代行購入し,現物の保護預りをすることができないかと打診されていたのであり,被告クレディの業務が,顧客において既に選定された商品の代行購入と保護預りにすぎないことは明白であった。現に,被告Y4と被告Y1の間で,「Trust Agreement」の締結の前後を通じ,チャンセリー債以外の投資については全く話題に上っていなかったことも,両者が被告クレディの業務がチャンセリー債の代行購入と保護預りにすぎないことを認識していたことの証左である。
エ 原告らは,「Trust Agreement」という英文の表題を捉えて,これは保護預り契約にとどまるものではないから,その点についての明確な説明が必要であったと主張する。
しかし,「Trust Agreement」には,被告クレディが被告中央会の依頼を受けてチャンセリー債を購入し,カストディアンとして債券の保護預りをすること,被告中央会は自らの投資判断及びリスク負担によりチャンセリー債の購入を行い,被告クレディが運用を行うものではないことが明確に定められている。被告クレディとの契約が,単にチャンセリー債の代行購入と保護預りのみを目的とするにすぎないことは,上記の記載から明らかである。被告Y4を始めとする被告中央会の関係者が,被告Y1に対し,和文による契約書等の交付を求めることなく,また,英文で書かれた契約書等の内容を専門家に精査させることもなかったとすれば,それ自体,杜撰なものというほかないが,契約書等の交付を受けている以上,その点に関するリスクと責任は,被告中央会側の範ちゅうに属するものである。その責を被告クレディ及び被告Y1に帰することはできない。
オ 以上によれば,被告Y1が,平成14年12月20日の「Trust Agreement」への押印に先立ち,被告Y4に対し,被告クレディの提供するサービスの内容がチャンセリー債の代行購入及び保護預りにすぎないことを説明すべき信義則上の義務を認める余地はない。
(5) 被告クレディは,チャンセリー債の償還事故が発生して以降,チャンセリー債に係る債権回収に向けた事情調査等をする条理上の義務を怠ったか
ア 原告らは,被告クレディが金融取引専門事業者であることや,チャンセリー債の券面上の権利者であること,チャンセリー債の代行購入及び保護預りを有償で引き受けたことから,条理上又は「Trust Agreement」に付随する信義則上の義務として,チャンセリー債が償還不能に陥った場合における事情調査・資産保全・債権回収努力義務を負うと主張する。
イ しかし,被告中央会と被告クレディとの間で締結された「Trust Agreement」には,「被告中央会が,被告クレディに対し,適時に指示をしなかった場合には,被告クレディは,独自の判断で被告中央会の利益を守るための行為をする権利を有するが,その義務はない。」と規定されているところであり,原告らの主張するような義務は,「Trust Agreement」の内容から明確に除外されている。
そして,「Trust Agreement」以外において,被告中央会と被告クレディとの間で,被告クレディが原告らの主張するような義務を負うと合意された形跡もない。
このように,原告らの主張するような義務が,被告中央会と被告クレディとの間の合意内容に含まれないことは明らかである。原告らが主張するような,被告クレディが金融取引専門業者であることや,チャンセリー債の券面上の権利者であることなどの事実も,上記合意の効果を覆すことはない。原告らの主張は失当である。
(6) 被告クレディは,チャンセリー債の保護預り業務の受託を回避すべきであったか
ア 原告らは,被告クレディが,チャンセリー債私募要綱に記載された適格投資家の定義に被告中央会が該当するかどうかを確認し,年金資産の運用として不適合なリスクの高いチャンセリー債の保護預りを引き受けることを辞退又は回避すべき義務を負っていたと主張する。
イ(ア) しかし,被告中央会がチャンセリー債に投資する適格を有するかどうかと,被告クレディがチャンセリー債の代行購入及び保護預りができるかどうかとは,本来,別異の問題である。被告中央会が適格投資家要件を充足しているかどうかは,チャンセリー債の発行体であるチャンセリー社及びその投資勧誘を行った被告Y2において確認すべき事柄である。これに対し,被告クレディは,チャンセリー債の代行購入及び保護預りを受託したにすぎないのであるから,被告クレディにおいては,これの行為が可能かどうかを確認すれば足りる。
チャンセリー社が被告中央会による投資を受け入れるために設立された専用のSPCであったことからすれば,わざわざ,被告クレディが,被告中央会がチャンセリー債の適格投資家に該当するか否かを確認する実質的意義にも乏しい。
そもそも,被告中央会がチャンセリー債の適格投資家に該当するか否かを確認すべき時点は,チャンセリー債についての投資判断(購入の意思決定)をする時点であって,保護預りをする時点ではない。ところが,本件では,被告クレディ及び被告Y1が保護預りを受託するよりも前に,被告中央会においては,既にチャンセリー債に対する投資判断が下されていたのである。この点からも,被告クレディ及び被告Y1において,被告中央会が適格投資家に該当するか否かを確認すべき義務を負わせることはできない。
(イ) そして,被告クレディのコンプライアンス部門における審査は,あくまでも被告クレディが当該商品の保護預り等を引き受けることができるかどうかという観点から実施されたものにすぎず,被告中央会の投資判断に供する目的で実施されたものではなかった。被告中央会の関係者から,チャンセリー債のリスク等に係る調査・検討を依頼されていたわけではなかったし,報酬もそれに見合う程度のものではなかった。被告クレディは,原告らが主張するような,チャンセリー債が殊更リスクの高い商品であって,年金資産の運用として不適合であるなどと判断すべき立場にはなかったのである。
ちなみに,他の信託銀行がチャンセリー債の保護預りを受託することを拒絶したのも,外国債券の保護預りをしたことがないことや,被告中央会の年金資産が掛金元本割れを起こしていたためであったというのであり,チャンセリー債が殊更リスクの高い商品であって,年金資産の運用として不適合であると判断したためではない。
ウ 以上の事実に照らすならば,被告クレディが,チャンセリー債の保護預りを引き受けることを辞退又は回避すべき義務を負うと認めることはできない。
(7) まとめ
以上によれば,被告クレディ及び被告Y1は,原告らが主張するいずれの義務も負うものではなく,同被告らの行為が,原告らとの関係で不法行為に該当すると認めることはできないし,被告Y4の不法行為を幇助したと認めることもできない。したがって,同被告らが,原告らに対して共同不法行為(民法719条)に基づく損害賠償責任を負うこともない。
よって,原告らの同被告らに対する請求を認めることはできない。
Ⅲ  最後に,被告Y7を除く被告中央会の役員らの責任について判断する。
【被告Y5,被告Y9,被告Y6】
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
ア 原告らの被告Y5らに対する請求は,組合法30条2項に基づき,理事の善管注意義務違反を理由として,第三者である原告らに対する損害賠償責任を追及するものである。
これに対し,被告Y5らは,組合法30条2項は,「理事が法令又は定款に違反する行為をしたときは,総会の決議によった場合でも,その理事は,第三者に対して連帯して損害賠償の責めに任ずる」と規定するところ,同項の「法令又は定款に違反する行為」とは,具体的な法令又は定款に違反する行為に限られるのであり,原告らが主張するような善管注意義務違反行為は含まれないから,被告Y5らが,原告らに対し,組合法30条2項に基づく第三者責任を負うことはないと主張する。
そこで,この点について検討する。
イ 組合法30条2項は,理事の第三者に対する責任について定めたものである。その趣旨は,本来,理事は,被告中央会に対しては委任関係に立つが,原告らを含む第三者に対しては何らの法律関係に立つものではないから,不法行為責任は別として,被告中央会に対する任務の懈怠により,第三者に対し損害賠償責任を負う理由はないはずであるが,法令又は定款の規定の中には,第三者の利益保護に関するものも存在することから,特に第三者の保護を図るため,特別の法定責任として認められたものである。
そして,同条1項は,理事が被告中央会に対する責任を負う場合として,「理事がその任務を怠ったとき」と規定しているのに対し,同条2項は,理事が第三者に対する責任を負う場合として,「法令又は定款に違反する行為をしたとき」と,両者を明確に区別して規定している。
このような理事の第三者に対する責任の法的性質及び組合法の規定に従うならば,同条2項にいう「法令又は定款」とは,具体的な法令又は定款を意味し,理事に一般的な任務懈怠(善管注意義務違反)が認められるだけでは,同項の対第三者責任は生じないと解するのが相当である。このことは,取締役の第三者責任を規定した昭和25年改正前商法266条2項に定める「法令又ハ定款ニ違反スル行為」についても,会社に対する善管注意義務又は忠実義務に違反する行為では足りず,具体的な法令又は定款に違反する行為が必要であると解されていたのと同様である(大審院昭和7年(オ)第2141号同8年2月14日判決・大審院民事判例集12巻5号423頁,最高裁昭和39年(オ)第1175号同44年11月26日大法廷判決・民集23巻11号2150頁参照)。
ウ これに対し,原告らは,平成17年改正前商法266条1項5号は,取締役が会社に対して損害賠償責任を負う場合として,「法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シタルトキ」を規定していたところ,同号の「法令」には,善管注意義務も含まれると解釈されていたなどと主張する。
しかし,原告の主張を前提としても,同号は,取締役の会社に対する責任を規定したものであって,理事の第三者に対する責任とは法的性質を異にするものであるから,同様に解することはできない。
エ なお,原告らは,被告Y5らが被告中央会の年金資産の運用検証を適時適切に行わなかったことが,「事務局は委託各機関から3カ月ごとに運用実績を聴取し,専門の外部機関により運用評価を取得の上,年金運営委員会に報告することを要す。」と規定する施行細則32条に違反すると主張する。
そこで,施行細則32条が,組合法30条2項所定の具体的な法令又は定款に該当するかについても検討する。
オ そもそも,被告中央会の年金共済事業は,組合法82条1項6号にいう「組合員の福利厚生に関する施設」を法令上の根拠とするにすぎず,組合法その他の法令により個別的具体的に規律された事業ではなかった。加えて,被告中央会の定款においても,年金共済事業に関する具体的な規定は全く存在していなかった。
実際には,被告中央会の年金共済事業は,年金共済規程に基づいて運営されていたものであった。年金共済規程は,被告中央会の定款において規約として定めることを委任された規則の一つであったが,その委任の方法を見ても,定款においては,「業務の執行,会計の処理その他本会の運営に関し必要な事項は,規約で定める。」(定款8条)と規定されていたにすぎず,年金共済事業に関し,個別的具体的な委任規定が存在していたものではない。加えて,施行細則は,年金共済規程により委任されたさらに下位の規則であって,年金共済規程の円滑な運用のために,詳細な事務手続や実務の取扱いを取り決めたものにすぎないものであった。
このように,被告中央会の年金共済事業それ自体,組合法又は被告中央会の定款を直接の根拠として運営されていた事業ではなかった。そして,原告らが主張する施行細則は,被告中央会の定款により規約として定めることを包括的に委任された年金共済規程のさらに下位規則にすぎないものであった。
これによれば,原告らが主張する施行細則の規定が,理事の第三者に対する損害賠償責任を認めた組合法30条2項所定の具体的な法令又は定款に該当するということはできない。
カ 以上によれば,原告らの被告Y5らに対する組合法30条2項に基づく損害賠償請求は,失当である。
(2) 被告Y5らは,被告中央会の年金委員たる理事として,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったか
ア 前記のとおり,原告らの被告Y5らに対する組合法30条2項に基づく損害賠償請求は,もとより失当であるが,審理の経過に鑑み,さらに検討する。
イ(ア) 原告らは,被告Y5らが被告中央会の年金資産の運用検証を適時適切に行わなかったことが,施行細則32条に違反し,被告Y5らが,平成14年末から平成15年3月にかけて,被告中央会の年金資産の運用状況を検証していれば,少なくとも,被告Y4による平成15年3月以降の送金(合計約110億円)は阻止できたと主張する。
(イ) しかし,施行細則32条は,「事務局は委託各機関から3カ月ごとに運用実績を聴取し,専門の外部機関により運用評価を取得の上,年金運営委員会に報告することを要す。」と規定しており,その文言からして,被告中央会の年金委員たる理事を名宛人として定められた規定ではない。
もともと,同条が規定されたのは,被告中央会においては,昭和58年4月に年金共済事業を開始した後,平成14年までの間,約20年間に渡り,一貫して,三菱信託銀行(総幹事会社)との間で,加入者管理等を含めた年金資産の管理・運用事務を包括的に委託し,年金資産の運用面に関しても,投資顧問会社との間で投資一任契約を締結して年金資産の運用を委託しており,被告中央会の事務局は,四半期(3か月)ごとに,各投資顧問会社から運用実績に関する報告書の送付を受けていたことから,報告書の送付を受けた事務局が,それを年金委員会に報告することを要すると定められたものである。
実際にも,被告中央会においては,約20年間に渡り,被告中央会の理事自らが年金資産の運用状況等を個別に検証する作業などは行われていなかったのであり,被告Y5らも,このような慣行を前提として理事に就任したのである。
加えて,原告らが主張する平成14年末から平成15年3月当時は,まさに前記の緊急措置法案等が国会で審議されている最中であって,被告Y5らは,小売酒販店主の利益を守るべく,国会での陳情活動など種々の活動に奔走していたという事情がある。
(ウ) このような施行細則32条の文言及び沿革に加え,被告中央会における従前の慣行や当時の事情などに照らすならば,被告Y5らに対し,施行規則32条に基づき,被告中央会の年金資産の個別的な運用検証義務を課すのは相当でない。
ウ また,原告らは,被告Y5らを始めとする平成14年当時の年金委員たる理事には,新たな健全かつ具体的な運用方法を企画立案する義務があったとも主張する。
しかし,総幹事社であった三菱信託銀行でさえ,原告らが主張するような運用方法は存在しないとして,年金共済事業の解散を求めていたのである。年金運営の専門家でもない被告Y5らに対し,原告らが主張するような義務を課すのは,不可能を強いるものであって相当でない。
エ とはいえ,被告Y5らを始めとする被告中央会の理事の多くは,被告中央会の年金共済事業の財政状況や運用上の問題等と真摯に向き合い,将来の年金共済事業にとって何が最良の選択肢なのかを責任を持って検討することなく,三菱信託銀行を非難することに終始し,最も困難な将来の年金資産の具体的な運用方法については,事務局長の被告Y4にいわば丸投げにしていた。
このように,被告中央会ひいては加入者である原告らの利益を保護増進すべき立場にある理事らが,年金資産の運用を事務局長である被告Y4に任せきりにしていたことについては,非難を免れないところがある。
オ しかし,他方,被告中央会においては,年金共済事業を開始した昭和58年当初から平成14年に至るまで,約20年間に渡り,一貫して三菱信託銀行に対して年金の給付や年金資産の管理を委託し,年金資産の運用面に関しては,投資顧問会社との間で投資一任契約を締結して,その運用を委託していたという経緯がある。つまり,被告中央会の理事らが,直接,年金資産の運用面に関与した経験には乏しかったのである。
加えて,被告Y5を始めとする被告中央会の理事らは,平成14年当時,喫緊の課題として,酒販業者の利益増進を図るため,酒販業の規制緩和に対抗する緊急措置法を成立させる作業に掛かり切りであった。
そのような状況下で,被告中央会の理事らが,年金資産の具体的な運用方法を「年金共済事業のエキスパート」,「ミスター年金」と呼ばれ,年金共済事業に関し厚い信任を得ていた被告Y4に頼ったのも頷ける。
また,被告Y5らは,被告中央会の理事,監事,事務局長に加え,三菱信託銀行やR&Iの担当者等の有識者を集めて意見を聴取する年金懇談会を立ち上げ,5回に渡る会合を開いて,年金共済事業の維持及び変更等を検討していたのであり,被告中央会の理事として,年金共済事業に全く無関心であったというわけでもない。
そして,被告Y4は,被告Y7を除く被告中央会の理事らには,チャンセリー債の存在について一切知らせておらず,チャンセリー債に関係する資料も残していなかったし,理事会はおろか,年金委員会や年金懇談会においても,アルファトロント債あるいはチャンセリー債への投資を話題にしなかったのであるから,被告Y5らが,その実態を認識できなかったとしてもやむを得ないところがある。
カ 以上によれば,被告Y5らが,被告中央会の年金資産の運用を被告Y4に任せきりにしたことをもって,原告らとの関係で,何らかの注意義務違反を認めることも困難である。
(3) まとめ
以上要するに,原告らの被告Y5らに対する組合法30条2項に基づく損害賠償請求はもとより失当であるが,それを措いても,被告中央会におけるそれまでの年金共済事業の運営方法や理事らの関与の度合い,被告中央会を取り巻く政治状況等に加え,被告Y4がチャンセリー債への投資を殊更に秘匿していたという事情などに鑑みるならば,被告Y5らが,被告中央会の年金資産の運用を被告Y4に任せきりにし,その結果,被告Y4によるチャンセリー債への投資及び送金を阻止できなかったとしても,これについて,原告らとの関係で何らかの注意義務違反を認め,損害賠償責任を問うことはできないというべきである。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告Y5らに対する請求は理由がない。
【被告Y13,被告Y11,被告Y10,被告Y12,被告Y14】
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか
ア 原告らの被告Y13らに対する請求は,組合法30条2項に基づき,理事の善管注意義務違反を理由として,第三者である原告らに対する責任を追及するものである。
イ そして,原告らは,被告Y13らは年金委員ではないものの,被告中央会の理事の地位にあったのだから,理事会の席上において,年金委員でもあった理事に対して年金資産の運用及び管理状況について質問する義務(質問権行使義務)があったとか,これらの理事から報告を受けて年金資産の現況を把握する義務(現況把握義務)があったなどと縷々主張する。
しかし,原告らが主張する義務は,具体的な法令及び定款に基づくものではなく,いずれも,要は,理事としての善管注意義務の具体的態様をいうにほかならない。そして,前記のとおり,理事に一般的な任務懈怠(善管注意義務違反)が認められるだけでは,組合法30条2項の対第三者責任は発生しない。したがって,原告らの被告Y13らに対する請求は,この点においてその前提を欠くものであって失当である。
ウ(ア) なお,審理の経過に鑑み,さらに検討するに,平成14年当時の小売酒販業界においては,平成13年1月に酒販免許制度の距離基準が廃止されるなど,規制緩和が進行していた。これに対し,被告中央会としては,既存の小売酒販業者のための救済措置の実施が喫緊の課題となっていた。そのような状況の下で,被告Y13らを始め年金委員以外の理事らは,当時,酒販業の規制緩和に対抗する緊急措置法を成立させるためのロビイスト活動に注力していたのである。
(イ) 他方,被告中央会の年金共済事業については,平成14年2月ころ,三菱信託銀行から,年金資産の掛金元本割れが生じており,解散を含めて検討するしかないという見通しを伝えられた。そこで,将来の年金共済事業を検討するために,被告中央会の理事,監事,事務局長及び三菱信託銀行やR&Iの担当者等の有識者を集めて意見を聴取する年金懇談会が発足した経緯がある。そこでは,同年8月から10月にかけて,前後5回に渡り,専門家を交えて,年金共済事業の立て直しについて集中的に議論された。その結果,同年11月の年金委員会及び理事会においては,年金資産の時価評価額を3~5年で掛金元本まで回復させることを目標に,年金共済事業の運用を変更することにより制度の存続を図るという結論が出され,同年12月,総会においても了承された。
このように,被告中央会の年金共済事業については,専門家を交えた年金懇談会において繰り返し議論され,それを受けて年金委員会でも議論され,さらにこれらの議論を踏まえて,理事会及び総会において上記のとおり決議されたのである。
(ウ) ところで,被告Y13ら理事の業務をみると,被告Y13らは,全国各地に居住して,年に数回上京するという勤務形態であり,しかも,理事とはいっても,いずれも年金委員には選任されておらず,実際,年金委員会にも年金懇談会にも参加したことはない。
このような立場にあった被告Y13らは,基本的に年金懇談会及び年金委員会における取り組みを信頼して自己の職務を遂行すれば足りるというほかない。理事会において報告された年金懇談会や年金委員会における検討の過程や内容が一見して明らかに不合理・不十分である等の事情があればともかく,そうでなければ,被告Y13らが,原告らが主張するような種々の義務違反の責を問われることはない。原告らの主張は採用できない。
(2) まとめ
したがって,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告Y13らに対する請求は理由がない。
【被告Y8】
(1) 組合法30条2項の理事ではない年金委員への類推適用の可否
ア 原告らは,年金委員会には,本来的に理事会が行うべき権限が委譲されており,また,被告Y8は実質的にも理事といい得る立場にあったから,被告Y8には組合法30条2項が類推適用されるべきであると主張するので,検討する。
イ まず,組合法30条2項が理事の第三者に対する責任を認めたのは,理事には職務執行を行う地位と権限が認められ,組合の活動が理事の職務執行に依存しているからであると解される。そこで,理事の地位・権限についてみるに,組合法及び定款によって,職務の内容・任期・報酬・選任・解任等について規定されていたのに対し,年金委員の地位・権限等については,特に明文規定がない。また,理事を構成員とする理事会は,法令及び定款に基づき,被告中央会の業務執行についての決定権限を有するのに対し,年金委員を構成員とする年金委員会は,年金共済規程に基づき,理事会の諮問機関として,運用委託機関との解約や資産配分率の変更といった被告中央会の年金共済事業の一部について権限を有するにすぎない。そして,これらの事項についても,理事会への報告が必要とされているのである。このように,理事と年金委員の地位及び権限を比較すると,年金委員には,理事に比肩する地位と権限があるとはいえないし,被告中央会の活動が年金委員の職務執行に依存するという関係にもない。
ウ 被告Y8についてみても,同被告は,信用金庫に勤務していた経験があったことから,東京小売酒販組合において知己があった被告Y5に頼まれて年金委員に就任したけれども,取り立てて年金問題について高度な知見があったわけではなかった。また,年金委員であること以外に,被告中央会において何らかの権限が与えられていたわけでもない。実際にも,被告Y8は,平成14年8月から10月の間,前後5回に渡って開催された年金懇談会には一度も出席していない。その他,被告Y8が,チャンセリー債への投資に至るまでに,被告中央会の年金共済事業に関し何らかの影響を及ぼしたと評価できる事実は何もないのである。
エ 上記のような年金委員の地位・権限及び被告Y8の知識・影響力等に照らすならば,被告Y8が実質的に理事といいうる立場にあったということもできない。したがって,被告Y8には,組合法30条2項が類推適用される基礎を欠くから,この点に関する原告らの主張は失当である。
(2) 被告Y8の義務違反は不法行為を構成するか
ア 原告らは,被告Y8が被告中央会の年金委員として,施行細則32条に基づき,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったと主張して,被告Y8に対し,不法行為に基づく損害賠償も求めている。
イ よって検討するに,施行細則32条の文言及び沿革から見て,同条が年金委員に対する年金資産の運用検証義務を定めたものと解することはできないことは,被告Y5らについて述べたところと同様である。実際にも,被告Y8を含む年金委員は,みな小売酒販店の経営者であって,年金資産の運用・管理について高度な専門的知識を有していたわけではない。そもそも,年金委員には年金委員会の招集権限すらないのであり,そうである以上,年金委員に年金資産の運用について積極的に情報収集や分析といった専門的な作業を行うことが期待されていたなどということもできない。
ウ 以上のような施行細則の文言・沿革及び年金委員の人選・権限等に照らすならば,施行細則32条が,年金委員が事務局に対して報告や情報提供を要求し,年金資産の運用状況について積極的に検証を行う義務を定めたものと解することはできない。したがって,年金委員であった被告Y8が,原告らが主張するような施行細則32条に基づく運用検証義務を負うことはないというべきである。
(3) まとめ
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告Y8に対する請求は理由がない。
【被告Y16,被告Y15】
(1) 組合法30条2項の「法令」に民法644条(善管注意義務)は含まれるか(組合法33条は「監事については,第30条…の規定を…準用する。」と規定するから,組合法30条2項は監事に準用される。)
ア 原告らの被告Y16らに対する請求は,組合法33条が準用する同法30条2項に基づき,監事の善管注意義務違反を理由として,第三者である原告らに対する損害賠償責任を追及するものである。
しかし,組合法30条2項にいう「法令又は定款」とは,具体的な法令又は定款を意味し,単に,監事に一般的な任務懈怠(善管注意義務違反)が認められるだけでは,同項の対第三者責任は生じないと解すべきことは,被告Y5らについて述べたところと同様である。
イ 原告らは,被告Y16らが,3か月に一度,被告中央会の年金の運用実績に対する監査を行わなかったことが,「事務局は運用実績に基づき,監事による監査を3カ月に一度受けることを要す。又,年金数理人にも同様の資料を送付し,最低限,書類上の監査を受ける事を要す。」と規定する施行細則33条に違反すると主張する。
しかし,施行細則の規定が,監事の第三者に対する損害賠償責任を認めた組合法30条2項所定の具体的な法令又は定款に該当するということができないことは,被告Y5らについて述べたところと同様である。
ウ したがって,原告らの被告Y16らに対する組合法30条2項に基づく損害賠償請求は,失当である。
(2) 被告Y16らは,被告中央会の監事として,適時適切に年金資産に関する監査を行う義務を怠ったか
ア 前記のとおり,原告らの被告Y16らに対する組合法30条2項に基づく損害賠償請求は,もとより失当であるが,審理の経過に鑑み,さらに検討する。
イ(ア) 原告らは,被告Y16らが,被告中央会の年金の運用実績について,平成14年12月末日時点を対象とする監査を行わなかったことが,施行細則33条に違反し,被告Y16らがこれを実施していれば,被告Y4による平成15年3月以降の送金(合計約110億円)は阻止できたと主張する。
(イ) しかし,施行細則33条は,「事務局は運用実績に基づき,監事による監査を3カ月に一度受けることを要す。又,年金数理人にも同様の資料を送付し,最低限,書類上の監査を受ける事を要す。」と規定しており,その文言からして,被告中央会の監事を名宛人として定められた規定ではない。
もともと,被告中央会の監事を含む役員は,全国の小売酒販店を経営する店主のうち,都道府県単位の組織である酒販組合連合会から選出された非常勤の役員であり,年金資産の運用・管理について高度な専門的知識を有していたわけではなかった。そして,被告中央会においては,年金資産の運用に関しては,外部専門家である各投資顧問会社との間で投資一任契約を締結して,これを全面的に委託していた。被告中央会の事務局は,各投資顧問会社から,四半期ごとに報告書の送付を受けていたものの,これに基づき,その都度,年金の運用実績に関する集計作業を実施していたわけではなく,年1回,決算作業を実施していたにすぎなかった。つまり,監事が四半期ごとに監査を実施しようにも,被告中央会の事務局が作成した資料は存在しない状態にあった。
このような被告中央会における監事の人選や年金共済事業の運営実態などに照らすならば,同条が,被告中央会における年金の運用実績について,監事による3か月ごとの積極的な監査義務を定めた規定であって,監事による監査義務の対象は,被告中央会において実施された作業を超え,投資顧問会社による年金運用の妥当性についても及ぶと解することには無理がある。むしろ,同条は,その文言どおり,事務局を名宛人として,各投資顧問会社等から年金の運用実績に関する報告書の送付を受けた場合には,速やかに資料を作成して監事による監査を受けることを義務づけた規定であると解するのが相当である。
そうすると,被告Y16らが,施行規則33条に基づき,被告中央会の年金の運用実績について,平成14年12月末日時点を対象とする監査を行う義務があったと認めることはできない。
ウ(ア) 原告らは,被告中央会の監督官庁である国税庁が,平成17年3月11日付けの業務改善勧告において,被告中央会の年金共済事業について3か月に一度の監査が行われていなかったことは,被告中央会の監査業務運営として著しく適正を欠くと指摘していることや,被告Y15については,施行細則33条の制定審議に参加し,その存在を知っていたことなどを捉えて,被告Y16らは,原告らに対して損害賠償責任を負うと主張する。
(イ) しかし,原告らの主張を前提としても,①国税庁の指摘はあくまで行政上の措置に伴うものであること,②被告中央会の監事による監査の対象は,年金共済事業に限るものではなく,組合員から徴収された賦課金や政治活動資金の使途・収支等に対する監査や,被告中央会が所有する不動産に関する監査など,多方面に渡るものであったこと,③被告中央会の監事は非常勤の役員であり,被告中央会の監査業務に専念していたわけではなかったこと,④被告中央会においては,昭和58年の年金共済事業の開始から平成14年に至るまで,各投資顧問会社から送付を受けた報告書について,期中における監査が実施されたことなどなかったことに加え,⑤チャンセリー債への投資は,被告Y4らにより秘密裡に進められ,被告中央会の年金懇談会や年金委員会においてすら上程されておらず,役員会においても全く話題にされていなかったことや,⑥被告Y16についていえば,同被告は,年金懇談会に参加して,被告中央会の年金共済事業の存続を主張する理事らに対し,むしろ,年金共済事業は既に破綻しており解散した方がベターであるなどと述べて,被告中央会の年金共済事業が置かれた現実を直視した議論を展開したものの,結果的に採用されなかった経緯があることなどに照らすならば,被告Y16らが,年金の運用実績について,3か月ごとの監査を実施しなかったことをもって,同被告らに何らかの注意義務違反を認め,原告らに対する損害賠償責任を認めることはできない。
(3) まとめ
以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの被告Y16らに対する請求は理由がない。
3  結論
以上によれば,原告らの各請求のうち,被告Y4,被告中央会,被告Y7及び被告Y2に対するものはいずれも理由があるからこれらを全部認容し,その余の被告に対するものはいずれも理由がないからこれらを全部棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松田亨 裁判官 長井清明 裁判官 久田淳一)

 

(別紙)
原告目録
大阪府河内長野市〈以下省略〉 原告X1
大阪府河内長野市〈以下省略〉 原告X2
大阪府長野市〈以下省略〉 原告X3
長野市〈以下省略〉 原告X4
長野市〈以下省略〉 原告X5
長野市〈以下省略〉 原告X6
兵庫県長野市〈以下省略〉 原告X7
長野市〈以下省略〉 原告X8
大阪府東長野市〈以下省略〉 原告X9
長野市〈以下省略〉 原告X10
大阪府長野市〈以下省略〉 原告X11
滋賀県長野市〈以下省略〉 原告X12
大阪府東長野市〈以下省略〉 原告X13
大阪府長野市〈以下省略〉 原告X14
兵庫県加東市〈以下省略〉 原告X15
兵庫県加東市〈以下省略〉 原告X16
長野市〈以下省略〉 原告X17
長野市〈以下省略〉 原告X18
長野市〈以下省略〉 原告X19
神戸市〈以下省略〉 原告X20
奈良県葛城市〈以下省略〉 原告X21
奈良県葛城市〈以下省略〉 原告X22
大阪府藤井寺市〈以下省略〉 原告X23
広島県福山市〈以下省略〉 原告X24
広島県福山市〈以下省略〉 原告X25
名古屋市〈以下省略〉 原告X26
長野市〈以下省略〉 原告X27
長野市〈以下省略〉 原告X28
長野市〈以下省略〉 原告X29
宮崎県延岡市〈以下省略〉 原告X30
大阪府東長野市〈以下省略〉 原告X31
長野市〈以下省略〉 原告X32
兵庫県川西市〈以下省略〉 原告X33
兵庫県〈以下省略〉 原告X34
滋賀県彦根市〈以下省略〉 原告X35
大阪府長野市〈以下省略〉 原告X36
福岡市〈以下省略〉 原告X37
兵庫県加古川市〈以下省略〉 原告X38
兵庫県養父市〈以下省略〉 原告X39
松江市〈以下省略〉 原告X40
長野市〈以下省略〉 原告X41
長野市〈以下省略〉 原告X42
長野市〈以下省略〉 原告X43
大阪府岸和田市〈以下省略〉 原告X44
大阪府岸和田市〈以下省略〉 原告X45
愛媛県新居浜市〈以下省略〉 原告X46
広島県福山市〈以下省略〉 原告X47
広島県福山市〈以下省略〉 原告X48
長野市〈以下省略〉 原告X49
大阪府吹田市〈以下省略〉 原告X50
兵庫県豊岡市〈以下省略〉 原告X51
三重県〈以下省略〉 原告X52
大阪府枚方市〈以下省略〉 原告X53
大阪府枚方市〈以下省略〉 原告X54
長野市〈以下省略〉 原告X55
長野市〈以下省略〉 原告X56
徳島県吉野川市〈以下省略〉 原告X57
長野市〈以下省略〉 原告X58
長野市〈以下省略〉 原告X59
大分県国東市〈以下省略〉 原告X60
大分県国東市〈以下省略〉 原告X61
長野市〈以下省略〉 原告X62
長野市〈以下省略〉 原告X63
長野市〈以下省略〉 原告X64
長野市〈以下省略〉 原告X65
原告ら訴訟代理人弁護士 三木俊博
原告ら訴訟代理人弁護士 吉岡一彦
原告ら訴訟代理人弁護士 溝内有香
原告ら訴訟代理人弁護士 松本洋介
原告ら訴訟代理人弁護士 田端聡
原告ら訴訟代理人弁護士 内藤秀文
原告ら訴訟代理人弁護士 片岡利雄
原告ら訴訟代理人弁護士 今井孝直
以上
(別紙)
被告目録
東京都目黒区〈以下省略〉
被告 全国小売酒販組合中央会(以下「被告中央会」という。)
上記代表者代表理事 A
上記訴訟代理人弁護士 相原英俊
同 蒲原司
スイス国チューリッヒ〈以下省略〉
被告 クレディ・スイス(以下「被告クレディ」という。)
日本における代表者 B
(支店) 東京都港区〈以下省略〉
上記訴訟代理人弁護士 平川修
同 若林弘樹
同 檀柔正
同 石原仁
同 中西洋文
同 三木康史
同 幸丸雄紀
同 田中利彦
同 宮本英治
同 豊島維
同復代理人弁護士 横木雅俊
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y1(以下「被告Y1」という。)
上記訴訟代理人弁護士 中田直茂
同復代理人弁護士 須田亮
アメリカ合衆国ネバダ州ラスベガス市〈以下省略〉
被告 Y2(以下「被告Y2」という。)
上記訴訟代理人弁護士 込山和人
東京都品川区〈以下省略〉
被告 Y3
上記訴訟代理人弁護士 金森仁
同 中村大輔
同 井上明子
東京都世田谷区〈以下省略〉
被告 Y4(以下「被告Y4」という。)
上記訴訟代理人弁護士 小川治彦
同 甲斐伸明
東京都大田区〈以下省略〉
被告 Y5(以下「被告Y5」という。)
広島市〈以下省略〉
被告 Y6(以下「被告Y6」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 緒方泉
北海道旭川市〈以下省略〉
被告 Y7(以下「被告Y7」という。)
上記訴訟代理人弁護士 C憲壯
同 成川毅
東京都豊島区〈以下省略〉
被告 Y8(以下「被告Y8」という。)
上記訴訟代理人弁護士 桒原康雄
北九州市〈以下省略〉
被告 Y9(以下「被告Y9」という。)
上記訴訟代理人弁護士 榎本峰夫
富山市〈以下省略〉
被告 Y10(以下「被告Y10」という。)
神戸市〈以下省略〉
被告 Y11(以下「被告Y11」という。)
高松市〈以下省略〉
被告 Y12(以下「被告Y12」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 阿南英之助
奈良市〈以下省略〉
被告 Y13(以下「被告Y13」という。)
上記訴訟代理人弁護士 家近正直
同 秦周平
同 福本洋一
鹿児島県日置市〈以下省略〉
被告 Y14(以下「被告Y14」という。)
岡山市〈以下省略〉
被告 Y15(以下「被告Y15」という。)
上記訴訟代理人弁護士 奥津亘
同 奥津晋
同 奥津周
愛知県半田市〈以下省略〉
被告 Y16
以上
付録①
平成19年(ワ)第286号,同第2853号 損害賠償請求事件
判決
当事者の表示 別紙原告目録及び被告目録のとおり
主文
1 被告Y4,被告全国小売酒販組合中央会,被告Y7及び被告Y2は,各原告に対し,連帯して別紙請求額一覧表記載の各金員及びこれらに対する平成14年12月20日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告らのその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y4に生じた費用を被告Y4の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告全国小売酒販組合中央会に生じた費用を被告全国小売酒販組合中央会の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y7に生じた費用を被告Y7の負担とし,原告らに生じた費用の18分の1と被告Y2に生じた費用を被告Y2の負担とし,その余は原告らの負担とする。
4 この判決第1項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第2 事案の概要
本件は,被告中央会が営む私的年金制度の加入者である原告らが,被告Y4,被告中央会,被告中央会の理事及び監事ら,被告Y2,被告Y3,被告クレディ及び被告Y1に対し,不法行為等に基づき,各原告の年金掛金累計額の約7割に相当する金額に弁護士費用を加えた合計約1億7500万円の損害賠償を求めた事案である。
第3 当裁判所の判断
Ⅰ まず,チャンセリー債に対する投資に直接関与した者らの責任について判断する。
【被告Y4】
被告Y4は,被告Y2からリベートを得ることを意図して,理事会に諮ることも,十分な調査検討を行うこともせずに,平成14年12月20日,被告中央会の代表印を「Trust Agreement」に押印させた上,被告中央会の年金資産の約8割に当たる合計約144億円をチャンセリー債に投資したのであって,この行為が,被告中央会との関係だけでなく,被告中央会の年金共済事業の加入者等である原告らとの関係でも不法行為を構成することは明らかである。
そして,原告らが主張する損害は,弁護士費用も含め,全て被告Y4の不法行為と相当因果関係を有すると認めるのが相当である。
【被告中央会】
被告Y4の行為は,被告中央会の事業の執行について行われたものと認められるから,被告中央会は,被告Y4の不法行為につき,使用者責任を負う。
したがって,被告中央会は,各原告に対し,被告Y4と連帯して損害賠償責任を負う。
【被告Y7】
被告Y7は,被告Y4の直接の指揮監督権者として,また,チャンセリー債への投資を知っていた唯一の理事として,専門家の意見を徴するなどして,投資の是非や許容される投資規模等を検討すべきであった。
それにもかかわらず,被告Y7は,被告Y4の説明を裏付ける資料等を確認することも,専門家の意見を聴取することも,理事会に諮ることも,さらには,被告クレディとの契約内容さえ確認することもなく,被告Y4がチャンセリー債へ投資することを漫然と了承したのであるから,これが,原告らとの関係でも不法行為に該当することは明らかである。
そして,被告Y7の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するから,被告Y7は,被告Y4と連帯して損害賠償責任を負う。
【被告Y2】
被告Y2は,チャンセリー債について,基本的事項の説明を全くすることなく,被告中央会の適格投資家要件や適切な投資規模などについて一切関心を払うこともなく,被告中央会の年金資産の性質及び状況に比べて明らかに過大な危険を伴うチャンセリー債に,できる限り多くの金額を投資させようとしたのであって,被告Y2が,被告Y4にチャンセリー債を紹介し,その投資を決断させた行為が,原告らとの関係でも不法行為に該当することは明らかである。
そして,被告Y2の行為は,被告Y4との共同不法行為を構成するから,被告Y2は,被告Y4と連帯して損害賠償責任を負う。
【被告Y3】
原告らは,被告Y3が,約1億5000万円ものリベートを受領したことは,少なくとも過失による幇助に該当すると主張する。
しかし,被告Y3がリベートを受領することとなったのは,被告Y2が,被告Y4に渡されることを期待して,被告Y3に多額のリベートを提供した結果にすぎないのであり,被告Y3に,過失による幇助等を認めることはできない。
したがって,同被告に対する請求を認めることはできない。
Ⅱ 次いで,チャンセリー債の保護預り等に関与した者らの責任について判断する。
【被告クレディ,被告Y1】
原告らは,被告クレディ及び被告Y1が,金融商品販売法3条に基づく説明義務を怠ったと主張する。
しかし,被告中央会は,同法が説明義務の対象外とする,いわゆる「特定顧客」に該当するから,被告クレディが,同法に基づく説明義務を負うことはない。
また,原告らは,同被告らは,「Trust Agreement」に付随する信義則上の説明義務を怠ったと主張する。
しかし,同被告らは,被告Y2から,チャンセリー債という個別具体的な銘柄を指定され,それを被告中央会のために代行購入して保護預りをすることを依頼されたにすぎない。被告クレディが,被告中央会から手数料の支払を受けたからといって,直ちにチャンセリー債に係るリスクや投資対象としての適格性を独自に調査すべきことにもならないのであり,これをもって,同被告らが,被告中央会に対し,信義則上の説明義務を負うべきことにはならない。
さらに,原告らは,被告クレディが,条理上又は信義則上の義務として,チャンセリー債が償還不能に陥った場合における事情調査・資産保全・債権回収努力義務を負うと主張する。
しかし,原告らの主張するような義務は,「Trust Agreement」の内容から明確に除外されている。被告クレディが金融取引専門業者であることや,チャンセリー債の券面上の権利者であるなどの事実も,「Trust Agreement」における合意の効果を覆すものではない。
加えて,原告らは,被告クレディが,適格投資家の定義に被告中央会が該当するかを確認すべき義務を怠ったとも主張する。
しかし,チャンセリー社が,被告中央会による投資を受け入れるために設立された専用のSPCであることや,被告クレディが保護預りを受託する前に,チャンセリー債に対する投資判断が下されていたことからすれば,重ねて,被告クレディ及び被告Y1に,被告中央会が適格投資家に該当するかを確認すべき義務を認めることはできない。
以上によれば,被告クレディ及び被告Y1は,原告らが主張するいずれの義務も負うことはない。
よって,同被告らに対する請求を認めることはできない。
Ⅲ 最後に,被告Y7を除く被告中央会の役員らの責任について判断する。
【被告Y5,被告Y9,被告Y6】
【被告Y13,被告Y11,被告Y10,被告Y12,被告Y14】
【被告Y16,被告Y15】
原告らは,被告中央会の理事及び監事らは,組合法30条2項に基づき,原告らに対して損害賠償責任を負うと主張する。
しかし,組合法30条2項にいう「法令又は定款」は,具体的な法令又は定款を意味し,理事に一般的な任務懈怠が認められるだけでは,同項の対第三者責任は生じないと解すべきである。
そして,原告らが主張する施行細則の規定が,理事の第三者に対する損害賠償責任を認めた組合法30条2項所定の具体的な法令又は定款に該当するということもできない。
したがって,被告中央会の理事及び監事らに対する請求は,もとより失当である。
【被告Y8】
原告らは,年金委員であった被告Y8が,適時適切に年金資産の運用検証を行う義務を怠ったと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求めている。
しかし,被告Y8を含む年金委員には,年金委員会の招集権限すらないのであって,年金資産の運用について,積極的に情報収集や分析といった専門的な作業を行うことが期待されていたということはできない。
結局,年金委員であった被告Y8が,原告らが主張するような運用検証義務を負うことはない。
したがって,被告Y8に対する請求は理由がない。
3 結論
以上によれば,原告らの各請求のうち,被告Y4,被告中央会,被告Y7及び被告Y2に対するものはいずれも理由があるからこれらを全部認容し,その余の被告に対するものはいずれも理由がないからこれらを全部棄却することとして,主文のとおり判決する。

〈以下省略〉

 

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政治と選挙Q&A「政治資金規正法 ポスター貼り(掲示交渉)代行」に関する裁判例一覧
(1)平成30年10月11日 東京高裁 平30(う)441号 政治資金規正法違反被告事件
(2)平成30年 6月27日 東京地裁 平27(特わ)2148号 各政治資金規正法違反被告事件
(3)平成30年 4月18日 東京高裁 平29(行コ)302号 埼玉県議会政務調査費返還請求控訴事件
(4)平成30年 3月30日 東京地裁 平27(ワ)37147号 損害賠償請求事件
(5)平成30年 3月20日 大阪高裁 平29(行コ)60号 補助金不交付処分取消等請求控訴事件
(6)平成30年 1月22日 東京地裁 平27(特わ)2148号 政治資金規正法違反被告事件
(7)平成29年12月14日 札幌高裁 平29(ネ)259号 損害賠償等請求控訴事件
(8)平成29年12月 8日 札幌地裁 平24(行ウ)3号 政務調査費返還履行請求事件
(9)平成29年 7月18日 奈良地裁 平29(わ)82号 虚偽有印公文書作成・同行使、詐欺、有印私文書偽造・同行使、政治資金規正法違反被告事件
(10)平成29年 3月28日 東京地裁 平25(ワ)28292号 謝罪広告等請求事件
(11)平成29年 3月28日 仙台地裁 平28(ワ)254号 損害賠償請求事件
(12)平成29年 3月15日 東京地裁 平27(行ウ)403号 地位確認等請求事件
(13)平成29年 1月26日 大阪地裁 平24(行ウ)197号・平26(行ウ)163号 補助金不交付処分取消等請求事件
(14)平成28年12月27日 奈良地裁 平27(行ウ)15号 奈良県議会会派並びに同議会議員に係る不当利得返還請求事件
(15)平成28年10月12日 大阪高裁 平28(ネ)1060号 損害賠償等請求控訴事件
(16)平成28年10月12日 東京地裁 平25(刑わ)2945号 業務上横領被告事件
(17)平成28年10月 6日 大阪高裁 平27(行コ)162号 不開示決定処分取消等請求控訴事件
(18)平成28年 9月13日 札幌高裁 平28(う)91号 事前収賄被告事件
(19)平成28年 8月31日 東京地裁 平25(ワ)13065号 損害賠償請求事件
(20)平成28年 7月26日 東京地裁 平27(ワ)22544号 損害賠償請求事件
(21)平成28年 7月19日 東京高裁 平27(ネ)3610号 株主代表訴訟控訴事件
(22)平成28年 7月 4日 東京地裁 平27(レ)413号 損害賠償請求控訴事件
(23)平成28年 4月26日 東京地裁 平27(ワ)11311号 精神的慰謝料及び損害賠償請求事件
(24)平成28年 2月24日 大阪高裁 平25(行コ)2号 行政文書不開示決定処分取消請求控訴事件
(25)平成28年 2月24日 大阪高裁 平24(行コ)77号 不開示決定処分取消請求控訴事件
(26)平成27年10月27日 岡山地裁 平24(行ウ)15号 不当利得返還請求事件
(27)平成27年10月22日 大阪地裁 平26(行ウ)186号 不開示決定処分取消等請求事件
(28)平成27年10月 9日 東京地裁 平27(特わ)853号 政治資金規正法違反被告事件
(29)平成27年 6月17日 大阪地裁 平26(行ウ)117号 公金支出金返還請求事件
(30)平成27年 5月28日 東京地裁 平23(ワ)21209号 株主代表訴訟事件
(31)平成27年 3月24日 東京地裁 平26(ワ)9407号 損害賠償等請求事件
(32)平成27年 2月26日 東京地裁 平26(行ウ)209号 政務調査費返還請求事件
(33)平成27年 2月 3日 東京地裁 平25(ワ)15071号 損害賠償等請求事件
(34)平成26年12月24日 横浜地裁 平26(行ウ)15号 損害賠償請求事件(住民訴訟)
(35)平成26年 9月25日 東京地裁 平21(ワ)46404号・平22(ワ)16316号 損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第2事件)、損害賠償(株主代表訴訟)請求事件(第3事件)
(36)平成26年 9月17日 知財高裁 平26(行ケ)10090号 審決取消請求事件
(37)平成26年 9月11日 知財高裁 平26(行ケ)10092号 審決取消請求事件
(38)平成26年 9月 3日 東京地裁 平25(行ウ)184号 政務調査費返還請求事件
(39)平成26年 4月 9日 東京地裁 平24(ワ)33978号 損害賠償請求事件
(40)平成26年 2月21日 宮崎地裁 平25(ワ)276号 謝罪放送等請求事件
(41)平成25年 7月19日 東京地裁 平22(ワ)37754号 謝罪広告等請求事件
(42)平成25年 6月19日 横浜地裁 平20(行ウ)19号 政務調査費返還履行等代位請求事件
(43)平成25年 3月28日 京都地裁 平20(行ウ)10号 不当利得返還等請求行為請求事件
(44)平成25年 2月28日 東京地裁 平22(ワ)47235号 業務委託料請求事件
(45)平成25年 1月23日 東京地裁 平23(ワ)39861号 損害賠償請求事件
(46)平成24年12月26日 東京地裁 平23(ワ)24047号 謝罪広告等請求事件
(47)平成24年11月12日 東京高裁 平24(う)988号 政治資金規正法違反被告事件
(48)平成24年 8月29日 東京地裁 平22(ワ)38734号 損害賠償請求事件
(49)平成24年 6月26日 仙台地裁 平21(行ウ)16号 公金支出差止請求事件
(50)平成24年 4月26日 東京地裁 平23(特わ)111号 政治資金規正法違反被告事件 〔陸山会事件・控訴審〕
(51)平成24年 2月29日 東京地裁 平21(行ウ)585号 公金支出差止請求事件
(52)平成24年 2月14日 東京地裁 平22(行ウ)323号 難民の認定をしない処分取消請求事件
(53)平成24年 2月13日 東京地裁 平23(ワ)23522号 街頭宣伝行為等禁止請求事件
(54)平成24年 1月18日 横浜地裁 平19(行ウ)105号 政務調査費返還履行等代位請求事件
(55)平成23年11月16日 東京地裁 平21(ワ)38850号 損害賠償等請求事件
(56)平成23年 9月29日 東京地裁 平20(行ウ)745号 退会命令無効確認等請求事件
(57)平成23年 7月25日 大阪地裁 平19(ワ)286号・平19(ワ)2853号 損害賠償請求事件
(58)平成23年 4月26日 東京地裁 平22(行ウ)162号・平22(行ウ)448号・平22(行ウ)453号 在外日本人国民審査権確認等請求事件(甲事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(乙事件)、在外日本人国民審査権確認等請求事件(丙事件)
(59)平成23年 4月14日 東京地裁 平22(ワ)20007号 損害賠償等請求事件
(60)平成23年 1月31日 東京高裁 平22(行コ)91号 損害賠償請求住民訴訟控訴事件
(61)平成23年 1月21日 福岡地裁 平21(行ウ)28号 政務調査費返還請求事件
(62)平成22年11月 9日 東京地裁 平21(行ウ)542号 政務調査費返還(住民訴訟)請求事件
(63)平成22年10月18日 東京地裁 平22(行ク)276号
(64)平成22年 9月30日 東京地裁 平21(行ウ)231号 報酬支出差止請求事件
(65)平成22年 9月 7日 最高裁第一小法廷 決定 平20(あ)738号 あっせん収賄、受託収賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反、政治資金規正法違反被告事件 〔鈴木宗男事件・上告審〕
(66)平成22年 4月13日 東京地裁 平20(ワ)34451号 貸金等請求事件
(67)平成22年 3月31日 東京地裁 平21(行ウ)259号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(68)平成22年 3月15日 東京地裁 平20(ワ)38604号 損害賠償請求事件
(69)平成22年 1月28日 名古屋地裁 平20(ワ)3188号 応援妨害予防等請求事件
(70)平成21年 6月17日 大阪高裁 平20(行コ)159号 政務調査費返還請求行為請求控訴事件
(71)平成21年 5月26日 東京地裁 平21(む)1220号 政治資金規正法被告事件
(72)平成21年 5月13日 東京地裁 平19(ワ)20791号 業務委託料請求事件
(73)平成21年 4月28日 大阪地裁 平19(わ)3456号 談合、収賄被告事件
(74)平成21年 2月25日 東京地裁 平19(行ウ)325号 損害賠償(住民訴訟)請求事件
(75)平成21年 1月28日 東京地裁 平17(ワ)9248号 損害賠償等請求事件
(76)平成20年12月 9日 東京地裁 平19(ワ)24563号 謝罪広告等請求事件
(77)平成20年11月12日 大阪高裁 平20(ネ)1189号・平20(ネ)1764号 債務不存在確認等請求控訴、会費請求反訴事件
(78)平成20年 9月 9日 東京地裁 平18(ワ)18306号 損害賠償等請求事件
(79)平成20年 8月 8日 東京地裁 平18(刑わ)3785号・平18(刑わ)4225号 収賄、競売入札妨害被告事件〔福島県談合汚職事件〕
(80)平成20年 7月14日 最高裁第一小法廷 平19(あ)1112号 政治資金規正法違反被告事件
(81)平成20年 3月27日 最高裁第三小法廷 平18(あ)348号 受託収賄被告事件 〔KSD事件〕
(82)平成20年 3月14日 和歌山地裁田辺支部 平18(ワ)167号 債務不存在確認等請求事件
(83)平成20年 2月26日 東京高裁 平16(う)3226号
(84)平成20年 1月18日 東京地裁 平18(ワ)28649号 損害賠償請求事件
(85)平成19年 8月30日 東京地裁 平17(ワ)21062号 地位確認等請求事件
(86)平成19年 8月30日 大阪地裁 平19(行ウ)83号 行政文書不開示決定処分取消等請求事件
(87)平成19年 8月10日 東京地裁 平18(ワ)19755号 謝罪広告等請求事件
(88)平成19年 8月10日 大阪地裁 平19(行ク)47号 仮の義務付け申立て事件
(89)平成19年 7月17日 神戸地裁尼崎支部 平17(ワ)1227号 総会決議一部無効確認等請求事件
(90)平成19年 5月10日 東京高裁 平18(う)2029号 政治資金規正法違反被告事件 〔いわゆる1億円ヤミ献金事件・控訴審〕
(91)平成19年 4月 3日 大阪地裁 平19(行ク)27号 執行停止申立て事件
(92)平成19年 3月28日 大阪地裁 平19(行ク)24号 仮の差止め申立て事件
(93)平成19年 2月20日 大阪地裁 平19(行ク)7号 執行停止申立て事件
(94)平成19年 2月 7日 新潟地裁長岡支部 平16(ワ)143号・平18(ワ)109号 損害賠償請求事件
(95)平成19年 2月 5日 東京地裁 平16(ワ)26484号 不当利得返還請求事件
(96)平成19年 1月31日 大阪地裁 平15(ワ)12141号・平15(ワ)13033号 権利停止処分等無効確認請求事件、除名処分無効確認請求事件 〔全日本建設運輸連帯労組近畿地本(支部役員統制処分等)事件〕
(97)平成18年11月14日 最高裁第三小法廷 平18(オ)597号・平18(受)726号 〔熊谷組株主代表訴訟事件・上告審〕
(98)平成18年 9月29日 大阪高裁 平18(ネ)1204号 地位不存在確認請求控訴事件
(99)平成18年 9月11日 東京地裁 平15(刑わ)4146号 各詐欺被告事件 〔偽有栖川詐欺事件〕
(100)平成18年 8月10日 大阪地裁 平18(行ウ)75号 行政文書不開示決定処分取消請求事件
(101)平成18年 3月30日 東京地裁 平16(特わ)5359号 政治資金規正法違反被告事件〔いわゆる1億円ヤミ献金事件・第一審〕
(102)平成18年 3月30日 京都地裁 平17(ワ)1776号・平17(ワ)3127号 地位不存在確認請求事件
(103)平成18年 1月11日 名古屋高裁金沢支部 平15(ネ)63号 熊谷組株主代表訴訟控訴事件 〔熊谷組政治献金事件・控訴審〕
(104)平成17年11月30日 大阪高裁 平17(ネ)1286号 損害賠償請求控訴事件
(105)平成17年 8月25日 大阪地裁 平17(行ウ)91号 行政文書不開示決定処分取消請求事件
(106)平成17年 5月31日 東京地裁 平16(刑わ)1835号・平16(刑わ)2219号・平16(刑わ)3329号・平16(特わ)5239号 贈賄、業務上横領、政治資金規正法違反被告事件 〔日本歯科医師会事件〕
(107)平成17年 4月27日 仙台高裁 平17(行ケ)1号 当選無効及び立候補禁止請求事件
(108)平成16年12月24日 東京地裁 平15(特わ)1313号・平15(刑わ)1202号・平15(特わ)1422号 政治資金規正法違反、詐欺被告事件 〔衆議院議員秘書給与詐取事件〕
(109)平成16年12月22日 東京地裁 平15(ワ)26644号 損害賠償等請求事件
(110)平成16年11月 5日 東京地裁 平14(刑わ)2384号・平14(特わ)4259号・平14(刑わ)2931号 あっせん収賄、受託収賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反、政治資金規正法違反被告事件 〔鈴木宗男事件・第一審〕
(111)平成16年 5月28日 東京地裁 平5(刑わ)2335号・平5(刑わ)2271号 贈賄被告事件 〔ゼネコン汚職事件〕
(112)平成16年 2月27日 東京地裁 平7(合わ)141号・平8(合わ)31号・平7(合わ)282号・平8(合わ)75号・平7(合わ)380号・平7(合わ)187号・平7(合わ)417号・平7(合わ)443号・平7(合わ)329号・平7(合わ)254号 殺人、殺人未遂、死体損壊、逮捕監禁致死、武器等製造法違反、殺人予備被告事件 〔オウム真理教代表者に対する地下鉄サリン事件等判決〕
(113)平成16年 2月26日 津地裁 平11(行ウ)1号 損害賠償請求住民訴訟事件
(114)平成16年 2月25日 東京地裁 平14(ワ)6504号 損害賠償請求事件
(115)平成15年12月 8日 福岡地裁小倉支部 平15(わ)427号・平15(わ)542号・平15(わ)725号 被告人Aに対する政治資金規正法違反、公職選挙法違反被告事件、被告人B及び同Cに対する政治資金規正法違反被告事件
(116)平成15年10月16日 大津地裁 平13(ワ)570号 会員地位不存在確認等請求事件
(117)平成15年10月 1日 さいたま地裁 平14(行ウ)50号 損害賠償代位請求事件
(118)平成15年 5月20日 東京地裁 平13(刑わ)710号 各受託収賄被告事件 〔KSD関連元労働大臣収賄事件判決〕
(119)平成15年 3月19日 横浜地裁 平12(行ウ)16号 損害賠償等請求事件
(120)平成15年 3月 4日 東京地裁 平元(刑わ)1047号・平元(刑わ)632号・平元(刑わ)1048号・平元(特わ)361号・平元(特わ)259号・平元(刑わ)753号 日本電信電話株式会社法違反、贈賄被告事件 〔リクルート事件(政界・労働省ルート)社長室次長関係判決〕
(121)平成15年 2月12日 福井地裁 平13(ワ)144号・平13(ワ)262号 各熊谷組株主代表訴訟事件 〔熊谷組政治献金事件・第一審〕
(122)平成15年 1月20日 釧路地裁帯広支部 平13(わ)15号 収賄被告事件
(123)平成15年 1月16日 東京地裁 平13(行ウ)84号 損害賠償請求事件 〔区長交際費支出損害賠償請求住民訴訟事件〕
(124)平成14年 4月22日 東京地裁 平12(ワ)21560号 損害賠償等請求事件
(125)平成14年 4月11日 大阪高裁 平13(ネ)2757号 社員代表訴訟等控訴事件 〔住友生命政治献金事件・控訴審〕
(126)平成14年 2月25日 東京地裁 平9(刑わ)270号 詐欺被告事件
(127)平成13年12月17日 東京地裁 平13(行ウ)85号 住民票不受理処分取消等請求事件
(128)平成13年10月25日 東京地裁 平12(ワ)448号 損害賠償請求事件
(129)平成13年10月11日 横浜地裁 平12(ワ)2369号 謝罪広告等請求事件 〔鎌倉市長名誉毀損垂れ幕訴訟判決〕
(130)平成13年 9月26日 東京高裁 平13(行コ)90号 公文書非公開処分取消請求控訴事件
(131)平成13年 7月18日 大阪地裁 平12(ワ)4693号 社員代表訴訟等事件 〔住友生命政治献金事件・第一審〕
(132)平成13年 7月18日 大阪地裁 平12(ワ)4692号・平12(ワ)13927号 社員代表訴訟等、共同訴訟参加事件 〔日本生命政治献金社員代表訴訟事件〕
(133)平成13年 5月29日 東京地裁 平9(ワ)7838号・平9(ワ)12555号 損害賠償請求事件
(134)平成13年 4月25日 東京高裁 平10(う)360号 斡旋贈収賄被告事件 〔ゼネコン汚職政界ルート事件・控訴審〕
(135)平成13年 3月28日 東京地裁 平9(ワ)27738号 損害賠償請求事件
(136)平成13年 3月 7日 横浜地裁 平11(行ウ)45号 公文書非公開処分取消請求事件
(137)平成13年 2月28日 東京地裁 平12(刑わ)3020号 詐欺、政治資金規正法違反被告事件
(138)平成13年 2月16日 東京地裁 平12(行ク)112号 住民票消除処分執行停止申立事件
(139)平成12年11月27日 最高裁第三小法廷 平9(あ)821号 政治資金規正法違反被告事件
(140)平成12年 9月28日 東京高裁 平11(う)1703号 公職選挙法違反、政党助成法違反、政治資金規正法違反、受託収賄、詐欺被告事件 〔元代議士受託収賄等・控訴審〕
(141)平成11年 7月14日 東京地裁 平10(特わ)3935号・平10(刑わ)3503号・平10(特わ)4230号 公職選挙法違反、政党助成法違反、政治資金規正法違反、受託収賄、詐欺被告事件 〔元代議士受託収賄等・第一審〕
(142)平成10年 6月26日 東京地裁 平8(行ウ)109号 課税処分取消請求事件 〔野呂栄太郎記念塩沢学習館事件〕
(143)平成10年 5月25日 大阪高裁 平9(行ケ)4号 当選無効及び立候補禁止請求事件 〔衆議院議員選挙候補者連座訴訟・第一審〕
(144)平成10年 4月27日 東京地裁 平10(ワ)1858号 損害賠償請求事件
(145)平成 9年10月 1日 東京地裁 平6(刑わ)571号・平6(刑わ)509号 斡旋贈収賄被告事件 〔ゼネコン汚職政界ルート事件・第一審〕
(146)平成 9年 7月 3日 最高裁第二小法廷 平6(あ)403号 所得税法違反被告事件
(147)平成 9年 5月21日 大阪高裁 平8(う)944号 政治資金規正法違反被告事件
(148)平成 9年 4月28日 東京地裁 平6(ワ)21652号 損害賠償等請求事件
(149)平成 9年 2月20日 大阪地裁 平7(行ウ)60号・平7(行ウ)70号 政党助成法に基づく政党交付金交付差止等請求事件
(150)平成 8年 9月 4日 大阪地裁 平7(わ)534号 政治資金規正法違反被告事件
(151)平成 8年 3月29日 東京地裁 平5(特わ)546号・平5(特わ)682号 所得税法違反被告事件
(152)平成 8年 3月27日 大阪高裁 平6(ネ)3497号 損害賠償請求控訴事件
(153)平成 8年 3月25日 東京高裁 平6(う)1237号 受託収賄被告事件 〔共和汚職事件・控訴審〕
(154)平成 8年 3月19日 最高裁第三小法廷 平4(オ)1796号 選挙権被選挙権停止処分無効確認等請求事件 〔南九州税理士会政治献金徴収拒否訴訟・上告審〕
(155)平成 8年 2月20日 名古屋高裁 平7(う)200号 政治資金規正法違反、所得税違反被告事件
(156)平成 7年11月30日 名古屋高裁 平7(う)111号 政治資金規正法違反、所得税法違反被告事件
(157)平成 7年10月25日 東京地裁 平5(ワ)9489号・平5(ワ)16740号・平6(ワ)565号 債務不存在確認請求(本訴)事件、謝罪広告請求(反訴)事件、不作為命令請求(本訴と併合)事件
(158)平成 7年 8月 8日 名古屋高裁 平7(う)35号 政治資金規正法違反、所得税法違反被告事件
(159)平成 7年 4月26日 名古屋地裁 平6(わ)116号 政治資金規正法違反、所得税法違反被告事件
(160)平成 7年 3月30日 名古屋地裁 平6(わ)1706号 政治資金規正法違反、所得税法違反被告事件
(161)平成 7年 3月20日 宮崎地裁 平6(ワ)169号 損害賠償請求事件
(162)平成 7年 2月24日 最高裁第二小法廷 平5(行ツ)56号 公文書非公開決定処分取消請求事件 〔政治資金収支報告書コピー拒否事件〕
(163)平成 7年 2月13日 大阪地裁 平6(わ)3556号 政治資金規正法違反被告事件 〔大阪府知事後援会ヤミ献金事件〕
(164)平成 7年 2月 1日 名古屋地裁 平6(わ)116号 所得税法違反被告事件
(165)平成 7年 1月26日 東京地裁 平5(行ウ)353号 損害賠償請求事件
(166)平成 6年12月22日 東京地裁 平5(ワ)18447号 損害賠償請求事件 〔ハザマ株主代表訴訟〕
(167)平成 6年12月 9日 大阪地裁 平5(ワ)1384号 損害賠償請求事件
(168)平成 6年11月21日 名古屋地裁 平5(わ)1697号・平6(わ)117号 政治資金規正法違反、所得税法違反被告事件
(169)平成 6年10月25日 新潟地裁 平4(わ)223号 政治資金規正法違反被告事件 〔佐川急便新潟県知事事件〕
(170)平成 6年 7月27日 東京地裁 平5(ワ)398号 謝罪広告等請求事件
(171)平成 6年 4月19日 横浜地裁 平5(わ)1946号 政治資金規正法違反・所得税法違反事件
(172)平成 6年 3月 4日 東京高裁 平4(う)166号 所得税法違反被告事件 〔元環境庁長官脱税事件・控訴審〕
(173)平成 6年 2月 1日 横浜地裁 平2(ワ)775号 損害賠償請求事件
(174)平成 5年12月17日 横浜地裁 平5(わ)1842号 所得税法違反等被告事件
(175)平成 5年11月29日 横浜地裁 平5(わ)1687号 所得税法違反等被告事件
(176)平成 5年 9月21日 横浜地裁 平5(わ)291号・平5(わ)182号・平5(わ)286号 政治資金規正法違反、所得税法違反、有印私文書偽造・同行使、税理士法違反被告事件
(177)平成 5年 7月15日 福岡高裁那覇支部 平4(行ケ)1号 当選無効等請求事件
(178)平成 5年 5月28日 徳島地裁 昭63(行ウ)12号 徳島県議会県政調査研究費交付金返還等請求事件
(179)平成 5年 5月27日 最高裁第一小法廷 平元(オ)1605号 会費一部返還請求事件 〔大阪合同税理士会会費返還請求事件・上告審〕
(180)平成 4年12月18日 大阪高裁 平3(行コ)49号 公文書非公開決定処分取消請求控訴事件 〔大阪府公文書公開等条例事件・控訴審〕
(181)平成 4年10月26日 東京地裁 平4(む)615号 準抗告申立事件 〔自民党前副総裁刑事確定訴訟記録閲覧請求事件〕
(182)平成 4年 4月24日 福岡高裁 昭62(ネ)551号・昭61(ネ)106号 選挙権被選挙権停止処分無効確認等請求控訴、附帯控訴事件 〔南九州税理士会政治献金徴収拒否訴訟・控訴審〕
(183)平成 4年 2月25日 大阪地裁 昭62(わ)4573号・昭62(わ)4183号・昭63(わ)238号 砂利船汚職事件判決
(184)平成 3年12月25日 大阪地裁 平2(行ウ)6号 公文書非公開決定処分取消請求事件 〔府公文書公開条例事件〕
(185)平成 3年11月29日 東京地裁 平2(特わ)2104号 所得税法違反被告事件 〔元環境庁長官脱税事件・第一審〕
(186)平成 2年11月20日 東京高裁 昭63(ネ)665号 損害賠償等請求控訴事件
(187)平成元年 8月30日 大阪高裁 昭61(ネ)1802号 会費一部返還請求控訴事件 〔大阪合同税理士会会費返還請求訴訟・控訴審〕
(188)昭和63年 4月11日 最高裁第三小法廷 昭58(あ)770号 贈賄被告事件 〔大阪タクシー汚職事件・上告審〕
(189)昭和62年 7月29日 東京高裁 昭59(う)263号 受託収賄、外国為替及び外国貿易管理法違反、贈賄、議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律違反被告事件 〔ロッキード事件丸紅ルート・控訴審〕
(190)昭和61年 8月21日 大阪地裁 昭55(ワ)869号 会費一部返還請求事件 〔大阪合同税理士会会費返還請求事件・第一審〕
(191)昭和61年 5月16日 東京高裁 昭57(う)1978号 ロツキード事件・全日空ルート〈橋本関係〉受託収賄被告事件 〔ロッキード事件(全日空ルート)・控訴審〕
(192)昭和61年 5月14日 東京高裁 昭57(う)1978号 受託収賄被告事件 〔ロッキード事件(全日空ルート)・控訴審〕
(193)昭和61年 2月13日 熊本地裁 昭55(ワ)55号 選挙権被選挙権停止処分無効確認等請求事件 〔南九州税理士会政治献金徴収拒否訴訟・第一審〕
(194)昭和59年 7月 3日 神戸地裁 昭59(わ)59号 所得税法違反被告事件
(195)昭和59年 3月 7日 神戸地裁 昭57(行ウ)24号 市議会各会派に対する市会調査研究費等支出差止住民訴訟事件
(196)昭和57年 7月 6日 大阪簡裁 昭56(ハ)5528号 売掛金代金請求事件
(197)昭和57年 6月 8日 東京地裁 昭51(刑わ)4312号・昭51(刑わ)4311号 受託収賄事件 〔ロッキード事件(全日空ルート)(橋本・佐藤関係)〕
(198)昭和57年 5月28日 岡山地裁 昭54(わ)566号 公職選挙法違反被告事件
(199)昭和56年 3月 3日 東京高裁 昭54(う)2209号・昭54(う)2210号 地方自治法違反被告事件
(200)昭和55年 3月10日 東京地裁 昭53(特わ)1013号・昭53(特わ)920号 法人税法違反被告事件
(201)昭和54年 9月20日 大阪地裁 昭43(わ)121号 贈賄、収賄事件 〔大阪タクシー汚職事件・第一審〕
(202)昭和54年 5月29日 水戸地裁 昭46(わ)198号 地方自治法違反被告事件
(203)昭和53年11月20日 名古屋地裁 決定 昭52(ヨ)1908号・昭52(ヨ)1658号・昭52(ヨ)1657号 仮処分申請事件 〔日本共産党員除名処分事件〕
(204)昭和53年 8月29日 最高裁第三小法廷 昭51(行ツ)76号 損害賠償請求事件
(205)昭和51年 4月28日 名古屋高裁 昭45(行コ)14号 損害賠償請求控訴事件
(206)昭和50年10月21日 那覇地裁 昭49(ワ)111号 損害賠償請求事件
(207)昭和48年 2月24日 東京地裁 昭40(ワ)7597号 謝罪広告請求事件
(208)昭和47年 3月 7日 最高裁第三小法廷 昭45(あ)2464号 政治資金規制法違反
(209)昭和46年 9月20日 東京地裁 昭43(刑わ)2238号・昭43(刑わ)3482号・昭43(刑わ)3031号・昭43(刑わ)3027号・昭43(刑わ)2002号・昭43(刑わ)3022号 業務上横領、斡旋贈賄、贈賄、斡旋収賄、受託収賄各被告事件 〔いわゆる日通事件・第一審〕
(210)昭和45年11月14日 札幌地裁 昭38(わ)450号 公職選挙法違反・政治資金規正法違反被告事件
(211)昭和45年11月13日 高松高裁 昭44(う)119号 政治資金規正法違反被告事件
(212)昭和45年 7月11日 名古屋地裁 昭42(行ウ)28号 損害賠償請求事件
(213)昭和45年 3月 2日 長野地裁 昭40(行ウ)14号 入場税等賦課決定取消請求事件
(214)昭和43年11月12日 福井地裁 昭41(わ)291号 収賄・贈賄被告事件
(215)昭和42年 7月11日 東京地裁 昭42(行ク)28号 行政処分執行停止申立事件
(216)昭和42年 7月10日 東京地裁 昭42(行ク)28号 行政処分執行停止申立事件
(217)昭和41年10月24日 東京高裁 昭38(ナ)6号・昭38(ナ)7号・昭38(ナ)5号・昭38(ナ)11号・昭38(ナ)10号 裁決取消、選挙無効確認併合事件 〔東京都知事選ニセ証紙事件・第二審〕
(218)昭和41年 1月31日 東京高裁 昭38(ネ)791号 取締役の責任追及請求事件 〔八幡製鉄政治献金事件・控訴審〕
(219)昭和40年11月26日 東京高裁 昭39(う)642号 公職選挙法違反被告事件
(220)昭和39年12月15日 東京地裁 昭38(刑わ)2385号 公職選挙法違反、公記号偽造、公記号偽造行使等事件
(221)昭和39年 3月11日 東京高裁 昭38(う)2547号 公職選挙法違反被告事件
(222)昭和38年 4月 5日 東京地裁 昭36(ワ)2825号 取締役の責任追求事件 〔八幡製鉄政治献金事件・第一審〕
(223)昭和37年12月25日 東京地裁 昭30(ワ)1306号 損害賠償請求事件
(224)昭和37年 8月22日 東京高裁 昭36(う)1737号
(225)昭和37年 8月16日 名古屋高裁金沢支部 昭36(う)169号 公職選挙法違反事件
(226)昭和37年 4月18日 東京高裁 昭35(ナ)15号 選挙無効確認請求事件
(227)昭和35年 9月19日 東京高裁 昭34(ナ)2号 選挙無効確認請求事件
(228)昭和35年 3月 2日 札幌地裁 昭32(わ)412号 受託収賄事件
(229)昭和34年 8月 5日 東京地裁 昭34(行)27号 政党名削除制限抹消の越権不法指示通牒取消確認請求事件
(230)昭和32年10月 9日 最高裁大法廷 昭29(あ)499号 国家公務員法違反被告事件
(231)昭和29年 5月20日 仙台高裁 昭29(う)2号 公職選挙法違反事件
(232)昭和29年 4月17日 札幌高裁 昭28(う)684号・昭28(う)681号・昭28(う)685号・昭28(う)682号・昭28(う)683号 政治資金規正法違反被告事件
(233)昭和29年 2月 4日 名古屋高裁金沢支部 昭28(う)442号 公職選挙法違反被告事件
(234)昭和27年 8月12日 福島地裁若松支部 事件番号不詳 地方税法違反被告事件
(235)昭和26年10月24日 広島高裁松江支部 昭26(う)54号 収賄被告事件
(236)昭和26年 9月27日 最高裁第一小法廷 昭26(あ)1189号 衆議院議員選挙法違反・政治資金規正法違反
(237)昭和26年 5月31日 最高裁第一小法廷 昭25(あ)1747号 衆議院議員選挙法違反・政治資金規正法違反等
(238)昭和25年 7月12日 札幌高裁 昭25(う)277号・昭25(う)280号
(239)昭和25年 7月10日 札幌高裁 昭25(う)277号・昭25(う)278号・昭25(う)279号・昭25(う)280号 衆議院議員選挙法違反被告事件
(240)昭和25年 7月10日 札幌高裁 昭25(う)275号 衆議院議員選挙法違反被告事件
(241)昭和24年10月13日 名古屋高裁 事件番号不詳
(242)昭和24年 6月13日 最高裁大法廷 昭23(れ)1862号 昭和二二年勅令第一号違反被告事件
(243)昭和24年 6月 3日 東京高裁 昭24(ナ)9号 衆議院議員選挙無効請求事件

■【政治と選挙の裁判例一覧】「政治資金規正法 選挙ポスター」に関する裁判例カテゴリー
■【政治と選挙の裁判例一覧】「政治資金規正法 政治ポスター」に関する裁判例カテゴリー


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